米セントラス・エナジー社は11月20日、オハイオ州パイクトンにある米国遠心分離プラント(ACP)におけるウラン濃縮事業の大規模な拡大に向け、テネシー州オークリッジにある同社の施設で遠心分離機の製造を再開させるため、今後18か月で約6,000万ドル(約90億円)を投資することを明らかにした。セントラス社は最近、顧客から20億ドル以上の低濃縮ウラン (LEU) の条件付き購入契約のほか、米エネルギー省(DOE)からHALEU((U235の濃縮度が5~20%の低濃縮ウラン))の濃縮と再転換を目的とした2種の契約を締結している。なお、大規模な濃縮事業の拡大には、顧客からの委託や民間資本に加えて、数十億ドル規模の官民パートナーシップによる投資が必要であるとの考えを示している。セントラス社のA. ベクスラーCEOは、「米国産技術によるサプライチェーンを構築して信頼性の高い燃料供給を確保、次世代炉の展開を支援し、国家安全保障上、濃縮ウラン生産拡大を迅速に実行できる態勢を整えることが重要だ」と語り、今回の投資によって、米国のウラン濃縮能力の大規模拡大と海外への依存低減に向けた数十億ドル規模の官民による投資が促進されることへの期待を示した。セントラス社の遠心分離機は、オークリッジにある敷地約4万㎡の技術製造センターで独占的に製造されており、米企業14社の主要サプライヤーと数十の小規模サプライヤーが製造を支えている。米国で現在、商業操業する濃縮プラントは、ニューメキシコ州ユーニスにあるウレンコ社(本社は英国)のプラントのみで、その遠心分離機はオランダで独占的に製造。ウレンコ社は同プラントの生産能力を約15%増とする拡張プロジェクトを実施中であり、仏オラノ社も遠心分離法による濃縮施設の建設に向け、建設候補地にテネシー州オークリッジを選定したばかりだ。米国では、ロシア産低濃縮ウラン(LEU)の米国への輸入を禁止した「ロシア産ウラン輸入禁止法」が今年8月から施行されているほか、DOEが国内のウラン濃縮能力の強化、商業用核燃料の供給源多様化や安定供給を狙いとして27億ドル(約4,050億円)を拠出するなど、燃料のサプライチェーン強化に向けた動きが活発化している。セントラス社は、2024年と2025年に米国顧客への納入を確約している低濃縮ウラン(LEU)について、DOEよりロシア産LEUの輸入禁止の免除を得ていたが、ロシア政府は11月14日、ロシア産濃縮ウランの米国への一時的な輸出制限を決議。同決議は2025年12月末まで有効とされており、セントラス社は対応に追われている。
02 Dec 2024
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中国・福建省にある中国核工業集団公司(CNNC)の漳州(Zhangzhou)1号機(PWR=華龍一号(HPR1000)、112.6万kWe)が11月28日、送電を開始した。同サイト内では、建設中の4基の華龍一号の最初の原子炉である。今後、一連のテストを実施した後、営業運転へ移行する。CNNCによると、漳州原子力発電所プロジェクトは華龍一号のシリーズ建設の出発点であり、福建省の経済と社会の発展を強力に後押しするものだという。漳州1号機は2019年10月に着工。2号機は2020年9月、漳州第Ⅱ発電所1、2号機はそれぞれ今年2月、9月に着工したばかり。この他、CNNCは「華龍一号」を2基採用した漳州第Ⅲ発電所を計画中である。漳州原子力発電所は、CNNCと中国国電集団(CGC)がそれぞれ51%、49%を所有する合弁企業CNNC-国電漳州エナジー社が運営する。同サイトには当初、米ウェスチングハウス(WE)社製AP1000×6基の建設が計画されていたが、中国が知的財産権を保有する「華龍一号」に変更された。
29 Nov 2024
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スイスの放射性廃棄物処分の実施主体である放射性廃棄物管理共同組合(NAGRA)は11月19日、深地層処分場ならびに地上における使用済み燃料の封入プラントの「概要承認」をスイス連邦エネルギー庁(SFOE)に申請した。概要承認は、処分場と封入プラントのサイトを確保し、両施設の基本的な特徴を定義するもの。建設段階へ進む前の重要なマイルストーンである。スイスでは原子力法に基づき、原子力発電所から発生する高レベル放射性廃棄物(HLW)ならびに医療、産業、研究活動から発生する低中レベル放射性廃棄物(L/ILW)をすべて深地層処分することになっている。深地層処分場は、スイス北部のアールガウ州とチューリッヒ州を跨ぐ「北部レゲレン」の地下800mに建設する計画だ。オパリナス粘土層の岩盤にHLWとL/ILW両方を安定的に閉じ込め、処分する複合型施設である。チューリッヒ州のハーバーシュタルに同処分場の入り口など、主な「地上施設」を建設するほか、アールガウ州ビュレンリンゲン村にある「ツビラーグ集中中間貯蔵施設」の敷地内に使用済み燃料の封入プラントを建設する。今後数か月をかけ、スイス連邦原子力安全検査局(ENSI)や原子力安全委員会(NSC)などの関係当局が必要書類を確認し、その後、NAGRAは申請書類全体とすべての科学報告書を2025年春頃に一般に公開することとしている。NAGRAのM. ブラウンCEOは、「世代を超える深地層処分プロジェクトは、可能な限り広範に議論される必要があり、直接的な民主的プロセスを経て、正当化されるべき。これには国民投票も含まれる」と記者会見で述べた。現在の計画では、連邦参事会(内閣)が2029年に、連邦議会(国会)が2030年に「概要承認」の可否を決定する予定。なお、国民投票が必要となる場合には2031年に実施される予定だ。建設ならびに操業許可は別途申請が必要であり、順調にいけば、建設許可取得後、2034年には初期建設作業を開始。操業許可を取得後、2050年にL/ILWの処分開始、2060年にHLWの処分開始を計画している。NAGRAは今回の概要承認申請で、処分施設の最大容量を予備容量を含め、HLW用に2,500㎥、L/ILW用に100,000㎥として申請。加えて、地下処分場や処分場にアクセスする坑道を建設するため、26㎢を放射性廃棄物処分に適切な暫定防護区域として申請し、この区域内に建設される処分施設の敷地は2㎢程度と見積もっている。なお、区域内では、採石作業や地熱探査などの従来の地下活動には制限はないものの、一定の深度を超えるボーリング孔の掘削には連邦当局の認可が必要となる。NAGRAは、2008年から約14年にわたって複数のエリアを調査した結果、北部レベレンの岩盤が地下の非常に深い位置にあり、放射性廃棄物に必要なオパリナス粘土層の厚み(約100m)やその上下の岩石層(約300m)による安定性から、バリアとしての効果が高い地質であると判断。スイス連邦政府に2022年9月、放射性廃棄物を長期間、安全に処分する深地層処分場に最良の立地点として、「北部レゲレン」を提案していた。
29 Nov 2024
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ノルウェーの新興エネルギー企業ノルスク・シャーナクラフト(Norsk Kjernekraft)社は11月18日、ノルウェーにおける小型モジュール炉(SMR)導入の検討に向けて、米国の先進炉開発企業であるX-エナジー社と了解覚書(MOU)を締結したことを明らかにした。これに先立ち、ノルスク社は今年8月下旬、韓国のDL Energy社ならびにDL Engineering & Construction(E&C)社と協力協定を締結している。韓国の両社もノルスク社、X-エナジー社と共に、SMR導入に向けた検討作業に参画する。ノルスク社のJ. ヘストハンマルCEOは、「ノルウェーは原子力に関する専門知識が欠けていると指摘されており、海外からの支援提供は有難い。韓国は原子力発電所の効率的な建設および運転の経験が豊富であり、米国は最先端の技術を持っている。世界有数のテック企業であるAmazon社のX-エナジー社への出資に関する最近の発表は、今回のMOUの重要性を際立たせるものだ」と述べ、今回のMOU締結によって、ノルウェーの複数の自治体へのSMR導入に向けて、DL社およびX-エナジー社のノウハウの活用への期待を示した。DL Energy社ならびにDL E&C社は、韓国の化学と建設事業のコングロマリットであるDLグループの傘下企業で、複数の原子力発電所の建設事業に携わる。韓国政府は今年9月、韓国海外インフラ・都市開発公社(KIND)を通じて、DL社に助成金を拠出した。ノルスク社やX-エナジー社と共同実施する、ノルウェー南西部ベルゲン郊外のアウストレイムにあるモングスタッド工業地帯を対象とした「ノルウェーSMR開発・運転プロジェクト予備実現性調査」への支援が目的で、KINDが助成する初のSMR関連の調査であるという。KINDは2018年に韓国政府によって設立され、海外プロジェクトの計画や実現可能性調査など、グローバルな官民パートナーシップ(PPP)事業の支援組織体。株主には韓国政府と韓国輸出入銀行を含む。モングスタッド工業地帯はノルウェー最大のCO2排出地域であり、同国のネットゼロの目標達成には、この地域への原子力発電導入がカギとなる可能性がある。ノルスク社は2030年代半ばにはSMRを運開させたい考えだ。X-エナジー社のA. ブラック・シニアディレクターは、「先進炉『Xe-100』とTRISO燃料は、従来設計と比べて、本質的に安全で、費用対効果の高い新世代原子力の代表格。ノルウェーの工業ならびに輸送部門の脱炭素化を支援し、急成長する人工知能とクラウドコンピューティング部門による電力需要の増大に対応していきたい」と語り、協力への意欲を示した。X-エナジー社製SMRの「Xe-100」は電気出力8万kWの小型高温ガス炉で、TRISO燃料(3重被覆層・燃料粒子)を使用。連結して32万~96万kWの発電容量への拡張が可能。米エネルギー省(DOE)が2020年、先進的原子炉実証プログラム(ARDP)で5~7年以内に実証(運転)を目指し、支援対象に選定した二つの設計のうちの一つである。X-エナジー社はARDPの一環として、米・大手化学メーカーであるダウ・ケミカル社のテキサス州メキシコ湾沿いにあるシードリフトの製造施設において、Xe-100を4基連結させた発電所の建設を計画する。加えて、テネシー州オークリッジで、商業規模のTRISO燃料製造工場の建設プロジェクトを進めている。
27 Nov 2024
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米国で先進炉開発を進めているオクロ社は11月13日、データセンター(DC)企業2社と最大75万kWの電力供給に関する基本合意書(LOI)を締結した。契約先の社名やスケジュールは、明らかにしていない。 オクロ社は、生成AIを用いたテキスト生成サービスである「Chat GPT」を開発した、米オープンAI社のS.アルトマンCEOが会長を務め、取締役には米国のトランプ次期大統領にエネルギー省(DOE)長官に指名されたC. ライト氏が名を連ねる。オクロ社はマイクロ炉「オーロラ(Aurora)」の開発を進めており、既に米国内の複数の企業との電力供給に関するLOIを締結している。今回の契約を含めると、同社が各契約先に供給する電力規模は合計で210万kWとなる見込み。また、米空軍省(DAF)が計画する、アラスカ州のアイルソン空軍基地へのマイクロ炉の設置について、同社が暫定的なベンダーとして選定されている。 また、オクロ社は初の商用オーロラ発電所をアイダホ国立研究所(INL)敷地内に2027年に設置することをめざしており、10月にはDOEが「オーロラ」向け燃料製造施設の概念安全設計報告書(CSDR)を承認した。 「オーロラ」は、燃料としてHALEU燃料((U235の濃縮度が5~20%の低濃縮ウラン))を使用する液体金属高速炉のマイクロ原子炉で、電気出力は0.15~5万kW。少なくとも20年間、燃料交換なしで熱電併給が可能なほか、放射性廃棄物をクリーン・エネルギーに転換することもできるという。データセンターの電力消費量が急増する中、原子力の活用を求める動きが活発化しており、米IT企業大手Google社が複数の先進炉導入による電力購入契約(PPA)を締結したほか、米大手テック企業のAmazon社もSMRプロジェクトへの出資を表明している。
27 Nov 2024
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アゼルバイジャンのバクーで開催された国連気候変動枠組条約第29回締約国会議 (COP 29)会期中の11月16日、米国のB. ジェンキンス国務次官(軍備管理・国際安全保障担当)とウクライナのG. ガルシェンコ・エネルギー相は「小型モジュール炉(SMR)の責任ある利用のための基礎インフラ(FIRST)」プログラム下で実施する、三つのプロジェクト・パートナーシップを発表した。気候目標の達成、エネルギー安全保障、経済成長、先進的な原子力エネルギー利用において、ウクライナの戦後のリーダーシップ展望を支援するのが目的。FIRSTは米国務省(DOS)が主導し、核セキュリティ、原子力安全、核不拡散に関する最高レベルの国際水準の下で、エネルギー安全保障とクリーン・エネルギーの目標達成にSMRの可能性を探る国々を支援する。発表イベントには、駐アゼルバイジャンY. フシェフ・ウクライナ大使、米エネルギー省(DOE)M. ゴフ次官補代行、米アルゴンヌ国立研究所P. カーンズ所長、米電力研究所(EPRI)N. ウィルムハースト上級副所長も参加し、3,000万ドル(約46.2億円)を投じて、以下の三つの支援プロジェクトを開始する。SMRクリーン燃料パイロットプラント建設(フェーズ2)(Clean Fuel Project)ウクライナにSMRパイロットプラントを建設し、農業肥料の主成分である水素とアンモニアの生産を実証する。日本、韓国、ウクライナ、米国の多国籍官民コンソーシアムによって実施(COP 27で発表されたフェーズ1に続く)。プロジェクト・フェニックス中・東欧で進行中のプロジェクト・フェニックスを拡張し、ウクライナの石炭火力発電所を既存インフラを活用したSMR発電所にリプレースし、人材の再訓練を促進する。サイト調査と実現可能性調査を実施、包括的な送電網の統合戦略を策定し、石炭からSMRへの転換に関する助言を行う。SMRによるクリーン・スチール・ロードマップの作成(Clean Steel Project)SMRを利用した、ウクライナ鉄鋼産業の再建、近代化、脱炭素化のためのロードマップを作成、技術支援を行う。鉄鋼の生産にSMRによる電力、プロセス熱、水素を利用する道を開く。ガルシェンコ・エネルギー相はオンライン・スピーチで、「ウクライナは原子力に未来を託している。我が国はチョルノービリ事故を乗り越え、現在はロシアによる欧州最大の原子力発電所であるザポリージャ発電所の占拠という前代未聞の困難に直面しているが、既存の原子力発電所の近代化、新規原子力発電所の建設計画を実行し、前進を続ける」と語った。ウクライナでは、老朽化やロシアの攻撃により損傷した火力発電所のSMRへのリプレースを検討するほか、SMRの建設候補地として、チョルノービリ原子力発電所の周辺ならびに立入禁止区域内も検討されている。今年10月初め、国家立入禁止区域管理庁(SAUEZM)、原子力発電会社エネルゴアトム社、およびチョルノービリ原子力発電所の専門家が現地を視察、これらの場所がSMR建設に適しているか技術的な検討を行っている。なお、エネルゴアトム社は、エネルギー戦略の一環としてSMR導入計画を進めており、SMR開発会社と多くの協力覚書を締結している。
26 Nov 2024
1253
ルーマニアのエネルゴニュークリア(EN)社は、アゼルバイジャンのバクーで開催されていた第29回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP29)の会期中の11月15日、米・加・伊の企業から構成される合弁事業会社と、ルーマニアのチェルナボーダ原子力発電所3、4号機(CAUDU-6、各70万kWe級)建設に向けたエンジニアリング・調達・建設・管理(EPCM)の LNTP(Limited Notice to Proceed:限定的な着手指示通知)フェーズ契約を締結した。EN社は、ルーマニア国営原子力発電会社のニュークリアエレクトリカ(SNN)が全額出資する、チェルナボーダ原子力発電所3、4号機のプロジェクト企業。合弁事業会社FCSAは、米フルアー(Fluor)社が主導、米サージェント&ランディ(Sargent & Lundy)社、加アトキンス・リアリス(AtkinsRéalis)社、 伊アンサルド・ヌクレアーレ(Ansaldo Nucleare)社が参加し、チェルナボーダ発電所3号機および4号機の建設プロジェクトの最終投資決定(FID)に必要な情報をEN社に提供する。具体的には、エンジニアリング・建設計画、最新のコスト見積もりとスケジュール、予備的な原子力安全評価報告書とエンジニアリング文書などを作成する。EPCM契約期間は推定9年間。EPCMは、今回の契約対象であるLNTPフェーズ(24~30か月)とそれに続くFNTP(最終的な着手指示通知)フェーズ(80~84か月)の2段階から構成されている。FNTPは、ルーマニア政府とSNN間の支援契約に沿って、商業条件がさらに精査・合意され、FIDを行うことを条件に実施予定。EPCMの契約額は32億ユーロ(約5,145億円)規模。なお、加政府は本契約実施にあたり、30億加ドル(約3,270億円)の輸出金融支援を行っている。契約の調印式には、ルーマニアのS. ブルドゥージャ・エネルギー相と米国のJ. グランホルムDOE長官も出席。本契約調印を受け、SNNのC. ギタCEOは、「専門性と国際認知度の高いパートナー企業とチェルノボーダ発電所3、4号機の建設プロジェクトに取組めることを光栄に思う。両機の稼働により、ルーマニアのクリーンエネルギーに占める原子力シェアが66%となり、脱炭素化における原子力の重要な役割を改めて示すことになる」と同プロジェクト実現の意義を語った。SNNが運転するチェルナボーダ発電所では、1、2号機(CANDU-6、各70万kWe級)がそれぞれ1996年、2007年に運転開始。ルーマニアの総発電電力量に占める原子力シェアは約20%(2023年実績)。3、4号機は1984年~1985年にかけて着工したが、1989年のチャウシェスク政権崩壊によって建設工事は中断し、現在は保全中。土木工事は3号機で52%、4号機で30%が完了しているが、両機とも主要機器は設置されていない。建設プロジェクトの再開により、約19,000人の雇用が創出され、両機が稼働すると原子力シェアは33%に達し、年間2,000万トンのCO2削減が見込まれるという。
26 Nov 2024
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米原子力規制委員会(NRC)は11月20日、米ケイロス・パワー社によるテネシー州オークリッジでの「ヘルメス2」実証プラント建設プロジェクトに関し、建設許可の発給を決定した。近く発給される見込み。ヘルメス2は、米国で建設が承認された初の第4世代の発電炉(2万kWe)となる。ケイロス社は2023年7月、NRCにヘルメス2の建設許可を申請。NRCは2024年7月に最終安全性評価を、2024年9月にサイトの最終環境アセスメントを公表していた。ヘルメス2の稼働にあたっては、別途、NRCによる運転認可の審査と承認が必要である。今回のヘルメス2の建設許可発給の決定にあたり、NRCのC. ハンソン委員長は、「安全性を最優先にしながら、許認可手続きは非常に効率的に行われ、18か月足らずで発給を決定した。期間の短縮は、以前の審査で用いた関連する結論を迅速に適用した結果である」と述べた。迅速化には、簡素化されたヒアリング手続きの効果もあるという。ヘルメス2は、米エネルギー省(DOE)の「東部テネシー技術パーク(ETTP)」に建設されるヘルメスに隣接。ヘルメスで採用される、フッ化物塩冷却高温炉(非発電炉、3.5万kWt)を2基ならびに共有する発電設備(2万kWe)を備える。安価でクリーンな熱生産を実証するため、TRISO燃料(3重被覆層・燃料粒子)と熔融フッ化物塩冷却材を組み合わせ、原子炉設計を簡素化しているのが特徴。2023年12月、NRCはヘルメスの建設許可を発給、今年7月には、土木工事(掘削作業)が開始されている。ヘルメスは、2023年12月、米原子力規制委員会(NRC)が50年以上ぶりに建設を許可した非水冷却炉で、2027年に運開予定だ。ケイロス社はこれらのヘルメス・シリーズで得られる運転データやノウハウを活用して、技術面、許認可面および建設面のリスクを軽減し、コストを確実化して、2030年代初頭に商業規模のフッ化物塩冷却高温炉「KP-FHR」(32万kWt、14万kWe)の完成を目指している。ケイロス社は今年10月、米IT企業大手Google社と、ケイロス社が開発する先進炉を複数基、合計出力にして最大50万kWeを2035年までに導入し、Google社のデータセンターに電力を供給する、電力購入契約(PPA)を締結している。
25 Nov 2024
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ホワイトハウスは、アゼルバイジャンのバクーにおける第29回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP29、11月11日~24日)会期中の11月12日、今後の同国の原子力発電拡大に向けた目標と行動を示した「米国の原子力を安全かつ責任を持って拡大する:展開目標と行動に向けた枠組み(Safely and Responsibly Expanding U.S. Nuclear Energy: Deployment Targets and a Framework for Action)」を発表した。同資料によると、米国が2050年までに温室効果ガス排出量をネットゼロにするためには、出力規模でおよそ15億~20億kWのカーボンフリー電力が必要であり、このうちの約30~50%は原子力発電などのクリーンで安定した電源が必要、と分析。現在約1億kWが運転中の原子力発電については、2050年までにさらに2億kWを新規導入する目標を掲げ、これらを大型炉や小型モジュール炉(SMR)、マイクロ原子炉のさまざまなカテゴリーの、第三世代+(プラス)および第四世代原子炉の新規建設や既存炉の運転期間延長、出力増強、経済性を理由に閉鎖された原子炉の再稼働などでまかなうとしている。米政府はまた、より近い将来の目標として以下の、導入に向けた「時間軸」と「規模感」も併せて明記した。2035年までに3,500万kWの新規設備容量を稼働または着工し、原子力導入を活発化させる。2040年までに導入のペースを年間1,500万kWに拡大し、原子力導入能力を加速、国内外のプロジェクト展開を支援する。これらをふまえ米政府は、野心的な導入目標の達成に向け、国内の原子力導入を加速、拡大するための「9つの分野((①新規大型炉の建設、②SMRの建設、③マイクロ原子炉の建設、④許認可の改善、⑤既存炉の延長/拡大/再稼働、⑥労働力の育成、⑦コンポーネントサプライチェーンの開発、⑧燃料サイクルサプライチェーンの開発、⑨使用済み燃料管理))」を特定、個々の分野における「具体的な行動」を詳述した。具体的には、「新規大型炉の建設」や「SMRの建設」の分野では、①発電事業者に対する技術中立的クリーン電力生産税額控除とクリーン電力投資税額控除など、税額控除による原子力納入コストの削減、②エネルギー省(DOE)融資プログラム局(LPO)による、革新原子力プロジェクトや、閉鎖された化石燃料発電所を原子力発電所に転換するような、資産・インフラ転換への融資や融資保証の促進、③新規プロジェクトに対して電力会社とリスク分担が可能な電力需要顧客との連携――などを挙げた。そのほか、「既存炉の延長/拡大/再稼働」の分野では、2回目の運転認可更新(80年運転)申請に係る審査の効率化や、構造材料の継続的な健全性確保のための研究など、100年運転に向けた長期運転への備えを挙げている。さらに、経済性を理由に閉鎖した原子炉の再稼働の可能性を追求するなどとしている。
25 Nov 2024
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ポーランドのオーレン・シントス・グリーン・エナジー(OSGE)社は11月14日、ワルシャワで加ローレンティス・エナジー・パートナーズ社と、ポーランドにおける初の小型モジュール炉(SMR)の開発と導入に向けて、予備安全分析報告書(Preliminary Safety Analysis Report:PSAR) の作成支援に係る契約を締結した。契約額は最大4,000万加ドル(約44億円)。今回の契約は、OSGE社がポーランドで導入を検討している米GE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社製SMR「BWRX-300」建設の安全性の実証が目的。PSARは、ポーランドの原子力規制当局である国家原子力機関(PAA)が、建設許可申請の一環で要求する包括的な安全性分析報告書で、PSARの作成は許認可手続きにおいて最重要作業の一つである。PSARでは、提案されている原子炉のシステム、構造、機器の一般的な設計側面と詳細な説明の両方を提示。建設準備と管理体制、環境や地域の状況、核燃料管理を含む発電所の運転期間のほか、廃炉プロセスの説明も含んでいる。ローレンティス社は、環境条件、サイト特性、施設の建設、運転、将来の廃止措置に関する資料作成を担当。OSGE社は、BWRX-300発電所の所有者兼運転者として、分析のためのデータの準備や進行中の作業のマネジメントを担当する。今後2年をかけてPSARを作成し、2026年半ばに完成する予定。OSGE社はまた、GEH社からもPSAR作成の支援を受け、GEH社はBWRX-300の設計者として、技術面および安全関連の分析を担当する。OSGE社は、ポーランドへのBWRX-300導入のため、大手化学素材メーカーであるシントス社(Synthos SA)のグループ企業シントス・グリーン・エナジー(SGE)社と最大手の石油精製企業であるPKNオーレン社が50%ずつ出資し、2022年に設立された合弁企業。2023年12月に気候環境省から、国内6地点における合計24基のBWRX-300建設計画へ原則決定が発給され、OSGE社は現在、許認可手続きの準備を進めている。一方、ローレンティス社は、加オンタリオ・パワー・ジェネレーション(OPG)社の100%子会社で、プロジェクト管理、許認可、運転準備、運転員支援などで、60年の経験とノウハウを有する。OSGE社に対しては2022年以降、SMRの導入に向けた初期的な計画立案などを支援しており、OPG社のダーリントン・サイトにおけるBWRX-300建設プロジェクト支援の実地経験を活用できるのが強み。OPG社は、2029年にBWRX-300初号機の稼働を計画している。OSGE社のR. カスプロウ会長は、「今回締結された契約は、これまでの一連の契約を締め括るもの。建設許可申請の重要要素であるPSARの作成にあたり、OPG社の一部であるローレンティス社との契約により、カナダの知識とノウハウを最大限に活用できる」と語り、両社間の協力への期待を滲ませた。「BWRX-300」は電気出力30万kWの次世代原子炉のBWR。2014年に米原子力規制委員会(NRC)から設計認証(DC)を取得したGEH社の第3世代+(プラス)炉「ESBWR(高経済性・単純化BWR)」をベースにしている。
22 Nov 2024
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米エネルギー省(DOE)は11月14日、スタートアップ企業のラディアント社が、アイダホ国立研究所(INL)で同社製マイクロ炉「Kaleidos」プロトタイプの試験に向けて、基本設計・実験機設計(Front-End Engineering and Experiment Design:FEEED) プロセスを完了したことを明らかにした。マイクロ炉「Kaleidos」は、早ければ2026年半ばにもINL内で国立原子炉イノベーション・センター(NRIC)が運営する世界初のマイクロ炉のテストベッドで試験を開始する。ラディアント社のT. シバナンダン最高執行責任者は、「FEEEDプロセス完了は大きなマイルストーン。多くの設計レビューを行い、概念安全設計報告書も提出。すべて予定通り、予算内で実施した」と語り、INL/NRICとの今後の連携に意欲を示した。米エネルギー省(DOE)は2023年10月、国内でマイクロ炉を開発するウェスチングハウス(WE)社、ラディアント(Radiant)社、ウルトラ・セーフ・ニュークリア社(USNC)の3社に対し、FEEEDプロセスの実施に向けて総額390万ドルをNRICを通じて提供。具体的には、燃料を装荷する実験炉の設計、機器製造、建設、およびNRICのマイクロ炉実験機の実証(Demonstration of Microreactor Experiments=DOME)用テストベッドを使った試験の計画策定を目指している。DOMEテストベッドは、INLで30年以上運転された「実験増殖炉II(EBR-II)」の格納ドームを利用してNRICが改修中。同テストベッドはHALEU燃料を使用する最大熱出力2万kWの先進的な実験用原子炉を収容、初臨界時には安全性を重視した閉じ込め機能を持つ。産業界による新技術開発に伴うリスクを軽減して開発を促進させ、先進的な原子炉設計を概念段階から実証段階へと進め、実用化と商業化への道筋をつけることを目的としている。ラディアント社は引き続き、NRICと協力して「Kaleidos」試験計画の最終調整や、テストベッドへの設置に向けた長納期品の確保に着手する。なお、米WE社のマイクロ炉「eVinci」はFEEEDプロセスを今年9月に完了している。USNC社は高温ガス冷却マイクロ炉「Pylon」(0.1万kWe)を開発していたが、同社は破産申請ならびに業務継続を条件とする売却手続きを今年10月末から実施している。「Kaleidos」は電気出力0.12万kW、熱出力0.19万kWの高温ガス冷却炉。TRISO燃料(3重被覆層・燃料粒子)を使用し、運転サイクルは5年。コンパクト設計のすべてのコンポーネントは単一の輸送コンテナに梱包されるため、迅速な配備が可能。遠隔地のディーゼル発電機の代替から、病院、軍事施設、データセンターへのバックアップ電源や、熱供給、海水脱塩まで、幅広い用途に対応する。
21 Nov 2024
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米国のトランプ次期大統領は、このほど、来年1月20日に発足する新政権のエネルギー省(DOE)長官、ならびに新設される国家エネルギー評議会の議長を指名した。なお就任にあたっては、米上院の承認が必要である。DOE長官には、エネルギーサービス会社リバティ・エナジー社のCEOである、C. ライト氏を、国家エネルギー評議会の議長には、ノースダコタ州知事のD. バーガム氏を指名した。なお、バーガム氏は内務長官にも指名されている。DOEの新長官に指名されたライト氏は、コロラド州に本社を置く2011年設立のリバティ・エナジー社の創設者。同社は北米で陸上の石油・天然ガス探査・生産企業向けに、革新的なサービスと技術を提供している。同氏は、先進炉のマイクロ炉「オーロラ」を開発するオクロ社の取締役も務める。トランプ次期大統領は、自身のソーシャルメディアに掲げる声明の中で、「クリスは、エネルギー業界の傑出した科学技術者で起業家。米国シェール革命を立ち上げ、米国のエネルギー自立を促進し、世界のエネルギー市場と地政学を変革した先駆者の一人」「DOE長官として、イノベーションを推進し、官僚的な形式主義に陥ることなく、米国の繁栄と世界平和の新たな黄金時代を先導する重要なリーダーとなる」と述べている。ライト氏はDOE長官の指名を受け、「世界中のあらゆるコミュニティにエネルギーの恩恵をもたらす気概を持ち、原子力、太陽光、地熱のみならず、現在は石油、ガス、次世代地熱に取り組んでいる。エネルギーが安全かつ安定し、手頃な価格で、人々の生活を向上させるのであれば、それがどこから来ても構わない」「国家に奉仕し、米国内外の市民に手頃な価格で信頼性の高いエネルギーを提供するという使命を継続できる機会を非常に光栄に思う」とコメントしている。国家エネルギー評議会議長への指名を受けたバーガム氏は、2016年からノースダコタ州知事を務め、現在2期目。それまでは政治経験がなく、ビジネスで成功を収め、全米の州知事の中で最も裕福な一人といわれている。米国の天然資源を保護・管理し、公有地の管理などで中心的な役割を果たす内務省の長官のほか、国家安全保障会議のメンバーも兼ねる。トランプ次期大統領によると、新設される国家エネルギー評議会は、「あらゆる形態の米国のエネルギーの許認可、生産、発電、流通、規制、輸送に関わるすべての省庁から構成」される。また、「官僚的な形式主義に陥ることなく、経済のあらゆる部門で民間部門の投資を強化し、長年にわたり続いてきた、全く不必要な規制より、イノベーションに焦点を当て、米国をエネルギー大国へと導く」という。さらに、「ライト氏とバーガム氏は長年の知己であり、共に仕事をしてきたチーム。米国のエネルギー支配を推進し、インフレを押し下げ、米国の外交力を拡大して、世界中の戦争を終結させる」との期待を示した。バーガム氏は自身のソーシャルメディアで、「米国のエネルギーを前進させるため、連邦政府組織間の前例のないレベルの調整を促進する。米国のエネルギー支配を確立して経済を活性化させ、消費者のコストを削減し、財政赤字削減のために数十億ドルの歳入を生み出す」「国の課題を解決するために規制よりもイノベーションに焦点を当て、米国のエネルギーをスマートに拡大し、敵国からエネルギーを買うのではなく、友好国や同盟国にエネルギーを販売し、世界をよりクリーンで安全なものにする」と、抱負を語った。
20 Nov 2024
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ポーランド国営PEJは11月12日、ポーランド初となる原子力発電所の建設プロジェクトへの融資支援を検討する米国国際開発金融公社(DFC)と基本合意書(LOI)に調印した。融資額は、40億ズロチ(約1,515億円)規模。PEJは、ポーランド初の原子力発電所の建設および運転の実施主体で、国営の特別目的会社(SPV)。米ウェスチングハウス(WE)社製AP1000を3基、同国北部のポモージェ県ホチェボ自治体内のルビアトボ–コパリノ・サイトに建設する。初号機は2033年に運転開始予定だ。DFCは、低所得国および中低所得国のプロジェクトを優先的に支援する米国の政府系開発金融機関。民間セクターと提携し、エネルギー、医療、重要インフラ、テクノロジーなど、開発途上国が直面する最重要課題の解決策に金融支援を実施している。PEJは、DFCの関与が米政府による本プロジェクトへの関心を裏付けるものであり、ポーランドをはじめ、世界のエネルギー移行に関心を持つ米国市場の主要機関とPEJとの数か月間にわたる協議の結果であるとの考えを示す。DFCは、中・東欧全体の地域エネルギー安全保障の強化に取組んでおり、今回のLOI締結をロシア産エネルギーへの依存を削減するとともに、経済成長の強化、雇用の創出に向けた一歩であると評価する。米WE社と米ベクテル社はコンソーシアムを結成し、PEJによる原子力発電所の建設プロジェクトに協力している。米輸出入銀行(US EXIM)もWE社との数年にわたる交渉の末、同プロジェクトに対して、約700億ズロチ(約2.6兆円)相当の融資支援を実施することになっている。
20 Nov 2024
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ベトナム商工省は11月17日、党政治局がベトナムでの原子力発電開発の再開に合意したことを明らかにした。ファム・ミン・チン首相が11月12日に実施した第15期第8回国会における演説によると、同国では2025年には電力需要が12~13%増大し、その後の数年間でさらなる増加が予測されている。さらに、2045年の電力需要は2023年5月決定の第8次国家電力開発基本計画で示された予測の1兆 kWhを上回り、1.2兆kWhに達するという。国会会期中の11月7日には、エネルギー需要の高まりを受け、多くの議員がニントゥアン原子力発電プロジェクトをできるだけ早期に再開するよう求めていた。政府では現在、商工省が中心となって電力法の改正手続きを進めており、原子力発電の開発についても改正法案に含まれている。2030年までに発電設備容量を2022年比でほぼ倍増、2050年までにネットゼロの目標を達成し、国家のエネルギー安全保障を確保すべく、再生可能エネルギー(風力、太陽光など)の開発を強力に進めるとともに、新しいエネルギー源(原子力と水素)の導入に向け、第8次国家電力開発基本計画を修正するとしている。2016年11月、ベトナムの国会は経済状況を理由にニントゥアン原子力発電プロジェクトの中止を決定した。同プロジェクトでは、ロシアと日本がベトナムに協力して、第一および第二原子力発電所(各200万kW)を建設する計画であった。
19 Nov 2024
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国際原子力機関(IAEA)と欧州復興開発銀行(EBRD)は第29回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP29)会期中の11月13日、IAEAのR. グロッシー事務局長とEBRDのO. ルノーバッソ総裁が両機関の協力強化を目指す覚書を締結した。この新たな覚書の下で両機関は、EBRDの活動対象国が原子力利用を検討するにあたり、エネルギー政策・戦略、ガバナンスと資金調達の枠組み、ネットゼロ目標を達成するためのメカニズムなどの策定に向けた活動を支援する。原子力発電および非発電利用分野における原子力・放射線安全分野と技術インフラのほか、関連施設の廃止措置、放射性廃棄物の管理を支援対象とする。MOUに署名したIAEAのグロッシー事務局長は、「我々は共に、原子力安全における長年の協力をベースとするだけでなく、能力構築、クリーンエネルギー、経済回復力に向けて新たな扉を開いた。EBRDのような金融機関とのパートナーシップは、低炭素社会の実現に必要な投資を活性化するとともに、原子力のメリットがあらゆる人にアクセス可能で、安全で、持続可能であるために不可欠である。特に、SMRの技術的および商業的可能性についてEBRDと意見交換できることを楽しみにしている」と述べ、原子力エネルギーを拡大するための金融機関や民間セクターとのパートナーシップの重要性を強調した。IAEAは、政府、産業界、銀行、その他のステークホルダーに対し、資金やノウハウなどの提供を要請している。EBRDは、中東欧諸国における自由市場経済への移行並びに民間及び企業家の自発的活動を支援することを目的として、1991年に設立された国際開発金融機関。東欧、ロシア、中央アジアでも原子力関連施設の廃炉や環境復旧活動を支援する他、いわゆる「アラブの春」以降、チュニジアやヨルダン、エジプトなど、地中海の東南岸諸国も支援対象地域に加えている。2021年、IAEAとEBRDは、ウクライナ当局と、チョルノービリ原子力発電所の廃炉と立入禁止区域における放射性廃棄物の管理において、安全で費用対効果の高い解決に向けて、引き続き協力することで合意した。チョルノービリ関連プロジェクトに加え、IAEAはブルガリア、リトアニア、スロバキアにおける原子力発電所の廃炉のための技術的助言を実施するほか、中央アジアにおけるウラン採掘・製錬サイトの環境復旧活動においてEBRDと連携した。
19 Nov 2024
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加ブルース・パワー社は11月1日、過去2年間の同位体生産システム(IPS)による医療用放射性同位体(RI)のルテチウム177(Lu-177)の生産実績に基づき、医療用RIの生産能力を拡大する計画を発表した。ブルース・パワー社は、加原子力安全委員会(CNSC)に書簡を送り、同社のブルース原子力発電所7号機(CANDU、87.2万kWe)におけるルテチウム177の生産実績に基づき、他の原子炉にもIPSを設置する計画を示した。ルテチウム177は、神経内分泌腫瘍や前立腺癌など、様々ながんの治療に使用される医療用RI。ブルース・パワー社は、需要のある他の医療用RIも生産するため、2025年に運転認可の修正を申し入れる計画だとしている。ブルース・パワー社のJ. スコンガック副社長は、「カナダは医療用RIの生産において世界でも超大国。当社のCANDU炉は、電力の安定供給をしながら、大規模かつ一貫した規模で同位体を照射する能力がある。コバルト60とルテチウム177の生産能力を最大限に高め、需要のある他の医療用RIの生産の追加を検討し、世界中のがん患者のために社会的責任を果たしていきたい」との考えを示した。ブルース・パワー社は2019年にIsogen社(Kinectrics Inc.とFramatome Canadaの共同出資会社)と提携し、ルテチウム177を生産するIPSを7号機に設置した。IPSは2022年10月に稼働、今年10月には2番目の生産ラインが稼働した。7号機は運転期間延長に向けて主要部品交換(MCR)を伴う大規模改修を2028年後半に開始する予定にしており、停止中もRIのサプライチェーンを維持できるよう、2027年までに6号機に2つ目となるIPSの設置を計画する。2029年には生産容量の拡大のため、ブルースA(1~4号機)の原子炉に3つ目のIPS設置の可能性を検討する予定だ。ブルース・パワー社は、医療用RIの販売大手である加ノルディオン社とのパートナーシップを通じて、医療器具・機器の滅菌や脳腫瘍や乳がんの治療にも使用されるコバルト60を長年にわたり安定供給している。ブルースB(5~8号機)のMCRによる停止期間中でも、運転期間延長期限である2064年までコバルト60の供給を確保しており、今回の改修により生産量の増加が見込まれている。なお、加オンタリオ州のS. レッチェ・エネルギー電化大臣は11月8日、ブルース発電所サイトを訪問。ブルース・パワー社とパートナー企業が、がん治療用RIを処理するホットセル施設を設置することを発表した。同大臣は、「これにより、短寿命のルテチウム177の処理能力が向上し、世界中のがん患者にタイムリーに届くようになる。がん治療用RIの生産と処理における世界的リーダーであるオンタリオ州の地位をさらに確固たるものにする」と語った。ブルース・パワー社とパートナー企業のIsogen社は、ブルース発電所サイトまたはIsogen社の施設のいずれかにホットセルを設置する計画だ。ホットセルは、機器の制御・操作が可能で安全な封じ込め機能を持ち、RIから人体を保護するシールド施設。これにより、ブルース発電所の7号機で製造されたルテチウム177の初期処理が可能になり、全体の処理時間を短縮、生産から2週間以内に患者への投与が可能になるという。
18 Nov 2024
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アゼルバイジャンのバクーで11月11日~22日の日程で開催されている、第29回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP29)において11月13日、COP議長国と国際原子力機関(IAEA)共催による首脳級パネルが開催された。「原子力など低炭素エネルギーへのファイナンスに関する首脳級パネル」と題した同パネルでは、低炭素電源の大規模展開に必要な資金調達について議論された。2050年までに世界の原子力発電設備容量を3倍にするという「原子力の三倍化宣言」には、同日あらたに6か国が署名し、現時点で31か国が署名している。「パリ協定」で示された1.5℃目標の達成には、クリーンエネルギーの拡大と効率改善が必要であるが、そのための資金調達は喫緊の課題である。この首脳級パネルには、アゼルバイジャンのP. シャフバゾフ・エネルギー大臣、IAEAのR. グロッシー事務局長、国際エネルギー機関(IEA)のF. ビロル事務局長、世界原子力協会(WNA)のS. レオン事務局長のほか、ガーナ・エネルギー省、欧州復興開発銀行(EBRD)、国際再生可能エネルギー機関(IRENA)、国連欧州経済委員会(UNECE)の高官が登壇した。グロッシー事務局長は、「金融機関は市場が求めるものに適応し、歩調を合わせなければならない。原子力には明確な需要がある」とした上で、「政府支援、グリーンローン、官民パートナーシップ、国際協調融資などの手段がある。今はコミットメントが必要。1.5℃の目標を達成可能な範囲に維持するためには、原子力は不可欠であり、我々が一丸となってその可能性を最大限に引き出す時が来た」と語った。IAEAが最近発行した、「気候変動と原子力発電」に関する報告書2024年版によると、2050年までに「原子力の三倍化」を達成するには、年間1,500億ドル(約23.4兆円)の投資が必要になるという。パネルでは、先進国と新興国・途上国(EMDEs)の双方で必要とされる低炭素技術の展開の大規模な拡大に対処するために必要な資金調達の選択肢について議論された。また、気候資金の新規合同数値目標(New Collective Quantified Goal on Climate Finance: NCQG)とともに、資金調達を支援・投資を誘致するための政府、民間セクター、多国間開発銀行の役割について検討され、官民セクター間の協力の重要性が示された。なお、パネルの最後に、シャフバゾフ・エネルギー大臣とIAEAのグロッシー事務局長は、エネルギー計画分野における協力に関する覚書を締結した。シャフバゾフ大臣は、「クリーンエネルギーへの移行にあたり、小型モジュール炉(SMR)を含む原子力エネルギーの可能性の分析に焦点を当てたIAEAのAtoms4NetZeroイニシアチブの下での協力は、アゼルバイジャンのエネルギー部門に新たな弾みを与えるものだ。原子力エネルギーの開発に関するIAEAとの共同研究やプロジェクトを通じて、アゼルバイジャンの将来の原子力エネルギー導入とエネルギーシステムの多様化を進めていく」との抱負を語った。これまで原子力とは縁のなかった産油国、産ガス国であるアゼルバイジャンが、COP議長国として堂々と原子力の価値を語り、COP29に原子力推進の風を吹かせたことは、現地でも驚きをもって迎えられている。昨年のCOP28では、初めてCOP公式文書に原子力の価値が盛り込まれ、大きなエポックメイキングとなったが、これはバラカ原子力発電所を有するアラブ首長国連邦が、議長国としてリーダーシップを取ったことが大きく影響していた。COP29に参加している日本原子力産業協会の植竹明人常務理事は「COP29は、非原子力国かつ産油/産ガス国のアゼルバイジャンが議長国であることから、会議全体の雰囲気が、原子力に対して冷ややかなものになると予測していた。しかしながら、本日のMOU締結や、原子力に対するアゼルバイジャンの力強いまでのポジティブな姿勢は嬉しい誤算であり、数年前まではタブーとまで言われていたCOPにおける原子力の議論が、今や堂々と公式プログラムの中で語られており、驚いている」と、COP会場を包む原子力への追い風について力強く語った。
15 Nov 2024
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アゼルバイジャンのバクーで11月11日~22日に開催されている第29回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP29)において、2050年までに世界の原子力発電設備容量を3倍にするという「原子力の三倍化宣言」にあらたに、エルサルバドル、カザフスタン、ケニア、コソボ、ナイジェリア、トルコの6か国が署名した。11月13日、COP29議長国、国際原子力機関 (IAEA)、米国、世界原子力協会(WNA)共催の「『原子力三倍化』の取組みを推進する」と題するサイドイベントにおいて、同6か国が署名。これにより同宣言を支持する国の総数は31か国((アルメニア、ブルガリア、カナダ、クロアチア、チェコ、エルサルバドル、フィンランド、フランス、ガーナ、ハンガリー、ジャマイカ、日本、カザフスタン、ケニア、韓国、コソボ、モルドバ、モンゴル、モロッコ、オランダ、ナイジェリア、ポーランド、ルーマニア、スロバキア、スロベニア、スウェーデン、トルコ、ウクライナ、アラブ首長国連邦、英国、アメリカ合衆国 (以上31か国)))となった。昨年、UAEのドバイで開催されたCOP28で日本をはじめとする米英仏加など25か国は、「パリ協定」で示された1.5℃目標((世界の平均気温の上昇を産業革命以前に比べて1.5℃に抑える努力目標))の達成に向け、野心的な同宣言に署名した。2020年比で世界全体で3倍とする目標に向けた協働だけでなく、小型モジュール炉(SMR)や先進炉の導入拡大、原子力を利用した水素製造の活用などにも言及するなど、電力以外の産業分野への応用も視野に入れている。なお、同宣言に盛り込まれている取組内容は以下の通り。最高水準の安全性、持続可能性、セキュリティおよび核拡散抵抗性を保持しつつ、責任を持って原子力発電所を運転すること、 長期にわたって責任を持って使用済み燃料を管理すること新しい資金調達メカニズムなどを通じ、原子力発電への投資を奨励すること原子力発電所が安全に稼働するために、燃料分野を含む強靭なサプライチェーンを構築すること技術面で実行可能かつ経済性がある場合には、原子力発電所の運転期間を適切に延長させること原子力導入を検討する国々を支援すること同宣言に署名した、カザフスタン・エネルギー省のS. エシムハノフ次官は演説の中で、「署名は持続可能でクリーンな未来に向けた重要な一歩である。我々は、エネルギー安全保障の強化だけでなく、国際社会と協力し、世界的な炭素排出削減に大きく貢献していきたい」との意欲を語った。カザフスタンは、2060年までにカーボンニュートラルを達成するため、原子力を将来のエネルギーミックスの重要な要素と考えている。イベントの進行を務めたWNAのサマ・ビルバオ・イ・レオン事務局長は、新たに6か国が「野心的な連合」に加わることを心から歓迎するとした上で、「この発表は、費用対効果が高く、公平な方法でパリ協定の目標を達成する上で、原子力の重要な役割を強調するもの。リーダーシップを発揮するには、2050年だけでなく、その後数十年にわたって世界が必要とするものに備える先見性も必要。この宣言の署名国は長期的なコミットメントを行っている。不確実性の高い世界においてエネルギーの確実性と信頼性を提供するものだ」と高く評価した。昨年のCOP28で採択された成果文書である「UAEコンセンサス」では、COP史上初めて、炭素排出量を削減するための重要なアプローチの1つとして「原子力」が明記された。2050年までのネットゼロを達成するため、参加国に対し、エネルギーシステムにおける化石燃料からの移行を要求する中で、その移行手段として、再生可能エネルギーやCO2回収・貯留(CCUS)と並ぶテクノロジーとして、原子力が取り上げられた画期的な出来事であった。他の低炭素エネルギー源とともに原子力導入の加速が求められたことを受けて、今年3月、IAEAとベルギー政府が共催する、原子力エネルギー・サミットが初開催された。30か国以上の首脳や閣僚、300名以上の原子力関係者らが出席し、化石燃料の使用の削減、エネルギー安全保障の強化、持続可能な開発の促進という世界的課題に対する原子力の重要な役割を再確認した。9月には、ニューヨークで開催された気候イベント「Climate Week」会期中にサイドイベント「原子力を3倍にするファイナンス」(Financing the Tripling of Nuclear Energy)が開催され、世界の主要な銀行と金融機関14社が、原子力発電プロジェクトに対するファイナンス支援を表明した。さらに、低炭素エネルギーへの移行を急ぐエネルギー集約型産業のみならず、世界の大手テック企業が、生成AI(人工知能)の普及によるデータセンターの電力需要の増大に応えるために原子力発電の利用に注視する事例も増えている。原子力エネルギーは、低炭素エネルギーで気候変動問題に対応し、安定した供給と手頃な価格でエネルギー安全保障にも貢献するとして、原子力利用への関心は高まりを見せている。なおCOP29の開幕と合わせ、米政権は11月12日、2050年までに2億kWeの原子力発電容量を導入し、現在の約1億kWeの設備容量を3倍化する計画の概要を示す枠組みを発表した。大型炉のほか、小型モジュール炉(SMR)、マイクロ炉を含む新規炉の建設、既存炉の出力向上や運転期間延長、経済的理由により閉鎖された原子炉の再稼働などによる容量増大を想定している。
14 Nov 2024
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加アトキンス・リアリス(AtkinsRéalis、旧SNC-ラバリン=SNC-Lavalin)社傘下にあるCandu Energy社は10月31日、カナダ型加圧重水炉(CANDU炉)の新型炉MONARK(100万kWe)について、加原子力安全委員会(CNSC)と特別プロジェクト契約を締結し、許認可申請前設計審査の計画を策定すると発表した。同プロジェクトでは、カナダにおけるMONARKの許認可および建設の適合性が検討される。アトキンス・リアリス社のJ. ジュリアン原子力部門長は、「2027年までにMONARKの設計を完了し、初号機の建設を早ければ2029年に開始、2030年代半ばまでに運開させる」との見通しを示した。この特別プロジェクトでは、CNSCスタッフにMONARKの設計に精通してもらい、将来の設計審査で必要となるフィードバックを提供してもらうことを目的としている。アトキンス・リアリス社では、スタッフ約300人をMONARKの設計作業に投入し、概念設計を今年9月にすでに完了している。カナダで原子力プラントを建設しようとするベンダーは、CNSCの許認可申請前ベンダー設計審査(Vendor Design Review: VDR)を任意で受けることができる。CNSCの職員が設計の早い段階でベンダーにフィードバックを提供し、規制上の要件などを検証できる仕組みである。VDRを完了させることで、供給者は新しい設計の認可手続き上において基本的な問題点を特定し、あらかじめ解決する。同時に、プラントを導入する電力会社にとっても予見可能性を高めるものとなる。一般的なVDRは3段階構成(①規制基準全般の適合評価、②許認可上障害となる点の特定、③指摘事項を解決するフォローアップ)であるが、MONARKの設計は、VDRの3段階すべてを完了した過去のCANDU炉のプラットフォームと、実際に認可を取得・建設した実績を最大限に活用している。そのため、アトキンス・リアリス社はCNSCに対し、VDRまたは予備的規制設計評価(Preliminary Regulatory Design Assessment)のいずれかの評価方法を検討するよう要請した。前者が設計全体を評価するものであるのに対し、後者は評価対象となる技術・設計変更に特化し、新しい技術の個々の設計要素に関してフィードバックを行うものである。まずCNSCの専門家グループが、VDRと予備的規制設計評価の両方についてスケジュールと評価見積りを作成する。見積りには、MONARKに施されたさまざまな改良点や、すでにVDRの3段階フェーズをすべて完了した過去のCANDU設計との相違点、規制要件などの変更点が反映される。その後、アトキンス・リアリス社はMONARKの設計プログラムをサポートする最適な評価方法を選択し、厳格な審査によるフィードバックを得て、ライセンス取得にかかるコストやリードタイムを明確にさせ、MONARKの新規建設プロジェクトに取組みたい考えだ。「MONARK」は、CANDU炉では第3世代+(プラス)炉に分類され、運転寿命は70年。構造は簡素化され、建設時間を短縮するモジュールベースの建設工法を採用。運転を停止させることなく燃料交換ができるため、高い設備利用率(95%)を達成するほか、燃料には天然ウランに加え、再処理ウラン、トリウム、MOX燃料などの装荷も可能。水素製造や医療用アイソトープ製造にも活用できる。現時点で、CANDU炉だけがCNSCのVDRの3段階すべてを完了しており、カナダでは国内で稼働するすべての原子炉がCANDU炉である。CANDU炉は、1950年代後半から連邦政府直轄のカナダ原子力公社(AECL)が主体となり、カナダが独自に開発し実用化した重水炉だ。AECLの原子炉部門は2011年、SNC-ラバリン社に売却された。CANDU炉はカナダの他、アルゼンチン、中国、韓国、ルーマニアで稼働中である。カナダ国内に250企業以上、専門的および熟練したスキルを有する76,000人もの従業員を抱えるCANDU炉の一大サプライチェーンが確立されており、アトキンス・リアリス社はMONARKのカナダ国内外での展開を目指している。
13 Nov 2024
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気候変動問題の解決に向けて活動する、米国の非営利団体であるエコアメリカ(ecoAmerica)が10月29日に発表した最新の世論調査「米国人の気候展望調査2024 (American Climate Perspectives Survey 2024, Vo.Ⅲ)」によると、米国民の半数以上が原子力発電を支持していることが分かった。同調査は、エコアメリカがオンラインアンケートのSurvey Monkeyを利用して、2024年7月24日から8月9日にかけて1,011人を対象として実施したもの。同調査によると、米国人の55%が原子力発電を「強く支持する」または「やや支持する」と回答、前年から支持が3ポイント上昇した。過去7年間に実施した調査で、米国人の半数以上が一貫して原子力発電を支持する結果となっている。支持政党別でみると、共和党支持者が原子力発電への支持が最も高く(61%)、民主党支持者と無党派層は半数強(各々52%と53%)にとどまった。性別でみると、男性を自認する米国人は原子力を強く支持する一方(67%)、女性を自認する米国人の支持は41%と男性と比べて低い結果となった。また、年齢層別で最も支持が高いのは65歳以上(71%)で、最も支持が低かったのは18歳から24歳(39%)であった。原子力発電への支持が高まっている理由として、回答者の70%が、原子力発電が経済成長と同時に、気候や健康に害を及ぼす汚染削減に役立つと回答。また、回答者の多くが、原子力発電所が安定して電力を供給し、米国の競争力とエネルギーの自立を維持している点を挙げた。さらに、70%が「低コストの再生可能エネルギーが利用可能になるまで」、あるいは、68%が「長期的に費用対効果が高い限り」、原子力発電所の運転を継続するべきと回答したほか、67%が「気候変動の原因となる汚染物質を排出しない」という点で、原子力発電を支持するとした。「研究開発費」に関する設問では、回答者の72%が「風力・太陽光により多くの研究開発費を費やすべき」と回答。次世代原子力エネルギーについても、風力・太陽光に次ぎ、半数以上(56%)が研究開発費の増額を支持、天然ガス(52%)、石油(42%)、石炭(30%)に対する支持を上回った。これらの調査結果により、エコアメリカは、石炭、石油、天然ガスからの移行加速に向けた、社会的条件が成熟しつつあると分析している。なお、支持政党別では、民主党支持者の56%が、共和党支持者の62%が、それぞれ「次世代原子力エネルギーに対する研究開発費の増額」を支持している。一方で、回答者の多くが、健康と安全(74%)、廃棄物処分(72%)、軍事利用(68%)など、原子力発電について何らかの懸念を表明しており、原子力発電に対する全体的な懸念は依然として高いことが判明。但し、懸念を表明する回答者の割合は、2018年の調査と比べ全般的に減少傾向にあることも分かった。
12 Nov 2024
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チェコ政府内で独立した第三者機関である競争保護局(ÚOHS)は10月31日、チェコ電力(ČEZ)が原子力発電所増設プロジェクトの優先交渉者に韓国水力・原子力(KHNP)を選定した入札手続きに対する、米ウェスチングハウス(WE)社ならびに仏EDFによる異議申立てを、第一審で却下した。ČEZは今年7月、ドコバニとテメリン両原子力発電所における最大4基の増設プロジェクトの優先交渉者としてKHNPを選定した。しかし、入札に参加を認められなかったWE社と、選外となったEDFは翌8月、ÚOHS に入札手続きの見直しを求め、異議を申立てた。WE社は契約権限者による公共調達法の枠外となる国家安全保障上の例外適用に一部異議を唱え、また、WE社とEDFはKHNPの選定に関して公共調達の基本的原則に準拠しない違法性(公共契約の履行対象の大幅な拡大、優先交渉者であるKHNPの契約履行能力の欠如など)を訴えたが、ÚOHSは、WE社が例外適用を認識した時点から15日以内(2022年3月)の異議申立て期限を過ぎていること、また、例外適用により公共契約を行う契約権限者の特定の手続きに対する法的異議の申立ては受入れられないとして、行政手続きを終了させた。このほか、外国補助金規則の違反とする両社の主張については、契約権限者が公共調達法により従うべき手続きではないため、異議を却下した。ÚOHS は今回の一審判決の前日30日には、最終判決が出るまでKHNPとの契約締結の仮差止めを命じている。なお、今回の一審判決への不服申立ては、 ÚOHS長官宛てに控訴することで可能だ。今回の裁定を受けČEZは声明を発表。契約締結の仮差止めは通常の措置であるとし、ドコバニ発電所5、6号機の増設に関する最終契約についてはKHNP社と交渉が進行中であり、 ÚOHSの最終判決は、予定する来年3月末の契約調印に間に合うだろうとの見通しを示した。なおWE社は、「KHNPのAPR1000およびAPR1400設計は、WE社がライセンス供与した技術を利用、KHNPはその基本技術を所有しておらず、WE社の同意なしに第三者にサブライセンス供与する権利も有していない。米政府から技術輸出に必要な承認を取得する法的権利を有しているのはWE社だけである」として、知的財産権と輸出管理をめぐり、現在、国際仲裁および米国で訴訟が進行中である。WE社とKHNP間で係争が続く中、11月1日、米エネルギー省(DOE)と韓国の産業通商資源部(MOTIE)は、原子力輸出及び協力の原則に関する覚書(MOU)に仮調印した。両国の当局者は、最高水準の不拡散、安全、保障措置、安全保障を支持しつつ、原子力の平和利用を促進するという相互のコミットメントを再確認し、両者は民生用原子力技術の輸出管理を強化するとしている。同時に、気候変動対応、グローバルなエネルギー移行の加速化及びサプライチェーンの確保などの分野での協力も拡大し、両国の産業に数十億ドルの経済効果と数万人の雇用をもたらすと強調している。両国企業間の紛争にも係らず両政府の協力意向を明確に示し、原子力輸出管理分野のコミュニケーションを通じて将来の紛争防止を図り、今後グローバル市場で両国間の原発輸出協力を緊密に行いたい考えだ。
11 Nov 2024
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英政府は10月30日、新政権として初の秋季予算案を発表。同予算案の中で、英サイズウェルC(SZC)原子力発電所新設プロジェクトの最終投資決定とSMR支援対象炉の決定を来年春に実施すると言及している。英政府(前政権)は今年1月、2050年のCO2排出実質ゼロに向けて原子力ロードマップを発表。2050年までに国内で合計2,400万kWの新規原子力発電所を稼働させ、国内電力需要の4分の1を原子力で賄うとする野心的な原子力開発目標を示した。今回の予算案の中で、新規炉は英国がエネルギー安全保障とクリーンエネルギーを実現する上で重要な役割を果たすとともに、何千もの熟練労働者の雇用を約束するものであると明言。SZCプロジェクトの継続のため、2025年~2026年にかけて、27億ポンド(約5,343億円)の予算を計上している。同プロジェクトはイングランド東部サフォーク州のサイズウェル原子力発電所サイトにEPR-1750(172万kWe)を2基建設する計画。2022年7月に開発合意書(DCO)、2023年3月に環境許可、今年5月にはサイト許可がそれぞれ発給されており、現在、サイト内の土木工事が進行中だ。なお、同プロジェクト向けの資金調達プロセスはまもなく最終段階に入り、春には完了する見通しだとし、同プロジェクトを進めるかどうかの最終投資決定(FID)を歳出見直し(Spending Review)の第2段階(来春)で実施するとしている。同予算案ではまた、大英原子力(Great British Nuclear:GBN)が実施している小型モジュール炉(SMR)の支援対象選定コンペについて、最終選考に残った4社と交渉段階に入ることを明らかにした。最終選考に残ったのは、米GE日立・ニュクリアエナジー・インターナショナル社、米ホルテック・インターナショナル社英法人、英ロールス・ロイスSMR社、米ウェスチングハウス(WE)社英法人。GBNは10月にこれら4社に対して交渉への招請状を発行。交渉の終了後、4社は最終入札の提出を求められ、GBNはそれを評価し、支援対象炉の最終決定を来年春に行うという。当初、今夏には選定企業との契約締結を計画していたが、遅延している。なお、GBNは10月28日に発表した商業活動の見通し(Commercial Pipeline)の中で、支援対象に選定された各SMR供給者への契約額を10年間で推定6億~8億ポンド(約1,187億~1,583億円)と見積り、調達開始予定は2025年7月、契約開始予定は2026年9月と設定。原子炉蒸気供給系(NSSS)以外の系統(Balance of Plant:BOP)の製造、供給、設置に関する別の2億ポンド(約396億円)の契約については、調達開始を2028年、契約開始を2030年と設定している。英国原子力産業協会(NIA)のT. グレイトレックスCEOは、「英国のSMR支援対象選定コンペがこれ以上遅れることなく、できるだけ早く決定を下すことが重要である。SMRへの支援に関する英政府の声明に対する信頼は、今回の約束を果たすことにかかっており、サプライチェーンの信頼だけでなく、野心的な原子力拡大目標を達成するためにも不可欠である」と指摘した。
11 Nov 2024
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米国の原子力開発ベンチャー企業であるテラパワー社は10月30日、HALEU((U235の濃縮度が5~20%の低濃縮ウラン))の供給拡大に向け、米ASP アイソトープ社と、①南アフリカにおけるウラン濃縮施設の建設、②テラパワー社が開発するナトリウム冷却小型高速炉「Natrium」への燃料供給―に関するタームシート((最終契約の締結にいたるまでの過程で、契約書に盛り込むべき重要事項をまとめたもの))を締結した。テラパワー社は、米ASP アイソトープ社による南アフリカでのHALEU製造施設の建設に出資し、同施設で製造されるHALEUを購入。米ワイオミング州南西部のケンメラーで開発されているNatriumおよびエネルギー貯蔵システムに利用する計画である。購入したHALEUは、テラパワー社と米エネルギー省(DOE)が先進炉実証プログラム(ARDP)を通じて共同出資する、米グローバル・ニュークリア・フュエル(GNF)社がノースカロライナ州ウィルミントンのサイトに建設する燃料加工施設で加工される。テラパワー社のレベスクCEOは、「当社は『Natrium』用に安定したHALEUサプライチェーンを確保するために懸命に取り組んできた。今回の合意は、国内および同盟国におけるHALEU製造の商業化に向けた当社の取組みの一例」と強調した。テラパワー社は、米国内でHALEU製造促進に向け、複数の戦略的契約を締結している。その中には、HALEUの商業化に関するセントラス社とのMOU、HALEU金属化パイロットプラントの建設に関する仏フラマトム社との契約、ワイオミング州産ウランの供給可能性に関するウラニウム・エナジー社との調査契約が含まれる。ASP アイソトープ(ASPI)社は2021年に設立されたが、前身は1980年代の南アフリカにおけるウラン濃縮プログラムにさかのぼる。さまざまな業界で使用されるアイソトープ製造の技術とプロセスの開発を専門とする先端材料企業。HALEUウラン濃縮施設の建設とNatriumへの供給は、ASPIの子会社である米Quantum Leap Energy 社が行う。ASPI社によると、濃縮施設で製造される予定のHALEUの長期供給契約も締結される予定であり、テラパワー社は施設の完成後10年間で製造されるHALEUの独占購入権を持つことを想定している。また、ASPI社がHALEUの供給について第三者と交渉したり、別のASP技術べースのウラン濃縮施設に取組まないようにする独占期間を示す条項がタームシートには含まれているという。ASPI社は、従来の遠心分離プロセスを使用した濃縮施設の建設と比較して、大幅に低いコストと短い時間で、自社の濃縮技術をHALEU製造施設に導入できると考えている。従来、医療や半導体業界向けの高濃縮同位体の製造と商業化に重点を置くが、開発中の濃縮技術を使用し、原子力発電分野向けの同位体濃縮を実施する計画だ。Natrium は34.5万kWeのナトリウム冷却高速炉。熔融塩を使ったエネルギー貯蔵システムを備え、電力負荷の変化に追従する柔軟な運転が可能。米ワイオミング州で閉鎖予定の石炭火力発電施設の近くに建設され、今年6月には起工式が開催された。今年3月末に米原子力規制委員会(NRC)に建設許可を申請している。原子力部の着工は早くて2026年、運転開始は2030年を予定している。
08 Nov 2024
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加オンタリオ州南西部のサウスブルース自治体は10月21日~10月28日に、国内の原子力発電所から発生する使用済み燃料の深地層処分施設受入れの是非を問う住民投票を実施。51.2%が受入れに賛成した。投票率は69.3%。カナダでは、原子力発電所の使用済み燃料を再処理せずに深地層処分する方針であり、カナダの核燃料廃棄物管理機関(NWMO)は深地層処分場建設に向け、2010年からサイト選定プロセスを開始した。NWMOは2002年に設立され、カナダの中・高レベル放射性廃棄物の安全かつ長期的管理を任務とし、使用済み燃料の深地層処分場の立地点を模索している。処分場の受け入れに関心を表明した22自治体は、潜在的な適合性評価、サイト評価、環境影響評価などを経て、最終的にオンタリオ州北西部のワビグーン・レイク・オジブウェイ・ネーション(WLON)-イグナス地域と、同州南西部のソーギン・オジブウェイ・ネーション(SON)-サウスブルース地域の計2地点に絞り込まれた。イグナス自治体は今年3月、NWMOと受入れ合意書を締結。賛成多数の住民投票を経て、イグナスの議会は7月、サイト選定プロセスへの参加継続をNWMOに正式に表明している。サウスブルース自治体は今年5月に受入れ合意書を締結、10月には住民投票を実施するとしていた。NWMOは、地層処分プロジェクトは自治体や地域住民、先住民が十分な情報を得た上で受入れに意欲のある地域でのみ進められるとしており、先住民地域のWLONやSONとも緊密に協力を続け、プロジェクトが彼らのコミュニティに適しているかどうかを検討していくとしている。NWMOは2022年6月、2地点とも処分場を建設できる技術的な見通しがあるとの結論を示した技術報告書を取りまとめている。NWMOは周辺の住民や環境の安全が確保されるだけでなく地元コミュニティに利益がもたらされることを確認した上で、年内に1地点に絞り、正式な協定を締結する方針である。サイトの最終決定後、NWMOは影響評価と許認可手続きを含む規制プロセスに入る。影響評価は、カナダ環境影響評価庁 (IAAC) と原子力安全委員会 (CNSC) が主導。一般市民も、地層処分プロジェクトが住民の健康と環境、安全、セキュリティを保護するための厳格な規制基準を満たしているか確認できるようにされている。NWMOは2033年には建設許可を取得、建設作業を開始し、2040~2045年に処分場の操業を開始したい考えだ。
08 Nov 2024
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