米ウェスチングハウス(WE)社は8月15日、米原子力規制委員会(NRC)から、同社製事故耐性燃料(ATF)であるEncore燃料の燃焼度制限引上げの承認を取得した。国内で初承認となる。燃料効率の向上、燃料交換間隔の延長により、運転コストの削減に貢献する。米国のPWRは現在18か月サイクルで運転されており、この新しい高燃焼度燃料によって供給バッチサイズを小さくすることが可能になり、燃料サイクルの経済性が改善される。米国で初めて62,000MWd/tの燃焼度制限を超えた燃料装荷が可能となり、将来的には24か月サイクル運転になることが期待される。WE社は、今回の燃焼度引上げの承認が、2012年に同社が開始したATF開発プログラムにとって重要なマイルストーンと強調する。同プログラムには、米エネルギー省(DOE)が資金拠出。米国のエネルギー安全保障と気候目標の達成支援のため、原子炉性能と安全性を向上させることを目的としている。WE社のEncore燃料は、既存燃料よりもはるかに厳しい条件下で耐性を持つ。炭化ケイ素燃料被覆管の融点は極めて高く(2,800℃以上)、水との反応が少ないため、特にジルコニウム燃料被覆管が1,200℃を超えると水素と熱の生成反応が著しくなるのに比べ、過酷事故条件下で画期的な安全性を発揮するという。また、同社はジルコニウム-蒸気反応も抑制する代替被覆管材料であるクロムコーティングジルコニウム合金も開発している。
26 Aug 2024
1059
欧州原子力共同体(ユーラトム)供給局は8月13日、欧州域内における燃料供給に関する2023年の年次報告書を公表。多くの国でロシア型PWR(VVER)向け燃料の供給保証が大幅に向上したとする一方、転換・濃縮サービスの多様化に関しては課題が残ると強調している。報告書はまず、2023年の核燃料供給状況について、ウクライナ紛争の影響やロシア依存脱却に向けた供給多様化の必要性、地政学的影響に関連した供給の不確実性に直面したと指摘。同時に、一部の国による原子力発電所の運転期間延長や拡大計画、小型モジュール炉(SMR)や先進モジュール炉(AMR)などの革新炉プロジェクトの出現、さらには医療用RIの利用に対する関心の高まりにより、ヨーロッパにおける核物質の供給状況が変化していると指摘した。報告書は今後も、少なくとも中長期的には、天然ウラン、燃料加工、関連サービスに対する需要は、地政学的状況の課題やさまざまなリスクに左右されるであろうと結論付けている。こうしたなか、EU域内(27か国)では103基の原子炉が運転中で、2023年の原子力発電電力量は5,876億kWh、総発電電力量に占める原子力の割合は約23%であった。このうち、フランス、スロバキア、ハンガリー、ブルガリアの原子力シェアは40%を超えている。EUの天然ウランの調達先をみると、カナダが約33%(4,801トンU)、ロシアが約23%(3,419 トンU)、カザフスタンが21%(3,061トンU)、ニジェールが約14%(2,089 トンU)と、EUの天然ウランの91%以上をこれら4か国が供給。このうち、カナダからの供給が前年比約86%増、ロシアからの供給も約73%増と大きく伸長した。ロシアからの供給増について、報告書は、ロシアのウクライナ侵攻による地政学的緊張を受けた、VVER用燃料備蓄の動きによる影響であり、現段階ではEUのロシア依存の高まりとして解釈すべきではないとした。2022年以降、VVERを運転するハンガリーを除くEUの事業者(ブルガリア、チェコ、フィンランド、スロバキア)は、新たな燃料サプライヤーとの燃料供給契約を締結するなど燃料供給先の多様化に取り組んでいるが、代替燃料等が完成、認可されるまでの期間をカバーするため、既存の燃料の備蓄を積み上げている状況だ。不安定な市況に対応するため、EUの電力会社は在庫を積み増した結果、2023年のEU全体の在庫水準も約5%増加、さらに濃縮ウランの在庫も13%増加した。報告書は、大多数の電力会社は、2 回以上の燃料再装荷が可能な在庫状況にあるとし、健全なレベルを維持しているとの見方を示している。一方で、報告書は、原子力発電に対する関心が世界的に再燃するなか、エネルギー自立を維持しつつ、気候目標を達成するためには、信頼性の高いサプライチェーンの開発に向けたさらなる取り組みが必要と指摘。特に、転換・濃縮における西側諸国の潜在的な能力不足を挙げ、これらサービス確保の重要性を強調した。そのうえで、今後、転換・濃縮サービスの安定的かつ信頼性のある供給を確保するためには、新たな生産能力へのさらなる投資が不可欠であり、原子力産業が多額の投資をできるよう、安定した予測可能な市場環境の整備、投資家に保証を与える長期契約や明確な政治的コミットメントの必要性を勧告した。なお、EU域内における転換サービスは、仏加米などの西側諸国が約66%を供給、一方、EU域内での濃縮は55%と半分以上を占めている。報告書はまた、MOX燃料や再処理による回収ウランといった二次資源の利用が増加している点にも着目、今後10年間でこれらの利用が大幅に増加すると予測している。報告書によれば、2023年のMOXおよび回収ウランの装荷量は、天然ウラン換算で前年比44%増の481トンU、年間の原子炉所要量の3.6%を占めた。この二次資源利用の増加の傾向は今後も継続し、2034年以降は2,800トンU程度で安定すると分析している。なお、2023年のEU域内におけるMOX燃料の装荷量(プルトニウム換算)は、前年比59%増の4,787kgとなり、これによる天然ウランと濃縮役務(分離作業単位: SWU)の節減は、天然ウランで427トンU、濃縮役務で300,000SWUとなった。1996年から2023年までのMOX燃料装荷量は、累計で24万6,009kg(プルトニウム換算)となり、天然ウランと濃縮役務の節減もそれぞれ26,626トンU、18,085,000SWUに達している。EUにおけるMOX燃料装荷量は、2008年の16,430 kg(プルトニウム換算)をピークに、徐々に減少。報告書によると、2023年にMOX燃料を利用した国は、フランスとオランダの2か国のみとなっている。
26 Aug 2024
1006
英国のコアパワー社は8月15日、ロイド船級協会(LR)、海運業界最大手のデンマークのA.P.モラー・マースク社とともに、第4世代原子炉を動力源としたコンテナ船の実現に向けて、規制要件や安全性を調査する共同研究プロジェクトを開始した。 コアパワー社の発表によると、今回の共同研究は、温室効果ガス(GHG)排出量削減を求められている海運業界全体に、原子力船の実現に向けた判断材料を提供するのが狙いで、同社の浮体式原子力発電所プロジェクトを手掛けてきた経験、LRの長年にわたる船級協会としての専門知識、海運業界最大手のマースク社の経験を活かしていくとしている。コアパワー社のM. ボーCEOは、「原子力がなければ、ネットゼロを実現することは不可能だ」と述べ、LRのN. ブラウンCEOも「今回の共同研究開始は、海運業界に原子力発電の可能性を解き放つ刺激的な旅の始まり。海運業界の脱炭素化に向けた原子力を含む多燃料化は、国際海事機関(IMO)が求める排出削減目標を達成するために不可欠」と述べた。マースク社の船舶技術責任者である、O.G.ヤコブセン氏は、安全性、廃棄物処理、地域の理解といった原子力発電に関する課題に触れつつ、「これらの課題が第4世代の原子炉開発によって解決されれば、今後10~15年で物流業界の脱炭素化のオプションの一つとなり得る」と期待した。 IMOの「2023 IMO GHG削減戦略」は、国際海運からのGHG排出量を2050年頃までに正味ゼロにすることを目標として掲げ、海運業界にとってGHGの削減は大きなミッションとなっており、原子力船についても様々な方向から検討がなされている。今年6月にコアパワー社が英国で開催した「第5回海事向け新原子力サミット」には関係者250人以上が集まり、原子力と海事の専門家が原子力船実現に向けた講演やディスカッションを行った。なお、今年7月には韓国の大学で世界初の小型モジュール炉(SMR)搭載船舶を研究する機関が設立されている。
23 Aug 2024
1551
カナダの環境影響評価庁(IAAC)と原子力安全委員会(CNSC)は8月12日、オンタリオ州のブルース原子力発電所増設に係る初期プロジェクト概要(Initial Project Description:IPD)に対するパブリックコメントを開始した。同発電所を運転するブルース・パワー社は2023年10月、周辺住民や環境等への増設計画の潜在的な影響評価(Impact Assessment=IA)手続きの開始と、将来的にサイト準備許可(LTPS)を申請する方針について、IAACとCNSCに書簡で正式に伝えており、今回のパブリックコメントはIA手続きの一環。ブルース・パワー社は、ヒューロン湖畔にある既存サイト内の932ヘクタールのスペースでブルースCの最大480万kWeの増設を計画している。同サイト内では、ブルースA(1~4号機)とブルースB(5~8号機)の各サイトで80万kWe級のCANDU炉が運転中。IAACとCNSCは現在、先住民族と一般市民に対し、9月12日までにIPDの概要をレビューし、提案されたプロジェクトに関するフィードバックを提供するよう呼びかけている。なお、ブルース・パワー社はIPDの中で、ブルースCで検討している採用炉型として、加アトキンス・リアリス社の新型CANDU炉のMONARK、フランス電力(EDF)のEPR、日立GEニュークリア・エナジー社のABWR、米GE・日立ニュクリアエナジー(GEH)社の小型モジュール炉(SMR)であるBWRX-300、米ウェスチングハウス(WE)社のAP1000を挙げているが、今後、進行中の技術評価プロセスや、先住民族や地域社会との連携活動の中で変更される可能性があるとしている。ブルース・パワー社は、ブルースCプロジェクトのIA手続きに約3~4年、IAの承認とLTPS取得に2028年~2031年の約3年間、建設許可取得ならびに建設と試運転期間に2031年~2045の約14年を見込む。採用炉型にもよるが、運転期間は60年~100年間を想定している。2023年7月、オンタリオ州政府は、州の経済成長に向けたクリーンな長期的電力システム構築計画「Powering Ontario’s Growth」の中で、ブルース・パワー発電所での増設に係る開発前段階の準備作業を支援すると発表。今年2月、カナダ連邦政府はブルースCプロジェクトの実行可能性調査(FS)を支援するために5,000万加ドル(約53.7億円)を拠出すると発表している(既報)。連邦政府は2050年までに電力需要の倍増を予測、現在の電力設備容量を今の2.2~3.4倍にする必要があるとし、原子力プロジェクトをタイムリーで予測可能かつ責任ある方法で実施することを支援していく考えだ。なお、ブルース・パワー社は増設計画と並行して、既存炉の運転期間延長に向け、蒸気発生器や圧力管等の主要部品交換(MCR)を主とする大規模改修プロジェクトを実施中。3~8号機を対象に2064年まで既存施設の運転期間を延長する計画だ。1、2号機はすでに改修済み。2020年1月に始まった6号機の改修工事は予定より早く2023年8月に終了、同年9月に営業運転を再開した。現在、3号機の改修中で、残る4、5、7、8号機の順で改修工事を進め、2033年までに完了させる予定。ブルース発電所による発電電力量は現在、オンタリオ州の総発電電力量の約30%を占めている。
23 Aug 2024
966
米国で先進炉開発を進めているオクロ社は8月13日、同社が開発する小型モジュール炉(SMR)である「オーロラ」向け電力変換システムに関する優先サプライヤー契約を、独シーメンス・エナジー社と締結した。オクロ社によると、本契約は昨年12月に締結した覚書に基づいており、顧客の増大する電力需要に応えるため、生産の拡張、コスト効率、および迅速な展開を強化するという同社のビジョン上、重要なステップとなるという。オクロ社は、複数の発電所全体で機器を標準化し、製造、建設、運転、メンテナンスのコスト削減のみならず、メンテナンスによる停止期間を短縮させ、全体的なパフォーマンスを向上させたい考えだ。オーロラは、液体金属冷却の高速中性子炉で、ヒートパイプを使用して炉心から超臨界二酸化炭素発電システムに熱を運び発電する。HALEU((U235の濃縮度が5~20%の低濃縮ウラン))燃料を使用しており、少なくとも20年間、燃料交換なしで熱電併給が可能である。出力は顧客のニーズに合わせて1.5万~5万kWeの範囲で調整が可能だ。米エネルギー省(DOE)は2019年12月、先進的原子力技術の商業化を支援するイニシアチブ「原子力の技術革新を加速するゲートウェイ(GAIN)」の一環として、アイダホ国立研究所(INL)敷地内でオーロラの建設を許可。これを受けてオクロ社は翌2020年3月、原子力規制委員会(NRC)にオーロラ初号機の建設・運転一括認可(COL)を申請したが、NRCは、審査の主要トピックスに関する情報がオクロ社から十分に得られないとして、2022年1月に同社の申請を却下した。オクロ社は同年9月、オーロラの将来的な許認可手続きが効率的かつ効果的に進められるよう、NRCとの事前協議を提案する「許認可プロジェクト計画(LPP)」をNRCに提出している。なお、DOEおよびアルゴンヌ国立研究所やアイダホ国立研究所などと共同で、使用済み燃料から残りの潜在的エネルギーの90%以上を抽出し、オーロラの燃料として利用する、先進的な燃料リサイクル技術の開発にも取り組んでいる。
21 Aug 2024
1337
ノルウェーの新興エネルギー企業ノルスク・シャーナクラフト(Norsk Kjernekraft)社は8月8日、複数の小型モジュール炉(SMR)で構成される原子力発電所建設に向けた評価提案書をエネルギー省に提出した。同社による提案書の提出は3件目で、今回の建設サイトはノルウェー西岸ヴェストラン県ベルゲン市の西にあるエイガーデン(Øygarden)自治体。ノルスク社は、ノルウェー国内の複数の自治体や電力集約型産業と連携したSMRの立地可能性調査を実施し、SMRの建設・運転を目指している。エネルギー省への提案書の提出は、発電所建設に必要な正式なプロセスの第一段階。提案書はエネルギー省の他、放射線防護・原子力安全局(DSA)、ノルウェー環境庁にも送付されている。自治体や住民、産業界からのコメントを得て、エネルギー省から最終承認されれば、ノルスク社は環境面や技術面、経済面、および安全面の影響評価を実施する。提案書では、エイガーデンにおける原子力発電所の立地条件を説明するほか、原子力発電所がエネルギーと気候に関する同国の公約の達成にどのように役立つかについても説明している。提案書には調査プログラム案が盛り込まれており、調査範囲は、発電所の建設、運転、廃炉の社会的・環境的影響の評価に限定されている。建設予定サイトはコルスネス工業地帯に隣接し、エイガーデンの前首長が所有する250エーカー(約1km2)の土地。ノルスク社は、SMR発電所の建設サイトとして同サイトを取得することを明記した意向書を前首長と交わしている。ノルスク社は、同サイトに電気出力30万kWのSMRを5基建設する計画で、年間125億kWhの発電が可能。これはノルウェーの現在の総電力消費量の約10%に相当する(既報)。ヴェストラン県はノルウェーで最も温室効果ガス排出量の多い地域。エイガーデン自治体はすでに大規模な電力不足に陥っており、計画されている石油・ガス設備の電化プロジェクトなどが実施されると一層の深刻化が予想される。SMR発電所が立地した場合、ベルゲン市の既存および計画中の送電インフラを利用可能で、石油・ガス設備の電化、電力集約型の新産業の創設、電力の安定供給が可能となる。ノルスク社はこれまでエネルギー省に対し、2023年11月、ノルウェー西部のアウレ自治体とハイム自治体の境界に位置する共同工業地帯でのSMR発電所建設の評価提案書を、今年6月には、ノルウェー最北東部のフィンマルク県ヴァードー自治体のスヴァルトネス村における建設の評価提案書を提出している。なお、ノルウェー政府は今年6月、同国における将来の原子力発電所建設の可能性について様々な側面から広範なレビューと評価を行う委員会を設立した。2026年4月1日までに政府に報告書を提出することになっている(既報)。
21 Aug 2024
1032
国際原子力機関(IAEA)は8月9日、「原子力発電のための国家インフラ開発におけるマイルストーン」の改訂版を公開。その中で、小型モジュール炉(SMR)に関する諸問題を考察している。改訂版は、原子力発電の新規導入または既存の原子力発電計画の拡大の準備方法に関するIAEAの基本的な指針を示し、小型モジュール炉(SMR)特有の導入問題を概説した付属文書を含む。原子力発電所導入の計画、建設、運転、廃炉の全プロセスを通じて各国の指針となる段階的手法であるマイルストーン・アプローチが定義する、3つの全フェーズを完了または大きく進展させた国の現況にも焦点を当てている。IAEAは、「今は、多くの国がネットゼロの公約を達成するためエネルギーミックスとして原子力を検討する重要な時期。2007年の初版発行、2015年の改訂を経て、今回2度目となる改訂は時宜を得たもの」と指摘する。今回の改訂版では、原子力発電を新規導入または拡大している国に対する最近の統合原子力基盤レビュー(INIR)ミッションから得られた教訓を取り入れている。また、今後数年の間に、新規炉の多くが大型水冷却炉となると予想する一方で、SMRが排出削減と持続可能な発展のために重要な役割を果たすとの認識を示している。SMR導入の利点として、遠隔地や送電網が貧弱な地域への導入の利便性のほか、モジュール設計による工期短縮を掲げている。なお、増大する電力需要に応えるため原子力発電導入を検討するデータセンターなどの新たなエンドユーザーや、脱炭素化を必要とする産業用途が多数あり、SMRの展開は迅速なライセンス取得と商業化の達成次第であると強調する。IAEA原子力局のA.クロワゾー部長は、「原子力を取り巻く状況が進化するにつれて、IAEAの支援も進化していかなければならない。SMRがクリーンエネルギーへの移行に不可欠な要素であることは明白であり、SMRに関心を持つ国がプロジェクトを成功するには何が必要かを確実に理解するよう支援したい」と語った。改訂版では、SMRは従来の原子炉とシステムの多くが共通で、法的・規制的枠組み、ステークホルダーの関与、環境保護への配慮などもほとんど同じだが、低出力や簡素化された設計などの独自の特徴により、特定のインフラ要件が異なる可能性を指摘。特に非水冷却炉のSMR導入を計画する国は、新たな形態の放射性廃棄物が発生する可能性があるため、廃棄物管理計画への留意の必要性や、新たな種類の燃料採用にあたり、安定調達を可能にするサプライチェーンの確保、新設計の特徴に対応した、新たな保障措置アプローチの開発などが重要であると言及している。IAEAは、今年10月21日~25日にウィーンで「第1回SMRとその応用に関する国際会議」を開催する。会議ではSMR開発および展開の加速に向けた機会、課題、実現条件について議論する予定だ。
20 Aug 2024
1456
ロシア国営原子力企業のロスアトムは8月5日、ロシアのウドムルト共和国のグラゾフにあるロスアトムの燃料部門傘下のチェペツク機械工場において、クロムメッキの燃料被覆管の商業規模のパイロット生産を開始したことを明らかにした。同施設では従来のジルコニウム合金製の長い被覆管に、スプレーを用いてクロムの保護コーティングを直接塗布し、燃料被覆管のパイロットバッチを製造した。ロスアトムによると、この構造材料は燃料の安全性を向上させた新世代燃料である、事故耐性のある先進技術燃料(Advanced Technology Fuel:ATF)に応用が可能で、原子炉の安全性と効率を高めるという。ロシア南西部のロストフ原子力発電所2号機(VVER-1000、100万kWe)では、2021年から、クロムメッキのジルコニウム合金とクロムニッケル合金の2種の燃料被覆管を用いた試験用ATF燃料棒を各6本、燃料集合体3体に組み入れてパイロット運転をしてきた。この技術ソリューションは、緊急時に炉心でのジルコニウム蒸気反応の進行を排除または大幅な減速を可能にするという。チェペツク機械工場では今後、クロムメッキの燃料被覆管の燃料集合体を数体製造、大型炉に装荷してパイロット運転をする予定。ATF燃料の適格性を確認し、その商業生産に道筋をつけたい考えだ。
20 Aug 2024
987
米ウェスチングハウス(WE)社は8月7日、英国のスプリングフィールド燃料加工工場で高濃縮度の新燃料ペレットの製造に成功した。この燃料ペレット「LEU+ADOPT」は、原子力発電所の性能と安全性の向上を目的に、米エネルギー省(DOE)の事故耐性燃料(ATF)プログラムを通じて開発された。同プラグラムは10年以内に商業化される可能性のある新燃料ペレットと被覆管設計を支援している。従来の燃料より安全性能を向上させ、濃縮度を8%まで高めることで、より長時間の運転を可能にし、燃料交換に必要な停止回数を減らして運転コストを改善する。現在、ほぼすべての商業用原子燃料はウラン235を3~5%に濃縮したものである。新燃料は英国の工場で4体の先行試験用燃料集合体に組み込まれ、2025年春、米ジョージア州にあるA.W.ボーグル2号機(PWR、122.9万kWe)での照射試験のため出荷される。
19 Aug 2024
1200
リトアニアのイグナリナ原子力発電所は7月30日、深地層処分施設(GDF)の建設に向け、国内29の自治体において候補サイト計77地点を特定した。リトアニアは2020年、イグナリナ発電所で発生した使用済み燃料と長寿命放射性廃棄物を最終処分することを目的としたGDFの建設プロジェクトを開始した。イグナリナ発電所が同プロジェクトの実施主体となり、同発電所のほか、エネルギー省、財務省、環境省、原子力安全検査局(VATESI)、放射線防護センター、リトアニア地質局の専門家から構成される作業部会がプロジェクトを監督する。同発電所は初期の現地調査をリトアニア地質局、フィンランドのポシバ社、および建設コンサル、エンジニアリングの多国籍企業であるスペインのIDOM社と協力して実施。110地点の候補サイトが初期評価で検討されたが、地下水や鉱床の存在や、地域の将来構想、環境基準、地質学的要件などの観点から33地点が却下された。2047年には最終候補地の選定を行いたい考えだ。それまでに潜在的に適した地点での詳細な調査や環境影響評価(EIA)、公開協議を実施する。イグナリナ原子力発電所(軽水冷却黒鉛減速炉=RBMK-1500×2基、各150万kWe)は、リトアニアが欧州連合(EU)に加盟する条件として2009年に閉鎖されるまで、リトアニアの電力の70%を供給していた。現在、すべての使用済み燃料は取出され、ドライキャスクに収納、少なくとも50年間使用できるように設計されたサイト内の中間貯蔵施設に保管されている。GDFは、政府が承認した「2021~2030年原子力施設の廃止措置と放射性廃棄物管理プログラム」に規定され、GDF最終候補地の選定後、①設計(2048~2057)、②建設(2058~2067)、③操業(2068~2074)、④閉鎖(2075~2079)の4段階を計画している。現在、GDF建設プロジェクトの基本概念の開発が、ポシバ社傘下の廃棄物管理会社Posiva Solutionsの支援下で進行中。地層の適合性や、GDF設置に必要な工学的要素と技術的手法を評価、分析し、プロジェクト実施のための基本計画と予算の準備を行う。
19 Aug 2024
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英国の先進炉の開発企業であるニュークレオ社は8月7日、スロバキアの大手原子力エンジニアリング企業であるVUJE社と、スロバキアにおける先進モジュール炉(AMR)と先進的な燃料サイクルの開発の協力強化で合意した。具体的な協力分野は、ニュークレオ社が開発した鉛冷却高速炉(LFR)および、LFR向けMOX燃料。スロバキアが所有する使用済み燃料をMOX燃料としてLFRで再利用する可能性を探り、スロバキアの核燃料サイクルの完結を目指す。ニュークレオ社は2023年以来、スロバキアの原子力産業および政府の主要企業と積極的に接触しており、同年12月には、スロバキア経済省および国営バックエンド企業のヤビス(JAVYS)と、協力機会の模索とAMR開発を目的とする覚書を結んでいる。ニュークレオ社は、LFR建設を複数の国が関わるヨーロッパ大のプロジェクトと位置づけ、2021年の設立以来、欧州の多数の企業・機関との協力提携を推進している。2022年3月には、イタリア経済開発省の傘下で液体鉛の分野では世界レベルの新技術・エネルギー・持続可能経済開発局(ENEA)と枠組み協定を締結。2023年10月には、イタリアの機器製造企業のトスト・グループと、LFRの研究・設計から実証、商業化まですべての段階をカバーする協力・投資協定を締結した。同年6月には、LFRに装荷するMOX燃料の製造工場建設に向け、仏オラノ社に事業化調査を依頼。さらに今年4月には仏原子力・代替エネルギー庁(CEA)とフランスにおけるLFRの開発シナリオ、燃料の適格性評価、計算コード、材料などの分野で提携契約を締結している。ニュークレオ社は、2030年には、フランスにおいて電気出力3万kWの鉛冷却高速中性子実証炉(LFR-30)を、2033年には英国で電気出力20万kWの商業炉(LFR-AS-200)の初号機を完成させる計画だ。
16 Aug 2024
859
スウェーデン政府は8月1日、米国と新たな原子力発電開発に向けた両国間の協力強化をめざし、了解覚書(MOU)を締結。スウェーデンのE. ブッシュ・エネルギー・ビジネス・産業大臣兼副首相と米国のJ. グランホルム・エネルギー省(DOE)長官が同覚書に署名した。両国は今後、サプライチェーン、資金調達モデル、次世代核燃料等に関わる政策、研究、革新的技術についてノウハウを共有する。 ブッシュ大臣は、「両国の原子力協力は、労働市場や競争力にとっても有益。今後の原子力分野での協力と知見の強化に期待している」とコメント。一方のグランホルム長官は、今回のMOUにより、サプライチェーンと核燃料供給の多様化、新規原子炉の展開、使用済み燃料管理の解決に向けて、両国の協力がさらに強化される、とその意義を強調した。なお、スウェーデンは英国ともSMR開発や規制、燃料多様化といった原子力分野で協力を行うことが、2023年10月に締結された戦略的パートナーシップでも明記されている。スウェーデンは脱原子力路線を撤回し、大規模な原子力発電開発に向け、大きく舵を切っている。2022年の総選挙によって誕生した中道右派連合の現政権は、40年ぶりに原子力を全面的に推進しており、2023年11月には、原子力発電の大規模な拡大をめざすロードマップを発表した。同ロードマップには、2035年までに少なくとも大型原子炉2基分、さらに2045年までに大型原子炉10基分を新設することなどが盛り込まれている。また、8月12日には、N. ウィクマン財務副大臣・金融市場大臣が、昨年12月に政府が任命したM. ディレン政府調査官とともに、新設のための資金調達とリスク管理について、国による補助金や差金決済(CfD)モデルの導入などを盛り込んだ報告書を発表。翌13日、国営電力のバッテンフォールがコメントを発表し、同報告書を歓迎する一方、建設リスクなど考慮すべき要素全てを反映しておらず、これから更に詳細な分析が必要と指摘した。スウェーデンでは現在、フォルスマルク、オスカーシャム、リングハルスの3サイトで計6基(718.4万kW)が運転中。2022年の原子力発電電力量は500.6億kWhで、総発電電力量に占める原子力の割合は約30%だった。同国では、1980年5月にオスカーシャム3号機(BWR、145.0万kW)が着工して以降、40年以上、原子力発電所は建設されていない。
16 Aug 2024
1066
インド北西部で建設中のラジャスタン原子力発電所7号機(加圧重水炉=PHWR、70万kWe)で8月1日、燃料装荷を開始した。燃料装荷は8月8日に完了し、392個の冷却水チャネルに計4,704本の燃料バンドルが装荷された。インド原子力発電公社(NPCIL)によると、同機は年内に営業運転を開始し、同サイトで建設中の8号機(PHWR、70万kWe)は来年に送電を開始する予定だ。NPCILは、計16基からなる70万kW級の国産PHWR建設プロジェクトを掲げており、ラジャスタン7号機が運開すると、同プロジェクトではカクラパー3、4号機に次いで、3基目となる。カクラパー3号機は2023年6月、4号機は2024年3月にそれぞれ営業運転を開始している。なおインドでは、2022年10月より運転を停止していたラジャスタン3号機(PHWR、22万kWe)が冷却材チャネルやフィーダーの交換などの大規模なバックフィット作業を経て、7月24日に送電を再開している。
15 Aug 2024
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米ホルテック・インターナショナル社製の小型モジュール炉「SMR-300」(PWR、30万kWe)が8月1日、英国の包括的設計審査(GDA)のステップ1(GDA範囲とスケジュールの合意段階)を完了し、ステップ2(実質的な技術評価段階)に進んだ。GDAとは英国で初めて建設される炉型に対して行われる設計認証審査で、英原子力規制庁(ONR)が設計の安全性とセキュリティの観点から、環境庁(EA)およびウェールズ自然保護機関(NRW)が環境影響の観点から英国の基準を満たしているかを、サイト特定後の建設申請とは別に評価する。米ホルテック・インターナショナル社傘下の英国法人ホルテック・ブリテン社の代表申請によるGDAは、2023年10月に開始された。ステップ1では、SMR-300の技術評価に加え、ホルテック・ブリテン社の運用準備状況についても肯定的な評価を行った。なお、ホルテック・ブリテン社は2023年12月、SMR-300のGDAの準備のために、英政府の「未来の原子力実現基金(Future Nuclear Enabling Fund:FNEF)」から3,000万ポンド(約57億円)の補助金を交付されている。英政府は、2050年までに原子力発電設備容量を2,400万kWまで拡大する計画を発表しており、SMR導入も謳われている。ホルテック・ブリテン社は、英国の原子力発電所新設の牽引役として2023年7月に発足した政府機関「大英原子力(Great British Nuclear:GBN)」が実施するSMRの支援対象選定コンペの最終候補の1つに選定され、現在評価中だ。ホルテック社は英国において、米国の既存の工場を模倣したSMR-300のコンポーネント製造工場を建設すべく、サイト選定を進めている。ホルテック社によると、2011年から開発中のSMRは設計上の進化を遂げ、最新のものがSMR-300となる。2基構成のツインユニットで、所要面積はわずか0.12km2。事故時に運転員が現場を離れても安全性が保たれる特性(walk-away safe)を持つ。
14 Aug 2024
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米ケイロス・パワー社は7月30日、熔融塩実証炉「ヘルメス(Hermes)」の建設予定サイトで土木工事を開始した。テネシー州オークリッジにある米エネルギー省(DOE)の「東部テネシー技術パーク(ETTP)」内に建設される。ヘルメスは昨年12月、米原子力規制委員会(NRC)が50年以上ぶりに建設を許可した非水冷却炉。ヘルメス(熱出力3.5万kW)は、2020年12月にDOEによる「先進的原子炉実証プログラム(ARDP)」の支援対象炉に選定。DOEは、同炉の設計、建設、試運転の支援のため最大3.03億ドルを資金援助することになっている。ヘルメスは、安価でクリーンな熱生産を実証するため、TRISO燃料((ウラン酸化物を黒鉛やセラミックスで被覆した粒子型の燃料))と熔融フッ化物塩冷却材を組み合わせて原子炉の設計を簡素化している。2027年に運開予定だ。また、ケイロス社はロスアラモス国立研究所と提携し、同研究所の低濃縮燃料製造施設でヘルメス向けのTRISO燃料を製造するほか、テネシー峡谷開発公社(TVA)とは、設計、許認可、建設、運転等で協力する共同開発契約を締結している。なお、ケイロス社は今年7月上旬、ニューメキシコ州アルバカーキの製造施設における最初の工学試験ユニット(ETU 1.0)でフッ化物熔融塩12トンを使った2,000時間の運転試験を完了した。ETU 1.0はヘルメスの実物大の電気加熱プロトタイプで、ヘルメスの設計、建設、運転の支援向けのユニット。熔融塩システムの試験ユニットでは世界最大規模だ。現在、ニューメキシコ州でヘルメスのモジュール設計の実証に焦点を当てたETU 2.0を建設中。最終段階のETU 3.0は、ヘルメスのサイトに隣接して建設される。
14 Aug 2024
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英ロールス・ロイスSMR社製小型モジュール炉(SMR)は7月30日、英原子力規制庁(ONR)、環境庁(EA)およびウェールズ自然保護機関(NRW)による包括的設計審査(GDA)のステップ2(実質的な技術評価段階)を完了。最終段階となるステップ3(詳細評価)へ移行した。GDAとは英国で初めて建設される炉型に対して行われる設計認証審査で、ONRが設計の安全性とセキュリティの観点から、EAとNRWが環境影響の観点から英国の基準を満たしているかを評価する。「ロールス・ロイスSMR」のGDAは2022年4月に開始された。同炉は既存のPWRをベースとしており、電気出力が47万kWとSMRにしては大型なのが特徴。60年以上の運転期間を可能とし、特別な燃料も必要としない。なお、現在、英国の原子力発電所新設の牽引役として2023年7月に発足した政府機関「大英原子力(Great British Nuclear=GBN)」が実施するSMRの支援対象選定コンペの最終候補の1つに選定され、評価中だ。ロールス・ロイスSMR社は、「当社のSMRが最終的に選定されれば、何千人もの高度なスキルを持つ人材の長期的な雇用の創出や、莫大な輸出の可能性が開ける」と抱負を語っている。
08 Aug 2024
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アルメニアの同国西部のメザモールで唯一稼動するアルメニア2号機(ロシア型PWR=VVER-440、44.8万kW)の運転期間延長に向け、ロシア国営原子力企業ロスアトムは7月29日、同原子炉の金属特性の変化の評価を開始した。ロスアトムの電力部門のロスアトム・サービス社は、同機の最近の定検時、原子炉本体に原子炉容器と同じ金属で作られた特別なサンプルを特殊な容器に入れて設置。実際の金属特性(強度、脆性)や構造の変化をモニターしていく。2025年から毎年、原子炉本体からサンプルを取出し、ロスアトムの研究所で金属の特性とその構造変化を分析する。得られたデータは、2036年までの更に10年間の運転期間延長の可能性を判断するのに利用される。現在の運転認可期限は2026年9月まで。2023年12月、ロシアとアルメニアの経済協力に関する政府間委員会の枠組みにおいて、ロスアトム・サービス社とアルメニア原子力発電所は、運転期間の再延長を目的とした作業の実施に関する契約を締結。研究プログラムの策定や、試験サンプルを開発・製造した。アルメニア原子力発電所は旧ソ連時代に完成した発電所で、1988年にアルメニアで大地震が発生した際、政府は同発電所で当時稼働していた1、2号機を停止した。翌年に1号機(40.8万kWeのVVER-440)を永久閉鎖したものの、2号機はソ連から独立した直後の電力需要を賄うという経済的重要性から、1995年に運転を再開。同炉は国内の総発電量の約4割を賄う重要電源であり、2015年からはロシアからの融資により、運転期間を2026年まで10年延長するためのバックフィット作業が始まった。2号機の原子炉容器の焼きなまし処理(金属の熱処理のひとつ)により容器の金属特性を85%回復させたほか、機器類の点検や取り換え等、安全性を改善する膨大な作業が行われ、2021年11月に完了、2026年までの運転延長を可能にした。なお、アルメニア政府は8月1日の閣議で、国内での新規原子力発電プラントの建設を管理する非公開株式会社の設置を決定した。新会社は国家予算で運営され、採用炉型の比較調査と実行可能性調査(FS)を実施。採用炉型を提案する他、建設、資金調達、所有および運転に向けた交渉や文書準備を進める。新会社には、採用炉型の選択と建設の準備段階で、年間約8億AMD(約3億円)の予算と、高度な資格(電気、原子核物理学、環境保護、教育、都市計画など)を有する専門家50~60人のスタッフが必要になると想定。新会社の設立や関連人材の採用後1年半~2年以内に、政府に採用炉型の提案を目指している。G.サノシャン地域行政・インフラ相は閣議で、既存の2号機の運転再延長の認可期限である2036年以降、隣接する地域に少なくとも同規模の新設炉が必要になる、と述べた。
08 Aug 2024
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台湾の馬鞍山(第三)原子力発電所1号機(PWR、98.3万kW)は27日、40年の運転期間を満了し、永久閉鎖された。これにより台湾で運転中の原子力発電所は、同2号機(PWR、97.5万kW)のみとなった。2号機は2025年5月17日に、40年の運転認可を満了する。台湾では、2016年の民進党・蔡英文総統就任後、「非核家園(原子力発電のないふるさと)」を掲げて、脱原子力に向けたエネルギー政策が推進された。2024年5月に民進党政権が連続3期目に入り賴清徳総統に交代して以降も、同路線は堅持されている。これまでに既存炉6基のうち4基(金山1、2号機、國聖1、2号機)が40年の運転期間満了に伴い、2018~2023年にかけて順次閉鎖されている。また、建設途中の龍門(第四)原子力発電所1、2号機(ABWR、135.0万kW×2基)は、反原子力運動の高まりを受けて、2015年7月、両機とも正式に密閉管理の停止状態に置かれ、さらに2021年12月には、両機の建設再開の是非を問う住民投票が実施されたが、建設再開は反対多数(52.8%)で否決された。台湾政府は、2025年の総発電電力量に占める各電源のシェアについて、再生可能エネルギーを20%、LNGなどのガス火力を50%まで引き上げ、石炭火力を30%まで低減することを目標としている。7月に台湾経済部が発表した「112年度(2024年度)全國電力資源供需報告」においても、再生可能エネルギーとガス火力の推進が改めて明示されている。なお、国際エネルギー機関(IEA)によると、台湾の2021年の総発電電力量は約2,909億kWhで、そのうち、石炭(44.3%)、天然ガス(37.2%)、石油(1.8%)などの火力発電が全体の8割以上を占めており、次いで、原子力が9.6%、再生可能エネルギーが7.1%(水力、風力、太陽光など)となっている。一方で台湾国内では、現状の政策で電力の安定供給を維持できるのか、また今後の経済発展に向けて十分な電力供給が行えるのか疑問視する声も上がっている。5月8日には、台湾の主要経済団体であり、製造業関連団体を束ねている「中華民国全国工業総会」の潘俊榮理事が、総統就任直前の頼清徳氏も出席した理事会の場で、原子力発電の利用継続を要請。 さらに、7月10日には、立法院の教育文化委員会の会合で、原子力発電所の運転期間延長に関する原子炉施設規制法の改正について審議がなされたが、結論は先送りとなった。
07 Aug 2024
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スペインの原子力安全委員会(CSN)は7月24日、トリリョ原子力発電所(PWR、106.6万kWe)の運転期間に関し、10年間の運転期間延長を支持する報告書を公表した。同発電所の運転者であるCentrales Nucleares Almaraz-Trillo(CNAT)社は2023年3月、運転期間延長をCSNに申請。今回公表された報告書は、環境移行・人口問題省(MITERD)に送付され、運転認可が発給される見込みだ。その場合、2034年11月16日まで運転期間が延長される。運転認可の更新申請(10年毎)には、申請者による定期安全レビューが必要。CSNによる評価の結果、安全性向上のための様々な提案がなされたが、その大部分は、作成された定期安全レビューの中で確認された。2028年に同発電所が運転期間40年を超えて長期運転に入ることを考慮して、統合的な経年劣化評価と管理計画も含め、プラントの安全状況について徹底的なレビューが実施されたという。スペインで現在稼働する原子炉は、5サイト・計7基、原子力発電設備容量は計739.7万kWe。これまでにトリリョ発電所を除く計6基が40年超の運転認可を取得済だ。2023年の原子力発電量は総発電量の約2割を占める。稼働率は約90%と高い。スペインの原子力政策は現状、「脱原子力」で、2027年から2035年までに原子力発電所は順次閉鎖される予定となっている。原子力は2030年までに約320万kWeに縮小し(現在運転中の7基中4基が閉鎖)、閉鎖スケジュールの見直しがない限り、2035年には脱原子力を達成する見込みである。
07 Aug 2024
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ポーランドのオーレン・シントス・グリーン・エナジー(OSGE)社は7月25日、EU加盟10か国とノルウェーにある17企業の協力を得て、GE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社製の小型モジュール炉(SMR)「BWRX-300」の展開に向け、作業部会(WG)の設置を欧州SMR産業アライアンス(European Industrial Alliance on SMRs)に申請した。同アライアンスは今年2月に発足。2030年初頭までに欧州におけるSMRの導入を目指し、アライアンス内での作業部会を通じて、原子力サプライチェーンの再活性化を含むSMRの開発、実証、展開を可能にする環境改善を目指している。最終的には、特定のSMRプロジェクトの支援と欧州市場での展開の加速を目的としている。OSGE社のR. カスプロCEOは、「『BWRX-300』の展開は、欧州企業が欧州で製造された主要コンポーネントを利用する機会をもたらす。EU加盟各国のアライアンスのメンバーの中から、WGに参加を希望する企業は今後増えるだろう」との見通しを語った。WGの具体的な目標は、EU諸国における型式認証手続きの標準化、燃料などの強固な欧州サプライチェーンの共同開発、関連の人材育成、投資への適切な支援システムの構築など広範囲にわたる。「BWRX-300」の欧州展開に向けた取組みを、アライアンスのメンバー間で調整し、加速させたい考えだ。ポーランドの大手化学素材メーカーとポーランド最大手の石油精製企業の合弁会社であるOSGE社は2023年4月、首都ワルシャワを除く国内6地点における合計24基の「BWRX-300」建設に関する原則決定(DIP)を気候環境省に申請。同省は同年12月、これら発電所に対するDIPを発給した。OSGE社は、2030年代初めにも「BWRX-300」の初号機を完成させたい考えだ(既報)。「BWRX-300」は出力30万kWの次世代原子炉で、2014年に米国の原子力規制委員会(NRC)から設計認証(DC)を取得したGEH社の第3世代+(プラス)炉「ESBWR」がベース。発電の他、水素製造、淡水化、地域暖房などの産業用途の利用が可能だ。
06 Aug 2024
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ルーマニアの国営原子力発電会社であるニュークリアエレクトリカ(SNN)と小型モジュール炉(SMR)建設プロジェクト会社のロパワー(RoPower)社は7月24日、米大手EPC(設計・調達・建設)契約企業のフルアー(Fluor)社と米ニュースケール・パワー社のSMR建設プロジェクトの基本設計の第2段階(Front-End Engineering and Design:FEED2)契約を締結した。ニュースケール社の大株主であるフルアー社は、2023年第4四半期に完了したFEED1に引き続きFEED2を受注。FEED2の契約に基づき、プロジェクトの最新のコスト見積とスケジュール、最終投資決定(FID)に必要な設計、関連する原子力安全およびセキュリティの分析結果を提供する。ルーマニアの首都ブカレストで開催された同契約の調印式典には、ルーマニア・エネルギ省のS. ブルドゥージャ大臣、米エネルギー省(DOE)のJ. グランホルム長官らが出席。式典では、両国間の強固な協力の継続とともに、カーボンフリーの電力需要への対応とエネルギー安全保障の強化におけるSMR技術の重要な役割が強調された。ロパワー(RoPower Nuclear)社は、SNNが国内で米ニュースケール社製SMR「ニュースケール・パワー・モジュール(NPM)」を建設するため、民間エネルギー企業のノバ・パワー&ガス社と合弁で2022年に設立したプロジェクト企業。ルーマニア南部ドゥンボビツア県のドイチェシュテイ(Doicesti)で13年前に閉鎖された旧・石炭火力発電所サイトに、出力7.7万kWeの「ニュースケール・パワー・モジュール(NPM)」を6基備えた「VOYGR-6」(合計出力46.2万kWe)の建設を計画し、現在、サイト準備が進められている。本プロジェクトでは、プラント内に約200名の正規雇用のほか、建設段階で1,500名、製造・部品組立段階で2,300名の雇用を創出するとともに、年間400万トンのCO2排出削減に貢献するという。ルーマニアは、経済的で安定供給可能なクリーン・エネルギーでエネルギー自給率向上を目指す一方、SMR機器の製造や組立、運転員や専門家の教育訓練を支援するハブ(拠点)となり、中・東欧地域におけるSMR建設と運転の模範例として後続国を牽引していく方針だ。なお、本SMR建設プロジェクトは、ルーマニア政府の他、米国貿易開発庁(USTDA)からの技術支援金の交付や、米輸出入銀行(US EXIM)と米国際開発金融公社(US DFC)からの多額の金融投資など、米国政府からも多大な支援を受けている。
05 Aug 2024
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シンガポールと米国は7月31日、原子力協力協定(通称123協定)を締結した。米国のA. ブリンケン国務長官のシンガポールへの公式訪問に合わせ、V. バラクリシュナン外相との間で調印された。本協定は米議会の承認後、2024年末までに発効する見込みで、30年間有効。輸出規制下にある米国から他国への核物質、設備、部品の輸出の他、教育・技術移転など、平和利用に限定した協力を可能にする。米国由来の部品や知的財産を含む原子力技術や設計を使用する他国とシンガポールが協力する場合にも必要となる。なお、ASEAN諸国で米国と協定を締結するのは、インドネシア(1981年発効)、ベトナム(2014年発効)の他、フィリピンとは今年7月に発効したばかりである。米国は、過去十年間にわたり、シンガポールによる先進的な原子力技術の安全性及び信頼性への理解促進と能力開発への取組みを支援。2017年以降、米原子力規制委員会(NRC)とシンガポール国家環境庁(NEA)は原子力安全分野で協力しており、今年7月に合同ワークショップを開催している。両国は今後、米国務省が主導する「小型モジュール炉(SMR)の責任ある利用のための基盤インフラ(FIRST)」プログラムなどの能力開発イニシアチブを通じて、SMRのような先進的な原子力技術がエネルギー需要のバランスをとりつつ、気候目標の達成をいかに潜在的に支援できるかについて、よりよく理解するため、民生用原子力協力をさらに強化する意向を示した。本協定締結を受け、ブリンケン国務長官は、「シンガポールはクリーンで安全な原子力の更なる探求に向け、FIRSTプログラムに参加する」と自身のソーシャルメディアに投稿。バラクリシュナン外相は、「シンガポールは原子力導入を決定していないが、決定にあたっては、我々の地域状況における原子力の安全性、信頼性、経済性、環境の持続可能性について詳細な研究が必要」とし、「従来の原子力技術はシンガポールには適さないが、民生用原子力技術の進歩を考えると、いかなるブレークスルーにも後れを取らないようにしなければならない。本協定は、米国の原子力情報や技術的専門知識へのアクセスを容易にし、米国の民生用原子力専門家との交流の深化を可能にする」とその意義を強調した。
02 Aug 2024
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7月28日、中国で新たに2基の原子力発電所が着工した。着工したのは、中国広核集団(CGN)が事業主体となる福建省の寧徳(Ningde)5号機(PWR、108.9万kW)、および中国華能集団(China Huaneng:CHNG)が事業主体となる山東省の石島湾(Shidaowan)1号機(PWR、115.0万kW)の2基で、両機ともに中国が独自開発した第3世代PWR「華龍一号」(HPR1000)を採用している。今回の2基を合わせ、中国では2024年に入り、計5基(漳州Ⅱ-1、廉江2、徐大堡2、寧徳5、石島湾1)を着工した。 寧徳原子力発電所ではすでに、第2世代のPWR設計「CPR-1000」を採用したⅠ期工事の1、2、3、4号機がそれぞれ営業運転中で、1号機は2008年2月に着工、2013年4月に営業運転を開始した福建省初の原子力発電所。Ⅱ期工事となる5、6号機は、2023年7月31日に国務院が建設を承認しており、6号機についても「華龍一号」を採用予定である。CGNによると、両機の1基あたりの年間発電量は約100億kWhだという。一方、石島湾1号機は、華能山東石島湾サイトにⅠ期工事として建設が開始されたもの。CHNGは同サイトに華龍一号を最終的に4基・計480万kWを2期に分けて建設する予定で、Ⅰ期工事にあたる1~2号機は2029年に完成、運開予定だ。 同サイトには、2023年12月に世界初の第4世代炉の小型モジュール炉(SMR)である華能山東石島湾(HTGR=HTR-PM、21.1万kW)が営業運転を開始しており、2024年3月にはその原子炉熱を利用し、地域暖房プロジェクトが始動している。CHNGは、同サイトが第3世代炉と第4世代の先進原子力技術を同時に採用する一大拠点になると強調している。華龍一号は、中国の主力輸出炉としても位置付けられ、海外への輸出実績もある。既にパキスタンのカラチ原子力発電所で2021年5月に2号機が、2022年4月に3号機がそれぞれ営業運転を開始している。2022年2月には、アルゼンチンの国営原子力発電会社(NA-SA)とCNNCがアルゼンチンでの華龍一号の建設に向けてEPC(設計・調達・建設)契約を締結したほか、英国やトルコなどへのプラント輸出の動きもある。
02 Aug 2024
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スロバキア政府が34%出資するスロバキア電力(SE)社と仏フラマトム社は7月23日、国内で運転する50万kW級ロシア型PWR(VVER-440)を採用するボフニチェおよびモホフチェ原子力発電所向けの長期燃料供給契約を締結した。2027年より順次、フラマトム社製の燃料を装荷する。今回の契約締結は、2023年5月にSE社とフラマトム社が締結した了解覚書に基づくもので、スロバキアにおける燃料調達先多様化の一環。昨年8月には、燃料供給分野で長期的に協力するため、米ウェスチングハウス(WE)社と合意文書を交わしている。公益事業者として燃料供給途絶を回避し、ロシアからの輸入依存を減らすため、燃料調達先の多様化はカギであり、ユーラトム供給安全保障庁(ESA)の勧告に沿った動きである。現在、EU域内では18基のVVERが稼働しており、100万kWe級のVVER-1000はブルガリアとチェコで各2基ずつ、VVER-440はチェコで4基、フィンランドで2基、ハンガリーで4基、スロバキアで4基の計14基が稼働中。フラマトム社は今年6月、欧州連合(EU)から1,000万ユーロ(16.2億円)の資金拠出を受け、欧州原子力共同体(ユーラトム)の研究トレーニングプログラム下で、VVER-440向けの燃料開発と供給を目的とした「Safe and Alternative VVER European(SAVE)」プロジェクトを実施中。VVER-440を運転する、チェコ電力(ČEZ)、フィンランドのフォータム社、ハンガリーのパクシュ社、スロバキア電力などの電力会社を含む欧州の17の企業・機関が参加し、燃料供給リスクの低減を目指す(既報)。SE社は、2023年のスロバキアの総発電電力量の70%以上を賄っている。ボフニチェ(3、4号機)とモホフチェ(1、2号機)の両発電所の計4基の他、31の水力発電所を稼働、石炭火力発電所をすべて閉鎖し、脱炭素電源を100%達成した。なお、モホフチェ発電所では追加の2基(3、4号機、各VVER-440)を建設中で、3号機は2023年1月に送電を開始している。
01 Aug 2024
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