米テネシー峡谷開発公社(TVA)は5月20日、米原子力規制委員会(NRC)に、テネシー州オークリッジ近郊の同社クリンチリバー・サイトでの、小型モジュール炉(SMR)の建設許可を申請(CPA)した。GE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社製のBWRX-300(BWR、30万kWe)を採用している。今回のBWRX-300のCPAは米国初となる。北米ではカナダのオンタリオ・パワー・ジェネレーション(OPG)社によるカナダ原子力安全委員会(CNSC)へのCPAに続き、2番目(OPG社は建設許可をすでに取得済み)。TVAは同サイトにBWRX-300×1基を建設し、人工知能(AI)、量子コンピューティングなどに特化した電力供給を狙っている。TVAのD. モールCEOは、「今回のCPAは、TVA、テネシー州、米国にとって重要なマイルストーン。当社はBWRX-300初号機の導入に向けた作業を実施、SMR導入に伴うリスクを軽減し、同炉型の建設を選択する他の電力会社のために道筋を作る。新型炉の導入は、今後数十年にわたって米国の家庭や企業に手頃な価格で安定した電力を供給するために不可欠」と述べた。TVAはBWRX-300の安全性、シリーズ建設の容易性、効率性を利点に掲げる。また、設置面積が小さいために迅速に建設でき、かつコンパクトなサイズのため、操作が簡単で、景観によくフィットすると指摘している。TVAはクリンチリバー・サイトについて2019年12月、米原子力規制委員会(NRC)より、SMR建設用地として事前サイト許可(ESP)を取得済み。TVAは合計電気出力が80万kWを超えない2基以上のSMRを同サイトで建設することを想定し、2016年5月にNRCにESPを申請していた。またTVAは、GEH社のBWRX-300がSMRの中でも最も実現性が高いと判断。2022年8月にGEH社とクリンチリバー・サイトでBWRX-300を建設するための計画策定と予備的許認可で協力する契約を締結した。さらに2023年3月、BWRX-300の建設を計画するカナダのOPG社、ポーランドのシントス・グリーン・エナジー社とともに、GEH社が世界中で同炉の建設プロジェクトを円滑に進められるよう、BWRX-300の標準設計を開発することで合意、GEH社と3事業者間で技術協力契約を締結している。またTVAは今年1月、ベクテル社、BWXテクノロジーズ社、デューク・エナジー社、電力研究所(EPRI)、GEH社、アメリカン・エレクトリック・パワー社(AEP)傘下のインディアナ・ミシガン・パワー社、サージェント&ランディ社などの公益事業会社とサプライチェーンパートナーとの連合を結成、米エネルギー省(DOE)の第3世代+(プラス)小型モジュール炉プログラムから8億ドルの助成金の申請を主導している。同プログラムは、米国内の原子力産業を強化し、米国初のSMR導入への支援、先進原子力技術のサプライチェーンの確立を目的に創設されたもの。この申請とは別にTVAは4月初め、DOEによるNRCとのライセンス活動の支援プログラムに800万ドルの助成の申請も行っている。TVAはCPAに先立ち、クリンチリバー・サイトの環境報告書を4月末にNRCに提出。初期のサイト準備は早ければ2026年にも開始。2028年には着工、2032年末には営業運転を開始したい考えだ。今年1月、GEH社はデューク・エナジー社とBWRX-300の標準設計ならびに許認可の推進に向けた活動に投資する契約を締結。AEP社傘下のインディアナ・ミシガン・パワー社もインディアナ州スペンサー郡で運転するロックポート石炭火力発電所サイト内に、TVA主導のDOE助成プログラムを活用してBWRX-300を建設する計画を表明している。
22 May 2025
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オンタリオ州政府は5月8日、州営電力であるオンタリオ・パワー・ジェネレーション(OPG)社のダーリントン新原子力プロジェクト(DNNP)の建設予定地に建設を計画する、GE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社製SMR「BWRX-300」(BWR、30万kWe)の4基のうち、初号機の建設計画を承認した。同州での30年以上ぶりの新規建設プロジェクト、北米初の商業用SMRプロジェクトとなる。オンタリオ州のS. レッチェ・エネルギー・電化相は、「今日はカナダにとって歴史的な日。建設プロジェクトはカナダで18,000人の雇用を創出。カナダ製の鉄鋼、コンクリート、材料を用いて、オンタリオ州の経済成長の野心的な目標を実現するために必要な、信頼性の高いクリーンな電力を提供していく」と述べた。州の電力需要が2050年までに少なくとも75%急増すると見込まれる中、州政府は、BWRX-300×4基の完成により120万世帯へ電力を供給し、2030年代初頭に発生する恐れのある電力不足を解消する考えだ。OPG社のN. ブッチャーCEOは、「当社はSMRのパイオニアとして、カナダのエネルギー安全保障を強化しつつ、国内産業をさらに成長させるための能力と専門知識を世界に示していく。オンタリオ州の強固な原子力サプライチェーンと、原子力プロジェクト、特にダーリントン改修での実績により、SMRをスケジュール通り、予算内で完成させる」と強調した。OPG社は今年4月初めにカナダ原子力安全委員会(CNSC)から初号機の建設許可を取得しており、2029年末までに稼働を予定。運転開始前には認可を取得しなければならない。原子炉は小型であるが、DNNPの経済的影響は甚大になる予想されている。民間シンクタンクであるカナダ産業審議会によると、4基のBWRX-300の設置、運転、保守により、カナダのGDPは65年間で385億加ドル(約4兆円)の増加。OPG社は4基を65年間の運転させることで年平均約3,700人の雇用維持に貢献するという。これには建設中の年間18,000人の雇用が含まれている。プロジェクト費用の約80%はオンタリオ州内の80社以上の企業に向けられ、年5億加ドル(約518億円)が州内のサプライチェーンに投入されるという。オンタリオ州の系統運用者(IESO)は、他の脱炭素電源と比較して、DNNPがコストとリスクの点で最良の選択肢であると結論付けている。IESOによると、4基のSMRがなければ最大890万kWeの風力と太陽光発電をエネルギー貯蔵と組み合わせて構築する必要があり、この代替アプローチには大幅な土地要件や大規模な送電網の構築の必要性など、重大なリスクを伴うと説明。これに加え、ダーリントン発電所(CANDU炉×4基、各93.4万kWe)の改修プロジェクトにおけるOPG社の優れた実績が、DNNPを支援するという州政府の決定に寄与し、州政府はDNNPに対し、209億加ドル(約2.2兆円)の支援を明らかにした。これには、サイト準備、エンジニアリング、設計作業、およびSMR全4基の建設のコストが含まれている。なお、最初のSMR初号機の建設コストは61億加ドル(約6,315億円)で、加えて4基に共通するシステムとサービスコストが16億加ドル(約1,656億円)。但し、コストはダーリントン改修プロジェクトと同様、効率の向上とともに後続機ごとに減少すると予想されている。OPG社によると、2022年秋に初期のサイト準備作業が開始され、整地作業のほか、防火管、給水管、衛生下水道管、ネットワークケーブルなどの設備を設置した。サイトでは製造棟を含むいくつかの重要な建物の建設が開始され、原子炉建屋のシャフトの掘削作業が継続されている。また、長さ30m以上、直径6m以上、重さ550 tの原子炉圧力容器(BWXテクノロジーズ社が製造)や、2027年夏までにサイトに到着予定の発電機ローターなど、長納期部品を確保している。ダーリントンサイトには、1990年~1993年にかけて営業運転を開始したCANDU炉(93.4万kWe)×4基がある。OPG社は、2026年までの完了を予定し、順調に進んでいるダーリントンの改修プロジェクトから学んだ7,000以上のノウハウを生かし、SMR建設プロジェクトをスケジュール通りに進める考えだ。旧GE(General Electric)のエネルギー事業を担うGEベルノバ社電力部門のM. ジンゴーニCEOは、「BWRX-300初号機の導入により、オンタリオ州はSMR分野で世界をリードする。OPG社とプロジェクトパートナーとの取組みは、世界の原子力産業のベンチマークとなる」と指摘。GEベルノバ日立SMR カナダ社のL. マクブライド・カントリーリーダーは、「世界がSMRの採用に注目する中、当社はOPG社、アトキンス・リアリス(AtkinsRéalis)社、エーコン(Aecon)社と共同でBWRX-300の初号機の建設に着手できることを誇りに思う。オンタリオ州のサプライチェーンは、このプロジェクトへの大きな貢献が期待されており、すでに州内の企業に国際的な輸出の機会が生まれている。クリーンエネルギー技術におけるオンタリオ州の世界的なリーダーシップを強化し、次世代の原子力イノベーションの世界的なハブとして位置付けるものだ」と述べた。なお同日8日、カナダ建設大手のエーコン社とKiewit Nuclear Canada社合弁のAecon Kiewit Nuclear Partners社(エーコン社が主導)は、DNNPの実行段階の管理、建設計画、実施を範囲とする提携契約をOPG社と締結した。エーコン社分の契約額は約13億加ドル(約1,967億円)。エーコン社は、ダーリントンとピッカリング発電所の改修、ブルース発電所の主要部品交換プログラムなど、オンタリオ州の3大原子力改修プロジェクトの主要な建設業者でもある。
21 May 2025
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ベルギー連邦議会(下院)は5月15日、原子力発電の段階的廃止を撤回し、新規建設を認める法案を、賛成100、反対8、棄権31の賛成多数で可決した。M. ビエ・エネルギー相は法案の可決に際し、「脱原子力政策の撤回であり、ベルギーのエネルギー史上画期的な出来事」と称し、「現実的で強靭なエネルギーモデルへの道を開き、20年に及ぶ停滞に終止符を打つものだ。政府はエネルギーの自立性を強化し、競争力のある価格を保障し、脱炭素化を加速させていく」と述べた。同法案は、同相が議員時代の2024年10月に他の議員らとともに提出したもので、2003年に制定された「脱原子力法」に明記された、原子力発電所の廃止スケジュールおよび新規の原子力発電所の建設禁止に関する規定を排除するもの。現在の地政学的な不確実性に照らして不可欠となるエネルギーミックスを実現するとともに、エネルギー移行に貢献する原子力部門を再活性化し、高レベルの雇用を創出したい考えだ。2003年の脱原子力法では、原子炉の運転期間を40年に制限。同国北部にあるドール原子力発電所×4基、南部のチアンジュ原子力発電所×3基の原子炉を順次、2025年までに閉鎖することとしていた。しかし政府は2015年、電力供給に懸念が生じたため、2025年の運転終了の条件はそのままに、ドール1-2号機、チアンジュ1号機に40年超の運転期間を承認。さらに、2022年2月のロシアのウクライナ侵攻を受け、翌3月には、最新の2基(ドール4号機、チアンジュ3号機)について、運転40年目となる2025年以降も運転期間を10年延長し、2035年まで維持する方針を決定した。原子力発電事業者であるエンジー社とは2023年7月、運転期間延長の最終合意に向けて交渉していくことで枠組み合意し、同年12月には、2035年11月まで運転期間を10年延長する計画の諸条件について最終合意に達した。これにより、両機は2025年に一旦運転を停止した後、最大20億ユーロを投じてバックフィット作業等を実施し、2025年11月の運転再開を予定している。ベルギーでは現在、ドール発電所で2基(2、4号機)、チアンジュ発電所で2基(1、3号機)、2サイトで原子炉が稼働中。いずれもPWRを採用し、計4基の合計電気出力は365.3万kW。2024年の原子力発電シェアは約42%。再生可能エネルギー(風力・太陽光)は約30%と、クリーンエネルギーが7割を占める。ドール1、3号機はそれぞれ2025年、2022年に、チアンジュ2号機は2023年に閉鎖された。今年2月に発足した5党連立政権は連立協定の中で、脱炭素と増大するエネルギー需要に応えるため、再生可能エネルギーと原子力のエネルギーミックスを追求し、短期的には10年ごとに定期検査を実施し、安全基準を満たした既存炉は最大限に活用、長期的には新規建設する方針を示していた。詳細な特集記事はコチラ
20 May 2025
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デンマーク議会は5月15日、デンマークのエネルギー計画において原子力利用に係わる調査の開始を、賛成71、反対34、棄権5票で可決した。本決議は、原子力発電の検討を禁止した1985年の議会決定を覆す、デンマークのエネルギー政策における大きな転換点となった。議会は、太陽光と風力による再生可能エネルギーはデンマークのエネルギー供給の基盤であり続けるべきであり、従来の原子力発電がデンマークにおいて適切とは考えていないとする一方で、政府が新たな原子力技術の可能性とリスク、および原子力発電の禁止措置の撤廃に伴う多様な影響を分析する調査の開始を認めることとなった。デンマークにおける原子力発電の禁止は、原子力をエネルギー計画の一部にしてはならないという1985年の議会決定、ならびに原子力発電設備の送電網への接続を禁止する電気供給法第11条第6項に依拠している。今回の決議は、原子力を国家のエネルギー議論の俎上に戻すもの。但し、電気供給法第11条第6項を廃止しない限り、デンマークでは原子力が現実的な選択肢にはなり得ない。なお、今回の議決は、デンマークの野党(主に自由同盟、保守党、デンマーク民主党、デンマーク人民党)による、1985年の原子力発電禁止決定の明示的な撤廃を要求する緊急動議による。政府(社会民主党、自由党、穏健党)は代替案を提出。禁止措置を明確に撤廃する代わりに、原子力の調査を開始する内容で、原子力を計画に再導入する余地を残すものであった。デンマークのL. アーガード・気候・エネルギー・公益事業相(穏健党)は、デンマークが長年追求してきた風力や太陽光発電によるグリーン電力が、エネルギー計画の柱であることに変わりはないが、「現代の原子力技術は急速に進歩しており、将来的に可能性を秘めている。小型モジュール炉(SMR)を導入する場合、それがデンマーク社会にとって、どのような意味を持つかを明確にする必要がある。廃棄物の処理をどう行うのか、どのような安全対策が必要なのかなど、多くの課題がある」と指摘。そのうえで、政府は新たな原子力技術が将来的に風力や太陽光発電を補完する可能性とリスクの調査をする予定である、と言及した。国際エネルギー機関(IEA)によれば、風力、太陽光、バイオ燃料などの再生可能エネルギーが同国の電力の80%以上を占めている。
20 May 2025
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台湾電力は5月17日、同国で唯一稼働していた馬鞍山原子力発電所2号機(PWR、95.1万kWe)を、法律に基づき、永久閉鎖した。同機は、40年間の運転認可期限を満了したことから、同日午後1時頃から出力を下げ、午後10時頃には送電網から切断、午前0時頃に安全に停止された。今後、廃止措置を開始する。1985年5月18日に営業運転を開始した同機は、40年間で約2741.6億kWhを発電した。台湾電力によると、同機の発電量シェアは約3%であり、閉鎖による影響は限定的だという。与党・民進党政権の掲げる「2025年の脱原子力国家(非核家園:原子力発電のないふるさと)の実現」政策により、これまでに永久閉鎖されたのは、馬鞍山発電所1号機(2024年7月閉鎖)のほか、金山原子力発電所1、2号機(各2018年12月、2019年7月閉鎖)、國聖原子力発電所1、2号機(各2021年12月、2023年3月閉鎖)の計5基。近年、台湾電力は原子力発電所の順次廃止と老朽化した石炭火力発電所の廃止を実施。発電量削減に対応するため、2017年より既存の発電所の更新・改築に順次着手、再生可能エネルギーと、揚水発電、エネルギー貯蔵などの整備を加速し、安定した電力供給を継続しながら、CO2排出量の削減を目指している。今年に入って大型のガス火力発電所(計約500万kWe)と、風力・太陽光発電設備(計約350万kWe)を導入し、電力需要を確実に満たしていく考えだ。2025年の脱原子力政策の達成に向けて、台湾の経済部(経済省)が掲げる電源別発電構成は、再生可能エネルギーを20%、ガス火力を50%、石炭火力を30%に、原子力をゼロとするもの。2024年の発電構成は、再生可能エネルギーが11.9%、揚水発電が1.2%、ガス火力が47.2%、石炭火力が31.1%、原子力が4.7%となっており、ガス火力の比率が年々上昇している。当面は、再生可能エネルギーの普及を継続し、石炭火力からガス火力へのエネルギー転換を推し進めつつ、2050年には総発電量に占める再生可能エネルギーの割合を60~70%に引き上げ、エネルギー輸入依存度を50%以下に減少させる方針だ。一方で、台湾ではたびたび大停電が発生しており、産業界は安定的な電力供給を求め、政府に対しエネルギー政策の見直しを要請してきていた。再生可能エネルギーが主力となるまで、火力・ガス発電への依存による大気汚染、電気料金の上昇、企業の経営コスト上昇による台湾の競争力への悪影響を回避し、ネットゼロ排出の気候目標と国内のエネルギー供給構造の安定を維持するため、国民党(野党)議員らは、立法院(国会)で「核子反応器設施管制法(原子炉等規制法に相当)」の第六条条文のうち、原子力発電所の運転期間を最長で20年延長とする改正法案を提出。5月13日の第三読会で、賛成61、反対50票で可決された。これを受け、与党(民進党)党首の頼清徳総統は翌14日の党中央執行委員会において、原子力発電所の廃止措置に関する法定スケジュールにも大型ガス火力発電所を新規で稼働させるなど、電力の安定供給には責任を持って対応してきたと言及。そのうえで、「立法院は、原子力発電所の運転期間を40年から60年に延長する改正案を可決したが、新たに成立した規定に従ったとしても、同発電所の2号機を実質的な審査なしに直接延長したり、直ちに再稼働したりすることはあり得ない」と強調。一方、「将来的には、先進炉にも門戸を開いているが、政策変更は、原子力安全、放射性廃棄物問題の解決、社会的コンセンサスという3つの重要な前提条件を満たさなければならない」と述べ、新たな原子力技術の導入の可能性についても示唆した。
19 May 2025
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フィンランドの小型モジュール炉(SMR)開発企業であるステディ・エナジー(Steady Energy)社は5月6日、小型モジュール炉(SMR)のパイロット施設を建設することを明らかにした。ヘルシンキ中心部にある旧サルミサーリ石炭火力発電所サイトを利用する。 このパイロット施設は、ステディ社が開発するLDR-50モジュールの実物大モデルを採用。同炉の成熟度と安全性の実証を目的とする。ヘルシンキ市が保有するエネルギー企業ヘレン(Helen)社の、閉鎖されたサルミサーリB石炭発電所のタービンホール内に建設する。ステディ社とヘレン社は、2028年までのサイトのリース契約を締結しており、2025年後半に着工する予定。建設コストは1,500万~2,000万ユーロ(約24.4億円~32.5億円)で、ステディ社の自己資金で賄われる。 LDR-50(5万kWt)は熱供給専用のSMRで、最大150℃の熱を発生させる。高さは約10m。 このパイロット施設は実際のLDR-50とは異なり炉心に原子燃料を含まない。電気抵抗器が炉心に配置され、出力規模は実際の約1/10の0.6万kWtとなる。タービンホール内に完全に格納され、建物の外観に影響を与えることはない。商業炉の場合でも地下に建設され、同様に都市景観への影響はほとんどない。 フィンランドの放射線・原子力安全庁(STUK)は2024年2月、原子力発電所の緊急時計画区域や予防措置区域の規定を撤廃。発電所の認可申請者が、安全性の確保を条件に個別に説明する方法に切替えたため、住宅地近くへのSMRの設置が可能になった。ステディ社は、地域暖房プラントは都市部近くに配置する必要があるため、現在の市内中心部にある大規模な各種火力発電所を、コンテナサイズのSMRにリプレースすることで、都市中心部の住民にとって土地が解放される利点があると指摘している。 ステディ社のT. ナイマンCEOは、「このパイロット施設の主な目的は、LDR-50の炉心の受動的安全システムがフルスケールで効果的に機能するかを実証すること。実際の原子炉の導入前に徹底的にテストし、コストと時間のリスクを最小限に抑える。こうした慎重なアプローチが民間投資家が当社を信頼する大きな理由。当社の目標は、補助金なしで建設可能な市場ベースの小型原子力発電の実現である」と語った。 ヘレン社は2023年4月のハナサーリ発電所の閉鎖に続き、今年4月にサルミサーリ発電所を閉鎖して、エネルギー生産における石炭の使用をすべて終了した。同社の炭素排出量は2024年比で50%削減、ヘルシンキの炭素排出量の約30%削減に貢献する。同社は2030年までにカーボンニュートラルの達成、2040年までに完全な脱炭素を目指している。2022年には、同社の地域暖房生産の64%を石炭火力が占めていたが、石炭の代替には、廃棄物と環境熱を利用したヒートポンプ、電気ボイラー、エネルギー貯蔵、持続可能なバイオエネルギーを活用していく方針。フィンランドの法律では、2029年5月1日以降、エネルギー生産に石炭を使用することはできなくなる。 ヘレン社は、電気・熱供給または地域暖房用のSMRの導入を目的とした原子力プログラムを開始しており、現在、ビジネスモデルの評価、ヘルシンキ大都市圏の潜在的なサイト候補地のマッピング、SMR供給者の選定準備が進められている。年内には、サイト候補地を公表する予定だという。
19 May 2025
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欧州委員会(EC)は5月6日、ロシア産エネルギーへの依存を解消させ、欧州連合(EU)全体で安定したエネルギー供給と価格を確保させるための、ロードマップを発表した。EUのクリーンエネルギーへの移行と並行して、ロシアの石油、ガス、原子力(濃縮ウランまたは燃料)を平和裡にEU市場から締め出していく計画だ。ECは来月6月にも、ロードマップを支援する法案を提出するとしている。EUのロシア産エネルギーへの依存を減らすために2022年5月に開始されたREPowerEU計画により、2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻以降に導入された16の制裁パッケージや、エネルギー供給元の多様化を通じて、ロシア産ガス輸入のシェアは45%(2021年)から15%(2023年)に大幅に減少した。しかし、2024年に19%に回復。ロードマップの作成は、ロシアのエネルギー輸入への過度の依存が安全保障上の脅威であり、より一層、協調的な行動の必要があるとの認識による。ECは、EU大でのロシア産エネルギー輸入の段階的廃止が、適切に実施されるよう、EU加盟国と協力していく。具体的には、加盟各国は2025年末までに、ロシアのガス、石油、原子力(濃縮ウランまたは燃料)の輸入の段階的な廃止にいかに貢献するかについて、国家計画を作成する。同時に、エネルギー移行を加速しながら、エネルギー供給の多様化と安全保障を維持し、価格と市場への影響を排除するための努力を続けていくとしている。ロードマップには、以下の対策が含まれている。ガス:EU市場におけるロシア産ガスの透明性、監視、トレーサビリティを向上させ、2027年末までにロシア産ガス(パイプラインとLNGの両方)の全面輸入禁止を導入。ロシア産ガス供給業者との新規契約は禁止され、スポット契約(即時支払い)は2025年末まで、既存の長期契約による輸入も2027年末までに禁止。なお、ロシア産ガスを代替する、ロシア以外からのLNG調達は2028年までに約2,000億㎥の増加を予想。石油:石油を輸送するロシアの「影の船団」(Shadow fleets:ロシアが制裁回避のために雇用する船舶)に対する制裁を実施。原子力:ロシアの濃縮ウランの輸入に対する貿易措置の提示。欧州原子力共同体(ユーラトム)供給局が共同で締結した、ロシア由来のウラン、濃縮ウラン、その他の核物質の新規供給の制限。なお、ロシア設計のVVER炉を運転する加盟国は、ロシア以外の燃料調達先を確保中。 ※石炭:制裁により、輸入はすでに全面禁止。ECは、ロシア産エネルギー輸入の段階的な廃止により、よりクリーンで独立したエネルギーシステムを確立し、経済の活性化と、欧州の脱炭素化の目標を達成するとしている。ECのU. フォンデアライエン委員長は、「ロシアのウクライナ侵略は、恐喝、経済的強制、価格ショックのリスクを容赦なく露呈させた。REPowerEUにより、エネルギー供給を多様化し、EUはロシアの化石燃料への依存を大幅に減らすことに成功した。今こそEUは、信頼できない供給国とのエネルギー関係を完全に断ち切る時。我々は、ロシア産エネルギーへの対価が、ウクライナに対する侵略戦争の資金源となることを許容しない」とコメントした。このECによる発表を受け、ハンガリーのP. シーヤールトー外務貿易相は、「ハンガリーの安価な光熱費に対する攻撃であり、ウクライナ支援の代償を払うことを余儀なくされている。加盟国にロシアとのエネルギー協力を断つよう強制する決定は政治的、イデオロギー的に動機付けられたものだ」と語った。参考)2024年のロシアからのエネルギー輸入規模ガス(パイプラインとLNG):520億㎥ (EU 10か国)(2021年は1,500億㎥)石油:1,300万トン(EU 3か国)(2022年初めはロシア産シェア27%。2024年は3%に縮小)濃縮ウランまたは燃料:2,800トン(EU 7か国)(EU需要のウランの14%以上、転換サービスの約23%、濃縮サービスの約24%をロシアが充足)
15 May 2025
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フィンランドで原子力発電所を運転するティオリスーデン・ボイマ(TVO)社は4月29日、オルキルオト原子力発電所1-2号機(BWR、各92万kWe)のバックフィット作業に向け、北欧投資銀行(NIB)と7,500万ユーロ(約123.4億円)の長期融資契約を締結した。融資期間は10年。バックフィットには、計装制御系やモニタリングシステム、気水分離器の交換が含まれ、運転期間延長と出力増強を計画している。1号機は1979年、2号機は1982年に営業運転を開始。当初の計画運転期間は40年間であったが、両機とも2018年9月に、2038年12月末まで20年間の運転期間延長を認可されている。これに先立ちTVO社は2024年12月、運転期間延長と出力増強にむけて、環境影響評価(EIA)報告書をフィンランド経済雇用省に提出。同省は2025年4月、EIA報告書が合理的であり、EIA法に定められた要件を満たしていると結論づけた。評価にあたり、越境環境影響評価条約(エスポー条約)に基づく評価手続きが適用され、公開協議も実施されている。出力増強による環境影響は、単に運転期間を延長した場合の影響よりもわずかに大きくなるものの、原子力発電所が通常運転中に最も大きな影響を及ぼすのは、発電所から近隣海域に排出される冷却水による熱負荷である。今回、その影響はほぼ現在のレベルにとどまり、環境への影響の観点から運転期間延長と出力増強は実現可能であると経済雇用省に判断された。同省による判断は、TVO社が運転期間延長と出力増強に関する意思決定を行うための前提条件。運転期間は2048 年または2058年までの延長を、出力(ネット値)は現状の89万kWeから97万kWeへの増強を想定している。オルキルオト原子力発電所は、フィンランドの電力需要の約28%(2024年)をまかなう、同国最大の発電所である。
14 May 2025
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スペインの原子力産業団体であるForo Nuclearは5月6日、2024年次報告を発表。4月28日にイベリア半島全域で起きた大規模な停電時の原子力発電所の安全性についても言及した。同年次報告によると、スペインで運転中の全7基の原子力発電所は、2024年に523.9億kWhを発電し、総発電電力量に占める原子力シェアは19.98%だった。平均設備利用率は83.9%。原子力発電設備容量は711万kWe(ネット)となり、原子力発電は再生可能エネルギーに次ぎ、2番目に大きな電源だった。総発電設備容量のわずか5.5%の原子力発電が、総消費電力の20%もの電力を13年間連続で生産し、その運転実績と安全性の両面で卓越した水準にあると説明している。さらに、原子力発電は2024年にスペインで発電された脱炭素電力の26.01%を占めており、環境とエネルギーの課題に対応する上での原子力の重要性を再確認するものと指摘している。一方、スペインの原子力発電所が技術的にも長期運転に向けた十分な準備が整っているが、2024年6月に適用された、発電所の閉鎖と廃棄物管理の費用を賄うために設計された、いわゆる「エンレサ税」(Enresa:スペイン放射性廃棄物管理公社)の30%増額が発電所にとって大きな負担となっており、原子力発電業界は、その軽減要求を続けているという。また、4月28日にスペイン、ポルトガル、フランスの一部で発生した大規模停電についても言及。停電発生時には4基の原子炉(アルマラス-2、アスコ-1、-2、バンデリョス-2)が運転中。トリリョは燃料交換のために停止中、アルマラス-1とコフレンテスは、技術的な制約により、スペイン全域の送電網を一元管理する系統運用者のレッド・エレクトリカ社から運転を止められていた。停電発生時に外部電源が失われた結果、運転中の原子炉は自動的に停止し、安全な停止を維持するため安全システムが作動。独立したディーゼル発電機が自動起動し、プラントを安全な停止状態に保つために必要なシステムへの電力供給を実施、その後、正常な運転の回復に支障はなかったという。停電の間、原子力安全委員会(CSN)は緊急時対応組織を立ち上げ、発電所の状況を監視しながら継続的に情報を提供。発電所は現在、対応するすべての安全チェックを完了し、系統運用者の指示に従い、送電網に再接続し、発電が再開された。今回の大規模停電の原因は今なお究明中であるが、レッド・エレクトリカ社は、停電の原因としてサイバー攻撃を除外。電力供給は翌日にはほぼ全面復旧。フランスとモロッコとの相互接続と、水力とガスタービンコンバインドサイクル発電との連系により回復されたという。Foro NuclearのI. アラルーセ理事長は、「2019年の原子力発電所の段階的廃止計画に固執することは、現在のエネルギー、環境、地政学的な状況に鑑みると論理的ではない」と主張。さらに停電の間、原子力発電所は「障害」ではなく、「電力システムに安定性を提供したが、それは十分ではなく、そのためシステムが機能しなくなった」と言及した。原子力発電所の大型タービンと発電機は、電力網において、電圧と周波数を安定化させる役割を果たすと説明している。スペインで稼働中の原子炉7基は1980年代前半~後半にかけて運転を開始。現在、総発電電力量の約6割を再生可能エネルギー(主に水力、風力、太陽光)で賄う。なお、最新の国家エネルギー・気候計画(NECP)では、2030年には総発電電力量の約8割を再生可能エネルギーが占めることを想定している。スペインは日本と同様、国内のエネルギー資源が乏しく、1950年代から原子力開発を開始。当初は米国やフランスから技術を導入し、1970年代のオイルショックを契機に開発を加速、これまでに閉鎖された3基を含み、10基を開発してきた原子力先進国の一つである。スペイン政府の原子力の段階的廃止政策による産業競争力と社会に及ぼす影響についての懸念や、国際的な潮流に沿った原子力発電所の長期運転の必要性から、2024年2月中旬、中道右派の国民党(PP)が、スペイン国会に、スペインの原子力発電所の運転期間延長と安全性向上を政府に求める非立法提案を提出、可決された。同月下旬には、スペインで原子力事業を展開する企業が原子力発電所の長期運転を支持するマニフェストを発表している。同国では2018年6月の中道左派の社会労働党(PSOE)への政権交代を機に、原子力発電所を段階的に閉鎖・廃止する方針に転換された。現状の政策では、2027~2035年までに運転期限を迎える原子力発電所は順次閉鎖される予定となっており、スペインの原子力発電は2030年末までに約320万kWeに縮小し(現在運転中の7基中、4基が閉鎖)、2035年にはゼロとなる予定である。
13 May 2025
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米原子力新興企業のケイロス・パワー社は5月8日、テネシー州オークリッジにある米エネルギー省(DOE)の「東部テネシー技術パーク(ETTP)」において、フッ化物塩冷却高温実証炉「ヘルメス」(非発電炉、熱出力3.5万kW)を着工したことを明らかにした。ヘルメスは2023年12月に、米原子力規制委員会(NRC)が半世紀ぶりに建設を許可した非水冷却炉。TRISO(3重被覆層・燃料粒子)燃料と熔融フッ化物塩冷却材を組み合わせ、原子炉の設計を簡素化しているのが特徴で、2027年に運開予定。2024年7月に土木工事(掘削工事)に着手していた。ヘルメスの基礎部分における安全対策工事は5月1日に開始。構造の安全性確保のため、地面から約12メートル下まで延びる直径約1.8メートルの杭穴51本を掘削、杭穴に鉄筋のケージを降下させた後、最初のコンクリートを打設した。ヘルメスは、DOEにより2020年12月、「先進的原子炉実証プログラム(ARDP)」の支援対象炉に選定された。また、ヘルメスに隣接し、同炉を2基備えた実証プラント「ヘルメス2」(発電炉、2万kWe)の建設許可が2024年11月に発給されている。ケイロス社はこれらのヘルメス・シリーズで得られる運転データやノウハウを活用して、技術面、許認可面および建設面のリスクを軽減、コストを確実化して、2030年代初頭に商業規模の「KP-FHR」(熱出力32万kW、電気出力14万kW)の完成を目指している。なお、ケイロス社はIT大手のGoogle社と2024年10月、2035年までに複数の先進炉導入による電力購入契約(PPA)を締結。ケイロス社が開発する先進炉のフッ化物塩冷却高温炉を複数基、合計出力にして最大50万kWeを建設し、Google社のデータセンターへ電力を供給する計画だ。初号機を2030年までに運転開始させた後、後続機を順次建設していくという。
12 May 2025
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中国の山東省栄成市で5月7日、中国華能集団(China Huaneng:CHNG)の石島湾(Shidao Bay)原子力発電所2号機(PWR=華龍一号、115.0万kWe)が着工した。石島湾2号機は、華能山東石島湾サイトにⅠ期工事として建設が開始されたもの。CHNGは同サイトに華龍一号を最終的に4基・計約480万kWeを2期に分けて建設する予定で、Ⅰ期工事にあたる1、2号機は2029年に完成、運開予定。1号機は2024年7月に着工している。各機の年間発電電力量は100億kWhを超える。同サイトには、2023年12月に世界初の第4世代炉の小型モジュール炉(SMR)である華能山東石島湾(HTGR=HTR-PM、21.1万kWe)が運転を開始しており、2024年3月にはその原子炉熱を利用し、地域暖房プロジェクトが始動している。CHNGは、同サイトが第3世代炉と第4世代の先進原子力技術を同時に採用する一大拠点になると強調している。華龍一号は、HPR1000と呼ばれる中国が独自開発した第3世代PWR。中国国内で2020年代に入ってから5基(防城港3、4号機、福清5、6号機、漳州1号機)が運転中。中国の主力輸出炉としても位置付けられており、中国核工業集団(CNNC)が輸出し、パキスタンのカラチ原子力発電所2、3号機で稼働している。
12 May 2025
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米国原子力学会(ANS)によると、全米の原子力発電所92基((2023年、2024年にそれぞれ営業運転開始したボーグル3、4号機を除く。))の直近3年間(2022~2024年)の設備利用率は90.96%(中央値)と、前の3年間(2019~2021年)の91.24%をわずかに下回ったものの、引き続き90%を超える高水準を堅持していることが明らかになった。米国では、今世紀に入ってから一貫して90%前後の高い設備利用率を維持している。今回の調査では、92基のうち54基が設備利用率90%を超え、全基が70%以上を記録した。すべての原子炉の設備利用率が70%を上回ったのは、2014~2016年調査時に次いで2回目。なお、1992~1994年では、設備利用率90%超の原子炉は、102基中わずか2基にとどまり、70%以上を記録したのは78基。2001~2003年では、104基中47基が90%を超え、2基を除くすべての原子炉が70%を超えた。炉型別では、米国内の31基のBWRの設備利用率の中央値は91.19%で、61基のPWRは90.73%だった。平均設備利用率は、BWRが90.82%、PWRが90.13%とほぼ同水準だった。また、全米にある35の複数基の発電所では、2022~2024年の設備利用率の中央値が90.72%で、平均が90.81%。17の単基の発電所では、中央値90.27%、平均87.96%とやや低い傾向となった。運転年数別では、最も古い10基の原子炉の平均設備利用率は93.15%で、上位20基では91.67%となっており、長期運転において高い運転実績が維持されていることが示されている。なお、米国の原子力発電所の平均運転年数は約43年である。また、複数サイトを保有する9事業者の合計設備利用率の中央値は89.66%、平均設備利用率は88.81%となり、いずれも全体の中央値と平均値(90.36%)を下回る結果となった。このうち、21基の原子炉を有する米国最大の原子力発電事業者であるコンステレーション社は、5年連続で9事業者中、最高の合計設備利用率を記録している。コンステレーション社が現在保有する原子炉の多くは、2000年以前には少なくとも7社の異なる企業が所有していた。ANSによると、2000年当時、比較的業績が低迷していたコモンウェルス・エジソン(ComEd)社のイリノイ州5発電所(ブレイドウッド、バイロン、ドレスデン、ラサール、クワドシティーズ)と、ペンシルベニア電力(PECO)の2発電所(リメリック、ピーチボトム)を統合し、エクセロン社(現コンステレーション社)が設立された。同社は以後も発電所の買収・統合を進め、一時は最大23基を保有するまでに成長。今後、スリーマイルアイランド1号機が再稼働すれば、22基体制になる。ANSは、同社の劇的な設備利用率の改善について、市場要因や技術と管理の進歩、ベストプラクティスの共有による業界全体の改善が背景にあると指摘。その一方で、同社が他社から原子炉を引き継ぎ、効率的に運用していることは、原子力が長期的に保有・管理する資産であること、そして複数サイトの所有管理が有効であることを示唆している、と分析している。ANSによると、現在米国では94基の原子炉が運転中だが、運転認可更新や出力向上が進んだ結果、原子力発電電力量は、104基が運転していた2000年代初頭を上回っているという。米国エネルギー情報局(EIA)のデータによれば、2024年の原子力発電電力量は前年の7,750億kWhからわずかに増加し、約7,820億kWhとなった。一方、総発電電力量に占める原子力シェアは、2000年の19.8%から2024年には18.2%に低下している。こうしたなかでも、2024年には11基((ブランズウィック2号機、クリントン、コロンビア、ファーリー2号機、ハッチ2号機、オコニー2号機、パロベルデ1号機、ポイントビーチ1号機、リバーベンド、ターキーポイント4号機、ワッツバー2号機の計11基。))の原子炉が過去最高の年間発電電力量を記録した。
09 May 2025
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ベトナム商工省は4月28日、2050年を視野に入れた2021年~2030年の「第8次国家電力開発基本計画」(PDP8)改定版(4月15日に政府承認)について説明する会議を開催。この改定版では、再生可能エネルギー開発の優先とともに、原子力発電プロジェクトの再開について言及されている。2023年5月に承認されたPDP8の改定版にあたる。会議の席上、商工省のグエン・ホン・ジエン(Nguyen Hong Dien)大臣は、PDP8改定案の策定プロセスで、商工省が「計画法」および「電力法」を含む関連法規を厳格に遵守し、多くの会議やワークショップを開催、著名な科学者や専門家の意見を聴取して適切な修正を加えたと指摘。PDP8改定の承認は重要な出来事であるものの、より重要なのは計画を実現して電力供給の安全を確保し、国の社会経済発展に貢献することであると語った。そして、関連省庁やセクターと緊密に連携して、地域や投資家がプロジェクトの実施を加速するための障害を取り除くための最良、最速、タイムリーな条件を作り出していくと強調した。改定されたPDP8では、国家エネルギー安全保障の確保、公正なエネルギー移行の実現、再生可能・新エネルギーを基盤とした総合的なエネルギー産業システムの構築を目標としている。具体的には、2026年から2030年までの期間にGDP成長率平均約10.0%/年、2031年から2050年までの期間に約7.5%/年の成長率を想定。成長率の達成を支える電力の安定供給を確保するため、発電設備容量の増強が顕著となっている。2030年までに総発電設備容量は約1.83億~2.36億kWeに増強を予測。これは、改定前のPDP8で計画されていた約1.5億kWeと比較し、約22~57%の増加である。2030年の総発電電力量(輸入を含む)は、約5,604億~6,246億kWhを想定している。再生可能エネルギーは引き続き最優先事項であり、開発目標が大幅に上方修正されているのが特徴。特に、太陽光発電や陸上および近海の風力発電の伸びが顕著である。太陽光や風力などの再生可能エネルギー源や大規模な需要拠点の近くに分散型蓄電池システムを設置するなど、エネルギー貯蔵の開発も重視している。2030年までに水力発電を除き、発電量に占める再生可能エネルギーの比率を約28~36%に引き上げる目標を設定している。さらに2050年までに、総発電設備容量は7.75億~8.39億kWeに大幅な増強を想定。総発電電力量は1.36兆〜1.51兆kWhを見込み、再生可能エネルギーがその支柱となる。その比率は74~75%に達するという目標が設定されている。原子力発電に関しては、2030年~2035年に、総出力400万kWe~640万kWeのニントゥアン第一、第二原子力発電所の運転開始を見込んでいる。なお2050年までに、800万kWeの原子力発電設備の追加の必要があり、需要に応じてさらに増加する可能性があるとするなど、スケールは壮大だ。ベトナムは2050年までに温室効果ガスのネットゼロ目標を掲げている。石炭火力発電は現状、ベースロード電源であり、発電量シェアは約50%。2030年までは既に計画や建設に投資されているものを含み、現状維持であるが、それ以降は新規プロジェクトは承認されない。石炭火力発電は20年間稼働のプラントを2050年までにバイオマスまたはアンモニアに徐々に転換。ガス火力発電はフレキシブルなエネルギー・ミックスの中心的役割を果たしているが、LNGプラントの水素混焼への移行も視野に入れている。ベトナム国会は2024年11月、電力需要の拡大を受け、ニントゥアン原子力発電プロジェクトを再開するという政府提案を承認。原子力発電の開発を含む改正電力法も承認された。同プロジェクトではロシアと日本がベトナムに協力して、それぞれ第一および第二原子力発電所(各200万kW)を建設する計画だったが、経済状況を理由に2016年11月に全て白紙となった。
09 May 2025
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米大手IT企業のGoogle社は5月7日、米国の先進原子力プロジェクト開発会社Elementl Powerと先進的原子力プロジェクトのサイト開発への資金提供を約した契約を締結した。Elementl Power社は2022年設立の先進原子力プロジェクトの開発および独立系発電事業者。クリーンなベースロード電力へのアクセスを望むが、原子力資産を所有または運用は望まない顧客に対して、ターンキー型の開発、融資および所有ソリューションを提供し、先進炉展開時の行き詰まりの解消を目指している。資本と顧客の需要を結びつけ、米国において安全で信頼性が高く、安価な次世代原子力プロジェクトの開発を加速したい考えだ。Elementl社は、規制下にある電力会社、独立系発電事業者、技術サプライヤーと協力し、2035年までに米国で合計設備容量1,000万kWe以上の原子力発電を実用化させる目標を掲げており、Google社との契約はそれを支援するものとの位置付け。今回のGoogle社との契約では、先進原子力エネルギー開発向けにプロジェクトサイト候補3地点を事前に配置。Google社はElementl社がこれら3つのサイト候補地で先進的な原子力プロジェクトを準備するための初期段階の資金を提供する(資金額は未公表)。各プロジェクトは少なくとも60万kWの発電設備容量を有し、Google社はプロジェクト完了後に、オフテイカーとして電力購入の優先権を持つ。Elementl社は電力会社や規制下にある電力パートナーと協力しながら、Google社と新しいプロジェクトを推進。候補炉型、EPC(エンジニアリング/調達/建設)やその他のプロジェクトパートナーの評価も継続しつつ、開発を加速するためサイトの優先付けをしていくとしている。Elementl社のC. コルベルトCEOは、「新規原子力プロジェクトの建設に必要な資本を動員するには、このような革新的なパートナーシップが必要であり、安全かつ安価なクリーンなベースロードの電力供給と企業が長期的なネットゼロ目標を前進させるのに不可欠」と強調。Google社のデータセンターエネルギー担当のA. ピーターソン・コリオ氏は、「当社は事業を展開する地域の電力網強化に尽力しており、先進的な原子力技術は信頼性の高いベースロード電力を24時間365日提供可能。Elementl社との協力により、AIと米国のイノベーションに迅速に対応する能力が向上する」と期待を示した。
08 May 2025
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ロシアの連邦環境・技術・原子力監督庁(ロステフナゾル)は4月28日、ロシア国営原子力企業ロスアトムの電力部門に、ベロヤルスク原子力発電所5号機における高速炉BN-1200Mの設置許可を発給した。BN-1200Mは、出力122万kWeのナトリウム冷却高速炉。今回の設置許可取得により、同炉の建設にむけた準備工事が年内にも開始される。2024年7月、ロスアトム傘下にあるアトムエネルゴプロエクト社(エンジニアリング部門)とロスエネルゴアトム社(発電事業者)は、ベロヤルスク5号機の建設に向けた設計文書の作成に関する契約に署名。設計文書の作成にあたり、多くの包括的なサイト調査が実施され、発電炉の安全性と、技術規制、ロシア連邦の規則および基準、法令に準拠していることを示す一連の文書がロステフナゾルに提出された。「ベロヤルスク発電所でのBN-1200M設置により、クローズド・サイクルの環境・経済的利益を完全に具現化することができる。ベロヤルスク発電所のスタッフは、ユニークなナトリウム冷却高速炉BN-600とBN-800の膨大な運転経験を蓄積しており、BN-1200Mの同サイトへの設置は合理的だ」と、ベロヤルスク原子力発電所のI. シドロフ所長は強調した。 同サイトでは、BN-600(60万kWe)とBN-800(88万kWe)がそれぞれ1981年、2016年から運転中である。1、2号機(軽水冷却黒鉛減速炉)は閉鎖済み。BN-1200Mは2027年に着工され、完成は2034年の予定。運転期間は少なくとも60年で、80年まで延長される可能性がある。使用済み燃料の再処理により得られるプルトニウムおよびウラン濃縮の副産物(劣化ウラン)から製造されるMOX燃料を使用、放射性廃棄物を減容させ、産業規模でのクローズド・サイクルの実現を目指している。このほか、ロシアでは第4世代の原子力発電システムの確立と商業導入に向けて、トムスク州セベルスクにあるシベリア化学コンビナート(ロスアトム燃料部門の企業)のサイトにおいて鉛冷却高速実証炉BREST-OD-300(30万kWe)と、併設される燃料加工/再加工および再処理モジュールを備えたパイロット実証エネルギー複合施設(PDEC)の建設プロジェクトが進行中である。
07 May 2025
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中国国務院の常務会議は4月27日、5サイトで計10基の新設を承認した。なおその際、「原子力発電を発展させるには安全に万全を期さなければならない。事業主と建設参加企業が主体的に責任を果たし、世界最高の安全基準に基づいて原子力発電ユニットを建設・運営するとともに、安全監督管理能力の構築を継続的に強化、原子力発電の安全保障ネットワークを確実に整備しなければならない」と強調されている。今回承認された新設10基は、以下の通り。■中国核工業集団(CNNC)浙江省 三門原子力発電所5、6号機(「華龍一号」((HPR1000と呼ばれる中国が独自開発した第3世代PWR。))×2基、各121.5万kWe)■中国広核集団(CGN)広西チワン族自治区 防城港原子力発電所5、6号機(「華龍一号」×2基、各120.8万kWe)広東省 腰古(台山)原子力発電所3、4号機(「華龍一号」×2基、各120万kWe)■国家電力投資集団(SPIC)山東省 海陽原子力発電所5、6号機(CAP1000((米国のAP1000設計をベースとする中国版AP1000の標準設計。))×2基)■中国華能集団(CHNG)福建省 霞浦原子力発電所1、2号機(「華龍一号」×2基)現在、中国で運転中、建設中、計画中の原子力発電設備容量は、合計で1.2億kWeを超えており、世界最大だ。国家能源局の発表によると、2024年の原子力発電電力量は4,509億kWhで、前年比3.7%増。総発電電力量に占める原子力シェアは4.5%だった。
02 May 2025
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米ユタ州を拠点とするエナジー・ソリューションズ社は4月23日、同州の電力会社Intermountain Power Agency(IPA)およびユタ州との間で、IPAがユタ州デルタ近郊に所有する石炭火力発電サイトで、SMRの建設を検討するための了解覚書に署名したことを明らかにした。エナジー・ソリューションズ社は、原子力施設の廃止措置、使用済み燃料の管理、核物質の輸送など、幅広い原子力サービスを手掛けている。ユタ州エネルギー開発局によると、新規原子力発電の建設は、S. コックス知事の「Operation Gigawatt」イニシアチブの下、社会の電化、エネルギー集約産業による電力需要の増大に応えるという同州の目標に沿ったものだという。IPAは30年以上にわたり、地域にエネルギーを供給してきた石炭火力発電(Intermountain Power Project:IPP)を閉鎖し、IPP Renewedと称するプロジェクトの下で、再生可能エネルギー源から電気分解により生成された水素を燃焼させる84万kWeのガス火力発電所の建設を進めている。稼働開始時の燃料の30%に水素を用い、2045年までに100%水素に移行。発電所の地下深くの塩ドームに地下貯蔵設備を建設し、水素を貯蔵するという。エナジー・ソリューションズ社のK. ロバックCEOは、「再生可能エネルギーと水素利用の取組みに加え、新たに先進的な原子力技術を導入し、ユタ州と地域のニーズを満たす安定した脱炭素電力の供給を目指していく」とコメントした。IPAとユタ州との覚書では、IPPサイトに建設される具体的な原子炉技術は特定されていないが、エナジー・ソリューションズ社は、IPAとユタ州による米原子力規制委員会の許認可手続きプロセスを支援していくとしている。エナジー・ソリューションズ社は、原子力開発プロジェクトの主要な特徴として以下を掲げる。IPAとの提携による、IPPサイトの既存インフラの活用先進的なSMR導入によるベースロード電源の開発既存の地域エネルギーハブおよび先進的な送電網安定化技術との相乗効果地元、州、地域の利害関係者との協力ユタ州の農村経済の開発と雇用創出今回の発表に先立ち、エナジー・ソリューションズ社は2024年12月にカナダのテレストリアル・エナジー社と協力覚書を締結している。両社は、エナジー・ソリューションズ社が廃炉プロセスで取得した旧原子力発電所サイトにおいて、テレストリアル社が開発するSMRである一体型熔融塩炉(IMSR)の設置と展開の検討で協力することになっている。エナジー・ソリューションズ社は、ウィスコンシン州キウォーニ原子力発電所のほか、ネブラスカ州フォートカルホーン発電所、カリフォルニア州サンオノフレ発電所、ペンシルバニア州スリーマイル・アイランド発電所(2号機)、ウィスコンシン州ラクロス発電所の廃止措置を実施している。
02 May 2025
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米テネシー州のテネシー峡谷開発公社(TVA)は4月17日、テネシー州オークリッジ近郊の同社クリンチリバー・サイトにおける、小型モジュール炉(SMR)建設プロジェクトの建設許可申請(CPA)を6月までに行うことを明らかにした。TVAのクリンチリバー・プロジェクト担当のB. ディーシー上級副社長によると、TVAはSMR建設に向けた環境レビューを完了し、6月までにCPAを行う意向を米原子力規制委員会(NRC)に通知。採用炉型は、GE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社製のBWRX-300(BWR、30万kWe)だが、他炉型の評価も継続しているという。TVAはクリンチリバー・サイトについて2019年12月、米原子力規制委員会(NRC)より、SMR建設用地として事前サイト許可(ESP)を取得済み。またGEH社製のBWRX-300がSMRの中でも最も実現性が高いと判断。2022年8月にGEH社とクリンチリバー・サイトにBWRX-300を建設するための計画策定と予備的許認可で協力する契約を締結した。BWRX-300は次世代BWR。2014年に米原子力規制委員会(NRC)から設計認証(DC)を取得したGEH社の第3世代+(プラス)炉「ESBWR(高経済性・単純化BWR)」をベースにしている。TVAはクリンチリバーSMRプロジェクトの開発に、2022年2月に理事会が承認した最初の2億ドルと、2024年4月の継続的な設計および開発作業を支援するための追加出資1.5億ドルを合わせ、合計3.5億ドル(約500億円)を投じている。なおTVAは、米エネルギー省(DOE)が2024年10月に初公募、3月下旬に改訂された米エネルギー省(DOE)の第3世代+(プラス)小型モジュール炉プログラムから助成金8億ドル(約1,144億円)を4月初めに再申請した。これはDOEが同プログラムをトランプ政権の政策と一致させるべく、助成金交付の基準を更新。公募要件を変更し、再申請を求めていたもの。TVAは今年1月には、ベクテル社、BWXテクノロジーズ社、デューク・エナジー社、電力研究所(EPRI)、GEH社、アメリカン・エレクトリック・パワー社(AEP)傘下のインディアナ・ミシガン・パワー社、サージェント&ランディ社などから構成されるパートナー連合を結成し、同プログラムに8億ドルの助成金を申請していた。同プログラムは、米国内の原子力産業を強化し、米国初のSMR配備への支援、先進原子力技術のサプライチェーンの確立を目的に創設。TVAはBWRX-300が実績のある技術に基づくものとはいえ、初号機プラントであるため、DOEと協力してコストを相殺、顧客へのコスト負担を避けたい考えだ。また、予備的なサイト準備を早ければ2026年に開始を計画している。TVAのJ. ライアッシュCEOは今年1月、「この助成金が交付されれば、クリンチリバー・サイトでのSMRの建設が2年前倒しされ、早ければ2033年に営業運転が開始できる」と言及していた。TVAは1933年、米大統領F. ルーズベルトが、世界恐慌の対策として実施したニューディール政策の一環として、テネシー川流域の総合開発と失業率対策を目的に行われた米政府による公共事業を実施する国有電力企業。現在、アラバマ州、テネシー州において3サイトで計7基の120万kW級の大型軽水炉を所有/運転している。
01 May 2025
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米国の原子力開発ベンチャー企業であるテラパワー社は4月16日、自社の開発するNatrium炉で英国の包括的設計審査(GDA)プロセスへの参加を正式表明する書簡を英エネルギー安全保障・ネットゼロ省(DESNZ)に提出したことを明らかにした。Natrium炉を国際市場に展開する取組みの第一歩である。GDAとは英国で初めて建設される炉型に対して行われる設計認証審査で、原子力規制庁(ONR)が設計の安全性とセキュリティの観点から、環境庁(EA)が(該当する場合、ウェールズ自然保護機関(NRW)も)環境影響の観点から、英国の基準を満たしているかを規制プロセスの早い段階から、立地サイト特定後の建設申請とは別に評価するもの。DESNZは規制当局の審査に先立ち、テラパワー社が提出するGDA申請書を事前に精査し、NatriumがGDA実施前の評価基準をクリアしていることを確認する。テラパワー社のC. レベスクCEOは、「当社は、Natriumの世界展開に向けて、英国で何年も前から活発な討議を行ってきた。今後10年間に先進的な原子力発電所の導入で協力する点において、米国と英国には大きな関心と機会が存在している」と語った。米国で開発中のNatriumに係る規制上のマイルストーンは、英国におけるGDA申請の基礎として利用される。米国においては、米原子力規制委員会(NRC)と密接に許認可申請前活動を行い、2024年3月にはNRCに建設許可申請(CPA)を行った。NRCとの間ではCPAおよびトピックレポートの提出に関して1年以上にわたるレビューが行われ、NRCは最近、レビューのスケジュールを前倒ししている。また、初号機建設サイトのある米ワイオミング州からは州レベルの建設許可を得ており、2024年6月に起工式を挙行、非原子力部の建設工事を開始した。原子力部の着工は早くて2026年、送電開始は2030年を予定している。Natriumは、熔融塩ベースのエネルギー貯蔵システムを備えた34.5万kWeのナトリウム冷却高速炉。貯蔵技術は、必要に応じてシステムの出力を50万kWeに増強し、5時間半以上を維持することができる。この革新的な追加により、Natriumは再生可能エネルギーとシームレスに統合され、より迅速で費用対効果の高い電力網の脱炭素化を実現したい考えだ。
30 Apr 2025
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カザフスタンの国営原子力企業カザトムプロムは4月15日、チェコ電力(ČEZ)向けに初となる天然ウラン供給契約を締結した。チェコのエネルギー安全保障を強化し、クリーンで持続可能なエネルギーを供給するチェコの原子力発電所の役割を支援すると強調している。本契約により今後7年間、カザトムプロムはČEZに自国産天然ウランを供給する。ČEZはチェコの電力需要の約36%を供給する原子炉6基(ドコバニ発電所:VVER-440×4基、テメリン発電所:VVER-1000×2基)を運転中である。カザトムプロムのV. バイグジン最高商務責任者は、「今回の契約は、当社の欧州市場におけるプレゼンスの拡大と販売先の多様化という戦略を前進させる重要なマイルストーン。地域のエネルギー安全保障を支援しながら、脱炭素化と持続可能性という共通の目標を前進させる」と指摘。ČEZのB. ズロネク取締役兼原子力部門長は、「カザトムプロムとのパートナーシップの確立は、サプライヤーの多様化の観点から、ČEZとチェコにとって戦略的に重要。安定かつ信頼できる燃料を原子力発電所が確保し続けることを意味し、チェコのエネルギー需要を満たし、2030年の脱炭素化ロードマップの達成に不可欠である」と付け加えた。なお、カザトムプロムは2月中旬、スイスの電力会社であるAxpo社と天然ウランの供給契約を締結している。Axpo社が所有するベツナウ原子力発電所(PWR×2基)と部分所有するライプシュタット原子力発電所(BWR×1基)向けに供給するもの。Axpo社はロシアのウクライナ侵攻直後から、グループ全体でロシアのサプライヤーとの新規契約の締結を停止した。契約により供給されるウランは、フランス、ドイツ、オランダ、英国、米国で加工処理され、最初の納入は2026年に実施されるという。このほど経済協力開発機構・原子力機関(OECD/NEA)と国際原子力機関(IAEA)より発表された「2024年版 ウラン:資源・生産・需要」(Uranium 2024: Resources, Production and Demand:通称 「レッドブック」)によると、カザフスタンは世界最大のウラン生産国であり、総生産量の43%シェアを占めている。
28 Apr 2025
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カナダのアルバータ州を拠点とするエナジー・アルバータ社は4月14日、カナダ環境影響評価庁(IAAC)にピースリバー原子力発電プロジェクトの初期プロジェクト概要(Initial Project Description:IPD)を提出したことを明らかにした。IAACと加原子力安全委員会(CNSC)は同日から5月14日まで、IPDに関するパブリックコメントとフィードバックを募集している。2005年に設立されたエナジー・アルバータ社は、豊富な運転実績のあるカナダ型加圧重水炉(CANDU炉)を活用したプロジェクトにより、アルバータ州の電源構成を多様化、同州民に安全で安心なエネルギーを供給すると同時に、質の高い雇用と経済的機会を創出し、持続可能な経済を構築することを目指している。IPDは、設計および規制プロセスの主要な側面など、提案するプロジェクトの概要を早期に利害関係者に提供、最終的なプロジェクト設計の改善に役立つ関与の取組みを支援することを目的としている。IAACとCNSCが主導する影響評価(IA)は、複数年にわたる段階的な計画プロセスであり、環境、健康、社会、経済に対するプロジェクトの潜在的な影響のほか、先住民族とその権利への影響も評価する。IAプロセスが完了すると、連邦政府はプロジェクトが公共の利益になるかどうかを判断した上で、プロジェクトの進行を承認する。エナジー・アルバータ社のS. ヘヌセットCEOは、「カナダの原子力産業は、すでに高レベルな雇用を創出し、政府に多額の収入をもたらす力強い経済のエンジンとなっている。今こそ、この機会をアルバータ州にもたらす時だ」と強調した。 エナジー・アルバータ社は、同州北部のピースリバー地域の1,424 haの土地にCANDU炉の新型炉MONARK(100万kWe)を2~4基建設するプロジェクトを提案。カナダ産の天然ウランを使用し、最大出力480万kW、運転期間70年を想定している。この地域で何千もの高スキルの建設、運転、保守の雇用を生み出し、ピーク時の建設労働力は5,000人、発電所のフル稼働時は、2,000人~3,000人の直接・間接雇用を見込んでいる。安定かつ安価なエネルギー供給により電力コストを削減し、同州への新たな投資の誘致による経済成長を期待している。また、CANDU 炉がカナダのGDPに大きな影響を与え、複雑な地政学的環境において供給の安全性を保障する自国設計・製造技術であることから、アルバータ州をクリーンエネルギー移行のパイオニアに位置づけるとともに、地方と国の両方のエネルギー需要を満たす革新的なソリューションであると指摘している。エナジー・アルバータ社は、原子力に関する豊富な経験を持つチームを編成し、連邦・州政府、地域社会、先住民族およびコミュニティとの早期協議を含む、プロジェクトの推進に必要な作業を開始。ヘヌセットCEOは、「当社は、地域社会や先住民族とプロジェクトの全期間を通じて責任ある透明性のある関係を築き、プロジェクトがすべてのアルバータ州民に利益をもたらすことを約束する」と語った。
28 Apr 2025
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経済協力開発機構・原子力機関(OECD/NEA)と国際原子力機関(IAEA)は4月8日、世界48か国から提供された公式データ等に基づき、2023年時点の世界のウラン資源、ウラン探査、生産および需給状況をとりまとめた「2024年版 ウラン:資源・生産・需要」(Uranium 2024: Resources, Production and Demand:通称 「レッドブック」)を共同で刊行。2050年以降も世界のウラン需要を賄うのに十分な資源量が存在するとの認識を示す一方で、適正な価格で安定供給を確保するためには、新規の鉱山開発への巨額投資が必要であり、その実現には持続的で適切なウラン価格が不可欠と強調している。レッドブックは、1965年からほぼ隔年で刊行されており今回で通算30冊目。ウランに関する世界的な参考文献として活用され、今年で60周年を迎える。2024年版には、各国のウラン探査、ウラン資源、生産および原子炉所要量など世界のウラン市場に関する最新のデータ・統計(2023年1月1日時点)をはじめ、2050年までの世界の原子力発電設備容量とウラン需給見通しが掲載されている。これによると、世界の確認資源(鉱床の規模・品位・形状が明らかなもの)と推定資源(鉱床の規模・特性に関するデータが不十分なもの)を合わせた「既知資源量(発見済みの資源)」のうち、回収コストが260ドル/kgU未満の資源量は793万4,500トンU。直近の調査(2021年1月1日時点:791万7,500トンU、2019年1月1日時点:807万400トンU)とほぼ横ばいで、2023年時点の世界の原子力発電設備容量(3億9,400万kW)から計算すると、約130年分の十分な資源量が確保されていることになる。一方、ウラン価格は、2011年の福島第一原子力発電所事故以降、10年にわたり低迷していたが、近年では世界的な原子力エネルギーへの関心の高まりや、ロシアによるウクライナ侵攻を背景とする地政学的リスクの上昇により、燃料供給確保への関心が再燃。こうした動きを受け、ウラン市場は2021年に回復基調に転じ、価格は1ポンド当たり30ドル(U3O8)だった2021年初頭から、2024年1月には同106ドルへと大幅に上昇している。ウラン価格の上昇に伴い、生産拡大に向けた投資も活発化している。かつて価格の低迷や探査・開発の停滞により減少傾向にあったウラン関連投資は、2022年は世界全体で8億300万ドル(2020年比113%増)に回復。2023年の投資額もさらに増え、8億4,000万ドルに達したと見られている。ウラン生産量についても、カナダやカザフスタンなどの主要生産国がこれまで、ウラン市場の低迷を受けて全体の生産量を制限していたが、2022年の世界のウラン生産量は合計4万9,490トンU(2020年比4%増)に増加。これは、運転中の商業用原子炉所要量(5万9,018トンU)の85%をカバーする規模で、不足分は、過去の在庫や再処理、解体核ウランなどの二次供給源で補っている。レッドブックでは、こうした現状をふまえ、将来の需給バランスにも着目。世界の原子力発電設備容量は、2050年までに5億7,400万kW(低ケース((現在の市場や技術動向が継続し、原子力発電に影響する政策や規制の追加的な変更が殆どないと仮定。)))~9億kW(高ケース((現在の経済成長率と電力需要の伸びが継続すると仮定。また、気候変動の緩和に向けた各国の政策変更や、脱炭素戦略への重要な貢献としての原子力の認識も想定。)))に達すると見込んでおり、それにともなう原子炉所要量も約9万トンU~14万2,000トンUに達すると予測。特に、中国を中心とした東アジア地域での需要拡大が顕著になると予想している。また、小型モジュール炉(SMR)の導入状況次第で、将来的なウラン需要の再評価が必要になる可能性にも言及。さらに、長期的には先進炉やクローズド燃料サイクルの実用化によって、原子力の持続可能性が高まり、ウラン資源の有効利用にもつながると展望している。そのほか、ブラックシェールなどの非在来型ウラン資源についても、新技術の進展によって活用の幅が広がる可能性があるとの見方を示している。
28 Apr 2025
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米国の電力会社であるサザン・ニュークリア社は4月10日、次世代燃料の特徴を備えた4体の先行試験用燃料集合体(LTA)を、同社が運転するアルビン・W・ボーグル発電所2号機(PWR、122.9万kWe)に装荷した。これまでの濃縮度制限を超える燃料を装荷する米国初の商用炉となった。サザン・ニュークリア社は2023年8月、米原子力規制委員会から濃縮度5%を超える燃料装荷が認められている。ボーグル2号機に装荷した4体のLTAは、米エネルギー省(DOE)の事故耐性燃料(ATF)プログラムにより、燃料サイクルの安全性向上、運転コストの低減を目指している。米ウェスチングハウス社が開発、製造した革新的なADOPTペレット燃料を使用。酸化クロム(Cr₂O₃)と酸化アルミニウム(Al₂O₃)を少量添加した改良型UO₂設計で、高燃焼度化を達成する。また、腐食耐性と変形耐性に優れたAXIOM燃料棒被覆管とクロムコーティングの被覆管および先進的なPRIME燃料集合体設計を採用している。通常炉で使用する燃料はU235の濃縮度は3~5%の範囲だが、今回装荷されたLTAの濃縮度は6%。高濃縮度燃料(LEU+とも呼ばれる)は運転サイクルを18か月から24か月に延長させ、より高い出力を可能にし、原子炉運転期間に発生する廃棄物の減容にもつながる。LTAはボーグル2号機で今後4年半にわたって試験を行い、燃料は各運転サイクル後に検査され、試験完了後にはより広範なレビューが行われる。DOEは高濃縮度燃料が、業界のゲームチェンジャーとなる可能性を指摘。将来の米国での商業化と展開を期待している。サザン・ニュークリア社のP. セナCEOは、「当社の目標は、より高い出力と高濃縮度の燃料を使用して原子炉をより長く稼働させることであり、ジョージア州の増大するエネルギー需要を満たす点において優位性がある」と語った。サザン・ニュークリア社は、2018年に自社のエドウィン・I・ハッチ原子力発電所1号機(BWR、91.1万kWe)において、ATF燃料被覆技術を世界初で採用。国立研究所や他の燃料供給業者と提携し、先進的な燃料の導入と試験を実施している。
25 Apr 2025
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ノルウェー政府は4月8日、同国西部にあるアウレとハイムの両自治体で計画されている複数の小型モジュール炉(SMR)を備えた原子力発電所の建設に向け、環境影響評価(EIA)プログラムの策定を複数の機関に委託した。この計画は、ノルウェーの新興エネルギー企業であるノルスク・シャーナクラフト(Norsk Kjernekraft AS)社が2023年11月に提案したもので、西部ノルウェー海側のアウレ(Aure)自治体とハイム(Heim)自治体の境界に位置する共同工業地帯のタフトイ(Taftøy)工業団地でのSMR建設を想定している。これを受け、エネルギー省、保健・介護サービス省、司法・公安省、気候・環境省の4省は、水資源エネルギー局(NVE)、放射線・原子力安全局(DSA)、国民保護局(DSB)に対し、包括的な環境影響評価(EIA)プログラム策定に向けた勧告を、遅くとも今年9月までに作成するように求めている。ノルスク社が8日に4省から受け取った書簡によると、4省は各局との責任分担を明確化し、EIAプログラムはノルウェーの法律と国際条約を確実に遵守しなければならないと強調。影響評価の目的は、原子力法やエネルギー法、公害防止法および放射線防護法に基づく許認可プロセスにおいて、その決定に関連する十分な情報提供に資することである、と説明している。ノルスク社は今回の決定を受け、「ノルウェーの原子力法を適用した実践的なガイドラインの策定において重要な一歩である。ノルウェーにはすでに包括的な原子力法があるが、商業用原子力発電に適用されるのは初めてである」と述べ、ノルウェーの原子力発電にとって歴史的であると評価した。タフトイ工業団地で計画されている発電所は、最大出力150万kW、年間最大125億kWhの発電能力を持ち、運転時には最大500人の雇用を見込んでいる。ノルスク社は、ノルウェー国内の複数の自治体や電力集約型産業と連携したSMRの立地可能性調査を実施し、SMRの建設・運転を目指している。同社のJ. ヘストハンマル会長によると、国内では原子力発電導入に向けた調査に率先して取組む自治体の数が急速に増加しているという。
23 Apr 2025
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