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エネルギー価格と日本に忍び寄るインフレのリスク
世界的にインフレの懸念が高まりつつある。例えば米国の場合、新型コロナ禍前の2019年までの20年間、消費者物価上昇率は年平均2.1%、変動の激しい食品とエネルギーを除いたコアベースでは2.0%だった。それが、昨年12月は総合指数が前年同月比7.0%、コア指数は5.5%上昇した。総合指数は39年ぶり、コア指数も30年ぶりの高い伸びだ。欧州主要国でも軒並みインフレ圧力が急速に強まっている。この物価上昇について、当初、米国の中央銀行である連邦準備制度理事会(FRB)は、新型コロナ禍からの景気回復期における「一過性の現象」と指摘していた。しかしながら、このところは見方を変え、インフレが長期化するリスクを懸念しつつある。FRBは、新型コロナ禍への対応で実施した歴史的緩和の方針を既に転換し、米国の金融政策を決める3月15、16日の次回連邦公開準備委員会(FOMC)で利上げに踏み切るとの見方が大勢だ。世界的にインフレ圧力が強まりつつある背景については、様々な要因が考えられる。そのなかで、最も根本的な変化は、国際社会が「グローバリゼーション」から新たな「分断の時代」へ突入したことではないか。 ゲームチェンジャーとしての新型コロナ過去60年間における主要国の消費者物価上昇率を振り返ると、1960~80年代はインフレの時代だった(図表1)。一方、1990~2010年代は物価安定の時代だ。2つの時代の境目で起こった象徴的な事件は、1989年11月のベルリンの壁崩壊、そして1991年12月の旧ソ連消滅だろう。それ以前は東西冷戦期であり、世界のサプライチェーンは統一されておらず、米ソ両ブロックが陣地獲りと資源の争奪戦を繰り広げていた。さらに、2回の石油危機に象徴される地域紛争が資源価格を高騰させ、世界経済を極度のインフレに導いたのである。ちなみに、第1次石油危機のきっかけは、1973年10月6日、エジプト、シリアを主力とするアラブ連合軍が、ゴラン高原に展開するイスラエル軍を攻撃して始まった第4次中東戦争だった。この時、アラブ諸国を支援していたのは旧ソ連であり、イスラエルは米国を後ろ盾としていたのである。しかしながら、旧ソ連が消滅して以降、世界は唯一の覇権国になった米国を軸として単一市場の形成に向け大きく動き出した。特筆されるのは、1995年に設立された世界貿易機構(WTO)を中心に国際的な通商ルールが確立されるなか、中国、東南アジア諸国、メキシコなどが急速に工業化し、その供給力によって需要超過の米国もインフレから解放されたことだろう。一方、冷戦下で米国への輸出により高成長を遂げた日本は、新興国に対し競争力を失って過剰供給による構造的なデフレに陥った。もっとも、30年間に亘って続いてきたグローバリゼーションの時代は、新たな転換点を迎えようとしているのではないか。その表面的な契機は新型コロナ禍だ。中国の武漢市で発生したと言われるこの国際的な疫病が米国へ飛び火した2020年初頭以降、ドナルド・トランプ大統領(当時)は急速に対中批判を先鋭化させた。それ以前は貿易収支の不均衡で対中圧力を強めていたものの、自身の別荘であるフロリダ州のマールアラーゴへ習近平中国国家主席を招待するなど、両国関係はむしろ良好だったと言える。しかし、自身の再選を目指す大統領選挙まで1年を切った段階での新型コロナの感染急拡大により、トランプ大統領は中国への姿勢を大幅に硬化させた。ただし、新型コロナはあくまで象徴的出来事であり、米中対立の本質は中国が将来において米国から覇権を奪取する意図を隠さなくなったことではないか。近年における人民解放軍の急速な近代化と東シナ海、南シナ海、フィリピン海への海洋進出、国家による支援を後ろ盾とした国営企業による通信、半導体、人工知能(AI)など最先端技術の開発、そしてアジア・太平洋、アフリカ、中南米などにおける外交・経済両面でのプレゼンスの拡大は、米国にとり中国による挑戦と見えても不思議ではない。経済的交流がほとんどなかった東西冷戦時代の米ソと異なり、現代の米中両国は相当規模での相互依存関係を築いてきた。例えば、米国にとって中国は最大の農産品の輸出先であり、中国は発行された米国国債の約5%を保有している。従って、米中が覇権を争うとしても、1950〜80年代と同じタイプの冷戦にはならないだろう。しかし、米国と中国による新たな分断の時代は、30年間続いた世界的な物価安定の終焉を意味する可能性がある。好例はウクライナ情勢だ。2月4日、北京冬季五輪の開幕式に合わせて行われた中ロ首脳会談において、習近平国家主席は中国はロシアが最も懸念する北大西洋条約機構(NATO)の拡大に反対の立場を鮮明にし、ウラジミール・プーチン大統領は台湾を中国の領土であると再確認した。エネルギー部門を含めた中ロの連携強化は、ウクライナ情勢などを通じて国際的な資源価格の高騰の背景となり、インフレ圧力を強める可能性がある。また、習近平政権は新たな経済政策の目標として「共同富裕」を掲げた。その直接的なイメージは貧富の格差の是正だろう。もっとも、本質的な狙いは個人消費主導の経済成長ではないか。消費拡大は、国民の生活水準向上であり、即ち一党独裁制を敷く共産党への国民のローヤリティを高める道に他ならないからだ。加えて、世界最大の人口を使って世界中から財貨を購入することにより、米国と同様、世界経済における中国の存在感の向上、国際社会における発言力の強化を狙っていると見られる。問題は14億人の消費水準向上が世界の資源需要に与えるインパクトだろう。エネルギーや食料の需給関係が引き締まり、国際的な価格の押し上げにつながることで、インフレの油に火を注ぐ可能性がある。本質的な要因ではないにせよ、新型コロナ期を転換点、即ちゲームチェンジャーとして、米中両国は次世代の覇権を巡り対立を深める時代に入ったようだ。結果として、今後、世界的な地域紛争の激化と資源の争奪戦、サプライチェーンの寸断による製造・物流コストの上昇などの現象が起こり、インフレ圧力が恒常化するリスクを考えなければならないだろう。 日本が物価安定を飛び越してインフレに陥るリスク2012年12月26日、第2次安倍晋三内閣が発足した。同年9月26日の自民党総裁選以降、安倍氏が訴えたのはデフレからの脱却だ。2013年1月22日、『政府・日銀共同声明』により日銀は「安定的な物価目標」として初めて生鮮食品を除くコア消費者物価で前年同月比2%のインフレターゲッティングを導入した。さらに、3月に就任した黒田東彦総裁の下、日銀は「量的・質的緩和」を採用、この政策は金融市場で好感され、円高の是正と株価上昇が急速に進んだのである。もっとも、肝心の物価目標については、世界の主要中央銀行に類を見ない大胆な金融緩和を続けてきたにも関わらず、消費税率引き上げの影響が反映された時期を除けば、この9年間で1度も達成されたことがない。今年1月21日、総務省は昨年12月の消費者物価統計を発表した。それによると、総合指数が前年同月比0.8%、生鮮食品を除くコア指数が同0.4%、それぞれ上昇している(図表2)。依然として目標には全く届いていないのだが、翌22日付けの日本経済新聞は、『インフレ率、春2%視野 資源高が暮らしに波及』との見出しでこの件を報じた。つまり、今後、急速に物価が上がる可能性を日経は指摘したのだ。その背景にあるのは、特殊要因が剥落(はくらく)し、世界的なインフレの影響が日本にも波及するシナリオだろう。米国の消費者物価と異なり、日本の統計ではエネルギー価格がコア指数に算入される。12月の消費者物価統計を詳しく見ると、コア指数に対する寄与度はエネルギーが+1.2ポイント、通信は▲1.6ポイントだった(図表3)。つまり、エネルギーがコア指数を1.2ポイント押し上げる一方、通信は1.6%押し下げ、エネルギー、通信以外が0.8ポイント押し上げたことになる。通信がコア消費者物価全体を大きく下げる方向へ寄与しているのは、菅義偉前首相の政策に依ると言っても過言ではない。第2次安倍政権の官房長官時代から通信料金引き下げの必要性を強く主張し、2020年9月の自民党総裁選挙では公約の柱とした。内閣総理大臣就任後、業界に価格体系の見直しを迫り、2021年3月より大手3社はデータ容量20GBの新たな料金プランを導入している。サービスの開始日は、ソフトバンクの“LINEMO”が同3月17日、auの“povo”は同23日、ドコモの“ahamo”は同26日だ。2021年の消費者物価統計における通信の価格を見ると、2月は前年同月比1.1%の上昇だったが、新プランが始まった3月は同0.7%下落し、4月は新価格体系による実質的な値下げがフルに寄与した結果、同24.6%の大幅な低下となっている。2021年12月の消費者物価統計では、通信の下落率は34.3%に達していた。新料金プランの導入から1年が経過するため、今年4月以降、この通信による消費者物価への影響が解消される。結果として、2022年度については通信価格による消費者物価全体への寄与度は概ねゼロになるだろう。マイナスの寄与度がなくなることで、通信部門は実質的に消費者物価を押し上げる見込みだ。一方、1月17、18日に開催された政策決定会合に伴い、日銀は年4回の『経済・物価情勢の展望(展望レポート)』を発表した。それによると、総裁、2人の副総裁を含む政策委員9人の物価見通しの中央値は、2021年度のコア消費者物価上昇率が前年度比横ばいで昨年10月から据え置かれる一方、2022年度は前回の0.9%から1.1%へ、2023年度も同じく1.0%から1.1%へ、いずれも小幅ながら上方修正されている。日銀は、展望レポートのなかでエネルギー価格が落ち着くことにより、通信とは逆の効果をもたらすと指摘した。黒田総裁は、会合後の記者会見で「利上げを検討しているか」と聞かれ、「一時的な資源価格の上昇に対応して、金融引き締めを行うことは全く考えていない」と答えている。ただし、足下、原油市況はWTI先物価格が1バレル=90ドル台に達し、じり高歩調を崩していない。今後についても、世界的な脱化石燃料化の潮流の下で新たな開発への投資が難しくなっている上、国際社会の分断により中東やウクライナにおいて地政学的な緊張が高まり、むしろ石油、石炭、天然ガス価格は上昇を続ける可能性がある。消費者物価指数統計におけるエネルギーのコア消費者物価への寄与度は、概ね原油市況と連動してきた(図表4)。今後、価格の上昇率は縮小しても、原油価格のじり高歩調が続けば、天然ガスや石炭を含めた燃料コストの上昇により、エネルギーの物価全体への寄与度はプラス圏を維持するのではないか。その場合、前述の通り4月になれば通信価格値下がりの影響がほぼ解消される一方、エネルギー価格はコア消費者物価指数を引き続き押し上げることになる。他方、エネルギーや通信を除く広範な分野において、日本国内でも値上げの動きが顕在化してきた。国際的なインフレ圧力により、昨年12月の企業物価は前年同月比8.5%上昇した(図表5)。これまではコスト削減努力により消費者物価への転嫁が抑えられてきたものの、企業にとって今後も値上げを我慢するのは難しいだろう。つまり、通信・エネルギー以外の分野のコア消費者物価上昇率に対する寄与度は、今後、プラスの幅を拡大する可能性が強い。結果として、日経の記事が指摘していたように、4月以降、コア消費者物価上昇率が日銀の安定的目標である2%を超える事態も起こり得るのではないか。必要なエネルギー政策の再構築中央銀行が2%の物価目標を提示し、それに向けてマネーの供給を大幅に増やすと、世の中のマインドがインフレ期待に転換され、物価上昇前に消費や投資をしようとする動きが強まって実需が拡大、結果的にインフレターゲットが実現する…これが量的・質的緩和に関して日銀が描いてきたシナリオだ。つまり、内需が盛り上がるなかでの適度なインフレであり、当然、賃金が物価を上回るペースで上昇するため、好景気が持続する。しかしながら、現実に日本経済が直面しつつあるのは、資源高などにより、国内で価格転嫁が避けられなくなって起こるインフレのリスクだ。このケースでは、石油などの購入価格が値上がりするため、海外への支払いが増えて日本の富が流出する。当然、賃上げは難しく、日本の平均世帯の購買力が低下するため、インフレと不況が同居するスタグフレーションになる可能性も否定できない。1973年の第1次石油危機に端を発した「狂乱物価」は、正にそうしたスタグフレーションの典型的な状態だった。もっとも、1974年の消費者物価上昇率は23.2%だが、賃上げ率はそれを上回る25.5%に達し、実は消費者(=勤労者)の実質購買力は低下していない。日本経済が青年期で人口が増加し、内需も旺盛だったからだろう。さらに、この危機下において日本は短期間に産業構造の転換を成し遂げ、1980年代における自動車や電気製品・部品の輸出拡大への基盤を築いたのである。また、エネルギー戦略を見直し、燃料資源の海外依存度を低下させるため、原子力発電所の建設を強力に推進した。現在の日本経済には1970年代のような体力はなく、国際情勢も大きく変化している。人口が減少するなかでのスタグフレーションは、日本の消費者の実質購買力を失わせる結果、生活の質が大きく低下しかねない。マクロ的に見ても、それは縮小均衡のシナリオだ。そうしたリスクを軽減するためには、財政・金融政策や成長戦略の見直しだけでなく、エネルギー政策も再構築する必要があるのではないか。特に長期的な化石燃料の価格上昇を想定し、カーボンニュートラルと経済安全保障を両立させなければならない。岸田文雄政権には、2011年3月の東日本大震災以後に止まってしまった時計を再稼働させ、原子力政策の推進を期待したいところである。
- 28 Feb 2022
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ウクライナがカナダ製原子炉の導入に向けカナダの原子力産業界と協力覚書
ウクライナで4サイト・15基の民生用原子炉を運転する国営のエネルゴアトム社、およびカナダの原子力産業機構(Organization of Canadian Nuclear Industries =OCNI)は2月2日、ウクライナにおけるカナダ製原子力発電所の建設に向けて、協力覚書を締結した。OCNIはカナダの原子力産業界のサプライヤー240社以上で構成される非営利団体で、カナダ型加圧重水炉(CANDU炉)や軽水炉の機器設備を設計・製造する企業やエンジニアリング・サービス企業などが参加。国内外の原子力市場に、これらの機器やサービスを提供している。今回の覚書を通じてOCNIは、カナダ製の大型原子力発電所や小型モジュール炉(SMR)をウクライナで建設する機会が得られるよう支援していくほか、原子力発電所サイトにおける大規模データセンターの設置、原子力発電所の廃止措置、原子力発電を活用した医療用放射性同位体の生産や水素製造などでもウクライナ側と協力する。両者はまた、両国の原子力関係研究機関や、原子力教育および原子力研究開発関係の学部を有する大学相互の協力も促進する方針である。覚書への調印は、カナダ・オンタリオ州のピッカリングにあるOCNI本部とウクライナの首都キエフにあるエネルゴアトム社の本部をインターネットで結び、OCNIのR.オーベルト理事長とエネルゴアトム社の実質トップであるP.コティン総裁代理が行った。R.オーベルト理事長は、「2050年までにCO2排出量を実質ゼロ化するという世界的な構想の実現に向けて、ウクライナが推進するプロジェクトに緊密に協力していきたい」と述べた。P.コティン総裁代理も、「原子力発電所における信頼性の確保や関連する研究開発、技術革新、環境保全など、原子力発電に関わる最も有望な分野で、カナダの原子力産業界と連携協力する新たな機会が開かれた」と表明している。ウクライナでは2014年に親ロシア派のV.ヤヌコビッチ政権が崩壊し、それ以降は親欧米派が政権を維持。クリミアの帰属問題や天然ガス紛争等により、旧宗主国であるロシアとの関係は悪化の一途をたどっている。ロシアからのエネルギー輸入依存から脱却するため、ウクライナは国内15基のロシア型PWR(VVER)で使用する原子燃料を、米ウェスチングハウス(WH)社やカナダのカメコ社など、ロシア以外の企業から調達する手続を進めている。また、国内で米ホルテック・インターナショナル製SMRの建設可能性を探るため、エネルゴアトム社は2018年3月にホルテック社と協力覚書を締結。2021年9月には米ニュースケール・パワー社が開発したSMRの導入に関しても協力覚書を締結した。さらに同年8月末にエネルゴアトム社は、VVER設計による一部の建設計画が凍結されていたフメルニツキ原子力発電所、およびその他のサイトにおけるWH社製AP1000の建設に向けて、WH社と独占契約を締結している。(参照資料:OCNIの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの2月4日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 07 Feb 2022
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日本が学ぶべきウクライナの教訓
ウクライナ情勢がにわかに緊迫の度合いを増した。10万人とも言われるロシア軍がウクライナとの国境に集結したことで、米国、欧州主要国は同国による侵攻を強く牽制している。1月24日、米国のジョー・バイデン大統領は、国防省に対し北大西洋条約機構(NATO)即応部隊へ8,500人規模の米軍増派を短期間で行えるよう準備を命じた。さらに、同大統領は、2月2日、それとは別にノースカロライナ州フォートブラッグ陸軍基地からドイツ、ポーランドへ2,000人を派遣、ドイツの駐留米兵1,000人をルーマニアに再配置することを決めている。ロシアがウクライナへ圧力を強めているのは、同国がNATOへの加盟を求めているからだろう。1991年12月25日、ミハエル・ゴルバチョフ大統領が旧ソ連の消滅を宣言した。「ソ連」は即ちソビエト社会主義共和国連邦の略称であり、同国は15の社会主義共和国による連邦国家だったわけだ。この15か国の中心はロシア社会主義共和国だが、残る14か国のうちウクライナ社会主義共和国が今のウクライナ、白ロシア社会主義共和国がベラルーシに他ならない。改めて言うまでもなく、ウクライナは旧ソ連領であり、今はロシアと1,576㎞の国境で接する隣国である。ちなみに、1917年の革命以前における帝政ロシアは、ウクライナの大半、ベラルーシ以外にもポーランドのほぼ全域、フィンランドなども領土としていた。旧ソ連は帝政ロシアの一部を独立させたが、その多くは第2次大戦後に親ソ東ヨーロッパ諸国としてワルシャワ条約機構を構成したことは周知の事実だ。1989年11月のベルリンの壁崩壊で東欧各国の民主化が進み、旧ソ連の消滅と共に15共和国がそれぞれ独立、エストニア、ラトヴィア、リトアニアのバルト3国は2004年5月にEUに加盟した。一方、残りの12か国はロシアを中心に独立国家共同体(CIS)と呼ばれる緩やかな国家連合へ移行したのである。もっとも、ウクライナ、トルクメニスタンはCIS憲章を批准せず準加盟国の扱いとされた。また、旧グルジア、現在のジョージアは同憲章を批准したものの、南オセチアを巡る領土問題で2008年8月12日に批准を撤回、同29日にはロシアと断交してCISを脱退している。さらに、ウクライナも2014年のクリミア危機により同年3月19日にCISからの脱退を宣言した。前日にロシアがウクライナ領内であったクリミア自治共和国及びセヴァストポリ特別市の編入を決めたことへの対抗措置に他ならない。もっとも、両国関係はそれ以前からかなり悪化していた。ウクライナがロシアとの対立を表面化させたのは、2005年1月から2010年2月かけてのヴィクトル・ユシチェンコ大統領の時代だ。親米欧派の同大統領はEUのみならずNATOへの加盟を目指してロシアを刺激した。ロシアにとり、西隣のウクライナは旧親ソ国であったポーランド、チェコ、スロバキア、ハンガリーなどと共に西欧との緩衝地帯になっている。皇帝ナポレオン・ボナパルト率いるフランス軍、アドルフ・ヒットラー総統のドイツ軍に侵攻され存亡の危機に立たされたロシアとしては、ウクライナのNATO加盟は安全保障上の大問題なのだろう。また、ロシアが編入を宣言したセヴァストポリには、伝統的にロシア海軍黒海艦隊の母港として海軍基地が置かれてきた。さらに、旧ソ連時代、ウクライナには多くの軍事産業が集積しており、ウクライナ国営ユージュマス社はロシアの大陸間弾道弾(ICBM)のエンジン、同じく国営アントノフ社は大型輸送機を製造、ロシアの軍事力の重要な部分を担ってきたのである。そうした歴史的・軍事的事情が、ロシアの対ウクライナ政策に大きく影響していると見て間違いないだろう。 危機ムードの醸成を図るロシアの真意旧ソ連崩壊以降、ロシアはエネルギー資源に乏しいウクライナとの関係を維持するため、天然ガスを国際市況に対して割安な価格で供給した。また、ロシアからウクライナ経由で西欧に天然ガスを供給するパイプラインの通過料収入は年間30憶ドルに達し、ウクライナ政府の歳入の7%程度を賄っていたのである(図表1)。しかしながら、ユシチェンコ政権の親米欧路線に対抗して、ロシアはウクライナ向けの天然ガス輸出に関して市場価格への引き上げを図り、これが新たな両国の緊張関係の火種になった。ロシアとウクライナはこの天然ガスの価格を巡る問題で衝突を繰り返している。ロシアが究極の対抗措置としたのが、ウクライナを通らず、ドイツ、イタリアなどに天然ガスを供給するパイプライン網の整備に他ならない。元々、ウクライナを経由しないルートとしては、ロシアのミンスクからベラルーシ、ポーランドを通ってドイツに至る「ヤマル・ヨーロッパ」があった。これに加えて、2005年に西シベリアで生産された天然ガスを黒海経由でトルコへ輸送する「ブルーストリーム」、2011年にバルト海を通過してドイツへ直送する「ノルドストリーム」を開通させている。さらに、2020年には黒海経由でトルコから南ヨーロッパへ至る「トルコストリーム」が稼働し、昨年はノルドストリームに並行する「ノルドストリーム2」が竣工した。ノルドストリーム2はまだ稼働していないものの、2010年に1,200億㎥だったウクライナ経由での欧州向け天然ガス輸出量は、2017年は850億㎥へ減少、2021年は450億㎥程度まで落ち込んだと見られる。ロシアのウラジミール・プーチン大統領は、クリミア・セヴァストポリの編入後も、経済・軍事両面でウクライナへの締め付けを強化してきたわけだ。他方、ドイツの政権交代でノルドストリーム計画を推進してきたアンゲラ・メルケル首相が退任、オラフ・ショルツ新首相はEUと共にノルドストリーム2の稼働に慎重な姿勢を崩していない。ロシアは、ウクライナへの牽制に加え、EU主要国にプレッシャーを掛ける意図もあって、欧州向けを中心に天然ガスの輸出量を抑制している模様だ(図表2)。NATOの拡大阻止と欧州への安定的な天然ガス販路の確保───これがウクライナ国境に大きな軍事力を展開したプーチン大統領の意図なのではないか。 ロシアに依存する欧州のエネルギー事情昨年10月31日から11月13日、英国のグラスゴーで開催された国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)では、石炭の段階的使用削減が決まった。地球温暖化抑止に積極的な欧州は石炭に極めて厳しい姿勢で臨み、ドイツも石炭・褐炭による発電を2038年までにゼロにすると公約している。一方、EUの執行機関(内閣)である欧州委員会は、2月2日、地球温暖化抑止に貢献する持続可能な経済活動の分類、即ち『EUタクソノミー』の「グリーン・リスト」に脱炭素化に貢献する投資先として原子力発電と天然ガスを加える法案を正式に発表した。欧州理事会(首脳会議)と欧州議会で審議し、年央にも可否を決定する。現実的な立場に立てば、石炭の使用を削減する場合、代替的なベースロードの確保は必須だ。原子力と天然ガスを選択するのは合理的な判断だろう。欧州ではドイツを中心にロシア産天然ガスへの依存度が高く、地球温暖化抑止のための石炭の使用削減でさらにその傾向は強まるだろう(図表3)。特に昨年夏は異常気象によりスペイン、英国などで風力発電が機能不全に陥った。結果としてさらに天然ガスの需要が拡大している。もっとも、ウクライナ危機により、EUは新たな問題に直面した。欧州で消費される天然ガスの30~40%を供給してきたロシアの圧力が強まっているからだ。特に天然ガスの調達でロシアへの依存度が高いドイツは、電力価格などが高騰し経済的な苦境に追い込まれつつある(図表3)。2019年の平均が4.80ドル/100万Btuだった欧州の天然ガス価格は、昨年12月21日、59.67ドルの史上最高値を付けた(図表4)。1月は28ドル台へ調整したものの、新型コロナ禍前と比べて6倍になっている。その結果、昨年12月、ドイツの消費者物価上昇率は前年同月比5.3%に達し、1992年6月以来、約30年ぶりの高水準になった。また、日本の輸入するLNGもその影響を受け、市場価格が急上昇している。2月3日、ブルームバーグはロシアがウクライナに侵攻するリスクを念頭に、日本などが購入契約を結んだLNGの一部を欧州へ提供できないか、米国政府が関係国に打診したと報じた。ウクライナ危機はアジアに飛び火し、世界的なインフレ圧力となる可能性がある。再生可能エネルギーによる発電比率が総発電量の50%に達したドイツは、脱石炭化のみならず、今年中に3基の原子力発電所を全て止める計画だ。もっとも、原子力と石炭火力は依然として同国の総発電比率の40%近くを賄っており、それを全て再エネで代替することは困難だろう。畢竟、脱原子力を先送りするか、それとも燃料コストの上昇に耐えて天然ガスの利用を拡大するか、実質的に二択を迫られた状態にある。このドイツを象徴とする欧州の苦境は、プーチン大統領の描いたシナリオ通りと言えるかもしれない。ロシア経済も良い状態ではないものの、エネルギー価格の高騰によりインフレ懸念の高まる欧州と我慢比べをすることで、米国とEUの関係に楔を打ち込み、欧州におけるロシアの発言力を強化できる可能性があるからだ。言い換えれば、ドイツをはじめとしたエネルギーのロシア依存度の高さが、ウクライナ危機を招いた一因と考えるべきだろう。 ウクライナ問題が示す日本のあるべき経済安全保障少なくともこれまでのところ、米国のウクライナ問題への対応が効果的であるとは思えない。バイデン大統領は、昨年7月21日、ホワイトハウスで退任を間近に控えたドイツのメルケル首相(当時)と会談、その際の共同声明でノルドストリーム2の建設を実質的に容認した。また、同9月1日、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領との会談では、ウクライナのNATO加盟に慎重な姿勢を示している。さらに、12月8日、同大統領は記者団の質問に答え、ウクライナ有事の場合、「米国が単独で軍事力を使うことは検討していない」と語った。米国は東アジアにおいて中国との覇権争いに注力しており、アフガニスタンから撤退したのと同様、欧州への介入もできれば避けたいのだろう。そうした姿勢をプーチン大統領に見透かされ、ロシアはウクライナへの圧力を今年に入って一段と強めた。バイデン大統領はNATOの結束を維持し、米国の指導力をアピールする意味で、欧州への米軍増派を決定せざるを得なかったのではないか。また、ロシアのみならず、プーチン大統領個人への経済制裁の可能性を示し、ロシアによるウクライナ侵攻を牽制した。ただし、ロシアがウクライナに軍事行動を起こすとの見方には疑問が残る。2014年に軍事上の要衝であるクリミア・セヴァストポリを既に実効支配しており、ロシアにとってウクライナへ侵攻するのはリスクに対するリターンが見合わないからだ。従って、プーチン大統領やセルゲイ・ラブロフ外相が繰り返しているように、ロシアにとって安全保障上の大きな脅威であるウクライナのNATO加盟阻止が国境に軍事力を集結した目的だろう。加えて、ノルドストリーム2を稼働させ、ウクライナを経由せずに欧州へ向けての天然ガス供給の強化を図る意図と見られる。今回のウクライナ危機は、実は日本にとっては大きな教訓と言えるのではないか。エネルギー供給とその運搬ルートの安全確保を他国に依存する場合、経済のみならず安全保障上の大きなリスクになり得ることが示されたからだ。ドイツ、イタリア、スペインなど欧州主要国は正にその脅威に晒され、燃料価格の高騰を一因とするインフレに苦しんでいる。プーチン大統領は、このままウクライナ国境でにらみ合いを続けることにより、EUから妥協を引き出す意向なのではないか。1941年12月8日、日本が対米国、英国、オランダ、中国に宣戦布告を行って第2次世界大戦に参戦を決断したのも、オランダ領インドシナ(現インドネシア)の油田地帯へ侵攻したことで、原油調達の8割を依存していた米国から石油禁輸措置を受けたことが背景だった。戦時中、日本軍はパレンバンなどの油田の生産能力を回復させたが、本国へのシーレーン上で輸送船が攻撃され、結局、持久戦においてじり貧に陥ったのである。日本が資源に乏しいことは戦前と変わっていない。エネルギーに関しては、再生可能エネルギーの強化が喫緊の課題だ。ただし、再エネ優等生のドイツですら、ウクライナ情勢でロシアの脅威に晒されている。島国である日本は、地政学的な違いを踏まえた上で、現在の欧州情勢から多くを学ぶべきだろう。再エネには安定したベースロードが必須である上、脱化石燃料も同時に進めなければならない。そうした様々な制約条件を考えれば、原子力発電を継続し、発電所の建替え、新設に踏み切ることこそ、岸田政権が掲げる「経済安全保障」に即したエネルギー政策と言えるのではないか。
- 07 Feb 2022
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米貿易開発庁、ニュースケール社製SMRの導入に向けたウクライナの分析作業を支援
米国政府の貿易開発庁(USTDA)は12月15日、ウクライナでのニュースケール・パワー社製小型モジュール炉(SMR)の導入に向け、「ウクライナ科学技術センター(STCU)」が実施予定の分析調査に技術支援金を提供すると発表した。SMR技術の活用はウクライナで初となることから、同国では導入を可能とするため規制体制の包括的な分析調査を計画。この作業を支援するのが支援金の目的であり、USTDAはSMR建設を通じてウクライナのエネルギー部門の脱炭素化に貢献したいとしている。USTDAの使命は、発展途上国や中所得国における開発プロジェクトに米国民間部門の参加を促すこと。ルーマニアにおけるニュースケール社製SMRの建設構想に対してはすでに今年1月、同様の技術支援金約128万ドルをルーマニア国営の原子力発電会社に交付している。ウクライナの民生用原子力発電公社であるエネルゴアトム社は今年9月、国内でニュースケール社製SMRを建設する可能性を探るため、ニュースケール社と覚書を締結した。同設計の安全性に関しては、ニュースケール社が作成した安全解析報告書(SAR)をウクライナの国立原子力放射線安全科学技術センター(SSTC NRS)が独自に審査することになっており、米エネルギー省(DOE)は今年11月、その審査に必要となる経費の提供を申し出ている。USTDAによる今回の発表は、DOEのこのような支援提案に続くもので、同国の国家原子力規制検査庁(SNRIU)はウクライナでのSMR活用に向けて規制体制を整備する。実際の分析調査は、旧ソビエト諸国の核兵器や生物・化学兵器等の拡散防止を目的とした政府間組織であるSTCUが担当するため、USTDAの支援金はSTCUに提供される。ウクライナの国家エネルギー戦略では、再生可能エネルギーと原子力発電の設備容量拡大を目指しているため、USTDAは分析調査への技術支援を通じてこの戦略を補完していく方針。同調査では、ニュースケール社製SMRの設計をウクライナの規制諸法令、および国際原子力機関(IAEA)の基準などと比較し、ウクライナでの建設を阻むような規制上の不備が見つかれば、必要に応じて規制改革など不備の是正に向けた勧告が行われる。USTDAのV.トゥンマラパリー長官代行は、「CO2排出量の実質ゼロ化に向けて世界が移行していくのを、USTDAはSMRのように画期的かつ革新的な技術開発で加速していく」と表明。「米国の技術を使って、ウクライナ国民に将来、一層クリーンで確実なエネルギーをもたらしたい」との抱負を述べた。SNRIUのH.プラチコフ長官は、ウクライナ原子力規制当局の能力強化に対する米国政府の支援に謝意を表明。その上で、「今回の分析調査によりウクライナの法令が改善され、SMRの建設に繋がることを期待する」としている。(参照資料:USTDA、ニュースケール社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの12月17日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 21 Dec 2021
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フメルニツキ原子力発電所へのAP1000建設で契約 ウクライナ
ウクライナの民生用原子力発電公社であるエネルゴアトム社と米ウェスチングハウス(WH)社は11月22日、ウクライナのフメルニツキ原子力発電所における最初のAP1000建設に向け、同国の首都キエフで契約を締結したと発表した。WH社側の発表によると同社はこの契約に基づき、同発電所のAP1000初号機用に長納期の機器を設計・調達する予定だが、エネルゴアトム社側は「同発電所で原子炉を2基新設するため」と説明している。両社は今年8月、ウクライナ国内で複数のAP1000を建設していく内容の独占契約を締結しており、その際、フメルニツキ発電所で建設工事が中断している3、4号機(各100万kWのロシア型PWR:VVER)(K3/K4)のうち、進捗率が28%のK4をAP1000に変更すると明言。このほか、その他の発電所に含めてさらに4基のAP1000を建設すると表明していた。10月になるとエネルゴアトム社は、フメルニツキ発電所でAP1000を採用した最初の原子炉を今年の年末、あるいは来年始めに着工すると発表しており、WH社が指摘したAP1000初号機はK4になると見られている。今回の契約の締結式典では、ウクライナのエネルギー大臣とウクライナ駐在米国大使代理の立ち会いの下、エネルゴアトム社の実質トップであるP.コティン総裁代理とWH社のP.フラグマン社長兼CEOが契約書に署名した。コティン総裁代理によると、「WH社との契約でウクライナの原子力部門は新たな開発局面に入った。」ウクライナでは、旧ソ連時代に着工したVVERが15基(合計出力約1,380万kW)稼働中だが、このうち11基では高経年化が進んでいる。同国の総発電量のうち約半分を原子力発電所で賄っていることから、同総裁代理は「2040年までに国内の原子力発電設備を2,400万kWに拡大することを目指している」と表明。同社の専門家が現在、国際的なパートナーからの支援を得ながらこれに向けた努力を重ねていると説明した。同総裁代理はまた、「新たな原子炉の建設はウクライナのエネルギー自給にとって非常に重要であるだけでなく、これらを通じて当社は欧州を脱炭素化に導く原動力にもなるつもりだ」と強調。米国企業との協力を通じて、エネルゴアトム社がクリーンで廉価なエネルギーの供給に移行する準備はできているとした。一方、WH社の発表によると、第3世代+(プラス)の原子炉設計であるAP1000は、受動的安全システムをフルに備えるほか、操作性も高く、負荷追従運転など柔軟な運転が容易だ。AP1000設計の建設は、エネルゴアトム社とウクライナに持続可能な経済的恩恵をもたらすとともに、各原子炉の建設と運転を通じて技術を国産化する機会も提供することができる。同社のP.フラグマン社長兼CEOは、「最初のAP1000建設に向けた今回の契約により、ウクライナは脱炭素化とエネルギーの安定供給という目標の達成に一歩近づいた」と指摘。WH社はすでにウクライナで稼働する原子炉の約半分に燃料を供給しているが、これらのVVERは高経年化しているため、新たな原子炉の建設が必要である。「当社としてはエネルゴアトム社への協力を継続し、低炭素なエネルギー技術の開発や原子力発電所における高い安全性の維持で貢献していきたい」としている。(参照資料:エネルゴアトム社、WH社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月22日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 24 Nov 2021
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ウクライナのフメルニツキ3号機の完成に向け実務作業が開始
ウクライナの原子力発電公社であるエネルゴアトム社は11月8日、建設工事が停止しているフメルニツキ原子力発電所3号機(100万kWのロシア型PWR=VVER)(K3)の完成に向け、ウェスチングハウス(WH)社のエンジニア・チームが7日に詳細点検などの実務作業を行うため、視察に訪れたと発表した。エネルゴアトム社とWH社は今年の8月末、同発電所で同じく建設工事が停止中の4号機(100万kWのVVER)(K4)にWH社製AP1000設計を採用して完成させ、さらに4基のAP1000をウクライナで建設するという内容の独占契約を締結した。K4についてはすでに10月、米国で建設工事が中止されたV.C.サマー原子力発電所向けの製造済みの機器・設備を活用する可能性も含め、具体的な作業が今年の年末から年始までに開始される見通しである。K3に関しては、VVER設計を採用した最初の建設工事が1985年9月に始まり、作業が停止した1990年時点の建設進捗率は75%に到達。このため、WH社で商業活動を担当するE.ギデオン上級副社長による12名のエンジニア・チームは、同炉の建設計画遂行での設計面その他の(技術的)懸念事項を特定・分析した上で、完成に向けた可能性を探り、具体的な方策を定める方針である。今回、WH社チームはエネルゴアトム社の実質トップであるP.コティン総裁代理とともに、K3の機器・設備の保管状態と冷却水供給池の状態を視察した。その後は、フメルニツキ原子力発電所とエネルゴアトム社の経営幹部や地元選出の議員、市長らを交えた実務会議に出席。この席で両者は、K3の準備状況に関する予備的評価の結果を審査、K3で新たな建設工事を実施する可能性と、その重要性を認識したとしている。WH社のギデオン上級副社長によると、米国と欧州の両方から派遣されたエンジニア・チームは今後、エネルゴアトム社との協力により建設サイトの詳細な点検調査と情報交換を実施する。米輸出入銀行(US EXIM)を始めとする金融機関とは、プロジェクトの資金調達問題について協議を行っており、短期間のうちにこの件で複数の合意文書に調印したいと考えていることを明らかにした。一方、エネルゴアトム社のコティン総裁代理は、建設工事に先立つ諸活動が早いペースで進展している事実に言及。今回の件については、「新たな原子力設備を建設する実質的な作業が始まった」と評価しており、そうした活動のすべてが質の高いものである点に非常に満足していると述べた。同総裁代理によると、「越境環境影響評価条約(エスポー条約)」に関わる諸手続きはすでに完了しており、環境省からはこの建設計画への肯定的評価が得られている。政府に対してはK3とK4両方の完成に向けた素案を提出済みであり、最高議会からも承認が得られるよう、近いうちに提案を行う考えを明らかにしている。(参照資料:エネルゴアトム社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月9日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 12 Nov 2021
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ウクライナ、年末から来年にかけWH社製AP1000の建設を開始
フメルニツキ原子力発電所©Energoatomウクライナの原子力発電公社であるエネルゴアトム社は10月20日、ウェスチングハウス(WH)社製AP1000技術を使った最初の原子炉建設を年末、あるいは来年の年始に開始するとの見通しを明らかにした。エネルゴアトム社は今年8月、国内で複数のAP1000を建設していくため、WH社と独占契約を締結している。同社が今回、AP1000設計の「試験ユニット」と表現したこの原子炉は、「フメルニツキ原子力発電所内で建設」としていることから、建設工事が28%で停止中の4号機(K4)(100万kWのロシア型PWR=VVER)の完成工事になると見られている。この工事について、ウクライナは近いうちに、政府間協定も含め複数の関係協定を米国と結ぶ予定。この計画ではまた、米国で2017年に建設計画が頓挫したV.C.サマー2、3号機(各110万kWのPWR)用の機器・設備を活用する可能性があると、エネルゴアトム社は今年9月に発表している。WH社と独占契約を締結した際、エネルゴアトム社はK4に加えて、さらに4基のAP1000を建設すると表明しており、これらの総工費は約300億ドルになるとの見方を示した。資金は主に米輸出入銀行(US EXIM)からの借り入れで調達するが、機器類の約60%は国内企業から購入する方針である。今回明らかにされたK4建設の見通しは、同社が今月20日から22日にかけて開催中の「第1回・ウクライナ天然ガス投資会議(UGIC)」で、同社のP.コティン総裁代理が「ウクライナにおける原子力産業の開発戦略」として述べたもの。この会議は、ウクライナのエネルギー部門に諸外国からの投資を呼び込み、ウクライナ経済のさらなる発展を促すことが目的である。コティン総裁代理はまず、「我々のエネルギー部門には幅広い開発ポテンシャルがあり、低炭素な発電に関しては特にポテンシャルが大きい」とした。同総裁代理によると、世界では①2050年までにエネルギー消費量が1.5~2倍に増加、②温室効果ガスの排出量削減のため大規模な脱炭素化が必要――という傾向が見られることから、ウクライナでは輸送や産業部門の全面的な「電化」を計画している。エネルゴアトム社はウクライナで唯一の原子力発電事業者であるため、明確な戦略に従って原子力発電設備を開発し、旧ソ連時代に着工したVVERを刷新していく方針。WH社との戦略的な契約の締結も、この流れに沿ったものであるとの認識を示唆している。エネルゴアトム社はまた、原子力発電所を使った水素製造も検討中である。コティン総裁代理は、「原子力発電所ではベースロード運転が行われているが、電力需要が下がれば原子力発電所の電力で水素を製造できるし、需要が戻った時点で電気分解を止めればいい」と指摘した。このようなアプローチの下で、エネルゴアトム社は収益源の多様化を図るとともに、原子力発電所で柔軟性の高い運転を行い、その余剰電力を有効に活用。電気分解による水素製造はクリーンエネルギーへの移行を後押しするだけでなく、欧州連合(EU)が2020年7月に発表した(脱炭素化に貢献する)「欧州水素戦略」を実行することにもなるとしている。(参照資料:エネルゴアトム社の発表資料(ウクライナ語)、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月21日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 22 Oct 2021
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ウクライナ、複数のAP1000建設に向けWH社と独占契約
ウクライナの原子力発電公社であるエネルゴアトム社は8月31日、国内で複数の原子力発電所で「AP1000」を建設していくため、同設計を開発した米国のウェスチングハウス(WH)社と独占契約を締結したと発表した。この契約で、エネルゴアトム社は具体的に、建設進捗率28%で工事が停止しているフメルニツキ原子力発電所4号機(100万kWのロシア型PWR=VVER)にAP1000を採用するなどして、その完成計画にWH社の参加を促す方針。また、その他の原子力発電所も含めてさらに4基のAP1000を建設するとしており、これらの総工費は約300億ドルになるとの見通しを示した。契約の調印式は、米ワシントンD.C.にあるエネルギー省(DOE)の本部で開催された。ウクライナのV.ゼレンスキー大統領が立ち会い、エネルゴアトム社のP.コティン総裁代理とWH社のP.フラグマン社長兼CEOが契約書に署名。DOEのJ.グランホルム長官とウクライナ・エネルギー省のG.ハルシチェンコ大臣も出席した。エネルゴアトム社の発表によると、同社はウクライナ政府の長期目標達成に向けてWH社のAP1000技術を選択した。今回の契約により、同社はクリーンで信頼性が高く、コスト面の効果も高い原子力発電を活用し、同国の脱炭素化達成につなげたいとしている。ウクライナでは2017年8月、P.ポロシェンコ前大統領の内閣が「2035年までのエネルギー戦略」を承認しており、総発電量に占める原子力の現在のシェア約50%を2035年まで維持していくと明記。現職のV.ゼレンスキー大統領も2020年10月、「このエネルギー戦略を実行に移すため、政府は今後も原子力発電を擁護し、その拡大を支援していく」と表明している。また、同国で稼働する全15基のVVERはすべて、旧ソ連時代に着工したもの。このためウクライナの規制当局は、経年化が進んだ11基で順次運転期間の延長手続を進めるなど、原子力発電設備の維持に努めている。エネルゴアトム社のコティン総裁代理は今回の契約について、「AP1000は実証済みの技術を採用した第3世代+(プラス)の110万kW級原子炉であり、モジュール方式の設計を標準化することで建設期間やコストの縮減が可能と聞く。また、完全に受動的な安全系を装備するなど優れた特長を持っている」などと説明。AP1000設計を長期的に活用していくことで、エネルゴアトム社では最高レベルの安全性と高い信頼性を備えた、環境にも優しい革新的な原子力発電所の運転が可能になるとしている。WH社のフラグマン社長兼CEOは、「ウクライナで稼働する既存の原子力発電所を支援するため、当社はすでに燃料その他のサービスを提供中だ。今回の契約により、当社とエネルゴアトム社の長年にわたる連携は一層強化される」と表明。同社の原子炉技術を使って、ウクライナの将来を低炭素なエネルギー社会に近づける重要な一歩になるとの認識を示した。同CEOはまた、「AP1000は米原子力規制委員会(NRC)の認可を受けた第3世代+の原子炉の1つ」と指摘。欧州やアジアなど米国以外の国々でも認可されており、中国ではすでに運転中の4基のAP1000が良好な実績を残していると述べた。さらには、米国のボーグル原子力発電所で建設中の2基が完成間近くなっており、インドでは6基の建設プロジェクトへの採用が決まるなど、AP1000は中・東欧も含めた世界中で建設が検討されていると強調した。(参照資料:WH社、エネルゴアトム社(ウクライナ語)の発表資料、原産新聞・海外ニュース、ほか)
- 01 Sep 2021
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ウクライナのエネルギー協会、政府に原子力産業の発展促進を勧告へ
ウクライナ・エネルギー協会(UEA)は10月22日、国内原子力産業界の今後の開発方向に関する円卓会議において、国家経済やエネルギー供給保証の要である原子力産業が将来的にもこれらの役割を担い続けられるよう、政府に支援を勧告することで合意した(=写真)。同協会は、ウクライナの民生用原子力発電公社や石油製品企業、関連投資会社などで構成されるエネルギー業界団体。今後、原子力産業界が新型コロナウイルスの感染拡大といった危機を乗り越え、さらなる発展を遂げるためのアクション計画を策定するよう、ウクライナ政府とエネルギー省に宛てた嘆願書を作成する方針である。今回の円卓会議には、UEA幹部のほかに同国の国家原子力規制検査庁(SNRC)や民生用原子力発電公社のエネルゴアトム社、およびその他の科学関係機関から代表者が出席したほか、関係するトレーダーや専門家、分析家も参加した。主な議題は新たな電力市場とその課題、発展の見通しといった条件の中で、ウクライナ原子力産業界の現状を分析すること。また、エネルゴアトム社における今後の開発や計画の方向性と投資プロジェクト、関係法規制を改正する必要性についても話し合われた。最終的な議論の総括として、参加者全員は以下の点で合意した。すなわち、・原子力はエネルギー供給保証の要であるとともに、国家経済の発展を保証するため、将来的にもその役割を担い続ける。・原子力産業を維持・発展させる方策や重点分野を特定するため、戦略文書を取りまとめる必要がある。・エネルゴアトム社の財務体質を健全な状態に回復させることは、新型コロナウイルスによる感染の世界的拡大という状況の中、国の経済や産業の維持に向けた最も重要な任務の一つである。・エネルゴアトム社が公平な条件で、電力市場への参加が可能になるメカニズムを確保するには法改正が必要である。ウクライナは1986年のチェルノブイリ事故直後、新規の原子力発電所建設工事を中断したが、国内の電力不足と原子力に対する国民感情の回復を受けて1993年にこのモラトリアムを撤回した。近年はクリミアの帰属問題や天然ガス紛争等により旧宗主国であるロシアとの関係が悪化したが、P.ポロシェンコ前大統領は「ロシアからの輸入天然ガスがなくても切り抜けられたのは原子力のお蔭」と明言。「原子力による発電シェアが約60%に増大した過去4~5年間はとりわけ、原子力発電所が国家のエネルギー供給保証と供給源の多様化に大きく貢献した」と述べた。また、ウクライナ内閣は2017年8月に承認した「2035年までのエネルギー戦略」の中で、原子力は2035年までに総発電量の50%を供給していく目標を明記。2019年5月に就任したV.ゼレンスキー大統領は、前政権のこの戦略を実行に移すため、原子力発電開発のための長期プログラムの策定を命じた。さらに、今年9月には「エネルギー部門の状況の安定化と原子力発電のさらなる開発に向けた緊急方策のための大統領令」を公布している。(参照資料:UEAの発表資料(ウクライナ語)、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月28日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 29 Oct 2020
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ウクライナ大統領、原子力発電拡大への支援を約束
ウクライナの民生用原子力発電公社であるエネルゴアトム社は10月1日、同国のV.ゼレンスキー大統領が同社のロブノ原子力発電所が立地する地域を訪れ、「ウクライナ政府は今後も原子力発電を擁護しその拡大を支援していく」と明確に表明したことを明らかにした。これは大統領が現地メディアとの会見の場で述べたもので、建設工事が中断しているフメルニツキ原子力発電所3、4号機(各100万kWのロシア型PWR)の今後に関する質問に対して、同大統領は「我が国には原子力発電開発と原子力発電所の完成に向けた確固たる戦略がある」と回答した。「両機を完成させた後はロブノ地域についても原子力発電所の建設を検討するし、これらは必ず実行する」と明言。その上で、「いずれにせよ、ウクライナではすでに原子力で総発電量の半分以上を賄っているし顧客が負担する電気代も最も安い」などと指摘した。同大統領はまた、原子力には潜在的な危険性があるとの非難に対し、「根拠のない非難だ。専門の業者が原子力発電所を建設し国家がその安全性確保のために働けば、自然環境への悪影響や地球温暖化を懸念することもなくなる」と説明。「原子力は安全な発電技術である」との認識を改めて強調している。同大統領はこれに先立つ9月22日、「エネルギー部門の状況の安定化と原子力発電のさらなる開発に向けた緊急方策のための大統領令」を公布しており、この中でフメルニツキ3、4号機を完成させるための法案を2か月以内に議会に提出するよう内閣に指示した。また、2017年にP.ポロシェンコ前大統領時代の内閣が承認した「2035年までのエネルギー戦略:安全性とエネルギー効率および競争力」を実行に移すため、原子力発電開発のための長期プログラムを策定することも命じている。ウクライナではまた、公共の利益を守るために電力市場の参加者が公共部門の特殊な義務事項を履行した結果、電気事業者に負債が生じる事態となっていた。このため、同大統領令は内閣に対して返済のための包括的な対策を取るよう命令。さらに、エネルゴアトム社を含む電気事業者に今後、同様の負債が生じることを防ぐため、内閣にはあらゆる手段を講じることを指示していた。旧ソ連邦時代の1986年、国内でチェルノブイリ原子力発電所事故が発生した後、ウクライナは1990年にフメルニツキ3、4号機の進捗率がそれぞれ75%と28%の段階で建設工事を停止した。しかし、国内の電力不足と原子力に対する国民の不安が改善されたことを受けて、同国政府は2008年に両炉を完成させる方針を決定している。(参照資料:エネルゴアトム社の発表資料と大統領令(ウクライナ語)、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月5日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 06 Oct 2020
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ウクライナで建設工事停止中の2基の完成に向けWH社が支援提供を提案
ウクライナの原子力発電公社であるエネルゴアトム社の9月7日付け発表によると、同国西部のフメルニツキ原子力発電所で建設工事が中断している3、4号機(K3/K4)(各100万kW級のロシア型PWR)の完成に向け、ウェスチングハウス(WH)社が支援提供する可能性が出てきた。今月3日と4日の両日、ウエスチングハウス・エレクトリック・スウェーデン社のA.ダグ社長はウクライナの首都キエフにあるエネルゴアトム社を訪問した。ウエスチングハウス社はウクライナの原子力発電所に原子燃料等の供給を行っており、両社間のそうした協力関係を一層強化するための協議をP.コティン総裁代理と行ったもの。その際、同社長はK3/K4の建設計画に関して「燃料を供給するだけでなく、自動プロセス制御システム(APCS)やその他の機器を提供する用意がある」と明言、同社は原則的に、エネルゴアトム社が同計画で必要とするすべてのことに対応可能だと表明している。K3の建設工事は1985年9月に、K4は1986年6月に始まったものの、チェルノブイリ事故の発生により建設工事は1990年に進捗率がそれぞれ75%と28%の段階で停止した。しかし、国内の電力不足と原子力に対する国民の不安が改善されたことを受けて、ウクライナ政府は2008年に両炉を完成させるための国際入札を実施。資金援助を条件に、ロシアのアトムストロイエクスポルト社を選定した。その後、政府に対する抗議活動が頻発するようになり、2014年に親ロシア派のV.ヤヌコビッチ政権が崩壊。クリミア半島の帰属問題や天然ガス紛争の発生によりロシアとの関係が悪化していき、A.ヤツェニュク首相は2015年、ロシアへのエネルギー依存を軽減するためK3/K4建設計画でロシアと結んだ協定の取り消しを決めた。2016年9月になるとエネルゴアトム社が、韓国水力・原子力会社(KHNP)との協力により両炉を完成させると発表する一方、機器のサプライヤーとしては欧州企業を検討中であることを同年11月に明らかにしていた。WH社がウクライナの原子力市場に参入したのは1994年のことで、同社は現在、ウクライナで稼働する商業炉15基のうち6基に対して核燃料を供給中。このうち3基は、全炉心に同社製の燃料集合体が装荷されており、WHスウェーデン社のダグ社長は今回、「2025年までに当社製の燃料のみで稼働する原子炉の基数はさらに増える」と述べている。ダグ社長はまた、燃料の供給以外にもWHスウェーデン社がエネルゴアトム社に協力できる分野は数多く存在すると考えており、その中でもとりわけ有望なのがK3/K4建設計画。同社長は「世界の一般的なエネルギー業界にとっても、またウクライナの将来的なエネルギー・ミックスの中でも特に、原子力が重要な要素であり続けることは間違いない」と指摘した。ただし、ウクライナの原子力発電所では経年化が次第に進んでいるため、「ウクライナで今後も原子力発電を維持できるよう、十分な準備期間の確保が必要なことを肝に銘じておかねばならないし、発電設備の更新は今、直ちに取り組まねばならない問題だ」と強調している。(参照資料:エネルゴアトム社の発表資料(ロシア語)、原産新聞・海外ニュース、ほか)
- 11 Sep 2020
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ウクライナ、3発電所の使用済燃料の集中中間貯蔵施設を9月末までに完成へ
ウクライナの民生用原子力発電公社であるエネルゴアトム社は5月18日、国内で稼働する3つの原子力発電所の使用済燃料を集中的に中間貯蔵する施設(CSFSF)について、すべての建設工事と機器の設置作業を9月末までに完了すると発表した。当初計画より約半年遅れと見られているが、同社はこれにより、年内にもCSFSFで最初の使用済燃料の受入れを目指す方針である。同国では、閉鎖済みのチェルノブイリ原子力発電所と稼働中のザポロジエ原子力発電所でそれぞれ、専用の使用済燃料中間貯蔵施設を建設中あるいは使用中。残りのロブノ、南ウクライナ、フメルニツキの3原子力発電所については、チェルノブイリ発電所の南東に位置する「立ち入り禁止区域」内で使用済燃料を乾式貯蔵することになっている。エネルゴアトム社は2005年に米国のホルテック・インターナショナル社とCSFSFの建設契約を交わしたが、 政治情勢の変化などを含むいくつか理由により、作業は長期にわたって凍結された。両社は2014年6月に改めて修正契約に調印しており、現地で実際の建設工事が始まったのは2017年11月のことである。CSFSFではホルテック社製のHI-STORMキャニスター458台に使用済核燃料集合体を16,529体貯蔵することが可能であり、2重のバリア・システムによってこれを100年間、周辺環境から安全に隔離。3つの原子力発電所の使用済燃料はこれまで、年間最大2億ドルを支払ってロシアに移送・再処理していたが、CSFSFが操業開始することでエネルゴアトム社はその年に最大1億ドル、その後は年間で最大1億4,000万ドルを節約できるとしている。同社の今回の方針は、今月15日に「立ち入り禁止区域」で現場会合を開催した後、P.コティン総裁代理が同社の関係部門や契約企業に対して表明したもの。作業ペースを上げるため、同総裁代理は機器や重要システムの設置作業を引き続き監督するシステムの導入を決めた。また、現場会合では使用済燃料の輸送に使う現地の廃線鉄道区間の早急な復旧を求める意見が出されたが、政府のロードマップどおりに復旧を進めるには樹木の伐採経費等を調達する必要があり、使用済燃料がCSFSFに到達するまでの輸送関係経費をウクライナの契約企業の一つがすべて負担することになった。さらに現地では、4月に発生した火災や3月に新型コロナウイルス対策で都市封鎖が行われたことにより作業ペースが鈍化。エネルゴアトム社が建設工事の完了とCSFSFの操業開始を目指して作業員の数を徐々に増強する一方、3つの原子力発電所ではすでに、使用済燃料をCSFSFに移送する準備を開始している。(参照資料:エネルゴアトム社の発表資料(ロシア語)、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの5月21日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 22 May 2020
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ウクライナ、国内でのSMR建設に向けホルテック社に続きニュースケール社とも覚書
ウクライナの国立原子力放射線安全科学技術センター(SSTC NRS)は2月14日、国内で米ニュースケール・パワー社製の小型モジュール炉(SMR)「ニュースケール・パワー・モジュール(NPM)」(=断面図)を建設・運転する際の規制上、設計上の課題を評価するため、同社と了解覚書を締結したと発表した。 覚書の調印式は今年1月、ニュースケール社の事務所があるオレゴン州コーバリスで行われており、これには両者の代表者に加えて米国務省やエネルギー省(DOE)、ウクライナの国家原子力規制検査庁(SNRIU)の代表者らが参加した。ウクライナはすでに2018年3月、国内で米ホルテック・インターナショナル社製SMRの建設計画を進めつつ同技術の一部国産化を目指すため、ウクライナの原子力発電公社(エネルゴアトム社)がホルテック社との協力覚書に調印。2019年1月には、これらにSSTC NRSを交えた3者が国際企業連合を正式に結成し、国内でSMRの建設計画を促進している。 ただし、ホルテック社のSMRは今の所、米国内の設計認証(DC)手続が正式に始まっていない。これに対してニュースケール社製のSMRは、米原子力規制委員会(NRC)がSMRに関して唯一実施している全6段階の設計認証審査のフェーズ4まで終了。すでにカナダやヨルダン、チェコ、ルーマニアで同社製SMRの建設可能性調査に関する覚書が結ばれているほか、2020年代半ばには米国初のSMRとしてDOE傘下のアイダホ国立研究所内での運転開始が見込まれている。 今回の覚書によりSSTC NRSは具体的に、米国で行われているニュースケール社製SMRのDC審査経験に基づき、ウクライナの建設・運転許認可プロセスにおける米国との隔たりについて分析・調査を実施する。SSTC NRSはウクライナでSNRIUが新たな原子力技術を審査・承認する際、主要アドバイザーとして機能している。SNRIUが原子力安全の基準や規制・規則に対するコンプライアンスを確認し、データ分析や報告を行うにあたり、独立の立場の評価結果や技術的助言をSNRIUに提示していることから、SSTC NRSは同覚書を通じてSMR技術がウクライナのエネルギー需要を満たす上でどれほど有効であるかなど、関連する様々な疑問に答える一助になると指摘。評価結果をSMRの許認可プロセスに統合して、国内での将来的な建設につなげたいと述べた。 ニュースケール社も「SSTC NRSは経験豊富かつ評判の高い科学技術支援組織」と評価した上で、「当社のSMR技術をウクライナの将来エネルギーに組み込む最良の方法を探し出してくれるはずだ」とコメント。ウクライナとの覚書は、同社がSMR技術の開発リーダーであるとともに技術革新企業であることを示しており、今後も潜在的顧客となり得る世界中の組織と同様の合意を得るべく協議を続けていきたいとしている。(参照資料:ニュースケール社、SSTC NRS(ウクライナ語)の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの2月17日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 19 Feb 2020
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