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カナダのオイルサンド業界、CO2排出量の実質ゼロ化に向けSMRの活用を検討
カナダのオイルサンドの90%を生産する同国の大手生産企業5社は6月9日、生産時に発生するCO2を2050年までに実質ゼロにすることを目指し、小型モジュール炉(SMR)の活用・検討を含めた戦略構想を実行に移すと発表した。この構想を団結して進める枠組みとして、アルバータ州を本拠地とするCanadian Natural Resources社とCenovus Energy社、Imperial社、MEG Energy社、およびSuncor Energy社の5社は企業連合を形成。カナダがパリ協定で誓約した「2050年までのCO2実質ゼロ化」等も達成できるよう、連邦政府やアルバータ州政府とも協力していく考えである。同構想は、これら2つの政府がCO2排出量の削減に向けた計画やインフラの支援で重要プログラムを発表したのに続いて公表されており、両者がそれぞれの構想と地球温暖化の防止目標を達成するには、産業界と政府の協力が重要との認識を強調している。今回の構想はCO2の回収・利用・貯留(CCUS)を基本の方策としているが、これら5社は、地球温暖化の防止で「現実的かつ有効な」方策実現への堅い決意を表明。オイルサンド業界が排出する温室効果ガスが非常に多いことから、今後30年以上にわたりオイルサンドの生産関連でカナダのGDPに対して3兆カナダドル(約267兆円)の貢献をしつつ、CO2の削減で直ちに利用可能な方策を模索していく。5社はまた、この構想によってクリーンエネルギー部門の技術開発を促進し、関係雇用を創出すると指摘。その他の複数の部門にも利益をもたらすとともに、カナダ国民の生活の質向上に資するよう支援する。オイルサンド業界でCO2の排出量と吸収量を同レベルにすることを促すだけでなく、それによって各社の株主たちにも長期的利益を配分できるよう投資を行う。今回の発表によると、CO2排出量を削減する方策はただ一つではないため、参加企業は複数方策の並行的実施を構想に盛り込んでいる。その一つは、SMRや次世代のCO2回収技術、大気中からCO2を直接回収してCO2の量を減らす技術など、潜在的な可能性がある新技術について評価を行い、試験的な運用や適用を加速することである。また、アルバータ州で建設が計画されているインフラ道路を、州内のオイルサンド施設から近隣のCO2貯留ハブにつなぐことも検討する。さらに、このインフラ道路と並行して、CCUSやクリーン水素、エネルギー生産・使用の効率化、燃料転換など、新旧様々なCO2削減技術をオイルサンドの生産施設に設置することを挙げている。カナダでは2019年12月、オンタリオ州とニューブランズウィック州、およびサスカチュワン州の3州が、国内での多目的SMRの開発・建設に向けて協力覚書を締結。アルバータ州は今年4月に、この覚書に加わったことを明らかにしている。(参照資料:加オイルサンド企業連合の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月11日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 18 Jun 2021
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カナダ、原子力が水素製造支援で果たす役割を調査
カナダで、原子力を用いた水素製造の実行可能性調査が行われることになった。これはオンタリオ州を拠点とするNPO団体「原子力イノベーション協会(NII)」が、ブルース・パワー(BP)社、グリーンフィールド・グローバル社の支援の下、同国の設計・エンジニアリング企業であるアルカディス(Arcadis)社を中心に進めるもので、石油経済から脱却し、環境に優しい代替エネルギーである水素を基盤にした社会の実現に向けて、CO2を排出しない原子力発電の技術面の実行可能性と投資対効果を評価する。水素はCO2排出量の実質ゼロ化を目指すうえで重要な役割を担う。このためNIIは2020年8月、水素や小型モジュール炉(SMR)、核融合等の将来像を研究する目的で、シンクタンク「次世代原子力のためのブルース・パワー・センター」をオンタリオ州ブルース郡に設置。同シンクタンクでこれまで実施してきたオンタリオ州内における水素製造の可能性とその活用に関する研究を、今後も継続的に実施していく。水素は様々な用途に使えるクリーンエネルギーとして、今後ますます重要になるとみられており、今回の取り組みで水素技術の経済性を実証し、技術面の実行可能性を評価。これらを通じて、急速に進む水素経済への移行準備を整える考えだ。この調査はまた、水素製造が地元社会にもたらす恩恵等を探るため過去に実施した調査プロジェクトに基づき進められる。具体的な恩恵としてNIIは、新たな輸出の機会や地元ベンダー間の取引、高サラリーの雇用の創出などを挙げた。このような調査は、地元の自治体や連邦政府がそれぞれの水素戦略を実行する際も大いに役立つはずだと強調している。NIIによると、BP社を始め沢山の原子力関係企業が所在するオンタリオ州ブルース郡は、エネルギー関係の専門的知見や天然資源、地理的位置などの点から、水素経済を進展させるのに有利な状況にあるという。このため今回の調査は、「官民が協力しCO2排出量実質ゼロを目指すエリア」という同郡の評判をさらに高めることになる。NIIシンクタンクのD.キャンベル所長は、「(2014年に州内の石炭火力発電所の全廃に成功した)オンタリオ州が、地元経済の脱炭素化を一層進展させる上で必要なクリーン水素を、原子力でどのように供給していくか今回の調査プロジェクトで解き明かすことになる」と指摘した。また、ブルース郡で8基を運転するBP社のM.レンチェック社長兼CEOは、「オンタリオ州は原子力を用いることで、エネルギー分野の大規模な脱炭素化に成功した」と強調。その上で、「さらなる技術革新に向けて新たな投資を呼び込み、水素の製造・利用によってオンタリオ州経済の他部門でも脱炭素化を進めるうえで、脱炭素化された電力システムの持つ優位性を活用できる」と指摘している。(参照資料:NIIの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月11日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 14 Jun 2021
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英モルテックス社のSMR、カナダのベンダー審査で第1段階をクリア
英国ロンドンに拠点を置くモルテックス・エナジー社は5月25日、同社製の小型モジュール炉(SMR)が、カナダ原子力安全委員会(CNSC)の「許認可申請前設計審査(ベンダー設計審査:VDR)」の第1段階を完了したと発表した。モルテックス社は原子炉の開発企業で、現在出力30万kWの「燃料ピン型溶融塩炉(Stable Salt Reactor-Wasteburner: SSR-W)」を開発中。カナダ東部のニューブランズウィック(NB)州政府は2018年7月、同設計の商業規模の実証炉を2030年までに、州内のポイントルプロー原子力発電所敷地内で建設する計画を公表している。VDR第1段階の完了は、この計画の実行に向けた大きな一歩になったとモルテックス社のR.オサリバン北米担当CEOは表明。「当社の技術が適切な方向に進んでいることの証であり、現在の顧客のみならず将来の顧客からも、当社の先進的原子炉設計に一層の信頼を置いてもらうことができる」とした。NB州のM.ホーランド天然資源・エネルギー相も、「重要な節目をクリアしたモルテックス社が残りのVDR審査を着実にクリアすることを期待する」と述べた。VDRは、当該設計を採用した建設・運転許可の取得で事業者が正式な申請手続きを開始するのに先立ち、その設計がカナダの規制要件を満たしているか、メーカー側の要請に基づいてCNSCが実施する全3段階の評価審査。法的に有効な設計認証や関係認可が得られるわけではないが、カナダの規制要件に対する一般的な初期フィードバックが得られるほか、技術面の潜在的な課題を設計の早い段階で特定し解決策を探ることができる。モルテックス社によると、同社のSSR-Wは既存炉の使用済燃料を燃料として使用することができる。同社はこれにより、NB州やカナダ全体、世界においても放射性廃棄物の量を低減することが可能であり、将来的に使用済燃料を処分する際も、コスト面の削減効果が大きくて環境にも優しく、社会的受容が可能な解決策の一つになるとした。同設計はまた、日中の電力需要がピークになる時間帯に、出力を2倍、3倍に増強することが可能だとしている。2017年11月に開始したVDR第1段階の審査結果として、CSNCは「カナダの規制要件の意図を良く理解した設計であり、これらの要件を満たす確かな見込みがある」と結論付けた。ただし今後、追加の改善を要する点として、「モルテックス社の現行の管理システムでは、今後の設計活動を組織的にサポートできない」と指摘。また、同設計で使用する構造物・系統・機器(SSCs)の安全性の重要度区分が品質保証プログラムとリンクしておらず、VDRの第2段階では、これらを含む複数の課題が改善されたことを明示する必要があるとしている。(参照資料:モルテックス社、CNSCの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの5月26日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 27 May 2021
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「SMR技術でカナダが世界のリーダーに」とのFS結果
カナダのオンタリオ州、ニューブランズウィック(NB)州、サスカチュワン州の各首相は4月14日、3州の電気事業者が共同で実施した小型モジュール炉(SMR)開発の実行可能性調査(FS)の結果を公表した。SMR開発が同国の経済成長に大きく貢献すると結論づけている。また、アルバータ州は同日、これら3州が多目的SMRをカナダ国内で開発・建設するため、2019年12月に締結した協力覚書に加わったと表明。これら4州の首相は、地球温暖化とエネルギー需要への取り組み、および経済成長と技術革新を支援するクリーンエネルギー・オプションとして、SMR開発を協力して進めることで合意している。FSの結果報告書によると、出力30万kW以下のSMRはカナダのエネルギー需要を満たす一助となるだけでなく、温室効果ガスの排出量を削減し、SMR技術でカナダを世界のリーダーに押し上げることが期待される。また、既設の大容量送電網のみならず、遠隔地のコミュニティや資源開発プロジェクトで使用する小容量送電網にも組み込むことができると表明している。今回のFSは3州の協力覚書の一環として、各州の州営電力であるオンタリオ・パワー・ジェネレーション(OPG)社、ブルース・パワー(BP)社、NBパワー社、およびサスクパワー社が州政府の要請を受けて行った。これら3州ではすでに、複数のSMR開発プロジェクトが進められているが、FS報告書はそれらについて3州の州政府が考慮すべき方向性を以下のように提案している。①(オンタリオ州がダーリントン原子力発電所敷地内で進めているSMR計画について)送電網への接続が可能な出力30万kW程度のSMR初号機を2028年までに建設し、これに続くフェーズで最大4基のSMRの最初の一基を2032年までにサスカチュワン州内で完成させる。ここでは複数の地点で早急かつ効率的にSMRを建設できるよう、共通技術を1つに絞り込みSMR群を一まとめに建設する“フリート”アプローチを取る。これに向けて、OPG社とBP社、およびサスク社は協力して、2021年末までに採用技術と開発企業を選定する。②(NB州がポイントルプロー原子力発電所敷地内で進めているSMR計画については)第4世代の先進的SMR実証炉を2種類、建設する。NB州が協力関係を結んでいる2社のベンダーのうち、米ARCクリーン・エナジー社のナトリウム冷却・プール型高速中性子炉「ARC-100」の実証炉を2030年までに完成させる。また、英モルテックス・エナジー社の「燃料ピン型溶融塩炉(SSR-W)」と廃棄物リサイクル施設を2030年代初頭までに稼働可能にする。③遠隔地のコミュニティや鉱山で主に使用されているディーゼル発電機に代わって、超小型SMR(MMR)を導入する。このため、米ウルトラ・セーフ・ニュークリア社(USNC)が開発した電気出力0.5万kWの小型モジュール式高温ガス炉を、2026年までにオンタリオ州のカナダ原子力研究所チョークリバー・サイトで建設する。このMMRに関してはすでに2019年3月、USNC社のパートナー企業であるカナダのグローバル・ファースト・パワー(GFP)社がチョークリバー・サイトで実証炉を建設するため、サイト準備許可(LTPS)をカナダ原子力安全委員会に申請している。FS報告書によると、これら3つの方向性すべてで「カナダに新たな雇用を生み出し経済成長に貢献する」ことが期待できる。地球温暖化など地球規模の課題への取り組みにも資することから、SMR技術とその専門的知見を輸出できる可能性もあるとした。また、すべての方向性において技術面と商業面両方に実行可能性がある一方、重要な点は連邦政府とコストやリスクを共有することだとFS報告書は指摘。これらのSMR技術は、廉価なクリーンエネルギーを提供しつつカナダが2030年までに石炭火力を全廃し、2050年までにCO2排出量の実質ゼロ化を達成する一助になる。また、これらのSMRプロジェクトは原子力産業界の活動に新たなサブカテゴリ―を創出する。カナダは世界中のSMR建設で大きな役割を果たせる有利な立場にあるため、3つの方向性すべてが順調に進展するよう連邦政府からタイムリーな支援を確保することが重要になる。さらに、勧告事項としてFS報告書は、州政府が各州それぞれの経済優先事項や必要性に沿ったやり方で連邦政府と協力し、カナダのCO2排出量削減と経済成長を支援していくべきだとした。SMR開発で得られるビジネス機会を共有しながら、産業界と州政府、および連邦政府は協力してカナダ中で経済成長と雇用を促し、輸出も視野に入れた理想的な事業環境を創出、革新的エネルギー技術の開発を続けるべきだとしている。なお、アルバータ州が新たに加わった3州の協力覚書における次のアクションとして、4州の州政府は共同戦略計画案を策定するとしており、今春中に完成する見通しである。また、これら4州は原子力産業界全体との協力も継続し、原子力技術革新の最前線にカナダが留まれるよう力を合わせる方針。今後の経済成長や雇用の創出、技術革新、低炭素社会の構築に向けて、新たな機会を模索するとしている。(参照資料:オンタリオ州、NB州、サスカチュワン州、アルバータ州の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの4月15日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 16 Apr 2021
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カナダ連邦政府がNB州のSMR研究開発を支援
「SSR-W」の構造図©Moltexカナダの連邦政府は3月18日、東部のニューブランズウィック(NB)州が進めている小型モジュール炉(SMR)の技術研究開発を支援するため、総額5,600万カナダドル(約48億7,400万円)以上の資金供与を行うと発表した。その内訳は、NB州内で商業規模の実証炉建設が計画されている2つのSMR設計のうち、「燃料ピン型溶融塩炉(SSR-W)」を開発した英モルテックス・エナジー社に対して、「戦略的技術革新基金(SIF)」から4,750万加ドル(約41億3,600万円)、大西洋地域開発庁(ACOA)の「技術革新による地域経済成長(REGI)プログラム」から300万ドル(約2億6,000万円)を支出する。これに加えて、SMR実証炉の建設予定地であるポイントルプロー原子力発電所の準備資金として、同炉を所有する州営電力のNBパワー社に約500万加ドル(約4億3,500万円)、NB州内でSMR技術の開発研究を支援しているニューブランズウィック大学・原子力研究センターの能力を拡充するため約56万加ドル(約4,900万円)をACOAから提供する方針である。連邦政府の考えでは、これらの支援を通じてCO2排出量が削減され、カナダがクリーンな経済成長に移行するために役立てることが出来る。連邦政府の「技術革新と能力の増強計画」にも、高度な能力を持つ人材が育ち、将来的な経済成長と技術革新の主要要素となる新しい基盤技術の研究が進展。カナダのSMR技術開発、およびその長期的なビジョンを示した「SMRアクション計画」をも下支えすることになる。今回の決定について連邦政府のF.-P.シャンパーニュ技術革新・科学産業相は、「このような革新的技術の開発利用を連邦政府が支援することで、低炭素なエネルギー源の開発が促進され、世界のSMR開発におけるカナダのリーダーシップが確立される」と強調。「連邦政府は新型コロナウイルスによるパンデミック後の復興も含め、一層豊かで健全なカナダのために基盤を築かねばならないが、今回の資金援助は地球温暖化との戦いやパンデミック後のカナダ経済の安定性を取り戻す上で、重要な役割を担うことが期待される」と指摘した。NB州の「SSR-W」実証炉計画NB州政府が、モルテックス社製「SSR-W」の実証炉を2030年までにポイントルプロー原子力発電所のサイト内で建設すると表明したのは2018年7月のこと。同州政府によれば、先進的なSMR技術の開発は安全・確実かつクリーンで経済的な原子力エネルギーを開発する一助になる。また、エネルギー需要を満たすだけでなく、輸出の機会も得られるようなエネルギー・ソリューションの開発で、同州はカナダのリーダー的立場の確立を目指すとしている。モルテックス社の発表では、出力30万kWの「SSR-W」は既存炉の使用済燃料を低コストで新燃料に転換できるため、NB州内では将来、使用済燃料の処分問題に解決の道筋をつけることができる。同社はポイントルプロー発電所の敷地内でその商業規模の実証炉を建設するほかに、廃棄物を安定塩にリサイクルする施設「WAste To Stable Salt (WATSS)」の建設も計画。2030年初頭にもSMRを完成させて、無炭素な電力をカナダ国内に送りだしたいとしている。モルテックス社はまた、同設計の開発にSIF基金から4,750万加ドルが提供されるのを受けて、自らも同額の資金を拠出する方針である。これらを合計した金額で「SSR-W」と「WATSS」の設計を一層前進させ、カナダ原子力安全委員会が同設計について実施中の「許認可申請前設計審査(ベンダー設計審査)(VDR)」を第2フェーズに進めていく。ACOAからの300万加ドルもWATSS研究のさらなる促進に利用する方針で、このような技術の商業化が急速に進展すれば、カナダでは付加価値の高い数百人規模の雇用が創出される。これらの雇用は15年間で約10億加ドル(約870億円)の国内総生産(GDP)への寄与を生み出し、連邦政府に1億加ドル規模(約87億円)の歳入をもたらすと強調している。(参照資料:カナダ連邦政府、モルテックス・エナジー社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの3月18日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 19 Mar 2021
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カナダNB州、SMRの州内導入に向けARC社に2,000万加ドル追加提供
米アドバンスド・リアクター・コンセプツ(ARCニュークリア)社のカナダ法人は2月10日、カナダのニューブランズウィック(NB)州で同社製・小型モジュール炉(SMR)の建設計画を進めるため、NB州政府がこれまでの支援に加えて新たに2,000万カナダドル(約16億5,900万円)を同社に提供することになったと発表した。ARCニュークリア社は2018年7月、NB州の州営電力であるNBパワー社と協力することで合意。この合意に基づきARCニュークリア社は、NBパワー社が同州内で操業するポイントルプロー原子力発電所の敷地内で、ナトリウム冷却・プール型高速中性子炉のSMR「ARC-100」(電気出力10万kW)を建設する可能性を探っている。また、将来的には同SMRをカナダの他のサイトや世界中で建設する道を模索するほか、NB州を「ARC-100」技術に基づいた先進的SMR製品の中核的研究拠点や製造拠点とすることを目指している。ARCニュークリア社は今年1月、社名を「ARCクリーン・エナジー社」に変更しており、そのカナダ法人「ARCクリーン・エナジー・カナダ(ARCカナダ)社」の発表によると、NB州からの今回の支援金交付は、ARCカナダ社がマッチングファンドを通じて民間から3,000万加ドル(約24億9,000万円)の投資金を確保することが条件である。この投資を通じて、ARCカナダ社は確証済みの技術を用いた固有の安全性を有するSMRを2020年代後半にも建設する計画で、NB州にはこうしたSMR開発イニシアチブを成功に導く重要な諸条件――熟練した運転事業者や融通の利く労働力、将来的にサプライチェーンを構築するための基盤、技術革新の支援に適した学術的研究体制、などがすべて整っていると指摘した。NB州のB.ヒッグス首相も同日、「州政府の年次報告と将来展望」の中で、同州のSMR戦略は順調に進展中だと強調。ARCカナダ社との連携協力を続けていくと述べており、今回の支援金を通じて「ARC-100」の技術開発を次の段階に進める方針である。同首相の考えでは、ARCカナダ社に全面的に協力することでNB州の十分活用されていないサプライチェーンを再活性化し、再生可能エネルギーの間欠性を効率的に補えるクリーンエネルギーを州内で生産、これらは大規模なビジネスチャンスの創出につながると述べた。また、SMRの輸出によって、NB州では高賃金の雇用が創出されるなど利益が還元されるため、この開発イニシアチブには世界市場に道を拓く可能性があると強調した。なお、「ARC-100」の許認可手続きについては、ベンダーの要請に基づいてカナダ原子力安全委員会(CNSC)が正式な申請に先立ち実施する「予備的設計評価(ベンダー設計審査)」の第一段階がすでに完了している。ARCカナダ社のN.ソーヤー社長兼CEOは、「民間の投資家にとって公的支援がいかに重要であるか、今回の事で明らかになった」と指摘。その上で、「NB州の支援を受けてベンダー審査の第二段階が正式に始まる」としている。(参照資料:ARCカナダ社、NB州政府の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの2月11日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 15 Feb 2021
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カナダの処分場計画、建設候補地の1つで試験孔の掘削準備が進展
カナダで使用済燃料の深地層処分場建設計画を進めている核燃料廃棄物管理機関(NWMO)はこのほど、最終候補となった2地点のうち、オンタリオ州南部のサウスブルース地域で今春から開始を予定している試験孔の掘削と試験実施の準備が大幅に進展したと発表した。1本目の試験孔の掘削場所と、現地に入る交通アクセスの整備が同地域のティーズウォーター北東部で完了したもので、NWMOは2本目の掘削準備についてもまもなく完了すると説明。試験孔を通じて候補地の潜在的な適性を評価した後はさらに詳細な評価を実施し、使用済燃料の安全かつ長期的な処分に適するとともに、処分場の受け入れにも協力的な好ましい1地点を2023年までに最終決定する方針である。NWMOは、使用済燃料を再処理せずに直接処分する同処分場のサイト選定プロセスを2010年に開始しており、施設の受け入れに関心を表明したカナダ国内の22地点をオンタリオ州内の2地点まで絞り込んだ。サウスブルース地域ともう一方の候補地である同州北西部のイグナス地域では、サイト選定プロセスの第3段階としてNWMOが「(処分場としての)適性の予備評価」を実施中。この段階ではどちらも第1フェーズ(机上調査)の作業が終了し、第2フェーズの現地調査を行っている。発表によると、試験孔の掘削スケジュールはサウスブルース地域の適性を一層詳しく理解する上で必要な重要情報の収集に配慮。これと同時に、現地の地方自治体や先住民コミュニティとの交流や協議にも十分な時間を確保している。NWMOはまた、合計2本の試験孔掘削に向けて数多くの準備活動を実施しており、例として考古学や地形学関係の調査、現地先住民の文化や儀式に関する調査、掘削にともなう騒音や放出物の事前調査、源泉からの試料採取などを挙げた。 これらのほかにもNWMOは、候補地の地主らと対話を図り、主要な井戸水の水質試験実施や3D地震探査用のデータ入手などで協力を要請。地震探査データは地表岩盤層のイメージ作成や、断層の有無などを評価するのに用いるとしている。なお、2本目の試験孔掘削予定地については、今年の作業としてNWMOは水質をさらに詳細に調査するため、域内に微小地震モニタリング・ステーションや浅地中地下水のモニタリング井戸を設置する計画である。(参照資料:NWMOの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの1月14日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 20 Jan 2021
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カナダ政府、SMR開発で国家行動計画を公表
カナダ連邦政府の天然資源省は12月18日、カナダ国民に信頼性の高い電力を供給する可能性を持つとともに、2050年までに同国がCO2排出量の実質ゼロ化に移行する一助にもなる小型モジュール炉(SMR)の開発に向け、国家行動計画を公表した。カナダ国内で様々なSMR技術の開発と建設を支援し、2020年代後半にも最初のSMRで運転を開始するため、連邦政府と各州の州政府および地方自治体、先住民、労組、電気事業者、産業界、イノベーター、学界、市民社会など、100以上の関係組織が一丸となって「チーム・カナダ」を結成。諸外国との連携によりSMRの輸出機会を探るほか、その国際標準化にも影響を与えてカナダ国内における将来的な投資を促進する考えである。カナダ政府は2018年11月にSMRの開発ロードマップを発表しており、今回の行動計画では同ロードマップが確認した53の勧告項目への対応が記されている。全カナダ的アプローチを通じて、安全かつ責任ある形でSMRの開発と建設を進めるため、カナダ政府は国民と環境を防護する規制上や政策上、法制上の枠組を確保。技術革新を加速していくほか、先住民を含むカナダの全国民との有意義な関わり合いを継続するとしている。同行動計画によると、SMRはクリーンで安全かつ価格も適正なエネルギー源となる可能性が有り、低炭素で盤石な未来社会への道を拓くとともに、カナダの全国民がその利益を享受することができる。また、従来型よりも小型でシンプル、コストもかからない原子力発電の必要性を、世界中の市場が示唆している。国際的な専門家の間でも、2030年から2050年までの間にCO2排出量を削減するという連邦政府や州政府の目標を達成し、地球温暖化に対処するには、あらゆる低炭素発電技術とともに新たな原子力発電技術が必要と言われている。このような背景からカナダ政府は、カナダのみならず世界全体が低炭素な将来に向かう上で、原子力の中でも特にSMRのような発電所が重要な役割を担うと認識。カナダにおいてSMRは、沢山の雇用や知的財産権、サプライチェーンを支える一方、世界市場では2040年までに1,500億ドル以上の規模に成長することが見込まれる。これに加えてSMRは、カナダが初期開発国としてSMR国際基準を設定するなどの戦略的影響力を発揮し、開発政策面においても世界のリーダー的立場を確保することに貢献。最終的には、SMRによって地域開発の機会が拓かれ、北部コミュニティや先住民と主なエネルギー問題への取組で建設的な協議を行うことにも繋がるとしている。これらを実現するため、カナダ政府は今回の行動計画で以下の活動を実施する。すなわち、関係組織それぞれの管轄や権限の範囲内で一致団結し、様々なSMR設計の開発と建設を支援。2020年代後半までに最初のSMRで運転を開始する。諸外国のパートナーとも連携してSMRの輸出機会を捉えるため、関係組織を「チーム・カナダ」として統合する。SMRをその他のクリーンエネルギー源や貯蔵技術、アプリなどと統合し、カナダが低炭素な未来社会に向けて移行するのを加速する。放射性廃棄物の排出量を最小限に抑えるとともに、再利用する可能性も追求。放射性廃棄物を安全かつ長期的に管理するためのカナダの慣行を補完する。原子力産業界に女性や少数民族、若者などを積極的に登用して多様化を進めるほか、先住民や遠隔地域、北部コミュニティなどと長期的に経済連携する機会を模索する。SMRの研究開発やエンジニアリング、製造と建設に関する学界の広範な能力を活用する。(参照資料:カナダ連邦政府の発表資料、原産新聞・海外ニュース、ほか)
- 21 Dec 2020
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カナダ政府、放射性廃棄物処分政策の最新化と統合戦略の作成開始
カナダ連邦政府のS.オリーガン天然資源相は11月16日、既存の放射性廃棄物管理政策の最新化を図るため、様々な立場のカナダ国民が参加する取組プロセスを開始したと発表した。同相はまた、この政策レビューの一環として、低・中レベル放射性廃棄物の管理で一層包括的な戦略を作成するようカナダ核燃料廃棄物管理機関(NWMO)に要請したことを明らかにした。発表によれば、カナダ政府は2050年までに同国が温室効果ガス排出量の実質ゼロ化を達成する上で、原子力発電が大きな役割を果たすと考えている。原子力はまた、カナダ国内のみならず世界中で雇用とビジネス・チャンスを創出することから、既存の廃棄物管理政策の最新化は政府が今後も、国民の安全と健康および環境を最優先に保全し続ける上で非常に重要である。政府はそのための盤石な枠組を確保しているが、国際的な基準や最良好事例に合致した長期的な放射性廃棄物管理対策を推進するには、これを常に最新のものにしておかねばならない。オリーガン天然資源相が開始したプロセスでは来年3月末までの期間、カナダ政府は様々な方法で放射性廃棄物の発生者や所有者、その他の政府機関、専門家、および一般国民や先住民族など、関係するすべての国民と協議。放射性廃棄物の管理で一層力強いリーダーシップを発揮していけるよう、既存の政策を詳細に説明することになる。カナダでは2007年、使用済燃料の直接処分を定めた国家方針が採択され、実施主体であるNWMOは2010年から処分場建設のサイト選定プロセスを開始した。2012年9月までに国内の22地点が処分場の受け入れに関心を表明し、NWMOは現時点で候補地域をオンタリオ州南部のサウスブルース地域と北西部イグナス地域の2地点まで絞り込んだ。2023年までに、これらのうちどちらかを処分場の建設に好ましい地点として確定することになっている。カナダ政府が国民とコミュニケーションする手段は主にウェブサイトで、国民はネットを通じて放射性廃棄物や政策レビューに関する最新情報、プロセスの進行状況などを把握する。ステークホルダーに対しては、ワークショップや円卓会議などを通じて直接的に対話するほか、オンライン・フォーラムも活用。政府はこのような活動の結果を2021年春までに最終報告書に取りまとめて30日間のパブコメに付し、その年の秋にも最新化した政策を公表する予定である。一方、NWMOに要請した低・中レベル廃棄物の統合管理戦略については、政府は具体的に、戦略の策定に向けた国民との対話を主導するようNWMOに求めている。NWMOが使用済燃料の安全な長期管理について策定済みの計画に基づき、オリーガン大臣は同戦略には以下の項目を含めるべきだと指摘した。それらはすなわち、・廃棄物の現在と将来の排出量、小型モジュール炉(SMR)を設置した場合に排出される廃棄物の特性や所有者、保管場所など、既存の廃棄物管理状況の説明。・廃棄物の長期管理処分に関する現在の計画とその進行状況。・現在および将来排出される放射性廃棄物を取り扱う際の(長期管理処分に関する技術オプションなど)概念的アプローチ。・廃棄物を長期に管理する施設の計画立案や設置、統合、操業などの検討状況。 同大臣は、このような重要任務をNWMOが包括的かつ透明性のあるやり方で実行することは非常に重要だと説明。NWMOは現在、使用済燃料の長期管理計画を遂行中だが、低・中レベル廃棄物戦略の件で国民との対話を進める折にも、NWMOのこのような任務が損なわれてはならないと指摘した。 NWMOによると、現在カナダ国内の低・中レベル廃棄物はすべて安全な方法で中間貯蔵中。NWMOとしてはこの重要な業務の遂行にあたり、その専門的知見を使って実用的な勧告をカナダ政府に提示し、国際的な良好事例に沿った形で廃棄物の長期管理が続けられるようにしたいと述べた。(参照資料:カナダ政府、NWMOの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月17日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 18 Nov 2020
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マイケル・W・レンチェック ブルース・パワー社 社長兼CEO
原子力でスモッグが劇的に改善──カナダでは原子力に対して世論が好意的だ。ブルース・パワー社ではオンタリオ州全体を対象に、これまで多くの世論調査を実施してきました。特に知りたいのは、既存原子力発電プラントのリプレースや運転期間延長についての反応です。調査結果により、原子力に対する支持は常に8割程度あることが分かっています。原子力への支持率が高い理由としてはいくつかの要因があります。原子力はクリーンで、供給安定性が高く、安全であり、そしてオンタリオ州の州民に手頃な価格のエネルギーを提供しているからです。中でも環境面でのベネフィットは大きいでしょう。2013年に、オンタリオ州政府は州内の石炭火力発電プラントを廃止し、私たちは2基の原子炉を再稼働させました。いずれも、1990年代後半にオンタリオ・パワー・ジェネレーション(OPG)社や旧オンタリオハイドロ(OH)社などの財政難により、休止させていたプラントです。石炭火力の全廃によって、トロントの大気汚染は劇的に改善されました。2005年ごろには、年間最大80日間の「スモッグ日」が記録されていました。ご存知ないでしょうが「スモッグ日」とは、喘息患者の場合、呼吸困難になる可能性があり外出できなくなるぐらいヒドいものです。しかしブルース原子力発電所が再稼働したため、2015年から2019年の間に、スモッグは数日単位ではなく数時間単位で測定するまでに減少しました。原子力が大気汚染の浄化に、多大な貢献をしたのです。オンタリオ州は脱炭素化の世界的リーダーとして、気候変動の対策を取ってきました。電力部門では一般的に、脱炭素化の定義は1MWh(1000kWh)当たりの炭素排出量が50g未満であると考えられています。「脱炭素のリーダー」を自称しているドイツは、(1MWh当たり)約500gです。同じく「脱炭素のリーダー」とみなされている米国カリフォルニア州は約250gであり、それに対してここオンタリオ州はわずか45gなのです。つまりオンタリオ州はすでにかなり脱炭素化されており、それを手頃な価格で実現しています。オンタリオ州の一般家庭の電気料金は、1kWh当たり12.5カナダ・セント※ですからね。米カリフォルニア州の場合は20カナダ・セント以上ですし、ドイツはそれよりはるかに高いでしょう。これはオンタリオ州のエネルギーミックスのおかげです。オンタリオ州のエネルギーミックスは原子力が60%、水力発電は25%、再生可能エネルギーは7%です。※日本のおよそ半額程度。オンタリオ州では、再生可能エネルギーに対する税制上の補助金がありません。ですので、納税者からの支援は受けていませんが、電気料金にコストが直接反映されます。オンタリオ州の電気料金を管理するオンタリオ・エネルギー委員会によると、電源別コストは、太陽光が1kWh当たり48カナダ・セント、風力が15カナダ・セント、天然ガスが13カナダ・セント、原子力が7.5カナダ・セント、水力が6カナダ・セントです。オンタリオ州の電気料金がリーズナブルなのは、水力発電と原子力のおかげです。そしてこの組み合わせのおかげで、私たちは脱炭素化だけでなく気候変動にも取り組む最高のポジションにいるのです。ブルース・パワー社は再生可能エネルギーにも注力しており、風力発電プラントを先ごろ完成させたばかりです。風力発電とベースロード電源(原子力)の組み合わせは、非常にうまく機能していると考えています。それでも、すべてのエネルギー源が必要だという観点から、責任を持って対応しなければなりません。すべての人にとって安全で、クリーンで、供給安定性が高く、手頃な価格の電力を提供することが使命です。原子力発電所が「がん治療」に貢献──原子力の有用性をもっとアピールしたい。原子力産業は、世界屈指の安全産業と言えます。たとえ汚染を発生させたとしても非常に少ない量です。たとえば、ブルース・パワー社の原子力発電所で発生したすべての物質は、サイト内でキャニスタなどで管理されています。他の業界では考えられないことでしょう。他業界では自社製品や副産物が、それこそそこら中にほったらかしです。プラスチックは海にも、道路沿いにも捨てられています。自動車の排気ガスは世界中でスモッグを発生させ、二酸化炭素を排出しています。原子力はそんなことがありません。今後そういうストーリーを強調していこうと考えています。ブルース原子力発電所ブルース・パワー社が生産している医療用アイソトープは、人命を毎日救っています。こうした側面が社会であまりにも過小評価されていますよね。実は、ブルース原子力発電所で生産されているコバルト60は、世界中の使用済み医療器具の4割を消毒しているんです。あなたが世界のどこで病院や歯科医院にかかっても、そこで使用された医療器具を消毒するコバルト60は、オンタリオ州南西部のブルース原子力発電所で生産された可能性が高いということです(笑)OPG社のピッカリング原子力発電所でもコバルト60を生産しているまた、脳腫瘍の新しい治療法も開発しています。ブルース・パワー社では、メスを使わずに脳腫瘍を攻撃する「ガンマナイフ」と呼ばれる装置に力を入れています。最先端の生産システムを導入し、これまでにはなかった規模でアイソトープを大量生産できるよう準備を進めています。医療分野ではこれまで、がん治療に有効なアイソトープを特定するところまできていますが、肝心のアイソトープが量産出来ませんでした。量産できれば一般の患者さんでも手頃な費用でこの最先端治療を受けることができるでしょう。私たちはそうした治療が可能になるよう、量産体制を整えつつあります。裕福な患者さんだけでなく、すべての人のための治療になるのです。うまくいけば2021年か2022年ごろに、新しい生産システムが導入されます。ブルース原子力発電所OPG社のピッカリング原子力発電所でもコバルト60を生産している──医療分野に進出する契機は何だったのか?そもそもカナダは歴史的にも、医療用アイソトープ生産の最先端を走っていました。おぼえていらっしゃるか分かりませんが、数年前にチョークリバー研究所の原子炉「NRU」に問題が起き※、モリブデン99の生産が停止されたことがありました。これが国際的な供給不足を引き起こしてしまいました。ちょっと考えてみてください。もしもあなたが治療を必要としている患者で、アイソトープの在庫が底をついているために突然治療を受けられなくなったらどうでしょうか? ブルース・パワー社はそうした事情を鑑み、医療分野に進出することにしました。※2009年、同研究所のNRU炉(熱出力135MW、1957年初臨界)がトラブルで運転を停止し、モリブデン99の供給が世界的に停止した。核医学検査に使うアイソトープのなかでもっとも多く使われているのがテクネチウム99だが、その原料となる親核種がモリブデン99だった。そもそもNRUは老朽化しており、2016年に閉鎖することになっていたので、ブルース原子力発電所の設備に改良を加え、今ではNRU炉に替わってブルース発電所が、これらのアイソトープを生産できるようになりました。もっと多くのアイソトープを作る余裕がありますので、今後も市場の動向を見ながら、ニーズがあれば率先してそのニーズを満たすように努力していくつもりです。ブルース3号機では改修プロジェクトが進行中だブルース3号機では改修プロジェクトが進行中だ 「原子力が安全であることを 肌で感じています」回答者キンカーディン市長アン・イーディー私たちは五大湖の一つであるヒューロン湖沿いのコミュニティであり、原子力発電所にとっては理想的な立地点です。1970年代にブルースAとブルースBが着工され続々と運転を開始しました。今では世界最大の(稼働中の)原子力発電所です。私たち自治体はホスト・コミュニティとして、原子力を誇りに思い、原子力の未来を信じています。クリーンなエネルギーである原子力は、オンタリオ州の約3分の1の電力を供給しているだけでなく、世界中に医療用アイソトープを供給しているのです。この地域が初めて入植者のために開放されてから、私たちの祖先がイギリスとアイルランドから渡ってきて農民になりました。私たちはヒューロン湖が大好きです。環境面での最大の関心事は、湖が健全かどうかなんです。ですから、私がコミュニティの代表になったとき(最初は市議として、次に副市長として、最後に市長として)、私は原子力に関するすべてのことを知りたくなりました。いいことも、悪いことも、全て知りたかったのです。今、私は原子力の強力なサポーターです(笑)原子力のおかげで、地元のオンタリオ州だけでなく、全世界的にスモッグの日数が減っていると思います。アイソトープという(がん治療の)解決策も提供されています。他にもSMRがあります。これは非常にワクワクする技術です。また、気候変動との闘いにおいて原子力が果たす役割も忘れてはなりません。私はこれまで何度もCNSCの公聴会へ足を運んだり、原子力発電所の見学会に参加してきましたが、カナダの原子力安全レベルは非常に高いものです。他業界は原子力の安全文化から学ぶところが実に多いと思います。私は農場で育ち、毎日の仕事を無事に終わらせることが主な関心でした。私たちは農業の仕事こそが安全だと思っていましたが、原子力と比較したら、農業その他の業界は安全性という点では原子力の足元にも及びません。原子力から多くのことを学べると思います。キンカーディンの夕陽私自身はこのキンカーディンで一生を過ごしてきましたし、原子力が安全であることを肌で感じています。キンカーディンに遊びに来てください。原子力産業をしっかりとサポートしています。ブルース原子力発電所のスタッフの約3人に1人はキンカーディンの出身であり、残りは周辺地域からです。今は本当にワクワクする(刺激的な)時代です。経済的にも、私たちは非常に恵まれています。原子力発電所の運転期間を延長させるための改修作業のために、大勢の人々がやってきていますからね(笑)キンカーディンの夕陽事業者から見た許認可体制──カナダはスムーズな許認可体制で有名だ。規制当局であるカナダ原子力安全委員会(CNSC)は、何十年もの間、現在に至るまで、世界的には規制分野のリーダー的存在であると思います。CNSCの行うプロセスは、非常にオープンであると同時に、科学的事実に基づいていると言えます。そして、CNSCは政治と独立した規制当局であるため、業界の見解、一般世論、科学者の意見、他の政府機関の意見などを考慮に入れて決定や結論を導き出しています。しかし同時にCNSCは、安全に基づいている機関であるので、必ずしも当時の政治的・経済的な雰囲気に左右されません。そのおかげで現在誇っている世界的評判が確立できたのでしょう。CNSCのルミナ・ヴェルシ委員長は、IAEAの原子力安全基準の策定担当にも就任しました。これは、彼女の属しているCNSC、そしてCNSCが維持している水準が高く評価された成果だと思います。SMRが原子力業界だけでなく世界を変える──カナダは、SMRにかなり力を入れている。その背景やモチベーションは何か?気候変動対策として、他のクリーンエネルギーに多大の資金が投資されているにもかかわらず、それに見合うほどの進歩がないことは明らかでしょう。世界中で数兆ドルの投資が行われてから、今年のCO2排出量はようやく横ばいになりましたが、それまでの過去数年間は増加する一方でした。また、各国政府による安価な石炭火力発電所の建設の動きが見られ、CO2排出削減をなおさら困難にしています。X-エナジー社の「Xe-100」設計 ©X-energy日本の状況は大変遺憾なことです。CO2排出量の削減に真剣に取り組むなら、原子力こそが一定の役割を果たさなければならないと考えています。誰もがクリーンで手頃な価格で供給安定性の高い電気を必要としています。SMRは、より多くの国が利用できる、原子力分野での技術革新だと思います。また、既存の原子力プラントとは本質的な違いがあるため、各国はSMRによって原子力発電を容易に導入できるようになるのです。X-エナジー社の「Xe-100」設計「BWRX-300」の断面図現在稼働している原子炉、そして現在導入している様々な技術革新は、10年前の状況とは大きく異なっているではありませんか。今後SMRの技術革新が進むにつれて、世界中にあらゆるクリーン・エネルギーの可能性・機会が提供されるだろうと思います。「BWRX-300」の断面図©GE パワー社──SMR開発に必要な資金はどうやって確保を?ご存知のように、SMRの新設計には多くのベンチャーキャピタルが関心を寄せています。環境問題と気候変動は現実のものであり、高度な原子炉設計などの技術的ソリューションが重要な変化をもたらすと考えられています。技術開発へ多くの投資家が出資しています。原子力が一つのクリーンエネルギーとして認められれば、クリーンエネルギーやグリーンを対象とした融資を受けられるようになります。SMRなどの小型原子炉を支援/推進し、世界に革新をもたらすのです。それによって世界が直面しているさまざまな環境問題に対処する、より多くのドアが開かれるでしょう。奥はジョン・ピーバース広報部長奥はジョン・ピーバース広報部長──SMRのコスト、特に発電コストは、他電源と競合できるか?まだわかりません。ブルース・パワー社は現在、SMRを検討しながらそれを見極めようとしています。オンタリオ州は、連邦政府から1トンあたり約50ドルの炭素税が課せられています。再生可能エネルギーなどのクリーンエネルギーは、補助金の対象になっていません。オンタリオ州政府委員会は、消費者に課される料金を次のように試算しています。太陽光は1kWhあたり約48カナダ・セント、風力は同約15カナダ・セント、ガスも同約15カナダ・セント、原子力は同約7.5カナダ・セント、水力発電は同約6カナダ・セントです。もしこの中で、特定の電源を支援するための税補助が導入されたら、市場が歪んでしまうと私は思います。政治家は補助金で敗者と勝者を選ぼうとしますが、どうしても市場の歪みが生じる傾向があると思っています。しかし次世代炉を設計しているベンチャー企業にとって、補助金のあるなしは、設計の一部として検討しなければならないほど重要な事項でしょう。電気を手頃な価格で維持するために、一定のコストに合わせて設計しなければならないからです。「SMR-160」の完成予想図世界中から優秀な人材を原子力業界へ──SMR以外に十分な規模または大きさの原子力プロジェクトはあるか?ええ、カナダでは、CANDU炉がもう1基建つ可能性があります。ここオンタリオ州では、電力の余剰があり、数年間は現状のままで順調だと思いますが、今後、きっともう1基のCANDU炉を検討するでしょう。CANDU炉の出力は約80万~90万kWですが、SMRは10万~30万kW程度、さらに小型なマイクロ原子炉は0.5万~5万kW程度です。ですから、幅広い需要に対応が可能であり、CANDU炉が除外されているわけではありません。また今後も既存炉の運転期間延長は続くでしょう。カナダではほとんどの既存炉が運転期間を延長しています。OPG社のダーリントン原子力発電所(CANDU×4基)では、運転期間延長へ向けた作業が進行中ですし、ブルース・パワー社でも同様の運転期間延長へ向けたプログラムを実施しています。──CANDU炉の運転期間延長は、経済性が高いのか?経済的には非常に効果的です。だからこそ実施しています。オンタリオ州政府の会計検査院が2018年に、原子力反対派からの依頼を受けて実施した調査では、オンタリオ州で必要な電力を効果的かつ手頃な価格でクリーンに提供できる技術は、原子力のほかにない、と結論付けています。──多くの企業がSMR開発でシノギを削っている。必要な人材をどのように確保するのか?カナダの大学は数多くの優秀な若いエンジニアを輩出しており、SMR分野には多くのニューカマーが参入し、アイデアを競っています。今はエキサイティングな時代で、原子力分野に世界中から最も優秀な人材を引き入れるよう、数多くの機会が提供されています。原子力業界に入ってくる新しい人材は、ただモノを作るということだけではなく、環境・社会を大きく改善していくことになるのです。ミレニアル世代やこれから学校に入ろうとしている子供たちは、そのことを十分にわかっていると思います。彼らは世界に有意義な変化をもたらすことを望んでおり、原子力発電は彼らに革新と創造をする機会を与えています。同時に、彼ら自身のキャリア形成にも効果的に作用するでしょう。──カナダの大学と原子力産業は、良好な関係が維持されているか?運転期間延長プログラムの実施に伴い、現在新規採用を行っていますが、人事担当副社長によると、ブルース・パワー社に過去3年間で41,000名の応募が殺到しているそうです。学生にとって何が魅力なのか調査させたところ、それは学生が「自らのスキルと才能を生かして世界に変化をもたらしたい」と考えていることでした。なおかつ高所得ですしね(笑)ブルース・パワー社は従業員にとって、毎日仕事に行くことができ、学生ローンがあるならばそれを完済するのに十分な収入があり、子供を育て、快適で安全な生活が確保できる場所です。同時に、世の中の人々の生活を改善していることも大きな魅力なのです。
- 29 Oct 2020
- FEATURE
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カナダ政府、テレストリアル社の小型溶融塩炉開発に2,000万加ドルを投資
カナダ連邦政府イノベーション科学産業省のN.ベインズ大臣は10月15日、オンタリオ州の技術企業テレストリアル・エナジー社による「小型モジュール式・一体型溶融塩炉(IMSR)」開発を加速するため、「戦略的技術革新基金」から2,000万カナダドル(約15億9,000万円)を投資すると発表した。同社が開発した最先端のSMR技術はカナダの環境・経済に大きな利益をもたらすと見込まれており、投資はその商業化を支援する重要ステップになると説明している。 テレストリアル社のIMSRは第4世代のSMR設計で、電気出力は19.5万kW。同社はIMSRの最初の商業用実証炉をカナダで建設した後、同社の米国法人を通じて北米その他の市場で幅広くIMSRを売り込む方針である。現在、カナダ原子力安全委員会(CNSC)が同国の規制要件に対するIMSRの適合性を「予備的設計評価(ベンダー設計審査:VDR)」で審査中であるほか、米原子力規制委員会(NRC)に対しては、将来的に設計認証(DC)審査を受ける考えだと表明済み。米国法人は2020年代後半にも米国・初号機を起動できるよう、米エネルギー省(DOE)から財政支援を受けながらNRCと許認可手続き前の準備活動を進めている。カナダ政府の発表によると、原子力および原子力安全分野の世界的リーダーであるカナダは、安全で信頼性の高い小型モジュール炉(SMR)の開発においても世界を牽引していく方針である。同国が2050年までにCO2排出量の実質ゼロ化を目指す上でSMRは重要な役割を果たすと期待されており、新型コロナウイルスによる大規模感染から復活する際も経済的恩恵が得られるとしている。テレストリアル社はIMSRの開発プロジェクト全体で6,890万加ドル(約54億8,700万円)を投入する方針だが、このほかに少なくとも9,150万加ドル(約72億8,700万円)を研究開発費として支出中。カナダ政府による今回の投資金は、同社がIMSRでベンダー審査を完了する一助になると指摘している。カナダ政府の見通しでは、テレストリアル社は今後、カナダの原子力サプライチェーンで千人以上の雇用を生み出し、STEM(理数系)分野で数多くの女性が登用されるよう男女平等・多様化イニシアチブを推進していく。IMSRプロジェクトによって高度なスキルを持つ労働力が構築され、将来の技術革新と経済成長の重要要素となる新しい基盤技術研究を加速。この結果、カナダ政府が進める「技術革新とスキル計画」は推進力を増すことになる。カナダ政府はまた、同プロジェクトでSMR技術をカナダやその他の世界中で開発・建設していくための長期ビジョン「カナダのSMRロードマップ」が後押しされると説明。SMRの設計・開発が様々な規模で進められており、将来的には遠隔地域で使用されているディーゼル発電機を一掃したり、化石燃料を多用するカナダの重要な産業部門に競争力をもたらす可能性があるとしている。(参照資料:カナダ政府、テレストリアル社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月16日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 23 Oct 2020
- NEWS
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加OPG社、SMR建設に向けベンダー3社と協力
カナダ・オンタリオ州の州営電力であるオンタリオ・パワー・ジェネレーション(OPG)社は10月6日、同州内で小型モジュール炉(SMR)を建設する道を拓くため、北米の有力なSMRデベロッパー3社と設計・エンジニアリング作業を共同で進めていると発表した。3社のうち、カナダを本拠地とするテレストリアル・エナジー社は、第4世代の革新的原子炉技術として電気出力19.5万kW、熱出力40万kWの小型一体型溶融塩炉(IMSR)を開発中。また、米国のGE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社は、受動的安全システムなどの画期的な技術を採用した電気出力30万kWの軽水炉型SMR「BWRX-300」を、同じく米国のX-エナジー社は小型のペブルベッド式高温ガス炉(HTR)「Xe-100」(熱出力20万kW、電気出力7.5万kW)を開発している。一方のOPG社はカナダで稼働する全19基の商業炉のうち、オンタリオ州内に立地する18基を所有しており、これらの原子炉と再生可能エネルギーの活用により、同州ではすでに2014年に州内の石炭火力発電所の全廃に成功した。同社のK.ハートウィック社長兼CEOは、「CO2を排出しない原子力技術の開発で当社は50年以上にわたる経験を活用中。3社との協力では、その他のSMR計画と合わせて当社がSMR利用の世界的リーダーになることを実証したい」と述べた。同社は今回の計画の他に、遠隔地のエネルギー需要を満たすための支援として、カナダのグローバル・ファースト・パワー社との協力により、米国のウルトラ・セーフ・ニュークリア社(USNC)が開発した第4世代の小型モジュール式高温ガス炉「マイクロ・モジュラー・リアクター(MMR)」をカナダ原子力研究所内で建設・所有・運転することを計画している。これらのSMRはオンタリオ州の経済を再活性化する一助となるだけでなく、地球温暖化の防止目的で同州とカナダ連邦政府が目指しているCO2排出量ゼロの電力供給にも役立つとした。OGP社はこの関連で、昨年12月にオンタリオ州とニューブランズウィック州、およびサスカチュワン州の3州が革新的技術を用いた多目的のSMRをそれぞれの州内で開発・建設するため、協力覚書を締結した事実に言及。今年8月には、同覚書にアルバータ州が新たに加わることになった。OPG社は近年、オンタリオ州内でのSMR建設に向けて適正評価をその他の大手電力企業と共同で実施しており、その結果からその他の州においてもSMRを建設する可能性が拓かれる。このことは、カナダが優先順位の高い政策として、次世代のクリーン・エネルギー技術を開発・建設するというアプローチとも合致するとしている。同社によると、オンタリオ州のSMR開発は州内の既存の原子力サプライ・チェーンをフルに活かすことになるほか、他の州においても石炭火力から脱却することに繋がる。また、エネルギー集約型産業に代替エネルギーのオプションが提供され、カナダにおける雇用の促進と技術革新の進展にも貢献。温室効果ガスの排出量が経済的に持続可能な形で大幅に削減されるため、カナダの電力網では化石燃料からCO2排出量ゼロの電源への移行が進むと強調している。(参照資料:OPG社、GEH社、テレストリアル・エナジー社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月6日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 07 Oct 2020
- NEWS
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ルミナ・ヴェルシ カナダ原子力安全委員会 委員長
事業者を束縛しない──カナダの許認可体制はスムーズなことで有名だ。日本が遅すぎるのかもしれないが、ポイントは?カナダ原子力安全委員会(CNSC)は何十年もの歴史ある規制当局です。CNSCが卓越しているのは、規制の枠組みがいわゆるテクノロジー・ニュートラルであることです。柔軟性があり、すべてパフォーマンスに基づいて規制をします。ああしろこうしろと命令的なやり方はしません。事業者に一方的に指示するのでなく、「目指すべき目標がこれですが、どうやって実現するか示してください」とだけ言うのです。こうすることで、事業者は柔軟性を得てイノベーティブになり、自主的に新しいアイデアを思いつきます。我々は事業者を束縛しません。最近、国際的な規制審査団がカナダにやって来て、私たちの規制体制(枠組み)とプロセスを審査されました。その結果、「包括的で堅牢な規制体制」と高い評価をいただきました。CNSCが提供しているサービスでもう一つ非常に好評なのは、いわゆる「ベンダー設計審査」※と呼ばれる予備的設計評価サービスです。事業者が予め審査対象となる設計を私たちとシェアすることで、認可プロセスに入る前の段階から、その設計や技術に「致命的な欠陥(showstoppers)」がないかどうかを確認することができます。もちろんプロセスは非公式なものですが、それにより、CNSCはその設計をよりよく理解できるようになります。また、事業者も我々の条件・規制要件をより詳しく知ることができす。そして、致命的な欠陥があれば、それを早い段階で見つけることも出来ます。CNSCのもう一つユニークな点は、許認可の審査体制です。私はCNSCの委員長兼CEOであり、この組織のスタッフ約900人を統括していると同時に、委員会の議長でもあります。現在、委員は5人ですが、最大7人まで増員が可能です。すべての許認可決定、規制および規制文書の承認すべてがこの委員会によってなされ、すべての委員会の審議は一般公開されています。なぜなら、それは一般の人々が参加し、介入し、意見を共有できるオープン・フォーラムだからです。多くの人々の意見を取り入れているため、それが良質な情報に基づく意思決定につながります。※ベンダーの要請により実施される任意の評価サービスで、事業者が建設許可等の申請を実際に行う前に、当該設計がカナダの規制要件を満たしているか評価。実際の要件に照らしたレベルの高い同審査を通じて、設計上の問題点などを早い段階でフィードバックすることが可能になる。審査は第3段階まであり、「ARC-100」のほかに米ホルテック・インターナショナル社のSMR設計や、テレストリアル・エナジー社の小型モジュール式・一体型溶融塩炉(IMSR)などが審査中となっている。リスクと便益のバランス──「規制者と被規制者とのやり取り」において、カナダは合理性・効率性においてトップクラスと聞いている。CNSCは無駄な質問をしないし、原子力事業者も無駄な書類は作らない。その根源的な理由はなんだろうか?なぜ、カナダは合理的に進められるのか?「合理性がある」というお褒めの言葉に、完全に同意していいのかわかりませんが、私たちはリスクに精通した規制当局として、常に合理性に基づいた形で判断を行います。ご存知かどうか分かりませんが、私たちが掛ける努力の度合いも、どれだけリスクがあるかにかかっています。低リスクの場合はそれほど時間をかけません。また、事業者に課している規制上の負担についても、リスクと便益の分析を試みています。我々は長い経験を持ち、良好な実績を持ち、他者から常に学び、改善を図っています。あなたのおっしゃる「合理的な意思決定」のことを、我々は「リスク情報に基づいた意思決定」と呼んでいます。まず、すべての人に意見を表現する機会を与え、それを基にして決定を下します。SMR開発をリード──カナダはSMRに大変力を入れているが、何がモチベーションとなっているのか?SMRの開発当事者ではなく、外から物事を見る規制当局者として話しますが、多くの海外諸国と同様に、カナダのクリーンエネルギーの目標は非常に野心的です。その目標だけでなく、パリ協定の目標も達成するために、原子力が大きな役割を果たさなければならない、果たし続けなければならないという認識があります。そして、SMRには多くの利点があります。カナダは広大な国で、ファーストネーションらのコミュニティーの多くは遠隔地にあり、ディーゼル発電に依存しています。SMRは彼らのそうしたディーゼル依存からの脱却に大いに貢献するのです。またカナダは非常に資源多消費型の国ですので、SMRは資源の有効利用にも役立ちます。同様に、出力が小さく柔軟な運転が可能でより安全なSMRは、送電系統においてもはるかに大きな役割を果たせるようになるでしょう。そのため、連邦政府の天然資源省(Natural Resources Canada)では様々なステイクホルダーを交えて検討を重ねた「SMRロードマップ」を策定し、SMRの登場・活用に備えています。カナダ企業が国内外でSMRを展開した場合に備え、我々規制当局も準備を整えています。規制当局としてどのように準備しているかというと、先ほど「ベンダー設計審査」についてお話しましたが、このプロセスが効果を上げているのです。現在、12種の異なるSMR設計を審査中です。すでにチョークリバー向けの15 MWのマイクロ原子炉※のために最初のサイト準備許可(LTPS)申請を受け取っており、今年後半には、もう1件の、より出力の大きいSMRのLTPSが申請されるだろうと予想しています。※USNC社が開発した第4世代の小型モジュール式(高温ガス)炉「マイクロ・モジュラー・リアクター(MMR)」のこと。カナダ原子力研究所(CNL)のチョークリバー・サイトに建設予定だ。もはやSMRの勢いが増していることは誰の目にも明らかです。カナダの3つの州(オンタリオ州、ニューブランズウィック州、サスカチュワン州)では最近、SMRの開発および建設を目指して協力していくことを発表しています。私自身の成果の一つは、昨年、米国原子力規制委員会のスビニッキ委員長とMOUやMOCに署名し、SMRの設計審査に関してより緊密に協力することに合意したことです。両国がSMR設計の評価結果や研究結果を共有し、それによって互いに学び、リソースを共有するだけでなく、審査をより効率的に進め、より良い判断を通して安全性を改善することができます。このカナダと米国の取り組みを出発点に、他国の規制当局を広く迎え入れ、国際的な規制要件の統一に移行できればいいと考えています。それは、標準設計が各国に展開されるのを促進するだけでなく、SMRに大きな関心を示している新興国にとっても、先進規制当局の専門知見から、確実な便益を得られるからです。たとえば、米国、カナダ、日本などの規制当局が合意した規制要件であれば、新興国はそれに依存できますよね。こうして世界中のSMRの安全性を合理的に高めることができるでしょう。トリチウムに精通──日本では福島第一サイトでのトリチウムの処理に苦しんでいる。カナダでは重水炉からかなりの量のトリチウムが発生すると思うが、どのように管理しているのか?CANDU炉は、重水を減速材としても冷却剤としても使用しています。したがって、トリチウムは、カナダのCANDU炉にとって非常に重要な役割を果たしています。私は保健物理学者になる以前は原子力発電所で働いていましたが、トリチウムは常に私たちにとってハザード(危険を引き起こす状況・物質)でした。そのため、カナダは長年にわたり、多くの技術(トリチウムを制御、測定、除去、監視する技術、必要な防護服など)を開発してきました。トリチウム量が蓄積すると重水ごとトリチウム除去設備へ送られ、トリチウムガスを抽出します。そしてトリチウムは廃棄物としてキャニスターに保管されます。全工程を通じてモニタリングされており、徹底的に制御されています。規制当局としても事業者とは別にモニタリング(環境モニタリング)を行っており、事業者の報告と照らし合わせています。他にもトリチウムを監視する州および連邦当局があります。国民は我々のトリチウム管理に信頼を寄せているのです。 福島第一よりも多いトリチウム?カナダでは資源!?回答者オンタリオ工科大学グレン・ハーベル教授トリチウムの発生源は?CANDU炉では、重水を用いて中性子を減速しています。トリチウムは主にその過程で発生します。トリチウム量を最小限に抑えるために、トリチウム除去設備を用意しています。そこでは重水とともにトリチウムを取り入れ、トリチウムを気化させて抽出し、重水を再び原子炉内へ循環させています。抽出されたトリチウムはどこへ?抽出されたトリチウムはさまざまな形態で保管されます(それこそ種類もさまざまです!)。企業に販売されるケースもあります。ご存知の通りトリチウムは自発光塗料として利用されており、出口用の看板等で需要がありますから。しかし多くの場合は、トリチウムを含んだ重水をそのまま保管し、半減期を待ちます。トリチウムの半減期は13年程度ですので、大した懸念はありません。シールドで遮蔽された部屋やタンクに保管されていますし、人に触れるような場所ではないからです。ですから、我々はトリチウムのことをそれほど心配しておりません。最大の問題はプラントを廃炉にして永久閉鎖するときです。それまで保管していたトリチウムをそのまま保管できればよいのですが、早急な処理を迫られた場合は対応が難しくなりますね。日本ではトリチウムの抽出が困難とされている抽出プロセスは大変コストが掛かりますので、世界でも現実に実施しているところは少ないでしょう。カナダではダーリントン原子力発電所に優秀なトリチウム除去設備があるので、容易なのです。日本では「ふげん」 ※ にトリチウム除去設備がありましたが小規模でした。現実的ではありませんね。お金をいくらかけてもいいならば話は別ですが(笑)※ふげん:日本の国家プロジェクトとして開発された新型転換炉。2003年3月に運転を終了し、廃止措置中。カナダのトリチウム保管量はかなり多く、福島第一より多いとのことだが?カナダのトリチウムは、多くがトリチウム重水の状態です。福島第一のトリチウム総量は860兆ベクレルですか?そのまま比較はできませんが数字だけを並べると、ダーリントン原子力発電所から2015年の1年間に放出された液体のトリチウム量だけでも241兆ベクレル※です。規制当局から定められた年間の放出限度(DRL)が5,300,000兆ベクレルですから、これでも規制値の0.004%にすぎません。※同年の気体のトリチウム放出量は、254兆ベクレル。「トリチウムは保管」という先ほどの話と矛盾するようだが?ご説明しましょう。それはカナダでは、河川や湖や海洋に、意図的にトリチウムを放出しているわけではないからです。日本のみなさんならばよくご存知でしょうが、トリチウムは水素ですから、完全に封じ込めることは大変困難です。意図的な放出はありませんが、漏洩は避けられません。繰り返しますがカナダのトリチウムは、トリチウム重水ですから、大部分は原子炉内に存在します。またドラム缶等に備蓄し、半減期を待っている状態のトリチウム重水もあります。トリチウム除去設備で処理され、ガス化してキャニスタ等に保管されるトリチウム重水はごくわずかです。ほとんどはトリチウム重水のまま残されています。それはトリチウムの市場規模が小さいからです。そして重水はバルブやシールを通して漏洩します。これは必ず起こります。移送過程で、ホースやポンプやバルブなどから、果てにはドラム缶からも漏洩します。これは防げません。以前も起こりましたが、これからも起こるでしょう。そのような制御不能なトリチウム放出に対処するために、CNSCがDRLという規制値を定めました。このDRLは、一般市民の線量限度である年間1ミリシーベルトを下回るように設定されており、設備や周辺環境の変化に応じて、各発電所毎に数字は異なります。もちろん数字は、都度アップデートされています。大事なことは漏洩した時にその影響を最小限度にとどめることです。違いますか?いずれは大気や海中に放出?規制当局の承認が必要ですが、放出も可能です。しかし期待されている一つの可能性は核融合プラントの実現です。これが実現すると、トリチウムが燃料となるわけですから、トリチウムの抽出設備が極めて重要となってきます。我々には大規模なトリチウム在庫があり、それが役に立ちます。もし(核融合プラントの)実現がない場合でも、おそらくトリチウムは保管して半減期を待ち、その後別の原子炉に再利用するか、分散するか、それらが将来の選択肢です。トリチウムは将来の資源?そうです。トリチウムは将来的に資源になりうるのです。トリチウム抽出の過程でアクシデント的に外部環境へ流出した、損失したトリチウム量は低く、気になる程度ではないのです。現地のコミュニティから反発は?ありませんよ(笑)アクセスを容易に──カナダでは原子力に対する世論の支持が高いと聞いた。日本では数多くの対策をし、安全基準を十二分にクリアしても、国民からさほど支持を得られていない。私をはじめCNSCの優先分野の一つは、規制当局としての我々に対する国民の信頼をどのように取り付け、強化するかです。強力かつ独立し有能な規制当局とみなされることは我々にとって望ましいことですし、原子力産業界にとっても良いことです。規制当局に対する信頼度について、世論調査も実施しています。国民が我々をどれだけよく知っているか、我々についてどう思うか、そして我々はどういうところを改善すればいいかなどを理解することが目的です。CNSCのウェブサイトでは、委員会に提示されているすべてのものを一般公開しています。国民は我々の情報(事業者にも情報提供するよう勧めていますが)に簡単かつスピーディーにアクセスできるようになることは、その信頼構築に大いに貢献しています。また、審査会合に誰でも参加できるように、非常にインフォーマルな形を取っています。公聴会に12歳の参加者が登場することもあります。我々はすべてを非常にアクセスしやすくしようとしています。そうすることによって、国民に安心を感じさせることができると思います。我々のもう一つの義務・任務は客観的な情報発信です。原子力産業界は非常に規制された業界です。我々はウェブサイトへの掲載や、出版物への掲載など、さまざまな媒体を通して、原子力産業界で起きていることを一般人に伝えようとしています。リスクはどこにあるか、どのように規制しているか、ということをです。こうした情報発信には常に改善の余地があり、我々は新しいツールや仕組みを常に模索しています。先ほど申し上げた世論調査もそうですが、我々の(コミュニケーションの)やり方を改善するためにいろいろな方法を試しているのです。広報は「中間層」を狙う──原子力反対派とどう対話すべきか?長いこと原子力業界に携わってきて、発見したことがあります。率直に言って、この世には決して心を変えない人がいるということです。もちろん必ずしも彼らに心を変えて欲しいというわけではありません。ただ、正しい情報を彼らに伝え、理解して欲しいだけです。それでもなかには決して受け入れない人々がいます。私はそうした(反対派に対して説明する)努力をしても無駄だと気づきました。十分な情報を検討した結果、態度を決めている人たちは、それが自らの判断なのであれば、それでOKだと思います。その一方で、賛成反対の両極端の間、真ん中にいる非常に大きな中間層が存在します。この中間層の人たちは何も知らないか、あるいはあまり信頼できない情報源に依存してますので、彼らを広報のターゲットにする必要があると思います。そのためにありとあらゆるコミュニケーション手法をとる必要があります。なお、CNSCをはじめ多くの世論調査の分析結果によると、原子力に関しては、女性のほうが男性より比較的支持が低い傾向があり、男性よりも情報源が少ないことが分かりました。また、多くの調査・研究が、女性が(男性ではなく)女性同士の方をより信頼する傾向があることを示しています。彼女たちが信頼しているのは、数多くの男性科学者ではなく、実際に原子力業界に入っている女性や、信頼できる情報源と見なしている女性なのです。そうしたことを踏まえ、工夫の余地はまだまだあります。これも規制当局としてのCNSCの任務の重要な一環です。そうそう、私たちが実施した世論調査で、とても大事なことが明らかになりました。実は、半数のカナダ人は、CNSCについて何も知らなかったのです(笑)
- 27 Aug 2020
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加ブルース・パワー社とカメコ社が次世代原子力技術センターを起ち上げ
カナダで原子力発電所を運転するブルース・パワー社と大手ウラン生産業者のカメコ社は8月20日、「次世代原子力技術センター」の創設を中心とする複数の共同イニシアチブを起ち上げると発表した。両社のこれまでの連携関係を活用して、新型コロナウイルス感染後のカナダ経済の再生を支援するとともに、CO2を排出しない原子力発電で地球環境を保全。世界中に蔓延したコロナウイルス感染症のような疾病との戦いにおいても、原子力サプライチェーンを使ってコミュニティの必需品を確保するなどの協力を強化する。両社は原子力技術革新によって小型モジュール炉(SMR)のような新技術を開発する基盤を築き、ガン治療に役立つ放射性同位体(RI)や水素経済への移行に向けた水素の生産技術の進展を後押しできると確信。すなわち、原子力インフラへの投資を通じて現行経済を刺激し、将来的には世界に力を与えることも可能だと考えている。原子力発電所の運転企業および燃料サプライヤーとして蓄えてきた専門的知見を一層深め、ブルース・パワー社が電力供給するオンタリオ州やカメコ社が本拠地を置くサスカチュワン州のみならず、カナダ全体の将来的な経済や輸出を支援していく考えである。両社はそれぞれ、オンタリオ州とサスカチュワン州の産業リーダー的存在であり、間接雇用も含めた従業員の総数は約2万7,000人。カナダ経済への投資額は年間90億~120億カナダドル(約7,200億~9,600億円)に達するなど、カナダ全体の原子力産業を代表する企業として、温室効果ガスを排出しない発電やガン治療用RIの生産といった科学技術革新の最前線に留まっている。今回の発表で両社は、これら2つの州政府が経済を立て直すためのチャンスをもたらしたいとしている。また、新型コロナウイルス感染症の世界的な拡大に際しても、両社はCO2を排出しない電力をカナダ全土に安全・確実に供給し続けている。今後は、カナダ最大のインフラ・プロジェクトの1つと言われるブルース・パワー社のブルース原子力発電所(=写真)運転期間延長プログラムを活用して、国家経済の再構築を手助けしていく方針。州を跨いだ両社間の重要な連携関係を拡大・強化するため、「次世代原子力技術センター」は、両社がBWXT社やオンタリオ州のブルース郡とともに2018年に創設した「原子力技術革新協会(NII)」の付属施設とする計画。NIIは、カナダの原子力産業界で技術革新を促進することを目指した非営利組織である。なお、両社間の今回の協力では、ブルース発電所の運転期間延長プログラムと既存の長期燃料供給契約に加えて、ブルース6号機が機器の交換を終えて再起動する2024年にカメコ社が追加で1,600体の燃料バンドルをブルース・パワー社に供給することになった。これは、2017年に両社が締結した20億カナダドル(約1,600億円)の既存の燃料供給契約に基づいて決定したとしている。(参照資料:ブルース・パワー社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの8月21日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 24 Aug 2020
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カナダのNWMO、使用済燃料を処分場まで輸送する計画について意見募集開始
カナダの核燃料廃棄物管理機関(NWMO)は8月14日、国内で使用済燃料の深地層処分場が2040年代に完成することを念頭に、各発電所の中間貯蔵施設から同処分場まで使用済燃料を輸送する計画の枠組策定で一般からの意見を募集すると発表した。NWMOは今回、同計画枠組の案文を公表しており、これに対するカナダ国民や先住民のコメントを今後数か月にわたって手紙やファックス、eメールで受け付ける。また、関係する協議に国民が加われるよう、NWMOがウェブサイト上に設定した「オンライン調査」への参加も呼びかけている。カナダでは2007年、使用済燃料を直接処分することを定めた国家方針「適応性のある段階的管理(APM: Adaptive Phased Management)」が採択され、実施主体となるNWMOは2010年から処分場建設の「サイト選定プロセス」を開始した。2012年9月末までに国内の22地点が処分場の受け入れに関心を表明し、NWMOは現時点で候補地域をオンタリオ州南部のサウスブルース地域と北西部イグナス地域の2地点まで絞り込んだ。これらのうちどちらかを、処分場建設サイトとして最も好ましい地点として2023年までに確定する方針である。鉄道やトラックを使用する使用済燃料の輸送計画に関しては、NWMOは一般国民の利益や意見を反映させるため、2016年以降に数千人規模の人々と協議。今回公表した枠組計画の案文はこうした作業の結果を盛り込んでいるほか、次の段階の重要ステップともなるため、NWMOは今回のコメント募集とオンライン調査の実施を決めた。NWMOのB.ワッツ副理事長は、「使用済燃料の安全な輸送に向けて、今こそ社会的に受容可能な枠組を策定すべきだ」と表明。NWMOはこれまで数多くの人々の意見に耳を傾けてきたが、輸送計画の枠組を最終決定し追加・変更部分の必要性を判断するには、カナダ国民に案文をレビューしてもらい意見を得ることが重要になる。副理事長は、「2040年代を迎えるまでにどのようにして安全な使用済燃料輸送を確保するか、できるだけ多くの人々に議論に加わってもらいたい」と強調した。カナダにおける使用済燃料の輸送はカナダ原子力安全委員会と連邦政府の運輸省が共同で規制することになる一方、国際的な輸送に際しては国際原子力機関(IAEA)の安全要件を満たさねばならない。NWMOの輸送プログラムでは規制要件の遵守で技術的側面が含まれるのに加え、国民の不安や質問に答えるなど国民が最優先とする事項を理解することが必要。このためNWMOは、使用済燃料の輸送に安全・確実を期すとともに、国際的な良慣行も取り入れたいとしている。(参照資料:NWMOの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの8月18日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 19 Aug 2020
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加サスカチュワン州政府、州内でのSMR建設に向け原子力事務局設置へ
カナダ中西部に位置するサスカチュワン州政府は6月24日、同州の原子力政策・プログラムの調整を図るため、環境省の気候変動・対応局内に原子力事務局を設置すると発表した。同局では、クリーン・エネルギー源である小型モジュール炉(SMR)を州内に建設するという戦略計画の策定と実施が最優先事項になるとしている。サスカチュワン州には今のところ原子力発電所は存在しないもののウラン資源が豊富であり、2018年に世界のウラン生産量国別ランキングでカナダを世界第2位に押し上げた。こうした背景から、同州は昨年11月に公表した2030年までの経済成長計画の中に、発電部門におけるCO2排出量の削減と無炭素発電技術であるSMRの開発方針を明記。州内のウラン資源を活用して、2030年代の半ばまでに初号機の完成を目指すとした。翌12月には、商業用原子力発電所を州内に擁するオンタリオ州、ニューブランズウィック州の両政府とSMRの開発・建設に向けて協力覚書を締結した。この中で3州は、「遠隔地域も含めたカナダ全土でSMRは経済面の潜在的可能性を引き出す一助になる」と明言。国内の主要発電業者に協力を求めてフィージビリティ報告書を作成し、2020年秋までにSMRの戦略的開発計画を策定する。今回の発表を行ったサスカチュワン州政府環境省のD.ダンカン大臣は、「SMRを開発してその恩恵を全面的に享受するには、複数のパートナーとの協力が不可欠だ」とコメント。SMRが内在する利点として、州内のウラン資源に経済的価値連鎖を付与できるほか雇用を促進、同州独自の気候変動対策策定にも寄与する点を挙げた。また、カナダでSMR開発が進展すれば経済・環境面の恩恵に加えて、安全で信頼性が高く価格競争力もあるクリーン・エネルギー源が同州に新たにもたらされると強調している。なお、カナダでは連邦政府もSMRの潜在的可能性に期待をかけており、2018年11月には天然資源省が「カナダにおけるSMR開発ロードマップ」を公表した。サスカチュワン州政府によると、カナダの全州および準州の電気事業者がこの構想への参加機会を模索しており、同州としてもSMRの利点を享受するためこれらとの協力を拡大していく考えである。(参照資料:サスカチュワン州政府の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月25日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 26 Jun 2020
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カナダのダーリントン2号機が約3年半の改修工事終え運転再開
カナダのオンタリオ州営電力(OPG)会社は6月4日、州内で保有するダーリントン原子力発電所の2号機(93.4万kWの加圧重水炉)で約3年半に及んだ大掛かりな改修工事が完了し、オンタリオ州の送電グリッドに定格出力で再接続したと発表した。同炉は1990年10月に営業運転を開始しており、今回の改修工事は約10年間の計画準備段階を経て2016年10月から開始していたもの。安全で高品質の作業を成功裏に終えた同炉は、今後30年以上にわたってクリーンで信頼性の高い低炭素電力を同州に供給するとしている。ダーリントン発電所は同出力のカナダ型加圧重水炉(CANDU炉)×4基で構成されており、約128億カナダドル(約1兆440億円)をかけた改修プロジェクトでは、同発電所で最初に営業運転を開始した2号機から作業を開始した。OPG社はこれに続いて、新型コロナウイルスによる感染拡大のため今年5月から予定していた3号機の改修工事を今年の第3四半期に始めるほか、1号機と4号機の作業をそれぞれ2022年と2023年から実施。2026年末までにこれら4基すべての改修工事を予算内で完了し、それぞれの運転期間を30年間延長する計画である。カナダでは一時期、ダーリントン発電所で新規の原子炉を2基、同じくOPG社の所有でブルース・パワー社が操業するブルース原子力発電所(80万kW級CANDU炉×8基)では4基増設する計画が進められていたが、これらの計画は現在すべて中止されている。また、2つの新規立地点における新設計画も中止になっており、その代わりとして、世界でも最大級の複数ユニットが稼働するブルースとダーリントンの両発電所で、運転期間の延長に向けた大規模な改修プロジェクトが進められている。2号機の改修作業ではまず、原子燃料を取り出した後に原子炉を一旦分解。その後、カランドリア管や燃料チャンネル、フィーダー管などを再設置する作業が行われた。複雑な工程であることから、OPG社はダーリントン・エネルギー複合施設のモックアップ設備や訓練設備を使って予行演習を実施。作業チームは76万時間を超える綿密で厳しい実地訓練を事前に受け、作業効率を改善した。また、オンタリオ州内の製造業者数百社が納入した精密機器や革新的な技術を用いることで、2号機の改修工事を成功に導いたとしている。OPG社でこのプロジェクトを担当するD.レイナー上級副社長は、「最良の条件が整ったとしても、これらの作業は非常に骨の折れるものになるはずだった」と説明。新型コロナウイルスによる感染の拡大など、様々な課題や制約があるなかで最終段階の作業を終えられたことは、原子力の専門家である作業チームが同プロジェクトで役割を全うした証であると強調している。(参照資料:OPG社の発表資料①、②、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月5日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 08 Jun 2020
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カナダNWMO、深地層処分場の二つ目の建設候補地点でもフィールド調査実施へ
カナダの核燃料廃棄物管理機関(NWMO)は5月26日、使用済燃料の深地層処分場建設計画で絞り込まれた最終候補2地点のうち、オンタリオ州南部のサウスブルース地域で今年後半にも安全性の確保と環境保全のためのフィールド調査を開始すると発表した。もう一つの候補地である同州北西部のイグナス地域では、すでに昨年11月の時点で同様の調査が進行中。NWMOはこれらのうち、処分場建設サイトとして最も好ましい1地点を2023年までに確定する方針である。カナダでは使用済燃料を直接処分する国家方針として「適応性のある段階的管理」(APM: Adaptive Phased Management)が2007年に採択され、実施主体のNWMOは処分場の建設から操業まで含めた「サイト選定プロセス」を2010年に開始した。2012年9月末までに国内の22地点が施設の受け入れに関心を表明しており、NWMOはその後これらをオンタリオ州内の2地点まで絞り込んだ上で、潜在的適合性の予備的評価を行っている。NWMOは今回、サウスブルース地域の議会に「サイト選定プロセス」の次の段階について最新情報を伝えたもの。フィールド調査には試掘孔の掘削に加えて、地球物理学的調査や環境モニタリング、およびその他の調査作業が含まれる。これらの作業は、NWMOの計画についてビジョンを共有するための協議と同様に重要であり、NWMOはこの調査で同地域が建設プロジェクトの厳しい安全要件を満たしているか見極める方針。このため、NWMOは今後数か月の間に地元コミュニティと同調査の活動内容について情報共有を行うが、これらの活動すべてが新型コロナウイルスによる感染など、住民の健康に配慮した方法で行われるとしている。この建設プロジェクトではまた、環境への影響評価や許認可手続きなど、周辺住民の健康と環境の防護を目的とした厳しい規制審査プロセスを経ることになっており、NWMOとしては地元コミュニティも交えた形で基本の環境モニタリング・プログラムを設計する。環境と水の保全が地元住民にとって最優先事項であることを念頭に、共有できるプログラムを共同策定する考えである。NWMOによると、フィールド調査で得られる地質や環境のデータは工学的設計調査や安全評価分析等の結果とともに、安全性に確固たる自信を持って深地層処分場を建設することにつながる。さらに、地元コミュニティ住民の懸念や願望、目的に応じた形でプロジェクトを進められるよう、技術調査と並行して住民の福利関係調査もコミュニティと協力して実施するとしている。(参照資料:NWMOの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの5月28日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 29 May 2020
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カナダ原研、USNC社製SMRの燃料製造研究等で協力協定締結
カナダ原子力研究所(CNL)は2月26日、昨年7月に設置した「カナダの原子力研究イニシアチブ(CNRI)」で支援する最初の小型モジュール炉(SMR)研究プロジェクトとして、米ウルトラ・セーフ・ニュークリア社(USNC)のSMR「マイクロ・モジュラー・リアクター(MMR)」(=右図)を選定し、同社の子会社であるUSNC-パワー社と協力協定を締結したと発表した。この協力では主に、MMRで使用する「完全なセラミック・マイクロカプセル化(FCM)燃料」の製造研究やMMR用黒鉛炉心の照射プログラム策定、CNLチョークリバー・サイトにおける燃料分析検査室の設置などをカバー。カナダのプロジェクト開発企業であるグローバル・ファースト・パワー(GFP)社はすでに昨年4月、USNC社のパートナー企業として、MMRをCNLチョークリバー・サイト内で建設するための「サイト準備許可(LTPS)」をカナダ原子力安全委員会(CNSC)に申請した。今回の協力では、チョークリバー・サイトでのFCM製造施設建設に向けた実行可能性調査の準備活動や、MMRの炉心や燃料の設計妥当性を確認する試験プログラム開発が含まれる。CNLは2017年4月に公表した今後10年間の「長期戦略」のなかで、2026年までにオンタリオ州にあるチョークリバー・サイトでSMRを建設するとの意欲的な目標を設定。関連企業からは、SMR原型炉や実証炉の建設で15件以上の関心表明書を受け取った。これに続いてCNLは2018年4月、チョークリバーを含むCNLの管理サイトで実際にSMR実証炉を建設・運転するプロジェクトの提案を募集。第1回目となるこの募集で、同年6月にはスターコア・ニュークリア社やU-バッテリー・カナダ社など国内外のSMR開発企業4社から提案があったという。CNLはこのほか、SMR開発を支援するコスト分担方式の研究開発イニシアチブとして、CNRIを2019年に設置している。1年単位のCNRIプログラムを通じて、CNLは世界中のSMRベンダーにCNLの専門的知見や世界レベルの研究設備を提供。カナダにおけるSMRの研究開発と建設を促進し、SMR技術の商業化を加速する計画である。USNC社はCNLが昨年11月、CNRIの初回の支援対象候補に選定した4社の1つで、残り3社(英モルテックス・エナジー社、米Kirosパワー社、加テレストリアル・エナジー社)の提案に関してCNLは現在、審査と交渉の様々な段階にあるとした。今回の協力取り決めにより、USNC社とCNLはMMRの多様な側面の中でも特に、燃料の開発・試験を検討。CNL側からは150万カナダドル(約1億2,000万円)相当の現物出資が行われ、2021年春までに完了する予定である。CNLとの協力に関してUSNC社のF.ベネリCEOは、「当社製SMR設計の実行可能性とFCM燃料の特殊な優位性を実証する重要な機会になる」と説明している。(参照資料:CNLの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの2月27日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 28 Feb 2020
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カナダの深地層処分場計画:最終候補2地点のうち1地点と調査のための立入で合意
カナダの核燃料廃棄物管理機関(NWMO)は1月24日、使用済燃料の深地層最終処分場建設計画で立地候補地点として残っている2地点のうち、オンタリオ州南部のサウスブルース地域の地主らと調査のための立入等で合意したと発表した。これにより、NWMOは今後数か月のうちに同地域で試験抗の掘削や基本的な環境モニタリング等の作業を開始し、処分場建設地としての適性を評価する。NWMOは同じくオンタリオ州の北西部イグナス地域でも、2017年11月から同様の調査を実施中で、2023年までにこれらのうち使用済燃料の安全かつ長期的な処分に適し、施設の受け入れに協力的な好ましい1地点を最終的に確定する。昨年11月の時点では、サウスブルース地域と隣接するヒューロン=キンロス地域も候補地点に含まれていたが、NWMOは今回、同地域を潜在的な候補から外すと明言。ただし、サウスブルース地域の隣接区域として、今後もサイトの選定活動に大きな役割を果たすと述べた。カナダでは使用済燃料を直接処分するための国家方針として「適応性のある段階的管理」(APM:Adaptive Phased Management)が2007年に採択され、NWMOは処分の実施主体として、処分場の建設から操業までを含む「サイト選定プロセス」を2010年に開始した。2012年9月末までに国内の22地点が施設の受け入れに関心表明したが、NWMOは2017年12月までにこれらをオンタリオ州内の5地点まで絞り込んだ。それ以降はプロセスの第3段階として、これらの自治体の「潜在的な適合性の予備的評価」を実施中。机上調査を行う第1フェーズを終えた後、地質学的調査や制限付き掘削調査などの現地調査を行う第2フェーズの作業を進めている。現地調査の実施権取得を目的とした「土地への立入プロセス」は、2019年5月にサウスブルース地域で始まっており、NWMOは今回合意文書を交わした地主も含めて複数の地主と交渉。これまでに合計約526ヘクタールの土地でこの権利を確保した。合意文書には、NWMOが土地を購入する取引のほかに、選定した土地で調査を実施しつつも地主が土地を継続的に利用できる「リースバック」取引も含まれるが、仮にこれらの土地で最終処分場を建設する場合、NWMOはこれらを購入することになっている。NWMOは今後さらに数か月から数年間にわたり、既に合意を得た土地に隣接する地主らとも協議を続け、処分場の建設に必要な約607ヘクタールまで土地を追加で確保していく方針である。(参照資料:NWMOの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの1月27日付「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 28 Jan 2020
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