キーワード:カナダ
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カナダのNB州政府、既存原子力発電所敷地内でのARC社製SMR建設を支持
カナダ東部ニューブランズウィック(NB)州のM.ホランド天然資源・エネルギー開発大臣は12月9日、米ARCニュークリア社が開発中の先進的小型モジュール炉(SMR)「ARC-100」(電気出力10万kW)について、州内唯一の原子力発電設備であるポイントルプロー発電所敷地内で、商業規模の実証炉を建設するという同社カナダ法人(ARCニュークリア・カナダ社)の計画を支持すると発表した(=写真)。大型炉から出る使用済燃料のリサイクルも可能という「ARC-100」は、第4世代のナトリウム冷却高速炉技術に基づいており、今年10月にはカナダ原子力安全委員会(CNSC)が提供する予備的設計評価サービス(ベンダー設計審査)の第1段階を完了した。ホランド大臣は、安全で信頼性が高く、経済的にも競争力のある低炭素なエネルギー源となるSMRの商業化をARC社が目指しているとした上で、優れた安全運転実績を持つポイントルプロー発電所には経験豊かな運転員もいることから、SMR実証炉の建設サイトに適していると指摘。同サイトで「ARC-100」を少なくとも2基、引き受けることが可能との考えを表明している。カナダの連邦政府はSMRのような次世代原子力技術について「国民が低炭素経済におけるエネルギー需要を満たしつつ、一層クリーンで安全な社会を構築する一助になる」と認識しており、将来は世界のSMR市場でリーダー的立場を得ることを目標としている。 カナダ国内のオンタリオ州、サスカチュワン州、NB州の州政府も今月1日、出力の拡大・縮小が可能で革新的技術を用いた多目的のSMRをカナダ国内で建設するため、3州が協力していくとの覚書を締結。NB州はこの中でも、世界水準のSMR開発で国内リーダーとなる目標を示しており、すでに2018年7月、英国籍のMoltexエナジー社が開発中の「燃料ピン型溶融塩炉(SSR-W)」について、商業規模の実証炉を2030年までにポイントルプロー原子力発電所敷地内で建設すると発表した。ARCカナダ社との協力に関してもNB州は同じく2018年の7月、州営電力のNBパワー社を通じて協力することで合意。NBパワー社はポイントルプロー原子力発電所の所有者であることから、同発電所敷地内で「ARC-100」初号機の建設可能性を探るとしていた。NB州のホランド大臣は、SMR技術導入の意義に触れ、たとえ送電網につながれていない遠隔地のコミュニティに対してもクリーンで低コストな電力を供給することであり、エネルギー多消費産業には低炭素で安定したエネルギー供給を約束できるとした。また、この技術がカナダ全土のみならず世界中で採用されれば、カナダは経済成長と輸出機会の拡大チャンスを得ることになると述べた。 州政府としては、SMR技術から同州が多大な恩恵を得ると考えており、ARCカナダ社のような企業との協力でSMR建設への道を拓くとともに、SMR開発を支援する世界的なリーダーとなる方針。また、世界レベルのSMR供給チェーンを構成する主要要素となる態勢も整いつつあると強調した。(参照資料:NB州政府、ARCカナダ社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの12月10日付「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 11 Dec 2019
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カナダの3州の首相がSMR開発で協力覚書
カナダ・オンタリオ州のD.フォード首相、ニューブランズウィック州のB.ヒッグス首相、およびサスカチュワン州のS.モー首相は12月1日、出力の拡大・縮小が可能で革新的技術を用いた、多目的の小型モジュール炉(SMR)をカナダ国内で開発・建設するため、3州が協力覚書を締結したと発表した(=写真)。 3人の首相はともに、原子力発電は炭素を出さず信頼性が高く、安全で価格も手ごろな発電技術と認識しており、SMRは遠隔地域などを含むカナダ全土において、経済面の潜在的可能性を引き出す一助になると明言した。同覚書に法的拘束力はないものの、今後は3州のエネルギー大臣が2020年1月から3月の間に冬季会合を開催して、最良の開発・建設戦略を議論。国内の主要な発電事業者には、費用対効果検討書も含めたフィージビリティ報告書の作成で協力を求める方針であり、同年秋までにSMRの戦略的開発計画を策定するとしている。 SMRの利点について3首相は具体的に、送電系統とつながっていないコミュニティに対してもクリーンで低コストなエネルギーを供給できるとしたほか、鉱山業や製造業などエネルギー多消費産業に対して便宜を図れるなどと指摘。また、SMR技術がカナダのみならず世界中で採用されれば、カナダの経済成長を促すとともに輸出機会を拡大することにもつながるとした。こうしたことから、3州の政府はそれぞれに特有の必要性や経済面の優先事項に見合う方法で経済を成長させ、温室効果ガスの排出量を削減するために協力体制を敷く方針。力を合わせて革新的なエネルギー・ソリューションを開発し、地域の雇用や成長促進に向けた最良のビジネス環境を創出していくと述べた。今回の覚書によると3州は、カナダ連邦政府の天然資源省が昨年10月に公表した「カナダにおけるSMRの開発ロードマップ」とともに、付託された「行動要請文」の策定に貢献した。カナダは原子力産業の全領域を備えるなど最上位に位置する原子力国家であり、SMR開発で先駆的国家となることにより、このように高度な革新的技術分野で戦略面や経済面、および環境面の利益が得られるとした。3州は世界でも有数の原子力企業が多数所在する地域であり、3州それぞれが州内でSMRを導入することに関心を抱いている。このような背景から、3州は以下の点について合意し、相互協力を行うことになったもの。(1)地球温暖化や州内のエネルギー需要、経済開発などに取り組むため、それぞれの必要性に応じたSMRの開発と建設を3州が協力して進める。(2)SMR開発における重要課題――技術的な準備状況、規制上の枠組整備、経済性と資金調達、放射性廃棄物の管理、国民および先住民との関わり合い――などに一致協力して取り組む。(3)「原子力のようにクリーンなエネルギーは地球温暖化への取組みの一部として必要」という明瞭明解なメッセージが発せられるよう、3州が連邦政府に積極的に働きかける。(4)3州内のオンタリオ・パワー・ジェネレーション(OPG)社、ブルース・パワー社、ニューブランズウィック・パワー社、およびサスクパワー社のCEOから要請されたように、開発ロードマップで特定されたSMR開発への支援提供を、3州が協力して連邦政府に働きかける。(5)原子力やSMRが有する経済面や環境面の利点について一般国民に情報提供するため、3州が協力する。――などである。 (参照資料:オンタリオ州政府の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの12月2日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 03 Dec 2019
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カナダの深地層処分場建設計画、候補地点を2地点に絞り込みへ
カナダの核燃料廃棄物管理機関(NWMO)は11月26日、使用済燃料の深地層処分場建設計画におけるサイト選定プロセスで、候補地点をいよいよ2地点に絞り込む段階に来たと発表した。使用済燃料処分の実施主体であるNWMOは、処分場の建設・操業まで含めてのサイト選定プロセスを2010年に開始しており、2012年9月末までに22地点が施設の受け入れに関心を表明した。現在は第3段階として、これらの自治体の「潜在的な適合性を予備的に評価」している。机上調査を行う第1フェーズと、地質学的調査や制限付き掘削調査などの現地調査を行う第2フェーズを通じて、選定作業を実施中。22地点のうち、9地点が2015年に第3段階・第2フェーズに進んだ後、2017年12月にはオンタリオ州内の5地点まで候補地点が絞り込まれていた。今回NWMOは、これらのうち州北西部のイグナス地域、および州南部に位置するヒューロン=キンロス地域とサウスブルース地域の合計3地点を選定しており、これらで処分場の立地可能性をさらに追求することになった。ヒューロン=キンロスとサウスブルースの2地点はほとんど隣接しており、このエリアが立地点となった場合、現在進められている土地所有者との交渉に基づいて、どちらかがサイト選定プロセスの次の段階に進むことになる。一方、州北部のホーンペインとマニトウェッジの両地域では、これ以上の評価は行わず除外するとしている。NWMOは今後、残りの3自治体と協力しながらさらに詳細な技術評価と社会調査を実施し、処分場施設が安全なものになるか見定める。また、これらの地域で住民の福祉を向上させつつ、建設プロジェクトを進めるための方法を模索。2023年までに、使用済燃料を長期的かつ安全に処分することが可能な1地点を最終決定することになる。NWMOのM.ベン=ベルファドヘル副総裁は、「最終的な判断を下すのは非常に難しく軽々には行えない」とコメント。「施設近隣の住民や環境を確実に防護しつつ、カナダの最終処分計画を進められるような、プロジェクトを十分理解した上で協力的な1地点を特定したい」と述べた。カナダでは、現在稼働中の加圧重水炉19基から出る使用済燃料を再処理せず、発電所サイト内で30年間保管し、1か所で集中管理することになった場合は、その施設でさらに30年間保管する方針。深地層に最終処分するのは原子炉から取り出して約60年後からとなるが、NWMOの最終処分場では銅をコーティングした専用キャニスターに使用済燃料を封入して、地下500mの深地層部分に埋設する計画である。サイト選定プロセスにおいては、参加自治体のみならず近隣自治体に対しても、建設プロジェクトへの貢献が認められた場合、福祉向上のための一時金が支払われるとしている。 (参照資料:NWMOの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月27日付「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 28 Nov 2019
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カナダ原研、SMR開発支援イニシアチブの候補企業4社を選定
カナダの国立原子力研究所(CNL)は11月15日、同国内で小型モジュール炉(SMR)の研究開発と建設を促進するため、今年7月に設置した「カナダの原子力研究イニシアチブ(CNRI)」の候補となる企業4社を選定したと発表した。CNRIは世界中のSMRベンダーに対し、CNLの専門的知見や世界レベルの研究設備を提供する新しいプログラム。対象分野としては市場分析や燃料開発、原子炉物理、モデリングなどを指定しており、これらに関するプロジェクトの提案企業を毎年募集することになっている。参加企業はCNLが提供する資源を最大限に活用するとともに、技術的知見を共有。開発中のSMR技術の商業化に向けた支援を、出資金あるいは現物出資の形でCNLから受けることができる。次回の募集についても、CNLは来年初頭を予定していることを明らかにした。同イニシアチブで最初の受益者に選ばれたのは、(1)英国の原子炉開発企業モルテックス・エナジー社のカナダ支社、(2)米カリフォルニア州のKairosパワー社、(3)米ワシントン州のウルトラ・セーフ・ニュークリア社(USNC)、(4)カナダを本拠地とするテレストリアル・エナジー社。CNLは今後、研究開発費の分担等について、これら4社との最終交渉を開始する。モルテックス社は現在、カナダのニューブランズウィック大学と共同で、カナダ型加圧重水炉(CANDU)の使用済燃料をピン型溶融塩炉(SSR)の燃料に転換する試験装置について、建設と合理化を進めている。また、Kairos社の提案プロジェクトは、高温のフッ化塩で冷却する「KP-FHR」設計を実現するため、トリチウムの管理戦略を策定するというもの。片やUSNCは、同社製「Micro Modular Reactor(MMR)」の開発で浮上する様々な技術的課題について、解決に向けた作業プロジェクトを提案した。テレストリアル社は、同社製「一体型溶融塩炉(IMSR)」等に対して、安全・セキュリティや核不拡散関係の技術を適用する可能性を評価したいと提案。CNLが保有する設備の中でも特に、「ZED-2原子炉」の利用機会を得たいとしている。CNLのM.レジンスキー所長兼 CEOは今回の選定について、「CNLが実施した市場調査の結果や、カナダのSMR開発ロードマップの判明事項からも、原子力産業界がCNLの知見や設備を一層必要としていることが明確に示された」と説明。CNLのCNRIプログラムは、そのような利用機会を実現する方法として設置されたと強調した。CNLのK.マッカーシー科学技術担当副所長も、「カナダをSMR研究のハブとするため、CNLが過去3年間に実施した作業は大きく前進した」と指摘。SMRに共通する主要な技術分野で、CNLが膨大な知見を蓄積してきたという事実に言及した。SMR開発についてCNLは、2017年4月に公表した今後10年間の「長期戦略」の中で、2026年までにCNLの管理サイト内で少なくとも1基、実証炉を建設するという目標を明示した。2017年中にSMRの開発企業から19件の関心表明を受けており、2018年4月に開始した全4段階の審査プロセスにより、提案企業の募集と選定作業を進めている。今年2月には、USNCが開発したMMR設計が同審査で唯一フェーズ3に進んだほか、テレストリアル社のIMSRもフェーズ2に移行している。MMRについては、エネルギー関係のプロジェクト開発企業グローバル・ファースト・パワー(GFP)社が今年4月、CNLのチョークリバー・サイト内で建設するため、SMRとしては初の「サイト準備許可(LTPS)」をカナダ原子力安全委員会(CNSC)に申請した。CNLの審査プロセスは、CNSCの許認可プロセスから完全に独立していることから、許認可段階に進展した建設プロジェクトには法的規制要件が課され、提案企業は一般国民や先住民コミュニティなどとプロジェクトの重要事項に関する協議を行わねばならない。 (参照資料:CNLの発表資料、原産新聞・海外ニュース、WNAの11月18日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 20 Nov 2019
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カナダの深地層処分場、サイト選定プロセスで2本目の試験坑 掘削が完了
カナダで使用済燃料の処分事業を担当する核燃料廃棄物管理機関(NWMO)は10月15日、深地層処分場の建設サイト選定のため、オンタリオ州イグナス地域で進めていた2本目の試験坑のボーリング作業が9月中旬に完了したと発表した。同処分場の受け入れ自治体については、NWMOが2010年から選定手続を開始。イグナス地域は、オンタリオ州とサスカチュワン州で関心表明していた22地点のうちの1つである。選定プロセスの第1フェーズである予備評価の結果から、同地域を含む9地点が2015年に第2フェーズに選ばれ、地質調査や制限付きボーリング調査が実施されることになったが、その後の調査で候補地点はオンタリオ州内の5地点に絞られた。NWMOは同地域でボーリング作業を継続し、最終的に施設の受け入れに協力的な1地点を2023年までに選定することになる。残っている5地点は、イグナス地域のほかにヒューロン=キンロス、サウスブルース、ホーンペイン、およびマニトウェッジの各地域。イグナス地域での試験坑掘削は2017年11月から始まっており、NWMOは掘削済みの2本で現場試験を行うほか、掘削時に掘り出した円柱形の地質サンプルや採取水等の分析・調査を国内外の研究所で進めていく。現場試験には約8週間を要するのに加えて、その後に研究所で実施する分析作業については数か月かかる見通し。しかし、このような作業を通じて地球科学や地力学、石油物理学に関する様々なパラメーターが得られ、地層に対する統合的理解が深まるとした。NWMOはまた、1本目と2本目の試験坑から2.5km離れた地点で、すでに3本目のボーリング作業を開始。さらに4本目~6本目に関しても、今月から掘削準備を始めている。地層科学に関する情報やデータ、知見を収集して、使用済燃料の長期的な安全管理のためにカナダが策定した計画を前進させたいとしている。(参照資料:NWMOの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの8月28日付「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 29 Oct 2019
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原子力発電の柔軟性
通常、原子力発電所はベースロードで運転されるが、柔軟な運転方法をとればその価値をさらに高めることができる。2015年9月、私は米国原子力エネルギー協会(NEI)のブレインストーミング・セッションに参加した。このセッション(及びこれより前の2つのセッション)は、米国の自由化環境下にある原子力発電所が、電力業界構造変革と電力市場という難関に直面する中、どこまで柔軟な運転方法をとることができるのか、という点が主なテーマであった。このNEIのブレインストーミング・セッションで議論されたアイデアのいくつかをとりあげてみたい。NECGコメンタリー第3回では、経済的理由からほとんどの原子力発電所はベースロードで運転されていることを説明した。大半の電力系統や電力市場ではこのように原子力をベースロードで運転することが最適となるが、一部の電力系統や電力市場においては原子力発電所を柔軟に出力変動させながら運転することでその価値をさらに高めることができる。このコメンタリーでは、原子力発電所を短期的、および長期的に柔軟に出力変動させながら運転する手法について考察する。短期的な柔軟性電力市場価格は短期的にマイナスになり得るが、それに対応し短期的に柔軟に原子力発電所の出力を低下させれば、原子力発電所が生む利益をより大きくすることができる。スポット市場価格がマイナスになるということは、市場が発電出力を低下させるべきという経済的信号を発電事業者に向けて発していることを意味する。一部の発電事業者の短期限界費用(SRMC・すなわち電力市場への入札価格)はマイナスになることがある。例えば、風力発電事業者は、発電所が実際に発電した電力量に応じた税控除や再生可能エネルギー・クレジットを受け取ることができる。こうした風力発電事業者にとっては、税控除額と再生可能エネルギー・クレジットの合計額にマイナスをつけて市場で入札するのが最も合理的な戦略となる。電力スポット市場価格がこの風力発電事業者のマイナスの入札価格より高ければこの事業者は必ず利益を出して運転することができる。水力発電事業者や原子力発電所など、その他にもSRMCがゼロとなり得る発電事業者がある。こうした発電事業者は、常に発電をしたいから、通常は「価格受容者」として市場に入札する。つまりこうした事業者の入札では、市場が発電事業者の発電電力量すべてを引き取る代わりに、価格としてはその時点時点で決まるスポット市場価格を適用して発電事業者に支払いが行われる。「価格受容者」として入札すれば、電力改革後の新しい電力市場環境においても原子力発電所を確実にベースロードで運転することが可能となる。原子力発電所は「価格受容者」として市場に入札しても、電力市場価格がゼロを上回る限り、各取引期間毎にいくばくかの収入を得ることができ、それを固定費に充当することもできる。しかし、もし電力市場でスポット価格がマイナスに転じた場合、「価格受容者」として入札した原子力発電所は市場運用者に対して支払いを行うことになる。こうした支払いは、原子力をベースロードで運転維持するための現金支出をともなう費用であって、原子力発電所の発電原価(燃料費以外の運転コスト)を上昇させる。もしもスポット市場価格がマイナスになるような場合には、原子力発電所が出力低下可能であれば、こうした費用を削減し、あるいはゼロにすることも可能となる。以下はいずれも原子力発電所を短期的に出力変動させながら柔軟に運転している例である。こうした実例はマイナスのスポット市場価格に直面する既存の原子力発電所にとって何らかの参考となるものだろう。オンタリオ州発電所のタービン・バイパスオンタリオ州ブルース発電所のCANDU炉は、原子炉を全出力で維持しつつ、電気出力を低下させる機能を有する。それはタービンをバイパスし、蒸気を復水器に直接排出することで、タービン発電機の電気出力を低下させる機能である。ブルース発電所の 各8基のプラントは定格電気出力約76万kWだが、各プラントは定格から出力を30万kW低下させ、柔軟な運転を行うことができる。オンタリオ州の市場運用者は低需要時や風力の発電出力が高い時には、このブルース・パワー社の原子力発電所が持つ合計240万kWの柔軟な調整電力を活用してオンタリオ州の電力系統のバランスを取っている。本稿トップの図は、2013年9月4日~10日の原子力発電所の柔軟な運転状況を示している。このようにオンタリオ州の電力系統のバランスを取るためにブルース発電所が持つ柔軟な運転機能が活用され、2013年9月8日日曜日早朝には原子力は出力を約200万kW低下させ運転していた((出典:Scott Luft’s Cold Airブログ;201336ウィークリー・レポートのアーカイブデータ(2013年9月4日~10日)。))。CANDU炉のタービン・バイパスを活用した出力変動速度(すなわち、電気出力をどれほど速く増加または減少できるか)は、最大で全出力の10%/分である。これはコンバインド・サイクル火力発電所の出力変動速度である全出力の約5%/分より大きく、EPRやAP1000といった改良型原子炉の設計出力変動速度(全出力の約5%/分)と比べても速い((Atomic Insights、2011年12月1日、Don Jonesによるゲスト投稿;オンタリオ州のCANDU炉は天然ガスと水力より柔軟になれるか;))。NEIブレインストーム・セッションで、原子力業界からの参加者は、技術的に言えば米国の軽水炉も同様のタービン・バイパス機能を有しているが、今のところそれを運転の柔軟性向上には活用していない、と発言していた。米国の原子力発電所でもこのタービン・バイパス機能を活用し、運転出力を柔軟に調整すれば、スポット価格がマイナスである期間にも全出力運転を継続しているために発電所が市場運用者へ支払っている費用を削減し、あるいはゼロにすることができる。このように発電所出力を柔軟に調整することのメリットは十分にあり、それによって経済的理由から早期に廃止されてしまう可能性があるような原子力発電所の運転も継続することが可能となるかもしれない。フランスの原子力発電所((原子力発電所の負荷追従の技術と経済性、OECD NEA 2011年))フランスでは、全電力量の75%以上が原子力で発電されている。フランスではこのように原子力発電の比率が高いため、一部の原子力発電所は柔軟に出力を調整しながら運転し、電力需要の時間単位、日単位、および週単位の変動に対応する必要がある。こうした柔軟な運転を実現するために、フランスの原子力発電所はベースロード・モード、一次/二次周波数制御モード、または負荷追従モードでの運転が可能となっている。一次周波数制御モードでは、系統周波数を安定に維持するため、リアルタイムでの出力増減が必要になる。二次周波数制御モードも類似ではあるが、原子力発電所の出力をより長期的に調整しながら、より大きな系統需要と周波数の変動に対応させる。負荷追従モードでは、24時間を通じて出力レベルと変動速度を予めプログラムしておく。この負荷追従モードでは、一部の原子炉では定格出力の50%という低出力で運転されることもある。こうした柔軟な運転モードを実現させるため、フランスの原子力発電所では2種類の制御棒が使用されている。通常の制御棒に加え、中性子吸収量が小さいグレー制御棒が使われている。グレー制御棒の他、一次冷却材の温度変動も活用することで、フランスの原子力発電所は相当な運転上の柔軟性を確保している。新規原子炉の設計に関する欧州電力要求では、フランスやその他欧州諸国(例えば、ドイツ)での経験を基に、周波数制御と負荷追従の両方を可能とするような柔軟な運転機能が要求されている。こうしたフランスの柔軟な運転モードの一部は、米国の原子力発電所でも実現可能なものである。コロンビア発電所((ICAPP 2015年の議事録、2015年5月03日~06日-ニース(フランス)、Paper 15555、原子力と再生可能エネルギーは友人になり得るか?D.T.Ingersoll、C.Colbert、Z.Houghton、R.Snuggerud、J.W.Gaston、及びM.Empey))コロンビア発電所は、米国の太平洋岸北西部に所在する沸騰水型原子炉であるが、この地域には多数の水力発電所がある。コロンビア発電所は、電力系統の需給予測に対応して運転されており、同発電所ではこれを「ロード・シェーピング(負荷形成)」と呼んでいる。コロンビア発電所は、米国内でこうした運転方法を取っている唯一の商業原子力発電所である。ボンネビル電力管理局(BPA)管内電力系統では、春季に水力発電所の溢流を回避するため、原子力の「負荷形成」が必要となる。BPA電力系統の中で風力容量が増加することにより、さらに新たな「負荷形成」が必要になる可能性もある。コロンビア発電所は、BPAと合意しかつ米国NRCの承認を受けたガイドラインに従って「負荷形成」を実施する。普通、運転員は原子炉再循環流量の調整により、電気出力を定格の85%程度まで低下させ、さらに制御棒を挿入して電力出力を65%まで低下させる。こうした「負荷形成」による出力低下は、BPAの給電指令に基づき行われる。こうした出力低下の給電指令は、85%出力までの低下の場合は少なくとも12時間前に、また65%出力への削減の場合は48時間前に、そして完全停止の場合は72時間前までに必ず出されることになっている。米国の自由化環境下にある原子力発電所でも、類似の方法を活用して市場価格がマイナスとなることが予想される季節には夜間の出力を低下させることもできよう。長期的な柔軟性原子力発電所の運転を長期的に柔軟に行うことで価値を生める場合もある。原子力発電所の運転費が電力市場価格よりも高くなることがあるが、それは発電所の営業損失につながる。こうした営業損失が何年も続くと予測される場合もある。これまで米国では自由化環境下にあるキウォーニ発電所とバーモントヤンキー発電所の2原子力発電所が早期廃止されたが、これは電力市場での経済損失が発生し、あるいは将来も損失が発生すると予想されたことが原因である。自由化環境下にあるその他複数の原子力発電所でも同様の状況が起き得ると言われている。こうした長期的な損失継続に直面した米国の原子力発電所が採り得る選択肢としては、状況が改善するまで、損失を出しながら運転を継続する。原子炉を停止し、廃止措置を開始する。ということになるが、こうした原子力発電所でも、電力市況が上向くまでの間、10年くらい休止状態にしておくという3番目の選択肢をとり得るのであれば、早期に発電所を恒久的に廃炉にしてしまうよりも魅力的な選択肢になり得る。カナダでの以下の実例から原子力の柔軟性に関してさらに別の教訓を得ることができる。ピッカリングA発電所とブルースA発電所1997年にピッカリング発電所の1~4号機は休止状態にされた。しかしピッカリング4号機は2003年に運転を再開し、1号機は2005年に運転を再開した。ピッカリング2号機と3号機は現在も安全停止状態にある。ブルースA発電所の1~4号機のうち、ブルース2号機は蒸気発生器のトラブルのために1995年に休止され、残る3基も1998年に休止状態にされた。2001年5月、ブルース・パワーLP(ブルース・パワー)社はオンタリオ・パワー・ジェネレーション社との間で長期リース契約を締結し、ブルースA発電所、およびブルースB発電所の運転認可を獲得し、カナダ初の民間原子力発電会社となった。リース契約の時点で、ブルースA発電所の4基の原子炉は休止状態にあった。ブルース・パワー社はブルースA発電所管理役務を引き継ぎ後、2004年1月にブルース3号機を、また2003年10月には同4号機を再稼働させ、さらにブルース1号機と2号機を2012年初めに再稼働させた。ピッカリングならびにブルース両発電所は、運転休止という選択がされなければ、廃炉にされていた可能性がある。休止状態に置いておくという選択肢があったことで、後からこれらの原子炉を再稼働させることができた。米国の状況許認可上、米国の運転中の原子力発電所には、「運転認可」を継続して維持するか、または発電所を閉鎖して「所有のみ認可」に移行するか、という2つの選択肢がある。「運転認可」を有する原子力発電所は、運転員及びその他の要員を継続的に維持しなければならない。人件費は原子力発電所の固定費の主要部分を占めるため、「運転認可」を維持しつつ単に運転中の原子力発電所を停止するだけでは、燃料費と燃料交換停止時の費用は削減することはできる。しかし、固定的な運転・保守費を大幅に削減することにはならない。一方、原子力発電所を閉鎖し、「所有のみ認可」に移行するなら、それは廃炉への一方通行である。一旦閉鎖した原子炉に対し、後から新たな運転認可を取得することは可能かもしれない。その場合、当初、運転認可が発行された時点に施行されていたNRCの規制要件ではなく、現行の規制要件への適合がその発電所に対して要求される可能性が高い。古い原子力発電所を現行の規制要件に合致するように更改するのは、非常に大きな費用が必要となる可能性がある。もしも、米国NRCが原子力発電所の休止状態を認める、新たな制度上の認可種別を設けることができれば、米国でもピッカリング発電所やブルース発電所が再稼働したのと類似の状況を生む可能性がある。こうした新しい「運転認可の一時的停止」は以下のような内容となるであろう。「所有のみ認可」に移行した場合とほぼ同等の運転保守費の削減(例えば、セキュリティや最低の保守費用のみが発生する)が可能になり、原子炉の維持コストを大幅削減できる。「運転認可の一時的停止」状態の原子力発電所には、いずれ運転再開するか、あるいは廃止措置に移行するか、2つの選択肢がある。原子炉を運転状態に戻す場合、「運転認可の一時的停止」状態に置かれた期間の長さ分、当初の運転認可満了日を延長させる。「運転認可の一時的停止」状態の間の原子炉の維持要件を(将来の再稼働は十分可能だが、過度な負担とはならないよう)明らかにする。運転状態に戻すときの要件を明確に示し、「運転認可の一時的停止」状態に入れるに際し、発電所所有者が復帰の費用や再稼働についての見通しを評価できるようにする。原子力発電所にこうした新しい認可オプションを適用することができれば、米国の自由化環境下にあって閉鎖の脅威にさらされた原子力発電所を恒久的に廃止するのではなく、休止状態に移行させて維持することが可能となる((ANS Nuclear Cafeへの投稿「停止した原子力発電所を休止状態にしよう」、Rod Adams、2013年9月3日にこのトピックを取り扱った))。結論既設原子力発電所を短期的に柔軟性をもって運転すれば、発電所が生む利益をより大きくすることができる。原子力発電所を休止状態に置くような長期的柔軟性を確保できれば、今は採算が合わない原子炉でも何年か後に電力市場価格が好転した際に運転を再開することができる。[Margaret Harding(NECG提携先)が、本コメンタリーの早期ドラフトをレビューした] PDF版
- 24 Sep 2015
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