キーワード:カーボンニュートラル
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参院調査会 原子力の役割も指摘
宮沢会長参議院の「資源エネルギー・持続可能社会に関する調査会」((参院に解散がなく、議員の任期が6年であることに着目し、長期的かつ総合的な調査を行う目的で設けられた参院独自の機関。調査事項に係る報告書を議長に提出することが求められる。))(宮沢洋一会長〈自由民主党〉)が6月7日、中間報告書をまとめた。今期通常国会の会期中、同調査会は7回開催。「資源エネルギーの安定供給確保と持続可能社会の調和」をテーマに、政府関係者の他、計9名の有識者を参考人に招き質疑応答を行った。白石氏ロシアのウクライナ侵略開始からおよそ1年が経過した2月8日、有識者として招かれた総合資源エネルギー調査会の基本政策分科会会長を務める白石隆氏(熊本県立大学理事長)は、「エネルギー危機に迅速に対応できる体制ができていなかった」と指摘。日本のエネルギー政策の問題として、電力自由化のもとで事業環境整備が遅れた再生可能エネルギー大量導入のための系統整備が遅れた原子力発電所の再稼働が遅れた――ことをあげた。山下氏同15日には、山下ゆかり氏(日本エネルギー経済研究所常務理事)が、「3E」(安定供給、経済性、環境への適合)の観点からの各エネルギー源に関する分析を披露した上で、「原子力や化石燃料の脱炭素化も含め、単一ではなく、多様なエネルギー源を使うサスティナブルなポートフォリオを考える」重要性を強調。水素・アンモニアの混焼やCCUS(CO2の回収・有効利用・貯留)の技術進展とコスト削減に期待するとともに、途上国のエネルギークリーン化に向け、LNG利用を進める必要性から「化石燃料への投資を止める最近の動き」に懸念を示した。竹内氏4月12日には、「エネルギーや気候変動など SDGsを巡る日本の情勢」を焦点に、竹内純子氏(国際環境経済研究所理事)らが有識者として発言。同氏は、エネルギー政策について「足元の現実を見たフォワードルッキングの手法が必要」だが、気候変動政策については「あるべき姿からさかのぼって考えるバックキャストの手法が必要」と、両者の思考方法はまったく異なることを指摘。また、政府の「GX(グリーントランスフォーメーション)実行会議」に有識者委員として議論に参画した経験も踏まえ、原子力発電について「初期投資が巨大で、投資回収期間が長期にわたる。事故時の賠償やバックエンド事業などの不確実性もあり、資金調達コストの抑制や高い稼働率を維持すれば安価な電力を供給するポテンシャルを持つが、それらが十分でないと高コストになってしまう」と評価した。その上で、原子力事業の健全性確保に関し、「制度・政策、安全規制、社会・立地地域の理解が面的にそろっていないとどこかで行き詰まってしまう」と指摘した。※写真は、いずれもオンライン中継より撮影。
- 13 Jun 2023
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2023年版環境白書が閣議決定
2023年版環境白書が6月9日、閣議決定された(環境問題の全体像をわかりやすく示すため、循環型社会白書と生物多様性白書を合わせて編集し、1つの白書としてまとめている)。環境省が毎年、「環境の日」(6月5日)に合わせ発表しているもの。今回の白書では、冒頭、地球の限界「プラネタリー・バウンダリー」の考え方を提唱。地球の変化に関する各項目(気候変動、オゾン層の破壊、海洋の酸性化など)について、「人間が安全に活動できる範囲内にとどまれば人間社会は発展し繁栄できるが、境界を超えることがあれば、人間が依存する自然資源に対して回復不可能な変化が引き起こされる」というもの。その上で、2022年に世界で発生した気象災害を振り返り、「地球温暖化の進行に伴い、今後、豪雨や猛暑のリスクがさらに高まると予想されており、気候変動問題は危機的な状況にある」と警鐘を鳴らしている。科学的知見として、国連環境計画(UNEP)の「Emissions Gap Report 2022」が示す「現行対策シナリオでは今世紀の気温上昇は2.8℃となる」、「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)の第6次評価報告書(2023年3月)が示す「人間活動が、温室効果ガスの排出を通して地球温暖化を引き起こしてきたことは疑う余地がない」ことを改めて強調。最近の気候変動に関する国際的な議論として、COP27(2022年11月、エジプト・シャルム・エル・シェイク)、「G7札幌 気候・エネルギー・環境大臣会合」(2023年4月)を紹介している。日本が国際社会に表明する「2050年カーボンニュートラル」と2030年度に46%の温室効果ガス削減(2013年度比)の目標を巡っては、「2022年にロシアによるウクライナ侵攻が発生し、世界のエネルギー情勢が一変した」と危惧。2030年までの期間を「勝負の10年」と位置付けるとした上で、GX(グリーントランスフォーメーション)の実現に向けた取組などを述べている。また、東日本大震災・福島第一原子力発電所事故からの復興・再生に向けた取組については、リスクコミュニケーションの推進として、2021年に立ち上げられた放射線健康影響に正確な情報を発信する若手中心の活動「ぐぐるプロジェクト」(学び・知をつむ“ぐ”、人・町・組織をつな“ぐ”、自分事としてつたわ“る”)や、ALPS処理水((多核種除去設備(ALPS)等により、トリチウム以外の放射性物質について安全に関する規制基準値を下回るまで浄化した水。海水と混合し、トリチウム濃度を1,500ベクレル/リットル(告示濃度限度の40分の1)未満に希釈した上で放水する))に係る風評対策について紹介。ALPS処理水の海洋放出に関しては、「客観性・透明性・信頼性を最大限高めた海域モニタリングを行い、結果を国内外へ広く発信する」としている。
- 12 Jun 2023
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三菱電機と三菱重工 発電機事業を統合
三菱電機と三菱重工業は、発電機事業のジョイントベンチャーを2024年4月に設立する。カーボンニュートラル実現に向けた取組の加速化など、電力を取り巻く世界環境が大きく変化する中、発電機事業を統合し、両社の技術・資産を結集することで、市場競争力をさらに強化することがねらい。〈三菱電機発表資料は こちら〉事業の統合については、両社が昨年末に基本的に合意しており、5月29日に諸条件を定めた統合契約を同日付で締結したことが発表された。今後、三菱電機が100%子会社の準備会社を設立し、両社の火力、原子力、水力の各発電事業を分割・承継させる。出資比率は三菱電機が51%、三菱重工が49%となる予定だ。新会社は神戸市に設立される。三菱電機の漆間啓社長は同日、報道関係者・投資家を対象とした経営戦略説明会の中で、サステナビリティの実現を目指し同社が注力する課題領域の筆頭に「カーボンニュートラル」を掲げ、「温室効果ガスの削減に向けた取組を強化するなど、企業としての責任をしっかり果たしていきたい」と強調。また、同専務執行役の高澤範行氏は、インフラビジネス分野における成長戦略の中で、海外パートナーとの戦略的提携を図っていくことなどを述べた。同社では2022年に米国ホルテック社が開発する小型モジュール炉(SMR)向けに計装制御システムの設計契約を締結している。高澤氏は、「市場変化に対応した生産・事業基盤の再構築」の一戦略として、今回の三菱重工との発電機事業JV設立について説明し、「世界的にリモートワークが定着する中、投資抑制傾向にある交通事業や、競争が激化している変電事業についても、生産体制の最適化を図っていく」とも述べている。
- 02 Jun 2023
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原子力関連法案が成立
「脱炭素社会の実現に向けた電気供給体制の確立を図るための電気事業法等の一部を改正する法律案」が5月31日、参議院で可決され、成立した。2月に閣議決定された「GX(グリーントランスフォーメーション)実現に向けた基本方針」に基づき、「地域と共生した再生可能エネルギーの最大限の導入促進」、「安全確保を大前提とした原子力の活用」に向けて、関連法を改正するもの。原子力の関連では、「事業者に対し、運転開始から30年を超えて運転しようとする場合、10年以内ごとに、設備の劣化に関する技術的な評価を行い、その劣化を管理するための計画を定め、原子力規制委員会の認可を受けることを義務付ける」(原子炉等規制法)、「『運転期間は最長で60年に制限する』という現行の枠組みを維持した上で、事業者が予見しがたい事由による停止期間に限り、60年の運転期間のカウントから除外する」(電気事業法)ことなどを規定している。同法案は、4月27日に衆議院で可決後、参議院に送付され同経済産業委員会(吉川沙織委員長〈立憲民主党〉)にて審議。5月30日に同委で可決後、31日の本会議に諮られ、賛成多数で可決、成立となった。採決に先立つ討論で、日本維新の会と国民民主党の各議員が賛成の立場で、立憲民主党と日本共産党の各議員が反対の立場で意見を表明。経済産業委員会での審議では、いわゆる「束ね法案」((「束ね法案」とは、幾つもの法案を ひとつの法案にまとめて提出されたものを、「一括審議」と区別するため「一括法案」とは呼ばずに「束ね法案」と呼ぶ。「一括審議」とは、国会に提出された別々の法案であっても、 何らかの共通点を見出して、同一の手続きで審議を進めることをいう。))として提出されたことが議論の一つとなったが、国民民主党の礒﨑哲史議員は、本会議での討論の中で、法案への賛意表明の一方、「まだ深掘りした議論が不足している」、「国民への丁寧な説明の機会を逸したことに大きな問題があった」と指摘した。 参院経済産業委員会に招かれた参考人(右より、山地氏、岩船氏、松久保氏)参議院の経済産業委員会は、同法案の審議に関し、内閣委員会、環境委員会との連合審査会を含め計7回開催。5月25日には、有識者として、山地憲治氏(地球環境産業技術研究機構理事長)、岩船由美子氏(東京大学生産技術研究所教授)、松久保肇氏(原子力資料情報室事務局長)を参考人に招き質疑応答を行った。岩船氏は供給対策だけでなく需要対策も活用したエネルギー安定供給を図る必要性を、松久保氏は福島第一原子力発電所事故の教訓を忘れぬことなどをそれぞれ主張。有識者の発言を受け、石川博崇委員(公明党)は、原子力産業新聞が2021年に福島第一原子力発電所事故から10年の機に行ったインタビュー特集「ふくしまの今 ~復興と廃炉、10年の歩み~」に言及し、インタビュー中の山地氏による「国民の信頼を回復し、事故の負のイメージを払拭する取組が必要」との発言に関し質問。山地氏は、「まず国が前面に立って『原子力を活用していく』と、国民に示していくことが非常に重要だ」と応えた。電力安定供給の重要性を踏まえ、SMRに期待する平山委員また、平山佐知子委員(無所属)は、「今、子供から高齢者までスマホを使うようになり、話題の『ChatGPT』も電力を多く必要とする。これからますます電力を消費する社会となっていく」と、将来に向けた電力安定供給の重要性を強調。「あらゆるエネルギー源を否定することなく、様々なイノベーションをしっかりと起こしていく必要がある」と、現実的・総合的に対応していく必要性を主張した上で、次世代革新炉の開発に関し、小型モジュール炉(SMR)を利用した水素製造の可能性にも期待を寄せた。なお、今回の法案成立を受け、松野博一官房長官は5月31日午後の記者会見で、「原子力規制委員会が厳格に規制を行っていく方針に変わりはない。今後、エネルギー安定供給とカーボンニュートラルの実現の両立に向け、本法の着実な施行に努めていく」と発言。また、電気事業連合会の池辺和弘会長は、「安定供給と2050年カーボンニュートラルの実現に向け、引き続き、安全確保を大前提とした原子力発電の最大限の活用、火力発電の脱炭素化、電化の推進など、需給両面であらゆる対策を講じていきたい」とのコメントを発表した。※写真は、いずれもオンライン中継より撮影。
- 01 Jun 2023
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先進炉等に支持広がる――NGOの多国間世論調査
このほど公表された多国間世論調査「The World Wants New Nuclear」によると、先進原子力エネルギー技術(モジュール性、サイズ、安全性などの側面においてイノベーションをもたらす様々な次世代原子力エネルギー技術)に対する支持が各国で広まっている。この調査はNGOのClearPath(米), Third Way(米), Potential Energy Coalition(米), Replanet(欧)が共同で2022年11月から2023年1月にオンラインで実施したもので、フランス、ドイツ、日本、ポーランド、韓国、スウェーデン、英国、米国の8か国の一般市民からランダムに計13,500人を抽出し対象としている。先進原子力エネルギーを支持すると答えた人の割合が高い国は、ポーランド、フランス、スウェーデンで、とりわけ昨今、大型炉やSMRの導入に向けた動きが活発化しているポーランドでは、回答者の84%が先進原子力エネルギーを支持する結果となった。またポーランドの回答者の78%が気候目標を達成するためには原子力エネルギーが必要と考えており、調査対象国のなかでも最も高いレベルを記録した。また今回の調査では、全ての国で環境保護団体のメンバーやサポーターが先進原子力エネルギーを支持していることが判明。今年4月に商業用原子力発電所を全廃したドイツでも環境保護団体のメンバーやサポーターの間で支持が51%、反対が28%と支持が反対を上回った。日本においては、全体の45%が先進原子力を支持する結果となり、調査対象国の中では支持の相対順位は最低ながらも、反対の29%を上回った。また、環境保護団体のメンバーやサポーターの55%が先進原子力を支持すると回答。こうした環境保護団体のメンバーやサポーターにおける支持の背景について報告書は、原子力が気候目標の達成に不可欠であるとの認識が全般的に好意的な結果につながっている、と分析している。さらに報告書では、日本では先進原子力に強く反対する人の60%が55歳以上の年齢層に集中していることや、先進原子力を支持する要因として経済的な利点を認識していることなどを特筆した。その他、調査全体で男女別に見た場合、「他のエネルギー源と並んで、最新の原子力エネルギー技術を使用して発電することを支持」との問いに対し、70%の男性が「強く同意」「やや同意」と回答。これに対し、女性の支持は54%と男性の支持を下回るものの、27%が「中立」と回答し、「やや反対」「強く反対」の19%を上回った。今回の多国間世論調査を実施したNGOの一つReplanetの共同設立者のM. ライナス氏は、「原子力発電は不人気だと思われがちだが、今回の研究結果は、クリーンで、カーボンフリーの原子力発電が、どの調査国でも過半数の支持を得ていることを決定的に示している」とコメント。「この大多数の支持は、多くの場合、環境保護団体や緑の党のメンバーにまで及んでおり、政策立案者や投資家は、緊急に必要とされている先進原子力の導入の決定をする際に、世論を恐れる必要はないことを示している」と指摘した。
- 01 Jun 2023
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原産協会・新井理事長 G7受け「最大限活用」へ意欲
日本原子力産業協会の新井史朗理事長は5月26日、定例の記者会見を行った。新井理事長はまず、19~21日に開催されたG7広島サミットを受けて発表した理事長メッセージについて説明。今回のサミットで発出された共同コミュニケでは、原子力について、「化石燃料への依存を低減し得る低廉な低炭素エネルギーを提供し、気候危機に対処し、ベースロード電源や系統の柔軟性の源泉として世界のエネルギーを確保する」ものと、その役割の重要性が改めて確認された。これに先立ち、原産協会は、「G7札幌気候・エネルギー・環境大臣会合」(4月15、16日)の機会を捉え、米原子力エネルギー協会(NEI)と「国際原子力エネルギーフォーラム」を共同開催。会見で新井理事長は、その成果にも言及し、原子力産業界として、「G7で確認された原子力の役割の重要性に鑑み、気候危機への対応とエネルギー安全保障の確保に向けて原子力を最大限活用すべく、世界の原子力産業界と協力しながら、引き続き取り組んでいく」と強調した。また、最近の原子力政策を巡る政府の動きとして、4月28日に閣議決定された高レベル放射性廃棄物の「最終処分に関する基本方針」の改定では、処分地選定に向けて国が前面に立ち有望地点の拡大などの取組を強化していくこととされたが、これに関して、新井理事長は「この課題が日本全体で共有されるとともに、具体的なプロセスが進展する」よう期待。さらに、同日、原子力関係閣僚会議で、再稼働への総力結集、既設炉の最大限活用、次世代革新炉の開発・建設、サプライチェーンの維持・強化などに取り組む「今後の原子力政策の方向性と行動指針」が決定されたことについては、「わが国のエネルギー安全保障、電力の安定供給、2050年カーボンニュートラル実現に向けて、原子力を持続的に活用するための今後の方向性が整理された」ものと認識。「これを踏まえ、原子力の最大限活用に取り組んでいく」と改めて述べた。記者より、昨今、核融合エネルギーの実用化を目指し研究開発に取り組むベンチャー企業や、浮体式原子力発電所プロジェクトを進める海外企業、これに対する国内企業による出資の動きから、その実現可能性について問われたのに対し、新井理事長は、今後の技術革新やスタートアップに期待しつつも「まだハードルは高い」などと応えた。
- 29 May 2023
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G7広島サミットが閉幕
G7広島サミット(5月19~21日、広島市)が全日程を終了。21日、岸田文雄首相は、議長国記者会見を行い、今回の開催地に広島を選んだ意義を「平和への誓いを象徴する」ふさわしい場所と改めて述べた上で、G7首脳との議論を通じ「『核兵器のない世界』に向けて取り組んでいく決意」が共有できたと強調した。同日夕刻、岸田首相は、ウクライナのヴォロディミル・ゼレンスキー大統領と会談。依然、ロシアによる侵略が予断を許さぬ同国に対し、新たな支援を約束した。サミットでは、20日、「G7広島首脳コミュニケ」を発出。エネルギーに係る項目の中で、原子力の有する潜在性として、「化石燃料への依存を低減し得る低廉な低炭素エネルギーを提供し、気候変動に対処し、およびベースロード電源や系統の柔軟性の源泉として世界のエネルギー安全保障を確保する」との認識を示した。さらに、「G7札幌 気候・エネルギー・環境大臣会合」(4月15、16日)のコミュニケに盛り込まれた既設炉の最大限活用、革新炉の開発・建設、強固な原子力サプライチェーンの構築、原子力技術・人材の維持・強化に係る取組姿勢を確認。改めて「最高水準の原子力安全および核セキュリティが、すべての国およびそれぞれの国民にとって重要である」と強調している。また、「G7広島首脳コミュニケ」では、福島第一原子力発電所の廃炉作業の着実な進展、日本による取組について、「科学的根拠に基づきIAEAとともに行われている」と、その透明性を歓迎。ALPS処理水((トリチウム以外の放射性物質が、安全に関する規制基準値を確実に下回るまで、多核種除去設備等で浄化処理した水))の海洋放出に関しては、「IAEA安全基準および国際法に整合的に実施され、人体や環境にいかなる害も及ぼさないことを確保するためのIAEAによる独立したレビューを支持する」としている。20日、岸田首相は、今回、招待国となったクック諸島のマーク・ブラウン首相と会談を行っており、2月にも太平洋諸島フォーラム(PIF)代表団として来日したブラウン首相は、政治レベルや専門家間の対話など、ALPS処理水の海洋放出に係る日本の取組に理解を示した。今回のG7広島サミットを受け、日本経済団体連合会の十倉雅和会長は22日、地球環境・エネルギー分野の議論に関し、「気候変動対策について、開発途上国等との連携や多様な道筋の追求が合意され、エネルギー安全保障と持続的な経済成長を確保しつつ、再生可能エネルギーの拡大や、原子力、水素・アンモニア等の活用で一致したことを高く評価する」とのコメントを発表。また、日本原子力産業協会の新井史朗理事長は22日、「G7で確認された原子力の重要性に鑑み、気候危機への対応とエネルギー安全保障の確保に向けて原子力を最大限活用すべく、世界の原子力産業界と協力しながら引き続き取り組んでいく」とするメッセージを発表した。
- 22 May 2023
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「コスト」と「投資」 明暗を分けたG7気候・エネルギー・環境大臣会合
4月15~16日、札幌市でG7気候・エネルギー・環境大臣会合が行われた。同会合はG7広島サミットに連なる関係閣僚会議の1つに他ならない。これ以外にも4月16~18日に軽井沢で行われた外相会合、29~30日に高崎で行われたデジタル・技術大臣会合など、全部で15の閣僚会合が開催され、その全てで日本の担当大臣が議長を務める。エネルギー・環境大臣会合には、G7の他、G20議長国のインド、ASEAN議長国のインドネシア、そして国連気候変動枠組条約第28回締約国会議(COP28)議長国のアラブ首長国連邦(UAE)が招待された。それ以外にも、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)事務局、経済協力開発機構(OECD)、国際エネルギー機関(IEA)などの国際機関も招かれている。気候変動とエネルギーは国際社会の大きな課題になっており、主要国の役割が極めて重要であることに疑問の余地はない。議長は西村康稔経済産業大臣、西村明宏環境大臣、清和会(安倍派)出身の両西村大臣が共同で務めた。もっとも、準備段階での調整を含め、この会合に関し議長国の日本は防戦一方だったようだ。16日付けのフィナンシャルタイムズ(電子版)は、“G7 countries have pledged to accelerate a gradual phase-out of fossil fuels and the shift towards renewable energy, as Japan faced significant pushback on central parts of its climate strategy(日本は気候戦略の中心部分に関して厳しい抵抗に直面し、G7は段階的な脱化石燃料と再生可能エネルギーへのシフト加速を約束した)”と報じていた。日本が米欧から責め立てられたのは、フィナンシャルタイムズが指摘する化石燃料に加え自動車だろう。会合後に発表された共同コミュニケには、化石燃料に関して以下のように書かれていた。We underline our commitment, in the context of a global effort, to accelerate the phase-out of unabated fossil fuels so as to achieve net zero in energy systems by 2050 at the latest in line with the trajectories required to limit global average temperatures to 1.5℃ above preindustrial levels, and call on others to join us in taking the same action.(われわれは地球規模の活動の一環として、産業革命以前との比較で平均気温の上昇を1.5度に止めることを求めた道程に沿い、遅くとも2050年までにネットゼロのエネルギーシステムを達成するため、削減対策が講じられていない化石燃料からの脱却を加速させるわれわれのコミットメントを強調し、他の国々にも同様の行動に参加するよう求める。)日本政府が作成した当初のドラフトでは、この“accelerate the phase-out of unabated fossil fuels(削減対策が講じられていない化石燃料からの脱却を加速させる)”の部分はなかったようだが、英国、ドイツ、フランスの欧州3か国が議長国を押し切った模様だ。石炭の活用に期限を設けることは押し返したものの、現在の日本のエネルギー事情を考えると、高いハードルが設定されたと言えるだろう。自動車についても、日本にとっては厳しい書きぶりになった。We highlight the various actions that each of us is taking to decarbonize our vehicle fleet, including such domestic policies that are designed to achieve 100 percent or the overwhelming penetration of sales of light duty vehicles (LDVs) as ZEV by 2035 and beyond; to achieve 100 percent electrified vehicles in new passenger car sales by 2035; to promote associated infrastructure and sustainable carbon-neutral fuels including sustainable bio- and synthetic fuels(われわれは、2035年までかそれ以降に販売される小型車に関し、100%もしくは圧倒的な規模を排出ゼロ車とすること、2035年までに新たに販売される乗用車の100%をEVにすること、関連するインフラ及び持続的なバイオ燃料や合成燃料を含めた持続的な排出中立の燃料を促進すること、と言った国内政策を含め、それぞれの国が自動車の脱炭素化のために実施する多様な取り組みを強調する。)注意深く読むと、G7の全ての国が2035年までに100%排出ゼロ車とすることや、同じく2035年までに新車販売を全てEV化すると約束したわけではない。あくまでそれぞれの国が実施する「多様な取り組み」を例示したのに止まっている。しかしながら、電気自動車(EV)化で出遅れた日本にとって、非常に厳しい現実を突き付けられつつあるのではないか。調査会社のマークラインズによれば、2022年における世界のEV販売台数は前年比66.6%増の726万台であり、自動車市場の9.5%を占めた。企業別に見ると、トップはテスラ(米国)の127万台、2位は比亜迪(BYD:中国)の87万台、3位はゼネラルモーターズ(GM:米国)の70万台だ。日本勢では、日産・ルノー・三菱連合が28万台で7位と辛うじてトップ10に食い込んだが、ホンダ3万台(26位)、トヨタ2万台(27位)と全体に大きく出遅れている(図表1)。ガソリン車で強い存在感を維持してきたことから、競争力の源泉であるエンジンに拘り、EV化へ抗ってきたことが背景と言えよう。EVはバッテリーとモーターで駆動することから、ガソリン車に比べて圧倒的に参入障壁が低い。地球温暖化を抑止するため化石燃料の消費削減を求められるなか、世界シェアトップのトヨタは水素に活路を見出そうとした。燃料電池は内燃機関以上に技術的な難易度が高く、優位性を維持できるとの考えが背景にあったと見られる。もっとも、可燃性が極めて高い水素は取り扱いが難しく、自動車普及に欠かせない水素ステーションの整備には巨額の費用が必要だ。一般的な乗用車としてはあまりにも課題が多いため、国際社会はどうやら次世代の乗用車の動力としてモーターを選んだ。自動車は日本の基幹産業であり、その国際競争力は日本経済を左右しかねない。従って、産業界だけでなく、日本政府もEVへのシフトを躊躇い、議長国として臨んだ今回のG7会合に象徴されるように、国内外においてガソリン車の延命を図ろうとして厳しい批判に晒されている。もちろん、電力インフラの脆弱な新興国、途上国を中心にガソリン車への需要は続くだろう。しかしながら、少なくとも先進国ではEV化の流れは避けられそうにない。EV化は日本の自動車産業のみならず、日本経済全体にとっても大きなダメージだ。ただし、変化を躊躇えば全てを失うシナリオすら現実となり得る。4月18日に開幕した上海国際自動車ショーが日本でも大きく報じられていたが、世界最大の自動車市場となった中国はEVへのシフトを急速に進めてきた。EVは情報通信技術(IT)との親和性が高く、自動運転化などを通じて交通インフラの在り方も大きく変えると見られる。日本が引き続きガソリン車に拘れば、取返しのつかない差をつけられる可能性は否定できない。 規制の強化がコストを投資に転化環境に関する技術の変化、そして規制の見直しは関連業界にとって負荷が大きい。しかし、それが競争力の源泉となり得ることは日本の自動車産業が証明済みだ。1970年12月、米国連邦議会において「大気清浄法改正法案」(マスキー法)が可決された。エドムンド・マスキー上院議員が提案した自動車の排ガス規制である。1975年以降に製造される自動車は、1970−71年型車に対して排気ガス中の一酸化炭素、炭化水素を10分の1以下、1976年以降に製造される車はさらにチッソ酸化物も同じく10分の1にする…との極めて野心的な内容だった。あまりに大胆過ぎたことから、米国内において自動車業界が激しく反発し、結局、施行を1年後に控えた1974年に連邦議会において廃止されたのである。一方、日本は1978年に米国でお蔵入りになったマスキー法と概ね同等の厳しい規制を導入した。「昭和53年規制」、「日本版マスキー法」と呼ばれる自動車の排ガス規制だ。当時は光化学スモッグが社会問題化していた上、第一次石油危機後の省エネ化の流れを背景に、自動車に対する世論の風当たりが厳しくなっていたことが背景と言えるだろう。この厳しい規制をクリアするためのエンジン技術の開発が、日本の低燃費・低公害車を生み出す原動力になった。全くの時代の巡り合わせだが、1978年1月に始まったイラン革命を契機とした第2次石油危機により原油価格が急騰、日本の自動車産業が世界に飛躍する大きな転機が訪れたのである。燃費の良い日本車への需要が米国などで急速に拡大、1975年に183万台だった完成車輸出は、1985年には443万台へ急増した(図表2)。日本版マスキー法による排ガス規制の強化は、結果的に自動車業界を国の基幹産業へと飛躍させる原動力になったのである。同じような取り組みをしているのが今の欧州だろう。典型的な例は、EUによる温室効果ガス削減目標の大幅な引き上げだ。EUがフェーズ4とする2021~30年に関して、当初は削減目標を1990年比40%としていたのだが、2020年11月8日、EU理事会と欧州議会は55%への引き上げで暫定合意した。さらに、同年12月11日の首脳会議を経て、同17日、EU理事会が正式に決定している。ドイツの国防大臣であったウルズラ・フォンデアライエン氏が、2019年12月1日、EUの政府に当たるEU委員会の委員長に就任したことが転機となった。このEU内における排出規制の強化を受け、欧州排出量取引制度(EU-ETS)における排出量の価格が急騰、過去最高値圏で推移している(図表3)。排出量が基準を上回る可能性のある事業所が多数存在するとの思惑から、排出量クレジットへの需要が急速に高まった結果だ。これは、一見するとEU域内の企業にとりコストの上昇に見える。もっとも、EUの真の狙いは投資の誘発だろう。カーボンプライシングにより、排出量を基準よりも削減した企業は温室効果ガス排出量のクレジットを売却、生産コストを下げることが可能である。一方、基準よりも多い企業は排出量のクレジットを買わなければならない。このインセンティブとペナルティにより、企業に強い排出量削減の動機が働くのではないか。排出量の基準が甘く、多くの企業が達成可能である場合、排出量クレジットの価格は低迷するはずだ。実際、2005年の市場開設以降、EU-ETSにおけるクレジットの価格は低迷し、取引量も少なかった。それでは、企業に新たな行動を起こす動機付けにはなり難い。一方、規制を強化して市場におけるクレジットの価格を引き上げれば、インセンティブとペナルティの効果は自ずと大きくなる。結果として排出量を減らすための投資が行われ、EU域内において温室効果ガスの排出量削減が進む可能性が強い。これがEU域内の排出量削減に止まるプロジェクトであれば、域内におけるゼロサムゲームとなる。ただし、フォンデアライエン委員長などが狙っているのは、さらに野心的な成果なのではないか。EUが域外国との間で排出量の国境調整を行う計画であることもあり、いずれは多くの国でカーボンプライシングが採用されるだろう。その時、厳しい規制により先行して排出量を削減してきた欧州企業は、国際市場において強い競争力を発揮する可能性が高まる。仮にこの目論見が奏功すれば、EU域内企業は、投資のコストを域内のゼロサムではなく、域外から回収することになるはずだ。 遠ざかる欧州の背中、迫る米国の足音1960~70年代、日本は高度経済成長の歪みにより厳しい公害問題に苦しんだ。それを克服する過程において、省エネ・省資源化を進めたことが、日本の国際競争力強化に大きく貢献したと言えるだろう。1990年時点において、購買力平価で算出したドル建てGDP1ドルを産み出すに当たって排出する温室効果ガスは、即ち原単位排出量は、米国0.812kg、EU0.572lgに対し、日本は0.442kgと圧倒的な競争力を有していた(図表4)。結果として、日本国民、企業の間で日本は「環境大国」との認識が広がったのではないか。しかしながら、長引く経済の低迷で投資が停滞した上、2011年の東日本大震災に伴う原子力発電所の停止により、日本の原単位排出量は2000年代に入って削減が進まなくなった。一方、この間、戦略的に取り組んできた欧州は、既に日本の遥か先を進んでいる。さらに、かつては地球温暖化問題に関心が薄いイメージだった米国が、今や日本のすぐ後ろを並走する状態になった。カーボンプライシングが国際競争力に影響すると見抜いたことにより、温暖化対策はコストではなく投資との認識が広がったからだろう。倫理だけでなくビジネス上の課題になれば、米国は極めて迅速、且つ柔軟な対応力を持つ国と言えよう。米欧主要国は規制と補助金など政策を総動員、エネルギー問題と温暖化対策を起爆剤として国際競争力の強化を図ろうとしている。他方、日本は自らを「環境立国」と位置付けつつ、G7では既得権益を守るためブレーキを踏まざるを得ない国になった。日本の自動車産業はその象徴だ。1970年代後半から80年代の成功があまりに大きく、これまでのガソリンエンジンを軸とした業界における序列を守ることが重視され、世界の変化に取り残されつつある感が否めない。日本政府も化石燃料、自動車の専守防衛に政策の重心を置き、この件に関してはG7のなかで孤立感を深めた。日本ではまだ温室効果ガス排出量削減への取り組みをコストと考える風潮が強い。一方、米国、欧州ではこれを投資のチャンスと捉え、政策の後押しを受けてビジネスの拡大を図ろうとしている。コストと考えるか、それとも投資の機会と考えるか、この違いは決定的に大きな結果の差を産み出すのではないか。
- 22 May 2023
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放射線施設の解体に水素利用新工法
戸田建設は5月11日、建物の解体時、水素を利用し環境負荷の低減を図る「マスカットH工法」を、放射線施設の解体工事に適用したと発表した。〈戸田建設発表資料は こちら〉同工法は、現在、東京都中央区内で計画する新社屋「TODA BUILDING」(地上28階・約165m、2024年9月しゅん工予定)開発プロジェクトに伴う解体工事で適用実績のある「マスカット工法」を改良したもの。コンクリート構造物の解体作業時における現場周辺の環境振動への配慮に加え、水素のみを可燃性ガスに使用することでCO2を発生せず、建設業界における温室効果ガス排出量低減にもつながるのが特長だ。切り出された遮蔽鋼板、従来工法では150mm厚の切断が限界だった(戸田建設発表資料より引用)戸田建設では、新たな「マスカットH工法」を解体工事に適用し、厚さ1m以上の鉄筋コンクリート部材の切断など、実績を積み重ねてきたが、このほど、病院併設の放射線施設に初めて適用。これまで、放射線施設の解体工事では、遮蔽鋼板やコンクリートで堅牢な躯体が構築されているため、騒音、振動、粉塵の発生の他、一般的な建設現場で使用するガス切断設備では極厚の複数鋼板を一度に切断できず、プロパンガスなどの使用によるCO2排出の課題があった。同社では、今回、新工法を適用した施設の詳細は明らかにしていないが、「周辺に人通りの多い商業施設や閑静な住宅地がある」としており、近隣環境への影響低減に十分な効果が得られたという。「マスカットH工法」は、振動による落盤事故リスク、粉塵発生に伴う排気設備設置に制約のあるトンネル工事にも適用され、作業工程の短縮にもつながっており、同社では、今後も困難な解体作業を抱えている様々な現場に積極的に適用し、建設工事における水素エネルギーの利用拡大、脱炭素社会の実現に貢献したいとしている。
- 12 May 2023
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エネ庁 小学生の自由研究「かべ新聞コンテスト」受賞者発表
資源エネルギー庁は3月30日、全国の小学校4~6年生を対象とした「わたしたちのくらしとエネルギー」をテーマとする自由研究発表「かべ新聞コンテスト」の2022年度優秀作・計38作品を発表した。小学生のエネルギー問題に対する関心と当事者意識を喚起するとともに、学校や家庭・地域における実践行動を促すことを目的として、毎年、実施されるもの。今回は、767人から405作品の応募があり、人数と作品数の比率から例年と比べ部活動やグループでの研究発表は少なかったものとみられる。〈資源エネルギー庁発表資料は こちら〉最優秀賞(経済産業大臣賞)は、「しっかり知って正しく話そう エネルギーのこと」(北海道教育大学附属札幌小学校6年・山村理透さん、在学校・学年は発表時〈以下同じ〉)、「エネルギー変革新聞」(東京都小平市立小平第十小学校5年・相澤心結さん)の2件が受賞した。前回に続き最優秀賞を受賞した山村さんは、今回、昨今の電気料金上昇の動きに着目し、「かべ新聞」を通じ、エネルギー問題を提起。自身が通っていた幼稚園でも採り入れられている浦幌町産の間伐材を利用した「ペレットストーブ」(地産地消)、ニセコ町の高断熱建築(省エネ)の取材などを通じ、地元の北海道から「暮らし方を少し変えるだけでかわる未来」を訴えかけた。原子力については、北海道電力泊発電所のPRセンター「とまりん館」の見学から、「電力の種類によって、CO2の排出量が異なるため、よりクリーンな電力を集めることが大切です。原発については、怖いイメージがありますが、安全の仕組み、メリット・デメリットを理解すると、エネルギーMIXの仲間に加える議論も必要なのかと考えました」と、自身の考えを述べている。「エネルギー変革新聞」を発表した相澤さんは、「カーボンニュートラル」に着目。脱炭素社会の実現に向けた「化石エネルギーから次世代エネルギーへの変革」として、水素利用を取り上げ、関連施設の取材体験を記事にした。また、地元の交差点などで調べたCO2濃度測定結果を示し、「渋滞しているだけで二酸化炭素をむだに排出し続けてしまうので、渋滞しない道路作りをお願いしたいです」と、都市部ならではの着眼点からも意見を述べている。今回のコンテストで寄せられた作品に関し、審査委員長の山下宏文氏(京都教育大学教育学部教授)は、「現在の問題、自分が生活する地域の問題、自分の体験や経験に基づく問題、これまであまり目が向けられていなかった問題などに着目した作品が多くあった」とコメントしている。
- 04 Apr 2023
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IPCCが9年ぶりに報告書 今世紀中に1.5℃の気温上昇を予測
「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)の総会が3月13~20日、スイス・インターラーケンで開催され、2014年以来、9年ぶりとなる統合報告書(第6次)を採択した。1850~1900年を基準とする世界の平均気温は2020年までに約1.1℃上昇したと指摘。「人間活動が主に温室効果ガスの排出を通して地球温暖化を引き起こしてきたことは疑う余地がない」と、警鐘を鳴らしている。前回の統合報告書では、平均気温の推移について、1880年から2012年の間に0.85℃上昇と評価していることから、地球温暖化がさらに深刻化してきたといえそうだ。パリ協定(2015年12月に採択された2020年以降の温室効果ガス排出削減のための国際枠組み)では、「世界の平均気温の上昇を2℃より十分下回るものに抑えること、1.5℃に抑える努力を継続すること」との目標を掲げているが、今回の報告書は、「現状の政策による2030年の世界全体の温室効果ガス排出量では、気温上昇が21世紀の間に1.5℃を超える可能性が高い」と指摘。人為的な地球温暖化の抑制に向け、「カーボンニュートラル」の必要性を述べている。今回のIPCC報告書について、西村明宏環境相は、3月22日の閣議後記者会見で、「行動変革を通じたエネルギー需要の削減が強調された」ことをポイントとしてあげ、今後、「GX(グリーントランスフォーメーション)実現に向けた基本方針」を踏まえ所要の施策に取り組んでいく姿勢を示した。また、「来月のG7札幌気候・エネルギー・環境相会合などの機会を通じ、世界全体の脱炭素化に向けて議論をリードしていきたい」と強調。アントニオ・グテーレス国連事務総長が先進国に対し「カーボンニュートラル」の前倒しを要請したことに関しては、「人類に対する科学の強いメッセージと受け止めている。IPCCの科学的知見も踏まえ、わが国として、緩和策、適応策の両面から気候変動対策をさらに強化していきたい」と述べた。
- 22 Mar 2023
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原子力委 基本的考え方の改定案をまとめる
原子力委員会は2月14日、「原子力利用に関する基本的考え方」の改定案を取りまとめた。2017年の策定から5年ぶり。国に対し「総合的な視点に立ち、原子力エネルギーの利用のために必要な措置を講ずるべき」と提言している。同委による基本的考え方は2017年、「今後の原子力政策について政府として長期的な方向性を示唆する羅針盤となるもの」として閣議決定。5年を目途に見直すこととされており、2022年の初頭より、関係行政機関や有識者からのヒアリングなどを実施し、改定に向けて検討を進めてきた。改定案については、昨年末より1か月間のパブリックコメントを実施し、14日の定例会合で寄せられた意見を集約。近く原子力委員会として成案を正式決定し、閣議決定となる見通し。今回の改定案では、前回策定からの情勢変化として、カーボンニュートラルに向けた世界的な動きの加速化、電力安定供給を巡る状況変化、ロシアによるウクライナ侵攻に伴う地政学リスクの深刻化、エネルギー安全保障に係る懸念を列記。加えて、原子力の積極的活用を表明する海外の動き、既存の原子力発電所の運転延長、新たな安全メカニズムを組み込んだ革新炉の新設などから、原子力利用に対し注目が集まっていることも述べている。その上で、「原子力利用の基本目標およびその重点的取組」(計9項目)として、「エネルギー安定供給やカーボンニュートラルに資する安全な原子力エネルギー利用を目指す」ことをあげた。先般、脱炭素、エネルギー安定供給、経済成長の同時実現に向け閣議決定された「GX実現に向けた基本方針」の中で「原子力の活用」として示された運転期間の延長については、「『運転期間は40年、延長を認める期間は20年』との制限を設けた上で、原子力規制委員会による厳格な安全審査が行われることを前提に、一定の停止期間に限り、追加的な延長を認めることとすべき」と明記。また、革新炉の開発・建設に向けた取組としては、革新軽水炉について、「他の革新炉よりも技術的に成熟し、既存の軽水炉の経験が活かしやすいため、比較的早い段階での市場展開が見込める」と期待。今後の革新炉導入に向けては、新たな安全技術の実証、投資に向けた事業環境整備、炉型を踏まえた適切な段階での規制整備、国内サプライチェーンの維持・強化などの課題を指摘している。この他、重点的取組としてあげた「放射線・ラジオアイソトープの利用の展開」の中で、医療用RIの国産化、核医学治療の普及に向け、2022年5月に原子力委員会が策定したアクションプランにも言及し、関係省庁、研究機関・大学、企業などが連携して取り組む必要性を強調。「原子力利用の基盤となる人材育成の強化」では、原子力分野のジェンダーバランス改善、原子力・放射線に係る次世代教育の充実化の重要性も述べている。*理事長メッセージ(2022年6月7日に行われたヒアリングでの発言内容)は こちら をご覧ください。
- 15 Feb 2023
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「GX実現に向けた基本方針」が閣議決定
政府は2月10日、「GX(グリーントランスフォーメーション)実現に向けた基本方針」を閣議決定した。2022年2月以降のウクライナ情勢に伴いエネルギー安定供給の確保が世界的に大きな課題となっている中、脱炭素、エネルギー安定供給、経済成長の3つを同時に実現するべく、昨夏より「GX実行会議」や各省における審議会などで議論されてきたもの。今通常国会に関連法案が提出される運びだが、松野博一官房長官は同日の記者会見で、「今後10年間で150兆円を超える官民協調でのGX投資を実現する」と述べ、必要な予算措置・法整備に向け、国会での前向きな議論に期待を寄せた。同基本方針では、エネルギー安定供給の確保に向け、徹底した省エネルギーの推進再生可能エネルギーの主力電源化原子力の活用など――があげられている。昨年末から1か月間行われたパブリックコメントでは、3,000件を超す意見が寄せられた。当初の案文から、原子力に関しては「エネルギー基本計画を踏まえて活用」と修正がなされたほか、次世代革新炉への建て替えについて、廃炉を決定したサイトにおける「敷地内で」との文言が追記されている。原子力政策に係る一連の法案についても、2月下旬に国会提出となる見込み。同日は、最終処分関係閣僚会議も行われ、高レベル放射性廃棄物などの最終処分に関する基本方針の改定(案)が示され、パブリックコメントに付すこととなった。処分地選定に向けて、現在、北海道の寿都町・神恵内村のみで行われている文献調査の実施地域拡大を目指すことなどが盛り込まれている。松野官房長官は、「原子力に対する国民の大きな懸念の一つである『最終処分場が決まっていないこと』をしっかり認識した上で、政府が一丸となり責任を持って最終処分に向けて取り組んでいく」と、原子力のバックエンドに係る問題意識を改めて述べ、取組の具体化を図っていく考えを強調した。これを受け、原子力発電環境整備機構(NUMO)の近藤駿介理事長は、北海道両町村への謝意を表した上、さらに複数の自治体で文献調査が受け入れられるよう取組を強化していくとのコメントを発表した。*理事長メッセージは こちら をご覧ください。
- 10 Feb 2023
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「ロスダメ基金」に原子力
「損失と損害基金」設立へCOP27は、気候変動に対するケジメを明らかにする転機となった。2022年 11 月 20 日、COP27参加各国は「損失と損害(loss and damage)基金」の設立で合意。主要な炭素排出国である先進国が、気候変動で損害を被っている開発途上国に対し賠償することとなった。この画期的な損害賠償基金への合意は、途上国における気候変動緩和の緊急的な必要性を認め、炭素排出大国が途上国へ過去何十年にもわたる損害を償う機会を生み出したという点で、非常に大きな一歩である。確かに現段階では、基金に関する重要なギモン、「補償はどのように実施されるのか?」「資金は途上国間でどのように分配されるのか?」「その費用はだれが負担するのか?」──等への答えはない。だが基金の詳細が議論されるにつれ、気候変動緩和のソリューションは、この「ロスダメ基金」に原子力を盛り込むことであると、明らかになってきた。むしろ原子力を活用しないかぎり、基金が気候変動の緩和に貢献することはきわめて難しいと言えよう。COP27では、原子力がこれまでにない注目を集めた。 COP史上初めて、国際原子力機関(IAEA)および原子力関連団体が「#Atoms4Climate」と題したパビリオンを設立。世界中の原子力協会や原子力学会により立ち上げられ、私自身も参加している「Nuclear4Climate」イニシアティブではブースを立ち上げ、気候変動によって浮き彫りにされた幅広い課題に対する解決策として、カーボンフリー電源である原子力を再ブランディングするよう訴えた。気候変動対策に原子力を盛り込むことは、途上国の気候変動緩和に対処するためのゲームチェンジャーになりうる。原子力テクノロジーは単なるエネルギーであるだけでなく、環境フレンドリーな側面がある。海水淡水化、肥料用水素や医療用アイソトープの製造、放射線照射による作物収穫量の増大や衛生面の向上など、いずれも途上国にとってきわめて重要なものばかりだ。こうした原子力を「ロスダメ基金」の中に組み込んでいくことで、発電、熱利用、輸送だけでなく、製造業/建設業、農業、水利用といった幅広い分野で低炭素化が達成され、気候変動緩和に大きく役立つと思うのだ。原子力への偏見は払拭された?多くの原子力支持者は、COP27の結論 がもっと原子力に前向きなものになると予想し、物足りなさを感じているかもしれない。だがCOP27の場で原子力が、カーボン・ニュートラル達成のツールとして大いに認識されたことを考慮すれば、大きな前進と捉えてもよいのではないだろうか。国際エネルギー機関(IEA)のファティ・ビロル事務局長は、「原子力は以前よりも強い追い風で復権しつつある」と述べている。米国のジョン・ケリー気候問題担当大統領特使は、「米国は、気候変動防止ターゲットを前進させるために、原子力に大きな可能性があると考えている」とした上で、COP27 の場で、小型モジュール炉(SMR)にスポットを当てた 2 つのプロジェクト(ウクライナでのSMRを用いた水素製造実証プロジェクト、欧州の石炭火力をSMRでリプレースするプロジェクト)を発表した。米原子力エネルギー協会のマリア・コースニック理事長兼CEOは「数年前とは明らかに風向きが変わった」と指摘する。数年前までは連邦政府レベルどころか州政府レベルですら、SMRへの支援策が議論されただけで大騒ぎだったのだから。こうした風向きの変化は、現在も進行中のロシアによるウクライナへの軍事侵攻に端を発している。エネルギーの供給安定性およびエネルギー・セキュリティの重要性が誰の目にも明らかになったからだ。米国ではすでに実施されているが、日本など多くの国々で、既存炉の運転期間延長が検討されている。ポーランド、日本、韓国、オランダなどの国々では新規原子力建設の必要性が議論されている。こうした原子力発電の維持/導入の動きは、クリーンなエネルギーやエネルギー・セキュリティを重視する姿勢の表れだ。ウクライナのヘルマン・ハルシュチェンコ・エネルギー大臣は、「エネルギー・セキュリティを確保できなければ、クリーンでリーズナブルなエネルギーへの移行、経済成長、宇宙開発、そのほか21 世紀の人類が掲げる目標はどれも達成不可能だ」と述べた。またハルシュチェンコ大臣は、燃料交換なしでの長期間運転を可能にすることや、プラントの大部分を地下に建設するといった設計概念を組み込むことで、エネルギー・セキュリティ強化におけるSMRの意義が見出せると強調した。そして「ロシアのウクライナに対する戦争は、もはやウクライナの範疇を超え、世界規模に影響を及ぼしている」とし、SMRへの投資が世界規模のエネルギー・セキュリティに不可欠だと指摘した。原子力で成功するには?私の母国ジャマイカは、原子力発電導入を検討する途上国の 1 つだ。COP27開催の数日前、ジャマイカのダリル・バス科学・エネルギー・技術担当大臣は、原子力発電をエネルギー ミックスに含めることへの関心を表明した。これはカリブ海諸国のエネルギー・セキュリティ問題にとって、大きな解決策となる。私はジャマイカ出身の原子力エンジニアとして、原子力の導入は単なるエネルギー・セキュリティ以上のものをもたらすと考えている。原子力は人々に、エネルギーへのアクセスを保障する。安定した供給も、リーズナブルな価格も保障する。現在カリブ海諸国はエネルギーの9割以上を輸入された化石燃料に依存しているが、ジャマイカが「ロスダメ基金」を元手に原子力の導入に着手した場合、ジャマイカは他の島嶼国にとっても先駆者となる。そもそもジャマイカは原子力についてズブのシロウトというわけではない。ジャマイカは1980年代よりカリブ海唯一の研究炉「SLOWPOKE-2」を稼働させており、これまで得られた知見から、地域での原子力開発をリードする立場にある。より多くの途上国が原子力を導入するためには、イノベーションが必要で、それこそがSMRなのだ。SMRはグリッドの小さな地域のニーズに最適で、需要の増加に応じて段階的に規模を拡大することが可能なのだ。(「ロスダメ基金」による)資金提供、ならびに先進国からの支援は、政府当局が原子力安全のために規制活動を行い、原子炉建設の加速に向けた許認可を実施するといった、原子力プログラムの導入を検討する途上国が必要とする規制インフラの構築にも役立つだろう。こうした規制面での先進国からの支援には前例がある。ガーナは2008年に原子力導入を決定。2013年にはIAEA宛の書簡で、原子力発電を導入する意志を正式に表明した。IAEAのマイルストーンアプローチでは、原子炉の運転に先立つ3段階のマイルストーン(フェーズ1=原子力導入に向けた課題の整理 フェーズ2=入札に先立つインフラ整備 フェーズ3=入札/契約/建設)を提示しているが、ガーナは現在までにフェーズ1をクリア。フェーズ2以降へのステップアップを望んでいる。他の途上国が効率的にカーボン・ニュートラルを達成するためにも、ガーナのケースは非常に参考になるが、もっともっとスピードが必要であることは言うまでもない。アラブ首長国連邦(UAE)のケースもある。首長国原子力公社(ENEC)のムハンマド・アル・ハマディCEOは、「稼働中の3基および建設中の1基で、UAEのクリーン電力の4分の1を供給する」と豪語する。UAEが成功裡に原子力導入を成し遂げたことは、導入を検討する国々に明確な道筋を示しているのだ。原子力なしで「エネルギー移行」?地球規模の気候変動緩和に原子力が多大に寄与することが明らかであるにもかかわらず、COP27におけるエネルギー関連の決議では、ハッキリと原子力に言及することはなかった。供給が保障された安定かつ強靭(レジリエント)なエネルギー・システムへ緊急に移行することの重要性に関し、各国のコンセンサスは取れたが、決議の中ではあいまいに「低炭素で再生可能なエネルギー」の拡大が重要とされただけだった。原子力は低炭素で、供給が保障され、安定性も高く、強靭である。原子力はすべての条件をクリアしているが、決議であいまいに登場する「低炭素で再生可能なエネルギー(low-emission and renewable energy)」という基準の下では、位置づけがあいまいなままなのだ。「低炭素かつ再生可能なエネルギー」なのか「低炭素エネルギーや再生可能エネルギー」なのか、解釈次第なのだから。気候変動緩和のためのリソースとして原子力を明確に認めようとしないことは、いまそこにある気候危機に対する理解の欠如にほかならない。COP27のエネルギー関連決議は、再生可能エネルギーのみではなく原子力も含まれるように、「純粋に技術的な観点から低炭素なエネルギー(technology-neutral low-emission energy)」とするべきだったのだ。原子力を抜きに大規模な気候変動の緩和を実現することは不可能に近い。「ロスダメ基金」の設立で合意したことは、途上国における気候変動緩和の緊急的な必要性を認めたという点で意義深いが、風力や太陽光などの再生可能エネルギーへの取り組みと併せ、原子力の導入に向けた国際間の連携が不可欠であることを、ここにあらためて強調する必要がある。原子力を活用しない「ロスダメ基金」は、まちがいなく失敗する。
- 06 Feb 2023
- FEATURE
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COP27が改めて示したエネルギー自立の重要性
シャルム・エル・シェイクで開催されていたCOP27は、予定を2日間延長して2022年11月20日に閉幕した。今更ではあるが、COPは“Conference of Parties”、つまりある条約の「締約国会議」であり、本来は一般名称に他ならない。しかしながら、近年は気候変動枠組条約締約国会議の短縮名としてすっかり定着した。気候変動枠組条約は“UNFCCC(United Nations Framework Convention on Climate Change)”だ。この条約は、1992年5月9日、国連総会において採択され、1994年3月21日に発効した。第7条1項には、締約国会議は同条約の最高機関として「この条約の効果的な実施を促進するために必要な決定を行う」とあり、「別段の決定を行わない限り毎年開催する」(同4項)とされている。COP1は1995年にベルリンで行われた(図表1)。再開会合も含めた28回の会議のうち、14回は欧州で開催されており、特にドイツはボン3回、ベルリン1回、計4回にわたり開催国となっている。ドイツに次ぐのがポーランドの3回だ。開催国は必然的に議長国なので、調整役として会議の結論に大きな影響を与える。ドイツが地球温暖化問題で国際社会において強い存在感を発揮する背景の1つと言えるだろう。28回のうち、1997年12月に開催されたCOP3が「京都会議」だ。『京都議定書』が採択され、先進国に1990年と比較した2008〜12年平均の温室効果ガス排出削減目標を課すと共に、新興国・途上国の排出削減を支援するため排出量取引が導入された。また、COP21は2015年にパリで開催され、『パリ協定』が採択されている。COPにおける温暖化抑止のベースとなる科学的検証を提供しているのが、IPCC(気候変動に関する政府間パネル: Intergovernmental Panel on Climate Change)だ。その名称から誤解されることが多いものの、各国政府間の調整を行う機関ではない。ジュネーブに事務局を置くIPCCは、1988年、国連環境機関(UNEP)と世界気象機関(WMO)により専門家集団として設立された。世界の科学者が発表した気候に関する論文やデータをまとめ、5~7年の間隔で評価報告書を作成している。2007年には『第4次評価報告書』の功績が認められ、『不都合な真実』のアルバート・ゴア元米国副大統領とノーベル平和賞を共同受賞した。この評価報告書は、COPにおいて議論をまとめる叩き台とされている。今年5月に公表された『第6次評価報告書第1作業部会報告書』(以下、「第1作業部会報告書」)は、「1750年頃以降に観測された温室効果ガス(GHG)の濃度増加は、人間活動によって引き起こされたことに疑う余地がない」と結論付けた。その上で、「1850~1900年から2010~2019年までの人為的な世界平均気温上昇は 0.8~1.3℃の可能性が高く、最良推定値は 1.07℃である」としている。英国気象庁メットオフィスハドレーセンター及びオスロー大学の観測データは、第6次評価報告書を概ね裏付ける結果と言えるだろう(図表2)。このデータを詳しく見ると、1850~99年までの50年間に対し、2010~19年の平均気温は0.93度上昇した。一方、温室効果ガスの排出量は、1950~99年の7億6,613万トンと比べ、2010~19年は46倍の351億3,209万トンになっている。温室効果ガス排出量と気温の関係を統計的に比較した場合、少なくとも過去170年間に関しては、明らかに正の相関関係が存在すると言えるだろう(図表3)。第1作業部会報告書では、2100年までの温室効果ガスの排出量による温度変化を5つのシナリオに分けて推計している。このうち、最も排出量が少ない「SSP1-1.9」の場合、1850~1900年と比べて2081~2020年の平均気温は1.0~1.8℃上昇と足下からほぼ横ばいとされた。一方、最も排出量が多くなる「SSP5-8.5」だと3.3~5.7℃の上昇になり、大雨の発生頻度は2.7倍、干ばつの発生する頻度は4.1倍と見込まれている。これは人間を含む地球上の生態系に極めて大きなダメージを与えるのではないか。 複雑化する対立の構図地球温暖化は人類共通の問題だ。しかしながら、国際社会は必ずしも一枚岩ではない。米国の国内も例外ではなく、特に共和党の2人の大統領は2つの大きな国際合意を一時的にせよ骨抜きにした。1人目はジョージ・ブッシュ大統領(当時)である、2001年3月28日、京都議定書からの離脱を表明した。地球温暖化と温室効果ガスの因果関係を認めつつも、1)温室効果ガスの排出削減が米国経済の成長を阻害すること、2)排出量の大きな中国など途上国に削減目標が設けられなかったこと・・・2点が理由である。前任のビル・クリントン大統領は、京都議定書の取り纏めに強い意欲を示し、日本はその意向に従って不利な条件を飲んでいた。それだけに、日本政府は梯子を外された感が否めなかったであろう。2015年11月30日から12月12日にパリで開催されたCOP21では、京都議定書の実質的な後継となる新たな条約が採択された。196加盟国全てが参加したこの『パリ協定』は、平均気温の上昇を2℃未満に抑え、1.5℃未満を目指すことをミッションとしている。IPCCによる第5次報告書を受けた結論だった。この協定については、2017年6月1日、ドナルド・トランプ大統領(当時)が米国の離脱を発表した。同大統領の場合は、IPCCの報告書を科学的根拠が脆弱と批判、地球温暖化そのものを否定したのである。「米国をエネルギー輸出国にする」との公約を掲げた同大統領にとり、シェールガス・オイルの開発が優先課題だったのだろう。2021年1月20日に就任したジョー・バイデン大統領は、その日のうちにパリ協定へ復帰するための大統領令に署名、2月19日には正式に復帰した。世界のビジネスでESGを重視する流れが加速するなか、「グリーン・ニューディール」を公約に掲げた同大統領は、温暖化抑止への官民連携を経済成長のドライバーと捉え、先行する欧州を追撃する意図があると見られる。ちなみに、2023年のCOP28はUAEのドバイにおいて開催されることが決まった。2029年のCOP29はオーストラリアやチェコがホスト国に名乗りを上げている。一方、多くの国際会議を主宰してきた米国は、過去28回のCOPで一度も開催国になったことがない。それは、地球温暖化問題に対する米国国内の複雑な事情を反映しているのだろう。蛇足だが、民主党所属ながらバイデン政権に批判的なスタンスを採ることの多いジョン・マンチン上院議員は、ウェストバージニア州選出だ。同州の州民1人当たりGDPは全米50州で47番目、最も多いニューヨーク州の53%に止まる。このウェストバージニアは、全米屈指の炭鉱業の盛んな州であり、それ故に近年は経済的な苦境に陥った。マンチン上院議員がバイデン大統領に冷淡なのは、同大統領が注力する脱化石燃料路線への反発が大きいと言えるだろう。エネルギー問題に関する米国の国内事情は、傍から見るよりもかなり複雑だ。さらに、先進国間、先進国と新興国・途上国、資源国と非資源国・・・エネルギーと環境を巡る様々な対立が浮き彫りとなり、国際的な意見集約を阻もうとしている。そうしたなか、ロシアのウクライナ侵攻とエネルギー価格の高止まりが、皮肉にも西側主要先進国にESGの重要性を再認識させ、カーボンニュートラルを目指す強いインセンティブになりつつあるようだ。 先進国 vs. 途上国・新興国原始地球が誕生してから46億年と言われるが、大気中の酸素濃度が現在の21%程度で安定したのは、科学的コンセンサスによれば1億年ほど前だった。そこまで遡ることはできないものの、南極の氷床からボーリングにより掘削された分析用の氷柱、「氷床コア」により80万年前に遡って大気中の二酸化炭素濃度が分かっている。具体的には、南極に「ボストーク」、「ドームC」、「ドームふじ」の3つの代表的な氷床コアがあり、なかでも欧州南極氷床コアプロジェクトチーム(EPICA)が手掛けたドームCは3,190mまで掘削され、最も古い年代の大気の組成が分析可能になった。それによれば、この間に概ね10万年を周期とする8回の氷河期と間氷期のサイクルがあり、大気中の二酸化炭素濃度は228ppmを中心に200〜260ppmの範囲を循環していた模様だ(図表4)。米国海洋大気庁によれば、2022年の二酸化炭素濃度は418ppmに達した。過去80年間の標準レベルと比べた場合、明らかに異常値だ。この500年程度の推移を見ると、18世紀半ばから19世紀にかけての産業革命期、1960年代の高度経済成長期を起点とするエネルギー多消費時代、2つの大きな転換点があったと言える。一方、世界銀行の統計では、2019年における温室効果ガスの排出量は中国が全世界の27.4%を占め、インド、ロシアなど他の新興国・途上国を合わせると66.1%に達した(図表5)。気候変動に関し、新興国・途上国の重要性が高まっているのはこのためだ。特に中国やアジア諸国などは、1990年代に入って以降、温室効果ガス排出量が大きく増加した(図表6)。その背景は、1991年12月に旧ソ連が崩壊、米国1国主導によるグローバリゼーションが進んだことだと考えられる。世界のサプライチェーンが統合されるなか、教育水準が高いにも関わらず、労働コストが相対的に低かったASEAN諸国、中国、メキシコなどが工業化、対先進国向け輸出により高度経済成長期に入ったからだろう。結果として、米国を含め主要先進国の物価は安定し、新興国に対米輸出市場を奪われた日本はデフレになった。温室効果ガスに関しては、成長率が低下した先進国において環境規制が強化され、排出量は軒並みピークアウトしている。この点こそが、地球温暖化問題に関して先進国と新興国・途上国の間で対立が深まる最大の要因に他ならない。原単位方式、即ちGDP1ドルを得るに当たって排出される温室効果ガスは、足下、米国、日本が共に0.24kgなのに対し、ロシアは1.17kg、インド0.91kg、中国は0.75kgだ(図表7)。つまり、同じ付加価値を生み出すのに、中国は米国、日本の3倍の温室効果ガスを排出しなければならない。西側先進国の立場から見れば、地球全体の温室効果ガス排出量を減らすためには、新興国・途上国による持続的な努力が必須だろう。米国のブッシュ大統領(当時)が京都議定書からの離脱を決定したのは、先述の通り中国の温室効果ガス排出急増を受け、「附属書Ⅰ国」に分類された先進国のみが削減目標を負う仕組みに反発したからだ。他方、新興国・途上国の側から見れば、18世紀央に始まる産業革命以降、現在の主要先進国が温室効果ガスを大量に排出する時期が続いた(図表8)。確かに1800年代に関しては産業革命の震源地であり、7つの海を制覇して覇権国になった英国が最大の排出国だったと見られる。ただし、19世紀末頃から、米国が急速に工業化を進め、温室効果ガスの排出量でも他国を圧倒した。この当時、中国、現在のASEAN諸国、インドなどは地球環境にほとんど負荷を掛けていない。新興国・途上国側としては、既に経済を成熟化させ、十分に豊かになった先進国が、現在の状況を静止的に捉えて、新興国・途上国に努力を求めるのは心外に感じられるのだろう。そこで、経済的・技術的な支援を先進国に求めているわけだ。先進国vs.新興国・途上国の構図は、1992年に国連総会において気候変動枠組条約が採択された当時から続いていた。1997年のCOP3で採択された京都議定書が画期的と言われたのは、排出量取引を導入したことで、新興国・途上国の排出量削減へ向け、先進国に対しアメとムチを制度化したことだったと言える。紳士・淑女の倫理感や高邁な哲学ではなく、市場原理によるインセンティブに具体的な成果を求めたのだ。もっとも、先進国と新興国・途上国の対立が解消されたわけではない。むしろ、近年は双方の考え方の違いがより明確になったと言えるだろう。 国際的遠心力の下で日本が目指すべき方向シャルム・エル・シェイクで行われたCOP27では、干ばつや洪水など気候変動による“Loss and Damage(損失と被害)”に対して、新興国・途上国がかねてより求めていた基金の創設を決めた。もっとも、新基金に関する合意の部分には「この資金面での措置(基金を含む)の運用化に関して、COP28に向けて勧告を作成するため、移行委員会を設置する」と書かれており、内容については完全に先送りしている。次の焦点は「移行委員会」での議論になるだろう。一方、ロシアによるウクライナ侵攻を受け、天然ガスの調達が大きな問題となった欧州では、エネルギー自給率の引き上げへ向け、化石燃料に依存しない経済構造の構築が急務になった。従って、ESGへの取り組みはさらに加速し、技術や投資において世界に先行するポジションの維持を図ることが予想される。米国のバイデン政権は、シェールガス・オイルの輸出を拡大すると同時に、大統領選挙の公約である『グリーン・ニューディール』を推進、この分野で欧州へのキャッチアップを目指す模様だ。今回のCOP27で存在感の薄かった中国は、目立つことにより批判の矢面に立たされることを回避したのかもしれない。まずは需要が伸びるエネルギーの安定調達を最優先し、温室効果ガスの削減を段階的に進める独自路線を採ると見られる。ウクライナ戦争、そしてOPECプラスの存在感の高まりは、エネルギー純輸入国にとり大きな脅威になった。また、カーボンプライシングにより温室効果ガス排出のコストが見える化しつつあることで、新たなビジネス及び投資のチャンスが広がったと言えるだろう。もっとも、国際社会の分断が深まるなかで、COPのような枠組みが画期的な成果を生むのは難しくなった。そうしたなか、市場原理によるビジネスの論理が、ESGのフィルターを通してむしろ地球温暖化抑止の主な推進力になりつつある。その背景にあるのは、分断の時代だからこそ、経済安全保障の観点も含め、エネルギー自給率の引き上げが国家にとって最重要課題の1つであるとの考え方だろう。COP27は国際社会の分断を改めて再認識させるものとなった。日本にとってこの枠組みの重要性が変わったわけではないものの、取り敢えずは日本自身がエネルギー自給率向上へ向けた歩みを加速する必要がありそうだ。
- 23 Jan 2023
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エネ庁 「もしエネルギーがこうなったら模試」実施中
資源エネルギー庁は、アンケート形式のウェブコンテンツ「もしエネルギーがこうなったら模試」(もし模試)を1月30日まで公開している。「東大クイズ王」としてテレビ番組に出演している伊沢拓司さんらが中心となって運営されるメディア「Quiz Knock」(クイズノック)とのコラボレーション。「もし模試」では、日本のエネルギーにまつわる様々な「もしもの可能性」をテーマに7問を「出題」。「受験者」は、「もし1週間エネルギー(電気、ガス、石油など)が使えなくなったとしたら、何が一番困るだろう?」、「もし日本のエネルギーを自分たちで供給するとしたら、どんな方法があるだろう?」、「もしあなたがカーボンニュートラルを推進する立場にあるとしたら、まずどんなことから取りかかる?」などの問いに対し、与えられた選択肢の中から自身の考えに最も近いものを回答。回答後は、「受験者」の回答傾向と各選択肢に関する解説を見ることができる。同コンテンツは1月13日から公開されているが、例えば、「もし日本社会が再生可能エネルギーだけをつかうようになったら、どんなことが起きるのだろう?」との問いに対しては、「温室効果ガス削減に寄与するが、安定供給と経済効率性が悪くなる」との回答が71.0%で最も多かった(1月18日16時時点)。これに対し、解説では、「完璧なエネルギーがない中で、再生可能エネルギー比率を上げながら、『安全性』、『安定供給』、『経済効率性』、『環境適合』の4つのバランスを見ながら多様なエネルギー源を組み合わせる必要がある」と、エネルギー需給における「S+3E」の重要性を説いている。「もし模試」では、大学生・大学院生の「受験者」に対し、抽選でJERA姉崎発電所の見学と伊沢拓司さんとともに未来のエネルギー問題を考えるワークショップへの招待も予定している。
- 18 Jan 2023
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欧州はなぜESGへ さらに傾斜しているのか?
昨年の10月末より11月上旬に掛け欧州へ出張し、3年ぶりにミラノ(イタリア)、ジュネーブ(スイス)、ロンドン(英国)を訪れた。出発にあたり興味があったのは、欧州におけるESG((Environment/Social/Governance(環境/社会/ガバナンス)))の現状だ。これまで、EUを中心に欧州主要国が国際社会においてESGのフロントランナーであったことに疑問の余地はない。しかしながら、ロシアによるウクライナ侵攻を受け、西側諸国は深刻なエネルギーの調達不安に直面している。そうしたなか、環境問題より目先のエネルギー確保に重心がシフトしているのか、それとも長期的な化石燃料の使用削減へ向けさらに議論が進みつつあるのか、生き馬の目を抜くとも言われる金融の世界において、この点を対面で確認することが今回の旅の個人的な目的だった。エネルギー問題に踏み込む前に実感したのは、欧州が既に“post Corona”へ移行していたことである。国境管理においてワクチン接種証明やPCR検査の陰性証明を求められることはなく、訪問した3都市、移動の際の駅、空港、列車の車内、飛行機の機内において、マスクをされている方を見ることもほとんどなかった。レストランは何の制限もなく賑わっており、新型コロナ禍以前と変わった印象はない。この3都市は、一時、厳しいロックダウンの下に置かれた。新型コロナの感染者が急増し、医療供給体制が危機的とも言える状況に陥ったからだ。もっとも、その結果として既に感染を経験された方が少なくないなか、ワクチン接種も進捗し、集団免疫によって新たに感染しても重症化は防げるとの考え方が定着したのだろう。法的か社会的かは別として、何らかの制限による経済や日常生活への影響とその効果を考えた場合、“with Corona”を前提に社会の正常化を選択したのだと実感した。一方、帰国時に非常に驚いたのは、羽田へ向かう飛行機に乗る前の段階で、日本政府の運営するVisit JapanのWebサイトにおいて利用者登録を求められ、検疫の準備手続きとしてワクチン接種証明のアップロードが必要だったことだ。何よりも意外だったのは、厚生労働省が運営する接種証明アプリとは直接連動しておらず、アプリの接種証明ページをスクリーンショットで撮影し、その画像をVisit Japanにアップロードする必要があることだった。まさかアップロードされた画面を人海戦術で確認し、手動で承認ボタンを押しているわけではないと信じたい。さらに、事前審査終了によりVisit JapanでQRコードが発行されたにも関わらず、羽田空港で飛行機を降りた際、相当数の私服の上にピンク色のビブスを着用したアルバイトと見られるにわか「検疫官」からスマートフォンの審査済み画面の提示を求められ、ブルーのカードを渡された。その上で、結局、検疫カウンターではQRコードを機械により読み取らせなければならない。日本政府にとってデジタル化とは一体何を意味しているのか、改めて考えさせられる経験だった。帰国後、日本では新型コロナの感染第8波への懸念が高まっている。データを調べてみると、人口当たりの新型コロナ新規感染者数は、イタリア、スイス、英国との比較で日本が最も多い。もちろん、サイクルのずれもあるとは思うが、日本の新型コロナ対策は抜本的に見直す時期に来ていると痛感した。 市場原理を活用したカーボンプライシングさて本題のエネルギー問題だが、今回の訪問で感じたのは、ロシアによるウクライナ侵攻後、むしろ欧州においてESGへの意識が高まっていることだった。その背景には、近年における異常気象の影響があるのかもしれない。10月27日、ミラノ・マルペンサ空港に降り立った際、暖かいことに驚かされた。10月下旬の北イタリアと言えば、例年、かなり寒い時期であり、コートなしではいられないのが普通だ。しかしながら、今回、日中は20℃を大きく超えて汗ばむような陽気であり、コートがむしろ邪魔だった。ちなみに、10月27日は最高気温が23℃、28日は24℃だったのだが、平年のこの時期におけるミラノの最高気温は15℃である。ジュネーブへ移動する際に列車の車窓から見たアルプスの山々も、雪はあっても頂上付近に止まっており、山肌の紅葉はまだ進んでいなかった。シオン駅から3千メートル級の頂であるヴィルトホルンを見上げると、雪どころか夏山と見間違えるような緑色の目立つ景色である(図表1)。さらに、ジュネーブも非常に暖かく、昨年、今年と夏に熱波が来襲したこともあり、多くの人たちが地球温暖化を実感している様子だった。気候変動の影響が地域の経済や社会生活にもおよんでいるため、環境保護への意識は高まらざるを得ないのだろう。1992年5月に国連気候変動枠組条約が採択されて以降、欧州社会はEUを中心に環境問題に熱心に取り組んできた。例えば、定格熱入力20MWを超える燃料燃焼施設及び石油精製、鉄鋼、セメント、紙・パルプなど10種類の施設を指定して排出量の上限を設定、2005年からの「フェーズ1」では排出量取引(EU-ETS:European Emission Trading)を開始している(図表2)。この制度においては、ある施設の排出量がキャップを下回った場合、その部分を二酸化炭素に換算した上で1トン当たり1クレジットとして市場で売却することを可能にした。排出量がキャップを超えた施設は、クレジットを購入しなければならない。つまり、温室効果ガスの経済性を価格によって見える化し、市場原理を活用したインセンティブとペナルティによって排出量を減らす試みである。キャップを段階的に引き下げることにより、最終的に域内経済全体としてカーボンニュートラルの達成を目指しているわけだ。2008〜12年の「フェーズ2」において航空セクター、2013〜18年の「フェーズ3」ではアルミニウム製造、非鉄金属製造、アンモニア製造など10業種が対象に加えられ、今では域内の温室効果ガス排出量の45%をカバーするようになった。もっとも、当初は鳴り物入りで導入されたEU-ETSだが、2010年代に入って取引量、価格とも低迷していたのである(図表3)。リーマンショックに加え、ユーロ危機が欧州経済を襲い、景気停滞により温室効果ガスの排出量が減少したことが一因と言えるだろう。しかしながら、2020年に入って排出量価格は急騰した。2020年5月は二酸化炭素換算で1トン当たり20ユーロを割っていたのだが、今年8月22日に97.50ユーロの史上最高値を付け、足下も70ユーロ台での推移となっている。2021年から始まった温室効果ガス排出削減計画の「フェーズ4」に関し、当初、EUは2030年までの排出量削減率を1990年比40%にするとの目標を掲げていた。もっとも、この達成が早期に見込まれたことから、2020年12月11日、ブリュッセルで行われたEU首脳会議において、ターゲットが55%削減へと大幅に引き上げられたのである。新たなキャップの達成が難しい事業所が続出するとの思惑から、排出量クレジットへの需要が急速に高まった。さらに、ロシアによるウクライナへの侵攻で相対的に温室効果ガスの排出が少ない天然ガスの調達が難しくなり、排出量クレジットの価格は高止まりしている。市場原理を活用して温室効果ガスの排出量を減少させるカーボンプライシングの手法は、欧州において明らかな効果を挙げつつあると言えるだろう。 不動産価格にも影響する排出量企業評価においても環境が重視される欧州においては、ファンドの投資先企業のESGへの取り組みを基準にして、投資家が運用機関を選定する文化が定着しつつある。同業種内において、温室効果ガスの排出量が相対的に多い企業に投資をしている場合、そのファンドから資金が引き上げられるケースもあるようだ。従って、株価の評価に関しても、温室効果ガスの排出削減が進んでいる企業は高く評価される傾向がある。企業への投資のみならず、それを強く実感したのがロンドンにおける不動産ファンドだった。1666年の大火災以降、ロンドンでは法令により木造建築が認められず、建築物はレンガや石造りが圧倒的に多い。その上、地震がないことから、建築物の耐用年数は日本に比べ非常に長く、竣工から100年以上を経たビルも少なくないようだ。例えばレンガ造りの工場を他の用途に転用する場合、日本では既存のビルを壊し、更地に新しい建物を建築するのが普通だろう。しかしながら、レンガや石で出来た建物の場合、ライフサイクルを考えると、建築時と解体時に最も多い量の温室効果ガスを排出してしまう。そこで、レンガ造りの工場をリノベーションしてデータセンターなど新たなニーズに合うよう生き返らせた上で、最新テクノロジーを駆使してエネルギー効率を向上させ、温室効果ガスの排出量を劇的に削減した場合、物件価値が大幅に上昇するケースが多いそうだ。実際に古いビルを購入し、リノベーションして売却するファンドが、良好なパフォーマンスを挙げていると聞いた。もちろん、そこには不動産投資に対する高度なノウハウが必要なのだろう。英国はBrexitによりEUから離脱しており、EUのルールにかならずしも縛られているわけではない。しかし、経済的な結び付きは依然として強く、ESGへの取り組みへの真剣さは大陸に劣らない印象を受けた。カーボンプライシングの定着で、温室効果ガス排出量の削減効果が金額として可視化できるようになり、キャッシュフローの比較が可能になったことが極めて大きいと言えそうだ。また、ロシアによるウクライナ侵攻を受け、EU及び欧州各国が課したロシアへの制裁に対する逆制裁措置として、エネルギー資源大国であるロシアは、欧州への天然ガスの供給を絞っている模様である。従来、EUは天然ガス調達の40%程度をロシアに依存してきた。暖冬傾向とは言え、本格的なエネルギーの需要期を控え、多くの国がエネルギー危機のリスクに直面しようとしている。そうしたなか、各国に芽生えつつあるのは、ロシアからの天然ガス調達量を構造的に減らし、エネルギー自給率の向上を図るため、むしろ積極的にESGを目標化するとの考え方である。もちろん、当面は燃料の調達先を多様化して凌ぐとしても、中長期的にはエネルギー安全保障の確立と温室効果ガスの排出量削減を両立させる戦略なのだろう。そのための切り札の1枚が、カーボンプライシングと言えるのではないか。 欧州で改めて考えた国際競争下における日本の立ち位置カーボンプライシングについては、早晩、日本企業、国民も無関心ではられなくなるはずだ。去る10月26日、首相官邸で開かれた『第3回グリーントランスフォーメーション(GX)実行会議』において、岸田文雄首相は「炭素に対する賦課金と排出量取引市場の双方を組み合わせるハイブリッド型とするなど、効果的な仕組みを検討する」よう指示した。岸田政権は、日本にもカーボンプライシング制度を導入する意向を明確にしたと言えよう。さらに、11月29日の第4回GX実行会議では、新たな国債である「GX経済移行債(仮称)」を発行して20兆円程度を調達し、企業の投資支援に活用する案が示された。その償還財源を確保する意味もあって、温室効果ガス排出に関し炭素税と類似の賦課金を課し、排出量取引と併用して排出量を削減する方向で検討が進みつつある。2030年をメドに本格的なカーボンプライシング制度の導入が計画されているわけだ。2020年10月26日、臨時国会で所信表明演説に臨んだ菅義偉首相(当時)は、2050年までにカーボンニュートラルを達成すると宣言した。これは、2021年10月31日からグラスゴーで開催された気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)において国際公約されている。カーボンニュートラルへ向けては、エネルギーにおける供給側の構成を変えることが最も効率的であることは論を待たない。再生可能エネルギー、原子力、そして水素(アンモニア)によるエネルギーミックスを推進すると同時に、一定の化石燃料使用を前提として、CCS(Carbon dioxide Capture and Storage:二酸化炭素回収・貯留)などのインフラを整備する必要があろう。一方、需要サイドにおいては、炭素税(賦課金)、排出量取引によるカーボンプライシングで、排出コストを金額として見える化することが削減へ向けた第一歩となる(図表4)。日本は、供給側、需要側の両面において、欧州に後れをとった感が否めない。欧州が地球温暖化を含むESGで厳しい規制を設けてきたのは、この分野で先行することが持続可能な社会に貢献するだけでなく、多様な国を汎ヨーロッパでまとめる意図もあったと考えられる。さらに、ビジネスにおいて、欧州の国際競争力を高めることも重要な狙いなのではないか。特に意識したのは、エネルギー多消費経済である米国への対抗と言えそうだ。もっとも、今回の出張においては、米国のビジネス界がESGに関して欧州を猛追しているとの見方を耳にすることも少なくなかった。ジョー・バイデン大統領が2020年の大統領選挙で環境を公約の軸に据えたのは、先行する欧州を睨んでのことだろう。米国、欧州のESGビジネスは、熾烈な戦いの局面に突入した模様である。また、特に燃料の多くを輸入に頼る欧州では、対ロ戦略を考える上で、長期的な観点からは化石燃料への依存度を下げなければならない。従って、エネルギー価格の高止まりとウクライナ問題は、金融ビジネスにおいてもESGの重要性を高める要因となっている。欧州以上に資源のない貿易立国の日本は、当然、この流れと無縁ではないはずだ。もっとも、かつて国際社会から「省エネ大国」と称賛されたことに胡坐をかき、いつの間にか競争力が急速に低下した感は否めない。「検討」、「検討」を繰り返し、SNS上では「遣唐使(けんとうし)」ならぬ「検討士」と揶揄されている岸田首相だが、革新的な次世代の原子炉に関して研究・新設の方向を示すなど、エネルギー・環境については一歩踏み込んだ姿勢を示している。それは、日本の現状に対する危機感と言えるかもしれない。今回の欧州出張では、ロシアによるウクライナ侵攻を受けても、投資の世界におけるESG重視の流れに何等の変化がないことを改めて確認した。エジプトで開催された国連気候変動枠組条約第27回締約国会議(COP27)は、分断が進む国際社会において、協調による成果を挙げることが難しくなりつつある状況を浮き彫りにしている。ただし、その分断がエネルギー供給を不安定化させているだけに、むしろ各国・地域はエネルギー・環境問題と否応なく向き合わざるを得なくなったとも言えそうだ。それだけに、この分野に関して岸田政権がどこまで真剣に取り組むのか、また民間がこのピンチをビジネスチャンスに変えることができるのか、改めて興味をかき立てられる出張となった。リモート化が進んでも、現地に行き、人と会うことの重要性を再確認したことも付記したい。
- 10 Jan 2023
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原子力新年の集い 今井会長「原子力を積極活用すべき」と
「原子力新年の集い」(原産協会主催)が1月6日、東京プリンスホテル(東京・港区)で開催され、会員企業・組織、国会議員、駐日大使館関係者ら、約500名が参集し、新しい年の幕開けを祝し親睦を深めた。年頭挨拶に立った原産協会の今井敬会長は、昨今の化石資源への投資低迷や新型コロナによる経済停滞からの回復に伴うエネルギー需給のひっ迫・価格高騰に加え、2022年2月からのウクライナ情勢がこの傾向にさらに拍車をかけたとして、「安定したエネルギー供給が各国の喫緊の課題となっている」と強調。「カーボンニュートラル」達成のためにも、「原子力を積極活用すべきであることは、国際的にはもやは論を俟たない段階にあり、これはわが国も同様」と述べた。2022年の国内における原子力政策の動きに関しては、「『GX実行会議』において、政府が主導となり、ようやく新たな一歩を踏み出せた」と高く評価。「今後、法制化などの国による環境整備が行われることを強く期待する」とした。また、今春開始予定の福島第一原子力発電所のALPS処理水((トリチウム以外の核種について環境放出の規制基準を満たす水))の海洋放出に関しては、関係者に対し「確実な工事の遂行と、引き続きの理解活動の推進」を要望。しゅん工時期が延期となった六ヶ所再処理工場については、「確実なしゅん工に向け、関係者の総力を結集して対応してもらいたい」と期待を寄せた。続いて来賓挨拶に立った中谷真一・経済産業副大臣は、「わが国には原子力に関して世界に誇る優れた技術・人材、強固なサプライチェーンが存在するが、福島第一原子力発電所事故以降、具体的な建設が進まなかったこともあり、こうした強みが失われつつある」と憂慮。官民連携による海外プロジェクト参画の構想にも言及した上で、特に将来の人材育成について、政府として支援を図る考えを示すとともに、原子力産業界に対してもより注力するよう求めた。電気事業連合会の池辺和弘会長は、2023年初頭に際し、「日本のエネルギーを安定的に供給するシステムを再構築し実行に移す年になる」と展望。事業者として、「わが国のエネルギー安定供給と『2050年カーボンニュートラル』実現のため、様々な課題に挑戦し、社会の発展と変革に貢献していく」と抱負を述べた。一同は、島田太郎副会長(東芝社長)の音頭で祝杯を上げた。
- 06 Jan 2023
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政府「GX実行会議」が基本方針まとめる 「原子力の活用」を明記
政府の「GX(グリーン・トランスフォーメーション)実行会議」(議長=岸田文雄首相)が12月22日に開かれ、「GX実現に向けた基本方針 ~今後10年を見据えたロードマップ~」を取りまとめた。「2050年カーボンニュートラル」の目標達成に向け、エネルギー、全産業、経済社会の大変革を実行すべく、7月より検討を行ってきたもの。岸田首相は、8月に行われた同会議で、「再生可能エネルギーや原子力はGXを進める上で不可欠な脱炭素エネルギー」との考えのもと、あらゆる方策について年末までに具体的結論を出せるよう検討の加速化を指示していた。今回決定された基本方針の中で、原子力については、「エネルギー安全保障に寄与し脱炭素効果の高い電源」とされ、最大限活用することを明記。「2030年度電源構成に占める原子力比率20~22%の確実な達成」に向け、安全最優先で再稼働を進める。次世代革新炉の開発・建設については、廃止を決定した炉の建て替えを対象に具体化を進めていき、その他については、今後の状況を踏まえて検討していくとしている。運転期間の延長については、従来の「40年+20年」の原則を維持した上で、「一定の停止期間(新規制基準への対応など)に限り追加的な延長を認める」とされた。原子力政策の関連で、岸田首相は、高レベル放射性廃棄物の処分地選定に関して、「文献調査の実施地域の拡大を目指す」と発言。翌23日には最終処分関係閣僚会議が開催され、同会議議長の松野博一官房長官は、関係閣僚が連携し具体的な対応方針を取りまとめるよう指示した。西村康稔経済産業相は、22日の「GX実行会議」終了後、臨時記者会見を行い、「国民から幅広く意見を求め、丁寧な説明に継続して取り組んでいく」と述べ、パブリックコメントを早急に実施し、GX実現に向けた関連法案を年明けの通常国会に提出することを明言した。今回の基本方針決定を受け、電気事業連合会の池辺和弘会長は、コメントを発表。「再生可能エネルギーや安全を大前提とした原子力発電の最大限活用、火力発電の脱炭素化、電化の推進など、安定供給確保とカーボンニュートラルの実現に向け、あらゆる対策を講じていく」としている。
- 23 Dec 2022
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自民党議連がGX推進に向け提言 持続的な原子力発電の活用を
自由民主党の電力安定供給推進議員連盟(会長=細田博之氏〈衆議院議長〉)は11月24日、「我が国のエネルギー安全保障の確保・GX(グリーントランスフォーメーション)推進に向けた提言」を発表した。提言では、昨今のウクライナ情勢伴う化石燃料価格の高騰などに鑑み、「電力の安定供給における危機はさらに顕在化している」と危惧。電力供給危機といえる現下の状況を踏まえるとともに、「2050年カーボンニュートラル」の実現も標榜し、持続的な原子力発電の活用を図るべく、「原子力発電の最大限の活用」および「安全性を高めた新型炉のリプレース・新増設」を、国のエネルギー政策の基本方針として明確に位置付ける国が前面に立って、設置変更許可を受けた既設炉の再稼働を迅速に進める安全性の確保を大前提に、現在最長60年とされている既設炉の運転期間の延長を行う再処理や廃炉、最終処分など、バックエンド対策の加速に向けた取組を早急に具体化していく原子力発電所に対する武力攻撃等を想定し、必要な措置を講じる――よう求めている。政府の「GX実行会議」における岸田文雄首相の指示を受け、西村康稔経済産業相は8月に示した「日本のエネルギー安定供給の再構築」の中で、原子力政策に関し、再稼働に向けた総力の結集、安全性の確保を大前提とした運転期間の延長、既設原子力発電所の最大限の活用、新たな安全メカニズムを組み込んだ次世代革新炉の開発・建設など、今後の政治判断を必要とする項目を提示。現在、総合資源エネルギー調査会で議論を進めている。今回の提言は、その年末までの具体論取りまとめに向け発表されたもの。同議連の塩谷立幹事長(衆院議員)らは24日、西村経産相を訪れ提言書を手渡した。
- 25 Nov 2022
- NEWS