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COP26のインパクト
原子力復権の予兆(後編)前編はこちら国連気候変動枠組条約は、現在、経済規模、成熟度、資源の有無など全く成り立ちの異なる197か国が批准している。締約国会議の採決は全会一致が原則であり、毎年、合意文書を取りまとめるのは生易しいことではない。国家間の利害の対立が極めて大きいからだ。COP26では、1)石炭の取り扱い、2)温室効果ガス排出枠取引のルール、3)先進国による途上国支援──の3点が最大の論点だったと言えよう。このうち、石炭については、議長国である英国が作成した原案では、“phase out(廃止する)”との表現が使われていたが、産炭国などの強い反発により最終的に“phase down(段階的に削減する)” に修正され、合意に漕ぎ着けた。また、先進国とブラジル、インドなど新興国が対立していた排出枠のキャップ・アンド・トレードは、2013年以降に国連へ届け出された排出枠(クレジット)を移管、売買を容認することで歩み寄っている。一方、2009年12月のCOP15で採択されたコペンハーゲン合意では、途上国の温暖化対策を支援するため、先進国は2012年までに共同で300億ドルの資金を拠出、2020年までに年間1,000億ドルの支援を行うと約束していた。しかし、2020年の支援額は796億ドルに止まり、途上国側が強く反発していたのである。COP26の合意文書では、先進国側が支援目標の未達に遺憾の意を表明した上で、2025年までに2019年の支援実績額を少なくとも倍増させるとの表現を盛り込んだ。一連の合意内容は、温暖化問題に熱心に取り組んで来たNGOなどの立場から見た場合、物足りないと感じられるかもしれない。もっとも、石炭の段階的使用削減、国際的な排出枠取引導入の両方で方向性を出せたことには大きな意味があるのではないか。ある程度の妥協がなければ、ガラス細工の枠組は簡単に崩壊してしまうだろう。現実的な落し所へ議論を収斂させた点について、議長を務めたボリス・ジョンソン英国首相は十分に評価されて然るべきだ。 欧州における変化の兆しCOP26が開催されていた最中の昨年11月9日、フランスのエンマニュエル・マクロン大統領は国民向けに演説、原子力を電力供給と産業の中核に位置付け、欧州加圧水型原子炉(EPR)の建設を再開する意向を表明した。同国は新たに6基を建設する計画だ。フランスでは56基の商業用原子炉が稼働、2020年は米国に次ぐ379.5TWh(=3,795億kWh)の電力を供給しており、総発電量に占める原子力比率が70.6%に達する原子力大国に他ならない(図表1)。もっとも、2012年5月に就任したフランソワ・オランド前大統領は、前年の福島第一原子力発電所の事故を受け、大統領選挙において原子力発電比率を2025年までに50%へ低下させると公約した。2017年5月に就任したマクロン大統領は、オランド前大統領の公約を踏襲しつつ、2018年11月、達成年限を2035年に10年間先送りしていたのである。今回は実質的に目標自体を見直したと言えるだろう。温室効果ガス削減が喫緊の課題になる一方、欧州では天然ガス価格が高騰し、結局、原子力への回帰が最も合理的と判断した模様だ。非常に興味深かったのは、この件を伝えた朝日新聞の記事だった。11月13日付け朝刊の見出しには『仏マクロン氏「原発回帰」鮮明 新設は脱・石炭の「強いメッセージ」』とあり、フランス政府の決断を肯定的に伝えている。日本国内における原子力発電には厳しい論調を繰り返してきた同紙だが、フランスの原子力回帰の動きに関しては、「脱・石炭」政策の一環としてポジティブな評価を下している模様だ。率直な感想としてダブルスタンダードの感が否めない。核兵器保有国であるフランスの原子力発電が肯定され、核兵器を持たない日本の原子力が否定される理由について、朝日新聞は積極的に説明すべきだろう。今後、注目されるのはドイツの動きである。福島第一原子力発電所の事故を受けた2011年6月6日、アンゲラ・メルケル首相(当時)は、2022年までにドイツ国内で稼働している全ての原子力発電所の稼働を停止すると閣議決定した。現在、ドイツでは6基の商業用原子炉が稼働、2020年の発電比率は11.3%だったが、現行の政府方針では来年中にその全てが止まる計画だ。しかしながら、ドイツはフランス以上に天然ガス価格の高騰に苦しんでおり、国内においてエネルギー政策の見直しを求める声が強まっていると言われている。去る12月8日には社会民主党(SPD)を中心とする連立によりオラフ・ショルツ内閣が誕生した。中道左派のSPD、中道右派の自由民主党に加え、脱原子力を主張する同盟90/緑の党が連立を組んでおり、政権としての原子力政策はかならずしもまだ明確ではない。ただし、昨9月26日の総選挙において、ショルツ氏は気候・環境保全、化石燃料産業の脱炭素化、カーボンニュートラルの達成を訴えて国民の支持を得た。天然ガスへの依存はロシアの影響力を強めかねない上、再生可能エネルギーのウェートをさらに引き上げ、脱石炭を加速させるのであれば、安定的なベースロードの確保は極めて重要な政策課題だ。ショルツ内閣が原子力政策を見直す可能性はゼロではないだろう。COP26を通じて議長国の英国、そしてEUは温室効果ガス排出量削減を積極的に主張した。一方、今春以降、欧州は異常気象に見舞われ、スペイン、英国などが風力不足に悩まされている。当然、化石燃料に依存せざるを得ず、需要が急増した天然ガス、石炭の価格高騰を招いてインフレ圧力が強まった。安定したエネルギー供給、温室効果ガスの排出削減、そして経済合理性、これらを同時に達成するため欧州、そして世界全体において原子力利用の機運が高まっても全く不思議ではない。COP26の開催期間中を敢えて狙った原子力大国フランスの決断は、そうした流れを反映しているのではないか。 スリーマイル、チェルノブイリ、そして福島第一国際原子力機関(IAEA)によれば、世界で稼働する商業用原子炉は2011年に448基だった(図表2)。その後、福島第一の深刻な事故を受け、日本だけではなくドイツや米国などでも廃炉、建設計画の中止が相次ぎ、2014年には439基へと減少している。しかしながら、中国を中心に新興国で原子炉の建設・稼働が進んだ結果、2018年には過去最大の457基になった。原子力による電力供給量も、2012年の2,346.2TWh(=2兆3,462億kWh)から、2019年には2,657.2TWh(=2兆6,572億kWh)へ13.3%増加している。日本を含む先進国で老朽化による廃炉が進む一方で、中国をはじめとして、インド、ロシアなど新興国において新たな商業用原子炉が運転を開始した。現在稼働している商業用原子炉は世界全体で442基、定格出力の総計は394.5GW(=3億9,450万kW)だ。稼働年数別に見ると、炉数、出力共に最もボリュームが大きいのは運転開始から31~40年の10年間で、その定格出力合計は全体の46.2%に達している(図表3)。これは第1次、第2次石油危機に見舞われた1970年代に建設が計画された原子炉に他ならない。その後、原子力発電所の建設が国際的に失速したのは、1979年3月28日のスリーマイル島事故(米国)、1986年4月26日のチェルノブイリ事故(旧ソ連・現ウクライナ)の影響と言えるだろう。しかしながら、2006年2月、ジョージ・H・W・ブッシュ大統領(当時)の下、米国は新たな原子力平和利用の枠組として『国際原子力パートナーシップ(GNEP:Global Nuclear Energy Partnership)』を打ち出した。これは、核燃料サイクルを国際的に「P5+1」で管理する構想に他ならない。この「P」とは”Permanent”の頭文字である。つまり、「P5」は米国、英国、フランス、ロシア、中国の国連常任理事国の5か国を示し、「+1」は日本のことだった。商業用原子炉は当然ながら原子力の平和利用だが、イランの核開発が国際社会で問題視されているように、発電用よりも高度に濃縮したウラン、及び使用済み燃料に含まれるプルトニウム、この2つは核兵器の原料でもある。ブッシュ大統領は、世界の原子炉への濃縮ウラン供給と使用済み燃料の引き取り、再処理・最終処分をP5+1の6か国に集中することで、核不拡散の強化を図ろうと考えたのだった。その背景にあったのは、経済成長著しい新興国における原子炉の建設計画ラッシュである。新興国のエネルギー需要を満たす一方、核兵器の開発を阻止するためには、P5+1が商業用原子炉を建設し、核燃料サイクルを管理する必要があると考えたのだろう。しかしながら、2011年3月の東日本大震災に伴う東京電力福島第一原子力発電所の事故により、世界の原子力は再び冬の時代へ突入し、いつしかGNEPも忘れ去られて現在に至った。 新規建設で台頭する中国福島第一での事故から10年が経過、原子力は国際的に雪解けの季節を迎えつつあると言えよう。背景は地球温暖化問題とエネルギー安全保障だ。COP26に象徴される脱化石燃料の動きは、むしろ足下に関して石炭、天然ガス、石油の価格を高騰させている。長期的な需要の先細りが見込まれるなか、生産国・事業者が供給力維持の設備投資を躊躇うだけでなく、限られた資源を高値で売るため供給量を調整するのは経済的に見れば極めて合理的な行動だ。一方、カーボンニュートラルを目指すと言っても、消費国側の化石燃料需要が直ぐに大きく減少するわけではない。畢竟、需給バランスが崩れて価格への強い上昇圧力が生じているのである。フランスは原子力への回帰を明確にした。また、もう1つの原子力大国である米国のジョー・バイデン大統領も、小型原子炉(SMR:Small Module Reactor)の開発を政策的に後押しするなど、原子力の活用拡大に踏み込むようだ。昨年12月2日、日立製作所とGEの原子力合弁会社であるGE日立ニュークリア・エネジーは、カナダの電力大手、カナダ・オンタリオ・パワージェネレーション(OPG)からSMRを4基受注したと発表した。仮にドイツの新政権が原子力発電所の稼働継続へ傾けば、原子力を巡る国際社会の動きは一段と加速することになるだろう。もっとも、近年における商業用原子炉の建設は、国際的に見ると中国主導で進んできた。現在、公式に発表されているものでは世界で51基の炉が建設中だが、そのうちの14基は中国国内で進められている(図表4)。14基のうち1基は高速増殖炉(FBR)、もう1基は高温ガス炉(HTGR)のいずれも実証実験炉であり、中国は次世代炉の開発についても余念がないようだ。経済成長を支えるため国内のエネルギー需要を満たすだけでなく、新興国への国際展開を視野に入れているのだろう。ちなみに、中国で稼働中の商業用原子炉は52基であり、その定格出力は総計で49.6GW(=4,960万kW)、既に米国の96.6GW(=9,660万kW)、フランスの61.4GW(=6,140万kW)に続く規模になった。この52基のうち、37基は過去10年間に運転を開始した新鋭の炉に他ならない(図表5)。ブルームバーグによれば、中国国営メディアの『経済日報』は昨年11月3日、中国が今後15年間で150基の商業用原子炉を建設する計画であると報じた。話半分としても、同国は数年以内にフランスを抜いて世界第2位、そして10年以内に米国も凌駕して世界最大の原子力大国になるだろう。日米欧にとってこの件が非常に悩ましいのは、極めて複雑な構造を持つ原子炉の場合、第3国での建設受注における国際競争力は、燃料供給、使用済み燃料の引き取り保証、運転支援に加え、実際に発電所を建てた経験が大きく左右するからだ。反面教師はフィンランドのオルキルオト原子力発電所3号機である。フランスの国策企業である旧アレバ(現オラノ)が受注し、2005年に着工したのだが、幾度となく工期が延長され今も建設が続いている。最大の理由は、旧アレバの施行管理の弱さにあるとも言われており、この損失によって同社は経営が傾いた。1980年代以降、フランス電力からの原子力発電所の建設受注が激減、経験に基づく建設ノウハウを失ったことが背景のようだ。一方、現在、中国で稼働している最新鋭の原子炉は旧ウェスチングハウスの開発した「AP1000」、フランスの技術を導入した「EPR(欧州加圧水型炉)」である。ただし、中国版のAP1000と言われる「CAP1000」、独自技術を導入した「CAP1400」、そして完全な独自技術である「HPR1000」の3種類の原子炉が建設段階に入った。中国は明らかに自前の設計技術、建設施工能力を強化しつつある。それは、中国国内での建設のみならず、原子力技術の輸出を念頭に置いたものなのではないか。HPR1000、即ち「華龍一号」については、既に英国において包括的設計審査(GDA)が最終段階となった。今後、温室効果ガスの削減を目指して各国が商業用原子炉の建設を進める場合、中国が市場を席捲する可能性は否定できない。これにどう対抗するのか、それともしないのか、日本の原子力産業だけでなく、日本政府にとっても経済、安全保障の観点から極めて難しい判断が求められている。 総合力を問われる日本マクロン大統領によるフランスの原子力政策が、主要先進国による原子力回帰の嚆矢となる可能性は否定できない。再生可能エネルギーの拡大が最重要課題としても、ベースロード電源の確保の必要性が改めて確認されたからだ。また、自動車のEV化を進めるためには、夜間電力の供給力が必須だが、それは気候に左右されない安定的な電源の裏付けがなければ難しいだろう。さらに、カーボンニュートラルの切り札として期待される燃料電池についても、水素の生産には大量の電力が必要だ。結果として、各国はベースロードに化石燃料を選ぶか、原子力を選ぶか、実質的に二者択一を迫られている。冷静に考えれば原子力一択なのだが、非常に悩ましいことに、現実的にはしばらく化石燃料に依存せざるを得ない。国際エネルギー機関(IEA)は、昨年12月17日に発表した年次報告書において、2021年の石炭火力発電量が過去最大になるとの見通しを示した。もっとも、COP26の議論を考えれば、化石燃料の利用が長期化するとは考え難い。福島第一の事故から10年が経ち、原子力が見直される時代に入ったと言えるだろう。今後、国際的な新規原子力発電所の建設ラッシュが想定されるなか、国、電力会社、メーカーが一体にならない限り、特に新興国における受注獲得は覚束ない。原子力分野で中国が市場を席捲すれば、経済的にも安全保障の面でも日本にとっては大きな問題だ。そうしたなか、大きな懸念は日本政府の姿勢だ。昨年10月22日に閣議決定された『第6次エネルギー基本計画』は玉虫色の表現を散りばめ、日本の目指す方向が明確になったとは言い難い。これでは、原子力産業、電力業界が国際展開を視野に入れて人材育成、研究開発、設備投資に力を入れるのは困難だろう。世界の原子力は雪解けの季節を迎えつつある。そこで種を蒔き、芽を育て、花を咲かせて果実を収穫できるのか、日本は正に国家としての総合力を問われているのではないか。
- 24 Jan 2022
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COP26のインパクト
原子力復権の予兆(前編)昨年のCOPは10月31日から11月13日まで英国のグラスゴーにおいて開催された。本来は12日までの予定だったが、合意文書(Glasgow Climate Pact)の最終調整のため1日延長されたのである。もっとも、この会議が当初予定された期日に終わらないのは珍しいことではない。11月12日付け日本経済新聞が『COP26、30年目標の上積み先送りへ』と報じていたように、COPは固有のイベントを指す用語のように使われているものの、正式には”Conference of the Parties”の略称だ。日本語では「条約締約国会議」であり、本来は特定の会議を指す言葉ではない。しかしながら、最近では専ら気候変動枠組条約の締約国会議がCOPと称されるようになった。COP26は『気候変動枠組条約第26回締約国会議』の略称である。気候変動枠組条約は、地球温暖化を阻止するため、大気中の温室効果ガスの濃度を安定化させることを究極の目標とした国連の条約であり、1992年6月にブラジルのリオで開催された『環境と開発に関する国際連合会議(UNCED)』で採択され、1994年3月に発効した。その第7条には、条約の最高機関として締約国会議を置き、毎年開催することが規定されている。第1回会議(COP1)は、1995年3月28日から4月7日までドイツのベルリンにおいて行われた。1997年のCOP3は京都会議であり、ここで採択されたのが『京都議定書』に他ならない。また、2015年のCOP21では『パリ協定』が合意された。地球温暖化の抑制に関する国際的な枠組作りに関し、COPの役割は極めて大きい。COP26のポイントは、石炭使用の段階的削減国際的排出枠取引の導入先進国による途上国への経済的支援強化──の3つが決まったことだ。京都議定書、パリ協定のような新たな国際協定で合意したわけではないが、極めて重要な会議となった。地球温暖化の深刻度が理由であることは間違いないが、米国における政権交代もこの会議の空気を大きく変化させたと言えるだろう。シェールガス・オイルの開発を優先し、パリ協定の批准を拒んだドナルド・トランプ前大統領に対し、地球温暖化問題を重視するジョー・バイデン現大統領は就任式の行われた2021年1月20日に協定復帰の大統領令に署名した。さらに、同4月22-23日には自らが主宰してオンラインの『気候変動リーダーズサミット』を開催、2050年までにカーボンニュートラルを達成すると公式に国際公約している。温室効果ガスの排出削減を主導してきたEU、英国に加え、米国が積極姿勢に転じたことで、先進国間における合意形成のハードルは大きく下がったのではないか。ただし、温室効果ガスの排出量は増加を続けており、濃度を安定化するのは容易ではない。経済発展を目指す新興国・途上国と先進国との対立が大きい上、実質的なカーボンニュートラルを2050年までに達成すると国際公約した日本を含む先進国ですら、具体的なメドが立ったわけではないからだ。そうしたなかで、改めて注目を集めつつあるのが原子力の利用だろう。不安定な再生可能エネルギーのウェートを引き上げる上で、温室効果ガスを排出しないベースロードとして確実に計算できるからだ。 瀬戸際を示す科学的データトランプ前米国大統領は、地球温暖化そのものを否定していた。2018年11月23日、米国連邦政府に置かれた米国地球変動プログラム(USGCRP)は、『全米気候評価報告書(National Climate Assessment)第4次報告第2版』を発表、温室効果ガス排出削減へ向けた対策がなければ米国の被る人的・経済的損失が極めて大きくなるとの見通しを示している。その3日後の26日、ホワイトハウスにおいて記者団の質問に答えた同前大統領は、この報告書の指摘を「信じない」と切り捨てた。これは2つの点で極めて異例と言える。地球温暖化を否定したのみならず、行政府の長が自らの機関が発表した報告書を完全に否定したからだ。また、11月の大統領選挙を直前に控えた2020年9月14日、トランプ前大統領はカリフォルニア州を訪れ、ギャビン・ニューサム知事より同州における深刻な山火事とその一因である歴史的な熱波に関し、地球温暖化との関係で説明を受けた。この時も同前大統領は「次第に涼しくなる」と語り、山火事に関しては「森林管理の問題」として州政府を厳しく批判している。しかしながら、トランプ前大統領が自説について科学的根拠を示したことはない。英国気象庁のハドレー気象予測研究センターによれば、2000~19年の20年間における世界の平均気温は19世紀後半を0.85℃上回った(図表1)。グラフを見ると、1910年頃から上昇トレンドが急角度になっているのは明らかだ。こうした現象は世界各地で確認されており、カリフォルニアなど米国西海岸で頻発する干ばつもその一環と言えそうだ。もっとも、それはあくまで現象であり、このグラフによって地球温暖化の要因を説明できるわけではない。従って、地球温暖化が産業革命以降における人類の経済活動の結果であるとするには、気温と大気中の温室効果ガス濃度の因果関係が説明されなければならない。これに大きく貢献しているのが氷床からボーリングにより掘削された分析用の氷柱、即ち「氷床コア」である。各年代における氷を分析することで、気候や大気中の二酸化炭素濃度などに関する高精度の情報を得ることができるからだ。南極にはロシア南極観測基地で掘削された「ボストーク」、欧州南極氷床コアプロジェクトチーム(EPICA)が手掛けた「ドームC」、日本の南極観測隊がふじ観測拠点でボーリングを行った「ドームふじ」の3つの代表的な氷床コアがある。このうち、ドームCは3,190mまで掘削され、過去80万年に及ぶ気候変動を明らかにした。それによれば、この間に8回の氷河期と間氷期のサイクルが存在したものの、大気中の二酸化炭素濃度は概ね200~260ppmの範囲を循環していた模様だ(図表2)。さらに、南極の気温はこの二酸化炭素の濃度と非常に強い相関を示した。約4万年を周期として若干のずれが生じていたのは、地球の自転軸の傾斜角度が4万年周期で変動することにより、平均日射量が変化したことが一因と分析されている。国立極地研究所の論文などによれば、これまでの大気中の二酸化炭素濃度の変化は、南極周辺の海洋環境の変動によって影響を受けてきた。しかしながら、米国海洋大気庁(NOAA)の観測データによれば、18世紀後半以降の産業革命後、大気中の二酸化炭素濃度は急上昇し、80万年に亘って続いてきたレンジを突き抜けている。工業化を支えた化石燃料の使用拡大が影響した結果だろう。2015年以降は400ppmを超えた状態が続いている。そこで、1850~2019年の温室効果ガス排出量と気温の関係を見ると、強い正の相関関係が確認された(図表3)。決定係数(R2)は0.80と高い。地球の歴史から見れば極めて短い期間ではあるが、温室効果ガスの排出量が急増し、大気中の濃度が大きく上昇したこの170年間に関しては、統計的に見て地球温暖化と温室効果ガス排出量の強い因果関係を疑うには十分なデータと言えよう。少なくともトランプ前米国大統領の発言よりは圧倒的に科学的な説得力がある。COP21で合意されたパリ協定は、産業革命以降の世界の気温上昇を2℃未満に抑制し、可能な限り1.5℃未満とすることを努力目標とした。国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が2013~14年に発表した『第5次評価報告書』によれば、気温の上昇を2℃未満に抑えるには、大気中の二酸化炭素濃度を450ppm以下にする必要がある。蛇足だが、このIPCCは、1988年、国連環境計画(UNEP)と世界気象機関(WMO)により設立された組織だ。人為起源による気候変動に関して、科学的、技術的、社会経済学的な見地から包括的な評価を行うことを目的としている。2007年にはアルバート・ゴア元米国副大統領と共にノーベル平和賞を受賞した。NOAAによれば、2020年における温室効果ガス濃度は過去5番目の412.5ppmである。トランプ前大統領の見解に組みせず、IPCCの報告書を信じるのであれば、現在の世界が置かれた状況は正に瀬戸際と言えるだろう。 先進国 vs. 新興国・途上国COP26では、山場のひとつだった11月1-2日の首脳級会合において、197の加盟国・地域のうち半数を超える112か国が演説を行った。総選挙を終えたばかりの岸田文雄首相もぎりぎりで出席したが、それだけ温暖化は国際社会、そして日本国内でも関心が高く、深刻な問題と言える。そうしたなか、会議期間中、ベトナムのグエン・ホン・ジエン商工相が2050年、インドのナレンドラ・モディ首相が2070年までにカーボンニュートラルを目指すと初めて明言するなど、新興国・途上国による目標の明示が相次いだことは特筆されよう。国際エネルギー機関(IEA)は、各国が公約を守れば、21世紀末における気温上昇を産業革命前と比べ1.8℃に抑制できるとの試算を発表した。ちなみに、2019年までの20年間に限れば、世界の温室効果ガス排出量増加分の57.6%を中国が占め、日本、中国、韓国、インドを除くアジアが25.1%、インドの比率も13.9%に達している(図表4)。一方、この間、日本、米国、EUの排出量は減少した。つまり、温室効果ガスと気温の強い因果関係を認めるならば、新興国・途上国が排出量の伸びを抑え、減少させない限り、地球温暖化を食い止めるのが難しいことは明らかだ。こうした先進国側の見解に対して、途上国の間では、産業革命以降、先進国が温室効果ガスの排出量を急増させ、地球温暖化を招いたとの認識が共有されている。従って、先進国が新興国・途上国の対策コストを負担すべきとの意見が総意に他ならない。そこで、首脳級会合では、バイデン大統領、岸田首相など多くの主要先進国の首脳が、新興国・途上国への経済的・技術的支援を強化する方針を示したのである。もっとも、2009年12月のCOP15で採択された『コペンハーゲン合意』では、先進国は途上国の温暖化対策として2020年に向け年間1,000億ドルの支援を目指すと決まっていた。しかしながら、OECDによれば、2019年に先進国が提供した気候変動対策資金は796億ドルであり、コペンハーゲン合意の目標は達成されていない。結果として、新興国・途上国には先進国への根深い不信感があり、両グループの対立がCOPにおける合意形成を極めて難しくしてきたのである。特にCOP26の本来の主役は世界の温室効果ガスの27.9%を排出する中国のはずだったが、肝心の習近平国家主席は首脳級会合への出席を見送った。新型コロナウイルスの感染拡大以降、同主席は外遊に関して極めて慎重な姿勢を続けている。COP26へもG20首脳会議と同様にリモートでの出席を求めたが、対面形式を重視する議長国の英国から拒否された模様だ。そこで、止むを得ず書面でメッセージを送ったのだが、内容は先進国による新興国・途上国支援への支援を強く訴えるものだった。一方、議長国である英国のボリス・ジョンソン首相、バイデン大統領などは、最大の温室効果ガス排出国である中国の首脳が欠席したことを厳しく批判、このところの米欧主要国と中国の対立が地球温暖化問題を巡っても改めて確認されたのである。欧州、米国などは国境炭素税の議論を進めているが、これは温室効果ガス排出削減に消極的な中国への圧力に他ならない。主要先進国は、自らの温室効果ガス排出削減を一段と進めつつ、国際的な規制を強化することにより、中国製品の排除を目指すのではないか。さらに、中国が影響力拡大を図りつつある新興国・途上国に対し、カーボンニュートラルへ向けた経済的支援を強化すると見られる。COP26の合意文書では、途上国における気候変動による被害の軽減や防止のための先進国による資金支援について、2019年に比べ最低でも2倍にすることが盛り込まれた。COP26は、地球温暖化の切迫した状況だけでなく、主要先進国と中国の対立も改めて浮き彫りにしたと言えよう。この新たなる国際社会の分断がむしろ温室効果ガス削減に貢献するのか、それとも中国が他の新興国・途上国を巻き込んでより消極的な姿勢を採るのか、その見極めにはもう少し時間が必要だ。多くの新興国・途上国が中国との連携を強化するリスクを避けるためには、日米欧の主要民主主義国陣営が温暖化対策でしっかりと経済・技術支援を強化する必要があることは間違いない。また、地球温暖化への深刻度が増す一方、2021年は異常気象により風力不足に見舞われたスペインの例などから再生可能エネルギーの課題も再確認された。そうしたなか、欧州の天然ガスの約40%を賄ってきたロシアが供給量を調整し、天然ガス価格の高騰がインフレ圧力として欧州の消費者を直撃している。旧ソ連消滅から30年を経た新たな国際的分断の下、温室効果ガスの削減だけでなく、安全保障の観点からも、主要国はエネルギーミックスのバランスを見直さざるを得ないだろう。そこで注目されるのは、水素(アンモニア)、そして原子力なのではないか。(後編へ続く)
- 11 Jan 2022
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経産省、「クリーンエネルギー戦略」策定の議論開始
岸田内閣が基本方針に掲げる「新しい資本主義の実現」のもと、地球温暖化対策を成長につなげる「クリーンエネルギー戦略」の策定に向けた議論が12月16日に始まった。経済産業相の諮問機関である産業構造審議会と総合資源エネルギー調査会のもと、各々が設置する小委員会の合同会合がキックオフ。6月頃の取りまとめを目指し、産業界や専門家からのヒアリングなどを通じ議論を深めていく。〈配布資料は こちら〉合同会合では、「2050年カーボンニュートラルや『2030年度に温室効果ガスを46%削減』の実現を目指す中、将来にわたって安定的で安価なエネルギー供給を確保し、さらなる経済成長につなげることが重要」との問題意識のもと、グリーン成長戦略やエネルギー基本計画で示された目標に向け、供給側に加え需要側の各分野におけるエネルギー転換の方策を検討。水素・アンモニア、原子力、蓄電池など、エネルギー分野の新たな技術開発や将来の具体的な市場規模の見通しを示し企業投資を後押しすべく、従来の戦略をさらに深掘りし、「経済と環境の好循環」につなげていく。座長は今夏にエネルギー基本計画の素案をまとめた総合エネ調基本政策分科会長も務める白石隆氏(熊本県立大学理事長)。白石氏は、「日本の置かれているエネルギー環境は極めて厳しく、脱炭素の世界的流れの中で、経済安全保障も維持しながら、いかに脱炭素に向けたトランジションを進め日本の成長につなげていくか」と問題提起し、議論に先鞭をつけた。資源エネルギー庁は「クリーンエネルギー戦略」の論点の一つとして需要サイドのエネルギー転換をあげ、関連データを提示。それによると、鉄鋼、セメントを1トン製造する過程で、それぞれ約2トン、約0.8トンのCO2が発生するため、製造業におけるカーボンニュートラルの高いハードルとなっていることが示された。産業部門のCO2排出量のうち、鉄鋼・セメント製造は約40%を占めている。これらのデータを通じ、省エネ・脱炭素化など、産業部門におけるエネルギー転換の共通的な課題として、初期投資の大きさ、製品価格への影響、設備の供用期間が長く更新のタイミングが限られることなどをあげ、安価なエネルギー供給の重要性を示唆した。需要側に対する取組に関し、経済学・政策評価の視点から、大橋弘氏(東京大学公共政策大学院教授)は、「CO2排出を見える化し費用対効果がわかるような仕組み作りが必要」と、需要家の判断や選択を通じた社会変革の重要性を強調。消費者の立場から河野康子氏(日本消費者協会理事)は、「北極圏で気温38℃を記録」との最近の報道に触れ、「気候変動に対して『何か行動しなければならない』という切迫感を感じているものの、プロセスと手段がよくわからない」として、情報提供や若い世代も巻き込んだ議論の必要性を訴えた。
- 17 Dec 2021
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「池上彰のニュースそうだったのか!!」はどこまで正しいの!?
気候変動を防ぐ国際会議COP26(第26回気候変動枠組条約締約国会議)の開催やガソリン代などの高騰で再生可能エネルギー問題を取り上げるテレビ番組が増えている。しかし、分かりやすさを強調するあまり、偏った内容が多い気がする。その最たる例が「池上彰のニュースそうだったのか!!」だ。たいていの視聴者は池上彰氏の解説なら、信じてしまうだろう。テレビ番組を検証するファクトチェックが必要だ。その番組は11月13日に放映された。そのシナリオは「先進国の中でなぜ、日本の再生可能エネルギーは、世界に比べて遅れているか」という設定だ。ドイツの大地に広がる無数の風力プロペラ映像を見せながら、日本は温暖化対策に後ろ向きで、市民団体から不名誉な「化石賞」をもらったと解説し、化石賞がさも重要な意味をもつかのような内容も流した。蛇足ながら、化石賞は、メディア受けを狙った環境団体が恣意的な基準で決めた一種のプロパガンダであり、そこに科学的な意味合いはない。同番組で池上彰氏は、太陽光発電などが日本で進まないのはなぜかと問い、その理由について、「日本では技術開発は進んでいたが、大量に導入しないから建設コストが下がらない」「農地につくろうとしても、農地法にひっかかる」「太陽光の導入で電気代が上がると国民の反発を招くので、先送りしてきた」「日本国民の環境意識は海外とちがう」といった事情を挙げた。そういう説明で特に興味をそそったのは、「ドイツでは再生可能エネルギーを拡大してきた結果、電気代が2倍になった。しかし、ドイツの人たちは環境意識が高いので、温暖化対策になるならば、電気代が上がっても、払ってくれる人が多い」という解説だった。まるでドイツの人たちは地球を守るために犠牲的精神を発揮しているかのような解説には目を疑う。日本は世界でトップクラスの太陽光発電大国番組を見ていて、一番疑問(ミスリードと言い換えてもよい)を感じたのは、日本では太陽光発電が少しも進んでいないという誤ったメッセージを伝えたことだ。事実は全く逆である。日本はドイツよりも太陽光発電の導入容量は多い。資源エネルギー庁によると、日本の太陽光発電導入容量は、中国、米国に次いで3位(2018年実績で5,600万kW)だ。ドイツは4位(同4,500万kW)、インドは5位と続く。この導入量は単純に導入容量を比較したものだ。いうまでもなく太陽光発電は広大な面積を必要とする。日本よりはるかに広い面積を誇る中国や米国で太陽光発電が多いのはある意味であたり前である。そこで、国土面積あたりの太陽光設備容量を比べると、なんと日本は1位に躍り出る。2位はドイツで、英国、フランス、中国、インド、米国と続く。さらに平地面積(1平方km)あたりの設備容量で比べると、日本は426kWでダントツの1位(図参照)。2位のドイツ(184kW)よりもはるかに多い。中国(24kW)や米国(10kW)よりも20~40倍も多いのだ。つまり、日本の平地は、他国に比べるとすでに太陽光発電パネルがひしめき合っている状態なのだ。これ以上増やせば、農地や宅地が狭くなり、国内の食料生産自給率を悪化させる要因にもなりうる。国民に巨額の負担を強いる「固定価格買取制度」には触れずこういう厳然たる事実があるにもかかわらず、番組の構成が「なぜ、日本の太陽光発電は増えないのか」というシナリオになるのか不思議である。全く視聴者を小バカにしたミスリードである。すでによく知られているように、日本の太陽光発電がここまで急激に増えたのは、太陽光など再生可能エネルギーが生み出した電気を電力会社が20年間(産業用)にわたり、一定の固定価格で買い取る「固定価格買取制度」(FIT、2012年開始)のせいだ。事業者にとって確実に利益が出る価格で国民が太陽光電力を買い支えるわけだから、増えていくのは当然である。この買い支え額が「再エネ賦課金」だ。この再エネ賦課金は年々高くなり、2021年5月からは、1kWhあたり3.36円となり、2012年当初の15倍近くにもはね上がった。電気料金の上昇は電気を大量に使う日本の産業競争力を低下させる。電気料金が跳ね上がったドイツでは産業向けの料金を下げる優遇措置を講じている。こういう事実こそ放映してほしいが、全く触れていない。また、再エネ賦課金は、所得の低い人でも負担を強いられる。太陽光を導入する所得層はどちらかと言えば、高所得層なので、この固定価格買取制度は、低所得層から高所得層への所得移転ともいえる。国民全体で見ると、年間約2~4兆円ものお金が太陽光発電の買い支えに費やされているのだ。この太陽光発電の負の部分こそが、視聴者に知らせるべきポイントのはずだ。太陽光の買い支え額はクーポンの比ではない2兆円といえば、10万円を2000万人に配ることができる巨額だ。コロナ対策で5万円のクーポン券を配るのに約1000億円(10万円を100万人に配れる額)の事務的経費がかかると批判されているが、太陽光の買い支えはその20倍の2兆円である。2兆円あれば、コロナ禍で経済的に困った人たちをたちどころに解消できる額だ。おそらく池上氏ほどの勉強家であれば、こういう制度の仕組みと問題点を熟知していたはずだ。なのに肝心な解説がなかったのは本当に残念である。結局、あの番組を見て、多くの視聴者の心に残った印象は「環境意識の高いドイツ人は地球温暖化を防ぐために高い電気代を払ってまで太陽光発電などを進めている。これに対し、日本は遅れている」という、相変わらずのワンパターン思考だ。つい最近、テレビ朝日の羽鳥慎一モーニングショーでも、ゲストコメンテーターが「デンマークの人々は風力発電などで電気代が高くなっても、それを受け入れている。私は電気代の負担が高いという実感はない」と話していた。ここでも西欧は進んでいて、日本は遅れているという図式が見られた。日本の知識人の頭脳はいまも西欧の植民地支配状態どうやら、新聞やテレビのメディアの頭の中には、いまなお「西欧が進んでいて、日本が遅れている」という明治以来の西欧信仰が脈々と生きているようだ。良き規範となるお手本は常に欧米諸国である。このことは、脱炭素や脱石炭、車の電動化(EV化)にもあてはまる。悲しいことに日本政府の頭脳までもが西欧の植民地と化している。北京五輪の外交的ボイコット問題を見ていても、欧米に従うかどうかが議論になっている。同じ西欧でも、さすが原子力大国のフランスだけは「スポーツを政治問題化してはいけない」とカッコよく一線を画している。全く同感である。話はテレビ番組にもどる。SNSが普及したとはいえ、テレビ番組は世論に大きな影響を与える。テレビ番組の内容を科学と事実の観点から検証するサイトがぜひとも必要だ。「池上彰のニュースそうだったのか!!」の中身を検証するサイト「池上彰のニュースは、そうだったのか!!」を開設したい気持ちだ。
- 16 Dec 2021
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FNCA大臣級会合開催、研究炉・加速器利用で議論
原子力委員会が主導する「アジア原子力協力フォーラム」(FNCA)の大臣級会合が12月9日、オンラインにて行われた。FNCAは、日本、オーストラリア、バングラデシュ、中国、インドネシア、カザフスタン、韓国、マレーシア、モンゴル、フィリンピン、タイ、ベトナムの12か国が参画する原子力平和利用の枠組みで、各国ごとに選任されたコーディネーターのもと、放射線・研究炉利用を中心としたプロジェクト活動が行われており、年1回特定テーマについて議論する大臣級会合を開催している。今回、日本代表の小林鷹之内閣府科学技術担当大臣はビデオメッセージとして出席。小林大臣は、開会に際し、FNCAの20年以上にわたる活動を「大変ユニークであり価値あるもの。アジアの持続的発展に寄与している」と評価。先般英国で開催された世界の気候変動問題について議論するCOP26を振り返りながら、「カーボンニュートラルの早期実現は国際社会の命題。多様なエネルギー源の中で、原子力の役割・責任が改めて見直されるべき」と述べ、今後のFNCAプロジェクト活動を通じた成果に期待を示した。続いて、国際原子力協力フォーラム(IFNEC)運営グループ長のアリシア・ダンカン氏が講演。IFNECは、米国が提唱した国際エネルギーパートナーシップ(GNEP)を改組し2010年に発足した枠組みで、現在34か国が正式メンバー国として参加しており、例年開かれる各国代表らによる執行委員会には、日本から内閣府科学技術担当大臣や原子力委員が出席している。ダンカン氏は、IFNEC傘下で行われるワーキンググループの活動について紹介した上で、2022年に向けて、(1)コミュニケーション、(2)ファイナンシング、(3)ジェンダーバランス、(4)先進技術――におけるシナジー効果を標榜。原子力のコミュニケーションに関し、ダンカン氏は、「5歳児にも、自身の祖父母にも理解してもらえるよう、シンプルでわかりやすい言葉で語る必要がある」と述べるとともに、「無知が恐怖につながる」として、教育の重要性を強調した。また、11月より原子力委員会で検討が開始された医療用ラジオアイソトープ(RI)の製造・利用について、上坂充委員長が講演し、画像診断に用いられるテクネチウム99m(モリブデン99が原料)などの国産化に向けた取組について紹介。医療用RIの製造効率化に向け、フィリピンの参加者が原子炉と加速器のベストミックスに関するプロジェクトの可能性について尋ねたのに対し、FNCA日本コーディネーターの和田智明氏は、研究炉利用プロジェクトでの長年にわたる実績に触れながらも、「生産が直ちに利用につながるものではない」として、各国の事情を踏まえた医療システム全般からの議論も必要なことを示唆した。今回の会合では、「研究炉・加速器とその応用技術の利用拡大」をテーマに討議。タイからは近く稼働する30MeVサイクロトロン(加速器)の多分野での活用、オーストラリアからは研究炉「OPAL」による医療用RI製造の実績、診断と治療を融合した技術概念「セラノスティクス」の展望などが述べられた。日本原子力研究開発機構理事の大井川宏之氏が日本の研究炉・加速器の現状について紹介したのに対し、フィリピンからは同機構が保有する研究炉「JRR-3」や大強度陽子加速器施設「J-PARC」による中性子利用への関心が寄せられた。
- 10 Dec 2021
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環境省、未来志向の取組「FUKUSHIMA NEXT」で表彰式
環境省が震災復興を始めとした福島県内での未来志向の取組をたたえる「FUKUSHIMA NEXT」の表彰式が12月3日、大熊町のホールで行われた。同表彰制度は、優秀な取組の啓発・支援を通じて、原子力災害に係る風評払拭と環境再生に対する理解醸成につなげることを目的として創設。〈環境省発表資料は こちら〉今回、環境大臣賞を、高校生対象のワークショップ開催や土壌再生事業の現地見学を通じた理解活動でNPO法人ドリームサポート福島理事の菅野真氏と福島県立安積高校教諭の原尚志氏(連名)が、地域資源を活用した再生可能エネルギー導入促進でエイブル再生可能エネルギー部長の渡邊亜希子氏が、ツツジを活用したまちづくりで東京農業大学地域環境科学部学生の渡邊優翔氏が受賞した。表彰式は福島の復興・まちづくりと脱炭素社会の実現について考えるシンポジウムの場で開催。今回のエイブルによる功績は、大熊町が掲げる「2040年ゼロカーボン達成」に係るもので、同社は、2021年7月に町と連携協定を締結し、地元金融機関からの出資も受け、9月に地域新電力「大熊るるるん電力」を設立した。また、福島県知事賞を「コンソーシアム Team Cross FA」プロデュース統括の天野眞也氏ら3名が受賞。同氏は、南相馬市のロボット関連企業を支援するコンソーシアムを組織し、地域の産業創生に寄与した。この他、特別賞が4名に、奨励賞が6名に贈られた。いずれも地域に根差した取組が評価されており、特別賞を受賞した(一社)とみおかプラス事務局長の佐々木浩氏は富岡町の交流人口拡大に向けたまちづくりに、同じくアンフィニ復興推進部長の川崎俊弘氏は楢葉町の工場整備などに取り組んだ。また、奨励賞を受賞した広野町振興公社代表取締役の中津弘文氏は2018年に始まったバナナのハウス栽培で、同じく福島県環境創造センター教育アドバイザーの佐々木清氏は三春町に立地する交流施設「コミュタン福島」を拠点とした活動で、それぞれ地域の産業振興、環境保全教育に寄与した。賞状授与の後、「FUKUSHIMA NEXT」審査員長を務めたジャーナリストの崎田裕子氏は、講評に立ち、「それぞれのストーリーを持っている」と、受賞者らの取組を称賛。その上で、「顔の見える素晴らしい取組が見えてきた」と繰り返し強調し、復興の加速化につながることを期待した。
- 08 Dec 2021
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岸田首相が国会演説、需給を一体的にとらえた「クリーンエネ戦略」の推進を述べる
演説する岸田首相(衆院にて、インターネット中継)岸田文雄首相は12月6日、同日召集された臨時国会で演説を行った。10月の衆議院解散、総選挙を経て、新内閣発足後、初の所信表明となる。岸田首相は、新型コロナの感染状況が鎮静化している国内の現状に関して、「屋根を修理するならば日が照っているうちに限る」というケネディ元米国大統領の名言を引用し、先般決定した財政支出55.7兆円の「コロナ克服・新時代開拓のための経済対策」をスピード感を持って推し進め、日本経済を回復軌道に乗せていく決意を表明。その上で、11月の新内閣発足に際し示した基本方針、(1)新型コロナウイルス対策、(2)新しい資本主義の実現、(3)国民を守り抜く外交・安全保障、(4)危機管理の徹底、(5)東日本大震災からの復興・国土強靭化――で取り組む施策について述べた。「新しい資本主義の実現」に向けては、「成長と分配の好循環」を標榜。成長戦略として、科学技術によるイノベーションを掲げ、大学改革・大学発のベンチャー創出、デジタル田園都市国家構想の具体化による地域活性化などに取り組むとした。気候変動問題については、「新たな市場を生む成長分野へと大きく変換していくもの」と強調。「2050年カーボンニュートラル」、2030年度の温室効果ガス46%排出削減の実現を目指し、「再生可能エネルギー最大限導入のための規制の見直し、クリーンエネルギー分野への大胆な投資を進める」と述べ、送配電網のバージョンアップ、蓄電池導入の拡大、火力発電のゼロエミッション化に向けたアンモニア・水素への燃料転換を図るとともに、技術・インフラを通じたアジアの脱炭素化にも貢献するとした。また、エネルギー政策に関して、「需給両面を一体的にとらえ、『クリーンエネルギー戦略』を進める」と明言。外交・安全保障の関連では、「核兵器のない世界に一歩でも近付くよう、核兵器国と非核兵器国との信頼と協力の上に現実的な取組を進めていく」と述べ、核兵器不拡散条約(NPT)運用検討会議で意義ある成果を出せるよう、米国を始めとする関係国と連携し積極的役割を果たしていくとした。東日本大震災からの復興に向けては、「地元の声に寄り添い、引き続き全力で取り組む」と強調。浜通り地域に整備する「国際教育研究拠点」構想に言及し、わが国の科学技術・産業競争力の強化にもつながるよう、政府一丸となって長期・安定的な運営の実現を図るとした。同拠点設立に関する法案は、次期通常国会への提出が予定されている。
- 06 Dec 2021
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2020年度エネ需給実績、CO2排出量が10億トンを下回る
資源エネルギー庁は11月26日、2020年度のエネルギー需給実績(速報)を発表した。それによると、2020年度の最終エネルギー消費は、前年度比6.6%減の12,089PJ(ペタジュール、ペタは10の15乗)となった。一次エネルギー国内供給は、前年度比6.1%減の17,964PJ。そのうち、化石燃料は7年連続で減少。再生可能エネルギーは8年連続で増加し続ける一方、原子力は2年連続で減少した。発電電力量は前年度比2.1%減の1兆13億kWh。再生可能エネルギー(水力を含む)が19.8%(前年度比1.7ポイント増)、原子力が3.9%(同2.4ポイント減)、火力(バイオマスを除く)が76.3%(同0.7ポイント減)を占め、非化石電源の割合は23.7%(同0.7ポイント減)となった。原子力の発電電力量は388億kWhで、前年度の638億kWhより大幅に下降。2020年度は、新たな再稼働プラントはなく、九州電力川内1・2号機のテロ対策となる「特定重大事故等対処施設」整備に伴う停止期間が生じた。また、エネルギー起源のCO2排出量は、前年度比6.0%減、2013年度比21.7%減の9.7億トン。東日本大震災後、2013年度には12.4億トンにまで達したが7年連続で減少し初めて10億トンを下回った。電力のCO2排出原単位(使用端)は、前年度比0.3%悪化し、0.48kg/kWhとなった。
- 29 Nov 2021
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原産協会・新井理事長が会見、産業動向調査結果について説明
原産協会の新井史朗理事長は11月26日、理事長会見を行い、6~7月に実施した「原子力発電に係る産業動向調査」(2020年度対象)の結果について説明した。原産協会が毎年実施している同調査は、今回、会員企業を含む原子力発電に係る産業の支出や売上げ、従事者を有する営利を目的とした企業325社を対象に調査票を送付し、249社から有効回答を得た。それによると、電気事業者の2020年度原子力関係支出高は、「機器・設備投資費」が大きく増加したことにより、前年度比4%増の2兆1,034億円で、2018年度以降、東日本大震災前の水準に戻りつつある状況。そのうち、新規制基準対応額は5,192億円と、全体の25%を占めており、新井理事長は、「新規制基準対応の支出額を除けば、電気事業者の原子力関係支出高は、震災直後からあまり増えていない」との見方を示した。また、鉱工業他の2020年度原子力関係売上高は、前年度比10%増の1兆8,692億円、原子力関係受注残高は同4%減の2兆803億円。電気事業者と鉱工業他を合わせた原子力関係従事者数は、同0.3%増の4万8,853人だった。原子力発電に係る産業の景況感に関しては、現在(2021年度)の景況感を「悪い」とする回答が前回から2ポイント減の76%、1年後(2022年度)の景況感が「悪くなる」とする回答は同5ポイント減の22%となり、若干の改善傾向がみられた。「2050年カーボンニュートラル」を目指す取組に関しては、41%が「取り組んでいる」と回答。そのメリットとしては、「企業の価値が高まることによる既存事業の拡大」(複数回答で78%)が最も多く、「新たなイノベーションの創出等、新規事業の創出」(同72%)、「就活生など、人材獲得への好影響」(同34%)がこれに次いだ。原子力発電に係る産業を維持するに当たっての課題としては、「政府による一貫した原子力政策の推進」(複数回答で76%)、「原子力に対する国民の信頼回復」(同63%)、「原子力発電所の早期再稼働と安定的な運転」(同61%)が多くあがった。「原子力に対する国民の信頼回復」との回答がこの数年で初めて6割台に上ったことに関し、新井理事長は、東京電力柏崎刈羽原子力発電所における核物質防護事案の影響を示唆。一方で、今夏、美浜3号機が国内初の40年超運転を達成したことに触れ、「こうした実績を積み重ねていくことが信頼回復に向けて極めて重要」と強調した。この他、新井理事長は、11月22日に発出した理事長メッセージ「パリ協定の目標達成に期待される原子力発電」についても説明した。*「原子力発電に係る産業動向調査」報告書は、11月30日に原産協会ホームページに掲載予定です。
- 29 Nov 2021
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萩生田経産相が会見、閉幕近付くCOP26に関し脱炭素社会構築に向けた考え方示す
会見を行う萩生田経産相11月10日の第2次岸田内閣発足に伴い再任となった萩生田光一経済産業相は12日、閣議後記者会見を行い、改めて「職責をしっかり果たしていきたい」と抱負を述べた。閉幕が近づくCOP26(10月31日~11月12日、英国グラスゴー)に関して、萩生田大臣は、「世界にとって喫緊の課題である気候変動問題について、各国の連携を通じ前進を図る上で重要な機会」と強調。その上で、「2050年カーボンニュートラル」や「2030年度に温室効果ガスを2013年度から46%削減」との目標に加え、「パリ協定の目標達成に向け世界全体で脱炭素化を進めていくことが必要」との考えから表明した5年間で最大100億ドルの国際的支援、アジアを中心とした脱炭素社会構築について、「多くの国から賛同と歓迎の意が表され、日本の存在感を示すことができた」との認識を示した。また、英国他の主導により自動車・エネルギー分野で様々な有志連合が立ち上がっていることに関しては、「エネルギーを巡る状況は各国で千差万別。各国ともそれぞれの事情を踏まえ対応している。脱炭素社会の実現に向けては様々な道筋があり、特定の手法に限定するのではなく、各国の事情を踏まえた包括的な脱炭素化の方策をとることが、世界全体の実効的な気候変動対策にとって重要」と強調。自国のエネルギー事情について適切に世界に対し発信していく必要性を示唆した。
- 12 Nov 2021
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西欧のルールを後押しするメディアで 日本のエネルギー関連産業は壊滅か?
みなさんにビッグな朗報をお伝えしよう。日本政府が11月2日、COP26で環境団体「気候行動ネットワーク」(CAN)から、名誉ある「化石賞」を受賞した。もちろん皮肉を込めて言っているのだが、この種の環境団体から称賛されたら、そのときこそ日本の産業が危機を迎えるときだ。それにしても日本の主要新聞はなぜ、こうも西欧を崇拝し、日本を貶める論調を好むのだろうか。英国グラスゴーで開かれている「国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議」(COP26、10月31日~11月12日)で、岸田文雄首相はアジア全体の温室効果ガスの削減を掲げ、気候対策に最大100億ドル(1兆1,000億円)の追加拠出を表明した。そして、パリ協定に基づく2050年実質ゼロを目指し、水素やアンモニア発電、CO2の貯蔵・回収技術の推進などを表明した。日本なりの貢献を示す至極まっとうな政策である。これに対し、環境団体「気候行動ネットワーク」は待ってましたとばかり、日本に「化石賞」を授与した。理由は「石炭火力の段階的廃止がCOP26の優先課題なのに、日本は未知の技術に頼って、2030年以降も石炭火力を使い続けようとしている」(11月4日付毎日新聞1面)ことらしい。このこと自体は想定内で、環境団体がどんなアクションを起こそうと自由である。日本の主要新聞は環境団体や西欧に迎合!問題なのは、こういう動きに対する日本の新聞の論調である。毎日新聞(4日付)は1面トップの大見出しで「火力に固執日本逆風」と報じた。 サブ見出しは「脱炭素へ『新技術を積極活用』 NGO批判『化石賞』」だ。そして、7面(4日付)の解説記事を見ると、見出しは「『火力大国』日本に外圧 脱石炭合意 政策変更迫られる恐れ」と日本への批判一色である。朝日新聞も負けていない。「首相演説に『化石賞』 COP26環境NGOから批判アジア支援に火力発電『アンモニアや水素妄信』との見出しで、環境団体の抗議風景を写真入りで報じた(11月4日付3面)。石炭融資に関する記事(11月5日付2面)でも「世界は脱石炭火力 廃止声明40カ国 日本賛同せず」の大見出しだ。どちらの論調も、石炭火力を簡単に手放そうとしない日本を「世界の潮流とかけ離れた国」または「悪い国」と断じている。日本経済新聞ですら「日本はめまぐるしく動く脱炭素の議論で後手に回り、存在感が薄れている」(11月8日付)といった論調である。西欧目線で日本を批判するおなじみの「日本遅れてる論」である。一方、読売新聞は「アジア脱炭素に1.1兆円 首相、追加支援を表明」と同じ1面トップ記事ながら、西欧目線の批判的な表現はない。産経新聞も「森林保護・メタン削減合意 温暖化対策へ交渉本格化」(11月4日1面トップ)と日本の姿勢を貶めるような表現は見当たらない。同じ新聞でもかなり異なることが分かる(写真参照)とはいえ、朝日や毎日新聞を読む限り、まるで西欧だけが正しいかのような錯覚を生む。石炭の利用は国によってみな違うどの新聞を読んでも、すっきりしないのは、日本のエネルギー事情の特殊性を詳しく報じていないからだろう。いうまでもなく、エネルギー事情はどの国もみな違う。電源構成に占める石炭火力の割合ひとつをとっても、日本が約30%なのに対し、英国は2%、フランスは1%、スウエーデンに至ってはゼロ%である。そして、中国とインドは約60%台と非常に高く、ドイツと米国では約2割とまだ高い。これだけ大きな差があれば、同じルールを一律に押し付けるほうが非合理なのは小学生でも分かるはずだ。石炭火力が少ない英国(COP26の議長国)なら、石炭を全廃しても自国産業に大きな打撃はないだろう。しかし、日本は2030年にも約2割を石炭火力でまかなう計画である。中国やインドなどの新興国にとっては、しばらくは、石炭火力は安くて安定した電力源である。こうした現実を考えれば、いずれ世界的に石炭火力を縮小させていくことは必要だとしても、すべての国が西欧ルールに合わせることが不条理なのは明らかである。中国や米国も脱石炭宣言に不参加ここで大事なことは、主要新聞やテレビの論調だけが世論ではないことをしっかりと胸に刻むことである。別の言い方をすると、政府はメディアに振り回されることなく、しっかりと自国の利益を世界に向けて主張することである。幸い、英国が提案した「化石燃料事業への公的融資を2022年末までに廃止」に日本は参加しなかった。これは称賛すべき決断だ。ところが、毎日新聞(11月5日付)は一面トップで「全化石燃料 公的融資停止へ 20カ国合意 日本不参加」と報じた。まるで合意した20カ国が正義で、不参加の日本は悪役みたいな扱いである。堂々と自国の利益を主張し、安易な妥協をしなかった日本を称賛する新聞がないのが悲しい。この公的融資の廃止については、中国や韓国も不参加だ。脱石炭宣言に至っては、米国や中国も加わらなかった。当然である。これらの国は、自国の産業を犠牲にしてでも、西欧の一方的なルールについていくほど愚かではないことを教えてくれる。中国は言論の自由がない独裁国家ではあるが、欧米にひるむことなく、堂々と自分の意見を押し通す姿勢だけは見倣ってよいだろう。日本が、自由と民主主義を共通の価値とするEUや米国と足並みをそろえていくことは重要だが、だからといって、西欧主導のルールがどの国にとっても正しいわけではない。今後、化石燃料の高騰が日本を襲う化石燃料事業への公的融資の廃止の広がりは、決して他人事ではない。この化石燃料事業には石炭だけでなく、天然ガスも含まれる。化石燃料事業への融資が止まれば、今後、化石燃料を採掘することはますます難しくなる。そうなれば、今後、石炭やガス、石油などの化石燃料価格が高騰するのは必至である。すでに日本でガソリンなど化石燃料の価格が高騰しているのはその兆しである。にもかかわらず、日本の新聞にはそういう危機感覚がまるでない。環境活動家のグレタ・トゥーンベリさんの住むスウェーデンは、原子力と再生可能エネルギー(水力など)だけでほぼ100%の電力を賄っている。化石燃料事業がなくなっても、さして困らないだろう。そういう事情にもかかわらず、日本の新聞の多くはグレタさんの「化石燃料事業が環境を破壊し、人々の命を危機にさらしている」という現実無視のコメントをしょっちゅう載せている。資源のない日本の特殊なエネルギー事情を西欧に紹介し、日本独自の戦略を西欧の人たちに理解してもらうのも、日本のメディアの役割だと思うが、そういう気概は全く感じられない。この点で興味を引いたのが毎日新聞(4日付7面)の記事だ。「ルール作りに長じた欧州主導の脱化石燃料の動きが世界の主流になれば、『脱炭素火力』を目指す日本は国際的にさらに孤立する懸念もある」。せっかく欧州主導のルールだと気づいたならば、そのルールがいかに他国の事情を無視した独善的ルールかを解説してくれればよいのに、「西欧主導のルールが主流になれば、日本は孤立する」と書いて終わりだ。西欧のルールに従えば、日本のエネルギー産業に幸せがやってくるとでも思っているのだろうか。総じて日本の新聞やテレビは、国民の生活や命を支えている日本の自動車産業やエネルギー産業が危機的な状況になろうとしていることに冷淡である。環境団体が主張するようなことを真に受けて実践すると、とんでもないことになるのは、すでに旧民主党政権で体験済みである。西欧が「世界のため、地球のため」と称しながら、実は西欧の利益のために動いていることをもっと知るべきだろう。いったい日本の新聞は、日本の何を守ろうとしているのだろうか。いま西欧の味方をしておけば、いずれ日本の産業がつぶれて困ったときに、西欧が助けてくれるのだろうか。そんな幻想を抱かせるようなメディア報道に振り回されてはいけないとつくづく感じる。
- 11 Nov 2021
- COLUMN
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何のための改訂なのか? 新エネルギー基本計画
岸田内閣は、10月22日、『第6次エネルギー基本計画(エネ基)』を閣議決定した。エネ基は、2002年に制定されたエネルギー政策基本法に基づき、「エネルギーの需給に関する施策の長期的、総合的かつ計画的な推進を図るため」(第12条1項)、3年毎に作成される。所管は資源エネルギー庁を外局に持つ経産省だが、政府の重要な方針の1つとして閣議決定しなければならない。第5次は2018年7月3日に閣議決定された。今年はそれから3年目に当たるため、第6次が策定されたわけだ。特に今回は、昨年10月26日、臨時国会冒頭において就任後初の所信表明演説を行った菅義偉首相(当時)が、2050年までに実質ゼロエミッションを達成すると公約してから初の基本計画となる。従って、その内容は自ずと関係者の注目を集めたのではないか。ちなみに、9月29日に行われた自民党総裁選挙において、立候補した河野太郎内閣府特命担当相(当時)が、当面は原子力発電所の再稼働を容認、原子力発電を維持するものの、将来は必然的にゼロになると語っていた。自民党内にあるエネルギーの現実論と河野氏の持論である脱原子力を折衷させたものと言える。しかしながら、それは最も危険な発想だ。理由の1つは原子力技術者の確保である。文部科学省の『学校基本調査』によると、原子力工学を学ぶ大学生及び修士・博士課程の学生は1970年代後半から1990年代まで高水準だったものの、2000年代に入って急速に減少した(図表1)。1995年に原子力を専攻された多くの学生、院生の方は、現在、40代後半になっているはずだ。「当面は仕方なく続けるけれども、いずれはゼロになる」技術をこれからの学生が学ぶとは思えない。つまり、20年後の日本には原子力を専門に学んだ技術者が払底し、廃炉さえ自力ではできなくなる可能性がある。2011年6月6日、東日本大震災に伴う東京電力福島第一原子力発電所の事故を受け、ドイツのアンゲラ・メルケル首相は2022年までに同国内にある全ての原子力発電所の稼働を停止すると閣議決定した。11年間の猶予は再生可能エネルギーの利用拡大や天然ガスの調達路確保に必要な時間だったのだろう。同時に原子力技術者を確保し、自力で廃炉を進めることを考えた場合、それ以上の引き延ばしはできなかったと推測される。もちろん、原子力発電の継続には研究を含めて巨額の費用を要するため、発電事業者、関連メーカーにとっても政策が曖昧なままでは事業が成りたたない。今、ドイツは天然ガス価格の高騰に苦しんでおり、当時のメルケル首相の判断には賛否両論があるようだ。ただし、原子力には中途半端な結論は許されず、適切な期限を切って撤退するか、それとも規模を明確に設定して継続するか--そのどちらかしか選択肢はないだろう。メルケル首相がEU加盟国を代表するリーダーとして高く評価されてきたのは、決めるべき時には政治が責任を負って決める強い姿勢を維持してきたからと言えそうだ。日本の第6次エネ基だが、残念なことに官僚の文章そのもので明快さや具体性を欠くものとなった。自然環境、経済の成り立ち、外交関係、社会の在り方など、国家の置かれた状況をしっかりと分析した上で、具体的な戦略を示してきたドイツとはかなり異なるものなのではないか。 原子力を本当に「重要なベースロード電源」と位置付けているのか?東日本大震災後の2014年4月に閣議決定された第4次エネ基以降、原子力について政府は曖昧な姿勢を続けている。新エネ基は原子力に関し「長期的なエネルギー需給構造の安定性に寄与する重要なベースロード電源」との位置付けを変えたわけではない。ただし、問題は政策を通じてその方針をどう具現化するかを明確にしていないことだ。第6次エネ基による2030年度時点での電源構成を見ると、原子力発電は20~22%のシェアを担うことになっていた(図表2)。総発電量が9,340億kWhと見込まれているため、量にして1,868~2,055億kWhの発電量を原子力により確保しなければならない。福島第一の事故以前、日本の原子力発電所は54基が稼働可能であり、工事進捗度は異なるものの、更に3基が建設中であった。これら計57基のうち、21基は既に保有/管理する電力会社により廃炉が決まっている。残りの36基に関しては、10基が震災後に設けられた新たな規制基準に適合して少なくとも1度は再稼働した。また、6基は原子力規制委員会より設置変更許可を得ており、うち3基は周辺地自治体が再稼働への理解を表明している。さらに、規制委員会は11基を審査中だ。一方、残りの9基に関しては、まだ電力会社による審査の申請が行われていない。新エネ基に関する大きな疑問は、各発電所の運転期間を特例で認められた60年、平均稼働率を70%として計算した場合、再稼働した10基、設置変更許可が下りた6基、そして審査中の11基が全て稼働しても、2030年度の年間発電量は1,634億kWh程度に止まることだ。これでは、第6次エネ基に書かれている電源構成比20%のラインには達しない(図表3)。つまり、未申請の全9基が規制基準をクリアし、周辺自治体の理解を得て再稼働することを前提にしない限り、第6次エネ基の電源に関する計画は達成が困難と言えるだろう。また、新エネ基は、原子力発電所のリプレース、新規建設への言及を見送った。そうした政策の下、電力会社、メーカーなど関連産業にとって、人材や研究開発への長期的な投資をすることは極めて難しく、原子力技術者を目指す学生が増えるとも思えない。結果として既に審査中の炉を再稼働させるまでが精一杯であり、未申請の炉がそのまま廃炉となる可能性は十分にあり得る。つまり、国が「重要なベースロード電源」と位置付けながら、結局、河野氏が自民党総裁選で指摘したようになし崩しの形で脱原子力が実現するシナリオはかならずしも非現実的ではないのだ。その場合は核燃料サイクルの計画も破綻するため、プルトニウムを含む使用済み燃料の存在は核不拡散の観点から国際問題化し、放射性廃棄物の処理、そして既存発電所の廃炉が人材の確保、コストの両面で重く圧し掛かるだろう。全体で128ページに及ぶ第6次エネ基を読んでみると、随所に当事者意識に欠けているのではないかと思われる部分が目立つ。例えば、『高レベル放射性廃棄物の最終処分へ向けた取組の抜本化』について書かれた部分には、「地域に根ざした理解活動を主体的かつ積極的に行うとともに、最終処分場の必要性について、広く国民に対して説明していくことが求められる」とあった。国は既に長期に亘って「地域に根ざした理解活動」を行い、「広く国民に対して説明」してきたはずだ。しかし、最終処分場の建設計画は進まなかった。これまでとは異なる具体策を示し、いつまでにこの問題を打開するのかを避けていることで、その場しのぎの印象を拭えない計画になっている。これでは、第5次エネ基と基本的に同じ内容で、時間を掛けて立派な計画を作り、閣議決定した意味がわからない。 欧州の苦境は対岸の火事ではない第6次エネ基では、2030年度の電源別発電コストに関して、原子力は政策経費を含めて最も安価なシナリオで11.7円/kWhとの試算を示した(図表4)。一方、再生可能エネルギーについては、太陽光が事業用で8.2~11.8円、家庭用で8.7~14.9円、陸上風力が9.8~17.2円、洋上風力が25.9円とされている。石炭は13.6円、LNG火力は10.7円なので、発電コストから単純に見れば、太陽光、陸上風力の普及は加速するだろう。もっとも、大きな課題は島国である日本には太陽光や風力の適地が少ないことだ。さらに、当該の試算には系統連系を確保するためのコストが含まれていない。新エネ基はこれを考慮したモデルも示しており、その結果を見ると、事業用太陽光は19.9円、陸上風力は18.9円との試算になっていた。このインフラを含めた総費用の概念だと、再エネのコストは一気に上昇する。また、現在、異常気象に見舞われている欧州では、スペインなどが電力不足に追い込まれた。昨年、同国の電源構成に占める風力の比率は21.9%に達し、22.2%の原子力と拮抗する重要な電源だ。しかし、今年は風不足により風力発電が十分に機能せず、天然ガスに依存せざるを得なくなった。新型コロナ禍からの経済活動再開で同じく電力不足に陥った中国が調達を強化している上、EU、英国などが温暖化対策として脱石炭化を進めており、国際市場における天然ガスの需給関係は急速にひっ迫している。さらに、価格支配力の強化を狙ってロシアが供給量を絞っているとの見方もあり、欧州では天然ガス価格が急騰した(図表5)。その結果、欧州各国は電力価格を引き上げざるを得ず、企業も家計もコスト上昇に苦しみつつある。第6次エネ基では、水力、バイオなどを含めた再エネの電源比率について、2019年度の18%から2030年度には36~38%へ引き上げるとした。これは、日本の自然環境や系統の配置から見て非常に高いハードルと考えなければならない。さらに、電力は備蓄に大きな課題がある。太陽光、風力の場合、大型バッテリーの技術が進んで大量の蓄電が技術的には可能になったとしても、それが発電コストに与える影響は小さくないだろう。そこで、政府は第6次エネ基において、2030年度の電源構成でも石炭火力を19%程度、LNG火力を20%程度とした。もっとも、LNG火力の場合、総発電コストに占める燃料費の比率が60%程度と非常に高い(図表6)。これまでは長期契約による調達でLNGの平均輸入単価をコントロールしてきたが、一定のタイムラグを経て国際市況の価格上昇は日本の調達コストにも影響を与えるはずだ。さらに、ここまでの議論はあくまで発電時の電源構成に止まる。第6次エネ基によるエネルギーの一次供給量の推計では、2030年度における石油、石炭、LNGの化石燃料比率は68%に達するとされた(図表7)。2019年度実績の85%と比べて17ポイント低いとは言え、化石燃料への依存度が劇的に低下するわけではない。日本は石油、石炭、LNGのほぼ全量を輸入に依存しているため、環境問題に加え、経済的側面、そして安全保障の観点からも、化石燃料の依存度を可能な限り低下させることが重要な課題だ。再エネは平常時にはそうした役割の一端を担うものの、人智の及ばない自然の動向次第で、今の欧州にようにむしろエネルギーの安定供給を阻害する要因となる可能性が否定できない。また、近年は中国が海軍力を強化、日本のシーレーンである南シナ海、東シナ海での軍事的プレゼンスを高めてきた。この状況はタンカーによる長距離輸送が必要な化石燃料の輸入にとっては大きなリスクであり、調達先の分散による輸送ルートの多様化に加え、化石燃料の消費量を減らすことが求められている。この問題を需要サイドから考えた場合、例えば石油の消費量を減らすには、自動車のEV化が最も近道だ。ただし、電源が化石燃料では温室効果ガスの削減量は非常に小さく、輸入依存の体質も変わらない。従って、EVの普及は非化石燃料による夜間のベースロード電源の確保が鍵を握る。これには夜間発電が難しい太陽光は使えない。また、AIの活用などITを積極活用して情報化社会の高度化を図るには、コンピューターによる大量の電力消費を前提とする必要がある。実際にビットコインなど暗号通貨を支えるブロックチェーン技術に関しては、安価な電力がマイニング拠点の重要な条件になった。経済合理性のある安定的なベースロード電源の確保は、この観点からも非常に重要だ。第6次エネ基は、地球温暖化や社会・経済の構造変化など、エネルギーに関わる問題提起の役割は果たしている。しかしながら、政府の基本方針を示した計画である以上、問題提起や観念論、努力目標の列記では不十分なのではないか。原子力を「重要なベースロード電源」とするのであれば、行間を曖昧に読ませるのではなく、リプレースや新設に関する具体的な施策が明示されるべきだろう。 岸田政権に求められる決断中国では、2010年からの10年間で37基の原子力発電所が運転を開始し、その総定格出力は4,357万kWに及ぶ(図表8)。また、2020、21年にもそれぞれ2基、合計451万kWが新規に稼働した。さらに、現在は14基、1,529万kW分の原子力発電所が建設中だ。国家主導の戦略の下、中国は電力需要の拡大を見込んで着実に原子力の活用を進めてきたと言えるだろう。それでも、2019年の電源構成における原子力の比率は2.7%に過ぎない。今後、さらに原子力発電所の建設を加速することが予想される。それ以外に旺盛なエネルギー需要を適切なコストで満たし、温室効果ガスを排出せず、かつ他国に資源を依存しない方法が見当たらないからだ。第6次エネ基は、社会・経済の変化の方向性を示したものの、『エネルギー基本計画』と呼ぶに相応しい具体的な政策には踏み込むことを避けた感が否めない。それは、民主主義の政治体制下において、社会的な軋轢が高まることを懸念した政治判断の結果と推測される。しかしながら、民間企業である電力会社、関連メーカーにとって、曖昧な国の政策の下、先行きが不透明な状態で人材を育成し、研究開発投資を継続するには限界が来つつあるのではないか。また、このままでは原子力を学ぶ学生も先細りとなることが確実だ。民間主導の半導体や自動車と異なり、社会インフラであるエネルギーは、自由主義経済の下でも基本的に国家管理が原則なのである。特に島国である日本の場合、電力は簡単に輸入することがでず、インフラ整備を計画的に進めなければ、結局は国民がそのツケを負うことになるだろう。原子力に関し、いつまでも国が中途半端な姿勢を続けることは許されない。具体的な戦略を明確にして継続するか、それとも期限を切って止め、代替電源確保へ向け邁進するか、政治がその決断をすることにより、ようやく日本のエネルギー政策は福島第一の事故を乗り越えることになる。残念ながら、新エネ基はそうした社会の要請に応えるものではない。自民党総裁選、総選挙を通じて、岸田文雄首相は原子力の平和利用に関し前向きな姿勢を示した。しかし、姿勢だけでは不十分だ。ゼロエミッションを迫られる一方で、化石燃料には国際的な争奪戦が繰り広げられようとしている。第6次エネルギー基本計画で先送りした決断には、それほどの猶予の時間は与えられないだろう。
- 09 Nov 2021
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政府「新しい資本主義実現会議」が緊急提言、クリーンエネ戦略策定も
新しい資本主義実現会議に臨む岸田首相(左、右は山際経済財政政策担当相、官邸ホームページより引用)政府の「新しい資本主義実現会議」は11月8日、緊急提言を取りまとめた。同会議は、岸田文雄首相(議長)のもと、関係閣僚の他、経済界などから選ばれた15名の有識者で構成。緊急提言は、岸田内閣が新しい資本主義の実現に向け「車の両輪」として掲げる成長戦略と分配戦略のそれぞれについて、最優先で取り組むべき課題を整理したもの。その中で、成長戦略の第一の柱に据えられた「科学技術立国の推進」では、クリーンエネルギー技術の開発・実装として、(1)再生可能エネルギーの導入拡大、(2)自動車の電動化推進と事業再構築、(3)化学・鉄鋼等のエネルギー多消費型産業の燃料転換、(4)住宅・建築分野の脱炭素化推進(省エネリフォームなど)、(5)将来に向けた原子力利用に係る新技術の研究開発推進、(6)クリーンエネルギー戦略の策定――の各施策について記載。原子力利用については、将来に向けて「安全性・信頼性・効率性を抜本的に高める新技術等の開発を進める」とした上で、高速炉開発、小型モジュール炉(SMR)技術の実証、高温ガス炉水素製造に係る要素技術確立、核融合研究開発に、民間の創意工夫・知恵や国際連携も活かしながら2030年までに取り組んでいく。岸田首相は、10月8日の国会における所信表明演説で、「2050年カーボンニュートラルの実現に向け、温暖化対策を成長につなげるクリーンエネルギー戦略を策定する」と明言。今回の緊急提言では、「グリーン成長戦略、エネルギー基本計画を踏まえつつ、再生可能エネルギーのみならず、原子力や水素など、あらゆる選択肢を追求することで、将来にわたって安定的で安価なエネルギー供給を確保し、さらなる経済成長につなげていくことが重要」との考えから、クリーンエネルギー戦略を策定するとしている。
- 09 Nov 2021
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IEAビロル事務局長ら講演 エネ研シンポ
日本エネルギー経済研究所(IEEJ)は10月27日、オンラインシンポジウムを開催。参加者約500名を集め、国際エネルギー機関(IEA)のファティ・ビロル事務局長らによる世界のエネルギー需給の長期的動向を予測・分析した年次報告書「World Energy Outlook 2021」(WEO-2021)に関する講演を受け意見交換が行われた。IEAが10月13日に公表したWEO-2021について、IEEJの寺澤達也理事長は、「世界がカーボンニュートラルに取り組む中、エネルギー情勢を巡る様々な課題を考察する上で非常に重要なレポートだ」と高く評価。さらに、同氏はシンポジウムが折しもCOP26(10月31日~11月12日、英国グラスゴー)開催の時宜にかなったことを歓迎し、世界のエネルギー・環境を巡る課題が理解されるとともに、日本のカーボンニュートラルに向けた道筋への示唆となるよう活発な議論を期待した。講演に入り、ビロル事務局長はまず、昨今の原油価格の高騰に関し「年末にかけて市場動向を注視していく必要がある」と述べ、IEAとして引き続き加盟国との協調を図っていく考えを示した。各国が取り組むカーボンニュートラルに関しては、日本に対し「このターゲットの達成には特別な道筋で努力する必要がある」として、エネルギー利用の効率向上とともにイノベーションを追求し続ける重要性を強調。原子力については「重要な柱であるべき」とした上で、再稼働とともに新増設も視野に入れる必要性を示唆した。また、ビロル事務局長は、IEAが5月に公表したCO2排出量実質ゼロに関する特別報告書に言及。その客観性を「科学者からのメッセージ」と尊重し、同報告書が示した複数シナリオに触れ、「既に各国が公表している公約がすべて実行されても、世界の平均気温上昇は許容範囲をはるかに超す2.1℃に達する」と警鐘を鳴らした。IEAの各シナリオによる2050年までのCO2排出量(IEA発表資料より引用)WEO-2021のベースとなったこれらのシナリオに関しては、IEAエネルギー供給・投資見通し部門長のティム・グールド氏が、2050年までのCO2排出削減量が大きい順に、「実質ゼロ化シナリオ」(NZE:Net Zero by 2050)、「発表誓約シナリオ」(APS:Announced Pledges)、「公表政策シナリオ」(STEPS:Stated Policies)の分析結果を披露。2030年までに世界で石炭火力3.5億kWの建設・計画が続くとするAPSに関し、2050年のCO2排出量がNZEと比べて20ギガトン(2017年の世界のCO2排出量約6割に相当)を超す開きがあることなどを図示し、対策の不十分さを指摘。「クリーンエネルギーへの投資を現状の3倍以上に増やす必要がある」と強調する同氏は、温室効果ガス削減に向けたコスト効率の高い追加的対策として、風力・太陽光発電導入の増強、運輸・家庭部門のエネルギー効率改善とともに、メタン削減にも取り組む必要性を説いた。日本のエネルギー政策について助言を求められたグールド氏は、「各国が持つバックグラウンドは異なり標準的な道筋はない」とした上で、気候変動対策における日本のリーダーシップ発揮に期待し「再生可能エネルギーのポテンシャルは大きい。革新的原子力技術も重要な候補」などと述べた。この他、質疑応答の中で、同氏は、蓄電池について、太陽光の使えない夜間の電力応需に活用が見込める地域としてインドを例示。デジタル技術の活用については、電力需要管理における有用性を期待する一方、サイバーセキュリティの課題を指摘。参加者とは化石燃料の市場リスク、水素・アンモニアの燃料活用、森林によるCO2吸収の可能性に関する意見交換もなされた。グールド氏は、一つの技術に固執する考え方を危惧し、「次世代に向け持続可能なエネルギーシステムを構築するには、複数の技術を組み合わせなければならない」と強調した。
- 04 Nov 2021
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モハメッド国連副事務総長が上智大で講演、COP26に向けて1.5℃目標を強調
上智大学は10月20日、国連副事務総長のアミーナ・モハメッド氏によるオンライン講演会を開催した。2030年までに世界が目指す「持続可能な開発目標」(SDGs)を主導するモハメッド氏は、講演の中で、今必要な行動として、(1)新型コロナのパンデミックを終わらせる、(2)貧困をなくす、(3)不平等を取り除く、(4)カーボンニュートラル社会を実現する、(5)SDGsに向けて新たなパートナーシップを構築し誰一人取り残さないようにする――ことをあげた。気候変動の問題に関しては、10月31日から英国グラスゴーで開催されるCOP26に向けて、「地球の温度上昇を産業革命前と比べて1.5℃未満に抑える」ことを確認・強化しなければならないとした上で、低炭素技術を開発・実行するとともに、異常気象に対する強靭性を高めていく必要性を指摘。ナイジェリアの環境大臣として環境保全政策をリードした経験を持つ同氏は、日本に対し、「気候変動や災害リスク低減の分野でイノベーションを主導していることは重要」、また、「『核兵器を決して使ってはならない』と世界に訴えてきた日本を誇りに感じて欲しい」などと述べた。海外の学生たちも交え意見交換(インターネット中継)「国連の活動には若い人たちの関わりが重要」と話すモハメッド氏は、海外の学生も交え意見交換。マレーシアの学生が「インターネットに接続するにも木に登って機材を設置しなければならない」と、途上国の農村部におけるオンライン教育の現状について述べたのに対し、モハメッド氏はまず、「世界では今、教育の質が危機に瀕している。未来に備えしっかりした教育制度が必要」と強調。世界的な新型コロナ拡大の中、オンラインを通じた教育やビジネスの普及を評価する一方で、「世界の皆がつながることが重要だが、第一に電気を利用できない人たちもいる」と、電力インフラの課題を指摘し、SDGsの「誰一人取り残さない」精神のもと、全ての人々がエネルギーにアクセスできることの重要性を訴えた。また、2050年までのカーボンニュートラルに関して、石炭のフェードアウトや、トランジション(脱炭素社会実現のための移行期)を早めていく必要性にも言及。この他、日本、スペイン、コロンビア、リベリアの学生から、環境活動家への迫害、政治への軍事介入、人口・高齢化問題、児童労働などに関する意見・質問もあがった。こうしたグローバルな課題に対する関心の高まりを歓迎し、モハメッド氏は、「是非声を上げて欲しい。情熱、理想、創造力、決意、不屈の精神があればSDGsを実現できる」と、エールを送った。
- 29 Oct 2021
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新たなエネルギー基本計画が閣議決定
第6次エネルギー基本計画が10月22日、閣議決定された。3年ぶりの改定。〈資源エネルギー庁発表資料は こちら〉同計画策定に向けては、総合資源エネルギー調査会で昨秋より議論が本格化し、新型コロナの影響、昨冬の寒波到来時の電力需給やLNG市場、菅義偉首相(当時)による「2050年カーボンニュートラル」実現宣言への対応などが視座となり、ワーキンググループやシンクタンクによる電源別の発電コストに関する精査、2050年を見据えた複数シナリオ分析も行われた。8月4日の同調査委員会基本政策分科会で案文が確定。その後、9月3日~10月4日にパブリックコメントに付され、資源エネルギー庁によると期間中に寄せられた意見は約6,400件に上った。新たなエネルギー基本計画は、引き続き「S+3E」(安全性、安定供給、経済効率性、環境への適合)に重点を置いており、「2050年カーボンニュートラル」の実現に向けては、経済産業省が6月にイノベーション創出を加速化すべく14の産業分野のロードマップとして策定した「グリーン成長戦略」も盛り込まれた。同基本計画の関連資料「2030年におけるエネルギー需給の見通し」で、電源構成(発電電力量に占める割合)は、石油2%、石炭19%、LNG20%、原子力20~22%、再生可能エネルギー36~38%、水素・アンモニア1%となっている。エネルギー基本計画の閣議決定を受け、萩生田光一経産相は談話を発表。その中で、「福島復興を着実に進めていくこと、いかなる事情よりも安全性を最優先とすることは、エネルギー政策を進める上で大前提」との認識を改めて示した上で、「基本計画に基づき、関係省庁と連携しながら、全力をあげてエネルギー政策に取り組んでいく」としている。電気事業連合会の池辺和弘会長は、「2050年カーボンニュートラルを目指し、今後あらゆる可能性を排除せずに脱炭素のための施策を展開するという、わが国の強い決意が示されており、大変意義がある」とのコメントを発表。再生可能エネルギーの主力電源化、原子燃料サイクルを含む原子力発電の安全を大前提とした最大限の活用、高効率化や低・炭素化された火力発電の継続活用など、バランスの取れたエネルギーミックスの実現とともに、昨今の化石燃料価格高騰に伴う電力供給・価格への影響にも鑑み、国に対し、科学的根拠に基づいた現実的な政策立案を求めている。また、原産協会の新井史朗理事長は、理事長メッセージを発表。「2050年カーボンニュートラル」を実現するため、同基本計画が、原子力について「必要な規模を持続的に活用していく」としたことに関し、「エネルギーシステムの脱炭素化における原子力の貢献に対する期待が示された」、「原子力産業界としては、その責任をしっかりと受け止めなければならない」としている。
- 22 Oct 2021
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原子力委員会、次期エネルギー基本計画に向け見解
原子力委員会は10月19日の定例会で、次期エネルギー基本計画(案)に対する見解をまとめた。新たなエネルギー基本計画は、10月末から始まるCOP26までの閣議決定を目指し、9月3日~10月4日に実施されたパブリックコメントへの検討、与党調整が図られているところだ。原子力委員会では、総合資源エネルギー調査会での議論が概ね集約した8月10日の定例会で、経済産業省から同計画の検討状況について説明を受けている。同委員会が今回取りまとめた見解は、次期エネルギー基本計画(案)について、特に原子力利用の観点から意見を示したもの。原子力委員会は7月にまとめた原子力白書で、「福島第一原子力発電所事故から10年を迎えて」との特集を組み、その中で、福島の復興・再生は原子力政策の再出発の起点と、改めて位置付けた。今回の見解では、基本計画(案)の第1章に「福島復興はエネルギー政策を進める上での原点」と明記され、今後の福島復興への取組が記載されたことを評価。その上で、「すべての原子力関係者は、原子力利用を進めていく上での原点が何であるかを片時も忘れてはならない」と述べている。また、「2050年カーボンニュートラル」の実現に関しては、同計画(案)で、原子力について「国民からの信頼確保に努め、安全性の確保を大前提に、必要な規模を持続的に活用する」と明記されていることから、「原子力発電の長期的な役割を明らかにしている」ものと評価。一方で、「長期的な役割」を果たすために必要な対策については、「必ずしも明確になっていない」と指摘し、次々期のエネルギー基本計画策定までに検討し取りまとめるべきとしている。見解では、こうした総論のもと、各論として、原子力に対する社会的信頼の再構築、核セキュリティ確保、原子力発電の長期運転に向けた検討、バックエンド問題への対応、核燃料サイクルの推進、国際貢献、新技術開発と人材育成などの諸課題に関し、原子力委員会としての意見を述べている。
- 19 Oct 2021
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自民党、再稼働に加えSMRや核融合の開発を公約に
自由民主党は10月12日、来る31日の総選挙を前に政権公約を発表した。新型コロナ対策を筆頭に、新しい資本主義、地方活性化、農林水産業、経済安全保障、外交・安全保障、教育、憲法改正の8つを柱に据え、政策の方向性を示している。これらを要約した「令和3年政策パンフレット」によると、エネルギー・環境保全の関連では、省エネルギー、安全が確認された原子力発電所の再稼働、自動車の電動化推進、蓄電池、水素、小型モジュール炉(SMR)の地下立地、カーボンリサイクル技術など、クリーンエネルギーへの投資を積極的に後押しするほか、核融合開発も推進し「次世代の安定供給電源の柱」として実用化を目指すとしている。電力分野の環境保全では初期型太陽光パネルやリチウムイオン電池のリサイクル技術の研究開発に、非侵襲医療技術では痛みや被ばくがなく着衣で測定可能な「マイクロ波マンモグラフィ」の早期普及などにも取り組む。原子力災害からの復興では、「2020年代をかけて帰還希望者が全員帰還できるよう全力で取り組む」とした。福島第一原子力発電所のALPS処理水(トリチウム以外の放射性物質が規制基準値を下回るまで多核種除去設備等で浄化処理した水)の取扱いについては、漁業関係者らへの丁寧な説明など、必要な取組を行いつつ、徹底した安全対策や情報発信による理解醸成と漁業者への支援、需要変動に備えた基金の設置を通じ、風評被害対策に取り組むほか、農林水産物への輸入制限措置を行っている国・地域に対して制限解除の働きかけを行う外交を強化する。岸田文雄首相(自民党総裁)は、8日の国会所信表明演説で、「2050年カーボンニュートラル」の実現に向け、地球温暖化対策を成長につなげる「クリーンエネルギー戦略」を策定すると表明。衆議院の解散を14日に控え、本会議での質疑が11、12日の衆議院に続き、12、13日には参議院で行われた。12日には世耕弘成議員(自民党)のエネルギー政策に関する質問に対し、岸田首相は「温暖化対策の観点のみならず、安定的で安価なエネルギー供給を確保することが重要。徹底した省エネと再エネの最大限の導入に加えて、原子力の安全最優先での活用や水素の社会実装など、あらゆる選択肢を追求していく。原子力については、SMRを始めさらなる安全性向上につながる技術開発など、今後を見据えた取組が重要」と述べた。また、13日には山口那津男議員(公明党)の防災・減災・復興に関する質問への答弁の中で、浜通り地域に2024年度の本格開所が計画されている「国際教育研究拠点」の整備に関し、「創造的復興を図る」ものとして政府一体で取り組むことを強調した。
- 13 Oct 2021
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岸田首相が所信表明、地球温暖化対策を成長につなげる「クリーンエネルギー戦略」策定も
衆院にて所信表明を行う岸田首相(インターネット中継)岸田文雄首相は10月8日、衆参両議院で所信表明演説を行った。岸田首相は、4日の内閣発足に際し基本方針に掲げた、新型コロナウイルス対策、新しい資本主義の実現、国民を守り抜く外交・安全保障を軸に施策に取り組む決意を表明。新しい資本主義の実現に向けて示された「成長と分配の好循環」に関しては、「科学技術立国の実現」を成長戦略の第1の柱にあげた上で、「科学技術分野の人材育成を促進する」として、学部や修士・博士課程の再編や、世界最高水準の研究大学設立に係る財政措置を図るとともに、デジタル、グリーン、人工知能、量子、バイオ、宇宙など、先端科学技術の研究開発に大胆な投資を行うとした。「2050年カーボンニュートラル」の実現に向けては、地球温暖化対策を成長につなげる「クリーンエネルギー戦略」を策定し実行する考えを表明。また、地方活性化にも関連し、「東日本大震災からの復興なくして日本の再生なし」と改めて強調した上で、被災者の支援、産業・生業の再生、福島の復興・再生に全力で取り組むとした。核軍縮・不拡散に関しては、「被爆地広島出身の総理大臣として、私が目指すのは核兵器のない世界」、「唯一の戦争被爆国としての責務」として、自身が立ち上げた賢人会議も活用し取り組んでいく決意を述べた。
- 08 Oct 2021
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第65回IAEA総会開幕、井上科学技術大臣が一般討論演説
IAEAの第65回通常総会が9月20~24日の日程で、ウィーンにおいて開催されている。ビデオ録画で演説する井上科学技術相開幕初日の20日、前回に引き続き日本からは井上信治・内閣府科学技術政策担当大臣がビデオ録画により一般討論演説を行った。冒頭、井上大臣は、新型コロナウイルス感染症への対応という挑戦も続く中、専門性を活かした取組を促進しているIAEAのR.M.グロッシー事務局長のリーダーシップに敬意を表した上で、IAEAが行う感染症対策事業に対する日本の支援にも言及。東日本大震災による事故発生から10年の節目を経過した福島第一原子力発電所の廃炉に関し、今後、ALPS処理水(トリチウム以外の核種について環境放出の規制基準を満たす水)の安全性や規制面、海面モニタリングについてIAEAによるレビューが行われることに触れた上で、日本として、国際社会に対し科学的根拠に基づき透明性を持って同発電所の状況を継続的に説明し、各レビューの実施に向けてIAEAと協力していくと強調した。展示会・日本ブースを訪れた上坂原子力委員長(左から2人目)また、IAEA総会との併催で展示会も行われている。前回は新型コロナウイルスの影響で中止されたため、2年ぶりの開催となった。日本ブースでは、「2050年カーボンニュートラル」を見据えた原子力イノベーションと、福島復興における10年間の歩みを主なテーマに、「NEXIP(Nuclear Energy × Innovation Promotion)イニシアチブ」に基づく官民の取組や、ALPS処理水に関するQ&Aなどをパネルで紹介。展示会初日には、IAEA総会出席のためウィーンを訪問中の上坂充原子力委員長、更田豊志原子力規制委員長、OECD/NEAのW.マグウッド事務局長ら、国内外関係者がブースを訪れた。今回、日本政府代表として総会に出席した上坂委員長は20日、内閣府主催のサイドイベント「アルファ線薬剤の開発とアイソトープの供給」に登壇したほか、グロッシー事務局長、フランス原子力・代替エネルギー庁(CEA)のフランソワ・ジャック長官と会談を行った。その中で、グロッシー事務局長は、「日本とIAEAとの間には取り組むべき多くの重要な問題やプロジェクトがある。ともに未来志向で協力していきたい」と強調。上坂委員長からは、IAEAによる福島第一原子力発電所の廃炉に向けた協力に対する謝意の他、北朝鮮・イランの核不拡散問題に関する取組への支持などが示された。
- 21 Sep 2021
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