キーワード:小型モジュール炉(SMR)
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カナダNB州の港湾当局 SMR導入を目指す
米ARCクリーン・テクノロジー社の11月28日付発表によると、カナダ・ニューブランズウィック(NB)州の北部に位置するベルドゥーンの港湾管理局(BPA)がグリーン・エネルギー・ハブ化を目指し、ARC社製小型モジュール炉(SMR)の導入でプロジェクト開発企業のクロス・リバー・インフラ・パートナーズ社(CRIP)と協力することになった。BPAとCRIPはARC社カナダ法人による提案を受け入れたもので、同社が開発したナトリウム冷却・プール型高速中性子炉のSMR「ARC-100」(電気出力10万kW)で、電力と熱を生産する方針。ARC社は、BPAがNB州北部地域の経済成長を促す目的で計画しているクリーンエネルギーの特別開発地区「グリーン・エネルギー・ハブ」で同炉の建設を進め、同地区の様々な産業ユーザーのエネルギー源として活用する。今後の実行可能性調査や環境影響面の承認、カナダ原子力安全委員会(CNSC)による許認可手続き等を経て、2030年~2035年頃の商業運転開始を目指している。「グリーン・エネルギー・ハブ」構想は、BPAが最近公表した「2022年~2052年のマスター開発計画」における主要部分であり、BPAとCRIPはすでに今年8月、同地区で輸出用のアンモニア燃料を水素から製造する施設の建設で合意した。この施設ではCO2を排出しないエネルギーを動力として用いる予定であり、SMRの建設を加えることで同地区には地元やカナダ、および世界の市場にも貢献する新たな能力が備わる。同SMRはまた、水素の製造能力拡大や先進的製造業、金属製造業など、ベルドゥーンを本拠地とする産業のエネルギー源としても活用される。NB州では州営電力であるNBパワー社が2018年、同社のポイントルプロー原子力発電所敷地内で第4世代のSMRの実証炉を2種類建設するというプロジェクトを開始。この計画は、同州を含むカナダの4州が今年3月に策定した「カナダのSMR開発・建設の共同戦略」にも明記されており、ポイントルプローでの「ARC-100」建設は2種類のうちの1つ。2029年の運転開始が見込まれている。一方、ARC社が今回ベルドゥーンで提案した建設プロジェクトはNB州の経済規模拡大に貢献するだけでなく、同社のSMR技術が産業用エネルギー源として直接利用が可能であることを示す規範にもなる。同社のカナダ法人のB.ラベーCEOは、「ARC-100」が実証済みの技術と固有の安全性を備えているほか、モジュール式の低コストな建設と運転が可能である点を強調。その上で、「ベルドゥーンでの採用、および産業用として選定されたのは当然のことであり、NB州は『ARC-100』でカナダやその他の国のSMR建設でリーダー的地位を獲得する」と指摘した。 NB州のM.ホランド天然資源・エネルギー開発相も、同様の可能性を表明しており、「第4世代のSMR開発を牽引する当州としては、ARC社がベルドゥーンの『グリーン・エネルギー・ハブ』で、産業用のクリーンエネルギーを生産するSMRをカナダで初めて建設するのが楽しみ」としている。(参照資料:ARCクリーン・テクノロジー社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月29日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 05 Dec 2022
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米ニュースケール社 SMRで新たな水素製造を共同研究へ
米国で小型モジュール炉(SMR)を開発しているニュースケール・パワー社は12月1日、SMRを活用したクリーン水素の新たな製造コンセプトを共同で開発・実証するため、石油化学大手のシェル・グループに属する研究開発サービス・コンサルティング企業のシェル・グローバル・ソリューションズ(Shell Global Solutions)社、アイダホ国立研究所(INL)およびその他の関係企業と共同研究協定を結んだと発表した。協定に参加したのは同シェル社のほか、米国内でニュースケール社製SMRの初号機建設を計画しているユタ州公営共同事業体(UAMPS)と、その建設予定地であるINL、燃料電池開発企業のフュエル・セル・エナジー(Fuel Cell Energy)社、発電分野のコンサルティング・サービスを提供しているFPoliSolutions社とGSEソリューションズ社である。UAMPSは米国西部6州の地方自治体と共同組合48機関による卸売電力サービスの共同活動組織で、近年独自の「脱炭素化プロジェクト」を推進中。SMRの建設は同プロジェクトの一部であり、UAMPSは出力7.7万kWの「ニュースケール・パワー・モジュール(NPM)」を6基備えた「VOYGR-6」発電所(出力46.2万kW)の建設で、2029年までに最初のモジュールの完成を目指している。今回の研究協定では、同プロジェクトが地方経済に与える影響についても評価が行われる予定で、エネルギーの需給管理がリアルタイムで行われる「インバランス市場」の影響もこれに含まれるとしている。ニュースケール社によると、同社のSMRは応用性に富んだ技術であるため、様々な再生可能エネルギー源に接続された電力網を安定させる可能性がある。電力需要が高いにも拘わらず再エネの発電量が低い場合、ニュースケール社はSMRで製造したクリーン水素は貯蔵エネルギー源や、高需要時の最終製品として活用できると考えている。今回の共同研究により、プラントの熱を有効活用する「水素製造の統合エネルギーシステム(IES)」を開発する方針である。IESは熱、電力、それらの貯蔵システムを統合することで、エネルギー効率の向上と、温室効果ガスの排出低減を目指している。まさに柔軟性を有するSMRに適したシステムと言われている。ニュースケール社は「固体酸化物形電解セル(SOEC)システム」で水素を製造し、SOECの逆動作である「可逆型の固体酸化物形燃料電池(SOFC)」を用いて、貯蔵した水素から発電を実施する。これにより、変動する再エネをバックアップし、電力網の脱炭素化を目指す。このため同社は、まずSMR制御室のシミュレーターを改造してIESの動作を評価、その後モデル化したSOECと可逆型SOFCを導入するとしている。ニュースケール社の説明によると、SOECで水素を製造し発電用に一定量貯蔵するには複数のNPMが必要になる。同社のJ.ホプキンズCEOは、「世界規模で脱炭素化を進めるには水素の活用が欠かせない」とした上で、「当社製SMRによる低炭素水素でその達成に貢献したい」と述べた。シェル社で研究戦略を担当するD.スミット副社長は、今回の協定について「低炭素エネルギーへの移行支援と脱炭素化技術の模索という点で、当社の目標にも合致する」と評価している。(参照資料:ニュースケール社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの12月1日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 02 Dec 2022
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ルーマニアのSMRプロジェクト企業 鉄鋼メーカーと協力覚書
ルーマニア初の小型モジュール炉(SMR)建設を計画している国営原子力発電会社(SNN)は11月15日、そのプロジェクト企業として設立したロパワー・ニュークリア(RoPower Nuclear)社が、国内鉄鋼メーカーのドナラム(Donalam)社と協力覚書を交わしたと発表した。ドナラム社は、欧州の鉄鋼産業界で100年以上の実績を持つイタリアの大手企業AFVベルトラム・グループ(AFV Beltrame Group )の傘下。この覚書を通じて、同社はルーマニア初のSMR建設に向けた協力と投資の機会をロパワー社とともに模索し、温室効果ガスの発生量が極めて少ない方法を用いた「グリーン・スチール」を通じて、電力集約型産業である鉄鋼業の課題解決を目指している。一方のSNN社は、国連環境計画(UNEP)の「(2022年版)CO2排出ギャップ報告書」にも示された通り、既存の温暖化防止対策ではパリ協定の目標達成に不十分と認識しており、CO2排出量を効果的かつ持続的に削減していくには原子力が不可欠と考えている。SNN社はドナラム社との協力により、SMRや太陽光が生み出すクリーンエネルギーで最初の「グリーン・スチール製造施設」の構築を支援し、業界内で同様の協力を促進していく考えだ。SNN社はルーマニア南部ドゥンボビツァ県のドイチェシュテイ(Doicesti)にある閉鎖済み石炭火力発電所の跡地に、出力7.7万kWのSMRを6基備えた米ニュースケール・パワー社製のSMR発電所「VOYGR-6」(合計出力46.2万kW)を建設することを計画。今年9月には、この計画を進めるため、建設サイトのオーナーである民間エネルギー企業のノバ・パワー&ガス社と合弁でロパワー社を設立した。今回の覚書への調印は、エジプトで開催されていた国連気候変動枠組条約・第27回締約国会議(COP27)の、国際原子力機関(IAEA)のパビリオンで映像中継の形で行われた。この調印と同時に、SNN社とドナラム社は国連の「24/7カーボンフリー電力同盟(CEC)」に参加する意思を表明。CECでは、一日24時間365日間、クリーンエネルギーを100%活用して、地球温暖化の影響を緩和できるような電力供給システムの構築促進を原則としている。この件についてロパワー社の社長を務めるSNN社のC.ギタCEOは、「後の世代に持続可能な未来を残すことは当社の使命であり、CECの原則とも完全に一致している」と説明。大小両方の規模で原子力発電所を国内で建設することでエネルギーの供給を保証し、CECが求める電力供給システムの脱炭素化を進めていく考えを強調した。SNN社によると、ルーマニアのSMR建設は大型原子炉や再生可能エネルギーと互いに補い合う役割を担っており、SMRのエネルギー生産施設に太陽光設備を加えることも念頭に置かれている。原子力と再エネを統合することにより、出力を自在に変えられる発電能力を確保するねらいだ。ルーマニアにおける原子力発電開発については、現在米国が協力の度合いを深めており、SNN社は国内でのSMR建設に向けて、2019年3月に米ニュースケール・パワー社と最初の協力覚書を締結した。翌2020年10月には、ルーマニア国内で建設工事が停止中のチェルナボーダ3、4号機を完成させる計画と、同国の民生用原子力発電部門の拡充と近代化に向けて、ルーマニアと米国の両政府が原子力分野における政府間協力協定(IGA)に調印している。2021年1月になると、ルーマニア国内でのSMR建設サイト選定に向けて予備的評価作業を行うため、米貿易開発庁(USTDA)が約128万ドルの技術支援金をSNN社に交付。今月9日には、チェルナボーダ3、4号機の完成計画に米国側からプロジェクト準備等のサービスを提供する契約について、米輸出入銀行(US EXIM)が最大で30億5,000万ドルの融資をSNN社に提案している。(参照資料:SNN社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月16日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 21 Nov 2022
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英カンブリア州の新興企業 ロールス・ロイス社のSMRを選択
英ロールス・ロイス社の小型モジュール炉(SMR)開発子会社であるロールス・ロイスSMR社は11月11日、イングランド北西部カンブリア州の新興デベロッパー「ソルウェイ・コミュニティ電力会社(Solway Community Power Company)」が同社製SMRを選定したと発表した。ソルウェイ社は今年9月に同州で設立されたばかりの非公開有限責任会社で、最高責任者は、英国最大の原子力複合施設セラフィールド・サイトの管理運営を担うセラフィールド社のCEOを2000年まで務めたP.フォスター氏。ロールス・ロイス社はこの数日前の11月9日、同社製SMRの建設候補地点として、セラフィールド・サイトの近隣区域を含む4地点を選定しており、2030年代初頭にも英国でSMR発電所の最初の一群を稼働させたいと述べていた。ソルウェイ社の建設計画は、セラフィールド・サイトが立地する同州コープランド市のT.ハリソン市議の主催イベントで公表された。同市議は、「当市には敷地のほかに労働者のスキルと経験、独自のサプライチェーンもすでに備わっており、クリーンで信頼性が高く実証済みの技術を用いた原子力発電所の立地点としては、おそらく世界でも最も適している」と強調した。ロールス・ロイスSMR社のT.サムソンCEOは今回、「原子力廃止措置機構(NDA)がカンブリア州西部で所有する敷地を活用して2030年にも新しい原子力発電所を稼働させ、業界でも最強の地位を確保する」と表明。同州内で新たな原子力発電所の建設計画を推進するデベロッパーが設立され、同社のSMRが採用設計に選定されたことを歓迎した。ソルウェイ社のフォスター最高責任者は、原子力について「当社のアイデンティティの中心であるとともに西カンブリアに受け継がれた遺産でもある」と説明。ロールス・ロイス社のSMRを建設・操業することで、コープランド市には新しい雇用とサプライチェーンを生み出す大きなビジネス・チャンスがもたらされるだけでなく、新たな産業や投資も呼び込まれると期待を表明した。ロールス・ロイスSMR社によると、同社製SMRは既存のPWR技術を採用した設計で電気出力は47万kW。少なくとも60年間ベースロード電源として稼働が可能で、再生可能エネルギー源の間欠性を補えることから、その設置拡大を支援することにもつながる。今年4月からは英国原子力規制庁(ONR)と環境庁(EA)が同設計について「包括的設計審査(GDA)」を開始した。ロールス・ロイスSMR社に対しては、ビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)が2021年11月、民間部門で行われている投資のマッチングファンドとして、2億1,000万ポンド(約350 億円)を提供すると約束している。(参照資料:ロールス・ロイスSMR社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月11日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 16 Nov 2022
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COP27:「途上国への原子力輸出がカギ」IEA指摘
COP会場内の原子力パビリオンで11月9日、「新規原子力へのファイナンス」をテーマとするセッションが開催された。世界原子力協会(WNA)の主催で、国連欧州経済委員会(UNECE)、国際エネルギー機関(IEA)、および原子力関連団体のアナリストらが出席し、原子力の新設に向けた投資課題を議論した。IEAのクリストファー・マクリード氏は「ロシアのウクライナ侵攻によるエネルギー危機を回避するための各国政府の危機対応が注目される」とし、米国のインフレ抑制法、EU の Repower EU、日本でのグリーン・トランスフォーメーション(GX)、中国やインドでのクリーンエネルギー技術の導入を挙げ、これらの政策の結果として、計2兆ドルという巨額の投資が実施されると指摘。そして「原子力だけでなくさまざまなテクノロジー全体へ投資される」と分析。「気候変動問題ではなく、むしろエネルギー・セキュリティ問題」によってクリーンエネルギー分野への投資が促進されるとの認識を示した。一方で、IEAの2050年ネットゼロに向けたロードマップによると、依然としてネットゼロ達成は難しいと指摘し、原子力発電設備容量の大幅増加によってのみネットゼロ達成が可能との見方を示した。またその場合に必要な投資額は4兆ドル規模になるとし、現時点で各国が示す政策だけでは、必要な原子力発電設備容量に達することは難しいと断言。途上国での需要も高まっていることから、先進国から途上国への原子力輸出によって達成が可能になるのでは、との見方を示した。そのほかUNECEのダリオ・リグッティ氏は、「運転開始までのリードタイムが15年もの長期ではファイナンスを受けるのは難しい」と指摘。モジュール方式で工期短縮が見込まれ、初期投資額も小さいSMRへ期待を寄せた。また投資家は単一の電源に投資するのではなくエネルギー全体のポートフォリオに投資し、リスクを分散させるため、投資先の選択肢として常に原子力を堅持しておくことが何よりも大切、と助言した。欧州原子力産業協会(Nucleareurope)のジェシカ・ジョンソン氏は、新規建設はリードタイムが長いため、足元の現実的な解決策は「既存の原子力発電所をできるだけ長期に運転させること」であるが、長期運転で時間稼ぎをし、2035年までに各国が「新規の原子力発電所を運転開始させるべき」との考えを示した。
- 15 Nov 2022
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COP27:「長期運転こそ影のヒーロー」グロッシー事務局長
COP会場内にある原子力パビリオンで11月9日、国際原子力機関(IAEA)のグロッシー事務局長と、ブルームバーグのエネルギー担当編集主幹ウィリアム・ケネディ氏との対話セッションが開催された。ケネディ氏からの、原子力は低炭素かつベースロードを支える電源だが、完成するまで15年もかかるのでは遅すぎるとの指摘に対し事務局長は、「リードタイムが15年以上というケースは、プロジェクトマネジメントや規制体制に原因があった。振り返ると1970年代の原子力導入期のプラントは、極めて短期間で運転開始にこぎつけている。最近でもUAEのバラカ原子力発電所のように、同国初の原子力プラント導入であったにもかかわらず、わずか7年で運転開始を達成したケースもある」と答えた。その上で事務局長は、原子力産業界全体での炉型や規制の標準化といった取り組みを早急に進めていく決意を表明した。また小型モジュール炉(SMR)にも言及し、「SMRは(技術面でも規制面でも)既存炉よりもはるかにグローバル化が進んでおり、リードタイムは短縮されるだろう」と各国で進むSMR導入の動きに大きな期待を寄せた。ただし、「国ごとに求めるスケールは違う」として大型炉が相応しいケースも多いと指摘。SMRはどちらかというと開発途上国向けの選択肢になるとの考えを示した。事務局長は、1970年代に運転を開始したプラントが50年を迎えつつあることから、その老朽化について問われ、「気候変動対策のアンサング・ヒーロー(影のヒーロー)は長期運転だ」と断言。長期運転にかかるバックフィット等のコストは初期コストの半分以下であり、50年どころか80年近く経過しながらも安全なプラントもあることに言及し、「私は100年の運転も可能と考えている」と強調した。そして、「欧州の一部の国では拙速な脱原子力政策により非常に脆弱なエネルギー供給状況に置かれている」ことに言及し、個人的な見解としながらも、「気候変動と戦う上で原子力を閉鎖することは誤りだ」と強調。「政治の世界では2+2=4ではないとわかってはいるが、科学的観点から見ると馬鹿げたことが多すぎる」と懸念を示した。そしてこれからのIAEAの使命として、原子力コミュニティから外へ出て、原子力について反対意見を持つ政治家とコミュニケーションをとっていくとの決意を語った。また、10年後のCOP37時点での世界の原子力発電規模を問われた事務局長は、「倍増する必要があるが、実際はそこまで行かないだろう。それでも現在よりはるかに大きくなる」との見通しを示した。
- 14 Nov 2022
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英ロールス・ロイス社 SMR建設の候補4地点を選定
英国ロールス・ロイス社の小型モジュール炉(SMR)開発子会社であるロールス・ロイスSMR社は11月9日、同社製SMRの立地評価作業を終え、有力な建設候補地としてイングランドとウェールズにある閉鎖済みの原子力発電サイトなど、4地点を選定したと発表した。これは英国でSMR発電所の最初の一群(合計出力:約1,500万kW程度)を稼働させるための重要な一歩であり、同社はそれらのSMRを通じて英国がCO2排出量の実質ゼロ化を達成し、確実なエネルギー供給を可能にするとしている。今回特定された4地点は、原子力廃止措置機構(NDA)が管理しているイングランド・カンブリア州のセラフィールド原子力複合施設の近隣区域とグロスタシャー州にあるオールドベリー・サイト、およびウェールズ北部のトロースフィニッド・サイトとアングルシー島にあるウィルファ・サイトである。これらはかつて、旧式のガス冷却炉(GCR)が稼働していた地点であり、NDAはこのようなGCRサイトも含め、新たな原子力発電所の立地用に指定されている17サイトをすべて所有している。このため、ロールス・ロイス社はNDAチームと共同で、建設プログラムを進めていく第一段階の作業として、複数の候補地の地質工学的データや送電網との接続状況、および複数のSMR建設に十分なスペースが確保できるか等を調査。また、NDAの所有サイト以外の地域についても、同社はSMRの建設可能性のほかに、地元との協力の機会や同社製SMRが提供する社会経済的利益などを評価した。こうした作業は、NDAが使命としている「英国初期の原子力発電サイトを安全・確実かつコスト面の効果も高い方法で浄化し、その他の用途用に提供する」とも矛盾しないことから、ロールス・ロイス社は地元のコミュニティが得る利益や環境面の利点に重点を置いたと表明。ただし、NDAが所有する土地の活用で正式な許諾と支援を得るには、NDAを管轄するビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)の承認が必要になるとしている。ロールス・ロイス社のSMRは、既存のPWR技術を採用した設計で電気出力は47万kW。少なくとも60年間ベースロード用電源として稼働が可能だと同社は述べており、今年4月からは英国原子力規制庁(ONR)と環境庁(EA)が同設計について「包括的設計審査(GDA)」を開始した。同SMRについてはまた、BEISが2021年11月、民間部門で行われている投資のマッチングファンドとして、2億1,000万ポンド(約350 億円)を提供すると約束している。ロールス・ロイスSMR社のT.サムソンCEOは、「かつて原子力発電設備を受け入れていたイングランドとウェールズのコミュニティに、新たな原子力発電所の建設について理解してもらう支援をしてくれたNDAのチームとD.ピーティ総裁には、深く感謝している」と表明。サイトで進める作業の開始が早ければ早いほど、SMRの無炭素な電力を安定的かつ確実に提供する機会も早まると述べた。BEISで気候問題を担当するG.スチュアート大臣も、「SMRは英国が目標とする『2050年までに2,400万kWの原子力発電設備を建設』という目標の達成を促し、消費者が支払うエネルギー料金の削減とCO2排出量の実質ゼロ化にも貢献する」と指摘している。(参照資料:ロールス・ロイスSMR社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月9日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 10 Nov 2022
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英NDA 閉鎖済みサイトでのSMR建設に向け覚書
英国で原子力関係施設の廃止措置や放射性廃棄物の管理を担当する原子力廃止措置機構(NDA)は10月11日、ウェールズ北部にある閉鎖済みのトロースフィニッド原子力発電所で小型モジュール炉(SMR)の建設を計画しているエギノ社(Cwmni Egino)を支援するため、同社と了解覚書を締結したと発表した。NDAは英国内で閉鎖された旧式のガス冷却炉(GCR、通称マグノックス炉)サイトなど、原子力発電所の立地用に指定されている17サイト、950ヘクタールの土地をすべて所有している。一方のエギノ社は、ウェールズ政府がトロースフィニッド・サイトの再開発と周辺地域における社会経済の再活性化を目指して、2021年に設立した開発企業である。今回の覚書で、NDAは同サイトの特性に関する情報や専門的知見をエギノ社と共有し、子会社のマグノックス社が実施している廃止措置作業を新規のSMR建設計画と調整。このプロジェクトから影響を受ける利害関係者との協議や社会経済開発計画の策定についても、エギノ社をサポートする。エギノ社は現在、2027年にSMRの建設工事を開始できるよう、事業提案を作成中だ。採用炉型は未定。英国ではビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)が今年4月、英国のエネルギー自給を長期的に改善していくという新しい「エネルギー供給保証戦略」を公表。CO2の排出量を実質ゼロ化する観点から、2050年までに安全でクリーン、低価格な原子力で現在の約3倍に相当する最大2,400万kWの発電設備を確保し、国内電力需要の最大25%を賄う方針を明らかにした。NDAとエギノ社は翌5月、この戦略の実行を支援する活動の一環として、新規原子炉の建設計画を提案するため、協力協定の締結に向けた作業を開始すると表明。今回の覚書締結はこれに続くものとなる。NDAのD.ピーティ最高経営責任者は、「我々が所有するサイトの有効利用に向けて、現在複数の関係者と協議している」とコメント。「エギノ社への支援提供が正式なものになったことは重要な一歩であり、このプロジェクトが成功すれば、ウェールズ北部に社会的利益をもたらすだろう」と述べた。ウェールズ政府のV.ゲッチング経済相も、エギノ社を設立した理由について「トロースフィニッド・サイトのポテンシャルを最大限に活用することにより、地元コミュニティのみならずウェールズ北部の幅広い地域に雇用やスキルの習得機会を与えるなど、経済的利益を提供することにある」と説明している。英国原子力産業協会(NIA)のT.グレイトレックス理事長は同日、「ウェールズではかつて2サイトで原子力発電所が稼働しており、そのうちの一つであるトロースフィニッド発電所サイトは今後もクリーンな電力の生産で大きな役割を果たし天然ガスの利用量を削減、英国のエネルギー供給保証を強化していくだろう」と述べた。(参照資料:英国政府の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月11日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 12 Oct 2022
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米バージニア州のエネ計画、原子力イノベーションのハブを目指す
米バージニア州のG.ヨンキン知事は10月3日、最新の「2022年版エネルギー計画」を公表し、州内で増加するエネルギー需要を満たすには、原子力や天然ガス、再生可能エネルギー、新しいエネルギー源など、利用可能なエネルギー技術をすべて活用するという「全方位的アプローチ」を取るべきだと表明した。この中でも、原子力利用を拡大し同州を原子力技術革新の主要なハブとする考えを明らかにしている。同州では、ドミニオン・エナジー社がサリー(87.5万kWのPWR×2基)とノースアナ(約100万kWのPWR×2基)の両原子力発電所を運転しており、サリー発電所については原子力規制委員会(NRC)が2021年5月に、運転期間の延長に向けた同社の2回目の申請を承認。これら2基はそれぞれ2050年代まで、80年間運転を継続できることになった。また、ノースアナ発電所についても、NRCは同社が2020年9月に提出した2回目の運転期間延長申請を審査中である。バージニア州のエネルギー省はこの計画を策定するにあたり、州政府はエネルギー需要を満たすのみならず既存のエネルギー供給源をクリーンエネルギー源に移行させるため、あらゆるオプションを検討。今後新たに浮上するクリーンエネルギー技術をすべて採用することにより、柔軟に移行を進めることができると指摘している。新しいエネルギー計画ではまず、同州におけるエネルギー経済の現状を分析、その上で今後の政策決定の基盤となる実用的なアプローチや様々な勧告を、州議会や州内の産業界が直ちに採用できる形で提示。同計画が提唱する全方位的アプローチは、エネルギー供給における信頼性や価格、技術革新、競争、環境影響等に関する同州の基本理念に基づき、同州のエネルギー需要量拡大に対応する柔軟性の高い道筋を示しているとした。このエネルギー計画では具体的な勧告事項として、州内のエネルギー需給の現状や進展状況を把握できるよう、同州のエネルギー構成を定期的に再評価すべきだとした。また、責任を持ってエネルギーの移行を進めるには、将来のエネルギー需要量の予測とそれを踏まえての対策立案で、実行者に真摯な謙虚さが求められると指摘している。さらに、同州内で将来的にクリーンエネルギーを豊富に確保するため、同州は革新的な技術に戦略的な投資を行うべきだとしており、具体的には水素製造やCO2の回収・貯留、有効利用(CCSU)、小型モジュール炉(SMR)を挙げた。商業用SMRを同州南西部で10年以内に建設するという目標の設定に向け、財政支援の必要性を支持するとしている。州内の原子力事業に関しては、同エネルギー計画は米BWXT社と仏フラマトム社が同州のリンチバーグに拠点の一つを置いている事実に言及。ノーフォークの海軍基地では、軍事造船企業のハンティントン・インガルス社が原子力潜水艦や空母のメンテナンスとアップグレードを受け持っており、これらの「バージニア原子力企業連合」が、同州や米国の原子力産業に参加する82社の関係プログラムや資源を州内で調整しているとした。バージニア州はまた、全米の大学に設置されている30ほどの原子力工学科のうち2つが存在するなど、原子力関係の人的資源についても米国のリーダー的地位にある。州内にある複数のコミュニティカレッジでは原子力関係の労働者を支援するコースが設けられており、同州の「エネルギー関係労働力企業連合」は次世代のエネルギー専門家を育成中である。こうした原子力研究開発の最先端に位置する立場を生かし、バージニア州はSMRの技術開発でも米国を牽引すべきだと今回のエネルギー計画は表明。州の南西部で米国初の商業用SMRを建設し、使用済燃料のリサイクル技術を開発すべきだと提唱しており、それによってCO2を排出せず、使用済燃料の量も最小限というエネルギーシステムを確立することを訴えている。(参照資料:バージニア州知事の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月5日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 06 Oct 2022
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ルーマニア原子力公社、SMR建設でプロジェクト企業設立
ルーマニアの国営原子力発電会社(SNN)は9月27日、国内で米ニュースケール・パワー社製の小型モジュール炉(SMR)「ニュースケール・パワー・モジュール(NPM)」を建設するため、民間エネルギー企業のノバ・パワー&ガス社と合弁で、同計画のプロジェクト企業「RoPower Nuclear社」を設立したと発表した。計画では、ルーマニア南部ドゥンボビツア県のドイチェシュテイ(Doicesti)で13年前に閉鎖された石炭火力発電所の跡地に、出力7.7万kWのNPMを6基備えた「VOYGR-6」(合計出力46.2万kW)を建設する。2028年頃の完成を目指す。同発電所ではまた、出力約8万kWの再生可能エネルギー源も併設する予定である。SNNとノバ社が折半出資するRoPower社は今後、米国のJ.バイデン大統領が今年6月にルーマニアへの提供を約束した支援金1,400万ドルを使って、この計画の予備的な基本設計(FEED)調査を実施する。具体的には、設計・エンジニアリング活動や建設サイトの詳細な技術分析、国内外の基準に適合する許認可活動を行うとしており、その際は国際原子力機関(IAEA)が今年8月に実施した「立地評価・安全設計レビュー(SEED)」の勧告事項も適用する方針である。 設立の記念式には、米国務省のJ.フェルナンデス経済成長・エネルギー・環境担当次官やルーマニア・エネルギー省のV.ポペスク大臣が同席した。同大臣は、ルーマニアで建設されるSMR初号機が欧州においても初のものになるとした上で、「この建設計画は、原子力分野における米国とルーマニアの連携協力の成功例だ」と指摘。この協力により、ルーマニアは最も重要な経済面の安定やエネルギーの供給保証という恩恵を被ることから、ルーマニア政府も同計画が近隣諸国を含めたエネルギーの自給に有効との認識から、支援していると強調した。この計画に関しては米国政府も積極的に後押ししており、2019年3月にSNNとニュースケール社が最初の協力覚書を結んだ翌年の10月、ルーマニアと米国の両政府は、ルーマニアでチェルナボーダ3、4号機を完成させる計画を米国が支援するだけでなく、同国の民生用原子力発電部門の拡充と近代化にも協力するため、「原子力分野における政府間協力協定(IGA)」に調印した。これと同じ日に米輸出入銀行(US EXIM)は、ルーマニアのエネルギー・インフラ分野等に対して、最大70億ドルの財政支援を行うための了解覚書を同国政府と結んでいる。2021年1月になると、米貿易開発庁(USTDA)がSMR建設サイトの選定に向けた予備的評価作業のため、約128万ドルの技術支援金をSNNに交付。この調査が完了した今年5月には、建設に適した候補地が複数特定されており、最有力候補であるドイチェシュティで詳細調査を行うことになった。同月24日には、SNNとニュースケール社、およびドイチェシュティの石炭火力発電所オーナーで、ノバ社を傘下に置くE-Infra社グループが了解覚書を締結、SMR初号機の建設について分析評価を行うと表明している。(参照資料:SNNの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの9月28日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 04 Oct 2022
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“行動するIAEA”へ支援求める IAEA総会でグロッシー事務局長
国際原子力機関(IAEA)の第66回通常総会がウィーンで、9月26日から5日間の日程で始まった。R.M.グロッシー事務局長は、世界的なエネルギー危機への対応やウクライナでの原子力安全確保など、現在のIAEAに課せられている新たな使命を強調。各国からのより一層の支援を求めた。初日プレナリーセッションの冒頭、開会挨拶に立ったグロッシー事務局長は、感染症対策、気候変動対策、安全な食糧および水の確保、がん撲滅、海洋汚染対策ーーなどといった従来からのIAEAの取り組みを取り上げるだけでなく、世界を取り巻く情勢としてエネルギー危機やウクライナでの紛争に言及。こうした情勢の変化により、カバーする範囲や作業量など「IAEAが果たすべき役割」がこれまでにないレベルに拡大しているとの認識を示した。事務局長は世界規模のエネルギー危機に関し、安全で信頼性が高く低炭素なエネルギー供給体制を確立するには原子力が欠かせないと指摘。今後30年で原子力発電設備容量が倍増すると見込まれる中で、IAEAの原子力安全および核セキュリティ活動が量的にも質的にも増大し、ますます重要性が高まると強調した。またウクライナの紛争に関しては「IAEAは懸念を表明するにとどまらず、原子力安全とセキュリティの確保に向けて状況を改善するために行動している」と、これまでの支援活動を紹介。今回の紛争中に4度に渡って派遣したIAEAの調査ミッションなど、ウクライナでの原子力事故を未然に防止するためにIAEAが果たしてきた役割に言及した。そしてロシアを名指しで非難することは避けながらも、ウクライナの原子力施設周辺に「原子力安全/セキュリティ保護エリア」を早急に設定すべく、両国と詳細な協議を開始したことを明らかにした。続く各国代表による一般演説では、日本は7番目に登場。ビデオ録画ではあったが高市早苗内閣府科学技術政策担当大臣がスピーチ。ウクライナの原子力施設周辺でのロシアの軍事行動を強く非難し、IAEAの取り組みを高く評価した。その上でウクライナでの「原子力安全/セキュリティ保護エリア」早期設定に向け、200万ユーロの拠出を表明した。また高市大臣はALPS処理水について、IAEAがこれまで実施してきたレビューやモニタリングについて言及。今後もIAEAの協力のもと、国内外の安全基準に従い透明性を高めた形で、「科学的に」海洋放出を実施していくことを強調した。そのほか日本のエネルギー政策に関し高市大臣は、「エネルギーの安定供給に向けてあらゆるエネルギーオプションを堅持する」決意を表明。今後は高速炉、高温ガス炉、SMR、核融合炉など次世代炉技術の研究開発にも力を入れていく方針を明らかにし、国際社会に強く印象付けた。♢ ♢日本原子力産業協会・新井理事長とブースで談笑する上坂委員長(右) ©︎JAIF例年通りIAEA総会との併催で展示会も行われている。日本のブース展示では、「脱炭素とサステイナビリティに向けた原子力イノベーション」をテーマに、高温ガス炉やナトリウム冷却高速炉、中・小型炉、水素貯蔵材料等の開発、ALPS処理水に関するQ&Aなどをパネルで紹介している。展示会初日には、上坂充原子力委員長がブースを訪れ、出展関係者より展示内容の説明を受けた。
- 27 Sep 2022
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英ロールス・ロイス社、オランダでのSMR建設に向け現地企業と独占契約
英国ロールス・ロイス社の小型モジュール炉(SMR)開発子会社であるロールス・ロイスSMR社は8月25日、オランダで同社製SMRの建設に向けて協力していくため、オランダの新興原子力事業者であるULC-エナジー社と独占契約を締結したと発表した。ULC-エナジー社は昨年アムステルダムで設立された企業で、オランダ国内で原子力発電所の建設プロジェクトを進め、同国の脱炭素化を促進することを使命としている。確証済みの技術に基づく近代的で最新鋭のモジュール式原子炉の建設を目指しているため、同社はSMRの供給者としてロールス・ロイスSMR社を選択。両社はともに「原子力発電こそ、オランダがクリーンで安価、かつ信頼性の高いエネルギー・システムへ移行するのを加速できる」と考えており、今回の正式な連携協力契約に基づき、今後数年間にわたりオランダでSMR建設を準備する。ロールス・ロイスSMR社の発表によると、同社製SMRはPWRタイプで出力は47万kW。これは陸上風力発電のタービン150台以上に相当し、少なくとも60年間はベースロード用電源として稼働が可能。再生可能エネルギーの間欠性を補えることから、その設備拡大を支援することができる。同社のSMRはまた、機器の90%が工場で製造されるため、設置場所での作業は主に既製の試験済みモジュールを組み立てるだけ。これによりプロジェクトとしてのリスクが著しく軽減され、工期も大幅に縮減される可能性がある。ULC-エナジー社のD.ラベリンクCEOは今回、「エネルギー市場の中でも特に西欧の状況が厳しくなるなか、信頼性の高い安価なエネルギー・システムの重要性が浮き彫りになった」と指摘した。「オランダ政府は原子力が国内で有意な役割を果たせること、また果たすべきだと確信しており、出力47万kWで設備利用率が95%を超えるロールス・ロイスSMR社のSMRは正に理想的。これを効率的に建設していくことで、電力の供給や産業用の熱電併給が可能になる」としている。ロールス・ロイスSMR社のSMRについては、英国のビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)が2021年11月、民間部門で行われている投資のマッチングファンドとして、2億1,000万ポンド(約339億円)を提供すると発表した。ロールス・ロイスSMR社も、同じ月に同社製SMRについて包括的設計審査(GDA)の実施を申請しており、BEISによる初期スクリーニングを経て、今年4月から原子力規制庁(ONR)と環境庁(EA)が審査を開始。英国内では2030年代初頭にも、最初のSMRが運開する計画だ。また、国外ではトルコとチェコ、およびエストニアに対して、輸出のための覚書が締結済みである。(参照資料:ロールス・ロイスSMR社、ULC-エナジー社(オランダ語)の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの8月25日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 31 Aug 2022
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米ニュースケール社、企業戦略をSMRの納入・顧客サービスにシフト
米国のニュースケール・パワー社は6月20日、同社製の小型モジュール炉(SMR)「ニュースケール・パワー・モジュール(NPM)」の商業化を一層加速していくため、同社の戦略をSMRの開発と製造から、今後はNPM納入後のライフサイクルを通した顧客満足の重点化にシフトすると発表した。新しい事業組織「VOYGRサービシズ&デリバリー(VSD)」を設置し、NPMを複数備えた「VOYGR」発電設備の製造と販売、納入および商業運転にともなう機器・サービスの提供など、顧客との協力に特化した対応を取る方針。VSDの社長には同社のT.マンディCOO(最高商務責任者)が就任する予定で、J.ホプキンズCEOの直属組織となるVSDの堅実な運営について、全面的な責任を担うことになる。米原子力規制委員会(NRC)は2020年9月、1モジュールの出力が5万kWの同社製「NPM」に対し、SMRとしては初の「標準設計承認(SDA)」を発給した。これを受けてニュースケール社は、「VOYGR」発電設備の建設に向け、プラントとしての設計標準化やサプライチェーンの確保といった長期的視点での活動の在り方を検討している。同社はまた、今年5月に特別買収目的企業(*未公開会社の買収を目的として設立される法人)であるスプリング・バレー社(Spring Valley Acquisition Corp.)との合併を完了し、SMRの設計・開発企業としては初めて株式を公開。今回の戦略シフトと併せて、同社製SMR技術の商業化を長期的観点から促進・強化していく考えだ。「NPM」初号機については、ユタ州公営共同事業体(UAMPS)が出力7.7万kWのNPMを6基備えた「VOYGR-6」をアイダホ国立研究所内で建設する計画を進めており、最初のモジュールは2029年の運転開始を目指している。SMRを通じて、UAMPSは2015年に開始した「無炭素電力プロジェクト(CFPP)」を推進する方針で、すでにSMRの長納期品発注に向けた活動を実施中。このため、顧客を中心に据えた組織改革となるVSDの設置は、世界で急速に進展している脱炭素化への需要に、同社のクリーンエネルギー技術で迅速に対応する非常に重要なステップになると同社は指摘している。「VOYGR」発電設備についてはまた、ポーランドとルーマニアで建設する計画があり、これらの計画で効率的かつ効果的にSMRを納入するには事前の組織改革が必要だと同社は強調。ホプキンズCEOも、「設備の納入とその後に目を向けた組織改革は、当社が次の段階に進む上で自然なことだ」と指摘した。同CEOによると、ニュースケール社のSMRは、クリーンで信頼性の高い安全なエネルギーの生産に新たな時代を開く画期的な技術。「その建設で顧客と緊密に連携していくことは、当社の重要な使命の一部でもある」と述べた。VSDの社長に就任するマンディCOOは、「他にも数多くの国家や電気事業者がグローバルな繁栄を維持しつつ地球温暖化の影響を緩和する主要な取り組みとして、VOYGR発電設備の導入を検討している」と指摘。その上で、「あらゆる人々の将来のエネルギー利用による恩恵を究極的に改善・拡大するため、今こそ組織的な準備を進めるべき時だ」と強調している。(参照資料:ニュースケール社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月20日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 21 Jun 2022
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アツイタマシイ Vol.2 マシュー・メイリンガーさん
コミュニケーションを通じて先入観や思い込みを払拭マシューさんが原子力業界で働きたいと思ったきっかけは何でしたか?マシュー私が9年生、日本でいえば高校1年生の時、国語の授業で小論文(エッセイ)を書くことになり、たまたま選んだテーマが「原子力」、それがきっかけでした。いろいろ調べていくと原子力技術は効率のよい発電方法であると同時に、医療や工業、農業など幅広く社会に貢献し、エネルギー問題や環境問題にも寄与することを知りました。将来的に原子力分野の仕事は意義があり、また安定しているため、キャリアを積み重ねていく価値があると思ったのです。原子力業界に入る前と入った後で、意識などに何か変化はありましたか?マシュー実際に原子力分野で仕事を始めてから感じたことは、原子力が社会に幅広く利用されるためには一般市民の人たちに理解してもらうことが重要だ、ということでした。原子力工学を学んでいた時にはもっぱら技術的なことに取り組んでいましたが、様々な経験を経て、原子力利用の普及のためには技術の問題よりも一般市民に理解されるかどうか、つまりコミュニケーションを通じて先入観や思い込みの部分を払拭していくことが必要だと実感しました。この10年ほどYGNの活動を通じて一般市民の方々との対話を重ねてきましたが、こうした活動をまだまだ今後も続けていくことが重要だと考えています。ウクライナ問題などエネルギー情勢はめまぐるしく変化しています。このような時期にあって、原子力利用の意義と将来性についてどうお考えですか?マシューロシアのウクライナに対する軍事侵攻により、エネルギーや食糧の自給自足がいかに大事かということが明らかになりました。とりわけ各国が発電の手段を確保しておくことは重要です。ロシアのような資源国の状況変化に左右されないよう、発電手段を確保することが必要だと思います。エネルギー不足に直面すると、結局のところ、苦しむのは一般の人々です。特にドイツでは痛感されているのではないでしょうか。ドイツは天然ガスをロシアに依存していたことから、外交のカードとして使われてしまった。ベルギーも同じような状況にあり、脱原子力の立場から見直しを迫られている状況です。まして気候変動問題に真剣に取り組むことが求められている現状では、原子力発電は再生可能エネルギーと並んで最適な選択肢です。ウクライナではロシアの軍事侵攻によって多くの発電設備が破壊され、電力供給が停止していると聞きます。そのような中で、原子力発電所は運転を継続し電力を供給し続けています。安全性や安定供給が原子力発電所の特長といえますが、今後SMRが実現すると、より安全性の高い原子炉が運転を開始することになります。ウクライナ問題は各国政府が原子力発電の特長を再評価するきっかけになるでしょうから、原子力の将来性について国際的な評価が高まると期待しています。カナダの原子力利用の将来を担うであろう小型モジュール炉(SMR)開発について、またそれを支える人材の育成などについて、どのようにお考えでしょうか?マシューSMR開発についてカナダは、世界に先行するトップランナーの位置にあるといえるでしょう。カナダの4つの州、すなわちオンタリオ州、ニューブランズウィック(NB)州、サスカチュワン州、およびアルバータ州で覚書を取り交わして導入にむけた共同戦略計画を進めているところです。連邦政府のレベルでSMR開発のロードマップ(工程表)が定められ、それに基づいてアクションプラン(行動計画)が策定されています。アクションプランの中に人材育成やサプライチェーンの構築などの進め方も盛り込まれており、SMRを導入する事業者側の課題も挙げられています。またSMR開発自体については連邦政府が財政的な支援を行う計画です。英モルテックス・エナジー社やテレストリアル・エナジー社、米ウェスチングハウス(WH)社などカナダ国内でSMR建設を進める企業に資金を拠出します。カナダでは主に3つのSMR開発プロジェクトが進められていますが、オンタリオ州営の電力公社オンタリオ・パワー・ジェネレーション(OPG)社が建設するマイクロモジュール炉は2026年の運転開始を予定しています。またOPG社が2028年の運転開始を目指し、GE日立のBWRX-300を建設するプロジェクトも進行しています。PAが重要な課題SMRの導入に関して現在、重要な課題は何でしょうか?マシューもっとも重要な課題は一般市民の合意、すなわちパブリックアクセプタンス(PA)だと考えています。そのために継続的に対話活動に取り組んでいく必要があります。カナダ政府としても、「実証されていない」あるいは「投資に見合わない」と国民に思われてしまっているものをわざわざ推進しようとは考えません。例えば気候変動やエネルギー不足への対応、水素供給や地域熱供給への活用、そうしたメリットについて広く理解が進み、一般市民の側からプロジェクト推進の声が寄せられるような状況が望ましいと思います。一方で技術的な課題についてですが、初号機に採用された技術は実証済みのものですので、当面する課題は特にないと考えています。それ以降の、いわゆる第4世代の新技術については、今後の課題として進めていくものだと思います。最初に実現するSMRは実証された確実な技術で進めればよいでしょう。新技術の開発などにあたり、若手の研究者や技術者への期待は大きいと思うのですが、マシューさんから見て、現状や今後への期待などはいかがでしょうか?マシューおよそ10年前の福島第一原子力発電所事故の後、カナダでも原子力に対する世論が厳しくなった時期もありましたが、様々な活動を通じた印象としては原子力利用に将来的な希望を抱く若者は少なくないと思います。日本の状況について詳しくは承知していませんが、原子力に対して希望を抱く若者は、日本よりカナダのほうが多いといえるでしょう。私は、大事なことは彼らに「原子力のメリット」に目を向けてもらうことだと考えています。環境にクリーンな電源であることや、医学や工業、農業などの分野で社会に貢献する多様なメリットを原子力技術が有していることを実感してもらえるような活動が重要です。現在も絶えず技術革新を遂げつつある原子力分野の仕事は、若者に「COOL(クール)」と感じてもらえる側面がありますよね。ですから彼らにもそういった印象を持ってもらえるよう、常日頃から心掛けています。日常的にこなすルーティンな仕事というだけでなく、熱い意欲をもって取り組む価値のある仕事だということを理解してもらえるよう努力したいと思っています。そのために今後も引き続き、原子力の様々なメリットを実感してもらうために、シンポジウムや交流会への参加や、発電所サイトの視察機会を多く作っていこうと考えています。マシューさんが取り組んでいるYGNで、そうした機会を作っていくということですか?マシューはい。YGNの活動を通じて今までも取り組んできましたが、これからも引き続き、様々な機会を作る努力をしていきたいです。実は私、6月から3年の任期でYGNのプレジデント(理事長)に就任します。今後の活動について、私自身、強調していきたいのは国際的な活動の充実です。国を越えて若者同士がお互いのベストプラクティスを共有できればと考えています。今回の来日中に福島第一原子力発電所に訪れ、その後に日本のYGNのみなさんと交流する機会を持つ予定ですので、お互いの活動についても共有し、様々な学びが得られると楽しみにしています。私たちが活動する北米のYGNでは、将来を担う子供たちを対象に、コンテスト形式で絵を書いてもらったり、作文を発表してもらうイベントを開催しているほか、わかりやすい絵本を作って読み聞かせをするといった活動をしています。また政府・関係団体に対して若手の視点から意見を表明する政策的な活動として、州が開催する公聴会に参加して意見を表明するといった活動もしています。さらに幅広いネットワークを活かして地域社会の皆さんとの交流を続けています。YGNのメンバーが地域の皆さんに良い印象を持ってもらえるよう交流の場を作ることは大切な活動ですから、今後も原子力利用に対する理解を深めてもらえるよう努力をしていきたいと考えています。SMRが切り拓く 私たちの未来最近の情勢変化を踏まえ、欧州では原子力発電を脱炭素にむけた主要電源として見直す動きもあるようです。環境問題に対する原子力の役割についてどのようにお考えでしょうか?マシュー環境問題への対応の観点から、SMRを導入することで原子力利用の新たな市場が開拓できるというメリットについてお話ししたいと思います。カナダでは従来の大型の原子炉を導入すると、州によっては電力需要を上回ってしまう状況がありました。その点でSMRは各州の状況に応じて柔軟に対応できるため、新たな市場を切り拓くことになるでしょう。またカナダには遠隔地の電力需要をどのように賄うかという問題があります。冬期には道路が凍結するため、事前にディーゼル発電機用の燃料を備蓄する必要があるわけですが、SMRはより安定した電源であり、かつ脱炭素化が可能になります。同様のことはカナダの主要産業である鉱業部門にもいえます。天然資源採掘の現場にSMRを導入すれば安全で安定した電源というばかりでなく、大幅に脱炭素化がはかれるというメリットが期待できます。さらに水素製造や淡水化への応用、負荷追従運転による電力需要への柔軟な対応など、幅広いメリットを考えれば、SMRの実現によってさまざまな新たな可能性が切り拓けると思います。そして重要なことは、環境問題への対応という面で、従来とは違う観点で原子力をとらえることができるようになるということです。つまり、これからは原子力か再生可能エネルギーか、という対立した選択肢ととらえるのではなく、両者をうまく組み合わせ、原子力が再生可能エネルギーを補うといった新たな考え方が可能になると思うのです。それから、輸送部門への活用もSMRに期待されるメリットのひとつです。船舶の動力に使えば、脱炭素化がかなりスピーディーに実現できるでしょう。現在は原子力潜水艦など舶用の小型原子炉は軍事利用がメインとなっていますが、今後民生用の舶用炉という新たな市場がSMRによって切り拓かれることになると期待しています。
- 16 Jun 2022
- FEATURE
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韓国SKグループの傘下企業が米テラパワー社とSMR協力の覚書
石油精製事業や通信事業を主軸とする韓国の大手財閥企業SKグループは5月17日、持ち株会社のSK社(SK Inc.)とそのエネルギー関係子会社のSKイノベーション社(SK Innovation)が、米国の原子力開発ベンチャー企業のテラパワー社と包括的な事業協力を実施するための了解覚書を締結したと発表した。ビル・ゲイツ氏が会長を務めるテラパワー社は現在、GE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社と共同で、第4世代の原子力技術であるナトリウム冷却の小型高速炉「Natrium」、および同炉と溶融塩熱貯蔵システムを組み合わせた「ナトリウム電力貯蔵システム」を開発している。SK社らは、無炭素なエネルギーミックスの現実的な選択肢となる小型モジュール炉(SMR)の技術を確保し、その商業化に協力することで韓国における次世代原子力産業の発展を支援。CO2排出量の削減という世界レベルの目標達成にも貢献し、SKイノベーション社が提供するエネルギー商品の脱炭素化も進めていく考えである。今回の発表によると、SKグループは昨年以来、地球温暖化の防止で「2030年までに全世界におけるCO2削減目標量の1%削減に寄与する」ことを目標に掲げている。同グループはCO2を排出しない安全な電源としてSMRの競争力に注目しており、「複雑な安全装置を使わず自然循環方式で原子炉の冷却が可能なほか、設計・建設方法の簡素化により設置と運転にかかるコストも削減できる」と指摘。SMRを前記目標達成の強力な選択肢に位置付けている。今回の覚書に基づいて、SK社らは今後、テラパワー社の次世代SMR技術や放射性同位体(RI)の生産能力を自らの事業領域と結び付け、様々な事業協力を展開していく。特に高い安全性に加えて、放射性廃棄物の排出量を大幅に削減できる燃料技術から、テラパワー社のナトリウム冷却高速炉(SFR)を、次世代SMR技術の中でも主力に位置付けられると高く評価している。SK社らはまた、輸送部門などあらゆる分野で電化が進み電力需要が急速に増加するなか、SMRは間欠性のある再生可能エネルギーを補完するなど、様々な可能性を持っていると表明。テラパワー社の溶融塩熱貯蔵システムが、電力需要に応じて発電量を調節可能な点を特に強調している。SK社らはこのほか、テラパワー社の技術で医療用放射性核種のアクチニウム225を製造できる点にも着目。アクチニウム225は、正常な細胞を傷つけずにガン細胞のみを破壊する「標的アルファ療法」で最も有効なRIと言われており、テラパワー社はアクチニウム225の製造・販売を通じて同療法の商業化加速を計画中である。(参照資料:SKグループの発表資料(韓国語)、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの5月17日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 19 May 2022
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加OPG社、ダーリントン発電所内で建設するSMRとして「BWRX-300」を選定
カナダのオンタリオ州営電力(OPG)会社は12月2日、新たに既存のダーリントン原子力発電所で建設する小型モジュール炉(SMR)として、候補の3設計の中からGE日立・ニュークリアエナジー(GEH)社製「BWRX-300」を選定したと発表した。OPG社とGEH社は今後、SMRの建設に向けた設計・エンジニアリングや計画立案、許認可手続きの実施準備等で協力する。OPG社はまた、関係の各種承認が下りるまでの間、2022年春にも建設工事に必要なサービス業務の手配などサイトの準備作業を開始し、同年末までにカナダ原子力安全委員会(CNSC)への建設許可申請を目指す。早ければ2028年にも、カナダでは初となる商業用のSMRを完成させる計画だ。オンタリオ州南部のダラム地方に立地するダーリントン発電所については2012年8月、OPG社が当LTPS)」を発給した。しかし、オンタリオ州はその後この計画を保留、その一方で、同発電所で稼働中の4基および州内のその他の発電所でも、運転期間の延長計画や大規模な改修プロジェクトが進められている。2020年11月になるとOPG社は、LTPSを取得したダーリントン新設サイトでSMRの建設に向けた活動を開始すると発表した。同LTPSについては有効期限切れが2022年8月に迫っていたため、同社はこれに先立つ2020年6月に更新申請書をCNSCに提出済み。CNSCは2021年10月に同LTPSの10年更新を承認しており、同サイトは現在、カナダで唯一LTPSLが認められている地点となった。OPG社としては、州内に確立されているサプライチェーンを活用しつつ新たな雇用を創出し、ダラム地方をオンタリオ州におけるクリーンエネルギー供給の中心地とする方針である。OPG社のK.ハートウィック社長兼CEOは、「原子力は実証済みの技術を活用したCO2排出量ゼロのベースロード電源であり、2040年までに当社がCO2排出量の実質ゼロ化を達成し、2050年までに経済全体で幅広く脱炭素化を実現するために機能する」と指摘。SMRという革新的技術の建設をGEH社と連携して進めることにより、同社はカナダのみならず国外においても、次世代の原子炉を開発・建設していく道を拓きたいと抱負を述べた。GEH社の「BWRX-300」は電気出力30万kWのBWR型SMRで、2014年に原子力規制委員会(NRC)から設計認証(DC)を取得した第3世代+(プラス)の同社製設計「ESBWR(高経済性・単純化BWR)」がベースとなっている。GEH社の説明によると、「BWRX-300」は自然循環技術を活用した受動的安全システムなど画期的な技術を多数採用しており、設計を大胆に簡素化したことで単位出力あたりの資本コストはその他のSMRと比べて大幅に削減されている。このようなSMRを建設する意義についてOPG社は、オンタリオ州内の輸送その他の部門で広範囲に増加が見込まれる電力需要に対し、クリーンエネルギーを提供する重要な電源となり、同州経済の脱炭素化に幅広く貢献するとした。同社はまた、国際エネルギー機関(IEA)を含む複数の国際機関が、「原子力を電力供給ミックスに含めなければ脱炭素化は達成できない」とはっきり述べている事実に言及。出力約30万kWのSMR一基で、年間30万トン~200万トンのCO2排出を抑制できると強調した。雇用・経済面の効果に関しても、同社はシンクタンクに依頼して実施した調査の結果、建設段階および60年間の運転期間も含めて多大な恩恵が同州にもたらされると指摘。間接的な雇用も含めて、開発期間中に年平均で約700名分の雇用が生み出されるほか、機器の製造期間に約1,600名分、運転期間中に約200名分、廃止措置期間には約160名分の雇用が創出されるとした。OPG社はまた、カナダの国内総生産(GDP)に対するプラスの影響として、25億カナダドル(約2,200億円)以上が見込めるとともに、オンタリオ州経済に対しても8億7,000万加ドル(約780億円)以上の増収が期待できると述べた。OPG社の発表によると、カナダではサスカチュワン州も石炭火力発電所に替えてSMRの建設を検討しており、2030年代初頭に最大4基のSMRのうち最初の一基が同州で運転を開始する可能性がある。国外でも英国や米国、フランス、ポーランド、エストニアなどが同様にSMRの建設に強い関心を抱いており、オンタリオ州は、このような国内外のサプライチェーンに貢献できる有利な立場にあると強調した。(参照資料:OPG社、GEH社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの12月2日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 03 Dec 2021
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米エネ省の先進的原子炉開発支援、プエルトリコでのSMR立地調査含め850万ドル提供
米エネルギー省(DOE)は11月18日、原子力局(NE)が2017年から実施している「先進的原子力技術開発のための資金提供公募(Industry FOA)」で、産業界が主導する5件のプロジェクトへの支援金として合計850万ドルを交付すると発表した。「Industry FOA」は有望な先進的原子炉設計や燃料の商業化の加速を目的としており、DOEはこれまでの公募で2億1,500万ドル以上を投資。今回選定した5件は第11回目の募集によるもので、これらのプロジェクトではDOEが開発した最新のモデリング・ツールやシミュレーターを活用して、先進的原子炉設計を海上や離島で利用する場合の可能性の評価やその他の研究活動を実施できる。5件のうち「先進的原子炉設計の実証」分野におけるプロジェクトとして、約163万ドルが「プエルトリコにおける小型モジュール炉(SMR)やマイクロ原子炉の立地適性調査(第2段階)」のために交付される。この調査は、カリブ海に浮かぶ米国の自治連邦区の島プエルトリコで、これらの先進的原子炉設計の建設に向けた適性サイトを探るというもの。実際の評価作業は、米国の原子力産業界で働くプエルトリコの原子力エンジニア・グループが2015年に設立した非営利団体「Nuclear Alternative Project(NAP)」が実施する予定である。同島では2018年、議会の下院議長がSMRやマイクロ原子炉の建設に向けた実行可能性調査の実施を決議しており、DOE-NEはこれにともない、2019年に予備的な実行可能性調査の経費をNAPに提供した。この時の調査結果は2020年5月に公表されており、NAPがこれから実施する第2段階の調査の結果とともに、DOEが推進する「離島や遠隔地域における原子炉技術の商業化」に活用される。DOE傘下のアイダホ国立研究所(INL)の調べによると、プエルトリコでは1960年代に建設した古い施設で発電しており、使用電力のほとんどを化石燃料発電による輸入電力に依存している。国内の発電施設も今後10年以内に4分の3を廃止しなければならず、発電システムの維持とエネルギーの自給確保はプエルトリコで喫緊の課題である。同島の電力庁はそのための取り組みとして、「統合資源計画」の中で再生可能エネルギーによる電力と天然ガスの供給量を拡大する方針を示しているが、ベースロード用の電力を確保するには間欠性のある風力や太陽光では不十分。この問題の解決に向けた有力候補として、プエルトリコでは小型原子炉の活用が上がっているとINLは説明している。なお、DOE-NEの「Industry FOA」はその他の資金提供プロジェクトとして、テレストリアル・エナジー社の米国法人が実施する「溶融塩炉のオフガス系におけるモデリングの不確実性取り扱いアプローチの開発」(約300万ドル)、ゼネラル・アトミックス社の電磁システム・グループによる「高温ガス炉向け炭化ケイ素製燃料被覆管のモデリングとシミュレーション」(約270万ドル)などを挙げている。(参照資料:DOEの発表資料①、②、③、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月24日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 26 Nov 2021
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米ホルテック社、SMRの建設目指し現代建設と事業協力契約を締結
米国のホルテック・インターナショナル社は11月22日、子会社のSMR社(SMR, LLC)が開発中の小型モジュール炉(SMR)「SMR-160」を世界市場で建設していくため、韓国の現代建設(HDEC)と事業協力契約を締結したと発表した。ホルテック社は、同SMRで2025年までに米原子力規制委員会(NRC)から立地建設許可の取得を目指しており、NRCとの関係協議はすでに始まっている。設計認証(DC)審査は未だ申請していないが、初号機の建設候補地としてはニュージャージー(NJ)州のオイスタークリーク原子力発電所の跡地、あるいは南部の2州を検討中。同発電所は2018年9月に閉鎖され、ホルテック社は事業者のエクセロン社から所有権を受け継いでいる。HDEC社は今回の契約に基づき、ホルテック社の主要なEPC(設計・調達・建設)契約企業として「SMR-160」標準設計の完成に協力するほか、同設計を採用した発電所をターンキー契約でグローバルに建設していく。具体的には、発電所BOP(主機以外の周辺機器)の詳細設計を担当し、発電所全体の建設仕様書も作成。SMRの標準設計と建設予定地等で承認が得られた場合は、建設プロジェクトの施工者となり、実際のEPC業務と建設工事を実施することになる。ホルテック社によると、この契約を通じて両社は世界中の顧客の要望に沿って最も競争力のある価格で建設プロジェクトを遂行する。ただし北米市場に関しては、同社が米国の大手建設企業と結んでいた既存の誓約に合わせて、HDEC社の参加持ち分を確保する。ホルテック社は建設プロジェクトのアーキテクト・エンジニアとして、主要機器を米国内の製造施設や国際的なサプライチェーンから調達する一方、計装・制御(I&C)については三菱電機から、燃料は仏フラマトム社からそれぞれ調達する方針だ。ホルテック社の「SMR-160」は、ポンプやモーターなどの駆動装置を必要としない電気出力が最大16万kWの軽水炉型SMRで、受動的安全システムを備えている。同設計はまた、輸送部門で使用する水素や工業利用のための熱を生産することも可能な柔軟な設計であるため、脱炭素化という世界潮流にも適合。ホルテック社は、建設プロジェクトにともなう資金の調達や建設地における部品調達などについても、HDEC社と協力していくとしている。ホルテック社のSMR開発に関しては、米エネルギー省(DOE)が2020年12月に「先進的原子炉設計の実証プログラム(ARDP)」における支援対象の一つとして選定した。7年間で合計1億4,750万ドルを投資する計画で、このうち1億1,600万ドルをDOEが負担。残りの3,150万ドルがホルテック社側の負担分であり、初期段階の設計・エンジニアリングや許認可手続き関係の作業が行われている。また、カナダ原子力安全委員会(CNSC)は、同設計がカナダの規制要件に適合しているかという点について「許認可申請前設計審査(ベンダー審査)」を実施中。2020年8月に同設計は、この審査の第1段階を成功裏に終了している。(参照資料:ホルテック社、現代建設(韓国語)の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月24日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 25 Nov 2021
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米ニュースケール社、プロディジー社の海洋原子力発電所建設に向け協力覚書
米国のニュースケール・パワー社は11月17日、カナダのプロディジー(Prodigy)・クリーン・エナジー社が開発している「海洋原子力発電所(MPS)」の建設と商業化を支援するため、規制インフラの構築に向けた提案などでカナダのキネクトリックス(Kinectrics)社とともに同社に協力する覚書を3社間で締結したと発表した。プロディジー社のMPSには、ニュースケール社が開発した小型モジュール炉(SMR)「ニュースケール・パワー・モジュール(NPM)」が最大で12モジュール組み込まれる予定。MPSは海岸に設置したタービン等の発電構造物に原子炉を統合する発電所で、造船所で製造後に海上輸送され、海岸線の防水仕様の係留地点に据付けられて、そこから海岸の送電網に接続され送電する。短い工期で建設が可能な上、低炭素なエネルギーをベースロード・モードで供給できることから、ニュースケール社はMPSが世界的規模で化石燃料発電に取って替わっていくと強調している。今回締結された協力覚書は、ニュースケール社とプロディジー社が2018年に締結した既存のパートナーシップに基づいており、SMR技術の商業化に向けた重要なステップとなる。同覚書を通じて3社はMPSの潜在的な顧客や、許認可体制など規制インフラに関する当局者との協議に備え、技術仕様書や規制関係文書を作成する。ニュースケール社によると、SMR建設にプロディジー社のMPSシステムを活用する利点は、従来の大型発電所と比べて建設コストを大幅に削減できることと、環境への影響や建設工期が縮減されることにある。このため同社は今回、電力産業界に許認可関係や環境分析、海辺の送電インフラに関するサービスを提供しているキネトリックス社とも協力。再生可能エネルギー源と連結したMPSをプロディジー社が一つだけ建設した場合や、MPSを水素燃料などのクリーンエネルギー製造に活用した場合について、経済性や商業規模などを評価する方針だ。ニュースケール社のNPMを動力源とするMPSは、沿岸部の都市やコミュニティ、臨海工業地帯のみならず、島国に対してもクリーンで持続可能なエネルギーを確実に提供することが可能。ベースロード用電源としてだけでなく負荷追従運転にも対応し、高度に合理化された廉価なクリーンエネルギーの供給手段になるとニュースケール社は強調している。プロディジー社は現在、カナダ原子力安全委員会(CNSC)とMPSに関する協議を始めたところで、許認可手続きの開始に先立ち実施すべき諸活動などを提案中。同社のM.トロジャーCEOはMPSの規制について、「北米での規制案件としては最初のものとなるが、カナダでは連邦政府がSMR開発に意欲的な方針を堅持しているほか、原子力規制当局の経験が豊富。国内の原子力発電所の収益性も高く、安全運転の実施では世界をリードするなど、当社のMPS開発を成功に導く環境は整っている」とした。その上で、「カナダの政策や規制体制に助けられて当社のMPSがスタート地点に立ち、将来的な輸出にも道が開かれることを期待している」と述べた。(参照資料:ニュースケール社、キネクトリックス社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月18日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 19 Nov 2021
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英ロールス・ロイスSMR社、SMRで設計認証審査を申請
英ロールス・ロイス社が80%出資する子会社のロールス・ロイスSMR社は11月17日、同社製の小型モジュール炉(SMR)設計を規制当局の包括的設計認証審査(GDA)にかけるため、申請書を提出したと発表した。これにともなう最初の手続きとして、政府のビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)が同社の初期スクリーニングを実施するとしている。初期スクリーニングでは、原子力規制庁(ONR)と環境庁(EA)が対象設計の安全・セキュリティと環境影響についてGDAを正式に開始するのに先立ち、設計企業に同審査を受ける能力と資質が備わっているかをBEISが確認する。英国政府から結果が出るまでに、最大4か月を要する。ロールス・ロイスSMR社は、ロールス・ロイス社グループがSMRを始めとする先進的次世代原子力技術の開発と商業化を大規模に進めることを目指して、今月8日に新たな株式を発行して設立したもの。SMRなど先進的原子炉設計の規制承認プロセスについては、BEISが今年5月、GDAの対象に含める方針を明らかにしており、その際、申請ガイダンスも同時に公表。ロールス・ロイス社はその後まもなく、同社製SMRでGDAの実施を申請すると表明していた。ロールス・ロイスSMR社のSMR発電所設計は出力47万kWとなる予定で、これは陸上風力発電のタービン150台分以上に相当するという。少なくとも60年間稼働してベースロード用電源としての役割を果たすほか、間欠性のある再生可能エネルギーを補うことにより、再エネ源の設置容量拡大を支援。同社としては、2030年代初頭にもSMR発電所を国内送電網に接続することを計画している。今回の申請について、同社で規制・安全問題を担当するH.ペリー取締役は「英国製のSMR設計として初めて、規制承認プロセスに入るためのものであり、原子力産業界にとっては重要な節目になった」とコメント。同社は、このプロセスに入る前の段階ですでに同SMRの設計に関わる270件の重要な決定を下しており、「規制当局のGDAチームとは効率的に審査を進める自信がある」と述べた。同取締役はまた、同プロセスへの対応で約300名のスタッフをフルタイムで当たらせる方針だと表明。「原子力産業界と規制当局はともに、これまでのGDAから非常に多くの教訓を学んでおり、当社はそれらを活用して規制当局と共同アプローチを図りたい」としている。なお、BEISは今月9日、ロールス・ロイスSMR社のSMR開発に対するマッチングファンドとして、2億1,000万ポンド(約320億円)を提供すると発表した。英国の戦略的政策機関である「UKリサーチ・アンド・イノベーション(UKRI)」が「低コストな原子力の課題(Low Cost Nuclear Challenge)」プロジェクトを進めるのに際し、2019年11月に「産業戦略チャレンジ基金(ISCF)」から1,800万ポンド(約30億円)を同社に提供したのに続く措置。マッチングファンドは、同じISCFから拠出するとしている。(参照資料:ロールス・ロイスSMR社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月17日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 18 Nov 2021
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