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第65回IAEA総会開幕、井上科学技術大臣が一般討論演説
IAEAの第65回通常総会が9月20~24日の日程で、ウィーンにおいて開催されている。ビデオ録画で演説する井上科学技術相開幕初日の20日、前回に引き続き日本からは井上信治・内閣府科学技術政策担当大臣がビデオ録画により一般討論演説を行った。冒頭、井上大臣は、新型コロナウイルス感染症への対応という挑戦も続く中、専門性を活かした取組を促進しているIAEAのR.M.グロッシー事務局長のリーダーシップに敬意を表した上で、IAEAが行う感染症対策事業に対する日本の支援にも言及。東日本大震災による事故発生から10年の節目を経過した福島第一原子力発電所の廃炉に関し、今後、ALPS処理水(トリチウム以外の核種について環境放出の規制基準を満たす水)の安全性や規制面、海面モニタリングについてIAEAによるレビューが行われることに触れた上で、日本として、国際社会に対し科学的根拠に基づき透明性を持って同発電所の状況を継続的に説明し、各レビューの実施に向けてIAEAと協力していくと強調した。展示会・日本ブースを訪れた上坂原子力委員長(左から2人目)また、IAEA総会との併催で展示会も行われている。前回は新型コロナウイルスの影響で中止されたため、2年ぶりの開催となった。日本ブースでは、「2050年カーボンニュートラル」を見据えた原子力イノベーションと、福島復興における10年間の歩みを主なテーマに、「NEXIP(Nuclear Energy × Innovation Promotion)イニシアチブ」に基づく官民の取組や、ALPS処理水に関するQ&Aなどをパネルで紹介。展示会初日には、IAEA総会出席のためウィーンを訪問中の上坂充原子力委員長、更田豊志原子力規制委員長、OECD/NEAのW.マグウッド事務局長ら、国内外関係者がブースを訪れた。今回、日本政府代表として総会に出席した上坂委員長は20日、内閣府主催のサイドイベント「アルファ線薬剤の開発とアイソトープの供給」に登壇したほか、グロッシー事務局長、フランス原子力・代替エネルギー庁(CEA)のフランソワ・ジャック長官と会談を行った。その中で、グロッシー事務局長は、「日本とIAEAとの間には取り組むべき多くの重要な問題やプロジェクトがある。ともに未来志向で協力していきたい」と強調。上坂委員長からは、IAEAによる福島第一原子力発電所の廃炉に向けた協力に対する謝意の他、北朝鮮・イランの核不拡散問題に関する取組への支持などが示された。
- 21 Sep 2021
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IAEAの年次予測報告書:2050年までに世界の原子力発電容量が倍増
国際原子力機関(IAEA)は9月16日、世界中で利用されている原子炉の長期的な傾向を地域ごとに分析した最新の年次報告書、「2050年までのエネルギー、電力、原子力発電予測」の第41版を発表した。この中でIAEAは、10年前の福島第一原子力発電所事故以降初めて、今後数十年間に世界で予想される原子力設備容量の伸びを前年版から上方修正したと表明。地球温暖化防止の観点から世界中が脱化石燃料の方向に進んでおり、多くの国が信頼性の高いクリーンエネルギーの生産加速という観点から原子力の重要性を認識、その導入を検討中だと指摘している。IAEAは、野心的だが妥当かつ技術的に実現可能な政策シナリオ「高ケース」で、世界の原子力発電設備容量は2020年末時点の3億9,260万kWから、2050年には7億9,200万kWに倍増すると予測。前年版の予測では高ケースで7億1,500万kWとしていたが、今回この数値を約10%上方修正した。ただし、この予測を実現するには、原子力発電技術の技術革新を加速するなどの重要施策を実行に移す必要がある。市場政策や利用技術、リソース等の傾向が現状のまま続く「低ケース」の場合、原子力発電設備は2050年まで現在の数値とほぼ同レベルの3億9,400万kWに留まるとしている。IAEAのR.M.グロッシー事務局長は、「低炭素なエネルギー生産で原子力が果たす必要不可欠な役割が明確に示された」とコメント。「CO2排出量の実質ゼロ化という点で、非常に重要な電源である原子力への注目が高まったのは明るい兆候だ」と述べた。今回の年次報告書によると、2020年の末時点で世界では442基、3億9,260万kWの原子炉が稼働中で、52基、5,440万kWの原子炉が建設中だった。この年に5基、552万1,000kWの原子炉が新たに送電網に接続された一方、閉鎖された原子炉は6基、516万5,000kW。このほか4基、447万3,000kWの原子炉建設が新たに始まっている。IAEAは世界の総発電量は今後30年間で2倍に増加すると予測しているが、世界中の原子炉は2020年に2兆5,530億kWh(約4%減)を発電し、総発電量の10.2%を供給。高ケース予測では、2050年までに原子力発電シェアは前年版予測の11%から約12%に増加するものの、これを達成するには政府や産業界、国際機関等の協調行動により、相当量拡大させる必要があるとした。低ケースではこの数値は6%に低下するが、この場合石炭火力の発電シェアは1980年以降ほとんど変化せず、2020年実績の最大シェアである約37%をそのまま維持するとしている。また、原子力による水素製造や、先進的原子炉あるいは小型炉などの新しい低炭素な発電技術は、CO2排出量の実質ゼロ化を達成する上で非常に重要だとIAEAは指摘。原子力は電力需要の増加や大気の質の改善、エネルギーの供給保証等に解決策をもたらすものであり、原子力技術の活用を拡大する技術革新が進行中だと述べた。さらに、経年劣化の管理プログラムなど、長期運転に向けた作業が行われている原子炉の基数はますます増加している。世界の原子炉の約三分の二で運転開始後30年以上が経過しており、一部の原子力発電所では運転期間を60年から80年に拡大する動きもみられるが、長期的には閉鎖される原子炉の容量を相当量の新たな原子炉で補わねばならない。現在のエネルギーミックスで原子力が果たしている役割を維持するにも、新たな原子炉が数多く必要となるが、経年化した原子炉の更新については特に、欧州や北米で不確定要素が残されているとIAEAは指摘している。(参照資料:IAEAの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの9月16日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 21 Sep 2021
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福島の海洋放出水をみなで持ち帰る「放出水シェア運動」を展開しよう
東京電力・福島第一原子力発電所の「処理水」の海洋放出に関して、8月25日、東京電力は海底トンネルをもうけて、陸から約1km離れた沖合に放出することを公表した。何もそこまで大掛かりな対策をとらなくてもよいのではとの思いもあるが、それだけ国民の信頼をつかみたい決意が強いのだろう。では、風評を抑えながら、海洋放出を成功させる最大のポイントは何だろうか。3つの提案をしたい。福島第一原発の敷地内に林立するタンクはすでに1000基を超え、そのタンク水は計約127万トンにも上っている。この水を約30年かけて、少しずつ海洋に放出するのがいまの計画だ。タンクにたまる水は、炉心溶融で発生した核燃料デブリに触れた冷却水と壊れた原子炉建屋に侵入してきた地下水や雨水が混ざったものだ。これが放射性物質を含む汚染水だ。その汚染水はいったん多核種除去設備(ALPS=アルプス)で処理されてからタンクに入るが、放射性物質はまだ完全には除去されていない。いずれ海へ流してもよい状態まで浄化処理されるが、いざ放出が始まった場合、みなに安心感をもってもらうために何が必要なのだろうか。福島だけの問題にしないことが共感を呼ぶ行政や漁業関係者が一番心配しているのは、福島産水産物への風評被害だ。そこでまず重要なのは、この海洋放出の問題を福島だけの問題にしないことだ。原子力発電に批判的な私の知人は「そんなに安全な処理水なら、東京湾に流しましょうよ」と皮肉交じりに言った。全くその通りだ。受けて立とうと思う。福島県の漁業関係者が海洋放出に強く反対しているのは、福島産の水産物が風評によって売れなくなるからだ。ならば、福島の放出水が特別なものではないことを示せばよい。最近、私が編著者となって、「みんなで考えるトリチウム水問題~風評と誤解への解決策」(エネルギーフォーラム)を出版した。執筆者は私を含めて9人。現役の新聞記者、フリーのジャーナリスト、学者など多彩な顔触れが登場する。事前に原稿をすり合わせる調整をしなかったにもかかわらず、ジャーナリストの井内千穂さんは「ペットボトル1本でもよいから、海洋放出水((基準をクリアし、1km沖合から放出された希釈処理水))をみなで分かち合うセレモニーができないか」と書いた。新聞記者の鍛治信太郎さんは「処理水を東京湾に流すことを公約にする東京都知事が現れたら、1票を投じたい」と書いている。2年前、大阪市の松井一郎市長が「大阪湾に流すのに協力の余地がある」と述べたことがある。これについて、リスク研究専門家の山崎毅さんは「処理水を大阪湾で受け入れるアイデアに共感する。国民がより安心感をもつことができるからだ」と書いた。これらの意見はどれも福島の海洋放出を福島だけの問題にしてはいけないという考えに立つ。「福島の痛みをみなで分かち合おう」という提案である。いったん海洋に放出された福島の処理水なら、全国の人が持ち帰って、自分の住む地域の海へ流しても何ら問題はないはずだ。そもそも海はつながっている。東京湾にも大阪湾にも流せば、福島の痛みをみなで共有することにつながるはずだ。万が一、風評被害が発生した場合には、漁業関係者に損害賠償の履行を確実に約束しておくことは当然であるが、漁業関係者のほうも、反対運動よりも、国民に向けて「痛みの分かち合い」を求める共感運動を起こしたほうが風評の抑制に効果的だと提唱したい。ALPS処理水の状況を一目でわかるよう逐次公表2番目に重要なことは、タンクの水がその都度、どういう状況にあるかを分かりやすくビジュアルに伝えることである。たとえば、私なりの伝え方はこうだ。「現在、タンクの約3割は海へ放出してもよい状態になっていますが、残る7割のタンクはまだ環境基準を超える62種類の放射性物質と炭素14(これも放射性物質)が残っています。62種類の放射性物質を基準以下に減らせば、すべてのタンクは海へ流してもよい状態になります。ただし、水と同じ性質をもつトリチウムは除去が難しいため、トリチウムは残ってしまいます」。要は「情報の透明性」と「分かりやすく伝えるコミュケーション術」である。「ALPS処理水」を手にするIAEAのグゼリ部長(2021年8月)©️TEPCOつまり、タンクの中の水は2種類ある。ひとつは、海へ流してもよい処理水だ。この合格水を東京電力や国は「ALPS処理水」と呼ぶ。これに対し、7割のタンクは放出規制基準を超える放射性物質(ストロンチウム90など)が残っているため、「処理途上水」(東京電力の呼称)と呼ぶ。「不完全処理水」と言ってもよいだろう。メディア関係者も含め、国民の中には、1000基余りのタンクにたまっている水はどれも同じだと勘違いしている人が意外に多い。また、どのタンクにも大量の放射性物質がたまっていて、海へ流したら海が汚染されると思っている人もいる。そうした誤解を解くには、規制基準以上の放射性物質が残っている7割のタンクの水をそのまま海へ流すわけではないことをまず知ってもらう必要がある。国民が知りたいのは、海へ流してもよいALPS処理水がその都度、どうなっているかである。そこで提案したい。東京電力のホームページを見たら、すぐにその比率が分かるような図(イラスト)を作り、一目で「海へ流してもよい合格水はいま○○%」が分かるようにすることだ。難解な文章を交えた長い解説を読む人はいない。ビジュアルなイラストがあれば、より情報の透明性は高くなる。福島のトリチウム放出量を海外の数値と比べてビジュアルに見せよう3つ目に重要なことは、国内外の原子力発電所や再処理工場でも、トリチウムを含む処理水が海や大気へ放出されていることを国民に知らせていくことだ。そして、その情報の信頼性を高めるために、常に国際原子力機関(IAEA)との連携をとっていくことが必要だ。ALPS処理水は希釈して海へ放出されるが、その際、希釈後のトリチウムの濃度は、1リットルあたり1500ベクレル未満にするという。そして、年間のトリチウム放出量は22兆ベクレル以下にする方針だという。「ALPS処理水」を手にするヴァルマ駐日インド大使(2021年7月)©️TEPCOこれもいきなり数値で言われても、理解できない人が多いはずだ。1500ベクレルの意味を伝えるには、そもそもトリチウムの海洋放出時の国際基準が1リットルあたり6万ベクレルであること、そして、WHOの飲料水基準が同1万ベクレルであることをちゃんと伝える必要がある。これもイラストでビジュアルに見せれば、1500ベクレル以下の放出が国際基準や飲料水基準よりもはるかに低いことがわかるはずだ。個人的には国際基準並みでよいと思うが、東京電力はより厳しい値を選択した。いずれにせよ、東京電力のウェブサイト上の画面を見たときに、国際基準と飲料水基準の数値の下に「○○日の放出濃度は900ベクレル」といった数値が目に入れば、だれもが「相当に低いなあ」と思うはずだ。これが安心感につながる。さらに、トリチウムの年間放出量が22兆ベクレル以下という意味もビジュアルに伝える必要がある。海外の原子力施設から放出されているトリチウム量は約40兆~400兆ベクレルといった例はざらにある。世界地図に各国の原子力発電所をプロットし、「韓国の○○発電所のトリチウムは○○兆ベクレル放出」などと記した上で、「福島の○○年の放出量は20兆ベクレル」と示せば、福島の放出量が相当に低いことは一目でわかるだろう。福島の放出水と海外のトリチウム放出量の比較が一目でわかる世界地図は、的確な情報を正しく伝えるリスクコミュニケーションの必須アイテムだ。この地図は、新聞やテレビの報道でいつでも引用してもらえるような図にするとよいだろう。この地図を見れば、福島のタンク水だけが特別なのではないというメッセージは確実に伝わる。国際原子力機関との連携も重要タンクエリアを視察するIAEAのエヴラール事務次長(2021年9月)©️TEPCO東京電力は「処理水の放出時には毎日、海水をサプリングし、トリチウムの濃度が1500ベクレルを下回っていることを確認し、すみやかに公表する」としている。これは的確な広報だと思うが、そうした情報発信の際には、国際原子力機関の監視と確認を得て、発信しているということも明記したほうがよいだろう。第三者の目を通過した数値と地図なら、信頼感が高いからだ。最後にもうひとつ提案がある。現状を正しく知るには、現場を見るに越したことはない。東京電力はホームページで現場視察の重要性を指摘している。その通りだと思う。メディアや消費者団体など様々な人たちに向けて、オンライン視察も含め、「現場を見てもらう視察」を積極的にやってほしい。現場を見た第三者の目こそが、一番信頼される情報発信となるだろう。
- 14 Sep 2021
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福島第一処理水の安全性レビューに向け、IAEAエヴラール事務次長らが来日
IAEAと経産省の幹部が会談(経産省提供)福島第一原子力発電所に保管されたALPS処理水(トリチウム以外の核種について環境放出の規制基準を満たす水)の安全性に関するレビューの本格実施に向け、IAEAのリディ・エヴラール事務次長ら、原子力安全・核セキュリティ局の幹部が9月6~9日に来日し、経済産業省他、関係省庁と、今後のスケジュールやレビュー項目について議論した。〈経産省発表資料は こちら〉政府は4月に「2年程度後にALPS処理水の海洋放出を開始する」とする基本方針を決定しており、今回の議論を踏まえ、(1)放出される水の性状、(2)放出プロセスの安全性、(3)人と環境の保護に関する放射線影響――について、IAEAの安全基準に照らした評価が行われる。IAEAよるレビューは数年間にわたる見込みだが、まずは12月を目途に評価派遣団が来日することで日本側と合意した。会見を行うエヴラール事務次長(オンライン)エヴラール事務次長は9日、フォーリン・プレスセンターにてオンラインを通じ記者会見に臨み、中国、フランス、ドイツ、インドネシア、ロシア、シンガポール、韓国、英国、米国の海外メディアを含む計78名の記者に対し、来日の成果について説明。同氏は来日中、江島潔経済産業副大臣、鷲尾英一郎外務副大臣他、環境省や原子力規制委員会の幹部との会談とともに、福島第一原子力発電所の視察を行い、「コロナ禍にもかかわらず対面での討議を通じ内容の濃い議論ができ、非常に貴重な経験となった」とした。今後、IAEAでは専門家で構成されるタスクフォースを立上げ、数週間以内にも東京電力による海洋放出実施計画に関し、規制、安全性、環境モニタリングの面からのレビューに着手し、最初の評価報告書を放出開始前までには公表するとしている。福島第一のタンクエリアを視察するエヴラール事務次長(東京電力ホームページより引用)ALPS処理水の取扱いに係る(1)大量の水がタンクに保管されている、(2)長期間をかけて海洋に放出していく、(3)地域の関心が高い――という特殊性を備えたIAEAとしても前例のないレビュー実施に向けて、エヴラール事務次長は、「包括的に客観性・透明性を持つことにコミットし、国際的にも明瞭に情報発信を行っていきたい」と強調した。今回のIAEA幹部の来日は、8月19日に行われた梶山弘志経産相とR.M.グロッシーIAEA事務局長との会談で合意に至ったもの。同合意のもと、福島第一原子力発電所廃炉全般に関するレビューミッションが8月末に来日したところだ。梶山大臣は、9月10日の閣議後記者会見で、「IAEAによる評価を丁寧に発信し国際社会の理解を得ていきたい」と述べた。
- 10 Sep 2021
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福島第一廃炉に関するIAEAレビューミッションが評価レポート、2018年以来の来日
IAEA・グゼリ氏(右)より評価レポートを受取る江島経産副大臣(経産省ホームページより引用)福島第一原子力発電所の廃炉に関するIAEAのレビューが8月27日に終了し、26の評価事項と23の助言を示した評価レポートが、来日中の同レビューミッションで団長を務めたIAEA核燃料サイクルの廃棄物技術部長・クリストフ・グゼリ氏より江島潔経済産業副大臣に手渡された。〈経産省発表資料は こちら〉IAEAによるレビューミッション来日は、2018年11月以来5回目となるが、今回は感染症対策のため、チーム全員の来日ではなく、6月末から8月初めにかけて週2回のオンラインを通じた討議を経た後、福島第一原子力発電所の現地視察についてはグゼリ氏を含む2名が23、24日に行う形となった。福島第一を訪れALPS処理水を手にするグゼリ氏(東京電力ホームページより引用)処理水の安全性に関しては、別途9月にIAEAの担当幹部が来日し専門的評価が行われる予定だが、27日にフォーリン・プレスセンターにてオンラインを通じ記者説明を行ったグゼリ氏は、4月の日本政府による処理水処分に関する基本方針決定について、廃炉計画全体の実行を促進するものとして「評価すべき点」と述べた。2018年の前回レビューミッションからの主な進展としては、3号機使用済燃料プールの燃料取り出し完了(2021年2月)、汚染水発生量が約170㎥/日(2018年度)から約140㎥/日(2020年度)に低減したことなどがあげられるが、グゼリ氏は、「東京電力の福島第一廃炉推進カンパニーは詳細な計画を示しており、安全に対する強いリーダーシップも発揮されている」と、組織・プロジェクトマネジメント力を評価。2020年4月に完了した1/2号機排気筒の解体作業にもみられた地元産業の活用についても、「地元の雇用創出や経済活性化につながるもの」などと、肯定的な見方を示した。また、2022年に2号機より着手予定の燃料デブリ取り出しについては、「包括的に性状把握を行っていく必要がある」と、7月に英国より日本に到着したロボットアームによるサンプリング調査の意義を強調したほか、廃棄物の管理や最終的な処分までを見据えた研究開発の必要性も指摘した。
- 27 Aug 2021
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経産相とIAEA事務局長とが会談、福島第一レビューミッション来日で合意
8月18~20日の日程でオーストリアを訪問中の梶山弘志経済産業相は19日、R.M.グロッシーIAEA事務局長と会談し、日本側の要請に応じ福島第一原子力発電所の廃炉、および処理水の安全性に関する各レビューミッションの来日について合意した。〈経産省発表資料は こちら〉福島第一原子力発電所の廃炉全般に関しては、政府・東京電力による中長期ロードマップに基づく取組の進捗状況に対する国際レビューとして、これまで4回にわたりIAEA専門家で構成されるレビューミッションを受け入れている。直近のミッションは、2018年11月に来日しており、日本に対し、17の評価事項と21の助言を提示した。今回の会談で、5回目となるミッションが8月23日の週に来日することが決まり、梶山大臣は、グロッシー事務局長に対し、厳正で透明性のあるレビュー実施を依頼した。また、処理水の安全性に関するレビューについては、9月にIAEAの担当幹部が来日し開始することで合意。処理水の放出時における周辺環境への影響を含む安全性について、IAEAの安全基準に照らした専門的評価がなされる予定。福島第一原子力発電所の処理水に関しては、梶山大臣がグロッシー事務局長と4月にTV会談を行った際、(1)レビューミッションの派遣、(2)環境モニタリングの支援、(3)国際社会に対する透明性の確保――で協力を要請しており、7月にはIAEAの支援について日本政府・IAEA間で署名が行われている。この他、会談で、梶山大臣は、カーボンニュートラルの実現に向けた原子力の持続的な利用に関して、原子力分野の人材育成と正確な情報発信に関する新たな取組について提案。IAEAが加盟国に対し実施する原子力人材の育成事業で、事故の教訓を踏まえ福島第一原子力発電所を専門教育の場として活用することを提案するとともに、若手女性研究者の原子力科学・技術分野でのキャリア構築支援を目的として創設された「IAEAマリー・キュリー奨学金」などへの支持を表明した。「IAEAマリー・キュリー奨学金」は、2020年の国際女性デー(3月9日)に、マリー・キュリー博士の功績を顕彰して、グロッシー事務局長が立上げを表明したもので、日本も50万ユーロの支援を行っている。
- 20 Aug 2021
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原子力機構のバックエンド対策でIAEAによるレビュー結果が公表
IAEAは6月22日、日本原子力研究開発機構のバックエンド対策に関する国際的レビュー「ARTEMIS」(4月12~22日)の結果を公表した。原子力機構が2018年に策定した79施設の廃止措置、廃棄物処理・処分、核燃料物質の管理、これらに要する費用などを取りまとめた「バックエンドロードマップ」に対し評価が行われたもの。それによると、「原子力機構は将来にわたる廃止措置の方向性を確立するとともに、直面する課題もはっきり示したロードマップを作成した」などと評価した上で、さらなる改善に向けた助言を示している。「ARTEMIS」はIAEAが加盟国からの要請に基づき原子力施設の廃止措置にフォーカスしたレビューを実施する専門家チーム。核燃料サイクルの技術開発に貢献した東海再処理施設は廃止措置に約70年を要するなど、原子力機構のバックエンド対策は長期に及び、全体の費用は約1.9兆円と試算されている。現在、同機構において、東海再処理施設、高速増殖原型炉「もんじゅ」、新型転換炉「ふげん」の3つの主要施設に廃止措置プロジェクトが集中している状況下、「ARTEMIS」チームは、廃止措置戦略全体でリスク軽減や費用削減に向けた優先順位付けが図られていることを確認。一方で、放射性廃棄物管理の計画に関して、事業に遅れが生じた場合の貯蔵施設不足を課題として指摘し、「処分施設の利用可能性と廃棄物貯蔵管理能力を合わせて評価した明確な戦略を示すべき」と助言した。また、今回のレビュー結果では優良事例として、様々な炉型の原子炉を立地する福井県の強みを活かし地元産業の廃止措置に関する技術を支援する「ふくいスマートデコミッショニング技術実証拠点」(スマデコ、敦賀市)を評価。スマデコでは、「廃止措置解体技術検証」、「レーザー加工高度化」、「廃止措置モックアップ試験」の3つの試験・訓練フィールド、企業交流スペースを整備しており、熟練者の「勘」を再現するロボット制御システムの開発などが成果をあげている。
- 24 Jun 2021
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IAEA、原子力技術で地球温暖化の影響を緩和する新たな戦略構想を開始
国際原子力機関(IAEA)は6月9日、原子力科学・技術の有効活用によって地球温暖化など世界規模の難題の克服を目指す戦略構想「Nuclear Saves Partnership」を立ち上げ、関係企業や組織に幅広く参加を呼びかけた。これにはすでに、米国の原子力エネルギー協会(NEI)とウェスチングハウス(WH)社が参加の意思を表明。同構想を通じて、原子力発電と再生可能エネルギーを統合したエネルギーシステムの開発や、気候変動対応型(=CO2排出量が少なく干ばつや豪雨等への適応力が高い)農業の促進に資金を提供する考えを明らかにしている。この構想は同日、将来のエネルギー政策や地球温暖化の防止策を協議するため、NEIが原子力産業界のリーダーらを招集して開催したオンライン・イベントで発表された。IAEAのR.グロッシー事務局長は同構想について、「世界中の数多くの人々に一層の健康と繁栄をもたらす原子力科学・技術の平和利用を、IAEAが加盟173か国でさらに促進できるよう、関係企業から資金面の支援をお願いする機会になる」と説明した。同事務局長の発表文によるとIAEAはこれまで、放射線治療装置を持たないコミュニティに装置を提供したり、干ばつに強い農作物への品種改良に原子力技術の活用を促すなどしてきた。今現在は、世界で最も大きな課題となっているマイクロ・プラスチックによる海洋汚染や、頻発する人畜共通感染症の大流行にも精力的に取り組んでいるとした。その上で同事務局長は、「マイクロ・プラスチックの追跡や人畜共通感染症の流行を未然に検知する方法として原子力技術を活用することは、従来の原子力発電所や小型モジュール炉(SMR)の利用とはかけ離れているかもしれない。しかし、原子力科学・技術の恩恵を、特に貧しい国のコミュニティに対して一層普及させることは、原子力への信頼を築くことにつながる」と述べた。また、そのような信頼は、地球温暖化の影響緩和で原子力が潜在能力を発揮する際の必須条件でもあると指摘している。一方、WH社はこの構想に参加した最初の原子力企業になったことについて、「地球温暖化の防止に向けて戦うという当社の方針を行動で示す機会になるともに、IAEAとの連携を強化する重要なステップになった」とコメント。温暖化の防止で世界中が協力していくなか、同社は将来の官民連携モデルとして役立ちたいと述べた。WH社はまた、「原子力はCO2を排出しない世界最大の電源であるため、脱炭素化の達成期限を守り地球温暖化の影響緩和する上で非常に重要だ」と指摘。原子力を定格に近い出力で稼働すれば、太陽光や風力など間欠性のある電源の空白を確実に埋めることができると強調した。同構想ではさらに、WH社その他の民間企業が提供する資金によって、IAEAは今後、原子力の平和利用を一層加速できると明言。具体的には、がんの診断・治療や人畜共通感染症の予防と抑制、地球温暖化への適応と影響の緩和、クリーンエネルギーへの移行などがこれに含まれるとしている。(参照資料:IAEA、WH社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月10日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 11 Jun 2021
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中国の国家発展改革委、SMR「玲龍一号」の実証炉計画を承認
中国核工業集団公司(CNNC)は6月4日、同国の国家発展改革委員会が海南省昌江における多目的小型モジュール炉(SMR)「玲龍一号」の実証炉建設計画を承認したと発表した。CNNCは当初、仏国のPWR技術をベースに開発した10万kW級の第3世代炉「ACP100」の実証炉を、福建省莆田市で2基建設することを計画。同設計は2016年4月、国際原子力機関(IAEA)の「包括的原子炉安全レビュー(GRSR)」をパスしている。しかしCNNCはその後、60万kW級の国産PWRが稼働する昌江原子力発電所に同設計の建設サイトを変更。炉型名も「玲龍一号」に変えた上で2019年7月、実証炉の建設プロジェクトに着手すると発表していた。今回、国家発展改革委員会が承認したのは出力が各12.5万kWの実証炉建設で、CNNCの100%子会社である海南核電公司が建設プロジェクトを担当する。着工や竣工のスケジュールは明らかにされていないが、米国の業界紙は、2017年の国際原子力機関(IAEA)の会合で中国の代表者が「2022年以前に1号機を着工する」と発言したことを伝えている。CNNCの発表によると、SMR実証炉の建設は中国の原子力発電所の開発レベルと中国独自のイノベーションを促進する重要案件であるだけでなく、環境にやさしいエネルギーの供給を保証するものとなる。CNNCは今後も原子力発電所の安全性や品質向上を重視するとしており、原子炉建設現場ではプロジェクト・マネジメントを強化するだけでなく、立地点の地域振興にも留意するとしている。CNNCはこのほか、5月11日から江蘇省の田湾原子力発電所で試運転中だった6号機(PWR、111.8万kW)が6月2日の夜遅く、営業運転を開始したことを発表。同炉は中国で50基目の商業炉であり、同国の原子力発電設備容量は4,800万kWを超えた。田湾発電所では現在、ロシア製の100万kW級PWR(VVER-1000)を採用した1号機~4号機がすでに稼働中。6号機については、2020年9月に営業運転を開始した5号機とともにCNNC製の100万kW級PWRを採用している。(参照資料:CNNC(中国語)の発表資料、原産新聞・海外ニュース、ほか)
- 07 Jun 2021
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【第54回原産年次大会】今井会長、「さらなる原子力の活用が必要不可欠」と
所信表明を行う今井会長第54回原産年次大会が4月13日に開幕した。今回は、「コロナ禍の世界と日本-環境・エネルギーの課題と原子力」がテーマ。14日までの2日間、コロナ禍の影響を含め、地球規模で人々が直面する課題(変化する世界情勢・経済の変化、気候変動問題、エネルギー・原子力利用)を俯瞰し、事故発生から10年が経過した福島第一原子力発電所に係る廃炉の進捗状況と福島復興を展望するとともに、本格的に策定議論が始まった次期エネルギー基本計画を念頭に、あるべき日本のエネルギー・原子力政策について考える。感染症対策のためオンライン配信での開催となった。2年ぶりの開催となった今大会には国内外より830名が参加登録。開会に当たり、今井敬・原産協会会長が所信表明に立ち、3月に東日本大震災・福島第一原子力発電所事故発生から10年が経過したのに際し、被災した方々、今なお避難している多くの方々に対し、「改めて心からお見舞いを申し上げる」と述べたほか、福島の復興に長く尽力してきた方々への謝意を表した。今後のエネルギー・原子力政策について、今井会長は、昨秋に菅首相が表明した2050年カーボンニュートラルに言及。「わが国では原子力発電によりこれまでに約46億トンものCO2排出を回避してきた。原子力発電がなければ発電部門のCO2排出量は少なくとも25%は増えていた」とするIEAのデータなどを示し、2050年カーボンニュートラルの達成に向けて、「さらなる原子力の活用が必要不可欠」と述べた。さらに、日本のエネルギー自給率が極めて低い現状からも、原子力発電の重要性を、「安定供給の観点から極めて強靭で環境に対し持続可能な、最も信頼できる電源の一つ」と強調。原子力産業界は、安全性の一層の向上を図りつつ、既設炉の再稼働や運転期間の延長を着実に進め、社会からの信頼を得ていかねばならないとした。また、将来にわたる原子力発電の活用に向けて、新増設・リプレースの位置付けの明確化や、原子燃料サイクルの早期確立、高レベル放射性廃棄物処分事業などを着実に推進すべきとも指摘。今大会のテーマに関し、今井会長は、「世界はコロナ禍の中、経済、気候変動、エネルギーなど、地球規模の様々な課題に直面している。国内外の原子力産業界がこれから歩む道は決して平たんなものではない」とした上で、「海外の先行事例も踏まえ、世界、そして、日本の原子力産業が目指すべき将来について考える機会にしたい」と抱負を述べた。長坂経産副大臣続いて、長坂康正・経済産業副大臣と上坂充・原子力委員会委員長が挨拶。長坂副大臣は、福島第一原子力発電所の廃炉、福島の復興・再生を筆頭とする資源・エネルギー関連の施策について述べた上で、産業界による原子力イノベーションに向けた取組に関し、「原子力の技術や人材の維持・強化につなげて欲しい」と、積極的な推進を期待。ビデオメッセージを寄せた上坂委員長は、原子力政策を巡る動きとともに、最近の技術開発成果から、可搬型X線源を利用し橋梁の維持管理を行う「インフラ・メディカル」や、ウラン鉱さい由来の放射性医薬品による「セラノスティクス」(治療+診断)などを紹介し、原子力科学技術の多様な応用の可能性を展望した。グロッシーIAEA事務局長大会は、特別セッションに移り、初めに、ラファエル・マリアーノ・グロッシーIAEA事務局長のビデオメッセージを紹介。その中で、グロッシー事務局長はまず、新型コロナウイルス拡大に見舞われた1年を振り返り、「世界が直面する課題は昨今複雑化してきた」として、原子力技術の応用が相乗効果を最大限に発揮し、食料安全保障、環境保全など、多くの課題解決に寄与する必要性を示唆した。また、福島第一原子力発電所事故発生から10年が経過したのに際し、IAEAとして引き続き日本に対する支援とともに、事故の教訓を踏まえ世界の原子力安全向上を図っていく考えを強調。さらに、「原子力は実証済みの脱炭素技術」と明言し、11月のCOP26(グラスゴー)に向けて、「気候変動を語る上で原子力は不可欠」とのメッセージを発信する準備を進めているとした。歴史家・作家の加来耕三氏この他、歴史家・作家の加来耕三氏の講演、米戦略国際問題研究所(CSIS)所長・CEOのジョン・ハムレ氏へのインタビュー(ビデオ録画)が行われた。加来氏は、徳川家康を例に、戦国武将の実際の人物像と小説・ドラマでの描かれ方との違いを紹介し、歴史を考える上で、(1)常に疑ってかかる、(2)決して飛躍させてはならない、(3)徹底的に数字を重視する――姿勢の重要性を述べ、「根拠のない思い込み」や「無責任な感情論」への危惧を指摘。原子力を過渡的なエネルギーと捉える風潮に疑問を呈し、「何を言われても言い返さない原子力産業界にも責任がある。きちんと主張しないと新たな人材も育たない」と強く叱咤した。ハムレ氏は、米国のコロナ対応、バイデン政権移行後の外交政策・環境政策、原子力の信頼回復に向けた助言などを語った。
- 13 Apr 2021
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FNCA大臣級会合、IAEA事務局長が講演
原子力平和利用の国際協力枠組「アジア原子力協力フォーラム」(FNCA)の大臣級会合が12月10日、オンライン形式で行われた。FNCAでは、オーストラリア、バングラデシュ、中国、インドネシア、日本、カザフスタン、韓国、マレーシア、モンゴル、フィリピン、タイ、ベトナムの12か国の参加により、放射線利用を中心としたプロジェクト活動が実施されている。今回の大臣級会合には、日本から、井上信治内閣府科学技術政策担当大臣、岡芳明原子力委員長、和田智明FNCA日本コーディネーターらが出席。開会に際し挨拶に立った井上大臣は、「農業、医療、工業、環境の各分野での利用が目覚ましく拡大し、アジアの持続的開発に貢献している」と、FNCAによるプロジェクト活動の成果を評価した上で、将来に向け原子力科学技術の恩恵が幅広く共有されていくことを期待した。講演を行うグロッシーIAEA事務局長FNCAは発足から20年来、IAEAアジア原子力地域協力協定(RCA)による活動との相乗効果の強化に努めてきたが、今回の大臣級会合では、IAEAよりラファエロ・マリアーノ・グロッシー事務局長がオンラインにて講演を行った。同氏はまず、「アジア地域の原子力活動は非常にダイナミズムに満ちている」と、FNCA活動の将来性に期待。一方、「2020年は世界がこれまでに最も大きな課題に直面した年だった」と、新型コロナウイルス感染症拡大による影響に見舞われた1年を振り返り、6月に提唱した「ZODIAC」(Zoonotic Disease Integrated Action、動物由来の感染症対策強化に向けた包括的フレームワーク)を紹介。「ZODIAC」は、IAEAがこれまで実施してきた原子力技術を活用したPCR検査、獣医学診断ネットワークなどの個別プロジェクトの統合化により、国際的な感染症対策の強化を図るもので、日本も100万ユーロの支援を行っている。「SARS、ジカ熱、エボラ出血熱など、パンデミックは概ね1年半ごとに発生している」と、グロッシー事務局長は述べ、蓄積された経験を活かすとともに、加盟各国がリソースを提供し合い、次のパンデミックに備えておく必要性を強調した。各参加国からの概況報告、意見交換を受け、大臣級会合は、(1)FNCAとIAEAのさらなる連携、(2)停滞を余儀なくされているプロジェクト活動の正常化に向けた努力、(3)ZODIACプロジェクトへの協力、(4)ウェブシンポジウムなどを活用した研究・技術人材交流の強化――を盛り込んだ共同コミュニケを採択し閉会した。
- 11 Dec 2020
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IAEAの原子力長期予測:「意欲的な見通しのケースで2050年に原子力設備が現在の2倍に」
国際原子力機関(IAEA)は9月16日、世界の原子力発電設備の長期的な傾向を地域ごとに分析した最新の年次報告書「2050年までのエネルギー、電力、原子力発電予測」(第40版)を公表した。R.M.グロッシー事務局長は、「原子力発電は今後も世界の低炭素エネルギー・ミックスの中で主要な役割を果たし続ける」と指摘。高ケースの予測シナリオでは、2050年までに世界の原子力発電設備容量は現在の倍近くに増大するとしており、「原子力発電を維持・拡大することは引き続き、地球温暖化の影響を緩和する主要な推進力となる可能性が高い」と指摘している。原子力の設備容量と発電シェア今年の報告書は、昨年版の予測と比較して数値にそれほど大きな変化はなく、野心的だが妥当と思われる見通しに基づく「高ケース」の場合、世界の原子力発電設備容量は2019年実績の3億9,210万kWが2030年には約20%増えて4億7,500万kWに、2050年には82%増の7億1,500万kWになるとしている。一方、市場で既存の技術やリソース傾向が持続することを前提とした「低ケース」では2040年に約10%減の3億4,900万kWに低下するものの、2050年時点では下げ幅が若干持ち直して7%ほどとなる。設備容量は3億6,300万kWに留まると予測している。高ケースで原子力発電の設備容量が倍化するのにともない、原子力の総発電量も2050年には高ケースで倍以上に増加するとIAEAの専門家は見ている。見通しでは2019年実績の2兆6,573億kWhが2030年には3兆6,820億kWh、2040年には4兆9,330億kWhと増えていき、2050年には5兆7,620億kWhに達することになる。ただし、すべての電源の総発電量に占める原子力発電シェアは、高・低両ケースともに2050年まで一定割合を保つ、あるいは若干低下していくとIAEAは予測。2019年の実績は10.4%だったが、2050年までに低ケースで3ポイント減、高ケースでも1ポイント以下とは言え低下が見込まれる。IAEAによれば、高ケースで原子力発電シェアを2050年までに11%に向上させるには、各国が緊急かつ共同のアクションを取る必要がある。低ケースではまた、総発電量の約6%に低下するかもしれないとしている。原子力の場合、2016年のパリ協定その他の地球温暖化防止イニシアチブで設定された目標のお蔭で、開発への支援が期待できるものの、条件としては(原子力を含む)低炭素でオンデマンド利用が可能な電源への投資を促すエネルギー政策や市場構造が不可欠となる。IAEAの報告書は、原子力にはこのような利点に加えて電力消費量の増加や大気汚染問題、エネルギー供給保証、その他の電源による発電電力の価格変動なども解決できる可能性があると指摘している。閉鎖予定の原子炉と新規原子炉IAEAはこのほか、閉鎖される原子炉と新規原子炉の見通しについても言及している。世界では今や稼働中原子炉の三分の二で運転開始後30年以上が経過。これらは近い将来閉鎖されるため、その分を相殺する相当量の新規設備が必要になると強調。実際のところ、2030年頃あるいはそれ以降に閉鎖が予定されている多数の原子炉のリプレースについては、北米や欧州では特に不確定要素が残る。こうしたことから、経年化管理プログラムや運転期間の長期化を実施する原子炉の数は次第に増えつつあるとしている。高ケースでは閉鎖が予定されている原子炉のうち、いくつかでは運転期間が延長されることから、報告書は2030年までに実際に閉鎖される設備容量は2019年時点の約12%に過ぎないと予想。結果として、この年までに(新規建設分から閉鎖分を差し引いて)正味追加される容量は約8,000万kW、2050年まででは2億kW以上になる。また、低ケースにおいては2030年までに既存原子炉の三分の一が閉鎖されることを前提とする一方、新規建設分として約8,000万kW分が追加される。その後、2050年までの期間は、新規建設分と閉鎖される容量はほぼ同じになると報告書は予想している。(参照資料:IAEAの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの9月17日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 18 Sep 2020
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IAEA、原子力分野における女性の登用拡大を目指し奨学金制度開始
国際原子力機関(IAEA)はこのほど、原子力科学技術や原子力安全・セキュリティ、および核不拡散分野における女性の登用者数の拡大を図るため、新たに設置した奨学金制度「マリー・スクロドフスカ・キュリー奨学金プログラム(MSCFP)」で、これら分野の修士課程に在籍する女子学生からの申請書の受付を開始した。これは原子力分野で優秀な若い女性の育成を促進し、将来的に男女双方を含めた人材を確保するためのもの。応募者の中から年間100名を選抜し、学費として年に最大1万ユーロ(約126万円)、生活費の補助としてさらに1万ユーロを最長で2年間給付。初回となる今回の応募締め切りは、10月11日となっている。同プログラムは、物理学分野と化学分野でノーベル賞を2回受賞した先駆的物理学者「キュリー夫人」に因んで名づけられ、今年3月に設置が決定していた。その際、キュリー夫人の孫娘にあたる原子力物理学者のH.ランジュバン・ジョリオ博士がIAEAにビデオメッセージを寄せ、「科学において女性は男性と同等の能力を持つと祖母は心の底から信じていました。彼女なら、科学分野で女性の地位が今よりはるかに早く確立されることを望んだことでしょう」と抱負を託している。優秀な人材は原子力科学技術の発展に欠かせないだけでなく、生産性の拡大や技術革新を促す上で非常に重要であるとIAEAは認識。近代的な社会の経済成長や革新的技術開発においては、STEM(科学・技術・工学・数学)分野の能力をもった人材が今まで以上に必要とされている。キュリー夫人は放射性元素の発見と活用で数え切れない恩恵を人類にもたらしたが、後続の女性科学者たちも原子力科学技術の分野ではこれまでに素晴らしい業績や科学的発見を残している。このためIAEAは同夫人の名を冠したプログラムを通じて、原子力部門に根強い男女間の雇用格差を埋めていく方針である。この部門の女性専門家は未だに少数派で、女性がSTEM分野に入って研究を続けるには学生時代から多くの障害に直面する。IAEAの奨学金プログラムは、女性が出来るだけ数多く、世界中で原子力科学技術や安全・セキュリティ分野の教育を受け研究を続けられるよう支援を提供。関連する訓練コースやワークショップ、奨学金制度、科学関連の視察、地域の原子力教育ネットワークにも参加を促し、安全・セキュリティ分野を含む国レベル、世界レベルの原子力プログラムで男女間の機会均等化促進を目的としている。(参照資料:IAEAの発表資料、原産新聞・海外ニュース、ほか)
- 15 Sep 2020
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内閣府、IAEA総会でバーチャルサイドイベント「放射線がん治療の加速的な進歩」を開催
内閣府(原子力委員会)は9月22日(日本時間16:00~17:10)、量子科学技術研究開発機構と共催で、IAEA総会バーチャルサイドイベント「放射線がん治療の加速的な進歩」を開催する。オンライン配信によるプレゼンテーションを通じ、放射線や加速器を利用した先端がん治療技術の研究状況や、関連機器の開発状況の国際的共有を図るもの。内容は、IAEA健康医療部長のメイ・アブデル=ワーブ氏と量研機構病院長の辻比呂志氏による基調講演、放射線治療機器3メーカー(東芝エネルギーシステムズ、日立製作所、住友重機械工業)によるテクニカルプレゼンテーション「放射線治療技術開発の最前線」(ファシリテーター=野田耕司・量研機構理事)が予定されている。〈詳細は こちら〉2020年のIAEA総会は、9月21~25日にIAEA本部(ウィーン)で開催されるが、今回は、新型コロナウイルス感染症拡大防止のため、展示会や政府主催のレセプションはすべて中止。サイドイベントは基本的にバーチャル形式での実施となる。また、多くの加盟国は、代表団を派遣せず、在オーストリア大使による出席など、基本現地対応とし、閣僚レベルの一般討論演説も録画したものを会場で放映する見通し。会議の模様はインターネットで中継されることとなっている。なお、今回のバーチャルサイドイベントは、原産協会が運営協力(Webex会議運営/英語サポート)を行う。イベントの参加登録は、こちら へ。
- 15 Sep 2020
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規制委、新検査制度運用開始で現地事務所長から意見聴取
原子力規制委員会は8月19日の定例会合で、2020年度より運用を開始した新たな検査制度の第1四半期(4~6月)実施状況について、原子力規制庁から報告を受けた。新検査制度は、2016年に受け入れたIAEA総合規制評価サービス(IRRS)による「さらなる実効性を確保すべき」などとする指摘から、事業者の活動全般を、いつでも、どこでも、広く確認・評価し(フリーアクセス)、その結果に応じた措置を講じていくよう従前制度への見直しが図られている。今回の報告によると、新型コロナウイルス感染症拡大防止対策により、本庁の検査官が中心となる「チーム検査」は当初予定されていた18件中、実施は4件に留まった。 複雑な事象への対応は「事業者への刺激」となると強調する山賀氏(インターネット中継)また、事業者の日常的な安全活動を継続的に監視する「日常検査」に関しては、現地原子力規制事務所の所長として、柏崎刈羽の水野大氏(当時)、美浜の山賀悟氏、六ヶ所の服部弘美氏(当時)の3名が所感を述べた。その中で、水野氏は、「検査官の専門知識を活かし、原子力安全を包括した検査ができた」と、一定の評価を示す一方、検査対象の見極めに関し「空振り」よりも「見逃し」の心配をあげ、今後も事例の積み重ねや検査官の知識レベル向上などに努めていく必要性を強調。また、事業者の対応について、「フリーアクセスの実施にも非常に協力的だった」と、新検査制度への理解や考え方の変化を認めた上で、「納得いくものとなるには、まだまだ時間がかかる」などと、規制側・被規制側ともにさらなる継続的改善が図られるべきとした。山賀氏は、美浜3号機の海水ポンプ停止事象に関し事業者自らによる原因分析を深めさせたことに触れ、「スキルアップにつながった」との感触を受けたと評価。服部氏は、所管する核燃料サイクル施設の発電炉との違いに触れ、今後の効率的な検査の維持に向けて「検査官の育成・確保が重要な課題」と指摘した。
- 19 Aug 2020
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ハンガリー:パクシュII期工事で建設許可申請
ハンガリーの国家原子力庁(HAEA)は6月30日、国営MVMグループのパクシュII開発会社からパクシュ原子力発電所II期工事の建設許可申請書を受領したと発表した。この増設計画では、国内唯一の原子力発電設備であるパクシュ発電所の隣接区域に第3世代+(プラス)の先進的な120万kW級ロシア型PWR(VVER-1200)を2基建設することになっており、HAEAは翌7月1日から審査手続を開始。12か月後には最終的な判断を下すが、必要であればさらに3か月を審査に費やすとしている。一方、パクシュII開発会社では「建設前サイト準備許可」を取得できれば2021年初頭にも地盤の工事を開始できると予想。最短で同年9月に主要建屋の建設許可を取得し、本格的な建設工事を始められるとしている。パクシュ発電所I期にあたる4基はいずれも出力50万kWのVVER-440で、これらでハンガリーの総発電電力量の約半分を賄っている。また、これらの原子炉ではすでにVVERの公式運転期間である30年が満了したため、追加で20年間運転期間を延長する手続が完了した。II期工事で建設される5、6号機は最終的にI期の4基を代替することになっており、ハンガリー政府は2014年1月にこの増設計画をロシア政府の融資により実施すると発表。翌月に両国は、総工費の約8割に相当する最大100億ユーロ(約1兆2,000億円)の低金利融資について合意したほか、同年12月には双方の担当機関が両炉のエンジニアリング・資材調達・建設(EPC)契約など、関連する3つの契約を締結した。しかし、欧州連合(EU)の執行機関である欧州委員会(EC)は2015年11月、これらの契約が公的調達に関するEU指令に準拠しているかという点、およびEU域内の競争法における国家補助規則との適合性について調査を開始。2017年3月までにそれぞれについて承認裁定が下されたものの、プロジェクトの実施は当初計画から少なくとも3年遅延している。HAEAは2014年に同計画についてサイト調査とその評価作業を実施する許可を発給したほか、2017年にはサイト許可を発給した。2つの事務棟や作業員100名分の食堂とキッチン、作業用建屋、資機材の貯蔵建屋など建設工事に必要な建屋の建設許可も発給済みで、パクシュII開発会社は昨年6月に建設工事の準備作業として、80以上のこれら付属施設の建設工事を開始している。今回、パクシュII開発会社が提出した建設許可申請書は28万3千ページに及んでおり、HAEAは審査を効率的に行うために専用の作業プログラムを開始した。複数の法規が関係することから、HAEAのスタッフ180名のうち半数以上がこの審査に関与することになる。HAEAはまた、外部専門家の意見を取り入れるため、年末に国際原子力機関(IAEA)の技術安全レビュー(TSR)調査団を招聘する計画。申請書の中心部分である予備安全解析書を独立の立場の国際的な専門家に評価してもらうことが目的であり、調査団はIAEAの安全基準に対するパクシュ5、6号機の適合性について報告書を作成。HAEAはこの報告書に基づいて最終判断を下すことになる。なお、建設許可申請書の提出後3か月が経過すれば、パクシュII開発会社は関連するその他の許可も申請することができる。今年行われた原子力安全条例の修正にともなうもので、建設サイトの土壌改良やベースマット部分の掘削といった特定のサイト準備活動、および原子炉圧力容器のような長納期品の製造に関する許可申請などがこれに相当するとしている。(参照資料:HAEA、パクシュⅡ開発会社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月1日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 06 Jul 2020
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IAEA理事会、イランに対し疑いのある2施設への査察求める決議を可決
国際原子力機関(IAEA)の理事会は6月19日、核不拡散条約(NPT)に基づく包括的保障措置協定と追加議定書の義務事項、およびIAEAが要請している事項への対応をこれ以上遅らせることなく、全面的に履行するようイランに求める決議を25対2で採択した。この決議は仏国、ドイツ、英国の3か国が提出していたもので、反対票はロシアと中国が投じた。未申告の核物質の保有と原子力活動が疑われる2施設へのIAEAの立ち入りについては特に、速やかに実現させることを要求している。イランの核開発疑惑を巡り、国連安全保障理事会の5か国とドイツおよび欧州連合(EU)は2015年7月、イランのウラン濃縮活動を大幅に制限する一方、そうした制限の実行をIAEAが確認し次第、国連安保理やEU、米国が課してきた制裁の解除を盛り込んだ「包括的共同行動計画(JCPOA)」をイランと締結した。しかし、米国のD.トランプ政権は2018年5月、JCPOAからの離脱とイランへの経済制裁再開を指示。イランもこれに対抗して、一年後にJCPOAで課された制限の一部を今後は順守しないと宣言している。主要当事国が撤退表明したことで、JCPOAは事実上、無効になったと見る向きもあるが、IAEAは今回の決議により、加盟各国が保障措置協定における義務事項を全面的に順守し、IAEAが要求する施設への立ち入りを促進することの重要性が強調されたと指摘。イランが保障措置協定を順守している点や、その原子力プログラムが純粋に平和利用目的である点を確証する際、IAEAが担う重要かつ他からの干渉を受けない独自の役割が明確に示されたと強調している。決議文のなかでIAEA理事会は、R.M.グロッシー事務局長が今年3月3日と6月5日に公表した報告書について言及した。これらの報告書は、保障措置協定と追加議定書に基づきイランの申告が正確で完全であることを解明するためIAEAが傾注した努力や、疑惑があるとしてIAEAがイラン国内で特定した2施設の査察問題について説明している。これらを踏まえた上で同理事会は、2施設への立ち入り容認も含め、これらの協定や議定書の義務事項を遂行するにあたり、イランは全面的かつタイムリーにIAEAと協力すべきだと進言。イランの核物質がすべて平和利用目的であるとの「拡大結論」にIAEAが到達するには、このような協力が不可欠であることを改めて確認したと述べた。また、追加議定書に基づく2施設への立ち入りをイランが拒否している点については、事務局長が報告書の中で示した深刻な懸念に理事会は賛同すると表明。IAEAは未申告の核物質と原子力活動の可能性についてイランとの協議にほぼ1年を費やしたが、これらはあまり進展していない。このため理事会は、イランに対してIAEAのリクエストに速やかに応えることを要請。これにはIAEAが特定した2施設への立ち入りを直ちに許可することが含まれるとしている。(参照資料:IAEAの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月19日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 22 Jun 2020
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IAEA:「パンデミックで停止を強いられた原子力発電所は皆無」
国際原子力機関(IAEA)は6月11日、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的拡大(パンデミック)に際し、世界各国の原子力産業界ではこれに対処する特別な措置が取られているため、発電所の労働力やサプライチェーン等への影響により停止を強いられた原子力発電所は、今のところ皆無であると発表した。これは、IAEAが運営するCOVID-19運転経験ネットワーク(OPEX)や「原子力施設事象報告システム(IRS)」を通じて、各国の原子力発電所運転員や規制当局から得られた情報に基づいている。IAEA原子力発電部のD.ハーン部長は「実施が計画されていた定期検査やメンテナンスの日程など、このパンデミックは様々な形で世界中の原子力発電所に影響を及ぼしているが、運転員と規制当局は引き続きこれらの発電所で安全・セキュリティの確保に努めている」とコメント。IAEAがOPEX等から受け取る情報は、パンデミックが原子力産業界に与える影響について重要な洞察力をもたらしているほか、運転員や規制当局が互いの経験を学びあう一助にもなっていると指摘した。発表によると、原子力発電所では日々の運転業務の継続やスタッフ間の感染リスク軽減で複数の方策が取られる一方、経済活動の制限にともない電力需要が低下したことから、いくつかの発電所では出力を下げて運転中。メンテナンスのための定期検査は日程の調整を余儀なくされており、検査期間の短縮や規制当局の許可を得た上で重要度の低い作業を延期する例も見受けられている。これと同様に、発電所スタッフの配置数の検討やスタッフ間で距離を置くことも実行されており、日々変化する前代未聞の状況に際して発電所運転員が柔軟な措置を取り万全に準備している点、トラブルに際しても迅速に健全な環境に復帰できるよう対応している点を強調した。パンデミックが世界経済と産業活動に及ぼしている広範な影響は、今後も継続して世界のサプライチェーンにとっての課題となると予想され、IAEAは例として原子力発電所の中・長期的パフォーマンスへの影響、新規の原子炉建設や大規模改修プロジェクトにおけるリードタイムの長期化を挙げた。また、新規建設プロジェクトの資金調達で不確実性が増し、入札プロセスに遅れが生じる可能性などを指摘した。さらに、スタッフ数をこれ以上削減した場合の緊急時対応計画、発電所スタッフあるいはその家族の感染時に取られる対応措置についてもIAEAは情報を与えられている。IAEA原子力施設安全部のG.リジェットコフスキー部長は、「今回のようなパンデミックは原子力発電所で安全運転を続ける際に障害となり得るので、発電所の安全性を事業や優先事と統合させる特別な措置を講じなければならない」と説明。そのような措置においては、先例のない状況のなかでも安全性で妥協しないことを目標としており、有資格のスタッフ数については特に、適切なレベルを確保しなければならないこと、必要であれば原子炉を停止して、安全な停止状態で維持することも辞さないことを挙げている。IAEAはこのほか、世界原子力発電事業者協会(WANO)や経済協力開発機構・原子力機関(OECD/NEA)などの国際機関とも調整し、パンデミック状況下の原子力発電やエネルギー市場動向のデータを分析比較。今回のような事態や将来同様のアウトブレイクが発生した場合でも、原子力発電事業を後押ししたいとしている。(参照資料:IAEAの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月11日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 15 Jun 2020
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IAEAが加盟国から2,200万ユーロの拠出受け新型コロナ対策支援
国際原子力機関(IAEA)のR.グロッシー事務局長は5月11日、加盟国から予算枠外で強力な資金提供を受けて、世界約120か国における新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の封じ込めで支援イニシアチブを実施すると発表した。この資金はこれまでに合計約2,200万ユーロ(約25億9,640万円)に達しており、IAEAは原子力から派生した検査技術「リアルタイム逆転写PCR(RT-PCR)」を世界中の数百もの研究所で使用可能になるよう支援。この手法は現在のところ、COVID-19を引き起こすウイルスの検出で最も正確かつ迅速だと言われている。COVID-19に対するIAEAのこのような取り組みは、人や動物の健康など原子力技術の平和利用促進に向けた技術協力プログラムに基づいて行われている。例えば食糧農業機関(FAO)との連携協力では、IAEAは過去10年間にエボラ出血熱やジカ熱のように動物から人へ感染、あるいは人畜共通の伝染病と闘う国々に対し、簡易検査方法などの支援を行っている。今回の提供資金は、まず米国から1,100万ドル(約11億8,600万円)、日本が約4億7,200万円、カナダが500万カナダドル(約3億8,600万円)、ノルウェーが200万ユーロ(約2億3,600万円)、ドイツとオランダ、およびロシアが各50万ユーロ(約5,900万円)、フィンランドが20万ユーロ(約2,360万円)などを約束。このほか、中国は200万ドル(約2億1,600万円)相当の現物支給支援を行うと表明している。グロッシー事務局長は、「加盟各国の迅速で惜しみない資金提供と、世界中で緊急時支援を行うIAEAへの信頼には心から感謝する」とコメント。IAEAはCOVID-19と闘う国々の重要なパートナーであると強調している。IAEAが対象国に提供するのは主に、リアルタイムRT-PCR検査を直ちに行うのに必要な検査パッケージで、RT-PCR装置や個人用防護具、試薬、実験用消耗品、診断キットなどが含まれる。また、技術的な知見やガイダンスを提供するとともに、ヘルスケアの専門家を世界中で育成するためにオンライン・セミナーも開催。IAEAに支援要請する国の数は2か月前の10か国から119か国に増加しており、グロッシー事務局長は「危機に瀕し助けを求める人々をIAEAは見捨ててこなかったし、これからも見捨てることはない」と断言した。IAEAはこれまでに、約20台のRT-PCR装置を各国の医療現場に供給。ボスニア・ヘルツェゴビナやブルキナファソ、イラン、ラトビア、レバノン、マレーシア、ペルー、セネガル、タイ、トーゴはこのような装置を受け取る最初の国になる。これ以外の数多くの国々でも、数日後から数週間以内に同様のパッケージが到着する予定だとしている。(参照資料:IAEAの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの5月12日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 21 May 2020
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IAEAが主催する「SMR規制者フォーラム」、SMRの安全性問題で新たな提言を発表
国際原子力機関(IAEA)は4月22日、同機関が2015年3月から主催している「小型モジュール炉(SMR)規制者フォーラム」が先月下旬の会合で、SMRの安全性に関する新しい提言を出したと発表した。同フォーラムによると、SMR開発では設計それぞれの新たな技術領域に関わる安全性問題で、柔軟な規制の枠組みが必要である。SMRに採用されているモジュール方式やコンパクト設計が発電所の安全性に影響を及ぼすかもしれないとしたほか、SMRの設計から建設、起動、運転、廃止措置まで、ライフサイクル全般の許認可の枠組みにも新たな課題をもたらすと指摘している。このフォーラムには、米国、英国、カナダ、仏国、中国、韓国、ロシア、フィンランド、サウジアラビアの原子力規制当局が参加し、出力30万kW以下の様々な新しいSMR設計を規制する際に課題となる点を協議。規制関係の知識や経験を共有するとともに、共通する安全性問題について解決策を特定・提案することなどを目的としている。IAEAによると、数多くの加盟国政府が温室効果ガスの排出量を最小化しつつ、多量の電気を使って経済の活性化を目指しており、SMRを含む先進的な原子炉設計はそうした目的の達成に重要な役割を担うことが期待される。しかし、SMRを設計・開発するための新たなアプローチは、既存の原子力規制の枠組みにこれまでとは違った観点の課題を突き付けることになった。IAEAが設定した原子力発電所の安全基準は、放射線の有害な影響から人々や環境を守る包括的規範として機能し、SMRにもほとんどの場合は適用可能。しかし、「SMR規制者フォーラム」の専門家は新しい概念の原子炉であるSMRに最適の規制を開発し、各国規制当局の一助とする考えである。同フォーラムはまた、SMRの許認可プロセスにおける課題や作業手続の現状について理解を深める方針。IAEA原子力安全・セキュリティ局のG. リジェットコフスキー原子力施設安全部部長は、「現時点でSMRに特化した安全基準を策定する計画はないが、特定の技術にこだわらない総体的な安全性の枠組みを設定する際、SMR関係の洞察を利用する」と説明した。そうした枠組みを新しい設計に適用するほか、IAEAの安全基準を活用して各国の様々なアプローチを調和させるのに役立てたいとしている。今回の提言のうち、SMRのモジュール方式に起因する安全性への影響について、同フォーラムはまず、複数のモジュールを接続することで電力供給などのサービス利用率や信頼性が向上する利点があると述べた。一方、複数ユニットで構成する既存の原子力発電所の運転経験から、安全面で明確な配慮を必要とする可能性が示されたと指摘。具体的には、福島第一原子力発電所で複数ユニットが関わった事故の教訓を挙げており、複数のシステムを共有することで設備同士が依存しあうなど、設計に脆弱性リスクがもたらされるかもしれないとした。また、SMRのコンパクト設計に起因する安全性問題に関しては、まずSMRを工場で製造しトラックで設置場所まで輸送するため、そのような設計になっていると説明。しかし、SMRで運転やメンテナンス、点検等を実施するとなると、SMRのコンパクト設計にはライフサイクル全般にわたって根本から考えなければならない点があると指摘。一例として、SMRの品質チェックのために機器の溶接部で点検や非破壊検査をどこでどのように行うかなどを検討課題として挙げている。(参照資料:IAEAの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの4月23日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 24 Apr 2020
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