福島第一原子力発電所周辺の海洋試料を採取し分析を行う、モナコ所在のIAEA海洋環境研究所(MEL)の専門家一行が、10月16~23日の日程で調査を開始した。日本の海域モニタリングの信頼性・透明性確保に向け、IAEAや国内外分析機関による分析結果を比較評価するもので、2014年より継続実施されている。〈外務省発表資料は こちら〉今回、さらなる透明性向上の観点から、IAEA/MELに加え、IAEAから指名されたカナダ、中国、韓国の専門家も新たに参加する。中国の参加に関し、日本サイドとして同調査をリードする原子力規制委員会の山中伸介委員長は、11日の定例記者会見で、「IAEAの客観的モニタリングについて、中国も含めた第三者が加わったことで、より中立性、透明性、公平性が高まった」と、期待を寄せた。調査期間中、専門家一行は海水・海底土、水生生物・水産物などの試料を採取。評価結果は、IAEAが別途、実施しているALPS処理水の取扱いに関する安全性レビューの裏付けにも資する。例えば、水産庁が参画する水産物の採取については、福島県で漁獲される6種程度を予定しており、19日にいわき市沿岸で採取した後、20日に海洋生物環境研究所(千葉県御宿町)で分析状況の確認を行う。直近、2021年度実施分の報告書では、「日本の分析機関の試料採取方法は適切であり、高い正確性と能力を有している」と、評価されている。ALPS処理水の海洋放出は8月24日~9月11日の初回分が終了し、続く2回目が10月5日から約17日間の予定で行われている。海洋放出開始後、初となるIAEAの安全性レビューミッションは、10月24~27日に来日する予定。今回、調査を行うタスクチームには、IAEA職員の他、独立した立場で参加するアルゼンチン、豪州、カナダ、中国、フランス、韓国、マレーシア、マーシャル諸島、ロシア、米国、英国、ベトナムの各国出身の国際専門家11名が含まれる。
16 Oct 2023
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東京工業大学は10月12日、核融合エネルギーのスタートアップ企業「EX-Fusion」と、日本発のレーザー核融合商用炉の早期実現を目指し、協働研究拠点を設立したと発表した。〈東工大発表資料は こちら〉核融合は、重水素や三重水素のような軽い原子核を融合させ、別の重い原子核になるときに発生する大きなエネルギーを取り出す。豊富な燃料資源、固有の安全性、高い環境保全性が利点だ。核融合エネルギー利用実現の技術的ポイントとなるプラズマ閉じ込め方式は、トカマク型、ヘリカル型、ミラー型に加え、これらとまったく異なるレーザー方式があり、国内ではそれぞれ、量子科学技術研究開発機構(QST)、核融合科学研究所、筑波大学、大阪大学が主に研究開発を進めてきた。核融合の主な閉じ込め方式(文科省発表資料より引用、原子力機構の核融合研究は現在はQSTで行われている)トカマク型の実証については、国際共同プロジェクトITER(国際熱核融合実験炉)計画が進められており、日本も機器類の物納で貢献している。レーザー核融合の研究開発は、阪大が1972年から本格着手。パワーレーザー施設「激光12号」は世界トップレベルだ。阪大レーザー科学研究所が最近、文部科学省の専門家委員会で示した開発ロードマップによると、レーザー核融合エネルギーによる発電実証は2040年頃が見込まれている。「EX-Fusion」は、レーザー核融合の実用化に向けた技術開発の加速化とともに、その実現に向けた過程で得られる最先端の技術・知見を活用し、エネルギー分野にとどまらず、様々な産業分野における技術開発への貢献を目指す、阪大発の若手研究者によるスタートアップ企業。豪州にもレーザー分野で「高い市場潜在力を持つ」と期待をかけ子会社を設立するなど、海外への事業展開も始めている。このほど設立された「EX-Fusion liquid metal 協働研究拠点」の共同研究テーマは、「レーザー核融合商用炉実現に向けた液体金属デバイスの高度化研究」で、拠点の設置期間は2026年9月末まで。鉛とリチウムの液体合金に関する研究を通じ、エネルギーを取り出す重要機器「液体ブランケットシステム」の概念設計を行い、これらの技術成果を、「EX-Fusion」が開発するレーザー核融合へ統合させ、10年以内のレーザー核融合エネルギーの実現とともに、深宇宙探索、海水淡水化、環境保全など、多様な分野への波及効果も目指す。
13 Oct 2023
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三菱総合研究所は9月21日、「ウラン資源の確保」と「利用目的のないプルトニウムを持たない」ことを柱とする、核燃燃サイクル全体を俯瞰した次世代炉の望ましい炉型の組合せ「次世代炉ベストミックス」の考え方を発表した。〈三菱総研発表資料は こちら〉その中で、同社は、2月に閣議決定された「GX(グリーントランスフォーメーション)実現に向けた基本方針」など、原子力発電所の開発・建設に向けた政府方針策定の動きから、「次世代炉導入は各炉の技術的特徴・役割等を中心に複数の評価軸で議論が進められている」と評価。一方で、次世代炉の再処理方針を含む核燃料サイクルの今後のあり方や開発方針については、「依然として言及されていない」と厳しく指摘。使用済燃料に含まれるウラン、プルトニウムを再処理によって取出し燃料に加工して再利用する現行の政策路線「クローズドサイクル」を、今後、導入される次世代炉についても採用するかは、「議論の上、決定する必要がある」と問題提起している。その上で、日本の核燃料サイクルにおいて、安全保障の観点から、発電に必要なウラン資源を確保する核不拡散の観点から、利用目的のないプルトニウムを持たずに保有量を必要最小限にとどめる――必要性をあらためて強調。これまでの軽水炉主体だった日本の原子力発電を踏まえ、次世代炉を導入するに当たり、核燃料サイクルに組み込まれる炉型の多様化が想定されることから、「どのような炉型を、どのようなタイミングで、どれくらいの量、導入していくのが理想的であるかを議論の上、決定する『次世代炉ベストミックス』の考え方」を提唱している。例えば、高温ガス炉では、再処理の技術的難易度が高い被覆粒子燃料を使用することから、「再処理を選択しない場合、高温ガス炉の割合が大きくなるほど、核燃料サイクル全体で見たときのウラン資源有効利用の効果が小さくなる。結果的に多くのウラン資源が必要になる」と指摘。多量のプルトニウムが燃料として必要となる高速炉では、並行する軽水炉利用にも関連し「高速炉での利用に向け、プルトニウムを一定量貯蔵するなどの考慮が必要」と、プルサーマル発電の計画的実施の必要性に言及している。これらを踏まえ、今回の三菱総研による提言では、「核燃料サイクルの絵姿」を時系列で描くシナリオを複数設定し、比較評価を行う必要性を指摘している。
11 Oct 2023
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日本原子力産業協会の新井史朗理事長は10月6日、記者会見を行い、福島第一原子力発電所で発生するALPS処理水の海洋放出について発言した。8月24日から17日間かけて行われた1回目の海洋放出は、安全かつ着実に実施され、海域モニタリングや魚のトリチウム濃度分析においても異常値は検出されておらず、10月5日からは2回目の放出が始まっている。今のところ、福島県内魚介類の価格低下はみられず、むしろ「常磐もの」の流通量が不足していることから、新井理事長は、「全国の多くの方々が福島を応援している」と、原子力産業に携わる立場から謝意を表した。一方で、中国や北朝鮮による科学的根拠によらない主張や、中国による日本の海産物輸入の全面停止を「大変遺憾に思う」と非難。特に、北海道産ホタテへの影響を憂慮した。さらに、新井理事長は、先般、開催されたIAEA総会(ウィーン、9月25~29日)への出席、「原子力とグリーントランスフォーメーション(GX)」をテーマとする日本ブース展示について紹介。そのオープニングセレモニーは、高市早苗内閣府科学技術担当相の「処理水海洋放出を科学的根拠に基づき透明性のある形で説明し続けることが重要」とのスピーチで幕を開け、浜通り地方の日本酒を来訪者に振る舞い福島の復興をアピールしており、「好評だった」と所感を述べた。その上で、新井理事長は、処理水の海洋放出に関し、「何十年にもわたって続く長い取組」との認識をあらためて示し、「東京電力が着実に安全に海洋放出を継続することが大前提であり、その上で、一日一日、異常がないというデータが積み重なっていくことが極めて重要」と強調した。また、新井理事長は、9月29日に資源エネルギー庁と共同で公開したウェブサイト「原子力サプライチェーンプラットフォーム」について紹介。日本国内では、1970年以降に運転開始した原子力発電所の多くで、原子力技術の国産化率が90%を超えるなど、国内企業にその技術が集積されており、国内の発電所の安定利用や経済・雇用に貢献してきた。しかしながら、東日本大震災以降は、再稼働の遅れや新規建設プロジェクトの途絶により将来の事業見通しが立たず、重要な技術を持つ中核サプライヤーの撤退が相次いでいる。こうした状況を踏まえ、3月に原子力サプライチェーンの維持・強化を目的とした「原子力サプライチェーンプラットフォーム」が資源エネルギー庁により設立され、原産協会が共同事務局を務めることとなった。このたび公開したウェブサイトでは、人材や技術の維持・強化に向けた各事業者の取組事例、補助金・税制に関する紹介の他、海外の建設プロジェクトへの参画に向けた情報公開を行っていく。
10 Oct 2023
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技術イノベーションによる気候変動対策について世界の産学官のリーダーが話し合うICEF(Innovation for Cool Earth Forum、運営委員長=田中伸男氏〈元IEA事務局長〉)の年次総会が10月5日、2日間の日程を終了した。前回に続き都内のホテルを会場としてオンライン併用のハイブリッド形式での開催となり、79か国・地域から約1,700名が参集。故安倍晋三元首相の提唱により始まったICEFは10年目を迎え、閉幕に際し発表されたステートメントでは、これまでの成果を振り返るとともに、将来のイノベーション創出に向け次世代層の活躍にも力を入れていく考えが記された。4日、開会に際し、挨拶に立った西村康稔経済産業相は、世界中からグリーントランスフォーメーション(GX)関連分野の有識者が日本に集まる「東京GXウィーク」の一環となった今回の年次総会開催を歓迎した上で、「全世界がともに取り組むべき待ったなしの喫緊の課題」と気候変動に対する問題意識をあらためて述べ、世界全体のカーボンニュートラル実現に向けて、「イノベーションこそが解決の最も重要なカギ」と繰り返し強調。パケ駐日EU大使、ライオンの絵を示し「野心的に今すぐ行動すべき」と強調続くキーノートスピーチでは、元米国エネルギー省(DOE)長官で1997年ノーベル物理学賞受賞者のスティーブン・チュー氏(スタンフォード大学教授、オンライン参加)と、宇宙飛行士の野口聡一氏が登壇し、2日間の議論に向け問題提起。チュー氏は、エネルギーの脱炭素化に向け、水素利用の有望性を披露し、貯蔵やタンカー輸送における日本の技術力発揮に期待。小型モジュール炉(SMR)やCO2貯留技術の展望にも言及した。また、3回の国際宇宙ステーション滞在を経験した野口氏は、“Cool Earth”の視点から、「宇宙から見た地球は本当に息を飲むほど美しい。ダイナミックでそこには命が満ちあふれている」と強調。一方で、気候変動や生物多様性の喪失といった世界的な環境リスクの顕在化を指摘し、課題解決に向け「見える化、分析、処方箋のポジティブなサイクル」が生まれるようイノベーションの創出に期待を寄せた。さらに、最初のセッションで講演を行ったジャン=エリック・パケ駐日EU大使も「野心的に今すぐ行動すべき」と、警鐘を鳴らし、イノベーションにおける政策立案に関する議論に先鞭をつけた。例年行われる若手セッション、メディアの役割や途上国教育の問題も指摘された今回のICEF年次総会では、核融合に着目。5日に行われた各国スタートアップ企業の動きを中心に議論する技術セッションでは、日本から「Helical Fusion」代表取締役の田口昂哉氏が新技術や実用化への課題について発表。同氏は、若手専門家とICEF運営委員らとの対話セッションにも登壇し、「核融合は夢ではない」と、実用化に向け意気込みを語った。同セッションでは、2006年ノーベル生理学・医学賞受賞者のアンドリュー・Z・ファイアー氏(スタンフォード大学教授)もオンライン参加。科学技術に対する信頼の重要性を指摘したほか、若手パネリストに対し、「世界の大統領に向けて1分間でコメントして欲しい」と発言を求めるなど、次世代層からのリーダー台頭に期待を寄せた。議論を総括する田中運営委員長閉会に際し挨拶に立ったICEF運営委員長の田中伸男氏(元IEA事務局長)は、2日間の議論を振り返り、気候変動問題の解決における「革新的なファイナンス」の重要性を指摘し、次回年次総会のテーマにあげることを示唆。AIの活用、ガバナンス機関の創設、科学の説明責任、ジェンダーバランスの課題などにも言及した上、「今後も是非皆が協力しイノベーションを続けて欲しい」と強調した。※写真は、いずれもオンライン中継より撮影。
06 Oct 2023
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慶應大予防医療センターに導入された全身用立位・座位CT(同学発表資料より引用)慶應義塾大学の研究グループは9月27日、産学連携により開発を進めてきた全身用立位・座位CTを、11月より同学予防医療センターに導入し健診に活用していくと発表した。〈慶應大学発表資料は こちら〉同センターは、東京・港区内に今夏、しゅん工した日本最高の超高層ビル「麻布台ヒルズ森JPタワー」(約330m)の6階に、現在の新宿区内・慶應病院から移転し、11月6日より運用を開始する。同研究グループでは、世界初となる全身用立位・座位CTの臨床1号機を2017年に慶應病院に導入。臨床研究により、寝台に仰向けとなって撮影を行う従来のCT検査と比べて、検査時間の短縮、感染リスクの回避など、複数の有用性があることを明らかにした。また、これに続いて、2023年5月には、その臨床2号機が藤田医科大学病院(愛知・豊明市)にも導入されている。検査に訪れる健常者にとって、「靴を脱いで寝台に横たわる」ことは、できれば省略したいプロセスだ。立ったまま検査できる利便性は高く、慶應大学ではこのほど移転・開設する予防医療センターに、全身用立位・座位CTを導入することとした。新たなCTの有用性として、研究グループでは、検査のワークフロー改善完全非接触・遠隔化による感染リスク回避立位で症状が出る患者や異常所見が明らかになる病態診断の有用性運動器疾患のような荷重のかかる病態の早期診断骨盤底筋の緩み(尿失禁の原因)の判定筋肉量の経時変化体位によってサイズが変化する静脈の機能性に関する研究――をあげており、「超高齢化社会において健康長寿社会が重視される中で、重要な役割を果たす」と期待を寄せている。
05 Oct 2023
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東京電力は、安心・安全な北海道・三陸常磐エリアの水産物をPRし、国内での消費拡大を推進すべく、JR御徒町駅前・おかちまちパンダ広場(東京・台東区)で、「緊急プロジェクト! ホタテ祭り in おかちまちパンダ広場」を10月5日まで開催している。日本の国産水産物は、中国政府による輸入停止措置の影響により大きな打撃を受けている。現在、特に、国産ホタテが行き場を失っており、漁業関係者を中心に損害が発生している状況だ。今回のイベントでは、北海道産ホタテを中心に加熱調理し販売。「1トン相当のホタテ(殻付きで約5,000個)を食べつくす!」を目標に、ホタテに合うお酒として、福島県産の地酒やクラフトビールも提供。立食も可能だが、ゆっくりと北海道・三陸常磐の味を堪能してもらえるよう、テーブル席(要予約)が用意されている。ホタテは定番の浜焼き屋台販売がメイン。会場直近のJR御徒町駅高架ホームにまで、熱々の香ばしさが漂い、背中にホタテ貝を描いたネイビーブルーのTシャツに身を包むスタッフらの威勢の良い呼び込み声が聞こえてくる。東京・六本木のスペイン料理店「アサドール エル シエロ」もキッチンカーを出店し洋食風に調理し販売。イベント初日の3日、16時の開場前から入場待ちの行列ができ、開始後2時間ほどで用意されたホタテは完売する大盛況ぶりだった。開催時間は、4日が16~21時、5日が16~20時(ラストオーダー19時30分)。雨天決行・荒天中止。〈詳細は こちら〉
04 Oct 2023
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日本学術会議の地球惑星科学委員会(委員長=田近英一・東京大学大学院理学系研究科教授)は9月26日、より強靭な原子力災害対策に向け「放射性物質拡散予測の積極的な利活用を推進すべき」との見解を発表した。見解では、福島第一原子力発電所事故の発生直後、緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)((原子力施設から大量の放射性物質が放出された場合や、その恐れがある事態に、周辺環境における放射性物質の大気中濃度、および被ばく線量等の環境影響を、放出源情報、気象条件、地形データをもとに迅速に予測するシステム))の情報が住民避難などの防護措置に活用できなかったことをあらためて指摘。事故を教訓として、「放射性物質の拡散に伴う災害を軽減・回避する手立てについて、国、原子力規制委員会、自治体、科学者コミュニティは、様々な取組を通して模索してきたが、解決への道のりが見出せたとは言いがたい」と、SPEEDIを有効活用する必要性を示唆している。その上で、「国民の安全を確保するためには、放射性物質の拡散に関するあらゆる科学情報を収集し、防護措置の判断に活用することが必要不可欠」と強調。アカデミアとして、放射性物質の拡散に対して国民の安全を確保するための防護策は、モニタリングデータだけでなく、数値シミュレーションによる予測から得られる科学的な情報と知見を最大限に活用して策定規制委員会は現行の「原子力災害対策指針」を改訂し、拡散予測情報の活用指針を統一し、責任の所在を明らかにした上で、最適な防護策を策定・施行規制委員会は科学者・専門家の能力を最大限に活用国、規制委員会、自治体、科学者コミュニティ、市民は互いに協力し、市民の視点から防護策を策定し、緊急時に確実に運用するため準備――すること、と提言している。規制委員会では、2012年の発足以降、事故の教訓を踏まえ、「原子力災害対策指針」および、これに付随するマニュアル・ガイドラインの見直しを進めてきたが、気象予測の不確かさから、緊急時における避難など、防護措置の判断に当たって、SPEEDIによる計算結果は使用しないこととしている。一方で、原子力施設の立地地域からは、複合災害を見据え、SPEEDIの有効活用を求める声もあがっていた。SPEEDIは、放射性物質の拡散予測だけでなく、2000年の三宅島噴火時に、火山性ガスの分析にも活用できることが検証されている。日本原子力研究開発機構でSPEEDIの開発に長く取り組んできた茅野政道氏(現在、量子科学技術研究開発機構理事)は、福島第一原子力発電所事故後、国外事故時や緊急時海洋モニタリングに備え、世界版SPEEDI、SPEEDI海洋版の開発も提唱してきた。
03 Oct 2023
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電気事業連合会は、電気の安定的な供給確保の必要性とカーボンニュートラルの取組を紹介する2種類の新テレビCM、「持続可能な電気の供給」篇と「効率的な電気の利用」篇(各30秒)を、10月1日より全国で放映開始した。〈電事連発表資料は こちら〉新CMは、電事連が昨秋に制作したテレビCMに続き、若手女優の今田美桜さんを起用。今回は、「エネルギーから、明日をおもう。」というキャッチコピーのもと、明治時代と現代の教師に扮した2人の今田さんが、各篇CMで、「持続可能な電気の供給」、「効率的な電気の利用」をテーマに、教室の黒板やプロジェクターを使って、過去と現在の電気の価値や使われ方の違いを説明する。「持続可能な電気の供給」篇では、「今では、暮らしに欠かせない存在に」と、電気の重要性を強調。エネルギー資源の8割を海外に頼る日本の電力供給の現状から、安全確保を大前提とした原子力、火力、再生可能エネルギーをバランスよく活用する必要性を円グラフ「2030年エネルギーミックス」を通じて説く。2つのCMを通じ、「私たちの暮らしに欠かせない電気を、より身近に感じもらう」のがねらい。また、電事連では、新CMに加え、若い世代への関心喚起に向け、今田さんをモデルに日々の生活の視点から電力安定供給や地球温暖化対策の取組をPRするWEBコンテンツ「ふつうの日々」も9月29日より公開している。今夏は記録的な暑さとなり、特に東京エリアで電力需給ひっ迫が心配されたが、追加供給力対策や節電効果により乗り切ることができた。9月27日に行われた総合資源エネルギー調査会の電力・ガス基本政策分科会では、今冬の電力需給見通しについて、最も厳しい北海道、東北、東京の各エリアでも、予備率が1月は5.2%、2月は5.7%と、全国エリアで安定供給に必要な3%を確保できる見込みが示されている。
02 Oct 2023
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日本原子力産業協会は9月28日、フランスで開催された「新しい原子力へのロードマップ」会合に参加。各国の原子力産業団体が連名で、気候変動の緩和およびエネルギー・セキュリティの強化へ向け、原子力発電の迅速かつ大規模な導入を強く訴える共同ステートメントを発表した。同会合は、OECD原子力機関(NEA)と仏エネルギー移行省の共催で、パリのOECD本部で開催された官民のハイレベル会合。今回が初開催となる。OECD加盟各国政府並びに各国の原子力関連団体が参加。共同ステートメントに署名したのは、日本原子力産業協会の他、米原子力エネルギー協会(NEI)、世界原子力協会(WNA)、カナダ原子力協会(CNA)、英原子力産業協会(NIA)、欧州原子力産業協会(nucleareurope)、仏原子力産業協会(Gifen)、韓国原子力産業協会(KAIF)、CANDUオーナーズグループ(COG)の計9団体。同ステートメントは、今年の4月に札幌で「G7気候・エネルギー・環境相会合」に併せ、原産協会らが採択した同種のステートメントをベースとしている。今回のステートメントは参加団体が増えただけでなく、対象をG7からOECD加盟国へ拡大。OECD加盟国の原子力産業界の決意を表明するとともに、各国政府や、11月から始まる国連気候変動枠組条約第28回締約国会議(COP28)に参加する世界のリーダーたちへ向けた要望を、とりまとめた。具体的には、官民が連携して取り組む重要事項として既存炉の最大限活用新規炉導入の加速国際協力によるサプライチェーンの構築原子燃料分野のロシア依存低減原子力部門におけるジェンダーバランスの改善などを指摘。そして、2050年までの炭素排出量実質ゼロ目標を達成するには、原子力発電設備容量を現在の2~3倍に拡大する必要があるとの認識の下、原子力への投資を促進するよう市場環境を整備規制基準の標準化および効率化原子力を他のクリーンエネルギー源と同等に、気候変動緩和策として認めることなどを要望している。近年、世界の原子力産業界の間では、エネルギー・セキュリティの確保と、CO2排出量の実質ゼロ化の両立に、原子力が果たす役割を世間に周知しようと、個別ではなく国際間で連携して活動する風潮が主流となっている。先月ロンドンで立ち上げられた「ネットゼロ原子力(Net Zero Nuclear=NZN)」イニシアチブも同様の流れだ。11月のCOP28では、国際原子力機関(IAEA)だけでなく、世界の原子力産業界も共同でブースを立ち上げる計画であり、原子力が果たす多大な貢献を世界中に周知し、原子力開発の世界規模での拡大を目指している。
02 Oct 2023
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原子力発電環境整備機構(NUMO)は、教育関係者(教員を目指す学生も含む)を対象としたワークショップを、9月16日の福岡市会場を皮切りに開始した。「高レベル放射性廃棄物の最終処分」について、学校の授業で取り上げてもらうことを狙った同WSの開催は、10年ぶりとなる。地層処分事業は、まだ多くの国民に知られているとは言いがたい。しかも長期にわたることから、次世代層にも知ってもらうため、学校教育が一つのカギとなる。今回、NUMOでは、同WSを、教育現場からの「『エネルギー自給率の向上や脱炭素化を図っていく流れの一つに地層処分がある』といったストーリー性のある授業が必要」との声に応える形で企画。初回のWSに参加したのは、福岡県内の学校教員ら8名。専門家による講演、NUMOからの情報提供をもとに、グループワークを通じ意見交換が行われた。講演ではまず、世界のエネルギー動向を巡り「日本がエネルギーとどう向き合う必要があるのか」、理科教育に関連し「エネルギーに関する単元がSDGsの目標とどう関連するのか」などと問題提起。これを受け、グループワークでは、今後のエネルギー教育に関し「すべての教科を横断的して扱うべきテーマだ」との指摘があった。さらに、NUMOからは、地層処分について、次世代層への教育を支援する意義、支援内容などについて説明。その中で、NUMOは、教育支援ツールの一つとして、ボードゲーム「地層処分って何だろう? ジオ・サーチゲーム」を紹介し、同ゲームのプレイ体験のあるWS参加者からは、「異なる意見を交わし合い議論するには非常によい教材。是非授業で活用してみたい」といった期待の声もあがった。一方で、「地層処分だけに多くの時間を割くのは難しい」と指摘する参加者も。こうした意見交換を通じて、授業での地層処分問題に関する取扱いに向け、事情の異なる教員らが交流する必要性などが浮き彫りになった。初回のWSを終えて、NUMOの担当者は、「エネルギー教育では、発電と消費については比較的授業で取り扱いやすいが、高レベル放射性廃棄物については、学習指導要領に載っていないのが現状。このようなWSを通して、少しでも関心を持ち授業で扱ってもらえたらありがたい」と、話している。同WSは引き続き、愛媛県松山市(9月30日)、福井県(日程未定)と、開催される運び。
29 Sep 2023
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筑波大の陽子線治療施設、累計の治療患者数は7,000人を超える(医用財団ホームページより引用)筑波大学は9月25日、画像情報から放射線治療中の臓器の三次元的な動きを予測する支援技術を開発したと発表した。〈筑波大発表資料は こちら〉放射線がん治療は、早期の社会復帰が可能な非侵襲的医療として期待が高まっている一方、周辺の正常な臓器にも影響が及ぶ可能性があり、近年のMRI撮影による二次元画像を取得しながらの治療でも、動きのある病変組織への適切な照射が治療成績の向上に向け課題となっている。同学では、「呼吸のように規則正しい動きは、機械学習などを用いて予測できるが、周辺臓器との接触などによる不規則な動きは予測が困難」なことから、放射線治療中、リアルタイムで3方向から患部付近の断面を撮影し、周辺臓器との位置関係から各臓器の三次元的な動きを予測する技術を開発した。具体的には、治療前、患者本人の対象臓器および周辺臓器を含む三次元モデルを構築し、コンピューターを用いた「接触シミュレーション」と呼ばれる手法で三次元的な動きを予測。これを、二次元画像の撮影ができる放射線治療装置と併用することで、患部の位置をより正確に把握し正常な臓器への影響を防ぐというもの。今回、同技術の検証のため、症状が出にくく進行が速いことから「がんの王様」とも呼ばれるすい臓がんに着目。20症例の公開MRIデータについて、すい臓の位置を計算した結果、誤差は、1方向のみの二次元画像では5.11mmだったのに対し、3方向を用いた場合は2.13mmと、精度の向上が確認された。筑波大では、陽子線治療で多くの実績を積んでいるが、今回の新技術に関し、「体内での臓器は常に動いており、そのような動きを正確にとらえることは、放射線治療を始めとする、より正確で安全な治療技術の確立につながる」と、実用化に向け期待を寄せている。
27 Sep 2023
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宮城県は9月27日より、女川町全域を対象に、原子力災害時の住民避難を支援するスマートフォンアプリの運用を開始する。〈宮城県発表資料は こちら〉ポケットサイン社が手がけるマイナンバーカードを活用した防災デジタル身分証アプリ「ポケットサイン防災」によるもので、災害発生時には、マイナンバーカードの情報をもとに、住民の年齢・性別・住所などに応じた避難指示を、スマートフォンを通じ瞬時に通知。住民は迅速かつ正確に避難指示を受取り避難に移れる。発災時、住民は避難所の二次元コードをスマートフォンで読み取りチェックイン。自治体はいつ、誰が、どこにチェックインしたかをリアルタイムに把握。さらに、アンケート機能を活用し避難所のニーズを即座にキャッチ。チェックイン時に発信された避難者の数や特性のデータと組み合わせることで、避難所の状況を一目で確認できる。宮城県は8月に同社と原子力防災システムの契約を締結。同契約のもと、東北電力女川原子力発電所での重大事故を想定した「ポケットサイン防災」の実証試験が住民も協力し行われた。その結果、避難車両に付着した放射性物質の検査場において、避難車両10台の通過にかかる時間が、アプリ方式では約9分と、従来手法の約15分より約4割短縮。実証試験に参加した村井嘉浩知事は、「アプリは圧倒的に便利で早く、誰が通過したかが瞬時にわかる」と評価している。原子力防災向けの機能として安定ヨウ素剤の服用に関する説明も送信。宮城県では、買物に利用できるポイント付与により口コミを通じた普及を図る考えだ。運用地域については、発電所から概ね30km圏の地域に順次拡大される予定。国内では依然と大規模災害が後を絶たないが、2021年に東日本大震災発生10年を機に日本学術会議が開催した学協会連携シンポジウムでは、避難所の光景が1959年の伊勢湾台風の頃からほとんど変わっていないことが指摘されている。複合災害、感染症対策、プライバシー保護など、災害対応における新たな課題が顕在化する昨今、こうした通信ネットワーク技術により避難所運営に変革がもたらされることが期待できそうだ。
26 Sep 2023
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日立製作所は9月20、21日、顧客・ビジネスパートナーとの「協創に向けたきっかけ作りの場」とする日立グループのイベント「Hitachi Social Innovation Forum 2023 JAPAN」を、東京ビッグサイト(東京・江東区)で開催。4年ぶりの対面開催となった今回は、有識者を交えた討論、最新の技術開発の成果を紹介する展示など、60以上のセッション・ブースが設けられ、人気のコーナーには入場待ちの行列ができるほどの盛況ぶりだった。21日に行われたセッション「脱炭素社会における原子力の役割」(モデレーター=間庭正弘氏〈電気新聞新聞部長〉)では、日立製作所原子力ビジネスユニットCEOの稲田康徳氏他、東京大学公共政策院特任教授の有馬純氏、脳科学者の中野信子氏が登壇。カーボンニュートラル実現に向けた原子力の果たす役割、人材確保・科学リテラシーに係る課題を巡り意見交換がなされた。稲田氏は、エネルギーに由来するCO2排出量の各国比較データを示し、日本のエネルギー需給における脱炭素化の課題として、「化石由来の電源を減らすことが大変重要」と強調。さらに、東京大学との共同研究による試算から、今後のデジタル社会の発展に伴い「日本の電力需要は現在の1.5倍程度となる」可能性を示した。一方で、「天候の影響を大きく受ける再生可能エネルギーは、電力系統の安定性からも課題がある」と指摘。その上で、原子力発電のメリットについて、「運転時にCO2を排出しないという基本的価値に加え、天候の影響を受けず、昼夜を問わず大規模な電力を安定的に供給できる。ベースロード電源として最適」と述べた。日立の取り組む新型炉開発について、稲田氏は、米国GE日立と共同開発する電気出力30万kW級小型炉「BWRX-300」と、135~150万kWの大型炉「Hi-ABWR」(Highly innovative ABWR)を紹介。それぞれの技術的・経済的特長・開発スケジュールについて説明した。科学技術行政に係る取材経験の豊富な間庭氏は、“Innovation”を切り口に原子力に対する人々の理解に関し問題提起。これに対し、脳科学・心理学で多くの著書を有する中野氏は、社会学的観点から、人々の「不安」に関しては、それを背景とする数多くの映画・小説が発表され「エンターテイメントにもなっている」とする一方、「安全」に関しては、「日常不可欠のことでまったくエンターテイメントになっていない」と述べ、「実際、エンターテイメントは人々の『不安』をもとに創られている」と指摘。さらに、「正しく怖がる」科学リテラシーの重要性について、昨今の新型コロナに係る情報流布にも言及し、「残念ながら十分とは言えない。現代社会を生きていくには不可欠のもの」と強調し、理科教育、教員の育成、いわゆる「大人の学び直し」の必要性などを訴えた。展示会場ではデモも、写真は人間が行うような複雑作業を高放射線環境下で実現する「筋肉ロボット」また、間庭氏は、原子力産業のサプライチェーン維持・強化の観点から、人材育成の問題を提起。これに対し、高等教育の立場から有馬氏は、「日本の学生は講義を聴くだけで、人前で発言しない傾向にある。一方で、海外の学生は子供の頃から『議論しながら確かめていく』マインドが養われている」と、コミュニケーション能力の課題をまず指摘。さらに、稲田氏は、バーチャル空間やシミュレーションなど、デジタル技術を活用した技術伝承の取組を紹介したほか、海外プロジェクトへの参画を通じ若手に対する原子力技術への関心喚起を図っていく考えを示した。
22 Sep 2023
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関西電力の高浜発電所2号機(PWR、82.6万kW)が9月20日、およそ12年ぶりに発電を再開した。同社の美浜3号機、高浜1号機に続く、国内3基目の40年超運転となる。〈関西電力発表資料は こちら〉高浜2号機は、同1号機より丁度1年後となる1975年11月14日に、国内10基目の商業用原子炉としてデビュー。運転開始からの期間は現在、国内で2番目に長い。高浜1・2号機では、ほぼ並行して新規制基準適合性に係る審査が進行。両機とも、2016年に原子炉設置変更許可に、2021年には再稼働に向けた地元同意に至った。1号機は先行して2023年8月2日に発電を再開し、28日には営業運転復帰。2号機も、テロ対策の「特定重大事故等対処施設」が8月31日に運用を開始したことから、9月15日に原子炉を起動した。高浜2号機は今後、調整運転、原子力規制委員会による最終検査を経て、10月16日にも営業運転に復帰する。同機の発電再開により、関西電力では、所有する原子力発電プラント計7基・657.8万kW(美浜3号機、高浜1~4号機、大飯3・4号機)がすべて再稼働(発電再開)した。*理事長メッセージは、こちら をご覧ください。
21 Sep 2023
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資源エネルギー庁の村瀬佳史長官がこのほど、記者団のインタビューに応じ、今後の資源・エネルギー行政の推進に向け抱負を語った。この7月、折しもエネ庁設立から半世紀となる節目の年に就任した村瀬長官は、1973年の第一次石油危機を振り返りながら、「同じように、エネルギー安全保障という意味で、大きな危機・転換点を迎えている時期に着任した。正に歴史を感じており、非常に重いミッションを負っている」と強調。その上で、エネルギー政策における最大の課題として、「日本が再び50年来の大きな危機に瀕している中で、エネルギーの安定供給をいかに確保していくのか」と指摘。加えて、ロシアによるウクライナ侵攻に関連し、「従来の常識では考えられないような国際経済上のリスクが明らかとなっており、エネルギーを巡る国際的な構造は大転換を迎えている」と、あらためて危機感をあらわにした。さらに、同氏は、「カーボンニュートラルへの挑戦」を標榜。「各省庁が推進する取組を総動員し、産業・国民生活のあり方自体を変革しなければならない」とした上で、第一次石油危機時の省エネ対策を例に、「まったく新しい大きな挑戦を求められている。今後、大胆な政策を進めていく」と、意気込みを示した。丁度50年前、1973年秋に公表されたエネルギー白書では、石油の量的確保の不安定性と環境面の制約から、省エネ対策について述べており、「入手ないし使用可能なエネルギーをできる限り有効活用することによって、国民経済活動におけるエネルギー消費量の相対的引き下げを図ること」と、位置付けている。また、村瀬長官は、電力システム改革に関し、「競争するというのは事業者の体力を奪うことではなく、競争を通じて切磋琢磨されていく中で、世界と戦えるエネルギー産業が生まれるようにすること」と強調。官民連携による取組を通じ、「日本発の技術、強い企業」が台頭することに期待を寄せた。原子力政策に関しては、「安全確保を大前提とした原子力の活用」の必要性をあらためて強調。既設炉の最大限活用を始め、核燃料サイクルの推進、放射性廃棄物対策など、原子力特有の問題にも取り組むとともに、小型モジュール炉(SMR)の開発など、革新技術にもチャレンジしていくとした。次年度にも本格化する次期エネルギー基本計画の検討に際しては、「2050年カーボンニュートラル」の実現に向け、「あらゆる手段・可能性を追求することは必須」などと、資源小国である日本におけるエネルギー需給の厳しさを再認識。水素・アンモニア、CCUS(CO2の回収・有効活用・貯留)の導入促進など、あらゆる新技術を手掛け、「柔軟性をもった検討をしていきたい」と述べた。内閣府政策統括官(経済財政運営)から資源・エネルギー行政を担う要職に移り、今後、多くの政策課題をリードする村瀬長官。座右の銘としては、夏目漱石の文学観とされる「則天去私」をあげ、「正しいことをしっかり行う」と、行政マンとして使命を果たす姿勢を強調。最近はテニスに興じ、「『国難を乗り切る』体力を養っている」と、顔をほころばせた。現在56歳。
20 Sep 2023
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原子力産業新聞が電力各社から入手した毎月のデータによると、国内原子力発電所の設備利用率は2023年8月、33.2%となり、2013年7月の新規制基準施行後、初めて30%を超えた。国内の原子力発電所は、2011年3月の福島第一原子力発電所事故後、順次停止し、一部政治判断による再稼働はあったものの、2013年9月~15年8月のおよそ2年間にわたり全基停止の状態が続いた。新規制基準の施行後は、九州電力川内1・2号機が先陣を切って、それぞれ2015年8、10月に再稼働。その後、2018年にかけて、関西電力高浜3・4号機、同大飯3・4号機、四国電力伊方3号機、九州電力玄海3・4号機が新規制基準をクリアし運転を再開。以降、新たな再稼働は滞り、司法判断や新規制基準で要求されるテロなどに備えた「特定重大事故等対処施設」(特重施設)の設置期限満了に伴う停止も加わり、設備利用率の低迷する時期がみられた。一方で、2021年6月には、3年ぶりの新規再稼働となる関西電力美浜3号機が国内初の40年超運転として発電を再開。2023年8月には同高浜1号機が、これに続いて40年超運転入り。同2号機も3基目の40年超運転に向け9月15日に原子炉を起動した。各プラントの特重施設整備も進んでおり、今春以降、設備利用率が徐々に回復してきている。これまでに再稼働(発電再開)したプラントは、計11基・1,078.2万kWで、いずれもPWR。今後、BWRについても、近時では、東北電力女川2号機、中国電力島根2号機の、それぞれ、来春、来夏の再開が見込まれている。*月ごとの原子力発電所運転状況は、こちら をご覧ください。
15 Sep 2023
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新学習指導要領で新設された「公共」の教科書(数研出版ホームページより引用)日本原子力学会の教育委員会は9月12日、高校教科書におけるエネルギー・環境・原子力・放射線関連の記述に関する調査報告書を発表した。同委員会では、1995年以来、初等中等教育の教科書に係る課題認識から、これまで17件の調査報告書を公表し、文部科学省を始め、各教科書出版会社などに提出しており、その具体的な要望・提言が教科書の編集に検討・反映されることにより、記述の改善が促されている。今回、調査を行ったのは、高校の主として中学年用に2023年度から使用されている地理歴史(地理総合、地理探求、日本史探求、世界史探求)、公民(公共、倫理、政治・経済)、理科(物理、化学)、工業(電力技術Ⅰ、工業環境技術)の検定済み全教科書計39点(2022年度入学生から適用されている新学習指導要領に基づく)。調査結果を踏まえ、報告書では、前回、2022年度に高校教科書(地理歴史、公民、理科、保健体育)を対象に実施した調査と同様、全般的に、可能な限り最新のデータ・図表を使用するとともに、原子力・放射線についての用語・単位は正しく使用、記載、説明するよう要望。その上で、福島第一原子力発電所事故に関する記述国際原子力・放射線事象評価尺度(INES)に基づく事故評価の考え方わが国および世界各国の原子力エネルギー利用の状況に関する記述各エネルギー源のメリットとデメリットに関する記述放射性廃棄物に関連する記述放射線および放射線利用に関する記述地球環境問題に関連した記述原子力エネルギー利用についての多様な学習方法の拡充――について提言している。福島第一原子力発電所事故に関連した事項は、「化学」と「物理」の一部を除くほとんどの教科書で記載されていた。報告書では、放射線被ばくによる健康影響に関するより正確な記述をあらためて求めるとともに、事故後10年以上を経た現在の復興状況として、地元の若者たちの将来を見据えた新しい取組や明るい一面についても可能な範囲で紹介するよう要望。INESに関しては、今回の報告書で新たに提言。原子力利用のリスクについて、チェルノブイリ((本紙では“チョルノービリ”と表記しているが、ここでは調査した教科書の記載に従った))原子力発電所事故、福島第一原子力発電所事故、JCO臨界事故、「もんじゅ」ナトリウム漏えい事故などを、比較し取り上げている「公共」、「政治・経済」の教科書があったが、「事故の深刻度については、必ずしも社会的な取り上げ方に比例しない」と指摘。科学的な観点から、誤解を招かぬよう、INESに定義された異常事象・事故レベルを念頭に具体例を取り上げるよう要望している。わが国および世界各国の原子力エネルギー利用の状況に関する記述では、2023年2月に閣議決定された「GX(グリーントランスフォーメーション)実現に向けた基本方針」で取り上げられている政策やそれに関連する事項、さらに、ウクライナ情勢も踏まえ、各国の原子力利用の動きについても、最新の記載がなされるよう求めている。
14 Sep 2023
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原子力委員会は8月29日の定例会で、OECD/NEA(経済協力開発機構/原子力機関)が6月に発表した理事会勧告「原子力部門におけるジェンダーバランスの改善」を踏まえ意見交換を行った。〈資料は こちら〉OECD/NEAは2019年から原子力分野のジェンダーバランス改善に向けた活動を開始。これまでに10回の会合、国別調査の実施、報告書の公表を経て、2023年6月に理事会勧告を行った。3月に公表された定量的調査では、原子力分野の全労働者に占める女性の比率は、平均で24.9%であるのに対し、日本は約15%の最低水準。その他、昇進、賃金格差などにおいて、日本は調査対象国の中で圧倒的に最下位だった。定性的調査においても、「職場は女性を十分にサポートしていない」、「原子力特有の問題が女性の貢献を制限している」ことが判明。日本のジェンダーバランスは、他国と比べて大きく遅れていることが顕在化した。この調査を踏まえ、OECD/NEAは6月、「原子力部門に女性を誘致するための行動をとること」、「労働力として女性を確保し支援すること」、「原子力部門のリーダーとして女性を育成し、その貢献を強化すること」などを勧告した。今後は、勧告の実施と監視を促進する作業部会が再組織される見込みだ。今回の原子力委員会会合では、国内関係機関における良好事例の収集・共有、具体化した取組の発信、STEM(科学、技術、工学、数学)分野の女性を対象とする具体的な取組などについて考察。その中で、岡田往子委員は、OECD/NEAにおいて、ジェンダーバランスの改善は「原子力安全における人的側面」にカテゴリーされていることを述べた。その上で、多くの女性を原子力界に取り込むことによって、安全な原子力の推進を実践しようとしており、労働力不足の解決といった視点ではなく、ジェンダーバランスの改善が原子力安全に寄与するという考え方を強調。今後の取組の方向性として、日本原子力学会のダイバーシティ推進委員会によるロールモデル集作成などの動きに女性が積極的に参画大学・研究機関との意見交換などを通じ、良好事例を収集し関係機関間で共有「原子力人材育成ネットワーク」(原子力人材育成に係る産学官連携のプラットフォーム)による具体的取組について、日本原子力産業協会を中心に情報発信原子力界による既存の活動を通じ、「Win-Japan」(原子力・放射線による利用の分野で働く女性による国際NGO「Win-Global」の日本支部)を活性化――することを提言。さらに、「原子力分野と放射線の負のイメージの結び付きから、『女性には危険な仕事』ととらえられやすいことが、女性を遠ざけてしまう」として、こうした「無意識のバイアス」を改めていく工夫も必要と述べた。これを受け、佐野利男委員は、広島・長崎の原爆投下など、日本特有の要因に関してもさらに深掘りしていく必要性に言及。上坂充委員長は、8月22日~9月8日に開催された「Japan-IAEA 原子力マネジメントスクール(NEMS) 2023」での登壇を振り返り、日本人研修生は海外に比べ女性が極めて少ないことを指摘し、「あらためて問題意識を感じる」と述べた。*岡田原子力委員も含め、OECD/NEA8か国の女性がメッセージを寄せています。こちら をご覧ください。
13 Sep 2023
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東京電力は9月13日、東京都千代田区の本社本館で、福島県産品・宮城県産品を中心に取り扱う社員向け販売会「復興大バザール」を開催した。会場には僅か3時間のうちに750名の社員が詰めかけ、完売。レジ待ちの行列で一時、入場が制限されるなど大盛況だった。同社は2013年3月より、社員食堂や社内販売会などで福島県産品・宮城県産品を取り扱い、被災地の復興を強く後押ししてきた。87回目となる今回の販売会では特に、通常品目である農産品、農水産加工品、菓子、酒類に加え、宮城県産・北海道産の「国産ホタテ加工品」も登場。特設コーナーでは、同社の小早川智明社長自らが売り場に立ち、会場にいる社員に国産ホタテ加工品を試食販売するなど、ALPS処理水放出にともなう中国の禁輸措置などを踏まえ、同社としても、影響を受ける水産品の販売支援を拡大していく強い意欲を示した。会場の社員たちは「微力ながら福島の商品を買うことで応援したい」、「品揃えがデパートの物産展並みに豊富で、毎回楽しみ」と述べながら買い物を楽しんでいた。小早川社長は「福島第一での事故当初から、会社を挙げて、食べて応援する取り組みを進めている。社員全員が福島や三陸常磐ものの美味しさを実感し、日頃から、食べて応援している」と強調。そのうえで、「風評に打ち勝つため、社内販売会や食堂、イベントでの即売会など、東京電力グループを挙げて取り組んでいきたい」と、力強く語った。
13 Sep 2023
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旭硝子財団は9月6日、世界の政府・自治体、NGO・NPO、大学・研究機関、マスメディアなどの環境問題に関わる有識者らを対象に行った「地球環境問題と人類の存続に関するアンケート」の結果を発表した。〈旭硝子財団発表資料は こちら〉1992年以来、毎年実施されている同調査は、今回で32回目。2023年4~6月、アジア地域を中心とする国内外約30,000人に調査票を送付し、約1,800件の回答を得たもの(回収率6.1%)。その結果、2023年の「環境危機時計」の時刻は「9時31分」で、2011年以来、針が進む(危機感が進行)傾向にあったが、2021年から3年連続で針が戻り(危機感が解消)、2022年の調査との比較では4分針が戻った。調査対象者は、気候変動、人口、食糧など、地球環境の変化の指標となる9つの項目に基づき、人類存続の危機に関する認識の度合いを、0~12時までの時刻に置き換え回答。「殆ど不安はない」(0~3時)、「少し不安」(3~6時)、「かなり不安」(6~9時)、「極めて不安」(9~12時)というイメージだ。調査結果は、「環境危機時計」と称され、地球環境問題の関心喚起・解決策に資するものとなる。地域別にみると、2022年に比べ、南米、西欧、中東では10分以上針が戻ったが、メキシコ・中米・カリブ諸国、東欧・旧ソ連では20分以上針が進んだ。ウクライナ情勢が影響しているものとみられる。日本は、世界全体と同じ「9時31分」で、前回に比べ2分針が戻った。年齢層別には、60代以上が「9時46分」、40~50代が「9時36分」、20~30代が「9時19分」で、年齢が高いほど針が進んでいる傾向がみられた。また、環境問題への取組に対する改善の兆しを探るべく、パリ協定、SDGsが採択された2015年より以前と比較し「脱炭素社会への転換は進んでいると思うか」を尋ねたところ、「政策・法制度」や「社会基盤(資金・人材・技術・設備)」の面は、「一般の人々の意識」の面ほど進んでいない、との結果が示された。さらに、SDGsへの関心については、「日々の生活で関心を持っている目標」として、「目標13 気候変動に具体的な対策を」、「目標3 すべての人に健康と福祉を」、「目標7 エネルギーをみんなにそしてクリーンに」、「目標15 陸の豊かさを守ろう」が多くあげられ、「目標7 エネルギーをみんなにそしてクリーンに」は、アジア、東欧・旧ソ連で多く選ばれていた。「世界の問題として関心が高い目標」としては、「目標13 気候変動に具体的な対策を」が、すべての国・地域で群を抜いて最も多く選ばれていた。同財団では、合わせて、国内外の一般生活者を対象とした環境危機意識調査の結果も発表している。
11 Sep 2023
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中部電力は9月7日、小型モジュール炉(SMR)開発企業の米国ニュースケール社へ出資を行うことを決定し、国際協力銀行(JBIC)が保有する一部株式の持分譲渡に関する契約を締結したと発表した。ニュースケール社に対する日本の企業・金融機関による出資は、2021年の日揮・IHI、2022年のJBICに続くもの。〈中部電力発表資料は こちら〉ニュースケール社は、2007年にSMR開発を目的として設立された米オレゴン州立大学発のスタートアップ企業。同社が開発するSMRは、電気出力5~7.7万kWのモジュール炉を最大12基設置する統合型PWRで、蒸気発生器と圧力容器の一体化による小型かつシンプルな設計で安全性・信頼性を向上。再生可能エネルギー電源と組み合わせ調整する負荷追従運転や自然災害時における緊急電力供給としての利用が可能なほか、工場での組立て・輸送が簡単なモジュール工法により、工期短縮、初期投資の抑制も図られる。同社では、米エネルギー省(DOE)の支援で開発を進め、2029年に初号機をアイダホ国立研究所内で運転開始することを目指しており、2020年には電気出力5万kW版のSMRについて、米原子力規制委員会(NRC)による設計認証(DC)審査がSMRとしては初めて完了している。米国政府は2013年以降、ニュースケール社に対し530億円を投じ開発を支援(2022年2月時点)。2020年には、先行き10年間で運営主体に対し、およそ14億ドルの追加支援を行うことを発表している。中部電力では、ニュースケール社による事業拡大の将来性を「SMR開発のトップランナー」と期待し、今回の出資を通じ「次世代技術の社会実装を推進することで、当社の企業価値の向上を目指していく」としている。
08 Sep 2023
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日本原子力研究開発機構(JAEA)と英国原子力研究所(NNL)は9月6日、英国高温ガス炉実証炉プログラムの基本設計に係る実施覚書を締結した。同覚書のもと、日英両国における高温ガス炉の導入を目指した研究開発、原子力サプライチェーン構築、人材育成に関して協力が進められることとなる。調印式は、西村康稔経済産業相の英国訪問を機に、同国クレア・クティーニョ・エネルギー安全保障・ネットゼロ(DESNZ)相の立ち合いのもとで行われた。〈JAEA発表資料は こちら〉英国政府は、カーボンニュートラルの達成に向け、電力分野では軽水炉、非電力分野では革新炉として高温ガス炉を選択し、昨秋より高温ガス炉実証炉プログラムを開始。同プログラムは、フェーズA(事前概念検討、2023年2月終了)、フェーズB(基本設計、2025年終了予定)、フェーズC(許認可・建設、2030年代初期運転開始予定)と、進められる運びで、DESNZは7月に、フェーズBの事業者として、JAEAとNNLによるチームを採択。合わせて、DESNZは高温ガス炉実証炉用の燃料開発プログラムの開始を公表しており、JAEAはNNLと連携し、英国における燃料製造技術開発を進めていく。JAEAは高温工学試験研究炉「HTTR」(熱出力30MW、2021年7月に再稼働)の開発実績を有している。「HTTR」の核となる技術は世界有数の国産技術で、例えば、原子力用構造材として世界最高温度950℃で使用できる金属材料は国内メーカーによるものだ。今後、JAEAは、NNLと連携し、日本の高温ガス炉技術の国外実証、英国での社会実装を進め、国内の実証炉計画にも活かしていく。
07 Sep 2023
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量子科学技術研究開発機構(QST)は8月30日、重粒子線がん治療装置の小型化に向け、新型イオン入射装置の原型機を世界で初めて開発し統合試験を開始したと発表した。〈QST発表資料は こちら〉QST 関西光量子科学研究所が、住友重機械工業、日立造船と共同で、それぞれが強みとする技術を組み合わせ開発に至ったもの。QSTでは、2016年の発足以来、初代理事長・平野俊夫氏の標榜する「がん死ゼロ健康長寿社会の実現」のもと、重粒子線がん治療装置の普及に向け、そのパイオニアである「HIMAC」と比べ、約40分の1(面積比)に小型化し既存の建屋内に設置可能とする次世代装置「量子メス」の開発に取り組んできた。今回の開発成果は、一般的な重粒子線がん治療装置を構成する2つの加速器のうち、炭素イオンを発生させ光速の約9%にまで予備的に加速するイオン入射装置の新技術で、従来の加速器の数百万倍の強さを発揮する「レーザーイオン加速」の応用がポイント。これにより、加速距離が従来の15mから数ミクロン程度にまで短縮され、装置全体の大幅な小型化につながることとなる。QSTでは1994年に重粒子線がん治療装置「HIMAC」による治療を開始。現在、国内7か所(千葉、兵庫、群馬、佐賀、神奈川、大阪、山形)で、重粒子線がん治療装置が稼働中だが、全施設を合わせても1年間で治療を受けられる患者数は約4,000人と、これは日本で年間に発生するがん患者の0.4%程度にとどまっており、治療装置の小型化による全国的な普及が不可欠だ。2010年に治療を開始した群馬大学の施設は、新たな加速器技術により建設・運用費や規模を「HIMAC」の約3分の1にできたが、今後の普及・治療成績向上にはさらなる低コスト化・高性能化が必要となる。「量子メス」の実用化は2030年が目標。今回の原型機開発により、その実現に向けた設計が大きく前進することとなる。QSTでは、「低侵襲的ながん治療が広く普及すれば、現役世代に向けてはライフサイクルを乱さない日帰りがん治療が、高齢世代に向けては術後の体力回復に依存しないがん治療が、より一般的に提供可能になる」と、期待を寄せている。
06 Sep 2023
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