総合資源エネルギー調査会の基本政策分科会(分科会長=隅修三・東京海上日動火災保険相談役)は10月8日、電力システム改革が直面する課題や最近のエネルギーをめぐる国際情勢などを踏まえ議論した。同分科会は、5月よりエネルギー基本計画改定に向けた検討を開始しており、今回で10回目の会合開催となる。〈配布資料は こちら〉冒頭、資源エネルギー庁の村瀬佳史長官は、今回のテーマに関連し「こうした議論をしている間にも大きな変化が生まれている」と、絶え間ない世界の潮流変化を強調。一例として、9月にマリオ・ドラギ氏(前欧州中央銀行〈ECB〉総裁・前イタリア首相)が、EUの産業競争力強化に向け公表した「The future of European competitiveness」(通称、ドラギレポート)の他、同月の米国コンステレーション社によるスリーマイルアイランド原子力発電所1号機の再稼働と、その全発電量を20年間にわたりマイクロソフト社に供給する計画発表などを紹介し、「欧米に見られる脱炭素化の大きな動きだ」と指摘した。エネルギー価格の関連で、「ドラギレポート」は、「高いエネルギーコストが欧州企業の成長の障害」と危惧し、送電網ネットワークへの投資促進、中長期的な小型モジュール炉(SMR)のサプライチェーン構築などを提言している。これらに対し、村瀬長官は、「現実を踏まえた政策の方向転換の現れ」との認識を示した上で、「世界の動きをタイムリーに把握して、わが国としても戦略的な方針を取りまとめていきたい」と、引き続き委員らによる活発な議論に期待した。今回の基本政策分科会会合は、10月1日の石破内閣発足後、初となった。4日に石破茂首相は国会での所信表明演説の中で「安全を大前提とした原子力の利活用」を明言している。これに関連し、杉本達治委員(福井県知事)は、立地地域の立場から、「既設炉、革新炉を問わずに、事業者が安全対策を十分に行えるよう、国が事業環境整備を行うことが重要。原子力の必要規模・開発の道筋など、原子力の将来像をより明確にする」ことをあらためて要望。さらに、核燃料サイクル政策に関しては、六ヶ所再処理工場竣工の停滞を懸念し、「さらなる延期はない」よう事業者に対する指導強化を求めた。資源エネルギー庁は、9月の国連総会サイドイベント「原子力を3倍にするためのファイナンス」会合における世界の主要金融機関14社が原子力への支持を表明したことも紹介。同調査会の原子力小委員会委員長も務める黒﨑健委員(京都大学複合原子力科学研究所教授)は、脱炭素電源それぞれのメリット・デメリットを認識した上で、原子力発電のビジネス化に関し、「リードタイム・総事業期間が長いことに尽きる。最初に大規模な投資を図り、安定的に長く利用するもの」と、その特徴を説明。その上で、「事業の予見性が重要」と述べ、民間による投資の限界に言及しつつ、国による関与の必要性を指摘した。なお、隅分科会長らは9月20日に福島第一原子力発電所を訪問。視察結果報告がなされ、委員からは、2号機燃料デブリの試験的取り出しの停滞に関し、新たな技術導入に際し、失敗経験を活かしていくことの重要性も述べられた。また、英国の石炭火力発電が9月末にすべて運転終了となった報道に触れた上で、日本の脱炭素電源推進に資するよう示唆する声もあった。 結びに、隅分科会長は、「脱炭素化と産業競争力を両立させる現実的な政策」の必要性をあらためて強調。今後、具体的な制度設計が図られるよう、次期エネルギー基本計画に「しっかりと方針を盛り込んでいく」考えを述べた。
08 Oct 2024
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量子科学技術研究開発機構(QST)は10月4日、那珂フュージョン科学技術研究所の核融合トカマク実験装置「JT-60SA」(茨城県那珂市)が、「世界最大のトカマク装置」として、ギネス記録に認定されたと発表した。〈QST発表資料は こちら〉「JT-60SA」は、ITER計画を補完・支援する幅広いアプローチ活動(BA)の一つとして、QSTが欧州の核融合研究機関「フュージョン・フォー・エナジー」とともに進めてきたトカマク型超伝導プラズマ実験装置。2007年に、従前の「JT-60」を改修する形で建設が開始。2013年より組立が始まり、2019年には心臓部となる「中心ソレノイドコイル」の据付けが行われた。昨秋の2023年10月23日に、初プラズマ生成に成功。日本国内では、「JT-60」が停止した2008年以来、15年ぶりのトカマク型装置の稼働となった。トカマク型核融合は、ドーナツ状の磁気のかごを作り、その中にプラズマを閉じ込める核融合エネルギー利用の一方式。今回、「JT-60SA」によるプラズマ体積160㎥の達成が、これまで最大であった他のトカマク装置による同100㎥の記録を超えたことが確認され、2024年9月4日にギネス記録の更新が認定されたもの。10月19日には「ギネス世界記録認定式」がQST那珂フュージョン科学技術研究所で執り行われる予定。QSTでは、「より大きなプラズマを扱うITERや原型炉に向けた制御法の開発につながる」と、期待を寄せている。なお、国内の原子力関連施設のギネス記録認定はこれまでに、「世界最大の出力をもつ原子力発電所」として、東京電力の柏崎刈羽原子力発電所(1~7号機の合計で821.2万kW)がある。
07 Oct 2024
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石破茂首相が10月4日、国会で所信表明演説を行った。「すべての人に安心と安全を」の大方針のもと、1日の内閣発足時に掲げた「日本を守る」、「国民を守る」、「地方を守る」、「若者・女性の機会を守る」の4基本方針に加え、第一に、政治とカネの問題に鑑み「ルールを守る」ことを標榜。政治家に対する国民の信頼回復に向けて、「政治家のための政治ではない、国民のための政治」を実現していく姿勢をあらためて示した。「国民を守る」ことの関連では、食品やエネルギーなど、昨今の物価高を懸念。「物価上昇を上回る賃金上昇」、「賃上げと投資が牽引する成長型経済」の実現に向け、経済対策を早急に策定することを明言。当面の対応として、エネルギーコスト上昇に強い社会の実現、地方創生施策の展開の他、元旦に発生した能登半島地震の復旧・復興、防災・減災にも取り組み、「誰も取り残さない社会の実現を」を目指すことを強調した。石破首相は、2015~16年に内閣府地方創生担当相を務めたことがある。その中で、エネルギー政策に関しては、AI時代の電力需要の激増も踏まえつつ、脱炭素化を進めながら、エネルギー自給率を抜本的に高めるため、省エネルギーを徹底し、安全を大前提とした原子力発電の利活用、国内資源の探査と実用化と併せ、わが国が高い潜在力を持つ地熱など、再生可能エネルギーの最適なエネルギーミックスを実現し、「日本経済をエネルギー制約から守り抜く」と強調。それに向け、前岸田内閣下で進められてきたGX(グリーントランスフォーメーション)の取組を加速させることを明言した。防災に関しては、熊本地震、能登半島地震とともに、その被災地に追い打ちをかけた豪雨被害などに鑑み、日本が世界有数の災害発生国であることを認識した上で、「人命最優先の防災立国」を確立することを標榜。まずは、内閣府(防災担当)の予算・人員の強化を図った上で、今後、専任の担当閣僚を置き防災・減災を一元的に所管する「防災庁」の設置に向け準備を進めるとした。また、東日本大震災に関しては、「福島の復興なくして、東北の復興なし。東北の復興なくして、日本の再生はない」との姿勢をあらためて示し、一部の国・地域による日本産水産物の輸入停止への「即時撤廃」を求める対応、輸出先の開拓などを推し進め、水産業のさらなる発展に努めていくとした。演説の結びに、石破首相は、「納得と共感の政治」として、自身が政治家を志す原点となった元大蔵相・渡辺美智雄氏の言葉「政治家の仕事は勇気と真心をもって真実を語ること」を紹介。約40年前の当時を振り返り、「もっとお互いを思いやる社会だった。皆に笑顔があった。いつの間にか、日本はお互いが足を引っ張ったり悪口を言い合ったりするような社会になってしまった」と述べ、「もう一度すべての国民に笑顔を取り戻したい」などと、抱負を語った。所信表明演説に対する各党・会派による代表質問は7日より行われる予定。
04 Oct 2024
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10月1日午後の臨時国会での首班指名を受け、同日、石破内閣が発足。経済産業相には武藤容治氏(衆議院議員)、文部科学相にはあべ俊子氏(同)、内閣府科学技術政策担当相には城内実氏(同)が就任した。武藤経産相は同2日の閣議後、初の記者会見に臨み、石破首相からの指示として、福島第一原子力発電所の廃炉を含め、福島復興を国民への説明責任として進める「経済あっての財政」との考え方に立ちデフレ脱却を最優先とし、賃上げと投資が牽引する成長型経済を実現する電力需要の増加や脱炭素化への対応を含め、エネルギー・GX政策を推進する2025年に開催される大阪・関西万博の取組を進める――ことをあげ、政策推進に全力を尽くす姿勢を強調。2017~18年に経済産業副大臣を務めた経験を持つ武藤経産相は、エネルギーセキュリティの重要性にあらためて言及。まず、柏崎刈羽原子力発電所の現状に関し、「東京電力に対する不安の声がまだある」、「安心・安全に向けた同社の取組に対する地元の理解が進んでいない」のも事実としながらも、東日本における電力需給の脆弱性、電気料金の東西格差、脱炭素電源による電力供給の必要性に立ち、「再稼働に向けて、関係閣僚とも緊密に連携し、政府を挙げて取り組んでいく」との姿勢を示した。将来の新増設についても、AIの進展やデータセンターの増設に伴う電力需要増加の見込みから、具体的なエネルギーミックスの中で検討していく考えを述べ、高レベル放射性廃棄物の地層処分に関しては「地域の声に向き合い、国が前面に立って取り組んでいく」と明言した。
02 Oct 2024
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日本原子力産業協会の増井秀企理事長は9月27日、定例の記者会見を行い質疑に応じた。増井理事長はまず、8月20日に行われた総合資源エネルギー調査会の原子力小委員会における発言内容について紹介。6月の理事長就任後、専門委員として初の出席となった同日の小委員会会合では、国内における原子力発電所の新規建設の重要性をあらためて述べた上で、それに向けて、「資金調達・回収」と「革新炉の規制基準」の面で課題を指摘している。これに関して、記者から、将来の革新炉における規制整備に向け、産業界からの「仕掛け」を図る必要性について問われたのに対し、増井理事長は、原子力規制委員会の意見交換会(事業者の原子力担当によるCNO会議)で、原子力エネルギー協議会(ATENA)との議論が始まっていることを説明。実際、CNO会議では、3月の会合を皮切りに、ATENAが説明を行っており、最近の9月12日の会合では、三菱重工業が開発に取り組む革新軽水炉「SRZ-1200」を例に、「規制の予見性が十分でないと考える事項」に関し論点が提示されるなど、進展がみられている。また、増井理事長は、9月16~20日に開催されたIAEA通常総会に出席したことを説明。ラファエル・マリアーノ・グロッシー事務局長、日本政府代表の原子力委員会・上坂充委員長らのスピーチについて紹介したほか、会期中に行われた「日本の最先端の原子力技術」をテーマとする日本ブースの展示に660名が来場し「盛況であった」と評価した。さらに、増井理事長は、IAEA総会に続いて出席したOECD/NEAよる第2回「新しい原子力へのロードマップ」会議における産業界共同声明の発表を紹介。その中で産業界として政府に行動を求めた8つの分野に関し、「資金調達、サプライチェーン、人材育成、規制、などが幅広くカバーされているという印象を持った」との所感を述べた。
30 Sep 2024
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総合資源エネルギー調査会の基本政策分科会(分科会長=隅修三・東京海上日動火災保険相談役)は9月26日の会合で、「日本若者協議会」など、6団体からのヒアリングを行った。〈配布資料は こちら〉同調査会は、次期エネルギー基本計画策定に向け、5月より検討を開始。これまでに委員からは、次世代を担う若手との議論を求める声も寄せられていた。今回、その9回目となる会合に際し、資源エネルギー庁の村瀬佳史長官は、「様々な観点から議論を深めていきたい」と、広範なステークホルダーによる意見の聴取をいとわない姿勢を強調。オンライン参加の団体もあり、非常に限られた時間枠でプレゼン・質疑が行われた。2015年に若者有志で発足し、気候変動・エネルギー分野の公開勉強会や政府関係者との意見交換を行っている「日本若者協議会」の冨永徹平氏は、「その時々の若者が、社会に信頼感を持って働きかけを行い、それを柔軟に政治が受け入れる姿勢をつくっていきたい」と、継続的に次世代層の意見を取り込んでいく必要性を強調。また、高校生から大学院生までのメンバーで構成され、例年COPの日本パビリオンにも登壇している「Climate Youth Japan」の加藤弘人氏らは、経済的観点や環境影響などから原子力発電の将来性に疑問を呈し、エネルギー政策の基本原則「S+3E」に長期的視点を加えた「SLEEE視点」を提唱した。また、1934年結成の日本最古とされる日米協力の学生団体「日米学生会議」代表の富澤新太郎氏らは、環境経済やエネルギー安全保障の分野における交流について紹介。日米間相互の合宿研修などを通じて得られた視点として、「わが国は、資源小国だがエネルギー大国として存在することは可能だ」と強調。次期エネルギー基本計画の検討に向けて、「エネルギー産業を成長産業として戦略的に育成」、「複数シナリオを用意して柔軟に目標を設定」と提言した。さらに、原子力発電に関しては、「マクロ的な再拡大期を迎えている」との認識を示す一方、「福島第一原子力発電所事故を受けた『原発は是か非か』という二項対立のムードが払拭されておらず、未だに内向きだ」と懸念。大学における原子力人材育成の課題にも言及した上、産学官の強力な連携を通じ「日の丸原子力産業」を成長させる必要性を訴えた。この他、米国にも拠点を持つ核融合エネルギーのベンチャー「EX-Fusion」はレーザー核融合の開発ロードマップについて紹介。早期の発電実証に向け、規制を整備する必要性を述べるとともに、開発の過程で得られる要素技術が材料加工、宇宙探査、海水淡水化など、他分野に波及する可能性を強調。「日本気候リーダーズ・パートナーシップ」は、再生可能エネルギーの電源構成比率に関し、現行エネルギー基本計画の36~38%を、洋上風力・太陽光発電の大幅な増加で「2035年に60%到達は可能」と提言。大阪ガス発のベンチャー「SPACE COOL」は、光学フィルムを用いた放射冷却技術などを紹介し、「即効性の高い省エネ」に投資する必要性を訴えた。ヒアリングを受け、隅分科会長は、「徹底的に省エネを進めていかなければならないし、再エネをさらに拡大していくのもその通りだが、どこまでコスト合理的に増やせるのか。また、原子力を含む脱炭素電源をどこまで長期的に増やしていけるのか。今後、『現実解』を追及していきたい」と、さらに分析を深めていく方向性を示した。
27 Sep 2024
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福島第一原子力発電所のALPS処理水海洋放出開始に伴い、現在も続く中国による日本産水産物の輸入規制が緩和される方向で動き出した。岸田文雄首相は9月20日、IAEAのラファエル・マリアーノ・グロッシー事務局長と電話会談。会談後、記者会見を行った岸田首相は、「IAEAの現行のモニタリングが拡充され、その中で、中国を含む3か国の専門家による採水等のサンプリングや、分析機関間の比較が実施されることで一致した」と説明。加えて、これまでの日中政府間における事務レベルの協議に関して言及し、「中国側は、日本産水産物の輸入規制措置の調整に着手し、基準に合致した日本産水産物の輸入が着実に回復されることとなった」と述べた。今後の具体的道筋については明らかされていないが、駐日中国大使館に対するこれまでの度重なる説明や情報発信に加え、今回の追加的なモニタリング実施計画も踏まえ、両国間が共通認識に至ったものとしている。福島第一原子力発電所事故後、諸外国・地域で設定された輸入規制は49の国・地域(EUは一つとしてカウント)で既に撤廃。その一方で、ロシア、中国、香港、マカオ、韓国、台湾では、検査証明書の要求も含め、輸入規制が継続している。岸田首相は、会見の中で、日本産食品などに係る科学的根拠に基づかない輸入規制の「即時撤廃」を求めていく姿勢をあらためて強調。今回の中国側による動きに関して、「追加的なモニタリングの実施を踏まえ、当然、日本産水産物の輸入が着実に回復されるもの」と、期待を寄せた。ALPS処理水の海洋放出は、2023年8月に開始し、約1年が経過。IAEAは、日本政府との間で署名された「ALPS処理水の取扱いの安全面のレビューに関する付託事項」(2021年7月)に基づき、海洋放出開始以前から、これまで安全性レビューミッションを日本に派遣してきた。2024年4月には、海洋放出開始後、2回目となるミッションとして、IAEA職員の他、国際専門家9名(アルゼンチン、英国、オーストラリア、韓国、中国、フランス、ベトナム、米国、ロシア)で構成するタスクフォースが訪日。その結果、「関連する国際安全基準の要求事項と合致しないいかなる点も確認されなかった」とする報告書を公表している。坂本哲志農林水産相は9月24日の閣議後記者会見で、まず北陸・東北地方の大雨被害に万全の対応を図ることをあげた上、同25~30日にイタリア・シラクーザで開催されるG7農業相会合への出席について言及。世界の食料安全保障の確保を参加国に対し呼びかける姿勢を示すとともに、日本産食品の輸出先多角化に向け、「日系のみならず現地系スーパーやレストラン、新興国、地方都市等の新たな市場開拓が重要」と強調した。坂本農水相は8月にも、香港で開催されたアジア最大級の食の見本市「Food Expo PRO 2024」を訪れ、日本産食品の輸出拡大に向けてトップセールスに臨んでいる。
24 Sep 2024
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原子力規制委員会委員の任期満了に伴う交替として、カナダ・マクマスター大学教授の長﨑晋也氏、名古屋大学名誉教授の山岡耕春氏が9月19日付で就任した。任期は5年間。同日、行われた同委臨時会議で、山中伸介委員長の不在時などの際、その職務を代行する委員長代理として、伴信彦委員が指名された。新任委員の審査会合などにおける担務は、長﨑委員が核燃料施設・研究炉、バックエンド関係、福島第一原子力発電所廃炉他、山岡委員が自然ハザード(地震・津波など)関係と、それぞれ退任する田中知委員、石渡明委員を引き継ぐ。新体制のスタートに際し、山中委員長は、原子力規制委員会の組織理念の筆頭に掲げられる「独立した意思決定」の重要性をあらためて強調。その上で、委員らに対し「議事については、是非積極的・活発に発言して欲しい」、「重要な案件を取り扱う場合は、必要に応じ委員全員に賛否・意見を問うので、それぞれの見解を明確に示してもらいたい」と求めた。同委では、5か年の中期目標を策定してきており、現行の「第2期中期目標」は年度内にその対象期間を終了する。山中委員長は、次期中期目標の検討に向け、2025年2月頃の策定を目指し、議論を本格化させる考えを示した。臨時会議終了後、就任会見に臨んだ長﨑委員は「これまで培ってきた経験と知識を常にアップデートしながら、法と科学と技術のエビデンスに基づき、職務を全うしていきたい」と、山岡委員は「科学においては『正直である』、自然に対しては『誠実に向き合う』ことを信条に据え、原子力の規制に精一杯取り組んでいきたい」と、それぞれ科学的・技術的見地に立脚して責務を果たす姿勢を強調。長﨑委員は、東京大学大学院新領域創成科学研究科助教授、同院工学系研究科教授を経て、12年間にわたりカナダに在住した経験を持つ。北米の原子力規制行政との違いや改善点に関して問われたのに対し、「カナダ原子力安全委員会(CNSC)、米国原子力規制委員会(NRC)とも比較して、規制のプロセス・内容についてはまったく遜色ない」との見方を示した。同委員は、上杉鷹山の名言「なせば成る なさねば成らぬ何事も 成らぬは人のなさぬなりけり」を座右の銘としているという。原子力規制委員会には、現状に慢心せず「海外の規制機関を引っ張っていくくらいの組織を目指していくべきだ」と、熱く抱負を語った。山岡委員は、臨時会議で「地球の内部、地下のことは目に見えない。大変な問題を扱うことになる。慎重に何よりも科学的であることを大事にしていきたい」と発言。会見の場でも、昨今の能登半島地震発生、南海トラフ地震臨時情報などに鑑み、「地震に関する知見は日々新しくなるので、立ち止まらずに考えていきたい」と、予断を持たずに審査に当たる姿勢を示した。また、2023年に発生したトルコ・シリア地震を例に、「最近は良質なデータが得られるようになった」として、海外の知見を積極的に取り入れるとともに、現地を実際に見ることの重要性を強調。新規制基準適合性審査が進行中の北海道電力泊発電所にも近く視察に訪れる見通しだ。同委員は、趣味について問われたのに対し、「最近は植物観察にはまっている」と答えた。なお、退任する田中委員、石渡委員は、それぞれ2期10年にわたり委員を務めた。18日に記者会見に臨んだ石渡委員は「色々な新しい分野の勉強の期間でもあった」と振り返り、また、田中委員は「今後どういうふうにして、地層処分関係のルールをつくっていくのか、まだこれからスタートのところだ」と、今後の原子力規制における課題に言及した。
20 Sep 2024
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福島第一原子力発電所事故に伴う除去土壌の再生利用、減容化技術、最終処分について検討する環境省の3ワーキンググループ・チームは9月17日、合同会合を行い、環境再生の取組について審議した。〈配布資料は こちら〉今回の合同会合に先立ち10日、環境省は、IAEAより除去土壌の再生利用などに関し専門家会合が取りまとめた最終報告書を受領。同報告書は、技術的・社会的観点から日本の取組に対し助言を行うもので、「これまで環境省が実施してきた取組や活動はIAEAの安全基準に合致している」と、評価している。福島県内で発生した除去土壌については、中間貯蔵施設(大熊町・双葉町)に一時保管中。中間貯蔵後30年以内(2045年3月まで)に県外で最終処分を完了するため、必要な措置を講ずることが放射性物質汚染対処特別措置法で規定されている。福島県外の除去土壌についても、現在、仮置場などに保管されており、県内外で発生する除去土壌の処理を安全に進めるため、今回の合同会合では、再生利用の基準案が示された。周辺住民や工事作業者の「年間追加被ばく線量が1mSv/年を超えない」よう、再生資材化した除去土壌を行うとしている。福島県内で発生する除去土壌の保管量は約1,300万㎥(東京ドームの約11杯分に相当)。県外最終処分量を低減するため、環境省では、福島県出身のタレントで「福島環境・未来アンバサダー」を務めるなすびさんを起用した特設サイトや、国内各地での「対話フォーラム」などを通じ、除去土壌の再生利用に向け理解活動に努めている。既に、技術開発公募を通じ、実証事業も行われており、例えば、福島県飯舘村の長泥地区では、農業利用として、直接、食に供さない花きの試験栽培(再生資材で盛土した上に覆土することで農用地を造成)が行われている。今回、示された再生利用の基準案は、こうした実証事業で得られた知見を踏まえたものだ。なお、これまでも福島第一原子力発電所事故後の風評などをめぐり、多くの意見を述べてきた三菱総合研究所はこのほど、中間貯蔵施設に一時貯蔵される除去土壌に関し、「2024年度は最終処分の具体化への重要な目標年」との認識に立ち、提言を発表。社会的合意形成に向け、最低限必要な事項として、「最終処分に向けた取組の全体像を示すこと」、「物量・安全性などを定量的に示すこと」、「意思決定のプロセスを示すこと」をあげ、対応のあり方を考察している。
19 Sep 2024
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8月14日に岸田文雄首相が退陣を表明した。次期政権については、あくまで国会による首班指名後となるが、9月27日に投開票が行われる予定の自由民主党総裁選挙に注目が集まっている。14日には、日本記者クラブ主催で、その立候補者9名による討論会が行われた。冒頭、各候補者はそれぞれ、高市早苗氏「経済成長」、小林鷹之氏「世界をリードする国へ」、林芳正氏「実感できる経済再生」、小泉進次郎氏「政治改革」、上川陽子氏「誰一人取り残さない日本の新しい景色」、加藤勝信氏「国民の所得倍増」、河野太郎氏「改革の実績 熱さと速さ」、石破茂氏「全ての人に安心と安全を」、茂木敏充氏「『増税ゼロ』の政策推進」と、自身のマインドをフリップに書いて主張。続けて候補者同士の討論が行われた。2021~22年に内閣府科学技術政策担当相を務めた小林氏は原子力・エネルギー政策に関連し、「今後、電力需要は激的に増加していく。経済成長を続けるためには安価で安定した電力供給が不可欠。バランスの取れた電源構成が必要で、特に再生可能エネルギーに偏り過ぎる現行のエネルギー基本計画を年内にも変えるべき」と発言。その上で、「安全性が確認された原発の再稼働、リプレース・新増設に取り組んでいくべき。再稼働が進んでいるか否かで電気料金に東西で格差が生じている」として、石破氏に考えを問うた。これに対し、石破氏は「3・11の教訓は決して忘れてはいけない。本当に原子力発電は安全を最大限にしなければいけない」と、福島第一原子力発電所事故の経験を肝に銘ずることの重要性を強調。日本が有する地熱発電のポテンシャルにも言及する一方で、「AI社会は確かに電力を食う。しかし新しい半導体工場は従来の半分の電力でやっていける。省エネも最大限に導入し、結果として原発のウェイトを下げることになっていく」との見方を示した。同氏は、党幹事長の頃、国会の首相演説に対する代表質問の際、議場内の照明・空調を指し「今電力が供給されているのは、現場の厳しい努力によるものだ」と、エネルギーセキュリティに対する危機感を示したことがある。さらに、現在、官房長官を務める林氏が能登半島地震を振り返り、自然災害発生時の指揮系統の有効性を尋ねたのに対し、石破氏は、内閣府(防災担当)の予算規模・人員の現状に鑑み、「事前の予知や発災時の対応はもう『不可能』」との認識を示し、内閣府の外局として「防災庁」を新設する考えを述べた。また、小泉氏は、2025年のカナダ・カナナスキスG7サミットを展望し、「カナダのジャスティン・トルドー首相は就任時43歳で、私も今43歳。同年齢のトップ同志が新たな未来志向の外交を切り拓き、新時代の扉を開いていくG7としたい」と主張。現外務相の上川氏は、2023年のG7広島サミットを振り返り「世界中に被爆国として平和のメッセージを力強く発信した。これをしっかりと受け止めながら国連安保理理事会やG7で『平和』を念頭に置くとともに、その中に女性の目線を入れるということを訴えてきた」とのスタンスを強調した。現在、党幹事長を務める茂木氏は政治とカネの問題に関し「二度と同じ問題を起こさない」との姿勢を繰り返し強調。加藤氏は厚生労働相の経験から、働き方改革や次年度政府予算110兆円の規模感に言及。内閣府経済安全保障相を務める高市氏は、「すべてにおいて数値目標を明らかにするのは現時点で非常に難しい。今なぜ物価が上がっているのか。エネルギー、食料とか。自然に需要が増えることができたら、供給サイドも生産性があがり、購買力もあがるという好循環につながるのでは」などと述べたまた、デジタル担当相の河野氏は、「脱原発」の姿勢について問われたのに対し、「電力需要は右肩上がり、2050年には1兆4000億kWhの需要が予測される」との見通しから、データセンターの海外移転に伴う国力衰退も懸念し、「現実的視点」として、再生可能エネルギーの限界、原子力発電の必要性を示唆した。
17 Sep 2024
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東京電力は9月12日、福島第一原子力発電所2号機で行われている燃料デブリ試験的取り出し作業の動画を公開した。初の燃料デブリ取り出しを実施する2号機では、本格作業に向けてロボットアームの導入が計画されているが、今回、テレスコ式装置(短く収納されている釣り竿を伸ばすイメージ)を、原子炉格納容器(PCV)にアクセスする貫通孔の一つ「X-6ペネ」から挿入。少量の試料サンプリングを実施し、その分析結果を踏まえ、今後の取り出し量拡大につなげていく方針。同装置は、押し込みパイプ、ガイドパイプ外筒、ガイドパイプ内筒を介し、先端治具をワカサギ釣りのイメージでPCV内部に吊り降ろす。先端治具では約3gの試料を採取。各パイプを挿入の逆手順で引き抜き、運搬用ボックスに収納するという手順だ。8月22日より開始された作業で、押し込みパイプ(1.5m×5本)の接続準備中、現場の最終チェックにおいて、その1本目が計画していた順番と異なることが確認されたため、作業が中断。押し込みパイプの復旧作業および現場確認が完了したことから、9月10日より作業が再開した。今回、公開された動画は、テレスコ式装置のアーム箇所に設置された先端治具監視カメラ、アーム先端部カメラ、アームテレスコ下部カメラ、アームチルト部カメラの4か所の映像。東京電力として、試験的取り出し作業の着手とみなす「同装置の先端治具が隔離弁を通過する」状況(9月10日午前7時20分)を写している。同社の広報担当者は、9月12日の定例記者会見で、映像を示しながら、同日の状況として、「ガイドパイプは約170cm挿入(PCVへは約90cm程)され、『X-6ペネ』内でトラブルなく作業が進んでいる」と説明。翌13日の見通しとして「テレスコ式装置は水平で最大に伸びた状態になる」と述べた。今後の作業に向け、「発生し得る事案を想定し、それに応じた予防対策・対応方針を検討する」とした上、「引き続き安全最優先で緊張感を持って取り組んでいく」と強調。総勢60~70名(協力会社含め)の体制で当たっている状況下、週明け以降の作業予定について質問されたのに対し、「一歩一歩進捗した段階で見通しを示す」と、予断を持たずに対応していく姿勢を示した。東京電力では8月19日より、ホームページ内に「燃料デブリポータルサイト」を開設し、福島第一1~3号機の燃料デブリに関するわかりやすい情報発信に努めている。
13 Sep 2024
2015
9月6日より3日間、学生団体「宇宙開発フォーラム実行委員会」(SDF)が主催する「宇宙開発フォーラム2024」が日本科学未来館(東京都江東区)で開催された。7日に開催されたパネルセッションでは、石井敬之氏(原子力産業新聞・編集長)ら4名のパネリストが登壇し、「宇宙開発と市民理解(宇宙における原子力利用を例に)」について議論を交わした。同フォーラムは、宇宙開発の現状や今後の展望について、業界内外に広く発信することを目的としており、今年で22回目の開催。原子力利用をテーマとして取り上げるのは今回が初めての試みだったという。議論に先立ち、セッションの企画者であり、モデレーターを務めるSDFの山口雪乃氏(国際基督教大学2年)が、企画の趣旨を説明。「原子力」や「核エネルギー」という言葉に抱くネガティブな印象から、宇宙での原子力利用にも反射的に拒否感を示す人々がいる現状を紹介し、新しい技術への市民理解を促すためにはどのような伝え方ができるか、と問題提起した。宇宙原子力の開発は、1977年に宇宙探査機ボイジャー1号に原子力電池が搭載されるなど、米国で先行して取り組まれてきた。日本でもようやく、今年4月に発表された文部科学省による宇宙戦略基金事業に原子力電池の要素技術の開発が組み込まれたが、高木直行氏(東京都市大学理工学部・教授)は、同事業で「原子力電池」が「半永久電源システム」と称されていることを指摘。国の事業においても、「原子力」という言葉の使用が避けられている現状を強調した。石井氏は「現代の宇宙エンジニアたちと同じく、かつての原子力エンジニアたちも未来に夢を描いていた」とした上で、今後の宇宙開発においても、社会から理解を得られなくなる事態になることが十分予想できると指摘。放射線照射によって誕生した「あきたこまちR」への風評被害や、食品添加物に対する誤解を例に挙げ、科学面でのリテラシー不足こそが、新しい科学技術への市民理解を得る上で最大の課題だと懸念を示した。また同氏は、ゼロリスクの追求が社会を歪めているとの見解を示し、「安全ならば安心する、という正しい感覚を持つべきであり、『安全だけど安心じゃない』が通用する社会を許してはいけない」と、強く訴えた。「未知、または未来の技術への市民理解を促進する上で必要なことは何か」との問いに石井氏は、業界の垣根を越えて「科学リテラシー全体の底上げ」に取り組むことであると主張。ニーメラーの警句を引用し、「『世間が宇宙業界を叩いた時、宇宙業界のために声を上げるものは一人もいなかった』とならないよう、日頃からアンテナを高く伸ばし、宇宙分野以外にも広く意識を向けて、積極的に発言してほしい」と学生たちに呼びかけた。
12 Sep 2024
1433
新潟県の花角英世知事は9月11日の定例記者会見で、柏崎刈羽原子力発電所の再稼働に関し、「県民の気持ちがどう固まるのかを見極める」段階にあると、慎重な姿勢を示した。東京電力では、同7号機について、燃料装荷完了後、6月までに全体的な健全性確認を実施し、「原子炉の起動に必要な主要設備の機能が十分に発揮できること」を確認。県では、7月15日~8月10日、県内各地で説明会を開催し、内閣府(原子力防災)、資源エネルギー庁、原子力規制委員会と県民との質疑応答の場を設けた。柏崎刈羽原子力発電所の再稼働に係る地元判断に関しては、花角知事が議論の前提としていた「福島第一原子力発電所事故に関する3つの検証」(事故原因、事故による健康と生活への影響、原子力災害時の安全な避難方法)について、昨秋に総括報告書がまとまったほか、県と県内市町村長との話合いも実施されている状況だ。一方、政府では9月6日、岸田文雄首相出席のもと、原子力関係閣僚会議が行われた。去る8月27日の「GX実行会議」でも示された通り、岸田首相は、「東日本の電力供給構造の脆弱性、電気料金の東西の格差、今後の産業競争力や経済成長を左右する脱炭素電源確保などの観点」を踏まえ、柏崎刈羽原子力発電所の再稼働の重要性をあらためて強調。今回、「避難対策を中心とする具体的対応の方針」を確認した上で、関係閣僚に対し、事業者に対する指導・監督、地元の地理や気候を踏まえた避難路の整備など、避難対策の実効性向上を図るよう指示した。同方針では、県民説明会などで寄せられた地元からの要望も整理。除排雪体制の強化、能登半島地震を踏まえた屋内退避運用の見直しの他、首都圏の理解促進や経済的なメリットを感じる取組を求める声もあがっている。これに関し、花角知事は11日の会見で、「政府が前面に立って地元の理解を得ていくという表れ」と、一定の評価を示す一方で、「入口に入っただけ、方針を示しただけであって、これから検討するということ。検討が進む中で県の要望に沿った結論となることを見極めたい」とも述べた。「避難対策を中心とする具体的対応の方針」では、避難路の整備に向け、新たに、経済産業省、内閣府(原子力防災)、国土交通省による「協議の枠組み」を立ち上げることが盛り込まれている。大地震に伴う複合災害も懸念される中、土砂災害対策、橋梁の耐震強化なども課題だ。花角知事は、各取組のスケジュール感については明示しなかったが、県もメンバーの一員として検討を進めていく考えを述べた。なお、柏崎刈羽原子力発電所の他号機に関しては、9月2日に6号機の設計・工事計画の認可が原子力規制委員会により発出されている。
11 Sep 2024
5156
日立グループが顧客・パートナーとの協創に向け、きっかけ作りの場として継続的に行うイベント「Hitachi Social Innovation Forum 2024 JAPAN」が9月4~5日、東京国際フォーラム(東京都千代田区)で開催された。今回は、2025年の「大阪・関西万博」を見据え、展示「未来の都市」パビリオンの見どころを紹介する特別セッションも設定。同セッションに招かれた乃木坂46元メンバーの山崎怜奈さんは、1970年万博が開催された高度成長期を「自身の親が生まれた頃」と振り返った上で、将来に向け「もう今までの価値観や過去の成功経験を背負っていくのは難しいのでは」と指摘。この他、日立グループが気概を持つ人材の多様性に関連したセッションでは、原子力、鉄道などの技術者らが意見を交わし合い、分野を超えて「自らのキャリアや仕事に向き合う価値観などについて本音で語り合う」好機となった。5日の「原子力発電を取り巻く現況と日立の取組」と題するセッションでは、フリーアナウンサーの松井康真氏(モデレーター)、サイエンス作家の竹内薫氏、早稲田大学研究院教授の遠藤典子氏、日立製作所執行常務原子力ビジネスユニットCEOの稲田康徳氏が登壇。現在、政府ではエネルギー基本計画改定に向けた議論を進めているが、総合資源エネルギー調査会に参画する遠藤氏は、AI・データセンターの増加に伴い、将来の電力消費量が「4年で2倍」のペースで急増する見通しを図示。「脱炭素電源としての原子力の重要性」について、2050年までの原子力発電設備容量の見通しから、「運転期間を60年に延長しても必要な原子力比率を達成できない」と、既存炉で対応できる限界を強調。今後、民間企業が新増設に取り組む上で、事業環境整備を図る必要性を説いた。稲田氏は、日立の原子力事業について紹介。同社が標榜するデジタル技術「Lumada」を通じ、原子力技術の生産性向上に努めていく姿勢を示した。国内における福島第一原子力発電所の廃炉や、既存炉の再稼働に加え、展示スペースで模型による説明も行われた小型軽水炉「BWRX-300」の技術開発については、カナダOPG社・ダーリントンサイトの建設工事を映像で紹介。さらに、日立グループのAI技術を駆使した作業効率改善のバーチャルシステム「現場拡張メタバース」を通じ、技術伝承や人材育成にも努めていることを強調した。松井氏は、福島第一原子力発電所事故後、12年間にわたり原子力関連の取材活動を行ってきた経験から、今回のセッション進行役を快諾したという。同氏は、「原子力発電をもう一度見直す状況にきている」との現状認識を示す一方、最近、中央紙が実施した世論調査結果を図示し、今後の原子力利用について「わからない」という回答が大半を占めていることから、「サイレントマジョリティが正しい情報を持っていないのでは」と危惧した。これに関連し、竹内氏は、「原子力発電に対する科学的理解」をめぐり問題提起。メディア出演の経験を踏まえ、同氏は、テレビ番組の制作現場に理系の人材が少なく、「定量的な議論ができない。感情論が入ってしまう」などと憂慮した上で、科学技術とマスコミをめぐる問題について、ゼロリスクを求める(完全な安全にして欲しい)感情論に基づいて報道してしまう誤った報道を検証しない――と整理した。さらに、近年の「若者のテレビ離れ」から、You Tube配信などの活用にも言及するとともに、原子力発電に対する忌避に関し、「仕組み・原理を知らないとどうしても危険と感じてしまう」と述べ、今後も出版や学校への出前授業などを通じ、理解醸成に努めていく考えを示した。
10 Sep 2024
1672
エネルギー基本計画の改定に向けた議論が進む中、エネルギー・産業団体からの意見も集まっている。総合資源エネルギー調査会の基本政策分科会(分科会=隅修三・東京海上日動火災保険相談役)は8月30日の会合で、電気事業連合会、日本ガス協会、石油連盟、全国石油商業組合連合会(全石連)、再生可能エネルギー長期安定電源推進協会の5団体より意見を聴取。〈配布資料は こちら〉8月2日の前回会合では、日本経済団体連合会、経済同友会、日本商工会議所、日本労働組合連合会、全国消費者団体連合会より、意見聴取を実施した。30日の会合の冒頭、折しも台風10号接近に伴う被害が危ぶまれる中、齋藤健経済産業相は、「送配電事業者においては、全国で約3万人の復旧要員を備えるなど、夜間も含め迅速な復旧作業に対応する体制を構築している」と謝意を表明した上で、あらためて「エネルギー政策が日本の国力を左右する」ことを強調した。意見聴取の中で、電事連の林欣吾会長は、エネルギー基本計画の見直しに向けた重要論点として、将来の不確実性を見据えたシナリオ検討安定供給とエネルギー安全保障の重要性の明確化再生可能エネルギーの推進原子力発電の活用の明確化火力発電の維持・確保、脱炭素化の推進電化の推進GX実現に向けた環境整備――を提示。その中で、原子力発電については、「既設炉の最大限活用」、2050年以降に向けて「次世代革新炉の開発・建設」が必要不可欠なことを強調。民間として取り組んでいく上での課題として、「エネルギー基本計画における原子力の位置付けの不十分さ」、「原子力事業における投資・コスト回収予見性の不十分さ」、「バックエンド事業(再処理・最終処分等)における不確実性」、「原子力損害賠償における無過失・無限責任」をあげた。また、火力発電については、「安定供給のための供給力は調整力確保のために欠かせない電源」との位置付けをあらためて強調した上で、2050年を見据えた脱炭素火力転換への方向性を図示。GX実現に向けた産業界からの関心などを踏まえ、「2050年はすぐ先の未来。残された時間は極めて少ない」と、エネルギー政策に係る危機感をあらわにした。化石燃料の関連で、日本ガス協会の内田高史会長は、CO2を再利用し水素と合成することで生成する「e-methane」構想を紹介。石油連盟の木藤俊一会長は、石油供給の意義に関し、東日本大震災や能登半島地震など、災害発生時における救急・復旧・復興を振り返り、「緊急時の『最後の砦』としての役割」を強調。全石連の出光泰典副会長は、カーボンニュートラルや脱炭素の流れの中、「石油が悪者」というイメージから、人材確保にも影響を及ぼしている状況などを懸念するとともに、特にサービス・ステーション(SS)運営に関し、適切な規制対応がなされるよう求めた。石油に依存する離島へのガソリン輸送は、危険物取扱いに係る規制に伴い、輸送コストが割高となっている。この他、日本電機工業会、日本機械学会(動力エネルギーシステム部門)もこれまでに、提言を発表しており、それぞれ「原子力発電の再稼働加速と次世代革新炉の開発・建設」、「原子力発電の出力調整機能」を図るよう、意見を述べている。〈電工会発表資料は こちら、機械学会発表資料は こちら〉資源エネルギー庁では引き続き、「エネルギー政策に関する『意見箱』」で、エネルギー基本計画の見直しに関する意見・提案を求めている。
06 Sep 2024
1605
原子力規制委員会は、9月4日の定例会合で、日本原子力研究開発機構の高速実験炉「常陽」(茨城県大洗町、ナトリウム冷却型、熱出力100MW)における医療用ラジオアイソトープ(RI)の生産について、原子炉等規制法に照らし「適合している」とする「審査書案」を了承した。「常陽」は、2007年5月の定期検査入り以降、運転を停止中。2011年3月の東日本大震災を挟み、2023年7月に新規制基準適合性審査に係る原子炉設置変更許可に至っている。その後、原子力機構は2024年2月、RI生産用実験装置を追加する原子炉設置変更許可を申請。審査では、新規制基準許可以降に公表された火山に関する知見の反映を評価したほか、ほとんどの項目について、既許可申請書から変更する必要がないことを確認した。「審査書案」については、パブリックコメントを行わないことが委員間で了承され、今後、原子力委員会および文部科学相への意見照会を経て、正式決定となる運び。原子力機構では、「常陽」を活用し、次世代革新炉開発に向けた照射試験とともに、がん治療への高い効果が期待される医療用RIの製造能力の実証を行う計画。原子力委員会が2022年に策定した「医療用等RI製造・利用推進アクションプラン」では、医療用RIの一つであるアクチニウム225大量製造の研究開発強化を図るため、「常陽」を活用し2026年度までの製造実証を目指すとされている。核医学を中心としたRI関連分野を「わが国の強み」とするねらいだ。アクチニウム225を用いた治療は、病巣の内部からアルファ線を当てるもので、治療効果が高いほか、遮蔽が不要なため病室への入退室制限を緩和できるメリットもある一方、短寿命(半減期10日)でもあり、世界的に供給不足となっている。「常陽」の運転再開は、新規制基準対応工事を経て2026年度半ばの予定。
05 Sep 2024
1657
日本原子力学会は9月3日、地層処分における重要な用語の解説やコミュニケーション上の配慮事項などを取りまとめた成果物「語彙基盤(地層処分の言葉)」を公表した。地層処分事業を推進する原子力発電環境整備機構(NUMO)の依頼により、同学会の特別専門委員会が2021年より検討を進めてきたもの。今回の成果物公表に際し、同専門委員会では、地層処分に係る専門用語に関して、「長年の議論や検討を経て形成された独特の意図や含意がしばしばある」、「専門家同士でも議論のすれ違いや誤解が生じている」との認識から、コミュニケーションを進める上で、困難の一因となっていることを指摘。特に、様々なステークホルダーとの相互理解のカギとなる用語として、「閉じ込めと隔離」、「地質環境」、「セーフティケース」、「安全評価」の4つを取り上げ解説。さらに、実際のコミュニケーションにおける活用に向け、心理学や情報科学の立場からも考察を深めた付属資料「語彙基盤(地層処分の言葉)安全コミュニケーションの提案」を示している。付属資料では、まず、コンテキスト(ある事物や情報を理解するため、必要な状況や環境の枠組み)の重要性に着目。特に、コミュニケーションが取りづらく、かつ間違いの許されない医療現場ではなおさらであろう。同資料の整備に当たっては、国立国語研究所による報告書「病院の言葉をわかりやすく-工夫の提案」を参考とした。同報告書では、「病院の言葉」のわかりにくさの原因を、「患者に言葉が知られていない」、「患者の理解が不確か」、「患者に理解を妨げる心理的負担がある」に整理し、日常語での言い換え、混同を避ける言い方、表現の工夫などを提案している。同専門委員会では、これらに関して、「地層処分の用語についても同様に重要」と認識。資料作成に向けて、地層処分は他分野の専門家との認識の間にも「ギャップ」が存在することを「検討の出発点」とした。特に「ギャップ」が生じている重要な用語として、「閉じ込めと隔離」、「地質環境」、「セーフティケース」、「安全評価」の4つを抽出した上で、その「ギャップ」の解消を念頭に、段階を追って解説している。その中で、コンテキストの重要性に関して、地層処分で用いられる「隔離」では、「日常の経験とは異なる時間枠、空間枠の下で安全を確保してそれを確かめる」というコンテキストに配慮し、「他の廃棄物に対する従来の処分方法をそのまま踏襲したものではない」ことを注意すべきと指摘。総じて、「分野や立場を越えた共通理解を形成する上で、地層処分分野におけるコンテキストを明示的かつ丁寧に説明していく」よう提言している。
04 Sep 2024
1417
2025年度の政府概算要求が8月末までに出そろった。経済産業省は、合計で対前年度比23.7%増の2兆3,596億円を要求。先立ち、8月1日に行われた産業構造審議会総会では、2025年度の経済産業政策における重点として、「一人ひとりが豊かに生活できる2040年頃の日本」の実現が示された。その大方針のもと、今回の概算要求は、国内投資拡大の継続・対日投資の拡大イノベーション・新陳代謝の加速国民の所得向上GXの実現とエネルギー安定供給確保経済安全保障の確保大阪・関西万博経済社会の基盤を支える最重要課題:福島復興・能登半島復興・レジリエンス――の主要施策に大別されている(施策間の重複計上も含む)。〈経産省発表資料は こちら〉GX・脱炭素エネルギーの関連では、同29.1%増の1兆2,487億円を要求。2040年を見据えた国家戦略「GX2040ビジョン」およびエネルギー基本計画の改定に際し、エネルギーの価格上昇リスクや供給途絶リスクに対応し、貿易収支の悪化から脱却するため、GX・省エネ投資の推進に加え、再生可能エネルギー、原子力など、エネルギー自給率向上に資する脱炭素エネルギーの供給を拡大する事業環境整備などを推進していく。その中で、高速炉・高温ガス炉の実証炉開発を図る「次世代革新炉の研究開発支援事業」については、同約1.5倍の829億円を計上。日本原子力研究開発機構や民間企業への技術支援を通じ、概念設計を進めていく。福島復興の関連では、同33.8%増の629億円を計上しており、引き続き、福島第一原子力発電所廃炉の安全かつ着実な実施、ALPS処理水処分の安全性確保と風評対策、日本産食品の輸入規制撤廃への働きかけなどに取り組んでいく。文部科学省は、「原子力分野の研究開発・人材育成に関する取組」として、同25.3%増の1,847億円を要求。年度内に設置許可申請の見込み時期が示される「もんじゅ」サイトを活用した新試験研究炉の開発・整備については、同約2.5倍の15.8億円を、2021年に運転再開した原子力機構の研究炉「JRR-3」の安定的運用・利活用促進については、同36.8%増の20.8億円を計上。次世代革新炉の開発・安全性向上に資する技術基盤整備・強化については、2026年度半ばの運転再開を目指す原子力機構「常陽」の安全対策工事などに向け、同約6倍の218.4億円を計上している。核融合エネルギーの実現に向けた研究開発の関連では、同34.7%増の287億円を計上。ITER計画の推進、原型炉実現に向けた基盤整備などを図っていく。〈文科省発表資料は こちら〉この他、大型放射光施設「SPring-8」の高度化で132億円(新規、2028年度までの総額で約500億円)を要求しており、共用開始から25年以上が経過した同施設のアップグレードとして、約1年間の停止期間を含む4年間で「SPring-8-Ⅱ」の整備を行う。原子力規制委員会は、同25%増の707億円を要求。「最終処分の安全確保に係る規制技術研究事業」、「福島第一原子力発電所事故の事象進展の解明に係る調査事業」として、それぞれ新規に3.2億円、2.9億円を計上したほか、機構・定員要求で、六ヶ所再処理工場の保障措置対応に係る業務増を見込み、長官官房参事官の新設(1名)、および68名の増員を要求している。〈原子力規制委員会発表資料は こちら〉
02 Sep 2024
1671
日本原燃は8月29日、六ヶ所再処理工場、MOX燃料工場の竣工目標を、それぞれ「2026年度中」、「2027年度中」に延期することを発表した。同社はこれまで、六ヶ所再処理工場は「2024年度のできるだけ早期」、MOX燃料工場は「2024年度上期」を竣工時期として、設備工事計画認可の審査、工事、検査に取り組んできたが、23日に、「2024年9月以降も審査への対応が継続する」と判断。原子力規制委員会の審査会合を踏まえ、新たな竣工目標について検討するとしていた。29日、両工場の竣工時期変更について、同社より報告を受けた青森県の宮下宗一郎知事は、度重なる延期から、「新たな工程を示しても信頼できない」と非難。六ヶ所村の戸田衛村長は、「地域の経済対策、地域振興など、関係するすべての対策に万全を期すこと」と要望。日本原燃の増田尚宏社長は同日、臨時記者会見を行い、「知事、村長の言葉をしっかりと受け止め、新たな竣工目標に向けて、全力で取り組んでいく」と述べた。新たな竣工目標の決定を受け、電気事業連合会の林欣吾会長は、コメントを発表し、「ウラン資源の有効活用、廃棄物の減容化・有害度低減等の観点から極めて重要」と、核燃料サイクルの意義をあらためて強調。その上で、「引き続き、安全を最優先に早期竣工と審査・検査の円滑な対応に向け、一層日本原燃をオールジャパン体制で支援していく」としている。六ヶ所再処理工場、MOX燃料工場は、それぞれ1993年、2010年に着工。東日本大震災をはさみ、新規制基準への適合性審査は、いずれも2020年に事業変更許可(原子力発電所の審査でいう、原子炉設置変更許可に相当)に至った。六ヶ所再処理工場の竣工延期は、今回で通算27回目。続く審査対応については、原子力発電所と異なり、前例がなく、対象となる機器が約2万点と、極めて膨大なことなどから、長期化している。原子力規制委員会前委員長の更田豊志氏は、在任中、「非常にチャレンジングな審査だ」と述べていた。30日に行われた総合資源エネルギー調査会の基本政策分科会で、委員として出席した福井県の杉本達治知事は、エネルギー基本計画見直しにおいて、原子力政策の明確化を求める中、六ヶ所再処理工場の竣工延期に関し、「国が講じるべき施策を具体的に示す必要がある」と強調した。福井県内では現在、7基の原子力発電プラントが稼働中だ。
30 Aug 2024
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原子力規制委員会は8月28日の定例会合で、日本原子力発電敦賀発電所2号機(PWR、116万kW)に係る新規制基準適合性審査について、「安全上重要な施設(原子炉建屋等)は、将来活動する可能性のある断層等の露頭がないことを確認した地盤に設置する」との要求事項に適合しないことから、「原子炉設置変更を許可しない」とする「審査書案」を了承した。同案につき今後、パブリックコメントを実施することで一致し、これを踏まえ、正式決定となる運び。〈参考資料は こちら〉2013年に原子力発電所に関する新規制基準が施行されてから、試験研究炉や核燃料サイクル施設も含め、「不合格」との結論に至ったのは初めてのこと。原電は2015年に敦賀2号機の審査を申請。同社による地質調査に係るデータ疑義に伴い、審査が中断した時期があったが、敷地内の「D-1破砕帯」(2号機原子炉建屋直下を通る)の延長近くに存在する「K断層」の活動性および連続性が焦点となり、2023年9月以降、規制委審査チームは、計8回の審査会合、現地調査を実施。2024年7月26日に行われた同委審査会合では、「K断層」について、「後期更新世以降(約12~13万年前以降)の活動が否定できない」、「2号炉原子炉建屋直下を通過する破砕帯との連続性が否定できない」ことが確認結果として示され、今回、「審査書案」としての取りまとめに至った。同日の審査会合後、原電は、「今後も追加調査やデータの拡充に取り組んでいく」として、同機の再稼働に向け取り組んでいく姿勢を示したほか、8月2日の臨時会合では、社外の技術者も加えた専門チームを交えた追加調査内容を説明した上で、引き続き「今後の対応について検討していく」とのコメントを発表している。原子力施設に係る審査において、特に地質・地震動については、断層活動性の見極めが人類史上以前であることなどから、規制基準に照らした判断が難しく、審査期間長期化の一因ともなってきた。今回の敦賀2号機に係る「審査書案」了承に際し、地震・津波審査担当の石渡明委員は「科学的判断の根拠を示した審査書だ」との見方を示す一方、プラント審査担当の杉山智之委員は「『白黒の判断』をつけることが簡単にできる分野ではない」と発言。山中伸介委員長は、定例会終了後の記者会見で、自身の委員就任以前に開始し、8年余に及んだ同機に係る審査期間を振り返り、「非常に大きな判断だった」と繰り返し強調するとともに、審査チームの労力にも言及し「十分に時間をかけて慎重に審査を進めてもらった」と所感を述べた。なお、山中委員長は、今後、見込まれる同機に係る再申請について、「何ら否定するものではない」との姿勢を示している。
29 Aug 2024
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政府の「GX(グリーン・トランスフォーメーション)実行会議」(議長=岸田文雄首相)は8月27日、GX加速に向けた日本におけるエネルギー安定供給の再構築に係る議論の中で、東京電力柏崎刈羽原子力発電所の再稼働に関し、対応策の具体化を図っていくことを了承した。現在、同7号機の再稼働に向けて、新潟県主催の県民説明会が開催されるなど、地元の判断が焦点となっている。「GX実行会議」は、2050年カーボンニュートラルの目標達成に向け、「産業革命以来の化石燃料中心の経済・社会、産業構造をクリーンエネルギー中心に移行させ、経済社会システム全体の変革」を図ることを標榜。必要な施策を検討すべく、2022年7月に始動し、これまで計12回の会合を開催し、関係閣僚他、有識者との意見交換を通じて議論を深化。ロシアによるウクライナ侵攻に起因する石油・ガス市場の混乱など、世界情勢を背景に、2022年8月の第2回会合では、福島第一原子力発電所事故以降の国内におけるエネルギー政策遅滞を課題として、「原子力政策の今後の進め方」を提示。新規制基準に係る原子炉設置変更許可が発出済の7基(関西電力高浜1・2号機、東北電力女川2号機、中国電力島根2号機、東京電力柏崎刈羽6・7号機、日本原子力発電東海第二)の再稼働を加速していく方向性が示された。8月27日の会合で、岸田首相は、近く見込まれる退陣に言及した上で、GX前進に向けて「東日本における原子力発電の再稼働の準備」を残任期間の重要な職務の一つとして強調。東日本における電力需給の実態に関し、「東京湾や太平洋岸に集中する火力発電に7割近くを依存し、災害リスクに脆弱だ」としたほか、「再稼働が進んでいる西日本に比べ、電力料金の東西格差も生まれている」とも懸念。こうした状況を踏まえ、岸田首相は、柏崎刈羽原子力発電所の再稼働に関して、来週にも原子力関係閣僚会議を開催し「対応策の具体化に向けて確認と指示を行う」と述べた。実際、資源エネルギー庁が6月に取りまとめた今夏の電力需給対策によると、東京エリアの火力発電は、運転開始から40年以上を経過した高経年プラントが約1割を占めているほか、東京湾岸に計約3,000万kW相当が集中し、「トラブル停止のリスクが高い」とされている。猛暑に見舞われ冷房使用に伴う電力需要が急増している今夏、東京電力の「でんき予報 最大電力実績カレンダー」によると、7月29日14~15時には、同社管内で5,699万kWの最大電力需要を記録した(当日埼玉県熊谷市では最高気温40.0℃を記録、昨夏の最大電力需要は7月18日14~15時の5,525万kW)。
28 Aug 2024
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福島第一原子力発電所で発生するALPS処理水の海洋放出が開始してから、8月24日で丸1年を迎えた。同日、福島県を訪問した岸田文雄首相は、いわき市小名浜魚市場の視察、県漁業協同組合連合会との意見交換に臨み、地元水産物「常磐もの」の美味しさを絶賛する一方、ALPS処理水の海洋放出を理由とした一部の国による輸入停止の継続に関し、「科学的根拠に基づかず、極めて遺憾なことだ」と、強い懸念を表明した。こうした中、三菱総合研究所は、ALPS処理水の海洋放出に関するコメントを22日に公表。海洋放出開始前後における諸外国・地域の反応を整理した上で、長期にわたる福島第一原子力発電所廃炉作業を見据え、処理水放出について「まだ序盤に過ぎない」との見方を示し、今後、プロセスの定期的見直しと改善を行いながら、風評被害の排除とリスク管理を最後まで続ける重要性を提言している。同コメントは、三菱総研の社会インフラ事業部他が随時、ウェブサイト上で原子力問題の議論を喚起するコラム「カーボンニュートラル時代の原子力」の一環。関係省庁による三陸・常磐産品の販売促進イベント、在京外交団向け説明会、バナー広告や解説動画を通じた発信など、政府主体の継続的取組を評価するとともに、日本原子力文化財団実施の「2023年度原子力に関する世論調査」結果や、2023年度版原子力白書の記載にも言及し、ALPS処理水の安全性について「国民の間に一定程度浸透している」ことを首肯する見方を示した。さらに、福島第一原子力発電所の廃炉完遂に向け、「処理水などを保管する1,000以上のタンク群を減らす」ことの重要性をあらためて強調。これに関し、トリチウム総量が「多いケース」と「少ないケース」のそれぞれについて、2051年度までの放出シミュレーション結果を試算した上で、「地上保管によるリスクを可能な限り低減するためには、ALPS処理水の海洋放出量を拡大する検討も重要」などと指摘している。今回のコメントは、まとめとして、「現在見込まれる約30年間という放出期間に鑑み、この1年は序盤に過ぎない」と、今後も、予断を持たずに対応していく必要性を述べるとともに、技術的観点からの一般論として「30年間もの期間をトラブルゼロで過ごすことは、どんな機器であっても難しい」と強調。その上で、「トラブルを未然に防ぐための対策と、トラブル発生時における迅速かつ適切な対処を徹底すべき」と提言している。
27 Aug 2024
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将来のリーダーシップ発揮が期待される国内外の若手人材を対象とした研修コース「Japan-IAEA 原子力マネジメントスクール(NEMS)2024」が8月20日、開講した。ブラジル、ブルガリア、エストニア、ガーナ、インド、ヨルダン、カザフスタン、マレーシア、フィリピン、ポーランド、サウジアラビア、スロバキア、スロベニア、ベトナムの海外14か国および日本から、32名(うち日本人13名)の研修生が参加。9月6日までの約3週間にわたり、東京大学本郷キャンパスでの座学、テクニカルツアーなどを通じ、原子力に関連する幅広い課題について学ぶ。NEMSは、2010年にイタリアで始まり、今回、日本での開催は12回目。ホスト機関の原子力人材育成ネットワーク、東京大学大学院工学系研究科、日本原子力研究開発機構、日本原子力産業協会、原子力国際協力センターは、2023年までに海外も含めた計52回の開催で「104か国から2,000人以上が参加した」と、NEMSの実績を評価している。今回、開講式で挨拶に立ったNEMS2024実行委員長の出町和之・東京大学大学院工学系研究科准教授は、NEMSのメリットとして、講義やグループワークを通じ、最新の知見が得られることに加えて、研修生同士の親睦形成も強調。日本開催は2020、21年と、新型コロナの影響により延期・オンライン併用となったが、例年、研修期間は暑さの厳しい時期に当たることを踏まえ、今回も健康管理に留意し楽しく学んでもらうよう期待した。IAEAからはヘレナ・ジヴィツカヤ知識管理専門官らが挨拶に立ち研修生らを歓迎。原産協会の増井秀企理事長は、原子力人材育成ネットワーク運営委員会委員長の立場からも、「原子力エネルギー計画を成功裏に進めるための最も重要な要素」と、人材育成の重要性を述べ、研修生らに対し、「皆のコミットメント、積極的な参加姿勢、学ぶ意欲」が求められていると期待を寄せた。今回もテクニカルツアーで、研修生一行は福島第一原子力発電所他を見学するが、これに関し、NEMS前実行委員長で原子力委員会委員長を務める上坂充氏は「大変重要な機会だ」と述べ、実際に現場を自分の目で見て話し合う意義を強調した。
26 Aug 2024
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政府は8月22日、2024年度の「大学発ベンチャー表彰」受賞者を発表した。同表彰制度は、大学・研究機関における研究成果を活用し起業したベンチャーの中から、今後の活躍が期待される優れた取組を称えるもので、2014年度より行われている。今回は、大学発ベンチャー表彰特別賞の一つとして、リンクメッド社による「革新的『見える』がん治療薬の事業化による難治性がん克服への挑戦」が選定された。同社は、量子科学技術研究開発機構(QST)が開発したCu64(放射性銅)による「がんの可視化」を応用し、薬剤から放出される放射線を特定しがんの位置を特定する「診断」とともに、Cu64による「オージェ電子の治療効果」から、「高い効果と低い副作用の治療」の実現に向け、社会実装を進めている。健康長寿社会に対する関心の高まりから、今回は、医療関係の受賞が注目される。例えば、経済産業大臣賞には、ソニア・セラピューティクス社による「膵がんを始めとする難治がんに対する新たな治療モダリティとして次世代型集束超音波治療装置実用化」が、日本ベンチャー学会会長賞には、トレジャムバイオファーマ社による「歯の再生治療薬の開発」が選定。トレジャムバイオファーマ社は、京都大学発のベンチャー企業で、歯の再生治療薬の開発を通じ、先天的な理由で永久歯の一部がない患者の歯の回復とともに、今後は永久歯喪失後も「第3の歯」を再生することで、味覚や美容など、QOLの向上にも寄与する社会実装を目指している。
23 Aug 2024
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