関西電力は2月13日、「使用済燃料対策ロードマップ」の見直しを発表した。核燃料サイクルの推進に向け、使用済み燃料の搬出を「確実に進めていく」としている。同社では、今秋にも50年超運転に入る高浜発電所2号機が2023年10月に営業運転を再開しており、計7基の原子力発電プラントが新規制基準をクリアし稼働中だ。そのうち、高浜発電所3・4号機では、使用済み燃料を再処理して得られるMOX燃料を使った発電(プルサーマル)が行われている。同月、関西電力は、使用済みMOX燃料の再処理実証研究のため、2027~29年度に高浜発電所の使用済み燃料約200トンをフランス・オラノ社に搬出することを含む「使用済燃料対策ロードマップ」を策定した。今回のロードマップ見直しは、関西電力として、六ヶ所再処理工場の早期竣工(2026年度中を目標)に向けて、審査・検査に対応する人材をさらに確保する必要性を第一に掲げた上で、2027年度からの再処理開始、2028年度からの使用済み燃料受入れ開始を目途に、2030年度までに使用済み燃料198トン(100万kW級PWR10年間運転分にほぼ相当)を搬出するとしている。また、使用済みMOX燃料の再処理実証研究に向け、2023年策定のロードマップで「フランスへの積み増しを検討」とされていたが、データの充実化が必要となったことから、さらに200トンの搬出容量枠を確保し、そのうち2030年度より100トンを搬出することとされた。関西電力は2021年2月に、福井県に対し、使用済み燃料の県外への中間貯蔵について、「2023年末までに計画地点を確保できるまでの間、美浜3号機、高浜1・2号機の運転は実施しない」と報告したが、2023年10月策定のロードマップで、使用済みMOX燃料のフランスへの搬出、乾式貯蔵施設の設置など、核燃料サイクルの取組を着実に図っていくこととし、県から容認を受けていた。乾式貯蔵施設に関しては、「発電所からの将来の搬出に備えて発電所構内に設置するもの」として、2024年2月に、美浜、高浜、大飯の各サイトにおける設置計画について、立地自治体に対し「事前了解願い」を提出している。 見直し後のロードマップに従い、使用済み燃料の貯蔵量は、2032年度末にピークに達するものの、六ヶ所再処理工場とフランスへの搬出により、管理容量以下で推移するとみられている。
14 Feb 2025
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IHIは2月5日、ルーマニア南部ドイチェシュテイの石炭火力発電所跡地に計画されている米国ニュースケール社製SMR(小型モジュール炉)建設プロジェクトにおいて、原子炉建屋の壁となる鋼製モジュールのモックアップ製作を、同プロジェクトを共同推進するサムソンC&T社より受注したと発表した。〈IHI発表資料は こちら〉同プロジェクトは、石炭火力発電所の跡地にSMR6基からなる「VOYGR-6」を建設するもの。海外向けPWRの鋼製モジュールを供給した実績のあるIHIは、今回のモックアップ製作により、ルーマニア南部ドゥンボビツア県のドイチェシュテイで13年前に閉鎖された旧・石炭火力発電所サイトに、出力7.7万kWの「ニュースケール・パワー・モジュール(NPM)」を6基備えた「VOYGR-6」(合計出力46.2万kW)の建設を計画。現在、サイト準備が進められている。鋼製モジュール製作の工程を検証することで、建設工事の工期短縮にも期待を寄せている。モックアップ製作は、同社横浜工場で行い、2025年4月までに完了する予定。IHIでは、2021年度に米国ニュースケール社に出資を決定。SMR実現に向けた技術開発に取り組んでいる。長年培ってきた原子炉の主要容器の製作経験と技術力を活かし、今後もSMRを始めとする原子力発電事業を通じ、カーボンニュートラルの実現に貢献していくとしている。同プロジェクトは、ルーマニアの国営原子力発電会社であるニュークリアエレクトリカ(SNN)と民間エネルギー企業のノバ・パワー&ガス社の合弁企業であるロパワー・ニュークリア(RoPower Nuclear)社を中心に進められている。「VOYGR」は、蒸気発生器と圧力容器の一体化により、小型かつシンプルな設計で安全性を向上させている。ルーマニアでは、事業計画段階から、建設を見据えた基本設計の契約締結など、進捗があったほか、新興国としてガーナでも建設計画の動きがある。
13 Feb 2025
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新潟県の花角英世知事は2月12日の定例記者会見で、柏崎刈羽原子力発電所の再稼働に言及した。県の次年度予算案他について説明した上で、記者団からの質問に応えたもの。資源エネルギー庁では、昨年12月10日の十日町市を皮切りに、柏崎刈羽7号機の審査進捗をとらえ、「THINK!ニッポンのエネルギー」と題し、日本の未来のエネルギーについて考える地元説明会を行った。同機の新規制基準に係る審査は2017年12月に原子炉設置変更許可に至っている。その後に発覚した核物質防護事案に伴う追加検査および東京電力に対する適格性判断の再確認も2023年12月に完了した。2024年に入ってからは、IAEA専門家チームによる視察、東京電力や新潟県による説明会が開催されており、再稼働に向けて、現在、県の判断が焦点となっている。会見の中で、花角知事は、県内28市町村で開催されたエネ庁による説明会が、2月7日の湯沢町で終了し、今後の対応について問われたのに対し、「報告を逐次受けているわけではないが、国が前面に立って地元の理解を得ようとすることの現れ」と、一定の理解を示した。一方で、「時間と場所を限定した説明会はやはり難しい」とも述べ、住民理解を集約していくことの困難さを示唆。再稼働の判断材料ともされる県の技術委員会からは、間もなく最終報告書が提出される見込みだが、「受け取ってからしっかり話を聞く」と、予断を持たない姿勢を示した。知事は、住民避難の課題に関し、先に原子力規制委員会の検討チームで取りまとめられた報告書案にも触れ、「順次、国との協議の中で示されていく」と述べた上で、再稼働の判断について具体的な時期は示さなかった。住民避難に関しては、資源エネルギー庁、内閣府(原子力防災)、国土交通省、新潟県による「原子力災害時の住民避難を円滑にするための避難路の整備促進に向けた協議の枠組み」会合が昨秋より行われている。
12 Feb 2025
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日本原子力研究開発機構は2月4日、花崗岩、堆積岩の岩盤をそれぞれ対象とした地下研究施設となる瑞浪超深地層研究所、幌延深地層研究センターを活用し、地下の未知微生物の働きを解明したと発表した。〈原子力機構発表資料は こちら〉原子力機構はこれまで、鉱山跡地なども利用し水文学的見地などから地質調査に取り組んでおり、他組織との共同も得たその成果は高レベル放射性廃棄物地層処分の研究開発にも貢献。その中で、地下深部には豊富な生命体が存在することが近年の研究によりわかってきたものの、そこに生きているごく微小サイズの「微生物」の働きは解明されていなかった。本研究では、地下に生息する微生物群集を「微生物コミュニティ」と称し、数年間にわたりその代謝反応を網羅的に解析。深度140~400mの地下環境から地下水を定期的に採取し、地下水中の微生物が持つ遺伝子情報を「メタゲノム解析」と呼ばれる手法を用いて継続調査した。その結果、花崗岩環境からは、細菌群および古細菌群が高い割合で存在し、深度が深くなるにつれ、その割合が減少する傾向が示された一方、堆積岩環境では、細菌群の検出割合は非常に低いものの、古細菌群の中で例外的にアミノ酸や脂質などを合成するものが約90%存在することが示され、花崗岩と堆積岩とで「微生物コミュニティ」の組成が異なることがわかった。また、幌延の堆積岩地下では、鉄、有機物やCO2が豊富なことに起因する微生物にとって有用な代謝反応に伴い、「水素やCO2などの地下環境に共通した物質が主なエネルギー源として利用されている」と述べている。高レベル放射性廃棄物の地層処分は地下300m以深に施設を建設することとなっている。原子力機構では、「微生物コミュニティの特性から、地下水の流れが非常に遅い環境においては、地下環境が長期にわたって安定している」と結論付けている。今後、地層中での放射性核種の移行解明に向け、微生物の遺伝子情報も踏まえ、地層処分システムの安全性に対する信頼度向上を図るとともに、地下水汚染などの環境問題の解決や、地下微生物研究が、抗生物質や酵素などの新しい医薬品・食品の開発に役立つ可能性も見据え、幅広い分野における発展や社会的に重要な問題の解決に貢献していくことを期待している。
05 Feb 2025
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資源エネルギー庁は2月3日、小学校高学年を対象とした「かべ新聞コンテスト」の2024年度優秀作品を発表した。エネルギー教育推進事業の一環として継続的に行われているもので、「わたしたちのくらしとエネルギー」をテーマとする自由研究を「かべ新聞」の形にまとめた作品を募り審査。最優秀賞は、佐藤未琴さん(札幌市立新川小学校6年)の「Shift in thinking 先駆者から伴走者へ」、海津奏太さん(新潟市立濁川小学校5年)の「生き物と僕たちの未来新聞」が受賞した。佐藤さんは、かつて地元の北海道に多く存在した炭鉱に着目。自身の祖父も三笠市の炭鉱で働いていたという。石炭は、戦後日本の高度経済成長を支えてきたエネルギーの「先駆者」といえるが、作品ではまず、「石油の需要に押され炭鉱は閉山し、今は大きな立坑跡を残しているだけ」と、問題提起。将来のエネルギーを見据え、「化石燃料から排出される温室効果ガスの影響もわかり始めて、化石燃料以外のエネルギー資源を取り入れて電気を作るようになりつつあります」と、エネルギー利用と環境保全の関連にも触れた上で、エネルギー源別の「S+3E」に係る現状を調べ上げ作表した。石炭については、家族の保管していた石炭試料からの話をもとに関心を深め、「ほかの化石燃料にくらべて安い」と、経済効率性のメリットをあげる一方で、「CO2排出量が多い」といった環境適合性の課題も指摘。原子力については、「長時間安定的に発電できる」、「発電時にCO2を排出しない」と述べている。今の小学生はもう福島第一原子力発電所事故の発生時を知らない世代だ。佐藤さんは、「国内で調達できるエネルギー資源を考える」と、エネルギー自給の重要性を強調。その中で、原子力発電については、「課題も多く不安に思う人もいると思います。私は、こわがるだけでなく正確な知識を学んでいきたいと思います」と、さらに学んでいく意欲を示している。かべ新聞では、結論として、「2030年のエネルギー資源は、もうしばらく化石燃料の力を使って発電するようです」と、多様なエネルギー需給の選択肢を考え続けていく必要性を示唆。佐藤さんは、「化石の博物館」と呼ばれる三笠市立博物館を見学し、炭鉱跡地でCCUS(CO2回収・有効利用・貯留)の実証が行われていることを知る。「炭鉱跡をもう一度」との見出しを掲げ、「昔、エネルギーを手に入れるために使われた場所が、今度は別の方法で利用できるのはすごいこと」と述べ、今でも石炭はエネルギーの「伴走者」であることを強く訴えている。本作品に対し、審査委員長の講評では、「化石燃料の利用の変遷を踏まえながら、現在のエネルギー利用を捉え、その上で未来を考えるというしっかりした構成だ」と評価している。学校賞を受賞した札幌市立桑園小学校からは6作品が入賞。食とエネルギーの関係や、雪を利用したエネルギーに係る研究もあった。原子力発電所の立地市町村では、美浜町エネルギー環境教育体験館「きいぱす」の支援による美浜町立美浜中央小学校・同美浜東小学校の生徒の共同作品が特別賞を受賞した。
04 Feb 2025
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福島第一原子力発電所2号機における燃料デブリの非破壊分析結果が1月30日に発表された。〈原子力機構他発表資料は こちら〉燃料デブリは2024年11月、試験的取り出し作業により採取されたもので、日本原子力研究開発機構の大洗原子力工学研究所が受入れ。日本核燃料開発などの分析機関とともに、今後の本格的な燃料デブリ取り出しの具体的検討に向け、詳細分析が開始されていた。〈既報〉受け入れた燃料デブリサンプルは、不均一で全体的に赤褐色を呈しており、表面の一部に黒色、光沢の領域が認められ、大きさは約9mm×約7mm。これまでの分析で、全体的に形状および計測値が均一ではなく、空隙が広く分散し、ウランなどの燃料成分が含まれることがわかっている。今回、原子力機構が新たに発表したのは、SEM-WDXと呼ばれる手法を用いた元素分布の面的分析結果。燃料デブリサンプル表面上の5視野を選定し、元素分布の測定を行ったところ、どの視野においてもウランおよび鉄が観察され、ウランがサンプル表面に広く分布しているものと考察している。この他、燃料被覆管・構造材などの成分とみられるジルコニウム、クロム、ニッケルや、海水由来とみられるケイ素、カルシウム、マグネシウムも観察された。今後、半年から1年程度をかけ、破壊分析も実施し、燃料デブリ内部の組成、結晶構造などの性状を詳細に評価した上で、分析結果の取りまとめを行う計画だ。原子力機構では1月22日までに、燃料デブリサンプルを破砕し、微小結晶構造の分析のため、大型放射光施設「SPring-8」に輸送。同機構原子力科学研究所(東海村)も化学分析を行う。燃料デブリ分析に向けた取組は、特設サイトで公開している。東京電力は今春にも追加の燃料デブリ採取に着手する予定。
31 Jan 2025
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近畿大学の研究グループは1月28日、胸部のX線撮影やCT検査での呼吸状態を、非接触で確認できる新たなシステムを発表した。〈近畿大資料は こちら〉電子部品メーカーのSMKとの共同により、「ミリ波」と呼ばれる波長数mm程度で微細振動を検知できる電磁波を用いて可能にしたもの。近畿大医学部の研究グループは、この「ミリ波」を使用したセンサーが比較的安価で、ペットの体調管理、高温環境下における工場設備の監視、防犯システム、自動車の安全装置など、人目につかないところで広範に利用されていることに着目。SMKが開発した「ミリ波センサー」による呼吸波形の計測を、ボランティア20人の協力を得て実施した。被験者の胸腹部にミリ波を照射し、その反射波から呼吸による体表面の動きを波形として取得した上で、従来法と比較した結果、これまで計測が困難であった乳幼児の呼吸状態も正確に検出できたほか、CT撮影時の仰向け状態や、X線撮影時の立位の状態の双方で、安定した測定が可能なことが確認された。乳幼児のⅩ線撮影は技術者とのコミュニケーションが取りづらく、体位の静止や息止め指示が伝わらないことなどが、正確な診断の支障となっていた。また、目視では技術者の経験と勘によるところが大きいほか、脱衣により患者に羞恥をもたらすことも課題だ。研究グループでは、新システムの特長として、既存のⅩ線装置やCT装置への取り付けが容易で、従来の呼吸モニタリング機器と比べ大幅なコスト削減が可能なことをあげているほか、再撮影の必要性が少なく患者の負担が軽減され、診断精度が向上し医療の質が改善されると期待。呼吸状態をリアルタイムで確認しながら、より精密な放射線治療も実現できる可能性から、今後さらに応用研究を進めていくとしている。
29 Jan 2025
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経済同友会は1月26日、政府において進められている次期エネルギー基本計画の策定に向け、意見を発表した。同計画については、総合資源エネルギー調査会を中心に2024年5月より検討が開始され、12月25日の会合を経て原案が取りまとめられている。以降、年明け1月26日までパブリックコメントに付されていた。今回、発表された意見は、経済同友会のエネルギー委員会によるもの。同じく政府が年末に原案を示した2040年を標榜する日本の産業構造戦略「GX2040ビジョン」とも合わせ、「ステークホルダーとともに成長戦略と投資行動を考える」、「あらゆる脱炭素エネルギー源メニューの活用を強かに追及して、国際競争力に優れるカーボンニュートラル日本を実現するために総力を尽くす」ことの2点を、エネルギー政策の基本的考え方として掲げた上で、賛同を表明した。供給サイドの取組としては、再生可能エネルギーと原子力に大別し具体策を列挙。再生可能エネルギーについては、天候に左右され「安定供給力と需要調整力に劣る」デメリットを回避する蓄電池の導入促進を、特に太陽光に関しては、価格変動に対応するよう、時間帯別のCO2排出原単位の可視化・定量化の仕組み導入にも言及。天候予測の精度向上に向け、AIを活用した操業調整も有効と述べている。原子力については、「低廉・安定的なエネルギー供給、脱炭素電源の確保に向けて、原子力規制委員会で安全性が確保された原発の再稼働、およびリプレース、新増設を許される限り速やかに推進すべき」と強調。加えて、事業者と規制当局との適切な対話を通じた「より良い規制のアップデート」につながる議論の必要性も示唆している。経済同友会は2023年に、「活・原子力」と題する意見を発表している。カーボンニュートラル実現や将来のエネルギー需要の観点から、従前の「縮・原発」の方針を見直した格好だ。新浪剛史代表幹事は2024年7月の記者会見で、現行エネルギー基本計画の実績を十分に検証する必要性を強調。折しも同時期、新潟経済同友会が設立30周年となったのを機に、地元の理解が焦点となっている柏崎刈羽原子力発電所の再稼働に関し、「電力供給の恩恵を受ける首都圏の理解」を重点ポイントとしてあげている。
28 Jan 2025
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日本原子力産業協会の増井秀企理事長は1月24日、記者会見を行い、現在検討中の次期エネルギー基本計画の策定に向け、協会としての意見について説明した。同計画は昨夏より経済産業省を中心に検討が進められ、12月26日に資源エネルギー庁で原案が取りまとめられパブリックコメント(1月26日まで)に付せられた。原産協会の意見としては、原子力産業の意思決定となる明確な指針を求め、 (1)原子力の価値と必要性を明記し「原発依存度低減」の記載を削除 (2)既設炉の早期再稼働、長期サイクル運転、運転中保全の拡大、出力向上など、既設炉の最大限活用に適切な支援を行うこと (3)原子力発電の新規建設を前提に新増設・リプレースの必要な容量と時間軸を示し、同一敷地内に限られた建設制限を解除 (4)原子力発電所の追加安全対策や新規建設の投資回収の予見性を回復し、投資家が投資でき、事業者が資金を調達できる事業環境整備を早急に整備 (5)革新軽水炉にかかる規制整備の早期進展の必要性に鑑み、規制整備のスケジュールを示すこと (6)原子力事業者が無過失・無限の賠償責任を集中して負うこととされている原子力損害賠償制度の見直しについて方向性を示すこと――を要望。昨今、東北電力女川2号機、中国電力島根2号機がBWRとして再稼働を果たした。記者団からの質問に対し、増井理事長は、今後の設備利用率向上に向け、計画外停止回避のなどの必要性を述べるとともに、サプライチェーンの維持・強化の重要性を強調した次期エネルギー基本計画案では、これまでの「原発依存度の可能な限りの低減」の文言は削除された。新増設・リプレースについては、「廃炉を決定した原子力を有する事業者の原子力発電所サイト内での次世代革新炉への建て替え」を対象に具体化を進めていくとされている。2040年を見据えた同計画案に関し、増井理事長は予断を持たずに状況を注視していく見方を示した。また、会見では、「第58回原産年次大会」についても紹介した。同大会は、2025年4月8、9日、東京国際フォーラム(東京・千代田区)で、「原子力利用のさらなる加速-新規建設の実現に向けて」をテーマに開催される。
27 Jan 2025
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「原子力総合シンポジウム2024」が1月20日、日本学術会議の本部講堂(東京都港区)で開催された。日本原子力学会他、関連学協会の後援・協賛も得て行われているもの。今回は、原子力に係るリスクコミュニケーションが主なテーマ。前半は、日本電気協会で民間の技術基準として原子力規格の策定をリードしている越塚誠一氏(東京大学大学院工学系研究科システム創成学専攻教授)の進行で、福島第一原子力発電所事故の環境影響評価に関し、原子力学会の活動状況を技術的観点から報告。現在進められているALPS処理水の海洋放出に関しては、モニタリング結果を公開し継続的な情報発信を行う必要性があらためて示されたほか、発災直後の大気拡散モデル評価(SPEEDI)については、有効性を認める一方、「実測とモデル予測の相補的使用が合理的」といった指摘もなされた。報告の中で、環境科学技術に詳しい山澤弘実氏(名古屋大学名誉教授)は、SPEEDIの有効活用に向け、三宅島火山ガス拡散予測、稲ウンカ飛来予測など、自然災害対策や農林分野での実績にも言及。他学会とも連携しアカデミアとしてさらに検討を深めていく方向性が示唆された。後半の総合討論では、原子力規制委員会委員長代理の伴信彦氏らを招き、「原子力のリスクをどのように考えるか」と題し議論。森口祐一氏(国立環境研究所理事)、野口和彦氏(横浜国立大学リスク共生社会創造センター客員教授)、更田豊志氏(原子力規制委員会前委員長)、小野恭子氏(産業総合技術研究所安全科学研究部門)、近藤寛子氏(マトリクスK代表)、岩城智香子氏(東芝エネルギーシステムズ)、上坂充氏(原子力委員会委員長)、大井川宏之氏(日本原子力学会会長)らが登壇し、一般参加者も交えた質疑もなされた。委員に就任して10年目となる伴氏はこれまで、随時公開で行われる事業者との意見交換の場でも、原子力規制に携わる人材育成などの視点から、安全文化醸成に関する問題点を多く指摘してきた。同氏は、安全文化の定義を、「非常に困難」としながらも、IAEAレポートを引用し、「最高の優先度をもって、原子力発電所の安全問題が、その重要性に相応しい注目を受けることを確立する、組織および個人の特性と姿勢を集約したもの」と解釈。規制機関に対する社会の信頼性を図る重要性を強調した上で、新規制基準の施行を踏まえ規制委が行ってきた安全性向上に係るワーキンググループの経緯を紹介。同WGでは原子力分野以外の規制手法についても広く意見を聴取しており、同氏は、海外の著書「市場の倫理 統治の倫理」(ジェイン・ジェイコブス)をもとに、「知られていない『欠け』を発見するのは市場の倫理。現状に満足せずそれをもう一度疑ってかかり崩してみる『ゆらぎ』の場が必要」と述べ、規制・被規制側の双方が適切な対話を図っていく必要性を示唆した。これに対し、プラントメーカーの立場から岩城氏は、重大事故対策評価「ROAAM」(確率論と決定論を組み合わせた事故進行の定量評価、Risk-Oriented Accident Analysis Methodology)について紹介した上で、「リスク評価は不確かさを伴うもの」と主張。「リスクとベネフィット」と題しプレゼンを行った上坂氏は、日本原子力発電敦賀2号機の審査不許可に関連し「リスク情報の活用も必要」などと定量的評価の必要性を提言したのに対し、大井川氏は「外にいる人たちともっと議論することが必要。繋がることがまだ弱いのでは」と述べ、学会の閉鎖的体質を自省。この他、市民説明会の経験から「再稼働ありきの説得になっている」といった批判、安全対策に関し重大事故の発生頻度とコストとの関係などをめぐっても意見が交わされた。更田氏は、学際化が進むことを評価する一方で、「縦割りの細分化を防ぐことも学術界に求められている」と指摘。学術会議では毎年7月初めに「安全工学シンポジウム」と題し、他産業も含めた安全に関する総合的な議論を行っているが、リスクマネジメント専門の立場から、同シンポを毎回リードしている野口氏は、安全分野の議論が理工系だけにとどまっていることを憂慮した。1963年に始まった原子力総合シンポは回を重ね、60回目の開催と「還暦」を迎えた。近年では若手参加者の少なさも懸念されている。年度内に見込まれる次期エネルギー基本計画策定も踏まえ、次回以降は将来の革新炉導入に関しさらに深堀りした議論が行われる見通し。
24 Jan 2025
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電気事業連合会は1月21日、次期エネルギー基本計画、地球温暖化対策計画、および両計画を踏まえた「GX2040ビジョン」の各原案に係る意見を関係省庁に提出した。新たなエネルギー基本計画および地球温暖化対策計画の策定についてはともに、昨夏より各々経済産業省、環境省における審議会・有識者WGを中心に検討が進められ、昨年末に原案が取りまとめられている。さらに、両計画を盛り込み、政府が年度内にも策定する2040年頃を見据えた日本の産業構造国家戦略「GX2040ビジョン」についても12月26日に原案が示された。これを踏まえ、3つの原案については、いずれも1月26日まで、パブリックコメントが行われている。次期エネルギー基本計画(案)について、電事連では、全般として、電力需要が増加する見通しの中、S+3E(安全性の確保、エネルギー安定供給、経済適合性、環境適合性)の基本原則のもと、「必要となる脱炭素電源の供給が確保されるように万全を期すことが求められる」と、電気事業者としての使命を強調。エネルギー基本計画は法令で3年ごとの見直しが規定されており、年度内の策定後も遅滞なく検証作業に入ることが見込まれるが、「スピード感を持ちつつ、計画倒れとならないよう実効性の高い政策展開を期待する」と述べている。その上で、同計画原案に沿って、再生可能エネルギー、原子力、火力、電化、GX、電力システム改革の各項目について意見を整理。原子力については、これまでの総合資源エネルギー調査会でも議論されてきたが、「2040年以降は原子力の設備容量が減少する見通し」とあらためて指摘した。今回のエネルギー基本計画の原案では、これまでの「原発依存度の可能な限りの低減」の文言は削除され、新増設・リプレースについて、「廃炉を決定した原子力を有する事業者の原子力発電所サイト内での、次世代革新炉への建て替え」を対象として、具体化を進めていくとされている。今回の意見提出で、電事連は、「将来にわたり持続的に原子力を活用していく」観点から、こうした対象に限定しない開発・設置の必要性を提言した。電事連の林欣吾会長は、1月17日の年頭記者会見で、安全を大前提としたプラントの再稼働を第一にあげた上で、サプライチェーンの維持・強化についても、将来の新増設を見据え、「国としての開発規模の目標を持つべき」と強調している。
22 Jan 2025
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三菱重工業は1月17日、四国電力伊方発電所向けに受注した使用済み燃料輸送・貯蔵兼用の乾式キャスク計15基中、初回出荷分となる2基の製造を完了し同所に納入したと発表した。〈三菱重工発表資料は こちら〉四国電力では、2025年7月頃に伊方発電所構内で乾式貯蔵施設を開設・運用開始する計画。新規制基準をクリアした原子力発電所の再稼働が進む中、使用済み燃料については、六ヶ所再処理工場への搬出を前提とし、その搬出までの間、各原子力発電所などで貯蔵を検討している。四国電力では伊方3号機が稼働中。同社では、2020年9月にサイト内での乾式貯蔵施設(500トン)設置に係る原子炉設置変更許可を取得しており、現在設置工事が行われている。電力各社で進められている乾式貯蔵は、2011年の東日本大震災時、福島第一原子力発電所でもその頑健性が確認されており、原子力規制委員会でもその普及を推奨している。今回、三菱重工が納入した乾式キャスクは、MSF-32Pと呼ばれる型式で、直径2.6m、高さ5.2m、総重量約120トン。既に廃炉が決定している伊方1・2号機の使用済み燃料32体を収納する。同社の発表によると、乾式キャスクは実機スケールで9mの傾斜落下試験など、安全性実証試験をクリア。材料についても長期健全性試験結果を反映し、閉じ込め、臨界防止、遮蔽、除熱の4つの安全機能を60年間維持できることが確認されている。三菱重工では今後、残る伊方発電所向けに13基の製造を順次進めるとともに、今回の納入を契機に、PWRを中心とした原子力機器製造の技術力を活かし、製造・検査を高度に自動化したキャスク組立専用工場を整備し、量産体制を確立していくとしている。
21 Jan 2025
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武藤容治経済産業相は1月11~16日、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)を訪問した。〈経産省発表資料は こちら〉武藤経産相は、日本に対する原油の安定供給を図っている両国に対し、謝意を述べた上で、今後の国際原油市場の安定化について議論。合わせて、今春4月に開幕する「大阪・関西万博」のPRを行い、サウジアラビアに対しては、2030年に予定される「リヤド万博」にバトンをつないでいく決意を表明した。UAEでは、スルタン・アル・ジャーベル産業・先端技術大臣と会談。宇宙産業基盤の発展に向けた協力開始で合意するとともに、東芝エネルギーシステムズによるクリーブランド・クリニックへの重粒子線がん治療装置納入契約も披露された。UAEにおける重粒子線がん治療について、具体的な稼働計画は示されていないが、東芝ESSでは、量子科学技術研究開発機構(QST)とともに技術開発に取り組み、これまでも国内外で技術力を発揮してきた。2016年にはQST放射線医学研究所(千葉市)に世界初となる超伝導電磁石を採用した回転ガントリーを納入。重粒子線がん治療の小型・軽量化、低コスト化を図ってきた。海外展開としては、2023年、韓国延世大学向けに装置を納入し治療が開始されているほか、中国Ion Nova社との業務提携契約を締結。近年では北米地域への受注活動も進められている。
17 Jan 2025
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福島県産の米・食品・地酒を展示・販売し、観光スポットを紹介する「ほっこり ふくしま あったかフェア2025 魅力発見! 観光&大物産展」(主催=ほっこりふくしまあったかフェア実行委員会)が1月12、13日、JR大宮駅構内で開催された。福島県・埼玉県の後援により毎年1月に行われているもの。コロナ禍も沈静化し人々の往来も復活している。福島県では、4月より大型観光キャンペーンを企画しており、今回のイベントはそのプレデスティネーションとなる。場所は、大宮駅でも特に多くの人々が行き交う東北・上越・北陸新幹線ホーム近くで、近隣の商業施設とコンコースで直結する西口イベントスペース。3連休の最終日となる会期2日目の13日、会場は、土産ものとして菓子を買い求める家族連れでにぎわいを見せ、福島産の米をPRするキャンペーンクルー「ふくしまライシーホワイト」らが振る舞う地酒試飲コーナーにも多くの人々が訪れた。折しも「成人の日」。午後からは振り袖姿の新成人の姿も見られた。イベントでは、「福島環境・未来アンバサダー」として除染で発生する除去土壌の再生利用に係る啓発にも取り組むタレント・なすびさんのトークショーが行われ、浜通り地域を拠点とした映画制作など、若手クリエイター支援の動きも紹介。なすびさんは降壇後も来場者との記念撮影に応じた。13日夕刻はイベントもクライマックス。会期中計6回行われたフラダンスショーは、最終回、ステージ直前まで多くの人で溢れる盛況なった。パフォーマンスショーを披露した「HAPPYふくしま隊」は、福島の美味として、「クリームチーズのみそ漬」、「相馬もちパイ」を推奨。菓子類も人気を博しており、アンケートに回答すると福島銘菓「ままどおる」がプレゼントされるコーナーも設けられた。福島県産の食品は、都内のアンテナショップ「日本橋ふくしま館 MIDETTE」でも購入することができる。
14 Jan 2025
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原子力産業新聞が電力各社から入手したデータによると、2024年(暦年)の国内原子力発電所の平均設備利用率は30.6%、総発電電力量は888億7,031万kWhで、それぞれ対前年比2.6ポイント増、同9.6%増となった。いずれも新規制基準が施行された2015年度以降で最高の水準。2024年は、東日本大震災後、新規制基準をクリアし再稼働したプラントは、これまでPWRのみだったが、BWRとして、東北電力女川原子力発電所2号機(11月発電再開)、中国電力島根原子力発電所2号機(12月発電再開)が加わり、計14基・1,325.3万kWとなった。女川2号機は12月26日に営業運転に復帰しており、島根2号機も1月10日にこれに続く見込み。2024年は、関西電力高浜発電所1号機の50年超運転入りが特筆される。最も高い設備利用率を記録したのは、同3号機で105.8%。年内フル稼働したのは同機1基のみだった。
10 Jan 2025
2051
「原子力新年の集い」(日本原子力産業協会主催)が1月8日、東京プリンスホテル(東京・港区)で開催され、会員企業・組織、国会議員、駐日大使館関係者ら、参加者は700名に上り新年の門出に際し親睦を深めた。冒頭、年頭挨拶に立った原産協会の三村明夫会長は、2024年を振り返り、国際的には、依然として深刻な状況にあるロシアのウクライナ侵攻や中東情勢の混乱をあげ、「エネルギーをめぐる不確実性を増大」させるものと懸念。加えて、世界各国における「エネルギー安全保障を最優先課題とする」動き、新興国の発展、生成AIやデータセンターの事業規模拡大に伴う電力需要増から、「経済的で安定したベースロード電源が強く求められている」と強調した。〈会長年頭挨拶は こちら〉国際機関を通じた動きについても、3月にIAEAとベルギー政府との共催で行われた「原子力エネルギー・サミット」などに言及。直近では、11月のCOP29(アゼルバイジャン・バクー)で、前回のCOP28で発出された「原子力3倍宣言」に6か国が新たに加わり署名国が31か国に上ったことから、「エネルギー安定供給と脱炭素の両立を可能とする原子力活用のモメンタムがさらに拡大している」と、期待を寄せた。国内については、11月の東北電力女川原子力発電所2号機、12月の中国電力島根原子力発電所2号機と、東日本大震災後に施行された新規制基準をクリアし、これまでのPWRに続いて、BWRの再稼働も進み、「原子力サプライチェーン維持・強化や人材育成にとっても極めて大きい意義を持つもの」、「プラントが動く際の感動を、次世代を担う若者たちにもしっかりと受け継いでいきたい」と強調。再稼働プラントは現在、計14基となっている。((女川2号機は12月26日に営業運転再開、島根2号機は1月10日に営業運転再開の予定))また、核燃料サイクル・バックエンド関連の動きとしては、国内初の使用済み燃料中間貯蔵施設となるリサイクル燃料貯蔵「リサイクル燃料備蓄センター」の事業開始(11月)、高レベル放射性廃棄物等の処分地選定に向けた佐賀県玄海町による文献調査の受入れ表明(5月)、北海道寿都町・神恵内村における同調査報告書作成(11月、現在地元で報告書に関する縦覧・説明会が進行中)をあげた。一方で、再処理工場とMOX燃料加工工場の竣工時期変更(それぞれ2026年度、27年度に送り)に関しては、「今年は正に正念場」と強調。事業主体の日本原燃をはじめ、関係各社に対し「力を合わせてこれらの事業を前に進めて欲しい」と訴えかけた。エネルギー政策に関しては、昨年末、次期エネルギー基本計画の原案が取りまとめられ、現行計画に引き続き、福島第一原子力発電所事故の反省が原点とされている。三村会長は、2024年11月の同2号機における燃料デブリの試験的取り出し開始に言及し「今後も安全確保を第一に着実な視点を期待する」と述べた。その上で、次期エネルギー基本計画の原案で、原子力の依存度低減の文言が削除され、次世代革新炉の開発・設置が記載されたことを、「原子力産業界にとって力強い推進力になる」と歓迎。原産協会の来年度事業方針を「新規建設実現の推進と促進」とし、来る4月に開催予定の「第58回原産年次大会」のメインテーマとすることを表明した。続いて来賓として訪れた武藤容治経済産業相、城内実・内閣府経済安全保障相、電気事業連合会・林欣吾会長が挨拶。武藤経産相はまず、2024年元旦の能登半島地震に続き相次ぎ発生した自然災害に伴う被災者への見舞いの言葉とともに、電源車の手配など、電気事業者ら、関係企業による被災地復興支援に対し謝意を述べた。今年の海外の動きとしては第一に、米国トランプ新政権誕生に言及。その上で、「強固な経済関係は二国間関係の土台をなすもの」と、日米同盟の機軸を述べたほか、国内企業による投資促進に向けて、「安心して日本企業が判断できる環境を整えることが重要」と、産業基盤の強化を図っていく必要性を示唆した。城内経済安全保障相は、科学技術政策・原子力委員会も担務する立場から、昨年12月ASEAN諸国、中国、豪州を中心とする政策対話の枠組み「アジア原子力協力フォーラム」(FNCA)の大臣級会合で、革新炉開発の重要性を力説したことを紹介。特に、核融合の推進については、ITER計画における日本の技術力発揮への期待、昨年発足した「J-Fusion」を通じた産業界の取組の他、本年3月にも核融合エネルギー実用化を見据え「安全確保の基本的考え方」を内閣府として策定することを明言した。電気事業者の立場から、林会長は、国内の原子力に関わる進展として、BWRの再稼働とともに、関西電力高浜発電所1号機の50年超運転入りにも言及。今後、新規制基準に係る審査途上若しくは未申請にある他プラントについても、「安全を最優先に再稼働につなげていきたい」と、原子力発電の安全・安定運転の継続に努めていく姿勢をあらためて示した。次期エネルギー基本計画や地球温暖化対策計画の原案が昨年末に示され、今後は日本経済の将来を見据えた国家戦略「GX2040ビジョン」の年度末策定が見込まれている。東原敏昭副会長(日立製作所会長)は、「2050年カーボンニュートラル実現に向け、全体の最適化を考えると、原子力なくしてうまくはいかない。新規建設に向け大きな年としたい」と強調。同氏の音頭で一同は祝杯を上げた。
09 Jan 2025
1362
武藤容治経済産業相は1月7日、閣議後記者会見を行い、新年の抱負を述べた。武藤経産相は、まず、今年の日本経済の見通しについて、「賃金上昇が物価上昇を上回ることで、消費が増加し、企業の国内投資が堅調に維持できれば、緩やかに成長していく」との見方を示した上で、経産省の最重要課題として「経済の好循環の定着」を強調。また、GXの取組に向けては、「再生可能エネルギーも原子力も最大限に活用し、脱炭素電源を新しい産業集積の起爆剤にするため、具体的なものを一つでも進捗させていく」ことを目標に据えた。12月には、昨夏より検討が開始された新たなエネルギー基本計画および地球温暖化対策計画、各々の原案が取りまとめられている。また、12月26日には、両計画を盛り込み、政府が年度内にも策定する2040年頃を見据えた日本の産業構造国家戦略「GX2040ビジョン」についても原案が示された。GXを加速するためのエネルギー分野の取組の中で、原子力については、安全性確保を大前提に再稼働を加速するとともに、「廃炉を決定した事業者が有するサイト内における次世代革新炉への建て替え具体化」があげられている。武藤経産相は、この他、大阪・関西万博の開催、昨年元旦に発生した能登半島地震や東日本大震災からの復旧・復興に引き続き取り組み、福島第一原子力発電所の廃炉についても「安全かつ着実に」進めていく姿勢を示した。
07 Jan 2025
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核燃料サイクル政策について青森県知事と関係閣僚らが意見交換を行う「核燃料サイクル協議会」が12月24日、総理官邸で開催された。〈資源エネルギー庁発表資料は こちら〉同協議会は、1997年以来、核燃料サイクル政策の節目、政権の動きを機に、これまで13回行われてきた。前回は、2023年8月、同6月に就任した青森県・宮下宗一郎知事の要請を受け開催。その後、六ヶ所再処理工場およびMOX燃料加工工場の竣工目標につき、それぞれ「2026年度中」、「2027年度中」への変更(2024年8月29日)、むつ中間貯蔵施設の事業開始(同11月6日)の他、高レベル放射性廃棄物等の地層処分地選定に向けた北海道寿都町・神恵内村における文献調査報告書取りまとめ(同11月22日)など、核燃料サイクル政策をめぐり動きがあった。今回の協議会で、宮下知事は、立地地域の立場から、 (1)原子力・核燃料サイクル政策の推進 (2)六ヶ所再処理工場の竣工・操業に向けた取組 (3)むつ中間貯蔵施設における中長期の貯蔵計画等 (4)プルトニウム利用 (5)高レベル放射性廃棄物等の最終処分と搬出期限の遵守 (6)資源エネルギー庁による「青森県・立地地域と原子力の将来像に関する共創会議」の方針――について、国・事業者による取組姿勢の確認を要請。国からは、林芳正官房長官、浅尾慶一郎内閣府原子力防災担当相、城内実同科学技術担当相、あべ俊子文部科学相、武藤容治経済産業相が、事業者からは林欣吾電気事業連合会会長が出席した。現在、次期エネルギー基本計画の策定に向けた議論が佳境となっている。原子力・核燃料サイクル政策の推進について、国からは、「エネルギーの安定供給と経済成長、脱炭素を同時に実現する上で、安全性確保を大前提とした原子力利用が不可欠であり、原子力・核燃料サイクルの推進を、国の基本方針として堅持する」との姿勢があらためて示された。また、六ヶ所再処理工場の竣工については「必ず成し遂げるべき課題」として、日本原燃に加え、産業界全体に対し、原子力規制委員会への審査対応など、進捗管理の徹底や必要な人材確保を強く指導し「総力を挙げて取り組む」と強調。事業者の立場から、電事連の林会長は、電力安定供給を担う使命として、「原子燃料サイクルは原子力発電所の安定運転と不可分」との姿勢をあらためて示し、使用済み燃料の管理、プルトニウムの利用などに着実に対応していくと述べた。
25 Dec 2024
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中国電力の島根原子力発電所2号機(BWR、82.0万kW)が12月23日13時、発電を再開した。同社では今後、「安全性を確認しながら原子炉の出力を上昇させ、安定して連続運転できることを確認していく」としている。原子力規制委員会による使用前確認証交付を経た営業運転再開は2025年1月10日の見込み。2012年1月の定期検査入り以来、およそ13年ぶりの戦列復帰となる。〈中国電力発表資料は こちら〉2013年の新規制基準施行以来、原子力発電プラントの発電再開は、これで14基目。BWRについては、11月15日の東北電力女川原子力発電所2号機に続き2基目となる。島根2号機は、2011年3月の東日本大震災後も稼働し続け、2012年1月の定期検査入りに伴い停止。その後、2013年12月に新規制基準に係る審査が申請され、2021年9月に原子炉設置変更許可に至った後、地元の了解を得て、2024年12月7日に原子炉を起動させた。今回の島根2号機の発電再開について、中国電力の中川賢剛社長は、関係者および地元への謝意を表した上で、「中国地域を中心とした電力の安定供給を支えるとともに、カーボンニュートラルの達成や電力料金の安定化に不可欠」と、その意義を強調。さらに、環境負荷の少ない低廉な電気を安定供給していくという電力事業者としての使命をあらためて述べ、緊張感を持って営業運転を再開し、その後の安定運転継続に向け、設備健全性の確認を着実に進めていく姿勢を示した。*理事長メッセージは こちら
23 Dec 2024
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原子力発電環境整備機構(NUMO)は12月4~6日、東京ビッグサイト(東京・江東区)で開催された環境保全をテーマとする国内最大級の展示会「SDGs Week EXPO 2024 エコプロ 2024」(日本経済新聞社他主催、エコプロ)に出展した。 エコプロは例年、循環型社会の啓発や災害対策に関する展示も多く、企業間のビジネスマッチングだけでなく、小中学生の環境・防災学習の場としても活用されている。今回も540社余りが出展し、会期中は約63,000人の来場者があった。 NUMOがエコプロに出展するのは昨年に続き2回目。展示ブースには3日間を通じ計4,000人超が来場した。今回は、SDGs目標の一つである「つくる責任、つかう責任」を柱に、クイズラリー形式でNUMOが取り組む地層処分について理解を深めてもらうよう、展示内容を工夫。特に、11月の北海道寿都町・神恵内村での文献調査報告書公表を踏まえ、電力消費地で理解活動を通じ、引き続き処分地選定に向け「国民全体で考えなければならない」ことの訴求に努めた。 エコプロは実体験型の展示が注目される。NUMOでは今回も、全国各地の科学館や商業施設を巡回する地層処分展示車「ジオ・ラボ号」を会場に搬入。日本のエネルギー利用の現状や各発電方法の利点や課題、海外の処分場の映像をVRゴーグルで体験しながら体験させる展示など、計7つのエリアを設け、地層処分事業の概要を紹介した。 修学旅行の生徒らも多く訪れ、「大都市の人が北海道のことをもっと知らなければならないと思った」、「他人事ではなく、自分事として考えるようになった」、「世界の状況も含め、皆が知るべきと思った」といった声も聞かれた。 NUMOでは、今回の展示成果も踏まえ引き続き地層処分の認知・理解を深めてもらうよう努めていくとしている。
20 Dec 2024
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九州電力は12月13日、玄海原子力発電所3・4号機(PWR、各118万kWe)の蒸気タービンを、より優れた材質・構造を採用した最新設計の蒸気タービンに更新することとし、設計・工事計画認可を原子力規制委員会に申請した。〈九州電力発表資料は こちら〉蒸気タービンは、高圧タービン1基と低圧タービン3基で構成。蒸気タービンの更新時期は、3・4号機それぞれ、2027年度、2028年度となっており、九州電力は、「信頼性が向上するとともに、発電効率が向上する」と説明している。今回、蒸気タービンの更新工事は、三菱重工業が受注。高砂製作所(兵庫県高砂市)で設計・製造し、現地で取替工事を実施する。三菱重工の発表によると、納入される蒸気タービンは、国内で4例、海外で5例の実績がある自社設計開発の54インチ翼タービンを採用。三菱重工は1月にも、0.01mmオーダーの加工精度が要求される蒸気発生器で、フランス電力(EDF)から受注した3基(取替用で計9基受注)の製造を完了するなど、PWRプラントメーカーとして、国内外で高い技術力を発揮している。〈三菱重工発表資料は こちら〉現在、玄海3・4号機は、運転開始からそれぞれ30年、27年が経過。3号機については、「GX脱炭素電源法」で、2025年6月に本格施行される高経年化した原子炉に対する規制として、30年以降の運転に必要な「長期施設管理計画」の審査が行われている。
19 Dec 2024
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総合資源エネルギー調査会の基本政策分科会(分科会長=隅修三・東京海上日動火災保険相談役)は12月17日、第7次エネルギー基本計画の原案を示した。〈配布資料は こちら〉現行の第6次エネルギー基本計画が2021年10月に策定されてから、エネルギー政策基本法に定める3年目の見直し時期が経過。現行計画の策定以降、徹底した省エネ、再生可能エネルギーの最大限導入、安全性の確保を大前提とした原子力発電所の再稼働への取組が進められ、昨年には、「GX実現に向けた基本方針」に基づき、脱炭素電源導入推進を図る新たな法整備がなされた。海外では、ロシアによるウクライナ侵略や中東情勢の緊迫化など、エネルギー安全保障に係る地政学的リスクも高まっている。こうしたエネルギーをめぐる国内外状況を踏まえ、同分科会では5月より、次期エネルギー基本計画の検討を重ねてきた。17日の会合では、冒頭、資源エネルギー庁の村瀬佳史長官が挨拶に立ち、これまで13回にわたる議論を振り返り、「様々な角度から貴重な意見をいただいた」と委員らに謝意を表明。その上で、「将来の電力需要増に見合う脱炭素電源をいかに確保できるかがわが国の経済成長のカギ」と、エネルギー政策と経済政策とが一体で進められるべきとの考えを強調。さらに、資源が乏しく国土に制約のある日本のエネルギー安全保障の脆弱性を踏まえ、「バランスの取れたエネルギー政策が必要。特定の電源や燃料源に依存しないという方向性が示された」とも述べた。前日16日には、同分科会下の発電コスト検証ワーキンググループが、2023年時点および2040年時点で、新たに発電設備を建設・運転した場合のコストを18の電源細目別に試算した「発電コスト検証」を取りまとめており、今回の会合ではまず、同WG座長の秋元圭吾氏(地球環境産業技術研究機構主席研究員)が検討結果を報告。〈既報〉続いて、資源エネルギー庁が第7次エネルギー基本計画の原案について説明した。それによると、引き続き、エネルギー政策の原点として、「福島第一原子力発電所事故の経験、反省と教訓を肝に銘じて取り組む」ことを第一に、「S+3E」(安全性、安定供給、経済効率性、環境適合性)を基本的視点として掲げている。原子力に関しては、「優れた安定供給性、技術自給率を有し、他電源とそん色ないコスト水準で変動も少なく、一定の出力で安定的に発電可能」とのメリットを強調。立地地域との共生、国民各層とのコミュニケーションの深化・充実、バックエンドプロセスの加速化、再稼働の加速に官民挙げて取り組むとしている。また、これまでの「原発依存度の可能な限りの低減」の文言は削除。新増設・リプレースについては、「廃炉を決定した原子力を有する事業者の原子力発電所サイト内での、次世代革新炉への建て替えを対象として、(中略)具体化を進めていく」と記載された。次世代革新炉の開発・設置に向けては、研究開発を進めるとともに、サプライチェーン・人材の維持・強化に取り組むとしている。また、検討結果の裏付けとして、2040年のエネルギー需給見通しも合わせて提示された。発電電力量は1.1~1.2兆kWh程度、電源構成では、再生可能エネルギーが4~5割、原子力が2割程度、火力が3~4割程度となっている。次期エネルギー基本計画の取りまとめに向け、基本政策分科会では、月内に再度会合を行い、最終原案を確定。パブリックコメントも経て、地球温暖化対策計画など、関連する政策と合わせて年度内にも改定され、2040年頃の日本の産業構造も含めた国家戦略「GX2040ビジョン」に盛り込まれる見通しだ。
18 Dec 2024
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総合資源エネルギー調査会の発電コスト検証ワーキンググループ(座長=秋元圭吾・地球環境産業技術研究機構主席研究員)は12月16日、2023年時点および2040年時点で、新たに発電設備を建設・運転した場合のkWh当たりコストを電源別に試算した「発電コスト検証」の取りまとめを行った。〈配布資料は こちら〉エネルギー基本計画の見直しに向け、同WGが7月より進めてきたもので、翌17日に行われる同調査会の基本政策分科会で報告される。今回の検証は、異なる電源技術の比較・評価を機械的に行う「モデルプラント方式」を採用し、太陽光、風力、水力、地熱、バイオマス、原子力、LNG、水素、アンモニア、石炭など、18の電源細目別に試算した。その結果、2040年時点(政策経費あり)で、原子力が12.5円~/kWh(設備利用率70%、稼働年数40年を想定)、太陽光(事業用)が7.0~8.9円/kWh、洋上風力が14.4~15.1円/kWh、LNG(専焼)が16.0~21.0円/kWh、水素(専焼)が24.6~33.0円/kWh、石炭(アンモニア20%混焼)が20.9~33.0円/kWhなどとなった。現行のエネルギー基本計画策定時に行われた「2021年の発電コスト検証」から変動がみられており、資源エネルギー庁では「昨今の物価上昇なども影響している」などと説明している。原子力については、事故対策費用が含まれるが、委員からは、技術的視点からPRA(確率論的リスク評価)を用いた炉心損傷頻度に関する言及もあった。また、太陽光や風力など、「自然変動電源」の導入を見据え、電力システム全体として追加的に生じるコストを見据えた「統合コストの一部を考慮した発電コスト」に関し、その設備容量割合4、5、6割ごと、3つのケースで検証を行っている。16日の会合では、その分析結果について、東京大学生産技術研究所の荻本和彦特任教授らが説明。「自然変動電源」に関しては、出力制御の影響の他、追従運転に伴う火力の燃料使用量増により、「原子力や火力に比べ上昇幅が顕著」などと分析した。例えば、設備容量4割想定の場合、太陽光(事業用)が15.3円/kWh、原子力では16.4円/kWhとなるのに対し、同6割想定の場合は、それぞれ、36.9 円/kWh、18.9 円/kWhと、発電量当たりのコストは逆転する。荻本特任教授らは、再エネの出力変動に追従運転し火力が効率運転する「メリットオーダー」に伴う燃料使用増の要因を指摘。委員からは立地点ごとの特異性も検討すべきとする意見もあり、座長の秋元氏は、一見して太陽光の優位性も解される中、「不確実性もあり色々な解釈の仕方がある」として、さらなる精査の必要性を示唆した。これまでのWGの議論で産業界からは「2030年では、2040年では」といった技術導入のタイムスパンに関する意見も多く出されている。今回の「発電コスト検証」について、資源エネルギー庁の畠山陽二郎次長は、「電源構成の重要な基礎材料だ。エネルギーミックスの検討に資するもの」と述べ、基本政策分科会で議論を深めていく考えを強調した。
16 Dec 2024
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日本財団は12月9日、「若者の望むエネルギーとは?」と題し、これまでに実施してきた18歳前後の若者を対象とした「18歳意識調査」の結果をベースに、エネルギー問題への関心喚起に向け、有識者とのインタビュー記事を公開した。「18歳意識調査」は、選挙権年齢が20歳から18歳に引き下げられたのを契機に、2018年以降、同財団が社会、政治、経済格差、環境保全、戦争など、幅広いテーマで、インターネットを通じ、これまで計66回にわたり実施。調査結果は同財団のウェブサイトで公開されている。現在、資源エネルギー庁では、次期エネルギー基本計画の策定に向けた議論が佳境となっている。政府では、2040年を見据えた日本の未来像を標榜し、年内にも同計画の他、地球温暖化対策、社会保障なども含めた総合的な政策パッケージ「GX2040年ビジョン」の素案が示される運びだ。日本財団は今回、政府が現行エネルギー基本計画策定の翌年、2022年夏にGX基本方針「産業革命以来の化石燃料中心の経済・社会、産業構造をクリーンエネルギー中心に移行させ、経済社会システム全体の変革を促す」ことを打ち出したのを契機に実施した「18歳意識調査」の結果を振り返った。同財団が2022年にエネルギーをテーマとして実施した「18歳意識調査」では、日本のエネルギー政策に「非常に関心がある」、「やや関心がある」と回答した割合は合わせて54.4%と半数超。また、調査時期に先立つ2021年度冬季には、電力需給ひっ迫が懸念されたが、節電について「取り組んでいる」との回答割合は67.0%に上るなど、若者のエネルギーに係る意識の高まりがうかがえている。こうした調査結果を振り返り、今回、岩手大学理工学部教授の高木浩一氏が日本財団によるインタビューに応じ、「若者には既存のエネルギーが底をつくという危機感がある」と指摘。同氏は、電力会社やNPOとも協力し小中学校への出前授業に出向くなど、エネルギー問題に対する啓発に努めている。学校でのエネルギー教育の進展に対し、一定の評価を示した上で、将来の化石燃料枯渇に対する不安の高まりなどから、原子力発電の利用に関しては「若い世代では、エネルギー供給の手段の一つとして考える傾向が強く、特別視する抵抗感のようなものはそれほど強くない」と分析。実際、2022年の「18歳意識調査」では、現行のエネルギー基本計画が示す「総発電電力量に占める原子力発電の比率20~22%」について、「高めるべきである」との回答が17.6%、「賛成である」との回答が43.6%と、概ね理解が得られている結果が示されていた。さらに、高木氏は、過去の教科書主体の情報入手から、現在ではSNSを中心とする通信ネットワークが普及している状況を踏まえ、「学生がエネルギーについて考えるとき、情報が足りないというより、多すぎる状態だ」とも指摘。電源構成の多様化に関し、「すべてに万能なエネルギーはない」とも述べ、それぞれの長所・短所を理解した上、ディスカッションなども通じ生徒・学生らが「自分で考える」ことの重要性を強調している。「18歳意識調査」ではこれまで、恋愛・結婚、生理など、性意識をテーマとした調査を多く実施してきた。2022年のエネルギーに関する調査では、多くの設問で男女差が顕著に表れており、例えば、「日本のエネルギー自給率が低いことを知らなかった」とする回答は、男性で25.5%、女性で35.4%と、約10ポイントの認知度の差が示されている。
13 Dec 2024
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