ジュリア・ロングボトム駐日英国大使は8月19日、東京電力の柏崎刈羽原子力発電所を訪れ、安全対策設備である防潮堤、ガスタービン発電機車、代替熱交換器車、フィルタベントを視察した。〈動画は こちら〉視察後、所員らとの対面に臨み、まず「大変熱心に仕事に取り組んでいる様子を知ることできた」と激励。さらに、「一人ひとりがプロフェッショナルとしての意識を持って努めていることが印象に残った」とも述べた上、原子力発電の意義に関し、「低炭素エネルギーであり、気候変動を解決するためにはなくてはならないもの。現在、英国政府でも、原子力が金融緩和や気候変動、持続可能なエネルギー確保に必要不可欠」と強調した。翌20日には、新潟県庁を訪れ、笠島公一副知事と会談。ロングボトム大使は、日本語が堪能な親日家としても知られており、柏崎刈羽原子力発電所視察の所感、原子力利用における地元理解の重要性を話すとともに、このほど世界遺産登録が決定した佐渡金山を通じた日英間の観光交流についても期待感を示したものとみられる。ロングボトム大使は、日本原子力産業協会と英国ビジネス・通商省らが共催する「日英原子力産業フォーラム」にも、毎年出席。高温ガス炉や福島第一原子力発電所廃炉における技術的知見の共有など、産業界の日英間パートナーシップを深めていく姿勢を示している。
21 Aug 2024
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総合資源エネルギー調査会の原子力小委員会(委員長=黒﨑健・京都大学複合原子力科学研究所所長)は8月20日、事業環境整備に関し、電気事業連合会、電力中央研究所、原子力エネルギー協議会(ATENA)よりヒアリングを行った。〈配布資料は こちら〉8月1日、政府・GX実行会議が国家戦略「GX2040ビジョン」策定に向けて行っている有識者からの意見聴取「リーダーズパネル」は、「再生可能エネルギー拡大、原子力発電所の再稼働やリプレース、火力の脱炭素化に必要な投資拡大の必要性」を課題の一つとして掲げている。今回小委員会の冒頭、資源エネルギー庁の久米孝・電力・ガス事業部長が挨拶に立ち、脱炭素エネルギーへの転換に向けた現状について、「世界がネットゼロという未知の領域に進んでいる」とあらためて強調。一方で需要面の不確実性が高いことなどから、「極めて難度の高い課題」との認識を示した上、原子力の観点からエネルギー政策の将来像について、忌憚のない意見を求めた。ヒアリングで、電事連の佐々木敏春副会長は、電気事業を取り巻く大きなトレンドとして、「世界的な脱炭素の潮流」、「DX(デジタルトランスフォーメーション)の進展によるベースロードを中心とする電力需要増」、「エネルギー・経済安全保障リスクの高まり」を提示。これらの環境変化に対する適応可能性から、原子力については「持続的かつ最大限活用していくべき電源」と強調した。既設炉の最大限活用に加え、建設のリードタイムを踏まえ、早急に次世代革新炉の開発・建設に着手する必要性を、今世紀後半までの設備容量予測により図示。さらに、2040年度末までに運転期間60年に達する4基分(高浜1・2号機、美浜3号機、東海第二)をリプレースするとした場合、必要な投資額を、2021年に総合資源エネルギー調査会が実施した発電コスト検証をもとに、約2.5兆円と試算した。厳しい財務状況を背景とした電力をめぐる資金調達環境の悪化も憂慮。原子力事業の継続性確保に向け、「円滑なファイナンスが可能となる資金調達環境整備」の早急な検討を求めた。電中研社会経済研究所研究参事の服部徹氏は、原子力事業環境整備の海外事例について紹介。新増設に係る英国、フィンランド、フランス、米国の各事例の他、既設炉維持やバックエンドの事例にも言及し、費用回収とファイナンスの課題への対応について説いた。これに関し、朝野賢司委員(電中研社会経済研究所副研究参事)は、電力事業におけるファイナンス整備の重要性を「原子力だけでなく将来必要となるあらゆる大規模な脱炭素電源への設備投資と密接に関連する」と強調。一方で、日本における次世代革新炉の開発・建設に向けては、「投資回収の予見可能性があまりに低い」ことをファイナンス整備の課題として挙げたほか、「リスクとコストの適切なバランス」について、電気事業者・大手メーカーだけに偏らず、関連するステークホルダー間で議論が進められる必要性を指摘した。ATENAは、革新軽水炉の取組として、三菱重工業が開発に取り組む「SRZ-1200」の安全対策を紹介。規制の予見性の観点から、原子力規制委員会との議論に向けた準備を進め、「高い安全性を持つ革新軽水炉導入の早期実現」を目指すとした。専門委員として出席した日本原子力産業協会の増井秀企理事長は、現在検討が進められる次期エネルギー基本計画に、原子力発電の新規建設を前提に、その基数と時期を明確に記載することを要望。その実現化に向け、資金調達・回収、革新軽水炉の規制基準について意見を述べた。〈発言内容は こちら〉今回の会合では、利用政策の観点から運転期間延長に係る審査基準についても、資源エネルギー庁より考え方が示され議論。立地地域の立場から、杉本達治委員(福井県知事)は、「安全が最優先。運転延長後もプラントの安全性が確保されていることが重要」と強調した。
20 Aug 2024
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文部科学省の有識者ワーキンググループは8月19日、核融合エネルギーの実現に向け、「発電実証のさらなる前倒しの可能性」について検討を開始した。〈配布資料は こちら〉ITER(国際熱核融合実験炉)に続き、日本において発電実証を行う原型炉の研究開発については、「統合イノベーション戦略」(6月に閣議決定)、「新しい資本主義のグランドデザインおよび実行計画2024年改訂版」(同)で、世界に先駆けて「2030年代の発電実証」を目指す方針。7月10日、文科省の核融合科学技術委員会は、ITER計画の進捗状況(ファーストプラズマ達成は2025年から34年頃に遅れる)や諸外国による核融合開発の目標などを踏まえ、原型炉の研究開発方針を見直す考えを示している。〈既報〉8月16日、同委員会下のWGは、量子科学技術研究開発機構(QST)量子エネルギー部門研究企画部長の大山直幸委員らよりヒアリング。原型炉による発電時期の前倒しについて、QSTは、「スタートアップを含む産業界の取組をも後押しするもの」と期待感を示した上で、2035年頃に原型炉段階への移行判断を行う「JA DEMO」構想を紹介した。QSTは、ITER計画における日本国内機関としての立場からも、今後の原型炉概念に関し、日本の技術力が発揮されるトロイダル磁場コイル、増殖ブランケット、ダイバータについては、「ITER技術基盤の延長線上」に概念を構築し、一方でITERにない技術については、「産業界の発電プラント技術および運転経験、大学などによる未踏技術の解決方策」も取り入れた概念を構築していくと、技術的見通しを説明。他の委員からは、海外におけるトカマク型以外の研究開発など、ベンチャー企業や萌芽的研究の台頭も踏まえ、「原型炉への移行判断に必要な要素」については、十分に留意する必要性が指摘された。これを受け、文科省からは、原型炉実現に向けた基盤整備として、研究開発、人材育成、アウトリーチ活動、イノベーション拠点化について、各取組の具体的な方向性が整理され、今後の議論に先鞭を付けた。人材育成については、ITER参加7極の学生・若手研究者が日本で核融合の専門分野を学ぶ「ITER国際スクール」(IIS)の2024年日本主導開催や、QSTの施設を活用した「JT-60SA国際核融合スクール」(第2回JIFS)が8月26日に始まることなどを紹介。アウトリーチ活動については、2025年度に大阪万博において広報活動が実施される予定。委員からは、「若い層からも注目が集まっている」として、各取組を融合した活動強化の必要性を示唆する発言があった。
19 Aug 2024
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坂本哲志農林水産相は8月15日の閣議後記者会見で、現在も一部の国・地域で続く日本産農林水産物・食品に係る輸入規制の現状について述べた。同日から17日までを予定する香港訪問に関連し、記者からの質問に答えたもの。坂本農水相は、16、17日、アジア最大級とされる食の見本市「Food Expo PRO 2024」で日本産農林水産物・食品のトップセールスを行うほか、その輸出拡大に向けて、香港政府関係者との会談や現地食品製造・販売事業者の視察などに臨む。会見の中で、坂本農水相は、福島第一原子力発電所で発生するALPS処理水の海洋放出を受け、香港政府が10都県産の水産物の輸入を禁止していることに対し、「いずれも科学的根拠に基づかないものであり、極めて遺憾だ」と強調。一方で、香港について「わが国の農林水産物の重要な輸出先」との認識をあらためて示した上で、今回の訪問で予定する同政府関係者との会談に向け、「規制の即時撤廃を要請する」考えを述べた。福島第一原子力発電所事故後、諸外国・地域で設定された輸入規制は、49の国・地域(EUは一つとしてカウント)で既に撤廃。その一方、香港の他、ロシア、中国、マカオ、韓国、台湾が現在も規制を継続している。中でも、昨夏に開始したALPS処理水の海洋放出に伴い、中国とロシアでは全都道府県の水産物が輸入停止となっている状況だ。中国で続く輸入規制に関し、坂本農水相は、これまでの二国間会談や国際的議論を通じた即時撤廃の働きかけに言及した上、「引き続き科学的根拠に基づかない輸入規制措置に関して、政府一丸となって強く働きかけていく」と強調した。農水省が8月2日に発表した2024年上半期の農林水産物・食品輸出額によると、中国は対前年同期比43.8%減、香港は同10.5%減。輸出額の減少が最も大きい品目は、ホタテ貝(生鮮等)の同142億円減で、中国・香港による日本産水産物の禁輸措置が減少要因とみられている。一方で、海外バイヤーの日本招へい、国内加工業者の海外派遣など、国内の水産業を守る政策パッケージが成果をあげており、ホタテ貝の輸出額は、ベトナム、タイ、米国向けで、それぞれ対前年同期比約7.9倍、約3.5倍、約1.6倍と、増加している。
16 Aug 2024
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電気事業連合会は8月15日、女優の今田美桜(いまだみお)さんを起用した新Webムービー「今田美桜のお料理してミーオ!」を公開した。今田さんが料理番組のMCに扮し、日本のエネルギー事情、電力安定供給と地球温暖化対策といった課題、様々なエネルギーをバランスよく組み合わせる「エネルギーミックス」の大切さを説明するもの。同日、第1弾として公開された「作り方」篇(約1分半)の冒頭、今田さんは、日本のエネルギー自給率を「ある食品」の形で示し、エネルギー問題に対する関心を喚起。「天の声」とのやり取りを基調に、食べ物をモチーフとして「電気の作り方」を取り上げている。今田さんは、厨房の電子レンジを前に、「発電量の約7割を火力発電が占めるため、エネルギー資源の多くを海外に頼っている」と、日本の「電気を作る」上での課題を提起。「天の声」は、「環境に優しい再生可能エネルギーを増やしたら」などと問いを発する。今田さんは、色分けされたクリーム生地の泡立てを通じて、一つの電源のみに決め打ちができず多様性を必要とする日本の「エネルギーミックス」の現状を説く。エネルギー基本計画見直しに向けた検討が6月より始まっている。電事連では、今回のWebムービー公開に際し、「再生可能エネルギー、原子力、火力をバランスよく活用していくことの大切さを、料理番組を題材としたWebムービーを通じて、若い世代を始め多くの皆様に、より身近に考えてもらうきっかけとなれば」と、エネルギーミックスの大切さをアピール。続く第2弾も9月に公開予定だ。今田さんはこれまでも、電事連によるテレビCM「エネルギーから、明日をおもう。」に登場し、明治時代と現代の教師に扮して、それぞれの時代の電気の価値や使われ方の違いを説明するなど、エネルギー安定供給の重要性をPRする動画コンテンツで起用されてきた。
15 Aug 2024
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福井県美浜町で8月8~10日、「美浜エネルギー・キャンプ2024」が開催された。3月の初回に引き続き、2回目の開催となる今回は、一般財団法人教育支援グローバル基金が支援する全国の奨学生19名(高校生13名、大学生6名)が参加した。現地では、福井南高等学校・浅井ゼミ(浅井佑記範教諭)の生徒や、ボランティアで参加した大学生らが行動を共にした。教育支援グローバル基金は、親との死別・離別などの困難を経験した若者たちを、奨学金支給や人材育成プログラムの開催を通じて支援する非営利組織。今回の美浜エネルギー・キャンプは、リーダーシップ育成を目的に同法人が主催する4泊5日の宿泊型研修「サマー・リトリート2024」((一般財団法人教育支援グローバル基金が2017年以来計6回開催している宿泊型研修で、今年は石川県および福井県で開催))のプログラムの一環として開催された。参加者たちは、美浜町で過ごす3日間の日程の中で、関西電力・美浜原子力発電所の見学や、電池推進遊覧船の乗船体験、エネルギー環境教育体験館「きいぱす」((日本で唯一、エネルギー環境教育に特化した体験館で、廃校となった小学校を再利用し、2017年に美浜町営の施設として開館))での体験学習などを行い、エネルギー生産地の現状への理解を深めた。各施設では、メモを取りながら担当者の説明に真剣に耳を傾け、積極的に質問を投げかける参加者たちの姿が見られた。丹生公民館で参加者たちに向けて講演を行った美浜町エネルギー政策課・上野和行課長は、「(美浜エネルギー・キャンプで)見聞きしたことや経験したことを、みなさんがどのように噛み砕き、理解するかが重要。今回の研修をきっかけに、エネルギー問題など、今自分たちが直面している問題について、『どうしたら良いか』ということを考えられるリーダーになってもらえたら」と期待を込めた。また、美浜町の戸嶋秀樹町長も来場し、参加者と懇談。戸嶋町長は、「エネルギーは、国の根幹をなす重要な資源の1つであり、エネルギー問題に向き合う今回のような機会は、非常に意義があるもの」と話し、国のエネルギー政策や、美浜町の「エネルギーと共生する町づくり」に向けての取り組み、その重要性などを紹介。また、「原子力発電所は世界に数多くあるが、美浜の発電所は自然景観と調和しており、夜景がきれい」と、町の魅力をPRした。キャンプに参加した奨学生たちからは、「発電所が安全面に非常に気を遣っていたことが印象的で、発電する側の苦労を初めて知ることができた」「日々の生活の中で、想像以上にエネルギーを消費していることを知った。また、発電体験を通して発電の大変さを実感し、節電に気を付けようと思った」「今までエネルギーについては考えたことがなかったが、『きいぱす』での体験学習は楽しかった。学校の授業も、こんな感じだったらみんな興味を持つと思う」などの感想が聞かれた。今回のキャンプにボランティアで参加し、奨学生たちの美浜での活動をサポートした島根県内の大学生は、「エネルギーは、社会や理科など、幅広い分野が関わっており、議論が活発になるという点が魅力。今回のキャンプを通じて、エネルギーについて考えたり、意見交換することの楽しさを実感してほしい」と話した。また、日頃から原子力や地層処分に関する社会課題に取り組む浅井ゼミの生徒は、「今回参加している奨学生の多くは、電力生産地以外の地域から来ており、今までエネルギーについて考えたこともなかったという子も少なくなかった。美浜町でエネルギー生産地の現状を学んだことが、たとえば原子力発電所に賛成・中立・反対など、エネルギーについて何か自分の意見を持つきっかけになってもらえたら嬉しい」と語った。
15 Aug 2024
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キヤノングローバル戦略研究所(CIGS)は、「市民社会とエネルギー政策の関係」と題する動画シリーズを公開している。同所研究員の渡辺凛氏が各回10分程度で解説するもの。エネルギー基本計画の見直しに向けた議論が6月より総合資源エネルギー調査会で開始しているが、渡辺氏は、動画シリーズの初回(8月8日公開)で、エネルギー政策の特徴として、「とても複雑な問題」、「経済活動に欠かせないインフラ」、「リードタイムが長い(実現するのが3年、5年、10年先)」との観点を提示。さらに、「決まったことが政権交代のたびに覆されることは比較的起こりにくい」という安定性に言及し、「政治や民意よりも、実務や行政の力が強い政策分野といえる」とも分析している。また、これまで日本のエネルギー政策がとってきた「S+3E」(安全性、安定供給、経済効率性、環境適合)の枠組みに一定の評価を示す一方で、「他にも重要な観点がある」と指摘。例えば、EUにおけるエネルギー政策の考え方を例に、「健康・福祉、地域経済、食料問題など、幅広い社会問題と複合的にエネルギー問題を考え、議論の結果を政策にインプットする仕組みを作ること」をあげており、今後、行政だけでなく、研究機関、アカデミア(学術界)、NPO・NGOなども交え、議論の多様性・厚みを増していくことの重要性を強調している。続いて、第2回(8月9日公開)では、原子力を巡る反対運動の根源として、リスクの不確実性が十分に議論されていないこと、それゆえに「一部の人だけが被害を受ける仕組みはおかしい」という主張に至っている現状に言及。その上で、エネルギー政策決定に関わる市民参加型の議論について、「目的をはっきりと」、「対象・目的に対し適切な問いを」、「結果をどう意思決定に活かすのか」を、ポイントとして指摘している。13、14日には、第3、4回「物事を100%、『科学的に』、『合理的に』決めることはできない」を公開。その中で、渡辺氏は、「科学は不安を取り除く道具にはならない。解釈するのは人間一人ひとりの価値観だから」と強調している。とかく水掛け論になりがちな個人の「価値観の議論」に関し、「科学者もそれぞれ価値観を持っている。お互いが異なる価値観を理解し合うことで打開策が考えられるのでは」と述べ、事前アンケートの実施、フリーディスカッションの設定など、市民参加型の議論に向けて、「場の設計」の重要性を指摘。一例として、同氏は、東海村の若手市民を対象とした高レベル放射性廃棄物の地層処分に関するインタビュー経験を紹介し、事前の情報提供を15分程度行うだけで「専門的知識の多少にかかわらず、市民は意見を述べることができる」と説いた。原子力・エネルギー政策にとどまらず、公益的課題に関して「価値観の議論」の重要性を強調する渡辺氏は、方針ありきで進めていくいわゆる「ガス抜き」的な市民参加では信頼の失墜につながってしまうと、警鐘を鳴らし、まずは「コミュニケーションの実績を地道に積んでいくことが大事」と指摘した。
14 Aug 2024
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三菱総合研究所は8月6日、「原子力政策の議論を円滑に進めるカギとは?」とする意見を発表した。〈三菱総研発表資料は こちら〉同社のWEBサイト上に掲載するコラムシリーズ「カーボンニュートラル時代の原子力」の最新版として、社会インフラ事業本部がエネルギー基本計画見直しの検討開始をとらえ、独自に実施したアンケート調査に基づき取りまとめたもの。同事業本部は昨年末にも、COP28で発出された「原子力3倍化の宣言」の関連で、「国内の再稼働を進めつつ、技術・人的な世界貢献を進めることが重要」とする意見を発表している。今回、各都道府県100名・全国4,700名を対象とした原子力発電の利用に関するアンケート調査(2023年8月実施)を踏まえ、回答者を、「反対層」、「消極層」、「肯定層」、「積極層」に分類・分析。その上で、原子力利用における「信頼」に焦点を当て意見を述べた。アンケート調査結果によると、全体の傾向として、「原子力発電の再稼働や新規建設の是非の判断で重視すること」(複数回答可)については、回答割合の多い順に、「電気料金への影響」、「原子力発電の安全性」、「放射線の人体への影響」と、個人にとって身近な点を重視していることが示された。一方で、「国の判断」、「原子力産業による雇用創出や地域の活性化の可能性」など、個人との結び付きが弱いと考えられる点については、選択割合が低くなっていた。さらに、「様々な電源がある中で、2030年度に原子力発電が全電力量のうち、何%程度をまかなうべきか」との問いに対する回答者を、 (1)原子力発電を利用すべきでない(発電比率0%:反対層) (2)政府目標よりも低い水準にすべき(発電比率5~15%:消極層) (3)政府目標と同程度の発電比率にすべき(発電比率20%程度:肯定層) (4)政府目標水準以上に利用すべき(発電比率25%以上:積極層)――の4つのスタンスに分類。各層の割合は、それぞれ15%、22%、37%、26%だった。この4つの分類ごとに、「原子力発電の再稼働や新規建設の是非の判断で重視すること」について、回答を分析。その結果、いずれの層ともに「原子力発電の安全性」が重視されていることが示された。さらに、「反対層」と「消極層」では、「放射線の人体影響」、「放射性廃棄物の処理処分の見通し」など、原子力固有の課題が上位に、一方で、「肯定層」と「積極層」では、「電気料金への影響」、「エネルギー自給率」、「電力の安定供給」が上位にランキング。今回のアンケート調査結果からは、「肯定層」と「積極層」では、原子力利用の価値を重視していることがわかった。他の層との比較で「重視すること」の回答割合の差が顕著だったものとしては、「事故を起こした福島第一原子力発電所の廃炉の見通し」が「反対層」で、「停電リスクといった電力安定供給への影響」が「積極層」で、それぞれ高くなっていた。調査結果を踏まえ、今回の意見では、政府・事業者による原子力利用政策に対し「国民から信頼を獲得するには、国民と重視する要素が一致することが重要であるが、『重視する要素は多様にある』ことから、すべての国民と重視する要素が一致した政策や施策を実装することは困難」と、指摘。その上で、「相反するスタンスを有する国民の双方とバランスよく議論する」ことを提言している。三菱総研はかつて、JCO臨界事故(1999年)後の原子力行政の建て直しに向け、様々なステークホルダーが意見を述べ合う原子力委員会「原子力政策円卓会議」の運営を担った経験がある。
08 Aug 2024
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三菱重工業と量子科学技術研究開発機構(QST)は7月31日、ITER(国際熱核融合実験炉)に用いられるダイバータ((核融合で発生するヘリウムや不純物粒子を排出する装置))の重要な構成要素「外側垂直ターゲット」のプロトタイプを完成したと発表した。〈三菱重工発表資料は こちら〉完成したプロトタイプは、高さ約1.5m、幅約0.6mの“J”字型をした実機大モックアップ。三菱重工とQSTでは、2020年より製作に取り組んできた。三菱重工は、「外側垂直ターゲット」実機全58基(予備を含む)のうち、既に18基を受注し製作を進めており、2025年度にも6基分の納入が計画されている。プロトタイプの完成により、実機量産化に向けて準備が整った格好だ。プラズマから来る大きな熱流を受止めるダイバータの熱負荷は、最大で20MW/㎡。これは、小惑星探査機が大気圏突入の際に受ける表面熱負荷に匹敵し、人が搭乗する宇宙船ではスペースシャトルが受ける表面熱負荷の約30倍に相当する。正にトカマク型核融合炉の「最も過酷な場所」だ。そのため、構成する部材は極めて厳しい熱環境での使用に耐えるよう、高融点であるものの加工が困難なタングステンなどの特殊な材料が用いられる。ITER計画は参加各極による物納貢献が基本で、ダイバータを構成する「外側垂直ターゲット」は日本が、「内側垂直ターゲット」は欧州が主に受注。「外側垂直ターゲット」は、30×30×10mm程度の「タングステンモノブロック」で構成。1基当たり3,000個以上の「タングステンモノブロック」は、1個でも熱負荷で溶融すれば大きなトラブルにつながることから、厳しい技術水準が要求される。三菱重工は、高熱に耐えるタングステン材料、それを冷却するためのクロムジルコニウム銅合金冷却管、材料を接合する熱処理方法「ろう付け接合」を開発し、超高温下における耐久性の課題を克服。要素試験、小規模試験体および実規模試験体による検証を行い、材料特性に適した高度な接合技術、加工技術、組立方法など、「外側垂直ターゲット」を製作する基盤技術を確立した。ITER計画は、「核融合エネルギー実現の見通しを得る」ことを目指し、前例のない技術目標を掲げた国際プロジェクトで、2007年10月に外交レベルの協定が発効。QSTでは、前身の日本原子力研究開発機構(核融合部門)の頃を含め、計画当初よりダイバータ「外側垂直ターゲット」の研究開発に注力し、三菱重工は2012年より製作に参加している。
06 Aug 2024
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総合資源エネルギー調査会の基本政策分科会(分科会長=隅修三・東京海上日動火災保険相談役)は8月2日、日本経済団体連合会、経済同友会、日本商工会議所他よりヒアリングを行った。同分科会は、5月よりエネルギー基本計画の見直しに向け検討を開始しており、今回の会合はその6回目となる。〈配布資料は こちら〉経団連の岩村有広常務理事はまず、日本の有する「供給面の制約が厳しい」、「需要規模が大きい」といったエネルギー事情を踏まえ、「単一のエネルギー源に過度に依存することなく、バランスの取れたエネルギーミックスの実現を志向すべき」と強調。その上で、今後の論点として、「化石燃料依存度の低減」、「ゼロエミッション電源の最大限活用」を示した。再生可能エネルギーの主力電源化とともに、原子力の最大限活用を挙げ、次世代炉の開発に向け各技術の置かれた現状を、実用化に近い順に「実装段階」、「実証段階」、「実験段階」に分類。当面は、革新軽水炉(実装段階)の建設・活用を進めつつ、並行して高速炉や高温ガス炉(実証段階)の実証を進めていく必要性を指摘した。経団連の十倉雅和会長は7月8日の記者会見で、GX推進や国際プロジェクトにおける日本のプレゼンス向上に関連し、ITER計画への期待を述べている。今回の分科会会合における発表でも、経団連は、核融合発電(実験段階)について、「高レベル放射性廃棄物を発生させない」などの利点から、その実用化を強く求めた。再稼働に関し規制側の判断や地元の理解が注目されているが、経団連は、日本原子力産業協会他のデータに基づき、今後の原子力発電設備容量の見通し(電源構成に占める割合は20%水準、60年までの運転を想定)を図示。それによると、新増設・リプレースがなければ、2040年代から設備容量が急減することから、建設に要するリードタイムも考慮し、「次世代革新炉の建設具体化」とともに、産業界の立場から「予見性確保、資金調達の観点も踏まえた事業環境整備」の必要性を訴えた。経済同友会の兵頭誠之エネルギー委員長らも、発表の中で、2040年をポイントとして指摘。同会は東日本大震災後の「縮・原発」の姿勢を改め、昨年末に長期的な原子力活用に向けて「活・原子力」を提唱した。今回、供給側の取組として、短期、短中期、中期、中長期のタイムスパンで課題を整理。原子力に関して、短期的には、「審査合格後の早期再稼働に向け、国民にファクトベースの説明」を行う必要性を指摘した。同会の新浪剛史代表幹事は、7月16日の記者会見で、柏崎刈羽原子力発電所の再稼働に関連し、電力消費地域の理解を進める必要性を述べている。また、中長期的な課題としては、核燃料サイクル・最終処分事業の推進とともに、「革新炉の特性を最大限に活かし、実態に即した新たな規制のあり方を検討する」、「人材・技術・サプライチェーン維持の取組を産官学一体となって推し進める」ことなどを提示。原子力の国民理解に関し、同会は、意見交換会「未来選択会議」などを通じ、若手との議論に取り組んできたが、今回の分科会でも、「社会全体を覆う『原子力を語れない空気』の払拭」が図られるよう、引き続き熟議に努めていく姿勢を示した。日商は、中小企業のエネルギーを巡る現状として、88%の企業がエネルギー価格の上昇により「経営に何らかの影響がある」と懸念していることなどを指摘。さらに、地方の観点からも、電源立地地域への産業誘致など、脱炭素化と産業活性化を両立する地域特性を踏まえたエネルギー戦略の立案を今後の議論に向け期待した。立地地域として、杉本達治委員(福井県知事)は、引き続き原子力に対する国の姿勢の明確化を切望。先般の能登半島地震にも鑑み、災害対応に資する蓄電池の活用にも言及し、電力安定供給を支える基盤確保の重要性をあらためて訴えた。今回の同分科会では、経済団体の他、日本労働組合総連合会、全国消費者団体連絡会からもヒアリングを行った。
05 Aug 2024
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日本原子力産業協会の増井秀企理事長は8月1日、就任後初の記者会見を行った。〈就任挨拶は こちら〉増井理事長は、6月18日に行われた同協会2024年度定時社員総会で、前任・新井史朗理事長を引き継ぎ就任した。初会見では、現在、検討が行われている次期エネルギー基本計画について言及。IT需要や脱炭素化の進展に伴う電力需要の増加に備え、エネルギー安定供給の観点から、既存プラントの早期再稼働に加えて、リプレースや新増設の必要性、それらを実現するために必要な事業環境の整備について明記されることを求めた。さらに、国民理解が進むよう注力し、医療・工業・農業などにおける原子力・放射線利用の促進にも努めていく考えを強調。原子力政策に関しては、6月25日の総合資源エネルギー調査会原子力小委員会において前任・新井理事長(特任フェローとして出席)が発言した4つのポイントとして、既設炉の最大限活用新増設・リプレースを含めた必要容量・時間軸の明記原子力事業者が適切な時期に新規建設の投資判断を可能とするための事業環境整備原子力の価値を広く国民に知ってもらうための官民挙げた理解促進――をあらためて説明した。〈発言内容は こちら〉記者からは、現在渦中にある日本原子力発電敦賀2号機の新規制基準適合性審査に係る質問も多く出された。会見前日の7月31日、原子力規制委員会は、同機について、地質関連の設置基準に照らし「適合しているとは認められない」との審査結果を了承している。増井理事長は、地震の多い日本の現状に触れた上で、8月2日に行われる規制委と同社経営幹部との意見交換に関し、「追加調査を含め対応をしっかり説明して欲しい」と述べた。また、「日本の原子力発電のパイオニア」である同社のGCR、BWR、PWRと多様な炉型開発の実績にも言及。原産協会として、同社は「重要なプレーヤー」との認識をあらためて示した。この他、エネルギー基本計画改定の中で発電コストの議論が始まったところだが、原子力発電については「パフォーマンスの向上」を、今後の新増設・リプレースに向けては日本のサプライチェーン維持・強化の課題を指摘。増井理事長は、就任前、東京電力原子力・立地本部副本部長を務めるなど、原子力発電における基盤強化・安全文化醸成に取り組んできたことから、記者より、柏崎刈羽7号機の再稼働について問われたのに対し、地元地域の信頼を獲得し安全第一に進めて欲しいことを強調した。同機については、現在、新潟県各地で国による説明会が行われている状況だ。
02 Aug 2024
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原子力規制委員会は7月31日の定例会合で、日本原子力発電敦賀発電所2号機(PWR、116.0万kW)の新規制基準適合性審査に関し、同社の村松衛社長らから意見聴取を行うことを了承した。〈規制委発表資料は こちら〉同機の新規制基準適合性審査は、2015年11月に申請され、審査期間は既に8年を超えている。2022年1月、2023年8月には補正申請がなされ、その中で、地震・津波関係の審査に関して、「敷地内の『D-1トレンチ』内に認められる『K断層』の活動性および原子炉建屋直下を通過する破砕帯との連続性」が論点となっていた。2024年7月26日の審査会合で、審査チームは、設置許可基準に照らし「適合しているとは認められない」と判断。これを受け、原電より、審査会合の結果を精査し追加検査を検討しており、補正申請を超える内容についても検討し、調査結果がまとまった時点であらためて審査を願う旨、申し出がなされた。31日の定例会合では、原子力規制庁の内藤浩行安全規制管理官(地震・津波審査)らが、審査結果について説明。「K断層」の活動性、連続性ともに、「否定できていない」とした。これに関し、地震・津波審査担当の石渡明委員は、「K断層」の連続性評価に関し、地質学の一般論として「幅が広い大きな断層という特徴が調査フローに入っていない」と指摘。内藤管理官は「実際、目視で確認する中、非常に判断が難しい」などと述べた上で、安全サイドに立ち、総合的判断を行った経緯を説明した。この他、活動性評価に用いられた光ルミネッサンス年代測定法の信頼性など、調査手法に係る質疑もあったが、プラント審査を担当する杉山智之委員は、「明確な答えはまだわからないのでは」と述べ、さらに精査する必要性を示唆した。原電社長を招く意見聴取は、8月2日に規制委臨時会合として公開の場で実施される予定だ。敦賀2号機の審査について、同委は、2023年4月に原電経営幹部と行った意見交換の中で、最新の補正書を「最後とする」方針を示している。今回定例会合終了後の記者会見で山中伸介委員長は、「次のステップとして原電から追加の調査、再補正をしたいという意見もあるので、社長の意見をあらためて聴いた上で、規制委としての方針を示したい」と述べた。7月26日の審査会合の後、原電は、引き続き敦賀2号機の再稼働に取り組む姿勢を示している。同社は、2015年の新規制基準適合性に係る審査申請以前にも、海外有識者による国際的評価、規制委に対する意見書提出などを通じ、「敷地に分布する破砕帯は『将来活動する可能性のある断層等』ではない」ことを一貫して主張している。
01 Aug 2024
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三菱重工業は7月25日、関西電力高浜発電所1・2号機向けに、取替用炉内構造物2基の製造・取替工事を受注したと発表した。同日、関西電力は、原子力規制委員会に対し両機の炉内構造物取替計画に係る原子炉設置変更許可申請を行っており、それぞれ、2028年6~12月、2028年11月~29年4月に予定する定期検査で取替工事を実施する計画だ。〈三菱重工発表資料は こちら〉炉内構造物は、原子炉容器の中で燃料集合体を保持する重要設備。全長約10m、外径約4m、重量約130トンのステンレス製で、燃料集合体を収納する下部炉心構造物(約89トン)と、それを上部から支持する上部炉心構造物(約44トン)で構成される。今回、製造する炉内構造物は、長期的な信頼性向上の観点から、海外において発生事例のあるボルト損傷への対策を施すなど、最新設計を取り入れ一体取替を実施。三菱重工神戸造船所で順次製造した後、現地で取替工事を行う。特に高い安全性と信頼性が求められる炉内構造物は、大型構造物であるものの0.01mm単位での厳しい加工精度が要求され、高い設計・製造技術力と、原子炉容器に据え付ける際にも、高い精度で位置決めする施工技術力も求められる。三菱重工が炉内構造物の一体取替工事を受注するのは、2021年に実施した関西電力美浜発電所3号機向けに続くもの。今回、世界で6、7例目となるが、これまでもすべて同社が手がけてきた。高浜1・2号機、美浜3号機はいずれも、40年超運転に入っているプラントで、高浜1号機は今秋、運転開始から50年となる。長期的な信頼性確保の観点から、予防保全策として炉内構造物一式を取り替えることとなった。
30 Jul 2024
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日本原子力発電は7月26日、敦賀2号機について同日、原子力規制委員会が地質関連の基準に関し「適合しているとは認められない」との確認結果を示したことを受け、コメントを発表。これまでの審査会合・現地調査での対応を踏まえ、「今後も追加調査やデータの拡充に取り組んでいく」として、引き続き同機の再稼働に向け取り組んでいく態度を鮮明にした。敦賀2号機(PWR、116.0万kW)に係る審査会合は2015年に開始。これまでの会合開催は計27回(プラント関係の審査も含む)に上る。原電による地質調査データの疑義に伴い中断した時期があったが、規制委の指導文書に従い補正申請が確認されたことから、2023年9月に再開。同発電所敷地内の「D-1破砕帯」(2号機原子炉建屋直下を通る)の延長近くに存在する「K断層」の活動性評価が論点となっていた。同社との質疑応答を踏まえ、審査チームは、2024年5月31日の会合で、「『K断層』の活動性を否定することは困難である」との確認状況を提示。6月6、7日には現地調査も行われた。7月26日の会合で、原電は、ボーリング調査等を通じた「K断層」の分析結果を示し、従来からの説明通り、連続性は認められないと説明したが、規制委の審査チームは同社の説明に科学的な根拠は乏しい点があるなどと指摘し、「K断層」と「D-1破砕帯」の連続性を否定できないとの認識を示した。前回の会合(6月28日開催)で、審査チームからは、7月の会合をもって敦賀2号機の現行補正申請に関する審議をしめくくる方針が示されていたが、同社は、必要な再調査の実施を含めて、「K断層」の活動性および連続性に関する追加的な検討を行う方針を表明。現行の補正書に記載した内容(論理構成や評価基準の変更など)を超えることが見込まれるため、再補正を視野に入れており、その時期などについては検討中とした。地震・津波審査担当の石渡明委員は、現行補正書に関する審査結果をまとめ、7月31日の規制委定例会合で報告する考えを示した。同日は、原電も出席し、今後の再補正に関する方針等を説明する見通しだ。2013年の新規制基準施行以前、規制委は発足当初より、旧原子力安全・保安院を引き継ぎ、敦賀発電所を含む6発電所について、有識者による破砕帯評価を実施。現地調査やピアレビューを踏まえ、「D-1破砕帯」については、同年5月に「耐震設計上考慮する活断層」との評価結果が示されている。これを受け、原電では、2つの国際レビューチームによる評価を実施し、同年8月にこれを覆す見解を発表。2014年2月には、地球物理学分野で権威のある「米国地球物理学連合」も、この問題に注目し、同社による主張を支持する論文を学会誌に掲載した。こうした国際的評価も踏まえ、原電は2015年11月、「敷地に分布する破砕帯は『将来活動する可能性のある断層等』ではないことを確認した」として、敦賀2号機に係る新規制基準適合性審査を規制委に申請し、説明に当たってきた。同機は1987年2月に運転開始。2011年5月の定期検査入りから停止が続いている。
29 Jul 2024
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福島第一原子力発電所で発生するALPS処理水の海洋放出が開始して、間もなく1年。一部の海外諸国による日本産水産物の輸入停止措置などを踏まえ、東京電力では、全国各地でのイベントや販売促進会、社内販売などを通じ、全社員・全グループが一丸となって国産水産物の消費拡大に取り組んでいる。一方、北海道では2024年上半期の水産物輸出額が前年同期比で半減しており、依然として厳しい状況だ。こうした中、同社はこのほど、東京・JR新橋駅前SL広場を中心に毎年開催される「新橋こいち祭」に初めて出店。7月25、26日の期間中(両日とも、15時~20時30分)、「常磐もの」を使った「さんまのポーポー焼き」(サンマのすり身に味噌と薬味を混ぜて団子にした漁師飯)や福島の酒を提供する「発見!ふくしま」の他、昨年11月にSL広場で行われた復興応援イベント「ホタテ祭り」でも盛況だった「ホタテ応援隊」のブースを設け、福島県・北海道の美味を振る舞う。開催初日の25日には小早川智明社長が応援に駆け付け、「ホタテ串焼き」の調理・販売に当たった。「ホタテ応援隊」のブースは、JR新橋駅日比谷口を出てすぐ。駅のコンコースにも香ばしさが漂う。15時の開場後、小早川社長がブースに立った16時半頃には、ホタテを求める来場者の列ができ、仕事帰りの人たちが繰り出す19時半過ぎには既に売り切れとなる人気ぶりだった。ブース対応後、取材に応じた小早川社長は、これまでの国産水産物販売支援に対する謝意を繰り返し強調。7月16日に通算7回目(今年度3回目)を完了したALPS処理水の海洋放出については、「これからもしっかりと安全を第一に進めていき、海域の放射能測定データを示していく」と述べた。会場内、C11形SLの脇に設置された温度計は34℃。17時頃からは小雨がぱらつきながらも、さらに賑わいを増し、「かにみそ甲羅焼き」、「うに貝焼」の他、福島特産の桃を用いたアイス「ふしぎなピーチバー」(竹内まりやのヒット曲に因んだ命名)など、様々な美味が食欲をそそった。同氏は、まず「食べてもらう」ことと強調し、今後も着実に応援していく姿勢を示した。「新橋こいち祭」は、バブル崩壊後の90年代半ば、新橋界隈に務めるサラリーマンらに「“小一”時間楽んでもらう」思いで地元商店会が始めたもの。近年では、若者連れも多く、27回目となる今回、2日間で約14万人の動員を見込む。
26 Jul 2024
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総合資源エネルギー調査会の基本政策分科会(分科会長=隅修三・東京海上日動火災保険相談役)は7月23日、安定供給の現状・課題と火力の脱炭素化のあり方について議論した。〈配布資料は こちら〉同分科会は5月15日、エネルギー基本計画の見直しに向け検討を開始。7月23日の会合で、資源エネルギー庁の村瀬佳史長官は、これまでの議論を振り返り、「需要が増加していく中で、脱炭素電源を最大限増加していかねばならない」と強調。去る6月6日の会合では、通信ネットワーク関連企業からの発表も受け、データセンターの拡大など、AI技術普及に伴う電力需要増に関し議論されている。村瀬長官は今回、オイルショックを受け半世紀前に設立された資源エネルギー庁の理念に立ち返り、「安定供給をしっかり確保していく必要がある」との使命感をあらためて示した上、引き続き有意義な議論を期待した。脱炭素電源の現状と課題については、前回、7月8日の会合で議論。各電源のCO2排出量比較などが示された上で、委員からは、原子力の安全性、再生可能エネルギー設置に伴う環境影響、国民理解の必要性などをめぐり意見が出された。一方で、日本の一次エネルギー供給・電源構成における化石エネルギー比率(2021年)は83%と、G7各国と比較し、依然と高いレベルにある。今回、火力の脱炭素化に係る議論に際し、資源エネルギー庁は「日本は最も化石燃料のリスクにさらされている」と危惧。さらに、電力需給に関しても、7月8日には、首都圏で最高気温37℃を記録し、東京電力管内では中部電力からの電力融通が行われるなど、需給バランスは予断を許さぬ状況にある。実際、夏季・冬季の電力最大需要発生時の予備率見通しについては、2015年度以降の推移から、特に、近年では、東日本の予備率が相対的に低くなっている。安定供給に関連し、資源エネルギー庁は、近年で電力需給がひっ迫した2020年度冬季(継続的な寒波/LNG在庫減少)、2022年3月(真冬並みの寒波/福島県沖地震)、2022年6月(異例の暑さ/発電設備の補修)について、要因・対応策を整理したほか、化石燃料輸入に伴う国富流出にも触れた上で、委員より意見を求めた。委員からは、東京湾岸に集結する火力発電の電源脱落リスクに関し、「高度成長期の産業政策『太平洋ベルト地帯』は今や、首都圏直下型地震のリスクからもレジリエンス上のネックとなっている」と懸念し、火力プラントの移設とともに、原子力発電の早急な再稼働を求める意見があった。また、地域の立場から、杉本達治委員(福井県知事)は、新たなエネルギー源として期待される水素・アンモニアに関し、敦賀港を中心とした貯蔵タンクの拠点整備の一方で、「日本海側は都市が点在しており、大規模な需要が存在しているわけはない」と、産業振興の課題を述べた上で、日本海側と太平洋側が相互に連携し合う体制が構築されるよう国の支援策を求めた。
24 Jul 2024
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総合資源エネルギー調査会の基本政策分科会は7月22日、発電コストワーキンググループ(座長=秋元圭吾・地球環境産業技術研究機構主席研究員)を始動した。同分科会では、5月よりエネルギー基本計画の見直しを開始しており、その参考とすべく、各電源の発電コストについて試算し検討に資するもの。〈配布資料は こちら〉議論開始に先立ち、資源エネルギー庁が現行のエネルギー基本計画策定に向け行った「2021年の発電コスト検証」について説明。石炭火力、LNG火力、原子力、風力(陸上/洋上)、太陽光(事業用/住宅)など、15の電源別に、新たな発電設備を更地に建設・運転した際のkWh当たりのコストを、一定の計算式に基づき、2020年時点と、2030年時点で機械的に試算したもの。今後、燃料費の見通し、設備の稼働年数・利用率、再エネの導入量の他、実際の発電設備建設に際し立地点ごとに異なる条件を勘案する必要など、不確定要素が関わることから、あくまで参考モデルとして評価・分析している。それによると、原子力(設備利用率70%、稼働年数40年)は11.7円/kWh~で、LNG火力の10.7~14.3円/kWh、太陽光(事業用)の8.2~14.9円/kWhなどと比して遜色ない水準が示されている。今回、新たな発電コスト試算に際し、有識者の立場から日本エネルギー経済研究所特別主幹研究員の松尾雄司氏が発表。同氏は、「基本的な考え方は前回から大きく変えることはない」との前提に立ち、LCOE(均等化発電原価)手法による評価結果を紹介した。OECD/NEA、IEAなどの試算も参考としたLCOE手法では、各電源の稼働年数・設備利用率を通常運転で可能な最大値を想定。原子力については、それぞれ60年、85%と設定し評価した。その結果、事業用太陽光11.2円/kWh、陸上風力14.7円/kWh、原子力11.7円/kWh、LNG火力10.7円/kWh、石炭火力13.6円/kWhとのベースラインを示した上で、電気自動車やヒートポンプの普及など、今後の電力システムの柔軟性向上に応じ変化する可能性を図示。まとめとして、LCOE手法以外の有用な指標も有効活用し、電源ごとの経済性の変化や、各指標の比較などを行い、「将来のエネルギーシステムの中での各電源の特性や役割を把握し正しく国民に伝える努力が求められる」と指摘し、今後の議論に先鞭をつけた。委員からは、新たなエネルギー源として注目される水素・アンモニアに係るコスト検証を求める意見も出された。資源エネルギー庁は、発電技術そのものの評価に適した「モデルプラント方式」による試算を提案。また、中東情勢の緊迫化に伴う不確実性の高まり、GX推進など、現行のエネルギー基本計画策定以降の動きが発電コストに与える影響を考慮する必要性も示した。基本政策分科会は、概ね隔週の頻度で開催されており、エネルギー価格に対する関心が高まる昨今、WGでの検討状況がエネルギー基本計画見直しの議論に反映されていくこととなりそうだ。
23 Jul 2024
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日本原子力研究開発機構東濃地科学センターの研究グループは7月19日、マグニチュード6~7級の大地震の原因となる「隠れ活断層」検出の手がかりとなる研究成果を発表した。〈原子力機構発表資料は こちら〉同研究グループによると、「隠れ活断層」は地表まで到達していない活断層で、断層運動に伴い地表に明瞭なズレが現れることで、その存在が認識されるという。今回の研究では、1984年の長野県西部地震(マグニチュード6.8)に着目。長野県王滝村で甚大な土砂災害をもたらしたこの地震の発生で、「隠れ活断層」の存在が明らかとなった。地震データの解析から、地下約1kmの存在が解明している「隠れ活断層」について、同村で精緻な地質調査を実施。岩盤の割れ目表面に観察されるすり傷状の「滑り痕」全344箇所のデータを収集した上、複数の応力を復元する「多重逆解法」と呼ばれる方法で、調査地域の13領域で応力の復元を行った。一方、研究グループでは、地表まで到達せず、地形からは認定しにくく、地震発生前に把握することが現状で極めて困難な「隠れ活断層」の性状から、断層運動に伴い小規模な割れ目が形成される「ダメージゾーン」に着目。「ダメージゾーン」は、活断層が地下に隠れている場合でも、地表まで到達している可能性がある。今回の「滑り痕」の応力解析から、「隠れ活断層」の直上付近の領域と、「ダメージゾーン」との間に、存在の整合性を示唆する結果が得られた。研究グループでは、この他、1997年に発生した鹿児島県北西部地震(マグニチュード6.6)の震源域についても調査を行ったところ、同様の結果が得られたとしている。一方で、「隠れ活断層」と「ダメージゾーン」の領域の広がりの関係は現段階では、まだ十分解明されておらず、さらに広範な調査・解析が課題だという。元旦に発生した能登半島地震も記憶に新しく、現在も復旧に向けた取組が進められている。また、6月16日には、1964年の新潟地震(マグニチュード7.5、新潟県民の14%に当たる33万人が被災)から丁度60年の節目を迎え、あらためて都市型地震災害における防災・減災の重要性が認識されている。今回の研究成果は、「ハザードマップ」作成に向けた調査のほか、高レベル放射性廃棄物地層処分の概要調査など、大規模な地下環境利用にも有効な手法となるものと期待される。
22 Jul 2024
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エネルギー基本計画改定に向けた議論が本格化する中、経済同友会代表幹事の新浪剛史氏は、7月16日の記者会見で、9日に開かれた新潟経済同友会「30周年記念行事」への出席などに触れながら、エネルギー政策に対する考え方について発言。その中で、同氏はまず、「今後策定される第7次エネルギー基本計画については、第6次エネルギー基本計画の振り返りをきちんとして欲しい」と強調。現行計画における蓋然性、予見性、具体性の乏しさを厳しく指摘した上で、「エネルギーの問題解決なくして日本の将来は明るくない」と述べ、年末に向け、総合資源エネルギー調査会における有意義な議論を期待した。同調査会基本政策分科会では5月より、エネルギー基本計画改定に向けた検討を開始しており、7月23日には5回目の会合が行われる予定だ。同友会では2023年12月、カーボンニュートラル実現や将来のエネルギー需要の観点から、これまでの「縮・原発」の方針から、新たな考え方「活・原発」を提唱。今回の会見で、新浪氏は、現在、地元の判断が大詰めとなっている柏崎刈羽原子力発電所の再稼働に関し、「新潟県内では『安心』はしていないことが実態」と述べるとともに、元旦に発生した能登半島地震にも鑑みた原子力防災における防護措置の課題も憂慮した。一方で、首都圏への電力供給の貢献に関し、大正時代に新潟県内の水力発電が山手線の走行を支えてきた実績を紹介。電力消費地の理解に向けて、同氏は「正に新潟県は首都圏の電気のふるさとだ。地元ではなく、首都圏で使う電気であることをしっかり理解した上で、今、どのような議論がされているのか、恩恵を受ける首都圏は、新潟県に対しありがたいと思っているのか、という点が重要なポイントだ」と、強調した。柏崎刈羽原子力発電所に関しては、7月15日より、国の取組に関する「県民説明会」が長岡市を皮切りに開始しており、今後、8月上旬にかけて、県内7か所で開催される予定だ〈既報〉。
19 Jul 2024
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太平洋・島サミット(PALM10)が7月16~18日、都内で開催された。同サミットは1997年以降、日本と太平洋島しょ国とのパートナーシップを強化することを目的として、3年ごとに日本で開催されているもの。前回、2021年は、コロナの影響によりテレビ会議方式で行われた。〈外務省発表資料は こちら〉岸田文雄首相は、会期中、17日までに、ツバル、バヌアツ、ニウエ、パプアニューギニア、パラオ、マーシャル諸島、フィジー、サモア、クック諸島、トンガ、ソロモンの各首脳と会談。福島第一原子力発電所で発生するALPS処理水の海洋放出に関し、岸田首相が「今後も安心を高めていく」旨、発言したのに対し、各国首脳からは歓迎の意が示された。ALPS処理水の海洋放出に関しては、2023年7月4日、IAEAラファエル・グロッシー事務局長より、安全性レビューを総括する「IAEA総括報告書」が、日本政府に対し手交された。それを受け、8月24日に海洋放出が開始。2024年7月16日には、都合7回目の海洋放出が完了した。なお、IAEAは、ALPS処理水取扱いに関し、同年4月23~26日に海洋放出開始後2回目となる国際専門家からなる安全性レビューミッションを日本に派遣した。7月18日、現地調査、関係機関との議論などを通じた調査結果として、「国際安全基準の要求事項と合致しないいかなる点も確認されなかった」とする報告書が公表された。
18 Jul 2024
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「柏崎刈羽原子力発電所に係る国の取組に関する県民説明会」が7月15日、新潟県長岡市で始まった。柏崎刈羽原子力発電所の再稼働をめぐっては、現在、地元の判断が焦点となっている。県主催による同説明会は、内閣府(原子力防災)、資源エネルギー庁、原子力規制庁が説明を行い、県民からの質疑に応じるもので、今後、8月上旬にかけて、十日町市、小千谷市、見附市、上越市、燕市、出雲崎町と、県内7か所で開催される。〈配布資料は こちら〉柏崎刈羽原子力発電所については、2023年12月27日に、一連の核物質防護事案を受け原子力規制委員会により発出されていた「特定核燃料物質の移動を禁ずる是正措置命令」が解除。同日、既に新規制基準適合性に係る原子炉設置変更許可が発出済み(2017年12月)の同7号機について、東京電力に対する「原子炉設置者としての適格性の再確認」もクリアした〈既報〉。県は、再稼働に関し、地元判断のカギとなる技術委員会による議論が佳境にある中、2024年6月13日に花角英世知事らが齋藤健経済産業相を訪問〈既報〉。資源エネルギー庁より、「柏崎刈羽原子力発電所に係る国の取組について、県民の皆様に直接説明する機会を設けたい」との依頼を受け、説明会の開催となった。長岡市の説明会では、関係3府省庁の課室長クラスらが出席。規制庁は、去る2月にも県主催の説明会の場で、東京電力の核物質防護に係る追加検査および原子炉設置者としての適格性判断の再確認について、県民との質疑に応じているが〈既報〉、6月12日までに、東京電力が同7号機への燃料装荷を完了し健全性確認を一通り実施した現状を踏まえ、あらためてこれまでの流れを説明。その中で、混同されがちな原子力施設における「セキュリティ」と「セーフティ」に関する対応課題について、発電所を自動車に例え、それぞれ、「カギがない、免許証がないことで、不審者により盗取される」、「ブレーキが利くか、ガソリンが漏れていないか、タイヤが摩耗していないか、により安全運転に影響を及ぼす」ことと、両者の区別を説いた。内閣府は、柏崎刈羽地域における原子力防災の取組、国の支援体制の検討状況について説明。複合災害時の避難に係る基本的考え方としては、「複数の避難経路の設定」、「海路・空路避難、屋内退避の継続」、「実動組織(警察、消防、海上保安庁、自衛隊)による住民避難支援」をあげた。一方で、県民からは、2007年3月の能登半島地震、同年7月の中越沖地震に鑑みた不安の声も多く、また、屋内退避については、現在、規制委の専門家チームが効果的な運用方法を検討しているが、「夏にライフラインが途絶した状態で、窓を閉めておくことはできない」といった指摘もあった。資源エネルギー庁は、エネルギー・原子力政策の現状について説明。その中で、東京電力管内の電力需給に関し、今夏7月の予備率が4.1%と、予断を許さぬ状況にあることを懸念した上、柏崎刈羽7号機が再稼働することで、「約2.4%の予備率向上に寄与する」との試算を示した。首都圏で最高気温37℃を記録した7月8日、東京電力は中部電力より最大20万kWの電力融通を受けている。県民からは、説明会の趣旨に直結しない発言も多く、核燃料サイクルの停滞、損害賠償や避難指示解除の基準に係る疑問、再生可能エネルギーのポテンシャルの他、「そもそも再稼働が前提となっており、答えになっていない」といった非難の声もあった。今回の説明会には、オンライン・サテライト会場(県内7か所)も含め、計120名が参加。花角知事は、7月17日の定例記者会見で、「特定の人しか関心を持ってもらえないのでは困る」などと述べ、今後、他会場の状況を注視していく考えを示した。
17 Jul 2024
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原子力規制委員会は7月16日、特定原子力施設監視・評価検討会を開き、福島第一原子力発電所における廃炉作業の改善策等について東京電力から報告を受け、今後の取り組みなどをめぐって議論した。東京電力は福島第一の廃炉作業において、昨年10月から今年4月にかけ、作業員の負傷などを含むトラブルが相次いで発生したことを重視し、5月初旬から作業員全員が参加する形で作業点検を実施、6月7日に完了していた。作業点検件数(再開件数)は995件、うち防護措置の改善件数は675件だった。先の特定原子力施設の実施計画の審査等に係る技術会合(6月20日開催)において、作業点検の分析結果について報告した同社は、重大な見直しが必要な事案は確認されなかったが、廃炉の現場は通常炉より複雑な作業が多く、人への依存が高いという面があり、リスクアセスメントの強化やリスクアセスメント教育の強化等の改善策が必要であるとの認識を示していた。その際、規制委から背景要因を深堀りし、さらに踏み込んだ分析が必要との指摘がなされていた。指摘を踏まえて同社は、共通要因分析を通じて得られた改善策と今後の取り組みについて、この日の検討会で報告した。要因分析については、昨年10月に発生した増設ALPS配管洗浄作業における身体汚染、今年2月に発生した高温焼却炉建屋からの放射性物質を含む水の漏洩など4つの事案を対象とし、分析を通じて運用・設備・教育の面での改善策を6つに整理した。また、得られた改善策を現場に活かすための今後の取り組みについて同社は、必要な手順書の見直しや危機意識を高めるための安全教育の強化、CR(Condition Report)のさらなる活用、「変化があった場合は必ず立ち止まること」のワンボイスによる浸透をはかる等の取り組みを進める、とした。報告を受け、規制委からは福島第一の廃炉現場は通常の発電所とは異なることが常態化しており、作業の幅も広いため、CRの活用についても膨大な数になる可能性がある等の指摘がなされ、サイトの状況を考えて効果的に実施する必要があるとの認識が示された。東京電力は、「通常の発電所とは異なることを踏まえ、ひとつひとつトライし、実効性ある改善を図りたい」などと応じた。検討会を担当する伴信彦委員は「福島第一では膨大な作業が同時並行し、複雑な作業もある。再発防止対策をつくるだけでなく、実効的に機能しているかまで確認する必要がある」とし、今後も検討会で福島第一の作業改善について必要な議論を続けたいとの考えを示した。
16 Jul 2024
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放射線技師の育成・資質向上を目指す大学が2027年4月、横須賀市に開学する。〈発表資料は こちら〉学校法人中央医療学園が運営する「中央医療技術専門学校」(東京都葛飾区)が企業の研究施設を擁する「横須賀リサーチパーク」(YRP)に移転し、「中央医療大学」(仮称)としてリニューアルするもの。「中央医療技術専門学校」は、放射線技師育成に特化した専門学校として、60年以上の実績を持つ。夜間部を開設しているのも特筆される。医療技術は日進月歩で躍進し、昨今、「診療放射線機器類は、飛躍的な進歩をしており、診療放射線技師も知識および技術の習得にさらなる向上が求められている」ことなど、高学歴化が進みつつある背景から、中央医療学園では、2022年より横須賀市に対し大学進出の打診を行っていた。一方、YRPは、1997年に電波・情報通信を中心としたICT技術の研究開発拠点として、同市の他、郵政省(現総務省)、京浜急行電鉄の3者が一体となって開設。近年では、他業種も進出し、異業種間の連携・協業による新産業創出に期待が高まっている。新たに開設される大学は、YRPに所在するNEC技術センターの土地・建物を利用するもの。2024年3月に中央医療学園とNECとの間で売買契約が締結された。今後は、2025年度にリニューアル工事を実施し、2026年夏に学生の募集を開始。2027年4月に開学となる運び。医療科学学部(仮称)下、診療放射線学科単科でスタートし、以降、放射線技術学科を併設する予定。今回の開学決定に際し、7月10日、横須賀市の上地克明市長、中央医療学園の森重美三男理事長、YRPの鈴木茂樹社長が市役所内で記者会見に臨んだ。YRPでは、「市域を支える人材育成のための大学誘致推進」をビジョンの一つに掲げていた。大学進出に至った決め手として、同市の豊かな自然とYRPの静穏な学習環境、都心からのアクセスの良さ、学生にとっての暮らしやすさ、企業・研究機関との多様な連携への期待があげられている。横須賀市は、ペリー来航のモニュメントを始めとする史跡の他、海軍カレーやネイビーバーガーなどのご当地グルメ、80年代を席巻したマリンルックといった若者を引き付ける魅力も多い。一方で、近年は人口減少の兆しがみられており、3月の定例市議会の所信表明で上地市長は、「もう到底抗うことはできない」と憂慮している。今回の新大学開学を通じ、医療福祉の充実とともに、将来の地域を支えていく若い理系人材を生み出す推進力となることも期待できそうだ。
12 Jul 2024
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文部科学省の有識者会議は7月10日、核融合エネルギーの早期実現を目指し、発電実証を行う原型炉の研究開発に向けた方針を見直す考えを示した。〈配布資料は こちら〉現在の原型炉研究開発の方針は、2017年に決定。原型炉への移行判断やチェック&レビューの時期については、建設中にあるITER計画の運転段階にも留意している。今回、見直しに当たっては、ITER計画の進捗状況の他、諸外国が取り組む核融合開発の目標も踏まえ、社会実装につながる科学的・技術的に意義のある発電実証を可能な限り早期に実現する原型炉目標(以下1~3)や原型炉段階への移行判断を見直す数十万kWを超える定常かつ安定した電気出力実用に供し得る稼働率燃料の自己充足性を満足する総合的なトリチウム増殖を実現するITER計画/BA(幅広いアプローチ)活動の知見や新興技術を最大限活用する原型炉実現に向けた基盤整備を含めたバックキャストに基づくロードマップを策定する――ことがポイント。今後、有識者会議下の原型炉開発総合戦略タスクフォースで検討を進めていく。核融合エネルギーの産業化に向けては、内閣府(科学技術政策)が2023年4月に策定した「フュージョンエネルギー・イノベーション戦略」を踏まえ、2024年4月には「フュージョンエネルギー産業協議会」(J-Fusion)が設立。原型炉研究開発に関して、最近の官邸レベルの動きとしては、6月に、「2030年代の発電実証の達成」を目指す方向性が、「統合イノベーション戦略」、「新しい資本主義のグランドデザインおよび実行計画2024年改訂版」に盛り込まれたことがあげられる。また、現在、見直しが進められているエネルギー基本計画における位置づけの明確化を求め、自由民主党プロジェクトチームが提言をまとめるなど、各界で核融合エネルギーの実用化を見据えた動きが見られている。今回の有識者会議では、ITER機構副機構長の鎌田裕氏が出席し、ITER計画の進捗状況を説明した。建設工事の進捗率は85%だが、ファーストプラズマ達成は、当初の2025年から2034年頃に遅れる「新ベースライン」が検討されている状況だ。ITER計画の遅れに関しては、ITER理事会開催を受けて既に報道されているが、日本経済団体連合会の十倉雅和会長は7月8日の記者会見で、「地球温暖化は待ったなしの課題」と、核融合を含む脱炭素エネルギー開発の必要性を強調した上で、「これまでに得た知見をもとに、各国が独自に実用化に向け切磋琢磨すればよいもの」と、前向きな考えを示している。また、高市早苗内閣府科学技術担当相は、7月5日の記者会見で、7月9~11日にイタリア・ボローニャで開催されるG7科学技術大臣会合への出席について紹介。今回、議論を集約するコミュニケに、核融合エネルギーについて初めて盛り込まれる見通しを明らかにした。高市大臣は、日本がG7議長国となった昨年、同会合(5月、仙台)の議論をリードしている。
11 Jul 2024
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