ビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)のG.シャップス大臣は11月29日、EDFエナジー社がイングランド南東部のサフォーク州で計画しているサイズウェルC(SZC)原子力発電所(167万kWの欧州加圧水型炉:EPR×2基)の建設プロジェクトに、6億7,900万ポンド(約1,124億円)の直接投資を行うと発表した。1987年にサイズウェルB原子力発電所建設計画への投資を承認して以来、約30年ぶりのことであり、英国政府はこれにより、EDFエナジー社の親会社であるフランス電力(EDF)とともにSZC建設プロジェクトを50%ずつ保有することになる。英国政府は今後、プロジェクト企業である同社傘下のNNB Generation(SZC)社と協力して、SZC発電所の建設・運転プロジェクトに出資する第三者を募る方針。同計画では2015年10月の合意に基づき、中国広核集団有限公司(CGN)がEDFエナジー社に20%の出資を約束していたが、英国政府が出資することで、所有権の買取や税金なども含めてCGNの撤退を促すことができるとした。また、一部の報道によると、CGNはSZC計画からすでに撤退したと伝えられている。BEISの発表によると、同省のシャップス大臣は今週、「規制資産ベース(RAB)モデル」を通じて資金調達を行う最初の原子力発電所建設計画としてSZC計画を指定した。RABモデルでは資金調達コストなどが軽減されるため、現在建設中のヒンクリーポイントC(HPC)原子力発電所(172万kWのEPR×2基)計画に適用された差金決済取引(CfD)と比較して、大型原子力発電所一件あたりの運転寿命期間中に顧客(消費者)が負担する電気料金が、累計で300億ポンド(約5兆円)削減できるとしている。SZC計画ではNNB Generation社が2020年5月、国家的重要度の高いインフラ設備の建設・操業プロジェクトで取得が義務付けられている「開発合意書(DCO)」の申請書を計画審査庁(PI)に提出。BEISのK.クワルテング大臣(当時)は今年7月、PIによる審査結果等に基づき、同計画へのDCO発給を決定した。BEISのシャップス大臣は今回、SZC計画に出資することで国内の約600万世帯に50年以上にわたってクリーンで信頼性の高い電力が供給され、地元サフォーク州や英国全体で最大1万人規模の雇用が新たに創出されると指摘。このほかにも、英国がエネルギー自給を確立するための方策を複数提示しており、安価でクリーンな国産エネルギーの長期的確保に向けて、エネルギー法案を議会に提出する予定だと表明した。エネルギー関係の主要立法としては2013年以来のことになるが、これにより国内のエネルギー産業を改革してその成長を促進、エネルギー関係の民間投資も喚起する。具体的には、水素産業やCO2の回収・有効利用・貯留(CCUS)など、国産の低炭素エネルギー技術の開発に集中的に取り組み、電気料金の削減やクリーンエネルギー関係の雇用創出につなげたいとしている。シャップス大臣はまた、英国の長期的なエネルギー供給保証で、SZC発電所以降も新たな原子力発電所を継続的に建設していくため、今年4月の「エネルギー供給保証戦略」で設立を約束していた政府の新機関「大英原子力(Great British Nuclear)」を来年初頭にも立ち上げると表明した。同機関では明確な費用対効果が見込まれることを確認しつつ、開発プロセスの各段階で事業者に支援を提供。これにより、世界中のエネルギー市場における化石燃料価格の高騰から将来世代の国民を守り、クリーンで安全な電力を今後数十年にわたって供給すると強調している。同大臣によると、天然ガス価格が記録的な高値になったのはロシアのV.プーチン大統領がウクライナで始めた不法な軍事侵攻が原因であり、英国政府は国民のために国産の安価なクリーンエネルギーを確保しなければならない。このことから、「本日の歴史的な政府決定は、英国におけるエネルギー自給の強化と世界市場における不安定なエネルギー価格というリスクの回避という点で非常に重要だ」と指摘した。EDFエナジー社のS.ロッシCEOは今回の決定について、「英国政府が当社のパートナーとしてプロジェクトの準備を進めることになり、SZC計画の継続に大きな自信が付いた」と表明。HPC計画と同じ設計を採用したSZC計画はHPC計画の実績に基づいて実施されるため、一層確実なスケジュール管理やコスト見積もりが可能だと強調している。(参照資料:英国政府、EDFエナジー社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月29日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
30 Nov 2022
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英国政府のビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)は11月28日、「長期エネルギー貯蔵技術(LODES)」の実証コンペの第2段階として、EDF UK(フランス電力の英国子会社)の企業連合が開発している「劣化ウランで水素を貯蔵する(HyDUS)技術」の実証プロジェクトに773万ポンド(約12億9,000万円)の支援金を交付すると発表した。この資金は、BEISが地球温暖化防止の目的で2021年3月に設置した総額10億ポンド(約1,660億円)の基金「CO2排出量を実質ゼロ化する革新的技術のポートフォリオ(Net Zero Innovation Portfolio)」が原資となる。BEISは今回、EDF UKの企業連合によるプロジェクトも含めて、合計5件の新たなエネルギー貯蔵技術のプロジェクトに合計3,290万ポンド(約54億7,000万円)を提供して、間欠性のある再生可能エネルギーの設備拡大を図り、安価なクリーンエネルギーを確保。再エネの持つ潜在的な能力がフル活用することで、英国のエネルギー供給保証も一層強化されると指摘している。EDF UKの企業連合には核融合技術の開発を牽引する英国原子力公社(UKAEA)のほか、ブリストル大学と欧州のウラン濃縮企業であるウレンコ社が参加。オックスフォード近郊にあるUKAEAのカラム科学センター内で、劣化ウランを使った水素貯蔵の実証モジュールを24か月以内に開発する計画である。EDFエナジー社は、いずれはこの技術を原子力発電所に設置して原子力の収益性を高めるとともに、輸送業や製鋼業などに広く役立てたいとしている。HyDUSではまず、余剰の無炭素電力による電気分解で水素を製造し、水素を吸蔵する劣化ウランの特性を利用してこれを貯蔵、水素が必要となった折りにそのまま使用するほか、電力需要のピーク時には再び電力に転換して使用する。貯蔵時の水素は金属水素化物の形で劣化ウランと化学的に結合しているため、安定している一方で逆の転換も可能である。HyDUS技術を考案した技術者の一人であるT.スコット教授は「UKAEAでは過去数十年にわたって水素同位体の貯蔵技術を小規模で活用しており、HyDUSはこのように確認済みの核融合燃料技術をエネルギーの貯蔵用に転換する世界でも最初の例になる」と述べた。ウレンコ社の担当者は、「当社が貯蔵している劣化ウランの商業利用により、水素経済の構築に向けた持続可能で低炭素なエネルギー貯蔵が可能になるのは誇らしいことだ」と表明している。実証コンペは、2021年3月にBEISが産業界に「関心表明」を呼びかけており、2つのコンペ・グループが長期のエネルギー貯蔵を可能にするために実施する実証プロジェクトに対し、総額約6,800万ポンド(約113億円)を提供する。1つ目のグループ(Stream 1)は、技術成熟度レベルが全9段階のうち6/7段階(技術成立性が確認できる)にあり、予算総額は約3,700万ポンド(約61億5,000万円)である。もう片方のグループ(Stream 2)は技術成熟度が4/5段階(ラボ・レベルあるいは実空間での実証レベル)で、EDF UKのプロジェクトもこれに含まれる。「Stream 2」では、第1段階のプロジェクト19件に約270万ポンド(約4億4,900万円)が提供されており、EDF UKの企業連合はそのうち約15万ポンド(約2,500万円)を受け取っている。(参照資料:英国政府①、②、EDFエナジー社、ウレンコ社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月28日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
29 Nov 2022
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フィンランドのフォータム社は11月25日、同社が検討中の小型モジュール炉(SMR)の建設計画について、首都ヘルシンキ市が保有するエネルギー企業のヘレン(Helen)社との協力可能性調査を開始すると発表した。国有企業のフォータム社は国内でロビーサ原子力発電所を所有・運転しているが、先月17日に同国および隣国スウェーデンでの原子力発電所新設に向けて、2年計画で実行可能性調査(FS)を実施すると発表。その際、従来の大型炉のみならずSMRを建設する可能性についても、必要な技術面や経営面、規制面、政策面の要件を検証するとしたほか、近年のエネルギー市場における不確実性の増大から、企業連合の形で新設計画を進める可能性を示唆していた。今回の発表によると、両社はともにCO2排出量抑制の観点からSMRへの関心を以前から表明しており、エネルギー部門の脱炭素化を継続的に進める重要性を指摘する一方、このエネルギー移行を果たすには新しい発電技術や協力形態が必要になると説明。建設期間が短く、コストを抑えながら大容量のエネルギー生産も可能なSMRは、その他の選択肢と比較して競争力のあるエネルギー生産方式だと強調した。また、フィンランドには原子力発電と使用済燃料の処分について、専門的知見が豊富に蓄積されていると指摘した。協力可能性調査では両社が結成した調査グループが、協力の相乗効果によりどのような利益が得られるかなどを洗い出す。手始めとして、新たな原子炉建設に必要な条件を幅広く特定するが、両社の協力形態については現時点でいかなる形態も排除しない方針だと強調している。55万人以上の顧客を持つヘレン社は現在、ヘルシンキ市内の様々なプラントで熱や電力を生産している。同社は無炭素な熱や電力を同市に供給できるSMRは注目に値するエネルギーの生産方式だと述べており、フィンランド最大の地域熱供給システムの開発などでノウハウを有する同社が、原子力発電の能力を持つフォータム社と力を合わせることで生産的な協力活動が展開され、フィンランドのエネルギー自給率を上げることにもつながると述べた。SMRはまた、建設に向けた動きが世界中で急速に進展していることから、ヘレン社は欧州連合(EU)域内でその安全要件を調和させることが合理的だと指摘。両社が実施する共同調査では、SMR設計の選定や敷地の活用計画、許認可手続きなどの点で効率的な対応策を導き出す狙いがあるとした。また同国では現在、SMR関係の法令手続きが進められているため、複数の立地候補地点について調査中であるという。共同調査チームのフォータム社側代表者は、「世界のエネルギー市場が不透明な状況になるなか、新たなプロジェクトを原子力部門で進めることは、様々な協力準備活動の中で最も実現の可能性が高い」とコメント。原子力発電所の建設を可能にする協力の必須条件調査は、建設プロジェクトやパートナー企業の位置付けという点においても重要な出発点になるとの認識を示している。(参照資料:フォータム社、ヘレン社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月25日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
28 Nov 2022
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エジプト初の原子力発電所建設を担当している同国の原子力発電庁(NPPA)は11月19日、北部の地中海沿岸にあるエルダバ原子力発電所(120万kWのロシア型PWR:VVER-1200×4基)建設サイトで2号機を本格着工したと発表した。同炉の着工は、エジプトの原子力・放射線規制機関(ENRRA)が10月末日付で建設許可を発給したのにともなうもの。同サイトではすでに今年7月、エジプト初の商業炉となる1号機が着工しており、2028年の営業運転開始が見込まれている。エルダバ発電所では第3世代+(プラス)のVVER-1200を4基建設することになっており、同発電所を所有・運転する予定のNPPAは2019年3月に4基分の「サイト許可」をENRRAから取得。その後、2021年6月に1、2号機の建設許可を、同年12月には3、4号機の建設許可を申請していた。建設サイトでは19日に起工式が開催され、エジプト電力・再生可能エネルギー省のM.シャーケル大臣やNPPAのA.エル・ワキル長官、エルダバ市が属するマトルーフ行政区のK.シュイブ知事のほか、建設工事を請け負ったロシア国営の総合原子力企業ロスアトム社からA.リハチョフ総裁、プロジェクト管理を担当する傘下のアトムストロイエクスポルト社のA.カルチギン上級副総裁などが参加した。シャーケル大臣とリハチョフ総裁の二人は、2号機の原子炉建屋部分に最初のコンクリートを打設するゴーサインを出しており、同機の建設工事が主要段階に入ったことを祝福した。リハチョフ総裁は祝辞のなかで、「エルダバ原子力発電所が完成すればエジプトの社会経済面に多大な利益をもたらすだけでなく、低炭素なエネルギー社会への移行に大きく貢献する」と指摘。このことは、エジプトが今後数十年にわたって持続可能な発展を遂げられるような、強力な基盤を形成することになると強調している。(参照資料:NPPAの発表資料(アラビア語)➀、②、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月21日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
25 Nov 2022
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フィンランドのティオリスーデン・ボイマ社(TVO)は11月21日、オルキルオト原子力発電所で試運転中だった3号機(欧州加圧水型炉:EPR、172万kW)のタービン系・給水ポンプ内で10月に損傷が見つかったことから、「原因調査にさらに週数間を要するため、試運転は最短でも12月11日まで続け、営業運転開始については早ければ来年1月末になる見通しだ」と発表した。世界で初めて、第3世代+(プラス)のEPR設計を採用したOL3の建設工事は2005年に始まったものの、技術的な課題を含む様々なトラブルが発生したため、同炉が臨界条件を初めて達成したのは2021年12月のこと。今年3月に欧州初のEPRとして試運転を開始した後、9月末にはフル出力に到達しており、この時点では12月の営業運転開始を予定していた。しかし、TVOの10月18日付発表によると、同炉で保守点検作業を実施した際にタービン系の給水ポンプで内部構造物の損傷を探知。TVOは同炉の安全性に影響はないとした上で、営業運転の開始スケジュールに影響が及ぶかについては、未だ不明としていた。また、今月7日になると、TVOは4つすべての給水ポンプ内で羽根車にクラックが認められたことを明らかにしており、破壊試験で割れた羽根車のパーツをいくつかの研究所に送って、根本原因等を分析調査中であるとしていた。今回の発表でTVOは、サプライヤーであるアレバ社と独シーメンス社の企業連合からの情報として、「遅くとも12月には詳細な原因調査の最終結果が判明するので、運転開始スケジュールへの影響もはっきりする」と説明している。(参照資料:TVOの発表資料①、②、③、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月22日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
25 Nov 2022
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米エネルギー省(DOE)は11月21日、カリフォルニア(加)州で数年後に閉鎖が予定されていたディアブロキャニオン原子力発電所(DCPP)(各PWR、約117万kW×2基)について、条件付きで「民生用原子力発電クレジット(CNC)プログラム」の初回の適用対象に認定したと発表した。これら2基の運転期間の5年延長に向けて、DOEは同プログラムから最大約11億ドルを拠出するが、最終的な金額は実額に基づいて、年ごとの提供期間の満了時に確定する。この決定により、DCPPの運転継続の道が拓かれたとDOEは指摘している。総額60億ドルのCNCプログラムは、2021年11月に成立した「超党派のインフラ投資・雇用法」の下、早期閉鎖のリスクに晒されている商業炉を救済し、関係雇用を維持するとともにCO2排出量を抑える目的で設置された。DOEが適格と認定した商業炉に対しては、認定日から4年にわたり一定の発電量毎に一定の行使価格を設定したクレジットを付与。クレジットの合計数に応じて支援金を支払う仕組みで、DOEはプログラム資金に残金がある限り2031年9月までクレジットを付与していく。DOEの発表によると、同プログラムによる初回の支援金は少し前に実施したパブリック・コメントの結果から、最も差し迫った閉鎖リスクに晒されている商業炉に優先的に交付される。2回目については、経済的理由により今後4年以内の閉鎖が見込まれる商業炉が交付対象であり、2023年1月から申請を受け付ける。DCPPの2基は年間160億kWhの電力を発電しており、加州のベースロード電源として総発電量の8.6%を賄うほか、無炭素電力では約17%を賄っている。同発電所を所有するパシフィック・ガス&エレクトリック(PG&E)社は2016年6月、電力供給地域における需要の伸び悩みと再生可能エネルギーによる発電コストの低下から、これら2基を現行運転認可の満了に合わせて、それぞれ運転開始後40年目の2024年11月と2025年8月に永久閉鎖すると発表。2009年に原子力規制委員会(NRC)に提出していた運転期間の20年延長申請も、2018年3月に取り下げている。加州の公益事業委員会(CPUC)は2018年1月にこの閉鎖計画を承認したものの、2020年の夏に同州は記録的な熱波に襲われ、G.ニューサム知事は停電を回避するための緊急事態宣言に署名。今年も熱波と電力需給のひっ迫が懸念されたことから同様の宣言を発出しており、州議会の議員に「DCPPの運転期間を5~10年延長することは加州のエネルギー・システムの信頼性を確保し、CO2排出量を最小限化する上で非常に重要」とする法案(上院846号)の案文を配布した。この法案は今年9月にニューサム知事の署名により成立しており、PG&E社は同法の指示に従ってDOEのCNCプログラムにDCPPの適用を申請した。加州政府はまたDCPPの運転期間延長にともなう経費として、同州水資源省からPG&E社に最大14億ドル融資することを10月に承認している。DOEの今回の決定についてPG&E社のP.ポッペCEOは、「すべての加州民に信頼性の高い電力供給を保証するDCPPの運転期間延長に向けて、また一歩大きく前進した」と指摘。「今後複数年の手続きの中で連邦政府や州政府から承認を得なければならないが、米国でもトップクラスの運転実績を残してきたDCPPで安全性を確保しつつ、低コスト・低炭素な電力を引き続き州民に提供していきたい」と述べた。DOEのJ.グランホルム長官は、「米国最大の無炭素電源である原子力発電所で信頼性の高い安価な電力を提供し続けるための重要なステップ」と表明。「原子力はJ.バイデン大統領が掲げる目標--2035年までに電力部門を100%カーボンフリーとし2050年までに米国経済のCO2排出量を実質ゼロ化する--を達成する上で非常に有効であり、クリーンエネルギーに対するこのように重要な投資を通じて、原子力発電所とその電力供給地域を守ることができる」と指摘している。(参照資料:DOE、PG&E社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月22日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
22 Nov 2022
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COP会場内の特設会議場で11月16日、「低炭素社会における原子力の役割」をテーマに、米原子力エネルギー協会(NEI)、カナダ原子力協会(CNA)、世界原子力協会(WNA)、欧州原子力産業協会(Nucleareurope)、日本原子力産業協会など原子力産業界6団体が主催するパネル・セッションが開催された。NEIのキャロル・ベリガン・エグゼクティブ・ディレクター、CNAのジョン・ゴーマンCEO、WNAのサマ・ビルバオ・イ・レオン事務局長、Nucleareuropeのイブ・デバゼイユ事務局長らが登壇した。セッションでは、原子力の役割の中でも特にエネルギー・セキュリティが話題となった。レオン氏は「世界のエネルギー市場は機能不全に陥っている。市場はエネルギーの供給安定性もセキュリティも考慮していない」と指摘。「長期的な投資に結び付くようインセンティブを盛り込んだ、新たな市場設計が必要」と主張した。ベリガン氏は「今も電気にアクセスできていないアフリカのような国々にとっては、供給安定性が高いだけでなく、人口規模に応じた潤沢な電力が必要だ。その時、クリーンエネルギーであることは非常に意味があり、原子力の果たす役割は極めて大きい」と、エネルギー・セキュリティを気候変動の観点から俯瞰。「ポーランドが初の原子力発電所導入を進めるのも、ルーマニアが原子力発電所増設を進めるのも、アフリカ諸国が原子力に関心を示すのも、原子力がエネルギー・セキュリティと気候変動対策の両方を兼ね備えているから」との見方を示した。ゴーマン氏は、「世界の化石燃料供給体制は極めて脆弱だ。化石燃料の場合は、燃料供給が途絶するとたちまち立ち行かなくなることが欧州で実証されてしまった」とした上で、「原子燃料も世界の供給ネットワークに依存しているが、様相はだいぶ異なる」と指摘。原子力発電の安定した供給力の理由として、「通常の原子炉であれば、3年分の燃料をサイト内に備蓄している。また原子炉の運転に占める燃料コストの割合が極めて小さく、価格変動の影響を受けにくい」の2点を挙げた。また同氏はSMRについて、「燃料交換せずに5-10年は稼働」、「比較的どのような場所でも立地が可能で、需要に応じてスケールアップできる」など導入の利点を強調した。なお日本原子力産業協会の新井史朗理事長もビデオメッセージを寄せ、日本の気候変動政策やエネルギー基本計画、再稼働状況を紹介し、今後の再稼働への期待を述べた。
22 Nov 2022
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ルーマニア初の小型モジュール炉(SMR)建設を計画している国営原子力発電会社(SNN)は11月15日、そのプロジェクト企業として設立したロパワー・ニュークリア(RoPower Nuclear)社が、国内鉄鋼メーカーのドナラム(Donalam)社と協力覚書を交わしたと発表した。ドナラム社は、欧州の鉄鋼産業界で100年以上の実績を持つイタリアの大手企業AFVベルトラム・グループ(AFV Beltrame Group )の傘下。この覚書を通じて、同社はルーマニア初のSMR建設に向けた協力と投資の機会をロパワー社とともに模索し、温室効果ガスの発生量が極めて少ない方法を用いた「グリーン・スチール」を通じて、電力集約型産業である鉄鋼業の課題解決を目指している。一方のSNN社は、国連環境計画(UNEP)の「(2022年版)CO2排出ギャップ報告書」にも示された通り、既存の温暖化防止対策ではパリ協定の目標達成に不十分と認識しており、CO2排出量を効果的かつ持続的に削減していくには原子力が不可欠と考えている。SNN社はドナラム社との協力により、SMRや太陽光が生み出すクリーンエネルギーで最初の「グリーン・スチール製造施設」の構築を支援し、業界内で同様の協力を促進していく考えだ。SNN社はルーマニア南部ドゥンボビツァ県のドイチェシュテイ(Doicesti)にある閉鎖済み石炭火力発電所の跡地に、出力7.7万kWのSMRを6基備えた米ニュースケール・パワー社製のSMR発電所「VOYGR-6」(合計出力46.2万kW)を建設することを計画。今年9月には、この計画を進めるため、建設サイトのオーナーである民間エネルギー企業のノバ・パワー&ガス社と合弁でロパワー社を設立した。今回の覚書への調印は、エジプトで開催されていた国連気候変動枠組条約・第27回締約国会議(COP27)の、国際原子力機関(IAEA)のパビリオンで映像中継の形で行われた。この調印と同時に、SNN社とドナラム社は国連の「24/7カーボンフリー電力同盟(CEC)」に参加する意思を表明。CECでは、一日24時間365日間、クリーンエネルギーを100%活用して、地球温暖化の影響を緩和できるような電力供給システムの構築促進を原則としている。この件についてロパワー社の社長を務めるSNN社のC.ギタCEOは、「後の世代に持続可能な未来を残すことは当社の使命であり、CECの原則とも完全に一致している」と説明。大小両方の規模で原子力発電所を国内で建設することでエネルギーの供給を保証し、CECが求める電力供給システムの脱炭素化を進めていく考えを強調した。SNN社によると、ルーマニアのSMR建設は大型原子炉や再生可能エネルギーと互いに補い合う役割を担っており、SMRのエネルギー生産施設に太陽光設備を加えることも念頭に置かれている。原子力と再エネを統合することにより、出力を自在に変えられる発電能力を確保するねらいだ。ルーマニアにおける原子力発電開発については、現在米国が協力の度合いを深めており、SNN社は国内でのSMR建設に向けて、2019年3月に米ニュースケール・パワー社と最初の協力覚書を締結した。翌2020年10月には、ルーマニア国内で建設工事が停止中のチェルナボーダ3、4号機を完成させる計画と、同国の民生用原子力発電部門の拡充と近代化に向けて、ルーマニアと米国の両政府が原子力分野における政府間協力協定(IGA)に調印している。2021年1月になると、ルーマニア国内でのSMR建設サイト選定に向けて予備的評価作業を行うため、米貿易開発庁(USTDA)が約128万ドルの技術支援金をSNN社に交付。今月9日には、チェルナボーダ3、4号機の完成計画に米国側からプロジェクト準備等のサービスを提供する契約について、米輸出入銀行(US EXIM)が最大で30億5,000万ドルの融資をSNN社に提案している。(参照資料:SNN社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月16日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
21 Nov 2022
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南アフリカ共和国の国営電力会社であるESKOM社のJ.オベールホルツァーCEOは11月15日、クバーグ原子力発電所1号機(PWR、97万kW)で12月から始まる定期検査が、蒸気発生器(SG)3台の取替え作業により長引く可能性があることから、2号機(PWR、97万kW)で次回の定検時に予定していたSGの取替えは、同発電所全体の運転期間延長(LTO)計画に影響が及ばないよう、数か月先送りする方針を明らかにした。クバーグ発電所は同国唯一の原子力発電所であり、1984年と1985年にそれぞれ運転を開始した1、2号機は2024年と2025年にそれぞれ40年目を迎える。前政権のJ.ズマ大統領は2011年3月の「統合資源計画(IRP)」に基づき、2030年までに960万kWの新規原子力発電設備の建設を計画したが、同大統領が2018年に失脚した後、翌年改訂されたIRPでは2024/2025年以降、エネルギーを引き続き供給するため運転期間を延長する方針が示された。ESKOM社はすでに2021年中に、両炉の運転期間を20年延長する申請書を国家原子力規制当局(NNR)に提出しており、今年7月には同発電所のセーフティケース(安全性保証文書)を提出した。同社は現時点で運転期間の延長を阻む安全上の課題は特定されていないとしているが、NNRは2024年以降の運転継続を認める前に、同発電所が国際的な規制要件や基準を満たしていることを確認する。なお、NNRが審査結果を公表するまでに、約2年を要する見通しである。一方、電力系統の運用も担うESKOM社が10月末に公表した「(2023年~2027までをカバーする)供給システムの中期的適性見通し(MTSAO)2022」によると、クバーグ原子力発電所のLTO計画は当初予定より2年遅延する可能性がある。もし遅延した場合に、これら2基が供給してきた年間150億kWhの電力が失われる影響は大きく、同システムの供給量は大幅に制限され電力不足が深刻化すると指摘している。「MTSAO 2022」は、新規の発電設備建設プログラムにこれ以上の遅れが生じないよう努めることに加えて、クバーグ発電所のLTO計画に一層の重点を置く必要性を指摘している。(参照資料:ESKOM社の発表資料①、②、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月8日付け、17日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
18 Nov 2022
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COP会場内の原子力パビリオンで11月10日、国際原子力機関(IAEA)のグロッシー事務局長と原子力分野の若手専門家との懇談セッションが開催された。冒頭挨拶した事務局長は、若手登壇者がいずれも途上国出身である事に触れ、多くの途上国で原子力の導入が進められている今、「こうした若手専門家が活躍できるよう支援することが、IAEAの重要なミッションの1つ」と強調した。核医学分野の医師であるエブリン・アチーン氏はケニヤ出身。 IAEA フェローとして核医学のトレーニングを受けた同国初の女性である。化学療法よりもストレスの少ない核医学をケニアで広めていきたいと考えている。事務局長は核医学でがん撲滅を目指すIAEAプロジェクトである「Rays of Hope」に言及し、同プロジェクトをアフリカでどのように展開すべきか問い掛けた。これに対しアチーン氏は「トレーニングが重要」と指摘し、 IAEA のサポートでアフリカの女性が核医学の訓練を受ける機会を増やすことができれば、非常に大きな一歩となると述べた。また、長期的なトレーニングでは多額の費用がかかるため、医師が短期的なトレーニングを受け、そのノウハウを地元に還元する仕組みが構築できるとよいと語った。またアチーン氏は、アフリカでは国ごとにプライオリティや人材のレベルが大きく異なるとし、同プロジェクトの実施にあたっては「国ごとに異なる既存のがん治療のニーズに合わせ、それぞれの政府と協力するべき」と強調した。そしてケニアの場合は、放射性同位体製造施設が必要だと訴えた。ディナラ・ヤマコバ氏はカザフスタン出身。カルフォルニア大学バークレー校でエネルギーを専攻している。事務局長から世界で原子力はどのように活用されていくと思うかと尋ねられたヤマコバ氏は、途上国対象と前置きした上で、「発電だけでなく水素製造や海水淡水化へのニーズが高まっている」と指摘。「原子力がそれを実現する大きな可能性を秘めている」と思いを語った。ビシシ・スナシー氏はアフリカの島国モーリシャス出身で、北米原子力青年ネットワーク連絡会(NAYGN)の代表。原子力について「私自身18歳で国を出るまで原子力の存在を知らなかった。知った時は衝撃だった」と語った。そして原子力にはSDGs に影響を与える数多くのメリットがある。地域の学校に出かけるなどして気候変動対策における原子力のメリットを若い人にもっと知らせていきたいと語った。ウォチェック・ザコウスキ氏はポーランド出身。コンサルタントを務めている。新規建設の経済的側面について、このほど発表されたポーランドでの新規建設計画を例にあげ「原子力は再生可能エネルギーよりも長期間稼働し、はるかに大きな雇用を生む」と強調した。そして建設段階で1万人、50年運転するとしても4万人の雇用を生むとの見通しを示した上で、直接雇用だけでなく、間接的に地域社会のあらゆるレベルにポジティブな経済効果を与えると指摘した。事務局長は懇談の最後に「多様なバックグラウンドを持つ、多様な専門分野の人材の力で、原子力が前に進んでいる」、「今すぐとは言わないが君たちの目指す世界はすぐそこまできている」と語り、「私たちの世代の使命は若い世代が活躍する場を用意すること」と結んだ。
18 Nov 2022
1981
英国のEDFエナジー社は11月16日、同社のヘイシャム原子力発電所((ヘイシャムA発電所はAGR×2基、各62.5万kW、B発電所はAGR×2基、各68万kW))が生みだすエネルギーで低炭素な水素を製造し、その水素でアスファルト・セメント製造業界の脱炭素化を図るというEDF(フランス電力)主導の取り組みに、英国政府から約40万ポンド(約6,600万円)が提供されることになったと発表した。この資金は、ビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)が地球温暖化防止の目的で2021年3月に設置した総額10億ポンド(約1,660億円)の基金「CO2排出量を実質ゼロ化する革新的技術のポートフォリオ(Net Zero Innovation Portfolio)」を原資とする、総額2,600万ポンド(約43億円)の「産業用水素(製造)の加速プログラム(Industrial Hydrogen Accelerator Program)」から拠出される。支援を受けるEDFの企業連合には、同社の研究開発部門と産業・輸送用の低炭素な水素を供給する目的で同社が設立したイナミクス(Hynamics)社のほか、英国立原子力研究所(NNL)、アスファルトやセメント等の建築材料を供給するハンソン(Hanson)UK社、次世代型燃料電池を開発しているCERESパワー社が参加している。EDFのこの取り組みは「港湾水素製造ハブ – Hydrogen4Hansonプロジェクト」と呼ばれており、CO2を多量に排出するアスファルト・セメント製造業界の脱炭素化に向けて、2023年から2025年までの間に実用規模の技術実証を行うことを目標に最初の実行可能性調査を行う。具体的には、水素の電気分解装置(固体酸化物電解セル:SOEC)をランカシャー州に立地するヘイシャム原子力発電所の電力や熱と統合し、低炭素で低コストな水素を製造。この水素は、同発電所の近隣に点在するハンソンUK社のアスファルトやセメントの製造サイトで燃料として活用されるが、最終的には英国全土の同様サイトに提供されるため、次世代型の専用タンカーを使ったこれら水素の海上輸送の在り方についても調査することになる。EDFエナジー社によると、SOEC技術により水素の製造効率は従来の電気分解と比べて20%改善される見通し。現時点では世界でこれらの技術を実際に実証した例はなく、アスファルト製造の燃料として水素が使われたこともない。同社はこの方法でCO2排出量が大幅に減る可能性を指摘しており、英国がCO2排出量を実質ゼロ化し、アスファルト・セメント製造業で引き続き優位に立つ上で有効だとしている。EDFが英国に置いた研究開発部門の幹部は今回の政府支援について、「国内産業の脱炭素化は英国政府が直面している最大課題の一つであり、原子力発電所で製造した水素をアスファルト産業の脱炭素化に活用することは論理的に見て当然のことだ」と指摘。「これらの技術により、英国では原子力発電による明るい未来が構築され、関係雇用の維持にもつながる」と述べた。また、別の幹部は「クリーンエネルギー社会への移行にともなう原子力の有効性を実証することはEDFにとって重要な役割」と表明。支援金で実施される実行可能性調査では、将来的に建設される原子力発電所の電力や熱が、一層効率的な水素の製造にどのように活用されるかに重点が置かれると指摘した。(参照資料:EDFエナジー社とNNLの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月16日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
17 Nov 2022
2323
COP会場内の特設会議場で11月16日、米原子力エネルギー協会(NEI)、カナダ原子力協会(CNA)、世界原子力協会(WNA)、欧州原子力産業協会(Nucleareurope)、日本原子力産業協会など原子力産業界6団体主催のセッションが開催された。セッションに先立ち、米エネルギー省(DOE)のジェニファー・グランホルム長官がサプライズで登場。米テラパワー社のクリス・レベスクCEOが聞き手となり、約20分の対談セッションが開催された。長官は、インフレ抑制法を通じてDOEは原子力を対象に長期運転:既存炉の早期閉鎖を防止するため、閉鎖予定の発電所を対象に計60億ドルの「民生用原子力発電クレジット(CNC)プログラム」の実施次世代炉:次世代炉の国内外への展開を見据え、実証プログラムに25億ドルを投資新規建設:投資税額と生産税額を控除し、新設プロジェクトに価格競争力を供与──の3つのインセンティブを付与してきたとし、既存炉同様に新規炉に対しても厳しい規制要件を適用し、「高いハードルを乗り越えたプラントであれば生き残ることが出来る」との考えを示した。また最近発表されたポーランドへの米ウェスチングハウス社製原子炉「AP1000」の輸出について言及し、 400 億ドル規模のプロジェクトだと指摘。「ポーランドに雇用とエネルギーセキュリティをもたらすだけでなく、米国内にも莫大な雇用を生む、Win-Winのパートナーシップ」と強調した。そしてサプライチェーンの再構築が課題とし、「HALEU燃料((U235の濃縮度が5-20%の低濃縮ウラン))のように国内での開発体制を強化する」だけでなく、グローバルなサプライチェーンと信頼できるパートナー関係を築きたいとの強い意欲を示した。そしてウクライナへの侵攻でロシアが信頼できるパートナーではないことが明らかになった現在、新規原子力導入国については123協定および国際原子力機関(IAEA)による査察下に置くことで、核不拡散体制を担保していくと明言した。一方で、12日に米国のジョン・ケリー特使が「プロジェクト・フェニックス」と呼ばれる新しいイニシアチブを発表した件にも言及。これは、欧州での石炭火力発電所から SMR への移行を加速させると同時に、労働力の再訓練を通じて地元の雇用を維持する計画で、米国務省によると、中・東欧諸国のエネルギーセキュリティを支援するために、石炭から SMR への移行可能性調査などを米国が直接支援するものとされている。グランホルム長官は、「石炭から(原子力へ)フェアに移行すること。導入した国の人々が良い収入を得られる施設できちんと雇用されること。これこそが私たちが最も大切にしていることで、アメリカの歴史を支えてきた手法」だと強調。そして原子力産業界6団体へのメッセージとして、「DOEがインセンティブを用意しました。ぜひ一緒にやりましょう!(So let's just do it!)」と力強く呼び掛けた。
17 Nov 2022
2287
英ロールス・ロイス社の小型モジュール炉(SMR)開発子会社であるロールス・ロイスSMR社は11月11日、イングランド北西部カンブリア州の新興デベロッパー「ソルウェイ・コミュニティ電力会社(Solway Community Power Company)」が同社製SMRを選定したと発表した。ソルウェイ社は今年9月に同州で設立されたばかりの非公開有限責任会社で、最高責任者は、英国最大の原子力複合施設セラフィールド・サイトの管理運営を担うセラフィールド社のCEOを2000年まで務めたP.フォスター氏。ロールス・ロイス社はこの数日前の11月9日、同社製SMRの建設候補地点として、セラフィールド・サイトの近隣区域を含む4地点を選定しており、2030年代初頭にも英国でSMR発電所の最初の一群を稼働させたいと述べていた。ソルウェイ社の建設計画は、セラフィールド・サイトが立地する同州コープランド市のT.ハリソン市議の主催イベントで公表された。同市議は、「当市には敷地のほかに労働者のスキルと経験、独自のサプライチェーンもすでに備わっており、クリーンで信頼性が高く実証済みの技術を用いた原子力発電所の立地点としては、おそらく世界でも最も適している」と強調した。ロールス・ロイスSMR社のT.サムソンCEOは今回、「原子力廃止措置機構(NDA)がカンブリア州西部で所有する敷地を活用して2030年にも新しい原子力発電所を稼働させ、業界でも最強の地位を確保する」と表明。同州内で新たな原子力発電所の建設計画を推進するデベロッパーが設立され、同社のSMRが採用設計に選定されたことを歓迎した。ソルウェイ社のフォスター最高責任者は、原子力について「当社のアイデンティティの中心であるとともに西カンブリアに受け継がれた遺産でもある」と説明。ロールス・ロイス社のSMRを建設・操業することで、コープランド市には新しい雇用とサプライチェーンを生み出す大きなビジネス・チャンスがもたらされるだけでなく、新たな産業や投資も呼び込まれると期待を表明した。ロールス・ロイスSMR社によると、同社製SMRは既存のPWR技術を採用した設計で電気出力は47万kW。少なくとも60年間ベースロード電源として稼働が可能で、再生可能エネルギー源の間欠性を補えることから、その設置拡大を支援することにもつながる。今年4月からは英国原子力規制庁(ONR)と環境庁(EA)が同設計について「包括的設計審査(GDA)」を開始した。ロールス・ロイスSMR社に対しては、ビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)が2021年11月、民間部門で行われている投資のマッチングファンドとして、2億1,000万ポンド(約350 億円)を提供すると約束している。(参照資料:ロールス・ロイスSMR社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月11日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
16 Nov 2022
1828
COP会場内の原子力パビリオンで11月15日、欧州原子力産業協会(Nucleareurope)の主催で、「クリーンなエネルギーミックス」をテーマとするセッションが開催された。モデレーターに有馬純氏(日本原子力産業協会理事、東京大学公共政策大学院・特任教授)を迎え、欧州原子力産業協会のイブ・デバゼイユ事務局長、世界原子力協会(WNA)のサマ・ビルバオ・イ・レオン事務局長、米ニュースケール社のジョン・ホプキンスCEOが登壇し、ネットゼロに向けた原子力技術によるソリューションを議論した。デバゼイユ氏は「1つのテクノロジーに限定せず、再生可能エネルギーも原子力も、あらゆるエネルギー源を活用すべき」とした上で、「カーボンフリーの電源で脱炭素を目指すべきであり、我々にガスやオイルを使う余地はない」との見方を示した。レオン氏も「電力だけでなく水素利用や熱利用も見据えるべき」とし、「ネットゼロに向けたトータルなソリューションを提供できるのは原子力だけ」と強調した。また開催地であるアフリカの実情にも言及し「我々のエネルギー移行は『化石燃料からクリーンエネ』への移行だが、アフリカ諸国のエネルギー移行は『エネルギーゼロ』からの移行」だと指摘。目標時期も2030年や2050年ではなく、喫緊であるとし、「プライオリティ、タイムラインが異なることを認識する必要がある」と強調した。ホプキンス氏は「アフリカ諸国にはSMRが適している」とした上で、「エジプトであれば人口集中エリアに設置し、需要増に応じてモジュールを拡大」、「南アフリカでは発電のみならず海水脱塩利用のニーズもある」との見方を示した。そして「アフリカ諸国は雇用を重視している」と指摘し、「再生可能エネルギーは雇用を生まないが、SMRは30万kWの出力規模であれば、電気技師、配管技師、保守要員、警備要員などそれなりの人員が必要だ。また必要な学位は8つ程度で、うち5つは2年間で取得可能。つまり単なる雇用だけでなく人材スキルの向上も望める」との見方を明らかにした。また有馬氏が「大型炉と小型炉の棲み分け」について尋ねたのに対し、レオン氏は「多くの報告書が、2050年までに12億kWの原子力発電設備容量が必要だと指摘している。これは毎年5,000万kW以上の新規原子力を運転開始させることであり、大型か小型かではなく、文字通りあらゆる原子炉が必要となる」との認識を示した。一方デバゼイユ氏は「マーケットが決めること」だとしながらも、SMRについて「初期の懐疑的な見方から、今ではより現実味を帯びてきた」とし、「建設のリードタイムが短いことから、喫緊のソリューションとなりうる」と期待を寄せた。有馬氏は「世界中で多くの先進炉が検討されているが、いずれも現実味を帯びている。ただし導入においては、ファイナンスを引き出すためにも、現実的で確固たるエネルギー政策が不可欠」との見解を示し、セッションを結んだ。
16 Nov 2022
2255
米エネルギー省(DOE)は11月10日、開発中の多くの先進的原子炉で使用が見込まれているHALEU燃料(([U235の濃縮度が5~20%の低濃縮ウラン]))の製造能力を実証するため、セントラス・エナジー社(旧・米国濃縮会社)の子会社であるアメリカン・セントリフュージ・オペレーティング(ACO)社に費用折半方式の補助金、約1億5,000万ドルを交付すると発表した。この実証計画は、DOEが2019年11月に濃縮カスケードの実証でセントラス社と結んだ3年契約に基づいており、DOEは2020年のエネルギー法で承認された「HALEU燃料の入手プログラム」に沿って、同燃料を製造する複数の方法を模索中。今回の補助金のうち、初年の分担金である3,000万ドルは、オハイオ州パイクトンにあるセントラス社のウラン濃縮施設に、新型遠心分離機「AC100M」16台を連結したHALEU製造用カスケードを配備し、これを起動・運転するために活用される。ACO社は現段階で「AC100M」の製造を終え、組み立て作業も概ね完了しているが、実証用カスケードに遠心分離ローターを設置する作業がまだ終わっていない。同社はこのような最終段階の作業を完了してから、実証カスケードの起動準備状態をレビューする方針である。これにより、2023年12月末までに濃縮度19.75%のHALEU燃料を20kg製造できるようUF6ガスの濃縮要件をクリアしていくほか、2024年も年間製造能力900kgのペースで運転を継続する。ただしその際は、議会からの予算配分と今後の契約に基づいた追加製造オプションが必要になるとしている。 DOEの説明によると、HALEU燃料は先進的原子炉の設計を一層小型化するとともに運転サイクルを長期化し、運転効率を上げる際にも必要な重要物質。第4世代の小型高温ガス炉を開発しているX-エナジー社は今年10月、この設計に使用する3重被覆層・燃料粒子((HALEU燃料に黒鉛やセラミックスを被覆したTRISO燃料))の商業規模製造施設の起工式をテキサス州オークリッジで開催したが、現時点で米国内ではHALEU燃料を商業規模で製造できるサプライヤーは存在しない。このような状況は、米国の先進的原子炉開発とその建設に大きな支障をきたすとDOEは認識しており、商業規模の大型HALEU燃料製造施設を国内で建設することにより、一層多くの世帯や企業にクリーンで安価な原子力エネルギーを供給できると考えている。このことはまた、J.バイデン大統領が目標に掲げた「2035年までに電力を100%クリーン化」の達成にも重要な貢献をするほか、連邦政府のクリーンエネルギー投資から得られる利益の少なくとも40%を、経済的に不利な立場にある地域コミュニティに還元する取り組み「Justice40」を通じて、一層多くの経済的機会をこれらのコミュニティに提供できるようになるとしている。DOEのJ.グランホルム長官は、「敵対国が供給するHALEU燃料への依存を減らし、自前のサプライチェーンを国内で構築すれば、米国は数多くの先進的原子炉を配備し国民にクリーンで安価な電力を今以上に供給可能になる」とコメント。「今回の実証計画を通じて、DOEは産業界のパートナーとともに、クリーンエネルギー関係の雇用創出につながる商業規模のHALEU燃料製造に向けて動き出しており、すべての米国民が原子力の恩恵を被れるようにしたい」と述べた。DOEによると、今回交付した補助金はHALEU燃料製造能力の実証に向けた米国の近年の投資をさらに前進させるものであり、次の段階ではバイデン大統領が今年8月に成立させたインフレ抑制法の予算措置により、HALEU燃料製造能力獲得のための活動を支えていく。DOEは2020年代末までに必要とされるHALEU燃料は40トン以上と予測しているが、バイデン政権の「電力を100%クリーン化する」目標の実現のために先進的原子炉が複数建設されることから、この量は毎年追加されていく見通し。今回の実証計画はHALEU燃料の短期的需要に対応するものだが、長期的には同燃料の認定試験やDOEが別途進めている「先進的原子炉設計の実証プログラム(ARDP)」にも活かされると指摘している。(参照資料:DOEの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月11日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
15 Nov 2022
3947
COP会場内の原子力パビリオンで11月9日、「新規原子力へのファイナンス」をテーマとするセッションが開催された。世界原子力協会(WNA)の主催で、国連欧州経済委員会(UNECE)、国際エネルギー機関(IEA)、および原子力関連団体のアナリストらが出席し、原子力の新設に向けた投資課題を議論した。IEAのクリストファー・マクリード氏は「ロシアのウクライナ侵攻によるエネルギー危機を回避するための各国政府の危機対応が注目される」とし、米国のインフレ抑制法、EU の Repower EU、日本でのグリーン・トランスフォーメーション(GX)、中国やインドでのクリーンエネルギー技術の導入を挙げ、これらの政策の結果として、計2兆ドルという巨額の投資が実施されると指摘。そして「原子力だけでなくさまざまなテクノロジー全体へ投資される」と分析。「気候変動問題ではなく、むしろエネルギー・セキュリティ問題」によってクリーンエネルギー分野への投資が促進されるとの認識を示した。一方で、IEAの2050年ネットゼロに向けたロードマップによると、依然としてネットゼロ達成は難しいと指摘し、原子力発電設備容量の大幅増加によってのみネットゼロ達成が可能との見方を示した。またその場合に必要な投資額は4兆ドル規模になるとし、現時点で各国が示す政策だけでは、必要な原子力発電設備容量に達することは難しいと断言。途上国での需要も高まっていることから、先進国から途上国への原子力輸出によって達成が可能になるのでは、との見方を示した。そのほかUNECEのダリオ・リグッティ氏は、「運転開始までのリードタイムが15年もの長期ではファイナンスを受けるのは難しい」と指摘。モジュール方式で工期短縮が見込まれ、初期投資額も小さいSMRへ期待を寄せた。また投資家は単一の電源に投資するのではなくエネルギー全体のポートフォリオに投資し、リスクを分散させるため、投資先の選択肢として常に原子力を堅持しておくことが何よりも大切、と助言した。欧州原子力産業協会(Nucleareurope)のジェシカ・ジョンソン氏は、新規建設はリードタイムが長いため、足元の現実的な解決策は「既存の原子力発電所をできるだけ長期に運転させること」であるが、長期運転で時間稼ぎをし、2035年までに各国が「新規の原子力発電所を運転開始させるべき」との考えを示した。
15 Nov 2022
2044
韓国水力・原子力会社(KHNP)は11月11日、ポーランド中央部のポントヌフにおける韓国製「改良型加圧水型炉(APR1400)」(出力140万kW)の建設を目指して、韓国の原子力企業チームが現地でのサイト調査に着手したと発表した。ポーランドの原子力開発計画では、100万kW級の大型原子炉を2043年までに6基、合計600万kW~900万kW建設することになっており、同国のM.モラビエツキ首相はこの件について10月末に「ウェスチングハウス(WH)社の技術を採用する」と発表。同国北部のルビアトボ-コパリノ・サイトにおける最初の3基、375万kW分として、WH社のAP1000を建設することになった。一方、韓国の産業通商資源部(MOTIE)は同じ頃、ポーランドの原子力開発計画の一環としてポントヌフで「APR1400」を建設することを目指して、KHNP社が年末までに建設費や資金調達方法などを盛り込んだ予備的建設事業計画を準備できるよう支援する協力覚書を、ポーランド国有資産省(MOSA)と締結した。また、ポーランドの原子力開発計画を担当する国営エネルギー・グループ(PGE)は、ポントヌフで別途、小型モジュール炉(SMR)の建設を計画しているエネルギー企業のZE PAK社とともに、「APR1400」の建設計画でKHNP社に協力するための「企業間協力意向書(LOI)」を3社間で締結していた。KHNP社の発表によると、韓国チームは同社のほかに韓電技術(KEPCO E&C)や韓電原子燃料、韓電KPS、斗山エナビリティ(前「斗山重工業(株)」)、大宇建設などで構成されている。現在はZE PAK社の社員と協力して、9日からポントヌフの原子力発電所サイトとしての特性調査を開始しており、これまでに冷却水の水量や送電網との接続状況といった適性を検証している。同チームはまた、ZE PAK社のZ.ソロルツ会長とも、この計画に関する事業協力案について協議している。KHNP社はまた、このプロジェクトにおける韓国とポーランドの協力関係を強化するため、韓国原子力発電輸出産業協会(KNA)、ポーランド電力産業協会(IGEOS)と、10日にワルシャワで「APR1400サプライヤーズ・シンポジウム」を共同開催した。このシンポには、ポーランドの政府や関係機関、原子力サプライヤーなどから約200名が参加しており、韓国チームは「APR1400」の優秀性をアピールするとともに、ポーランドへの技術移転戦略などを紹介した。このイベントではさらに、両国の原子力関係企業が相互協力できる分野や人的交流の拡大等についての会合が複数開催され、韓国チームはポーランドの関係サプライヤー13社と了解覚書を締結。ポーランドの原子力発電所建設に対する資機材の相互提供や、運転・保守等でも企業間協力を強化することになった。このほか、KHNP社の海外原子力プロジェクト担当者が同じ日、ポーランドで副首相を兼任するJ.サシン国有資産相らと会談。このプロジェクトの事業計画の作成やサイトの適性評価計画、ZE PAK社との協力案について協議している。(参照資料:KHNP社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月11日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
14 Nov 2022
2355
COP会場内にある原子力パビリオンで11月9日、国際原子力機関(IAEA)のグロッシー事務局長と、ブルームバーグのエネルギー担当編集主幹ウィリアム・ケネディ氏との対話セッションが開催された。ケネディ氏からの、原子力は低炭素かつベースロードを支える電源だが、完成するまで15年もかかるのでは遅すぎるとの指摘に対し事務局長は、「リードタイムが15年以上というケースは、プロジェクトマネジメントや規制体制に原因があった。振り返ると1970年代の原子力導入期のプラントは、極めて短期間で運転開始にこぎつけている。最近でもUAEのバラカ原子力発電所のように、同国初の原子力プラント導入であったにもかかわらず、わずか7年で運転開始を達成したケースもある」と答えた。その上で事務局長は、原子力産業界全体での炉型や規制の標準化といった取り組みを早急に進めていく決意を表明した。また小型モジュール炉(SMR)にも言及し、「SMRは(技術面でも規制面でも)既存炉よりもはるかにグローバル化が進んでおり、リードタイムは短縮されるだろう」と各国で進むSMR導入の動きに大きな期待を寄せた。ただし、「国ごとに求めるスケールは違う」として大型炉が相応しいケースも多いと指摘。SMRはどちらかというと開発途上国向けの選択肢になるとの考えを示した。事務局長は、1970年代に運転を開始したプラントが50年を迎えつつあることから、その老朽化について問われ、「気候変動対策のアンサング・ヒーロー(影のヒーロー)は長期運転だ」と断言。長期運転にかかるバックフィット等のコストは初期コストの半分以下であり、50年どころか80年近く経過しながらも安全なプラントもあることに言及し、「私は100年の運転も可能と考えている」と強調した。そして、「欧州の一部の国では拙速な脱原子力政策により非常に脆弱なエネルギー供給状況に置かれている」ことに言及し、個人的な見解としながらも、「気候変動と戦う上で原子力を閉鎖することは誤りだ」と強調。「政治の世界では2+2=4ではないとわかってはいるが、科学的観点から見ると馬鹿げたことが多すぎる」と懸念を示した。そしてこれからのIAEAの使命として、原子力コミュニティから外へ出て、原子力について反対意見を持つ政治家とコミュニケーションをとっていくとの決意を語った。また、10年後のCOP37時点での世界の原子力発電規模を問われた事務局長は、「倍増する必要があるが、実際はそこまで行かないだろう。それでも現在よりはるかに大きくなる」との見通しを示した。
14 Nov 2022
1861
米国の輸出入銀行(US EXIM)は11月9日、ルーマニアで建設途中のチェルナボーダ3、4号機(各カナダ型加圧重水炉=CANDU炉、70.6万kW)を完成させる計画に、米国側からプロジェクト準備等のサービスを提供する契約について、合計で最大30億5,000万ドルの融資を提案する2件の意向表明書(LOI)を発出した。3、4号機の建設工事は、1989年のN.チャウシェスク政権崩壊により、それぞれの進捗率が15%と14%の状態で停止している。同国の国営原子力会社(SNN)は2009年、プロジェクト運営企業のエネルゴニュークリア(EN)社を設立して欧州企業6社から出資を募ったものの、経済不況等によりこれら企業はすべて撤退。2015年には、中国広核集団有限公司(CGN)がこの計画に協力するとしてSNN社と覚書を交わしたが、その後に米国とルーマニアの協力関係が進展したことから、CGNとの協力は2020年1月に打ち切られている。SNNの今回の発表によると、2件のLOIのうち1件はプロジェクト準備の一環で米国から提供する技術サービスの契約に、US EXIMが最大5,000万ドルを融資するというもの。2件目は3、4号機の完成に向けたエンジニアリング・サービスとプロジェクト管理の提供契約に、最大30億ドルを支援する内容だ。 US EXIMは政府系の輸出信用機関として、米国企業の輸出事業促進を目的に低金利融資を提供。今回の案件は、米国が両炉の完成を支援するとともに、ルーマニアの民生用原子力発電部門の拡充と近代化等に協力するため、2020年10月にルーマニア政府と原子力分野の政府間協定(IGA)に調印したことに基づいている。US EXIMはその際、原子力も含めたルーマニアのエネルギーインフラ開発プロジェクトに最大70億ドルの財政支援を行う意向を表明しており、そのための覚書を同国の経済・エネルギー・ビジネス環境省と締結していた。このような合意に基づいて、今回のLOIはエジプトのシャルム・エル・シェイクで開催されている第27回・国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)の場で、US EXIMのR.ルイス総裁がルーマニア側に正式に手渡した。これには米国のJ.ケリー気候問題担当大統領特使のほか、ルーマニアのK.ヨハニス大統領やエネルギー省のV.ポペスク大臣などが出席している。SNN社によると、チェルナボーダ3、4号機の完成計画は2021年4月に承認された同社の戦略に沿って3段階で進められる。2021年末を起点とする現在の第一段階では、24か月計画で準備作業を進めており、建設工事の再開に必要なエンジニアリング文書や安全関係文書の作成と改訂を実施する。EN社はこの関係で2021年11月、CANDU炉の設計・供給と関連サービスの提供を専門とするカナダのCANDUエナジー社と契約を締結。準備段階のエンジニアリング・サービスを受けることになった。また、第二段階では最大30か月をかけて予備作業を実施する。具体的には、プロジェクトを明確に確定するためのエンジニアリング作業やプロジェクトの適切な実施契約締結に向けた協議、安全性関連の建設許可取得、技術面と経済面の最新指標に基づくプロジェクトの実行可能性の再評価、建設工事の実施を決める最終投資判断(FID)などを挙げている。最後の第三段階で、実際の建設工事を開始する方針。3、4号機の起動および営業運転の開始はそれぞれ、2030年と2031年を予定している。(参照資料:SNN社、US EXIMの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月9日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
11 Nov 2022
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英国ロールス・ロイス社の小型モジュール炉(SMR)開発子会社であるロールス・ロイスSMR社は11月9日、同社製SMRの立地評価作業を終え、有力な建設候補地としてイングランドとウェールズにある閉鎖済みの原子力発電サイトなど、4地点を選定したと発表した。これは英国でSMR発電所の最初の一群(合計出力:約1,500万kW程度)を稼働させるための重要な一歩であり、同社はそれらのSMRを通じて英国がCO2排出量の実質ゼロ化を達成し、確実なエネルギー供給を可能にするとしている。今回特定された4地点は、原子力廃止措置機構(NDA)が管理しているイングランド・カンブリア州のセラフィールド原子力複合施設の近隣区域とグロスタシャー州にあるオールドベリー・サイト、およびウェールズ北部のトロースフィニッド・サイトとアングルシー島にあるウィルファ・サイトである。これらはかつて、旧式のガス冷却炉(GCR)が稼働していた地点であり、NDAはこのようなGCRサイトも含め、新たな原子力発電所の立地用に指定されている17サイトをすべて所有している。このため、ロールス・ロイス社はNDAチームと共同で、建設プログラムを進めていく第一段階の作業として、複数の候補地の地質工学的データや送電網との接続状況、および複数のSMR建設に十分なスペースが確保できるか等を調査。また、NDAの所有サイト以外の地域についても、同社はSMRの建設可能性のほかに、地元との協力の機会や同社製SMRが提供する社会経済的利益などを評価した。こうした作業は、NDAが使命としている「英国初期の原子力発電サイトを安全・確実かつコスト面の効果も高い方法で浄化し、その他の用途用に提供する」とも矛盾しないことから、ロールス・ロイス社は地元のコミュニティが得る利益や環境面の利点に重点を置いたと表明。ただし、NDAが所有する土地の活用で正式な許諾と支援を得るには、NDAを管轄するビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)の承認が必要になるとしている。ロールス・ロイス社のSMRは、既存のPWR技術を採用した設計で電気出力は47万kW。少なくとも60年間ベースロード用電源として稼働が可能だと同社は述べており、今年4月からは英国原子力規制庁(ONR)と環境庁(EA)が同設計について「包括的設計審査(GDA)」を開始した。同SMRについてはまた、BEISが2021年11月、民間部門で行われている投資のマッチングファンドとして、2億1,000万ポンド(約350 億円)を提供すると約束している。ロールス・ロイスSMR社のT.サムソンCEOは、「かつて原子力発電設備を受け入れていたイングランドとウェールズのコミュニティに、新たな原子力発電所の建設について理解してもらう支援をしてくれたNDAのチームとD.ピーティ総裁には、深く感謝している」と表明。サイトで進める作業の開始が早ければ早いほど、SMRの無炭素な電力を安定的かつ確実に提供する機会も早まると述べた。BEISで気候問題を担当するG.スチュアート大臣も、「SMRは英国が目標とする『2050年までに2,400万kWの原子力発電設備を建設』という目標の達成を促し、消費者が支払うエネルギー料金の削減とCO2排出量の実質ゼロ化にも貢献する」と指摘している。(参照資料:ロールス・ロイスSMR社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月9日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
10 Nov 2022
2012
COP27の4日目となる11月9日、COP会場内にある国際原子力機関(IAEA)のパビリオンが正式にオープンし、グランドセレモニーが開催された。「#Atoms4Climate」と題したパビリオンではCOP会期中に、気候変動対策に原子力がどのように貢献できるかをメインテーマに、IAEAを中心に世界原子力協会(WNA)、米原子力エネルギー協会(NEI)、カナダ原子力協会(CNA)、欧州原子力産業協会(Nucleareurope)、日本原子力産業協会などが運営するさまざまなサイドイベントを開催する。朝10時のセレモニー開始に先立ってパビリオンに姿を現したグロッシー事務局長は、会場に詰めかけた聴衆ひとりひとりと握手し、来場に感謝の言葉を述べた。セレモニー冒頭で自身が出演するPRビデオで、地球温暖化による海面上昇に苦しむフィジーの現状が紹介されると、事務局長は「このビデオにある通り、気候変動は現実の出来事である。これに対し我々は原子力テクノロジーで立ち向かうことを宣言し、シャルム・エル・シェイクに原子力のパビリオンを設立することにした」と力強く挨拶した。事務局長は、パビリオンの協力機関に世界気象機関(WMO)や国連食糧農業機関(FAO)らも名を連ねていることを強調した上で、「気候変動対策への原子力の貢献に対する期待の表れ」であると指摘。将来世代を考えると「地球温暖化に対して楽観主義で対応するわけにはいかない」と強い決意を表明した。セレモニーでは続いてガーナ・エネルギー省のプレンペー大臣が登壇。大臣は「ガーナは原子力エネルギー機関を設立し、クリーンで安全で持続可能なエネルギー開発を進め、原子力シェア50%のネットゼロ社会を目指したい」と挨拶した。そのほか米エネルギー省のハフ原子力担当次官補が、ケニアとの革新炉導入プロジェクトについて紹介したほか、前述のWMOやFAOが登壇。WMOのタラス事務局長は、エネルギー部門がGHGの最大の排出者であり、輸送及び電力部門の85%は化石燃料であることから、「原子力がソリューションのカギ」と指摘した。FAOのセメド事務次長は「GHG排出量の1/3は農業由来」とした上で、原子力は食糧不均衡を是正するカギとなるだけでなく、放射線利用によって「食糧の収穫量増大と安全性改善に多大な貢献をする」との認識を示した。原子力産業界からは世界原子力発電事業者協会(WANO)のアル・ハマディ理事長、NEIのコーズニックCEOらが登壇した。セレモニーの最後にグロッシー事務局長は「気候変動対策で誰一人取り残さない社会のために、原子力を活用しよう」と呼びかけ、新たなイニシアチブ「#Atoms4NetZero」を発表した。
10 Nov 2022
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米国のコンステレーション・エナジー社は10月31日、イリノイ州内で保有するクリントン原子力発電所(BWR、109.8万kW)とドレスデン原子力発電所(2、3号機、各BWR、91.2万kW、1号機は閉鎖済み)の運転期間を、それぞれ20年延長する方針を表明した。原子力規制委員会(NRC)への申請は、ともに2024年を予定している。1987年に営業運転を開始したクリントン発電所は2027年4月に40年目を迎えるため、初回となる今回の運転期間延長申請がNRCに認められれば2047年まで運転継続が可能となる。一方のドレスデン2、3号機ではすでに初回の延長が認められており、現在の運転認可は2029年と2031年まで有効。2回目の運転期間延長により、両プラントは2049年と2051年までそれぞれ80年間運転を継続できることになる。米国最大の無炭素電力の発電企業であるコンステレーション社は、原子力のほかに水力や風力、太陽光などの発電設備を保有。米国全体で生産する無炭素電力の約10%を賄っている。同社によると、運転期間の延長にともなう両発電所の無炭素電力は、イリノイ州の経済に数十億ドル規模の貢献をするほか、200万戸以上の世帯が必要とする電力量を継続的に供給。同州政府が目標としている「2050年までに州内のエネルギー源を100%クリーン化」の達成にも貢献する。クリントン原子力発電所については2016年6月、当時コンステレーション社の親会社であったエクセロン社が経済性の悪化を理由に2017年6月に早期閉鎖する方針を固めていたが、同年12月にイリノイ州ではCO2を排出しない原子力発電所への財政支援措置を盛り込んだ州法が成立。同発電所はエクセロン社のクアド・シティーズ原子力発電所とともに、その後少なくとも10年間の運転継続が可能になった。同州ではまた、2021年9月にエネルギー部門と輸送部門の段階的な脱炭素化を目指し、クリーンエネルギー関係産業における雇用の創出促進を定めた「気候変動・雇用機会均等法」が成立している。今回、2つの発電所の運転期間延長を決めた理由についてコンステレーション社は、「環境影響面と経済面における原子力の価値を認める法律が州政府と連邦政府の両方で成立したため」と説明。クリントンとドレスデンの両原子力発電所は、2つの州法を通じてゼロ炭素クレジットの形で州政府から財政支援を受けるほか、連邦政府レベルでは今年8月、原子力発電所に対する税制優遇措置を盛り込んだ「インフレ抑制法(IRA)」が成立し、少なくとも9年間運転継続する上での支援が得られるとしている。同社によると、これら2つの原子力発電所では運転開始以降、新たな機器を導入し18か月毎の燃料交換時には予防保守も実行。このような投資を継続的に行っているため、より一層安全で信頼性も向上しているとした。また、過去10年間の平均稼働率は93%~95%をマークしており、最も信頼性の高い電源である点を強調している。同社はさらに、イリノイ州においてこれらの発電所が経済的原動力となっている事実に言及。同州のGDPに対してドレスデン発電所は年間約10億ドル、クリントン発電所は約5億5千万ドルの貢献をしていると述べた。コンステレーション社のJ.ドミンゲス社長兼CEOは、「イリノイ州や全国レベルでCO2の排出量を実質ゼロ化するには、活用可能な無炭素電源をすべて稼働させねばならない」と指摘。「運転期間の延長が認められれば、これらの原子力発電所は今後数十年にわたり、必要な時に必要な場所にクリーンエネルギーを供給できるという原子力の能力を実証する」としている。なお、コンステレーション社は2012年に原子力発電大手のエクセロン社に合併吸収され、所有していた原子力発電所のいくつかはエクセロン社に経営統合された。しかし、米国社会が無炭素な未来に向けて移行するなか、エクセロン社は今年1月、この移行を加速するのに最適の企業としてコンステレーション社を分離独立させると発表。翌2月にはこの分離手続きが完了している。(参照資料:コンステレーション・エナジー社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月31日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
09 Nov 2022
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国連気候変動枠組み条約第27回締約国会議(COP27)が11月6日、18日までの日程で、エジプト屈指のリゾート地シャルム・エル・シェイクで開幕した。国連気候変動枠組条約(UNFCCC)は現在、経済規模や資源の有無など全く成り立ちの異なる198か国が批准している。COPの採決は全会一致が原則であり、当然ながら国家間の利害対立が極めて大きく、毎回合意文書の取りまとめは難航している。昨年のCOP26(英国)では、世界の平均気温の上昇を1.5度までに抑える努力を各国が追求することで合意したが、国連が先月27日に発表した報告書は、現状の各国による温室効果ガス(GHG)削減目標では、目標達成は難しいと結論。今後、より具体的なGHG削減対策が打ち出せるかが課題となっている。首脳級会合でホストとして各国首脳を迎えたエルシーシ・エジプト大統領は、温暖化対策に向けた「具体的かつ効果的なアクション」を訴えると同時に、ウクライナ紛争の早期終結を強く呼びかけた7−8日には首脳級会合が開催され、国連のグテーレス事務総長は「1.5度の気温上昇を抑制するには、2050年までにGHG排出ネットゼロを達成しなければならないことは、サイエンスによって明らかになっている。しかしその目標は今やヨロヨロの状態で、崩れ去ろうとしている」と強い危機感を表明。「気候変動の地獄へ向かう一本道で、アクセルに足をかけている」と強調し、各国首脳に改めて結束を呼びかけた。100か国以上の首脳が参加した首脳級会合では、最近のパキスタン大洪水など世界各地で干ばつや洪水など異常気象が続く中、「損失と損害(loss and damage)」をテーマに、GHGを大量に放出する先進国から途上国に対する補償が議論された。ガーナのアクフォ=アド大統領は「アフリカは気候変動を引き起こす活動をほとんどしていないにもかかわらず、若者が多大な被害を受けている」を訴え、ルワンダのカガメ大統領も「先進国がなせる価値ある貢献とは、自国の排出量を早急に削減すると同時に、アフリカに持続可能なグリーン電力を導入することだ」と強く要求するなど途上国の首脳からは深刻化する気候変動災害への資金支援を求める声も相次いだ。ドイツのショルツ首相 ©︎独連邦政府これまで先進国は全体で、途上国への気候変動対策として年間1000億ドルの資金支援を行う目標を掲げたものの、未だ達成できていない。今回の首脳級会合でも、独自の追加支援策として、ドイツのショルツ首相が1億7000万ユーロ、英国のスナク首相も15億ポンドの拠出を表明したが、目標額には遠く及ばない現状だ。今後の会期中に、先進国がどこまで歩み寄るのかが注目される。昨年のCOP26では例年以上に原子力に関する議論が活発に行われた。今回も、国際原子力機関(IAEA)が中心となって原子力パビリオンを設置するなど、ネットゼロ世界の実現に向けた原子力の貢献を訴求する予定だ。
09 Nov 2022
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閣僚会議の決定事項を発表するO.ヴェラン政府報道官©The Elysee Palaceフランス大統領府は11月2日、原子力発電所を新規に建設する際、時間のかかる複雑な行政(許認可)手続きを簡素化するための法案が同日の閣僚会議で承認されたと発表した。同国では、E.マクロン大統領が今年2月に東部のベルフォールで、CO2排出量を2050年までに実質ゼロ化するという目標の達成に向けて、国内で改良型の欧州加圧水型炉(EPR2)を新たに6基建設するとしたほか、さらに8基の建設に向けて調査を開始する方針を表明している。今回の法案はこの方針に沿って、エネルギー移行省が複数の国民評議会と協議して内容を決定しており、同省のA.パニエ=リュナシェ大臣が閣僚会議に提出した。今後、フランス国内における新設の実現に向け、行政手続きを加速する枠組みの設定を行うほか、その建設計画が既存の原子力発電所の近隣、あるいは敷地内での建設では工期の短縮を図りたいとしている。大統領府の発表によると、この法案の狙いは気候変動に迅速に対処することに加え、今年始まったウクライナでの紛争にともない、エネルギーの供給保証と自給が危機に瀕していることへの緊急対応となる。また、マクロン大統領がベルフォールで明言したように、原子力発電開発は脱炭素化の推進で化石燃料依存から長期的に脱却していく3つの方策の一つ。原子力の他には、再生可能エネルギーの開発、およびあらゆる産業部門の活動を省エネに導くようなエネルギーの効率化が挙げられるとした。フランスでは今年の10月20日から、独立行政機関の一つである国家公開討論委員会が、同国の将来のエネルギーミックスに関する公開討論を約4か月の日程で開始。複数年の新しいエネルギー・プログラムを2023年に議会にかけられるよう準備を進めているが、大統領府は、今回の法案は将来のエネルギーミックスから原子力を排除するためのものでも、またその安全性や環境影響に関する要件や手続きを変更するためでもないと強調。建設構想がある地域の計画文書を一層迅速に整え、環境影響を考慮した都市計画規則に準じて建設されることを保証、同様の計画を並行して複数進めるためだと指摘した。さらに、建設計画を公益事業として認識してもらうことで、建設に必要な土地を速やかに収用する方策が含まれる可能性があるとしている。公開討論ではまた、北西部のパンリー原子力発電所でEPR2を2基建設する計画が議論の焦点となっているが、今回の法案は将来の原子力発電所建設に関する議論に一層多くのフランス国民が参加することを求めている。大統領府はこれらに基づいて、公開討論が終わる2月までに少なくとも1件の新設計画、可能であれば2~3件について許認可手続きを始めたいとしている。(参照資料:仏大統領府の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月4日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
08 Nov 2022
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