エジプトの原子力・放射線規制機関(ENRRA)は6月29日、原子力発電庁(NPPA)に対し、エルダバ原子力発電所1号機の建設許可を発給した。同機はエジプト初の原子力発電所で、ロシアのロスアトム社が建設している。エルダバ発電所の建設サイトは首都カイロの北西300 km、地中海沿岸のエルダバ市内にあり、第3世代+(プラス)の最新鋭の120万kW級ロシア型PWR(VVER-1200)を4基建設することになっている。エジプト電力・再生可能エネルギー省の下でこの計画を担当するNPPAは、2021年6月にENRRAに対し1、2号機(各120万kW)の建設許可を申請、同年12月には、3、4号機(各120万kW)の建設許可申請書も提出した。これらの動きから、ロスアトム社は2021年7月に機器の製造を開始。2028年にも1号機の商業運転を開始するとしている。NPPAのA.エル・ワキル長官は、「原子力発電所の建設は我が国が1950年代から70年以上にわたって切望していたもの。ようやく念願が叶いエジプトはその仲間入りをする」と強い意欲を示している。建設許可の発給についてロスアトム社は、「申請書の準備では膨大な作業を必要としたが、その甲斐あって1号機では最初のコンクリート打設を含む本格的な建設工事の開始が可能になった」と表明した。同社のA.リハチョフ総裁はVVER-1200について、「世界で最も厳しい安全基準を満たした信頼性の高い設計であり、ロシア国内ではすでに4基が稼働中だ」と説明。エルダバ原子力発電所はアフリカ大陸で建設される最初の第3世代+プラントとなることから、「エジプトはこの地域で技術面のリーダーシップを握ることになる」と指摘している。ロスアトム社によると、VVER-1200はロシアのノボボロネジ原子力発電所Ⅱ期工事、およびレニングラード発電所Ⅱ期工事で採用されており、両発電所ではすでに2017年2月から2021年3月にかけて、2基ずつ(各118万~120万kW)営業運転を開始。国外ではベラルーシのベラルシアン原子力発電所1号機(119.4万kW)が2021年6月に営業運転を開始したほか、同2号機(119.4万kW)も2014年4月から建設中となっている。エルダバ原子力発電所の建設については、2015年11月にエジプトとロシアの両政府が2国間協力協定(IGA)を締結しており、翌2016年5月にロシア政府は最大250億ドルの低金利融資(年3%)をエジプトに提供するための大統領令を公布。2017年12月になると、両国政府はエルダバで4基のVVERを建設する内容のパッケージ契約に調印した。これらの契約に基づき、ロシア側はエジプトで原子力発電所を建設するのに加えて、各原子炉の運転期間である60年分の燃料を供給する。エジプト側の人材育成についても教育訓練を実施するほか、運転開始後10年間は発電所の運転・保守(O&M)を支援、使用済燃料の中間貯蔵施設もエジプト国内で建設し、貯蔵用コンテナを提供することになる。 (参照資料:ロスアトム社、NPPA(アラビア語)の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月30日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
04 Jul 2022
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中国核工業集団公司(CNNC)は6月28日、浙江省の三門原子力発電所で、3号機(PWR、125.1万kW)の原子炉系統の据付部分に最初のコンクリートを打設したと発表した。同炉は今後着工する4号機(PWR、125.1万kW)とともに同発電所のⅡ期工事に位置付けられており、CNNCはこれにより正式にⅡ期工事の建設工事開始を宣言した。同発電所および山東省の海陽原子力発電所では、受動的安全系を装備した米ウェスチングハウス(WH)社製の第3世代+(プラス)設計の「AP1000」が2基ずつ、それぞれ1、2号機(三門は各125.1万kW、海陽は各125.3万kW)として、2018年から2019年にかけて営業運転を開始。これらのうち、最も早い2018年9月に運転を開始した三門1号機は、世界で初のAP1000となった。今回の発表で、CNNCは三門3、4号機の炉型に言及していないが、AP1000設計中国版の標準設計「CAP1000」になるとの見方が有力である。CAP1000の開発は、その容量拡大版のCAP1400が中国に知的財産権を認めるとのWH社との契約にはあったものの、これまでその進展状況が明らかにされていなかった。中国・国務院の常務委員会は今年の4月20日、三門発電所と海陽発電所、および広東省の陸豊原子力発電所で、大型炉を新たに合計6基建設する計画を承認した。これを受けてWH社は同月26日、「新たに4基のAP1000建設が三門と海陽で承認されたことから、世界のAP1000は米国で建設中のものも含めて合計10基になる」とコメントしている。CNNCによると、浙江省には中国初の原子力発電所となった秦山原子力発電所(I期工事~Ⅲ期工事まで合計7基)が立地するなど、同国の原子力産業の発祥地である。三門発電所では最終的に合計約600万kWのPWR建設が予定されており、1、2号機の発電量は累計ですでに600億kWhを超えた。Ⅱ期工事の3、4号機が完成した場合、同発電所の設備容量は500万kWを超え、これらによる総発電量は年間400億kWhに到達する見通し。これは年間3,000万トンのCO2の排出が抑制されることを意味しており、浙江省と長江デルタ地域における中・長期的な電力供給を支えるとともに、産業構造とエネルギーミックスの最適化を促進。クリーンで低炭素なエネルギーへの移行が促され、同省の高度な社会経済の発展がもたらされる。 CNNCの顧軍・総経理も三門3号機が本格着工したことについて、「浙江省とCNNCの産業開発にとって非常に重要な意味があり、エネルギー分野における両者の協力は今後さらに進展する」と指摘した。また、今後の抱負として、「国家の要求に応じてCNNCは今後も原子力開発を積極的かつ整然と進めていき、クリーンなベースロード電源としての原子力の役割を十二分に発揮させる。科学的な計画立案と高い技術を備えた開発を精力的に促して、電力・エネルギーの供給と低炭素社会への移行を確実なものとし、経済の安定化を図りたい。中央企業としての実践活動の中で社会・政治的な責任を果たすとともに、中国原子力産業界の質の高い発展を牽引していく」としている。(参照資料:CNNCの発表資料①、②(中国語版)、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月29日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
30 Jun 2022
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カナダ中西部サスカチュワン州の州営電力会社であるサスクパワー社は6月27日、同州内で2030年代半ばまでに小型モジュール炉(SMR)を建設する場合、GE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社製のBWR型SMRである「BWRX-300」(出力30万kW)を採用すると発表した。このSMR建設計画を実際に実行するかについて、同社は2029年まで判断を下さない方針だが、そのために必要なプロジェクトの開発業務や許認可など規制関係業務を現在進めている。この中でも特に重要なのが、採用炉型の選定と建設サイトの選定で、サスクパワー社はSMRを受け入れる可能性のあるサイトの詳細な技術評価をさらに進め、年内にも適切と思われるサイトを複数選定するとしている。サスクパワー社は、2030年までに州内の温室効果ガス(GHG)排出量を2005年レベルの50%削減し、最終的には2050年までに実質ゼロ化することを目標に掲げている。そのため、GHGを排出しない発電オプションについて技術評価を実施しており、その中には風力と太陽光発電の拡大、隣接州との送電網相互接続、バイオマス、地熱、および原子力としてのSMR導入が含まれている。この評価で同社が特に重点を置いたのは、安全性や発電技術としての完成度のほかに、発電規模、燃料のタイプ、予想される発電コストなど。SMRに関しては、カナダ全域で複数のユニットを建設するアプローチについて、2019年から独自の包括的な評価作業をオンタリオ州の州営電力(OPG)などと緊密に協力して実施した。同社によれば、この方式であれば規制面や建設・運転面のコストが低く抑えられるほか、初号機建設にともなうリスクも回避され、サスカチュワン州にとって多くの利点がある。OPG社は2021年12月、オンタリオ州内のダーリントン原子力発電所内で、早ければ2028年初頭までに完成させるSMRとして「BWRX-300」を選定しており、GEH社の今回の発表では、OPG社は年内にも同SMRの建設許可を申請する見通しである。これらのことから、サスクパワー社は同じ設計を選択することで「カナダ全域で複数ユニット」方式の利点が発揮されると説明している。同社の今回の決定について、サスカチュワン州政府のD.モーガン・サスクパワー社担当大臣は、「当州が一層クリーンで持続可能な未来に向けて前進する重要な節目になった」と評価。同州が設定した「サスカチュワン成長計画」に基づき、CO2を排出しないSMRの建設計画がさらに進展したと強調した。サスクパワー社のT.キング暫定社長兼CEOは、「原子力産業界の一リーダーであるGEH社は、当社とサスカチュワン州の住民に今後数十年にわたって恩恵をもたらす可能性がある」と指摘。「同社の『BWRX-300』設計は、安全で信頼性の高い持続可能な電力を供給しつつCO2排出量を削減するという当社の目標達成に大きく貢献する」と述べた。カナダでは2019年12月、大型の原子力発電所が立地するオンタリオ州とニューブランズウィック州、およびウラン資源が豊富なサスカチュワン州の州政府が、出力の拡大・縮小が可能で革新的な技術を用いた多目的SMRを国内で建設するため協力覚書を締結。2021年4月にはこの協力覚書にアルバータ州も加わっており、これら4州は今年3月に、SMRを開発・建設してくための共同戦略計画を発表している。SMR建設の許認可手続については、カナダ原子力安全委員会(CNSC)が2019年7月、プロジェクト開発企業のグローバル・ファースト・パワー社が、米ウルトラ・セーフ・ニュークリア社製「マイクロ・モジュラー・リアクター(MMR)」をオンタリオ州内のチョークリバー・サイトで建設するために提出した「サイト準備許可(LTPS)」の申請書を受理。同審査は2021年5月、技術審査段階に進展している。一方、ダーリントン発電所内でOPG社が建設する「BWRX-300」については、同社が大型炉建設計画のために2012年に取得したLTPSの10年延長を、2020年6月にCNSCに申請。CNSCは2021年10月にこれを承認しており、ダーリントン・サイトは現在、カナダで唯一LTPSが認められている地点である。(参照資料:サスクパワー社、GEH社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月28日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
29 Jun 2022
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G7で発言するバイデン大統領 ©White House米国のJ.バイデン大統領は6月26日、ドイツ南部のエルマウにおける主要7か国(G7)首脳会議で、ルーマニアが進めている米ニュースケール・パワー社製・小型モジュール炉(SMR)の建設計画を支援するため、1,400万ドルを拠出すると発表した。この日のG7では、発展途上国へのインフラ投資を促す新たな枠組み「グローバル・インフラ投資パートナーシップ(PGII)」の発足が決定しており、米国政府は助成金や連邦政府資金、および民間資金も含めて今後5年間で2,000億ドルを調達すると表明。対象案件の一つとして、ルーマニアにおける「ニュースケール・パワー・モジュール(NPM)」の建設計画を挙げたもの。米国政府がニュースケール社とともに拠出する助成金の1,400万ドルは、候補地である同国南部のドイチェシュティ(Doicesti)で出力7.7万kWのNPMを6基備えた発電設備「VOYGR-6」を建設するのに先立ち、実施が予定されている「(予備的な)基本設計(FEED)調査」に充てられる。この計画については、米貿易開発庁(USTDA)がすでに2021年1月、建設サイトの選定作業を支援するため、ルーマニア国営の原子力発電会社(SNN)に約128万ドルを交付した。このような実績に基づき、今回の助成金は政府資金を呼び水として、数十億ドル規模の企業投資を促すことを狙っている。同時に、先進的原子力技術の分野で米国が保有する技術力を明確に示し、クリーンエネルギーへの移行を加速するほか、数千人規模の雇用を創出する意図がある。また、原子力発電で高いレベルの安全・セキュリティや核拡散抵抗性を維持しつつ、欧州のエネルギー供給を強化・保証するものでもある。この発表については、SNNが翌27日に謝意を表明している。ドイチェシュティのFEED調査で得られる重要データは、コストの見積もりや綿密なスケジュールの立案、許認可手続きなど国内外の規制要件に基づいたプロジェクト設計に役立てるほか、ルーマニア国内で機器の製造・組立てや関連サービスを提供する可能性のあるサプライヤーを、この段階で特定すると説明した。SNNのC.ギタCEOは、「米国の原子力規制委員会(NRC)が初めて承認した唯一のSMR設計を、我が国の脱炭素化のみならず、エネルギーの自給力向上と繁栄にも役立てたい」とコメント。その上で、「米国との協力を通じて、原子力分野の新しいプロジェクトでは最も厳しい安全基準を確実にクリアしていくとともに、ルーマニアが既存のチェルナボーダ1、2号機で25年以上にわたり蓄積してきた安全運転の経験や専門的知見で、欧州初のSMR建設に貢献したい。民生用原子力プログラムの導入を検討中の国々には、その範例を示すつもりだ」と述べた。なお、ルーマニアではこのほか、建設工事が停止中のチェルナボーダ3、4号機(各70.6万kWのカナダ型加圧重水炉)を完成させる計画も進められており、米国政府は2020年10月、同計画への支援とルーマニアの民生用原子力発電部門の拡大と近代化に協力するため、ルーマニアとの政府間協定(IGA)案に調印した。米輸出入銀行(US EXIM)もこれと同じ日、ルーマニアのエネルギー・インフラ分野等に対する最大70億ドルの財政支援に向けて、同国の経済・エネルギー・ビジネス環境省と了解覚書を締結している。(参照資料:ホワイトハウス、SNNの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月27日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
28 Jun 2022
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ポーランド政府所有の電力会社であるエネア(Enea)・グループは6月22日、米国の小型モジュール炉(SMR)開発企業であるラスト・エナジー社と基本合意書を締結。SMRのポーランドへの導入を目指す。同設計の経済面と技術面の実行可能性を検証した後、エネア・グループが実施した市場分析等に基づいて、さらなる協力の範囲を定めるとしている。基本合意書によると、ラスト・エナジー社はSMRの設計・建設から、資金調達、設置とメンテナンス、燃料供給、廃棄物の回収、廃止措置に至るまで、開発プロジェクトの全般にわたりエネア・グループに協力する。一方、ポーランド側では、この合意で石炭や輸入天然ガスへの依存度を下げ、クリーンで価格も手ごろな電力の利用拡大を目指しており、エネア・グループは共同建設を担当する合弁会社の設立も想定している。自社の発電設備としてSMRを活用するだけでなく、将来的には産業界への熱供給も計画。同グループの開発戦略に沿って原子力関係の新しい事業を創出するほか、2050年までにポーランドがCO2排出量を実質ゼロ化する一助としたい考えだ。ラスト・エナジー社のSMR(電気出力2万kW、熱出力6万kW)は、実証済みのPWR技術を用いたモジュール式の設計で、ベースロード用電源として活用が可能。同社によると、従来の大型炉と比べて製造に必要なコストと時間が大幅に削減される見通しで、最終投資判断が下されてから24か月以内に納入することを目指す。同設計は運転期間42年を想定している。同社はすでに、欧州のみならず南米やアジア諸国の政府や規制当局、およびエネルギー企業などと同社製SMRに関する協議を実施。今年3月には、ルーマニアのN.チューカ首相が、同社と協力して同社製SMRをルーマニア国内に導入する意欲を表明している。基本合意書の調印は、ポーランド大統領の後援で2016年から毎年開催されている大型の経済イベント「コングレス590」で行われた。調印式に同席したポーランドのJ.サシン副首相兼国有財産相は、「国家のエネルギー供給を長期的に保証していくため、従来の大型炉や全く新しい小型炉設計など、その規模に関わらず原子力発電を導入していきたい」と表明。今後、未知の多難な方向へ歩を進めるエネア・グループが、信頼できる案内役をパートナーとして見つけたことを祝福すると述べたほか、「ポーランドがエネルギー供給を維持していけるか決定づける時が来た」と強調した。ポーランドではこのほか、化学素材メーカーのシントス社と石油精製企業のPKNオーレン社が昨年12月、合弁事業体を設立してSMRの中でも米GE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社製SMR「BWRX-300」の建設に重点的に取り組むと表明。また、ポーランド鉱業大手のKGHMポーランド銅採掘(KGHM)会社は今年2月、米ニュースケール・パワー社の先進的SMR「ニュースケール・パワー・モジュール(NPM)」を複数備えた「VOYGR」発電設備を、2029年までに国内で建設するため、先行作業契約を同社と締結している。また、フランス電力(EDF)は昨年10月、ポーランド政府に対し2~3サイトで4~6基のフラマトム社製「欧州加圧水型炉(EPR)」(合計660万~990万kW)の建設を提案していたが、今月22日に「この提案を再確認するため、ポーランド国内でこの計画に参加する資格がある5つの企業と、新たに協力協定を締結した」ことを明らかにしている。(参照資料:エネア・グループ、ラスト・エナジー社、EDFの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月23日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
27 Jun 2022
2143
米原子力エネルギー協会(NEI)のM.コースニック理事長は6月21日、会員企業やその他の原子力関係者らを招いて毎年開催している「Nuclear Energy Assembly」で、原子力産業界の現状に関する講演を行った。同理事長によると、地球温暖化やエネルギー関係の重要な国際会議では、この1年間に原子力に対する認識に大きな変化が見られ、今や地球温暖化の防止に欠かせない電源であるとの評価を受けつつある。ロシアによるウクライナへの軍事侵攻に関しては、「ロシアの核燃料供給に依存しないためにも、燃料供給企業や電気事業者、投資家、大学等に至るまで、全員が協力して既存の原子炉を動かし続けねばならない」としたほか、米国の電気事業者が2050年までに、米国内で9,000万kWの原子炉新設を検討中であることを明らかにした。同理事長の講演概要は以下のとおり。♢ ♢世界では近年、干ばつや洪水、山火事など気候変動に起因する災害が激しくなり、停電も頻発するようになってきた。我々に敵対する国々が燃料供給を世界的規模で操作しているため、同盟諸国では燃料の利用や送電網の安定性が脅かされている。幸いなことに、米国を含む同盟諸国の指導者たちは、地球温暖化への対応が我々の送電網や経済、エネルギーの供給保証と本質的に結びついていることを理解しているため、CO2排出量の削減に向け、利用可能なクリーンエネルギー源すべてを活用するという政策目標を一致して掲げている。我々は原子力が最も信頼性の高い低炭素な発電オプションであることを知っているが、原子炉の新設を現在のスローなペースで進めていけば、脱炭素化の意欲的な計画も計画のままで終わる。我々はこの観点から、世界が切実に必要とする実質的な脱炭素化を達成する上で、何が欠かせないのかを真摯に見つめなければならない。今から30年後の未来に、既存の大型炉や最新の先進的原子炉など、数百基の原子炉を中心とする低炭素なエネルギーシステムの構築に我々が成功すると想像してみたが、大気を汚さず、陽が差さなくても毎日24時間絶え間なく稼働する原子力は無炭素な未来を切り開くカギであり、我々が今、正しい選択を行えば、このような想像を現実のものにすることが出来る。英国グラスゴーで開催されたCOP26を始め、世界中のエネルギー関係会議でCO2排出量の削減に原子力の果たす役割が着実に認められてきており、米国でも議会が超党派で原子力の支援を約束している。2021年にバイデン政権は原子力への支援政策を開始しており、エネルギー省(DOE)のJ.グランホルム長官は「我々の脱炭素化政策のなかで原子力は絶対的な重要部分を担っている」と表明。超党派議員の大多数が「無炭素で低コストな将来エネルギーへの道は原子力によって実現する」ことを理解し、既存炉の維持と新しい技術を用いた原子炉の建設に向けて、かつてない規模の予算措置を講じている。その一例が、昨年11月に成立した「超党派のインフラ投資法」であり、インフラ産業全体で1兆2,000億ドル規模の投資を約束。その中で原子力関係にも既存炉の早期閉鎖を防止するため、「民生用原子力発電クレジット・プログラム」に60億ドルを配分したほか、「先進的原子炉の実証プログラム」については予算が25億ドルに増額された。太陽光や風力といった再生可能エネルギーも重要だが、次世代の原子炉は陽が差さない時や風が吹かない時にも電力を供給するなど、これらを完璧に補うことが可能である。その他にも、先進的な原子炉設計には様々な用途があり、世界最大規模の都市から遠隔地のコミュニティに至るまで、どのような規模においても無炭素エネルギーの供給に新たな可能性を拓くことができる。将来必要になる原子炉を、仮に複数建設することになった場合、次の課題は「いつ、どこで」ということになるが、近年公表された報告書によると、小型モジュール炉(SMR)の場合、閉鎖される石炭火力発電所の跡地に建設して関係インフラを利用することができる。また、石炭火力の既存の労働力も最大で75%までが原子力発電所に移行可能と見積もられており、そこでは発電所の運転期間である60年間の雇用が保証されるほか、高い賃金も支払われる。CO2を排出しないという原子力の利点はまた、その他の産業からも認められている。CO2排出量の45%を排出する運輸業と製造業は、国連から排出量の早急な削減を求められている。このため、化学製造業のダウ・ケミカル社や米国最大の鉄鋼メーカーのニューコア社、ポーランドの合成素材メーカーであるシントス社などが、SMRの活用に関心を表明。SMR開発企業への投資も進めているケースもある。いずれにしても、原子力発電所を建設するという選択は小さな決断ではないし、これを建設することは経済面や安全セキュリティ面で100年にわたり信頼関係を構築することになる。ロシアによるウクライナへの軍事侵攻は、エネルギーの供給保証が国家の安全セキュリティと結びついていることを明確に示したが、米国の原子力産業界はロシアからの燃料輸入を排除できるよう、バイデン政権や議会および同盟諸国とともに、世界中の原子炉に確実かつ信頼性の高いやり方でウラン燃料を供給していく考えだ。我々はまた、ウラン燃料の転換や濃縮分野で米国がリーダーシップを取り戻したいと考えており、それには連邦政府の支援が必要になる。欧州諸国は今まさに、ロシアからのエネルギー輸入から脱却する方策を模索しているところだが、米国のウェスチングハウス社が燃料の供給と原子炉の新規建設でウクライナの原子力発電公社と進めている協力は、そのような国際連携に価値があることの証拠である。米国の原子力規制委員会(NRC)は近年、新しい原子炉関係の審査で急速に増加する申請への対応に直面しており、これらを実際に建設することになれば一層効率的な規制手続きが必要になる。NEIが最近、会員の電気事業者に対して実施した聞き取り調査では、これらの企業は2050年までに新たに9,000万kWの原子力発電設備を米国の送電網に接続することを検討中。これは今後25年間に、約300基のSMRを建設することに相当する。DOEではすでに、融資プログラム局が米国内での原子炉新設プロジェクトに関する複数の申請書に対応している。米輸出入銀行(US EXIM)も、米国企業との事業協力を希望する外国企業への融資案件に対応中だが、その輸出にともなう売り上げは莫大で、今後30年間で1兆9,000億ドルに及ぶと見積もられている。この講演の冒頭では、30年後の原子力産業界のビジョンについて述べたが、このような未来の実現に向けた活動の開始を1年も待つ余裕はないし、半年でも遅い。次世代原子炉の開発に今取り組まなければ、代償は送電網にかかる経費や我々の経済、環境という形で現れる。事はすでに進み始めており、今こそすべてを原子力に賭けるべき時だ。(参照資料:NEIの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月22日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
24 Jun 2022
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クリーンで安全な第4世代の先進的原子炉を開発するため、2021年9月に英国で設立された新興企業のニュークレオ(Newcleo)社は6月20日、今年3月の初回の株主総会を契機に開始した資金調達で、2か月間で3億ユーロ(約429億円)の調達に成功したと発表した。この資金を活用して、同社は今後5年から7年の間に、英仏の両国で鉛冷却高速炉(LFR)の電熱加熱式プロトタイプ装置(出力3万kW)を建設するほか、LFRで使用するウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)燃料の製造工場についても建設を進める方針。このため、グローバルな原子力産業企業である仏オラノ社には、同工場建設の実行可能性調査を依頼中であり、今年の後半にもLFRプロトタイプとMOX燃料製造工場の建設サイトの確保に向けて、優先業務を進めていきたいとしている。ニュークレオ社は最終的に、モジュール式で受動的安全系を備えた小型の可搬式LFR(出力20万kW)の開発を検討しており、今年3月にはイタリア経済開発省の新技術・エネルギー・持続可能経済開発局(ENEA)と協力する枠組協定を締結した。ENEAは液体鉛の分野で世界レベルのノウハウを蓄積しており、欧州原子力共同体(ユーラトム)が進めているLFR開発プロジェクトでは、イタリアのアンサルド社とともに主導的役割を担っている。ニュークレオ社はまた、LFRの製造販売に向けた国際拠点として、子会社の「ニュークレオSA社」をフランスで設立した。同国では今年2月、CO2排出量を2050年までに実質ゼロ化するため、E.マクロン政権が既存の商業炉の運転期間延長と新たな原子炉の建設を含むエネルギー政策を公表したことから、同社にとって戦略的に重要な市場になると考えている。フランスではすでに高速炉でのMOX燃料使用が認められているため、同社はLFRでこの燃料を使えばコスト面の競争力が上がるだけでなく、本格的に持続可能な原子力アプローチになると考えている。具体的には、長寿命の放射性廃棄物を処分する環境面や財政面の負担を減らせるほか、核拡散上のリスクも軽減、新たな原子燃料の入手でウランを採掘する必要性も完全になくなるとした。これらのことから、ニュークレオ社は産業規模のMOX燃料製造工場を建設して、LFRプロトタイプの将来的な運転に必要な燃料を確保、その後に英仏の両国で建設する複数のLFRにも活用すると述べた。重要な点は、同社のLFRが英仏両国の原子力増強戦略に合致するとともに、これらを補完する手段にもなることだと強調。ニュークレオ社は、すでに排出された廃棄物と新たに発生する廃棄物を持続的に管理する安全かつ効率的な方法としてMOX燃料を製造し、最終処分しなければならない廃棄物の量を大幅に削減していく考えだ。ニュークレオ社のS.ブオノ会長兼CEOは、「(ロシアによるウクライナへの軍事侵攻など)近年の地政学的展開は、世界レベルのエネルギー供給保証や脱炭素化に必要な措置として、原子力がますます重要になることを明確に示している」と指摘。「当社はクリーンで持続可能なエネルギーの必要性という差し迫った課題に迅速に対応中で、市場の状況から見て今こそ、原子力の枠組みを新たな技術に変化させる時期だと考えている。この新しい原子力技術なら、コストと安全性、放射性廃棄物という産業界の大きな懸念事項にも、効率的に取り組むことが可能になる」と強調した。(参照資料:ニュークレオ社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月20日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
22 Jun 2022
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米国のニュースケール・パワー社は6月20日、同社製の小型モジュール炉(SMR)「ニュースケール・パワー・モジュール(NPM)」の商業化を一層加速していくため、同社の戦略をSMRの開発と製造から、今後はNPM納入後のライフサイクルを通した顧客満足の重点化にシフトすると発表した。新しい事業組織「VOYGRサービシズ&デリバリー(VSD)」を設置し、NPMを複数備えた「VOYGR」発電設備の製造と販売、納入および商業運転にともなう機器・サービスの提供など、顧客との協力に特化した対応を取る方針。VSDの社長には同社のT.マンディCOO(最高商務責任者)が就任する予定で、J.ホプキンズCEOの直属組織となるVSDの堅実な運営について、全面的な責任を担うことになる。米原子力規制委員会(NRC)は2020年9月、1モジュールの出力が5万kWの同社製「NPM」に対し、SMRとしては初の「標準設計承認(SDA)」を発給した。これを受けてニュースケール社は、「VOYGR」発電設備の建設に向け、プラントとしての設計標準化やサプライチェーンの確保といった長期的視点での活動の在り方を検討している。同社はまた、今年5月に特別買収目的企業(*未公開会社の買収を目的として設立される法人)であるスプリング・バレー社(Spring Valley Acquisition Corp.)との合併を完了し、SMRの設計・開発企業としては初めて株式を公開。今回の戦略シフトと併せて、同社製SMR技術の商業化を長期的観点から促進・強化していく考えだ。「NPM」初号機については、ユタ州公営共同事業体(UAMPS)が出力7.7万kWのNPMを6基備えた「VOYGR-6」をアイダホ国立研究所内で建設する計画を進めており、最初のモジュールは2029年の運転開始を目指している。SMRを通じて、UAMPSは2015年に開始した「無炭素電力プロジェクト(CFPP)」を推進する方針で、すでにSMRの長納期品発注に向けた活動を実施中。このため、顧客を中心に据えた組織改革となるVSDの設置は、世界で急速に進展している脱炭素化への需要に、同社のクリーンエネルギー技術で迅速に対応する非常に重要なステップになると同社は指摘している。「VOYGR」発電設備についてはまた、ポーランドとルーマニアで建設する計画があり、これらの計画で効率的かつ効果的にSMRを納入するには事前の組織改革が必要だと同社は強調。ホプキンズCEOも、「設備の納入とその後に目を向けた組織改革は、当社が次の段階に進む上で自然なことだ」と指摘した。同CEOによると、ニュースケール社のSMRは、クリーンで信頼性の高い安全なエネルギーの生産に新たな時代を開く画期的な技術。「その建設で顧客と緊密に連携していくことは、当社の重要な使命の一部でもある」と述べた。VSDの社長に就任するマンディCOOは、「他にも数多くの国家や電気事業者がグローバルな繁栄を維持しつつ地球温暖化の影響を緩和する主要な取り組みとして、VOYGR発電設備の導入を検討している」と指摘。その上で、「あらゆる人々の将来のエネルギー利用による恩恵を究極的に改善・拡大するため、今こそ組織的な準備を進めるべき時だ」と強調している。(参照資料:ニュースケール社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月20日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
21 Jun 2022
2150
カナダで使用済燃料の深地層最終処分場・建設候補地を選定している核燃料廃棄物管理機関(NWMO)は6月15日、立地点として最終決定した場合にNWMOが約束する事項について、候補に残っている2地点のうち、オンタリオ州南部のサウスブルース地域の自治体と了解覚書を締結したと発表した。同覚書は、最終的に処分場の受け入れ合意書(案文)を作成する際、叩き台になるとNWMOは説明。同自治体が実施を求める優先事項にNWMOが重点的に取り組めるほか、今後さらなる合意文書を結ぶための下準備にもなるとしている。カナダでは、原子力発電所の使用済燃料を再処理せずに直接処分する方針であり、NWMOはそのための処分場建設に向け、2010年からサイト選定プロセスを開始した。処分場の受け入れに関心を表明した22地点は、これまでにサウスブルース地域、および同じオンタリオ州の北西部イグナス地域の2地点に絞り込まれており、NWMOは周辺の住民や環境の安全が確保されるだけでなく地元コミュニティには利益がもたらされることを確認した上で、協力的で好ましい1地点を2023年までに最終決定する方針である。サウスブルース地域の自治体はすでに、コミュニティとして優先したい事項や希望項目を「指針となる36の原則」に取りまとめており、NWMOはこれに応えて、同自治体が建設サイトとなった場合に次の事項を実行すると約束。すなわち、同地域を科学技術に関する世界的な中核拠点とし、地元コミュニティの役に立つ様々な機会を通じて協力関係を結ぶほか、地上施設の設置面積を抑えるなど可能な限り現在の地形を維持して地元の資産価値を保全。NWMOはまた、処分するのはカナダの原子力発電所から出る使用済燃料のみで他国の廃棄物を対象としないこと、処分場にNWMOから継続的に資金を提供する、などとしている。NWMOはこのほか、これらの両地点について「最終処分場建設の要件を満たすことが可能であり、建設に適している」とする報告書を16日付けで公表した。両地点で数年にわたり、NWMOが注意深く実施した研究やフィールド調査の結果を地点別にまとめたもので、両地点はともに、使用済燃料を周辺住民や環境から安全に隔離し閉じ込められる地質学的特徴を備えているとNWMOは指摘。具体的には、地震活動が少ない安定した地点であり、使用済燃料の処分に必要な深さや幅、容積を持った岩石層を備えている。また、この岩石層には鉱物資源や塩など経済的利益が見込めるような成分が含まれていないため、将来的に人が立ち入るリスクも少ないとした。建設サイトに決定した地点については後日、処分場設計との適合性や長期的な安全性の保証に関する規制審査が追加で行われるとしている。NWMOのL.スワミ理事長兼CEOは、「安全性の確保がこのプロジェクトの最優先事項であり、我々が実施する設計・エンジニアリングや環境調査、地元コミュニティとの協力等に至るまで、すべてこの原則に貫かれている」と説明。これら2つの報告書は、NWMOが10年以上前に開始したサイト選定プロセスにおける重要な成果だと強調した。(参照資料: NWMOの発表資料①、②、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月16日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
20 Jun 2022
1777
フィンランドのティオリスーデン・ボイマ社(TVO)は6月15日、オルキルオト原子力発電所で今年3月から試運転中の3号機(OL3)(欧州加圧水型炉=EPR、172万kW)について、9月に予定していた営業運転の開始が12月に延期になったと発表した。同炉の建設を担当した仏アレバ社と独シーメンス社の企業連合の説明では、同炉では先月、タービンの蒸気再加熱器の蒸気誘導プレートから異物が剥離し、その点検・修理作業が7月末までかかると見込まれる。修理の完了後も、同炉では出力60%で外部送電網から切り離して実施する系統単独運転試験や、出力を25%と65%の間で変動させるランプ試験、およびこれらの解析作業等が予定されている点を、営業運転の延期理由として挙げている。OL3の建設プロジェクトは2005年、世界で初めてEPR設計を採用して開始され、運転開始は当時2009年に予定されていた。しかし、技術的な課題が次々と浮上したためこのスケジュールに大幅な遅れが生じ、コストもターンキー契約による固定価格の約30億ユーロ(約4,100億円)が倍以上に拡大した。約17年間に及んだ建設工事を経て、同炉は2021年12月に臨界条件を達成し、今年3月に欧州初のEPRとして送電を開始した。その際、TVOは約4か月の試運転期間中に出力を定格まで徐々に上げていき、7月末の営業運転開始を予定していたが、今年4月に冷却系で追加の機器点検・修理が必要になったことから、9月への延期を発表。このスケジュールが今回さらに3か月延期されたもので、TVOは現在その影響等を評価中である。OL3建設プロジェクトの遅れについては、TVOと企業連合が2018年3月に超過コストと損害賠償に関する包括的和解契約(GSA)を締結。企業連合側が分割払いで、総額4億5,000万ユーロ(約632億円)をTVOに支払うことになった。両者はまた、建設プロジェクト完了の条件事項について、2021年5月に合意。OL3ではこの年の3月に燃料の初装荷が開始されていたため、この時点で営業運転の開始は2022年2月に設定されていた。その際に両者が合意した完了条件としては、「2018年のGSA締結時にアレバ社が設置した専用の信託に、企業連合側から新たに約6億ユーロ(約843億円)を補充しOL3の完成費用に充てる」、「2022年2月末までにプロジェクトが完了しなかった場合、企業連合側が実際の完了日に応じて、遅れにともなう追加の補償金をTVOに支払う」、などが決まっている。(参照資料:TVOの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月16日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
17 Jun 2022
2100
X-エナジー社の「Xe-100 」 ©X-Energy 米メリーランド州のエネルギー管理局(MEA)は6月14日、州内の石炭火力発電施設をX-エナジー社製・小型高温ガス炉「Xe-100」にリプレースする場合の、経済的実行可能性や社会的な便益を評価するため、同社およびフロストバーグ州立大学と共同調査を実施すると発表した。同州を本拠地とするX-エナジー社との協力により、同社の先進的な小型モジュール炉(SMR)を州内で建設する実行可能性を探るとともに、クリーンエネルギー開発を推進する機会や新たな関係雇用を創出する可能性についても調査を実施。判明事項はフロストバーグ州立大が経済影響面の分析を行い、今年後半にも結果を公表することになる。メリーランド州は東海岸北部に位置する州で、首都ワシントンDCに隣接している。同州の州議会は、今年初頭に成立させた「地球温暖化防止法」のなかでCO2排出量の本格的な削減目標を掲げており、最終的には2045年までに州経済におけるCO2排出量の実質ゼロ化を目指している。今回の調査協力にともない、MEAはX-エナジー社とフロストバーグ州立大に補助金を交付している。MEAの発表によると、3者の協力は同州内におけるSMR立地調査の最初の一歩となる。受動的安全性を備えたペブルベッド式SMRの建設は、信頼性の高い無炭素電源が得られるなど様々なメリットがあり、広い意味では州内のエネルギー生産やビジネスにも多大な利点があるとした。既存の発電設備をSMRで置き換え、州内で増大する電力需要に応えることが出来れば、発電資産の標準的取得原価が抑えられ高サラリーの雇用も維持が可能。SMRの建設とメンテナンスで州内の製造・建設部門に新たな事業機会がもたらされるほか、州民や企業等の消費者は低コストで供給上の柔軟性が高い電力を得ることができる。 MEAのM.B.タング局長は今回、「低炭素なエネルギーシステムへの移行を目指す当州では、エネルギーの供給情勢が急速に変化するなか、毎日24時間確実に発電可能な新しい方法を見出さねばならない」と表明。その上で、「技術の進歩の最先端に留まりつつ、脱炭素化目標の達成方法を模索する当州にとって、SMRは最も適している」と指摘しており、「今回の調査協力では、この先進的無炭素電源の建設が当州の状況に適っているか、また、良好な調査結果が出た場合は建設をどのように進めるのが最善かの判断を下せると思う」と述べた。X-エナジー社の「Xe-100」は、第4世代の非軽水炉型・先進的SMRで、米エネルギー省(DOE)は2020年10月、同社を「先進的原子炉設計の実証プログラム(ARDP)」で支援金を交付する対象企業の1つに選定した。CO2を発生しない「Xe-100」では電気出力と熱の生産量を柔軟に変更することができ、海水脱塩や水素製造などの幅広い分野に適用可能。1つのサイトで「Xe-100」を最大12基連結することで、出力は約100万kWに達すると同社は強調している。同設計については、西海岸ワシントン州の2つの公益電気事業者が2021年4月、X-エナジー社とパートナーシップを組むための了解覚書を締結。州内の使用電力を2045年までに100%無炭素化するため、「Xe-100」を同州で建設し商業化の可能性を実証する。世界では、ヨルダンが2030年までに「Xe-100」の4基建設を希望しており、X-エナジー社とヨルダン原子力委員会は2019年11月、基本合意書を交わしている。X-エナジー社は現時点で、同設計を米原子力規制委員会(NRC)の設計認証(DC)審査に申請していないが、2020年8月からはカナダ原子力安全委員会(CNSC)が同設計の予備的設計評価(ベンダー設計審査)を実施中である。(参照資料:メリーランド州政府、X-エナジー社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月15日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
16 Jun 2022
2290
英ビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)のK.クワルテング大臣は6月14日、イングランド南東部のサフォーク州でEDFエナジー社が計画している「サイズウェルC(SZC)原子力発電所建設プロジェクト(約167万kWの欧州加圧水型炉=EPR×2基)」に対し、「規制資産ベース(RAB)モデル」を通じて資金調達を行う手続が大きく進展したと発表した。今年3月に成立した「原子力融資法」の基準に基づき、同相はこの日、同モデルの支援を受けるSZC発電所の開発事業者として、EDFエナジー社の子会社であるNNB GenCo(SZC)社を指名した。指名理由をまとめた文書案は7月4日までの期間、NNB GenCo(SZC)社と規制当局の原子力規制庁(ONR)と環境庁(EA)、ガス・電力市場局(Ofgem)に提示される。また、資金の調達方法や収益調整など同モデルの詳細に関する見解も、複数の原子力開発事業者やエネルギー企業、英国の送電系統運営者、スコットランドとウェールズの関係閣僚といったステークホルダーから聴取する。これらは同モデルで事業者支援を行う最初のステップになるとしている。これとは別に、SZC建設プロジェクトを正式に進めるには、主要認可である「開発合意書(DCO)」を英国政府から取得しなければならない。NNB GenCo(SZC)社は2020年5月、計画審査庁(PI)に「DCO」の申請書を提出しており、BEISの担当相はPI勧告に基づいて7月8日までに可否の最終判断を下す予定。この締め切り日は当初、今年の5月22日に設定されていたが、関係情報を十分検討する時間が必要だとして、PIが5月12日に日程の延期を発表していた。英国では現在、EDFエナジー社が南西部サマセット州でヒンクリーポイントC(HPC)原子力発電所(172万kWのEPR×2基)を建設中だが、開発リスクに対する英国政府の保証として発電電力の売買に「差金決済取引(CfD)」を適用することが決まっている。しかし、CfDでは開発事業者が建設資金を全面的に賄わねばならない上、発電所の運転開始後に初めて資金の回収が可能になることからリスクが大きく、後続のカンブリア州のムーアサイド計画や、ウェールズにおけるウィルヴァ・ニューウィッド計画は撤回された。これに対して、RABモデルで建設資金を調達した場合、事業者は経済規制当局の認可に基づき、建設工事の初期段階から平均的な世帯の年間電気代に数ポンドを上乗せできるほか、本格的な工事期間中は月額平均で約1ポンド(約162円)が徴収可能。資金の調達コスト(借入利子)も軽減されるため、プロジェクトの確実性という点で民間部門の投資家に安心感を与え、最終的には消費者の電気代が削減される。英国政府は、大型炉建設プロジェクトの全期間中に節約される金額は、1件当たり300億ポンド(約4兆8,700億円)を超えると試算している。このような手続を通じて、原子力発電所の新設交渉はまた一歩、実現に近づいたとBEISは指摘。SZC建設プロジェクトは、新しい資金調達の枠組を原子力で活用する最初の事例となり、英国では2030年までに新たな原子炉の建設計画を最大で8基分承認するほか、2050年までに原子力発電設備を2,400万kWまで拡大、「英国の原子力ルネサンス」を実現に導くことができると強調している。(参照資料:BEIS、EDFエナジー社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月14日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
15 Jun 2022
2451
国際原子力機関(IAEA)は6月10日、ブラジルのアングラ原子力発電所(PWR×2基)で1985年から稼働している同国最古の1号機(PWR、64万kW)について、運転期間をこれまで設定されていた40年から60年に延長した場合の安全審査を完了したと発表した。IAEAは加盟国における原子力発電所の長期運転(LTO)を支援するため、LTOに係る組織や体制、設備・機器の経年変化(劣化)管理などの活動がIAEAの最新の安全基準を満足しているか評価し、事業者にさらなる改善に向けた推奨・提案事項を提供するためのプログラム「SALTO」(Safety Aspects of Long Term Operation)を2005年から実施している。IAEAのSALTO担当チームは今回、2018年にアングラ1号機で実施した「事前SALTO調査」の勧告事項が実行に移されているかについて、事業者の要請を受けて今月7日から10日までフォローアップ調査を行った。チーム・リーダーのM.マルチェナ原子力安全管理官は、「LTO期間中の1号機の安全確保に向けて、準備作業がタイムリーに進められている」と評価。同炉では特に経年変化管理が大幅に改善されたとしており、残りの事項についてもさらなる改善活動に取り組むよう促した。ブラジルでは、2020年12月に鉱山エネルギー省(MME)が「2050年までの国家エネルギー計画(PNE 2050)」を決定しており、その中で新たな原子力発電設備として1,000万kW分を建設することを想定。既存の商業炉については、諸外国における実績等から運転期間を20年延長した場合、コスト面等で競争力が高くなると指摘している。ブラジル唯一の原子力発電所であるアングラ発電所は、電力大手エレトロブラス社(旧電力公社)傘下のエレトロニュークリア社が運転しており、建設工事が2015年に中断した同3号機については、完成に向けて入札等の手続きを実施中。エレトロニュークリア社はまた、新規原子力発電所の立地点を選定するために、MMEが今年1月に電力研究機関と協力協定を締結したことを明らかにしている。アングラ1号機については、同社は2045年まで運転継続することを計画中。このため、IAEAのSALTOチームは今回の安全審査で良好だった点として「LTO実施に向けて規則に則った方針が策定され、関係組織の改革なども行われている」と指摘した。また、「期間を限定した経年変化現象の分析作業(TLAAs)」も完了し、機器素材の疲労計算や経年腐食か所の特定や再確認などが行われていた。同炉ではさらに、多数の機器について経年変化管理プログラムが策定されており、SALTOチームはこれらがすでに開始されている点などを評価した。一方、さらなる改善が必要な部分として、SALTOチームは厳しい条件下における電気機器の耐久性を確認するため包括的プログラムを本格的に実施すること、LTOに対応する長期的な人員配置計画の策定と実施を求めている。このような結果を取りまとめた暫定報告書は、調査の完了時点でSALTOチームがエレトロニュークリア社とブラジルの規制当局に提示済み。正式な最終報告書については、これらにブラジル政府を加えた3者に対して、SALTOチームが3か月以内に提出することになっている。エレトロニュークリア社側では、改善項目に意欲的に取り組むことと、同炉に2023年に再び本格的なSALTOチームを招聘することを決定している。(参照資料:IAEAの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月13日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
14 Jun 2022
1979
フィンランド雇用経済省のM.リンティラ経済問題担当大臣は6月7日、「欧州が原子力抜きでCO2排出量の実質ゼロ化やエネルギーの自給を達成することは難しい」と発言、原子力発電は欧州が化石燃料から段階的に撤退するための解決策を提供していると強調した。同相によると、ウクライナにおける昨今の戦況により、フィンランドはロシア産化石燃料の輸入から脱却する方策を見つけねばならない歴史的重要局面を迎えている。「地球温暖化の防止問題などとともに途方もなく難しい課題ではあるが、これらを解決に導きエネルギー供給の途絶から回復する力を増強するには、フィンランドは原子力も含めてすべての利用可能な手段と能力を活用する必要がある」と指摘している。これは同日から9日まで、首都ヘルシンキで開催されていたビジネス・イベント「北欧原子力フォーラム2022」の場で述べられたもの。フィンランドは5月15日、これまでの中立政策を破棄して北大西洋条約機構(NATO)への加盟申請を正式決定したが、これにともないロシアは、同月21日からフィンランドへの天然ガス供給を停止している。同フォーラムでは、北欧諸国における原子力部門の最新情報や実状を知るため、世界中から原子力関係当局や機関、企業、研究者らが出席した。冒頭演説でリンティラ大臣は、「原子力はクリーンエネルギー生産の要であり、フィンランドは2035年までにCO2排出量の実質ゼロ化を目指しているが、これは我が国が既存の原子力発電所を継続利用していく必要があることを示している」と説明。電気事業者のフォータム社が今年3月、保有するロビーサ原子力発電所の2基を2050年末まで約70年間運転するため、申請を行った事実に言及した。 同時にリンティラ大臣は、原子力発電所が建設の計画段階から起動に至るまでに長期間を要するという点も指摘。ティオリスーデン・ボイマ社(TVO)が2005年から建設しているオルキルオト3号機が、今年3月にようやく送電開始したことについて、同相は「待っただけの価値はある」と強調した。同相はまた、フィンランド国民の6割以上が原子力を支持していることから、「エネルギーのエンドユーザーとして、国民や社会にはエネルギー生産について発言する権利がある」と言明。「原子力開発には長期の投資が必要であり、同部門への財政支援を規制する際も、この点を考慮しなければならないと理解する必要がある」と指摘した。リンティラ大臣によると、欧州のエネルギー問題を将来的に解決する一方策として、近年は小型モジュール炉(SMR)に関する議論が幅広く行われている。この点に関しては、「未だ商業利用に至っていないものの、そのための準備として、いつもどおり安全面や経済面、規制面で総合調整を図ることがSMRの将来に繋がる」と述べた。同相はさらに、放射性廃棄物の管理問題も将来の原子力技術を決定づける主要要素だとし、「フィンランドでは放射性廃棄物の管理施設や廃止措置設備に、継続的かつタイムリーに予算措置を講じることが重要になる」と指摘。昨年末、放射性廃棄物の最終処分を担当するポシバ社が世界初の使用済燃料最終処分場の操業許可を雇用経済省に申請したことから、「放射線・原子力安全庁(STUK)とともに当省が審査を開始した。処分場計画をここまで進められたのは、数十年にわたる研究開発の賜物であるとともに、ポシバ社が長期的な作業を地道に実施してきたことによる」と説明した。使用済燃料の処分場については、フィンランドに続いて隣国スウェーデンの政府も今年1月、最終処分場の建設許可を発給。リンティラ大臣は「2020年代半ばまでには我が国の最終処分場が完成する予定。スウェーデンでも同様の判断を下したことを喜ばしく思う」と述べた。(参照資料:フィンランド政府の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月8日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
13 Jun 2022
1893
米国の原子力機器・燃料サービス企業であるBWXテクノロジーズ(BWXT)社は6月9日、国防総省(DOD)が軍事作戦用の可搬式マイクロ原子炉を設計・建設、実証するために進めている「プロジェクトPele」で、同社製の先進的高温ガス炉(HTGR)設計が最終的に選定されたと発表した。DODの戦略的能力室(SCO)から獲得した約3億ドルの契約に基づき、同社は2024年までに米国初の先進的マイクロ原子炉となる同社製HTGRの原型炉(電気出力0.1~0.5万kW)をフルスケールで製造し、アイダホ国立研究所(INL)内に設置。HALEU燃料(U-235の濃縮度が5~20%の低濃縮ウラン)の三重被覆層・燃料粒子「TRISO」を使用する同炉では、INLがその後、最大3年にわたって様々な実験プログラムを実施する。具体的には、同炉の操作性や分散型電源としての性能を確認するほか、システムの分解と再組立て実験を含む可搬化の実証も行うとしている。DODの作戦活動では、年間約300億kWhの電力と一日当たり1,000万ガロン(約37,850m3)以上の燃料が必要。今後、この量は一層増加する見通しであるため、SCOは小型で安全かつ輸送も可能な原子炉でクリーンエネルギーを確保し、遠隔地や厳しい環境下での作戦活動を長期的に維持・拡大する方針である。SCOはまた、マイクロ原子炉を民生部門における災害対応とその復旧活動に活用し、脱炭素化構想の推進に役立てる可能性を指摘している。INLで建設するHTGR原型炉は、市販の輸送用コンテナを使って、鉄道やトラック、船舶、航空機等で安全かつ速やかに運搬することを目指しており、長さ20フィート(約6m)の機器を内蔵した複数モジュールでの構成とする予定。設置場所で組立て始めて、72時間以内に稼働できるようシステム全体を設計する一方、撤収に際しては7日以内の停止、冷却、接続切断、分解、輸送機器への積載を可能にする計画である。「プロジェクトPele」の非営利性に鑑み、SCOはエネルギー省(DOE)の権限の下でマイクロ原子炉の運転や実験を実施する考え。独立の立場から安全・セキュリティ面の規制を担う原子力規制委員会(NRC)も同プロジェクトに参加し、適用される原子力規制や許認可プロセスについて、SCOに正確で最新の情報を提供する。BWXT社は今後約2年にわたり、バージニア州やオハイオ州にあるBWXTアドバンスド・テクノロジーズ社の施設で原型炉の製造に取り組む。約40名の熟練技能者やエンジニアを新たに雇い入れるなど、総勢120名余りを同プロジェクトに動員する計画である。このほか、同プロジェクトの主契約者BWXT社の業務を支援するため、様々な経験を積んだ企業チームが同社に協力。その主要メンバーには、軍需メーカーのノースロップ・グラマン社やエアロジェット・ロケットダイン社、英ロールス・ロイス社の北米技術部門であるリバティワークス、防衛・宇宙製造業のトーチ・テクノロジーズ社が含まれている。BWXTアドバンスド・テクノロジーズ社のJ.ミラー社長は、「環境を保全しつつ必要な動力を得るため、当社は新しい原子炉を設計・建設・試験するというミッションに取り組んでいる」と説明。増加する電力需要に応えながらCO2排出量の大幅削減に貢献するには、先進的原子炉設計が重要な対応策になることを原子力産業界全体が認識していると強調した。(参照資料:BWXT社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月9日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
10 Jun 2022
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カナダのテレストリアル・エナジー社の6月7日付け発表によると、同国の原子力安全委員会(CNSC)と米国の原子力規制委員会(NRC)が初の「共同技術審査」として実施した同社製小型モジュール式・一体型溶融塩炉(IMSR)の審査が、このほど完了した。この共同技術審査は、NRCとCNSCが小型モジュール炉(SMR)や先進的原子炉設計を一層効率的、効果的かつタイムリーに分析し、原子力安全・セキュリティを一層向上させるために締結した2019年8月の協力覚書(MOC)に基づいており、国境を跨いで両機関が実施する共同規制プログラムの一部である。同MOCは両機関による2017年8月の了解覚書(MOU)の協力項目を拡大させたもので、ここではSMR等の技術開発における経験や専門的知見、良好事例を両機関が共有し、原子力安全規制の実効性をさらに高めることが目標となっている。今回の初の共同技術審査で、両機関はテレストリアル・エナジー社が実施したIMSRの「設計に起因して想定される事象(PIE)」の分析結果やIMSRに使われている技法などを審査。テレストリアル・エナジー社によると、このような作業は将来、同社がカナダや米国でのIMSR建設に向けて許認可申請の準備を行う際、一層詳細な安全評価作業を実施するための基盤になる。CNSCのM.バインダー前委員長は初の共同技術審査が完了したことについて、「IMSRの商業化に向けた規制プログラムが大きく進展するとともに、原子力規制で国際的な調和が可能であることを明確に示した」と評価。「独立の立場を持つ2国家の規制機関が審査することで、対象技術の信頼性が高まるだけでなく、世界市場への投入に向けた推進力が生み出される」と強調した。NRCのJ.メリフィールド元委員は、「2つの規制機関の間で審査の調和を図り、規制の重複を避けるという意味で重要な節目が刻まれた」と指摘。「今回の審査で、北米大陸における次世代原子炉の開発は実際の建設に向けて大きく前進した」と述べた。テレストリアル・エナジー社のIMSR(熱出力40万kW、電気出力19万kW)は、電力のみならずクリーンな熱エネルギーも供給可能な第4世代の原子炉設計。他の先進的原子炉設計の多くがHALEU燃料(U-235の濃縮度が5~20%の低濃縮ウラン)を装荷するのに対し、IMSRはこれまで世界中の軽水炉に装荷されてきた(濃縮度5%以下の)標準タイプの低濃縮ウランを使用する。同社としては、まずIMSRの最初の商業用実証炉をカナダで建設し、その後に米国法人(TEUSA社)を通じて、北米を始めとする世界市場にIMSRを売り込む方針。CNSCは現在、カナダの規制要件に対するIMSRの適合性を「ベンダー設計審査」と呼ばれる非公式の予備的設計評価サービスで審査中である。IMSRはすでに同審査の第1段階をクリアし、2018年12月から第2段階の審査が行われている。NRCの設計認証(DC)審査に関しては、TEUSA社が将来的に申請することを計画中である。 (参照資料:テレストリアル・エナジー社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月8日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
09 Jun 2022
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フィンランドで世界初の使用済燃料・深地層処分場を建設しているポシバ社は6月2日、地上設備となる「封入プラント」の建屋がスケジュール通りに5月末に地元の建設工事会社から引き渡され、同建屋で使用済燃料封入システムの設置準備が整ったと発表した。ポシバ社は、フィンランド国内で原子力発電所をそれぞれ運転するティオリスーデン・ボイマ社(TVO)とフォータム社が共同で設立した企業で、同国における使用済燃料最終処分の実施主体である。ポシバ社は2000年、フィンランド南部サタクンタ県のユーラヨキ地方にあるオルキルオト原子力発電所の近郊を最終処分場の建設サイトに選定し、2012年12月には同処分場の建設許可を政府に申請した。同許可を2015年11月に取得した後は、2016年末に総工費約5億ユーロ(約711億円)で同処分場の建設工事を開始しており、2019年からは封入プラントの建設工事を進めていた。地下430m地点の設備となる処分坑道については、2021年3月にポシバ社が試験用の処分坑道を掘削するスケジュールを発表、同坑道では2023年に総合機能試験を実施することになった。また、2021年5月に同社は実際に使用する処分坑道の掘削を開始、同年12月には、最終処分場を2024年3月から2070年末まで操業するための許可を雇用経済省に提出している。ポシバ社の計画では、中間貯蔵施設に貯蔵されている使用済燃料を輸送キャスクで封入プラントに運び込み、厚さ1.3mのコンクリート壁で囲われた取扱セル内で、鋳鉄製と銅製の二重構造になっているキャニスターに封入する。その後アルゴン・ガスを充填し、蓋を溶接してキャニスターを密閉、リフトで地下の処分設備まで運ぶ工程である。封入プラントの建設工事には、地元サタクンタ県の企業が数多く参加しており、多国籍の建設企業であるスカンスカ(Skanska)社のサタクンタ支部および下請企業に加えて、同県の建設企業や空調設備企業がポシバ社との契約に基づいて建屋の建設や建屋設備の作業を実施。このほか、スウェーデンの大手コンサルティング企業であるスウェコ(Sweco)社が封入プラントの技術構成を、設計エンジニアリング・サービス企業のアフリー(AFRY)社と技術コンサルティング企業のエロマティック(Elomatic)社が電気機器や冷暖房設備の設計を担当している。ポシバ社の発表によると、封入プラントでは沢山の技術や機器が採用されている。延べ床面積は約1万1,500m2で、約1万7,500m3のコンクリート構造物を使用している。(参照資料:ポシバ社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月7日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
08 Jun 2022
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フランス電力(EDF)は6月2日、小型モジュール炉(SMR)の許認可手続きを国際的なレベルで調整し、各国のSMRの規制環境整備を加速するため、同国の原子力安全規制当局(ASN)がフィンランドおよびチェコの規制当局と共同で、EDFらが開発中のSMR設計「NUWARD」を審査すると発表した。この共同規制審査は、欧州における規制条件の調整に向けた初期段階のケーススタディになると位置付けている。「NUWARD」は、フランスでの50年以上の経験が蓄積されたPWR技術に基づき、EDFがフランス原子力・代替エネルギー庁(CEA)やテクニカトム社などと協力して開発している出力34万kWのSMR。EDFは2020年代後半にも競争力を備えたSMR設計として「NUWARD」を世界市場に送り出す方針で、現在は概念設計の段階にある。EDFはまた、同設計を通じて欧州連合(EU)が目指す「2050年までにCO2排出量を実質ゼロ化」にも大きく貢献できると考えている。ASNが主導する今回の共同規制審査には、フィンランドの放射線・原子力安全庁(STUK)とチェコの原子力安全庁(SUJB)が参加する予定。3か国それぞれの国内規制に基づき、国際的に最高レベルの安全性を備え、最新の知見や良好事例を十分反映することを目指し審査する。同審査の技術的な協議を通じて、3者はそれぞれの規制慣行に関する理解を互いに深め、「NUWARD」が国際的な許認可手続きで直面する課題の解決能力を持つとともに、市場が将来的に要求するニーズを取り入れて改良していく。EDFとしては、CO2を多量に排出している世界中の石炭や石油、天然ガスの高経年化した火力発電所を「NUWARD」でリプレースし、水素生産や地域熱供給、脱塩などへの利用を拡大したいとしている。EDFの今回の発表によると、SMRはCO2排出量の実質ゼロ化に役立つと認識されているため、数多くの国が高い関心を抱いている。ただし、これを実用化しエネルギー市場で競争力を備えたものにするには、適用技術の技術革新や量産化技術の開発、明確な規制の枠組み等が必要。欧州およびその他の地域で関係規制や要件を調整することは、設計を標準化し工場で大量生産するための重要な前提条件になる。また、各国個別の要件による設計の適合性の制約解消にも不可欠な要素である。EDFグループとしては、このような課題に対する産業界の様々な関係機関やステークホルダーの関心を高め、協力して取り組む方針。欧州その他の国際的なレベルでも関係プログラムに積極的に貢献していくとしており、具体例として、フォーラトム(欧州原子力産業協会)が欧州の100名以上の科学者や環境専門家のグループ「欧州持続可能な原子力技術プラットホーム(SNETP)」と協力して推進している「欧州SMRパートナーシップ」や、国際原子力機関(IAEA)が近年開始した「原子力設備の調和化と標準化構想(NHSI)」を挙げている。(参照資料:EDFの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月6日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
07 Jun 2022
2458
ウクライナの民生用原子力発電公社であるエネルゴアトム社と米ウェスチングハウス(WH)社は6月3日、ウクライナで稼働する15基のロシア型PWR(VVER)すべてにWH社製原子燃料を調達するとともに、同国で建設するWH社製AP1000も9基に増やすなど、これまでの協力を大幅に拡大する追加契約を締結した。ウクライナのロシア離れは、2014年にロシアがクリミア半島を一方的に併合して以降、進展している。南ウクライナ原子力発電所やザポリージャ原子力発電所ではすでに、2015年から2016年にかけてWH社製原子燃料の試験装荷が始まっていた。ウクライナはまた、建設工事が中断しているフメルニツキ原子力発電所3、4号機(K3/K4)(各100万kWのVVER)の完成に向けて、2010年にロシアと結んでいた協力協定を解除すると2015年に表明。2021年8月にエネルゴアトム社がWH社と締結した契約では、建設進捗率が28%のK4にAP1000を採用するとしたほか、その他の原子力発電所も含めてAP1000をさらに4基建設するとしていた。両社の今回の追加契約ではさらに、ウクライナ国内でのAP1000建設プロジェクトを支える「ウエスチングハウス・エンジニアリング・センター」を同国に新たに設置することになった。ウクライナで稼働する既存の15基の運転支援や、これらの炉で将来的に実施される廃止措置の支援も、同センターの役割に含まれるとしている。追加契約への調印は、最初のAP1000が2基建設される予定のフメルニツキ原子力発電所で、エネルゴアトム社のP.コティン総裁とWH社のP.フラグマン社長兼CEOが行った。これにはウクライナのエネルギー相と、WH社の燃料製造施設が立地するスウェーデンの在ウクライナ大使も同席。調印後は同発電所の視察が行われている。新しい契約によって、両社は既存の契約を再構築したと説明している。WH社の発表によると、稼働中原子炉の全面的な燃料調達先として同社が選定されたのは、ウクライナでエネルギーを確実に供給していく必要性を両社が共有していることや、両社がこれまでに築いてきた盤石な協力関係に基づいている。また、ウクライナ向けの原子燃料を製造するスウェーデンのバステラスでは、燃料集合体の機器製造に関するウクライナへの技術移転を今後も継続。エネルゴアトム社傘下のアトムエネルゴマシ社は近年、WH社製燃料集合体の上下ノズルについて、製造認定を受けたとしている。エネルゴアトム社のコティン総裁は今回の契約について、「現在のように困難な状況下においても、当社は戦略的パートナーであるウェスチングハウス社との協力分野や規模を広げており、ウクライナの原子力発電の歴史に新たな一ページが刻まれるだけでなく、欧州のエネルギー自給にも大きく貢献できると確信している」と述べた。WH社のフラグマンCEOは「業界をリードする当社の原子燃料やサービスで、ウクライナの稼働中原子炉を全面的にサポートできることや、新たに建設するAP1000の基数が5基から9基に増えたことを誇りに思う」と表明。「エネルゴアトム社との長年にわたる連携関係を今後も大切にし、ウクライナの脱炭素化に向けて協力していきたい」としている。(参照資料:WH社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、ほか)
06 Jun 2022
4448
チェコの国営電力(CEZ社)と傘下の国立原子力研究機関(UJV Rez)、およびCEZ社のテメリン原子力発電所が立地する南ボヘミア州の州政府は5月30日、同国初の小型モジュール炉(SMR)建設計画を加速する3者の共同プロジェクトとして、「南ボヘミア原子力パーク」を始動すると発表した。同プロジェクトにより、SMR関係の研究開発と建設準備を共同で進める方針で、3者はこの日、同パークの設立覚書に調印している。CEZ社は今年の3月末、計画しているSMR初号機の建設サイトとしてテメリン発電所敷地内の一区画を確保した。建設するSMR設計はまだ決定しておらず、CEZ社等のCEZグループはこれまでに、SMRを開発している米国のニュースケール・パワー社やGE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社、ホルテック・インターナショナル社のほか、英国のロールス・ロイス社、フランス電力(EDF)、韓国水力・原子力会社(KHNP)などと個別に協力覚書を締結している。今回このCEZ社の建設計画に、様々な研究インフラを保有するUJV Rezが加わったもので、UJV Rezが現在進めているモジュール式先進的ガス冷却高速炉「HeFASTo」や、溶融塩で冷却する小型のモジュール式高温原子炉「Energy Well」の概念研究は、先進的レベルと言われている。「南ボヘミア原子力パーク」プロジェクトでは具体的なタスクとして、SMR建設にともなう技術面や財政面の実行可能性評価のほか、官民および学術界との連携、許認可手続きの準備などが含まれる。CEZ社はプロジェクトの始動に際し、「当社は原子力分野では欧州におけるリーダーの一人であり、今後もその立場を維持する方針だ」と表明。原子力の持つ高い安全性と低い価格の重要性を強く認識しているからこそ、SMRの建設においても大きな役割を果たしていきたいと述べた。一方、大型炉開発に関しては、CEZ社は2015年5月の「国家エネルギー戦略」と、これをフォローする「原子力発電に関する国家アクション計画」に基づき、ドコバニ原子力発電所で最大120万kWの原子炉を2基増設することを計画。CEZグループのドコバニⅡ原子力発電会社(EDUⅡ)は2020年3月、プラント供給企業の選定や建設工事の実施に先立つ準備手続として、同計画の立地許可を申請した。原子力安全庁(SUJB)は2021年3月にこの許可を発給しており、EDUⅡ社は今年3月、最初の1基についてサプライヤーの競争入札を開始している。CEZ社によると、SMRの建設計画を加速しても、これらの大型炉開発が妨げられることはない。SMR建設は並行的に進める計画であり、SMRは既存の石炭火力発電所のリプレースに適した設備になる。南ボヘミア州のM.クバ知事は今回のプロジェクトについて、「もちろん州民の安全確保が最も重要だが、途方もなく大きなチャンスでもあり当州はSMR建設のリーダーになりたい」と表明。世界中から専門家が訪れ、国内企業が機器の開発・製造に携わる中心地とするほか、新しい原子力発電所の運転員訓練センターも誘致したいとの抱負を述べた。(参照資料:UJV Rez(チェコ語)、南ボヘミア州政府の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月1日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
03 Jun 2022
2524
韓国原子力研究院(KAERI)は5月26日、原子力研究開発分野におけるバングラデシュ原子力委員会(BAEC)との既存の技術協力を強化するため、25日に同国の首都ダッカにあるBAEC本部で了解覚書を締結したと発表した。今回の覚書への調印は、KAERIのW.S.パク院長とBAECのM.A.ハク委員長が行った。調印式にはこのほか、バングラデシュ駐在の韓国大使と双方の代表者が出席している。同覚書を通じて、KAERIはこれまでの協力分野の中でも特に共同研究や人材育成に力を入れるとともに、個別の技術課題や協力活動に関する協議を実施。双方のチームや個人が互いの施設を視察し関連情報を共有するほか、既存設備の性能評価を実施して新たな設備の建設も検討する。具体的な協力項目としては、研究炉の開発・利用と改修工事、放射性同位体の生産と利用、放射線技術や中性子科学の発展、放射性廃棄物の管理などを挙げている。BAECとのこれまでの協力で、KAERIはBAECが保有する出力0.3万kWのTRIGA研究炉(BTTR)に対し、デジタル式計装・制御(I&C)システムの設計・供給と設置、および試験と起動に関するコンサルティング業務契約を2021年7月に獲得した。このような成果に基づき、今回の覚書は両者の協力を一層高いレベルに引き上げる推進力にしたいと述べた。バングラデシュでは現在、ロシア国営の原子力総合企業ロスアトム社が傘下のアトムストロイエクスポルト(ASE)社を通じて、バングラデシュ初の原子力発電所となるルプール1、2号機(各PWR、120万kW)をダッカの北西約160kmの地点で建設中。1号機では昨年10月に原子炉容器の設置が完了しており、2号機用の原子炉容器と蒸気発生器もすでに建設サイトに搬入された。1、2号機はそれぞれ、2023年と2024年の運転開始を目指して作業が進められている。商業炉の運転に関しては、ロスアトム社がバングラデシュ側に全面的に協力している。建設中の2基では最新鋭の第3世代+(プラス)のロシア型PWR(VVER)「AES-2006」を採用しているため、ロスアトム社は傘下のロスアトム・サービス社の「技術アカデミー」を通じて、バングラデシュの専門家に2週間の訓練コースを提供。昨年11月に実施したオンラインの訓練コース「AES-2006の技術的側面:VVER技術に関する原子力カリキュラムの開発」では、バングラデシュの科学技術省(MoST)やBAEC、BAEC所有のバングラデシュ原子力公社(NPCBL)、原子力規制庁(BAERA)、大学等から50名以上の専門家や管理者らが参加した。(参照資料:KAERI、ロスアトム社の発表資料①、②、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの5月25日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
02 Jun 2022
2007
ハンガリーのパクシュⅡ開発会社は5月26日、120万kWのロシア型PWR(VVER)×2基で構成されるパクシュ原子力発電所Ⅱ期工事の建設に向けて、サイトの掘削前に必要となる「地下水遮断壁」の建設許可を国家原子力庁(HAEA)から取得したと発表した。既存のパクシュ原子力発電所(50万kWのVVER×4基)はハンガリー唯一の原子力発電設備であり、同国における総発電量の約50%を供給中だが、これらの原子炉はすでにVVERの公式運転期間である30年が満了した。同発電所を運転する国営MVMグループのMVM社が、4基の運転期間をそれぞれ20年延長する手続を取る一方、同じくMVMグループに所属するパクシュⅡ開発会社は、2020年6月にⅡ期工事の5、6号機について建設許可をHAEAに申請。HAEAは現在この申請書を審査中である。パクシュⅡ開発会社の今月19日付けの発表によると、議会の持続可能開発委員会は2023年後半にもパクシュⅡ期工事の着工を目指すと明言しており、この10年の間に2基とも運転開始させる方針である。原子力発電所のように複雑かつ多くの専門家が関係する施設については、ハンガリーでは関係の様々な許認可を複数の政府当局から取得する必要がある。エネルギー・公益企業規制庁(MEKH)はすでに、電力法の義務事項に照らし合わせて発電実施許可を発給。HAEAも2017年3月に、同建設プロジェクトのサイト許可を発給しており、パクシュⅡ開発会社はこれに基づいて、2019年6月から付属施設の建設といった準備作業を開始している。地下水遮断壁は、サイトの掘削にともない浸出する地下水を最小限に制御する役割を担っており、既存の4基の運転においても重要となる地下水位を維持。その建設許可が下りたことについて、外務貿易省のP.シーヤールト大臣は「Ⅱ期工事の着工に向けてプロジェクトは大きく前進した」と指摘。「今後数年間はエネルギーの供給危機に陥る可能性もあるが、自らが必要とするエネルギーを自ら生産できる国は万全だ。だからこそ、パクシュⅡ期工事の建設はハンガリーにとって最も重要なのだ」と強調した。パクシュⅡ期工事の建設については、ハンガリー政府が2014年1月、総工費の約8割に相当する最大100億ユーロ(約1兆3,800億円)をロシアからの低金利融資で賄うと発表。ロシア国営の原子力総合企業であるロスアトム社の傘下企業とパクシュⅡ開発会社は同年12月、同プロジェクトのEPC(設計・調達・建設)契約を含む主要な3契約に調印した。ロスアトム社側の今回の発表によると、地下水遮断壁の建設準備として、すでに地盤の改良や隔壁の建設が進められている。ハンガリー政府内では、J.シューリ無任所大臣が2017年5月から同プロジェクトの設計から建設、設置まで担当していた。しかし政府は今月19日、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻や、これにともなうロシアへの制裁措置問題などを念頭に、同プロジェクトの実施を大幅に加速すると発表、関係責任をすべて外務貿易省に移管した。シューリ無任所大臣も、今後は同省所属の大臣として引き続きパクシュⅡ期工事関係の業務を担当する。シーヤールト外務貿易相は「これら2基のプラントはハンガリーの国家安全保障と経済および戦略的国益に資する」と表明。原子力こそ、最も確実かつ安定的に最安のエネルギーを供給できると強調している。(参照資料:パクシュⅡ開発会社の発表資料①、②、ロスアトム社の発表資料①、②、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの5月27日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
01 Jun 2022
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地中海沿岸でトルコ初の原子力発電所建設を進めているアックユ原子力発電会社(ANPP)は5月27日、アックユ原子力発電所(120万kWのロシア型PWR=VVER×4基)4号機の建設工事で、タービン建屋の基礎プレート部分にコンクリートを打設する作業を開始したと発表した。これは昨年10月、トルコの原子力規制庁(NDK)が4号機の建設許可を発給したのにともなうもの。この許可により、同社は4号機の安全関係設備を含むすべての建設工事と機器の設置作業が可能になり、サイトでは現在、全4基の建設工事が同時並行で進められている。また、発電所の運営に必要な事務棟や補助建屋についても、建設中となっている。ANPP社は、トルコから同原子力発電所の建設プロジェクトを請け負った、ロシア国営の原子力総合企業ロスアトム社のトルコ子会社。2018年4月に1号機の建設工事を本格的に開始したのを皮切りに、2020年4月に2号機、2021年3月には3号機の原子炉建屋の基盤部に最初のコンクリートを打設している。1号機では今年4月、排水システムの設置作業が行われており、建設工事は起動に向けた重要な準備段階に入っている。エネルギー源の多くを化石燃料に依存するトルコは、建国100周年を迎える2023年に1号機の運転を開始したいと考えており、2025年までに4基すべてが完成した後は同発電所で国内電力需要の約10%を賄う方針である。ANPP社は2020年5月に4号機の建設許可をトルコの原子力規制庁(NDK)に申請した後、2021年6月末に部分的建設許可(LWP)を取得。全面的な建設許可が下りる前までは、LWPの枠内で原子炉建屋やタービン建屋、補助建屋、およびその他の主要施設の基礎部分で掘削工事を行っていた。今回の発表によると、タービン建屋では基礎プレートに十分な強度を持たせるため、1万7,500 m3のコンクリートを投入するほか、3,500トンのスチール補強材を使用する計画。基礎コンクリートだけで、厚さは7mに達するとしている。コンクリートが設計強度に達した後は、NDKの代表や独立の立場の点検専門員を交えた特別委員会が、コンクリートの品質チェックを行うとしている。ANPP社のA.ゾテエバCEOは、「稼働にともなう負荷を均一に支えなければならない建屋の基盤建設では作業を複数段階に分けて実施しており、段階毎に厳しい要件を満たす必要がある」と説明。同発電所の建設工事では様々な技術的解決策を随所で適用しており、今回の基礎プレート作業に関しても、IAEAやトルコの安全基準のみならず、世界中の原子力コミュニティの近代的な要件に合わせて作業を進めていると強調した。アックユ原子力発電所建設計画では、原子力分野で初めて「建設・所有・運転(BOO)」によるプロジェクト運営方式を採用しており、約200億ドルといわれる総工費はロシア側がすべて負担。発電所の完成後、トルコ電力卸売会社(TETAS)が発電電力を15年間にわたり購入して返済することになる。(参照資料:ANPP社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの5月30日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
31 May 2022
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米国のウェスチングハウス(WH)社は5月24日、同社製の第3世代+(プラス)設計「AP1000」を世界中で建設する機会を共同で獲得していくため、韓国の現代建設(HDEC)と戦略的協力協定を締結したと発表した。協定への調印は、韓国のソウルにあるHDEC本社で行われた。この協定に基づき、HDECは保有するEPC(設計・調達・建設)契約企業としての能力を、WH社が進めるAP1000建設プロジェクトで実践するとともに、グリーンエネルギー部門における同社のプレゼンスを高めていく。一方のWH社側は、確証済みの技術を用いたAP1000の安全性と操作性の高さを強調した上で、建設国におけるエネルギー供給保証と脱炭素化をHDEC社と共同で支援していく考えを表明している。韓国では今月10日にユン・ソンニョル(尹錫悦)政権が誕生しており、同大統領がこれから実施するという「国政ビジョン」の中に脱原子力政策の破棄が明記された模様。同月20日に米国のJ.バイデン大統領が訪韓した際も、ユン大統領はバイデン大統領との共同声明でCO2を出さずに信頼性の高い電力を生みだす原子力の重要性を認めており、原子力はクリーンエネルギー経済の確立とエネルギーの供給保証を世界規模で加速する観点から重要な構成要素だと指摘した。共同声明によると、米韓両国は今後原子力分野の協力を一層強化し、世界中で先進的原子炉や小型モジュール炉(SMR)の開発・建設を加速する。これに向けた具体策として、今よりも盤石なサプライチェーンを構築するとともに、それぞれの機器製造能力の増強や輸出促進に資するツールを共同で活用すると説明。双方が賢い投資を行いつつ戦略的連携関係を深めていけるよう、「原子力技術の移転と輸出協力に関する米韓の了解覚書」に基づき、米韓およびその他の原子力市場における協力基盤を確実に築くとした。また、両国間のハイレベル委員会を通じて、使用済燃料管理に関する協力や原子力輸出の促進と原子燃料の確保等に関する協力を進めていくと表明。米国側はこのほか、国務省(DOS)が2021年4月に開始した「SMR技術の責任ある利用のための基盤(FIRST)」プログラムに、韓国側が今回参加を決めたことを歓迎するとしている。WH社の発表によると、AP1000は原子力産業界でも随一の操作性を備えており、燃料交換期間の短さや時間稼働率の高さでは多くの記録を達成。これに加えて、受動的安全対策を全面的に採用するなど、世界で最も安全な原子炉設計の一つだとしている。世界初のAP1000は、中国浙江省の三門原子力発電所と山東省の海陽原子力発電所で2009年から2010年にかけて2基ずつ着工されたAP1000が、2018年から2019年にかけて相次いで営業運転を開始した。また、米ジョージア州のボーグル原子力発電所では、同設計を米国で初めて採用した3、4号機が2013年から建設中である。中国の国務院はさらに今年4月の常務委員会で、三門と海陽の両原子力発電所で大型炉を新たに2基ずつ建設する計画を承認。WH社はその際、「当社製AP1000の建設が中国で新たに4基決まったことを歓迎する」とコメントしている。(参照資料:WH社、米大統領府の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの5月25日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
30 May 2022
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