米国のウルトラ・セーフ・ニュークリア社(USNC)は8月19日、同社製小型モジュール炉(SMR)に使用する3重被覆層・燃料粒子「TRISO」と「完全なセラミック・マイクロカプセル化(FCM)燃料」のパイロット製造(PFM)施設を、テネシー州のオークリッジでオープンしたと発表した。USNC社は現在、熱出力1.5万kW、電気出力0.5万kWという第4世代の小型高温ガス炉「マイクロ・モジュラー・リアクター(MMR)」を開発している。PFM施設が立地する「東部テネシー州テクノロジカル・パーク(ETTP)」の専門的な労働力を活用し、初のMMR用燃料を数キロ単位で製造する。この燃料が複数基のMMRを備えた「エネルギー・システム」で使用可能であるか、試験と性能認定を実施する計画で、成功裏に進めばこのエネルギー・システムを米国のみならず世界中の市場に投入していく。MMRについては、カナダのオンタリオ・パワー・ジェネレーション(OPG)社とUSNC社の合弁事業体であるグローバル・ファースト・パワー(GFP)社がすでに2019年3月、カナダ原子力研究所(CNL)チョークリバー・サイトにおける初号機建設を念頭に、同国の原子力安全委員会(CNSC)に「サイト準備許可(LTPS)」を申請した。CNSCは同年7月から、カナダにおけるSMR開発手続きとしては初めて、この申請を審査中である。米国ではイリノイ大学が2021年7月、学内で将来的にMMRを建設するため、原子力規制委員会(NRC)に「意向表明書(LOI)」を提出している。燃料粒子「TRISO」は1960年代に米国と英国で開発されたもので、ウラン酸化物の核に黒鉛やセラミックスを3重に被覆、2000年代からはエネルギー省(DOE)と傘下の国立研究所が改良を重ねてきた。USNC社が特許を持つFCM燃料は次世代版の「TRISO」で、「TRISO」で使われる黒鉛マトリックスの代わりに炭化ケイ素(SiC)マトリックスを使用。USNC社の説明によると、これにより高い放射線や高温に対するFCM燃料の耐性は飛躍的に向上している。今回オープンしたPFM施設で、USNC社は「TRISO」燃料粒子の製造に使用するモジュールでFCM燃料も製造する。このプロセスを通じて、同社は将来的にこの製造モジュールでMMR用燃料を商業的に製造できることを実証する方針だ。同社はまた、PFM施設の燃料製造プロセスがDOEの研究開発に基づいて開発されたこと、同施設が民間資金だけで12か月かからずに設計・建設できた事実に言及。今回の施設によって、米国で初めて民間部門のTRISO燃料粒子とFCM燃料が製造されると指摘した。実際の燃料製造に先立つPFM施設のオープン記念式には、USNC社のF.ベネリCEOやテネシー州のR.マクナリー副知事、同州選出の議員複数名のほか、DOEのK.ハフ原子力担当次官補代行と原子力局のA.カポニティ(先進的原子炉担当)次官補代理、傘下のオークリッジ国立研究所(ORNL)のK.マッカーシー副所長、原子力エネルギー協会(NEI)のM.コースニック理事長らが出席した。USNC社のベネリCEOは、「PFM施設の完成により当社の燃料製造はまた一歩、商業化に近づいた」と発言。同社のK.テラニ上級副社長は、「オークリッジを建設地に選んだことで、建設スケジュールや予算等の点で特段の配慮や支援を得ることができた」と表明している。(参照資料:USNC社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの8月22日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
23 Aug 2022
2831
米テキサス州にあるアビリーン・クリスチャン大学(ACU)の「原子力実験用試験研究所(NEXT Lab)」は8月15日、キャンパス内で溶融塩炉の研究炉「MSRR」(熱出力0.1万kW)を設計・建設するため、原子力規制委員会(NRC)に建設許可を申請した。エネルギーや医療用放射性同位体(RI)など、世界中で必要とされるソリューションの提供に向けて、MSRRは、同大および同大が率いる「大学研究協力連合(NEXTRA)」で原子力核科学や工学、化学を学ぶ学生に実践的な研究の機会をもたらす。溶融塩炉技術の発展を目的の一つとする有限責任会社「ナチュラ・リソーシズ社(Natura Resources, LLC)」が、NEXTRAにおける研究協力協定のスポンサーとして3,050万ドルを出資する予定で、NRCが年内にNEXT Labの申請書を正式受理した場合、NEXTRAは2025年までにACU内でMSRRを完成させる方針である。ACUはMSRRの建設申請について、「大学で先進的原子炉を建設するのは初の事例となるだけでなく、新規研究炉の建設申請としても約30年ぶりのこと」と指摘している。ACUは現在、キャンパス内で2023年7月の完成を目指して「科学エンジニアリング研究センター」を建設中。NEXTRAにはACUのほかに、ジョージア工科大学とテキサスA&M大学、およびテキサス大学のオースチン校が参加しており、これら4校が協力してMSRRを新しい「研究センター」内の遮蔽された一区画に建設する。ナチュラ・リソーシズ社が出資する3,050万ドルのうち、今後3年間に2,150万ドルがACUに提供されることになっており、ACUはこれにともない、先月、原子力機器やシステムの設計・製造を手掛けるテレダイン・ブラウン・エンジニアリング社と初期段階の設計作業に関する契約を締結した。ACUの発表によると、同校の物理工学部はロスアラモスやフェルミ、ブルックヘブン等の国立研究所と40年近い共同研究を実施している。NEXT LabのR.タウウェル所長によると、同研究所は2年前からMSRR建設についてNRCと事前の協議を始めており、今回建設許可を正式申請したことで同炉の許認可手続きは道のりの半ばまで来た。すでに建設中の「研究センター」の完成が来年夏に控えていることから、同所長はMSRRの建設許可と運転認可の取得という最終関門についても、ナチュラ・リソーシズ社やNEXTRAの支援を通じてクリアできるとの見通しを示している。NRC側では今後、NEXT Labの申請書に不備がないか徹底的に点検した後、問題が無ければ正式に受理。MSRRの建設に向けた審査スケジュールを策定した上で、技術審査を開始することになる。(参照資料:ACUの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの8月19日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
22 Aug 2022
2492
カナダのテレストリアル・エナジー社は8月11日、同社製小型モジュール式・一体型溶融塩炉(IMSR)の建設と商業化を、アルバータ州をはじめとするカナダの西部地域で進めるため、同州の州営非営利企業「インベスト・アルバータ(Invest Alberta)社」と了解覚書を締結したと発表した。テレストリアル社の説明によると、第4世代の原子炉設計であるIMSRは熱出力40万kW、電気出力19万kW。また、同炉を組み込んだ発電所では、CO2を排出せずにコストの競争力もある高温熱を生み出せるため、天然資源の抽出や低炭素な水素やアンモニアの製造、その他のエネルギー多消費産業に適している。 こうしたことから、同社はIMSRであればアルバータ州内の石油や天然ガス、および石油化学製品部門など様々な産業の熱電併給ニーズに応えられると指摘。州内で小型モジュール炉(SMR)開発を推し進めている州政府とインベスト・アルバータ社、および産業界や学術機関などと連携し、カナダの西部全域で質の高い雇用の創出等に貢献する考えだ。カナダでは、2019年12月に東部のオンタリオ州とニューブランズウィック州、および中部のサスカチュワン州の3州が、地球温暖化とエネルギー需要への取り組みや、経済成長と技術革新を支援するクリーンエネルギー・オプションとしてSMR開発を進めることで合意。アルバータ州はこれら3州の協力覚書に2021年4月に参加。今年3月には4州がカナダ国内で多目的SMRの開発・建設を促進する共同戦略計画を策定した。インベスト・アルバータ社は価値の高い投資の誘致を目的とした企業で、今回の覚書ではテレストリアル社との協力により、連邦政府や州政府の政策、産業界からの要望に沿って、IMSRのように革新的なエネルギー技術の開発を州内で促進する。同州のS.サベッジ・エネルギー相はSMRについて、「当州のオイルサンド層開発プロジェクトから排出されるCO2の量を削減し、遠隔地域の産業利用にCO2を排出しないエネルギーを供給できる可能性が高い」と指摘。テレストリアル社のような民間企業が、同州内でSMR技術の開発を進める覚書に合意したことを歓迎した。テレストリアル社の計画ではIMSRの最初の商業用実証炉をカナダで建設し、その後、同社の米国法人(TEUSA社)を通じて北米をはじめとする世界市場でIMSRを幅広く売り込む方針。カナダ原子力安全委員会(CNSC)は2016年4月から、同国の規制要件に対するIMSRの適合性を「許認可申請前設計審査(ベンダー設計審査:VDR)」で審査しており、2018年12月から同審査は第2段階に移行している。(参照資料:テレストリアル・エナジー社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの8月12日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
19 Aug 2022
2303
韓国の産業通商資源部(MOTIE)は8月11日、慶尚南道(県)の昌原市で地元企業を含む原子力産業界との懇談会を開催し、この席で韓国水力・原子力会社(KHNP)と斗山エナビリティ社(前「斗山重工業(株)」)、および複数の原子力資機材関係企業の3者が、原子力産業の活性化を目指して協力協定を締結したと発表した。3者がともに成長することで同業界の競争力を向上させ、共通目標であるCO2排出量の実質ゼロ化やエネルギー供給危機への対応、電力需給の安定化などを推し進めていくのが目的。これらに基づき、韓国原子力産業界は新たな建設プロジェクトの獲得や共同技術開発、人材交流、輸出の拡大等で緊密に協力していく。この懇談会は10日に開催されたもので、MOTIEのイ・チャンヤン長官は原子力関係の5分野で進めている政策プログラムの現状や今後の方向性として、①新たな建設プロジェクト、②資金調達、③研究開発、④「エネルギー産業複合特区」の設置、⑤原子力輸出を説明。特に新規プロジェクトの確保と資金調達問題の解決に向けて、政府が産業界を重点的に支援する用意があるとした。このため、MOTIEは年末までに新規プロジェクトで1,306億ウォン(約134億円)規模の緊急発注を見込んでいる。このうち862億ウォン(約88億円)についてはすでに発注済みで、残りについても10月までに確認するとしている。MOTIEはまた、7月に1,000億ウォン(約102億円)規模の政策資金ファンドと特別保証制度を新設して原子力関係企業への支援を開始。現在、約60社が提出した申請書を審査中である。MOTIEの発表によると、ユン・ソンニョル(尹錫悦)政権は前政権が白紙撤回した新ハヌル原子力発電所3、4号機(各PWR、140万kW)の建設計画を再開するため、先月から両炉の環境影響評価を開始している。2024年の着工を目指して手続きを進めており、機器製造では年内の発注を目指し、早期に主要機器の製造契約を促す考えである。政府はまた、MOTIEと科学技術情報通信部、KHNP社を中心に、年内にも6,700億ウォン(約686億円)規模の原子力関係の研究開発基金を立ち上げる。このほか、中小企業のみを対象とした215億ウォン(約22億円)の研究開発基金でも、今月から申請を受け付けている。MOTIEはまた、斗山エナビリティ社を始め昌原市には多くの原子力関係企業が集中していることから、同市が原子力産業地域として成長できるよう「エネルギー産業複合特区」に指定し、研究開発支援や税金控除、地方投資補助などの支援提供を検討中。同市を擁する慶尚南道(県)側も現在、指定の申請準備を進めており、MOTIEは申請書が提出され次第、迅速に指定審査を実施する。また、この指定にともない、公益電気事業者や原子力関係企業が新たな受注機会を得られるよう、MOTIEは約1兆ウォン(約1,025億円)の資機材発注の提供を計画している。このほか、MOTIEは原子力発電所や関係資機材の輸出を最大限に促進する官民協力のための管制塔として、「原子力発電所輸出戦略推進委員会」の活動を来週から本格的に開始する。これには、関係する政府機関と韓国電力および同社の子会社であるKHNP社、金融機関、民間企業がすべて参加するとしている。(参照資料:産業通商資源部(MOTIE)の発表資料①(英語)、②(韓国語)、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの8月11日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
18 Aug 2022
1958
米国のJ.バイデン大統領は8月16日、原子力に対する税制優遇措置等を含めた気候変動対策や、高齢者の医療費負担軽減などを盛り込んだ「インフレ抑制法案(H.R.5376)(IRA of 2022)」に署名、これにより同法案は正式に成立した。インフレ抑制法案の審議では議会上院が7日付けで可決したのに続き、下院も12日に220対207の賛成多数で可決していた。総額で約4,370億ドルの歳出をともなうインフレ抑制法では、約3,690億ドルが「エネルギーの供給保証と気候変動対策への投資」に充てられており、CO2を排出しない原子力については、2024年以降に発電/販売される電力量に新たな税制優遇措置を適用。多数の先進的原子炉設計で利用が見込まれているHALEU燃料((U235の濃縮度が5~20%の低濃縮ウラン))については、その入手が一層簡便になるよう努力するとともに、エネルギー省(DOE)傘下の国立研究所におけるインフラ整備に一層の予算措置を講じることになった。NEIのコースニック理事長 ©NEI米原子力エネルギー協会(NEI)のM.コースニック理事長は、大統領の署名に先立つ12日に声明文を発表。そのなかで、「米国でクリーンエネルギー経済への移行を促進する重要法案であり、この移行にともなう原子力の重要性を示す明確なメッセージになった」と指摘した。同理事長によると、インフレ抑制法では既存の大型炉や今後建設される先進的原子炉、およびHALEU燃料や水素製造に対する投資と税額控除が明記されており、原子力発電は安定した電力供給の基盤を形成する電源として、その他のクリーンエネルギーと平等の扱いを受けることになる。同理事長の認識では、クリーンエネルギーへの需要が高まるなか、電気事業者やその他の関係企業が脱炭素化の目標達成に新たな原子炉が有効である点に注目。クリーンエネルギーへの投資条項を含んだインフレ抑制法が成立したことで、投資家は既存の原子炉のみならず、新たに建設される原子炉に対しても投資がし易くなる。各国で同様の傾向にあり、気候変動関係の目標達成のみならず、確実なエネルギー供給に向けて新たな原子炉の建設が検討されている。同理事長としては、今後も議会の政策立案者と協力して働く考えであり、原子力が「公正で安価なエネルギーへの移行」を進める原動力であり続けられるよう保証していきたいとしている。また、DOEのJ.グランホルム長官も12日付けで声明を公表しており、同法によって米国は2030年までにCO2排出量を半減させる規模とペースで、クリーンエネルギー源を建設できると指摘。「バイデン大統領は超党派のインフラ投資法や、半導体の国内生産を支援するCHIPS法を可決・成立させたのに続き、今回のインフレ抑制法で米国がクリーンエネルギーの世界市場をリードしていけるよう導いた」と述べた。当然のことながら、これを実現するには同法の条項を効果的に実行する必要があり、グランホルム長官は「米国民がクリーンエネルギー経済への移行を成し遂げて国家のエネルギー供給を強化し、さらなるアクションに向けた推進力を構築できることを確信している」と強調した。(参照資料:米国議会、DOE、NEIの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの8月15日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
17 Aug 2022
4432
米ミシガン州に本社を置く素材関連企業のダウ(Dow)社は8月9日、メキシコ湾沿いの同社施設の一つでX-エナジー社製の小型高温ガス炉(HTGR)「Xe-100」を建設するため、基本合意書を交わしたと発表した。ダウ社はプラスチックや人工化合物のシリコーン、産業用中間代謝産物といった素材製品分野で世界31か国の104地点に製造工場を持ち、2050年までに同社が排出するCO2の実質ゼロ化を目指している。そのため、同社の施設で2030年頃までに「Xe-100」を完成させ、同炉が生み出す無炭素で安価な電力と熱を自社の系列施設に供給する計画。この建設協力の一環としてダウ社は同日、X-エナジー社の少数株主となる方針も明らかにしている。両社の発表によると、第4世代の原子炉設計となる「Xe-100」は過去数十年にわたる研究開発と原子力発電所の運転経験に基づいて開発され、1モジュールあたりの電気出力は8万kW。これを4モジュール備えた発電設備では、クリーンで安全性の高いベースロード用電力を32万kW分供給できる。また、1モジュールあたりの熱出力は20万kWで、高温高圧の蒸気を産業用に提供することが可能である。米エネルギー省(DOE)は先進的な小型モジュール炉(SMR)設計を、「クリーンで安全、かつ安価な原子力オプションを開発する」上で非常に重要と認識しており、2020年10月には、原子力産業界が実施する先進的原子炉設計の実証を支援するため、X-エナジー社を「先進的原子炉設計の実証プログラム(ARDP)」における初回支援金交付対象の1つに選定した。その後の今年4月、ワシントン州の2つの公益電気事業者が、州内での「Xe-100」初号機建設に向けて同社と了解覚書を締結した。また、6月にはメリーランド州のエネルギー管理局が、州内の石炭火力発電設備のリプレースとして、同設計の経済的実行可能性や社会的便益の評価等を開始している。ダウ社のJ.フィッタリング会長兼CEOは、SMRについて「当社がCO2排出量を実質ゼロ化する際の重要ツールであり、低炭素な方法で顧客に製品を提供できるという能力を示すもの」と評価。X-エナジー社の「Xe-100」は、その中でも最も進んだ次世代技術と指摘した上で、「これを建設することは、当社がCO2を排出しない製造方法で業界をリードする重要な機会になる」と強調している。(参照資料:ダウ社、X-エナジー社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの8月10日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
16 Aug 2022
3267
フィンランドのティオリスーデン・ボイマ社(TVO)は8月8日、オルキルオト原子力発電所で今年3月から試運転段階に入っている3号機(OL3)(欧州加圧水型炉=EPR、172万kW)でタービン系統の修理作業が完了、出力60%レベルで試運転を再開すると発表した。OL3の建設工事を担当する仏アレバ社と独シーメンス社の企業連合は、OL3のタービンで今年5月に蒸気再加熱器の蒸気誘導プレートから異物の剥離が認められたとし、翌6月にTVOに対し同炉で点検・修理を実施すると連絡。この作業が7月末までと見通されたことから、営業運転の開始は今年の9月から同12月に延期されている。TVOの今回の発表によると、OL3は実質的に約85万kWの発電が可能で、これは同発電所で稼働中の1、2号機(各BWR、92万kW)とほぼ同程度。この出力レベルであれば、OL3は試運転期間中にでもフィンランドの総電力需要の約10%をカバーできる。ただし、TVOは系統単独運転試験などを実施する際は、OL3を送電網から解列する方針である。 同企業連合が提示した試験スケジュールでは、今月中旬以降にOL3で出力80%レベルの試運転を開始し、定格出力での最初の試験は9月に行う。TVOの想定では、12月以降の営業運転開始後OL3は国内総電力需要の約14%を賄う見通しで、これにより、フィンランドは電力輸入量をこれまでの半分以下に削減することができるという。世界初のEPRを採用したOL3の建設プロジェクトは2005年8月にスタートし、当初の運転開始は2009年に予定されていた。しかし、技術的な課題を含む様々なトラブルが発生したため、スケジュールは大幅に遅延、建設コストもターンキー契約による固定価格の約30億ユーロ(約4,100億円)が倍以上に拡大した。OL3は2021年12月に初めて臨界条件を達成した後、今年3月に欧州初のEPRとして送電を開始している。(参照資料:TVOの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの8月9日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
10 Aug 2022
2244
ドイツの公共放送ARDの委託で調査機関のドイチュラントトレンド(DeutschlandTrend)が実施した世論調査によると、ドイツ国民の大多数が「年末以降も国内に残る原子炉3基の運転継続を明確に支持」していることが明らかになった。ドイツでは2011年3月の福島第一原子力発電所事故を受けて、当時の連立政権が商業炉17基のうち8基を同年8月に直ちに閉鎖したほか、他の9基も2022年末までにすべて閉鎖することで合意。このうち6基はすでに閉鎖され現在残っているのは、イザール原子力発電所2号機(PWR、148.5万kW)とエムスラント原子力発電所(PWR、140.6万kW)、およびネッカー原子力発電所2号機(PWR、140万kW)の3基のみである。今年2月にはロシアによるウクライナへの軍事侵攻が始まり、ドイツでは「ノルドストリーム1」を経由するロシアからの天然ガス供給が一時停止。再開後も、供給量は同パイプラインの輸送能力をはるかに下回っている。エネルギー価格が上昇するのにともない、ドイツ国内ではこれら3基の原子炉の処遇に関する議論が白熱していることから、ドイチュラントトレンドでは今月1日から3日にかけて、電話とインターネットを使って1,313人にインタビュー。原子力のほかに連邦政府に対する意識についても調査を行った。4日に明らかにされた調査結果によると、「脱原子力政策どおりにこれら3基を年末までに永久閉鎖すべきだ」と回答したのは15%に過ぎず、41%は最近のエネルギー情勢から「3基の運転期間を数か月間延長すること」を支持。同じく41%が「3基を長期的に活用することは有益だ」と回答しており、これらを合計した82%が3基の運転継続に賛成する結果になった。同機関はまた、原子力に根本的に反対している「緑の党」の支持者に対しても同様の質問を提示。その結果、「年末までに閉鎖すべき」と回答した人が31%に留まる一方、その倍の61%が「運転期間の延長」を支持していた。ただし、「長期的に活用すべきだ」と答えた人の割合は7%に留まっている。同調査によると、ドイツ国民は近年の状況を考慮し、その他のエネルギー対策も受け入れており、回答者全体の81%が「もっと迅速に風力発電が拡大されるよう、政策を推し進めるのは正しい」と表明。61%は「石炭火力の利用拡大に賛成」したほか、同じく61%が「自動車の運転速度を一時的に制限すべき」と回答した。その一方で、環境汚染の可能性が指摘される水圧破砕法によるシェールガスの採掘には批判的な意見が多く、回答者の56%が水圧破砕法に反対。賛成は27%に留まった。このほか、連邦政府がロシアからのエネルギー輸入を抜本的に断ち切る方向に向かっていることについて、大多数の71%が「正しい目標だ」と答えた。「間違っている」とした人は24%だったが、この点について同機関は州ごとに異なる傾向が出ていると分析。「正しい」との回答者は、西部に位置する州では76%だったが、東部の州では54%だったとしている。なお、主要メディアの報道によると、ドイツのO.ショルツ首相が今月3日、ミュールハイムにあるシーメンス社の工場を視察。記者会見では「エネルギー供給保証の観点から、国内に残る3基の原子炉は発電に適している」と表明し、「これらの運転を継続することは理に適っているかもしれない」と述べたと伝えられている。ただし、現時点で連邦政府は電力供給保証に関するストレステストを実施中であるため、完了までこの件について政府が判断を下すことはないと見られている。(参照資料:ドイチュラントトレンドの発表資料(ドイツ語)、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの8月8日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
09 Aug 2022
2891
米ホルテック・インターナショナル社のインド現地法人は8月3日、インドで稼働するロシア製原子炉向け「燃料ラック」を、インド原子力発電公社(NPCIL)から受注した。クダンクラム原子力発電所で発生する使用済燃料や破損燃料を、サイト外で貯蔵する際に使用される。NPCILはインドで稼働する民生用原子力発電所をすべて保有・運転しており、インド南端タミルナドゥ州の東海岸にあるクダンクラム発電所では、同国で唯一の大型軽水炉である1、2号機(各100万kWのロシア型PWR=VVER-1000)をそれぞれ2014年と2017年から運転中。ロシア国営の原子力総合企業ロスアトム社は、引き続き現地で3~6号機(各VVWE-1000)も建設中だが、エネルギー関係の総合ソリューション企業であるホルテック社が今回受注した燃料ラックは1、2号機用として使われる。ホルテック社のインド子会社はすでに今年2月、クダンクラム1、2号機の使用済燃料を発電所外貯蔵施設まで輸送するための同社製キャスク「HI-STAR 149」を2台、NPCILから受注した。このキャスクでは、同社がウクライナの原子力発電所に納入した3台のキャスク「HI-STAR 190」と同様、VVER燃料の輸送と貯蔵に必要な機器の設計や安全解析が施されており、優れた放射線遮へい性能や放熱性能、臨界制御性能などを有している。今回の燃料ラックでは、同社が開発した中性子吸収材「メタミック(Metamic)」を使用する。ホルテック社の説明によると、同材および同じく独占使用権があるハニカム構造技術を採用することで、地震時にラックの動的レスポンスを最小化。想定されるすべての事故事象の下で、最大の臨界制御裕度を維持することが可能である。同社はまた、インドのN.モディ首相が2014年に提唱した外国資本の投資呼び込み政策「メイク・イン・インディア」に従って、米オハイオ州の製造部門が供給したメタミック板をインドに持ち込み、ラックを製造する方針。インド西海岸のグジャラート州ダヘジに同社のアジア子会社の製造プラントがあることから、同社はそこで、NPCILが現地で承認済みの機器サプライヤーと協力してラックを組み立てる。その際、インド西部のマハラシュトラ州プネーにある同社のエンジニアリング・設計センターが、顧客であるNPCILとの調整など、製造プロジェクトの運営にあたるとしている。(参照資料:ホルテック社の発表資料①、②、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの8月4日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
08 Aug 2022
2330
米原子力規制委員会(NRC)は8月3日、ジョージア州のA.W.ボーグル原子力発電所で建設中の3号機について、サザン社の子会社で同炉の運転会社となる予定のサザン・ニュークリア・オペレーティング社に対し燃料の装荷と運転の開始を許可した。3号機は、NRCが1990年代に制定した新しい新規原子炉の許認可プロセスである「10CFRパート52」((建設認可と運転認可に分かれたこれまでの許認可プロセス「10CFRパート50」に対し、パート52ではこれら2つを一本化。事前サイト許可(ESP)と設計認証(DC)、および建設・運転一括認可(COL)の取得を事業者に義務付けることで、設計標準化の推進や(原子炉を建設した後に運転認可が下りない等)許認可手続きにおける不確実性の低減を狙っている。))の下で建設された最初の原子炉。サザン社のもう一つの子会社で、3号機および同じく建設中の4号機(各PWR、110万kWのウェスチングハウス社製AP1000)を45.7%所有するジョージア・パワー社は、今後数週間かけて3号機への燃料装荷と起動試験に向けた最終的な準備作業を進め、その後数か月かけて起動試験を実施する。同試験では一次系や蒸気供給系が設計通りの温度や圧力を得られるかなど、総合的な運転機能を実証する。同炉を冷温停止状態から臨界条件を達成できる状態に変えた後に送電網へ接続し、出力を100%まで徐々に上昇させる試験を行う方針である。今年2月時点のスケジュールでは、同炉の運転開始は2023年の第1四半期末に予定されている。サザン社の今回の発表によると、同炉では安全性と品質に関する398項目の厳しいチェックが行われ、サザン・ニュークリア社のチームは、建設・運転一括認可(COL)に明記された「(運転開始前の)検査、試験、解析と受け入れに関する基準(ITAACs)」を同炉がすべて満たしているとの文書を取りまとめてNRCに提出した。NRCは同文書およびその他の提出物を徹底的に審査した上で、「同炉がこのCOLとNRCの規制に従って建設され、運転も行われる見通し」であることを確認。今回正式な連絡書簡にこの確認事項書「103(g)」を含めて、サザン・ニュークリア社に送付している。NRC原子炉規制局のA.ベイル局長は、「ボーグル3号機が適切に建設されたこと、また運転段階に移行しても周辺住民の健康や安全性に害を及ぼさないことが確認された」と表明。同発電所に常駐するNRCの検査官が、今後も3号機で行われる燃料の装荷と起動試験への移行を厳正に監視する予定であると述べた。NRCはまた、同炉の安全確保に引き続き重点的に取り組む考えで、次世代の新しい原子炉を認可していくなかでこの方針を堅持するとしている。ジョージア・パワー社のC.ウォマック社長兼CEOは、NRCの確認事項書「103(g)」について、「3、4号機の建設に際し、当社が最新の厳しい安全基準や品質基準を順守していることが示された」と指摘。これら2基はジョージア州の重要かつ長期にわたる投資案件であり、運転を開始すれば60年~80年にわたって信頼性の高いクリーンな無炭素エネルギーを州民にもたらすと強調している。(参照資料:NRC、サザン社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの8月4日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
05 Aug 2022
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現在英国で運転中のすべての商業炉を保有・運転しているEDFエナジー社は8月1日、イングランド南西部サマセット州のヒンクリーポイントB(HPB)原子力発電所1号機(改良型ガス冷却炉=AGR、65.5万kW)を永久閉鎖した。HPBではすでに今年7月、1号機よりも先に運転開始した2号機(AGR、65.5万kW)が閉鎖されており、無炭素な電力を46年以上にわたり発電してきた同発電所は今回、その主要業務を終了。今後は数週間から数か月の間に燃料の抜き取り準備を行い、3~4年かけて抜き取りの実作業とセラフィールドにある貯蔵施設への移送を実施する。その後発電所は原子力廃止措置機構(NDA)に引き渡される。ヒンクリーポイントでは、A発電所として出力約30万kWの黒鉛減速ガス冷却炉(GCR)が2基、1965年から2000年にかけて稼働した。B発電所では1976年2月に2号機が送電開始した後、同年10月に1号機が送電を開始しており、両機による閉鎖までの総発電量は3,110億kWhにのぼる。EDFエナジー社によると、この電力量は英国の全世帯が必要とする需要量の約3年分に相当するほか、同発電所が立地する南西部においては33年分に相当する。B発電所はまた、1億700万トンのCO2排出を抑制したことになり、これを76.89ポンド(約1万2,500円)/トンの炭素排出量価格で換算した場合の価値は83億ポンド、車両からの排出量に換算すると5,100万台分に相当する。同発電所だけで約500名の従業員と約250名の契約業者を雇用しており、地元サマセット州に対する経済貢献は年間約4,000万ポンド(約65億1,200万円)だったと同社は強調している。隣接するヒンクリーポイントC(HPC)原子力発電所では、170万kW級のフラマトム社製・欧州加圧水型炉(EPR)を2基建設する計画で、2018年12月に1号機が本格着工。EDFエナジー社が同計画の最終投資判断を下した2016年9月当時、1号機の送電開始は2025年末に予定されていたが、新型コロナウィルスによる感染の世界的拡大等により、現在は2027年6月に再設定されている。(参照資料:EDFエナジー社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの8月1日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
04 Aug 2022
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米原子力規制委員会(NRC)は7月29日、「ニュースケール・パワー・モジュール(NPM)」の設計認証(DC)審査で、NPMを米国内で建設可能な標準設計の1つに認証するための最終規則を発行すると発表した。同規則が連邦官報に公表された日から30日後に、NPMのDCが有効になる。NPMは、ニュースケール・パワー社が開発した電気出力5万kWの小型モジュール炉(SMR)。同社は2016年12月末日、NPMのDC審査をNRCに申請した。同審査の技術審査と最終安全評価報告書(FSER)の発行が2020年8月までに完了し、NRCスタッフはNPMを「技術要件を満たす」と判断、2020年9月に「標準設計承認(SDA)」を発給した。今回、同設計で最終認証規則の制定が完了したことから、NRCは同設計がNRCの定めた安全要件をすべて満たしたことになると説明。SMR初のDCが発給されることになった。今後、米国内でNPMの建設と運転に向けた一括認可(COL)が申請された場合、DC規則で解決済みの課題に取り組む必要がなくなり、発電所の建設が提案されているサイトに特有の安全性や環境影響について残りの課題のみに対処することになる。NPMは1つの発電所に最大12基を接続可能なPWRタイプのSMRで、運転システムや安全系には重力や自然循環などを活用、すべてのモジュールが地下プール内に収められる設計である。NRCはこれまでに、GEニュークリア・エナジー社の「ABWR」、ウェスチングハウス社の「システム80+」と「AP600」、および「AP1000」、GE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社の「ESBWR(高経済性・単純化BWR)」、韓国電力と韓国水力・原子力会社(KHNP)の「APR1400(改良型加圧水型炉)」に対し、DCを発給済みである。「NPM」の初号機については、ユタ州公営共同事業体(UAMPS)が1モジュールの出力が7.7万kWのNPMを6基備えた設備「VOYGR-6」をアイダホ国立研究所内で建設する計画を進めており、最初のモジュールは2029年の運転開始を目指している。ニュースケール社側もこれに加えて、出力7.7万kWのNPM「ニュースケールUS460」についてNRCからSDAを取得するため、今年の第4四半期に申請書の提出を予定している。米国内ではこのほか、ウィスコンシン州のデーリィランド電力協同組合が今年2月、供給区内でニュースケール社製SMRの建設可能性を探るため、ニュースケール社と覚書を締結した。米国外では、カナダやチェコ、ウクライナ、カザフスタン、ブルガリアなどの企業が国内でのNPM建設を検討しており、それぞれが実行可能性調査等の実施でニュースケール社と了解覚書を締結。ポーランドでは、鉱業大手のKGHMポーランド銅採掘会社が今年2月、「VOYGR」設備をポーランド国内で建設するため、ニュースケール社と先行作業契約を交わした。また、ルーマニアでは今年5月、同国南部のドイチェシュティにおける「VOYGR-6」建設に向けて、国営原子力発電会社とニュースケール社、および建設サイトのオーナーが了解覚書を結んでいる。(参照資料:NRCの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの8月2日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
03 Aug 2022
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フランスの原子力安全規制当局(ASN)は7月29日、国内の一部の原子炉で一次冷却系の溶接部に応力腐食割れ(SCC)を確認した件について、フランス電力(EDF)が提案した対応戦略は適切であるとの評価を公表した。 ASNはこれまでの知見から、130万kW級の「P4シリーズ」8基((パリュエル(4基)、サンタルバン・サンモーリス(2基)、フラマンビル(2基)))、および90万kW級の原子炉34基ではSCC現象が発生する可能性は低い、あるいは非常に低いと見ている。EDFは2025年までに保有・運転する56基の原子炉すべてについて同様の点検を行う予定だが、150万kW級の「N4」シリーズ4基((シボー(2基)、ショー(2基)))、および130万kW級の「P’4」シリーズ12基((ベルビル(2基)、カットノン(4基)、ゴルフェッシュ(2基)、ノジャン・シュール・セーヌ(2基)、パンリー(2基)))については、SCCが最も発生し易いと思われる部分を優先的に点検する。その際は、最新の超音波探傷試験装置を使用する方針だ。事の発端は、EDFが昨年末に「N4シリーズ」のシボー原子力発電所1号機で実施した10年に一度の大掛かりな安全審査。その際、同炉の一次系を予防措置的に点検したところ、安全注入系(SIS)配管の溶接部付近でSCCが認められた。そのため同じく「N4」シリーズのシボー2号機、およびショーB1、B2号機でも同様の点検を行った結果、シボー2号機とショーB2号機で同様の現象が見られた。EDFはまた、「P’4」シリーズのパンリー1号機でも、10年毎の安全審査で予防措置的点検を行い、同炉のSIS部分でSCCを確認している。EDFはシボー1号機でSCCを認めた後、現象の発生個所の特定と分析のため、12の原子炉を停止させるなど大掛かりな調査などを行った。ASNの発表によると、EDF傘下の研究所では8基の原子炉溶接部の採取試料で約70件の評価作業を実施しており、その分析結果がEDFの今回の対応戦略作成に大きな役割を果たしている。EDFはSCCが最も発生しやすい個所として、「N4」シリーズの4基については、冷却系の低温側冷却材が流れる部分のSIS、および残留熱除去系の取水ライン、「P’4」シリーズの12基については同じく、低温側冷却材部分のSISを挙げている。 (参照資料:ASN、EDFの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月27日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
02 Aug 2022
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ポーランドのレグニツァ経済特別区運営会社(Legnica Special Economic Zone SA=LSSE)は7月28日、エネルギーの効率化サービスを提供しているDBエナジー社とともに、米ラスト・エナジー社が開発した小型モジュール炉(SMR)を同国南西部のレグニツァ地区内で10基建設することを目指し、3社で基本合意書を交わした。LSSE社は、ポーランドの地方経済活性化のために定められた経済特別区関係の複数の法規に基づき、有利な条件の下で同区内での事業を許された投資家のための運営企業。3社による今回の合意では、LSSE社と同区内のテナントがSMRの発電電力を、少なくとも24年にわたり購入する契約の締結意思が含まれている。ラスト・エナジー社のSMRは実証済みのPWR技術を用いたモジュール式の設計で、電気出力は2万kW。これを10基建設することで総設備容量は20万kWになり、ベースロード用電源としての活用が可能になる。LSSE社はこのプロジェクトを通じて、無炭素な電力を同区内で安全かつ安定的に供給する技術に、投資が確実に行われるとしている。LSSE社の発表によると、専門家の予測として、今後数年間でエネルギー価格の高騰から火力発電所の稼働率が低下する。こうしたことから、ポーランドでは原子力への投資意欲が高まっており、3社は今回の合意に向けた活動を今年6月に開始、SMRを産業利用するための準備作業で議定書も締結済みである。今回の合意についてLSSE社のP.ボゼック社長は、「エネルギーの供給量不足という世界的な課題については様々な議論がなされているが、レグニツァ地区内の工場ではSMRという新たな解決策によって、無炭素なエネルギーを安全かつ安定的に得られる可能性がある」と指摘。「当社はCO2を排出しないエネルギーの確保に向けてさらに一歩進むだけでなく、エネルギー供給保証の強化に向けて前進している」と強調した。ラスト・エナジー社ポーランド支部のD.ジャムロズ社長はポーランドについて、「当社のSMRが建設される最初の国の一つになる」と表明。LSSE社からSMR建設への合意と長期の電力購入契約を締結する意思が示されたことを受け、今後は立地点の特定作業を始めたいと述べた。ポーランド西部のブロツワフを拠点とするDBエナジー社は、「エネルギーの効率化で当社が提供するサービスとラスト・エナジー社のSMRを組み合わせることで、顧客である同区内の起業家には、CO2排出量を実質ゼロ化する包括的なサービスを提供できる」と強調している。ラスト・エナジー社製のSMRに関しては、ポーランド政府所有の電力会社であるエネア(Enea)・グループが今年6月、国内での建設を目指した基本合意書を同社と締結。この合意では、SMRの設計・建設から、資金調達、設置とメンテナンス、燃料供給と廃棄物の回収、廃止措置に至るまで、ラスト・エナジー社がエネア・グループに協力することになる。(参照資料:LSSE社、ラスト・エナジー社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月29日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
01 Aug 2022
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米メリーランド州のX-エナジー社は7月21日、開発しているペブルベッド式小型高温ガス炉(HTGR)「Xe-100」の初号機や後続機を全米で設計・建設する大手建設企業2グループを発表した。今回選定されたのは、電力・エネルギーなど各種の生産設備分野で設計や建設、保全サービス等を手掛けるザクリー(Zachry)グループ、および建設エンジニアリング・サービス専業企業であるバーンズ&マクドネル(Burns & McDonnell)社とディ&ジマーマン(Day & Zimmermann)社の合同グループである。X-エナジー社は今後、これらの建設企業やサプライヤーと「Xe-100」の設計や機器および全体プラント建設などのあらゆる段階で協力。最新の施工技術やデジタル技術を活用して、建設プロジェクトの詳細なコストや作業プラン、合理的な建設スケジュール、安全性関係の4次元モデルなどを開発する。これまで、新規の原子力発電所建設プロジェクトでは、事業者がプロジェクトの後半に建設サービス関係の契約企業と関わるのが標準的な方式だったが、同社は「X-エナジー社のプロジェクト納入モデル(X-PDM)」と名付けた共同アプローチを活用することで、出来るだけ早い段階から「Xe-100」の建設にともなうリスクや不確実性を大幅に排除していく考えである。X-エナジー社は今回の2グループを選定した理由として、これらのグループが複雑な大規模プロジェクトで培った深い経験や先進的建設技術を、X-PDMに沿って複数の「Xe-100」建設に向けて活用し、専門的知見もX-エナジー社と共有していくなど、同社との協力に強い意欲を示したことを挙げた。同社の説明によると、「Xe-100」は過去数10年間の研究開発や運転経験に基づいて開発された第4世代のHTGRで、一基当たりの電気出力は8万kW、熱出力は20万kWである。これを4基接続した発電プラントでは32万kWの発電が可能になるだけでなく、電気出力とプロセス熱の生産量を柔軟に変更することができる。海水脱塩や水素生産など幅広い分野に適用可能で建設工期が短縮されるほか、物理的にメルトダウンが発生せず、冷却材の喪失時にも運転員の介入なしで安全性が保たれる。バーンズ&マクドネル社のR.コワリックCEOは、「原子力発電ではコスト面で市場における競争力や予定コスト内での建設が求められるが、同時に必要とされる安全性や建設スケジュールの短縮、品質等の点でも、当社の先進的な施工企画をこの設計の建設に活用するのは正しいやり方だ」と述べた。米エネルギー省(DOE)は2020年5月に開始した「先進的原子炉設計の実証プログラム(ARDP)」で、X-エナジー社を初回の支援金交付企業の1つに選定。「Xe-100」の実証炉建設を支援するための資金として8,000万ドルを2020会計年度から交付しており、その一部は同設計で使用する3重被覆層・燃料粒子「TRISO」の商業規模の製造施設建設にも活用される。「Xe-100」の初号機については、ワシントン州の2つの公益電気事業者が2021年4月、同州内で協力して建設すると表明。州内の使用電力を2045年までに100%無炭素にすることを目指した法令の下で、「Xe-100」商業化を実証することになる。(参照資料:X-エナジー社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月25日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
29 Jul 2022
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左側がGAOのダミー会社に送られた放射性物質の箱 ©GAO米国政府の会計監査院(GAO)は7月21日、リスクの高い放射性物質の購入等について原子力規制委員会(NRC)が実施する規制体制の評価報告書「Preventing a Dirty Bomb: Vulnerabilities Persist in NRC's Controls for Purchases of High-Risk Radioactive Materials」を公表した。放射性物質の購入や所有において不正な許可が用いられることを防ぐため、セキュリティ面の脆弱性を補う措置を直ちに講じるよう勧告している。GAOは連邦議会の要請に基づいて、政府機関の財務検査や政策プログラムの評価を通じて予算の執行状況を監査する機関である。今回はリスクの高い放射性物質の購入許可を検証する原子力規制委員会(NRC)のシステムについて審査を要請され、偽造した許可や改ざんされた許可によって高リスクの放射性物質が購入されることがないよう同システムの有効性を審査した。また、購入許可を検証するNRCの能力を検証する審査も行っている。今回の報告書でGAOは、放射性物質がガン治療や医療器具の滅菌等で一般的に使用される一方、わずかな量でも爆発物と組み合わせる等により、「ダーティ・ボム」となる可能性を指摘した。NRCは放射性物質を必要とする人々や組織に対し購入許可を発給しているが、その際、購入できる放射性廃棄物のタイプと量を規制するシステムを使用。量に関しては危険度の高い順から1~5のカテゴリーに分類しており、GAOは今回の審査にあたり、ダミー会社とコピーによる偽造許可を使って米国内のベンダー企業2社それぞれから、カテゴリー3の放射性物質を購入することに成功。これら2社から請求書を受け取った後、料金も支払ったものの、配送段階で放射性物質の受け取りを断り、安全に2社に送り返したとしている。これらのことからGAOは、NRCの既存の許可検証システムでは、高リスクの放射性物質が偽造許可によって購入されることを適切に防ぐことはできないと明言。それ以前の報告書でGAOは、カテゴリー3の量の放射性物質がダーティ・ボムで撒き散らされた場合、数10億ドル規模の社会経済的損失を被ると指摘していたが、今回の報告書では、カテゴリー3の放射性物質を複数のベンダー企業から1回以上購入することで、悪意のある人間が(非常に厳しいセキュリティ対策を必要とする)カテゴリー2の量を確保することは可能であると立証した。NRCに対するGAOの勧告事項は、以下の2点。適切な規制当局にカテゴリー3の放射性物質の購入許可を検証させることを、ベンダー企業に速やかに義務付ける。NRCの許認可プロセスの健全性を改善し、(インターネット等の活用により)改ざんされにくく偽造にも有効なものにするためセキュリティ面の要素を付加する。これら勧告への取り組みとして、NRCは検証システムの強化に向けた規則の制定作業をすでに開始した。しかし、完了までに18か月~2年を要することから、GAOは「少なくとも2023年末までシステムは依然として脆弱なままだ」と指摘している。(参照資料:GAOの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月25日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
28 Jul 2022
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米国のエネルギー関連サービス大手であるホルテック・インターナショナル社は7月20日、同社製小型モジュール炉(SMR)の建設計画、およびSMRの量産に向けた機器製造能力の向上計画に連邦政府の融資保証プログラムを適用してもらうため、74億ドル規模となる建設計画の申請書をエネルギー省(DOE)に提出したと発表した。発表によると同社はすでに今年3月、開発中の「SMR-160」(電気出力16万kW)を国内で4基建設する計画への融資保証プログラム適用を求めて、申請書の前半部分(パートI)をDOEに申請した。これを受けてDOEが、計画全般について申請を行うようホルテック社に要請したことから、同社は19日に計画の後半(パートⅡ)として、SMR用機器の既存の製造プラント拡張と新設に関する部分を申請した。2005年エネルギー政策法に基づくDOEの融資保証プログラムは、新たなエネルギー技術の商業利用化とクリーン・エネルギー計画に道筋をつけることが主な目的。原子力発電所の新規開発計画については、建設コストの最大80%まで政府が保証することとなっており、これまでにジョージア州におけるA.W.ボーグル原子力発電所3、4号機(各PWR、110万kW)増設計画に対して、融資保証が適用されている。ホルテック社は現在、ニュージャージー(NJ)州カムデンとペンシルベニア州ピッツバーグで機器の製造プラントを保有しており、SMR機器を毎年1,000点近く製造。計画では、カムデンにある先進的な製造プラントに機械加工やロボット溶接、原材料取扱関係の機器を追加してSMR機器の製造能力を拡大するが、これは今後10年間に予想されるSMR需要の増大を満たす措置となる。同社はまた、新たにSMR-160用機器を製造する大型プラントの建設を計画中。立地点は今のところ未定だが、同社ではこの「ホルテック重工施設(Holtec Heavy Industries)」を、カムデンの製造プラントよりも規模の大きい主力プラントにする方針である。SMR-160の国内建設に関してホルテック社は今回、米国の大手原子力発電事業者であるエンタジー社と合意覚書(MOA)を締結したことを明らかにしている。同MOAに基づいて、エンタジー社は同社のサービス区域内にある既存のサイト1か所以上で、SMR-160を1基以上建設する実行可能性を調査。同社のC.バッケン原子力部門責任者は「モジュール方式を採用したSMR-160には固有の安全性が備わっているほか、小型で操作が簡便、確証済みの軽水炉技術を採用するなど、CO2排出量を実質ゼロ化していく上で有効」と指摘している。SMRの建設でDOE融資保証の適用を受けるには、SMRの立地候補地を有する州政府から長期の電力購入契約や建設工事に対する財政支援を得ることが必要だ。ホルテック社が今回提出した融資保証申請書には、可能性のある立地点が複数記載されている。エンタジー社のサービス区域内に加えて、ホルテック社はNJ州内で保有するオイスタークリーク原子力発電所(※2018年9月に永久閉鎖された後、廃止措置のため当時の保有者であるエクセロン社から購入)の敷地内を潜在的なSMR立地点の1つに想定。ホルテック重工施設についても、最初の一群のSMR-160立地エリアに建設する可能性があるとしている。(参照資料:ホルテック社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月21日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
27 Jul 2022
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ベルギーのA.デクロー首相は7月22日、T.バンデアストラッテン・エネルギー相との共同声明を発表。国内で稼働する商業炉7基のうち、最も新しい2基の運転期間を2035年まで10年延長するという決定の実施に向け、事業者であるエレクトラベル社の親会社であるエンジー社と原則合意したことを明らかにした。エンジー社はフランスに拠点を置き、グローバルな電力・ガス・サービスを提供する総合エネルギー企業。同首相は今回の合意について、同社とベルギー連邦政府の信頼関係の表れであり、ベルギーにおけるエネルギーの供給保証の面で極めて重要と強調している。ベルギーでは2003年に制定された脱原子力法により、すべての商業炉を2025年までに全廃する予定だが、欧州では近年、地政学的な状況が大きく変化している。このため連邦政府は今年3月、脱原子力の達成時期を延期し、ドール4号機とチアンジュ3号機(各PWR、100万kW)の運転を2035年まで継続する判断を下した。状況変化の具体例として、連邦政府はロシアによるウクライナへの軍事侵攻、およびこの侵攻が近隣諸国への天然ガス供給に及ぼした影響を挙げたほか、フランスの複数の原子力発電所が不慮の事態により利用できなくなる可能性などを指摘、これらはすべてベルギーの電力供給に大きな影響を及ぼすとしている。連邦政府がこの判断を下した際、エンジー社は運転期間の延長条件や実行可能性などを分析した上で、この判断を実行に移せるよう連邦政府に前向きに協力すると表明。両者はその後具体的な協議を開始しており、今回はその実施体制について以下の項目で合意に達している。ドール4号機とチアンジュ3号機の運転期間延長により、ベルギーの原子力発電設備容量は200万kWとなる。連邦政府はこれらの運転事業者ではないが、エンジー社と連邦政府は原子力規制当局の承認を得た上で、これら2基を(2025年に一旦停止し)2026年11月に再稼働させる条件等について協議し、合意する予定。(これらの原子炉を管理するとともに、将来の債務リスクやコストを軽減するための)合弁企業を連邦政府とエンジー社が新たに設置し、安定した持続可能な電力供給構造を構築、この供給構造の中で連邦政府とエンジー社はリスクとメリットを共有する。原子力発電所の廃止措置、および放射性物質と廃棄物の管理にともなう経費は運転事業者が負担する。廃棄物と使用済燃料の管理コストは、今後の調査や協議を経て決定される。連邦政府とエンジー社は今後も協議を前向きに継続する方針で、専門家による作業グループの設置方針なども含め、年末までに法的拘束力を持った最終合意に到達、その後はこの実施計画を欧州委員会に提出する考えである。(参照資料:ベルギー首相府の発表資料(フランス語)、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月22日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
26 Jul 2022
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トルコ初の原子力発電所となるアックユ発電所(120万kWのロシア型PWR×4基)を建設中のアックユ原子力発電会社(ANPP)は7月21日、建設サイトで4号機を本格着工したと発表した。同炉の原子炉建屋が建つ基盤部分に最初のコンクリートを打設したもので、ロシア国営の原子力総合企業ロスアトム社のトルコ子会社であるANPP社は、「これにより4号機の作業は主要な建設段階に入った」と宣言している。ANPP社は2020年5月に4号機の建設許可をトルコ原子力規制庁(NDK)に申請。NDKは約1年後の2021年6月、同炉の「部分的建設許可(LWP)」を同社に発給した。このLWPの下で、同社はこれまでにサイトの工事測量や排水作業と防水工事、ピットの掘削、原子炉建屋とタービン建屋のベースマット下部に敷くコンクリート・パッド等の準備作業を実施。2021年10月にNDKから同炉の建設許可を取得した後は、今年5月にタービン建屋の基礎プレート部分にコンクリートを打設している。また、ロスアトム社の同日付発表によると、同社の機器製造部門アトムエネルゴマシ(AEM)社の一部であるAEMテクノロジー社(ボルゴドンスク支部)が、4号機で使用する原子炉容器の底部を製造した。アックユ原子力発電所建設プロジェクトは、2010年5月にトルコとロシアが結んだ政府間協力協定(IGA)に基づいて進められており、第3世代+(プラス)の120万kW級ロシア型PWR(VVER-1200)を地中海沿岸のメルシン県に4基建設する。約200億ドルと言われる総工費は差し当たりロシア側が全額負担するが、返済のため、発電所の完成後にトルコ電力卸売会社(TETAS)がANPP社から固定価格で15年間電力を購入する予定。発電所の設計・建設から運転、保守点検、廃止措置まで、ANPP社が実施することを約束するなど、原子力分野で「建設・所有・運転(BOO)」方式を採用した世界でも初の事例となっている。4号機の本格着工にともない建設サイトでは記念式典が開催され、同国エネルギー・天然資源省(ETKB)のF.ドンメズ大臣や地元メルシン県のA.H.ペリバン知事、ロスアトム社のA.リハチョフ総裁、ANPP社のA.ゾテエバCEOなどが出席した。ドンメズ大臣は「アックユ発電所の建設はトルコでも最大規模の投資プロジェクトであり、完成すれば我が国の電力需要の約10%を賄う」と説明。同発電所はこのほか、クリーンエネルギー開発の目標達成にも貢献すると述べ、「年間3,500万トンのCO2排出が抑えられることから、同発電所が稼働する60年間に抑制される排出量の合計は21億トンにのぼる」と指摘した。ANPP社の発表によると、同発電所で最も早い2018年4月に着工した1号機では、コアキャッチャーや原子炉容器、蒸気発生器、主蒸気ポンプの据え付けが完了した。主循環パイプラインの溶接作業も終了し、格納容器では内張りの5層目が施されている。また、2020年4月に建設工事が本格化した2号機では、コアキャッチャーの据え付けが終わり、格納容器内張りの3層目を組み込む作業が行われた。3号機の建設工事は2021年3月に本格的に開始され、原子炉建屋とタービン建屋で基礎階の補強作業が完了、コアキャッチャーも設置済みとなっている。また、これらの作業には数100社のトルコ企業が参加し、資機材や関連サービスを提供、受注総額はすでに30億ドルを超えた。同プロジェクトはまた、地元地域のインフラ開発や雇用の創出にも貢献しており、ANPP社は建設サイトで働く作業員約2万5千人のうち、約8割がトルコ国民だと強調している。(参照資料:ANPP社、ロスアトム社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月21日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
25 Jul 2022
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英国イングランド南東部のサフォーク州でEDFエナジー社が計画しているサイズウェルC(SZC)原子力発電所(約167万kWの英国版欧州加圧水型炉:UK-EPR×2基)建設プロジェクトに対し、ビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)のK.クワルテング大臣は7月20日、「開発合意書(DCO)」の発給を決定した。DCOは国家的重要度の高いインフラ設備の建設・操業プロジェクトで取得が義務付けられている主要認可で、原子力発電所の新規建設で必要とされる最終的な手続き。英国政府は先月、SZC建設計画では「規制資産ベース(RAB)モデル」による資金調達が適していると発表するなど、EDFエナジー社と資金調達関連の交渉を継続中だが、DCO発給を受けた同社は「すべてがうまく行けば、2023年にもSZC建設計画で最終投資判断(FID)を下す」と表明している。EDFエナジー社の下でSZC計画を担当する子会社の「NNB Generation (SZC)社」は2020年5月、計画法(2008年制定)に基づいて、DCOの申請書を計画審査庁(PI)に提出した。5名の審査官で構成されるPIの審査当局(ExA)は2021年4月から10月にかけてこの申請書を審査し、今年2月にExAとしての結論と勧告を報告書にまとめてBEIS大臣に提出している。BEIS大臣は今回、同報告書およびその他の関係文書を熟慮した上で、「この建設計画には非常に高い緊急性と必要性があり、それは同計画がもたらす損失可能性を大きく上回る」と指摘、この点を踏まえてDCOを発給すべきだと結論付けている。 EDFエナジー社の発表によると、DCOを申請した際にNNB Generation (SZC)社は、SZC発電所の建設が地元コミュニティに及ぼす影響を最小限にとどめる方策と、恩恵を最大限もたらす方策を申請書に盛り込んだ。これについては、審査期間中に1,000人以上の関係者や諮問当局が根拠を提示してくれたとEDFエナジー社は指摘。また、2012年に地元サフォーク州で始まった合計4回の公開協議では、同州東部の住民1万人以上が関わったとしている。DCOの発給決定について、NNB Generation (SZC)社のC.ビンス最高企画責任者は「当社の提案を政府が全面的に支持したことを示すもので、サイズウェルC原子力発電所は必ず地元の事業や住民に様々なチャンスをもたらすとともに、サフォーク州が誇れるようなものを後に残すはずだ」と表明。同発電所はまた、CO2排出量を実質ゼロ化に導く英国最大規模のインフラ設備になるだけでなく、約600万戸の世帯に低炭素で信頼性の高い電力を供給。火力発電所を代替することで、同発電所によるCO2排出抑制量は年間約900万トンになると指摘している。 英国原子力産業協会(NIA)のT.グレイトレックス理事長は同日、「英国におけるエネルギー供給保証の強化とCO2排出量の実質ゼロ化に向けて、非常に大きな一歩になった」と表明。サイズウェルC原子力発電所は今後80年以上にわたり無炭素な電力を安定的に供給するほか、天然ガスの使用量を削減し高サラリーの雇用を数千人規模で創出、英国全土で投資や事業の機会を長期的に提供していくとした。また、同発電所の建設が認められたことで、英国では今後原子力発電所を新たに建設していくための道筋が格段に強化されたと指摘している。(参照資料:英国政府、EDFエナジー社、NIAの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月20日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
22 Jul 2022
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エジプトで原子力発電の導入計画を担当している原子力発電庁(NPPA)は7月20日、同国初の原子力発電所となるエルダバ発電所(120万kWのロシア型PWR:VVER-1200×4基)の建設サイトで、1号機を本格着工したと発表した。NPPAは完成した発電所を所有・運転する。同国の原子力・放射線規制機関(ENRRA)が今年の6月末、日程を前倒ししてNPPAに1号機の建設許可を発給したのを受け、同発電所の建設工事を請け負っているロシア国営の原子力総合企業ロスアトム社が今回、同炉の原子炉建屋を設置する基礎部分に最初のコンクリートを打設した。ロスアトム社はすでに2021年7月、同発電所で使用する機器の製造を傘下の重機械製造企業が開始すると発表しており、1号機については2028年の営業運転開始が見込まれている。同発電所では、第3世代+(プラス)のVVER-1200設計を採用しており、ロスアトム社によると、同型の原子炉がロシア国内ですでに4基、ベラルーシでも1基が運転中である。NPPAは2019年3月に、エルダバ原子力発電所で建設するこれら4基分の「サイト許可」をまとめてENRRAから取得、その後2021年6月に1、2号機の建設許可を、同年12月には3、4号機の建設許可を申請していた。エジプトとロシアの両国政府は2015年11月、同発電所の建設プロジェクトに関する二国間協力協定(IGA)を締結しており、ロシア政府が同プロジェクトに最大250億ドルの低金利融資を実施する。両国政府はまた2017年12月、エジプト北部・地中海沿岸のエルダバ(首都カイロの北西約300kmの地点)で4基のVVER-1200を建設する内容のパッケージ契約書に調印。この契約で、ロシア側は同発電所が稼働する60年分の原子燃料をすべて供給するほか、その他の契約に基づいて使用済燃料専用の貯蔵施設と貯蔵用キャスクもエジプト側に提供。運転員等の人材育成や設備のメンテナンスにも協力するなど、同発電所の運転開始後10年間は一連の関連サービスを提供し、エジプトを支援するとしている。1号機のコンクリート打設にともない現地では記念式典が催され、エジプト電力・再生可能エネルギー省のM.シャーケル大臣をはじめ、ENRRAのS.アタラー長官、NPPAのA.エル・ワキル長官、エルダバ市が属するマトルーフ行政区のK.シュイブ知事、ロスアトム社のA.リハチョフ総裁らが出席した。シャーケル大臣は「1号機の本格着工は歴史的な出来事」とコメント。エル・ワキル長官も、「エジプトで原子力発電プロジェクトを開始するというA.F.エル・シーシ大統領の英断がなければこの日を迎えることは出来なかった」と説明した。(参照資料:NPPA、ロスアトム社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月20日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
21 Jul 2022
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英国のビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)は7月19日、原子力部門で高度なスキルを要する雇用を維持しつつ新たな原子力インフラへの投資を促進するため、原子力発電所用原子燃料の国内生産量拡大を目的とした「原子燃料基金(NFF)」を7,500万ポンド(約124億円)の予算で始動すると発表した。同基金で支援するプロジェクトの選定入札を今秋に控えて、BEISは同基金を通じて原子力部門における費用対効果を確実なものにし、英国のエネルギー需要を十分に満たせるよう同基金の構造設計を検討している。このためBEISは同日、入札に関心を持つ企業に同基金への登録を促すとともに、入札の意思がないステークホルダーからは、原子力部門が抱える課題や今後のビジネス機会について知見に基づく見解など、基金設計の構築に役立つ情報を得るため、「情報提供依頼書(RFI)」を産業界に向けて発出したことを明らかにした。8月4日までの期間、書面で情報を提供してほしいと要請している。BEISは今年4月、クリーンで安価な国産エネルギーの開発を英国で大幅に加速し、エネルギー自給を長期的に改善するという「英国エネルギー供給保証戦略(BESS)」を発表した。このなかで安全でクリーンな原子力発電については、2050年までに現在の約3倍に相当する最大2,400万kWの設備容量を確保し、現時点で約15%に留まっている発電シェアを最大25%に引き上げる方針だと明記。既存の技術を使った軽水炉(LWR)や小型モジュール炉(SMR)に加えて、先進的原子炉設計(AMR)など、今後は様々なタイプや出力の原子炉を建設していくとしており、今年5月には新規の原子力発電所開発プロジェクトを支援するため、1億2,000万ポンド(約199億円)の補助金制度「将来の原子力開発を可能にするための基金(Future Nuclear Enabling Fund)」を起ち上げたと発表している。英国はこれまで、既存の原子炉で使用する原子燃料のほとんどすべてを国内サプライチェーンで確保してきたが、BEISによれば、民生用原子力発電所の開発規模拡大にともない、様々な原子炉設計を利用する可能性が高まり、原子燃料部門の重要性は一層高まっている。供給途絶を回避する確実な燃料供給により、原子力が英国のエネルギー供給システムに最大限に貢献すると指摘した。燃料部門のこのような潜在能力を現実化するため、英国政府は今回、「2021年の包括的歳出レビュー」で原子燃料基金の設置を決めた。同基金の入札では、国内での原子燃料生産量の拡大や諸外国からの燃料輸入量削減に資する様々な施設の設計・建設プロジェクトを選定し、それぞれに対し最大50万ポンド(約8,300万円)を提供。支援を受けたプロジェクトの諸活動は、2025年3月末までにすべて完了することになる。このような政府支援では、プロジェクトへの共同投資を民間部門から引き出すことも狙っており、BEISのK.クワルテング大臣は「原子力発電を大幅に拡大する計画を立てたため、それに見合う強靱で確実な燃料サプライチェーンを国内で確保することは理に適っている」とコメント。「この資金援助により、英国では既存の原子炉や将来の先進的原子炉設計に燃料を供給する様々なプロジェクトが始動し、民間部門からの投資も促される。これらは関係雇用を創出するだけでなく、英国のエネルギー供給保証を一層強化することにも繋がる」と指摘している。(参照資料:英国政府の発表資料①、②、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月19日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
20 Jul 2022
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米原子力規制委員会(NRC)のスタッフは7月13日、ホルテック・インターナショナル社がニューメキシコ(NM)州南東部で進めている使用済燃料集中中間貯蔵施設(CISF)の建設と操業に関する申請について、環境影響評価を完了したと発表した。同施設の環境影響声明書・最終版(FEIS)を発行したもので、その中で建設・操業許可の発給を妨げるような環境や周辺住民への悪影響はないと結論付けた。NRCスタッフは今後、同施設の安全面に関する評価報告書を来年1月に完成させる方針で、こちらでも問題がなかった場合、NRCの委員らはホルテック社に対し同施設の建設・操業許可を発給すべきだと勧告している。ホルテック社の計画では、NM州のエディ郡と同郡内のカールズバッド市、およびその東側に隣接するリー郡と同郡内のホッブス市が設立した有限責任会社「エディ・リー・エネルギー同盟(ELEA)」と結んだ協力覚書に基づき、ホルテック社はELEAがリー郡内で共同保有する敷地内に同社製の乾式地下貯蔵システム「HI-STORE CISF」を建設、最終処分場が米国内で利用可能になるまで操業する。同社によると、CISFでは米国内の二か所で建設した貯蔵システム「HI-STORM UMAX」や、ウクライナで同社が近年完成させた貯蔵システムの経験が生かされている。CISF建設の最初の段階で、同社はまず約8,680トンの使用済燃料を封入した専用キャニスター500基を同施設で貯蔵。その後の19段階で、最終的に貯蔵するキャニスターの数は最大10,000基を想定している。これらのキャニスターには、全米で稼働中か廃止措置中、あるいは廃止措置が完了した商業用原子力発電所で貯蔵されている使用済燃料が封入され、列車でCISFまで輸送される予定である。ホルテック社は2017年3月にCISFの建設・操業許可申請書をNRCに提出しており、NRCはその約1年後にこれを正式に受理した。審査では、CISFの建設から廃止措置に至るまで全20段階をカバーした環境影響を評価しており、具体的には、土地の利用や輸送、地質と土壌、地表水と地下水、生態学的資源や歴史的・文化的資源、および環境正義などの分野でCISFの影響を調査した。 これらの結果に基づき、NRCは2020年3月に「環境影響声明書(EIS)」の案文を公表しており、この段階ですでに、同施設の環境影響に問題はないと表明。同案文をパブリック・コメントに付して、国民や様々なステークホルダーから意見を募集したほか、同案文を説明するオンラインの公開会合も6回開催した。その結果、4,800件以上の意見書がNRCに提出されるとともに、個人から3,718件のコメントが寄せられており、FEIS作成にはこれらの意見も反映されている。NRCは当初、建設・操業許可発給の最終判断を2022年1月に発表する予定だったが、新型コロナウイルスによる感染の世界的拡大にともない、パブコメ期間を延長するなどの措置が取られた。ELEAのJ.ヒートン副会長はFEISの発行について「ELEAとホルテック社、およびNM州南東部のコミュニティにとって最高の日になった」とコメント。「CISFは我々コミュニティの経済を多様化し、350名分の新規雇用と30億ドル規模の投資をもたらす可能性がある」と指摘している。米国ではこのほか、放射性廃棄物の処理・処分専門業者であるウェイスト・コントロール・スペシャリスツ(WCS)社と仏オラノ社の米国法人が立ち上げた合弁事業体「中間貯蔵パートナーズ(ISP)社」が、テキサス州アンドリュース郡で使用済燃料の中間貯蔵施設建設を計画。NRCは同社の申請に対し、2021年9月に建設・操業許可を発給済みである。(参照資料:NRC、ホルテック社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月14日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
19 Jul 2022
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米テネシー州のテネシー峡谷開発公社(TVA)は7月12日、最大500万kW分の無炭素電源を開発するプロジェクトについて、10月19日までの期間に提案を募集(RFP)すると発表した。太陽光や風力、水力などに加えて原子力や電力貯蔵電池(BES)など、TVAは2029年までに自社の送電網に確実に接続可能となるような開発プロジェクトを選定し、来年春にも結果を公表する。これは、米国でも最大級のクリーンエネルギー調達要請になると同公社は指摘している。発表によると、TVAはクリーンエネルギー開発を牽引する組織として、その他の無炭素電源事業者とともにCO2排出量の削減構想を一層迅速、かつ本格的に進めていく方針。配電地域である南東部7州の経済成長をクリーンエネルギーで促すとともに、これらの地域を脱炭素化技術の国内リーダーに位置付ける考えを明らかにした。TVAが進めている長期的な脱炭素化戦略では、2030年までに同公社の事業にともなうCO2排出量を2005年レベルから70%削減し、2035年までに80%削減、2050年には実質ゼロ化することを目指している。そのため、無炭素電源の開発を意欲的に進めており、太陽光については追加で1,000万kWを2035年までに運転開始する予定である。同公社はまた、2018年から配電地域で「グリーン事業への投資プログラム」を進めており、7州における総投資額は30億ドルを超えた。昨年10月に始まった2022会計年度の最初の半年間で、同公社が過去最高の開発を進められたのも、再生可能エネルギー開発プログラムによる後押しがあったからだと同公社は指摘。同プログラムでは73億ドル以上の資本が投下され、4万人以上の雇用が確保されたとしている。TVAのJ.ライアシュ総裁兼CEOはこのほか、同公社の昨年実績として、脱炭素化戦略に基づくテネシー州での小型モジュール炉(SMR)建設に向けて、エネルギー省(DOE)のオークリッジ国立研究所や原子力技術エンジニアリング企業のケイロス・パワー社、およびカナダのオンタリオ・パワー・ジェネレーション(OPG)社などと協力を進めた業績に言及。また、将来のエネルギーシステム構築と送電網の性能改善に向けて、2025年までに20億ドルを新たな送電インフラに投入すると発表したこと、次世代の炭素補足や水素製造等で新たな技術開発に乗り出したことなどに触れた。TVAが現在保有・運転している原子力発電設備は、テネシー州のワッツバー発電所やアラバマ州のブラウンズフェリー発電所など、7基・約800万kWに及んでいる。TVAの今回のRFP発出について、原子力エネルギー協会(NEI)のM.コースニック理事長は「無炭素電源の建設や国内送電網の脱炭素化という我々共通の目標の達成に向け、TVAは有意義な活動を展開している」とコメント。「配電地域の経済成長を促進し顧客の需要に応えるには、太陽光や風力その他の低炭素発電技術とともに原子力が重要な役割を果たすことをTVAはよく理解している」と称えた。その上で、「TVAが脱炭素化目標を達成し、米国が適正価格のクリーンエネルギー社会に移行するには、原子力が生み出す無炭素エネルギーが必要不可欠だ」と強調している。(参照資料:TVAの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月13日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
15 Jul 2022
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