カナダ原子力公社(AECL)とカナダ原子力研究所(CNL)、およびエネルギー・プロジェクト企業のグローバル・ファースト・パワー(GFP)社は5月12日、ウルトラ・セーフ・ニュークリア社(USNC)が開発した「マイクロ・モジュラー・リアクター(MMR)」実証炉の立地点として、AECLチョークリバー研究所のスタッフ用駐車場を選定したと発表した。同駐車場はMMR立地用に再整備される予定で、GFP社は研究所構内で提供されている電力や水などのインフラを引き続き活用できると強調。今後、規制上の要件確認などの手続きを経る必要があるが、CNLのJ.マクブリアティ理事長兼CEOは、「原子力関係の様々な最新技術に活力を吹き込んできたチョークリバーで、この地点を選択したことは歴史に刻まれる」と指摘している。USNC社のMMRは、熱出力1.5万kWで電気出力は約0.5万kW。第4世代の小型モジュール式高温ガス炉(HTGR)で、シリコン・カーバイドで層状に被覆されたウラン燃料粒子を燃料に用いる。20年の運転期間中に燃料交換する必要がなく、いかなる事故シナリオにおいても物理的な対応なしですべての熱が受動的に環境中に放出されるという。チョークリバー研究所はオンタリオ州に位置しており、AECLの委託を受けCNLが管理・運営している。CNLは2017年4月に公表した今後10年間の「長期戦略」のなかで、2026年までにチョークリバーでSMR実証炉を建設するという意欲的な目標を設定。2018年4月には「CNL管理サイトにおけるSMR実証炉の建設・運転提案」を募集し、GFP社を含む4社の提案を選定した。CNLはまた、SMR開発を支援するコスト分担方式の「カナダ原子力研究開発イニシアチブ(CNRI)」を2019年に組織し、同年11月にUSNC社を初回の支援対象の一つに選定している。GFP社は、オンタリオ州の州営電力であるオンタリオ・パワー・ジェネレーション(OPG)社とUSNC社が設立した合弁事業体。同社は2019年4月、チョークリバーでのMMR建設に向けて、SMR開発プロジェクトとしては初めて、カナダ原子力安全委員会(CNSC)に「サイト準備許可(LTPS)」を申請した。チョークリバーでのMMR建設は、基幹送電網に接続できない遠隔地域や、鉱山など産業サイトへの電力供給で将来的な適用モデルとなる予定。CO2を排出せずにクリーン・エネルギーを生産できるというMMRの特長は、化石燃料発電所の代替を含む地球温暖化の防止でも有効と考えられている。今回の発表にともない、AECLとCNL、およびGFP社は、カナダのクリーン・エネルギー実証プロジェクトが新たな段階に進んだことを記念する式典を5月11日に開催。AECLのA. ゴットシュリング副総裁やCNLのJ.マクブリアティ理事長兼CEO、GFP社のJ.ディニング社長兼CEOが地元の議員や産業界幹部らとともに参加した。GFP社のJ.ディニング社長兼CEOは、「チョークリバー研究所の主要構内全体から今回の地点を選定したので、先進的MMRの優れた適性を実証できる」と表明。遠隔地や産業サイトの脱炭素化でMMRが果たす重要な資質を明確に表していると指摘した。(参照資料:CNL、AECLの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの5月15日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
16 May 2023
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米国の大手化学メーカーであるダウ(Dow)社は5月11日、X-エナジー社製の小型高温ガス炉(HTGR)「Xe-100」(電気出力8万kW)を建設する地点として、テキサス州のメキシコ湾沿いに位置するシードリフト(Seadrift)市を選定した。同社とX-エナジー社は「Xe-100」を4基備えた出力32万kWの発電所を2026年に着工し、2020年代末までに完成させることを目指しており、今後は原子力規制委員会(NRC)に「Xe-100」の建設許可申請の準備を共同で開始する。シードリフト・サイトには、ダウ社が2001年に吸収合併したユニオン・カーバイド社の製造施設が立地。「Xe-100」発電所で温室効果ガスを排出せずに安全かつ信頼性の高い電力と蒸気を確保できれば、ダウ社は同施設の温室効果ガスをCO2換算で年間約44万トン削減出来る。「Xe-100」は熱電併給可能な第4世代の非軽水炉型・先進的SMRで、ベースロード用電源としての役割に加えて、水素製造や海水脱塩など幅広い用途に適用出来る。米エネルギー省(DOE)は2020年10月、X-エナジー社を「先進的原子炉設計の実証プログラム(ARDP)」での支援対象企業の一つに選定。実証炉建設のための支援金8,000万ドルがDOEから交付され、その一部は「Xe-100」で使用する3重被覆層・燃料粒子(TRISO燃料)の製造施設建設にも活用可能である。2022年10月に同社の100%子会社であるTRISO-X社は、テネシー州オークリッジの「ホライズンセンター産業パーク」内で商業規模の「TRISO-X燃料製造施設(TF3)」の起工式を行っている。X-エナジー社は2022年8月に「Xe-100」の基本設計を完了、同じ月にダウ社と基本合意書を交わし、ダウ社がメキシコ湾沿いに保有する施設の一つで同炉を建設することになった。両者はその後「共同開発合意書(JDA)」に調印しており、その中で最大5,000万ドルを「Xe-100」のエンジニアリングに充てると明記。その半分までを、DOEとX-エナジー社が結んだARDP協力協定の支援金から再配分、残り半分はダウ社が提供する。ダウ社のシードリフト・サイトは面積が約19km2で、電線の絶縁体や太陽光パネル用の薄膜など、年間180万トン以上の化学製品を製造している。同社のJ.フィッタリング会長兼CEOは、「設置面積が小さくコストも割安な先進的原子炉は、その他のクリーン電源と比べて大きな強みを持っている」と指摘。同社が追及する持続可能な開発目標の達成では、同サイトが重要な役割を果たすとした。X-エナジー社のC.セルCEOは、「当社の革新的な技術により、シードリフト・サイトが必要とする電力や熱を効率的かつ確実に脱炭素化できる」と強調している。「Xe-100」の実際の建設については、米ワシントン州の2つの公益電気事業者が同州内での共同建設を目標に、2021年4月にX-エナジー社と覚書を締結。メリーランド州のエネルギー管理局も2022年6月、「Xe-100」で州内の石炭火力を代替可能かについて、経済面や社会面の実行可能性を調査すると発表した。国外では、カナダ・アルバータ州の外国投資誘致機関が今年1月、「Xe-100」の州内建設を通じて同州経済を活性化する可能性を探るため、X-エナジー社のカナダ法人と了解覚書を締結している。(参照資料:ダウ社、X-エナジー社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの5月1日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
15 May 2023
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米原子力規制委員会(NRC)は5月9日、ホルテック・インターナショナル社がニューメキシコ(NM)州南東部で地元企業と進めている使用済燃料の集中中間貯蔵施設「HI-STORE CISF」の建設計画に対し、建設・操業許可を発給した。「HI-STORE CISF」は、地下部分に使用済燃料を安全に乾式貯蔵するためのシステム「HI-STORM UMAX」を備えた施設で、その建設から廃止措置に至るまで全20段階の工程が設定されている。今回その第1段階として、ホルテック社は合計8,680トンの使用済燃料を封入したキャニスター500台を発電所から輸送して同施設で受け入れ、(最終処分場が完成するまで)貯蔵するため、40年間有効な許可を得たもの。残りの19段階で同社は最終的に、最大1万台のキャニスターを貯蔵する計画だが、その各段階で安全性と環境影響に関するNRCの審査を受け、今回取得した許可の修正を行わねばならない。NRCはこれまでに2回、使用済燃料の集中中間貯蔵施設について建設・操業許可を発給しているが、初回は2006年のユタ州におけるプライベート・フュエル・ストーレッジ(PFS)社の計画。2回目は2021年9月の、中間貯蔵パートナーズ(ISP)社がテキサス州アンドリュース郡で進めている計画へのものである。前者については、ホルテック社が「HI-STORM」システムを提供することになっていたが、連邦政府の内務省(DOL)がサイト関係の許可を発給しなかったため、この計画は中止となった。後者については、テキサス州内で使用済燃料など高レベル放射性廃棄物の処分や貯蔵を禁止する法案が2021年9月に同州で成立したことから、現時点で着工に至っていない。一方、ホルテック社がウクライナの原子力発電公社から請け負い、2017年にチョルノービリ立入禁止区域内で着工した使用済燃料の集中中間貯蔵施設(CSFSF)は、2021年8月に第1段階の設備が完成している。NM州における「CISF」建設計画では、エディ郡と同郡内のカールズバッド市、およびその東側に隣接するリー郡と同郡内のホッブス市が、共同で有限会社の「エディ・リー・エネルギー同盟(ELEA)」を設立。2015年にホルテック社と結んだ協力覚書に基づき、ELEAがリー郡内で共同保有する敷地内で、ホルテック社製の「HI-STORM UMAX」を備えた「CISF」を建設することになった。ホルテック社は2017年3月に「CISF」の建設・操業許可申請書をNRCに提出しており、NRCはその約1年後にこれを正式に受理した。この申請書の審査で、NRCは安全・セキュリティ面に関する技術的な評価と環境影響面の評価を行っており、2022年7月には環境影響面の審査を完了。環境影響声明書・最終版(FEIS)の中で、建設・操業許可の発給を妨げるような環境や周辺住民への悪影響はないと結論づけた。安全・セキュリティ面の評価報告書は、今回の建設・操業許可とともに発行される。(参照資料:NRC、ホルテック社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの5月10日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
12 May 2023
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米国の「五大湖クリーン水素製造ハブ連合(GLCH)」は5月2日、原子力発電所を活用した水素の製造計画で米エネルギー省(DOE)の「地域のクリーン水素製造ハブ(Regional Clean Hydrogen Hubs: H2Hub)」プログラムから支援金を得るため、正式な申請書を提出した。これは、GLCHに所属する北米最大の圧延平鋼メーカー、クリーブランド・クリフス社が同日明らかにしたもの。申請書は同連合の代表企業であり、製造業用のガスを各種提供しているリンド社が提出した。GLCHの計画では、同じくGLCH所属のエナジー・ハーバー社がオハイオ州で運転するデービスベッセ原子力発電所(PWR、95.3万kW)でクリーンな水素の製造ハブを構築し、五大湖周辺の同州とミシガン州、および一部のペンシルベニア州とインディアナ州に低価格で提供する。GLCHにはこのほか、航空機用のジェットエンジンや関係機器を製造するGEエアロスペース社、オハイオ州のトレド大学、ガラス産業協会(GMIC)が参加している。米国のJ.バイデン政権は2035年までに発電部門を100%脱炭素化し、2050年までにCO2排出量を実質ゼロ化する方針。産業部門の革新的な技術を用いたクリーンな水素の製造はこれに向けた戦略の一つであり、2021年の「インフラ投資雇用法」に基づいている。水素の製造ハブ用に拠出される80億ドルのうち、70億ドルがDOEのH2Hubプログラムに充当されており、DOEは同プログラムで全米の6~8か所にクリーンな水素の製造ハブを設置し、各地域における水素の製造業者と消費者、接続インフラを結ぶネットワークの基盤構築を目指している。DOEは2022年11月、同プログラムへの応募を検討している各州の水素製造団体に製造概念の説明書を提出するよう要請しており、GLCHをふくむ79の団体がこれに応じた。GLCHによると、20億ドル以上の投資を必要とする同計画では、原子力発電所の電力を使った水の電気分解により、一日100トン以上の水素を最短時間でフル生産するとしており、商業的にも実行可能という。この投資額の約半分を連邦政府のプログラムから調達して、中西部の五大湖周辺州でトラックや通勤用の短距離バス、鉄道、航空、航海など、大規模産業が必要とするクリーンな水素をパイプラインと道路輸送で提供。脱炭素化への移行を支援するとともに、関係者間の連携協力や投資、雇用の創出等を通じて、地元コミュニティの中でも不利な条件下にある自治体に利益をもたらしていく。この計画についてはDOEが今年1月、有望プロジェクト33件の一つに選定しており、GLCHに対し正式な申請書を提出するよう促していた。同計画ではまた、オハイオ州のM.デウィン知事と同州選出の複数議員、ミシガン州のG.ホイットマー知事も含め、両州の自治体や労働組合、教育機関、経済開発組織などが支持を表明。GLCHはこのような支持者に加えて、水素の消費者や関係技術のサプライヤー、国立研究所、学術機関、NGOなどとも緊密に協力し、化石燃料をクリーンな水素に置き換えていきたいとしている。(参照資料:クリーブランド・クリフス社、DOEの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの5月4日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
11 May 2023
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エジプト原子力発電庁(NPPA)の発表によると、同国初の原子力発電所として建設中のエルダバ発電所(120万kW級ロシア型PWR:VVER-1200×4基)で3号機が5月3日、本格着工した。すでに今年の3月、原子力・放射線規制機関(ENRRA)が3号機の建設許可を発給していた。同工事を請け負っているロシアの原子力総合企業ロスアトム社は同日、3号機の原子炉建屋を設置する基礎部分に最初のコンクリートを打設、記念式典も開催した。同発電所建設サイトでは2022年7月に1号機、同年11月に2号機の建設工事が始まり、現時点で建設予定の4基中3基の作業が並行して進められている。同国初の商業炉となる1号機では、今年3月にロシアのサンクトペテルブルク港からコア・キャッチャーの主要機器3点が到着、2028年の営業運転開始が見込まれている。エジプトでは総発電量の90%以上を石油と天然ガスに依存しており、温室効果ガスを排出する主要因となっている。このため、同国は2035年までに石油と天然ガスによる発電量を全体の約5割に縮小することを計画。約10%だった再生可能エネルギーのシェアを約40%に拡大し、原子力では約3%を賄うことを目指している。エジプト政府は2015年11月に、原子力発電所の建設プロジェクトに関する政府間協定(IGA)をロシア政府と締結しており、ロシア側から最大250億ドルの低金利融資を受けることになった。両国政府はまた、2017年12月にエルダバで4基のVVER-1200を建設するためのパッケージ契約書に調印。この契約により、ロシア側は発電所を建設するだけでなく、60年にわたる稼働期間中の原子燃料をすべて供給する。また、使用済燃料の貯蔵施設や貯蔵キャスクもエジプト側に提供。人材育成や設備のメンテナンスについても、運転開始後最初の10年間は協力する。エルダバ原子力発電所は首都カイロの北西300km、地中海沿岸のエルダバ市域に位置している。採用設計の「VVER-1200」は第3世代+(プラス)の最新鋭PWR。この設計はロシア国内ではノボボロネジ原子力発電所Ⅱ期工事の1、2号機に採用され、これらは2017年2月と2019年10月にそれぞれ営業運転を開始した。レニングラード原子力発電所でも同型のⅡ期工事1、2号機が2018年10月と2021年3月から営業運転中である。国外ではベラルーシのベラルシアン原子力発電所で1号機が2021年6月に営業運転を開始したほか、同2号機が2014年4月から建設中。このほか、中国とトルコで4基ずつ、バングラデシュでも2基が建設中である。(参照資料:ロスアトム社、NPPAの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの5月3日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
10 May 2023
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韓国の政府系輸出信用機関である韓国貿易保険公社(K-SURE)と韓国輸出入銀行(KEXIM)はこのほど、米ホルテック・インターナショナル社が現代E&C(現代建設)社と進めている小型モジュール炉(SMR)「SMR-160」(電気出力16万kW)の輸出計画を支援するため、これら2企業のチームと個別に協力協定を締結した。ホルテック社の5月2日付発表で明らかになったもので、世界中で急速に拡大するクリーンエネルギーの需要や環境面の脱炭素化の動きに対応するため、同社は現代E&C社と組んだ「チーム・ホルテック」で韓国政府から公的な金融支援を受け、「SMR-160」等の原子力発電所を世界中で建設していく考えだ。K-SUREは韓国産業通商資源部(MOTIE)に所属する機関で、韓国企業による海外事業や対外投資の促進を目的に、輸出入信用保険や海外投資保険などの信用供与を専門に行っている。K-SUREとチーム・ホルテックのビジネス協定は4月25日、MOTIEが米ワシントンDCで先進産業とクリーンエネルギーに関する両国の連携イベントを開催したのに合わせて締結された。ホルテック社はこれに先立つ4月21日、ウクライナの原子力発電公社と協力協定を締結。同協定では、「SMR-160」の初号機をウクライナで2029年3月までに完成させるパイロット・プロジェクトの実施と、同国内で最大20基の「SMR-160」建設を視野に入れている。現代E&C社の今回の発表によると、同チームは「SMR-160」の建設を通じてウクライナのエネルギー・インフラを再構築する方針で、パイロット・プロジェクトに続く20基の建設を迅速に進めるとともに一部の機器をウクライナで製造可能とすることを目指している。そして、SMRの建設プロジェクトを通じてウクライナがエネルギー部門全体を刷新し、CO2排出量を実質ゼロ化できるよう、K-SUREの支援に基づく協力を積極的に進めていく。一方、チーム・ホルテックがKEXIMから財政支援を受けるための協力協定は、同じくMOTIEイベントの直後の4月25日に締結された。現代E&C社とホルテック社が2021年11月に事業協力契約を結んだ際、現代E&C社はホルテック社の主要なEPC(設計・調達・建設)契約企業となり、「SMR-160」の商業化に向けた標準モデルの完成に協力することになったほか、同設計を採用した発電所を世界中で建設する独占権を取得している。現代E&C社の発表では、同社はその後「SMR-160」発電所BOP(主機以外の周辺機器)の詳細設計に直接関わっており、ホルテック社が米ニュージャージー州のオイスタークリーク原子力発電所跡地で「SMR-160」初号機を建設する際、現代E&C社は初の韓国企業としてEPC業務と建設工事に携わる予定。KEXIMその他の韓国の公的機関による複数の財政支援を通じて、同社はホルテック社とともに韓国企業として原子力発電所の建設プロジェクトを世界中に拡大・模索するとしている。(参照資料:ホルテック社、現代E&C社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの5月3日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
09 May 2023
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米ウェスチングハウス(WH)社は5月4日、同社製AP1000の電気出力を30万kWに縮小したPWRタイプの小型モジュール炉(SMR)「AP300」を発表した。今後10年以内に初号機を完成させ、稼働させることを目指している。同社は現在、電気出力が最大でも0.5万kWというヒートパイプ冷却式のマイクロ原子炉「eVinci」を開発中だが、「AP300」はすでに稼働実績のある第3世代+(プラス)のAP1000設計に基づいており、いわば「実証済み」のテクノロジー。AP1000はまた、米国と英国、および中国で設計認証を取得したほか、欧州の電力事業者が定めた安全基準「欧州電気事業者要件(EUR)」の認証審査をクリアしている。このため同社は、「AP300」では許認可手続き上の利点も備わるなど、顧客にとってはリスクが最小限の提案になると強調している。「eVinci」は2020年12月、米エネルギー省(DOE)が推進する「先進的原子炉設計の実証プログラム(ARDP)」の支援対象に選定され、2030年~2032年の商業化を目指すカテゴリーの炉に分類された。これに対して、WH社は「AP300」では2027年までに原子力規制委員会(NRC)から設計認証(DC)を取得し、2020年代末に同炉の初号機でサイト関係の認可手続きを完了し建設工事を実施する方針。同社のP.フラグマン社長兼CEOは、「数あるSMRの中でも『AP300』は唯一、実際の建設・運転経験に裏付けられた設計であり、明確に見通せる建設スケジュールとコストの実証性を兼ね備えた先進的原子炉として世界中の顧客のニーズに応えていく」と述べた。WH社の説明によると、「AP300」は1ループ式の超コンパクト設計で、設置面積はサッカー・コートの4分の1ほど。AP1000と同じくモジュール工法が可能で、同一の主要機器や構造部品を使用、これには受動的安全系や燃料、計装制御(I&C)系も含まれている。また、AP1000用の成熟したサプライチェーンを活用出来るほか、建設にともなう課題への対応策もこれまでの経験から得られている。さらに同炉には、負荷変動に速やかに追従する能力があり、運転管理・保守点検(O&M)の手順もAP1000の18炉・年に及ぶ運転実績から確認済みである。「AP300」で得られる安全でクリーンな電力は、地域暖房や海水の淡水化に利用できるほか、間欠性を持つ再生可能エネルギー源の補完電源としても理想的。将来的には、クリーンな水素を製造する安価な手段としても活用が可能だとしている。 なお、WH社は「AP300」開発チームを率いる上級副社長として、R.バランワル最高技術責任者(CTO)を任命した。同氏はDOEの原子力次官補経験者であり、先進的原子力技術の商業化支援イニシアチブ「原子力の技術革新を加速するゲートウェイ(GAIN)」では担当ディレクターを務めるなど、原子力発電分野で数10年の経験を有している。(参照資料:WH社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの5月4日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
08 May 2023
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トルコ初の原子力発電所建設を請け負っているロシアの原子力総合企業ロスアトム社は4月27日、地中海沿岸メルシン地区のアックユ原子力発電所(120万kWのロシア型PWR×4基)建設サイトに、1号機用の初装荷燃料がロシアから到着したと発表した。同発電所建設プロジェクトの実施に向けて両国が2010年5月に結んだ政府間協定(IGA)の規定では、建設工事に必要な許可がすべて発給されてから7年以内に、発電所初号機の試運転を開始しなければならない。このためロスアトム社は、2018年4月に本格着工した1号機を2025年までに起動させるため、トルコの建国100周年に当たる今年中に起動の開始準備を整える方針である。同発電所の4基は第3世代+(プラス)のロシア型PWR(VVER)を採用しており、1号機に続いて2~4号機の建設工事がそれぞれ、2020年4月と2021年3月、および2022年7月に開始された。約200億ドルの総工費は差し当たりロシア側が全額負担し、発電所の完成後にトルコ電力卸売会社(TETAS)がロスアトム社のトルコ法人であるアックユ発電会社(ANPP)から固定価格で15年間購入する予定。発電所の設計・建設から運転、保守点検、廃止措置まで、ANPP社が受け持つなど、原子力分野で「建設・所有・運転(BOO)」方式を採用した世界での初の事例となっている。ロスアトム社はまた、IGAの規定に基づきANPP社株の最大49%をトルコや第三国の企業に売却する方針。2017年6月に、トルコの大手エネルギー・インフラ建設企業3社の連合体が49%の出資に合意したが、その後最終合意に至らず、ロスアトム社はその分の出資者を模索している。1号機用の初装荷燃料は、TVEL社の傘下企業が製造したもので、サイトへの到着を記念する現地での式典にはロシアのV.プーチン大統領とトルコのR.エルドアン大統領がオンラインで出席。このほか、国際原子力機関(IAEA)のR.グロッシー事務局長やトルコ・エネルギー・天然資源省のF.ドンメズ大臣、ロスアトム社のA.リハチョフ総裁、ANPP社のA.ゾテエバCEOらが現地で参加した。この式典でリハチョフ総裁は、原子燃料の安全な輸送に関わる基準や要件すべてを満たす形で初装荷燃料が輸送されたという証明書をドンメズ大臣に提示。トルコはいよいよ、原子力平和利用国の一員になると強調した。また、両国最大の共同プロジェクトとなった同発電所の建設プロジェクトには、400社以上のトルコ企業が参加していることから、「トルコはすでに自国の原子力産業を発展させたと言える」と述べた。ドンメズ大臣も「我々の目標実現まであと少しになった」とし、来年にも発電を開始したいとの意向を表明。2028年までに4基すべてが完成すれば、同発電所は年間350億kWhを発電してトルコの電力需要の約10%を満たすことから、「我が国のエネルギーミックスが多様化するだけでなく、天然ガスの輸入量も年間70億m3削減され、3500万トンのCO2排出を抑えることができる」と強調している。(参照資料:ロスアトム社、トルコ大統領府(トルコ語)、ロシア大統領府の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの4月27日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
02 May 2023
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カナダのアルバータ州政府と韓国原子力研究院(KAERI)はこのほど、KAERIが設計した小型モジュール炉(SMR)「SMART」など韓国製SMRの同州内での建設に向けて、包括的な協力の枠組となる了解覚書を締結した。同州は天然資源が豊富なカナダの中でも特に、石油や天然ガスなどの資源に恵まれており、今後はSMRが生み出す無炭素な電力や熱を活用して、オイルサンドからの燃料抽出や化学製品の製造、鉱業、海水脱塩など、州内の様々な産業を脱炭素化していく。「SMART」炉以外のSMRについても、アルバータ州はすでに導入に向けた覚書を内外の複数企業と締結済み。それらは主に第4世代の先進的SMRで、テレストリアル・エナジー社が開発した小型モジュール式・一体型溶融塩炉(IMSR)や、米X-エナジー社の小型ペブルベッド型高温ガス炉「Xe-100」、米ARCクリーン・テクノロジー社のナトリウム冷却・プール型高速中性子炉「ARC-100」などである。今回の覚書に関しては、アルバータ州のB.ジーン雇用・経済・北部開発相とR.ソーニー貿易・移民・多文化主義相が4月18日(カナダ時間)、KAERIのジュ・ハンギュ院長とオンラインで署名した。今後は、同州内でSMR建設の可能性を見極めるため、連邦政府と州政府が適用する規制要件や産業界の関係プログラムなどに集中し、共同で取り組む。アルバータ州は2021年4月、カナダのオンタリオ州とニューブランズウィック州、およびサスカチュワン州が2019年12月に締結した「多目的SMR開発・建設のための協力覚書」に参加。2022年3月には、これら4州でSMRの開発と建設に向けた「共同戦略計画」を策定しており、アルバータ州の当時の首相は、同年8月からこの戦略計画に基づく活動を開始している。アルバータ州政府の発表によると、KAERIとの今回の覚書締結は、その後両者がSMRなどクリーンエネルギー関係の協力について重ねた協議に基づいている。今年3月には、ジーン雇用・経済・北部開発相とソーニー貿易・移民・多文化主義相を含む州政府の貿易使節団が韓国を訪問し、韓国政府と傘下のエネルギー機関、エンジニアリング関係のトップ企業の代表者らと会談。KAERIの研究施設も視察している。「SMART」炉は海水脱塩と熱電併給が可能なシステム一体型モジュラーPWRで、熱出力と電気出力はそれぞれ、33万kWと10万kW。同炉の建設についてはサウジアラビアが検討中で、同国と韓国の両政府は2015年に同炉の建設前設計協力契約を締結した。2023年1月に両国はこの協定を改定し、同設計でサウジアラビアの標準設計認可を取得するため、新たに共同推進協約を締結している。KAERIのジュ院長は、「CO2排出量の実質ゼロ化という目標を今こそ実行すべきであり、SMRはそのための重要技術だ」とコメント。アルバータ州で「SMART」炉を建設すれば、地球温暖化との闘いで先駆者的役割を果たすと強調している。(参照資料:アルバータ州政府、KAERIの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの4月20日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
01 May 2023
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ウクライナ民生用原子力発電公社のエネルゴアトム社は4月21日、米ホルテック・インターナショナル社製・小型モジュール炉(SMR)「SMR-160」(電気出力16万kW)の初号機を、2029年3月までにウクライナで送電開始するというパイロット・プロジェクトの実施に向け、同社と協力協定を締結した。同協定で、エネルゴアトム社は最終的に最大20基の「SMR-160」の国内建設を視野に入れ、「SMR-160」に使用する様々な専用機器の製造施設建設など、同技術の一部国産化も検討している。両社はこれら20基の運転と機器製造施設の操業開始を早期に実現するため、効率的な実施計画を共同で策定する。ホルテック社はウクライナで使用済燃料の集中中間貯蔵施設(CSFSF)の建設計画を請け負うなど、20年以上にわたりエネルゴアトム社と協力。同CSFSFは、2022年4月に操業を開始している。SMR関係では2018年3月に協力のための了解覚書を締結しており、両社はウクライナ北西部のリウネ原子力発電所で6基の「SMR-160」建設を目指すとしていた。2019年6月には、これら2社にウクライナ国立原子力放射線安全科学技術センター(SSTC NRS)を加えた3者が「SMR-160」の国内建設を進めるため、国際企業連合を設立している。今回の協定への調印は、エネルゴアトム社のP.コティン総裁がウクライナの首都キーウで、同時にホルテック社のK.シン社長兼CEOが米ニュージャージー州のカムデンにおいて、オンラインで行った。このほか、ウクライナ・エネルギー省のG.ハルシチェンコ大臣、ホルテック社でウクライナ事業を担当するR.エイワン副社長らも調印式に参加した。今回の協定を通じて、エネルゴアトム社はウクライナにおけるエネルギー供給保証の強化に向け、一層広範な協力関係をホルテック社と確立する方針である。SMRはウクライナのエネルギー部門全体の脱炭素化とエネルギーの自給促進に有効であるだけでなく、専用ハイテク機器の製造業創業にも有効だと同社は指摘。ロシアによる軍事侵攻の終了後を見据え、SMRを通じて破壊された火力発電所などエネルギーインフラの再構築を図るとともに脱炭素化も進めていく。具体的には双方の活動を調整するため、両社は同協定の下で「共同プロジェクト事務所」を設置する。石炭火力発電所の跡地等を中心に、ウクライナ全土で「SMR-160」を設置するのに必要な作業や許認可手続き等を協力して遂行。同事務所には両社のスタッフに加えて、ウクライナの国家原子力規制検査庁(SNRIU)やエネルギー省、SSTC NRS、ホルテック社のSMR事業に協力している三菱電機や韓国の現代E&C社(現代建設)のスタッフも常駐する見通しである。エネルゴアトム社のコティン総裁は、「クリーンエネルギーへの移行に有効な革新的技術の実証をウクライナはこれまで懸命に進めてきたが、エネルギーの自給や多様化を進めるには先進的な原子力技術が不可欠。原子力はウクライナの総電力需要の55%以上を賄う重要電源であることから、今回の協定を通じてウクライナは安全でクリーンかつ信頼性の高い有望なSMRを建設し、主要なクリーンエネルギー国になる」と表明。同時に、経済開発や雇用の創出、製造施設や訓練施設の建設も進め、ホルテック社の原子力技術を世界中に普及させる地域ハブとする考えを明らかにしている。(参照資料:エネルゴアトム社、ホルテック社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの4月24日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
28 Apr 2023
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ポーランドの鉱業大手KGHM銅採掘会社(KGHM社)は4月14日、米ニュースケール・パワー社製小型モジュール炉(SMR)の国内建設に向け、この計画に対する「原則決定(decision-in-principle=DIP)」の発給を気候環境省に申請した。「DIP」の発給は、その投資計画がポーランド社会全体の利益につながるとともに、国家政策にも則していると政府が確認し、正式承認したことを意味している。事業者がそれ以降、立地点の決定や建設許可など様々な行政承認を申請していく上で必要な大枠の手続きとなる。この前日には、ポーランド国営エネルギー・グループ(PGE)の原子力事業会社であるPEJ社(=Polskie Elektrownie Jądrowe)も、北部ポモージェ県における同国初の大型原子炉建設に向けて「DIP」の発給を気候環境省に申請した。政府が株式の約4割を保有するKGHM社は、ポーランド南西部にある欧州最大規模の銅鉱床で採掘を行っており、持続可能な開発というコンセプトに沿った活動も展開中。2050年までに同社が排出するCO2の実質ゼロ化を目指しており、事業に必要な電力や熱エネルギーの約半分を2030年までに自社で賄うため、SMRや再生可能エネルギー源の設置プロジェクトを進めている。ニュースケール社が開発した「ニュースケール・パワー・モジュール(NPM)」はPWRタイプの一体型SMRで、電気出力が5万kW~7.7万kWのモジュールを最大12基連結することで出力の調整が可能である。米国の原子力規制委員会(NRC)は2020年9月、モジュール1基の出力が5万kWの「NPM」に対し、SMRとしては初めて「標準設計承認(SDA)」を発給。ニュースケール社は7.7万kW版のモジュールについても、2023年1月にSDAを申請している。2022年2月にKGHM社は、7.7万kW版の「NPM」を複数基備えた発電設備「VOYGR」の建設に向けて、ニュースケール社と先行作業契約を締結した。早ければ2029年にも同プラントを完成させる計画で、2022年7月には5万kW版の「NPM」について、国家原子力機関(PAA)に事前の安全評価を要請。これは原子力法に規定された予備的な許認可手続きの一つであり、PAA長官は約9か月かけて見解を取りまとめる。政府の出資企業が国のクリーンエネルギーへの移行に参画することは、J.サシン副首相兼国有資産相も奨励しており、「原子力は安全でクリーンかつ安価なエネルギー源であり、ポーランドのさらなる発展に寄与する」と明言。国内企業がポーランドのエネルギー供給保証に関われば、より効率的に国を強化できると指摘した。KGHM社のT.ズジコット社長はSMRを建設する理由として、「当社は国内最大規模の企業であると同時に、最大のエネルギー消費企業でもある」と説明。同社は最重要プロジェクトと位置付けるSMRの建設を通じて、今後の企業運営を安定化する方針であり、原子力も含めた同社のクリーンエネルギーへの移行は、ポーランド全体のエネルギー・ミックスの重要な柱になるとしている。(参照資料:KGHM社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの4月18日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
26 Apr 2023
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ポーランド国営エネルギー・グループ(PGE)の原子力事業会社であるPEJ社(=Polskie Elektrownie Jądrowe)は4月13日、北部ポモージェ県内における同国初の大型原子炉建設に向けて、「原則決定(decision-in-principle=DIP)」の発給を気候環境省に申請した。また、同国内で小型モジュール炉(SMR)の建設を計画しているオーレン・シントス・グリーン・エナジー(OSGE)社は、4月17日に建設候補の7地点を公表している。PEJ社の「AP1000」建設計画気候環境省による「DIP」の発給は、その投資計画がポーランド社会全体の利益につながるとともに、国家政策にも則していると正式に確認したことを意味している。建設サイトとなるポモージェ県ルビアトボ-コパリノ地区の承認やその後の建設許可など、PEJ社が今後様々な行政承認を申請していく上で必要な手続きの大枠としての承認となる。このためPEJ社は今回、原子力施設と関係インフラの開発と実行に関する改正特別原子力法が発効するのに合わせて、このDIP発給の申請書を提出したもの。ポーランド政府は現在、改訂版の「原子力開発計画(PPEJ)」に基づいて、2043年までに国内複数のサイトで100万kW級の原子炉を最大6基、合計600万~900万kW建設することを計画中。2022年11月には最初の3基、計375万kW分に採用する設計として、ウェスチングハウス(WH)社製の第3世代+(プラス)PWR設計である「AP1000」を選定した。2026年にも初号機の建設工事を開始し、2033年の完成を目指している。PEJ社によると「DIP」の申請書には、設置される設備の最大容量や稼働期間、採用設計の詳細など、プロジェクトの諸条件を記した文書が含まれる。また、ポーランドの電力確保に原子炉建設が必須である理由など、プロジェクトとしての正当性を示すことが不可欠の要素。この申請はさらに、2021年2月に決定した「2040年までのエネルギー政策」など、政府の戦略文書との整合性も要求される。OSGE社の「BWRX-300」建設計画一方のOSGE社は、ポーランド最大の化学素材メーカーであるシントス社のグループ企業シントス・グリーン・エナジー(SGE)社と、同国最大手の石油精製企業であるPKNオーレン社が50%ずつ出資する合弁事業体(JV)である。SMRのなかでもGE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社製「BWRX-300」の建設に絞り込んでおり、2030年の初号機完成を目指している。同社は17日にPKNオーレン社の本部で記者会見を開き、数十の候補地点の中から最も有望な7地点を選定したと発表。具体的には首都ワルシャワ、オストロウェンカ(Ostrołęka)、 ブウォツワベク(Włocławek)、スタビ・モノフスキエ(Stawy Monowskie)、ドンブローヴァ・グルニチャ(Dąbrowa Górnicza)、ノバ・フタ(Nowa Huta)それぞれの近郊地点、およびタルノブジェク(Tarnobrzeg)の特別経済区である。今後は、これらの地点でさらなる地質調査を実施し潜在的な可能性を確認、それぞれの地域コミュニティとは予備的な協議を開始する。これらを終えた後、2年ほどかけて最初のSMRの建設可能性を徹底的に分析し、合意が得られた場合にのみプロジェクトの実施判断を下す方針である。OSGE社によると、SMRへの投資はクリーンエネルギーへの移行を効率的かつ早いペースで進めることができる。最先端の技術を採用しているため最大限の安全性が保証されており、世界では数多くのSMRが都市部やその周辺での建設が計画されている。同社は一例として、カナダのオンタリオ・パワー・ジェネレーション社が、オンタリオ州内のダーリントン原子力発電所内で「BWRX-300」の建設を計画している事実に言及。同発電所は、同州有数の商業都市で14万人の人口を抱えるオシャワから5kmの地点にある。なお、OSGE社が建設する「BWRX-300」の最初の複数基に対しては、米国政府の融資機関である米輸出入銀行(US EXIM)が最大30億ドル、国際開発金融公社(DFC)が最大10億ドルの財政支援提供の意思を表明した。17日に拘束力のない声明文である意向表明書(a letter of interest)に署名したもので、既定の輸出取引で申請書が提出された場合に、財政支援を行う用意があることを示している。OSGE社によると、ポーランド国内の主要な3銀行も同様に資金提供を表明している。(参照資料:PEJ社の発表資料、OSGE社の発表資料①、②、US EXIMの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの4月17日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
25 Apr 2023
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韓国の現代エンジニアリング社とSKエコプラント社は4月20日、モジュール式マイクロ原子炉(MMR)を用いたクリーン水素の製造ハブ建設に向けて、米国のMMR開発企業ウルトラ・セーフ・ニュークリア社(USNC)を交えた3社で研究開発を行うための協力覚書を締結した。現代社とSK社による「マイクロ原子炉の水素製造ハブ(Hydrogen Micro Hub)」は、MMRが生産する電力と高温の蒸気を固体酸化物形電解セル(SOEC)プロセスと組み合わせ、水の電気分解によりピンク水素((「パープル水素」あるいは「イエロー水素」とも呼称され、原子力発電の電力で水を電気分解して製造された水素を指す。製造工程でCO2を排出しない。))を製造する施設。3社は、SKグループの建設子会社であるSKエコプラント社の本部が置かれているソウル特別市内の「鐘路区」で同ハブの建設を目指しており、今回の合意の下、5年計画でMMRとSOEC統合プラントの商業化を目指した研究開発を共同で実施。価格面の競争力を持った水素製造システムの設置に向けた研究を行うとともに、将来的に水素の製造・供給事業を確立できるよう検証していく。3社の役割分担として、現代エンジニアリング社がMMRのBOP(主機以外の周辺機器)開発とEPC(設計・調達・建設)業務を担う一方、USNC社はMMRの設計と製造、および供給に責任を持つ。SKエコプラント社は、固体酸化物型燃料電池を製造・販売している米ブルーム・エナジー社のSOEC施設を使って、原子力による水素製造システムを確立するほか、関係機器も調達する。第4世代の原子炉であるUSNC社のMMRは、電気出力0.5~1万kWで熱出力は1.5万kW。シリコン・カーバイドで層状に被覆されたウラン粒子を燃料に用いる、小型のモジュール式HTGRである。同炉については、同社とカナダのオンタリオ・パワー・ジェネレーション社の合弁事業体であるグローバル・ファースト・パワー(GFP)社が2019年3月、カナダ原子力研究所(CNL)のチョークリバー・サイトでの初号機建設を念頭に、同国の原子力安全委員会(CNSC)に「サイト準備許可(LTPS)」を申請した。現代エンジニアリング社とUSNC社は、今回の研究開発にこのMMRを活用していく方針。商業用PWRとの比較でMMRは一層高温の蒸気を生産できるため、USNC社はこの高温を活用すれば、少ないエネルギーで水素の製造効率を最大に拡大できるとしている。SKプラント社は、同社とブルーム・エナジー社の合弁事業体であるブルームSK燃料電池社が慶尚北道の亀尾市に設置した130kW規模のSOEC施設を、今回の研究開発に利用する計画である。同施設を使った水素の製造試験はすでに成功しており、韓国政府が主導するグリーン水素((太陽光発電や風力・水力など、再生可能エネルギーの電力で水を電気分解して得られた水素のこと。一方、化石燃料等のCO2を排出する方法で生成された水素ガスは「グレー水素」などと呼称される。))の製造実証プロジェクトにも参加する予定。同社はグリーン水素からアンモニアやメタノールを製造するプロジェクトも推進中であるため、これに「マイクロ原子炉の水素製造ハブ」によるピンク水素を加えることで、無炭素な水素の製造モデルを多様化していく考えである。現代エンジニアリング社のホン・ヒョンソンCEOは今回の3社合意について、「環境に優しく経済的な水素の製造・供給事業を目指しており、これ以外にも当社はプラスチック廃棄物のリサイクルや太陽光、洋上風力などの事業も進めている」と説明。これらを通じて、世界規模のエコ・エネルギー企業として躍進していきたいと述べた。(参照資料:SKエコプラント社(韓国語)、USNC社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの4月21日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
24 Apr 2023
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カナダのニューブランズウィック(NB)州とサスカチュワン(SK)州の両政府は4月17日、両州で第4世代小型モジュール炉(SMR)の建設を念頭に置いた協力の強化で合意し、了解覚書を締結した。この覚書は、両州およびオンタリオ州がカナダ国内におけるSMRの開発と建設に向けて、2019年12月に交わした「協力覚書」に基づくもの。同覚書には2021年4月にアルバータ州も参加し、2022年3月には4州で「SMR開発・建設の共同戦略計画」を策定している。今回の覚書により、双方の州営電力であるNBパワー社とサスクパワー社は、SMRの建設計画や関係するサプライチェーンと雇用環境の構築、規制等に関する知見や経験を共有する。具体的には、NB州が州内の複数地点で建設を計画している米ARCクリーン・テクノロジー社製の第4世代SMR「ARC-100」(電気出力10万kW)を、SK州にも建設する方向での協力になる。SK州はすでに2022年6月、2030年代半ばまでに州内で建設する最初のSMRとして、GE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社製の「BWRX-300」(電気出力30万kW)を選定した。同炉については、オンタリオ州営電力のオンタリオ・パワー・ジェネレーション社がそれよりも先に2021年12月、州内のダーリントン原子力発電所内で、早ければ2028年初頭までに完成させるSMRとして選定。SK州は、オンタリオ州の方針に追随すれば初号機建設にともなうリスクが回避されるなど、カナダ全体で多数のSMRを建設していく上で多くの利点があると説明していた。一方のNB州では、2018年にNBパワー社が同社のポイントルプロー発電所内で、第4世代のSMR実証炉を2種類建設するというプロジェクトを開始。第4世代のSMR開発は同州の「気候変動アクション計画」に盛り込まれており、同州が2035年までにCO2排出量の実質ゼロ化を目指す上で重要な部分を担う。第4世代のナトリウム冷却高速炉技術に基づく「ARC-100」はこの2種類の1つであり、2029年の運転開始が見込まれている。同州ではまた、北部ベルドゥーンの港湾管理局が2022年11月、北部地域の経済成長に向けて開発中の「グリーン・エネルギー・ハブ特別区」における活動の一環として、「ARC-100」の導入を目指すと発表していた。NB州は今回、SMR開発は両州のみならず世界中で、安全かつ信頼性の高い無炭素エネルギーを提供できると指摘。その中でも、第4世代の先進的なSMRは電力のみならず高温熱を生産できるため、様々な産業プロセスの脱炭素化やクリーンな水素の製造には理想的だと述べた。NB州のM.ホランド天然資源・エネルギー開発相も、「原子力発電所の運転では40年の経験があるので、クリーンエネルギーや再生可能エネルギーの開発でNB州はカナダのみならず世界中で主導的役割を担っていく」と明言。原子力は今後、低炭素な社会に移行する際の重要電源になると指摘している。SK州のD.モーガン・サスクパワー社担当相は、「SMR関連で両州はここ数年間に強力な協力関係を築いており、今後は国内外のSMR事業で互いに利益を得ていきたい」と表明。SMR技術の活用で脱炭素化が加速されると述べた。なお、「ARC-100」については、アルバータ州政府も今年3月、州内での建設と商業化に向けてARCクリーン・テクノロジー社と協力する考えを発表している。(参照資料:NB州政府、SK州政府、ARCクリーン・テクノロジー社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの4月18日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
21 Apr 2023
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フィンランド南西部のオルキルオト原子力発電所で4月16日、欧州最大級の出力となる3号機(OL3)(欧州加圧水型炉=EPR、グロス出力172万kW)が試運転を完了、本格的に発電を開始した。同国で新規の原子炉が本格稼働するのは、同2号機が1982年に営業運転を開始して以来約40年ぶりのこと。試運転段階で実施した約3,300項目の試験の結果分析が終わり次第、事業者のティオリスーデン・ボイマ社(TVO)はOL3の営業運転開始を宣言する。最初の定期検査は2024年3月を予定。TVOによると、フィンランドがエネルギー危機への厳しい対応を迫られている最中に、同機によるクリーンな国産エネルギーが追加されることになる。OL3の投入でオルキルオト発電所は今後、同国における総発電電力量の約30%をカバー。OL3は少なくとも60年間の運転が見込まれている。TVOのJ.タンフア社長兼CEOは、「OL3により電力価格が安定するだけでなく、フィンランドのクリーンエネルギーへの移行でも重要な役割を果たす」と指摘。同国が電化を進めていくなかで、環境にやさしいOL3の電力はクリーンエネルギーへの移行の切り札になると述べた。TVOによれば、同機が本格稼働したことでフィンランドは電力の自給がほぼ可能になる。「2035年までにCO2排出量を実質ゼロ化する」との目標を盛り込んだ同国の改正・気候変動法に沿って、CO2ゼロの社会の確立を加速する。OL3の建設プロジェクトが開始された時点で、フィンランドでは原子力を支持する国民の割合が約60%とすでに圧倒的だったが、近年の支持率は過去最高レベルの83%に達している。OL3の建設工事は2005年8月、世界で初めて仏アレバ社(現・フラマトム社)製のEPR設計を採用し、同社と独シーメンス社の企業連合が開始した。初号機であるが故に、規制関係文書の確認作業や土木工事等に想定外の時間を費やした。当初の2009年完成予定のスケジュールはこれまでに幾度となく延期されており、建設コストもターンキー契約による固定価格の約30億ユーロ(約4,400億円)が倍以上に増大した。TVOと前述の企業連合は2018年3月、工事の遅れにともなう損害の賠償について包括的な和解契約を締結。企業連合側が分割払いで総額4億5,000万ユーロ(約664億円)をTVOに支払うほか、OL3の完成に必要な人的、技術的資源も提供することになったその後同機は、約17年間に及んだ建設工事を経て、2021年12月に初めて臨界条件を達成。翌2022年3月には、欧州初のEPRとして試験送電を開始した。この時、営業運転の開始時期は同年7月に予定されていたが、その後冷却系で追加の点検作業が必要になったほか、10月にはタービン系給水ポンプの羽根車で数センチ程度のクラックの存在が判明。新たに設計した羽根車への交換等でさらに時間がかかっていた。EPRに関しては、OL3に続いてフランスのフラマンビル原子力発電所でも2007年12月、同設計を採用した3号機(EPR、165万kW)が本格着工した。現在のスケジュールでは、2024年第1四半期の燃料装荷と試運転開始を目指して作業が進められている。中国でも、広東省の台山原子力発電所1、2号機(各EPR、175万kW)は先行していた欧州の2基の作業経験を生かし、世界初のEPRとして2018年12月と2019年9月にそれぞれ営業運転を開始している。また、英国では南西部のサマセット州でヒンクリーポイントC原子力発電所1、2号機(各UK-EPR、172万kW)が、それぞれ2018年12月と2019年12月から建設中。南東部のサフォーク州でも、サイズウェルC原子力発電所として167万kWのUK-EPRを2基建設する計画が進められており、2022年7月にビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)は同計画に「開発合意書(DCO)」を発給している。(参照資料:TVOの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの4月17日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
20 Apr 2023
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ドイツに最後まで残されていたイザール原子力発電所2号機(PWR、148.5万kW)、ネッカー原子力発電所2号機(PWR、140万kW)、およびエムスラント原子力発電所(PWR、140.6万kW)の3基が、現地時間の4月15日深夜にすべて永久閉鎖された。これにより、ドイツは2011年3月時点で保有していた商業炉17基を全廃し、脱原子力を完了した。ただし、他国向けの原子燃料加工サービスなどは国内で継続する。不足する電力を補うため、2011年当時に約17%だった再生可能エネルギーの発電量は2022年に全体の約50%に拡大したが、再エネだけに適用されている固定価格買取制度等の優遇措置により電気料金は高騰している。また、ロシアによるウクライナ軍事侵攻でノルドストリーム1を経由した天然ガスの供給量が大きく減少したこともあり、ドイツでは石炭火力の発電量が激増、今や発電量全体の三分の一を石炭火力が占めている。フランスの原子力発電所がトラブルやメンテナンス等で予定通り稼働しなかったことから、昨年はフランスからの電力輸入量が一時的に激減したものの、ドイツは今後も引き続き原子力発電によるフランスの電力輸入を見込んでいる。また、欧州の濃縮企業ユレンコ社がドイツのグロナウに置いている濃縮工場も、欧州の他の国にある原子炉向けに操業を継続するなど、ドイツの脱原子力は、EU域内の分業体制の一部を担っているといえる。イザール2号機とエムスラント発電所では今後、それぞれを保有するプロイセンエレクトラ社とRWE社が立地州の州政府から廃止措置許可を取得し次第、燃料集合体の取り出しなど廃止措置の準備作業を開始する。EnBW社はすでにネッカー2号機の廃止措置に必要な許可をすべて取得しており、3社はそれぞれ10年~15年かけて、原子炉を解体していく方針である。2011年の福島第一原子力発電所事故を受けて、当時のA.メルケル政権は同年6月、2022年末までに17基すべての原子炉を廃止するための原子力法修正案を閣議決定、同法案は翌7月に議会で可決した。2021年末までに14基が閉鎖され、今回閉鎖された3基も2022年末までに閉鎖予定だったが、政府はエネルギー供給リスクが増大する今回の冬季を乗り切るため、これら3基の運転期間を3か月半に限り延長していた。プロイセンエレクトラ社によると、1988年に送電開始したイザール2号機は年平均で約120億kWhを発電。同機だけでバイエルン州における電力消費量の約12%を賄っており、同州の約350万世帯に年中無休で約35年にわたって、信頼性の高い無炭素電力を供給した。EnBW社のネッカー2号機は1989年に送電を開始して以来、年間約110億kWhの電力を供給。34年間の総発電量は3,750億kWhにのぼり、バーデン・ビュルテンベルク州における総電力需要の約六分の一、居住世帯の電力需要の三分の二までを賄った。また、炉内の既存燃料で2023年に同機が発電した電力量は19億kWh以上にのぼっている。1988年にニーダーザクセン州で送電開始したRWE社のエムスラント原子力発電所は、35年間の稼働期間中に3,900億kWh以上を発電した。これは、ベルリンにおける近年の電力需要の約31年分に相当する。WNNの報道によると、スイス原子力フォーラムのH.U.ビグラー理事長がドイツの脱原子力完了について、「国際的なエネルギー・気候危機の真っ最中に、政府決定により原子力技術を放棄することは遺憾だ」と表明。「昨年は原子力の段階的廃止と天然ガスによる発電量の不足が、気候に悪影響を及ぼす石炭火力で補われたが、これは欧州全体の気候保全にとって好ましいことではない」と指摘している。ドイツでは昨年8月、公共放送ARDの委託で調査機関のドイチュラントトレンド(DeutschlandTrend)が原子力に対する同国民の意識調査を実施。この時点で、41%が最近のエネルギー情勢から「3基の運転期間の3か月間延長」を支持。同じく41%が「3基の長期的活用が有益」と回答した。(参照資料:プロイセンエレクトラ社、 EnBW社、RWE社、の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの4月14日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
17 Apr 2023
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米国南東部に位置する7州の「水素製造拠点(ハブ)連合」は4月11日、エネルギー省(DOE)の「地域のクリーン水素製造ハブ(H2Hub)」プログラムに、7日までに正式な申請書を提出していたことを明らかにした。同プログラムは、DOEが全米6~10カ所にクリーンな水素の製造ハブを設置するために進めているもので、各地域における水素の製造業者と消費者、接続インフラを結ぶネットワークの基盤構築を目指し、莫大な量のクリーン・エネルギーを貯蔵・配送できる水素の利用加速がねらい。同プログラムはまた、クリーン・エネルギー開発への投資やそれにともなう高レベルな雇用の創出、エネルギーの供給保証強化を通して、全米のコミュニティが恩恵を被る。DOEは今秋にも、申請者の中から連邦政府予算の交付対象者を選定し、同プログラムの拠点とする考えだ。 「南東部州水素製造ハブ連合」の7州は、アラバマ州、ジョージア州、ノースカロライナ州、サウスカロライナ州、テネシー州、ケンタッキー州、およびミシシッピー州。同連合には、これらの州を中心に原子力発電所を運転中のサザン社、デューク・エナジー社、ドミニオン社、テネシー峡谷開発公社(TVA)のほか、ルイビル・ガス&エレクトリック社、ケンタッキー・ユーティリティーズ社、および非営利研究機関のバッテル研究所が所属している。J.バイデン政権は、2035年までに発電部門を100%脱炭素化し、2050年までにCO2排出量の実質ゼロ化を達成する方針。これに向けた戦略として、DOEは産業部門の革新的な技術を用いた水素の製造や精製、配送・貯蔵と最終消費を推進中だ。2021年の「インフラ投資雇用法」に基づいて、クリーンな水素の製造ハブ計画に拠出される80億ドルのうち、70億ドルを「H2Hub」プログラムに投じている。DOEは2022年11月、同プログラムへの応募を検討している各州の水素製造団体に「概念文書」の提出を求めており、「南東部州水素製造ハブ連合」を含む79の団体がこれに応じた。同年12月にDOEは、そのうち33団体に対し、2023年4月7日までに最終申請書を提出するよう通知。これに含まれていた同連合が今回、「H2Hub」プログラムに正式に応募したもので、7州の地域コミュニティや輸送部門、発電部門の消費者が、脱炭素化に向けてクリーンな水素による持続可能なエコシステムを構築する計画である。同連合の応募については、7州のうち5州で選出された超党派の上院議員9名が強い支持を表明しており、今年2月にはDOEのJ.グランホルム長官に、連名で書簡を送付。「南東部州水素製造ハブ連合」の所属州では、輸送や物流、エネルギー、製造、研究に関する主要インフラが集中しており、DOEが同連合を連邦政府予算の交付先に選定すれば、同連合の成長を長期的に支援していくと約束している。(参照資料:サザン社、デューク・エナジー社、TVA、DOEの発表資料、上院議員連名書簡、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの4月13日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
14 Apr 2023
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インド政府で原子力や科学技術を担当するJ.シン閣外専管大臣は4月9日、2047年までに同国の総発電電力量に占める原子力の割合が9%近くまで増大するとの見通しを明らかにした。インドは2070年までにCO2排出量を実質ゼロ化するという目標を掲げているが、原子力を目標達成の一助とする方針である。これは同相がムンバイで、バーバ原子力研究センター(BARC)および原子力省(DAE)の研究主幹グループと検討会議を行った後に公表した。同相はまた、5日に議会下院で、国内の原子炉22基が2021年から2022年の間に総発電量の3.15%に相当する471億kWhを発電したと書面で表明。同相によると、DAEは現在678万kWの原子力発電設備容量を、2031年までに約3倍の2,248万kWに増強する目標を設定しており、米国やフランスなどと肩を並べる原子力大国となることを目指している。このため、政府は建設中の原子炉(このうちカクラパー3号機は2021年に送電開始)に加えて、さらに10基の建設計画を2017年5月に原則承認。これら10基はすでに、行政上の承認と財政的な認可を受けている。具体的には、南西部カルナタカ州のカイガ原子力発電所5、6号機、北部ハリヤナ州のゴラクプール3、4号機、中央部マディヤ・プラデシュ州のチャッカ1、2号機、および北部ラジャスタン州のマビ・バンスワラ1~4号機で、これらはすべて出力70万kWの国産加圧重水炉(PHWR)となる予定である。このように急速な原子力発電開発の進展は、N.モディ首相の肝入り。新規の10基は首相の指示で承認されたもので、原子力法の修正によりインド原子力発電公社(NPCIL)はその他の政府系企業と合弁でこれらの建設が可能になった。モディ政権の特徴の一つとして、国内の様々な分野で原子力利用が幅広く進められており、農産物や果物の保存、ガンその他の疾病治療に最新の原子力技術を応用するなど、インドは原子力の平和利用拡大に大きく貢献している。インドで稼働中の原子炉は大部分が低出力の国産PHWRで、最大のものはカクラパー3号機の70万kW。タミル・ナドゥ州でロシア企業が建設したクダンクラム原子力発電所の2基(各PWR、100万kW)は、同国で唯一の大型軽水炉である。前述の新規の10基は本格的な原子力国産化イニシアチブの一部であり、重要なプロジェクトと位置付けられている。その他、インドは、米国やフランスなどからの大型原子炉の導入をめざし、交渉を進めている模様である。(参照資料:インド政府の発表資料①、②、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの4月11日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
13 Apr 2023
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英国と韓国の両政府は4月10日、共同宣言を発表した。同宣言の中で両国は、原子力や再生可能エネルギーなどクリーン・エネルギーの開発加速やエネルギー供給の確保に向け、これまで以上に緊密に協力していく姿勢を示した。韓国側はこれにより、英国の新規原子力発電所建設プロジェクトに韓国企業が参加できる可能性が高まったと指摘。洋上風力発電や水素製造等、その他のクリーン・エネルギー分野でも協力していくとしている。今回の共同宣言は、英国・エネルギー安全保障・ネットゼロ省(DESNZ)のG.シャップス大臣が、札幌で開催される「G7気候・エネルギー・環境大臣会合」に向かう途中、訪韓したことにともなうもの。同相はソウルで韓国・産業通商資源部(MOTIE)のイ・チャンヤン長官と、クリーン・エネルギー関係の様々な協力について協議した。シャップス大臣は、「石炭や天然ガスに依存した発電がもはや経済的に成立しないという転換点に我々は近づいている」と指摘。その上で、韓国に対し英国への投資を呼びかけた。イ長官は、「韓国では電力の安定供給を確保しながらCO2の排出量を実質ゼロ化するため、エネルギーの移行に向けた政策を幅広く推進中だ」と表明。達成可能なレベルまで再エネの拡大を適切に進めつつ、CO2を排出しない原子力の利用を継続していくと述べた。共同宣言に盛り込まれた主な協力項目は以下の通り。原子力発電所の建設計画を加速する。堅固で回復力の強い原子力サプライチェーンの構築計画を進め、小型モジュール炉(SMR)など最新の先進的原子力技術の開発経験を共有する。CO2の排出量が多い未対策の石炭火力発電所からの脱却と、再生可能エネルギーの拡大を積極的に進める。英政府は先月末、クリーン・エネルギーによる長期的なエネルギーの供給保証と自給の強化に向けた新たな投資対策「Powering Up Britain」を公表。その中で、昨年4月の「エネルギー供給保証戦略」に盛り込んだ「大英原子力(Great British Nuclear=GBN)」の設置計画を具体化していた。GBNは明確な費用対効果が見込まれることを確認しながら、原子力発電所開発プロセスの各段階で事業者に支援を提供する機関。DESNZによると、今回の韓国との協力強化は「Powering Up Britain」を補完する役割を担っており、GBNがグリーン技術の開発にもたらす数十億ポンドの投資金を通じて、国際的なエネルギー取引で利益を上げ、英国経済の活性化や雇用の創出、エネルギーの供給保証と自給につなげていく考えだ。一方のMOTIEは、韓国側の強みとして原子力発電所の設計や建設、主要機器の製造に秀でていると表明。英国側の強みが原子力施設の廃止措置や原子燃料の製造にあることから、両国間の協力強化を通じて双方がともに利益を得られると強調している。参照資料:DESNZ、MOTIEの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの4月11日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
12 Apr 2023
2053
インドネシアの原子力規制庁(BAPETEN)は3月29日、米国のデベロッパーThorCon社が開発したトリウム溶融塩炉「TMSR-500」(電気出力25万kWのモジュール×2基)の設置に向けた認可手続きの実施準備として、原子力安全と核セキュリティ、および保障措置(3S)に関する関係者との事前協議を開始した。これは同日、BAPETENがThorCon社のインドネシア子会社であるThorConパワー・インドネシア社と交わした実施合意書に基づくもの。同協議では12か月かけて、原子力発電所の規制当局や事業者、原子力産業界等の関係者が正式な手続きの開始準備を整える。また、「TMSR-500」の建設マスター・プランを審査するとともに、関係各位の役割と責任の所在、採用設計の準備状況評価、建設スケジュール、申請用の技術文書や行政文書の書式と範囲、適用される法令と規制等を記した「ロードマップ」も作成する。インドネシア初となる「TMSR-500」の実証炉はスマトラ島の東方沖、バンカ島とビリトゥン島の間に位置するケラサ(Kelasa)島に2029年までに設置する予定で、ThorCon社は事前協議の終了後、認可申請を行う計画である。ThorCon社はまた、将来的にインドネシアで「TMSR-500」の製造・組立ラインを設置したいと考えており、インドネシアの複数の大学に溶融塩炉技術に関するプログラムの設置を働き掛けている。このような活動を通じて、同社はインドネシア経済に新たな産業を生み出し、同国がクリーン電力に移行するのを支援していく考えだ。「TMSR-500」は浮揚式発電所としてバージ(はしけ)に搭載される原子炉で、設置点の浅瀬まで曳航されて送電網に接続。近隣地域の電力需要を満たすことになる。「TMSR-500」の建設実現に向け、ThorCon社は2022年1月にスペインのエンジニアリング企業「Empresarios Agrupados Internacional (EAI)」を設計エンジニアリング担当に指名している。今回の発表によると、BAPETENは前日の28日、首都ジャカルタで原子力発電所の建設認可手続きに関する委員会を開催した。海洋・投資問題調整省やエネルギー・鉱物資源省といった関係省庁、国家エネルギー委員会、国立研究革新庁(BRIN)などのほか、2019年に「TMSR-500」の研究開発・建設に関する契約をThorCon社と交わした国有の艦船建造企業PT PALインドネシア社、ThorConパワー・インドネシア社、フランスの検査認証企業ビューロー・ベリタス社等の代表者が出席した。委員会の出席者はまず、再生可能エネルギーや原子力など新たな無炭素エネルギー源の研究開発を促進して、CO2排出量の実質ゼロ化に移行していくという同国の方針を確認。インドネシア政府は国内エネルギー・ミックスの信頼性を維持するため、原子力で2035年までに800万kW、2060年までに3,500万kWの発電設備導入を目指している。このため、BAPETENは委員会で発電所の管理を担うすべての関係者に「TMSR-500」建設に向けた初期情報を提供。関係省庁や国有企業、民間部門、学術界、一般国民が緊密に連携し合うことによってのみ、クリーンエネルギーへの移行が成し遂げられると説明した。同委の終了時には、出席者が事前協議の実施条件や責任範囲を示した文書に調印したほか、ThorCon社が「TMSR-500」の実行可能性調査や日程に関する文書を提示した。インドネシアでは電力需給のひっ迫等を理由に、1980年代に原子力発電の導入が検討されたが、建設予定地における火山の噴火や地震の可能性、福島第一原子力発電所事故などが影響し、100万kW級大型炉の導入計画は進展していない。一方、初期投資の小ささや電力網への影響軽減等の観点から、中小型炉への関心は維持されており、インドネシア原子力庁(BATAN)は2018年3月、大型炉導入の前段階として小型高温ガス炉(HTGR)を商業用に導入するため、熱出力1万kWの実証試験炉の詳細工学設計を開始している。(参照資料:BAPETENの発表資料①(インドネシア語)、②、ThorCon社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの4月5日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
11 Apr 2023
2624
米テラパワー社製のナトリウム冷却高速炉「Natrium」(電気出力34.5万kW~50万kW)の初号機建設をワイオミング州で計画中の電気事業者パシフィコープ社は3月31日、2033年までにさらに2基を建設する方針であることを明らかにした。追加の2基はユタ州で建設する方向だが、候補地を最終決定する前に地元のコミュニティ等と十分協議を重ねる考えだ。パシフィコープ社はワイオミング州など西部6州に電力供給しており、同日公表した「2023年統合資源計画(IRP)」に2基の追加建設を盛り込んだもの。同社はCO2を実質的に排出しないエネルギー・システムへの移行を目指しており、風力や太陽光の発電所を大規模に建設する一方、原子力については合計3基の「Natrium」で150万kWの設備容量を自社設備に加える計画である。「Natrium」はGE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社の小型モジュール式高速炉「PRISM」の技術に基づき、テラパワー社がGEH社と共同開発している原子炉。電気出力は34.5万kWだが、テラパワー社が開発した100万kWh規模の溶融塩エネルギー貯蔵システムと組み合わせることにより、ピーク時には出力を50万kWまで拡大し5.5時間以上稼働することができる。テラパワー社によると、急速に普及している再生可能エネルギーの間欠性を同炉で補えば、送電網に接続する発電技術としては理想的なものになる。パシフィコープ社はこの「Natrium」の実証炉と溶融塩のエネルギー貯蔵システムを組み合わせて、2030年までにワイオミング州南西部ケンメラー(Kemmerer)にある同社の閉鎖予定の石炭火力発電所に建設する予定。昨年秋には、パシフィコープ社とテラパワー社は「Natrium」を追加で最大5基建設することを念頭に、共同調査を実施すると表明していた。今回追加で2基、100万kW分の建設が決まったのに続き、両社は2035年までに同炉をさらに追加で建設する可能性を共同で模索していく考えだ。この「Natrium」炉とエネルギー貯蔵システム、2つの施設の建設については、米エネルギー省(DOE)が2020年10月、「先進的原子炉設計の実証プログラム(ARDP)」の支援対象に選定した。同プログラムにより、「Natrium」の実証炉や商業炉はこの10年間で本格的に稼働できる見通しとなった。テラパワー社とパシフィコープ社は「Natrium」を市場に投入し、エネルギーの安定供給に寄与したいとしている。テラパワー社のC.レベスク社長兼CEOは、「脱炭素化に資する設備の建設を進める事業者にとって、CO2を排出せず出力調整が可能な『Natrium』と大規模エネルギー貯蔵システムは非常に有効だ」と指摘。これらの施設建設を通じて、高レベルの雇用と数十年間利用可能な発電設備を地元コミュニティに提供できるよう、パシフィコープ社と協力していきたいと述べた。(参照資料:テラパワー社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの4月5日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
10 Apr 2023
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韓国の産業通商資源部(MOTIE)は3月29日、前政権が白紙撤回した新ハヌル(新蔚珍)3、4号機(各PWR、140万kW)の建設に向けて、韓国水力・原子力会社(KHNP)が今後10年間の関係業務で約2兆9,000億ウォン(約2,900億円)の契約を斗山エナビリティ社と締結したと発表した。具体的には、設計・製造に長期間を要する原子炉や蒸気発生器、タービン発電機などの製造・供給契約が正式に結ばれたもの。3、4号機はそれぞれ2032年と2033年の完成を目指しており、今年の上半期に環境影響評価を完了後、MOTIEでは早ければ7月にも電源開発事業の実施計画として承認する予定である。これにともないKHNP社は同日、両機の環境影響について再検討した評価書案の公聴会を開催した。斗山エナビリティ社はすでに今年2月までに、450億ウォン(約45億円)規模の業務を下請け企業に予備的に発注。KHNP社から今回受注した契約を通じて、今年中にさらに約2,100億ウォン(約209億円)の業務を追加発注するとしている。2022年5月に発足したユン・ソンニョル(尹錫悦)政権下のMOTIEは、脱原子力政策の影響で経営難に陥った原子力産業界の中小企業に対し、昨年だけで4,000億ウォン(約400億円)規模の緊急金融支援を提供した。4月以降はさらに、2,000億ウォン(約200億円)規模の低金利「特別金融プログラム」を施行する計画。このように円滑な融資を企業側に提供することで、MOTIEは韓国の原子力サプライチェーン再建に万全を期す考えである。このプログラムについては、すでにMOTIEと国策銀行の韓国産業銀行、KHNP社、および斗山エナビリティ社が共同業務協約を締結しており、同行の金利優遇策、およびKHNP社と斗山社の資金貯蓄に基づき、3~5%台の低金利融資を提供。一次分として500億ウォン(約50億円)規模の融資を開始したのに続き、8月には二次分としてさらに1,500億ウォン(約150億円)規模の融資を行い、中小企業の経営難克服支援に総力を傾けるとしている。輸出拡大に向け「ツー・トラック戦略」を推進なお、MOTIEは同日、韓国企業による原子力発電所の輸出拡大を目指し、国営企業と中小の機器製造企業が共同で輸出を行う現行の方式と、単独輸出が可能な中小企業を100社育成するという「ツー・トラック戦略」を推進していくと発表した。2027年までに現行方式で合計5兆ウォン(約5,000億円)規模の輸出契約受注を目指す一方、輸出の意思と潜在能力を持つ中小企業を選定し、輸出の前段階で最大5年間サポートするという特別プログラムを新設する。このような計画を「原子力発電所の機器・資材輸出の活性化案」に取りまとめ、第4次原子力発電所輸出戦略推進委員会で明らかにしたもの。MOTIEによると、世界では近年原子力発電所の新規建設と既存炉の運転期間延長等により、機器・資材の需要が増加している。しかし、主要な供給国は過去に建設計画が停止したこと等が影響し、これらの製造能力が低下。これにより、グローバルな原子力サプライチェーンに韓国企業が参入する機会が拓かれている。韓国企業の原子力機器・資材輸出は、過去5年間(2017年~2021年)に143件、5.3億ドルに留まっており、その前の5年間(2012年~2016年)との比較では、件数で43%、契約額では12.4%減少した。このうち、中小企業の単独輸出は全体の9%(件数)であり、ほとんどは国営企業が受注したプロジェクトの下請け輸出だった。韓国政府としては、このような現状を打開する方針であり、新規原子炉の建設プロジェクトや既存炉の改修工事、および原子燃料工場の建設など、事業規模が大きくて機器・資材メーカーが数多く参加できる大型事業に集中する。また、付加価値の高い単品の機器・資材やメンテナンスサービス、小型モジュール炉(SMR)などにも、輸出分野を多様化していくとしている。(参照資料:MOTIEの発表資料①、②、KHNP社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの3月29日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
06 Apr 2023
2273
カナダ連邦政府は3月28日に2023年度(2023年4月~2024年3月)の政府予算を公表、同国がエネルギー供給を確保しつつクリーンなエネルギー技術に移行する上で原子力は欠かせないとの認識から、これを強力に支援していく姿勢を明確に打ち出している。カナダ原子力協会(CNA)の分析によると、原子力はクリーン・エネルギーに対する投資税額控除(ITC)の対象に加えられただけでなく、その他の優遇税制にも幅広く組み込まれており、クリーン・エネルギー技術の分野で一層公平な事業機会を与えられるとともに、CO2を排出しないその他の電源とも対等に競合できるようになる。同予算はまた、それ以前に公表された一連の共同声明で、世界的なエネルギーの移行に原子力が重要な役割を果たすと認められたことを反映している。カナダのJ.トルドー首相と米国のJ.バイデン大統領は3月24日の共同声明で、従来の大型原子炉や先進的原子炉も含めたクリーン・エネルギー、および北米の関係サプライチェーンについて協力を加速する必要性があると指摘。これにともない、カナダの天然資源省と米エネルギー省(DOE)は同月27日、協力の範囲や調整が必要な分野の詳細を明らかにしていた。カナダの2023年度予算はこれらの声明内容を実行に移す具体策を示したもので、両国間の協力を強化することで競争のパラダイムから離れ、互恵的な北米の統合原子力エコシステムを構築することを目指している。CNAのJ.ゴーマン理事長兼CEOは、「今回の予算で原子力に対する連邦政府のアプローチが大幅に変化した」と指摘。「原子力はもはや検討事項ではなくなり、カナダが低炭素なエネルギー・システムに移行するのに必要かつ基本的なエネルギーと認識されている」と述べた。同予算では具体的に、クリーン電力への投資に対し税額が15%控除されるというITCが新たに導入され、小型モジュール炉(SMR)や大型原子炉の建設、既存炉の改修プロジェクトなど、あらゆる規模の原子力発電計画に適用が可能。官民を問わずすべての事業者が利用できるとしており、州を跨いだ送電網の機器にも適用される。このITCは、2022年度予算でC.フリーランド副首相兼蔵相が導入した「クリーン・エネルギー技術に対するITC」とは別枠になる。クリーン・エネルギー技術のITCは昨年秋の経済声明で詳細が公表されており、SMRなど無炭素な発電技術への投資に対し最大30%の税額が控除される仕組みである。今回の予算ではまた、クリーン・エネルギー技術の機器製造に対し設備投資の税額30%を控除するというITCも盛り込まれた。同ITCでは、原子力機器や原子燃料の処理・リサイクル機器の製造が対象となる予定である。CNAによるとこれらのほかに、原子力発電の支援で導入された措置としては以下のものが含まれる。無炭素なエネルギー技術の機器製造業者に対する軽減税率を、原子力発電部門にも拡大適用する。機器製造のITCと同様に、原子力機器や原子燃料の処理機器等が対象に加えられた。カナダ・インフラ銀行に追加で200億カナダドル(約1兆9,600億円)を供与し、同行を通じてクリーン電力分野に最大100億加ドル(約9,800億円)、グリーン・インフラ分野に100億加ドルを投資、無炭素エネルギーへの移行加速に活用する。規制審査や承認手続きの簡素化に向けて、関係予算を13億加ドル(約1,300億円)増強する。対象機関はカナダ原子力安全委員会(CNSC)や環境影響評価庁など。クリーン・エネルギー経済への移行に民間投資を呼び込むため、政府の投資や企業の利益を管理している「開発投資公社」と、公務員の年金管理を担当する国営企業「公務員年金投資委員会」の間で連携協力する。10年以上の期間に「戦略的イノベーション基金」に5億加ドル(約490億円)を供与する。同基金ではこれまで、モルテックス社やウェスチングハウス(WH)社、テレストリアル・エナジー社のSMRプロジェクトに対する支援が提供された。(参照資料:CNA、カナダ連邦政府の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの3月30日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
05 Apr 2023
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米国のA.W.ボーグル原子力発電所3号機(PWR、110万kW)が4月1日、送電網に接続され、送電を開始した。同機は米国で約30年ぶりに完成した新規炉で、ウェスチングハウス(WH)社製の第3世代+(プラス)炉「AP1000」としては国内初号機となる。同機は3月6日に初臨界を達成しており、送電網への初併入は起動試験の一部である。今後はフル出力まで様々な出力レベルで試験を実施。起動試験で信頼性が確認できれば、5月~6月に供用を開始する。同機を所有するジョージア・パワー社のK.グリーン会長兼社長兼CEOは、「新しい原子炉が今後60年~80年間、クリーンな電力を顧客に提供する記念すべき局面に、会社の新たなトップとして立ち会えたことを名誉に思う」と表明。同CEOは、自身がジョージア・パワー社の親会社であるサザン社のエンジニアだった当時、原子力発電所の建設がジョージア州にとって長期的に重要と確信して、ボーグル1、2号機の運転に携わっていた経験を回顧。「3号機の商業運転開始が近づくなか、この増設計画とボーグル発電所に関わるすべての専門家たちは、ジョージア州がクリーン・エネルギーによる未来を築くのに貢献できることを誇りに思うだろう」と述べた。なお、3号機から8か月遅れで本格着工した4号機では、燃料の装荷に先立つ最後の重要試験である温態機能試験が先月から始まっており、供用開始は今年の第4四半期後半~2024年第1四半期の終わり頃になる見通しである。温態機能試験では4台の冷却材ポンプが放出する熱を使って、同機の機器・システムで通常運転時に設計通りの温度や圧力が得られるか確認。その後はメイン・タービンの回転を通常運転時の速度に上げ、安定性等を確認する。同試験ではまた、運転員が運転手順の確認等を行うことになる。 ボーグル3、4号機は2013 年3月と11月にそれぞれ着工されており、サザン社最大の子会社であるジョージア・パワー社が同プロジェクトに45.7%出資。このほか、オーグルソープ電力とジョージア電力公社(MEAG)、およびダルトン市営電力がそれぞれ、30%と22.7%、および1.6%出資している。同様にAP1000設計を採用したサウスカロライナ州のV.C.サマー2、3号機増設計画は、2017年3月のWH社の倒産申請を受けて中止となったが、ボーグル3、4号機増設計画では、WH社の当時の親会社である東芝が同年12月に保証金の残額を一括で早期弁済。サザン社のもう一つの子会社であるサザン・ニュークリア社が全体的なプロジェクト管理を引き継いで、建設工事を継続している。ボーグル3、4号機の運転も同社が担当する予定である(参照資料:ジョージア・パワー社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの4月3日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
04 Apr 2023
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