米ホルテック・インターナショナル社のインド現地法人は8月3日、インドで稼働するロシア製原子炉向け「燃料ラック」を、インド原子力発電公社(NPCIL)から受注した。クダンクラム原子力発電所で発生する使用済燃料や破損燃料を、サイト外で貯蔵する際に使用される。NPCILはインドで稼働する民生用原子力発電所をすべて保有・運転しており、インド南端タミルナドゥ州の東海岸にあるクダンクラム発電所では、同国で唯一の大型軽水炉である1、2号機(各100万kWのロシア型PWR=VVER-1000)をそれぞれ2014年と2017年から運転中。ロシア国営の原子力総合企業ロスアトム社は、引き続き現地で3~6号機(各VVWE-1000)も建設中だが、エネルギー関係の総合ソリューション企業であるホルテック社が今回受注した燃料ラックは1、2号機用として使われる。ホルテック社のインド子会社はすでに今年2月、クダンクラム1、2号機の使用済燃料を発電所外貯蔵施設まで輸送するための同社製キャスク「HI-STAR 149」を2台、NPCILから受注した。このキャスクでは、同社がウクライナの原子力発電所に納入した3台のキャスク「HI-STAR 190」と同様、VVER燃料の輸送と貯蔵に必要な機器の設計や安全解析が施されており、優れた放射線遮へい性能や放熱性能、臨界制御性能などを有している。今回の燃料ラックでは、同社が開発した中性子吸収材「メタミック(Metamic)」を使用する。ホルテック社の説明によると、同材および同じく独占使用権があるハニカム構造技術を採用することで、地震時にラックの動的レスポンスを最小化。想定されるすべての事故事象の下で、最大の臨界制御裕度を維持することが可能である。同社はまた、インドのN.モディ首相が2014年に提唱した外国資本の投資呼び込み政策「メイク・イン・インディア」に従って、米オハイオ州の製造部門が供給したメタミック板をインドに持ち込み、ラックを製造する方針。インド西海岸のグジャラート州ダヘジに同社のアジア子会社の製造プラントがあることから、同社はそこで、NPCILが現地で承認済みの機器サプライヤーと協力してラックを組み立てる。その際、インド西部のマハラシュトラ州プネーにある同社のエンジニアリング・設計センターが、顧客であるNPCILとの調整など、製造プロジェクトの運営にあたるとしている。(参照資料:ホルテック社の発表資料①、②、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの8月4日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
08 Aug 2022
2249
米原子力規制委員会(NRC)は8月3日、ジョージア州のA.W.ボーグル原子力発電所で建設中の3号機について、サザン社の子会社で同炉の運転会社となる予定のサザン・ニュークリア・オペレーティング社に対し燃料の装荷と運転の開始を許可した。3号機は、NRCが1990年代に制定した新しい新規原子炉の許認可プロセスである「10CFRパート52」((建設認可と運転認可に分かれたこれまでの許認可プロセス「10CFRパート50」に対し、パート52ではこれら2つを一本化。事前サイト許可(ESP)と設計認証(DC)、および建設・運転一括認可(COL)の取得を事業者に義務付けることで、設計標準化の推進や(原子炉を建設した後に運転認可が下りない等)許認可手続きにおける不確実性の低減を狙っている。))の下で建設された最初の原子炉。サザン社のもう一つの子会社で、3号機および同じく建設中の4号機(各PWR、110万kWのウェスチングハウス社製AP1000)を45.7%所有するジョージア・パワー社は、今後数週間かけて3号機への燃料装荷と起動試験に向けた最終的な準備作業を進め、その後数か月かけて起動試験を実施する。同試験では一次系や蒸気供給系が設計通りの温度や圧力を得られるかなど、総合的な運転機能を実証する。同炉を冷温停止状態から臨界条件を達成できる状態に変えた後に送電網へ接続し、出力を100%まで徐々に上昇させる試験を行う方針である。今年2月時点のスケジュールでは、同炉の運転開始は2023年の第1四半期末に予定されている。サザン社の今回の発表によると、同炉では安全性と品質に関する398項目の厳しいチェックが行われ、サザン・ニュークリア社のチームは、建設・運転一括認可(COL)に明記された「(運転開始前の)検査、試験、解析と受け入れに関する基準(ITAACs)」を同炉がすべて満たしているとの文書を取りまとめてNRCに提出した。NRCは同文書およびその他の提出物を徹底的に審査した上で、「同炉がこのCOLとNRCの規制に従って建設され、運転も行われる見通し」であることを確認。今回正式な連絡書簡にこの確認事項書「103(g)」を含めて、サザン・ニュークリア社に送付している。NRC原子炉規制局のA.ベイル局長は、「ボーグル3号機が適切に建設されたこと、また運転段階に移行しても周辺住民の健康や安全性に害を及ぼさないことが確認された」と表明。同発電所に常駐するNRCの検査官が、今後も3号機で行われる燃料の装荷と起動試験への移行を厳正に監視する予定であると述べた。NRCはまた、同炉の安全確保に引き続き重点的に取り組む考えで、次世代の新しい原子炉を認可していくなかでこの方針を堅持するとしている。ジョージア・パワー社のC.ウォマック社長兼CEOは、NRCの確認事項書「103(g)」について、「3、4号機の建設に際し、当社が最新の厳しい安全基準や品質基準を順守していることが示された」と指摘。これら2基はジョージア州の重要かつ長期にわたる投資案件であり、運転を開始すれば60年~80年にわたって信頼性の高いクリーンな無炭素エネルギーを州民にもたらすと強調している。(参照資料:NRC、サザン社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの8月4日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
05 Aug 2022
2132
現在英国で運転中のすべての商業炉を保有・運転しているEDFエナジー社は8月1日、イングランド南西部サマセット州のヒンクリーポイントB(HPB)原子力発電所1号機(改良型ガス冷却炉=AGR、65.5万kW)を永久閉鎖した。HPBではすでに今年7月、1号機よりも先に運転開始した2号機(AGR、65.5万kW)が閉鎖されており、無炭素な電力を46年以上にわたり発電してきた同発電所は今回、その主要業務を終了。今後は数週間から数か月の間に燃料の抜き取り準備を行い、3~4年かけて抜き取りの実作業とセラフィールドにある貯蔵施設への移送を実施する。その後発電所は原子力廃止措置機構(NDA)に引き渡される。ヒンクリーポイントでは、A発電所として出力約30万kWの黒鉛減速ガス冷却炉(GCR)が2基、1965年から2000年にかけて稼働した。B発電所では1976年2月に2号機が送電開始した後、同年10月に1号機が送電を開始しており、両機による閉鎖までの総発電量は3,110億kWhにのぼる。EDFエナジー社によると、この電力量は英国の全世帯が必要とする需要量の約3年分に相当するほか、同発電所が立地する南西部においては33年分に相当する。B発電所はまた、1億700万トンのCO2排出を抑制したことになり、これを76.89ポンド(約1万2,500円)/トンの炭素排出量価格で換算した場合の価値は83億ポンド、車両からの排出量に換算すると5,100万台分に相当する。同発電所だけで約500名の従業員と約250名の契約業者を雇用しており、地元サマセット州に対する経済貢献は年間約4,000万ポンド(約65億1,200万円)だったと同社は強調している。隣接するヒンクリーポイントC(HPC)原子力発電所では、170万kW級のフラマトム社製・欧州加圧水型炉(EPR)を2基建設する計画で、2018年12月に1号機が本格着工。EDFエナジー社が同計画の最終投資判断を下した2016年9月当時、1号機の送電開始は2025年末に予定されていたが、新型コロナウィルスによる感染の世界的拡大等により、現在は2027年6月に再設定されている。(参照資料:EDFエナジー社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの8月1日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
04 Aug 2022
2390
米原子力規制委員会(NRC)は7月29日、「ニュースケール・パワー・モジュール(NPM)」の設計認証(DC)審査で、NPMを米国内で建設可能な標準設計の1つに認証するための最終規則を発行すると発表した。同規則が連邦官報に公表された日から30日後に、NPMのDCが有効になる。NPMは、ニュースケール・パワー社が開発した電気出力5万kWの小型モジュール炉(SMR)。同社は2016年12月末日、NPMのDC審査をNRCに申請した。同審査の技術審査と最終安全評価報告書(FSER)の発行が2020年8月までに完了し、NRCスタッフはNPMを「技術要件を満たす」と判断、2020年9月に「標準設計承認(SDA)」を発給した。今回、同設計で最終認証規則の制定が完了したことから、NRCは同設計がNRCの定めた安全要件をすべて満たしたことになると説明。SMR初のDCが発給されることになった。今後、米国内でNPMの建設と運転に向けた一括認可(COL)が申請された場合、DC規則で解決済みの課題に取り組む必要がなくなり、発電所の建設が提案されているサイトに特有の安全性や環境影響について残りの課題のみに対処することになる。NPMは1つの発電所に最大12基を接続可能なPWRタイプのSMRで、運転システムや安全系には重力や自然循環などを活用、すべてのモジュールが地下プール内に収められる設計である。NRCはこれまでに、GEニュークリア・エナジー社の「ABWR」、ウェスチングハウス社の「システム80+」と「AP600」、および「AP1000」、GE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社の「ESBWR(高経済性・単純化BWR)」、韓国電力と韓国水力・原子力会社(KHNP)の「APR1400(改良型加圧水型炉)」に対し、DCを発給済みである。「NPM」の初号機については、ユタ州公営共同事業体(UAMPS)が1モジュールの出力が7.7万kWのNPMを6基備えた設備「VOYGR-6」をアイダホ国立研究所内で建設する計画を進めており、最初のモジュールは2029年の運転開始を目指している。ニュースケール社側もこれに加えて、出力7.7万kWのNPM「ニュースケールUS460」についてNRCからSDAを取得するため、今年の第4四半期に申請書の提出を予定している。米国内ではこのほか、ウィスコンシン州のデーリィランド電力協同組合が今年2月、供給区内でニュースケール社製SMRの建設可能性を探るため、ニュースケール社と覚書を締結した。米国外では、カナダやチェコ、ウクライナ、カザフスタン、ブルガリアなどの企業が国内でのNPM建設を検討しており、それぞれが実行可能性調査等の実施でニュースケール社と了解覚書を締結。ポーランドでは、鉱業大手のKGHMポーランド銅採掘会社が今年2月、「VOYGR」設備をポーランド国内で建設するため、ニュースケール社と先行作業契約を交わした。また、ルーマニアでは今年5月、同国南部のドイチェシュティにおける「VOYGR-6」建設に向けて、国営原子力発電会社とニュースケール社、および建設サイトのオーナーが了解覚書を結んでいる。(参照資料:NRCの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの8月2日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
03 Aug 2022
3092
フランスの原子力安全規制当局(ASN)は7月29日、国内の一部の原子炉で一次冷却系の溶接部に応力腐食割れ(SCC)を確認した件について、フランス電力(EDF)が提案した対応戦略は適切であるとの評価を公表した。 ASNはこれまでの知見から、130万kW級の「P4シリーズ」8基((パリュエル(4基)、サンタルバン・サンモーリス(2基)、フラマンビル(2基)))、および90万kW級の原子炉34基ではSCC現象が発生する可能性は低い、あるいは非常に低いと見ている。EDFは2025年までに保有・運転する56基の原子炉すべてについて同様の点検を行う予定だが、150万kW級の「N4」シリーズ4基((シボー(2基)、ショー(2基)))、および130万kW級の「P’4」シリーズ12基((ベルビル(2基)、カットノン(4基)、ゴルフェッシュ(2基)、ノジャン・シュール・セーヌ(2基)、パンリー(2基)))については、SCCが最も発生し易いと思われる部分を優先的に点検する。その際は、最新の超音波探傷試験装置を使用する方針だ。事の発端は、EDFが昨年末に「N4シリーズ」のシボー原子力発電所1号機で実施した10年に一度の大掛かりな安全審査。その際、同炉の一次系を予防措置的に点検したところ、安全注入系(SIS)配管の溶接部付近でSCCが認められた。そのため同じく「N4」シリーズのシボー2号機、およびショーB1、B2号機でも同様の点検を行った結果、シボー2号機とショーB2号機で同様の現象が見られた。EDFはまた、「P’4」シリーズのパンリー1号機でも、10年毎の安全審査で予防措置的点検を行い、同炉のSIS部分でSCCを確認している。EDFはシボー1号機でSCCを認めた後、現象の発生個所の特定と分析のため、12の原子炉を停止させるなど大掛かりな調査などを行った。ASNの発表によると、EDF傘下の研究所では8基の原子炉溶接部の採取試料で約70件の評価作業を実施しており、その分析結果がEDFの今回の対応戦略作成に大きな役割を果たしている。EDFはSCCが最も発生しやすい個所として、「N4」シリーズの4基については、冷却系の低温側冷却材が流れる部分のSIS、および残留熱除去系の取水ライン、「P’4」シリーズの12基については同じく、低温側冷却材部分のSISを挙げている。 (参照資料:ASN、EDFの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月27日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
02 Aug 2022
3997
ポーランドのレグニツァ経済特別区運営会社(Legnica Special Economic Zone SA=LSSE)は7月28日、エネルギーの効率化サービスを提供しているDBエナジー社とともに、米ラスト・エナジー社が開発した小型モジュール炉(SMR)を同国南西部のレグニツァ地区内で10基建設することを目指し、3社で基本合意書を交わした。LSSE社は、ポーランドの地方経済活性化のために定められた経済特別区関係の複数の法規に基づき、有利な条件の下で同区内での事業を許された投資家のための運営企業。3社による今回の合意では、LSSE社と同区内のテナントがSMRの発電電力を、少なくとも24年にわたり購入する契約の締結意思が含まれている。ラスト・エナジー社のSMRは実証済みのPWR技術を用いたモジュール式の設計で、電気出力は2万kW。これを10基建設することで総設備容量は20万kWになり、ベースロード用電源としての活用が可能になる。LSSE社はこのプロジェクトを通じて、無炭素な電力を同区内で安全かつ安定的に供給する技術に、投資が確実に行われるとしている。LSSE社の発表によると、専門家の予測として、今後数年間でエネルギー価格の高騰から火力発電所の稼働率が低下する。こうしたことから、ポーランドでは原子力への投資意欲が高まっており、3社は今回の合意に向けた活動を今年6月に開始、SMRを産業利用するための準備作業で議定書も締結済みである。今回の合意についてLSSE社のP.ボゼック社長は、「エネルギーの供給量不足という世界的な課題については様々な議論がなされているが、レグニツァ地区内の工場ではSMRという新たな解決策によって、無炭素なエネルギーを安全かつ安定的に得られる可能性がある」と指摘。「当社はCO2を排出しないエネルギーの確保に向けてさらに一歩進むだけでなく、エネルギー供給保証の強化に向けて前進している」と強調した。ラスト・エナジー社ポーランド支部のD.ジャムロズ社長はポーランドについて、「当社のSMRが建設される最初の国の一つになる」と表明。LSSE社からSMR建設への合意と長期の電力購入契約を締結する意思が示されたことを受け、今後は立地点の特定作業を始めたいと述べた。ポーランド西部のブロツワフを拠点とするDBエナジー社は、「エネルギーの効率化で当社が提供するサービスとラスト・エナジー社のSMRを組み合わせることで、顧客である同区内の起業家には、CO2排出量を実質ゼロ化する包括的なサービスを提供できる」と強調している。ラスト・エナジー社製のSMRに関しては、ポーランド政府所有の電力会社であるエネア(Enea)・グループが今年6月、国内での建設を目指した基本合意書を同社と締結。この合意では、SMRの設計・建設から、資金調達、設置とメンテナンス、燃料供給と廃棄物の回収、廃止措置に至るまで、ラスト・エナジー社がエネア・グループに協力することになる。(参照資料:LSSE社、ラスト・エナジー社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月29日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
01 Aug 2022
2825
米メリーランド州のX-エナジー社は7月21日、開発しているペブルベッド式小型高温ガス炉(HTGR)「Xe-100」の初号機や後続機を全米で設計・建設する大手建設企業2グループを発表した。今回選定されたのは、電力・エネルギーなど各種の生産設備分野で設計や建設、保全サービス等を手掛けるザクリー(Zachry)グループ、および建設エンジニアリング・サービス専業企業であるバーンズ&マクドネル(Burns & McDonnell)社とディ&ジマーマン(Day & Zimmermann)社の合同グループである。X-エナジー社は今後、これらの建設企業やサプライヤーと「Xe-100」の設計や機器および全体プラント建設などのあらゆる段階で協力。最新の施工技術やデジタル技術を活用して、建設プロジェクトの詳細なコストや作業プラン、合理的な建設スケジュール、安全性関係の4次元モデルなどを開発する。これまで、新規の原子力発電所建設プロジェクトでは、事業者がプロジェクトの後半に建設サービス関係の契約企業と関わるのが標準的な方式だったが、同社は「X-エナジー社のプロジェクト納入モデル(X-PDM)」と名付けた共同アプローチを活用することで、出来るだけ早い段階から「Xe-100」の建設にともなうリスクや不確実性を大幅に排除していく考えである。X-エナジー社は今回の2グループを選定した理由として、これらのグループが複雑な大規模プロジェクトで培った深い経験や先進的建設技術を、X-PDMに沿って複数の「Xe-100」建設に向けて活用し、専門的知見もX-エナジー社と共有していくなど、同社との協力に強い意欲を示したことを挙げた。同社の説明によると、「Xe-100」は過去数10年間の研究開発や運転経験に基づいて開発された第4世代のHTGRで、一基当たりの電気出力は8万kW、熱出力は20万kWである。これを4基接続した発電プラントでは32万kWの発電が可能になるだけでなく、電気出力とプロセス熱の生産量を柔軟に変更することができる。海水脱塩や水素生産など幅広い分野に適用可能で建設工期が短縮されるほか、物理的にメルトダウンが発生せず、冷却材の喪失時にも運転員の介入なしで安全性が保たれる。バーンズ&マクドネル社のR.コワリックCEOは、「原子力発電ではコスト面で市場における競争力や予定コスト内での建設が求められるが、同時に必要とされる安全性や建設スケジュールの短縮、品質等の点でも、当社の先進的な施工企画をこの設計の建設に活用するのは正しいやり方だ」と述べた。米エネルギー省(DOE)は2020年5月に開始した「先進的原子炉設計の実証プログラム(ARDP)」で、X-エナジー社を初回の支援金交付企業の1つに選定。「Xe-100」の実証炉建設を支援するための資金として8,000万ドルを2020会計年度から交付しており、その一部は同設計で使用する3重被覆層・燃料粒子「TRISO」の商業規模の製造施設建設にも活用される。「Xe-100」の初号機については、ワシントン州の2つの公益電気事業者が2021年4月、同州内で協力して建設すると表明。州内の使用電力を2045年までに100%無炭素にすることを目指した法令の下で、「Xe-100」商業化を実証することになる。(参照資料:X-エナジー社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月25日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
29 Jul 2022
2561
左側がGAOのダミー会社に送られた放射性物質の箱 ©GAO米国政府の会計監査院(GAO)は7月21日、リスクの高い放射性物質の購入等について原子力規制委員会(NRC)が実施する規制体制の評価報告書「Preventing a Dirty Bomb: Vulnerabilities Persist in NRC's Controls for Purchases of High-Risk Radioactive Materials」を公表した。放射性物質の購入や所有において不正な許可が用いられることを防ぐため、セキュリティ面の脆弱性を補う措置を直ちに講じるよう勧告している。GAOは連邦議会の要請に基づいて、政府機関の財務検査や政策プログラムの評価を通じて予算の執行状況を監査する機関である。今回はリスクの高い放射性物質の購入許可を検証する原子力規制委員会(NRC)のシステムについて審査を要請され、偽造した許可や改ざんされた許可によって高リスクの放射性物質が購入されることがないよう同システムの有効性を審査した。また、購入許可を検証するNRCの能力を検証する審査も行っている。今回の報告書でGAOは、放射性物質がガン治療や医療器具の滅菌等で一般的に使用される一方、わずかな量でも爆発物と組み合わせる等により、「ダーティ・ボム」となる可能性を指摘した。NRCは放射性物質を必要とする人々や組織に対し購入許可を発給しているが、その際、購入できる放射性廃棄物のタイプと量を規制するシステムを使用。量に関しては危険度の高い順から1~5のカテゴリーに分類しており、GAOは今回の審査にあたり、ダミー会社とコピーによる偽造許可を使って米国内のベンダー企業2社それぞれから、カテゴリー3の放射性物質を購入することに成功。これら2社から請求書を受け取った後、料金も支払ったものの、配送段階で放射性物質の受け取りを断り、安全に2社に送り返したとしている。これらのことからGAOは、NRCの既存の許可検証システムでは、高リスクの放射性物質が偽造許可によって購入されることを適切に防ぐことはできないと明言。それ以前の報告書でGAOは、カテゴリー3の量の放射性物質がダーティ・ボムで撒き散らされた場合、数10億ドル規模の社会経済的損失を被ると指摘していたが、今回の報告書では、カテゴリー3の放射性物質を複数のベンダー企業から1回以上購入することで、悪意のある人間が(非常に厳しいセキュリティ対策を必要とする)カテゴリー2の量を確保することは可能であると立証した。NRCに対するGAOの勧告事項は、以下の2点。適切な規制当局にカテゴリー3の放射性物質の購入許可を検証させることを、ベンダー企業に速やかに義務付ける。NRCの許認可プロセスの健全性を改善し、(インターネット等の活用により)改ざんされにくく偽造にも有効なものにするためセキュリティ面の要素を付加する。これら勧告への取り組みとして、NRCは検証システムの強化に向けた規則の制定作業をすでに開始した。しかし、完了までに18か月~2年を要することから、GAOは「少なくとも2023年末までシステムは依然として脆弱なままだ」と指摘している。(参照資料:GAOの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月25日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
28 Jul 2022
2061
米国のエネルギー関連サービス大手であるホルテック・インターナショナル社は7月20日、同社製小型モジュール炉(SMR)の建設計画、およびSMRの量産に向けた機器製造能力の向上計画に連邦政府の融資保証プログラムを適用してもらうため、74億ドル規模となる建設計画の申請書をエネルギー省(DOE)に提出したと発表した。発表によると同社はすでに今年3月、開発中の「SMR-160」(電気出力16万kW)を国内で4基建設する計画への融資保証プログラム適用を求めて、申請書の前半部分(パートI)をDOEに申請した。これを受けてDOEが、計画全般について申請を行うようホルテック社に要請したことから、同社は19日に計画の後半(パートⅡ)として、SMR用機器の既存の製造プラント拡張と新設に関する部分を申請した。2005年エネルギー政策法に基づくDOEの融資保証プログラムは、新たなエネルギー技術の商業利用化とクリーン・エネルギー計画に道筋をつけることが主な目的。原子力発電所の新規開発計画については、建設コストの最大80%まで政府が保証することとなっており、これまでにジョージア州におけるA.W.ボーグル原子力発電所3、4号機(各PWR、110万kW)増設計画に対して、融資保証が適用されている。ホルテック社は現在、ニュージャージー(NJ)州カムデンとペンシルベニア州ピッツバーグで機器の製造プラントを保有しており、SMR機器を毎年1,000点近く製造。計画では、カムデンにある先進的な製造プラントに機械加工やロボット溶接、原材料取扱関係の機器を追加してSMR機器の製造能力を拡大するが、これは今後10年間に予想されるSMR需要の増大を満たす措置となる。同社はまた、新たにSMR-160用機器を製造する大型プラントの建設を計画中。立地点は今のところ未定だが、同社ではこの「ホルテック重工施設(Holtec Heavy Industries)」を、カムデンの製造プラントよりも規模の大きい主力プラントにする方針である。SMR-160の国内建設に関してホルテック社は今回、米国の大手原子力発電事業者であるエンタジー社と合意覚書(MOA)を締結したことを明らかにしている。同MOAに基づいて、エンタジー社は同社のサービス区域内にある既存のサイト1か所以上で、SMR-160を1基以上建設する実行可能性を調査。同社のC.バッケン原子力部門責任者は「モジュール方式を採用したSMR-160には固有の安全性が備わっているほか、小型で操作が簡便、確証済みの軽水炉技術を採用するなど、CO2排出量を実質ゼロ化していく上で有効」と指摘している。SMRの建設でDOE融資保証の適用を受けるには、SMRの立地候補地を有する州政府から長期の電力購入契約や建設工事に対する財政支援を得ることが必要だ。ホルテック社が今回提出した融資保証申請書には、可能性のある立地点が複数記載されている。エンタジー社のサービス区域内に加えて、ホルテック社はNJ州内で保有するオイスタークリーク原子力発電所(※2018年9月に永久閉鎖された後、廃止措置のため当時の保有者であるエクセロン社から購入)の敷地内を潜在的なSMR立地点の1つに想定。ホルテック重工施設についても、最初の一群のSMR-160立地エリアに建設する可能性があるとしている。(参照資料:ホルテック社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月21日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
27 Jul 2022
2394
ベルギーのA.デクロー首相は7月22日、T.バンデアストラッテン・エネルギー相との共同声明を発表。国内で稼働する商業炉7基のうち、最も新しい2基の運転期間を2035年まで10年延長するという決定の実施に向け、事業者であるエレクトラベル社の親会社であるエンジー社と原則合意したことを明らかにした。エンジー社はフランスに拠点を置き、グローバルな電力・ガス・サービスを提供する総合エネルギー企業。同首相は今回の合意について、同社とベルギー連邦政府の信頼関係の表れであり、ベルギーにおけるエネルギーの供給保証の面で極めて重要と強調している。ベルギーでは2003年に制定された脱原子力法により、すべての商業炉を2025年までに全廃する予定だが、欧州では近年、地政学的な状況が大きく変化している。このため連邦政府は今年3月、脱原子力の達成時期を延期し、ドール4号機とチアンジュ3号機(各PWR、100万kW)の運転を2035年まで継続する判断を下した。状況変化の具体例として、連邦政府はロシアによるウクライナへの軍事侵攻、およびこの侵攻が近隣諸国への天然ガス供給に及ぼした影響を挙げたほか、フランスの複数の原子力発電所が不慮の事態により利用できなくなる可能性などを指摘、これらはすべてベルギーの電力供給に大きな影響を及ぼすとしている。連邦政府がこの判断を下した際、エンジー社は運転期間の延長条件や実行可能性などを分析した上で、この判断を実行に移せるよう連邦政府に前向きに協力すると表明。両者はその後具体的な協議を開始しており、今回はその実施体制について以下の項目で合意に達している。ドール4号機とチアンジュ3号機の運転期間延長により、ベルギーの原子力発電設備容量は200万kWとなる。連邦政府はこれらの運転事業者ではないが、エンジー社と連邦政府は原子力規制当局の承認を得た上で、これら2基を(2025年に一旦停止し)2026年11月に再稼働させる条件等について協議し、合意する予定。(これらの原子炉を管理するとともに、将来の債務リスクやコストを軽減するための)合弁企業を連邦政府とエンジー社が新たに設置し、安定した持続可能な電力供給構造を構築、この供給構造の中で連邦政府とエンジー社はリスクとメリットを共有する。原子力発電所の廃止措置、および放射性物質と廃棄物の管理にともなう経費は運転事業者が負担する。廃棄物と使用済燃料の管理コストは、今後の調査や協議を経て決定される。連邦政府とエンジー社は今後も協議を前向きに継続する方針で、専門家による作業グループの設置方針なども含め、年末までに法的拘束力を持った最終合意に到達、その後はこの実施計画を欧州委員会に提出する考えである。(参照資料:ベルギー首相府の発表資料(フランス語)、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月22日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
26 Jul 2022
2295
トルコ初の原子力発電所となるアックユ発電所(120万kWのロシア型PWR×4基)を建設中のアックユ原子力発電会社(ANPP)は7月21日、建設サイトで4号機を本格着工したと発表した。同炉の原子炉建屋が建つ基盤部分に最初のコンクリートを打設したもので、ロシア国営の原子力総合企業ロスアトム社のトルコ子会社であるANPP社は、「これにより4号機の作業は主要な建設段階に入った」と宣言している。ANPP社は2020年5月に4号機の建設許可をトルコ原子力規制庁(NDK)に申請。NDKは約1年後の2021年6月、同炉の「部分的建設許可(LWP)」を同社に発給した。このLWPの下で、同社はこれまでにサイトの工事測量や排水作業と防水工事、ピットの掘削、原子炉建屋とタービン建屋のベースマット下部に敷くコンクリート・パッド等の準備作業を実施。2021年10月にNDKから同炉の建設許可を取得した後は、今年5月にタービン建屋の基礎プレート部分にコンクリートを打設している。また、ロスアトム社の同日付発表によると、同社の機器製造部門アトムエネルゴマシ(AEM)社の一部であるAEMテクノロジー社(ボルゴドンスク支部)が、4号機で使用する原子炉容器の底部を製造した。アックユ原子力発電所建設プロジェクトは、2010年5月にトルコとロシアが結んだ政府間協力協定(IGA)に基づいて進められており、第3世代+(プラス)の120万kW級ロシア型PWR(VVER-1200)を地中海沿岸のメルシン県に4基建設する。約200億ドルと言われる総工費は差し当たりロシア側が全額負担するが、返済のため、発電所の完成後にトルコ電力卸売会社(TETAS)がANPP社から固定価格で15年間電力を購入する予定。発電所の設計・建設から運転、保守点検、廃止措置まで、ANPP社が実施することを約束するなど、原子力分野で「建設・所有・運転(BOO)」方式を採用した世界でも初の事例となっている。4号機の本格着工にともない建設サイトでは記念式典が開催され、同国エネルギー・天然資源省(ETKB)のF.ドンメズ大臣や地元メルシン県のA.H.ペリバン知事、ロスアトム社のA.リハチョフ総裁、ANPP社のA.ゾテエバCEOなどが出席した。ドンメズ大臣は「アックユ発電所の建設はトルコでも最大規模の投資プロジェクトであり、完成すれば我が国の電力需要の約10%を賄う」と説明。同発電所はこのほか、クリーンエネルギー開発の目標達成にも貢献すると述べ、「年間3,500万トンのCO2排出が抑えられることから、同発電所が稼働する60年間に抑制される排出量の合計は21億トンにのぼる」と指摘した。ANPP社の発表によると、同発電所で最も早い2018年4月に着工した1号機では、コアキャッチャーや原子炉容器、蒸気発生器、主蒸気ポンプの据え付けが完了した。主循環パイプラインの溶接作業も終了し、格納容器では内張りの5層目が施されている。また、2020年4月に建設工事が本格化した2号機では、コアキャッチャーの据え付けが終わり、格納容器内張りの3層目を組み込む作業が行われた。3号機の建設工事は2021年3月に本格的に開始され、原子炉建屋とタービン建屋で基礎階の補強作業が完了、コアキャッチャーも設置済みとなっている。また、これらの作業には数100社のトルコ企業が参加し、資機材や関連サービスを提供、受注総額はすでに30億ドルを超えた。同プロジェクトはまた、地元地域のインフラ開発や雇用の創出にも貢献しており、ANPP社は建設サイトで働く作業員約2万5千人のうち、約8割がトルコ国民だと強調している。(参照資料:ANPP社、ロスアトム社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月21日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
25 Jul 2022
3522
英国イングランド南東部のサフォーク州でEDFエナジー社が計画しているサイズウェルC(SZC)原子力発電所(約167万kWの英国版欧州加圧水型炉:UK-EPR×2基)建設プロジェクトに対し、ビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)のK.クワルテング大臣は7月20日、「開発合意書(DCO)」の発給を決定した。DCOは国家的重要度の高いインフラ設備の建設・操業プロジェクトで取得が義務付けられている主要認可で、原子力発電所の新規建設で必要とされる最終的な手続き。英国政府は先月、SZC建設計画では「規制資産ベース(RAB)モデル」による資金調達が適していると発表するなど、EDFエナジー社と資金調達関連の交渉を継続中だが、DCO発給を受けた同社は「すべてがうまく行けば、2023年にもSZC建設計画で最終投資判断(FID)を下す」と表明している。EDFエナジー社の下でSZC計画を担当する子会社の「NNB Generation (SZC)社」は2020年5月、計画法(2008年制定)に基づいて、DCOの申請書を計画審査庁(PI)に提出した。5名の審査官で構成されるPIの審査当局(ExA)は2021年4月から10月にかけてこの申請書を審査し、今年2月にExAとしての結論と勧告を報告書にまとめてBEIS大臣に提出している。BEIS大臣は今回、同報告書およびその他の関係文書を熟慮した上で、「この建設計画には非常に高い緊急性と必要性があり、それは同計画がもたらす損失可能性を大きく上回る」と指摘、この点を踏まえてDCOを発給すべきだと結論付けている。 EDFエナジー社の発表によると、DCOを申請した際にNNB Generation (SZC)社は、SZC発電所の建設が地元コミュニティに及ぼす影響を最小限にとどめる方策と、恩恵を最大限もたらす方策を申請書に盛り込んだ。これについては、審査期間中に1,000人以上の関係者や諮問当局が根拠を提示してくれたとEDFエナジー社は指摘。また、2012年に地元サフォーク州で始まった合計4回の公開協議では、同州東部の住民1万人以上が関わったとしている。DCOの発給決定について、NNB Generation (SZC)社のC.ビンス最高企画責任者は「当社の提案を政府が全面的に支持したことを示すもので、サイズウェルC原子力発電所は必ず地元の事業や住民に様々なチャンスをもたらすとともに、サフォーク州が誇れるようなものを後に残すはずだ」と表明。同発電所はまた、CO2排出量を実質ゼロ化に導く英国最大規模のインフラ設備になるだけでなく、約600万戸の世帯に低炭素で信頼性の高い電力を供給。火力発電所を代替することで、同発電所によるCO2排出抑制量は年間約900万トンになると指摘している。 英国原子力産業協会(NIA)のT.グレイトレックス理事長は同日、「英国におけるエネルギー供給保証の強化とCO2排出量の実質ゼロ化に向けて、非常に大きな一歩になった」と表明。サイズウェルC原子力発電所は今後80年以上にわたり無炭素な電力を安定的に供給するほか、天然ガスの使用量を削減し高サラリーの雇用を数千人規模で創出、英国全土で投資や事業の機会を長期的に提供していくとした。また、同発電所の建設が認められたことで、英国では今後原子力発電所を新たに建設していくための道筋が格段に強化されたと指摘している。(参照資料:英国政府、EDFエナジー社、NIAの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月20日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
22 Jul 2022
2733
エジプトで原子力発電の導入計画を担当している原子力発電庁(NPPA)は7月20日、同国初の原子力発電所となるエルダバ発電所(120万kWのロシア型PWR:VVER-1200×4基)の建設サイトで、1号機を本格着工したと発表した。NPPAは完成した発電所を所有・運転する。同国の原子力・放射線規制機関(ENRRA)が今年の6月末、日程を前倒ししてNPPAに1号機の建設許可を発給したのを受け、同発電所の建設工事を請け負っているロシア国営の原子力総合企業ロスアトム社が今回、同炉の原子炉建屋を設置する基礎部分に最初のコンクリートを打設した。ロスアトム社はすでに2021年7月、同発電所で使用する機器の製造を傘下の重機械製造企業が開始すると発表しており、1号機については2028年の営業運転開始が見込まれている。同発電所では、第3世代+(プラス)のVVER-1200設計を採用しており、ロスアトム社によると、同型の原子炉がロシア国内ですでに4基、ベラルーシでも1基が運転中である。NPPAは2019年3月に、エルダバ原子力発電所で建設するこれら4基分の「サイト許可」をまとめてENRRAから取得、その後2021年6月に1、2号機の建設許可を、同年12月には3、4号機の建設許可を申請していた。エジプトとロシアの両国政府は2015年11月、同発電所の建設プロジェクトに関する二国間協力協定(IGA)を締結しており、ロシア政府が同プロジェクトに最大250億ドルの低金利融資を実施する。両国政府はまた2017年12月、エジプト北部・地中海沿岸のエルダバ(首都カイロの北西約300kmの地点)で4基のVVER-1200を建設する内容のパッケージ契約書に調印。この契約で、ロシア側は同発電所が稼働する60年分の原子燃料をすべて供給するほか、その他の契約に基づいて使用済燃料専用の貯蔵施設と貯蔵用キャスクもエジプト側に提供。運転員等の人材育成や設備のメンテナンスにも協力するなど、同発電所の運転開始後10年間は一連の関連サービスを提供し、エジプトを支援するとしている。1号機のコンクリート打設にともない現地では記念式典が催され、エジプト電力・再生可能エネルギー省のM.シャーケル大臣をはじめ、ENRRAのS.アタラー長官、NPPAのA.エル・ワキル長官、エルダバ市が属するマトルーフ行政区のK.シュイブ知事、ロスアトム社のA.リハチョフ総裁らが出席した。シャーケル大臣は「1号機の本格着工は歴史的な出来事」とコメント。エル・ワキル長官も、「エジプトで原子力発電プロジェクトを開始するというA.F.エル・シーシ大統領の英断がなければこの日を迎えることは出来なかった」と説明した。(参照資料:NPPA、ロスアトム社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月20日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
21 Jul 2022
2547
英国のビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)は7月19日、原子力部門で高度なスキルを要する雇用を維持しつつ新たな原子力インフラへの投資を促進するため、原子力発電所用原子燃料の国内生産量拡大を目的とした「原子燃料基金(NFF)」を7,500万ポンド(約124億円)の予算で始動すると発表した。同基金で支援するプロジェクトの選定入札を今秋に控えて、BEISは同基金を通じて原子力部門における費用対効果を確実なものにし、英国のエネルギー需要を十分に満たせるよう同基金の構造設計を検討している。このためBEISは同日、入札に関心を持つ企業に同基金への登録を促すとともに、入札の意思がないステークホルダーからは、原子力部門が抱える課題や今後のビジネス機会について知見に基づく見解など、基金設計の構築に役立つ情報を得るため、「情報提供依頼書(RFI)」を産業界に向けて発出したことを明らかにした。8月4日までの期間、書面で情報を提供してほしいと要請している。BEISは今年4月、クリーンで安価な国産エネルギーの開発を英国で大幅に加速し、エネルギー自給を長期的に改善するという「英国エネルギー供給保証戦略(BESS)」を発表した。このなかで安全でクリーンな原子力発電については、2050年までに現在の約3倍に相当する最大2,400万kWの設備容量を確保し、現時点で約15%に留まっている発電シェアを最大25%に引き上げる方針だと明記。既存の技術を使った軽水炉(LWR)や小型モジュール炉(SMR)に加えて、先進的原子炉設計(AMR)など、今後は様々なタイプや出力の原子炉を建設していくとしており、今年5月には新規の原子力発電所開発プロジェクトを支援するため、1億2,000万ポンド(約199億円)の補助金制度「将来の原子力開発を可能にするための基金(Future Nuclear Enabling Fund)」を起ち上げたと発表している。英国はこれまで、既存の原子炉で使用する原子燃料のほとんどすべてを国内サプライチェーンで確保してきたが、BEISによれば、民生用原子力発電所の開発規模拡大にともない、様々な原子炉設計を利用する可能性が高まり、原子燃料部門の重要性は一層高まっている。供給途絶を回避する確実な燃料供給により、原子力が英国のエネルギー供給システムに最大限に貢献すると指摘した。燃料部門のこのような潜在能力を現実化するため、英国政府は今回、「2021年の包括的歳出レビュー」で原子燃料基金の設置を決めた。同基金の入札では、国内での原子燃料生産量の拡大や諸外国からの燃料輸入量削減に資する様々な施設の設計・建設プロジェクトを選定し、それぞれに対し最大50万ポンド(約8,300万円)を提供。支援を受けたプロジェクトの諸活動は、2025年3月末までにすべて完了することになる。このような政府支援では、プロジェクトへの共同投資を民間部門から引き出すことも狙っており、BEISのK.クワルテング大臣は「原子力発電を大幅に拡大する計画を立てたため、それに見合う強靱で確実な燃料サプライチェーンを国内で確保することは理に適っている」とコメント。「この資金援助により、英国では既存の原子炉や将来の先進的原子炉設計に燃料を供給する様々なプロジェクトが始動し、民間部門からの投資も促される。これらは関係雇用を創出するだけでなく、英国のエネルギー供給保証を一層強化することにも繋がる」と指摘している。(参照資料:英国政府の発表資料①、②、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月19日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
20 Jul 2022
2330
米原子力規制委員会(NRC)のスタッフは7月13日、ホルテック・インターナショナル社がニューメキシコ(NM)州南東部で進めている使用済燃料集中中間貯蔵施設(CISF)の建設と操業に関する申請について、環境影響評価を完了したと発表した。同施設の環境影響声明書・最終版(FEIS)を発行したもので、その中で建設・操業許可の発給を妨げるような環境や周辺住民への悪影響はないと結論付けた。NRCスタッフは今後、同施設の安全面に関する評価報告書を来年1月に完成させる方針で、こちらでも問題がなかった場合、NRCの委員らはホルテック社に対し同施設の建設・操業許可を発給すべきだと勧告している。ホルテック社の計画では、NM州のエディ郡と同郡内のカールズバッド市、およびその東側に隣接するリー郡と同郡内のホッブス市が設立した有限責任会社「エディ・リー・エネルギー同盟(ELEA)」と結んだ協力覚書に基づき、ホルテック社はELEAがリー郡内で共同保有する敷地内に同社製の乾式地下貯蔵システム「HI-STORE CISF」を建設、最終処分場が米国内で利用可能になるまで操業する。同社によると、CISFでは米国内の二か所で建設した貯蔵システム「HI-STORM UMAX」や、ウクライナで同社が近年完成させた貯蔵システムの経験が生かされている。CISF建設の最初の段階で、同社はまず約8,680トンの使用済燃料を封入した専用キャニスター500基を同施設で貯蔵。その後の19段階で、最終的に貯蔵するキャニスターの数は最大10,000基を想定している。これらのキャニスターには、全米で稼働中か廃止措置中、あるいは廃止措置が完了した商業用原子力発電所で貯蔵されている使用済燃料が封入され、列車でCISFまで輸送される予定である。ホルテック社は2017年3月にCISFの建設・操業許可申請書をNRCに提出しており、NRCはその約1年後にこれを正式に受理した。審査では、CISFの建設から廃止措置に至るまで全20段階をカバーした環境影響を評価しており、具体的には、土地の利用や輸送、地質と土壌、地表水と地下水、生態学的資源や歴史的・文化的資源、および環境正義などの分野でCISFの影響を調査した。 これらの結果に基づき、NRCは2020年3月に「環境影響声明書(EIS)」の案文を公表しており、この段階ですでに、同施設の環境影響に問題はないと表明。同案文をパブリック・コメントに付して、国民や様々なステークホルダーから意見を募集したほか、同案文を説明するオンラインの公開会合も6回開催した。その結果、4,800件以上の意見書がNRCに提出されるとともに、個人から3,718件のコメントが寄せられており、FEIS作成にはこれらの意見も反映されている。NRCは当初、建設・操業許可発給の最終判断を2022年1月に発表する予定だったが、新型コロナウイルスによる感染の世界的拡大にともない、パブコメ期間を延長するなどの措置が取られた。ELEAのJ.ヒートン副会長はFEISの発行について「ELEAとホルテック社、およびNM州南東部のコミュニティにとって最高の日になった」とコメント。「CISFは我々コミュニティの経済を多様化し、350名分の新規雇用と30億ドル規模の投資をもたらす可能性がある」と指摘している。米国ではこのほか、放射性廃棄物の処理・処分専門業者であるウェイスト・コントロール・スペシャリスツ(WCS)社と仏オラノ社の米国法人が立ち上げた合弁事業体「中間貯蔵パートナーズ(ISP)社」が、テキサス州アンドリュース郡で使用済燃料の中間貯蔵施設建設を計画。NRCは同社の申請に対し、2021年9月に建設・操業許可を発給済みである。(参照資料:NRC、ホルテック社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月14日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
19 Jul 2022
2155
米テネシー州のテネシー峡谷開発公社(TVA)は7月12日、最大500万kW分の無炭素電源を開発するプロジェクトについて、10月19日までの期間に提案を募集(RFP)すると発表した。太陽光や風力、水力などに加えて原子力や電力貯蔵電池(BES)など、TVAは2029年までに自社の送電網に確実に接続可能となるような開発プロジェクトを選定し、来年春にも結果を公表する。これは、米国でも最大級のクリーンエネルギー調達要請になると同公社は指摘している。発表によると、TVAはクリーンエネルギー開発を牽引する組織として、その他の無炭素電源事業者とともにCO2排出量の削減構想を一層迅速、かつ本格的に進めていく方針。配電地域である南東部7州の経済成長をクリーンエネルギーで促すとともに、これらの地域を脱炭素化技術の国内リーダーに位置付ける考えを明らかにした。TVAが進めている長期的な脱炭素化戦略では、2030年までに同公社の事業にともなうCO2排出量を2005年レベルから70%削減し、2035年までに80%削減、2050年には実質ゼロ化することを目指している。そのため、無炭素電源の開発を意欲的に進めており、太陽光については追加で1,000万kWを2035年までに運転開始する予定である。同公社はまた、2018年から配電地域で「グリーン事業への投資プログラム」を進めており、7州における総投資額は30億ドルを超えた。昨年10月に始まった2022会計年度の最初の半年間で、同公社が過去最高の開発を進められたのも、再生可能エネルギー開発プログラムによる後押しがあったからだと同公社は指摘。同プログラムでは73億ドル以上の資本が投下され、4万人以上の雇用が確保されたとしている。TVAのJ.ライアシュ総裁兼CEOはこのほか、同公社の昨年実績として、脱炭素化戦略に基づくテネシー州での小型モジュール炉(SMR)建設に向けて、エネルギー省(DOE)のオークリッジ国立研究所や原子力技術エンジニアリング企業のケイロス・パワー社、およびカナダのオンタリオ・パワー・ジェネレーション(OPG)社などと協力を進めた業績に言及。また、将来のエネルギーシステム構築と送電網の性能改善に向けて、2025年までに20億ドルを新たな送電インフラに投入すると発表したこと、次世代の炭素補足や水素製造等で新たな技術開発に乗り出したことなどに触れた。TVAが現在保有・運転している原子力発電設備は、テネシー州のワッツバー発電所やアラバマ州のブラウンズフェリー発電所など、7基・約800万kWに及んでいる。TVAの今回のRFP発出について、原子力エネルギー協会(NEI)のM.コースニック理事長は「無炭素電源の建設や国内送電網の脱炭素化という我々共通の目標の達成に向け、TVAは有意義な活動を展開している」とコメント。「配電地域の経済成長を促進し顧客の需要に応えるには、太陽光や風力その他の低炭素発電技術とともに原子力が重要な役割を果たすことをTVAはよく理解している」と称えた。その上で、「TVAが脱炭素化目標を達成し、米国が適正価格のクリーンエネルギー社会に移行するには、原子力が生み出す無炭素エネルギーが必要不可欠だ」と強調している。(参照資料:TVAの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月13日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
15 Jul 2022
1754
カナダ・オンタリオ州の州営電力会社であるオンタリオ・パワー・ジェネレーション(OPG)社は7月12日、米X-エナジー社が開発している小型のペブルベッド型高温ガス炉「Xe-100」をカナダ国内で幅広く産業利用する可能性を探るため、同社と協力する枠組み協定を締結したと発表した。OPG社は昨年12月、既存のダーリントン原子力発電所で完成させるカナダ初の小型モジュール炉(SMR)として、GE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社製の「BWRX-300」(電気出力30万kW)を選定。「Xe-100」はその際、候補の3設計の中に含まれていた。今回の協定を通じて、両社は「Xe-100」を用いて産業界の脱炭素化を促したいと考えている。オンタリオ州内の様々な産業サイトで「Xe-100」を建設する機会を模索するだけでなく、カナダ全土においても同設計の活用が可能な産業サイトやエンド・ユーザーを特定していく。発表によると、「Xe-100」では電力と高温蒸気の生産技術を効率的に組み合わせるなど、国内産業の脱炭素化に貢献できる実証済みの原子力技術を最大限に採用。具体的には、オイルサンドから石油を抽出する事業や鉱山での採掘事業などでの応用が可能だとしている。第4世代の原子炉設計に位置付けられる「Xe-100」は、需要に応じた出力の変動が可能で、1基あたり最大で20万kWの熱出力と8万kWの電気出力を備えている。565℃の高温蒸気を効率的に生産できるなど、柔軟性の高いコジェネレーション(熱電併給)オプションとなるため、両社は「複数の産業プロセスの脱炭素化を促進するとともに、エンド・ユーザーの電力ニーズにも応えられる理想的な設計」だと評価している。連邦政府の天然資源省が作成した「SMR行動計画」によると、カナダにおけるSMRの開発と建設は2030~2040年の期間に、年間190億カナダドル(約2兆250億円)の経済効果を国内で生み出すほか、カナダ全土で年間6,000名以上の新規雇用を創出する可能性がある。カナダはまた、地球温暖化への対応およびエネルギー供給保証の観点から、世界中でSMRの建設機会が生まれるようリードしていく方針。「SMR行動計画」では、2040年までにSMRは世界中の様々な分野で年間1,500億加ドル(約15兆9,900億円)の価値を生み出すと試算。具体的にそれらの分野は、重工業への熱電併給に加えて石炭火力発電所のリプレース、遠隔地の島国や送電網が届かないエリアへの電力供給だと指摘している。 X-エナジー社カナダ法人のK.M.コール社長は、「オンタリオ州のみならず、カナダ全土におけるクリーンエネルギーの課題に、当社は腰を据えて取り組んでいく。今回の枠組み協定を通じて、当社のSMRが産業界の脱炭素化に貢献できることを実証するが、このことは州政府とカナダ連邦政府が地球温暖化の防止で掲げた目標の達成においても重要だ」と指摘した。 オンタリオ州政府のT.スミス・エネルギー相は、「原子力分野の技術革新とエネルギー供給の保証対策という点で、当州は引き続き世界をリードする」と表明。その上で、「SMR技術への初期投資、およびカナダのその他の州政府や諸外国と進めている協力はCO2排出量の削減に役立つだけでなく、経済成長や雇用の創出などの機会を国中に提供している」と強調した。(参照資料:OPG社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月13日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
14 Jul 2022
2368
国際原子力機関(IAEA)は7 月4日、小型モジュール炉(SMR)を始めとする先進的原子炉設計の標準化や関係する規制活動の調和を図ることにより、その開発と建設を安全・確実に進めていくという新しいイニシアチブ「Nuclear Harmonization Standardization Initiative(NHSI)」を開始したと発表した。初回会合を6月23日と24日の両日にウィーンのIAEA本部で開催しており、この目標の達成に向けたロードマップ作りについて協議したことを明らかにしている。発表によると、IAEAはNHSIを通じてSMRの建設を円滑に進めるとともに、最終的には2050年までにCO2排出量を実質ゼロ化するための、SMRの貢献を最大限に拡大する方針である。初回会合には33か国から原子力関係の上級規制官や産業界のリーダーなど125名が参加し、規制当局者による会合、および先進的原子炉技術の開発事業者や運転事業者などに分かれて議論。互いに補完し合うこれらの議論を通じて、2024年までの共同作業計画を策定するとしている。開会挨拶をしたIAEAのR.M.グロッシー事務局長は、「原子力発電では安全・セキュリティの確保で最も厳しい基準をクリアしなければならないが、これらの安全・セキュリティは必要な規模の原子炉建設が可能であるかを計る基準になる」と指摘。その上で、「NHSIは懸案事項を減らすための構想ではなく、現状を正しく理解して速やかな目標達成を促すためのものだ」と説明した。規制当局者の会合では、①情報共有インフラ、②事前の規制審査を行う国際的な枠組み、③ほかの規制当局の審査結果を活用するアプローチ、それぞれの構築に向けて3つの作業部会が設置され、作業を並行的に進めることになった。同会合の座長を務めたIAEAのA.ブラッドフォード原子力施設安全部長は、「目標としているのは、規制当局者同士の協力を拡大することで審査の重複を避け、規制面の効率性を強化、原子炉の安全性と各国の国家的主権を損なわずに規制上の見解を一致させることだ」と述べた。原子力産業界による会合では、SMRの製造と建設および運転で一層標準化したアプローチをとることが目標に掲げられ、SMRの許認可スケジュール短縮やコスト削減、工期の短縮を図ることになった。SMR開発のビジネス・モデルにおいてはこのような標準化アプローチにより、初号機を建設した後の連続建設時にコストや工期の削減が可能になることが多い。産業界の会合ではこのため、①高いレベルのユーザー要件の調和を図る、②各国の関係規格と基準について情報を共有する、③コンピューター・シミュレーションでSMRをモデル化する際のコードについて、実験と検証を重ねる、④SMRに必要な原子力インフラの実現を加速する、といった目標の達成に集中的に取り組むとしている。NHSI初会合ではこのほか、SMR建設の加速で規制当局者と原子力産業界の協力を促進するのにあたり、重要になる分野として、「特定のSMR設計とその安全・セキュリティに関する両者間の情報共有で解決策を確立すること」などが指摘された。NHSIの次回会合は2023年に予定されており、それまでの進展状況等を評価することになる。(参照資料:IAEAの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月6日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
13 Jul 2022
3052
ポーランドの原子力規制当局である国家原子力機関(PAA)はこのほど、小型モジュール炉(SMR)建設を計画する国内2社から、PAA長官による「包括的な(評価)見解」の取得申請書を受領したと発表した。米ニュースケール社の「ニュースケール・パワー・モジュール(NPM)」を複数基備えた原子力発電設備「VOYGR」の建設は、ポーランド鉱業大手のKGHMポーランド銅採掘(KGHM)会社が計画中。一方、GE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社の「BWRX-300」については、オーレン・シントス・グリーン・エナジー社が建設を計画している。「包括的な(評価)見解」の取得は予備的な許認可手続きの一つであるが、原子力安全と放射線防護の確保に関わるため同国の原子力法にも規定されている。当該設備の設計や技術、事業者の組織構造等に対するPAA長官の評価によって、その設備が原子力安全面と放射線防護面の要件を満たしているかの決定で直接的な影響を与える。PAA長官は通常6か月かけて評価結果をまとめるが、複雑な案件であることから3か月延長して9か月後に見解を提示する可能性があるとしている。KGHM社はポーランド南西部にある欧州最大規模の銅鉱床で採掘を行っている企業で、これらの事業に必要な電力や熱エネルギーの約半分を2030年末までに社内設備で賄う方針。同社はまた、2050年までに同社事業によるCO2排出量の実質ゼロ化を目指しているため、太陽光などの再生可能エネルギーや先進的SMRなど原子力発電の開発を進めている。PAAの今回の発表によると、KGHM社が建設を計画しているのは1モジュールの出力が5万kWのNPM。NPMは2020年9月に米国のSMR設計として初めて、原子力規制委員会(NRC)から「標準設計承認(SDA)」を取得している。今年の2月には、同社は「VOYGR」の国内建設に向けてニュースケール社と先行作業契約を締結しており、早ければ2029年にも最初のNPMの運転を開始する方針。今回の申請について同社は「ポーランド初の申請者になった」と強調しており、次の段階として立地点の選定準備を始めるほか、運転員など原子力関係の専門家訓練も実施すると表明している。一方のオーレン・シントス・グリーン・エナジー社は、同国の大手化学素材メーカーであるシントス社(Synthos SA)のグループ企業シントス・グリーン・エナジー(SGE)社と、最大手の石油精製企業であるPKNオーレン社が50%ずつ出資して設立した合弁事業体。シントス社は無炭素電源による電力に関心が高く、PKNオーレン社は2050年までに自社のCO2排出量を実質ゼロ化することを目指している。これらのことから、オーレン・シントス・グリーン・エナジー社はポーランド国内でSMRの商業化を進める方針。GEH社の「BWRX-300」を選択した理由については、カナダのオンタリオ・パワー・ジェネレーション(OPG)社がオンタリオ州内のダーリントン原子力発電所で建設するSMRとして、3つの設計候補の中から「BWRX-300」を選択した事実を挙げた。「BWRX-300」は出力30万kWのBWR型SMRで、2014年にNRCから設計認証を受けた第3世代+(プラス)のGEH社製設計「ESBWR(高経済性・単純化BWR)」がベース。今回の申請にともないオーレン・シントス・グリーン・エナジー社がPAAに提出した技術文書は、カナダ原子力安全委員会の「予備的設計評価(ベンダー設計審査:VDR)」に向けてGEH社が準備した文書が元になっている。OPG社がカナダで「BWRX-300」の初号機を建設すれば、オーレン・シントスJVのSMRは同設計の2基目となるため、その開発や投資の準備、許認可、建設・運転まで、OPG社の経験を参考にできると説明している。(参照資料:PAAの発表資料①、②(ポーランド語)、KGHM社、およびオーレン社の発表資料(ポーランド語)、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月11日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
12 Jul 2022
1968
英国の環境庁(EA)は7月4日、イングランド南東部サフォーク州でサイズウェルC(SZC)原子力発電所を建設・運転した場合の環境影響に関して、3種類の許可を発給する方針を提案。同提案を9月25日まで12週間にわたりパブリックコメントに付した。同提案について、国民やエネルギー関係の産業界、学界、NGO等から幅広く意見を募集、その上で最終的な判断を下し2023年初頭に結果を公表するとしている。EDFエナジー社の下でSZC計画を担当する子会社のNNB GenCo(SZC)社は2020年5月、SZC発電所の運転に際して放射性廃棄物を排出・処分する方針と、同発電所の予備電源としてディーゼル発電機を使用すること、および温排水と液体排出物を北海に放出する方針について、EAに許可申請書を提出した。EAは同年7月から10月までこの3つの申請書を審査した上で今回の判断を下したもので、これについては放射線影響に関する評価や周辺生態系の規制に関する評価、関係水域の水質や量に関する対策の枠組み評価等からも、EAの判断を支持する結果が得られたとしている。EAでSZC計画を担当するS.バーロー・マネージャーは、「これは発電所を建設する何年も前からNNB GenCo社が申請していた許認可。プロジェクトの開始前に発給の判断を下せば、発電所の設計や資機材の調達、起動などの面で良い影響があるし、周辺環境や野生生物の保全という点でも万全だ」と指摘した。パブコメの募集に関しては「我々の提案を関係者およびその他の人々に広く知らしめた上で意見を伺いたいし、我々が見落としているかもしれない情報の提供もお願いする」と表明。最終判断を下す際には、得られた意見を注意深く考慮すると約束している。SZC計画では、フラマトム社製の167万kWの欧州加圧水型炉(EPR)を2基建設する予定で、NNB GenCo(SZC)社は2020年5月、計画法(2008年制定)に基づき「開発合意書(DCO)」の申請書を計画審査庁(PI)に提出した。計画法によると、担当大臣は審査機関がDCO発給の可否に関する審査報告書を提出してから3か月以内に可否の判断を下さねばならず、SZC計画のDCOに関しては7月8日が、ビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)のK.クワルテング大臣が議会に結果を報告する現時点での期限となっていた。しかし、住宅・コミュニティ・地方自治省のP.スカリー閣外大臣は今月7日(※スカリー大臣は同日付でBEIS政務次官から異動)、議会の下院に対し「DCO発給の可否を公表する期限として新たに7月20日を設定した」と発表。理由として、BEIS大臣に十分な検討時間を与えるためだと説明している。EDFエナジー社は現在、イングランド南西部サマセット州でヒンクリーポイントC原子力発電所(172万kWのEPR×2基)を建設中だが、このプロジェクトでは中国広核集団有限公司(CGN)が2016年9月に33.5%の出資を約束した。その際、CGNはSZC計画に関しても20%の出資を約束していたことから、DCOの発給判断を下すのに先立ち今一度熟慮が必要と見られている。(参照資料:英国政府の発表資料①、②、英国議会の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月5日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
11 Jul 2022
1528
欧州連合(EU)の主な政策決定機関である欧州議会は7月6日の票決の結果、環境上の持続可能性を備えたグリーン事業への投資基準「EUタクソノミー」において、持続可能とみなすための技術的精査基準となる「地球温暖化の影響を緩和する(補完的な)委任法令(Delegated Act: DA)」に、一定条件下で原子力関係の活動を加えるとした欧州委員会(EC)の提案に異存はないと発表した。欧州議会とともにEUの政策決定を担う欧州連合理事会が、今月11日までに異議を唱えなければ、同DAは2023年1月1日付で発効し適用が開始される見通しだ。EUは2050年までに域内CO2排出量の実質ゼロ化を目指しているが、その達成に資する諸活動には多額の民間投資が必要。このため、EUの執行機関であるECは、同タクソノミーを通じて民間投資を誘導する方針である。ECは近年の科学技術の進歩を考慮すると、原子力および天然ガスへの民間投資もCO2ゼロ化への移行促進に有効と考えている。このためECは今年2月、同タクソノミーの下で1月1日から施行されている現行のDAで、原子力と天然ガスに関する経済活動を過渡期の暫定的な活動として認めると同時に、これらに関して明確かつ厳密な条件を設定する提案を行った。しかし、欧州議会の環境・公衆衛生・食品安全委員会と経済通貨委員会は6月14日、この提案を否決すべきだとする動議を提議、欧州議会では今回この動議に関する票決が行われた。結果として278議員がこの動議に賛成したのに対し、328議員が反対票を投じたほか33議員が棄権。EC提案を退けるには欧州議会の絶対多数である353議員がこの動議に賛成する必要があり、その場合ECはこの提案を取り下げるか、あるいは修正を余儀なくされることになっていた。 この結果についてECは同日、「加盟国でCO2排出量ゼロ化への移行を支援する現実的なアプローチとして、一定条件下で原子力の活動も加えるとしたECのDA提案が認識されていることが明確になった」と表明。「CO2のゼロ化はEUの目標であり、それゆえに法的拘束力ももつので、CO2を多量に排出するエネルギー源の排除に利用できる手段はすべて活用したい」と述べた。また、「ウクライナに対するロシアの理不尽な軍事侵攻は、クリーンエネルギーへの移行を早め一層緊急性を帯びたものにしたが、ECが今回提案したDAは、ロシア産化石燃料依存から脱却するための具体策『REPowerEU Plan』と同じくこのような現実を反映しており、ロシアからの天然ガス輸入量の削減に有効である」と指摘した。欧州原子力産業協会(今年6月に英名称をフォーラトムからニュークリアヨーロッパへ改称)は同日、欧州議会の決定を祝福するコメントを発表した。Y.デバゼイユ事務局長は、「原子力が持続可能なエネルギー源であるとともに、地球温暖化との闘いにおいても重要であることは科学的に明快だ」と指摘。その上で、「欧州議会の大多数がEC共同研究センター(JRC)の専門家の意見に耳を傾け、正しい判断を下したことは本当にすばらしい」と称賛している。(参照資料:欧州議会①、②、EC、Nucleareuropeの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月6日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
08 Jul 2022
3455
国際エネルギー機関(IEA)は6月30日、特別報告書「Nuclear Power and Secure Energy Transitions: From today's challenges to Tomorrow's clean energy systems 」を発表。世界中で燃料価格が高騰し供給保障上の懸念が高まるなか、低炭素エネルギー・システムを備えた社会への移行を目指す国では、原子力発電が重要な役割を果たす可能性があると強調した。IEAによると、原子力発電を今後も継続利用する、あるいは利用拡大する道を選択した国では、輸入化石燃料への依存度が軽減されCO2の排出量が削減、太陽光や風力等の発電シェアが拡大した低炭素な電力システムを構築することが可能である。逆に、原子力なしで持続可能なクリーン・エネルギー・システムを構築することは非常に難しく、リスクが高い上にコストもかかる。IEAは、「世界的なエネルギー危機への取り組みで、原子力は再生可能エネルギーを中心とするエネルギー・システムへの確実な移行を促進できる」と強調している。プレスリリースの中でIEAは、世界では現在32か国が原子力発電所を運転しており、低炭素な電力の生産量では原子力が水力に次いで第2位になると指摘。これらの原子力発電設備のうち約63%は1970年代のオイルショック直後に建設されたため、運転を開始してからすでに30年以上が経過している。しかし近年は、先進国から新興経済国にいたるまで、様々な国がそれぞれのエネルギー戦略の中で原子力に多くの役割を担わせるとともに、原子力への大規模な投資を奨励している。IEAのF.ビロル事務局長は「エネルギーを取り巻く近年の世界情勢や地球温暖化防止への意欲的な取り組みなどから、原子力が返り咲くまたとないチャンスが訪れたと確信している」と表明。しかしその一方で、「『新たな原子力時代の到来』は決して保証されたものではなく、返り咲けるかどうかは各国政府が原子力発電所を安全に運転させ、新たな原子力技術への投資を支持する政策を打ち出せるかにかかっている」と指摘した。また、原子力産業界に対しては、「いくつかの先進国を悩ませている新規建設計画の工期延長とコストの増加という課題に、早急に取り組まねばならない」と言明。「結果として、先進諸国が原子力市場で主導的な立場を失い、2017年以降に世界で着工された原子炉31基中、27基までがロシア製と中国製になった」と指摘している。IEAではこのように、原子力発電所の安全性を高めその利用を支援するには、各国政府の断固とした政策が必要と考えているが、産業界側でも建設プロジェクトを予算の範囲内に収めるなど、その発電電力が競争力を持つよう上手く進めねばならない。原子力のように大きな資本を必要とする長期資産の建設で、民間部門だけで十分な資金を調達できることは滅多になく、採用する技術の新旧に関わらず政府の財政支援が引き続き必要になると強調している。2050年までのCO2排出量実質ゼロ化に向けIEAが設定した進路では、世界の原子力発電設備は2020年から2050年までの間に倍増させる必要があり、今世紀半ばまでに排出が抑制されるCO2の約半分は、まだ商業化されていない新しい技術によるものとなる。その中には、出力が従来の大型炉の約3分の1(30万kW以下)という先進的原子炉「小型モジュール炉(SMR)」が含まれており、IEAはそのコストの低さやサイズの小ささ、プロジェクトリスクの低さという点から、これまでの大型炉より社会的に広く受け入れられ、民間投資が集まるかもしれないと指摘した。SMRはまた、閉鎖された火力発電所の跡地にも建設できるため、既存の送電網や冷却水、熟練した労働力の再利用が可能。ただし、これを長期的に建設していくには政策立案者の強力な支援が必要であり、IEAとしてはただ単に投資を促すだけでなく、規制の枠組の合理化や調整も必要と考えている。原子力の継続利用を決めた国へのIEA勧告これらを踏まえ、IEAは原子力を今後も活用する国の政策立案者に向けて以下の事項を勧告。原子力を利用しない国については、その選択を尊重するとした。既存の原子力発電所の運転期間延長を承認し、安全性が保証される限りできるだけ長期に運転を継続する。CO2を排出せず、継続的に電力供給が可能という原子力発電所の長所が、公平かつ競争性を維持したやり方で補償されるよう電力市場の構造を設計する。新規の原子炉建設計画を支援するため、投資家と電力消費者の間でリスクを共有する枠組や、適正なコストで新設計画への投資が行われるような資金調達の枠組を創設する。新設計を採用したプロジェクトも含めて、建設プロジェクトの安全規制を効果的かつ効率的に進めるため、十分な財源と規制の能力を確保する。高レベル放射性廃棄物の最終処分場をこれから建設する国では、サイト近隣住民の合意が優先されるよう住民を交えて計画を推進する。低炭素な電力や熱、水素を低コストで供給可能な小型モジュール炉(SMR)の開発と建設を加速するため、実証炉計画やサプライチェーン開発への投資を支援する。(参照資料:IEAの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月30日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
07 Jul 2022
2481
ユン大統領©Office of the President (South Korea)今年5月に発足した韓国のユン・ソンニョル(尹錫悦)政権の産業通商資源部(MOTIE)は7月5日、同政権による初のエネルギー政策が同日の国務会議で決定したと発表した。ムン・ジェイン(文在寅)前政権が定めた脱原子力政策を正式に撤回し、総発電量における原子力発電のシェアを上方修正すると表明。2030年に原子力で少なくとも総発電量の30%を賄う方針であることや、白紙撤回された新ハヌル3、4号機(各PWR、140万kW)建設計画の再開方針などを明確に示している。新しいエネルギー政策の背景として、ユン政権はCO2排出量の実質ゼロ化に向けた傾向が世界中で加速するなか、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻等によりエネルギー・サプライチェーンへの不安が高まっていると指摘。気候中立とエネルギー供給保証という2つの目標の達成において、エネルギー政策が担う役割はこれまで以上に重要になってきていると強調。国内外の状況変化に対応し、原子力の比重拡大など気候中立関係の課題を克服するには、新しいエネルギー政策の目標と方向性を設定する必要があるとした。その主な柱として、ユン政権は①地球温暖化への対応、②エネルギー供給保証の強化、③エネルギー関係の新たな産業創出により堅固なエネルギーシステム実現、を明示。具体的な項目として、2021年に27.4%だった原子力発電シェアを2030年に30%、あるいはそれ以上とするほか、化石燃料の輸入依存度を削減、革新的なエネルギー技術を持つベンチャー企業の育成を挙げている。原子力に関しては、2017年の「エネルギー転換(脱原子力)ロードマップ」と2019年の「エネルギー基本計画」に明記された原子力発電所の段階的削減政策を撤回。これに代わって、新ハヌル3、4号機建設計画の再開を確定しており、これらの早期実施に向けて、年内にも両炉で停止している設計作業の再開に120億ウォン(約12億円)を提供するとした。原子力発電シェアの拡大は、建設中の原子炉が正常に稼働すること、および既存の原子炉についても安全性の確保を条件に支障なく運転継続すると仮定して算定したもの。また、高レベル放射性廃棄物の処分も、特別法の制定などを通じて実施する方針で、首相が司令塔となって処分実施の専門機関を設置する。ユン政権はさらに、2030年までに10基の原子炉を輸出するとともに、韓国独自の小型モジュール炉(SMR)開発を促進するため4,000億ウォン(約414億円)を投入すると表明。これらの作業スケジュールを早期に策定することで、韓国原子力産業界の再活性化を目指すとしている。このほかユン政権は、世界でも一流の水素産業を国内で育成するとともに、太陽光や風力などの再生可能エネルギー分野でも、タンデム太陽電池や超大型風力タービンといった次世代技術を早期に商品化する方針である。これらのエネルギーや原子力を調和させることで、化石燃料の輸入依存度は2021年の81.8%が2030年には60%に削減され、輸入量では2021年比で約4,000万トン(石油換算)の減少になると予想。技術革新を担うベンチャー企業の総数も、エネルギー関係の新産業創出とその輸出産業化によって、2020年の2,500社が2030年には約5,000社に倍増するとしている。(参照資料:MOTIE(韓国語)の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月5日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
06 Jul 2022
4116
欧州連合(EU)の執行機関である欧州委員会(EC)は6月30日、チェコのドコバニ原子力発電所・増設計画に対し、チェコ政府が予定している補助金等の支援がEU域内の競争法であるEU機能条約(TFEU)の国家補助規則に適合しているか、詳細な調査を開始すると発表した。ドコバニ原子力発電所(各PWR、51.0万kW×4基)は、国内のもう一つの原子力発電設備であるテメリン発電所(各PWR、108.2万kW×2基)と同様、国営電力のCEZグループが運転している。1980年代に運転を開始したドコバニ発電所の4基は徐々に閉鎖時期を迎えるため、同グループはⅡ期工事として出力の大きい5、6号機(各最大120万kW)の増設を計画中。2015年には、建設プロジェクトの準備と実施を担当する子会社として「ドコバニⅡ原子力発電会社(EDUⅡ)」を設立した。テメリン発電所でも一時期、3、4号機の増設計画が進められていたが、チェコ政府が「完成した原子炉からの発電電力を固定価格で買い取る保証はしない」と明言したため、計画は2014年に頓挫した。ドコバニ発電所の増設計画に関しては、同国のA.バビシュ首相が2020年5月、「総工費の7割までを政府が低金利で融資する」と表明。2021年9月には、完成した原子炉の発電電力を政府が保証価格で買い取るメカニズムを盛り込んだ「低炭素エネルギーへの移行法」が成立している。 ECの今回の発表によると、チェコ政府がドコバニ5号機の増設と運転の支援方針を伝えてきたのは今年3月のこと。運転開始は2036年に予定しており、同炉でチェコおよび近隣諸国の電力供給を強化するとともに、国内エネルギー部門の脱炭素化を促進、エネルギー・ミックスの多様化を図るとしていた。具体的な支援として、チェコ政府は以下の3つの方法を提示した。①約75億ユーロ(約1兆673億円)の総工費を100%カバーする低金利の国家融資を提供する、②ドコバニ5号機が稼働する60年の間、国有の企業がEDUⅡ社から発電電力を買取る契約を結ぶ、③法制の変更など不測の事態で増設計画が頓挫した場合に備え、同プロジェクトに多額の投資を予定しているCEZグループ、およびチェコ政府を守るためのメカニズムを設置する。現段階でECは予備的に実施した評価の結果として、「建設プロジェクトは必要なものであり、政府の支援方法は経済活動を発展させると思われる」と指摘した。しかし、これらの方法がEUの国家補助規則に厳格に適合しているかは疑わしいため、以下の点について詳細な調査を行うとしている。3つの支援方法の妥当性とその配分比率。これらの方法はすべて、EDUⅡ社が被るかもしれないリスクの軽減を目的としているが、全体として必要以上の支援にならないようにすることは重要である。発電電力の売買契約は特に、ほかの2つの方法が十分考慮された場合に60年という適用期間が正当化される。市場の競争原理に対する影響、およびこの影響を最小限に抑えられるかという点。ECは特に、CEZグループ以外にも建設プロジェクトのプロモーターになり得る企業があったのではないかという点、また、発電電力を買い取り転売する国有企業の設置という判断が市場にもたらす影響にも疑念を抱いている。なお、ドコバニ発電所の増設計画に対しては、2021年3月に原子力安全庁(SUJB)が2基分の立地許可を発給。今年3月には、EDUⅡ社が最初の一基となる5号機のサプライヤーについて競争入札を開始した。同計画を所轄する産業貿易省が入札の実施と、同計画への参加に関心を表明していた米ウェスチングハウス(WH)社とフランス電力(EDF)、および韓国水力・原子力会社(KHNP)の入札招聘を正式に承認したもの。これらのほかに、ロシア国営の原子力総合企業ロスアトム社と中国広核集団有限公司(CGN)も参加を希望していたが、産業貿易省は資格審査の実施に先立ち、これら2社を除外する判断を下している。(参照資料:ECの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月1日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
05 Jul 2022
1952