韓国の斗山重工業は7月20日、米国で小型モジュール炉(SMR)を開発するニュースケール・パワー社への支援を継続するため、国内の投資家らとともに追加で6,000万ドル相当の株式投資を行うと発表した。この投資により、同社がニュースケール社に納入するSMR用機器の金額は数10億ドル規模に増大する見通し。両社はまた、SMRを使った水素製造や海水脱塩にも協力の範囲を広げており、共同で実施するSMR事業の基盤を強化する。この日、斗山重工業の朴会長とニュースケール社のJ.ホプキンズ会長兼CEOは、韓国の首都ソウルで追加投資の合意書に調印した。斗山重工業は2019年からニュースケール社への金融投資企業に加わっており、すでに4,400万ドルの株式投資を現金で実行。これに今回の新しい投資が追加され、合計投資額は1億400万ドルとなった。両社はまた、2019年に「製造コンサルティング・サービス契約」を締結しており、この契約の下で斗山重工業は、原子炉圧力容器の製造に関する専門的知見をニュースケール社に提供している。斗山重工業はその後も、機器の製造試験などをニュースケール社のために実施。米国で最初のSMRを製造するチームの一員として、供給する機器の範囲を鍛造品や圧力容器用の重要パーツなどに拡大し、両社間の協力を長期に継続していく考えだ。ニュースケール社は、同社製のSMR「ニュースケール・パワー・モジュール(NPM)」の開発を開始して以降、1モジュールあたりの出力を徐々に増加。5万kW版のNPMについては2020年9月、原子力規制委員会(NRC)が設計認証(DC)審査で、SMR設計としては初めて「標準設計承認(SDA)」を発給しており、同設計は現時点で米国におけるSMR商業化レースの先頭を走っている。最新NPMの出力はモジュールあたり7.7万kWで、これを12基接続した場合の出力は92.4万kWとなる。斗山重工業の発表によると、同社はユタ州公営共同電力事業体(UAMPS)がアイダホ国立研究所内で建設を計画しているNPM初号機の建設に参加する予定で、来年にも初号機用の鍛造品製造を開始する。UAMPSはすでに昨年末、ニュースケール社の大株主であるフルアー社とエンジニアリング・資材調達・建設(EPC)契約を締結。2023年に建設・運転一括認可(COL)をNRCに申請し、2025年にこれを取得して建設を開始、2029年には最初のモジュールの商業運転を始めたいとしている。ニュースケール社のホプキンズ会長兼CEOは、「大規模な製造ラインを持つ斗山重工業の専門能力は、当社のNPM初号機建設計画を進める上で非常に貴重なものだ」と指摘した。斗山重工業の朴会長も、「ニュースケール社に多くの機器を供給することにより、韓国のサプライチェーンにも新たな事業機会と推進力がもたらされる」と強調している。(参照資料:斗山重工業、ニュースケール社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月20日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
21 Jul 2021
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クルスコ発電所における2基目の完成予想図©GEN Energijaスロベニア国内で複数の電力会社を束ねているGENグループの親会社であるGENエネルギア社は7月19日、既存のクルスコ原子力発電所(PWR、72.7万kW)における2基目の原子炉建設に向けた計画(JEK2プロジェクト)の準備作業を開始すると発表した。これは、JEK2プロジェクトの実行可能性調査(FS)の結果から、政府のインフラ省(MOI)が同日、「エネルギー許可」をGENエネルギア社に発給したことに基づく。これによって2基目の建設が決定したわけではないが、100%国営企業の同社は今後、スロベニアが原子力発電設備を増強し、長期的に活用していくため様々な作業を実施する。発表によるとFSでは、スロベニアが将来、信頼性のある電力を国内で生産して低炭素な電力への移行を効率的に果たし、2050年までにCO2排出量の実質ゼロ化を達成する上で「同プロジェクトは必要であり、技術面や環境面からも実行可能」との結論が示された。また、同プロジェクトへの投資に先立ち、複数の専門的調査が行われており、それらの結果も今回、「エネルギー許可」が発給される根拠となった。同プロジェクトでは最終的に、具体的な立地点の選定や承認、プロジェクトへの投資決定などを経て、建設工事を実施することになる。GENエネルギア社は現在、同国で唯一の原子力発電設備であるクルスコ原子力発電所を所有。同発電所がスロベニアの総発電量の約4割を賄っていることから、同社はCO2を排出しない原子力の主要な役割を指摘した上で、「それと同時に強靭な回復力を備えた国内の電力システムを維持し、手頃な価格で電力を安定的に供給するにも必要だ」と強調した。同社はまた、「原子力は今後も持続可能なエネルギーとしてスロベニアに重要な貢献をする低炭素電源であり、GENグループにおける電力供給の柱だ」と指摘。こうしたことから、同プロジェクトはGENグループの中で中心的な戦略的開発プロジェクトになると説明した。同プロジェクトでGENエネルギア社は、(発電所の最終的な規模にもよるが)第3世代の原子炉で年間80億~120億kWhの電力を得ることを目指している。新しい原子炉は、年間8%以上という電力輸入量を削減し、拡大傾向にある風力や太陽光など再生可能エネルギーのバックアップ電源として電力を安定供給。JEK2プロジェクトへの投資は、スロベニア経済全体に良い影響を及ぼすとしている。JEK2プロジェクトにエネルギー許可を発給したことについて、インフラ省のJ.ヴルトヴェツ大臣は、「当省にとっては最も重要な決断の一つだった」と述べた。理由として、スロベニアが最新の地球温暖化防止戦略の中で、2050年までにCO2排出量を実質ゼロ化する目標を掲げているため、この決断によって後の世代の人々の福祉や環境にも影響が及ぶことなどを説明。「スロベニアは今後、独自の低炭素エネルギー供給やエネルギー供給の自立という合理的なエネルギーシナリオの最終判断を下すため、基盤を築いていく」と述べた。具体的には、幅広い公開協議の実施や関係する行政手続き、JEK2プロジェクトに対する投資決定文書の準備などを開始する考えである。(参照資料:GENグループの発表資料①、②(スロベニア語)、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月19日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
20 Jul 2021
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米国の原子力技術・エンジニアリング企業ケイロス・パワー社は7月16日、テネシー州のB.リー州知事、および同州経済開発庁(TNECD)のB.ロルフ・コミッショナーと連名で、同社製の「フッ化物塩冷却高温炉(FHR)」の実証炉を同州内に建設すると発表した。この構想はすでに2020年12月に同社が公表していたもので、今回はテネシー州政府の合意を得た同社が1億ドルを投じて、最終完成版より低出力の実証炉「ヘルメス」をオークリッジにあるエネルギー省(DOE)の「東部テネシー技術パーク(ETTP)」内で建設すると表明。ETTP内で55名分の雇用の創出が見込まれる同炉の完成を、2026年に目指すとしている。ケイロス社のFHR(KP-FHR)は電気出力14万kWで、冷却材として低圧の液体フッ化物塩を用い、燃料には3重被覆層・燃料粒子「TRISO」を使用。固有の安全性を保持しつつ電力と高温の熱を低コストで生成するもので、2002年にテネシー州にあるDOE傘下のオークリッジ国立研究所(ORNL)がFHRの概念を提案した後は、それに基づきMITやUCバークレーなどが個別の要素技術の研究を進めている。ケイロス社は、天然ガスのコンバインドサイクル発電とコスト面で競合可能な、無炭素で安全なエネルギー源として、KP-FHRを市場に送り出すことを計画。社内で重要機器類の製造能力を高めながらサプライチェーンの確認も実施し、許認可手続きが確実に進むようKP-FHRが完璧な原子力システムであることを実証、同設計をプロトタイプから商業規模の段階に進展させる考えだ。ケイロス社のKP-FHR開発については、DOEが2020年12月、設計開発や許認可手続きおよび建設段階におけるリスク削減を目指した官民のコスト分担方式の「先進的原子炉設計の実証プログラム(ARDP)」で、実証炉「ヘルメス」を支援対象の一つに選定。商業規模のFHR開発につなげることを目的に、同プログラムにおける7年間の総投資額6億2,900万ドルのうち、3億300万ドルをDOEが負担する。テネシー州のリー知事は今回、「ケイロス社が参加したことで、当州のオークリッジは今後も米国の革新的な技術開発を牽引していく」と表明。同州におけるエネルギー開発は、米国その他の国々にプラスの効果をもたらすとした上で、「実証炉開発の支援を受ける場としてケイロス社が当州を選んだことに感謝する」と述べた。ケイロス社の創設者の1人であるM.ローファーCEOも、「当社の先進的原子炉技術をテネシー州で実証することは、米国にクリーンで廉価なエネルギーシステムをもたらす重要な節目になる」と説明。パートナーとして支援の提供を受けているORNLやテネシー峡谷開発公社(TVA)、オークリッジ市、東部テネシー経済審議会、州政府のTNECDらに謝意を表明した。TVAは今年5月、ETTPにおけるケイロス社の実証炉「ヘルメス」の建設計画に対し、原子炉のエンジニアリングや運転および許認可手続き関係の支援を提供すると発表。ケイロス社が同炉を通じて、出力調整可能な米国の電源としては最も手頃な価格でFHRを市場に出せるよう、協力するとしている。(参照資料:ケイロス社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月16日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
19 Jul 2021
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国際エネルギー機関(IEA)は7月15日、今年上半期の世界の「電力市場報告書」を公表した。新型コロナウイルスによる感染の世界的拡大のため、世界の電力需要は2020年に約1%下落したが、その後世界経済が回復したことにより、2021年は5%近く、2022年は4%それぞれ上昇する見通し。増加分の半分近くを化石燃料発電で賄うことになり、電力部門ではCO2排出量が押し上げられる危険性があると指摘している。同報告書によると、近年の世界各国の政策設定や経済傾向を反映して、太陽光や風力など再生可能エネルギーによる発電量は今後2年間、着実に増加すると見込まれている。増加率は2021年に8%、2022年に6%以上となる見通しだが、それでも世界で増大する電力需要の約半分を満たす程度。このためIEAは、2021年に増加した電力需要の45%、2022年は40%までを石炭火力などの化石燃料発電がカバーし、その残りが原子力発電で賄われると見ている。必然的に、電力部門のCO2排出量も2019年と2020年に連続して下降していたものが、2021年に3.5%、2022年は2.5%上昇し、史上最高値を記録する可能性がある。IEAの貞森恵祐エネルギー市場・安全保障局長は、「世界中の多くの国で、再生可能エネルギーが目を見張る成長を続けているが、今世紀半ばまでのCO2排出量実質ゼロ化に向けて軌道に乗れるほどのレベルではない」と指摘。「経済が回復するにつれ、電力部門における化石燃料の発電量も大幅に増加してきたが、経済を持続的な成長軌道に乗せるためには、再エネやエネルギーの効率化といったクリーンエネルギー技術への大規模投資が必要だ」と強調した。原子力発電所の閉鎖でCO2排出量が増大する可能性世界の原子力発電動向については、IEAは新規の建設を進める国がある一方、段階的廃止を決めた国まで様々な方向性があると指摘した。世界の原子力発電は、1970年代後半から1980年代にかけて新規設備の建設がピークを迎えた後、10年ほど前までは下降傾向にあった。過去10年間にこのようなマイナス傾向は一転し、中国やインドが新規建設を推し進めているほか、アラブ首長国連邦(UAE)では初の商業炉が完成。現在、世界では54基の建設工事が進められており、総設備容量は5,800万kWにのぼる。これらのうち870万kW分が2021年に運転を開始する一方で、920万kW分が閉鎖される見通し。2022年には1,050万kWの設備が利用可能になるが、閉鎖分が680万kWに留まるため、ネットの設備容量は370万kW増加するとIEAは予測している。IEAはまた、既存の原子力発電所で運転期間を延長するには課題も伴うと指摘した。原子力発電所の長期運転(LTO)は主に、運転開始当初の運転期間(一般的に40年)を超えて運転することを意味しており、新規設備の建設やその他の発電技術と比べて、「耐用期間中の均等化発電コスト(LCOE)」では大きな競争力がある。ただし、1970年代から1980年代に多くの原子炉が運転開始した先進諸国では、現実問題として今後これらを閉鎖するのか、あるいはLTOに向けて改修投資を行うのか、今決めなくてはならない。米国ではさらに、地方ごとの複雑な電力市場構造が原子力発電所の運転期間延長に向けた投資を阻んでいる。最大手の原子力発電事業者であるエクセロン社は2020年8月、バイロンとドレスデンの両原子力発電所を2021年中に早期閉鎖すると発表したが、どちらも採算性の悪化が閉鎖の理由。これを是正する措置として、米国内ではこれまでに、5つの州がCO2を排出しないという原子力発電所の利点に対し、発電量に応じた補助金を提供する支援プログラムを導入。IEAは10サイトの14基(合計約1,400万kW)がその恩恵を被ったと報告書に明記している。IEAによると、再エネの利用は現在、世界中で急速に拡大しており、ますます競争力のある価格で無炭素な電力を提供しつつある。しかし、大容量の原子力発電設備が閉鎖された場合、電力供給の基盤となるのは化石燃料発電であり、送電インフラ等への投資とともに再エネが大規模に拡大されない限り、CO2の排出量も増加する可能性があると強調している。(参照資料:IEAの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月15日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
16 Jul 2021
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米エネルギー省(DOE)と共同で、深宇宙探査用核熱推進(NTP)技術の開発を進めているアメリカ航空宇宙局(NASA)は7月13日、有望な原子炉技術の詳細な設計概念と価格に関する「提案募集(REF)」に応じた企業の中から3社を選定したと発表した。いずれも、原子燃料や機器・サービスのサプライヤーで、すでにNASAと協力関係にあるBWXテクノロジーズ(BWXT)社、防衛等の多角的な技術製品企業であるジェネラル・アトミクス・エレクトロマグネティック・システムズ(GA-EMS)社、およびエネルギー関係のハードウェアとサービスを提供するウルトラ・セーフ・ニュークリア・テクノロジーズ(USNC-Tech)社である。今回のREFは、DOE傘下のアイダホ国立研究所(INL)を管理・運営するバッテル・エナジー・アライアンス(BEA)社が、NASAの2021会計年度予算を使って今年2月中旬から4月末まで実施した。INLは今後、選定した3社それぞれと約500万ドル相当の契約を締結。将来的に、深宇宙探査の特定の性能要件を満たすための様々な設計戦略を立てるほか、このようなミッションに利用可能な原子炉の設計概念を12か月の契約期間に完成させる。契約の終了時、INLはそれらの設計概念についてレビューを実施し、NASAに勧告事項を提示。NASAはこのような情報を活用して、将来開発する技術設計の基盤を構築することになる。NASAによれば、核熱推進システムの推進効率は化学燃料ロケットと比べて非常に大きい。このため、火星の有人探査や貨物ミッション、および太陽系外縁部の科学ミッション用として有望な核熱推進技術を開発できれば、数多くのミッションを一層迅速かつ安定した形で実施することができる。今回の3社が開発に関わる小型モジュール炉(SMR)は、そのような核熱エンジンの重要機器であり、HALEU燃料(U235の濃縮度が5~20%の低濃縮ウラン)を使用する予定である。3社のうち、BWXT社はNASAとの今回の契約実行に際し、航空機・宇宙船の開発製造企業ロッキード・マーチン社と提携する方針。また、GA-EMS社は、小型のペブルベッド式高温ガス炉「Xe-100」を開発中のX-エナジー社、およびロケットやミサイルの推進器を製造しているエアロジェット・ロケットダイン社と提携する。USNC-Tech社は、親会社で第4世代の小型高温ガス炉「マイクロ・モジュラー・リアクター(MMR)」を開発中のUSNC社と連携体制を取るほか、ブルーオリジン社(=アマゾン社の創業者J.ベゾス氏が創設した宇宙ベンチャー企業)、GE日立・ニュクリアエナジー社とGEリサーチ社、フラマトム社、高機能合金材料メーカーのマテリオン社と提携するとしている。(参照資料:NASAの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月14日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
15 Jul 2021
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中国核工業集団公司(CNNC)は7月13日、中国南端の海南省(海南島)に位置する昌江原子力発電所で、多目的小型モジュール炉(SMR)「玲龍一号」の実証炉建設工事を正式に開始したと発表した。CNNCによると、「玲龍一号」は出力12.5万kWの一体型PWRで、CNNCが2010年から「第12次5か年計画」の主要プロジェクトとして、10年以上にわたる研究開発を通じて開発した。知的財産権もCNNCが保有しており、2016年4月にはSMR設計としては初めて、国際原子力機関(IAEA)の「包括的原子炉安全レビュー(GRSR)」をパス。今回のプロジェクトで「玲龍一号」は世界で初めて陸上で建設されるSMRとなり、中国が世界のSMR技術をリードしていることを示すものだとCNNCは強調している。「玲龍一号」は元々、「ACP100」と呼称されており、CNNCは福建省莆田市でこの「ACP100」を2基建設することを計画していた。しかし、CNNCはその後、建設サイトと登録商標を変更した上で2019年7月に「玲龍一号」の実証炉建設プロジェクトに着手すると発表。同プロジェクトは、海南自由貿易港の建設に向けてクリーンなエネルギーの供給を保証するものであり、CNNCと海南省政府が結んだ戦略的協力協定の成果となる。今年6月にはまた、国家発展改革委員会が同プロジェクトの実施を最終承認していた。CNNCの発表によると、モジュール化された小型のSMRは従来の大型原子炉技術とは異なり、完全に受動的な安全系によって高い安全性を確保しているほか、短期間で建設できるという特長がある。クリーンな分散型エネルギー源として利用が可能なため、海水の脱塩や地域の冷暖房用熱供給に加えて、離島や鉱山地区、エネルギー多消費産業に対するエネルギー源として、様々なシナリオに対応。「玲龍一号」が海南省で完成した場合、年間の発電量は10億kWhに達し、52万6,000世帯に電力供給が可能だ。また、化石燃料の消費を抑えられるため、CO2排出量の大幅な削減にも貢献するとしている。「玲龍一号」の実証炉が建設される昌江原子力発電所では現在、I期工事(1、2号機)として第2世代の出力65万kWのPWR「CNP600」が稼働中。Ⅱ期工事となる3、4号機については、中国が知的財産権を保有する第3世代の120万kW級PWR設計「華龍一号」が採用される予定で、今年3月に3号機の正式な着工式が執り行われた。(参照資料:CNNC(中国語)の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月13日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
14 Jul 2021
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韓国原子力安全委員会(NSSC)は7月9日、韓国水力・原子力会社(KHNP)が慶尚北道蔚珍郡の北面で建設している新ハヌル原子力発電所1号機(PWR、140万kW)に対し、条件付きで運転認可を発給すると議決した。韓国では2017年の「エネルギー転換のロードマップ」で原子力発電所の運転期間延長を認めず、段階的に削減していくことを閣議決定したが、すでに建設認可が降りていた新ハヌル1、2号機と新古里5、6号機までは完成させる方針である。新ハヌル1号機は出力140万kWの韓国製PWR「APR1400」で、韓国電力公社(KEPCO)の率いる企業連合がアラブ首長国連邦(UAE)のバラカ原子力発電所で建設したのと同型設計。2012年7月に本格着工しており、KHNP社は2014年12月に同機の運転認可をNSSCに申請した。これを受けてNSSCは、韓国原子力安全技術院(KINS)を通じて2020年5月まで、申請書の審査と同機の使用前審査を実施したほか、特別専門委員会は2020年6月から10月まで追加検討を行った。NSSCはまた、2020年11月以降、公式会議で申請書の評価作業を開始したが、同機ではこの間、過酷事故時の水素爆発を防止する「静的触媒式水素処理装置(PAR)」の安全性やテロ対策などが問題となっていた。このためNSSCは、合計18回の公式会議等でこのような主要課題を審議したほか、今年2月には現場での検査を実施。今回、同機のPARについては「韓国原子力研究院(KAERI)が水素除去率等の追加試験を早急に行い、2022年3月までに最終報告を提出すること」などを義務付けている。新ハヌル1号機の運転認可申請審査では、航空機衝突事故の防止対策や加圧器逃し安全弁(POSRV)の漏えい低減措置の妥当性なども詳細に検討された。同機が原子力安全法・第21条の基準をみたしていることを確認した上でNSSCは運転認可の発給を決定する一方、同法の第99条に基づき、同機の安全確保に必要な措置として以下の条件を追加した。①PARの追加試験は、経済協力開発機構・原子力機関(OECD/NEA)がドイツの「THAI模擬格納容器」を使って行った「THAIプロジェクト(水蒸気濃度の再結合効率などPAR性能に対する影響を評価)」と同等のものを実施し、最終報告書を提出する。また、必要に応じてフォローアップを行う。②航空機の衝突事故発生の可能性を低減するため、飛行回数の制限措置などについて関連機関と協議を実施し、最初の予防保全計画を策定。必要に応じてフォローアップを行う。③予想可能な航空機の衝突事故について、被ばく線量制限値を超える放射能漏れ災害の発生頻度の評価手法を開発する。④最終安全解析報告書(FSAR)の第15章について、営業運転の開始日までに改訂版を提出する。なお、NSSCは今後、新ハヌル1号機の燃料装荷や試運転に際しても、安全性を事前に徹底的に確認するとしている。(参照資料:韓国原子力安全委の発表資料(韓国語)、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月12日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
13 Jul 2021
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欧州議会に所属する約90名の議員は7月8日、欧州連合(EU)の執行機関である欧州委員会(EC)の幹部5名宛てに書簡を送り、EUタクソノミーにおける投資対象の分類規制(EUタクソノミー規制)の中で、原子力発電を始めとする非化石燃料発電技術への投資に大きな不利益が生じることがないよう強く要請した。EUタクソノミーは、EUが2050年までにCO2排出量が実質ゼロ化の達成を目指すにあたり、環境上の持続可能性を満たした、真にグリーンな事業に正しく投資が行われるよう定義づける枠組み。「EUタクソノミー規制」は具体的に、何に対する投資が持続可能な資金調達と言えるか判断するための基準で、2020年6月に欧州議会で可決・法制化されている。CO2を出さないという点で原子力はクリーンな電源であり、「地球温暖化の影響緩和に十分貢献する」というEUタクソノミーの基準の一つをクリア。その一方で、放射能による汚染や生態系への影響、放射性廃棄物の処分といった問題があるため、もう一つの基準である「(資源循環や生態系など)他の環境分野に重大な悪影響を及ぼさない(Do No Significant Harm=DNSH)」への適合性については決定的な勧告をしておらず、現時点で原子力はEUタクソノミーに含まれていない。今回、スウェーデン選出のS.スカイテダル議員を中心とする欧州議会の超党派議員87名は、ECで「欧州グリーンディール」を担当するF.ティマーマンス執行副委員長、「人々のための経済」を担当するV.ドムブロフスキス執行副委員長のほか、エネルギー問題担当のK.シムソン委員と環境問題担当のV.シンケビチュウス委員、および金融問題担当のM.マクギネス委員に書簡を送付した。議員らはその中でまず、EUタクソノミー規制を法制化に導いたECの努力を称えた上で、「CO2排出量の実質ゼロ化達成に貢献すると分かっているエネルギー源を意図的に無視するだけの余裕はEUにはない」と表明。原子力がそうしたエネルギー源の一つであることは明らかであるため、いくつかの加盟国では原子力発電設備に対する投資や民間資本の動員という道を選択したが、EUはこのような判断を奨励こそすれ、反対すべきでないと指摘した。議員らはまた、ECの調査機関である「共同研究センター(JRC)」が今年3月、原子力をEUタクソノミーに含めるべきかという点について、技術的側面の包括的な分析評価報告書を発表したことに言及。JRCはEUタクソノミーに含まれている他の電源との比較で、「原子力がそれら以上の健康被害や環境への悪影響をもたらすという科学的根拠は見受けられなかった」と結論付けていた。また、ECの2つの科学的専門家組織も先週、環境上の側面からJRCの結論をほぼ裏付ける報告書を出していた。このことから議員らは、「欧州議会のみならずEU全体で、地球温暖化に強力なツールを使って真剣に立ち向かうのなら、原子力のように明らかなポテンシャルを持った非化石燃料発電技術を敢えて差別することなどできない」と強調した。議員らはさらに、「原子力を使用していない加盟国や、その段階的廃止政策を進めている加盟国には明らかな政治的意図があり、専門家による科学的な結論を無視して原子力発電に積極的に反対するようECに働きかけている」と指摘。「我々としては、ECがそうした働きかけを一蹴し、専門家の助言に従って原子力発電をタクソノミーに加えていく勇気を持ってほしい」と呼びかけた。議員らによれば、EUタクソノミー規制は「CO2排出量の実質ゼロ化を達成したい」という強い要望や「DNSH」の原則によって導かれるべきもの。国連の「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」はかつて、「地球温暖化との闘いの中で原子力は必須の手段」と指摘していたが、ECの専門家組織も今回は同様の結論に到達した。そうした以上、ECには原子力その他の非化石発電技術への投資であからさまな不利益を生じさせない、公平なEUタクソノミー規制を構築してほしいと訴えている。(参照資料:欧州議会スカイテダル議員の発表資料①、②、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月9日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
12 Jul 2021
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米エネルギー省(DOE)は7月7日、先進的原子炉など新しい原子力発電所の建設コスト削減を図るため、GE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社と協力すると発表した。同社の率いるチームに580万ドルの支援金を提供し、建設コストの10%以上の削減を目指して3つの建設要素技術を実証していく。DOEのK.ハフ原子力担当次官補代行は、「原子力発電所の建設にかかるコストの超過とスケジュールの遅延という課題は、過去数十年にわたって新規の原子力発電所建設計画を悩ませてきた。しかし、進んだ建設要素技術を駆使することによって先進的原子炉の建設コストを引き下げ、作業をスピードアップすることは可能だ」と指摘。先進的原子炉の実用化は地球温暖化を防止する重要ステップでもあり、J.バイデン大統領が目指す「2050年までにCO2排出量を実質ゼロ化」を達成するのに必要であると強調した。今回の取り組みは、DOEが2019年に傘下のアイダホ国立研究所内に設置した「国立原子炉技術革新センター(NRIC)」の予算と管理の下で実行される。NRICの目標は先進的原子炉の設計を実証し建設を促進することであるため、この取組はNRICの「先進的建設要素技術(ACT)構想」の一部ということになる。ACTは2段階で構成されており、第1段階では先進的な建設要素技術の開発と小規模での実証に向けた準備を実施する。この作業が無事に完了しその後の予算が確保できれば、第2段階として支援金の提供から3年以内に技術の実証を行う計画である。GEH社のプロジェクト・チームには、カンザス州の大手エンジニアリング企業Black & Veatch社と米国電力研究所(EPRI)、テネシー峡谷開発公社(TVA)、インディアナ州のパデュー大学、ノースカロライナ大学が参加。また、英国のCaunton Engineering社と、「スチール鋼レンガ・システム」を開発したスコットランドのModular Walling Systems 社、および英国政府が産業界との協力により2012年に設置した「先進的原子力機器製造研究センター(NAMRC)」が加わっている。同チームは今後、DOEらとともに以下の3つの技術を実証し活用していく。これらは他の産業部門で開発されたもので、有望ではあるが原子力発電所の建設という観点で試験が行われたことはない。①トンネル掘削業界が開発した「立坑建設工法」を使って、原子力発電所の工期を1年以上短縮。②スチール鋼とコンクリートの複合構造物を使ったモジュール式の建設システム「スチール鋼レンガ・システム」を用い、現地で必要とされる労働力を大幅に削減。③高度な監視システムとデジタルツイン技術(物理世界の出来事をデジタル上に再現する技術)を統合し、原子力発電所構造物の3-Dレプリカを作成。DOEはこれらの技術を様々な先進的原子炉設計に適用し、早期に市場に送り出せるよう経済性の改善を図る。GEH社側は、「DOEやNRICと協力して革新的な建設要素技術を使ったコストの削減方法を評価していきたい」とコメント。「今回のDOEの支援金は小型モジュール炉(SMR)の商業化で非常にプラスとなるほか、その他の先進的原子炉の実現に向けて道を拓くことになる」と述べた。(参照資料:DOE、NRICの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月8日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
09 Jul 2021
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BWRX-300の断面図©GE Power米国のGE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社は7月6日、BWRタイプの同社製小型モジュール炉(SMR)「BWRX-300」の商業化を促進し、カナダやその他の国々で建設していくため、原子燃料メーカーのグローバル・ニュークリア・フュエル・アメリカズ(GNF-A)社、およびカナダの大手ウラン生産企業のカメコ社と協力覚書を締結した。カナダで稼働中の商業炉は19基すべてがカナダ型加圧重水炉(CANDU)だが、GEH社でカナダのSMRを担当するリーダーは「CANDU炉もBWRも燃料ペレットに二酸化ウラン、被覆管に類似の素材を使うなど燃料のタイプは非常に似ている」と説明。今回の協力で、設計と製造で似た側面をもつ2種類の燃料の製造企業同士でも相乗的な利益があり、カナダの燃料サプライチェーンでは性能が向上すると期待している。カメコ社側も「世界中がCO2排出量の実質ゼロ化に向けて突き進むなかで、原子力の果たす役割は非常に大きく、様々なSMRや先進的原子炉技術が浮上する原動力になっている」と表明。「カメコ社としては、このような革新的な原子炉に燃料供給する主力企業となる覚悟であり、GEH社やGNF社とともに新たなSMR設計にビジネスチャンスを見出していきたい」と述べた。GEH社によると、「BWRX-300」は電気出力30万kWのSMRで、2014年に米原子力規制委員会(NRC)から設計認証(DC)を取得した第3世代+(プラス)の同社製設計「ESBWR(高経済性・単純化BWR)」がベース。自然循環技術や受動的安全システムなど、画期的な技術を採用しているほか、設計の大胆な簡素化により単位出力あたりの資本コストはその他のSMRと比べて大幅に削減された。 また、原子燃料にはGNF社製の高性能燃料集合体「GNF2」のように、すでに承認された設計を採用。機器類も技術的に実証済みのものを組み込んでおり、GEH社は「SMRの中でもBWRX-300はコスト面の競争力が最も高くリスクは最低レベルとなり、市場に出るSMRとしては世界最初のものになるはずだ」と強調している。米国では、本格的な認証手続きの一つである設計認証(DC)審査を「BWRX-300」で実施するのに先立ち、NRCが2020年12月から先行安全審査を開始。カナダでもすでに2020年1月から、カナダ原子力安全委員会(CNSC)が許認可申請前のベンダー設計審査を実施中である。カナダ国内ではこれまでに、オンタリオ州営電力(OPG)社が2020年11月、ダーリントン原子力発電所の敷地内でSMRの建設に向けた活動を開始すると発表。国外では、バルト三国のエストニアや東欧のポーランド、チェコが同設計を国内で建設することに関心を表明しており、可能性調査の実施に向けた覚書がこれらの国の関係者とGEH社の間で結ばれている。GEH社がビジネスアドバイザーのPwCカナダ社に委託して実施した同設計の経済性調査によると、初号機をカナダのオンタリオ州で建設した場合、BWRX-300の建設と運転はカナダの国内総生産(GDP)に約23億カナダドル(約2,024億円)貢献する見通し。稼働する全期間を通じて、19億ドル(約1,672億円)の労働所得を提供するとともに7億5,000万加ドル(約660億円)以上の税収をカナダ連邦政府や州政府、地元自治体にもたらす。また、後続のSMRを同州その他で建設すれば、GDPに対する一基あたりの貢献額は11億加ドル(約968億円)となるほか、税収については3億加ドル(約264億円)になるとしている。(参照資料:GEH社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月7日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
08 Jul 2021
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米国政府で非軍事の海外援助を担当する貿易開発庁(USTDA)は6月30日、ポーランドの民生用原子力発電導入計画を支援するため、同国の国営原子力発電会社(PEJ)に基本設計(FEED)調査用の補助金を提供すると発表した。具体的な金額は公表していないが、ポーランドが計画する「2043年までに2サイトで6基(合計出力600万kW以上)の原子炉を建設」を実現するため、この補助金で米国籍のウェスチングハウス(WH)社とパートナー企業のベクテル社がFEED調査を実施する。その結果から、最も先進的かつ競争力のある原子炉技術をポーランド政府に提案し、その意思決定を支援することになる。この協力は、両国が2020年10月に締結した「(ポーランドの)民生用原子力発電プログラムに関する政府間協力協定(IGA)」に基づいている。同協定が今年2月に発効したことから、米国はポーランドが石炭火力から脱却し、長期的なエネルギー供給が可能になるよう協力。USTDAはポーランドが必要とする民生用原子力発電の需要を、米国の技術で対応したいと述べた。米国の政府全体がポーランドのプログラムを幅広く支持していることを示すため、今回の補助金の調達には国務省(DOS)のヨーロッパ・ユーラシア局とエネルギー省(DOE)が関与。この補助金に加えて、WH社とベクテル社も調査の完了に必要な追加資金を提供することになる。WH社の同日付発表によると、FEED調査はポーランドの計画を前進させる重要な一歩であり、両国のIGAを実行に移す主要要素でもある。PEJ社はポーランドの原子力発電所の建設と運転を担当する予定で、国立裁判所に登録されていた企業名が今年6月、これまでの「PGE EJ1社」から変更されたばかり。WH社は同社に対し、最初の原子力発電所のレイアウトプランや許認可手続の実施管理、開発スケジュール、起動までに要する経費の見積額等を提示。ポーランド政府はこれらの情報を審査した上で、原子力発電プログラムにおける最良のパートナーを決定する考えだ。今回の決定についてPEJ社は、「グローバルに活躍する米国の主要な原子力企業が、我が国の重要な調査の実施と資金負担を約束してくれたことは有り難い」と表明。ポーランドのプログラムを前進させる新たな推進力が得られるよう、作業を前倒しで進めたいと述べた。一方、米国のDOEは、「ポーランドのプログラムが同国の国家経済や安全保障に資することを理解した上で、これを成功に導いていく」と表明。「この建設計画は両国の戦略的連携関係を強化するとともに、ポーランドが原子力で信頼性の高いクリーンで安全なエネルギーを得るという目標を達成する一助になる。また、米国政府は世界中の民生用原子力産業と協働し、国内の原子炉ベンダーをサポートする方針。地球温暖化の防止に向けたポーランドと米国の共同取組を後押しすることにもなる」と述べた。(参照資料:USTDA、WH社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月1日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
07 Jul 2021
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台湾電力は7月1日、新北市で40年間稼働した國聖(第二)原子力発電所1号機(BWR、102.7万kW)を永久閉鎖した。運転認可は今年の12月27日まで有効だが、使用済燃料の貯蔵プールがほぼ満杯で 同機の炉心から取り出すことが出来ない。そのため、同社は関係規則に則り、同機の安全系機器で保守点検作業を実施することで維持する方針だ。これらの保守点検作業は、運転認可の有効期限である6か月以内に完了することになっている。台湾電力の発表によると、國聖1号機の閉鎖にともない、同社は火力発電所に派遣していた複数の保守点検チームを呼び戻しており、住民への安定的な電力供給を継続するため、デマンドレスポンス(電力需給のバランスをとるために、需要側の電力を制御調整すること)等の補助的サービスを今後も促進する。同社はまた、バックエンド問題には中央政府と地方政府、および地元住民が協力して対処していかねばならないと指摘。國聖1号機の使用済燃料は最終的に、発電所の敷地内外で乾式貯蔵する計画である。同機を閉鎖した後、台湾電力では夏場にピークを迎える電力需要に、主に以下の3方策で対応する。(1)同社の石炭火力発電所である協和4号機、林口3号機、興達2号機が保守点検作業を終えて電力供給を再開したほか、7月上旬以降は大林6号機などもこれに加わる予定。(2)民間企業の新しい電源が次々と稼働を開始しており、嘉恵電力の新設発電所や台湾糖業公司の太陽光発電所などが送電網に接続された。台湾電力としても、7月中旬から下旬にかけて洋上風力発電ファームで発電の開始を目指す。(3)補助的サービスを改善するため、周波数調整や需給バランシング等のデマンドレスポンスに加えて、民間セクターとの連携や長期的に継続しているエネルギー貯蔵施設の開発など、新たなエネルギーや資源開発への投資を継続する。台湾電力はまた、関係規則に従って、3年前に國聖1号機の廃止措置計画を原子能委員会に提出した。同委がこれを2020年10月に承認したことから、台湾電力は廃止措置の環境影響評価書をとりまとめているところ。同委がこの評価書を審査し、無事に廃止措置許可を発給すれば、台湾電力は運転認可の満了とともに同機の廃炉作業を正式に開始する。台湾では、民進党の蔡英文氏が2016年の総統選挙に勝利し、就任後まもなく脱原子力に向けたエネルギー政策を立案。立法院は2017年1月、「非核家園(原子力発電のないふるさと)」を2025年までに実現することを盛り込んだ電気事業法改正案を可決した。その後の2018年11月、全国規模で行われた公民投票により、「2025年までにすべての原子力発電所の運転を停止する」との条文は削除された。しかし、行政院長は「2025年という期限は削除されたが、非核家園を目指すという目標は変わっていない」とコメント。翌月には台湾の商業炉として初めて、金山(第一)原子力発電所1号機(BWR、66.6万kW)で40年間の運転認可が満了し、永久閉鎖されたほか、同2号機(BWR、66.6万kW)も2019年7月に同様に閉鎖されている。(参照資料:台湾電力の発表資料①、②(中国語)、台湾原子能委員会の発表資料(中国語)、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月1日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
06 Jul 2021
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エジプトで原子力発電の導入計画を担当する原子力発電庁(NPPA)は6月30日、同国初の原子力発電設備となるエルダバ発電所の1、2号機(VVER-1200、出力各120万kW)について、建設許可をエジプト原子力・放射線規制機関(ENRRA)に申請した。これは、同発電所の建設工事を請け負ったロシア国営の原子力総合企業ロスアトム社が7月1日付けで発表したもの。VVER-1200は第3世代+(プラス)の120万kW級ロシア型PWRで、ロスアトム社は地中海沿岸のエルダバ発電所建設サイトで、これを4基建設する計画。1号機の建設許可が下り次第、本格的な工事を開始する。電力・再生可能エネルギー省傘下のNPPAは、完成した4基すべてを所有・運転・管理することになっており、1号機に関しては2026年の完成を目指している。 建設サイトのエルダバ市は、カイロに次ぐエジプト第2の都市アレキサンドリアから西に170kmのマトルーフ行政区域内にある。同サイトが、原子力発電所の建設に関する国内基準と国際的な基準を満たしているかに関しては、NPPAがすでに2019年3月、4基分すべての「サイト許可」をENRRAから取得した。建設許可申請はこれに続く手続きで、ENRRAはユニット毎に建設許可を発給する。NPPAのA.エル・ワキル長官は1、2号機の建設許可申請について、「NPPAとロスアトム社のエンジニアリング部門であるASE社が実施した広範囲な共同作業の賜物であり、国内外の関係要件を満たした最高水準の申請書になった」と強調した。ASE社のG.ソスニン副総裁も、「ロシアとエジプトの両チームは、エンジニアリング・資材調達・建設(EPC)契約における技術要件やサイト条件との適合性を考慮した上で、このように複雑な職務を完了させた」と述べた。エルダバ発電所で採用するVVER-1200の「AES-2006」モデルについてロスアトム社は、ロシアの最新技術によるVVER設計であり、ロシア国内ではすでにレニングラード原子力発電所とノボボロネジ原子力発電所のⅡ期工事で各2基が稼働中だと説明。国外でもベラルーシ初の商業炉として、ベラルシアン1号機が2020年11月から送電を開始している。同発電所の建設計画でエジプトとロシアが交わした一連の契約によると、ロシア側は原子力発電所を建設するのみならず、発電所の全運転期間中に必要な原子燃料をすべて供給する。エジプト側の関係人材についても教育訓練の手配を約束。運転開始後最初の10年間は発電所の運転・保守(O&M)を支援するほか、使用済燃料の貯蔵施設もエジプト国内で建設する予定である。(参照資料:ロスアトム社、NPPAの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月1日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
05 Jul 2021
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米イリノイ州のイリノイ大学アーバナ・シャンペーン校(UIUC)は6月28日、ウルトラ・セーフ・ニュークリア社(USNC)が開発中の第4世代の小型高温ガス炉「マイクロ・モジュラー・リアクター(MMR)」を将来学内で建設するため、原子力規制委員会(NRC)に「意向表明書(LOI)」を提出した。UIUCはクリーンエネルギーの研究に加えて、人材育成用の研究・試験炉施設としても「MMRエネルギーシステム」を活用する。今回のLOI提出は、UIUCが今後MMRの建設許可をNRCから取得し、最終的に運転許可を得るための最初の正式手続きとなる。MMRは熱出力1.5万kW、電気出力0.5万kWの小型高温ガス炉だが、「MMRエネルギーシステム」は1~10万kWの熱や電気を生産する1基以上の「MMR標準型マイクロ・リアクター」と熱貯蔵ユニット、および熱を電気に転換する非原子力プラントを統合した「無炭素の発電所」となる。標準型マイクロ・リアクターは650度Cの高温熱を供給することが可能で、カナダにおけるUSNC社のパートナー企業グローバル・ファースト・パワー社は2019年3月、同炉の初号機をカナダ原子力研究所のチョークリバー・サイトで建設するため、「サイト準備許可(LTPS)」をカナダ原子力安全委員会に申請した。UIUCとUSNC社の今回の共同発表によると、USNC社は今後UIUC内のグレインジャー工科大学、および同大の原子力・プラズマ・放射線工学科と協力して、学内での「MMRエネルギーシステム」建設計画を推進する。MMRを備えた新しい研究・試験炉施設は、UNICのスタッフや学生に様々な研究の機会を提供。例として、計算科学の一分野であるマルチフィジックスにおける検証、原子炉のプロトタイプ試験、計装・制御(I&C)系、小規模送電網、サイバーセキュリティ、輸送とエネルギー貯蔵のための水素製造、およびその他のエネルギー集約型高価値生産品などを挙げている。UIUCはまた、キャンパス近郊で保有するアボット石炭火力発電所を、部分的に「MMRエネルギーシステム」と統合する計画。既存の化石燃料発電設備における脱炭素化の加速を目的としたもので、「学内のCO2排出量を同量吸収させることで実質ゼロ化する構想」の一環として、学内建築物に対する熱電供給の無炭素化を実証していく。UIUCはさらに、学内中心部でかつてGA社製の小型研究用原子炉「TRIGA」を保有していたことから、クリーンエネルギー研究の目標達成のほかに、「MMRエネルギーシステム」を次世代の原子力科学者やエンジニア、原子炉運転員など、原子力関係の人材育成に活用する。「TRIGA」は38年間稼働した後、1998年に閉鎖されており、UIUCは「クリーンエネルギー関係で新たな人材を教育訓練するには次世代のエネルギー研究施設が非常に重要だ」と強調している。(参照資料:USNC社、UIUCの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月29日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
01 Jul 2021
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インドの南端、タミルナドゥ州にあるクダンクラム原子力発電所で、6月29日から5号機(100万kW級のロシア型PWR:「VVER-1000」、出力105万kW)の建設工事が正式に始まった。同機の原子炉建屋の基盤部に最初のコンクリートが打設されたもので、インド原子力発電公社(NPCIL)は約66か月後の完成を予定している。NPCILの発表によると、この日現地では、同発電所のⅢ期工事にあたる5、6号機の起工式が行われた。新型コロナウイルスによる感染拡大防止の観点から、インド原子力委員会の委員長を兼ねるK.N.ヴィアス原子力相がテレビ会議を通じて5号機の着工を宣言。NPCILのS.K.シャルマ会長や、同発電所の建設工事を請け負ったロシア国営原子力総合企業ロスアトム社のA.リハチョフ総裁などが参加した。インドで稼働する商業炉は、出力が最大でも70万kWという国産加圧重水炉(PHWR)が中心で、クダンクラム原子力発電所Ⅰ期工事の1、2号機(VVER-1000、出力各100万kW)はインドで初めて建設された大型の軽水炉である。これらはそれぞれ2014年12月と2017年3月から営業運転を続けており、後続のⅡ期工事である3、4号機(VVER-1000、出力各100万kW)は2017年の6月と10月から建設工事中。現在の進捗率は約50%となっている。5、6号機の増設計画については、2017年6月にインドとロシア両国の政府が一般枠組協定(GFA)と政府間信用議定書に調印、同年8月には主要機器の調達が開始された。6基すべてが完成すれば、同発電所はベースロード電源として約600万kWのクリーン電力をインド全土に供給することになる。また、インド原子力省(DAE)とロスアトム社は2018年10月、インドの新規立地点で新たにVVERを6基建設する計画を公表している。ロスアトム社のリハチョフ総裁は5号機の着工に際し、「クダンクラム発電所の建設プロジェクトはインドとロシアの長年にわたる緊密な協力関係のシンボルだ」とコメント。その上で、「我々はここで歩みを止めるつもりはないし、両国の合意文書にも記したように、インドのパートナーとともに第3世代+(プラス)の最新鋭VVERを新規立地点でシリーズ建設していく」と述べた。ロスアトム社によると、原子炉設備やタービン建屋など、クダンクラム5号機で最優先に設置する機器類は、すでにロシアの関連企業が製造を開始。今後2年間の作業に関わる詳細な設計書類は完成済みだとしている。(参照資料:NPCIL、ロスアトム社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月29日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
30 Jun 2021
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英国政府とフランス電力(EDF)は6月23日、英国内の改良型ガス冷却炉(AGR)の閉鎖について、燃料取り出し後の廃止措置(デコミ)作業を英原子力廃止措置機関(NDA)が担当することで合意した。対象となるのは、EDFが所有する英国内すべてのAGRで、7サイト14基。うちダンジネスB発電所(61.5万kW×2基)は今月初めに閉鎖されたばかりだが、そのほかも今後10年以内に閉鎖予定だ。EDFは2009年にブリティッシュ・エナジー社を買収し、英国での原子力発電事業に乗り出した。もちろん発電所の運転からデコミまですべての責任をEDFが負うことになっており、デコミの原資は原子力債務基金(NLF)から拠出されることになっていた。しかし今回の合意により、EDFは閉鎖したAGRからの燃料取り出し作業までを実施し、サイト単位で規制当局からの承認を受けた後、サイトの所有権をNDAへ移管。NDA傘下のマグノックス社が速やかにデコミ作業を開始することになった。2006年に設立されたNDAは、AGRの先行炉型である旧式のガス冷却炉(GCR、通称マグノックス炉。全基が閉鎖済み)を所有しており、マグノックス社がすでにデコミ作業に着手している。これらマグノックス炉のデコミで培ったノウハウをAGRにも活用することで、「シナジー効果は10億ポンド規模」(A.M.トレベリアン・エネルギー担当大臣)だという。また今回英政府とEDFは、燃料取り出し作業のパフォーマンスに応じ、最大1億ポンドのボーナス支払い/最大1億ポンドのペナルティ徴収を実施することでも合意した。「作業の効率化、迅速化のみならず、リスクを両者がシェアする」(トレベリアン大臣)ことでEDFへのインセンティブとし、EDFからNDAへの所有権移管の効率化をねらう。ヒンクリーポイントB発電所 ©️EDF燃料取り出しに当たりEDFは、引き続きNLFから資金拠出を受ける。EDFによると燃料取り出しに要する期間は1サイトあたり3.5年~5年と見込んでおり、ハンターストンB発電所が一番手で2022年1月に取り出し作業を開始する。以降、ヒンクリーポイントB発電所が2022年半ば、ダンジネスB発電所が2022年後半、ヘイシャムA発電所とハートルプール発電所が2024年3月、トーネス発電所とヘイシャムB発電所が2030年頃に燃料取り出し作業を開始する予定だ。なお今回の合意はあくまでもAGRが対象であり、同じくEDFが所有し2035年まで運転継続予定のサイズウェルB発電所(PWR、125万kW)や、現在EDFが建設中のヒンクリーポイントC発電所(EPR、172万kW×2基)は対象外。いずれもEDFの責任でデコミを実施する。英国の2020年の原子力発電電力量は456億6,800万kWh(ネット値)。総発電電力量に占める原子力シェアは14.5%だった。英政府は、AGRが全基閉鎖されても、再生可能エネルギーの設備容量が2010年から10年間で4倍以上に拡大しているとして、英国の電力供給に影響はないとの考えだ。しかし現在の議会会期中に、先進炉の検討などと並行して、少なくとも1件の大型原子力発電所新設計画への投資を最終判断する予定となっている。
30 Jun 2021
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米国の先進的原子炉開発企業オクロ社(Oklo Inc.)は6月25日、同社製の超小型高速炉「オーロラ」に使用する先進的原子炉燃料の製造技術とリサイクル技術の商業化で、エネルギー省(DOE)の技術商業化基金(TCF)から支援を受けることになったと発表した。DOEおよび傘下のアルゴンヌ国立研究所と合計200万ドルのコスト分担型官民連携プロジェクトを実施するというもので、オクロ社側はこのうち少なくとも50%(100万ドル)をマッチングファンドで提供。電解精製技術を使って放射性廃棄物を転換し先進的原子炉燃料を製造するほか、使用済燃料をリサイクルする技術の商業化を進めていく。これらを通じて放射性廃棄物の量を削減し、先進的原子炉の燃料コスト削減を目指す考えだ。電気出力0.15万kWの「オーロラ」では、HALEU燃料(U235の濃縮度が5~20%の低濃縮ウラン)を燃料として使用する一方、原子炉の冷却に水を使わない設計。同社によれば、「オーロラ」は少なくとも20年間、燃料交換なしで熱電併給を続けることができる。オクロ社はすでに2020年3月、子会社のオクロ・パワー社を通じて、先進的な超小型高速炉としては初の建設・運転一括認可(COL)を原子力規制委員会(NRC)に申請。2020年代初頭から半ばにかけて、DOE傘下のアイダホ国立研究所敷地内で「オーロラ」の着工を目指している。同社に資金を提供するTCFは、有望なエネルギー技術の開発を促進するため、DOEの技術移転局(OTT)が「2005年エネルギー政策法」の下で立ち上げた基金。DOE傘下の国立研究所と民間企業が提携し、エネルギー技術の商業化に向けた取り組みを実施。その際、民間企業側には50%のマッチングファンド提供が義務付けられている。DOEは6月24日、TCFによる2021会計年度の支援対象を公表しており、クリーンエネルギー技術や先進的な製造技術、次世代の材料物質開発など、合計68プロジェクトを選定している。これらにはTCFの連邦政府予算から約3,000万ドル、民間部門の基金から約3,500万ドルを充当し、革新的技術を用いた解決策を採用していく。新たな事業や雇用を創出する一助とするほか、米国の経済的競争力を増強し、J.バイデン大統領が目標とする「2050年までにCO2排出量の実質ゼロ化」を達成する。この発表の中でDOEは、連邦政府予算の中からアルゴンヌ国立研究所に415万ドルを充てると説明。国内8州のパートナー企業と費用を分担し、エネルギー貯蔵に向けた材料物質の加工やCO2の合成による高効率の化学品(オレフィンなど)製造、先端材料を使った高速炉用燃料の製造などを実施すると述べた。オクロ社のC.コクラン最高執行責任者(COO)は、「先進的燃料技術の商業化を通じて、クリーンなパワーを迅速かつコスト効率も高い方法で市場に届けたい」と表明。手持ちの燃料のエネルギー密度が代替燃料より数百万倍高ければ、電解精製技術を用いた最も低価格な方法でクリーンパワーを生み出すことができると述べた。また、「使用済燃料にはクリーンパワーを世界中にもたらすための、極めて大きなエネルギーを秘めている」と強調した。(参照資料:オクロ社、DOEの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月28日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
29 Jun 2021
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中国核能行業協会(CNEA)は6月25日、遼寧省の紅沿河(ホンヤンフ)原子力発電所で建設されている5号機(PWR、111.9万kW)が同日の午前12時半頃、国内送電網に初めて接続されたと発表した。中国では先月、江蘇省の田湾原子力発電所6号機(PWR、111.8万kW)が初併入したことから、紅沿河5号機はこれに続いて中国51基目の商業炉となる予定。同機の事業者で中国広核集団有限公司(CGN)傘下の遼寧紅沿河核電有限公司(LHNPC)は今後、同機が商業運転の開始条件をクリアできるよう、出力上昇試験等の様々な試験を実施する。初併入プロセスの中で同機の機器パラメーターは正常値を示しており、安定した状態で制御されている。このことから、同機は年内にも営業運転を開始すると見られている同機と現在建設中の6号機の建設計画は、紅沿河原子力発電所のⅡ期工事に相当する。中国・東北地方の振興を支援する重大施策の一つであり、福島第一原子力発電所の事故後に初めて、国務院が2015年に承認した。これを受けて、LHNPCは5、6号機をそれぞれ2015年3月と7月に本格着工。LHNPCにはCGNと国家電力投資集団公司が45%ずつ、大連建設投資集団公司が残りの10%を出資している。I期工事の1~4号機(各111.9万kWのPWR)が第2世代改良型の「CPR1000」設計を採用したのに対し、5、6号機では第3世代の技術特性を有するという「ACPR1000」を採用。これらはともに、仏国のPWR技術をベースにCGNが開発したもので、福島第一原子力発電所事故の教訓をフィードバックしている。具体的には、緊急時冷却システムなどに3つの受動的システムを取り入れたほか、11項目の技術改善を実施するなど、安全レベルはさらに向上したとCGNは説明している。CNEAによると、今年は中国共産党の創立100周年であるとともに「第14次5か年規画」の最初の年度であることから、紅沿河発電所プロジェクトにおいてはⅡ期工事の原子炉の試運転にも注目されていることから、LHNPCはクオリティの高い試運転を実現する方針である。(参照資料:中国核能行業協会(CNEA)(中国語)の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月25日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
28 Jun 2021
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ルーマニアの議会上院は6月22日、建設工事が中断されているチェルナボーダ原子力発電所3、4号機(各70.6万kWのカナダ型加圧重水炉)を完成させる協力プロジェクトも含め、同国が米国と2020年10月に仮調印した民生用原子力分野における政府間協力協定を批准した。これで上下両院の承認が得られたことになり、同協定は今後、K.ヨハニス大統領が署名した後、官報に掲載される。欧州委員会(EC)もすでにこの協定を承認していることから、国営原子力発電会社(SNN)は両機でそれぞれ、2030年と3031年の送電開始を目指す。同協定の批准は、ルーマニアがエネルギー戦略に盛り込んだ「原子力発電プロジェクトの実施と継続」における包括的枠組みとなる。また、同国の「エネルギーと気候変動に関する統合国家計画案(PNIESC)」でも、脱炭素化の目標達成とエネルギーの供給保証を進め、クリーンエネルギー社会に円滑に移行するための中心的項目となる。同協定では具体的な協力事項として、3、4号機完成プロジェクトのほかに1996年から稼働している同発電所1号機(70.6万kWのカナダ型加圧重水炉)の改修工事実施、およびルーマニアの民生用原子力発電部門の拡充と近代化も明記されている。SNNによると、これらの協力プロジェクトにより、ルーマニアでは2031年以降、CO2の排出量が1/2になる見通し。ルーマニアは現在、唯一の原子力発電設備である同発電所1、2号機で年間1,000万トンのCO2を抑制しているが、3、4号機の完成によってこの排出抑制量が年間2,000万トンになる。これらのプロジェクトはまた、国内サプライチェーンの発展に寄与するとSNNは指摘。新たに最大9,000名分の雇用が創出され、原子力産業界では研究開発と技術革新が促進される。これにともない、マクロ経済の飛躍的な成長効果が期待されるだけでなく、高い技術力を持った専門家が育成されるとしている。SNNのC.ギタCEOは、「原子力発電所の運転事業者としては、プロジェクトを遂行する上で『時間』が非常に重要だ。2030年と2031年に3、4号機で首尾よく送電開始できたら、ルーマニアはエネルギーの移行や持続可能な価格のエネルギー消費に向けて、自国の資源に多額の資本を投下している国々と連携していく」とした。同CEOはまた、「様々な国際研究の結果から、ルーマニアは既存の原子力発電所で運転期間を延長した場合の電気代がすべての電源の中で最も低価格になると考えている。また、新規の原子力発電所建設プロジェクトにもコスト面の競争力があるため、米国と協力して進める原子力プロジェクトには、このような競争力、およびCO2排出量の実質ゼロ化の達成という2重の利点がある」と強調している。(参照資料:SNN、ルーマニア議会の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月24日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
25 Jun 2021
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米国のウルトラ・セーフ・ニュークリア社(USNC)は6月22日、同社製の小型モジュール炉(SMR)で使用する「完全なセラミック・マイクロカプセル化(FCM)燃料」の性能や安全性を分析するため、オランダのペッテンにある高中性子束炉(HFR)を活用すると発表した。USNC社が開発したSMRは第4世代の小型高温ガス炉「マイクロ・モジュラー・リアクター(MMR)」で、熱出力1.5万kW、電気出力は0.5万kW。カナダのプロジェクト開発企業でUSNC社と長年協力関係にあるグローバル・ファースト・パワー(GFP)社は2019年3月、このSMRをカナダで建設するため、同国の原子力安全委員会(CNSC)に「サイト準備許可(LTPS)」を申請。CNSCは同年7月から、SMR開発計画の許認可手続きとしては現時点で唯一のものであるこの申請を審査中である。ペッテン炉を保有しているのは、オランダの原子力研究機関の「原子力研究コンサルタント・グループ(NRG)」。1955年から原子力産業界に支援を提供し続けており、原子燃料の試験では50年以上の実績がある。NRGはペッテン炉を使って原子燃料と材料物質の照射試験や照射後試験を行っているほか、原子炉と原子力関係機器で高品質の挙動シミュレーションを実施。重篤な病気の診断や治療など、医療用放射性同位体の新たな活用方法も開発している。USNC社は今回、NRGとの協力により、ペッテン炉でFCM燃料の挙動に関する照射試験の実施を計画し、MMRの耐用年数である20年の間に燃料の十分な安全性が確保されることを実証する。ペッテン炉に付属するホット・セル研究施設も活用し、照射前と照射後の2段階で広範な試験を行う。FCM燃料は事故耐性燃料の一つで、ウラン酸化物の核を黒鉛やセラミックスで3重に被覆した粒子型燃料(TRISO)の次世代版。USNC社は、従来型のTRISO燃料用として約50年前に開発された黒鉛マトリックスを炭化ケイ素(SiC)マトリックスに置き換え、高い放射線や高温に対する耐性を飛躍的に向上させている。同社によれば、SiCマトリックスは高密度な気密バリアーの役割を果たし、MMRの運転時にTRISO燃料が破損した場合でも核分裂生成物の流出を防ぐ。また、FCM燃料の高い熱伝導率は燃料ペレットの温度を均一にするため、原子炉のピーク温度を下げることができる。このように、従来の原子燃料とは異なり、FCM燃料では通常運転時や破損時も含め、様々な温度の中で核分裂生成物を確実に閉じ込めることが可能だとしている。USNC社のF.ベネリCEOは、「NRGにFCM燃料の性能認定をしてもらえば、MMRで無炭素電力を生産するという当社ビジョンを実現する重要な一歩になる」と指摘。「NRGの優れた技術能力と信頼性の高い試験によって、当社が社内で実施した性能評価が全面的に確認される」との期待を表明した。(参照資料:USNC社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月23日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
24 Jun 2021
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米国のデューク・エナジー社は6月21日、サウスカロライナ州で保有・運転しているオコニー原子力発電所の3基(PWR、出力各約90万kW)について、2度目の運転期間延長を原子力規制委員会(NRC)に申請したと発表した。これら3基は1973年(1、2号機)と1974年(3号機)に送電開始しており、2013年と2014年に当初の運転期間である40年に加えて、20年間の運転継続を許された。現在の運転認可は2033年と2034年まで有効で、デューク・エナジー社は2回目の運転期間延長により、これら3基をそれぞれ80年間運転する計画。2053年と2054年まで南北両方のカロライナ州で、顧客に無炭素な電力を供給したいとしている。NRCは現在、同社の申請文書に漏れなどの不備がないか点検中。受理できると判定した場合は、付属の行政判事組織である原子力安全許認可会議(ASLB)に公聴会の開催要請を発出することになる。デューク・エナジー社によると、同社最大の原子力発電設備であるオコニー発電所の運転期間再延長は、CO2排出量の削減で同社が設定した意欲的な目標を達成するための重要な最初の一歩。原子力がなければこの目標の達成は難しいと同社は考えており、2019年にはオコニーも含め国内6サイトで運転する全11基の商業炉で、2度目の運転期間延長を申請する考えを明らかにしていた。同社のこれらの原子力発電所は2020年、石炭や石油で発電した場合との比較で約5,000万トンのCO2排出抑制に貢献しており、その発電量は同社が無炭素電源で発電した電力量の83%を占めている。同社はまた、再生可能エネルギーの供給大手でもあり、2025年までに1,600万kW分の設備容量を再エネで新たに確保する方針。それ以外にも、先進的原子力技術や大規模送電網の機能向上、蓄電池の活用で投資を行うなど、CO2を出さない発電技術の模索を続けている。こうした背景から、同社は2030年までに同社の発電事業にともなうCO2排出量を少なくとも50%削減し、2050年までには実質ゼロ化を目指すとの目標を設定。これらの達成に向けて、保有する原子力発電所の運転を今後も継続するとしている。同社のK.ヘンダーソン原子力部門責任者(CNO)は、「CO2を排出しない様々な電源で一層多くの電力を生み出すことは、当社の顧客にとっても重要なことだ」と指摘。その上で、「原子力はその中でも実証済みの技術であり、南北のカロライナ州で数10年にわたって安全かつクリーンな電力を提供している」と述べた。同CNOはまた、「これらの顧客コミュニティにおける経済成長の原動力として、原子力発電所は高サラリーの雇用創出や多額の税収など、様々な恩恵をもたらしている」と強調した。米国では約100基の商業炉のうち、90基以上がこれまでにNRCから初回の(20年間の)運転期間延長を認められた。このうち、ターキーポイント3、4号機とピーチボトム2、3号機、およびサリー1、2号機に関しては、NRCがすでに2回目の運転期間延長を承認、それぞれ80年間の稼働を許可している。NRCはさらに、ポイントビーチ1、2号機とノースアナ1、2号機についても同様の申請を審査中である。(参照資料:デューク・エナジー社、NRCの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月22日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
23 Jun 2021
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中国の国家原子能機構(CAEA)は6月18日、北西部の甘粛省酒泉市北山で高レベル放射性廃棄物(HLW)の地層処分に向けた研究開発を実施するため、地下研究所の建設を開始したと発表した。世界中の原子力産業界の課題であるHLWの処分問題を克服するのが目的で、包括的な機能を有する世界最大規模の地下研究所を建設しフィールド試験の実施基盤を構築。深地層の最終処分場建設に必要な科学研究を行うことでHLWの長期的に安全な処分を早期に実現し、原子力産業界の健全かつ持続的な開発に資する方針である。中国では軽水炉から発生する使用済燃料については再処理を行い、高レベルの廃液をガラス固化した後、深地層に処分することになっている。1985年に現在の中国核工業集団公司(CNNC)は「HLW地層処分研究発展計画」を策定しており、中国の地層処分場建設計画はこれに基づいて進められている。甘粛省の北山は処分場建設候補地の一つに選定されている。2006年に関係省庁は「HLW地層処分研究開発計画のガイドライン」を共同で作成しており、その中で「処分場の建設サイト選定」と「地下研究所における科学研究」、および「処分場の建設と操業」という3段階の研究開発戦略を明記。甘粛省北山における地下研究所建設プロジェクトは2016年3月、中国の「国家経済社会開発第13次5か年規画」における100の主要プロジェクトの一つに指定された。また、同施設を建設・保有する機関として北京地質学研究院が設置されている。CAEAがこの建設プロジェクトを承認したのは2019年のことだが、北京地質学研究院が2020年6月に作成した同プロジェクトの環境影響(評価)報告書によると、ゴビ砂漠の地下に建設される地下研究所は螺旋状のスロープと3本の垂直坑、全長13.39kmの地下トンネルを備えることになる。受け入れ可能な廃棄物の容量は51万4,250立方メートルで、地下280メートルと560メートル2つのレベルで実験が行える構造。建設期間は84か月(7年間)で施設としての耐用年数は50年、総工費は27億2,313万元(約465億円)となる予定である。CAEAは現在、HLWを長期的に管理する科学研究モデルの開発に取り組んでいるが、地下研究所の研究開発等に基づいてHLWを地層処分する革新的なシステムを確立し、国内外の研究者と交流。HLWの地層処分という世界レベルの課題の克服に、中国の知恵と解決策が寄与することを目指すとしている。(参照資料:国家原子能機構(中国語)の発表資料、北山プロジェクトの環境影響報告書(中国語)、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月21日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
22 Jun 2021
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米国防総省(DOD)の国防高等計画推進局(DARPA)は今年4月、「地球と月の間を一層機敏に行き来するための実証ロケット(DRACO)」プログラムで、宇宙用原子力推進(NTP)システムの開発を担当する企業2社と契約を締結したが、このほどこれら2社に重要な支援を提供する企業として、ウルトラ・セーフ・ニュークリア社(USNC)の技術部門(USNC-Tech)を選定した。これは、USNC社が11日付で明らかにしたもので、DRACOプログラム・第一段階の18か月間に、2種類の開発作業(トラック)のうち「トラックA」の主契約者(契約額2,200万ドル)となったジェネラル・アトミクス(GA)社がNTPシステムで使用する原子炉の予備設計を実施する。また、「トラックB」の主契約者(契約額250万ドル)であるブルーオリジン社(=アマゾン社の創業者J.ベゾス氏が創設した宇宙ベンチャー企業)は、その運用システムとなる宇宙船の概念設計と実証を担当。DARPAはDRACOプログラムで、2025年にもNTPシステムの本格的な実証を地球の低軌道上で行うとしており、USNC社は「これら2つのトラック両方に参加する唯一の企業になった」と強調している。USNC社は現在、熱出力1.5万kW、電気出力0.5万kWの第4世代の小型高温ガス炉「マイクロ・モジュラー・リアクター(MMR)」を開発中。カナダのエネルギー関係プロジェクト開発企業のグローバル・ファースト・パワー(GFP)社は2019年3月、このMMRをカナダのチョークリバー・サイトで建設するため、「サイト準備許可(LTPS)」をSMRとしては初めて、カナダ原子力安全委員会(CNSC)に申請した。USNC社は今回、DODのNTPシステムのような高性能システムの開発に向けて、設計・分析能力を提供することになった。USNC社の発表によると、月面探査などの宇宙開発に世界中の関心が高まるなか、地球から月までの宇宙空間における各国の宇宙開発機関や企業の活動は、次第に活発化している。この空間で米国の政府や企業が確実に動けるようにするには、DODが開発を進めなくてはならず、DODはDRACOプログラムで既存の推進システムをしのぐ全く新しい推進システムを開発する。NTPシステムの持つ高い推力重量比と推進効率は、DODが総合戦略で基本原則とする「機敏な対応能力」をもたらすと期待されている。また、米国の宇宙飛行士を再び月に送ることができる商業規模の能力として、NTPシステムを配備するとしている。同社はさらに、全米3つ(科学、技術、医学)のアカデミーが実施した宇宙用NTPシステムの調査結果が示しているように、DRACOプログラムの技術的な成果の一部は、米航空宇宙局(NASA)が初の火星有人探査を目指して開発中のNTPシステムにも貢献すると指摘。DRACOプログラムではHALEU燃料(U235の濃縮度が5~20%の低濃縮ウラン)が必要になるため、DODはこのような重要技術の成熟や、NTPシステムの活用に直接関わる供給チェーン、人材の確保等を支援していく考えである。(参照資料:USNC社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月18日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
21 Jun 2021
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カナダのオイルサンドの90%を生産する同国の大手生産企業5社は6月9日、生産時に発生するCO2を2050年までに実質ゼロにすることを目指し、小型モジュール炉(SMR)の活用・検討を含めた戦略構想を実行に移すと発表した。この構想を団結して進める枠組みとして、アルバータ州を本拠地とするCanadian Natural Resources社とCenovus Energy社、Imperial社、MEG Energy社、およびSuncor Energy社の5社は企業連合を形成。カナダがパリ協定で誓約した「2050年までのCO2実質ゼロ化」等も達成できるよう、連邦政府やアルバータ州政府とも協力していく考えである。同構想は、これら2つの政府がCO2排出量の削減に向けた計画やインフラの支援で重要プログラムを発表したのに続いて公表されており、両者がそれぞれの構想と地球温暖化の防止目標を達成するには、産業界と政府の協力が重要との認識を強調している。今回の構想はCO2の回収・利用・貯留(CCUS)を基本の方策としているが、これら5社は、地球温暖化の防止で「現実的かつ有効な」方策実現への堅い決意を表明。オイルサンド業界が排出する温室効果ガスが非常に多いことから、今後30年以上にわたりオイルサンドの生産関連でカナダのGDPに対して3兆カナダドル(約267兆円)の貢献をしつつ、CO2の削減で直ちに利用可能な方策を模索していく。5社はまた、この構想によってクリーンエネルギー部門の技術開発を促進し、関係雇用を創出すると指摘。その他の複数の部門にも利益をもたらすとともに、カナダ国民の生活の質向上に資するよう支援する。オイルサンド業界でCO2の排出量と吸収量を同レベルにすることを促すだけでなく、それによって各社の株主たちにも長期的利益を配分できるよう投資を行う。今回の発表によると、CO2排出量を削減する方策はただ一つではないため、参加企業は複数方策の並行的実施を構想に盛り込んでいる。その一つは、SMRや次世代のCO2回収技術、大気中からCO2を直接回収してCO2の量を減らす技術など、潜在的な可能性がある新技術について評価を行い、試験的な運用や適用を加速することである。また、アルバータ州で建設が計画されているインフラ道路を、州内のオイルサンド施設から近隣のCO2貯留ハブにつなぐことも検討する。さらに、このインフラ道路と並行して、CCUSやクリーン水素、エネルギー生産・使用の効率化、燃料転換など、新旧様々なCO2削減技術をオイルサンドの生産施設に設置することを挙げている。カナダでは2019年12月、オンタリオ州とニューブランズウィック州、およびサスカチュワン州の3州が、国内での多目的SMRの開発・建設に向けて協力覚書を締結。アルバータ州は今年4月に、この覚書に加わったことを明らかにしている。(参照資料:加オイルサンド企業連合の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月11日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
18 Jun 2021
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