ロシア国営の原子力総合企業ロスアトム社は2月5日、国内原子力産業界の従業員向けにA.リハチョフ総裁のビデオメッセージを発信した。2021年は原子力を中心とする従来の事業を一層強化していくため2050年までの開発計画を策定するほか、新規事業の比重を高めるなど戦略的な方向に乗り出していく考えを明らかにしている。リハチョフ総裁は同社の2020年の実績を振り返り、「風力発電や核医学、デジタル製品、複合材料といった事業が十分成長しており、ロスアトム社の収益拡大に大いに貢献する見通しとなった」と述べた。その上で、今後は世界のリーダー的立場を獲得することを念頭に、新規事業の基礎固めを進めていると説明。具体的には、ロジスティクス事業の国内大手Deloグループと協力して同事業のへの参入を試みているほか、宇宙・人工衛星システムの開発で民間企業と協力、水素生産についても第一歩を踏み出そうとしている。同社はまた、国連サミットで採択された「持続可能な発展に向けたアジェンダ」に関わる海外市場に力を入れる方針で、昨年末には「国連グローバル・コンパクト・ネットワーク」にも参加した。同ネットワークは、各企業が責任ある創造的リーダーシップを発揮して、社会の良き一員として持続可能な成長を実現させるという世界的な取り組み。世界をより良い方向に変えるための、信頼できるパートナーとしてロスアトム社が認識されるよう、海外市場向けの政策を打ち立てる必要があるとしている。ミシュスチン首相(=左)とロスアトム社のリハチョフ総裁©Rosatomリハチョフ総裁はさらに、前日の4日にM.ミシュスチン首相と会見し、ロスアトム社の2020年の実績を報告するとともに2021年の戦略計画を説明したと表明。ユーラシア経済連合に所属するアルメニアやウズベキスタン、カザフスタン、キルギスタン、ベラルーシなどとの協力についても、協議を行った。この会見の中で同総裁は、ロスアトム社の諸外国からのこれまでの受注総額が2,500億ドルを超えている事実に言及。今後の見通しについても、10年間の総額で約1,400億ドルのレベルに留まると見込まれる。一方、同社は昨年、自己資本の中から2,500億ルーブル(約3,500億円)を投資したほか、国家予算の中からは1,300億ルーブル(約1,840億円)を投資。「予算の執行はほぼ100%キャッシュで行っており、国の予算は責任ある方法で注意深く使っている」と強調した。一方のミシュスチン首相は、ロスアトム社がベラルーシを含む12か国でロシア型PWR(VVER)の建設を積極的に進めている点を高く評価。「原子力の範疇を超えて、デジタル技術やレーザー技術、量子計算などの技術にも幅広く関わっている」と指摘した。また、2020年は新型コロナウイルスによる感染が拡大するなど困難な年だったが、V.プーチン大統領が4月に「ロシア連邦における2024年までの原子力利用分野の科学・技術研究と機器開発に関する大統領令」を公布。同令に沿って、原子力産業界では各種のプログラムが進展中だと首相は述べた。(参照資料:ロスアトム社の発表資料(ロシア語)①、ロシア政府の発表資料(ロシア語)②、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの2月5日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
09 Feb 2021
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英グレートブリテン連合王国の一地域であるウェールズの政府は2月5日、サイズウェルC(SZC)原子力発電所(出力約167万kWの欧州加圧水型炉: EPR×2基)の建設に向けて結成された原子力サプライチェーン「サイズウェルC企業連合」と協力覚書を締結したと発表した。ウェールズでは先月27日、アングルシー島におけるウィルヴァ・ニューイッド原子力発電所建設計画について、事業者が主要認可となる「開発合意書(DCO)」の申請を取り下げると発表した。今回の覚書を通じて、ウェールズ政府はこれまで同地域で培われてきた原子力スキルを維持していく方針である。「サイズウェルC企業連合」は昨年7月、英国の原子力サプライチェーンに属する企業や労働組合など32社が結成したもので、現在の参加企業数は約200社に拡大した。英国の商業炉15基すべてを保有するEDFエナジー社のほか、大手エンジニアリング企業のアトキンズ社やアラップ社、ヌビア社、原子力事業会社のキャベンディッシュ・ニュークリア社、建設大手のレイン・オルーク社、米国籍のGEスチーム・パワー社などが参加。大手労組のGMBやユナイト・ユニオンも加わっている。今回の覚書によると、グレートブリテン島の南東部、イングランドのサフォーク州で同発電所建設計画が承認された場合、「サイズウェルC企業連合」はその全建設期間中、同島の南西部に位置するウェールズで最大約9億ポンド(約1,300億円)の投資をサプライチェーンに行うとともに、4,700人分の雇用を支援。英国では現在、EDFエナジー社がサマセット州でヒンクリーポイントC(HPC)原子力発電所(170万kW級のEPR×2基)を建設中であることから、同社を中心とする「サイズウェルC企業連合」はHPC発電所が完成に近づいた段階で、そのサプライチェーンをSZC発電所用に移行させる可能性を検討する。ウェールズでは1960年代半ばから1990年代半ばまで、トロースフィニッド原子力発電所(23.5万kWのGCR×2基)が北西部のグゥイネズで稼働。英国の原子力部門とは長年にわたって協力し合い、数多くの地元専門家が同部門の要請に応えてきた。ウェールズ政府のK.スケーツ経済相は、「原子力に関する専門的知見やノウハウの蓄積で、ウェールズには確固たる実績があり、英国内の原子力事業は今や、世界の原子力サプライチェーンの一部分を担っている」と説明。SZC計画にゴーサインが出れば、そこから利益を得る態勢が整っていると述べた。同相はまた、「先般のウィルヴァ・ニューウィッド計画のニュースは残念だったが、今回の覚書締結により、ウェールズの専門的知見がどれほど必要とされているか明らかになった」と述べた。「サイズウェルC企業連合」のC.ギルモア広報担当は、「サイズウェルC発電所によってウェールズ全体に雇用や関係スキル、長期的な経済成長がもたらされると産業界は考えており、今回の覚書ではそれが明確に示された」と指摘。このような利益の実現に向けて、同企業連合は今後もSZC計画の承認取得プロセスを支援していくとした。EDFエナジー社は2020年5月に同建設計画の「開発合意書(DCO)」を計画審査庁(PI)に申請しており、PIは6月24日付でこの申請を受理している(参照資料:ウェールズ政府、サイズウェルC企業連合の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの2月5日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
08 Feb 2021
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欧州6か国の主要な13の労働組合は2月4日、欧州委員会(EC)のU.フォンデアライエン委員長宛てに共同書簡を送った。欧州連合(EU)が2050年までに気候中立(carbon neutrality=CO2排出量と吸収量とがプラスマイナスゼロの状態)を達成するという「欧州グリーンディール」の目標を満たすのであれば、中心となるグリーン事業の分類(EUタクソノミー)に原子力を含めなくてはならないと訴えている。これらの労組は、ベルギー、ブルガリア、フィンランド、フランス、ハンガリー、ルーマニアの労働者を代表する組織で、エネルギー・原子力関係の労組も網羅。フランスの5つの主要労組連合の一つである「労働総同盟(cgt)」やベルギーの3大労組の一つ「キリスト教労働連盟(CSC-ACV)」などが含まれている。「EUタクソノミー」は見せかけの環境配慮を装った事業を廃し、環境上の持続可能性を備えた真にグリーンな事業に正しく投資が行われるよう、明確に定義づけるための枠組み。ECの「持続可能な金融に関する技術専門家グループ(TEG)」は2020年3月、「EUタクソノミー」の最終技術報告書の中で「原子力については、放射性廃棄物の管理で環境分野に悪影響が及ばないかという点で評価が非常に難しい」と表明。その時点では、原子力を「EUタクソノミー」に含めるようECに勧告することはできないとしていた。13の労組は今回の書簡の目的について、「気候中立を達成する際に原子力が果たす重要な役割について、フォンデアライエン委員長に注目してもらうことだ」と説明。これと同時に、EU域内におけるエネルギーの供給保証と新型コロナウイルスによる感染拡大からの復興も目指す。同委員長との対話を通じて、原子力の持つすべての潜在能力が発揮される状況を作り出し、経済面の効率性が高く社会的にも公正な「低炭素な欧州」を2050年までに構築したいと述べている。これらの労組の認識では、原子力はEU域内における低炭素電力の約半分を供給しており、国際エネルギー機関(IEA)と国際原子力機関(IAEA)は共同で原子力の有用性を指摘。「国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」も、地球温暖化の防止に原子力は必要欠くべからざる解決策の一つだと繰り返している。13の労組はまた、EU加盟国の多くが次世代原子炉の開発や既存炉の運転期間延長を優先事項としており、近年は小型モジュール炉(SMR)などの新技術も浮上しつつあると説明。再生可能エネルギーのように出力調整困難な電源を補いつつ、欧州電力システムの安定性を確保するには、信頼性の高い電力供給が可能な欧州原子力産業への投資は欠かせないと指摘した。もしも原子力が「EUタクソノミー」から除外された場合、再生エネの補完は引き続き化石燃料火力が担うことになり、CO2排出量の削減という目標の達成は難しくなるとしている。さらに、原子力を除外すれば、このような強い悪影響は欧州の原子力産業のみならず、電力多消費産業を中心とした全産業に及ぶ。これが確定してしまえば、欧州は気候中立の達成に向けた重要な基準を満たすことはできなくなると強調している。(参照資料:欧州労組の共同書簡、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの2月4日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
05 Feb 2021
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仏国のフラマトム社は2月2日、同社製の改良型事故耐性燃料(EATF)を試験的に装荷した米国の商業炉が、このほど18か月の運転サイクルを完了したと発表した。この先行使用・燃料集合体(LFAs)には、ペレットと被覆管の両方に事故耐性燃料(ATF)の概念が盛り込まれており、同燃料で商業炉が1運転サイクルをフルに稼働したのは初めてだとしている。フラマトム社は今回、試験に使った商業炉名を明らかにしていないが、LFAsの装荷時期については、この商業炉で予定している3回の18か月運転の初回分として2019年4月に行ったと明記。この当時、同社はサザン・ニュークリア社がジョージア州で操業するA.W.ボーグル原子力発電所で、2号機(121.5万kWのPWR)にLFAsを装荷と公表していた。発表によると、昨年8月の燃料交換時に原子炉から4体のLFAsを取り出した後、点検を実施。その結果、LFAsで期待通りの成果と優れた性能が認められたほか、同炉で残り2回の運転サイクルが終了した後、さらに詳細な計測と点検を行う計画だとしている。フラマトム社で燃料事業を担当するL.ゲフェ上級副社長は、「当社のEATF技術で最高度の技術基準をクリアできることが確認できた」とコメント。この技術をさらに進展させ、顧客に一層安全かつ信頼性や効率性、経済性も高い燃料を提供していきたいと述べた。フラマトム社は現在、米エネルギー省(DOE)が福島第一原子力発電所の事故後に開始した「事故耐性燃料開発プログラム」に参加している。同社のほかには、GE社と日立の合弁企業であるグローバル・ニュークリア・フュエル社、ウェスチングハウス社、ライトブリッジ社などが産業界から協力中。2022年頃までに、3段階でATFを開発・実証する計画である。フラマトム社はまた、DOEプログラムの一環として独自のATF開発プログラム「PROtecht Program」も進めており、短・長期的な事故時の対応策としてPWR用に高性能で堅固な先進的EATF(GAIA)の開発を目指している。GAIA燃料集合体のコンセプトは、同社製の最新鋭ジルカロイ合金製被覆管「M5」に先進的なクロム・コーティングを施すとともに、燃料ペレットをクロム合金の酸化被膜で覆うというもの。クロムを塗布することで被覆管の高温耐酸化性が改善され、冷却水喪失時においても水素の発生を抑えることができる。このコーティングはまた、燃料が微摩耗するのを防ぐことから、通常運転時に燃料が破損する可能性も低くなるとしている。なお、今回試験したLFAsは、フラマトム社が米ワシントン州リッチランドにある同社の燃料製造工場で製造加工したものである。(参照資料:フラマトム社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの2月3日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
04 Feb 2021
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ポーランド政府は2月2日、気候・環境大臣が提出していた燃料・エネルギー部門における2040年までの重要政策「PEP2040」を、内閣が正式に承認したと発表した。国内エネルギー・ミックスにおける石炭火力シェアの大幅な削減を目標としたもので、原子力については出力100万~160万kWの初号機を2033年に運転開始すると明記されている。「PEP2040」の概要はすでに2020年9月、気候・環境省のM.クルティカ大臣が公の場で公表。この政策に関して実施したパブリックコメント募集や関係閣僚との協議も同年末までに完了し、内閣の開発政策調整委員会等からは肯定的な評価が得られていた。新たな政策や戦略の承認は2009年に前回のエネルギー政策を策定して以来のことであり、ポーランド国内でCO2排出量ゼロに向けてエネルギー改革を進める際の枠組となる。政策の主な柱は①クリーン・エネルギーへの移行、②CO2排出量ゼロのエネルギー供給システム確立、③大気汚染の改善。これらによって、ポーランド経済全体の近代化が円滑に進み、エネルギーの供給保証が強化されるとしている。「PEP2040」はまた、パリ協定が定めた目標の達成に貢献するとしており、ポーランドのクリーン・エネルギーへの移行を公平かつ一致団結した方法で進める一助となる。さらに、地球温暖化防止を目指した欧州連合の2050年までの工程表「欧州グリーンディール」を、ポーランド経済に適応させることにも配慮したものになっている。「PEP2040」」を通じて、ポーランドは2040年時点で国内発電設備の半分以上を無炭素電源にする予定だが、このプロセスの中で洋上風力発電と原子力発電の導入は重要な役割を担う。これら2つはポーランドがこれから構築する新しい戦略的産業であり、これらに特化した人的資源の開発や新規の雇用、付加価値の付いた国家経済が構築されるとポーランド政府は強調している。「PEP2040」における原子力発電実施プログラム「PEP2040」で戦略的プロジェクトの1つとされた原子力発電プログラムでは、2043年までに合計6基の原子炉を建設すると明記。2033年に100万kW以上の初号機が運転開始した後、2~3年毎に残り5基の運転を開始させるが、2043年という期限は、電力需要の増加にともない電力不足に陥ることを想定して設定した。「PEP2040」によれば、原子力発電は大気を汚さずに安定的にエネルギーを供給するだけでなく、エネルギーの生産構造を合理的なコストで多様化することが可能である。また、近年使われている第3世代および第3世代+(プラス)の原子炉技術は、原子力安全分野の厳しい国際基準と相まって、原子力発電所で高い水準の安全性を確保。ポーランドが進める原子力発電プログラムでは、その多くに国内企業が参加することになるとした。実際に同プログラムを進めるにあたり、関係する法の改正や資金調達モデルの確立も事前に必要になるが、ポーランド政府は原子力発電所建設サイトの選定、低・中レベル放射性廃棄物処分場の操業なども実行に移す。また、採用技術や建設工事の総合請負業者を選定するほか、発電所の建設と運転、監督等で必要な人材の育成も行う方針である。「PEP2040」ではさらに、大型軽水炉の建設とは別に高温ガス炉(HTR)を将来的に導入する可能性を明記。HTRは主に、産業用の熱供給源として使用するとしている。(参照資料:ポーランド政府の発表資料(ポーランド語)①、②、原産新聞・海外ニュース、ほか)
03 Feb 2021
3965
中国核工業集団公司(CNNC)は1月30日、福建省で昨年11月から試運転中だった福清原子力発電所5号機(116.1万kWのPWR)が、世界初の「華龍一号」設計採用炉として営業運転を開始したと発表した。同炉は2015年5月に本格着工、国内の商業炉としては49基目になる。中国の原子力発電開発において大きな節目となった同炉の運転開始により、中国は自らが知的財産権を保有する第3世代炉の開発国としては、米国、仏国、ロシアに次いで4番目(※)になったとCNNCは表明している。「華龍一号」は、中国で過去30年以上にわたる研究開発と機器の設計・製造、建設・運転の経験に基づき、CNNCと中国広核集団公司(CGN)双方が開発した第3世代炉設計を一本化したもの。設計上の運転期間は60年で、運転サイクル期間は18か月となっている。安全系には動的と静的両方のシステムを組み合わせており、格納容器は二重構造。これらによって、国際的に最も厳しい最新の安全基準をクリアしたとしている。同設計はまた、120万kW近い出力があるため、年間100億kWh程度の発電が可能。新興工業国であれば、これ一基で国民100万人分の電力需要に応えることができる。この発電量はさらに、標準的な石炭の消費量で年間312万トンに相当することから、CO2に換算して年間816万トンの排出を抑えられるとCNNCは指摘した。CNNCの余剣鋒董事長によると、CNNCは今後一層多くの「華龍一号」の建設を加速する。同設計の輸出促進とCO2排出量の実質ゼロ化という目標の達成に向けて、様々な技術を新たに開発していく考えである。中国国内では福清6号機もCNNCが「華龍一号」の実証炉プロジェクトとして2015年12月から建設中。同炉は年内にも運転開始が見込まれている。CGNも、CGN版の「華龍一号」実証炉プロジェクトとなる広西省の防城港3、4号機を、それぞれ2015年12月と2016年12月に着工。これらは2022年に運転を開始すると見られている。また、これらに続く「華龍一号」として、CNNCが福建省のショウ(さんずいに章)州1、2号機を2019年10月と2020年9月に、CGNが広東省の太平嶺1、2号機を2019年12月と2020年10月にそれぞれ着工した。さらに国外では、パキスタンでCNNCがカラチ2、3号機を建設中であり、2021年から2022年にかけて営業運転を開始する見通しとなっている。注※:CNNCのプレス発表原文のまま(参照資料:CNNCの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの2月2日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
02 Feb 2021
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日立製作所が100%出資する英国のホライズン・ニュークリア・パワー社は1月27日、ビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)に宛てた同日付けの書簡を公表し、ウィルヴァ・ニューウィッド原子力発電所建設計画を進めるため、2018年6月に提出していた「開発合意書(DCO)」の申請書を取り下げる考えを明らかにした。 DCOは、国家的重要度の高いインフラ・プロジェクトについて取得が義務付けられている主要認可である。審査の実施機関である計画審査庁(PI)は、申請されたプロジェクトが英国政府の要件を満たしているか判定した上で、担当省のBEISに意見を勧告。最終的にBEIS大臣が、DCO発給の可否を判断することになっている。日立製作所は2019年1月、ウェールズのアングルシー島で135万kWの英国版ABWRを2基建設するというウィルヴァ・ニューウィッド計画を一旦凍結した後、2020年9月に同計画からの撤退を決めた。その直後からホライズン社はBEIS大臣宛てに複数の書簡を送っており、DCO発給の可否判断の期限を2020年12月まで延期するよう要請。その後、12月末日付けの再延期要請により、BEISは最終的な判断を今年の4月末までに発表するとしていた。ホライズン社の書簡によると、同社はこの間に、新設計画の実施に関心を持つ複数の「第三者」と協議を継続。しかし、英国政府が同プロジェクトへの資金調達で新たな方策を見いだせないなか、日立製作所は今年の3月31日付けでホライズン社におけるデベロッパーとしての活動を終了すると決定した。また、第三者との協議も、日立製作所に代わる新たなデベロッパーへの建設サイト移転など、決定的な提案に結びつかなかったことから、「非常に残念だがDCO申請の取り下げを決めた」と説明している。ホライズン社は同計画のほかに、イングランドのグロスターシャー州オールドベリーでも同出力のUK-ABWRを2基建設することを計画していた。同社としては、これら2つのサイトはともに新規の原子力発電所建設に非常に適しており、英国政府が掲げる「2050年までにCO2排出量の実質ゼロ化」という目標の達成にも重要な貢献をすると考えている。今後これらのサイトは、日立製作所の子会社である日立ヨーロッパ社が管理することになるが、これは新設計画の実行を申し出るデベロッパーが現れることを期待しての措置となる。ホライズン社としても今年の3月末までは、引き続きこれを支援していく。それ以降については、日立ヨーロッパ社がこれらのサイトの取得に関心を持つ第三者との対応にあたるとしている。 (参照資料:ホライズン社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの1月29日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
01 Feb 2021
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米国のジョージア・パワー社は1月25日、同国で約30年ぶりの新設計画であるA.W.ボーグル原子力発電所3、4号機(各110万kWのPWR)の建設工事で、4号機のフラッシングおよび各種試験を開始したと発表した。この工程では、システムの配管から原子炉容器や原子炉冷却系に水を通して洗浄と試験を行い、機器や配管の健全性を確認。プラントの安全な起動を担保する重要ステップの一つであり、今後数か月を費やす予定である。作業はまず、使用済燃料プールの冷却系などから始まり、原子炉冷却系や受動的炉心冷却系、残留熱除去系に進展。4号機ではこれ以降、起動と送電の開始に向けて広範な試験が行われる。ボーグル3、4号機は米国で初めてウェスチングハウス(WH)社製のAP1000設計を採用し、それぞれ2013年の3月と11月に建設工事が始まった。4号機では2020年初頭、格納容器に上蓋を設置しており、同年12月にはAP1000設計に特徴的な構造である「遮へい建屋」(格納容器の外側)で、重さ200万ポンド(約907トン)の丸天井を据え付けた(=写真)。またその数日前には、3号機用の初装荷燃料が建設サイトに到着し、現在燃料装荷に先立ち温態機能試験の準備中。試験の実施に際して必要になる復水器の真空試験も、タービン系で完了している。両炉ではこのほか、3号機で緊急事象の発生を想定した対応訓練を行った。ジョージア・パワー社によれば、参加チームは周辺住民の安全と健康を効率的かつ効果的に防護する能力を実証した。建設サイトでは2020年4月以降、新型コロナウイルスによる感染の影響を軽減するため、労働力を約20%削減する方針を取っている。約9,000人だった作業員の数を約7,000人に減らしたが、ジョージア・パワー社は建設プロジェクトの総資本費や、両炉の現行目標の完成日程である2021年11月と2022年11月に影響が及ぶことはないと強調。両炉が完成した後は、約800人分の雇用が創出されると表明している。(参照資料:ジョージア・パワー社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、ほか)
29 Jan 2021
3267
英国南西部のサマセット州でヒンクリーポイントC原子力発電所(170万kW級欧州加圧水型炉:EPR×2基)を建設中のEDFエナジー社は1月27日、新型コロナウイルスによる感染の世界的拡大(パンデミック)が影響し、1号機の送電開始は2026年6月に遅延する見通しになったと発表した。同計画の最終投資判断を下した2016年9月当時、同社は1号機で2025年末の送電開始を予定していたが、パンデミックの影響を綿密に評価した結果、完成が約半年遅れるほか、総工費の予測額も2019年9月時点で215億~225億ポンド(※2015年の貨幣価値、以下同様)(約3兆円~3兆2,000億円)だったのが、今回220億~230億ポンド(約3兆1,360億~3兆2,800億円)に増大。これにともない、7.6%~7.8%としていたEDFエナジー社の予測利益率(IRR)も、7.1%~7.2%に引き下げられたとしている。同社は今のところ、2022年末に1号機の格納容器でドーム屋根の設置を目指しているが、1、2号機が完成するまでに、当初スケジュールからそれぞれ15か月と9か月の遅れが発生するリスクが残っている。今年の第2四半期以降には、建設サイトもコロナ以前の状態に戻ると同社は予想しているものの、遅延リスクが現実となった場合、追加的に発生する経費は約7億ポンド(約998億円)、IRRは0.3%低下すると見込んでいる。EDFエナジー社がこの日公開した動画によると、建設サイトでは感染の拡大を防止するため、ソーシャル・ディスタンスを確保するなど数多くの対策を実行中。同サイトと周辺コミュニティにおける安全性の維持で、実施可能なことはすべて実施している。作業員の減員と資材の供給途絶という厳しい環境の下、昨年は節目となる20の目標項目中、18項目まで完了した。スケジュール管理も同社は注意深く行っているが、パンデミックの発生以降、いくつかの作業については延期を余儀なくされ、2020年の作業では約3か月の遅延が生じた。同社によれば、今年はさらに3か月遅延すると見込まれており、総工費は一層膨らむ可能性がある。しかし、2016年に計画の実施を決定して以来、同社がスケジュールを事前に調整したのは今回が初めて。パンデミックは健康にかかわる重大事項であっても建設工事上の課題というわけではなく、基本的に建設プロジェクトは良好に進展中だと強調している。(参照資料:EDFエナジー社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの1月27日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
28 Jan 2021
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英国のシンクタンクである「政策研究センター(CPS)」は1月21日に新たな報告書「Bridging the Gap :The case for new nuclear investment 」を発表し、「新規の原子力発電所建設で投資を行わなければ、英国政府が法的拘束力のある目標として掲げた『2050年までにCO2排出量の実質ゼロ化を達成』することは難しくなり、英国のエネルギー供給保証もリスクにさらされる」との結論を明らかにした。CPSは保守党のM.サッチャー元首相らが1970年代に創設した中道右派系シンクタンクで、独自に新世代の政策を打ち立てることを使命としている。今回の報告書で明確になった事項として、CPSは以下の点を指摘した。すなわち、①英国経済は着実に電化の拡大方向に向かっており、2050年までに電力需要は倍増すると予想される、②現在8サイトで稼働している原子炉15基のうち、7サイトの14基までが高経年化のため2030年までに閉鎖され、英国は莫大な量の無炭素電力を失うことになる、③電力需要の増加、特に風力や太陽光発電が稼働出来ない日に備えて、英国政府は早急に原子力発電所の設備容量を確保しなければならない――である。これらへの対処で原子力発電に投資をしなかった場合、化石燃料発電への依存度が上がってしまう。このため、英国政府はCO2排出量の実質ゼロ化を達成するのか、あるいは灯りを灯し続けるため化石燃料で発電する、のどちらかの選択を迫られることになる。CPSの今回の報告書によると、CO2排出量の実質ゼロ化と倍加した電力需要への対処を両立させるには、英国政府が原子力発電への支援を継続しなければならない。建設中のヒンクリーポイントC原子力発電所に加えて、少なくとも1つ原子力発電所を建設できれば、7サイトの発電所が閉鎖された後も英国のエネルギー供給保証は強力に後押しされる。この発電所はまた、国内で急成長している再生可能エネルギーを補うことになり、これらに特有の出力変動に対処することも可能である。新規の原子力発電所の建設を支援する方法として、CPSは「規制資産ベース(RAB)モデル」のような革新的な財政支援策を詳しく調査するよう勧告した。RABモデルを適用すれば、デベロッパーは発電所が完成する前に一定の金額を電力消費者に負わせることが出来る。このことは借入金の削減につながり、最終的に各世帯や企業が支払うエネルギー価格も安く抑えられる。CPSはまた、原子力発電への投資は原子力産業界で技術や知見の開発ルートを維持することにもなると指摘。これにより英国は、小型モジュール炉(SMR)や核融合炉など、次世代原子力技術の開発で世界の先頭に立つことも可能である。同報告書でCPSはさらに、既存の脱炭素化政策を合理化することも提案している。炭素の価格設定を今よりシンプルかつ標準化することで発電技術間の条件は平等になり、再生可能エネルギーなど環境保全技術の市場を活性化する。結果的に、英国は最も効率的かつコスト面の効果も高い方法で、CO2排出量の実質ゼロ化を達成することができると強調している。(参照資料:CPSの発表資料、原産新聞・海外ニュース、ほか)
27 Jan 2021
2791
米原子力規制委員会(NRC)は1月23日、J.バイデン大統領が同委員会のクリストファー・T.ハンソン委員(民主党支持派)を委員長に指名したと発表した。前委員長のK.スビニッキ氏(共和党支持派)が今月20日付けで退任したことにともなうもので、NRC委員としての宣誓を昨年6月に済ませているハンソン氏は、直ちに委員長職に就任している。ハンソン委員長はNRC入りする前、エネルギー省(DOE)の原子力局で上級アドバイザーを務めたほか、主席財務官室(OCFO)では原子力・環境清浄化プログラムを監督するなど、原子力や原子燃料サイクル、放射性廃棄物の問題に取り組んだ。また、議会上院の歳出委員会では、専門家スタッフとして民生用原子力プログラムや国家安全保障関係の原子力プログラムを監督。さらに、コンサルティング企業のブーズ・アレン・ハミルトン社ではコンサルタントとして勤務した実績があり、政府と産業界両方の原子力部門で20年以上の経験を有している。委員長就任に際しハンソン氏は、「規制責任の遂行にあたり、今後も国民の安全と健康を適切に保護していく」とコメント。「原子力技術が進化し続け、放射性物質の利用も拡大するなか、前委員長の業績に基づいて新たな課題に取り組むだけでなく、新たなチャンスにも向き合いたい」との抱負を述べた。新委員長の就任について、米原子力エネルギー協会(NEI)のM.コースニック理事長は同日、祝意を表明した。その中で、「米国議会とバイデン政権はともに地球温暖化防止政策を優先事項としており、NRCが果たす大切な役割をNRC自身が認識することは非常に重要だ」と指摘した。その上で、「バイデン政権が掲げる意欲的な温暖化防止目標を達成するには原子力が不可欠であり、当協会は解決策の一翼を担えることに誇りを感じている」と表明。「このような点を考慮しつつ、NRCが引き続き近代的な規制当局に変貌していくことは、米国が低炭素経済に移行する上で最も重要である」と述べた。同理事長はまた、「世界でも最高位の規制当局と評されるNRCは、今後も継続して原子力産業界の技術革新を牽引すべきだ」と進言。今後10年以上の間に次世代原子炉が建設されるようになれば、無炭素エネルギー関係で高い技術力を必要とする雇用が創出され、地球温暖化を阻止しつつ国家経済をも後押しする。また、規制アプローチの近代化を図ることで将来の原子炉設計は先進的なものになり、CO2を排出しない原子力発電を持続させることになると説明。「こうしたことこそ新政権と議会が目指している米国の将来のエネルギー需要を満たす上で重要な役割を果たすに違いない」と同理事長は強調している。(参照資料:NRCとNEIの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの1月25日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
26 Jan 2021
2556
ブルガリア政府は1月20日の閣議後、国内唯一の原子力発電設備であるコズロドイ原子力発電所(100万kWのロシア型PWRの5、6号機のみ稼働中)で、ロシア製の機器を使って7号機を建設する可能性を改めて検討すると発表した。新規の原子炉建設で必要とされるアクションなど、7号機の建設可能性についてエネルギー相が前日に取りまとめた調査報告書を今回、承認したもの。政府はプロジェクトが首尾良く進展すれば、10年以内に同炉で発電を開始できるとの見通しを明らかにした。また、これを実行することにより、欧州連合(EU)が目標に掲げている「2050年までに気候中立(CO2の排出と吸収がプラスマイナスゼロ)を達成」、を前進させる一助にもなるとしている。ブルガリアは2007年にEUに加盟する際、西欧式の格納容器を持たないコズロドイ発電所1~4号機(各44万kWのロシア型PWR)をすべて閉鎖しており、現在は5、6号機だけで総発電電力量の約35%を賄っている。同発電所以外では、ロシアとの協力により1980年代にベレネ原子力発電所(100万kWのロシア型PWR×2基)の建設計画に着手したが、コストがかかりすぎるため2012年に中止が決定。その代わりに、ウェスチングハウス(WH)社製AP1000設計を採用したコズロドイ7号機の建設案を一時期検討した。しかし、資金不足のため計画は進展せず、WH社は2015年4月、「この件に関する株主の合意は期限切れになったが、ブルガリアとの協議は今後も継続する」と発表していた。一方、ベレネ発電所建設計画についてはその後、倉庫に保管している1号機用の長納期品や2号機の一部機器を最大限に活用して、完成させる案が浮上。ブルガリア電力公社は2019年3月に戦略的投資家を募集しており、同年12月には候補企業を5社に絞り込んだことを明らかにした。エネルギー省のT.ペトコワ大臣は今回、報告書の概要をB.ボリソフ首相に説明する際、ブルガリア内閣が2020年10月、コズロドイ7号機の建設に向けて最新技術を有する米国企業と交渉を開始するよう同発電所に命じた事実に言及した。ペトコワ大臣はこれを受けて、同発電所や国外の専門家で構成される作業グループの設置を指示。7号機の建設サイトにおける環境影響声明書では、規制当局がWH社のAP1000とロシア企業のVVER設計2種類を承認していたため、同作業グループは報告書の取りまとめ作業の中でWH社の幹部とも協議し書簡を交換したが、最終的に「コズロドイ7号機の建設では、ベレネ発電所用に調達した機器を利用するのが経済的であり、環境面や技術面でも適している」と指摘した。報告を受けたボリソフ首相は、「プロジェクトの推進で重要かつ迅速な手順を盛り込んだ素晴らしい戦略だ」と評価しており、このインフラ・プロジェクトは国家安全保障やエネルギーの供給保証、およびエネルギー源の多様化という点で非常に重要だと説明。その上で「7号機の建設では、国家予算や税金を投じて製造したベレネ計画の機器を活用する」としたほか、「7号機の後には8号機も建設する」との抱負を述べた。報告書が政府に承認されたことから、ペトコワ大臣は今後、規制当局がコズロドイ7号機の建設用に認めたサイトや、ベレネ計画用に調達した機器を7号機で合理的かつ最大限に活用するために必要な措置を取る。同相はまた、原子炉の新設に向けた資金調達モデルの構築準備を進めるほか、小型モジュール炉(SMR)など新しい技術を採用した原子力発電所を建設する可能性についても調査を継続するとしている。(参照資料:ブルガリア政府(ブルガリア語)の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの1月22日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
25 Jan 2021
2559
米原子力規制委員会(NRC)が今月4日付けで発表していたとおり、同委のK.スビニッキ委員長が任期途中の1月20日に退任しNRCを辞した。スビニッキ氏は2007年、当時のG.W.ブッシュ大統領の指名を受けてNRC委員に就任しており、その後のB.オバマ政権、D.トランプ政権を通じて5年任期の3期目を務めていた。2017年1月には、就任直後のトランプ大統領から委員長に任命されている。NRCにおける同氏の在籍期間は歴代委員としては最長となったが、2022年6月の任期満了を待たずに退任した理由、およびその後の計画等については明らかにしていない。NRCでは委員5名のうち同一政党の支持派は3名までと原子力法で規定されており、スビニッキ氏はA.カプト委員、D.ライト委員とともに共和党支持派だった。J.バラン委員とC.ハンソン委員が民主党支持であるため、スビニッキ氏の退任で空席となった残り1名はJ.バイデン大統領が民主党あるいは中立派から指名すると見られている。新たにNRC委員に指名された候補者は通常、議会上院の承認を経て就任するが、大統領が在籍中の委員の中から委員長を任命した場合、議会の承認を得ることなく直ちに委員長職に就くことになる。 スビニッキ氏はミシガン大学で原子力工学の学位を取得したエンジニアで、米原子力学会(ANS)にも長期にわたって所属。議会上院では国家安全保障や科学技術、環境・エネルギー関係の幅広い政策、イニシアチブを推進するアドバイザーとして10年以上務めたほか、上院・常設委員会の1つである軍事委員会でも専門職員を務めた。また、エネルギー省(DOE)においては、ワシントンDCの「原子力・科学技術および民生用放射性廃棄物管理事務所」、アイダホ州の運営事務所などで務めた経験を持っている。(参照資料:NRCの発表資料、原産新聞・海外ニュース、ほか)
22 Jan 2021
1887
英国政府は1月20日、原子力施設における廃止措置の自動化や核融合研究に革新的なロボット工学・自律システム(RAS)技術の適用促進で、日本とロボット工学分野の研究・技術開発協力を実施すると発表した。腕の長いロボットアームなどを活用して、英国セラフィールド原子力複合施設の閉鎖済み設備や福島第一原子力発電所の廃止措置を一層迅速かつ安全に遂行する。このプロジェクトは「LongOps」と呼称されており、4年計画で1,200万ポンド(約17億円)を投じる予定。この資金は英国の「原子力廃止措置機構(NDA)」と政府外公共機関の「研究・イノベーション機構(UKRI)」、および東京電力が均等に負担し、英国原子力公社(UKAEA)がカラム科学センター内で運営する「リモート処理・ロボット試験施設(RACE)」を使って進めていく。同プロジェクトにより、世界規模で発展する可能性を秘めた新しい革新的なロボット技術を創出する。同プロジェクトはまた、日英両国における科学・エンジニアリング能力を向上させるとともに、核融合に関連する技術の開発を促進、雇用を生み出す直接的な効果もある。英国政府のビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)は2015年3月、国内のRAS分野の発展支援を表明したが、これは2014年7月に専門家グループが政府に提言した「RAS分野の成長戦略(RAS 2020)」に賛意を示したもの。BEISはその際、同技術の有望な活用先として原子力を含む5つの部門を指摘していた。これを受け、英国政府が2014年以降、RASプロジェクトに投じている約4億5,000万ポンド(約637億円)の一部がLongOpsにも活用される。発表によると、閉鎖された原子力施設や核融合施設の廃止措置は非常に複雑な大規模プロジェクトであり、安全に実施するには非常に多くの時間を要する。こうしたプロジェクトにロボット工学やデジタル・ツイン技術(仮想空間に物理空間の環境を再現し、様々なシミュレーションを通じて将来予測を行う技術)を活用することは、効率性や作業員の健康リスク低減などで非常に有効である。また、LongOpsの主な特徴は、洗練されたデジタル・ツイン技術を駆使してデータを詳細に分析し、施設の運転管理における潜在的な課題を予測すること。デジタル・ツイン技術によって、作業の合理化や生産性の改善を図り、現場で実施する前に仮想世界で試験を行うことができる。さらに、LongOpsで開発する技術は、カラム科学センターに設置されている「欧州トーラス共同研究施設(JET)」などの核融合実験施設の運転終了後、設備の維持や解体等に適用が可能である。今回の日英協力について、A.ソロウェイ科学・研究・イノベーション大臣は、「原子力に内在する素晴らしい潜在能力を解き放つには、国際的なパートナーと手を携えて協力することが大切だ」とコメント。無限のクリーンエネルギーを生む可能性がある核融合研究を支援しつつ、原子力施設の安全な廃止措置を実行していくと強調している。参照資料:英国政府の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの1月20日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
21 Jan 2021
3993
カナダで使用済燃料の深地層処分場建設計画を進めている核燃料廃棄物管理機関(NWMO)はこのほど、最終候補となった2地点のうち、オンタリオ州南部のサウスブルース地域で今春から開始を予定している試験孔の掘削と試験実施の準備が大幅に進展したと発表した。1本目の試験孔の掘削場所と、現地に入る交通アクセスの整備が同地域のティーズウォーター北東部で完了したもので、NWMOは2本目の掘削準備についてもまもなく完了すると説明。試験孔を通じて候補地の潜在的な適性を評価した後はさらに詳細な評価を実施し、使用済燃料の安全かつ長期的な処分に適するとともに、処分場の受け入れにも協力的な好ましい1地点を2023年までに最終決定する方針である。NWMOは、使用済燃料を再処理せずに直接処分する同処分場のサイト選定プロセスを2010年に開始しており、施設の受け入れに関心を表明したカナダ国内の22地点をオンタリオ州内の2地点まで絞り込んだ。サウスブルース地域ともう一方の候補地である同州北西部のイグナス地域では、サイト選定プロセスの第3段階としてNWMOが「(処分場としての)適性の予備評価」を実施中。この段階ではどちらも第1フェーズ(机上調査)の作業が終了し、第2フェーズの現地調査を行っている。発表によると、試験孔の掘削スケジュールはサウスブルース地域の適性を一層詳しく理解する上で必要な重要情報の収集に配慮。これと同時に、現地の地方自治体や先住民コミュニティとの交流や協議にも十分な時間を確保している。NWMOはまた、合計2本の試験孔掘削に向けて数多くの準備活動を実施しており、例として考古学や地形学関係の調査、現地先住民の文化や儀式に関する調査、掘削にともなう騒音や放出物の事前調査、源泉からの試料採取などを挙げた。 これらのほかにもNWMOは、候補地の地主らと対話を図り、主要な井戸水の水質試験実施や3D地震探査用のデータ入手などで協力を要請。地震探査データは地表岩盤層のイメージ作成や、断層の有無などを評価するのに用いるとしている。なお、2本目の試験孔掘削予定地については、今年の作業としてNWMOは水質をさらに詳細に調査するため、域内に微小地震モニタリング・ステーションや浅地中地下水のモニタリング井戸を設置する計画である。(参照資料:NWMOの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの1月14日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
20 Jan 2021
2636
英国で洋上風力発電などのクリーン・エネルギー事業を展開するシアウォーター・エナジー社は1月12日、風力発電と小型モジュール炉(SMR)を組み合わせたハイブリッド・エネルギー・プロジェクトをウェールズで進めていくため、米国のニュースケール・パワー社と協力すると発表した。同社はすでに、このプロジェクトの概要を英国政府のほかウェールズ、北アイルランド、スコットランドの各政府にもオンラインで提案。同社によれば、いずれの政府もこのプロジェクトから経済面で多くの恩恵を得ることができる。このプロジェクトでシアウォーター社は、米国のSMR商業化レースで先頭に立つニュースケール社のSMRを選択した。ニュースケール社のSMRは負荷追従運転にも対応するベースロード用エネルギー源であり、このプロジェクトのためにクリーンなエネルギーの生産が可能。シアウォーター社は今回、ニュースケール社と了解覚書を締結しており、プロジェクトの詳細調査などで両社間の協力を強化する。早ければ2027年にもウェールズ北部のアングルシー島ウィルファで、無炭素なクリーン電力の出力300万kW、CO2を排出しない「グリーン水素」の生産量が年間3000トン以上という風力・SMR複合発電所の運転を開始する。発表によると、今回の覚書で両社は双方の技術を統合し、電力と水素を複合生産する可能性を探る。近年、再生可能エネルギーが世界中で成長しているが、両社の協力は適用性が一層柔軟で信頼性の高い低炭素電源が求められていることを示している。ニュースケール社はプロジェクトに適合したSMRのエンジニアリングや計画立案、許認可手続でシアウォーター社に協力するほか、数多くの英国企業をプロジェクトに参加させる方策を同社とともに模索。ニュースケール社が英国のサプライチェーンを評価した結果、SMRで使用する資機材の75%以上が英国内で調達可能だと結論付けている。シアウォーター社のS.フォースターCEOは今回のプロジェクトについて、「複数の低炭素発電技術を組み合わせれば、高額のコストや長期の建設工事、環境への影響なしで大型火力発電所と同等の性能を得ることができる」と指摘。風力・SMR複合発電所が完成すれば、従来の原子力発電所を建設するコストのほんの一部分で出力300万kWの無炭素電力が得られるほか、グリーン水素の生産により輸送部門を低炭素燃料に移行させるための支援が可能になるとした。同社はまた、英国が2050年までにCO2排出量の実質ゼロ化を達成できるよう、2030年までに洋上風力発電の設備を速やかに拡大するとともに、SMRにも投資すると政府が発表した事実に言及。これらを考慮すると、同社とニュースケール社の風力・SMR複合発電所は、送電網の安定性問題や再生可能エネルギーの間欠性問題にも打ち勝つことができるとした。さらに、この複合発電所が生産するグリーン水素によって、様々な産業の脱炭素化とエネルギー供給保証の価格適性化の達成を後押しすることも可能だとしている。(参照資料:シアウォーター・エナジー社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの1月15日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
19 Jan 2021
3522
米国の貿易開発庁(USTDA)は1月14日、オレゴン州のニュースケール・パワー社が開発した小型モジュール炉(SMR)をルーマニアで建設するための技術支援金として、ルーマニア国営の原子力発電会社(SNN)に対し約128万ドルを交付したと発表した。返金不要の同支援金を通じて、SNN社は国内唯一の原子力発電設備であるチェルナボーダ発電所(70万kW級加圧重水炉×2基)とは別に、SMR建設に適したサイトを新たに選定するための予備的評価作業を実施する。SMRはまた、2035年以降のエネルギー生産や関係事業に利益をもたらす可能性があるため、SMRの許認可手続に関するロードマップも作成する方針である。ルーマニアの2020年のエネルギー戦略プロジェクトによると、SMRを採用することにより同国では2035年以降、CO2を排出しないエネルギー源や水素生産源を拡大することが可能になる。このためSNN社は、適切な時期にSMR建設サイトの評価を開始する方針であり、ニュースケール社とはすでに2019年3月、同社製SMR「ニュースケール・パワー・モジュール(NPM)」の建設可能性を探る目的で了解覚書を締結。SMRの革新的な技術や関係ビジネスの情報を入手して、この目標の達成に向けた評価を実施するとしている。USTDAのT.アブラジャノ最高執行責任者(COO)兼代表によると、将来のエネルギー需要を満たすために最新鋭の民生用原子力技術を欲するルーマニアにとって、USTDAは理想的なパートナー。その上で同COOは、「今回の支援で両国の原子力産業間に強固な連帯が築かれ、米国の原子力産業界にとっては重要市場で新たな事業チャンスが生み出される」と述べた。また、USTDAはルーマニアのエネルギー戦略にSMRを導入する手助けをすることになり、SNN社がすでにサイト選定やサイト固有の許認可ロードマップ作りで具体的な支援が得られるよう、イリノイ州のサージェント&ランディ社を選択したことを明らかにした。一方、SNN社のC.ギタCEOは、「チェルナボーダ発電所で現在、3、4号機の増設計画を進めているのに加え、当社は国内原子力産業界のさらなる発展に向けた長期的対策として、SMRの建設・評価に高い関心を抱いている」と述べた。同CEOはSMRの特徴であるモジュール方式や運転の柔軟性、発電効率の高さが、ルーマニアにおける2035年以降のエネルギー・システムや関係事業を有利に導くかもしれないと指摘。USTDからの支援に適合するSMR技術について建設サイトを選定し、最終決定につなげられるよう評価作業を始めたいとしている。なお、ニュースケール社のNPMは昨年9月、米原子力規制委員会(NRC)が実施中の設計認証(DC)審査において「標準設計承認(SDA)」を取得。2029年に同SMRで最初のモジュールの運転を開始するため、ユタ州公営共同電力事業体(UAMPS)はアイダホ国立研究所敷地内で建設計画を進めている。このほか、カナダやヨルダン、チェコ、ウクライナが国内でNPMの建設を検討中。それぞれの国の担当機関が、実行可能性調査を実施するための了解覚書をニュースケール社との間で結んでいる。(参照資料:USTDAとSNN社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの1月14日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
18 Jan 2021
2791
英国の環境庁(EA)は1月11日、中国製の第3世代PWR設計「UK-HPR1000(英国仕様の「華龍一号」)」に関する包括的設計審査(GDA)で予備的結論をとりまとめ、4月4日までの期間パブリック・コメントに付すと発表した。GDA審査でEAは当該設計を英国内で建設した場合の環境影響評価を担当しており、UK-HPR1000については初期的評価に続いて詳細評価を実施しているところ。今回の発表では予備的結論として、「これまでに審査した環境影響の多くは受け入れ可能と判断した」ものの、「規制上、課題となり得る項目が6件残っており、UK-HPR1000設計を全面的に承認する前に解決しなければならない。また、UK-HPR1000の運転事業者が将来取り組まねばならない事項も40ほどある」としている。GDAは英国内で初めて採用・建設される原子炉設計について行われる事前の認証審査で、土木建築工学から原子炉科学まで17の技術分野にわたる。設計の安全性については原子力規制庁(ONR)が審査する一方、環境影響面についてはEAが評価を実施。対象設計が安全・セキュリティと環境保全、および放射性廃棄物管理の面で英国の基準を満たしているかを判断する。最終的にONRが設計承認確認書(DAC)を、EAが設計承認声明書(SoDAC)を発給するまで約5年を要する。中国広核集団有限公司(CGN)などの中国企業が開発した「UK-HPR1000」は、EDFエナジー社が2015年10月にヒンクリーポイントCとサイズウェルCの両原子力発電所の建設計画に対する投資約束をCGNから取り付けた際、エセックス州ブラッドウェルでEDFエナジー社が計画している後続プロジェクトに採用が決まった。このプロジェクトでは、旧型のマグノックス炉が2基稼働していたブラッドウェルA発電所(閉鎖済み)の隣接区域に、ブラッドウェルB発電所としてUK-HPR1000を2基建設する予定。同プロジェクトが建設段階に入った場合、CGNは66.5%を出資することになる。UK-HPR1000のGDAは2017年1月に準備段階の第1ステップが始まっており、この審査活動の管理会社としてEDFとCGNが設立した合弁企業「ジェネラル・ニュークリア・サービシズ(GNS)社」は、同年9月からEAとONRに関係文書の提出を開始。同年11月に第2ステップの審査が開始された。その後、GDAは2020年2月に最終段階の第4ステップに進展しており、EAは2022年初頭にも詳細評価を完了する方針。その際すべての課題が解決済みであれば、UK-HPR1000を全面的に受け入れ可能とする声明書を、未解決の課題が残った場合や新たな課題が浮上した際は暫定的に承認する声明書を発表するとしている。(参照資料:英国政府、環境庁の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの1月11日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
15 Jan 2021
2834
任期満了まで残すところ約1週間となった米国のD.トランプ政権は1月12日、深宇宙の探査や国家防衛のために、極小原子炉など小型モジュール炉(SMR)技術のさらなる利用促進を目指した大統領令を発令した。大統領令は国内政府機関や職員に対して発せられる行政命令で、議会の承認を得ることなく行政権を直接行使することが可能である。トランプ政権は米国の国家安全保障にとって原子力技術は非常に重要と認識しており、今回の大統領令を通じて国内原子力部門の再活性化と拡大を図る方針。国防長官に対しては同令の発令後180日以内に、原子力規制委員会(NRC)の認可を受けた極小原子炉を国内遠隔地の軍事施設に設置した際のコスト効果や、エネルギー源の柔軟な活用がもたらす効果の実証プランを作成・実行するよう指示した。また、国防総省が1日に消費する燃料は1,000万ガロン以上、民生用電力網から使用する年間の電力消費量も300億kWhに及ぶことから、トランプ政権は先進的原子炉が国防に立つかについては国防長官が判定し、輸送可能な極小原子炉の試用も行うとした。宇宙動力炉の軍事利用や敵対国における利用プログラムについても、同長官が分析を指示すべきだとしている。同政権はさらに、米航空宇宙局(NASA)長官に対しても180日以内に、2040年までのロボット探査や人的探査ミッションに原子力システムを利用する際の要件を特定し、利用にともなう同システムのコストや利点を分析するよう指示した。このほか同政権は、国内の原子燃料サプライチェーンが安全かつ安定的に成長するは、米国の国益にとって重要だと指摘。今後の発展が期待できる燃料サプライチェーンは、国家の安全保障・防衛活動を支えるとともに民生用原子力産業界の発展を保証するとした。ところが、先進的原子炉概念の多くがHALEU燃料(U235の濃縮度が5~20%の低濃縮ウラン)を使用することから、同政権は国内に商業用のHALEU生産設備が存在しない米国では国産のHALEU燃料確保で対策を講じなければならないと述べた。こうした観点からトランプ政権は、軍用の先進的原子炉で使用するHALEU燃料の生産能力を実証するため、1億1,500万ドルの予算で現在進行中の3年計画を完了させるようエネルギー省(DOE)長官に指示。同計画の予算の範囲内で、HALEU燃料生産技術を成功裏に民間部門の商業利用に移転させるプランを策定するよう促している。これらを踏まえて同政権は、今回の大統領令の中で国務長官、国防長官、商務長官、エネルギー長官、およびNASA長官に対し、2030年までを見据えた共通技術開発ロードマップの作成を指示した。ここでは、開発が望ましい技術を明記するほか、地上設置用の先進的原子炉と宇宙探査用の原子力推進システム等の開発について可能な限り省庁間の調整を行うとしている。なお、大統領令の発令に至るまでの経緯として、トランプ政権は発足した2017年に原子力部門の再生イニシアチブを開始したほか、原子力政策の包括的見直しを指示したと説明。2019年7月に「ウランの輸入が国家安全保障に及ぼす影響と国家原子燃料作業グループの設置」と題する大統領覚書に書名した後、同年8月には宇宙探査を促進するため、宇宙探査機に搭載する原子力発電システムの開発・利用を呼びかける大統領覚書を発出したことも指摘している。また、今回の大統領令は、国内原子力部門の再生と米国の宇宙開発プログラムの再活性化、および国防上必要とされる多様なエネルギー・オプションの開発を目指して、重要な追加施策を取ることが目的だと説明。同令により、米国政府はSMRを国防や宇宙探査に利用することも含め、米国の技術が世界でも優位となるよう原子力の利点を効果的に適用する活動を調整。これにより、トランプ政権が最優先事項とする「研究開発や発明、また先進技術の革新における米国の主導」、およびそれに基づいて米国の国家安全保障ミッションを推し進める上で重要であると表明。また、米国による「エネルギー支配」の原動力としても、最も厳しいレベルの核不拡散に留意しながらこれらの目標をすべて達成する上でも重要だと指摘している。(参照資料:ホワイトハウスの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの1月13日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)。
14 Jan 2021
3199
米国のニュースケール・パワー社は1月11日、アイダホ国立研究所(INL)敷地内で同社製小型モジュール炉(SMR)の建設を計画しているユタ州公営共同電力事業体(UAMPS)から、建設・運転一括認可(COL)の申請準備を行うよう指示されたと発表した。西部6州の電気事業者48社で構成されるUAMPSは、SMR建設を柱とする独自の「無炭素電力プロジェクト(CFPP)」を2015年から進めており、同プロジェクトの管理と開発リスク回避のためにニュースケール社と最近締結した協定を、今回実行に移したもの。UAMPSは2023年の第2四半期までにニュースケール社製SMRのCOLをNRCに申請し2025年の後半までにこれを取得、その直後からSMRの建設を開始したいとしている。 ニュースケール社が開発した「ニュースケール・パワー・モジュール(NPM)」はPWRタイプの一体型SMR設計で、出力5万kWのモジュールを12基接続することにより最大で60万kWの出力を得ることができる。同設計が昨年8月、SMR設計としては初めて原子力規制委員会(NRC)の「標準設計承認(SDA)」を取得したのを受け、UAMPSはNMP初号機が生産するクリーンで安全かつコスト面の効率性も高い無炭素電力がUAMPS所属の電気事業者に提供されるよう、今回COLの申請準備を最初の指示としてニュースケール社に通達。同社、および同社の親会社で大手のエンジニアリング・資材調達・建設(EPC)契約企業でもあるフルアー社は具体的な作業として、建設コストのさらに詳細な見積金額を算出するとともに、SMR建設の許認可手続と製造等で初期作業の計画を立案することになる。ニュースケール社のJ.ホプキンズ会長兼CEOは、「当社の画期的なSMR技術の商業化に向けて大きな一歩が刻まれた」とコメント。2022年頃にUAMPSからNPMの発注を受けられるよう、慎重に開発を進めていくと述べた。UAMPSのD.ハンターCEOも、「ニュースケール社のSMRを通じて価格の手頃な無炭素エネルギーをUAMPS所属の電気事業者に安定的に提供できる。我々の電力供給区域内で大規模な再生可能エネルギー源を開発し、SMRでその間欠性を補うことも可能だ」としている。今回の発表によると、ニュースケール社とUAMPSが結んだ協定には「実費精算契約」が含まれており、完成したSMRの所有・運転会社となるCFPP社(UAMPSの100%子会社)には、INLを所有するエネルギー省(DOE)から複数年にわたって合計13億5,500万ドルの支援金が支払われる。また、フルアー社もUAMPSと実費精算協定を締結しているため、フルアー社は建設地であるINLサイトに特化した設計・エンジニアリング・サービスの提供コストを見積もる方針。これに対してUAMPSは、CFPPに参加する電気事業者のニーズに合ったSMR発電所の規模(モジュールの連結数)や最適なエネルギー・コストを特定するため、評価作業を続ける考えである。(参照資料:ニュースケール社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの1月12日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
13 Jan 2021
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中国核能行業協会(CNEA)は2020年12月31日、中国広核集団公司(CGN)が浙江省の三澳原子力発電所1号機(100万kW級PWR)を同日に本格着工したと発表した。中国の輸出用主力設計である「華龍一号」を採用した、新たな原子炉の建設となる。浙江・三澳原子力発電所建設プロジェクトは、CGNが中心となって出資している計画で、CGNのほかに、浙能電力股分公司と温州市核能発展有限公司、蒼南県海西建設発展有限公司が出資参加。このほか吉利迈捷投資有限公司が、国内の原子力発電所建設計画としては初めて民間企業として2%出資する。同プロジェクトでは2007年にサイト調査が開始され、国家能源局は2015年5月、最終的に合計6基の「華龍一号」を建設する同プロジェクトの敷地取得・整備作業等の実施を承認。2020年9月になると、国務院の常務会議がⅠ期工事として1、2号機の建設を承認、同年12月30日付けで国家核安全局(NNSA)がこれら2基の建設許可を発給した。「華龍一号」はCGNと中国核工業集団公司(CNNC)双方の第3世代PWR設計「ACPR1000+」と「ACP1000」を一本化して開発され、主要技術と機器の知的財産権は中国が保有。中国国内ではこれまでに同設計の実証炉計画として、CNNCが福建省で福清5、6号機と漳州1、2号機、CGNが広西省・防城港3、4号機と広東省・太平嶺1、2号機の建設工事を進めてきた。このうち、福清5号機が2020年11月に「華龍一号」初号機として初めて、送電を開始した。また、国外ではすでに、パキスタンのカラチ原子力発電所で同設計を採用した2、3号機が建設中となっている。2020年12月31日に三澳1号機の原子炉系統部分に最初のコンクリートを打設した際、現地ではCGNや関係省庁の代表者に加えて、浙江省や温州市、蒼南県の幹部など400名以上が着工記念式に参加した。CGNの揚昌立会長は同発電所建設プロジェクトについて、「CGNグループ全体で30年以上にわたって培ってきた原子炉建設や「華龍一号」設計の建設経験を大いに活用する」と決意を表明した。揚会長によると、同発電所の建設は浙江省のクリーン・エネルギー生産比率を効率的に向上させるだけでなく、クリーン・エネルギー生産の実証という点で同省が中国で主導的立場を獲得することにも貢献。低炭素な近代的エネルギー供給システムが構築され、長江デルタ区域がクリーン・エネルギーの生産拠点となれば、国家レベルのエネルギー供給保証戦略の確立と温室効果ガスの排出量実質ゼロ化(気候中立)を目指す上で、非常に重要な意義を持つと強調している。(参照資料:中国核能行業協会の発表資料(中国語)、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの1月4日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
12 Jan 2021
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日立製作所が昨年9月に撤退表明した英国ウェールズ地方における新規原子力発電所建設プロジェクトについて、英国政府のビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)は昨年12月31日、日立の英国子会社からの要請により「開発合意書(DCO)」発給の可否判断期限をさらに繰り延べ、4月30日とする考えを明らかにした。DCOは、国家的重要度の高いインフラ設備の建設・操業プロジェクトに対し取得が義務付けられている主要認可。ウェールズ地方アングルシー島に英国版ABWRを2基建設するという「ウィルヴァ・ニューウィッド計画」については、デベロッパーで日立の100%子会社であるホライズン・ニュークリア・パワー社が2018年6月、審査の実施機関である計画審査庁(PI)にDCO申請書を提出した。PIは当該計画が英国政府の要件を満たしているか審査した上で、PIとしての見解をBEISに勧告し、最終的に、BEIS大臣がDCOの発給可否を判断することになっている。ホライズン社のD.ホーソーンCEOは、日立が撤退を表明した同じ9月に複数の書簡をBEIS宛てに送付し、判断期限の3か月延期を要請。BEIS大臣はこれを受け入れ、12月末まで先送りするとしていた。今回、ホーソーンCEOは昨年12月18日付けで再びBEISに書簡を送り、判断期限をさらに延期して今年3月末まで、あるいはBEIS大臣が適切と考える時期まで遅らせることを正式要請したもの。それによると、同社は前回の要請時と同様、ウィルヴァ・ニューウィッド計画に関心を持つ複数の第三者と協議を続けており、同計画の先行きは希望の持てる明るい見通しになりつつある。英国政府は昨年、2050年までに英国内の温室効果ガス(GHG)排出量を実質ゼロとするための重要施策「緑の産業革命に向けた10ポイント計画」や「国家インフラ戦略」を公表したが、これらの政策のなかで新規の原子力発電所が果たす役割は明らかであり、短期間でも時間的猶予をさらに得て第三者との協議に明確な結論を出したいとしている。これに対し、BEISのA.シャルマ大臣は12月末日付けの回答書簡で、「あなたの要請を検討した結果、DCOの発給について判断する制定法上の期限を、4月30日に設定し直すことが適切と判断した」と表明。新たな期限を大臣声明として書面化し、2008年の計画法に従って出来るだけ早急に議会の上下両院に提示するとした。ただし、大臣としての最終判断を4月30日までに下すには十分な検討期間が必要なことから、その後の進展状況の最新情報は3月31日までに提供しなければならないと言明している。(参照資料:英国政府とホライズン社の書簡、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの1月4日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
07 Jan 2021
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スウェーデンのバッテンフォール社は1月5日、南西部のヨーテボリ近郊に立地するリングハルス原子力発電所で45年近く稼働した1号機(90万kW級BWR)を、予定通り昨年12月31日付けで永久閉鎖したと発表した。同炉の閉鎖は2015年の株主総会で決定していたもので、同決定に従って2号機(90万kW級PWR)がすでに2019年末で閉鎖済み。同炉では今後廃止措置を行うことになっており、バッテンフォール社は近々、燃料の抜き取りと廃止措置の準備を開始する。本格的な解体作業は2022年後半に始まる予定で、2030年代まで続く見通しである。これら2基を当初予定の2025年より5年近く前倒しで閉鎖したことについて、バッテンフォール社のA.ボルグCEOは「経済性の観点から決めた正しい判断であり、将来使用する発電システムで旧式の技術を使うべきではない」とコメントした。その一方で同社は昨年11月、近隣のエストニアで新興エネルギー企業が進めている小型モジュール炉(SMR)導入計画に対し、協力を強化していくと決定。世界ではSMRへの期待がますます高まりつつあるとの認識の下、ボルグCEOは「SMRなどの新しい原子炉が建設されていくのを無視することはできないが、いかなるタイプの発電技術であれ、市場の関心を引くようなコスト面の競争力を持たなくてはならない」と強調した。リングハルス1号機は、2号機より約8か月遅れの1976年1月に営業運転を開始した。当初の出力は73万kWだったが、数年にわたる改善工事の結果、出力は最終的に90万kW台まで増強された。バッテンフォール社は2015年当時、2号機とともに同炉で2017年以降に改善・最新化作業を開始し2025年まで運転を継続する方針だったが、電力価格が低迷していたのに加えて、2014年に発足した政権の脱原子力政策により議会が原子力税の引き上げを決定。原子力発電所の採算性が悪化したことから、同社はスウェーデン国内で最も古いリングハルス1、2号機への投資プロジェクトを停止、早期閉鎖することに決めた。発表によると、1号機は2019年に過去最高の67億3,642万kWhを発電。運転開始以降の累計では、閉鎖されるまでに2,200億kWhの無炭素電力を供給し続けた。同量の電力を石炭火力や石油火力で発電した場合と比べると、CO2にして約2億トンの排出を抑えた計算になるとしている。なお、同社は1980年代に運転開始した同3、4号機(各110万kW級PWR)については、予定通り少なくとも60年間稼働させると述べた。これら2基では、約9億クローナ(約113億円)の投資を通じて独立の炉心冷却系が装備されており、天候に左右される再生可能エネルギー源の発電量を補いつつ、2基だけで国内の総発電量の約12%を賄っていると指摘した。(参照資料:バッテンフォール社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの2020年12月31日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
06 Jan 2021
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ロシア国営の原子力総合企業ロスアトム社は12月24日、極東連邦管区のサハ自治共和国内で2028年までにロシア初の陸上設置式・小型モジュール炉(SMR)の完成に向け、同SMRが発電する電力の料金について23日に同国政府と合意に達したと発表した。サハ共和国の北部、ウスチ・ヤンスク地区のウスチ・クイガ村でSMRを建設する計画は今のところ、両者が2019年9月に締結した意向協定の枠組内で進められている。今回の合意により、同共和国政府はロスアトム社の容量4万~5万kWのSMRからの電力購入と、SMR建設用地の確保支援を約束。モジュール方式のロスアトム社製SMRは工期が短く経済的で、高い安全性を維持しつつ少なくとも60年間稼働することから、ウスチ・ヤンスク地区では発電コストが約半分に削減されると同社は強調している。2020年初頭までにウスチ・ヤンスク地区では両者の意向協定の下で現地調査が完了し、現在は準備作業が行われている。ロスアトム社が建設するのは、同社傘下のOKBMアフリカントフ社が原子力砕氷船用に開発した「RITM-200」設計をベースとする(5万kW程度の)低出力SMR発電所。「RITM-200」は熱出力17.5万kWのコンパクトな軽水炉でこれまでに6基建設されたが、このうち2基は今年10月に正式就航した最新式の原子力砕氷船「アルクティカ」に搭載されている。ロスアトム社はまた、海上浮揚式原子力発電所用のSMRついても開発を進めている。出力3.5万kWの小型炉「KLT-40S」を2基装備した「アカデミック・ロモノソフ号」は、今年5月に極東チュクチ自治区内の湾岸都市ペベクで商業運転を開始した。こうした背景から、ロスアトム社のA.リハチョフ総裁は「新たな世代の陸上設置式SMR原子力発電所を、ロシア国内で初めて建設する重要な一歩が本日刻まれた」と表明。「この建設プロジェクトを実行に移すことで、世界のSMR市場におけるロシアの主導的立場はますます強化される」と述べた。また、「アカデミック・ロモノソフ号」が極東地域で商業運転を開始した事実に触れ、「北極圏の条件下で様々な試験をクリアした「RITM-200」を諸外国のパートナーに提案することは非常に重要だ」と説明。「このように近代的な技術は、現在ロシアのみが保有しており、ロシア国内のみならず世界中で低出力の原子力発電所がもたらす明るい未来が約束された」と強調した。同社はさらに、ウスチ・ヤンスク地区でサハ共和国初の原子力発電所が建設された場合、老朽化した石炭火力発電所やディーゼル発電所が閉鎖されるため、同地区のCO2排出量を年間1万トン削減できるとした。サハ共和国内の金山開発計画にもクリーンエネルギーを安定的に供給することが可能になり、発電所の建設期間だけで最大で800人分の雇用を創出。遠隔地域の住民と地下資源開発業者の両方に対し、信頼性の高い熱電供給を約束するとしている。(参照資料:ロスアトム社(ロシア語)の発表資料、原産新聞・海外ニュース、ほか)
25 Dec 2020
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