米国政府の独立機関として民間の開発プロジェクトに資金提供を行っている国際開発金融公社(DFC)は7月23日、小型モジュール炉(SMR)や超小型原子炉の建設など、国外の原子力開発プロジェクトに対する財政支援を可能とするため、DFCの「環境・社会政策と関係手続き(ESPP)」の中で資金提供の禁止措置を解除したと発表した。DFCはこれまで、これらのプロジェクトへの資金提供を禁じてきたが、今回の政策等の変更により、DFCは十分な電力が得られない発展途上国のコミュニティに適正価格のエネルギーをもたらすとともに経済成長が促されるよう、原子力というCO2を排出しない安全確実な電源を提供するための支援を約束。米国が核不拡散体制の強化に向けた保障措置を促進し国内原子力企業の競争力を増強する一方、独裁的な体制下の国々の資金調達に新たな選択肢を提供することができると述べた。DFCはまた、エネルギー省(DOE)の下に創設された原子燃料作業部会(NFWG)が今年4月、「米国が原子力で再び競争上の優位性を取り戻すための戦略」を公表した事実に言及。今回政策を変更したことで、この戦略の主要な勧告事項――核不拡散政策との整合性や国家安全保障を維持しながら、関連する輸出も拡大するという方針が実行に移されるとしている。DFCの今回の決定は、政策変更の提案について30日にわたって一般国民から意見を募集した後に下された。これには米国議会や政府機関、非政府組織、民間部門など外部の幅広いステークホルダーが参加しており、DFCが受け取った800件以上の見解のうち98%がこの政策変更を支持。中でも、米国議会の議員らは超党派でDFCに新しい政策への転換を勧告。これには上院のC.クーンズ議員やL.マコウスキー議員のほか、下院のA.キンジンガー議員などが含まれている。このような支持を背景に、DFCは世界でも最も厳しい安全基準を順守しつつ、新興国市場に対する先進的原子力技術の輸出を最優先に支援していく考えである。DFCの前身は、米国企業の新興国への投資を支援していた半官半民の海外民間投資公社(OPIC)である。2019年10月に、米国国際開発庁(USAID)の一部と統合・改組した上でDFCが発足した。DFCのA.ベーラーCEOは「世界中の同盟国のエネルギー需要に応えるという米国の支援努力において重要な一歩が刻まれた」と明言。限られたエネルギー資源の中で、DFCは途上国の経済成長を加速する適正な立場に置かれることになったと強調した。DOEのD.ブルイエット長官は今回、D.トランプ大統領が設置したNFWGの主要勧告の実施に向けてDFCが動き出したことを称賛。過去3年以上の間にDOE高官は、米国の民生用原子力技術を切望する国の政府や民間産業界と会談を重ねてきたが、OPICが必要な財政支援を禁じていたことなどから技術の輸出は実現しなかった。同長官によれば、このような禁止措置の解除は世界中のエネルギー供給保証を強化する健全な行動であり、その他の国々が信頼性の高いベースロード電力を国民のために確保しつつCO2の排出量削減目標を達成するのを支援することにもつながるとした。米原子力エネルギー協会(NEI)のM. コースニック理事長も、DFCの決定は米国の国家安全保障や経済成長を加速させるだけでなく、地球温暖化の防止目標達成にも寄与すると指摘。ロシアや中国のように国営原子力企業を有する国との競争では、米国企業が一層公平な条件で戦えるようになると評価している。(参照資料:DFCの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月24日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
28 Jul 2020
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インド原子力発電公社(NPCIL)は7月22日、グジャラート州のカクラパー原子力発電所で3号機が同日の午前9時半頃、初めて臨界に達したと発表した。同炉はNPCILが建設している4基の70万kW級国産加圧重水炉(PHWR)のなかでは最初のもので、今後は様々な試験を実施しつつ出力を徐々に上げていく予定。規制上の認可を取得して10月頃に西部地域の送電網に接続されれば、同炉はインドで23基目の商業炉となり原子力設備容量は748万kWに増加する。N.モディ首相は同炉の初臨界達成について、「メイク・イン・インディア(インドを世界の研究開発・製造ハブとすることを目指した同政権の産業政策)」の模範例であるとともに、将来達成される同様の成果のさきがけになったと称賛している。慢性的な電力不足に悩むインドは、現在678万kWの原子力発電設備に21基(1,570万kW)の原子炉を加え、2031年までに2,248万kWに拡大する計画だと報道されている。2017年5月にインド内閣は国内原子力産業の急速な発展を促すため、マディヤ・プラデシュ州のチャットカ、ラジャスタン州のマヒ・バーンスワーラー、カルナータカ州カイガ、ハリヤナ州ゴラクプールの4サイトで合計10基の70万kW級国産PHWRを新たに建設することを決定。現時点では、カクラパー3号機も含めて合計16基の70万kW級PHWRが建設計画の実施に向けた様々な段階にあり、NPCILによればこれらに対する政府の承認も得られている。このほか、米国や仏国など国外の原子炉ベンダーから軽水炉を導入する計画も徐々に進んでいる。ただし、実際に建設プロジェクトが順調に進展中なのはロシア企業がタミル・ナドゥ州で請け負ったクダンクラム原子力発電所のみで、ここでは1、2号機(PWR、出力各100万kW)がすでに稼働中、3、4号機(PWR、同各100万kW)が建設中、5、6号機(PWR、同各105万kW)が計画中となっている。カクラパー3号機の本格的な建設工事は2010年11月に開始されており、今年3月半ばには燃料の初装荷作業が完了。その後、新型コロナウイルスの感染にともなうロックダウン期間中に、感染防止ガイドラインに沿って多くの試験や手続が行われていた。NPCILによると同炉はインドのエンジニアや科学者が設計した国産PHWRで、原子炉の機器・設備を国内の原子力産業界が製造したほか、建設工事も国内の様々な契約企業が実施した。安全性や品質については世界でも最高レベルの基準を満たしており、内側を鋼鉄で裏打ちした格納容器や受動的な崩壊熱除去システム、水素ガス管理システムなどの先進的な安全機器が導入されている。(参照資料:NPCILの発表資料(ヒンディー語、英語)、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月22日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
27 Jul 2020
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欧州連合(EU)の政治的な最高意思決定機関である欧州理事会は7月21日、新型コロナウイルスによる感染で打撃を受けた域内経済の復興に向けて会期を延長して協議した結果、合計7,500億ユーロ(約92兆円)規模の復興基金を創設することで合意した。また、2021年から2027年までの「複数年次財政枠組み(MFF)」に関しては、東欧の3か国が2000年代にEUに加盟した際、交換条件として早期閉鎖した原子炉8基の廃止措置プログラムに対する支援金など合計10億4,500万ユーロ(約1,286億円)が割り当てられることになった。対象となった廃止措置プログラムは、事故を起こしたチェルノブイリ発電所と同じ黒鉛チャンネル型炉(RBMK)と、格納容器のない第1世代のロシア型PWR(VVER)。具体的にはリトアニアのイグナリナ原子力発電所1、2号機(RBMK-1500、出力各150万kW)、スロバキアのボフニチェ原子力発電所1、2号機(VVER-440、同各44万kW)、およびブルガリアのコズロドイ原子力発電所1~4号機(VVER-440、同各44万kW)である。これらは2009年までにすべて早期閉鎖された後に廃止措置活動が始まっており、EUは「国家的なエネルギー生産設備の喪失に対する影響緩和プロジェクト」の中から、これら3国に対して財政支援を提供中。しかし、廃止措置に特化したEUの資金調達プログラムでは、タイムリーかつコスト面でも効率的な廃止措置活動を行おうという動機付けが創出されず、3国の作業には遅れが生じている。また、EUの執行機関である欧州委員会(EC)は今年3月、「これらの廃止措置を日程通り完了するには、2021年から2027までの期間に追加の財政支援が必要」とする報告書を欧州理事会と欧州議会に提出していた。今回の財政復興計画の中で、これらの廃止措置プログラムは「複数年次財政枠組み(MFF)」の1項目「域内セキュリティと防衛」に盛り込まれている。10億4,500万ユーロのうち、イグナリナ発電所に対しては2021年から2027年までの期間に4億9,000万ユーロ(約604億円)、ボフニチェ発電所には2025年までに5,000万ユーロ(約62億円)、コズロドイ発電所については2027年までに5,700万ユーロ(約70億円)の支援を約束。また、EU所有の施設における原子力安全と廃止措置に4億4,800万ユーロ(約551億円)が提供されるとしている。欧州理事会はこのほか、MFFの「単一市場、技術革新、およびデジタル化」の項目で、欧州における複数の大規模プロジェクトに対する継続的な財政支援を確認。その中でも国際熱核融合実験炉(ITER)計画を実行に移すため、2027年までの期間に最大50億ユーロ(約6,156億円)提供する方針を明らかにしている。(参照資料:欧州理事会の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月21日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
22 Jul 2020
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メキシコ政府のエネルギー省(SENER)は7月17日、国内唯一の原子力発電設備のラグナベルデ原子力発電所で、今月24日に運転認可が満了する1号機(BWR、80.5万kW)の運転期間を30年延長し2050年7月24日までとする承認を公表した。原子力安全・保障措置委員会(CNSNS)が技術的観点からこの延長を保証したのを受けたもので、同発電所を所有する電力公社(CFE)は今後、最高レベルの運転と信頼性、近隣住民その他の安全を最大限に保証するため、国内外の厳しい規制を順守することを約束。これにより1990年7月に営業運転を開始した同炉の運転期間は60年に延長されることになる。メキシコでは米国から安価な天然ガスを輸入できるため、CFEの電源構成における6割近くを天然ガスのコンバインド・サイクル発電が占めている。総発電量に占める原子力発電のシェアは4.5%ほどで、CFEは昨年12月、国内の電源ミックスを多様化するとともに天然ガスや化石燃料への依存度を下げるため、ラグナベルデ原子力発電所の運転期間延長に加えて同サイトで新たに2基、太平洋沿岸の新サイトにも2基、原子炉の建設を検討中と述べたことが伝えられている。CFEはラグナベルデ1号機で長期にわたって安全かつ信頼性の高い運転を維持するため、2015年に運転期間の延長に向けた準備作業とCNSNSへの申請手続きを開始した。その際、長期運転(LTO)に付随する規制要件に沿って、発電所の機器・システムや構造物で点検や試験、モニタリングを実施すると誓約。2016年にはこれらを実行に移すため、機器・システム等の性能管理で47の点検・監督プログラムを始めている。また、申請書の審査が行われた過去5年間に、CFEはCNSNSから386件の追加情報提出要請に応えたほか、13の点検・監査を通じて複数の技術的課題にも取り組んだ。この12か月間は特に、このような作業が激化したとしている。CFEはまた、2019年3月に国際原子力機関(IAEA)の長期運転安全評価(SALTO: Safety Aspects of Long Term Operation)チームを同発電所に招聘。SALTOチームは結論として、同発電所の維持管理が十分行き届いている、発電所の長期運転に向けて管理部門が準備作業の改善に取り組んでいると評価している。なお、同発電所で1995年に営業運転を開始した2号機(BWR、81.0万kW)については、運転認可が2025年4月10日まで有効である。ただしCFEはこれについても、すでに運転認可の延長手続きを始めている。(参照資料:メキシコ・エネルギー省(スペイン語)の発表資料、現地報道(英語)資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月20日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
21 Jul 2020
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トルコ初の原子力発電設備となるアックユ発電所の建設を請け負っているロシアの原子力総合企業ロスアトム社は7月13日、1号機で原子炉容器(RV)の水圧試験が無事に完了したと発表した。同社のエンジニアリング部門アトムエネルゴマシ社の一部であるAEMテクノロジー社のボルゴドンスク支部が実施したもので、2018年4月に地中海沿岸のメルシン地区で着工した同炉は、2023年の運転開始に向けて作業が着実に進展中である。アックユ原子力発電所建設プロジェクトは2010年5月にトルコとロシアが結んだ政府間協力協定に基づいて進められており、第3世代+(プラス)の120万kW級ロシア型PWR(VVER)を4基建設する。総工費の約200億ドルは当面ロシア側が全額負担しており、発電所完成後にトルコ電力卸売会社(TETAS)がロスアトム社の設置した現地の事業会社(ANPP)から、12.35セント/kWhの固定価格で15年間電力を購入し返済する予定である。AEMテクノロジー社によると、RVなど1号機に使用する機器の製造プロセスは最終段階に到達。今年2月にRVで上下2つの容器胴を最終溶接する作業を終了したほか、6月末には2年間を費やした蒸気発生器(SG)4台の製造・組立・溶接作業も完了した。また、これと同じ頃に2号機用のコンクリート製ベースマットが完成、同炉の本格着工許可は2019年4月に規制当局が発給済みである。このほか、同発電所をトルコの送電グリッドと接続する契約も、同年12月にANPPがトルコ国営送電会社(TEIAS)と締結している。水圧試験では、系統の構成や流量等を可能な限りプラントの運転状態を模擬して行われる。アックユ1号機の試験はAEMテクノロジー社の専門家が特別な技術の下で、RVの通常運転時の圧力より最大1.4倍高圧(24.5 MPa)で実施。重さ334トンのRVの母材や溶接部の強度を確認するなど、同プラントで60年間運転を継続する準備は整ったとしている。(参照資料:AEMテクノロジー社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月14日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
20 Jul 2020
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ルーマニア原子力産業会議(ROMATOM)は7月15日、建設途中で先行き不透明となっていたチェルナボーダ原子力発電所3、4号機(各70.6万kWのカナダ型加圧重水炉)建設プロジェクトについて、L.オルバン首相が両炉の完成に向けて戦略的運営委員会の設置を決めたことを歓迎すると発表した。同首相のこの判断は前日付けの官報に掲載されたと伝えられており、新たに設置される委員会は建設プロジェクトを実行に移すための戦略や方策、判断等の分析と具体化に責任を負う。構成メンバーには、経済・エネルギー・ビジネス環境相や公共財務相など関係閣僚が含まれる模様である。ROMATOMは、国内の原子力発電設備の拡大は欧州連合(EU)の掲げる2050年までの脱炭素化政策やルーマニアの環境目標を達成する上で特に重要だと評価している。チェルナボーダ3、4号機は1980年代半ばに本格着工していたが、1989年のチャウシェスク政権崩壊により、進捗率がそれぞれ15%と14%のまま建設工事が停止した。これらを完成させるという政府決定を受けて、国営原子力発電会社(SNN)は2009年にプロジェクト会社を設置したものの、同社への出資を約束していた欧州企業6社は経済不況等によりすべて撤退した。その後、2011年に中国広核集団有限公司(CGN)が出資参加の意思を表明したことから、SNNはCGNと2015年11月に両炉の設計・建設・運転・廃止措置に関する協力で了解覚書に調印した。2019年5月にはプロジェクトの継続に関する暫定的な投資家協定を締結したが、今年1月にオルバン首相は地元メディアのインタビューで、「ルーマニア政府は中国企業との取引から撤退する方針であり、すでに新たな出資パートナーを模索中である」と述べた模様。首相のこの判断は、米国と結んだ戦略的連携関係に配慮したものとみられている。ROMATOMによると、ルーマニアで追加の原子力発電設備を建設することは2050年までを見据えた同国の「2019年~2030年のエネルギー戦略」と「2021年~2030年のエネルギー・気候変動分野における国家統合計画」に明記されている。このため、原子力はルーマニアのエネルギー供給保証対策の一つであるとともに、脱炭素化に向けた主軸政策の一つということになる。ルーマニアの原子力発電設備は現在、国内の総電力需要の約18%を賄っているほか、低炭素電源による発電量の33%を供給、原子力産業界における雇用1万1,000名分を維持している。建設プロジェクトが本格化すれば、この人数は1万9,000名に増大し取引総額は5億9,000万ユーロ(約720億円)に達する見通し。ROMATOMが国内原子力産業界の能力について実施した調査の結果、同産業界が3、4号機の建設プロジェクトに機器やサービスを提供することで10億~16億ユーロ(約1,220億~1,952億円)の利益が上がる可能性がある。この金額はまた、同プロジェクトにおけるエンジニアリング・資材調達・建設(EPC)契約総額の25~40%に相当するとROMATOMは指摘している。(参照資料:ROMATOM(ルーマニア語)の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月16日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
17 Jul 2020
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アラブ首長国連邦(UAE)で原子力発電の導入計画を担当する首長国原子力会社(ENEC)は7月14日、同連邦初の原子力発電設備として建設中のバラカ発電所(=写真)で2号機(140万kWのPWR)の建設工事が完了したと発表した。すべての工事作業を終えた節目として、同炉の全システムが運転管理子会社であるNAWAHエナジー社に正式に引き渡された。NAWAH社は今後、燃料の装荷に先立ち連邦原子力規制庁(FANR)から運転許可を得るため、世界原子力発電事業者協会(WANO)など国際的な専門家による評価作業を同炉で実施する。ENECによれば2号機ではすでに実証試験が終了しており、構造上の安全性について優れた性能が確認されたほか、機器・システム類は国際的に最も厳しい安全・品質基準をクリア。NAWAH社のチームは運転開始に向けた準備作業をさらに進めていく考えである。バラカ原子力発電所の建設工事は、2012年7月に1号機の作業が始まったのを皮切りに、ENECが主契約者の韓国電力公社(KEPCO)と協力して毎年一基ずつ、全4基の韓国製140万kW級PWR「APR1400」の建設作業を開始した。アラブ諸国にとっても初の商業炉となる1号機は、すでに2018年3月に完成しており、FANRは今年2月に60年間有効な運転許可を発給、3月には燃料集合体の初装荷が完了した。建設工事中の3、4号機については、現在までの進捗率がそれぞれ92%と85%となっており、発電所全体では94%に達している。2号機に関しては、2018年8月に温態機能試験が成功裏に完了した後、2019年3月までに構造性能確認試験(SIT)と総合漏えい率試験(ILRT)が行われた。ENECのM.アル・ハマディCEOは、「今回完成した2号機の引き渡しは重要な節目となったが、これはUAEの原子力平和利用プログラムに携わるスタッフ全員の能力と献身の賜物である」と指摘。中東地域におけるクリーン・エネルギーへの移行を、UAEがKEPCOとの協力により主導するというビジョンをさらに具体化するものだとした。UAEはまた、この原子力プログラムを原動力にエネルギーの供給保証強化や経済の多様化を進め、国民のために高賃金の雇用機会を創出、UAEの社会や経済を成長させていく考えを表明している。(参照資料:ENECの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月15日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
16 Jul 2020
4230
英国の原子力サプライチェーンを構成する32の主要企業と労働組合が7月14日付けで「サイズウェルC企業連合」を結成し、サイズウェルC原子力発電所(SZC)建設計画に対する支援を英国政府に要請した。同計画はイングランド地方南東部のサフォーク州で仏国籍のEDFエナジー社が進めているもので、先行する同社のヒンクリーポイントC原子力発電所(HPC)建設計画と同じく、出力約170万kWのフラマトム社製・欧州加圧水型炉(EPR)を既存のサイズウェルB発電所の北側に2基建設する。HPC計画で経験するEPRの建設をSZC計画で繰り返すことにより、同社は建設費の大幅な削減と関係リスクの軽減が可能になると予想。同社が5月下旬に提出していたSZC計画の「開発合意書(DCO)」申請は、計画審査庁が今月7日付けで正式に受理している。サイズウェルC企業連合には、EDFエナジー社の親会社である仏電力(EDF)のほかに、英国の大手エンジニアリング企業のアトキンズ社やアラップ社、ヌビア社、原子力事業会社のキャベンディッシュ・ニュークリア社、建設大手のレイン・オルーク社、機器製造企業の斗山バブコック社、米国籍のGEスチーム・パワー社やジェイコブス社、欧州企業のアシステム社などが参加。GMBやユナイト・ユニオンといった大手労組も同企業連合の支援に加わっている。同企業連合は、SZC計画のように周到に準備されたモチベーションの高いプロジェクトは英国経済に大規模な推進力をもたらすとともに、気候変動を抑えつつ新型コロナウイルス危機で停滞した社会を立て直し、CO2排出量の実質ゼロ化に向けて英国を導くことができると認識。このため、同企業連合は英国中の地域社会と了解覚書を結び、SZC計画によって英国全土で2万5,000人分の雇用機会と1,000人分の企業実習機会が生み出され投資が行われること、契約総額の70%に相当する140億ポンド(約1兆8,900億円)以上が英国企業にもたらされる点などを保証。これによって、原子力サプライチェーンの将来的な発展を確保する考えである。また、建設計画が承認されれば、幅広いサプライチェーン全体で16万人分の雇用が維持されると同企業連合は指摘。しかし、同計画への迅速な支援が英国政府から得られなかった場合、このうち数千人分が失われ、その能力が弱体化する深刻な危機に見舞われると警告している。同企業連合のC.ギルモア広報担当によると、英国はこれまでに世界最先端の原子力サプライチェーンを構築し、高度な技術を必要とする雇用を英国全土で支えてきた。SZC計画に付随する原子力サプライチェーンでは、英国政府が気候変動を抑えながら経済復興を推し進めるにあたり支援提供する準備がすでにできている一方、SZC計画の実施を確約することでこれらのサプライチェーンが維持され、英国は低炭素経済の繁栄から多大な恩恵を被ることになると指摘している。(参照資料:サイズウェルC企業連合、EDFエナジー社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月14日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
15 Jul 2020
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中国核工業集団公司(CNNC)は7月10日、江蘇省・田湾原子力発電所で建設中の5号機(111.8万kWのPWR)について、前日の9日に燃料の初装荷が完了したと発表した(=写真)。同国で建設されている原子炉の中では今年初の事であり、2021年末までには同国48基目の商業炉として営業運転を開始できると見られている。田湾発電所では現在、I期工事の1、2号機とII期工事の3、4号機が営業運転中。これらはすべて100万kW級のロシア型PWR(VVER)だが、同発電所III期工事として2015年12月と2016年9月に着工した5、6号機の2基だけは、CNNCが仏国のPWR技術に基づいて開発した第3世代の100万kW級PWR設計「ACP1000」を採用。後続の7、8号機(IV期工事)については再び、ロシア製の120万kW級PWRを採用することが決まっている。CNNCによると、同発電所で稼働中の4基はこれまでに2,000億kWh以上の電力を発電しており、これにともなうCO2の年間排出量削減効果は、揚子江デルタ地帯の7万ha以上のエリアで毎年植林したのと同程度。その意味で、20年以上の期間をかけて開発された田湾原子力発電所は、中国東部における重要なクリーン・エネルギー基地になったとしている。第3世代+(プラス)の最新設計となる7、8号機の建設に関しては、ロシア国営の原子力総合企業ロスアトム社が2018年6月にCNNCと枠組み契約を締結。2019年3月には両炉の建設に関する一括請負契約を両者間で交わしており、ロスアトム社はすでに同年7月から両炉の原子炉容器に使用する鍛造品の製造を開始した。今年12月には当初予定より5か月前倒しで7号機の本格着工を目指しており、同炉から5~10か月遅れで着工する8号機とともに、それぞれ2026年と2027年の営業運転開始を見込んでいる。 (参照資料:CNNCの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月13日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
14 Jul 2020
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英国のビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)は7月10日、次世代の原子力技術開発を促進するとともに、英国全土で関係の研究開発と製造で雇用を創出するため、合計4,000万ポンド(約54億1,400万円)を投資すると発表した。その中でも、3つの先進的モジュール式原子炉(AMR)の開発を重点的に加速する方針で、米国籍のウェスチングハウス(WH)社が北西部のランカシャー州で開発中の鉛冷却高速炉、URENCO社の子会社がチェシャー州で実施している小型高温ガス炉開発、トカマク・エナジー社が南部のオックスフォードシャー州でオックスフォード大学と進めている先進的核融合炉開発には、それぞれ約1,000万ポンド(約13億5,000万円)の支援提供を約束。今後数十年にわたって低炭素な電力や熱、水素その他のクリーン・エネルギーを供給していくための技術開発を促進し、2050年までに温室効果ガスの排出量で実質ゼロ化を目指すという英国のクリーン経済復興を後押しする考えである。これらの投資は、BEISが2018年に公表した民生用原子力部門との長期的戦略パートナーシップ「部門別協定」の重要な一部分となる。同協定でBEISは、国内エネルギー・ミックスの多様化と原子力発電コストの削減を図るため、産業界からの投資金も含めて2億ポンド(約271億円)を確保。このうち5,600万ポンド(約75億8,000万円)をAMRの研究開発に宛てるとしていた。今回、BEISが資金提供する3つのAMR設計は従来型原子力発電所よりも非常に小さく、核反応の過程で発生する高温の熱を利用する設計。その小ささにより遠隔地での利用が推奨されるものの、中規模都市用としても十分な量の発電が可能である。BEISのN.ザハウィ・ビジネス産業担当相によると、AMRはCO2排出量と地球温暖化への取組において重要部分を担う可能性が高く、3つのAMR設計への投資決定により開発企業が立地する3州では新たな雇用が直ちに創出されるのみならず、今後数十年にわたって環境防護関係の雇用が数千人規模で生み出されることになる。BEISはまた今回の投資決定を通じて、これらの技術が民間部門の投資家にとって一層魅力的なものになる点を保証。産業界の原子炉技術開発に十分な投資を行えば、将来のモジュール式原子炉開発の拡大に向け、サプライチェーンの構築にもつながるとした。なお、残りの1,000万ポンドのうち、BEISは500万ポンド(約6億7,700万円)を以下の英国企業に投資すると決定した。これらの企業は、国内外のモジュール式原子炉建設プロジェクトに対し、先進的な原子炉部品を製造する新たな手法を開発中。例としては、チェシャー州でURENCO社の子会社であるU-バッテリー社製のAMRを建設現場から離れた場所で製造する方法の概念開発・実証等に110万ポンド(約1億4,900万円)、ヨークシャー州のシェフィールド・フォージマスターズ社に対し、肉厚断面の大規模電子ビーム溶接に800万ポンド(約10億8,300万円)、ダービーシャー州でロールス・ロイス社の潜水艦製造に140万ポンド(約1億9,000万円)、グロスターシャー州のEDFエナジー社に137万ポンド(約1億8,500万円)、などとなっている。また、これらを除いた500万ポンドに関してBEISは、英国の原子力規制体制の強化に向けて投入すると表明。英国が先進的原子力技術の開発と建設を目指すなか、それらを最も頑健かつ安全なものにすることを保証するためだと説明している。BEISによれば、2050年までに英国の原子力産業全体で同国経済に年間96億ポンド(約1兆3,000億円)貢献することが可能であると近年の研究により判明。約13万人分の雇用を支えるとともに、AMR技術を輸出する可能性もかなり創出されるとしている。(参照資料:BEISの発表資料、原産新聞・海外ニュース、ほか)
13 Jul 2020
3620
原子力産業を支援している業界団体の「世界原子力協会(WNA)」は7月9日、新型コロナウイルスによる感染症(COVID-19)後の世界の原子力発電について、現状分析と将来展望をまとめた白書「Building a StrongerTomorrow:Nuclear power in the post-pandemic world」を公表した。それによると、COVID-19が世界規模で拡大(パンデミック)したことで世界中の地域社会が深刻な影響を受けたが、多くの国では今後、一層クリーンで頑健かつ回復力のある社会をどのように構築するのが最良かについて、それぞれの政府がレビューを進めている。WNAはパンデミックに対して適切な政策的対応が取られれば、真に持続可能な世界を作り上げるまたとないチャンスがもたらされると認識。原子力は、低炭素で機能停止からの回復力が高く価格も手頃な電力の供給インフラを支える一方で短期的な経済成長を促すなど、COVID-19後の世界の復興に向けて中心的役割を担うことができる。原子力発電に対する投資もまた、エネルギー供給保証の強化につながるほか、水素や熱の供給に貢献して他部門の脱炭素化を支援することも可能だと強調している。今回の白書でWNAは、原子力発電所の建設プロジェクトが各国内で重要な投資を呼び込み、地域レベルや国家レベルで経済成長を長期的に持続させる原動力になると説明。世界では現在、108基ほどの新規原子炉建設計画に予算がついたり承認が得られるなど、すぐにも着工可能な段階に達しており、適切な支援さえあれば直ちに高賃金で長期の雇用機会を創出することができる。これらの建設計画はすべてCOVID-19後の復興にとって重要であり、膨大な社会的利益を生む可能性がそれぞれにあるものの、これを実現するには原子力の特質を高く評価するメカニズムが必要だとWNAは指摘した。また、直ぐに使える方策として、WNAは既存の原子力発電所における運転期間の長期化を挙げており、運転開始後30年以上が経過した世界中の原子炉約290基で運転期間を延長することは、低炭素な電力を発電する最も廉価な方法だと説明している。WNAとしては、COVID-19が引き起こした喫緊の危機に各国政府が取り組む際、原子力発電への投資は絶好のチャンスになると捉えている。また、地球温暖化や大気汚染、エネルギー貧困(近代的なエネルギー・サービスに対するアクセスの欠如)のように、規模が大きくて繰り返し発生する課題に取り組む際、原子力への投資は将来、これらの課題関連で危機が発生するのを防ぐことができるとした。こうした背景からWNAは、原子力に対して投資することは社会的な責任を負うことになるだけでなく、一層クリーンかつ万人に公平な未来の構築に向けて、持続可能な経済・社会の構築をも支援することにつながると強調。このような状況の下で、各国の為政者に対しては以下の点を実行に移すことを求めている。いかなるエネルギーへの移行計画においても、原子力と原子力が持つ社会経済面、環境面、公衆衛生面の利点を考慮し、それらの利点を現実化するための政策を制定する。各国政府がすでに検討中の原子炉建設計画合計108基分を実行に移し、30年以上稼働している既存の原子炉290基についても運転期間を延長する。原子力への投資を促す同時に顧客価値が生み出されるよう適切な枠組みを設定し、原子力に対する資金調達上の制限を解除する。(参照資料:WNAの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月9日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
10 Jul 2020
3513
英コミュニティ・地方自治省の政策執行機関である計画審査庁(PI)は7月7日、EDFエナジー社が5月下旬に提出していたサイズウェルC原子力発電所(SZC)建設計画の「開発合意書(DCO)」申請を6月24日付で受理したと発表した。この申請書は今後、PIが詳細に審査した上でビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)に勧告事項を提示、BEIS大臣がDCO発給の最終判断を下すことになる。なお、これに先立ち英原子力規制庁(ONR)は6月30日、SZCの運転会社としてEDFエナジー社が設立したNNBジェネレーション(SZC)社が、同発電所の原子力サイト許可(NSL)を申請したことを明らかにした。こちらの申請書は審査を評価段階に進めるのに十分な完成度だったが、ONRの作業量が膨大であるため、少なくとも2021年末までONRとして最終的な判断を下すことはできないとしている。PIによると、DCOの申請内容はイングランド地方の南東部サフォーク州にあるサイズウェルB原子力発電所(125万kWのPWR)の北側に、出力約167万kWのフラマトム社製・欧州加圧水型炉(EPR)(英国仕様版)を2基建設するというもの。主要な原子力発電設備のほかに、海上設備や発電所の建設と操業を円滑に進めるための設備などで構成される。また、サイズウェルB発電所の運転に関わる補助施設の中から、特定の既存設備を移設したり取り換えるなどして使用。建設工事は段階毎に分けて行われるため9~12年を要する見通しだが、完成すれば設計上の運転期間である60年間運転を継続し、その後は廃止措置が取られるとしている。また、申請書の受理に際し、担当大臣が2017年のインフラ計画(環境影響評価)規制に基づき、このプロジェクトが周辺国の環境に及ぼす影響についてスクリーニング評価を行った。その結果、英国以外のいかなる国においても環境面で多大な悪影響が及ぶ可能性は低いと結論付けている。英国政府はさらに、国連欧州経済委員会(UNECE)が1991年に採択した「越境環境影響評価条約(エスポー条約)」と1998年の「環境に関する情報へのアクセス、意思決定における市民参加、司法へのアクセスに関する条約(オーフス条約)」を考慮。EDFエナジー社が提案したプロジェクトの情報をこれらの締約国すべてとその市民に提供すると決定しており、これらの市民が公聴会などの意思決定プロセスに参加するよう呼びかけている。(参照資料:英国政府、ONR、EDFエナジー社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月8日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
09 Jul 2020
1958
経済協力開発機構・原子力機関(OECD/NEA)は7月2日、原子力発電所の建設コスト削減によってクリーン・エネルギーが普及する未来への道筋を示した報告書「原子力建設コストの削減:関係者のための解説書(Unlocking Reductions in the Construction Costs of Nuclear: A Practical Guide for Stakeholders)」を公表した。同報告書は結論として、「世界各国が脱炭素化やエネルギー供給保証に向けた目標を達成したいのなら、今こそ行動を起こすべき時だ。新規原子力発電所の建設コストが廉価なものであれば、原子力はこれらの目標達成に重要な役割を果たすことが可能。各国政府は、産業界がこれまでに獲得した能力を活用するための政策枠組を創設することで、原子力建設コストの迅速な削減を支援できるかもしれない」と表明している。OECD/NEAのW.マグウッド事務局長は「我々の分析によれば、建設プロジェクトにかかる高額なコストとスケジュールの遅延は原子力技術に固有の特徴ではなく、サプライチェーンの脆弱さやOECDに加盟する西側諸国で近年、原子力発電所の建設経験が不足していることが原因だ」と説明。建設コストが市場ニーズに沿ったものなら、原子力は新型コロナウイルスによる感染後の短期的な経済復興や地球温暖化に関わる長期的な環境目標の達成に大きく貢献することができるとした。同事務局長はまた、今回の報告書で原子力発電所建設コストの劇的な削減を高率で達成することができる確かな証拠を提示したと表明。世界ではすでにいくつかの国で同コストの削減対策が進められているが、産業界と規制当局が一層協調していけば今後さらに大きな長期的利益がもたらされる。産業界が片付けるべき課題が山積する一方で、各国政府がリーダーシップを取り、時宜に適った行動を起こすこともまた重要だと強調している。OECD/NEAの報告書は主に、近年普及している第3世代の原子炉設計について潜在的なコストとプロジェクト・リスクを削減する可能性に焦点を当てている。これらの設計では2030年までの短期間にコストの削減が可能であるほか、長期的には削減策を小型モジュール炉(SMR)や先進的原子炉設計を建設する際にも適用できるとした。2030年以降の長期的なコスト削減策に関してはまた、建設プロジェクトに資金調達する枠組の設置段階で、政府と産業界および社会全体でリスクを分担・軽減するための構想について詳細な研究を行っている。同報告書はさらに、原子力発電所建設プロジェクトの様々な段階で活用可能な8つのコスト削減項目を特定した。それらは初号機の建設に際して「完成度の高い原子炉設計を開発すること」と「効果的なプロジェクト管理」、「規制面の予測可能性と安定性の確保」、および「同一サイトでの複数ユニット建設と複数サイトでの同一設計建設で習熟効果を得ること」である。初号機の完成後は「設計の合理化」や「技術とプロセスの刷新」、「規制当局への対応の再検討」、「原子炉設計の規格と各国毎の許認可体制の間で一層の調和を図ること」を指摘。これらを通じて、建設コストを一定値まで下げることができるとしている。(参照資料:OECD/NEAの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月3日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
08 Jul 2020
3356
仏国内すべての原子力発電所を所有・操業するフランス電力(EDF)は6月29日、ドイツとの国境に近い東部に立地するフェッセンハイム原子力発電所2号機(PWR、92万kW)を、同日夜11時に永久閉鎖したと発表した。同炉は国内で稼働中の原子力発電所としては最古となる1978年に営業運転を開始、昨年9月に公表されていた予定日より1日前倒しの閉鎖となった。これは、2015年8月に成立した「エネルギー移行法」に基づき、現在約75%の原子力発電シェアを2025年までに50%に削減し、原子力発電設備も2015年レベルの6,320万kWに制限するための施策。これらの施策は元々、F.オランド前大統領が当時公約していたもので、手始めとして、フェッセンハイム発電所で1977年に運転開始した1号機(PWR、92万kW)が今年2月に永久閉鎖された。2017年5月に就任したE.マクロン大統領はオランド前大統領の方針を引き継いだが、「2025年までにシェアを引き下げる」方針を現実的で制御可能、経済的かつ社会的にも実行可能な条件下で達成するため、2018年11月の「エネルギーと地球温暖化に関する仏国戦略」の中で目標期日を10年先送りすると発表した。その際、フェッセンハイム発電所の2基を含め、国内の58基中合計14基の90万kW級原子炉を2035年までに永久閉鎖する方針を明らかにした。閉鎖の可能性がある90万kW級発電所は、トリカスタン(4基)、ビュジェイ(4基)、グラブリーヌ(6基)、ダンピエール(4基)、ルブレイエ(4基)、クリュアス(4基)、シノン(4基)、サンローラン・デゾー(2基)など。同大統領は、フェッセンハイムの2基の閉鎖後に国内の電力供給にリスクが及ばないと判断された場合、後続の2基を2025年から2026年の間に閉鎖する可能性を示唆していた。なお、仏政府の環境連帯移行省は同日、フェッセンハイム2号機の永久閉鎖について「エネルギー消費量の中でも特に化石燃料による発電電力の消費量を削減し、温室効果ガス排出量の削減を目指した政策の一部である」と説明。これとともに再生可能エネルギー源の開発を通じて国内エネルギー・ミックスの多様化を図り、自然災害等に対する送電網のレジリエンス(回復力)も一層強化すると述べた。一方、仏原子力学会(SFEN)のV.フォードン事務局長は一般紙のインタビューに対し、私見と断ったうえで、「フェッセンハイム原子力発電所が閉鎖されたことでCO2の排出量は年間約1,000万トン増えることになる」と指摘している。(参照資料:EDFフェッセンハイム原子力発電所(仏語)、仏環境連帯移行省(仏語)の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月30日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
07 Jul 2020
3575
ハンガリーの国家原子力庁(HAEA)は6月30日、国営MVMグループのパクシュII開発会社からパクシュ原子力発電所II期工事の建設許可申請書を受領したと発表した。この増設計画では、国内唯一の原子力発電設備であるパクシュ発電所の隣接区域に第3世代+(プラス)の先進的な120万kW級ロシア型PWR(VVER-1200)を2基建設することになっており、HAEAは翌7月1日から審査手続を開始。12か月後には最終的な判断を下すが、必要であればさらに3か月を審査に費やすとしている。一方、パクシュII開発会社では「建設前サイト準備許可」を取得できれば2021年初頭にも地盤の工事を開始できると予想。最短で同年9月に主要建屋の建設許可を取得し、本格的な建設工事を始められるとしている。パクシュ発電所I期にあたる4基はいずれも出力50万kWのVVER-440で、これらでハンガリーの総発電電力量の約半分を賄っている。また、これらの原子炉ではすでにVVERの公式運転期間である30年が満了したため、追加で20年間運転期間を延長する手続が完了した。II期工事で建設される5、6号機は最終的にI期の4基を代替することになっており、ハンガリー政府は2014年1月にこの増設計画をロシア政府の融資により実施すると発表。翌月に両国は、総工費の約8割に相当する最大100億ユーロ(約1兆2,000億円)の低金利融資について合意したほか、同年12月には双方の担当機関が両炉のエンジニアリング・資材調達・建設(EPC)契約など、関連する3つの契約を締結した。しかし、欧州連合(EU)の執行機関である欧州委員会(EC)は2015年11月、これらの契約が公的調達に関するEU指令に準拠しているかという点、およびEU域内の競争法における国家補助規則との適合性について調査を開始。2017年3月までにそれぞれについて承認裁定が下されたものの、プロジェクトの実施は当初計画から少なくとも3年遅延している。HAEAは2014年に同計画についてサイト調査とその評価作業を実施する許可を発給したほか、2017年にはサイト許可を発給した。2つの事務棟や作業員100名分の食堂とキッチン、作業用建屋、資機材の貯蔵建屋など建設工事に必要な建屋の建設許可も発給済みで、パクシュII開発会社は昨年6月に建設工事の準備作業として、80以上のこれら付属施設の建設工事を開始している。今回、パクシュII開発会社が提出した建設許可申請書は28万3千ページに及んでおり、HAEAは審査を効率的に行うために専用の作業プログラムを開始した。複数の法規が関係することから、HAEAのスタッフ180名のうち半数以上がこの審査に関与することになる。HAEAはまた、外部専門家の意見を取り入れるため、年末に国際原子力機関(IAEA)の技術安全レビュー(TSR)調査団を招聘する計画。申請書の中心部分である予備安全解析書を独立の立場の国際的な専門家に評価してもらうことが目的であり、調査団はIAEAの安全基準に対するパクシュ5、6号機の適合性について報告書を作成。HAEAはこの報告書に基づいて最終判断を下すことになる。なお、建設許可申請書の提出後3か月が経過すれば、パクシュII開発会社は関連するその他の許可も申請することができる。今年行われた原子力安全条例の修正にともなうもので、建設サイトの土壌改良やベースマット部分の掘削といった特定のサイト準備活動、および原子炉圧力容器のような長納期品の製造に関する許可申請などがこれに相当するとしている。(参照資料:HAEA、パクシュⅡ開発会社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月1日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
06 Jul 2020
2725
原子力産業を支援する世界規模の業界団体である「世界原子力協会(WNA)」は6月30日、原子力発電所で運転開始当初に設定された期間を超える「運転長期化(LTO)」を推奨する新しい技術政策方針書「原子力発電資産の価値を保持するために(The Enduring Value of Nuclear Energy Assets)」(=写真)を公表した。「原子力発電所がもたらす環境面、雇用面および経済面の恩恵を最大限に享受するには、より多くの政府が国内の原子力発電所にLTO支援方策を導入しなければならない」と訴えている。この技術政策方針書はWNAのLTOタスクフォースが取りまとめたもので、A.リーシング事務局長は「既存の原子力発電所での運転長期化は喫緊の優先的政策課題であり、もしも各国政府が地球温暖化や新型コロナウイルス拡大下でのエネルギー供給システムのレジリエンス(回復力)問題に真剣に取り組むのなら、低炭素電源で信頼性も高い原子力発電所の閉鎖を許すべきではない」と断言。世界各国の政府に対しては、以下の項目を実行するよう求めている。原子力産業界で優秀な労働力を確保するため、基礎教育機関や高等教育機関、および関係の訓練プログラムに投資を行う。原子力サプライチェーンを万全に整備するため、産業戦略を策定する。その他のクリーン・エネルギーと同様に、発電以外で原子力のもたらす価値が高く評価されるよう電力市場を改革する。LTO導入プロセスへの国民参加が要件となっている国では、プロセスの透明化を図るとともに、ステークホルダーに対しては他の電源方式と比較しての安全性や環境面のリスク、社会経済的な恩恵等についても事実に基づいた情報を提供する。WNAによれば、原子力発電所のLTOは多くのエネルギー市場で「耐用期間中の均等化発電コスト(LCOE)」が最も低い発電オプションと位置付けられており、このことは今後数十年間変わらない見通し。これまでに世界中の原子力発電所でLTOが実証され、今や世界の標準的慣習となりつつあり、一般的とされる運転期間は60~80年となっている。またWNAの認識では、世界中の大多数の原子力発電所でLTOが技術的に可能である。近年閉鎖された原子力発電所の閉鎖理由はどれも政治的要因や市場構造の欠陥などによるもので、設計面の技術的制約が原因ではなかった。またこれ以外にも、WNAはLTOの利点として新規原子炉建設までの期間をカバーする橋渡しとして機能すること挙げた。LTOによって産業界の能力と競争力が温存されるだけでなく、高度な技能が要求される雇用を維持、地元コミュニティを支援することにもつながると強調している。(参照資料:WNAの発表資料①、②、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月1日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
02 Jul 2020
2225
国際エネルギー機関(IEA)は加盟各国のエネルギー政策を定期的にピアレビューしているが、6月25日に欧州連合(EU)のエネルギー政策についての評価結果をまとめた報告書「欧州連合2020、エネルギー政策レビュー」を公表した。新型コロナウイルスによる感染の拡大で打撃を被った欧州経済の立て直し策が模索されるなか、昨年末に就任したばかりのECのU.フォンデアライエン委員長は、2050年までに欧州大陸で温室効果ガスの排出量実質ゼロ化(気候中立)を目指す工程表「欧州グリーンディール」を推進中。このような意欲的な取組により、EUは一層クリーンでレジリエンス(回復力)の強いエネルギー供給システムへのシフトを加速させ、温室効果ガス排出量の削減で世界のリーダー的立場をさらに強化するチャンスがあるとIEAは評価している。IEAの報告書によると、EU域内における2019年の温室効果ガス排出量は1990年実績から23%削減されており、2020年までに排出量の20%削減という目標はすでに達成済み。この背景にはクリーン電源が主要な推進力として働いたという事実があり、欧州の炭素強度(carbon intensity)は今や世界の大半の地域をはるかに下回っている。EUはまた、洋上風力発電など再生可能エネルギー技術のリーダーであり、多くのEU加盟国が石炭火力からの段階的撤退政策を敷いている。ただし、輸送部門の温室効果ガス排出量については未だに上昇していることから、IEAは同報告書のなかで、温室効果ガスや再生可能エネルギー、エネルギーの効率化等についてEUが設定した2030年までの目標、および長期的な脱炭素化目標が達成されるよう複数の勧告事項を提示した。EUの野心的な目標を達成するにはすでに実施中のエネルギー政策をさらに強化する必要があり、温室効果ガス排出量でEU全体の75%を占めるエネルギー部門については特にそうした施策の中心部分に位置付けられねばならないとした。また、「欧州グリーンディール」の公表後、ほどなく発生した新型コロナウイルスによる感染拡大は世界経済を低迷させ、政策決定者が約束したクリーン・エネルギーへの移行やエネルギー部門のレジリエンスを試す試金石となった。EUのエネルギー部門は今のところこの経済的な重圧に良く持ちこたえているが、経済の悪化は引き続き関係企業や政府のバランスシートを圧迫している。こうした背景からIEAは、異なるエネルギー政策や脱炭素化アプローチを取るEU加盟各国に対し、それぞれの「国家エネルギー気候変動計画(NECP)」の枠内で協力を強化する必要があると指摘。域内の統合エネルギー市場や越境取引に基づいて事業を進め、EUの排出量取引制度における炭素の価格付けでは一層強力なシグナルを発するべきだと勧告した。また、域内の温室効果ガス排出量の実質ゼロ化に向けたあらゆるエネルギー・オプションを維持するため、脱炭素化に役立つエネルギー技術の開発とそれに向けた投資、および持続的な資金調達でそれぞれに平等な条件を確保すべきだとしている。原子力発電オプションの維持原子力に関しては、ECの長期ビジョンの中で2050年までに総発電量の15%を賄うと予想されているものの、域内の既存の原子炉では経年化が進んでいる。新たに建設中のものはわずかであり計画中についても同様であることから、IEAは運転期間の延長など国家レベルで新たな政策アクションが取られなければ、EU域内の原子炉の約半数が今後5年以内に閉鎖され、原子力発電設備は2040年までに域内電源ミックスの5%まで低下すると指摘した。このようなことは発電原価に影響するだけでなく、適切な調査や取り組みが行われなければ世界の地域レベルの電力供給保証にまで影響が及ぶ可能性があるとIEAは説明。欧州の低炭素電力の大半を賄う原子力発電オプションを2030年以降も維持していくには、EUが原子力に対する資金提供条件を少なくともほかの電源と平等に保ち、原子力が受け入れられている国で新たなプラントの建設や既存炉の運転期間延長を支援する必要がある。また、既存の原子力発電所で廃止措置を取る際は、安全性に留意するとともに放射性廃棄物の処分を促進しなければならないと強調している。(参照資料:IEAの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月26日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
01 Jul 2020
4376
トルコのエネルギー・天然資源省は6月26日、同国初の原子力発電設備として建設中のアックユ発電所(120万kWのロシア型PWR×4基)サイトで、2号機用のコンクリート製ベースマットが完成したことを明らかにした。同サイトでは2018年4月から1号機の建設工事が始まったのに続き、同年12月に2号機の部分的建設許可が降り、2019年4月には同炉の本格着工許可が発給されたこの日は、同省のF.ドンメズ大臣が地中海沿岸のメルシン地区にある発電所建設サイトを視察した。同大臣はトルコが建国100周年を迎える2023年に1号機の運転開始を目指すと述べた。また、2号機に関しても同年末までに起動させることを希望している。同サイトでは、建設工事を請け負ったロシア国営原子力総合企業ロスアトム社のエンジニアリング部門AEMテクノロジー社が、2年かけて1号機用の蒸気発生器4台を完成させている。ドンメズ大臣によると、同サイトでは現在約6,700人の建設作業員が働いており、エンジニアも含めてほぼ90%がトルコ国民。専門的知見が必要な部分ではロシアなど外国から来た専門家が働いているが、4基すべての建設工事が始まれば、同サイトでは1万5,000~1万6,000人が作業に従事することになる。後続の3号機については2019年4月3日、ロスアトム社のトルコ子会社であるアックユ原子力発電会社が同国の規制当局であるトルコ原子力庁(TAEK)に建設許可申請書を提出した。なお、TAEKの安全規制機能はその後、独立の原子力規制機関である原子力規制庁(NDK)に移管されている。また、作業員のうち143名のトルコ人は建設プロジェクトが始まる前にロシアに留学して学位を取得。これに続いて、新たに102名が今後1~2年以内にロシアの大学を卒業して建設チームに加わる予定であるほか、22名がロシアで勉強を継続し修士号の取得を目指す。今年はさらに、25名のトルコ人学生をロシアの大学に送り出す計画だとしている。(参照資料:トルコ・エネルギー・天然資源省(トルコ語)と半国営アナトリア通信(トルコ語)の発表資料、原産新聞・海外ニュース、ほか)
30 Jun 2020
2408
ロシアの民生用原子力発電会社であるロスエネルゴアトム社は6月26日、第3世代+(プラス)のロシア型PWR(VVER)である「VVER-TOI」も含め、合計4基の新規原子炉について着工準備をレニングラードとスモレンスクの両原子力発電所で開始したと発表した。計画ではまず、レニングラード原子力発電所Ⅱ期工事の3、4号機として、第3世代+のVVER「AES-2006」を2基(合計出力239.8万kW)増設するための準備作業を年末まで実施し、仮設の作業員宿舎も設置。その後2022年までに両炉の認可の妥当性や環境影響評価ついて公開ヒアリングを行い、建設プロジェクト全体の評価も実施する。同発電所ではすでに、同じ設計を採用したⅡ期工事1号機が2018年から稼働中のほか、2号機が2010年から建設中。これらは3、4号機の参照炉に位置付けられている。また、スモレンスク原子力発電所ではⅡ期工事1、2号機として、I期工事のRBMKが3基(各100万kW)稼働する地点から6 km離れた場所に「VVER-TOI」を2基(合計出力251万kW)建設する。既存のRBMKはすべて今後10年以内に運転期間が満了するため、新しい2基はこれらのリプレースということになる。「VVER-TOI」は「AES-2006」設計をベースに技術面と経済面のパラメーターを最適化したもので、初号機となるクルスク原子力発電所Ⅱ期工事1、2号機の建設工事が、それぞれ2018年4月と2019年4月に始まっている。ロスエネルゴアトム社は今後、スモレンスク計画の投資プロジェクトについてアクション・プランの準備と承認取得を2020年末までに完了、同プランに沿って資金調達手続きを開始することになる。今回の準備作業の開始決定は、ロシア国営の原子力総合企業ロスアトム社のA.リハチョフ総裁が関係文書に署名した上で指示したもの。同総裁によると「AES-2006」はすでに国内外で建設中であり、どちらの設計も近年の国際的な安全要件をすべて満たすなど、最新の研究開発成果に基づいて設計されている点を強調した。また、これら4基の建設計画は2035年までの電力設備投資計画に組み込まれており、ロシア政府が承認済みである。ロスエネルゴアトム社はこれらの投資計画で技術コーディネーターを務めるとともに、事業会社の役割も担うことになる。(参照資料:ロスエネルゴアトム社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月26日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
29 Jun 2020
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カナダ中西部に位置するサスカチュワン州政府は6月24日、同州の原子力政策・プログラムの調整を図るため、環境省の気候変動・対応局内に原子力事務局を設置すると発表した。同局では、クリーン・エネルギー源である小型モジュール炉(SMR)を州内に建設するという戦略計画の策定と実施が最優先事項になるとしている。サスカチュワン州には今のところ原子力発電所は存在しないもののウラン資源が豊富であり、2018年に世界のウラン生産量国別ランキングでカナダを世界第2位に押し上げた。こうした背景から、同州は昨年11月に公表した2030年までの経済成長計画の中に、発電部門におけるCO2排出量の削減と無炭素発電技術であるSMRの開発方針を明記。州内のウラン資源を活用して、2030年代の半ばまでに初号機の完成を目指すとした。翌12月には、商業用原子力発電所を州内に擁するオンタリオ州、ニューブランズウィック州の両政府とSMRの開発・建設に向けて協力覚書を締結した。この中で3州は、「遠隔地域も含めたカナダ全土でSMRは経済面の潜在的可能性を引き出す一助になる」と明言。国内の主要発電業者に協力を求めてフィージビリティ報告書を作成し、2020年秋までにSMRの戦略的開発計画を策定する。今回の発表を行ったサスカチュワン州政府環境省のD.ダンカン大臣は、「SMRを開発してその恩恵を全面的に享受するには、複数のパートナーとの協力が不可欠だ」とコメント。SMRが内在する利点として、州内のウラン資源に経済的価値連鎖を付与できるほか雇用を促進、同州独自の気候変動対策策定にも寄与する点を挙げた。また、カナダでSMR開発が進展すれば経済・環境面の恩恵に加えて、安全で信頼性が高く価格競争力もあるクリーン・エネルギー源が同州に新たにもたらされると強調している。なお、カナダでは連邦政府もSMRの潜在的可能性に期待をかけており、2018年11月には天然資源省が「カナダにおけるSMR開発ロードマップ」を公表した。サスカチュワン州政府によると、カナダの全州および準州の電気事業者がこの構想への参加機会を模索しており、同州としてもSMRの利点を享受するためこれらとの協力を拡大していく考えである。(参照資料:サスカチュワン州政府の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月25日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
26 Jun 2020
3173
英国原子力産業協会(NIA)は6月24日、新型コロナウイルスによる感染危機終息後のクリーン経済再生と2050年までにCO2排出量を実質ゼロにするという英国政府の目標を達成するには、新規原子力発電所の建設実施を明確に確約する必要があるとの認識の下に作成した原子力ロードマップ「Forty by‘50」を公表した。これは、地球温暖化防止関連で英国政府への勧告義務を負う気候変動委員会(CCC)が、25日に年次経過報告書を国会に提出したのに先立ち、英国政府と産業界の共同フォーラムである原子力産業審議会(NIC)のためにNIAが取りまとめたものである。NICが承認した同ロードマップの中で、NIAは「長期的な温暖化防止目標の達成支援に加えて、新規原子力発電プログラムの決断を速やかに下せば、新型コロナウイルス感染のエネルギー供給への影響緩和に即座に役立つ巨大プロジェクトを進展させられる」と明言。英国では現在、新旧様々な技術に基づく意欲的なプログラムにより、2050年までにクリーン・エネルギーを全体の40%まで拡大し、水素その他のクリーン燃料製造や地域熱供給などを通じて大規模な脱炭素化を進められる可能性がある。また、これらによって最終的に30万人分の雇用と年間330億ポンド(約4兆3,900億円)の経済効果がもたらされるとしている。原子力発電は英国で年間に発電されるクリーン電力量の40%を賄っているが、NIAは化石燃料のリプレースや電気自動車の普及、暖房部門が好況なことから、今後の需要は4倍に増加することが見込まれると述べた。折しも、国際エネルギー機関(IEA)が先週、持続的な回復に向けたプランを各国の政策決定者に向けて勧告。NIAのT.グレイトレックス理事長は「原子力には膨大な可能性がありコストも下がってきているが、チャンスを逃さぬためにも今、一致協力した行動を取る必要がある」と指摘した。また、CO2排出量の実質ゼロ化を達成するには原子力が必要だが、先行する原子力発電プラント新設プログラムから教訓を学び、資金調達方法を大きく変更すれば、以後の大規模建設プロジェクトを大幅に安く仕上げることができる。同理事長はさらに、新たに建設する最初の原子力発電所で1MWh(1000kWh)あたり92.50ポンド(約12,300円)の電力価格を、それ以降の発電所では60ポンド(約7,980円)近くまで、将来的には約40ポンド(約5,320円)に引き下げる自信があると明言。原子力発電の設備容量についても、3倍に拡大する見込みがあるとしている。そのためのロードマップとなる「Forty by‘50」で、NIAはこのような産業界の大望実現に向け2020年に講じなければならない6つの重要対策を提示している。(1)原子力産業界は、新設プロジェクトのコストを2030年までに30%押し下げる努力を続けなければならない。(2)英国政府は、新規の原子力発電所を建設するという明確かつ長期的な方針を確固たる形で示すべきである。(3)新たな原子力発電所建設計画への投資を刺激し資本コストを低減するため、適切な資金調達モデルの設定作業を進展させねばならない。(4)小型モジュール炉(SMR)の立地や許認可申請に向けて、国家政策声明書や促進プログラムを作成すべきである。(5)官民の戦略的パートナーシップである「原子力部門別協定」に明記された2030年の目標を維持し、新設計画や廃止措置計画のコスト削減、民生用原子力部門における女性従事者の比率を40%に引き上げること、英国サプライチェーンで国内外からの契約総額20億ポンド達成、などを目指すべきである。(6)英国政府と産業界は、医療用放射性同位体や水素および輸送用合成燃料の生産、地域熱供給など、伝統的な発電事業以外の分野の協力に重点的に取り組むための枠組みの設定等で合意すべきである。(参照資料:NIAの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月24日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
25 Jun 2020
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新型コロナウイルスによる感染が世界的に拡大するなか、国際エネルギー機関(IEA)は6月18日、主力報告書である「ワールド・エナジー・アウトルック(WEO)」のスペシャル版として「持続可能な回復」を公表した。各国のエネルギー供給システムを一層クリーンかつ回復力の高いものにしつつ、パンデミックで大きな打撃を被った世界経済を立て直して雇用を押し上げるため、各国政府が2023年までの3年間に取るべき複数の方策に焦点を当てている。IEAは国際通貨基金(IMF)と協力して取りまとめた同報告書の中で、各国政府が経済成長に拍車をかけて数百万もの雇用を創出し、CO2排出量を世界レベルで削減するための「エネルギー部門ロードマップ」を提案。新型コロナウイルスによる経済的打撃への対応策にエネルギー政策を盛り込み、①世界経済の成長率を年平均1.1%に引き上げ、②年間900万人分の雇用を創出・維持、そして③年間45億トンのCO2削減を目指すとした。また、同報告書のプランにより人々の健康と福利のさらなる向上を図るとしており、そのための投資として世界全体で今後3年間に毎年約1兆ドルが必要だとしている。エネルギー部門の投資については、IEAは2020年に世界全体でマイナス20%というかつてないほどの落ち込みが予想されると分析。エネルギーの供給保証とクリーン・エネルギーへの移行については、深刻な懸念が生じているが、今回の報告書のプランを実行すれば、世界のエネルギー部門は強靱なものになり、今後の危機に対しても各国は十分な準備を整えることができるとした。具体的にIEAは、送電網の強化や水力発電設備のアップグレード、既存の原子力発電所の運転期間延長、エネルギー効率の改善などに投資することが重要になると強調。これらは発電所の停止リスクを低減して電力の供給保証を改善、運転のロスを減らしつつ柔軟性を拡大するほか、太陽光や風力といった変動し易い再生可能エネルギーの発電シェアを増大することに繋がるとした。原子力に関しては、報告書の「電力」項目の中で「水力と原子力の役割維持」として取り上げており、IAEAはまず、これら2つの電源だけで低炭素な電源による発電量の70%を供給している点に言及。ただし、これらは化石燃料の輸入量削減や、電力の供給保証と顧客の値ごろ感改善に役立つ一方、多くの設備で経年化が進んでいる。また、新型コロナウイルス危機により収益が減るなど財政上の課題にも直面しており、早期閉鎖のリスクが高まるとともに新たな投資が行われる見通しも限定的である。こうした背景からIEAは、原子力という選択肢の維持を決めた国で既存設備の近代化やアップグレードに投資が行われれば、低炭素電源による発電量の急速な低下は避けられると指摘。さらに新規の設備が建設されれば、そうした電源の発電量を一層拡大することができると訴えている。 原子力で推奨される政策的アプローチこれらに向けて推奨される政策的アプローチとして、IEAはこれら2つの電源の開発には政府からの持続的支援が必要だと述べた。いずれも資本集約的な電源であり、開発プロジェクトに要する総投資額もエネルギー部門では最大になる。また、開発に要する期間が長期であるため、リスクと資金調達コストを抑える方法の模索は非常に重要。直接的な財政支援は必ずしも必要ではなく、長期の電力購入契約や固定価格の電力買い取り制度を通じて価格を安定させることができる。また、米国内の5州で実行されているように、CO2を出さないという原子力の貢献を認めて「ゼロ排出クレジット」を原子力発電所に提供。同国では課題満載の市場条件の下で、複数の原子力発電所が運転を継続している。経済への影響雇用などの経済との関わり合いに関しては、IEAは原子力によって80万人以上の雇用が確保されており、このうち約半数が発電所関係であると説明。この点で、インドや中国など新興国における近年の新規原子力発電所建設プロジェクトでは雇用が突出している。また、既存の原子力発電所の運転期間延長は設備投資額100万ドルあたり2~3人の雇用を創出、発電所の所在地では運転・保守点検管理(O&M)のための雇用が維持されている。また、大型原子力発電所の開発プロジェクトを促進することは、多くの課題を内在しているとIEAは指摘。例として、サイト探しに長期のプロセスが必要だったり、着工前に最良の条件が揃っていた場合でも数年を要することなどを挙げた。それでも世界では、欧州も含めて少数ながら直ぐに取り掛かれる開発プロジェクトがあり、小型モジュール炉(SMR)に関しては特に、世界中の政策立案者や投資家の間で関心が高まりつつあるとしている。CO2排出量、送電システムの回復力に対する影響原子力は水力とともに世界のCO2排出量削減に大きく貢献しており、IEAの調べによれば先進経済諸国で原子力発電所の運転期間がこれ以上延長されなかった場合、クリーン・エネルギーへの移行で年間約800億ドルが追加で必要になるほか、消費者の電気代は約5%上昇する。また、多くの国で原子力と水力の拡大にともない石炭火力の必要性が低下。100万kWの原子力発電所があれば、年間約600万トンのCO2排出が抑えられるとした。また、これらの電源はともに稼働率の高い低炭素電源であるため、IEAは多くの国の電力供給において必須のものになっているとした。原子力は特に、常に一定出力で発電することが可能なほか、発電システムとしての柔軟性も保有。一方、核燃料の調達先は少数のサプライヤーに限られているものの、燃料の交換頻度は18か月から2年に一度である。発電所の設計や運転上、重要鉱石への依存度も他の低炭素発電技術に比べて低い点を強調している。(参照資料:IEAの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月18日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
24 Jun 2020
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ロシア国営原子力総合企業ロスアトム社傘下の燃料製造部門であるTVEL社は6月15日、シベリア化学コンビナート(SCC)で建設している窒化物燃料製造ユニット(FRU)で、主要機器の設置を開始すると発表した。作業の完了までには、1年半かかるとの見通しを明らかにしている。FRUは、同じエリアで建設準備中の鉛冷却高速炉(LFR)パイロット実証炉「BREST-300」(電気出力30万kW)専用の燃料製造施設となる。これらに同炉の使用済燃料再処理プラントを加えた3施設は、「パイロット実証エネルギー複合施設(PDEC)」を構成することになる。PDECは、ロスアトム社が進めている戦略的プロジェクト「ブレークスルー(PRORYV)計画」の主要施設であり、同社はこのプロジェクトにより、固有の安全性を有する高速炉で天然ウランや使用済燃料を有効利用するという「クローズド原子燃料サイクルの確立」を目指している。またPDECを通じて、開発実績の豊富なナトリウム冷却高速炉(SFR)に加えて、LFRの研究開発も並行的に進める考えである。SCCはシベリア西部のトムスク州セベルスクに位置するTVEL社の子会社で、FRUへの機器設置は燃料棒生産ラインの除染セクションから開始する。FRU全体で40品目以上の機器を据え付ける計画で、総重量は約110トンに達するとした。SCCでPRORYV計画を担当するA.グセフ副総裁は、「設計から設置に至るまで世界的にも特殊な機器を使用するため、この種の施設で典型的な手法を使うことはできない」と説明。主要な技術装置の設置については4Dモデリングを使ったデジタル方式で予め準備されており、これによって作業手順の合理化を図るとともに機器に不具合が発生するのを抑えられるとしている。なお、TVEL社は2019年12月、「BREST-300」の原子炉建屋とタービン建屋、および関連のインフラ施設を2026年末までに建設するため、発電施設のエンジニアリング企業TITAN-2社と263億ルーブル(約407億円)の総合建設契約を締結した。また、今年1月にはSCCの化学・冶金プラントで、LFR用のウラン・プルトニウム混合窒化物(MNUP)燃料の試験燃料集合体が完成。原子炉試験を実施するため、複数の高速炉が稼働するベロヤルスク原子力発電所に移送すると発表している。(参照資料:TVEL社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月15日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
23 Jun 2020
3158
国際原子力機関(IAEA)の理事会は6月19日、核不拡散条約(NPT)に基づく包括的保障措置協定と追加議定書の義務事項、およびIAEAが要請している事項への対応をこれ以上遅らせることなく、全面的に履行するようイランに求める決議を25対2で採択した。この決議は仏国、ドイツ、英国の3か国が提出していたもので、反対票はロシアと中国が投じた。未申告の核物質の保有と原子力活動が疑われる2施設へのIAEAの立ち入りについては特に、速やかに実現させることを要求している。イランの核開発疑惑を巡り、国連安全保障理事会の5か国とドイツおよび欧州連合(EU)は2015年7月、イランのウラン濃縮活動を大幅に制限する一方、そうした制限の実行をIAEAが確認し次第、国連安保理やEU、米国が課してきた制裁の解除を盛り込んだ「包括的共同行動計画(JCPOA)」をイランと締結した。しかし、米国のD.トランプ政権は2018年5月、JCPOAからの離脱とイランへの経済制裁再開を指示。イランもこれに対抗して、一年後にJCPOAで課された制限の一部を今後は順守しないと宣言している。主要当事国が撤退表明したことで、JCPOAは事実上、無効になったと見る向きもあるが、IAEAは今回の決議により、加盟各国が保障措置協定における義務事項を全面的に順守し、IAEAが要求する施設への立ち入りを促進することの重要性が強調されたと指摘。イランが保障措置協定を順守している点や、その原子力プログラムが純粋に平和利用目的である点を確証する際、IAEAが担う重要かつ他からの干渉を受けない独自の役割が明確に示されたと強調している。決議文のなかでIAEA理事会は、R.M.グロッシー事務局長が今年3月3日と6月5日に公表した報告書について言及した。これらの報告書は、保障措置協定と追加議定書に基づきイランの申告が正確で完全であることを解明するためIAEAが傾注した努力や、疑惑があるとしてIAEAがイラン国内で特定した2施設の査察問題について説明している。これらを踏まえた上で同理事会は、2施設への立ち入り容認も含め、これらの協定や議定書の義務事項を遂行するにあたり、イランは全面的かつタイムリーにIAEAと協力すべきだと進言。イランの核物質がすべて平和利用目的であるとの「拡大結論」にIAEAが到達するには、このような協力が不可欠であることを改めて確認したと述べた。また、追加議定書に基づく2施設への立ち入りをイランが拒否している点については、事務局長が報告書の中で示した深刻な懸念に理事会は賛同すると表明。IAEAは未申告の核物質と原子力活動の可能性についてイランとの協議にほぼ1年を費やしたが、これらはあまり進展していない。このため理事会は、イランに対してIAEAのリクエストに速やかに応えることを要請。これにはIAEAが特定した2施設への立ち入りを直ちに許可することが含まれるとしている。(参照資料:IAEAの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月19日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
22 Jun 2020
2980