欧州で約3,000社の原子力企業を代表する欧州原子力産業協会(フォーラトム)は6月10日、「欧州原子力サプライチェーンの最適化-原子力施設における高品質の一般産業品活用に向けて」と題する報告書を公表した。原子力産業界で高いレベルの安全性と品質、信頼性を確保するためには、盤石で多様な機器サプライチェーンが必要とフォーラトムは認識しており、欧州委員会(EC)は欧州連合(EU)域内の原子力サプライチェーンで一層の調和を図ることの重要性を認めるべきだと主張。フォーラトムによると、欧州原子力産業界では現在、製造委託を受けて他社ブランドの製品を製造する企業(OEM)の多くがもはや市場に存在しない、あるいは当初設計した製品の製造を停止している。これと同時に要件の多様化や厳密化が世界中で進んでいるため、新規参入企業にとっても難度の高いものになっている。このような課題を解決するため、フォーラトムは他産業のために製造された高品質の近代的機器を原子力施設で使用できるよう、EU加盟国が規制の枠組みを見直しする際にECが支援提供することを求めている。また、調和の取れた強力なサプライチェーンであれば、新型コロナウイルスの感染爆発によって損なわれたEU経済を復活させる一助にもなると指摘している。フォーラトムによれば、現在EU域内で発電される総発電量の26%が原子力発電によるものであり、低炭素電源の発電量としては最大となる。しかし、欧州の既存原子力発電所はすでに平均で35年間運転を継続しており、運転期間の長期化措置を取らなければ2035年までにこれらの設備の90%が閉鎖され、リプレースが必要になる見通しだ。フォーラトムのY.デバゼイユ事務局長は、「欧州の原子力発電所で安全かつ信頼性の高い運転を続けるには、適切なサプライチェーンの選択肢が必要だ」と説明。その上で、今回の報告書の勧告事項を実行すれば、欧州のサプライヤーは原子力発電所の運転長期化プロジェクトや新設プロジェクトへの参加で大きなチャンスを得るだけでなく、新型コロナ後のEU経済の復興や2050年までに域内でCO2排出量の実質ゼロ化を達成するという目標の達成にも寄与できるとした。今回の報告書でフォーラトムは、高品質な一般産業品の利用と調和のとれたアプローチの促進に向けて、欧州の原子力産業界は一般産業品のグレード格上げに関する国際経験や既存サプライチェーンのプロジェクトを生かすべきだと強調。また、盤石で多様なサプライチェーンの確保に向けて、以下の点についても勧告している。原子力産業界は、安全性に関わる一定用途に高品質の一般産業品を受け入れるための共通方法論も含め、「欧州ガイドライン」というものを策定すべきである。この目的の達成においては、欧州原子力施設安全基準(ENISS)や西欧原子力規制者協会(WENRA)、欧州原子力規制者グループ(ENSREG)など、ステークホルダー間の境を超えた協力の実施を奨励する。EU加盟国を始めとする欧州の各国は、欧州共通のガイドラインに基づき高品質の一般産業品を国内で使用できるよう、国家毎のガイダンスも策定すべきである。原子力産業界は、一層規模の大きい市場基盤やサプライヤーとの一層効果的な連携が可能になるよう、既存の手続きを見直すべきである。(参照資料:フォーラトムの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月10日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
12 Jun 2020
2682
カナダのエネルギー関係プロジェクト開発企業であるグローバル・ファースト・パワー(GFP)社は6月9日、パートナー企業の米ウルトラ・セーフ・ニュークリア社(USNC)およびカナダの発電事業者オンタリオ・パワー・ジェネレーション(OPG)社との3社で合弁事業体(JV)「GFPリミテッド・パートナーシップ」を設立したと発表した。このJVでは、USNC社が開発した第4世代の小型モジュール式(高温ガス)炉(SMR)「マイクロ・モジュラー・リアクター(MMR)」をカナダ原子力研究所(CNL)のチョークリバー・サイトで建設・所有・運転する計画である。GFP社は2018年6月、CNLが公表した独自の戦略的イニシアチブ「CNL管理サイトにおけるSMR実証炉の建設・運転提案募集」にMMRで応募しており、CNLによる全4段階の審査では唯一フェーズ3に進展している。また、2019年3月にはMMRをチョークリバー・サイトで建設するため、「サイト準備許可(LTPS)」をSMRとしては初めて、カナダ原子力安全委員会(CNSC)に申請。CNSCはこのプロジェクトの環境影響評価を、昨年7月に開始している3社はすでにMMR開発プロジェクトでは過去数年にわたって協力関係にあり、今回のJVの所有権はOPG社とUSNC社のカナダ法人が均等に保有する一方、2019年に同プロジェクトを開始したGFP社は、JVの代理企業としてプロジェクトを監督。チョークリバーでMMR商業用実証炉を開発・建設し、操業する事業を推進していく。同プロジェクトは将来的に、複数のMMRをカナダ全土で建設するためのモデル計画になる予定で、JVは同MMRを通じて、安全かつ低炭素、持続可能的な熱電を鉱業などの産業や遠隔地域に供給する考え。ディーゼルその他の化石燃料に代わる有望な代替選択肢であるSMRをカナダで実現するため、3社は相互に協力していくとしている。USNC社が開発したMMRシステムは、熱出力1.5万kW、電気出力は0.5万kW。熱と電気を供給する2つのプラントで構成されており、シリコン・カーバイドで層状に被覆されたウラン粒子燃料を使用する。これは「完全なセラミック・マイクロカプセル化(FCM)燃料」と呼ばれる事故耐性燃料で、シリコン・カーバイドの層は核分裂生成物の放出を防ぐ堅固なバリアの役割を果たす。MMRはまた、運転期間である20年の間に燃料交換を行う必要がないほか、メルトダウンが発生するリスクもなく、運転員が持ち場を離れた場合でも安全性が保たれる。また、いかなる事故シナリオにおいても、物理的な対応なしですべての熱が受動的に環境中に放出されるとしている。(参照資料:3社の共同声明、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月10日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
11 Jun 2020
3298
レーザー分子法で独自のウラン濃縮技術を開発したオーストラリアのサイレックス・システムズ社は6月5日、サイレックス法による商業用ウラン濃縮施設を米ケンタッキー州パデューカで建設するため、同社が出資するグローバル・レーザー・エンリッチメント(GLE)社が米エネルギー省(DOE)と2016年に締結した劣化六フッ化ウラン(UF6)の売買契約を再調整したと発表した。同社は、「パデューカ・レーザー濃縮施設(PLEF)」の建設をサイレックス法技術を商業化するための理想的な道筋と認識している。GLE社はサイレックス法の商業化と運用で独占実施権を保有しており、GLE社がDOE所有の劣化UF6の在庫を購入することは、PLEFでこれを天然ウラン程度まで濃縮し、民生用原子力発電所の燃料製造に利用するという計画を実現する上で非常に重要。小規模でも低コストで同技術の最初の商業用設備を建設することは、市場までの流れを低リスク化することにつながると考えている。GLE社とDOEが2016年11月に劣化UF6の売買契約を交わした頃、ウラン市場は復活に向けて動き出したと見られていたが、近年の市場は十分な回復を見せていない。このためサイレックス社は、GLE社がPLEFプロジェクトで規制面の承認を得つつ市場状況が好転するのを待ち、2020年代後半にPLEFを操業開始するためのプラン作成で十分な時間的猶予が得られるよう、売買契約の一部条項とスケジュールを修正。両者間の契約を引き続き有効とすることで合意したとしている。サイレックス社によると、PLEFで再濃縮プロジェクトが数十年続けば、天然ウラン・グレードの生産品を年間約2,000トン、UF6の形でウランの世界市場で販売することが可能になる。この量は1つのウラン鉱山が年間に産出する酸化ウラン520万ポンド(2,359トン)に相当し、近年の生産量としてはトップ10に入る。また、PLEFのウランにはUF6に転換済みという付加価値が加わっているが、ここ数か月間に転換の市場価値はスポット価格で1kgあたり約22ドルに上昇した。PLEFプロジェクトの予備的な経済分析は、低コストで長期的な生産という基準から見ても、最上位のウラン鉱山と同等のランク付けになることを示している。なお、サイレックス法の商業化プロジェクトについては、GLE社に76%出資していたGE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社が2016年4月に撤退する意向を表明した。残りの24%はカナダの大手ウラン生産企業CAMECO社が出資していたが、サイレックス社は昨年12月、関係者間で所有権の購入協定を締結したと発表。GEH社が保有していた76%のうち51%をサイレックス社が購入するほか、25%はCAMECO社が既存の所有権に積み増しして合計49%とした。今回のGLE社とDOEの売買契約の修正は、GLE社の再構築に向けた所有権購入協定を成立させる主要条件となっていた。これについて連邦政府の承認を得るための申請書が今年2月に米原子力規制委員会(NRC)に提出されており、今年の末までに最終承認される見通しである。(参照資料:サイレックス社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月8日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
10 Jun 2020
3334
フィンランド西部のボスニア湾沿岸ピュハヨキで、ハンヒキビ原子力発電所1号機(PWR、120万kW)の建設計画を進めているフェンノボイマ社は6月8日、建設許可の取得に先立ち今年の夏から建設サイトで管理棟の建設工事を開始すると発表した。同社は2015年6月に同発電所の建設許可申請書を経済雇用省に提出しており、原子力法に基づいて許可が発給されるのは2021年になる見通しである。現在、建設に入る前段階の準備として様々な作業を進めているところで、着工で急増する従業員への対処と事務スペースの確保を目的とした管理棟の完成は2022年初頭になる予定。プラントの初期コストや廃棄物管理費など、総投資額65億~70億ユーロ(約7,900億~8,500億円)でハンヒキビ1号機が営業運転を開始するのは2028年になるとしている。 同炉では、建設プロジェクトを受注したロシア国営の原子力総合企業ロスアトム社が第3世代+(プラス)の120万kW級ロシア型PWR(VVER)を供給するものの、プロジェクトには地元フィンランドのみならず、国際的な原子力関係企業が多数参加している。ロスアトム社傘下の総合建設請負業者RAOSプロジェクト社の主要下請け企業であるロシアのTITAN-2社は昨年10月、同炉の計装・制御(I&C)系製造・納入契約を仏フラマトム社および独シーメンス社の企業連合と締結。この頃、日本製鋼所(JSW)が発電機ローターの鍛造を開始しており、この鍛造品とGE社傘下のアルストム・パワー・システムズ社の低速タービン技術「アラベル」を使って、GEスチーム・パワー社がタービン発電機を製造する計画である。管理棟の建設はフィンランドのレヒト・グループが担当しており、延べ床面積1万600平方メートルの6階建て建造物になる予定。300人規模の事務スペースや会議室のほか、スタッフ用食堂、訓練エリアを含む近代的オフィス空間となるほか、発電所の建設・運転段階では事務棟の役割を担う。同グループはまた、これとは別に5階建ての発電所事務所も管理棟の完成とともに着工するが、こちらは建設段階ではフェンノボイマ社のサイト事務所として使用。これら建屋の総工費は、3,000万ユーロ(約36億6,000万円)にのぼるとしている(参照資料:フェンノボイマ社(フィンランド語)とレヒト・グループ(英語)の発表資料、原産新聞・海外ニュース、ほか)
09 Jun 2020
2038
カナダのオンタリオ州営電力(OPG)会社は6月4日、州内で保有するダーリントン原子力発電所の2号機(93.4万kWの加圧重水炉)で約3年半に及んだ大掛かりな改修工事が完了し、オンタリオ州の送電グリッドに定格出力で再接続したと発表した。同炉は1990年10月に営業運転を開始しており、今回の改修工事は約10年間の計画準備段階を経て2016年10月から開始していたもの。安全で高品質の作業を成功裏に終えた同炉は、今後30年以上にわたってクリーンで信頼性の高い低炭素電力を同州に供給するとしている。ダーリントン発電所は同出力のカナダ型加圧重水炉(CANDU炉)×4基で構成されており、約128億カナダドル(約1兆440億円)をかけた改修プロジェクトでは、同発電所で最初に営業運転を開始した2号機から作業を開始した。OPG社はこれに続いて、新型コロナウイルスによる感染拡大のため今年5月から予定していた3号機の改修工事を今年の第3四半期に始めるほか、1号機と4号機の作業をそれぞれ2022年と2023年から実施。2026年末までにこれら4基すべての改修工事を予算内で完了し、それぞれの運転期間を30年間延長する計画である。カナダでは一時期、ダーリントン発電所で新規の原子炉を2基、同じくOPG社の所有でブルース・パワー社が操業するブルース原子力発電所(80万kW級CANDU炉×8基)では4基増設する計画が進められていたが、これらの計画は現在すべて中止されている。また、2つの新規立地点における新設計画も中止になっており、その代わりとして、世界でも最大級の複数ユニットが稼働するブルースとダーリントンの両発電所で、運転期間の延長に向けた大規模な改修プロジェクトが進められている。2号機の改修作業ではまず、原子燃料を取り出した後に原子炉を一旦分解。その後、カランドリア管や燃料チャンネル、フィーダー管などを再設置する作業が行われた。複雑な工程であることから、OPG社はダーリントン・エネルギー複合施設のモックアップ設備や訓練設備を使って予行演習を実施。作業チームは76万時間を超える綿密で厳しい実地訓練を事前に受け、作業効率を改善した。また、オンタリオ州内の製造業者数百社が納入した精密機器や革新的な技術を用いることで、2号機の改修工事を成功に導いたとしている。OPG社でこのプロジェクトを担当するD.レイナー上級副社長は、「最良の条件が整ったとしても、これらの作業は非常に骨の折れるものになるはずだった」と説明。新型コロナウイルスによる感染の拡大など、様々な課題や制約があるなかで最終段階の作業を終えられたことは、原子力の専門家である作業チームが同プロジェクトで役割を全うした証であると強調している。(参照資料:OPG社の発表資料①、②、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月5日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
08 Jun 2020
3442
米エネルギー省(DOE)のD.ブルイエット長官は5月28日、米国の国家安全保障や防衛問題を専門的に取り上げている一般メディア「Defense One」に寄稿し、4月下旬に原子燃料作業部会(NFWG)が取りまとめたDOEの包括的戦略「米国が原子力で競走上の優位性を取り戻すために」について、より具体的な説明を行った。「Defense One」は、連邦政府高官や軍当局者、高位の民間人を主な読者とする政府関係情報誌の「Government Executive Media Group」が提供するメディアの一つ。ブルイエット長官は同メディアを通じて、DOEの新しい戦略で米国が何をなすべきかを明確に示している。同長官はまず、国内で原子力発電が盛んであるにも拘わらず、米国は原子力における世界のリーダー的立場をロシアや中国に譲り渡したと指摘。これらの国は、核の影響力を巡る国際競争で米国がリーダーシップを失ったことで力を得ており、ウランの採掘や転換を促進することでこの間隙を埋めようとしている。これら2国はまた、原子炉技術の輸出にしばしば反競争的手法を用いて世界市場を蝕んでいるが、残念なことに米国は原子炉新設の世界市場にほとんど参加しておらず、米国の国家安全保障には重大な隙間が残されることになった。D.トランプ大統領は、米国の原子力産業を再活性化し競争力を取り戻すため、昨年7月にNFWGを創設。政府全体の取り組みの成果として、今年4月には今回の包括的戦略がDOEから公表された。ブルイエット長官の説明によると、同戦略ではクリーンで信頼性が高く安全、かつ機能停止からの回復力も高く、発展するエネルギー環境の中でも持続可能という確実なベースロード・エネルギー源として、原子力を推進するための一連の行動を提案。ウランの採掘と精錬および転換産業を復活させるとともに、米国の技術的優位性を強化する。新型原子炉や燃料技術の輸出を促進することもこれに含まれる。これらの活動の多くがすでに進行中であり、トランプ大統領が提案した「国産ウランの備蓄」など、新しい政策のいくつかについてはDOEの2021会計年度の予算要求項目に盛り込まれた。同長官は、このような戦略全体を支えているのは、米国の国家安全保障が強固な原子力産業に依存するという認識だと説明。この戦略によって米国が国家安全保障を改善し、原子力界のリーダー的立場を取り戻すには直接的な方法が2つあり、1つ目は外交政策を修正することだと述べた。地政学的に重要な国の多くが国内の電力需要を満たすために原子力発電を推進中で、その大部分が原子炉建設に必要な技術支援をロシアと中国の国営企業に依存する一方、米国は傍観者的立場を取っている。ロシアと中国は実際、原子力の専門技術を輸出しつつ、100年間単位の二国間関係を構築して地政学的な影響力を増強。このため今回の戦略は、米国が民生用原子力技術や機器、燃料の輸出を容易にし、新たな市場における競争力を高めるよう求めている。2つ目の方法としてブルイエット長官は、DOEの同戦略により世界中で核兵器の増加を防ぐことを挙げた。世界の核不拡散体制における米国の信頼性は、盤石な民生用原子力産業と世界市場で米国の技術革新が牽引する技術的リーダーシップにかかっている。米国の規制構造は依然として、原子力発電所の安全運転を保証する国際的ゴールド・スタンダードとなっているが、米国が世界的核不拡散体制や原子力セキュリティ、安全基準に影響力を及ぼすには、原子炉輸出の国際市場で米国がその信頼性を維持する必要があると指摘した。こうしたことから、同長官は今回の戦略で、次世代の原子力技術を生み出す先進的な研究開発と建設に向けて資金調達することを要請。これらを通じて、米国は世界的な競争力と核不拡散体制におけるリーダーシップを長期的に確保することができると述べた。新型コロナウイルスによる感染の世界的拡大は今回、諸外国が必ずしも米国の利益を最優先に考えているわけではないことを思い出させたが、医療からエネルギーに至るまで世界の覇権と影響力を巡る争いは衰えることなく続いていく。ブルイエット長官は、ますます敵対的になっていく世の中で安全確実かつ繁栄した国であり続けるには、国内の米国人と国外で米国の国益を守るため、このような重要な措置を講じていかねばならないと訴えている。(参照資料:「Defense One」の寄稿記事、5月1日付け原産新聞・海外ニュース、ほか)
05 Jun 2020
3007
フォーラトム(欧州原子力産業協会)を含む欧州の14の原子力関係協会、および仏国の仏電力(EDF)やフラマトム社、オラノ社、チェコのCEZグループ、フィンランドのティオリスーデン・ボイマ社(TVO)、イタリアのアンサルド社など25の原子力関係企業は6月3日、欧州委員会(EC)の幹部に宛てた公開書簡を発表した。この中で経済面や健康面で未曾有の危機に直面した欧州その他の国々にとって、新型コロナウイルスによる感染の世界的拡大(パンデミック)に対応することは喫緊の優先事項であり、原子力発電を中心とする欧州のエネルギー部門は信頼性の高い電力供給の維持で今後も重要な役割を担い続けると指摘。欧州各国とEUがパンデミック後の経済復興を果たせるよう、欧州の原子力産業界は適格に支援を提供すると強調している。書簡の宛先は欧州連合(EU)で政策決定を担うECのU.フォンデアライエン委員長のほか、V.ドムブロフスキス副委員長、F.ティマーマンス執行委員長、エネルギー総局のK.シムソン委員など。書簡はまず、EUにおける総発電量の26%を原子力が供給しており、低炭素電力としては最大シェアとなる事実を指摘。しかし、50%は依然としてCO2を排出する化石燃料からの電力であり、EUが2050年までに「排出されるCO2と吸収されるCO2の量が同じ(カーボン・ニュートラル)状態」へ移行する際、これらを低炭素な新しい電源に置き換えなくてはならず、これと同時に電力需要量の増加を満たすため、追加の電源が必要になるとした。この問題の解決に要する投資額は莫大なものだが、この書簡はECがその戦略的ビジョン「Clean Planet for All」の中で、「EUが発電部門で2050年までにカーボン・ニュートラルを達成するには、原子力が再生可能エネルギーとともに重要な要素になる」とはっきり示していた点を指摘。今日すでに開発済みの原子力技術に加えて、先進的原子炉や小型モジュール炉(SMR)などの研究開発によって、毎日24時間、一年に365日、低炭素な電力を供給できる原子力は、再生可能エネルギーを完璧に補うことができる。原子力はまた、地域熱供給や低炭素水素の生産に大きく貢献。がんの診断・治療にも適用されるなど、医療分野でも不可欠な役割を担っていると述べた。フォーラトムらの認識では、「もしも地球温暖化の防止目標を達成するのであれば、技術面で中立なアプローチを取ることが重要」とEUの加盟各国が考えていることに疑いの余地はない。原子力を排除した解決策はどれも、CO2の排出量削減という点で非効率的かつ割高であり、エネルギーの供給保証と送電システムの耐久性という点でリスクを増大させることになる。また、EUのエネルギー集約型産業は国際的競争力を維持するため、価格が手ごろで安定した確実な電力供給に依存しており、原子力発電はこれらを可能にする重要電源であるとした。欧州全体が現在、コロナウイルス後の経済立て直しと地球温暖化への取組が必要と考えており、そのための方策が形作られつつある。エネルギー部門も引き続き重要な役割を果たすことになり、欧州の原子力産業界はEUや加盟各国がクリーンでグリーンな経済を取り戻せるよう、以下の準備が整っているとした。それらはすなわち、▽EUおよび各国や各地方レベルの経済成長と雇用創出、および富の創造(現在、原子力産業界は全体で110万人規模の雇用を維持している)、▽研究と技術革新、▽輸出を拡大する可能性、▽放射性廃棄物問題も含めて環境面の厳しい規制を満たしつつ、CO2の実質ゼロ経済に向けて進むこと――である。フォーラトムらによると、欧州の原子力産業界はすでにEUにおける重要な産業部門となっており、EU域内でそのバリュー・チェーンを強化・維持することは重要との認識が高まっている。その意味で、原子力部門がEUの新しい産業戦略の一部となるためには以下の2点の取組が必要であるとした。関連政策の策定と実施に一貫性を保たせ、投資が促進されるよう明確なシグナルを送る。また、大型炉やSMRなど低炭素で新しい原子力発電所を建設するとともに、既存の原子力発電所を維持。適切であればそれらで一層長期の運転を可能にする。科学的根拠のある環境評価によって、EUタクソノミー(CO2排出量の実質ゼロ化に向けたグリーン事業の分類)における原子力の立場を早急に回復する。EUタクソノミーの最終報告書を取りまとめたECの「持続可能な金融に関する技術専門家グループ(TEG)」は、科学技術の知識を有する専門家がさらなる分析を行うべきだと勧告しており、重要な投資判断が遅滞なく下されるよう、この分析は今年中に実施しなければならない。結論としてフォーラトムらは、原子力を中心とするエネルギー部門が今後もEUへのエネルギー供給という重要な役割を担い、各世帯や事業所に安全で競争力のある信頼性の高い方法で低炭素なエネルギー・サービスを提供し、経済を動かし続けると指摘。原子力産業界には経済復興を牽引する準備ができており、人々が将来的に探し求めている一層クリーンで頑健な経済をもたらす強力な手段になるとしている。(参照資料: SNSにおけるフォーラトムの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月3日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
04 Jun 2020
3603
仏国のフラマトム社は6月2日、米バージニア州を本拠地とするBWXテクノロジー(BWXT)社が米国内で展開している商業用原子力サービス事業の買収を完了したと発表した。この取引により、同社は原子力発電所の点検・メンテナンス用に提供する機器・サービスでビジネスの幅を広げ、原子力部門における同社の立場を強化していく方針。ただし、BWXT社がカナダに置いている原子力機器製造・サービス事業はこの買収に含まれておらず、BWXT社は今後も北米と海外の事業は継続するとしている。この取引はキャッシュレスで行われており、両社間でのいくつかの施設やリソースの交換が含まれる。フラマトム社はBWXT社の米国サービス事業関連の機器・設備のほかに、知的財産権や関係契約を譲り受ける一方、BWXT社はフラマトム社がバージニア州リンチバーグで保有するマウント・アトス・ロード製造施設の一部所有権を受け取る予定。フラマトム社はまた、買収にともない業務量の増加が見込まれる米国事業部門のサポートとして、既存のBWXT社チームから受け入れる方針である。今回の買収についてフラマトム社のC.コルナン上級副社長は、「信頼性が高く競争力もある低炭素電源の原子力を将来にわたって持続させるため、一層の製品やサービスを原子力市場に提供できるよう製品リストを拡充し続けたい」とコメント。米国のみならず、世界中の原子力発電所で長期的な運転を下支えする点検・メンテナンス・サービスの提供で、同社の卓越した能力や専門的知見を今以上に強化していくと述べた。一方、BWXT社のR.ゲベデン社長兼CEOは「この戦略的な取引により、当社は中心的事業である政府関係の原子力機器製造事業やサイト運営事業に専念できる」と指摘。これに原子力機器専門の製造では一流というフラマトム社のマウント・アトス・ロード施設が同社の拠点に加わり、宇宙開発用や軍用の超小型原子炉製造に向けた事業の拡大が可能になるとしている。同社はバブコック&ウィルコックス(B&W)社が2014年に分社化した原子力機器・燃料サービス事業と米国政府の原子力事業対応専門企業。2017年8月に同社は米航空宇宙局(NASA)から有人火星ミッションに使用する熱核推進式原子炉の概念設計契約を受注したほか、今年3月に米国防総省(DOD)が軍事用の先進的な可動式超小型炉の原型炉建設と実証に向けて、同社を含む3社のチームと小型炉の設計契約を締結している。(参照資料:フラマトム社、BWXT社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、ほか)
03 Jun 2020
2865
仏国資本のEDFエナジー社は6月1日、英国サマセット州のヒンクリーポイントC(HPC)原子力発電所建設サイトで、2号機用の重さ49,000トンのコンクリート製ベース・マットが、4年以上前に設定したスケジュール通りに完成したと発表した。新型コロナウイルスによる感染の拡大という厳しい条件の下、1号機のベース・マットを昨年6月に完成させてから、一年以内に2号機で同様の作業を終えたことは、今年で2つ目の大きな目標を達成したことになると評価している。2号機用ベース・マットの完成スケジュールは、EDFエナジー社の親会社である仏電力(EDF)が2016年7月の取締役会でのHPC原子力発電所建設計画の最終投資決定(FID)より以前に設定されていた。作業チームはすでに1号機で同様の作業経験を積んでいたため、プレハブ工法の利用を拡大するなど作業ステップの生産性は大幅に拡大。鋼材の設置は1号機より45%、冷却系機器の設置は50%早く完了しており、2号機の今回の経験はサフォーク州で計画されている後続のサイズウェルC原子力発電所建設計画に生かされる。発表によると、コロナウイルス危機の中での建設作業は、作業員および周辺コミュニティの安全性を確保するため十分慎重な措置を取った上で続けられた。例としては、作業員同士のソーシャル・ディスタンスを取るために現場の人数を制限したり、最も重要なエリアの作業に集中するなど、数多くの対策を実行。ソーシャル・ディスタンスが確保できない場所では、追加の防護具を使用している。同社はまた、プロジェクト経費を使って周辺コミュニティに医療サービスを支援している点を強調した。同社はこのほか、この建設プロジェクトで目標より5年前倒しで地元の事業に15億ポンド(約2,000億円)を投じており、英国原子力産業協会(NIA)のT.グレイトレックス理事長は、このような規模の投資のお蔭で地元企業1,100社が恩恵を被り1万人規模の雇用が創出されたと指摘。「HPC発電所は、英国政府が目標に掲げた『2050年までに国内すべての温室効果ガス排出量を実質ゼロ化』を実現する大きな一歩となるだけでなく、原子力で大規模なグリーン成長の機会がもたらされることを示している」と述べた。同理事長によると、原子力はクリーンな熱電供給による脱炭素化で大きな役割を担い続けることが可能であり、英国では大型原子力発電所の建設プロジェクトとともに小型モジュール炉(SMR)や先進的原子炉技術の計画も進行中。経年化した既存の原子力発電所をリプレースする原子力プログラムは、英国政府の「CO2の実質ゼロ化」目標に年間数百億ポンドの付加価値を加えるだけでなく、数十万もの雇用を生み出す。同理事長はまた、脱炭素化で原子力が果たす重要な役割を英国政府は認識しているが、今こそ原子力への支援を明確にし、具体的に取り組むべき時だと強調。英国の新しいエネルギー政策として、支援の規模を明確にすることや、不要なコストを排除して資金提供するメカニズムを設定することが重要だと訴えている。(参照資料:EDFエナジー社、NIAの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月1日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
02 Jun 2020
2985
チェコの公共ラジオ放送「Czech Radio」の報道によると、同国のA.バビシュ首相は5月28日の記者会見で、チェコ国営電力(CEZ社)が進めているドコバニ原子力発電所Ⅱ期工事(最大120万kWのPWR×2基)の建設について、1基あたり60億ユーロ(約7,120億円)と言われている総工費の7割までを政府が低金利で融資すると発表した。政府がCEZ社と継続していた交渉の結果、おおよそで合意された事項の一つだが、これについては今後、EU機能条約(TFEU)の国家補助規則との適合性について欧州委員会(EC)から承認を得る必要がある。首相は「政府とCEZ社双方にとって非常に良い条件だ」と述べており、6月末までこの合意への調印について政府内で議論し、議会下院の政党幹部すべてに対して説明する計画。総工費の残り3割をCEZ社が負担して2029年に1基目を着工し、8年後の2037年にも同炉の運転をフルに開始するとしている。同国では投資金の回収問題により、テメリン原子力発電所の増設計画が2014年に頓挫した。ドコバニ原子力発電所の増設計画についても、チェコ政府は昨年7月、CEZ社の100%子会社を通じて建設資金を調達するという投資家モデルを承認していた。CEZ社のD.ベネシュCEOは今回、「増設計画の契約締結に向けた入札手続きについて年内に判断を下すべきだ」というこれまでの主張を繰り返しており、2022年末までに契約企業を選定する考えである。チェコ政府は、国内で十分な電力供給とエネルギー自給を保証するには新たな原子炉が必要であると考えており、2015年5月の「国家エネルギー戦略」では、現在35%の原子力発電シェアを2040年までに6割近くまで上昇させる必要があると明記。同戦略をフォローする「原子力発電に関する国家アクション計画(NAP)」では、原子力が再生可能エネルギーとともに果たす重要な役割を強調しており、国内で稼働するテメリンとドコバニ2つの既存原子力発電所で1基ずつ、可能なら2基ずつ増設する準備を始めなければならないとしていた。これを受けてCEZ社は今年3月、出力が最大120万kWのPWRを新たに2基、ドコバニ発電所で増設するための立地許可申請書を原子力安全庁に提出。この増設計画については、これまでに数社が入札に関心を示しており、それらは中国広核集団有限公司(CGN)、ロシア国営の原子力総合企業ロスアトム社、韓国水力・原子力会社(KHNP)、仏電力(EDF)、米国のウェスチングハウス社などだと伝えられている。(参照資料:Czech Radioの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの5月29日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
01 Jun 2020
3060
カナダの核燃料廃棄物管理機関(NWMO)は5月26日、使用済燃料の深地層処分場建設計画で絞り込まれた最終候補2地点のうち、オンタリオ州南部のサウスブルース地域で今年後半にも安全性の確保と環境保全のためのフィールド調査を開始すると発表した。もう一つの候補地である同州北西部のイグナス地域では、すでに昨年11月の時点で同様の調査が進行中。NWMOはこれらのうち、処分場建設サイトとして最も好ましい1地点を2023年までに確定する方針である。カナダでは使用済燃料を直接処分する国家方針として「適応性のある段階的管理」(APM: Adaptive Phased Management)が2007年に採択され、実施主体のNWMOは処分場の建設から操業まで含めた「サイト選定プロセス」を2010年に開始した。2012年9月末までに国内の22地点が施設の受け入れに関心を表明しており、NWMOはその後これらをオンタリオ州内の2地点まで絞り込んだ上で、潜在的適合性の予備的評価を行っている。NWMOは今回、サウスブルース地域の議会に「サイト選定プロセス」の次の段階について最新情報を伝えたもの。フィールド調査には試掘孔の掘削に加えて、地球物理学的調査や環境モニタリング、およびその他の調査作業が含まれる。これらの作業は、NWMOの計画についてビジョンを共有するための協議と同様に重要であり、NWMOはこの調査で同地域が建設プロジェクトの厳しい安全要件を満たしているか見極める方針。このため、NWMOは今後数か月の間に地元コミュニティと同調査の活動内容について情報共有を行うが、これらの活動すべてが新型コロナウイルスによる感染など、住民の健康に配慮した方法で行われるとしている。この建設プロジェクトではまた、環境への影響評価や許認可手続きなど、周辺住民の健康と環境の防護を目的とした厳しい規制審査プロセスを経ることになっており、NWMOとしては地元コミュニティも交えた形で基本の環境モニタリング・プログラムを設計する。環境と水の保全が地元住民にとって最優先事項であることを念頭に、共有できるプログラムを共同策定する考えである。NWMOによると、フィールド調査で得られる地質や環境のデータは工学的設計調査や安全評価分析等の結果とともに、安全性に確固たる自信を持って深地層処分場を建設することにつながる。さらに、地元コミュニティ住民の懸念や願望、目的に応じた形でプロジェクトを進められるよう、技術調査と並行して住民の福利関係調査もコミュニティと協力して実施するとしている。(参照資料:NWMOの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの5月28日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
29 May 2020
2309
仏国資本のEDFエナジー社は5月27日、英国南東部のサフォーク州でフラマトム社製・欧州加圧水型炉(163万kWのPWR)2基から成るサイズウェルC原子力発電所(SZC)を建設するため、「開発合意書(DCO)」の申請書を計画審査庁(PI)に提出したと発表した。完成すれば、SZC発電所は600万戸の世帯に低炭素で常時利用可能な電力を供給、再生可能エネルギー源との連携によりその利用を一層効果的に拡大するとともに、エネルギー輸入量を削減して英国の国家としての復活力を強化するとしている。DCOは「国家的に重要なインフラプロジェクト(NSIP)」に対し取得が義務付けられているもので、コミュニティ・地方自治省の政策執行機関であるPIが審査を担当。審査の完了後は、PIの勧告を受けてビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)がDCOの発給について最終判断を下すことになる。EDFエナジー社は同プロジェクトを政府に提案するにあたり、2012年以降すでに4回、公開協議を実施した。それらを踏まえたDCO申請書の提出は当初、今年3月に予定していたが、新型コロナウイルスによる感染の世界的拡大(パンデミック)という異常事態を受け、約2か月間提出を見合わせていた。PIは今後、最大28日間にわたり申請書が完全なものであるか点検を行う。受理した後はこれを公開、地元の自治体など同計画に関心を持つ英国民が自らを利害関係者としてPIに登録し、申請書に対する意見書を提出できるよう審査前の予備期間を延長する見通し。EDFエナジー社は、全面的な審査は今年の秋以降になると予想している。この建設プロジェクトについて同社は、パンデミック後の英国経済を大規模に活性化し、発電所の建設期間中に約2万5千名分の雇用機会と1千名分の企業実習機会をもたらすと説明。イングランド地方東部の若者が雇用のための訓練を受けて高賃金の仕事を長期的に確保できるほか、発電所の運転開始後もサフォーク州で900名の人々が高度な技術を必要とする業務で雇用されるとしている。同社はさらに、同プロジェクトでは総工費の最大70%までが英国企業に支払われると表明。サマセット州で建設中のヒンクリーポイントC発電所(HPC)とほぼ同型設計を採用予定であるため、建設コストの大幅な削減やリスクの軽減といった利点が期待できるとした。また、この関連で英国政府は昨年7月、新規原子力発電所建設プロジェクトの資金調達モデルとして検討している「規制資産ベース(RAB)モデル」について、実行可能性評価の結果を公表した。現在、これについて一般から募集したコメントを分析中であるが、同モデルでは発電所の建設段階から出資者が一定のリターンを受け取れるため、民間から資金調達する際の発生コストを抑えられる可能性がある。これにより電気料金も削減され、消費者や納税者は支払う金額に見合った価値を最大限に拡大できると結論づけている。EDFエナジー社が英国で建設中のHPC発電所、およびこれから建設するSZC発電所とエセックス州のブラッドウェルB原子力発電所(BRB)に関しては、2015年10月に同社と中国広核集団有限公司(CGN)が交わした覚書に基づき、CGNはHPC発電所総工費の33.5%を投資すると約束。CGNはSZC発電所については20%出資するほか、BRB発電所では中国が輸出用の第3世代設計と位置付ける100万kW級のPWR「華龍一号」を採用することになっている。(参照資料:EDFエナジー社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの5月27日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
28 May 2020
2943
国内唯一のクルスコ原子力発電所(72.7万kWのPWR)で総発電量の三分の一以上を賄うスロベニアで政府はこのほど、遅くとも2027年までに同発電所で2基目の原子炉を建設するかについて最終的な判断を下すと表明した。同国政府が100%保有する有限責任企業のSTA通信社が、インフラ省J. ヴルトヴェツ大臣の発言として5月22日付けで明らかにしたもので、決定に際しては専門家による経済性等の分析の実施が不可欠だと伝えている。隣国クロアチアとともにクルスコ発電所を共同所有する国営スロベニア電力(GEN Energiya)によると、ヴルトヴェツ大臣の一行はこの日に同電力の本社とクルスコ発電所を視察しており、クルスコ発電所が供給する信頼性の高い電力の重要性に言及。大臣は「スロベニアは現在だけでなく将来も原子力オプションを堅持する」と明言しており、同発電所が安全で環境への影響も少ないエネルギーを供給している事実を強調した。同大臣の認識では、原子力オプションの堅持というインフラ省の基本指針は、国内のすべての原子力関係施設における安全かつ優秀な運転実績に基づくもの。クルスコ発電所近郊のヴルビナでは、低中レベル放射性廃棄物貯蔵施設の建設を出来る限り早急に始める必要があるが、環境上の合意取得や国境近辺の環境影響声明書手続きなどで着工は遅れている。政府は関係するすべてのインフラ・プロジェクトについて、これ以上無意味に作業を遅らせることはできず、そのための法改正手続きも進めていることを明らかにしている。今回訪問を受けたスロベニア電力は、原子力産業について「実証済みの高い付加価値がついた先進産業であり国家経済に対するマクロ経済的効果は甚大だ」とコメント。発展の推進力とも言えることから、関係するエネルギー・プロジェクトの成功に向けて一層調和の取れた重要な対策を講じていくとした。クルスコ発電所の幹部は、低中レベル廃棄物の永久貯蔵施設建設を最優先事項の一つに掲げ、「この発電所を長期的に運転できるか否かはこのプロジェクトにかかっている」と説明。計画に沿って発電所の安全性改善作業を効率的に進める上で、個別省庁の取組みだけではなくスロベニア政府としての支援が必要になると訴えている。(参照資料:STA通信社(英語)、スロベニア電力(スロベニア語)、クルスコ原子力発電所(スロベニア語)の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの5月26日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
27 May 2020
2933
米国議会上院の環境・公共事業委員会(EPW)は5月21日、上院歳出委員会・エネルギー・水資源歳出小委員会でエネルギー政策の専門家スタッフを務めるC.T.ハンソン氏(=右写真)を上院が原子力規制委員会(NRC)の5人目の委員として承認したと発表した。同氏はエネルギー省(DOE)原子力局で上級アドバイザーを務めた経歴があり、今年2月にD.トランプ大統領が指名していたもの。これによりS.バーンズ委員が昨年4月末に辞任して以降、約1年ぶりにNRCにおける5名の委員ポストすべてが埋まることになる。ライト委員 ©NRC上院はまた、NRC委員としての初回任期が6月末に満了するD.A.ライト氏(=左写真)の再指名(新たに5年の任期)も承認。EPWのJ.バラッソ委員長は「約1年ぶりにようやくNRCの委員ポストが全部埋まった。原子力は米国のエネルギー供給保証と国家安全保障を担う重要かつ持続可能でクリーンなエネルギー源であり、全員体制となったNRCは米国の原子力産業界にとって極めて重大なこの時期に、その使命を確実に果たすことが期待される」と強調した。米原子力エネルギー協会(NEI)は同日に声明文を発表しており、M.コースニック理事長は「5名の委員全員が揃ったことを産業界として歓迎する」とコメント。ハンソン新委員については、「DOEや議会で培った豊富な経験をNRC委員としての新たな役割に生かしてくれることと思う」と述べた。現在のNRCは、K.スビニッキ委員長とA.カプト委員、およびD.ライト委員が共和党支持派である一方、J.バラン委員が民主党支持派。新委員のハンソン氏は、同じ政党の支持派を3名までと定めた原子力法の規定により、民主党支持派の中から指名された。ハンソン氏はNRCの規則に則り、2024年6月末までの任期を務めることになっている。(参照資料:EPWとNEIの発表資料、原産新聞・海外ニュース、ほか)
26 May 2020
2197
ロシア国営民生用原子力発電公社のロスエネルゴアトム社は5月22日、世界で唯一の海上浮揚式原子力発電所(FNPP)として、ロシア極東地域チュクチ自治管区内のペベクで試運転中の「アカデミック・ロモノソフ号」が営業運転を開始したと発表した。同社のA.ペトロフ担当理事が、FNPP建設プロジェクトは無事に完了したとして関係する法令に署名、同FNPPは同日付で世界最北端に位置する同国原子力発電所の一つに正式承認された。アカデミック・ロモノソフ号は、電気出力3.5万kWの軽水炉式小型炉「KLT-40S」を2基搭載するバージ型原子力発電所(タグボートで曳航・係留)で、合計出力は7万kWである。全長140m、幅30m、総重量2万1,500トンで耐用年数は40年間。燃料資源が乏しくその輸送も難しい場所での利用に適しているほか、大型河川の川床にも係留可能なため、ロシア極東地域のみならずアジア太平洋地域の島嶼部などで利用することができる。同FNPPの建造は2007年4月にモスクワ北部のセベロドビンスクにあるセブマッシュ・プリドプリヤチェ造船所で始まったものの、2008年からはサンクトペテルブルクのバルチック造船所(BZ)に移管された。当初はカムチャツカ半島のビルチンスクで送電インフラに接続される予定だったが、ロスエネルゴアトム社の親会社であるロスアトム社は2015年にチュクチ自治管区政府と協定を結び、最初のFNPPであるアカデミック・ロモノソフ号は同地区のペベクに係留されることになった。アカデミック・ロモノソフ号は2018年4月、燃料を装荷しない状態でサンクトペテルブルクを出港し、同年10月に経由地である北極圏のムルマンスクで燃料を装荷。2019年8月には曳船に伴われてペベクに向けて出航し、9月に同地へ到着。その後12月より、ロシア本土の送電網から隔絶されたチャウン・ビリビノ系統に送電を開始していた。今回の全面的商業利用の開始に先立ち、規制当局はアカデミック・ロモノソフ号で点検を実施した。その結果に基づき、連邦・環境・技術・原子力監督庁(ROSTECHNADZOR)は「プロジェクトのあらゆる要件を順守した上でFNPPが建造された」として基準適合証を発行。これに加えて、環境管理分野の活動を監督・管理する連邦・天然資源監督庁(ROSPRIRODNADZOR)も同プロジェクトを承認。これらの承認により同FNPPは、衛生面や環境面、疫学面、防火安全面等について、すべての要件と連邦基準を満たしていることが保証された。アカデミック・ロモノソフ号は送電開始以降、すでに4,730万kWhを発電してチャウン・ビリビノ系統における電力需要の20%をカバー。同系統にこれまで電力供給してきたビリビノ原子力発電所(出力1.2万kWのEGP-6×3基)が順次閉鎖されていくのにともない、同FNPPがチュクチ自治管区の主力エネルギー源になるとしている。(参照資料:ロスエネルゴアトム社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの5月22日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
25 May 2020
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ウクライナの民生用原子力発電公社であるエネルゴアトム社は5月18日、国内で稼働する3つの原子力発電所の使用済燃料を集中的に中間貯蔵する施設(CSFSF)について、すべての建設工事と機器の設置作業を9月末までに完了すると発表した。当初計画より約半年遅れと見られているが、同社はこれにより、年内にもCSFSFで最初の使用済燃料の受入れを目指す方針である。同国では、閉鎖済みのチェルノブイリ原子力発電所と稼働中のザポロジエ原子力発電所でそれぞれ、専用の使用済燃料中間貯蔵施設を建設中あるいは使用中。残りのロブノ、南ウクライナ、フメルニツキの3原子力発電所については、チェルノブイリ発電所の南東に位置する「立ち入り禁止区域」内で使用済燃料を乾式貯蔵することになっている。エネルゴアトム社は2005年に米国のホルテック・インターナショナル社とCSFSFの建設契約を交わしたが、 政治情勢の変化などを含むいくつか理由により、作業は長期にわたって凍結された。両社は2014年6月に改めて修正契約に調印しており、現地で実際の建設工事が始まったのは2017年11月のことである。CSFSFではホルテック社製のHI-STORMキャニスター458台に使用済核燃料集合体を16,529体貯蔵することが可能であり、2重のバリア・システムによってこれを100年間、周辺環境から安全に隔離。3つの原子力発電所の使用済燃料はこれまで、年間最大2億ドルを支払ってロシアに移送・再処理していたが、CSFSFが操業開始することでエネルゴアトム社はその年に最大1億ドル、その後は年間で最大1億4,000万ドルを節約できるとしている。同社の今回の方針は、今月15日に「立ち入り禁止区域」で現場会合を開催した後、P.コティン総裁代理が同社の関係部門や契約企業に対して表明したもの。作業ペースを上げるため、同総裁代理は機器や重要システムの設置作業を引き続き監督するシステムの導入を決めた。また、現場会合では使用済燃料の輸送に使う現地の廃線鉄道区間の早急な復旧を求める意見が出されたが、政府のロードマップどおりに復旧を進めるには樹木の伐採経費等を調達する必要があり、使用済燃料がCSFSFに到達するまでの輸送関係経費をウクライナの契約企業の一つがすべて負担することになった。さらに現地では、4月に発生した火災や3月に新型コロナウイルス対策で都市封鎖が行われたことにより作業ペースが鈍化。エネルゴアトム社が建設工事の完了とCSFSFの操業開始を目指して作業員の数を徐々に増強する一方、3つの原子力発電所ではすでに、使用済燃料をCSFSFに移送する準備を開始している。(参照資料:エネルゴアトム社の発表資料(ロシア語)、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの5月21日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
22 May 2020
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国際原子力機関(IAEA)のR.グロッシー事務局長は5月11日、加盟国から予算枠外で強力な資金提供を受けて、世界約120か国における新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の封じ込めで支援イニシアチブを実施すると発表した。この資金はこれまでに合計約2,200万ユーロ(約25億9,640万円)に達しており、IAEAは原子力から派生した検査技術「リアルタイム逆転写PCR(RT-PCR)」を世界中の数百もの研究所で使用可能になるよう支援。この手法は現在のところ、COVID-19を引き起こすウイルスの検出で最も正確かつ迅速だと言われている。COVID-19に対するIAEAのこのような取り組みは、人や動物の健康など原子力技術の平和利用促進に向けた技術協力プログラムに基づいて行われている。例えば食糧農業機関(FAO)との連携協力では、IAEAは過去10年間にエボラ出血熱やジカ熱のように動物から人へ感染、あるいは人畜共通の伝染病と闘う国々に対し、簡易検査方法などの支援を行っている。今回の提供資金は、まず米国から1,100万ドル(約11億8,600万円)、日本が約4億7,200万円、カナダが500万カナダドル(約3億8,600万円)、ノルウェーが200万ユーロ(約2億3,600万円)、ドイツとオランダ、およびロシアが各50万ユーロ(約5,900万円)、フィンランドが20万ユーロ(約2,360万円)などを約束。このほか、中国は200万ドル(約2億1,600万円)相当の現物支給支援を行うと表明している。グロッシー事務局長は、「加盟各国の迅速で惜しみない資金提供と、世界中で緊急時支援を行うIAEAへの信頼には心から感謝する」とコメント。IAEAはCOVID-19と闘う国々の重要なパートナーであると強調している。IAEAが対象国に提供するのは主に、リアルタイムRT-PCR検査を直ちに行うのに必要な検査パッケージで、RT-PCR装置や個人用防護具、試薬、実験用消耗品、診断キットなどが含まれる。また、技術的な知見やガイダンスを提供するとともに、ヘルスケアの専門家を世界中で育成するためにオンライン・セミナーも開催。IAEAに支援要請する国の数は2か月前の10か国から119か国に増加しており、グロッシー事務局長は「危機に瀕し助けを求める人々をIAEAは見捨ててこなかったし、これからも見捨てることはない」と断言した。IAEAはこれまでに、約20台のRT-PCR装置を各国の医療現場に供給。ボスニア・ヘルツェゴビナやブルキナファソ、イラン、ラトビア、レバノン、マレーシア、ペルー、セネガル、タイ、トーゴはこのような装置を受け取る最初の国になる。これ以外の数多くの国々でも、数日後から数週間以内に同様のパッケージが到着する予定だとしている。(参照資料:IAEAの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの5月12日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
21 May 2020
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アラブ首長国連邦(UAE)で原子力発電の導入を担当する首長国原子力会社(ENEC)は5月19日、アラブ諸国やUAE初の原子力発電プラントとして建設中のバラカ発電所(PWR×4基)で、最終ユニットとなる4号機の冷態機能試験が無事に完了したと発表した。2012年7月に1号機が本格着工した同発電所では、その後約1年ごとに後続ユニットの建設工事を開始。現在、4基の韓国製140万kW級PWR「APR1400」の作業が同時並行的に進められており、連邦原子力規制庁(FANR)は今年2月、1号機に対して60年間有効な運転許可を発給した。同炉ではその後、3月に燃料の初装荷が完了、今後数か月以内の起動に向けて準備作業は最終段階を迎えている。2~4号機の建設進捗率もそれぞれ95%、92%および84%以上に達するなど、発電所全体では94%以上完成したことになる。ENECによれば、4基すべてが完成した場合、同発電所は合計560万kWのクリーンなベースロード電源としてUAEにおける総電力需要の最大約25%を賄いつつ、年間2,100万トンのCO2排出を抑制。これは年間320万台の車両が排出するCO2と同等であると強調した。4号機に関してENECは、同プロジェクトの主契約者である韓国電力公社(KEPCO)とともにタービン発電機や炉内構造物の設置といった主要な作業を2019年末までにすべて完了した。冷態機能試験ではシステム内の圧力を通常運転時より25%上昇させ、同炉の品質の高さと耐久性を実証している。また、冷態機能試験の実施に先立ち、ENECは同炉の原子力蒸気供給系に純水を流入したほか、圧力容器上蓋や冷却材ポンプ軸シールを設置。同試験の開始後は、原子炉冷却系の溶接部や連結部、配管・機器、関係する高圧システムについても確認を行った。ENECのM.A.ハマディCEOはこのような作業の進展について、「新型コロナウイルス感染拡大に直面する中、バラカの作業が継続的に進められたことを誇りに思う」とコメント。パンデミックに対してUAEは確かな事前対策を講じており、それが発電所作業員の健康と安全の確保に向けて、タイムリーかつ安全最優先のアクションを取ることにつながったと述べた。また、そうしたアクションに優秀な作業員の努力が加わり、4号機の冷態機能試験は成功裏に完了。安全面や品質面、セキュリティ面においても、最も厳しい基準を満たしたと評価している。(参照資料:ENECの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの5月19日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
20 May 2020
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米国のX-エナジー社は5月14日、商業規模の3重被覆・粒子燃料(TRISO)製造加工工場「TRISO-X」の建設に向けてTRISO-X燃料の性能と品質を確認するため、マサチューセッツ工科大学(MIT)の原子炉研究所と協力すると発表した。MIT研究所の多目的研究炉(MITR-II)を使って、今年後半にもTRISO-X燃料の照射試験を実施するというもの。この試験で得られるデータは、TRISO燃料を使用するX-エナジー社製の小型ペブルベッド高温ガス炉「Xe-100」(熱出力20万kW、電気出力7.5万kW)、およびその他の原子炉で許認可手続きを行う際、一助になる。TRISO燃料はウラン酸化物を黒鉛やセラミックスで被覆した粒子型の燃料で、1960年代に米国と英国で開発された。X-エナジー社は、米エネルギー省(DOE)傘下のオークリッジ国立研究所内にTRISO燃料のパイロット製造ラインを保有するが、2025年までに「TRISO-X」の操業開始を目指していることから、ウラン濃縮企業のセントラス・エナジー社や日本の原子燃料工業と協力する契約や覚書を締結している。また、「Xe-100」については、ヨルダンが2030年までに国内で4基建設することを希望、2019年11月にX-エナジー社とヨルダン原子力委員会が基本合意書を交わした。今回の発表によると、X-エナジー社は3年以上前から、独占所有権を保有するバージョンのTRISO-X燃料を製造しており、そのサンプルをMITでの照射試験に使用する。同燃料は複数の防護被膜で密封されているため、同社はこれらTRISO型の燃料では従来型の原子力発電所で発生するメルトダウンのリスクを排除することができると説明。P.パッパノ副社長は「当社チームとして初めて、照射試験後の燃料が得られる素晴らしい機会だ」と述べており、試験データによって同社製「Xe-100」は最も安全で経済的、かつ先進的なSMR設計になると強調している。(参照資料:X-エナジー社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの5月15日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
19 May 2020
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米原子力規制委員会(NRC)は5月12日、小型モジュール炉(SMR)や非軽水炉型の新しい原子炉技術について、リスク情報やパフォーマンスに基づいた緊急時対応要件を策定するため、スタッフが提案中の規則(rule)と要件を実行する際のガイダンス案に対して一般からのコメントを7月27日までの期間に募集すると発表した。NRCはすでに数年前、SMRその他の新しい原子炉技術に関して将来実施することになる許認可手続きの検討を始めており、その際初めて、パフォーマンスに基づく緊急時対応策の可能性について検討を開始した。今回NRCスタッフが提案している規則に対しては、2016年6月にNRC委員がその制定計画を承認している。また2017年4月には、新たな規制要件を策定することになった規制上の論理的根拠を示した文書(規制根拠)について、NRCスタッフが案文をパブリック・コメントに付しており、同年11月に最終版を発行していた。今回の措置はこれらに続くもので、NRCは既存の緊急時対応プログラムが主に大型で軽水冷却型の原子炉を対象とする一方、提案中の規則と規制ガイダンス案は原子力施設の設計や安全研究の進展に対応し、SMRその他の最新原子炉技術の将来的な操業に向けた申請に取り組むものだと紹介。現行規制を修正してSMR等に対する緊急時対応の枠組みを代替選択肢として創出することを提案しているが、この新しい枠組みではリスク情報を活用するとともにパフォーマンスに基づいた技術包括的なアプローチを取る。一例として、放射性雲(プルーム)による外部被ばくの経路に関して緊急時計画区域(EPZ)の大きさを決定する際、拡大・縮小可能な柔軟性の高いアプローチを採用する方針だとした。NRCはまた、このような提案規則と規制ガイダンス案が最終的に有効になった場合、SMRや非軽水炉型原子炉の既存の事業者にも影響が及ぶと説明。合衆国連邦規制基準第10部50項(10CFR Part 50)に基づく既存の要件の代替要件として、事業者や申請者はパフォーマンスに基づいた緊急時対応プログラムの策定が選択肢の一つとして可能になる一方、これらの規則は大型の軽水炉や原子燃料サイクル施設、あるいは現在稼働中の(非発電型の)試験・研究炉には適用されないとしている。(参照資料:NRCの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
18 May 2020
2432
米エネルギー省(DOE)は5月14日、国内原子力産業界による先進的原子炉設計の実証を支援するため、原子力局(NE)が担当する新しい「先進的原子炉設計の実証プログラム(ARDP)」を開始すると発表した。このプログラムのために2020会計年度予算の中から2億3,000万ドルを拠出する計画だが、コスト分担方式のこの官民連携を通じて、DOEは今後5~7年以内に2つの先進的原子炉設計が実現するよう、初期建設予算として1億6,000万ドルを充当する方針である。今回のプログラムでDOEは、2つの設計の実証炉を実際に建設するほか、先進的原子炉技術の効率的な試験・分析でアイダホ国立研究所内にある国立原子炉技術革新センター(NRIC)を活用。世界的に評価の高い国立研究所の能力を使って、これらの原子炉技術を現実化するとしている。また、ARDPを実行に移す主要ツールとしてDOEは同日、「資金提供機会の告示(FOA)」を発出。申請者が原子炉技術の実証で支援を受けるための3つの選択肢を提示した。①は「先進的原子炉の実証」ルートで、5~7年のうちに2つの先進的原子炉が完璧に始動するよう支援。②「将来的な実証に向けたリスク削減」ルートでは対象設計を2~5件追加し、商業化を目指す期間も①より約5年延長。対象技術の実証に向けて技術面や運転面、規制面の課題を解決する。③「先進的原子炉概念2020(ARC 20)」ルートで、2030年代半ばの商業化を目指して様々な革新的設計を支援する。DOEのD.ブルイエット長官は、「米国がエネルギー供給保障と環境の保全責務を果たす上で、次世代の原子力技術は重要なものである」と指摘。DOEの原子燃料作業部会が先月、「米国が原子力で競走上の優位性を取り戻すための戦略」で示したように、米国は次世代の原子力技術開発におけるリーダーシップを強化し、国内原子力部門の健全な成長を確保するため、技術革新と先進的原子炉技術の研究開発・実証に対する投資を推し進めねばならないと述べた。DOEのR.バランワル原子力次官補も「先進的な原子炉技術はCO2排出量の削減で計り知れない潜在能力を発揮するだけでなく、新たな雇用を創出し強靭な経済を構築する」と説明。今回の新しいプログラムで、米国にはクリーン・エネルギーの供給と原子炉市場における機会の拡大でとてつもなく大きなチャンスが生み出されるとしている。なお、DOEはこの前日、エネルギー高等研究計画局(ARPA-E)が実施する「知的原子力資産による発電管理(GEMINA)プログラム」の一環として、フラマトム社やGE社、モルテックス・エナジー社などが実施している先進的原子炉用のデジタル技術開発プロジェクト9件に対し、合計2,700万ドルを提供すると発表した。同プログラムでは、次世代原子炉における運転管理・保守点検(O&M)コストを10分の1まで削減するため、デジタルツイン技術(※物理世界の出来事をデジタル上に再現する技術)を開発する計画である。(参照資料:DOEの発表資料①、②、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの5月14日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
15 May 2020
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米ジョージア州でA.W.ボーグル原子力発電所3、4号機(各110万kWのPWR)を増設中のジョージア・パワー社は5月12日、3号機の原子炉容器上部に「一体化上部カバー(IHP)」を据え付けたと発表した(=写真)。同プロジェクトは米国で約30年ぶりの新設計画であり、3号機の燃料初装荷および両炉それぞれの2021年11月と2022年11月の完成に向け、建設工事はまた一歩前進したと強調している。米国で初めて、ウェスチングハウス社の「AP1000」設計を採用した両炉のIHPは、高さ約15 m、重さ約216トンの一体型機器で、長さ5 km以上の電気ケーブルなどが納められている。高度な訓練を受けた運転員が原子炉容器内の核反応を監視・制御する際に使用する。IHPの据え付けは、原子炉容器を開放した状態で実施する試験に続いて行われたが、同社によればこの試験で、3号機の主要安全システムから原子炉容器まで水流が滞りなく通じることが実証された。また、同炉で燃料を装荷する前の重要試験となる耐圧漏洩試験と温態機能試験の実施準備が整ったとしている。このほか同社は、4号機でも格納容器を取り囲む遮へい建屋のパネル16段のうち12段まで設置したと説明。遮へい建屋は「AP1000」設計に特有の構造で、格納容器の外側に壁をさらに一層追加することで、原子炉構造物を外部からの衝撃から防護することになる。ジョージ―ア・パワー社は3、4号機建設工事の進展では、それぞれ157体の燃料集合体を初装荷燃料として発注し、格納容器に上部ヘッドの設置が完了している。また、緊急時対応で初めての演習を実施し、緊急時に周辺住民を確実に防護するためのプランについて包括的なレビューを行った。さらに両炉の運転で必要な複数年の運転員訓練を、原子力規制委員会(NRC)の検定試験をもって完了した。これらのほかに、過去数か月間には3号機の運転員が機器・システムの試験や安全な起動で重要となる機器をモニター・制御するため、中央制御室の運用を開始。同炉の遮へい建屋には、重さ約910トンの円錐形の屋根を設置している。(参照資料:ジョージア・パワー社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、ほか)
14 May 2020
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英国のビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)は5月7日、四半期ごとに約4,000人の英国民を対象に実施しているエネルギーや地球温暖化に関する最新の世論調査で、CO2排出量「実質ゼロ(net zero)」の概念をある程度理解している層は35%と発表した。英国では昨年6月、国内すべてのCO2排出量を2050年までに実質ゼロ目標とする法的拘束力のある法案が可決・成立しており、今年3月に実施した今回(33回目)の調査ではその認知度に関する質問項目が新たに加えられた。その結果、インタビュー形式の質問を受けた大半(64%)の英国民がこの概念について「全く聞いたことがない」と回答。一方、認識があるとした35%のうち、3%が「非常によく知っている」、9%が「ある程度知っている」、13%が「少し知っている」、10%は「聞いたことならある」に分類されている。各種のエネルギー源のなかで原子力を支持する人の割合は、42%だった2014年9月の調査以降、継続して減少傾向を示しており、今回は最も低いレベルの32%だった。「原子力を支持しない」人の割合が23%と安定しているのに対し、「原子力には反対も支持もしない」人の割合が2012年9月の調査(34%)以降、徐々に上昇。昨年3月に38%だった数値は今回、回答者の中で最も割合の大きい41%に増加していた。地球温暖化に関する設問では、回答者の76%が懸念を表明したものの、昨年3月にピークだった80%からは若干減少。76%のうち「非常に心配」と答えた人は35%で、「ある程度心配」とした人の割合は41%だった。また、回答者全体の約半数(47%)が「地球温暖化は人的活動に起因する」と回答。そのうち17%が「全面的に人的活動に起因する」としたのに対し、30%は「主に人的活動による」と答えており、最初にこの設問を加えて以降、最も高いレベルで推移中だとしている。(参照資料:BEISの発表資料①、②、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
14 May 2020
2016
欧州連合(EU)司法裁判所のG.ホーガン法務官(=写真)は5月7日、英国ヒンクリーポイントC原子力発電所(HPC)に対する英国政府の国家補助を欧州委員会(EC)が承認したことについて、オーストリアが行った異議申し立てを司法裁は却下すべきであるとの見解を表明した。EU司法裁判所の複数の法務官は、公平かつ独立の立場から意見を述べ、同裁判所を補佐する役割を担っている。その見解は法的拘束力を持つものではないが、判事らはすでにこの件に関する審議を開始しており、司法裁が後日判決を下す際、参考にされると見られている。同発電所は現在、2025年末の初号機完成を目指して建設中であるが、着工前の2014年10月にECは、英国政府が同建設計画の投資契約に関して事業者の仏電力(EDF)グループと合意した財政支援策――完成した発電所の発電電力の固定(行使)価格による買い取り制度など――はEU競争法の国家補助規則に適合していると判断し、これを承認した。オーストリアはこの承認を不服とし、取り消しを求める手続きを2015年に開始したが、EU司法裁判所の第一審裁判所は2018年7月、EC承認を改めて確認する判断を下しオーストリアの求めを却下。その際、HPC発電所事業者に対する英国政府の支援策について、①発電電力の買い取り制度は販売価格の安定を保証するものであり、②同発電所が政治的理由で早期閉鎖された場合の補償を確保するため――などと説明していた。その後オーストリアは、第一審裁判所によるこの判断の破棄をEU司法裁判所に申し立てたもので、この点についてホーガン法務官はまず、「第一審裁判所にはEC承認に対するこのような異議を却下する全面的権限がある」と指摘。このことから、司法裁がオーストリアの異議申し立てを却下するよう提案するとした。同法務官はまた、欧州原子力共同体(ユーラトム)条約は欧州連合条約(TEU)やEU競争法(TFEU)と同等の位置づけにあり、ユーラトム条約が扱わないEU法の全分野についてはTEUとTFEUが適用されると説明。ユーラトム条約には国家補助問題を取り扱う個別の項目が含まれないため、国家補助や競争原理に関するTFEU規則を原子力部門に適用するのが適切だと述べた。また、ユーラトム条約の条項は原子力発電所の建設を必然的に想定しているため、この条約が原子力発電所の新規建設や経年化した発電所の取り換え・改修のいずれもカバーしていないとするオーストリアの主張は受け入れられないと同法務官は明言。さらに、原子力発電所の建設はEU法の中で明確に定義されている目標でもあり、環境保全のような他の目標を優先させることはできない。いずれにしてもユーラトム条約の目標を受け入れた場合、EUのすべての加盟国は他の加盟国が自らの領土内で原子力発電所を建設する権利を原則として無条件で受け入れたことになるとしている。(参照資料:EU司法裁判所の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの5月7日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
12 May 2020
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