米国のX-エナジー社は8月11日、同社が開発している小型のペブルベッド式高温ガス炉「Xe-100」について、カナダ原子力安全委員会(CNSC)が提供する予備的設計評価(ベンダー設計審査)を開始したと発表した。このベンダー設計審査では建設・運転許可の取得に向けた正式な申請手続に先立ち、当該設計がカナダの規制要件を満たしているかCNSCがメーカー側の要請に基づいて評価する。法的に有効な設計認証や関係認可が得られるわけではないが、X-エナジー社は今回、カナダのパートナー企業やサプライチェーンとの協力により、同国でXe-100の建設準備を進めるには効率的と判断したもの。同設計の完成度の高さから、3段階で構成される同審査のフェーズ1と2が一まとめに実施される予定だが、審査に際してはカナダ国籍のKinectrics社がX-エナジー社を支援する。Kinectrics社は、カナダ電力部門の専門的知見やエンジニアリング・コンサルティングで100年以上の卓越した実績を誇っている。X-エナジー社はCNSCの先進的な審査を通じて、Xe-100設計がカナダの規制要件に適合していることを実証し、カナダでXe-100の許認可手続きを進める際に根本的な障害が全くないことを確認する方針。また、Xe-100設計のさらなる改善に向けて、貴重な初期フィードバックを得る考えである。同社によれば、リスク情報を活用したカナダの進歩的な規制枠組みと定評のあるサプライチェーンを組み合わせれば、カナダはXe-100初号機を建設する理想的な場所となり、その将来的な輸出に向けた連携関係も構築される。さらに、ベースロード運転や負荷追従運転が可能な同設計を使って、カナダはクリーン・エネルギーの比率を高めるという目標を達成しつつ、遠隔地域のコミュニティに十分な電力と高温の蒸気を提供、海水の脱塩や水素生産などにも活用できるとしている。 Xe-100は電気出力7.5万kWのSMRだが、これを4基連結することで出力は30万kWまで拡大が可能。X-エナジー社は同設計により、世界中で高まっているクリーン・エネルギーの需要に応えられると考えている。同設計はまた、燃料として3重被覆・粒子(TRISO)燃料を用いるため、同社は2025年までに商業規模のTRISO燃料製造加工工場「TRISO-X」を米国内で完成させる方針。この目標の達成に向けて、同社は米国のウラン濃縮企業セントラス・エナジー社や日本の原子燃料工業と協力する契約や覚書を締結している。また、ヨルダンがXe-100を2030年までに国内で4基建設することを希望しているため、同社は2019年11月にヨルダン原子力委員会と基本合意書を交わしている。(参照資料:X-エナジー社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの8月11日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
18 Aug 2020
6533
フィンランドのフォータム社は8月13日、保有するロビーサ原子力発電所で2回目の運転期間延長を行い2050年頃まで営業運転を継続するか、あるいは現行認可の満了とともに廃止措置を取るかの両方について、周辺環境や住民の健康と安全、および近隣コミュニティの経済に及ぼす影響等の評価(EIA)手続を開始したと発表した。フィンランドは西側諸国の一員である一方、国境を接するロシアとの関係も深く、ロビーサ発電所の2基はそれぞれ出力約53万kWのロシア型PWR(VVER)である。第3世代+(プラス)より前の世代のVVERは公式運転期間が最大30年であるため、1977年2月と1980年11月に運転を開始した1号機(LO1)と2号機(LO2)は、LO1の運転開始後30年目にあたる2007年に国家評議会から20年間の運転期間延長を認められた。両機で現在認可されている運転期間は、それぞれ2027年と2030年の末までとなっている。フォータム社によると、ロビーサ発電所は2019年に設備利用率92.4%をマーク。総発電量もフィンランド全体の10%以上に相当する82億kWhになるなど技術的なトラブルは無く、安全要件も満たしている。同社は過去5年間に合計約4億5,000万ユーロ(約568億円)を同発電所に投資しており、設備の近代化を継続的に行う事により世界でも最高レベルの設備利用率が達成されたと述べた。同社はまた、CO2を排出せず天候にも左右されずに信頼性の高いエネルギーを生み出す原子力は将来的にも必要であると認識。再生可能エネルギーとともに、フィンランドのエネルギー需要を支えつつ地球温暖化の影響緩和に寄与するエネルギー源だと強調している。同発電所の2基は世界で初めて、西側諸国と東側諸国双方の原子力技術を統合して建設されたもので、原子炉やタービン発電機、その他の主要機器など設備の約50%が旧ソ連製。一方、安全系や制御系、自動化システムなどは、西側諸国の安全基準を満たせるよう西側の技術に基づいており、鋼鉄製の格納容器と関連のアイスコンデンサについては、ウェスチングハウス社のライセンスを使って製造されている。フォータム社は今回、同発電所で環境影響評価(EIA)プログラムを実施するための申請書を経済雇用省に提出。2段階構成の同プログラムは完了までに18か月を要する見通しで、調整役を担う経済雇用省は「越境環境影響評価条約(エスポー条約)」に従い同プログラムに関する公開協議を実施する。今月27日から10月26日までの期間、様々な関係当局や企業からオンラインで意見募集するとともに、一般市民やコミュニティのために公聴会を開催。聴取した意見や声明書すべてを取りまとめた上で、経済雇用省としての見解を報告書に明示することになる。(参照資料:フォータム社、経済雇用省の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの8月13日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
17 Aug 2020
2717
ベラルーシ初の原子力発電設備となるベラルシアン発電所(VVER-1200、出力120万kWのロシア型PWR×2基)を建設中のロシア国営原子力総合企業ロスアトム社は8月7日、燃料の初装荷作業を1号機で開始したと発表した。前日の6日に連邦環境・技術・原子力監督庁(ROSTECHNADZOR)が燃料の装荷許可を発給しており、今月末までに合計163体の燃料集合体を装荷する。その後、同炉の出力を最小制御可能出力(MCP)レベル(臨界条件を達成する段階において核分裂連鎖反応を安定した状態に維持するのに十分な出力(1%未満)のこと)まで上げて試験を実施するが、この段階で設計パラメーター通りの信頼性と安全性を確認できれば、同炉の起動プロセスは次の段階に移行、初めて国内送電網に接続されることになる。旧ソ連邦に属していたベラルーシはウクライナと国境を接しており、1986年のチェルノブイリ原子力発電所事故では多大な放射線被害を被った。しかし、エネルギー資源が乏しく1次エネルギーの8割を輸入に依存する事情により、原子力の導入に関する実行可能性調査を1990年代後半に実施していた。ベラルーシ初の原子力発電所建設計画については、福島第一原子力発電所事故が発生した直後の2011年3月15日に同国のA.ルカシェンコ政権がロシアとの二国間協力に合意。総工費の低金利融資などロシア政府の全面的な支援を受けて、2013年11月に1号機がフロドナ州オストロベツで本格着工したほか、翌2014年4月には2号機の建設工事が開始されている。ロスアトム社のA.リハチョフ総裁は、「これでベラルーシも最新の第3世代+(プラス)設計「AES-2006」原子炉の保有国になった」と表明。同設計では、ロシア国内の稼働中原子炉ですでに実証・試験済みの技術が使われていると強調した。同総裁はまた、この設計では福島第一発電所事故後の安全要件すべてが満たされており、国際原子力機関(IAEA)の複数のミッションも同設計の信頼性を認めていると指摘。「この設計の原子炉がロシア以外の国で初めて、それもロシアの「良き隣人」たるベラルーシで完成したことは、ロスアトム社にとって非常に重要なことだ」と述べた。「AES-2006」設計は、ロシア国内ではノボボロネジ原子力発電所とレニングラード原子力発電所双方のⅡ期工事に2基ずつ採用され、このうち3基がすでに営業運転中。国外ではバングラデシュとトルコで建設中であるほか、エジプト、フィンランド、ハンガリーで計画中となっている。(参照資料:ロスアトム社、ASEグループの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの8月7日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
11 Aug 2020
3008
中国核工業集団公司(CNNC)は8月10日、江蘇省の田湾原子力発電所で建設中だった5号機(111.8万kWのPWR)を8日の夜8時頃、初めて送電網に接続し送電したと発表した。中国国産の第3世代設計「ACP1000」を採用して2015年12月に本格着工した同炉は、7月27日に初めて臨界に達していた。(参照資料:CNNC(中国語)の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの8月10日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」
11 Aug 2020
2022
ロシア国営原子力企業ロスアトム社傘下の燃料製造企業TVEL社は8月6日、ロスアトム社がトルコで請け負ったアックユ原子力発電所建設プロジェクトの原子炉4基それぞれについて、同社の設計・技術関係子会社であるCPTI社が燃料装荷機を供給すると発表した。発注したのはTITAN2 IC ICTAS INSAAT社で、同社はアックユ・プロジェクトで原子炉系統施設の建設を受注したTITAN-2社とトルコの建設大手IC ICTASグループの合弁事業体。CPTI社はこの事業体に1号機用の燃料装荷機を2022年に納めるため、すでに技術開発と製造に必要な設計文書作成に着手している。同社はまた、4基の原子炉すべての燃料装荷機納入を2025年末までに終え、2026年初頭にはこれらの据付と調整を完了する計画である。CPTI社はTVEL社の設計部門と技術開発部門を統合して設立されたエンジニアリング企業で、原子力施設の複雑な設計や包括的エンジニアリング、放射線研究、原子力・放射線設備を廃止するプロジェクトのコンセプト開発、および規格外技術機器の設計・製造および供給が主な業務である。同社が受注した燃料装荷機は重さ約55トンという大きなものだが、原子炉容器の上部に設置される予定。燃料集合体や制御棒の装荷、使用済燃料の取り出しに加えて、燃料被覆管の不具合検出が可能である。トルコ初の原子力発電設備となるアックユ発電所は、地中海沿岸のメルシン地区で2018年4月に1号機が本格着工した。第3世代+(プラス)の120万kW級ロシア型PWR(VVER)を4基建設することになっており、トルコ政府は同国が建国100周年を迎える2023年中に最初の2基を起動させることを希望。ロスアトム社は昨年12月、同発電所とトルコの送電グリッドを接続する契約を国営送電会社(TEIAS)と締結したほか、今年2月には傘下の機器製造企業が1号機の原子炉容器となる上下2つの容器の胴部で溶接作業を完了した。また、2号機については、今年6月にコンクリート製のベースマットが完成している。(参照資料:TVEL社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、ほか)
07 Aug 2020
2076
英国のナショナル・グリッド社は7月29日、南西部サマセット州でEDFエナジー社が建設中のヒンクリーポイントC(HPC)原子力発電所から、北東方向に57 km離れたエイボン州エイボンマス近郊の変電所までをつなぐ新たな高圧送電ルートの設置計画で、一年後の2021年7月末までに最初の高圧鉄塔(=完成予想図)を建設できる見通しになったと発表した。ナショナル・グリッド社は英国内の送電事業を事実上独占している公益企業で、この計画は「ヒンクリー・コネクション・プロジェクト」と呼称している。HPC発電所からエイボンマス近郊のシーバンクまで、「Tパイロン」型の高圧(400kV)鉄塔を合計116基設置し、600万もの事業所や世帯にHPC発電所の無炭素エネルギーを供給するというもの。既存の送電網部分で改修を行うほか、57kmのうち48.5 km分を架空送電線でつなぐ。一方、メンディップヒル丘陵を含む8.5 km分は特別自然美観地域に指定されているため、パイロンを建てずに地下ケーブルを通すことになる。重要なインフラ・プロジェクトである同ルートの建設工事は2018年に始まったが、ルート全体は14段階に分けて接続が進められることから、完成するのはHPC発電所1号機の営業運転開始が予定されている2025年になる見通し。使用する「Tパイロン」は約100年ぶりに設計を変えた高圧鉄塔で、一本の支柱にT字型の腕が取り付けられており、両方の先端に菱形のワイヤーが吊るされている。高さは約35mと従来の格子型400kVパイロンと比べて三分の一程度低く、必要とする設置面積も少なくて済む。160万kWの欧州加圧水型炉(EPR)2基で構成されるHPC原子力発電所の建設工事は、仏国資本のEDFエナジー社が進めているもので、英国で約20年ぶりの新設原子力発電所計画となる。2018年12月に1号機の原子炉系統部分で最初のコンクリート打設を開始。今年6月に同社は、2号機用のコンクリート製ベース・マットが完成したことを明らかにしている。(参照資料:ナショナル・グリッド社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの8月5日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
06 Aug 2020
2235
韓国原子力研究院(KAERI)は8月3日、米国のウルトラ・セーフ・ニュークリア社(USNC)が進めている小型モジュール式高温ガス炉(HTGR)「マイクロ・モジュラー・リアクター(MMR)」の開発に協力するため、現代エンジニアリング社を加えた3者で7月3日に相互協力協定を締結したことを明らかにした。CO2を排出せずに電力とプロセス熱、および水素の効率的な生産が可能なMMRの開発で技術協力を促進し、国内外のMMR事業を効率的に推進できるよう協力の基盤を造成する考え。超小型炉に分類されるMMRの開発と建設のみならず、熱電併給が可能なHTGRと環境に優しい水素生産を目的とした超高温ガス炉(VHTR)の各技術の開発・利用について、今年7月から5年間にわたり共同作業を進めていく。米国内の報道ではまた、MMRを韓国に建設する可能性についても3者が連携して追求する方針だと伝えられている。今回の発表の中でKAERIは、2004年から韓国政府の原子力研究開発事業の一環としてHTGRベースの原子力水素生産技術を開発中であると説明。今回の相互協力協定を切っ掛けに、産業界との協力を通じて現在進めている研究開発事業を成功に導きたいと述べた。KAERIはまた、USNCが完了したMMRの概念設計活動に参加していたことから、現在進められている基本設計活動においても技術協力を継続中。KAERIの朴院長は、「2社との協力により、原子力技術開発だけでなくビジネス・モデルを共同開発し、海外市場に進出する足場を固めたい」との抱負を述べた。現代エンジニアリング社に関しては、今年3月に現代グループ内の複数企業が共同で大型建設機器用の水素燃料開発を開始した。同社自身も原子炉で水素と熱を生産する技術を開発中であり、MMRの実証炉建設に向けた基本設計活動にはKAERIとともに参加中となっている。USNCのMMRは熱出力1.5万kW、電気出力0.5万kWで、シリコン・カーバイドで層状に被覆されたウラン粒子を燃料に用いる第4世代の小型モジュール式HTGR。20年の運転期間中に燃料を交換する必要がなく、いかなる事故シナリオにおいても、物理的な対応なしですべての熱が受動的に環境中に放出されるという。カナダのエネルギー関係プロジェクト開発企業であるグローバル・ファースト・パワー(GFP)社は2019年3月、パートナー企業であるUSNC社のMMRをオンタリオ州のカナダ原子力研究所(CNL)チョークリバー・サイトで建設するため、SMRとしては初の「サイト準備許可(LTPS)」をカナダ原子力安全委員会に申請。現時点では環境影響評価が行われている。また、CNLは2017年4月に公表した今後10年間の「長期戦略」の中で、2026年までにチョークリバー・サイトでSMRを建設するという意欲的な目標を設定。2019年7月にはSMRの研究開発と建設を支援するコスト分担方式の研究開発イニシアチブ(CNRI)を設置しており、最初の支援対象として選定したUSNC社のMMRについては、今年2月に同社の子会社と協力協定を締結している。(参照資料:KAERIの発表資料(韓国語)、原産新聞・海外ニュース、ほか)
05 Aug 2020
3940
米エネルギー省(DOE)傘下のアイダホ国立研究所(INL)はこのほど、月面での探査活動に使用する原子力発電(FSP)システムを設計するため、革新的技術開発に関する情報提供依頼書(RFI)を原子力産業界や宇宙産業界の上層部宛てに発出したと発表した。このRFI発出はアメリカ航空宇宙局(NASA)の後援によるもので、DOEとINLがこれに協力。実際の発出はINLの管理・運営を担当するバッテル・エナジー・アライアンス(BEA)社が行った。月面の厳しい環境下で長期的に探査活動を行うには信頼性と耐久性の高いエネルギー源が必要なことから、NASAらは月面に設置するFSPの設計の有効性を試験・実証するため、革新的技術に基づいたアプローチを取る方針。火星探査など後続のミッションに流用する考えで、INLは9月8日までの期間、このような技術に関する情報を募集するとともに提案企業と連携関係を構築する。小型モジュール炉(SMR)などの先進的原子炉は、連邦政府が関心を持っている宇宙探査ミッションに不可欠な電力供給能力を持っており、NASAは月面設備に対する信頼性と耐久性に優れたエネルギー供給源となるFSPシステムの必要性を認識。「原子力核分裂発電プロジェクト 」を管理するNASAのグレン研究センターでは、技術実証ミッションの一つとして月面用FSPの開発も担っている。RFIを通じて情報収集した後、INLは今回の計画の第一段階として「提案募集(RFP)」を発出する予定だが、ここではFSPシステムの工学実証ユニット(FSP-EDU)を予備的に設計する。また、これに続く第二段階では、FSPの最終設計を固めた上でFSP-EDUのプロトタイプを製造・建設し、試験も実施。このほか、FSPを月まで輸送する飛行システム(FSP-FS)についても、この段階で月への打ち上げサイトに納める。INLのJ.ワグナー担当副所長は、「有望な先進的原子炉の建設をINLの敷地内で推進するなど、原子力技術革新で米国が世界のリーダーシップを握る上でINLは中心的役割を担っている」と説明。「月面で先進的原子炉を建設できる可能性に胸が高鳴る思いであり、最も先見の明がある民間部門の企業らと連携すればこれを実現する一助になるだろう」と述べた。 なお、類似の月面での発電源開発は、2018年6月の中露原子力技術包括協力でも取り上げられており、原子力技術が宇宙での利用に関心がもたれていることが、今回さらに明確になった。(参照資料:INLの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月27日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
04 Aug 2020
2709
アラブ首長国連邦(UAE)で原子力発電の導入計画を担当する首長国原子力会社(ENEC)は8月1日、同国初の商業炉であるとともにアラブ諸国においても初となるバラカ原子力発電所1号機(140万kWのPWR)が7月31日の早朝に初めて臨界に達し、安全に起動したと発表した。UAEを構成する7つの首長国のうち西側に大きく広がるアブダビ首長国のバラカで、ENEC傘下の運転管理会社で韓国電力が一部出資するNAWAHエナジー社が、規制上の要件と原子炉の安全に関わる最も厳しい国際基準を満たしつつ同炉の起動プロセスを実行したもの。NAWAH社は今後、同炉で数週間にわたり様々な試験を実施した後、UAEの国内送電網に接続、その後2021年の営業運転開始を目指して出力上昇試験などの試運転を実施する計画である。 バラカ発電所では韓国製の140万kW級PWR「APR1400」を4基建設することになっており、2012年7月に1号機が本格着工した後、約1年間隔で同型の2~4号機を順次着工してきた。1号機については2018年3月に竣工式が執り行われたが、運転員の訓練と連邦原子力規制庁(FANR)からの承認取得に時間を要することから、NAWAH社は燃料の装荷など後続の準備作業を延期した。その間、起動に向けた準備を進めながら国際原子力機関(IAEA)など複数の規制関係機関に1号機の安全評価を依頼しており、今年1月には世界原子力発電事業者協会(WANO)は同炉で起動前審査を実施。起動準備が整ったことを確認したのを受けてFANRは今年2月、同炉に対し60年間有効な運転許可を発給した。これに続いてNAWAH社も、翌3月に燃料の初装荷作業を完了していた。ENECのM.アル・ハマディCEOは、「今日という日はUAEの原子力平和利用プログラムにとって正に歴史的瞬間であり、過去数十年以上の間に我が国が策定したビジョンや戦略計画、盤石なプログラム管理の賜物である」と強調。「最近では(新型コロナウイルスによる感染という)世界的規模の課題が発生するなかで、開発チームは1号機の安全な起動を実証するため優れた忍耐力を発揮した。今後は同発電所で国内電力需要量の4分の1を賄うという目標の達成に向けて更なる一歩を刻み、安全で信頼性が高くCO2も排出しない電力を提供していきたい」と述べた。UAEの原子力開発利用計画は2009年にスタートしており、実際に商業炉を起動した国/地域としては世界で33番目(2009年末までに国内の商業炉を全廃したリトアニア含む)となった。ENECによれば、バラカ原子力発電所はUAEのエネルギー部門の電化に向けて大きく貢献。4基すべてが完成すれば年間2,100万トン以上のCO2排出を抑えつつ560万kWの電力を供給することになる。同発電所では今年2月に2号機が完成したほか、3、4号機についても建設工事が最終段階に入るなど、発電所全体の建設進捗率は94%に達している。(参照資料:ENECの発表資料、原産新聞・海外ニュース、ほか)
03 Aug 2020
4849
中国核工業集団公司(CNNC)傘下の中国核能電力有限公司(CNNP)は7月27日、江蘇省の田湾原子力発電所で中国48基目の商業炉となる5号機(111.8万kWのPWR)が同日の午前8時20分、初めて臨界に達したと発表した。CNNCはまた28日、中国の独自ブランドとして開発した第3世代設計「華龍一号」の実証炉となる福建省の福清原子力発電所6号機(115万kWのPWR)で、25日に格納容器へのドーム屋根設置が完了したことを明らかにした。田湾原子力発電所では、営業運転中の1号機から4号機(各100万kW級)まで、および将来的に建設予定の7、8号機(各120万kW級)にロシア型PWR(VVER)設計を採用。現在建設中の5、6号機(各111.8万kW)のみが中国製の「ACP1000」設計を採用しているが、これらはCNNCが仏国のPWR技術に基づいて開発した第3世代のPWR設計である。2015年12月に本格着工した田湾5号機では、今月初頭に運転認可が交付された後、9日に燃料の初装荷作業が完了した。同月23日から24日にかけて中国北部の原子力発電所を管轄する放射線安全監督局が同炉の設備を点検した上で、26日に臨界達成に向けた作業の開始を承認。これを受けて同炉の制御棒が引き抜かれたもので、同炉は年内にも国内送電網に接続された後2021年中に営業運転入りすると見られている。福清6号機©CNNC一方、福清発電所では「華龍一号」の実証炉プロジェクトとして、CNNCが5、6号機の建設工事をそれぞれ2015年5月と12月に開始した。「華龍一号」はCNNCと中国広核集団有限公司(CGN)双方の第3世代PWR設計を統合して開発されたことから、CGNも同様にCGN版「華龍一号」の実証炉プロジェクトとして、江西省の坊城港原子力発電所3、4号機(各118万kW)をそれぞれ2015年12月と2016年12月に本格着工。これらのほかパキスタンのカラチ原子力発電所でも、「華龍一号」設計を採用した2、3号機(各110万kW)の建設プロジェクトがそれぞれ2015年8月と2016年5月から進行中である。今回の発表によると「華龍一号」の格納容器は二重構造になっているため、飛来物の衝突その他の事故に際して十分な防護能力を持つ。また、同容器の鋼鉄製ドーム屋根は重さ約420トン、直径約53m、高さ約13mで、内部の構造物を守ることができるとしている。なお、福清6号機より7か月先に着工した同5号機は、今年3月に温態機能試験が概ね完了。5、6号機はともに、今年中に送電開始可能になると予想されている。(参照資料:CNNPの発表資料(中国語)、CNNCの発表資料(英語)、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月30日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
31 Jul 2020
2839
米国議会上院のエネルギー天然資源委員会は7月23日、「原子力エネルギーリーダーシップ法案(NELA)(S.903号)」を盛り込んだ修正版の国防省2021会計年度(2020年10月~2021年9月)予算法案(国防権限法:NDAA)(S.4049)が、同日の上院本会議において86対14で可決されたと発表した。NELAはエネルギー天然資源委員会のL.マコウスキー委員長(=写真)が昨年3月に提出していたもので、原子力エネルギー開発における米国のリーダーシップの再構築が目的。具体的にはエネルギー省(DOE)が推進している先進的原子炉概念の実証、これらの多くで使われるHALEU燃料(U235の濃縮度が5~20%の低濃縮ウラン)の供給、および原子力関係の人材育成などに焦点を当てている。NELAが支持する先進的原子炉であれば同委員長が選出されたアラスカ州の遠隔地域や、軍事基地その他の大都市においても安全でクリーンかつ信頼性の高い安価なエネルギーを供給できる大きな可能性があると主張している。共和党員であるマコウスキー委員長と民主党所属のC.ブッカー上院議員は今年6月、NELAに賛同する20名の超党派議員グループ(同委員長とブッカー議員含む)の連名で上院軍事委員会のJ.インホフェ委員長(共和党)とJ.リード幹部(民主党)宛に書簡を送り、NDAAにNELAが盛り込まれるよう支援を要請。この書簡の中で同委員長は、国家安全保障における原子力の貢献を強調した。また、上院本会議におけるNDAA審議の場で、同委員長とブッカー議員はその他の上院議員15名とともに、NELAの文言を盛り込んだNDAAの修正案を提出していた。なお、議会下院では7月21日に下院版のNDAA(H.R.6395)が295対125で可決されたが、これにはNELAが盛り込まれておらず、最終版の可決成立までには双方の内容を擦り合わせる必要がある。マコウスキー委員長は上院採決の後、「革新的な原子力技術の開発は米国の経済や環境、世界的リーダーシップの確保という点で多大な代償をともなうため、米国は非常に長い期間こうした技術の開発で大幅な遅れを取ってきた」と説明。国防省は論理的に見て、先進的原子炉の中でも遠隔地での建設が容易な超小型原子炉の最初の顧客になる可能性が高いとしている。(参照資料:上院・エネルギー天然資源委員会の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月27日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
30 Jul 2020
3588
英国の原子力廃止措置機構(NDA)は7月27日、閉鎖された原子力発電所や原子力サイトの廃止措置活動から出る放射性廃棄物の分類と分離で、革新的技術の研究開発コンペを合計390万ポンド(約5億2,932万円)の予算で開始すると発表した。このコンペはNDAの資金提供により、中小企業の技術革新促進に向けた省庁横断的な政策枠組み「中小企業研究イニシアティブ(SBRI)」の枠内で行われる。ロボットやセンサー、人工知能(AI)といった自動制御型の総合ツールキットを開発するのが目的で、これらの技術を通じて処分する廃棄物の分類と分離を適切に行うことで廃棄物のレベルを下げ、廃止措置活動の生産性と安全性を改善、コストの削減を図る考えである。コンペの実施に際しNDAは、英国最大の原子力複合施設セラフィールド・サイトの管理運営と廃止措置業務に当たっているセラフィールド社、および閉鎖済みの旧型ガス冷却(マグノックス)炉すべてを管理しているマグノックス社とともに、英国政府のイノベーション産業助成機関「イノベートUK」と連携。放射性廃棄物の分類・分離で、全く新しい革新的なアプローチを提案するよう英国全土の企業に呼びかけている。提案の受付は8月17日に開始し、11月11日に締め切る予定。60万ポンド(約8,143万円)の予算を割り当てた第1段階としてNDAは来年2月までに最大で10プロジェクトを選定し、3月以降3か月分の研究開発契約費として、それぞれに対し実行可能性調査の実施費用など最大6万ポンド(約814万円)を提供する。同段階が終了する頃、NDAは申請者が取りまとめた技術面の実行可能性報告書を精査し、第2段階への申請が可能な有望プロジェクトを最大4件選定。各申請者と15か月間で90万ポンド(約1億2,215万円)という研究開発契約を結び、非放射性の環境下でフル・スケールのプロトタイプ機器の実証を行うことになる。NDAの担当者は今回のコンペに関連して、「原子力サイトの廃止措置というNDAミッションが進展するなかで、放射性廃棄物の取り扱いは非常に大きな課題になっている」と説明。原子力経験の有無とは関係なく、国内すべての部門から革新的な技術が提案されることを期待すると述べた。イノベートUKの担当者も「SBRIの別事業でNDAと再び協力する機会が得られ、原子力廃止措置のサプライチェーンに技術革新をもたらす手助けができることを歓迎する」と表明。このコンペは英国企業が事業を拡大する好機となるだけでなく、国内の放射性廃棄物をより安全・迅速かつ安価な方法で取り扱うことが可能になると指摘した。(参照資料:NDAの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月28日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
29 Jul 2020
2276
米国政府の独立機関として民間の開発プロジェクトに資金提供を行っている国際開発金融公社(DFC)は7月23日、小型モジュール炉(SMR)や超小型原子炉の建設など、国外の原子力開発プロジェクトに対する財政支援を可能とするため、DFCの「環境・社会政策と関係手続き(ESPP)」の中で資金提供の禁止措置を解除したと発表した。DFCはこれまで、これらのプロジェクトへの資金提供を禁じてきたが、今回の政策等の変更により、DFCは十分な電力が得られない発展途上国のコミュニティに適正価格のエネルギーをもたらすとともに経済成長が促されるよう、原子力というCO2を排出しない安全確実な電源を提供するための支援を約束。米国が核不拡散体制の強化に向けた保障措置を促進し国内原子力企業の競争力を増強する一方、独裁的な体制下の国々の資金調達に新たな選択肢を提供することができると述べた。DFCはまた、エネルギー省(DOE)の下に創設された原子燃料作業部会(NFWG)が今年4月、「米国が原子力で再び競争上の優位性を取り戻すための戦略」を公表した事実に言及。今回政策を変更したことで、この戦略の主要な勧告事項――核不拡散政策との整合性や国家安全保障を維持しながら、関連する輸出も拡大するという方針が実行に移されるとしている。DFCの今回の決定は、政策変更の提案について30日にわたって一般国民から意見を募集した後に下された。これには米国議会や政府機関、非政府組織、民間部門など外部の幅広いステークホルダーが参加しており、DFCが受け取った800件以上の見解のうち98%がこの政策変更を支持。中でも、米国議会の議員らは超党派でDFCに新しい政策への転換を勧告。これには上院のC.クーンズ議員やL.マコウスキー議員のほか、下院のA.キンジンガー議員などが含まれている。このような支持を背景に、DFCは世界でも最も厳しい安全基準を順守しつつ、新興国市場に対する先進的原子力技術の輸出を最優先に支援していく考えである。DFCの前身は、米国企業の新興国への投資を支援していた半官半民の海外民間投資公社(OPIC)である。2019年10月に、米国国際開発庁(USAID)の一部と統合・改組した上でDFCが発足した。DFCのA.ベーラーCEOは「世界中の同盟国のエネルギー需要に応えるという米国の支援努力において重要な一歩が刻まれた」と明言。限られたエネルギー資源の中で、DFCは途上国の経済成長を加速する適正な立場に置かれることになったと強調した。DOEのD.ブルイエット長官は今回、D.トランプ大統領が設置したNFWGの主要勧告の実施に向けてDFCが動き出したことを称賛。過去3年以上の間にDOE高官は、米国の民生用原子力技術を切望する国の政府や民間産業界と会談を重ねてきたが、OPICが必要な財政支援を禁じていたことなどから技術の輸出は実現しなかった。同長官によれば、このような禁止措置の解除は世界中のエネルギー供給保証を強化する健全な行動であり、その他の国々が信頼性の高いベースロード電力を国民のために確保しつつCO2の排出量削減目標を達成するのを支援することにもつながるとした。米原子力エネルギー協会(NEI)のM. コースニック理事長も、DFCの決定は米国の国家安全保障や経済成長を加速させるだけでなく、地球温暖化の防止目標達成にも寄与すると指摘。ロシアや中国のように国営原子力企業を有する国との競争では、米国企業が一層公平な条件で戦えるようになると評価している。(参照資料:DFCの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月24日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
28 Jul 2020
3301
インド原子力発電公社(NPCIL)は7月22日、グジャラート州のカクラパー原子力発電所で3号機が同日の午前9時半頃、初めて臨界に達したと発表した。同炉はNPCILが建設している4基の70万kW級国産加圧重水炉(PHWR)のなかでは最初のもので、今後は様々な試験を実施しつつ出力を徐々に上げていく予定。規制上の認可を取得して10月頃に西部地域の送電網に接続されれば、同炉はインドで23基目の商業炉となり原子力設備容量は748万kWに増加する。N.モディ首相は同炉の初臨界達成について、「メイク・イン・インディア(インドを世界の研究開発・製造ハブとすることを目指した同政権の産業政策)」の模範例であるとともに、将来達成される同様の成果のさきがけになったと称賛している。慢性的な電力不足に悩むインドは、現在678万kWの原子力発電設備に21基(1,570万kW)の原子炉を加え、2031年までに2,248万kWに拡大する計画だと報道されている。2017年5月にインド内閣は国内原子力産業の急速な発展を促すため、マディヤ・プラデシュ州のチャットカ、ラジャスタン州のマヒ・バーンスワーラー、カルナータカ州カイガ、ハリヤナ州ゴラクプールの4サイトで合計10基の70万kW級国産PHWRを新たに建設することを決定。現時点では、カクラパー3号機も含めて合計16基の70万kW級PHWRが建設計画の実施に向けた様々な段階にあり、NPCILによればこれらに対する政府の承認も得られている。このほか、米国や仏国など国外の原子炉ベンダーから軽水炉を導入する計画も徐々に進んでいる。ただし、実際に建設プロジェクトが順調に進展中なのはロシア企業がタミル・ナドゥ州で請け負ったクダンクラム原子力発電所のみで、ここでは1、2号機(PWR、出力各100万kW)がすでに稼働中、3、4号機(PWR、同各100万kW)が建設中、5、6号機(PWR、同各105万kW)が計画中となっている。カクラパー3号機の本格的な建設工事は2010年11月に開始されており、今年3月半ばには燃料の初装荷作業が完了。その後、新型コロナウイルスの感染にともなうロックダウン期間中に、感染防止ガイドラインに沿って多くの試験や手続が行われていた。NPCILによると同炉はインドのエンジニアや科学者が設計した国産PHWRで、原子炉の機器・設備を国内の原子力産業界が製造したほか、建設工事も国内の様々な契約企業が実施した。安全性や品質については世界でも最高レベルの基準を満たしており、内側を鋼鉄で裏打ちした格納容器や受動的な崩壊熱除去システム、水素ガス管理システムなどの先進的な安全機器が導入されている。(参照資料:NPCILの発表資料(ヒンディー語、英語)、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月22日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
27 Jul 2020
4245
欧州連合(EU)の政治的な最高意思決定機関である欧州理事会は7月21日、新型コロナウイルスによる感染で打撃を受けた域内経済の復興に向けて会期を延長して協議した結果、合計7,500億ユーロ(約92兆円)規模の復興基金を創設することで合意した。また、2021年から2027年までの「複数年次財政枠組み(MFF)」に関しては、東欧の3か国が2000年代にEUに加盟した際、交換条件として早期閉鎖した原子炉8基の廃止措置プログラムに対する支援金など合計10億4,500万ユーロ(約1,286億円)が割り当てられることになった。対象となった廃止措置プログラムは、事故を起こしたチェルノブイリ発電所と同じ黒鉛チャンネル型炉(RBMK)と、格納容器のない第1世代のロシア型PWR(VVER)。具体的にはリトアニアのイグナリナ原子力発電所1、2号機(RBMK-1500、出力各150万kW)、スロバキアのボフニチェ原子力発電所1、2号機(VVER-440、同各44万kW)、およびブルガリアのコズロドイ原子力発電所1~4号機(VVER-440、同各44万kW)である。これらは2009年までにすべて早期閉鎖された後に廃止措置活動が始まっており、EUは「国家的なエネルギー生産設備の喪失に対する影響緩和プロジェクト」の中から、これら3国に対して財政支援を提供中。しかし、廃止措置に特化したEUの資金調達プログラムでは、タイムリーかつコスト面でも効率的な廃止措置活動を行おうという動機付けが創出されず、3国の作業には遅れが生じている。また、EUの執行機関である欧州委員会(EC)は今年3月、「これらの廃止措置を日程通り完了するには、2021年から2027までの期間に追加の財政支援が必要」とする報告書を欧州理事会と欧州議会に提出していた。今回の財政復興計画の中で、これらの廃止措置プログラムは「複数年次財政枠組み(MFF)」の1項目「域内セキュリティと防衛」に盛り込まれている。10億4,500万ユーロのうち、イグナリナ発電所に対しては2021年から2027年までの期間に4億9,000万ユーロ(約604億円)、ボフニチェ発電所には2025年までに5,000万ユーロ(約62億円)、コズロドイ発電所については2027年までに5,700万ユーロ(約70億円)の支援を約束。また、EU所有の施設における原子力安全と廃止措置に4億4,800万ユーロ(約551億円)が提供されるとしている。欧州理事会はこのほか、MFFの「単一市場、技術革新、およびデジタル化」の項目で、欧州における複数の大規模プロジェクトに対する継続的な財政支援を確認。その中でも国際熱核融合実験炉(ITER)計画を実行に移すため、2027年までの期間に最大50億ユーロ(約6,156億円)提供する方針を明らかにしている。(参照資料:欧州理事会の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月21日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
22 Jul 2020
2364
メキシコ政府のエネルギー省(SENER)は7月17日、国内唯一の原子力発電設備のラグナベルデ原子力発電所で、今月24日に運転認可が満了する1号機(BWR、80.5万kW)の運転期間を30年延長し2050年7月24日までとする承認を公表した。原子力安全・保障措置委員会(CNSNS)が技術的観点からこの延長を保証したのを受けたもので、同発電所を所有する電力公社(CFE)は今後、最高レベルの運転と信頼性、近隣住民その他の安全を最大限に保証するため、国内外の厳しい規制を順守することを約束。これにより1990年7月に営業運転を開始した同炉の運転期間は60年に延長されることになる。メキシコでは米国から安価な天然ガスを輸入できるため、CFEの電源構成における6割近くを天然ガスのコンバインド・サイクル発電が占めている。総発電量に占める原子力発電のシェアは4.5%ほどで、CFEは昨年12月、国内の電源ミックスを多様化するとともに天然ガスや化石燃料への依存度を下げるため、ラグナベルデ原子力発電所の運転期間延長に加えて同サイトで新たに2基、太平洋沿岸の新サイトにも2基、原子炉の建設を検討中と述べたことが伝えられている。CFEはラグナベルデ1号機で長期にわたって安全かつ信頼性の高い運転を維持するため、2015年に運転期間の延長に向けた準備作業とCNSNSへの申請手続きを開始した。その際、長期運転(LTO)に付随する規制要件に沿って、発電所の機器・システムや構造物で点検や試験、モニタリングを実施すると誓約。2016年にはこれらを実行に移すため、機器・システム等の性能管理で47の点検・監督プログラムを始めている。また、申請書の審査が行われた過去5年間に、CFEはCNSNSから386件の追加情報提出要請に応えたほか、13の点検・監査を通じて複数の技術的課題にも取り組んだ。この12か月間は特に、このような作業が激化したとしている。CFEはまた、2019年3月に国際原子力機関(IAEA)の長期運転安全評価(SALTO: Safety Aspects of Long Term Operation)チームを同発電所に招聘。SALTOチームは結論として、同発電所の維持管理が十分行き届いている、発電所の長期運転に向けて管理部門が準備作業の改善に取り組んでいると評価している。なお、同発電所で1995年に営業運転を開始した2号機(BWR、81.0万kW)については、運転認可が2025年4月10日まで有効である。ただしCFEはこれについても、すでに運転認可の延長手続きを始めている。(参照資料:メキシコ・エネルギー省(スペイン語)の発表資料、現地報道(英語)資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月20日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
21 Jul 2020
4016
トルコ初の原子力発電設備となるアックユ発電所の建設を請け負っているロシアの原子力総合企業ロスアトム社は7月13日、1号機で原子炉容器(RV)の水圧試験が無事に完了したと発表した。同社のエンジニアリング部門アトムエネルゴマシ社の一部であるAEMテクノロジー社のボルゴドンスク支部が実施したもので、2018年4月に地中海沿岸のメルシン地区で着工した同炉は、2023年の運転開始に向けて作業が着実に進展中である。アックユ原子力発電所建設プロジェクトは2010年5月にトルコとロシアが結んだ政府間協力協定に基づいて進められており、第3世代+(プラス)の120万kW級ロシア型PWR(VVER)を4基建設する。総工費の約200億ドルは当面ロシア側が全額負担しており、発電所完成後にトルコ電力卸売会社(TETAS)がロスアトム社の設置した現地の事業会社(ANPP)から、12.35セント/kWhの固定価格で15年間電力を購入し返済する予定である。AEMテクノロジー社によると、RVなど1号機に使用する機器の製造プロセスは最終段階に到達。今年2月にRVで上下2つの容器胴を最終溶接する作業を終了したほか、6月末には2年間を費やした蒸気発生器(SG)4台の製造・組立・溶接作業も完了した。また、これと同じ頃に2号機用のコンクリート製ベースマットが完成、同炉の本格着工許可は2019年4月に規制当局が発給済みである。このほか、同発電所をトルコの送電グリッドと接続する契約も、同年12月にANPPがトルコ国営送電会社(TEIAS)と締結している。水圧試験では、系統の構成や流量等を可能な限りプラントの運転状態を模擬して行われる。アックユ1号機の試験はAEMテクノロジー社の専門家が特別な技術の下で、RVの通常運転時の圧力より最大1.4倍高圧(24.5 MPa)で実施。重さ334トンのRVの母材や溶接部の強度を確認するなど、同プラントで60年間運転を継続する準備は整ったとしている。(参照資料:AEMテクノロジー社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月14日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
20 Jul 2020
2543
ルーマニア原子力産業会議(ROMATOM)は7月15日、建設途中で先行き不透明となっていたチェルナボーダ原子力発電所3、4号機(各70.6万kWのカナダ型加圧重水炉)建設プロジェクトについて、L.オルバン首相が両炉の完成に向けて戦略的運営委員会の設置を決めたことを歓迎すると発表した。同首相のこの判断は前日付けの官報に掲載されたと伝えられており、新たに設置される委員会は建設プロジェクトを実行に移すための戦略や方策、判断等の分析と具体化に責任を負う。構成メンバーには、経済・エネルギー・ビジネス環境相や公共財務相など関係閣僚が含まれる模様である。ROMATOMは、国内の原子力発電設備の拡大は欧州連合(EU)の掲げる2050年までの脱炭素化政策やルーマニアの環境目標を達成する上で特に重要だと評価している。チェルナボーダ3、4号機は1980年代半ばに本格着工していたが、1989年のチャウシェスク政権崩壊により、進捗率がそれぞれ15%と14%のまま建設工事が停止した。これらを完成させるという政府決定を受けて、国営原子力発電会社(SNN)は2009年にプロジェクト会社を設置したものの、同社への出資を約束していた欧州企業6社は経済不況等によりすべて撤退した。その後、2011年に中国広核集団有限公司(CGN)が出資参加の意思を表明したことから、SNNはCGNと2015年11月に両炉の設計・建設・運転・廃止措置に関する協力で了解覚書に調印した。2019年5月にはプロジェクトの継続に関する暫定的な投資家協定を締結したが、今年1月にオルバン首相は地元メディアのインタビューで、「ルーマニア政府は中国企業との取引から撤退する方針であり、すでに新たな出資パートナーを模索中である」と述べた模様。首相のこの判断は、米国と結んだ戦略的連携関係に配慮したものとみられている。ROMATOMによると、ルーマニアで追加の原子力発電設備を建設することは2050年までを見据えた同国の「2019年~2030年のエネルギー戦略」と「2021年~2030年のエネルギー・気候変動分野における国家統合計画」に明記されている。このため、原子力はルーマニアのエネルギー供給保証対策の一つであるとともに、脱炭素化に向けた主軸政策の一つということになる。ルーマニアの原子力発電設備は現在、国内の総電力需要の約18%を賄っているほか、低炭素電源による発電量の33%を供給、原子力産業界における雇用1万1,000名分を維持している。建設プロジェクトが本格化すれば、この人数は1万9,000名に増大し取引総額は5億9,000万ユーロ(約720億円)に達する見通し。ROMATOMが国内原子力産業界の能力について実施した調査の結果、同産業界が3、4号機の建設プロジェクトに機器やサービスを提供することで10億~16億ユーロ(約1,220億~1,952億円)の利益が上がる可能性がある。この金額はまた、同プロジェクトにおけるエンジニアリング・資材調達・建設(EPC)契約総額の25~40%に相当するとROMATOMは指摘している。(参照資料:ROMATOM(ルーマニア語)の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月16日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
17 Jul 2020
2861
アラブ首長国連邦(UAE)で原子力発電の導入計画を担当する首長国原子力会社(ENEC)は7月14日、同連邦初の原子力発電設備として建設中のバラカ発電所(=写真)で2号機(140万kWのPWR)の建設工事が完了したと発表した。すべての工事作業を終えた節目として、同炉の全システムが運転管理子会社であるNAWAHエナジー社に正式に引き渡された。NAWAH社は今後、燃料の装荷に先立ち連邦原子力規制庁(FANR)から運転許可を得るため、世界原子力発電事業者協会(WANO)など国際的な専門家による評価作業を同炉で実施する。ENECによれば2号機ではすでに実証試験が終了しており、構造上の安全性について優れた性能が確認されたほか、機器・システム類は国際的に最も厳しい安全・品質基準をクリア。NAWAH社のチームは運転開始に向けた準備作業をさらに進めていく考えである。バラカ原子力発電所の建設工事は、2012年7月に1号機の作業が始まったのを皮切りに、ENECが主契約者の韓国電力公社(KEPCO)と協力して毎年一基ずつ、全4基の韓国製140万kW級PWR「APR1400」の建設作業を開始した。アラブ諸国にとっても初の商業炉となる1号機は、すでに2018年3月に完成しており、FANRは今年2月に60年間有効な運転許可を発給、3月には燃料集合体の初装荷が完了した。建設工事中の3、4号機については、現在までの進捗率がそれぞれ92%と85%となっており、発電所全体では94%に達している。2号機に関しては、2018年8月に温態機能試験が成功裏に完了した後、2019年3月までに構造性能確認試験(SIT)と総合漏えい率試験(ILRT)が行われた。ENECのM.アル・ハマディCEOは、「今回完成した2号機の引き渡しは重要な節目となったが、これはUAEの原子力平和利用プログラムに携わるスタッフ全員の能力と献身の賜物である」と指摘。中東地域におけるクリーン・エネルギーへの移行を、UAEがKEPCOとの協力により主導するというビジョンをさらに具体化するものだとした。UAEはまた、この原子力プログラムを原動力にエネルギーの供給保証強化や経済の多様化を進め、国民のために高賃金の雇用機会を創出、UAEの社会や経済を成長させていく考えを表明している。(参照資料:ENECの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月15日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
16 Jul 2020
4312
英国の原子力サプライチェーンを構成する32の主要企業と労働組合が7月14日付けで「サイズウェルC企業連合」を結成し、サイズウェルC原子力発電所(SZC)建設計画に対する支援を英国政府に要請した。同計画はイングランド地方南東部のサフォーク州で仏国籍のEDFエナジー社が進めているもので、先行する同社のヒンクリーポイントC原子力発電所(HPC)建設計画と同じく、出力約170万kWのフラマトム社製・欧州加圧水型炉(EPR)を既存のサイズウェルB発電所の北側に2基建設する。HPC計画で経験するEPRの建設をSZC計画で繰り返すことにより、同社は建設費の大幅な削減と関係リスクの軽減が可能になると予想。同社が5月下旬に提出していたSZC計画の「開発合意書(DCO)」申請は、計画審査庁が今月7日付けで正式に受理している。サイズウェルC企業連合には、EDFエナジー社の親会社である仏電力(EDF)のほかに、英国の大手エンジニアリング企業のアトキンズ社やアラップ社、ヌビア社、原子力事業会社のキャベンディッシュ・ニュークリア社、建設大手のレイン・オルーク社、機器製造企業の斗山バブコック社、米国籍のGEスチーム・パワー社やジェイコブス社、欧州企業のアシステム社などが参加。GMBやユナイト・ユニオンといった大手労組も同企業連合の支援に加わっている。同企業連合は、SZC計画のように周到に準備されたモチベーションの高いプロジェクトは英国経済に大規模な推進力をもたらすとともに、気候変動を抑えつつ新型コロナウイルス危機で停滞した社会を立て直し、CO2排出量の実質ゼロ化に向けて英国を導くことができると認識。このため、同企業連合は英国中の地域社会と了解覚書を結び、SZC計画によって英国全土で2万5,000人分の雇用機会と1,000人分の企業実習機会が生み出され投資が行われること、契約総額の70%に相当する140億ポンド(約1兆8,900億円)以上が英国企業にもたらされる点などを保証。これによって、原子力サプライチェーンの将来的な発展を確保する考えである。また、建設計画が承認されれば、幅広いサプライチェーン全体で16万人分の雇用が維持されると同企業連合は指摘。しかし、同計画への迅速な支援が英国政府から得られなかった場合、このうち数千人分が失われ、その能力が弱体化する深刻な危機に見舞われると警告している。同企業連合のC.ギルモア広報担当によると、英国はこれまでに世界最先端の原子力サプライチェーンを構築し、高度な技術を必要とする雇用を英国全土で支えてきた。SZC計画に付随する原子力サプライチェーンでは、英国政府が気候変動を抑えながら経済復興を推し進めるにあたり支援提供する準備がすでにできている一方、SZC計画の実施を確約することでこれらのサプライチェーンが維持され、英国は低炭素経済の繁栄から多大な恩恵を被ることになると指摘している。(参照資料:サイズウェルC企業連合、EDFエナジー社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月14日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
15 Jul 2020
2255
中国核工業集団公司(CNNC)は7月10日、江蘇省・田湾原子力発電所で建設中の5号機(111.8万kWのPWR)について、前日の9日に燃料の初装荷が完了したと発表した(=写真)。同国で建設されている原子炉の中では今年初の事であり、2021年末までには同国48基目の商業炉として営業運転を開始できると見られている。田湾発電所では現在、I期工事の1、2号機とII期工事の3、4号機が営業運転中。これらはすべて100万kW級のロシア型PWR(VVER)だが、同発電所III期工事として2015年12月と2016年9月に着工した5、6号機の2基だけは、CNNCが仏国のPWR技術に基づいて開発した第3世代の100万kW級PWR設計「ACP1000」を採用。後続の7、8号機(IV期工事)については再び、ロシア製の120万kW級PWRを採用することが決まっている。CNNCによると、同発電所で稼働中の4基はこれまでに2,000億kWh以上の電力を発電しており、これにともなうCO2の年間排出量削減効果は、揚子江デルタ地帯の7万ha以上のエリアで毎年植林したのと同程度。その意味で、20年以上の期間をかけて開発された田湾原子力発電所は、中国東部における重要なクリーン・エネルギー基地になったとしている。第3世代+(プラス)の最新設計となる7、8号機の建設に関しては、ロシア国営の原子力総合企業ロスアトム社が2018年6月にCNNCと枠組み契約を締結。2019年3月には両炉の建設に関する一括請負契約を両者間で交わしており、ロスアトム社はすでに同年7月から両炉の原子炉容器に使用する鍛造品の製造を開始した。今年12月には当初予定より5か月前倒しで7号機の本格着工を目指しており、同炉から5~10か月遅れで着工する8号機とともに、それぞれ2026年と2027年の営業運転開始を見込んでいる。 (参照資料:CNNCの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月13日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
14 Jul 2020
2701
英国のビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)は7月10日、次世代の原子力技術開発を促進するとともに、英国全土で関係の研究開発と製造で雇用を創出するため、合計4,000万ポンド(約54億1,400万円)を投資すると発表した。その中でも、3つの先進的モジュール式原子炉(AMR)の開発を重点的に加速する方針で、米国籍のウェスチングハウス(WH)社が北西部のランカシャー州で開発中の鉛冷却高速炉、URENCO社の子会社がチェシャー州で実施している小型高温ガス炉開発、トカマク・エナジー社が南部のオックスフォードシャー州でオックスフォード大学と進めている先進的核融合炉開発には、それぞれ約1,000万ポンド(約13億5,000万円)の支援提供を約束。今後数十年にわたって低炭素な電力や熱、水素その他のクリーン・エネルギーを供給していくための技術開発を促進し、2050年までに温室効果ガスの排出量で実質ゼロ化を目指すという英国のクリーン経済復興を後押しする考えである。これらの投資は、BEISが2018年に公表した民生用原子力部門との長期的戦略パートナーシップ「部門別協定」の重要な一部分となる。同協定でBEISは、国内エネルギー・ミックスの多様化と原子力発電コストの削減を図るため、産業界からの投資金も含めて2億ポンド(約271億円)を確保。このうち5,600万ポンド(約75億8,000万円)をAMRの研究開発に宛てるとしていた。今回、BEISが資金提供する3つのAMR設計は従来型原子力発電所よりも非常に小さく、核反応の過程で発生する高温の熱を利用する設計。その小ささにより遠隔地での利用が推奨されるものの、中規模都市用としても十分な量の発電が可能である。BEISのN.ザハウィ・ビジネス産業担当相によると、AMRはCO2排出量と地球温暖化への取組において重要部分を担う可能性が高く、3つのAMR設計への投資決定により開発企業が立地する3州では新たな雇用が直ちに創出されるのみならず、今後数十年にわたって環境防護関係の雇用が数千人規模で生み出されることになる。BEISはまた今回の投資決定を通じて、これらの技術が民間部門の投資家にとって一層魅力的なものになる点を保証。産業界の原子炉技術開発に十分な投資を行えば、将来のモジュール式原子炉開発の拡大に向け、サプライチェーンの構築にもつながるとした。なお、残りの1,000万ポンドのうち、BEISは500万ポンド(約6億7,700万円)を以下の英国企業に投資すると決定した。これらの企業は、国内外のモジュール式原子炉建設プロジェクトに対し、先進的な原子炉部品を製造する新たな手法を開発中。例としては、チェシャー州でURENCO社の子会社であるU-バッテリー社製のAMRを建設現場から離れた場所で製造する方法の概念開発・実証等に110万ポンド(約1億4,900万円)、ヨークシャー州のシェフィールド・フォージマスターズ社に対し、肉厚断面の大規模電子ビーム溶接に800万ポンド(約10億8,300万円)、ダービーシャー州でロールス・ロイス社の潜水艦製造に140万ポンド(約1億9,000万円)、グロスターシャー州のEDFエナジー社に137万ポンド(約1億8,500万円)、などとなっている。また、これらを除いた500万ポンドに関してBEISは、英国の原子力規制体制の強化に向けて投入すると表明。英国が先進的原子力技術の開発と建設を目指すなか、それらを最も頑健かつ安全なものにすることを保証するためだと説明している。BEISによれば、2050年までに英国の原子力産業全体で同国経済に年間96億ポンド(約1兆3,000億円)貢献することが可能であると近年の研究により判明。約13万人分の雇用を支えるとともに、AMR技術を輸出する可能性もかなり創出されるとしている。(参照資料:BEISの発表資料、原産新聞・海外ニュース、ほか)
13 Jul 2020
3685
原子力産業を支援している業界団体の「世界原子力協会(WNA)」は7月9日、新型コロナウイルスによる感染症(COVID-19)後の世界の原子力発電について、現状分析と将来展望をまとめた白書「Building a StrongerTomorrow:Nuclear power in the post-pandemic world」を公表した。それによると、COVID-19が世界規模で拡大(パンデミック)したことで世界中の地域社会が深刻な影響を受けたが、多くの国では今後、一層クリーンで頑健かつ回復力のある社会をどのように構築するのが最良かについて、それぞれの政府がレビューを進めている。WNAはパンデミックに対して適切な政策的対応が取られれば、真に持続可能な世界を作り上げるまたとないチャンスがもたらされると認識。原子力は、低炭素で機能停止からの回復力が高く価格も手頃な電力の供給インフラを支える一方で短期的な経済成長を促すなど、COVID-19後の世界の復興に向けて中心的役割を担うことができる。原子力発電に対する投資もまた、エネルギー供給保証の強化につながるほか、水素や熱の供給に貢献して他部門の脱炭素化を支援することも可能だと強調している。今回の白書でWNAは、原子力発電所の建設プロジェクトが各国内で重要な投資を呼び込み、地域レベルや国家レベルで経済成長を長期的に持続させる原動力になると説明。世界では現在、108基ほどの新規原子炉建設計画に予算がついたり承認が得られるなど、すぐにも着工可能な段階に達しており、適切な支援さえあれば直ちに高賃金で長期の雇用機会を創出することができる。これらの建設計画はすべてCOVID-19後の復興にとって重要であり、膨大な社会的利益を生む可能性がそれぞれにあるものの、これを実現するには原子力の特質を高く評価するメカニズムが必要だとWNAは指摘した。また、直ぐに使える方策として、WNAは既存の原子力発電所における運転期間の長期化を挙げており、運転開始後30年以上が経過した世界中の原子炉約290基で運転期間を延長することは、低炭素な電力を発電する最も廉価な方法だと説明している。WNAとしては、COVID-19が引き起こした喫緊の危機に各国政府が取り組む際、原子力発電への投資は絶好のチャンスになると捉えている。また、地球温暖化や大気汚染、エネルギー貧困(近代的なエネルギー・サービスに対するアクセスの欠如)のように、規模が大きくて繰り返し発生する課題に取り組む際、原子力への投資は将来、これらの課題関連で危機が発生するのを防ぐことができるとした。こうした背景からWNAは、原子力に対して投資することは社会的な責任を負うことになるだけでなく、一層クリーンかつ万人に公平な未来の構築に向けて、持続可能な経済・社会の構築をも支援することにつながると強調。このような状況の下で、各国の為政者に対しては以下の点を実行に移すことを求めている。いかなるエネルギーへの移行計画においても、原子力と原子力が持つ社会経済面、環境面、公衆衛生面の利点を考慮し、それらの利点を現実化するための政策を制定する。各国政府がすでに検討中の原子炉建設計画合計108基分を実行に移し、30年以上稼働している既存の原子炉290基についても運転期間を延長する。原子力への投資を促す同時に顧客価値が生み出されるよう適切な枠組みを設定し、原子力に対する資金調達上の制限を解除する。(参照資料:WNAの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月9日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
10 Jul 2020
3551
英コミュニティ・地方自治省の政策執行機関である計画審査庁(PI)は7月7日、EDFエナジー社が5月下旬に提出していたサイズウェルC原子力発電所(SZC)建設計画の「開発合意書(DCO)」申請を6月24日付で受理したと発表した。この申請書は今後、PIが詳細に審査した上でビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)に勧告事項を提示、BEIS大臣がDCO発給の最終判断を下すことになる。なお、これに先立ち英原子力規制庁(ONR)は6月30日、SZCの運転会社としてEDFエナジー社が設立したNNBジェネレーション(SZC)社が、同発電所の原子力サイト許可(NSL)を申請したことを明らかにした。こちらの申請書は審査を評価段階に進めるのに十分な完成度だったが、ONRの作業量が膨大であるため、少なくとも2021年末までONRとして最終的な判断を下すことはできないとしている。PIによると、DCOの申請内容はイングランド地方の南東部サフォーク州にあるサイズウェルB原子力発電所(125万kWのPWR)の北側に、出力約167万kWのフラマトム社製・欧州加圧水型炉(EPR)(英国仕様版)を2基建設するというもの。主要な原子力発電設備のほかに、海上設備や発電所の建設と操業を円滑に進めるための設備などで構成される。また、サイズウェルB発電所の運転に関わる補助施設の中から、特定の既存設備を移設したり取り換えるなどして使用。建設工事は段階毎に分けて行われるため9~12年を要する見通しだが、完成すれば設計上の運転期間である60年間運転を継続し、その後は廃止措置が取られるとしている。また、申請書の受理に際し、担当大臣が2017年のインフラ計画(環境影響評価)規制に基づき、このプロジェクトが周辺国の環境に及ぼす影響についてスクリーニング評価を行った。その結果、英国以外のいかなる国においても環境面で多大な悪影響が及ぶ可能性は低いと結論付けている。英国政府はさらに、国連欧州経済委員会(UNECE)が1991年に採択した「越境環境影響評価条約(エスポー条約)」と1998年の「環境に関する情報へのアクセス、意思決定における市民参加、司法へのアクセスに関する条約(オーフス条約)」を考慮。EDFエナジー社が提案したプロジェクトの情報をこれらの締約国すべてとその市民に提供すると決定しており、これらの市民が公聴会などの意思決定プロセスに参加するよう呼びかけている。(参照資料:英国政府、ONR、EDFエナジー社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月8日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
09 Jul 2020
1981