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米DOE 中間貯蔵の地元合意を目指し補助金交付
米エネルギー省(DOE)は6月9日、連邦政府の使用済燃料集中中間貯蔵施設を地元の合意を得ながら建設していくため、全米の大学や非営利団体、民間企業などで構成される13のプロジェクト・チームに200万ドルずつ、合計2,600万ドルを交付すると発表した。これらのチームは、「地元の合意に基づく中間貯蔵施設や処分施設の立地プロセス」に関心をもつ地方自治体に関係情報や協議のための資金と要員等を提供するハブ(拠点)となり、自治体との協議や貢献活動を通じて得られた見解等をDOEの立地プロセスや戦略にフィードバックする。DOEは透明性と地元からの支援を確保しつつ、環境にも配慮した立地プロセスの下、施設建設を目指し、13チームと協力して引き続き地方自治体に働きかけていく。また、これと同時にDOEは使用済燃料の長期的な処分に関する研究開発も進め、J.バイデン政権が目標とする「2035年までに送電網を100%クリーン・エネルギー化」と、「2050年までに米国経済のCO2排出量を実質ゼロ化」の達成に不可欠な原子力を推進していく方針だ。DOEは「1982年放射性廃棄物政策法(NWPA)」に基づき、1998年1月末までに各原子力発電所の使用済燃料の引き取りを開始し、深地層最終処分場で処理することになっていたが、2009年にB.オバマ政権がネバダ州ユッカマウンテンにおける最終処分場建設計画を打ち切った。その後、2012年に政府の有識者(ブルーリボン)委員会が「NWPAを修正して地元の合意ベースで最終処分場の立地を進めつつ、複数の中間貯蔵施設を建設する」と勧告したのを受け、DOEは2017年1月に地元の合意に基づく貯蔵・処分場立地プロセスの案文を作成したが、D.トランプ政権が優先項目を変更したため同プロセスは最終決定しなかった。現時点でDOEは同プロセスの焦点を中間貯蔵施設の建設に当てており、これにより全米の原子力発電所から一先ず使用済燃料を取り出す考えだ。2021年12月に、中間貯蔵施設の立地点選定に向けて地元の合意に基づく立地プロセスを策定するため、情報提供の依頼書(RFI)を関係コミュニティやステークホルダーに対して発出。2022年9月には、得られた225件のコメントその他を集約して報告書を作成している。この立地プロセス案は、①計画の立案と関係能力の構築、②サイトのスクリーニングと評価、③サイトとの交渉および実行―の3段階で構成されており、DOEは実質的に①段階にあることから、今のところ中間貯蔵施設の受け入れ自治体を募集していない。また、2022年12月に議会上院に提出された「2022年放射性廃棄物管理法案」では、地元の合意に基づくサイト選定プロセスや中間貯蔵施設の早期実現に向けた制度などが盛り込まれた。DOEは今回、地理的側面や組織構造の異なる13チームを選定した。これらのチームには全米12州とワシントン特別区の団体が参加しており、今後新たな協力者やコミュニティと関わりを持ち、同プロセスに関する話し合いをさらに進めていく。これらのチームには、米国原子力学会(ANS)をリーダーとしサウスカロライナ州やアリゾナ州の4大学を協力者とするものや、ホルテック・インターナショナル社の主導の下で原子力エネルギー協会(NEI)や広報サービス企業のマクマホン・コミュニケーションズ社が協力しているもの、ノースカロライナ州立大がリーダーとなりカリフォルニア州の複数の先住民コミュニティやディアブロ・キャニオン原子力発電所が加わっているもの、異なる州の複数大学だけで構成されるものなどが含まれている。(参照資料:DOEの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月12日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 13 Jun 2023
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米オクロ社 オハイオ州で2基のSMR建設を計画
先進的原子炉の開発を進めている米国のオクロ社は5月18日、商業用の同社製マイクロ原子炉「オーロラ(Aurora)」を2基建設する立地点としてオハイオ州の南部を選定、同地域の4郡で構成される「オハイオ州南部の多様化イニシアチブ(SODI)」と土地の利用に関する合意文書を交わした。4郡の一つであるパイク郡は、2001年まで米エネルギー省(DOE)のガス拡散法ウラン濃縮施設が稼働していた地域。SODIは同施設跡地の未使用部分や同施設自体を再利用する。SODIはまた、原子力施設跡地の再利用と先進的原子炉の建設を促進するためにDOEの原子力局(NE)が資金提供しているプロジェクト「先進的原子炉用サイトの再利用開発ガイダンス」にも参加。SODIのチームには、「オーロラ」初号機の立地点となるDOE傘下のアイダホ国立研究所(INL)のほか、仏オラノ社の米国法人で米国政府への支援サービスを担当するオラノ・フェデラル・サービシズ社、大手原子力発電事業者のサザン・ニュークリア社、電力研究所(EPRI)などが加わっている。「オーロラ」は燃料としてHALEU燃料(U235の濃縮度が5~20%の低濃縮ウラン)を使用する液体金属高速炉のマイクロ原子炉で、電気出力は0.15~5万kW。少なくとも20年間、燃料交換なしで熱電併給が可能なほか、放射性廃棄物をクリーン・エネルギーに転換することもできるという。DOEは2019年12月、先進的原子力技術の商業化を支援するイニシアチブ「原子力の技術革新を加速するゲートウェイ(GAIN)」の一環として、INL敷地内での「オーロラ」建設を許可。これを受けてオクロ社は翌2020年3月、原子力規制委員会(NRC)に「オーロラ」初号機の建設・運転一括認可(COL)を申請した。しかしNRCは、審査の主要トピックスに関する情報がオクロ社から十分に得られないとして、2022年1月に同社の申請を却下。オクロ社はその約9か月後、「オーロラ」の将来的な許認可手続きが効率的かつ効果的に進められるよう、NRCとの事前の協議活動を提案する「許認可プロジェクト計画(LPP)」をNRCに提出している。SODIとの今回の合意について、オクロ社のJ.デウィットCEOは、「追加の2基を建設する地域も決まり、当社は今後『オーロラ』の商業化計画を加速していく」と表明。初号機の立地点としてINLの利用が許可された後、2020年2月にINLが初号機用燃料として、使用済燃料から回収した物質の提供を確約したことから、「当社は先進的原子炉の許認可と建設で主導的立場にある」と強調している。(参照資料:オクロ社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの5月18日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 26 May 2023
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米エネ省 マイクロ原子炉開発で冷却材試験実施へ
米エネルギー省(DOE)の原子力局(NE)は5月22日、開発中のマイクロ原子炉「MARVEL」で使用する冷却材の挙動を試験するため、傘下のアイダホ国立研究所(INL)で昨年製造した実物大のプロトタイプ「PCAT」をペンシルベニア州の民間企業施設に移送した。この民間企業、クリエイティブ・エンジニアズ社(CEI)は製品製造工程の改善・開発を専門としている。DOEは早ければ7月にも同施設で「PCAT」の冷却材試験を開始するが、「MARVEL」が起動するまでの間、さらなる試験やシミュレーションを行うため、「PCAT」は同施設内に留め置かれる。それ以降DOEは「PCAT」をINLに戻し、マイクロ原子炉技術の一層の進展を目指して研究開発を継続する方針である。INLで約40年ぶりの新規試験炉となる「MARVEL」については、エネルギーを電力に変換するエンジンなど、長納期品の製造がすでに始まっている。「MARVEL」の正式名称は、「Microreactor Applications Research Validation and EvaLuation(マイクロ原子炉の適用に関する研究検証と評価)」。DOEは2021年4月、2050年までにCO2排出量の実質ゼロ化を目指す米国の地球温暖化防止取り組みの一つとして、電気出力100kWのマイクロ原子炉を建設するという「MARVELプロジェクト」を始動した。その際、「2024 年末までにINLの過渡事象試験(TREAT)施設内でマイクロ原子炉の運転を開始し、INL内の小規模電力網に接続する」と表明していた。「MARVEL」炉は燃料としてHALEU燃料(U235の濃縮度が5~20%の低濃縮ウラン)を、冷却材として液体金属のナトリウムカリウム合金を使用。エネルギーを100kWの電力に変換する際は、既存技術のスターリング・エンジン((19世紀初頭に開発された外燃機関の一種。シリンダー内に水素等の気体を封入し、外部から加熱・冷却を繰り返してピストンを作動させるエンジン。))を活用する予定である。完成すれば、同炉はマイクロ原子炉専門の規制承認プロセスの策定や、リモート操作によるモニタリング・システムの評価、自動制御技術の開発等に貢献。DOEはまた、海水の淡水化や地域暖房用の熱生産など、同炉の様々な適用可能性を探る試験を実施する。同炉のプロトタイプ「PCAT」は一次冷却材試験装置(primary coolant apparatus test)の略称で、核分裂反応の代わりに電気加熱で発熱を模擬。高さ約3.6m、重さは900kg以上あり、CEI社はペンシルベニア州ニュー・フリーダムにある同社の製造施設内で、「PCAT」を2段組みの支持構造体の中に設置した。今後DOEは同装置にナトリウムカリウム合金や鉛ビスマスを冷却材として充填する計画で、冷却材の流量や温度といった熱流動関係のデータを集め、「MARVEL」のモデリングやシミュレーションに使用するツールの精度を上げていく。これらは、「MARVEL」が想定通りに機能することを確実にする重要ステップだと説明している。(参照資料:DOEの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの5月23日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 24 May 2023
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米国とカナダ SMR等の使用済燃料管理で協力強化
米エネルギー省(DOE)とカナダの核燃料廃棄物管理機関(NWMO)は5月16日、小型モジュール炉(SMR)から出る使用済燃料も含め、その安全な管理で両者間の協力を強化するため、協力の主旨を記した文書(SOI)に調印した。両国はともに、原子力発電所の使用済燃料を再処理せず直接処分する方針であり、同SOIを通じて、地元の合意に基づく処分場の立地プロセスや科学技術プログラムに関する情報を交換、技術調査も共同で実施する。また、人材の交流や相互訪問プログラムの基盤作りを行って、双方の実地体験で得られたノウハウを共有していく方針だ。カナダでは2010年からNWMOが最終処分場のサイト選定プロセスを開始しており、受け入れに関心を表明した22地点を2019年末までに2地点まで絞り込んだ。2024年の後半に、最終処分場サイトを選定する計画だ。両国による今回のSOI調印は、米ワシントンDCにあるカナダ大使館で、DOEのK.ハフ原子力担当次官補とNWMOのL.スワミ理事長兼CEOが行った。米国のJ.バイデン大統領が今年3月にカナダを公式訪問した際、両国がともに安全・確実なエネルギー供給システムの構築というビジョンを共有していることから、DOEとカナダ連邦政府の天然資源省(NRCan)は原子力関係の協力を強化していくことを確認した。その際発表した共同声明で、両国は原子力協力を通じてCO2排出量を実質ゼロ化し、クリーン・エネルギー社会に移行していくと宣言。また、ロシアのウクライナへの軍事侵攻や気候変動の影響により、エネルギーを巡る世界情勢は根本的に変化しており、同じ考えを持つ同盟国同士が今以上に連携を強める必要があるとした。原子力は信頼性の高い低炭素エネルギーとして安価に供給が可能。米加両国はSMRも含めた先進的原子力技術こそ、CO2を排出せずに世界中の経済成長に貢献し、エネルギー供給を保証する機会になると考えている。このような技術を牽引する主導国として、両国はこれらの技術が核不拡散を順守しつつ、世界中で安全・確実に採用されていくよう保証する責任を負っている。また、地元の合意に基づいた放射性廃棄物の長期的な管理も両国に共通するビジョンの一部であり、原子力への支持や信頼を勝ち取るための基盤でもある。このため、米加両国は原子力発電所の安全確保や核不拡散等で最も厳しい基準を順守しつつ、世界中で先進的原子力技術の利用を促していくため、緊密に連携しながら新興市場に進出したいとしている。NWMOのL.スワミ理事長兼CEOは、「20年以上にわたりNWMOは受け入れ候補の自治体らと協議を重ね、使用済燃料を安全かつ長期的に管理するための革新的技術を研究開発してきた」と指摘。このような技術を、米国のような国際パートナーと共有することを切望すると述べた。DOEのK.ハフ原子力担当次官補は、「米国は現在、合意ベースの立地プロセスを策定中なので、一層確実なアプローチの構築に向けて、カナダのノウハウも含め様々な観点から情報を得たい」と表明している。(参照資料:NWMOの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの5月17日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 22 May 2023
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米五大湖のクリーン水素連合 DOEの水素製造プログラムに申請
米国の「五大湖クリーン水素製造ハブ連合(GLCH)」は5月2日、原子力発電所を活用した水素の製造計画で米エネルギー省(DOE)の「地域のクリーン水素製造ハブ(Regional Clean Hydrogen Hubs: H2Hub)」プログラムから支援金を得るため、正式な申請書を提出した。これは、GLCHに所属する北米最大の圧延平鋼メーカー、クリーブランド・クリフス社が同日明らかにしたもの。申請書は同連合の代表企業であり、製造業用のガスを各種提供しているリンド社が提出した。GLCHの計画では、同じくGLCH所属のエナジー・ハーバー社がオハイオ州で運転するデービスベッセ原子力発電所(PWR、95.3万kW)でクリーンな水素の製造ハブを構築し、五大湖周辺の同州とミシガン州、および一部のペンシルベニア州とインディアナ州に低価格で提供する。GLCHにはこのほか、航空機用のジェットエンジンや関係機器を製造するGEエアロスペース社、オハイオ州のトレド大学、ガラス産業協会(GMIC)が参加している。米国のJ.バイデン政権は2035年までに発電部門を100%脱炭素化し、2050年までにCO2排出量を実質ゼロ化する方針。産業部門の革新的な技術を用いたクリーンな水素の製造はこれに向けた戦略の一つであり、2021年の「インフラ投資雇用法」に基づいている。水素の製造ハブ用に拠出される80億ドルのうち、70億ドルがDOEのH2Hubプログラムに充当されており、DOEは同プログラムで全米の6~8か所にクリーンな水素の製造ハブを設置し、各地域における水素の製造業者と消費者、接続インフラを結ぶネットワークの基盤構築を目指している。DOEは2022年11月、同プログラムへの応募を検討している各州の水素製造団体に製造概念の説明書を提出するよう要請しており、GLCHをふくむ79の団体がこれに応じた。GLCHによると、20億ドル以上の投資を必要とする同計画では、原子力発電所の電力を使った水の電気分解により、一日100トン以上の水素を最短時間でフル生産するとしており、商業的にも実行可能という。この投資額の約半分を連邦政府のプログラムから調達して、中西部の五大湖周辺州でトラックや通勤用の短距離バス、鉄道、航空、航海など、大規模産業が必要とするクリーンな水素をパイプラインと道路輸送で提供。脱炭素化への移行を支援するとともに、関係者間の連携協力や投資、雇用の創出等を通じて、地元コミュニティの中でも不利な条件下にある自治体に利益をもたらしていく。この計画についてはDOEが今年1月、有望プロジェクト33件の一つに選定しており、GLCHに対し正式な申請書を提出するよう促していた。同計画ではまた、オハイオ州のM.デウィン知事と同州選出の複数議員、ミシガン州のG.ホイットマー知事も含め、両州の自治体や労働組合、教育機関、経済開発組織などが支持を表明。GLCHはこのような支持者に加えて、水素の消費者や関係技術のサプライヤー、国立研究所、学術機関、NGOなどとも緊密に協力し、化石燃料をクリーンな水素に置き換えていきたいとしている。(参照資料:クリーブランド・クリフス社、DOEの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの5月4日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 11 May 2023
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米DOEの水素製造プログラムに南東部州連合が申請
米国南東部に位置する7州の「水素製造拠点(ハブ)連合」は4月11日、エネルギー省(DOE)の「地域のクリーン水素製造ハブ(H2Hub)」プログラムに、7日までに正式な申請書を提出していたことを明らかにした。同プログラムは、DOEが全米6~10カ所にクリーンな水素の製造ハブを設置するために進めているもので、各地域における水素の製造業者と消費者、接続インフラを結ぶネットワークの基盤構築を目指し、莫大な量のクリーン・エネルギーを貯蔵・配送できる水素の利用加速がねらい。同プログラムはまた、クリーン・エネルギー開発への投資やそれにともなう高レベルな雇用の創出、エネルギーの供給保証強化を通して、全米のコミュニティが恩恵を被る。DOEは今秋にも、申請者の中から連邦政府予算の交付対象者を選定し、同プログラムの拠点とする考えだ。 「南東部州水素製造ハブ連合」の7州は、アラバマ州、ジョージア州、ノースカロライナ州、サウスカロライナ州、テネシー州、ケンタッキー州、およびミシシッピー州。同連合には、これらの州を中心に原子力発電所を運転中のサザン社、デューク・エナジー社、ドミニオン社、テネシー峡谷開発公社(TVA)のほか、ルイビル・ガス&エレクトリック社、ケンタッキー・ユーティリティーズ社、および非営利研究機関のバッテル研究所が所属している。J.バイデン政権は、2035年までに発電部門を100%脱炭素化し、2050年までにCO2排出量の実質ゼロ化を達成する方針。これに向けた戦略として、DOEは産業部門の革新的な技術を用いた水素の製造や精製、配送・貯蔵と最終消費を推進中だ。2021年の「インフラ投資雇用法」に基づいて、クリーンな水素の製造ハブ計画に拠出される80億ドルのうち、70億ドルを「H2Hub」プログラムに投じている。DOEは2022年11月、同プログラムへの応募を検討している各州の水素製造団体に「概念文書」の提出を求めており、「南東部州水素製造ハブ連合」を含む79の団体がこれに応じた。同年12月にDOEは、そのうち33団体に対し、2023年4月7日までに最終申請書を提出するよう通知。これに含まれていた同連合が今回、「H2Hub」プログラムに正式に応募したもので、7州の地域コミュニティや輸送部門、発電部門の消費者が、脱炭素化に向けてクリーンな水素による持続可能なエコシステムを構築する計画である。同連合の応募については、7州のうち5州で選出された超党派の上院議員9名が強い支持を表明しており、今年2月にはDOEのJ.グランホルム長官に、連名で書簡を送付。「南東部州水素製造ハブ連合」の所属州では、輸送や物流、エネルギー、製造、研究に関する主要インフラが集中しており、DOEが同連合を連邦政府予算の交付先に選定すれば、同連合の成長を長期的に支援していくと約束している。(参照資料:サザン社、デューク・エナジー社、TVA、DOEの発表資料、上院議員連名書簡、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの4月13日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 14 Apr 2023
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米ナインマイルポイント発電所で水素製造を開始
米国のコンステレーション・エナジー社は3月7日、ニューヨーク州北部で保有するナインマイルポイント(NMP)原子力発電所(BWR×2基、60万kW級と130万kW級)で、米国初となる水素の実証製造を開始した。同発電所では、ノルウェー企業が製作した「プロトン交換膜式(PEM)電解槽(0.125万kW)」で、一日当たり560kgの水素を製造する。発電所の冷却等に使用する水素としては十分な量だが、同社は2025年までに9億ドル以上の投資を行って商業規模の水素製造を実現し、同社のその他の原子力発電所でも水素を製造・貯蔵・活用する方針。米国社会がクリーンエネルギー経済に向かって移行するなか、原子力発電所の無炭素電力を活用したクリーンな水素の製造能力を実証するとしている。この実証プロジェクトは、同社が進めている幅広い脱炭素化戦略の一部。水素の大規模製造が成功すれば、次世代のエネルギーとして脱炭素化が難しい航空業界や長距離の輸送業、鉄鋼生産業、農業などの脱炭素化に貢献できると同社は考えている。コンステレーション・エナジー社はこのため、地方での水素製造から流通ハブの開発に至るまで、各段階に関わる国営や民営の事業体と連携協力を進めている。米エネルギー省(DOE)は昨年、水の電気分解で水素製造するシステムをNMP発電所に建設・設置するという同社の計画を承認し、「H2@Scaleプログラム」の中から580万ドルの補助金交付を決定した。同プログラムはDOEのエネルギー効率・再生可能エネルギー局(EERE)と水素・燃料電池技術室が進めているもので、水素を適正な価格で製造・輸送・貯留・活用できることを実証し、様々な産業部門の脱炭素化促進を目指している。同社の発表によると、9億ドルの投資計画の中には、DOEとの連携協力により水素製造インフラの開発プロジェクトを進めている「中西部州クリーン水素連合(MachH2)」や「北東部州クリーン水素ハブ」、「中部大西洋地域水素ハブ」に参加することも含まれている。コンステレーション・エナジー社のJ.ドミンゲス社長兼CEOは、「水素利用は温暖化問題の解決に不可欠のツールであり、当社は原子力発電所の無炭素電力活用が最も効率的かつコスト面の効果も高いことをNMP発電所で実証する」と表明。DOEとともにクリーンエネルギー関係の雇用を創出し、米国のエネルギー供給保証を強化しつつ、化石燃料に依存する多くの産業界について脱炭素化への道筋を原子力で開きたいと述べた。DOEのK.ハフ原子力担当次官補は今回、「既存の原子力発電所での水素製造が可能であることが明らかになった」と指摘。DOEは引き続き、2021年11月の「インフラ投資法」と2022年8月の「インフレ抑制法」に基づいて開始した投資を継続し、低価格な水素の提供に向けた費用分担方式のプロジェクトを支援する。水素市場を一層拡大するとともに、経済面や環境保全面における原子力の利点をさらに活用していくもの。なお、DOEはNMP発電所のほか、オハイオ州のデービスベッセ原子力発電所とミネソタ州のプレーリー・アイランド原子力発電所、およびアリゾナ州のパロベルデ原子力発電所で行われている水素製造実証プロジェクトに対しても、支援を提供中。米国では現在、水素の約95%を天然ガス火力発電所でのガス改質法によって製造しており、製造過程でCO2を排出している。DOEとしては100万kW級の原子炉一基で、電解法により年間最大15万トンの水素をCO2を排出せずに製造できると見込んでいる。(参照資料:コンステレーション・エナジー社、DOEの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの3月8日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 13 Mar 2023
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西村経産相が訪米 SMR開発を含めDOEと共同声明
西村康稔経済産業相は1月5~9日、米国を訪問。日本がG7議長国を務める年の幕開けに際し、「様々な通商・国際経済アジェンダについて、日本が議論をリードしていく必要がある」との考えのもと、ジェニファー・グランホルム・エネルギー省(DOE)長官ら、米国政府関係者と会談を行った。〈資源エネルギー庁発表資料は こちら〉西村経産相は1月9日、グランホルムDOE長官と会談し、世界のエネルギー安全保障を取り巻く状況を踏まえ、昨夏に立上げが合意された原子力協力を始めとする「日米クリーンエネルギー・エネルギーセキュリティ・イニシアティブ」(CEESI)の強化について議論し共同声明を発表。DOEは、先般、日本政府が取りまとめた「今後の原子力政策の方向性と行動指針案」の重要性に留意。経産省とDOEは、小型モジュール炉(SMR)を含む次世代革新炉の開発・建設など、原子力協力の機会をそれぞれの国内および第三国において開拓する意向を示した。また、既設炉を最大限活用するとともに、同志国の間でのウラン燃料を含む原子力燃料および原子力部品の強靭なサプライチェーン構築に向けて取り組むとした。外交筋の報道によると13日に予定される日米首脳会談で、こうしたエネルギー協力に係る方向性が確認される見通しだ。
- 12 Jan 2023
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BWXT社 マイクロ原子炉用TRISO燃料を製造開始
米国のBWXテクノロジーズ(BWXT)社は12月7日、国防総省(DOD)が軍事作戦用に建設を計画している米国初の可搬式マイクロ原子炉の燃料として、HALEU燃料((U235の濃縮度が5~20%の低濃縮ウラン))を3重に被覆した燃料粒子(TRISO)の製造をバージニア州リンチバーグの施設で開始したと発表した。BWXT社は、バブコック&ウィルコックス(B&W)社が2015年に分社化した原子力機器・燃料サービスの企業で、米国政府の原子力事業にも対応。同社が開発した第4世代の先進的高温ガス炉(HTGR)は今年6月、DODのマイクロ原子炉の実証計画である「プロジェクトPele」で建設する電気出力0.1万~0.5万kWの原型炉として複数候補の中から選定され、2024年までにエネルギー省(DOE)傘下のアイダホ国立研究所(INL)内に設置される予定。「プロジェクトPele」のマイクロ原子炉では、標準サイズのコンテナで輸送可能であること、防御力の低い化石燃料輸送の削減などを目指しており、災害への対応/復旧や遠隔地域における発電等で電力を供給することを想定している。同プロジェクトの非営利性に鑑み、DODの戦略的能力室(SCO)はマイクロ原子炉の建設や実証実験ではエネルギー省と連携し、その権限下でプロジェクトを進める方針。同プロジェクトでBWXT社は、同社とSCOの契約を実行・管理するINLから3,700万ドルの交付を受け、「プロジェクトPele」の原型炉やTRISO燃料を製造する。BWXT社はまた、その他の先進的原子炉や、米航空宇宙局(NASA)が火星の有人探査で使用する先進的原子炉にも、特別な被覆を施した燃料を提供する予定である。同社のTRISO燃料製造施設は現時点で唯一、HEUの保有と処理を許可された民間施設だが、同社は2020年7月、DODとNASAで今後必要になるTRISO燃料の供給に向けて、既存のTRISO燃料製造ラインの改造契約と、製造能力を拡大するための契約をINLから獲得。今年1月にはその修正契約に基づいて、DODの「運用エネルギー性能向上基金(OECIF:Operational Energy Capability Improvement Fund)」とNASAから支援金を受領、TRISO燃料の製造能力を拡大していた。DOEはTRISO燃料について「地球上で最も耐久性に優れた燃料」と評価、エネルギー密度の高い同燃料の粒子は高温に耐え、先進的小型原子炉の運転を可能にすると指摘した。計画では、米国政府が保有する高濃縮ウラン(HEU)を希釈してHALEU燃料に変え、BWXT社のリンチバーグ施設でTRISO燃料を製造する。DOEのK.ハフ原子力担当次官補は、「次世代原子炉の燃料としてTRISO燃料は理想的であり、米国がクリーンエネルギーへの移行を成し遂げるにも不可欠だ」と表明。DOEが数十年にわたって投資してきた同燃料が、この10年以内に建設される先進的原子炉の生産エネルギーとなり、安全面で優れたパフォーマンスを発揮することを期待すると述べた。BWXT社のR.ゲベデン社長兼CEOは、「優れた性能を持つ先進的な原子燃料によって、次世代原子炉の実現が可能になる」と強調。DODの「プロジェクトPele」およびNASAの宇宙探査用に、本格的なTRISO燃料およびその他の被覆燃料の製造が開始できたことは栄誉であると述べた。(参照資料:BWXT社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの12月8日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 12 Dec 2022
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米エネ省 ディアブロキャニオン発電所に早期閉鎖防止プログラムを適用
米エネルギー省(DOE)は11月21日、カリフォルニア(加)州で数年後に閉鎖が予定されていたディアブロキャニオン原子力発電所(DCPP)(各PWR、約117万kW×2基)について、条件付きで「民生用原子力発電クレジット(CNC)プログラム」の初回の適用対象に認定したと発表した。これら2基の運転期間の5年延長に向けて、DOEは同プログラムから最大約11億ドルを拠出するが、最終的な金額は実額に基づいて、年ごとの提供期間の満了時に確定する。この決定により、DCPPの運転継続の道が拓かれたとDOEは指摘している。総額60億ドルのCNCプログラムは、2021年11月に成立した「超党派のインフラ投資・雇用法」の下、早期閉鎖のリスクに晒されている商業炉を救済し、関係雇用を維持するとともにCO2排出量を抑える目的で設置された。DOEが適格と認定した商業炉に対しては、認定日から4年にわたり一定の発電量毎に一定の行使価格を設定したクレジットを付与。クレジットの合計数に応じて支援金を支払う仕組みで、DOEはプログラム資金に残金がある限り2031年9月までクレジットを付与していく。DOEの発表によると、同プログラムによる初回の支援金は少し前に実施したパブリック・コメントの結果から、最も差し迫った閉鎖リスクに晒されている商業炉に優先的に交付される。2回目については、経済的理由により今後4年以内の閉鎖が見込まれる商業炉が交付対象であり、2023年1月から申請を受け付ける。DCPPの2基は年間160億kWhの電力を発電しており、加州のベースロード電源として総発電量の8.6%を賄うほか、無炭素電力では約17%を賄っている。同発電所を所有するパシフィック・ガス&エレクトリック(PG&E)社は2016年6月、電力供給地域における需要の伸び悩みと再生可能エネルギーによる発電コストの低下から、これら2基を現行運転認可の満了に合わせて、それぞれ運転開始後40年目の2024年11月と2025年8月に永久閉鎖すると発表。2009年に原子力規制委員会(NRC)に提出していた運転期間の20年延長申請も、2018年3月に取り下げている。加州の公益事業委員会(CPUC)は2018年1月にこの閉鎖計画を承認したものの、2020年の夏に同州は記録的な熱波に襲われ、G.ニューサム知事は停電を回避するための緊急事態宣言に署名。今年も熱波と電力需給のひっ迫が懸念されたことから同様の宣言を発出しており、州議会の議員に「DCPPの運転期間を5~10年延長することは加州のエネルギー・システムの信頼性を確保し、CO2排出量を最小限化する上で非常に重要」とする法案(上院846号)の案文を配布した。この法案は今年9月にニューサム知事の署名により成立しており、PG&E社は同法の指示に従ってDOEのCNCプログラムにDCPPの適用を申請した。加州政府はまたDCPPの運転期間延長にともなう経費として、同州水資源省からPG&E社に最大14億ドル融資することを10月に承認している。DOEの今回の決定についてPG&E社のP.ポッペCEOは、「すべての加州民に信頼性の高い電力供給を保証するDCPPの運転期間延長に向けて、また一歩大きく前進した」と指摘。「今後複数年の手続きの中で連邦政府や州政府から承認を得なければならないが、米国でもトップクラスの運転実績を残してきたDCPPで安全性を確保しつつ、低コスト・低炭素な電力を引き続き州民に提供していきたい」と述べた。DOEのJ.グランホルム長官は、「米国最大の無炭素電源である原子力発電所で信頼性の高い安価な電力を提供し続けるための重要なステップ」と表明。「原子力はJ.バイデン大統領が掲げる目標--2035年までに電力部門を100%カーボンフリーとし2050年までに米国経済のCO2排出量を実質ゼロ化する--を達成する上で非常に有効であり、クリーンエネルギーに対するこのように重要な投資を通じて、原子力発電所とその電力供給地域を守ることができる」と指摘している。(参照資料:DOE、PG&E社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月22日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 22 Nov 2022
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COP27:「フェアな移行こそアメリカの流儀」米DOEグランホルム長官が産業界に呼び掛け
COP会場内の特設会議場で11月16日、米原子力エネルギー協会(NEI)、カナダ原子力協会(CNA)、世界原子力協会(WNA)、欧州原子力産業協会(Nucleareurope)、日本原子力産業協会など原子力産業界6団体主催のセッションが開催された。セッションに先立ち、米エネルギー省(DOE)のジェニファー・グランホルム長官がサプライズで登場。米テラパワー社のクリス・レベスクCEOが聞き手となり、約20分の対談セッションが開催された。長官は、インフレ抑制法を通じてDOEは原子力を対象に長期運転:既存炉の早期閉鎖を防止するため、閉鎖予定の発電所を対象に計60億ドルの「民生用原子力発電クレジット(CNC)プログラム」の実施次世代炉:次世代炉の国内外への展開を見据え、実証プログラムに25億ドルを投資新規建設:投資税額と生産税額を控除し、新設プロジェクトに価格競争力を供与──の3つのインセンティブを付与してきたとし、既存炉同様に新規炉に対しても厳しい規制要件を適用し、「高いハードルを乗り越えたプラントであれば生き残ることが出来る」との考えを示した。また最近発表されたポーランドへの米ウェスチングハウス社製原子炉「AP1000」の輸出について言及し、 400 億ドル規模のプロジェクトだと指摘。「ポーランドに雇用とエネルギーセキュリティをもたらすだけでなく、米国内にも莫大な雇用を生む、Win-Winのパートナーシップ」と強調した。そしてサプライチェーンの再構築が課題とし、「HALEU燃料((U235の濃縮度が5-20%の低濃縮ウラン))のように国内での開発体制を強化する」だけでなく、グローバルなサプライチェーンと信頼できるパートナー関係を築きたいとの強い意欲を示した。そしてウクライナへの侵攻でロシアが信頼できるパートナーではないことが明らかになった現在、新規原子力導入国については123協定および国際原子力機関(IAEA)による査察下に置くことで、核不拡散体制を担保していくと明言した。一方で、12日に米国のジョン・ケリー特使が「プロジェクト・フェニックス」と呼ばれる新しいイニシアチブを発表した件にも言及。これは、欧州での石炭火力発電所から SMR への移行を加速させると同時に、労働力の再訓練を通じて地元の雇用を維持する計画で、米国務省によると、中・東欧諸国のエネルギーセキュリティを支援するために、石炭から SMR への移行可能性調査などを米国が直接支援するものとされている。グランホルム長官は、「石炭から(原子力へ)フェアに移行すること。導入した国の人々が良い収入を得られる施設できちんと雇用されること。これこそが私たちが最も大切にしていることで、アメリカの歴史を支えてきた手法」だと強調。そして原子力産業界6団体へのメッセージとして、「DOEがインセンティブを用意しました。ぜひ一緒にやりましょう!(So let's just do it!)」と力強く呼び掛けた。
- 17 Nov 2022
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米エネ省 HALEU燃料の製造能力実証でセントラス社に補助金交付
米エネルギー省(DOE)は11月10日、開発中の多くの先進的原子炉で使用が見込まれているHALEU燃料(([U235の濃縮度が5~20%の低濃縮ウラン]))の製造能力を実証するため、セントラス・エナジー社(旧・米国濃縮会社)の子会社であるアメリカン・セントリフュージ・オペレーティング(ACO)社に費用折半方式の補助金、約1億5,000万ドルを交付すると発表した。この実証計画は、DOEが2019年11月に濃縮カスケードの実証でセントラス社と結んだ3年契約に基づいており、DOEは2020年のエネルギー法で承認された「HALEU燃料の入手プログラム」に沿って、同燃料を製造する複数の方法を模索中。今回の補助金のうち、初年の分担金である3,000万ドルは、オハイオ州パイクトンにあるセントラス社のウラン濃縮施設に、新型遠心分離機「AC100M」16台を連結したHALEU製造用カスケードを配備し、これを起動・運転するために活用される。ACO社は現段階で「AC100M」の製造を終え、組み立て作業も概ね完了しているが、実証用カスケードに遠心分離ローターを設置する作業がまだ終わっていない。同社はこのような最終段階の作業を完了してから、実証カスケードの起動準備状態をレビューする方針である。これにより、2023年12月末までに濃縮度19.75%のHALEU燃料を20kg製造できるようUF6ガスの濃縮要件をクリアしていくほか、2024年も年間製造能力900kgのペースで運転を継続する。ただしその際は、議会からの予算配分と今後の契約に基づいた追加製造オプションが必要になるとしている。 DOEの説明によると、HALEU燃料は先進的原子炉の設計を一層小型化するとともに運転サイクルを長期化し、運転効率を上げる際にも必要な重要物質。第4世代の小型高温ガス炉を開発しているX-エナジー社は今年10月、この設計に使用する3重被覆層・燃料粒子((HALEU燃料に黒鉛やセラミックスを被覆したTRISO燃料))の商業規模製造施設の起工式をテキサス州オークリッジで開催したが、現時点で米国内ではHALEU燃料を商業規模で製造できるサプライヤーは存在しない。このような状況は、米国の先進的原子炉開発とその建設に大きな支障をきたすとDOEは認識しており、商業規模の大型HALEU燃料製造施設を国内で建設することにより、一層多くの世帯や企業にクリーンで安価な原子力エネルギーを供給できると考えている。このことはまた、J.バイデン大統領が目標に掲げた「2035年までに電力を100%クリーン化」の達成にも重要な貢献をするほか、連邦政府のクリーンエネルギー投資から得られる利益の少なくとも40%を、経済的に不利な立場にある地域コミュニティに還元する取り組み「Justice40」を通じて、一層多くの経済的機会をこれらのコミュニティに提供できるようになるとしている。DOEのJ.グランホルム長官は、「敵対国が供給するHALEU燃料への依存を減らし、自前のサプライチェーンを国内で構築すれば、米国は数多くの先進的原子炉を配備し国民にクリーンで安価な電力を今以上に供給可能になる」とコメント。「今回の実証計画を通じて、DOEは産業界のパートナーとともに、クリーンエネルギー関係の雇用創出につながる商業規模のHALEU燃料製造に向けて動き出しており、すべての米国民が原子力の恩恵を被れるようにしたい」と述べた。DOEによると、今回交付した補助金はHALEU燃料製造能力の実証に向けた米国の近年の投資をさらに前進させるものであり、次の段階ではバイデン大統領が今年8月に成立させたインフレ抑制法の予算措置により、HALEU燃料製造能力獲得のための活動を支えていく。DOEは2020年代末までに必要とされるHALEU燃料は40トン以上と予測しているが、バイデン政権の「電力を100%クリーン化する」目標の実現のために先進的原子炉が複数建設されることから、この量は毎年追加されていく見通し。今回の実証計画はHALEU燃料の短期的需要に対応するものだが、長期的には同燃料の認定試験やDOEが別途進めている「先進的原子炉設計の実証プログラム(ARDP)」にも活かされると指摘している。(参照資料:DOEの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月11日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 15 Nov 2022
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COP27:原子力パビリオンがオープン
COP27の4日目となる11月9日、COP会場内にある国際原子力機関(IAEA)のパビリオンが正式にオープンし、グランドセレモニーが開催された。「#Atoms4Climate」と題したパビリオンではCOP会期中に、気候変動対策に原子力がどのように貢献できるかをメインテーマに、IAEAを中心に世界原子力協会(WNA)、米原子力エネルギー協会(NEI)、カナダ原子力協会(CNA)、欧州原子力産業協会(Nucleareurope)、日本原子力産業協会などが運営するさまざまなサイドイベントを開催する。朝10時のセレモニー開始に先立ってパビリオンに姿を現したグロッシー事務局長は、会場に詰めかけた聴衆ひとりひとりと握手し、来場に感謝の言葉を述べた。セレモニー冒頭で自身が出演するPRビデオで、地球温暖化による海面上昇に苦しむフィジーの現状が紹介されると、事務局長は「このビデオにある通り、気候変動は現実の出来事である。これに対し我々は原子力テクノロジーで立ち向かうことを宣言し、シャルム・エル・シェイクに原子力のパビリオンを設立することにした」と力強く挨拶した。事務局長は、パビリオンの協力機関に世界気象機関(WMO)や国連食糧農業機関(FAO)らも名を連ねていることを強調した上で、「気候変動対策への原子力の貢献に対する期待の表れ」であると指摘。将来世代を考えると「地球温暖化に対して楽観主義で対応するわけにはいかない」と強い決意を表明した。セレモニーでは続いてガーナ・エネルギー省のプレンペー大臣が登壇。大臣は「ガーナは原子力エネルギー機関を設立し、クリーンで安全で持続可能なエネルギー開発を進め、原子力シェア50%のネットゼロ社会を目指したい」と挨拶した。そのほか米エネルギー省のハフ原子力担当次官補が、ケニアとの革新炉導入プロジェクトについて紹介したほか、前述のWMOやFAOが登壇。WMOのタラス事務局長は、エネルギー部門がGHGの最大の排出者であり、輸送及び電力部門の85%は化石燃料であることから、「原子力がソリューションのカギ」と指摘した。FAOのセメド事務次長は「GHG排出量の1/3は農業由来」とした上で、原子力は食糧不均衡を是正するカギとなるだけでなく、放射線利用によって「食糧の収穫量増大と安全性改善に多大な貢献をする」との認識を示した。原子力産業界からは世界原子力発電事業者協会(WANO)のアル・ハマディ理事長、NEIのコーズニックCEOらが登壇した。セレモニーの最後にグロッシー事務局長は「気候変動対策で誰一人取り残さない社会のために、原子力を活用しよう」と呼びかけ、新たなイニシアチブ「#Atoms4NetZero」を発表した。
- 10 Nov 2022
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米エネ省 使用済燃料のリサイクル技術開発に3,800万ドル支援
米エネルギー省(DOE)のエネルギー高等研究計画局(ARPA-E)は10月21日、原子力発電所の使用済燃料をリサイクルし、有効活用する技術の開発を促進するため、「使用済燃料の放射性同位体をエネルギーに転換する(CURIE)プログラム」の予算から、合計3,800万ドルを産官学それぞれが実施する12のプロジェクトに交付すると発表した。この支援を通じて、ARPA-Eは使用済燃料の処分にともなう環境影響を軽減し、高レベル放射性廃棄物の保管量を削減、国内で開発されている先進的原子炉用燃料の原材料を提供する。米国の原子力発電所は現在総発電量の約20%、クリーンエネルギーの約半分を賄っているが、使用済燃料から新たに生産されるクリーンエネルギーは7,000万戸以上の世帯に十分な電力を供給できるほか、新型炉向け新燃料の開発や、J.バイデン大統領が提唱する地球温暖化対策や化石燃料への依存削減も可能にするとARPA-Eは強調している。ARPA-Eによると、米国では現在、軽水炉から排出された約8万6,000トンの使用済燃料が全国70か所以上の原子力発電所で安全に保管されているが、この数量は年間約2,000トンずつ増加している。これらの使用済燃料には90%以上のエネルギーが残っているものの、すべて地層処分することが決まっている。このため、ARPA-Eが今年3月に開始したCURIEプログラムでは、使用済燃料から再利用可能なアクチニドを回収し、先進的原子炉の燃料用として効率的かつ経済的にリサイクルすることで燃料利用率を向上させ、地層処分される廃棄物の量や放射能毒性を大幅に削減する。具体的には、アクチニドを分離する革新的な技術や計量管理技術の開発、先進的原子炉の燃料用としてアクチニドのグループ回収が可能な再処理施設の設計などを進める計画。これらを通じて、先進的原子炉の燃料コストとして1セント/kWhを実現することや、使用済燃料の処分コストとして0.1セント/kWhの範囲を維持することを目指している。DOEのJ.グランホルム長官は、「全米の原子力施設で生産される安全で信頼性の高いクリーンエネルギーの利用をさらに加速するには、使用済燃料の実用的な活用方法を開発することが重要と考えている」とコメント。放射性廃棄物のリサイクルでクリーンエネルギーを生み出せれば、使用済燃料の保管量削減のみならず、関係する地域コミュニティの経済基盤の安定化にも貢献できると指摘した。今回の支援金が交付される産官学の12チームとしては以下のものが含まれており、ARPA-Eは核拡散抵抗性の高いアクチニドの分離技術やリサイクル施設での保障措置技術の開発等で、それぞれに約150万ドル~500万ドルを配分する。すなわち、アルゴンヌ国立研究所が実施する「使用済燃料中の酸化物を効率的に金属に転換するプロセス」の開発に490万ドル、キュリオ・ソリューションズ社における「使用済燃料のリサイクル技術『NuCycle』の開発・実証」に500万ドル、米国電力研究所(EPRI)が先進的原子炉の燃料供給用に進めるリサイクル技術開発に約280万ドル、GEグローバル・リサーチ社の「液体廃棄物再処理施設における革新的な保障措置対策開発」に約645万ドルなど。このほか、アラバマ大学やコロラド大学、ユタ大学等における関係技術の開発も対象となっている。(参照資料:ARPA-Eの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月24日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 26 Oct 2022
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米アイダホ研 クリーンエネルギー社会への移行支援で新たな構想を開始
米エネルギー省(DOE)傘下のアイダホ国立研究所(INL)は10月5日、全米の様々なコミュニティがクリーンエネルギー社会への移行に向けて、それぞれに適したエネルギー技術の選択が可能になるよう支援するイニシアチブ「Emerging Energy Market Analysis (EMA)」を5大学と共同で開始した。これまでは、各コミュニティが多数の化石燃料発電所を採用し、大型の原子力発電所や再生可能エネルギーが果たす役割は小さかった。しかし近年、多くのコミュニティがCO2を排出しないクリーンエネルギー社会への移行を模索するようになり、先進的なエネルギー技術が数多く浮上するなかで、確実で持続可能、誰にとっても公平なエネルギー・インフラを選択することが非常に複雑で難しくなっている。このため、INLは地元アイダホ州のボイシ州立大学、アラスカ大学、マサチューセッツ工科大学(MIT)、ミシガン大学、ワイオミング大学と共同で「EMA」を設置した。これらに所属する社会学者や弁護士、エネルギー政策の専門家、エンジニア、科学者とチームを組み、各コミュニティがエネルギーを選択する際の基礎となる社会的条件や財源、関係インフラや能力などを包括的に分析。結果として、「意思決定のための多次元的枠組み」を開発した。「EMA」チームは、最適のエネルギー選択を可能にする主要ツールとしてこの枠組みを使い、様々なエネルギー技術が各コミュニティにもたらす恩恵や課題をリスト化、それぞれに都合の良い時期や場所に合わせてエネルギー選択ができるよう支援する。この枠組みを通じて、エネルギー技術のデベロッパーは実際の建設を始める前に社会的な認可が得られるなど、デベロッパーのみならずコミュニティの政策決定者にとっても有益なものになると強調している。この枠組みの開発に携わったINLの原子力エコノミスト、D.シュロップシャー氏によると、「他の機関と異なり、我々はユーザーが特定のエネルギー技術を評価しようとする際、何を重要視するか、ほかの選択肢とどのように比較するか、また、実際にかかるコストをどうするか等について理解するよう努めている」とのこと。原子力については、これまでの軽水炉も先進炉も、CO2を排出せず安全かつ信頼性が高いという点で非常に有利だが、「EMA」では原子力の評価方法を変えつつある。「以前にも増して原子力の社会的要素を考慮するようになっており、原子力のような技術をコミュニティがどのように受け入れるのか、また、その理由はなぜか等に着目している」と同氏は述べた。INLによると、「EMA」の枠組みはまた、DOEが先進的原子力技術の商業化支援のため実施しているイニシアチブ「原子力の技術革新を加速するゲートウェイ(GAIN)」や、同技術の実証を目的とした「国立原子炉技術革新センター(NRIC)」を補完する役割を担う。炉型等のデベロッパーがそれぞれの炉型の商業化に向けてこれらのプログラムを活用する際、「EMA」は専門的知見をデベロッパーに提供、その技術を市場に出す際の分析・評価等で支援することになる。(参照資料:INLの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月6日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 14 Oct 2022
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米エネ省、中間貯蔵に関心を持つコミュニティに支援金
米エネルギー省(DOE)は9月20日、原子力発電所から出る使用済燃料を管理し中間貯蔵する施設について、地元の合意に基づいた立地プロセスに関心を持つコミュニティを支援するため、合計1,600万ドルの支援金を交付すると発表した。DOEは使用済燃料と高レベル放射性廃棄物(HLW)の長期的処分に関する研究開発を進めているが、その実施にともなう透明性を最大限に高め、管理施設の建設を支援していく方策として、「地元の合意に基づくアプローチ」の形成を推進中。各コミュニティに特有のニーズを満たすことで、使用済燃料の中間貯蔵を実施する方針である。DOEは昨年11月、使用済燃料の中間貯蔵施設立地点の選定に向けて、「地元の合意に基づく立地プロセス」を策定するため、情報提供の依頼書(RFI)を関係するコミュニティやステークホルダーに対して発出した。今月初旬にその結果を公表しており、この立地プロセスを成功裏に進めるには、関係コミュニティと堅固な信頼関係を構築する必要があると表明。今回の支援金交付もRFIで得られた意見を反映している。DOEの計画では、18か月~24か月の間、最大8つのコミュニティに支援金を交付する。交付を受けたコミュニティは、内部で住民らが相互学習を進めるとともに関係情報を容易に入手できるようにし、オープンな議論が可能となる環境作りを目指す。支援金を通じてDOEが推進する主要なタスクは、以下の3分野である。関係コミュニティとステークホルダーが主導的な立場で、使用済燃料管理施設の立地プロセスに関与できるようにする。連邦政府が建設する集中中間貯蔵施設の立地プロセスに、関係するコミュニティとの協力や地元のニーズに基づくフィードバックを反映させるため、公共的な価値や利益、目的などを明確化する。関係コミュニティやステークホルダー、専門家の間で使用済燃料関係の相互学習促進を目指す戦略を策定し、実行していく。米国の民間部門では現在、中間貯蔵パートナーズ(ISP)社とホルテック・インターナショナル社がそれぞれ、テキサス州アンドリュース郡とニューメキシコ州南部で集中中間貯蔵施設の建設計画を進めている。一方、連邦政府は今回の支援においても、同様の施設を自発的に受け入れるサイトを募集しているわけではない。しかし、DOEとしてはこれを皮切りに、この問題に関心を持つコミュニティやステークホルダーらが、地元の合意に基づく立地プロセスについてオープンに話し合い、関わっていくよう促す考えだ。DOEのJ.グランホルム長官は、「信頼性の高い安全な原子力エネルギーを米国内で得ることは、J.バイデン大統領が掲げる(2035年までに米国の電力部門を脱炭素化し、2050年までに米国経済全体でCO2排出量を実質ゼロ化するという)目標を達成する上で非常に重要だ」コメント。今回の予算措置を通じて、使用済燃料を地元の合意ベースで貯蔵する最良の解決策について、関係するコミュニティと建設的な協議を重ねていきたいと述べた。(参照資料:DOEの発表資料、原産新聞・海外ニュース、ほか)
- 22 Sep 2022
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米エネ省調査:「石炭火力の原子力への転換でCO2排出量実質ゼロ化に有効」
米エネルギー省(DOE)の原子力局(NE)は9月13日、米国内で閉鎖された石炭火力発電所を、先進的原子炉等でリプレースした場合の課題とメリットについて、調査報告書を発表した。報告書は、前時代に「電化を通じて米国経済の構築に貢献した」数百もの石炭火力発電所を、原子力発電所に置き換えること(coal-to-nuclear =C2N )は十分可能であり、これにより確実で需要調整力の高いクリーン電力の供給量が大幅に増加すると指摘。米国が2050年までにCO2排出量の実質ゼロ化を達成する上でも、大きな効果があると強調している。この報告書は、DOE傘下の(アルゴンヌ、アイダホ、オークリッジ)3つの国立研究所が実施した調査をもとにNEがまとめたもので、「C2Nへの移行」にともなう3つの全体的な課題、①閉鎖済みの石炭火力発電所が米国内のどこに所在し、どのようなファクターが原子力への移行を可能にするか、②採用炉型やコスト、建設スケジュール等、投資家に建設プロジェクトへの投資を決断させるファクターは何か、③「C2Nへの移行」が地元コミュニティにどのような影響を及ぼすか――を取り上げている。国立研究所の調査チームはすべての石炭火力発電所の特性を精査して、C2N候補となる157の閉鎖済みサイトと237の運転中サイトを特定。これらをさらに、人口密度や地震断層からの距離、洪水の可能性など10項目のパラメーターで、原子力発電所の安全な運転が可能であるか評価した。その結果、同チームはこれらの80%が様々な規模やタイプの先進的原子炉の立地に必要な基本的特性を備えていると分析。閉鎖済みの125サイトで新たに計6,480万kW、運転中の190サイトでは計1億9,850万kWの原子力発電設備容量が設置可能だと結論付けた。現在米国では、約9,500万kWの原子力発電設備で無炭素電力の約半分を供給しているが、C2Nへの移行にともない、無炭素電源の設備容量を3億5,000万kW以上に拡大できると強調している。同報告書はまた、「C2Nへの移行」を通じて石炭火力の地元コミュニティでは、新たな雇用や経済活動が生み出され、環境条件も改善されると指摘。このような恩恵は、化石燃料発電による大気汚染で不利益を被ったコミュニティでは特に重要だと述べた。調査チームの計算では、ケーススタディとして出力120万kWの石炭火力発電所をほぼ同じ規模の原子力発電所((ニュースケール・パワー社製の出力7.7万kWのSMR×12基を使用。原子力の設備利用率の高さを考慮して出力は低めに設定。))でリプレースした場合、用地や送電網、事務棟、電気機器設備など石炭火力のインフラ設備を再利用できるため、更地に建設するケースに比べ原子力発電所の建設コストは15%~35%削減されるという。地元コミュニティでは年間2億7,500万ドルの追加的な経済効果が発生するとともに、新たに650名以上の常勤雇用が創出される。地元コミュニティには石炭火力発電所に勤務していた熟練の人材が残されており、新たな原子力発電プロジェクトではノウハウとスキルが豊富な地元の労働力を活用できる。環境面の利点としては、原子力発電へのリプレースにより石炭火力の地元コミュニティではCO2の排出量が86%削減され、調査チームはガソリン車50万台分以上の排出量削減に相当すると強調。大気質の改善により、喘息や肺がん、心臓病などの発病率も低下するとしている。調査チームの説明では、今回の報告書で評価した石炭火力発電所はあくまでも分析目的で選択されたもので、現時点で入手が可能なデータと文書化された仮説に基づいている。判明したのは一般的な情報であるため、関係するコミュニティや投資家、その他のステークホルダーが、特定の石炭火力発電所を特定の原子炉に置き換える際、詳細な分析等の実施に役立ててほしいとしている。(参照資料:DOEの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの9月14日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 15 Sep 2022
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米国で原子力への税額控除を盛り込んだ「インフレ抑制法」が成立
米国のJ.バイデン大統領は8月16日、原子力に対する税制優遇措置等を含めた気候変動対策や、高齢者の医療費負担軽減などを盛り込んだ「インフレ抑制法案(H.R.5376)(IRA of 2022)」に署名、これにより同法案は正式に成立した。インフレ抑制法案の審議では議会上院が7日付けで可決したのに続き、下院も12日に220対207の賛成多数で可決していた。総額で約4,370億ドルの歳出をともなうインフレ抑制法では、約3,690億ドルが「エネルギーの供給保証と気候変動対策への投資」に充てられており、CO2を排出しない原子力については、2024年以降に発電/販売される電力量に新たな税制優遇措置を適用。多数の先進的原子炉設計で利用が見込まれているHALEU燃料((U235の濃縮度が5~20%の低濃縮ウラン))については、その入手が一層簡便になるよう努力するとともに、エネルギー省(DOE)傘下の国立研究所におけるインフラ整備に一層の予算措置を講じることになった。NEIのコースニック理事長 ©NEI米原子力エネルギー協会(NEI)のM.コースニック理事長は、大統領の署名に先立つ12日に声明文を発表。そのなかで、「米国でクリーンエネルギー経済への移行を促進する重要法案であり、この移行にともなう原子力の重要性を示す明確なメッセージになった」と指摘した。同理事長によると、インフレ抑制法では既存の大型炉や今後建設される先進的原子炉、およびHALEU燃料や水素製造に対する投資と税額控除が明記されており、原子力発電は安定した電力供給の基盤を形成する電源として、その他のクリーンエネルギーと平等の扱いを受けることになる。同理事長の認識では、クリーンエネルギーへの需要が高まるなか、電気事業者やその他の関係企業が脱炭素化の目標達成に新たな原子炉が有効である点に注目。クリーンエネルギーへの投資条項を含んだインフレ抑制法が成立したことで、投資家は既存の原子炉のみならず、新たに建設される原子炉に対しても投資がし易くなる。各国で同様の傾向にあり、気候変動関係の目標達成のみならず、確実なエネルギー供給に向けて新たな原子炉の建設が検討されている。同理事長としては、今後も議会の政策立案者と協力して働く考えであり、原子力が「公正で安価なエネルギーへの移行」を進める原動力であり続けられるよう保証していきたいとしている。また、DOEのJ.グランホルム長官も12日付けで声明を公表しており、同法によって米国は2030年までにCO2排出量を半減させる規模とペースで、クリーンエネルギー源を建設できると指摘。「バイデン大統領は超党派のインフラ投資法や、半導体の国内生産を支援するCHIPS法を可決・成立させたのに続き、今回のインフレ抑制法で米国がクリーンエネルギーの世界市場をリードしていけるよう導いた」と述べた。当然のことながら、これを実現するには同法の条項を効果的に実行する必要があり、グランホルム長官は「米国民がクリーンエネルギー経済への移行を成し遂げて国家のエネルギー供給を強化し、さらなるアクションに向けた推進力を構築できることを確信している」と強調した。(参照資料:米国議会、DOE、NEIの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの8月15日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 17 Aug 2022
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米国のダウ社、X-エナジー社製小型HTGRの建設に向け基本合意
米ミシガン州に本社を置く素材関連企業のダウ(Dow)社は8月9日、メキシコ湾沿いの同社施設の一つでX-エナジー社製の小型高温ガス炉(HTGR)「Xe-100」を建設するため、基本合意書を交わしたと発表した。ダウ社はプラスチックや人工化合物のシリコーン、産業用中間代謝産物といった素材製品分野で世界31か国の104地点に製造工場を持ち、2050年までに同社が排出するCO2の実質ゼロ化を目指している。そのため、同社の施設で2030年頃までに「Xe-100」を完成させ、同炉が生み出す無炭素で安価な電力と熱を自社の系列施設に供給する計画。この建設協力の一環としてダウ社は同日、X-エナジー社の少数株主となる方針も明らかにしている。両社の発表によると、第4世代の原子炉設計となる「Xe-100」は過去数十年にわたる研究開発と原子力発電所の運転経験に基づいて開発され、1モジュールあたりの電気出力は8万kW。これを4モジュール備えた発電設備では、クリーンで安全性の高いベースロード用電力を32万kW分供給できる。また、1モジュールあたりの熱出力は20万kWで、高温高圧の蒸気を産業用に提供することが可能である。米エネルギー省(DOE)は先進的な小型モジュール炉(SMR)設計を、「クリーンで安全、かつ安価な原子力オプションを開発する」上で非常に重要と認識しており、2020年10月には、原子力産業界が実施する先進的原子炉設計の実証を支援するため、X-エナジー社を「先進的原子炉設計の実証プログラム(ARDP)」における初回支援金交付対象の1つに選定した。その後の今年4月、ワシントン州の2つの公益電気事業者が、州内での「Xe-100」初号機建設に向けて同社と了解覚書を締結した。また、6月にはメリーランド州のエネルギー管理局が、州内の石炭火力発電設備のリプレースとして、同設計の経済的実行可能性や社会的便益の評価等を開始している。ダウ社のJ.フィッタリング会長兼CEOは、SMRについて「当社がCO2排出量を実質ゼロ化する際の重要ツールであり、低炭素な方法で顧客に製品を提供できるという能力を示すもの」と評価。X-エナジー社の「Xe-100」は、その中でも最も進んだ次世代技術と指摘した上で、「これを建設することは、当社がCO2を排出しない製造方法で業界をリードする重要な機会になる」と強調している。(参照資料:ダウ社、X-エナジー社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの8月10日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 16 Aug 2022
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米ホルテック社、米国内でのSMR建設で政府の融資保証を申請
米国のエネルギー関連サービス大手であるホルテック・インターナショナル社は7月20日、同社製小型モジュール炉(SMR)の建設計画、およびSMRの量産に向けた機器製造能力の向上計画に連邦政府の融資保証プログラムを適用してもらうため、74億ドル規模となる建設計画の申請書をエネルギー省(DOE)に提出したと発表した。発表によると同社はすでに今年3月、開発中の「SMR-160」(電気出力16万kW)を国内で4基建設する計画への融資保証プログラム適用を求めて、申請書の前半部分(パートI)をDOEに申請した。これを受けてDOEが、計画全般について申請を行うようホルテック社に要請したことから、同社は19日に計画の後半(パートⅡ)として、SMR用機器の既存の製造プラント拡張と新設に関する部分を申請した。2005年エネルギー政策法に基づくDOEの融資保証プログラムは、新たなエネルギー技術の商業利用化とクリーン・エネルギー計画に道筋をつけることが主な目的。原子力発電所の新規開発計画については、建設コストの最大80%まで政府が保証することとなっており、これまでにジョージア州におけるA.W.ボーグル原子力発電所3、4号機(各PWR、110万kW)増設計画に対して、融資保証が適用されている。ホルテック社は現在、ニュージャージー(NJ)州カムデンとペンシルベニア州ピッツバーグで機器の製造プラントを保有しており、SMR機器を毎年1,000点近く製造。計画では、カムデンにある先進的な製造プラントに機械加工やロボット溶接、原材料取扱関係の機器を追加してSMR機器の製造能力を拡大するが、これは今後10年間に予想されるSMR需要の増大を満たす措置となる。同社はまた、新たにSMR-160用機器を製造する大型プラントの建設を計画中。立地点は今のところ未定だが、同社ではこの「ホルテック重工施設(Holtec Heavy Industries)」を、カムデンの製造プラントよりも規模の大きい主力プラントにする方針である。SMR-160の国内建設に関してホルテック社は今回、米国の大手原子力発電事業者であるエンタジー社と合意覚書(MOA)を締結したことを明らかにしている。同MOAに基づいて、エンタジー社は同社のサービス区域内にある既存のサイト1か所以上で、SMR-160を1基以上建設する実行可能性を調査。同社のC.バッケン原子力部門責任者は「モジュール方式を採用したSMR-160には固有の安全性が備わっているほか、小型で操作が簡便、確証済みの軽水炉技術を採用するなど、CO2排出量を実質ゼロ化していく上で有効」と指摘している。SMRの建設でDOE融資保証の適用を受けるには、SMRの立地候補地を有する州政府から長期の電力購入契約や建設工事に対する財政支援を得ることが必要だ。ホルテック社が今回提出した融資保証申請書には、可能性のある立地点が複数記載されている。エンタジー社のサービス区域内に加えて、ホルテック社はNJ州内で保有するオイスタークリーク原子力発電所(※2018年9月に永久閉鎖された後、廃止措置のため当時の保有者であるエクセロン社から購入)の敷地内を潜在的なSMR立地点の1つに想定。ホルテック重工施設についても、最初の一群のSMR-160立地エリアに建設する可能性があるとしている。(参照資料:ホルテック社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月21日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 27 Jul 2022
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