キーワード:SMR
-
GEH社、「BWRX-300」の商業化に向けカメコ社らと協力
BWRX-300の断面図©GE Power米国のGE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社は7月6日、BWRタイプの同社製小型モジュール炉(SMR)「BWRX-300」の商業化を促進し、カナダやその他の国々で建設していくため、原子燃料メーカーのグローバル・ニュークリア・フュエル・アメリカズ(GNF-A)社、およびカナダの大手ウラン生産企業のカメコ社と協力覚書を締結した。カナダで稼働中の商業炉は19基すべてがカナダ型加圧重水炉(CANDU)だが、GEH社でカナダのSMRを担当するリーダーは「CANDU炉もBWRも燃料ペレットに二酸化ウラン、被覆管に類似の素材を使うなど燃料のタイプは非常に似ている」と説明。今回の協力で、設計と製造で似た側面をもつ2種類の燃料の製造企業同士でも相乗的な利益があり、カナダの燃料サプライチェーンでは性能が向上すると期待している。カメコ社側も「世界中がCO2排出量の実質ゼロ化に向けて突き進むなかで、原子力の果たす役割は非常に大きく、様々なSMRや先進的原子炉技術が浮上する原動力になっている」と表明。「カメコ社としては、このような革新的な原子炉に燃料供給する主力企業となる覚悟であり、GEH社やGNF社とともに新たなSMR設計にビジネスチャンスを見出していきたい」と述べた。GEH社によると、「BWRX-300」は電気出力30万kWのSMRで、2014年に米原子力規制委員会(NRC)から設計認証(DC)を取得した第3世代+(プラス)の同社製設計「ESBWR(高経済性・単純化BWR)」がベース。自然循環技術や受動的安全システムなど、画期的な技術を採用しているほか、設計の大胆な簡素化により単位出力あたりの資本コストはその他のSMRと比べて大幅に削減された。 また、原子燃料にはGNF社製の高性能燃料集合体「GNF2」のように、すでに承認された設計を採用。機器類も技術的に実証済みのものを組み込んでおり、GEH社は「SMRの中でもBWRX-300はコスト面の競争力が最も高くリスクは最低レベルとなり、市場に出るSMRとしては世界最初のものになるはずだ」と強調している。米国では、本格的な認証手続きの一つである設計認証(DC)審査を「BWRX-300」で実施するのに先立ち、NRCが2020年12月から先行安全審査を開始。カナダでもすでに2020年1月から、カナダ原子力安全委員会(CNSC)が許認可申請前のベンダー設計審査を実施中である。カナダ国内ではこれまでに、オンタリオ州営電力(OPG)社が2020年11月、ダーリントン原子力発電所の敷地内でSMRの建設に向けた活動を開始すると発表。国外では、バルト三国のエストニアや東欧のポーランド、チェコが同設計を国内で建設することに関心を表明しており、可能性調査の実施に向けた覚書がこれらの国の関係者とGEH社の間で結ばれている。GEH社がビジネスアドバイザーのPwCカナダ社に委託して実施した同設計の経済性調査によると、初号機をカナダのオンタリオ州で建設した場合、BWRX-300の建設と運転はカナダの国内総生産(GDP)に約23億カナダドル(約2,024億円)貢献する見通し。稼働する全期間を通じて、19億ドル(約1,672億円)の労働所得を提供するとともに7億5,000万加ドル(約660億円)以上の税収をカナダ連邦政府や州政府、地元自治体にもたらす。また、後続のSMRを同州その他で建設すれば、GDPに対する一基あたりの貢献額は11億加ドル(約968億円)となるほか、税収については3億加ドル(約264億円)になるとしている。(参照資料:GEH社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月7日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 08 Jul 2021
- NEWS
-
カナダのオイルサンド業界、CO2排出量の実質ゼロ化に向けSMRの活用を検討
カナダのオイルサンドの90%を生産する同国の大手生産企業5社は6月9日、生産時に発生するCO2を2050年までに実質ゼロにすることを目指し、小型モジュール炉(SMR)の活用・検討を含めた戦略構想を実行に移すと発表した。この構想を団結して進める枠組みとして、アルバータ州を本拠地とするCanadian Natural Resources社とCenovus Energy社、Imperial社、MEG Energy社、およびSuncor Energy社の5社は企業連合を形成。カナダがパリ協定で誓約した「2050年までのCO2実質ゼロ化」等も達成できるよう、連邦政府やアルバータ州政府とも協力していく考えである。同構想は、これら2つの政府がCO2排出量の削減に向けた計画やインフラの支援で重要プログラムを発表したのに続いて公表されており、両者がそれぞれの構想と地球温暖化の防止目標を達成するには、産業界と政府の協力が重要との認識を強調している。今回の構想はCO2の回収・利用・貯留(CCUS)を基本の方策としているが、これら5社は、地球温暖化の防止で「現実的かつ有効な」方策実現への堅い決意を表明。オイルサンド業界が排出する温室効果ガスが非常に多いことから、今後30年以上にわたりオイルサンドの生産関連でカナダのGDPに対して3兆カナダドル(約267兆円)の貢献をしつつ、CO2の削減で直ちに利用可能な方策を模索していく。5社はまた、この構想によってクリーンエネルギー部門の技術開発を促進し、関係雇用を創出すると指摘。その他の複数の部門にも利益をもたらすとともに、カナダ国民の生活の質向上に資するよう支援する。オイルサンド業界でCO2の排出量と吸収量を同レベルにすることを促すだけでなく、それによって各社の株主たちにも長期的利益を配分できるよう投資を行う。今回の発表によると、CO2排出量を削減する方策はただ一つではないため、参加企業は複数方策の並行的実施を構想に盛り込んでいる。その一つは、SMRや次世代のCO2回収技術、大気中からCO2を直接回収してCO2の量を減らす技術など、潜在的な可能性がある新技術について評価を行い、試験的な運用や適用を加速することである。また、アルバータ州で建設が計画されているインフラ道路を、州内のオイルサンド施設から近隣のCO2貯留ハブにつなぐことも検討する。さらに、このインフラ道路と並行して、CCUSやクリーン水素、エネルギー生産・使用の効率化、燃料転換など、新旧様々なCO2削減技術をオイルサンドの生産施設に設置することを挙げている。カナダでは2019年12月、オンタリオ州とニューブランズウィック州、およびサスカチュワン州の3州が、国内での多目的SMRの開発・建設に向けて協力覚書を締結。アルバータ州は今年4月に、この覚書に加わったことを明らかにしている。(参照資料:加オイルサンド企業連合の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月11日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 18 Jun 2021
- NEWS
-
韓国原研とサムスン重工、海上浮揚式原子力発電所の共同開発で協力
韓国原子力研究院(KAERI)とサムスン重工業は6月8日、溶融塩炉(MSR)技術をベースとする小型モジュール炉(SMR)を搭載した海上浮揚式原子力発電所や原子力船を共同で開発するため、協力協定を締結した。MSRは重大事故の発生リスクが少ないとされており、両者はこれを海上での利用を想定して設計し、要素技術や熱交換器などの関連機器も開発。また、このようなこのSMR利用の発電所のビジネス・モデルを構築するとともに、性能検証や経済性評価に向けた共同研究も実施する計画だ。両者の発表によると、無炭素エネルギー源の一つであるMSRは気候変動問題への利用が大いに期待される。近年、海上輸送部門におけるCO2排出の国際的な規制が強化されていることから、MSRでCO2を排出しない原子力船等を開発することとした。燃料の交換サイクルは船舶本体の寿命とほぼ同じ20年ほどであるため、MSRを一旦搭載した後は燃料を交換する必要がなく、サイズが比較的小さいことも舶用炉利用に向くとされる。また、KAERIの説明では、MSR内部で異常信号が発生した場合、液体燃料の溶融塩が凝固するよう設計されているため、重大事故の発生を抑えることができる。このような安全性の高さに加えて、電力と水素を効率よく同時生産できる利点があり、MSRは次世代のグリーン水素の製造など様々な分野で活用が可能である。協力協定への調印式には、KAERIの朴院長とサムスン重工業の鄭社長をはじめ、両機関の主な関係者が出席。共同研究を通じて、相互の戦略的協力関係を築くことで合意した。KAERIはこれまでに、海水脱塩と熱電併給が可能なモジュラー式PWR「SMART」(電気出力10万kW)を開発し、サウジアラビア等の中東諸国に提案するなど、SMRの開発実績を保有している。KAERIの朴院長は、「海上輸送船用に開発したMSRは国際物流のゲームチェンジャーになり得る次世代技術だ」と指摘した。サムスン重工業の鄭社長も、「気候変動問題に効率的に対応できるMSR技術は当社のビジョンとも合致する」と表明。同社は現在、船舶用の低炭素な推進力としてアンモニア燃料や水素燃料の開発にも取り組んでおり、MSRがこのような新しい成長事業の原動力になるよう、その研究開発にさらに力を入れていくと述べた。海上浮揚式原子力発電所に搭載するSMRついては、ロシアの原子力総合企業ロスアトム社による開発が最も進んでいる。出力3.5万kWの小型炉「KLT-40S」を2基装備した「アカデミック・ロモノソフ号」は2020年5月、極東チュクチ自治区内の湾岸都市ペベクで営業運転を開始している。(参照資料:KAERIとサムスン重工業(韓国語)の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月11日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 15 Jun 2021
- NEWS
-
中国の国家発展改革委、SMR「玲龍一号」の実証炉計画を承認
中国核工業集団公司(CNNC)は6月4日、同国の国家発展改革委員会が海南省昌江における多目的小型モジュール炉(SMR)「玲龍一号」の実証炉建設計画を承認したと発表した。CNNCは当初、仏国のPWR技術をベースに開発した10万kW級の第3世代炉「ACP100」の実証炉を、福建省莆田市で2基建設することを計画。同設計は2016年4月、国際原子力機関(IAEA)の「包括的原子炉安全レビュー(GRSR)」をパスしている。しかしCNNCはその後、60万kW級の国産PWRが稼働する昌江原子力発電所に同設計の建設サイトを変更。炉型名も「玲龍一号」に変えた上で2019年7月、実証炉の建設プロジェクトに着手すると発表していた。今回、国家発展改革委員会が承認したのは出力が各12.5万kWの実証炉建設で、CNNCの100%子会社である海南核電公司が建設プロジェクトを担当する。着工や竣工のスケジュールは明らかにされていないが、米国の業界紙は、2017年の国際原子力機関(IAEA)の会合で中国の代表者が「2022年以前に1号機を着工する」と発言したことを伝えている。CNNCの発表によると、SMR実証炉の建設は中国の原子力発電所の開発レベルと中国独自のイノベーションを促進する重要案件であるだけでなく、環境にやさしいエネルギーの供給を保証するものとなる。CNNCは今後も原子力発電所の安全性や品質向上を重視するとしており、原子炉建設現場ではプロジェクト・マネジメントを強化するだけでなく、立地点の地域振興にも留意するとしている。CNNCはこのほか、5月11日から江蘇省の田湾原子力発電所で試運転中だった6号機(PWR、111.8万kW)が6月2日の夜遅く、営業運転を開始したことを発表。同炉は中国で50基目の商業炉であり、同国の原子力発電設備容量は4,800万kWを超えた。田湾発電所では現在、ロシア製の100万kW級PWR(VVER-1000)を採用した1号機~4号機がすでに稼働中。6号機については、2020年9月に営業運転を開始した5号機とともにCNNC製の100万kW級PWRを採用している。(参照資料:CNNC(中国語)の発表資料、原産新聞・海外ニュース、ほか)
- 07 Jun 2021
- NEWS
-
エネルギー白書2021がまとまる、「2050年カーボンニュートラル」などピックアップ
エネルギー白書2021(写真は報道配布用)2020年度の「エネルギーに関する年次報告」(エネルギー白書2021)が6月4日、閣議決定された。今回の白書では、「エネルギーを巡る状況と主な対策」として、(1)福島復興の進捗、(2)2050年カーボンニュートラル実現に向けた課題と取組、(3)エネルギーセキュリティの変容――についてまとめている。例年、冒頭に取り上げている福島の復興については、「東日本大震災と東京電力福島第一原子力発電所の事故の発生から10年が経過した」と、2020年度末を一つの節目ととらえ、これまでの廃炉に向けた取組と復興の進捗状況を記述。原子力災害からの復興がエネルギー政策を進める上での原点との認識を改めて示している。2020年度は、10月の菅首相による「2050年カーボンニュートラル」実現表明を受け、12月には14の重点産業分野(洋上風力、燃料アンモニア、水素、原子力、自動車・蓄電池、船舶、食料・農林水産、半導体・情報通信、物流・人流・土木インフラ、航空機、カーボンリサイクル、住宅・建造物/次世代型太陽光、資源循環、ライフスタイル)ごとに実行計画を示したグリーン成長戦略が策定された。今回の白書では、各分野の産業・技術競争力に関する主要国比較を紹介。日本、米国、中国、韓国、台湾、英国、ドイツ、フランスの8か国・地域を対象に、過去10年間における各分野の特許数、特許の注目度などを定量化した指標(トータルパテントアセット)をもとに評価を行い、順位表をまとめている。それによると、日本は、水素、自動車・蓄電池、半導体・情報通信、食料・農林水産の4分野で首位となったが、原子力では、米国(指標339,254)、中国(同220,847)、英国(同66,596)に次いで4位(同66,092)だった。これに関し、日本は原子力関連機器の製造分野での競争力が高いが、評価対象とした小型モジュール炉(SMR)や高温ガス炉などの次世代革新炉や核融合では、米国・中国が特許出願数の他、特許の注目度・脅威度も高いと分析している。各国のエネルギーセキュリティ定量評価(資源エネルギー庁発表資料より引用)また、白書では、エネルギーセキュリティに関し、エネルギー自給率、化石燃料の安定供給確保、蓄電能力、サイバーセキュリティ対策他、9つの指標による諸外国比較も紹介。随所にコラムを設け、昨冬の電力需給ひっ迫に係る要因・対策、2020年8月の米国カリフォルニア州大規模停電の経緯などを解説し、教訓を述べている。
- 04 Jun 2021
- NEWS
-
バッテンフォール社、エストニアでSMR導入を計画するフェルミ社に出資
スウェーデンの電力大手バッテンフォール社は5月31日、エストニアで小型モジュール炉(SMR)の導入を計画している新興エネルギー企業「フェルミ・エネルギア社」に出資すると発表した。昨年11月、両社がSMRの導入協力を強化するために交わした基本合意書に基づき、バッテンフォール社はフェルミ社株の約6%を保有する株主として、100万ユーロ(約1億3,400万円)の着手金を同社に投資する。フェルミ社はエストニアで2035年までに1基以上のSMR建設を目指しており、バッテンフォール社はフェルミ社がこの計画について作成した事業モデルと、2026年に計画している政府への「原則決定(DIP)」申請には実現の見込みがあると認識。この投資によって、両社の連携を一層強化・拡大していく考えだ。バッテンフォール社はすでに、過去数年にわたりエストニアでのSMR建設に向けたフェルミ社の実行可能性調査に参加している。昨年11月の基本合意書調印以降は、SMR建設の原価計算や施工能力、資金調達構造、サプライチェーンに加えて、SMRの運転とメンテナンスに必要な人材の確保計画についても調査中。今後も、これらの分野で蓄積したノウハウで、フェルミ社の実行可能性調査に一層貢献するとしている。バッテンフォール社の発表によると、エストニアのkWhあたりの平均CO2排出量はEU諸国の中で最も多く、政府は関係する省庁の高級官僚をメンバーに「原子力に関する国家作業グループ」の設置を決めた。同グループでは、エストニアにおけるエネルギー供給保証の確保で原子力発電に適性があるか、国外の専門家も交えて分析・評価する方針である。フェルミ社のK.カレメッツCEOはバッテンフォール社の今回の決定について、「エストニア経済で真の脱炭素化を達成するには、CO2を出さずに信頼性の高い廉価な電力を供給する原子力が不可欠だ」と指摘。導入するSMRとしては、米国、カナダ、英国で開発中の設計が適しているとした上で、「バッテンフォール社は複数の原子力発電所で優れた安全運転の経験を蓄積しており、当社がSMRの導入で連携すべき適切なパートナーであることが分かる」と強調した。同CEOはまた、「バッテンフォール社の投資によって、当社は関係チームを拡大するとともに必要な能力を強化できる」と指摘。「原子力発電に関する情報を今後も継続的に国民に伝え、政府が知識データベースに基づいて原子力の導入判断を下せるよう、研究や訓練プログラムを進めていく」と述べた。同CEOによればフェルミ社は今後数年間にわたって、バッテンフォール社とともにSMRの活用に関する調査を複数実施し、バッテンフォール社の原子力発電所や訓練プログラムを視察するとしている。なお、エストニアのSMR導入計画には、すでにフィンランドの国営電気事業者フォータム社やベルギーの大手エンジニアリング・コンサルティング企業トラクテベル・エンジー社が協力中。フェルミ社は米国のGE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社や、英国のモルテックス・エナジー社などとも協力覚書を締結しており、それぞれが開発したSMRの建設可能性を探るとしている。(参照資料:バッテンフォール社(英語)、フェルミ・エネルギア社(エストニア語)の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月1日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 02 Jun 2021
- NEWS
-
英モルテックス社のSMR、カナダのベンダー審査で第1段階をクリア
英国ロンドンに拠点を置くモルテックス・エナジー社は5月25日、同社製の小型モジュール炉(SMR)が、カナダ原子力安全委員会(CNSC)の「許認可申請前設計審査(ベンダー設計審査:VDR)」の第1段階を完了したと発表した。モルテックス社は原子炉の開発企業で、現在出力30万kWの「燃料ピン型溶融塩炉(Stable Salt Reactor-Wasteburner: SSR-W)」を開発中。カナダ東部のニューブランズウィック(NB)州政府は2018年7月、同設計の商業規模の実証炉を2030年までに、州内のポイントルプロー原子力発電所敷地内で建設する計画を公表している。VDR第1段階の完了は、この計画の実行に向けた大きな一歩になったとモルテックス社のR.オサリバン北米担当CEOは表明。「当社の技術が適切な方向に進んでいることの証であり、現在の顧客のみならず将来の顧客からも、当社の先進的原子炉設計に一層の信頼を置いてもらうことができる」とした。NB州のM.ホーランド天然資源・エネルギー相も、「重要な節目をクリアしたモルテックス社が残りのVDR審査を着実にクリアすることを期待する」と述べた。VDRは、当該設計を採用した建設・運転許可の取得で事業者が正式な申請手続きを開始するのに先立ち、その設計がカナダの規制要件を満たしているか、メーカー側の要請に基づいてCNSCが実施する全3段階の評価審査。法的に有効な設計認証や関係認可が得られるわけではないが、カナダの規制要件に対する一般的な初期フィードバックが得られるほか、技術面の潜在的な課題を設計の早い段階で特定し解決策を探ることができる。モルテックス社によると、同社のSSR-Wは既存炉の使用済燃料を燃料として使用することができる。同社はこれにより、NB州やカナダ全体、世界においても放射性廃棄物の量を低減することが可能であり、将来的に使用済燃料を処分する際も、コスト面の削減効果が大きくて環境にも優しく、社会的受容が可能な解決策の一つになるとした。同設計はまた、日中の電力需要がピークになる時間帯に、出力を2倍、3倍に増強することが可能だとしている。2017年11月に開始したVDR第1段階の審査結果として、CSNCは「カナダの規制要件の意図を良く理解した設計であり、これらの要件を満たす確かな見込みがある」と結論付けた。ただし今後、追加の改善を要する点として、「モルテックス社の現行の管理システムでは、今後の設計活動を組織的にサポートできない」と指摘。また、同設計で使用する構造物・系統・機器(SSCs)の安全性の重要度区分が品質保証プログラムとリンクしておらず、VDRの第2段階では、これらを含む複数の課題が改善されたことを明示する必要があるとしている。(参照資料:モルテックス社、CNSCの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの5月26日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 27 May 2021
- NEWS
-
IHIが米ニュースケール社のSMR事業に参画へ
IHIは5月27日、米国ニュースケール社が開発を行っている小型モジュール炉(SMR)の事業に、日揮ホールディングスとともに参画することを決定したと発表した。〈IHI発表資料は こちら〉ニュースケール社が開発を進めているPWRタイプのSMRは、複数の原子炉モジュールをプール内に設置する構造で、出力7.7万kWのモジュール を最大12基設置可能(最大92万kW)。実証炉としてアイダホ州の国立研究所内に2029年の運転開始を目指しており、2020年8月には米国原子力規制委員会(NRC)より設計承認を取得した。ニュースケール社による出力調整のイメージ、風力発電の出力変動に対応する(日揮発表資料より引用)2021年4月には同社のSMR事業に対し日揮ホールディングスが出資を表明し、総合資源エネルギー調査会の原子力小委員会でも、国際連携を通じたイノベーション協力の一例として注目された。SMRはシステムのシンプル化による信頼性向上、モジュール生産による工期短縮のメリットを持ち、カナダや英国でも開発が進められている。ニュースケール社プラントについては、モジュールの着脱切替などにより再生可能エネルギーの出力変動調整を的確に行うことも可能。原子力機器メーカーとして多くの実績を持つIHIは、「SMRが脱CO2社会実現の有力なソリューションの一つになり得る」と期待し、今回のニュースケール社による事業への出資を決定したとしている。
- 27 May 2021
- NEWS
-
総合エネ調原子力小委、技術基盤に関し産業界より意見聴取
総合資源エネルギー調査会の原子力小委員会(委員長=安井至・バックキャストテクノロジー総合研究所エグゼクティブフェロー)は4月14日の会合で、これまでの議論を整理した。同委員会は、昨秋からのエネルギー基本計画見直しに伴い2月に約2年ぶりに再開。2050年カーボンニュートラルも踏まえた原子力の持続的な利用システムの構築に向けて、今回、(1)安全性向上の不断の追求、(2)立地地域との共生、(3)持続的なバックエンドシステムの確立、(4)ポテンシャルの最大限の発揮と安全性の追求、(5)人材・技術・産業基盤の維持・強化、(6)国際協力の積極的推進――に取組策を大別した。〈資料は こちら〉諸外国における長期運転の動き(エネ庁発表資料より引用)原子力のポテンシャルの最大限発揮に関して、資源エネルギー庁は、継続的な安全性向上を図りつつ、(1)設備利用率の向上、(2)40年を超える長期運転――の取組を進めていく必要性をあげ、米国における80年運転の認可など、諸外国の動きを例示。電気事業連合会原子力開発対策委員長の松村孝夫氏は、「既存原子力発電の最大限の活用が重要」との考えから、定期検査の効率的な実施、長期サイクル運転、原子力エネルギー協議会(ATENA)と連携した技術的知見の拡充など、設備利用率向上の取組について述べた上で、現行の運転期間制度の見直しについても検討がなさるよう求めた。60年までの運転期間延長が認可されている関西電力の美浜3号機、高浜1、2号機に関しては、福井県の専門委員会が9日に、安全性向上対策に係る議論について、「原子炉の工学的な安全性を確保するために必要な対策が講じられている」とする報告書案をまとめている。14日の会合に出席した福井県知事の杉本達治氏は、「長期運転に際しては、むしろきめ細かな定期検査が必要なのでは。効率化はもとよりまずは安全最優先。広く国民の理解が得られるよう努めて欲しい」などと訴えた。また、原子力の人材・技術・産業基盤の維持・強化に関しては、原産協会理事長の新井史朗氏、日本製鋼所M&E社長の工藤秀尚氏、三菱重工業常務執行役員の加藤顕彦氏、日立製作所常務執行役の久米正氏、日揮社長の山田昇司氏が産業界の立場から発言。新井氏は、原産協会が毎年取りまとめている産業動向調査などから、原子力発電所の長期停止による影響や建設プロジェクト経験者の高齢化の実態を示した上で、「2050年カーボンニュートラル達成のためにも、原子力を将来にわたり一定規模で使い続けるようエネルギー政策にしっかりと位置付け、新増設・リプレースについても考慮してもらいたい」とした。工藤氏は、原子力発電所部材の製造プロセス・実績について紹介。材料メーカーとしての供給責任を自負する同氏は、原子炉圧力容器・蒸気発生器の納入数が2020年度に2011年度の半分にまで落ち込んだデータを示した上で、「高品質が要求されマニュアル化できない。製造実績を積まなければ伝承は難しい」と、今後の製造技術・技能の継承に係る課題を強調した。加藤氏、久米氏、山田氏は、各社による原子力イノベーションの取組を紹介。加藤氏は核融合炉までを見据えた将来展望を、久米氏は小型軽水炉「BWRX-300」の構想を、山田氏は先般発表された米国ニュースケール社の小型モジュール炉(SMR)開発への参画について説明した。委員からは、SMRなどの革新炉開発に関し、「米国DOEのように日本政府もサポートすべき」といった研究開発への投資や、廃棄物発生までを含めた議論、規制側の参画を求める意見の他、立地地域の安心感醸成や再生可能エネルギーの負荷調整に果たす役割についても言及があった。また、最近の原子力を巡る事案について、柏崎刈羽原子力発電所の核物質防護を巡る不祥事に関し、「きちんとガバナンスを建て直さねばならない。一方で、将来のエネルギー需給構造を考える上で、原子力技術の評価とは切り分けて冷静に考えるべき」という意見、13日に政府が決定した福島第一原子力発電所で発生する処理水(ALPS処理水)の海洋放出に関し、「漁業団体が反対している状況。決定する前に十分話し合って合意を得ることが必要だった」という声もあった。
- 14 Apr 2021
- NEWS
-
エストニア 原子力導入に向けWG設置へ
モルダー環境相©Estonian Governmentエストニア環境省は4月9日、同国における原子力発電の導入に向けて、政府が8日の閣議で「原子力作業グループ(WG)」を正式に設置することを承認したと発表した。同WGは、エストニアにおける原子力の必要性や既存の電力網との適合性も含め、今後20年間の同国のエネルギー需給などを分析評価。2022年9月までに政府に結果を報告するとともに、提案も行うことになる。同国では、新興エネルギー企業のフェルミ・エネルギア社が第4世代の原子炉導入を目指して、小型モジュール炉(SMR)や先進炉を開発中の複数の外国企業とエストニアへの導入可能性を検討中である。同社は、エストニア国内でSMRの開発・建設を支持する原子力科学者やエネルギーの専門家、起業家などが設立。すでに、米国のGE日立・ニュクリアエナジー社や英国のロールス・ロイス社、モルテックス・エナジー社などと協力覚書を締結している。しかしエストニア政府としては、検討を始めたばかりであり「国家レベルでは今のところ何も決定していない」と環境相は強調している。たとえ原子力発電の導入を決定したとしても、実際に運転を開始するのは2035年以降になるとの見方もある。WGは環境省が経済問題・コミュニケーション省などと協力して開催することになっており、構成メンバーはこれらの省と環境委員会のほかに、内務省、財務省、法務省、教育・研究省、防衛省、外務省、社会問題省などが挙げられている。原子力の導入についてT.モルダー環境相は、「エストニアのエネルギーセキュリティや持続可能性、競争力などを強化し、2050年までに炭素排出量実質ゼロ(カーボンニュートラル)の実現という欧州連合(EU)の目標を達成する上で、原子力の導入は可能性のある解決策の1つだ」と指摘。その利点について、「1日24時間、気候に左右される事なく電力供給が可能」とする一方、「実際の導入まで非常に長期間を要する上に、使用済燃料処分という難題を解決しなければならない」と強調した。同相はまた、WGのミッションとして「周辺諸国におけるエネルギー・経済の開発動向や、カーボンニュートラルの達成に向けた連携などを明らかにすること」と説明。「他国で開発中のエネルギー技術や進展中のプロジェクトが、エストニアへ適用可能かという点も分析する必要がある」とした。さらに、発電所の建設を官民のいずれが実施すべきか、あるいは官民が協力して進める可能性についても評価しなければならないと述べた。同相によると、エストニアにとって第4世代のSMRは従来の大型原子力発電所と比べて建設が比較的容易であり、これらの経済効果や信頼性、安全性という点においても優れている。しかし、原子力を導入するには、PAなど社会的側面が無視できないため、科学的根拠に基づいたアプローチだけでは不十分。国民全体で原子力を受入れる準備が出来ていなければならないとも指摘している。(参照資料:エストニア政府の発表資料(エストニア語)、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの4月9日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 12 Apr 2021
- NEWS
-
日揮が米ニュースケール社SMR開発への参画を表明
ニュースケール社が開発するSMR(©NuScale Power社)日揮ホールディングスは4月6日、海外における小型モジュール炉(SMR)のEPC(設計・調達・建設)事業に進出すべく、米国ニュースケール社に4,000万ドルの出資を行うことを決定したと発表した。〈日揮発表資料は こちら〉ニュースケール社は、アイダホ州の国立研究所内に2029年の運転開始を目指し軽水炉型SMR(直径約4.5m、高さ約23m、1基当たりの電気出力7.7万kW)の開発を進めている。SMRは小型炉心のため、自然循環を使用した原子炉の冷却機構など、システムのシンプル化を通じた信頼性向上とともに、工場でのユニット生産も可能。従来の100万kW級原子炉に比べ工期短縮・建設コスト削減を図れるメリットを持ち、米国の他、カナダ、英国でも、実証炉建設から第三国への展開に向けた開発プロジェクトが進行中だ。日揮ホールディングスは、SMRの将来的な市場拡大に加え、再生可能エネルギーと並び、脱炭素社会の実現に貢献できるものと期待。中でもニュースケール社の技術が、他のSMR技術に先駆けて、2020年8月に米国初の設計認証を取得し、米国原子力規制委員会(NRC)によりその安全性が認められたことから、商業化に最も近いSMR技術であると見て、今回の決定に至った。今後は、海外市場を中心にSMRのEPCプロジェクトの受注・遂行を視野に活動していくほか、SMRと再生可能エネルギー設備、水素製造設備、海水淡水化設備とを統合したプラントシステムの開発も検討していく。会見を行う梶山経産相(インターネット中継)2050年カーボンニュートラル宣言を受けて2020年12月に策定された「グリーン成長戦略」では、原子力産業の取組に関し、「海外で進む次世代革新炉開発に、高い製造能力を持つ日本企業も連携して参画していく」とされている。梶山弘志経済産業相は、4月6日の閣議後記者会見で、「多様な原子力技術のイノベーションを促進することは、原子力の安全性向上を絶えず追求する観点からも重要。今回、日米企業の連携による具体的取組に進捗が見られたことは大変喜ばしい」と述べた。
- 06 Apr 2021
- NEWS
-
エストニアがSMR導入に向け米GEH社、英ロールス・ロイス社と協力
バルト三国の1つエストニアの新興エネルギー企業であるフェルミ・エネルギア社は3月8日、米GE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社製・小型モジュール炉(SMR)「BWRX-300」のエストニアでの建設に向け、実施中の適性評価をさらに進展させるため、同社と協力チームの結成協定を結んだと発表した。フェルミ社はまた、これに先立つ3月2日、英ロールス・ロイス社製・SMRの国内建設の可能性を探る目的で、同社と協力覚書を締結したことを明らかにしている。フェルミ社は、エストニアで第4世代の原子炉を導入することを目指して、同国の原子力産業界でSMRの開発と建設を支持する原子力科学者やエネルギーの専門家、起業家などが設立した企業である。同社はすでに、英モルテックス・エナジー社の燃料ピン型溶融塩炉「SSR-W300」、加テレストリアル・エナジー社の「一体型溶融塩炉(IMSR-400)」、米ウルトラ・セーフ・ニュークリア社(USNC)の「マイクロ・モジュラー・リアクター(MMR)」、米ニュースケール・パワー社の「ニュースケール・パワー・モジュール(NPM)」について、エストニアへの導入可能性を調査中。これらの設計がデベロッパーそれぞれの国で認可を受け次第、採用技術を最終決定する方針である。GEH社との協力について、フェルミ社はすでに2019年10月、「BWRX-300」の国内建設に関する経済面の実行可能性調査で同社と覚書を締結しており、今回のチーム結成協定はこれに続くもの。GEH社側が発表したリリースによると、両社の協力チームはエストニアにおけるSMRの許認可、人材育成とサプライチェーンの構築、建設に必要な情報の収集・分析の継続などでフェルミ社を支援していく。GEH社のJ.ボール執行副社長は「両社の連携を一層深めることで、エストニアがエネルギーの供給保証と地球温暖化の防止目標を達成する手助けをしたい」とコメント。革新的な技術を採用した「BWRX-300」であれば、エストニアが無炭素エネルギーを確保する理想的な解決策になると述べた。フェルミ社のK.カレメッツCEOも「今回の合意を通じて、2019年の覚書から始まった両社の協力を一層拡大していく」と表明。採用技術の最終決定に向けて一層詳細なデータを収集し、エストニアの国土政策計画に役立てたいとしている。一方、ロールス・ロイス社との協力についてフェルミ社は、同社製SMRの国内建設に関わるすべての側面を調査すると説明。具体的には、適性な送電網や緊急時計画区域の指定、人材育成計画、許認可体制、SMR発電所の経済性、サプライチェーンなどをカバーするとした。同社製SMRでは、規格の標準化により工場製作が可能な機器を装備するため、従来の大型炉と比べて建設費の大幅な削減と工期の短縮が可能。これにより、建設工事の遅れとそれにともなうコストの増加リスクを抑えられるとフェルミ社は考えている。「英国SMR企業連合」を率いるロールス・ロイス社は、英国政府との連携により今後10年以内に出力44万kWのSMRを英国内で複数建設し、英国がパリ協定の下で目標とする「CO2排出量の実質ゼロ化」を支援する方針。ロールス・ロイス社の企業連合には、仏国を拠点とする国際エンジニアリング企業のアシステム社、米国のジェイコブス社、英国の大手エンジニアリング企業や建設企業のアトキンズ社、BAMナットル社、レイン・オルーク社のほか、溶接研究所と国立原子力研究所(NNL)、および英国政府が産業界との協力により2012年に設置した先進的原子力機器製造研究センター(N-AMRC)が参加している。(参照資料:フェルミ・エネルギア社(エストニア語)の発表資料①、②、GEH社、ロールス・ロイス社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの3月4日付け、8日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 09 Mar 2021
- NEWS
-
ベルギーのトラクテベル社、SMR事業を重点推進へ
ベルギーの大手エンジニアリング企業であるトラクテベル社は12月11日、小型モジュール炉(SMR)に対する同社のビジョンを記した白書「2.0バージョンに進展する原子力技術」を公表した。その中で同社の将来展望として、SMR事業をエネルギー問題の統合的解決策として重点的に推進していく方針を表明している。同社は、ベルギーで稼働する原子炉7基中6基の建設でアーキテクト・エンジニアを務めたほか、世界中の複雑な原子力開発プロジェクトにおいてもエンジニアリング企業として活動。半世紀以上にわたって原子力に関する経験を蓄積してきた。同社によると、SMRは単なる原子力製品ではなく、21世紀の重要なエネルギー問題に懸命な解決策をもたらす「ビジネス・モデル」である。エネルギーの生産・貯蔵から輸送まで、分野横断的な事業を幅広く手がける中心的企業として、トラクテベル社はSMRによるソリューションの提案を推し進める考えである。同社はまず、コストの超過やスケジュールの遅延といった大型原子炉の新設にともなう課題によって、原子力産業界がダメージを負ってきたと指摘。その結果、民間部門からの投資が減少し、自国内で原子力を長期的に開発していこうとする国でのみ建設プロジェクトが維持されてきた。同様の現象は航空業界でも見られており、今や規模の小さい柔軟性のある航空機利用が新たなスタンダードになってきている。原子力産業界でも、シンプルで規格化した小型のモジュール式原子炉を新たな「標準」として定義しつつあるが、革新的な設計を普及させるには許認可の枠組などが必要になってくる。同社はこのため、通常よりも一層拍車をかけてSMRを量産し、そこから経済的恩恵を得るというビジョンがSMR産業界には必要だと説明。それに不可欠な事項として、SMRが第3世代炉の新規建設プロジェクトから教訓を学んでおり、予算内でスケジュール通りに完成させることができると投資家に証明しなければならないとした。また、現実問題として、需要に応じて出力調整する能力と、既存の産業ハブに隣接する地点でプラントの立地が可能という2重の基準を経済的に満たせる無炭素発電技術はほとんどない。これらのことからトラクテベル社は、電力や水素、蒸気など複数のエネルギーを統合したエコ・システムの中心にSMRを置くというビジョンを描いている。同社によれば、米国やカナダ、仏国、英国、フィンランド、エストニア、ポーランド、チェコ、およびその他の東欧諸国は、すでにSMRを活用して将来を築くという方針を明確に表明済み。SMRには無炭素社会への移行を可能にする能力が複数あり、それらは具体的に、①再生可能エネルギーの間欠性を補い、その普及を助ける出力調整能力と100万kWh規模のエネルギー貯蔵能力、②市場の需要に応じた発電所規模や運転時の温度の高さなどにより、地域熱供給や海水脱塩など幅広い分野の適用が可能--などである。トラクテベル社は、現実社会の産業プロジェクトを通じてSMRのこのような価値を実証し、今後活用される複雑なエネルギー・システムの全側面を経験した企業として、建設プロジェクトの機会を世界中で模索していく。その一環として同社はすでに今年1月、エストニアのエネルギー企業が同国内で計画しているSMR建設に協力するため、フィンランドのフォータム社とともに協力覚書を締結している。(参照資料:トラクテベル社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの12月11日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 14 Dec 2020
- NEWS
-
スウェーデンのバッテンフォール社、エストニアのSMR導入計画への協力を拡大
スウェーデンの電力大手バッテンフォール社は11月30日、エストニアの新興エネルギー企業「フェルミ・エネルギア社」が国内で進めている小型モジュール炉(SMR)導入計画への協力強化に向け、同社と基本合意書を交わしたと発表した。バッテンフォール社は過去数年間にわたり、SMR建設に向けたフェルミ社の実行可能性調査に参加してきた。近年世界では、ますますSMRへの期待が高まりつつあることから、バッテンフォール社は欧州でSMR建設イニシアチブを成功させたいとするフェルミ社への協力を今後さらに強化。具体的には、原子力発電所の建設や資金調達、発電所スタッフとSMR運転員の教育訓練を含む人的資源開発、サプライチェーン開発などで同社の経験を提供。個別の作業分野で一層調査を掘り下げていき、フェルミ社がSMR建設計画を申請しエストニア議会がこれを「原則決定」するまで支援を続ける考えである。バッテンフォール社はこの協力を通じて、SMR技術の成熟度や1基以上のSMRをエストニア国内で建設する可能性などを検証。同社以外にも、このイニシアチブには複数の欧州企業が参加しているため、「参加企業すべてが実用的なSMR技術についての洞察を深め、それぞれにとって貴重な経験となるようにしたい」と述べた。バッテンフォール社によると、発電をオイル・シェールなどの化石燃料に依存するエストニアは、EU加盟国のなかでもkWh当たりのCO2排出量が最も多い。これに対してスウェーデンは、水力と原子力、および風力と太陽光を組み合わせた電力供給により、化石燃料による発電はほとんどゼロ。世界の中で排出量が最も低い国の一つであり、こうした事実がエストニアに協力する最大の背景になっていると説明した。一方のフェルミ社は、第4世代炉の導入を目的に、エストニア原子力産業界でSMR開発/建設を支持する専門家らが立ち上げた企業。2030年代初頭にも、欧州連合(EU)域内で初のSMR建設を国内で目指している。EUとしては、2025年末までに同国を含むバルト三国およびポーランドを旧ソ連の統合電力システムから切り離し、欧州24か国が共同管理する「大陸欧州送電網」に統合する方針。しかし、これらの地域がロシアからの電力輸入を停止する期限が迫っているため、フェルミ社はSMRの形で原子力発電を国内に導入し、EUが掲げる「2050年までにCO2排出量の実質ゼロ化」の目標達成に貢献したいとしている。フェルミ社のK.カレメッツCEOは、「SMRの高度な安全性とシンプルな設計、資本コストの低さは、エストニアにおける原子力導入を現実的なオプションにした」と指摘。このことは同国政府も認識しており、原子力の導入影響を評価するため、すでに国家作業グループの設置を決めた。同グループは年内にも初会合を開催して、来る2年間に行う作業の計画を作成。諸外国の専門家の支援も得ながら、エストニアの確実なエネルギー供給保証にとり原子力発電の導入が適切であるか分析する。同社はまた、これまでに実施した調査結果に基づき、エストニア国内の2つの自治体とSMRの受け入れ条件に関する協議を正式に開始した。首尾よく進展すれば、自治体は政府の正式な選定プロセスの下で「国家指定国土形成計画(NDSP)」に組み込まれ、適切なサイトの選定に向けて戦略的環境影響声明書(EIS)などが作成される。エストニアのSMR導入計画には、すでにフィンランドの国営電気事業者フォータム社やベルギーの大手エンジニアリング・コンサルティング企業トラクテベル・エンジー社が協力中。このほかフェルミ社は、米国のGE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社や英国のモルテックス・エナジー社などとも協力覚書を締結しており、それぞれが開発したSMRの建設可能性を探るとしている。(参照資料:バッテンフォール社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月30日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 03 Dec 2020
- NEWS
-
経団連が「。新成長戦略」発表、新型炉開発も提言
日本経済団体連合会は11月9日、2030年に向けて(1)DX(5月に発表したデジタル技術に関する提言)を通じた新たな成長、(2)働き方の改革、(3)地方創生、(4)国際経済秩序の再構築、(5)グリーン成長の実現――を柱に新政権とともに推進すべき施策を提言する成長戦略を発表した。同戦略では、「地球環境の持続可能性と豊かな生活が両立する社会」を未来像の一つとして標榜。新政権の目指している「2050年カーボンニュートラル」(CO2排出実質ゼロ)の実現に関しては、既存の取組では力不足と指摘。脱炭素社会を目指したイノベーションを一層加速化すべく、革新的技術の開発・普及を産業政策の中軸と位置付けた上で、次世代蓄電池導入などの国家プロジェクトを立ち上げ、産学官総力を挙げた取組が進むよう長期的な国費投入を求めている。原子力についても、「欠くことのできない手段」と、重要性を改めて示した上で、継続的な活用に向けて、安全性向上の取組や再稼働の推進とともに、2030年までの建設着手を目指し新型炉(SMR、高温ガス炉、核融合炉など)の開発を国家プロジェクトとして進めることを提言。一方で、再稼働が進まぬ状況下、建設・運転・保守を支える技術とノウハウの継承が喫緊の課題となっていることを強調。また、原子力の必要性に関し国が前面に立ち正面から論じるべきとも述べている。「。新成長戦略」と題する今回の提言について、経団連の中西宏明会長は、序文の中で「これまでの成長戦略の路線に一旦終止符『。』を打ち、『新』しい戦略を示す意気込みを表している」と説明している。経団連による成長戦略発表に関し、梶山弘志経済産業相は、11月10日の閣議後記者会見で、原子力政策について、国民の信頼回復に努め既存のプラントの再稼働を進める重要性を改めて述べた上で、「現時点では新増設・リプレースは想定していない」と、政府の方針に変わりはないことを明言。また、「2050年カーボンニュートラル」実現に向けては、「再生可能エネルギーのみならず、原子力を含め、あらゆる選択肢を追求し使えるものは最大限活用することが重要」として、エネルギー政策を所管する経産省が主導し着実に議論していく姿勢を示した。
- 10 Nov 2020
- NEWS
-
マイケル・W・レンチェック ブルース・パワー社 社長兼CEO
原子力でスモッグが劇的に改善──カナダでは原子力に対して世論が好意的だ。ブルース・パワー社ではオンタリオ州全体を対象に、これまで多くの世論調査を実施してきました。特に知りたいのは、既存原子力発電プラントのリプレースや運転期間延長についての反応です。調査結果により、原子力に対する支持は常に8割程度あることが分かっています。原子力への支持率が高い理由としてはいくつかの要因があります。原子力はクリーンで、供給安定性が高く、安全であり、そしてオンタリオ州の州民に手頃な価格のエネルギーを提供しているからです。中でも環境面でのベネフィットは大きいでしょう。2013年に、オンタリオ州政府は州内の石炭火力発電プラントを廃止し、私たちは2基の原子炉を再稼働させました。いずれも、1990年代後半にオンタリオ・パワー・ジェネレーション(OPG)社や旧オンタリオハイドロ(OH)社などの財政難により、休止させていたプラントです。石炭火力の全廃によって、トロントの大気汚染は劇的に改善されました。2005年ごろには、年間最大80日間の「スモッグ日」が記録されていました。ご存知ないでしょうが「スモッグ日」とは、喘息患者の場合、呼吸困難になる可能性があり外出できなくなるぐらいヒドいものです。しかしブルース原子力発電所が再稼働したため、2015年から2019年の間に、スモッグは数日単位ではなく数時間単位で測定するまでに減少しました。原子力が大気汚染の浄化に、多大な貢献をしたのです。オンタリオ州は脱炭素化の世界的リーダーとして、気候変動の対策を取ってきました。電力部門では一般的に、脱炭素化の定義は1MWh(1000kWh)当たりの炭素排出量が50g未満であると考えられています。「脱炭素のリーダー」を自称しているドイツは、(1MWh当たり)約500gです。同じく「脱炭素のリーダー」とみなされている米国カリフォルニア州は約250gであり、それに対してここオンタリオ州はわずか45gなのです。つまりオンタリオ州はすでにかなり脱炭素化されており、それを手頃な価格で実現しています。オンタリオ州の一般家庭の電気料金は、1kWh当たり12.5カナダ・セント※ですからね。米カリフォルニア州の場合は20カナダ・セント以上ですし、ドイツはそれよりはるかに高いでしょう。これはオンタリオ州のエネルギーミックスのおかげです。オンタリオ州のエネルギーミックスは原子力が60%、水力発電は25%、再生可能エネルギーは7%です。※日本のおよそ半額程度。オンタリオ州では、再生可能エネルギーに対する税制上の補助金がありません。ですので、納税者からの支援は受けていませんが、電気料金にコストが直接反映されます。オンタリオ州の電気料金を管理するオンタリオ・エネルギー委員会によると、電源別コストは、太陽光が1kWh当たり48カナダ・セント、風力が15カナダ・セント、天然ガスが13カナダ・セント、原子力が7.5カナダ・セント、水力が6カナダ・セントです。オンタリオ州の電気料金がリーズナブルなのは、水力発電と原子力のおかげです。そしてこの組み合わせのおかげで、私たちは脱炭素化だけでなく気候変動にも取り組む最高のポジションにいるのです。ブルース・パワー社は再生可能エネルギーにも注力しており、風力発電プラントを先ごろ完成させたばかりです。風力発電とベースロード電源(原子力)の組み合わせは、非常にうまく機能していると考えています。それでも、すべてのエネルギー源が必要だという観点から、責任を持って対応しなければなりません。すべての人にとって安全で、クリーンで、供給安定性が高く、手頃な価格の電力を提供することが使命です。原子力発電所が「がん治療」に貢献──原子力の有用性をもっとアピールしたい。原子力産業は、世界屈指の安全産業と言えます。たとえ汚染を発生させたとしても非常に少ない量です。たとえば、ブルース・パワー社の原子力発電所で発生したすべての物質は、サイト内でキャニスタなどで管理されています。他の業界では考えられないことでしょう。他業界では自社製品や副産物が、それこそそこら中にほったらかしです。プラスチックは海にも、道路沿いにも捨てられています。自動車の排気ガスは世界中でスモッグを発生させ、二酸化炭素を排出しています。原子力はそんなことがありません。今後そういうストーリーを強調していこうと考えています。ブルース原子力発電所ブルース・パワー社が生産している医療用アイソトープは、人命を毎日救っています。こうした側面が社会であまりにも過小評価されていますよね。実は、ブルース原子力発電所で生産されているコバルト60は、世界中の使用済み医療器具の4割を消毒しているんです。あなたが世界のどこで病院や歯科医院にかかっても、そこで使用された医療器具を消毒するコバルト60は、オンタリオ州南西部のブルース原子力発電所で生産された可能性が高いということです(笑)OPG社のピッカリング原子力発電所でもコバルト60を生産しているまた、脳腫瘍の新しい治療法も開発しています。ブルース・パワー社では、メスを使わずに脳腫瘍を攻撃する「ガンマナイフ」と呼ばれる装置に力を入れています。最先端の生産システムを導入し、これまでにはなかった規模でアイソトープを大量生産できるよう準備を進めています。医療分野ではこれまで、がん治療に有効なアイソトープを特定するところまできていますが、肝心のアイソトープが量産出来ませんでした。量産できれば一般の患者さんでも手頃な費用でこの最先端治療を受けることができるでしょう。私たちはそうした治療が可能になるよう、量産体制を整えつつあります。裕福な患者さんだけでなく、すべての人のための治療になるのです。うまくいけば2021年か2022年ごろに、新しい生産システムが導入されます。ブルース原子力発電所OPG社のピッカリング原子力発電所でもコバルト60を生産している──医療分野に進出する契機は何だったのか?そもそもカナダは歴史的にも、医療用アイソトープ生産の最先端を走っていました。おぼえていらっしゃるか分かりませんが、数年前にチョークリバー研究所の原子炉「NRU」に問題が起き※、モリブデン99の生産が停止されたことがありました。これが国際的な供給不足を引き起こしてしまいました。ちょっと考えてみてください。もしもあなたが治療を必要としている患者で、アイソトープの在庫が底をついているために突然治療を受けられなくなったらどうでしょうか? ブルース・パワー社はそうした事情を鑑み、医療分野に進出することにしました。※2009年、同研究所のNRU炉(熱出力135MW、1957年初臨界)がトラブルで運転を停止し、モリブデン99の供給が世界的に停止した。核医学検査に使うアイソトープのなかでもっとも多く使われているのがテクネチウム99だが、その原料となる親核種がモリブデン99だった。そもそもNRUは老朽化しており、2016年に閉鎖することになっていたので、ブルース原子力発電所の設備に改良を加え、今ではNRU炉に替わってブルース発電所が、これらのアイソトープを生産できるようになりました。もっと多くのアイソトープを作る余裕がありますので、今後も市場の動向を見ながら、ニーズがあれば率先してそのニーズを満たすように努力していくつもりです。ブルース3号機では改修プロジェクトが進行中だブルース3号機では改修プロジェクトが進行中だ 「原子力が安全であることを 肌で感じています」回答者キンカーディン市長アン・イーディー私たちは五大湖の一つであるヒューロン湖沿いのコミュニティであり、原子力発電所にとっては理想的な立地点です。1970年代にブルースAとブルースBが着工され続々と運転を開始しました。今では世界最大の(稼働中の)原子力発電所です。私たち自治体はホスト・コミュニティとして、原子力を誇りに思い、原子力の未来を信じています。クリーンなエネルギーである原子力は、オンタリオ州の約3分の1の電力を供給しているだけでなく、世界中に医療用アイソトープを供給しているのです。この地域が初めて入植者のために開放されてから、私たちの祖先がイギリスとアイルランドから渡ってきて農民になりました。私たちはヒューロン湖が大好きです。環境面での最大の関心事は、湖が健全かどうかなんです。ですから、私がコミュニティの代表になったとき(最初は市議として、次に副市長として、最後に市長として)、私は原子力に関するすべてのことを知りたくなりました。いいことも、悪いことも、全て知りたかったのです。今、私は原子力の強力なサポーターです(笑)原子力のおかげで、地元のオンタリオ州だけでなく、全世界的にスモッグの日数が減っていると思います。アイソトープという(がん治療の)解決策も提供されています。他にもSMRがあります。これは非常にワクワクする技術です。また、気候変動との闘いにおいて原子力が果たす役割も忘れてはなりません。私はこれまで何度もCNSCの公聴会へ足を運んだり、原子力発電所の見学会に参加してきましたが、カナダの原子力安全レベルは非常に高いものです。他業界は原子力の安全文化から学ぶところが実に多いと思います。私は農場で育ち、毎日の仕事を無事に終わらせることが主な関心でした。私たちは農業の仕事こそが安全だと思っていましたが、原子力と比較したら、農業その他の業界は安全性という点では原子力の足元にも及びません。原子力から多くのことを学べると思います。キンカーディンの夕陽私自身はこのキンカーディンで一生を過ごしてきましたし、原子力が安全であることを肌で感じています。キンカーディンに遊びに来てください。原子力産業をしっかりとサポートしています。ブルース原子力発電所のスタッフの約3人に1人はキンカーディンの出身であり、残りは周辺地域からです。今は本当にワクワクする(刺激的な)時代です。経済的にも、私たちは非常に恵まれています。原子力発電所の運転期間を延長させるための改修作業のために、大勢の人々がやってきていますからね(笑)キンカーディンの夕陽事業者から見た許認可体制──カナダはスムーズな許認可体制で有名だ。規制当局であるカナダ原子力安全委員会(CNSC)は、何十年もの間、現在に至るまで、世界的には規制分野のリーダー的存在であると思います。CNSCの行うプロセスは、非常にオープンであると同時に、科学的事実に基づいていると言えます。そして、CNSCは政治と独立した規制当局であるため、業界の見解、一般世論、科学者の意見、他の政府機関の意見などを考慮に入れて決定や結論を導き出しています。しかし同時にCNSCは、安全に基づいている機関であるので、必ずしも当時の政治的・経済的な雰囲気に左右されません。そのおかげで現在誇っている世界的評判が確立できたのでしょう。CNSCのルミナ・ヴェルシ委員長は、IAEAの原子力安全基準の策定担当にも就任しました。これは、彼女の属しているCNSC、そしてCNSCが維持している水準が高く評価された成果だと思います。SMRが原子力業界だけでなく世界を変える──カナダは、SMRにかなり力を入れている。その背景やモチベーションは何か?気候変動対策として、他のクリーンエネルギーに多大の資金が投資されているにもかかわらず、それに見合うほどの進歩がないことは明らかでしょう。世界中で数兆ドルの投資が行われてから、今年のCO2排出量はようやく横ばいになりましたが、それまでの過去数年間は増加する一方でした。また、各国政府による安価な石炭火力発電所の建設の動きが見られ、CO2排出削減をなおさら困難にしています。X-エナジー社の「Xe-100」設計 ©X-energy日本の状況は大変遺憾なことです。CO2排出量の削減に真剣に取り組むなら、原子力こそが一定の役割を果たさなければならないと考えています。誰もがクリーンで手頃な価格で供給安定性の高い電気を必要としています。SMRは、より多くの国が利用できる、原子力分野での技術革新だと思います。また、既存の原子力プラントとは本質的な違いがあるため、各国はSMRによって原子力発電を容易に導入できるようになるのです。X-エナジー社の「Xe-100」設計「BWRX-300」の断面図現在稼働している原子炉、そして現在導入している様々な技術革新は、10年前の状況とは大きく異なっているではありませんか。今後SMRの技術革新が進むにつれて、世界中にあらゆるクリーン・エネルギーの可能性・機会が提供されるだろうと思います。「BWRX-300」の断面図©GE パワー社──SMR開発に必要な資金はどうやって確保を?ご存知のように、SMRの新設計には多くのベンチャーキャピタルが関心を寄せています。環境問題と気候変動は現実のものであり、高度な原子炉設計などの技術的ソリューションが重要な変化をもたらすと考えられています。技術開発へ多くの投資家が出資しています。原子力が一つのクリーンエネルギーとして認められれば、クリーンエネルギーやグリーンを対象とした融資を受けられるようになります。SMRなどの小型原子炉を支援/推進し、世界に革新をもたらすのです。それによって世界が直面しているさまざまな環境問題に対処する、より多くのドアが開かれるでしょう。奥はジョン・ピーバース広報部長奥はジョン・ピーバース広報部長──SMRのコスト、特に発電コストは、他電源と競合できるか?まだわかりません。ブルース・パワー社は現在、SMRを検討しながらそれを見極めようとしています。オンタリオ州は、連邦政府から1トンあたり約50ドルの炭素税が課せられています。再生可能エネルギーなどのクリーンエネルギーは、補助金の対象になっていません。オンタリオ州政府委員会は、消費者に課される料金を次のように試算しています。太陽光は1kWhあたり約48カナダ・セント、風力は同約15カナダ・セント、ガスも同約15カナダ・セント、原子力は同約7.5カナダ・セント、水力発電は同約6カナダ・セントです。もしこの中で、特定の電源を支援するための税補助が導入されたら、市場が歪んでしまうと私は思います。政治家は補助金で敗者と勝者を選ぼうとしますが、どうしても市場の歪みが生じる傾向があると思っています。しかし次世代炉を設計しているベンチャー企業にとって、補助金のあるなしは、設計の一部として検討しなければならないほど重要な事項でしょう。電気を手頃な価格で維持するために、一定のコストに合わせて設計しなければならないからです。「SMR-160」の完成予想図世界中から優秀な人材を原子力業界へ──SMR以外に十分な規模または大きさの原子力プロジェクトはあるか?ええ、カナダでは、CANDU炉がもう1基建つ可能性があります。ここオンタリオ州では、電力の余剰があり、数年間は現状のままで順調だと思いますが、今後、きっともう1基のCANDU炉を検討するでしょう。CANDU炉の出力は約80万~90万kWですが、SMRは10万~30万kW程度、さらに小型なマイクロ原子炉は0.5万~5万kW程度です。ですから、幅広い需要に対応が可能であり、CANDU炉が除外されているわけではありません。また今後も既存炉の運転期間延長は続くでしょう。カナダではほとんどの既存炉が運転期間を延長しています。OPG社のダーリントン原子力発電所(CANDU×4基)では、運転期間延長へ向けた作業が進行中ですし、ブルース・パワー社でも同様の運転期間延長へ向けたプログラムを実施しています。──CANDU炉の運転期間延長は、経済性が高いのか?経済的には非常に効果的です。だからこそ実施しています。オンタリオ州政府の会計検査院が2018年に、原子力反対派からの依頼を受けて実施した調査では、オンタリオ州で必要な電力を効果的かつ手頃な価格でクリーンに提供できる技術は、原子力のほかにない、と結論付けています。──多くの企業がSMR開発でシノギを削っている。必要な人材をどのように確保するのか?カナダの大学は数多くの優秀な若いエンジニアを輩出しており、SMR分野には多くのニューカマーが参入し、アイデアを競っています。今はエキサイティングな時代で、原子力分野に世界中から最も優秀な人材を引き入れるよう、数多くの機会が提供されています。原子力業界に入ってくる新しい人材は、ただモノを作るということだけではなく、環境・社会を大きく改善していくことになるのです。ミレニアル世代やこれから学校に入ろうとしている子供たちは、そのことを十分にわかっていると思います。彼らは世界に有意義な変化をもたらすことを望んでおり、原子力発電は彼らに革新と創造をする機会を与えています。同時に、彼ら自身のキャリア形成にも効果的に作用するでしょう。──カナダの大学と原子力産業は、良好な関係が維持されているか?運転期間延長プログラムの実施に伴い、現在新規採用を行っていますが、人事担当副社長によると、ブルース・パワー社に過去3年間で41,000名の応募が殺到しているそうです。学生にとって何が魅力なのか調査させたところ、それは学生が「自らのスキルと才能を生かして世界に変化をもたらしたい」と考えていることでした。なおかつ高所得ですしね(笑)ブルース・パワー社は従業員にとって、毎日仕事に行くことができ、学生ローンがあるならばそれを完済するのに十分な収入があり、子供を育て、快適で安全な生活が確保できる場所です。同時に、世の中の人々の生活を改善していることも大きな魅力なのです。
- 29 Oct 2020
- FEATURE
-
加OPG社、SMR建設に向けベンダー3社と協力
カナダ・オンタリオ州の州営電力であるオンタリオ・パワー・ジェネレーション(OPG)社は10月6日、同州内で小型モジュール炉(SMR)を建設する道を拓くため、北米の有力なSMRデベロッパー3社と設計・エンジニアリング作業を共同で進めていると発表した。3社のうち、カナダを本拠地とするテレストリアル・エナジー社は、第4世代の革新的原子炉技術として電気出力19.5万kW、熱出力40万kWの小型一体型溶融塩炉(IMSR)を開発中。また、米国のGE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社は、受動的安全システムなどの画期的な技術を採用した電気出力30万kWの軽水炉型SMR「BWRX-300」を、同じく米国のX-エナジー社は小型のペブルベッド式高温ガス炉(HTR)「Xe-100」(熱出力20万kW、電気出力7.5万kW)を開発している。一方のOPG社はカナダで稼働する全19基の商業炉のうち、オンタリオ州内に立地する18基を所有しており、これらの原子炉と再生可能エネルギーの活用により、同州ではすでに2014年に州内の石炭火力発電所の全廃に成功した。同社のK.ハートウィック社長兼CEOは、「CO2を排出しない原子力技術の開発で当社は50年以上にわたる経験を活用中。3社との協力では、その他のSMR計画と合わせて当社がSMR利用の世界的リーダーになることを実証したい」と述べた。同社は今回の計画の他に、遠隔地のエネルギー需要を満たすための支援として、カナダのグローバル・ファースト・パワー社との協力により、米国のウルトラ・セーフ・ニュークリア社(USNC)が開発した第4世代の小型モジュール式高温ガス炉「マイクロ・モジュラー・リアクター(MMR)」をカナダ原子力研究所内で建設・所有・運転することを計画している。これらのSMRはオンタリオ州の経済を再活性化する一助となるだけでなく、地球温暖化の防止目的で同州とカナダ連邦政府が目指しているCO2排出量ゼロの電力供給にも役立つとした。OGP社はこの関連で、昨年12月にオンタリオ州とニューブランズウィック州、およびサスカチュワン州の3州が革新的技術を用いた多目的のSMRをそれぞれの州内で開発・建設するため、協力覚書を締結した事実に言及。今年8月には、同覚書にアルバータ州が新たに加わることになった。OPG社は近年、オンタリオ州内でのSMR建設に向けて適正評価をその他の大手電力企業と共同で実施しており、その結果からその他の州においてもSMRを建設する可能性が拓かれる。このことは、カナダが優先順位の高い政策として、次世代のクリーン・エネルギー技術を開発・建設するというアプローチとも合致するとしている。同社によると、オンタリオ州のSMR開発は州内の既存の原子力サプライ・チェーンをフルに活かすことになるほか、他の州においても石炭火力から脱却することに繋がる。また、エネルギー集約型産業に代替エネルギーのオプションが提供され、カナダにおける雇用の促進と技術革新の進展にも貢献。温室効果ガスの排出量が経済的に持続可能な形で大幅に削減されるため、カナダの電力網では化石燃料からCO2排出量ゼロの電源への移行が進むと強調している。(参照資料:OPG社、GEH社、テレストリアル・エナジー社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月6日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 07 Oct 2020
- NEWS
-
米NRC、ニュースケール社製SMRに「標準設計承認」発給
米原子力規制委員会(NRC)は9月29日付けの連邦官報で、ニュースケール・パワー社製の小型モジュール炉(SMR)設計に対し、同月11日付けで「標準設計承認(SDA)」を発給していたと発表した。これにより同設計はNRCの安全・規制要件をすべて満たした米国初のSMR設計となり、建設・運転一括認可(COL)および各種の申請書への記載が可能になった。同設計の初号機については、ユタ州公営共同電力事業体(UAMPS)がエネルギー省(DOE)のアイダホ国立研究所内で建設することを予定しており、同計画は2029年に最初のモジュールの運転開始を目指して大きく動き出す。ニュースケール社は2016年12月末日にSMR設計としては初めて、同設計の設計認証(DC)審査を申請しており、NRCは翌2017年3月にこの申請を受理。その後42か月にわたった同設計の技術審査を終えて、NRCスタッフは今年8月末に最終安全評価報告書(FSER)を発行していた。今回のSDA発給は、DC審査における技術審査とFSER発行が完了したことにより、当該設計が技術的に受け入れ可能とNRCスタッフが判断したことを意味している。委員会としての全面的な認証を得るには認証規則の制定とNRC委員による承認が必要で、NRCは現在、同規則の制定準備を進めている。来年にもニュースケール社製の電気出力各5万kWのモジュールに対し、DCが発給されると見られている。ニュースケール社のSMRはモジュール統合型のPWRで、このモジュールを12基連結することで電気出力を最大60万kWまで拡大することができる。同社によれば、同設計は固有の安全性能により異常な状況下で原子炉を自動停止し、人の介入や追加の注水、外部からの電力供給なしで原子炉の冷却が可能である。ニュースケール社はまた、2018年6月に同モジュールの出力を20%増強して6万kWとすることが可能になったと発表した。これにより12モジュールの合計出力は72万kWに拡大、同社は6万kW版の「ニュースケール720」について、2021年(暦年)の第4四半期にもNRCにSDA申請することを計画している。なお、現地の報道によると、UAMPSに所属するユタ州内の市町村のうち、主要都市であるローガン市とレヒ市の両市議会が8月25日までに同SMRの建設プロジェクトから撤退することを決議した。同プロジェクトに遅れが生じ、コスト超過などの財政リスクが発生することを懸念したと見られている。(参照資料:9月29日付け米連邦官報、原産新聞・海外ニュース、ほか)
- 30 Sep 2020
- NEWS
-
ニュースケール社製SMR、設計認証取得に向け米規制委の技術審査をパス
米国の原子力規制委員会(NRC)は8月28日、ニュースケール・パワー社製の小型モジュール炉(SMR)設計についての設計認証(DC)審査の最終(第6)段階を終え、安全評価報告書の最終版(FSER)を発行したと発表した。同設計はSMRとしては唯一、NRCのDC審査を受けていたもので、DCが発給されればNRCの安全・規制要件をすべて満たした米国標準設計の1つとなり、エネルギー省(DOE)傘下のアイダホ国立研究所(INL)敷地内における初号機の建設・運転計画が具体的に動き出すことになる。大手のエンジニアリング企業フルアー社の出資協力を受け、ニュースケール社が開発したSMRは出力5万kWのモジュール統合型PWR。このモジュールを12基連結すれば、出力を最大60万kWまで増強できる。同社によればまた、このSMRは固有の安全性を備えているため、異常な状況下でも原子炉が自動停止し、人の介入や追加の注水および外部からの電力供給なしで冷却することが可能である。ニュースケール社は2016年12月末日に同設計のDC審査をNRCに申請し、NRCは翌2017年3月にこの申請を受理した後、今回42か月間にわたった同設計の技術審査を完了した。NRCのスタッフは、「運転システム内の対流や重力を活用したこの設計では受動的安全機能により、緊急の状況下においても原子炉を安全に停止させ、そのままの状態で維持することが可能」と確認。今後は同設計の認証に向けてFSERをNRC委員に提出し、設計規則の制定準備を進めることになる。同SMRの初号機建設計画はユタ州市町村公社(UAMPS)が進めているもので、DOEは2016年2月にINLの敷地を建設用地として使用することを許可した。現地の報道によると、UAMPSは2029年6月にも同サイトで最初のモジュールの稼働を開始すると表明。運転については、西海岸ワシントン州の電力企業エナジー・ノースウエスト社が担当することになっている。実際の建設に際しては、通常の商業炉と同じく建設・運転一括認可(COL)の取得が必要で、同設計がNRCから全面的に認証された場合、UAMPSその他の電気事業者はCOL申請書にニュースケール社製SMRを明記。NRCのDC認証は発給日から15年間有効であり、追加で10年~15年間更新することが可能である。なお、ニュースケール社は2022年にも、同設計の出力を増強した6万kWモジュール版で改めて標準設計承認を申請する方針だ。NRCが5万kWモジュール版のDC審査を進めている最中の2018年6月、ニュースケール社は「固有の安全性に影響を及ぼすことなく、経済面と性能面の合理化に成功した」と発表。6万kW版のモジュールを12基連結することで、合計出力は72万kWまで拡大が可能になるとしていた。同社製SMRについては、すでにヨルダンやルーマニア、チェコが国内で建設することに関心を表明。ニュースケール社は実行可能性調査等の実施に向けて、それぞれの国の担当組織と了解覚書を交わしている。(参照資料:NRC、ニュースケール社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの8月27日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 01 Sep 2020
- NEWS
-
ルミナ・ヴェルシ カナダ原子力安全委員会 委員長
事業者を束縛しない──カナダの許認可体制はスムーズなことで有名だ。日本が遅すぎるのかもしれないが、ポイントは?カナダ原子力安全委員会(CNSC)は何十年もの歴史ある規制当局です。CNSCが卓越しているのは、規制の枠組みがいわゆるテクノロジー・ニュートラルであることです。柔軟性があり、すべてパフォーマンスに基づいて規制をします。ああしろこうしろと命令的なやり方はしません。事業者に一方的に指示するのでなく、「目指すべき目標がこれですが、どうやって実現するか示してください」とだけ言うのです。こうすることで、事業者は柔軟性を得てイノベーティブになり、自主的に新しいアイデアを思いつきます。我々は事業者を束縛しません。最近、国際的な規制審査団がカナダにやって来て、私たちの規制体制(枠組み)とプロセスを審査されました。その結果、「包括的で堅牢な規制体制」と高い評価をいただきました。CNSCが提供しているサービスでもう一つ非常に好評なのは、いわゆる「ベンダー設計審査」※と呼ばれる予備的設計評価サービスです。事業者が予め審査対象となる設計を私たちとシェアすることで、認可プロセスに入る前の段階から、その設計や技術に「致命的な欠陥(showstoppers)」がないかどうかを確認することができます。もちろんプロセスは非公式なものですが、それにより、CNSCはその設計をよりよく理解できるようになります。また、事業者も我々の条件・規制要件をより詳しく知ることができす。そして、致命的な欠陥があれば、それを早い段階で見つけることも出来ます。CNSCのもう一つユニークな点は、許認可の審査体制です。私はCNSCの委員長兼CEOであり、この組織のスタッフ約900人を統括していると同時に、委員会の議長でもあります。現在、委員は5人ですが、最大7人まで増員が可能です。すべての許認可決定、規制および規制文書の承認すべてがこの委員会によってなされ、すべての委員会の審議は一般公開されています。なぜなら、それは一般の人々が参加し、介入し、意見を共有できるオープン・フォーラムだからです。多くの人々の意見を取り入れているため、それが良質な情報に基づく意思決定につながります。※ベンダーの要請により実施される任意の評価サービスで、事業者が建設許可等の申請を実際に行う前に、当該設計がカナダの規制要件を満たしているか評価。実際の要件に照らしたレベルの高い同審査を通じて、設計上の問題点などを早い段階でフィードバックすることが可能になる。審査は第3段階まであり、「ARC-100」のほかに米ホルテック・インターナショナル社のSMR設計や、テレストリアル・エナジー社の小型モジュール式・一体型溶融塩炉(IMSR)などが審査中となっている。リスクと便益のバランス──「規制者と被規制者とのやり取り」において、カナダは合理性・効率性においてトップクラスと聞いている。CNSCは無駄な質問をしないし、原子力事業者も無駄な書類は作らない。その根源的な理由はなんだろうか?なぜ、カナダは合理的に進められるのか?「合理性がある」というお褒めの言葉に、完全に同意していいのかわかりませんが、私たちはリスクに精通した規制当局として、常に合理性に基づいた形で判断を行います。ご存知かどうか分かりませんが、私たちが掛ける努力の度合いも、どれだけリスクがあるかにかかっています。低リスクの場合はそれほど時間をかけません。また、事業者に課している規制上の負担についても、リスクと便益の分析を試みています。我々は長い経験を持ち、良好な実績を持ち、他者から常に学び、改善を図っています。あなたのおっしゃる「合理的な意思決定」のことを、我々は「リスク情報に基づいた意思決定」と呼んでいます。まず、すべての人に意見を表現する機会を与え、それを基にして決定を下します。SMR開発をリード──カナダはSMRに大変力を入れているが、何がモチベーションとなっているのか?SMRの開発当事者ではなく、外から物事を見る規制当局者として話しますが、多くの海外諸国と同様に、カナダのクリーンエネルギーの目標は非常に野心的です。その目標だけでなく、パリ協定の目標も達成するために、原子力が大きな役割を果たさなければならない、果たし続けなければならないという認識があります。そして、SMRには多くの利点があります。カナダは広大な国で、ファーストネーションらのコミュニティーの多くは遠隔地にあり、ディーゼル発電に依存しています。SMRは彼らのそうしたディーゼル依存からの脱却に大いに貢献するのです。またカナダは非常に資源多消費型の国ですので、SMRは資源の有効利用にも役立ちます。同様に、出力が小さく柔軟な運転が可能でより安全なSMRは、送電系統においてもはるかに大きな役割を果たせるようになるでしょう。そのため、連邦政府の天然資源省(Natural Resources Canada)では様々なステイクホルダーを交えて検討を重ねた「SMRロードマップ」を策定し、SMRの登場・活用に備えています。カナダ企業が国内外でSMRを展開した場合に備え、我々規制当局も準備を整えています。規制当局としてどのように準備しているかというと、先ほど「ベンダー設計審査」についてお話しましたが、このプロセスが効果を上げているのです。現在、12種の異なるSMR設計を審査中です。すでにチョークリバー向けの15 MWのマイクロ原子炉※のために最初のサイト準備許可(LTPS)申請を受け取っており、今年後半には、もう1件の、より出力の大きいSMRのLTPSが申請されるだろうと予想しています。※USNC社が開発した第4世代の小型モジュール式(高温ガス)炉「マイクロ・モジュラー・リアクター(MMR)」のこと。カナダ原子力研究所(CNL)のチョークリバー・サイトに建設予定だ。もはやSMRの勢いが増していることは誰の目にも明らかです。カナダの3つの州(オンタリオ州、ニューブランズウィック州、サスカチュワン州)では最近、SMRの開発および建設を目指して協力していくことを発表しています。私自身の成果の一つは、昨年、米国原子力規制委員会のスビニッキ委員長とMOUやMOCに署名し、SMRの設計審査に関してより緊密に協力することに合意したことです。両国がSMR設計の評価結果や研究結果を共有し、それによって互いに学び、リソースを共有するだけでなく、審査をより効率的に進め、より良い判断を通して安全性を改善することができます。このカナダと米国の取り組みを出発点に、他国の規制当局を広く迎え入れ、国際的な規制要件の統一に移行できればいいと考えています。それは、標準設計が各国に展開されるのを促進するだけでなく、SMRに大きな関心を示している新興国にとっても、先進規制当局の専門知見から、確実な便益を得られるからです。たとえば、米国、カナダ、日本などの規制当局が合意した規制要件であれば、新興国はそれに依存できますよね。こうして世界中のSMRの安全性を合理的に高めることができるでしょう。トリチウムに精通──日本では福島第一サイトでのトリチウムの処理に苦しんでいる。カナダでは重水炉からかなりの量のトリチウムが発生すると思うが、どのように管理しているのか?CANDU炉は、重水を減速材としても冷却剤としても使用しています。したがって、トリチウムは、カナダのCANDU炉にとって非常に重要な役割を果たしています。私は保健物理学者になる以前は原子力発電所で働いていましたが、トリチウムは常に私たちにとってハザード(危険を引き起こす状況・物質)でした。そのため、カナダは長年にわたり、多くの技術(トリチウムを制御、測定、除去、監視する技術、必要な防護服など)を開発してきました。トリチウム量が蓄積すると重水ごとトリチウム除去設備へ送られ、トリチウムガスを抽出します。そしてトリチウムは廃棄物としてキャニスターに保管されます。全工程を通じてモニタリングされており、徹底的に制御されています。規制当局としても事業者とは別にモニタリング(環境モニタリング)を行っており、事業者の報告と照らし合わせています。他にもトリチウムを監視する州および連邦当局があります。国民は我々のトリチウム管理に信頼を寄せているのです。 福島第一よりも多いトリチウム?カナダでは資源!?回答者オンタリオ工科大学グレン・ハーベル教授トリチウムの発生源は?CANDU炉では、重水を用いて中性子を減速しています。トリチウムは主にその過程で発生します。トリチウム量を最小限に抑えるために、トリチウム除去設備を用意しています。そこでは重水とともにトリチウムを取り入れ、トリチウムを気化させて抽出し、重水を再び原子炉内へ循環させています。抽出されたトリチウムはどこへ?抽出されたトリチウムはさまざまな形態で保管されます(それこそ種類もさまざまです!)。企業に販売されるケースもあります。ご存知の通りトリチウムは自発光塗料として利用されており、出口用の看板等で需要がありますから。しかし多くの場合は、トリチウムを含んだ重水をそのまま保管し、半減期を待ちます。トリチウムの半減期は13年程度ですので、大した懸念はありません。シールドで遮蔽された部屋やタンクに保管されていますし、人に触れるような場所ではないからです。ですから、我々はトリチウムのことをそれほど心配しておりません。最大の問題はプラントを廃炉にして永久閉鎖するときです。それまで保管していたトリチウムをそのまま保管できればよいのですが、早急な処理を迫られた場合は対応が難しくなりますね。日本ではトリチウムの抽出が困難とされている抽出プロセスは大変コストが掛かりますので、世界でも現実に実施しているところは少ないでしょう。カナダではダーリントン原子力発電所に優秀なトリチウム除去設備があるので、容易なのです。日本では「ふげん」 ※ にトリチウム除去設備がありましたが小規模でした。現実的ではありませんね。お金をいくらかけてもいいならば話は別ですが(笑)※ふげん:日本の国家プロジェクトとして開発された新型転換炉。2003年3月に運転を終了し、廃止措置中。カナダのトリチウム保管量はかなり多く、福島第一より多いとのことだが?カナダのトリチウムは、多くがトリチウム重水の状態です。福島第一のトリチウム総量は860兆ベクレルですか?そのまま比較はできませんが数字だけを並べると、ダーリントン原子力発電所から2015年の1年間に放出された液体のトリチウム量だけでも241兆ベクレル※です。規制当局から定められた年間の放出限度(DRL)が5,300,000兆ベクレルですから、これでも規制値の0.004%にすぎません。※同年の気体のトリチウム放出量は、254兆ベクレル。「トリチウムは保管」という先ほどの話と矛盾するようだが?ご説明しましょう。それはカナダでは、河川や湖や海洋に、意図的にトリチウムを放出しているわけではないからです。日本のみなさんならばよくご存知でしょうが、トリチウムは水素ですから、完全に封じ込めることは大変困難です。意図的な放出はありませんが、漏洩は避けられません。繰り返しますがカナダのトリチウムは、トリチウム重水ですから、大部分は原子炉内に存在します。またドラム缶等に備蓄し、半減期を待っている状態のトリチウム重水もあります。トリチウム除去設備で処理され、ガス化してキャニスタ等に保管されるトリチウム重水はごくわずかです。ほとんどはトリチウム重水のまま残されています。それはトリチウムの市場規模が小さいからです。そして重水はバルブやシールを通して漏洩します。これは必ず起こります。移送過程で、ホースやポンプやバルブなどから、果てにはドラム缶からも漏洩します。これは防げません。以前も起こりましたが、これからも起こるでしょう。そのような制御不能なトリチウム放出に対処するために、CNSCがDRLという規制値を定めました。このDRLは、一般市民の線量限度である年間1ミリシーベルトを下回るように設定されており、設備や周辺環境の変化に応じて、各発電所毎に数字は異なります。もちろん数字は、都度アップデートされています。大事なことは漏洩した時にその影響を最小限度にとどめることです。違いますか?いずれは大気や海中に放出?規制当局の承認が必要ですが、放出も可能です。しかし期待されている一つの可能性は核融合プラントの実現です。これが実現すると、トリチウムが燃料となるわけですから、トリチウムの抽出設備が極めて重要となってきます。我々には大規模なトリチウム在庫があり、それが役に立ちます。もし(核融合プラントの)実現がない場合でも、おそらくトリチウムは保管して半減期を待ち、その後別の原子炉に再利用するか、分散するか、それらが将来の選択肢です。トリチウムは将来の資源?そうです。トリチウムは将来的に資源になりうるのです。トリチウム抽出の過程でアクシデント的に外部環境へ流出した、損失したトリチウム量は低く、気になる程度ではないのです。現地のコミュニティから反発は?ありませんよ(笑)アクセスを容易に──カナダでは原子力に対する世論の支持が高いと聞いた。日本では数多くの対策をし、安全基準を十二分にクリアしても、国民からさほど支持を得られていない。私をはじめCNSCの優先分野の一つは、規制当局としての我々に対する国民の信頼をどのように取り付け、強化するかです。強力かつ独立し有能な規制当局とみなされることは我々にとって望ましいことですし、原子力産業界にとっても良いことです。規制当局に対する信頼度について、世論調査も実施しています。国民が我々をどれだけよく知っているか、我々についてどう思うか、そして我々はどういうところを改善すればいいかなどを理解することが目的です。CNSCのウェブサイトでは、委員会に提示されているすべてのものを一般公開しています。国民は我々の情報(事業者にも情報提供するよう勧めていますが)に簡単かつスピーディーにアクセスできるようになることは、その信頼構築に大いに貢献しています。また、審査会合に誰でも参加できるように、非常にインフォーマルな形を取っています。公聴会に12歳の参加者が登場することもあります。我々はすべてを非常にアクセスしやすくしようとしています。そうすることによって、国民に安心を感じさせることができると思います。我々のもう一つの義務・任務は客観的な情報発信です。原子力産業界は非常に規制された業界です。我々はウェブサイトへの掲載や、出版物への掲載など、さまざまな媒体を通して、原子力産業界で起きていることを一般人に伝えようとしています。リスクはどこにあるか、どのように規制しているか、ということをです。こうした情報発信には常に改善の余地があり、我々は新しいツールや仕組みを常に模索しています。先ほど申し上げた世論調査もそうですが、我々の(コミュニケーションの)やり方を改善するためにいろいろな方法を試しているのです。広報は「中間層」を狙う──原子力反対派とどう対話すべきか?長いこと原子力業界に携わってきて、発見したことがあります。率直に言って、この世には決して心を変えない人がいるということです。もちろん必ずしも彼らに心を変えて欲しいというわけではありません。ただ、正しい情報を彼らに伝え、理解して欲しいだけです。それでもなかには決して受け入れない人々がいます。私はそうした(反対派に対して説明する)努力をしても無駄だと気づきました。十分な情報を検討した結果、態度を決めている人たちは、それが自らの判断なのであれば、それでOKだと思います。その一方で、賛成反対の両極端の間、真ん中にいる非常に大きな中間層が存在します。この中間層の人たちは何も知らないか、あるいはあまり信頼できない情報源に依存してますので、彼らを広報のターゲットにする必要があると思います。そのためにありとあらゆるコミュニケーション手法をとる必要があります。なお、CNSCをはじめ多くの世論調査の分析結果によると、原子力に関しては、女性のほうが男性より比較的支持が低い傾向があり、男性よりも情報源が少ないことが分かりました。また、多くの調査・研究が、女性が(男性ではなく)女性同士の方をより信頼する傾向があることを示しています。彼女たちが信頼しているのは、数多くの男性科学者ではなく、実際に原子力業界に入っている女性や、信頼できる情報源と見なしている女性なのです。そうしたことを踏まえ、工夫の余地はまだまだあります。これも規制当局としてのCNSCの任務の重要な一環です。そうそう、私たちが実施した世論調査で、とても大事なことが明らかになりました。実は、半数のカナダ人は、CNSCについて何も知らなかったのです(笑)
- 27 Aug 2020
- FEATURE