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米大統領、ルーマニアのSMR計画に1,400万ドルの支援を発表
G7で発言するバイデン大統領 ©White House米国のJ.バイデン大統領は6月26日、ドイツ南部のエルマウにおける主要7か国(G7)首脳会議で、ルーマニアが進めている米ニュースケール・パワー社製・小型モジュール炉(SMR)の建設計画を支援するため、1,400万ドルを拠出すると発表した。この日のG7では、発展途上国へのインフラ投資を促す新たな枠組み「グローバル・インフラ投資パートナーシップ(PGII)」の発足が決定しており、米国政府は助成金や連邦政府資金、および民間資金も含めて今後5年間で2,000億ドルを調達すると表明。対象案件の一つとして、ルーマニアにおける「ニュースケール・パワー・モジュール(NPM)」の建設計画を挙げたもの。米国政府がニュースケール社とともに拠出する助成金の1,400万ドルは、候補地である同国南部のドイチェシュティ(Doicesti)で出力7.7万kWのNPMを6基備えた発電設備「VOYGR-6」を建設するのに先立ち、実施が予定されている「(予備的な)基本設計(FEED)調査」に充てられる。この計画については、米貿易開発庁(USTDA)がすでに2021年1月、建設サイトの選定作業を支援するため、ルーマニア国営の原子力発電会社(SNN)に約128万ドルを交付した。このような実績に基づき、今回の助成金は政府資金を呼び水として、数十億ドル規模の企業投資を促すことを狙っている。同時に、先進的原子力技術の分野で米国が保有する技術力を明確に示し、クリーンエネルギーへの移行を加速するほか、数千人規模の雇用を創出する意図がある。また、原子力発電で高いレベルの安全・セキュリティや核拡散抵抗性を維持しつつ、欧州のエネルギー供給を強化・保証するものでもある。この発表については、SNNが翌27日に謝意を表明している。ドイチェシュティのFEED調査で得られる重要データは、コストの見積もりや綿密なスケジュールの立案、許認可手続きなど国内外の規制要件に基づいたプロジェクト設計に役立てるほか、ルーマニア国内で機器の製造・組立てや関連サービスを提供する可能性のあるサプライヤーを、この段階で特定すると説明した。SNNのC.ギタCEOは、「米国の原子力規制委員会(NRC)が初めて承認した唯一のSMR設計を、我が国の脱炭素化のみならず、エネルギーの自給力向上と繁栄にも役立てたい」とコメント。その上で、「米国との協力を通じて、原子力分野の新しいプロジェクトでは最も厳しい安全基準を確実にクリアしていくとともに、ルーマニアが既存のチェルナボーダ1、2号機で25年以上にわたり蓄積してきた安全運転の経験や専門的知見で、欧州初のSMR建設に貢献したい。民生用原子力プログラムの導入を検討中の国々には、その範例を示すつもりだ」と述べた。なお、ルーマニアではこのほか、建設工事が停止中のチェルナボーダ3、4号機(各70.6万kWのカナダ型加圧重水炉)を完成させる計画も進められており、米国政府は2020年10月、同計画への支援とルーマニアの民生用原子力発電部門の拡大と近代化に協力するため、ルーマニアとの政府間協定(IGA)案に調印した。米輸出入銀行(US EXIM)もこれと同じ日、ルーマニアのエネルギー・インフラ分野等に対する最大70億ドルの財政支援に向けて、同国の経済・エネルギー・ビジネス環境省と了解覚書を締結している。(参照資料:ホワイトハウス、SNNの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月27日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 28 Jun 2022
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ポーランドの電力大手、国内でのSMR建設に向け米企業と協力合意
ポーランド政府所有の電力会社であるエネア(Enea)・グループは6月22日、米国の小型モジュール炉(SMR)開発企業であるラスト・エナジー社と基本合意書を締結。SMRのポーランドへの導入を目指す。同設計の経済面と技術面の実行可能性を検証した後、エネア・グループが実施した市場分析等に基づいて、さらなる協力の範囲を定めるとしている。基本合意書によると、ラスト・エナジー社はSMRの設計・建設から、資金調達、設置とメンテナンス、燃料供給、廃棄物の回収、廃止措置に至るまで、開発プロジェクトの全般にわたりエネア・グループに協力する。一方、ポーランド側では、この合意で石炭や輸入天然ガスへの依存度を下げ、クリーンで価格も手ごろな電力の利用拡大を目指しており、エネア・グループは共同建設を担当する合弁会社の設立も想定している。自社の発電設備としてSMRを活用するだけでなく、将来的には産業界への熱供給も計画。同グループの開発戦略に沿って原子力関係の新しい事業を創出するほか、2050年までにポーランドがCO2排出量を実質ゼロ化する一助としたい考えだ。ラスト・エナジー社のSMR(電気出力2万kW、熱出力6万kW)は、実証済みのPWR技術を用いたモジュール式の設計で、ベースロード用電源として活用が可能。同社によると、従来の大型炉と比べて製造に必要なコストと時間が大幅に削減される見通しで、最終投資判断が下されてから24か月以内に納入することを目指す。同設計は運転期間42年を想定している。同社はすでに、欧州のみならず南米やアジア諸国の政府や規制当局、およびエネルギー企業などと同社製SMRに関する協議を実施。今年3月には、ルーマニアのN.チューカ首相が、同社と協力して同社製SMRをルーマニア国内に導入する意欲を表明している。基本合意書の調印は、ポーランド大統領の後援で2016年から毎年開催されている大型の経済イベント「コングレス590」で行われた。調印式に同席したポーランドのJ.サシン副首相兼国有財産相は、「国家のエネルギー供給を長期的に保証していくため、従来の大型炉や全く新しい小型炉設計など、その規模に関わらず原子力発電を導入していきたい」と表明。今後、未知の多難な方向へ歩を進めるエネア・グループが、信頼できる案内役をパートナーとして見つけたことを祝福すると述べたほか、「ポーランドがエネルギー供給を維持していけるか決定づける時が来た」と強調した。ポーランドではこのほか、化学素材メーカーのシントス社と石油精製企業のPKNオーレン社が昨年12月、合弁事業体を設立してSMRの中でも米GE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社製SMR「BWRX-300」の建設に重点的に取り組むと表明。また、ポーランド鉱業大手のKGHMポーランド銅採掘(KGHM)会社は今年2月、米ニュースケール・パワー社の先進的SMR「ニュースケール・パワー・モジュール(NPM)」を複数備えた「VOYGR」発電設備を、2029年までに国内で建設するため、先行作業契約を同社と締結している。また、フランス電力(EDF)は昨年10月、ポーランド政府に対し2~3サイトで4~6基のフラマトム社製「欧州加圧水型炉(EPR)」(合計660万~990万kW)の建設を提案していたが、今月22日に「この提案を再確認するため、ポーランド国内でこの計画に参加する資格がある5つの企業と、新たに協力協定を締結した」ことを明らかにしている。(参照資料:エネア・グループ、ラスト・エナジー社、EDFの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月23日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 27 Jun 2022
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米NEIのコースニック理事長:「米国内で2050年までに9,000万kWの原子炉新設の可能性」
米原子力エネルギー協会(NEI)のM.コースニック理事長は6月21日、会員企業やその他の原子力関係者らを招いて毎年開催している「Nuclear Energy Assembly」で、原子力産業界の現状に関する講演を行った。同理事長によると、地球温暖化やエネルギー関係の重要な国際会議では、この1年間に原子力に対する認識に大きな変化が見られ、今や地球温暖化の防止に欠かせない電源であるとの評価を受けつつある。ロシアによるウクライナへの軍事侵攻に関しては、「ロシアの核燃料供給に依存しないためにも、燃料供給企業や電気事業者、投資家、大学等に至るまで、全員が協力して既存の原子炉を動かし続けねばならない」としたほか、米国の電気事業者が2050年までに、米国内で9,000万kWの原子炉新設を検討中であることを明らかにした。同理事長の講演概要は以下のとおり。♢ ♢世界では近年、干ばつや洪水、山火事など気候変動に起因する災害が激しくなり、停電も頻発するようになってきた。我々に敵対する国々が燃料供給を世界的規模で操作しているため、同盟諸国では燃料の利用や送電網の安定性が脅かされている。幸いなことに、米国を含む同盟諸国の指導者たちは、地球温暖化への対応が我々の送電網や経済、エネルギーの供給保証と本質的に結びついていることを理解しているため、CO2排出量の削減に向け、利用可能なクリーンエネルギー源すべてを活用するという政策目標を一致して掲げている。我々は原子力が最も信頼性の高い低炭素な発電オプションであることを知っているが、原子炉の新設を現在のスローなペースで進めていけば、脱炭素化の意欲的な計画も計画のままで終わる。我々はこの観点から、世界が切実に必要とする実質的な脱炭素化を達成する上で、何が欠かせないのかを真摯に見つめなければならない。今から30年後の未来に、既存の大型炉や最新の先進的原子炉など、数百基の原子炉を中心とする低炭素なエネルギーシステムの構築に我々が成功すると想像してみたが、大気を汚さず、陽が差さなくても毎日24時間絶え間なく稼働する原子力は無炭素な未来を切り開くカギであり、我々が今、正しい選択を行えば、このような想像を現実のものにすることが出来る。英国グラスゴーで開催されたCOP26を始め、世界中のエネルギー関係会議でCO2排出量の削減に原子力の果たす役割が着実に認められてきており、米国でも議会が超党派で原子力の支援を約束している。2021年にバイデン政権は原子力への支援政策を開始しており、エネルギー省(DOE)のJ.グランホルム長官は「我々の脱炭素化政策のなかで原子力は絶対的な重要部分を担っている」と表明。超党派議員の大多数が「無炭素で低コストな将来エネルギーへの道は原子力によって実現する」ことを理解し、既存炉の維持と新しい技術を用いた原子炉の建設に向けて、かつてない規模の予算措置を講じている。その一例が、昨年11月に成立した「超党派のインフラ投資法」であり、インフラ産業全体で1兆2,000億ドル規模の投資を約束。その中で原子力関係にも既存炉の早期閉鎖を防止するため、「民生用原子力発電クレジット・プログラム」に60億ドルを配分したほか、「先進的原子炉の実証プログラム」については予算が25億ドルに増額された。太陽光や風力といった再生可能エネルギーも重要だが、次世代の原子炉は陽が差さない時や風が吹かない時にも電力を供給するなど、これらを完璧に補うことが可能である。その他にも、先進的な原子炉設計には様々な用途があり、世界最大規模の都市から遠隔地のコミュニティに至るまで、どのような規模においても無炭素エネルギーの供給に新たな可能性を拓くことができる。将来必要になる原子炉を、仮に複数建設することになった場合、次の課題は「いつ、どこで」ということになるが、近年公表された報告書によると、小型モジュール炉(SMR)の場合、閉鎖される石炭火力発電所の跡地に建設して関係インフラを利用することができる。また、石炭火力の既存の労働力も最大で75%までが原子力発電所に移行可能と見積もられており、そこでは発電所の運転期間である60年間の雇用が保証されるほか、高い賃金も支払われる。CO2を排出しないという原子力の利点はまた、その他の産業からも認められている。CO2排出量の45%を排出する運輸業と製造業は、国連から排出量の早急な削減を求められている。このため、化学製造業のダウ・ケミカル社や米国最大の鉄鋼メーカーのニューコア社、ポーランドの合成素材メーカーであるシントス社などが、SMRの活用に関心を表明。SMR開発企業への投資も進めているケースもある。いずれにしても、原子力発電所を建設するという選択は小さな決断ではないし、これを建設することは経済面や安全セキュリティ面で100年にわたり信頼関係を構築することになる。ロシアによるウクライナへの軍事侵攻は、エネルギーの供給保証が国家の安全セキュリティと結びついていることを明確に示したが、米国の原子力産業界はロシアからの燃料輸入を排除できるよう、バイデン政権や議会および同盟諸国とともに、世界中の原子炉に確実かつ信頼性の高いやり方でウラン燃料を供給していく考えだ。我々はまた、ウラン燃料の転換や濃縮分野で米国がリーダーシップを取り戻したいと考えており、それには連邦政府の支援が必要になる。欧州諸国は今まさに、ロシアからのエネルギー輸入から脱却する方策を模索しているところだが、米国のウェスチングハウス社が燃料の供給と原子炉の新規建設でウクライナの原子力発電公社と進めている協力は、そのような国際連携に価値があることの証拠である。米国の原子力規制委員会(NRC)は近年、新しい原子炉関係の審査で急速に増加する申請への対応に直面しており、これらを実際に建設することになれば一層効率的な規制手続きが必要になる。NEIが最近、会員の電気事業者に対して実施した聞き取り調査では、これらの企業は2050年までに新たに9,000万kWの原子力発電設備を米国の送電網に接続することを検討中。これは今後25年間に、約300基のSMRを建設することに相当する。DOEではすでに、融資プログラム局が米国内での原子炉新設プロジェクトに関する複数の申請書に対応している。米輸出入銀行(US EXIM)も、米国企業との事業協力を希望する外国企業への融資案件に対応中だが、その輸出にともなう売り上げは莫大で、今後30年間で1兆9,000億ドルに及ぶと見積もられている。この講演の冒頭では、30年後の原子力産業界のビジョンについて述べたが、このような未来の実現に向けた活動の開始を1年も待つ余裕はないし、半年でも遅い。次世代原子炉の開発に今取り組まなければ、代償は送電網にかかる経費や我々の経済、環境という形で現れる。事はすでに進み始めており、今こそすべてを原子力に賭けるべき時だ。(参照資料:NEIの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月22日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 24 Jun 2022
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米メリーランド州、石炭火力のSMRへのリプレースを検討
X-エナジー社の「Xe-100 」 ©X-Energy 米メリーランド州のエネルギー管理局(MEA)は6月14日、州内の石炭火力発電施設をX-エナジー社製・小型高温ガス炉「Xe-100」にリプレースする場合の、経済的実行可能性や社会的な便益を評価するため、同社およびフロストバーグ州立大学と共同調査を実施すると発表した。同州を本拠地とするX-エナジー社との協力により、同社の先進的な小型モジュール炉(SMR)を州内で建設する実行可能性を探るとともに、クリーンエネルギー開発を推進する機会や新たな関係雇用を創出する可能性についても調査を実施。判明事項はフロストバーグ州立大が経済影響面の分析を行い、今年後半にも結果を公表することになる。メリーランド州は東海岸北部に位置する州で、首都ワシントンDCに隣接している。同州の州議会は、今年初頭に成立させた「地球温暖化防止法」のなかでCO2排出量の本格的な削減目標を掲げており、最終的には2045年までに州経済におけるCO2排出量の実質ゼロ化を目指している。今回の調査協力にともない、MEAはX-エナジー社とフロストバーグ州立大に補助金を交付している。MEAの発表によると、3者の協力は同州内におけるSMR立地調査の最初の一歩となる。受動的安全性を備えたペブルベッド式SMRの建設は、信頼性の高い無炭素電源が得られるなど様々なメリットがあり、広い意味では州内のエネルギー生産やビジネスにも多大な利点があるとした。既存の発電設備をSMRで置き換え、州内で増大する電力需要に応えることが出来れば、発電資産の標準的取得原価が抑えられ高サラリーの雇用も維持が可能。SMRの建設とメンテナンスで州内の製造・建設部門に新たな事業機会がもたらされるほか、州民や企業等の消費者は低コストで供給上の柔軟性が高い電力を得ることができる。 MEAのM.B.タング局長は今回、「低炭素なエネルギーシステムへの移行を目指す当州では、エネルギーの供給情勢が急速に変化するなか、毎日24時間確実に発電可能な新しい方法を見出さねばならない」と表明。その上で、「技術の進歩の最先端に留まりつつ、脱炭素化目標の達成方法を模索する当州にとって、SMRは最も適している」と指摘しており、「今回の調査協力では、この先進的無炭素電源の建設が当州の状況に適っているか、また、良好な調査結果が出た場合は建設をどのように進めるのが最善かの判断を下せると思う」と述べた。X-エナジー社の「Xe-100」は、第4世代の非軽水炉型・先進的SMRで、米エネルギー省(DOE)は2020年10月、同社を「先進的原子炉設計の実証プログラム(ARDP)」で支援金を交付する対象企業の1つに選定した。CO2を発生しない「Xe-100」では電気出力と熱の生産量を柔軟に変更することができ、海水脱塩や水素製造などの幅広い分野に適用可能。1つのサイトで「Xe-100」を最大12基連結することで、出力は約100万kWに達すると同社は強調している。同設計については、西海岸ワシントン州の2つの公益電気事業者が2021年4月、X-エナジー社とパートナーシップを組むための了解覚書を締結。州内の使用電力を2045年までに100%無炭素化するため、「Xe-100」を同州で建設し商業化の可能性を実証する。世界では、ヨルダンが2030年までに「Xe-100」の4基建設を希望しており、X-エナジー社とヨルダン原子力委員会は2019年11月、基本合意書を交わしている。X-エナジー社は現時点で、同設計を米原子力規制委員会(NRC)の設計認証(DC)審査に申請していないが、2020年8月からはカナダ原子力安全委員会(CNSC)が同設計の予備的設計評価(ベンダー設計審査)を実施中である。(参照資料:メリーランド州政府、X-エナジー社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月15日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 16 Jun 2022
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アツイタマシイ Vol.2 マシュー・メイリンガーさん
コミュニケーションを通じて先入観や思い込みを払拭マシューさんが原子力業界で働きたいと思ったきっかけは何でしたか?マシュー私が9年生、日本でいえば高校1年生の時、国語の授業で小論文(エッセイ)を書くことになり、たまたま選んだテーマが「原子力」、それがきっかけでした。いろいろ調べていくと原子力技術は効率のよい発電方法であると同時に、医療や工業、農業など幅広く社会に貢献し、エネルギー問題や環境問題にも寄与することを知りました。将来的に原子力分野の仕事は意義があり、また安定しているため、キャリアを積み重ねていく価値があると思ったのです。原子力業界に入る前と入った後で、意識などに何か変化はありましたか?マシュー実際に原子力分野で仕事を始めてから感じたことは、原子力が社会に幅広く利用されるためには一般市民の人たちに理解してもらうことが重要だ、ということでした。原子力工学を学んでいた時にはもっぱら技術的なことに取り組んでいましたが、様々な経験を経て、原子力利用の普及のためには技術の問題よりも一般市民に理解されるかどうか、つまりコミュニケーションを通じて先入観や思い込みの部分を払拭していくことが必要だと実感しました。この10年ほどYGNの活動を通じて一般市民の方々との対話を重ねてきましたが、こうした活動をまだまだ今後も続けていくことが重要だと考えています。ウクライナ問題などエネルギー情勢はめまぐるしく変化しています。このような時期にあって、原子力利用の意義と将来性についてどうお考えですか?マシューロシアのウクライナに対する軍事侵攻により、エネルギーや食糧の自給自足がいかに大事かということが明らかになりました。とりわけ各国が発電の手段を確保しておくことは重要です。ロシアのような資源国の状況変化に左右されないよう、発電手段を確保することが必要だと思います。エネルギー不足に直面すると、結局のところ、苦しむのは一般の人々です。特にドイツでは痛感されているのではないでしょうか。ドイツは天然ガスをロシアに依存していたことから、外交のカードとして使われてしまった。ベルギーも同じような状況にあり、脱原子力の立場から見直しを迫られている状況です。まして気候変動問題に真剣に取り組むことが求められている現状では、原子力発電は再生可能エネルギーと並んで最適な選択肢です。ウクライナではロシアの軍事侵攻によって多くの発電設備が破壊され、電力供給が停止していると聞きます。そのような中で、原子力発電所は運転を継続し電力を供給し続けています。安全性や安定供給が原子力発電所の特長といえますが、今後SMRが実現すると、より安全性の高い原子炉が運転を開始することになります。ウクライナ問題は各国政府が原子力発電の特長を再評価するきっかけになるでしょうから、原子力の将来性について国際的な評価が高まると期待しています。カナダの原子力利用の将来を担うであろう小型モジュール炉(SMR)開発について、またそれを支える人材の育成などについて、どのようにお考えでしょうか?マシューSMR開発についてカナダは、世界に先行するトップランナーの位置にあるといえるでしょう。カナダの4つの州、すなわちオンタリオ州、ニューブランズウィック(NB)州、サスカチュワン州、およびアルバータ州で覚書を取り交わして導入にむけた共同戦略計画を進めているところです。連邦政府のレベルでSMR開発のロードマップ(工程表)が定められ、それに基づいてアクションプラン(行動計画)が策定されています。アクションプランの中に人材育成やサプライチェーンの構築などの進め方も盛り込まれており、SMRを導入する事業者側の課題も挙げられています。またSMR開発自体については連邦政府が財政的な支援を行う計画です。英モルテックス・エナジー社やテレストリアル・エナジー社、米ウェスチングハウス(WH)社などカナダ国内でSMR建設を進める企業に資金を拠出します。カナダでは主に3つのSMR開発プロジェクトが進められていますが、オンタリオ州営の電力公社オンタリオ・パワー・ジェネレーション(OPG)社が建設するマイクロモジュール炉は2026年の運転開始を予定しています。またOPG社が2028年の運転開始を目指し、GE日立のBWRX-300を建設するプロジェクトも進行しています。PAが重要な課題SMRの導入に関して現在、重要な課題は何でしょうか?マシューもっとも重要な課題は一般市民の合意、すなわちパブリックアクセプタンス(PA)だと考えています。そのために継続的に対話活動に取り組んでいく必要があります。カナダ政府としても、「実証されていない」あるいは「投資に見合わない」と国民に思われてしまっているものをわざわざ推進しようとは考えません。例えば気候変動やエネルギー不足への対応、水素供給や地域熱供給への活用、そうしたメリットについて広く理解が進み、一般市民の側からプロジェクト推進の声が寄せられるような状況が望ましいと思います。一方で技術的な課題についてですが、初号機に採用された技術は実証済みのものですので、当面する課題は特にないと考えています。それ以降の、いわゆる第4世代の新技術については、今後の課題として進めていくものだと思います。最初に実現するSMRは実証された確実な技術で進めればよいでしょう。新技術の開発などにあたり、若手の研究者や技術者への期待は大きいと思うのですが、マシューさんから見て、現状や今後への期待などはいかがでしょうか?マシューおよそ10年前の福島第一原子力発電所事故の後、カナダでも原子力に対する世論が厳しくなった時期もありましたが、様々な活動を通じた印象としては原子力利用に将来的な希望を抱く若者は少なくないと思います。日本の状況について詳しくは承知していませんが、原子力に対して希望を抱く若者は、日本よりカナダのほうが多いといえるでしょう。私は、大事なことは彼らに「原子力のメリット」に目を向けてもらうことだと考えています。環境にクリーンな電源であることや、医学や工業、農業などの分野で社会に貢献する多様なメリットを原子力技術が有していることを実感してもらえるような活動が重要です。現在も絶えず技術革新を遂げつつある原子力分野の仕事は、若者に「COOL(クール)」と感じてもらえる側面がありますよね。ですから彼らにもそういった印象を持ってもらえるよう、常日頃から心掛けています。日常的にこなすルーティンな仕事というだけでなく、熱い意欲をもって取り組む価値のある仕事だということを理解してもらえるよう努力したいと思っています。そのために今後も引き続き、原子力の様々なメリットを実感してもらうために、シンポジウムや交流会への参加や、発電所サイトの視察機会を多く作っていこうと考えています。マシューさんが取り組んでいるYGNで、そうした機会を作っていくということですか?マシューはい。YGNの活動を通じて今までも取り組んできましたが、これからも引き続き、様々な機会を作る努力をしていきたいです。実は私、6月から3年の任期でYGNのプレジデント(理事長)に就任します。今後の活動について、私自身、強調していきたいのは国際的な活動の充実です。国を越えて若者同士がお互いのベストプラクティスを共有できればと考えています。今回の来日中に福島第一原子力発電所に訪れ、その後に日本のYGNのみなさんと交流する機会を持つ予定ですので、お互いの活動についても共有し、様々な学びが得られると楽しみにしています。私たちが活動する北米のYGNでは、将来を担う子供たちを対象に、コンテスト形式で絵を書いてもらったり、作文を発表してもらうイベントを開催しているほか、わかりやすい絵本を作って読み聞かせをするといった活動をしています。また政府・関係団体に対して若手の視点から意見を表明する政策的な活動として、州が開催する公聴会に参加して意見を表明するといった活動もしています。さらに幅広いネットワークを活かして地域社会の皆さんとの交流を続けています。YGNのメンバーが地域の皆さんに良い印象を持ってもらえるよう交流の場を作ることは大切な活動ですから、今後も原子力利用に対する理解を深めてもらえるよう努力をしていきたいと考えています。SMRが切り拓く 私たちの未来最近の情勢変化を踏まえ、欧州では原子力発電を脱炭素にむけた主要電源として見直す動きもあるようです。環境問題に対する原子力の役割についてどのようにお考えでしょうか?マシュー環境問題への対応の観点から、SMRを導入することで原子力利用の新たな市場が開拓できるというメリットについてお話ししたいと思います。カナダでは従来の大型の原子炉を導入すると、州によっては電力需要を上回ってしまう状況がありました。その点でSMRは各州の状況に応じて柔軟に対応できるため、新たな市場を切り拓くことになるでしょう。またカナダには遠隔地の電力需要をどのように賄うかという問題があります。冬期には道路が凍結するため、事前にディーゼル発電機用の燃料を備蓄する必要があるわけですが、SMRはより安定した電源であり、かつ脱炭素化が可能になります。同様のことはカナダの主要産業である鉱業部門にもいえます。天然資源採掘の現場にSMRを導入すれば安全で安定した電源というばかりでなく、大幅に脱炭素化がはかれるというメリットが期待できます。さらに水素製造や淡水化への応用、負荷追従運転による電力需要への柔軟な対応など、幅広いメリットを考えれば、SMRの実現によってさまざまな新たな可能性が切り拓けると思います。そして重要なことは、環境問題への対応という面で、従来とは違う観点で原子力をとらえることができるようになるということです。つまり、これからは原子力か再生可能エネルギーか、という対立した選択肢ととらえるのではなく、両者をうまく組み合わせ、原子力が再生可能エネルギーを補うといった新たな考え方が可能になると思うのです。それから、輸送部門への活用もSMRに期待されるメリットのひとつです。船舶の動力に使えば、脱炭素化がかなりスピーディーに実現できるでしょう。現在は原子力潜水艦など舶用の小型原子炉は軍事利用がメインとなっていますが、今後民生用の舶用炉という新たな市場がSMRによって切り拓かれることになると期待しています。
- 16 Jun 2022
- FEATURE
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欧州の3か国、共同規制審査のケーススタディとして仏国製SMR設計を審査へ
フランス電力(EDF)は6月2日、小型モジュール炉(SMR)の許認可手続きを国際的なレベルで調整し、各国のSMRの規制環境整備を加速するため、同国の原子力安全規制当局(ASN)がフィンランドおよびチェコの規制当局と共同で、EDFらが開発中のSMR設計「NUWARD」を審査すると発表した。この共同規制審査は、欧州における規制条件の調整に向けた初期段階のケーススタディになると位置付けている。「NUWARD」は、フランスでの50年以上の経験が蓄積されたPWR技術に基づき、EDFがフランス原子力・代替エネルギー庁(CEA)やテクニカトム社などと協力して開発している出力34万kWのSMR。EDFは2020年代後半にも競争力を備えたSMR設計として「NUWARD」を世界市場に送り出す方針で、現在は概念設計の段階にある。EDFはまた、同設計を通じて欧州連合(EU)が目指す「2050年までにCO2排出量を実質ゼロ化」にも大きく貢献できると考えている。ASNが主導する今回の共同規制審査には、フィンランドの放射線・原子力安全庁(STUK)とチェコの原子力安全庁(SUJB)が参加する予定。3か国それぞれの国内規制に基づき、国際的に最高レベルの安全性を備え、最新の知見や良好事例を十分反映することを目指し審査する。同審査の技術的な協議を通じて、3者はそれぞれの規制慣行に関する理解を互いに深め、「NUWARD」が国際的な許認可手続きで直面する課題の解決能力を持つとともに、市場が将来的に要求するニーズを取り入れて改良していく。EDFとしては、CO2を多量に排出している世界中の石炭や石油、天然ガスの高経年化した火力発電所を「NUWARD」でリプレースし、水素生産や地域熱供給、脱塩などへの利用を拡大したいとしている。EDFの今回の発表によると、SMRはCO2排出量の実質ゼロ化に役立つと認識されているため、数多くの国が高い関心を抱いている。ただし、これを実用化しエネルギー市場で競争力を備えたものにするには、適用技術の技術革新や量産化技術の開発、明確な規制の枠組み等が必要。欧州およびその他の地域で関係規制や要件を調整することは、設計を標準化し工場で大量生産するための重要な前提条件になる。また、各国個別の要件による設計の適合性の制約解消にも不可欠な要素である。EDFグループとしては、このような課題に対する産業界の様々な関係機関やステークホルダーの関心を高め、協力して取り組む方針。欧州その他の国際的なレベルでも関係プログラムに積極的に貢献していくとしており、具体例として、フォーラトム(欧州原子力産業協会)が欧州の100名以上の科学者や環境専門家のグループ「欧州持続可能な原子力技術プラットホーム(SNETP)」と協力して推進している「欧州SMRパートナーシップ」や、国際原子力機関(IAEA)が近年開始した「原子力設備の調和化と標準化構想(NHSI)」を挙げている。(参照資料:EDFの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月6日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 07 Jun 2022
- NEWS
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チェコのSMR初号機建設で「南ボヘミア原子力パーク」プロジェクトが始動
チェコの国営電力(CEZ社)と傘下の国立原子力研究機関(UJV Rez)、およびCEZ社のテメリン原子力発電所が立地する南ボヘミア州の州政府は5月30日、同国初の小型モジュール炉(SMR)建設計画を加速する3者の共同プロジェクトとして、「南ボヘミア原子力パーク」を始動すると発表した。同プロジェクトにより、SMR関係の研究開発と建設準備を共同で進める方針で、3者はこの日、同パークの設立覚書に調印している。CEZ社は今年の3月末、計画しているSMR初号機の建設サイトとしてテメリン発電所敷地内の一区画を確保した。建設するSMR設計はまだ決定しておらず、CEZ社等のCEZグループはこれまでに、SMRを開発している米国のニュースケール・パワー社やGE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社、ホルテック・インターナショナル社のほか、英国のロールス・ロイス社、フランス電力(EDF)、韓国水力・原子力会社(KHNP)などと個別に協力覚書を締結している。今回このCEZ社の建設計画に、様々な研究インフラを保有するUJV Rezが加わったもので、UJV Rezが現在進めているモジュール式先進的ガス冷却高速炉「HeFASTo」や、溶融塩で冷却する小型のモジュール式高温原子炉「Energy Well」の概念研究は、先進的レベルと言われている。「南ボヘミア原子力パーク」プロジェクトでは具体的なタスクとして、SMR建設にともなう技術面や財政面の実行可能性評価のほか、官民および学術界との連携、許認可手続きの準備などが含まれる。CEZ社はプロジェクトの始動に際し、「当社は原子力分野では欧州におけるリーダーの一人であり、今後もその立場を維持する方針だ」と表明。原子力の持つ高い安全性と低い価格の重要性を強く認識しているからこそ、SMRの建設においても大きな役割を果たしていきたいと述べた。一方、大型炉開発に関しては、CEZ社は2015年5月の「国家エネルギー戦略」と、これをフォローする「原子力発電に関する国家アクション計画」に基づき、ドコバニ原子力発電所で最大120万kWの原子炉を2基増設することを計画。CEZグループのドコバニⅡ原子力発電会社(EDUⅡ)は2020年3月、プラント供給企業の選定や建設工事の実施に先立つ準備手続として、同計画の立地許可を申請した。原子力安全庁(SUJB)は2021年3月にこの許可を発給しており、EDUⅡ社は今年3月、最初の1基についてサプライヤーの競争入札を開始している。CEZ社によると、SMRの建設計画を加速しても、これらの大型炉開発が妨げられることはない。SMR建設は並行的に進める計画であり、SMRは既存の石炭火力発電所のリプレースに適した設備になる。南ボヘミア州のM.クバ知事は今回のプロジェクトについて、「もちろん州民の安全確保が最も重要だが、途方もなく大きなチャンスでもあり当州はSMR建設のリーダーになりたい」と表明。世界中から専門家が訪れ、国内企業が機器の開発・製造に携わる中心地とするほか、新しい原子力発電所の運転員訓練センターも誘致したいとの抱負を述べた。(参照資料:UJV Rez(チェコ語)、南ボヘミア州政府の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月1日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 03 Jun 2022
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米ニュースケール社、ルーマニアでのSMR建設で原子力発電公社、建設サイトのオーナーと覚書
米ニュースケール・パワー社は5月24日、ルーマニアにおける同社製小型モジュール炉(SMR)「ニュースケール・パワー・モジュール(NPM)」の建設について、同国の国営原子力発電会社(SNN)および初号機建設サイトのオーナーと了解覚書を締結したと発表した。この発表は、米国の貿易開発庁(USTDA)と商務省がルーマニアの首都ブカレストで共催した「SMRと先進的原子炉ワークショップ」で明らかにされた。SNNとニュースケール社はこの前日のワークショップで、ルーマニア南部ドゥンボビツァ県のドイチェシュティ(Doicesti)で13年前に閉鎖された石炭火力発電所の跡地を最有力候補として、出力7.7万kWのNPMを6基備えた「VOYGR-6」発電所(46.2万kW)を建設する方針を表明。今回の覚書では、この石炭火力発電所を所有する持ち株会社のE-Infra社も参加している。同覚書に基づき、3社は今後ドイチェシュティで、エンジニアリング調査や技術分析、および許認可関係の活動を実施する。ルーマニア初のSMRであり、欧州のSMRとしても最初に建設される見通しの「VOYGR-6」については、同国のK.ヨハニス大統領が2021年11月、米国のJ.ケリー気候担当大統領特使と協議した際、2028年までに同国のエネルギー生産システムに含める方針を表明した。SNNは今回、このSMR建設を通じてルーマニアが欧州でSMR建設を促進するハブとなり、機器の製造や組立、運転準備等でその他の国のSMR建設を支援していくとしている。エネルギー供給が脆弱なルーマニアにおいて、環境への影響が少なく競争力の高い原子力は、持続可能な電力部門の発展に向けた解決策であり、エネルギーミックスの重要な構成要素。既存のチェルナボーダ原子力発電所(70万kW級のカナダ型加圧重水炉×2基)では、運転開始後25年以上が経過した1号機の運転期間延長を計画しているほか、建設工事が停止中の3、4号機(各70万kW級のカナダ型加圧重水炉)については2031年までに完成させる考えだ。これに加えて、ルーマニアはSMRも建設する方針であり、SNNはニュースケール社と同社製SMRの建設可能性を探るため、2019年3月に最初の協力覚書を締結している。翌2020年10月にルーマニアと米国の両政府は、原子力開発プロジェクトに関する政府間協定(IGA)を結んでおり、米輸出入銀行(US EXIM)は、原子力を含めた同国のエネルギー・インフラ開発への支援として、最大70億ドルの提供を約束した。複数の候補地の中からSMR建設サイトを選定する調査に関しては、USTDAが2021年1月に約128万ドルの支援金をSNNに交付すると発表。米国のサージェント&ランディ(Sargent & Lundy)社がSNNに代わって同調査を行っており、その結果に基づきSNNが最も有望なサイトとしてドイチェシュティを選定した。SNNの発表によると、SMRの建設期間中に同国では約1,500名分、運転期間中には約2,300名分の雇用が期待できるほか、VOYGR発電所では193名分の常勤雇用が創出される。また、同国で年間400万トンのCO2が大気中に放出されるのを回避する一助にもなるとしている。 SNNのC.ギタCEOは、「建設サイトが決まったことと今回の覚書締結により、ニュースケール社製SMRの建設計画は大きく前進した。最初の協力覚書を結んでから約3年の間、当社はニュースケール社の技術とその安全性、成熟度、建設に向けた準備等について分析した。予備的に実施したサイト評価の結果、ドイチェシュティはあらゆる側面で原子力発電所の安全基準を満たしており、欧州初のSMR建設サイトとしての可能性には自信がある」と述べた。ドイチェシュティを擁するドゥンボビツァ県議会のS. コルネリウ議長は、「新たなエネルギー源を必要とする沢山の候補地の中から、最初のSMR建設サイトに選ばれたことを誇りに思う」と表明した。ドイチェシュティの石炭火力発電所では、56年間の運転経験と新たな発電所を建設する盤石な基盤があると述べ、「SMR建設によって跡地が有効に活用され、当県はクリーンエネルギーの恩恵を受ける」と指摘。新たな雇用も生み出され、地元経済とインフラの開発が促されるとしている。(参照資料:ニュースケール社、SNNの発表資料①、②、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの5月24日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 25 May 2022
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日米首脳会談で共同声明、原子力協力の強化が盛り込まれる
岸田文雄首相は5月23日、来日中のジョー・バイデン米国大統領と首脳会談を行い共同声明を発出。原子力については、「CO2を排出しない電力および産業用の熱の重要かつ信頼性の高い供給源」として重要性を認識した上で、革新的原子炉・小型モジュール炉(SMR)の開発・世界展開、原子力サプライチェーンの構築などに向け、両国間の協力を拡大していくとした。また、会談で両首脳は「核兵器のない世界」に向けて協働する意思を改めて確認。岸田首相は、2023年に日本が議長国を務めるG7サミットの開催地を、「平和へのコミットメントを示すのにふさわしい場所」として、広島に決定したことを紹介した。萩生田光一経済産業相は24日の閣議後記者会見で、今回の日米首脳会談に言及。去る5月2~6日の米国訪問の際、ジェニファー・グランホルム・エネルギー省(DOE)長官との会談で合意した「日米クリーンエネルギー・エネルギーセキュリティ・イニシアチブ」(CEESI)の設立が共同声明に盛り込まれたことを「大きな成果」と歓迎。CEESIは、昨今のウクライナ情勢を踏まえ、水素・アンモニア、CCUS(CO2の回収・利用・貯留)/カーボンリサイクル、原子力、再生可能エネルギーなど、幅広いクリーンエネルギー分野を推進していく枠組みで、萩生田経産相は「米国との連携を一層強化していきたい」と強調した。また、今回の共同声明では、月面の有人探査を目指す「アルテミス計画」に日本人宇宙飛行士を含めることが明記され、これに関し、萩生田経産相は、文部科学相時にNASA長官との共同宣言署名を行った経緯を振り返りながら、「経産省としてもしっかり協力していく」としたほか、「月面車両のローバーは日本の、自身の地元、トヨタ自動車(東京都八王子市内の同社研究所)の技術でもある」などと述べた。
- 24 May 2022
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加サスカチュワン州の企業、WH社製マイクロ原子炉建設に向け協力覚書
カナダのサスカチュワン州政府が一部出資する「サスカチュワン研究評議会(SRC)」と、米ウェスチングハウス(WH)社のカナダ法人は5月18日、同州内におけるWH社製マイクロ原子炉「eVinci」(電気出力0.5万kW)の建設に向けて、協力覚書を締結したと発表した。SRCはカナダで第2位の規模を持つ技術研究関係の公共企業体で、農業・バイオテクノロジーやエネルギー、環境、および鉱業の分野で世界中の顧客に科学的なソリューションを提供中。同州中央部のサスカトゥーン市にあるSRC環境分析研究所では、1981年3月から2021年11月まで電気出力20 kWの研究炉「SLOWPOKE-2」を運転した経験もある。WH社の「eVinci」は遠隔地や鉱山等における熱電併給を目的としており、設計寿命は40年間。10年以上燃料交換なしで運転することが可能で、炉外復水器となる部分の周囲にチューブを環状に巻き付け、主要熱交換器とする設計である。両者は将来的にサスカチュワン州内で、「eVinci」をエネルギー利用を含む様々な分野で活用するための試験を実施する。安全で輸送も容易な「eVinci」を使い、同州のクリーンエネルギー生産について、ニーズに即した解決策を生み出したいとしている。サスカチュワン州は今年3月、オンタリオ州とニューブランズウィック州およびアルバータ州とともに、4州が協力して小型モジュール炉(SMR)を開発・建設するための共同戦略計画を策定した。将来的にカナダのSMR技術や専門的知見を世界中に輸出していくのが目的で、ウラン資源に恵まれたサスカチュワン州では今のところ原子力発電設備は存在しないが、オンタリオ州で2028年までに送電網への接続が可能な出力30万kWのSMRを完成させた後、サスカチュワン州で後続のSMRを建設する計画が設定されている。今回の覚書締結について、同州のJ.ハリソンSRC担当相は「SRCでは38年間にわたって『SLOWPOKE-2』研究炉を運転した実績があるので、この経験を新たな技術であるマイクロ原子炉に生かしたい」と述べた。D.モーガン州営電力担当相も「近代的な原子炉設計には、州民が日々必要とするクリーンで安全なベースロード電源を提供する能力がある」と指摘。サスカチュワン州内で原子力発電開発を進めていけば、州内送電網の近代化が促されるだけでなく、数10億ドル規模の経済活動が州内で新たにもたらされると強調した。「eVinci」については、米エネルギー省(DOE)が2020年12月、官民のコスト分担方式で進めている「先進的原子炉実証プログラム(ARDP)」の支援対象に選定。7年間に総額930万ドル(このうち740万ドルをDOEが負担)を投じて、2024年までに実証炉の建設を目指している。一方、カナダにおいては2018年2月、WH社が同設計について「ベンダー設計審査(予備的設計評価サービス)」の実施をカナダ原子力安全委員会(CNSC)に申請したが、実施条件等で両者が協議中で審査はまだ始まっていない。それでもカナダ政府は今年3月、「eVinci」を将来カナダ国内で建設するため、イノベーション・科学・研究開発省の「戦略的技術革新基金(SIF)」から、2,720万カナダドル(約27億円)をWH社のカナダ法人に投資すると発表した。この投資を通じてカナダ国内の技術革新を促進し、SMR技術が持つ「いつでも利用可能で運搬も容易な低炭素エネルギー源」という特質を活用、カナダ経済への多大な貢献を期待するとともに、同国が目標とする「2050年までにCO2排出量を実質ゼロ化」の達成で一助としたい考えだ。(参照資料:SRCおよびWH社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの5月19日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 20 May 2022
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総合エネ調革新炉WG、米テラパワー社他よりヒア
総合資源エネルギー調査会の革新炉ワーキンググループ(座長=黒﨑健・京都大学複合科学研究所教授)は5月19日、2回目の会合を開催。米国テラパワー社、同ニュースケール社からの発表を受け、革新炉開発の海外動向・国際連携を中心に議論した。同WGは、「原子力発電の新たな社会的価値を再定義し、わが国の炉型開発に係る道筋を示す」ことを目指し4月20日に始動したもの。〈配布資料は こちら〉米国エネルギー省(DOE)の原子力サプライチェーンに関する報告書によると、「米国では、今後高経年化石炭火力の多くが閉鎖され、石炭火力の設備容量を同規模の小型モジュール炉(SMR)にリプレースすることにより、既存送電線の活用および労働者の再雇用ができる」との分析結果が示されている。また、日立製作所が米国GE日立・ニュクリアエナジーと共同開発するBWR型SMR「BWRX-300」に関しては、カナダのオンタリオ州営電力(OPG)で最速2028年の運転開始を目指すプロジェクトが進んでいるが、同プロジェクトでは、製造建設段階(7年間)で約1,700人/年、運転段階(60年間)で約200人/年の雇用創出が図られる見込みだ。NATRIUMのイメージ図(テラパワー社発表資料〈仮訳〉より引用)テラパワー社からは、エンジニアリングディレクターのエリック・ウィリアムズ氏が小型ナトリウム冷却高速炉「Natrium」の開発状況を説明。同氏は、その立地に関し、原子炉建屋や燃料建屋などを配置する「ニュークリアアイランド」と、蒸気発生器やタービン建屋などを配置する「エネルギーアイランド」に敷地を二分した完成イメージを披露。初号機はワイオミング州で閉鎖される石炭火力の代替として建設が計画されており、ウィリアムズ氏は、建設ピーク時に2,000~2,500人、プラント稼働時に200~250人のフルタイム雇用が創出されるとの試算を示した上で、「地元のコミュニティが非常に前向きにとらえており喜ばしい」などと述べた。ニュースケール社がイメージする発電所のアートコンセプト(同社発表資料より引用)また、ニュースケール社からは、共同創業者兼最高技術責任者のホセ・レイエス氏が同社の開発するPWR型のSMRについて紹介。蒸気発生器と原子炉圧力容器を一体化した小型かつシンプルな設計のモジュール炉(出力5~7.7万kW、直径4.5m、高さ23m、重さ800トン)を最大12基輸送・設置し大型炉にも遜色のない90万kW程度の出力を可能とするコンセプトに関し、同氏は、「これまでの原子炉とはまったく異なり『工場で作る』もの」と強調。さらに、外部電源や送電網の喪失時にも対応できる運転機能として、単一のモジュール起動でプラントへの給電を可能とする「ブラックスタート」や「アイランドモード」を備えるなど、レジリエンス強化も図っているとした。日本原子力研究開発機構、三菱重工業他は2022年1月にテラパワー社と覚書を締結。ニュースケール社のプロジェクトにも昨春の日揮・IHIに続き、同年4月には国際協力銀行が出資を発表するなど、海外の革新炉開発への国内企業・機関の進出機運も高まっているが、今後の国際連携に関し、委員からは各国との価値観共有や国民理解の必要性などを訴える意見があった。地域との協働や啓発に関し、レイエス氏は、地元大学へのプラントシミュレーター提供について紹介するなど、次世代層への理解活動にも力点を置くニュースケール社の取組姿勢を強調した。この他、今回のWG会合では、バックエンド問題の関連で、同WG上層の原子力小委員会の委員長代理を務める東京工業大学科学技術創成研究院特任教授の竹下健二氏が、同学と原子力機構との共同開発による「統合核燃料サイクルシミュレーター『NMB4.0』」について紹介。技術導入の段階ごとに2150年までに発生する使用済燃料に基づいた廃棄物処分場面積の試算結果を示した上で、革新炉の廃棄物問題について「これまで横断的に評価されてこなかった」と指摘し、WGでの議論を求めた。
- 19 May 2022
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仏製SMR「NUWARD」の概念設計調査をトラクテベル社が実施
ベルギーの大手エンジニアリング・コンサルティング企業であるトラクテベル社は5月6日、フランス電力(EDF)が原子力・代替エネルギー庁(CEA)などと協力して開発している小型モジュール炉(SMR)「NUWARD」の建設を支援するため、概念設計調査を実施すると発表した。2030年からEDFが「NUWARD」実証プラントの建設に取り掛かる計画であるため、トラクテベル社は今回、フランス中部のトゥールにあるEDFのエンジニアリング・センター(CNEPE)と契約を締結。SMR関係のエンジニアリング・サービスを提供して欧州初のSMR建設をサポートするほか、EDFらが「NUWARD」等の建設を通じて目指している「2050年までのCO2排出量の実質ゼロ化」や、安全で安価な電力供給にも貢献したいとしている。トラクテベル社はこれまでに、ベルギーで稼働する原子炉7基中6基の建設でアーキテクト・エンジニアを務めたほか、世界中の多様な原子力開発プロジェクトにおいてもエンジニアリング企業として活動。2020年12月にはSMRに関する同社の将来展望を公表し、SMR事業をエネルギー問題の総合的解決策として重点的に推進していく方針を表明している。一方のEDFは2019年9月、CEAおよび戦略的下請け企業である政府系造船企業のネイバル・グループ、小型炉専門開発企業のテクニカトム(TechnicAtome)社とともに、フランスで50年以上の経験が蓄積された最高レベルのPWR技術に基づく「NUWARD」を発表した。出力17万kWの小型PWR×2基で構成される「NUWARD」プラントの合計出力は34万kWで、高圧の送電網が届かない遠隔地域の需要に応えるほか、間欠性のある再生可能エネルギー源を補完。EDFが主導するNUWARD企業連合にはフラマトム社も加わっており、2020年代後半にも競争力を備えたソリューションとして「NUWARD」を世界市場に送り出す方針である。トラクテベル社が今回、EDFと締結した契約は今年の10月まで有効で、同社のエンジニアはすでに複数の設計オプションに関して技術面や経済面の調査を実施した。またこの契約に基づき、取水口やサービス・システム等の補助的周辺機器やタービン系の一部、およびこれらのシステムを格納する建屋の3Dモデリング等について概念設計調査を実施する。さらに、入手したデータが複数のパートナー企業間で明確かつ適時に共有されるよう、同社の専門家がパートナー企業間の連絡管理も行う方針。同社はこのほか、予備的な土木調査やコスト評価についても責任を負うことになっており、「NUWARD」プロジェクトに参加するその他のパートナー企業と連携して、サイトのレイアウト設計図も作成する考えだ。なお同プロジェクトでは、概念設計段階に続いて2023年から基本設計段階に入るため、トラクテベル社はこの段階でもEDFをサポートできるよう方策を手配中。その中でも特に、システム調査や土木・レイアウト設計に関する調査、および電気関係や許認可関係の調査を行いたいとしている。(参照資料:トラクテベル社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの5月9日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 10 May 2022
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原産協会、2022年版「世界の原子力発電開発の動向」を刊行
原産協会は4月28日、「世界の原子力発電開発の動向」(2022年版)を刊行した。2022年1月1日現在の世界の原子力発電に係るデータを集計したもので、国・地域別の各発電所の状況、炉型・原子炉モデルを始め、着工から営業運転までの年月や設備利用率、主契約者、供給者、運転サイクル期間・燃料交換停止期間など、広範な情報を網羅。2022年版では、前年に引き続き、小型モジュール炉(SMR)開発動向の他、運転期間延長に関する調査結果、世界の使用済燃料貯蔵の状況、原子炉廃止措置への取組についても掲載している。〈ご購入の申込は こちら〉それによると、世界で運転中の原子力発電所は431基・4億689.3万kWで、前年より3基・98.9万kW分減少(出力変更を含む)。2021年中は、中国、ベラルーシ、パキスタン、アラブ首長国連邦、ロシアで7基・829.1万kWが新設されたほか、ドイツ、パキスタン、英国、ロシア、台湾、米国で10基・936.8万kWが閉鎖された。また、中国、インド、ロシア、トルコで10基・987.4万kW分が着工し、建設中のプラントは計62基・6,687.4万kWとなった。なお、計70基・7,970.3万kWが計画中だ。中国では2021年中、3基が新設、6基が着工しており、躍進が際立っていた。同書で特筆するSMRの開発・導入の動きについては、政府主導による開発支援や海外展開、国際提携、導入に向けての検討や協議が世界的規模で活発化。また、既存炉の有効活用に関して、米国ではほとんどのプラントで運転期間が60年までに延長されており、カナダやフランスでも運転期間の延長に向けた大規模改修が進められていると概括。日本では2021年、関西電力美浜3号機が国内初の40年超運転を開始しており、「低炭素な電力を供給する最も経済的な方法であり、今後も安全確保を大前提に運転期間の延長が進められていく」との見込み。2021年の日本の原子力発電による発電電力量は639億9,786万kWh、設備利用率22.1%で、それぞれ前年比42.3%増、6.6ポイント増と、回復傾向にある。
- 10 May 2022
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斗山エナビリティ社、今年からニュースケール社製SMRの機器製造を開始
韓国の斗山エナビリティ社(=Doosan Enerbility、今年3月に「斗山重工業」から社名変更)は4月25日、米ニュースケール・パワー社が開発した小型モジュール炉(SMR)「ニュースケール・パワー・モジュール(NPM)」の最初の発電所を建設するため、主要機器の製造を本格的に開始する契約を同社と締結した。早ければ今年中にもNPMの原子炉圧力容器の鍛造材生産を始め、2023年の後半から本格的な機器製造を開始する。出力7.7万kWのモジュールを6基備えたNPM発電所「VOYGR-6」は、ユタ州公営共同電力事業体(UAMPS)が米アイダホ国立研究所の敷地内で建設を計画中。最初のモジュールを2029年までに完成させるため、2024年の前半に建設・運転一括認可(COL)を原子力規制委員会(NRC)に申請し、2026年前半に認可を受けて建設工事を始めたいとしている。ニュースケール社が開発した(1モジュール当たりの出力が5万kWの)NPMは、今のところ米国で唯一NRCから標準設計承認(SDA)を取得したSMR。同社は出力7.7万kW版のモジュールについても、SDAを2022年第4四半期に申請する予定である。斗山エナビリティ社は2019年からニュースケール社に対する金融投資企業に加わっており、4,400万ドルの株式投資を現金で実施した。2021年7月にはこれに加えて新たな株式投資を行うと発表、その他の韓国投資家グループとともに同社が行った投資の総額は1億380万ドルにのぼっている。これらを通じて、斗山エナビリティ社は数兆ウォン(1兆ウォン=約1,000億円)規模の機器や資材を供給する権利をニュースケール社から取得。2019年には同社から「SMRの製造可能性調査」を請け負っており、2021年1月にこのタスクを完了した。その結果に基づき斗山エナビリティ社は現在、建設スケジュールの遅延リスクを軽減するとともに確実なコスト設定が可能になるよう、NPM機器のプロトタイプを開発中である。斗山エナビリティ社の朴会長兼CEOは、「ニュースケール社との戦略的協力関係は継続的に強化してきており、今やSMRを製造する万全な準備が整った」と表明。市場ではSMRの需要が一層高まりつつあることから、同社の下請企業にも参加のチャンスがあるとしている。ニュースケール社のJ.ホプキンズ会長兼CEOは、「当社が最初のSMRを市場に出す最有力候補であることを世界中に示すことができた」と指摘。斗山エナビリティ社に対しては、「世界レベルの製造能力によって当社製SMRの商業化に大いに貢献して欲しい」と述べた。なお、今回の発表によると、ニュースケール社は斗山エナビリティ社以外にも、多くのパートナー企業と機器発注の調整を行うなど、サプライチェーンの確保準備中。米国を含む北米のみならず、欧州やアジアの顧客にもSMRを確実に販売していくため、国内外の複数のサプライヤーと契約締結に向けた協議を進めているとしている。(参照資料:斗山エナビリティ社、ニュースケール社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの4月25日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 27 Apr 2022
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ニュースケール社、SMRの製造で米国の原子炉鍛造品製造企業連合と協力
米国のニュースケール・パワー社は4月22日、同社製の小型モジュール炉(SMR)「ニュースケール・パワー・モジュール(NPM)」を商業化する準備として、米国原子炉鍛造企業連合(RFC)と協力協定を締結したと発表した。世界中の顧客にSMRを提供していくに当たり、同社は国内の堅固な原子炉機器鍛造サプライチェーンを活用する方針である。このため同社は、鍛造品の溶接カ所削減や化学組成の調整、および合理的な製造に適した形状など、製造可能性を見直すための協力をRFCと実施。これにより、同社は国内サプライチェーンの製造能力を増強するほか、米国全体の製造業が雇用を維持・拡大していけるよう協力活動を進める方針である。ニュースケール社のNPMはPWRタイプの一体型SMRで、電気出力が5万kW~7.7万kWのモジュールを最大12基連結することで出力の調整が可能。米国の原子力規制委員会(NRC)は2020年9月、モジュール1基の出力が5万kWの「NPM」に対し、SMRとしては初めて「標準設計承認(SDA)」を発給した。出力7.7万kW版のモジュールについても、ニュースケール社はSDAを2022年の第4四半期に申請する計画である。最初のNPMの建設計画は、ユタ州公営共同事業体(UAMPS)がアイダホ国立研究所(INL)内で進めており、2023年の第2四半期までにNRCにCOLを申請し、2025年の後半までにこれを取得。2029年までに最初のモジュールの運転開始を目指している。ニュースケール社が1モジュール当たりの出力を7.7万kWに増強したのを受けUAMPSは2021年6月、建設するモジュール数を当初予定していた12モジュールから6モジュールに変更している。今回の発表によると、両者の協力は米エネルギー省(DOE)がクリーンエネルギー関係のサプライチェーン強化のため、今年2月に公表した「クリーンエネルギー社会への確実な移行に向けたサプライチェーンの確保戦略(America’s Strategy to Secure the Supply Chain for a Robust Clean Energy Transition)」に沿った内容となる。このため、連邦政府や関係する州政府からは、補助金が交付される見通しである。RFCは、北米フォージマスターズ(NAF)社とスコット・フォージ社、およびATIフォージド・プロダクツ社の3社で構成される企業連合。原子力グレードの鍛造品製造で高度な技術力を備えた3社が組み合わさることで、1ピースの重さが160トン以上という大型の合金やステンレス鋼の自由鍛造、継ぎ目のない圧延リングの製造、形状が特殊な鍛造品の製造などが可能になる。3社はこれまでに、NPMで使用する大型鍛造品の製造フィージビリティや設計の微調整関係で、ニュースケール社に協力した実績があると説明している。また、NAF社は近年、ペンシルベニア州にある「先進的原子力機器製造センター(CANM)」と協力関係にあり、SMRや先進的原子炉の原子炉容器や格納容器に使われるオーステナイト系ステンレス鋼について、研究プロジェクトを実施中。これにはペンシルベニア州政府が補助金を一部交付する予定で、NAF社は同社に出資しているスコット・フォージ社やその他の企業とともに、金属の溶解と鍛造、熱処理、鍛造品の粗削りや機械試験、非破壊検査などを実施する計画である。(参照資料:ニュースケール社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの4月22日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 25 Apr 2022
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加SNC-ラバリン社、カナダでのモルテックス・エナジー社製SMRの建設に協力
カナダで原子力等インフラ関係のプロジェクト管理を遂行しているSNC-ラバリン・グループは4月13日、傘下のCANDUエナジー社を通じて、英モルテックス・エナジー社のカナダ法人と戦略的連携関係を結んだと発表した。カナダ東部のニューブランズウィック(NB)州では、州政府が2018年以降、州営電力会社が運転するポイントルプロー原子力発電所の敷地内で、モルテックス社製の第4世代小型モジュール炉(SMR)「燃料ピン型溶融塩炉(Stable Salt Reactor-Wasteburner: SSR-W)」(電気出力30万kW)」の初号機を、2030年代半ばまでに建設する計画を進めている。SNC-ラバリン社はこの計画の許認可手続きや建設工事でモルテックス社に協力するだけでなく、カナダ全体の次世代SMRの開発と建設をさらに促進していく方針である。カナダでは現在、カナダ原子力公社(AECL)が中心となって開発したカナダ型加圧重水炉(CANDU炉)が19基稼働しており、2011年10月に同公社で組織改革が行われた際、そのCANDU炉事業はCANDUエナジー社に売却されている。その親会社であるSNC-ラバリン社のJ.セントジュリアン社長は、「CO2排出量の実質ゼロ化に向けた世界の動きのなかで原子力は重要な部分を担っており、原子力に関する世界中の専門的知見や数100件もの特許の活用で60年以上の経験を持つ当社は、SMR開発のあらゆる段階でベンダーに協力できる」と指摘した。同社長はまた、「当社が設計する原子炉技術はカナダ原子力安全委員会(CNSC)の3段階の「ベンダー設計審査(予備的設計評価サービス)」をすべてクリアし、実際の許可も受けた唯一の技術だ」と強調。このような背景から同社は、SMRの開発企業が設計を完成させるための支援や、カナダ国内で許認可手続き進める際の助言を提供できるとした。同社はまた、モルテックス社はSNC-ラバリン社が保有する世界的規模の専門家ネットワークを活用可能だと指摘。これらの専門家は、設計・エンジニアリングや規制・許認可問題のみならず、コストの試算やサプライヤーの資格認定と管理、品質保証、建設・運転計画の立案など、様々な分野に習熟している。これらを通じてSNC-ラバリン社は、モルテックス社が新たな顧客を呼び込めるよう緊密に連携し、モルテックス社の事業目的達成を支えていく考えだ。なお、両社の連携協力に対し、NB州政府のM.ホーランド天然資源・エネルギー開発相はサポートの提供を約束している。同相は、「この協力はNB州のエネルギー部門で質の高い雇用を生み出し、その長期的な成長に貢献する。また、モルテックス社とNB州がともに、次世代の原子力技術を発展させるリーダー的役割を担うことになる」と述べた。また、ポイントルプロー発電所以外の商業炉がすべて立地するオンタリオ州のT.スミス・エネルギー相も、「当州でエネルギー産業と原子力関係の優秀な労働力、および強力なサプライチェーンを築いたSNC-ラバリン社が、モルテックス社と新たに協力するのは願ってもないことだ」とコメント。「SMR開発に関してカナダは今や世界の注目を集めており、今回の協力によってSMR開発の世界的ハブとしてのカナダの名声や、クリーンエネルギー開発における優位性が高まる」と強調している。(参照資料:SNC-ラバリン社、モルテックス・エナジー社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、ほか)
- 19 Apr 2022
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エストニアでのSMR建設に向け、同国のフェルミ社と加OPG社の子会社が協力契約
エストニアで小型モジュール炉(SMR)の導入を計画している新興エネルギー企業、フェルミ・エネルギア社は4月12日、効率的な建設プログラムを策定するため、カナダでエネルギー関係のソリューション・サービスを提供しているローレンティス・エナジー・パートナーズ社と協力契約を締結した。ローレンティス社はカナダのオンタリオ州営電力(OPG)会社の100%子会社であり、OPG社はカナダで稼働する商業炉19基のうち18基を保有している。原子力やエンジニアリングに関する親会社の豊富な経験を背景に、ローレンティス社のJ.バンウォート副社長は、「エストニアが自信をもってSMRを国内のエネルギーミックスに加えられるよう、今回の契約で様々な協力をフェルミ社に提供する。具体的には、SMR建設の許認可手続きや資金調達を円滑に進めるための建設プログラム策定に加え、実行可能性調査の実施や計画立案、建設・運転関係のサービスなどだ」としている。エストニアは消費電力の大部分をオイルシェールや近隣諸国からの輸入電力で賄っているため、フェルミ社は信頼性の高いクリーン電力を天候に左右されずに安定供給できるよう、2019年以降、SMRの国内建設に向けた可能性を検討中。2035年までに1基以上のSMR建設を目指しており、これまでにすでに、米国のGE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社が開発しているSMR「BWRX-300」や、英国ロールス・ロイス社製SMRの国内での建設可能性を探るため、協力覚書を両者と締結している。また、英国のモルテックス・エナジー社、カナダのテレストリアル・エナジー社、米国のニュースケール・パワー社、ウルトラ・セーフ・ニュークリア(USNC)社が開発中のSMRについても、フェルミ社は導入可能性を調査中と伝えられている。 OPG社が2021年12月、カナダのダーリントン原子力発電所で建設するSMRとしてGEH社製「BWRX-300」を選定したことについて、フェルミ社のK.カレメッツCEOは、「OPG社は原子力発電事業の世界的リーダー企業の一つであり、同社が進める「BWRX-300」プロジェクトは世界をリードするSMR建設計画になるだろう」と指摘した。その上で、「ローレンティス社との緊密な協力を通じて当社はSMRの建設プログラムを策定し、複数のSMR建設に向けた許認可手続きや資金調達の基盤を形成。ひいては、エストニアとその他のバルト三国における低価格なエネルギーの自給や脱炭素化の達成につなげたい」と述べた。また、「原子力がクリーンな低炭素電源であることは、欧州連合(EU)がEUタクソノミーの投資基準に一定条件下で原子力を加えたことからも明らかだ」と強調している。(参照資料:ローレンティス・エナジー・パートナーズ社、フェルミ・エネルギア社(エストニア語)の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの4月13日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 14 Apr 2022
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【第55回原産年次大会】セッション1「各国におけるストラテジーとしての原子力開発利用」
セッション1では「各国におけるストラテジーとしての原子力開発利用」をテーマに、4か国から原子力政策が紹介された。モデレータを務めた日本エネルギー経済研究所・戦略研究ユニットの村上朋子原子力グループマネージャーは、セッション内容の説明に際し、世界の33か国・地域が原子力を利用している理由として、「人口や経済規模の大きい国が大量のエネルギーを必要としたから」という考え方に言及。あるいは逆に、原子力のように安定したエネルギーを利用してきたからこそ、多くの人口を維持し経済発展を遂げたとも考えられるが、実際の原子力利用国では単にエネルギー問題の解決のみならず、他の様々な事情も考慮されてきたことが想像できるとした。同氏はまた、日本の「原子力開発利用長期計画」では原子力はエネルギー政策としてだけでなく、長期的な産業振興政策の一つとしても優良な選択肢であった点を指摘した。その上で、原子力はある日突然、必要になったからと言って「泥縄式に」手に入るものではないし、何十年もの間に万が一の事態が発生することに備えて、二重三重の対策を講じておくことがエネルギー政策だと強調。本セッションでは、原子力の開発利用を巡る各国の諸事情を直接伺いたいと述べた。♢ ♢カポニティ次官補代理米国エネルギー省(DOE) 原子力局のA.カポニティ次官補代理(原子炉フリート及び先進的原子炉担当)は、CO2排出量が実質ゼロの経済で不可欠な先進的原子炉の開発について、米国の現状を次のように述べた。J.バイデン大統領は地球温暖化への取り組みを最優先に考えており、DOEは国内外のCO2排出量の削減目標達成に向けて、SMR等の先進的原子炉設計を早急に市場に出す準備を積極的に展開中。この意味で新規の原子炉建設は非常に重要なものになっており、バイデン政権は①2020年代末までに米国のCO2排出量を50%以上削減、②2035年までに米国の電源ミックスを100%クリーンなものにする、③2050年までにCO2排出量が実質ゼロの経済を獲得する、などの目標を設定。このような意欲的な目標を達成するには、原子力のようにクリーンで信頼性の高いベースロード電源が不可欠だとDOEは考えている。現在、米国の原子力発電所は総発電量の約20%を供給しているが、クリーン電力だけ見ると年間総発電量の半分以上が原子力によるもの。これらは平均92%という世界で最も高い設備利用率で稼働中であり、他のいかなる電源よりも高い数値である。このような事実から、原子力は米国で最も信頼性の高い、最大の無炭素電源と位置付けられており、既存の大型軽水炉の運転継続を支援し、SMRやマイクロ原子炉等の先進的原子炉設計を新たに市場に出すことは、米国における地球温暖化対応戦略の主要部分となっている。先進的原子炉設計の商業化を支援するに当たり、DOEでは次の3つのアプローチをとっている。すなわち、①DOE傘下の国立研究所で基礎研究開発を進める、②先進的原子炉の開発事業者が国立研究所の専門的知見や能力、関係インフラを利用しやすくなるよう連携する、③技術面と規制面の主要リスクに官民が連携して取り組み、2020年代の末までに先進的原子炉の初号機を送電網に接続する、である。そのためにDOEが具体的に実施している方策としては、先進的原子力技術の商業化支援構想「原子力の技術革新を加速するゲートウェイ(GAIN)」が挙げられる。GAINでは、技術開発支援バウチャー(国立研究所等の施設・サービス利用権)プログラムなどを通じて、民間企業が国立研究所のインフラ施設や専門的知見、過去のデータ等を活用できるよう財政支援を実施。DOEが2019年に傘下のアイダホ国立研究所(INL)内に設置した「国立原子炉技術革新センター(NRIC)」では、技術の実証に使える試験台や実験インフラを提供している。また、官民の連携アプローチでは、DOEは3つの先進的原子炉設計を選定して、実証炉の開発プロジェクトを支援中。その1つ目はニュースケール・パワー社の軽水炉型SMRで、2029年までにINL内で最初の実証モジュールを稼働させる。出力7.7万kWのモジュールを6基連結することにより、合計46.2万kWの出力を得る計画である。2つ目は、テラパワー社がGE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社と共同で進めている、ナトリウム冷却高速炉「ナトリウム(Natrium)」計画。ワイオミング州内で閉鎖予定の石炭火力発電所で電気出力34.5万kWの実証炉を建設することになっており、火力発電所のインフラ設備や人員を活用する予定になっている。3つ目は、X-エナジー社が開発している小型のペブルベッド式高温ガス冷却炉「Xe-100」。ワシントン州内で初号機の建設が予定されており、その高い出口温度によって水素製造に適した高品質の蒸気を生産するほか、4基のモジュールを組み合わせて32万kWの発電設備とする計画である。♢ ♢ポペスク局長ルーマニア・エネルギー省のE.ポペスク・エネルギー政策・グリーンディール局長は同国の原子力開発戦略を次のように紹介した。ルーマニアを含む欧州南東部は依然としてエネルギー安全保障の脆弱性という問題を抱えているため、供給保証の確保と調達先の多様化は引き続き、この地域におけるエネルギー政策の基本要素である。2030年までの期間、温室効果ガス(GHG)排出コストの上昇にともない、低炭素な風力や太陽光、原子力等の設備拡大ペースも早まっていくと想定。長期的なエネルギーシステムの開発に関するシナリオはすべて、大規模な水力発電や再エネ、原子力、エネルギー貯蔵など、利用可能なあらゆる低炭素技術の活用を前提としたものであり、これらの技術はルーマニアにおける「低炭素でバランスの取れた多様なエネルギーミックス」の構築に不可欠な貢献を果たす。欧州連合(EU)はエネルギーと気候関係で2030年までの目標を多数掲げているため、加盟国は2030年まで10年間の総合的な国家エネルギー・気候計画(NECP)を策定しなければならない。ルーマニアが2030年までを目処に設定した目標としては、EU排出量取引制度(ETS)の中でGHG排出量を2005年比43.9%削減;最終エネルギーの総消費量に占める再エネの割合を30.7%に拡大;ルーマニアの「国家復興・強靭化計画(RRP)」ではこの割合を34%とする、などがある。原子力に関しては、ルーマニアはその利用可能性や高い競争力、環境への影響が少ないこと等から、電力部門の持続可能な発展のための解決策と認識。発電における戦略的選択肢であるとともに、国家エネルギーミックスの安定した構成要素と考えている。現状では、チェルナボーダ1、2号機(各70万kW級のカナダ型加圧重水炉=CANDU炉)が送電開始以降、CO2を累計で1億7,000万トン削減したほか、毎年約1,000万トンを削減中。総発電量に占める原子力発電の割合は18~20%だが、クリーンエネルギーでは全体の33%を両炉が供給している。また、原子力関係の売上高は2017年の累計で5億9,000万ユーロ(約802億円)にのぼり、2030年までの総投資額は80億~90億ユーロ(1.09兆~1.2兆円)に達する見通しである。ルーマニアの脱炭素化目標では、2030年までにCO2排出量を現状から55%削減し、輸入エネルギーへの依存度も現在の20.8%を17.8%まで削減する。このため、原子力ではチェルナボーダ1号機の運転期間延長に加えて、建設工事が1989年にそれぞれ15%と14%で停止した同3、4号機(各70万kW級CANDU炉)を2031年までに完成させる。また、SMRを6モジュール分(46.5万kW)設置するほか、チェルナボーダ発電所内ではトリチウム除去施設(CRTF)を建設、回収したトリチウムは安全に長期保管するほか、国際核融合実験炉計画(ITER)等に役立てる方針である。1号機の運転期間延長については、フェーズ1の作業が終了間近となり、次の段階では延長プロジェクトの実施でEPC契約を締結するほか関係許認可を取得、最終投資判断(FID)も行われる。実際の改修工事は、フェーズ3で2026年12月から2028年12月まで効率的に遂行する。3、4号機を完成させる工事については、ルーマニア国営原子力発電会社(SNN)の子会社であるエネルゴニュークリア社が2021年11月、SNC -ラバリン社グループのCANDU炉製造企業であるCANDUエナジー社と契約を締結している。SMR関係では、SNNが米ニュースケール・パワー社製SMRの国内建設を目指して、2021年11月に同社と協業契約を締結した。欧州初のSMRとして約46万kW分を設置し、毎年400万トンのCO2排出を抑制するという計画。SNNは2022年4月末までに、建設サイトを決定する予定である。♢ ♢ギブルジェ-ツェトヴェルティンスキ次官ポーランド気候環境省のA.ギブルジェ-ツェトヴェルティンスキ次官は、同国における原子力発電開発とその利用戦略について、次のように解説した。ポーランド政府は、2040年までを見通したエネルギー戦略やCO2排出量の実質ゼロ化を達成する上で原子力の利用は欠かせないと考えており、そのための2つの重要文書「2040年に向けたポーランドのエネルギー政策」と「ポーランドの原子力開発計画」を策定した。ともに2043年までに原子炉を6基、600万~900万kW建設することを想定。出力100万~150万kWの初号機については2033年までに運転を開始し、その後2年おきに残りの5基を完成させていく計画である。「2040年に向けたエネルギー政策」では低炭素なエネルギー・システムに移行するための枠組みを設定しており、このようなシステムの構築に必要な技術の選定に関する戦略的決定事項を明記した。また、信頼性の高い電源として、原子力がポーランドの電源構成の中で極めて重要な部分を担っていることを再確認。原子力はまた、出力調整が可能なベースロード電源であるため、再生可能エネルギー源を着実に建設していく一助になる。2050年までにCO2排出量の実質ゼロ化を達成することは、未だに総発電量の約7割を石炭火力で賄っているポーランドにとって非常に大きな挑戦だが、それでもポーランドはエネルギーの安定供給と経済競争力を維持しつつ、電源構成を改善していくと決定。最終的に総電力需要の約20%を原子力で賄い、ポーランドの脱炭素化に向けた取り組みの主翼とする方針である。原子力発電の導入を実現する重要要素としては、「サイトの選定」、「事業モデルの構築」、「採用技術」の3点があり、立地点については最初の発電所の建設に適したサイトとして、事業会社のPEJ社が北部ポモージェ県ホチェボ自治体内の「ルビアトボ-コパリノ地区」を選定した。採用技術としては、確証済みの技術を採用した第3世代+(プラス)の大型PWRを検討。事業モデルに関しては、これから選定するパートナー企業が事業会社のPEJ社に最大49%出資し、事業リスクを分散してくれることを期待している。PEJ社については、2021年3月に政府が同社株を100%取得したことから、政府が同社を直接監督している。同社は最近、最初の発電所建設と運転が周囲の環境に及ぼす影響について評価報告書(EIA)を取りまとめており、現在は「サイトの評価報告書」を作成中。今後数か月の間に発電所に採用する原子炉技術を選定してベンダーと契約するほか、EPC(設計・調達・建設)コントラクターとも契約を締結、政府からは「環境条件に関する承認」を取得するため、原子力発電プログラムは特に忙しくなる。政府はまた、2020年後半に改訂版の「原子力発電計画」を採択。このため、原子力発電に必要な人的資源の開発や国民とのコミュニケーション、原子力発電所の建設と運転に参加する国内産業界の準備支援等を優先的に実施していく考えだ。政府はさらに、2021年12月に「地元の産業支援計画」を承認した。同計画では、様々な産業活動への国内企業の参加を促す予定。原子力では新たなイノベーション産業がポーランドで生まれると期待されており、原子力発電所建設事業の70%までを国内企業が実施することになる。♢ ♢ブイット部長フランス環境移行省エネルギー・気候局(DGEC)のG.ブイット原子力産業部長は、フランスにおける今後の原子力エネルギーの展望について以下のように説明した。フランスでは現在、56基のPWRで3,350億kWhを発電(2019年実績)しており、発電シェアは全体の67%、これらの平均稼働年数は36年である。2015年に「グリーン成長のためのエネルギー移行法(LTECV)」が成立し、2019年にはその内容を補完する「エネルギー気候法(LEC)」が公表された。これらではエネルギーの移行に向けて、野心的な国家中長期目標を設定。すなわち、「2050年までにCO2排出量の実質ゼロ化を達成」、「2030年までに化石燃料の消費量を2012年比で40%削減」、「2012年から2050年までの間に最終エネルギーの消費量を50%削減」、「2030年までに最終エネルギー消費量の33%を再エネとする」、などである。2020年4月には、LECの目標を達成するための補足文書として、①(2028年までの)多年度エネルギー計画(PPE)、②国家低炭素戦略(SNBC)が制定された。PPEの第一期(2019年~2023年)では、原子力部門の将来に向けた行動計画を提示。原子炉の運転年数を40年以上に延長することや、再処理戦略が再確認されている。一方、送配電企業のRTEは2021年10月、政府の指示により、国内の電源構成を完全に脱炭素化しつつ長期的な電力ニーズを満たすためのシナリオを6つ作成。それぞれの費用やリスク評価した結論として、「原子力を完全に廃止したシナリオでは、2050年までに電源構成の脱炭素化という目標を達成できないリスクがある」、「新規の原子炉建設は経済的観点から妥当」などと発表した。このような状況を受けてE.マクロン大統領は2021年11月、2050年までにCO2排出量の実質ゼロ化を達成するため、再エネ源の大規模開発継続に加えて、原子炉建設を行う新しいプログラムを設置したと発表している。2022年2月には、「国内で新たに6基の改良型EPR(EPR2)を建設し、さらに8基建設するための研究を開始する」、「効率的な発電能力を維持している既存の原子炉は、最高水準の安全性が確保されている限り廃止しない」などの方針を明らかにした。現在、フランス政府はエネルギー・気候政策の定期的な見直しとして、PPE第二期(2024年~2028年)の戦略策定に向けた意見を2021年秋から幅広く聴取中。議会は2023年の夏ごろ、新たな方針を盛り込んだ法律の制定に向け議論を実施する予定で、次回の改訂では新規原子炉の建設に関してさらなる詳細が示される。一方、原子力産業界ではフランス電力(EDF)が中心となってPWRタイプのSMR「NUWARD」を開発しており、2040年までに国内エネルギーミックスに組み込む方針。「NUWARD」では、1つの建屋に出力17万kWの原子炉を2基設置、静的安全システムによって様々な事故シナリオに対応可能になる。このような産業界を支援する戦略として、政府は2020年9月に「フランス復興計画」を発表した。原子力産業界の設備・能力の近代化関係で1億ユーロ(約136億円)、原子力研究開発に2億ユーロ(約272億円)の支援を行うほか、「NUWARD」の予備設計支援で5,000万ユーロ(約68億円)を投じることになった。また、2021年10月にはマクロン大統領が、将来に向けた新たな大規模投資計画「フランス2030」を発表。2030年までに国民の生活や生産活動をより良いものとするための目標10項目を掲げており、エネルギーを含む様々な重要分野に対応。原子力関係では、小型原子炉その他の革新的な原子炉の台頭促進が目標の一つであることから、10億ユーロ(約1,358億円)の公的資金の投入方針を明らかにしている。
- 13 Apr 2022
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英国の新しいエネルギー供給保障戦略、電力自給の改善で原子力を大幅拡大
©BEIS英ビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)は4月6日、クリーンかつ安価な国産エネルギーの開発を大幅に加速し、英国のエネルギー自給を長期的に改善するという新しい「エネルギー供給保障戦略」を公表した。 その中で原子力は中心的役割を担っており、これまでのように原子炉を10年に1基ではなく「年に1基」という早いペースで建設していき、2050年までに最大8基を稼働可能にすると表明している。同国のB.ジョンソン首相は、エネルギー価格の世界的な高騰や国際エネルギー市場における激しい価格変動を背景に、この「大胆な」戦略を通じて英国のエネルギー供給保障を一層強化する方針。2030年までに英国の供給電力の95%までを低炭素化するため、原子力や風力、太陽光、クリーン水素等のクリーンエネルギー設備を迅速かつ意欲的に建設、短期的には国産石油や天然ガスの増産も支援していく考えだ。同戦略では原子力を、国内総電力量の約15%を安定的に供給する必要不可欠な電源であるとともに、間欠性の高い再生可能エネルギー源を補う存在と位置付け、同じ広さの太陽光発電設備の100倍以上の電力をもたらす、英国のエネルギーの根幹をなす低炭素電源であるとした。島国の英国でベースロード用の電源を十分に確保するには、原子力を活用する以外に方法はないとも指摘しており、英国は原子力で再び世界をリードしていくと明言。小型モジュール炉(SMR)も含めて、2050年までに現在の約3倍にあたる最大2,400万kWの発電容量を安全でクリーンな原子力発電で確保し、国内電力需要の最大25%までを賄う計画である。このための方策として、同戦略はまず、英国を原子力投資に最適な国の一つにすると表明。具体的に、上記の開発目標や2030年までに最大8基建設する方針に言及したほか、現行議会の期間中にSMRも含めて1プロジェクトの原子力発電所建設計画、次期議会ではさらに2プロジェクトで最終投資判断(FID)が下されるよう進めていくとした。また、新規の原子力発電所建設プロジェクトの進め方を大幅に変更する方針で、今月中に1億2,000万ポンド(約194億円)の予算で「将来の原子力開発を可能にするための基金(Future Nuclear Enabling Fund)」を設置。開発プロセスの全段階で支援を提供する新しい政府機関として、年内にも「大英原子力(Great British Nuclear)」を立ち上げ、新設プロジェクトの投資準備や建設期間中の支援が可能になるよう、同機関に十分な予算措置を講じる。これにともない、英国政府は2023年にも、新たな支援対象プロジェクトの選定作業を開始すると表明。可能な限り迅速に政府支援を提供できるよう、有望なプロジェクトの事業者と交渉に入りたいとしている。さらに、英国内では現在、新規の原子炉建設が可能なサイトが8か所あるが、今回の意欲的な計画を円滑に進めるため、長期間を見渡した包括的な立地戦略を策定する。このほか、SMRや先進的モジュール式原子炉(AMR)など先進的な原子力技術の開発を加速するため、諸外国と協力していく。ジョンソン首相は今回の戦略について、「新たな原子力設備から洋上風力に至るまで、今後10年の間にクリーンで安価な国産エネルギーの設備を拡大、価格変動の激しい輸入エネルギーへの依存を減らして、一層安価な国産エネルギーを享受する」と説明。BEISも、「新型コロナウイルスによる世界的感染の拡大後、エネルギー需要の急増で価格が世界的に上昇したことや、ロシアがウクライナに軍事侵攻したこと等により、今回の戦略を策定するに至ったが、この戦略は英国が高価格の化石燃料による発電を止め、長期的なエネルギー供給保障の確保で多様な国産エネルギーを推進する上で中心的役割を果たす」と強調している。(参照資料:BEISの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの4月7日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 08 Apr 2022
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チェコ電力、同国初のSMR立地点としてテメリン原子力発電所を選択
チェコの国営電力(CEZ)は3月31日、国内で建設を検討している小型モジュール炉(SMR)初号機の立地点として、南ボヘミア州にあるテメリン原子力発電所(100万kW級のロシア型PWR=VVER×2基)敷地内の一区画を確保したと発表した。同社はSMR建設の実行可能性を調査するため、数年前に米国のニュースケール・パワー社やGE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社などと協力覚書を締結。今回の決定については、米エネルギー省(DOE)の原子力通商ミッションが3月28日の週にプラハを訪問した際、CEZ社が両社の代表団と会談して伝えた。同社はまた、南ボヘミア州政府、同様にSMRで協力中の米ホルテック・インターナショナル社に対しても同日、この件を連絡したとしている。CEZ社はこれらのほかに、SMRデベロッパーの英ロールス・ロイス社、フランス電力(EdF)、韓国水力・原子力会社(KHNP)とも、個別に協力覚書を締結済みである。CEZ社自身もまた、傘下の国立原子力研究機関(UJV Rez)を通じてSMR開発を進めており、モジュール式の先進的ガス冷却高速炉「HeFASTo」の概念や、溶融塩で冷却する小型のモジュール式高温原子炉「Energy Well」の概念については、研究開発が新たな段階に進展したとしている。チェコ政府は2015年5月の「国家エネルギー戦略」のなかで、当時約30%だった原子力発電シェアを2040年には60%まで引き上げる必要があると明記した。同戦略のフォロー計画として翌月に閣議決定した「原子力発電に関する国家アクション計画(NAP)」では、化石燃料の発電シェアを徐々に削減するのにともない、既存のドコバニとテメリンの両原子力発電所で1基ずつ、可能であれば2基ずつ増設するための準備が必要だとしていた。ドコバニ発電所では特に、既存の全4基(51万kWのVVER×4基)が2035年から2037年の間に運転を終了する予定であるため、チェコ政府は優先的に原子炉を増設する方針。CEZ社は3月中旬、Ⅱ期工事の5、6号機(各120万kW級PWR)建設に向け、最初の1基のサプライヤーについて競争入札を開始している。テメリン発電所でも一時期、増設計画が進められていたが、投資金の回収問題により2014年にこの計画は頓挫。チェコのA.バビシュ首相は2019年11月、チェコでは差し当たりドコバニ発電所の増設を優先するものの、テメリン発電所の増設計画についてもいずれ協議を再開することになると強調している。CEZ社によると、安定した岩盤上に立地するテメリン発電所では、運転員が2000年代初頭から安全運転で豊富に経験を蓄積するなど、SMRの立地では大きな利点がある。複数のデベロッパーや地元自治体が関与するSMRのパイロット計画立地点として同発電所が選定されたのも、そのような理由によるとしている。テメリン発電所サイトでSMR用に一区画を確保したことに関し、CEZ社は将来、標準的な大型原子炉を2基増設する計画に影響が及ぶことはないと指摘。CEZ社のD.ベネシュCEOも、「ドコバニ発電所で5号機を増設するための入札では、これに加えてテメリンで2基増設することも強制力を持たない入札オプションの一つになっている」と説明した。(参照資料:CEZ社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの4月1日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 04 Apr 2022
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