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米国で進むSMR開発の最新状況
SMRって何?米国で進むSMR開発の最新状況2023年1月30日世界では今、気候変動の緩和やエネルギー・セキュリティの強化などを背景に、原子力発電への期待が高まっている。多くの国で安全性や効率性をより一層高めた次世代原子炉の開発が盛んに行われており、とりわけ、SMRと呼ばれる小型の原子炉に注目が集まっている。SMRとは、Small Modular Reactorの略で、日本では一般的に小型モジュール炉と呼ぶ。1基あたりの電気出力が30万kW以下で、従来の約3分の1。1基の規模は小さいが、単基でも複数基でも配備可能なため、エネルギー需要が少なく送電網の規模が小さい地域では1ユニットで、従来の電源設備のリプレースなら複数ユニットで、といったように立地条件に応じた配備が可能だ。「VOYGR」発電所の完成予想図 ©NuScale Power, LLCまたSMRは、機器やシステムは工場で製造され、モジュール化して立地サイトへ搬送、プレハブのように現地で組み立てることができるため、工期短縮やコスト削減が期待されている。その他、電力以外の用途、例えば、地域暖房や工業プロセスへの熱供給、水素製造、海水淡水化などの用途に利用可能なものもあり、脱炭素化が難しいとされる産業分野での利用が期待される。さらにSMRは負荷追従運転に優れているため、今後大量導入が見込まれる出力変動性の高い再生可能エネルギーとの組み合わせにもマッチし、電力システムの信頼性向上に寄与すると言われている。SMRの中でも熱出力2万kW以下、または電気出力1万kW以下の超小型のものはマイクロ炉と呼ばれ、その多くはトラックや輸送コンテナで運べるほどの規模である。ディーゼル発電機を利用している離島や遠隔地、鉱山サイト、軍事基地での利用から災害救助活動などに至るまで、小型分散型電源として多目的な利用が見込まれており、これまでの大型炉では実現が難しかったニッチな電力・エネルギー市場向けへの導入が想定されている。工場から運搬される高温ガス冷却炉EM2のイメージ図 ©General Atomicsこのように、SMRはさまざまな用途が期待されているのだが、開発の実態はどうだろうか。国際原子力機関(IAEA)によれば、開発が進められているSMRは世界で80以上あるとのことだが、すでに運転を開始しているのはロシア(ロシア極東地域チュクチ自治管区内のペベク)の海上浮揚型原子力発電所であるアカデミック・ロモノソフと中国(山東省栄成の石島湾)のHTR-PM、の2つだけである。その他、アルゼンチンのCAREM25や中国の玲龍一号、ACPR50S(海上浮揚型)の建設が現在進められているが、他は全て開発中であり、いわば机上の「ペーパー・リアクター」なのだ。最も開発が盛んな米国でも、数基が2020年代末の運転開始をめざして、開発中という状況だ。今、米国では、老朽化した石炭火力発電所のリプレースや遠隔地・鉱山で使用されているディーゼル発電機の代替として、また鉄鋼、化学などの製造部門における熱利用・水素製造などのニーズを背景に、多くの企業がさまざまなタイプのSMR開発に取り組んでいる。米国政府も気候変動やエネルギー・セキュリティの観点から、原子力のイノベーションと利用拡大を重要視している。そして何よりも、ロシアへのエネルギー依存からの脱却をめざし、次世代原子炉の開発と実証に向け、数十億ドル規模の投資を行っている。米国の原子力産業界を代表する組織である米原子力エネルギー協会(NEI)のM. コースニック理事長兼CEOは、2022年6月に行った講演のなかで、電気事業者に対して実施した聞き取り調査を紹介。米国の電気事業者が2050年までに新たに9,000万kWの原子力新設を検討中であることを明らかにした。もしこれら全てがSMRで建設されるとすれば、約300基というとんでもない規模のSMRを建設することに相当する。ロシアの海上浮揚型原子力発電所「アカデミック・ロモノソフ」 ©The State Atomic Energy Corporation ROSATOM実際に、SMR開発が盛んな米国の状況を見てみよう。主な開発プロジェクトを炉型別に表にまとめ、開発予定サイトや導入時期、政府による資金援助まで、その開発状況を紹介する。SMR建設の最新状況を表で見る米国で開発中の主なSMR出典:全米公営事業委員協会(NARUC)委託の調査報告書「重要なクリーンエネルギー資源としての原子力」などを基に原子力産業新聞が作成先進的原子炉実証プログラム(ARDP)表を閉じるSMRの炉型別開発状況開発予定サイトが既に発表されている代表的なSMRをいくつか取り上げ、その開発状況を炉型別に紹介する。水冷却炉詳細を見る非水冷却炉詳細を見るマイクロ炉詳細を見るこのように、米国のSMRの中には開発サイトや導入時期が具体化しているものもある。UAMPSのニュースケール・パワー・モジュール「VOYGR」は2029~2030年の導入を目指しているほか、テラパワーのNatrium(2028年導入)とX-エナジーのXe-100(2027年導入)は米エネルギー省(DOE)の先進的原子炉実証プログラム(ARDP)のうち、7年以内の導入目標を掲げた先進原子炉実証対象に選ばれている。なおARDPとは 、官民コストシェアリングにより先進炉の実証を加速するプログラムで、具体的には①先進原子炉実証(運転目標7年以内)②将来実証リスク削減(運転目標10~14年以内)③先進炉概念2020(ARC-20、運転目標2030年代半ば)――の3つがある。米国内だけではない。米国発のSMRを海外輸出しようとする動きも盛んだ。2022年11月にエジプトで開催されたCOP27では、米国のジョン・ケリー気候問題担当大統領特使が、2つのSMR海外展開プロジェクト(①ウクライナでのSMRを用いた水素製造実証プロジェクト②欧州の石炭火力をSMRでリプレースするプロジェクト)を発表した。このほかにもCOP27ではSMRの途上国での利用可能性が大いに議論された。IAEAのグロッシー事務局長も SMRのグローバル化が進んでいると指摘し、特に、原子力を新規建設する際の課題である「リードタイム」が短縮されると大きな期待を寄せた。ただし誤解してはいけないのは、SMRは万能ではないということだ。日本のように、立地点が限られ、かつ、しっかりとした送電グリッドが形成されているケースでは、事業者が SMRを選択するか疑問である。国は、廃炉となったプラントの建て替えを想定し革新炉開発を進める方針だが、既存炉と同程度の出力を確保するためにはSMRを4〜5基連結する必要があり、それは必ずしも経済的だと言えない。グロッシー事務局長も、必要となる設備容量は国ごとに異なると指摘し、大型炉が相応しいケースも多いと言及。SMRはどちらかというと開発途上国向けの選択肢になるのでは、との見方を示している。■文/原子力産業新聞編集部
- 30 Jan 2023
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マイクロ炉 | 米国で進むSMR開発の最新状況
SMRって何?米国で進むSMR開発の最新状況マイクロ炉一般的に熱出力2万kW以下(または電気出力1万kW以下)の超小型の原子炉であるマイクロ炉をいくつか紹介する。マイクロ炉は、送電網が整備されていない遠隔地での利用やディーゼル発電機の代替、地域暖房や水素製造など熱の利用も可能である。また、トラックでの輸送が可能なコンパクトなタイプのものもある。マイクロ炉・液体金属高速炉オーロラ「オーロラ」は先進的原子炉開発企業オクロが開発した液体金属高速炉のマイクロ炉で、電気出力は0.15万kW。HALEU燃料(U235の濃縮度が5~20%の低濃縮ウラン)を燃料として使用するが、原子炉の冷却に水を使わず、同社によれば少なくとも20年間、燃料交換なしで熱電併給を続けることができる。「オーロラ」発電所の完成予想図 ?Oklo Inc.オクロは同設計をDOE傘下のINL敷地内で2025年の運転開始をめざしており、DOEも2019年12月にINLでのオーロラ建設を許可した。これを受けて、オクロの子会社であるオクロ・パワーは2020年3月、非軽水炉型の先進的SMRとしては初の建設・運転一括許認可(COL)をNRCに申請。NRCスタッフは同年6月にこの申請を受理し、審査を進めていた。しかし、NRCは2022年1月、設計の安全面など複数のトピックスについて情報不十分との判断から、オクロのCOL申請を却下すると発表。その後同年9月、オクロは将来の許認可活動を支援するための同社の関与案をまとめた許認可プロジェクト計画(LPP)をNRCに提出し、許認可活動を再開した。またオクロは2021年6月、オーロラに使用する先進的原子炉燃料の製造技術とリサイクル技術の商業化に向け、DOEの技術商業化基金(TCF)からの支援を獲得。DOEおよび傘下のアルゴンヌ国立研究所(ANL)と合計200万ドルのコスト分担型官民連携プロジェクトを実施するというもので、電解精製技術を使って放射性廃棄物を転換し先進的原子炉燃料を製造するほか、使用済燃料のリサイクル化を図る技術の商業化を進めていく。これらを通じて放射性廃棄物の量を削減し、燃料コスト削減をめざす考えだ。マイクロ炉・高温ガス炉BANRBWXテクノロジーズ(BWXT)の「BANR(BWXT Advanced Nuclear Reactor)」は、電力網の未整備地域や遠隔地での利用を想定した、電気出力1,000~5,000kWの輸送可能な極小原子炉の高温ガス炉。電気、プロセス熱、またはその両方を出力するコージェネレーション・モードなど、出力に柔軟なオプションを提供する。マイクロ炉のサイズ感 ?Idaho National LaboratoryBANRは2020年12月、DOE・ARDPの「将来実証リスク削減プログラム」の1つに選ばれた。また国防総省戦略的能力室(DOD-SCO)は2022年6月、同省の「プロジェクト・ペレ」と呼ばれる軍事作戦用の可搬式マイクロ原子炉の設計・建設・実証プロジェクトにBWXTの高温ガス炉(HTGR)を選定、今後、2024年までにHTGR原型炉をINLに設置する予定だ。HALEU燃料の3重被覆層・燃料粒子「TRISO」を使用する同炉では、INLがその後、最大3年にわたって様々な実験プログラムを実施する。具体的には、同炉の操作性や分散型電源としての性能を確認するほか、システムの分解と再組立て実験を含む可搬化の実証も行う。マイクロ炉・高温ガス炉MMRウルトラ・セーフ・ニュークリア(USNC)のMMR(Micro Modular Reactor)は電気出力0.5~1万kWで、シリコン・カーバイドで層状に被覆されたウラン粒子を燃料に用いる小型モジュール式HTGR。20年の運転期間中に燃料を交換する必要がなく、いかなる事故シナリオにおいても、物理的な対応なしですべての熱が受動的に環境中に放出されるという。MMRの完成予想図 ?ULTRA SAFE NUCLEARカナダのエネルギー・プロジェクト企業のグローバル・ファースト・パワー(GFP)はすでに2019年3月、パートナー企業であるUSNCのMMRをオンタリオ州チョークリバー・サイトで建設するため、SMRとしては初の「サイト準備許可(LTPS)」をカナダ原子力安全委員会(CNSC)に申請した。また、米国のイリノイ大学アーバナ・シャンペーン校(UIUC)は2021年6月、USNC社製MMRの試験研究炉を将来学内で建設するため、NRCに「意向表明書(LOI)」を提出した。また2022年2月には、MMRの建設に向けた実行可能性調査でアラスカ州の電力共同組合と協力中であることが明らかになった。さらにUSNCは2022年8月、MMRに使用する3重被覆層・燃料粒子「TRISO」と「完全セラミックマイクロカプセル化(FCM)燃料」のパイロット製造(PFM)施設をテネシー州のオークリッジで開所、MMR用燃料の試験と性能認定を実施する計画である。米国で開発中のその他の主なマイクロ原子炉SMRの炉型別開発状況開発予定サイトが既に発表されている代表的なSMRをいくつか取り上げ、その開発状況を炉型別に紹介する。水冷却炉詳細を見る非水冷却炉詳細を見るマイクロ炉詳細を見る本文に戻る
- 30 Jan 2023
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水冷却炉 | 米国で進むSMR開発の最新状況
SMRって何?米国で進むSMR開発の最新状況水冷却炉従来の原子炉と同様に、冷却材に水を使用するタイプ。成熟した従来技術の応用であり、開発のハードルも低いと評される。軽水炉型SMR(PWR)ニュースケール・パワー・モジュール「VOYGR」ニュースケール・パワーが開発する「NuScale Power Module (NPM)」は、1つの発電所に最大12基設置可能なPWRタイプのSMRで、運転システムや安全系には重力や自然循環などを活用、すべてのモジュールが地下プール内に収められる設計となっている。設置基数に応じて出力92.4万kWの「VOYGR-12」、46.2万kWの「VOYGR-6」、30.8万kWの「VOYGR-4」と定め、米国の原子力規制委員会(NRC)は2020年9月にモジュール1基の出力が5万kWのNPMに対し、SMRとしては初めて「標準設計承認(SDA)」を発給、2023年1月19日には設計認証(DC, Design Certification)を発給した。ニュースケールは出力7.7万kW版のモジュールについても、SDAを2023年1月1日に申請した。VOYGR-6 ©NuScale Power, LLC「NPM」の初号機については、西部6州の電気事業者48社で構成されるユタ州公営共同事業体(UAMPS)が1モジュールの出力が7.7万kWのNPMを6基備えた「VOYGR-6」をアイダホ国立研究所(INL)敷地内で建設する計画を進めており、最初のモジュールは2029年の運転開始をめざしている。その他、Xcelエナジーやデイリーランド電力共同組合が、VOYGR導入の可能性を検討・評価している。米国外では、カナダやチェコ、エストニア、ポーランド、ルーマニアなどの企業が国内でのVOYGR建設を検討しており、それぞれが実行可能性調査などの実施でニュースケールと了解覚書を締結。とりわけルーマニアでは、同国南部の石炭火力発電所跡地に出力7.7万kWのNPMを6基備えた「VOYGR-6」の2028年頃の完成をめざして、動きが活発化している。また、ニュースケールは2022年1月、英国で洋上風力発電などのクリーンエネルギー事業を展開するシアウォーター・エナジーと風力発電とSMRを組み合わせたハイブリッド・エネルギー・プロジェクトをウェールズで進めていくため、協力覚書を締結している。さらに初号機建設に向けた主要機器の製造についても、ニュースケールは韓国の斗山エナビリティ(=Doosan Enerbility, 2022年3月に「斗山重工業」から社名変更)と2022年4月、主要機器の製造を本格的に開始する契約を締結、早ければ今年中にも原子炉圧力容器の鍛造材生産を始め、2023年後半から本格的な機器製造を開始する。なお日本の日揮やIHI、国際協力銀行もニュースケールにそれぞれ出資している。VOYGRは、カナダ原子力安全委員会(CNSC)による許認可前ベンダー設計審査(Pre-licensing Vendor Design Review, VDR)のフェーズ2が進行中である。VDRはベンダーの要請に応じてCNSCが提供するオプションサービスで、ベンダーの原子炉技術に基づき、CNSCスタッフが設計プロセスの初期段階でフィードバックを提供する仕組。フェーズ1:規制要件全般への適応性評価、フェーズ2:ライセンス取得に基本的な障壁となり得るものに関する事前評価、フェーズ3:フェーズ2の評価結果のフォローアップ--の3フェーズに分かれる。SMR-160「SMR-160」は、ホルテック・インターナショナルの子会社であるSMR,LLCが開発中の次世代炉で、事故時にも外部からの電源や冷却材の供給なしで炉心冷却が可能な受動的安全系を備えている。ホルテックは、2020年12月に米国エネルギー省(DOE)の「先進的原子炉実証プログラム」(ARDP, Advanced Reactor Demonstration Program )による支援金の対象企業として選定された。ARDPで、SMR-160は「実用化時期:2030~34年」のカテゴリーに位置付けられており、資金援助額は7年間で1億1,600万ドル。ホルテックは、同SMRで2025年までにNRCから建設許可の取得をめざしており、NRCとの関係協議はすでに始まっている。「SMR-160」の完成予想図 ©Holtec InternationalDC審査は未だ申請していないが、初号機の建設候補地としてはニュージャージー州の閉鎖済のオイスタークリーク原子力発電所の跡地を検討中。その他、ホルテックは2022年7月、エンタジーと同社のサービス区域内にある既存サイト1か所以上で、SMR-160を1基以上建設する実行可能性調査で協力覚書を締結した。米国外では、ウクライナでのSMR-160展開に向け、ウクライナの国営原子力発電企業エネルゴアトムらとコンソーシアム・パートナーシップ(国際企業連合)を2019年6月に正式に結成している。また2022年9月にはチェコ電力(ČEZ)とテメリン原子力発電所でのSMR-160の増設に係る評価継続で覚書を締結した。軽水炉型SMR(BWR)BWRX-300「BWRX-300」の完成予想図 ?GEHGEH(GE日立・ニュクリアエナジー)と日立GEニュークリア・エナジーが開発する「BWRX-300」は電気出力30万kWのBWR型SMR。GEHによると、2014年にNRCからDCを取得した第3世代+(プラス)のGEH製設計「ESBWR(高経済性・単純化BWR)」の技術や機器を最大限に活用。CO2排出量の削減目標を達成する一助になるだけでなく、建設と運転に伴うコストも従来の大型原子炉と比べて大幅に削減可能であるという。「BWRX-300」自体は今のところNRCのDC認証を受けていない。米国内では、テネシー峡谷開発公社(TVA)が2022年後半または2023年初頭にもテネシー州クリンチリバーサイトへの建設許可を申請し、2032年までに完成させる予定だ。カナダでは、州営電力であるオンタリオ・パワー・ジェネレーション(OPG)は2021年12月、早ければ2028年までに既存のダーリントン原子力発電所内で完成させるSMRとして「BWRX-300」を選択、2022年10月には建設許可をカナダ原子力安全委員会(CNSC)に申請している。同じくカナダのサスカチュワン州営電力も2022年6月、同州内で2030年代半ばまでにSMRを建設する場合は「BWRX-300」を採用すると表明、9月にはSMR導入候補地域2か所(サスカチュワン州のエステバンとエルボー)の選定を発表した。カナダ以外では、ポーランド最大の化学素材メーカーであるシントスが2021年12月、同社のグループ企業がポーランドの石油精製企業であるPKNオーレンと合弁企業を設立し、SMRの中でも特に、「BWRX-300」の建設に重点的に取り組む方針を発表した。「BWRX-300」の概念図 ©GEHSMRの炉型別開発状況開発予定サイトが既に発表されている代表的なSMRをいくつか取り上げ、その開発状況を炉型別に紹介する。水冷却炉詳細を見る非水冷却炉詳細を見るマイクロ炉詳細を見る本文に戻る
- 30 Jan 2023
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ポーランド企業 仏製SMRの導入に向けEDFと協力協定
ポーランドのリスペクト・エナジー(Respect Energy)社とフランス電力(EDF)はこのほど、EDFが中心となって開発しているフランス製小型モジュール炉(SMR)「NUWARD」のポーランド国内での共同建設に向け、両社が協力協定を締結したと発表した。リスペクト・エナジー社は再生可能エネルギー専門の取引企業で、欧州の顧客にクリーン・エネルギーのみを販売している。今回、事業を原子力分野に拡大する第一歩として「NUWARD」を選択したもので、今後はEDFと協力して建設サイトの選定評価作業を実施するほか、同プロジェクトへの資金調達方法や事業計画の詳細等を策定する。一方のEDFは2021年10月、原子力発電の導入計画を進めるポーランド政府に対し、2043年までに同国の2~3サイトで、4~6基(出力合計660万~990万kW)の欧州加圧水型炉(EPR)を建設すると提案。今回のSMR建設計画はこの提案を補完する役割を担うと説明しており、これらの原子炉を通じてポーランド経済の脱炭素化やエネルギー供給保証の強化を支援していく考えだ。リスペクト・エナジー社のS.ヤブロンスキ会長は、「SMRの建設でポーランドのクリーン・エネルギーへの移行に貢献し、安全でCO2を排出しない電力の需要に応えていきたい」と表明。EDFと独占的な協力協定を結んだことで、同社は欧州初のSMRをポーランドで建設するという意欲的なプロジェクトを進められるほか、同社が保有する無炭素発電設備の拡大にもつながると指摘している。EDFで国外の原子力プロジェクトを担当するV.ラマニー上級副社長は、「当社が提供可能な大小2種類の原子炉でポーランドがエネルギーの輸入から脱却し、持続可能で低炭素な電力を生産できるよう貢献したい」との抱負を述べた。「NUWARD」はフランスで50年以上の経験が蓄積されたPWR技術に基づき、EDFがフランス原子力・代替エネルギー庁(CEA)や小型炉専門開発企業のテクニカトム(TechnicAtome)社などと協力して開発中。出力17万kWの小型PWR×2基で構成される「NUWARD」プラントの合計出力は34万kWで、NUWARD企業連合にはフラマトム社も加わっている。2022年5月には、ベルギーの大手エンジニアリング・コンサルティング企業であるトラクテベル社が、同炉の概念設計の確認調査を請け負っており、EDFは今年から基本設計に入る予定。2030年にも実証炉の建設を開始するなど、競争力を備えたSMRとして世界市場に送り出す方針である。ポーランドでは現時点で様々なSMRの建設が計画されており、化学素材メーカーのシントス社は2021年12月、石油精製企業のPKNオーレン社と合弁事業体を設立して、米GE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社製SMR「BWRX-300」の建設に重点的に取り組む考えを表明。鉱業大手のKGHMポーランド採掘会社は2022年2月、米ニュースケール・パワー社のSMRを複数備えた「VOYGR」発電設備を2029年までに国内で建設するため、先行作業契約を締結した。また、ポーランド政府所有の電力会社であるエネア(Enea)グループは2022年6月、米国のSMR開発企業であるラスト・エナジー社のSMR導入を目指し、同社と基本合意書を締結している。(参照資料:リスペクト・エナジー社(ポーランド語)、EDFの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの1月16日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 24 Jan 2023
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COP27が改めて示したエネルギー自立の重要性
シャルム・エル・シェイクで開催されていたCOP27は、予定を2日間延長して2022年11月20日に閉幕した。今更ではあるが、COPは“Conference of Parties”、つまりある条約の「締約国会議」であり、本来は一般名称に他ならない。しかしながら、近年は気候変動枠組条約締約国会議の短縮名としてすっかり定着した。気候変動枠組条約は“UNFCCC(United Nations Framework Convention on Climate Change)”だ。この条約は、1992年5月9日、国連総会において採択され、1994年3月21日に発効した。第7条1項には、締約国会議は同条約の最高機関として「この条約の効果的な実施を促進するために必要な決定を行う」とあり、「別段の決定を行わない限り毎年開催する」(同4項)とされている。COP1は1995年にベルリンで行われた(図表1)。再開会合も含めた28回の会議のうち、14回は欧州で開催されており、特にドイツはボン3回、ベルリン1回、計4回にわたり開催国となっている。ドイツに次ぐのがポーランドの3回だ。開催国は必然的に議長国なので、調整役として会議の結論に大きな影響を与える。ドイツが地球温暖化問題で国際社会において強い存在感を発揮する背景の1つと言えるだろう。28回のうち、1997年12月に開催されたCOP3が「京都会議」だ。『京都議定書』が採択され、先進国に1990年と比較した2008〜12年平均の温室効果ガス排出削減目標を課すと共に、新興国・途上国の排出削減を支援するため排出量取引が導入された。また、COP21は2015年にパリで開催され、『パリ協定』が採択されている。COPにおける温暖化抑止のベースとなる科学的検証を提供しているのが、IPCC(気候変動に関する政府間パネル: Intergovernmental Panel on Climate Change)だ。その名称から誤解されることが多いものの、各国政府間の調整を行う機関ではない。ジュネーブに事務局を置くIPCCは、1988年、国連環境機関(UNEP)と世界気象機関(WMO)により専門家集団として設立された。世界の科学者が発表した気候に関する論文やデータをまとめ、5~7年の間隔で評価報告書を作成している。2007年には『第4次評価報告書』の功績が認められ、『不都合な真実』のアルバート・ゴア元米国副大統領とノーベル平和賞を共同受賞した。この評価報告書は、COPにおいて議論をまとめる叩き台とされている。今年5月に公表された『第6次評価報告書第1作業部会報告書』(以下、「第1作業部会報告書」)は、「1750年頃以降に観測された温室効果ガス(GHG)の濃度増加は、人間活動によって引き起こされたことに疑う余地がない」と結論付けた。その上で、「1850~1900年から2010~2019年までの人為的な世界平均気温上昇は 0.8~1.3℃の可能性が高く、最良推定値は 1.07℃である」としている。英国気象庁メットオフィスハドレーセンター及びオスロー大学の観測データは、第6次評価報告書を概ね裏付ける結果と言えるだろう(図表2)。このデータを詳しく見ると、1850~99年までの50年間に対し、2010~19年の平均気温は0.93度上昇した。一方、温室効果ガスの排出量は、1950~99年の7億6,613万トンと比べ、2010~19年は46倍の351億3,209万トンになっている。温室効果ガス排出量と気温の関係を統計的に比較した場合、少なくとも過去170年間に関しては、明らかに正の相関関係が存在すると言えるだろう(図表3)。第1作業部会報告書では、2100年までの温室効果ガスの排出量による温度変化を5つのシナリオに分けて推計している。このうち、最も排出量が少ない「SSP1-1.9」の場合、1850~1900年と比べて2081~2020年の平均気温は1.0~1.8℃上昇と足下からほぼ横ばいとされた。一方、最も排出量が多くなる「SSP5-8.5」だと3.3~5.7℃の上昇になり、大雨の発生頻度は2.7倍、干ばつの発生する頻度は4.1倍と見込まれている。これは人間を含む地球上の生態系に極めて大きなダメージを与えるのではないか。 複雑化する対立の構図地球温暖化は人類共通の問題だ。しかしながら、国際社会は必ずしも一枚岩ではない。米国の国内も例外ではなく、特に共和党の2人の大統領は2つの大きな国際合意を一時的にせよ骨抜きにした。1人目はジョージ・ブッシュ大統領(当時)である、2001年3月28日、京都議定書からの離脱を表明した。地球温暖化と温室効果ガスの因果関係を認めつつも、1)温室効果ガスの排出削減が米国経済の成長を阻害すること、2)排出量の大きな中国など途上国に削減目標が設けられなかったこと・・・2点が理由である。前任のビル・クリントン大統領は、京都議定書の取り纏めに強い意欲を示し、日本はその意向に従って不利な条件を飲んでいた。それだけに、日本政府は梯子を外された感が否めなかったであろう。2015年11月30日から12月12日にパリで開催されたCOP21では、京都議定書の実質的な後継となる新たな条約が採択された。196加盟国全てが参加したこの『パリ協定』は、平均気温の上昇を2℃未満に抑え、1.5℃未満を目指すことをミッションとしている。IPCCによる第5次報告書を受けた結論だった。この協定については、2017年6月1日、ドナルド・トランプ大統領(当時)が米国の離脱を発表した。同大統領の場合は、IPCCの報告書を科学的根拠が脆弱と批判、地球温暖化そのものを否定したのである。「米国をエネルギー輸出国にする」との公約を掲げた同大統領にとり、シェールガス・オイルの開発が優先課題だったのだろう。2021年1月20日に就任したジョー・バイデン大統領は、その日のうちにパリ協定へ復帰するための大統領令に署名、2月19日には正式に復帰した。世界のビジネスでESGを重視する流れが加速するなか、「グリーン・ニューディール」を公約に掲げた同大統領は、温暖化抑止への官民連携を経済成長のドライバーと捉え、先行する欧州を追撃する意図があると見られる。ちなみに、2023年のCOP28はUAEのドバイにおいて開催されることが決まった。2029年のCOP29はオーストラリアやチェコがホスト国に名乗りを上げている。一方、多くの国際会議を主宰してきた米国は、過去28回のCOPで一度も開催国になったことがない。それは、地球温暖化問題に対する米国国内の複雑な事情を反映しているのだろう。蛇足だが、民主党所属ながらバイデン政権に批判的なスタンスを採ることの多いジョン・マンチン上院議員は、ウェストバージニア州選出だ。同州の州民1人当たりGDPは全米50州で47番目、最も多いニューヨーク州の53%に止まる。このウェストバージニアは、全米屈指の炭鉱業の盛んな州であり、それ故に近年は経済的な苦境に陥った。マンチン上院議員がバイデン大統領に冷淡なのは、同大統領が注力する脱化石燃料路線への反発が大きいと言えるだろう。エネルギー問題に関する米国の国内事情は、傍から見るよりもかなり複雑だ。さらに、先進国間、先進国と新興国・途上国、資源国と非資源国・・・エネルギーと環境を巡る様々な対立が浮き彫りとなり、国際的な意見集約を阻もうとしている。そうしたなか、ロシアのウクライナ侵攻とエネルギー価格の高止まりが、皮肉にも西側主要先進国にESGの重要性を再認識させ、カーボンニュートラルを目指す強いインセンティブになりつつあるようだ。 先進国 vs. 途上国・新興国原始地球が誕生してから46億年と言われるが、大気中の酸素濃度が現在の21%程度で安定したのは、科学的コンセンサスによれば1億年ほど前だった。そこまで遡ることはできないものの、南極の氷床からボーリングにより掘削された分析用の氷柱、「氷床コア」により80万年前に遡って大気中の二酸化炭素濃度が分かっている。具体的には、南極に「ボストーク」、「ドームC」、「ドームふじ」の3つの代表的な氷床コアがあり、なかでも欧州南極氷床コアプロジェクトチーム(EPICA)が手掛けたドームCは3,190mまで掘削され、最も古い年代の大気の組成が分析可能になった。それによれば、この間に概ね10万年を周期とする8回の氷河期と間氷期のサイクルがあり、大気中の二酸化炭素濃度は228ppmを中心に200〜260ppmの範囲を循環していた模様だ(図表4)。米国海洋大気庁によれば、2022年の二酸化炭素濃度は418ppmに達した。過去80年間の標準レベルと比べた場合、明らかに異常値だ。この500年程度の推移を見ると、18世紀半ばから19世紀にかけての産業革命期、1960年代の高度経済成長期を起点とするエネルギー多消費時代、2つの大きな転換点があったと言える。一方、世界銀行の統計では、2019年における温室効果ガスの排出量は中国が全世界の27.4%を占め、インド、ロシアなど他の新興国・途上国を合わせると66.1%に達した(図表5)。気候変動に関し、新興国・途上国の重要性が高まっているのはこのためだ。特に中国やアジア諸国などは、1990年代に入って以降、温室効果ガス排出量が大きく増加した(図表6)。その背景は、1991年12月に旧ソ連が崩壊、米国1国主導によるグローバリゼーションが進んだことだと考えられる。世界のサプライチェーンが統合されるなか、教育水準が高いにも関わらず、労働コストが相対的に低かったASEAN諸国、中国、メキシコなどが工業化、対先進国向け輸出により高度経済成長期に入ったからだろう。結果として、米国を含め主要先進国の物価は安定し、新興国に対米輸出市場を奪われた日本はデフレになった。温室効果ガスに関しては、成長率が低下した先進国において環境規制が強化され、排出量は軒並みピークアウトしている。この点こそが、地球温暖化問題に関して先進国と新興国・途上国の間で対立が深まる最大の要因に他ならない。原単位方式、即ちGDP1ドルを得るに当たって排出される温室効果ガスは、足下、米国、日本が共に0.24kgなのに対し、ロシアは1.17kg、インド0.91kg、中国は0.75kgだ(図表7)。つまり、同じ付加価値を生み出すのに、中国は米国、日本の3倍の温室効果ガスを排出しなければならない。西側先進国の立場から見れば、地球全体の温室効果ガス排出量を減らすためには、新興国・途上国による持続的な努力が必須だろう。米国のブッシュ大統領(当時)が京都議定書からの離脱を決定したのは、先述の通り中国の温室効果ガス排出急増を受け、「附属書Ⅰ国」に分類された先進国のみが削減目標を負う仕組みに反発したからだ。他方、新興国・途上国の側から見れば、18世紀央に始まる産業革命以降、現在の主要先進国が温室効果ガスを大量に排出する時期が続いた(図表8)。確かに1800年代に関しては産業革命の震源地であり、7つの海を制覇して覇権国になった英国が最大の排出国だったと見られる。ただし、19世紀末頃から、米国が急速に工業化を進め、温室効果ガスの排出量でも他国を圧倒した。この当時、中国、現在のASEAN諸国、インドなどは地球環境にほとんど負荷を掛けていない。新興国・途上国側としては、既に経済を成熟化させ、十分に豊かになった先進国が、現在の状況を静止的に捉えて、新興国・途上国に努力を求めるのは心外に感じられるのだろう。そこで、経済的・技術的な支援を先進国に求めているわけだ。先進国vs.新興国・途上国の構図は、1992年に国連総会において気候変動枠組条約が採択された当時から続いていた。1997年のCOP3で採択された京都議定書が画期的と言われたのは、排出量取引を導入したことで、新興国・途上国の排出量削減へ向け、先進国に対しアメとムチを制度化したことだったと言える。紳士・淑女の倫理感や高邁な哲学ではなく、市場原理によるインセンティブに具体的な成果を求めたのだ。もっとも、先進国と新興国・途上国の対立が解消されたわけではない。むしろ、近年は双方の考え方の違いがより明確になったと言えるだろう。 国際的遠心力の下で日本が目指すべき方向シャルム・エル・シェイクで行われたCOP27では、干ばつや洪水など気候変動による“Loss and Damage(損失と被害)”に対して、新興国・途上国がかねてより求めていた基金の創設を決めた。もっとも、新基金に関する合意の部分には「この資金面での措置(基金を含む)の運用化に関して、COP28に向けて勧告を作成するため、移行委員会を設置する」と書かれており、内容については完全に先送りしている。次の焦点は「移行委員会」での議論になるだろう。一方、ロシアによるウクライナ侵攻を受け、天然ガスの調達が大きな問題となった欧州では、エネルギー自給率の引き上げへ向け、化石燃料に依存しない経済構造の構築が急務になった。従って、ESGへの取り組みはさらに加速し、技術や投資において世界に先行するポジションの維持を図ることが予想される。米国のバイデン政権は、シェールガス・オイルの輸出を拡大すると同時に、大統領選挙の公約である『グリーン・ニューディール』を推進、この分野で欧州へのキャッチアップを目指す模様だ。今回のCOP27で存在感の薄かった中国は、目立つことにより批判の矢面に立たされることを回避したのかもしれない。まずは需要が伸びるエネルギーの安定調達を最優先し、温室効果ガスの削減を段階的に進める独自路線を採ると見られる。ウクライナ戦争、そしてOPECプラスの存在感の高まりは、エネルギー純輸入国にとり大きな脅威になった。また、カーボンプライシングにより温室効果ガス排出のコストが見える化しつつあることで、新たなビジネス及び投資のチャンスが広がったと言えるだろう。もっとも、国際社会の分断が深まるなかで、COPのような枠組みが画期的な成果を生むのは難しくなった。そうしたなか、市場原理によるビジネスの論理が、ESGのフィルターを通してむしろ地球温暖化抑止の主な推進力になりつつある。その背景にあるのは、分断の時代だからこそ、経済安全保障の観点も含め、エネルギー自給率の引き上げが国家にとって最重要課題の1つであるとの考え方だろう。COP27は国際社会の分断を改めて再認識させるものとなった。日本にとってこの枠組みの重要性が変わったわけではないものの、取り敢えずは日本自身がエネルギー自給率向上へ向けた歩みを加速する必要がありそうだ。
- 23 Jan 2023
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欧州はなぜESGへ さらに傾斜しているのか?
昨年の10月末より11月上旬に掛け欧州へ出張し、3年ぶりにミラノ(イタリア)、ジュネーブ(スイス)、ロンドン(英国)を訪れた。出発にあたり興味があったのは、欧州におけるESG((Environment/Social/Governance(環境/社会/ガバナンス)))の現状だ。これまで、EUを中心に欧州主要国が国際社会においてESGのフロントランナーであったことに疑問の余地はない。しかしながら、ロシアによるウクライナ侵攻を受け、西側諸国は深刻なエネルギーの調達不安に直面している。そうしたなか、環境問題より目先のエネルギー確保に重心がシフトしているのか、それとも長期的な化石燃料の使用削減へ向けさらに議論が進みつつあるのか、生き馬の目を抜くとも言われる金融の世界において、この点を対面で確認することが今回の旅の個人的な目的だった。エネルギー問題に踏み込む前に実感したのは、欧州が既に“post Corona”へ移行していたことである。国境管理においてワクチン接種証明やPCR検査の陰性証明を求められることはなく、訪問した3都市、移動の際の駅、空港、列車の車内、飛行機の機内において、マスクをされている方を見ることもほとんどなかった。レストランは何の制限もなく賑わっており、新型コロナ禍以前と変わった印象はない。この3都市は、一時、厳しいロックダウンの下に置かれた。新型コロナの感染者が急増し、医療供給体制が危機的とも言える状況に陥ったからだ。もっとも、その結果として既に感染を経験された方が少なくないなか、ワクチン接種も進捗し、集団免疫によって新たに感染しても重症化は防げるとの考え方が定着したのだろう。法的か社会的かは別として、何らかの制限による経済や日常生活への影響とその効果を考えた場合、“with Corona”を前提に社会の正常化を選択したのだと実感した。一方、帰国時に非常に驚いたのは、羽田へ向かう飛行機に乗る前の段階で、日本政府の運営するVisit JapanのWebサイトにおいて利用者登録を求められ、検疫の準備手続きとしてワクチン接種証明のアップロードが必要だったことだ。何よりも意外だったのは、厚生労働省が運営する接種証明アプリとは直接連動しておらず、アプリの接種証明ページをスクリーンショットで撮影し、その画像をVisit Japanにアップロードする必要があることだった。まさかアップロードされた画面を人海戦術で確認し、手動で承認ボタンを押しているわけではないと信じたい。さらに、事前審査終了によりVisit JapanでQRコードが発行されたにも関わらず、羽田空港で飛行機を降りた際、相当数の私服の上にピンク色のビブスを着用したアルバイトと見られるにわか「検疫官」からスマートフォンの審査済み画面の提示を求められ、ブルーのカードを渡された。その上で、結局、検疫カウンターではQRコードを機械により読み取らせなければならない。日本政府にとってデジタル化とは一体何を意味しているのか、改めて考えさせられる経験だった。帰国後、日本では新型コロナの感染第8波への懸念が高まっている。データを調べてみると、人口当たりの新型コロナ新規感染者数は、イタリア、スイス、英国との比較で日本が最も多い。もちろん、サイクルのずれもあるとは思うが、日本の新型コロナ対策は抜本的に見直す時期に来ていると痛感した。 市場原理を活用したカーボンプライシングさて本題のエネルギー問題だが、今回の訪問で感じたのは、ロシアによるウクライナ侵攻後、むしろ欧州においてESGへの意識が高まっていることだった。その背景には、近年における異常気象の影響があるのかもしれない。10月27日、ミラノ・マルペンサ空港に降り立った際、暖かいことに驚かされた。10月下旬の北イタリアと言えば、例年、かなり寒い時期であり、コートなしではいられないのが普通だ。しかしながら、今回、日中は20℃を大きく超えて汗ばむような陽気であり、コートがむしろ邪魔だった。ちなみに、10月27日は最高気温が23℃、28日は24℃だったのだが、平年のこの時期におけるミラノの最高気温は15℃である。ジュネーブへ移動する際に列車の車窓から見たアルプスの山々も、雪はあっても頂上付近に止まっており、山肌の紅葉はまだ進んでいなかった。シオン駅から3千メートル級の頂であるヴィルトホルンを見上げると、雪どころか夏山と見間違えるような緑色の目立つ景色である(図表1)。さらに、ジュネーブも非常に暖かく、昨年、今年と夏に熱波が来襲したこともあり、多くの人たちが地球温暖化を実感している様子だった。気候変動の影響が地域の経済や社会生活にもおよんでいるため、環境保護への意識は高まらざるを得ないのだろう。1992年5月に国連気候変動枠組条約が採択されて以降、欧州社会はEUを中心に環境問題に熱心に取り組んできた。例えば、定格熱入力20MWを超える燃料燃焼施設及び石油精製、鉄鋼、セメント、紙・パルプなど10種類の施設を指定して排出量の上限を設定、2005年からの「フェーズ1」では排出量取引(EU-ETS:European Emission Trading)を開始している(図表2)。この制度においては、ある施設の排出量がキャップを下回った場合、その部分を二酸化炭素に換算した上で1トン当たり1クレジットとして市場で売却することを可能にした。排出量がキャップを超えた施設は、クレジットを購入しなければならない。つまり、温室効果ガスの経済性を価格によって見える化し、市場原理を活用したインセンティブとペナルティによって排出量を減らす試みである。キャップを段階的に引き下げることにより、最終的に域内経済全体としてカーボンニュートラルの達成を目指しているわけだ。2008〜12年の「フェーズ2」において航空セクター、2013〜18年の「フェーズ3」ではアルミニウム製造、非鉄金属製造、アンモニア製造など10業種が対象に加えられ、今では域内の温室効果ガス排出量の45%をカバーするようになった。もっとも、当初は鳴り物入りで導入されたEU-ETSだが、2010年代に入って取引量、価格とも低迷していたのである(図表3)。リーマンショックに加え、ユーロ危機が欧州経済を襲い、景気停滞により温室効果ガスの排出量が減少したことが一因と言えるだろう。しかしながら、2020年に入って排出量価格は急騰した。2020年5月は二酸化炭素換算で1トン当たり20ユーロを割っていたのだが、今年8月22日に97.50ユーロの史上最高値を付け、足下も70ユーロ台での推移となっている。2021年から始まった温室効果ガス排出削減計画の「フェーズ4」に関し、当初、EUは2030年までの排出量削減率を1990年比40%にするとの目標を掲げていた。もっとも、この達成が早期に見込まれたことから、2020年12月11日、ブリュッセルで行われたEU首脳会議において、ターゲットが55%削減へと大幅に引き上げられたのである。新たなキャップの達成が難しい事業所が続出するとの思惑から、排出量クレジットへの需要が急速に高まった。さらに、ロシアによるウクライナへの侵攻で相対的に温室効果ガスの排出が少ない天然ガスの調達が難しくなり、排出量クレジットの価格は高止まりしている。市場原理を活用して温室効果ガスの排出量を減少させるカーボンプライシングの手法は、欧州において明らかな効果を挙げつつあると言えるだろう。 不動産価格にも影響する排出量企業評価においても環境が重視される欧州においては、ファンドの投資先企業のESGへの取り組みを基準にして、投資家が運用機関を選定する文化が定着しつつある。同業種内において、温室効果ガスの排出量が相対的に多い企業に投資をしている場合、そのファンドから資金が引き上げられるケースもあるようだ。従って、株価の評価に関しても、温室効果ガスの排出削減が進んでいる企業は高く評価される傾向がある。企業への投資のみならず、それを強く実感したのがロンドンにおける不動産ファンドだった。1666年の大火災以降、ロンドンでは法令により木造建築が認められず、建築物はレンガや石造りが圧倒的に多い。その上、地震がないことから、建築物の耐用年数は日本に比べ非常に長く、竣工から100年以上を経たビルも少なくないようだ。例えばレンガ造りの工場を他の用途に転用する場合、日本では既存のビルを壊し、更地に新しい建物を建築するのが普通だろう。しかしながら、レンガや石で出来た建物の場合、ライフサイクルを考えると、建築時と解体時に最も多い量の温室効果ガスを排出してしまう。そこで、レンガ造りの工場をリノベーションしてデータセンターなど新たなニーズに合うよう生き返らせた上で、最新テクノロジーを駆使してエネルギー効率を向上させ、温室効果ガスの排出量を劇的に削減した場合、物件価値が大幅に上昇するケースが多いそうだ。実際に古いビルを購入し、リノベーションして売却するファンドが、良好なパフォーマンスを挙げていると聞いた。もちろん、そこには不動産投資に対する高度なノウハウが必要なのだろう。英国はBrexitによりEUから離脱しており、EUのルールにかならずしも縛られているわけではない。しかし、経済的な結び付きは依然として強く、ESGへの取り組みへの真剣さは大陸に劣らない印象を受けた。カーボンプライシングの定着で、温室効果ガス排出量の削減効果が金額として可視化できるようになり、キャッシュフローの比較が可能になったことが極めて大きいと言えそうだ。また、ロシアによるウクライナ侵攻を受け、EU及び欧州各国が課したロシアへの制裁に対する逆制裁措置として、エネルギー資源大国であるロシアは、欧州への天然ガスの供給を絞っている模様である。従来、EUは天然ガス調達の40%程度をロシアに依存してきた。暖冬傾向とは言え、本格的なエネルギーの需要期を控え、多くの国がエネルギー危機のリスクに直面しようとしている。そうしたなか、各国に芽生えつつあるのは、ロシアからの天然ガス調達量を構造的に減らし、エネルギー自給率の向上を図るため、むしろ積極的にESGを目標化するとの考え方である。もちろん、当面は燃料の調達先を多様化して凌ぐとしても、中長期的にはエネルギー安全保障の確立と温室効果ガスの排出量削減を両立させる戦略なのだろう。そのための切り札の1枚が、カーボンプライシングと言えるのではないか。 欧州で改めて考えた国際競争下における日本の立ち位置カーボンプライシングについては、早晩、日本企業、国民も無関心ではられなくなるはずだ。去る10月26日、首相官邸で開かれた『第3回グリーントランスフォーメーション(GX)実行会議』において、岸田文雄首相は「炭素に対する賦課金と排出量取引市場の双方を組み合わせるハイブリッド型とするなど、効果的な仕組みを検討する」よう指示した。岸田政権は、日本にもカーボンプライシング制度を導入する意向を明確にしたと言えよう。さらに、11月29日の第4回GX実行会議では、新たな国債である「GX経済移行債(仮称)」を発行して20兆円程度を調達し、企業の投資支援に活用する案が示された。その償還財源を確保する意味もあって、温室効果ガス排出に関し炭素税と類似の賦課金を課し、排出量取引と併用して排出量を削減する方向で検討が進みつつある。2030年をメドに本格的なカーボンプライシング制度の導入が計画されているわけだ。2020年10月26日、臨時国会で所信表明演説に臨んだ菅義偉首相(当時)は、2050年までにカーボンニュートラルを達成すると宣言した。これは、2021年10月31日からグラスゴーで開催された気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)において国際公約されている。カーボンニュートラルへ向けては、エネルギーにおける供給側の構成を変えることが最も効率的であることは論を待たない。再生可能エネルギー、原子力、そして水素(アンモニア)によるエネルギーミックスを推進すると同時に、一定の化石燃料使用を前提として、CCS(Carbon dioxide Capture and Storage:二酸化炭素回収・貯留)などのインフラを整備する必要があろう。一方、需要サイドにおいては、炭素税(賦課金)、排出量取引によるカーボンプライシングで、排出コストを金額として見える化することが削減へ向けた第一歩となる(図表4)。日本は、供給側、需要側の両面において、欧州に後れをとった感が否めない。欧州が地球温暖化を含むESGで厳しい規制を設けてきたのは、この分野で先行することが持続可能な社会に貢献するだけでなく、多様な国を汎ヨーロッパでまとめる意図もあったと考えられる。さらに、ビジネスにおいて、欧州の国際競争力を高めることも重要な狙いなのではないか。特に意識したのは、エネルギー多消費経済である米国への対抗と言えそうだ。もっとも、今回の出張においては、米国のビジネス界がESGに関して欧州を猛追しているとの見方を耳にすることも少なくなかった。ジョー・バイデン大統領が2020年の大統領選挙で環境を公約の軸に据えたのは、先行する欧州を睨んでのことだろう。米国、欧州のESGビジネスは、熾烈な戦いの局面に突入した模様である。また、特に燃料の多くを輸入に頼る欧州では、対ロ戦略を考える上で、長期的な観点からは化石燃料への依存度を下げなければならない。従って、エネルギー価格の高止まりとウクライナ問題は、金融ビジネスにおいてもESGの重要性を高める要因となっている。欧州以上に資源のない貿易立国の日本は、当然、この流れと無縁ではないはずだ。もっとも、かつて国際社会から「省エネ大国」と称賛されたことに胡坐をかき、いつの間にか競争力が急速に低下した感は否めない。「検討」、「検討」を繰り返し、SNS上では「遣唐使(けんとうし)」ならぬ「検討士」と揶揄されている岸田首相だが、革新的な次世代の原子炉に関して研究・新設の方向を示すなど、エネルギー・環境については一歩踏み込んだ姿勢を示している。それは、日本の現状に対する危機感と言えるかもしれない。今回の欧州出張では、ロシアによるウクライナ侵攻を受けても、投資の世界におけるESG重視の流れに何等の変化がないことを改めて確認した。エジプトで開催された国連気候変動枠組条約第27回締約国会議(COP27)は、分断が進む国際社会において、協調による成果を挙げることが難しくなりつつある状況を浮き彫りにしている。ただし、その分断がエネルギー供給を不安定化させているだけに、むしろ各国・地域はエネルギー・環境問題と否応なく向き合わざるを得なくなったとも言えそうだ。それだけに、この分野に関して岸田政権がどこまで真剣に取り組むのか、また民間がこのピンチをビジネスチャンスに変えることができるのか、改めて興味をかき立てられる出張となった。リモート化が進んでも、現地に行き、人と会うことの重要性を再確認したことも付記したい。
- 10 Jan 2023
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フィンランドのフォータム社 SMR建設に向け地元企業との協力を模索
フィンランドのフォータム社は11月25日、同社が検討中の小型モジュール炉(SMR)の建設計画について、首都ヘルシンキ市が保有するエネルギー企業のヘレン(Helen)社との協力可能性調査を開始すると発表した。国有企業のフォータム社は国内でロビーサ原子力発電所を所有・運転しているが、先月17日に同国および隣国スウェーデンでの原子力発電所新設に向けて、2年計画で実行可能性調査(FS)を実施すると発表。その際、従来の大型炉のみならずSMRを建設する可能性についても、必要な技術面や経営面、規制面、政策面の要件を検証するとしたほか、近年のエネルギー市場における不確実性の増大から、企業連合の形で新設計画を進める可能性を示唆していた。今回の発表によると、両社はともにCO2排出量抑制の観点からSMRへの関心を以前から表明しており、エネルギー部門の脱炭素化を継続的に進める重要性を指摘する一方、このエネルギー移行を果たすには新しい発電技術や協力形態が必要になると説明。建設期間が短く、コストを抑えながら大容量のエネルギー生産も可能なSMRは、その他の選択肢と比較して競争力のあるエネルギー生産方式だと強調した。また、フィンランドには原子力発電と使用済燃料の処分について、専門的知見が豊富に蓄積されていると指摘した。協力可能性調査では両社が結成した調査グループが、協力の相乗効果によりどのような利益が得られるかなどを洗い出す。手始めとして、新たな原子炉建設に必要な条件を幅広く特定するが、両社の協力形態については現時点でいかなる形態も排除しない方針だと強調している。55万人以上の顧客を持つヘレン社は現在、ヘルシンキ市内の様々なプラントで熱や電力を生産している。同社は無炭素な熱や電力を同市に供給できるSMRは注目に値するエネルギーの生産方式だと述べており、フィンランド最大の地域熱供給システムの開発などでノウハウを有する同社が、原子力発電の能力を持つフォータム社と力を合わせることで生産的な協力活動が展開され、フィンランドのエネルギー自給率を上げることにもつながると述べた。SMRはまた、建設に向けた動きが世界中で急速に進展していることから、ヘレン社は欧州連合(EU)域内でその安全要件を調和させることが合理的だと指摘。両社が実施する共同調査では、SMR設計の選定や敷地の活用計画、許認可手続きなどの点で効率的な対応策を導き出す狙いがあるとした。また同国では現在、SMR関係の法令手続きが進められているため、複数の立地候補地点について調査中であるという。共同調査チームのフォータム社側代表者は、「世界のエネルギー市場が不透明な状況になるなか、新たなプロジェクトを原子力部門で進めることは、様々な協力準備活動の中で最も実現の可能性が高い」とコメント。原子力発電所の建設を可能にする協力の必須条件調査は、建設プロジェクトやパートナー企業の位置付けという点においても重要な出発点になるとの認識を示している。(参照資料:フォータム社、ヘレン社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月25日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 28 Nov 2022
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COP27:エネルギー・セキュリティと原子力を議論
COP会場内の特設会議場で11月16日、「低炭素社会における原子力の役割」をテーマに、米原子力エネルギー協会(NEI)、カナダ原子力協会(CNA)、世界原子力協会(WNA)、欧州原子力産業協会(Nucleareurope)、日本原子力産業協会など原子力産業界6団体が主催するパネル・セッションが開催された。NEIのキャロル・ベリガン・エグゼクティブ・ディレクター、CNAのジョン・ゴーマンCEO、WNAのサマ・ビルバオ・イ・レオン事務局長、Nucleareuropeのイブ・デバゼイユ事務局長らが登壇した。セッションでは、原子力の役割の中でも特にエネルギー・セキュリティが話題となった。レオン氏は「世界のエネルギー市場は機能不全に陥っている。市場はエネルギーの供給安定性もセキュリティも考慮していない」と指摘。「長期的な投資に結び付くようインセンティブを盛り込んだ、新たな市場設計が必要」と主張した。ベリガン氏は「今も電気にアクセスできていないアフリカのような国々にとっては、供給安定性が高いだけでなく、人口規模に応じた潤沢な電力が必要だ。その時、クリーンエネルギーであることは非常に意味があり、原子力の果たす役割は極めて大きい」と、エネルギー・セキュリティを気候変動の観点から俯瞰。「ポーランドが初の原子力発電所導入を進めるのも、ルーマニアが原子力発電所増設を進めるのも、アフリカ諸国が原子力に関心を示すのも、原子力がエネルギー・セキュリティと気候変動対策の両方を兼ね備えているから」との見方を示した。ゴーマン氏は、「世界の化石燃料供給体制は極めて脆弱だ。化石燃料の場合は、燃料供給が途絶するとたちまち立ち行かなくなることが欧州で実証されてしまった」とした上で、「原子燃料も世界の供給ネットワークに依存しているが、様相はだいぶ異なる」と指摘。原子力発電の安定した供給力の理由として、「通常の原子炉であれば、3年分の燃料をサイト内に備蓄している。また原子炉の運転に占める燃料コストの割合が極めて小さく、価格変動の影響を受けにくい」の2点を挙げた。また同氏はSMRについて、「燃料交換せずに5-10年は稼働」、「比較的どのような場所でも立地が可能で、需要に応じてスケールアップできる」など導入の利点を強調した。なお日本原子力産業協会の新井史朗理事長もビデオメッセージを寄せ、日本の気候変動政策やエネルギー基本計画、再稼働状況を紹介し、今後の再稼働への期待を述べた。
- 22 Nov 2022
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COP27:「フェアな移行こそアメリカの流儀」米DOEグランホルム長官が産業界に呼び掛け
COP会場内の特設会議場で11月16日、米原子力エネルギー協会(NEI)、カナダ原子力協会(CNA)、世界原子力協会(WNA)、欧州原子力産業協会(Nucleareurope)、日本原子力産業協会など原子力産業界6団体主催のセッションが開催された。セッションに先立ち、米エネルギー省(DOE)のジェニファー・グランホルム長官がサプライズで登場。米テラパワー社のクリス・レベスクCEOが聞き手となり、約20分の対談セッションが開催された。長官は、インフレ抑制法を通じてDOEは原子力を対象に長期運転:既存炉の早期閉鎖を防止するため、閉鎖予定の発電所を対象に計60億ドルの「民生用原子力発電クレジット(CNC)プログラム」の実施次世代炉:次世代炉の国内外への展開を見据え、実証プログラムに25億ドルを投資新規建設:投資税額と生産税額を控除し、新設プロジェクトに価格競争力を供与──の3つのインセンティブを付与してきたとし、既存炉同様に新規炉に対しても厳しい規制要件を適用し、「高いハードルを乗り越えたプラントであれば生き残ることが出来る」との考えを示した。また最近発表されたポーランドへの米ウェスチングハウス社製原子炉「AP1000」の輸出について言及し、 400 億ドル規模のプロジェクトだと指摘。「ポーランドに雇用とエネルギーセキュリティをもたらすだけでなく、米国内にも莫大な雇用を生む、Win-Winのパートナーシップ」と強調した。そしてサプライチェーンの再構築が課題とし、「HALEU燃料((U235の濃縮度が5-20%の低濃縮ウラン))のように国内での開発体制を強化する」だけでなく、グローバルなサプライチェーンと信頼できるパートナー関係を築きたいとの強い意欲を示した。そしてウクライナへの侵攻でロシアが信頼できるパートナーではないことが明らかになった現在、新規原子力導入国については123協定および国際原子力機関(IAEA)による査察下に置くことで、核不拡散体制を担保していくと明言した。一方で、12日に米国のジョン・ケリー特使が「プロジェクト・フェニックス」と呼ばれる新しいイニシアチブを発表した件にも言及。これは、欧州での石炭火力発電所から SMR への移行を加速させると同時に、労働力の再訓練を通じて地元の雇用を維持する計画で、米国務省によると、中・東欧諸国のエネルギーセキュリティを支援するために、石炭から SMR への移行可能性調査などを米国が直接支援するものとされている。グランホルム長官は、「石炭から(原子力へ)フェアに移行すること。導入した国の人々が良い収入を得られる施設できちんと雇用されること。これこそが私たちが最も大切にしていることで、アメリカの歴史を支えてきた手法」だと強調。そして原子力産業界6団体へのメッセージとして、「DOEがインセンティブを用意しました。ぜひ一緒にやりましょう!(So let's just do it!)」と力強く呼び掛けた。
- 17 Nov 2022
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COP27:「アフリカ諸国こそSMR」ニュースケールCEO
COP会場内の原子力パビリオンで11月15日、欧州原子力産業協会(Nucleareurope)の主催で、「クリーンなエネルギーミックス」をテーマとするセッションが開催された。モデレーターに有馬純氏(日本原子力産業協会理事、東京大学公共政策大学院・特任教授)を迎え、欧州原子力産業協会のイブ・デバゼイユ事務局長、世界原子力協会(WNA)のサマ・ビルバオ・イ・レオン事務局長、米ニュースケール社のジョン・ホプキンスCEOが登壇し、ネットゼロに向けた原子力技術によるソリューションを議論した。デバゼイユ氏は「1つのテクノロジーに限定せず、再生可能エネルギーも原子力も、あらゆるエネルギー源を活用すべき」とした上で、「カーボンフリーの電源で脱炭素を目指すべきであり、我々にガスやオイルを使う余地はない」との見方を示した。レオン氏も「電力だけでなく水素利用や熱利用も見据えるべき」とし、「ネットゼロに向けたトータルなソリューションを提供できるのは原子力だけ」と強調した。また開催地であるアフリカの実情にも言及し「我々のエネルギー移行は『化石燃料からクリーンエネ』への移行だが、アフリカ諸国のエネルギー移行は『エネルギーゼロ』からの移行」だと指摘。目標時期も2030年や2050年ではなく、喫緊であるとし、「プライオリティ、タイムラインが異なることを認識する必要がある」と強調した。ホプキンス氏は「アフリカ諸国にはSMRが適している」とした上で、「エジプトであれば人口集中エリアに設置し、需要増に応じてモジュールを拡大」、「南アフリカでは発電のみならず海水脱塩利用のニーズもある」との見方を示した。そして「アフリカ諸国は雇用を重視している」と指摘し、「再生可能エネルギーは雇用を生まないが、SMRは30万kWの出力規模であれば、電気技師、配管技師、保守要員、警備要員などそれなりの人員が必要だ。また必要な学位は8つ程度で、うち5つは2年間で取得可能。つまり単なる雇用だけでなく人材スキルの向上も望める」との見方を明らかにした。また有馬氏が「大型炉と小型炉の棲み分け」について尋ねたのに対し、レオン氏は「多くの報告書が、2050年までに12億kWの原子力発電設備容量が必要だと指摘している。これは毎年5,000万kW以上の新規原子力を運転開始させることであり、大型か小型かではなく、文字通りあらゆる原子炉が必要となる」との認識を示した。一方デバゼイユ氏は「マーケットが決めること」だとしながらも、SMRについて「初期の懐疑的な見方から、今ではより現実味を帯びてきた」とし、「建設のリードタイムが短いことから、喫緊のソリューションとなりうる」と期待を寄せた。有馬氏は「世界中で多くの先進炉が検討されているが、いずれも現実味を帯びている。ただし導入においては、ファイナンスを引き出すためにも、現実的で確固たるエネルギー政策が不可欠」との見解を示し、セッションを結んだ。
- 16 Nov 2022
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COP27:「途上国への原子力輸出がカギ」IEA指摘
COP会場内の原子力パビリオンで11月9日、「新規原子力へのファイナンス」をテーマとするセッションが開催された。世界原子力協会(WNA)の主催で、国連欧州経済委員会(UNECE)、国際エネルギー機関(IEA)、および原子力関連団体のアナリストらが出席し、原子力の新設に向けた投資課題を議論した。IEAのクリストファー・マクリード氏は「ロシアのウクライナ侵攻によるエネルギー危機を回避するための各国政府の危機対応が注目される」とし、米国のインフレ抑制法、EU の Repower EU、日本でのグリーン・トランスフォーメーション(GX)、中国やインドでのクリーンエネルギー技術の導入を挙げ、これらの政策の結果として、計2兆ドルという巨額の投資が実施されると指摘。そして「原子力だけでなくさまざまなテクノロジー全体へ投資される」と分析。「気候変動問題ではなく、むしろエネルギー・セキュリティ問題」によってクリーンエネルギー分野への投資が促進されるとの認識を示した。一方で、IEAの2050年ネットゼロに向けたロードマップによると、依然としてネットゼロ達成は難しいと指摘し、原子力発電設備容量の大幅増加によってのみネットゼロ達成が可能との見方を示した。またその場合に必要な投資額は4兆ドル規模になるとし、現時点で各国が示す政策だけでは、必要な原子力発電設備容量に達することは難しいと断言。途上国での需要も高まっていることから、先進国から途上国への原子力輸出によって達成が可能になるのでは、との見方を示した。そのほかUNECEのダリオ・リグッティ氏は、「運転開始までのリードタイムが15年もの長期ではファイナンスを受けるのは難しい」と指摘。モジュール方式で工期短縮が見込まれ、初期投資額も小さいSMRへ期待を寄せた。また投資家は単一の電源に投資するのではなくエネルギー全体のポートフォリオに投資し、リスクを分散させるため、投資先の選択肢として常に原子力を堅持しておくことが何よりも大切、と助言した。欧州原子力産業協会(Nucleareurope)のジェシカ・ジョンソン氏は、新規建設はリードタイムが長いため、足元の現実的な解決策は「既存の原子力発電所をできるだけ長期に運転させること」であるが、長期運転で時間稼ぎをし、2035年までに各国が「新規の原子力発電所を運転開始させるべき」との考えを示した。
- 15 Nov 2022
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COP27:「長期運転こそ影のヒーロー」グロッシー事務局長
COP会場内にある原子力パビリオンで11月9日、国際原子力機関(IAEA)のグロッシー事務局長と、ブルームバーグのエネルギー担当編集主幹ウィリアム・ケネディ氏との対話セッションが開催された。ケネディ氏からの、原子力は低炭素かつベースロードを支える電源だが、完成するまで15年もかかるのでは遅すぎるとの指摘に対し事務局長は、「リードタイムが15年以上というケースは、プロジェクトマネジメントや規制体制に原因があった。振り返ると1970年代の原子力導入期のプラントは、極めて短期間で運転開始にこぎつけている。最近でもUAEのバラカ原子力発電所のように、同国初の原子力プラント導入であったにもかかわらず、わずか7年で運転開始を達成したケースもある」と答えた。その上で事務局長は、原子力産業界全体での炉型や規制の標準化といった取り組みを早急に進めていく決意を表明した。また小型モジュール炉(SMR)にも言及し、「SMRは(技術面でも規制面でも)既存炉よりもはるかにグローバル化が進んでおり、リードタイムは短縮されるだろう」と各国で進むSMR導入の動きに大きな期待を寄せた。ただし、「国ごとに求めるスケールは違う」として大型炉が相応しいケースも多いと指摘。SMRはどちらかというと開発途上国向けの選択肢になるとの考えを示した。事務局長は、1970年代に運転を開始したプラントが50年を迎えつつあることから、その老朽化について問われ、「気候変動対策のアンサング・ヒーロー(影のヒーロー)は長期運転だ」と断言。長期運転にかかるバックフィット等のコストは初期コストの半分以下であり、50年どころか80年近く経過しながらも安全なプラントもあることに言及し、「私は100年の運転も可能と考えている」と強調した。そして、「欧州の一部の国では拙速な脱原子力政策により非常に脆弱なエネルギー供給状況に置かれている」ことに言及し、個人的な見解としながらも、「気候変動と戦う上で原子力を閉鎖することは誤りだ」と強調。「政治の世界では2+2=4ではないとわかってはいるが、科学的観点から見ると馬鹿げたことが多すぎる」と懸念を示した。そしてこれからのIAEAの使命として、原子力コミュニティから外へ出て、原子力について反対意見を持つ政治家とコミュニケーションをとっていくとの決意を語った。また、10年後のCOP37時点での世界の原子力発電規模を問われた事務局長は、「倍増する必要があるが、実際はそこまで行かないだろう。それでも現在よりはるかに大きくなる」との見通しを示した。
- 14 Nov 2022
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加OPG社 ダーリントンのSMR計画で建設許可申請
カナダ・オンタリオ州の州営電力であるオンタリオ・パワー・ジェネレーション(OPG)社は10月31日、同州南部のダーリントン原子力発電所でGE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社製の小型モジュール炉(SMR)「BWRX-300」(出力30万kW)を建設する計画について、カナダ原子力安全委員会(CNSC)に建設許可を申請した。申請文書はOPG社とGEH社が共同作成したもので、OPG社は今後も約6か月間にわたり複数の情報文書を順にCNSCに提出する。このプロセスの最終段階となる2024年頃、CNSCは公開ヒアリングも開催する予定。これらの手続きを経て、OPG社としては早ければ2028年にもカナダ初の商業用SMRを完成させる方針である。折しも、カナダ連邦政府は11月2日に「2022年秋の経済声明(予算編成方針)」を発表しており、この中でクリーンエネルギーの開発投資金に課す税額を最大で30%控除すると表明。対象となるクリーンエネルギーの中には、太陽光や風力などとともに「SMRによる発電システムの機器・設備」を含めている。ダーリントン発電所ではOPG社が2012年8月、大型炉の増設(最大4基、480万kW)用としてCNSCから「サイト準備許可(LTPS)」を取得した。大型炉の建設計画を保留にした後、同社は同じ場所でSMRを建設する計画(最大4基、120万kW)を進めており、CNSCに要請して2021年10月にこのLTPSを10年更新。同年12月には、「ダーリントン新規原子力開発プロジェクト(DNNP)」で採用する設計として、3つの候補の中からBWRX-300を選定した。今年10月の初頭からは、同社は建設用の道路や電気・水道等の公共設備、サービス建屋など、非原子力インフラ設備の建設に向けた整地等の準備作業をサイトで開始、この作業は2025年まで継続するとしている。カナダにおける建設許可申請書の審査プロセスでは、地元コミュニティの住民や一般国民、先住民らが申請書について幅広く議論する機会が与えられており、質問やそれぞれの利益事項を提示することも可能。CNSCの10月24日付の発表によると、OPG社が提出した「(BWRX-300の建設にともなう)環境影響声明書(EIS)」の審査報告書や「BWRX-300設計の技術パラメーター文書」などについて、一般国民が評価を行う10月24日から12月2日までの期間、CNSCは数多くの参加を促すための資金として15万カナダドル(約1,600万円)を提供する。これは第一段階の資金提供であり、第二段階の資金提供についてCNSCは後日発表すると表明。審査プロセスの残りの部分に参加する一般国民のために活用するとしており、具体的には、CNSC委員が作成した文書やOPG社の建設許可申請関係文書の評価作業、公開ヒアリングへの参加を促すために用いるとしている。なお、この建設プロジェクトに対しては、連邦政府のカナダ・インフラストラクチャー銀行(CIB)が10月25日に、9億7,000万加ドル(約1,056億円)という過去最大規模の投資を約束している。(参照資料:OPG社、CNSCの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月2日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 07 Nov 2022
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カナダのインフラ銀行 ダーリントンでのSMR建設に約10億加ドル投資
カナダ・オンタリオ州の州営電力オンタリオ・パワー・ジェネレーション(OPG)社は10月25日、同国初の小型モジュール炉(SMR)を同社のダーリントン原子力発電所で建設するというプロジェクトに対し、連邦政府のカナダ・インフラストラクチャー銀行(CIB)が9億7,000万カナダドル(約1,050億円)という過去最大規模の投資を約束したと発表した。国家の経済政策に合わせた投資戦略を進めるCIBの資金によりOPG社はSMR建設を進め、その無炭素電力を同社の地球温暖化防止計画に役立てる方針。2040年までに同社の発電設備によるCO2排出量を実質ゼロ化し、2050年までに同州がCO2実質ゼロの経済を確立する一助にしたいと表明している。OPG社は2021年12月、ダーリントンで建設するSMRとして、3つの候補設計の中からGE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社の「BWRX-300」(電気出力30万kW)を選定した。これに続いて、サスカチュワン州の州営電力サスクパワー社も今年6月、同州内で建設するSMRとして「BWRX-300」を選定している。これら2州とニューブランズウィック州、およびアルバータ州はこれに先立つ今年3月、それぞれの州内でSMRを開発・建設していくための共同戦略計画を発表しており、CIBの資金提供はSMR建設にともなう先行事例としてその他の州や米国、欧州で同様のプロジェクトを牽引するとOPG社は強調。また、SMR市場は2040年まで年間約1,500億ドル規模で成長が見込まれており、同社のプロジェクトはカナダが世界のSMR建設のハブを目指す上でも有効だと指摘している。OPG社の発表によると、CIBが財政支援するフェーズIの作業は、プロジェクト設計やサイト準備、長納期品の調達手配、送電網との接続準備、プロジェクト管理のコスト見積もりなど、建設に先立つ準備作業をすべてカバー。2020年代末までに同SMRが完成すれば、約16万台のガソリン車の排出量に相当する年間約74万トンの温室効果ガスの排出を抑制するとしている。民間シンクタンクのカナダ産業審議会が2020年に実施した調査によると、SMRを1基建設し約60年間運転した場合の経済的利益は、間接雇用も含めて年平均約700名分の雇用が建設の前段階に生み出されるほか、機器製造と建設期間中の雇用は1,600名分、運転期間中は約200名分、廃止措置期間中には約160名分になると指摘した。CIBのE.コリーCEOは今回、「原子力なしで2050年までに世界中のCO2排出量を実質的にゼロ化するのは不可能だとエネルギーの専門家が指摘していた」とコメント。約10億カナダドルの投資を通じて、CIBはOPG社がカナダ初のSMRを建設するのを支援し、温室効果ガスの排出量抑制を加速したいと述べた。オンタリオ州エネルギー省のT.スミス大臣は、「新しい原子力技術の採用という点で当州は常に世界をリードしており、CIBによる投資は、クリーンなエネルギーを生産しつつ新たな投資や雇用を生み出し、経済成長を促す原子力発電の素晴らしい可能性を実証するはずだ」と述べた。(参照資料:OPG社、CIBの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月25日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 31 Oct 2022
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原産協会と米NEI 原子力輸出へ向け共同声明
日本原子力産業協会と米原子力エネルギー協会(NEI)は10月26日、「未来の原子力に向けた日米産業界共同声明」を発表した。同共同声明を契機に、日米原子力産業界として、日米協力に基づく第三国への原子力導入を加速すべく両国政府・金融機関から外交・産業政策・財政支援を得ることが重要との考えのもと、両国の原子力サプライチェーンを強靭化し世界で安全性の高い原子力利用の促進に貢献していく。共同声明では、原子力について、脱炭素社会の実現とエネルギー安全保障の確保という地球規模の課題を解決する有力な手段であり、「頑強で安定した電源であり、再生可能エネルギーと併せて活用することで、クリーンで確実なエネルギーシステムへの移行をさらに加速させることが可能」、「発電のみならず、熱供給や水素製造を通じて、輸送、化学、鉄鋼など、他の経済部門の脱炭素化にも大きな可能性を持っている」とメリットを強調している。これを踏まえ、原子力の有する付加価値を最大化すべく、日米両国の政府に対し、運転期間延長を含めて既設原子炉を最大限活用し、革新的な原子炉の研究開発、建設への支援を強化するとともに、原子力事業の中長期的な予見性を高め設備・人材への投資を促進すべく、市場・規制などの制度の改善や政策支援などを要請。さらに、金融界に対しては、グリーン資金調達の枠組における柱の一つに原子力を含めることで脱炭素化とエネルギー安定供給に貢献する原子力の役割が金融市場において適正に価値換算されるようなシステムの導入など、課題解決に向けた金融インセンティブの強化を要請している。その上で、「日米の原子力産業の発展に責任を負う」立場から、今後の行動目標として、日米を始め価値観を共有する国の事業者間での連携を深め、世界の原子力利用を促進すると宣言。具体的には、国際的秩序の攪乱に対応するため、相互信頼と共有する価値観のもとで結束する産業の協力により、原子力サプライチェーンを強靭化小型モジュール炉(SMR)を含む先進的原子炉の世界展開で両国政府が価値観を共有する他の国々と協力して必要な政策支援を行い、世界市場での産業競争力を実現するよう日米協力を促進――するとしている。今回の共同声明について原産協会は、「今後、原子力への期待が世界中で大きくなっていく中で、日米両国の原子力産業界はパートナーとして、世界中の原子力発電の需要に応えられると確信している。そしてそれが日米両国の原子力のサプライチェーンの維持・強化につながるものと期待している」とコメント。また、共同声明の調印に同席した太田房江経済産業副大臣は、「日本とアメリカは原子力における協力関係、あるいは技術の連携ということについて長い歴史を持っているが、今日、この日を一つのエポックとして、同じ価値観を持つ国同士でこの分野における日米協力をより進化させていきたい」と述べた。
- 28 Oct 2022
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米X-エナジー社 商業規模のTRISO燃料製造施設の起工式
米メリーランド州で第4世代の小型高温ガス炉「Xe-100」を開発しているX-エナジー社は10月13日、同炉で使用する3重被覆層・燃料粒子(TRISO燃料)の商業規模の製造施設「TRISO-X(TF3)」を建設するため、同社の100%子会社であるTRISO-X社がテネシー州オークリッジの建設サイトで起工式を開催したと発表した。TRISO燃料は、U235の濃縮度が5~20%の低濃縮ウラン(HALEU燃料)を黒鉛やセラミックスで3重に被覆した粒子型燃料。電気出力7.5万kWの小型モジュール炉(SMR)となる「Xe-100」について、X-エナジー社は2028年の運転開始を見込んでいるが、TRISO燃料は「Xe-100」のみならず、他社が開発中の多くの先進的原子炉設計でも使用される見通しである。TF3の建設と操業を担当するTRISO-X社は今年4月、このように特殊な核物質(カテゴリーⅡ)の取り扱いに関する許可申請書を原子力規制委員会(NRC)に提出しており、NRCは現在、24~36か月かけてこの申請を審査中。早ければ2025年にも、TF3の操業が可能になると同社は予想している。TF3の初期段階の生産量は、「Xe-100」12基分に相当する年間8トン(ウラン換算)だが、2030年代初頭までに16トン/年の生産量を目指すとしている。テネシー州ではすでに、TRISO-X社のパイロット製造ラインと研究開発センターが所在していることから、同社はTF3サイトの準備やその他の許認可取得に関する作業も進めている。同社はTF3について「将来、商業規模の様々な先進的原子炉の開発と建設を可能にする先駆けになる」と評しており、TF3の建設と操業で400名以上の雇用が生み出されるほか、約3億ドルの投資が呼び込まれると指摘している。X-エナジー社のC.セルCEOは、TF3の起工式を開催したことについて「地球規模で脱炭素化を進めるという誓約を果すために、先進的原子炉技術を実現していく重要な節目になった」と強調。「Xe-100」の開発計画が2020年に、米エネルギー省(DOE)の「先進的原子炉設計実証プログラム(ARDP)」の支援対象に指定されたことから、「今後もDOE、および東部テネシー州やオークリッジのコミュニティと連携協力していきたい」と述べた。同CEOはまた、オークリッジで長年にわたって培われてきた原子力関係の専門的知見が、同地を北米初の先進的原子燃料製造施設建設の最適地にしたと指摘している。 なお、「Xe-100」の開発計画について、X-エナジー社は今年8月、DOEの「新型原子炉概念の開発支援計画(ARC)」の下で基本設計を完了したと発表した。今後は、実証炉建設のサイト選定作業を進めるほか、同炉の全体的な許認可手続きの一部として、来年原子力規制委員会(NRC)に同炉の安全性関係の技術や知見に関する追加のトピカル・レポートを提出、2023年末までには建設許可をNRCに申請する方針である。同炉の実際の建設については、ワシントン州の2つの公益電気事業者が同州内での共同建設を目標に、2021年4月にX-エナジー社と覚書を締結。メリーランド州のエネルギー管理局も今年6月、「Xe-100」で州内の石炭火力を代替できるか、経済面や社会面の実行可能性を調査すると発表した。国外では、ヨルダン原子力委員会とカナダのオンタリオ州政府が「Xe-100」の利用可能性を探るため、それぞれ2019年11月と本年7月に同社との協力合意書を交わしている。(参照資料:X-エナジー社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月17日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 20 Oct 2022
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ICEF開催、技術イノベーションによる気候変動対策について議論
技術イノベーションによる気候変動対策について、世界の産学官のリーダーらが話し合うICEF(Innovation for Cool Earth Forum、運営委員長=田中伸男・元国際エネルギー機関〈IEA〉事務局長)の年次総会が10月5、6日、都内のホテルで開催された(オンライン併催)。ICEFは安倍晋三元首相の提唱により2014年以降、毎年秋に年次総会が行われており、今回、87の国・地域の政府、国際機関、産業界、学会から約1,600名が参集。「危機の時代における低炭素イノベーション」をメインテーマに、政策イノベーション、CO2除去技術、原子力システム、重要金属・鉱物の安定供給など、幅広い議論が展開された。開会に際し、西村康稔経済産業相ら、日本政府関係者による挨拶(ビデオメッセージ)に続き、ICEF運営委員長の田中氏がIEA事務局長のファティ・ビロル氏と対談(事前収録ビデオの上映)。ビロル氏は、昨今のウクライナ情勢を踏まえ「われわれはエネルギー危機の真っただ中にいる」との認識を示した。その上で、ICEF立上げの趣旨に立ち返り「エネルギー安全保障、気候変動への対応、産業政策の3つが揃うことで非常に強力な組み合わせとなる」と述べたほか、1970年代の石油危機からの立ち直りも省み、「今はクリーンエネルギー技術が気候変動問題解決に向けたカギとなる『エネルギーの歴史における転換点』だ」と強調。2日間の議論に先鞭をつけた。2日目の「持続可能な原子力システム」に関するセッションでは、駐日米国大使のラーム・エマニュエル氏が登壇し講演。同氏はまず、世界情勢を俯瞰し「エネルギーの安全保障が今後さらに重要となる」とした上で、原子力発電については「温室効果ガス削減に役割を果たす」と、気候変動対策における重要性も強調した。日本に対しては、小型モジュール炉(SMR)開発に係る協力や既設原子力発電所の運転期間延長に向けた動きに期待。その一方で、世界のエネルギー市場における各国投資の脆弱性を、米国の卓上ゲーム「ピックアップスティック」(「将棋崩し」に似たもの)に喩えながら危機感を示し、エネルギー安定供給への担保をより強化していく必要性を指摘した。若手による討論の模様(インターネット中継)ICEFでは、「多様化がイノベーションの源泉」との認識の下、ジェンダー平等と若手の参画を推進している。今回の年次総会でも、サイドイベントとして初日の夕刻、若手専門家によるディスカッションが行われ、途上国協力、食料安全保障、教育・コミュニケーションの課題にもわたり活発な意見が交わされた。田中氏は、総会終了後の記者会見で、今回、登壇したパネリストについて、「女性の占める比率が半数を超えたほか、各セッションに若い人を必ず一人は入れるようにした」とした上で、今後も若手のSNS活用にも留意しオンライン参加の方法を工夫していく考えを述べた。
- 07 Oct 2022
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国連欧州経済委、CO2排出量の実質ゼロ化に向け原子力の利用拡大を提言
©UNECE国連経済社会理事会の欧州経済委員会(UNECE)は9月19日、欧州と北米および中央アジア地域で、2050年までにCO2排出量の実質ゼロ化を達成するためのロードマップ報告書「Carbon Neutrality in the UNECE Region:Technology Interplay under the Carbon Neutrality Concept」を公表した。これは11月のエジプトでの第27回国連気候変動枠組条約・締約国会議(COP27)開催に合わせて取りまとめたもので、「実質ゼロ化を達成するには、低炭素や無炭素なエネルギー技術をすべて最大限に活用するなど、大胆かつ持続可能なアクションを直ちに始めなければならない」と強調。原子力に関しては、大型発電所の建設コストや財政リスクを軽減するとともに、小型モジュール炉(SMR)など先進的技術の開発と建設を加速するための政策的支援が必要だと各国に訴えている。今回の報告書は、対応地域の国際的な専門家の知見に基づいており、近年の地政学的危機やエネルギー供給危機を踏まえつつ、2050年までにCO2排出量をゼロ化するために有効な技術や政策を幅広く網羅している。UNECEはまず、2020年時点で国内総生産(GDP)からエネルギー関係に投資されている年間1.24%の金額を、2025年以降は2050年まで年間2.05%に増額する必要があると指摘。2050年までの総投資額は44兆8,000億ドル~47兆3,000億ドルにのぼる見通しで、ここでは近年の夏季における猛暑など極端な天候を考慮。これらに対処しなかった場合、自然災害は一層大きな課題となり、対応コストはさらに高まると強調している。UNECEの対応地域では現在、一次エネルギーの80%以上が化石燃料に起因している。UNECEの気候モデルで見ると、パリ協定やCOP26で設定されたCO2排出量の国際的な削減目標、および各国政府の現行政策では、CO2排出量を実質ゼロ化し世界の気温上昇を1.5~2度Cに抑えるには不十分だ。UNECE地域でCO2の実質ゼロ化を達成するには、以下の政策が各国に求められると指摘している。低炭素技術と無炭素技術をすべて活用するなど、一次エネルギーと最終エネルギーの供給源を多様化する。化石燃料利用の段階的削減を加速する。再生可能エネルギーと原子力に重点を置いて、あらゆる産業部門の電化を推進。エネルギーを貯蔵する新たな方式を開発する必要があり、これによって化石燃料によるバックアップを不要にする。CO2の回収・貯留・利用(CCUS)や水素、先進的原子力発電などの低炭素技術や無炭素技術の技術革新を広範囲に支援するための能力を強化する。先進的原子力技術の活用原子力発電技術についてUNECEは、「CO2排出量の実質ゼロ化に貢献する低炭素で重要な熱電源」と説明。実証技術を用いた既存の商業炉とともに、近年は新しい原子炉技術が数多く開発されており、柔軟な負荷調整や産業用高温熱の生産、熱電併給、電気分解法による水素製造等で、新たな市場が生まれる可能性がある。このため、原子力発電所の活用を決めた国は、UNECE域内のエネルギーシステムを脱炭素化する上で重要な役割を果たすと述べている。UNECEは昨年8月、地球温暖化の防止や低炭素エネルギー技術の開発加速に向けて、原子力に関する技術概要書(technology brief on nuclear power)を取りまとめており、CO2排出量の実質ゼロ化を達成する上で原子力が果たす重要な役割を指摘した。この技術概要書によって、いくつかの国は原子力発電の低炭素エネルギーがもたらす潜在的な可能性に注目。エネルギーミックスにおける実行可能な脱炭素化オプションとして、いくつかの国は原子力発電の利用を選択するかもしれない。その一方で、ある国ではその安全性と廃棄物の問題から、またある国では天然資源に恵まれていることから原子力を利用しないと決めているが、各国は徐々に地球温暖化の防止目標を達成できないリスクに気付き始めている。UNECEによると、エネルギー価格が高騰し原子力の安全性が改善されるなかで「エネルギーシステムを脱炭素化する必要性」が生じたことは、原子力に対する人々の意見を変えつつある。これにより、既存の大型原子炉市場に先進的原子炉技術が進出するなど、新たな市場が生まれる見通しで、大型炉については財政リスクと建設コストの軽減、SMRについては開発と建設を加速するための政策的支援が必要となってきた。SMRは発電のみならず、熱電併給や産業用の高温熱といった幅広いエネルギーサービスを提供できるほか、UNECEの気候モデルによれば、1kWあたりの建設費は大型炉と同等でも、工期については大幅に短縮が可能である。このため、大型炉の今後の運転モードとしては、①柔軟な出力調整を行わない95%という高設備利用率のベースロード運転か、②ガス複合発電と同程度の柔軟性を備えた設備利用率75%の運転――が考えられる。UNECEはエネルギー供給保証の観点から、安全な運転が可能な既存の原子力発電所の運転期間を延長することは、化石燃料への依存を大幅に緩和し、長期の負債や財政リスクを伴わない新規の建設プロジェクトでエネルギーコストを軽減できると強調している。(参照資料:UNECEの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの9月21日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 27 Sep 2022
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エストニアのフェルミ社、SMRのデベロッパー3社に入札招聘
エストニアの新興エネルギー企業であるフェルミ・エネルギア社は9月15日、英国や米国で次世代型の小型モジュール炉(SMR)を開発しているデベロッパー3社に対し、入札の招聘状を送付したと発表した。それらは、米国のGE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社とニュースケール・パワー社、および英国のロールス・ロイスSMR社で、フェルミ社は3社から建設コストの見積もり等に必要な総合的技術文書を12月までに入手し、2023年2月には採用炉型を決定する方針である。GEH社製の「BWRX-300」は電気出力30万kWのBWR型SMR。カナダのダーリントン原子力発電所内で同炉の建設を計画しているオンタリオ・パワー・ジェネレーション社は今年3月、サイトの事前準備作業を開始すると表明した。ロールス・ロイスSMR社のSMRはPWRタイプで電気出力は47万kW。少なくとも60年の稼働が可能で、今年4月からは英国原子力規制庁(ONR)らが同設計について「包括的設計審査(GDA)を開始している。ニュースケール社が開発した「ニュースケール・パワー・モジュール(NPM)」はPWRタイプの一体型SMRで、電気出力5万kW~7.7万kWのモジュールを最大12基まで連結することで出力の調整が可能。米国の原子力規制委員会(NRC)は2020年9月、出力が5万kWの「NPM」に対し、SMRとしては初めて「標準設計承認(SDA)」を発給した。今回の発表によると、フェルミ社は採用炉型の選定基準として、発電技術としての成熟度や経済的な競争力、サプライチェーンにエストニア企業を加えることなどを挙げており、最適の候補企業とはプロジェクト開発と予備的作業に関する契約を締結する。同社がデベロッパーに求めているのは、天候に左右されずに長期的な固定価格(運転開始当初は55ユーロ/MWhを想定)で確実に電力供給できる炉型だ。工場での機器製造が可能で標準化されたSMRは、これまでの大型炉と比較して、建設工事の遅れとそれにともなうコストの上昇といったリスクを軽減できると見られている。フェルミ社は、エストニアで第4世代のSMR導入を目指して、同国の原子力科学者やエネルギー関係の専門家、起業家などが設立した企業である。2030年代初頭にも、欧州連合(EU)初の第4世代SMRを国内で建設するため、2019年7月に様々なSMR設計について実行可能性調査を実施すると発表していた。フェルミ社のK.カレメッツCEOは、「これまでに検討してきた数多くのSMRの中でも、有望なものについてエストニアの条件や送電システムに最適の設計を選定する。また、これまでのプロジェクトの電力価格の実績も考慮に入れる」と述べた。同CEOはまた、招聘状を送った3社のSMRがそれぞれ、米国や英国の政府資金援助を受けて完成度が増していること、主要国での建設に向けて正式な許認可手続きに入っている点などを指摘。2020年代末までにこれらの初号機がすべて、運転を開始すると見られていることから、エストニアが建設するSMRはすでに確証済みの最良の次世代技術になるとの見通しを示している。(参照資料:フェルミ・エネルギア社(エストニア語)の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの9月15日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 16 Sep 2022
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GEH社、英国での「BWRX-300」建設を念頭に鋳鍛造品メーカーと協力
米国のGE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社は9月8日、英国内での同社製小型モジュール炉(SMR)「BWRX-300」の建設に備えて、英国最大手の大型鋳鍛造品メーカーであるシェフィールド・フォージマスターズ(SF)社と協力するための了解覚書を締結した。この覚書に基づき、両社は今後、原子力関係の複雑な鋳鍛造品を製造するSF社の能力が、英国内で「BWRX-300」の建設需要を満たすのに有効であるか協議する。英国政府は原子力発電設備の増強により、国内電力需要の約25%を賄う計画であるため、GEH社は「BWRX-300」用の鍛造品を英国内で入手する契約の締結に向けてSF社と話し合うほか、将来的には世界中で「BWRX-300」を建設していくことも念頭に、その可能性を探るとしている。イングランド中部のシェフィールドを本拠地とするSF社は、2021年7月に国有化されており、すでに昨年12月、ロールス・ロイスSMR社のSMR用として、鍛造品を納入する370万ポンド(約6億1,620万円)の契約を獲得済みである。SF社のD.ボンドCEOは、SMRについて「民生用原子力発電設備の標準型になる可能性がある」とコメント。同社は原子力規模の機器供給では長期にわたる実績があるため、その専門的な鍛造経験を市場に大々的にもたらすことができるとした。同社はまた、今後10年間に最大4億ポンド(約667億円)を投資して、これまでの防衛産業向け業務から転換を図りつつある。このため、GEH社との協力では、原子力グレードの複雑な鍛造品を「BWRX-300」の商業化に向けて製造し、英国サプライチェーンにおけるGEH社のパートナー企業になる方針である。「BWRX-300」は電気出力30万kWのBWR型SMR。GEH社の説明では、2014年に米原子力規制委員会(NRC)から設計認証(DC)を取得した第3世代+(プラス)のGEH社製設計「ESBWR(高経済性・単純化BWR)」の技術や機器を最大限に活用している。「BWRX-300」はまた、顧客がCO2排出量の削減目標を達成する一助になるだけでなく、建設と運転にともなうコストも従来の大型原子力発電所と比べて大幅に削減可能である。「BWRX-300」自体は今のところNRCのDC認証を受けていないが、カナダのオンタリオ州営電力であるOPG社は2021年12月、早ければ2028年までに既存のダーリントン原子力発電所内で完成させるSMRとして「BWRX-300」を選択。同じくカナダのサスカチュワン州営電力も今年6月、同州内で2030年代半ばまでにSMRを建設する場合は「BWRX-300」を採用すると表明した。また、ポーランド最大の化学素材メーカーであるシントス社も2021年12月、同社のグループ企業がポーランドの石油精製企業であるPKNオーレン社と合弁企業を設立し、SMRの中でも特に、「BWRX-300」の建設に重点的に取り組む方針を発表している。(参照資料:GEH社、SF社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、ほか)
- 12 Sep 2022
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