政府の統合イノベーション戦略推進会議は4月14日、核融合エネルギーを新たな産業と捉え実用化に向け加速化を図る「フュージョン・イノベーション戦略」を決定した。同戦略では、核融合エネルギーについて、カーボンニュートラル、豊富な燃料、固有の安全性、環境保全性の特長をあげ、「エネルギー問題と地球環境問題を同時に解決する」と強調。欧米エネルギー分野での一般的呼称を踏まえ、「フュージョンエネルギー」と表現。今後10年を見据え、「技術的優位性を活かして市場の勝ち筋をつかむ“フュージョンエネルギーの産業化”をビジョンに掲げる」としている。核融合エネルギーの実現に向けては現在、国際プロジェクト「ITER計画」が進められており、日本も超伝導トロイダル磁場コイルの物納などを通じ同プロジェクトに貢献しているが、今回の「フュージョン・イノベーション戦略」では、今後の建設進展に伴う調達減少で需給縮小・空白期間が生じることを懸念。その上で、発電実証を行う原型炉開発への民間企業参画を見据え「フュージョンインダストリーの育成戦略」を提唱した。そこでは、「見える」、「繋がる」、「育てる」を3本柱に、現在、文部科学省の作業部会・ワーキンググループが2050年頃としている発電実証時期を「できるだけ早く明確化する」ことや、他分野技術とのマッチングの場となる「一般社団法人核融合産業協議会」(仮称、既存の核融合エネルギーフォーラムを発展的改組)の年度内設立、安全規制に関する議論、イノベーションを創出する振興技術の支援強化、教育プログラムの展開などを盛り込んでいる。統合イノベーション戦略推進会議を所管する高市早苗・内閣府科学技術政策担当相は、同日の閣議後記者会見で、「政府における司令塔を担う立場から、関係省庁と一丸となって様々な政策手段を総動員し、産学官が連携することによって着実に戦略を実行できるよう取り組んでいく」と、強い意欲を示した。
14 Apr 2023
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幌延町は、日本原子力研究開発機構の幌延深地層研究センターで行われている高レベル放射性廃棄物の処分技術に関する研究開発について、次世代層への理解を深めることを目的とした冊子「マンガで探検! 幌延深地層研究センター」(A5判、32ページ)を制作した。3月31日より同町のWEBサイト上でも公開されている。冊子のあらすじは、千葉県から幌延町の祖父の家に遊びに来た姉弟「深井ちか」(中学1年)と「深井だいち」(小学4年)が同町トナカイ観光牧場のマスコットキャラクター「ホロベー」の案内で現地の名産「サロベツ合鴨」を用いたステーキ丼やラーメンを堪能。その後、幌延深地層研究センターPR施設「ゆめ地創館」に生息し地層処分の研究に詳しいというキャラクター「モグ太くん」に出会い、地下研究施設を見学するというもの。2人とも高レベル放射性廃棄物については何も知らない。「モグ太くん」はまず、「電気の作り方にはいろいろな方法があります」と話し、火力発電、水力発電、太陽光発電、風力発電について、それぞれ原理を説明し、各々が持つCO2排出や天候の影響を受けるデメリットをあげ、「どの発電方法もいい部分ばかりではありません」と説く。原子力発電についても、略図を示しながら「ウランなどの原子が核分裂したときに発生する熱で水を沸かしてタービンを回すことで発電します」と、原理を説明。「発電工程において二酸化炭素を発生しないのが特長です」とメリットをあげる一方、「私たちの生活を便利にしてくれますが、放射性物質ができる」と話し、原子力発電における地層処分の必要性の理解に導く。2人は地下350mの研究施設を見学するが、「深井だいち」君の「ガラス固化体が埋まるってこと~?」との疑問に対し、「モグ太くん」はフリップを示し、放射性廃棄物を持ち込むことや使用することはしない研究終了後は、施設を埋め戻す研究実施区域に放射性廃棄物を捨てない。また、一時的に貯蔵もしない――とする研究施設に係る地域との約束を明示。地下坑道を歩きながら研究者から「ガラス固化体と同じ温度にするために電気ヒーターを設置し、地下水を注入して岩盤の温度や水分の変化を調査したり…」などと説明を受け、研究の実態を理解する。冊子の制作はビジネス書の漫画化で多くの実績を有するトレンド・プロが手掛けた。今回、監修に当たった北海道大学工学研究院教授の小崎完氏は、「『科学的厳密性』と『わかりやすさ』は多くの場合相反する。小さなお子さんに対して、道北・幌延町の魅力とともに、そこで行われている高レベル放射性廃棄物の地層処分に関する研究とその研究施設を『厳密』かつ『わかりやすく』紹介することは容易ではない」と、コメントしている。
13 Apr 2023
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「切らずに治せる」非侵襲的な治療法として注目される粒子線がん治療の都内初となる装置導入が具体化している。量子科学技術研究開発機構(QST)発ベンチャー企業のビードットメディカルと社会福祉法人仁生社が取り組む「東京江戸川がんセンター構想」のもと、江戸川メディケア病院(江戸川区)への設置が計画される超小型陽子線がん治療装置だ。〈ビードットメディカル発表資料は こちら〉ビードットメディカルと仁生社・江戸川病院グループは4月3日、「東京江戸川がんセンター構想」の実現に向け、基本契約締結の調印式を行った。ビードットメディカルとこれまでも先端医療技術を採り入れてきた仁生社・江戸川病院はともに江戸川区内に所在し、2022年12月に、ビードットメディカル製の超小型陽子線がん治療装置の導入に関する基本合意を締結。地元を起点として他県まで通院する必要のない「都市型の陽子線治療装置」による治療を多くの患者に提供すべく取り組んでいる。医用原子力技術研究振興財団によると、国内には現在、粒子線がん治療施設が25か所(重粒子線:7か所、陽子線:19か所、両者併設含む)あり、東京近郊では、直近で、2022年1月に湘南鎌倉総合病院先端医療センター(神奈川県鎌倉市)で陽子線治療が開始された。陽子線治療は、QST病院(千葉市)などで既に多くの治療実績を持つ重粒子線治療と比べ、例えば肝臓がんでみた場合、3年の生存率で重粒子線73%(QST病院)に対し陽子線57%(筑波大附属病院)と、治療成績はやや劣る。一方で、陽子線治療は、機器配置の最適化などを図ることで、都市部での限られた敷地面積の縮小を図り、設置に要するコスト・期間を抑えることが可能だ。現状、設置に100億円以上のコストを要する重粒子線治療に関しては、QSTを中心に10年程度先の実用化を目指した装置小型化のプロジェクトが進められている。ビードットメディカルでは、「がんの診断時に収入のある仕事をしていた人は44%、治療で退職・休職した人は7割。いかに大切な日常を大きく変えることなく、高いQOLを維持しながら治療できるか」を理念に掲げ、陽子線治療装置の早期・大幅普及を目指し技術開発に取り組み、従来のX線治療装置と同程度のサイズまでの小型化を可能とする独自技術「非回転ガントリー」を考案。超小型陽子線がん治療装置の実現に向けて要素技術開発、原理実証を進めてきた。基本契約締結の調印式を受け、同社の古川卓司社長は、「都内最初の陽子線治療の実現を含む『東京江戸川がんセンター構想』のチャレンジに参画できることは大変光栄」とコメント。江戸川病院の加藤正二郎院長は、「希望する誰もが先進的な高度がん治療を受ける環境の実現を目指している。より低侵襲で治療効果の高い幅広い治療を提供したい」と話している。
12 Apr 2023
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原子力産業新聞が電力各社より入手したデータによると、2022年度の国内原子力発電所の平均設備利用率は19.3%(対前年比5.1ポイント減)、総発電電力量は560.7億kWh(同20.8%減)となった。年度内に稼働したプラントは前年と変わらず、いずれもPWRで10基・995.6万kW。新たに再稼働したプラントはなかった。テロなどに備えた「特定重大事故等対処施設」の整備に伴う停止もあり、稼働状況は下降を見せたが、既に再稼働している関西電力美浜3号機、同大飯3・4号機、九州電力玄海3・4号機では同施設の運用を開始し、いずれも電力応需の戦列に復帰した。
11 Apr 2023
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原子力の革新的安全性向上に向けた取組の一つとして、事故耐性燃料(ATF)の開発が国内外で進められている。福島第一原子力発電所事故の教訓を踏まえ、燃料被覆管を金属でコーティングすることなどにより、酸化や水素発生を防ぎ安全性を高めるもの。将来的には革新型軽水炉への適用も視野に、できるだけ早期の実用化を目指している。日本原子力研究開発機構の大井川宏之理事は、4月4日の原子力委員会定例会合で、日本におけるATF研究の現状と今後の見通しについて説明した。福島第一原子力発電所事故では、ジルコニウム合金被覆管の酸化により温度が急上昇し、水素発生に至ったことから、これを抑制・緩和することで事故への対処時間を引き延ばすことが可能となる。日本におけるATF開発は、2015年頃より本格的に開始されており、原理実証、工学実証と段階を経た後、2030~35年頃に実用化される見通し。メーカー各社が開発に取り組むATFの候補材料としては、「炭化ケイ素燃料被覆管」(BWR・PWR用、東芝エネルギーシステムズ他)、「改良ステンレス鋼被覆管」(BWR用、日立GE/グローバル・ニュークリア・フュエル・ジャパン)、「クロムコーティング被覆管」(PWR用、三菱重工業/三菱原子燃料)があり、原子力機構は、共通基盤技術開発、事業者間の連携推進に当たる。大井川理事は、これらATF要素技術開発に係る試験・評価、さらに、米国、フランスにおけるATF開発の状況について説明した。委員から日本のATF開発の課題について問われたのに対し、大井川理事は「照射炉を持っていないことが大きなネック」と、技術基盤に係る弱みに懸念を示した。実際、新型燃料開発では、海外試験炉や国内加速器施設を用いた試験データ取得が行われている。原子力機構では、2022年3月、12月に、ATF開発に関し国内のステークホルダーが一堂に会するワークショップを開催しており、その中で、同機構の技術担当者は「ATFは、短期的な経済合理性だけならば、開発が先行する米国から購入する方法もあるが、中長期的に技術基盤・人材の維持・確保を考えた場合、自主開発が必要」などと、開発の意義を強調している。
10 Apr 2023
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日本原子力産業協会は4月7日、「世界の原子力発電開発の動向」2023年版を刊行した。同協会が毎年、継続的に行っている調査で、世界の原子力事業者へのアンケート調査等に基づき、2022年における世界の原子力発電開発の主な動向と、2023年1月1日現在のデータを取りまとめたもの。今年は従来の紙版に加え、電子版も販売されている。〈お申込みは こちら〉それによると、世界で運転中の原子炉の基数は、前回調査と同じ431基、合計出力は前回調査より238.8万kW増加して4億928.1万kWとなった。今回の調査で営業運転開始が明らかになったのは、4か国の計5基・618万kWで、内訳は、中国2基、韓国、パキスタン、アラブ首長国連邦(UAE)で各1基だった。一方で、ベルギー、英国、米国で計5基・386.7万kWの閉鎖が明らかになった。中国では、福清6号機(華龍一号、116.1万kW)が2022年1月1日に送電を開始し、3月25日には営業運転を開始。華龍一号の営業運転開始は、前年の福清5号機(116.1万kW)の初号機に続く2基目。さらに紅沿河6号機(ACPR-1000、111.9万kW)も6月23日に営業運転を開始した。パキスタンでは、前年のカラチ2号機に続き、華龍一号設計を採用したカラチ3号機(110万kW)が4月18日に営業運転を開始。UAEでは、前年のバラカ1号機に続き、バラカ2号機(韓国製APR1400、140万kW)が3月24日に営業運転を開始したほか、同3号機(同)が10月8日に送電を開始。韓国では、新ハヌル1号機(APR1400、140万kW)が6月9日に送電を開始し、12月7日に営業運転を開始した。また、2022年中には、エジプトで初となるエルダバ1・2号機(VVER-1200、各120万kW)など、4か国で計10基・995.8万kWの原子力発電所が着工。世界で建設中の原子力発電所は計72基・7,477.1万kWとなった。さらに、同年中、新たに、カナダ1基、中国7基、インド10基、ポーランド5基、ロシア7基が計画入りとなり、計画中の原子力発電所は前年比16基増の計86基・9,020.4万kWとなった。原産協会の新井史朗理事長は、4月7日の定例記者会見で、「世界の原子力発電開発の動向」2023年版刊行を紹介。同書で述べられている近年の欧米諸国における小型モジュール炉(SMR)開発の顕著な進展や、新興国・開発途上国での原子力開発の躍進ぶりなどに言及した上で、「本書では、国ごとに最新の動向を取りまとめているほか、世界中で進む運転期間延長の状況や、SMRの開発動向などを独自に取りまとめている」として、基本データとして広く活用されるよう期待を寄せた。
07 Apr 2023
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IAEAは4月5日、福島第一原子力発電所で発生するALPS処理水((トリチウム以外の核種について環境放出の規制基準を満たす水))の安全性レビューに関する報告書を公表。IAEAの国際基準に照らし、今後、海洋放出が行われるALPS処理水の取扱いに係る計画進展を評価するものとなっている。〈資源エネルギー庁発表資料は こちら〉今回の安全性レビューは、2022年11月にIAEAの国際専門家(アルゼンチン、中国、韓国、フランス、マーシャル諸島、ロシア、英国、米国、ベトナム)らが来日し実施された。同安全性レビューは、日本政府とIAEAとの間で2021年7月に署名された協力枠組みに基づくもので、2022年2月に続き2回目となる。今回、ALPS処理水の性状、放出管理のシステムとプロセスに関する安全性、放射線影響評価など、8つの技術的事項について確認。報告書では、第1回レビュー(2022年4月報告書公表)での指摘事項に対する適切な対応を評価する一方、東京電力に対し、放射線環境影響評価に係るより明確な説明、定量的な評価を求めている。IAEAは今後、包括的報告書を公表する予定。日本政府はこれを踏まえた上で本年春から夏頃にも海洋放出を開始することとしている。IAEAよるレビューはALPS処理水の放出後も継続される運び。なお、IAEAがALPS処理水の取扱いについて、直近で2022年12月に公表した「IAEAによる独立したサンプリング、データの裏付けおよび分析活動」報告書に関しては、IAEA研究所の専門家が2023年3月28~31日に福島第一原子力発電所を訪れ、放射線核種の分析方法の適切性について現地確認を行っている。〈資源エネルギー庁発表資料は こちら〉
06 Apr 2023
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東京電力は3月28~31日、水中ROV(潜水機能付きボート型アクセス・調査装置、機能に応じ6種類ある)による福島第一原子力発電所1号機の原子炉格納容器内部調査を実施した。〈既報〉今回、初めてカメラがペデスタル(原子炉圧力容器下部の土台)内に入り撮影に成功。4月4日には、その動画が公開された。〈東京電力発表資料は こちら〉同調査では主にペデスタル開口部・内部を撮影。円筒状のペデスタル内壁でコンクリートが溶け落ち配筋が露出していること、CRD(制御棒駆動機構)と推定される構造物やガレキ状・塊状の堆積物などを確認しており、今後の燃料デブリ取り出しに資する有用な情報が得られた。ペデスタルの健全性に関しては、過去に国際廃炉研究開発機構(IRID)が実施した耐震性評価で、「ペデスタルが一部欠損していても重大なリスクはない」ことを確認しているが、同社では、これまでに得られたデータをもととして、さらに評価を継続することとしている。
06 Apr 2023
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資源エネルギー庁は3月30日、全国の小学校4~6年生を対象とした「わたしたちのくらしとエネルギー」をテーマとする自由研究発表「かべ新聞コンテスト」の2022年度優秀作・計38作品を発表した。小学生のエネルギー問題に対する関心と当事者意識を喚起するとともに、学校や家庭・地域における実践行動を促すことを目的として、毎年、実施されるもの。今回は、767人から405作品の応募があり、人数と作品数の比率から例年と比べ部活動やグループでの研究発表は少なかったものとみられる。〈資源エネルギー庁発表資料は こちら〉最優秀賞(経済産業大臣賞)は、「しっかり知って正しく話そう エネルギーのこと」(北海道教育大学附属札幌小学校6年・山村理透さん、在学校・学年は発表時〈以下同じ〉)、「エネルギー変革新聞」(東京都小平市立小平第十小学校5年・相澤心結さん)の2件が受賞した。前回に続き最優秀賞を受賞した山村さんは、今回、昨今の電気料金上昇の動きに着目し、「かべ新聞」を通じ、エネルギー問題を提起。自身が通っていた幼稚園でも採り入れられている浦幌町産の間伐材を利用した「ペレットストーブ」(地産地消)、ニセコ町の高断熱建築(省エネ)の取材などを通じ、地元の北海道から「暮らし方を少し変えるだけでかわる未来」を訴えかけた。原子力については、北海道電力泊発電所のPRセンター「とまりん館」の見学から、「電力の種類によって、CO2の排出量が異なるため、よりクリーンな電力を集めることが大切です。原発については、怖いイメージがありますが、安全の仕組み、メリット・デメリットを理解すると、エネルギーMIXの仲間に加える議論も必要なのかと考えました」と、自身の考えを述べている。「エネルギー変革新聞」を発表した相澤さんは、「カーボンニュートラル」に着目。脱炭素社会の実現に向けた「化石エネルギーから次世代エネルギーへの変革」として、水素利用を取り上げ、関連施設の取材体験を記事にした。また、地元の交差点などで調べたCO2濃度測定結果を示し、「渋滞しているだけで二酸化炭素をむだに排出し続けてしまうので、渋滞しない道路作りをお願いしたいです」と、都市部ならではの着眼点からも意見を述べている。今回のコンテストで寄せられた作品に関し、審査委員長の山下宏文氏(京都教育大学教育学部教授)は、「現在の問題、自分が生活する地域の問題、自分の体験や経験に基づく問題、これまであまり目が向けられていなかった問題などに着目した作品が多くあった」とコメントしている。
04 Apr 2023
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東京電力は3月31日、福島第一原子力発電所1号機のペデスタル(原子炉圧力容器下部の土台)内から原子炉圧力容器底部方向を見上げて撮影した静止画像を公開した。水中ROV(潜水機能付きボート型アクセス・調査装置、機能に応じ6種類ある)投入し撮影したもので、CRD(制御棒駆動機構)関連と思われる構造物を確認。カメラが同機ペデスタル内部に入ったのは初めてのこと。〈東京電力発表資料は こちら〉1号機燃料デブリ取り出しに向けて、2021年度末より水中ROVを用いた原子炉格納容器内部調査が実施されており、これまでにペデスタル開口部付近で厚さ約0.8~1.0mの堆積物を確認している。今回、2022年度末までに予定された同調査の最終行程として、小型装置のROV-A2を初めてペデスタル内部にまで投入させ撮影に成功。3月28日からのROV-A2投入による調査では、30日までに円筒状のペデスタル内側の基礎部において、ほぼ半周にわたりコンクリートが溶け落ち一部配筋が露出していることが確認されている。1号機は、同じく燃料溶融が起きた2・3号機と比較して、溶融が激しいと解析されていたが、今回の調査結果はそれを裏付けることとなった。ペデスタルの健全性に関して、同社では、過去に国際廃炉研究開発機構(IRID)が実施した耐震性評価により、「ペデスタルが一部欠損していても重大なリスクはない」とする一方、これまでに得られたデータをもとに引き続き調査・評価を継続していくこととしている。
03 Apr 2023
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QST・小安理事長©QST量子科学技術研究開発機構(QST)の新理事長に、小安重夫氏(元理化学研究所理事)が4月1日付で就任した。QSTは放射線医学総合研究所を前身とし、2016年4月に日本原子力研究開発機構の量子ビーム研究と核融合研究開発に関する業務を統合し発足。同氏は2代目理事長となる。小安理事長は4月1日、就任挨拶を発表した。就任に際し、同氏は、人類の活動によって生じた海洋汚染、気候変動、資源の枯渇など、地球規模の課題を列挙し、「科学に携わる私たちには、持続可能な循環型地球社会を目指し、科学によって課題を解決する使命がある」と強調。QSTが取り組む重粒子線がん治療、核融合エネルギーに係る研究開発、量子技術を活かした新たな研究分野の開拓などを展望し、「研究活動を通じて新たな価値を創出・提供し、健康・長寿社会の実現、持続可能な環境・エネルギーの実現、さらにこれを支える人材育成に貢献する」と抱負を語った。退任する平野俊夫理事長は、QST発足から7年間、初代理事長として2法人統合によるシナジー効果発揮に努め、新組織の基盤を確立。就任以来、「がん死ゼロ健康長寿社会の実現」を目指し、既存病院建屋にも設置可能な次世代がん治療装置「量子メス」の開発に取り組んできた。QST職員への退任挨拶の中で、同氏は、日頃から口にしてきた「己を知り、己を磨き、己を誇る」、「目の前の山を登りきる」、「夢は叶えるためにある」と、改めて訓示。謙虚な気持ち、挑戦する意志、高い志と理念を持つ重要性を強調し、「新しい世界を切り開いて欲しい」と、期待を寄せた。
03 Apr 2023
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原子力発電環境整備機構(NUMO)が科学技術館(千代田区・北の丸公園)で出展している「アトミックステーション ジオ・ラボ」の一部が3月31日、リニューアルオープンした。〈NUMO発表資料は こちら〉新たな展示「体感!なぜ?なに?地層処分!!」では、「地層処分場とはどういうものか」、「どのように処分を進めていくのか」、「処分する地下にはどのような特性があるのか」について、グラフィックによる「学び」+3面大型スクリーンを配したシアターでの「ゲーム体験」を通じ、次世代層に対し効果的に訴求するのがねらい。メインターゲットとなる小学生とその親世代が直感的に最終処分場の長期的な安全性を理解し、その理解が「自分ごと化」されるストーリーを構築している。なお、昨今の感染症対策にも留意し、センシング技術を導入することで非接触でも体験性が高まる展示を実現した。一度に6人が参加できるゲーム(所要約10分)では、体験者が自身のアバター(スクリーンに投影される分身)を見ながら、地下300m以上の地中深くまで穴を掘るなど、3つの模擬体験を通じ、地層処分に対する「自分ごと感」を高めてもらう。NUMOでは、昨年末、国により取りまとめられたGX(グリーントランスフォーメーション)基本方針を受け、「最終処分の実現に向けた国民理解の促進」が重要との認識のもと、「科学技術館における最新展示手法を導入したリニューアルにより、より広く地層処分に関心を持ってもらえるよう努めていく」としている。「アトミックステーション ジオ・ラボ」は科学技術館の3階に開設。同館の開館時間は10時~16時50分(入館は16時まで、現在は個人での入館に予約は不要)。なお、NUMOでは、子供・ファミリー層向けの広報活動として、2021年に感染症対策にも留意した新たな地層処分展示車「ジオ・ラボ号」を完成させ、全国各地のショッピングモールなどへの巡回展示を行っている。
31 Mar 2023
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文部科学省の「次世代革新炉の開発に必要な研究開発基盤の整備に関する検討会」(主査=山口彰・原子力安全研究協会理事)は3月28日、高速炉および高温ガス炉を中心に今後、開発に必要となる研究開発・基盤インフラの整備に向け提言を発表した。昨秋より、資源エネルギー庁の革新炉ワーキンググループにおける議論などを踏まえ検討を行ってきたもの。高速炉 今後の実証炉開発の進め方を整合するよう、実用化・高度化に必要となる基盤インフラに関する具体的な整備計画について政府のロードマップにおいて明確に位置付けていくべき高温ガス炉 熱利用などの可能性を実証する研究を実施するとともに、エネルギー・産業システムでのニーズと貢献について検討していくべき――と提言している。高速炉に関しては、日本原子力研究開発機構による「新高速中性子照射炉を中心とする原子力イノベーション構想」が盛り込まれた。「社会ニーズに対応した高速炉で実現可能な新機能を実証する新たな試験施設」をコンセプトに、放射性廃棄物の減容・有害度低減再エネ協調(小型高速炉を実用化し再エネを補完する調整電源として活用)国民福祉向上への貢献(高速実験炉「常陽」と2基体制で医療用RIを安定的に供給)高速炉技術基盤の確立――の実現を目指すもの。原子力機構の整備計画によると、新たな「新高速中性子照射炉」は、熱出力100MW、MOX燃料装荷、安全技術となる受動的炉停止設備の適用などを基本仕様とし、近く再稼働を目指す「常陽」の実証データや新燃料製造施設の整備などを踏まえ、2030年代半ばの運転開始が見込まれている。一方で、今後の高速炉技術基盤の確立に向けては、設計・建設・運転の技術スキルの維持・継承、人材の維持、サプライチェーンの再構築が課題となっており、「早期に炉を建設・運転する」ことが求められている。
29 Mar 2023
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日本原子力文化財団はこのほど、「原子力に関する世論調査」の2022年度調査結果を発表。「今後日本は、原子力発電をどのように利用していけばよいと思うか」との問いに対し、「原子力発電を増やしていくべきだ」と「東日本大震災以前の原子力の状況を維持していくべきだ」を合わせた回答(増加・維持)は17.4%、「原子力発電は即時、廃止すべきだ」との回答は4.8%と、2014年度の調査以降で、それぞれ最大、最小となり、「原子力発電の積極的な利用」を支持する意見が増加傾向にあることが示された。今回の調査で、原子力発電の再稼働に対する考えについて(複数回答可)、最も多かったのは「国民の理解は得られていない」(46.0%、前年度は46.3%)で、「電力の安定供給を考えると、再稼働は必要」(35.4%、同30.0%)がこれに次いだ。また、「原子力やエネルギー、放射線の分野において関心のあること」については(複数回答可)、「地球温暖化」(52.8%、同50.5%)を筆頭に、「電気料金」(48.3%、同30.0%)、「日本のエネルギー事情」(39.1%、同31.5%)がこれに次いだほか、「電力不足」や「災害による大規模停電」をあげた人も多く、エネルギー安定供給への関心の高まりが示される結果となった。さらに、最近の原子力やエネルギーに係るニュースに関して尋ねたところ(複数回答可)、「気になる事柄」として、約7割の人が地球温暖化による気候変動が自然環境・暮らしに与える影響を、ほぼ半数の人がロシアのウクライナ侵攻に伴う日本のエネルギー需給への影響を回答。一方で、総理による原子力発電利用に関する発言をあげた人は2割未満にとどまった。今回の調査では、福島第一原子力発電所で発生する処理水の海洋放出についても質問。汚染水の発生・浄化、処理水の海洋放出時の希釈、取り除くことのできないトリチウムの性状、風評対策など、14項目の認知度に関し、「どの項目も聞いたことがない」、「どの項目も説明できない」という人がそれぞれ約3割、約8割に上っており、「汚染水をそのまま海洋放出する」と誤解している可能性があることなどが示された。原子力やエネルギーに関する情報源に関しては、年代による差が顕著に表れており、新聞をあげた人は、44歳以下では30%を下回っていたが、45歳以上では5割を超えていた。若年世代(24歳以下)では学校、Twitterが高く、高齢世代(65歳以上)では近年、インターネット関連の回答が増加し、マスコミのニュースサイトをあげた人は他の年代を凌ぎ約2割に上っていた。「原子力に関する世論調査」は、同財団が原子力に関する世論の動向や情報の受け手の意識を正確に把握することを目的として、2006年度より継続的に実施しているもの。今回、2022年10月に調査を実施し、全国の1,200人(15~79歳の男女)から回答を得た。
28 Mar 2023
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岡田委員©原子力委員会原子力委員会の岡田往子委員は3月22日、同委定例会で、OECD/NEA(経済協力開発機構/原子力機関)が原子力分野におけるジェンダーバランスの現状把握のため実施し、8日に公表したアンケート調査の結果について説明した。OECD/NEAのタスクグループが加盟国を対象に実施したもので、17か国に対し行われた定量的調査と、32か国に対し行われた定性的調査からなり、今後のジェンダーバランス改善に向けた政策立案に資する「国際的に初めて公開されたデータ」とみられる。〈原子力委員会・岡田委員発表資料は こちら〉岡田委員はまず、ジェンダーバランスに関し、「男女の賃金格差、昇進格差をなくし、男女の採用の公平性を高めること」とする(一社)パートナーシップ協会による定義を紹介した上で、「誰もが働きやすい社会の実現に向け、ジェンダーの平等は必須」と強調。さらに、過去にノーベル賞を受賞した科学者の男女比について、生理学・医学賞は225名対12名、化学賞は191名対8名、物理学賞は222名対4名と調べ上げ、「女性は非常に少ない」と、科学技術分野での功績者実績にもジェンダーバランスの格差がみられることに問題意識を示した。OECD/NEAによる定量的アンケート調査で、日本からは、日本原子力研究開発機構、量子科学技術研究開発機構、原子力規制庁が協力。調査結果によると、原子力分野での全労働者に占める女性の比率は、調査対象国の平均24.9%(ロシアはサンプル数が多いため除外、以下同様)に対し、日本は15.4%で、調査対象国の中で最低となり、岡田委員は「日本では、原子力分野への女性の進出が遅れていることは明確」と指摘した。新入職員全体に占める女性の割合は、調査対象国の平均28.8%に対し、日本は27.0%で、ほぼ世界平均の水準だった。一方、キャリアパスに関して、女性昇進者の全体に占める割合は、調査対象国の平均27.1%に対し、日本は14.0%で、調査対象国の中で最低であった。さらに、賃金格差(男性の給与に対する女性の給与の割合)については、調査対象国の平均マイナス5.2%に対し、日本はマイナス26.4%で「韓国と並び女性の給与が男性に比べ極端に低い」結果となり、「女性が上級管理職ポストに就く割合が極端に低いことがその一因」と分析されている。職場風土・環境、家庭への影響、男女間の不平等などに関する定性的アンケート調査の結果からは、「原子力特有の問題が、より広範な社会文化的課題と相互作用して、女性の貢献を制限している」との課題が抽出された。これらを踏まえ、岡田委員は、原子力分野におけるジェンダーバランスの改善に向け、今、働いている女性の活躍の場を広げる今、働いている女性の活躍を発信する将来世代の女性たちに可能性を示す将来世代の女性たちに夢を与える原子力分野の足りないもの、わかっていないこと、やらなければならないことを明確にする――ことを提言。今後の具体的進め方として、アカデミアとも連携したロールモデル集の開発、WiN(Women in Nuclear:原子力・放射線利用の分野で働く女性による国際NGO)への支援などをあげた。これを受け、佐野利男委員は、定量的データをより精緻化していく必要性を指摘したほか、原子力以外の分野とも連携した取組や、LGBTQ((性的少数者とされるレズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー、クイア他))に対する支援にも言及。上坂充委員長は、原子力委員会が重点的取組として掲げる医療用RI製造・利用などの核医学分野や、社会学・コミュニケーション分野で、今後、女性が活躍することに期待を寄せた。
24 Mar 2023
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政府の原子力災害対策本部は3月22日、浪江町、富岡町に設定された「特定復興再生拠点区域」(復興拠点)((帰還困難区域のうち市町村作成・国認定の計画に基づき居住を目指し除染やインフラ整備を推進する地域))の避難指示を、それぞれ、3月31日午前10時、4月1日午前9時に解除することを決定した。復興拠点は福島県内6町村に設定。葛尾村、大熊町、双葉町では2022年6~8月に避難指示が解除された。残る飯舘村についても、今春の避難指示解除に向け地元への説明などが行われている。〈原災対策本部発表資料は こちら〉今回、避難指示解除が決定されたのは、浪江町の津島地区・室原地区・末森地区(約661ha)、富岡町の夜の森・大菅地区(約390ha)。浪江町については2017年12月に、富岡町については2018年3月に、各町による「特定復興再生拠点区域復興再生計画」が国により認定された。浪江町では国の伝統工芸品に指定されている「大堀相馬焼」の窯元、富岡町では観光スポット「夜の森の桜並木道」を中心としたエリアが含まれ、指示解除により、それぞれ、伝統文化、観光資源を活かした地域の復興・再生が期待される。22日の原子力災害対策本部会合では、浜通り地域の特色を活かした国際教育研究拠点として4月に設立予定の「福島国際研究教育機構」(本部施設は浪江町に設置)に関する関係閣僚会議の初会合も合同で行われた。渡辺博道復興相は22日の閣議後記者会見で、「今般、避難指示解除を決定した浪江町、富岡町について、復興が円滑に進むよう取り組んでいく」と強調。同拠点区域外の避難指示解除についても、「2020年代をかけて帰還意向のある住民の方々が全員帰還できるよう、避難指示解除に向けた取組を進めていく」との基本方針のもと、今国会提出の関連法案の成立に万全を期すとした。また、「福島国際研究教育機構」については、「世界に冠たる『創造的復興の中核的拠点』として、研究開発や産業化、人材育成の取組を加速できるよう、関係大臣と連携しながら政府一丸となって支えていく」と述べた。
23 Mar 2023
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「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)の総会が3月13~20日、スイス・インターラーケンで開催され、2014年以来、9年ぶりとなる統合報告書(第6次)を採択した。1850~1900年を基準とする世界の平均気温は2020年までに約1.1℃上昇したと指摘。「人間活動が主に温室効果ガスの排出を通して地球温暖化を引き起こしてきたことは疑う余地がない」と、警鐘を鳴らしている。前回の統合報告書では、平均気温の推移について、1880年から2012年の間に0.85℃上昇と評価していることから、地球温暖化がさらに深刻化してきたといえそうだ。パリ協定(2015年12月に採択された2020年以降の温室効果ガス排出削減のための国際枠組み)では、「世界の平均気温の上昇を2℃より十分下回るものに抑えること、1.5℃に抑える努力を継続すること」との目標を掲げているが、今回の報告書は、「現状の政策による2030年の世界全体の温室効果ガス排出量では、気温上昇が21世紀の間に1.5℃を超える可能性が高い」と指摘。人為的な地球温暖化の抑制に向け、「カーボンニュートラル」の必要性を述べている。今回のIPCC報告書について、西村明宏環境相は、3月22日の閣議後記者会見で、「行動変革を通じたエネルギー需要の削減が強調された」ことをポイントとしてあげ、今後、「GX(グリーントランスフォーメーション)実現に向けた基本方針」を踏まえ所要の施策に取り組んでいく姿勢を示した。また、「来月のG7札幌気候・エネルギー・環境相会合などの機会を通じ、世界全体の脱炭素化に向けて議論をリードしていきたい」と強調。アントニオ・グテーレス国連事務総長が先進国に対し「カーボンニュートラル」の前倒しを要請したことに関しては、「人類に対する科学の強いメッセージと受け止めている。IPCCの科学的知見も踏まえ、わが国として、緩和策、適応策の両面から気候変動対策をさらに強化していきたい」と述べた。
22 Mar 2023
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京都大学、大阪大学他による研究グループは3月14日、東日本大震災の被災県・首都圏と関西圏の市民を対象に、心理学の観点から実施した食品の放射線リスクに関する調査結果を発表した。9年間にわたり約1,800人の市民に協力を得て、10回の継続的調査を行い得られたもの。〈京大他発表資料は こちら〉それによると、食品の放射線リスクに対する態度について、放射能不安、積極的な情報探索行動、被災地産食品の回避は、時間経過とともに減少する積極的な情報探索行動や放射線に関する知識は、被災地が他の地域より高い被災地産の食品を避ける行動は、被災県では関西圏より少ない――傾向があることがわかった。 調査対象は、被災県(福島・宮城・岩手)、首都圏(東京・埼玉・神奈川)、関西圏(京都・大阪・兵庫)の20~50代の既婚者、各584人、計1,752人(男女各876人)。1回目の調査は発災から半年後の2011年9月にオンラインで実施。2回目以降は、毎年2~3月に同じ回答者に回答を依頼。 同調査では、被災地産の食品を回避する市民の態度について、放射能に対する不安に基づく、経験的で直感的な判断をする「経験的思考プロセス」批判的思考態度やリスクリテラシーなどに基づいて、論理的・分析的な判断をする「分析的思考プロセス」――の2つのプロセスを仮定。被災からの時間経過と被災地からの距離についても焦点を当てた。2つの思考プロセスによる影響に関し、研究グループでは今回、9年間の調査を検証。「不安は、積極的な情報収集を強く促進し、行政の情報に関する信頼度を低下させ、積極的な情報収集は、被災地産の食品回避を強く促進していた」、その一方で、「批判的思考態度は、報道の受け手のメディアリテラシーを高め、メディアリテラシーは、被災地産食品の回避を抑制していた」などと考察した。さらに、研究グループでは、「震災直後は、市民の放射線による健康への影響に不安が高まったことが、『経験的思考』による感情的・直観的判断プロセスを通して、積極的な情報探索と被災地産食品の回避行動を促進した」、その一方で、「『分析的思考』という論理的判断プロセスが、批判的思考態度を促進し、リスクリテラシーを喚起したことで、被災地産食品の回避を抑制した」と分析。調査結果を踏まえ、「日本国民の放射線リスクに対する反応の長期的な変化を解明する手がかりになる」とコメントしている。
20 Mar 2023
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NTTと北海道大学は3月16日、宇宙線起因の中性子が電子機器の半導体デバイスに衝突し誤作動を起こすソフトエラーの発生率を、低エネルギー領域(10meV~1MeV)において実測することに成功したと発表した。大強度陽子加速器施設「J-PARC」(東海村)を利用したもの。〈NTT・北大発表資料は こちら〉中性子エネルギーとソフトエラーの発生率の関係(NTT・北大発表資料より引用)これまでに両者は、名古屋大学とも共同し、高エネルギー領域(1MeV~800MeV)における同発生率の測定実績を得ており、今回の研究成果と合わせて、ソフトエラーの低エネルギー・高エネルギー領域を通じた発生傾向を分析。中性子エネルギーが0.1MeV付近で最も減少する傾向がみられ、ここから低くまたは高くなるにつれ増加傾向にあるという特性がわかった。同研究成果は、「J-PARC」の物質・生命科学実験施設(MLF)に設置された中性子源特性試験装置「ビームラインNo.10:NOBORU」で、NTTが開発した高速ソフトエラー検出器を用いて測定し得られたもの。NTT・北大では、「ソフトエラーは半導体を持つすべての電子機器の誤作動を引き起こす可能性を持っている。今後、拡大が予想されるAIによる自動制御やスマートファクトリーなど、様々な業界・事業分野で重要な役割を果たすことが期待できる」としている。MLFは産業分野での利用が顕著だ。高出力・大容量のセラミックス電池開発、タイヤ用新材料の開発など、実用レベルで多くの成果をあげている。ソフトエラーに関しては、近年、半導体デバイスの微細化・低消費電力化に伴い、透過性が高く中性子と比較し発生率の傾向が異なる宇宙線「ミュオン」の影響が深刻化しつつあることから、ミュオン科学実験施設「MUSE」を用いた環境放射線評価・対策技術に係る研究も行われている。
17 Mar 2023
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原子力安全推進協会(JANSI)は3月15日、「JANSI Annual Conference 2023」を都内で開催。オンライン視聴も含め約500名が参加した。JANSIは2012年に、「福島第一原子力発電所事故のような過酷事故を二度と起こさない」という原子力産業界の強い決意のもと、米国原子力発電運転協会(INPO)をモデルに設立された自主規制組織で、現場観察やヒアリングによる評価を通じ規制適合だけに満足せず自主的な安全性向上活動を促す「ピアレビュー」などを実施している。開会挨拶に立ったウィリアム・エドワード・ウェブスター・ジュニア会長は、昨秋、JANSIが設立10周年を迎えたことについて「単なる通過点に過ぎない」との認識を示し、「引き続き自主的な改善に努めていく」と強調した。続いて、原子力規制委員会の山中伸介委員長、INPOのロバート・フレデリック・ウィラードCEO、電気事業連合会の池辺和弘会長が挨拶。山中委員長(ビデオメッセージ)は、JANSIに対し、「民間の原子力規制機関と考えており、人員規模は原子力規制委員会にも匹敵する」と、組織の有する意義・リソースの大きさを明言した上で、技術情報の共有、継続的な安全性の向上、検査制度の実効性向上、安全・セキュリティ文化の醸成、人材育成において、産業界を牽引する指導的取組を図っていくよう期待した。ウィラードCEO(ビデオメッセージ)は、JANSI設立10周年の節目に際し祝意を表した上で、「INPOはTMI事故、JANSIは福島第一原子力発電所事故、どちらも国内の原子力が危機にさらされている中で設立された」としたほか、設立から10年時点のINPOを振り返り、会員企業に対する懸命な理解活動など、困難の克服に挑んだ経緯を回顧。JANSIに対し「国際的な原子力産業の視点から見ても、価値の高いプログラムが評価されている」とする一方、「過去の成果に決して甘んじてはいけない」と述べ、原子力の安全性・信頼性のパフォーマンス向上に向け、JANSIと引き続き協力していく姿勢を示した。池辺会長は、事業者を代表する立場から「JANSIが自主規制組織として果たす役割の重要性はますます高まっている」と強調。昨秋、JANSIの「ピアレビュープログラム」が世界で初めて、世界原子力発電事業者協会(WANO)によるものと「同等」と認定されたことなど、最近のJANSIに対する国際的評価に言及。「10年間の成果が目に見える形で表れている」とする一方、今後に向け「JANSIを含む産業界全体が『運命共同体である。“We are in the same boat”』の精神のもと、緊密に連携する必要がある」と述べ、慢心せず自主的・継続的に安全性向上に取り組んでいく姿勢を示した。基調講演を行った米国エナジー・ノースウェスト社CEOのロバート・シュッツ氏は、コロンビア原子力発電所(ワシントン州)を例に、米国原子力産業界における安全性向上の取組を紹介。INPOの取組に関しては、会員企業のCEOが集まる年次総会で行う改善活動の相互比較をあげ、「最下位となった企業のCEOは他社から批判的コメントを受ける」と説明。その上で、「学ぶべきことは『われわれは互いに説明し合う義務がある』ことで、これこそが自主規制の神髄だ」と強調した。パネルディスカッションには、山下ゆかり氏(日本エネルギー経済研究所常務理事、座長)、シュッツ氏、山口彰氏(原子力安全研究協会理事)、ビクター・マクリー氏(ニュークリーダー・コンサルティング社オーナー兼プリンシパル・オペレーティング・オフィサー)、森望氏(関西電力社長)、JANSIからウェブスター会長と山﨑広美理事長が登壇。JANSIの今後10年に向けた展望、日本の原子力産業が目指すべき方向性などをテーマに意見交換が行われた。
16 Mar 2023
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高速炉開発に関し実務レベルの検討を行う資源エネルギー庁の戦略ワーキンググループは3月14日、2024年以降に見込まれる高速炉の実証炉概念設計開始に向け、最有望となるナトリウム冷却高速炉について、その炉概念の仕様・中核企業を選定すべく4月中旬にかけ公募を実施することを決定した。〈資源エネルギー庁発表資料は こちら〉同WGでは昨秋、今後の高速炉開発に関し、技術の絞り込みを段階的に行いつつ、実証炉の基本設計・許認可の開始につなげることができるよう、今夏に炉概念の仕様を選定、2024~28年度に実証炉の概念設計・研究開発、2028年頃に実証炉の基本設計・許認可手続きへの移行判断を行うとした戦略ロードマップの改訂案を提示。同案は昨年末、原子力関係閣僚会議で決定された。14日のWG会合で資源エネルギー庁は、炉概念の仕様・中核企業選定に向けた公募に際し、評価の視点として、 (1)技術の成熟度と必要な研究開発 (2)実用化された際の市場性 (3)具体的な開発体制の構築と国際的な連携体制 (4)実用化する際の規制対応 (5)事業成立性の見通しに関する総合的な評価――を提示。特に、中核企業が備えるべき要件として、総合的なエンジニアリング能力、わが国産業全体のハブとなるべき実力・実績、サプライチェーンの維持・発展の政策目的に照らし具体的な方策や国内に閉じた技術基盤を持っているか、を強調した。これに対し、日本原子力研究開発機構の板倉康洋副理事長は「高速炉の実用化に向けた大きな一歩と考える。その開発に全力で取り組んでいきたい」と、電気事業連合会原子力開発対策委員長の松村孝夫氏(関西電力副社長)は「実証炉の概念設計に向けて、その開発の核となる炉概念の仕様並びに中核企業の選定は非常に重要なプロセスと考える」と発言。それぞれ、実験炉「常陽」を活用した研究開発、実用化を見据えた経済性を含む開発要素の重要性を強調した。
15 Mar 2023
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社会学の視点から原子力の風評問題に取り組む関西大・土田氏(写真は2021年の文科省主催シンポにて)日本原子力学会の「2023年春の年会」が3月13~15日、東京大学駒場キャンパス(東京都目黒区)で開催された。同学会では毎年、春と秋にそれぞれ年会、大会として研究発表の場を設けているが、「春の年会」の対面での開催は4年ぶり。今回の年会では、3日間で約150件のセッションが設けられ、同学会の専門委員会・ネットワークなどが活動成果を報告し、来場者を交え意見交換を行った。初日の13日に行われた「原子力に関わる人文・社会科学的総合知問題」研究専門委員会と社会・環境部会との合同セッションでは、風評問題をテーマに議論。同専門委員会は、福島第一原子力発電所で発生するALPS処理水((トリチウム以外の核種について環境放出の規制基準を満たす水))の取扱いを巡り顕在化してきた原子力の風評問題をとらえ、社会的課題の解決に向け分野を横断した「総合知」を活用する必要性から、2022年4月に設置された。同セッションでは、土田昭司氏(関西大学社会安全学部教授、座長)、佐田務氏(日本原子力研究開発機構広報部)、寿楽浩太氏(東京電機大学工学部教授)、関谷直也氏(東京大学大学院情報学環准教授、基調講演)が登壇。これまでの検討状況を発表するとともに、一般来場者も交え総合討論を行った。JCO臨界事故(1999年)を契機に社会心理学の立場から原子力の風評問題に関わってきたという関谷氏は、いわゆる「うわさ話」に関し、流言、都市伝説、ゴシップ、デマ、スティグマ(差別・偏見)、パニックなどに分類。最近の「件」(くだん、「人面牛」の様相をした妖怪で絵図を掲げることで厄除けになるといわれている)に関する都市伝説にも言及した。風評被害については、過去の事例分析から「本来、安全とされる食品、商品、土地、企業などを人々が危険視し、消費や観光を忌避することによって引き起こされる経済的被害」と定義。同氏は「うわさは関心の強い人や不安を感じる人の間で流れるが、風評被害はどちらかといえば関心の低い人の間で引き起こされる現象。両者を区別して考える必要がある」と指摘した。水産物の風評影響については、第五福竜丸の被爆(1954年)、原子力船「むつ」の放射線漏れ(1974年)、敦賀発電所の放射性物質漏えい(1981年)にさかのぼり、損害賠償・訴訟の歴史を説明。福島第一原子力発電所事故後、設定された食品中の放射性物質に関する基準値に対する人々の見方にも触れた上で、関谷氏は、風評の原因・対応の難しさとして報道や流通に係る問題をあげ、「物理的な正しさだけでなく、心理的な納得にも向かい合わねばならない」と述べた。総合討論に移り、流通の問題について、地層処分の社会学的側面に関する研究にも取り組む寿楽氏は、「被災地以外の産地に移っていく消費者の購買志向をくい止めるのはなかなか難しい」などと、産業構造上の課題を示唆。一般来場者からは、所沢ダイオキシン騒動((1990年代後半、一部マスコミの「高濃度のダイオキシン検出」との報道により埼玉県所沢市を中心に野菜価格の暴落を招いた))にも鑑み、いわゆる「風評加害」を危惧する意見もあり、原子力分野の報道対応に長く携わる佐田氏は、インターネットを通じた情報拡散に問題意識を示したほか、「安全・危険の尺度」が人によって異なること、政治への不信感が背景にあるなどと指摘した。今回の年会では、原子力分野のジェンダーバランス、GX(グリーントランスフォーメーション)実現に向けたアカデミアの役割に関するセッションも設けられた。次回、「秋の大会」は、9月6~8日に名古屋大学で開催予定。
15 Mar 2023
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消費者庁は3月10日、風評に関する消費者意識の実態調査結果を発表した。東日本大震災・福島第一原子力発電所事故を受け実施しているもの。初回調査は2013年2月に実施され今回で16回目。今回の調査は、2023年1月、被災地域(岩手県、宮城県、福島県、茨城県)および、その主要出荷先(埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、愛知県、大阪府、兵庫県)に居住する20~60代の男女約5,200名を対象にインターネットを通じて行われた。それによると、「普段の買物で食品を購入する際に、その食品がどこで生産されたかを気にされますか」との問いに対し、「気にする」または「どちらかといえば気にする」と回答した人の割合は、59.1%で、前回調査(2022年2月)の61.0%より減少。その理由(複数回答可)にとして、「放射性物質の含まれていない食品を買いたいから」と回答した人は10.5%(調査対象者全体に対し)で、これまでの調査で最小となった。最も多かったのは「産地によって品質(味)が異なるから」の24.2%(同)だった。食品中の放射性物質を理由に購入をためらう産地を尋ねたところ(複数回答可)、東北全域が1.5%(初回調査では6.6%)、北関東が1.4%(同8.1%)、被災地を中心とした東北が3.8%(同14.9%)、福島県が5.8%(同19.4%)で、いずれの対象地域も減少傾向にあり、これまでで最小となった。一方、「食品中の放射性物質の検査が行われていることを知らない」と回答した人の割合は、近年、大きな変化は見られないものの、初回調査では22.4%だったのが、今回は63.0%で、これまでで最大となった。また、「風評を防止し売られている食品を安心して食べるために、どのようなことが行われるとよいか」を尋ねたところ(複数回答可)、「それぞれの食品の安全に関する情報提供(検査結果など)(48.0%)、「食品に含まれる科学的な説明」(32.5%)、「それぞれの食品の産地や産品の魅力に関する情報提供」(31.2%)が上位を占めた。消費者庁では、内閣府食品安全委員会、厚生労働省、農林水産省、経済産業省とも連携し、都市部を中心に、生産者、加工・流通業界、消費者団体が食品に関するリスクコミュニケーションをテーマに話し合うシンポジウムを継続的に開催するなど、情報発信や意見交換に努めている。
13 Mar 2023
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IAEAと東海大学との共催による研修コース「IAEA国際スクール 原子力・放射線安全リーダーシップ」が2月20日~3月3日、同学湘南キャンパス(神奈川県平塚市)を中心に行われた。IAEAと東海大学が2018年度に締結した原子力安全教育分野における協力協定に基づくもので、2020年の日本での初開催以来、対面で行われるのは3年ぶり。同スクールは、IAEA標準の「GSR-Part2」に基づき、原子力安全のためのリーダーシップとマネージメントに関する能力開発を目的としている。今回、日本原子力研究開発機構、日本原子力産業協会の支援を得て参加者を募り、日本およびアジア諸国(マレーシア、ベトナム、バングラデシュ、フィリピン)から34名が受講した。同スクールは、原子力・放射線利用に関わる若手・中堅の研究者、技術者を対象に、授業形式の講義ではなく、グループワーク、ケーススタディ、ゲーム形式の演習など、ロールプレイ体験(例えば、原子力発電所の定期検査におけるスケジュール管理と保全活動遂行の葛藤といった場面を想定)を通じ、原子力安全のためのリーダーシップ能力を養うのが特長。今回の研修でも、実際、現場で遭遇し得る場面での「登場人物」の振る舞いや意思決定のプロセスをリーダーシップの観点から検証。指導に当たった東海大学工学部・若杉圭一郎教授は、「参加者は事故に至る複雑な状況や原子力分野で直面しそうな立場や役割を疑似体験し、改善を試みることで、より深いレベルで理解することができた」などと評価している、スクール参加者は3月2~3日に福島県を訪れ、東京電力廃炉資料館や原子力機構の楢葉遠隔技術開発センターなどを見学。閉会式(於:いわきワシントンホテル)では、参加者全員に「卒業証書」が授与された。参加者の一人、フィリピン原子力研究所スタッフでフィリピン大学大学院にも在学するジェナ・サプレインさんは、「特に印象に残ったのは、リーダーとは役職ではなく誰もがなれる資質があるということだった。心を落ち着かせ、異なる意見を受け入れながら議論すれば、周囲との信頼関係を得られる。今後の仕事に活かしていきたい」と話している。東海大学では、これまでも経済産業省と文部科学省との共同事業「原子力発電分野の高度人材育成プログラム」(GIANTプログラム、2008~12年)や国際原子力開発(JINED)との協力によるベトナムの発電所幹部候補生を対象とした人材育成プログラム(2012~18年)を実施するなど、原子力分野の人材育成に力を入れてきた。海外から来日した研修生には、専門教育や現場体験だけでなく、日本語や日本の文化・風習の理解に係るカリキュラムも設けてきた。
10 Mar 2023
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