2022年版環境白書が6月7日に閣議決定された。環境省が2021年度に講じた環境保全に係る施策について取りまとめたもの。その中で、東日本大震災・福島第一原子力発電所事故からの復興・再生に向けた取組として推進している放射線影響に係るリスクコミュニケーション「ぐぐるプロジェクト」が取り上げられている。事故後の健康影響について、今回の白書では、UNSCEAR(原子放射線の影響に関する国連科学委員会)による「放射線被ばくが直接の原因となるような将来的な健康影響は見られそうにない」、福島県の県民健康調査検討委員会による「現時点において本格検査(2回目検査)に発見された甲状腺がんと放射線被ばくの間の関連は認められない」との評価を明記。その上で、「放射線の健康影響に係る正しい科学的知見が届かないことにより、不安や風評が生じ、これが差別偏見につながっていく怖れがある」と、課題を提起している。こうした背景から、「ぐぐるプロジェクト」は、「学び・知をつむ“ぐ”」、「人・町・組織をつな“ぐ”」、「自分ごととしてつたわ“る”」ことにより、放射線の健康影響に関する情報を読み解く力と風評に惑わされない適正な判断力を身に付ける場を創出すべく、2021年7月に立ち上げられた。同プロジェクトは現在、「知る」、「学ぶ」、「決める」、「聴く」、「調べる」の5つの活動を展開しており、その詳細については特設サイトで見ることができる。「ラジエーションカレッジ」では、放射線の健康影響に関する誤った認識により結婚を反対する両親を子供が説得する短編ドラマも作成(環境省ホームページより引用)「学ぶ」活動の一つとして、2021年度は、全国の大学生らを対象にプレゼン作品を募集し優秀作を表彰する「ラジエーションカレッジ」が行われた。「ラジエーションカレッジ」では、1,300人以上の学生がセミナーなどに参加しており(2022年2月末時点)、今後は社会人を対象とした職域公開講座も開催し、風評払拭に向けて発信対象を広げていく予定だ。
14 Jun 2022
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関西電力は6月10日、美浜発電所3号機のテロなどに備えた「特定重大事故等対処施設」(特重施設)の運用開始時期を見直し、これに伴い運転再開時期を変更したと発表。それぞれ2022年7月下旬、同年8月12日と、従前の予定より2か月程度の前倒しとなる。〈関西電力発表資料は こちら〉同機は2021年7月、国内初の40年超運転として再稼働(本格運転復帰)し、特重施設が未整備のため、その設置期限を迎えた10月に定期検査入り。昨夏の関西電力の発表で、美浜3号機については、特重施設の運用開始時期が2022年9月頃、運転再開は同年10月20日とされていた。今回の変更に際し、同社では、「特重施設工事について、安全を最優先に緊張感を持って進めるとともに、現下の厳しい電力需給状況を踏まえ、原子力プラントの安全・安定運転に努めていく」としている。関西電力で再稼働した他の原子力発電プラントのうち、高浜4号機は6月8日に定検入り。現在、定検中の同3号機は設備トラブルのため、運転再開時期は未定。同じく定検中の大飯4号機は7月上旬に運転再開の予定だ。
10 Jun 2022
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【国内】▽5日 東京電力、福島第一のALPS処理水希釈放出設備で海底面の掘削作業開始▽12日 自民党の特別委員会が原子力安全規制・防災の充実・強化に向け提言案をまとめる▽16日 規制委、福島第一のALPS処理水取扱いに係る設備・関連施設の基本設計について審査書案を了承▽17日 関西電力、美浜3号機の長期運転評価に向けIAEA/SALTO(Safety Aspects of Long Term Operation)チームの受入れを発表▽17日 全原協の定例総会が3年ぶりに対面開催、政府関係者との意見交換も▽18日 IAEA・グロッシー事務局長来日、福島第一視察や途上国の放射線がん治療普及を目指す「Rays of Hope」啓発など(~20日)▽20日 電事連・池辺会長、定例会見で燃料輸入増に伴う所得の海外流出を懸念し原子力の必要性を強調▽23日 日米首脳会談で共同声明、原子力協力の強化が盛り込まれる▽26日 細田経産副大臣がG7気候・エネ・環境相会合に出席、閣僚声明にSMRも記載(ドイツ、~27日)▽26日 東京電力が福島第一1号機の原子炉格納容器内部調査の状況を発表、堆積物「燃料デブリ由来」との推定も▽27日 エネ庁が2022年度の電力需給対策示す、冬季は一層厳しい見通しに▽31日 政府「新しい資本主義実現会議」がグランドデザイン・実行計画案まとめる、「脱炭素効果の高い電源を最大限活用」と明記▽31日 原子力委、医療用RIの国産化など目指しアクションプラン策定▽31日 札幌地裁で泊発電所の運転差止め請求を認容する判決、北海道電力は控訴する考え 【海外】▽2日 フィンランドのフェンノボイマ社、ロシアのウクライナへの軍事侵攻にともないハンヒキビ1号機建設計画におけるロシアとの契約をキャンセル▽2日 中国の第3世代炉「ACPR1000」設計の紅沿河6号機が遼寧省で送電開始▽4日 米ワイオミング州、米テラパワー社製Na冷却高速炉「Natrium」の実証炉建設等先進的原子力技術の開発でアイダホ国立研と協力▽5日 スウェーデンのバッテンフォール社、ロシア企業からの燃料供給を停止し米仏企業と新たに長期の燃料契約を締結▽6日 仏CEA製SMR「NUWARD」の概念設計調査をベルギーのトラクテベル社が実施▽11日 英国のHTGR開発で、米X-エナジー社が英キャベンディッシュ社と協力覚書締結▽11日 IAEA本部に対するウクライナ・チョルノービリ発電所・保障措置データの遠隔送信、ロシア軍の占拠後初めて完全に再確立▽13日 英国政府、新規の原子力発電所開発プロジェクト支援に向け基金を立ち上げ▽13日 米エネ省、アイダホ国立研での多目的試験炉(VTR)建設で最終環境影響声明書(EIS)を発行▽17日 韓国SKグループの傘下企業、米テラパワー社とSMR事業協力で覚書▽17日 ウクライナのチョルノービリ発電所にIAEAが保障措置検査官等を派遣へ▽18日 加サスカチュワン州の企業、WH社製マイクロ原子炉「eVinci」の州内建設で協力覚書▽19日 英国で建設中のヒンクリーポイントC1号機、コロナ禍で送電開始時期を1年延期▽22日 韓国で3基目の「APR1400」、新ハヌル1号機が初臨界達成▽24日 米ニュースケール社、ルーマニアでのSMR建設に向け同国の原子力発電公社、建設サイトのオーナーと覚書締結▽24日 ベルギー政府、原子力研究センターの次世代SMR研究に1億ユーロの予算充当▽24日 韓国の現代建設、AP1000建設計画に参加するためWH社と戦略的協力協定締結▽25日 米エネ省、アイダホ研など4つの国立研究所で脱炭素化の試験プログラム開始▽26日 ハンガリー、ロシアに発注したパクシュⅡ期工事でサイト掘削前の地下水遮断壁建設許可を取得、建設計画の継続を確認▽26日 韓国KAERIとバングラデシュ原子力委が研究開発分野の協力促進で覚書▽27日 トルコのアックユ4号機建設で、タービン建屋の基盤部にコンクリートを打設▽30日 チェコのSMR初号機建設で関係3者の「南ボヘミア原子力パーク」プロジェクト始動
09 Jun 2022
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東芝エネルギーシステムズ(東芝ESS)は6月8日、米国現地法人の東芝アメリカエナジーシステム社(TAES)とともに、米国エンジニアリング企業のベクテル社と、ポーランド初となる原子力発電所向けの機器納入に関する協業について合意したと発表した。〈東芝発表資料は こちら〉ポーランドでは、石炭火力依存を低減すべく原子力発電の導入を目指しており、2033年までの初号機運転開始を計画している。米国ウェスチングハウス(WH)社は、1月に同社製軽水炉「AP1000」設計が採用されることを前提にポーランドの関係企業10社と戦略的連携関係の了解覚書に調印。こうした中、WH社と「AP1000」の設計・建設に取り組むベクテル社は、このほど東芝ESSおよびTAESと、「AP1000」への蒸気タービン・発電機供給に向け協業することで合意に至った。今後、3社は機器供給に向けて具体的な検討を行っていく。東芝ESSの海外展開の実績として、最近では、2021年4月にアラブ首長国連邦で初の原子力発電所として営業運転を開始したバラカ1号機(韓国製140万kW級 PWR「APR1400」)への蒸気タービン・発電機の供給がある。
08 Jun 2022
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2022年度の夏季・冬季の電力需給見通しが極めて厳しい状況にあることを踏まえ、政府は6月7日、関係閣僚らによる「電力需給に関する検討会合」を5年ぶりに開き、(1)供給対策、(2)需要対策、(3)構造的対策(予備電源の確保、燃料の調達・管理の強化など)――を3本柱とする総合対策を決定した。2022年度は夏・冬とも電力需給は極めて厳しい見通し(資源エネルギー庁発表資料より引用)資源エネルギー庁では、10年に1度の厳しい暑さ・寒さを想定し、夏季・冬季の電力需給を検証。それによると、今夏、7月の電力供給は東北・東京・中部エリアで安定供給に最低限必要な予備率3%を辛うじて上回る3.1%と非常に厳しい見通し。さらに、冬季は、1、2月、本州内の東北を除く全エリアで予備率3%を確保できず、東京エリアでは予備率がマイナスとなることが見込まれており、「国民全体で一層の節電に取り組まなければ、2022年度はさらなる電力需給ひっ迫に直面する恐れがある」と危惧されている。資源エネルギー庁が検討中の省エネ・節電を呼びかけるリーフレット(資源エネルギー庁発表資料より引用)萩生田光一経済産業相は、同日の閣議後記者会見で、供給対策として、休止電源の稼働、追加的な燃料調達、再生可能エネルギーや原子力など、非化石電源の最大限の活用を図るとしたほか、需要対策として、「この夏は節電の数値目標は定めないが、全国を対象にエアコンの室内温度を28℃に設定する、不要な照明は消すなど、できる限りの節電・省エネに協力して欲しい」と強調。東日本で原子力発電所の再稼働が進まぬ現状に関しては、「電力安定供給の確保に当たって、原子力発電所の再稼働は重要。東日本に限らず再稼働が円滑に進むよう、産業界に対し事業者間の連携による安全審査への的確な対応を働きかけるとともに、国も前面に立ち、立地自治体など、関係者の理解を得られるよう粘り強く取り組んでいく」と述べた。資源エネルギー庁では、現在、省エネ・節電を呼びかけるリーフレットの作成を急いでいる。3月の東日本における電力需給ひっ迫などを踏まえ、総合資源エネルギー調査会では、これまでにない頻度で会合を開き、電力需給見通しの精査、対策の検討を重ねている。4月以降では、定期検査に伴い3月から停止している関西電力高浜3号機(PWR、87万kW)が、設備トラブルにより工事終了時期が未定となり、夏季、冬季とも供給力の見通しが減少。一方で、石炭ガス化複合発電(IGCC)実証試験機の勿来IGCCパワー(石炭、52.2万kW)、広野IGCCパワー(石炭、54.3万kW)や、JERA姉崎新1~3号機(LNG、各64.7万kW)など、定期点検期間の短縮や試運転開始時期の前倒しにより追加の供給力となり得るプラントもある。
07 Jun 2022
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2021年度のエネルギーに関する年次報告(エネルギー白書)が6月7日、閣議決定された。1年間のエネルギーを巡る状況と主な施策をまとめたもので、(1)その年の動向を踏まえた分析、(2)内外のエネルギーデータ集、(3)施策集――の3部構成。第1部では、毎年の「福島復興の進捗」に加え、「カーボンニュートラル実現に向けた課題と対応」、「エネルギーを巡る不確実性への対応」をテーマにまとめている。白書の序文では、2021年度を振り返り、「『S+3E』、すなわち、安全性(Safety)、安定供給(Energy Security)、経済効率性(Economic Efficiency)、環境適合(Environment)のうち、とりわけエネルギー安定供給にとって死活的な課題が投げかけられた年だった」と強調。第一に2022年2月24日のロシア軍によるウクライナ侵略、第二に世界的なエネルギー需給のひっ迫と価格高騰、第三に日本における電力需給のひっ迫があったと、エネルギーを巡る昨今の課題を列挙。記憶に新しい3月22日の電力需給ひっ迫に関しては、史上初の「需給ひっ迫警報」発令の背景・要因として、気温低下に伴う暖房使用増、天候不順による太陽光発電の低迷、3月16日の福島県沖地震による火力発電の被害をあげた上で、「東日本では、原子力発電が稼働していなかった。今回の事案を通じて、エネルギーを安定供給することの重要性が改めて確認された」と述べている。こうした背景から第1部でまとめた「エネルギーを巡る不確実性への対応」では、ロシアによるウクライナ侵略によるエネルギーへの影響について、(1)欧州は化石燃料のロシア依存度が高い、(2)ロシア国営企業ガスプロムのEU向け天然ガス輸出量が2021年末に向けて減少、(3)ガスプロムの長期契約価格の決定方法は天然ガス連動が大半を占めることから価格高騰に直結――と分析。エネルギー価格高騰に対する各国の政策対応として、中長期的に「原子力や石炭を含む化石燃料に対する評価が見直される傾向にある」としており、英国における原子力の資金調達を支援する枠組「規制資産モデル」(RABモデル)の検討を例示したほか、フランスについては「2050年までに最大14基の原子力発電所が新設される可能性があり、建設は早ければ2028年に開始する予定」などと述べている。
07 Jun 2022
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政府の復興推進会議と原子力災害対策本部の合同会合が6月3日に行われ、福島県葛尾村に帰還困難区域として設定されていた避難指示の一部を、同12日の午前8時に解除することを決定した。〈原子力災害対策本部発表資料は こちら〉帰還困難区域における避難指示については、2020年3月に双葉町・大熊町・富岡町で、JR常磐線の線路・駅舎および周辺の道路などで解除されているが、居住を前提としたものは今回が初めてとなる。現在、葛尾村は面積の約2割が帰還困難区域となっており、このほど避難指示の解除が決定したのは、その中の特定復興再生拠点区域として除染やインフラ整備が進められる野行(のゆき)地区。区域面積は約95haで山間部に位置しており、同村の復興再生計画では居住人口約80人が目標に掲げられている。合同会合で、岸田文雄首相は、「引き続き大熊町や双葉町などの特定復興再生拠点区域の避難指示解除に向けた手続きを進め、福島復興を加速させていく」と強調。岸田首相は6月5日に葛尾村を訪問する予定だ。また、萩生田光一経済産業相は、3日の閣議後記者会見で、「避難指示解除はゴールではなくスタート。今後ともふるさとに戻りたいと考えている方々が安心して帰還できる環境整備に向け、関係省庁とも連携し取り組んでいく」と述べた。帰還困難区域を有する福島県内6町村による各復興再生計画で、葛尾村と同じく、今後の特定復興再生拠点区域の避難指示解除目標を2022年春頃としている大熊町、双葉町では現在、避難指示解除を見据え住民説明会が進められている。また、富岡町では、常磐線夜ノ森駅周辺に続く避難指示解除目標を2023年春頃としており、山本育男町長は6月3日に行われた長崎大学主催のシンポジウムで「夜の森の桜並木道」などを観光資源とした町の復興・再生に意欲を示した。
03 Jun 2022
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県議会に臨む島根県・丸山知事(インターネット中継)島根県の丸山達也知事は、6月2日の県議会本会議で中国電力島根原子力発電所2号機(BWR、82万kW)の再稼働を容認する考えを表明した。近く同社に対する正式回答とともに、国、立地・周辺市町村、隣接する鳥取県への伝達がなされる運び。BWRの再稼働に係る地元理解表明がそろうのは、2020年11月の東北電力女川原子力発電所2号機に続き2基目となる。同機の再稼働に向けては、新規制基準への適合性に係る審査で2021年9月に原子炉設置変更許可に至った後、現在、設計・工事計画認可の審査が進められているところだ。島根2号機再稼働に向け、知事は国・電力に対し要請を行うことを表明本会議で、丸山知事は、これまでの県内における住民説明会などであがった意見に対する考えを述べた。安全性に関する不安については、「中国電力には安全に対する意識改革の徹底を求め、国には検査等を通じその安全に対する姿勢や取組の確認を求めるとともに、必要に応じ安全協定に基づき立入り調査を行う」として、周辺住民の安全確保に万全を期す姿勢を改めて強調。防災対策については、避難に必要な道路・輸送手段、要支援者の避難先、感染症流行下における防護措置など、国・関係機関・電力と連携した対応策を述べた上で、「訓練や避難方法の周知などを通じ、避難計画の実効性を高めるための取組を継続していく」と説明。また、エネルギー政策における原子力の位置付けに関しては、国による「再生可能エネルギーと省エネルギーだけで電力を安定的に賄うことは、現状では困難。原子力発電が一定の役割を果たしている」との説明を理解したと明言。さらに、中国電力が示した「中海・宍道湖・大山圏域では、年間220億円に上る経済効果があり、発電所に従事する人の半数程度が居住している」とする地域経済・雇用に及ぼす効果を踏まえ、島根2号機の再稼働を容認する姿勢を示した。丸山知事は、福島第一原子力発電所事故による被災地を自ら訪れた経験を振り返り、「失われたものを取り戻すことの大変さを痛感した」と述べた上で、島根県民の原子力発電に対する不安に鑑み「苦渋の判断だった」と強調。本会議の場で、知事は、島根2号機の再稼働に向けて、中国電力および国に対する要請事項案を発表した。
02 Jun 2022
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発明協会は5月31日、全国発明表彰の2022年度受賞者を発表。福島第一原子力発電所事故後の除染に伴う除去土壌の減容・再生利用に資する熱処理技術を開発したクボタの釜田陽介氏ら7名が「発明賞」を受賞した。中間貯蔵施設での集中管理・保管の後、最終処分量を低減する技術として、今回の受賞者らが取り組んだ「放射性セシウム分離濃縮方法及び放射性セシウム分離濃縮装置の発明」は、汚染廃棄物に塩素系助剤を添加し溶融することで、廃棄物に含まれる放射性セシウムを低沸点の塩化セシウムに化学変化させて高効率に気化分離し、溶融飛灰中に濃縮させ、結果、90%以上の減容化を図るもの。さらに、溶融液は、放射性セシウム濃度が処理前より大幅に低減され、コンクリート骨材、セメント材料、道路舗装材など、産業用資源への加工により有効利用が可能だ。同発明は福島県双葉町の処理施設で採用されている。ダンスやスポーツ観戦などの臨場感・一体感を誰もが体験できるよう開発された「Ontenna」は多くのろう学校で導入が進む、ヘアピンのような簡便さで2019年度グッドデザイン金賞も © Fujitsu今回の全国発明表彰で、最も名誉な「恩賜発明賞」は、「音を振動・光で知覚する身体装着装置の意匠」で、富士通の本多達也氏ら4名(受賞する法人の代表者に与えられる「発明実施功績賞」を含む)が受賞した。同発明は、リズムやパターンといった音の特徴を体で感じさせる音知覚装置に関するもので、ろう学校の音楽・語学教育などでの活用に向けた体験型コミュニケーションツール「Ontenna(オンテナ)」として提供されている。
02 Jun 2022
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総合資源エネルギー調査会の原子力小委員会(委員長=山口彰・原子力安全研究協会理事)は5月30日の会合で、安全性向上の取組と廃止措置について取り上げた。〈配布資料は こちら〉同小委員会では2014~18年、「自主的安全性向上・技術・人材ワーキンググループ」において、廃炉を含む軽水炉の安全技術・人材の維持・発展について重点的に議論。これを受けて、2018年7月、電気事業者・メーカーが中心となり関係者の連携をコーディネートし安全性向上の取組を進める中核的組織として原子力エネルギー協議会(ATENA)が設立された。自主的安全性向上に向けた産業界の枠組(資源エネルギー庁発表資料より引用)今回の会合で、資源エネルギー庁は、産業界が自主的・継続的な安全性向上の取組を進めるため立ち上げたATENA、原子力安全推進協会(JANSI、2012年設立)、電力中央研究所原子力リスク研究センター(NRRC、2014年設立)の役割を整理した上で、議論の視点として、(1)自己評価、(2)外部の目(組織外からの意見を積極的に取り入れ改善に活かしていく仕組みの検討)、(3)役割の最適化、(4)双方向コミュニケーション――を提示。廃止措置については、国内で廃炉が決定した18基(福島第一原子力発電所を除く)に係る工程を見据え、原子炉を解体する「第3段階」が2020年代半ば以降に本格化する見通しを示し、事業者間連携、廃炉実務(解体廃棄物の処分・保管場所など)、資金確保などの課題を掲げ議論に先鞭をつけた。また、電気事業連合会原子力開発対策委員長を務める関西電力の松村孝夫副社長は、安全性向上の取組に関し「ATENA、JANSI、NRRCは、設立後一定の成果を上げてきているが未だ道半ばの状況」と、廃止措置については「国内での廃止措置作業に係るノウハウの蓄積はまだ不十分」などと、事業者を取り巻く現状を自己評価。今後本格化する廃止措置作業を安全かつ円滑に進め、工程・費用のさらなる効率化を図るため、(1)電力会社間の連携、(2)グレーデッドアプローチ(分類したリスクに応じ最適な安全対策を講じていく考え方)の適用、(3)クリアランスの推進、(4)解体廃棄物の処理・処分の推進――に係る課題について関係者と協議していくとした。有用資源の再利用につながるクリアランスに関しては、現在、廃止措置が進展する中部電力浜岡原子力発電所1、2号機の解体作業で発生したクリアランス金属が同発電所敷地内の側溝用蓋に加工・再利用されている事例を紹介。今後も確実・早急な社会定着を目指し、電力業界内だけでなく業界外での再利用方法も含め、電力会社間で連携し検討していくことが必要だとした。これを受け委員らによる意見交換の中で、福井県知事の杉本達治氏は立地地域の立場から発言。先般、関西電力が国内初の40年超運転を昨夏開始した美浜3号機の長期運転支援に向けてIAEAの「SALTO」(Safety Aspects of Long Term Operation)チーム受入れを決定したことに言及したほか、ATENAに対して「海外における最新の知見も収集しながら、単に効率化ということではなく地元の安全をより高めていく観点からも効果的な安全対策を提言してもらいたい」と要望。また、廃止措置に関し、周辺設備を解体する「第2段階」にあるプラント6基のうち3基が福井県内に立地するとして、廃炉に伴い発生する放射性廃棄物の処分に係る国の関与、廃炉・リサイクル産業の創出を課題として掲げ、合理的な規制基準の整備、クリアランス制度の社会定着に向けた国民理解促進の必要性などを訴えた。諸外国における廃炉実施体制(資源エネルギー庁発表資料より引用)廃炉の実施体制に関し、慶應義塾大学グローバルリサーチインスティテュート特任教授の遠藤典子氏は、民間エンジニアリング会社や国営機関が主体となる米国・英国の事業環境を参考に「日本も決定しなければならない時期にきている」と示唆。また、WiN-Japan(原子力・放射線分野で働く女性たちによる組織)理事の小林容子氏は、5月23~26日に東京で開催された「WiN年次大会」の廃炉に関するセッションで、各国参加者から作業者のリスク低減や社会とのコミュニケーションの重要性が述べられたことを紹介した。専門委員として出席した原産協会の新井史朗理事長は、安全性向上に向けて、ATENA、JANSI、NRRC、それぞれによる取組の成果が上がることを強く期待。さらに、「米国では産業界による活動が安全規制にも適切に反映され、結果、原子力発電所の設備利用率が毎年90%を超えている」などと、海外の動きにも言及し、高品質な運転管理が達成されるよう「周辺事業者も含めたサプライチェーン全体の安定した事業環境」構築の重要性を強調した。〈発言内容は こちら〉
31 May 2022
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1号機格納容器内部調査で映し出されたペデスタルの鉄筋(東京電力ホームページより引用)東京電力は5月26日、福島第一原子力発電所廃止措置の進捗状況を発表した。1号機の燃料デブリ取り出しに向けて、2月より原子炉格納容器内に水中ROV(遊泳型ロボット)を投入し調査を進めているが、5月20、21日の調査分から「ペデスタル(原子炉圧力容器下部)開口部付近で堆積物より熱中性子束(単位時間に単位体積内を熱中性子が走行する距離の総和)が多く確認されていることから、燃料デブリ由来と推定」としている。〈動画は こちら〉水中ROVは用途に応じ6種類あり、これまでに通過用のガイドリング取付け、ペデスタル内外の詳細目視を行う2種類を投入。原子炉格納容器底部に堆積物があることなどが確認されている。引き続き、後続の水中ROVで堆積物の高さ・厚さ、燃料デブリの含有状況を調査する予定。これまでの水中ROV による調査ではペデスタルの鉄筋が確認されており、福島第一廃炉推進カンパニー・プレジデントの小野明氏は、27日の記者会見で、鉄の溶融温度などに鑑み「炉心溶融の程度はかなり厳しいものであったと思う」と推察したほか、「今後事故進展のシナリオも含め検証していかねばならない」などと述べ、燃料デブリ取り出しに向けて、さらに調査・評価を進めていく必要性を強調した。
27 May 2022
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高度な粒子線がん治療を実現するマルチイオン源(QST発表資料より引用)量子科学技術研究開発機構(QST)は、1994年に臨床試験を開始した重粒子線治療装置「HIMAC」(千葉市、放射線医学研究所内)の治療実績を踏まえ、より小型化・高性能化した次世代治療装置「量子メス」の開発に取り組んでいる。「量子メス」開発プロジェクトでは、既存の建物にも設置できるよう超電導技術とレーザー加速技術を応用し装置の小型化を図るほか、現在は照射する粒子は炭素イオンのみだが、ネオン、酸素、ヘリウムといった複数の粒子によるマルチイオン照射を導入することにより難治性がんに対する治療成績の向上を標榜。このほどQSTは住友重機械工業と共同で、そのキーテクノロジーとなるマルチイオン源の開発に成功。両者は5月23日、放医研にて報道関係者に対し同装置を公開するとともに、今後の「量子メス」実証機開発に向けた計画を披露した。〈QST発表資料は こちら〉マルチイオン照射の線量分布と生物効果(QST発表資料より引用)QSTが「戦略がん」と位置付け克服を目指しているすい臓がんでは、周辺に重要臓器があることから、現在の炭素イオンを用いた重粒子線治療では腫瘍部分にまんべんなく強い生物効果を与えることが難しい。そのため、腫瘍の中心部分には炭素イオンよりも生物効果の高い酸素イオンを、その周辺には現在の炭素イオンを、正常組織近傍には炭素イオンよりも生物効果が低いヘリウムイオンを照射するといったマルチイオン照射の技術開発が求められていた。今回のマルチイオン源開発について、QST量子メスプロジェクトマネージャーの白井敏之氏は、「がんの状態に合わせヘリウムからネオンまで様々なイオンを使い分けるもの。住友重機の持つ永久磁石などの工学的技術、QSTの持つプラズマ制御技術を合わせ実現した」と説明。マルチイオン源などの新技術を導入した重粒子線治療装置は、「量子メス」開発プロジェクトで、第4世代装置と位置付けられており、「HIMAC」の6分の1程度の小型化(45m×34m)により世界的な普及が期待される。このほど完成したマルチイオン源は「HIMAC」に設置・接続。QSTでは今後臨床研究を行った上で、2026年度に第4世代装置としての治療開始を目指している。会見に臨むQST・平野理事長(左から3人目)、住友重機・下村社長(同4人目)同日の記者会見で、QSTの平野俊夫理事長は、重粒子線治療について、「HIMAC」による14,000人を超えるこれまでの治療実績から、「深部のがんでも切らずにピンポイントで治療できる正に体に優しいQOL(生活の質)を維持する治療方法。健康長寿社会の実現に大きな力を発揮する」と強調。2022年度からは新たに5部位(大型肝細胞がん、肝内胆管がん、局所進行すいがん、大腸がん術後局所再発、局所進行子宮けい部腺がん)が公的医療保険の対象として追加されたことや、海外における日本製装置の活躍にも触れた上で、「量子メス」の早期実用化を目指し、このほど開発されたマルチイオン源を備えた実証機を設置する専用建屋の建設(放医研内)を2023年より開始すると発表した。また、住友重機の下村真司社長は、「HIMAC」開発初期からの参画経緯を振り返った上で、「『量子メス』は重粒子線治療の効果を高めることが大きな目標の一つ。その柱となるのが今回開発されたマルチイオン源。今後もQSTとさらなる強固な協力関係を築き技術課題に挑み続ける」と、同社の技術力発揮に意気込みを示した。
27 May 2022
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岸田文雄首相は5月23日、来日中のジョー・バイデン米国大統領と首脳会談を行い共同声明を発出。原子力については、「CO2を排出しない電力および産業用の熱の重要かつ信頼性の高い供給源」として重要性を認識した上で、革新的原子炉・小型モジュール炉(SMR)の開発・世界展開、原子力サプライチェーンの構築などに向け、両国間の協力を拡大していくとした。また、会談で両首脳は「核兵器のない世界」に向けて協働する意思を改めて確認。岸田首相は、2023年に日本が議長国を務めるG7サミットの開催地を、「平和へのコミットメントを示すのにふさわしい場所」として、広島に決定したことを紹介した。萩生田光一経済産業相は24日の閣議後記者会見で、今回の日米首脳会談に言及。去る5月2~6日の米国訪問の際、ジェニファー・グランホルム・エネルギー省(DOE)長官との会談で合意した「日米クリーンエネルギー・エネルギーセキュリティ・イニシアチブ」(CEESI)の設立が共同声明に盛り込まれたことを「大きな成果」と歓迎。CEESIは、昨今のウクライナ情勢を踏まえ、水素・アンモニア、CCUS(CO2の回収・利用・貯留)/カーボンリサイクル、原子力、再生可能エネルギーなど、幅広いクリーンエネルギー分野を推進していく枠組みで、萩生田経産相は「米国との連携を一層強化していきたい」と強調した。また、今回の共同声明では、月面の有人探査を目指す「アルテミス計画」に日本人宇宙飛行士を含めることが明記され、これに関し、萩生田経産相は、文部科学相時にNASA長官との共同宣言署名を行った経緯を振り返りながら、「経産省としてもしっかり協力していく」としたほか、「月面車両のローバーは日本の、自身の地元、トヨタ自動車(東京都八王子市内の同社研究所)の技術でもある」などと述べた。
24 May 2022
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電気事業連合会の池辺和弘会長は5月20日の定例記者会見で、昨今のウクライナ情勢や電力需給ひっ迫を踏まえ、「中長期的な供給力の確保の重要性と原子力の必要性」について述べた。〈発表資料は こちら〉池辺会長は、2021年来の世界的な化石燃料の需給ひっ迫、価格高騰の継続を省み、「2年ぶり、かつ5兆円を超える巨額の貿易赤字となった」との報道や、「石油・石炭・天然ガスなどの輸入額が2020年度と比較して87%増加、金額にして9兆円以上増加し、日本の貿易赤字を拡大させる大きな要因」とする貿易統計に基づく分析を示し、「国民一人当たり7万円以上に相当する規模」と、所得の海外流出を懸念。その上で、「燃料費の割合が低い原子力発電は、非常に大きな役割を果たすものと考えている。エネルギーの安全保障や経済性の確保、さらには『2050年カーボンニュートラル』の実現という『S+3E』の観点からも、今ある原子力を、安全最優先で最大限活用していくことが不可欠」と強調した。池辺会長は、「不確実性に備えた供給力の確保」についても説明。既設電源の維持や新規電源の建設に資する事業環境の整備を喫緊の課題として掲げた。2022年度夏季の電力需給は、東北・東京・中部エリアで7月の予備率が安定供給に最低限必要な3%を辛うじて上回る3.1%に、冬季は、東京から中部までの7エリアで予備率3%を下回り、特に東京エリアでは予備率がマイナスとなる非常に厳しい見通しだ。資源エネルギー庁では、火力の休廃止増加や福島沖地震の影響による供給力の不足コロナ禍により経済社会構造が変化する中での電力需要の増加ウクライナ情勢により不確実性が高まる燃料調達リスク――を方向性に据え、今後の電力需給対策を近く取りまとめることとなっている。
23 May 2022
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原産協会の新井史朗理事長は5月20日、記者会見を行い質疑に応じた。新井理事長はまず、福島第一原子力発電所で発生するALPS処理水(トリチウム以外の核種について環境放出の規制基準を満たす水)の取扱いに係る設備・関連施設の基本設計について原子力規制委員会が18日に「審査書案」を了承したことに関し、「東京電力には引き続き安全を確保しながら設備の設計・運用を進めるとともに、周辺地域の方々の不安や懸念を解消してもらうよう努めてもらいたい」とコメント。引き続き国内外に向けて、ALPS処理水の処分に係る正確な情報の提供と理解促進に努めていく考えを述べた。また、原子力・放射線利用分野で働く女性たちによる国際NGO「WiN」(Women in Nuclear)の年次大会が5月23~26日に東京で開催されることを紹介〈大会サイトは こちら〉。今回の大会は「福島第一原子力発電所事故から11年を経た廃炉と復興の進展」をテーマに掲げ、カーボンニュートラル実現に向けた原子力の役割、科学技術におけるジェンダーバランスについても話し合われる。原産協会は同大会の「ゴールドスポンサー」として開催に協力しており、新井理事長は、「原子力が社会からの信頼を得るためにも、WiNのような女性専門家によるネットワークの力に期待している」と強調した。原産協会ではこのほど「世界の原子力発電開発の動向 2022年版」を刊行。今回の会見では、その概要について記者団に説明した。世界の原子力発電所は2022年1月1日現在、2021年中に中国、ベラルーシ、パキスタン、アラブ首長国連邦(UAE)、ロシアで7基・829.1万kWが運転を開始したほか、ドイツ、パキスタン、英国、ロシア、台湾、米国で10基・936.8万kWが閉鎖され、運転中は計431基・4億689.3万kW。また、中国、インド、ロシア、トルコで10基・987.4万kWが着工し建設中は計62基・6,687.4万kWに、中国とポーランドで各1基が新たに計画され計画中は計70基・7,970.3万kWとなった。特に、中国では7基が運転を開始、6基が着工しており、新井理事長は「躍進ぶりには目を見張るものがある」と強調。また、2021年中、ベラルーシとUAEでの運転開始により「原子力発電国・地域は33となった」としたほか、トルコ、バングラデシュ、エジプトなど、新規導入国における建設・計画、小型モジュール炉(SMR)の開発・導入、英国とフランスの原子力発電推進に向けた国家戦略、既存炉の運転期間延長の動きにも言及。同年を振り返り、「カーボンニュートラルの推進が各国のエネルギー政策の要となる中、化石燃料価格上昇の影響もあり、2021年は原子力利用に注目する動きが国際的に顕著であった」と概括した。記者から将来のSMR開発に向けて日本の原子力産業を支えるサプライチェーンの存続、人材・技術基盤の維持に係る危機感が示されたの対し、新井理事長は、東日本大震災以降の運転停止継続や建設中断によるサプライチェーンを構成する企業の離脱を懸念。「技術力を高めていく」必要性を繰り返し強調した上で、日揮・IHIが昨春、米国ニュースケール社によるSMR開発への出資を発表したことを例に、国内企業の国際プロジェクト参画にも期待感を示した。
23 May 2022
2291
IAEAのラファエル・マリアーノ・グロッシー事務局長が5月18~20日に来日。岸田文雄首相への表敬他、政府関係者との会談、福島第一原子力発電所への訪問などが行われた。2019年の事務局長就任後、同氏の来日は2度目となる。岸田首相は20日、グロッシー事務局長の表敬を受け、ウクライナの原子力施設の安全確保に向けたIAEAの取組を高く評価するとともに、福島第一原子力発電所で発生するALPS処理水(トリチウム以外の核種について環境放出の規制基準を満たす水)の取扱いの安全性に係る協力に謝意を表明。さらに、ALPS処理水の取扱いに関し、「海洋放出に向け継続されるIAEAによる科学的・客観的なレビューは国内外の理解を得る上で大変重要な取組。わが国として、引き続き透明性を持って対応していく」と述べた。これに対し、グロッシー事務局長は、「ウクライナにおける軍事侵攻は明らかに前例のないことで、通常兵器による紛争ではあるが、多くの原子力施設がある中、実際に現場で兵隊が戦闘に当たっている状況。われわれは非常に厳しい挑戦に立ち向かわねばならない。何よりも原子力施設の安全を確保することが極めて重要だ」と述べた上で、近々チェルノブイリ(チョルノービリ)発電所とザポロジェ(ザポリージャ)発電所を訪れる意向を表明。また、両者は、北朝鮮の核・ミサイル問題を巡る情勢に関し、日本とIAEAとの協力の重要性について一致した。同日、グロッシー事務局長は、日本記者クラブでは初となる記者会見に臨み、IAEAが取り組む原子力の平和的利用の促進に係る活動について紹介。原子力発電の有用性に関し「現在、世界が直面するエネルギー危機の解決策となり、地球温暖化対策の一つとなりうる」と述べ、新興国に対し支援を図っていくとした。また、保健・医療、農業など、様々な分野で用いられる原子力技術の応用事例にも触れた上で、「イラン、ウクライナ、北朝鮮の核開発問題、気候変動対策、食料安全保障、IAEAはこれらすべての分野で重要な役割を果たしつつある」と強調。記者からALPS処理水の安全性レビューについて質問があったのに対し、同氏は「プロセス全体は数十年単位でかかる。長期にわたるプロセスを丁寧に進めていかねばならない」などと述べ、国際安全基準に基づき厳格な姿勢で臨む考えとともに、被災地住民の声が最大限尊重されることの重要性を合わせて強調した。政府関係者とは、18日に萩生田光一経済産業相と、19日に林芳正外務相と会談。両者からはそれぞれ、若手女性研究者を支援する「IAEAマリー・キュリー奨学金」、途上国における放射線がん治療の確立・拡大を目指す新たなイニシアチブ「Rays of Hope」への各100万ユーロの支援が表明された。「Rays of Hope」を訴えかけるグロッシー事務局長(帝国ホテルにて)「Rays of Hope」に関しては、都内ホテルで講演会(日本核医学会他主催)が開催され、グロッシー事務局長は、「アフリカでは人口の70%以上が放射線治療にアクセスできず、放射線治療設備がない国は20以上にも上る」現状を示し、日本の関連学会や企業に同イニシアチブに対する理解・支援を呼びかけた。
23 May 2022
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萩生田光一経済産業相は、5月20日の閣議後記者会見で、東京電力福島第一原子力発電所で発生するALPS処理水(トリチウム以外の核種について環境放出の規制基準を満たす水)の取扱いに係る設備・関連施設の基本設計について原子力規制委員会が同18日に「審査書案」を了承したことに関し発言。今後のALPS処理水の処分に向け、萩生田経産相は、「国際的専門機関であるIAEAに客観的立場から厳正に確認してもらい、高い透明性をもってその確認結果を発信するとともに、生産者から流通・消費者に至るまで、サプライチェーン全体に対し繰り返し丁寧に説明していく」と述べ、地元を始めとする国民の理解醸成に政府一丸で取り組んでいく姿勢を改めて示した。東京電力では来春のALPS処理水希釈放出設備・関連施設の設置完了を目指している。ALPS処理水の海洋放出開始に関し、萩生田経産相は、「肌感覚で理解度を深めていくものであって、アンケートで『何%の方々が了解した』からとか、投票で決めるといった性格のものではない。一人一人心配している項目は違う」などと述べ、事故発生から11年にわたり積み重ねられた復興の取組が無にならぬよう、風評対策にきめ細かな対応を図っていく考えを繰り返し強調した。規制委員会では、2021年12月に東京電力からの審査申請を受け、原子炉等規制法とALPS処理水の処分に係る政府基本方針(2021年4月決定)に則って審査を実施。18日に了承した「審査書案」については現在、1か月間の意見募集に入っており、寄せられた意見を踏まえ7月中にも正式決定となる運び。東京電力は、「自治体の安全確認、IAEAのレビュー等に真摯に対応するともに、安全を確保した設備設計や運用、科学的根拠に基づく正確な情報の国内外への発信、モニタリング強化など、政府の基本方針を踏まえた取組をしっかりと進めていく」としている(東京電力発表資料は こちら)。また、原産協会の新井史朗理事長は、20日夕方の記者会見で、「東京電力には引き続き安全を確保しながら設備の設計・運用を進めるとともに、周辺地域の方々の不安や懸念を解消してもらうよう努めてもらいたい」とコメントした。
20 May 2022
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総合資源エネルギー調査会の革新炉ワーキンググループ(座長=黒﨑健・京都大学複合科学研究所教授)は5月19日、2回目の会合を開催。米国テラパワー社、同ニュースケール社からの発表を受け、革新炉開発の海外動向・国際連携を中心に議論した。同WGは、「原子力発電の新たな社会的価値を再定義し、わが国の炉型開発に係る道筋を示す」ことを目指し4月20日に始動したもの。〈配布資料は こちら〉米国エネルギー省(DOE)の原子力サプライチェーンに関する報告書によると、「米国では、今後高経年化石炭火力の多くが閉鎖され、石炭火力の設備容量を同規模の小型モジュール炉(SMR)にリプレースすることにより、既存送電線の活用および労働者の再雇用ができる」との分析結果が示されている。また、日立製作所が米国GE日立・ニュクリアエナジーと共同開発するBWR型SMR「BWRX-300」に関しては、カナダのオンタリオ州営電力(OPG)で最速2028年の運転開始を目指すプロジェクトが進んでいるが、同プロジェクトでは、製造建設段階(7年間)で約1,700人/年、運転段階(60年間)で約200人/年の雇用創出が図られる見込みだ。NATRIUMのイメージ図(テラパワー社発表資料〈仮訳〉より引用)テラパワー社からは、エンジニアリングディレクターのエリック・ウィリアムズ氏が小型ナトリウム冷却高速炉「Natrium」の開発状況を説明。同氏は、その立地に関し、原子炉建屋や燃料建屋などを配置する「ニュークリアアイランド」と、蒸気発生器やタービン建屋などを配置する「エネルギーアイランド」に敷地を二分した完成イメージを披露。初号機はワイオミング州で閉鎖される石炭火力の代替として建設が計画されており、ウィリアムズ氏は、建設ピーク時に2,000~2,500人、プラント稼働時に200~250人のフルタイム雇用が創出されるとの試算を示した上で、「地元のコミュニティが非常に前向きにとらえており喜ばしい」などと述べた。ニュースケール社がイメージする発電所のアートコンセプト(同社発表資料より引用)また、ニュースケール社からは、共同創業者兼最高技術責任者のホセ・レイエス氏が同社の開発するPWR型のSMRについて紹介。蒸気発生器と原子炉圧力容器を一体化した小型かつシンプルな設計のモジュール炉(出力5~7.7万kW、直径4.5m、高さ23m、重さ800トン)を最大12基輸送・設置し大型炉にも遜色のない90万kW程度の出力を可能とするコンセプトに関し、同氏は、「これまでの原子炉とはまったく異なり『工場で作る』もの」と強調。さらに、外部電源や送電網の喪失時にも対応できる運転機能として、単一のモジュール起動でプラントへの給電を可能とする「ブラックスタート」や「アイランドモード」を備えるなど、レジリエンス強化も図っているとした。日本原子力研究開発機構、三菱重工業他は2022年1月にテラパワー社と覚書を締結。ニュースケール社のプロジェクトにも昨春の日揮・IHIに続き、同年4月には国際協力銀行が出資を発表するなど、海外の革新炉開発への国内企業・機関の進出機運も高まっているが、今後の国際連携に関し、委員からは各国との価値観共有や国民理解の必要性などを訴える意見があった。地域との協働や啓発に関し、レイエス氏は、地元大学へのプラントシミュレーター提供について紹介するなど、次世代層への理解活動にも力点を置くニュースケール社の取組姿勢を強調した。この他、今回のWG会合では、バックエンド問題の関連で、同WG上層の原子力小委員会の委員長代理を務める東京工業大学科学技術創成研究院特任教授の竹下健二氏が、同学と原子力機構との共同開発による「統合核燃料サイクルシミュレーター『NMB4.0』」について紹介。技術導入の段階ごとに2150年までに発生する使用済燃料に基づいた廃棄物処分場面積の試算結果を示した上で、革新炉の廃棄物問題について「これまで横断的に評価されてこなかった」と指摘し、WGでの議論を求めた。
19 May 2022
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関西電力は5月17日、美浜発電所3号機に原子力発電所の長期運転を支援するIAEAのプログラム「SALTO」(Safety Aspects of Long Term Operation)のチーム調査を招へいすると発表した。同機は2021年7月に国内初の40年超運転を開始している。〈関西電力発表資料は こちら〉「SALTO」は、長期運転に係る組織や体制、設備・機器の劣化管理などの活動がIAEAの最新の安全基準を満足しているかどうかを評価し、事業者にさらなる改善に向けた推奨・提案事項を提供する長期運転に焦点を当てたプログラムで、海外では、欧州の他、中国、南アフリカ、メキシコなどで既に実施されているが、国内での受入れは初めてのこと。関西電力では、美浜3号機の安全な長期運転に対し客観的・国際的な評価を受けるべく、「SALTO」の招へいを資源エネルギー庁を通じ要請していた。「SALTO」チームによる調査は2024年度末までに実施し、その調査結果を踏まえたフォローアップ調査を2026年度に予定。今後、IAEAと具体的な日程を調整していく。
18 May 2022
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原子力委員会は5月17日、医療用を始めとするラジオアイソトープ(RI)の製造・利用推進に向けたアクションプラン案を取りまとめた。同委専門部会が昨秋より検討を行っていたもの。今後、原子力規制委員会への意見照会を経て正式決定となる運び。医療分野では診断と治療の両方に放射線・RIが活用されている。その中で、RIによる核医学検査は、対象となる臓器・組織に集まりやすい性質を持つ化合物と、ガンマ線を放出するRIとを組み合わせた医薬品を経口や静脈注射により投与。RI医薬品が放出するガンマ線を体外から検出し画像化する検査方法だ。RIによる核医学治療は、対象となる腫瘍組織に集まりやすい性質を持つ化合物と、アルファ線やベータ線を放出するRIとを組み合わせた医薬品を同じく投与し、体内で放射線を直接照射して治療する方法で、近年、治療実績が増加傾向にある。一方、国内の画像診断で年間100万件使われるテクネチウム99mの原料となるモリブデン99や、がん治療への有効性の高さが注目されているアクチニウム225など、RIの多くを輸入に依存している状況。また、核医学治療を行う病床数の不足が課題となっており、腫瘍・免疫核医学研究会の調べによると、関東圏のRI病室では治療までの待機日数が長いところで10か月にも上っている。さらに、RIを用いた治療と診断の組合せ「セラノスティクス」への注目も高まりつつある。こうした中、同アクションプラン案では、「今後10年の間に実現すべき目標」として、(1)モリブデン99/テクネチウム99mの一部国産化による安定的な核医学診断体制の構築、(2)国産RIによる核医学治療の患者への提供、(3)核医学治療の医療現場での普及、(4)核医学分野を中心としたRI関連分野をわが国の「強み」へ――を標榜。その実現に向け、(1)重要RIの国内製造・安定供給のための取組推進、(2)医療現場のRI利用促進に向けた制度・体制の整備、(3)RIの国内製造に資する研究開発の推進、(4)RIの製造・利用のための研究基盤や人材・ネットワークの強化――についてアクションプランを提示。その中で、モリブデン99/テクネチウム99mについては、可能な限り2027年度末に試験研究炉などを活用し国内需要の約3割を製造・供給するとしている。モリブデン99の国産化に向けては、日本原子力研究開発機構が今後3年程度をかけて研究炉「JRR-3」によるに係る基礎基盤技術の開発に取り組んでいく計画。放射線医薬品メーカーの日本メジフィジックスも2023年からの加速器を用いた生産を目指している。また、医療現場のRI利用促進に向けては、2030年度までに核医学治療実施の平均待機日数を約2か月に短縮することなどがあげられている。RIや放射線の医療利用分野に係る人材育成について、原子力委員会では日本原子力文化財団への委託調査を実施し専門部会での議論に供した〈内閣府発表資料は こちら〉。同調査結果および専門部会委員からは、省庁横断・分野間連携の取組強化や、医師・放射線技師と連携し高度な放射線治療を支える「医学物理士」の重要性を訴える意見、大学における研究科・室や関連分野に進学する学生の減少傾向への懸念、「学生は人気TV番組に影響を受けることも念頭に置くべき」といった指摘もあった。最近では、放射線医療をテーマとした人気TVドラマ「ラジエーションハウス」の劇場版公開に際し開催された放射線技師を目指す学生限定の試写会も話題となっている。
18 May 2022
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自由民主党の「原子力規制に関する特別委員会」(委員長=鈴木淳司衆議院議員)は5月12日、原子力安全規制・防災の充実・強化に向けた提言の中間報告をまとめ、高市早苗同党政務調査会長に説明するとともに、山口壯環境相らに申入れを行った。同委員会が1月より原子力規制庁、立地自治体、産業界、有識者からのヒアリングを通じ検討を行ってきたもの。中間報告では、これまで新規制基準をクリアし再稼働を果たした6発電所10基に関し「炉心損傷確率が大幅に低下するなど、安全性は確実に向上」などと評価。さらに、同委員会が前回提言を取りまとめた2018年以降の原子力規制委員会による対応については、新検査制度施行やバックフィット(既に許認可を受けた施設が新知見に基づく規制要求に適合することを確認する)運用に係る取組に関して一定の進捗を評価する一方、「自治体・事業者とのコミュニケーションのあり方や審査の効率的実施など、なお改善の余地が大きい項目もある」としている。その上で、(1)コミュニケーションの継続的改善、(2)国際的視野に立った規制の点検、(3)効率的な規制の徹底、(4)40年運転制限ルールのあり方の検討、(5)事業者の自主的な安全性向上に向けた取組の促進、(6)テロ対策・武力攻撃対処の強化、(7)放射性廃棄物の管理・処分、(8)原子力災害対応の実効性の向上、(9)避難道路等の優先的な整備促進、(10)原子力の安全確保に係る基盤の強化――の10項目を提言。昨今の電力需給ひっ迫やエネルギー価格高騰などに鑑み、「原子力発電所が安定供給に果たす役割への社会的な要請は高まっている」と強調する一方で、「早期の再稼働の大前提となるのは、安全審査の的確性に対する信任」とも指摘。規制委員会に対し、安全審査が適切かつ効率的に行われていることについて、立地地域や社会全体に説明責任を果たしていくよう、理解してもらうことを意識した情報公開、幅広い関係者との双方向コミュニケーションを求めている。また、40年運転制については、規制委員会と原子力エネルギー協議会(ATENA)との科学的・技術的議論にも言及し、「停止期間が長期化する中、政府、原子力事業者とも、それぞれの役割に応じた措置を速やかに講ずること」と提言。事業者の自主的な安全性向上に向けた取組については、原子力安全推進協会(JANSI)によるピアレビュー、IAEAによる国際的な安全評価レビューの積極的活用を、テロ対策・武力攻撃対処については、核セキュリティ体制の強化とともに、ウクライナの原子力施設に対する武力攻撃を踏まえ、国、自治体、事業者他に対し「有事を含む実効力を高めること」などを求めている。中間報告では、結言の中で、原子力の規制に関し、「角を矯めて牛を殺すといった事態になってはならない」と、利用を止めるのではなく安全に動かすため、「最適化」が図られることの重要性を強調し、その実現に向け規制側と事業者側の双方による努力を切望。取りまとめをリードした特別委員会委員長の鈴木氏は、去る1月に開催の立地自治体首長らも参加した原子力国民会議(原子力の安全と利用の促進を目指し全国で講演会などを行う団体)の討論会で、「東日本大震災から11年が過ぎ、原子力規制行政も新しいベースに移行しなければならない段階にある」と述べている。
16 May 2022
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太陽フレア爆発などの極端な「宇宙天気現象」が通信・放送・測位、衛星・航空運用、電力網に異常を発生させ、社会経済に多大な被害をもたらすおそれがあることから、総務省の有識者会議では1月より「宇宙天気予報」の高度化に係る検討を行っている。このほどその報告書案が取りまとめられ、5月12日より意見募集が始まった。報告書案では、災害対策基本法に基づく対応や、「宇宙天気予報士」制度、宇宙天気予報オペレーションセンターの創設などを提言している。情報通信研究機構(総務省所管の研究機関)によると、大規模な太陽フレアは平均で年1回程度の頻度で発生しており、電波や可視光、紫外線、X線などの電磁波だけでなく、放射線被ばくの原因となる太陽放射線が放出されることがある。同機構では、航空機乗務員の宇宙放射線被ばく管理・運行管理に資する「宇宙天気情報」の一つとして、太陽放射線被ばく警報システム「WASAVIES」の提供を2019年より開始するなど、「宇宙天気予報」の高精度化を図っている。なお、一般公衆の年間被ばく線量制限1,000マイクロSv(医療被ばくを除く)に対し、太陽フレア発生時(2005年1月)における高度12kmの最大被ばく線量率は260マイクロSv/hだが、地上1mでは同0.08マイクロSv/hと、日常生活を送る人々の健康に対する宇宙放射線の影響は無視できるほど小さいレベルだ。太陽活動のピークと被害(総務省発表資料より引用)総務省国際戦略局の説明によると、太陽活動はこれまで約11年周期で活発/静穏を繰り返しており、活発時には、大規模停電や人工衛星の障害多発など、世界各地で被害が発生しており、2025年夏頃に次回のピークが到来すると予想されていることから、各国で警戒の動きもみられている。今回取りまとめられた報告書案では、「100年に1回または、それ以下の頻度で発生する極端な宇宙天気現象がもたらす最悪シナリオ」を想定。検討の結果、(1)通信・放送が2週間断続的に途絶し携帯電話も一部でサービスが停止、(2)衛星測位の精度に最大数十mの誤差が発生しドローンの衝突事故が発生、(3)多くの衛星に障害が発生し衛星を用いたサービスが停止、(4)航空機や船舶の世界的な運航見合わせが発生、(5)耐性のない電力インフラにおいて広域停電が発生――するおそれが判明し、「社会経済や国民生活に甚大な被害をもたらす」と警鐘を鳴らしている。金子恭之総務相は、13日の閣議後記者会見で、報告書案について、「社会的な影響を考慮した新たな予報のあり方など、様々な提言が盛り込まれており、これを踏まえ総務省として必要な取組を進めていく」と述べた。
16 May 2022
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総合資源エネルギー調査会の原子力小委員会(委員長=山口彰・原子力安全研究協会理事)が5月10日に行われた。昨秋の第6次エネルギー基本計画策定を受け、同小委員会は2月に行われた会合で、議論していくべき具体的論点を、(1)着実な再稼働、(2)革新的な安全性向上に向けた取組、(3)国民・自治体との信頼関係の構築、(4)原子力の安全を支える人材・技術/産業基盤の維持・強化、(5)原子力の平和利用に向けた国際協力の推進、(6)核燃料サイクルの着実な推進と高レベル放射性廃棄物の最終処分を含むバックエンド課題への取組――に整理。今回会合では、核燃料サイクルと最終処分に焦点を当てた。〈配布資料は こちら〉核燃料サイクルの中核を担う日本原燃六ヶ所再処理工場は、2022年度上期のしゅん工が予定されている。同日は、事業者として、電気事業連合会から原子力開発対策委員長の松村孝夫氏(関西電力副社長)が、日本原燃から増田尚宏社長が出席。松村氏は、(1)日本原燃への支援、(2)プルトニウム利用の促進、(3)使用済燃料対策、(4)使用済MOX燃料の扱い――に係る取組状況を説明。増田社長は、「原子力発電のメリットを最大限享受するには、原子燃料サイクルの一日も早い確立が必要」と強調する一方、「設備が10年以上の長きにわたり停止している」と、六ヶ所再処理工場の操業に係る懸念を述べた上で、安全・安定運転を確実に実施するためのアクションプランを定め、運転員の技術力維持・向上、重大事故対処に係る訓練などに取り組んでいるとした。また、最終処分に関しては、原子力発電環境整備機構の近藤駿介理事長が、全国で行っている対話・広報活動、処分地選定に向け文献調査が進められている北海道寿都町・神恵内村での「対話の場」開催の状況、文献調査の進め方、技術開発の状況について説明。4月には原子力小委員会下の放射性廃棄物ワーキンググループが約2年半ぶりに文献調査開始後では初めて招集されており、文献調査の評価や実施地域の拡大に関する意見が出ている。これらの説明を受け委員らが意見交換。再稼働が進む原子力発電所を立地する地域として、福井県の杉本達治知事は、核燃料サイクル、使用済燃料対策の推進に関し、「国が前面に立って取組を進めるべき」と改めて強調。六ヶ所再処理工場については、「しゅん工の延期が繰り返されており、着実に稼働させることが核燃料サイクル政策全体に対する国民の信頼につながる」と述べた。産業界からは、専門委員として、原産協会の新井史朗理事長、全国電力関連産業労働組合総連合の坂田幸治会長が、核燃料サイクルを進める意義、課題についてそれぞれ発言。新井理事長は、次世代層に対する理解活動の促進に向け、「原子燃料のリサイクルによる資源の有効利用や放射性廃棄物の減容は、SDGsに欠かせない概念ともいえる『サーキュラーエコノミー、循環経済』にもマッチしている」との視点からも情報発信に努めていきたいとした〈発言内容は こちら〉。坂田会長は、六ヶ所再処理工場・MOX燃料工場における近年の離職者数に関し「年間50~60名程度にまで増加しており、特に約半数を入社3年以内の若者が占めている」などと述べ、人材・技術基盤の空洞化を懸念。国に対し、原子力・核燃料サイクル政策の推進に向け、官民一体によるオールジャパン体制での取組を強化していくよう求めた。核燃料サイクルの包括的な評価に関し、東京工業大学科学技術創成院特任教授の竹下健二氏は、同学の研究グループが日本原子力研究開発機構と共同で開発した「統合核燃料サイクルシミュレーター『NMB4.0』」について紹介。最終処分に係る理解活動の関連では、WiN-Japan(原子力・放射線分野で働く女性たちによる組織)理事の小林容子氏が、理解の深化に応じ様々なメディアを用いて行う「テクニカルコミュニケーション」を提案した。この他、使用済燃料の直接処分検討やごみ問題全般に係る教育の充実化を求める意見、昨今のウクライナ情勢に鑑みウラン資源獲得競争の激化や施設への武力攻撃など、地政学的リスクに関する意見もあった。
11 May 2022
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【国内】▽1日 原子力機構・小口新理事長就任、7年間在任の児玉氏を引き継ぐ▽5日 萩生田経産相が福島第一ALPS処理水の取扱いに関し全漁連と意見交換▽5日 京大が研究炉「KUR」を2026年までに運転を終了すると発表▽6日 長崎大が放射線被害者支援に関する政策提言を発表、人材育成にも言及▽7日 総合エネ調、放射性廃棄物WGを約2年半ぶりに開催▽12日 第55回原産年次大会が開催、「世界の持続可能な発展と原子力への期待」を基調テーマに(~13日)▽12日 エネ庁、2022年度冬季の電力需給につき東京圏中心に「予備率3%」を下回る極めて厳しい見通しを示す▽13日 福島第一、1号機使用済燃料取り出しに向けた大型カバー設置工事開始▽20日 総合エネ調の革新炉WGが始動、今夏目途の中間取りまとめを目指す▽22日 原子力機構・三菱重工、高温ガス炉「HTTR」による水素製造実証事業の開始を発表▽22日 原子力機構「もんじゅ」で原子炉容器内全燃料体の取り出し作業が完了▽26日 岸田首相が原油価格・物価高騰に鑑みた総合緊急対策を発表、原子力の活用にも言及▽26日 経団連、「2050年カーボンニュートラル」の実現に向け提言発表▽27日 規制委、柏崎刈羽の核物質防護問題で中間取りまとめ▽27日 文科省、福島原子力災害に伴う損害賠償の集団訴訟判決について調査・分析を行う方針を示す▽27日 東京電力が「復興と廃炉の両立」に向けパートナー企業(IHI、日立造船)と合意、浜通り地域の新規産業創出に向け▽29日 福島第一ALPS処理水でIAEAが安全性レビュー報告書を公表▽29日 春の叙勲、元文科相の伊吹文明氏が桐花大綬章 【海外】▽1日 ウクライナがIAEAに報告:「ロシア軍がチョルノービリ発電所から完全に撤退」▽4日 欧米の原子力学会、ロシアのウクライナ侵攻で原子力関係施設に対する攻撃や偽情報を共同声明で非難▽6日 英国の新しいエネルギー供給保証戦略、電力自給の改善で原子力を大幅拡大し2030年までに最大8基を稼働可能に▽6日 米X-エナジー社、TRISO燃料製造施設の建設に向け、特殊核物質の取扱い申請書をNRCに提出▽10日 ウクライナがIAEAに報告:「チョルノービリ発電所で2回目のスタッフ交代を3週間ぶりに実施」▽12日 エストニアでのSMR建設に向け、同国のフェルミ社とカナダOPG社の子会社が協力契約▽12日 チェコの国営電力、テメリン原子力発電所の燃料調達でこれまでのロシア企業に代わり米仏の2社を選定▽13日 米国防総省のマイクロ原子炉計画が進展、アイダホ国立研での原型炉建設に向け設計選定へ▽13日 加SNC-ラバリン社、カナダにおけるモルテックス・エナジー社製SMRの建設に協力▽19日 「華龍一号」のカラチ3号機がパキスタンへの引き渡しに向けた試験をクリア、正式に営業運転開始へ▽19日 米エネ省、既存炉の早期閉鎖防止プログラムで原子力発電事業者への政府支援金申請の募集開始▽19日 ウクライナがIAEAに報告:「一か月以上ぶりにチョルノービリ発電所と規制当局間の電話回線が復旧」▽20日 脱原子力を予定しているベルギーにエネ供給保証上の懸念 IEAレポート▽20日 中国国務院、三門、海陽、陸豊の3サイトでWH社製AP1000を含む大型炉の建設を承認▽22日 米ニュースケール社、SMRの製造・商業化で国内の原子炉鍛造品製造企業連合と協力▽22日 韓国水力・原子力会社がポーランドに6基の「APR1400」建設を提案▽25日 斗山エナビリティ社、年内にもニュースケール社製SMRの機器製造を開始▽26日 IAEA事務局長のチームが27日までチョルノービリ原子力発電所に滞在、要請に基づき機器の搬入や放射線評価を実施したほか、保障措置モニタリングシステムの復旧作業を実施▽29日 フィンランドのTVO、点検・修理のため7月末に予定していたOL3の営業運転開始を9月に延期▽29日 ウクライナがIAEAに報告:「ロシアのロスエネルゴアトム社がザポリージャ原子力発電所に専門家を派遣し発電所の機能に関する機密情報を要求」
11 May 2022
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