原子力規制委員会は8月17日、東京電力柏崎刈羽原子力発電所6・7号機のテロなどに備えた「特定重大事故等対処施設」(特重施設)に係る原子炉設置変更許可を正式決定した。BWRでは日本原子力発電東海第二発電所に続き2例目となる。本件は、7月13日に「審査書案」が了承され、経済産業相と原子力委員会への意見照会、およびパブリックコメントに付せられていた。新規制基準で要求される特重施設は、プラント本体施設に係る設計・工事計画認可から5年間が整備猶予期間。現在、柏崎刈羽6、7号機は、いずれも新規制基準のもとで再稼働していないが、7号機については2020年10月、プラント本体施設に係る設計・工事計画認可に至っており、2025年10月に特重施設の整備期限を迎える。一方で、柏崎刈羽原子力発電所では2020年以降、核物質防護に係る不適切事案が発覚したことから、規制委員会は2021年4月、原子炉等規制法に基づき東京電力に対し同発電所における是正措置命令を発出。東京電力では、第三者評価や他電力・業界の外部専門家の指導も取り入れつつ、徹底的な根本原因の究明とともに、核物質防護体制の再構築に努めている。是正措置命令の解除には、柏崎刈羽原子力発電所における規制上の対応区分が「第4区分」((各監視領域における活動目的は満足しているが、事業者が行う安全活動に長期間にわたるまたは重大な劣化がある状態))から「第1区分」((各監視領域における活動目的は満足しており、事業者の自律的な改善が見込める状態))に回復する必要がある。これに関し、更田豊志委員長は、17日の定例記者会見で、9月の任期満了に伴う自身の退任前に公開の場で議論する可能性を示唆した。
18 Aug 2022
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第2次岸田改造内閣発足に伴い就任した西村康稔経済産業相が8月12日、エネルギー、自動車、鉄鋼、繊維などの産業専門紙の記者団によるインタビューに応じた。1985年に「日本の将来を担う中心的な官庁」との思いから通商産業省(当時)に入省し、1999年の退官後、「より大きな視点で仕事をしたい」との決意から国政入りを目指した(2003年に衆議院議員に初当選)という西村大臣は、まず「この2つの初心をもう一度思い起こす」と強調。その上で、「コロナ禍とロシアのウクライナ侵略という2つの危機を乗り越え、強靭で柔軟な日本の経済・社会を作っていくため、今は非常に大事な局面にある。そのためのイノベーションを起こし、制度改革を行っていく。この先の5年は正に勝負だ。これまでの経験を活かし全力で取り組んでいきたい」と抱負を述べた。エネルギー需給を巡る課題に関し、西村大臣は、「燃料の着実な調達、再生可能エネルギー、原子力、火力を含め、あらゆる手を尽くしてしっかりと安定供給に努めていかねばならない」と、その重要性を改めて強調。加えて、現在、総合資源エネルギー調査会で検討が進められている電力・ガス小売全面自由化にも言及し、「総合的に取り組んでいく必要がある」とした。原子力については、「この冬に向けて、安全性の確保を大前提に、安全対策工事の加速、定期検査期間の調整などを進めながら、岸田首相の指示した『最大9基の稼働』を確保できるよう、事業者とも連携しながら着実に取り組んでいく」と明言。三井物産・三菱商事による新ロシア法人への参画に係る判断が注目されている「サハリン2プロジェクト」(日本のLNG需要量の約9%、総発電量の3%に相当)については、「権益を維持する方針は今後も変わりはない」とした上で、ロシア政府による決定の詳細を確認し意思疎通を図りながら具体的対応を検討していく考えを示した。この他、西村大臣は、「2050年カーボンニュートラル」実現に向けた電気自動車普及や水素還元製鉄の実用化、環境に配慮した繊維製品の社会実装を通じた日本の魅力「クールジャパン」発信などに言及。通産省勤務時代の石川県商工課長在任を契機とした地元とのつながりが今でも活きていることに触れ、地域産業の技術力支援やブランド化にも意気込みを示した。西村大臣は、内閣府経済財政政策担当相在任中(2019年9月~21年10月)、2020年3月からは安倍晋三首相(当時)の指示によりコロナ対策に係る政府対応をリードした。
16 Aug 2022
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日本原子力研究開発機構は8月8日、新型転換炉「ふげん」(敦賀市)の廃止措置計画の変更を発表した。原子炉本体の解体に向けた技術開発の必要が生じたことによるもので、廃止措置の完了時期を2033年度から2040年度へ7年延期する。〈原子力機構発表資料は こちら〉多様な核燃料の効率的利用を目指す新型転換炉の原型炉として開発された「ふげん」は、2003年の運転終了までの25年間、発電実績とともに、計772体のMOX燃料の装荷実績(運転終了時で単一炉としては世界最多)を積むなど、日本の核燃料サイクル推進に資する多大な成果をあげた。2007年度に始まる「ふげん」の廃止措置工程は、「重水系・ヘリウム系等の汚染の除去」、「原子炉周辺設備解体撤去」、「原子炉本体解体撤去」、「建屋解体」の4期間に大別。現在は「原子炉周辺設備解体撤去」の期間にあり、当初の計画では2023年度より「原子炉本体解体撤去」に入る予定だった。原子炉本体の解体は、運転に伴う放射化の影響が大きいことなどを考慮し、解体時の放射線遮蔽や切断時の粉じん拡散の抑制のため、原子炉本体上部に解体用プールを設置し、水中で解体を行う計画だ。これに向けて、解体用プールを含む遠隔解体装置の詳細検討、解体工法の安全性確認を2020年度より実施した結果、さらなる安全性向上を図るため、解体時に原子炉本体からプール水が漏えいするリスクを大幅に低減させる工法に変更することとなった。具体的には、解体用プールの底板を原子炉本体に直接溶接することで漏えいリスクに対応。工法の変更に伴い、今後、溶接・検査を遠隔かつ自動で行うための技術開発、その検証・評価に7年間かけて取り組み、2030年度より「原子炉本体解体撤去」に入る予定。産学官による廃炉技術開発の取組を支援する「スマデコ」(原子力機構ホームページより引用)原子力機構では、「ふげん」の廃止措置に係る技術開発に関し、廃止措置ビジネスの確立と関連企業群の育成にもつなぐべく、敦賀市内に「ふくいスマートデコミッショニング技術実証拠点」(スマデコ)を2018年より運用している。スマデコでは、遠隔水中ロボットを用いたレーザー切断工法のモックアップ試験などが行われており、今後進みつつある軽水炉の廃止措置への適用も期待されている。
10 Aug 2022
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総合資源エネルギー調査会の原子力小委員会(委員長=山口彰・原子力安全研究協会理事)は8月9日、同委員会下に置かれる革新炉ワーキンググループが7月29日に取りまとめた中間整理案について報告を受け意見交換。同WGは、「原子力発電の新たな社会的価値を再定義し、わが国の炉型開発に係る道筋を示す」ことを目的とし、4月より議論してきた。〈配布資料は こちら〉冒頭、挨拶に立った経済産業省の細田健一副大臣は、革新炉開発に関し、「今後のわが国の原子力技術の発展のため必要不可欠」と述べ、活発な議論を期待。同WG座長の黒﨑健氏(京都大学複合原子力科学研究所教授)が中間整理案「カーボンニュートラルやエネルギー安全保障の実現に向けた革新炉開発の技術ロードマップ」(骨子案)について説明した。2050年以降を見据えた革新軽水炉、小型軽水炉、高速炉、高温ガス炉、核融合炉の導入に向けた技術ロードマップ、これらの技術に係る原子力サプライチェーンによる市場獲得戦略などを整理したもの。これを受け委員から、杉本達治氏(福井県知事)は、「将来の原子力規模と道筋」の明確化を要望するとともに、折しも8月9日に美浜発電所3号機事故から18年を迎えたことに際し、当時の状況を、「西川一誠知事のもと、大変緊張して対策に取り組んだ」と振り返りながら、立地地域として改めて「原子力発電は安全確保が最優先」と強く訴えた。メディアの立場から、伊藤聡子氏(フリーキャスター)も、福島第一原子力発電所事故を経験した日本として、「安全性の確保のためにも革新炉を開発するということをしっかり発信していくべき」と主張。また、技術的視点から、原子力小委員会委員長代理の竹下健二氏(東京工業大学科学技術創成研究員特任教授)は、革新炉WGによる中間整理案に関し、「色々な評価軸から俯瞰的にものを見る大変貴重な成果だ」と評価。その上で、既存炉の廃炉ラッシュも見据え、「新型炉の導入は現実的な政策」と述べるとともに、MOX燃料再処理や天然ウランの必要量など、核燃料サイクルにおける定量的評価にも言及し、「技術開発課題をパッケージ化した長期的に整合性ある原子力政策」が策定されるよう求めた。同WGの中間整理案と合わせ、今回の原子力小委員会では、資源エネルギー庁が同委の中間論点整理案として、原子力の開発・利用に当たっての「基本原則」の確認将来を見据えた研究開発態勢の再構築産業界の能動的な取組に向けた予見性の向上原子力ものづくり基盤の強化と戦略的な市場獲得立地地域との共生および国民各層とのコミュニケーションの深化――の各項目について整理。専門委員として出席した原産協会の新井史朗理事長は、原子力の持続的活用・長期的な利用に関する国からの明確なメッセージ発出建設中を含めまだ再稼働していないプラントの早期稼働の実現と新増設・リプレースの検討開始原子力発電への国民理解・信頼獲得に関係者が一丸となって取り組むこと――を要望。〈発言内容は こちら〉同じく全国電力関連産業労働組合総連合の坂田幸治会長は、「既設炉の再稼働と長期安定運転の実現なくして、革新炉開発の道筋を切り拓くことは困難」と指摘。原子力事業による地域経済の活性化や雇用創出にも言及し、「人材・技術やサプライチェーンの維持・強化、そのための事業環境整備の必要性を強く打ち出すことが重要」と強調した。
09 Aug 2022
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全国原子力発電所所在市町村協議会(全原協)の渕上隆信会長(敦賀市長)と栁澤重夫副会長(御前崎市長)は8月2日、原子力委員会の定例会合に招かれ、立地自治体の立場から原子力政策に対する意見を述べた。同委が1月より公開の場で随時行っている「原子力利用に関する基本的考え方」の改定検討に向けたヒアリングの一環。全原協は、原子力発電所の立地によって生じる諸問題を結束して解決し住民の安全確保と地域発展を目指すことを目的として1968年に発足。現在、周辺自治体や核燃料サイクル施設の立地自治体なども含め国内28市町村が会員となっている。渕上会長は、国際的な脱炭素化の潮流、昨今のウクライナ情勢に伴う資源価格の高騰、電力需給ひっ迫など、原子力政策を巡る現状を述べた上で、「エネルギー政策はわが国の行く末を左右する最重要政策だ。資源を持たない日本が貿易立国として国際競争力を高め生き残っていくため、原子力発電を選択した当時を思い出してもらいたい」と強調。さらに、「今般の日本の厳しいエネルギー事情を鑑みれば、低廉で安定した電力供給を果たすため、原子力発電は欠くことができない」とも述べ、昨秋策定されたエネルギー基本計画策定に関し、昨今の著しい情勢変化から、「法令に定める3年ごとの期限を待たず早急に見直しを行うべき」と主張した。また、原子力発電に関する世論調査の経年変化を踏まえ、「特に電力消費地における理解はまだ十分とはいえない」と指摘。原子力人材確保の課題にも触れた上、「現実的で力強いエネルギー政策、原子力政策を明確に示すことが国の責務」と訴えた。〈発表資料は こちら〉栁澤副会長は、御前崎市内に立地する中部電力浜岡原子力発電所3、4号機に係る新規制基準適合性審査が長期化していることに関し、市民の安全に対する不安市政運営や市内経済への影響浜岡3号機は2027年で法令で定める運転開始40年に到達(このまま運転期間延長も含め、審査が進まなければ実質23年の運転で廃炉)現場技術力の低下――との課題を指摘。市民からの「地震や津波に対する中部電力の想定が甘いのでは」、「国は再稼働させないようとしているのではないか」といった不安の声が上がっていることや、原子力防災に関する課題にも触れた上で、長期的視点に立った原子力政策が図られる必要性を訴えた。〈発表資料は こちら〉委員との間では、高レベル放射性廃棄物の処分地選定、将来のエネルギー安全保障確保や人材育成に関し意見交換。渕上会長は、国民理解の促進に向けて、「教科書への掲載が一般の理解につながる」としたほか、漫画やYou Tubeなどの活用を提案。上坂充委員長は、先般刊行した原子力白書について「大学の講義でも使えるよう編集した」としたほか、世代間倫理の課題にも言及しながら、初等中等教育段階からの理解促進に関しても、学会などの知見を活用し取り組んでいく考えを示した。全原協の渕上会長らは、6月30日開催の総合資源エネルギー調査会原子力小委員会でも同様の意見陳述を行っているほか、7月26日には経済産業省を訪れ、萩生田光一大臣、細田健一副大臣と会談し、「原子力発電等に関する要請書」を提出している。同要請書は、3年ぶりの対面開催として5月に行われた同協会の定例総会で、会員市町村からの意見も踏まえ採択された。
04 Aug 2022
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ALPS処理水取扱い設備に関する事前了解文書を手渡す内堀福島県知事(中央、福島県ホームページより引用)東京電力は8月3日、福島第一原子力発電所で発生するALPS処理水(トリチウム以外の核種について環境放出の規制基準を満たす水)の希釈放出設備および関連施設の設置工事を4日から行うと発表。同施設の設置に関しては、7月22日に原子力規制委員会より認可がなされた後、26日に県の廃炉安全監視協議会で「妥当」との判断が得られ、8月2日には福島県、大熊町、双葉町から事前了解を得た。〈東京電力発表資料は こちら〉8月2日夕刻、福島県の内堀雅雄知事、大熊町の吉田淳町長、双葉町の伊澤史朗町長は、県庁にて、東京電力の小早川智明社長らに対し、県の技術検討会が要求事項として示したALPS処理水に含まれる放射性物質の確認ALPS処理水の循環・かくはんにおける適切な運用管理希釈用海水に含まれる放射性物質の管理トラブルの未然防止に有効な保全計画異常時の環境影響拡大防止のための対策短縮された工期(補正申請により工事期間が当初計画より2か月短縮)における安全最優先の工事処理水の測定結果等のわかりやすい情報発信放射線影響評価等のわかりやすい情報発信経産省内で職員・来庁者向けに販売される福島産水産物「常磐もの」を用いた弁当(左より、サバスモークのボカディージョ、真ダコのシーフードパエリア、アンコウのイカスミパエリア、経産省twitterより引用)――の確実な実施とともに、廃炉・汚染水対策に関し、新たに発生する汚染水のさらなる低減、汚染水処理に伴い発生する二次廃棄物の安全な処理・処分に取り組むよう意見を付して、了解する旨を回答。3首長は翌3日朝に萩生田光一経済産業相を訪れ、本件に係る報告および福島県産品の風評払拭に向けた要望を行っている。東京電力は、これらの意見に対する真摯な対応、着実な取組を図り、2023年春頃の設備設置を目指し、ALPS処理水希釈設備の工事を安全最優先で行い、その状況を適時公開するとともに、自治体による安全確認やIAEAのレビューなどに真摯に対応し、客観性・透明性を確保することで、国内外から信頼されるよう取り組んでいくとしている。福島第一廃炉推進カンパニープレジデントの小野明氏は、3日午後の記者会見で、工事計画について説明するとともに、わかりやすい情報発信に関し、「地域の方々一人一人が持つ不安・懸念にしっかり向き合い説明していくことに尽きる」と、対話の重要性を繰返し強調した。
03 Aug 2022
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長崎大学核兵器廃絶研究センターは、8月1日よりニューヨーク国連本部で開幕する核兵器不拡散条約(NPT)運用検討会議で、26日までの全日程をカバーすべく同センタースタッフを現地に派遣する。会期中、論点整理や課題、意義などを簡潔にレポートする「NPTブログ2022」をウェブ上に掲載すると発表した。開幕に先立ち、7月29日には、「第0号ブログ」として、NPT運用検討会議の注目ポイントなどを掲載。冒頭、昨今のロシアによるウクライナへの軍事侵攻により「核兵器使用リスクの急激な高まりは世界中の人々に不安と衝撃を与えている」と、危惧を示している。最終文書採択を含む8月24~26日にブログを担当する同センター副センター長の鈴木達治郎教授は、7月28日に長崎大学内で行われた記者会見で、核物質防護に関する議論に期待を寄せ、「原子力施設への攻撃禁止について、是非合意文書に入れてもらいたい」と述べた。今回のNPT運用検討会議には、日本の首相としては初めて岸田文雄首相が出席し、一般討論演説などを行う。外務大臣在任中にも、2015年NPT運用検討会議に出席。折しも広島・長崎被爆70年の節目の年だったが、最終文書の合意には至らなかった。岸田首相は、就任後初となる2021年10月の国会における所信表明演説で、「核兵器のない世界」を目指し、「核兵器国と非核兵器国との橋渡しに努める」としている。これに関し、8月1~9日に主に核軍縮関連の議論でブログを担当する同センターの中村桂子准教授は、「岸田首相の演説を切り口に、これまでの枠を超えるような軍縮外交が展開されることを期待する」と述べた。「ナガサキ・ユース代表団」の学生たち(長崎大ホームページより引用)長崎大学の核兵器廃絶研究センターは、2012年の設立以来、「長崎を最後の被爆地に」との想いから、核兵器廃絶に焦点を当てた研究・教育の拠点として政策提言などを行ってきたほか、人材育成や市民交流にも取り組んでいる。同センターでは、今回、NPT運用検討会議でサイドイベントなどに参加する学生ら「ナガサキ・ユース代表団」によるブログも掲載していく。
01 Aug 2022
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総合資源エネルギー調査会の革新炉ワーキンググループ(座長=黒﨑健・京都大学複合原子力科学研究所教授)は7月29日の会合で、これまでの議論の中間整理となる「カーボンニュートラルやエネルギー安全保障の実現に向けた革新炉開発の技術ロードマップ」(骨子案)を概ね取りまとめた。近く同WGの上層となる原子力小委員会に報告される。〈配布資料は こちら〉同WGは、「2050年カーボンニュートラル」実現に向けた海外動向や原子力全体のサプライチェーン維持・強化の必要性を踏まえ、「原子力発電の新たな社会的価値を再定義し、わが国の炉型開発に係る道筋を示す」ことを目的に、4月より国内研究機関・メーカーの他、米国の原子力規制委員会(NRC)や原子力エネルギー協会(NEI)とも意見交換をしながら検討を行ってきた。中間整理案では、革新軽水炉、小型軽水炉、高速炉、高温ガス炉、核融合炉について、2040~50年以降を見据え、導入までの時間軸をイメージした開発工程(研究開発、設計、製作・建設、運転など)を示す技術ロードマップを提示。また、これまでの議論から、「開発の方向性(時間軸)が不明瞭」、「具体的プロジェクトの不在、予算・制度支援の不足」、「開発体制の不備、サプライチェーンの脆弱化」、「開発活動の低下」という革新炉開発を巡る「悪循環」を指摘。その対応として、革新炉開発に係る方向性の明瞭化開発予算・施設の整備革新炉開発を支える事業環境の整備開発の司令塔機能の強化サプライチェーンの維持・強化――をあげた。委員からは、小野透氏(日本経済団体連合会資源・エネルギー対策委員会企画部会長代行)が、先般首相官邸で開かれた「GX(グリーントランスフォーメーション)実行会議」など、エネルギー安定供給を巡る議論の高まりにも言及しながら、「新増設・リプレースに取り組む上でも、安全性向上が期待される次世代炉は国民の安心感向上につながる」と主張。その上で、革新炉開発に向けて、安全性に係る国民理解の醸成や諸外国に遜色のない予算措置を図っていくべきとした。また、高木直行氏(東京都市大学大学院総合理工学研究科教授)は、原子力人材育成に関わる立場から、革新炉開発の技術ロードマップに一定の評価を示す一方で、「バラバラ感」があると指摘。溶融塩炉などの研究開発にも関わった経験を持つ同氏は、炉型による燃料濃縮度の違いなどに言及し、他炉型を相互に関連させた導入シナリオやバックエンド政策を検討していく必要性を強調した。この他、新増設・リプレースとの関連性、次世代層への理解促進、司令塔機能における国・研究機関・企業の役割に関する意見が出された。これに続き同日は、高速炉開発会議の戦略ワーキンググループが、2018年12月の「戦略ロードマップ」決定以来、およそ3年半ぶりに会合を開催。戦略WGでは、安全性・信頼性経済性環境負荷低減性資源有効利用性核不拡散抵抗性、柔軟性・その他市場性――に係る高速炉サイクルの開発目標を提示。今後の議論に資するものとして革新炉WGの中間整理が参考配布された。
29 Jul 2022
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2021年度版原子力白書が7月29日の閣議で配布された。前日28日に原子力委員会で決定されたもの。今回の白書では、「2050年カーボンニュートラルおよび経済成長の実現に向けた原子力利用」を特集。原子力委員会・上坂委員長白書の冒頭、今回の特集に関し、同委・上坂充委員長は、「エネルギーは人間のあらゆる活動を支える基盤であり、誰にとっても他人事ではない」と、原子力を含むわが国の今後のエネルギー利用のあり方について指摘。白書を通じ、国民一人一人が「じぶんごと」として捉え考える必要性を訴えている。特集では、世界におけるカーボンニュートラルに向けた取組状況を整理。「電力消費が多いカーボンニュートラル宣言国の多くでは、将来も原子力エネルギー利用を継続する見通し」、「原子力エネルギーを利用せず、カーボンニュートラルを目指す国・地域もある」と、大別し各国・地域のエネルギーを巡る現状や政策について述べている。その上で、「カーボンニュートラル達成には、様々な手段を組み合わせて投入していく必要がある。どのような手段にも、メリットと課題がある。その両方を正しく把握することが、手段を適切に組み合わせていく上でも重要」と述べ、原子力エネルギーのメリットとして、発電時に温室効果ガスを排出しない気象条件等による発電電力量の変動が少ない準国産エネルギー源として安定供給できる発電コストと統合コストがともに低いカーボンフリーな水素製造や熱利用等への展開が見込める――ことをあげた。一方で、課題として、社会的信頼の回復組織文化等、関連機関に内在する本質的な課題解決安全性向上、核セキュリティの追求廃炉や放射性廃棄物処分等のバックエンド問題への対処エネルギー源としての原子力の活用を継続するための高いレベルの原子力人材・技術・産業基盤の維持、強化――が必要と指摘。社会的要請を踏まえた原子力エネルギー利用に向けて(原子力白書より引用)これらを踏まえ、社会的要請を踏まえた原子力エネルギー利用に向けて、国や事業者を始めとするすべての関係者に対し、「福島第一原子力発電所事故の原点に立ち返った責任感ある真摯な姿勢や取組を通じ、社会的信頼の回復に努める」必要性を改めて強調。さらに、「集団思考や集団浅慮、同調圧力、現状維持志向が強いことや、組織内での部分最適に陥りやすいことなど、わが国の原子力関連機関に内在する本質的な課題についても、引き続き解決に向けた取組が必要」と、改善を求めている。原子力委員会としては、「原子力エネルギーを取り巻く状況や位置付け等について、良い面も悪い面も、光も影も、中立的な立場で積極的にわかりやすく発信するよう努めていく」との姿勢を示している。
29 Jul 2022
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6月30日に特定復興再生拠点区域((帰還困難区域のうち、市町村作成・国認定の計画に基づき居住を目指し除染やインフラ整備を推進する地域))の避難指示が解除された大熊町で、7月22日、「町の今後を担う新しい産業・雇用の創出を目的に、企業誘致エリアの整備を進める」との町政方針のもと、新しく起業するベンチャー企業などへの支援を行う「大熊インキュベーションセンター」が開所した。「インキュベーション」(incubation)は「卵の孵化」の意。〈大熊町発表資料は こちら〉同施設は、その名のごとく、企業の育成・促進の場を提供し将来的に「孵化し羽ばたかせる」ことを目的としている。町内の大野小学校校舎を活用したもので、入居企業や町民の交流スペースを整備するとともに、会議室は生徒が使っていた机を残し、「町民らが懐かしさを感じ集える場」としての利用も期待されている。大熊町の学校教育については、幼保小中一体化施設「大熊町立 学び舎 ゆめの森」が2023年度に開校予定。次世代太陽電池「ペロブスカイト」のイメージ(東芝ESS発表資料より引用)また大熊町では、2021年2月に「大熊町ゼロカーボンビジョン」を策定し、2040年のCO2排出実質ゼロとの目標を掲げ、再生可能エネルギーの地産地消に係る取組を進めている。7月には地元企業で福島第一原子力発電所の廃炉作業にも参画するエイブルと連携協定を締結。9月に地域新電力「大熊るるるん電力」が設立された。最近では、2022年7月22日に大熊町と東芝エネルギーシステムズ社との間で「ゼロカーボン推進による復興まちづくりに関する連携協定書」が締結された。同社は、冬季も降雪が少なく日照に恵まれた大熊町の気象条件を活かし、大川原地区において軽量・フレキシブルな次世代太陽電池「ペロブスカイト」の開発・実証に取り組むこととしている。〈東芝ESS発表資料は こちら〉
28 Jul 2022
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中高生対象の映画制作WSで指導に当たる監督ら(内閣府他発表資料より引用)内閣府・経済産業省は7月26日、映像・芸術文化の誘致を通じ新たな地域の独自性を創出する復興の取組「福島浜通り映像・芸術文化プロジェクト」の立上げを発表。その皮切りとして、映画に着目し、8月に双葉町(産業交流センター・伝承館)で、若手映画監督、脚本家、俳優、映像制作に関わる学生、地域住民などが集う映画制作イベントが開催されることとなった。同イベントでは、全国の中高生を対象に、プロの制作スタッフがサポートし、ロケハン、脚本作り、撮影、編集、ポスター作りなど、短編映画制作のプロセスを体験する合宿形式のワークショップも行われる。映像・芸術文化と福島浜通りが秘めるシナジー・独自性のポテンシャルとして、内閣府・経産省では、(1)芸術家にとって、開かれた環境で集中して創作活動に取り組める、新たな活動を自由に行えるといった点で、魅力的な場所となりうる(2)国際的な関心が高まることで、新たな独自の魅力になりうる(3)この地域を「新たな挑戦のフィールド」と捉える潜在的移住者にとっての魅力となりうる――ことを列挙した。新たな魅力に惹かれる若者が集う流れを作り出すためにも、同プロジェクトを通じ、映画・演劇、芸術文化に関わる人々が地域と交流し、インフルエンサーによる発信が図られることが期待される。双葉北小学校で撮影を行う東放学園映画専門学校の学生たち(内閣府他発表資料より引用)既に、先行プロジェクトとして、東京藝術大学や東放学園映画専門学校の学生による浜通り地域を舞台とした映像制作が5月に行われた。学生からは、「同年代の双葉町出身の人たちを中心に映画づくりをしたい」、「ネット情報では感じ取れない、住民の思いなどに触れて、脚本執筆の参考になった」といった感想が寄せられている。萩生田光一経産相は、今回のプロジェクト始動に当たって、「国内外に発信できる新しいまちづくり・映画づくりの仕組みを実現すべく検討を進めていく。今後は、演劇、音楽、現代アートなどにも取組を広げていきたい」と強い意気込みを見せている。
28 Jul 2022
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日本赤十字社は7月25日、ウクライナにおける医療活動を支援するため、同国赤十字社に可搬型のX線撮影装置を寄贈するとともに、放射線技師を派遣したと発表した。ウクライナでは現在、国際赤十字社・赤新月社連盟による安全管理のもと、各国赤十字社の協力で仮設診療所の開設が進められている。このほどX線撮影装置が寄贈されたのは、ザカルパッティア州の山岳地帯にあるタチブという町に開設予定(7月下旬)の診療所。〈日赤発表資料は こちら〉今回のX線撮影装置に係る現地スタッフ指導のためウクライナ西部のウジュホロド(6月に仮設診療所が開設)に派遣された日赤愛知医療センター名古屋第二病院の診療放射線技師・大島隆嗣氏によると、「輸送するためには、多くの書類や手続きが必要で、無事ウクライナ国内に入るには2か月程度を要した」という。さらに、「現地に装置が到着したことを確認して日本を出発したのだが、装置の最終的な移動に再度許可が必要となり、現地の赤十字社の幹部が当局に事情を説明し、ようやく倉庫から装置を搬出することができた」と、機器の現地搬入までにも困難があったことを述べている。この可搬型のX線撮影装置は、海外救援時の医療支援用機材として以前より使用されてきたもので、多くの国内避難民が住むウクライナ西部各地では結核などの感染症の懸念があることから、同国赤十字社は日赤に対し装置に係る支援を要請していた。日赤では、「ウクライナ国内では、医療施設への攻撃が報道されており、人々が医療を受ける機会の喪失にもつながっている。現在、1,200万人以上が医療支援を必要としている状態だ」と懸念。ウェブ上で随時、ウクライナにおける日本人医療スタッフの活躍などを紹介し、「ウクライナ人道危機救援金」への理解・協力を呼びかけている。
27 Jul 2022
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政府・原子力災害対策本部は7月26日、福島県双葉町に設定されている避難指示を8月30日午前零時をもって一部解除することを決定した。〈原子力災害対策本部発表資料は こちら〉今回、避難指示が解除されるのは、双葉町に設定された帰還困難区域のうち、国が認定した計画に基づき除染やインフラ整備が進められる特定復興再生拠点区域約555ha(同町面積全体の約1割)。帰還困難区域における避難指示解除は、2020年3月に双葉町・大熊町・富岡町内の3駅を含むJR常磐線周辺で行われているが、居住を前提としたものは、2022年6月12日の葛尾村、同30日の大熊町に続いて3例目となる。内閣府原子力被災者生活支援チームでは、「双葉町はこれまで帰還者ゼロが続いていたが、初めての住民帰還・居住を実現するものとなる」と説明。大熊町、双葉町、葛尾村の他、帰還困難区域内に特定復興再生拠点区域が設定されている富岡町、浪江町、飯舘村では、2023年春頃の避難指示解除に向けて準備宿泊などが進められている。萩生田光一経済産業相は、26日の閣議後記者会見で、「避難指示解除はゴールではなく復興に向けたスタート。引き続き安心して帰還できる環境整備に取り組んでいく」と述べた。
26 Jul 2022
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東京電力は7月25日、柏崎刈羽原子力発電所における核物質防護に係る不適切事案に伴い設置された第三者評価組織「核セキュリティ専門家評価委員会」(委員長=板橋功・公共政策調査会研究センター長)より、報告書を受領した。同報告書は初回となるもので、今後も評価は継続される。〈東京電力発表資料は こちら〉同社では、柏崎刈羽原子力発電所において2020年以降に発生したIDカード不正使用や核物質防護設備機能が一部喪失する事案を受け、2021年9月に改善措置活動の計画を取りまとめるとともに、社外委員のみで構成される独立検証委員会からの検証報告書も合わせ、原子力規制委員会に報告。「核セキュリティ専門家評価委員会」は、その報告を踏まえ、改善措置の確実な浸透のため、社外専門家の視点で東京電力の核セキュリティに係る取組を評価することを目的として、2021年12月に設置されたもの。今回の同委員会による報告書では、検査を受ける側と検査を行う側のコミュニケーションおよび相互理解・協力の推進身分証明書等の統一化の推進核物質防護部門の教育強化および核セキュリティの資質を有する幹部の育成迷惑警報(誤警報)対策のさらなる推進東京電力一丸となった(ALL TEPCOでの)改善――の5項目を提言。板橋委員長は、現地調査も踏まえた総括的コメントとして、「柏崎刈羽においては、改善措置に取り組んでいることもあり、明るさを感じ、前向きに歩みだしている状況を確認できた」などと、一定の評価を示している。
26 Jul 2022
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原産協会の新井史朗理事長は7月22日、記者会見を行い、同日発表の「サプライチェーンの維持・強化に向けた提言」について説明し質疑に応じた。新井理事長はまず、先般の岸田首相による「この冬に向けて最大9基の原子力発電所の稼働を進め、日本全体の電力消費量の約1割に相当する分を確保する」との発言に言及。同発言は「(岸田首相の)原子力に対する強い期待が述べられたもの」と指摘した。その上で、今回の提言に至った経緯について、「昨年10月に策定された第6次エネルギー基本計画に明記された原子力の持続的活用を可能にするためにはサプライチェーンの維持が極めて重要」との問題意識から、会員企業へのアンケート調査や分析を実施したと説明した。提言は、原子力発電所早期再稼働のためのあらゆる取組の実施新増設・リプレースを明記したエネルギー計画の明示原子力発電所の新増設・リプレースに投資が可能な事業環境整備大型軽水炉を含む革新炉の技術開発や実証事業への支援拡大機器や部品の輸出振興に関する包括的支援策の検討──の5項目からなる。新井理事長は、同提言に先立ち原産協会が2021年9~11月に実施し会員企業154社から回答を得たアンケート調査の結果について紹介した。それによると、2010年度と比較した売上高は22%が増加傾向と回答している一方で、48%が減少傾向と回答。また、減少傾向と回答した企業はその理由を「発電所の停止」と回答していることなどから、新規制基準対応のための安全対策工事に従事する企業は売上高が増加しているものの、運転・保守に従事する企業では売上高が減少していると分析した。原子力発電所の運転停止に伴う影響として、「技術力の維持・継承」をあげた企業は56%に上っており、これに関し、新井理事長は「新設経験のない国はもとより、欧米でも10年間建設が途絶えると予算・工程通りに進まない状況にある」などと、空白期間が長くなるほど技術力の回復に時間を要することを懸念。また、足下の課題となる再稼働に向けた効率的な審査に関しては、電気事業連合会による「再稼働加速タスクフォース」を通じた業界横断的な取組の他、原子力規制委員会で随時行われる事業者の原子力部門責任者との意見交換(CNO会議)や原子力エネルギー協議会(ATENA)の活動に期待を寄せた。革新炉の技術開発や国際展開に関しては、技術力の維持・向上や学生への関心喚起に向け「魅力的なプロジェクト」となるよう切望した。
22 Jul 2022
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原子力規制委員会は7月22日の臨時会議で、福島第一原子力発電所で発生するALPS処理水(トリチウム以外の核種について環境放出の規制基準を満たす水)の取扱いに伴う希釈放出設備および関連施設に係る実施計画の変更認可を決定した。ALPS処理水取扱いに係る設備の概要(原子力規制委員会発表資料より引用)同計画は、測定・確認用設備、希釈設備、放水設備からなり、測定・確認用設備では、測定・確認用のタンク群の放射性核種の濃度を均一にした後、試料採取・分析を行い、ALPS処理水であることを確認。ALPS処理水を海水と混合しトリチウム濃度を1,500ベクレル/ℓ(環境へ放出される際の規制基準値の40分の1)未満に希釈した上で放水設備に排水し、沿岸から約1km離れた沖合に放出するというもの。本件に関し、東京電力は2021年12月に規制委員会に対し審査を申請。これを受け、同委では、(1)原子炉等規制法に基づく規制基準を満たすものである(2)ALPS処理水の処分に関する政府方針(2021年4月決定)に則ったものである――との方針に従い、審査・確認を行ってきた。2022年5月18日に審査書案を了承した後、1か月間のパブリックコメントを実施。計1,233件の意見(廃炉工程全般、海洋放出の是非、風評被害の懸念、大学・研究機関が取り組むトリチウム除去技術の可能性など、審査案件に直結しないものも含む)が寄せられ、これら意見への考え方を整理した上で、審査書の正式決定に至った。規制委員会の認可を受け、東京電力は、「引き続き、IAEAのレビュー等に真摯に対応するとともに、実施計画に基づく安全確保や、人と環境への放射線影響など、科学的根拠に基づく正確な情報の国内外への発信、放射性物質のモニタリング強化等、政府の基本方針を踏まえた取組をしっかりと進めていく」とコメント。2023年4月中旬頃の設置完了を目指し、ALPS処理水の取扱いに係る設備の現地据付・組立に着手する運び。また、原産協会は、「事業者はもとより国も環境影響についての対応をわかりやすく丁寧に説明を続けるとともに、国内外に向けては風評の防止のために理解醸成ならびに懸念の解消に努めて欲しい」とする理事長メッセージを発信した。
22 Jul 2022
2323
福島第一原子力発電所の廃炉に伴う燃料デブリ取り出しの課題について考えるシンポジウムが6月25日、オンラインにて行われた。日本原子力学会福島第一原子力発電所廃炉検討委員会(委員長=宮野廣氏〈元東芝〉)の主催によるもので、「デブリの生成過程と取扱い」、「燃料デブリの取り出しとロボット技術」をテーマにパネルディスカッション。事故発生から11年を経過した現在、原子力問題について長く取材を続けてきた報道関係者にもコメントを求めながら、今後の長期にわたる廃炉活動の一助とすべく議論を深めた。「デブリの生成過程と取扱い」に関して、倉田正輝氏(日本原子力研究開発機構廃炉環境国際共同研究センター長)が論点を提示。同氏は、一般に「メルトダウン」と呼ばれる原子炉圧力容器内の燃料溶融・破損のメカニズムについて、米国TMI事故との違いをあげながら説明。福島第一原子力発電所事故では、固体と液体が混合状態で“どろっ、ぐずっ”と崩落する「ドレナージ型」の傾向が2号機、3号機、1号機の順に強いとの分析結果を示し、「この現象が燃料デブリの分布や特性に非常に大きく影響している」ことを繰り返し強調した。こうした号機・領域ごとに多様で複雑な分布・堆積状態を踏まえ、「燃料デブリのデータベースの効率的な整備が大きな課題」とした上で、「分析の基準物質が存在しない」、「不確かさの評価には膨大な分析が必要」という燃料デブリの“unknown”を解決する必要性を指摘。さらに、倉田氏は、「どこまで“unknown”であれば安全裕度を十分にとった工程設計ができるか。そこからどのように“unknown”を減らしていけば工程を合理化できるのかが工学的な課題だ」と述べ、議論に先鞭をつけた。ロボットアームの性能試験を行う原子力機構楢葉センターのモックアップ設備(ペデスタル:圧力容器下部の土台、CRD:制御棒駆動機構、IRID発表資料より引用)「燃料デブリの取り出しとロボット技術」に関しては、奥住直明氏(国際廃炉研究開発機構〈IRID〉開発計画部長)がIRIDの取組状況を説明。現在、燃料デブリ取り出しの初号機となる2号機での試験的取り出しに向けて、ロボットアームのモックアップ試験・操作訓練が原子力機構の楢葉遠隔技術開発センターで行われている。同氏は、燃料デブリ取り出し時の重要項目として、(1)閉じ込め(作業時に発生するダストを環境に放出させない)(2)作業員被ばくの低減(3)臨界防止(4)火災・爆発の防止(5)冷却――をあげた。これを受け、パネリストからは、鈴木俊一氏(東京大学大学院工学系研究科特任教授)が、将来予測されるリスクを見据え廃棄物管理も含めた廃炉工程全体を俯瞰する重要性を強調。土木分野で用いられる遠隔技術の有効性を述べるとともに、「安全を担保した上で、時間軸を意識した工法選択をすべき」とした。ロボット工学の立場から大隅久氏(中央大学理工学部教授)は、「どんな機械でも初めて作ったものがすぐに使えたことはない」と、ロボット開発においてトライアル・アンド・エラーを繰り返してきた経緯を振り返る一方で、過酷な環境下で働く廃炉に用いるロボットの特徴から、「徹底したモックアップ試験やオペレーター訓練を通じ、『想定外』を潰す努力が必要」と強調。廃炉検討委員会のもとで、ロボット分科会の主査を務める吉見卓氏(芝浦工業大学工学部教授)は、「作業の進展によって現場の作業環境も変わっていく」と指摘。作業段階に応じたモックアップ訓練やヒューマンエラーを防ぐシステム導入の必要性などを述べた。ロボットの設計・運用に関し、報道関係者からのコメントとして滝順一氏(日本経済新聞編集委員)がAI技術の活用を提案。核融合炉のメンテナンス用ロボットの開発経験を持つ吉見氏は、原子炉の円形構造に着目し、自動車搭載のアラウンドビューモニターの応用による遠隔操作効率化の可能性に言及。建設ロボットに詳しい大隅氏は、廃炉作業における工法に関し、ゼネコンの実例にも触れながら、ロボットを利用しやすい環境構築や工法全体の最適化などを図る「サイト全体のロボット化」の考えを提唱した。廃炉で培われた技術・経験の社会展開に向け、鈴木氏が若手へのモチベーション喚起も見据え広く発信していく「廃炉の魅(み)える化」を主張。福島の復興を巡る諸問題に関して継続的に取材を行ってきた吉野実氏(テレビ朝日報道局)は、他県の中小企業でも廃炉事業への参画機運が高まっていることを紹介した。
22 Jul 2022
3089
住友商事は7月20日、米国の核融合関連企業 TAE Technologies社に出資参画したことを明らかにした。〈住友商事発表資料は こちら〉同社の発表によると、TAE社への出資は6月30日に実施済み。これに至った背景として、近年のカーボンニュートラル社会の実現を目指す世界的潮流の中、民間資金の動きや技術開発など、「核融合の実現に向けた動きが世界で加速している」ことをあげている。TAE社は、1998年にカリフォルニア州で設立された核融合ベンチャー企業。先進燃料p-B11(水素とホウ素)を用いることで、中性子が発生せず放射性物質が生成されない、より安全な核融合炉の開発・運転を目標としている。20年以上にわたり実験炉の建設・運転実績を持ち、商用化実現に必要な実験データや知見を豊富に保有。2014年には米国グーグル社と連携し、資金面だけでなく核融合炉開発に必要な機械学習技術に関しても支援を受けており、これらの経験やパートナーとの連携を活かし、2020年代後半に核融合炉を商用化すべく取り組んでいる。住友商事では、今般のTAE社への出資参画を通じて、核融合発電の最先端技術・業界動向により理解を深め、これまでの知見・経験も活かし核融合発電の社会実装を目指すとともに、発電以外の用途開発にも幅広く取り組むことで、カーボンニュートラル社会の実現に貢献したいとしている。米国では、核融合ベンチャー企業への民間投資が拡大しており、TAE社の他、コモンウェルス・フュージョン・システムズ社など、それぞれ数百億円規模の出資を集める躍進ぶりだ。2021年6月に経済産業省が中心となって策定した「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」によると、日本の核融合ベンチャー企業に関しては、2010年代後半から芽吹きつつあるものの、「民間における核融合への出資は他国と比して相対的に少ない」などと分析している。
20 Jul 2022
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「Japan-IAEA原子力エネルギーマネジメントスクール」(NEMS:Nuclear Energy Management School、主催=東京大学、日本原子力研究開発機構、原産協会他、共催=IAEA、実行委員長=出町和之・東京大学大学院工学系研究科准教授)が7月19日、開講した。NEMSは、世界各国で将来、原子力エネルギー計画を策定・管理するリーダーとなる人材の育成を目的とした研修コース。日本での開催は10回目となる。前回の2021年はZOOMによるオンライン開催となったが、3年ぶりの対面開催となった今回、ブラジル、チェコ、エストニア、ガーナ、インドネシア、メキシコ、ポーランド、ルーマニア、スロバキア、スロベニア、ベトナム、日本の各国から計24名の研修生が参加。8月5日までの3週間にわたり、東京大学本郷キャンパスを主会場に、講義、グループディスカッションに臨むほか、2週目にはテクニカルツアーとして福島県に移動。福島第一原子力発電所などを訪れ廃炉や復興の現状を視察する。東京大学本郷キャンパスで行われた開講式では、ミカエル・チュダコフIAEA原子力エネルギー局事務次長がビデオメッセージを通じて挨拶。気候変動対策やSDGs達成における原子力エネルギーの重要性を述べた上、今回のNEMSが成功裏に行われるよう期待した。来賓挨拶に立った上坂充原子力委員会委員長(前NEMS実行委員長)は、昨今のウクライナ情勢がもたらしたエネルギー安全保障に係る世界的な危機を踏まえ、原子力の果たす役割を改めて強調。参集した研修生らに対し、原子力に携わる者として、科学技術だけでなく社会学・倫理の観点からも学ぶ重要性を訴えるとともに、原子力の将来に向けてNEMSが多国間のネットワーク構築にもつながることを期待した。
19 Jul 2022
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関西電力は7月13日、定期検査中の大飯発電所4号機(PWR、118万kW)について、15日に原子炉を起動し17日に調整運転を開始する予定と発表した。原子力規制委員会による最終検査を経て8月12日に営業運転に復帰する運び。〈関西電力発表資料は こちら〉同機は、新規制基準で要求されるテロなどに備えた「特定重大事故等対処施設」(特重施設)の運用を8月10日に開始する予定で、調整運転中に同施設が運用を開始する初のケースとなりそうだ。特重施設の設置は、プラント本体の設計・工事計画認可から5年間の猶予期間が設けられており、大飯4号機は8月24日が期限となっている。 特重施設の設置については現在、13基で原子炉設置変更許可に、5基が運用開始に至っている。最近では、7月13日に東京電力柏崎刈羽6・7号機について、規制委員会が審査書案を了承している。
14 Jul 2022
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日本原子力学会は6月開催の通常総会で2022年度の新体制を決定。これに伴い就任した川村慎一会長(日立GEニュークリア・エナジー技師長)が7月12日、都内で記者会見を行い抱負を述べた。川村会長は、特に力を入れていく事項として、(1)福島第一原子力発電所事故の教訓を踏まえ、未来への取組を進める(2)専門知に基づく情報発信、ならびに対話と交流を活性化する(3)多様性を尊重し、学会をより多くの人が成長できる場にしていく(4)健全な財務基盤を維持する――ことを列挙。その上で、「社会に貢献し社会にとって魅力ある学会であるため、真摯に取り組んでいく」と抱負を述べた。同氏は、原子力に関わる者として「福島第一原子力発電所事故を防ぎ得なかった」反省の意を改めて述べ、これまでの学会における検討を踏まえ「安全性向上を図る仕組み作り」に取り組んでいくとするとともに、ALPS処理水の取扱いにも関連し、「技術者だけでなく社会科学の専門家や市民の視点も含め幅広く対話する」重要性を繰返し強調。原子力学会では3月にロシアによるウクライナの原子力発電所攻撃を受け抗議声明を発表したが、原子力発電所への武力攻撃に係る学会としての役割について問われたのに対し、川村会長は、「原子力の専門家だけで解決できるものではない」とした上で、他学会とも協力し、施設のセキュリティ強化や外的事象への耐性確保が図られるよう努めていく考えを述べた。また、次世代炉・革新炉開発に向けては、「直近の課題である既存の原子力発電所の安全な再稼働」を大前提に、将来のカーボンニュートラル実現目標に応えられるよう、安全評価のあり方や人材育成など、様々な検討を行っていくとした。
13 Jul 2022
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原子力産業協会の新井理事長はこのほど、フランスで開催された核燃料サイクルに関する国際会議「GLOBAL2022」に登壇。日本のエネルギー政策と原子力発電の状況およびサイクル確立への取り組みについて紹介した。「GLOBAL」は、1993年から2年ごとに開催されている核燃料サイクルに関する国際会議。今回はフランス原子力学会の主催で、「エネルギーの供給危機と気候変動における原子力の新たな視点」をテーマに7月6~8日、フランス北東部のランスで開催された。新井理事長は、開会初日冒頭のプレナリーセッション1「エネルギー供給保証および気候中立目標に貢献する原子力-核燃料サイクルへの影響」に登壇。日本のエネルギー政策、原子力発電所再稼働の現状、研究開発プログラム、核燃料サイクルの推進状況について紹介した。そして昨今の状況に鑑み、国際的なエネルギー情勢の不安定さは今後も大きな懸念材料であるした上で、エネルギーセキュリティ確保の必要性ならびに2050年温室効果ガス排出量実質ゼロの達成という目標に向け、低炭素エネルギーの最大限の利用が欠かせないと指摘。「こうした問題解決に大きく貢献するのが原子力」と強調した。その上で、日本のエネルギー政策の原則である「3Eの実現」を図り、2030年度の電源構成目標である「原子力シェア20~22%」を達成するために、プラント再稼働の早期拡大が必須となると繰り返し言及した。また新井理事長は、資源の有効利用、高レベル放射性廃棄物の減容化、有害度低減等の観点から、「日本は引き続き核燃料サイクルを推進する」とし、国内各電力による軽水炉でのMOX利用計画を説明。最終段階に入った日本原燃の六ヶ所再処理工場とMOX燃料工場の建設状況を紹介した。そして日本の原子力産業界として、「今後も世界の原子力コミュニティと連携しながら、安定供給性、経済効率性、環境適合性を備えた原子力発電の最大限活用のため、核燃料サイクルの確立を図りつつ事業に取り組む」強い決意を表明した。 同セッションでは、国際原子力機関(IAEA)のラファエル・マリアーノ・グロッシー事務局長がビデオメッセージを寄せたほか、OECD原子力機関(NEA)のダイアン・キャメロン部長、欧州委員会(EC)のマイケル・ハベル部長、各国代表(英国、米国、フランス、中国)が登壇した。新井理事長はGLOBAL2022全体の議論を振り返り、「昨年であれば脱炭素が第一の優先課題だったが、ロシアによるウクライナ侵攻の影響を受け、エネルギーの安全保障こそが国家の安全保障と認識されるようになった。今や各国では、エネルギー自給率の向上やエネルギーの安定供給が最優先課題のようだ」と指摘。こうした潮流の中で「数多くの国々で原子力の重要性が見直され、原子力推進政策が進められている」、「フロントエンドでのロシア依存低減や、資源の有効利用のためにも、核燃料サイクルの重要性が増している」との見解を示した。
13 Jul 2022
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アジア諸国の若手研究・技術者、学生らが参集し原子力・放射線利用について情報・意見交換を行う「アジア若手原子力シンポジウム」(原子力委員会主催)が7月10 日に開幕した。同シンポジウムはオンライン形式による開催で、11日までの2日間、インドネシア、カザフスタン、タイ、バングラデシュ、フィリピン、ベトナム、マレーシア、日本、モンゴルなどから40歳未満の若手社会人・学生らが集まり議論に臨む。会期初日の10日には、一般聴講者を含め約100名参集のもと、グループディスカッション「カーボンニュートラルと原子力」が行われた。討論に先立つ基調講演で、東京大学大学院工学系研究科准教授の小宮山涼一氏が、昨今の日本における化石燃料輸入増に伴う電力価格の上昇傾向や電力供給予備率確保の厳しい見通しを示し、現在、原子力発電所の再稼働が将来に向けた脱炭素化とともにエネルギー安全保障を達成する上での重要課題の一つとなっていることを強調。さらに、カーボンニュートラル実現に向けた視点として、「S+3E+R」(安全、安定供給、経済性、環境適合性、レジリエンス)を掲げた上で、「これらを同時達成するエネルギー源は存在しない」と述べ、各資源・技術の長所・短所を踏まえたエネルギーベストミックスを図っていく重要性を説いた。また、元インドネシア原子力庁(BATAN)長官のジャロット・スリスティオ・ウィスヌブロト氏は、同国の2060年までのゼロエミッション電源構想を披露。同氏の説明によると、太陽光発電の大幅拡大とともに、早ければ2045年にも地震によるリスクが比較的低いカリマンタン島西部を立地候補に原子力発電の導入を見込んでおり、2019年に行った調査で約9割の住民が賛成しているという。基調講演を受け、若手参加者らは6名ごとの4グループに分かれディスカッション。各国におけるエネルギー政策や化石燃料への依存状況、福島第一原子力発電所事故の影響、小型モジュール炉(SMR)の可能性などに関して議論された。ディスカッションの成果発表で、パブリックアクセプタンス(PA)についても積極的に意見が交わされていたことから、講評に当たった小宮山氏は、「PAは原子力を進める上で避けられない課題だ」と述べ、教育の役割や科学的根拠に基づく意思決定プロセスの重要性を示唆した。同シンポジウムでは11日、放射線利用や核セキュリティをテーマに議論が行われている。
11 Jul 2022
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日本学術会議主催の「安全工学シンポジウム」が6月29日~7月1日、オンラインで開催された。同シンポジウムは、関連学協会の共催により、毎年、「国民安全の日」(7月1日)の時期に行われているもの。シンポジウム初日の6月29日には、パネルディスカッション「リスク学の歴史・展開・社会実装」を実施。リスク概念の変遷をたどりつつ、リスク評価、リスクコミュニケーションのあり方などを巡り意見が交わされ、3日間にわたる工学各分野の安全に係る議論に先鞭をつけた。同パネルで座長を務めた岸本充生氏(大阪大学データビリティフロンティア機構教授)によると、1950年代に国際放射線防護委員会(ICRP)がリスク概念を導入し、原爆被爆生存者の疫学調査に基づく発がんリスクの定量化を実施。60年代からは英国や米国で原子力発電所を対象とした確率論的リスク評価(PRA)の手法開発が進められ、70年代からは健康リスク分野、特に発がんに係る定量的なリスク評価手法が導入され始め、「1960~90年代にリスク学が興隆した」という。自然災害の甚大化やテロの脅威など、昨今、リスク概念は一層多様化しており、同氏は、「リスク学の歴史は『守りたいもの』、『脅かすもの』の拡大の歴史だ」と説いた。また、リスク評価に関連し、米田稔氏(京都大学大学院工学研究科教授)は、「リスク比較の重要性を行政や市民が認識した」事例を2つ紹介。一つは、新型コロナのワクチン接種に関し、「接種した場合の副作用リスク」と「接種しない場合の感染リスク」を比較したというもので、東京都の2回目ワクチン接種率(2022年6月時点)が50歳以上で90%だったのに対し、40歳代以下では80%前後だったことから、「若い世代は高齢の世代に比べ、感染リスクよりも副作用リスクの方を大きく認識したのでは」と推察。もう一つは、コロナ拡大下、洪水による避難勧告(法改正により現在は「避難指示」に一本化されている)を受け、住民が「自宅に留まることによる被災リスク」と「避難所における感染リスク」を比較し行動したというもの。こうした事例を通じ、米田氏は、死亡リスク、生活の質低下のリスク、災害リスク、経済的リスクなど、トレードオフ関係ともなる「異なる価値」に基づくリスク比較が必要だとした。これに対し、岸本氏は、夏季の学校における生徒のコロナ対策と熱中症対策のトレードオフ関係を例に、「リスクの定量的評価が難しい」とした上で、ステークホルダーである保護者や地域の人たちの話をまず聞くなど、「意思決定のプロセス」の重要性を繰り返し強調。化学物質のリスク管理を専門とし基準値の設定に関する著書を持つ小野恭子氏(産業技術総合研究所安全科学研究部門主任研究員)は、「ALARA」(As Low As Reasonably Achievable:合理的に達成可能な程度に低いならば許容しうるリスク)の考え方に言及し、「他分野の事例を広く知ることも重要」と指摘した。高レベル放射性廃棄物の処分地選定に向けて文献調査が進む寿都町で「対話の場」のファシリテーターを務める竹田宜人氏(北海道大学大学院工学研究院客員教授)も登壇し、リスクコミュニケーションのあり方について発表。福島第一原子力発電所事故発災時の被災地の状況を振り返り、「『毎日の生活が大事と思っている人』、『将来世代の健康影響が大事と思っている人』、それぞれ持っている価値観は皆違い、どうしても定量的な比較はできない」とした上で、「意思決定に係るプロセスの大事さを理解できる社会」を構築する重要性を主張。同氏がナッジ(チラシ配布や映像などを通じて人の感情に働きかけ“何となく”行動を促す行動科学の手法)の有効性を提案したのに対し、「一つの価値観を指向した説得のための手段」に凝り固まってしまうことを危惧する意見も出された。討論を受け、これまでも「リスク共生社会の構築」を標榜し意見を述べてきた野口和彦氏(横浜国立大学リスク共生社会創造センター客員教授)がコメント。同氏は、「人間社会はそれぞれの価値観で動いているので整合させることが難しい。これを前提に、意思決定をするため、どのようなリスクを考えておけばよいのか、整理しておくことが重要」と述べた。
07 Jul 2022
2004