企業と学生の採用・就職活動支援と原子力産業界への理解向上を目的とした「エネルギー未来フォーラム『原子力産業セミナー2024』」(主催=原産協会/関西原子力懇談会)が10月15日、東京都立産業貿易センター(東京・港区)で開催され、企業・機関42社が出展し、258名(速報値、オンライン参加の31名を含む)の学生らが訪れた。主に2024年卒の大学生・大学院生・高専生が対象。同セミナーは例年同様、大阪でも開催(10月29日)される予定で、東京会場に参加した企業・機関も含め34社が出展する。いずれの会場とも参加企業・機関数は昨年度を上回り、東京会場の来場者数はおよそ3割増となった。ブースで説明に当たるBlossom Energy・濱本CEO(左)と同・近岡COO今回、初参加の(株)Blossom Energyは、革新炉研究開発に取り組む設立から間もないベンチャー企業。日本原子力研究開発機構で20年間にわたり高温ガス炉の運転・保守・研究開発に従事してきたというCEOの濱本真平氏は、かつて指導を受けた上司の気概を回顧しながら、「人が減ってしまえばどんな産業も衰退する」との思いを強く感じ後進の育成を目指してセミナーに出展したと話している。放射線検出機器を手がけるセーコー・イーアンドジー(株)は今回、2年ぶりの参加。学生の頃、セミナーに参加したという担当者もブースに立ち、同社の事業に対し機械関係、食品関係他、幅広い分野の学生から関心が寄せられており、特に、小惑星探査機「はやぶさ2」が小惑星「リュウグウ」から採取したサンプルの分析など、大型プロジェクトへの関わりに「反応がよかった」と印象を語った。初回(2006年度)からセミナーに参加している原子力発電環境整備機構の担当者は、今回の傾向に関し、「例年と比べ、原子力関係の学生が多く文科系は少ない」、「学校の授業で地層処分について聞き知っているという学生も増えてきた」などと話している。セミナーに訪れた原子力専攻の学生3名グループ(いずれも学部3年生)に話を聞いたところ、Aさん 普段、耳慣れない企業もあり、色々なブースを回り知識を深めていきたいBさん 新型炉、SMR (小型モジュール炉)、高速炉に関する話も聞けて、ためになったCさん 原子力に関する知識を一般に提供する場が必要だと思う――などと語った。
17 Oct 2022
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九州電力は10月12日、川内原子力発電所1・2号機(PWR、各89.0万kW)の40年超運転に係る認可申請を原子力規制委員会に提出した。川内1・2号機はそれぞれ、2024年7月、2025年11月に法令で定める40年の運転期間を満了することから、同社では2021年より順次、両機の運転期間延長認可申請に必要な特別点検を進め、運転開始後60年時点においても問題ないことを確認。20年間の運転期間延長に向けて認可申請を行ったもの。同社では、「今後の国の審査に真摯にかつ丁寧に対応するとともに、地域の皆様に安心し信頼していただけるよう、積極的な情報公開に努めていく」とコメントしている。〈九州電力発表資料は こちら〉国内原子力発電プラントの40年超運転に係る認可申請は、既に原子炉設置変更許可が得られている関西電力高浜1・2号機、同美浜3号機(2021年夏に再稼働)、日本原子力発電東海第二と合わせ計6基となる。川内1・2号機が立地する鹿児島県の塩田康一知事は、10月14日の記者会見で、運転期間延長の認可申請に係る九州電力の地元対応に関し「特段、何らかの同意が求められるといった法令上、協定上の義務はない」と現状を首肯する見方を示した上で、今後、県が設置する専門家会合の技術的検証結果を踏まえ意見を述べていくとした。現在、国内では既設炉を最大限活用すべく、現行の運転期間制度の見直しに向けた動きが本格化しつつあり、先般、行われた資源エネルギー庁と規制委員会との意見交換で、それぞれ利用政策、高経年化対策に係る法体系の中で検討を進めていくことが確認された。これに関し、西村康稔経済産業相は、同日の閣議後記者会見で、今冬の厳しいエネルギー需給見通しを危惧しながら、「年末に具体的結論が得られるよう、引き続き専門家の意見を受けながら利用政策の観点からの検討を深めていきたい」と述べた。
14 Oct 2022
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日本原子力研究開発機構は10月14日、廃止措置が進められている「もんじゅ」の燃料体取り出し作業をすべて完了したと発表した。〈原子力機構発表資料は こちら〉同機構が2017年に原子力規制委員会に提出した「もんじゅ」の廃止措置計画で、2047年度までにわたる全体工程は4段階に分かれており、燃料体の取り出しは、そのうちの第1段階(2018~22年度)に実施する主要作業。廃止措置開始時の燃料体の装荷・貯蔵状況は、原子炉容器370体、炉外燃料貯蔵設備160体で、このほど、その計530体が燃料池と呼ばれる水中貯蔵設備への移送を完了した。原子力機構では、今後の「もんじゅ」廃止措置に向け、「安全確保を最優先に、立地地域ならびに国民の皆様の理解を得ながら着実に進めていく」とコメント。続く第2段階(2023年度~)では、ナトリウム機器の解体準備に入る。
14 Oct 2022
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総合資源エネルギー調査会の原子力小委員会(委員長=山口彰・原子力安全研究協会理事)は10月13日、安全性向上の取組を中心に松久保肇委員(原子力資料情報室事務局長)他よりヒアリングを行った。同委員会は、前回9月22日の会合で示した中間論点整理の中で、「『安全性が最優先』との共通原則の再確認」を第一に掲げている。〈配布資料は こちら〉松久保委員は、現在、同委員会下のワーキンググループで検討中の革新炉が備える受動的安全機能(炉心冷却にポンプを使わないなど、動的機器によらず自然法則を安全機能に採用する概念)の有効性に関し、福島第一原子力発電所事故発生時の1号機非常用復水器(IC)による冷却機能が喪失したことを例に、見直す必要性を示唆。既設原子力発電所の運転期間延長に関しては、「安全最優先の原則に照らして古い炉を使う妥当性を考えるべき」と指摘するとともに、設備利用率向上の面からも近年の原子力発電所の稼働状況低迷から高経年プラントの活用に疑問を呈した。また、専門委員の電気事業連合会・松村孝夫原子力開発対策委員長(関西電力副社長)は、新たな安全マネジメント改革の取組として、電力各社のCNO(原子力部門の責任者)らで構成する「安全マネジメント改革タスクチーム」の設置について紹介。事業者ごとに組織文化や組織構成が異なる状況に鑑み、業界横断的な情報共有・横展開を強化すべく、「各社のCNO同士で議論しトップが関与することで迅速な改善につなげていく」という設置目的を強調した。さらに、原子力安全推進協会(JANSI)の山崎広美理事長は、原子力産業界の自主規制組織として取り組むピアレビューなどの活動状況を紹介。同氏は、「今、原子力発電に対する大きな期待が寄せられているが、安全性・信頼性のあくなき追求なくしてこの期待に応えることはできない」との認識のもと、引き続き福島第一原子力発電所事故の教訓を忘れず、自主的・継続的な安全性向上に向けた取組が緩まぬよう事業者を厳しく牽引していく姿勢を示した。電事連やJANSIによる取組に関し、専門委員として出席した原産協会の新井史朗理事長は、「自主的・継続的な安全性向上に向け、事業者同士の連携、独立した外部組織との連携は大変有効」と発言。他の委員からは、運転期間延長に伴う経年劣化評価におけるIoT(Intrnet of Things、モノのインターネット)の活用、JANSIの活動に係わる情報発信・指標の設定などに関し意見が出された。松久保委員が昨今のウクライナ情勢にも鑑み損害賠償の法体系にも言及しながら「原子力関連施設への攻撃は想定外とはいえない時代にある」と危惧したのに対し、委員からは、事業者と国家防衛組織との連携体制に係る情報公開の要望、次期G7議長国として日本が重要インフラに対する攻撃阻止に関し対応をリードすべきとの意見があった。
13 Oct 2022
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三菱総合研究所は10月7日、「カーボンニュートラル時代の長期的な原子力利用のあり方」との提言を発表した。7月発表の同社の提言「2050年カーボンニュートラルの社会・経済への影響」では、「長期的な目線に立ち原子力というオプションを『日本に残す』というメッセージを明確に発することが重要となる。そのためには、技術・人材の維持、そして原子力自体のイノベーションが必要」と述べられている。今回の提言では、それを具体化するものとして、ウクライナ情勢に伴う世界のエネルギーリスクの顕在化や、脱炭素化とエネルギー安全保障の両立に向けた動きの加速化をとらえ、2050年以降も見据えた原子力利用のあり方として、短期視点 規制基準に適合した既存原子力発電所を再稼働し、電力の安定供給に寄与すべき中期視点 2050年までは原子力利用を継続すべき長期視点 2050年以降は、2040年頃を目途に代替する他の脱炭素技術の見通し・安全保障動向等から、その利用方針(拡大、維持、卒原子力等)を改めて判断すべき将来の選択肢の一つとすべく、水素・アンモニア・CCS(CO2回収・貯留)等の技術と同様、原子力イノベーションも進めるべき――との考えを提示した。加えて、「原子力利用のあり方を曖昧なままにしておけば、技術・人材・サプライチェーンが弱体化し、2050年までの維持は難しく、さらには、原子力利用を選択肢として残すことは非現実的となる」と、警鐘を鳴らしている。2050年時点での原子力の必要量について、今回の提言では、水素・CCS等の脱炭素技術の開発の不確実性の補填多様な供給力原子力の安全基盤(技術・人材)維持――の3つの観点で試算。設計や高度な設備製造に係る技術・人材・サプライチェーンの維持については、同社による調査結果などに基づき、運転・保守のみならず、設計・建設に係わる固有技術を継承すべく「今後数年に1基程度の建設が必要」と指摘。総合的に勘案し、「少なくとも発電電力量の10~15%程度を原子力が担うことが現実解」と述べている。原子力の社会受容に関するアンケート結果、原子力の活用に肯定的な見方が増加傾向にある(三菱総研発表資料より引用)今回の提言発表に際しては、全国30,000人を対象とする独自のアンケート調査(2022年6月)も実施された。それによると、原子力を「積極的に活用した方がよい」、「活用した方がよい」との回答割合が各年代とも、この2年間で増加していたが、福島第一原子力発電所事故の経験やウクライナ情勢に伴う不安感なども踏まえ、提言では、「安全性の向上、信頼性の醸成に向けた継続的な取組は不可欠だ」と述べている。さらに、原子力業界に対する信頼に関しても、別途、独自のアンケート調査を実施しており、調査結果の分析から、「多様な社会の思い・価値観を適切に汲み取りながら、これに応える業界としての姿勢を示し続けることが信頼醸成の第一歩」と指摘している。
12 Oct 2022
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技術イノベーションによる気候変動対策について、世界の産学官のリーダーらが話し合うICEF(Innovation for Cool Earth Forum、運営委員長=田中伸男・元国際エネルギー機関〈IEA〉事務局長)の年次総会が10月5、6日、都内のホテルで開催された(オンライン併催)。ICEFは安倍晋三元首相の提唱により2014年以降、毎年秋に年次総会が行われており、今回、87の国・地域の政府、国際機関、産業界、学会から約1,600名が参集。「危機の時代における低炭素イノベーション」をメインテーマに、政策イノベーション、CO2除去技術、原子力システム、重要金属・鉱物の安定供給など、幅広い議論が展開された。開会に際し、西村康稔経済産業相ら、日本政府関係者による挨拶(ビデオメッセージ)に続き、ICEF運営委員長の田中氏がIEA事務局長のファティ・ビロル氏と対談(事前収録ビデオの上映)。ビロル氏は、昨今のウクライナ情勢を踏まえ「われわれはエネルギー危機の真っただ中にいる」との認識を示した。その上で、ICEF立上げの趣旨に立ち返り「エネルギー安全保障、気候変動への対応、産業政策の3つが揃うことで非常に強力な組み合わせとなる」と述べたほか、1970年代の石油危機からの立ち直りも省み、「今はクリーンエネルギー技術が気候変動問題解決に向けたカギとなる『エネルギーの歴史における転換点』だ」と強調。2日間の議論に先鞭をつけた。2日目の「持続可能な原子力システム」に関するセッションでは、駐日米国大使のラーム・エマニュエル氏が登壇し講演。同氏はまず、世界情勢を俯瞰し「エネルギーの安全保障が今後さらに重要となる」とした上で、原子力発電については「温室効果ガス削減に役割を果たす」と、気候変動対策における重要性も強調した。日本に対しては、小型モジュール炉(SMR)開発に係る協力や既設原子力発電所の運転期間延長に向けた動きに期待。その一方で、世界のエネルギー市場における各国投資の脆弱性を、米国の卓上ゲーム「ピックアップスティック」(「将棋崩し」に似たもの)に喩えながら危機感を示し、エネルギー安定供給への担保をより強化していく必要性を指摘した。若手による討論の模様(インターネット中継)ICEFでは、「多様化がイノベーションの源泉」との認識の下、ジェンダー平等と若手の参画を推進している。今回の年次総会でも、サイドイベントとして初日の夕刻、若手専門家によるディスカッションが行われ、途上国協力、食料安全保障、教育・コミュニケーションの課題にもわたり活発な意見が交わされた。田中氏は、総会終了後の記者会見で、今回、登壇したパネリストについて、「女性の占める比率が半数を超えたほか、各セッションに若い人を必ず一人は入れるようにした」とした上で、今後も若手のSNS活用にも留意しオンライン参加の方法を工夫していく考えを述べた。
07 Oct 2022
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東京電力は9月30日、福島第一原子力発電所で発生するALPS処理水((トリチウム以外の核種について環境放出の規制基準を満たす水))の処分に係る環境モニタリングの一環として、海洋生物の飼育試験を開始した。飼育水槽にはライブカメラが設置され、ウェッブサイトでも見ることができる(夜間は照明を消灯)。〈東京電力発表資料は こちら〉政府は2021年4月、ALPS処理水を来春を目途に海洋放出する方針を決定。これを受け、東京電力は「海洋放出に当たっては、法令に基づく安全基準等の遵守はもとより、関連する国際法や国際慣行に基づくとともに、人および環境への放射線影響評価により、放出する水が安全な水であることを確実にして、公衆や周辺環境、農林水産物の安全を確保する」との基本姿勢の下、モニタリングの拡充・強化、タンクからの漏えい防止、情報発信と風評抑制、適切な賠償に向けた考え方を示した。今回始まった飼育試験では、ALPS処理水の海洋放出開始に先立ち、「海水」と「海水で希釈したALPS処理水」の環境下で、海洋生物の生育状況を比較するとともに、生体中のトリチウム濃度を分析・評価。双方に有意な差がないことを確認する。当面、飼育試験を行うのは、魚類、貝類、海藻類として、それぞれヒラメ(幼魚750尾程度)、アワビ(稚貝750個程度)、アオサ・ホンダワラ(数kg程度)が対象。飼育環境は、発電所周辺の海水、発電所周辺の海水で希釈したALPS処理水とで各々水槽を設け比較を実施する。海水で希釈したALPS処理水については、トリチウム濃度1,500ベクレル/リットル程度(実際の放出設備での希釈後に相当)の水槽の他、11月からは同30ベクレル/リットル程度(放水トンネル出口周辺に相当)の水槽も設け追加的な飼育試験を行う。飼育試験の実施に際しては、2022年3月より社外専門家による技術的サポートも得ながら、モックアップ水槽での練習などを通じノウハウの習得に努めてきた。飼育試験の取りまとめについては、今後、半年間の試験データを収集し、過去の知見との整合性などを評価した上で、年度末に公表される予定。
06 Oct 2022
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原子力規制委員会は、10月5日の定例会合で、現在、総合資源エネルギー調査会で検討が進められている原子力政策に関する課題のうち、運転期間延長と廃炉円滑化についてヒアリングを行った。会合では、資源エネルギー庁電力・ガス事業部長の松山泰浩氏が同調査会の原子力小委員会における検討状況を説明。同小委員会では9月22日、原子力政策に関する今後の課題を、再稼働への関係者の総力結集運転期間の延長など、既設原子力発電所の最大活用次世代革新炉の開発・建設再処理・廃炉・最終処分のプロセスの加速化原子力発電所の設備容量見通し(資源エネルギー庁発表資料より引用)――に整理。現行の運転期間制度は、原子炉等規制法上「原子力発電所の運転期間は40年とし、1回に限り、20年延長できる」とされている。松山氏は、現行制度を前提とした場合の原子力発電所の設備容量見通しを図示し、40年運転では2070年に、60年運転でも2090年にはゼロとなることから、「将来的に電力の安定供給に支障をきたす」との懸念を示した。2022年6月には国際エネルギー機関(IEA)が、「安全な形で可能な限り長期に運転を継続するために、既存の原子力発電所の運転延長を承認すべき」との政策勧告を発表している。こうした状況をとらえ、同氏は、「原子力の価値の中で『安全』が一番大事という原則のもとで、運転期間の延長に対応する規制についても見直しが必要」との見方を示した。原子力規制委員会・杉山委員(インターネット中継)これを受け、原子炉安全工学を専門とする杉山智之委員は、「必要性を背景とした運転期間延長が議論されているが、それを根拠として60年超運転などの『お墨付き』を与える規制であってはならない。安全性が確保されなければ、40年プラス20年の運転延長であっても認められない」と指摘。さらに、高経年化評価に関し、「必ずしも個々の材料について性能を確認すればよいのではなく、システムとして、設計のコンセプト自体が古くなっているのをどう見ていくか」などと述べ、今後、不確実性を伴う多くの技術的課題について議論していく必要性を示唆した。山中伸介委員長は、会合終了後の記者会見で、資源エネルギー庁より「運転期間に係る方針は利用政策側の法体系の中で検討される」ことが確認できたとした上で、今後、規制側として、「高経年化した原子炉の安全確認のための規制について明確化する。運転期間にかかわらず、厳正な規制が歪められないよう抜けのない法的仕組みを整備する」と、繰返し強調。原子力規制庁に対し制度設計に向けて指示を出したことを明らかにした。一方、廃炉円滑化について資源エネルギー庁は、原子力小委員会下の廃炉等円滑化ワーキンググループで議論されている中間報告に、2020年代半ば以降の原子力発電所の廃止措置本格化を見据え、日本全体の廃止措置の総合的なマネジメント事業者共通の課題への対応資金の確保・管理・支弁――を担う認可法人の設立を盛り込む見通しであることを説明した。
05 Oct 2022
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日本エネルギー経済研究所主催の「国際エネルギーシンポジウム」が9月27日に開催され(登壇者を除きオンライン)、国際エネルギー機関(IEA)のファティ・ビロル事務局長が講演を行った。ビロル事務局長はまず、ウクライナ情勢に起因した欧州を中心とする石油・ガス市場の混乱について説明。その上で、「世界は今、未曾有のエネルギー危機に直面している」との認識を示した。IEAでは毎年、世界のエネルギーに関する長期的動向を予測・分析した「ワールド・エナジー・アウトルック」(WEO)を公表している。昨今のエネルギー情勢を俯瞰し、同氏は、「世界で電気にアクセスできない人々の数は年々減少してきたが、今年は2,000万人も増える」との見通しを示した。また、1970年代の石油危機を振り返り、「多くの国々でインフレ・不況が起きたが、同時にエネルギー政策への関心が大きく高まった」と回顧。自動車の燃費基準見直しにより走行100km当たりのガソリン消費量が18リットルから11リットルに改善した事例をあげたほか、当時の原子力導入機運の高まりに関し「現在、世界で稼働する原子力発電所のおよそ4割は、石油危機への対応として建設されたものだ」と述べた。さらに、「現在のグローバルなエネルギー危機は、クリーンで安全なエネルギーへの転換点となる」と指摘。IEAは3月、欧州各国のロシアに対するLNG依存を懸念し、既存の原子力発電所の閉鎖時期先送りなどを提言した。これを受けて、ベルギー、ドイツでは、廃止を予定していた原子力発電所の運転期間延長や利用可能な状態での維持といった動きも出ている。ビロル事務局長は今回、9月下旬からの環境問題関連の会議を集中開催する「東京GX(グリーン・トランスフォーメーション)ウィーク」に合わせて来日。シンポジウムの前日には、岸田文雄首相と面談し、IEAの諸活動への貢献に対する謝意を伝えるとともに、日本における原子力活用に向けた取組やGXのイニシアティブを歓迎した。同氏は、講演の結びに、日本に対し、2023年のG7議長国として、途上国のエネルギー・食糧事情も踏まえ「緊張が高まる地政学的な状況の是正」に向けた手腕発揮に期待を寄せた。ビロル事務局長は10月5、6日、世界から2,000人以上の有識者が参集し技術イノベーションによる気候変動対策について議論する国際会合「ICEF」(東京)に登壇する予定。
04 Oct 2022
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演説を行う岸田首相(衆院本会議にて、インターネット中継)10月3日に開会した臨時国会で、岸田文雄首相は所信表明演説を行った。冒頭、岸田首相は、世界規模の物価高騰、厳しさを増す安全保障環境、感染症危機、エネルギー・食糧危機、温暖化による気候危機、ロシアによるウクライナ侵略、揺らぐ核不拡散体制など、内外を巡る情勢に対し、「今、日本は国難ともいえる状況に直面している」と危惧。その上で、「世界が、そして日本が直面する劇的な難局を乗り越え、わが国の未来を切り拓くため、政策を一つ一つ果断にかつ丁寧に実行していく」との決意を述べた。これに関し、岸田首相は、「先日(9月17日)訪問した福島でその思いを一層強くした」と強調。双葉町の役場新庁舎や「福島国際研究教育機構」立地予定地(浪江町)の視察などを通じ、「多くの皆様の力により、福島は着実に復興に向けて歩みを進めている」とした。双葉町では8月末に初めて居住を前提に避難指示が一部解除されている。また、社会課題を成長のエンジンへと転換し持続的な成長を促す「成長のための投資と改革」に向けて、官民の投資を加速させる科学技術・イノベーションスタートアップ(起業支援)グリーン・トランスフォーメーション(GX)デジタル・トランスフォーメーション(DX、デジタル田園都市国家構想推進)――の重点4分野を提示。GXについては、「年末に向け、経済、社会、産業の大変革であるGX推進のためのロードマップの検討を加速する」とし、エネルギーの安定供給の確保に向けて、「原子力発電の問題に正面から取り組む」と明言。十数基の原子力発電所の再稼働、新たな安全メカニズムを組み込んだ次世代革新炉の開発・建設について、年末に向けて専門家による議論の加速を指示したことを改めて述べた。ウクライナ情勢に関しては、「ロシアの暴挙は国際秩序の根幹を揺るがすもの」と厳しく非難。引き続き、対露制裁、対ウクライナ支援を強力に推し進めるとした。また、8月に日本の首相として初めて出席したNPT運用検討会議を振り返り、「ロシアの反対により成果文書が採択されなかったことは極めて遺憾」と述べ、一般討論演説で提唱した「ヒロシマ・アクション・プラン」に沿って取組を進め、NPT体制を維持・強化することで、「核兵器のない世界」に向けた現実的なアプローチを図っていくとした。
03 Oct 2022
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原産協会の新井史朗理事長は9月30日、記者会見を行い、同月22日に行われた総合資源エネルギー調査会の原子力小委員会で専門委員として発言した早期再稼働、運転期間の延長、新増設・リプレースについて改めて紹介。同小委員会は、西村康稔経済産業相が8月に示した「日本のエネルギーの安定供給の再構築」を受け、再稼働への関係者の総力結集運転期間の延長など、既設原子力発電所の最大活用次世代革新炉の開発・建設再処理・廃炉・最終処分のプロセス加速化――について検討を行っている。新井理事長は、「今後、原子力がその価値を十分に発揮できるよう、様々な視点から議論が進むことを期待する」と強調した。次世代革新炉の開発に関連し、9月29日に三菱重工業がPWRを運転する4つの電力会社(北海道電力、関西電力、四国電力、九州電力)と共同で革新軽水炉「SRZ-1200」の基本設計を進めると発表したこと〈既報〉については、原子力を持続的に活用していく上での必要性を認識し、「人材育成・確保という観点でもよい影響を与える」などと歓迎。一方で、記者から今後の建設具体化に関して問われ、立地点も見通した開発プロジェクトを持つ北米と比べやや遅れをとっている日本の状況に懸念を示したほか、事業の予見性を確保していく必要性、サプライチェーンに与える好影響にも言及した。また、運転期間の延長については「世界的な潮流」と強調。米国で進められている80年運転の動きにも関連し、運転期間延長の判断に係る不確かさについて問われたのに対し、「運転実績が積み上がれば積み上がるほど、先の見通しがつきやすくなる」と述べ、不確かさの幅も含めた判断の必要性を示唆した。今回、新井理事長は、9月26~30日にウィーンで開催されたIAEA通常総会へのオブザーバー出席から帰国直後に会見に臨み、今次総会の所感として、「多くの国からウクライナ原子力施設に対する軍事行動への非難と、事故を未然に防ぐためのIAEAの役割に対する期待が述べられ、IAEAの取組の重要性がこれまでになく高まっていることを実感した」と述べた。その上で、改めて「ウクライナの原子力施設に対する軍事行動や、ウクライナの原子力安全を脅かすすべての行為」への断固たる反対を明言した。
03 Oct 2022
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三菱重工業は9月29日、PWRを運転する4つの電力会社(北海道電力、関西電力、四国電力、九州電力)と共同で、将来にわたる日本のエネルギー安定供給に向けて、従来のPWRよりもさらなる安全性向上が図られた革新軽水炉「SRZ-1200」のプラントのコンセプトを確立し、今後、基本設計を進めていくと発表した。〈三菱重工発表資料は こちら〉同社の発表によると、「SRZ-1200」は120万kW級の発電炉で、安全系設備の強化、地震・津波などの自然災害への耐性、テロ・不測事態に対するセキュリティ強化といった安全性・信頼性向上について新規制基準を踏まえ開発を進めている。新たな安全メカニズムとしては、プラントの状態に応じて自動作動する設備(パッシブ設備)となる三菱重工独自の高性能蓄圧タンク(窒素ガス加圧による自動炉心注水)やコアキャッチャー(溶融デブリを格納容器内に確実に保持・冷却する設備)を設置するほか、万一重大事故が発生しても放出される放射能量を低減し影響を発電所敷地内に留めるためのシステム設計にも取り組む。さらに、再生可能エネルギーなど、他電源の電力量変化に柔軟に対応可能な出力調整運転や水素製造も視野に入れていく。開発を進める革新軽水炉の名称“SRZ”には、S:Supreme Safety(超安全)、Sustainability(持続可能性)R:Resilient(しなやかで強靭な)Z:Zero Carbon(CO2排出ゼロ)の意味が込められている。三菱重工が標榜する原子力技術開発の展望(三菱重工発表資料より引用)三菱重工では、これまでも原子力技術の継続的な利用に向け、既設軽水炉の再稼働推進とともに、次世代軽水炉、将来炉(小型炉、高温ガス炉、高速炉、マイクロ炉)、核融合炉の開発・実用化を目指し、短・中・長期にわたる開発計画を策定し取り組んできた。総合資源エネルギー調査会の原子力小委員会では8月に、「カーボンニュートラルやエネルギー安全保障の実現に向けた革新炉開発のロードマップ」(骨子案)を取りまとめ、2050年以降を見据えた革新軽水炉、小型軽水炉、高速炉、高温ガス炉、核融合炉の各炉型に係る研究開発、建設・運転に向けた技術ロードマップとともに、原子力サプライチェーンによる市場獲得戦略を示している。原産協会の新井史朗理事長は、30日に行われた月例の記者会見で、次世代炉の開発に関し、中長期も見据え「原子力を最大限活用していく」ことへの意義を強調した。
30 Sep 2022
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総合資源エネルギー調査会の基本政策分科会(分科会長=白石隆・熊本県立大学理事長)が9月28日に開かれ、エネルギー供給体制の見直しに向け、議論を開始した。これは、岸田文雄首相の指示を受け8月の「GX(グリーントランスフォーメーション)実行会議」で西村康稔経済産業相が報告した「日本のエネルギーの安定供給の再構築」を受けたもの。〈配布資料は こちら〉冒頭、挨拶に立った西村経産相はまず、「世界のエネルギー情勢はロシアのウクライナ侵略によって一変した」などと、昨今のエネルギーを取り巻く地政学的状況の変化を強調。さらに、「今後、エネルギーの争奪戦が激化する」との危機感に立ち、「エネルギーの安定供給の再構築を行うことが経産省の最重要ミッション」との強い使命感を認識した。その上で、「日本のエネルギーの安定供給の再構築」で示した今冬の厳しい電力需給見通しを見据えた「足元の対応」や、原子力の安全第一での運転期間延長や次世代革新炉の開発・建設などを課題としてあげた「中長期の対応」について、年末までの具体的結論に向け検討を加速化していくことを改めて明言。委員らに対し忌憚のない意見を求めた。2030年度エネルギーミックスの進捗状況(資源エネルギー庁発表資料より引用)基本政策分科会では、昨夏にかけて「第6次エネルギー基本計画」(2021年10月閣議決定)の原案取りまとめに向けて議論。今般、資源エネルギー庁は、新たな議論の皮切りに際し、昨今のエネルギーを巡る状況を説明。その中で、立地地域のステークホルダーなどから現行のエネルギー基本計画の早期見直しを求める意見も出ていることを述べた上で、エネルギー政策の基本的視点となる「S+3E」(安全性、安定供給、経済効率性、環境への適合)を踏まえた「2030年度エネルギーミックス」の進捗状況を図示した。また、日本エネルギー経済研究所とデロイトトーマツコンサルティングがそれぞれ、2050年までの脱炭素化に向けたモデル試算、電力コストの変化がもたらす経済的影響について発表。エネ研は、将来の原子力発電設備容量として、現状の10基に留まるケース、2030年までに現時点で新規制基準をクリアした全17基が運転するケース、建設中のプラントも含めた全36基が運転するケースの他、2050年に向けては全36基が80年まで運転期間を延長するケースも想定し試算。その上で、「2050年カーボンニュートラル」の実現に向けて、「原子力発電所の運転期間延長の他、変動性再生可能エネルギー(太陽光、陸上・洋上風力)の発電単価をいかに低減させ得るかがエネルギーシステム全体の経済性に大きく影響する」と指摘した。デロイトトーマツは、長期エネルギー分析プログラム「D-TIMES」により2030年までの発電コストへの影響度を化石燃料、原子力、太陽光について感度分析するエネルギーシミュレーションを紹介。脱炭素化の実現と経済活性化の両立に向けて「電力価格の低減のためには電源の多様化を図ることが必要」などと提言した。これを受けて、原子力技術開発の必要性を度々訴えてきた隅修三委員(東京海上日動火災保険相談役)は、先般の六ヶ所再処理工場のしゅん工延期を、核燃料サイクル事業の早期確立の観点から厳しく非難。また、「電力需給がひっ迫したらGXどころではない。大型電源の新設こそが電力の安定供給に不可欠」と、エネルギーインフラに係るスケールメリットの重要性を主張した。総合資源エネ調査会の原子力小委員会では、9月22日の会合で、先の「日本のエネルギーの安定供給の再構築」に関し、原子力政策に係る今後の検討事項として、再稼働への関係者の総力結集運転期間の延長など、既設原子力発電所の最大活用次世代革新炉の開発・建設再処理・廃炉・最終処分のプロセス加速化――をあげ議論を開始している〈既報〉。今後、基本政策分科会では、同調査会下の各小委員会における議論も吸い上げながら、年末の「GX実行会議」への報告に向け検討を進める方針だ。
30 Sep 2022
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関西電力の美浜発電所3号機が9月26日、昨秋より行われていた定期検査の最終段階となる総合負荷性能検査を終了し、11か月ぶりに本格運転に復帰した。〈関西電力発表資料は こちら〉同機は2021年7月、国内初の40年超運転として新規制基準をクリアし再稼働(本格運転入り)。その後、10月にテロ対策となる「特定重大事故等対処施設」(特重施設)の設置期限を迎え定期検査に入っていた。7月28日に特重施設の運用を開始し、このたびの運転再開となった。40年超運転のプラントで、特重施設が運用を開始したのは初のことである。現在、関西電力の原子力発電所では、特重施設の整備が進められている。高浜3・4号機では、それぞれ2020年12月、2021年3月に。大飯4号機では2022年8月に、特重施設の運用が開始された。このほか、40年超運転に係る原子炉設置変更許可が発出された高浜1・2号機では、それぞれ2023年5、6月の特重施設運用開始を目指している。なお、美浜発電所については、同所を対象に、原子力災害対策特別措置法に基づく2022年度原子力総合防災訓練を11月上旬に実施することが、9月28日の原子力規制委員会定例会合で内閣府(原子力防災)より説明された。今回の訓練では、「福井県嶺南を震源とした地震が発生。これにより、運転中の美浜3号機が緊急停止。原子炉冷却材の漏えいが発生するとともに、設備の故障が重なり、蒸気発生器冷却機能、原子炉注水機能を喪失する事象が発生」との想定のもと、県外へも含めた住民避難など、国、地方公共団体、原子力事業者における防災体制の実効性を確認する。〈規制委発表資料は こちら〉
28 Sep 2022
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原子力規制委員会の山中伸介委員長が9月26日、就任会見を行い抱負を述べた。同氏は、2017年9月に委員に就任し、主にプラント関係の審査や検査制度の見直しを担当。2012年9月に発足した同委の初代委員長・田中俊一氏、前任の更田豊志氏を引き継ぎ3代目委員長に就任したのに際し、「前代の2人が築いてきた原子力規制の信頼回復に向けた土台は非常に大きいもので、絶対に潰してはならない。今後も原子力規制庁の職員とともに、その土台の上に新たな信頼回復の山が少しでも築いていきたい」と語った。山中委員長は、「『福島第一原子力発電所事故を決して忘れない』という強い気持ちを持ち、独立性・透明性を堅持し、厳正な原子力規制を遂行していく方針に何ら変わりはない」と、規制委員会の組織理念を繰り返し強調。さらに、「『原子力に100%の安全はない』ということを肝に銘じ、慢心することなく謙虚に規制業務を遂行していく」、「原子力規制のさらなる高みを目指し、変化を恐れることなく改善を続ける」と、常に問いかける姿勢を示した上で、今後の規制委員会の運営に向け、情報発信と対話現場重視の規制規制に関する人材育成――について、近く議論を開始することを明言。また、任期中に核セキュリティと原子力安全に関し、国際機関による外部評価を受ける意向を示した。直近の課題である東京電力柏崎刈羽原子力発電所の核物質防護に係る不適切事案については、組織文化・マネジメントの改善状況に係る見極めの難しさに言及。その上で、「およそ半年程度で委員会での議論ができるのでは」と、同発電所に関し発出されている是正措置命令の解除に向けた見通しを示した。現在、設計・工事計画認可の審査が大詰めとなっている日本原燃六ヶ所再処理工場に関しては、事業者による審査対応の改善を認めつつも、これまで繰り返されてきたしゅん工時期の延期などから、「スケジュール管理に甘さがあるのでは」と指摘。審査完了時期については「見通せない」とした。福島第一原子力発電所の廃炉に向けては、「汚染物の処理・安定化が非常に大事な作業となる。燃料デブリの取り出しは、まず状態を知ることが第一歩」などと述べ、今後、分析作業に係る取組が重要となるものと認識。昨今のエネルギー政策に係る動きに関連し、山中委員長は、「安全に係る第一義的責任は事業者にある。事業者による自主的な改善の取組を阻害する規制であってはならない」、さらに、「エネルギー安全保障を進める『車の両輪』のうち、原子力規制は原子力施設を安全に運用するための『片輪』だと考える」と述べ、推進側とは別に規制側として厳正な姿勢で臨むことを改めて強調した。会見を行う杉山委員また、委員長の交替に伴い、新たに杉山智之委員が就任(山中委員長の就任に伴う委員としての後任で、残任期間〈2025年9月まで〉が任期となる)。同氏は、日本原子力研究開発機構で約30年にわたり主に原子炉の安全性に係る研究に従事し、原子力規制庁への出向経験もある。規制委員会について「2012年の発足当初からずっと経緯を見てきた」とする杉山委員は、既成路線の踏襲とともに「技術的に原子力規制を発展させる」必要性を明言。一例として、事故耐性燃料の導入を「自身の経験を活かせる分野」としてあげる一方、海外の研究炉でしか照射試験が行われてこなかった経緯に忸怩たる思いを述べるなど、国内の安全研究基盤を強化する必要性を示唆した。事故耐性燃料は、燃料の被覆管を金属でコーティングすることなどにより、事故時の事象進展を遅らせ水素発生を抑える安全性を高めた燃料で、国内外で開発が進められている。〈委員長・各委員のプロフィールは こちら〉
27 Sep 2022
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総合資源エネルギー調査会の原子力小委員会(委員長=山口彰・原子力安全研究協会理事)が9月22日に開かれ、8月の「GX(グリーントランスフォーメーション)実行会議」(議長=岸田文雄首相)で西村康稔経済産業相が示した「日本のエネルギーの安定供給の再構築」を踏まえ、原子力政策に関する今後の検討事項を、再稼働への関係者の総力結集運転期間の延長など、既設原子力発電所の最大活用次世代革新炉の開発・建設再処理・廃炉・最終処分のプロセス加速化――に整理し議論した。〈配布資料は こちら〉杉本達治委員(福井県知事)は、昨秋に策定されたエネルギー基本計画を早急に見直す必要性に言及した上で、「今後、GX実行会議で決めていく内容を、わが国のエネルギー政策にどう位置付けていくべきか、政府の考えを明確にすべき」と主張。福井県内では昨夏に国内初の40年超運転として関西電力美浜3号機が再稼働。折しも22日には、同高浜3、4号機の40年以降運転に向けた特別点検の実施が発表されたが、同氏は原子力発電所の運転期間延長に関し、「科学的・技術的な根拠をもとに、規制当局も含め十分に議論すべき」と述べた。また、六ヶ所再処理工場の度重なるしゅん工延期に対し「原子力政策全体への不信につながりかねない」と危惧。「核燃料サイクルの中核を担う施設」の着実な稼働に向け、審査対応を含め政府全体での取組を求めた。運転期間の延長に関し、資源エネルギー庁は今世紀末頃までを見据えた原子力発電所の設備容量の見通しを図示。60年間までの運転期間を想定しても、このままでは設備容量が2045年以降、急激に減少し、2090年にはゼロとなる見通しだ。こうした現状を踏まえ、安全性最優先を大前提とした原子力利用政策の観点から、運転期間など、規制面の制度のあり方に関して、原子力規制委員会に対しコミュニケーションを図っていく方向性が示された。朝野賢司委員(電力中央研究所社会経済研究所副研究参事)は、「革新炉の商用運転には相当の期間を要する」ことから、国際エネルギー機関(IEA)による勧告も踏まえ、運転期間の延長に係る意思決定を第一に据え、既に建設が進められているプラントの運転開始、新増設・リプレースと、時間軸を考慮した進め方を提唱。専門委員として出席した原産協会の新井史朗理事長は、早期再稼働、運転期間の延長、新増設・リプレースについて意見を陳述。運転期間の延長に関し、「取替困難な機器の劣化状況に着目し、科学的・技術的に評価し見極めるもの」とした上で、安定供給確保とともに最も経済的なCO2削減策として「既存の原子炉を最大限に活用する」必要性を強調した。〈発言内容は こちら〉また、同じく電気事業連合会の松村孝夫原子力開発対策委員長(関西電力副社長)は、六ヶ所再処理工場のしゅん工を支援する「サイクル推進タスクフォース」の設置について紹介した。
22 Sep 2022
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原子力規制委員会の更田豊志委員長が9月21日をもって任期満了となり、同日の定例会合後の委員長記者会見(毎週水曜午後に開催)が折しも最後の会見となった。日本原子力研究開発機構で原子炉の安全研究に従事し、旧原子力安全・保安院の高経年化ワーキンググループなどにも参画していた同氏は、委員会発足時の2012年9月、「原子炉に最も近い立場」として委員に選任。主にプラント関係の審査を担当した後、2017年9月に初代委員長の田中俊一氏を引き継いで2代目委員長に就任。都合10年間にわたり委員・委員長を務めた更田委員長は、退任に当たっての所感を問われたのに対し、「率直なところ実感がない。任期を終えるまで、一旦事故が起きれば自身が指揮を執らねばならない。振り返れるようになるのは退任してから」と繰り返し述べ、後任の委員長となる山中伸介委員に常時携行する「防災携帯電話」を引き渡すまで、緊張感を緩めず職務を全うする姿勢を示した(新委員長就任は認証の関係で26日の予定)。規制委員会は9月19日に発足から10年を迎えている。更田委員長は、同委発足時から持ち続けていた意識として、「『規制の虜』になってはならない」、「『安全神話』の復活を許してはならない」の2点をあげ、「その姿勢を貫くことはできたが、緩んだらまた逆戻りする。ずっと注意し続けることが必要」と強調。さらに、委員に就任してから最初の1、2年を振り返り、「新規制基準の策定およびこれに基づく適合性審査を開始した頃(2013年7月)、時間的にも仕事の密度的にも最も厳しい時期ではあったが、自身にとって最も印象に残っている」とした。これまでに審査が申請された原子力発電プラントは計27基で、そのうち再稼働に至ったのは10基。現在も10基が審査途上にあり、新規制基準策定当初から約9年の審査期間を経過したプラントもあるが、更田委員長は「基数を斟酌するものではない」と、予断を持たずに審査に当たってきたこと明言した。直近の課題である東京電力柏崎刈羽原子力発電所の核物質防護に係る不適切事案に関しては、セキュリティ上、情報公開が限られる特殊性にも言及し、「規制側も改めるところが多々あることに気付かされた」と述べ、一例として、追認に甘んじず常に問いかけ続けることの重要性を、「『ちゃぶ台返し』を恐れてはいけない」と、改めて強調。同発電所については現在、法令に基づく是正措置命令を発出し追加検査を進めているが、更田委員長は、「トップマネジメントに関しては明らかに改善の兆しがみられる。是非、この危機感を組織全体に浸透させ改善を進めて欲しい」と期待した。また、今後の課題として、現行の運転期間制度に関連し、審査期間をカウントしないいわゆる「時計を止める」に関して問われたのに対し、「個々の炉によって耐震性など、様々な条件が異なる。高経年化対策の有効性は個別にみるしかない」と回答。次世代革新炉の規制に向けては、各国の動向をウォッチしているとしながらも、「まだ日本では事業者からの発信は何もない。炉型によって千差万別で、まったくアプローチが異なる。個別の炉型に係る提案があって要求水準の策定に当たることとなる」とした。さらに、現在、設計・工事計画認可の審査が進められている日本原燃六ヶ所再処理工場に関連し、使用済燃料の発生量などを踏まえ、将来的に第二再処理工場を検討する必要性を示唆。福島第一原子力発電所の廃炉については、固体廃棄物の保管管理を例に「まだまだこれから難しい問題が残っている」と述べ、引き続き注視していく考えを示した。規制に携わる人材確保に関し、更田委員長は、「技術的能力は最も重要な『基本中の基本』で、発足時に比べ格段に伸びている」とする一方、原子力界全体の課題として採用の難しさを憂慮。「事故の分析を続けることも若手を惹きつける一つの有効な手段」と述べ、地道に取り組んでいく必要性を強調した。
22 Sep 2022
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日本財団は8月31日、全国の17~19歳の男女1,000人を対象に実施したエネルギー問題に関する「18歳意識調査」の結果を発表。昨今の電力需給ひっ迫やウクライナ情勢を背景に、日本のエネルギー事情への関心が高まっている傾向が浮き彫りとなった。同財団は、気候変動・災害、政治・文化、感染症対策、性意識など、時宜を得たテーマを設け、若者を対象としたアンケート調査を随時実施している。今回の調査は、7月29日~8月2日にインターネットを通じて実施。日本のエネルギー事情に関する記述を掲示し質問を行う形式をとっている。例えば、「今夏は、全国的に電力不足が懸念されている。政府は、2022年7月1日から9月末頃まで、全国の家庭や企業に、生活や経済活動に支障のない範囲で節電を要請している」との記述を示した上で、「今夏の電力不足に対する関心度合」について尋ねたところ、55.0%が「非常に関心がある」または「やや関心がある」と回答。「非常に関心がある」との回答は、性別にみると、男性が女性よりも12.5ポイント多かった。さらに、電力の安定供給が難しくなった主な背景に係る認知度・理解度(聞いたことがあり、内容も理解している)の割合は、高い順に、「地球温暖化に伴う平均気温の上昇による夏季のエアコン等の使用の増加」(46.4%)、「東日本大震災の影響による原子力発電所の休止の増加」(39.5%)、「コロナ禍においてライフスタイルが変化する中での電力需要の増加」(33.9%)、「ウクライナ情勢等による火力発電等の燃料調達リスクの上昇」(29.8%)となっている。「2030年の電源構成における原子力発電の比率を20~22%程度」に対する考え(日本財団発表資料より引用)日本のエネルギー政策について、「S+3E」(安全性、自給率、経済効率性、環境適合性)の同時達成を目指す方針を示し考えを尋ねたところ、55.4%が「非常に関心がある」または「やや関心がある」と回答。「非常に関心がある」との回答は、性別にみると、男性が女性よりも11.9ポイント多かった。さらに、全体で、日本の一次エネルギー自給率の低さについては約7割が、「2050年カーボンニュートラル」実現目標については約3割が、それぞれ「知っていた」と回答。エネルギー基本計画で示される「2030年の電源構成における原子力発電比率20~22%」との目標については、「高めるべきである」が17.6%、「賛成である」が43.6%、「下げるべきである」が23.7%、「原子力発電は完全にやめるべきである」が15.1%となった。「高めるべきである」と「賛成である」を合わせた原子力発電規模を維持することに賛成する回答は、性別にみると、男性が女性よりも11.7ポイント多かった。原子力発電比率を「下げるべきである」または「原子力発電は完全にやめるべきである」と回答した人の約6割は「再生可能エネルギーで原子力発電を減らす分を補うことがよい」と回答しており、具体的なエネルギー源として挙げられたのは、太陽光、水力、地熱、バイオマス、陸上風力、洋上風力の順に多く(複数回答可)、全体として「電源の脱炭素化」を求める傾向がみられた。
20 Sep 2022
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会見を行うクライン委員長(東京電力本社にて、インターネット中継)東京電力が設置する外部有識者による諮問機関「原子力改革監視委員会」(委員長=デール・クライン・元米国原子力規制委員会〈NRC〉委員長)が9月15日に開かれ、前回3月の会合で重点課題としてあげられた「継続的な安全性向上の取組」、「統括的視点によるマネジメント」、「組織内部、社会とのコミュニケーション」に対する改善状況について同社より報告を受けた。〈配布資料は こちら〉同委員会は、福島第一原子力発電所事故発生以降、東京電力が「安全意識」、「技術力」、「対話力」を柱に取り組む原子力安全改革の進捗状況について、外部の視点から監視するとともに、随時報告を受け、同社に対し提言を行っている。今回の会合で報告を行った東京電力の小早川智明社長はまず、「福島第一原子力発電所におけるALPS処理水((トリチウム以外の核種について環境放出の規制基準を満たす水))の対応を適切に行うことは、当社の使命『福島への責任』を貫徹する上で極めて重要」と述べ、安全最優先の廃炉作業、地元への迅速かつ的確な情報提供など、引き続きグループ全体を挙げて取り組んでいく姿勢を改めて示した。「統括的視点によるマネジメント」に係る改善の関連で、小早川社長は、昨秋より進めている本社原子力部門の一部機能の現地移転、外部人材の登用など、体制の見直し、現場重視の事業運営に向けた取組状況を説明した上で、「最も重要なのは人。現場のパフォーマンスを最大限発揮するため、一人一人が改めて『安全最優先』を認識することが重要」と強調。今後、累計300名程度の移転を計画している。会合終了後、記者会見に臨んだクライン委員長は、柏崎刈羽原子力発電所における東京電力の取組の焦点として、「建設工事から安全運転に向けたギアチェンジが必要」と助言し、アミール・シャカラミ委員(元エクセロン・ニュークリア社上級副社長)は、安全対策工事の確認を着実に行う必要性を述べた。また、ALPS処理水の取扱いに関して、クライン委員長は、トリチウム水が水と同じ性質を持ち人や特定の生物への濃縮が確認されていないことから、「安全性の問題ではない」と繰り返し述べ、「東京電力がすべきことは、『トリチウムとは何か』について多くの人たちに説明し納得してもらうこと」と指摘。さらに、リスクコミュニケーションが専門の西澤真理子委員(リテラジャパン代表)は、安全が安心につながるよう信頼感を得ることの重要性を強調した。柏崎刈羽原子力発電所における核物質防護などに係る不適切事案に関し、クライン委員長は、安全規制をリードしてきた立場から「非常に残念」と、遺憾の意を表明。「こうした問題が起きると社会の原子力に対する信頼が失墜してしまう。だが人は間違いを起こすもの。何か問題があったときに、それをきちんと直すことが重要」と述べた。クライン委員長は、会合に先立ち柏崎刈羽原子力発電所を視察しており、明日16日には福島第一原子力発電所にも訪れる予定。
15 Sep 2022
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会見を行う高市内閣府科学技術相(内閣府ホームページより引用)総合資源エネルギー調査会の原子力小委員会で8月、革新炉開発の技術ロードマップ(骨子)が取りまとめられたが、内閣府、経済産業省の会議体は9月13日までにそれぞれ核融合、高速炉の実用化に向けた戦略案を相次いで示している。内閣府の統合イノベーション戦略推進会議(議長=松野博一官房長官)は9月12日、核融合の開発促進に向けて、同会議のもと、産業界からの参画も得た有識者会議を設置し検討を進める新たな戦略を決定。高市早苗内閣府科学技術政策担当大臣は、13日の閣議後記者会見で、「研究開発から産業育成を含む推進方策について検討を行い、来春を目途にわが国の戦略を取りまとめていく」と述べた。ITER計画などの国際的取組も進んでいるが、高市大臣は、「既に協調から競争の時代に入っている」と、海外動向に係る認識を示した上で、核融合開発を通じ諸外国に対する日本の技術的優位性を確保し産業競争力につなげるとともに将来のエネルギー安全保障に資することの重要性を強調した。ITERの次段階として発電を行う原型炉に関しては、現在、文部科学省の戦略タスクフォースで検討が行われている。〈内閣府発表資料は こちら〉翌13日、経産省の高速炉開発に係る戦略ワーキンググループ(資源エネルギー庁、文部科学省、三菱重工業、電気事業連合会、日本原子力研究開発機構により構成)はナトリウム冷却高速炉を「最も有望」な概念と位置付けた上で、2028年頃に実証炉の基本設計・許認可の開始への移行判断を行うとする新たな高速炉開発に係る「戦略ロードマップ」を策定する方向性を示した。〈資源エネルギー庁発表資料は こちら〉2016年に「もんじゅ」(ナトリウム冷却高速炉)を廃炉とする政府方針が決定。これを受けて、現行の「戦略ロードマップ」は2018年に、同WGでの議論を踏まえ、「2024年以降に採用する可能性のある見込みのある技術の絞り込みを、政策実現性を確認する国、技術的知見を有する原子力機構、最終ユーザーであり事業化の見通しを判断する電気事業者が、技術的実現性に責任を有するメーカーの協力を得て実施する」として関係閣僚会議により策定された。13日のWG会合では、高速炉開発に係る有識者委員会の委員長を務める山口彰氏(原子力安全研究協会理事)がナトリウム冷却高速炉、軽水炉冷却高速炉、溶融塩高速炉について、「技術の成熟度と必要な研究開発」、「実用化された際の市場性」、「具体的な開発体制と国際的な連携体制」、「実用化される際の規制対応」の4つの評価軸に沿った各技術の評価結果を説明。その中で、ナトリウム冷却高速炉が、プラントの重要要素技術について技術成熟度が高く、これまで「常陽」、「もんじゅ」の設計・建設・運転・保守などで蓄積されてきた国内技術・知財の有効活用が可能で、「2024年からの概念設計開始が可能な見通し」と評価した。なお、原子力小委員会が取りまとめた革新炉開発の技術ロードマップで、高速炉については、2040年代半ばの実証炉運転開始が目標となっている。
14 Sep 2022
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福井県原子力平和利用協議会(原平協、山口治太郎会長〈元美浜町長〉)は9月10日、敦賀市民文化センターで、「エネルギーフォーラム in 敦賀『世界情勢を踏まえたこれからのエネルギー問題を考える』」(共催=関西原子力懇談会、北陸原子力懇談会、後援=原産協会他)を開催。約700人の来場者のもと、国際政治学者の三浦瑠麗氏が招かれ講演を行うとともに、「エネルギー資源の乏しい日本にとって、準国産エネルギーでもある原子力発電の活用は、エネルギー安全保障の観点からも必要不可欠」とする宣言文を採択した。原平協は、原子力発電所の立地地域から「原子力の正しい理解の輪を拡げる」ことを目指し、福井県嶺南地方の有志により設立された。フォーラム開催に際し挨拶に立った山口会長は、政府による今後の原子力政策推進に向けた動きを踏まえ、「原平協の活動は非常に重要になってくる」と強調した。続いて、来賓を代表し挨拶に立った福井県選出衆議院議員の髙木毅氏は、自由民主党の電力安定供給推進議員連盟の事務局長として、まず福島第一原子力発電所事故の反省を改めて述べた上で、同議連がこれまで発表してきた再稼働の推進、運転期間延長、新増設・リプレースに係る提言の実行に関し、「世論の動きもあり難しくなかなか進んでこなかった」と振り返った。さらに、昨今のウクライナ侵攻に伴うエネルギー情勢などにも鑑み、「今、政府も原子力政策をしっかり進めねばならないところに“漸く”なった」、「エネルギー基本計画も時宜を見て速やかに改定されるべき」と強調。福井県内の原子力発電所では再稼働が進みつつあるが、「最終処分場の必要性については国民に絶対に理解してもらわねばならない」と、バックエンド対策の重要性も訴えかけた。講演に移り、三浦氏はまず、感染症対策を例に、日本人のリスクに対する考え方の諸外国との違いを説いた上で、不確実性は「対応自体がどうすればよいか難しいもの」と、リスクは「何がどのくらいの確率で起きるかがわかり、対処策を講じることができるもの」と定義し、両者を分けて考える正しいリスク認識、それに向けたコミュニケーションが図られる必要性を提唱。また、ロシアによるウクライナ侵攻に関し、エネルギーを始めとする経済制裁のもたらす影響を懸念し、「金融、エネルギー、軍事というのは極めて専門性が高い分野。分野をまたいで多数の専門家が協力しなければならない」と指摘。日本のエネルギー事情に関しては、「輸入大国」である脆弱性を繰り返し述べ、不確実性に依存している現状から、「まず国民がしっかりコミュニケーションしなければならない」などと訴えかけた。三浦氏は、国際政治学者の立場から、米中貿易摩擦の行く末や欧州の政治情勢にも言及。世界のグローバリゼーションに関し、「民意を持続可能な形で環境保護、将来世代に向け合意形成していくことは極めて重要」と述べた。カーボンニュートラルの実現に向けては、気候変動対策が経済競争のゲームチェンジャーとなる可能性にも触れ、「あらゆる面での努力を総合して初めて実現できる。一つの電源だけでの達成は絶対ありえない」と強調した上で、「ゼロリスク」などの幻想に硬直せず、事実を踏まえ状況に合わせた判断をすべきとした。「年表 原平協50年のあゆみ」今回のフォーラム参加者には、原平協が設立50周年に際し1月に制作した記念誌「年表 原平協50年のあゆみ」が配布された。
13 Sep 2022
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旭硝子財団は9月8日、世界の環境問題に対する危機感を時計の針に例えた「環境危機時計」の時刻が2022年、前年より7分戻って9時35分になったと発表した。〈旭硝子財団発表資料は こちら〉「環境危機時計」は、同財団が1992年より世界各国・地域の有識者らを対象に毎年実施している「地球環境問題と人類の存続に関するアンケート」の調査結果に基づき分析・公表しているもの。時計が示す「環境危機時刻」として、0時1分~3時は「ほとんど不安はない」、3時1分~6時は「少し不安」、6時1分~9時は「かなり不安」、9時1分~12時は「極めて不安」と、針が進むにつれて深刻度が増す。今回のアンケート調査は、4~5月に日本を含む202か国・地域の有識者らに調査票を送付し、127か国・地域の1,876人から回答を得た。各回答者は、自身の居住する国・地域の環境問題を考える上で、「気候変動」、「生物圏保全性(生物多様性)」、「陸域系の変化(土地利用)」、「生物化学フロー」、「水資源」、「人口」、「食糧」、「ライフスタイル」、「社会、経済と環境、政策、施策」の9項目から重要と思う3項目を選び、それぞれについて現状に相当する時刻を回答。得られた回答を分析し、各地域の「環境危機時刻」を決める。世界各地の環境危機時刻(日本は9時33分で世界の平均レベル、旭硝子財団発表資料より引用)世界の「環境危機時計」は、2011年以降、針が進む傾向にあったが、2020年は9時47分、2021年は9時42分、2022年は9時35分と、2年連続で針が戻っており、これは12年ぶりのこと。地域別には、2022年はアジア、オセアニアでは時刻が戻る一方、北米、アフリカ、中東、東欧・旧ソ連では時刻が進むという二極化がみられており、同財団では「現在の世界の地政学的な要因が影響している」と推察。実際、今回は、9項目の中で「社会、経済と環境、政策、施策」に係る「環境危機時刻」が9時49分(前回は9時34分)と、最も進んでいたことから、「ロシアによるウクライナ侵攻の影響が出ている」と分析している。この他、項目別には、「生物圏保全性(生物多様性)」が9時43分(同9時54分)、「気候変動」が9時40分(同9時41分)の順に深刻度が高い。同財団では、2019年のアンケートより「環境問題への取組に係る改善の兆し」に関する調査を行っている。その中で、「脱炭素社会への転換」については、世界全体でみると、政策・法制度、社会基盤に係る取組は一般の人々が思うほど進んでいないと認識されていることが示された。一方、中国では、3年連続して政策・法制度、社会基盤の面で脱炭素社会への転換が進んでいるとの意識が強く現れていた。同国は回答者数が多く、また、9割近くが20~30代であることから、「若い世代が中国政府の環境対策を高く評価し、環境問題は良い方向に向かっていると考える人が多い」とみている。アンケートにおける自由記述意見では、地球温暖化問題について述べたものも多く、「明確なコンセンサスがなく、どのように温暖化を解決していくのか道筋が不明」、「単に再生可能エネルギーにすべて置き換えれば済む話ではなく、ライフスタイルの転換が大きな問題」といった日本のエネルギー利用に関する指摘の他、先進国と発展途上国とのCO2排出に係る対立、人口爆発・食糧危機対策とのトレードオフ、ウクライナ情勢が気候変動対策に及ぼす影響への懸念もあった。
09 Sep 2022
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原子力委員会は9月6日の定例会で、8月末に取りまとめられた2023年度概算要求の原子力関連施策について、経済産業省、文部科学省、内閣府よりヒアリングを行った。その中で、経産省は、「原子力の国際協力と人材・技術・産業基盤」として、主に革新炉技術開発の取組について説明。今後、海外プロジェクトへの効果的な参画を目指し、革新炉向けの機器や部素材の設計・開発・実用化に挑戦する炉型ごとの国内サプライヤチームを「革新サプライヤコンソーシアム」として認定し、官民で支援する仕組みを構築する方向性を明らかにした。〈経産省発表資料は こちら〉革新炉開発に関しては、8月に総合資源エネルギー調査会の原子力小委員会で、革新軽水炉、小型軽水炉、高速炉、高温ガス炉、核融合炉について、導入に向けた技術ロードマップが取りまとめられている。6日の原子力委員会定例会では、資源エネルギー庁原子力政策課の遠藤量太課長が経産省の概算要求について説明。軽水炉の安全性向上技術開発、高速炉開発、革新的技術開発など、原子力産業・技術支援に関しては、前年度より軒並み増額要求している。一方で、同氏は、革新炉予算について、福島第一原子力発電所事故以前、約100億円あったものの、ここ10年で半分以下に落ち込み、人材・技術基盤の維持が困難になっている現状を憂慮。今後の課題として、「民間企業を取り込んだプロジェクト組成・管理の知見蓄積が必要」と強調した。その上で、海外の市場獲得に向けて、炉型ごとに日本原子力研究開発機構やプラントメーカー等の主幹事を定め、参入ポテンシャルのあるサプライヤを見極め、官民で情報提供原産協会等と連携し、想定サプライヤの実績や技術的強みを海外プレーヤーに発信政府系金融機関と連携し、ファイナンスによる輸出の後押し経産省から、海外規格への対応や設備改修に加え、革新炉に対応した機器・部素材の研究開発や性能検証を支援――する仕組み「革新サプライヤチャレンジ」を構築する方向性を示した。炉型ごとに「革新サプライヤコンソーシアム」を組成するもので、例えば、高温ガス炉であれば原子力機構、「BWRX-300」(カナダで進められるBWR型小型モジュール炉のプロジェクト)であれば日立GEがリーダー企業となることが考えられている。経産省では今後、原子力委員会からの意見も踏まえ、研究開発や海外展開に係る司令塔機能が発揮されるよう、具体化に向けて検討を進めていく。革新炉関連では、文科省が取り組む高温ガス炉の研究開発や原子力人材育成に関しても議論が交わされ、上坂充委員長は、「国内で閉じてしまうことがないように」と強調し、米国エネルギー省(DOE)、IAEA、OECD/NEAなどとも連携が図られるよう求めた。
08 Sep 2022
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原子力規制委員会は9月7日の定例会合で、今後の新規制基準適合性審査に係る審査効率化に関し、事業者から示された提案も踏まえ、できるだけ早い段階での確認事項や論点の提示公開の場における「審査の進め方」に関する議論および共有審査会合における論点や確認事項の書面による事前通知原子力規制委員または原子力規制庁職員の現地確認の機会を増加基準や審査ガイドの内容の明確化――を図っていく対応方針を概ね了承した。規制委員会では、公開の場において事業者の経営トップらを招き安全性向上に係る取組について意見交換を順次実施。2022年度は、4月に北海道電力と、その後、4か月のブランクを挟んで8月以降、東北電力、電源開発、中部電力、北陸電力と、主に審査の効率化を焦点に意見交換を行っている。審査に関しては、2013年に新規制基準が策定された後、これまでに計27基についてその適合性に係る申請がなされており、現在10基が審査中。最も新しい中国電力島根3号機でも8月10日に申請から4年が経過したところだ。審査をクリアし再稼働したのは10基。7基が設置変更許可に至るも安全・防災対策や地元の理解などが対応途上のため再稼働していない状況。8月以降に行われた同委との意見交換で、東北電力は、女川2号機(2020年2月設置変更許可)の約6年間にわたった審査を振り返り、東京電力柏崎刈羽6・7号機、日本原子力発電東海第二に係る集中審査に伴い中断期間が生じたことをあげ、「自ら提示したスケジュール通りに審査資料の準備・提出ができなかった」、「審査対象の早期決定と審査リソースの充実化が課題」などと問題提起。電源開発は大間(建設中)の審査効率化に向け、厳しい気象条件や交通事情について懸念が示されたが、「現地状況の認識の共有は、審査において理解促進につながる」として、現地確認の活用を要望。中部電力は浜岡3・4号機の並行審査の合理性を主張した。事業者との意見交換の中で、地震・津波関連の審査を担当する石渡明委員は、地質調査に関し「掘ってみなければわからない」として、サイトごとに異なる審査の予見可能性確保の難しさを指摘。更田豊志委員長は、7日の会合で、自然ハザードに係る対応に関し、審査過程で新たな立証材料が求められる可能性を繰り返し強調した上で、「なぜ審査期間が伸びるのかを詳らかにすべき」などと述べた。審査の効率化に向けて、審査会合の柔軟な設定も改善の方向性として委員間で概ね一致したが、基準や審査ガイドの内容の明確化について、更田委員長は予断を持った審査に陥ることに危惧を示した。
07 Sep 2022
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