九州電力は2月17日、川内原子力発電所2号機の定期検査を同21日から7月中旬までの予定で実施すると発表した。今回の定期検査では、設備の検査や燃料の交換とともに、40年以降の運転期間延長を見据えた特別点検も実施することとしており、これに必要となる原子炉格納容器他のデータ取得も行われる。〈九州電力発表資料は こちら〉同社では、川内1・2号機がそれぞれ、2024年7月、25年11月に法令に基づく40年の運転期限に達することから、2021年10月に運転期間延長に係る認可申請に必要な特別点検の実施について発表した。これに従い、1号機では同月より定期検査と合わせて特別点検を実施している。認可申請については、両機とも特別点検の結果を踏まえた上で判断する予定。40年を超える運転期間延長はこれまで、関西電力高浜1・2号機、同美浜3号機、日本原子力発電東海第二の4プラントで60年までの運転認可が発出されている。新規制基準施行後、川内1・2号機は2015年に先陣を切って再稼働。テロなどに備えた「特定重大事故等対処施設」は、両機とも2020年に整備を終え運用を開始している。立地地域の鹿児島県では、2022年1月より川内1・2号機の運転期間延長に関し、専門委員会による検証が進められている。
18 Feb 2022
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「わが国の原子力界を支える人材の確保」を掲げ産学官が連携し活動する「原子力人材育成ネットワーク」のシンポジウム(2021年度報告会)が2月15日、オンラインで開催された。「原子力人材育成ネットワーク」は2021年度、発足から11年目に入り、参加機関は、新たに日本原子力文化財団を加え、計84機関(国際機関を除く、関係省庁、自治体、企業、大学など)となった。最近の活動成果としては、主に初等中等教育向けに全国39の原子力発電所PR館や研究施設などを紹介したパンフレットの作成があり、原産協会ウェブサイトでも公開されている。シンポジウム開会に際し、同ネットワーク運営委員長を務める原産協会・新井史朗理事長が挨拶に立ち、「原子力産業界が抱える課題解決に向けて共通の思いを新たにし、ネットワークの輪をさらに広げ、今後の機関横断的な活動の成果が一層実り多いものとなるよう期待する」と述べ、議論に先鞭をつけた。「原子力人材育成ネットワーク」では現在、今後の活動に向けた戦略ロードマップの改定が検討されている。これを見据え、シンポジウムでは、「原子力産業界のグローバル化」、「原子力分野の学びの機会拡大」をテーマにパネルディスカッション。座長を務めた日立製作所原子力ビジネスユニット事業主管の吉村真人氏は、同ネットワーク戦略ワーキンググループ主査を務める立場から、「戦略ロードマップに魅力ある産業としての展望をしっかりと描いていく」と強調し議論を進めた。「原子力産業界のグローバル化」の関連でパネリストとして登壇した日立GEニュークリア・エナジー原子力国際技術本部の吉江豊氏は、欧米の原子力開発プロジェクトに参画した経験から、「プロフェッショナルエンジニア」(PE)取得の意義を強調。技術的発言の信頼性や顧客ニーズの理解など、PEのステイタスに関し「海外プロジェクトに参画できる資質の証明となるもの」と述べた。これに対し、新興国への協力事業を行う原子力国際協力センター・センター長の鳥羽晃夫氏は、海外プロジェクトにおける日本の弱みとして、(1)国としての一貫性に欠ける、(2)資金面での制約がある、(3)実務面での長期的研修システムが確立されていない、(4)インターンシップの受入れが難しい、(5)国内に建設中・試運転中のプラントが少ない-――ことを指摘。技術的な資格制度の認知度が低いことも課題としてあげた。また、国際機関でのキャリア形成に関し、原産協会人材育成部長の喜多智彦氏は、自身のIAEA勤務経験を紹介。日本人職員数(専門職)について、1993~2000年の赴任時を振り返り「出向者を含めて40人前後で今もあまり変わらない」と、拠出金分担率に比して少ない状況を憂慮した上で、雇用形態の壁、極めて高い競争率、言語や生活の違いなどを課題として指摘。求められる資質として、専門分野の高度な知識・経験、コミュニケーション能力、異文化に対する受容性などをあげた。閉会挨拶を行う原子力機構・大井川理事、「原子力の持続可能性と人材育成は『車の両輪』」と(ZOOM撮影)「原子力分野の学びの機会拡大」に関しては、「原子力人材育成ネットワーク」高等教育分科会委員で富山高専電気制御システム工学科教授の高田英治氏が、現場で教育に携わる人材の高齢化・退職が進む現状から、若手・中堅の教員育成に向け「まず原子力に関し理解してもらうことが必要」と強調。大学・研究所や企業からの人材登用の可能性にも言及した。また、同初等中等教育分科会主査で長崎大学教育学部教授の藤本登氏は、「教育現場は旧態依然のところもある」などと懸念し、教育行政への働きかけ、教科書の内容充実化に関し、学会が連携して取り組む必要性を述べた。
16 Feb 2022
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【国内】▽6日 萩生田経産相がグランホルム米DOE長官とTV会談、SMRや高速炉などの協力に向け▽6日 首都圏降雪に伴い東京電力管内の電力使用が97%にまで上昇、地域間の電力融通も▽11日 原子力委が「原子力利用に関する基本的考え方」の改定に向け有識者ヒア開始▽17日 通常国会開会、岸田首相が革新原子力も含む「クリーンエネ戦略」策定を改めて述べ18日には有識者懇談会を開催▽19日 規制委、地層処分の概要調査地区選定を見据え火山現象など「考慮事項」検討案示す▽20日 避難指示解除後の生活再建に向け双葉町で準備宿泊が始まる▽20日 九州電力川内1・2号機の運転期間延長に関し、鹿児島県の検証分科会が始動▽21日 NPTに関する日米共同声明が発出される、「核兵器のない世界」に向けて取り組んでいくことを確認▽24日 四国電力伊方3号機が約2年ぶりに通常運転に復帰▽24日 北海道大他が3000年までの南極氷床の変動を予測、気候変動に警鐘▽26日 原子力機構他、米テラパワー社と高速炉開発協力で覚書▽26日 原子力機構他、統合エネルギーシステムに関する5か国連携の国立研究所サミットに参加▽27日 東京電力と日本原燃が福島第一廃止措置の技術協力で協定締結▽31日 高浜2号機の安全対策工事が完了、1号機とともに40年超運転に向け特重施設整備へ▽31日 福島第一2号機の燃料デブリ試験採取装置が原子力機構楢葉遠隔技術開発センターに到着 【海外】▽ 1日 ECが持続可能な経済活動の分類枠組「EUタクソノミー」に原子力を含める方針表明▽ 1日 世界で3基目の「華龍一号」である福清6号機が中国で送電開始▽ 6日 米規制委、2020年6月に審査開始したオクロ社の超小型高速炉の建設・運転一括認可(COL)申請を情報不足で却下▽ 7日 英国で46年稼働したAGRのハンターストンB-2号機が永久閉鎖▽12日 仏EDF、建設中のフラマンビル3号機の燃料初装荷を2023年第2四半期に延期▽12日 エジプト初の原子力発電所となるエルダバ発電所で3、4号機も建設許可を申請▽13日 スロベニアで「使用済燃料の深掘削孔処分は重要オプションになる」との調査結果▽14日 ブラジル、新規原子力発電所の立地点選定で政府が電力研究機関と協力協定▽17日 ベルギー規制当局、条件付きで新しい原子力発電所の2025年以降の運転継続を支持▽20日 スウェーデンのOKG社、オスカーシャム原子力発電所で製造した余剰水素を市場販売へ▽20日 アルメニア、唯一の原子力発電所(1号機は閉鎖、2号機のみ稼働中)の原子炉増設に向けロシアと合意▽21日 米WH社、ポーランドでのAP1000建設に向け同国の関係企業10社と戦略的連携合意▽24日 米エネ省、使用済燃料輸送車両のプロトタイプ試作と試験で産業界からの提案を募集 ▽25日 ロシア、建設中の多目的高速中性子研究炉(MBIR)で炉内機器の試験組立を実施▽27日 スウェーデン政府、SKBの使用済燃料最終処分場計画に建設許可発給へ▽27日 英国政府、サイズウェルC原子力発電所建設計画の継続で1億ポンドの支援提供を発表▽27日 米WH社、U235の濃縮度が6%の試験用燃料集合体をボーグル2号機に装荷へ
14 Feb 2022
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水中ROVがとらえた1号機PCV内部映像(東京電力発表資料より引用)東京電力は2月8日、福島第一原子力発電所1号機の原子炉格納容器(PCV)内に潜水機能付ボート型ロボット(水中ROV)を投入。今後の燃料デブリ取り出しに向けたPCV内部調査の事前対策として、ガイドリング(ケーブル絡まりを防止する通過用の輪っか)の取り付けを行うもので、9日までにPCV底部に「堆積物らしきもの」があることが確認された。同社では水中ROVによる映像を公開している。〈東京電力発表資料は こちら〉ROV-Aによるガイドリング取り付け、磁石で固定され60kgの耐荷重(写真はモックアップ試験、東京電力発表資料より引用)1号機に順次投入される水中ROVは作業・調査の用途に応じ6種類あり、今回投入したのはガイドリング取り付け用の「ROV-A」(直径25cm、長さ111cm)だ。当初、1月中旬が予定されていたが、線量データが正確に表示されないなどの不具合が生じたため、延期となっていた。「ROV-A」は、直径約3mのジェットデフレクターと呼ばれる円盤状の鋼材4か所へのガイドリング設置を完了。10日に装置本体の吊り上げ・回収に入る。今後、各水中ROVにより、ペデスタル(原子炉圧力容器下部)内外の詳細目視調査、堆積物の厚さ測定、核種分析、サンプリングなどを順次実施予定。1号機のPCV内部調査は2017年にも実施されており、自走式調査装置の投入により、「ペデスタル開口部床面近傍で高さ約1m、幅約1.5mの堆積物が存在」との推定が得られている。その知見を踏まえ、続く水中ロボット投入では、ペデスタル内外の調査を行い、堆積物の回収手段・設備の検討など、工事計画の具体化に向けた情報収集を図る。
10 Feb 2022
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福島第一原子力発電所事故後、台湾が講じていた福島県産食品などへの輸入規制が緩和される見込みだ。農林水産省が2月8日に発表したところによると、台湾側でこれまで輸入を停止していた福島、茨城、栃木、群馬、千葉の産品について、きのこ類や野生鳥獣肉などを除き、放射性物質検査報告書および産地証明書の添付を条件に輸出が可能になるという。台湾では、日本産品の輸入に係る緩和策について各界の意見を求め決定することとしている。〈農水発表資料は こちら〉2021年の農林水産物・食品の国・地域別輸出額で、台湾は、中国、香港、米国に次いで第4位。輸出額も対前年比27.0%増の大幅な伸びを見せており、日本にとって重要な輸出市場となっている。台湾が日本産品に対する輸入規制緩和の方向性を示したことを受けて、松野博一官房長官は同日午後の記者会見で、「大きな一歩であり、被災地の復興を後押しするもの」と、歓迎するとともに、日台間の経済・友好関係のさらなる深化に期待感を示した上で、輸入規制が継続する国・地域への働きかけに関し、「日本産食品の安全性について科学的根拠に基づき説明していく」などと発言。資源エネルギー庁では、「福島の復興や原子力災害に伴う風評の払拭に向けて追い風となるものとして歓迎するとともに、今後も国際社会に対し情報発信を続けていく」とのコメントを発表した。また、就任以来、各国を訪問し福島県産品のトップセールスに努めてきた内堀雅雄・福島県知事は、「震災前、本県産農林水産物の主要な輸出先であった台湾において輸入規制が緩和されれば、福島の復興をさらに前進させる大きな力となる」とコメント。引き続き国と連携しながら、県産品の魅力発信を強化し、輸入規制の完全撤廃、輸出拡大に取り組んでいくとした。昨今、台湾からの留学生らによる福島県産品の風評払拭に向けた生産者との意見交換などの活動が多く報道されている。台湾原子力学会でも学生を対象とした現地訪問を実施しており、海産物の検査を見学した医学生からは「人々は福島の食品を誤解している。真実を伝えることが重要」との声が聞かれている。
09 Feb 2022
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原子力委員会は年明けより、「原子力利用の基本的考え方」の改定に向けて、有識者からのヒアリングを定例会の場(一部オンライン開催)で行っている。初回の原子力発電環境整備機構理事長/元原子力委員長・近藤駿介氏に続き、1月18日には東京大学大学院情報学環准教授の開沼博氏が招かれた。福島第一原子力発電所事故後の対話・執筆活動に取り組んできた開沼氏は、除染で発生する除去土壌の仮置きに関する合意形成のプロセスなどを踏まえ、原子力のコミュニケーション活動に関し「福島の現場には、様々な葛藤に直面したが故に信頼回復を促すための事例と教訓がある」と強調。一方通行型のシンポジウム開催や既存のパンフレット配布などの問題点にも言及し、「まず聞く、次に可視化、その上で説明する」ことの重要性を指摘した。同25日には、元国際エネルギー機関(IEA)事務局長の田中伸男氏よりヒアリング。田中氏は、IEAが2021年5月に公表した報告書「2050年ネットゼロのロードマップ」に基づき、世界のエネルギー需給に関し「2050年の脱炭素化を目指すとすれば、石油は既に2019年でピークを過ぎており、2050年にはその25%にまで抑えねばならない」などと、化石燃料を巡る状況を述べ、再生可能エネルギーに加え、原子力が必要となることを説いた。日本の原油輸入で賄うエネルギー供給を風力で代替した場合、全国土に匹敵する面積が必要という試算も紹介。その上で、「持続可能な原子力」の条件として、(1)安全を確保する、(2)廃棄物を処理できる、(3)核兵器に転用されない――ことをあげ、同氏が持論とする福島第一原子力発電所の燃料デブリ処理も視野に入れた「金属燃料小型高速炉」(IFR)の構想を例示した。イノベーションによる気候変動対策について世界の有識者らが対話するICEF(Innovation for Cool Earth Forum)の運営委員長も務める田中氏は、オンラインを通じた若手フォーラム「Youth ICEF」での議論も踏まえ、将来に向けて女性と若者の活躍に期待を表した。2月1日には、原子力資料情報室共同代表の伴英幸氏と東京大学大学院工学系研究科教授の山口彰氏よりヒアリング。原子力利用に慎重な姿勢をとる伴氏は、近年のエネルギー政策や世論の動向を踏まえ、原子力の依存度低下から撤退への流れ、廃炉を着実に進めるための人材育成、使用済燃料全量再処理政策の転換などを「原子力利用の基本的考え方」に位置付けるべきとしたほか、福島第一原子力発電所のエンドステート(サイトの最終的状態)に関し議論することを原子力委員会に求めた。総合資源エネルギー調査会でエネルギー基本計画策定にも関わった山口氏は、エネルギー政策における原子力の位置付けについて定量的評価に基づき議論する必要性を指摘。「原子力利用の基本的考え方」に関し、原子力基本法やエネルギー政策基本法など、法規との関連性を整理した上で、改定に向けて、(1)網羅的かつ詳細な計画ではなく、(2)府省庁を超えた原子力政策の方針を示すもの、(3)専門的見地や国際的教訓を踏まえた独自の視点から、(4)長期的な方向性を示す羅針盤――との当初の趣旨を改めて喚起した。各ヒアリングでは、放射線利用の啓発やSNS・ボードゲームを利用したコミュニケーション活動、核燃料サイクルのコスト、革新技術に係る国際プロジェクト参画、国際機関との連携、ジェンダーバランス、教育などについて意見交換がなされた。原子力委員会では、引き続き国際環境経済研究所理事の竹内純子氏らを招きヒアリングを行う予定。
04 Feb 2022
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日本原子力研究開発機構は2月2日、統合エネルギーシステムに関する国立研究所サミット「Global National Laboratories Summit 22」に参加したと発表した。〈原子力機構発表資料は こちら〉統合エネルギーシステムは、原子力、再生可能エネルギーなど、個々のエネルギー技術を組み合わせ、電力、熱、水素の効率的・持続的供給を図るといったエネルギーシステム全体としての最適化を図る概念だ。サミットは1月26日にオンラインにて開催。カナダ、フランス、日本、英国、米国の5か国から8研究所が参加した。同サミットは、COP26の議長国である英国の国立原子力研究所(NNL)が、COP26以降も低炭素化に向けたモメンタムを維持する観点から、関係国の原子力および非原子力のエネルギー機関に呼びかけ実現したもの。原子力機構からは舟木健太郎理事が登壇し、同機構が2019年に発表した将来ビジョン「JAEA 2050+」を披露。「原子力のポテンシャルの最大限の追求」、「他の科学技術分野との協働・融合」を掲げた将来ビジョンのもとで開発を進めている高温ガス炉や小型モジュール炉(SMR)などの革新的原子炉を活用した統合エネルギーシステムの構想を示し説明した。NNL呼びかけのもと、サミットには、原子力機構の他、日本エネルギー経済研究所、カナダ原子力研究所、フランス原子力・代替エネルギー庁(CEA)、エナジー・システムズ・カタパルト(英国)、アイダホ国立研究所(米国、INL)、国立再生可能エネルギー研究所(同、NREL)が参加。各研究所からの発表を受け、サミットでは声明を採択。声明では、統合エネルギーシステムについて、「信頼性が高く、持続可能性を有する、安価な低炭素エネルギー。人々に便益をもたらすエネルギーサービスを提供するために、原子力や再生可能エネルギーのような低炭素エネルギー源を組み合わせるもの」などと位置付けた上、今後研究機関間でのベストプラクティス共有を図っていくとした。原子力機構では、高温ガス炉を利用した熱利用・水素製造に向けた取組を進めている。原子力の有用性に関し、「電力のみならず、熱、水素製造での利用可能性を有する点などにおいて、再生可能エネルギーを補完する役割が期待されている」ことから、非原子力分野の研究機関も参加する同サミットの意義を重くとらえ参加した。今後、声明に基づき、各国の研究機関との間で統合的なエネルギーシステムの検討に関する知見共有を進めていく。
03 Feb 2022
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高浜1・2号機の安全対策工事では事故時の環境線量低減のためトップドームを設置(関西電力発表資料より引用)関西電力は1月31日、高浜発電所2号機について、安全性向上対策工事で行う設備の据付けや取替など、本工事を完了したと発表した。同機は1975年に運転を開始しており、既に再稼働した美浜3号機、安全対策工事を完了した高浜1号機とともに、40年超運転に入る運び。〈関西電力発表資料は こちら〉高浜1・2号機の安全性向上対策では、シビアアクシデント対応となる原子炉格納容器上部へのドーム状鉄筋コンクリート造の遮蔽設置(直径約44m)や、信頼性向上に向けた中央制御盤のアナログ式からデジタル式への取替などを実施。2号機については、耐震性を図る海水取水設備移設のため、深さ約40m、全長約130mのトンネル工事も行われた。高浜1・2号機の再稼働に向けては、美浜3号機と合わせ、2021年4月に福井県知事からの理解表明が得られているが、テロなどに備えた「特定重大事故等対処施設」(特重施設)が未整備(高浜1・2号機は2021年6月にプラント本体の設計・工事計画認可から5年間の設置期限を満了)のため、同施設の工事完了が必要となる。関西電力が2021年12月に原子力規制委員会との意見交換で説明したところによると、高浜1号機と同2号機の再稼働に関し、それぞれ2023年5、6月頃の特重施設運用開始、同6、7月頃の発電再開が計画されている。なお、2021年に国内初の40年超運転を開始した美浜3号機でも現在、2022年9月頃の運用開始に向け特重施設の設置工事が進められており、同10月にも発電を再開する予定。関西電力では、引き続き稼働中プラントの安全・安定運転に努めるとともに、特重施設の工事を安全最優先で進めていくとしている。
02 Feb 2022
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杉山氏 ©The Canon Institute for Global Studies今冬の電力需給の見通しは全国的に厳しく、とりわけ東京電力管内では1月6日、降雪に伴い電力使用が約97%にまで上り「どこか1か所でも不具合が起きれば停電が起きる」事態となるなど、昨年末から2月にかけて予断を許さぬ状況だ。総合資源エネルギー調査会でも、既に来夏以降の電力供給力確保に向け、例年にない頻度で検討を行っている。こうした状況下、キヤノングローバル戦略研究所研究主幹の杉山大志氏は1月25日、「全原発停止で日本は極寒に」と題するコラム(同研究所ウェブ上に掲載)の中で想定した「悪夢のシナリオ」を通じて、再生可能エネルギーに過度に依存した脱炭素政策への危惧を示唆し、電力供給における原子力の必要性を指摘している。同氏は、フィクションとして、「何者かによって安全規制に関する非公開文書とメールのやり取りが大量にリークされ、そこから複数の不祥事疑惑が起きる。原子力規制委員会、電力会社、政治家を巻き込んだ一大スキャンダルになる。(中略)反原発を持論とする政治家が支持を集め、『安全性が担保されないおそれあり』として、疑惑の解明まですべての原子力発電所が停止される」と想定。これに端を発し、東日本大震災直後のような電力需給ひっ迫が起き、国の節電要請を受けて、企業は輪番休業を余儀なくされ、全国の至る所で計画停電。さらに、エネルギー供給の見通しが悪化することで、国内の工場閉鎖、電気料金の値上げが進み、経済活動は大きく落ち込むとしている。杉山氏は、気候変動対策について議論する産業構造審議会の小委員会委員を務めており、昨今の異常気象に関しても、観測データの精査、防災投資と温暖化対策とのバランスなどの視点から意見を述べてきた。2021年に静岡県熱海市で発生した土砂災害ではメガソーラー(大型太陽光発電所)開発との因果関係が報道を賑わしたが、今回のコラムの中で、同氏は、原子力発電所の全停止に加え、「伊勢湾台風」クラスの強力な台風の襲来も想定。全国30か所のメガソーラーで土石流や風害による事故が発生し犠牲者が出るほか、送電網が各地で寸断され、1週間以上にわたり停電が続く事態となるとしている。実際の事例として、北海道電力の泊発電所は2012年以降全基停止中だが、2018年の北海道胆振東部地震による道内全域停電を振り返り、「基幹発電所が停止し、電力需給がひっ迫していると、送電網の寸断による停電もさらに起きやすくなる」とも指摘。近年建設が進むメガソーラーに関しては、「施工が悪く十分な備えができていないものも多い」と述べている。この他、コラムでは、化石燃料市場やレアアース供給に係るリスクなども想定し、「原子力発電がすべて停止すれば、エネルギー供給はますます脆弱になり、日本経済は危機に瀕する。1年後には日本の冬も日本人の懐もますます寒くなるだろう」と述べている。
28 Jan 2022
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日本原子力研究開発機構と三菱重工業などは1月26日、原子力開発ベンチャー企業の米国テラパワー社とナトリウム冷却高速炉技術に関する協力覚書を締結した。〈原子力機構発表資料は こちら〉米国テラパワー社は、GE日立・ニュクリアエナジーと共同で2020年代後半の実証炉運転開始を目指し小型ナトリウム冷却高速炉「ナトリウム(Natrium)」(電気出力34.5万kW)の開発を進めており、2021年6月にはワイオミング州での建設計画が州知事・電力会社と合意に至っている。ナトリウム冷却高速炉は、次世代の原子炉概念の中でも技術成熟度が高いとされており、世界でも開発が加速化している。「ナトリウム」は、ナトリウムの熱を伝えやすい性質により全電源喪失時にも自然循環の除熱が可能。「溶融塩熱貯蔵ループ」と呼ばれるシステムを組み合わせることで出力調整の柔軟性が図られ、再生可能エネルギーの出力変動に対応し経済性向上にもつながる。原子力機構などの発表によると、テラパワー社は、「常陽」、「もんじゅ」などを通して得られた日本の高速炉に係るノウハウや試験施設、日本企業の機器設計・製造技術に注目しているという。実際、「常陽」、「もんじゅ」については、運転・保守経験の実機データベースが蓄積されており、海外の開発機関にとっても価値は大きい。また、両機の建設に携わったメーカーの知見も活用できる。今回の覚書締結を受け、原子力機構、三菱重工業、三菱FBRシステムズ、テラパワー社の4者では今後、相互に技術の情報交換を行った上で、燃料交換機や破損燃料検出系を含むナトリウム冷却炉に特有の技術など、高速炉の開発協力について協議を進める。
27 Jan 2022
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「原子力総合シンポジウム2021」(日本学術会議主催、日本原子力学会他共催)が1月17日、オンラインで開催され、日本原子力学会会長の山口彰氏(東京大学大学院工学系研究科教授)他、日韓それぞれの元原子力学会会長も登壇し、「2050年の世界のエネルギーシステムとしての原子力の意義」をテーマにディスカッションを行った。IAEAがまとめた世界の原子力発電規模予測総合資源エネルギー調査会の委員として昨秋閣議決定されたエネルギー基本計画の改定審議に携わった山口氏は、日本のエネルギー政策の変遷を1960年代からたどり、高度経済成長、石油危機、TMI事故、チェルノブイリ事故、京都議定書合意、原子力ルネッサンスの高揚、東日本大震災など、内外の動きに応じ見直しが図られ、「『S+3E』(安全性、安定供給、経済効率性、環境適合性)に適ってきた」と概観。世界の原子力発電の見通しについては、IAEAが2021年9月に公表した年次報告書から、設備容量が、低予測では2030年に2020年比で約7%減少するものの2050年には概ね回復し、高予測では2030年に同約20%増加し2050年にはほぼ倍増となり、特に2050年時点においてアジア・中南米での伸びが顕著となる予測を紹介した。また、次世代原子炉開発に関して、熱源としての利用可能性に着目し「発電以外の付加価値は大きい」としたほか、長期的なエネルギー資源確保の観点から「日本においては核燃料サイクルの技術成熟度が重要」と強調。その上で、2050年のエネルギーシステムの要件として、(1)気候変動を抑制できる、(2)レジリエンスを確保できる、(3)安定した価格で経済の持続性を支援できる、(4)長期的なエネルギー資源の持続性を保証できる、(5)様々なニーズに応える利用の多様性を確保できる、(6)技術・制度・社会受容性の観点から実現性が高い――ことを掲げた。これを受け、元日本原子力学会会長の藤田玲子氏、元韓国原子力学会会長のミン・ビュンジョ氏を交えたディスカッションでは、社会とのコミュニケーションや人材育成におけるアカデミアの役割についても意見が交わされた。韓国の現政権では、「今後新たな原子力発電所の建設計画は認めず、設計寿命を終えた原子炉から閉鎖する」との方針が掲げられている。韓国原子力研究所(KAERI)で長く研究開発に従事してきたミン氏は、建設中の原子力発電所が完成しても世論の動きから運転開始が困難な韓国の状況と、新規制基準をクリアしても再稼働に至っていないプラントがある日本の状況との類似点に言及しながら、「発電に限らず広く社会に役立つ原子力技術」に目を向ける必要性を示唆した。韓国で建設中の新古里原子力発電所5、6号機は、現政権の政策により一時建設工事が中断されていたが、国民参加の討論型世論調査を踏まえ建設再開に至っている。山口氏は、東日本大震災後、エネルギー政策の検討のため行われた討論型世論調査の経験を振り返り、限られた枠内での熟議を公共政策に反映することの難しさを述べ、専門家集団として学会が社会とのコミュニケーションにおいて果たすべき役割を考えていく必要性を改めて強調。高レベル放射性廃棄物の資源化に係る技術開発に取り組んできた藤田氏は、青森県内の女性たちとの意見交換の経験から、歯科材料やアクセサリーにも使われるパラジウムの抽出・再生利用に注目が集まったことに触れ、コミュニケーション活動に関し「まずは関心を持っている層から広めていってはどうか」と提案した。人材育成の関連では、高等教育に携わる立場から、山口氏とミン氏は「2050年に向けて原子力のビジョンを示していく」重要性を強調。ソウル大学では原子力志望の大学院生が集まらなくなったといわれているが、山口氏は、韓国がUAEへの原子力開発進出を機に設立した産業界主導の教育訓練機関「国際原子力大学院大学」(KINGS)を例に、「原子力は教育制度そのものに一工夫いる」と、藤田氏は「魅力ある新しい研究分野を開拓していくことも必要」などと述べた。
27 Jan 2022
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原産協会の新井史朗理事長は1月21日、理事長会見を行い、記者からの質疑に応じた。年明け初となる今回の会見では、原産協会・今井敬会長の年頭所感および理事長メッセージ「2022年の年頭にあたり」を配布。新井理事長は、「わが国と世界の原子力界 主な動き 2021」(原子力産業新聞取りまとめ)から、2021年の国内外における「原子力活用の気運の高まり」となる出来事を振り返った上で、2022年に原産協会として取り組む「原子力発電に対する理解の獲得」、「福島復興支援」、「人材確保・育成」、「国際協力」について説明した。元旦には主要メディアで、米国テラパワー社と同エネルギー省(DOE)による高速炉開発計画に日本原子力研究開発機構と三菱重工業が参加するとの報道があったほか、1月6日には萩生田光一経済産業相とジェニファー・グランホルムDOE長官との間でエネルギー政策に関するテレビ会談が行われ、革新炉開発に係る協力促進の方向性が確認された。こうした国際協力の動きについて記者から質問があったのに対し、新井理事長は、高速炉開発について、日本が進める核燃料サイクル政策上、「廃棄物の有害度低減や資源の有効利用」の観点から改めてその重要性を述べ、「国内の原子力技術開発・人材育成にもつながるもの」と歓迎。また、2021年12月にカナダ・オンタリオ州電力(OPG)が新たに建設する小型モジュール炉(SMR)としてGE日立・ニュークリアエナジー社製「BWRX-300」が選定されたことについて、「大変意義がある」とする一方、広大な国土であるが故の電力系統連系の困難さ、大型炉の持つスケールメリットにも言及し、SMR開発に関し各国の事情に応じた取組の必要性を述べた。
24 Jan 2022
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量子科学技術研究開発機構とアトックスは1月18日、小型・高性能なヘルメット型のPET(陽電子放出断層撮影、放射性同位体で標識した化合物を人体に投与して画像を得る)装置を開発し製品化したと発表した。〈量研機構発表資料は こちら〉PETは、脳の状態(脳血流量、脳酸素消費量など)を調べることによって、脳血管障害、アルツハイマー病などの病態解明に役立っているが、今回の開発成果は、認知症診断への活用を見据えており、頭部検査に特化した装置で、座ったまま検査できることから、被検者への負担が大きく軽減される。量研機構他によると、世界初となる半球状の検出器配置を採用したことにより、従来型装置(円筒型)と比べて少ない検出器数でありながらも、高画質な撮像を可能とし、「圧倒的にコンパクト」なサイズで、これまでPET設置の十分なスペースがなかった施設へも導入できるとしている。新型PET完成の記者発表に臨む量研機構・中野量子生命・医学部門長(左)とアトックス・矢口社長(アトックス発表資料より引用)今回の開発は、放射線医療の技術・知見を有する量研機構が基礎部分(基本設計や検出器開発など)を、原子力発電所メンテナンスのノウハウを持つアトックスが実用化部分(詳細設計やシステム開発など)を中心に担当するという産学連携によって、7年の歳月をかけ実現したもの。ヘルメット型のPET装置は、「頭部専用PET装置 Vrain」としてアトックスより販売される。
21 Jan 2022
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三菱総合研究所のセーフティ&インダストリー本部は1月18日、福島の復興状況や放射線の健康影響に関し、東京都民を対象に実施したアンケート調査の結果を発表した。「復興五輪」とも呼ばれた東京オリンピックの開催をとらえ継続実施してきたもので、2017年、2019年、2020年に続き4回目となる今回の調査は、大会開催後の2021年8月25~27日、20~69歳の男女1,000名を対象としてインターネットにより行われた。〈三菱総研発表資料は こちら〉調査結果によると、福島第一原子力発電所事故発生から10年が経過し「自身の震災に対する意識や関心が薄れていると思うか」との問いに対しては、「そう思う」、「ややそう思う」との回答が55.8%で、2019年の調査以降、ほとんど変わっていなかった。2017年調査では51.6%だった。「福島県内の復旧・復興は進んでいると感じるか」との問いに対しては、「そう思う」、「ややそう思う」との回答が30.2%で、2020年調査から2.5ポイント増加。2017年調査では22.3%だった。また、福島の現状への理解については、「正しく理解していると思う」とする回答(「そう思う」、「ややそう思う」の合計)が10.3%で、2020年調査から1.8ポイント増加。一方、「正しく理解しているとは思わない」(「そう思わない」、「あまりそう思わない」の合計)とする回答は45.4%で、2017年調査の54.6%以降、調査年次につれて減少していた。福島県産食品に対する都民の意識に関しては、「自分が食べる」、「家族・子供が食べる」、「友人・知人に勧める」、「外国人観光客に勧める」の場合ごとに質問。「福島県産かどうかは気にしない」との回答は、それぞれ64.4%、62.2%、62.2%、63.2%で、いずれの場合についても、初回調査以降、2020年調査まで増加してきたものの、今回の調査では減少(最大2.4ポイント)に転じていたことから、福島県産食品に対する風評の再来が危惧される状況に関し「一時的なものか否かを継続的に調査し把握していく必要がある」としている。また、放射線による福島県民への健康影響に関しては、「がんの発症など、後年に生じる健康障害」、「次世代以降への健康影響」について尋ね、「起きる可能性が低い」とする回答が、それぞれ57.6%、63.1%と、いずれも半分以上を占め調査年次につれて増加していた。五輪開催を通じた復興の実感度に応じ回答者を3分類、各々について復興進展の感じ方を分析(三菱総研発表資料より引用)東京オリンピックを通じて、「福島の復興状況が世界に発信できていたと思うか」については、「あまり発信できていなかった」、「発信できていなかった」との回答が63.1%と、半数以上を占める一方、「発信できていた」、「やや発信できていた」との回答は9.3%と、1割にも満たなかった。さらに、「福島の復興を実感することができたか」については、「あまり実感できなかった」、「実感できなかった」との回答が67.5%で、「実感した」、「やや実感した」との回答は7.6%だった。今回の調査では、東京オリンピックを通じた復興の実感度合いに応じて、他の質問とのクロス解析も実施。「実感した」層では、「どちらともいえない」層、「実感できなかった」層に比べ、「福島県内の復旧・復興の進展を感じる」とする回答割合が顕著に高くなっており、「大会を通じた福島県の復興に対する実感」の効果が示唆された。
20 Jan 2022
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「クリーンエネルギー戦略」策定に向け検討を行う産業構造審議会と総合資源エネルギー調査会の第2回合同会合が1月19日に開かれ、JERA(東京電力と中部電力の火力発電部門などを統合し2015年に発足)、つばめBHB(株)、エクセルギー・パワー・システムズ、京セラ、三菱ケミカル、ダイキン工業より、脱炭素社会実現に係る取組状況について聴取し意見交換を行った。〈配布資料は こちら〉同合同会合は、昨秋岸田内閣が表明した地球温暖化対策を成長につなげる「クリーンエネルギー戦略」策定を受け、12月にキックオフ。産業界や専門家からのヒアリングを通じ議論を深め、6月頃の取りまとめを目指すとしている。17日に開会した通常国会で、岸田文雄首相は、施政方針演説の中で、気候変動問題への対応の視点から「クリーンエネルギー戦略」策定の考えを改めて述べ、翌18日には同戦略に関する有識者懇談会を開催。懇談会での議論を踏まえ、岸田首相は、「送配電インフラ、蓄電池、再生可能エネルギーを始め、水素・アンモニアなど、非炭素電源、安定で低廉かつクリーンなエネルギー供給のあり方、需要側の産業構造転換や労働力の円滑な移動、地域における脱炭素化、ライフスタイルの転換、資金調達のあり方、カーボンプライシング、多くの論点に方向性を見出してもらいたい」として、経済産業省、環境省に対し検討を求めたところだ。19日の合同会合の冒頭、萩生田光一経産相は、「現場の声や実態をしっかりと聴き、よりよい戦略としていきたい」と、「クリーンエネルギー戦略」策定への意欲を改めて強調。資源エネルギー庁が同戦略の基本コンセプト、エネルギー・産業の各分野の投資を促すために検討すべき重点事項を整理。JERA、つばめBHB(株)、エクセルギー・パワー・システムズ、京セラ、三菱ケミカル、ダイキン工業より聴取が行われた。その中で、JERAは、同社の脱炭素化に向けた取組としてアンモニア混焼の実証試験計画を紹介。また、つばめBHB(株)は、既存のアンモニア製造技術「ハーバーボッシュ法」に替わる「グリーンアンモニア生産」構想について説明。再生可能エネルギー設備の余剰電力を活用し、電気分解で得られた水素を触媒により低温・低圧で窒素と合成する新たな製法で、年間3,000万kWhの発電量から石炭由来CO2約1万トンの削減が見込めるという。蓄電池技術に関しては、エクセルギー・パワー・システムズが電力系統間の連携が図りにくい島・半島向けのパワー型蓄電池、京セラが粘土を利用した高安全性、高寿命、低コストのクレイ型蓄電池を紹介。「化学品製造には水素が必要」とする三菱化学は、オレフィン(高分子化合物の一類)を例に、現存(建設中を含む)の原子力発電プラントが60年まで運転され、その発電電力すべてが水素製造に利用されたとしても、2050年時点で2021年生産量の半分しか賄えないとの試算を示した。委員からは、企業間の技術共有、海外での競争力維持、地域社会との協働、需要サイドへの働きかけ、技術開発に伴うコスト負担・投資のあり方、市場形成における政府の役割などに関する意見が出された。
19 Jan 2022
3616
電通大が開発した「私設モニタリングポスト」と設置例(電通大発表資料より引用)電気通信大学は1月14日、家屋の柱やフェンス、車両などに手軽に取り付けられる放射線モニタリングポストを開発したと発表した。同学を中心とする研究チームが福島第一原子力発電所事故後の線量計不足に対応すべく開発した小型放射線センサー「ポケットガイガー」に、小型のソーラーパネルとロボット遠隔操作にも用いられる4G通信モジュールを組み合わせて製作したもので、重さ720gと、タブレット端末並みに軽量。基本的にメンテナンス不要で、ソーラー駆動のみで動作し、測定値は無線回線を通じオンライン上に記録されスマートフォンで確認できる。〈電通大発表資料は こちら〉開発に当たった研究チームによると、福島県内には国のモニタリングポストが設置されているが「生活圏をくまなくモニタリングするには至っていない」ほか、県民へのアンケート調査から、特に子育て世代では屋外の子供の居場所へのモニタリングポスト設置、測定値のSNSを通じた情報発信を希望する人が多いという。今回の研究成果については、小型軽量・低消費電力で安価(部品代2.5万円程度)な「私設モニタリングポスト」として活用が図られ、より広い地域のモニタリング実施に期待が寄せられるとしている。既に大熊町の帰還困難区域内にこの「私設モニタリングポスト」3台を設置し耐久性・精度試験を開始しており、今後、託児施設などへの設置のほか、2022年度以降は避難指示解除を目指す「特定復興再生拠点区域」での実証試験や、リスクコミュニケーションに関する地域住民とのワークショップも行う予定。
18 Jan 2022
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NUMO近藤理事長原子力委員会は1月11日、「原子力利用に関する基本的考え方」の改定に向け、有識者からのヒアリングを開始した。同委員会はかつて「原子力の研究、開発及び利用に関する長期計画」や「原子力政策大綱」を概ね5年ごとに策定してきたが、福島第一原子力発電所事故発生など、原子力を取り巻く環境の変化を踏まえ、これらに替わるものとして「原子力利用に関する基本的考え方」を2017年に策定。同基本的考え方の策定から間もなく5年を迎えるのに際し、改定に向けて検討を行うこととなった。11日の定例会では原子力発電環境整備機構(NUMO)理事長の近藤駿介氏よりヒアリングを行った。同氏は2004~2014年に原子力委員長を務めている。近藤氏はまず、原子力基本法に定められる「原子力利用は、平和の目的に限り、安全の確保を旨として、民主的な運営の下に、自主的にこれを行うものとし、その成果を公開し、進んで国際協力に資するものとする」との基本方針に立ち返り、エネルギー・環境、外交、科学技術などの政策分野における原子力利用に係る取組がこれに適うよう基本的考え方を示すべきとした。その上で、(1)福島第一原子力発電所の廃炉・汚染水対策や復興と再生の確実な推進、(2)原子力発電事業運営に係る「社会的ライセンス」の維持・再獲得、(3)人材確保と産官学の共同・協調によるイノベーション創出とその社会実装、(4)リスクマネジメントに係る議論の充実――を求められる対応として例示。福島第一原子力発電所事故の教訓に関しては、OECD/NEAが2021年3月に事故発生から10年を機に公表した報告書を引用し、廃炉作業や環境修復・復興における技術開発、国際社会への発信、リスクコミュニケーション、地域との協働、損害補償、メンタルケア、知識管理など、7項目の指摘事項について説明し「参考にすべき」とした。また、鉱山開発の分野で企業が地域社会と共存する要件として研究された「社会的ライセンス」(社会が事業の実施を同意し受け入れてもらえる状態)の概念を紹介。原子力開発においても立地地域との信頼関係について、「積み木のように積み上げるのは難しく崩すのは一瞬だ」と、常に維持していく努力の重要性を強調。基本的考え方の改定に際し、原子力委員会が国民との膝詰め対話を行う必要性などを示唆した。原子力の人材確保に関しては、義務教育、高等教育、社会教育の各段階における原子力教育の機会提供や評価・改善を重要事項にあげた。また、中小型炉や核融合炉などの実用化に向けては、「もんじゅ」の挫折経験や日本の立地条件の厳しさを踏まえ、「新しいものに関する制度整備の議論が不足している」と警鐘を鳴らし、実現を見据えたロードマップを開発していく必要性を指摘。これを受け、上坂充委員長は、最新の原子力白書が大学の講義で活用され若い世代への原子力に対する関心喚起につながっていることをあげたほか、イノベーションに関しては、米国ニュースケール社による小型モジュール炉(SMR)開発への日揮ホールディングス・IHIの参画や、核融合炉では京都大学発のベンチャー企業による要素技術開発の進展などを例示し、日本の技術に対する海外からの期待の高まりを示唆した。次回のヒアリングは、東京大学大学院情報学環准教授の開沼博氏が招かれる予定。
14 Jan 2022
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【国内】▽3日 経産省、福島第一の排気筒解体工事などで協力企業に感謝状授与▽3日 外務省が韓国政府向けに福島第一のALPS処理水に関するTV会議説明会を開催▽3日 環境省が復興に向けた未来志向の取組をたたえる「FUKUSHIMA NEXT」表彰式を初開催▽4日 経産省他が東日本大震災発生から10年でシンポ、風評払拭に向け福島県産食材の紹介も▽6日 岸田首相が国会で所信表明、需給を一体的にとらえた「クリーンエネ戦略」の推進を明言▽6日 四国電力伊方3号機が2年ぶりに発電再開、司法判断への対応など経て▽9日 FNCA大臣級会合がオンライン開催、研究炉・加速器利用で議論▽9日 2020年度の温室効果ガス排出量、エネ起源CO2排出量とともに7年連続で減少▽10日 農水省、英国が日本産食品の放射性物質輸入規制に関するパブコメを開始したことを発表▽16日 経産省が「クリーンエネ戦略」策定に向け議論開始▽21日 東京電力、福島第一のALPS処理水希釈放出設備設置で規制委に認可申請▽22日 原電東海第二が特重施設に係る原子炉設置変更許可取得、BWRで初▽23日 東北電力女川2号機が新規制基準適合性に係る工事計画認可を取得▽24日 2022年度予算案が閣議決定、核燃料サイクル交付金で新規に約1億円計上など▽24日 東京電力、福島第一のALPS処理水に関する設備検討に向けた地質調査を完了▽28日 ALPS処理水の処分に関する閣僚会議が行動計画を取りまとめる、風評対策など▽28日 原子力委が低レベル放射性廃棄物の処理・処分で見解、発生者責任など4原則示す 【海外】▽1日 EDF、今後のEPR輸出を見据えチェコ、ポーランド、インド等の企業と協力協定締結▽2日 加OPG社、ダーリントン発電所内で建設するSMRとしてGEH社の「BWRX-300」を選定▽2日 英国政府、2030年代初頭の実証に向けた先進的原子炉プログラムにHTGRを選択▽7日 ポーランドのシントス社と石油精製企業、SMRの建設・商業化に向けJV設立▽8日 フィンランドのTVO、オルキルオト3号機の起動に向けた許可を申請▽8日 フィンランド政府、SMR対応など現状に合わせ原子力法改正へ ▽6日 米国の原子力発電所共同組合(USA)と韓国KHNP社が協力合意▽11日 中国が知的財産権を保有する「華龍一号」の国内2基目となる福清6号機が福建省で初臨界、13日に山東省石島湾でHTR実証炉が送電網に接続▽14日 米ニュースケール社がSMRの商業化を加速するため、未公開会社の買収を目的とする企業と合併▽15日 オランダの新政権、連立合意文書に原子力発電所の新設を明記▽16日 カザフがSMR建設の可能性評価でニュースケール社と覚書締結▽15日 米貿易開発庁、ニュースケール社製SMRの導入に向けたウクライナの分析作業を支援▽18日 台湾・蔡政権の政策信任に関する住民投票で原子力発電所の建設再開は否決▽21日 フィンランドのオルキルオト3号機、欧州初のEPRとして初臨界達成▽22日 ポーランドの原子力事業会社、同国最初の原子力発電所建設サイトとしてルビアトボ-コパリノ地点を選定▽20日 インド、ロシア型PWRのクダンクラム6号機を本格着工▽28日 中国海南省の昌江原子力発電所で「華龍一号」を採用した4号機が本格着工▽30日 中国浙江省で「華龍一号」設計の三澳2号機が本格着工▽30日 フィンランドのポシバ社が建設中の使用済燃料最終処分場で操業許可を申請
14 Jan 2022
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原子力規制委員会は1月12日の臨時会議で、日本原燃の増田尚宏社長らと意見交換を行った。同委員会が原子力事業者の経営層を順次招き安全性向上の取組を中心に聴取しているもの。日本原燃では、2020年に核燃料サイクルの中核となる六ヶ所再処理工場とMOX燃料工場について新規制基準適合性に係る事業変更許可が発出され、現在、両施設の設計・工事計画認可(設工認)審査などへの対応が進められている。六ヶ所再処理工場、MOX燃料工場はそれぞれ、2022年度上期、2024年度上期のしゅん工予定。約400名が一堂に会し核燃料サイクル施設の審査に対応(日本原燃発表資料より引用)増田社長は、設工認審査対応に向けた社内体制の強化、業務フローの改善、電力会社からの支援、経営層によるマネジメント強化に関する取組について説明。再処理、MOX加工の両事業に係る審査対応を横断的に俯瞰すべく、新たに設工認総括責任者を任命した上で、協力会社も含め約400名が一堂に集結し対面での報告・連絡・相談がスムーズに行える体制を構築したという。体育館を利用した大部屋で幹部陣を中心に据え執務に当たる模様を示し、「車座になって若手が幹部を質問攻めにする場面も見られ非常に頼もしい。今までバラバラだった人たちも集まることで色々な議論ができるようになった」と述べた。また、核セキュリティに関しては、核燃料物質を取り扱う施設を有することから「最重要課題」ととらえ、昨今の東京電力における核物質防護事案にも鑑み講じている(1)不正行為への厳格な対処、(2)機器故障の速やかな復旧と適切な代替措置、(3)警察との連携強化――の取組を説明。2020年度からは安全性向上に向けて実施してきた小さな気付きを広く収集し改善につなげる「CAP」活動を、核セキュリティの強化にも展開しているとした。増田社長の説明を受け、伴信彦委員は、審査対応に向けた新体制構築による一体感や士気高揚の一方で、現場に関わる人員とで意識にギャップが生じることを懸念。増田社長は、「まずは操業をしっかり達成する」ことを念頭に置き、部長クラスを中心に統率を図るよう努めているとした。設工認の申請対象設備は約40,000機器にも上るが、更田豊志委員長は、これまでの原子力発電プラントに係る審査を振り返りながら、効率的に審査が進むべく日本原燃に対し工夫するよう強く要望。また、同社の有する分析技術に着目し、IAEAの保障措置活動や福島第一原子力発電所事故調査への協力にも期待を寄せた。自然ハザードに関しては、石渡明委員が、2015年に六ヶ所再処理工場で発生した落雷による機器故障を振り返り、「いつ直面するかわからない」と、油断なく備えておく必要性を強調したほか、施設周辺の火山モニタリングを継続し操業開始までに報告するよう求めた。
13 Jan 2022
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原子力産業新聞が電力各社から入手したデータによると、2021年の国内原子力発電の設備利用率は22.1%となった。既に再稼働している関西電力高浜3、4号機、九州電力川内1、2号機で、テロなどに備えた「特定重大事故等対処施設」(特重施設)の運用が開始され、2020年末より順次発電を再開したことから、設備利用率は前年より6.6ポイント上昇。総発電電力量は639億9,786万kWhで前年より42.3%増となった。2021年は6月に関西電力美浜3号機が国内初の40年超運転を開始。これで新規制基準をクリアし再稼働したプラントは計10基・995.6万kWとなった。美浜3号機は10月に特重施設の設置期限(プラント本体の設計・工事計画認可から5年間)を迎えたため定期検査入りし、現在停止中。また、司法判断などにより停止していた四国電力伊方3号機が12月に2年ぶりに運転を再開。同機は年明けて1月24日に原子力規制委員会による最終検査を経て通常運転に復帰する見込みだ。九州電力の玄海3号機と川内2号機は年間を通じて運転し、川内2号機では設備利用率が106.7%にまで達した。*各原子力発電プラントの2021年運転実績(2021年12月分を併記)は こちら をご覧下さい。
12 Jan 2022
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会見を行う萩生田経産相(インターネット中継)萩生田光一経済産業相は1月7日の閣議後記者会見で、6日のジェニファー・グランホルム米国エネルギー省(DOE)長官とのテレビ会談など、原子力・エネルギー政策を巡る最近の動きに関し質疑応答を行った。6日に行われたグランホルム長官とのテレビ会談では、萩生田大臣より「2050年カーボンニュートラル」や2030年度までの温室効果ガス削減目標(2013年度より46%減)達成に向けた取組について説明がなされるとともに、原子力を含めた幅広いクリーンエネルギー分野でのイノベーション・社会実装など、今後の日米間の協力について意見交換。福島第一原子力発電所で発生するALPS処理水(トリチウム以外の核種が環境放出の規制基準を満たす水)の取扱いに関しては、グランホルム長官から「海洋放出の決定を支持する」として、今後も情報発信において協力していく姿勢が示された。〈経産省発表資料は こちら〉グランホルム米DOE長官とのTV会談の模様(経産省発表資料より引用)7日の会見で、萩生田大臣は、今回の会談で小型モジュール炉(SMR)や高速炉などの実証に日本政府として取り組む方針を伝達したことに関し、「エネルギー基本計画に基づき、国際連携や民間の創意工夫を活用して研究開発や技術実証を推進していくが、現時点において国内で新規にプラントを建設することは想定していない」と明言。さらに、核燃料サイクルについては「高レベル放射性廃棄物の減容化・有害度低減や資源の有効利用などの効果をより高める高速炉開発を含め、引き続き推進していく」とした。また、この冬の電力需給見通しについて、萩生田大臣は、「全国的に厳しい。とりわけ東京電力管内では、最も供給予備率が低くなることが見込まれる2月のみならず、既に年末からかなり厳しい状況が続いており、追加的な対策を講じて安定供給に必要な供給力をぎりぎり確保している」と述べた。6日の降雪に伴う首都圏を中心とする電力需要増に関しては、「火力発電所の増出力運転や追加公募により調達した電源の稼働に加え、地域間の機動的な電力融通を行った。東京電力管内の電力使用は97%に上り、どこか1箇所でも不具合が起きれば停電が起きるところだった」と、危機感を示し、引き続き状況を注視しながら電力の安定供給確保に全力を期していくとした。
07 Jan 2022
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挨拶に立つ今井会長原産協会は1月6日、「2022原子力新年の集い」を都内のホテルで2年ぶりに開催。会員企業・組織、関係省庁、駐日大使館などから330名が訪れ、立食形式での歓談は行わず、着席にて参加した。年頭挨拶に立った今井敬会長は、地球温暖化への対応を巡る世界の動きを振り返った上で、「資源に乏しい日本において、脱炭素社会の実現と経済発展を両立させるためには、クリーンで、かつ発電コストが安定している原子力を最大限に活用することが最も合理的な手段となる」と明言。一方で、日本のエネルギー政策における原子力の位置付けに関し「活用方針は依然不明確なまま」と指摘した。また、「2030年度に温室効果ガスを2013年度から46%削減」とする目標引き上げを踏まえ、昨秋に閣議決定された第6次エネルギー基本計画の達成に向けたシナリオは「非常に厳しい」と強調。再生可能エネルギー拡大に係る地理的制約、デジタル技術の活用に伴う電力需要増などに触れた上で、「日本のエネルギー政策において、原子力の正当な価値が認められ将来にわたる活用が明示されるよう、当協会として引き続き国民や関係機関に強く訴えかけていきたい」と述べた。続いて来賓として訪れた萩生田光一経済産業相が挨拶。萩生田大臣は、「新型コロナによる危機を乗り越えた先の新しい社会を見据え、着実に成長の種をまいていく必要がある」と述べ、岸田内閣が掲げる「新しい資本主義」の実現に向けて、経済産業行政を取り巻く課題に総力を挙げて取り組んでいく決意を示した。また、東日本大震災から間もなく11年を迎えるのに際し、「福島第一原子力発電所事故の真摯な反省が原子力政策の出発点」との姿勢を改めて示し、福島復興と廃炉・汚染水・処理水対策を着実に進めていく考えを強調。エネルギー政策に関しては、「資源が乏しく周囲を海に囲まれたわが国は、原子力、再生可能エネルギー、天然ガス、水素・アンモニアなど、多様なエネルギー源を活用することが重要」と述べ、エネルギー基本計画の具体的な政策の実現に向け、原子力については技術開発や人材育成に係る議論を深め、再稼働、使用済燃料対策、最終処分などに着実に取り組んでいくとした。また、電気事業連合会の池辺和弘会長に替わり、清水成信副会長が挨拶文を代読。関西電力美浜3号機の国内初となる40年超運転開始、中国電力島根2号機の新規制基準適合性審査に係る原子炉設置変更許可取得など、2021年の進展を振り返った上で、引き続き原子力発電の安定運転を通じた「S+3E」(安全性、エネルギーの安定供給、経済効率性、環境適合性)の実現、信頼の積み重ねに努め、稼働率の向上とともに、核燃料サイクル事業、最終処分に係る取組を事業者間で連携し進めていくとした。
06 Jan 2022
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日本原子力文化財団は12月12日、高校生らによる課題研究発表会を東京大学本郷キャンパスで開催した(一部の学校はオンライン参加)。エネルギー・原子力に関心を持つ全国11組の高校生・高専生が研究活動の成果を発表。発表終了後、審査が行われ、最優秀賞に「意識の差 - 原子力発電を学校現場から改めて問い直す」のテーマで発表を行った福井南高校が選ばれた。福井南高が実施した高校生アンケート調査の一例、嶺北と嶺南で意識に差が見られる福井南高の研究発表では、福井県内の高校生を対象としたアンケート調査を実施し、原子力発電に関する意識の差について、地域別(嶺北・嶺南)、学科別などにより分析。それによると、「原子力発電を意識するようになったきっかけ」としては、石川県寄りの嶺北地域では、東日本大震災やニュースの割合が多く、原子力発電所を立地する嶺南地域では、家庭環境や校外学習など、自身で見聞きした情報の割合が多かった。また、カーボンニュートラルについては、8割以上の生徒に認知されていなかった。発表に臨んだ同校の生徒たちは、福島県双葉町への訪問体験から避難住民に町の情報を知らせるタブレットを配布したという話を紹介し、「原子力は難しい、関わりたくない、との話を聞くこともあるが、誰もが『心から知りたい』という思いを持っていると感じた。わからないことを突き詰め共有することが議論の土台につながるのでは」と、原子力に関する「対話の輪」を広げていく必要性を訴えた。また、優秀賞を受賞した飯田女子高校(長野県)の生徒は「微生物燃料電池の実用化に向けて」とのテーマで発表。地元の水田に着目し、泥の中に生息する微生物が有機物を食べたときに放出する電子の移動を利用した「泥の電池」について、微生物への餌による比較実験などを通じ実用性を考察したもの。同校の生徒たちは、環境保全について学ばせる双六を制作し小学校への出前授業も実施したとしている。大田原高の生徒が研究した畜牛の糞尿を利用するバイオマス発電のシミュレーション、栃木県北5市町の73,300頭を総動員しても必要電力量の2%にも満たない結果にエネルギーの地産地消に関する研究としては、静岡県立理工科大学星稜高校より地元富士宮市の神田川における小水力発電の活用について発表があったほか、栃木県立大田原高校からは、県北5市町で飼育される畜牛の糞尿を利用したバイオマス発電の可能性に関するシミュレーションが披露された。この他、東海大学付属諏訪高校(長野県)からは模型工作用モーターを利用した小型風力発電機の研究、愛媛県立新居浜工業高校からはカーボンニュートラルを踏まえた四国地方のエネルギーバランスについて発表があった。また、福島県立磐城桜が丘高校の生徒は、福島に係る風評被害に問題意識を持ち、インターネット上に流れる福島関連の情報や、原子力発電に関する全国紙と地方紙との取り上げ方の違いについて調査。さらに、他校とも交流しながらコミュニケーション手法についても探求し、「聞き手によって伝え方を変える必要がある」ことを学んだとした。今回の課題研究発表会で審査員長を務めた東京大学大学院新領域科学研究科教授の飯本武志氏は、生徒らよる発表の終了後、講評に立ち、「研究内容は高い水準にあった」と評価した上で、「自分と異なる意見を持つ人もいることを前提に話をしなければならない。根拠が具体的で定量的な主張は説得力を持つ」として、論理的に考えるプロセスの重要性を強調した。※写真・図表は、いずれもオンライン中継より撮影。
27 Dec 2021
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日本エネルギー経済研究所は12月23日、2022年度の日本の経済・エネルギー需給見通しを発表した。それによると、2022年度は、コロナの影響により落ち込んだ経済活動の回復が進み、実質GDP成長率は3.3%増と、2年連続で3%前後の増加となる見通し。実質GDPはコロナ以前を上回り過去最高となるとしている。原子力発電については、新たに2基が再稼働して年度末時点の再稼働基数は12基となり、テロなどに備えた「特定重大事故等対処施設」(特重施設)の完成遅れで1基の停止期間が長引き、総発電電力量は2021年度見通しから6.2%増の718億kWhとなると想定(基準シナリオ)。基準シナリオで、一次エネルギー国内供給は対前年度比0.4%増と、伸び率は前年の3.0%増より鈍化する見通し。そのうち、石油は対前年度比0.1%増、天然ガスは同2.4%減、石炭は同2.9%増、再生可能エネルギーは同4.8%増などとなっている。エネルギー起源CO2排出量は、石炭やエネルギー用途の石油の増加で、対前年度比0.9%増の9億9,500万トンとなる見通し。基準シナリオにおいて特重施設の未整備により停止期間が長引く1基、同じく再稼働しないと想定した2基の計3基が2022年度中稼働するとした「高位ケース」についても分析。それによると、基準シナリオに対し、化石燃料輸入額は1,700億円減、自給率は1.2ポイント増、エネルギー起源CO2排出量は700万トン削減となり、「個々のプラントに応じた適切な審査を通じた再稼働の円滑化が3E(エネルギーの安定供給、環境への適合、経済効率性)にとって重要」と述べている。
27 Dec 2021
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