東京電力の取締役会が設置する諮問機関「原子力改革監視委員会」の会合が3月9日に開かれた。同委員会は、東京電力が取り組む原子力安全改革の実現に向け、外部の視点から監視、提言、発信を行う組織で、今回会合は2021年1月以来、およそ1年ぶりの開催。会合終了後、委員長を務めるデール・クライン氏(元米国原子力規制委員会〈NRC〉委員長)は、記者会見に臨み、同社から「安全意識」、「技術力」、「対話力」を3本柱とする原子力安全改革の取組状況について報告を受け、(1)正確かつタイムリーな作業に向けた経営層による積極的な関与、(2)コミュニケーションの改善、(3)高いスタンダードでの行動維持を通じた国民の信頼回復、(4)一人一人の安全最優先の姿勢――などをコメントしたと説明。委員会としては、2022年度上期を目途に改めて改革の進捗状況について報告を受けることとしている。同委員会では、副委員長を務めていたバーバラ・ジャッジ氏の死去(2020年8月)に伴い、2021年4月にアミール・シャカラミ氏(元エクセロン・ニュークリア社上級副社長)と西澤真理子氏(リテラジャパン代表)が委員に就任。リスクコミュニケーションを専門とする西澤氏は会見の中で、福島第一原子力発電所で発生する処理水の取扱いに関連し、「まず伝える側が相手の視点に立ち、『何を不安に思っているのか、何を知りたいのか』を把握することが基本」と、対話の重要性を強調した。会見では、ロシアによるウクライナ原子力施設への攻撃に関する質問も出され、クライン氏は、「非常に無責任な行動だ」と非難の意を述べた上で、ウクライナで稼働中の原子力発電所に関し、「ミサイル攻撃を受けることを想定し設計されているわけではないが、堅牢な格納容器があり、様々なシナリオに対し放射性物質の飛散を封じ込めるものとなっている」などと説明。加えて、「これ以上攻撃がないことを祈るばかりだ」とした。
09 Mar 2022
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松野博一官房長官は、3月7日の記者会見で、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻に関し、「4日に行われたザポロジェ(*)原子力発電所への攻撃は決して許されない暴挙」と、改めて非難するとともに、「福島第一原子力発電所事故を経験したわが国として強く非難する」とも述べた。また、6日(現地時間)、ウクライナ北東部に位置するハリコフの国立原子力研究施設にも攻撃があったとの情報を受け、「強く懸念」を表明した。国際的な対露制裁強化の動きの中、エネルギー安定供給と安全保障に関しては、「守るべき国益の一つ」との姿勢を強調。その上で、「G7を始めとした国際社会と連携しながら適切に対応していきたい」とした。具体的には、昨今の原油価格上昇傾向による企業活動や暮らしに及ぼす影響への懸念から、国際エネルギー機関(IEA)加盟国としての石油協調放出、主要消費国と連携した産油国に対する増産の働きかけ、元売り事業者に対する補助金支給額上限の大幅引き上げなど、緊急対策を列挙。政府として、「引き続き緊張感を持って国際的なエネルギー市場の動向や日本経済に及ぼす影響を注視するとともに、機動的に対応策を講じていく」考えを述べた。ロシアによる原子力発電所攻撃に関し、福島県の内堀雅雄知事は4日、「現時点で敷地内や周辺の空間放射線量に大きな上昇は見られていないとのことだが、大変憂慮している」と発言。コロナ感染対策について説明する臨時記者会見の中で質問に応えたもので、一連の軍事侵攻に対し、「国際社会の平和や安全にとって深刻かつ重大な脅威であり、極めて遺憾」と述べた。また、同日、日本原子力学会は抗議声明を発表。原子力発電所への攻撃に対し、「原子力の安全性、公衆と従事者の安全、並びに環境に対して重大な脅威となるもの」と非難した上で、攻撃の停止とともに原子力発電所の安全が確保されることを求めた。*「ザポリージャ」、「ザポリーツィア」とも呼称・表記される。
07 Mar 2022
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原子力発電環境整備機構(NUMO)は2月20日、「私たちの未来のための提言コンテスト」の表彰式を開催した(オンライン)。次世代層を対象に、広く社会全体の課題として高レベル放射性廃棄物地層処分への関心を持ってもらい事業の理解促進につなげていく方策となる提言を募集したもので、今回、「中学生・高校生・高専3年生以下」の部門で10名が、「高専4年生以上・大学・大学院生」の部門で5名が表彰(最優秀賞、優秀賞、入選)された。表彰式の開会に際しNUMO・植田昌俊理事が挨拶。全国17校から寄せられた181点の提言応募への謝意を表した上で、「提言内容を今後の事業に反映できるよう努めていきたい」と述べた。「高専4年生以上・大学・大学院生」、「中学生・高校生・高専3年生以下」でそれぞれ最優秀賞を受賞した橋本さん(左)と石﨑さん「中学生・高校生・高専3年生以下」の部門では京都教育大学附属高校の石﨑悠也さんが、「高専4年生以上・大学・大学院生」では東京都市大学工学部の橋本ゆうきさんが最優秀賞を受賞。今回の提言コンテストで審査に当たった麗澤大学教授の川上和久氏は「自分で探求心を持ち正確な事実を調べる」ことの重要性を強調したほか、提言には新学習指導要領への言及もあったことから、京都教育大学教授の山下宏文氏は「今後学校教育の中でどのように取り上げていくか」と述べるなど、学生たちによるさらなる発想、それを通じた課題解決の具体化に期待を寄せた。「中学生・高校生・高専3年生以下」の部門で前回コンテストに引き続いての最優秀賞となった石﨑さんは、新学習指導要領で2022年度から高校で導入される必修科目「公共」の探求課題として高レベル放射性廃棄物問題を取り上げるよう提言。「高専4年生以上・大学・大学院生」の部門で最優秀賞を受賞した橋本さんは、放射線教育について、表面的な知識の詰め込みではなく「なぜ?」に答えられる基礎的素養への注力、感覚的に学べる教材開発の必要性を提言したほか、処分事業のインセンティブや後世への語り伝えに関し、東京臨海部にある「夢の島」がゴミの最終処分場からリゾートへと変貌してきた経緯を良好事例としてあげた。関西学院高等部の佐竹さん(入選)、「平和について考えを深めている中で応募に至った」と話す今回、各賞の表彰状授与は式終了後の送付に替えられたが、受賞者たちはオンラインを通じて意見交換。高レベル放射性廃棄物問題の学校教育での取り上げ方に関し「『総合的な学習の時間』を活用し、まず生徒たちに『知る』きっかけを与え、知った上で自分で考えさせること」といった提案や、六ヶ所村を訪れエネルギー問題に対する村全体での取組姿勢を知った高校生から「大人も子供も一緒に『自分ごと』として考えないといけないと思った」との声があがった。また、「中学生・高校生・高専3年生以下」の部門で入選作のあった福井南高校で指導に当たっている浅井佑記範氏は、高レベル放射性廃棄物について取り上げた教科書の少なさを指摘。今回の提言コンテストで教育に関する優秀作品が多かったことを歓迎した。なお、学生・生徒への表彰の他、特に応募が多かった愛媛県立八幡浜高校、京都教育大学附属京都小中学校、京都府立鴨沂高校、南九州短期大学に対し「学校賞」が贈られている。※写真は、いずれもオンライン中継より撮影。
03 Mar 2022
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「クリーンエネルギー戦略」の策定に向け議論する総合資源エネルギー調査会と産業構造審議会の合同会合が3月1日に開かれ、自動車産業、原子力産業などを取り上げ話し合った。〈配布資料は こちら〉同会合は、昨秋発足の岸田内閣による「クリーンエネルギー戦略」策定の表明を受け、供給側とともに需要側各分野でのエネルギー転換の方策について、2021年12月より検討を開始したもの。今回で4回目の開催となる。冒頭、挨拶に立った萩生田光一経済産業相は、「自動車産業は多くの雇用を支える基幹産業」、原子力は実用段階にある脱炭素電源であり、『2050年カーボンニュートラル』の実現に不可欠な技術」と、今回会合で取り上げる産業分野の重要性を強調した。原子力産業に関する論点につき、資源エネルギー庁が、現状のビジネス環境、カーボンニュートラルが産業や社会に与える環境、海外プレイヤーの動向の視点から整理。先般10か月ぶりに開かれた総合資源エネルギー調査会の原子力小委員会でも述べられた通り、2050年に向けアジアを中心とする需要増に応じた世界の原子力市場の拡大傾向を示した上で、「米国と英国では原子力のサプライチェーンが完全に弱体化。フランスと韓国では現在立て直しを図っているところ。中国とロシアは世界の軽水炉市場の6割を席巻している」などと、海外プレイヤーの動向について概観した。また、米国テラパワー社・日本原子力研究開発機構・三菱重工業による高速炉開発に向けた覚書締結など、日本の高い技術力に期待した昨今のコラボレーションの動きを述べる一方で、国内における新規プラント建設の中断や海外への輸出案件の中止といった環境変化から、「ものづくりの現場がなくなっている。将来の投資が見通せない中で撤退する企業も多い」などと問題点を指摘。韓国の輸出支援策についても紹介した上で、政府による総合的取組を通じたサプライチェーン立て直しの必要性を示し議論を求めた。委員からは、「マーケットが狭まれば、そこに仕事を求めていく学生もいなくなる」、「製造・運転を担う人材をこれ以上失ってはならない」といった人材確保に関する危機感が多く示された。
02 Mar 2022
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「核融合エネルギーが実現する未来社会」をSF思考で考えるオンライントークイベントが1月27日に三菱みなとみらい技術館(横浜市)で行われた。有人宇宙飛行をテーマとする「ロケットガール」などの著作を持つSF作家・野尻抱介氏らとともに、未来の核融合エネルギーの可能性を展望。「『機動戦士ガンダム』を創れるか?」といったロマンあふれるトークが繰り広げられた。三菱みなとみらい技術館は、青少年に科学技術の関心を喚起する体験型の展示施設。イベントの翌日には折しも、同技術館近くの人気スポット「GUNDAM FACTORY YOKOHAMA」の来春までの開設延長が決定した。トークイベントには、野尻氏の他、ITER(国際熱核融合実験炉)日本国内機関長の杉本誠氏、ITER機構首席戦略官の大前敬祥氏、三菱総合研究所シニアプロデューサーの藤本敦也氏、三菱総合研究所参与の関根秀真氏(モデレータ)が登壇。関根氏は、「核融合エネルギーは『来年できる、5年先にできる』という簡単なものではない。中期といったら50年くらい先、これは学生ならば自分の祖父母の年代になる頃。長期といったら200~300年先の自分たちが既にいない世界、でも人類は生きている。そうした時間的スケールの中で核融合がどのように豊かな社会を実現できるか」と、トークを切り出した。ITER計画に関わる大前氏と杉本氏は、貧困のない社会、長生きできる社会をそれぞれイメージ。「ワクワクする未来を創って実現したい」と、SF思考を活用した未来ストーリー作成手法を研究する藤本氏は、「野菜のほとんどが植物工場生産に。移動型住居が一般化。自分のコピー人格が働くようになる」などと展望。核融合には処女作から“お世話になっている”という野尻氏は、自身の短編作品のストーリーから、「宇宙服のような完全に閉鎖系となったスーツ内で、自分の排泄物や汗などがすべて食物に変換される。つまり元素の組み換えを変えるもので、これはエネルギーを注ぐことで理論的に可能だと思う」と話した。話は宇宙に移り、野尻氏は、「太陽光エネルギーは距離の2乗に反比例し、木星だと地球のおよそ30分の1にまで弱まる。太陽電池が使えるのはせいぜい火星が限界。他の恒星系に行こうとなると『自分で太陽を持っていくしかない』」と、深宇宙探査のエネルギー供給源として核融合の可能性に強く期待。これに対し、大前氏は、スペースコロニーでの核融合利用に期待しつつも、「地球の資源を使って宇宙へ進出していくと、いつか地球のエネルギーがなくなりはしないか」と、宇宙で資源を開発し利用する必要性を示唆した。ITERに据え付けられる世界最大級のトロイダル磁場コイル(2020年1月、三菱重工二見工場にて)核融合エネルギーの実現に向けた現在の課題として、杉本氏は約30年間にわたりITER計画に関わった経験を振り返り、三菱重工業で2020年1月に完成したトロイダル磁場コイル初号機(高さ16.5m、幅9m、総重量300トン、誤差1万分の1以下の高精度)の開発を例に「失敗を繰り返し、足かけ9年も要した」などと、極めて高い技術レベルを達成する困難さを強調。また、大前氏は「核融合は様々な技術の総合体系。まずは『核融合の未来』に関わろうという次世代の人たちが増えることが最も重要」と述べた。オンライン視聴者からも多くの質問が寄せられた。「『ガンダム』を創ることができるか?」に対し、野尻氏は「できると思う。それには遊びにどれだけお金を使えるかだ」と、また、「一番実現できそうもないことは何か?」に対し、藤本氏は「組織というのはどうしても部分最適を目指そうとする。全体最適を図るための意思決定が一番最後に残る難しさではないか」と応え、いずれも科学技術だけでは解決できない人間の精神面や社会構造の課題が指摘された。
01 Mar 2022
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原産協会の新井史朗理事長は2月25日、会見を行い記者団との質疑に応じた。冒頭、新井理事長は、福島第一原子力発電所事故発生から間もなく11年を迎えるのに際しコメント。改めて被災された方々への見舞いの言葉、復興に取り組む方々の苦労・尽力に対し敬意・謝意を述べた。福島第一原子力発電所の廃炉に関しては、先般行われた1号機原子炉格納容器の内部調査、2号機の燃料デブリ取り出しに向けた楢葉モックアップ施設におけるロボットアームの性能確認試験開始など、最近の進捗状況を説明。長期にわたる困難な作業の完遂に向けて、「安全確保を最優先に着実な進展を期待する」と述べた。ALPS処理水(トリチウム以外の核種について環境放出の規制基準を満たす水)の取扱いに関しては、「海洋放出については国内外で懸念の声があることも事実。安全を確保した設備の設計や運用はもちろん、心配の声を丁寧に聴き、透明性の高い情報発信、風評対策に万全を期して欲しい」と、国や東京電力を始めとした関係者による着実な取組を要望。特に懸念を表明する近隣アジア諸国・地域に対し、原産協会として、中国、韓国、台湾の原子力産業界で組織する「東アジア原子力フォーラム」のウェブサイトを通じ、科学的根拠に基づく正しい情報提供に努めていくとした。終わりに、「原子力利用を進めるに当たり、福島第一原子力発電所の廃炉と福島復興の支援に取り組むことは必須」と強調。福島に関する正確な情報発信とともに、会員組織と連携した県産品の紹介や販売協力にも努めていく考えを述べた。記者からは、緊迫するウクライナ情勢がエネルギー安定供給に及ぼす影響などに関し多くの質問があがった。これに対し、新井理事長はまず「大変悲しいこと」と事態を憂慮。昨今の原油価格高騰やLNG市場動向などに鑑み、原子力発電については、燃料の安定的供給が可能な優位性から「注目は高まっていくもの」とした。ウクライナにおけるフメルニツキ3・4号機計画(米国ウェスチングハウス社と協力しAP1000を建設)など、同国の原子力によるエネルギー自給率向上に向けた動きにも言及。一方で軍事侵攻に伴う原子力関連施設への影響も懸念されるが、新井理事長は、各国の政治的問題については切り離した上で、「洋の東西を問わず事故が起きることは原子力産業界全体にとってマイナスとなる」などと述べた。また、欧州委員会(EC)が2月2日に原子力発電を持続的な活動としてEUタクソノミ―(EUが気候変動緩和・適合のサステナビリティ方針に資する経済活動を明示した「グリーン・リスト」)に位置付けたことに関し、新井理事長は「とても意義深いこと」と歓迎。一方で、運転期間の延長、放射性廃棄物の処分、事故耐性燃料の装荷などに関し期限付きの厳しい条件があることから、「国によって状況は異なるが、よりよい条件に移行していくよう今後の流れに期待する」とした。
28 Feb 2022
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原子力の安全性向上に産業界が総力を挙げて取り組む組織「原子力エネルギー協議会」(ATENA)による「ATENAフォーラム2022」が2月17日、オンラインで開催された。今回は、「規制機関と原子力産業界の信頼関係の構築に向けて」をテーマにパネルディスカッション。ATENA・魚住理事長開会に際し挨拶に立ったATENAの魚住弘人理事長は、2018年7月の設立から3年半、ATENAが取り組んできた技術課題への対応実績を振り返った上で、安全性向上に向けた現在の重点項目として、(1)デジタル技術を始めとする新技術への対応、(2)自然現象への備え、(3)再稼働後の長期運転に向けた経年劣化管理――を列挙。今回フォーラムのテーマに関し、ATENAがミッションとする産業界を代表した規制当局との対話について、「対等で率直な議論を戦わせるにはまだ途半ば」と述べ有意義な議論に期待を寄せた。原子力規制委員会・更田委員長続いて、原子力規制委員会の更田豊志委員長が来賓挨拶(ビデオメッセージ)。同氏は、これまで審査に携わってきた経験を振り返り、自然現象やシビアアクシデントへの対応における不確かさ、事業者による投資判断の難しさから、リスク情報活用の有用性に触れ、幾つかの事例を通じ技術に関する正しい理解の重要性を説いた。また、「新しい技術開発を促すことも規制側の重要な役割の一つ」として、小型モジュール炉(SMR)の規制に係る国際動向への関心を表した上で、国内においても産業界が先行し議論が進むことを期待。規制委員会では事業者の経営トップらを招いた意見交換を順次行っているが、「規制機関と産業界との信頼関係はそれぞれに対する社会の信頼があって初めて構築できるもの」と、フォーラム開催の意義を強調した。パネルディスカッションには、「Kマトリックス」代表の近藤寛子氏(モデレータ)、中部電力原子力本部長の伊原一郎氏、慶應義塾大学グローバルリサーチインスティテュート特任教授の遠藤典子氏、原子力規制庁原子力規制企画課長の大島俊之氏、PHP総研主席研究員の亀井善太郎氏、OECD/NEA事務局長のウィリアム・マグウッド氏、読売新聞論説委員の山田哲朗氏、ATENA理事の酒井修氏が登壇。OECD/NEA・マグウッド事務局長議論に先立ち基調講演(ビデオメッセージ)を行ったマグウッド氏はまず、2021年のCOP26を振り返り、「原子力が世界的に大きな役割を果たさない限り、気候変動対策の目標を達成することは非常に難しい」と強調。新しい原子力技術の活用を期待し、その導入に向けて、規制当局、産業界、一般市民との信頼関係は「極めて重要なトライアングルだ」とするとともに、「規制当局は産業界が進歩するための障害ではなく、解決策の一部でなければならない」とも述べ、OECD/NEAが取り組む放射性廃棄物処分に係る対話活動の実績の他、航空機産業における良好事例についても紹介し議論に先鞭をつけた。これを受け、電気事業者としてATENA設立にも関わった伊原氏は、技術に通じたプラントメーカーも含むという電気事業連合会とは異なる存在意義を述べた上で、「成果を出し、まず世の中に認めてもらうことが信頼関係の構築につながる」と強調。規制の立場から大島氏は、「それぞれのメンバーがどのように活動し、外から透明性をもって見られているのか。批判的な声も聴き入れ、議論が外に向かって発信されているのか」と指摘。安全性向上に関する規制委員会の検討チームに参画した亀井氏は「組織を背負った対話」の難しさからアカデミアが果たすべき役割に言及し、また、メディアの立場から山田氏は国民のリテラシー向上の重要性などを訴えた。エネルギー政策について研究する遠藤氏は審査期間の長期化から生じる経済への影響を課題としてあげ、国会の関与にも期待。酒井氏は、「技術論をしっかり戦わすことが求められている」と、ATENAが産業界を率いて総合力を発揮させるよう意欲を示した。※写真は、いずれもオンライン中継より撮影。
24 Feb 2022
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総合資源エネルギー調査会の原子力小委員会が2月24日に開かれ、昨秋策定された第6次エネルギー基本計画を踏まえた今後の原子力政策推進に向け議論を開始した。〈配布資料は こちら〉議論に先立ち資源エネルギー庁が原子力を巡る国内外動向を整理。世界の原子力市場について、米国原子力エネルギー協会(NEI)が分析した「2050年には最大で約40兆円まで拡大。革新炉のシェアは市場の4分の1規模を占める」とする右肩上がりの予測を示す一方、国内のエネルギー需給に関しては、昨今の気候変動対策の活発化やウクライナ情勢などを踏まえ、国際資源情勢の大きな変化を見据えたエネルギーセキュリティ戦略の強化を課題としてあげた。さらに、近年の電力需給ひっ迫の顕在化や電気料金の上昇傾向、再稼働の停滞と廃炉の進展、原子力産業サプライチェーンが直面する存続危機の現状など、今後の原子力エネルギーを考える視座を提示。2020年の電気料金(平均単価)は、震災前(2010年)と比べ、家庭向け、産業向けともに約28%上昇しているという。また、震災前に国内で進んでいた10基を超す原子力発電所建設計画が中断・撤回・未着工となっているほか、英国、トルコ、ベトナムに向け計画されていた輸出案件についても中止されるなど、技術基盤の維持も課題となっている。国内外における原子力発電開発プロジェクトの状況(資源エネルギー庁発表資料より引用)こうした状況を踏まえ、(1)着実な再稼働の推進、(2)革新的な安全性の向上に向けた取組、(3)国民・自治体との信頼関係の構築、(4)原子力の安全を支える人材・技術/産業基盤の維持・強化、(5)原子力の平和利用に向けた国際協力の推進、(6)核燃料サイクルの着実な推進と最終処分を含むバックエンド問題への取組――を論点としてあげた。今回の小委員会は、およそ1年ぶりの開催となり、新たに山口彰氏(東京大学大学院工学系研究科教授)を委員長に迎えたほか、数名の委員が交替。朝野賢司氏(電力中央研究所社会経済研究所上席研究員)、岡田往子氏(東京都市大学原子力研究所客員准教授)、小林容子氏(Win-Japan理事)、佐藤丙午氏(拓殖大学国際学部教授)、竹下健二氏(東京工業大学科学技術創成研究院教授、委員長代理)、松久保肇氏(原子力資料情報室事務局長)、山下ゆかり氏(日本エネルギー経済研究所常務理事)の7名が初出席した。山下氏は、「2050年カーボンニュートラル」の実現に向け、「ゼロエミッション電源である原子力の活用方針を国が前面に立ち明確にすべき」とした上で、現在、新規制基準適合性審査が途上または未申請のプラントも含めた全36基の再稼働、高い設備利用率の達成など、「原子力の最大限の活用」を主張。一方、原子力利用に慎重な姿勢をとる松久保氏は、国際機関による将来予測の信ぴょう性に疑問を呈したほか、高経年化に伴うトラブルや発電量の減少、エネルギー基本計画に記載された放射性廃棄物の輸出(国内で処理が困難な廃炉に伴い発生する大型機器類について例外的に輸出が可能となるよう規制を見直すもの)、核燃料サイクル政策の見直しに関し委員会での検討を求めた。新たに委員となった都市大・岡田氏(左)とWin-Japan・小林氏、人材確保について発言(インターネット中継)また、人材確保に関しては、岡田氏が行政主導の人材育成事業に関わった経験から「バランスのとれた技術者を育てるには分野融合の教育が必要」と、従来の縦割り的なシステムからの脱却を切望。小林氏は、英国ヒンクリーポイントC発電所のEPR新規建設において地元とともに取り組まれている体系的な教育プログラム「インスパイアエデュケーション」の良好事例を紹介した。専門委員として出席した原産協会の新井史朗理事長は、(1)原子力を最大限活用するための実質的な方針、(2)早期の再稼働とともに将来に向けた新増設・リプレースに向けた明確な見通し、(3)経営の予見性を高めるような事業環境整備――が示されるよう求めた。
24 Feb 2022
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福島第一原子力発電所で発生するALPS処理水(トリチウム以外の核種について環境放出の規制基準を満たす水)の安全性に関し、IAEAによるレビューが2月14~18日に行われた。〈経産省発表資料は こちら〉2021年7月に日本政府とIAEAとの間で交わされた署名に基づくもので、当初、12月に予定されていたが、感染症拡大に伴い延期となっていた。今回、IAEA原子力安全・核セキュリティ局のグスタボ・カルーソ氏ら、IAEA職員6名と国際専門家8名(米国、英国、フランス、ロシア、中国、韓国、ベトナム、アルゼンチン)が来日。IAEA一行は、15日には現地を訪問し、ALPS処理水の取扱いに関し、希釈放出前に放射性物質の濃度を確認するためのタンク群など、関連設備の現場調査を実施。また、経済産業省および東京電力との会合では、IAEAの安全基準に基づいて、ALPS処理水の性状、放出プロセスの安全性、人と環境の保護に関する放射線影響など、技術的な確認が行われ、レビュー結果については4月末を目途にIAEAから公表されることとなった。東京電力は2021年11月、ALPS処理水の海洋放出に係る放射線影響評価書を発表し、被ばくの影響が相対的に大きい核種だけが含まれるとした保守的な評価も行った上で、「人および環境への影響は極めて軽微であることを確認した」という。今回のIAEAレビューによる指摘事項は、同報告書の見直しに反映され、内容の充実化に資することとなる。会見を行うIAEA・エヴラール事務次長(インターネット中継)日程を終了し18日、IAEAの原子力安全・核セキュリティ局をリードするリディ・エヴラール事務次長は、フォーリン・プレスセンター(東京都千代田区)でオンラインを通じ記者会見に臨み、ALPS処理水の安全性を確認するIAEAの安全基準に関し、「人々や環境を防護するためのグローバルで調和のとれた高いレベルの安全確保に寄与するものだ」と、その意義を繰り返し強調。IAEAによるレビューは、今後も放出の前後を通じ、安全性、規制、環境モニタリングの面から数年間に及ぶものとなるが、同氏は、「包括的かつ明確に国際社会、一般の人たちに伝わるものとしていきたい」と述べ、引き続きの支援を惜しまぬ考えを示した。今回レビューミッションの団長を務めたIAEA・カルーソ氏(インターネット中継)今回、IAEA一行は福島第一原子力発電所でALPS処理水のサンプル採取も視察。今後、IAEAの研究所で放射性物質の濃度分析が行われることとなっており、エヴラール事務次長とともに会見に臨んだカルーソ氏は、「処理水放出の前・最中・後、様々な段階で、日本の規制への準拠も含め検証していく」などと説明。会見には国内外から100名を超す記者が集まり、ALPS処理水の海洋放出に対する近隣諸国からの反対や日本の漁業関係者・消費者の懸念に関する質問が多く寄せられた。IAEAでは、ALPS処理水の安全性についてわかりやすく説明する特設サイトを立ち上げ情報発信に努めている。
21 Feb 2022
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電気事業連合会の池辺和弘会長は2月16日、日本記者クラブで記者会見(オンライン)を行った。同クラブが「脱炭素社会」をテーマに昨秋より有識者を順次招き行っている会見シリーズの4回目で、同氏は、「2050年カーボンニュートラル」に向けた電気事業者の取組として、供給側の「電源の脱炭素化」、需要側の最大限の「電化の推進」について説明。エネルギー需給における「S+3E」(安全、安定供給、経済効率性、環境への適合)の同時達成の重要性を改めて強調した。〈電事連発表資料は こちら〉冒頭、九州電力社長でもある池辺会長は、同社から東京まで約1,000kmの往復移動に要するエネルギーおよび発生するCO2に言及し、「このような形がスタンダードになるべき」と、オンラインを通じた会見を歓迎する意を表明した上で、エネルギー事業者として取り組む「電源の脱炭素化」と「電化の推進」との需給両面を2本柱とするカーボンニュートラル実現に向けた全体像を図示。再生可能エネルギーについては、「主力電源化に向け最大限の導入を図る」と述べ、電力各社の開発・サービス事例を紹介する一方、「遠浅の海が少ない」、「平地面積が少ない」、「他国と系統がつながっておらず、安定性を維持するための系統コストが高くつく」といった大量導入に係る日本特有の地理的課題をあげた。実際、同氏が示した海外との比較データによると、洋上風力発電が設置可能な面積は英国の8分の1に過ぎず、また、太陽光設備では平地単位面積当たりの設置容量がドイツの約2倍、フランスの約16倍と、世界最高水準の過密となっている。こうした課題を踏まえ、「カーボンニュートラルを達成するためには、再エネと合わせて実用段階にある脱炭素電源の原子力を引き続き活用していくことが必要不可欠」なことを示唆した。再稼働/審査の状況(電事連発表資料より引用)原子力については、足下の課題である再稼働に向けた新規制基準適合性審査の状況を図示。電事連内に2021年に設置した「再稼働加速タスクフォース」による業界挙げての(1)人的支援の拡大、(2)審査情報の共有、(3)技術支援――に取り組んでおり、これから再稼働を目指す電力に対し審査資料DVDの作成、発電所長クラス他総勢約500名が参加する説明会の開催などを実施しているという。将来に向けては、既設炉の安全性向上、原子燃料サイクルの推進、設備利用率の向上や長期サイクル運転とともに、「技術力・人材を国内で確保し続ける」観点から、新増設・リプレースが必要となるとした。最近の建設経験をみても、北海道電力泊3号機(2009年運転開始)、中国電力島根3号機(建設中、2009年に原子炉圧力容器据付け完了)から既に10年を経過しており、新規プラント建設までの空白期間が長期化することで、原子力産業基盤の維持が困難になりつつある状況だ。火力については、「発電電力量の7割以上を占め、安定供給上、大変重要な役割を担っており、必要な規模を維持しながら脱炭素化を目指す」考えから、水素・アンモニア混焼、CCUS(CO2回収・有効利用・貯留)など、イノベーションの創造・実装に取り組んでいくとした。また、需要側の脱炭素化のカギとして、ヒートポンプ技術導入によるCO2排出削減効果を披露。2050年度までに現状の国内CO2年間排出量の約1割に匹敵する約1.4億トンの削減が可能だと説明した。記者から、原子力の関連で、新増設・リプレースの具体化や小型モジュール炉(SMR)導入の可能性について問われたの対し、池辺会長は、「まずは安全・安定運転の確保を通じた信頼獲得が一番の務め」と強調するなど、早期再稼働の実現が目下の課題であることを繰り返し述べた。この他、昨今の電力需給ひっ迫やウクライナ情勢の緊迫に鑑み、再生可能エネルギーへの急激な転換に伴うリスクやLNG調達の投資計画に関する質問も出され、池辺会長は、日本のエネルギー需給構造の脆弱さや価格高騰への危惧を示した上で、「選ばれるエネルギー源」となるよう電気事業者として努めていく考えを述べた。
18 Feb 2022
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九州電力は2月17日、川内原子力発電所2号機の定期検査を同21日から7月中旬までの予定で実施すると発表した。今回の定期検査では、設備の検査や燃料の交換とともに、40年以降の運転期間延長を見据えた特別点検も実施することとしており、これに必要となる原子炉格納容器他のデータ取得も行われる。〈九州電力発表資料は こちら〉同社では、川内1・2号機がそれぞれ、2024年7月、25年11月に法令に基づく40年の運転期限に達することから、2021年10月に運転期間延長に係る認可申請に必要な特別点検の実施について発表した。これに従い、1号機では同月より定期検査と合わせて特別点検を実施している。認可申請については、両機とも特別点検の結果を踏まえた上で判断する予定。40年を超える運転期間延長はこれまで、関西電力高浜1・2号機、同美浜3号機、日本原子力発電東海第二の4プラントで60年までの運転認可が発出されている。新規制基準施行後、川内1・2号機は2015年に先陣を切って再稼働。テロなどに備えた「特定重大事故等対処施設」は、両機とも2020年に整備を終え運用を開始している。立地地域の鹿児島県では、2022年1月より川内1・2号機の運転期間延長に関し、専門委員会による検証が進められている。
18 Feb 2022
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「わが国の原子力界を支える人材の確保」を掲げ産学官が連携し活動する「原子力人材育成ネットワーク」のシンポジウム(2021年度報告会)が2月15日、オンラインで開催された。「原子力人材育成ネットワーク」は2021年度、発足から11年目に入り、参加機関は、新たに日本原子力文化財団を加え、計84機関(国際機関を除く、関係省庁、自治体、企業、大学など)となった。最近の活動成果としては、主に初等中等教育向けに全国39の原子力発電所PR館や研究施設などを紹介したパンフレットの作成があり、原産協会ウェブサイトでも公開されている。シンポジウム開会に際し、同ネットワーク運営委員長を務める原産協会・新井史朗理事長が挨拶に立ち、「原子力産業界が抱える課題解決に向けて共通の思いを新たにし、ネットワークの輪をさらに広げ、今後の機関横断的な活動の成果が一層実り多いものとなるよう期待する」と述べ、議論に先鞭をつけた。「原子力人材育成ネットワーク」では現在、今後の活動に向けた戦略ロードマップの改定が検討されている。これを見据え、シンポジウムでは、「原子力産業界のグローバル化」、「原子力分野の学びの機会拡大」をテーマにパネルディスカッション。座長を務めた日立製作所原子力ビジネスユニット事業主管の吉村真人氏は、同ネットワーク戦略ワーキンググループ主査を務める立場から、「戦略ロードマップに魅力ある産業としての展望をしっかりと描いていく」と強調し議論を進めた。「原子力産業界のグローバル化」の関連でパネリストとして登壇した日立GEニュークリア・エナジー原子力国際技術本部の吉江豊氏は、欧米の原子力開発プロジェクトに参画した経験から、「プロフェッショナルエンジニア」(PE)取得の意義を強調。技術的発言の信頼性や顧客ニーズの理解など、PEのステイタスに関し「海外プロジェクトに参画できる資質の証明となるもの」と述べた。これに対し、新興国への協力事業を行う原子力国際協力センター・センター長の鳥羽晃夫氏は、海外プロジェクトにおける日本の弱みとして、(1)国としての一貫性に欠ける、(2)資金面での制約がある、(3)実務面での長期的研修システムが確立されていない、(4)インターンシップの受入れが難しい、(5)国内に建設中・試運転中のプラントが少ない-――ことを指摘。技術的な資格制度の認知度が低いことも課題としてあげた。また、国際機関でのキャリア形成に関し、原産協会人材育成部長の喜多智彦氏は、自身のIAEA勤務経験を紹介。日本人職員数(専門職)について、1993~2000年の赴任時を振り返り「出向者を含めて40人前後で今もあまり変わらない」と、拠出金分担率に比して少ない状況を憂慮した上で、雇用形態の壁、極めて高い競争率、言語や生活の違いなどを課題として指摘。求められる資質として、専門分野の高度な知識・経験、コミュニケーション能力、異文化に対する受容性などをあげた。閉会挨拶を行う原子力機構・大井川理事、「原子力の持続可能性と人材育成は『車の両輪』」と(ZOOM撮影)「原子力分野の学びの機会拡大」に関しては、「原子力人材育成ネットワーク」高等教育分科会委員で富山高専電気制御システム工学科教授の高田英治氏が、現場で教育に携わる人材の高齢化・退職が進む現状から、若手・中堅の教員育成に向け「まず原子力に関し理解してもらうことが必要」と強調。大学・研究所や企業からの人材登用の可能性にも言及した。また、同初等中等教育分科会主査で長崎大学教育学部教授の藤本登氏は、「教育現場は旧態依然のところもある」などと懸念し、教育行政への働きかけ、教科書の内容充実化に関し、学会が連携して取り組む必要性を述べた。
16 Feb 2022
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【国内】▽6日 萩生田経産相がグランホルム米DOE長官とTV会談、SMRや高速炉などの協力に向け▽6日 首都圏降雪に伴い東京電力管内の電力使用が97%にまで上昇、地域間の電力融通も▽11日 原子力委が「原子力利用に関する基本的考え方」の改定に向け有識者ヒア開始▽17日 通常国会開会、岸田首相が革新原子力も含む「クリーンエネ戦略」策定を改めて述べ18日には有識者懇談会を開催▽19日 規制委、地層処分の概要調査地区選定を見据え火山現象など「考慮事項」検討案示す▽20日 避難指示解除後の生活再建に向け双葉町で準備宿泊が始まる▽20日 九州電力川内1・2号機の運転期間延長に関し、鹿児島県の検証分科会が始動▽21日 NPTに関する日米共同声明が発出される、「核兵器のない世界」に向けて取り組んでいくことを確認▽24日 四国電力伊方3号機が約2年ぶりに通常運転に復帰▽24日 北海道大他が3000年までの南極氷床の変動を予測、気候変動に警鐘▽26日 原子力機構他、米テラパワー社と高速炉開発協力で覚書▽26日 原子力機構他、統合エネルギーシステムに関する5か国連携の国立研究所サミットに参加▽27日 東京電力と日本原燃が福島第一廃止措置の技術協力で協定締結▽31日 高浜2号機の安全対策工事が完了、1号機とともに40年超運転に向け特重施設整備へ▽31日 福島第一2号機の燃料デブリ試験採取装置が原子力機構楢葉遠隔技術開発センターに到着 【海外】▽ 1日 ECが持続可能な経済活動の分類枠組「EUタクソノミー」に原子力を含める方針表明▽ 1日 世界で3基目の「華龍一号」である福清6号機が中国で送電開始▽ 6日 米規制委、2020年6月に審査開始したオクロ社の超小型高速炉の建設・運転一括認可(COL)申請を情報不足で却下▽ 7日 英国で46年稼働したAGRのハンターストンB-2号機が永久閉鎖▽12日 仏EDF、建設中のフラマンビル3号機の燃料初装荷を2023年第2四半期に延期▽12日 エジプト初の原子力発電所となるエルダバ発電所で3、4号機も建設許可を申請▽13日 スロベニアで「使用済燃料の深掘削孔処分は重要オプションになる」との調査結果▽14日 ブラジル、新規原子力発電所の立地点選定で政府が電力研究機関と協力協定▽17日 ベルギー規制当局、条件付きで新しい原子力発電所の2025年以降の運転継続を支持▽20日 スウェーデンのOKG社、オスカーシャム原子力発電所で製造した余剰水素を市場販売へ▽20日 アルメニア、唯一の原子力発電所(1号機は閉鎖、2号機のみ稼働中)の原子炉増設に向けロシアと合意▽21日 米WH社、ポーランドでのAP1000建設に向け同国の関係企業10社と戦略的連携合意▽24日 米エネ省、使用済燃料輸送車両のプロトタイプ試作と試験で産業界からの提案を募集 ▽25日 ロシア、建設中の多目的高速中性子研究炉(MBIR)で炉内機器の試験組立を実施▽27日 スウェーデン政府、SKBの使用済燃料最終処分場計画に建設許可発給へ▽27日 英国政府、サイズウェルC原子力発電所建設計画の継続で1億ポンドの支援提供を発表▽27日 米WH社、U235の濃縮度が6%の試験用燃料集合体をボーグル2号機に装荷へ
14 Feb 2022
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水中ROVがとらえた1号機PCV内部映像(東京電力発表資料より引用)東京電力は2月8日、福島第一原子力発電所1号機の原子炉格納容器(PCV)内に潜水機能付ボート型ロボット(水中ROV)を投入。今後の燃料デブリ取り出しに向けたPCV内部調査の事前対策として、ガイドリング(ケーブル絡まりを防止する通過用の輪っか)の取り付けを行うもので、9日までにPCV底部に「堆積物らしきもの」があることが確認された。同社では水中ROVによる映像を公開している。〈東京電力発表資料は こちら〉ROV-Aによるガイドリング取り付け、磁石で固定され60kgの耐荷重(写真はモックアップ試験、東京電力発表資料より引用)1号機に順次投入される水中ROVは作業・調査の用途に応じ6種類あり、今回投入したのはガイドリング取り付け用の「ROV-A」(直径25cm、長さ111cm)だ。当初、1月中旬が予定されていたが、線量データが正確に表示されないなどの不具合が生じたため、延期となっていた。「ROV-A」は、直径約3mのジェットデフレクターと呼ばれる円盤状の鋼材4か所へのガイドリング設置を完了。10日に装置本体の吊り上げ・回収に入る。今後、各水中ROVにより、ペデスタル(原子炉圧力容器下部)内外の詳細目視調査、堆積物の厚さ測定、核種分析、サンプリングなどを順次実施予定。1号機のPCV内部調査は2017年にも実施されており、自走式調査装置の投入により、「ペデスタル開口部床面近傍で高さ約1m、幅約1.5mの堆積物が存在」との推定が得られている。その知見を踏まえ、続く水中ロボット投入では、ペデスタル内外の調査を行い、堆積物の回収手段・設備の検討など、工事計画の具体化に向けた情報収集を図る。
10 Feb 2022
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福島第一原子力発電所事故後、台湾が講じていた福島県産食品などへの輸入規制が緩和される見込みだ。農林水産省が2月8日に発表したところによると、台湾側でこれまで輸入を停止していた福島、茨城、栃木、群馬、千葉の産品について、きのこ類や野生鳥獣肉などを除き、放射性物質検査報告書および産地証明書の添付を条件に輸出が可能になるという。台湾では、日本産品の輸入に係る緩和策について各界の意見を求め決定することとしている。〈農水発表資料は こちら〉2021年の農林水産物・食品の国・地域別輸出額で、台湾は、中国、香港、米国に次いで第4位。輸出額も対前年比27.0%増の大幅な伸びを見せており、日本にとって重要な輸出市場となっている。台湾が日本産品に対する輸入規制緩和の方向性を示したことを受けて、松野博一官房長官は同日午後の記者会見で、「大きな一歩であり、被災地の復興を後押しするもの」と、歓迎するとともに、日台間の経済・友好関係のさらなる深化に期待感を示した上で、輸入規制が継続する国・地域への働きかけに関し、「日本産食品の安全性について科学的根拠に基づき説明していく」などと発言。資源エネルギー庁では、「福島の復興や原子力災害に伴う風評の払拭に向けて追い風となるものとして歓迎するとともに、今後も国際社会に対し情報発信を続けていく」とのコメントを発表した。また、就任以来、各国を訪問し福島県産品のトップセールスに努めてきた内堀雅雄・福島県知事は、「震災前、本県産農林水産物の主要な輸出先であった台湾において輸入規制が緩和されれば、福島の復興をさらに前進させる大きな力となる」とコメント。引き続き国と連携しながら、県産品の魅力発信を強化し、輸入規制の完全撤廃、輸出拡大に取り組んでいくとした。昨今、台湾からの留学生らによる福島県産品の風評払拭に向けた生産者との意見交換などの活動が多く報道されている。台湾原子力学会でも学生を対象とした現地訪問を実施しており、海産物の検査を見学した医学生からは「人々は福島の食品を誤解している。真実を伝えることが重要」との声が聞かれている。
09 Feb 2022
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原子力委員会は年明けより、「原子力利用の基本的考え方」の改定に向けて、有識者からのヒアリングを定例会の場(一部オンライン開催)で行っている。初回の原子力発電環境整備機構理事長/元原子力委員長・近藤駿介氏に続き、1月18日には東京大学大学院情報学環准教授の開沼博氏が招かれた。福島第一原子力発電所事故後の対話・執筆活動に取り組んできた開沼氏は、除染で発生する除去土壌の仮置きに関する合意形成のプロセスなどを踏まえ、原子力のコミュニケーション活動に関し「福島の現場には、様々な葛藤に直面したが故に信頼回復を促すための事例と教訓がある」と強調。一方通行型のシンポジウム開催や既存のパンフレット配布などの問題点にも言及し、「まず聞く、次に可視化、その上で説明する」ことの重要性を指摘した。同25日には、元国際エネルギー機関(IEA)事務局長の田中伸男氏よりヒアリング。田中氏は、IEAが2021年5月に公表した報告書「2050年ネットゼロのロードマップ」に基づき、世界のエネルギー需給に関し「2050年の脱炭素化を目指すとすれば、石油は既に2019年でピークを過ぎており、2050年にはその25%にまで抑えねばならない」などと、化石燃料を巡る状況を述べ、再生可能エネルギーに加え、原子力が必要となることを説いた。日本の原油輸入で賄うエネルギー供給を風力で代替した場合、全国土に匹敵する面積が必要という試算も紹介。その上で、「持続可能な原子力」の条件として、(1)安全を確保する、(2)廃棄物を処理できる、(3)核兵器に転用されない――ことをあげ、同氏が持論とする福島第一原子力発電所の燃料デブリ処理も視野に入れた「金属燃料小型高速炉」(IFR)の構想を例示した。イノベーションによる気候変動対策について世界の有識者らが対話するICEF(Innovation for Cool Earth Forum)の運営委員長も務める田中氏は、オンラインを通じた若手フォーラム「Youth ICEF」での議論も踏まえ、将来に向けて女性と若者の活躍に期待を表した。2月1日には、原子力資料情報室共同代表の伴英幸氏と東京大学大学院工学系研究科教授の山口彰氏よりヒアリング。原子力利用に慎重な姿勢をとる伴氏は、近年のエネルギー政策や世論の動向を踏まえ、原子力の依存度低下から撤退への流れ、廃炉を着実に進めるための人材育成、使用済燃料全量再処理政策の転換などを「原子力利用の基本的考え方」に位置付けるべきとしたほか、福島第一原子力発電所のエンドステート(サイトの最終的状態)に関し議論することを原子力委員会に求めた。総合資源エネルギー調査会でエネルギー基本計画策定にも関わった山口氏は、エネルギー政策における原子力の位置付けについて定量的評価に基づき議論する必要性を指摘。「原子力利用の基本的考え方」に関し、原子力基本法やエネルギー政策基本法など、法規との関連性を整理した上で、改定に向けて、(1)網羅的かつ詳細な計画ではなく、(2)府省庁を超えた原子力政策の方針を示すもの、(3)専門的見地や国際的教訓を踏まえた独自の視点から、(4)長期的な方向性を示す羅針盤――との当初の趣旨を改めて喚起した。各ヒアリングでは、放射線利用の啓発やSNS・ボードゲームを利用したコミュニケーション活動、核燃料サイクルのコスト、革新技術に係る国際プロジェクト参画、国際機関との連携、ジェンダーバランス、教育などについて意見交換がなされた。原子力委員会では、引き続き国際環境経済研究所理事の竹内純子氏らを招きヒアリングを行う予定。
04 Feb 2022
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日本原子力研究開発機構は2月2日、統合エネルギーシステムに関する国立研究所サミット「Global National Laboratories Summit 22」に参加したと発表した。〈原子力機構発表資料は こちら〉統合エネルギーシステムは、原子力、再生可能エネルギーなど、個々のエネルギー技術を組み合わせ、電力、熱、水素の効率的・持続的供給を図るといったエネルギーシステム全体としての最適化を図る概念だ。サミットは1月26日にオンラインにて開催。カナダ、フランス、日本、英国、米国の5か国から8研究所が参加した。同サミットは、COP26の議長国である英国の国立原子力研究所(NNL)が、COP26以降も低炭素化に向けたモメンタムを維持する観点から、関係国の原子力および非原子力のエネルギー機関に呼びかけ実現したもの。原子力機構からは舟木健太郎理事が登壇し、同機構が2019年に発表した将来ビジョン「JAEA 2050+」を披露。「原子力のポテンシャルの最大限の追求」、「他の科学技術分野との協働・融合」を掲げた将来ビジョンのもとで開発を進めている高温ガス炉や小型モジュール炉(SMR)などの革新的原子炉を活用した統合エネルギーシステムの構想を示し説明した。NNL呼びかけのもと、サミットには、原子力機構の他、日本エネルギー経済研究所、カナダ原子力研究所、フランス原子力・代替エネルギー庁(CEA)、エナジー・システムズ・カタパルト(英国)、アイダホ国立研究所(米国、INL)、国立再生可能エネルギー研究所(同、NREL)が参加。各研究所からの発表を受け、サミットでは声明を採択。声明では、統合エネルギーシステムについて、「信頼性が高く、持続可能性を有する、安価な低炭素エネルギー。人々に便益をもたらすエネルギーサービスを提供するために、原子力や再生可能エネルギーのような低炭素エネルギー源を組み合わせるもの」などと位置付けた上、今後研究機関間でのベストプラクティス共有を図っていくとした。原子力機構では、高温ガス炉を利用した熱利用・水素製造に向けた取組を進めている。原子力の有用性に関し、「電力のみならず、熱、水素製造での利用可能性を有する点などにおいて、再生可能エネルギーを補完する役割が期待されている」ことから、非原子力分野の研究機関も参加する同サミットの意義を重くとらえ参加した。今後、声明に基づき、各国の研究機関との間で統合的なエネルギーシステムの検討に関する知見共有を進めていく。
03 Feb 2022
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高浜1・2号機の安全対策工事では事故時の環境線量低減のためトップドームを設置(関西電力発表資料より引用)関西電力は1月31日、高浜発電所2号機について、安全性向上対策工事で行う設備の据付けや取替など、本工事を完了したと発表した。同機は1975年に運転を開始しており、既に再稼働した美浜3号機、安全対策工事を完了した高浜1号機とともに、40年超運転に入る運び。〈関西電力発表資料は こちら〉高浜1・2号機の安全性向上対策では、シビアアクシデント対応となる原子炉格納容器上部へのドーム状鉄筋コンクリート造の遮蔽設置(直径約44m)や、信頼性向上に向けた中央制御盤のアナログ式からデジタル式への取替などを実施。2号機については、耐震性を図る海水取水設備移設のため、深さ約40m、全長約130mのトンネル工事も行われた。高浜1・2号機の再稼働に向けては、美浜3号機と合わせ、2021年4月に福井県知事からの理解表明が得られているが、テロなどに備えた「特定重大事故等対処施設」(特重施設)が未整備(高浜1・2号機は2021年6月にプラント本体の設計・工事計画認可から5年間の設置期限を満了)のため、同施設の工事完了が必要となる。関西電力が2021年12月に原子力規制委員会との意見交換で説明したところによると、高浜1号機と同2号機の再稼働に関し、それぞれ2023年5、6月頃の特重施設運用開始、同6、7月頃の発電再開が計画されている。なお、2021年に国内初の40年超運転を開始した美浜3号機でも現在、2022年9月頃の運用開始に向け特重施設の設置工事が進められており、同10月にも発電を再開する予定。関西電力では、引き続き稼働中プラントの安全・安定運転に努めるとともに、特重施設の工事を安全最優先で進めていくとしている。
02 Feb 2022
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杉山氏 ©The Canon Institute for Global Studies今冬の電力需給の見通しは全国的に厳しく、とりわけ東京電力管内では1月6日、降雪に伴い電力使用が約97%にまで上り「どこか1か所でも不具合が起きれば停電が起きる」事態となるなど、昨年末から2月にかけて予断を許さぬ状況だ。総合資源エネルギー調査会でも、既に来夏以降の電力供給力確保に向け、例年にない頻度で検討を行っている。こうした状況下、キヤノングローバル戦略研究所研究主幹の杉山大志氏は1月25日、「全原発停止で日本は極寒に」と題するコラム(同研究所ウェブ上に掲載)の中で想定した「悪夢のシナリオ」を通じて、再生可能エネルギーに過度に依存した脱炭素政策への危惧を示唆し、電力供給における原子力の必要性を指摘している。同氏は、フィクションとして、「何者かによって安全規制に関する非公開文書とメールのやり取りが大量にリークされ、そこから複数の不祥事疑惑が起きる。原子力規制委員会、電力会社、政治家を巻き込んだ一大スキャンダルになる。(中略)反原発を持論とする政治家が支持を集め、『安全性が担保されないおそれあり』として、疑惑の解明まですべての原子力発電所が停止される」と想定。これに端を発し、東日本大震災直後のような電力需給ひっ迫が起き、国の節電要請を受けて、企業は輪番休業を余儀なくされ、全国の至る所で計画停電。さらに、エネルギー供給の見通しが悪化することで、国内の工場閉鎖、電気料金の値上げが進み、経済活動は大きく落ち込むとしている。杉山氏は、気候変動対策について議論する産業構造審議会の小委員会委員を務めており、昨今の異常気象に関しても、観測データの精査、防災投資と温暖化対策とのバランスなどの視点から意見を述べてきた。2021年に静岡県熱海市で発生した土砂災害ではメガソーラー(大型太陽光発電所)開発との因果関係が報道を賑わしたが、今回のコラムの中で、同氏は、原子力発電所の全停止に加え、「伊勢湾台風」クラスの強力な台風の襲来も想定。全国30か所のメガソーラーで土石流や風害による事故が発生し犠牲者が出るほか、送電網が各地で寸断され、1週間以上にわたり停電が続く事態となるとしている。実際の事例として、北海道電力の泊発電所は2012年以降全基停止中だが、2018年の北海道胆振東部地震による道内全域停電を振り返り、「基幹発電所が停止し、電力需給がひっ迫していると、送電網の寸断による停電もさらに起きやすくなる」とも指摘。近年建設が進むメガソーラーに関しては、「施工が悪く十分な備えができていないものも多い」と述べている。この他、コラムでは、化石燃料市場やレアアース供給に係るリスクなども想定し、「原子力発電がすべて停止すれば、エネルギー供給はますます脆弱になり、日本経済は危機に瀕する。1年後には日本の冬も日本人の懐もますます寒くなるだろう」と述べている。
28 Jan 2022
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日本原子力研究開発機構と三菱重工業などは1月26日、原子力開発ベンチャー企業の米国テラパワー社とナトリウム冷却高速炉技術に関する協力覚書を締結した。〈原子力機構発表資料は こちら〉米国テラパワー社は、GE日立・ニュクリアエナジーと共同で2020年代後半の実証炉運転開始を目指し小型ナトリウム冷却高速炉「ナトリウム(Natrium)」(電気出力34.5万kW)の開発を進めており、2021年6月にはワイオミング州での建設計画が州知事・電力会社と合意に至っている。ナトリウム冷却高速炉は、次世代の原子炉概念の中でも技術成熟度が高いとされており、世界でも開発が加速化している。「ナトリウム」は、ナトリウムの熱を伝えやすい性質により全電源喪失時にも自然循環の除熱が可能。「溶融塩熱貯蔵ループ」と呼ばれるシステムを組み合わせることで出力調整の柔軟性が図られ、再生可能エネルギーの出力変動に対応し経済性向上にもつながる。原子力機構などの発表によると、テラパワー社は、「常陽」、「もんじゅ」などを通して得られた日本の高速炉に係るノウハウや試験施設、日本企業の機器設計・製造技術に注目しているという。実際、「常陽」、「もんじゅ」については、運転・保守経験の実機データベースが蓄積されており、海外の開発機関にとっても価値は大きい。また、両機の建設に携わったメーカーの知見も活用できる。今回の覚書締結を受け、原子力機構、三菱重工業、三菱FBRシステムズ、テラパワー社の4者では今後、相互に技術の情報交換を行った上で、燃料交換機や破損燃料検出系を含むナトリウム冷却炉に特有の技術など、高速炉の開発協力について協議を進める。
27 Jan 2022
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「原子力総合シンポジウム2021」(日本学術会議主催、日本原子力学会他共催)が1月17日、オンラインで開催され、日本原子力学会会長の山口彰氏(東京大学大学院工学系研究科教授)他、日韓それぞれの元原子力学会会長も登壇し、「2050年の世界のエネルギーシステムとしての原子力の意義」をテーマにディスカッションを行った。IAEAがまとめた世界の原子力発電規模予測総合資源エネルギー調査会の委員として昨秋閣議決定されたエネルギー基本計画の改定審議に携わった山口氏は、日本のエネルギー政策の変遷を1960年代からたどり、高度経済成長、石油危機、TMI事故、チェルノブイリ事故、京都議定書合意、原子力ルネッサンスの高揚、東日本大震災など、内外の動きに応じ見直しが図られ、「『S+3E』(安全性、安定供給、経済効率性、環境適合性)に適ってきた」と概観。世界の原子力発電の見通しについては、IAEAが2021年9月に公表した年次報告書から、設備容量が、低予測では2030年に2020年比で約7%減少するものの2050年には概ね回復し、高予測では2030年に同約20%増加し2050年にはほぼ倍増となり、特に2050年時点においてアジア・中南米での伸びが顕著となる予測を紹介した。また、次世代原子炉開発に関して、熱源としての利用可能性に着目し「発電以外の付加価値は大きい」としたほか、長期的なエネルギー資源確保の観点から「日本においては核燃料サイクルの技術成熟度が重要」と強調。その上で、2050年のエネルギーシステムの要件として、(1)気候変動を抑制できる、(2)レジリエンスを確保できる、(3)安定した価格で経済の持続性を支援できる、(4)長期的なエネルギー資源の持続性を保証できる、(5)様々なニーズに応える利用の多様性を確保できる、(6)技術・制度・社会受容性の観点から実現性が高い――ことを掲げた。これを受け、元日本原子力学会会長の藤田玲子氏、元韓国原子力学会会長のミン・ビュンジョ氏を交えたディスカッションでは、社会とのコミュニケーションや人材育成におけるアカデミアの役割についても意見が交わされた。韓国の現政権では、「今後新たな原子力発電所の建設計画は認めず、設計寿命を終えた原子炉から閉鎖する」との方針が掲げられている。韓国原子力研究所(KAERI)で長く研究開発に従事してきたミン氏は、建設中の原子力発電所が完成しても世論の動きから運転開始が困難な韓国の状況と、新規制基準をクリアしても再稼働に至っていないプラントがある日本の状況との類似点に言及しながら、「発電に限らず広く社会に役立つ原子力技術」に目を向ける必要性を示唆した。韓国で建設中の新古里原子力発電所5、6号機は、現政権の政策により一時建設工事が中断されていたが、国民参加の討論型世論調査を踏まえ建設再開に至っている。山口氏は、東日本大震災後、エネルギー政策の検討のため行われた討論型世論調査の経験を振り返り、限られた枠内での熟議を公共政策に反映することの難しさを述べ、専門家集団として学会が社会とのコミュニケーションにおいて果たすべき役割を考えていく必要性を改めて強調。高レベル放射性廃棄物の資源化に係る技術開発に取り組んできた藤田氏は、青森県内の女性たちとの意見交換の経験から、歯科材料やアクセサリーにも使われるパラジウムの抽出・再生利用に注目が集まったことに触れ、コミュニケーション活動に関し「まずは関心を持っている層から広めていってはどうか」と提案した。人材育成の関連では、高等教育に携わる立場から、山口氏とミン氏は「2050年に向けて原子力のビジョンを示していく」重要性を強調。ソウル大学では原子力志望の大学院生が集まらなくなったといわれているが、山口氏は、韓国がUAEへの原子力開発進出を機に設立した産業界主導の教育訓練機関「国際原子力大学院大学」(KINGS)を例に、「原子力は教育制度そのものに一工夫いる」と、藤田氏は「魅力ある新しい研究分野を開拓していくことも必要」などと述べた。
27 Jan 2022
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原産協会の新井史朗理事長は1月21日、理事長会見を行い、記者からの質疑に応じた。年明け初となる今回の会見では、原産協会・今井敬会長の年頭所感および理事長メッセージ「2022年の年頭にあたり」を配布。新井理事長は、「わが国と世界の原子力界 主な動き 2021」(原子力産業新聞取りまとめ)から、2021年の国内外における「原子力活用の気運の高まり」となる出来事を振り返った上で、2022年に原産協会として取り組む「原子力発電に対する理解の獲得」、「福島復興支援」、「人材確保・育成」、「国際協力」について説明した。元旦には主要メディアで、米国テラパワー社と同エネルギー省(DOE)による高速炉開発計画に日本原子力研究開発機構と三菱重工業が参加するとの報道があったほか、1月6日には萩生田光一経済産業相とジェニファー・グランホルムDOE長官との間でエネルギー政策に関するテレビ会談が行われ、革新炉開発に係る協力促進の方向性が確認された。こうした国際協力の動きについて記者から質問があったのに対し、新井理事長は、高速炉開発について、日本が進める核燃料サイクル政策上、「廃棄物の有害度低減や資源の有効利用」の観点から改めてその重要性を述べ、「国内の原子力技術開発・人材育成にもつながるもの」と歓迎。また、2021年12月にカナダ・オンタリオ州電力(OPG)が新たに建設する小型モジュール炉(SMR)としてGE日立・ニュークリアエナジー社製「BWRX-300」が選定されたことについて、「大変意義がある」とする一方、広大な国土であるが故の電力系統連系の困難さ、大型炉の持つスケールメリットにも言及し、SMR開発に関し各国の事情に応じた取組の必要性を述べた。
24 Jan 2022
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量子科学技術研究開発機構とアトックスは1月18日、小型・高性能なヘルメット型のPET(陽電子放出断層撮影、放射性同位体で標識した化合物を人体に投与して画像を得る)装置を開発し製品化したと発表した。〈量研機構発表資料は こちら〉PETは、脳の状態(脳血流量、脳酸素消費量など)を調べることによって、脳血管障害、アルツハイマー病などの病態解明に役立っているが、今回の開発成果は、認知症診断への活用を見据えており、頭部検査に特化した装置で、座ったまま検査できることから、被検者への負担が大きく軽減される。量研機構他によると、世界初となる半球状の検出器配置を採用したことにより、従来型装置(円筒型)と比べて少ない検出器数でありながらも、高画質な撮像を可能とし、「圧倒的にコンパクト」なサイズで、これまでPET設置の十分なスペースがなかった施設へも導入できるとしている。新型PET完成の記者発表に臨む量研機構・中野量子生命・医学部門長(左)とアトックス・矢口社長(アトックス発表資料より引用)今回の開発は、放射線医療の技術・知見を有する量研機構が基礎部分(基本設計や検出器開発など)を、原子力発電所メンテナンスのノウハウを持つアトックスが実用化部分(詳細設計やシステム開発など)を中心に担当するという産学連携によって、7年の歳月をかけ実現したもの。ヘルメット型のPET装置は、「頭部専用PET装置 Vrain」としてアトックスより販売される。
21 Jan 2022
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三菱総合研究所のセーフティ&インダストリー本部は1月18日、福島の復興状況や放射線の健康影響に関し、東京都民を対象に実施したアンケート調査の結果を発表した。「復興五輪」とも呼ばれた東京オリンピックの開催をとらえ継続実施してきたもので、2017年、2019年、2020年に続き4回目となる今回の調査は、大会開催後の2021年8月25~27日、20~69歳の男女1,000名を対象としてインターネットにより行われた。〈三菱総研発表資料は こちら〉調査結果によると、福島第一原子力発電所事故発生から10年が経過し「自身の震災に対する意識や関心が薄れていると思うか」との問いに対しては、「そう思う」、「ややそう思う」との回答が55.8%で、2019年の調査以降、ほとんど変わっていなかった。2017年調査では51.6%だった。「福島県内の復旧・復興は進んでいると感じるか」との問いに対しては、「そう思う」、「ややそう思う」との回答が30.2%で、2020年調査から2.5ポイント増加。2017年調査では22.3%だった。また、福島の現状への理解については、「正しく理解していると思う」とする回答(「そう思う」、「ややそう思う」の合計)が10.3%で、2020年調査から1.8ポイント増加。一方、「正しく理解しているとは思わない」(「そう思わない」、「あまりそう思わない」の合計)とする回答は45.4%で、2017年調査の54.6%以降、調査年次につれて減少していた。福島県産食品に対する都民の意識に関しては、「自分が食べる」、「家族・子供が食べる」、「友人・知人に勧める」、「外国人観光客に勧める」の場合ごとに質問。「福島県産かどうかは気にしない」との回答は、それぞれ64.4%、62.2%、62.2%、63.2%で、いずれの場合についても、初回調査以降、2020年調査まで増加してきたものの、今回の調査では減少(最大2.4ポイント)に転じていたことから、福島県産食品に対する風評の再来が危惧される状況に関し「一時的なものか否かを継続的に調査し把握していく必要がある」としている。また、放射線による福島県民への健康影響に関しては、「がんの発症など、後年に生じる健康障害」、「次世代以降への健康影響」について尋ね、「起きる可能性が低い」とする回答が、それぞれ57.6%、63.1%と、いずれも半分以上を占め調査年次につれて増加していた。五輪開催を通じた復興の実感度に応じ回答者を3分類、各々について復興進展の感じ方を分析(三菱総研発表資料より引用)東京オリンピックを通じて、「福島の復興状況が世界に発信できていたと思うか」については、「あまり発信できていなかった」、「発信できていなかった」との回答が63.1%と、半数以上を占める一方、「発信できていた」、「やや発信できていた」との回答は9.3%と、1割にも満たなかった。さらに、「福島の復興を実感することができたか」については、「あまり実感できなかった」、「実感できなかった」との回答が67.5%で、「実感した」、「やや実感した」との回答は7.6%だった。今回の調査では、東京オリンピックを通じた復興の実感度合いに応じて、他の質問とのクロス解析も実施。「実感した」層では、「どちらともいえない」層、「実感できなかった」層に比べ、「福島県内の復旧・復興の進展を感じる」とする回答割合が顕著に高くなっており、「大会を通じた福島県の復興に対する実感」の効果が示唆された。
20 Jan 2022
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