原子力委員会は12月24日の定例会合で、2018年2月に取りまとめた人材育成に関する見解のフォローアップとして、北海道大学、九州大学、東京大学よりそれぞれヒアリングを行った。北海道大学からは、工学研究院教授の小崎完氏が招かれ原子力教育の現状と課題について聞いた。同氏によると、原子力関係の学科・専攻は、原子工学科が2005年の改組で機械工学科と統合し「機械知能工学科」となり、大学院組織もこれと時期を同じくして1971年開設の原子工学専攻の流れを汲む量子エネルギー工学専攻と機械科学専攻とが、「機械宇宙工学」、「人間機械システムデザイン」、「エネルギー環境システム」、「量子理工学」の4部門に再編。近年中に、新たな組織再編が見込まれており、学科・専攻の改組に先立ち2020年度には旧原子工学科に属していた教員陣による「応用量子科学部門」が組織される予定。学科の改組により原子力教育は科目が大幅に減少し学生の関心も低下し続けているという懸念の一方、大学院教育では、主専修科目に加え副専修科目を履修させる「双峰型教育」を特色もあるとして、今後の組織再編で何らかの改善が期待される見通し。原子力関連の教員数削減も進む中、小崎氏は、文部科学省の補助によるウェブサイト公開の講義録「オープン教材」の作成・活用、テレビ会議システムで道内の他大学を結んだ放射線に関する教養科目の開設など、通信ネットワークを活用した取組を紹介した。九州大学からは工学府教授の出光一哉氏が、東京大学からは工学系研究科教授の笠原直人氏が説明。出光氏は北海道大学と類似した流れを持つ原子力関係学科・専攻の変遷やアジア地域を中心とする留学生の動向、笠原氏は自身がヘッドとなる「原子力国際専攻」のカリキュラムにおける産学官連携科目の拡充やIAEA/INMA(International Nuclear Management Academy)による認証を通じた「原子力マネジメント学」の強化などを紹介した。
26 Dec 2019
2357
「エネルギー社会と原子力」について考えるシンポジウムが12月22日、東京大学本郷キャンパスで開催され、立地地域の首長らも交え、将来の原子力エネルギー利用のあり方について、社会的合意形成の視点などから総合的に討論した(=写真)。福島第一原子力発電所事故の教訓を踏まえ、技術的課題・社会的課題を抽出し調査・検討を行っている日本学術振興会「『未来の原子力技術』に関する先導的研究開発委員会」の主催によるもの。福島県双葉町長の伊澤史朗氏、同大熊町商工会長の蜂須賀禮子氏、茨城県東海村長の山田修氏、東京大学大気海洋研究所教授の渡部雅浩氏、地球環境産業技術研究機構副理事長の山地憲治氏、元日立GEの守屋公三明氏、日本エネルギー経済研究所の村上朋子氏、原子力資料情報室共同代表の伴英幸氏、「自分ごと化会議 in 松江」共同代表の福嶋浩彦氏が登壇。現在全域が避難指示区域となっている双葉町の復興に関して、伊澤氏は、「来春の避難指示解除に向けて16の企業と立地協定を結んだが、昨日ようやく道路建設関係の会社が操業開始したところ」と、雇用の確保とインフラ整備の重要性を示唆。2022年春の帰還開始目標に際し、「避難指示解除が遅れるほど帰還率が低くなっている」と他の自治体の状況を踏まえた上で、「『戻ってきてよかった』となるよう努力しなければ誰も戻ってこない」と、独自の町作り・魅力発信に取り組んでいく考えを強調した。また、「花屋の母ちゃん」を自称する蜂須賀氏は、国会事故調委員の立場で現地調査に参画した経験に触れたほか、「原子力に賛成の人も反対の人も『安全であるにはどうすればよいのか』を考える契機となった」と振り返った上で、「子供たちに何を伝えていくのか」などと、事故の経験継承の重要性を繰り返し訴えた。「東海村はこれからも原子力研究開発の中心」と自負する山田氏は、JCO事故から20年となった去る9月の「安全フォーラム」開催や、村民との「ふれあいトーク」、定例記者会見を通じた情報発信・対話活動の取組を述べる一方、防災対策に関し、東海第二発電所から30km圏内に約94万人を擁することから、「複合災害、広報体制、バスの確保など、住民の不安は解消できない」と懸念を述べた。技術者の立場から守屋氏は原子力発電所の安全確保の仕組みを、村上氏は世界のエネルギー動向について説明。原子力発電に慎重な姿勢をとる伴氏は、立地が断念された、もしくは未着工の地点を図示し、新規立地に対する地元理解を得る難しさなどを述べた。福嶋氏は、無作為に選ばれた住民たちが地域の課題について議論する「自分ごと化会議」を、松江市で原子力発電をテーマに実施した経験を紹介し、信頼関係や「町を自分たちで作る」意識の醸成につながったとした。この他、地球温暖化問題の視点から山地氏が「CO2排出正味ゼロシステム」を、気象学の立場から渡部氏が今世紀末までの気候変化シミュレーションを披露。討論の中で、山地氏はスウェーデンの原子力復活やロシアの舶用炉開発の動きを、渡部氏は自然災害リスクの不確実性などをそれぞれ強調した。
25 Dec 2019
875
日本エネルギー経済研究所は12月23日の研究報告会で、2020年度の経済・エネルギー需給見通しを発表した。それによると、一次エネルギー国内供給は、経済活動の緩やかな拡大の一方で、製造業の減産や省エネの進展により、2019年度、2020年度ともに前年度比0.4%減となる見通し。そのうち原子力については、2019年度は再稼働がなく同1.8%減の610億kWhに、2020年度は4基が再稼働するものの、テロ対策の特定重大事故等対処施設が設置期限までに完成しないことにより3基が停止し同4.1%増の635億kWhとなるとしている。石炭については、近年の横ばい傾向が2019年度後半からの石炭火力の新設に伴い、2020年度には同2.4%増に転じると分析。石油と天然ガスについては、2020年度までほぼ同じ割合で減少を続ける見通しが示された。現在、建設中も含め計12基の原子力発電プラントについて新規制基準適合性に関わる審査が進められており、また、再稼働が先行した九州電力の川内1号機が2020年3月に、同2号機が5月に特定重大事故等対処施設の設置期限を迎える。今回の研究報告では、同施設の未完に伴うプラント停止がないと仮定したケースについても評価を行い、基本ケースに比べて、化石燃料輸入額は600億円減、エネルギー自給率は0.5ポイント改善、CO2排出量は300万トン削減などと試算された。その上で、2020年度以降も特定重大事故等対処施設の設置期限を迎えるプラントが増えることから、「機能的な審査を通じた再稼働の円滑化は、わが国の3E(経済、安定供給、環境)にとって重要」と指摘している。同研究所原子力グループマネージャーの村上朋子氏は、原子力発電の展望と課題に関して取りまとめた研究報告の中で、これまでに再稼働した9基について、新規制基準適合性に関わる審査書案が了承されてから発電再開まで平均約1年5か月を要したと分析。こうした再稼働までのリードタイムや運転期間延長に向けた審査申請の動きなどを、2020年以降も注視していく必要があるとしている。
24 Dec 2019
1130
資源エネルギー庁の福島第一原子力発電所の処理水に関する委員会は12月23日、これまでの議論を整理した 取りまとめ案 を示した。汚染水の多核種除去設備(ALPS)による浄化に伴い、トリチウムを含んだ処理水が発生しタンクに貯蔵され続けているが、タンク建設の用地が限界に達しつつあることから、同委では、技術的観点に加え、風評被害などの社会的影響も含めて総合的に処分方法の検討を行ってきた。取りまとめ案では、処理水の処分方法の検討に向け、前例のある海洋放出、水蒸気放出に焦点を絞り、どちらか一方、または、両方の実施で、3つのケースを提示。海洋放出、水蒸気放出ともに、タンクに貯蔵されている処理水を1年間で処分したとしても、「原子放射線の影響に関する国連科学委員会」(UNSCEAR)の手法を用いた被ばく影響評価で、自然放射線による影響の千分の1以下となるとしている。この他の処分方法として、同委員会の技術タスクフォースが検討を行った地層注入、水素放出、地下埋設については、いずれも技術的成立性、新たな規制・基準を要すること、処分場確保の制約などから、今回の取りまとめ案では、「現実的な選択肢としては課題が多い」とされた。委員会では、2016年11月より計16回の会合を行い、地元生産者や流通関係者、リスクコミュニケーションの専門家からもヒアリングを実施したほか、2018年8月には福島と東京で説明・公聴会を開催した。これらを踏まえ取りまとめ案では、処理水の処分に伴う風評被害について、今後の対策の方向性を提言。リスクコミュニケーション対策として、トリチウムについての理解促進、マスメディアに対する情報提供、海外に向けては、在京外交団や外国プレスを対象とした説明会の開催、農水産物の販路回復に関しては、小売り段階での専門販売員配置やオンラインストア開設など、これまでの成功事例も参考に取組を加速すべきとしている。
23 Dec 2019
860
東京電力は12月19日、福島第一原子力発電所1号機の使用済み燃料プールからの燃料取り出しについて、「大型カバーを先行設置し、カバー内でガレキ撤去を行う工法」をとることを発表した。「ガレキ撤去完了後に燃料取り出し用カバーを設置する」プランと合わせて検討が進められていたが、ダスト飛散対策、作業員被ばく、雨水対策(汚染水発生の抑制)、周辺工事への影響を総合的に評価し今回の選択となったもの。1号機使用済み燃料プールには、新燃料100体と使用済み燃料292体が保管されている。原子炉建屋を高さ約65mで覆う大型カバー内で約360トンの天井クレーンを用いてガレキを撤去した後、燃料取り出しを行うこととなるが、福島第一廃炉推進カンパニープレジデントの小野明氏は同日の記者会見で、「大熊町でも住民の方々の帰還が進んでおり、ガレキ撤去はこれまで以上に慎重に行わねばならない」と、安全最優先で作業を行う考え改めて強調した。東京電力では1号機使用済み燃料プールからの燃料取り出しに関する 動画 を公開している。現行の福島第一廃止措置中長期ロードマップで、1号機使用済み燃料プールからの燃料取り出し開始は2023年度目処となっているが、2日の経済産業相をヘッドとする廃炉・汚染水対策に関するチーム会合で示されたロードマップ改訂案では、2031年末までに全号機の使用済み燃料プールからの燃料取り出し完了を目指すとされている。また、小野氏は、2号機から着手する燃料デブリ取り出しについて、2月に実施した原子炉格納容器内部調査を振り返り、「堆積物を動かせることが確認できたのは非常に大きい」とした。その上で、今後行う試験的な少量取り出しに関し「数グラムのオーダーで何度か繰り返す。どのくらいの固さか把握することが重要」と、本格的な取り出しに向けたツールの開発に資する考えを示唆。試験的な取り出しに用いる最大約22m長のロボットアームは現在英国で製作中だが、これまでに発生した3号機燃料取扱設備などのトラブルを「痛い経験だった」と省み、点検・保守や訓練を着実に行う重要性を繰り返し述べた。
20 Dec 2019
1003
福島第一原子力発電所事故に伴う除染で発生する除去土壌の減容・再生利用に関する環境省の技術開発戦略検討会が12月19日に行われた。除去土壌は最終処分までの間、中間貯蔵施設で集中的に保管・管理することとなっているが、同施設への輸送対象物量は約1,400万立方m(東京ドーム約11杯分)と推計されており、安全性の確保を大前提として、可能な限り再生利用することで最終処分量の低減を図る必要がある。検討会に出席した石原宏高・環境副大臣は「安全・安心に対する理解醸成を図ることが重要」と強調した。今回の会合では、飯舘村の仮置場に保管されている除去土壌を再生資材化し農地を造成して、作物の試験栽培を行う実証事業の進捗状況について報告があった。飯舘村長泥地区を拠点とする同事業は、準備段階も含め2018年度より進められており、再生資材の土木的適用性や放射線に関わる安全性の評価を踏まえ、村の営農再開に向けて、2020年度頃の本格的な農地造成着手、2022年度頃の圃場整備を図る計画(=図、環境省発表資料より引用)。これまでの実証試験で、再生資材と遮蔽のための覆土を用いた農地造成プロセスについては、安全性の観点から問題なく施工できることが確認されている。環境省の説明によると、栽培試験のうち、再生資材(深さ50cm)と覆土(同)を用いた露地栽培試験では、深く根を張る作物としてジャイアントミスカンサス、ソルガム、アマランサスの3種を選び今夏に栽培が行われ、土壌からの放射性セシウム移行を確認したところ、「想定より十分安全側の結果が得られた」としている。この他、除去土壌の減容・再生利用技術開発に向けて中間貯蔵施設内に整備されている「技術実証フィールド」について紹介があった。「技術実証フィールド」では、同施設区域内に貯蔵されている除去土壌を用いた試料分析や、実証試験に必要な資材・電気・水の提供を受けることができる。12月中にも完成の予定。
19 Dec 2019
860
原子力委員会は12月17日の定例会合で、東北大学工学系研究科量子エネルギー工学専攻教授の長谷川晃氏よりヒアリングを行った。同委が2018年2月にまとめた人材育成に関する見解のフォローアップとして実施するもの。東北大学の原子力工学関係の教育は、国立大学の中でも比較的古く、1958年の原子核工学専攻設置に始まった。その後、1962年に学部教育として原子核工学科が設置され、1998年の量子エネルギー工学科への改組を経て、現在は3年次より7コースに分かれる機械知能・航空工学科となり、原子力関連の科目は「量子サイエンスコース」の学生が主に学ぶようになっている。1916年に同学併設研究所の一部として発足した金属材料研究所がKS鋼の発明で知られる本多光太郎博士の輩出など、多くの業績を残してきた伝統から、長谷川氏は原子力関連の科目についても材料系を特に充実させていることを強調。さらに、学内外の多様な施設を利用した実験・実習や、六ヶ所村分室を開設し社会人向け講義を実施していることを述べたほか、1年次向けの原子力・放射線に関する一般教養科目で量子エネルギー工学専攻の教員が講義に立つなど、学部横断的な取組についても紹介した。これを受け中西友子委員は、放射線利用に関して、医療、農業、工業など多分野にわたる経済規模の大きさに触れ、原子力エネルギー利用との両輪として取り扱う意義を強調した。
18 Dec 2019
1317
資源エネルギー庁は12月16日、高レベル放射性廃棄物の最終処分に向けた今後の取組方針に関する自治体説明会を開始した。総合資源エネルギー調査会の放射性廃棄物ワーキンググループは11月末、地層処分に関する「科学的特性マップ」公表から2年間の理解活動を踏まえ、処分地選定調査の最初の段階となる文献調査の複数地域による受入れを目指し当面の取組方針をまとめた。これまでの全国対話活動などを通じ、社会全体で解決すべき課題との観点から「より深く知りたい」という関心グループが広がりつつあることから、同取組方針では、ニーズに応じた情報提供を強化し、2020年を目途に関心グループの数を全国で100程度にまで倍増させるとしている。また、文献調査を実施する地域の医療・教育・防災の充実、企業誘致、観光振興など、「地域の発展ビジョン」の具体化に最大限貢献していくとされた。16日には、東京都で特別区対象と市町村対象の2か所で説明会が行われ、千代田区の会場では、特別区の他、県東京事務所の職員らも合わせ約20名が参集し、処分事業の概要とともに、文献調査実施に伴う地域振興プロジェクトの支援スキームなどについて説明を受けた。資源エネルギー庁では今後、年度内に福島県を除く全国の道府県で説明会を順次開催し処分事業への理解を求めていく。
17 Dec 2019
743
原子力委員会は12月10日の定例会合で、同委が2018年2月に発表した見解「原子力分野の人材育成について」のフォローアップとして、大学関係者からのヒアリングを開始。今回、名古屋大学工学部教授の山本章夫氏と大阪大学工学部教授の北田孝典氏より、原子力教育の現状と課題についてそれぞれ説明を受けた。今後、数回にわたり実施する予定。名古屋大学の原子力関連の学部教育は、1966年の原子核工学科設置に始まり、その後、物理工学科への改組を経て、2017年の組織再編で現在はエネルギー理工学科(定員40名)、大学院教育は、1970年の原子核工学専攻設置に始まり、マテリアル理工学専攻への改組を経て、現在はエネルギー理工学専攻(同18名)と総合エネルギー工学専攻(同18名)で行われている。山本氏の説明によると、大学院の両専攻に置かれる計14の研究グループのうち、半数程度が原子力をテーマとしているという。課題としては、燃料・材料の分野で講義のできる教員がいないことをあげた。また、同氏は、学部4年生や大学院生向けの特別講義枠として原子力規制庁の補助で実施する「原子力規制人材育成事業」(2016~20年度)を紹介。カリキュラムでは、原子力安全に関する講義・演習・実習を強化しており、「安全について体系的に学べる」ことから電力関係からの参加も多く、「社会人としてのスキルが学生に伝承され、社会人は学生から刺激を受けるという好循環が生じている」と、リカレント教育の場を通じた相乗効果を強調した。さらに、山本氏は、自身が会長を務める日本原子力学会炉物理部会の活動として、初心者向けに数式を使用しない原子炉物理のテキスト作成を進めていることも述べた。大阪大学の北田氏は、当初の原子力工学科・原子力工学専攻が、2006年までに改組され、現在、環境・エネルギー工学科・環境・エネルギー工学専攻で行っている同学の原子力関連の教育について説明。カリキュラム改善に向けた取組の一方、今後大学の組織再編により削減の見通しにある教員構成、福島第一原子力発電所事故以降減少傾向にある原子力関係への就職状況、留学生の増加施策に伴う教員の負担増など、山積する課題を述べた。
12 Dec 2019
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原子力規制委員会は12月11日の定例会合で、関西電力大飯発電所1、2号機(PWR、117.5万kW)の廃止措置計画の認可を決定した。同委では、2018年11月に認可申請を受けているが、透明性確保の観点から、廃止措置計画についても新規制基準への適合性と同様に公開会合で審査を行うこととなり、本件に関しては同年12月より計5回の会合で事業者から説明を求めるなどした。審査結果では、廃止措置工事が運転中の同3、4号機に影響を及ぼさないよう定められた社内標準・体制などを確認したとしている。大飯1、2号機とも、廃止措置は、「解体準備」(第1段階)、「原子炉周辺設備解体撤去」(第2段階)、「原子炉領域解体撤去」(第3段階)、「建屋等解体撤去」(第4段階)の区分で並行して進められ、2048年度に完了する予定。今回、全工程中、第1段階について審査が申請され認可となった。なお、1、2号機に貯蔵されている新燃料および使用済み燃料のうち、使用可能なものは3、4号機で使用することとなっている。
11 Dec 2019
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東芝エネルギーシステムズはこのほど核融合開発に関する 解説記事 を公開した。開発に携わる若手技術者へのインタビューや、ITER計画で納入される高さ16.5m、幅9m、総重量300トンのトロイダル磁場コイルを±0.02%の精度で製造する技術力を紹介した動画で分かりやすく解説している。
11 Dec 2019
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☆11月の主な動き☆【国内】▽8日 原子力総合防災訓練が中国電力島根発電所を対象に実施(~10日)▽11日 IAEA/RCA国内シンポ開催、原子力科学技術を通じた多分野の途上国協力紹介▽15日 エネ庁が2018年度需給実績発表、原子力再稼働でCO2排出量は5年連続で減少▽19日 経団連が「低炭素社会実行計画」の2018年度実績発表、原子力再稼働がCO2排出減に寄与▽19日 福島県が2019年度世論調査結果発表、農産物の安全性に高い関心▽20日 日立が北米初の重粒子線治療システム受注へ、米メイヨー・クリニックと基本合意▽27日 規制委、東北電力女川2号機が新規制基準に「適合」との「審査書案」まとめる▽28日 福島第一1号機使用済み燃料プールからの取り出し、ダスト飛散対策で大型カバー設置案も検討▽30日 更田規制委員長が新規制基準審査の進む中国電力島根2号機を視察【海外】▽1日 ロシアで第3世代+の120万kW級PWR、ノボボロネジII-2が営業運転開始▽4日 英産業連盟、SMR等の原子炉新設に向け財政支援モデルの構築を政府に提案▽5日 新型原子炉用HALEUの生産実証で米セントラス社がエネ省と3年契約▽5日 英国の戦略的研究機関「UKRI」がSMR開発企業連合に初回の資金投資▽8日 フィンランドのOL3、最新の起動スケジュールからさらに6週間の遅れ▽8日 ITER計画:2025年の運転開始に向けトカマク建屋の土木工事が完了▽10日 イランのブシェール発電所でロシア企業が2号機を本格着工▽13日 IEAの2019年版WEO:「持続可能な将来エネルギーの確保で大規模な変革 必要」▽13日 チェコ首相、「ドコバニ発電所で2036年までに新規原子炉完成へ」と発表▽15日 ヨルダン、米X-エナジー社製SMRを2030年までに建設する基本合意書に調印▽15日 カナダ原研、SMR開発支援イニシアチブの候補企業4社を選定▽19日 米核安全保障局、MOXプラントの建設中止にともない契約企業と和解協定▽19日 中国の昌江発電所で「華龍一号」を採用したⅡ期工事の起工式▽20日 仏電力、米国で保有する3原子力発電所の所有権 売却へ▽21日 ロシアのコラ2号機、運転期間を合計60年まで延長する工事終え 再稼働▽22日 スウェーデンの世論調査:原子力発電支持派の割合が約8割に増加▽25日 米国とブルガリア、原子燃料供給など原子力分野の協力拡大で合意▽25日 世界気象機関の「温室効果ガス年報」:2018年に世界のCO2濃度が過去最高に▽26日 カナダの深地層処分場建設計画、候補地点を2地点に絞り込みへ▽26日 UNEP報告書:「パリ協定の目標達成には毎年7.6%のCO2排出量削減が必要」
10 Dec 2019
805
原産協会は12月9日、IAEAで新規導入国への原子力発電開発に関わる協力活動を担当している安良岡悟氏を迎え講演会を開催(=写真)。会員企業などから約50名の参加があった。同氏は、2006年に経済産業省に入省後、資源エネルギー庁で、福島第一原子力発電所事故対応や軽水炉の安全性向上に資する技術開発プロジェクトに従事したほか、製造産業局航空宇宙産業課などを経て、2017年より IAEA原子力エネルギー局原子力発電インフラ開発課に出向している。今回、原子力エネルギーを巡る最近の国際動向や導入検討国に対する支援について発表し、日本のステークホルダーがIAEAの場を活用するメリットなどを示唆した。安良岡氏は、2018年の世界の電源別発電量で原子力が約10%、水力と再生可能エネルギーも合わせると36%のシェアを占めることを図示し、「『全体最適としてどうバランスをとっていくか』が盛んに議論されている」と述べ、原子力の「クリーンエネルギーとしての位置付け」を強調。今後の原子力開発の流れに関しては、SMRを中心とする「技術シフト」とアジア諸国を中心とする「地域シフト」の2つの側面をあげ、「堅調な新設ペース」にあるとした。自身が携わる原子力発電の導入検討国に対するインフラ開発支援として、安良岡氏は「INIR」(Integrated Nuclear Infrastructure Review)ミッションを紹介。各国の要望に応じ、「INIR」で取りまとめたレポートは、2009~18年でアジア・アフリカ諸国を中心に27か国に達したとして、10年間の取組を振り返り「徐々に体系化されつつある」と一定の評価を述べた。また、原子力発電導入に向けたマイルストーンにおいてIAEAでは19の評価軸を示しているが、同氏は特にその一つである産業政策の立案支援について、自身の関わる業務を紹介。例えば、石炭産業が盛んなポーランドについては原子力を通じ環境保全技術の市場拡大も図るなど、地場産業へのベネフィットを考える必要性を述べた。安良岡氏は、「INIR」の実施されたアフリカ諸国として、南アフリカ(運転中)、ナイジェリア、ケニア、モロッコ、ガーナ、ニジェール、スーダンの6か国をあげたが、参加者から、今後原子力発電の導入が有望な国について問われたの対し、「モロッコはかなり進んでいる」としたほか、ザンビアの近年の動きにも触れ、「アフリカは注目すべき地域」と強調。また、日本の人的貢献に関して、「日本は有数の地震国」と述べ、関連する知見が蓄積されてきた地質学、耐震設計、防災対策などの分野での可能性を示唆した。
10 Dec 2019
2358
わが国の原子力発電所の運転実績
09 Dec 2019
537
核不拡散・核セキュリティについて考える日本原子力研究開発機構主催の国際フォーラムが12月4日、都内で行われ、国内外の政府関係者や有識者らを招いた2つのパネルディスカッションを通じ、今後の課題や対応方策について議論した。核セキュリティは、「核物質、その他の放射性物質、その関連施設およびその輸送を含む関連活動を対象にした犯罪行為または故意の違反行為の防止、探知および対応」(2011年9月原子力委員会報告書)と定義されており、米国同時多発テロ発生以降、日本でも大規模イベントを控え、いわゆる「核テロ」の防止に向けた取組に関心が高まりつつある。前半のパネルディスカッションでは、米国エネルギー省国家核安全保障庁(DOE/NNSA)グローバルマテリアル安全保障局副局長補佐のエレノア・メラメド氏が、放射性物質の輸送時における不正取引や盗取の他、サイバーセキュリティやインサイダー脅威への対策など、近年のデジタル化進展に伴う問題を提起。各国で核セキュリティに関わるワークショップを開催している世界核セキュリティ協会代表のロジャー・ホーズリー氏は、ビデオメッセージを寄せ、「実効性のあるリソース配分」や「国境を越えた連携」の重要性を強調。これに対し、科学警察研究所主任研究官の土屋兼一氏は、「個人でもインターネットの動画を見て爆発物を作れる。脅威は時代とともに変わってきており、どのような対策が必要か継続的に評価していく必要がある」と述べた。また、大規模イベントをねらった「核テロ」として、爆発物と抱き合わせて放射性物質を拡散させる「ダーティ・ボム」や、人の集まる場所に致命的レベルの放射性物質を仕掛ける「サイレント・ソース・アタック」を例示。初動対応訓練を実施してきた経験にも触れ、地方警察部隊からの訓練用ダミーを求める要望に対し、スマートフォンのアプリに適確に反応するビーコン「ウソトープ」を開発したことを紹介した。原子力機構福島研究開発部門副ディビジョン長の鳥居建男氏は、福島第一原子力発電所事故後の広域モニタリングや、遠隔操作技術の研究に取り組んできた経験から、核セキュリティ分野におけるドローンや画像の3次元可視化に関する技術の有効性をあげ、事故の教訓や民間企業との協力の重要性に言及。IAEA原子力安全・セキュリティ局核セキュリティオフィサーのチャールズ・マッセィ氏は、「原子力安全と核セキュリティの対策には交わるところがある。双方が連携し有効性を高めていく必要がある」などと述べ議論をまとめた。後半のパネルディスカッションは、文部科学省原子力課長の清浦隆氏(進行役)、IAEA原子力エネルギー局INPRO課長ブライアン・ボイヤー氏、米国テキサスA&M大学院原子力専攻アシスタント研究生のマリオ・メンドーサ氏、東京工業大学先導原子力研究所准教授の相樂洋氏、原子力機構高速炉・新型炉研究開発部門研究副主幹の川﨑信史氏が登壇した。ボイヤー氏は「革新的原子炉および燃料サイクルに関する国際プロジェクト」(INPRO)について、川﨑氏は「第4世代原子力システムに関する国際フォーラム」(GIF)について、それぞれ国際協力の枠組を活用した取組状況を説明。次世代原子力システム開発に伴う制度的、技術的課題を踏まえ、将来の核不拡散・核セキュリティに関わる人材確保について議論が行われた。相樂氏は、東工大で2017年度より実施している体系的な教育カリキュラム「ANSET」(Advanced Nuclear 3S Education and Training)を紹介し、メンドーサ氏は、奨学金やフェローシップ制度の活用とともに、「政府省庁や研究機関が早い段階から学生に関心を持たせる」必要性を述べた。
06 Dec 2019
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「アジア原子力協力フォーラム」(FNCA)の大臣級会合が12月5日、都内で行われた(=写真)。FNCAは、日本が主導するアジア地域12か国の原子力平和利用協力の枠組で、オーストラリア、バングラデシュ、中国、インドネシア、カザフスタン、韓国、マレーシア、モンゴル、フィリピン、タイ、ベトナムが参加している。今回の会合は「健康、医療への放射線技術の利用」がテーマ。竹本直一内閣府科学技術担当大臣の歓迎挨拶で、今後の活動の方向性を示す共同コミュニケの発表に向けて政策討論が始まった。FNCA傘下に置かれた放射線治療プロジェクトでは、アジア地域で罹患率の高いがんの治療成績向上を目指し長く協力活動が進められてきた。議論に先立ち、量子科学技術開発研究機構の平野俊夫理事長が「日本の放射線治療の現状について」と題する基調講演を行い、世界に先駆けて同機構が取り組んできた重粒子線がん治療の開発経緯や、国内治療拠点が6か所にまで拡大してきた実績を紹介。その中で、1994年に臨床試験を開始した重粒子線がん治療装置「HIMAC」により、これまでの治験実績は総患者数1万人を超えたとした上で、既存の病院にも設置できる小型装置の開発状況や、海外展開として、最近日立製作所が北米初となる装置の受注を獲得したことなどを披露した。さらに、平野理事長は、「がん死ゼロ 健康長寿社会の実現を」と目標を掲げ、超電導やレーザーなど、同機構の技術力を結集した高性能の次世代重粒子線がん治療装置「量子メス」の開発を展望。各国からの出席者に対し、「Dreams are meant to be achieved」(夢は実現するためにある)と強調した。毎年開催されるFNCA大臣級会合は今回で20回目の節目を迎えたが、原子力委員会の岡芳明委員長は、「原子力関連分野の人材育成について」と題する講演の中で、「アジア諸国の研究者が来日してトレーニングを行い、自国でも人材開発に取り組むようになった。将来に向けて人のネットワークは極めて重要」などと述べ、今後のFNCA活動の発展に期待を寄せた。
05 Dec 2019
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「原子力総合シンポジウム2019」が12月2日、日本学術会議(東京都港区)で開催された(=写真、同会議主催、関連48学協会共催・協賛・後援)。今回は、「社会のニーズと調和する原子力技術の開発・利用」をテーマに、3つの基調講演の後、会場参加者との質疑応答を中心に総合討論を行った。総合討論は、野口和彦氏(横浜国立大学大学院環境情報研究院教授)の進行のもと、パネリストとして、粟津邦男氏(大阪大学工学系研究科教授)、上坂充氏(東京大学大学院工学系研究科教授)、岡嶋成晃氏(日本原子力学会会長)、開沼博氏(立命館大学衣笠総合研究機構准教授)、松岡猛氏(宇都宮大学基盤教育センター非常勤講師)、山口彰氏(東京大学大学院工学系研究科教授)が登壇。討論に際し、原子力利用の原点として、原子力基本法が目的とする(1)将来におけるエネルギー資源確保、(2)学術の進歩と産業の振興、(3)人類社会の福祉、(4)国民生活の水準向上――や、原子炉等規制法が目的とする「原子力利用に伴う災害の防止」などが論点として提示された。これに対し、会場参加者から「資源・エネルギーは50年、100年、1,000年先を見据えた議論をすべき」との意見があったのに対し、総合資源エネルギー調査会の委員を務めている山口氏は、原子力の議論に関し、「政策的視点や社会による意思決定も関係する」と、リードタイムに関わる制約をあげる一方、「技術基盤は将来にわたって着実に維持していかねばならない」とも述べた。また、「持続可能な社会を実現するための原子力技術」との基調講演を行った粟津氏は、「例えば、2050年の生活者の視点に立って2020年の時点で何をすべきか。逆に30年前の1990年頃の考え方が今うまくいっているのか」を考察する「フューチャー・デザイン」と呼ばれる政策立案手法を紹介。さらに、将来的な人類社会への福祉の関連で、岡嶋氏は、国連の掲げる「持続可能な開発目標」(SDGs)をあげ、原子力科学技術がエネルギーの確保や気候変動問題の解決だけでなく、貧困撲滅や産業の技術革新に問題にも貢献する可能性を強調した。日本の原子力・エネルギー問題の関連では、会場参加者より、「原子力には、都会の人たちが受益者で、立地地域がリスクを背負っている特殊性がある」、「エネルギー需要そのものの妥当性も検証すべき」といった声があった。これに対し、地域との対話活動に取り組む開沼氏は、「リスクを背負っているだけでなく、世界最先端の技術が生まれていることがもっと発信されるべき」と、エネルギー生産地に対する理解を切望。福島第一原子力発電所事故の教訓について講演を行った松岡氏は、東日本大震災時に行われた計画停電に伴う需要抑制について、「のど元を過ぎる前に」と、遠からず検証しておく必要性を指摘した。また、同シンポジウムの成果について「若い人たちに継承していく努力が必要」との意見があったのに対し、上坂氏は10月に敦賀市で開催された将来の研究炉に関するシンポジウムでの大学生との討論を、開沼氏は8月に富岡町で開催された「福島第一廃炉国際フォーラム」の高校生セッションの経験をあげ、それぞれ若手を交えた議論の重要性を強調した。
03 Dec 2019
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経済産業相をヘッドとする福島第一原子力発電所の廃炉・汚染水対策チーム会合は12月2日、燃料デブリ取り出しを2号機から行うことなどを記した中長期ロードマップの改訂案について議論した。近く関係閣僚会議で正式決定となる運び。〈経産省発表資料は こちら〉中長期ロードマップは、事故発生後、福島第一原子力発電所のプラント安定化を受け、汚染水対策、1~4号機の使用済み燃料プールからの燃料取り出し、1~3号機の原子炉圧力容器・原子炉格納容器からの燃料デブリ取り出しなど、廃止措置に向けた時期的目標や具体的計画を示すものとして、2011年12月の策定以降、進捗状況を踏まえ改訂が行われてきた。今回の改訂案では、現行のロードマップで2021年内開始としていた燃料デブリ取り出しについて、安全性、確実性、迅速性や、廃炉作業全体の最適化の観点を踏まえ、2号機から試験的に着手し、段階的に取り出し規模を拡大していくとされた。同機では、2019年2月の原子炉格納容器内部調査で、小石状の堆積物を持ち上げることに成功しており、今後、最大約22m長のアーム型アクセス装置を導入した少量サンプリングも計画されている。使用済み燃料プールのからの燃料取り出しに向けては、2019年4月に取り出しを開始した3号機では2020年度内の完了を目指すとされた。東京電力では、11月末に1号機では大型カバーを設置する新工法を含めた検討を始め、2号機でも建屋を解体しない工法を選択するなど、燃料取り出しに際しダスト飛散を抑制する対策を進めており、中長期ロードマップ改訂案では、いずれの号機についても、個別の目標工程は、精査の上、適切に再設定するものとしている。中長期ロードマップの改訂案提示に際しては、原子力損害賠償・廃炉等支援機構が、8月の「福島第一廃炉国際フォーラム」(いわき市・富岡町)での議論も踏まえ、9月の地元関係者評議会で「技術戦略プラン」を示している。
02 Dec 2019
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原子力規制委員会は11月28日の臨時会議で、中国電力の清水希茂社長らと意見交換を行った。同委が原子力事業者の経営トップを順次招き実施しているもの。清水社長は、島根原子力発電所の安全性向上に向けて実施している「リスク情報等の活用」、「自然災害への対応」、「原子力防災」、「技術力の維持・向上」、「広報活動」などの取組状況を説明。その中で、11月8~10日に実施された政府主催の原子力総合防災訓練の概要を報告し、得られた課題や改善事項については、今後、自社主催で実施する訓練へも反映させ、検証していくとした。これに対し、地震・津波関連の審査を担当する石渡明委員は、先の総合防災訓練で地震に伴う津波発生が想定されていなかったことから、「是非色々な厳しい気象条件を想定した訓練に努めて欲しい」として、自然災害に対する感受性を高めていくよう要望。また、山中伸介委員は、島根3号機で新検査制度導入に備えた検査官の実務訓練が実施されたことへの謝意を表した。さらに、現在、島根1、2、3号機がそれぞれ廃止措置中、新規制基準適合性に係る審査中、建設中と、異なる段階にあることに関し、「人材育成には非常によい環境となっており、是非活用して現場力を養って欲しい」と期待を寄せた。現在島根2号機は審査が大詰めとなっているが、更田豊志委員長は、審査における事業者側との「共通理解」の重要性を改めて強調した上で、同委が随時実施している原子力部門責任者との意見交換(CNO会議)など、技術的課題について実務者レベルでの接点を密にする必要性を述べた。
29 Nov 2019
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東京電力は11月28日、福島第一原子力発電所1号機の使用済み燃料プールからの燃料取り出しについて、これまでの「がれき撤去完了後に燃料取り出し用のカバーを設置する」プランに加え、ダスト飛散対策の観点から、「先行して原子炉建屋を覆う大型カバーを設置し、カバー内のクレーンでがれき撤去を行う」プランも合わせ検討を進めていることを発表した(=図、東京電力発表資料より引用)。いずれのプランも現在実施中のがれき落下対策以降の作業となる。1号機の燃料取り出しに向けては、崩落した屋根の下敷きとなっている天井クレーン・燃料交換機が、がれき撤去の際に使用済み燃料プールに落下するおそれもあり、障害物や汚染状況の調査をこれまで進めてきたが、調査結果を踏まえ、「ダスト飛散に留意したより慎重な作業が求められる」との考えから、新たなプランが追加された。プラン検討に当たり今後、(1)ダスト飛散対策、(2)作業員被ばく、(3)雨水対策、(4)原子炉建屋周辺工事への影響――を中心に総合的に評価していく。福島第一廃止措置の中長期ロードマップでは、2023年度を目処に1号機使用済み燃料プールの燃料取り出しを開始することとなっている。
29 Nov 2019
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食品中の放射性物質に関する意見交換会(主催=消費者庁、内閣府食品安全委員会、厚生労働省、農林水産省)が11月27日、都内で開催され、生産者、流通事業者、消費者団体を交え、福島県産品を始めとする被災地産物に関わる消費者意識や情報提供のあり方について考えた(=写真)。消費者庁が2012年度から継続している風評被害に関する全国意識調査によると、2019年2月の調査で「普段の買物で食品を購入する際に、その食品がどこで生産されたかを気にしますか」との質問に対し、「気にする」または「どちらかといえば気にする」との回答は59.0%だった。意見交換会の進行を務めたサイエンスコミュニケーターのすずきまどか氏は、同調査結果を踏まえ、基準値を超える食品はほとんど検出されなくなった一方、震災直後と比べて関連情報を得る機会が減っており、現状を正しく知らずに不安を抱える人たちもいるとして問題を提起した。消費者の立場から、全国消費者団体連絡会事務局長の浦郷由季氏は、先の意識調査で食品の産地を気にする人の多くは、「味が異なる」(29.7%)、「鮮度が異なる」(20.8%)、「価格が異なる」(22.1%)を理由としてあげているが、「放射性物質の含まれていない食品を買いたい」との回答も15.6%あることから、「まだまだ情報が十分に行き届いていない」と懸念を示した。また、日本橋三越本店で食品販売に携わる三越伊勢丹食品・レストランMD統括部の林真嗣氏は、被災地産品に対する消費者意識に関して「『応援』組と『拒絶』組に分かれているようだ」とした上で、生産者団体との協力で開催する即売会「マルシェ」を通じ、検査結果などの客観的事実とともに、「安全への気持ち」を生産者から直接伝えてもらう重要性を強調。生産者の立場からは、福島市で稲作を営む(株)カトウファーム代表の加藤晃司氏が、消費者の信頼獲得に向け、農産物の安全確保に関わる取組「GAP」(Good Agricultural Practice:農業生産工程管理)認証が有効なことをあげ、「まだ普及段階だが、福島全体の一次産業のイメージアップにつながる」と期待感を述べた。同意見交換会は、10月の宮城を皮切りに、福岡、京都、東京で順次行われてきたが、すずき氏は、「『生産者も生活者』という声が印象に残っている」と、これまでの開催を振り返った。カトウファームとともに福島産品の販売促進に努めてきたという林氏は、「生産人口が減っていることが最大の問題」と、地元農業の実態を述べ、「生産者、販売者、消費者が一緒に作る」を今後のキーワードとして掲げた。
29 Nov 2019
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原子力規制委員会は11月27日、東北電力女川原子力発電所2号機(BWR、82.5万kW)について、新規制基準に「適合している」とした「審査書案」を取りまとめた。今後、原子力委員会と経済産業相への意見照会、一般からの意見募集を経て正式決定となる運び。同機は2013年12月に審査が申請され、規制委員会では、女川原子力発電所が過去に大地震を経験してきた地理的特性を踏まえ、特に地質・地震動評価や耐震設計について慎重な審査を行ってきた。 同発電所は、2011年3月の東北地方太平洋沖地震の震源地に最も近い原子力発電所で、発災時には最高水位13mの大津波が押し寄せたが、建設段階から津波対策を重要課題として、敷地高さを海抜14.8mに設計していたことなど、緊急時対策の積み重ねにより、重大事故には至らなかった。 現在東北電力では、さらなる安全性向上を目指し、基準津波評価に対し十分な裕度を持つ海抜29mまでの防潮堤かさ上げ工事を進めている。新規制基準や最新知見を踏まえ実施している女川原子力発電所の安全性向上対策は2020年度に完了予定(特定重大事故等対処施設、常設直流電源設備を除く)。2019年3月の定例社長会見によると、同2号機の安全対策工事費は3,400億円程度となっている。
27 Nov 2019
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理化学研究所は11月26日、コンクリートインフラ構造物の劣化診断や、工場での原料・製品の解析などにも広く利用できるコンパクトサイズの小型加速器中性子源システム「RANS-II」(=写真、理化学研究所提供)を報道関係者に公開した。現在、産業利用に供される中性子源としては、大強度陽子加速器施設「J-PRAC」や研究炉「JRR-3」などがあるが、理研では、産業界との協力のもと、可搬型の中性子源の開発に取り組んでおり、2013年には小型中性子源システム「RANS」により、鋼材の内部腐食を非破壊で可視化することに成功。その後、2016年にはコンクリート内損傷の透視、2018年にはコンクリート内塩分の非破壊測定の技術開発に至っている。このほど開発された「RANS-II」は、従前の「RANS」の小型化に向け、線形加速器で加速される陽子線エネルギーを7MeVから2.49MeVに絞り、加速器は2台連結から「RFQ加速器」と呼ばれるタイプ1台にすることで、長さ・重量を半分に抑制したほか、遮蔽体重量も7分の1程度に大きく減量させた(=図、理化学研究所提供)。今後は、可搬型小型中性子源のプロトタイプとして、橋梁などの内部劣化を可視化する屋外非破壊計測システムの実現を目指すとともに、現場で手軽に利用可能な普及型中性子線源システムの据置型モデルとなるよう開発を進めていく。同システムの開発に関わった理研光量子工学研究センター中性子ビーム技術開発チームは、記者団への説明で、10月に台湾の漁港で死傷者を出した落橋事故をあげ、コンクリート内部への水分・塩分の浸透や鉄筋の腐食など、老朽化や施工不良が懸念される社会インフラの保全対策に中性子利用が有効なことを強調した。日本各地では高度経済成長期以降に整備されたインフラの一斉老朽化が見込まれており、最新の国土交通白書によると、建設後50年以上経過する道路橋(橋長2m以上)の割合は、2017年度末の約25%が、2022年度末に約39%、2032年度末には約63%に、港湾岸壁では2017年度末の約17%が、同じく約32%、約58%にも達するとみられ、計画的な維持管理・更新が急務となっている。
26 Nov 2019
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原産協会は11月21日、「原子力発電に係る産業動向調査 2019報告書」(概要)を発表した。今回、9基の原子力発電プラントが運転していた2018年度を対象に、会員企業を含む原子力発電に係る産業の支出や売上、従事者を有する営利を目的とした企業350社にアンケートを実施し、251社(電気事業者11社、鉱工業他228社、商社12社)から有効回答を得た。それによると、原子力発電を巡る産業の環境は、福島第一原子力発電所事故後の悪化から、新規制基準対応や再稼働により回復の兆しを見せていたが、鉱工業他の原子力関係売上高は前年度比9%減、原子力関係受注残高は同11%減と、いずれも下降。原子力関係売上高を産業構造区分別にみると、「バックエンド」が同23%減、「デコミッショニング」が同25%減となっていた。一方で、電気事業者の原子力関係支出高は同12%増の大幅な伸びを見せており、費目別では、「機器・設備投資費」が同40%増、「燃料・材料費」が同28%増となっていた。また、原子力関係従事者数は、鉱工業他も電気事業者も前年度から微増していた。 原子力発電に係る産業の景況感については、現在(2019年度)を「悪い」とする回答が80%と最も多く、1年後(2020年度)に「悪くなる」とする回答も前年度調査の10%から24%へと増加。「原子力発電所の運転停止に伴う影響」の問い(複数回答)に対しては、「売上の減少」(58%)、「技術力の維持・継承」(56%)をあげる回答が依然として多かった。また、「技術力の維持・継承への影響」の問い(複数回答)に対しては、「OJT機会の減少」(83%)が最も多く、「雇用の確保の困難」(31%)がこれに次いだほか、「企業の撤退・解散等による技術やノウハウの散逸」(26%)が前年度より9ポイント増となっていた。さらに、「自社の技術・ノウハウの維持のために力を入れている工夫」の問い(複数回答)に対しては、「教育・訓練の強化」(77%)が最も多かった。 「原子力発電に係る産業を維持する上での課題」(複数回答)の問いに対しては、「政府による一貫した原子力政策の推進」(73%)が最も多く、次いで「原子力に対する国民の信頼回復」(59%)、「原子力発電所の早期再稼働と安定的な運転」(58%)となった。また、海外との取引における課題としては、「海外におけるカントリーリスク(政治・経済情勢の変化など)への対応」、「海外の規制・規格への対応」の回答が多かった。
22 Nov 2019
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