原子力規制委員会は3月25日の定例会合で、日本原子力研究開発機構の高温ガス炉「HTTR」(茨城県大洗町、熱出力30,000kW、=写真<原子力機構発表資料より引用>)が新規制基準に「適合している」とする「審査書案」をまとめた。今後、原子力委員会と文部科学相への意見照会、パブリックコメントを経て正式決定となる運び。施設の位置、構造に関し、「HTTR」は標高36mの高台に設置され取水設備を設置しておらず、原子力機構はこれらを踏まえ不確かさを十分に考慮した津波評価を行っており、審査では、津波により安全機能を損なうおそれがないことを確認。また、事故の想定・進展に関する評価の中で、炉心構造材の黒鉛が酸化し一酸化炭素が発生しても燃焼する濃度には至らず、また、原子炉格納容器の閉じ込め機能喪失の対策として、建屋の目張り処置で放射性物質放出の影響緩和が可能などとしており、複合的な事故発生に対しても拡大防止に向けた対策・体制が図られることを確認した。950度Cの熱を取り出せる「HTTR」は、水素製造、発電、海水淡水化など、幅広い利用が期待されるほか、高温でも放射性物質の閉じ込め機能を保つ直径約1mmのセラミックス被覆燃料、化学的に安定なヘリウム冷却材、耐熱温度2,500度Cの黒鉛構造材を有する特徴から安全性にも優れている。1998年の初臨界後、2004年には定格熱出力で原子炉出口温度950度Cを、 2010年には連続50日の950度C運転を達成。2014年11月に新規制基準適合性に係る審査が申請された。原子力機構では、24日に原子炉安全性研究炉「NSRR」が耐震工事を終え運転再開しており、その他の研究炉についても早急な運転再開を目指すとしている。
25 Mar 2020
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日本原子力研究開発機構の原子炉安全性研究炉「NSRR」(茨城県東海村、最大熱出力:パルス運転時2,300万kW、定出力運転時300kW)が3月24日、運転を再開した。原子力規制委員会による新規制基準をクリアし2018年6~9月に運転した後、付属建屋の耐震補強工事が行われていた。「NSRR: Nuclear Safety Research Reactor」は、実験用の燃料棒に高い出力をパルス状に加える運転により原子炉暴走事故を模擬し、原子力発電所の事故時に燃料が破損する条件やメカニズムを研究する原子炉で、1975年の初臨界以降、3,000回を超えるパルス運転、1,000回を超える燃料照射試験が実施され、40年以上にわたり、原子炉の安全確保に必要なデータを蓄積。2009年度以降は、設置目的に教育訓練が加わり、運転実習や炉物理実験などを通じた原子力分野の人材育成にも供されている。事故条件下における燃料の過渡的ふるまいを世界で初めて映像化した実績を持つ「NSRR」では、今後も高速度カメラを有する実験カプセルを用いた観察などを通じ、設計基準を超えるシビアアクシデント時の燃料挙動評価に関わる知見を取得し、福島第一原子力発電所事故の解明、原子力の安全対策、規制行政の技術的支援に寄与していく。原子力機構の安全研究センターは、2月に行われた記者団への説明で、「安全性の継続的改善には、事業者の自主的努力と、これを監視・評価する規制活動の技術的進歩がそれぞれ必要」と、機構が実施する安全研究の役割を強調している。原子力機構では、研究開発成果をわかりやすく説明する「JAEAチャンネル」を開設しており、今回運転再開した「NSRR」についても動画で紹介している。
24 Mar 2020
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福井県が敦賀半島で整備を進めていた一般県道・竹波立石縄間線(敦賀市白木~浦底、4.9km)と主要地方道・佐田竹波敦賀線(美浜町菅浜~竹波、3.0km)が3月20日に開通した(=図、福井県発表資料より引用)。今回半島先端部に開通した竹波立石縄間線の両端部には、それぞれ日本原子力発電敦賀発電所と日本原子力研究開発機構「もんじゅ」が立地。両施設間の行き来はこれまで一旦半島の付け根方向に戻らねばならなかったが、全長3,863mのトンネルで距離が縮まり、半島を周遊する道路ネットワークの完成で、災害時における迅速な初動対応・住民避難活動が可能となるほか、観光振興にも寄与することが期待される。また、佐田竹波敦賀線は、関西電力美浜発電所や年間約15万人の観光客が訪れる水晶浜海水浴場に通じており、2019年3月の部分供用開始後、今回全長1,666mのトンネル完成で従来の海岸沿いルートのバイパスとして機能することとなり、交通がより円滑化する。敦賀半島の先端部東西に位置する各原子力発電所と市街地を通る国道へはアクセス道路が1本のみで、豪雨発生時には土砂崩れによる通行止めも発生していることから、福井県では、今回開通の2路線を含め「原子力災害制圧道路」の整備計画を立ち上げ、毎年早期完成に向けて特別な財政支援措置を国に対し要望してきた。
23 Mar 2020
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日本原子力文化財団は3月17日、2019年度「原子力に関する世論調査」の結果を発表した。同財団が2006年度より継続実施している全国規模の調査で、経年的・定点的に原子力に関する世論動向や情報の受け手側の意識を把握し知識の普及・啓発活動に資するもの。今回の調査は、10月に実施され、全国の15~79歳の男女1,200人から回答を得た。「今後日本は原子力発電をどのように利用すればよいと思うか」との問いに対し、最も多かった回答は「徐々に廃止」で49.4%、次いで「わからない」が22.7%だった。また、「増加」の2.0%と「東日本大震災以前の状況維持」の9.3%とを合わせた「積極的な利用層」の割合は2017年度以降増加し、これと「徐々に廃止」とを合わせた「利用層」の割合は2016年度以降増加。一方、「即時廃止」と回答した割合は11.2%で2016年度以降減少している。「わからない」と回答した割合は、10代、20~30代、女性で高く、全体よりそれぞれ、7.0ポイント、4.8ポイント、5.8ポイント上回っていた。これを受け、原子力文化財団では、「2017~19年度で原子力に対する考え方が『ややポジティブ側』に変動した」、「特に10代や女性層に対して、原子力発電に関する情報との接点を増やす取組が求められる」などと分析している。また、再稼働に関する意見としては、「国民の理解が得られていない」が50.3%と大半を占めた。一方で、「電力の安定供給から必要」(26.6%)が「電力は十分まかなえているので必要ない」(16.5%)を、「新規制基準への適合確認を経て認めてもよい」(17.6%)が「新規制基準への適合確認を経たとしても認められない」(14.5%)をそれぞれ上回っていた。「今後日本はどのようなエネルギーを利用・活用すればよいと思うか」(複数回答可)との問いに対しては、「太陽光」(75.5%)、「風力」(62.8%)、「水力」(51.8%)、「地熱」(40.0%)の順に回答が多く、東日本大震災以降では同一順が続いた。「原子力」と回答した割合は16.3%で2018年度の17.3%を若干下回り、性別で比較すると、男性23.1%に対し女性9.7%と大きな開きがあった。原子力・放射線・エネルギー分野の情報保有量について、今回の調査では、高レベル放射性廃棄物に焦点を当て、「地層処分選択の経緯」、「日本での処分方法決定」、「廃棄物の量」、「廃棄物貯蔵の状況」、「3段階の処分地選定」、「次の段階への進め方」、「各国でも処分が難航」、「処分の先進国」に関して質問。それによると、聞いたことがある項目として最も回答が多かったのは、「廃棄物貯蔵の状況」で32.7%、「各国でも処分が難航」がこれに次ぐ21.7%となったほか、いずれの項目の回答率も男性が女性よりも高く、年代別では60~70代が最も高かった。また、「どの項目も説明できない」が93.8%、「どの項目も聞いたことがない」が50.2%に上るなど、原子力・放射線・エネルギー分野全般と比較し、高レベル放射性廃棄物関連の認知度の低さが示された。原子力に対するイメージについては、「危険」、「不安」が福島第一原子力発電所事故前から上位を占め、依然と否定的なイメージの回答率が高いが、一方で、肯定的なイメージとして、「必要」、「役に立つ」などもあがっており、いずれも原子力に関する情報量が多いほど回答率が高くなっている。
19 Mar 2020
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原子力規制委員会は3月18日の定例会合で、東北電力女川原子力発電所1号機と九州電力玄海原子力発電所2号機の各廃止措置計画の認可を決定した。廃止措置期間は、女川1号機が2053年度まで、玄海2号機が2054年度までとなっており、いずれも「解体工事準備期間」から「建屋等解体撤去期間」までの4段階に分けられ、そのうちの第1段階に実施する具体的事項について2019年に申請されていたもの。女川発電所では、2月26日に2号機について新規制基準適合性に係る原子炉設置変更許可が出されており、審査において、2号機の設備工事により津波発生時も敷地への流入防止が図られ1号機使用済み燃料の冷却機能が維持できることを確認したとしている。女川1号機の使用済み燃料プールには、使用済み燃料821体、新燃料40体が貯蔵されており、廃止措置の第2段階開始(2027年度以降)までに、それぞれ3号機使用済み燃料プール、加工施設へ搬出される予定。一方、玄海2号機については、作業スペースの有効活用による工期短縮や作業安全向上などのため、既に廃止措置実施中の1号機と工程が並行するよう、両機に係る廃止措置計画の認可となった。また、18日の会合では、九州電力川内原子力発電所について、テロに備えた「特定重大事故等対処施設」に係る保安規定の変更申請に関し、「審査基準を満足している」との取りまとめが示された。近く同施設に係る初の保安規定変更認可となる見通し。川内1号機は「特定重大事故等対処施設」の設置期限を迎え3月16日に定期検査入りしており、検査期間中に新規制基準が要求する同施設や直流電源設備(3系統目)の設置工事などが行われる。
18 Mar 2020
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原子力委員会は3月17日の定例会で、人材育成に関する見解を受け実施した原子力教育に携わる大学・大学院教員からのヒアリングの結果をまとめた。ヒアリングは、2019年12月より、北海道大学、東北大学、東京大学、東京工業大学、名古屋大学、京都大学、大阪大学、九州大学に対し順次行われ、17日の会合では、これらを通じて拾い上げられた課題とグッドプラクティスを例示。課題としては、学内設備の老朽化や技術職員の定員削減、学外施設の停止・廃止により、実習や実験が困難となっていることなどがあげられた。例えば、臨界実験装置を用いた原子炉基礎演習・実験を行っている京都大学では、新規制基準対応に伴う停止期間で落ち込みを見せた受講者数が回復しつつあるとする一方、将来的な学内施設・装置の維持に関して「できる限り修理・補修しているが抜本的な解決には至っていない」と、老朽化による教育研究環境の悪化を懸念している。一方、グッドプラクティスとしては、オンライン講座の活用などがあげられた。例えば、北海道大学では、ウェブサイト公開の講義録「オープン教材」の作成や、テレビ会議システムで道内の大学を結んだ放射線に関する教養科目開設など、通信ネットワークを活用した取組に力を入れている。原子力委員会では、海外大学の原子力教育についても随時ヒアリングを実施しており、今回、欧米大学のグッドプラクティスも合わせて例示。カナダ・マクマスター大学に見られる学生による授業評価とそれを受けた講義内容の見直しなどがあげられ、岡芳明委員長は「競争のシステムが取り入れられている」と、日本との違いを強調した。ヒアリング結果については、日本原子力学会や「原子力人材育成ネットワーク」を通じて他大学への水平展開が図られる見通し。原子力委員会は、今夏発表予定の2019年度版原子力白書で、「人材育成を含む原子力利用の基盤的強化」を特集テーマとして取り上げることとしている。
17 Mar 2020
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国土地理院はこのほど、過去に発生した地震、津波、火山の噴火などの様相や被害状況を記した「自然災害伝承碑」として、新たに41基を「地理院地図」上に公開した。2011年の東日本大震災の経験を伝える「女川いのちの石碑」(宮城県女川町)他、近世の大洪水を記録した供養塔や安全祈願の地蔵などが含まれている。「自然災害伝承碑」は、国土地理院が自然災害に関する石碑やモニュメントなどを地形図に掲載し、それらが刻む教訓を踏まえた的確な防災行動を啓発するもので、2019年6月の開始以降、現在までに全国507基が掲載。2018年7月の西日本豪雨で多くの犠牲者を出した地区では、100年以上前に起きた水害を記録し犠牲者を悼む石碑や供養塔があったものの、これらが伝える災害教訓が十分に活かされていなかったことから、国土地理院では「自然災害伝承碑」として地図記号を定め周知・普及に努めている。「女川いのちの石碑」は、東日本大震災直後に中学校に入った地元の生徒たちが中心となって「1000年先の命を守りたい」との想いから取り組んできたもので、今回、津波被災地に建つ15基が女川町より国土地理院に申請され地図上への公開となった。「女川いのちの石碑」は、東日本大震災による津波到達地点より高い場所に設置されており、「大きな地震が来たら、この石碑よりも上へ逃げて下さい」と教えている。
13 Mar 2020
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消費者庁は3月10日、被災地産食品の買い控え行動の実態など、風評被害に関する消費者意識調査の結果を発表した。東日本大震災・福島第一原子力発電所事故を受け2013年より継続的に実施しているもので、今回の調査は2020年1~2月に行われ、被災地域(岩手、宮城、福島、茨城)と大消費地(埼玉、千葉、東京、神奈川、愛知、大阪、兵庫)に居住する20~60代の男女約5,000人から有効回答を得た。それによると、普段の買物をする際に食品の産地を「気にする」または「どちらかといえば気にする」と回答した人のうち、「放射性物質の含まれていない食品を買いたいから」という理由をあげた人の割合は13.6%と、これまでで最少となった。この他の理由としては、「産地によって品質(味)が異なるから」が27.8%、「産地によって鮮度が異なるから」が20.5%、「産地によって価格が異なるから」が19.7%となっている。「放射線による健康影響が確認できないほど小さな低線量のリスクをどう受け止めますか」との質問に対しては、「基準値以内であればリスクを受け入れられる」または「殊更気にしない」と回答した人の割合が53.2%で2016年2月の調査から増加傾向。食品中の放射性物質の検査に関しては、「検査が行われていることを知らない」と回答した人の割合が46.9%と、これまでで最多となり、「基準値を超える食品が確認された市町村では、他の同一品目の食品が出荷・流通されないようにしている」ことを知っていると回答した人の割合は37.6%と、これまでで最少となった。また、消費者庁は、同調査結果と合わせ、被災地産食品の購買行動や放射性物質に関する理解度などを分析するインターネット意識調査の結果も発表。2020年1月に全国の20~60代の男女を対象として実施された。福島県産の食品を購入している人に、米、野菜類、果実類、魚介類、牛肉の品目別に、複数回答を可とし理由を尋ねたところ、いずれも「おいしいから」、「安全性を理解しているから」、「福島県や福島の生産者を応援したいから」が多かった。一方で、福島県産の食品を購入していない人に同じく理由を尋ねたところ、いずれの品目についても、「日常生活の範囲で売られていないから」が30~40%台で最も多く、「放射性物質が不安だから」は10%台。性別・年代別で比較すると、「放射性物質が不安だから」をあげた割合は、いずれの品目でも40代女性が最も多かった。また、品目別では、福島県産の米を「購入している」が9.4%、「購入していない」が40.8%、「購入しているかわからない」が49.8%だった。「購入していない」と回答した人の割合は、60代女性で最も多く55.7%、次いで50代女性の51.1%、40代女性の48.7%。「購入しているかわからない」と回答した人の割合は、20代男性で最も多く62.1%、次いで20代女性の61.5%、30代男性の56.0%となっている。これらの調査結果を踏まえ、消費者庁では、引き続き食品中の放射性物質に関する情報発信やリスクコミュニケーションの取組を推進するとしている。
12 Mar 2020
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☆2月の主な動き☆【国内】▽1日 合同企業説明会「PAI原子力産業セミナー」が東京で開催(16日には大阪で開催)▽4日 東京電力の諮問機関「原子力改革監視委員会」が組織・ガバナンスの強化など「大きな進捗」と評価▽10日 エネ庁の福島第一処理水に関する委員会が報告書、「現実的な方法は海洋放出と水蒸気放出」▽12日 「原子力人材育成ネットワーク」が報告会、ジェンダーバランスに関する意見交換も▽13日 ATENAフォーラム開催、米NEIのコーズニック会長らを交えディスカッション▽15日 規制委・更田委員長他、鹿児島県を訪れ地元関係者らと意見交換▽18日 杉本福井県知事、エネルギーを活用した地域振興に向け「嶺南Eコースト計画」の年度内策定を表明▽19日 四国電力、伊方3号機の運転差止仮処分決定で広島高裁に異議申立て▽25日 グロッシーIAEA事務局長が来日し安倍首相への表敬、原子力委との懇談など(~28日)▽26日 規制委、東北電力女川2号機の新規制基準審査で原子炉設置変更許可発出【海外】▽3日 米GEH社の「BWRX-300」、チェコでの建設に向けた実行可能性調査で覚書▽5日 IAEAのグロッシー新事務局長、IAEA業務の再調整で抱負を表明▽6日 仏安全局、130万kW級原子炉8基で非常用発電機の不具合をINES「レベル2」に判定▽10日 米トランプ大統領の2021会計年度予算教書、ユッカマウンテンの建設審査経費含めず▽11日 IEA:2019年に世界のCO2排出量「横ばい」に、日本は原子力の再稼働で4%減▽12日 トルコで建設中のアックユ1号機向けに原子炉容器の最終溶接作業が完了 ▽13日 英国で中国製「華龍一号」設計の事前設計認証審査が最終段階へ▽14日 ウクライナ、国内でのSMR建設に向けホルテック社に続きニュースケール社とも覚書▽17日 UAEの規制当局、初の商業炉バラカ1号機に運転許可 発給 ▽18日 仏国で建設中のEPR、フラマンビル3号機で温態機能試験が完了▽19日 米TVA、クリンチリバーで建設するSMRの経済的実行可能性改善でオークリッジ研と協力▽19日 米国で建設中のボーグル3号機、「挑戦的作業計画」で2021年5月に完成する可能性も▽22日 仏国最古のフェッセンハイム1号機が予定通り永久閉鎖▽24日 フィンランド国立技術研究センターが地域暖房用SMRの開発を開始▽26日 カナダ原研、USNC社製SMRの燃料製造研究等で協力協定締結▽26日 ポーランドの原子力導入計画、米国との協力を確認▽28日 米トランプ大統領、原子力規制委員にC.ハンソン氏 指名へ☆過去の運転実績
11 Mar 2020
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東日本大震災・福島第一原子力発電所事故から9年を迎え、東京電力の小早川智明社長は3月11日、社員に訓示を行った。発災時刻の14時46分に合わせ1分間の黙とうを行った後、小早川社長はまず、「震災で亡くなった方々のご冥福を祈るとともに、ご遺族の皆様に深い追悼の意を表したい。今なお福島の皆様、広く社会の皆様に多大なご負担・ご心配をかけていることに心からお詫び申し上げる」と述べた。その上で、先般の双葉町、大熊町、富岡町の一部地域での避難指示解除、14日には常磐線の全線開通、26日には東京オリンピック聖火リレーの「Jヴィレッジ」スタートが予定されるなど、福島の復興に向けた動きをあげ、「今後は『復興と廃炉の両立』が大きなテーマ」、「地域の皆様に信頼してもらえるよう取り組んでいく」と強調。福島第一原子力発電所の廃炉に関わる産業創出などを通じた復興へのさらなる貢献に意欲を示した。また、福島第一原子力発電所事故の反省に立ち、「原点は福島。安全に終わりはない」と社員らに訓示。「福島への思いを新たに日々の業務にしっかりと取り組み、一丸となって福島への責任を果たしていく」と強調した。同日、原子力規制委員会では、更田豊志委員長が原子力規制庁職員に訓示を行った。「多くの方々の人生を変え、いまだに多くの方々が不自由な生活を余儀なくされている」と、福島第一原子力発電所事故の及ぼした影響を強調し、職場で事故について考え話し合う時間を持って欲しいと述べた。また、業務への取組姿勢に関して、「人間には現状維持を望む傾向がある」と危惧し、4月からの新検査制度導入も踏まえ、既存の文書や前例に過剰に依存することなく、「そもそもどうあるべきか」に立ち返って考えるよう職員らに求めた。
11 Mar 2020
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日本経済団体連合会の中西宏明会長は、3月9日の定例記者会見で、「エネルギーは人類の存続・繁栄に必須。気候変動の問題も非常に深刻になってきた中、改めて原子力をどう使っていくか、議論し直さなければならない」と、大局的視点から原子力技術について考える必要性を強調した。東北電力女川原子力発電所2号機が2月26日に新規制基準適合性審査で原子炉設置変更許可を取得したことに関連し、今後の東日本地域における再稼働の見通しについて質問を受け述べたもの。再稼働に関しては、地元自治体の理解を得ることが「非常に難しくなっている」としている。同氏は、政府の成長戦略について議論する未来投資会議の議員を務めており、去る5日の会合で、「エネルギーを巡る長期的・世界的な課題と、わが国の対処について全政府的に検討すべき」との意見を示した。同会議では、エネルギー戦略の大きな方向性を議論する新たな場を設けることとなり、西村康稔・内閣府経済財政政策担当相は、翌6日の閣議後会見で、「じっくりと長い目で見ながら大所高所から骨太のビジョンを検討するもの」と説明。新たに設置される会議体の名称・スケジュールは未定だが、毎年6月策定の成長戦略も念頭に置き、必要に応じ経済産業相や環境相にも出席を求め、総合資源エネルギー調査会と連携しながら議論が進められる見通し。
10 Mar 2020
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福島県浪江町で新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、東芝エネルギーシステムズ、東北電力、岩谷産業が2018年より建設を進めてきた「福島水素エネルギー研究フィールド」(FH2R:Fukushima Hydrogen Energy Research Field)の開所式が3月7日に行われた。〈NEDO発表資料は こちら〉FH2R では、18万平方mの敷地内に設置された2万kWの太陽光発電による電力を用いて世界最大級となる1万kWの水電解装置で年間約200トンの水素を製造する。今後、再生可能エネルギーの導入拡大に伴い、昼間の太陽光発電による余剰電力の発生が見込まれるが、FH2Rではこれを水素に変換し貯蔵・利用する技術の実証を行い、将来的に水電解技術の商用化に向けて、世界最先端の高効率で低コストの水素製造技術の確立を目指す。資源エネルギー庁の水素・燃料電池戦略室では、「再エネの大量導入は調整力確保とともに余剰の活用策が必要。水素利用のポテンシャルは大きい」と期待を寄せている。また、FH2R で製造する水素は、東京オリンピックの聖火台・聖火リレートーチ(福島県、愛知県、東京都の一部)を始め、大会車両の燃料電池自動車(FCV)500台、選手村の定置用燃料電池などにも供し、日本の技術力発信にも寄与する。FCVは、既存のガソリン車と同程度の機能を持ち、電気自動車(EV)と比べ航続距離が長く(500km以上)充てん時間も短い(3分)ほか、走行中の排出は水のみである。開発中の次世代FCVを運転し開所式に訪れた安倍首相(©経産省)FH2R開所式には安倍晋三首相他、関係閣僚、内堀雅雄福島県知事らが出席。今回の福島訪問で14日に全線開通する常磐線の双葉駅を視察し常磐自動車道常磐双葉インターチェンジの開通式に出席した後、FH2Rを訪れた安倍首相は、テープカットに臨むとともに施設内を視察し、「被災地の皆様の故郷への思いが大きな力となり、復興は確実に前進している」、「未来を見据えて新しい福島をつくっていく」などと述べた。
09 Mar 2020
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九州経済連合会はこのほど、「ゼロエミッションを先導する九州のエネルギー環境・産業の再構築」と題する提言を取りまとめ発表した。九州経済界が人口減少・少子高齢化、太陽光普及に伴う出力抑制、自然災害の頻発化などの諸課題に直面している現状下、全国比27%高のエネルギー自給率、同11%低のCO2排出量、同8%低の電気料金を「九州の強み」ととらえ、「チーム九州経済界」となってエネルギー分野の戦略的取組を通じ、日本の経済発展につなげようというもの。戦略軸として、(1)再エネの主力電源化、(2)蓄エネ(蓄電池、エコキュートなど)の社会実装、(3)脱炭素化の面的展開(デジタル技術の活用など)、(4)原子力の着実な運用、(5)環境ブランドの構築――を掲げ、ゼロエミッション化、イノベーションの牽引、地域活性化、世界展開を先導していくとしている。九州地域では、2015年に九州電力川内原子力発電所1、2号機が先陣を切って新規制基準をクリアし再稼働した。現在国内で再稼働した原子力発電プラント9基中4基が九州地域に立地しており、今回の提言では、「再稼働の先行アドバンテージをいかに継続するか」との認識のもと、安定運転の継続と技術・人材の維持を柱に、必要に応じ九州電力が中心となって取り組む広報・政策要望への支援を行い、「3E+S」(安定供給・経済効率性・環境への適合+安全性)の達成を図るとしている。また、再生可能エネルギー関連では、九州・沖縄・山口について、地熱では53.5%、太陽光では22.6%、バイオマスでは20.8%などと、全国の発電実績に占めるシェアを例示した上で、2030年度の導入見通しから経済波及効果を合計55兆円と試算。さらに、地政学的優位性として、インド、ベトナム、台湾など、アジア再エネビジネス市場への参入も有望とみている。
05 Mar 2020
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内閣府(原子力防災)は3月4日の原子力規制委員会定例会合で、東北電力女川原子力発電所に係るオフサイトセンターの概要を説明し同委に意見を求めた。オフサイトセンターは、原子力災害発生時に現地対策本部が設置され、国、地方自治体、事業者、関係機関が参集し、モニタリング、被ばく医療、避難、住民への情報発信などを指揮する拠点となるものだが、女川オフサイトセンターは東日本大震災に伴う津波で壊滅的な被害を受け使用不能となったため、発電所から約53km離れた仙台市内の旧消防学校校舎を暫定的に使用してきた。津波で崩壊した旧女川オフサイトセンター(内閣府発表資料より引用)内閣府では2017~18年度、女川オフサイトセンターの再建事業として総額27億円を計上し宮城県に費用を交付。このほど、発電所の北西約7km、海抜約39mの地点に、免震構造3階建ての鉄筋コンクリート建屋が完成した。TV会議システム、電話・FAX装置、統合原子力防災ネットワークなど、所要の通信設備、合同対策協議会や報道対応に供する各種スペースを備えているほか、隣接する学校のグラウンドに大型ヘリの離発着が可能。また、複合災害に備え、仙台市と大崎市の発電所からそれぞれ約54km、約49kmの地点に2か所の代替オフサイトセンターが指定されている。内閣府の説明を受け、地震・津波関連の審査を担当する石渡明委員は、発電所周辺の道路が急峻で蛇行していることを踏まえ、「複数のルートを確保しておくことが大事」と強調。さらに更田豊志委員長は、今後のオフサイトセンター整備に関し、「県庁からの距離が、島根発電所のように近い場合もあるし、女川発電所のように遠い場合もある」などと地域特性をあげた上で、自治体の機能についても合わせて検討する必要性を指摘した。新たな女川オフサイトセンターは、3月2日より暫定運用を開始しているが、今回の原子力規制委員会への意見照会を踏まえ、近く正式に政府より指定を受ける運び。
04 Mar 2020
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国際熱核融合実験炉(ITER)計画を補完・支援する日欧共同プロジェクト「幅広いアプローチ活動」(BA)の継続に向けた共同宣言の署名式が3月2日、欧州委員会本部(ベルギー・ブリュッセル)で行われた。兒玉和夫欧州連合日本政府代表部特命全権大使とカドリ・シムソン欧州委員(エネルギー担当)が共同宣言に署名。日欧間の協力により核融合エネルギーの研究開発を一層発展させていくことが合意された。萩生田光一文部科学大臣は、ビデオメッセージの中で、「エネルギー問題と環境問題を根本的に解決する」と、核融合エネルギーの実現に期待を寄せたほか、ITER計画やBA活動など、様々な協力を通じ日欧間の友好関係をさらに強化していく意欲を示した。BA活動では、(1)サテライト・トカマク(JT-60SA)、(2)国際核融合材料照射施設工学実証設計活動(IFMIF/EVEDA)、(3)国際核融合エネルギー研究センター(IFERC)――の3事業が日本を拠点に2007年より進められている。共同宣言に基づき、2020年3月までのフェーズIで得られた成果を受け、新たなフェーズIIへと移行する。核融合発電のイメージ(文科省発表資料より引用)例えば、量子科学技術研究開発機構那珂核融合研究所(茨城県那珂市)で建設が進められている「JT-60SA」では、2019年5月に心臓部ともいえる世界最大級の磁場コイル「中心ソレノイド」の据え付けが行われた。「JT-60SA」は、3月中の組立作業完了が見込まれており、4月以降のフェーズIIでは、まず今秋にもファーストプラズマを達成した上で、様々なデータを取得しITERの運転シナリオ開発に活かしていくほか、ITERではできない高出力運転など、発電実証を行う原型炉の開発に向けた挑戦的研究にも取り組む。2025年のファーストプラズマ達成を目指しフランス・カダラッシュで建設が進められているITERは約67%の進捗率となっている(2019年末時点)。
03 Mar 2020
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東京電力は2月27日、福島第一原子力発電所廃炉の進捗状況を発表した。燃料デブリ取り出しに向けては、1号機原子炉格納容器内部調査のためのアクセスルート構築作業で、2月12日に所員用エアロック「X-2ペネ」の内扉に1か所目の孔(直径約0.2m)の切削が完了した。内扉には3か所の孔を施工する予定で、早ければ3月上旬頃から続く2か所目の孔の切削に入る見通し。同機の原子炉格納容器内部調査については、2017年3月に自走式調査装置(形状変化型ロボット)を投入し、ペデスタル(原子炉圧力容器下部)外の画像取得・線量測定を行い堆積物が確認されている。アクセスルートを構築後、原子炉格納容器内に潜水機能付きのボート型アクセス装置を導入し、堆積物の形状・厚さ・燃料成分含有状況の確認、少量サンプリングなどを行う。3号機の使用済み燃料プールからの燃料取り出しについては、2月26日時点で566体中84体の取り出しが完了。昨夏に着手した1/2号機排気筒の解体工事は、23ブロックに分けて解体する計画となっており、2月1日に11ブロック目までが完了した。5月上旬の解体完了を目指す。東京電力では、プロジェクトマネジメント機能や安全・品質面のさらなる強化を目指し、4月に福島第一原子力発電所に関わる組織改編を実施することとしている。組織改編に伴い東京から現地へ70~90名の要員シフトが計画されており、福島第一廃炉推進カンパニーの小野明プレジデントは2月27日の記者会見で、これまでに発生したトラブルを振り返り、「作業は現場で行われる。東京ではなく現場でものを考える必要がある」と強調した。なお、来日中のラファエロ・マリアーノ・グロッシーIAEA事務局長は、26日に福島第一原子力発電所を視察した。同氏は、来日に先立ち、IAEA主催の核セキュリティ国際会議(2月10~14日、ウィーン)の際、政府代表として出席した若宮健嗣外務副大臣より、発電所の処理水に関する資源エネルギー庁小委員会の報告書を受け取っており、27日の梶山弘志経済産業相との会談で、IAEAとして同報告書のレビューを行っていることを述べた。
28 Feb 2020
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原子力規制委員会は、2月26日の定例会合で、東北電力の女川原子力発電所2号機(BWR、82.5万kW)が新規制基準に「適合している」とする審査結果を決定し、同社に対し原子炉設置変更許可を発出した。同案件については、11月に「審査書案」を了承し、原子力委員会と経済産業相への意見照会、パブリックコメントが行われていた。新規制基準適合性に係る審査をクリアしたプラントは16基となり、BWRでは4基目。同機の審査は、2013年12月に申請され、過去に大地震を経験してきた地理的特性から、地質・地震動評価や耐震設計に関して慎重な審査が行われた。定例会合終了後の記者会見で、更田豊志委員長は、「東北電力には概ねきちんと対応してもらえた」と、6年以上に及んだ審査を振り返った。東北電力の原田宏哉社長は、2月4日に行われた規制委員会が随時実施する事業者意見交換の後、記者団の取材に応じ、「審査が合格となりモチベーションも上がっている」と、女川2号機の再稼働に向けた現場の意識高揚を強調した。同社では、2020年度の工事完了を目指し、海抜約29mの防潮堤建設などの安全対策工事を進めていく。
26 Feb 2020
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原子力委員会は、2月25日の定例会議で、来日中のラファエロ・マリアーノ・グロッシーIAEA事務局長を招き意見交換を行った。会議には、日本の原子力関連機関を代表し、日本原子力研究開発機構の児玉敏雄理事長、量子科学技術開発研究機構の平野俊夫理事長、原産協会の高橋明男理事長も同席し、各々の活動について紹介した。冒頭、竹本直一内閣府科学技術政策担当大臣が挨拶に立ち、福島第一原子力発電所の廃炉に関するレビューミッション派遣など、IAEAによる日本への広範な支援に対し感謝の意を表明。また、昨秋のIAEA総会に日本政府代表として出席したことを振り返り、今回、グロッシー事務局長来日の機に設けられた意見交換の場を「歓迎すべきこと」と強調するとともに、引き続きIAEAとの緊密な協力のもと、原子力の平和的利用促進や核不拡散体制の強化に取り組んでいく考えを示した。1985年にアルゼンチン外務省に入省後、外交・国際機関の職務を歴任してきたグロッシー事務局長は、「35年間で何度も日本を訪れた」としている。今回、2019年12月のIAEA事務局長就任後、初の来日に際し、同氏は2019年7月に逝去した前任の天野之弥事務局長の功績に「10年間にもわたりリードしてきた」と敬意を表明。日本の原子力に関しては、福島第一原子力発電所の廃炉など、「独自の問題も抱えている」としながら、発電以外でも医学利用を始めとする幅広い原子力科学技術分野で「リーダーシップを発揮できる」と、期待感を示した。さらに、気候変動問題の解決に資する原子力発電の役割を改めて述べ、中国・インドの他、中東・アフリカ地域など、原子力導入を進めている国、一方で原子力から撤退し始めている国もあるとした上で、「どのような国も除外せず共に歩んでいく」と、IAEAとして支援を惜しまぬ考えを強調。この他、途上国の医療支援や食糧・水資源確保などにつながる放射線・放射性同位元素利用開発の重要性を述べる一方、国際機関であるが故の予算面の制約にも触れ、「民間からも様々な形で協力してもらえれば」と、今後の日本によるさらなる支援に期待を寄せた。これに対し、佐野利男委員は、原子力分野における女性の活躍、ジェンダーバランスに関するIAEAの取組について質問。グロッシー事務局長は、近くIAEAとしてキュリー夫人の功績に因んだ新たなフェローシップを立ち上げ、女性研究者の経済的支援を図る考えを明らかにした。また、中西友子委員が放射線利用を啓発するための戦略について尋ねると、グロッシー事務局長は、「一般の人たちも含め、より多くのコミュニケーション・チャンネルを持たねばならない」などと応えた。意見交換に臨む原子力機構・児玉理事長、量研機構・平野理事長、原産協会・高橋理事長(左から)原産協会の高橋理事長は、IAEA総会で併催される展示会への日本ブース出展や、IAEAとの協力で開催する原子力エネルギーマネジメントスクールなど、人材育成の取組を紹介した。グロッシー事務局長は、28日までの日本滞在中、関係閣僚らとの会談を行うほか、26日には福島第一原子力発電所を視察する予定。
25 Feb 2020
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原産協会の高橋明男理事長は2月20日、定例のプレスブリーフィングを行った。高橋理事長は最近の原子力人材確保・育成に関する取組について紹介。原産協会が関西原子力懇談会との共催で毎年行っている学生対象の合同企業説明会「PAI原子力産業セミナー2021」について、2月1日の東京会場に45社、16日の大阪会場に36社の関係企業・機関が出展したと説明した。計81社の出展数はこれまでで最多となった。一方、参加学生数は東京会場が140名、大阪会場が115名の計255名で前回より減少。高専の試験期間と重なったことを要因の一つにあげ、今後さらに分析を行うとしている。因みに前回は2019年3月3日(東京)と6日(大阪)に開催され、計339名の参加があった。また、2月12日に行われた「原子力人材育成ネットワーク」報告会で年間の活動実績とともに、原子力分野のジェンダーバランス改善について発表が行われたことを披露。同ネットワークが支援し、このほど日本で初の開催となった「IAEA国際スクール 原子力・放射線安全リーダーシップ」(IAEA主催、東海大学共催)が17日に開講したことも紹介した。現在開催中の同スクールには、主にアジア地域から若手の技術者・行政官ら計29名が参加。2週間にわたり講義・演習、福島第一原子力発電所見学などのカリキュラムが組まれており、28日の閉講式ではIAEAより修了証の授与が行われる。この他、高橋理事長は、最近の原子力を巡る動きとして、福島第一原子力発電所の処理水に関する資源エネルギー庁の委員会が10日に報告書を取りまとめたことに触れた。同報告書では、技術的に実績があり現実的な処理水の処分方法として、海洋放出と水蒸気放出をあげた上で、国内での実績や放出設備の取扱いなどから、海洋放出の方がより確実に実施できるとしている。記者との質疑応答の中で、高橋理事長は、風評被害に配慮し「地元、漁業関係の方々に対し丁寧に説明していく必要がある」と述べた。
21 Feb 2020
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原子力規制委員会の更田豊志委員長は、2月19日の定例記者会見で、大詰めを迎えている日本原燃の六ヶ所再処理工場などの新規制基準適合性審査の状況について質疑に応じた。六ヶ所再処理工場については、記者より18日に行われたプラントに関する審査会合で「概ね議論が終了した」として、「審査書案」取りまとめの見通しを問われると、更田委員長は、現状で示すことは「時期尚早」と述べた。六ヶ所再処理工場の審査は2014年1月の申請から6年が経過。日本原燃の増田尚宏社長は、同31日の記者会見で、最終の申請書類について「これまでの審査会合における指摘事項を反映し、早期に提出できるよう作業を進めている」としている。2月21日には地震・津波関連の審査会合が行われる予定。また、更田委員長は、同じく申請から6年が経過した使用済み燃料貯蔵施設の審査に関し、記者から「17日の審査会合でプラントに関する議論が実質終了した」として、「審査書案」の取りまとめ時期を問われたが見通しは示さなかった。審査が長期化した理由について、耐津波設計に関する論点で、「駄目出しは早めに出すべきだった」と、規制側としての反省点も明言。11月に「審査書案」が取りまとめられた東北電力女川2号機については、「パブリックコメントの取りまとめ結果を見せてもらってはいる。それほど長くかからない時期に委員会に報告されるだろう」と述べ、年度内にも同案件に関わる原子炉設置変更許可の発出となる見込みを示唆した。
20 Feb 2020
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福井県の杉本達治知事(=写真)は2月18日、県議会の開会に際し行った所信表明の中で、原子力関連施設を多く立地する嶺南地域を中心にエネルギーを活用した地域振興を図る「嶺南Eコースト計画」の案を取りまとめたことをあげ、議会での議論や県民からの意見を反映し年度内に同計画を策定する考えを示した。福井県ではこれまで、2005年に策定された「エネルギー研究開発拠点化計画」に基づき地域の持つ原子力技術を活用した取組を通じ多くの成果をあげてきたが、原子力発電プラントの廃炉進展など、エネルギーを取り巻く環境変化や、今後の北陸新幹線延伸計画も踏まえ、2018年より新計画の検討を進めてきた。「嶺南Eコースト計画」の案は、2020年度から概ね10年程度を展望し、「エネルギー」(Energy)をキーワードに、「地域経済の活性化」(Economy)、「エコなまちづくり」(Ecology)、「北陸新幹線の整備効果を活かした拡大・発展」(Expand)など、様々な「E」の実現を全体像として描いている。基本戦略として、(1)原子力関連研究の推進および人材育成、(2)デコミッショニング(廃炉)ビジネスの育成、(3)様々なエネルギーを活用した地域振興、(4)多様な地域産業の育成――を掲げ、国や自治体、産業界などと協力し具体的なプロジェクトを推進していく。2019年4月に就任した杉本知事は、前任の西川一誠知事から引き続き総合資源エネルギー調査会の委員を務めており、立地地域の立場から、原子力技術・人材の維持・強化の重要性を国に対し訴えかけている。
19 Feb 2020
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原子力委員会は、2月18日の定例会議で、量子科学技術研究開発機構量子医学・医療部門長の中野隆史氏を招き、IAEAの「原子力科学技術に関する研究、開発、および訓練のための地域協力協定」(RCA)による活動について説明を受けた。RCAは、1972年に発足したアジア・太平洋地域の開発途上国を対象に原子力科学技術の共同研究、開発、トレーニングを推進する協力ネットワークで、日本は1978年に加盟した。現在の締約国は22か国。RCA活動の一環として群馬大学で放射線治療のプロジェクトをリードしてきた中野氏は、2019年9月に外務省よりRCA日本政府代表に指名され、11月にはRCAで実施している農業、保健・医療、環境、工業の各分野の活動を紹介するシンポジウムの日本初開催となった。一方、日本が主導するアジア諸国との原子力平和利用協力の枠組として、1990年に原子力委員会が立ち上げた「アジア原子力協力フォーラム」(FNCA)があり、現在12か国の参加のもと、主に放射線利用に関するプロジェクト活動が行われている。18日の会合で、中野氏は、自身が関わってきた保健・医療分野のRCAプロジェクトを中心に、FNCAとの相関性を整理し、「RCAは実用技術の移転/垂直協力、FNCAは相互貢献/水平協力を実施する」と、両者の相違点を示した上で、アジア地域の発展のため「相乗効果を高める」重要性を強調した。例として、アジア地域に患者が多い子宮頚がんの放射線治療技術に関して、FNCAで標準的な治療手順(プロトコル)を確立して臨床試験を実施し、RCAでトレーニングを通じた技術移転を行うなどと説明。これを受け、佐野利男委員は、RCAプロジェクトについて、プライオリティやFNCAとの調整状況を尋ねたほか、「なかなかメディアで取り上げられない」とも指摘した。FNCAでは、プロジェクト活動の調整のため年1回開催するコーディネーター会合にRCA地域事務所(韓国)からもオブザーバー参加を求め意見交換を行っている。
18 Feb 2020
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IAEAが主催し東海大学が共催する「IAEA国際スクール 原子力・放射線安全リーダーシップ」が2月17日に開講した。これは、IAEAが2017年より実施している研修コースで、国際感覚に秀でた原子力・放射線安全の若手リーダーの育成を目的としており、今回、初めての日本開催となった。IAEA標準に基づき、原子力・放射線利用に関わる各国の若手・中堅の研究者、技術者、行政官らを対象に、ケーススタディやゲーム形式の演習など、ロールプレイ体験を通じて安全最優先の意識を養うもので、これまでの参加者から高い評価を得ている。カリキュラムは28日までの2週間にわたり、日本、インドネシア、マレーシア、フィリピン、タイ、ベトナム、バングラデシュ、モロッコから集まった29名の参加者は、東海大学湘南キャンパス(神奈川県平塚市)で講義、演習に取り組むほか、25日には福島へ移動し、福島第一原子力発電所や日本原子力研究開発機構の楢葉遠隔技術開発センターなどを見学する。カリキュラムを説明するIAEAのマリック氏東海大学校友会館(東京都千代田区)で行われた開講式で、主催者を代表し挨拶に立ったIAEAプログラム戦略コーディネーション課長のマリック・シャヒード氏は、参加者らに対し、歓迎の意を述べるとともに、「学ぶだけでなく、ネットワーク作りの機会でもある」と、同国際スクールの人脈形成の場としての意義も強調。来賓として訪れた文部科学省研究開発局原子力課長の清浦隆氏は挨拶の中で、福島第一原子力発電所の廃炉や研究炉の新規制基準対応などを例に、日本の原子力分野の人材確保が危機的状況にあることを訴えた。また、原産協会理事長の高橋明男氏は、産官学連携の「原子力人材育成ネットワーク」による海外人材育成の取組に触れた上で、各国の参加者らに「是非実りある時間を過ごして欲しい」と、同国際スクールを通じスキルアップが図られることを期待した。東海大学では、これまでも原子力分野の人材育成に力を入れており、開講式でスピーチを行った副学長の吉川直人氏は、経済産業省と文部科学省の共同事業「原子力発電分野の高度人財育成プログラム」(GIANTプログラム、2008~12年)や、国際原子力開発(JINED)との協力で実施したベトナムの発電所幹部候補生を対象とする人材育成プログラム(2012~18年)などを紹介した。
17 Feb 2020
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原子力事業者・メーカー・関係団体で構成される「原子力エネルギー協議会」(ATENA、理事長=門上英・三菱重工業特別顧問)が活動状況を報告し今後の課題について話し合う「ATENAフォーラム2020」が2月13日に都内で開催された。ATENAは、原子力発電のさらなる安全性向上に向けて産業界全体で知見結集・共通課題の抽出を図る組織として2018年7月に設立された。フォーラムで門上理事長は、(1)原子力発電所の共通課題への対応、(2)規制当局との積極的な対話、(3)様々なステークホルダーとのコミュニケーション――を柱とする活動方針のもとに実施されているATENAのこれまでの活動について説明。ATENAでは現在15件の技術課題に取り組んでいるが、その中で発足間もない2018年9月に作業を開始した「サイバーセキュリティ対策導入ガイドライン」作成については、2020年1月までにドラフト版に関する原子力規制委員会との対話も行われており、今後、自主ガイドとして発行し事業者・メーカーへと展開することとなっている。今回のフォーラムに来賓として訪れた原子力規制委員会の更田豊志委員長(=写真下)は挨拶の中で、「ATENAは申請者でも被規制者でもない。意見や反論が寄せられることを期待する」と、ATENAとの対話に積極的な姿勢を示したほか、原子力災害発生時の防護措置準備・実施に向けプラントの状況に応じて定める緊急時活動レベル「EAL」を例に、「現場を持つ事業者の知見が不可欠」とも述べた。ATENAは海外の原子力関係組織との連携も行っており、去る6月には米国原子力エネルギー協会(NEI)と技術協力協定を締結するなど、知見・技術の収集・活用に努めている。今回のフォーラムには、NEIのマリア・コーズニック会長が出席し講演を行った。その中で、コーズニック会長は、まず「気候変動は世界で喫緊の課題」として、地球温暖化問題の解決につながるクリーンエネルギーとして原子力に取り組む日米両組織による協力の意義を強調。さらに、「原子力以上に明るい未来に対応できる産業はない」とも述べ、米国における小型モジュール炉(SMR)の開発状況や、原子力規制委員会(NRC)による許認可の合理化に向けた動きなどを紹介した。コーズニック会長を交え、遠藤典子氏(慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任教授)をモデレータとして行われたパネルディスカッション(=写真上)には、加藤顕彦氏(日本電機工業会原子力政策委員長)、倉田千代治氏(電気事業連合会原子力開発対策委員長)、山口彰氏(東京大学大学院工学系研究科教授)、山﨑広美氏(原子力安全推進協会理事長)、玉川宏一氏(ATENA理事)が登壇。意見交換の後、玉川氏は、「しっかりと受け止め、今後のATENAの活動に活かしていきたい」と、引き続き安全性向上に向けて取り組んでいく姿勢を示した。
14 Feb 2020
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