フランス電力(EDF)は7月19日、小型モジュール炉(SMR)「NUWARD」の建設に向け、予備的な許認可手続きを開始した。EDFは将来、「NUWARD」プラントの最初の運転事業者となることから、今回同炉の安全オプション文書(DOS)を仏原子力安全規制当局(ASN)に提出した。同炉の正式な建設許可申請を行う前に、ASNから初期段階のフィードバックを得るのが目的だ。DOSは、当該原子力施設の安全確保のために採用した技術や設計の特徴、運転とリスク管理関係の主要原則等をまとめた文書で、公開討論等の場で施設の基本的な安全性の考え方や経済面、環境面の影響を説明するのに用いられる。「NUWARD」は、EDFがフランス原子力・代替エネルギー庁(CEA)と政府系造船企業のネイバル・グループ、および小型炉専門開発企業のテクニカトム社らと共同開発したSMR。同国で50年以上の経験が蓄積されたPWRをベースとしており、出力17万kWの小型PWR×2基(合計出力34万kW)で構成される。「NUWARD」の建設を通じて、EDFは世界中の老朽化した石炭や石油、天然ガスの火力発電所をリプレースするだけでなく、高圧送電網から外れた遠隔地域の需要に応えるとともに、水素製造や地域熱供給、脱塩への応用も支援していく。EDFは今年3月、同炉の開発を担当する企業として100%子会社のNUWARD社を設立しており、基本設計と予備的許認可手続きの実施に向けた作業を開始。2025年からは詳細設計と正式な許認可手続きに入る予定で、2030年には国内で実証炉の着工を目指している。「NUWARD」の開発には、ベルギーの大手エンジニアリング企業のトラクテベル社も協力しており、同社は2022年5月、EDFのエンジニアリング・センター(CNEPE)から同炉のタービン系やBOP(主機以外の周辺機器)の概念設計調査を受注。今年6月には、「NUWARD」開発への協力を強化・延長するため、NUWARD社と枠組み協定を締結している。EDFが今回DOSをASNに提出したことについて、NUWARD社のR.クラッスー社長は「『NUWARD』の開発を確固たるものにする上で、ASNの評価や勧告は欠かせない」と指摘。「世界のクリーン・エネルギーへの移行を当社が主導し、欧州SMRの評価基準になるという当社戦略の一環として『NUWARD』のモデル・プラントを仏国内で建設、その性能と競争力を実証する」と述べている。EDFはこれと同時に、複数の国でSMRを建設する考え。SMRの許認可手続きについては、欧州各国が規制環境の整備を加速しつつ国際間で調整を図れるよう、ASNが2022年6月、フィンランド、チェコの規制当局と共同で「NUWARD」の規制審査を行うと発表した。この審査は、欧州でSMRの規制条件調整に向けた初期段階のケーススタディになるとしている。(参照資料: NUWARD社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月21日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
25 Jul 2023
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米国北西部ワシントン州の電気事業者であるエナジー・ノースウエスト社は7月19日、同州内で最大12基のX-エナジー社製・ペブルベッド式小型高温ガス炉(HTGR)「Xe-100」を建設するため、同社と共同開発合意書(JDA)に調印した。第4世代の小型モジュール炉(SMR)となる「Xe-100」は電気出力8万kW、熱出力は20万kWで、これを12基連結することで最大96万kWの電気出力を得ることが出来る。エナジー・ノースウエスト社は自らが所有・運転するワシントン州内唯一の原子力発電所、コロンビア発電所(BWR、121.1万kW)の隣接区域で「Xe-100」発電所の建設を計画しており、2030年までに最初のモジュールの運転開始を目指す方針である。エナジー・ノースウエスト社は同州内の地方自治体など28の公益電気事業者で構成され、2020年からX-エナジー社と協力して「Xe-100」の建設プランを作成していた。当初は「Xe-100」を4基備えた発電設備の建設を計画していた。今回のJDAでは「Xe-100」の商業化に向けて、立地点や建設スケジュールの詳細等を明確化した。今後は、同炉の許認可手続きや規制事項への対応等を共同で決定していく。米エネルギー省(DOE)は2020年10月、「先進的原子炉実証プログラム(ARDP)」における初回支援金の交付対象の一つとしてX-エナジー社を選定した。「Xe-100」の実証炉建設に向けた支援金として、DOEは同プログラムから今後7年間で総額12億ドルを交付。これらの一部は、同炉で使用する3重被覆層・粒子燃料(TRISO燃料)の商業規模の製造施設を、テネシー州オークリッジで建設する計画にも利用されている。「Xe-100」の実証炉については、素材関連企業のダウ(Dow)社がメキシコ湾沿いにある同社施設の一つで建設するため、2022年8月にX-エナジー社と基本合意書を締結。今年5月には、同社は「Xe-100」の立地点として、テキサス州メキシコ湾岸のシードリフト市を選定した。同社が2001年に合併吸収したユニオン・カーバイド社(UCC)の製造施設で2026年に実証炉を着工し、ARDPの一環として2020年代末までにその性能を実証するとしている。エナジー・ノースウエスト社のB.シュッツCEOは、同社の使命は米国の北西部地域にクリーンで信頼性の高い安価な電力を供給することだと説明。その上で、「この地域が送電網を将来的にクリーンなものに変える際、信頼性の高い無炭素電源が新たに必要なのは明らかだ。X-エナジー社の先進的原子炉技術はCO2を多量に排出する発電システムにとって最適の、理想的な特性を多く備えている」と強調した。なお、合同会社((合同会社(LLC)は出資者(会社の所有者)と経営者が同一。設立費用が安く決算公告や役員重任登記が不要で、剰余金分配の制限がないというメリットがある。))であるX-エナジー社(X-Energy, LLC)は昨年12月、特別買収目的企業(SPAC)((未公開会社の買収を目的として設立される法人。))のアレス・アクイジション社(Ares Acquisition Corporation) と最終的な合併契約を締結している。手続きは今夏中に完了すると見込まれており、合併後は「X-Energy, Inc.」の新名称でニューヨーク証券取引所に上場する予定である。(参照資料:X-エナジー社、エナジー・ノースウエスト社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月19日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
24 Jul 2023
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韓国産業通商資源部(MOTIE)は7月14日、ポーランドのワルシャワで「韓国-ポーランド・ビジネスフォーラム」を開催し、原子力など複数分野における両国企業の協力に向け、33件の了解覚書を交わしたと発表した。同フォーラムの開催はユン・ソンニョル(尹錫悦)大統領のポーランド訪問に合わせたもので、両国の政府関係者や企業、経済団体等から約350名が参加した。MOTIEのイ・チャンヤン長官とポーランド経済開発技術省のW.ブダ大臣が同席して、バッテリーなどの先端産業やロボット、機械、鉄道などの製造業、研究開発等の分野で11件、原子力や水素製造などの低炭素エネルギー、ウクライナの再建協力、基盤施設等のインフラ関係の分野で13件、金融や観光、人材交流等の新しい分野で9件の覚書を締結した。これにより、韓国は原子力や先端産業など既存の協力分野で具体的な成果を目指すとともに、経済協力の多様化と高度化を図ることにより、将来的な互恵協力の基盤を築いたと強調している。原子力分野の了解覚書は合計6件で、これには斗山エナビリティ社や韓国水力・原子力会社(KHNP)など、ポーランド中央部ポントヌフにおける韓国製140万kW級PWRの建設プロジェクトに関係する企業が含まれるようだ。また、このうち1件は、ポーランドが計画する米国製小型モジュール炉(SMR)建設事業に現代E&C(現代建設)社が加わるというもの。ポーランドの化学品メーカーであるグルパ・アゾティ・ザクワディ・ヘミツィネ・ポリツェ(Grupa Azoty Zakłady Chemiczne Police S.A.)社は、米ウルトラ・セーフ・ニュークリア社(USNC)が開発した「マイクロ・モジュラー・リアクター(MMR)」(熱出力1.5万kW、電気出力0.5万kW)の国内建設を計画しており、この日現代建設を加えた3社が、協力のための予備的合意文書を締結した。グルパ・アゾティ社は、ポーランド北西部の西ポモージェ県にあるポリツェ町を本拠地としており、窒素肥料の製造などポーランドの化学産業用および水素製造として、SMRに基づくエネルギー・システムを建設する。自社電源の脱炭素化を図りつつ、無炭素エネルギーを確保することは同社の2030年までの戦略にも明記されている。このように同社は、ポーランドでは政府レベルのみならず、製造業レベルでも化石燃料を無炭素電力に置き換えるなど、クリーン・エネルギーへの移行が進展中だと強調した。今回の3社合意により、ポーランドではMMR建設の許認可手続きの進展が期待される。現代建設は産業用エネルギー技術のインテグレーターでもあるため、USNC社およびグルパ・アゾティ社と緊密に協力して原子力の無炭素な電力で水を電気分解、水素の抽出技術を開発するとしている。(参照資料:MOTIE ①、②(韓国語)、現代建設(韓国語)、グルパ・アゾティ社(ポーランド語)、USNC社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月14日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
21 Jul 2023
1736
フランスのE.マクロン大統領と同大統領の招きで訪仏中のインドのN.モディ首相は、パリで会談後の7月14日に共同声明を発表。両国間の原子力協力を小型モジュール炉(SMR)と先進的モジュール炉(AMR)の分野にも拡大すると決定した。今年は両国が1998年に戦略的パートナーシップを結んでから25周年にあたることから、共同声明では同パートナーシップの約50周年、およびインドの独立100周年でもある2047年を見据え、両国間の協力針路を定めている。共同声明の中で、原子力協力は「地球温暖化の防止に対応したエネルギー供給保証の強化」に位置付けられており、両国は①インドの工業化と都市化にともなうエネルギー需要増大への対応と、②エネルギー供給保証の強化、および③SDGsの7番目の目標(エネルギーをみんなにそしてクリーンに)やパリ協定の目標達成――に向けて、緊密に連携しながら低炭素経済に移行中だと説明。両国はともに、パリ協定の長期的な目標を達成するには、エネルギー・ミックスにおけるクリーン・エネルギーのシェアを拡大する必要があると認識しており、地球温暖化の影響を緩和する持続可能な解決策として原子力の活用が重要と確信している。両国はまた、インド・ジャイタプールでフランス製欧州加圧水型炉(EPR)を6基建設する計画が進展したことを歓迎。これに関連して、両国はフランス電力(EDF)が提案した民生用原子力エンジニアや技術者の養成協力の受け入れを表明した。また、インドが進めている技術者養成政策の「スキル・インディア」に沿って、フランスの関係機関はインド人学生の研修を促進・支援する。両国はさらに、SMRのような中・小型炉やAMRについても意欲的な協力プログラムを開始し、パートナーシップ関係を築くことで合意した。このほか、フランス原子力・代替エネルギー庁(CEA)が南仏カダラッシュで2007年から建設中の材料照射試験炉「ジュール・ホロビッツ炉」についても、インドを含む多国間で提供している協力の継続を確認している。ジャイタプールのEPR建設計画については、2010年に仏印両国は最初の2基の建設に関して枠組合意に達したものの、機器供給者側に一定の賠償責任を課したインドの原子力損害賠償法や、地域住民の抗議活動が激化したこと等により、実質的な作業は棚上げとなった。2018年3月、EDFとインド原子力発電公社(NPCIL)は、機器の調達活動に関する枠組や仏印両国の役割と責任の分担、次の段階のスケジュール等を決めるために産業枠組協定を締結。同年末に、EDFが法的拘束力をもたない契約条件提案書をNPCILに提出した後、2021年4月に法的拘束力のある技術面と商業面の契約条件提案書を提出している。(参照資料:フランス大統領府の発表資料①、②、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月17日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
20 Jul 2023
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©British Government英国エネルギー安全保障・ネットゼロ省(DESNZ)のG.シャップス大臣は7月18日、革新的な技術を用いた小型モジュール炉(SMR)の開発を促進するため、支援金の交付対象を選定するコンペを開始した。これにともない、支援金を希望する企業は同日からこのコンペに参加登録することが可能になった。英国で原子力発電所の新設計画を牽引する新しい政府機関「大英原子力(Great British Nuclear=GBN)」は、同コンペの担当機関として、今秋にも基準を満たした企業の最初の絞り込みを行い、詳細協議の段階に移行する計画だ。このコンペの実施は、今年3月にDESNZが公表したクリーン・エネルギーによる長期的なエネルギー供給保証と自給の強化に向けた新しい投資政策「Powering Up Britain」に基づいている。英国でエネルギーを自給していくため、GBNは前例のない規模とスピードで原子力発電の復活・拡大政策を進めており、このコンペを通じてSMRの開発プロジェクトに数十億ポンド規模の官民投資を促す方針。英国のエネルギー供給保証を強化し、価格が変動しやすい化石燃料の輸入量を削減するほか、原子力の生み出す安価な電力で経済成長や良質の雇用創出を英国全土で実現することを目指している。政府の発表によると、SMRは従来の大型炉と比べて設備が小さいため、工場での製造および迅速で低価格な建設が可能になる。ただし、ヒンクリーポイントC発電所やサイズウェルC発電所など、大型原子炉を備えた発電所の建設計画も引き続き支援する方針で、GBNとともにこれらの発電所に続く大型炉の発電所が英国のエネルギー・ミックスの中で果たす潜在的な役割を考慮していく。GBNも、2050年までに国内の総発電量の4分の1を原子力で供給するという政府目標の達成を下支えし、国内の雇用を維持しながら欧州で最も低価格な電力卸売価格を実現するとしている。DESNZのG.シャップス大臣は今回、「原子力やその他のクリーン・エネルギー源の供給量を急拡大して各世帯の電気代を抑え、プーチンのような暴君に英国がエネルギーの身代金を支払わずに済むようにしていく」と明言。「GBNが最先端のSMR開発でコンペを始めたことは、今後数十年にわたり英国と英国経済をパワーアップしていく原子力ルネッサンスの最初の一歩になった」と指摘している。原子力に1.6億ポンドの助成金交付DESNZはこのほか、政府が同じ日に原子力関係で合計約1億5,700万ポンド(約283億3,400万円)の助成金交付を決定したことを明らかにした。このうち最大7,710万ポンド(約139億1,400万円)が英国内で先進的原子炉の開発事業を進める企業に支払われる予定。次の議会の会期中(2024年~2029年)に出来るだけ多くのSMRや先進的モジュール炉(AMR)を建設するため、これらの原子炉設計が規制手続きに入れるよう支援する。また、最大5,800万ポンド(約105億円)をAMRと次世代型原子燃料のさらなる設計・開発に充てる。AMRはSMRよりも高温で運転されるため、水素製造その他の産業利用に適した高温熱を供給可能。具体的には、米ウルトラ・セーフ・ニュークリア社(USNC)の英国法人が進めている第4世代の小型モジュール式高温ガス炉「MMR」の開発促進に最大2,250万ポンド(約40億6,000万円)、国立原子力研究所(NNL)が日本原子力研究開発機構(JAEA)の実績に基づいて進める高温ガス炉の設計開発促進に最大1,500万ポンド(約27億円)、および同炉用の国産被覆燃料粒子の開発継続に最大1,600万ポンド(約28億9,000万円)となっている。さらに、2,230万ポンド(約40億2,200万円)が「原子燃料基金」から、ロシアからの輸入に依存しない新しい燃料の製造能力開発プロジェクト8件に提供される。これには、英スプリングフィールドにあるウェスチングハウス(WH)社の燃料製造プラントへの支援金、最大1,050万ポンド(約19億円)や、英カーペンハーストにあるURENCO社のウラン濃縮工場に対する最大950万ポンド(約17億1,000万円)の支援などが含まれている。(参照資料:英国政府の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月18日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
19 Jul 2023
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スロバキアの国営バックエンド企業であるヤビス(JAVYS)社は7月17日、国内で米ウェスチングハウス(WH)社製の第3世代+(プラス)PWRのAP1000や小型モジュール炉(SMR)AP300を建設する可能性を探るため、同社と2件の了解覚書(MOU)を締結した。スロバキアでは現在、WH社製原子炉を導入して国内の原子力発電設備容量を拡大できるか評価中。1件目のMOUで技術面やビジネス関係の詳細協力の枠組みを設定し、もう一件では、これらの原子炉の将来的な建設プロジェクト実施に向けた道筋を模索する。経済省が100%出資するヤビス社は、スロバキアで放射性廃棄物の管理を担当するほか、原子力施設の廃止措置のみならず増設と運転にも責任を負っている。同社はボフニチェ原子力発電所(ロシア型PWR×2基、出力各50万kWの3、4号機のみ稼働中)で将来的に5号機を増設するため、2009年にチェコ電力(CEZ社)との共同出資で建設および運転を担当するJESS社を設置。その際、ヤビス社が51%を出資した。ヤビス社はJESS社の親会社としてスロバキアの国益のため、利用可能な原子炉をすべて評価し、スロバキア政府が新たな原子炉の炉型や出力、立地点を最終決定するに当たり、選択肢を提示することになっている。今回の覚書で、ヤビス社は特にSMR建設プロジェクトの実施を念頭に置いており、このような新技術に関する情報をWH社と幅広く交換し、スロバキアのエネルギー供給網に加えられるかの適性を精査する。100万kW級のAP1000の出力縮小版となるAP300(出力30万kW)について、同社はWH社から「AP1000と同じ実証済みの技術を採用しているため、同様の許認可手続きが適用され、サプライチェーンも同じものが利用可能。同じく受動的安全系や負荷追従運転の能力も備えている」と説明されており、その建設と運転・メンテナンスを通して両設計の間でかなりの相乗効果が期待できると考えている。WH社は今年5月にAP300を発表。今回新たに、2027年までに米原子力規制委員会(NRC)から設計認証(DC)を取得し2030年までに初号機の建設を開始、2033年までに運転開始するとの見通しを明らかにした。WH社との協力について、ヤビス社のP.シュトレル会長兼CEOは、「ボフニチェ原子力発電所1、2号機の廃止措置など、WH社とは以前から長期的な協力関係にある」と指摘。これに加えて、WH社はスロバキアで稼働するロシア製原子炉向けに新燃料を提供するなど、燃料の調達先多様化にも貢献している。在スロバキア米大使館のG.ラナ大使は、「2件の了解覚書を通じて両国の企業が民生用原子力部門で商業レベルの協力を一層緊密にする基盤が築かれた」と歓迎している。(参照資料:WH社、ヤビス社(スロバキア語)の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月17日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
18 Jul 2023
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対話型人工知能「ChatGPT」の開発者、S.アルトマン氏が会長を務める米国のオクロ社(Oklo Inc.)は7月11日、同氏がCEOとして統括している特別買収目的企業(SPAC)((未公開会社の買収を目的として設立される法人))のアルトC・アクイジション社(AltC Acquisition Corp)との合併を発表した。この合併により、先進的原子炉開発企業のオクロ社は同じ名前でニューヨーク証券取引所に上場し、開発中の次世代型マイクロ高速炉「オーロラ(Aurora)」の商業化を加速する。合併手続きは、両社の株主の承認を経て来年初頭にも完了する見通しである。「オーロラ」は燃料としてHALEU燃料((U235の濃縮度が5~20%の低濃縮ウラン))を使用する液体金属高速炉のマイクロ原子炉で、電気出力は0.15~1.5万kW。燃料交換なしで20年以上の熱電併給が可能なほか、放射性廃棄物をリサイクルしてクリーン・エネルギーに転換すると謳っている。米エネルギー省(DOE)は2019年12月、先進的原子力技術の商業化を支援するイニシアチブ「原子力の技術革新を加速するゲートウェイ(GAIN)」の一環として、傘下のアイダホ国立研究所(INL)敷地内での「オーロラ」建設を許可。これを受けてオクロ社は翌2020年3月、原子力規制委員会(NRC)に「オーロラ」初号機の建設・運転一括認可(COL)を申請したが、NRCはオクロ社の審査情報提出が不十分として、2022年1月にこの申請を却下している。その約9か月後、オクロ社は将来的な許認可手続きの効率的かつ効果的な推進のため、NRCに事前の協議活動の実施を提案した。現時点では、INLで2026年か2027年に商業規模の「オーロラ」初号機の起動を目指しており、今年5月に同社は商業規模の「オーロラ」を将来的に2基建設する地点として、オハイオ州南部を選定。同地域の4郡で構成される「オハイオ州南部の多様化イニシアチブ(SODI)」と土地の利用に関する合意文書を交わしている。今回の合併でオクロ社の総資本は最大5億ドルに増大、総資産評価額は8億5,000万ドルに達する見通し。これにより「オーロラ」用の資機材調達やサプライチェーンの強化など、初号機建設が加速され、同社は高速炉を用いた高度な燃料リサイクル技術を確立して、「オーロラ」で使用済燃料をクリーン・エネルギーに変換。長期契約で電力を直接販売するというビジネス・モデルを構築し、クリーンで安価、かつ信頼性の高いエネルギーの大規模供給という目標を達成していく。 2013年に創設されたオクロ社は、2015年にアルトマン氏が会長に就任。同氏は「輝かしい未来の実現で重要なのは豊富な知識とエネルギーだ」と指摘しており、原子力の持つ可能性に同氏は長い間関心を抱いてきたという。同氏はまた、「先進的原子力技術の商業化を進める上で、オクロ社は正に最良の企業である」と明言。同社の技術はDOE傘下の国立研究所で30年以上運転された「実験増殖炉II(EBR-II)」で実証済みであり、シンプルな設計により建設に要するコストや期間が縮減されるという。また、INLが2020年2月、使用済燃料からの回収物質の提供を約束したことから、2026年頃の初号機起動に際し必要な燃料とサイトは確保済み。さらに、同氏にとって最も重要な点は、オクロ社がJ.ドワイトCEOのように高度な技術的専門知識を備えた創業者が主導する、強力なチームを備えていることだと強調している。(参照資料:オクロ社、アルトC社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月12日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
14 Jul 2023
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ポーランドの気候環境省は7月11日、国営エネルギー・グループ(PGE社)の原子力事業会社であるPEJ(=Polskie Elektrownie Jądrowe)社が北部ポモージェ県内で計画している同国初の大型炉建設について、「原則決定(DIP)」を発給した。これは、原子力発電所の建設計画でポーランド政府が下した最初の主要な行政判断。同県ホチェボ自治体内のルビアトボ-コパリノ地区で、ウェスチングハウス(WH)社製の第3世代+(プラス)のPWR「AP1000」を最大3基建設する計画が、エネルギー政策等の国家政策に則したものであり、国民の利益にも適うと正式に認めた。事業者となるPEJ社は今後、立地点の確定や建設許可の取得など、さらなる行政判断を仰ぎ手続きを進めることが可能になる。ポーランド政府としても、国家のエネルギー供給ミックスがより良い方向に向かい、供給が強化される節目になったと強調している。ポーランドでは改訂版の「原子力開発計画(PPEJ)」に基づいて、2043年までに国内の複数サイトで最大6基の100万kW級原子炉(合計600万~900万kW)を建設する。最初の3基、合計375万kWをポモージェ県内で建設・運転する場合の環境影響を評価するため、PEJ社は2022年3月にルビアトボ-コパリノ地区のほか、近隣のクロコバとグニエビノの両自治体が管轄するジャルニビエツ地区でも影響分析を実施。政府は同年11月、最初に建設する3基の採用炉型としてWH社製のAP1000を閣議決定した。PEJ社は今年4月に提出したDIP申請書で、このような建設計画の概要を明記。最大設備容量のほかに、2026年に初号機を着工して2033年の完成を目指す等の建設スケジュールや、採用されたAP1000技術の詳細等の記載もあった。政府の戦略的エネルギー・インフラ大使を兼任するA.ルカシェフスカ-チェジャコフスカ首相府担当相は、「国内のエネルギー供給を強化しながらポーランド政府は脱炭素社会への転換を進めており、原子力開発計画はそのために同時進行している数多くのプロジェクトの一つだ」と説明。「今回のDIPの決定により、ポーランドは初の原子力発電所の実現に近づいており、将来の発電システムの基盤として適切な発電量を確保できるようになる」と強調している。ポーランドではこのほか、鉱業大手のKGHM銅採掘会社が米ニュースケール・パワー社の小型モジュール炉(SMR)を、また化学・石油合弁企業のオーレン・シントス・グリーン・エナジー(OSGE)社が米GE日立・ニュクリアエナジー社のSMR「BWRX-300」を国内で建設すべく、今年4月にDIPを気候環境省にそれぞれ申請した。また、同国中央部のポントヌフでは、韓国水力・原子力会社(KHNP)が韓国製「改良型加圧水型炉(APR1400)」(出力140万kW)の建設を目指しており、国有資産省(MOSA)が一部出資するエネルギー企業のZE PAK社は今年3月、PGE社と合弁の特別プロジェクト企業を設立する方向で予備的合意に達している。(参照資料:ポーランド政府、PEJ社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月12日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
13 Jul 2023
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ハンガリー唯一の原子力発電所であるパクシュ発電所(出力約50万kWのロシア型PWR:VVER-440×4基)で、Ⅱ期工事(出力120万kWのVVER-1200×2基)の建設に向けた第一段階の作業として、7月3日からサイトの準備作業が始まった。パクシュⅡ期工事開発会社が5日付で発表したもので、同プロジェクトを担当する外務貿易省のP.シーヤールト大臣は記者会見で、「建設工事を請け負ったロシアの原子力総合企業ロスアトム社のエンジニアリング部門が、サイトの掘削前に必要となる地下水遮断壁の建設工事を開始した」と表明。国家原子力庁(HAEA)が昨年8月にⅡ期工事の建設許可を発給したことに基づいており、地盤の改良プランと掘削作業についても最終決定に向けた手続きがスケジュール通り進行中である。地下水遮断壁の建設と地盤の改良工事が完了した後は、掘削作業と建設エリアに基礎スラブを敷く作業の準備を開始、8月までに新しい2基分の掘削作業を実施するとの見通しを明らかにしている。パクシュ発電所の既存の1~4号機は旧ソ連時代に建設され、ハンガリーの総発電量の約5割を供給している。しかし、4基すべてがVVER-440の公式運転期間である30年を満了したことから、これらの運転期間を延長しながら容量の大きいⅡ期工事の5、6号機で徐々にリプレースしていく考えだ。両機の建設工事については、2014年にハンガリーとロシアが政府間協定(IGA)とEPC(設計・調達・建設)契約を含む主要な3契約を締結。総工費の約8割に相当する最大100億ユーロ(約1兆5,400億円)を、ロシア政府から低金利融資で賄う計画である。2022年2月にロシアがウクライナへの軍事侵攻を開始した後、ハンガリー政府は建設プロジェクトの実施を大幅に加速すると表明しており、J.シューリ無任所大臣が負っていた同プロジェクトの関係責任をすべて外務貿易省に移管した。今年4月になると、ハンガリーはロシアと2014年に結んだ資金調達関係のIGAとEPC契約が一部修正されたことを欧州委員会(EC)に伝えたものの、詳細は未公開。パクシュⅡ開発会社の今回の発表によると、ECがこの修正を承認したのに続き、ロシア政府も2~3日中にそれらの修正事項を承認する見通しである。外務貿易省のシーヤールト大臣は、「5、6号機はハンガリーのエネルギー供給を長期的に保証するものであり、今後も建設作業を制限するような制裁措置には決して同意しない」と述べ、その重要性を強調している。今回始まった地下水遮断壁の建設工事については、HAEAが昨年5月に許可を発給していた。全長2.5km、厚さ1mというこの壁は、Ⅱ期工事の2基を地下からカーテンのように囲む形で、深さ最大32mの地点に設置される。作業ピットに侵入する地下水を最小限に制御する一方、壁の外側の地下水が一定レベルから下がらぬよう維持する役割も担っている。この壁の建設作業と並行して、サイトでは補助建屋や事務棟、コンクリート・プラント、倉庫等の建設準備も進められている。(参照資料:パクシュⅡ開発会社、ロスアトム社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月6日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
12 Jul 2023
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スウェーデンで小型モジュール炉(SMR)の建設を計画しているシャーンフル・ネキスト(Kärnfull Next: KNXT)社は7月4日、デンマークのクリメンタム・キャピタル(Climentum Capital)社、およびスウェーデンのグラニトル・グロウス・マネージメント(Granitor Growth Management)社から合計200万ユーロ(約3億1,000万円)の資金供与を受けたと発表した。SMRプロジェクトの開発企業であるKNXT社は2022年3月、米GE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社と了解覚書を締結しており、スウェーデン国内で複数のGEH社製「BWRX-300」(電気出力30万kW)を早期に建設することを目指している。一方のクリメンタム・キャピタル社は、気候変動の影響を緩和する技術やサービスの提供企業向け専門の投資を行う気候テック・ファンドであり、環境上の持続可能性を備えたグリーン事業への投資基準「EUタクソノミー」においては、規定が最も厳格な「9条ファンド」((EUタクソノミーにおいて、環境面で持続可能な経済活動に対してのみ投資(サステナブル投資)を行うファンドで、同タクソノミーに適格な投資の割合の開示が義務付けられている。))に認定されている。また、グラニトル・グロウス・マネージメント社は、スウェーデン国内でより良いコミュニティの構築に貢献する技術の開発に投資している。KNXT社によると、同社のSMR建設事業に対する今回の出資は、欧州の9条ファンドが原子力発電に対して行う最初の出資例となった。2030年代初頭までにスウェーデン初の商業用SMRを稼働させ、地域経済の活性化や雇用の創出を図る方針だ。同社はまた、スウェーデン全土の有望な候補サイト数地点で、SMR建設に係わる権利を確保済みである。スウェーデンでは今後25年間に無炭素電力の発電量を現在の1,600億kWhから3,600億kWh 以上に拡大することを計画しており、エネルギー庁の最新のシナリオ分析では、経済面や環境面、供給保証面の利点を最大化するには、原子力で総発電量の35~45%を賄う必要がある。これらのことから、KNXT社は再エネ関係のプロジェクト開発企業と同様に、SMRを通じてあらゆる産業部門の脱炭素化を支援していく。同社のSMR建設計画はEUタクソノミーとスウェーデンのエネルギー需要の両方に合致しているため、送電網に電力を供給するプロジェクトのみならず、輸送部門などCO2の削減が困難な産業部門の脱炭素化も推進する予定である。今回2社から獲得した資金は、KNXT社が現在実施中の事前調査や実行可能性調査に役立てるほか、スウェーデン国内でSMR建設の新たな候補地点を特定するのに活用する。(参照資料:シャーンフル・ネキスト社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月19日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
11 Jul 2023
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カナダのオンタリオ州政府は7月5日、州内で約30年ぶりとなる大型炉(最大480万kW分)をブルース原子力発電所で建設するため、ブルース・パワー社と開発前段階の準備作業を開始すると発表した。また、ダーリントン原子力発電所で計画している小型モジュール炉(SMR)の建設についても、追加で3基建設する方針を表明。州営電力のオンタリオ・パワー・ジェネレーション(OPG)社と、具体的な計画の立案や許認可手続きに向けた作業を開始したことを7日付で明らかにした。同州では2000年代、ブルース・パワー社とOPG社が既存のブルース、ダーリントンの両原子力発電所における増設計画や複数の新規サイトで建設計画を検討していたが、2009年~2013年までに両社はこれらすべての計画を凍結。カナダ原子力安全委員会(CNSC)にサイト準備許可(LTPS)申請の取り下げを要請した上で、既存炉の大規模改修工事を開始していた。今回、大型炉の建設準備を開始した理由として、州政府は州内で進展する電化と、それにともない2030年代以降に増加が見込まれるクリーンで信頼性の高い電力への需要、および同州の人口増加と安定した経済成長に対応するためと説明。また、同州の独立系統運用者(IESO)がこの需要増への対応策として、原子力のように10年以上のリードタイムを必要とする発電資産の計画立案と立地、環境影響評価といった作業を開始するよう同州に勧告したことを挙げた。IESOが昨年公表した報告書「脱炭素化への道筋(P2D)」によると、同州がCO2排出量の削減目標を達成しつつ電力需要の増加に対応するには、2050年までに州内の発電設備容量を8,800万kWに倍増する必要がある。州内の総発電量の約50%を賄う原子力については、ベースロード電源として1,780万kWの設備が追加で必要だと予測している。こうした背景から、ブルース・パワー社が今回、ブルース発電所サイトでの原子炉増設について連邦政府の承認を得るため、環境影響評価(IA)や関係コミュニティとの協議を開始する。大型炉のIA実施プロセスについては、連邦政府の環境影響評価庁(IAAC)が全体的な責任を負っているが、オンタリオ州政府は承認手続きにおける重複を排除するなどして効率性を高め、クリーンなエネルギー源の建設プロジェクトが速やかに進められるよう連邦政府と協力していく考えだ。また、開発前段階の準備作業には、複数の先住民コミュニティとの協議や一般国民からの意見募集などが含まれるため、完了まで数年を要する見通し。周辺環境や国民に対する新たな原子炉の影響を検証することにより、サイトの適性を適切に評価することになる。ダーリントンで4基のSMR建設へダーリントン発電所ではOPG社が2012年8月、大型炉の増設(最大4基、480万kW)用としてCNSCから「サイト準備許可(LTPS)」を取得した。大型炉計画を中止した後、同社は同じ場所でSMRを建設する計画を進めており、CNSCに要請して2021年10月にこのLTPSを10年更新。同年12月には、「ダーリントン新規原子力開発プロジェクト(DNNP)」に採用する設計として、3つの候補SMRの中からGE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社製の「BWRX-300」(電気出力30万kW)を選定していた。その後OPG社は、2022年10月に初号機の建設許可申請書をCNSCに提出しており、2028年第4四半期の完成を目指して準備作業を進めている。オンタリオ州政府は今回、この初号機に3基を追加して合計4基の「BWRX-300」を建設すると表明。これはOPG社が今年1月、GEH社およびカナダで加圧重水炉(CANDU)事業を手掛けるSNC-ラバリン社、建設大手エーコン(Aecon)グループと6年契約で結んだ初号機建設のための協力協定に基づいている。今後は追加設備についてもCNSCに建設許可を申請し、2034年から2036年までの間に運転を開始する計画だ。州政府によると、追加の3基を建設する頃には、初号機の建設経験等を通じてコストの削減やスケジュールの短縮方策を適用できるようになる。例として、冷却水の取水や送電網への接続、4基すべての運転を制御可能な中央制御室など、複数ユニットによる共通インフラの活用を挙げた。また、OPG社はダーリントン発電所の改修工事を通じて、大型原子炉の建設プロジェクトを予算内・スケジュール通りに進める知見を培っており、同様のアプローチをSMR建設に適用できると強調している。(参照資料:オンタリオ州政府①、②、③、ブルース・パワー社、GEH社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月6日、7日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
10 Jul 2023
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韓国の産業通商資源部(MOTIE)は7月4日、国際的な次世代小型モジュール炉(SMR)の市場を韓国が主導するため、官民の総力をワン・チームに統合した「SMRアライアンス」を発足させた。SMR関係の国家レベルの競争力強化に向け、年内にもSMRを活用する事業の開発や関係する制度基盤の整備について、分野別ワーキング・グループが企業を中心に据えた具体的な戦略を策定。来年前半には、法人格を持ったSMR協会の発足を目指す。同アライアンスに参加するのは合計42の組織で、MOTIEや韓国水力・原子力会社(KHNP)、エネルギー経済研究院など11の政府・公共機関のほか、民間からはサムスンC&T社(サムスン物産)、大宇E&C社(大宇建設)、斗山エナビリティ社、GSエナジー社などの31社である。アライアンスの初代会長は、大手財閥企業SKグループの持ち株会社であるSK社(SK Inc.)から選任する。SK社によると、環境に優しいSMRは世界中のエネルギー業界でCO2排出量を実質ゼロに導くゲームチェンジャーになり得る。従来の大型炉と比べて、電気出力は50万kW以下(MOTIEの発表では30万kW以下)と小さいものの、自然の循環や対流を利用した受動的安全系で原子炉の冷却が可能。またSMRのモジュールは工場での製造が可能なほか、サイトへの輸送と設置方法も経済的で設置面積も小さい。ソウルのホテルで開催されたこのSMRアライアンスの発足式では、MOTIEが今後の運営方針を発表し、参加機関/企業の間で業務協約を締結した。MOTIEのイ・チャンヤン長官は、「SMRがもたらすエネルギー情勢の変化に官民が総力を挙げて対応しなければならない」と指摘。「国民が信頼できる事業戦略を参加企業が策定する一方、政府としてはSMR産業育成のための政策的支援を惜しまない」と強調した。SK社のチャン・ドンヒョン副会長は、「SMRがクリーンなエネルギー源としての役割を果たせるよう、SMRアライアンスは国民にSMRの安全性を説明し関係制度を改善、産業としての育成策も整備するなど、多方面の努力を傾注する」と表明。「世界中のSMR市場で韓国がリーダーシップを確保するため、サプライチェーンの構築や関係事業への参加についても官民が力を合わせていく」と述べた。韓国ではこれまでに、韓国原子力研究院(KAERI)が海水脱塩と熱電併給が可能なシステム一体型モジュール式PWRの「SMART」炉(熱出力33万kW、電気出力10万kW)を開発。2012年半ばに、同炉は韓国の規制当局から標準設計認証を取得している。韓国企業は国外企業のSMR開発にも積極的に参画しており、斗山エナビリティ社は米ニュースケール・パワー社のSMR「ニュースケール・パワー・モジュール(NPM)」の開発に出資し、主要機器の製造契約を獲得。SK社と同社のエネルギー関係子会社であるSKイノベーション社、およびKHNP社は、米国でナトリウム冷却式・小型高速炉「Natrium」を開発中のテラパワー社に事業協力している。また現代E&C社(現代建設)は、米ホルテック・インターナショナル社の「SMR-160」の商業化と建設プロジェクトに協力中。サムスン重工業は、デンマークのシーボーグ社製コンパクト溶融塩炉(CMSR)を搭載した海上浮揚式原子力発電所の概念設計に協力している。(参照資料:MOTIE、SK社の発表資料(韓国語)、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月5日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
06 Jul 2023
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カナダ・ニューブランズウィック(NB)州の州営電力であるNBパワー社は6月30日、州内のポイントルプロー原子力発電所内で米ARCクリーン・テクノロジー(ARC)社製の小型モジュール炉(SMR)「ARC-100」を建設するため、ARC社のカナダ法人と協同で「サイト準備許可(LTPS)」の申請書をカナダ原子力安全委員会(CNSC)に提出した。2030年頃に送電開始し、60年にわたって運転していく計画だ。LTPSの申請は、原子炉の建設と運転に向けたプロジェクトが正式に始動したことを意味している。CNSCはすでに2019年3月、SMR開発プロジェクトとしては初のLTPS申請書をグローバル・ファースト・パワー(GFP)社から受領しており、今回が2例目。GFP社はオンタリオ州のオンタリオ・パワー・ジェネレーション(OPG)社と米ウルトラ・セーフ・ニュークリア社(USNC)が設立した合弁事業体で、同州内のAECLチョークリバー研究所でUSNC社製SMR「マイクロ・モジュラー・リアクター(MMR)」を建設する。ARC社が開発中の「ARC-100」(電気出力10万~15万kW)は第4世代の先進的SMRで、ナトリウム冷却・プール型の高速中性子炉。同炉の技術は、米エネルギー省(DOE)傘下のアルゴンヌ国立研究所で30年以上運転された「実験増殖炉Ⅱ(EBR-Ⅱ)」で実証済みだ。NBパワー社は最近公表した戦略計画の中で、州内のエネルギー供給を保証しつつ2030年までに石炭火力発電所を全廃する必要があると指摘しており、2035年までに同州のCO2排出量を実質ゼロにすることを目指している。SMRの導入はこれらの目標達成に向けた重要な解決策の一つと考えられている。NB州政府とNBパワー社は2018年7月に、第4世代のSMR実証炉をポイントルプロー発電所内で2種類建設するプロジェクトを開始した。世界水準のSMRの開発と製造で同州がリーダー的立場を確立するため、約90件のSMR申請の中からARC社の「ARC-100」と英モルテックス・エナジー社が開発中の「燃料ピン型溶融塩炉(SSR-W)」を選定。NB社が技術面の作業をサポートしながら、これらの実証炉を2030年頃までに建設すると発表しており、この2件の第4世代SMRの建設計画は、NB州などカナダの4州が2022年3月に公表した「SMR開発・建設の共同戦略計画」の中では、3つの開発方向性(ストリーム)における「ストリーム2」に分類されている。「ARC-100」についてはこのほか、NB州北部のベルドゥーン港湾管理局(BPA)がグリーン・エネルギー・ハブとなることを目指して導入を計画中。アルバータ州でも、外国投資誘致機関のインベスト・アルバータ社(IAC)が今年3月に、州内での建設と商業化に向けてARC社のカナダ法人と覚書を締結している。(参照資料:ARCクリーン・テクノロジー社、CSNCの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月3日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
05 Jul 2023
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ベルギーの商業炉全5基を所有・運転するエレクトラベル社の親会社である仏エンジー社は6月29日、ドール4号機(PWR、109万kW)とチアンジュ3号機(PWR、108.9万kW)の運転期間の10年延長に向けて、ベルギー政府との暫定合意文書に署名した。放射性廃棄物管理費用の負担など、将来的に変化する可能性のある事項すべてについて不確定要素を排除し、両者間でバランスの取れたリスク配分を目指したもの。7月末を目途に両者が最終合意文書に署名すれば、今回の合意事項が実行に移される。ベルギーでは2003年に緑の党を含む連立政権が脱原子力法を制定し、既存の原子炉7基(当時)を2025年までに全廃することになっていた。しかし、2020年に発足した7政党の連立政権は2021年12月、総発電量の約5割を賄っていたそれら7基の代替電源が確保できないことから、7政党の政策協議において、エネルギー供給で必要な場合に限り、最も新しいドール4号機とチアンジュ3号機で運転継続する可能性を残していた。その後、ロシアのウクライナ軍事侵攻が2022年2月に始まり、ベルギーを含む欧州各国では天然ガスの調達で苦境に立たされた。同年1月にベルギーの原子力規制当局がこれら2基の運転期間延長を条件付きで認めていたことから、ベルギー政府は同年3月、これらの運転期間を10年延長し、合計約200万kWの原子力発電設備を2035年まで維持する方針を決定。事業者であるエンジー社とは同年7月、運転期間の延長に向けて原則合意している。それ以降、2022年9月にドール3号機(PWR、105.6万kW)が、今年2月にはチアンジュ2号機(PWR、105.5万kW)が40年間の稼働を終えて永久閉鎖された。そして政府とエンジー社は今年1月、ドール4号機とチアンジュ3号機の運転期間延長に関する予備的合意案に署名。今回の暫定合意文書は、法的拘束力を持たなかったこの同合意案に基づいており、以下の事項を定めている。ベルギーのエネルギー供給保証を強化するため、これら2基が運転開始後40年目の2025年に一旦停止した後、2026年11月までに再稼働できるよう両者は最善の努力を払う。発表済みの規制緩和策が効率的に実行された場合、両機の再稼働は早ければ2025年11月になる。政府とエンジー社の折半出資により、これら2基専用の法的裏付けのある組織を設置。この組織が2基の管理にあたるほか、2基から得られる利益を両者間で調整し、両者間の契約事項が確実に順守されるようにする。運転期間の延長に際し、両者間でバランスの取れたリスク配分が行われるようなビジネスモデルを構築。差金決済取引(CfD)を通じて、両機が技術面や経済面で良好な実績を納めた場合に報奨金が運転事業者にもたらされるようにする。ベルギーの放射性廃棄物管理の実施機関である放射性廃棄物・濃縮核分裂性物質管理機関(ONDRAF/NIRAS)の最新の知見に基づき、ベルギーにあるエンジー社所有のすべての原子炉から発生する放射性廃棄物の将来的な管理固定費を、総額150億ユーロ(約2兆3,600億円)と算定。分割払いの1回目として、カテゴリーBとCの廃棄物((ベルギーにおける放射性廃棄物の区分で、カテゴリーAは地表に貯蔵される短寿命の低・中レベル廃棄物。Bは長寿命の低・中レベル廃棄物、Cは高レベル廃棄物で深地層に処分予定。))の管理費用を2024年の前半終了時に支払うほか、2回目はカテゴリーAの廃棄物について運転期間の延長開始時に支払う。このように、すべての放射性廃棄物に関する債務がエンジー・グループから政府に移されることになり、同グループが今後、管理費用の増大リスクに晒されることはなくなった。その代わり、同グループはこの合意に基づく税引前費用の増加分を約45億ユーロ(約7,000億円)と計算。2023会計年度の非経常利益に影響を与える費用として、計上する予定である。(参照資料:エンジー社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月29日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
04 Jul 2023
2036
フランス電力(EDF)は6月29日、北西部ノルマンディー地方のパンリー原子力発電所(PWR×2基、出力各138.2万kW)で改良型欧州加圧水型炉(EPR2)2基を増設するため、設置許可申請書(DAC)を規制当局に提出した。今年5月にフランス議会で原子炉新設手続きの迅速化法案が可決し、翌6月23日付で発効したことから、EDFは28日の理事会でこれら2基の建設計画の実施を決定。2007年にフラマンビル原子力発電所で同国初のEPR(165万kW)建設工事を開始して以来、最初の新設計画の許認可手続きが今回正式に開始した。EDFはDACの提出と併せて、完成炉の送電網への接続等に関する行政手続きも申請しており、現時点で2024年半ばの準備作業開始を目指している。フランスでは2015年8月に「グリーン成長に向けたエネルギー移行法」が成立し、F.オランド前大統領が公約していた「70%の原子力シェアを2025年までに50%に引き下げる」ことになったほか、原子力発電出力を現状レベルの6,320万kWに制限することが決定した。しかし、2017年に発足したE.マクロン政権は2018年11月、原子力シェアの50%への引き下げを現実的で経済的、かつ社会的にも実行可能な条件下で達成するため、削減目標を10年先送りすると決定。2022年2月には、フランスのCO2排出量を2050年までに実質ゼロ化するとともに、国内の原子力産業を再活性化するため、EPR2を新たに6基建設し、さらに8基の建設に向けた調査を開始すると表明していた。EDFはすでに2021年5月、フランス経済の脱炭素化やエネルギー自給の観点から、政府に国内でEPR2を建設すると提案しており、パンリー発電所の後はグラブリーヌ発電所(PWR×6基、各95.1万kW)で追加の2基を、その後はビュジェイ発電所(PWR×4基、各90万kW級)、あるいはトリカスタン発電所(PWR×4基、各95.5万kW)でさらに2基を建設する方針。これら3組のEPR2建設計画を通じて、EDFは建設段階で年間3万人、運転段階では1万人以上の雇用が創出されると試算している。その後、独立行政機関の国家公開討論委員会(CNDP)が2022年10月27日から今年2月までの4か月間にわたり、この問題も含めたフランスの将来のエネルギー・ミックスに関する公開討論を実施。その結果から、EDFはEPR2の最初の2基を建設する計画への大筋の合意が示されたと説明している。同計画の実施にあたり、EDFは地元のコミュニティや住民と連携してプロジェクトに取り掛かることを約束。社会的な責任を負った持続可能な開発という観点からプロジェクトを模範事例として進めるほか、政府や地元コミュニティとの協力を通じて大型プロジェクトの推進機能を全面的に担う。また、公開討論結果のフォローアップやEPR2建設計画等に関する情報を、高い透明性を持って継続的に一般国民に伝え、プロジェクト全体でも地元との協議を続けていく方針だ。フランス原子力学会(SFEN)によると、規制当局による環境影響面の審査は約1年を要するほか、DACの審査には約3年かかる見通し。環境影響面の承認が得られれば、2024年の夏にはサイトの整地や崖部分の再形成といった着工準備作業を開始できるが、この作業は約3年半続くと見られている。また、DACが取得されれば、2027年頃にEPR2初号機の原子炉建屋部分で最初のコンクリート打設が可能となり、2035年には同炉の起動が予想されている。(参照資料:EDF、SFEN(フランス語)の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月30日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
03 Jul 2023
2106
英国の放射性廃棄物処分の実施主体である原子力廃棄物サービシス(NWS)は6月29日、高レベル放射性廃棄物(HLW)の深地層処分施設(GDF)建設プログラムの現状報告書の中で、イングランドの4つの候補サイトでサイトの適性評価を開始すると発表した。幅広い評価作業結果を分析した上で、最終判断を下す方針である。NWSは原子力廃止措置機構(NDA)の傘下機関で、放射性廃棄物の処分事業を担当していた放射性廃棄物管理会社(RWM)や低レベル放射性廃棄物処分会社(LLWR)の知見を統合し、2022年1月に設立された。今回のGDF建設報告書は、今年3月末時点の進展状況をまとめたもので、これによると、これまでにイングランド北西部カンブリア州のコープランド市中央部と同市南部、アラデール市に加え、東部リンカンシャー州のテッドルソープでも、この問題について実施主体のNWSとの対話や地元住民の理解促進活動を行う「コミュニティ・パートナーシップ」が設立されている。このため、NWSは差し当たりこれら4つのパートナーシップとの協議を重ね、放射性廃棄物を安全かつ恒久的管理が可能かを評価。今後新たなパートナーシップがGDFサイトの選定プロセスに加わる可能性も視野に入れて、NWSは主要な許認可の取得等、同プログラムを次の段階に進める準備作業を進めていく考えだ。英国では2008年から2009年にかけて、カンブリア州の2つの自治体がGDF受け入れに関心を表明したものの、州政府の反対を受けて建設サイトの選定プロセスは2013年に白紙に戻った。英国政府は2018年12月に策定した新たな政策に基づき、改めてGDFサイトの選定プロセスを開始している。それは地元コミュニティとのパートナーシップに基づく合意ベースのアプローチで、まずGDFの受け入れに関心をもつ個人や団体、企業がNWSとともに作業グループ(WG)を立ち上げ、NWSとの初期協議を開始、GDF建設の潜在的適性があると思われる「調査エリア」を特定する。この検討段階では地元自治体がWGに参加する必要性はないが、特定された「調査エリア」で適性評価を始めるには、同エリアに関係する地方自治体が少なくとも1つ参加する「コミュニティ・パートナーシップ」の設立が必須となる。同パートナーシップでは、構成員が共同作業をする際の原則やそれぞれの役割、責任事項などを定めた協定を締結。英国政府はパートナーシップを構成するコミュニティに対して、経済振興や福祉の向上を目的としたプロジェクトに限り年間最大100万ポンド(約1億8,000万円)を提供するほか、サイト選定プロセスが深地層のボーリング調査段階まで進んだコミュニティには、年間最大250万ポンド(約4億6,000万円)を交付する奨励策を打ち出している。このアプローチではまた、担当の国務大臣がGDF建設に合意する判断を下す前に、地元自治体はGDF受け入れの意思があることを証明するため、住民投票その他の方法でテストを実施。その実施時期を決める権利やサイト選定プロセスから撤退する権利は、各「コミュニティ・パートナーシップ」を構成する主要自治体の保有となるが、複数の自治体が参加している場合はすべての自治体の合意が必要になる。NWSは今回の報告書で、4つの「コミュニティ・パートナーシップ」が形成されたことから、これらのコミュニティと一層深く関わり合い、情報共有するための基盤が築かれたと表明。また、「コミュニティ投資ファンド」の中から、これらのコミュニティの若者向け制度や精神保健イニシアチブなど、約80のプロジェクトに300万ポンド(約5億5,000万円)が支給されており、サイト選定プロセスの参加コミュニティには明らかなメリットがあるとした。さらにサイトの適性評価を、すでに行われているその他の調査と同時に進める方針で、コープランド市の沖合で昨年8月に行われた海洋の地球物理学的調査の結果は、今年後半にも共有が開始されるとしている。NWSの印象では、GDF建設プログラムは4つの「コミュニティ・パートナーシップ」とGDF建設の可能性に関する対話や質疑応答、情報共有が行われるなど、目覚ましい進展を見せている。目標達成まで長期を要するプログラムだが、将来世代に対する責任を明確に負っているため、初期的な作業は順調に進んでいる。英国政府は、グリーンなエネルギーミックスの構築や確実なエネルギー供給保障で、原子力が重要な役割を担うと認識しており、過去数十年にわたった放射性廃棄物の管理を今後も継続する。それには、放射性廃棄物を安全に管理する能力がこれからも重要になると指摘している。(参照資料:英国政府の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月28日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
30 Jun 2023
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フィンランドのステディ・エナジー(Steady Energy)社は6月27日、小型モジュール炉(SMR)を活用して地域熱暖房プラントを建設するため、約200万ユーロ(約3億1,500万円)の研究開発資金を調達したことを明らかにした。ステディ社は、フィンランド国営の「VTT技術研究センター」からスピンアウトしたばかりのスタートアップ企業。今回の設立資金は、VTTのほか投資会社のYes VC社とLifeline Ventures社が提供した。また、ステディ社の今回のプロジェクトは、VTTの持つノウハウの商業化に際し起業支援を行っているスピンオフ企業、VTTローンチパッド(VTT LaunchPad)社のプロジェクトの一部である。ステディ社は、VTTが2020年から開発中のSMR「LDR-50」(熱出力5万kW)を複数基備えた熱暖房プラントを2030年までに完成させ、地域熱供給業を手始めに、その他のエネルギー集約型の産業を脱炭素化していく考えだ。ステディ社の計画ではまず、熱暖房プラントの実物大モックアップ(電気加熱式)を作製して、その機能を実証する。その後、顧客のニーズに合わせてビジネス・モデルを作成しプラント供給を開始、将来的には世界中で複数のプラントを運転する方針だ。「LDR-50」の原子炉モジュールは二つの圧力容器を「入れ子」状に組み合わせた構造で、これらの隙間の一部に水を充填。熱交換器の熱除去機能が損なわれた場合、この水が沸騰し始めて受動的な熱伝導ルートを形成、電動機器に頼らず効率的に熱を除去することが出来るという。また、同炉の稼働条件は温度が約150°C、圧力は10バール以下と大型炉より緩やかで、設計を簡素化し、厳しい安全基準をクリアしている。ステディ社によると、10バール以下の圧力は一般家庭にあるエスプレッソ・マシンと同程度で、既存の地域熱供給ネットワークよりも低い。このため、リークにつながる故障が内部機器で発生した場合でもプラント外にリークする恐れはなく、周辺住民や環境は保護される。また、欧州連合(EU)域内の世帯が消費するエネルギー全体の約50%が暖房用で、年間の総消費量は約5,000億kWh。このうち約3,000億kWhが化石燃料発電起源のため、欧州の地域熱暖房を脱炭素化するだけで数千億ユーロ規模の成長市場が見込まれるほか、温室効果ガス排出量の大幅な削減につながると同社は強調している。ステディ社のT.ナイマンCEOは、「この惑星を守り健全な地球を後の世代に残していくには、化石燃料の燃焼による暖房をすべて終わらせねばならない」と指摘。「再生可能エネルギーに加えて、原子力を活用することで熱やエネルギーが安定供給され、近代的な社会のニーズに応えるとともに地球温暖化への対処も可能になる」としている。(参照資料:VTTの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月27日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
28 Jun 2023
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米国のJ.バイデン大統領と、国賓として訪米したインドのN.モディ首相は6月22日、ホワイトハウスにおける首脳会談で「世界規模の包括的戦略パートナーシップ」の強化で合意。その際発表した共同声明では、両国が半導体や重要鉱物、技術、防衛等の分野で協力を深めるとともに、インドのコバダで計画されている米ウェスチングハウス(WH)社製AP1000の建設を進めていくことを改めて確認した。両国政府は、インドにおける電力不足の緩和と米国からの原子力輸出という双方の目的に向け、2008年に米印原子力協力協定を締結。その際、原子力資機材や技術の輸出を管理している国家間組織の「原子力供給国グループ(NSG)」は、米国の働きかけにより核不拡散条約(NPT)に未加盟のインドを特例扱いとする決定を下した。また、2009年にインド内閣は、西海岸グジャラート州のミティビルディをWH社製100万kW級PWR×6基の建設用地に、東海岸アンドラ・プラデシュ州のコバダをGE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社製100万kW級BWR×6基の用地に暫定指定した。しかし、メーカー側に一定の賠償責任を盛り込んだインドの原子力賠償法がネックとなり、これらの計画は進展して来なかった。また、机上のみでモデルプラントがまだ建設されていないGEH社製ESBWR(高経済性・単純化BWR)の建設にインド政府が難色を示したこともあり、コバダのサイトは2016年に正式にWH社製AP1000の建設用地に変更された。今回の共同声明で米印両国の首脳は、世界規模の脱炭素化において原子力が重要な役割を担うことを強調するとともに、地球温暖化への対処とクリーン・エネルギーへの移行、エネルギーの供給保証という側面から、原子力が両国にとって必要なエネルギー源であることを確認。インド原子力発電公社(NPCIL)とWH社が現在も6基のAP1000建設計画について交渉中であることから、インド原子力省(DAE)と米エネルギー省(DOE)がコバダでの建設実現に向けた協議を加速していることを歓迎した。両首脳はまた、次世代の原子炉である小型モジュール炉(SMR)の米国内での建設や輸出に向け、両国が協議中である点に言及。インドのエネルギー政策には現時点でSMRの導入計画が含まれていないが、同国が将来的にNSGに加わり先進的原子力技術の受領国となれるよう、米国は引き続き支援していくと約束している。インドでは現在、22基、678万kWの原子炉が営業運転中のほか、1基、70万kWが試運転中。このうち2基、200万kW分がロシア型PWR(VVER)で、2基、32万kW分は1960年代に米GE社が建設したBWR。残りはすべて国産の加圧重水炉(PHWR)で、出力は最大でも70万kWである。(参照資料:米ホワイトハウスの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月23日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
27 Jun 2023
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ノルウェーの民間企業であるノルスク・シャーナクラフト社(Norsk Kjernekraft AS)は6月22日、同国初の商業用原子力発電所となる小型モジュール炉(SMR)の建設に向けて、フィンランドのティオリスーデン・ボイマ社(TVO)のコンサルティング子会社であるTVOニュークリア・サービシズ社(TVONS)から支援を受けるため、基本合意書を交わした。ノルスク社はまた、SMRの立地可能性調査の実施を依頼してきた国内4つの自治体すべてと、協力協定を締結したことを明らかにしている。ノルスク社は昨年7月、ノルウェーでSMRを建設・所有・運転することを目的に、同国の民間投資会社Mベスト・グループが設立。ノルスク社は、ノルウェーは今後数十年の間に化石燃料発電から段階的に撤退していくが、これには大規模な代替電源が必要と指摘。ノルウェー社会の電化を進めるにも、原子力のように確実なベースロード電源なしでは不可能とし、SMR計画についてはノルウェーの放射線防護・原子力安全当局に通告済みという。ノルスク社はその企業戦略として、ノルウェー国民や産業界がクリーンで価格も手ごろなエネルギーを確実に得られるようにすることを目指している。今後は電力多消費産業と協力し、SMRの立地に適したサイトを国内で選定し、国の原子力規制や国際的な基準に準じて許認可手続きの実施準備を進めていく。その際、各段階で国際原子力機関(IAEA)のアプローチを踏襲するほか、資金調達も慎重に検討する方針である。今回TVONS社と交わした基本合意書で、ノルスク社はTVOが原子力関係で保有する半世紀近いノウハウを活用し、安全・確実な原子力発電所の運転に必要な作業を実施する。TVOはまた、原子力発電所の運転のみならず、子会社のポシバ社を通じて使用済燃料の最終処分場も建設中であることから、ノルスク社はバックエンド分野についてもTVOと協力していきたい考えだ。ノルスク社はすでに今年3月、英国のロールス・ロイスSMR社と了解覚書を締結しており、将来的に同社製SMRの建設プロジェクトを立ち上げる可能性について協力していくことになった。また、立地点に関しても、ノルスク社はノルウェー海に面した西海岸のアウレ村とハイム村、北極圏のナルビク町およびバレンツ海に面したヴァードー町の自治体からSMR立地可能性調査の実施要請を受けた。このうちアウレ村とハイム村、およびナルビク町については今年4月に、また、ヴァードー町については6月22日に、それぞれ1基以上のSMR建設に向けた技術面や経済面、安全面の立地可能性を共同で調査するため、協力協定を締結している。今回のTVONS社との協力合意について、ノルスク社のJ. ヘストハンマル会長は、「ノルウェーが石油や天然ガス部門で優れた能力を身に着けた時の教訓に基づき、原子力発電開発も同様のやり方で進めていく」と説明。同社が必要とする原子力関係の経験が豊富な国や企業と協力しながら、ノルウェーにも原子力発電所を建設していくと述べた。(参照資料:ノルスク・シャーナクラフト社の発表資料(ノルウェー語)①、②、③、④、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月23日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
26 Jun 2023
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フランスのアシステム(Assystem)社とスペインのイドム(IDOM)社、およびスロバキアの原子力研究所(VUJE)は6月21日、フランス電力(EDF)が欧州や英国で実施する原子力プロジェクトを支援するため、エンジニアリング合弁事業体「原子力エンジニアリング・アライアンス(NUClear Engineering ALliance=NUCEAL)社」を設立した。出資比率はアシステム社が60%、残り2社が20%ずつとなっている。アシステム社はフランスを拠点とする国際的な原子力エンジニアリング企業で、12か国で6,500名の専門スタッフがクリーン・エネルギーへの移行を支援。イドム社は125か国のプロジェクト開発事業に携わった従業員所有企業で、原子力サービスや発電、インフラ、コンサルティング等の分野で実績がある。VUJEは1977年にスロバキア国有の原子力研究機関として発足したが、1994年に組織改革が行われ、現在は従業員が株式を保有する民間合資会社となっている。これら3社は欧州全体で12,000名以上の従業員を抱え、原子力関係で強力な知識基盤を構築している。これらを背景にNUCEAL社は今後、欧州加圧水型炉(EPR)の改良版「EPR2」や、出力を120万kWに縮小した「EPR1200」、小型モジュール炉(SMR)の「NUWARD」など、EDFが欧州で実施中、あるいは実施を予定している様々な原子力プロジェクトに支援参加を提案。EDFの原子力サービスに3社の技術と専門的知見を活かし、あらゆる地域に専門チームを派遣する方針だ。3社の調べによると、EDFはフランスと英国で大型炉の建設プロジェクトを進めており、ポーランドやチェコ、オランダ等の欧州諸国でもこれらを建設する可能性がある。このようなプロジェクトを実行するには、その国のペースと規模に合せた資源や専門能力など、エンジニアリング上の強力なサポートが必要。また、「NUWARD」のように、いくつかの国で関心が高まりつつある先進的原子炉を建設する場合、EDFはその国独自の規制要件への適応態勢や、地元企業も含めた欧州サプライチェーンを構築しなければならない。今回設立した合弁事業体では、3社それぞれの強みが生かされる予定で、アシステム社は複雑なプロジェクトの実施に際し、デジタル方式を用いた効率的な運営が可能である。イドム社は原子力発電所の設計から廃止までのプロセス全般や発電事業について、豊富な経験と能力を保有。VUJEは中・東欧地域の原子力発電所建設で経験を積んだ技術専門家のチームや、送・配電関係のエンジニアリング能力を有している。フランスのリヨンで執り行われたNUCEAL社の設立記念式には、同国のA.パニエ=リュナシェ・エネルギー移行相が同席した。アシステム社のT.ブランシュ上級副社長は、「EDFが欧州でこれまでに携わってきた数多くの原子力プロジェクトの成功条件は、盤石なサプライチェーンを利用できたことだ」と指摘。NUCEAL社の立ち上げはこのようなプロジェクトを成功に導く重要な柱であり、クリーン・エネルギーへの移行を加速するとした。また、同社のように強力なエンジニアリング企業連合が参加することで、これから原子力を導入する国々では、発電所をスケジュール通り予算内で建設できるようになると強調している。(参照資料:イドム社、VUJE、アシステム社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月21日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
23 Jun 2023
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米ウェスチングハウス(WH)社は6月13日、ウクライナのリウネ原子力発電所1、2号機(各44万kW級ロシア型PWR=VVER-440)を近代化する計画の一環として、「格納容器長時間冷却システム(LCCS)」を設計・製造・納入する契約を、同国の原子力発電公社であるエネルゴアトム社と交わした。この契約締結はエネルゴアトム社側の要請に基づくもので、先進的LCCSを導入することで過酷事故時のVVER-440の安全性を大幅に向上させるのが目的。WH社はVVER-440用に取得した特許技術を用いてLCCSを製造し、来年にもリウネ発電所に納入する。リウネ原子力発電所には100万kW級VVER(VVER-1000)の3、4号機も設置されており、これらの格納容器や安全系は基本的に西側諸国の安全要件を満たすとされている。しかし、VVER-440シリーズの原子炉は格納容器がない等、安全上の欠陥もいくつか認められている。「VVER-440の過酷事故管理」支援のため、WH社がLCCSを製造するのは今回が初めてになる。WH社によると、LCCSの導入によって事故時に格納容器内の熱が確実に除去され、効果的な減圧が可能になる。エネルゴアトム社が所有するVVER-440では、今後数十年にわたる安全性確保で、同発電所全体の安全裕度も大幅に上昇。これらを通じて、WH社はウクライナが安全・確実で信頼性の高いエネルギーを得られるよう支援していく考えだ。両社はすでに2000年代から協力関係にあり、エネルゴアトム社は2021年8月、建設工事が中断しているフメルニツキー原子力発電所4号機も含め、合計5基のWH社製AP1000の建設を視野に入れた契約をWH社と締結。2022年6月の追加契約ではこの基数が9基に増加したほか、ウクライナに設置されている15基のVVERすべてにWH社製燃料が供給されることになった。なお、WH社はウクライナの原子炉も含め、欧州連合(EU)域内で稼働するVVERの燃料を緊急に確保するため、3年計画の「Accelerated Program for Implementation of secure VVER fuel Supply (APIS)」プログラムを今年1月から主導している。ロシアのウクライナ侵攻に起因するもので、同計画にはEUが2023年~25年までの「ユーラトム(欧州原子力共同体)作業プログラム」を通じて共同出資中。同プログラムでは、WH社が燃料製造工場を置いているスウェーデンの支社を調整役とし、パートナーとしてECの科学・情報サービス機関である合同研究センター(Joint Research Centre)やスペインのウラン公社(ENUSA)、ウクライナのエネルゴアトム社、スロバキアの原子力研究所(VUJE)とスロバキア電力、チェコの原子力研究機関(UJV)とチェコ電力(CEZ)、ハンガリーのパクシュ原子力発電所、フィンランドのフォータム社など11の機関/企業が参加。VVER-440用燃料の早期出荷に向けて同燃料の設計作業を完了することや、VVER-440とVVER-1000用に改良型燃料の開発などが主な作業項目となっている。(参照資料:WH社、エネルゴアトム社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月14日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
22 Jun 2023
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ベルギーの大手エンジニアリング企業トラクテベル社は6月15日、フランス電力(EDF)が中心となって進めている小型モジュール炉(SMR)「NUWARD」開発への協力を強化・延長するため、EDFグループ内でSMR事業を担当するNUWARD社と枠組み協力協定を締結した。トラクテベル社はフランスに基盤を置く電気・ガス事業者エンジー(Engie)社の傘下企業で、原子炉の設計や建設、運転におけるトラクテベル社とEDFグループの協力はフランスの国内外で50年以上に及んでいる。同社は2021年から欧州初のSMRとなる「NUWARD」の開発プロジェクトで概念設計作業に貢献。基本設計段階では、原子炉系やタービン系の作業にも協力している。2022年5月には、仏トゥールにあるEDFのエンジニアリング・センター(CNEPE)から「NUWARD」の概念設計調査を受注している。EDFは2019年9月、フランス原子力・代替エネルギー庁(CEA)と政府系造船企業のネイバル・グループ、および小型炉専門開発企業のテクニカトム社と共同開発したSMR「NUWARD」を発表した。同炉はフランスで50年以上の経験が蓄積されたPWRベースで、出力17万kWの小型PWR×2基で構成される「NUWARD」プラントの合計出力は34万kW。実現すれば高圧送電網から外れた遠隔地域の需要に応えるとともに、老朽化した火力発電所をリプレースする。また、水素製造や地域熱供給、脱塩などにも応用できるとしている。NUWARD社は、これらの目標達成を目指してEDFが今年3月に発足させた100%子会社で、同炉の基本設計と予備的な許認可手続きの作業を開始。2025年からは詳細設計と正式な許認可手続きを行う予定で、2030年までにフランス国内で実証炉着工を目指している。NUWARD社の今回の発表によると、同社が発足したことにより開発プロジェクトのスタッフが大幅に増員。トラクテベル社も同炉の開発に長期的に協力していくことを決め、原子力エンジニアリング関係の一層多くの資源を同プロジェクトに投入する。すでに同社から約50名のエンジニアがプロジェクトに携わっており、今後数年間でこの人数は倍増する見通しである。トラクテベル社でグローバルな原子力事業を統括するD.デュモン最高責任者は、「過去5年にわたりSMRの技術革新を主導してきた経験から、当社は欧州その他の世界がクリーン・エネルギーに移行する際、この技術が中心的な役割を担うと確信している」と表明。NUWARD社と結んだ協力協定を通じて、同社はフランスの外側から「NUWARD」の開発を支援し、重工業や石炭火力発電所等の脱炭素化にSMR技術が活用されるよう、また、CO2排出量が実質ゼロになるよう、これまでの経験を生かしていきたいと述べた。(参照資料:トラクテベル社、NUWARD社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月19日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
21 Jun 2023
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スロベニアのR.ゴロブ首相は6月16日、同国唯一の原子力発電所であるクルスコ発電所(PWR、72.7万kW)で2基目の原子炉「JEK2」を増設するプロジェクトについて、8月1日を目途に「原則決定(decision-in-principle=DIP)」の判断を下す方針を表明。また、同じ時期に、関係省庁等の作業の調整役を首相府内で任命するほか、行政手続きを簡素化・加速するための特別法案を制定する可能性も明らかにした。スロベニアは1983年に営業運転を開始した同発電所で総発電量の約4割を賄っており、同発電所を隣国クロアチアと共同所有するGENエネルギア社は2021年7月、政府のインフラ省が「JEK2プロジェクト」にエネルギー許可を発給したのを受け、その準備作業に着手した。この許可では、建設する原子炉の出力が110万kWに制限されているが、同社としてはこれをさらに拡大しベンダーの範囲を広げたい考えだ。同社によると、スロベニアが将来信頼性の高い電力を供給して低炭素電力への移行を効率的に果たし、2050年までにCO2排出量を実質ゼロ化するには同プロジェクトが必要であり、すでに技術面や環境面でも実行可能との結論が出ている。同発電所についてはまた、現行の運転期間の40年を60年に延長し2043年までとする計画について、環境省が今年1月に環境影響面の承認を与えている。ゴロブ首相はこの日、B.クメル環境・気候・エネルギー大臣やU.ブレジャン天然資源・空間計画大臣らとともにクルスコ発電所を視察した。視察後はクルスコ自治体が主催する公けの協議に参加し、GENエネルギア社や同発電所の運転を担当するクルスコ原子力発電会社(NEK)、クルスコ市長などの関係者とスロベニアにおける今後の原子力発電について議論した。首相はその席で、「スロベニアが今後も原子力利用国であり続けることは間違いない」との政府方針を強調。原子力分野の知識が豊富なスロベニアでは、その知識をJEK2炉の建設に活用すべきだとした。また、現行のエネルギー戦略では同プロジェクトを実施できないことから、議会下院が現在、2004年以来初めて同戦略の改訂作業を進めていると指摘した。首相はまた、「スロベニアの今後のエネルギー・ミックスでは、気候変動により社会全体の電化が進み一層多くの電力が必要となるため、温暖化防止に利用可能なエネルギー源すべてが必要になる」と強調。「この傾向はスロベニアのみならず欧州全体に言えることで、原子力やエネルギー・ミックスに対する欧州各国の考え方は異なるものの、最終的には欧州では原子力がほとんど唯一、信頼性の高い基盤のエネルギーであり、他に選択肢などないことが判明するはずだ。残念なことに、スロベニアには余剰の国産エネルギーがないため、輸入量削減のためにも自国の生産量を増やさねばならない」と述べた。これらのことから、首相は「JEK2 プロジェクト」では担当チームを編成するなど、スピードアップの具体策を取ることが重要だと表明。同プロジェクトでステークホルダーとの調整役を担う副大臣級の担当者としては、GENエネルギア社のD.レビカー業務最高責任者(COO)を指名する予定である。クメル環境相によると、改訂版のエネルギー戦略となる「国家エネルギー・気候計画」では、原子炉を長期的に活用していく断固たる方向性がこれまでより明確に示され、2基目の建設に留まらず原子力を一層広範囲に活用することになる。ブレジャン天然資源相も「2050年までの空間開発戦略」に、2基目の原子炉建設の可能性も含めて、引き続き原子力を利用していく方針を盛り込んだと表明。同戦略は、スロベニアが原子力開発利用を継続する根拠になると指摘している。(参照資料:スロベニア政府、GENエネルギア社、NEK社の発表資料(すべてスロベニア語)、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月19日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
20 Jun 2023
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米原子力規制委員会(NRC)は6月15日、ケイロス・パワー社が申請していた同社製「フッ化物塩冷却高温炉(FHR)」の実証炉「ヘルメス(Hermes)」の建設許可について、安全面の評価審査を完了。「建設許可の発給を阻むような安全上の側面は見受けられなかった」と結論付けている。ケイロス社は米カリフォルニア州の原子力技術・エンジニアリング企業で、「ヘルメス」は最終完成版「KP-FHR」の熱出力を約10分の1に縮小した非発電炉となる。テネシー州オークリッジにあるエネルギー省(DOE)の「東部テネシー技術パーク(ETTP)」内で建設し、2026年までの完成を目指している。同社は「ヘルメス」の建設許可申請書を2021年9月と10月の2回に分けてNRCに提出しており、NRCの原子炉安全諮問委員会(ACRS)は同炉の安全面について独自の審査を行った。ACRSは今年5月、その評価報告書をNRC委員長宛てに提出しており、NRCスタッフはこれらの見解に基づき、今回同炉の安全評価文書の最終版を完成させた。同スタッフは今年9月にも「ヘルメス」の環境影響面について評価声明書(EIS)の最終版を取りまとめる予定で、その後はこれらの報告書に関するNRC委員のヒアリングを実施。委員5名がスタッフの審査結果を妥当と判断すれば、年内にも建設許可が発給されると見られている。ケイロス社が開発している商業規模の「KP-FHR」は熱出力32万kW、電気出力14万kWで、冷却材としてフッ化リチウムやフッ化ベリリウムを混合した溶融塩を使用。燃料にはTRISO燃料((ウラン酸化物を黒鉛やセラミックスで被覆した粒子型の燃料))を使う予定で、同炉は固有の安全性を保持しつつ電力と高温の熱を低コストで生成可能になるという。DOEは2020年12月、「先進的原子炉設計の実証プログラム(ARDP)」の対象としてケイロス社の「ヘルメス」を選定した。同プログラムの実施期間である7年間の総投資額は6億2,900万ドルで、そのうち3億300万ドルをDOEが負担し「ヘルメス」を建設。同炉の運転に際しては別途、NRCから運転許可の取得が必要になる。ケイロス社は完成した「ヘルメス」で運転データ等を収集し、2030年代に商業規模の「KP-FHR」建設につなげる方針だ。また、「ヘルメス」の建設計画に対しては、テネシー峡谷開発公社(TVA)が2021年5月に設計、許認可、建設、運転等で協力すると発表。「ヘルメス」を通じて、ケイロス社が出力調整可能で価格も手ごろな「KP-FHR」を市場に出せるよう協力するとしている。(参照資料:米規制委の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月16日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
19 Jun 2023
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