ドイツ連邦政府の環境・自然保護・原子力安全・消費者保護省(BMUV)は10月19日、国内に残存する商業用の原子炉3基を最長で2023年4月15日まで運転可能な状態を維持するため、内閣が原子力法の修正案を承認したと発表した。エネルギー供給リスクが増大する今年の冬季を乗り切るための重要措置となるが、この修正はO.ショルツ首相の決定指令に基づいて実行されることから、各州政府の意見を反映させる目的で連邦議会に設置されている参議院(上院)の承認を必要としない。2011年の福島第一原子力発電所事故を受けて、同国では今年末までにすべての原子力発電所を閉鎖し、脱原子力を達成することになっていた。しかし、今回の内閣決定により、南部のイザール原子力発電所2号機(PWR、148.5万kW)とネッカー原子力発電所2号機(PWR、140万kW)、および北部に立地するエムスラント原子力発電所(PWR、140.6万kW)は、現在装荷されている燃料を使って3か月半に限り運転期間を延長。新たな燃料の装荷を許可しない一方、この期間に現行のモニタリングに追加して定期安全審査が行われることはない。また、この決定を実行するにあたり、連邦政府は直前まで運転期間の延長対象としていなかったエムスラント発電所について、所有者のRWE社から早急に合意を取り付けることになる。連邦政府は今回のような措置を必要とする理由として、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が長引き、天然ガスの供給量が低下していることや、干ばつの影響で河川の水位が低下し水力発電量が減っていること、フランスの原子力発電所の約半数が点検等により停止中である点を指摘している。連邦政府の経済・気候保護省(BMWK)は今年の3月から5月、および7月半ばから9月初旬にかけて、今期の冬季をカバーする送電網のストレス・テストを2回実施しており、電力供給の不足リスクを避けるには、これらの対策すべてが必要になると表明。9月5日の段階で、イザール2号機を運転するプロイセンエレクトラ社の親会社のE.ON社、およびネッカー2号機を運転するEnBW社に対し、これら2基を来年4月半ばまで維持する方針を提案、同月27日にはこの方針の実施に向けてこれら2社と基本合意に達していた。この時点では、北部のエムスラント発電所については原子力よりリスクの少ない石油火力で代替し、予定どおり年末で閉鎖することになっていた。BMWKのR.ハーベック大臣は今回の記者会見で、「来年の4月15日以降、これら3基に新たな燃料が装荷されることはないし、運転もそこで終了する」と表明。「その次の冬季には、ガスの輸入量を大幅に増加できると考えており、エネルギーの供給状況は今期より良くなるはずだ」と述べ、再生可能エネルギーを中心に国内発電設備を増強する考えを明らかにした。BMUVのS.レムケ大臣も、「原子力の段階的廃止政策はこれまで通り存続しており、それは4月15日に達成される」と強調。「それ以降、新たな高レベル放射性廃棄物は発生せず、原子力法を修正する目的は冬季の短い期間だけ原子炉の運転を延長して、送電網を安定させることにある」と指摘した。同大臣はまた、「このようなエネルギー危機の状況下でも、我々は原子力発電のリスク部分に目を光らせねばならない」としている。(参照資料:独連邦政府、BMUVの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月20日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
21 Oct 2022
2281
米メリーランド州で第4世代の小型高温ガス炉「Xe-100」を開発しているX-エナジー社は10月13日、同炉で使用する3重被覆層・燃料粒子(TRISO燃料)の商業規模の製造施設「TRISO-X(TF3)」を建設するため、同社の100%子会社であるTRISO-X社がテネシー州オークリッジの建設サイトで起工式を開催したと発表した。TRISO燃料は、U235の濃縮度が5~20%の低濃縮ウラン(HALEU燃料)を黒鉛やセラミックスで3重に被覆した粒子型燃料。電気出力7.5万kWの小型モジュール炉(SMR)となる「Xe-100」について、X-エナジー社は2028年の運転開始を見込んでいるが、TRISO燃料は「Xe-100」のみならず、他社が開発中の多くの先進的原子炉設計でも使用される見通しである。TF3の建設と操業を担当するTRISO-X社は今年4月、このように特殊な核物質(カテゴリーⅡ)の取り扱いに関する許可申請書を原子力規制委員会(NRC)に提出しており、NRCは現在、24~36か月かけてこの申請を審査中。早ければ2025年にも、TF3の操業が可能になると同社は予想している。TF3の初期段階の生産量は、「Xe-100」12基分に相当する年間8トン(ウラン換算)だが、2030年代初頭までに16トン/年の生産量を目指すとしている。テネシー州ではすでに、TRISO-X社のパイロット製造ラインと研究開発センターが所在していることから、同社はTF3サイトの準備やその他の許認可取得に関する作業も進めている。同社はTF3について「将来、商業規模の様々な先進的原子炉の開発と建設を可能にする先駆けになる」と評しており、TF3の建設と操業で400名以上の雇用が生み出されるほか、約3億ドルの投資が呼び込まれると指摘している。X-エナジー社のC.セルCEOは、TF3の起工式を開催したことについて「地球規模で脱炭素化を進めるという誓約を果すために、先進的原子炉技術を実現していく重要な節目になった」と強調。「Xe-100」の開発計画が2020年に、米エネルギー省(DOE)の「先進的原子炉設計実証プログラム(ARDP)」の支援対象に指定されたことから、「今後もDOE、および東部テネシー州やオークリッジのコミュニティと連携協力していきたい」と述べた。同CEOはまた、オークリッジで長年にわたって培われてきた原子力関係の専門的知見が、同地を北米初の先進的原子燃料製造施設建設の最適地にしたと指摘している。 なお、「Xe-100」の開発計画について、X-エナジー社は今年8月、DOEの「新型原子炉概念の開発支援計画(ARC)」の下で基本設計を完了したと発表した。今後は、実証炉建設のサイト選定作業を進めるほか、同炉の全体的な許認可手続きの一部として、来年原子力規制委員会(NRC)に同炉の安全性関係の技術や知見に関する追加のトピカル・レポートを提出、2023年末までには建設許可をNRCに申請する方針である。同炉の実際の建設については、ワシントン州の2つの公益電気事業者が同州内での共同建設を目標に、2021年4月にX-エナジー社と覚書を締結。メリーランド州のエネルギー管理局も今年6月、「Xe-100」で州内の石炭火力を代替できるか、経済面や社会面の実行可能性を調査すると発表した。国外では、ヨルダン原子力委員会とカナダのオンタリオ州政府が「Xe-100」の利用可能性を探るため、それぞれ2019年11月と本年7月に同社との協力合意書を交わしている。(参照資料:X-エナジー社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月17日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
20 Oct 2022
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フィンランドでロビーサ原子力発電所(PWR×2基、各53.1万kW)を所有・運転する国有企業のフォータム社は10月17日、フィンランドと隣国スウェーデンにおける原子力発電所の新設に向け、実行可能性調査(FS)を2年計画で実施すると発表した。この中でフォータム社は、従来の大型炉のみならず小型モジュール炉(SMR)の建設を含め、必要な技術面と経営面の要件、規制面や政策面の要件なども検証する。また、建設計画の策定や立地、許認可など、新設関係の手続きについても詳細に調査するとしており、フィンランドとスウェーデンの両方で政策決定者や関係省庁、原子力安全規制当局などの関係者と幅広く協議する方針を明らかにしている。フィンランドでは今年3月、欧州で10年ぶり以上となる新規の原子炉(ティオリスーデン・ボイマ社のオルキルオト3号機、欧州加圧水型炉=EPR、172万kW)が送電を開始した。フォータム社は国内でロビーサ発電所を所有する一方、スウェーデンのオスカーシャム3号機(BWR、145万kW)にも一部出資。スウェーデンでは、先月新たに誕生した中道右派政権が新規原子炉の建設方針を表明している。このような背景から、フォータム社のS.-E.オルス発電担当上級副社長は、「社会全体が直面しているエネルギー自給や供給保証、CO2排出量の実質ゼロ化といった問題の解決は非常に難しいが、CO2を排出せず信頼性も高い原子力でこれらに対処するための要件を明らかにしていきたい」と述べた。フォータム社の発表によると、近年はエネルギー市場の不確実性が増しているため、原子力関係事業の多くは企業連合の形で進めることになる。例としては、原子力発電事業者と地域暖房企業や産業用の熱電購入企業などがあり、今回のFSで同社は、欧州の新しいプロジェクトや産業部門の水素利用にサービスを提供する事業についても可能性を探る。同社のFS実施担当者は、「原子炉の新設にともなう課題は良く知られているが、建設費と工期の縮減は不可欠だ」とコメント。今回のFSを通じて新たな協力関係やビジネス・モデルを構築し、SMRのように将来の世代に有望な原子力技術を実現していくと表明している。(参照資料:フォータム社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月17日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
19 Oct 2022
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スウェーデンの9月の総選挙で新たに発足した中道右派連合の新政権は10月14日、同国南部のティード城で政策協議を行った結果、2026年までの政権期間中に新規原子炉の建設も含めた対策として合計4,000億クローナ(5兆3,600億円)の投資を行うなど、具体的な原子力政策で合意した。採算性の悪化から、国営バッテンフォール社が2019年末と2020年末に早期閉鎖したリングハルス原子力発電所の2基(PWRとBWR各1基、ともに90万kW級)についても、安全運転が可能な状態であれば再稼働させるとしており、そのための徹底調査を速やかに実施する。環境法に記されている関連の禁止条項(新たなサイトにおける原子炉の建設禁止、同時に運転可能な原子炉の基数は10基まで、閉鎖済み原子炉の再稼働は禁止)についても、撤廃する方針を今回の「ティード合意」の中で明確に示している。今回の総選挙で、前政権の社会民主党は第一党の座を維持したものの、右派勢力である穏健党、キリスト教民主党、自由党の3政党の連立による新政権、および閣外協力する極右スウェーデン民主党の合計議席は、左派連合を僅差で上回った。新首相には穏健党のU.クリステション党首が今月17日付で選出されており、同国の政権は8年ぶりに右派勢力側に戻ったことになる。 この8年の間に社会民主党政権は、「責任のあるやり方で2040年までに再生可能エネルギー100%のエネルギー供給システムに移行する」ための政策を取っており、2014年のエネルギー政策合意の中で「原子力発電は将来的に全廃し、再生可能エネルギーとエネルギーの効率化で代替する」方針を表明。既存炉の建て替えに向けて予備調査を始めていた電力大手のバッテンフォール社に対しては、作業の中止を指示していた。今回の「ティード合意」で、4党は地球温暖化防止のための長期政策や電力の安定供給など、6分野の重要項目について協力していくことで合意している。エネルギー政策における新たな目標としては、前政権が目指していた「再エネ100%のエネルギー供給システム」を「非化石燃料100%のシステム」に変更。この目標を達成するため、エネルギー技術の選択においては再エネのみに限定せず原子力も選択肢に加えた中立的方針を復活させる考えだ。新たな原子炉建設に関しては、政府の特別借款4,000億クローナを通じて投資環境を整えていくほか、クリーンエネルギーに対する既存の信用保証制度を原子炉新設にも適用できるよう見直しを行う。政治的理由によって既存炉が閉鎖させられることを防ぐため、必要な法改正も行う。また、スウェーデン国内で小型モジュール炉(SMR)の建設と運転を可能にするため、規制面の条件整備を早急に実施する。建設にともなう許認可手続きの合理化と迅速化に向けて、環境法に新規則を導入し担当部局を一つに限定。指定を受けた同部局が、関係事項ごとに他の部局との調整を図る。さらに原子炉新設にともなう高額な申請費用を見直し、必要であれば環境影響面の審査を担当する国土環境裁判所に追加の予算を付け、審査の迅速化を図るとしている。なお、バッテンフォール社に対しては、閉鎖済みのリングハルス発電所サイトやその他の適切なサイトで、新規原子炉の建設計画を速やかに策定するよう指示する方針である。(参照資料:キリスト教民主党、穏健党の発表資料(スウェーデン語)、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月17日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
18 Oct 2022
2988
米サザン社の子会社であるジョージア・パワー社は10月14日、ジョージア州のA.W.ボーグル原子力発電所で建設中の3号機(PWR、110万kW)に、燃料を装荷する作業を開始したと発表した。同炉および同じサイトで建設中の4号機(PWR、110万kW)はともに米国で約30年ぶりの新設計画であり、「燃料の装荷は3号機の起動と運転開始に向けて極めて重要な節目になった」と同社は強調。装荷後は起動試験を実施して、同炉の一次系や蒸気供給系で設計通りの温度や圧力を実現するなど、健全に運転できることを実証し、冷態状態から初の臨界状態に移行、送電網に接続した後は出力を定格まで上昇させる計画である。現時点で3号機の営業運転開始は、最新のスケジュール通り2023年第1四半期に予定されている。ボーグル3、4号機では米国で初めてウェスチングハウス(WH)社のAP1000を採用しており、建設工事はそれぞれ2013年3月と11月に始まった。これらとほぼ同時期に、同じくAP1000を採用して本格着工されたV.C.サマー2、3号機建設計画は、WH社による2017年3月の倒産申請を受けて中止を余儀なくされたが、ボーグル増設計画では、同じくサザン社の子会社で両炉の運転を担当予定のサザン・ニュークリア社がWH社から建設プロジェクトの管理業務を引き継ぎ、建設工事を継続していた。同プロジェクトでは2020年10月に3号機の冷態機能試験が完了し、同年12月に初装荷用の燃料がサイトに到着した。2021年7月末には3号機の温態機能試験が完了しており、原子力規制委員会(NRC)は今年8月、同炉が建設・運転一括認可(COL)とNRCの規制に沿って建設されたこと、運転も行われる見通しであることを確認した上で、サザン・ニュークリア社に3号機の燃料装荷と運転開始を許可した。初装荷用の燃料は現在、サイト内の使用済燃料用の貯蔵プールに保管されているため、サザン・ニュークリア社とWH社の技術者は今後数日間かけて、157体の燃料集合体を一体ずつ同プールから取り出し3号機の炉心に装荷する。3、4号機はジョージア州の4社が共同で保有しており、ジョージア・パワー社が45.7%出資しているほか、オーグルソープ電力が30%、ジョージア電力公社(MEAG)の子会社が22.7%、およびダルトン市営電力が1.6%出資。ジョージア・パワー社で会長と社長を兼任する C.ウォマックCEOは、同プロジェクトについて「ジョージア州の今後のエネルギー供給を担う長期の重要な投資案件であり、我々は歴史的偉業を成し遂げつつある」とコメント。今後、60年から80年にわたり、270万もの顧客や州民にクリーンでCO2を排出しない安価なエネルギーを提供していくとしている。(参照資料:ジョージア・パワー社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月14日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
17 Oct 2022
2001
米エネルギー省(DOE)傘下のアイダホ国立研究所(INL)は10月5日、全米の様々なコミュニティがクリーンエネルギー社会への移行に向けて、それぞれに適したエネルギー技術の選択が可能になるよう支援するイニシアチブ「Emerging Energy Market Analysis (EMA)」を5大学と共同で開始した。これまでは、各コミュニティが多数の化石燃料発電所を採用し、大型の原子力発電所や再生可能エネルギーが果たす役割は小さかった。しかし近年、多くのコミュニティがCO2を排出しないクリーンエネルギー社会への移行を模索するようになり、先進的なエネルギー技術が数多く浮上するなかで、確実で持続可能、誰にとっても公平なエネルギー・インフラを選択することが非常に複雑で難しくなっている。このため、INLは地元アイダホ州のボイシ州立大学、アラスカ大学、マサチューセッツ工科大学(MIT)、ミシガン大学、ワイオミング大学と共同で「EMA」を設置した。これらに所属する社会学者や弁護士、エネルギー政策の専門家、エンジニア、科学者とチームを組み、各コミュニティがエネルギーを選択する際の基礎となる社会的条件や財源、関係インフラや能力などを包括的に分析。結果として、「意思決定のための多次元的枠組み」を開発した。「EMA」チームは、最適のエネルギー選択を可能にする主要ツールとしてこの枠組みを使い、様々なエネルギー技術が各コミュニティにもたらす恩恵や課題をリスト化、それぞれに都合の良い時期や場所に合わせてエネルギー選択ができるよう支援する。この枠組みを通じて、エネルギー技術のデベロッパーは実際の建設を始める前に社会的な認可が得られるなど、デベロッパーのみならずコミュニティの政策決定者にとっても有益なものになると強調している。この枠組みの開発に携わったINLの原子力エコノミスト、D.シュロップシャー氏によると、「他の機関と異なり、我々はユーザーが特定のエネルギー技術を評価しようとする際、何を重要視するか、ほかの選択肢とどのように比較するか、また、実際にかかるコストをどうするか等について理解するよう努めている」とのこと。原子力については、これまでの軽水炉も先進炉も、CO2を排出せず安全かつ信頼性が高いという点で非常に有利だが、「EMA」では原子力の評価方法を変えつつある。「以前にも増して原子力の社会的要素を考慮するようになっており、原子力のような技術をコミュニティがどのように受け入れるのか、また、その理由はなぜか等に着目している」と同氏は述べた。INLによると、「EMA」の枠組みはまた、DOEが先進的原子力技術の商業化支援のため実施しているイニシアチブ「原子力の技術革新を加速するゲートウェイ(GAIN)」や、同技術の実証を目的とした「国立原子炉技術革新センター(NRIC)」を補完する役割を担う。炉型等のデベロッパーがそれぞれの炉型の商業化に向けてこれらのプログラムを活用する際、「EMA」は専門的知見をデベロッパーに提供、その技術を市場に出す際の分析・評価等で支援することになる。(参照資料:INLの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月6日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
14 Oct 2022
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カナダのウラン生産大手であるカメコ社と、再生可能エネルギーに特化した投資会社のブルックフィールド・リニューアブル・パートナーズ(BEP)社による戦略的企業連合は10月11日、米国の大手原子力発電機器メーカーであるウェスチングハウス(WH)社を総額78億7,500万ドルで買収すると発表した。この総額には負債も含まれており、これを除いた株式の価値は約45億ドル。WH社の株式は現在、ブルックフィールド・ビジネス・パートナーズ(BBU)社が44%、残りを提携する機関投資家が保有しており、カメコ社は約22億ドルで全体の49%を取得しWH社の最大株主となるほか、BEP社と複数の機関投資家が共同で約23億ドルを支払い、それぞれ17%と34%取得する。買収手続きは、BBU社の関係投資家や規制上の承認を得たうえで、2023年後半に完了する予定である。BBU社の発表によると、同社とBEP社の親会社であるブルックフィールド・アセット・マネジメント社が2018年に東芝からWH社を買収して以降、WH社はBBU社の下で中核事業である原子力発電機器や関連サービスに改めて集中。運営費の削減や社内の専門技術を強化することにより、その収益性は2倍近くに拡大した。また、原子力発電は近年、脱炭素化という世界的な目標の達成に有効な、信頼性の高いクリーンエネルギー源として認識されつつあり、WH社の事業はこうした強力な追い風の恩恵を受ける理想的な位置にある。 このような背景から、カメコ社とBEP社はそれぞれが保有する原子力関係とクリーンエネルギー関係の専門的知見を統合、クリーンエネルギー社会移行への中核事業として原子力を位置づけている。今回の買収を通じて、原子力部門を戦略的成長の中心基盤とする考えだ。BBU社のC.マドンCEOは、「この4年以上の間に当社はWH社の事業運営を大幅に改善しており、売り上げを拡大するとともに世界的リーダーとしての立場も強化。同社の経営状態は非常に良好だ」と述べた。カメコ社のT.ギッツェル社長兼CEOは、「原子力部門にとって、市場はかつてないほど良好な状態にあり、原子力は安全・確実かつ安価に無炭素なベースロード電力を生み出せる数少ない発電方法の一つだ」と表明。電化や脱炭素化、エネルギーの供給保証が優先される世界の中で、その重要性はますます大きくなると指摘した。同CEOはまた、「WH社の買収によって、原子力のバリュー・チェーン全体が成長するための基盤が築かれるほか、当社の戦略とも完全にマッチする」と強調。エネルギーの原産国や輸送の安全性が大きな関心事となっている現在、既存の顧客のみならず新たな顧客のニーズに応えるカメコ社の能力が増強されるとした。さらに、「WH社が提供する原子力発電設備製造や関連サービス、原子燃料は強力な収入源となり、当社のウラン燃料事業を補完する安定したキャッシュ・フローが生み出される」と説明している。(参照資料:BBU社、カメコ社、WH社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月12日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
13 Oct 2022
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英国で原子力関係施設の廃止措置や放射性廃棄物の管理を担当する原子力廃止措置機構(NDA)は10月11日、ウェールズ北部にある閉鎖済みのトロースフィニッド原子力発電所で小型モジュール炉(SMR)の建設を計画しているエギノ社(Cwmni Egino)を支援するため、同社と了解覚書を締結したと発表した。NDAは英国内で閉鎖された旧式のガス冷却炉(GCR、通称マグノックス炉)サイトなど、原子力発電所の立地用に指定されている17サイト、950ヘクタールの土地をすべて所有している。一方のエギノ社は、ウェールズ政府がトロースフィニッド・サイトの再開発と周辺地域における社会経済の再活性化を目指して、2021年に設立した開発企業である。今回の覚書で、NDAは同サイトの特性に関する情報や専門的知見をエギノ社と共有し、子会社のマグノックス社が実施している廃止措置作業を新規のSMR建設計画と調整。このプロジェクトから影響を受ける利害関係者との協議や社会経済開発計画の策定についても、エギノ社をサポートする。エギノ社は現在、2027年にSMRの建設工事を開始できるよう、事業提案を作成中だ。採用炉型は未定。英国ではビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)が今年4月、英国のエネルギー自給を長期的に改善していくという新しい「エネルギー供給保証戦略」を公表。CO2の排出量を実質ゼロ化する観点から、2050年までに安全でクリーン、低価格な原子力で現在の約3倍に相当する最大2,400万kWの発電設備を確保し、国内電力需要の最大25%を賄う方針を明らかにした。NDAとエギノ社は翌5月、この戦略の実行を支援する活動の一環として、新規原子炉の建設計画を提案するため、協力協定の締結に向けた作業を開始すると表明。今回の覚書締結はこれに続くものとなる。NDAのD.ピーティ最高経営責任者は、「我々が所有するサイトの有効利用に向けて、現在複数の関係者と協議している」とコメント。「エギノ社への支援提供が正式なものになったことは重要な一歩であり、このプロジェクトが成功すれば、ウェールズ北部に社会的利益をもたらすだろう」と述べた。ウェールズ政府のV.ゲッチング経済相も、エギノ社を設立した理由について「トロースフィニッド・サイトのポテンシャルを最大限に活用することにより、地元コミュニティのみならずウェールズ北部の幅広い地域に雇用やスキルの習得機会を与えるなど、経済的利益を提供することにある」と説明している。英国原子力産業協会(NIA)のT.グレイトレックス理事長は同日、「ウェールズではかつて2サイトで原子力発電所が稼働しており、そのうちの一つであるトロースフィニッド発電所サイトは今後もクリーンな電力の生産で大きな役割を果たし天然ガスの利用量を削減、英国のエネルギー供給保証を強化していくだろう」と述べた。(参照資料:英国政府の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月11日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
12 Oct 2022
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英国イングランド南東部のサフォーク州で、EDFエナジー社が準備しているサイズウェルC(SZC)原子力発電所(UK-EPR、167万kW×2基)建設計画について、英仏の首脳は10月6日の共同声明で両国政府が全面的に支援する考えを確認した。この声明文は、フランスのE.マクロン大統領の提唱によりチェコのプラハで開催された「欧州政治共同体(EPC)」の第一回会合に合わせ、同大統領と英国のL.トラス首相が初めて会談し、取りまとめた。両国首脳は、ロシア産化石燃料からの脱却とクリーンエネルギーへの移行は両国共通の課題であるとした上で、エネルギー関係の協力促進を特に協議。原子力発電は再生可能エネルギーとともに、一貫性のあるクリーンエネルギーへの移行戦略の一部であると再確認し、SZC建設計画を全面的に支援していくことで合意した。両首脳は、来月にもSZC関係者が「最終投資決定(FID)」を下すなど、建設準備を整えることを期待すると述べた。来年開催される英仏首脳会談に先立ち、首脳らはまた、両国間の民生用原子力協力全般について、イノベーションやインフラ開発、人材育成等についての協力をさらに拡大していく方針を表明している。SZC計画では、フランス電力の英法人であるEDFエナジー社の下で同計画を担当する子会社の「NNB GenCo(SZC)社」が2020年5月、英国の2008年計画法に基づき、国家的重要度の高いインフラ設備の建設・操業プロジェクトで取得が義務付けられている「開発合意書(DCO)」の申請書を計画審査庁(PI)に提出した。今年7月に、ビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)のK.クワルテング大臣(当時)は、PIの審査当局が提出した報告書や、その他の関係文書を慎重に考慮した結果、同計画へのDCO発給を決定している。なお、トラス政権の発足に伴いBEISでは新たにJ.リースモッグ大臣が就任し、保守党党大会における4日のパネル討論で「原子力発電を誠実に支援していく」考えを表明した。この討論には産業界の代表者も加わり、英国における将来のエネルギーミックスの中で原子力が果たす役割について議論。同大臣は将来のいかなるエネルギー戦略においても、原子力は確実に中心的役割を担うと述べた。また、この戦略にはベースロードの電力を安定して供給することの重要性があると指摘しており、同大臣としては1950年代から英国で信頼性の高い電力を供給してきた原子力であれば、今後もその役割を託すと明言している。同大臣はさらに、「原子力なくしてCO2排出量の実質ゼロ化は不可能、それどころか電力供給の確保戦略さえあり得ない」と表明。同大臣によれば、原子力は安全かつ十分な理解も得られている優れたエネルギー・オプションであり、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻といった地政学的な出来事からも被害を受けにくく、1kWhあたりのコストも予測しやすい。同大臣は「大型原子力発電所の建設にふさわしい場所はどこにでもある」と述べており、SZC発電所だけで600万戸を超える世帯に少なくとも60年間、信頼性の高い低炭素な電力を供給可能だと指摘している。(参照資料:英国政府、EDFエナジー社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月7日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
11 Oct 2022
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米バージニア州のG.ヨンキン知事は10月3日、最新の「2022年版エネルギー計画」を公表し、州内で増加するエネルギー需要を満たすには、原子力や天然ガス、再生可能エネルギー、新しいエネルギー源など、利用可能なエネルギー技術をすべて活用するという「全方位的アプローチ」を取るべきだと表明した。この中でも、原子力利用を拡大し同州を原子力技術革新の主要なハブとする考えを明らかにしている。同州では、ドミニオン・エナジー社がサリー(87.5万kWのPWR×2基)とノースアナ(約100万kWのPWR×2基)の両原子力発電所を運転しており、サリー発電所については原子力規制委員会(NRC)が2021年5月に、運転期間の延長に向けた同社の2回目の申請を承認。これら2基はそれぞれ2050年代まで、80年間運転を継続できることになった。また、ノースアナ発電所についても、NRCは同社が2020年9月に提出した2回目の運転期間延長申請を審査中である。バージニア州のエネルギー省はこの計画を策定するにあたり、州政府はエネルギー需要を満たすのみならず既存のエネルギー供給源をクリーンエネルギー源に移行させるため、あらゆるオプションを検討。今後新たに浮上するクリーンエネルギー技術をすべて採用することにより、柔軟に移行を進めることができると指摘している。新しいエネルギー計画ではまず、同州におけるエネルギー経済の現状を分析、その上で今後の政策決定の基盤となる実用的なアプローチや様々な勧告を、州議会や州内の産業界が直ちに採用できる形で提示。同計画が提唱する全方位的アプローチは、エネルギー供給における信頼性や価格、技術革新、競争、環境影響等に関する同州の基本理念に基づき、同州のエネルギー需要量拡大に対応する柔軟性の高い道筋を示しているとした。このエネルギー計画では具体的な勧告事項として、州内のエネルギー需給の現状や進展状況を把握できるよう、同州のエネルギー構成を定期的に再評価すべきだとした。また、責任を持ってエネルギーの移行を進めるには、将来のエネルギー需要量の予測とそれを踏まえての対策立案で、実行者に真摯な謙虚さが求められると指摘している。さらに、同州内で将来的にクリーンエネルギーを豊富に確保するため、同州は革新的な技術に戦略的な投資を行うべきだとしており、具体的には水素製造やCO2の回収・貯留、有効利用(CCSU)、小型モジュール炉(SMR)を挙げた。商業用SMRを同州南西部で10年以内に建設するという目標の設定に向け、財政支援の必要性を支持するとしている。州内の原子力事業に関しては、同エネルギー計画は米BWXT社と仏フラマトム社が同州のリンチバーグに拠点の一つを置いている事実に言及。ノーフォークの海軍基地では、軍事造船企業のハンティントン・インガルス社が原子力潜水艦や空母のメンテナンスとアップグレードを受け持っており、これらの「バージニア原子力企業連合」が、同州や米国の原子力産業に参加する82社の関係プログラムや資源を州内で調整しているとした。バージニア州はまた、全米の大学に設置されている30ほどの原子力工学科のうち2つが存在するなど、原子力関係の人的資源についても米国のリーダー的地位にある。州内にある複数のコミュニティカレッジでは原子力関係の労働者を支援するコースが設けられており、同州の「エネルギー関係労働力企業連合」は次世代のエネルギー専門家を育成中である。こうした原子力研究開発の最先端に位置する立場を生かし、バージニア州はSMRの技術開発でも米国を牽引すべきだと今回のエネルギー計画は表明。州の南西部で米国初の商業用SMRを建設し、使用済燃料のリサイクル技術を開発すべきだと提唱しており、それによってCO2を排出せず、使用済燃料の量も最小限というエネルギーシステムを確立することを訴えている。(参照資料:バージニア州知事の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月5日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
06 Oct 2022
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米国空軍省(DAF)の民間事務所である「エネルギーと施設および環境問題担当・空軍次官局(SAF/IE)」は9月26日、アラスカ州のアイルソン空軍基地でマイクロ原子炉を試験的に運転するプログラムの実施に向け、国防兵站局と共同で「提案を依頼する文書(RFP)」を発出した。この試験プログラムについては、2020年9月にDAFが「関係する情報の提供依頼書(RFI)」を発出しており、翌2021年10月にはマイクロ原子炉の設置地点としてアイルソン空軍基地を選定した。DAFはその後、RFPの案文を作成していたもので、今回RFPを発出した後は2023年にマイクロ原子炉のベンダーを選定し、原子力規制委員会(NRC)を交えた許認可関係の活動を開始する。2025年には建設工事を始めるなど試験段階に移行する計画で、2026年に運転開始前試験、2027年までに試験運転を終えた後は商業運転に入るとしている。 DAFは空軍としてのミッションを成功裏に遂行するため、所有施設におけるエネルギーシステムのリスク対応能力の増強を進めており、次世代技術であるマイクロ原子炉で安全・確実かつ信頼性の高いクリーンエネルギーをアイルソン空軍基地に導入し、その技術を実証。十分利用可能であることを決定付けるなど、国防インフラ施設に確実にエネルギーを供給する今後のイニシアチブに、新たな知見をもたらしていく考えだ。折しも、国防総省(DOD)が同様に、気候変動にともなうリスクの緩和や耐久性があるクリーンエネルギー源の模索で、積極的な活動を展開中。この目標の達成に向けて、エネルギー省(DOE)が「国防権限法2019」に基づき、認可されたマイクロ原子炉を2027年末までに少なくとも1基、建設・運転するための商業契約を締結し、DOD施設にリスク対応能力を持たせるための試験プログラムを実施することになった。マイクロ原子炉の定義としてDAFは、「電力と熱エネルギーを生産できる出力0.1万kW~2万kWのシンプルでコンパクトな原子炉設計」と述べており、使用する燃料で定義されるわけではないと説明。アップグレードが容易なモジュール式の機器を備える一方、冷却材として必ずしも水を使用せず、排出する放射性廃棄物の量も限られているとした。マイクロ原子炉はまた、炉心が過熱するのを防ぐため、変化する条件や需要に応じて自動的な調整能力を備えるなど、固有の安全性がある。送電網から切り放された場所でも発電が可能なほか、CO2の排出量も削減できることから、DAFは国防インフラ施設の中でも、国内遠隔地域の重要な軍事施設にエネルギー供給するのに有望だとしている。DAFで環境と安全性およびインフラ問題を担当するN.バルカス次官補代理は、「地球温暖化や国防上の脅威にさらされながらDAFが確実かつ持続的に使命を果たすには、このプログラムが非常に重要になる」とコメント。いかなる地点においても、空軍施設に安全で信頼性の高いエネルギーの供給が可能であることを実証していくと強調している。(参照資料:米空軍省の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの9月28日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
05 Oct 2022
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ルーマニアの国営原子力発電会社(SNN)は9月27日、国内で米ニュースケール・パワー社製の小型モジュール炉(SMR)「ニュースケール・パワー・モジュール(NPM)」を建設するため、民間エネルギー企業のノバ・パワー&ガス社と合弁で、同計画のプロジェクト企業「RoPower Nuclear社」を設立したと発表した。計画では、ルーマニア南部ドゥンボビツア県のドイチェシュテイ(Doicesti)で13年前に閉鎖された石炭火力発電所の跡地に、出力7.7万kWのNPMを6基備えた「VOYGR-6」(合計出力46.2万kW)を建設する。2028年頃の完成を目指す。同発電所ではまた、出力約8万kWの再生可能エネルギー源も併設する予定である。SNNとノバ社が折半出資するRoPower社は今後、米国のJ.バイデン大統領が今年6月にルーマニアへの提供を約束した支援金1,400万ドルを使って、この計画の予備的な基本設計(FEED)調査を実施する。具体的には、設計・エンジニアリング活動や建設サイトの詳細な技術分析、国内外の基準に適合する許認可活動を行うとしており、その際は国際原子力機関(IAEA)が今年8月に実施した「立地評価・安全設計レビュー(SEED)」の勧告事項も適用する方針である。 設立の記念式には、米国務省のJ.フェルナンデス経済成長・エネルギー・環境担当次官やルーマニア・エネルギー省のV.ポペスク大臣が同席した。同大臣は、ルーマニアで建設されるSMR初号機が欧州においても初のものになるとした上で、「この建設計画は、原子力分野における米国とルーマニアの連携協力の成功例だ」と指摘。この協力により、ルーマニアは最も重要な経済面の安定やエネルギーの供給保証という恩恵を被ることから、ルーマニア政府も同計画が近隣諸国を含めたエネルギーの自給に有効との認識から、支援していると強調した。この計画に関しては米国政府も積極的に後押ししており、2019年3月にSNNとニュースケール社が最初の協力覚書を結んだ翌年の10月、ルーマニアと米国の両政府は、ルーマニアでチェルナボーダ3、4号機を完成させる計画を米国が支援するだけでなく、同国の民生用原子力発電部門の拡充と近代化にも協力するため、「原子力分野における政府間協力協定(IGA)」に調印した。これと同じ日に米輸出入銀行(US EXIM)は、ルーマニアのエネルギー・インフラ分野等に対して、最大70億ドルの財政支援を行うための了解覚書を同国政府と結んでいる。2021年1月になると、米貿易開発庁(USTDA)がSMR建設サイトの選定に向けた予備的評価作業のため、約128万ドルの技術支援金をSNNに交付。この調査が完了した今年5月には、建設に適した候補地が複数特定されており、最有力候補であるドイチェシュティで詳細調査を行うことになった。同月24日には、SNNとニュースケール社、およびドイチェシュティの石炭火力発電所オーナーで、ノバ社を傘下に置くE-Infra社グループが了解覚書を締結、SMR初号機の建設について分析評価を行うと表明している。(参照資料:SNNの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの9月28日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
04 Oct 2022
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英国で5サイト・9基の商業炉をすべて所有・運転しているEDFエナジー社は9月28日、2024年3月に閉鎖が予定されているハートルプール(各AGR、65.5万kW×2基)とヘイシャムA(各AGR、62.5万kW×2基)の両原子力発電所について、運転期間の短期的な延長を検討していることを明らかにした。現時点で検討の初期段階にあることから、同社は今後実施する審査の結果に基づき方向性を判断する。欧州を中心に発生しているエネルギー危機の重大性と、これらの発電所で使用されている黒鉛レンガ製燃料チャンネルの点検状況を踏まえた上で、同社はエネルギーコストの上昇や供給量不足に対処するため、閉鎖の一時延期を検討中だ。 これは、同社が英国で担っているエネルギー供給保証上の役割のうち、短期的役割の一つとして示したものである。このほかに、2023年~2025年に10億ポンド(約1,625億円)をかけて原子力発電設備を維持することや、今年中に原子力で420億kWhを発電し、国内電力需要の13%を賄うことなどを明示。これらの原子力発電所の管理に当たっている5,000名の従業員とともに、現在の非常に困難な状況下においても、クリーンで低価格な電力を原子力で顧客に引き続き供給すると表明。今後数年間の最優先事項として、既存の原子力発電所で出来るだけ多くの電力量を確保し、英国におけるエネルギーの供給保証と原子力関係の能力維持に貢献するとしている。英国政府は2050年までに原子力発電設備を2,400万kWまで拡大することを目指しており、EDFエナジー社は英国政府が新規建設可能なサイトとして指定した8サイト中、ハートルプールやヘイシャムなど4サイトを所有している。同社は2018年12月からイングランド南西部サマセット州で、170万kW級の欧州加圧水型炉(EPR)2基で構成されるヒンクリーポイントC (HPC)原子力発電所の建設工事を開始した一方、今年8月には隣接するヒンクリーポイントB原子力発電所(各AGR、65.5万kW×2基)を永久閉鎖している。今回の発表によると、同社は英国政府の目標達成に一定の役割を果たす覚悟であり、新規の原子力発電所の建設支援で新たに設置される政府機関GBN (Great British Nuclear)と協力していく。原子力関係能力の再構築を英国の主要な優先事項とし、将来の原子力開発を可能にするため、今年はスタッフの技術スキルの維持と向上に4,000万ポンド(約65億円)を投資する。また、来年の計画としては、既存の原子力発電所で最大200名のスタッフを新たに雇用し、HPC発電所が建設されているグロスターシャー州の事務所に運営・技術本部を移転する考えである。同社は現在、中国広核集団有限公司(CGN)と共同でHPC発電所建設計画に260億ポンド(約4兆2,240億円)の投資を行っており、同発電所の2基で英国の電力需要の7%を供給する計画。また、これに続いてイングランド南東部のサフォーク州では、サイズウェルC(SZC)原子力発電所(約167万kWの英国版欧州加圧水型炉:UK-EPR×2基)の建設に向けて、2023年中に最終投資判断を下すことになる。さらに、この近隣で1995年から稼働しているサイズウェルB原子力発電所(PWR、125万kW)については、運転期間を2055年まで20年延長し、60年とする方針である。なお、ハートルプール原子力発電所に関して、同社は英国政府が次世代原子力技術開発プログラムで進めている高温ガス炉(HTGR)の最初の実証炉建設サイトとすることを提案。現在、複数の技術プロバイダーと採用技術に関する協議を重ねている。(参照資料:EDFエナジー社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの9月28日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
03 Oct 2022
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ドイツの経済・気候保護省(BMWK)と環境・自然保護・原子力安全省(BMUV)は9月27日、年末までの閉鎖が予定されていた原子炉2基を最長で2023年4月15日まで運転可能とする方針について、運転事業者と基本的合意に達した。事業者とは、ドイツ南部でイザール原子力発電所2号機(PWR、148.5万kW)を運転するプロイセンエレクトラ社の親会社のE.ON社と、ネッカー原子力発電所2号機(PWR、140万kW)を運転するEnBW社である。BMWKが今月初頭、これら2社に対し2基の暫定的な温存を提案して以降、広範な協議が重ねられていた。2011年の福島第一原子力発電所事故発生を受けて、ドイツでは2022年までに原子力発電所を全廃すると決定。当時稼働していた原子炉17基の閉鎖を順次開始しており、現時点で残っていた今回の2基と、北部にあるエムスラント原子力発電所(PWR、140.6万kW)を年末までに永久閉鎖し、脱原子力を達成することになっていた。しかし、ロシアのウクライナへの軍事侵攻にともない天然ガスの供給量確保で危機に直面しているほか、様々な不確定要因により今年の冬季はエネルギーの供給リスクが増大。BMWKはこの冬季をカバーする送電網のストレステストを春と夏に2回実施した結果、「送電システムが危機的状況に陥る可能性は非常に低いが、完全に排除することはできない」と指摘しており、南部に立地する今回の2基を、非常用の予備電源として4月半ばまで温存することを事業者に提案していた。北部のエムスラント発電所については、その他の電源で補填が可能なことから、予定通り年末に永久閉鎖することが決まっている。今回の基本合意について、E.ON社は「実行可能な解決策を見つけるために、BMWKとは緊密な調整を幅広く実施した」と説明。同社としてはイザール2号機の年末以降の解体に向けて、過去数年かけて準備を進めていたが、BMWKから補償計画が提示されたのを受けて暫定的な運転期間の延長に取り組んだ。E.ON社の計画では、加圧器バルブの分解修理のため同炉を短期的に一旦停止するが、再稼働後は現行炉心のまま同炉を少なくとも来年3月まで運転可能にする。一方、連邦政府は遅くとも12月初旬までに、2基の暫定的温存の必要性を判断する。運転を継続する場合、運転会社のプロイセンエレクトラ社は2023年に同炉が発電する約20億kWhで市場価格による利益を得るが、運転期間の延長にともなう追加コストによって、この利益が相殺されないよう規制する必要がある。反対に、同炉を温存する必要がなくなった場合は、この追加コストはすべて連邦政府が支払うことになる。もう一方のEnBW社は、ネッカー2号機を運転継続する可能性について、BMWKから重要事項の伝達を受けており、両者は今回それらについて合意したもの。すなわち、今年の12月末以降、最長で2023年4月15日まで同炉の運転継続を念頭に、EnBW社は準備作業を開始する。連邦政府は遅くとも12月初頭までに、ネッカー2号機の発電量についてドイツのエネルギー供給保証上の必要性を判断するが、2023年の1月初頭にも連邦政府は改めてこの必要性をチェックする。ネッカー2号機の発電量が必要と確認された場合、再稼働により確実に最大17億kWhを発電できるようにする。ネッカー2号機を温存する必要がなくなった場合、また運転継続のためのコストがこれにともなう利益を上回った場合は、連邦政府が損失分を補填する。EnBW社の認識では、法的に正当な条件の下でネッカー2号機が運転継続するには、これに対応する契約の締結根拠としてBMWKが直ちに法的措置を取る必要がある。同社の担当幹部は連邦政府の要請について、「年末までの閉鎖に向けて進めてきた準備をすべて、安全運転の継続に転換しなければならないなど、その実行は当社にとって非常に厳しいものだ」と指摘。それでも、同社はエネルギー企業としてドイツのエネルギー供給保証に全力を尽くす覚悟であり、BMWKとの今回の合意は経済的リスクや得られる利益の点から見ても正当との見方を示している。(参照資料:独政府(独語のビデオ)、E.ON社、EnBW社(独語)の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの9月28日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
30 Sep 2022
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ロシアによる侵攻が続くウクライナでは、国際原子力機関(IAEA)が9月よりザポリージャ原子力発電所(ZNPP)へIAEA専門家を常駐させるなど、警戒を強めている。IAEAの通常総会では、各国からロシアに対する非難が相次ぎ、IAEAの果たす役割に高い期待が寄せられた。IAEA通常総会は9月26~30日にオーストリア・ウィーンで開催されている。総会では例年、IAEA事務局長の開会挨拶を皮切りに、加盟各国代表が「一般演説」と呼ばれるスピーチを行う。その中で各国が、核不拡散、保障措置、核物質防護をはじめ、放射線利用や核医学、原子力発電利用などについての取り組み状況や、今後の方針を明らかにするのが通例だ。近年はパンデミックや気候変動への対応、先進炉開発、への言及が増えてきたが、今年はウクライナ紛争への言及が大半を占めた。多くの国がウクライナでのロシアの軍事行動を「原子力安全、核セキュリティ、保障措置への多大な脅威」(ブラジル代表)と捉えており、「この戦争の悲劇に、原子力発電所の事故が加わることがあってはならない」(EU代表)との強い懸念を表明。そしてR.M.グロッシー事務局長が提唱するZNPP周辺への原子力安全/セキュリティ保護エリアの設定を支持し、IAEAに核の番人としての使命の遂行を求めている。 各国の一般演説から抜粋した詳細は、以下。第66回IAEA通常総会での一般演説から見るウクライナ問題に対する各国の姿勢
30 Sep 2022
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ベルギーの商業炉7基すべてを保有・運転しているエレクトラベル社は9月23日、同国北部のドール原子力発電所で40年間稼働した3号機(PWR、105.6万kW)を永久閉鎖したと発表した。同炉による累計の総発電量は2,700億kWhにのぼっている。同国ではこれまでに、PWRのプロトタイプ原子炉「BR3」(1.1万kW)が1987年に永久閉鎖されたが、商業炉の閉鎖は今回が初めて。同炉より先に運転開始したドール1、2号機(各PWR、46.5万kW)とチアンジュ1号機(PWR、100.9万kW)については、原子力税の支払いなどと引き換えに運転期間を2025年まで延長することが決まっている。ベルギーは、ドールとチアンジュ両原子力発電所の合計7基で総発電量の約半分を賄ってきたが、2003年に緑の党を含む連立政権が脱原子力法を制定。運転期間を40年に制限した上で、2025年までにこれらをすべて閉鎖すると決定した。しかし、代替電源が確保できないことから、2009年当時の政権はドール1、2号機とチアンジュ1号機の運転期間を10年延長する代わりに、税金の支払いを求める覚書を事業者と締結している。その後、2011年に発生した福島第一原子力発電所事故の影響により、運転期間の延長はチアンジュ1号機に限定されたものの、2015年に当時の政権はドール1、2号機についても、電力の安定供給の観点から2025年まで運転期間を延長することでエレクトラベル社と合意。両炉では運転を継続しつつ設備の近代化を図り、最新の安全基準を順守するため、総額約7億ユーロ(約969億円)をかけた改修作業が行われている。近年はまた、ロシアによるウクライナへの軍事進攻にともない近隣諸国への天然ガス供給が停止するなど、地政学的な状況が大きく変化。ベルギー政府は今年3月、脱原子力の達成時期を延期し、7基のうち最も新しいドール4号機(PWR、109万kW)とチアンジュ3号機(PWR、108.9万kW)の運転期間を2035年まで10年延長すると決定した。7月にはこの決定の実施に向け、エレクトラベル社の親会社である仏エンジー社と原則合意したことを明らかにしている。一方、今回閉鎖されたドール3号機、および来年1月末に閉鎖が予定されているチアンジュ2号機(PWR、105.5万kW)は、ともに2012年夏に原子炉容器からクラックの兆候が検出されていた。このため、どちらも営業運転開始後40年以上の運転継続は見送られたと見られている。閉鎖後のドール3号機について、エレクトラベル社は直ちに燃料を取り出し冷却プールに貯蔵すると表明。来年の春以降、十分に冷却されたものから専用の貯蔵施設に移送するが、冷却プールが空になるまでに4年以上を要する見込みだ。また、3号機からすべての放射性物質が取り除かれた後は、2026年から本格的な廃止措置を開始するとしている。(参照資料:エレクトラベル社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの9月27日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
28 Sep 2022
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©UNECE国連経済社会理事会の欧州経済委員会(UNECE)は9月19日、欧州と北米および中央アジア地域で、2050年までにCO2排出量の実質ゼロ化を達成するためのロードマップ報告書「Carbon Neutrality in the UNECE Region:Technology Interplay under the Carbon Neutrality Concept」を公表した。これは11月のエジプトでの第27回国連気候変動枠組条約・締約国会議(COP27)開催に合わせて取りまとめたもので、「実質ゼロ化を達成するには、低炭素や無炭素なエネルギー技術をすべて最大限に活用するなど、大胆かつ持続可能なアクションを直ちに始めなければならない」と強調。原子力に関しては、大型発電所の建設コストや財政リスクを軽減するとともに、小型モジュール炉(SMR)など先進的技術の開発と建設を加速するための政策的支援が必要だと各国に訴えている。今回の報告書は、対応地域の国際的な専門家の知見に基づいており、近年の地政学的危機やエネルギー供給危機を踏まえつつ、2050年までにCO2排出量をゼロ化するために有効な技術や政策を幅広く網羅している。UNECEはまず、2020年時点で国内総生産(GDP)からエネルギー関係に投資されている年間1.24%の金額を、2025年以降は2050年まで年間2.05%に増額する必要があると指摘。2050年までの総投資額は44兆8,000億ドル~47兆3,000億ドルにのぼる見通しで、ここでは近年の夏季における猛暑など極端な天候を考慮。これらに対処しなかった場合、自然災害は一層大きな課題となり、対応コストはさらに高まると強調している。UNECEの対応地域では現在、一次エネルギーの80%以上が化石燃料に起因している。UNECEの気候モデルで見ると、パリ協定やCOP26で設定されたCO2排出量の国際的な削減目標、および各国政府の現行政策では、CO2排出量を実質ゼロ化し世界の気温上昇を1.5~2度Cに抑えるには不十分だ。UNECE地域でCO2の実質ゼロ化を達成するには、以下の政策が各国に求められると指摘している。低炭素技術と無炭素技術をすべて活用するなど、一次エネルギーと最終エネルギーの供給源を多様化する。化石燃料利用の段階的削減を加速する。再生可能エネルギーと原子力に重点を置いて、あらゆる産業部門の電化を推進。エネルギーを貯蔵する新たな方式を開発する必要があり、これによって化石燃料によるバックアップを不要にする。CO2の回収・貯留・利用(CCUS)や水素、先進的原子力発電などの低炭素技術や無炭素技術の技術革新を広範囲に支援するための能力を強化する。先進的原子力技術の活用原子力発電技術についてUNECEは、「CO2排出量の実質ゼロ化に貢献する低炭素で重要な熱電源」と説明。実証技術を用いた既存の商業炉とともに、近年は新しい原子炉技術が数多く開発されており、柔軟な負荷調整や産業用高温熱の生産、熱電併給、電気分解法による水素製造等で、新たな市場が生まれる可能性がある。このため、原子力発電所の活用を決めた国は、UNECE域内のエネルギーシステムを脱炭素化する上で重要な役割を果たすと述べている。UNECEは昨年8月、地球温暖化の防止や低炭素エネルギー技術の開発加速に向けて、原子力に関する技術概要書(technology brief on nuclear power)を取りまとめており、CO2排出量の実質ゼロ化を達成する上で原子力が果たす重要な役割を指摘した。この技術概要書によって、いくつかの国は原子力発電の低炭素エネルギーがもたらす潜在的な可能性に注目。エネルギーミックスにおける実行可能な脱炭素化オプションとして、いくつかの国は原子力発電の利用を選択するかもしれない。その一方で、ある国ではその安全性と廃棄物の問題から、またある国では天然資源に恵まれていることから原子力を利用しないと決めているが、各国は徐々に地球温暖化の防止目標を達成できないリスクに気付き始めている。UNECEによると、エネルギー価格が高騰し原子力の安全性が改善されるなかで「エネルギーシステムを脱炭素化する必要性」が生じたことは、原子力に対する人々の意見を変えつつある。これにより、既存の大型原子炉市場に先進的原子炉技術が進出するなど、新たな市場が生まれる見通しで、大型炉については財政リスクと建設コストの軽減、SMRについては開発と建設を加速するための政策的支援が必要となってきた。SMRは発電のみならず、熱電併給や産業用の高温熱といった幅広いエネルギーサービスを提供できるほか、UNECEの気候モデルによれば、1kWあたりの建設費は大型炉と同等でも、工期については大幅に短縮が可能である。このため、大型炉の今後の運転モードとしては、①柔軟な出力調整を行わない95%という高設備利用率のベースロード運転か、②ガス複合発電と同程度の柔軟性を備えた設備利用率75%の運転――が考えられる。UNECEはエネルギー供給保証の観点から、安全な運転が可能な既存の原子力発電所の運転期間を延長することは、化石燃料への依存を大幅に緩和し、長期の負債や財政リスクを伴わない新規の建設プロジェクトでエネルギーコストを軽減できると強調している。(参照資料:UNECEの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの9月21日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
27 Sep 2022
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国際原子力機関(IAEA)の第66回通常総会がウィーンで、9月26日から5日間の日程で始まった。R.M.グロッシー事務局長は、世界的なエネルギー危機への対応やウクライナでの原子力安全確保など、現在のIAEAに課せられている新たな使命を強調。各国からのより一層の支援を求めた。初日プレナリーセッションの冒頭、開会挨拶に立ったグロッシー事務局長は、感染症対策、気候変動対策、安全な食糧および水の確保、がん撲滅、海洋汚染対策ーーなどといった従来からのIAEAの取り組みを取り上げるだけでなく、世界を取り巻く情勢としてエネルギー危機やウクライナでの紛争に言及。こうした情勢の変化により、カバーする範囲や作業量など「IAEAが果たすべき役割」がこれまでにないレベルに拡大しているとの認識を示した。事務局長は世界規模のエネルギー危機に関し、安全で信頼性が高く低炭素なエネルギー供給体制を確立するには原子力が欠かせないと指摘。今後30年で原子力発電設備容量が倍増すると見込まれる中で、IAEAの原子力安全および核セキュリティ活動が量的にも質的にも増大し、ますます重要性が高まると強調した。またウクライナの紛争に関しては「IAEAは懸念を表明するにとどまらず、原子力安全とセキュリティの確保に向けて状況を改善するために行動している」と、これまでの支援活動を紹介。今回の紛争中に4度に渡って派遣したIAEAの調査ミッションなど、ウクライナでの原子力事故を未然に防止するためにIAEAが果たしてきた役割に言及した。そしてロシアを名指しで非難することは避けながらも、ウクライナの原子力施設周辺に「原子力安全/セキュリティ保護エリア」を早急に設定すべく、両国と詳細な協議を開始したことを明らかにした。続く各国代表による一般演説では、日本は7番目に登場。ビデオ録画ではあったが高市早苗内閣府科学技術政策担当大臣がスピーチ。ウクライナの原子力施設周辺でのロシアの軍事行動を強く非難し、IAEAの取り組みを高く評価した。その上でウクライナでの「原子力安全/セキュリティ保護エリア」早期設定に向け、200万ユーロの拠出を表明した。また高市大臣はALPS処理水について、IAEAがこれまで実施してきたレビューやモニタリングについて言及。今後もIAEAの協力のもと、国内外の安全基準に従い透明性を高めた形で、「科学的に」海洋放出を実施していくことを強調した。そのほか日本のエネルギー政策に関し高市大臣は、「エネルギーの安定供給に向けてあらゆるエネルギーオプションを堅持する」決意を表明。今後は高速炉、高温ガス炉、SMR、核融合炉など次世代炉技術の研究開発にも力を入れていく方針を明らかにし、国際社会に強く印象付けた。♢ ♢日本原子力産業協会・新井理事長とブースで談笑する上坂委員長(右) ©︎JAIF例年通りIAEA総会との併催で展示会も行われている。日本のブース展示では、「脱炭素とサステイナビリティに向けた原子力イノベーション」をテーマに、高温ガス炉やナトリウム冷却高速炉、中・小型炉、水素貯蔵材料等の開発、ALPS処理水に関するQ&Aなどをパネルで紹介している。展示会初日には、上坂充原子力委員長がブースを訪れ、出展関係者より展示内容の説明を受けた。
27 Sep 2022
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アラブ首長国連邦(UAE)で原子力発電の導入計画を主導する首長国原子力会社(ENEC)は9月22日、バラカ原子力発電所で建設中の3号機(韓国製PWR、140万kW)が初めて臨界条件を達成したと発表した。同機は今後、数週間以内にUAE送電網に接続され、段階的な出力上昇試験や性能保証試験などを経て、2023年上半期にも営業運転を開始する予定である。UAE初の原子力発電所であるバラカ発電所は、2012年7月からUAE北部のアブダビ首長国で建設工事が本格的に始まり、1、2号機はすでにそれぞれ2021年4月と2022年3月から営業運転中である。2014年9月に本格着工した3号機は2021年11月までに建設工事が完了し、冷態機能試験と温態機能試験、構造性能確認試験(ILRT)や総合漏洩率試験などを終えている。同発電所の運転管理担当会社であるNAWAHエナジー社(ENECと建設プロジェクトの主契約者である韓国電力の合弁企業)は今年6月に同炉の運転許可を規制当局から取得、その後は燃料の装荷を行っていた。3号機が起動したことについてENECは、巨大プロジェクトの管理能力がUAEにあることを示したもので、UAEの発電部門はこれにより脱炭素化が加速。2050年までのCO2排出量実質ゼロ化に向け、UAEは先陣を切ることになると評価した。特に、世界中で多くの国がエネルギー供給不足への対応を迫られるなかでの起動は、UAEが2008年4月にクリーンで信頼性の高いベースロード用電源として、原子力をUAEのエネルギー・ミックスに含める判断を下した成果だと強調。同炉が営業運転を開始すれば、新たに140万kWの無炭素電源が送電網に加えられ、UAEはエネルギーの供給保証を大幅に強化、地球温暖化への取り組みでも大きな一歩を刻むことになると述べた。同炉の安全性についてENECは、起動に先立ち連邦原子力規制庁(FANR)による監督の下で包括的な試験を実施したこと、世界原子力発電事業者協会(WANO)が起動前レビュー(PSUR)を実施した点に言及。3号機では、原子力産業界の国際的な良好事例が取り入れられていると指摘した。バラカ原子力発電所ではこのほか、2015年7月に着工した4号機の建設工事が起動に向けた最終段階に入っており、NAWAHエナジー社はこれら4基を完成させてUAEの総電力需要の25%まで賄う計画である。ENECとしては、同発電所を通じて小型モジュール炉(SMR)や次世代原子炉など、革新的技術を採用したクリーン・エネルギーへの移行を進め、水素等のクリーン燃料の開発にもつなげる方針。同社の説明では、バラカ発電所はUAEの発展とエネルギーの安定供給を支えるだけでなく、価値の高い雇用を生み出して地域産業の成長にも貢献する。60年以上稼働することによってエネルギー部門の急速な脱炭素化を促し、年間2,240万トンのCO2排出を抑えるなど環境面の利点も非常に大きいと強調している。(参照資料:ENEC、KEPCO(韓国語)の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの9月22日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
26 Sep 2022
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米エネルギー省(DOE)は9月20日、原子力発電所から出る使用済燃料を管理し中間貯蔵する施設について、地元の合意に基づいた立地プロセスに関心を持つコミュニティを支援するため、合計1,600万ドルの支援金を交付すると発表した。DOEは使用済燃料と高レベル放射性廃棄物(HLW)の長期的処分に関する研究開発を進めているが、その実施にともなう透明性を最大限に高め、管理施設の建設を支援していく方策として、「地元の合意に基づくアプローチ」の形成を推進中。各コミュニティに特有のニーズを満たすことで、使用済燃料の中間貯蔵を実施する方針である。DOEは昨年11月、使用済燃料の中間貯蔵施設立地点の選定に向けて、「地元の合意に基づく立地プロセス」を策定するため、情報提供の依頼書(RFI)を関係するコミュニティやステークホルダーに対して発出した。今月初旬にその結果を公表しており、この立地プロセスを成功裏に進めるには、関係コミュニティと堅固な信頼関係を構築する必要があると表明。今回の支援金交付もRFIで得られた意見を反映している。DOEの計画では、18か月~24か月の間、最大8つのコミュニティに支援金を交付する。交付を受けたコミュニティは、内部で住民らが相互学習を進めるとともに関係情報を容易に入手できるようにし、オープンな議論が可能となる環境作りを目指す。支援金を通じてDOEが推進する主要なタスクは、以下の3分野である。関係コミュニティとステークホルダーが主導的な立場で、使用済燃料管理施設の立地プロセスに関与できるようにする。連邦政府が建設する集中中間貯蔵施設の立地プロセスに、関係するコミュニティとの協力や地元のニーズに基づくフィードバックを反映させるため、公共的な価値や利益、目的などを明確化する。関係コミュニティやステークホルダー、専門家の間で使用済燃料関係の相互学習促進を目指す戦略を策定し、実行していく。米国の民間部門では現在、中間貯蔵パートナーズ(ISP)社とホルテック・インターナショナル社がそれぞれ、テキサス州アンドリュース郡とニューメキシコ州南部で集中中間貯蔵施設の建設計画を進めている。一方、連邦政府は今回の支援においても、同様の施設を自発的に受け入れるサイトを募集しているわけではない。しかし、DOEとしてはこれを皮切りに、この問題に関心を持つコミュニティやステークホルダーらが、地元の合意に基づく立地プロセスについてオープンに話し合い、関わっていくよう促す考えだ。DOEのJ.グランホルム長官は、「信頼性の高い安全な原子力エネルギーを米国内で得ることは、J.バイデン大統領が掲げる(2035年までに米国の電力部門を脱炭素化し、2050年までに米国経済全体でCO2排出量を実質ゼロ化するという)目標を達成する上で非常に重要だ」コメント。今回の予算措置を通じて、使用済燃料を地元の合意ベースで貯蔵する最良の解決策について、関係するコミュニティと建設的な協議を重ねていきたいと述べた。(参照資料:DOEの発表資料、原産新聞・海外ニュース、ほか)
22 Sep 2022
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チェコ政府内で独立した第三者機関である経済競争保護局(UOHS)は9月14日、国営電力であるチェコ電力(CEZ)グループが6月に公表していた、原子力機器サプライヤーのスコダ社買収計画を承認すると発表した。同時に、スコダ社の非住居用不動産を管理しているミドル・エステート社の買収も認めるとしており、これらの決定がすでに法的に有効となったことを明らかにしている。1859年にチェコで創業されたスコダ社は、1950年代から原子力関係機器も取り扱う重電メーカー。これまでに、40万kW~50万kWのロシア型PWR(VVER-440)を21基、100万kW級のVVER-1000を3 基、チェコのほかにスロバキアやハンガリーなど中・東欧諸国に納入した実績があり、CEZとは主に原子燃料と一次系機器のメンテナンス分野で長期的な協力関係にある。しかし、同社は数年前にロシアの大手重機械製造企業OMZ社のグループ企業となり、実質的にロシア三大銀行の一つであるガスプロムバンクの支配下に置かれている。CEZの6月の説明では、ウクライナに対するロシアの軍事侵攻にともない、スコダ社は制裁対象となるリスクにさらされている。同社がCEZ所有の原子力発電所に提供している機器やサービスにも重大な影響がおよぶ可能性があるため、CEZはスコダ社の単独所有者となることでこのような課題を解決する方針である。UOHSは、CEZの買収計画が電力卸売市場の競争原理や、新しい原子力発電所の設計・建設、および一次系のメンテナンス等サービス業務の提供にどのような影響が及ぶかを評価。最終的に、買収によってCEZが電力市場で競争原理を歪めるほど大きな影響力を持つことはないと結論付けている。(参照資料:UOHS(チェコ語)、CEZの発表資料、原産新聞・海外ニュース、ほか)
21 Sep 2022
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ロシア国営の総合原子力企業ロスアトム社はこのほど、ベロヤルスク原子力発電所4号機として営業運転中の高速実証炉「BN-800」(FBR、88.5万kW)に、ロシアの原子力史上初めて全炉心にMOX(ウラン・プルトニウム混合酸化物)燃料が装荷されたと発表した。同炉はすでに燃料交換とメンテナンスのための停止期間を終え、送電網に再接続されている。高速実証炉である同炉の主な目的は、高速炉を活用した核燃料サイクルの各段階の技術を実証すること。2016年10月に同炉が営業運転を開始した当時から、初期炉心はウラン燃料とMOX燃料のハイブリッド炉心になっており、2020年1月に初回の燃料交換を行った後、炉内のMOX燃料集合体は合計18体に増加した。2021年2月の燃料交換時にはMOX燃料のみを160体装荷したことから、同炉は炉心の三分の一までがMOX燃料になった。その後もMOX燃料だけで燃料交換を行っており、ロスアトム社は今回すべてのウラン燃料集合体がMOX燃料集合体に置き換わったと説明している。装荷したMOX燃料集合体は、クラスノヤルスク地方ゼレズノゴルスクにある鉱業化学コンビナート(MCC)で製造されたもの。MCCでは、燃料製造設備が備え付けられ、2018年後半からMOX燃料集合体の連続製造を開始していた。(参照資料:ロスアトム社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの9月13日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
21 Sep 2022
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エストニアの新興エネルギー企業であるフェルミ・エネルギア社は9月15日、英国や米国で次世代型の小型モジュール炉(SMR)を開発しているデベロッパー3社に対し、入札の招聘状を送付したと発表した。それらは、米国のGE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社とニュースケール・パワー社、および英国のロールス・ロイスSMR社で、フェルミ社は3社から建設コストの見積もり等に必要な総合的技術文書を12月までに入手し、2023年2月には採用炉型を決定する方針である。GEH社製の「BWRX-300」は電気出力30万kWのBWR型SMR。カナダのダーリントン原子力発電所内で同炉の建設を計画しているオンタリオ・パワー・ジェネレーション社は今年3月、サイトの事前準備作業を開始すると表明した。ロールス・ロイスSMR社のSMRはPWRタイプで電気出力は47万kW。少なくとも60年の稼働が可能で、今年4月からは英国原子力規制庁(ONR)らが同設計について「包括的設計審査(GDA)を開始している。ニュースケール社が開発した「ニュースケール・パワー・モジュール(NPM)」はPWRタイプの一体型SMRで、電気出力5万kW~7.7万kWのモジュールを最大12基まで連結することで出力の調整が可能。米国の原子力規制委員会(NRC)は2020年9月、出力が5万kWの「NPM」に対し、SMRとしては初めて「標準設計承認(SDA)」を発給した。今回の発表によると、フェルミ社は採用炉型の選定基準として、発電技術としての成熟度や経済的な競争力、サプライチェーンにエストニア企業を加えることなどを挙げており、最適の候補企業とはプロジェクト開発と予備的作業に関する契約を締結する。同社がデベロッパーに求めているのは、天候に左右されずに長期的な固定価格(運転開始当初は55ユーロ/MWhを想定)で確実に電力供給できる炉型だ。工場での機器製造が可能で標準化されたSMRは、これまでの大型炉と比較して、建設工事の遅れとそれにともなうコストの上昇といったリスクを軽減できると見られている。フェルミ社は、エストニアで第4世代のSMR導入を目指して、同国の原子力科学者やエネルギー関係の専門家、起業家などが設立した企業である。2030年代初頭にも、欧州連合(EU)初の第4世代SMRを国内で建設するため、2019年7月に様々なSMR設計について実行可能性調査を実施すると発表していた。フェルミ社のK.カレメッツCEOは、「これまでに検討してきた数多くのSMRの中でも、有望なものについてエストニアの条件や送電システムに最適の設計を選定する。また、これまでのプロジェクトの電力価格の実績も考慮に入れる」と述べた。同CEOはまた、招聘状を送った3社のSMRがそれぞれ、米国や英国の政府資金援助を受けて完成度が増していること、主要国での建設に向けて正式な許認可手続きに入っている点などを指摘。2020年代末までにこれらの初号機がすべて、運転を開始すると見られていることから、エストニアが建設するSMRはすでに確証済みの最良の次世代技術になるとの見通しを示している。(参照資料:フェルミ・エネルギア社(エストニア語)の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの9月15日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
16 Sep 2022
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米エネルギー省(DOE)の原子力局(NE)は9月13日、米国内で閉鎖された石炭火力発電所を、先進的原子炉等でリプレースした場合の課題とメリットについて、調査報告書を発表した。報告書は、前時代に「電化を通じて米国経済の構築に貢献した」数百もの石炭火力発電所を、原子力発電所に置き換えること(coal-to-nuclear =C2N )は十分可能であり、これにより確実で需要調整力の高いクリーン電力の供給量が大幅に増加すると指摘。米国が2050年までにCO2排出量の実質ゼロ化を達成する上でも、大きな効果があると強調している。この報告書は、DOE傘下の(アルゴンヌ、アイダホ、オークリッジ)3つの国立研究所が実施した調査をもとにNEがまとめたもので、「C2Nへの移行」にともなう3つの全体的な課題、①閉鎖済みの石炭火力発電所が米国内のどこに所在し、どのようなファクターが原子力への移行を可能にするか、②採用炉型やコスト、建設スケジュール等、投資家に建設プロジェクトへの投資を決断させるファクターは何か、③「C2Nへの移行」が地元コミュニティにどのような影響を及ぼすか――を取り上げている。国立研究所の調査チームはすべての石炭火力発電所の特性を精査して、C2N候補となる157の閉鎖済みサイトと237の運転中サイトを特定。これらをさらに、人口密度や地震断層からの距離、洪水の可能性など10項目のパラメーターで、原子力発電所の安全な運転が可能であるか評価した。その結果、同チームはこれらの80%が様々な規模やタイプの先進的原子炉の立地に必要な基本的特性を備えていると分析。閉鎖済みの125サイトで新たに計6,480万kW、運転中の190サイトでは計1億9,850万kWの原子力発電設備容量が設置可能だと結論付けた。現在米国では、約9,500万kWの原子力発電設備で無炭素電力の約半分を供給しているが、C2Nへの移行にともない、無炭素電源の設備容量を3億5,000万kW以上に拡大できると強調している。同報告書はまた、「C2Nへの移行」を通じて石炭火力の地元コミュニティでは、新たな雇用や経済活動が生み出され、環境条件も改善されると指摘。このような恩恵は、化石燃料発電による大気汚染で不利益を被ったコミュニティでは特に重要だと述べた。調査チームの計算では、ケーススタディとして出力120万kWの石炭火力発電所をほぼ同じ規模の原子力発電所((ニュースケール・パワー社製の出力7.7万kWのSMR×12基を使用。原子力の設備利用率の高さを考慮して出力は低めに設定。))でリプレースした場合、用地や送電網、事務棟、電気機器設備など石炭火力のインフラ設備を再利用できるため、更地に建設するケースに比べ原子力発電所の建設コストは15%~35%削減されるという。地元コミュニティでは年間2億7,500万ドルの追加的な経済効果が発生するとともに、新たに650名以上の常勤雇用が創出される。地元コミュニティには石炭火力発電所に勤務していた熟練の人材が残されており、新たな原子力発電プロジェクトではノウハウとスキルが豊富な地元の労働力を活用できる。環境面の利点としては、原子力発電へのリプレースにより石炭火力の地元コミュニティではCO2の排出量が86%削減され、調査チームはガソリン車50万台分以上の排出量削減に相当すると強調。大気質の改善により、喘息や肺がん、心臓病などの発病率も低下するとしている。調査チームの説明では、今回の報告書で評価した石炭火力発電所はあくまでも分析目的で選択されたもので、現時点で入手が可能なデータと文書化された仮説に基づいている。判明したのは一般的な情報であるため、関係するコミュニティや投資家、その他のステークホルダーが、特定の石炭火力発電所を特定の原子炉に置き換える際、詳細な分析等の実施に役立ててほしいとしている。(参照資料:DOEの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの9月14日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
15 Sep 2022
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