米ニュースケール・パワー社は5月24日、ルーマニアにおける同社製小型モジュール炉(SMR)「ニュースケール・パワー・モジュール(NPM)」の建設について、同国の国営原子力発電会社(SNN)および初号機建設サイトのオーナーと了解覚書を締結したと発表した。この発表は、米国の貿易開発庁(USTDA)と商務省がルーマニアの首都ブカレストで共催した「SMRと先進的原子炉ワークショップ」で明らかにされた。SNNとニュースケール社はこの前日のワークショップで、ルーマニア南部ドゥンボビツァ県のドイチェシュティ(Doicesti)で13年前に閉鎖された石炭火力発電所の跡地を最有力候補として、出力7.7万kWのNPMを6基備えた「VOYGR-6」発電所(46.2万kW)を建設する方針を表明。今回の覚書では、この石炭火力発電所を所有する持ち株会社のE-Infra社も参加している。同覚書に基づき、3社は今後ドイチェシュティで、エンジニアリング調査や技術分析、および許認可関係の活動を実施する。ルーマニア初のSMRであり、欧州のSMRとしても最初に建設される見通しの「VOYGR-6」については、同国のK.ヨハニス大統領が2021年11月、米国のJ.ケリー気候担当大統領特使と協議した際、2028年までに同国のエネルギー生産システムに含める方針を表明した。SNNは今回、このSMR建設を通じてルーマニアが欧州でSMR建設を促進するハブとなり、機器の製造や組立、運転準備等でその他の国のSMR建設を支援していくとしている。エネルギー供給が脆弱なルーマニアにおいて、環境への影響が少なく競争力の高い原子力は、持続可能な電力部門の発展に向けた解決策であり、エネルギーミックスの重要な構成要素。既存のチェルナボーダ原子力発電所(70万kW級のカナダ型加圧重水炉×2基)では、運転開始後25年以上が経過した1号機の運転期間延長を計画しているほか、建設工事が停止中の3、4号機(各70万kW級のカナダ型加圧重水炉)については2031年までに完成させる考えだ。これに加えて、ルーマニアはSMRも建設する方針であり、SNNはニュースケール社と同社製SMRの建設可能性を探るため、2019年3月に最初の協力覚書を締結している。翌2020年10月にルーマニアと米国の両政府は、原子力開発プロジェクトに関する政府間協定(IGA)を結んでおり、米輸出入銀行(US EXIM)は、原子力を含めた同国のエネルギー・インフラ開発への支援として、最大70億ドルの提供を約束した。複数の候補地の中からSMR建設サイトを選定する調査に関しては、USTDAが2021年1月に約128万ドルの支援金をSNNに交付すると発表。米国のサージェント&ランディ(Sargent & Lundy)社がSNNに代わって同調査を行っており、その結果に基づきSNNが最も有望なサイトとしてドイチェシュティを選定した。SNNの発表によると、SMRの建設期間中に同国では約1,500名分、運転期間中には約2,300名分の雇用が期待できるほか、VOYGR発電所では193名分の常勤雇用が創出される。また、同国で年間400万トンのCO2が大気中に放出されるのを回避する一助にもなるとしている。 SNNのC.ギタCEOは、「建設サイトが決まったことと今回の覚書締結により、ニュースケール社製SMRの建設計画は大きく前進した。最初の協力覚書を結んでから約3年の間、当社はニュースケール社の技術とその安全性、成熟度、建設に向けた準備等について分析した。予備的に実施したサイト評価の結果、ドイチェシュティはあらゆる側面で原子力発電所の安全基準を満たしており、欧州初のSMR建設サイトとしての可能性には自信がある」と述べた。ドイチェシュティを擁するドゥンボビツァ県議会のS. コルネリウ議長は、「新たなエネルギー源を必要とする沢山の候補地の中から、最初のSMR建設サイトに選ばれたことを誇りに思う」と表明した。ドイチェシュティの石炭火力発電所では、56年間の運転経験と新たな発電所を建設する盤石な基盤があると述べ、「SMR建設によって跡地が有効に活用され、当県はクリーンエネルギーの恩恵を受ける」と指摘。新たな雇用も生み出され、地元経済とインフラの開発が促されるとしている。(参照資料:ニュースケール社、SNNの発表資料①、②、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの5月24日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
25 May 2022
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韓国水力・原子力会社(KHNP)は5月22日、慶尚北道蔚珍郡の北部で2012年6月から建設中だった新ハヌル原子力発電所1号機(PWR、140万kW)が、同日に初めて臨界条件を達成したと発表した。同炉については、韓国原子力安全委員会(NSSC)が2021年7月に条件付きで運転許可を発給した後に燃料を装荷。温態機能試験などを経て臨界に達したもので、今後はタービン系統などの性能試験を実施し6月初めから発電を開始する。定格出力まで各段階の出力で試験を行った後は、今年の後半にも同国で25基目の商業炉として営業運転を開始する予定である。同炉では、1990年代に米コンバッション・エンジニアリング(CE)社(当時)が開発した130万kW級PWR設計「システム80+」をベースに、韓国電力公社(KEPCO)の主導で開発した第3世代の140万kW級PWR設計「改良型加圧水型炉(APR1400)」を採用。KHNP社の発表によると、新ハヌル1号機では原子炉冷却材ポンプや計測制御システムなどが国産化されており、同炉によって韓国は原子力技術の自立を成し遂げたと強調している。また、同設計を欧州向けに修正した「EU-APR」は2017年10月、欧州の電力企業16社が定めた安全基準「欧州電気事業者要件(EUR)」の審査をパス。2018年9月には、米原子力規制委員会(NRC)が同委スタッフによる承認として同設計に「標準設計承認(SDA)」を発給したほか、翌2019年8月にはNRCの安全・規制要件をすべて満たした設計として、「設計認証(DC)」を発給している。韓国ではすでに、同設計を採用した新古里3、4号機がそれぞれ2016年12月と2019年8月に営業運転を開始しており、新ハヌル1号機は国内で3基目の「APR1400」となった。また、後続の「APR1400」として、新ハヌル2号機、および新古里5、6号機も建設中である。国外では、アラブ首長国連邦(UAE)で建設中のバラカ原子力発電所(「APR1400」×4基)で同設計が採用されており、2021年4月に1号機、今年3月に2号機が営業運転を開始した。これに続く輸出案件とするため、KHNP社は今年4月、ポーランドに6基の「APR1400」建設を提案している。なお、韓国では今月10日にユン・ソンニョル(尹錫悦)政権が誕生しており、これに先立ち大統領職の引き継ぎ委員会が発表した「国政ビジョン」では、脱原子力政策の破棄が明記された模様。今後各省庁における追加の議論を経て正式に確定する。ムン・ジェイン(文在寅)前大統領が始めた脱原子力政策では、2017年の「エネルギー転換(脱原子力)ロードマップ」と「第8次電力需給基本計画」に基づき、新ハヌル3、4号機と天地1、2号機、およびサイトと呼称が未定だった2基の建設計画が全面的に白紙化されている。(参照資料:KHNP社の発表資料(韓国語)、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの5月23日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
24 May 2022
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フランス電力(EDF)は5月19日、英国子会社のEDFエナジー社が同国で約20年ぶりの原子力発電所として建設しているヒンクリーポイントC(HPC)発電所(172万kWの欧州加圧水型炉=EPR×2基)について、1号機の送電開始日程を前回2021年1月の予測からさらに1年先送りし、2027年6月に設定したと発表した。総工費に関しても、建設プロジェクトの最終投資判断(FID)を下した2016年9月当時、EDFエナジー社は196億ポンド(約3兆1,400億円)と試算していたが、2019年9月にこの数値を215億~225億ポンド(約3兆5,200億~3兆6,000億円)に改訂。2021年1月時点の見積もりでは220億~230億ポンド(約3兆5,300億~3兆7,000億円)に拡大しており、今回の日程先送りにともなう金額は250億~260億ポンド(約4兆~4兆1,700億円)に増加した。しかしEDFは、「同プロジェクトでは差金決済取引(CfD)((電力取引において、売電側と買電側で事前に一定の「行使価格」を設定。電力市場価格が行使価格を上回った場合、売電側がその差額を買電側に支払う一方、電力市場価格が行使価格を下回った場合は、買電側がその差額を売電側に支払う。))が適用されるため、英国民が支払う電気代に影響はない」と強調している。2018年12月の1号機着工以降、EDFエナジー社はコロナ禍においても建設を継続。2019年12月には2号機の建設工事も開始し、EDFは適宜スケジュールとコストを見直している。その結果、同社は2021年1月に、1号機で当初予定していた送電開始を2025年末から2026年6月に延期すると発表、今回はその日程をさらに先送りする判断を下した。また今後、新たな感染拡大の波やウクライナでの戦争がこれ以上影響を及ぼさないと仮定した場合でも、これら2基の作業がさらに15か月遅延する可能性があると指摘。今回の見直し作業においては、電気機器関係の作業と最終試験のスケジュールとコストは考慮しなかったとしている。コロナ禍で建設工事を継続した成果として、EDFは「サプライチェーンの健全性が保たれたほか、いくつかの重要な節目の作業が完了した」と指摘した。しかし、人的資源や資金、サプライチェーンが大きな制約を受けたのも事実であり、作業効率が低下。作業量などが増加し、延期の要因になったという。なお、同プロジェクトで次に実施する節目の作業として、EDFは2023年第2四半期に格納容器ドーム屋根の吊り上げと設置を予定している。(参照資料:EDFエナジー社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの5月20日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
23 May 2022
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カナダのサスカチュワン州政府が一部出資する「サスカチュワン研究評議会(SRC)」と、米ウェスチングハウス(WH)社のカナダ法人は5月18日、同州内におけるWH社製マイクロ原子炉「eVinci」(電気出力0.5万kW)の建設に向けて、協力覚書を締結したと発表した。SRCはカナダで第2位の規模を持つ技術研究関係の公共企業体で、農業・バイオテクノロジーやエネルギー、環境、および鉱業の分野で世界中の顧客に科学的なソリューションを提供中。同州中央部のサスカトゥーン市にあるSRC環境分析研究所では、1981年3月から2021年11月まで電気出力20 kWの研究炉「SLOWPOKE-2」を運転した経験もある。WH社の「eVinci」は遠隔地や鉱山等における熱電併給を目的としており、設計寿命は40年間。10年以上燃料交換なしで運転することが可能で、炉外復水器となる部分の周囲にチューブを環状に巻き付け、主要熱交換器とする設計である。両者は将来的にサスカチュワン州内で、「eVinci」をエネルギー利用を含む様々な分野で活用するための試験を実施する。安全で輸送も容易な「eVinci」を使い、同州のクリーンエネルギー生産について、ニーズに即した解決策を生み出したいとしている。サスカチュワン州は今年3月、オンタリオ州とニューブランズウィック州およびアルバータ州とともに、4州が協力して小型モジュール炉(SMR)を開発・建設するための共同戦略計画を策定した。将来的にカナダのSMR技術や専門的知見を世界中に輸出していくのが目的で、ウラン資源に恵まれたサスカチュワン州では今のところ原子力発電設備は存在しないが、オンタリオ州で2028年までに送電網への接続が可能な出力30万kWのSMRを完成させた後、サスカチュワン州で後続のSMRを建設する計画が設定されている。今回の覚書締結について、同州のJ.ハリソンSRC担当相は「SRCでは38年間にわたって『SLOWPOKE-2』研究炉を運転した実績があるので、この経験を新たな技術であるマイクロ原子炉に生かしたい」と述べた。D.モーガン州営電力担当相も「近代的な原子炉設計には、州民が日々必要とするクリーンで安全なベースロード電源を提供する能力がある」と指摘。サスカチュワン州内で原子力発電開発を進めていけば、州内送電網の近代化が促されるだけでなく、数10億ドル規模の経済活動が州内で新たにもたらされると強調した。「eVinci」については、米エネルギー省(DOE)が2020年12月、官民のコスト分担方式で進めている「先進的原子炉実証プログラム(ARDP)」の支援対象に選定。7年間に総額930万ドル(このうち740万ドルをDOEが負担)を投じて、2024年までに実証炉の建設を目指している。一方、カナダにおいては2018年2月、WH社が同設計について「ベンダー設計審査(予備的設計評価サービス)」の実施をカナダ原子力安全委員会(CNSC)に申請したが、実施条件等で両者が協議中で審査はまだ始まっていない。それでもカナダ政府は今年3月、「eVinci」を将来カナダ国内で建設するため、イノベーション・科学・研究開発省の「戦略的技術革新基金(SIF)」から、2,720万カナダドル(約27億円)をWH社のカナダ法人に投資すると発表した。この投資を通じてカナダ国内の技術革新を促進し、SMR技術が持つ「いつでも利用可能で運搬も容易な低炭素エネルギー源」という特質を活用、カナダ経済への多大な貢献を期待するとともに、同国が目標とする「2050年までにCO2排出量を実質ゼロ化」の達成で一助としたい考えだ。(参照資料:SRCおよびWH社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの5月19日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
20 May 2022
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石油精製事業や通信事業を主軸とする韓国の大手財閥企業SKグループは5月17日、持ち株会社のSK社(SK Inc.)とそのエネルギー関係子会社のSKイノベーション社(SK Innovation)が、米国の原子力開発ベンチャー企業のテラパワー社と包括的な事業協力を実施するための了解覚書を締結したと発表した。ビル・ゲイツ氏が会長を務めるテラパワー社は現在、GE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社と共同で、第4世代の原子力技術であるナトリウム冷却の小型高速炉「Natrium」、および同炉と溶融塩熱貯蔵システムを組み合わせた「ナトリウム電力貯蔵システム」を開発している。SK社らは、無炭素なエネルギーミックスの現実的な選択肢となる小型モジュール炉(SMR)の技術を確保し、その商業化に協力することで韓国における次世代原子力産業の発展を支援。CO2排出量の削減という世界レベルの目標達成にも貢献し、SKイノベーション社が提供するエネルギー商品の脱炭素化も進めていく考えである。今回の発表によると、SKグループは昨年以来、地球温暖化の防止で「2030年までに全世界におけるCO2削減目標量の1%削減に寄与する」ことを目標に掲げている。同グループはCO2を排出しない安全な電源としてSMRの競争力に注目しており、「複雑な安全装置を使わず自然循環方式で原子炉の冷却が可能なほか、設計・建設方法の簡素化により設置と運転にかかるコストも削減できる」と指摘。SMRを前記目標達成の強力な選択肢に位置付けている。今回の覚書に基づいて、SK社らは今後、テラパワー社の次世代SMR技術や放射性同位体(RI)の生産能力を自らの事業領域と結び付け、様々な事業協力を展開していく。特に高い安全性に加えて、放射性廃棄物の排出量を大幅に削減できる燃料技術から、テラパワー社のナトリウム冷却高速炉(SFR)を、次世代SMR技術の中でも主力に位置付けられると高く評価している。SK社らはまた、輸送部門などあらゆる分野で電化が進み電力需要が急速に増加するなか、SMRは間欠性のある再生可能エネルギーを補完するなど、様々な可能性を持っていると表明。テラパワー社の溶融塩熱貯蔵システムが、電力需要に応じて発電量を調節可能な点を特に強調している。SK社らはこのほか、テラパワー社の技術で医療用放射性核種のアクチニウム225を製造できる点にも着目。アクチニウム225は、正常な細胞を傷つけずにガン細胞のみを破壊する「標的アルファ療法」で最も有効なRIと言われており、テラパワー社はアクチニウム225の製造・販売を通じて同療法の商業化加速を計画中である。(参照資料:SKグループの発表資料(韓国語)、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの5月17日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
19 May 2022
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エネルギー省(DOE)は5月13日、先進的原子炉の原子燃料や資機材、計測機器等の開発で重要な役割を担う「多目的試験炉(VTR)」の建設に向けて、環境影響声明書(EIS)の最終版(FEIS)を発表した。その中でDOEは、VTRを建設・運転するのに最も好ましいサイトとして、傘下のアイダホ国立研究所(INL)を特定。VTRの支援施設として可能な限りINLの既存設備を活用する方針だが、VTRで使用する燃料の製造サイトについては今のところ判断を下していない。DOEは今後も技術評価を継続し、燃料製造の好ましいサイト・オプションを特定するとしている。VTRはナトリウム冷却式の高速スペクトル中性子照射試験炉(熱出力30万kW)で、革新的な原子力技術の研究開発および実証を飛躍的に加速すると期待されている。DOEは米国が2050年までにCO2排出量の実質ゼロ化を達成する上でも、VTRは大きく貢献すると指摘。VTRの建設に関する最終決定は今年の後半に下す予定で、建設が決まった場合は議会が予算措置を講じるのを待って、2023年にも最終設計と建設工事を開始、2026年末までにVTRの運転を本格的に始める計画だ。DOEの発表によると、米国では過去30年近く高速炉タイプの中性子源や高速中性子の照射試験を行える施設が存在せず、そうした能力を有するロシアや中国、インドに遅れをとってきた。DOEの原子力局は高速スペクトル試験炉の必要性を指摘する複数の報告書を受け、2018年に「VTRプログラム」を設置。同年9月に成立した「2017年原子力技術革新法(NEICA2017)」でもVTRの必要性が強調されており、DOEは同法の指示に従って2019年2月にVTRの建設プロジェクトを発表している。翌2020年9月には、DOEはVTR建設に向けた次のステップとして「重要決定(CD)1」を承認した。研究インフラの設計・建設における意思決定プロセスでは、CD-1で施設の概念設計やコストの見積が認められており、環境影響調査の実施もこの中に含まれている。その後のCD-2で詳細設計、CD-3で建設開始、CD-4でVTRは運転開始に至る見通しである。EISは国家環境政策法(NEPA)に準じて作成されるもので、DOEはVTRの建設と運転、および燃料の製造が周辺のコミュニティや環境に及ぼす潜在的な影響を分析した。可能性がある3つの選択肢は、①「VTRと燃料製造施設をアイダホ州のINLに設置」、②「VTRのみをテネシー州のオークリッジ国立研究所(ORNL)に設置」、および③「燃料製造施設のみをサウスカロライナ州のサバンナリバー・サイト(SRS)に設置」。これらについて、VTRで行われる試料の照射後試験や、中間貯蔵と最終処分の実施に先立つ使用済燃料の調整と貯蔵、VTR燃料の原料調達と燃料ピンの製造および燃料集合体の組立、などの項目で影響評価を行った。DOEは2020年12月にEISの案文を公表しており、その後は案文に対するコメントを募集。インターネットを通じて公開ヒアリングを2回実施したほか、州政府や連邦政府の機関、および先住民を含む一般国民からも意見を聴取し、最終版を作成したとしている。(参照資料:DOEの発表資料①、②、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの5月16日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
18 May 2022
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英国のビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)は5月13日、原子力産業界における競争を促し英国全土で関係投資が行われるよう、新規の原子力発電所開発プロジェクトを支援する1億2,000万ポンド(約192億円)の補助金交付制度として、「未来原子力実現基金(Future Nuclear Enabling Fund=FNEF)」を立ち上げたと発表した。今年の後半にも補助金の交付を始めたいとしており、関係企業に対しては交付先を決める際に実施する入札への登録を済ませるよう依頼しているほか、新たな原子力発電所の開発プロジェクトに関する情報も募集。今回のFNEFへの応募を考えていない企業にも、自社の経験に基づく知見をFNEFの制度設計に反映するため提供することを希望している。7月から8月にかけて入札書を受領した後、英国政府は入札者の適格性試験を実施する予定で、その次の段階ではさらに詳細な評価作業も実施。交付条件等で双方が折り合えば、12月からFNEFの補助金を交付するとしている。FNEFの設置は、BEISが今年4月に発表した英国の新しい「エネルギー供給戦略」の中で約束していたもので、2030年までに新しい原子炉8基の建設承認を済ませるという英国政府の意欲的な計画を実現するため、原子力市場への新たな参入希望者を奨励するとともに、新しい原子力技術の開発加速で投資を促す。このため、小型モジュール炉(SMR)を含む新規の原子力建設プロジェクトに補助金を交付する際は、的を絞った上でプロジェクト同士が競合することの利点を発揮するよう入札を設定し、その実現に向けて民間投資を呼び込む方針である。BEISは、原子力発電が英国エネルギーミックスの重要部分を担うと考えており、世界の天然ガス市場における英国の依存度を下げるとともにエネルギーの自給を改善すると指摘。英国民も原子力によって高いエネルギー料金を払わずに済むことから、将来のクリーンエネルギー技術の一つとして原子力への投資を促進する。FNEFはそれを支援するための制度であり、英国のあらゆる地域で新規建設の機会を提供し雇用を創出、国内の原子力サプライチェーンではこれにより、レジリエンス(供給力の一時的な低下等からの回復力)の強化と、関係機器の製造能力増強が図られる。BEISは今回、FNEFと同様に設置すると約束している新しい政府組織「大英原子力推進機関(Great British Nuclear=GBN)」の立ち上げ計画を練るため、産業アドバイザーとしてバブコック・インターナショナル・グループで原子力担当CEOを務めていたS.ボウウェン氏を起用すると発表した。GBNは一年に1基という早いペースの新規原子力発電所開発プロセスを支援するための組織で、「エネルギー供給戦略」に明記された目標「2050年までに原子力で最大2,400万kWの発電設備」の実現に向けて活動する。GBNを通じて英国政府は2023年から、最も有望な原子力新設プロジェクトをさらに選定する作業や事業者との交渉を開始する方針。ウェールズのアングルシー島にあるウィルファ・サイトへの支援も含め、英国政府はFNEFを通じた支援を出来るだけ早急に可能にしたいとしている。(参照資料:英国政府の発表資料①、②、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの5月13日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
17 May 2022
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米メリーランド州で次世代の原子力技術を開発しているX-エナジー社と、原子力発電所のあらゆる側面でサービスを提供している英国のキャベンディッシュ・ニュークリア社は5月11日、英国内でX-エナジー社製の高温ガス炉(HTGR)を建設するため、協力覚書を締結したと発表した。X-エナジー社は現在、小型のペブルベッド式HTGR「Xe-100」を開発中。電気出力8万kWのHTGRを4基連結することで、出力を32万kWまで拡大できる。X-エナジー社はこのようなHTGR設計を通じて、電力や産業用の熱生産、大規模な水素製造等で脱炭素化を促進するなど、世界中で高まりつつあるクリーン・エネルギーの需要に応えられると考えている。米国内では2027年以降に初号機を建設する計画で、英国での建設はそれ以降になるとしている。英国ではビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)が2021年12月、2030年代初頭の実証を目指して建設する先進的モジュール式原子炉(AMR)技術として、高温ガス炉(HTGR)を選択した。柔軟性の高い活用が可能な原子炉開発予算3億8,500万ポンド(約605億円)のうち、1億7,000万ポンド(約267億円)を「AMRの研究開発・実証プログラム」に投じ、HTGRの初号機を建設する考えだ。BEISはまた、今年4月に新しい「エネルギー供給保証戦略」を発表しており、この中で原子力開発における3つの方向性として、100万kW級の大型炉のほかに小型モジュール炉(SMR)、およびHTGRなどのAMR(*)を開発する方針を示している。米英の2社による今回の共同発表によると、HTGRの開発と建設に関する両社の協力は、「これら3つの方向性すべてに貢献する」というキャベンディッシュ・ニュークリア社の方針を支えるとともに、英国のエネルギー供給保証を一層確実なものとし、2050年までに英国がCO2排出量の実質ゼロ化を達成する一助になる。両社はまた、英国の原子力サプライチェーンにも、新たなビジネスの機会が相当量創出されると強調している。キャベンディッシュ・ニュークリア社は「世界をリードする米国の原子炉技術と、当社のプロジェクト統合能力や機器の製造・モジュール化技術、運転保守(O&M)能力などを組み合わせることで、双方の豊富な経験と幅広い専門的知見が一つにまとまり、英国でHTGRを開発・建設するための絶好の機会が生み出される」と表明した。「Xe-100」に関連する動きとしては、米エネルギー省(DOE)は2020年10月、「先進的原子炉設計の実証プログラム(ARDP)」における7年間の支援対象企業の一つとしてX-エナジー社を選定。米国内では、ワシントン州の2つの公益電気事業者(グラント郡PUDとエナジー・ノースウエスト社)が、「Xe-100」をエナジー・ノースウエスト社保有のコロンビア原子力発電所と同じサイト内で建設することを計画している。同設計についてはまた、カナダ原子力安全委員会(CNSC)が2020年8月から予備的設計評価(ベンダー設計審査)を実施中。建設・運転許可の取得に向けた正式な申請手続に先立ち、同設計がカナダの規制要件を満たしているか、X-エナジー社の要請に基づいて評価している。さらに、ヨルダンが2030年までに「Xe-100」を国内で4基建設することを希望しており、X-エナジー社とヨルダン原子力委員会は2019年11月、基本合意書を交わしている。【注*】BEISは既存世代の原子力発電所の後に出現する新しい原子炉技術の説明としては、一般的に理解されている「SMR」という表現では意味が狭すぎると考えており、①水で冷却する方式の第3世代SMR:既存の原子力発電所と似たタイプの技術で出力が小さい、②新たな冷却システムや燃料を使う第4世代以降の新型モジュール式原子炉:産業プロセス熱などの新機能を提供できる――などの2グループに分類している。(参照資料:X-エナジー社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの5月11日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
13 May 2022
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米ワイオミング州の州政府は5月4日、西側に隣接するアイダホ州の国立研究所(INL)と先進的原子力技術等の研究開発や実証・建設で協力するため、INLの管理・運営を担当しているバッテル・エナジー・アライアンス(BEA)社と了解覚書を締結した。ワイオミング州では2021年6月、ビル・ゲイツ氏が会長を務める原子力開発ベンチャー企業のテラパワー社が、GE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社と共同開発しているナトリウム冷却高速炉「ナトリウム(Natrium)」の実証炉建設について、同州のM.ゴードン知事、および同州を含む西部6州に電力供給しているパシフィコープ社の3者が協力することで合意。同年11月には、テラパワー社は実証炉の建設に適したサイトとして、同州南西部のケンメラー(Kemmerer)市にある(閉鎖予定の)石炭火力発電所を選定している。こうした背景から、ワイオミング州は今回の覚書を通じて、原子力を含む先進的エネルギー技術の開発でINLの見識や能力、戦略等を活用。将来的に堅固で持続可能な州経済の基盤を実現するとともに、先進的なエネルギー技術で同州と米国がリーダー的地位を確立できるよう努めていく。具体的な協力分野としては、先進的原子炉技術とその活用、全般的な原子燃料サイクル、原子力関係機器の製造、水素の製造・輸送・消費とその産業利用、原子炉を組み込んだ先進的な無炭素エネルギーの生産と活用、およびその他の先進的エネルギーシステムを挙げている。また、州内のウラン産業を含む原子力産業に従事する従業員の教育・訓練についても、協力を促進していく方針だ。5年間有効な今回の覚書について、ワイオミング州政府は「米国の国策産業ではINLが長年にわたりリーダー的役割を果たしてきた一方、当州には米国全土に安価で確実なエネルギーを提供可能なインフラや専門技術、天然資源がある」と指摘。世界市場が低炭素なエネルギーに向けて移行していくなか、覚書の締結はワイオミング州が引き続き、そのための解決策を提供していくことを示しているとした。同州のゴードン知事は、「『ナトリウム計画』の誘致は大きなキッカケとなったが、私の目標は州内のウラン資源や労働力、技術力を活かして原子力産業を根付かせることだ」と表明。今回の覚書によって、この目標の達成が促進されると述べた。ワイオミング・エネルギー機関(WEA)のG.ミュレル事務局長も、「今後数年間で両者の連携関係が正式に形作られる」と指摘。「INLの専門的知見は、ワイオミング州が進める『あらゆるエネルギーを活用する戦略』において重要な役割を果たすだろう」としている。(参照資料:ワイオミング州の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの5月9日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
12 May 2022
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バッテンフォール社とWH社の幹部による燃料供給契約 ©Westinghouseスウェーデンのバッテンフォール社は5月5日、国内の2サイト・5基の商業炉で2024年以降に使用する燃料を確保するため、米ウェスチングハウス(WH)社および仏フラマトム社の2社と、長期の燃料供給契約を新たに締結したと発表した。同社は2016年12月、保有するリングハルス(100万kW級のPWR×2基)とフォルスマルク(100万kW級のBWR×3基)の両原子力発電所用に、WH社とアレバ社(当時)に加えて、ロシアのTVEL社からも2018年から2025年までの期間、3社の合計で約12億クローナ(約156億円)の燃料供給を受ける契約を締結していた。しかし、2月24日にロシアがウクライナに軍事侵攻したのを受け、同社は即日、「新たな方針が決まるまでロシアからの燃料供給を停止する」と発表。その際、新しい供給契約についても「ロシアと結ぶ予定はない」と明言しており、ロシアによる軍事侵攻と欧州における深刻な安全保障状況を深く憂慮していた。バッテンフォール社は今回、「信頼出来る2社との協力を継続出来ることに非常に満足している」と表明。同社は関係資機材の調達について、個別の企業や国家に依存しない戦略を堅持しており、原子力発電所の燃料は異なる国の複数サプライヤーから調達している。商業炉毎に有資格のサプライヤーを少なくとも2社確保する方針で、サプライヤーの評価と決定については技術面と商業面における同社の基準、および持続可能なサプライチェーンという観点から判断を下している。バッテンフォール社はまた、欧州原子力共同体(ユーラトム)の供給局(ESA)、および国際原子力機関(IAEA)の規制や指針に沿って燃料関係の取引を行っており、米仏の2社については、「ともに当社の燃料供給規約に適合している」と強調した。なお、WH社は同じく5月5日、同社のスウェーデン支社が同国中部のバステラスにある最新鋭の燃料製造施設で、バッテンフォール社向けの燃料を引き続き製造・納入することになったと発表した。「スウェーデンの燃料供給保証に今後も貢献できることを嬉しく思う」とした上で、同社が燃料製造の分野で有する広範な知見と革新的な技術により、安全で信頼性の高い無炭素なエネルギーをスウェーデンにもたらしたいとしている。(参照資料:バッテンフォール社の発表資料①、②、③、WH社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、ほか)
11 May 2022
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ベルギーの大手エンジニアリング・コンサルティング企業であるトラクテベル社は5月6日、フランス電力(EDF)が原子力・代替エネルギー庁(CEA)などと協力して開発している小型モジュール炉(SMR)「NUWARD」の建設を支援するため、概念設計調査を実施すると発表した。2030年からEDFが「NUWARD」実証プラントの建設に取り掛かる計画であるため、トラクテベル社は今回、フランス中部のトゥールにあるEDFのエンジニアリング・センター(CNEPE)と契約を締結。SMR関係のエンジニアリング・サービスを提供して欧州初のSMR建設をサポートするほか、EDFらが「NUWARD」等の建設を通じて目指している「2050年までのCO2排出量の実質ゼロ化」や、安全で安価な電力供給にも貢献したいとしている。トラクテベル社はこれまでに、ベルギーで稼働する原子炉7基中6基の建設でアーキテクト・エンジニアを務めたほか、世界中の多様な原子力開発プロジェクトにおいてもエンジニアリング企業として活動。2020年12月にはSMRに関する同社の将来展望を公表し、SMR事業をエネルギー問題の総合的解決策として重点的に推進していく方針を表明している。一方のEDFは2019年9月、CEAおよび戦略的下請け企業である政府系造船企業のネイバル・グループ、小型炉専門開発企業のテクニカトム(TechnicAtome)社とともに、フランスで50年以上の経験が蓄積された最高レベルのPWR技術に基づく「NUWARD」を発表した。出力17万kWの小型PWR×2基で構成される「NUWARD」プラントの合計出力は34万kWで、高圧の送電網が届かない遠隔地域の需要に応えるほか、間欠性のある再生可能エネルギー源を補完。EDFが主導するNUWARD企業連合にはフラマトム社も加わっており、2020年代後半にも競争力を備えたソリューションとして「NUWARD」を世界市場に送り出す方針である。トラクテベル社が今回、EDFと締結した契約は今年の10月まで有効で、同社のエンジニアはすでに複数の設計オプションに関して技術面や経済面の調査を実施した。またこの契約に基づき、取水口やサービス・システム等の補助的周辺機器やタービン系の一部、およびこれらのシステムを格納する建屋の3Dモデリング等について概念設計調査を実施する。さらに、入手したデータが複数のパートナー企業間で明確かつ適時に共有されるよう、同社の専門家がパートナー企業間の連絡管理も行う方針。同社はこのほか、予備的な土木調査やコスト評価についても責任を負うことになっており、「NUWARD」プロジェクトに参加するその他のパートナー企業と連携して、サイトのレイアウト設計図も作成する考えだ。なお同プロジェクトでは、概念設計段階に続いて2023年から基本設計段階に入るため、トラクテベル社はこの段階でもEDFをサポートできるよう方策を手配中。その中でも特に、システム調査や土木・レイアウト設計に関する調査、および電気関係や許認可関係の調査を行いたいとしている。(参照資料:トラクテベル社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの5月9日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
10 May 2022
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中国広核集団有限公司(CGN)は5月2日、遼寧省の紅沿河(ホンヤンフ)原子力発電所で建設していた6号機(PWR、111.9万kW)を同日の午後、初めて国内送電網に接続したと発表した。接続プロセスの中で、6号機のパラメーターはすべて正常かつ安定しており、良好な状態。建設工事は最終負荷試験の段階に入り、168時間の試運転など各種の起動試験を経て、今年の後半にも営業運転を開始する見通しである。同発電所では、同型の5号機が2021年7月末、同国内51基目の商業炉として営業運転を開始した。同年12月、山東省では華能山東石島湾原子力発電所(ペブルベッド型モジュール式高温ガス炉の実証炉、21.1万kW)が送電開始し、今年3月には福建省の福清原子力発電所6号機(「華龍一号」、115万kW)が営業運転を開始。紅沿河6号機はこれらに次いで、中国で54基目の商業炉になると見られている。紅沿河5、6号機は同発電所のⅡ期工事に相当し、第3世代炉に分類される「ACPR1000」設計を採用。同設計は1~4号機で採用された第2世代改良型の「CPR1000」と同様、フランスのPWR技術をベースにCGNが開発したものである。Ⅱ期工事の建設は中国・東北地方の振興を支援する重大施策の一つに位置付けられており、同地方のエネルギー構造の合理化を目指すとともに環境汚染対策の一つにもなっている。紅沿河Ⅱ期工事はまた、2011年3月の福島第一原子力発電所事故以降、CGNが国家発展改革委員会から2015年3月に初めて承認を受けた新規の原子炉建設計画。同発電所の建設と運営・管理は、CGN傘下の遼寧紅沿河核電公司(LHNPC)が担当しており、CGNと国家電力投資集団公司が45%ずつ出資。残りの10%は大連建設集団公司が出資している。LHNPC は2015年3月に5号機を着工したのに続き、同年7月に6号機の建設工事を本格的に開始。今年の3月25日から28日にかけて、LHNPCは生態環境省・国家核安全局(NNSA)による監督の下、6号機に157体の燃料集合体を装荷、4月21日には同炉で初めて臨界条件を達成していた。(参照資料:CGN、LHNPCの発表資料(中国語)、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの5月4日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
09 May 2022
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フィンランドのフェンノボイマ社は5月2日、中西部のピュハヨキで進めていたハンヒキビ原子力発電所1号機(120万kW級ロシア型PWR)の建設計画で、ロシアのRAOSプロジェクト社と結んでいたEPC(設計・調達・建設)契約を解除すると発表した。理由として同社は、ロシアの原子力総合企業ロスアトム社傘下の総合建設請負業者であるRAOSプロジェクト社の作業が非常に遅く、プロジェクトの実施能力が欠如していると指摘。ここ数年は作業の遅れが拡大してきており、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻はプロジェクトのリスクをさらに高めている。RAOSプロジェクト社には、このようなリスクの影響を緩和する能力はないとフェンノボイマ社は強調している。今回の決定にともない、同社とRAOSプロジェクト社の協力関係は直ちに打ち切られ、ハンヒキビ1号機について進められてきた設計作業や許認可の取得手続き、およびサイトでの作業もすべて終了する。ハンヒキビ1号機の建設計画については2013年2月、大型炉設計を採用した場合の直接交渉権が東芝に与えられている。しかし、ロスアトム社の国際事業部門であるルスアトム・オーバーシーズ社が、フィンランドに設立する子会社を通じてフェンノボイマ社株の34%引き受けを約束したことから、フェンノボイマ社は2013年12月に最終的にルスアトム・オーバーシーズ社と原子炉供給契約を締結。2015年6月には発電所の建設許可申請書を雇用経済省に提出しており、2016年1月にピュハヨキのサイトで基礎掘削を実施した。また、建設許可の取得に先立ち2020年6月からは管理棟の建設工事も始まっていたが、今年の3月末、電力を多く消費する企業約60社で構成されるボイマ・オサケイティエ・グループを通じて、フェンノボイマ社に一部出資しているヘルシンキ郡のバンター市はプロジェクトからの撤退を表明。同市は「ロシアの軍事侵攻によりプロジェクトの実施は不透明になった」と指摘しており、「ロシアと長い国境を接するフィンランドの安全保障、フィンランド政府の声明や政府と欧州連合によるロシアへの制裁表明などを照らし合わせると、建設許可を取得するのはもはや不可能だ」と述べた。このほか、フィンランド南西部のトゥルク市も同様に撤退を検討中であると伝えられていた。今回の決定について、フェンノボイマ社のJ.シュペヒトCEOは、「当社の従業員や建設サイトのピュハヨキ地域、およびサプライチェーン企業への影響が大きいので、その対応でこれらの代表者らと緊密に連携していくほか、建設サイトの温存にも注力していく」と述べた。また、同社取締役会のE.ハルマラ会長は、「EPC契約の解除を決めるのは簡単なことではなかった」と説明。「複雑な要素が多数関係する大型プロジェクトということで徹底的に検討した末の判断であり、マイナスの影響を全面的に受け入れて、その緩和に全力を尽くすのみだ」としている。一方、EPC契約を打ち切られたロスアトム社は同日、「極めて残念な決定であり、その理由も全く理解しがたい」とコメント。その上で「フェンノボイマ社の執行部が、同社株を34%も保有する当社のプロジェクト関係者と詳細な協議も行わずに打ち切りを決定したという事実を明確にしておきたい」と述べた。また、「建設プロジェクトは順調に進展していたし、当社との提携関係も良好だった」と指摘。ロスアトム社によると、RAOSプロジェクト社は建設許可の取得に必要な文書の準備など、すべての義務事項を細心の注意を払って履行。そのお蔭でフェンノボイマ社は、すでに98%以上の重要文書をフィンランド放射線・原子力安全庁(STUK)に提出済みであり、5月までの2か月間ですべての文書の提出を終える予定だった。ロスアトム社としては、国際協力活動のなかで義務事項を無条件に履行するという原則を厳格に全うしつつ、適切な法令や契約に従って自らの権益を守りたいとしている。(参照資料:フェンノボイマ社、ロスアトム社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの5月3日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
06 May 2022
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フィンランド南西部のオルキルオト原子力発電所で、3号機(OL3)(出力172万kWの欧州加圧水型炉=EPR)を建設中のティオリスーデン・ボイマ社(TVO)は4月29日、同炉で7月末に予定されていた営業運転の開始スケジュールが9月に延期になったと発表した。これは、建設工事を請け負っている仏アレバ社および独シーメンス社の企業連合からTVOに伝えられたもので、理由はOL3の冷却系で3週間程度の機器点検・修理が必要になったためと説明している。2005年に着工したOL3は、約17年間に及んだ建設工事を経て2021年12月に臨界条件を達成し、今年3月には欧州初のフラマトム社製EPRとして送電を開始した。その際、約4か月の試運転期間に出力を定格まで徐々に上げていくとしていたが、試運転段階のこれまでの経験に基づき、さらなる試験と分析に必要な時間を追加で確保したとしている。TVOの発表によると、OL3では試運転プログラムに沿って4月26日に計画停止する際、核分裂の連鎖反応を制御しているホウ素の注入ポンプが不意に作動した。緊急停止信号の誤作動によるものと見られているが、同炉は現在安全な状態にあるほか周辺住民や環境への影響もなく、TVOはこの現象の発生原因を詳しく調査中。自動信号システムのエラーを修理することになるが、営業運転開始スケジュールの延期とは無関係だと強調している。OL3は世界で初めてEPR設計を採用して着工した原子炉で、運転の開始は当初、2009年に予定されていた。しかし、技術的な課題が次々と浮上したためこのスケジュールに大幅な遅れが生じ、コストもターンキー契約による固定価格の約30億ユーロ(約4,100億円)が倍以上に拡大した。2007年にはフランスで、同じくEPRを採用したフラマンビル原子力発電所3号機(FL3)(165万kW)が着工されたが、FL3でもOL3と同様、様々なトラブルにより建設工事が遅延。FL3では現在、2023年の第2四半期に燃料の初装荷が予定されている。一方、中国・広東省で2009年11月と2010年4月に着工した台山原子力発電所1、2号機(各175万kW)では、これらの先行計画における作業経験が生かされ、世界初のEPRとしてそれぞれ2018年12月と2019年9月に営業運転を開始した。また、英国・南西部サマセット州では、同じくEPRを採用したヒンクリーポイントC原子力発電所1、2号機(各172万kWのEPR)が、それぞれ2018年12月と2019年12月から建設中。同国ではさらに南東部のサフォーク州でも、サイズウェルC原子力発電所として160万~170万kWのEPRを2基建設する計画について協議が行われている。(参照資料:TVOの発表資料①、②、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの4月29日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
02 May 2022
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中国の国務院は李克強首相が議長を務める4月20日の常務委員会で、浙江省の三門原子力発電所と山東省の海陽原子力発電所、および広東省で計画されている陸豊原子力発電所で、新たに大型炉を合計6基建設する計画を承認した。常務委員会は議論の中で、エネルギーは社会経済的な発展を支える基盤であると指摘。その発展に必要な条件が十分整った中で、エネルギー開発プロジェクトを先々まで計画・準備し、前に進めることが重要だとしている。三門と海陽の両サイトでは2018年から2019年にかけて、ウェスチングハウス(WH)社製の120万kW級AP1000が2基ずつ営業運転を開始。WH社は4月26日付けの発表の中で、「当社製AP1000の建設が中国で新たに4基決まったことを歓迎する」とコメントした。これにより、世界のAP1000は米国で建設中のものを含め合計10基になるとした上で、「現在中国で稼働するAP1000は最も進んだ実証済みの技術を採用しており、稼働率その他の性能指標で記録的な高実績を蓄積。米国と中国は、安全でクリーンかつ信頼性の高いベースロード用電源であるAP1000技術の実証で、それぞれがリーダー的役割を果たしている」と述べた。同社はまた、「既存のAP1000のこのように素晴らしい実績を最大限に活用することにより、新しい4基の建設プロジェクトがコストと工期の両面で魅力的なものになることを期待する」と表明。今後建設されるAP1000の建設コストと工期については、マサチューセッツ工科大学が近年の報告書で、どちらも圧縮可能と結論付けている点に言及した。一方、中国広核集団有限公司(CGN)が建設を計画中の陸豊原子力発電所に関しては、深圳の証券取引所が4月21日付の公告で「国務院が陸豊5、6号機の建設を承認した」と発表している。同発電所では今のところ、1~4号機は建設されていないが、公告は5、6号機について「120万kW級の『華龍一号』設計を採用する」と明記。国家核安全局(NNSA)が建設許可を発給し次第、着工が可能だとしている。今回の発表の中で国務院は、「安全性の確保と厳しい監督管理を前提に、適切なペースで原子力発電開発を進めていく方針であり、長年にわたる準備活動と包括的な評価結果に基づいて今回、国家計画で特定されていた3地点での新規建設を許可した」と説明。李克強首相は「原子力発電では絶対的な安全確保を保証しなければならず、それには効果的な規制が必要だ」と述べた。なお、国務院の3月24日の発表によると、国家発展改革委員会の能源局が同月22日、第14次5か年計画(2021年~2025年)に基づく近代的なエネルギーシステムの計画について発表した。その中で、中国は2025年までに非化石燃料によるエネルギー消費量を約20%まで上げていくほか、発電量については約39%にすると明記。原子力に関しては、安全性の確保に留意しつつ沿岸部の建設計画を着実に進めていき、現在約5,000万kWの原子力設備容量は2025年までに7,000万kWに達する見通しを示している。(参照資料:中国国務院①、②とWH社、および深圳証券取引所(中国語)の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの4月21日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
28 Apr 2022
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韓国の斗山エナビリティ社(=Doosan Enerbility、今年3月に「斗山重工業」から社名変更)は4月25日、米ニュースケール・パワー社が開発した小型モジュール炉(SMR)「ニュースケール・パワー・モジュール(NPM)」の最初の発電所を建設するため、主要機器の製造を本格的に開始する契約を同社と締結した。早ければ今年中にもNPMの原子炉圧力容器の鍛造材生産を始め、2023年の後半から本格的な機器製造を開始する。出力7.7万kWのモジュールを6基備えたNPM発電所「VOYGR-6」は、ユタ州公営共同電力事業体(UAMPS)が米アイダホ国立研究所の敷地内で建設を計画中。最初のモジュールを2029年までに完成させるため、2024年の前半に建設・運転一括認可(COL)を原子力規制委員会(NRC)に申請し、2026年前半に認可を受けて建設工事を始めたいとしている。ニュースケール社が開発した(1モジュール当たりの出力が5万kWの)NPMは、今のところ米国で唯一NRCから標準設計承認(SDA)を取得したSMR。同社は出力7.7万kW版のモジュールについても、SDAを2022年第4四半期に申請する予定である。斗山エナビリティ社は2019年からニュースケール社に対する金融投資企業に加わっており、4,400万ドルの株式投資を現金で実施した。2021年7月にはこれに加えて新たな株式投資を行うと発表、その他の韓国投資家グループとともに同社が行った投資の総額は1億380万ドルにのぼっている。これらを通じて、斗山エナビリティ社は数兆ウォン(1兆ウォン=約1,000億円)規模の機器や資材を供給する権利をニュースケール社から取得。2019年には同社から「SMRの製造可能性調査」を請け負っており、2021年1月にこのタスクを完了した。その結果に基づき斗山エナビリティ社は現在、建設スケジュールの遅延リスクを軽減するとともに確実なコスト設定が可能になるよう、NPM機器のプロトタイプを開発中である。斗山エナビリティ社の朴会長兼CEOは、「ニュースケール社との戦略的協力関係は継続的に強化してきており、今やSMRを製造する万全な準備が整った」と表明。市場ではSMRの需要が一層高まりつつあることから、同社の下請企業にも参加のチャンスがあるとしている。ニュースケール社のJ.ホプキンズ会長兼CEOは、「当社が最初のSMRを市場に出す最有力候補であることを世界中に示すことができた」と指摘。斗山エナビリティ社に対しては、「世界レベルの製造能力によって当社製SMRの商業化に大いに貢献して欲しい」と述べた。なお、今回の発表によると、ニュースケール社は斗山エナビリティ社以外にも、多くのパートナー企業と機器発注の調整を行うなど、サプライチェーンの確保準備中。米国を含む北米のみならず、欧州やアジアの顧客にもSMRを確実に販売していくため、国内外の複数のサプライヤーと契約締結に向けた協議を進めているとしている。(参照資料:斗山エナビリティ社、ニュースケール社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの4月25日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
27 Apr 2022
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韓国水力・原子力会社(KHNP)は4月22日、ポーランドが進めている大型原子力発電所の導入計画に対し、韓国製の140万kW級改良型PWR「APR1400」を6基(合計840万kW)建設する事業提案書を提出し、受注に向けた本格的な活動を開始したと発表した。ポーランドでは2021年2月、内閣が「2040年に向けたポーランドのエネルギー政策」を正式決定しており、改訂版の「ポーランドの原子力開発計画」では、2043年までに約100万kWの原子炉を6基、合計600万~900万kW建設することを計画。出力100万~150万kWの初号機を2033年までに運転開始した後、2年おきに残りの5基を完成させていくとしている。また、同国の国営エネルギー・グループ(PGE)が設立した原子力事業会社のPEJ社(=Polskie Elektrownie Jądrowe)は昨年12月、同国初の原子力発電所サイトとして、バルト海に面した北部ポモージェ県内のルビアトボ-コパリノ地区を選定。今年3月末には、同地区の環境影響評価(EIA)報告書を環境保護総局(GDOS)に提出したポーランドのこのような計画について、米国のウェスチングハウス(WH)社とフランス電力(EDF)はすでに個別に参加の意思を表明している。WH社は、米国とポーランド両国の政府が締結した「(ポーランドの)民生用原子力発電プログラムに関する政府間協力協定(IGA)」の2021年3月の発効、および米貿易開発庁(USTDA)による支援などを背景に、ポーランドへの技術移転も含めた包括的投資構想を策定中である。一方、EDFは2021年10月、ポーランド政府に対し、2~3サイトで4~6基(660万~990万kW)のフラマトム社製・欧州加圧水型炉(EPR)の建設を提案している。KHNP社の今回の発表によると、同社のナム・ヨシク副社長兼成長事業本部長率いる代表団が現地時間の21日、ポーランドで原子力発電所の導入事業に携わる気候環境省を訪問。同省のA.ギブルジェ-ツェトヴェルティンスキ次官、およびP.ナイムスキ戦略エネルギー・インフラ特任長官と会談した。その際、韓国・産業通商資源部(MOTIE)のムン・スンウク長官からの書簡を手渡しており、代表団はポーランドの原子力発電開発計画に沿って、2033年までに初号機が運転開始できるよう競争力のある価格で建設を進めると提案。「APR1400」に関しては、欧州の電力企業15社が定めた安全基準「欧州電気事業者要件(EUR)」や米原子力規制委員会(NRC)の安全要件など、国際的に最も厳しい安全基準を満たしていると説明した。代表団はまた、KHNP社が優れた事業管理能力や独自の優れた技術を保有していると強調。ポーランドのプロジェクト受注に向けた資金調達面も含め、韓国政府が同社を全面的に支援していることを伝えた。同社はこのほか、ポーランドでこれまでに開催した「韓国とポーランドの原子力発電フォーラム」や、両国企業間の「B2Bビジネス会合」、「APR会議2019」の模様を紹介。その際、ポーランド企業と結んだ多数の了解覚書を通じて協力関係をすでに構築済みであり、KHNP社はそれらを基盤にポーランド企業と協力して同国の原子力開発計画を進めていくと強調している。(参照資料:KHNP社(韓国語)、ポーランド気候環境省(ポーランド語)の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの4月25日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
26 Apr 2022
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米国のニュースケール・パワー社は4月22日、同社製の小型モジュール炉(SMR)「ニュースケール・パワー・モジュール(NPM)」を商業化する準備として、米国原子炉鍛造企業連合(RFC)と協力協定を締結したと発表した。世界中の顧客にSMRを提供していくに当たり、同社は国内の堅固な原子炉機器鍛造サプライチェーンを活用する方針である。このため同社は、鍛造品の溶接カ所削減や化学組成の調整、および合理的な製造に適した形状など、製造可能性を見直すための協力をRFCと実施。これにより、同社は国内サプライチェーンの製造能力を増強するほか、米国全体の製造業が雇用を維持・拡大していけるよう協力活動を進める方針である。ニュースケール社のNPMはPWRタイプの一体型SMRで、電気出力が5万kW~7.7万kWのモジュールを最大12基連結することで出力の調整が可能。米国の原子力規制委員会(NRC)は2020年9月、モジュール1基の出力が5万kWの「NPM」に対し、SMRとしては初めて「標準設計承認(SDA)」を発給した。出力7.7万kW版のモジュールについても、ニュースケール社はSDAを2022年の第4四半期に申請する計画である。最初のNPMの建設計画は、ユタ州公営共同事業体(UAMPS)がアイダホ国立研究所(INL)内で進めており、2023年の第2四半期までにNRCにCOLを申請し、2025年の後半までにこれを取得。2029年までに最初のモジュールの運転開始を目指している。ニュースケール社が1モジュール当たりの出力を7.7万kWに増強したのを受けUAMPSは2021年6月、建設するモジュール数を当初予定していた12モジュールから6モジュールに変更している。今回の発表によると、両者の協力は米エネルギー省(DOE)がクリーンエネルギー関係のサプライチェーン強化のため、今年2月に公表した「クリーンエネルギー社会への確実な移行に向けたサプライチェーンの確保戦略(America’s Strategy to Secure the Supply Chain for a Robust Clean Energy Transition)」に沿った内容となる。このため、連邦政府や関係する州政府からは、補助金が交付される見通しである。RFCは、北米フォージマスターズ(NAF)社とスコット・フォージ社、およびATIフォージド・プロダクツ社の3社で構成される企業連合。原子力グレードの鍛造品製造で高度な技術力を備えた3社が組み合わさることで、1ピースの重さが160トン以上という大型の合金やステンレス鋼の自由鍛造、継ぎ目のない圧延リングの製造、形状が特殊な鍛造品の製造などが可能になる。3社はこれまでに、NPMで使用する大型鍛造品の製造フィージビリティや設計の微調整関係で、ニュースケール社に協力した実績があると説明している。また、NAF社は近年、ペンシルベニア州にある「先進的原子力機器製造センター(CANM)」と協力関係にあり、SMRや先進的原子炉の原子炉容器や格納容器に使われるオーステナイト系ステンレス鋼について、研究プロジェクトを実施中。これにはペンシルベニア州政府が補助金を一部交付する予定で、NAF社は同社に出資しているスコット・フォージ社やその他の企業とともに、金属の溶解と鍛造、熱処理、鍛造品の粗削りや機械試験、非破壊検査などを実施する計画である。(参照資料:ニュースケール社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの4月22日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
25 Apr 2022
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国際エネルギー機関(IEA)は4月20日、加盟国であるベルギーのエネルギー政策を2016年以降、改めて詳細にレビューした報告書を公表した。IEAは、ベルギーでは化石燃料の輸入量を抑えるため、洋上風力その他のクリーンエネルギー設備を着実に拡大していると指摘。現行政策どおり2025年までに大部分の原子力発電所を廃止した後は、エネルギー供給保証上の懸念とCO2排出量の増加が見込まれるため、クリーンエネルギーへの移行をさらに大規模に進めるべきだと提言している。報告書によると、前回のエネルギー政策レビュー後、ベルギーは洋上風力発電開発の主要事業者となり、その設備容量は世界第6位に上昇、同国の狭小な領海内で大きな成果を上げている。同国は国際協力にも尽力しており、オランダのフローニンゲン天然ガス田における採掘が停止に向かうなか、天然ガスの供給量を十分に確保するため、オランダやドイツ、フランスなどと協調体制を取っている。しかしIEAによると、ベルギーは依然として化石燃料に依存。2020年実績で総エネルギー需要の46%を石油、27%を天然ガスで賄うなど、CO2排出量は微減に留まっている。ベルギー政府の「エネルギーと地球温暖化に関する長期戦略」では、パリ協定や欧州連合による設定目標の達成に向けた道筋に従うことになっているが、ベルギーでは国家目標として「2050年までにCO2排出量を実質ゼロ化する」ことを明記していない。こうしたことから、IEA報告書は「長期戦略を改訂し、2050年までに気候中立の達成を目指すと明確に誓約すべきだ」と勧告。F.ビロル事務局長も、「ベルギーはクリーンエネルギーへの移行でリーダーシップを発揮してきたが、今後数年の間に国内のエネルギーシステムをクリーンで確実かつ廉価なエネルギー源にシフトし、CO2排出量の大幅削減に力を入れるという断固たる決意が必要だ」と強調している。原子力に関しては、ベルギーではチョルノービリ原子力発電所事故後の2003年、緑の党を含む連立政権が「2025年までに脱原子力を達成する」と決定。既存の原子炉7基の運転期間も原則40年に制限されたが、伝統的に総発電量の約5割を賄ってきた原子力に代わる電源が確保できず、ベルギー政府と原子力発電事業者のENGIEエレクトラベル社は2015年11月、運転開始後40年が経過した古い3基を2025年まで10年継続運転することで合意した。その後2020年10月に発足した連立政権は、2021年12月の政権内協議により「2025年までに7基すべてを閉鎖する」ことで、改めて原則的に合意。しかし今年3月には、「7基のうち最も新しい2基(合計約200万kW)については運転期間を10年間延長し、脱原子力の達成時期を10年繰り延べて2035年とする」方針を公表した。同国のこうした動きについて、IEAは「2025年までに大部分の原子力発電所を閉鎖してしまえば、ベルギーでは天然ガス火力の利用が拡大し、CO2の排出量も増加する可能性がある」と指摘、電力の安定供給上も大きな懸念が生じるとした。ベルギー政府もロシアによるウクライナへの軍事侵攻などを考慮し、200万kW分の原子力発電設備(チアンジュ3号機とドール4号機)で運転期間の10年延長を決定したものの、規制面や技術面のこれまでの経験上、延長準備には少なくとも4~5年が必要。IEAによると、ベルギー政府は2025年の冬までにこれらの準備を整えることはできず、うまくいけば2026年に準備が整うと予想している。これらを踏まえた上で、IEAはベルギーへの勧告事項として以下を挙げている。・原子力発電設備200万kW分の運転期間の延長準備を、タイムリーかつ費用効率の高い方法で完了するため、迅速な対応を取る。・原子炉の廃止措置や放射性廃棄物管理用の基金を必要な時期に利用できるよう、これらの管理や投資に関する政策の改革を確実に実施する。・高レベル放射性廃棄物(HLW)について、国としての長期的な管理戦略を確定し、処分サイトの特定や予備調査の実施など、節目となる事項の実施計画を立てる。・原子力関係の残りの活動期間を長期的に見通せるよう、原子力部門の国家計画を策定する。HLWの長期管理や原子炉の廃止措置など重要分野については、国家機関と国際機関の協力を促していく。(参照資料:IEAの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの4月21日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
22 Apr 2022
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米エネルギー省(DOE)は4月19日、既存の原子力発電所が早期閉鎖に追い込まれるのを防止するために設置した総額60億ドルの「民生用原子力発電クレジット(CNC)プログラム」で、初回分の申請書を受け付けると発表した。CNCプログラムでは、有資格と認定された商業炉に対しDOEが認定日から4年にわたり、一定の発電量に対して一定の適用価格で「クレジット」を付与。クレジットの総量に応じて支援金を支払うと見られており、DOEはプログラム基金に残金がある限り、2031年9月末までクレジットを付与していく考えだ。今回発表した申請ガイダンスで、DOEは経済的事情により早期閉鎖の可能性がある原子力発電所の所有者や運転事業者にプログラムへの申請方法を示している。有資格と認定されるには、経済的理由により早期閉鎖のリスクにさらされていること、当該炉の閉鎖が大気汚染物質とCO2の排出量増加につながること等を実証しなければならない。また、当該炉が安全に運転継続できることを原子力規制委員会(NRC)が保証し、DOE長官がこれを確認する必要がある。DOEはプログラムの手続きを迅速に進めるため、これらの認定に応募するための申請書と、クレジットの付与を求める「封かん入札」の申請書を一つにまとめて提出するよう指示している。初回の申請書締切日は5月19日で、DOEは初回に限り「早期閉鎖の方針をすでに公表済みの商業炉」を優先的に認定する。これは一般市民からの意見に促された措置であり、2023会計年度の第1四半期に予定されている2回目以降、このような優遇措置はなくなるとしている。CNCプログラムの実施は、昨年11月にJ.バイデン政権が承認した「超党派のインフラ投資法」で約束されていたもの。バイデン大統領は「2035年までに電力部門を100%カーボンフリーとし、2050年までに米国経済全体のCO2排出量を実質ゼロ化する」を目標に定めており、既存の原子力発電設備はその達成に極めて重要な役割を担うと考えている。DOEの説明によれば、国内電力市場の自由化およびその他の経済的ファクターにより、米国では2013年以降すでに12基の商業炉が早期閉鎖されている。これにともない、これらが立地していた地域では代替電源によりCO2の排出量が増大し大気の質も低下。地元コミュニティに財政的な貢献をしてきた高サラリーの雇用が、数千人規模で失われた。CNCプログラムでDOEはこのような課題に公平に取り組むことを目指しており、既存の原子力発電所の早期閉鎖を防ぐことでクリーンエネルギー関係の雇用を維持し、低炭素電力の供給量を確保する。全米のコミュニティが今後も持続可能なエネルギー・インフラから恩恵を受け続けられるよう、バイデン大統領のクリーンエネルギー政策の目標達成を促していく。DOEは60億ドル相当の戦略的投資計画となるCNCプログラムの開始に先立ち、今年2月に実施の意向を示した文書(NOI)と関連情報の提供を依頼する文書(RFI)を一般市民や関係者に発出している。RFIでDOEは、プログラムの仕組みや適用を受けるための認定プロセス、適格性の判断基準、クレジットの入札募集とその割り当て方法等について、120件以上のコメントを受領。同プログラムの策定に一般市民が幅広く参加したことについて、DOEは謝意を表明している。今回の募集に際しDOEのJ.グランホルム長官は、「米国における無炭素電力の半分以上は原子力によるものであり、バイデン政権はクリーンエネルギー政策の目標達成のため、既存の原子力発電所を最大限に活用する方針である」と表明。「目標の達成に利用できるツールはすべて活用しており、原子力発電所の運転継続を優先するのもその一環だ」と説明している。(参照資料:DOEの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの4月20日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
21 Apr 2022
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中国核工業集団公司(CNNC)は4月19日、パキスタンのカラチ原子力発電所で建設していた3号機(K-3)(PWR、110万kW)が同国への引き渡しに先立つ「受け入れ試験」に合格し、18日に仮検収書の調印式が行われたと発表した。3月初旬から試運転中だった同炉は、これをもって正式に営業運転を開始する。同炉は、中国が知的財産権を保有する第3世代の100万kW級PWR設計「華龍一号」を採用しており、2021年5月に営業運転を開始した同型設計のカラチ2号機に次いで、中国国外で2基目の「華龍一号」となった。中国では、CNNCが「華龍一号」の実証炉プロジェクトとして2015年に着工した福清原子力発電所5、6号機(各115万kW)のうち、5号機が2021年1月に世界初の「華龍一号」として営業運転を開始。同6号機も今年初頭に国内送電網に接続されたことから、CNNCは世界で稼働する「華龍一号」は合計4基になったと強調している。パキスタンではこのほか、CNNCが建設したチャシュマ原子力発電所1~4号機(各30万kWのPWR)が2000年以降稼働中。中国の対パキスタン協力について、CNNCは「カラチでの『華龍一号』建設プロジェクトは中国のパキスタンへの包括的な戦略協力を一層深めるものであり、両国の連携関係は新たな時代に入った」とした。「CO2排出量のピークアウトと実質ゼロ化を目指して、低炭素な電源の開発にともに取り組むだけでなく、原子力で共通の未来を分かち合うコミュニティの構築に向けた具体的な動きとなる。また、中国が推進する広域経済圏構想『一帯一路』を一層推し進めることになる」と強調した。K-3は2016年5月に本格着工し、2021年秋には予定を前倒しして温態機能試験を完了。今年2月に初めて臨界条件を達成した後、3月4日に国内送電網に接続され、様々な出力レベルで性能試験等が行われていた。仮検収書の調印式は、中国の首都北京とパキスタン南部のアラビア海に面したカラチ市の2か所で同時開催され、パキスタン原子力委員会のA.ラザ委員長やCNNCの顧軍・総経理を始めとする幹部が双方から多数出席している。なお、カラチ2、3号機に続く「華龍一号」としては、チャシュマ5号機をパキスタンで建設する計画がある。また、それ以外の海外案件として、アルゼンチンのアトーチャ原子力発電所3号機に同設計を採用することが決定。CNNCは今年2月、そのためのEPC(設計・調達・建設)契約をアルゼンチン国営原子力発電会社(NA-SA)と締結している。このほか、英国の原子力規制庁(ONR)が今年2月に、「華龍一号」の英国版(UK HPR1000)について実施していた包括的設計審査(GDA)を完了。ONRが「設計承認確認書(DAC)」を、環境庁(EA)が「設計承認声明書(SoDAC)」を関係企業に発給した。「UK HPR1000」は、中国広核集団有限公司(CGN)とEDFエナジー社が英国エセックス州で共同で進める予定の、ブラッドウェルB原子力発電所建設計画に採用が決まっている。(参照資料:CNNCの発表資料①(英語版)、②(中国語版)、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの4月19日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
20 Apr 2022
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カナダで原子力等インフラ関係のプロジェクト管理を遂行しているSNC-ラバリン・グループは4月13日、傘下のCANDUエナジー社を通じて、英モルテックス・エナジー社のカナダ法人と戦略的連携関係を結んだと発表した。カナダ東部のニューブランズウィック(NB)州では、州政府が2018年以降、州営電力会社が運転するポイントルプロー原子力発電所の敷地内で、モルテックス社製の第4世代小型モジュール炉(SMR)「燃料ピン型溶融塩炉(Stable Salt Reactor-Wasteburner: SSR-W)」(電気出力30万kW)」の初号機を、2030年代半ばまでに建設する計画を進めている。SNC-ラバリン社はこの計画の許認可手続きや建設工事でモルテックス社に協力するだけでなく、カナダ全体の次世代SMRの開発と建設をさらに促進していく方針である。カナダでは現在、カナダ原子力公社(AECL)が中心となって開発したカナダ型加圧重水炉(CANDU炉)が19基稼働しており、2011年10月に同公社で組織改革が行われた際、そのCANDU炉事業はCANDUエナジー社に売却されている。その親会社であるSNC-ラバリン社のJ.セントジュリアン社長は、「CO2排出量の実質ゼロ化に向けた世界の動きのなかで原子力は重要な部分を担っており、原子力に関する世界中の専門的知見や数100件もの特許の活用で60年以上の経験を持つ当社は、SMR開発のあらゆる段階でベンダーに協力できる」と指摘した。同社長はまた、「当社が設計する原子炉技術はカナダ原子力安全委員会(CNSC)の3段階の「ベンダー設計審査(予備的設計評価サービス)」をすべてクリアし、実際の許可も受けた唯一の技術だ」と強調。このような背景から同社は、SMRの開発企業が設計を完成させるための支援や、カナダ国内で許認可手続き進める際の助言を提供できるとした。同社はまた、モルテックス社はSNC-ラバリン社が保有する世界的規模の専門家ネットワークを活用可能だと指摘。これらの専門家は、設計・エンジニアリングや規制・許認可問題のみならず、コストの試算やサプライヤーの資格認定と管理、品質保証、建設・運転計画の立案など、様々な分野に習熟している。これらを通じてSNC-ラバリン社は、モルテックス社が新たな顧客を呼び込めるよう緊密に連携し、モルテックス社の事業目的達成を支えていく考えだ。なお、両社の連携協力に対し、NB州政府のM.ホーランド天然資源・エネルギー開発相はサポートの提供を約束している。同相は、「この協力はNB州のエネルギー部門で質の高い雇用を生み出し、その長期的な成長に貢献する。また、モルテックス社とNB州がともに、次世代の原子力技術を発展させるリーダー的役割を担うことになる」と述べた。また、ポイントルプロー発電所以外の商業炉がすべて立地するオンタリオ州のT.スミス・エネルギー相も、「当州でエネルギー産業と原子力関係の優秀な労働力、および強力なサプライチェーンを築いたSNC-ラバリン社が、モルテックス社と新たに協力するのは願ってもないことだ」とコメント。「SMR開発に関してカナダは今や世界の注目を集めており、今回の協力によってSMR開発の世界的ハブとしてのカナダの名声や、クリーンエネルギー開発における優位性が高まる」と強調している。(参照資料:SNC-ラバリン社、モルテックス・エナジー社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、ほか)
19 Apr 2022
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チェコの国営電力(CEZ)会社は4月12日、保有するテメリン原子力発電所(100万kW級のロシア型PWR=VVER-1000×2基)の燃料調達先について入札を実施した結果、米ウェスチングハウス(WH)社と仏フラマトム社の2社を最終的に選定したと発表した。現在の調達先であるロシアのTVEL社との契約が2023年末に満了するのに先立ち、CEZ社は2020年4月に新たな調達先の選定で入札を開始。これに参加したTVEL社、WH社、およびフラマトム社の3社のうち、調達先を多様化する観点から米仏の2社を選んだもので、両社は2024年から約15年にわたってテメリン発電所に燃料集合体を供給する。CEZ社は総額で数10億コルナ(10億コルナ=約56億円)というこの契約で、「将来的に燃料供給が途絶するリスクを最小限に抑えることができる」と強調している。WH社は様々な原子炉設計に対応した燃料を製造中で、VVERが稼働するテメリン原子力発電所用としては、CEZ社と1993年に締結した契約に基づく最初の燃料集合体が、2000年7月にテメリン1号機に試験装荷された。同社はその後、ウクライナのVVER-1000向けに製造した「堅固なWH社製燃料集合体(RWFA)」をテメリン発電所用に改造。スペーサー格子の数を削減するなどしており、2016年2月にはRWFAの「先行試験用燃料集合体(LTA)」を6体納入する契約をCEZ社と締結した。CEZ社は2019年4月、約3年に及んだ燃料の許認可手続きを終え、テメリン1号機でLTAの試験を実施すると発表している。今回の入札結果について、CEZ社は両社がともに世界の原子力産業界のリーダー企業であるとした上で、「スウェーデンに燃料製造工場を持つWH社は、すでにテメリン発電所に燃料集合体を供給した実績があるほか、世界中の原子力発電所用に主要機器を製造。原子力分野で60年以上にわたって設計・建設・維持管理等のサービスで経験を重ねている」と指摘した。また、フラマトム社に関しては「欧州連合(EU)唯一の燃料製造企業として、西欧諸国の原子力発電所の大部分に燃料を供給している」と説明。原子力発電所の設計や機器の製造と設置、原子燃料の製造、および計装・制御(I&C)系の供給等で60年以上の実績があると強調している。なお、ロイター通信によると、チェコのP.フィアラ首相は4月9日、与党の党大会で「ロシアからの輸入化石燃料に依存し続けることは、我が国の安全保障上、最大リスクの一つだ」と発言。「チェコのエネルギー部門は、今後5年以内に『ロシアの引き綱』を完全に断ち切ることを目標にすべきだ」と述べたことが伝えられている。(参照資料:CEZ社、WH社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの4月13日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
18 Apr 2022
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米国防総省(DOD)の戦略的能力室(SCO)は4月13日、軍事作戦用の可搬式マイクロ原子炉を設計・建設・実証するための「プロジェクトPele」が進展し、少なくとも3年間フル出力で稼働可能なマイクロ原子炉の原型炉(電気出力0.1万~0.5万kW)を、エネルギー省(DOE)傘下のアイダホ国立研究所(INL)内で建設すると発表した。SCOが同日、原型炉建設の最終意思決定となる「決定記録書(ROD)」を発行したもので、これは米国の環境アセスメント制度における最終段階のアクション。国家環境政策法(NEPA)の下で、これまで行われていた(原型炉の建設・運転にともなう)環境影響の評価プロセスが完了したことを示している。SCOは2021年3月、原型炉に採用する候補設計として、対象をBWXテクノロジーズ(BWXT)社の先進的高温ガス炉と、X-エナジー社の小型ペブルベッド式高温ガス炉に絞り込んだ。これらはともにSCOの技術要件を満たしているが、SCOは今春の終わり頃までに最終的な採用設計を一つだけ選定する方針である。発表によると、この原型炉は固有の安全性を有する第4世代の原子炉として、米国内で初めて建設されるもの。世界初の第4世代炉としては、中国・山東省の石島湾で建設されていた「ペブルベッド式モジュール高温ガス炉(HTR-PM)」の実証炉(電気出力約10万kWのモジュール×2基)が2021年9月、初めて臨界条件を達成している。また、DODの作戦活動では、年間約300億kWhの電力と一日当たり1,000万ガロン(約37,850m3)以上の燃料を必要とするが、今後この量は一層拡大していく見通しである。このような需要に応えるため、SCOは小型で安全かつ輸送も可能な原子炉でクリーンエネルギーを確保。遠隔地や厳しい環境の場所においても、長期にわたって作戦活動を維持・拡大する考えだ。「プロジェクトPele」ではSCOが2020年3月、NEPAに基づき原型炉建設の環境影響評価を実施すると発表。これと同時に同炉の採用設計を選定するため、プロジェクトの技術要件を満たした設計について、2年計画の設計コンペを開始した。SCOはまた、同時期の連邦官報で、検討中のマイクロ原子炉はHALEU燃料(U-235の濃縮度が5~20%の低濃縮ウラン)の三重被覆層・燃料粒子「TRISO」を用いた、先進的なマイクロ・ガス冷却炉(AGR)になると発表していた。今回のROD発行について、SCOは「候補企業2社の契約チームによる不断の努力や、水質汚染防止法等に基づいて建設計画の審査・承認を行う米陸軍工兵隊(Corps)、およびDOEの専門家による技術支援チームの功により、確実に固有の安全性を備えた可搬式マイクロ原子炉を安全に建設・実証できる」と表明。「先進的原子炉設計は、DODや米国の商業部門にとって戦略的に大きな変革をもたらす可能性があるものの、導入に際してはさらに実際の運転条件下で実証する必要がある」と指摘している。(参照資料:DODの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの4月14日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
15 Apr 2022
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