ブルガリアと米国の両政府は10月23日、民生用原子力発電分野における両国間の戦略的協力を加速するため、了解覚書を締結したと発表した。ブルガリアのB.ボリソフ首相は、「原子力は環境に最もやさしいクリーンなエネルギー源の一つであるため、(米国との協力を通じて)最新世代の一層安全な原子力技術の活用と原子燃料調達先の多様化を進めていきたい」とコメントしている。ブルガリアでは1989年に共産党の独裁政権が崩壊した後、民主制に移行。北大西洋条約機構(NATO)と欧州連合(EU)にも加盟するなど、西欧化が進んでいる。しかし、国内で稼働していた出力44万kWの古いロシア型PWR(VVER)4基は西欧式の格納容器を持たない型式であったため、EUへの加盟条件として2007年までにこれらすべてを閉鎖。現在は、比較的新しい100万kWのVVER×2基(それぞれ1988年と1993年に運転開始)で国内電力需要の約35%を賄っている。米国との今回の覚書締結は、2019年11月にボリソフ首相と米国のD.トランプ大統領が原子力を含む様々なエネルギー分野の協力拡大で合意したのに続くもの。その際、具体的な協力拡大分野として、ブルガリアの残りのVVER用に米国(のウェスチングハウス社)から原子燃料を供給するため、許認可手続きの迅速な進展を両国政府の協力により支援する、などが挙げられていたブルガリア政府はまた、2012年に建設工事を中止したベレネ原子力発電所を完成させるため、2019年3月に各国から戦略的投資家を募集。同年12月には、中国やロシア、韓国、仏国の原子力企業と並んで、米国のGE社を候補として選定したことを明らかにしていた。今回の覚書には、ブルガリア・エネルギー省のT.ペトコワ大臣と米国務省のC.フォード国際安全保障・不拡散担当国務次官補が調印。ボリソフ首相が同席したほか、M.ポンペオ国務大臣はテレビ・モニターから調印式に参加した(=写真)。ペトコワ大臣によると、同覚書によって両国間の将来のエネルギー協力に新たな推進力と盤石な基盤がもたらされ、ブルガリアが最も優先するエネルギー源の多様化という目標の達成に貢献。同国にとって原子力発電は戦略的に重要なものであり、エネルギーの供給保証だけでなくCO2排出量の削減にも寄与できるとした。また、今回の発表のなかでブルガリアは、米国の新しい安全な民生用原子炉技術に高い関心を表明。2050年までにCO2排出量の実質ゼロ化を目指すというEUの「グリーンディール」投資計画案を実行に移すためにも、両国の覚書を通じて最新世代の安全確実な原子力技術で原子力プログラムを拡大する方針である。同覚書ではさらに、米国とブルガリアの双方がそれぞれの原子力産業の支援に向けた協力を希望。原子力技術の責任ある利用に向けて、人的資源と関係インフラの開発・維持に努めたいとしている。ブルガリアとしては、原子力の平和利用抜きでEUの「グリーンディール」目標を達成することは出来ないと認識しており、価格が手ごろで低炭素経済への移行においても重要要素である原子力は、国や地域、および欧州レベルのエネルギー供給保証を確保する上で非常に重要な役割を果たす。今回の覚書によって、両国は安全・セキュリティ面で高いレベルの基準を満たしつつ、教育・訓練を含む人的資源開発に重点を置いて原子力技術を活用していく考えである。(参照資料:ブルガリア内閣(ブルガリア語)と米国務省の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月29日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
30 Oct 2020
1920
ウクライナ・エネルギー協会(UEA)は10月22日、国内原子力産業界の今後の開発方向に関する円卓会議において、国家経済やエネルギー供給保証の要である原子力産業が将来的にもこれらの役割を担い続けられるよう、政府に支援を勧告することで合意した(=写真)。同協会は、ウクライナの民生用原子力発電公社や石油製品企業、関連投資会社などで構成されるエネルギー業界団体。今後、原子力産業界が新型コロナウイルスの感染拡大といった危機を乗り越え、さらなる発展を遂げるためのアクション計画を策定するよう、ウクライナ政府とエネルギー省に宛てた嘆願書を作成する方針である。今回の円卓会議には、UEA幹部のほかに同国の国家原子力規制検査庁(SNRC)や民生用原子力発電公社のエネルゴアトム社、およびその他の科学関係機関から代表者が出席したほか、関係するトレーダーや専門家、分析家も参加した。主な議題は新たな電力市場とその課題、発展の見通しといった条件の中で、ウクライナ原子力産業界の現状を分析すること。また、エネルゴアトム社における今後の開発や計画の方向性と投資プロジェクト、関係法規制を改正する必要性についても話し合われた。最終的な議論の総括として、参加者全員は以下の点で合意した。すなわち、・原子力はエネルギー供給保証の要であるとともに、国家経済の発展を保証するため、将来的にもその役割を担い続ける。・原子力産業を維持・発展させる方策や重点分野を特定するため、戦略文書を取りまとめる必要がある。・エネルゴアトム社の財務体質を健全な状態に回復させることは、新型コロナウイルスによる感染の世界的拡大という状況の中、国の経済や産業の維持に向けた最も重要な任務の一つである。・エネルゴアトム社が公平な条件で、電力市場への参加が可能になるメカニズムを確保するには法改正が必要である。ウクライナは1986年のチェルノブイリ事故直後、新規の原子力発電所建設工事を中断したが、国内の電力不足と原子力に対する国民感情の回復を受けて1993年にこのモラトリアムを撤回した。近年はクリミアの帰属問題や天然ガス紛争等により旧宗主国であるロシアとの関係が悪化したが、P.ポロシェンコ前大統領は「ロシアからの輸入天然ガスがなくても切り抜けられたのは原子力のお蔭」と明言。「原子力による発電シェアが約60%に増大した過去4~5年間はとりわけ、原子力発電所が国家のエネルギー供給保証と供給源の多様化に大きく貢献した」と述べた。また、ウクライナ内閣は2017年8月に承認した「2035年までのエネルギー戦略」の中で、原子力は2035年までに総発電量の50%を供給していく目標を明記。2019年5月に就任したV.ゼレンスキー大統領は、前政権のこの戦略を実行に移すため、原子力発電開発のための長期プログラムの策定を命じた。さらに、今年9月には「エネルギー部門の状況の安定化と原子力発電のさらなる開発に向けた緊急方策のための大統領令」を公布している。(参照資料:UEAの発表資料(ウクライナ語)、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月28日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
29 Oct 2020
1804
ベラルーシの非常事態省は10月23日、同国初の商業炉となるベラルシアン原子力発電所1号機(120万kWのPWR)(=写真)の起動に向け、出力を段階的に上げていくプログラムの実施を許可した。これは、同発電所の建設工事を請け負っているロシア国営の原子力総合企業ロスアトム社が26日付けで明らかにしたもので、ベラルーシ規制当局の決議に基づいて下された。同炉では8月初旬に燃料が初めて装荷されており、今回の判断により、ロスアトム社傘下の総合エンジニアリング企業「ASEエンジニアリング社(JSC ASE EC)」とベラルシアン原子力発電所(国営企業)は、同プログラムの下で1号機の起動に必要な様々な作業を実施。ベラルーシ政府は2021年第1四半期にも、同炉の営業運転を開始できると予想している。同プログラムでは具体的に、同炉の出力を1%から50%まで徐々に上昇させる。40%レベルで送電網に接続し、50%ではプラント動特性試験などが行われる。これらの作業は今年の12月までに完了する予定である。ウクライナと国境を接するベラルーシは、1986年のチェルノブイリ事故で多大な放射線被害を被ったが、国内のエネルギー資源が乏しいため1次エネルギーの8割を輸入に依存。こうした背景から、1990年代に原子力の導入に関する実行可能性調査を行っており、福島第一原子力発電所事故が発生した直後の2011年3月15日、同国初の原子力発電所建設に関する協力でロシアと合意した。ベラルシアン原子力発電所建設の計画については、2012年11月にロシア政府が総工費の90%をカバーする100億ドルの低金利融資を25年間で提供することを約束。2013年11月にフロドナ州オストロベツで第3世代+(プラス)の120万kW級ロシア型PWR(VVER)「AES-2006」として1号機が着工したのに続き、2014年4月には同型の2号機が着工している。1号機では今年4月、機器の性能・機能を運転時と同じ高温高圧下で確認する温態機能試験が完了。同炉の機器・設備が運転と安全性に関する要件を満たしていることが確認された。8月からは燃料集合体の初装荷を始めとする設備の起動段階に移行しており、今月11日に同炉は核分裂反応を安定した状態に維持するのに必要な1%未満の出力「最小制御可能出力(MCP)レベル」に到達、同炉の物理特性が設計要件に適合していることが確認された。 同発電所ではこのほか、6月に2号機で機器・配管を洗浄する作業が始まった。建屋に機器や設備を据え付ける最終段階に行われる作業で、動的と静的両方の安全系を化学的に脱塩した水で洗浄。安全系のみならず通常運転システムのポンプについても操作性がチェックされ、一次系で静水圧試験などを実施する準備が始まるとしている。(参照資料:ロスアトム社の発表資料①、②、原産新聞・海外ニュース、ほか)
28 Oct 2020
2991
米国で約30年ぶりの新設計画として、ジョージア州でA.W.ボーグル原子力発電所3、4号機(各110万kWのウェスチングハウス社製「AP1000」)を建設中のジョージア・パワー社は10月19日、3号機の冷態機能試験を完了したと発表した。これにより、同炉の建設工事は残っている温態機能試験の実施と燃料の初装荷に向けて大きく前進。建設進捗率が約94%となったほか、3、4号機全体の進捗率も約88%に到達した。規制当局から承認を受けた両炉の完成予定年月はそれぞれ2021年11月と2022年11月だが、ジョージア・パワー社は今年2月、完成スケジュールに余裕を持たせるための「挑戦的作業計画」を進めることにより、3号機は2021年5月に、4号機は2022年3月(※この後、同年5月に変更)に完成させることも可能だとした。しかし、同社の親会社であるサザン社の発表によると、新型コロナウイルスによる感染の影響や一部作業の遅れによりジョージア・パワー社は10月22日、「承認を受けた完成予定年月までに両炉を完成させるため、挑戦的作業計画を建設サイトの現状に合わせた作業計画に変更する」と発表。改訂スケジュールでは、3号機の温態機能試験は2021年1月に開始する予定だが、遅い場合は3月末に開始する。同年4月に予定している燃料の初装荷も遅ければ同年の半ばにずれ込むとした。また、4号機については挑戦的作業計画を引き続き実行するものの、完成年月は現行予定から一か月調整して2022年6月になる見込みとしている。3号機の冷態機能試験でジョージア・パワー社は一次冷却系と関連機器の設計性能を確認し、溶接部や接合部、配管、その他の機器に加えて、高圧システムでリークが発生しないことなどを検証した。原子炉冷却ポンプ(RCP)についても最初の一台を起動し、設計機能を確認している。同社のP.バウワーズ会長・社長兼CEOは、「米国で約30年ぶりとなる新規原子炉の運転開始に向けて、3、4号機の作業は着々と進展中だ」と強調。冷態機能試験が完了したことで、同プロジェクトでは3号機に燃料を初装荷する準備が整ったほか、CO2を出さないクリーンエネルギーを顧客や地元州に、60年から80年間供給できる電源の完成にまた一歩近づいたとしている。ボーグル3、4号機建設計画ではこのほか、両炉の運転を担当することになる運転員と上級運転員62名に対して原子力規制委員会(NRC)が運転員ライセンスを発行した。(参照資料:ジョージア・パワー社とサザン社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月20日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
27 Oct 2020
2756
中国核工業集団公司(CNNC)は10月22日、世界初の「華龍一号」設計として2015年5月に本格着工した福建省の福清原子力発電所5号機(115万kWのPWR)が、21日の午後3時過ぎに初めて臨界条件を達成したと発表した。これにより同炉は正式に運転可能な状態に移行、年末までの営業運転開始に向けて重要な節目になったとしている。同炉では今年3月に温態機能試験が終了し、9月4日に生態環境部(省)が運転許可を発給。その日のうちに燃料の装荷作業が開始され、同月10日には177体すべての燃料集合体の装荷が完了した。今後は同炉を送電網に接続するのに先立ち、様々な起動試験が行われる。同発電所ではまた、5号機から7か月遅れで着工した6号機でも「華龍一号」を採用しており、CNNCは「同設計を採用した国内外のプロジェクトは、安全性や品質などの点で順調な建設作業が進展中だ」と強調している。「華龍一号」はCNNCと中国広核集団有限公司(CGN)双方の第3世代設計「ACP1000」と「ACPR1000+」を統合して開発され、主要技術と機器の知的財産権は中国が保有。CNNCの福清5、6号機建設計画、およびCGNが2015年12月と2016年12月に広西省の防城港原子力発電所で開始した3、4号機(各118万kWのPWR)建設計画は、それぞれのバージョンの「華龍一号」を実証するプロジェクトと位置付けられている。CNNCはこのほか、福建省の漳州原子力発電所1、2号機に同設計を採用すると決定。2019年10月に国内5基目の「華龍一号」として1号機(115万kWのPWR)を本格着工した。またCGNも、同年12月に同設計を採用した恵州太平嶺原子力発電所1号機(115万kWのPWR)を広東省で着工している。国外では、パキスタンのカラチ原子力発電所2、3号機(各110万kWのPWR)にCNNCバージョンの同設計が採用され、それぞれ2015年8月と2016年5月から建設工事を実施している。これらは同設計の輸出案件としては初のものとなったが、中国はパキスタンですでに稼働中の原子炉5基のうち、4基の建設プロジェクトを支援した。カラチ2号機については今年9月初旬に温態機能試験が完了、同炉と3号機の営業運転はそれぞれ2021年と2022年に開始すると見られている。同設計はさらに、英国でEDFエナジー社が建設するブラッドウェルB原子力発電所(英国版の「華龍一号」×2基、合計出力220万kW)にも採用が決まっており、原子力規制庁(ONR)が2017年1月から同設計の包括的設計審査(GDA)を実施中。同建設計画ではCGNが66.5%出資するなど、主導的役割を担うことになっているが、これはEDFエナジー社とCGNが2015年10月、ヒンクリーポイントC原子力発電所建設計画への共同投資で合意した際に決定した。CGNはその際、サイズウェルC原子力発電所建設計画に対しても、20%の出資を約束している。(参照資料:CNNCの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月22日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
26 Oct 2020
3291
カナダ連邦政府イノベーション科学産業省のN.ベインズ大臣は10月15日、オンタリオ州の技術企業テレストリアル・エナジー社による「小型モジュール式・一体型溶融塩炉(IMSR)」開発を加速するため、「戦略的技術革新基金」から2,000万カナダドル(約15億9,000万円)を投資すると発表した。同社が開発した最先端のSMR技術はカナダの環境・経済に大きな利益をもたらすと見込まれており、投資はその商業化を支援する重要ステップになると説明している。 テレストリアル社のIMSRは第4世代のSMR設計で、電気出力は19.5万kW。同社はIMSRの最初の商業用実証炉をカナダで建設した後、同社の米国法人を通じて北米その他の市場で幅広くIMSRを売り込む方針である。現在、カナダ原子力安全委員会(CNSC)が同国の規制要件に対するIMSRの適合性を「予備的設計評価(ベンダー設計審査:VDR)」で審査中であるほか、米原子力規制委員会(NRC)に対しては、将来的に設計認証(DC)審査を受ける考えだと表明済み。米国法人は2020年代後半にも米国・初号機を起動できるよう、米エネルギー省(DOE)から財政支援を受けながらNRCと許認可手続き前の準備活動を進めている。カナダ政府の発表によると、原子力および原子力安全分野の世界的リーダーであるカナダは、安全で信頼性の高い小型モジュール炉(SMR)の開発においても世界を牽引していく方針である。同国が2050年までにCO2排出量の実質ゼロ化を目指す上でSMRは重要な役割を果たすと期待されており、新型コロナウイルスによる大規模感染から復活する際も経済的恩恵が得られるとしている。テレストリアル社はIMSRの開発プロジェクト全体で6,890万加ドル(約54億8,700万円)を投入する方針だが、このほかに少なくとも9,150万加ドル(約72億8,700万円)を研究開発費として支出中。カナダ政府による今回の投資金は、同社がIMSRでベンダー審査を完了する一助になると指摘している。カナダ政府の見通しでは、テレストリアル社は今後、カナダの原子力サプライチェーンで千人以上の雇用を生み出し、STEM(理数系)分野で数多くの女性が登用されるよう男女平等・多様化イニシアチブを推進していく。IMSRプロジェクトによって高度なスキルを持つ労働力が構築され、将来の技術革新と経済成長の重要要素となる新しい基盤技術研究を加速。この結果、カナダ政府が進める「技術革新とスキル計画」は推進力を増すことになる。カナダ政府はまた、同プロジェクトでSMR技術をカナダやその他の世界中で開発・建設していくための長期ビジョン「カナダのSMRロードマップ」が後押しされると説明。SMRの設計・開発が様々な規模で進められており、将来的には遠隔地域で使用されているディーゼル発電機を一掃したり、化石燃料を多用するカナダの重要な産業部門に競争力をもたらす可能性があるとしている。(参照資料:カナダ政府、テレストリアル社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月16日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
23 Oct 2020
2928
米エネルギー省(DOE)は10月13日、国内原子力産業界による先進的原子炉設計の実証を支援するため、今年5月に開始した「先進的原子炉設計の実証プログラム(ARDP)」で、初回の支援金1億6,000万ドルの交付対象となる米国企業2社を発表した。選ばれたのは、ビル・ゲイツ氏が会長を務める原子力開発ベンチャー企業で「ナトリウム冷却高速炉」を開発中のテラパワー社と、小型のペブルベッド式高温ガス炉「Xe-100」を開発しているX-エナジー社である。ARDPはこのような先進的原子炉設計を7年以内に運転可能とすることを目指す官民のコスト分担型パートナーシップで、DOEはこれら2社が実証炉を建設するための支援金としてそれぞれに2020会計年度予算から8,000万ドルずつ交付する。DOEが約7年間に投資する総額は、同省の今後の予算確保や産業界のマッチング・ファンド適用状況にもよるが、約32億ドルに達する見通しである。DOEのD.ブルイエット長官は初回の支援金授与について、「次世代原子力技術における米国のリーダーシップ強化を目的としたARDPの重要な最初のステップになる」と表明。このような連携により、「米国のクリーン・エネルギー戦略で重要な役割を担う先進的原子炉の開発に、DOEの投資を最大限に活かすことができる」と述べた。今回のプログラムでテラパワー社は、パートナー企業のGE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社と数10年にわたって蓄積してきた「ナトリウム冷却高速炉」の技術を実証する計画。同炉が運転時に生み出す高温は、熱エネルギーの貯蔵技術との組み合わせで、発電所の電気出力を容易に調整することが可能であり、太陽光や風力など出力が変動しやすい再生可能エネルギー源を補うことになる。同プロジェクトではまた、この設計用の金属燃料製造施設も新たに建設する。X-エナジー社は「Xe-100」4基で構成される原子力発電所の商業化を目指しており、柔軟に変更できる同設計の電気出力とプロセス熱は、海水脱塩や水素生産などの幅広い分野に適用が可能。同プロジェクトでも、「Xe-100」に使用する3重被覆層・燃料粒子「TRISO」の製造施設を商業規模で建設することになっており、DOEの支援金はそのために活用される。DOEによると、どちらのプロジェクトも安全性が向上する一方、手頃な価格で建設・運転が可能という設計上の特長を備えている。このため、世界的に高い競争力を持つ先進的原子炉を米国が建設していく道が開かれるとしている。なお、ARDPではこのような①「先進的原子炉の実証」に対する支援のほかに、②「将来的な実証に向けたリスクの削減」、③「先進的原子炉概念2020(ARC20)」という支援ルートも設定している。②の対象は2~5件で、商業化を目指す期間は①より約5年長い。対象技術の将来的な実証に向けて技術面や運転面、規制面の課題解決を目指す。③については2030年代半ばの商業化を目標に、革新的概念に基づく様々な設計の開発を支援するとしている。今回の①に対する継続的な支援は、議会でARDPに追加予算が充当され開発プログラムが順調に進展中との評価を受けた後、DOEが支援の継続申請を承認すれば実施に移される。②に対する2020会計年度から、候補プロジェクト5件のうち2件に対してDOEが合計3,000万ドルを支援する。③では少なくとも2件に対し合計2,000万ドルを交付。DOEが対象設計を発表するのは②、③どちらも今年の12月になる予定である。(参照資料:DOEの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月14日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
22 Oct 2020
5339
米エネルギー省(DOE)は10月19日、ポーランドの民生用原子力発電開発プログラムに協力するため、同省のD.ブルイエット長官が両国の政府間協力協定に署名したと発表した。この署名は同日、ブルイエット長官がポーランドのP.ナイムスキ戦略エネルギー・インフラ特任長官と協議した後に行われたもので、両国がエネルギー関係で30年間という長期の協定を結ぶのは初めてとなる。調印された文書は今後ポーランドのワルシャワに送られ、今週後半にもナイムスキ特任長官側が署名、双方が発効要件すべてを満たしたと確認する外交文書を交わした後、正式発効する。ポーランドの原子力発電開発プログラムに対する米国の協力は、今年6月にポーランドのA.ドゥダ大統領がホワイトハウスを訪問した際、ポーランドによる米国産LNGの輸入拡大などとともにD.トランプ大統領との共同声明に盛り込まれていた。同協定では今後18か月以上にわたり、ポーランドの原子力発電プログラムを実行に移す方策や必要となる資金調達方法について、両国が協力して報告書を作成すると規定。この報告書は、米国が今後原子力発電所の建設パートナーとして長期にわたってポーランドのプログラムに関与し、ポーランド政府が国内で原子力発電所の建設加速に向け最終判断を下す際の基盤となる予定である。同協定ではまた、関係企業への支援や規制、研究開発、人材訓練などで政府が主導する両国間の協力分野を特定。欧州でのプロジェクト等に共同で協力していくため、サプライチェーンの構築や原子力に対する国民の意識を高めることなどが明記された。DOEの発表によると、D.トランプ大統領はポーランド国民に対してエネルギーの供給保証を約束。「ポーランドやその近隣諸国が、(ロシアのような)唯一の供給国からエネルギーを人質に取られることが二度とないよう、代替エネルギー源の利用を保証する」と明言した。今回の協定は大統領のこの約束を果たすためのものであり、具体的にはエネルギー関係でポーランドとの戦略的パートナーシップを強化し、ポーランドのエネルギー・ミックスを多様化、高圧的な供給国に対するポーランドの依存度を下げるとしている。ポーランドでは今月初旬、複数年にわたる同国の改定版原子力開発プログラムを内閣が承認しており、第3世代あるいは第3世代+(プラス)のPWRを600万~900万kW分、建設することを確認。同プログラムを提出した気候・環境省のM.クルティカ大臣は「2033年に初号機を運転開始した後は、2~3年毎に後続の原子炉を起動していき2043年までに6基の建設を終えたい」と述べていた。DOEのブルイエット長官は今回、「ポーランドが国家安全保障と民主主義的主権を維持していく際、米国はともに協力する」と強調。エネルギーの供給保証で重要な点は、燃料やその調達源、供給ルートを多様化することだとトランプ政権は信じており、原子力はポーランド国民にクリーンで信頼性の高い電力を提供するだけでなく、エネルギーの多様化と供給保証の促進をも約束すると述べた。次世代の原子力技術は、米国が欧州その他の地域の同盟国とエネルギー供給保証について協議する上で、欠くべからざるものだと表明している。ポーランドのナイムスキ特任長官も、今回の協定はクリーン・エネルギーのみならず、その供給保証も視野に入れたものであり、ポーランドは一層幅広い状況の中で今回の戦略的協力を捉えていると指摘。同協定は「地政学的安全保障と長期的な経済成長、技術の進展、およびポーランドにおける新たな産業部門の開発につながる」としている。(参照資料:DOE、ナイムスキ戦略エネルギー・インフラ特任長官(ポーランド語)の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月20日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
21 Oct 2020
2459
仏国のフラマトム社と米国のジェネラル・アトミックス・エレクトロマグネティック・システムズ(GA-EMS)社は10月13日、GA-EMS社の技術に基づくモジュール式の小型ヘリウム冷却高速炉(FMR)を共同で開発することになったと発表した。安全性と操作性を高めた電気出力5万kWの FMRはCO2を排出しないだけでなく、工場で製造し現地で組み立てることで建設費の大幅ダウンと、出力の段階的増強を実現できるという。フラマトム社の米国エンジニアリング・チームは、いくつかの重要構造物とシステム、および機器について設計を担当。GA-EMS社が主導する両社のチームは、2030年初頭にもFMRの設計、製造、建設および運転に関する技術を実証し、2030年代半ばまでに商業建設するとの見通しを明らかにしている。GA-EMS社のS.フォーニー社長は「フラマトム社とともに、安全かつコスト面の効率性が高く出力の拡張縮小が可能な原子炉を設計する」との抱負を表明。両社が先進的原子炉技術で数10年以上にわたり蓄積してきた経験を統合し、米国が必要とするクリーン・エネルギーを将来的に確保していきたいと述べた。フラマトム社のB.フォンタナCEOも「今回の協力は、後の世代のためにクリーンな世界を創造するという先進的原子力技術の開発で、GA社とこれまで築いてきた長期的連携の下で進める」とコメント。先進的原子炉や小型モジュール炉(SMR)のシステムや機器の設計で両社が獲得した経験と専門的知見を通じて、このようなビジョンの実現につなげたいと述べた。両社の発表によると、FMRでは再生可能エネルギー源の出力変動にともなう負荷追従運転への迅速な対応、全体的に高度な効率性を備えた原子炉設計を目指している。受動的安全性を備えるとともに、冷却材として化学的に不活性で爆発や腐食のない無害なヘリウムを使用。運転する際に水を必要としないため、事実上ほとんどすべての場所に立地できるとした。また、エネルギーを電力に転換する時、構造の複雑な蒸気発生器や加圧器を使用しないのでコストが抑えられ、燃料交換は約9年間不要である。ガス・タービンには「直接ヘリウム・ブレイトンサイクル」を採用したことから送電網へのレスポンスが早く、発電機の出力変化速度(ランプ速度)は最大で毎分20%、通常運転時の全体的な効率性も45%と高い。さらに、原子炉出力の自動制御とターボ機器によって炉内温度が一定に保たれ、負荷追従運転にともなう熱サイクル疲労も影響緩和が可能だとしている。(参照資料:フラマトム社、GA社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月14日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
19 Oct 2020
2920
スウェーデンの原子力発電所から出る使用済燃料について、最終処分場の建設が予定されているエストハンマルの自治体は10月13日、議会で実施した票決により同処分場の立地と建設を受け入れると改めて表明した。同処分システムの一部となる集中中間貯蔵施設とその中の使用済燃料をキャニスターに封入する施設(CLINK)の建設についても、サイトとなるオスカーシャムの自治体が2018年6月に同様の票決を実施。建設承認を表明済みであり、後はスウェーデン政府による建設許可発給の最終判断を待つのみとなった。スウェーデンでは地下500mの結晶質岩盤に使用済燃料を直接処分することになっており、放射性廃棄物処分事業の実施主体であるスウェーデン核燃料・廃棄物管理会社(SKB)は2009年6月、最終処分場の建設でフィージビリティ調査を実施した自治体の中から、エストハンマルにあるフォルスマルク原子力発電所の近接エリアを建設サイト候補に決定。2011年3月には、同処分場を立地・建設するための許可申請書を放射線安全庁(SSM)等に提出した。SSMが原子力法に照らしてこの申請の安全面や放射線防護面を審査する一方、国土環境裁判所は環境法に照らして環境影響面の審査を実施。SSMは2018年1月、処分場の建設許可を発給するようスウェーデン政府に勧告する最終見解を表明していた。エストハンマル自治体の今回の票決は環境法に規定された拒否権の行使に関するもので、政府がこの種の施設の建設で許可を発給する前に、自治体は拒否権を行使する可能性について確認することになっている。13日の票決では、エストハンマルの自治体議員のうち38名が建設を支持する一方、7名が反対、3名が棄権していた。同自治体は1995年にフィージビリティ調査を受け入れて以降、25年以上にわたって建設サイトの選定プロセスに積極的に参加しており、処分場の立地にともなう社会的影響や処分技術の開発動向など幅広い分野の学習を続けている。同自治体が処分場建設に同意したことについてSKBは、「歴史的な決定であり、政府からは出来るだけ早急に回答を受け取りたい」と表明。処分場建設に向けた政府の判断は、スウェーデンの環境保全上最も重要かつ最大規模のプロジェクトの出発点となり、約190億クローナ(約2,250億円)の投資をもたらすとともに約1,500名分の雇用機会が創出されるとしている。(参照資料:エストハンマル自治体(スウェーデン語)、SKBの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月14日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
16 Oct 2020
3084
国際エネルギー機関(IEA)は10月13日、世界のエネルギー・システムが今後10年間でどのように展開していくか包括的に検証した「ワールド・エナジー・アウトルック(WEO)2020年版」を公表した。今年は、新型コロナウイルスによる感染の世界的拡大(パンデミック)が世界中のエネルギー部門にかつてないほどの混乱を引き起こし、その傷跡の影響は今後何年にもわたり続いていくと予想される。これに対し、このような大混乱がクリーン・エネルギー社会への転換加速や地球温暖化の防止という目標の達成に対してどのように働くかは、各国政府による対応の仕方と十分に検討された適切なエネルギー政策にかかっていると報告書は強調している。IEAは今回、世界のエネルギー供給システムを一層確実かつ持続可能なものにするための努力が新型コロナウイルス危機によって後退させられるのか、あるいは逆にクリーン・エネルギー社会への移行を加速する触媒となるのか、断定するには時期尚早だと説明。パンデミックは未だに終息しておらず、数多くの不確定要素を残したままエネルギー政策に関する重要判断がこれから下されることになる。このためIEAは今回のWEOで、2030年までの重要な10年間に新型コロナウイルス危機からの脱却に向けた複数のシナリオを検証。エネルギー部門や地球温暖化の防止対応にとって極めて重要なこの時期に、人類がこれから進もうとしている立ち位置を形作る様々な選択肢やチャンス、あるいは隠れた危険の特性について、IEAは今回のWEOでその可能性を幅広く想定した。今回のWEO評価によると、2020年は世界のエネルギー需要が5%低下する見通し。これにともない、エネルギー関係のCO2排出量は7%、投資は18%減少する。影響は燃料毎に異なっており、石油の需要量は8%減、石炭の利用量が7%減少するのに対し、再生可能エネルギーへの需要はわずかに上昇。天然ガスの需要量も約3%減少するが、電力需要の低下は比較的穏やかな2%程度だとした。エネルギー部門のCO2排出量も24億トン低下し、年間排出量は10年前のレベルに戻るとしたが、強力な温室効果ガスであるメタンの年間排出量が同じように低下しないと警鐘を鳴らしている。世界のエネルギー部門は4種類のシナリオで展開エネルギー部門の今後に関しては予測方向が一つに絞られているわけではなく、IEAはパンデミックによる社会や経済への影響、対応政策によって、将来的なエネルギー動向には幅広い可能性があるとした。このような不明部分を複数の評価方法で考慮するため、IEAは最新のエネルギー市場データやエネルギー技術などとともに以下のシナリオを検証している。「すでに公表済みの政策によるシナリオ(STEPS)」:これまでに公表された政策や目標を全面的に反映したシナリオで、2021年に新型コロナウイルス危機が次第に沈静化し、世界経済は同年中に同危機以前のレベルに戻る。「危機からの回復が遅れるシナリオ(DRS)」:前提となる政策はSTEPSと同じだが、世界経済に対するパンデミックの影響が長期化することを想定しており、危機以前のレベルに戻るのは2023年になってから。「持続可能な開発シナリオ(SDS)」:このシナリオでは、クリーン・エネルギー政策や投資が大規模に展開され、世界のエネルギー供給システムはパリ協定など持続可能な開発目標の達成に向けて順調に進展する。「2050年までにCO2排出量を実質ゼロ化するケース(NZE2050)」:IEAが今回新たに加えたシナリオで、SDSの分析を拡大展開させたもの。現在、数多くの国や企業が今世紀半ばまでに排出量の実質ゼロ化を目指しており、SDSシナリオでは2070年までにこれらが達成できる見通し。NZE2050シナリオではこれを2050年までに達成するため、今後10年間で何が必要になるか詳細なIEAモデルを示している。IEAの分析によると、世界のエネルギー需要が危機以前のレベルに戻るのはSTEPSでも2023年初頭のこと。DRSではパンデミックの影響長期化と深刻な不況により、2025年まで戻らないとした。また、電気を利用できない人々の状況については過去数年間の進展が覆され、今年はサハラ以南のアフリカ大陸で利用不能の人口が増加する見通しである。再生可能エネルギーはすべてのシナリオで利用が急速に拡大すると予想されており、太陽光発電は数多くの新しい発電技術の中でも中心的な立場を獲得。これに加えてSDSとNZE2050では、原子力発電所の建設もクリーン・エネルギー社会への移行に大いに貢献するとしている。IEAはまた、CO2排出量の削減問題で発電部門は主導権を握っているが、エネルギー部門全体でこの問題に取り組むには幅広い戦略と技術が必要になると指摘。SDSでは2030年までに太陽光発電による発電量が現在の3倍近くになり、発電部門のCO2排出量は40%以上削減される。このように再生可能エネルギーと原子力による発電量が増えるにつれて発電部門からのCO2排出量が抑えられるなど、エネルギー消費全体の中で電力の果たす役割はますます大きくなるとしている。IEAはさらに、NZE2050のシナリオどおり2050年までにCO2排出量の実質ゼロ化を達成するには、次の10年間でさらに意欲的なアクションを取る必要があると表明。2030年までに排出量の約40%を削減するため、この年までに世界の総発電量の75%近くまでを低炭素エネルギー源から賄い、販売される乗用車の50%以上を電気自動車にしなければならない。また、電力供給に限らず行動様式の変更や効率性の強化など、これらすべてがそれぞれの役割を果たし、水素発電から小型モジュール炉(SMR)に至るまで幅広い分野の技術革新を加速する必要があるとしている。(参照資料:IEAの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月13日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
15 Oct 2020
9161
仏国の原子力安全規制当局(ASN)は10月8日、フランス電力(EDF)が北西部シェルブールの近郊で建設中のフラマンビル原子力発電所3号機(163万kWのPWR)(FL3)について、敷地内への初装荷燃料の搬入を許可したと発表した。2007年12月に本格着工した同炉では、フラマトム社製の第3世代設計「欧州加圧水型炉(EPR)」を仏国内で初めて採用。初号機ゆえの土木エンジニアリング作業見直しのほか、原子炉容器の鋼材組成異常や2次系配管溶接部の品質上の欠陥等により完成は大幅に遅れている。EDFが当初予定していた同炉の運転開始は2012年だが、同炉では今年2月にようやく温態機能試験が完了した。昨年10月時点のEDFの最新スケジュールによると、同炉への燃料装荷は2022年末になる見通しで、送電開始は2023年になると見られている。また、EDFはこの時、溶接部の修理にロボットを使うため建設コストは15億ユーロ(約1,856億円)増加して124億ユーロ(約1兆5,345億円)になるとの見積結果を明らかにしている。今回の発表によると、ASNは同発電所での燃料の受け入れに際し、その取り扱いや特設プールへの貯蔵作業など、事業者の準備ができているかについて8月18日と19日の両日に点検を実施。関係機器の設置状況や事業者の準備体勢は満足のいくものだったとした。また、この燃料を落下させてしまった場合に放射性物質の放出というリスクが発生するが、このような事故を防ぐ対策をEDFが取っているため影響は限定的だと述べた。ASNはこのほか、特定のフィルター装置について放射性ガスを使った効率性試験の実施をEDFに許可している。このような事項に関するASNの決定案はすでに公開協議にかけられており、関係するEDFの申請資料も8月末から9月21日までの期間、一般に公開された。FL3に実際に燃料を装荷する際も、ASNによる事前の承認と公開協議の実施が必要である。(参照資料:ASNの発表資料(仏語)、原産新聞・海外ニュース、ほか)
14 Oct 2020
4149
米エネルギー省(DOE)は10月9日、ルーマニアのチェルナボーダ原子力発電所3、4号機を完成させる計画への支援、および同国の民生用原子力発電部門の拡充と近代化に協力するため、両国が政府間協定案に仮調印したと発表した。これにともない、米輸出入銀行(US EXIM)は同日、ルーマニアのエネルギー・インフラ分野等に対する最大70億ドルの財政支援に向けて、同国の経済・エネルギー・ビジネス環境省と了解覚書を締結している(=写真)。1989年のチャウシェスク政権崩壊により、チェルナボーダ3、4号機(各70.6万kWのカナダ型加圧重水炉)の建設計画は進捗率がそれぞれ15%と14%のまま工事が停止した。ルーマニアの国営原子力発電会社(SNN)はこれらを完成させるため、2009年にプロジェクト会社を設置したが、同社への出資を約束していた欧州企業6社すべてが経済不況等により撤退。SNNは2011年に中国広核集団有限公司(CGN)から出資参加表明を受け、2015年11月に両炉の設計・建設・運転・廃止措置に関する協力で了解覚書をCGNと締結した。その後、SNNとCGNの間では合弁事業体設立に向けた協議が行われていた模様だが、米国とルーマニアは2019年9月、原子力の平和利用とルーマニアの民生用原子力プログラムを共同で進めるための了解覚書を締結、双方の国家安全保障と戦略的利益に基づいた連携協力を強化することになった。また、米国のD.トランプ政権による中国政府への対決姿勢が強まったこともあり、ルーマニアのL.オルバン首相は今年1月、地元メディアに対しCGNとの協力をキャンセルすると表明、その後6月には同協力から撤退したことが報じられた。DOEの発表によると、今回の政府間協定案が正式なものになった場合、チェルナボーダ原子力発電所では1号機(70.6万kWのカナダ型加圧重水炉)の改修工事が行われ、3、4号機関連ではルーマニアが多国籍の建設チームとともに米国の技術や専門的知見を活用する道が開かれる。今回の協定案によって、双方でルーマニアのエネルギー供給保証を確保し、戦略的連携関係を築くことの重要性が浮き彫りになっている。DOEのD.ブルイエット長官は、「信頼性が高くてCO2を排出せず、価格も手ごろな電力供給をルーマニアが確保する上で原子力は重要だ」と指摘。この重要なエネルギー源をルーマニアで発展させるため、米国の原子力産業界は喜んで専門知識を提供すると述べた。ルーマニア経済・エネルギー・ビジネス環境省のV.ポペスク大臣も、「民生用原子力分野の協力で米国との戦略的連携関係構築に向けた大きな一歩が刻まれた」とコメントしている。(参照資料:米エネルギー省、輸出入銀行の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月12日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
13 Oct 2020
3074
ポーランドの気候・環境省は10月9日、同国における複数年の原子力開発プログラムを内閣が承認したと発表した。それによると、原子力の導入はポーランドがCO2を出さない安定したエネルギー源を獲得するための道筋を付けるという意味で重要なもの。今回、第3世代あるいは第3世代+(プラス)のPWRを600万kW~900万kW分、建設することを確認した気候・環境省の決議が正式に認められ、最新の原子力開発プログラムは近日中に官報に掲載されることになった。同省のM.クルティカ大臣は発表の中で、「原子力発電によってポーランドは国内のエネルギー供給を確実に保証できる」と表明。世界原子力協会(WNA)が先月に開催したパネル討論会では、「2033年に初号機の運転を開始した後は2~3年毎に後続の原子炉を起動、2043年までに原子力開発プログラムの6基すべての建設を終える」と述べており、CO2を排出しない強靱な電力供給システムを作り上げる方針を明らかにしていた。同国の原子力発電開発利用では主に3つの目標の達成を目指すとしており、それらは①「エネルギーの供給保証」、②「気候変動対策と環境の保全」および③「経済性」である。①の説明として気候・環境省は、「供給保証を強化するため、原子力でエネルギー源となる燃料の多様化を図るとともに、CO2を大量に放出する古い石炭火力発電所を高効率のものに置き換える」としている。②については、「発電部門から大気中に放出される温室効果ガスの量を原子力で劇的に削減し、環境保全面のコストを抑える」と説明。仏国やスウェーデン、カナダのオンタリオ州など、原子力発電開発が進んだ大規模産業国/地域の例を挙げ、「これらの国の原子力発電は、発電部門の効率的かつ早急な脱炭素化に貢献している」と指摘した。同省はまた、③の説明として「原子力は顧客のエネルギー料金が増加するのを抑えるだけでなく、削減することさえ可能だ」と強調。投資家関係やシステム、送電網、地元住民の健康面や環境保全など原子力発電に関わるすべてのコストを考慮した場合、最も廉価な電源になるとしたほか、減価償却後も長期にわたって利用可能であるという事実に言及した。こうした背景から、原子力は個人顧客と企業顧客のどちらにも適しており、製鋼業や化学産業といったエネルギー多消費産業の発展には特に欠かせないとの認識を示している。同省はさらに、世界では長年にわたって原子力発電所の運転が続けられている点から、原子力設備への投資は重要だと説明。例えば、1つの原子力技術に絞ったプロジェクトへの投資モデルではスケールメリットを享受できるほか、財務省が引き続き原子力開発プログラムの実施を監督することが可能だとした。このほか同省は、国有企業が実施する政府プロジェクトでは、安全性や運転経験などで広範な実績のある100万kW級PWRの利用が可能になると指摘。建設サイトについては、2014年の原子力開発プログラムで特定したのと全く同じ地点(北部ポモージェ県のルビアトボ-コパリノ地区とジャルノビエツ地区)を明記したと説明している。(参照資料:ポーランド気候・環境省(ポーランド語)の発表資料、原産新聞・海外ニュース、ほか)
12 Oct 2020
2341
韓国電力公社(KEPCO)の子会社として発電所のエンジニアリングと建設を担当する韓国電力技術(KEPCO E&C)はこのほど、海上浮揚式原子力発電所の技術開発で造船大手の大宇造船海洋と長期的に協力していくため、覚書を締結したと発表した。韓国電力技術は、遠隔地域に対する熱電供給や海水の脱塩、再生可能エネルギーによるハイブリッド発電システムの開発などに利用可能な小型モジュール炉(SMR)「BANDI-60」を2016年から開発中。今回の覚書では、同社の世界レベルの先進的原子力設計技術と建設技術、および大宇造船海洋の船舶製造における様々な経験とノウハウを活用し、海上浮揚式原子力発電技術の開発と関係事業の発掘、これらを応用した共同プロジェクトを進めていく方針である。韓国電力技術は両社それぞれの技術で相乗効果が期待できると考えており、「BANDI-60」を搭載した海上浮揚式原子力発電所の開発にさらに弾みがつくとした。このため、今回の覚書を契機に両社間の戦略的協力を長期的に継続していきたいと述べた。大宇造船海洋側も、「国内外の原子力発電所で設計と建設を経験した韓国電力技術との協力により、安定性と信頼性をワンランク高めた製品を顧客に提供することができる」としている。ブロック型のPWRとなる「BANDI-60」は熱出力20万kW、電気出力6万kWの原子炉設計で、韓国電力技術が従来の大型発電所向けサービスで40年以上積み重ねてきた経験と実証済みの技術に基づいている。基幹送電網への接続を想定して設計された化石燃料発電所や大型炉と競合させるというより、分散型エネルギー供給インフラとしてニッチ市場を狙ったものだと同社は説明した。原子炉の安全性と操作性を向上させるため、同設計では減速材中に可溶性ホウ素を使用せず(SBF)、原子炉容器内に制御棒駆動装置(CEDM)を設置する。また、原子炉容器上部に炉心計装(ICI)を搭載するほか、残留熱の除去や格納容器の冷却等で各種の受動的安全システムを備えたものになるとしている。(参照資料:韓国電力技術(韓国語)、韓国原子力学会の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月6日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
09 Oct 2020
2568
米商務省は10月6日、今年の年末で満了する予定だった「ロシアからのウラン購入に関する反ダンピング課税調査の停止協定」を2040年まで延長するなど、同協定案の中の複数項目での修正でロシアの原子力総合企業ロスアトム社と合意し、双方がそれぞれの政府を代表して同協定の最終修正版に調印したと発表した。延長された同協定の有効期間中は米国内ウランのロシア産ウラン割合が軽減されることから、商務省のW.ロス長官は「米国の原子力産業界の再活性化につながるとともに、米国の戦略的な利益を長期的に満たすものだ」と評価。トランプ政権が推進する「アメリカ・ファースト」政策が、国際的な通商協定においてさらなる成功を納めたと強調している。米国は1980年代の後半、国内の濃縮ウラン所要量の約12%を輸入しており(※注1)、輸入分の約10%がソ連製の濃縮ウランだったと見られている。分量としてさほど大きいものではなかったが、国内のウラン採掘業者は1991年11月、「ソ連が濃縮ウラン輸出でダンピングを行っている」と商務省に提訴。商務省はその直後に崩壊した旧ソ連邦のカザフスタンやウクライナ、ロシア等に対し、ダンピング停止協定に署名させている。同省はまた、1992年にこれ以上の反ダンピング課税調査の実施を中断する一方、これらの国からのウラン輸出量を制限することを決めていた。今回更新された「反ダンピング課税調査の停止協定」では、修正案がパブリック・コメントに付された9月11日時点の内容が踏襲されており、以下の項目が含まれている。・現行協定を少なくとも2040年まで延長して、ロシア産ウランの輸入量を定期的にチェック。それにより、潜在的可能性として米国の原子燃料サイクルのフロントエンドが損なわれることを防ぐ。・現行協定では、ロシア産ウランの輸入量を米国の総需要量の約20%までとしていたが、今後20年間でこの数値を平均約17%まで削減、2028年以降は15%以下にする。・既存の商業用ウラン濃縮産業の保護策を強化し、同産業が公平な条件の下で競争できるようにする。・国内のウラン採掘業者や転換業者の保護でかつてない規模の対策を講じる。現行協定でロシアは、濃縮役務のみならず天然ウランと転換役務の販売で輸出割り当て枠一杯の利用が許されていたが、修正版ではこの割り当て枠の一部のみ利用が可能。ロシアが輸出できるのは平均で米国の濃縮需要量の約7%相当、2026年以降は5%以下となる。・商務省が今回の協定延長交渉を実施していた時期、あるいはそれ以前に米国の顧客が締結済みだったロシア産ウランの購入契約については、それを全面的に履行することが許される。(参照資料:米商務省の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月6日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)(注1)出典:広島大学平和センター・友次晋介氏「ロシア解体核兵器の平和利用―メガトンからメガワット計画再訪」
08 Oct 2020
4017
カナダ・オンタリオ州の州営電力であるオンタリオ・パワー・ジェネレーション(OPG)社は10月6日、同州内で小型モジュール炉(SMR)を建設する道を拓くため、北米の有力なSMRデベロッパー3社と設計・エンジニアリング作業を共同で進めていると発表した。3社のうち、カナダを本拠地とするテレストリアル・エナジー社は、第4世代の革新的原子炉技術として電気出力19.5万kW、熱出力40万kWの小型一体型溶融塩炉(IMSR)を開発中。また、米国のGE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社は、受動的安全システムなどの画期的な技術を採用した電気出力30万kWの軽水炉型SMR「BWRX-300」を、同じく米国のX-エナジー社は小型のペブルベッド式高温ガス炉(HTR)「Xe-100」(熱出力20万kW、電気出力7.5万kW)を開発している。一方のOPG社はカナダで稼働する全19基の商業炉のうち、オンタリオ州内に立地する18基を所有しており、これらの原子炉と再生可能エネルギーの活用により、同州ではすでに2014年に州内の石炭火力発電所の全廃に成功した。同社のK.ハートウィック社長兼CEOは、「CO2を排出しない原子力技術の開発で当社は50年以上にわたる経験を活用中。3社との協力では、その他のSMR計画と合わせて当社がSMR利用の世界的リーダーになることを実証したい」と述べた。同社は今回の計画の他に、遠隔地のエネルギー需要を満たすための支援として、カナダのグローバル・ファースト・パワー社との協力により、米国のウルトラ・セーフ・ニュークリア社(USNC)が開発した第4世代の小型モジュール式高温ガス炉「マイクロ・モジュラー・リアクター(MMR)」をカナダ原子力研究所内で建設・所有・運転することを計画している。これらのSMRはオンタリオ州の経済を再活性化する一助となるだけでなく、地球温暖化の防止目的で同州とカナダ連邦政府が目指しているCO2排出量ゼロの電力供給にも役立つとした。OGP社はこの関連で、昨年12月にオンタリオ州とニューブランズウィック州、およびサスカチュワン州の3州が革新的技術を用いた多目的のSMRをそれぞれの州内で開発・建設するため、協力覚書を締結した事実に言及。今年8月には、同覚書にアルバータ州が新たに加わることになった。OPG社は近年、オンタリオ州内でのSMR建設に向けて適正評価をその他の大手電力企業と共同で実施しており、その結果からその他の州においてもSMRを建設する可能性が拓かれる。このことは、カナダが優先順位の高い政策として、次世代のクリーン・エネルギー技術を開発・建設するというアプローチとも合致するとしている。同社によると、オンタリオ州のSMR開発は州内の既存の原子力サプライ・チェーンをフルに活かすことになるほか、他の州においても石炭火力から脱却することに繋がる。また、エネルギー集約型産業に代替エネルギーのオプションが提供され、カナダにおける雇用の促進と技術革新の進展にも貢献。温室効果ガスの排出量が経済的に持続可能な形で大幅に削減されるため、カナダの電力網では化石燃料からCO2排出量ゼロの電源への移行が進むと強調している。(参照資料:OPG社、GEH社、テレストリアル・エナジー社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月6日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
07 Oct 2020
4077
ウクライナの民生用原子力発電公社であるエネルゴアトム社は10月1日、同国のV.ゼレンスキー大統領が同社のロブノ原子力発電所が立地する地域を訪れ、「ウクライナ政府は今後も原子力発電を擁護しその拡大を支援していく」と明確に表明したことを明らかにした。これは大統領が現地メディアとの会見の場で述べたもので、建設工事が中断しているフメルニツキ原子力発電所3、4号機(各100万kWのロシア型PWR)の今後に関する質問に対して、同大統領は「我が国には原子力発電開発と原子力発電所の完成に向けた確固たる戦略がある」と回答した。「両機を完成させた後はロブノ地域についても原子力発電所の建設を検討するし、これらは必ず実行する」と明言。その上で、「いずれにせよ、ウクライナではすでに原子力で総発電量の半分以上を賄っているし顧客が負担する電気代も最も安い」などと指摘した。同大統領はまた、原子力には潜在的な危険性があるとの非難に対し、「根拠のない非難だ。専門の業者が原子力発電所を建設し国家がその安全性確保のために働けば、自然環境への悪影響や地球温暖化を懸念することもなくなる」と説明。「原子力は安全な発電技術である」との認識を改めて強調している。同大統領はこれに先立つ9月22日、「エネルギー部門の状況の安定化と原子力発電のさらなる開発に向けた緊急方策のための大統領令」を公布しており、この中でフメルニツキ3、4号機を完成させるための法案を2か月以内に議会に提出するよう内閣に指示した。また、2017年にP.ポロシェンコ前大統領時代の内閣が承認した「2035年までのエネルギー戦略:安全性とエネルギー効率および競争力」を実行に移すため、原子力発電開発のための長期プログラムを策定することも命じている。ウクライナではまた、公共の利益を守るために電力市場の参加者が公共部門の特殊な義務事項を履行した結果、電気事業者に負債が生じる事態となっていた。このため、同大統領令は内閣に対して返済のための包括的な対策を取るよう命令。さらに、エネルゴアトム社を含む電気事業者に今後、同様の負債が生じることを防ぐため、内閣にはあらゆる手段を講じることを指示していた。旧ソ連邦時代の1986年、国内でチェルノブイリ原子力発電所事故が発生した後、ウクライナは1990年にフメルニツキ3、4号機の進捗率がそれぞれ75%と28%の段階で建設工事を停止した。しかし、国内の電力不足と原子力に対する国民の不安が改善されたことを受けて、同国政府は2008年に両炉を完成させる方針を決定している。(参照資料:エネルゴアトム社の発表資料と大統領令(ウクライナ語)、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月5日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
06 Oct 2020
2732
英ウェールズ地方のアングルシー島に、135万kWの英国版ABWRを2基建設するウィルヴァ・ニューウィッド原子力発電所建設計画に対する「開発合意書(DCO)」発給の可否判断が、今年の12月末日に延期となった。これは英コミュニティ・地方自治省の政策執行機関である計画審査庁(PI)が9月30日に明らかにしたもので、当初予定では、ビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)によるDCOの判断は9月末とされていた。DCOは国家的重要度の高いインフラ・プロジェクトに取得が義務付けられている主要認可で、ウィルヴァ・ニューウィッド計画については日立製作所の子会社で同計画のデベロッパーであるホライズン・ニュークリア・パワー社が2018年6月、審査の実施機関であるPIに申請書を提出。PIは同計画が英国政府の要件を満たしているか判定した上でPIとしての見解をBEISに勧告、BEISの大臣がDCO発給の可否について最終判断を下すことになっている。しかし、日立製作所が9月16日に同計画から撤退する意向を表明したことから、ホライズン社のD.ホーソーンCEOは同月22日と28日の2回にわたりBEIS大臣に書簡を送付、発給の可否判断を3か月間延期するよう要請した。日立の撤退表明以降、同社はウィルヴァ・ニューウィッド計画の行く末に関心を持つ複数の第三者と協議中だが、この協議は今のところ初期段階にある。このため、同計画の確かな将来を保証するオプションについて、建設的に確定するための時間を取りたいと述べた。同社としては、英国がエネルギー需要を満たしつつ地球温暖化の防止目標を達成し、クリーン・エネルギー関係の雇用を創出して経済のレベルアップを図るには、原子力発電所が重要な役割を担うと認識。DCOの発給判断が先送りされれば、同社と第三者は日立製作所が不在の中でもウィルヴァ・ニューウィッド計画を前に進められるか否か、あるいは進める場合の方法等についても判断を下すことができる。商業的に機微な協議なため詳細を伝えることは出来ないが、今後数か月の間に同CEOと関係チームは肯定的な結論を出せるよう努力するとしている。これに対して、BEISのA.シャルマ大臣は9月30日付けで同CEOに返信を送付。DCO判断の締め切り日を年末まで先送りすることは妥当とした上で、2008年の計画法に基づき、新たな締め切り日を確認する大臣声明を出来るだけ早急に書面で議会の下院と上院に送ると述べた。ただし、同大臣としては11月30日までにその後の経過に関する情報が新たに必要だと強調。年末に最終判断を下す前に、十分考慮する時間を取りたいとしている。(参照資料:計画審査庁の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月1日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
05 Oct 2020
2259
欧州の原子力企業約3,000社を代表する欧州原子力産業協会(フォーラトム)は9月29日、欧州の原子力産業界が今後も低炭素なエネルギーや重要な医療診断・治療を提供し続けるには、適切な能力を持った人材を一定数、確保することが重要との見解を表明した。これは同日、フォーラトムが新たに公表した政策方針書の中で述べられたもので、「原子力分野で能力のある人材を十分な数だけ確保するため、欧州連合(EU)が政策面でその教育と訓練を一層充実させねばならない」と強調。原子力関係の高い技能を持った人材が欧州で維持され、その恩恵が末永く欧州社会にもたらされるよう、原子力産業界はEUおよびその加盟各国の政策立案者と協力し合う必要があると訴えている。フォーラトムによると、欧州社会は今、地球温暖化や価格が適正なエネルギーの利用、健康や雇用などの分野で課題に直面しているが、欧州原子力産業界にはこのような課題に対応する準備ができている。ただし、同産業界の総体的な「能力不足」という問題があり、とりわけ、かなりの数の人材が引退年齢に達しつつあることを考えると、今後は短期間で世代交代を行う必要がある。またそれを実行する際、例えばデジタル化への移行に取り組むには人材の技能再教育、能力アップといったものが要求されるとした。フォーラトムのY.デバゼイユ事務局長は、「EUの地球温暖化との闘いに対する支援や救命治療の提供に至るまで、欧州の原子力産業は日々の暮らしに多くの恩恵をもたらしている」と指摘。雇用面においても同産業は欧州の様々なレベルで機会の創出を幅広く支援するなど、欧州社会が直面する難問への対処で多くの恩恵をもたらしていると述べた。こうした背景からフォーラトムは、EUが今後も原子力を活用し続けるために、適切な能力を持った十分な数の人材確保という観点から以下の項目を勧告している。科学・技術・工学・数学(STEM)などの理系教科に若者たちを引き付けるため、これらを魅力的な学科とし、欧州が技術面で確実に世界のリーダーシップを握れるようにする。原子力が社会に貢献している側面を一層積極的に若者たちに伝えるなど、若者たちが原子力分野の学問を学び就職することを奨励する政策を実施・展開する。EU域内の様々な低炭素発電部門の雇用においては、科学的事実を根拠とする政策に基づいて、すべての発電技術を平等に取り扱うとともに正確な情報を提供する。原子力関係の教育・訓練に対するEU基金からの資金援助を増額すべきであり、重要な研究開発や革新的プロジェクトに携わる優秀な人材を支援する。これにより、EUが原子力技術革新においてリーダー的立場を維持する。 原子力教育・訓練の分野でEUが資金援助するプロジェクトについては、長期的なアプローチを取る。期間の限られたプロジェクトでも短期的メリットはあるものの、長期間続けることでより多くの達成が可能になる。人材の世代交代や技術の伝承においては、政策立案者や教育機関、産業界が一丸となって協力し、デジタル化などの新しい技術に人材が適用できるよう支援を行う。(参照資料:フォーラトムの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの9月29日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
01 Oct 2020
2503
米原子力規制委員会(NRC)は9月29日付けの連邦官報で、ニュースケール・パワー社製の小型モジュール炉(SMR)設計に対し、同月11日付けで「標準設計承認(SDA)」を発給していたと発表した。これにより同設計はNRCの安全・規制要件をすべて満たした米国初のSMR設計となり、建設・運転一括認可(COL)および各種の申請書への記載が可能になった。同設計の初号機については、ユタ州公営共同電力事業体(UAMPS)がエネルギー省(DOE)のアイダホ国立研究所内で建設することを予定しており、同計画は2029年に最初のモジュールの運転開始を目指して大きく動き出す。ニュースケール社は2016年12月末日にSMR設計としては初めて、同設計の設計認証(DC)審査を申請しており、NRCは翌2017年3月にこの申請を受理。その後42か月にわたった同設計の技術審査を終えて、NRCスタッフは今年8月末に最終安全評価報告書(FSER)を発行していた。今回のSDA発給は、DC審査における技術審査とFSER発行が完了したことにより、当該設計が技術的に受け入れ可能とNRCスタッフが判断したことを意味している。委員会としての全面的な認証を得るには認証規則の制定とNRC委員による承認が必要で、NRCは現在、同規則の制定準備を進めている。来年にもニュースケール社製の電気出力各5万kWのモジュールに対し、DCが発給されると見られている。ニュースケール社のSMRはモジュール統合型のPWRで、このモジュールを12基連結することで電気出力を最大60万kWまで拡大することができる。同社によれば、同設計は固有の安全性能により異常な状況下で原子炉を自動停止し、人の介入や追加の注水、外部からの電力供給なしで原子炉の冷却が可能である。ニュースケール社はまた、2018年6月に同モジュールの出力を20%増強して6万kWとすることが可能になったと発表した。これにより12モジュールの合計出力は72万kWに拡大、同社は6万kW版の「ニュースケール720」について、2021年(暦年)の第4四半期にもNRCにSDA申請することを計画している。なお、現地の報道によると、UAMPSに所属するユタ州内の市町村のうち、主要都市であるローガン市とレヒ市の両市議会が8月25日までに同SMRの建設プロジェクトから撤退することを決議した。同プロジェクトに遅れが生じ、コスト超過などの財政リスクが発生することを懸念したと見られている。(参照資料:9月29日付け米連邦官報、原産新聞・海外ニュース、ほか)
30 Sep 2020
6491
米ミズーリ州のセントルイスを本拠地とする公益事業持株会社のアメレン社は9月28日、同社のミズーリ部門が操業するキャラウェイ原子力発電所(PWR、124.6万kW)で2回目の運転期間延長を計画していることを明らかにした。これは、同部門で今後数10年間の電源ミックスを最も望ましい配分に変革するため、3年に1度取りまとめている統合資源計画(IRP)の中に盛り込まれた。IRPは毎回、ミズーリ州の公益事業委員会(PSC)に提出され、州内の将来の電力需要やその対応策などを評価している。今回公表したIRPの中で、同社はミズーリ部門とイリノイ部門が電力供給するミズーリとイリノイ両州の全事業において、2050年までにCO2排出量の実質ゼロ化を目指すと表明した。クリーンエネルギーの生産量は主に、太陽光や風力など再生可能エネルギー源に過去最大規模の設備増強を行って拡大する方針で、今後10年間の総投資額は約80億ドルに達する予定。一方で、原子力や水力などCO2を排出しない既存の電源についても、引き続き投資を行う考えを強調している。キャラウェイ発電所は1984年10月に送電を開始しており、アメレン社は40年目にあたる2024年から追加で20年間運転継続する許可を2015年に原子力規制委員会(NRC)から取得した。同社は今回、この認可が満了する2044年以降も同発電所の運転期間をさらに延長するつもりであると説明。同社ミズーリ部門のM.ライオンズ会長兼社長は「CO2を排出しない発電所で効率的な運転を続けることは、2050年までのCO2排出量実質ゼロ化も含め、当社の目標をすべて達成する上で重要なものだ」と指摘している。このような最終目標は、同社が2017年に誓約したCO2排出量の削減目標を一層強化するものであり、2015年のパリ協定で合意された「世界の平均気温上昇を産業革命前に比べ2℃より十分低く保ち、1.5℃までに抑える」という目標とも合致。アメレン社はCO2排出量の実質ゼロ化に向けて、まず2030年までに排出量を2005年レベルの50%まで削減、2040年時点では85%削減するとしている。(参照資料:アメレン社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、ほか)
29 Sep 2020
2243
米エネルギー省(DOE)は9月23日、「多目的試験炉(VTR)」の開発プロジェクトについて、その概念設計と複数の代替案について開発工程や費用の範囲などを連邦政府の関係委員会が分析審査した結果、その意義と概要が認められたため、意思決定(CD)プロセスの第2段階である「重要決定1(CD-1)」を承認したと発表した。VTRはDOEが傘下のアイダホ国立研究所内で2026年初頭からの運転開始を目指しており、原子力など革新的な技術の研究開発に資する米国で唯一無二の施設になる予定。CD-1が承認されたことでVTRの開発プロジェクトは、DOEが2021会計年度(2020年10月~2021年9月)で要求した2億9,500万ドルを議会が割り当て次第、CDプロセスのエンジニアリング設計段階に入る。このプロセスは、米国で1993年に超伝導超大型粒子加速器(SSC)の建設計画が頓挫した教訓から、大型の研究インフラ・プロジェクトを建設する際、これを0から4まで段階的に管理・承認するプロセスとして活用されている。CD-2で詳細設計や技術の検討を行い、CD-3で当該施設の建設開始を承認した後、CD-4で運転開始を承認することになるが、DOEはVTR計画について2021年後半にも環境影響声明書(EIS)を発行し、建設計画が「決定事項(ROD)」となった場合、VTRの設計や採用技術の選定、建設サイト等について最終判断を下す方針。DOEはすでに2019年8月、CD-1段階の活動の一部としてEISの作成準備を開始する旨、意思通知書を連邦官報に掲載していた。VTRは、新型の原子炉設計で使用される革新的な原子燃料や資機材、計測器等の開発で重要な役割を担う「ナトリウム冷却式の高速スペクトル中性子照射試験炉」となる。米国には現在、この中性子の照射を行える施設が存在せず、それが可能なVTRの建設は2018年9月に成立した「2017年原子力技術革新法(NEICA)」でも必要性が強調されていた。DOEの原子力局(NE)は2018年、同様の必要性を指摘する複数の報告書や新型原子炉設計を開発中の企業からの要請に対応し、VTRの開発プログラムを設置した。新しい原子炉設計の多くが既存の試験インフラとは異なる試験性能を必要とすることから、6つの国立研究所と19の大学、および9社の原子力産業企業から専門家がチームを組み、VTRの設計や費用見積、開発工程等を作成中。既存の試験インフラより高濃度の中性子を高速で生み出すVTRは、先進的な原子燃料や物質、センサー、計測機器の試験をさらに加速する最先端の能力を提供することになる。CD-1の承認についてDOEのD.ブルイエット長官は、「原子力発電の研究や安全・セキュリティ、低炭素なエネルギーを世界に供給する最新技術の開発で米国が世界のリーダー的立場を取り戻すのに向け、重要な一歩が刻まれた」と指摘。VTRは米国で長年にわたって問題になっていた研究インフラの欠落部を埋めるとともに、切望されているクリーンエネルギー技術の研究開発を支援、原子力産業界を再活性化するカギにもなると強調している。(参照資料:DOEの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの9月24日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
28 Sep 2020
3296
仏国のフラマトム社は9月22日、仏国内ですべての商業炉を所有・運転するフランス電力(EDF)グループと政府の研究開発機関である原子力・代替エネルギー庁(CEA)、および同国の原子力産業界や学術界に属する6つの企業・組織が共同で進める「原子炉のデジタルツイン構築に向けた研究開発プロジェクト(PSPC)」に、同社が新たに加わると発表した。デジタルツインは現実世界に存在する製造設備の情報や運転データ、環境データなどを収集し、サイバー空間上にまったく同じ状態・状況を再構築する技術。設備に不具合が発生した際、サイバー空間にあるこの「仮想モデル(クローン)」の設備を分析して原因を究明するなど、高度なシミュレーションを実行することが可能になる。4年計画で実施される同プロジェクトでは、パリの南西約25km地点にあるEDFのパリ・サクレー研究所に本部を置く方針。原子炉物理分野におけるCEAの科学的統率力とEDFが原子力発電所の設計と運転について保有する知識、およびフラマトム社が原子炉の設計エンジニアリングとサービスで蓄積した専門的知見を統合することになる。これらの組織から100名以上の専門家が協力し、仏国内にある各原子炉のクローンをデジタル技術で構築。これらのクローンは若い世代の原子炉運転員の訓練用シミュレーターとして機能するほか、エンジニアリング学習に必要なシミュレーション環境を提供する。このプロジェクトはまた、2019年1月に原子力関係企業などで構成される原子力産業戦略委員会(CSFN)と当時の環境連帯移行大臣、および経済・財務大臣が締結した4分野の「戦略協定」に直接貢献する内容となっている。4分野のうちの1つは「原子力産業のデジタル改革」であり、仏国の原子力産業界が収益面でハイリスク・ハイリターンのプロジェクトで成功を納められるよう、デジタル技術を通じて技術革新に向けた道筋を確立し、仏国原子力部門の技術や専門知識が維持・発展されるよう保証することが目的。フラマトム社らは国内にある原子炉それぞれの設計や改修部分に合わせて、デジタルツインを発展させる計画である。今回のプロジェクトについてフラマトム社の担当理事は、「経験豊富で卓越した産業界のリーダーや学術界のパートナーとの協力により、世界中の顧客のために新たなエンジニアリング・サービスが展開される」とコメント。同プロジェクトを通じてフラマトム社の社員もさらに技能を高め、安全でクリーンかつ信頼性の高い発電をする上で同社に不足しているデジタル技術を長期的に補完していきたいと述べた。(参照資料:フラマトム社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの9月23日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
25 Sep 2020
3380