米原子力規制委員会(NRC)は5月12日、小型モジュール炉(SMR)や非軽水炉型の新しい原子炉技術について、リスク情報やパフォーマンスに基づいた緊急時対応要件を策定するため、スタッフが提案中の規則(rule)と要件を実行する際のガイダンス案に対して一般からのコメントを7月27日までの期間に募集すると発表した。NRCはすでに数年前、SMRその他の新しい原子炉技術に関して将来実施することになる許認可手続きの検討を始めており、その際初めて、パフォーマンスに基づく緊急時対応策の可能性について検討を開始した。今回NRCスタッフが提案している規則に対しては、2016年6月にNRC委員がその制定計画を承認している。また2017年4月には、新たな規制要件を策定することになった規制上の論理的根拠を示した文書(規制根拠)について、NRCスタッフが案文をパブリック・コメントに付しており、同年11月に最終版を発行していた。今回の措置はこれらに続くもので、NRCは既存の緊急時対応プログラムが主に大型で軽水冷却型の原子炉を対象とする一方、提案中の規則と規制ガイダンス案は原子力施設の設計や安全研究の進展に対応し、SMRその他の最新原子炉技術の将来的な操業に向けた申請に取り組むものだと紹介。現行規制を修正してSMR等に対する緊急時対応の枠組みを代替選択肢として創出することを提案しているが、この新しい枠組みではリスク情報を活用するとともにパフォーマンスに基づいた技術包括的なアプローチを取る。一例として、放射性雲(プルーム)による外部被ばくの経路に関して緊急時計画区域(EPZ)の大きさを決定する際、拡大・縮小可能な柔軟性の高いアプローチを採用する方針だとした。NRCはまた、このような提案規則と規制ガイダンス案が最終的に有効になった場合、SMRや非軽水炉型原子炉の既存の事業者にも影響が及ぶと説明。合衆国連邦規制基準第10部50項(10CFR Part 50)に基づく既存の要件の代替要件として、事業者や申請者はパフォーマンスに基づいた緊急時対応プログラムの策定が選択肢の一つとして可能になる一方、これらの規則は大型の軽水炉や原子燃料サイクル施設、あるいは現在稼働中の(非発電型の)試験・研究炉には適用されないとしている。(参照資料:NRCの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
18 May 2020
2296
米エネルギー省(DOE)は5月14日、国内原子力産業界による先進的原子炉設計の実証を支援するため、原子力局(NE)が担当する新しい「先進的原子炉設計の実証プログラム(ARDP)」を開始すると発表した。このプログラムのために2020会計年度予算の中から2億3,000万ドルを拠出する計画だが、コスト分担方式のこの官民連携を通じて、DOEは今後5~7年以内に2つの先進的原子炉設計が実現するよう、初期建設予算として1億6,000万ドルを充当する方針である。今回のプログラムでDOEは、2つの設計の実証炉を実際に建設するほか、先進的原子炉技術の効率的な試験・分析でアイダホ国立研究所内にある国立原子炉技術革新センター(NRIC)を活用。世界的に評価の高い国立研究所の能力を使って、これらの原子炉技術を現実化するとしている。また、ARDPを実行に移す主要ツールとしてDOEは同日、「資金提供機会の告示(FOA)」を発出。申請者が原子炉技術の実証で支援を受けるための3つの選択肢を提示した。①は「先進的原子炉の実証」ルートで、5~7年のうちに2つの先進的原子炉が完璧に始動するよう支援。②「将来的な実証に向けたリスク削減」ルートでは対象設計を2~5件追加し、商業化を目指す期間も①より約5年延長。対象技術の実証に向けて技術面や運転面、規制面の課題を解決する。③「先進的原子炉概念2020(ARC 20)」ルートで、2030年代半ばの商業化を目指して様々な革新的設計を支援する。DOEのD.ブルイエット長官は、「米国がエネルギー供給保障と環境の保全責務を果たす上で、次世代の原子力技術は重要なものである」と指摘。DOEの原子燃料作業部会が先月、「米国が原子力で競走上の優位性を取り戻すための戦略」で示したように、米国は次世代の原子力技術開発におけるリーダーシップを強化し、国内原子力部門の健全な成長を確保するため、技術革新と先進的原子炉技術の研究開発・実証に対する投資を推し進めねばならないと述べた。DOEのR.バランワル原子力次官補も「先進的な原子炉技術はCO2排出量の削減で計り知れない潜在能力を発揮するだけでなく、新たな雇用を創出し強靭な経済を構築する」と説明。今回の新しいプログラムで、米国にはクリーン・エネルギーの供給と原子炉市場における機会の拡大でとてつもなく大きなチャンスが生み出されるとしている。なお、DOEはこの前日、エネルギー高等研究計画局(ARPA-E)が実施する「知的原子力資産による発電管理(GEMINA)プログラム」の一環として、フラマトム社やGE社、モルテックス・エナジー社などが実施している先進的原子炉用のデジタル技術開発プロジェクト9件に対し、合計2,700万ドルを提供すると発表した。同プログラムでは、次世代原子炉における運転管理・保守点検(O&M)コストを10分の1まで削減するため、デジタルツイン技術(※物理世界の出来事をデジタル上に再現する技術)を開発する計画である。(参照資料:DOEの発表資料①、②、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの5月14日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
15 May 2020
2605
米ジョージア州でA.W.ボーグル原子力発電所3、4号機(各110万kWのPWR)を増設中のジョージア・パワー社は5月12日、3号機の原子炉容器上部に「一体化上部カバー(IHP)」を据え付けたと発表した(=写真)。同プロジェクトは米国で約30年ぶりの新設計画であり、3号機の燃料初装荷および両炉それぞれの2021年11月と2022年11月の完成に向け、建設工事はまた一歩前進したと強調している。米国で初めて、ウェスチングハウス社の「AP1000」設計を採用した両炉のIHPは、高さ約15 m、重さ約216トンの一体型機器で、長さ5 km以上の電気ケーブルなどが納められている。高度な訓練を受けた運転員が原子炉容器内の核反応を監視・制御する際に使用する。IHPの据え付けは、原子炉容器を開放した状態で実施する試験に続いて行われたが、同社によればこの試験で、3号機の主要安全システムから原子炉容器まで水流が滞りなく通じることが実証された。また、同炉で燃料を装荷する前の重要試験となる耐圧漏洩試験と温態機能試験の実施準備が整ったとしている。このほか同社は、4号機でも格納容器を取り囲む遮へい建屋のパネル16段のうち12段まで設置したと説明。遮へい建屋は「AP1000」設計に特有の構造で、格納容器の外側に壁をさらに一層追加することで、原子炉構造物を外部からの衝撃から防護することになる。ジョージ―ア・パワー社は3、4号機建設工事の進展では、それぞれ157体の燃料集合体を初装荷燃料として発注し、格納容器に上部ヘッドの設置が完了している。また、緊急時対応で初めての演習を実施し、緊急時に周辺住民を確実に防護するためのプランについて包括的なレビューを行った。さらに両炉の運転で必要な複数年の運転員訓練を、原子力規制委員会(NRC)の検定試験をもって完了した。これらのほかに、過去数か月間には3号機の運転員が機器・システムの試験や安全な起動で重要となる機器をモニター・制御するため、中央制御室の運用を開始。同炉の遮へい建屋には、重さ約910トンの円錐形の屋根を設置している。(参照資料:ジョージア・パワー社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、ほか)
14 May 2020
3984
英国のビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)は5月7日、四半期ごとに約4,000人の英国民を対象に実施しているエネルギーや地球温暖化に関する最新の世論調査で、CO2排出量「実質ゼロ(net zero)」の概念をある程度理解している層は35%と発表した。英国では昨年6月、国内すべてのCO2排出量を2050年までに実質ゼロ目標とする法的拘束力のある法案が可決・成立しており、今年3月に実施した今回(33回目)の調査ではその認知度に関する質問項目が新たに加えられた。その結果、インタビュー形式の質問を受けた大半(64%)の英国民がこの概念について「全く聞いたことがない」と回答。一方、認識があるとした35%のうち、3%が「非常によく知っている」、9%が「ある程度知っている」、13%が「少し知っている」、10%は「聞いたことならある」に分類されている。各種のエネルギー源のなかで原子力を支持する人の割合は、42%だった2014年9月の調査以降、継続して減少傾向を示しており、今回は最も低いレベルの32%だった。「原子力を支持しない」人の割合が23%と安定しているのに対し、「原子力には反対も支持もしない」人の割合が2012年9月の調査(34%)以降、徐々に上昇。昨年3月に38%だった数値は今回、回答者の中で最も割合の大きい41%に増加していた。地球温暖化に関する設問では、回答者の76%が懸念を表明したものの、昨年3月にピークだった80%からは若干減少。76%のうち「非常に心配」と答えた人は35%で、「ある程度心配」とした人の割合は41%だった。また、回答者全体の約半数(47%)が「地球温暖化は人的活動に起因する」と回答。そのうち17%が「全面的に人的活動に起因する」としたのに対し、30%は「主に人的活動による」と答えており、最初にこの設問を加えて以降、最も高いレベルで推移中だとしている。(参照資料:BEISの発表資料①、②、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
14 May 2020
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欧州連合(EU)司法裁判所のG.ホーガン法務官(=写真)は5月7日、英国ヒンクリーポイントC原子力発電所(HPC)に対する英国政府の国家補助を欧州委員会(EC)が承認したことについて、オーストリアが行った異議申し立てを司法裁は却下すべきであるとの見解を表明した。EU司法裁判所の複数の法務官は、公平かつ独立の立場から意見を述べ、同裁判所を補佐する役割を担っている。その見解は法的拘束力を持つものではないが、判事らはすでにこの件に関する審議を開始しており、司法裁が後日判決を下す際、参考にされると見られている。同発電所は現在、2025年末の初号機完成を目指して建設中であるが、着工前の2014年10月にECは、英国政府が同建設計画の投資契約に関して事業者の仏電力(EDF)グループと合意した財政支援策――完成した発電所の発電電力の固定(行使)価格による買い取り制度など――はEU競争法の国家補助規則に適合していると判断し、これを承認した。オーストリアはこの承認を不服とし、取り消しを求める手続きを2015年に開始したが、EU司法裁判所の第一審裁判所は2018年7月、EC承認を改めて確認する判断を下しオーストリアの求めを却下。その際、HPC発電所事業者に対する英国政府の支援策について、①発電電力の買い取り制度は販売価格の安定を保証するものであり、②同発電所が政治的理由で早期閉鎖された場合の補償を確保するため――などと説明していた。その後オーストリアは、第一審裁判所によるこの判断の破棄をEU司法裁判所に申し立てたもので、この点についてホーガン法務官はまず、「第一審裁判所にはEC承認に対するこのような異議を却下する全面的権限がある」と指摘。このことから、司法裁がオーストリアの異議申し立てを却下するよう提案するとした。同法務官はまた、欧州原子力共同体(ユーラトム)条約は欧州連合条約(TEU)やEU競争法(TFEU)と同等の位置づけにあり、ユーラトム条約が扱わないEU法の全分野についてはTEUとTFEUが適用されると説明。ユーラトム条約には国家補助問題を取り扱う個別の項目が含まれないため、国家補助や競争原理に関するTFEU規則を原子力部門に適用するのが適切だと述べた。また、ユーラトム条約の条項は原子力発電所の建設を必然的に想定しているため、この条約が原子力発電所の新規建設や経年化した発電所の取り換え・改修のいずれもカバーしていないとするオーストリアの主張は受け入れられないと同法務官は明言。さらに、原子力発電所の建設はEU法の中で明確に定義されている目標でもあり、環境保全のような他の目標を優先させることはできない。いずれにしてもユーラトム条約の目標を受け入れた場合、EUのすべての加盟国は他の加盟国が自らの領土内で原子力発電所を建設する権利を原則として無条件で受け入れたことになるとしている。(参照資料:EU司法裁判所の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの5月7日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
12 May 2020
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【国内】▽2日 福島第一処理水の取扱いでIAEAがレビュー報告書、エネ庁委員会の検討結果を評価▽6日 エネ庁、福島第一処理水の取扱いに関し意見聴取を開始▽14日 2018年度エネ需給実績公表、原子力再稼働でCO2排出量が大幅減▽14日 規制委が新型コロナ拡大防止でTV会議による審査会合開始▽16日 若狭湾エネ研とJAXAが研究連携に向け覚書締結、宇宙放射線による影響評価など▽17日 量研機構他が熱利用による水素製造の大幅な省エネ化を達成、高温ガス炉利用にも期待▽21日 内閣府、日本海溝・千島海溝巨大地震で津波想定発表▽22日 核融合超伝導トカマク型実験装置「JT-60SA」が完成、ITER/BA(幅広いアプローチ)活動で▽22日 東北大で次世代放射光施設が着工、2024年度供用開始予定▽29日 福島第一、高さ120mの1/2号機排気筒の解体が完了▽30日 東北電力が女川2号機の安全対策工事完了時期を2022年度へ2年先送り 【海外】▽1日 米サザン社、新型コロナウイルスの流行でボーグル3、4号機建設工事の遅れを懸念▽1日 ロシアで送電開始後40年経過した高速原型炉の運転期間を5年延長▽7日 ロシア、バングラデシュの建設サイトのロシア人にチャーター機手配▽7日 米TVA、クリンチリバー・サイトにおけるSMR建設の評価についてテネシー大学と覚書▽8日 フィンランドのTVO、OL3の燃料装荷許可を申請▽8日 OECD/NEAの事務局長、加盟国にNEAのパンデミック対応を説明▽8日 フラマトム社、ロシア最新鋭の原子力発電所建設プロジェクトに安全保護システム納入へ▽10日 米規制委、サリー1、2号機の2回目の運転期間延長審査で最終EIS発行、6月に最終判断へ▽14日 仏電力、新型コロナの拡大で2020~2021年の財務目標をすべて撤回▽15日 米ジョージア・パワー社、新型コロナの影響対策でボーグル増設サイトの労働力20%削減▽15日 ロシアの専門家審査会、海上浮揚式原子力発電所用防護インフラの建設を承認▽15日 ベラルーシの原子力導入初号機で温態機能試験が完了▽21日 米国の温暖化防止団体、感染拡大時の原子力発電所早期閉鎖の延期をNY州知事に要請▽22日 英ホライズン社、原子力発電所建設に必要な国道の改修計画について許可の延長を模索▽22日 IAEAが主催する「SMR規制者フォーラム」、SMRの安全性問題で新たな提言を発表▽23日 米エネ省の作業部会、原子力で米国が再び優位に立つための戦略を公表▽23日 カナダ原研、SMR開発促進イニシアチブで英モルテックス社を支援▽28日 米ホルテック社、同社製SMR用の燃料調達でフラマトム社を選択▽29日 米NY州のインディアンポイント2号機が予定通り永久閉鎖▽30日 IEA、新型コロナの影響で世界のエネルギー需要は2020年に6%減と予測 ☆過去の運転実績
12 May 2020
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米原子力規制委員会(NRC)は5月6日、中間貯蔵パートナーズ(ISP: Interim Storage Partners)社がテキサス州アンドリュース郡で建設・操業を提案している使用済燃料の集中中間貯蔵施設(CISF)について、「サイト周辺の自然環境などに悪影響が及ぶ可能性は認められない」と結論づけた環境影響声明書(EIS)の案文を4日付けで発行、120日間のパブリック・コメントに付したと発表した。NRCスタッフは今後、提出されたコメントを十分考慮した上でEIS最終版を2021年5月にとりまとめる予定。また、同時並行的に実施している安全・セキュリティ面の分析評価に関しても、同じ時期に結果報告書(SER)を公表するとしており、NRCの委員はこれらの文書に基づいてCISFの建設と操業について最終的な可否を判断することになる。ISP社は、米国のウェイスト・コントロール・スペシャリスツ(WCS)社と仏国オラノ社の米国法人が2018年3月に立ち上げた合弁事業体(JV)。同社のCISFは、米エネルギー省(DOE)が2010年にネバダ州ユッカマウンテンで使用済燃料最終処分場の建設プロジェクトを中止した後、中間貯蔵対策として民間で計画されている2つの集中中間貯蔵施設構想の1つである。CISFでは差し当たり第1フェーズで約5,000トンの使用済燃料を貯蔵するが、最後の第8フェーズで合計4万トンまで貯蔵可能となるよう設備を拡張していく。完成すれば、米国全土の商業用原子力発電所から使用済燃料入りのキャニスターを鉄道で同施設まで輸送するとしており、WCS社は2016年4月に同施設を建設・操業するためのライセンス審査申請書をNRCに提出。その後オラノ社とのJV設立を経て、2018年6月に同JVが改めて申請書を提出していた。EIS案文を作成するにあたり、NRCはCISFの建設・操業から使用済燃料の輸送、最終的な廃止措置に至る全段階の環境影響を評価。対象分野はサイトの土壌や地層、表層水と地下水、動植物や史跡/文化財、マイノリティへの配慮など多岐にわたった。また、新型コロナウイルス感染にともなう緊急事態を考慮し、NRCはEIS案文に対するコメントの提出期間を当初計画よりも延長した。この期間中に、アンドリュース郡周辺で複数回の公聴会やWEB上のセミナーも開催する予定で、その際、予備的調査の結果や提出されたコメント等を紹介する。ただし、新型コロナウイルスによる緊急事態の状況に応じて、国民が関わるプランについては今後も継続的に再評価を行うとしている。(参照資料:NRCとISP社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、ほか)
11 May 2020
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国際エネルギー機関(IEA)は4月30日、新型コロナウイルスによる世界的感染(パンデミック)の影響で2020年の世界のエネルギー需要量は過去70年以上の間で最大下げ幅の6%減となるほか、これにともないエネルギー関係のCO2年間排出量も約8%減という記録的な削減になるとの見通しを発表した。原子力発電に関しては、需要量の低下および複数の建設プロジェクトやメンテナンス計画の遅れから、2020年の発電量は2019年より2.5%減少するとIEAは予測。仮に今回の危機からの回復が早かった場合には、電力需要量は予想より増加するほか、いくつかの建設中原子炉も年内に完成、今年の発電量の低下は1%余りに抑えられるとしている。これらはIEAの最新報告書「世界エネルギー・レビュー」で明らかにされたもので、パンデミックがすべての主要エネルギー源に及ぼした桁外れの影響をほぼリアルタイムで評価。これまでに得られた100日分以上の実データ分析に基づき、2020年の残りの期間に世界のエネルギー消費とCO2排出量がどのような傾向で推移していくかを推定した。IEAのF.ビロル事務局長によると、今回のような見通しは「世界のエネルギー全体に及ぶ歴史的な衝撃」。健康面と経済面の両方で迎えた前代未聞の危機のなかで、主要エネルギー源のほとんどすべてで需要が急落し、特に石炭と石油、天然ガスの需要量は不安定な傾向が強い。唯一、再生可能エネルギーが電力使用量の前例のない落ち込みに対しても変動幅が小さいとした。しかし同事務局長は、パンデミックの長期的な影響を見極めるのは今のところ時期尚早だと指摘。今回のような危機を切り抜けられるエネルギー産業は、これまでとは全く違ったものになるとの見方を示している。2020年のエネ需要量6%減、電力需要量は5%減「世界エネルギー・レビュー」が今回提示した予測は、パンデミック対応で世界中で実施中の都市封鎖(ロックダウン)が今後数か月間に多くの国で徐々に解除されていき、経済活動も次第に回復するとの見通し基づいている。今年のエネルギー需要量の6%減は、2008年のリーマン・ショックが引き金になった世界的金融危機時の7倍に達するもので、世界第3位のエネルギー消費国であるインド全体のエネルギー需要量に相当する空前の落ち込み。経済大国における需要量もこれまでで最大の下げ幅になると予測しており、IEAは米国で9%、欧州連合では11%低下すると見込んでいる。また、パンデミック危機がエネルギー需要に及ぼす影響は、感染の拡大を抑える方策の有効性や実施期間に大きく左右される。IEAは一例として、4月初旬に取られたのと同程度のロックダウンが毎月実施された場合、世界のエネルギー需要量は年間で約1.5%低下するとみている。さらに、ロックダウン期間中の電力使用量の変化は、電力需要量全体の大幅な低下を導くとIEAは説明。全面的なロックダウンにより電力需要量は20%かそれ以上押し下げられる一方、部分的ロックダウンの影響はそれよりも小さい。2020年に世界の電力需要量は5%低下することが見込まれるが、これは1930年代の世界恐慌以来の大幅な下げ幅になるとした。これと同時にIEAは、今回ロックダウンが多くの国々でとられたことで風力や太陽光、水力、原子力といった低炭素電源への大々的なシフトが促されると指摘。これらの低炭素電源は2019年に初めて石炭火力の発電量を上回っており、2020年には石炭火力を6ポイント上回る40%まで発電量を伸ばす見通しである。中でも風力と太陽光は、2019年と2020年の初頭に完成した各国での新規プロジェクトにより、2020年の発電量を継続的に拡大させるとしている。このような傾向は石炭と天然ガスによる発電電力の需要量に影響を与えることになり、需要量の低下と再生可能エネルギーによる発電量の増加によって、いつのまにか圧縮されていく。結果として、石炭と天然ガスを合わせた2020年の発電シェアは2001年以降見られなかったレベルである3ポイント減まで低下するとした。ビロル事務局長は、「医療制度やビジネス、生活の基本インフラを支える信頼性の高い電力供給に近代社会がどれほど深く依存しているか、今回の危機は明確に示した」と分析。その一方で、それらを当たり前のものと受け取るべきではなく、確実な電力供給を維持するために一層の投資と賢明な政策が必要なのだと強調した。報告書の中でIEAは、再生可能エネルギーによる発電量が2020年は回復力(レジリエンス)を発揮するものの、前年に比べて伸び率は鈍化すると予測した。もう一つの大型低炭素電源である原子力も、発電量は2019年の最高記録から一転して今年の第1四半期は約3%低下する見通し。バイオ燃料の世界全体の需要量も、2020年は実質的な低下が見込まれるとした。2020年のCO2排出量8%減このような傾向の結果として、IEAは2020年は石炭と石油の使用量低下が主な原因となって、世界のCO2排出量が2010年以降最も低いレベルである8%近くまで減少すると指摘。これは、リーマン・ショックにともない2009年に記録した4億トンという排出削減量の6倍近い、記録的な数値になるとした。しかしビロル事務局長は、「パンデミックによって世界中の経済が損なわれ多くの死者が出たことを考えると、世界のCO2排出量が歴史的低レベルに下がったからといって喜ぶべきではない」と強調。経済条件が回復するにつれて、CO2排出量も急激に元通りになってしまうかもしれないが、各国政府も経済回復計画の中心にクリーン・エネルギー技術を据えるなど、今回の経験から学べることがある。これらの技術分野に投資することで、雇用を創出するとともに経済的競争力を付け、世界のエネルギーを一層クリーンかつ回復力の高いものに導けるはずだと訴えている。(参照資料:IEAの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの4月30日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
08 May 2020
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米国の発電事業者のエンタジー社は4月29日、ニューヨーク(NY)州南部のインディアンポイント原子力発電所で45年以上の間、安全かつ信頼性の高い発電を続けていた2号機(106.2万kWのPWR)を30日付で永久閉鎖すると発表した。国際原子力機関(IAEA)の発電炉情報サービス「PRIS」はこの後、同炉が発表通り永久閉鎖された事実を確認。米エネルギー省(DOE)のR.バランワル原子力担当次官補はこの件について、「NY市民に長期にわたって信頼性の高いクリーン・エネルギーを供給してきた2号機の閉鎖は非常に残念」とコメントしている。NY州の公益事業委員会は2016年8月、包括的かつ意欲的な地球温暖化防止政策として、州北部に立地する3つの原子力発電所への補助金プログラムを盛り込んだ「クリーン・エネルギー基準(CES)」を承認した。しかし、NY市の北約40kmに位置するインディアンポイント発電所については、同州のA.クオモ知事が「大都市圏に近すぎる」として、かねてより早期閉鎖を要求。エンタジー社と州政府が協議した結果、2号機を2020年4月末に、同3号機(107.6万kWのPWR)を2021年4月末に永久閉鎖することで、両者は2017年1月に合意した2、3号機はそれぞれ、1974年8月と1976年8月に営業運転を開始しており、エンタジー社は2000年から2001年にかけてコンソリディテッド・エジソン社等からこれらを購入している。これらを早期閉鎖する理由についてエンタジー社は、2017年の合意のほかに電力卸売市場における価格の低下が長期化し、今後も収益が減少する見通しであることなど複数の要因を指摘。同発電所の従業員に関しては、すでに公表済みの閉鎖計画に沿って、40名以上の希望者を同社内で配置転換すると約束している。また、エンタジー社は2019年4月、すでに閉鎖されている1号機(28.5万kWのPWR)も含めた3基の廃止措置作業を迅速化するため、発電所のライセンスや使用済燃料、廃止措置の信託基金などをホルテック・インターナショナル社の子会社に売却すると発表。エンタジー社がこれらの原子炉を保有し続けるよりも、ホルテック社に売却した場合の方が40年ほど早く、跡地の一部を再利用のために開放できるとの見方を示した。ホルテック社も、規制当局から廃止措置の承認を取得し2021年にライセンス等の購入取引を完了し次第、廃止措置を開始する方針。このため、カナダのSNCラバリン社と設立した廃止措置の専門企業「コンプリヘンシブ・デコミッショニング・インターナショナル(CDI)社」を通じて、同発電所従業員の中から廃止措置の第一フェーズのために選抜した者を雇用する方針を明らかにしている。(参照資料:エンタジー社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの4月30日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
07 May 2020
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米エネルギー省(DOE)のD.ブルイエット長官は4月23日、原子燃料作業部会(NFWG)が取りまとめた包括的戦略「米国が原子力で競争上の優位性を取り戻すために」(=写真)を公表した。同戦略の示すアクションを通じて、米国は原子力発電技術の優位点を増強するとともにウランの採鉱や精鉱、転換に関わる産業を再活性化し、米国の技術面での優位性を強化する。米国では議会の上下両院ともに超党派で原子力発電を広範に支援していることから、米国が推進する核不拡散政策との整合性や国家安全保障を維持しつつ、関連の輸出も拡大する方針である。NFWGは2019年7月、原子燃料サプライチェーン全体が関わる国家安全保障上の留意事項について全面的な分析を行い、報告書を作成する目的でD.トランプ大統領が創設した。国内原子力産業の再生に向けて関係省庁が協力し、全体的な原子燃料サプライチェーンについて様々な政策オプションを策定することになる。今回の戦略でNFWGはまず、原子力産業界の現状を分析。それによると米国は今日、この分野の世界的リーダーとしての競争力を失い、ロシアや中国など国営原子力企業を有する国にその立場を明け渡した。途上国の国々も米国を脅かす勢いで迫っており、過去数十年にわたり放置されてきた米国の商業用原子力部門では、ウラン採掘から発電に至るまで企業破産のリスクが高まっている。具体的には、米国は国産原子燃料の生産能力を失いつつあり、それがエネルギー確保を含む国家安全保障に脅威となっている。また、米国が強力な核不拡散体制や安全・セキュリティ基準を設定する際、必要となる国際的影響力を損なう事態になっていると分析した。これに対してロシアはエネルギー供給を他国支配の道具として利用し、国際的な原子力市場を支配。これによって経済上、外交政策上の影響力を世界中で強めており、諸外国での原子炉建設受注額は合計1,330億ドルにのぼる。このほか、19か国で建設予定の50基以上の原子炉についても、費用を全面的に負担していると指摘。戦略的競争国である中国もまた、現在4基の原子炉を国外で建設中であり、さらに16基を複数の国で建設することを計画中。中国国内で建設した基数も過去33年間で45基となったのに加え、12基が建設中となっている。NFWGは、米国企業が諸外国の原子炉市場で請け負った建設計画が現在一件もなく、今後10年間に取り逃がすことになる受注金額を5,000億~7,400億ドルと予測。米国の原子力企業は今や、その他の国際的な企業との競争のみならず国営原子力企業との競争に直面しており、もはや「真に自由な世界市場で活動」などと取り繕っている場合ではないと訴えている。ブルイエット長官も今回、原子燃料サイクル・フロントエンドにおける米国の産業基盤が過去数十年間に弱体化し、それによって米国の国益と国家安全保障が脅かされていると指摘。NFWGの戦略はこのような課題を認識した上で、米国が原子力エネルギーと原子力技術で世界のリーダーシップを取り戻すための政策オプションを数多く提示している。国家安全保障問題として、米国内の原子力関係企業基盤を保持し成長させるために大胆な措置を取ることが重要であり、トランプ政権は米国が原子力分野の競争力を持った世界のリーダー的立場に再び復帰することを約束した。NFWGはそのための勧告事項を、今回の戦略で以下のように示している。すなわち、ウランの採鉱、精鉱、転換など各産業を復活・強化する迅速かつ大胆な措置を連邦政府が取り、原子燃料サイクル・フロントエンド全体のポテンシャルを回復させる、米国における技術革新と先進的な原子力研究開発・実証活動への投資を活用して、米国の技術的優位を確固たるものとし、次世代原子力技術における米国のリーダーシップを強化する、健全かつ世界をリードする原子力部門を確立し、その中でウラン採掘業者や燃料サイクル関連企業、原子炉ベンダー等が製品やサービスを販売する、連邦政府全体での取り組みとして、民生用原子力技術の輸出でロシアや中国などの国営原子力企業と競争する際、米国原子力産業の支援策を取る、――である。DOEによると、米国は現在、防衛面で将来的に必要となる2種類のウラン供給を明確に定義。それらは、①2040年代の核兵器製造でトリチウムを生産するのに必要な低濃縮ウラン、および②2050年代に原子力船で必要となる高濃縮ウランである。また、今回の戦略によってDOEは、国家安全保障が原子燃料サイクルの健全なフロントエンドと密接に関係するという事実を認識。すなわち、米国は国家防衛上、強力な民生用原子力産業を必要としているということを強く指摘した。米国が推進する核不拡散体制の信頼性は、健全堅固な原子力産業の生存能力と米国が技術面でリーダーシップを取ることによって決定付けられるため、D.トランプ大統領は重要な第一歩として2021会計年度(2020年10月~2021年9月)の予算要求で、「国産ウラン備蓄」のためのDOE予算1億5,000万ドルを計上した。これにより、国内の鉱山からウラン鉱や転換サービスの購入を開始する考えである。(参照資料:DOEの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの4月24日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
01 May 2020
4137
米国のホルテック・インターナショナル社は4月28日、軽水炉方式の同社製小型モジュール炉(SMR)「SMR-160」に装荷する燃料の供給業者として、仏国のフラマトム社を選定したと発表した。フラマトム社が広く販売している、技術面でも実証済みの燃料集合体「GAIA(17×17)」を利用するため、ホルテック社は必要となるエンジニアリング作業すべての実施契約をフラマトム社と締結。これにより同社は、新しい燃料を導入する際のエンジニアリング作業を大方削減できることになった。また、標準的なPWR燃料に「SMR-160」の炉心設計を適合させることで、ホルテック社は燃料関係で生じる可能性のあるリスクを実質的に排除。世界中の既存軽水炉で培われた燃料関係の運転経験を、同社製SMRに生かすことができる。「SMR-160」はポンプやモーターを必要としない受動的安全系を備えた電気出力16万kWのSMRで、ホルテック社は2026年末までに初号機の運転開始を目指している。開発チームには三菱電機の米国子会社が計装・制御(I&C)系の開発で参加しているほか、米国最大の原子力発電事業者エクセロン・ジェネレーション社やカナダのSNC-ラバリン社が協力。また、ウクライナの国営原子力発電公社が同SMRをウクライナで建設するとともに、一部機器の製造については国産化を目指す可能性があるため、ホルテック社は2019年6月、ウクライナ国立原子力放射線安全科学技術センターを交えた国際企業連合を設立している。発表によると、フラマトム社がホルテック社のSMR開発プログラムに加わったことから、同SMRの将来的なオーナーは実質的に、十分な実績をもつ燃料の国際サプライチェーンにアクセスしたことになる。燃料開発では、燃焼度の向上や中性子漏れの軽減、取り換えサイクルの(24か月まで)拡大、水化学上の難しい課題への取り組みなど、要求される条件が次第に絞り込まれていくなか、フラマトム社は「GAIA燃料集合体の開発において高い安全裕度と最適な性能の確保を保証。当社製SMRとは理想的な適合になることが実証されている」と強調した。ホルテック社は今のところ、「SMR-160」で米原子力規制委員会(NRC)の設計認証(DC)審査を受けていないが、カナダ原子力安全委員会が提供する全3段階構成の「許認可申請前設計(ベンダー)審査」については、2018年7月からフェーズ1の審査が進展中である。(参照資料:ホルテック社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの4月29日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
30 Apr 2020
3351
カナダ原子力研究所(CNL)は4月23日、英国のベンチャー企業モルテックス・エナジー社が開発しているピン燃料型溶融塩炉「SSR(Stable Salt Reactor)-W」(出力30万kW)で、燃料も含む開発プロジェクトに支援・協力することになったと発表した。これは、CNLが昨年7月に設立した「カナダの原子力研究イニシアチブ(CNRI)」で支援する2件目の小型モジュール炉(SMR)研究開発プロジェクトとなる。同プロジェクトの下、CNLとモルテックス社およびカナダのニューブランズウィック大学(UNB)は協力して、燃料試験装置をUNBの原子力研究センター内で設計・建設し、最適化を図る計画。これと並行して、英国マンチェスター大学では補足活動が進められる。CNRIは1年単位・コスト分担方式の研究開発支援イニシアチブであり、カナダにおけるSMRの研究開発と建設を促進し、同技術の商業化を加速することを目的としている。このためCNLは、CNL傘下の国立研究所の専門的知見や世界レベルの研究設備を世界中のSMRベンダーに提供すると表明。初回の提案募集では、国内外の主要なSMR開発ベンダーの中からモルテックス社も含めて申請を4件に絞り込み、1件目の支援対象として米国のウルトラ・セーフ・ニュークリア社(USNC)と同社製SMR設計を選定した。次回の募集は今年春に実施を予定しており、プログラムの詳細等を専用ウェブサイトで公表中だとしている。 今回のCNRIプロジェクトでCNLは具体的に、燃料試験用の特殊機器をモルテックス社が準備し、設置・起動する段階で支援を提供するとした。燃料試験はまず非放射性物質を使って行われるが、これらの機器を遮へい施設に移し実燃料や放射性物質で試験を完結させる際も、CNLはその専門的知見によって計画の立案やコスト計算、安全性分析などをサポート。このような試験で集められたデータは最終的に、モルテックス社が将来、カナダ東部のニューブランズウィック(NB)州政府や州営電力のNBパワー社と共同でフル・スケールの燃料製造施設を同州内に建設する時、その設計や許認可活動に活用されることになる。NB州政府はすでに2018年7月、世界的水準のSMR開発で同州がカナダのリーダー的立場を確立することを目的に、モルテックス社のSSR-Wについて商業規模の実証炉を2030年までに州内のポイントルプロー原子力発電所敷地内で建設する計画を発表している。CNLによると、カナダで開発・計画されているモジュール式の原子炉設計の多くが革新的な燃料と燃料製造プロセスを採用しており、このような技術の進展は原子炉で一層高いレベルの効率性と安全性を約束する。モルテックス社の場合、放射性廃棄物が少ない特性が期待できるが、そうした利点を現実化するにはコンセプトの実証や許認可プロセスの準備等で研究開発の実施が不可欠だとした。モルテックス社のR.オサリバン北米担当CEOも、「研究開発を進展させプロジェクトを成功させるには、CNLからの財政支援と技術的専門知識が重要になる」とコメント。間欠性のある再生可能エネルギーだけでは、現時点も将来的にも電力需要を賄えないのに対し、原子力発電は世界的なエネルギー問題に取り組む上で非常に重要との見方を強調している。(参照資料:CNLの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの4月24日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
27 Apr 2020
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国際原子力機関(IAEA)は4月22日、同機関が2015年3月から主催している「小型モジュール炉(SMR)規制者フォーラム」が先月下旬の会合で、SMRの安全性に関する新しい提言を出したと発表した。同フォーラムによると、SMR開発では設計それぞれの新たな技術領域に関わる安全性問題で、柔軟な規制の枠組みが必要である。SMRに採用されているモジュール方式やコンパクト設計が発電所の安全性に影響を及ぼすかもしれないとしたほか、SMRの設計から建設、起動、運転、廃止措置まで、ライフサイクル全般の許認可の枠組みにも新たな課題をもたらすと指摘している。このフォーラムには、米国、英国、カナダ、仏国、中国、韓国、ロシア、フィンランド、サウジアラビアの原子力規制当局が参加し、出力30万kW以下の様々な新しいSMR設計を規制する際に課題となる点を協議。規制関係の知識や経験を共有するとともに、共通する安全性問題について解決策を特定・提案することなどを目的としている。IAEAによると、数多くの加盟国政府が温室効果ガスの排出量を最小化しつつ、多量の電気を使って経済の活性化を目指しており、SMRを含む先進的な原子炉設計はそうした目的の達成に重要な役割を担うことが期待される。しかし、SMRを設計・開発するための新たなアプローチは、既存の原子力規制の枠組みにこれまでとは違った観点の課題を突き付けることになった。IAEAが設定した原子力発電所の安全基準は、放射線の有害な影響から人々や環境を守る包括的規範として機能し、SMRにもほとんどの場合は適用可能。しかし、「SMR規制者フォーラム」の専門家は新しい概念の原子炉であるSMRに最適の規制を開発し、各国規制当局の一助とする考えである。同フォーラムはまた、SMRの許認可プロセスにおける課題や作業手続の現状について理解を深める方針。IAEA原子力安全・セキュリティ局のG. リジェットコフスキー原子力施設安全部部長は、「現時点でSMRに特化した安全基準を策定する計画はないが、特定の技術にこだわらない総体的な安全性の枠組みを設定する際、SMR関係の洞察を利用する」と説明した。そうした枠組みを新しい設計に適用するほか、IAEAの安全基準を活用して各国の様々なアプローチを調和させるのに役立てたいとしている。今回の提言のうち、SMRのモジュール方式に起因する安全性への影響について、同フォーラムはまず、複数のモジュールを接続することで電力供給などのサービス利用率や信頼性が向上する利点があると述べた。一方、複数ユニットで構成する既存の原子力発電所の運転経験から、安全面で明確な配慮を必要とする可能性が示されたと指摘。具体的には、福島第一原子力発電所で複数ユニットが関わった事故の教訓を挙げており、複数のシステムを共有することで設備同士が依存しあうなど、設計に脆弱性リスクがもたらされるかもしれないとした。また、SMRのコンパクト設計に起因する安全性問題に関しては、まずSMRを工場で製造しトラックで設置場所まで輸送するため、そのような設計になっていると説明。しかし、SMRで運転やメンテナンス、点検等を実施するとなると、SMRのコンパクト設計にはライフサイクル全般にわたって根本から考えなければならない点があると指摘。一例として、SMRの品質チェックのために機器の溶接部で点検や非破壊検査をどこでどのように行うかなどを検討課題として挙げている。(参照資料:IAEAの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの4月23日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
24 Apr 2020
3166
日立製作所が出資する英ホライズン・ニュークリア・パワー社は4月22日、ウィルヴァ・ニューイッド原子力発電所を建設・運転する際に必要となる近隣国道(A5025)の改修計画について、取得していた許可が今年7月で期限切れとなるため、これを2023年7月まで延長する方策を探る方針だと発表した。この許可は、同発電所の建設予定地であるウェールズ地方アングルシー島の郡議会から2018年に取得していたもの。A5025国道は、アングルシー島内のグレートブリテン島に近いランヴァイルプルグウィンギルから、北海岸周りでバレーまで続く幹線道路だが、発電所建設サイトでは建設資機材や大型機器等を搬入するため、バレーから建設サイトの連結道路まで同国道を延長するほか、一部区間で舗装の改修工事や道路幅の拡張工事等が必要となっている。ウィルヴァ・ニューイッド建設計画は現在保留中となっているが、国道改修の「計画許可」については7月に有効期限が迫っている。ホライズン社としては、仮に建設費の確保で適切な資金調達モデルが確立され、今年後半にも英国政府から「開発合意書(DCO)」が発給されるのであれば、速やかに同計画を再開させたいとしている。同原子力発電所建設計画では、アングルシー島北部のすでに閉鎖されたウィルファ原子力発電所の隣接区域で、日立GEニュークリア・エナジー社製の英国版ABWR(出力135万kW)を2基建設する計画である。ホライズン社は2018年6月にDCO申請書を計画審査庁(PI)に提出したが、資金調達面で同社と英国政府が折り合わず、同社は2019年1月に同計画の作業を一時保留すると表明していた。新規原子力発電所建設プロジェクトの資金調達モデルについては、ビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)が昨年、「規制資産ベース(RAB)モデル」の実行可能性を調査。同モデルで発電所の建設段階から出資者が一定のリターンを受け取れるなら、民間からの資金調達コストを抑えられる可能性があると結論付けていた。(参照資料:ホライズン社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
23 Apr 2020
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ベラルーシ初の原子力発電設備を2013年から建設しているロシア国営の原子力総合企業ロスアトム社は4月15日、ベラルシアン原子力発電所1号機(119.4万kWのPWR)で大がかりな温態機能試験が無事に完了したと発表した。この試験は、機器の性能・機能を原子炉停止中の常温常圧状態で確認する冷態機能試験に続き、運転時と同じ高温高圧下で確認する重要な起動準備プログラムである。これにより準備作業は次の段階に移行し、6月半ばの完了を目指して1次系と2次系の主要機器や補助機器の検査が行われる。同発電所では同型設計の2号機の建設工事も約半年のインターバルで進められており、両炉はそれぞれ年内と2021年に起動できると見られている。旧ソ連邦に属していたベラルーシはウクライナと隣接しており、同国との国境から約16km地点のチェルノブイリ原子力発電所事故(1986年)では多大な放射線被害を被った。しかし、国内のエネルギー資源は乏しく1次エネルギーの8割を輸入に依存するという事情により、1990年代後半に原子力の導入に関する実行可能性調査が行われた。福島第一原子力発電所事故直後の2011年3月15日、A.ルカシェンコ政権は同国初の原子力発電所建設でロシアとの二国間協力に合意した。翌年11月には、総工費の90%をカバーする100億ドルの低金利融資をロシア政府が25年間で提供することを約束。同国の全面的な支援を受けて、2013年11月にフロドナ州オストロベツで120万kW級ロシア型PWR「AES-2006」の1号機が本格着工したほか、翌2014年4月には2号機の建設工事が開始された。昨年12月に始まった1号機の温態機能試験では、原子炉系統の機器・システムを定格出力で稼働させた際の設計との適合性を確認するため、ロスアトム社エンジニアリング部門の専門スタッフが242項目の試験を実施した。運転パラメーターとして、1平方cmあたり160kgの圧力と280℃以上の温度下で4つすべての1次系冷却材ポンプの機能を試験したほか、補助動力供給系と制御・防護系の操作性をチェック。蒸気発生器や加圧器の主蒸気安全弁についても、性能を確認した。ロスアトム社傘下の総合エンジニアリング企業「ASEエンジニアリング社(ASE ・EC・ JSC)」でベラルーシ原子力発電所建設プロジェクトを担当するV.ポリアニン副総裁は、発電所の予熱段階から冷却段階に至るまで、試験全体が定格出力で行われた点を強調。この試験によって、すべての機器やシステムが設計に適合していることが明らかになったとしている。 (参照資料:ロスアトム社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの4月16日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
22 Apr 2020
4728
米国で地球温暖化防止対策の推進を呼びかけている団体「Climate Coalition」は新型コロナウイルスによる感染の拡大が深刻化するなか、ニューヨーク(NY)州内で今月中に予定されているインディアンポイント原子力発電所2号機(106.2万kWのPWR)の早期閉鎖を延期し、運転を継続するよう同州のA.クオモ知事に訴える書簡を公開した。ウイルス感染にともなう呼吸器不全で多くの州民が亡くなっているが、原子炉の早期閉鎖を延期すれば化石燃料発電所から有害な汚染物質が新たに大量に排出されるのを抑えられると同団体は指摘。これはパンデミックによる影響が一層悪化するのを防止し、これ以上の死者を出さないために知事が実行できる最も重要かつ予防的な措置であり、CO2を排出しないクリーン・エネルギー源をこのように不味いタイミングで停止させてはならないと訴えている。同団体はクリーン・エネルギーの支持団体や環境保護グループ、個人などの連合体であり、クオモ知事が2016年8月、NY州北部で稼働する3つの原子力発電所への助成金プログラムを盛り込んだ包括的温暖化防止政策「クリーン・エネルギー基準(CES)」を州議会で成立させたことを称賛している。しかし同知事は、NY市の北約40kmに立地するインディアンポイント原子力発電所については、「大都市圏に近すぎる」としてかねてより早期閉鎖を要求。同発電所を所有するエンタジー社と州政府が協議した結果、2号機を2020年4月に、3号機(107.6万kWのPWR)を2021年4月に永久閉鎖することで2017年1月に合意していた。知事宛ての書簡の中で同団体は、「パンデミック対応でNY市の財政は火の車となっており、ここで原子炉を止めてしまえば財政面の脆弱性は余計に増す」と指摘した。その上で知事に対して、「あなたは本当に送電網を一層脆弱なものとし、この危機的状況に新たな不確定要素を加えたいのか?」と詰問。夏が急速に近づくなかで異常気象により熱波が長引いた場合はどうなるのか、NY市全体が室内に避難し続けねばならないのかと疑問を投げかけた。また、ウォールストリート・ジャーナルのコラムニストで新型コロナウイルスに感染したP.ヌーナン氏の言葉を引用し、「電気さえあれば何もかもが上手くいく。世の中はすべて送電網にかかっている」と指摘。数百万のニューヨーカーの生命がエアコンや換気扇に左右されるにも拘わらず、最も信頼性が高くクリーンな電源を本当に知事の一存で止めてしまうのかと非難している。同団体はさらに、クオモ知事が昨年、州内のCO2排出量の100%削減に向けた法案を可決させた事実に言及した。クリーン・エネルギー源としては州内最大規模のインディアンポイント発電所の早期閉鎖を画策しておきながら、知事は代わりの電源として再生可能エネルギーではなく、大気汚染を助長する化石燃料を選んだと糾弾。ニューヨーカーが望まない政策によって、知事は数百億ドルの価値を持つ資産を無駄にしようとしていると述べた。もしも知事がNY州にとって本当に意味のあるCO2削減を約束したいのなら、安全でクリーンな原子力発電所の閉鎖を全力で阻止しなければならないと同団体は強調。インディアンポイント発電所の閉鎖はクリーンな大気とCO2の削減、両方に向けた努力を数十年分後退させるほか、脱炭素化した未来のために原子力発電は非常に重要だとする最新の科学的知見とも矛盾するとした。同団体によれば、インディアンポイント原子力発電所の早期閉鎖で州政府と事業者が合意して以降、原子力発電に対する世間の見方は劇的に変化した。原子力発電所を廃止して再生可能エネルギーで代替するというドイツの取り組みの失敗により、A.メルケル首相は停電回避のために古来の森林を伐採し、採炭に抗議する者を逮捕せざるを得なくなった。もっと科学的思考を持つ環境保護派のリーダーであれば、原子力発電が地球温暖化との戦いに必要なことを認識している。「憂慮する科学者同盟」や世界的自然保護団体の「Nature Conservancy」、科学雑誌の「ナショナル・ジオグラフィック誌」などは、ここ数年間で原子力発電に関する勧告を改訂。否定的に見られていた原子力発電は今や、重要なクリーン・エネルギーと位置付けられ、それなくしては迅速かつコスト面の効果もある方法で化石燃料から脱却することはできないと見られている。同団体から見て、クオモ知事はコロナウイルスによる感染の拡大を抑えるために医療専門家の意見を聞くよう繰り返し強調しているが、知事こそ地球温暖化関係の主要な専門家の意見を聞き、最新の知識を受け入れるべきだと表明。地球温暖化防止で正しいことを行うのは、新型コロナウイルスとの戦いで正しいことを行うのと同じであると主張している。(参照資料:Climate Coalitionの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの4月20日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
21 Apr 2020
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ロシア建設省傘下の設計評価機関である国家専門家審査会(Glavgosexpertiza)は4月15日、極東地域北東部のチュクチ自治管区内ペベクで、昨年12月に送電を開始した世界初の海上浮揚式原子力発電所(FNPP)「アカデミック・ロモノソフ号」の水利・港湾・物理的防護の各機能を含むインフラ全体の審査結果を承認すると発表した。施設の設計書や建設プランの工事測量結果を審査した上で、FNPPを防護する特別な機器等の保管・活用設備などをペベク海峡沿岸に建設する計画に肯定的結論を出したもの。これらの施設では具体的に、モーターボートやオフロード用の車両、小型そりといった機器を収納するほか、モーターボートを係留する固定式船渠(ドック)や雪上そり用スロープ、照明塔、配管の架台、外部の熱電供給網や通信網との接続設備等が建設される。Glavgosexpertizaの専門家はまた、これらの建設コスト見積もり額の信頼性をチェックしており、FNPPから沿岸区域の供給網に電力や熱エネルギーを確実に送る技術についても確証を得たとしている。「アカデミック・ロモノソフ号」は出力3.5万kWの小型炉「KLT-40S」を2基搭載しており、ロシア領の約半分を占める北部の遠隔地域や、それに類する地域への熱電供給に最も適した設備と考えられている。Glavgosexpertizaは、FNPPを建設したことはチュクチ自治管区全体のみならずペベク市にとっても非常に重要であると指摘。この区域で順次閉鎖されていくビリビノ発電所(1.2万kWのEGP-6×3基)の商業炉やチャウンスカヤ熱電併給発電所に代わってFNPPはエネルギーを供給するだけでなく、金銀や銅、非鉄金属といった資源を豊富に有するチャウン-ビリビノ産業ハブにとっても重要なエネルギー供給基盤になるとした。また、同区域で化石燃料の輸入依存度を軽減して電熱料金の増大を抑えるとともに、同区域における人口問題や環境状況など社会的条件を改善する一助にもなると説明している。(参照資料:国家専門家審査会の発表資料(ロシア語)、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの4月17日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
20 Apr 2020
3894
米国で約30年ぶりの新設計画として、A.W.ボーグル原子力発電所で3、4号機(各110万kWのPWR)を増設中のジョージア・パワー社、およびその親会社のサザン社は4月15日、新型コロナウイルスによる感染の影響を軽減するため、増設サイトの労働力を約20%削減する方針を明らかにした。これは、米証券取引委員会に対する同日付報告書のなかで両社が表明したもの。増設サイトでは協力会社などを中心に約9,000人が作業中と伝えられているが、ジョージア・パワー社によると、このうち多数の作業員がこれまでにPCR検査で陽性と判定されており、その影響から現場の労働生産性が悪化している。労働力の削減はそうした影響を緩和するための措置であり、夏まで数か月間継続されるものの、ジョージア・パワー社は引き続き新型コロナウイルスによる感染の影響を監視。建設プロジェクトの総資本費や、両炉の現行の完成日程である2021年11月と2022年11月に影響が及ぶことはないと強調している。報告書によるとジョージア・パワー社は、現場の労働力は削減されるが残りの労働力でも生産性改善の工夫により、作業員の疲労や欠勤率が下がると指摘。これによって、増設工事全体の作業効率を向上させることができるとした。また、作業員間のソーシャルディスタンスの確保という副次効果も生まれ、連邦疾病管理予防センター(CDC)が推奨している最新項目の順守促進にもつながるとしている。このプロジェクトでジョージア・パワー社は45.7%出資しているため、今回の措置により同社が負担する経費は合計1,500万~3,000万ドルほどとなる。そのほかの出資企業は、オーグルソープ電力が30%、ジョージア電力公社(MEAG)の子会社が22.7%、ダルトン市営電力が1.6%となっている。2013年の3月と11月に始まった3、4号機増設プロジェクトでは、昨年7月に3号機の初装荷燃料が発注されたほか、同年12月には遮へい建屋に円錐形の屋根を設置。4号機についても、今年3月に格納容器に上部ヘッドを設置する作業が完了しているが、サザン社は証券取引委員会に対する4月1日付け報告書の中で、新型コロナウイルスによる感染の拡大により、同社とその子会社は増設プロジェクトの遅れや混乱といった様々なリスクにさらされているとの懸念を表明していた。(参照資料:サザン社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、ほか)
17 Apr 2020
3825
フランス電力(EDF)は新型コロナウイルス感染の拡大にともなう影響について4月14日に新たな経過報告を公表し、EDFグループが2020年の減価償却・控除前利益(EBITDA)の目標額を3月23日の報告で下端値の175億ユーロ(約2兆500億円)と設定していたことも含め、同年および2021年の財務目標をすべて撤回すると発表した。感染の拡大が引き起こした経済的混乱により電力需要量が低下しており、原子力発電や原子力発電所の新規建設プロジェクト、その他のサービスも含めたEDFグループによる事業の多くが深刻な影響を受けていると説明。原子力による総発電量についても、予測値を下方修正する方向だとしている。全開3月23日に公表された経過報告では、EDFグループは新型コロナウイルス感染の拡大という危機的状況の中、グループの重要活動を維持するために関係企業を全面的に動員、仏国内で予見され得るシナリオすべてで必要な電力を供給する経営能力や財務能力が備わっているとしていた。すなわち、一貫した金融ニーズの予測方針により、同グループは2019年末時点の流動性資産として換金価値228億ユーロ228億ユーロ(約2兆6,800億円)を保有。これに加えて、いつでも融資を受けられる金額の上限(極度枠)として総額103億ユーロ(1兆2,000億円)が確保されている点を明らかにしていた。この時点でEDFは、電力需要量の低下が同社の電力供給事業に及ぼす影響は限定的だとしており、零細な小規模企業に対する電気料金面の一時的な救済策についても、年末時点で大きな影響が及ぶことはないと予測していた。しかしその一方で、外出禁止令が発令されたことにより発電設備のメンテナンス作業が中断し、EDFグループは定期検査日程の再調整を迫られることになった。これにともない、3月23日の段階で原子力発電による2020年の発電量は、当初予測していた3,750億~3,900億kWhから大幅に下方修正する見通しになっていた。2020年のEBITDA目標額である175億~180億ユーロ(約2兆500億円~2兆1,130億円)も、(この時点では)下端値を維持するとしたものの、設備の稼働率や関連コストの予測が明確になった時点で改訂される可能性があるとした。同グループはまた、(3月23日の段階で)2021年の財務目標に及ぶ影響についても正確に評価できないと表明。定期検査日程の再調整は、2020年末から2021年にかけての冬季に設備の稼働率を最大とするのが目的だが、2021年の全体的な発電量には悪影響が及ぶかもしれないと予測していた。同様に、電力卸売市場における電力価格の低下も、年末時点の負債比率に大きく影響する可能性があると指摘していた。仏国では2015年8月に成立した「緑の成長に向けたエネルギー移行法」により、原子力による発電シェアを2025年までに50%まで削減するほか、原子力発電設備も当時のレベルである6,320万kWに制限することが義務づけられた。現在、フラマンビル原子力発電所で163万kWの3号機(PWR)を建設中であることから、EDFは今年2月、国内で最も古いフェッセンハイム原子力発電所1号機(92万kWのPWR)を永久閉鎖とした。同型設計の2号機についても、6月30日に永久閉鎖することが決まっている。(参照資料:EDFの発表資料①、②、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの4月15日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
16 Apr 2020
4460
仏国のフラマトム社は4月8日、ロシアにおけるクルスク原子力発電所Ⅱ期工事の1、2号機(各125.5万kWのPWR)建設計画に対し、デジタル計装・制御(I&C)安全システム「TELEPERM XS」45台で構成される保護システムの納入契約を、ロシアのルスアトム・オートメテッド・コントロール・システムズ(RASU)社から受注したと発表した。これは2018年5月、RASU社を傘下に収めるロシア国営の原子力総合企業ロスアトム社が、仏国の原子力・代替エネルギー庁(CEA)と結んだ「原子力平和利用分野における戦略的連携の強化合意書」に基づいている。RASU社はI&C系供給や電気工事を専門とするロシア企業だが、この合意にともない同社とフラマトム社はI&C系分野で双方が利益を得られるよう、国際的なロシア型PWR(VVER)の建設計画やフラマトム社の原子力発電所建設計画にお互いが参加する枠組みの構築等で協力覚書を締結していた。クルスクII-1、2号機は、第3世代+(プラス)の120万kW級VVER「AES-2006」をベースに、技術面と経済面の性能をさらに最適化したという最新設計「VVER-TOI」をロシアで初めて採用。運転期間は60年に設定されており、両炉ともそれぞれ2018年4月と2019年4月から建設を開始した。RASU社はこれら2基の建設プロジェクトでI&C系の全体的開発と供給、起動等を担当しているほか、同発電所に330kVのガス絶縁型開閉器や変圧器も納入する。一方のフラマトム社は、「AES-2006」設計を採用してロシアで稼働中のノボボロネジII-1号機とレニングラードII-1号機にも、すでに「TELEPERM XS」を納入済み。この納入実績により今回の契約獲得に至ったと説明している。今回の契約で、フラマトム社はクルスク発電所用にI&C系を設計・製造し、モスクワにあるRASU社の統合センターに納入する。設置と起動ではテスト室での監督サービスも提供、安全保護システムの設置が完了するのは2025年末になる計画である。同社はまた、関係する機器・システムをロシア企業が製造可能になるよう協力する方針。フラマトム社でI&C系の販売を担当する上級副社長は、「クルスクII期工事には最高レベルの技術で貢献しており、当社とRASU社のパートナーシップは今後ますます拡大する」と述べた。またほかで建設中の新しいVVERにも同社の先進的技術を提供するため、引き続き前進していきたいとしている。(参照資料:フラマトム社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
15 Apr 2020
4340
米原子力規制委員会(NRC)は4月10日、ドミニオン・エナジー社がバージニア州で操業するサリー原子力発電所1、2号機(各87.5万kWのPWR)について、運転期間を追加で20年延長するための2回目の審査で環境影響声明書(EIS)の最終版を発行したと発表した。同審査では安全性評価報告書(SER)の最終版が今年3月に発行済みであることから、NRCは今年6月にも、送電開始以降の両炉の運転期間をそれぞれ80年に延長するかの最終的な判断を下す。NRCはすでに、フロリダ・パワー&ライト(FPL)社のターキーポイント3、4号機(各76万kWのPWR)とエクセロン社のピーチボトム2、3号機(各118.2万kWのBWR)について、それぞれ2019年12月と2020年3月に2回目の運転期間延長を承認。サリー1、2号機でも承認されれば、米国内で3件目ということになる。1972年と1973年に送電開始したサリー1、2号機に対して、NRCは2003年3月に運転開始当初の運転期間40年に20年追加して、それぞれ2032年5月と2033年1月までとすることを承認。これにさらに20年間追加する申請書は、ドミニオン・エナジー社が2018年10月にNRCに提出していた。今回の最終EISでNRCスタッフは、両炉の運転期間延長を阻むほどの有意な環境影響の可能性は低いと判断した。これによりNRCスタッフによる技術面の審査が完了したことになり、同文書や最終SERをNRC委員が承認すれば、両炉はそれぞれ2052年5月と2053年1月まで延長運転することが可能になる。これらに続き2回目の運転期間延長が検討されている商業炉としては、同じくドミニオン・エナジー社が2017年11月にバージニア州のノースアナ原子力発電所1、2号機(99.8万kWと99.4万kWのPWR)についても申請を行う予定だと発表。デューク・エナジー社も2019年9月、南・北カロライナの両州に立地する6サイト・11基(合計出力約1,123万kW)に関して申請書の提出方針を明らかにした。NRCはこれらのうち、ノースアナの2基の申請書が今年10月~12月の期間に、デューク・エナジー社のオコニー1~3号機(1、2号機は88.7万kW、3号機は89.3万kWのPWR)の申請書が2021年10月~12月に提出されると予想している。なお、NRCは今回のサリー1、2号機のEIS報告書やドミニオン・エナジー社による申請書をウェブサイト上に公開しているが、CDなど物理的な媒体の送付は現在、新型コロナウイルス感染による緊急事態のため行えない状況。入手希望者に対しては、NRCウェブサイトからコピーを直接ダウンロードすることを推奨している。(参照資料:NRCの発表資料、原産新聞・海外ニュース、ほか)
14 Apr 2020
4243
米国のテネシー峡谷開発公社(TVA)は4月7日、小型モジュール炉(SMR)など費用対効果の高い新世代の先進的原子炉設計をテネシー州クリンチリバー・サイトで建設することについて実証・評価を行うため、テネシー大学(UT)と了解覚書を締結したと発表した。TVAは昨年12月、クリンチリバー・サイトについて原子力規制委員会(NRC)から「事前サイト許可(ESP)」を取得したが、審査を受ける際に採用する予定の炉型を特定しておらず、「2基以上のSMRで合計の電気出力が80万kWを超えないもの」を想定。ニュースケール・パワー社やホルテック・インターナショナル社、ウェスチングハウス社などが開発している4種類の軽水炉型SMR設計のパラメーターを技術情報として示していた。ESPは20年間有効だが、実際に原子炉を建設すると決定した場合、TVAは別途NRCに対して建設・運転一括認可(COL)を申請する必要がある。今回の連携協力でTVAは、UT原子力工学部の専門的知見を活用して、原子炉設計の経済的な実現可能性を軽水炉型にこだわらず評価する方針。この協力を通じて同社はまた、将来の原子力産業を担う同部の学生達と交流する機会も得られるとした。TVAのJ.ライアシュ総裁兼CEOは、「原子力発電における技術革新という当社のミッション遂行において、UTはそれを支える特殊な能力を提供してくれる」とコメント。UTの先進的なモデリングやシミュレーションのツールを活用して、新たな原子力技術を模索したいと述べた。UTのW.ハインズ工学部長も、「我が学部の原子力部門は1957年に創設された米国で最も古く権威あるものであり、高度に効率的な先進的原子炉の建設に向けたTVAとの戦略的連携により、クリーンで信頼性の高い将来エネルギーの活用に道を拓きたい」としている。TVAはすでに今年2月、米エネルギー省(DOE)傘下のオークリッジ国立研究所と同様の協力覚書を締結。経済性や安全性、柔軟性の高い次世代技術を採用した先進的原子炉設計を検討するとしており、今回の覚書と併せて、TVAが最新の原子炉設計の建設見通しで初期段階の評価を下す重要なステップになると述べた。(参照資料:TVAの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの4月9日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
13 Apr 2020
4983
経済協力開発機構/原子力機関(OECD/NEA)のW.マグウッド事務局長(=写真)は4月8日に声明文を発表し、新型コロナウイルスによる感染が拡大するなかで、NEAとしては加盟する33か国がこのような状況に対応できるよう支援する覚悟であり、有効な措置に関する情報や良好事例、アイデア等の迅速な交換を可能にする手段を構築中であると説明した。仏国パリにあるNEAの事務局では3月12日から全スタッフがテレワークに入ったが、同事務局長は「パンデミックの脅威が速やかに終息することを望む一方、多くの専門家は5月から6月にかけても、あるいは9月から10月にかけて第二波の感染発生のリスクがあると予想している」と指摘。NEAでは緊急の事態に対応するだけでなく、このように長期的な対応の準備も進めていると強調している。マグウッド事務局長によると、グローバリゼーションや相互連携の時代に人類が直面している今回の危機は、これまでに経験したことのないものであり、すべての経済大国が影響を受け人々は脅威にさらされている。大方の予測では、この危機はあと数か月間続くと見られているが、短期的に見て如何なる国においてもパンデミック対応戦略で重要な柱となるのは信頼性の高い電力供給である。これなくしては、近代生活における重要インフラの大部分が機能できないが、パンデミックによって発電施設の職員が長期にわたって直接的、間接的な影響を受け、その施設の操業が脅かされることになる。同事務局長の認識では、近代社会におけるその他すべての分野と同様、原子力発電部門は感染者数の削減に貢献している。すなわち、世界中の原子力発電所が安全かつ効率的に稼働することで、テレワーク中の膨大な数の人々や自宅待機中の人々、対応キャパシティを超えて活動中の医療施設に対しても信頼性の高い電力が供給される。しかし、原子力発電部門自体もパンデミックの影響を受けるため、絶え間なく変化する前例のない不確かな状況にも臨機応変に対処しなければならないとした。原子力発電部門では、慎重に分析した結果や膨大な数の見解を考慮した上でプロセスや手順を変更するのが常であるが、同事務局長によれば、今現在直面している危機はすべてにおいて迅速な対応を必要としている。規制当局は発電所の点検計画の妥当性を審査しなければならないし、事業者は発電所の定期検査や改修日程を延期せざるを得ない。通常とは異なる作業環境で使われる技術は全く新しい方法で適用する必要があり、原子力発電所における安全性の確保は、今後もすべてに優先する事項であると述べた。同事務局長はまた、今回のパンデミックはNEA自身の安全文化をも評価する試金石になったと指摘。NEAは原子力施設の運転に関する出版物の中で運転員や住民の安全と健康を第一とする文化を強調しているが、今回はこれと同様の安全文化がNEA自身にも適用されている。NEA全体は3月12日からテレワーク体制に入っているが、職務に混乱が生じることはほとんどなく、重要な業務のいくつかは延期となったものの、複数の委員会の活動業務は続けられている。パンデミック関連のイベントも近々ウェブ上で主催する予定だが、これらは皆NEAスタッフが加盟国と緊密な連携の上、主導している献身的業務の賜物であり、現時点でどれほどの問題に直面しようと、明るい未来が必ず来るというNEAの原子力部門のメンバーすべての確信に基づくものだと説明している。(参照資料:OECD/NEAの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの4月9日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
10 Apr 2020
3358
フィンランドのティオリスーデン・ボイマ社(TVO)は4月8日、オルキルオト原子力発電所で建設中の3号機(OL3)について、燃料の装荷許可を放射線・原子力安全庁(STUK)に申請したと発表した。建設プロジェクトの最新スケジュールでは、2020年6月に燃料を装荷した後11月に送電を開始、2021年3月から営業運転入りすることになっていた。しかし、新型コロナウイルスによる感染の拡大にともない、建設サイトではプロジェクトへのリスクを最小限に留める膨大な対策作業を実施中。この対応により、建設プロジェクトの進行状況には不透明感が増してきており、工事を請け負った仏アレバ社と独シーメンス社の企業連合はTVOに対し、2020年6月の燃料装荷が難しくなり定常的な発電の開始も遅延する可能性を伝えている。同企業連合はパンデミックの拡大状況や影響が判明し次第、OL3の完成スケジュールを更新する方針。プロジェクト完了まで資金が十分確保されるよう、関係機関から支援を受けつつ取り組むプランを作成中だとしている。TVOの燃料装荷許可申請書には、装荷前にサイトで必要とされる作業などOL3の準備状況が盛り込まれており、STUKの審査は数か月を要する見通し。残っている機能試験の結果分析や原子炉の性能確認結果等に基づいて、燃料の装荷許可が発給される予定である。OL3の建設工事は2005年8月、世界で初めて欧州加圧水型炉(EPR)設計を採用して始まったものの、初号機であるが故に規制関係文書の確認作業や土木工事、品質検査等に予想外の時間を費やした。同炉の完成は当初、2009年に予定されていたが、フィンランド政府が同炉に運転認可を発給したのは2019年3月のことである。TVOは最終的にOL3に対する総投資額を約55億ユーロ(約6,508億円)と見積もったが、同企業連合とのターンキー契約額は約30億ユーロ(約3,550億円)。2018年3月に両者が結んだ包括的な和解契約により、同企業連合は工事の遅延にともなう超過コストおよび損害賠償金として、TVOに合計4億5,000万ユーロ(約532億円)を支払うことが決定している。仏国で初めてEPR設計を採用したフラマンビル3号機の建設工事も、原子炉容器鋼材や主蒸気配管溶接部の品質問題等により完成が遅れている。一方、同じ設計で2009年と2010年に中国でそれぞれ着工した台山1、2号機については、建設工事が比較的順調に進展。それぞれ2018年12月と2019年9月に営業運転を開始している(参照資料:TVOの発表資料、原産新聞・海外ニュース、ほか)
09 Apr 2020
3095