ロシア国営の原子力総合企業ロスアトム社は4月7日、バングラデシュ初の原子力発電所サイトで建設工事に従事する4,000名以上の作業員のうち、新型コロナウイルスの感染拡大にともないロシアへの一時帰国を希望する178名にチャーター機を手配したと発表した。同国では、首都ダッカの北西160kmの地点でルプール原子力発電所1、2号機(各120万kW)がそれぞれ2017年11月と2018年7月に本格着工。これらでは国際的な安全要件をすべて満たした第3世代+(プラス)のロシア型PWR(VVER)設計「ASE-2006」を採用しており、同国の原子力導入初号機となる1号機は2023年、2号機は2024年の営業運転開始を予定している。今回、下請け企業社員を含む一部の作業員が一時的に帰国するものの、建設プロジェクトをスケジュール通り遂行する上で支障はないとロスアトム社は強調している。同工事はロスアトム社傘下のASEエンジニアリング社が請け負っており、同社の本拠地ニジニ・ノブゴロドには6日夜、ロシア連邦政府の許可を受けた最初のチャーター機がダッカから帰国希望者を乗せて到着した。これらの帰国者すべてにコロナウイルス検査が義務付けられ、その後は2週間にわたって地元の医療管理付き診療所で隔離されることになる。発表によると、建設サイトではコロナウイルス感染の蔓延を防ぐために様々な対策が講じられている。サイトの正面玄関や事務所ビルの入口、食堂など複数の場所で作業員の体温を遠隔検温する体制を導入したほか、すべての事務所スペースを消毒、雇用者全員に対してマスクを支給した。ロスアトム社としては、ウイルス感染の世界的拡大がサプライチェーンに及ぼす悪影響を最小限にとどめるとともに、契約書に明記された完成日程を順守するため、あらゆる手段を講じるとしている。同社のA.リハチョフ総裁による4月1日付の声明文では、ロスアトム社関係の感染者はこれまでに4例報告されており、1名は同社がハンガリーで進めているVVER建設計画の関係者(ハンガリー人)。残り3名はロスアトム社傘下の民生用原子力発電公社の職員だが、同社が関わるすべての都市では追加的な医療措置や組織的対策が取られている。同総裁はまた、国外の原子力発電所建設計画に携わるロシア人で、一時帰国を希望する者には数日以内にその機会が与えられるとも述べていた。なお、在バングラデシュの日本大使館によると、同国政府は感染の拡大防止目的で国際線フライトの乗り入れ停止措置を4月14日まで延長したが、対象国・地域のなかにロシアは含まれていない。また、日本貿易振興機構(JETRO)の現地通信は、バングラデシュにおける6日時点の感染者数は合計123名で、このうち12名が死亡したことを伝えている。(参照資料:ロスアトム社の発表資料①(英語)、②(ロシア語)、原産新聞・海外ニュース、ほか)
08 Apr 2020
3616
ロシアの民生用原子力発電公社のロスエネルゴアトム社は4月1日、同国中央部スベルドロフスク州のベロヤルスク原子力発電所で、3号機として1980年から稼働しているナトリウム冷却高速原型炉「BN-600」(FBR、60万kW)の運転期間が2025年まで5年間延長されたと発表した。同発電所で実施した研究の結果から、BN-600は技術的に2030年まで運転継続可能であることが実証されたと所長のI.シドロフ氏は明言している。ロスエネルゴアトム社と同じく、ロシア国営の原子力総合企業ロスアトム社傘下の設計会社アトムプロエクト社が現在、同炉の運転をさらに延長するための投資プロジェクトを策定中であり、2024年にこの作業を完了する予定。ロスエネルゴアトム社はこれを受けた後、同炉の運転を2025年以降2040年までの期間、運転継続するための申請書を連邦環境・技術・原子力監督庁(ROSTECHNADZOR)に提出する方針である。ロシアは国内のエネルギー需要を満たしつつ、天然ウランと使用済燃料の有効活用が可能な核燃料サイクルを確立するため、高速中性子炉の実用化を進めている。「BN-600」に加えて電気出力1.2万kWの高速実験炉「BOR-60」が1969年12月からディミトロフグラードで稼働しているほか、80万kW級の高速実証炉「BN-800」もベロヤルスク4号機として2016年10月から営業運転中。120万kW級の商業用高速炉「BN-1200」(ベロヤルスク5号機)についても建設準備が進行中である。また、これらのナトリウム冷却高速炉開発と並行して、鉛冷却高速炉の研究開発も進めるという「ブレークスルー(PRORYV)」プロジェクトでは、出力30万kWの鉛冷却高速実証炉「BREST-300」をトムスク州セベルスクのシベリア化学コンビナート(SCC)で建設することになっている。「BN-600」の運転開始当初に許された運転期間は30年間で、ロスエネルゴアトム社は30年目に当たる2010年に運転期間を2025年まで15年間延長することを計画。2009年に、安全性関係すべてをカバーする大規模な設備の最新化プログラムを開始した。空気熱交換器を使った緊急冷却システムやバックアップ用の制御盤を設置するなど、機器類の点検とアップグレードで膨大な作業を実施。2010年には最新の安全基準に完全に適合していることが確認されており、同社はこれに基づき運転期間の15年延長が可能と考えていた。しかしROSTECHNADZORは、交換できない機器の能力実証を追加で要求した後、2020年まで10年間だけ運転の延長を認める許可を発給。ロスエネルゴアトム社によると、その後これらの関係作業はすべて完了しており、同国のエンジニアリング企業で元実験機械製造設計局のOKBMアフリカントフ社や構造材中央研究所「プロメティ」は、同炉で運転をさらに継続することは技術的に可能との結論を明示。これに基づき、ROSTECHNADZORが2025年までの延長を承認している。(参照資料:ロスエネルゴアトム社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの4月1日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
07 Apr 2020
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米国で約30年ぶりの新設計画としてA.W.ボーグル原子力発電所3、4号機(PWR、各110万kW)増設計画を進めているサザン社は4月1日、新型コロナウイルスによる感染の発生にともない、同増設工事の混乱や遅れなど、同社とその子会社は様々なリスクにさらされているとの認識を表明した。これは、米証券取引委員会に対する2019年末の年次財務報告におけるリスク要因補足文書の中で同社が明らかにしたもの。これまでに世界保健機関(WHO)と連邦疾病管理予防センター(CDC)が感染の世界的流行(パンデミック)を宣言し、全米を含む多くの国にウイルス感染が広がるなか、その対応として各国は旅行や人の密集の禁止、特定のビジネスの自粛など数多くの制限を設けている。複数の電気事業子会社の供給区域にも経済活動の混乱という深刻な影響が生じてきており、資本市場では株価が乱高下した。このコロナウイルス感染拡大に関連して、サザン社の電気事業子会社は電気代を滞納中の一部顧客に対して、電気の使用停止を一時的に解除している。感染が拡大し続けていることや政府の対応等によってサプライチェーンや資本市場にも混乱が広がり、労働力や生産性の低下、経済活動の縮小といった状況が継続、サザン社は同社とその子会社にも様々な悪影響が及ぶことになると指摘した。具体的にはエネルギー需要量の低下、特に法人需要が少なくなり、営業権や長期性資産が減損、同社と子会社が施設を設計・建設・操業したり、金融機関や資本市場から資金調達する運用にも陰りが出てくる。とりわけボーグル3、4号機に関しては、建設工事や試験の実施、その監督・支援活動にも遅れの生じる可能性も出ている。子会社の一つであるサザン・ニュークリア・オペレーティング社はこれまで、建設サイトでウイルスの伝染リスクを軽減するため、感染症状が出た人員や感染者と濃厚接触した人員を隔離したり、作業者間で距離を取るなどの措置や手続きを実行してきた。しかし、感染者の急激な増加で建設工事のスケジュールや予算にどのような影響が及ぶか、見極めるのは今のところ時期尚早との見方を示している。サザン社は現時点で、ボーグル3、4号機の稼働開始日程をそれぞれ、2021年11月と2022年11月に設定。3号機については昨年7月に初装荷燃料を発注したほか、同年12月には遮へい建屋に円錐形の屋根を設置した。また、4号機についても今年3月、格納容器に上部ヘッドを設置したと発表している。(参照資料:サザン社の報告資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの4月3日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
06 Apr 2020
3547
国際原子力機関(IAEA)は3月30日、新型コロナウイルスによる感染の拡大時に取られる支援方策として「国際緊急時対応演習(ConvEx)」を同月24日から26日まで実施したと発表した。ConvExの中で、支援の要請と提供の仕組みを試験する演習「ConvEx-2b」に35のIAEA加盟国と世界気象機関(WMO)の2つの地区特別気象センター(RSMC)が参加。コロナウイルス感染の世界的流行(パンデミック)にともない原子力事故または放射線緊急事態が発生したことを想定し、IAEAの「事故・緊急事態対応センター(IEC)」が中心となってウィーンから遠隔操作で支援方策を行った。IAEAは「この種の緊急事態対応で準備し過ぎるということはない。だからこそ、その演習シナリオには発生確率は低くてもリスクが高く、能力を試されるような事象が含まれるべきなのだ」と指摘した。IAEAのR.M.グロッシー事務局長も、「自然災害やパンデミック、その他の危機にともなう事象から、原子力事故や放射線緊急事態が発生する可能性に備えなくてはならない」と強調した。「コロナウイルスにより、我々の生活すべてが深刻な混乱に陥っている時期に今回の演習を行ったことで、緊急時の対応能力を絶えず維持するというIAEAの強い決意が示された」と指摘。如何なる事由や危機的状況の下におかれても、IAEAは効果的な国際対応を調整するため迅速に行動するとしている。ConvExの実施は、チェルノブイリ事故を契機に1986年のIAEA総会で採択された2つの条約「原子力事故早期通報条約」と「原子力事故援助条約」に基づいている。「ConvEx-2b」では、支援要請する発災国の役割を演じる国とそれを提供する役割の国それぞれが、関係活動と情報交換の効率性と有効性を試されことになっており、IECのE.ブグロバ・センター長は「世界中で同時発生する様々な危機への対応で、迅速かつ効率的な支援を加盟国に提供することは戦略的に重要な要件になる」とした。今回の演習では、IAEAの17加盟国が発災国役を演じる一方、18加盟国と2つのRSMCが支援提供国役を務め、パンデミック対応の安全・セキュリティ対策に集中的に取り組んだ。発災国役が仮想の緊急事態に必要な支援をIAEAに要請した後、IECは支援提供国役の所管官庁に指定されている機関および関係する国際機関に要請内容を伝達。これにより、発災国に対してどのように支援提供していくか決定する手続きが発動され、IECは発災国役と支援提供国役双方と協議した上で「支援行動計画」を作成、これには双方の役割と責任、および両者間で合意・調印した活動内容が記された。また、このような環境下での初期対応は非常に困難との認識から、発災国役は支援提供国役が派遣する現地支援チームに対して追加で予防的な防護プランを提示。また、IECの「支援行動計画」には、現地支援チームの到着と同時にウイルス検査を実施することや、個人用防護装備の提供等が盛り込まれたとしている。(参照資料:IAEAの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの4月1日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
02 Apr 2020
3275
チェコ国営電力のCEZ社グループは3月25日、経年化が進んでいるドコバニ原子力発電所(ロシア型PWR×4基、各51万kW)で、ネット出力が最大120万kWのPWRをⅡ期工事として新たに2基増設するための立地許可申請書を原子力安全庁(SUJB)に提出した。準備作業にCEZ社が5年を費やした増設計画であり、これにより同計画は許認可プロセスへの移行準備が整う。包括的環境影響評価(EIA)についてはすでに昨年9月に、環境省が承認済みとなっている。A.バビシュ首相は昨年11月、チェコのエネルギー自給を維持するためにドコバニⅡ期工事の最初の1基について2022年末までにプラント供給企業の選定を終え、遅くとも2029年までに建設工事を開始、2036年までに運転開始を目指すと発表していた。SUJBは今後原子力法の条項に則り、12か月以内に立地許可発給の是非について判断を下すとしている。チェコ政府は2015年5月の「国家エネルギー戦略」のなかで、原子力発電シェアを当時の約30%から2040年までに60%近くまで上昇させる必要があると明記。同戦略のフォロー計画としてその翌月に閣議決定した「原子力発電に関する国家アクション計画(NAP)」では、化石燃料の発電シェアを徐々に削減していくのにともない、既存のドコバニとテメリン両原子力発電所で1基ずつ、可能であれば2基ずつ増設する準備を進める必要があるとしていた。A.バビシュ首相はまた、地球温暖化防止のためCO2排出量の実質ゼロ化に向けた動きが欧州で活発化している点を指摘。チェコ政府内では、「石炭火力に代わる新規電源としては再生可能エネルギーでは不十分であり、原子炉を建設することが論理的」との認識が定着している。CEZ社の発表によると、申請書に添付された文書は約1,600ページに達する膨大なもので、作成にはCEZ社のほかに水研究所や国立マサリク大学、原子力研究機関(UJV Rez)などの専門家30名以上が従事した。建設を支持する論拠として200以上の専門的な分析・調査結果が活用され、申請書を構成する重要部分として広範な「入札保証」報告書も付け加えられている。内容は主に建設サイトの特性を評価・説明するもので、発電所近郊の自然状態や給水設備、人的活動などを検証。建設プロジェクトのコンセプトや質、周辺の住民と環境および将来的な廃止措置に関する影響なども評価している。 建設用地そのものについては最も入念な分析が行われており、底土の状態を見極めるため専門家らは全長4km以上にわたる部分で170本以上の地層掘削を行った。これに加えて、最大深度150mの深井戸を30本掘削して地下水の状態を観察。周辺エリアにおいても66か所で試験掘削を実施したため、得られた岩石試料のコンテナは1,300本以上に達したとしている。(参照資料:CEZ社グループ、チェコ原子力安全庁の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの3月31日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
01 Apr 2020
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ロシア国営の原子力総合企業ロスアトム社は3月26日、新型コロナウイルスによる感染への対応についてA.リハチョフ総裁の声明文を発表し、原子力発電所における安全確保と同社傘下の全組織の従業員およびロシア一般国民の生命と健康の防護で最優先の対策を取っていると表明した。安全性の確保はロスアトム社にとって重要な価値基準であり、従業員の健康に影響するコロナウイルス感染の世界的流行(パンデミック)など、様々な筋書きに応じて如何なる緊急事態についても常に対応策を敷いている点を強調している。同総裁によると、ロスアトム社は現在、国内すべての原子力発電所で従業員の定期健診など複数の追加的措置を導入した。出来るだけ多くの従業員が互いに距離を置いて作業できるよう手配したほか、個人用のウイルス防護製品や保護具を大量に調達。関係する生産設備や車両を繰り返し消毒しており、すべての出張/旅行を原則キャンセルとした。また、従業員の健康状態については、施設が立地する地元当局との緊密な連携によりモニターしている。同総裁はまた、多くの国でコロナウイルスによる感染が拡大しているものの、輸出原子炉を建設中の国のすべてで同様の措置を取っていると説明。作業員を防護するため建設サイトでは最も厳しい対策が敷かれており、ロスアトム社はその国の政府や疾病管理サービス当局の勧告に従っている。また、地元の当局が隔離対策や従業員の退避策を導入した場合に備えて、感染拡大防止策を強化する準備も全面的に進めている。さらに、この健康上の危機がサプライチェーンに及ぼす悪影響を最小限に抑えるとともに、契約書に規定されたスケジュールを完璧に順守できるよう、あらゆる事前の注意対策を取っていると述べた。ロスアトム社は現在、ロシア国内で3基の大型商業炉を建設中であるほか、2基の小型炉を搭載した海上浮揚式原子力発電所が昨年12月から試運転中。海外ではバングラデシュやベラルーシ、トルコ、フィンランド、ハンガリー、インド等で請け負った合計36基の原子炉建設プロジェクトが様々な段階に達している。(参照資料:ロスアトム社の発表資料①、②、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの3月30日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
31 Mar 2020
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国際原子力機関(IAEA)は3月25日、超小型炉を含む小型モジュール炉(SMR)の経済性評価に特化した3年計画の協働研究プロジェクト(CRP)を開始すると発表した。現在世界中で開発されている様々なコンセプトのSMR(約50設計)を実際に建設する際、必要となる経済性評価の枠組みや背景情報を加盟各国に提供することが目的。参加希望者は4月30日までに、研究契約や協定書の案をIAEAの研究契約管理部に提出するよう義務付けられている。IAEAが定義するSMRはモジュール毎の電気出力が最大30万kWであり、一部のものは予め製造したシステムや機器類を工場で組み立てるなどして建設コストや工期を削減。その安全性や設置方法、利用分野などで様々な設計が存在し、近年これらへの関心は急速に高まっている。また、新しい世代の原子炉は従来の100万kW級原子炉と比べて設計がコンパクトであり、1,000kW規模の超小型炉ならトラックや鉄道、船舶、航空機で容易に輸送することが可能。送電網の規模が小さい地域や遠隔地域にも信頼性の高い熱電供給を実現できるほか、出力が変化しやすい再生可能エネルギーや様々なエネルギー貯蔵システムに対応する進化型の送電網に、発電設備系統連系(アンシラリー)サービスを提供することも可能だとした。IAEAの認識では、現在開発中のSMR技術の成熟度はそれぞれ異なっており、建設に際してコストや納期を適切に評価・分析し、合理化する必要がある。市場のニーズに応えるにはSMR用のビジネスモデルを構築しなければならず、市場そのものについても、機器の需要や産業支援サービスが維持されるような規模の大きさが求められる。SMRの開発と建設にともなう経済面の効果を数値化し、社会的支援が得られるよう伝えていく必要があるとした。このためIAEAは今回のCRPで、①採用されている技術の成熟度の違い、②採用技術の詳細、③各設計コンセプトの潜在的なユーザー、および付随するリスク特性と収益への道筋――に集中的に取り組む方針。CRP参加者は以下の分野の調査を通じて、SMR開発プロジェクトの経済的評価に資する系統的アプローチを共同で開発することになる。調査分野とはすなわち、SMRの市場、SMRと非原子力による代替選択肢間の競争力分析、価値の高いプロジェクトの提案とその戦略的位置づけ、プロジェクト全体の企画経費予測と分析、プロジェクトの構成とリスク配分および財政評価額、経営計画とビジネス事例の実証、経済的な費用便益の分析-—など。評価の枠組みが完成した後は特に、SMRの量産に関する経済性評価に適用される予定で、既存の工場で量産する際の条件設定や、サプライ・チェーンを現地化する機会や影響の評価に使われる。(参照資料:IAEAの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの3月26日付け「ワールド・ニュークリ ア・ニュース(WNN)」)
30 Mar 2020
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仏国資本のEDFエナジー社は3月26日、英国南東部のサフォーク州で進めているサイズウェルC原子力発電所(PWR、163万kW×2基)建設計画について、新型コロナウイルスによる感染の拡大に配慮し、今月末までに予定していた「開発合意書(DCO)」の申請書提出を数週間延期すると発表した。「開発同意」は、申請された原子力発電所等の立地審査で合理化と効率化を図るための手続きである。「国家的に重要なインフラプロジェクト(NSIP)」に対して取得が課せられているもので、コミュニティ・地方自治省の政策執行機関である計画審査庁(PI)が審査を担当、諸外国の環境影響に関する適正評価もPIの担当大臣が実施する。本審査が完了した後は、PIの勧告を受けてビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)の大臣がDCOの発給について最終判断を下すことになる。EDFエナジー社は今回、DCO審査プロセスが公開協議段階に入った場合は、国民の参加登録期間に余裕をもたせると明言。これにより、地元住民が十分な時間をかけて申請書を検討できるとした。同社の原子力開発担当常務も、「地元コミュニティを含むサフォーク州民の多くが、現在コロナウイルス感染への対応に追われている。DCO申請書の提出は延期するものの、過去8年以上にわたる関係協議で当社はプロジェクトの透明性に配慮するとともに、プロジェクトに関心を持つ国民一人一人が意見を言えるよう努力を重ねており、今の難しい局面に際してもこの努力を続けたい」と述べた。同プロジェクトに関して、EDFエナジー社は2012年以降すでに4段階の公開協議を実施しており、1万人以上の地元住民や組織がこれに参加した。サイズウェルC発電所では、南西部サマセット州で建設中のヒンクリーポイントC(HPC)発電所と同じ欧州加圧水型炉(EPR)設計を採用しているため、同社は建設コストをある程度削減することが出来ると説明。サフォーク州のみならず英国全土に雇用や投資の機会をもたらすとともに、常時発電可能な低炭素電源として英国政府が目指すCO2排出量実質ゼロへの移行を後押しするとしている。なお、EDFエナジー社は3月24日にHPCプロジェクトの現状を公表し、作業員や地元コミュニティの安全を最優先に、新型コロナウイルスによる感染拡大から防護する措置を広範に取っていると強調した。(参照資料:EDFエナジーの発表資料①、②、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
27 Mar 2020
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米原子力エネルギー協会(NEI)のM. コースニック理事長は3月20日、エネルギー省(DOE)のD. ブルイエット長官に書簡を送り、新型コロナウイルスによる感染が世界的な流行(パンデミック)となる中、国内原子力発電所でこの春に燃料交換やメンテナンスを実施する際、必要となる支援の提供を要請した。同理事長はまず、「パンデミック対応時に特に重要となる送電網の維持で原子力発電所は必須のインフラである」と国土安全保障省が位置付けている点に言及。実際に国内の原子力発電所では、パンデミック時にも運転を継続できるよう複数段階のプランを設定し、地元の状況に応じてすでに実行中である。これまでのところ全国の原子力発電所は順調に運転を続けているが、これらは18か月毎あるいは24か月毎に取替用の新燃料を装荷する必要があり、その他のメンテナンスも含めて2~4週間、稼働できない期間があるという点をDOE長官に伝えておきたいとした。燃料交換は通常、電力需要量が最も少なくなる春や秋頃に行われ、発電所毎に数100人規模の専門作業員が30~60日間動員されるが、これらの作業員が宿泊するホテルや地元住民宅、食事のためのレストラン等が必要である。また、このような作業に使われる医療用レベルの手袋やマスク、使い捨ての消毒布や体温計といった放射線防護のための個人用装備がパンデミック時には不足することが予想される。コースニック理事長によると、米国では今春、21州に立地する32の原子力発電所が燃料交換を予定しており、これらを含めた原子力発電所ではすでに、このような作業期間中にコロナウイルスのリスクを最小限に抑える予防的措置が取られている。具体的には、具合の悪い従業員を自宅待機とすることや感染者数の多い国に最近渡航した従業員の除外、発電所ゲートにおける従業員や契約請負作業員等の健康チェック、カフェテリアなど従業員が集まる場所の閉鎖や入場制限などを挙げた。その上で同理事長は、国内の原子力部門が発電所の運転や経済活動を途絶させないために、DOEの支援を緊急に必要とする個別のアクションを以下のように特定した。国内のエネルギー需要を、今日だけでなく明日以降も長期的に、また、安全で信頼性が高く価格も適正な原子力発電で満たせるよう、これらに対する政府の助力が不可欠だと訴えている。・原子力発電所の運転や燃料交換など、重要業務の担当従業員を連邦政府が確認する、・これらの重要業務の履行にともない作業員の発電所への移動を許可する、・これらの重要業務の履行に必要な宿泊所や飲食物の提供サービス等を維持する、・発電所サイトや宿泊所、飲食物のサービス施設などへ移動で、作業員が州境やコミュニティの境界を自由に越えることを許可する、・放射線防護のための個人用装備や新型コロナウイルスの検査キットなどを原子力作業員が優先的に入手できるようにする、・高度に特殊な技能を有する外国人作業員が米国に入国することを許可する、である。(参照資料:NEIの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの3月25日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
26 Mar 2020
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仏国の商業用原子炉57基すべてを所有・運転するフランス電力(EDF)は3月23日、新型コロナウイルスによる感染影響について現状を公表し、2020年の「金利・税金・償却前利益(EBITDA)」は現段階で目標とする金額幅175億~180億ユーロ(2兆1,000億~2兆1,700億円)の低い方の数値に留めるものの、原子力発電所における目標発電量については下方修正中であることを明らかにした。発表によるとEDFグループは、感染影響下においても発電事業者としての重要な活動を維持するため全精力を傾注中。国内で予期される発電シナリオすべてに対応可能な運転能力と資金力があり、昨年末時点の現金同等物と売却可能な短期金融資産の総額は228億ユーロ(2兆7,400億円)にのぼるなど、健全な状態にあるとした。電力需要量の低下が送配電事業に及ぼす財政上の影響も限定的だと見ており、脆弱な小規模企業の電気料金で一時的な救済措置を取るため同グループの必要運転資金が暫時増加するものの、その影響は年末までに解消されるとした。その一方、E.マクロン大統領が3月17日に発表した2週間の「外出禁止令」により、発電設備のメンテナンス作業が中断され、EDFでは定期検査日程の再調整を余儀なくされている。2020年に予定していた原子力発電所による発電量3,750億~3,900億kWhも下方修正に向けた見直し作業中であり、設備利用率の見通しや関連コストが明確になってからこれらの目標数値の改定版を作成するとしている。2021年の影響見通しについては、現段階では正確に評価できないとEDFは述べた。現在進めている定期検査日程の再調整は、2020年末から2021年にかけて冬季の利用率を最大限にすることが主な目的だが、発電量は2021年もマイナス影響を受けると予想される。同様に電力卸市場においても価格の低下が見込まれており、これによって同年末時点の負債比率に深刻な影響が及ぶ可能性があるとしている。なお、EDFが運転するフェッセンハイム、ベルビル、カットノン3つの原子力発電所について、3月11日付のロイター電は「新型コロナウイルス検査で各1名ずつ合計3名の従業員に陽性反応が出た」と報道した。これに関してEDFからの発表はなかったが、濃厚接触があったその他の従業員とともにこれら3名を14日間の自宅待機とし、通常通りの運転を続けた模様。EDFが国家計画に沿って2009年に策定したという「パンデミック時に人員を削減して運転を継続するプラン」は、発動されなかったと伝えている。(参照資料:EDFの発表資料、ロイター電、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの3月24日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
25 Mar 2020
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国際エネルギー機関(IEA)のF.ビロル事務局長(=写真)は3月22日に「LinkedIn」に投稿し、「新型コロナウイルスがもたらした危機によって、電力の供給保証がこれまで以上に重要欠くべからざるものであることが再認識された」とコメントした。原子力発電の設備容量に関しても「確実な電力供給を支える重要要素」と位置付けており、「電力供給保証に対する貢献など、様々な電源がもたらす恩恵に見返りを与えられるような市場を政策立案者が設計する必要があり、これによって実行可能なビジネスモデルの構築も可能になる」と説明。クリーン・エネルギー経済に移行する中で、あらゆる発電オプションを維持することが重要だと強調している。ビロル事務局長によると、コロナウイルス危機による経済活動の大規模な途絶は、近代社会がどれほど電力に依存しているか明確に示した。数百万の人々が自宅に閉じこもってテレワークで仕事をこなし、買い物は電子商取引サイトが頼り。このようなサービスのすべてが信頼性の高い電力供給によって支えられているが、これを当然のことと思い込んではならない。アフリカでは今なお、数億もの人々が電力を使用できない環境にあり、病気その他の危険に対し非常に脆弱な状態にさらされている。我々の生活の中で電力の果たす重要な役割が、今後数年先あるいは数十年先にどの程度大きく拡大・進化していくか、コロナウイルス危機は手がかりを提供している。多くの経済圏がこの危機に対し強力な封じ込め対策を取っているが、工場や事業活動が停止したことにより電力需要量は約15%低下。そうした経済圏のなかで、スペインや米国のカリフォルニア州は風力と太陽光の発電シェアが世界でも最も高いが、気象条件が普段と変わらないなかで電力需要が急落すると、これらの発電シェアは通常より高まることになる。 ビロル事務局長は、「需要量が低下すれば発電設備は十分だと見なされがちだが、実際に近年、最も注目された停電のいくつかは需要量が低い時期に発生している」と指摘。風力や太陽光からの発電量で需要量の大半が満たされていても、電力系統の運用者は日没など電力供給パターンの変化に備えて、その他の電源による発電量を素早く増やせるよう柔軟性を維持しなければならない。このため、風力や太陽光からの発電シェアが常に高い状態になれば、送電網の安定性を維持することは一層難しくなると説明した。今回のように、大規模なパンデミックで国全体が封鎖されるような事態においては、欧州の大部分で経済活動が突然停止し電力需要量も低下。これは、電力系統から柔軟性のある主要電源を取り除くことにもなるため、政策立案者は極限の状況下で柔軟性の高い電源を利用できるか注意深く評価する必要がある。同事務局長の認識では、現状で多くの電力系統運用者が頼りとしているのは天然ガス(LNG)火力発電所だが、これらが仮に送電システムにおける需要量の調節のみに使われれば、多くのLNG発電所が赤字を出すことになる。今般のコロナウイルス危機においても、電力需要量が低下したことでこのようなプレッシャーが加わっていると警告した。ビロル事務局長はまた、「コロナウイルス危機によって、電力関係のインフラやノウハウの持つ重要な価値が明確に示されたが、これらはまた、クリーン・エネルギー技術の台頭で将来の電力システムが変化した場合においても、その信頼性を維持するために政策立案者が何をすべきか等について極めて重要な示唆をもたらした」と指摘。各国政府は国民の健康上の緊急事態に対応するため適切な策を取っているが、これらの政府はまた電力の供給保証についても警戒を怠らず、市場が乱高下するなかでも生命維持に必要な資産を守らねばならない。このように異常な事態において人々は、「他のものはどうでも、電力なしではどうにも生きられないのだ」と強調している。(参照資料:IEAビロル事務局長の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの3月23日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
24 Mar 2020
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英国のロールス・ロイス社は3月19日、開発中の小型モジュール炉(SMR)をトルコ国内で建設する際の技術面と経済面、および法制面の適用可能性評価を実施するため、関連企業や団体8社と結成した国際企業連合を代表して、トルコ国営発電会社(EUAS)の子会社のEUASインターナショナルCC(EUAS ICC)社と協力する了解覚書を締結した。同覚書ではまた、SMRをトルコ側と共同生産する可能性も探ると明記。トルコは大型原子炉に加えてSMRも建設し、クリーン・エネルギーによる経済成長を支えていく考えだ。ロールス・ロイス社とトルコ政府エネルギー部門との協力は2013年に遡り、その際はエネルギー天然資源省およびイスタンブール工科大学とともにサプライチェーンの調査に着手した。今回の発表はトルコに低炭素なエネルギーシステムを導入する一助となるほか、トルコと英国間の強力な連携関係構築に向けて新たな1ページが刻まれると強調しているロールス・ロイス社の企業連合には、仏国を拠点とする国際エンジニアリング企業のアシステム社、米国のジェイコブス社、英国の大手エンジニアリング企業や建設企業のアトキンズ社、BAMナットル社、レイン・オルーク社のほか、溶接研究所と国立原子力研究所(NNL)、および英国政府が産業界との協力により2012年に設置した先進的原子力機器製造研究センター(N-AMRC)が参加している。今回の覚書で同企業連合は具体的に、SMR建設に関わる技術や許認可、投資等の状況および建設プロセスの見通しなどを重点的に調査、トルコのみならず世界中の潜在的な市場についても検討する。SMR用の機器はサイト内の全天候型施設で迅速に組み立てられるよう、規格化して工場内で製造する方針で、天候によって作業が中断されなければコストの削減につながるほか、作業員にも良好な作業条件が保証されると述べた。合理化された先進的な製造工程により効率性も徐々に改善されていき、結果的に初期費用の大幅削減と迅速かつ予測可能な建設と起動が確保されるとしている。ロールス・ロイス社のD.オル理事(=写真左)は、「地球温暖化への取組は最も差し迫った長期的課題であるとともに、経済的には重要なチャンスにもなり得る」と指摘。同社製SMRであれば迅速かつ適正価格で建設が可能であり、数万規模の雇用を創出する魅力的な投資機会となるほか、今後数十年間にわたってトルコの繁栄と生活の質の向上が約束されると述べた。EUAS ICC社のY.バイラクタルCEO(=写真右)は、「原子力で電源の多様化を図ることが我々の展望であり、そのためにトルコの社会経済に貢献する持続可能な原子力産業を開発したい」とコメント。トルコはすでに、パートナーであるロシアと大型原子力発電所(120万kW級PWR×4基)を地中海沿岸のアックユで建設中だが、価格面での競争力は重要な指標になるとした。またSMRの実行可能性については、その研究開発を継続的にモニターしていくとしている。なお、ロールス・ロイス社はすでに2017年11月、同社製SMRをヨルダンで建設する技術的実行可能性調査の実施に向け、ヨルダン原子力委員会と了解覚書を締結済みである。(参照資料:ロールス・ロイス社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの3月20日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
23 Mar 2020
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欧州委員会(EC)の持続可能な金融に関する技術専門家グループ(TEG)は3月9日、2050年までに気候中立(CO2排出量が実質ゼロ)を達成するための行動計画で、中心となるグリーン事業の分類(タクソノミー)を最終報告書(=写真)で公表した。しかし、原子力を同タクソノミーに含めるべきとの勧告がなかったことから、チェコ電力公社(CEZ)など欧州で原子力発電所を操業する電気事業者など7社は12日に声明文を発表し、CO2を出さない原子力が持続可能な電源であると適切に評価されるよう、科学者など独立の立場の専門家グループを設置することをECに要請した。EUタクソノミーは見せかけの環境配慮を装った事業を廃し、環境上の持続可能性を満たす真にグリーンな事業に正しく投資が行われるよう、明確に定義づけるための枠組。今回の報告書でTEGは、原子力を付属文書中の1項目として取り上げており、まず「発電中にCO2をほとんど排出しない原子力発電は気候変動の影響緩和に貢献し得るため、TEGはこの観点から原子力を検討した」と述べた。グリーン事業をタクソノミーに含める重要な基準として、TEGは「環境への十分な貢献」と「(資源循環や生態系といった)他の環境分野に悪影響を及ぼさないこと(DNSH)」の2点を設定。「原子力で環境上かなりの貢献が可能になるという証拠は明確かつ広範囲に及び、低炭素なエネルギー供給で原子力が果たす潜在的役割もデータ等で十分に裏付けられている」とした。しかし、放射性廃棄物の管理などで他の環境分野に悪影響が及ばないかという点について、TEGは原子力関係の証拠は非常に複雑で評価が難しいと指摘。原子力利用の全体体系が生態系等に及ぼすリスクに関しては、ピアレビューの結果や科学的な証拠を入手するとともに、悪影響を抑える先進的リスク管理の手続や規制についても証拠を得ている。しかし、TEGは高レベル放射性廃棄物深地層処分場の例を挙げ、現状ではまだ世界のどこにも安全で長期的に利用可能な地下処分場が存在していないなど、実験等に裏付けられた確固たるデータが不足していると述べた。このためTEGとしては、原子力の全体体系が環境に深刻な悪影響を及ぼさないと結論付けることはできず、現段階で原子力をタクソノミーに含めるよう勧告することはできないが、今後、原子力技術や環境影響について深い専門知識を有するグループが、原子力について一層幅広い技術評価を実施することを推奨するとしている。 これに対してCEZは、仏国のフランス電力(EDF)とオラノ社、フィンランドのフォータム社、ルーマニアの国営原子力発電会社(SNN)、ポーランドの国営エネルギー・グループ(PGE)、スロバキア電力(SE)社とともに欧州の主要エネルギー企業が直面する課題に挑戦し、原子炉の新規建設や既存炉の運転期間延長などで、原子力産業界が今後も持続的な投資を受けるべきとの点でECの合意を得たいと表明。CEZ社のD. ベネシュCEOは、ECやその直属の科学研究組織である「共同研究センター(JRC)」がこの分野の専門的知識に乏しいのであれば、独立の専門家による評価が論理的に必要になると述べた。同CEOはまた、持続可能性の評価でタクソノミーのような新基準を導入することは、欧州の既存の法的枠組に違反すると指摘。「原子力によって如何なる被害も及ばないよう、EUではすでに非常に広範な規制や法律、指令が敷かれている」とした。このことは放射性廃棄物にも適用されており、欧州指令に基づいて管理されているほか、各国の規制当局や国際機関の監視下にも置かれている点を強調している。(参照資料:CEZの発表資料(チェコ語)、TEGの最終報告書と付属文書、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの3月13日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
19 Mar 2020
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米カリフォルニア州を本拠地とする原子炉開発企業のオクロ(Oklo)社は3月17日、同社製の小型高速炉設計「オーロラ」(電気出力0.15万kW)について、先進的な小型原子炉としては初となる建設・運転一括認可(COL)を、子会社のオクロ・パワー社が原子力規制委員会(NRC)に申請したと発表した。「オーロラ」では今のところ、COLの取得と実際の建設に必要な設計認証(DC)審査が申請されていないが、同設計の初号機についてはエネルギー省(DOE)が昨年12月、傘下のアイダホ国立研究所(INL)敷地内で建設することを許可。オクロ社は2020年代初頭から半ばにかけて、「オーロラ」の着工を目指しており、それまでにDCを取得する考えと見られている。NRCでは現在、小型モジュール炉(SMR)として唯一、ニュースケール社製「ニュースケール・パワー・モジュール(NPM)」のDC審査を実施中である。発表によると、「オーロラ」では米国でこれまでに開発・実証されてきた先進的な金属燃料を使用。原子炉の冷却用に水を使わず、少なくとも20年間は燃料交換なしで熱電併給を続けることができる。また、究極的には燃料のリサイクルや、放射性廃棄物からクリーン・エネルギーを取り出すことも可能だとしている。同社は2016年11月、許認可審査の円滑な進展を期すためNRCスタッフと申請前の諸活動を開始した。2018年には、現行規制に基づくCOL申請書の新たな内容構成についてNRCと協議しており、同社は今回、新方式を適用して申請を行った最初の例となった。従来方式では申請書の長さが数千ページ規模だったのに対し、新方式では千ページ以下に留まった模様。このやり方は今後の同様の申請書審査にフィードバックされ、効率性の改善に役立てられるとしている。同社はまた、今回のCOL申請書を初めてインターネット経由で提出した。「数十年前の古いプラント用ガイダンスに縛られることなく、これまでと根本的に異なる核分裂技術の申請書で規制基準を満たす方針であり、当社が先駆けとなった近代的な申請は、米国で先進的技術の商業化を進める重要な一歩になった」と強調している。同社はさらに、非軽水炉型原子炉技術の審査を効率的・効果的に実施するため、NRCが過去数年間にわたって数多くの措置を講じてきたと説明。世界をリードする原子力規制当局として、NRCは今後、先進的原子炉設計の評価を滞りなく進めていくことになると述べた。(参照資料:オクロ社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、ほか)
18 Mar 2020
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米国のエナジー・ハーバー社(旧ファーストエナジー・ソリューションズ社)は3月13日、ペンシルベニア州で運転中のビーバーバレー原子力発電所(100万kW級PWR×2基)について、2018年3月に発表した「2021年中に早期閉鎖するための予告通知」を撤回すると同地域の地域送電機関(RTO)「PJMインターコネクション(PJM)」に伝えたと発表した。早期閉鎖を予告した際、同社はビーバーバレー発電所に加えて、オハイオ州のデービスベッセとペリー2つの原子力発電所についても2020年と2021年に永久に機能停止させるとしていた。しかし、オハイオ州では昨年7月、CO2を排出しない原子力発電所への財政支援を盛り込んだ法案が立法化され、ファーストエナジー・ソリューションズ社(当時)はこれら2つの原子力発電所の早期閉鎖方針を撤回。デービスベッセ発電所では、2020年春の停止期間中に燃料交換するための準備を直ちに開始すると表明している。ビーバーバレー発電所の早期閉鎖方針を撤回する理由についてエナジー・ハーバー社は、ペンシルベニア州のT.ウルフ知事が昨年の10月以降、米北東部地域における州レベルの発電部門CO2排出量(上限設定型)取引制度「地域温室効果ガスイニシアチブ(RGGI)」に同州を参加させる方針である点に言及した。同州がRGGIに参加した場合、炭素を出さないエナジー・ハーバー社の原子力発電設備にも他の電源と平等な機会が与えられ、同社の小売り成長戦略に沿って環境・社会面の目標や持続可能性等の達成が促進される。ただし、目標とする2022年初頭までにRGGIの手続が開始され、期待した効果が出なかった場合は、同社はビーバーバレー発電所の永久的機能停止を改めて検討しなければならないとしている。2009年に制度として始まったRGGIには現在、マサチューセッツ州やコネチカット州などニューイングランド地方の6州に、中部大西洋岸地域のニューヨーク州、ニュージャージー州などを加えた合計10州が参加している。参加地域全体のCO2排出量の上限を設定した上で、排出量オークションにより各排出源に最大許容排出量を配分。発電事業者は所有する発電設備に排出枠を当てるだけでなく、排出枠を売買することや余剰を貯蓄することも可能である。エナジー・ハーバー社は今のところ、ビーバーバレー発電所の早期閉鎖撤回決定を原子力規制委員会(NRC)に口頭で伝えたのみだが、手続きとして30日以内に書面でも連絡する方針。また今回の決定は、原子力発電運転協会(INPO)と原子力エネルギー協会(NEI)にも通知済みだとした。CO2を実質的に排出しない信頼性の高い原子力発電所等により、同社は長期的な価値の創生や将来的な低炭素経済における競争力の増強など体制を整え、顧客や関係者が環境面や社会面の目標を達成できるよう努力を傾注していきたいとしている。(参照資料:エナジー・ハーバー社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの3月16日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
17 Mar 2020
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米国のホルテック・インターナショナル社がニューメキシコ(NM)州南東部で進めている使用済燃料集中中間貯蔵(CIS)施設の建設・操業計画について、米原子力規制委員会(NRC)は3月10日、同施設が周辺住民や環境に及ぼす影響に問題なしと同委スタッフが結論付けた「環境影響表明書(EIS)」の案文を公表し、パブリック・コメントに付した。NRCは同社が2017年3月末に提出した建設許可申請書を約1年後に正式に受理し、技術的な評価審査を実施中。同審査は安全・セキュリティ面と環境影響面の両方について詳細に行われており、EIS案に関しては連邦官報に掲載後、60日にわたって一般からコメントを募集する。NRCはこの間、同案について複数回の公聴会を同州内で開催予定で、収集したコメントを検討した上でEISの最終版を作成、2021年3月に公表することになっている。これと並行して、安全・セキュリティ面の技術評価結果をまとめた「安全性評価報告書(SER)」最終版も同じく2021年3月の公表が予定されており、最終的に実施許可を発給するか否かの判断がこれらに続いて下される。米国では1982年放射性廃棄物政策法に従って、エネルギー省(DOE)が1998年1月から全米の原子力発電所の使用済燃料の引き取りを開始し、深地層処分することになっていた。しかし、2009年にB.オバマ政権がネバダ州ユッカマウンテンにおける最終処分場建設計画を打ち切った後、2012年に政府の有識者(ブルーリボン)委員会は「地元の合意ベースで最終処分場の立地を進めつつ、複数のCIS施設の建設」を政府に勧告。DOEは翌2013年、(1)中間貯蔵パイロット施設の操業を2021年までに開始し、(2)規模の大きい中間貯蔵施設を2025年までに利用可能にする、これらに続いて(3)最終処分場を2048年までに利用可能にする――などの管理処分戦略を公表していた。ホルテック社の計画は、NM州エディ郡と同郡内のカールズバッド市、およびその東側に隣接するリー郡と同郡内のホッブス市が設立した有限責任会社「エディ・リー・エネルギー同盟(ELEA)」と結んだ協力覚書に基づき、ELEAがリー郡で共同保有する敷地内でホルテック社が同社製の乾式貯蔵システム「HI-STORM UMAX」を建設・操業するというもの。操業は当初、約8,680トンの使用済燃料を封入した専用の銅製キャニスター500個を地下施設に貯蔵するが、最終的にこの数は1万個に達する見通し。これらのキャニスターは、全米の閉鎖済みないしは廃止措置中の原子力発電所から鉄道で輸送することになる。NRCのEISでは、対象施設の建設から廃止措置までプロジェクト全体の環境影響を評価。具体的には、土地の利用や使用済燃料の輸送、地層と土壌、地表水、湿地帯、地下水、生態学的資源、歴史的文化的資源、環境正義等の側面について評価を行ったとしている。NRCはこのほか、米国のウェイスト・コントロール・スペシャリスツ(WCS)社が仏オラノ社との合弁企業「中間貯蔵パートナー(ISP)社」を通じてテキサス州アンドリュース郡で進めているCISの建設計画についても、2018年8月に改定版の建設許可申請書を受理。ホルテック社のCIS計画と同様に申請書審査を実施中である。(参照資料:NRCの発表資料、原産新聞・海外ニュース、ほか)
16 Mar 2020
2339
米バージニア州のBWXテクノロジーズ(BWXT)社は3月10日、エネルギー省(DOE)傘下のオークリッジ国立研究所(ORNL)が開発している超小型炉「トランスフォーメーショナル・チャレンジ・リアクター(TCR)」(=図)用として、3重被覆層・燃料粒子「TRISO」の製造契約を子会社のBWXTニュークリア・オペレーションズ・グループ(NOG)社が獲得したと発表した。BWXT社は昨年10月、民生用の先進的原子炉や国防総省の超小型原子炉利用計画、宇宙探査機器の電源用原子炉など、近年浮上した様々な顧客の需要に応えるため、同州リンチバーグにあるTRISO燃料製造ラインの再稼働を決めたところ。今秋中にTCR用TRISO燃料の製造を完了するだけでなく、TCR本体の製造についてもORNLの継続的な開発に協力していく方針である。粒子核を黒鉛やセラミックスで被覆するというTRISO燃料技術は元々DOEが開発したもので、粒子核にはHALEU(U235濃縮度が5~20%の低濃縮ウラン)を使用。今回の契約でBWXT NOG社が請け負ったのは、代用物質を3重に被覆したものとHALEUの粒子核、およびHALEU粒子核を3重被覆した燃料粒子の3種類を製造・納入することであり、ORNLはこれらの物質を使って引き続き、様々な分野の科学技術を活用した先進的な短期間製造アプローチと原子炉の試作設計を開発する。今回の受注についてBWXT NOG社のJ.デュリング社長は、「先進的原子力技術で新たな市場を開拓するという当社の戦略上、非常に重要だ」と説明。材料の「付加的加工」(3Dプリンティング)等により製造した全く新しい低コストの原子炉で、DOEやORNLとともに安全かつクリーンな発電を実証していきたいと述べた。TCR実証プログラムは、ORNLが2019年に開始したもの。CO2を出さずに国内電力需要の約20%を賄い、50万人規模の雇用を支える原子力発電の将来を見据え、新規建設の最大ネックとなっている莫大な建設コストや長期間の工期という課題の克服を目指している。このためORNLは、原子炉の先進的な製造プロセスにより超小型炉を設計、建設、運転する方針で、ヘリウム冷却式で受動的安全性を備えた熱出力0.3万kWのTCR実証炉を2023年までにORNLの建屋内で建設するとしている。(参照資料:BWXT社、ORNLの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの3月12日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
13 Mar 2020
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インド原子力省(DAE)に常設されている「科学技術、環境、森林および気候変動に関する議会委員会」は3月6日、同省の2020年~2021年の助成金案審議に関する報告書を議会に提出し、同常設委としては現時点で、米仏製の軽水炉よりもDAEが国産の標準型70万kW級加圧重水炉(PHWR)を建設する方が賢明と考えていることを明らかにした。インドは2030年までに、現在約3%の原子力発電シェアを少なくとも2倍に拡大する計画だが、同常設委は「米仏両国の原子力企業との交渉が10年以上続いているにも拘わらず、これらから支援を受けた新規の軽水炉建設プロジェクトがまったく実現していない」点を指摘。意欲的な目標を達成するには熟慮と予算上の手当てが必要であり、原子力拡大計画では差し当たり国産標準設計を採用して積極的に進めてくことを勧告している。インドは2006年のエネルギー政策で、2032年までに原子力発電設備で6,300万kWの導入目標を定めているが、現在稼働中の原子力発電設備は22基、678万kWである。このうち2基、200万W分がロシアから導入したPWR(VVER)であるほか、2基、32万kW分は1960年代に米GE社が建設したBWR。残りはすべて国産のPHWRで、追加4基のPHWR建設計画と後続2基のVVER建設計画が比較的順調に進められている。しかし、仏国製の欧州加圧水型炉(EPR)をジャイタプールで6基建設するという2009年の了解覚書については、2016年と2018年にフランス電力(EDF)とインド原子力発電公社(NPCIL)が改定版の覚書や新たな協定に調印をしたものの、その後の動きは発表されていない。また、米国とインドは2008年に米印原子力協力協定を締結。GE日立・ニュクリアエナジー社製BWRの建設に向け、インド内閣が2009年に暫定指定した東海岸コバダのサイトでは、ウェスチングハウス(WH)社製AP1000を6基建設することが2016年に正式決定した。しかし、翌2017年のWH社の倒産法適用申請等により、この計画は進展していない。今回、DAE常設の議会委員会は2020年~2021年の助成金案で、国内すべての原子力発電所を維持するための追加予算を最小限に抑えるようDAEに要請。同委によると、インドの原子力プログラムは現在、非常に微妙な岐路にさしかかっており、CO2を排出しない一方でそのコストは下がっていない。福島第1原子力発電所事故後はむしろ、安全性への懸念からコストが上昇しており、価格が大きく下落した太陽光発電との総体的な経済性の差も大きく変化。インドには、原子力のように戦略的側面を持つベースロード電源を諦める余裕はないが、太陽光の間欠性や効率性の悪さを別にしても全体として見過ごすわけにはいかないとした。同委はまた、カルパッカムで2004年から建設中の高速増殖炉原型炉(PFBR)について、DAEが2021年末までに起動させることを期待すると述べた。起動段階に達するまで20年近くかかっているが、インドが誇るパイオニア的イニシアチブであることに間違いはなく、同炉によってインドの原子力プログラムは転換期を迎えるとしている。これに加えて同委は、先進的トリウム炉を工学規模で展開するための計画を進めるようDAEに要請。国内に豊富にあるトリウム資源を背景に、重水炉を中心とした三段階の独自のトリウム・サイクルによる原子力発電開発計画を進めていくことを再確認している。 (参照資料:DAE常設委員会の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの3月9日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
12 Mar 2020
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米国の国防総省(DOD)は3月9日、今後の軍事作戦に使用する先進的な可動式超小型炉の原型炉建設と実証に向けて、ウェスチングハウス(WH)社、BWXテクノロジーズ(BWXT)社、X-エナジー社の3チームを選定し、それぞれが開発中の小型炉で設計を開始する契約を締結したと発表した。この計画では、DOD戦略的能力室(SCO)が可動式超小型炉の開発で実施中のイニシアチブ「プロジェクトPele」から資金が提供される。DODが遠隔地の作戦基地で様々なミッションを遂行する際、必要となる電力を供給するため、SCOは同イニシアチブの第1段階で、約2年をかけて安全かつ先進的な可動式の超小型炉設計をまとめ上げる。その後の第2段階(2年間)で3社のうち1社の設計を選定し、実際に原型炉を建設する可能性が高いとした。今回の契約で3社がそれぞれ受け取る資金総額は、WH社が約1,195万ドル、BWXT社が1,350万ドル、X-エナジー社が約1,431万ドルとなっている。SCOは2019年1月、「プロジェクトPele」の下で開発する技術について産業界からの情報提供を依頼(RFI)。同イニシアチブで実際に機能する原型炉を迅速に開発するには、エネルギー省(DOE)や傘下の国家核安全保障局(NNSA)、原子力規制委員会(NRC)、および産業界のパートナーとの連携・調整は不可欠。また、その設計の評価や安全性解析が進み、最終的な建設と実証試験に繋がるとSCOは見ている。SCOはまた3月2日付けの連邦官報に、DOE原子力局との連携により超小型炉の原型炉建設と実証で環境影響声明書(EIS)を作成すると発表しており、4月1日まで一般からのコメントを募集中である。そこでは、検討中の超小型炉は、HALEU(U235の濃縮度が5~20%程度の低濃縮ウラン)の3重被覆層・燃料粒子「TRISO」を用いた先進的な超小型ガス冷却炉(AGR)になるとしている。今回の発表でSCOは、超小型炉の技術的な実行可能性を評価するため、高品質のエンジニアリング設計を完成させて安全性や信頼性を確認するとともに、技術面や規制面、製造面のリスクを削減することが必要になると述べた。DOE原子力局と協力してSCOはこれまでに、課題の克服が可能になるような最先端技術や近代的な設計概念を審査してきたが、DODの作戦活動では年間約300億kWhの電力と1日あたり1,000万ガロン以上の燃料が必要であり、この量は今後拡大していく見通し。小型で安全かつ輸送も可能な原子炉によって、無限量に近いクリーン・エネルギーを確保し、地球上のいかなる場所でも長期にわたって作戦活動を維持・拡大したいとしている。©WH社WH社の9日付の発表によると、同社は開発中の超小型モジュール炉(SMR)「eVinci」に輸送可能な機能を加えて、DOD用の「defense-eVinci(DeVinci)」(=写真)の原型炉設計を完成させる。電気出力が最大2.5万kWの「eVinci」は10年以上燃料交換が不要であるほか、革新的な受動的安全性能を備えた次世代の原子炉設計になる予定。DOEは昨年3月、先進的原子力技術の研究開発に対する約1,900万ドルの支援の第4弾として、同設計を対象プロジェクトの1つに選定している。BWXT社は、バブコック&ウィルコックス(B&W)社が2014年に分社化した原子力機器・燃料サービス事業と連邦政府の原子力事業対応の専門企業。DOEの「新型ガス冷却炉(AGR)用燃料開発プログラム」の下、バージニア州リンチバーグの設備で3重被覆層・燃料粒子「TRISO」を製造してきたほか、2017年8月には、有人火星ミッションに使用する熱核推進式原子炉の概念設計契約を米航空宇宙局(NASA)から受注している。X-エナジー社は、小型のペブルベッド式高温ガス炉「Xe-100」(電気出力7.5万kW)を独自に開発中。これに使用するTRISO燃料の商業規模の製造加工工場「TRISO-X」を2025年までに完成させるため、ウラン濃縮企業のセントラス・エナジー社や日本の原子燃料工業と協力する契約や覚書を締結した。「Xe-100」については、ヨルダンが2030年までに国内で4基建設することを希望しており、2019年11月に同社とヨルダン原子力委員会が基本合意書を交わしている。DODの今回の発表について米原子力エネルギー協会(NEI)は、「原子炉設計の開発業者が商業炉を建設するのに先立ち、その技術を実証するとともに設計した能力の確認もできるという官民連携の最新例だ」と指摘。選定された3社は、超小型炉開発に数百万ドルもの資金を投じている様々な開発業者の、ほんの一握りだと説明している。(参照資料:DOD、WH社、NEIの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの3月10日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
11 Mar 2020
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米原子力規制委員会(NRC)は3月5日、国内全96基の商業炉における2019年の年間運転実績評価で、すべてのユニットを最良のパフォーマンス・カテゴリーに分類したと発表した。NRCの「原子炉監督プロセス(ROP)」で各原子力発電所の運転データを安全・セキュリティ分野のパフォーマンス指標に基づいて評価したところ、すべての商業炉が設定目標を全面的に達成していたもの。過去20年間における監督プロセスの中で初めてと伝えられており、これらの炉で適用される検査プログラムも最低限実施する通常のベースライン検査に留まることになる。NRCは今後、春から夏にかけて、このような年間評価結果の詳細を議論する公開討論会やイベントを各原子力発電所の近郊で開催する予定。年間評価の結果に関する書簡はすでに各発電所の事業者宛てに送付したほか、今後の点検プランについても通達済みだとしている。ROPの実施にともなう運転データの提出は四半期毎に各原子力発電所事業者に義務付けられており、NRCスタッフは評価結果を事業者に伝えるとともに、追加検査が必要と判断したものについては検査官を送るなどの対応をとっている。原子力発電の利用に際する住民の健康と安全性確保を最大目標に、(1)原子炉安全、(2)放射線安全、(3)テロ等に対する予防措置、という3つの主要な戦略的パフォーマンス分野を特定。これらを評価するため、安全性に関わる7つの重要側面(起因する初期事象、事象の影響緩和システム、バリアの健全性、緊急時対策、公衆の放射線防護、所内の放射線防護、物理的な防護措置)について検査を実施している。また、これらの重要側面に影響する3つの分野横断的要素――人的パフォーマンス、問題点の特定と解決、安全性を重視した作業環境――についても監督を行っている。前回、2018年末現在のROPでNRCは、全98基中4基の商業炉について「安全上の重要度の低い1~2項目について課題を解決する必要あり」と判定したほか、1基については「監視活動を大幅に強化する必要あり」と評価していた。今回、ベースライン検査プログラムからの逸脱基数が最少になったことについて、米原子力エネルギー協会(NEI)のD.トゥルー副理事長は、地元紙のインタビューで「原子炉の適切なレベル評価において、NRCが安全性に関わる事象に一層の重きを置くようプロセスを変更したから」と指摘。各原子炉で性能の改善が図られたことも、安全性関係の課題が少なくなった一因だと説明している。(参照資料:NRCの発表資料、原産新聞・海外ニュース、ほか)
10 Mar 2020
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米原子力規制委員会(NRC)は3月6日、ペンシルベニア州のピーチボトム原子力発電所2、3号機(各118.2万kWのBWR)(=写真)でそれぞれ2回目の運転期間延長20年間を認め、運転開始以降の通算では2号機が1973年9月から2053年8月まで、3号機は1974年8月から2054年7月までとなる、各80年間稼働することを許可すると発表した。NRCは昨年12月、米国では初となる「2回目の運転期間延長」をフロリダ州のターキーポイント3、4号機(各76万kWのPWR)で承認しており、今回のピーチボトムは2件目。これらに続いて、NRCはサリー1、2号機(各87.5万kWのPWR)の申請についても審査中であるほか、今年10月から12月までにノースアナ1、2号機(99.8万kWと99.4万kWのPWR)で、また2021年10月以降はオコニー1~3号機(1、2号機は88.7万kWのPWR、3号機は89.3万kWのPWR)で、事業者が現行で許されている60年間の運転に追加で20年間、期間延長を申請する見通しだとしている。米国では運転開始当初の商業炉の認可運転期間は40年だが、これは技術的な制限ではなく経済性と独占禁止の観点によるもの。40年間稼働することにより、原子力発電所では電気料金を通じて費用の回収が完了するとされており、減価償却の観点から議会がこの期限を定めた。最初の40年が経過するのに備えて、希望する事業者は追加の運転期間を20年ずつNRCに申請することになっており、NRCはすでに約100基の商業炉のうち94基(このうち6基は早期閉鎖済み)に対して40年プラス20年の運転継続を承認。米国では今や、合計60年の稼働が一般的となっている。ピーチボトム2、3号機はそれぞれ、2013年と2014年に最初の運転期間延長20年が認められており、事業者のエクセロン・ジェネレーション社は2018年7月に両炉で2回目の運転期間延長をNRCに申請した。同社のB.ハンソン最高原子力責任者は、過去7年間に実施した広範なアップグレードにより、両炉では安全かつ信頼性と効率性の高い運転継続が可能になったと紹介。出力を約12%向上させるために新しい機器と技術に相当額の投資を行っており、具体的には低圧と高圧両方のタービン、蒸気乾燥機、主発電機や変圧器で取り替えや機能向上を行ったことを明らかにした。同氏は一方で、「原子力発電所を運転し続けていくには今後も継続的に収益を上げていかなければならない」と明言。原子力が提供する「炭素排出量ゼロ」という恩恵が環境や経済、信頼性の側面から高く評価されるよう、政策的な改革を推し進めることが重要だとした。ピーチボトム発電所が2054年まで稼働すれば、そのクリーン・エネルギーによって5億3,600万トン以上のCO2排出が抑えられるが、これは毎年330万台の自動車を34年にわたって削減したのと同じ効果があると述べた。同発電所はさらに、地域経済を支援する施設でもあると同氏は説明した。常勤職員として雇用する750名には年間合計で8,460万ドルの給与が支払われるほか、燃料交換時には追加で年平均1,800名の臨時雇用者や職人を雇用している。彼らがホテルやレストラン、ショップに支払いを行うことで、地元の経済が潤うとしている。(参照資料:NRC、エクセロン社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、ほか)
09 Mar 2020
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米国防総省(DOD)の戦略的能力室(SCO)と国防長官府は3月2日、エネルギー省(DOE)原子力局との連携により、先進的な可動式超小型原子炉の原型炉建設と実証に向けて、環境影響声明書(EIS)を作成すると同日付け連邦官報に掲載した。EISは国家環境政策法の要件に基づき、計画された活動が周辺住民の健康や環境に及ぼす可能性のある悪影響を軽減、最小化することを目的としている。SCOは同EISでカバーする範囲について、一般からのコメントを同日から4月1日までの期間に募集。それらを斟酌した上でEIS案を作成し、最終的には同炉を建設、様々な実証活動に加えて運転終了後の処分も行うという提案を実行に移す。SCOの説明によると、DODは世界でも最大規模のエネルギーを消費するユーザーの1つであり、今後の軍事作戦を遂行するにあたり、必要なエネルギー量は大幅に増加する見通し。作戦行動の実施地で配電網への依存を軽減することがDOD設備に求められているが、こうした配電網の多くは、様々な脅威にともない機能停止が長期化しやすく、DODの重要ミッションを「エネルギー供給の途絶」という高いリスクにさらしている。バックアップ電源としては主にディーゼル発電機が用いられているが、これらは現地での燃料備蓄が限られるほか、母国の新たな防衛ミッション用としては小さ過ぎて持続性と信頼性に乏しい。先進的な原子力発電であれば、エネルギー供給保証や(送電網の一時的機能停止からの)回復力などの点でDODのニーズを満たせるものの、技術面と安全面の仕様を全面的に実証する必要があるとした。このため、DODが今回提案した超小型炉では、通常運転時や異常時も含めて放射線被ばくを「合理的に達成可能な限り低く」抑えることが必須条件。具体的な仕様は、HALEU(U235の濃縮度が5~20%の低濃縮ウラン)の3重被覆層・燃料粒子「TRISO」燃料を使用する先進的な超小型ガス冷却炉(AGR)となる。予定している活動としては、同炉の原型炉を候補地となっているDOE傘下のアイダホ国立研究所など2か所で建設するが、1つは既存インフラ施設内部での建設となる一方、もう1つは屋外とする計画。その上で、プロジェクトの対象物質の試験と照射後試験、原子炉の起動時と過渡変動時の試験を行うほか、サイト・バウンダリ内における同炉と専用機器の可動性評価や運転試験も実施する。また、これに付随する活動として、燃料の製造加工や試験モジュールの組み立て、放射性廃棄物と使用済燃料の管理などが含まれるとしている。(参照資料:3月2日付連邦官報、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの3月3日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
05 Mar 2020
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中国核工業集団公司(CNNC)は3月2日、世界初の「華龍一号」設計採用炉として2015年5月に着工した福建省の福清原子力発電所5号機(PWR、115万kW)で、温態機能試験が概ね完了したと発表した。「華龍一号」はCNNCと中国広核集団有限公司(CGN)双方の第3世代設計を一本化して開発したPWR設計で、中国が知的財産権を保有。現在、福清5号機を含め中国国内で合計5基が建設中であるほか、輸出用の主力設計として国外の原子力市場で積極的な売り込みが進められている。温態機能試験が完了したことで、CNNCは同炉の年内の送電開始に向けて盤石な基盤が築かれたと指摘。同じ設計を採用して5号機の7か月後に着工した同6号機、およびCGNが2015年12月から2016年12月にかけて、CGN版の「華龍一号」設計で着工した広西省の防城港3、4号機(PWR、各118万kW)は、いずれも同設計の実証炉プロジェクトと位置付けられており、これらすべてが年内に送電開始可能と見られる。さらに、これらに続いてCNNC傘下の中核国電漳州能源公司が昨年10月、「華龍一号」設計による漳州1号機(PWR、115万kW)を福建省で本格着工している。機能試験は、系統毎の機能やプラント全体の出力上昇等を試験するために行われる。プラント系統の構成や流量などを可能な限り模擬する常温・常圧の冷態機能試験と、これに続いて原子炉冷却系を高温・高圧状態にした上で実施する温態機能試験があり、福清5号機では1次系と2次系および補助システムの機能を全面的に確認。CNNCは動的と静的両方の安全システムや蒸気タービンなど、原子炉系統とタービン系統の機器すべてで設計要件通りのパラメーターが得られたとしている。中国国内では建設中の5基に続いて、CGNの寧徳5、6号機(PWR、各108.9万kW)建設計画、および漳州2号機(PWR、115万kW)の建設計画で「華龍一号」の採用が決まっている。国際展開については、パキスタンで2015年8月と2016年5月にそれぞれ着工したカラチ2、3号機(PWR、各110万kW)に同設計が採用されており、2号機ではすでに昨年6月、格納容器にドーム屋根が設置された。 また、EDFエナジー社が英国で建設予定のブラッドウェルB原子力発電所(PWR、110万kW×2基)も同じ設計になることから、同国の規制当局は2017年1月から「華龍一号」設計の英国版について「包括的設計審査(GDA)」を実施中。同審査は今年2月に最終段階の第4ステップに進展しており、2021年後半に設計容認確認書(DAC)が発給される見通しである。(参照資料:CNNCの発表資料(中国語)、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの3月3日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
04 Mar 2020
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米エネルギー省(DOE)は2月26日、ポーランド政府の代表とエネルギーに関する第三回目の戦略的対話をワシントンで開催した。同省のD.ブルイエット長官はこの中で、ポーランドのエネルギー供給保証強化に向けた協力方策として、クリーンで信頼性が高く、送電網の一時的な機能不全からの回復力(レジリエンス)も高い原子力発電所をポーランドで建設することに、米国の原子力産業界が引き続き関心を抱いていると表明した。この認識はポーランド代表側も確認・共有しており、この対話に出席したポーランドのP.ナイムスキ戦略エネルギー・インフラ特任長官は自身のホームページで、「ポーランドとしてはCO2を排出しない原子力は国内のエネルギー供給ミックスにおける重要要素になると考えている」と説明。これは地球温暖化防止のための欧州連合(EU)目標とも合致していると述べた。同特任長官はまた、リンク付けした現地報道記事の中で「わが国との長期的な協力を望む数社の潜在的パートナーが米国におり、我々は原子力発電所の建設で現実的な解決策に近づきつつある」と指摘。大型原子力発電所の導入を目指して早ければ数か月以内、遅くとも一年ほどで建設パートナーを選定すると伝えている。ポーランドでは石炭や褐炭といった化石燃料資源が豊富である。しかし、EUが2020年までのエネルギー政策目標の中でCO2排出量を2005年比で14%削減などを設定したため、ロシアからの石油と天然ガスの輸入量削減とエネルギー源の多様化を推進中。チェルノブイリ原子力発電所事故により、一度は頓挫した原子力発電の導入計画も進めている。ナイムスキ戦略エネルギー・インフラ特任長官によると、ポーランドの現在の原子力導入プログラムでは、2040年から2045年頃に出力100万kW以上の大型炉を少なくとも6基、合計設備容量で900万kW分を約20年間に3段階に分けて建設する計画。これらの原子炉によって安全かつ安定的なエネルギーを20数%程度、60年にわたって確保する方針であり、いずれ同プログラムのパートナー企業を正式に招聘すると述べた。両国のエネルギーに関する戦略的対話は、2018年9月に米国のD.トランプ大統領とポーランドのA.ドゥダ大統領が定期的に開催することで合意した。これを受けてDOEのR.ペリー長官(当時)は同年11月、ポーランドのK.トゥホジェフスキ・エネルギー相と会談し、この対話構想の下で民生用原子力協力に向けた作業グループの設置を決めるなど、先進的原子力技術を含めた両国間のエネルギー供給保証協力の強化で共同宣言に署名。その後、2019年中にすでに二回、戦略的対話を実施している。(参照資料:DOEの発表資料、ナイムスキ長官HP(ポーランド語)、同リンク付け記事(1)、(2)(ポーランド語)、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの3月2日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
03 Mar 2020
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