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石破内閣発足 武藤経産相が就任
10月1日午後の臨時国会での首班指名を受け、同日、石破内閣が発足。経済産業相には武藤容治氏(衆議院議員)、文部科学相にはあべ俊子氏(同)、内閣府科学技術政策担当相には城内実氏(同)が就任した。武藤経産相は同2日の閣議後、初の記者会見に臨み、石破首相からの指示として、福島第一原子力発電所の廃炉を含め、福島復興を国民への説明責任として進める「経済あっての財政」との考え方に立ちデフレ脱却を最優先とし、賃上げと投資が牽引する成長型経済を実現する電力需要の増加や脱炭素化への対応を含め、エネルギー・GX政策を推進する2025年に開催される大阪・関西万博の取組を進める――ことをあげ、政策推進に全力を尽くす姿勢を強調。2017~18年に経済産業副大臣を務めた経験を持つ武藤経産相は、エネルギーセキュリティの重要性にあらためて言及。まず、柏崎刈羽原子力発電所の現状に関し、「東京電力に対する不安の声がまだある」、「安心・安全に向けた同社の取組に対する地元の理解が進んでいない」のも事実としながらも、東日本における電力需給の脆弱性、電気料金の東西格差、脱炭素電源による電力供給の必要性に立ち、「再稼働に向けて、関係閣僚とも緊密に連携し、政府を挙げて取り組んでいく」との姿勢を示した。将来の新増設についても、AIの進展やデータセンターの増設に伴う電力需要増加の見込みから、具体的なエネルギーミックスの中で検討していく考えを述べ、高レベル放射性廃棄物の地層処分に関しては「地域の声に向き合い、国が前面に立って取り組んでいく」と明言した。
- 02 Oct 2024
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総合エネ調 若手団体他よりヒア
総合資源エネルギー調査会の基本政策分科会(分科会長=隅修三・東京海上日動火災保険相談役)は9月26日の会合で、「日本若者協議会」など、6団体からのヒアリングを行った。〈配布資料は こちら〉同調査会は、次期エネルギー基本計画策定に向け、5月より検討を開始。これまでに委員からは、次世代を担う若手との議論を求める声も寄せられていた。今回、その9回目となる会合に際し、資源エネルギー庁の村瀬佳史長官は、「様々な観点から議論を深めていきたい」と、広範なステークホルダーによる意見の聴取をいとわない姿勢を強調。オンライン参加の団体もあり、非常に限られた時間枠でプレゼン・質疑が行われた。2015年に若者有志で発足し、気候変動・エネルギー分野の公開勉強会や政府関係者との意見交換を行っている「日本若者協議会」の冨永徹平氏は、「その時々の若者が、社会に信頼感を持って働きかけを行い、それを柔軟に政治が受け入れる姿勢をつくっていきたい」と、継続的に次世代層の意見を取り込んでいく必要性を強調。また、高校生から大学院生までのメンバーで構成され、例年COPの日本パビリオンにも登壇している「Climate Youth Japan」の加藤弘人氏らは、経済的観点や環境影響などから原子力発電の将来性に疑問を呈し、エネルギー政策の基本原則「S+3E」に長期的視点を加えた「SLEEE視点」を提唱した。また、1934年結成の日本最古とされる日米協力の学生団体「日米学生会議」代表の富澤新太郎氏らは、環境経済やエネルギー安全保障の分野における交流について紹介。日米間相互の合宿研修などを通じて得られた視点として、「わが国は、資源小国だがエネルギー大国として存在することは可能だ」と強調。次期エネルギー基本計画の検討に向けて、「エネルギー産業を成長産業として戦略的に育成」、「複数シナリオを用意して柔軟に目標を設定」と提言した。さらに、原子力発電に関しては、「マクロ的な再拡大期を迎えている」との認識を示す一方、「福島第一原子力発電所事故を受けた『原発は是か非か』という二項対立のムードが払拭されておらず、未だに内向きだ」と懸念。大学における原子力人材育成の課題にも言及した上、産学官の強力な連携を通じ「日の丸原子力産業」を成長させる必要性を訴えた。この他、米国にも拠点を持つ核融合エネルギーのベンチャー「EX-Fusion」はレーザー核融合の開発ロードマップについて紹介。早期の発電実証に向け、規制を整備する必要性を述べるとともに、開発の過程で得られる要素技術が材料加工、宇宙探査、海水淡水化など、他分野に波及する可能性を強調。「日本気候リーダーズ・パートナーシップ」は、再生可能エネルギーの電源構成比率に関し、現行エネルギー基本計画の36~38%を、洋上風力・太陽光発電の大幅な増加で「2035年に60%到達は可能」と提言。大阪ガス発のベンチャー「SPACE COOL」は、光学フィルムを用いた放射冷却技術などを紹介し、「即効性の高い省エネ」に投資する必要性を訴えた。ヒアリングを受け、隅分科会長は、「徹底的に省エネを進めていかなければならないし、再エネをさらに拡大していくのもその通りだが、どこまでコスト合理的に増やせるのか。また、原子力を含む脱炭素電源をどこまで長期的に増やしていけるのか。今後、『現実解』を追及していきたい」と、さらに分析を深めていく方向性を示した。
- 27 Sep 2024
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エネ基改定に向け 産業団体から意見集まる
エネルギー基本計画の改定に向けた議論が進む中、エネルギー・産業団体からの意見も集まっている。総合資源エネルギー調査会の基本政策分科会(分科会=隅修三・東京海上日動火災保険相談役)は8月30日の会合で、電気事業連合会、日本ガス協会、石油連盟、全国石油商業組合連合会(全石連)、再生可能エネルギー長期安定電源推進協会の5団体より意見を聴取。〈配布資料は こちら〉8月2日の前回会合では、日本経済団体連合会、経済同友会、日本商工会議所、日本労働組合連合会、全国消費者団体連合会より、意見聴取を実施した。30日の会合の冒頭、折しも台風10号接近に伴う被害が危ぶまれる中、齋藤健経済産業相は、「送配電事業者においては、全国で約3万人の復旧要員を備えるなど、夜間も含め迅速な復旧作業に対応する体制を構築している」と謝意を表明した上で、あらためて「エネルギー政策が日本の国力を左右する」ことを強調した。意見聴取の中で、電事連の林欣吾会長は、エネルギー基本計画の見直しに向けた重要論点として、将来の不確実性を見据えたシナリオ検討安定供給とエネルギー安全保障の重要性の明確化再生可能エネルギーの推進原子力発電の活用の明確化火力発電の維持・確保、脱炭素化の推進電化の推進GX実現に向けた環境整備――を提示。その中で、原子力発電については、「既設炉の最大限活用」、2050年以降に向けて「次世代革新炉の開発・建設」が必要不可欠なことを強調。民間として取り組んでいく上での課題として、「エネルギー基本計画における原子力の位置付けの不十分さ」、「原子力事業における投資・コスト回収予見性の不十分さ」、「バックエンド事業(再処理・最終処分等)における不確実性」、「原子力損害賠償における無過失・無限責任」をあげた。また、火力発電については、「安定供給のための供給力は調整力確保のために欠かせない電源」との位置付けをあらためて強調した上で、2050年を見据えた脱炭素火力転換への方向性を図示。GX実現に向けた産業界からの関心などを踏まえ、「2050年はすぐ先の未来。残された時間は極めて少ない」と、エネルギー政策に係る危機感をあらわにした。化石燃料の関連で、日本ガス協会の内田高史会長は、CO2を再利用し水素と合成することで生成する「e-methane」構想を紹介。石油連盟の木藤俊一会長は、石油供給の意義に関し、東日本大震災や能登半島地震など、災害発生時における救急・復旧・復興を振り返り、「緊急時の『最後の砦』としての役割」を強調。全石連の出光泰典副会長は、カーボンニュートラルや脱炭素の流れの中、「石油が悪者」というイメージから、人材確保にも影響を及ぼしている状況などを懸念するとともに、特にサービス・ステーション(SS)運営に関し、適切な規制対応がなされるよう求めた。石油に依存する離島へのガソリン輸送は、危険物取扱いに係る規制に伴い、輸送コストが割高となっている。この他、日本電機工業会、日本機械学会(動力エネルギーシステム部門)もこれまでに、提言を発表しており、それぞれ「原子力発電の再稼働加速と次世代革新炉の開発・建設」、「原子力発電の出力調整機能」を図るよう、意見を述べている。〈電工会発表資料は こちら、機械学会発表資料は こちら〉資源エネルギー庁では引き続き、「エネルギー政策に関する『意見箱』」で、エネルギー基本計画の見直しに関する意見・提案を求めている。
- 06 Sep 2024
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総合エネ調原子力小委 事業環境整備に関し議論
総合資源エネルギー調査会の原子力小委員会(委員長=黒﨑健・京都大学複合原子力科学研究所所長)は8月20日、事業環境整備に関し、電気事業連合会、電力中央研究所、原子力エネルギー協議会(ATENA)よりヒアリングを行った。〈配布資料は こちら〉8月1日、政府・GX実行会議が国家戦略「GX2040ビジョン」策定に向けて行っている有識者からの意見聴取「リーダーズパネル」は、「再生可能エネルギー拡大、原子力発電所の再稼働やリプレース、火力の脱炭素化に必要な投資拡大の必要性」を課題の一つとして掲げている。今回小委員会の冒頭、資源エネルギー庁の久米孝・電力・ガス事業部長が挨拶に立ち、脱炭素エネルギーへの転換に向けた現状について、「世界がネットゼロという未知の領域に進んでいる」とあらためて強調。一方で需要面の不確実性が高いことなどから、「極めて難度の高い課題」との認識を示した上、原子力の観点からエネルギー政策の将来像について、忌憚のない意見を求めた。ヒアリングで、電事連の佐々木敏春副会長は、電気事業を取り巻く大きなトレンドとして、「世界的な脱炭素の潮流」、「DX(デジタルトランスフォーメーション)の進展によるベースロードを中心とする電力需要増」、「エネルギー・経済安全保障リスクの高まり」を提示。これらの環境変化に対する適応可能性から、原子力については「持続的かつ最大限活用していくべき電源」と強調した。既設炉の最大限活用に加え、建設のリードタイムを踏まえ、早急に次世代革新炉の開発・建設に着手する必要性を、今世紀後半までの設備容量予測により図示。さらに、2040年度末までに運転期間60年に達する4基分(高浜1・2号機、美浜3号機、東海第二)をリプレースするとした場合、必要な投資額を、2021年に総合資源エネルギー調査会が実施した発電コスト検証をもとに、約2.5兆円と試算した。厳しい財務状況を背景とした電力をめぐる資金調達環境の悪化も憂慮。原子力事業の継続性確保に向け、「円滑なファイナンスが可能となる資金調達環境整備」の早急な検討を求めた。電中研社会経済研究所研究参事の服部徹氏は、原子力事業環境整備の海外事例について紹介。新増設に係る英国、フィンランド、フランス、米国の各事例の他、既設炉維持やバックエンドの事例にも言及し、費用回収とファイナンスの課題への対応について説いた。これに関し、朝野賢司委員(電中研社会経済研究所副研究参事)は、電力事業におけるファイナンス整備の重要性を「原子力だけでなく将来必要となるあらゆる大規模な脱炭素電源への設備投資と密接に関連する」と強調。一方で、日本における次世代革新炉の開発・建設に向けては、「投資回収の予見可能性があまりに低い」ことをファイナンス整備の課題として挙げたほか、「リスクとコストの適切なバランス」について、電気事業者・大手メーカーだけに偏らず、関連するステークホルダー間で議論が進められる必要性を指摘した。ATENAは、革新軽水炉の取組として、三菱重工業が開発に取り組む「SRZ-1200」の安全対策を紹介。規制の予見性の観点から、原子力規制委員会との議論に向けた準備を進め、「高い安全性を持つ革新軽水炉導入の早期実現」を目指すとした。専門委員として出席した日本原子力産業協会の増井秀企理事長は、現在検討が進められる次期エネルギー基本計画に、原子力発電の新規建設を前提に、その基数と時期を明確に記載することを要望。その実現化に向け、資金調達・回収、革新軽水炉の規制基準について意見を述べた。〈発言内容は こちら〉今回の会合では、利用政策の観点から運転期間延長に係る審査基準についても、資源エネルギー庁より考え方が示され議論。立地地域の立場から、杉本達治委員(福井県知事)は、「安全が最優先。運転延長後もプラントの安全性が確保されていることが重要」と強調した。
- 20 Aug 2024
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総合エネ調 経済3団体他よりヒア
総合資源エネルギー調査会の基本政策分科会(分科会長=隅修三・東京海上日動火災保険相談役)は8月2日、日本経済団体連合会、経済同友会、日本商工会議所他よりヒアリングを行った。同分科会は、5月よりエネルギー基本計画の見直しに向け検討を開始しており、今回の会合はその6回目となる。〈配布資料は こちら〉経団連の岩村有広常務理事はまず、日本の有する「供給面の制約が厳しい」、「需要規模が大きい」といったエネルギー事情を踏まえ、「単一のエネルギー源に過度に依存することなく、バランスの取れたエネルギーミックスの実現を志向すべき」と強調。その上で、今後の論点として、「化石燃料依存度の低減」、「ゼロエミッション電源の最大限活用」を示した。再生可能エネルギーの主力電源化とともに、原子力の最大限活用を挙げ、次世代炉の開発に向け各技術の置かれた現状を、実用化に近い順に「実装段階」、「実証段階」、「実験段階」に分類。当面は、革新軽水炉(実装段階)の建設・活用を進めつつ、並行して高速炉や高温ガス炉(実証段階)の実証を進めていく必要性を指摘した。経団連の十倉雅和会長は7月8日の記者会見で、GX推進や国際プロジェクトにおける日本のプレゼンス向上に関連し、ITER計画への期待を述べている。今回の分科会会合における発表でも、経団連は、核融合発電(実験段階)について、「高レベル放射性廃棄物を発生させない」などの利点から、その実用化を強く求めた。再稼働に関し規制側の判断や地元の理解が注目されているが、経団連は、日本原子力産業協会他のデータに基づき、今後の原子力発電設備容量の見通し(電源構成に占める割合は20%水準、60年までの運転を想定)を図示。それによると、新増設・リプレースがなければ、2040年代から設備容量が急減することから、建設に要するリードタイムも考慮し、「次世代革新炉の建設具体化」とともに、産業界の立場から「予見性確保、資金調達の観点も踏まえた事業環境整備」の必要性を訴えた。経済同友会の兵頭誠之エネルギー委員長らも、発表の中で、2040年をポイントとして指摘。同会は東日本大震災後の「縮・原発」の姿勢を改め、昨年末に長期的な原子力活用に向けて「活・原子力」を提唱した。今回、供給側の取組として、短期、短中期、中期、中長期のタイムスパンで課題を整理。原子力に関して、短期的には、「審査合格後の早期再稼働に向け、国民にファクトベースの説明」を行う必要性を指摘した。同会の新浪剛史代表幹事は、7月16日の記者会見で、柏崎刈羽原子力発電所の再稼働に関連し、電力消費地域の理解を進める必要性を述べている。また、中長期的な課題としては、核燃料サイクル・最終処分事業の推進とともに、「革新炉の特性を最大限に活かし、実態に即した新たな規制のあり方を検討する」、「人材・技術・サプライチェーン維持の取組を産官学一体となって推し進める」ことなどを提示。原子力の国民理解に関し、同会は、意見交換会「未来選択会議」などを通じ、若手との議論に取り組んできたが、今回の分科会でも、「社会全体を覆う『原子力を語れない空気』の払拭」が図られるよう、引き続き熟議に努めていく姿勢を示した。日商は、中小企業のエネルギーを巡る現状として、88%の企業がエネルギー価格の上昇により「経営に何らかの影響がある」と懸念していることなどを指摘。さらに、地方の観点からも、電源立地地域への産業誘致など、脱炭素化と産業活性化を両立する地域特性を踏まえたエネルギー戦略の立案を今後の議論に向け期待した。立地地域として、杉本達治委員(福井県知事)は、引き続き原子力に対する国の姿勢の明確化を切望。先般の能登半島地震にも鑑み、災害対応に資する蓄電池の活用にも言及し、電力安定供給を支える基盤確保の重要性をあらためて訴えた。今回の同分科会では、経済団体の他、日本労働組合総連合会、全国消費者団体連絡会からもヒアリングを行った。
- 05 Aug 2024
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総合エネ調 安定供給と火力の脱炭素化で議論
総合資源エネルギー調査会の基本政策分科会(分科会長=隅修三・東京海上日動火災保険相談役)は7月23日、安定供給の現状・課題と火力の脱炭素化のあり方について議論した。〈配布資料は こちら〉同分科会は5月15日、エネルギー基本計画の見直しに向け検討を開始。7月23日の会合で、資源エネルギー庁の村瀬佳史長官は、これまでの議論を振り返り、「需要が増加していく中で、脱炭素電源を最大限増加していかねばならない」と強調。去る6月6日の会合では、通信ネットワーク関連企業からの発表も受け、データセンターの拡大など、AI技術普及に伴う電力需要増に関し議論されている。村瀬長官は今回、オイルショックを受け半世紀前に設立された資源エネルギー庁の理念に立ち返り、「安定供給をしっかり確保していく必要がある」との使命感をあらためて示した上、引き続き有意義な議論を期待した。脱炭素電源の現状と課題については、前回、7月8日の会合で議論。各電源のCO2排出量比較などが示された上で、委員からは、原子力の安全性、再生可能エネルギー設置に伴う環境影響、国民理解の必要性などをめぐり意見が出された。一方で、日本の一次エネルギー供給・電源構成における化石エネルギー比率(2021年)は83%と、G7各国と比較し、依然と高いレベルにある。今回、火力の脱炭素化に係る議論に際し、資源エネルギー庁は「日本は最も化石燃料のリスクにさらされている」と危惧。さらに、電力需給に関しても、7月8日には、首都圏で最高気温37℃を記録し、東京電力管内では中部電力からの電力融通が行われるなど、需給バランスは予断を許さぬ状況にある。実際、夏季・冬季の電力最大需要発生時の予備率見通しについては、2015年度以降の推移から、特に、近年では、東日本の予備率が相対的に低くなっている。安定供給に関連し、資源エネルギー庁は、近年で電力需給がひっ迫した2020年度冬季(継続的な寒波/LNG在庫減少)、2022年3月(真冬並みの寒波/福島県沖地震)、2022年6月(異例の暑さ/発電設備の補修)について、要因・対応策を整理したほか、化石燃料輸入に伴う国富流出にも触れた上で、委員より意見を求めた。委員からは、東京湾岸に集結する火力発電の電源脱落リスクに関し、「高度成長期の産業政策『太平洋ベルト地帯』は今や、首都圏直下型地震のリスクからもレジリエンス上のネックとなっている」と懸念し、火力プラントの移設とともに、原子力発電の早急な再稼働を求める意見があった。また、地域の立場から、杉本達治委員(福井県知事)は、新たなエネルギー源として期待される水素・アンモニアに関し、敦賀港を中心とした貯蔵タンクの拠点整備の一方で、「日本海側は都市が点在しており、大規模な需要が存在しているわけはない」と、産業振興の課題を述べた上で、日本海側と太平洋側が相互に連携し合う体制が構築されるよう国の支援策を求めた。
- 24 Jul 2024
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総合エネ調 発電コストの検証開始
総合資源エネルギー調査会の基本政策分科会は7月22日、発電コストワーキンググループ(座長=秋元圭吾・地球環境産業技術研究機構主席研究員)を始動した。同分科会では、5月よりエネルギー基本計画の見直しを開始しており、その参考とすべく、各電源の発電コストについて試算し検討に資するもの。〈配布資料は こちら〉議論開始に先立ち、資源エネルギー庁が現行のエネルギー基本計画策定に向け行った「2021年の発電コスト検証」について説明。石炭火力、LNG火力、原子力、風力(陸上/洋上)、太陽光(事業用/住宅)など、15の電源別に、新たな発電設備を更地に建設・運転した際のkWh当たりのコストを、一定の計算式に基づき、2020年時点と、2030年時点で機械的に試算したもの。今後、燃料費の見通し、設備の稼働年数・利用率、再エネの導入量の他、実際の発電設備建設に際し立地点ごとに異なる条件を勘案する必要など、不確定要素が関わることから、あくまで参考モデルとして評価・分析している。それによると、原子力(設備利用率70%、稼働年数40年)は11.7円/kWh~で、LNG火力の10.7~14.3円/kWh、太陽光(事業用)の8.2~14.9円/kWhなどと比して遜色ない水準が示されている。今回、新たな発電コスト試算に際し、有識者の立場から日本エネルギー経済研究所特別主幹研究員の松尾雄司氏が発表。同氏は、「基本的な考え方は前回から大きく変えることはない」との前提に立ち、LCOE(均等化発電原価)手法による評価結果を紹介した。OECD/NEA、IEAなどの試算も参考としたLCOE手法では、各電源の稼働年数・設備利用率を通常運転で可能な最大値を想定。原子力については、それぞれ60年、85%と設定し評価した。その結果、事業用太陽光11.2円/kWh、陸上風力14.7円/kWh、原子力11.7円/kWh、LNG火力10.7円/kWh、石炭火力13.6円/kWhとのベースラインを示した上で、電気自動車やヒートポンプの普及など、今後の電力システムの柔軟性向上に応じ変化する可能性を図示。まとめとして、LCOE手法以外の有用な指標も有効活用し、電源ごとの経済性の変化や、各指標の比較などを行い、「将来のエネルギーシステムの中での各電源の特性や役割を把握し正しく国民に伝える努力が求められる」と指摘し、今後の議論に先鞭をつけた。委員からは、新たなエネルギー源として注目される水素・アンモニアに係るコスト検証を求める意見も出された。資源エネルギー庁は、発電技術そのものの評価に適した「モデルプラント方式」による試算を提案。また、中東情勢の緊迫化に伴う不確実性の高まり、GX推進など、現行のエネルギー基本計画策定以降の動きが発電コストに与える影響を考慮する必要性も示した。基本政策分科会は、概ね隔週の頻度で開催されており、エネルギー価格に対する関心が高まる昨今、WGでの検討状況がエネルギー基本計画見直しの議論に反映されていくこととなりそうだ。
- 23 Jul 2024
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総合エネ調基本政策分科会 脱炭素電源について議論
総合資源エネルギー調査会の基本政策分科会(分科会長=隅修三・東京日動火災保険相談役)は7月8日、脱炭素電源の現状と課題について議論した。〈配布資料は こちら〉5月よりエネルギー基本計画の見直しを開始した同分科会だが、冒頭、資源エネルギー庁の村瀬佳史長官は、今回、供給面の議論に入るのに際し、「巨額の投資、一定のリードタイムを要することから、予見性確保や時間軸を踏まえた対応が必要」と強調。技術面の課題にも言及し、有意義な議論を期待した。各電源の現状と課題に関する整理の中で、資源エネルギー庁は、原子力の脱炭素電源としての特長について、ライフサイクルCO2排出量を数値比較。電源別に、石炭火力943g-CO2/kWh、石油火力738g-CO2/kWh、LNG火力474g-CO2/kWh、太陽光38g-CO2/kWh、陸上風力26g-CO2/kWh、原子力19g-CO2/kWh、地熱13g-CO2/kWh、水力11g-CO2/kWhとなっており、「水力・地熱に次いで低い水準」と説明した。また、電力需要増の要因となるデータセンターについては、前々回の会合で、その拡大に応じた電力設備の建設リードタイムも議論となっているが、IT分野における脱炭素電源活用の海外事例として、米国企業による原子力発電所直結のデータセンター整備などが紹介された。これを受け、立地地域の立場から、杉本達治委員(福井県知事)は、原子力政策の明確化をあらためて強調。次期エネルギー基本計画策定に向け、2040年以降、発電設備容量が激減する見通しから、「開発・建設をどのように具体化していくのか」と、必要量・時間軸の明確化とともに、再処理工場の竣工時期、高経年化、人材育成など、課題を列挙し、国の責任ある対応を求めた。澤田純委員(NTT会長)は、「福島第一原子力発電所事故を忘れるべきではない」と、原子力の安全確保の重要性をあらためて強調。インフラのレジリエンスをめぐっては、昨今、集中豪雨も頻発しており、住宅密集地では大規模水害対策に備える自治体も多いようだ。同氏は、江戸川区の「水害ハザードマップ」を例示し、原子力防災に関して「天候などの状況にも応じた避難対策を準備しておくべき」などと、複合災害に備えておく必要性を訴えた。また、革新技術開発の一例として、政府主導による高温ガス炉建設を通じた投資の予見可能性向上にも言及。発生熱によるクリーン水素製造、近隣データセンターへのオンサイト直流送電などを実施することを提案した。消費者の立場からは、河野康子委員(日本消費者協会理事)が、「これまで各電源の長所・短所が細切れで情報提供がなされてきた」などと指摘。国民自らがエネルギーについて考えるよう、的確なデータ開示の必要性を主張した。再生可能エネルギーに関しては、設置に伴う環境影響や地域理解、地産地消に係る意見も多く出された。この他、新たなエネルギー源として期待される水素・アンモニアの市場形成・投資判断促進に向けた国の関与、ガス火力発電とCO2回収・有効利用・貯留(CCUS)の組合せを通じたASEANとの連携、蓄電池の再利用などについても言及があった。
- 08 Jul 2024
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総合エネ調原子力小委 核燃料サイクルをテーマ
総合資源エネルギー調査会の原子力小委員会(委員長=黒﨑健・京都大学複合原子力科学研究所所長・教授)が6月25日、4か月ぶりに開かれ、核燃料サイクルの確立に向けた取組を中心に議論した。〈配布資料は こちら〉黒﨑委員長は、今回、前任・山口彰氏を引き継ぎ、初の議事進行に臨んだ。冒頭、原子力・エネルギー政策立案をリードする責務を認識した上で、「是非前向きな議論を」と述べた。続いて、議論に先立ち、資源エネルギー庁が原子力に関する国内外動向、課題・論点を整理。同調査会の基本政策分科会では、5月にエネルギー基本計画改定に向けた検討が開始されているが、久米孝・電力・ガス事業部長は、2021年の現行基本計画策定以降、ロシアによるウクライナ侵略など、エネルギーをめぐる地政学的リスクの高まり、AIの社会実装に伴う急速な電力需要増を見据え、「脱炭素電源の安定供給をいかに確保するか」と、極めて困難な局面にある現状を強調。その中で、「原子力を活用していく上での課題」については、原子力小委員会において着実に議論していく姿勢を示した。委員からは、次期エネルギー基本計画策定に係る発言も多く、基本政策分科会の委員も兼ねる遠藤典子委員(早稲田大学研究院教授)は、最近の通信関連企業からのヒアリングに言及。データセンターの増加に伴う電力需要増に対し、「供給力をどう確保するか」を政策的課題としてあげた上で、原子力発電の建設リードタイムも見据え、今後の新増設に民間企業が投資できる制度設計を検討していく必要性を指摘した。同じく、村上千里委員(日本消費生活アドバイザー・コンサルタント・相談員協会)は、原子力発電所の建設コスト上昇を、最近の欧米における状況から懸念した上で、「新増設の賛否にかかわらず納得できるコスト検証を行って欲しい」と要望。さらに、消費者の立場から、再稼働に伴う電気料金への影響、バックエンドコストに関し使用済み燃料の直接処分にも言及した。核燃料サイクル政策について、資源エネルギー庁は、「高レベル放射性廃棄物の減容化」、「有害度低減」、「資源の有効利用」などの観点から、今後も原子力発電を安定的に利用する上で、関係自治体や国際社会の理解を得ながら、「引き続き推進することが重要」とあらためて明示。立地地域の立場から、杉本達治委員(福井県知事)は、原子力政策の明確化、立地地域の振興、原子力防災の強化とともに、核燃料サイクルの確立について要望。その中核となる六ヶ所再処理工場のしゅん工に向けては、「国が責任をもって事業者の取組状況を管理するとともに、原子力規制委員会も遅滞なく効率的に審査を行う」など、政府全体での取組が図られることを求めた。技術的観点からは、竹下健二委員長代理(東京工業大学名誉教授)が発言。ウラン濃縮については、投資促進に関する日本・カナダ・フランス・英国・米国による共同宣言「札幌ファイブ」(2023年12月、産業界による共同声明は こちら)など、国際的な動きもみられる。同氏は、「ウラン濃縮は機微技術のため、国内で開発するしかない」との基本姿勢に立ち、濃縮能力の増強、経済性の向上に向け、日本原燃による遠心分離機開発に期待。さらに、将来的な資源の有効利用を見据え、回収ウラン利用に係る技術開発、高速炉MOX燃料の再処理にも言及した。専門委員として出席した日本原子力産業協会の新井史朗特任フェローは、「既設炉の最大限の活用」、「新増設・リプレースを含めた必要容量・時間軸の明記」、「事業者が適切な時期に新規建設の投資判断ができる事業環境整備」、「革新軽水炉に関する規制基準の検討」、「原子力の価値を広く知ってもらう国民理解の促進」の5点を、次期エネルギー基本計画に向け要望した。
- 25 Jun 2024
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高速炉実証炉の概念設計 原子力機構に研究開発統合機能を担う組織設置へ
資源エネルギー庁が設置する高速炉開発会議の戦略ワーキンググループは6月19日、高速炉実証炉の概念設計段階における開発体制について、研究開発統合機能を担う組織を7月にも、日本原子力研究開発機構に設置する方針を決めた。〈配布資料は こちら〉2016年12月の高速増殖原型炉「もんじゅ」廃炉決定後、将来的な高速炉の研究開発方針をあらためて明確化すべく、2018年12月に原子力関係閣僚会議において「戦略ロードマップ」が決定。2024~28年度に実証炉の概念設計・研究開発を進め、2026年頃に燃料技術の具体的検討、2028年頃に実証炉の基本設計・許認可手続きへの移行判断を行う計画だ。経済産業相がリードする高速炉開発会議のもと、エネ庁他、文部科学省、電気事業連合会、原子力機構ら、実務者レベルで構成される戦略WGはこのほど、およそ1年ぶりに会合を行い、高速炉実証炉の概念設計、基本設計・詳細設計、建設・運転の各開発段階で必要な「司令塔機能」について整理。2023年7月には、高速炉実証炉の設計・開発を担う中核企業として、三菱重工業を選定しているが、「もんじゅ」の責任体制所在に係る教訓などを踏まえ、今後の概念設計段階に向けて、プロジェクト全体戦略のマネジメント機能は引き続き政府が担い、新たに研究開発統合機能を担う組織を原子力機構に設置することを決定した。新組織の設置は7月1日の予定。エネ庁の説明によると、かつて「もんじゅ」は、主務会社を設けず重工メーカーが横並びでプロジェクトを請け負う「護送船団方式」であったため、システム全体の設計に対し、一貫性をもって実施する責任体制の明確化が課題だったという。実際、「もんじゅ」の現場では、電力・メーカーからの出向者の知見から保安体制に係るノウハウが活かされる一方で、十分な伝承がなされていないことも指摘されてきた。19日のWG会合で、原子力機構の板倉康洋副理事長は、今回、研究開発統合機能の同機構内設置が決定したことについて、「その役割を果たすべく最大限努めていきたい」と、使命感を強調。今後、高速炉の再処理技術開発も展望し、関係者の理解・支援を求めた。また、電事連の水田仁・原子力推進・対策部長は、将来を見据え「実用炉開発を進める上で、具体的開発体制が示されたもの」と、期待を寄せるとともに、原子力機構がリードする高速炉技術開発に対し「軽水炉の運用で培った知見も活かして欲しい」などと、事業者として協力姿勢を示した。
- 20 Jun 2024
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総合エネ調 国際情勢について有識者からヒア
総合資源エネルギー調査会の基本政策分科会(分科会長=隅修三・東京海上日動火災保険相談役)は6月17日の会合で、エネルギーを巡る国際情勢について有識者からのヒアリングを行った。〈配布資料は こちら〉冒頭、齋藤健経済産業相は、「世界的に不確実性が高まる中で、いかにエネルギー安定供給と脱炭素化の両立を確保するか、コストの上昇にどのように対応するかが各国共通の課題。その状況を把握することは、わが国の対応を考えていく上で重要」と、今回のヒアリングを行う意義を強調。同分科会では、次期エネルギー基本計画策定に向けた検討を5月15日にキックオフ。以降、3回目となる会合に際し、齋藤経産相は、「野心を持ちつつ、着実かつ現実的なアプローチを追求していくためにも、今後、イノベーションを積極的に進めた上で、その進展状況を踏まえ、コスト面での検証を行いながら、あるべき政策の方向性を見出していく」と、さらに議論を深めていく姿勢を示した。ヒアリングでは、コスト面の課題について、中東情勢・化石燃料市場に詳しい日本エネルギー経済研究所専務理事の小山堅氏が、ウクライナ危機に伴い高騰したエネルギー価格が下降傾向にあると概観しながらも、原油価格は「歴史的観点で高水準」にあると指摘。過去のオイルショックを振り返り、中東・ウクライナ・東アジアを中心とする「地政学リスク」を筆頭に、「政策変更リスク」、「過少投資リスク」、「マーケットパワーリスク」、「需給構造変革リスク」、「自然災害・サイバーリスク」など、様々なリスクの存在をあげ、「国際エネルギー情勢にはまだまだ先行き不透明な要素がある」ことを強調。その上で、ウクライナ危機発生以降、中長期的な脱炭素化に向けた世界動向の一つとして、小山氏は、「原子力重視の潮流顕在化」をあげ、既存炉の有効活用、新規建設、新型炉の開発の他、米国で動きのある「廃炉が決定していたプラントの再稼働」にも言及した。脱炭素化に係る課題・不確実性に関しては、コスト抑制を「重要なカギ」と指摘。その他、「政策変更リスク」に関連し、11月に予定される米国大統領選挙も注目すべきとした。小山氏は、先進技術・イノベーションの役割、経済安全保障の重要性についても述べた上で、次期エネルギー基本計画に向けた論点として、新情勢を踏まえ、あらためて「S+3E」の同時達成を目指すこと総合的な観点でのコスト最小化・最適化の追求エネルギー戦略と成長戦略・産業政策の一体化・融合――などを提案。エネルギー安全保障政策を国家戦略ととらえ、GXを踏まえた政策策定を政府一体となって進める必要性を示唆した。同分科会会合のヒアリングでは、この他、2050年カーボンニュートラルの実現に向けた課題に関連し、マッキンゼー・アンド・カンパニー・インコーポレイテッド・ジャパン・シニアパートナーの堀井摩耶氏が、水素・アンモニア、CO2回収・貯留(CCUS)など、各技術の普及ペースとコスト低減の関係を整理した上で、投資加速化の重要性を主張。三菱UFJ銀行サステナブルビジネス部長の西山大輔氏は、同行が刊行する「MUFGトランジション白書」および欧米視察調査について紹介。ドイツにおける世論調査結果で、「原子力を許容」とする回答割合が、電力価格高騰を背景に、東日本大震災直後の24%から、2023年4月には59%に増加していることなどを示した。
- 18 Jun 2024
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齋藤経産相 柏崎刈羽の「必要性・意義」を強調
齋藤健経済産業相は6月14日の閣議後、東京電力柏崎刈羽原子力発電所に係る対応について記者団からの質疑に応えた。前日、花角英世・新潟県知事の他、自由民主党でエネルギー政策に係る細田健一衆議院議員らによる訪問を受けて、今後の再稼働を巡り、記者会見の中で質疑応答があったもの。花角知事からは東京電力に対する指導・監督の強化、原子力災害時の住民避難を円滑にするための避難道路整備などに関する要望事項が示されており、これまでも地元住民からは、元旦に発生した能登半島地震に鑑み、厳寒期の広域的な防災対策について不安の声が出されている。齋藤経産相はまず、柏崎刈羽発電所の再稼働を巡り、「様々な懸念や不安の声がある」との現状認識をあらためて示した上で、今回の新潟県知事他による要望に対しては、「しっかりと受け止めて、今後あらためて回答したい」とした。その上で、今後も「地域の方々の理解が得られるよう、柏崎刈羽発電所の必要性・意義について説明を尽くしていく」と強調。防災対策については、「能登半島地震で得られた教訓を踏まえて、内閣府(原子力防災)と連携しつつ、地域の緊急時避難対応を取りまとめていく」と説明した。現在、新潟県では、柏崎刈羽発電所の再稼働に係る判断に向けて、県の技術委員会での議論が大詰めとなっており、東京電力や関係行政機関も説明に当たっている。会見の中で、齋藤経産相は、今回の知事との会談を好機ととらえ、「今後も様々な機会をとらえ直接コミュニケーションをとっていく。地域の実情を踏まえ丁寧に説明していきたい」と強調した。なお、新規制基準適合性に係る審査をクリアした柏崎刈羽7号機について、東京電力では、燃料装荷を完了後、6月12日までに、健全性確認を一通り実施し原子炉の起動に必要な主要設備の機能が発揮できることを確認したとしている。また、一連の核物質防護に係る事案を踏まえ受け入れたIAEAによるエキスパートミッション(3月25日~4月2日)からも、6月6日公表の結果報告書の中で、「核セキュリティ文化を改善するために措置を講じている」と、高い評価が得られている。こうした事業者による取組に対し、齋藤経産相は、「安全性向上に向けて自律的な改善の取組を進めていくとともに、丁寧に地域・社会に説明して欲しい」と述べた。
- 14 Jun 2024
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総合エネ調 データセンター等による需要急増でヒア
総合資源エネルギー調査会の基本政策分科会(分科会長=隅修三・東京海上日動火災保険相談役)は6月6日の会合で、将来的な電力需要に関し、通信・半導体・鉄鋼関係企業よりヒアリングを実施。電力インフラへの先行投資の重要性が浮き彫りとなった。〈配布資料は こちら〉同分科会は、5月15日に次期エネルギー基本計画策定に向けた検討をキックオフ。その中で、GX(グリーントランスフォーメーション)に向けた取組の進展や、AIの社会実装に伴うデータセンター拡大など、DX(デジタルトランスフォーメーション)の進展による電力需要増加の可能性が指摘された。今回の会合ではまず、資源エネルギー庁がデータセンター需要の予測について整理。IEAの予測によると、2024年1月時点で、世界に8,000以上あるデータセンターの33%が米国、16%がEU、10%が中国に立地し、2022年から2026年にかけて、その電力需要はいずれも1.3倍程度増加する。また、世界のデータセンター・AIなどの電力需要は、同じく4,600億kWhから8,000 億kWhまで急増する見通しだ。英国の電力系統企業による調査では、同国のデータセンターの電力消費量が、2050年に2020年のおよそ10倍にまで達する可能性もあるという。国内のデータセンターの電力消費量については、科学技術振興機構の調査から、2018年の140 億kWhが、省エネの進展度合いに応じ、2030年に60~900億kWhに、2050年に1,100億~12兆kWhに変動すると説明した。これを受け、ソフトバンク、キオクシア、NTT、JFEホールディングスよりヒアリング。ソフトバンクは、同社が北海道苫小牧市に2029年までに整備する総受電容量30万kW級の大型AIプロジェクトなどを紹介した上で、将来的な計算需要の伸びから、国内のデータセンターが必要とする発電設備容量は、2030年から2040年の10年間で約8倍の3,300万kW(現在の国内原子力発電総設備容量に相当)に急増すると試算。電力需給それぞれの建設リードタイムに関し、データセンターが3年なのに対し、発電所はLNG6年、風力・地熱8年、原子力17年と、大きな開きがあることを示し、「発電所や系統への先行投資が必要」と、指摘した。NTTは、光通信を利用した未来のネットワーク構想「IOWN」(Innovative Optical and Wireless Network)を紹介。超低消費電力実現の可能性を述べながらも、電力事業の将来的課題として、「電力量確保」、「価格コントロール」、「連系線確保」、「法制度見直し」をあげた。半導体製造のキオクシアは「基本的に24時間・365日のフル稼働」が必要な現状を述べ、鉄鋼業のJFEホールディングスは、脱炭素化に向けて取り組む倉敷製鉄所(岡山県・水島コンビナート)の「高効率・大型電気炉」導入計画を紹介。電力需要の大幅増を見通し、それぞれ、原子力発電に係る課題として、東日本で再稼働が進まないこと、中国電力島根2・3号機の早期再稼働・運転開始の必要性などを訴えた。委員からの意見では、AIを利用した省エネの進め方・定量化の検討、需給調整に加え災害対策も見据えた蓄電池の活用などに関する提案もあった。
- 07 Jun 2024
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「エネルギー白書2024」が閣議決定
2023年度の「エネルギーに関する年次報告」(エネルギー白書2024)が6月4日、閣議決定された。エネルギー政策基本法に基づき、政府がエネルギーの需給に関して講じた施策の概況を取りまとめ国会に提出するもの。2023年度の施策状況とともに、冒頭で、福島復興の進捗カーボンニュートラルと両立したエネルギーセキュリティの確保GX・カーボンニュートラルの実現に向けた課題と対応――に焦点を当てて紹介している。「福島復興の進捗」については、2023年8月に開始された福島第一原子力発電所におけるALPS(多核種除去設備)処理水の海洋放出に言及。ALPSで取り除くことのできないトリチウムも、安全基準を大幅に下回るまで海水で薄めた上で放出することから、「環境や人体への影響は考えられない」と説明している。また、帰還困難区域の避難指示解除に向けた取組としては、2023年11月に「特定復興再生拠点区域」(2017年5月に創設され、5年を目途に避難指示を解除し住民の帰還を目指すもの)の全域で避難指示が解除されたのに続き、同年6月に創設された「特定帰還居住区域」制度のもと、2024年2月に、大熊町・双葉町・浪江町・富岡町における「特定帰還居住区域復興再生計画」認定を受け、今後、4町での除染・インフラ整備などを実施し避難指示解除を推進。2020年代をかけて、「帰還を希望する全住民が帰還できるよう、避難指示解除の取組を進めていく」としている。「カーボンニュートラルと両立したエネルギーセキュリティの確保」については、昨今のロシアによるウクライナ侵略や中東情勢の悪化など、エネルギーに影響を及ぼす地政学的なリスクを図示。「世界のエネルギー情勢を巡る不確実性は増加の一途」との懸念を示した上で、日本のエネルギー事情に関しても、燃料価格の高水準持続、電力需要増の可能性から、「影響を与えうる『変数』も増加する」と、不確実性の高まりを危惧している。例えば、今後の電力需要に関しては、電力広域的運営推進機関(OCCTO)が2024年1月に公表した2033年度までの想定を踏まえ、データセンターや半導体工場の新増設により2020~30年の約1兆kWhから、2050年に約1.35兆~1.5兆kWhに増加するとの見通しを提示。1年前の前回想定では電力需要の減少が予測されていたが、今回の想定では電力需要が増加する見通しとなったという。こうした状況を踏まえ、今回の白書は、日本のエネルギーが抱える構造的課題の解決に向けて、「エネルギー危機に強い需給構造の転換が必要」などと指摘しており、総合資源エネルギー調査会が5月に検討を開始した次期エネルギー基本計画の策定にも資する内容といえそうだ。世界規模での「GX・カーボンニュートラルの実現に向けた課題と対応」に関しては、COP28(2023年11~12月、UAE・ドバイ)において、原子力が気候変動対策として初めて明記されたことも述べている。 資源エネルギー庁では、今回の白書についてわかりやすく説明したスペシャルコンテンツ「エネルギーに関するさまざまな動きの今がわかる!」を公開し啓発に努めている。
- 04 Jun 2024
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再エネ大規模導入に伴う歪み 原子力支持を押し上げか
東アジア・アセアン経済研究センター(ERIA)は23日、日本エネルギー経済研究所(IEEJ)と共催で、「電力消費地から原子力について考える」と題したシンポジウムを大阪で開催した。電力消費地を含む社会全体が原子力利用に対する理解を向上させることが目的。国内のみならず欧米から原子力立地地域のオピニオンリーダーらを招き、カーボンニュートラル(CN)実現とエネルギー安全保障に果たす原子力の役割を、あらためて浮き彫りにした。基調講演に立った資源エネルギー庁の原子力立地政策室長の前田博貴氏は、再生可能エネルギーの拡大や、原子力発電の再稼働の遅れなどにより、電力需給がひっ迫している現状を指摘。今後、データセンターや半導体工場の新増設などによる産業部門の電力需要がますます拡大するとの見通しを示し、原子力の重要性を再確認した。そして日本国内の世論傾向として、日本原子力文化財団が実施している世論調査を引用。「原子力発電利用の増加や維持を求める意見が増加傾向にある」と強調した。同世論調査に関しては、地球環境産業技術研究機構(RITE)主席研究員の秋元圭吾氏も言及。同世論調査結果を「個人的な実感ともかなり近い」とした上で、「近年、特に地方での講演会の場で、お年寄りから『再エネけしからん』との非難を受けるようになった」と指摘した。同氏はこの原因について、「地方における再生可能エネルギーの大規模導入に伴う歪みが表れているのではないか」と分析。「従来原子力に反対していた地方の高齢者層が、太陽光パネルなどの再生可能エネルギーの無秩序な導入によって、各自が抱いている故郷の原風景を破壊されたことで、かなり怒っている」との見方を示した。日本の原子力立地地域からは、福井県原子力平和利用協議会敦賀支部長の武内貴年氏が登壇。メディアによる風評被害の実例を紹介し、「原発」「核のゴミ」などネガティブなワードを使用しないよう呼び掛けた。また、福井県が取り組むクリアランス制度の産業化にも言及。2025年に開催される大阪万博の会場にクリアランス製品を設置し、来場者の理解を促進できないかとのアイデアを提案した。シンポジウムではその他、高レベル放射性廃棄物の最終処分問題が進展するフィンランドや、新規原子力発電プロジェクトが進展する英国のヒンクリーポイントやウィルヴァ、ディアブロキャニオン原子力発電所の閉鎖が撤回された米カリフォルニア州から、ステークホルダーを迎えてパネル討論が行われ、地域と原子力との共生について議論された。
- 27 May 2024
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総合エネ調分科会 エネルギー基本計画の見直しに向け検討開始
総合資源エネルギー調査会の基本政策分科会(分科会長=隅修三・東京海上日動保険相談役)が5月15日、新たな委員構成のもと、5か月ぶりに開かれ、エネルギー基本計画の見直しに向け議論を開始した。2021年10月に閣議決定された現行の「第6次エネルギー基本計画」は、今秋にも法令に定める再検討の時期を迎える。〈配布資料は こちら〉冒頭、挨拶に立った齋藤健経済産業相は、ロシアによるウクライナ侵略、中東情勢の緊迫化など、地政学リスクの高まりから、「世界はエネルギーの量・価格の両面でリスクに直面している」と、エネルギー安全保障に係る危機感をあらためて指摘。さらに、国内のエネルギー事情に関して、「化石燃料の輸入金額は2022年に34兆円にまで上昇しており、輸出で稼いだ国富をすべて失っている」と危惧。また、昨今、AIの社会実装やデータセンターが拡大する中、それに応じた電力の安定した供給が欠かせないとした上で、「脱炭素エネルギーへの転換は極めて困難な課題」、「今、日本はエネルギーにおける戦後最大の難局にある」と、強調した。先立つ13日には政府の「GX(グリーントランスフォーメーション)実行会議」で、2040年頃の日本の産業構造も含めた国家戦略「GX2040ビジョン」を策定する方針が示され、今後、有識者によるパネル討論など、集中的な議論が見込まれている。齋藤経産相は、GX実行推進担当相の立場からも、同ビジョンの検討に資するべく、「将来のエネルギー政策のあるべき姿を議論して欲しい」と、活発な議論を期待。エネルギー基本計画は、地球温暖化対策計画など、関連する政策と合わせて年度内にも改定され、「GX2040ビジョン」に盛り込まれる見通しだ。同分科会の議論再開に際しては、資源エネルギー庁が、昨今のエネルギー安全保障を巡る内外の環境変化、脱炭素に向けた世界の動向、日本の現状と課題についてあらためて整理。委員からの意見を求めた。その中で、山口彰氏(原子力安全研究協会理事)を引き継ぎ、同調査会の原子力小委員会委員長を務めることとなった黒﨑健委員(京都大学複合原子力科学研究所教授)は、大量で良質な脱炭素電源を提供できる特性、世界の趨勢などから「原子力を使わない手はない」と、原子力の価値を強調。国内においては、再稼働の速やかな推進、設備利用率の向上とともに、2050年以降に向け新増設の必要性を示唆した上で、今後の課題として、長期にわたる事業環境の整備、国民の信頼醸成、技術基盤・人材確保を図っていくことを指摘した。産業界からは、澤田純委員(NTT会長)、橋本英二委員(日本製鉄会長兼CEO)が、それぞれ核融合研究、電力多消費型産業に係る立場から「原子力開発の方向性を明確に」、「脱炭素は地球規模のニーズで、日本経済復活の大きなチャンスだ」として、多様な技術開発や電力の総合的機能発揮の重要性を強調。今回から新たに参加する小堀秀毅委員(旭化成会長)は、現行のエネルギー基本計画の進捗状況を問うた上で、地方創生や災害対策の観点から「エネルギーの多様性・分散化」を主張。いずれも政策立案における予見可能性を重視すべきことが示唆された。この他、消費者団体からは、生活への影響や原子力のバックエンド対策に対する不安、若者からの声を求める必要性などに鑑み、かつて東日本大震災後のエネルギー政策見直し時に実施された「討論型世論調査」の再度実施を求める意見も出された。資源エネルギー庁では、今後の検討に資するべく「エネルギー政策に関する意見箱」を設置し、一般からの意見公募を開始している。
- 16 May 2024
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【第57回原産年次大会】「今何をすべきか」を基調テーマに開幕
「第57回原産年次大会」が4月9日、東京国際フォーラム(東京・千代田区)で開幕した。国内外より約700名が参集し(オンライン参加を含む)、10日までの2日間、「今何をすべきか 国内外の新たな潮流の中で原子力への期待に応える」を基調テーマに議論する。開会セッションの冒頭、挨拶に立った日本原子力産業協会の三村明夫会長はまず、「原子力発電の積極的な活用の機運が国内外において極めて高まっている」と強調。最近1年間を振り返り、2023年4月の「G7札幌エネルギー・環境大臣会合」では日本がG7議長国として「原子力の最大限活用」が謳われ、12月のCOP28(ドバイ)では「COP史上初めて公式に原子力が積極評価されるとともに、25か国により『原子力3倍宣言』が発出された」とした。また、直近3月には、ベルギー・ブリュッセルで、IAEAとベルギー政府の主催による史上初の原子力に特化した首脳会議「原子力サミット」が37か国参加のもとで開催されたことに言及。こうした動きをとらえ、「原子力発電の拡大を目指す国際的な動きが加速している」と、あらためて述べ、「国内外の強い原子力推進モメンタムの中で、われわれ原子力産業界は今何をすべきなのか」と、今大会基調テーマの趣旨を訴えかけた。開会セッションに続き、セッション1では「カーボンニュートラルに向けた原子力事業環境整備」、セッション2では「バックエンドの課題:使用済み燃料管理・高レベル放射性廃棄物最終処分をめぐって」、10日のセッション3では「福島第一廃炉進捗と復興状況」、同セッション4では「原子力業界の人材基盤強化に向けて」と題し、それぞれ議論する。三村会長は、これらセッションを通じ「原子力の最大活用に向けた課題と展望、日本のみならず世界のエネルギー・環境問題を解決するための糸口について、見出せることを切に願う」と、活発な議論が展開されるよう期待した。続いて、来賓挨拶に立った岩田和親・経済産業副大臣は、「福島第一原子力発電所事故の反省を一時も忘れることなく、高い緊張感を持って、安全最優先で万全の対策を行うことが大前提」と、原子力エネルギーを活用する上での姿勢をあらためて強調。さらに、元旦に発生した能登半島地震に伴うエネルギーインフラに係る被災・復旧状況も踏まえ、「不断の安全性向上に努めていくことが重要。長い積み重ねであっても、一瞬の気の緩みで信頼が失われかねない」との教訓を述べた。原子力発電に関しては、東日本大震災以降、新規プラントの建設機会喪失により、「サプライチェーン・人材を含めた原子力産業を支える事業環境は年々危機的な状況になりつつある」と懸念。次世代革新炉の建設、核燃料サイクルの推進、バックエンドの課題対応などを見据え、原子力産業の基盤を支援すべく「強靭なサプライチェーン構築に向け政策支援を一層強化していく」と、引き続き事業環境整備に取り組んでいく姿勢を示した。開会セッションでは、特別講演として、世界原子力発電事業者協会(WANO)の千種直樹CEO、元米国エネルギー省(DOE)副長官のダニエル・ポネマン氏(ビデオメッセージ)が登壇。千種氏は、1986年のチョルノービリ発電所事故を契機に設立後、世界の原子力発電事業の安全性を向上する「リーダー」となるビジョンを掲げ、35年にわたって情報交換、ベストプラクティス共有などに取り組んできたWANOの活動を紹介。WANOのメンバーとなる発電所は現在、世界で運転中460基、建設中60基に上るという。これまで蓄積された豊富なデータとその分析は「これから建設に入る国々への支援にも資する」などと、WANOのグローバルな活動姿勢を示した上で、こうした活動に対し、産業界からの一層の支援を求めた。また、同氏は、ロシアによるウクライナ侵攻に関し、「ウクライナのすべての原子力発電所にとって非常に由々しき状況」と危惧。WANOとして、IAEAとも協力し、ザポリージャ発電所に係るタスクフォースミッション派遣の他、住民らの心理的ケアも行っていることを紹介した。ポネマン氏は、「エネルギー戦略における新しい視点と原子力の役割」と題し講演。かつても原産年次大会に登壇した経験のある同氏は、あらためて原産協会との協力意義を振り返りながら、「2050年カーボンニュートラル」実現に向けた原子力の役割を強調。電力部門にとどまらず「電気自動車の普及が進むことにより、運輸部門の脱炭素化にも重要な役割を果たす」などと、産業界による技術革新への期待を述べた上で、「世界のエネルギー業界ではますます原子力の拡大が必要」と訴えかけた。さらに、同氏は、データセンターやAIの普及に伴う世界のエネルギー需要増を、「原子力発電所の新設でも賄いきれない、遥かに速いスピードで進む爆発的勢いだ」と懸念。その上で、再生可能エネルギーの限界にも言及し、原子力の役割について、「すべての人の意見が一致することはできないが、こうした深刻な懸念にも立ち向かわねばならない」などと述べ、今大会の議論に先鞭をつけた。
- 09 Apr 2024
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原子力サプライチェーンシンポ 人材確保や海外プロジェクト参画など議論
日本原子力産業協会と資源エネルギー庁による第2回「原子力サプライチェーンシンポジウム」が3月14日に都内ホールで開催された。〈既報〉来日中の国際原子力機関(IAEA)ラファエル・マリアーノ・グロッシー事務局長による挨拶、「原子力産業の未来」と題するセッションに続き、サプライチェーン強化の取組として、人材育成・確保、海外プロジェクトへの参画、供給途絶対策の3つの個別テーマを設け議論。近藤寛子氏(マトリクスK代表)がファシリテータを務め、文部科学省、大手メーカーの他、原子力発電プラントの運用を支える国内バルブメーカー、日本の技術力に期待を寄せる海外企業も登壇した。その中で、人材育成・確保については、産官学によるプラットフォーム「原子力人材育成ネットワーク」で国際化分科会主査を務める日立製作所・吉村真人氏が10年先を見据えたロードマップを示し、国内外、産業界、大学・研究機関、学生らを巻き込んだ広範な取組を進めていく必要性を強調。技術者教育に関しては、東芝エネルギーシステムズの小向夕紀氏が、同社の取り組む将来の革新軽水炉「iBR」開発などを踏まえた教育プロセスを紹介。社会人としての基礎教育、ものづくり、グローバルな視点とともに、原子力技術者としての安全文化醸成も重視した「高い専門性を有するプロフェッショナル」育成を目指していると強調した。海外プロジェクトへの参画については、米国ホルテック社がミシガン州に建設する「SMR-300」(電気出力30万kW)プロジェクトにおける三菱電機との計装機器関連の協働を紹介。SMR(小型モジュール型炉)の固有の安全性、工業地域への熱供給の可能性、既存軽水炉の許認可が準用できるといったメリットをあげ、「今後、世界の需要に応えていくには、日本のサプライヤーとも協力していく必要がある」と、日本の技術力活用に期待を寄せた。また、原子力分野の国際連携強化と海外展開支援に関し、原産協会の植竹明人常務理事が2023年11月28~30日にフランス・パリで開催された「世界原子力展示会」(WNE2023)について紹介。同展示会の会場レイアウトを図示し、88か国・地域から約23,600人が参加した盛況ぶりを述べる一方、中国や韓国に比して日本の占める展示スペースが見劣りしていたことに懸念を示した。供給途絶対策については、CGD(Commercial Grade Dedication、一般品を評価・検証することで原子力施設での使用を可能とする手法)の取組が焦点となった。その中で、日本電機工業会原子力部長の小澤隆氏は、54年前の同日、国内初のBWRプラントである日本原子力発電敦賀1号機が運開したことに触れ、これまで60年余にわたり築かれた国内サプライチェーン発展の経緯を振り返るとともに、福島第一原子力発電所事故以降の状況として、新規プラント建設の停滞による経験者の高齢化・リタイヤを懸念。大手メーカーとして、日立GEニュークリア・エナジーからは、電動弁、排風機など、CGDの適用可能が確認済みの品目とともに、「原子力品としての供給力が困難となった製品、設計変更により供給不可となった製品、従来のサプライヤーが撤退した製品」の品質レベルを維持した供給に向けて、その適用意義が述べられた。また、サプライヤーとして、岡野バルブからは、「新規採用品を一般品とすることができれば、サプライヤーの候補や製品選択肢の幅が大きく広がる」メリットがある一方で、シビアアクシデント対策など、新たな調達品目により、不適合・トラブル対応時の影響や、品質管理規格の高度な要求から、労力・コストに見合った顧客対応に支障をきたす可能性が課題としてあげられた。
- 18 Mar 2024
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原子力サプライチェーンシンポ開催
日本原子力産業協会と資源エネルギー庁は3月14日、国内原子力関連企業による海外展開や事業承継、人材育成支援などの原子力サプライチェーン維持・強化策を紹介・議論し、取組を加速すべく、「原子力サプライチェーンシンポジウム」を都内ホールで開催。オンラインも含め約400名が参加した。同シンポジウムの開催は、昨春に続き2回目。前回、経産省より「原子力サプライチェーンプラットフォーム」(NSCP)の設立が発表され、NSCPの枠組みを通じ、原子力人材の育成・確保、部品・素材の供給途絶対策や事業承継、海外プロジェクトへの参画に対し、地方経済産業局とも連携した支援態勢を構築する取組が進められている。シンポジウム開会に際し、挨拶(ビデオメッセージ)に立った齋藤健経済産業相は、昨年末のCOP28の成果などから、「世界では原子力の必要性を再認識する動きが着実に加速している」と期待。その一方、国内で元旦に発生した能登半島地震にも鑑み、今後の原子力活用に向け、「福島第一原子力発電所事故への反省を一刻も忘れることなく、高い緊張感を持って安全最優先に万全の対応を行うことが大前提」とあらためて強調。さらに、東日本大震災後の13年を振り返り、原子力発電所新規建設の機会が失われていることから、「次世代にバトンを引き継ぐ時間的猶予は殆ど残されていない」と、技術基盤・人材確保の維持を危惧し、政府として官民ミッション団の北米派遣など、同志国とのサプライチェーン交流を通じて、政策支援の多角化を強化していく方針を示した。今回のシンポジウムには、来日中のラファエル・マリアーノ・グロッシー国際原子力機関(IAEA)事務局長も出席。同氏も、COP28を振り返り、「再生可能エネルギーと原子力が並び、国際的なコンセンサスが得られるようになってきた」と、原子力の役割に期待。海水淡水化やデータセンターへの運用など、原子力技術の多様な可能性にも言及したほか、近くベルギーで開催予定の各国首脳が参集する原子力エネルギーのサミットについて紹介し、新たな原子力市場・プロジェクトの開拓をリードしていくことに意欲を示した。また、グロッシー事務局長は、「産業界も規制当局も一つの傘の下で議論する必要がある」と指摘。IAEAとして「皆様と新しい時代を切り拓いていきたい」とエールを送った。また、原産協会の三村明夫会長も、挨拶の中で「原子力発電の積極的な活用の機運は、国内外にて極めて高まっている」と強調。近く検討が開始される次期エネルギー基本計画に向けて、「原子力の役割がより具体的に示される必要があり、そうなるものと信じている」とした。さらに、日本の原子力開発を振り返り、原子炉圧力容器や発電タービンなど、主要機器の国内供給比率は9割に及び、プラント保守も50年以上の経験を有すると、国内サプライチェーンの技術力を再認識し、「既存炉の最大限の活用にとどまらず、新設炉の建設において大いに力を発揮する」と期待を寄せる一方で、具体的な新規建設計画が停滞していることから、「産業基盤の劣化が進行する」と、現状を危惧。今回のシンポジウムでは学生も参加し合同企業説明会が併催されることに触れ、「これからの原子力産業界を背負っていく可能性のある皆さんに世界の原子力利用推進の熱量を感じ取ってもらいたい」と強調した。「原子力産業の未来」と題するセッションでは、総合資源エネルギー調査会の原子力小委員会をリードした山口彰氏(原子力安全研究協会理事)が講演を行ったほか、三菱重工業より革新炉開発の取組について発表。サプライチェーン強化の取組に関する個別テーマについては、人材育成・確保、海外プロジェクトへの参画、供給途絶対策に関する3つのセッションが設けられ、資源エネルギー庁、文部科学省、日本電機工業会、大手メーカーの他、原子力発電プラントを支えるバルブメーカー、日本の技術力に期待を寄せる海外企業などが登壇し議論した。
- 15 Mar 2024
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総合エネ調原子力小委 事業環境整備などを議論
総合資源エネルギー調査会の原子力小委員会(委員長=山口彰・原子力安全研究協会理事)が2月20日に開かれ、デロイトトーマツ合同会社よりヒアリングを受け、原子力事業の資金面での課題などについて議論した。〈配布資料は こちら〉はじめに、資源エネルギー庁が直近の原子力動向を報告。東北電力女川2号機の再稼働予定が安全対策工事完了時期の見直しにより2024年9月となることを紹介した。また、元旦に発生した能登半島地震に関しては、北陸電力志賀原子力発電所の安全機能に異常はなく、「今回の地震を通じて得られた教訓等を踏まえながら、原子力防災体制の充実・強化を図っていく」とした。同調査会電力・ガス基本政策小委員会において進められている電力システム改革の検証については、1月に「長期脱炭素電源オークション」の初回応札が開始されたところだが、バックエンド事業の遅延など、原子力発電固有のリスクに係わる指摘事項を整理し、議論に先鞭をつけた。デロイトトーマツは、「長期脱炭素電源オークション」で、既設原子力発電所の安全対策投資が次回応札より対象となる見込みを踏まえ、投資回収・ファイナンスにおける課題を提起。当該制度について「容量市場と比較して、大幅に予見可能性の向上に寄与するもの」と評価する一方で、運転終了後の廃炉期間に生じる費用に関して、「事前に総額を見積もることができず、運転期間中の回収が困難となるおそれがある」などと、原子力発電固有の不確実性を懸念。官民の役割分担や民間資金活用の可能性他、ファイナンス面の課題にも言及した上、次期エネルギー基本計画において、長期的な原子力産業の戦略について明確化する必要性などを指摘した。これに対し、委員からは、「長期的な安全性、安定供給、経済効率性、環境適用に関連するリスクを抽出して、海外の取組も参考にしつつ、今後改善策を検討していく必要があると思う」とする意見、事故に備えた財務基盤の検討など、原子力に特化したリスクに係わる指摘もあり、今後さらに議論を深めていく必要性が示唆された。専門委員として出席した日本原子力産業協会の新井史朗理事長は、「事業者が投資意欲を持てるような、事業者に適切なファイナンスがつくような、事業環境整備が必要だ」と指摘した。〈発言内容は こちら〉なお、今回の会合をもって退任することとなった山口委員長は、閉会に際し、主に安全性向上の議論をリードしてきた経験を振り返りながら、「まだ道半ばと思う。これまでの議論をしっかり活かしてもらいたい」と、挨拶を述べた。
- 21 Feb 2024
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