弘前大学は9月30日、バーチャルリアリティ(VR)技術を利用した放射線測定トレーニングシステム「ナップ:RIサーベイ」を開発したと発表した。〈弘前大発表資料は こちら〉学習者がVR画像上に表示される被検者に対し実際の放射線計測器を模擬使用して汚染箇所を特定する学習ツールで、放射線源を用いずに、器材の使用方法の体得から、複数の汚染箇所や立位での計測も実習できる。昨今の感染症拡大により対面での放射線測定実習が困難になっていることから、弘前大学では、VR上で実際に学習者が動作を伴って学べるツールの制作を構想。「ナップ」と呼ばれる体の動きをデータ化しVR上で可視化し共有する技術を利用し、今回のシステムが開発された。同学では、「目に見えない放射線を可視化したステージからステップアップしていく流れが組み込まれており、初学者は直感的に測るべき対象を意識することができる」と、高い学習効果を期待している。イマクリエイトが提案する「ナップ」の概念、VR空間に「入る」ことで「時間や言語、場所を問わない職業訓練」が可能に(弘前大発表資料より引用)開発に際しては、弘前大学大学院保健学研究科と、「ナップ」を用いたVR技術の応用を手掛けるイマクリエイト(株)とが協力。「ナップ」のメリットについて、「VR上に可視化された動きに自分の体をなぞるように動かすだけで誰もが正しく体を動かせるようになる」と、医療、伝統芸能など、様々な分野での可能性を述べている。物体の透過や速度調整など、現実にはあり得ない状況を模擬する機能で技術習得をサポートでき、実際、同社では、熟練者の動作を手本としスローモーションで練習できるけん玉のトレーニングシステムも開発している。
30 Sep 2021
2731
三菱重工業は9月27日、IAEAと世界の原子力関連企業で構成される対話のプラットフォーム「The Group of Vienna」への参画を発表した。R.M.グロッシーIAEA事務局長の提唱により設立された気候変動への対応や持続可能な開発に原子力技術が果たす役割について議論する枠組みで、IAEA他、同社を含め世界各国の主要な原子力関連企業13社により構成。これを通じ、クリーンエネルギーへの転換における原子力の有用性を発信するほか、放射線技術の医療や食料生産への活用といった原子力平和利用の促進などを議題に、IAEAと各企業トップによる会議を毎年開催する。「The Group of Vienna」は、IAEA年次総会(9月20~24日)に合わせウィーンで開かれた発足会議で、「人々の健康と福祉を向上させるため、原子力の貢献を拡大するというIAEAの使命をサポートする」との共同声明を採択し、グループ設立と活動目的、構成企業を発表。三菱重工業は、「The Group of Vienna」の一員として、IAEAおよびメンバー企業とともに、グループの目的達成に向けた活動を推進するとしている。〈三菱重工業発表資料は こちら〉「The Group of Vienna」のメンバーは、IAEA、中国核工業集団(中国)、フランス電力(フランス)、ブラジル国営原子力発電公社(ブラジル)、カザトムプロム(カザフスタン)、三菱重工業(日本)、アルゼンチン原子力発電公社(アルゼンチン)、ニュースケール・パワー社(米国)、ロールス・ロイスSMR社(英国)、ロスアトム(ロシア)、SNCラヴァリン・グループ(カナダ)、テオリスーデン・ボイマ社(フィンランド)、ウレンコ社(英国)、ウェスチングハウス社(米国)。
29 Sep 2021
2980
原産協会の新井史朗理事長は9月24日、理事長会見を行い、記者団からの質疑に応じた。新井理事長はまず、最近発表の理事長メッセージ「島根原子力発電所2号機の原子炉設置変更許可決定に寄せて」、「第6次エネルギー基本計画(案)に対するパブリックコメントにあたって」に関し説明。中国電力島根2号機については、9月15日に約8年の審査期間を経て新規制基準適合性に係る原子炉設置変更許可に至ったが、同機による地域への電力供給とCO2排出量削減の見込みに触れ、「早期再稼働の実現を期待する」と述べた。また、現在、資源エネルギー庁が新たなエネルギー基本計画(案)を示し実施しているパブリックコメントに当たり、(1)原子力を最大限活用していくべき、(2)新増設・リプレースがエネルギー政策に明確に位置付けられるべき、(3)電力自由化の中で経営の予見性が必要であり英国・米国に見られるような制度を参考に導入が検討されるべき、(4)産業・業務・家庭・運輸部門に原子炉熱による脱炭素技術の記載がない――との意見提出を行ったことを説明。原子燃料サイクルに関しては、別途理事長メッセージ「原子力の持続的活用と原子燃料サイクルの意義について」を発信しており、新井理事長は、「エネルギーセキュリティ確保、資源の有効利用、放射性廃棄物の減容化・有害度低減の観点から、わが国の重要な政策と位置付けられている」と、その意義を改めて強調した。続いて新井理事長は、原産協会の第65回IAEA総会(9月20~24日)出席について説明。原産協会は、これまでIAEA総会の場で、IAEA幹部や加盟各国出席者との意見交換、展示会への出展を行ってきた。今回は、国内14機関・企業の協力を得て、「2050年カーボンニュートラル」を見据えた原子力イノベーション、福島復興における10年間の歩みをテーマとした日本ブースを設け、国内外から多くの関係者が来訪。新井理事長は、「重要な役割を果たした。今後もこのような機会をとらえ福島の復興や廃炉の取組について発信していきたい」と述べた。記者からは、エネルギー基本計画改定の関連でプルサーマルの見通し、高温ガス炉や核融合の展望の他、東京電力の柏崎刈羽原子力発電所における核物質防護事案への対応などに関し質疑があった。
27 Sep 2021
2493
政井マヤさん(檀上左端)司会による「対話フォーラム」の模様、画面には学生参加の京都府立大院・浅野育美さん(右)と新潟大・遠藤瞭さん(フォーラム事務局提供)東日本大震災・福島第一原子力発電所事故発生から丁度10年半となる9月11日、今後の福島の復興・再生に向けた取組について考える環境省主催の「対話フォーラム」がオンラインで開催された。除染に伴い発生する土壌の減容・再生利用の必要性・安全性に関し全国レベルでの理解醸成を目指すもので、5月の開催に続き2回目となる。フリーアナウンサーの政井マヤさん(司会)、小泉進次郎環境相、タレントの岡田結実さん、長崎大学原爆後障害医療研究所の高村昇教授、東京大学大学院情報学環総合防災研究センターの関谷直也准教授が登壇。フォーラムにはおよそ400名のオンライン参加者が集まり、寄せられた意見・質問をもとに意見交換を行った。除去土壌再生実証事業により造成された飯舘村の農地ではホウレンソウも栽培(環境省発表動画より引用)福島県内で除染に伴い発生する放射性物質を含む土壌や廃棄物は、中間貯蔵施設で安全に集中的に管理・保管し、貯蔵開始後、30年以内(2045年3月まで)に県外で最終処分を完了することが法律で定められており、最終処分量を低減するため、除去土壌の減容・再生利用に係る技術開発が進められている。例えば、飯舘村の長泥地区では、再生資材を利用して農用地を造成する実証事業が2018年度より行われており、2020年度には食用作物も栽培された。県内には仮置きされている除去土壌が今なお残っており、環境省では2021年度末までの中間貯蔵施設への概ね搬入完了を目指している(帰還困難区域のものを除く)。中間貯蔵施設を立地する大熊町の吉田淳町長、双葉町の伊澤史朗町長は、フォーラムにビデオメッセージを寄せ、それぞれ震災前の町の活況ぶりを振り返りながら、施設の受入れは非常に苦渋の判断だったことを訴えかけた。小泉環境相、大熊町産のイチゴジャムを手に(フォーラム事務局提供)除去土壌の再生利用について、小泉環境相は、大臣室の鉢植えなどを例にあげ、まず国が率先して取り組む必要性を繰り返し強調。県外での再生利用実証に強い意欲を示し、「『福島県だけの問題』と考えられていることを変えねばならない」と、若い世代を含め多くの人たちの理解が進むよう今後もフォーラムを継続的に開催する考えを述べた。高村氏、除去土壌の安全性について説明(オンライン中継)参加者からの「再生土が利用された場所は安全なのか?」との質問に対し、環境省の「除去土壌等の減容・再生利用技術開発戦略検討会」の委員を務める高村教授は、(1)施工中の追加被ばく線量が1mSv/年を超えないよう放射能濃度を設定、(2)再生利用可能濃度は8,000ベクレル/kgを原則とし用途ごとに設定、(3)覆土による遮蔽や飛散・流出の防止――といった適切な管理により作業者・利用者の健康が守られていることを説明。また、X線検査や航空機旅行などに伴う身の回りの放射線被ばく線量の比較を図示し、「放射線は音も臭いもないが測ることができる。得られたデータをいかにわかりやすく比較するか」と、放射線を身近なものとしてとらえてもらう必要性を述べた。岡田さん、登壇後に再生土栽培の花束をもらったとツイート(フォーラム事務局提供)今回のフォーラムは当初、関西在住の学生たちも集め大阪開催を予定していたが、感染症対策のためオンライン開催となり、岡田さんは大阪府出身の若手タレントとして登壇。除去土壌の問題について岡田さんは、開会時の挨拶で、「同じ日本で起きていることなのに、まったく他人事のように思っていた」と話していたが、各登壇者の話を終始熱心に聞き、「知ろうとすることは誰かを大切に想うことだと実感した」と、感想を述べた。関谷氏、除染に関する認知度を示し「理解した上で議論することが大前提」と(オンライン中継)参加者からは、除去土壌関連の他、放射性廃棄物処分問題、クリアランス制度との相違、福島第一原子力発電所の処理水による風評被害、原子力教育の実情など、幅広く疑問が寄せられ、「正しい情報をどのように得ればよいのか?」との問いに対し、原子力災害における心理的・社会的影響について研究する関谷准教授は、「事実を正確に知ってもらう、きちんとした判断ができるリテラシーを養うことが極めて重要」と強調した。
24 Sep 2021
2241
東京電力は9月22日、柏崎刈羽原子力発電所におけるIDカード不正使用や核物質防護設備機能の一部喪失の事案に対する根本原因分析、改善措置活動の計画を取りまとめ、第三者による独立検証委員会からの検証報告書と合わせ、原子力規制委員会に提出した。〈東京電力発表資料は こちら〉同日夕刻、小林喜光会長、小早川智明社長らが東京本社で記者会見を行い、小林会長は、「今回の検証で明らかになった弱みを自ら評価し、改善を繰り返していくことが原子力部門、発電所にとって重要」として経営幹部の人事措置を行うとともに、「現場を重視した再発防止策の実施とさらなる改革推進」に向け、原子力部門の本社機能の新潟移転、核物質防護や原子力安全で豊富な経験を有するOBや他社人材の幹部への積極登用などを図っていくと発表。また、小早川社長は、一連の事案に対する陳謝、経営トップとしての責任を果たす重要性を述べた上で、「本社社員の執務場所を発電所の近傍に置くことで発電所運営をより密接にサポートできるようになる。地域の皆様の声に随時触れ、その声を発電所の安全最優先の運営に活かす体制を作る」と、スピード感を持って柏崎刈羽原子力発電所のパフォーマンス向上を図っていく考えを示した。柏崎刈羽原子力発電所の核物質防護に係る不適切事案の概要(資源エネルギー庁発表資料より引用)改善措置計画は、「リスク認識の弱さ」、「現場実態の把握の弱さ」、「組織として是正する力の弱さ」を一連の事案の根本原因と分析した上で、核物質防護に関するガバナンスの再構築、核物質防護教育の強化、警備業務の抜き打ち訓練、他電力との相互レビューなどを盛り込んでいる。梶山弘志経済産業相は23日の閣議後記者会見で、「第三者委員会や他の電力会社の評価・指導も得ながら、報告書に盛り込んだ対策を徹底的に遂行していくことが重要。東京電力には、原子力規制委員会による検査に誠実に対応し、強い危機感と緊張感を持って核物質防護体制の再構築にしっかりと取り組んでもらいたい」と強調。柏崎刈羽原子力発電所の再稼働に関しては、「まだ口にする段階ではない。東京電力のこれからの努力次第だと思う」とした。
24 Sep 2021
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科学技術振興機構(JST)とポーランド大使館は9月17日、国際的に活躍が期待される若手女性研究者を支援する表彰制度「羽ばたく女性研究者賞(マリア・スクウォドフスカ=キュリー賞)」の創設を発表した。〈JST発表資料は こちら〉ラジウムの発見などにより自然科学の異なる部門のノーベル賞を2回受賞し原子力科学・技術分野の発展に貢献したキュリー博士の功績に因んだもの。JSTでは、これまでもダイバーシティ推進の取組として、女子中高生向けの理系選択支援プログラムなど、女性研究者の育成・活躍を支援してきたが、「20歳台後半から30歳台前半の時期は、研究者としての活躍が最も期待されると同時に、多くの女性はライフイベントが想定される時期と重なる」ことから、日本国籍を有する博士学位取得後5年程度までの研究者や大学院生(博士後期課程)を対象とする新たな表彰制度を創設。最優秀賞受賞者には賞金50万円が贈呈され、ポーランドの研究機関訪問の機会が与えられる。初回は10月1日より募集を開始し2022年5月に受賞者を発表する予定。JSTでは2019年度にデザイナー・芦田淳氏設立の基金による40歳台程度を対象とした「輝く女性研究者賞(ジュン アシダ賞)」を創設したが、濵口道成理事長は、「キュリー博士がラジウムを発見した年齢を調べてみると32歳。丁度ライフイベントがあって、皆ギブアップしそうな時期。そこに賞の対象世代を設定し、継続して仕事をしてもらえる、エンカレッジできるような賞を」と、今回の表彰制度の検討に至った経緯を述べている。また、「羽ばたく女性研究者賞」選考委員会の委員長で北米に在住し子育てしながら研究活動に取り組んだ経験を持つ岩崎明子氏(米国イェール大学教授)は、日本の女性科学者のキャリアパス支援に向け、「この賞に少しでも貢献できれば」と、期待を寄せている。
22 Sep 2021
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福島第一3号機燃料取り出しのイメージ(東京電力発表資料より引用)日本電機工業会は9月13日、2021年度の「電機工業技術功労者表彰」の受賞者を発表した。〈電工会発表資料は こちら〉重電、家電、ものづくりの各部門において、新製品・新技術開発などの優れた成果を通じ電機工業の進歩・発達に貢献した技術者らを表彰するもので、今回は、重電部門で、「福島第一原子力発電所3号機使用済燃料取り出し環境整備方法の確立」で廃炉の進捗に貢献した東芝エネルギーシステムズの3名が最優秀賞を受賞。受賞者は、林弘忠氏(原子力化学システム設計部)、髙倉恵太氏(同)、伊藤悠貴氏(原子力機械システム設計部)。福島第一原子力発電所で、4号機に続いて行われた3号機の使用済燃料プールからの燃料取り出しは、燃料取り出し用カバー、燃料取扱設備を設置した後、2019年4月に開始され、2021年3月末に全566体(新燃料52体を含む)の取り出しを完了した。受賞者の一人、東芝ESS・伊藤氏(2018年、福島第一の燃料取扱遠隔操作室にて)電工会発表の功績概要によると、3号機の燃料取り出しに際し、(1)原子炉建屋が水素爆発により大きく損傷、(2)高いリスク源を除くべく速やかな取り出しが必要、(3)取り出しには新たな燃料取扱設備を有人作業で設置する必要、(4)作業を行う空間の線量率は非常に高く人のアクセスが困難な環境――という厳しい背景のもと、「作業前の2012年時点で最大756mSv/hだった線量を、1mSv/h程度にまで低減し環境整備を完遂した」と評価。遠隔による線量低減作業を計画し実行した東芝エネルギーシステムズの受賞者らは、「建屋の損傷度合がエリアごとに大きく異なっており、各エリアの材質や汚染形態に合わせて除染装置を開発する必要があった」などと述べている。
17 Sep 2021
3194
日本放射線腫瘍学会は9月14日、家庭・学校向けの短編動画「アニメで学べるがんの放射線治療」を公開した。肺がんで放射線治療を受けるという祖父を見舞おうとする少女と放射線腫瘍医・医学物理士との対話から、「最先端科学でがんと闘う」放射線治療の革新技術や医療関係者の姿を紹介し、「自分に合った治療を患者自らが選ぶ時代」とのメッセージを伝えるもの。正常組織を傷つけない高精度な照射技術を肺がんを例に紹介(放射線腫瘍学会ホームページより引用)動画ではまず、少女の「どうしてがんになるの?」、「放射線の治療ってどんなもの?」という根本的な問いかけに対し放射線腫瘍医と医学物理士がわかりやすく説明。続けて医学物理士は、CT画像診断によるがんの形状の正確な把握、組織に合わせた放射線量の最適化など、様々な技術で「正常な細胞を守りながら、がんに集中的に放射線に当てることが可能になった」ことを説く。さらに、放射線腫瘍医は「多くの人が入院せず働きながら治療を受けている」、「放射線治療の約99%が健康保険で治療可能」というメリットをあげ、少女は「がんの治療は手術だけではない」ことを理解する。2019年に好評を博した放射線科を舞台とするテレビドラマ「ラジエーションハウス」の続編が今秋より放映開始されるなど、昨今放射線医療への関心が高まりつつある。また、健康長寿社会の実現に向け、がん治療におけるQOL(生活の質)維持も課題だ。同学会では、一般向けに専門医による解説や治療経験者の声を紹介する動画やコラムをウェブサイト上に順次掲載するなど、放射線治療の啓発に努めている。
16 Sep 2021
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原子力規制委員会は9月15日の定例会合で、中国電力の島根原子力発電所2号機(BWR、82.0万kW)の新規制基準適合性に係る審査書を正式決定。本件に関して、同社に対し原子炉設置変更許可を発出した。新規制基準適合性に係る原子炉設置変更許可は17基目、BWRでは5基目となる。同機の審査は、東北電力女川2号機(2020年2月に原子炉設置変更許可)とほぼ同時期の2013年12月に申請され、終盤では耐津波対策が主な焦点となっていた。規制委員会は6月23日、新規制基準に「適合している」とする審査書案を了承。原子力委員会および経済産業相への意見照会、パブリックコメントが行われていた。15日の会合では、津波の他、火山事象など、自然災害への対応に関し、最新の理科年表による気象・地質学的データにも言及しながら再確認。更田豊志委員長ら5名の委員ともに原子炉設置変更許可の決定に「異存なし」で一致した。会見を行う更田規制委員長(インターネット中継)会合終了後の記者会見で、更田委員長は、「設置変更許可は一つのステップ。中国電力には安全の確保に向け改めて気を引き締めて取り組んでもらいたい」と強調。また、現在、10基の原子力発電プラントが審査中にあるが、「初心を忘れず常に問い掛け続けていく必要がある」と、審査する側の知識・技術の向上を認める一方で、緊張感の欠如や思考停止に陥ることへの危惧を示した。島根2号機に係る原子炉設置変更許可を受け、中国電力の清水希茂社長は、「再稼働に向けた大きな節目」ととらえ、引き続き、設計・工事計画認可、保安規定認可に係る審査に対し真摯に対応していくとのコメントを発表した。
15 Sep 2021
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【国内】▽2日 関西電力が高浜3、4号機を除く5基の特重施設運用開始時期を発表、いずれも来夏以降▽3日 総合エネ調WGが電源別発電コストの試算結果をまとめる▽10日 原子力委が経産省よりエネルギー基本計画の検討状況を聴取▽12日 山形大、2021年2月開始の重粒子線がん治療で年明けにも対象部位拡大の方針示す▽18日 環境・経産省の合同WGがパリ協定に基づく長期戦略で案文まとめる、原子力は「必要な規模を持続的に活用」▽18日 原電、地質調査疑義による敦賀2号機の規制委審査中断で是正処置実施へ▽19日 梶山経産相とグロッシーIAEA事務局長が会談(於、オーストリア)、福島第一廃炉レビューミッションの3年ぶり来日を合意▽24日 政府、福島第一処理水に係る風評影響で水産物の一時買取り含む「当面の対策」まとめる▽25日 電事連、福島第一処理水に係る風評払拭に向け全国大の「魚食振興策」推進の方針を示す▽25日 東京電力が福島第一処理水の取扱いで検討状況発表、海底トンネル放水案や海洋生物の飼育試験など▽27日 IAEAの福島第一廃炉レビューミッション(8月23日~)が評価レポートを日本政府に提出、26の評価事項と23の助言示す▽27日 新潟県の原子力災害に関する検証委員会が健康影響で提言をまとめる▽31日 政府、帰還困難区域住民の2020年代帰還に向け避難指示解除の考え方示す▽31日 政府2022年度概算要求が出そろう、高温ガス炉利用や福島の水産復興に関し新規計上 【海外】▽3日 米FPL社、セントルーシー1、2号機で2回目の運転期間延長を規制委に申請、各80年間の運転に▽5日 カナダとルーマニア、民生用原子力分野の協力強化で覚書を締結▽9日 ロシア・サハ共和国内でロスアトム社の陸上SMR計画に規制当局が建設許可▽11日 国連欧州経済委の技術概要書、エネルギーミックスの脱炭素化で原子力の必要性を強調 ▽12日 トルコのアックユ4号機の建設準備が年内の建設許可発給をめざして進展▽17日 カナダのテレストリアル社、同社製溶融塩炉の燃料確保でWH社と英NNLを供給者に選択 ▽18日 米ナインマイルポイント原子力発電所で水素の現地製造実証プロジェクト実施へ▽19日 仏オラノ社、独電気事業者4社に再処理後の廃棄物返還のため10億ユーロの契約締結▽20日 フィンランドのオルキルオト3号機、タービン点検で営業運転の開始は2022年6月に▽23日 中国CNNC、山東省石島湾で建設中の小型HTRに燃料を初装荷▽23日 米イリノイ州の原子力発電所の運転継続で、同州選出の下院議員がバイデン大統領に嘆願書▽27日 UAEのバラカ原子力発電所で2号機が起動▽27日 米規制委、建設中のボーグル3号機で実施した特別検査で「安全系ケーブルの配置状況は不適切」と指摘▽31日 ウクライナ、国内で複数のAP1000建設に向けWH社と独占契約を締結▽31日 ポーランドの化学素材メーカー、他企業と合弁で米国製SMRの国内建設に投資 ☆過去の運転実績
13 Sep 2021
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電力65社(電気事業連合会加盟10社、日本原子力発電、電源開発他、新電力)からなる地球温暖化対策推進を目指す団体「電気事業低炭素社会協議会」は9月10日、2020年度の会員事業者のCO2排出実績(速報値)を発表した。CO2排出量は前年度より約5.0%減の3.28億トン、CO2排出係数(販売電力量当たりのCO2排出量)は同約1.1%減の0.439kg/kWhで、いずれも2015年度の同協議会発足以降、連続して減少。安全確保を大前提とした原子力発電の活用、再生可能エネルギーの活用、最新鋭の高効率火力発電設備の導入に継続して取り組んだ結果と評価している。原子力発電は2020年度、新規に再稼働したプラントはなく、九州電力川内1、2号機、関西電力高浜3、4号機のテロ対策となる「特定重大事故等対処施設」の整備に伴う停止などにより、設備利用率は前年度比7.2ポイント減の13.4%、総発電電力量は同39.2%減の387.5億kWhと落ち込みを見せていた。同協議会の掲げる「低炭素社会実行計画」では、2030年度の国全体でのCO2排出係数0.37kg/kWh程度を目指している。
13 Sep 2021
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IAEAと経産省の幹部が会談(経産省提供)福島第一原子力発電所に保管されたALPS処理水(トリチウム以外の核種について環境放出の規制基準を満たす水)の安全性に関するレビューの本格実施に向け、IAEAのリディ・エヴラール事務次長ら、原子力安全・核セキュリティ局の幹部が9月6~9日に来日し、経済産業省他、関係省庁と、今後のスケジュールやレビュー項目について議論した。〈経産省発表資料は こちら〉政府は4月に「2年程度後にALPS処理水の海洋放出を開始する」とする基本方針を決定しており、今回の議論を踏まえ、(1)放出される水の性状、(2)放出プロセスの安全性、(3)人と環境の保護に関する放射線影響――について、IAEAの安全基準に照らした評価が行われる。IAEAよるレビューは数年間にわたる見込みだが、まずは12月を目途に評価派遣団が来日することで日本側と合意した。会見を行うエヴラール事務次長(オンライン)エヴラール事務次長は9日、フォーリン・プレスセンターにてオンラインを通じ記者会見に臨み、中国、フランス、ドイツ、インドネシア、ロシア、シンガポール、韓国、英国、米国の海外メディアを含む計78名の記者に対し、来日の成果について説明。同氏は来日中、江島潔経済産業副大臣、鷲尾英一郎外務副大臣他、環境省や原子力規制委員会の幹部との会談とともに、福島第一原子力発電所の視察を行い、「コロナ禍にもかかわらず対面での討議を通じ内容の濃い議論ができ、非常に貴重な経験となった」とした。今後、IAEAでは専門家で構成されるタスクフォースを立上げ、数週間以内にも東京電力による海洋放出実施計画に関し、規制、安全性、環境モニタリングの面からのレビューに着手し、最初の評価報告書を放出開始前までには公表するとしている。福島第一のタンクエリアを視察するエヴラール事務次長(東京電力ホームページより引用)ALPS処理水の取扱いに係る(1)大量の水がタンクに保管されている、(2)長期間をかけて海洋に放出していく、(3)地域の関心が高い――という特殊性を備えたIAEAとしても前例のないレビュー実施に向けて、エヴラール事務次長は、「包括的に客観性・透明性を持つことにコミットし、国際的にも明瞭に情報発信を行っていきたい」と強調した。今回のIAEA幹部の来日は、8月19日に行われた梶山弘志経産相とR.M.グロッシーIAEA事務局長との会談で合意に至ったもの。同合意のもと、福島第一原子力発電所廃炉全般に関するレビューミッションが8月末に来日したところだ。梶山大臣は、9月10日の閣議後記者会見で、「IAEAによる評価を丁寧に発信し国際社会の理解を得ていきたい」と述べた。
10 Sep 2021
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原子力委員会は9月7日の定例会合で、原子力利用の理解促進に関する取組について、原産協会よりヒアリングを行った。原産協会からは、新井史朗理事長らが出席し、同協会が活動の柱の一つとして掲げる「国民理解促進」に向けて実施している情報発信と双方向の理解活動の状況について説明。〈原産協会発表資料は こちら〉ホームページ掲載とメール配信を基本とする情報発信では、原子力産業新聞(国内外ニュース)、「Atoms in Japan」(海外から関心の高い情報の英語発信)の他、会員組織からのニーズに応じた専門的情報として主要国・国際機関の調査報告の収集・発信、若者に親しみやすいコンテンツとして動画サイト「オレたちの原子力 あたしの原子力」(専門家が1分程度で疑問に答える)などを紹介。これに対し、佐野利男委員は「広報活動は10~30年を要するもの」として、小中学生も対象に長期的な視野で取り組んでいく必要性を指摘した。また、双方向の理解活動として新井理事長は、大学・高専生を対象にエネルギー・環境、原子力発電、高レベル放射性廃棄物処分、放射線利用に関する情報を提供し意見交換を行う「JAIF出前講座」や、2021年3月に完成した「原子力発電 THE ボードゲーム」の受講者・体験者の意識変化・感想を主に説明。2005年度から全国各地で実施されている「JAIF出前講座」は、これまで443回開催、延べ22,200名参加の実績を積んでおり(開始当初は地域オピニオンリーダーを対象とした)、最近では感染症対策のためオンラインや動画配信も積極活用している。受講前後のアンケート調査結果から、「日本で原子力発電を利用していくこと」への賛同や「原子力発電が電気の安定供給に役立つこと」への理解が増加していることから、新井理事長は「効果が目に見えている」とした。原子力発電に必要なものを遊びながら学べる「原子力発電 THE ボードゲーム」原産協会の若手職員の発想から「幅広い年代に、楽しみながら原子力発電についての知識を深めてもらい、原子力発電に対してポジティブなイメージを持ってもらう」ことをねらいに制作した「原子力発電 THE ボードゲーム」は、「JAIF出前講座」を開催した大学・高専、会員組織の広報・PR館へ約200セットを頒布しており、原子力産業新聞での掲載を通じボードゲームカフェや一般家庭からも問合せが来ている状況。実際にプレイした人からの感想としては、「原子力発電を知らない小学生も関心を高めてくれると実感した」との評価や、「原子力だけに限定せず、エネルギーミックスについて考えるゲームを作成しては」といった改善提案もあった。家族でボードゲームを楽しんだという上坂充委員長は、次世代層への関心喚起に向け、エネルギーミックスや廃炉をテーマとする可能性や、PC・スマートホンを活用した教育コンテンツの開発などにも言及し、「さらに興味が広がるよう、一歩一歩進めて欲しい」と期待を寄せた。
08 Sep 2021
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日本原子力研究開発機構は9月7日、三菱FBRシステムズ、大林組、川金コアテックとともに従来より2倍以上の速さの地震動に対応可能な高性能免震オイルダンパを開発したと発表した。原子力機構が取り組む高速炉開発において、原子炉建屋への免震システムを開発する中で得られた成果。〈原子力機構発表資料は こちら〉高速炉開発については、2018年に原子力関係閣僚会議が向こう10年程度の開発作業を示した「戦略ロードマップ」を策定。ナトリウム冷却高速炉の国際的実績を踏まえ、技術的知見を有する原子力機構が中心に研究開発・人材育成を図っていくとされた。また、三菱FBRシステムズは、2006年に原子力委員会が提示した高速増殖炉サイクルの研究開発に関する基本方針に基づき、三菱重工業により設立された高速炉開発の専門企業で、今回、免震システムや原子炉建屋の設計を担い、大林組と川金コアテックは試験体の製作・データ分析や建屋設計・評価などを行った。高速炉の3次元免震システムのイメージ、オイルダンパの減衰機能で水平方向の変位を積層ゴムの支持機能・復元機能の範囲内に抑制(原子力機構発表資料より引用)原子力機構によると、高速炉は冷却材の沸点が高い特徴を活かして熱効率を向上させるため、機器設計において、低温から高温の広い温度使用条件に対する耐熱の観点では、構造物の厚さが薄肉構造となり、一方で、機器に作用する地震荷重に対する耐震の観点では、逆に厚肉構造となる傾向にある。これを踏まえ、より厳しい地震動を想定し薄肉構造でも耐震設計が成立するよう、水平方向のみならず鉛直方向にも免震効果を発揮する3次元免震システムの導入が検討されてきた。今回の成果は、3次元免震システムの機能のうち、減衰機能(地震の揺れを抑える機能)を担うオイルダンパの性能向上に向け、安定した油圧回路を内蔵することで、現在流通しているものに比べ同等の形状で約2倍以上の許容速度(オイルダンパの性能が確保できる最大の応答速度、免震効果の一指標)を持つ高性能オイルダンパを開発したもの。本システムは精密機器工場やデータセンターなどへの利用も期待されており、記者説明を行った原子力機構高速炉・新型炉研究開発部門研究副主幹の山本智彦氏は、今後、国土交通省の認可に向け実証を進める考えとともに、「高い安全性が要求される原子力分野での裕度向上に向けて開発した技術が他産業にも波及する」意義を強調した。激しい衝撃を抑えるオイルダンパは、運輸関連で1960年代にデビューした名鉄特急「パノラマカー」での採用が知られている。
07 Sep 2021
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原子力産業新聞が9月3日までに電力各社より入手したデータによると、2021年8月の国内原子力発電所の設備利用率(審査中および未申請のプラントも含む)は27.9%と、原子力規制委員会による新規制基準が施行された2013年7月以降で最も高い水準に達したことがわかった。これまで最高だった2021年7月の27.4%を更新したもの。2021年8月は、国内初の40年超運転として6月に発電を再開し7月に本格運転復帰となった関西電力の美浜3号機を含め、2社9基のプラントがフル稼働し盛夏の電力需要を支えた。国内の原子力発電プラントは、2018年6月の九州電力玄海4号機以降、再稼働が進まず、東京電力福島第二1~4号機が廃止となった2019年10月以降は、計33基・総出力3,308.3万kWとなり、設備利用率は20%台で推移したが、同年12月に定期検査入りした四国電力伊方3号機の司法判断による停止や、2020年3月以降はテロ対策となる「特定重大事故等対処施設」の設置期限満了などに伴い、昨秋には一桁台までの落ち込みを見せていた。なお、新規制基準施行後、月間の総発電電力量が最大となったのは、2019年1月の70億7,881万kWh(設備利用率25.0%、計38基・総出力3,804.2万kW)で、2021年8月は68億7,083万kWhだった。
03 Sep 2021
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政府の2022年度予算概算要求が8月31日に出そろった。経済産業省では、エネルギー対策特別会計で前年比11%増の8,242億円を要求。「福島の着実な復興・再生」と「2050年カーボンニュートラル/2030年温室効果ガス排出削減目標の実現」が柱。福島復興の関連では、「次世代空モビリティ(ドローン・空飛ぶクルマ)の社会実装に向けた実現プロジェクト」で新規に38億円を計上。2020年に全面開所した「福島ロボットテストフィールド」を活用し、ドローンのさらなる利活用拡大、大阪関西万博での空飛ぶクルマの活用と事業化を目標に、(1)性能評価基準の開発、(2)運航管理技術の開発、(3)国際標準化――を図る。原子力イノベーションの関連では、7月に運転を再開した日本原子力研究開発機構の高温ガス炉「HTTR」を活用する「超高温を利用した水素大量製造技術実証事業」で新規に9億円を計上。「2050年カーボンニュートラル」実現に向け、2030年までに高温熱源となる「HTTR」と水素製造プラントの接続技術を確立させ、カーボンフリー水素製造が可能なことを実証し、2050年には製鉄や石油化学プラントなどへ大量かつ安価な水素を安定的に供給する産業利用につなげることを目指す。文部科学省では、原子力分野の研究開発・人材育成に関する取組として、前年比21%増の1,786億円を要求。経産省と同じく「2050年カーボンニュートラル」実現に向けた技術開発で拡充を図っており、高温ガス炉に係る研究開発の推進として前年の約1.5倍となる22億円、ITER(国際熱核融合実験炉)計画の実施で前年の約1.4倍となる314億円を計上。同計画の関連で、2020年に組立が完了した量子科学技術研究開発機構の先進超伝導トカマク装置「JT-60SA」の運転本格化に向け、前年の約5.5倍となる53億円 を計上している。「福島県次世代漁業人材確保支援事業」のイメージ(復興庁発表資料より引用)復興庁では、原子力災害からの復興・再生で、前年度より微減の4,428億円を要求(事項要求あり)。観光に関わる風評被害対策として、国内外からの誘客促進に向け海の魅力を発信する「ブルーツーリズム推進支援事業」(国土交通省)で新規に3億円を計上。また、福島の水産業復興に向け、「水産業復興販売加速化支援事業」(農林水産省)、「福島県次世代漁業人材確保支援事業」(同)として、それぞれ41億円、4億円を新規に計上している。原子力規制委員会では、総額で前年比24%増の561億円を要求。昨今発生した原子力発電所のテロ対策不備事案を踏まえ、「核物質防護検査体制の充実・強化事業」として16億円を新規に計上したほか、機構・定員要求として核セキュリティ部門に首席核物質防護対策官の創設などを盛り込んでいる。内閣府では、原子力防災対策の充実・強化として、前年の約1.7倍となる172億円を要求。新型コロナウイルス感染症への対応も含めた緊急時避難の円滑化など、原子力災害対応の実効性向上に向け、関係自治体における取組の支援を図っていく。
02 Sep 2021
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政府の復興推進会議と原子力災害対策本部会議の合同会合が8月31日に開かれ、避難指示解除に関する新たな考え方を決定した。〈配布資料は こちら〉福島第一原子力発電所事故に伴う避難指示は、帰還困難区域を除き2020年3月までに、双葉町に設定されていた避難指示解除準備区域を最後にすべて解除されているが、双葉町、大熊町、浪江町、富岡町、飯舘村、葛尾村、南相馬市に残る帰還困難区域については、5年前の2016年8月31日、両会議は線量の低下状況を踏まえ避難指示を解除し居住可能となることを目指す「特定復興再生拠点区域」を設定する方針を示し、現在、6町村の同拠点区域で除染やインフラ整備などが進められているところだ。福島県浜通り12市町村の状況(復興庁発表資料より引用)このほど示された新たな考え方は、「拠点区域外への帰還・居住に向けた避難指示解除の方針を早急に示して欲しい」との地元からの要望を踏まえ、帰還意向のある住民が2020年代に帰還できるよう避難指示解除の取組を進めていくため、帰還意向確認(すぐに判断できない住民にも配慮し複数回実施)、除染開始時期・範囲、予算・財源確保などに係る基本方針について定めたもの。今回の方針決定に関連し、福島県の内堀雅雄知事は、同日まとめられた政府の2022年度概算要求に対し発表したコメントの中で、「特定復興再生拠点区域」外に係る調査事業が新たに盛り込まれた(事項要求)ことなどに言及し、「各省庁が本県の復興・創生を真摯に検討した結果と認識」としている。
01 Sep 2021
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IAEA・グゼリ氏(右)より評価レポートを受取る江島経産副大臣(経産省ホームページより引用)福島第一原子力発電所の廃炉に関するIAEAのレビューが8月27日に終了し、26の評価事項と23の助言を示した評価レポートが、来日中の同レビューミッションで団長を務めたIAEA核燃料サイクルの廃棄物技術部長・クリストフ・グゼリ氏より江島潔経済産業副大臣に手渡された。〈経産省発表資料は こちら〉IAEAによるレビューミッション来日は、2018年11月以来5回目となるが、今回は感染症対策のため、チーム全員の来日ではなく、6月末から8月初めにかけて週2回のオンラインを通じた討議を経た後、福島第一原子力発電所の現地視察についてはグゼリ氏を含む2名が23、24日に行う形となった。福島第一を訪れALPS処理水を手にするグゼリ氏(東京電力ホームページより引用)処理水の安全性に関しては、別途9月にIAEAの担当幹部が来日し専門的評価が行われる予定だが、27日にフォーリン・プレスセンターにてオンラインを通じ記者説明を行ったグゼリ氏は、4月の日本政府による処理水処分に関する基本方針決定について、廃炉計画全体の実行を促進するものとして「評価すべき点」と述べた。2018年の前回レビューミッションからの主な進展としては、3号機使用済燃料プールの燃料取り出し完了(2021年2月)、汚染水発生量が約170㎥/日(2018年度)から約140㎥/日(2020年度)に低減したことなどがあげられるが、グゼリ氏は、「東京電力の福島第一廃炉推進カンパニーは詳細な計画を示しており、安全に対する強いリーダーシップも発揮されている」と、組織・プロジェクトマネジメント力を評価。2020年4月に完了した1/2号機排気筒の解体作業にもみられた地元産業の活用についても、「地元の雇用創出や経済活性化につながるもの」などと、肯定的な見方を示した。また、2022年に2号機より着手予定の燃料デブリ取り出しについては、「包括的に性状把握を行っていく必要がある」と、7月に英国より日本に到着したロボットアームによるサンプリング調査の意義を強調したほか、廃棄物の管理や最終的な処分までを見据えた研究開発の必要性も指摘した。
27 Aug 2021
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東京都市大学の理工学部と総合研究所による「宇宙探査の今後を担う新技術」について考えるシンポジウムが7月12日にオンラインで開催された。小惑星探査機「はやぶさ2」(文科省発表資料より引用)「はやぶさ2」による小惑星「リュウグウ」のサンプル採取や、「国際宇宙ステーション(ISS)計画」における補給機「こうのとり」の活躍など、日本の宇宙輸送システムの技術力に注目が集まりつつあるが、シンポジウムの冒頭、理工部原子力安全工学科教授の高木直行氏は、「今後の探査範囲拡大や月の地下観測を行うためには、太陽に依存しない発電方式や新たな推進方式が必要となる」と、将来の宇宙探査に向け原子力技術が貢献する可能性を示唆。また、総合研究所教授の高橋弘毅氏は、同研究所内に昨秋設置された宇宙科学研究センターのメンバーとして、「ロケット、人工衛星、望遠鏡を用いた理工連携の宇宙科学研究、それを活用した文理融合の宇宙教育に力を入れていく」と強調した上で、他大学・研究機関からも関心を持ち集まったオンライン参加者に「大いに楽しく議論して欲しい」と口火を切った。日本は宇宙科学研究で、「はやぶさ2」に先立ち、2010年に「はやぶさ」(初号機)が月以外の天体では世界で初めて小惑星「イトカワ」から微粒子を地球に持ち帰るなど、世界トップレベルの成果をあげている。今回のシンポジウムでは、「はやぶさ」(初号機)の電源管理で様々な困難を克服した経験を持つ宇宙航空研究開発機構(JAXA)宇宙科学研究所准教授の曽根理嗣氏が基調講演を行った。JAXAが取り組むソーラー電力セイル計画(曽根氏発表資料より引用)同氏は日本が打ち上げてきた人工衛星に搭載された電池の変遷を紹介。太陽電池との併用(地球周回の際に太陽の影に入るときの補完が必要)で、地球資源衛星「ふよう1号」(1992~98年運用)、地球観測プラットフォーム技術衛星「みどり」(1996~97年運用)には、ニッカド電池や酸化銀・亜鉛電池など、近年まで「古い教科書にも出てくるような電池」が用いられていたという。これらの人工衛星が電池に関わるトラブル発生により運用断念となった経験を述べ、「電源系は正にクリティカルなデバイス」と、将来の宇宙探査における電源技術の重要性を繰り返し強調。最近では、2019年ノーベル化学賞受賞の吉野彰博士らによる研究成果「リチウムイオン電池」が宇宙利用でも信頼性が実証されていることを述べ、「基礎からの研究の積み上げが宇宙探査に寄与しつつある」、「化学的に長期間耐えられるという実証は非常に大事」とした。「宇宙の電池屋」を自称する曽根氏は現在、木星系・土星系の探査を展望し、セイル(帆)膜面上に搭載した薄膜太陽光電池で発電しながらイオンエンジンを駆動して外惑星系を目指す「ソーラー電力セイル探査機」計画に取り組んでいるという。曽根氏の講演を受けて、学生からはJAXAと他機関との原子力分野での協力について尋ねる声もあがったところで、日本原子力研究開発機構OBの植田脩三氏が「宇宙開発と原子力」と題し発表。同氏は、最近の世界の動きとして、米国の有人太陽系探査を見据えた「原子力ロケットエンジン」開発計画、ロシアのメガワット級原子炉を搭載した「スペースプレーン」開発計画、英国の宇宙局とロールス・ロイス社による提携、中国の「2045年に原子力宇宙船を実用化」との報道を紹介。その上で、原子力を宇宙で利用する方法として、(1)原子力電池(放射性同位体の崩壊を利用、ボイジャーに搭載され現在も機能)、(2)電源用原子炉(日本では月面用リチウム冷却高速炉の構想)、(3)核熱推進(原子力ロケットエンジン、火星への有人探査で飛行期間短縮が期待される)――をあげ、これらを通じて若い人たちの原子力に対する関心喚起につながることを期待した。人類の生存圏拡大も視野に入れた宇宙のエネルギーマネジメント構想、月の自転周期や表面温度環境に着目(東芝ESS発表資料より引用)企業からは、東芝エネルギーシステムズ原子力開発部の宮寺晴夫氏とIHI航空・宇宙・防衛事業領域の石津陽平氏が発表。宮寺氏は超小型の月面用原子炉に向けた炉心構造の検討状況や、宇宙空間でのエネルギーシステム構想を披露。石津氏は推進手段としての原子力「核熱ロケット」の原理、開発に必要な要素技術・試験に関する研究成果とともに、海外の開発事例を紹介。同氏によると、米国の原子力ロケット開発は、1950年代に「Rover/NERVA」プロジェクトが立ち上がったが、アポロの月面着陸以降、予算不足で実用エンジンの製造まで至らず中止となり、その後、燃料要素技術の地道な基礎研究が進められ、2020年発表の「DRACO」(Demonstration Rocket for Agile Cislunar Operation:迅速な月地球間活動のための実証ロケット)プロジェクトでは、2025年の地球低軌道上での実証試験目標が掲げられた。高木教授と「追い越せボイジャー計画」のメンバー(都市大原子力安全工学科学生の発表資料より引用)この他、理工学部の機械システム工学科と原子力安全工学科の学生が研究成果を披露。原子力安全工学科の矢口陽樹さんと橋本ゆうきさんは、「追い越せボイジャー計画」と題し発表。小惑星帯でも長期間安定して電力を供給できる「超小型原子力電池(RTG)」、放射性同位体の崩壊を利用した長寿命推進法「アルファ粒子推進エンジン」の検討から、現在地球から最も離れた人工天体とされる「ボイジャー1号」を40年で追い越す深宇宙探査の衛星システムを提案した。学生たちからは、「原子力は世間からバッシングを受け研究のモチベーションが下がっているのでは」といった声もあがったが、学生時代に電池研究への志を周囲に否定されるもスタンリー・ウィッティンガム博士(吉野博士とともにノーベル化学賞受賞)との対面で励まされたという曽根氏は、「誰もやっていないことだからこそ研究といえる」と、若い人たちの独創的なアイデアに期待を寄せた。
26 Aug 2021
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意見交換に臨む原子力規制委員ら(規制委庁舎にて)原子力規制委員会は8月25日に臨時会合を開き、東北電力の樋口康二郎社長らと意見交換を行った。同委員会が原子力事業者の経営幹部を順次招き安全性向上の取組について聴取しているもの。〈配布資料は こちら〉東北電力・樋口社長ら、TV会議にて応答2020年4月に就任した樋口社長は、同社で火力部門に長く携わっており、東日本大震災発生直後の2011年6月には原町火力発電所(福島県南相馬市、石炭、100万kW×2)の所長として被害を受けた設備の復旧で陣頭指揮に当たった。こうした経験を通じ同氏は、「安全性確保を大前提に電気を安定的に届ける重要性を痛感した。原子力発電所の安全確保に社長としての責務を果たせるよう日々努めている」と強調。東北電力では女川原子力発電所2号機について、2020年2月に新規制基準適合性に係る原子炉設置変更許可を取得し、同年11月には立地自治体より再稼働に係る了解を得ているが、今後の原子力の事業運営に関し、樋口社長は、「事業活動の基盤は『地域社会からの信頼』」との考えを繰り返し述べ、「地域の皆様から信頼され、地域に貢献する発電所として『再出発』する」決意を改めて示した。また、人材育成については、「原子力発電所の停止期間が長期化し、運転経験のない所員が増えており、技術の継承をより一層強化する必要がある」との認識に立ち、シミュレータを活用した訓練、ベテラン社員・OBを交えた勉強会・対話、BWR各社との人材交流を通じた技術の習得・共有などに努めているとした。現在、東北電力の原子力発電プラントでは、東通1号機が新規制基準適合性に係る審査途上にあり、女川2号機では設計・工事計画認可の審査が進められている。プラント審査を担当する山中伸介委員が審査会合に若手社員を出席させていることを評価。樋口社長は、審査中のプラントについては「しっかり対応していく」とした上で、女川3号機に関しては「2号機の審査で得られた知見を踏まえ、審査申請に向けて検討しているところ」と述べた。また、自然災害対応に関する審査を担当する石渡明委員は、「7月28日に台風8号が宮城県に統計史上初めて上陸した」ことを例に、地球温暖化が原因とみられる昨今の気象災害の頻発・激甚化に備えた対策強化の必要性を指摘。樋口社長は、女川原子力発電所OBと新入社員との対話や、東日本大震災発災当時のトップ対談動画(社長、宮城県警本部長)発信などを通じた震災経験の継承に係る取組についても強調。更田豊志委員長は、「当時の経験談は非常に貴重。原子力規制庁にも展開していく必要がある」として、他社も含め震災当時の発電所長による講演シリーズを検討する考えを示唆した。※写真は、いずれもインターネット中継より撮影。
26 Aug 2021
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福島第一原子力発電所の処理水の取扱いに関する関係閣僚会議が8月24日に開かれ、(1)風評を生じさせないための仕組み、(2)風評に打ち勝ち安心して事業を継続・拡大できる仕組み――の構築に向けて10項目からなる「当面の対策」を取りまとめた。〈配布資料は こちら〉ALPS処理水(多核種除去設備等によりトリチウム以外の放射性物質を安全に関する基準値以下に浄化した水)の処分方法として、4月に「海洋放出を選択する」との基本方針が決定。関係閣僚会議では、年内を目途に放出後も含めた中長期的な行動計画を策定する。今回取りまとめられた「当面の対策」では、未だ残る風評影響や安全性への懸念を払拭すべく、IAEAやOECD/NEAによる監視・透明性の向上、風評影響の実態把握と適正な商取引の実現を図るとともに、「万一の需要減少に備えた機動的な対策」として、冷凍可能な水産物の一時的買取り・保管や、冷凍できない水産物の販路拡大に係る基金創設を盛り込んだ。今後、関係省庁にて具体的支援内容・予算措置を詰めていく運び。基本方針決定を受け福島県を始め各地で行われた関係者の意見を聴取するワーキンググループでは、漁業者より「安心して漁業を継続できる仕組みが必要」として、政府による水産物の買取りや次世代継承に関する意見も多く出されていた。関係閣僚会議の議長を務める加藤勝信官房長官は、会議終了後の記者会見で、「政府一丸となって必要なことはすべて実行するという姿勢で、スピード感を持ち、今回取りまとめた各施策を確実に実行していく」と述べた。復興庁は20日に行われたタスクフォース会合で、「消費者等の安心と国際社会の理解に向けて」とする情報発信施策パッケージをまとめたところだが、関係閣僚会議に出席した平沢勝栄復興相は「徹底した風評対策に取り組む」と改めて強調。「当面の対策」では、「安心が共有されるための情報の普及・浸透」として、若い世代を対象とした出前授業や教育現場での副読本活用が盛り込まれており、萩生田光一文部科学相は「文科省が制作してきた放射線副読本にALPS処理水に関する記載を追加するとともに、修学旅行の福島県誘致にも取り組んでいく」などと述べた。また、被災地における観光誘客促進・交流人口拡大に関して、赤羽一嘉国土交通相は、東北自動車道の相馬~福島間開通(4月)や常磐自動車道のいわき中央~広野間開通(6月)に触れ、「一人でも多くの方々に福島に足を運んでもらえれば」として、メディアを通じたPR効果にも期待。小泉進次郎環境相、井上信治内閣府消費者担当相は、それぞれ地元との意見交換、風評被害に関する消費者意識調査結果を踏まえ、「重要なのは信頼性」、「正確な情報発信が重要」との認識を示し、所掌の施策を具体化していく考えを述べた。「当面の対策」取りまとめについて、東京電力の小早川智明社長は、「大変重く受け止める。安全確保を大前提に風評影響を最大限抑制するため、モニタリングなどの具体的検討を進めるとともに、損害が生じた場合の賠償も早期に準備する」との考えを示した。
24 Aug 2021
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8月18~20日の日程でオーストリアを訪問中の梶山弘志経済産業相は19日、R.M.グロッシーIAEA事務局長と会談し、日本側の要請に応じ福島第一原子力発電所の廃炉、および処理水の安全性に関する各レビューミッションの来日について合意した。〈経産省発表資料は こちら〉福島第一原子力発電所の廃炉全般に関しては、政府・東京電力による中長期ロードマップに基づく取組の進捗状況に対する国際レビューとして、これまで4回にわたりIAEA専門家で構成されるレビューミッションを受け入れている。直近のミッションは、2018年11月に来日しており、日本に対し、17の評価事項と21の助言を提示した。今回の会談で、5回目となるミッションが8月23日の週に来日することが決まり、梶山大臣は、グロッシー事務局長に対し、厳正で透明性のあるレビュー実施を依頼した。また、処理水の安全性に関するレビューについては、9月にIAEAの担当幹部が来日し開始することで合意。処理水の放出時における周辺環境への影響を含む安全性について、IAEAの安全基準に照らした専門的評価がなされる予定。福島第一原子力発電所の処理水に関しては、梶山大臣がグロッシー事務局長と4月にTV会談を行った際、(1)レビューミッションの派遣、(2)環境モニタリングの支援、(3)国際社会に対する透明性の確保――で協力を要請しており、7月にはIAEAの支援について日本政府・IAEA間で署名が行われている。この他、会談で、梶山大臣は、カーボンニュートラルの実現に向けた原子力の持続的な利用に関して、原子力分野の人材育成と正確な情報発信に関する新たな取組について提案。IAEAが加盟国に対し実施する原子力人材の育成事業で、事故の教訓を踏まえ福島第一原子力発電所を専門教育の場として活用することを提案するとともに、若手女性研究者の原子力科学・技術分野でのキャリア構築支援を目的として創設された「IAEAマリー・キュリー奨学金」などへの支持を表明した。「IAEAマリー・キュリー奨学金」は、2020年の国際女性デー(3月9日)に、マリー・キュリー博士の功績を顕彰して、グロッシー事務局長が立上げを表明したもので、日本も50万ユーロの支援を行っている。
20 Aug 2021
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近畿大を紹介した別冊「Newton」(ニュートンプレスホームページより引用)近畿大学が取り組んでいる研究・プロジェクトの最前線の現場がこのほど、科学雑誌「Newton」(ニュートンプレス発行)の別冊版に紹介された。〈近畿大発表資料は こちら〉「Newton」別冊版では2015年にも近畿大学を取り上げているが、今回、「社会に役立つ大学をめざす実学教育のパイオニア 近畿大学大解剖 vol.2」として、同学の理系学部(理工、建築、薬、農、医、生物理工、工、産業理工、情報〈2022年度開設〉)や研究所の60人を超す教員らへのインタビューをもとに編集。近畿大学の「研究力を広く知ってもらう」ため、同学実学教育の象徴として長く実績を積んでいるマグロ養殖の他にも、幅広い分野にわたり研究成果の社会貢献や研究に取り組む学生たちの姿を取り上げており、学外の学生・教員の実習にも供される原子力研究所の研究炉「UTR-KINKI」も紹介されている。近畿大研究炉「UTR-KINKI」(原子力学会発表資料より引用)その中で、原子力研究所所長の山西弘城教授は、「今後、商用の原子炉が老朽化すると、廃炉の問題が出てくる。また、温室効果ガスを抑制するため、既存の原子力発電所の活用も必要となるだろう。そのためには原子力の技術を持つ人材を育成する必要がある」と、原子力教育の重要性を強調した。現在、国内で原子炉を持つ大学は近畿大学と京都大学のみだが、山西教授は、「本物の原子炉での実習は、シミュレーターやオンラインでは味わえない緊張感がある。貴重な教育用の原子炉をできるだけ長く使えるように維持していきたい」とも話している。また、医療における放射線被ばく低減に関するプロジェクトの紹介の中で、医療放射線の国際基準改定に取り組む医学部の細野眞教授も「放射線の研究を行う上で、原子炉がある近畿大学にいる意味は大きい」という。近畿大学では、2022年度より理工学部にエネルギー関連技術の人材育成を図る「エネルギー物質学科」が新設される予定だ。昨今課題となっている新型コロナウイルス感染症対策に関しては、近畿大学の全学部・学科、附属・併設校も参加する学園横断的プロジェクト「オール近大」の取組を紹介。一例として、農学部の松田克礼教授と薬学部の角谷晃司教授が、花粉を吸着する「静電ブラインド」の応用について説明している。花粉症でつらい人がいても窓を開けて換気ができるようにする「静電ブラインド」でウイルスを吸着する可能性を見出すもので、学生時代から30年にわたり共同研究に取り組んでいる両氏に関し、「近畿大学の強みともいえる学部を横断した共同研究がコロナ禍で新たな展開を見せている」と評している。表情が見える「近大マスク」、大阪府下の支援学校や飲食店などに7,000個以上が寄贈された(近畿大ホームページより引用)「オール近大」プロジェクトに関し、2016~19年に経済産業相を務めていた近畿大学の世耕弘成理事長はインタビューの中で、「偏差値や受験ランキングは大学の本質的な価値を示すものではない。われわれが目指すのは本当の意味で社会に役立つ大学だ」と強調。「オール近大」の始まりとなった「福島県川俣町復興支援プロジェクト」(2012年)を振り返りながら、「未曾有のパンデミックに際して、近畿大学の総合力を活かして何かできることがあるのではないか」などと、新型コロナウイルス感染症対策に関するプロジェクト立上げの経緯を話している。研究成果として、感染症対策と意思疎通を両立する透明なプラスチック製の飛沫防止マウスシールド「近大マスク」を紹介。理工学部の西藪和明教授らが開発したもので、デザインは文芸学部の柳橋肇准教授、製作は同学が立地するモノづくりの町・東大阪市の企業が担当。世耕理事長は、「幼児教育の現場では、子供たちは大人の顔を見ながら感情を育んでいる。口が見えることはとても重要だ。聴覚障がいのある方は唇の動きや表情からも情報を得ている」と、「近大マスク」開発の意義を述べている。「Newton」は、地球物理学の権威として知られた東京大学名誉教授の竹内均・初代編集長のもと、1981年に創刊されたカラー版の科学雑誌で、月刊誌の他、最新の科学技術動向や数学・物理の入門的内容をわかりやすく説明するいわゆる「大人の学び直し」などを特集した別冊版が随時刊行されている。
19 Aug 2021
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中央環境審議会(環境省)と産業構造審議会(経済産業省)の合同ワーキンググループが8月18日に開かれ、新たな「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」(案)をまとめた。〈配布資料は こちら〉「パリ協定」は2016年に発効した2020年以降の温室効果ガス排出削減のための国際枠組みで、これに基づき日本は2019年6月に、「最終到達点として『脱炭素社会』を掲げ、野心的に今世紀後半のできるだけ早期に実現することを目指し、『環境と経済の好循環』を実現する」とする長期戦略を策定し国連に提出している。合同WGでは、2020年10月の「2050年カーボンニュートラル」表明や世界全体の新型コロナウイルス拡大など、現行戦略策定時からの状況変化を踏まえ、見直しに向け検討を進めてきた。新たな長期戦略(案)は、概ね現行戦略の骨格が維持されており、「2050年カーボンニュートラル」実現に向け、(1)利用可能な最良の科学に基づく政策運営、(2)経済と環境の好循環の実現、(3)労働力の公正な移行(産業構造転換など)、(4)需要サイドの変革、(5)迅速な取組(インフラ分野の取組強化など)、(6)世界への貢献――の視点を追記。温室効果ガスの排出削減対策・施策としては、「排出量のうち、エネルギー起源CO2が占める割合は8割を超えている」ことから、エネルギー部門における対応の重要性を改めて記述。「2050年カーボンニュートラル」実現に向け、再生可能エネルギーの最大限導入に取り組み、水素・CCUS(CO2回収・有効利用・貯留)の社会実装を進め、原子力については「国民からの信頼回復に努め、安全性の確保を大前提に、必要な規模を持続的に活用していく」とされた。技術イノベーションについては、6月に改定された「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」が示す14の重要産業分野、次世代再生可能エネルギー、水素・燃料アンモニア、原子力、自動車・蓄電池などをあげ、「これらの分野における実行計画の着実な実施を通じて、2050年カーボンニュートラル社会の実現可能性を関係省庁が一体となって年々高めていく」としている。新たな長期戦略(案)は今後、パブリックコメントに付された後、官邸レベルの会合を経てオーソライズされ、11月のCOP26(英国グラスゴー)までに国連に提出となる運びだが、委員からは、「国民的関心を高めていくため、見せ方は重要」として、各国の長期戦略にならい図表や写真の活用を求める意見があった。また、地球温暖化が原因とみられる最近の豪雨・土砂災害、「ポストコロナ」に伴う大都市一極集中から地方分散への流れ、企業の国際競争力維持などに関して踏み込んだ記述を求める意見も出された。
18 Aug 2021
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