原子力産業新聞が9月3日までに電力各社より入手したデータによると、2021年8月の国内原子力発電所の設備利用率(審査中および未申請のプラントも含む)は27.9%と、原子力規制委員会による新規制基準が施行された2013年7月以降で最も高い水準に達したことがわかった。これまで最高だった2021年7月の27.4%を更新したもの。2021年8月は、国内初の40年超運転として6月に発電を再開し7月に本格運転復帰となった関西電力の美浜3号機を含め、2社9基のプラントがフル稼働し盛夏の電力需要を支えた。国内の原子力発電プラントは、2018年6月の九州電力玄海4号機以降、再稼働が進まず、東京電力福島第二1~4号機が廃止となった2019年10月以降は、計33基・総出力3,308.3万kWとなり、設備利用率は20%台で推移したが、同年12月に定期検査入りした四国電力伊方3号機の司法判断による停止や、2020年3月以降はテロ対策となる「特定重大事故等対処施設」の設置期限満了などに伴い、昨秋には一桁台までの落ち込みを見せていた。なお、新規制基準施行後、月間の総発電電力量が最大となったのは、2019年1月の70億7,881万kWh(設備利用率25.0%、計38基・総出力3,804.2万kW)で、2021年8月は68億7,083万kWhだった。
03 Sep 2021
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政府の2022年度予算概算要求が8月31日に出そろった。経済産業省では、エネルギー対策特別会計で前年比11%増の8,242億円を要求。「福島の着実な復興・再生」と「2050年カーボンニュートラル/2030年温室効果ガス排出削減目標の実現」が柱。福島復興の関連では、「次世代空モビリティ(ドローン・空飛ぶクルマ)の社会実装に向けた実現プロジェクト」で新規に38億円を計上。2020年に全面開所した「福島ロボットテストフィールド」を活用し、ドローンのさらなる利活用拡大、大阪関西万博での空飛ぶクルマの活用と事業化を目標に、(1)性能評価基準の開発、(2)運航管理技術の開発、(3)国際標準化――を図る。原子力イノベーションの関連では、7月に運転を再開した日本原子力研究開発機構の高温ガス炉「HTTR」を活用する「超高温を利用した水素大量製造技術実証事業」で新規に9億円を計上。「2050年カーボンニュートラル」実現に向け、2030年までに高温熱源となる「HTTR」と水素製造プラントの接続技術を確立させ、カーボンフリー水素製造が可能なことを実証し、2050年には製鉄や石油化学プラントなどへ大量かつ安価な水素を安定的に供給する産業利用につなげることを目指す。文部科学省では、原子力分野の研究開発・人材育成に関する取組として、前年比21%増の1,786億円を要求。経産省と同じく「2050年カーボンニュートラル」実現に向けた技術開発で拡充を図っており、高温ガス炉に係る研究開発の推進として前年の約1.5倍となる22億円、ITER(国際熱核融合実験炉)計画の実施で前年の約1.4倍となる314億円を計上。同計画の関連で、2020年に組立が完了した量子科学技術研究開発機構の先進超伝導トカマク装置「JT-60SA」の運転本格化に向け、前年の約5.5倍となる53億円 を計上している。「福島県次世代漁業人材確保支援事業」のイメージ(復興庁発表資料より引用)復興庁では、原子力災害からの復興・再生で、前年度より微減の4,428億円を要求(事項要求あり)。観光に関わる風評被害対策として、国内外からの誘客促進に向け海の魅力を発信する「ブルーツーリズム推進支援事業」(国土交通省)で新規に3億円を計上。また、福島の水産業復興に向け、「水産業復興販売加速化支援事業」(農林水産省)、「福島県次世代漁業人材確保支援事業」(同)として、それぞれ41億円、4億円を新規に計上している。原子力規制委員会では、総額で前年比24%増の561億円を要求。昨今発生した原子力発電所のテロ対策不備事案を踏まえ、「核物質防護検査体制の充実・強化事業」として16億円を新規に計上したほか、機構・定員要求として核セキュリティ部門に首席核物質防護対策官の創設などを盛り込んでいる。内閣府では、原子力防災対策の充実・強化として、前年の約1.7倍となる172億円を要求。新型コロナウイルス感染症への対応も含めた緊急時避難の円滑化など、原子力災害対応の実効性向上に向け、関係自治体における取組の支援を図っていく。
02 Sep 2021
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政府の復興推進会議と原子力災害対策本部会議の合同会合が8月31日に開かれ、避難指示解除に関する新たな考え方を決定した。〈配布資料は こちら〉福島第一原子力発電所事故に伴う避難指示は、帰還困難区域を除き2020年3月までに、双葉町に設定されていた避難指示解除準備区域を最後にすべて解除されているが、双葉町、大熊町、浪江町、富岡町、飯舘村、葛尾村、南相馬市に残る帰還困難区域については、5年前の2016年8月31日、両会議は線量の低下状況を踏まえ避難指示を解除し居住可能となることを目指す「特定復興再生拠点区域」を設定する方針を示し、現在、6町村の同拠点区域で除染やインフラ整備などが進められているところだ。福島県浜通り12市町村の状況(復興庁発表資料より引用)このほど示された新たな考え方は、「拠点区域外への帰還・居住に向けた避難指示解除の方針を早急に示して欲しい」との地元からの要望を踏まえ、帰還意向のある住民が2020年代に帰還できるよう避難指示解除の取組を進めていくため、帰還意向確認(すぐに判断できない住民にも配慮し複数回実施)、除染開始時期・範囲、予算・財源確保などに係る基本方針について定めたもの。今回の方針決定に関連し、福島県の内堀雅雄知事は、同日まとめられた政府の2022年度概算要求に対し発表したコメントの中で、「特定復興再生拠点区域」外に係る調査事業が新たに盛り込まれた(事項要求)ことなどに言及し、「各省庁が本県の復興・創生を真摯に検討した結果と認識」としている。
01 Sep 2021
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IAEA・グゼリ氏(右)より評価レポートを受取る江島経産副大臣(経産省ホームページより引用)福島第一原子力発電所の廃炉に関するIAEAのレビューが8月27日に終了し、26の評価事項と23の助言を示した評価レポートが、来日中の同レビューミッションで団長を務めたIAEA核燃料サイクルの廃棄物技術部長・クリストフ・グゼリ氏より江島潔経済産業副大臣に手渡された。〈経産省発表資料は こちら〉IAEAによるレビューミッション来日は、2018年11月以来5回目となるが、今回は感染症対策のため、チーム全員の来日ではなく、6月末から8月初めにかけて週2回のオンラインを通じた討議を経た後、福島第一原子力発電所の現地視察についてはグゼリ氏を含む2名が23、24日に行う形となった。福島第一を訪れALPS処理水を手にするグゼリ氏(東京電力ホームページより引用)処理水の安全性に関しては、別途9月にIAEAの担当幹部が来日し専門的評価が行われる予定だが、27日にフォーリン・プレスセンターにてオンラインを通じ記者説明を行ったグゼリ氏は、4月の日本政府による処理水処分に関する基本方針決定について、廃炉計画全体の実行を促進するものとして「評価すべき点」と述べた。2018年の前回レビューミッションからの主な進展としては、3号機使用済燃料プールの燃料取り出し完了(2021年2月)、汚染水発生量が約170㎥/日(2018年度)から約140㎥/日(2020年度)に低減したことなどがあげられるが、グゼリ氏は、「東京電力の福島第一廃炉推進カンパニーは詳細な計画を示しており、安全に対する強いリーダーシップも発揮されている」と、組織・プロジェクトマネジメント力を評価。2020年4月に完了した1/2号機排気筒の解体作業にもみられた地元産業の活用についても、「地元の雇用創出や経済活性化につながるもの」などと、肯定的な見方を示した。また、2022年に2号機より着手予定の燃料デブリ取り出しについては、「包括的に性状把握を行っていく必要がある」と、7月に英国より日本に到着したロボットアームによるサンプリング調査の意義を強調したほか、廃棄物の管理や最終的な処分までを見据えた研究開発の必要性も指摘した。
27 Aug 2021
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東京都市大学の理工学部と総合研究所による「宇宙探査の今後を担う新技術」について考えるシンポジウムが7月12日にオンラインで開催された。小惑星探査機「はやぶさ2」(文科省発表資料より引用)「はやぶさ2」による小惑星「リュウグウ」のサンプル採取や、「国際宇宙ステーション(ISS)計画」における補給機「こうのとり」の活躍など、日本の宇宙輸送システムの技術力に注目が集まりつつあるが、シンポジウムの冒頭、理工部原子力安全工学科教授の高木直行氏は、「今後の探査範囲拡大や月の地下観測を行うためには、太陽に依存しない発電方式や新たな推進方式が必要となる」と、将来の宇宙探査に向け原子力技術が貢献する可能性を示唆。また、総合研究所教授の高橋弘毅氏は、同研究所内に昨秋設置された宇宙科学研究センターのメンバーとして、「ロケット、人工衛星、望遠鏡を用いた理工連携の宇宙科学研究、それを活用した文理融合の宇宙教育に力を入れていく」と強調した上で、他大学・研究機関からも関心を持ち集まったオンライン参加者に「大いに楽しく議論して欲しい」と口火を切った。日本は宇宙科学研究で、「はやぶさ2」に先立ち、2010年に「はやぶさ」(初号機)が月以外の天体では世界で初めて小惑星「イトカワ」から微粒子を地球に持ち帰るなど、世界トップレベルの成果をあげている。今回のシンポジウムでは、「はやぶさ」(初号機)の電源管理で様々な困難を克服した経験を持つ宇宙航空研究開発機構(JAXA)宇宙科学研究所准教授の曽根理嗣氏が基調講演を行った。JAXAが取り組むソーラー電力セイル計画(曽根氏発表資料より引用)同氏は日本が打ち上げてきた人工衛星に搭載された電池の変遷を紹介。太陽電池との併用(地球周回の際に太陽の影に入るときの補完が必要)で、地球資源衛星「ふよう1号」(1992~98年運用)、地球観測プラットフォーム技術衛星「みどり」(1996~97年運用)には、ニッカド電池や酸化銀・亜鉛電池など、近年まで「古い教科書にも出てくるような電池」が用いられていたという。これらの人工衛星が電池に関わるトラブル発生により運用断念となった経験を述べ、「電源系は正にクリティカルなデバイス」と、将来の宇宙探査における電源技術の重要性を繰り返し強調。最近では、2019年ノーベル化学賞受賞の吉野彰博士らによる研究成果「リチウムイオン電池」が宇宙利用でも信頼性が実証されていることを述べ、「基礎からの研究の積み上げが宇宙探査に寄与しつつある」、「化学的に長期間耐えられるという実証は非常に大事」とした。「宇宙の電池屋」を自称する曽根氏は現在、木星系・土星系の探査を展望し、セイル(帆)膜面上に搭載した薄膜太陽光電池で発電しながらイオンエンジンを駆動して外惑星系を目指す「ソーラー電力セイル探査機」計画に取り組んでいるという。曽根氏の講演を受けて、学生からはJAXAと他機関との原子力分野での協力について尋ねる声もあがったところで、日本原子力研究開発機構OBの植田脩三氏が「宇宙開発と原子力」と題し発表。同氏は、最近の世界の動きとして、米国の有人太陽系探査を見据えた「原子力ロケットエンジン」開発計画、ロシアのメガワット級原子炉を搭載した「スペースプレーン」開発計画、英国の宇宙局とロールス・ロイス社による提携、中国の「2045年に原子力宇宙船を実用化」との報道を紹介。その上で、原子力を宇宙で利用する方法として、(1)原子力電池(放射性同位体の崩壊を利用、ボイジャーに搭載され現在も機能)、(2)電源用原子炉(日本では月面用リチウム冷却高速炉の構想)、(3)核熱推進(原子力ロケットエンジン、火星への有人探査で飛行期間短縮が期待される)――をあげ、これらを通じて若い人たちの原子力に対する関心喚起につながることを期待した。人類の生存圏拡大も視野に入れた宇宙のエネルギーマネジメント構想、月の自転周期や表面温度環境に着目(東芝ESS発表資料より引用)企業からは、東芝エネルギーシステムズ原子力開発部の宮寺晴夫氏とIHI航空・宇宙・防衛事業領域の石津陽平氏が発表。宮寺氏は超小型の月面用原子炉に向けた炉心構造の検討状況や、宇宙空間でのエネルギーシステム構想を披露。石津氏は推進手段としての原子力「核熱ロケット」の原理、開発に必要な要素技術・試験に関する研究成果とともに、海外の開発事例を紹介。同氏によると、米国の原子力ロケット開発は、1950年代に「Rover/NERVA」プロジェクトが立ち上がったが、アポロの月面着陸以降、予算不足で実用エンジンの製造まで至らず中止となり、その後、燃料要素技術の地道な基礎研究が進められ、2020年発表の「DRACO」(Demonstration Rocket for Agile Cislunar Operation:迅速な月地球間活動のための実証ロケット)プロジェクトでは、2025年の地球低軌道上での実証試験目標が掲げられた。高木教授と「追い越せボイジャー計画」のメンバー(都市大原子力安全工学科学生の発表資料より引用)この他、理工学部の機械システム工学科と原子力安全工学科の学生が研究成果を披露。原子力安全工学科の矢口陽樹さんと橋本ゆうきさんは、「追い越せボイジャー計画」と題し発表。小惑星帯でも長期間安定して電力を供給できる「超小型原子力電池(RTG)」、放射性同位体の崩壊を利用した長寿命推進法「アルファ粒子推進エンジン」の検討から、現在地球から最も離れた人工天体とされる「ボイジャー1号」を40年で追い越す深宇宙探査の衛星システムを提案した。学生たちからは、「原子力は世間からバッシングを受け研究のモチベーションが下がっているのでは」といった声もあがったが、学生時代に電池研究への志を周囲に否定されるもスタンリー・ウィッティンガム博士(吉野博士とともにノーベル化学賞受賞)との対面で励まされたという曽根氏は、「誰もやっていないことだからこそ研究といえる」と、若い人たちの独創的なアイデアに期待を寄せた。
26 Aug 2021
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意見交換に臨む原子力規制委員ら(規制委庁舎にて)原子力規制委員会は8月25日に臨時会合を開き、東北電力の樋口康二郎社長らと意見交換を行った。同委員会が原子力事業者の経営幹部を順次招き安全性向上の取組について聴取しているもの。〈配布資料は こちら〉東北電力・樋口社長ら、TV会議にて応答2020年4月に就任した樋口社長は、同社で火力部門に長く携わっており、東日本大震災発生直後の2011年6月には原町火力発電所(福島県南相馬市、石炭、100万kW×2)の所長として被害を受けた設備の復旧で陣頭指揮に当たった。こうした経験を通じ同氏は、「安全性確保を大前提に電気を安定的に届ける重要性を痛感した。原子力発電所の安全確保に社長としての責務を果たせるよう日々努めている」と強調。東北電力では女川原子力発電所2号機について、2020年2月に新規制基準適合性に係る原子炉設置変更許可を取得し、同年11月には立地自治体より再稼働に係る了解を得ているが、今後の原子力の事業運営に関し、樋口社長は、「事業活動の基盤は『地域社会からの信頼』」との考えを繰り返し述べ、「地域の皆様から信頼され、地域に貢献する発電所として『再出発』する」決意を改めて示した。また、人材育成については、「原子力発電所の停止期間が長期化し、運転経験のない所員が増えており、技術の継承をより一層強化する必要がある」との認識に立ち、シミュレータを活用した訓練、ベテラン社員・OBを交えた勉強会・対話、BWR各社との人材交流を通じた技術の習得・共有などに努めているとした。現在、東北電力の原子力発電プラントでは、東通1号機が新規制基準適合性に係る審査途上にあり、女川2号機では設計・工事計画認可の審査が進められている。プラント審査を担当する山中伸介委員が審査会合に若手社員を出席させていることを評価。樋口社長は、審査中のプラントについては「しっかり対応していく」とした上で、女川3号機に関しては「2号機の審査で得られた知見を踏まえ、審査申請に向けて検討しているところ」と述べた。また、自然災害対応に関する審査を担当する石渡明委員は、「7月28日に台風8号が宮城県に統計史上初めて上陸した」ことを例に、地球温暖化が原因とみられる昨今の気象災害の頻発・激甚化に備えた対策強化の必要性を指摘。樋口社長は、女川原子力発電所OBと新入社員との対話や、東日本大震災発災当時のトップ対談動画(社長、宮城県警本部長)発信などを通じた震災経験の継承に係る取組についても強調。更田豊志委員長は、「当時の経験談は非常に貴重。原子力規制庁にも展開していく必要がある」として、他社も含め震災当時の発電所長による講演シリーズを検討する考えを示唆した。※写真は、いずれもインターネット中継より撮影。
26 Aug 2021
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福島第一原子力発電所の処理水の取扱いに関する関係閣僚会議が8月24日に開かれ、(1)風評を生じさせないための仕組み、(2)風評に打ち勝ち安心して事業を継続・拡大できる仕組み――の構築に向けて10項目からなる「当面の対策」を取りまとめた。〈配布資料は こちら〉ALPS処理水(多核種除去設備等によりトリチウム以外の放射性物質を安全に関する基準値以下に浄化した水)の処分方法として、4月に「海洋放出を選択する」との基本方針が決定。関係閣僚会議では、年内を目途に放出後も含めた中長期的な行動計画を策定する。今回取りまとめられた「当面の対策」では、未だ残る風評影響や安全性への懸念を払拭すべく、IAEAやOECD/NEAによる監視・透明性の向上、風評影響の実態把握と適正な商取引の実現を図るとともに、「万一の需要減少に備えた機動的な対策」として、冷凍可能な水産物の一時的買取り・保管や、冷凍できない水産物の販路拡大に係る基金創設を盛り込んだ。今後、関係省庁にて具体的支援内容・予算措置を詰めていく運び。基本方針決定を受け福島県を始め各地で行われた関係者の意見を聴取するワーキンググループでは、漁業者より「安心して漁業を継続できる仕組みが必要」として、政府による水産物の買取りや次世代継承に関する意見も多く出されていた。関係閣僚会議の議長を務める加藤勝信官房長官は、会議終了後の記者会見で、「政府一丸となって必要なことはすべて実行するという姿勢で、スピード感を持ち、今回取りまとめた各施策を確実に実行していく」と述べた。復興庁は20日に行われたタスクフォース会合で、「消費者等の安心と国際社会の理解に向けて」とする情報発信施策パッケージをまとめたところだが、関係閣僚会議に出席した平沢勝栄復興相は「徹底した風評対策に取り組む」と改めて強調。「当面の対策」では、「安心が共有されるための情報の普及・浸透」として、若い世代を対象とした出前授業や教育現場での副読本活用が盛り込まれており、萩生田光一文部科学相は「文科省が制作してきた放射線副読本にALPS処理水に関する記載を追加するとともに、修学旅行の福島県誘致にも取り組んでいく」などと述べた。また、被災地における観光誘客促進・交流人口拡大に関して、赤羽一嘉国土交通相は、東北自動車道の相馬~福島間開通(4月)や常磐自動車道のいわき中央~広野間開通(6月)に触れ、「一人でも多くの方々に福島に足を運んでもらえれば」として、メディアを通じたPR効果にも期待。小泉進次郎環境相、井上信治内閣府消費者担当相は、それぞれ地元との意見交換、風評被害に関する消費者意識調査結果を踏まえ、「重要なのは信頼性」、「正確な情報発信が重要」との認識を示し、所掌の施策を具体化していく考えを述べた。「当面の対策」取りまとめについて、東京電力の小早川智明社長は、「大変重く受け止める。安全確保を大前提に風評影響を最大限抑制するため、モニタリングなどの具体的検討を進めるとともに、損害が生じた場合の賠償も早期に準備する」との考えを示した。
24 Aug 2021
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8月18~20日の日程でオーストリアを訪問中の梶山弘志経済産業相は19日、R.M.グロッシーIAEA事務局長と会談し、日本側の要請に応じ福島第一原子力発電所の廃炉、および処理水の安全性に関する各レビューミッションの来日について合意した。〈経産省発表資料は こちら〉福島第一原子力発電所の廃炉全般に関しては、政府・東京電力による中長期ロードマップに基づく取組の進捗状況に対する国際レビューとして、これまで4回にわたりIAEA専門家で構成されるレビューミッションを受け入れている。直近のミッションは、2018年11月に来日しており、日本に対し、17の評価事項と21の助言を提示した。今回の会談で、5回目となるミッションが8月23日の週に来日することが決まり、梶山大臣は、グロッシー事務局長に対し、厳正で透明性のあるレビュー実施を依頼した。また、処理水の安全性に関するレビューについては、9月にIAEAの担当幹部が来日し開始することで合意。処理水の放出時における周辺環境への影響を含む安全性について、IAEAの安全基準に照らした専門的評価がなされる予定。福島第一原子力発電所の処理水に関しては、梶山大臣がグロッシー事務局長と4月にTV会談を行った際、(1)レビューミッションの派遣、(2)環境モニタリングの支援、(3)国際社会に対する透明性の確保――で協力を要請しており、7月にはIAEAの支援について日本政府・IAEA間で署名が行われている。この他、会談で、梶山大臣は、カーボンニュートラルの実現に向けた原子力の持続的な利用に関して、原子力分野の人材育成と正確な情報発信に関する新たな取組について提案。IAEAが加盟国に対し実施する原子力人材の育成事業で、事故の教訓を踏まえ福島第一原子力発電所を専門教育の場として活用することを提案するとともに、若手女性研究者の原子力科学・技術分野でのキャリア構築支援を目的として創設された「IAEAマリー・キュリー奨学金」などへの支持を表明した。「IAEAマリー・キュリー奨学金」は、2020年の国際女性デー(3月9日)に、マリー・キュリー博士の功績を顕彰して、グロッシー事務局長が立上げを表明したもので、日本も50万ユーロの支援を行っている。
20 Aug 2021
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近畿大を紹介した別冊「Newton」(ニュートンプレスホームページより引用)近畿大学が取り組んでいる研究・プロジェクトの最前線の現場がこのほど、科学雑誌「Newton」(ニュートンプレス発行)の別冊版に紹介された。〈近畿大発表資料は こちら〉「Newton」別冊版では2015年にも近畿大学を取り上げているが、今回、「社会に役立つ大学をめざす実学教育のパイオニア 近畿大学大解剖 vol.2」として、同学の理系学部(理工、建築、薬、農、医、生物理工、工、産業理工、情報〈2022年度開設〉)や研究所の60人を超す教員らへのインタビューをもとに編集。近畿大学の「研究力を広く知ってもらう」ため、同学実学教育の象徴として長く実績を積んでいるマグロ養殖の他にも、幅広い分野にわたり研究成果の社会貢献や研究に取り組む学生たちの姿を取り上げており、学外の学生・教員の実習にも供される原子力研究所の研究炉「UTR-KINKI」も紹介されている。近畿大研究炉「UTR-KINKI」(原子力学会発表資料より引用)その中で、原子力研究所所長の山西弘城教授は、「今後、商用の原子炉が老朽化すると、廃炉の問題が出てくる。また、温室効果ガスを抑制するため、既存の原子力発電所の活用も必要となるだろう。そのためには原子力の技術を持つ人材を育成する必要がある」と、原子力教育の重要性を強調した。現在、国内で原子炉を持つ大学は近畿大学と京都大学のみだが、山西教授は、「本物の原子炉での実習は、シミュレーターやオンラインでは味わえない緊張感がある。貴重な教育用の原子炉をできるだけ長く使えるように維持していきたい」とも話している。また、医療における放射線被ばく低減に関するプロジェクトの紹介の中で、医療放射線の国際基準改定に取り組む医学部の細野眞教授も「放射線の研究を行う上で、原子炉がある近畿大学にいる意味は大きい」という。近畿大学では、2022年度より理工学部にエネルギー関連技術の人材育成を図る「エネルギー物質学科」が新設される予定だ。昨今課題となっている新型コロナウイルス感染症対策に関しては、近畿大学の全学部・学科、附属・併設校も参加する学園横断的プロジェクト「オール近大」の取組を紹介。一例として、農学部の松田克礼教授と薬学部の角谷晃司教授が、花粉を吸着する「静電ブラインド」の応用について説明している。花粉症でつらい人がいても窓を開けて換気ができるようにする「静電ブラインド」でウイルスを吸着する可能性を見出すもので、学生時代から30年にわたり共同研究に取り組んでいる両氏に関し、「近畿大学の強みともいえる学部を横断した共同研究がコロナ禍で新たな展開を見せている」と評している。表情が見える「近大マスク」、大阪府下の支援学校や飲食店などに7,000個以上が寄贈された(近畿大ホームページより引用)「オール近大」プロジェクトに関し、2016~19年に経済産業相を務めていた近畿大学の世耕弘成理事長はインタビューの中で、「偏差値や受験ランキングは大学の本質的な価値を示すものではない。われわれが目指すのは本当の意味で社会に役立つ大学だ」と強調。「オール近大」の始まりとなった「福島県川俣町復興支援プロジェクト」(2012年)を振り返りながら、「未曾有のパンデミックに際して、近畿大学の総合力を活かして何かできることがあるのではないか」などと、新型コロナウイルス感染症対策に関するプロジェクト立上げの経緯を話している。研究成果として、感染症対策と意思疎通を両立する透明なプラスチック製の飛沫防止マウスシールド「近大マスク」を紹介。理工学部の西藪和明教授らが開発したもので、デザインは文芸学部の柳橋肇准教授、製作は同学が立地するモノづくりの町・東大阪市の企業が担当。世耕理事長は、「幼児教育の現場では、子供たちは大人の顔を見ながら感情を育んでいる。口が見えることはとても重要だ。聴覚障がいのある方は唇の動きや表情からも情報を得ている」と、「近大マスク」開発の意義を述べている。「Newton」は、地球物理学の権威として知られた東京大学名誉教授の竹内均・初代編集長のもと、1981年に創刊されたカラー版の科学雑誌で、月刊誌の他、最新の科学技術動向や数学・物理の入門的内容をわかりやすく説明するいわゆる「大人の学び直し」などを特集した別冊版が随時刊行されている。
19 Aug 2021
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中央環境審議会(環境省)と産業構造審議会(経済産業省)の合同ワーキンググループが8月18日に開かれ、新たな「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」(案)をまとめた。〈配布資料は こちら〉「パリ協定」は2016年に発効した2020年以降の温室効果ガス排出削減のための国際枠組みで、これに基づき日本は2019年6月に、「最終到達点として『脱炭素社会』を掲げ、野心的に今世紀後半のできるだけ早期に実現することを目指し、『環境と経済の好循環』を実現する」とする長期戦略を策定し国連に提出している。合同WGでは、2020年10月の「2050年カーボンニュートラル」表明や世界全体の新型コロナウイルス拡大など、現行戦略策定時からの状況変化を踏まえ、見直しに向け検討を進めてきた。新たな長期戦略(案)は、概ね現行戦略の骨格が維持されており、「2050年カーボンニュートラル」実現に向け、(1)利用可能な最良の科学に基づく政策運営、(2)経済と環境の好循環の実現、(3)労働力の公正な移行(産業構造転換など)、(4)需要サイドの変革、(5)迅速な取組(インフラ分野の取組強化など)、(6)世界への貢献――の視点を追記。温室効果ガスの排出削減対策・施策としては、「排出量のうち、エネルギー起源CO2が占める割合は8割を超えている」ことから、エネルギー部門における対応の重要性を改めて記述。「2050年カーボンニュートラル」実現に向け、再生可能エネルギーの最大限導入に取り組み、水素・CCUS(CO2回収・有効利用・貯留)の社会実装を進め、原子力については「国民からの信頼回復に努め、安全性の確保を大前提に、必要な規模を持続的に活用していく」とされた。技術イノベーションについては、6月に改定された「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」が示す14の重要産業分野、次世代再生可能エネルギー、水素・燃料アンモニア、原子力、自動車・蓄電池などをあげ、「これらの分野における実行計画の着実な実施を通じて、2050年カーボンニュートラル社会の実現可能性を関係省庁が一体となって年々高めていく」としている。新たな長期戦略(案)は今後、パブリックコメントに付された後、官邸レベルの会合を経てオーソライズされ、11月のCOP26(英国グラスゴー)までに国連に提出となる運びだが、委員からは、「国民的関心を高めていくため、見せ方は重要」として、各国の長期戦略にならい図表や写真の活用を求める意見があった。また、地球温暖化が原因とみられる最近の豪雨・土砂災害、「ポストコロナ」に伴う大都市一極集中から地方分散への流れ、企業の国際競争力維持などに関して踏み込んだ記述を求める意見も出された。
18 Aug 2021
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東北発の優れた映像コンテンツを表彰するコンテストで地域振興コンテンツ部門大賞「東北経済産業局長賞」を受賞した「Changing Minamisanriku 震災から10年間の変革」((株)はなぶさ)など、2021年の優秀賞受賞計10作品が「東北映像フェスティバル」(主催=東北映像製作社協会)の特設サイトにて公開されている。「Changing Minamisanriku 震災から10年間の変革」は、東日本大震災で被災した宮城県南三陸町で大学や企業の研修を受け入れている「南三陸ラーニングセンター」が発災後10年間の変化を踏まえ次の10年を考えるというテーマで制作したもの。復興支援のアルバイトをきっかけに南三陸町に移住し竹の栽培・活用に取り組む東京出身の若者、地元に観光果樹園と直営のカフェを開くことを夢見る若手就農者と師匠、都会での会社員生活を辞しUターンして漁業を継いだ漁師らへのインタビュー映像を通じ、10年を経過し南三陸町で働く人たちに生じた価値観の変容を描いている。ワカメ、ホヤ、ホタテ、カキなどの養殖に従事してきた漁業者は、養殖棚を競うように増やしていったかつての状況が震災後、漁師仲間との議論も経て「海を守り質の高いカキを生産するため養殖棚の数を3分の1に減らす決断」により変化した経験を述懐。不安もあったが水揚げまでの期間が以前より短くなり生産コストも下がってきたとした上で、「自然の海から恩恵をもらって仕事していたことに気付いた」と語っている。フルーツピークス福島西店を紹介する「福島にイクンジャー」隊員ことJR福島駅・鈴木さん(右、東北映像フェス特設サイトより引用)この他、地域振興コンテンツ部門の優秀賞として、「福島のイイところ教え隊『福島にイクンジャー』タベルンジャー出動篇!」(JR東日本企画、デンタ・クリエイティブワークス)を紹介。東日本大震災発生から10年の節目をとらえJRグループが4~9月にかけ実施している東北観光の魅力発信・誘客の取組「東北デスティネーションキャンペーン」のPRとして制作されたシリーズ動画の一つで、JR福島駅の若手社員らが駅長が率いる観光戦隊「福島にイクンジャー」に扮し、福島市内の観光物産館やグルメスポットを案内する。番組部門では大賞「東北総合通信局長賞」を、「『日本のチカラ』なりたい自分になるって決めたんだ!」(東北映音)が受賞。事故で車いす生活を余儀なくされているYou Tuberの渋谷真子さん(山形県鶴岡市)の日常を取材したもので、「真子さんやご家族、友人の人柄や思いが表情からも十分に伝わってくる」などと評価されている。また、CM・PRキャンペーン部門の大賞では、岩手県のクラフトビール「ベアレンビール」のイメージCM「ベアレンフアンになろう」((有)哲学堂)が紹介されている。
17 Aug 2021
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【国内】▽7日 原子力学会が中学教科書のエネルギー・放射線関連の記述で調査報告、新学習指導要領踏まえ▽8日 日本政府、福島第一処理水の処分に関するIAEAの支援について署名▽9日 原子力委員会が2020年のプルトニウム管理状況を発表、英国事業者再処理委託分の計上により微増▽12日 総合エネ調WGが電源別の発電コストで試算結果(暫定版)示す▽12日 福島第一2号機燃料デブリ取り出しのロボットアームが英国より到着▽12日 原子力機構の研究炉「JRR-3」が供用運転を再開、RIの国内生産に期待▽15日 環境省が放射線の健康影響と風評被害に関する情報発信で新プロジェクト発足を発表▽15日 量研機構が次世代の重粒子線がん治療「量子メス」でシンポ開催▽21日 総合エネ調、次期エネルギー基本計画の素案示す▽21日 日本原燃の低レベル放射性廃棄物埋設センター増設に関し規制委が事業変更許可発出▽21日 リサイクル燃料貯蔵・むつ中間貯蔵施設の事業開始が2021年度から2023年度に変更▽21日 東京電力が特別事業計画変更を政府に申請、柏崎刈羽原子力発電所の2022年度以降再稼働を仮定した収支見通しも示す▽27日 2020年度版原子力白書が発表、福島第一原子力発電所事故発生から10年で特集▽27日 美浜3号機が10年ぶりに本格運転復帰、国内初の40年超運転▽30日 内閣府の原子力防災協議会が島根地域の緊急時対応を了承▽30日 原子力機構の高温ガス炉「HTTR」が10年半ぶりに運転再開 【海外】▽1日 台湾の國聖1号機が早期閉鎖▽6日 米GEH社が同社製SMR「BWRX-300」の商業化に向けカナダのカメコ社らと協力▽7日 米エネ省、先進的原子炉の建設コスト削減目指しGEH社と協力▽8日 欧州議会の議員約90名が原子力をタクソノミーに含めるようEC幹部に請願▽9日 韓国の規制当局、建設中の新ハヌル1号機に条件付きで運転認可を発給▽13日 中国のCNNC、多目的小型モジュール炉(SMR)「玲龍一号」の実証炉を海南島で本格着工▽13日 米NASA、深宇宙探査用の核熱推進システム開発でSMR開発企業3社を選定▽15日 IEAの「電力市場報告書」:2021年に世界の電力需要は5%上昇、化石燃料の発電量が増加▽16日 米ケイロス社の「フッ化物塩冷却高温炉(FHR)」、2026年に実証炉完成へ▽19日 スロベニア、国内唯一のクルスコ原子力発電所で2基目の建設に向け手続き開始 ▽20日 韓国の斗山重工が米ニュースケール社への支援継続で追加投資▽22日 中国・台山1号機の小規模燃料破損についてEDFが見解表明▽23日 ロスアトム社、海上浮揚式原子炉で極東地区の銅鉱採掘会社に電力供給へ▽23日 ブラジル、アングラ3号機の工事再開に向け国内で土木建築業者を選定 ▽28日 中国でロシア製の徐大堡3号機を本格着工▽29日 英国政府、先進的モジュール式原子炉(AMR)の実証プログラムでHTGRを有力候補に▽29日 米規制委、テキサス州の中間貯蔵施設の建設・操業認可発給に向け環境影響声明書発行▽29日 米ジョージア・パワー社、ボーグル3、4号機の完成時期を数か月延期 ▽30日 ルーマニアのチェルナボーダ原子力発電所増設計画に米国政府が実務協力開始▽31日 エジプト初の原子力発電所用にロシアで機器製造開始 ☆過去の運転実績
12 Aug 2021
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会見を行う福島県・内堀知事(インターネット中継)福島県の内堀雅雄知事は8月11日、記者会見を行い、コロナ対策として134億円を計上した2021年度8月補正予算について説明後、東日本大震災からの復興を世界に発信する「復興五輪」を掲げ8日に17日間の日程を終了した東京オリンピックの所感を述べた。内堀知事はまず、「『光と影』が混ざり合った『復興五輪』だった」と回想。その上で、「明るい光」として、(1)3月に聖火リレーがJヴィレッジをスタートし浜通り地域を巡り大会期間中には聖火台で浪江産の水素により輝き続けた、(2)県内で野球・ソフトボールの計7試合が開催された、(3)選手村で福島県産の農産物が活用された――ことをあげ、「これらが『復興五輪』の一つの形につながっていると思う」とした。一方で、「深刻な影」として、(1)聖火リレースタート直前の開催延期決定、(2)無観客での競技開催、(3)根強く残る風評被害――を指摘。特に、今回のオリンピックが無観客開催となったことに関し、内堀知事は、「『復興五輪』の重要な部分は、世界各国からの観客・報道陣が福島の地に来て、見て、感じてもらうことだ」と強調し、「一番根幹の部分が失われてしまった」と、無念の意をあらわにした。また、福島県産の農産物・花きに対する誤解・偏見に基づく風評が一部にみられたことを振り返り、「福島第一原子力発電所事故発生から10年5か月が経過したが、今なお根強く風評被害が続いている」とし、県産品の輸入規制を講じている国々の温度差に言及しながら「愚直に粘り強く事実を訴え続け、この状況を変えていかねばならない」と強調。内堀知事は、ソフトボール金メダリストの上野由岐子選手の言葉「あきらめなければ夢はかなう」を紹介。続くパラリンピアンの活躍に期待するとともに、「福島へのエール、『復興五輪』のレガシー」と受け止め、引き続き途上にある福島の復興、今回のオリンピックでなし得なかったインバウンドの集客にも取り組んでいく考えを述べた。
11 Aug 2021
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福島高専の学生が製作したロボットが、先端技術館「TEPIA」(東京都港区)のバーチャル・ミュージアム「デジタルTEPIA」で紹介されている。福島高専は、「廃炉創造ロボコン」の開催など、廃炉人材育成に力を入れており、4月にはロボット製作を通じた廃炉遠隔技術に係る理解増進の功績から、同高専機械システム工学科准教授の鈴木茂和氏が2021年度文部科学大臣表彰「科学技術賞」を受賞している。「デジタルTEPIA」で紹介されているロボットは、2020年11月にオンライン開催された「アイデア対決・全国高等専門学校ロボットコンテスト2020 全国大会」(高専ロボコン)でデザイン賞を受賞したハンドベル演奏ロボット「鈴音」(すずね)。暗闇の中、格子状に配置されたハンドベルの下を4台のロボットが異なる色の光を点滅させ動き回りながら、「きらきら星」や「ふるさと」を涼しげに演奏する。〈動画は こちら〉インタビューに応じる鈴木碧さん(左)と鈴木菜緒さん(TEPIAホームページより引用)「鈴音」を製作した電気電子システム工学科の鈴木碧さんと化学・バイオ工学科の鈴木菜緒さんは、「デジタルTEPIA」のインタビューの中で、ものづくりの面白さを強調。それぞれ、中学のラジオ製作、オープンキャンパスで体験したナイロン合成実験をきっかけに自身の専攻分野を選んだとしており、「全然うまくいかなかったものが動いた瞬間はすごく嬉しい」、「普段の生活で使っているものなのに、『どうやって作られているのかわからない』というものがたくさんある」と、話している。賞をとった「鈴音」は、磁石を使ってロボットがベルに直接触れずに音を鳴らすのが特徴で、音色の調節、特に人間が演奏するように「単発で『ポン』と鳴らすにはどうすればよいか」で最も苦心したという。高専ロボコンのテーマ「誰かをハッピーするロボット」に応え、「音楽で人を楽しませられれば」と、「鈴音」製作に取り組んだ鈴木碧さんは、ロボットがメンタルケア面で活躍する将来性を展望し、「まずは挑戦して欲しい」と、後輩たちのチャレンジ精神に期待を寄せている。先端技術館「TEPIA」は現在、感染症対策・リニューアルに伴い休館中のため、ウェブサイト上で楽しめるバーチャル・ミュージアム「デジタルTEPIA」での見学を案内している。「鈴音」は、その中で若手によるアイデアを紹介する「若者イノベーター」で取り上げられたもの。「デジタルTEPIA」では、この他、「暮らし・経済」、「社会」、「地球・生命」や、コロナを踏まえた新しい生活様式「ニューノーマル」に関するテクノロジーを展示。自動ミキシング機能によるリモート合唱システム「tuttii」(電気通信大学)、AIを用いオンライン会議での身なりや表情をTPOに応じて置き換えられる「xpression camera」((株)EmbodyMe)、特殊な光学フィルタにより人が集まる施設での使用を可能としたウィルス抑制・除菌用UV照射器「UVee」(東芝ライテック)などが紹介されている。
06 Aug 2021
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総合資源エネルギー調査会の発電コスト検証ワーキンググループ(座長=山地憲治・地球環境産業技術研究機構理事長)は8月3日、2020年および2030年の各時点における電源別発電コストの試算結果をまとめた。〈配布資料は こちら〉同調査会下、基本政策分科会による2030年に向けたエネルギー政策の議論の参考とすべく、3月末より検討を行ってきたもので、石炭火力、LNG火力、原子力、風力(陸上/洋上)、太陽光(事業用/住宅)など、15の電源別に、新たな発電設備を更地に建設・運転した際のkWh当たりコストを算出。7月の前回WG会合で概算値が示されていたが、今回、各電源ごとに内訳(政策経費、社会的費用、燃料費、運転維持費、資本費)を明示し精緻化した値となっている。WGでは、風力や太陽光などの自然変動電源の比率が増えることに伴い、単体電源の評価に加え、電力システム全体を安定させる「系統安定化費用」の取扱いが議論となったが、3日のWG会合では、委員の荻本和彦氏(東京大学生産技術研究所特任教授)が、ある電源を電力システムに受け入れるための費用も含め分析する「電源別限界コスト」の評価手法について説明。同評価によって、例えば、現状のエネルギーミックスに太陽光を追加した場合に発生する火力の効率低下に伴う費用も反映されるとしている。各電源が電力システム全体に与える影響に関する評価は、OECD他、諸外国でもエネルギー政策立案に活用されており、今回まとめられた試算結果では、2030年時点の発電コストについて、この「電源別限界コスト」も参考値として追記した。それによると、基本値との対比で、原子力で11.7円が14.4円に、陸上風力で14.7円が18.5円に、太陽光(事業用)で11.2円が18.9円となるなど、それぞれ上昇。4日の基本政策分科会にも出席し説明を行った荻本氏は、どの電源を追加しても電力システム全体にコストが生じることから、「上がる費用をどう抑制し負担するかが次の課題だ」と、エネルギー需給全体を俯瞰した継続的議論の必要性を強調した。
04 Aug 2021
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関西電力は8月2日、運転開始から40年を超える美浜3号機、高浜1、2号機の運転計画を決定した。テロなどに備えた「特定重大事故等対処施設」(特重施設)の運用開始時期に見通しが立ったことによるもの。〈関西電力発表資料は こちら〉新規制基準で要求される特重施設設置については、プラント本体の設計・工事計画認可から5年間の猶予期間が与えられているが、先般7月27日に本格運転に復帰した美浜3号機は、同施設が未整備のため設置期限となる2021年10月25日までに一旦停止する。関西電力が発表した運転計画によると、同機では、2022年9月頃に特重施設の整備を完了し運用を開始。プラントは停止から1年後となる同10月20日に運転を再開する予定。2011年以降停止している高浜1、2号機とも、同様に特重施設の設置期限を2021年6月9日に迎えているが、それぞれ同施設の運用開始時期を2023年5、6月頃、プラントの運転再開時期を同6月20日、7月20日と計画。2021年4月末時点で検査時期が未定となっていた高浜2号機の安全性向上対策工事は、2021年12月頃に完了予定としている。また、既に再稼働している大飯3、4号機の特重施設の運用開始時期について、それぞれ2022年12、8月頃と発表。いずれも同施設の設置期限を同8月24日に迎える。関西電力の原子力発電プラントでは、高浜3、4号機で既に特重施設が運用を開始している。他プラントでも同施設の整備が完了し、2023年夏には既存7基による再稼働が確立することとなりそうだ。
03 Aug 2021
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日本原子力研究開発機構の高温工学試験研究炉「HTTR」(茨城県大洗町、高温ガス炉、熱出力3万kW)が7月30日、10年半ぶりに運転を再開。2011年初頭の第13サイクル運転終了後、東日本大震災を挟み、新規制基準対応に伴い停止していた。〈原子力機構発表資料は こちら〉原子力機構では、「HTTR」の再開に向けて、2014年9月の試験研究炉「JRR-3」に続き、同年11月に新規制基準適合性に係る審査を原子力規制委員会に申請。「HTTR」は2020年6月に原子炉設置変更許可に至った後、安全対策工事が行われ、2021年7月に入り原子炉起動までに実施すべき検査を終了しこのほど運転再開となった。今後は、運転状態において原子炉の性能を確認するための検査を順次実施し、9月末には原子炉出力100%の状態での最終検査を行い本格運転となる予定。高温ガス炉技術に関しては各国で開発が加速しており、日本も国際協力を推進しているが(文部科学省高温ガス炉技術開発作業部会資料 参照)、「HTTR」運転再開後はまず、2009年から実施されているOECD/NEAの安全性実証試験プロジェクト「炉心強制冷却喪失共同試験」を速やかに再開。2010年の低出力(30%)下による炉心流量喪失試験で「制御棒を挿入せず、冷却せずに、物理現象のみで、原子炉が自然に静定・冷却されることを確証」した成果を踏まえ、より厳しい条件を付加した試験を段階的に進め、高温ガス炉に関する安全基準の国際標準化にも貢献していく。高温ガス炉は水素製造などの多様な産業利用の可能性が期待されている。一方で、水の熱分解反応による水素製造「ISプロセス」では強酸が介在することから、耐腐食性の機器開発も課題だ。原子力機構の高温ガス炉研究開発センターが説明した熱利用試験計画によると、こうした基盤技術を確立させ、2030年までに「HTTR」と水素製造施設の接続技術を開発するとしている。高温ガス炉開発に関しては、原子力産業分野の取組の一つとして、「2050年カーボンニュートラル」に伴うグリーン成長戦略で、「2030年までに大量かつ安価なカーボンフリー水素製造に必要な技術開発を支援していく」とされているほか、7月21日に資源エネルギー庁が示した次期エネルギー基本計画の素案でも水素社会実現に寄与する有望性を述べている。「HTTR」の運転再開を受け、萩生田光一文部科学相は、「各種試験が順調に進み、高温ガス炉に関する技術が蓄積され、『HTTR』を活用した水素製造に係る要素技術開発を始め、各種分野への応用に向けた取組が進展することを期待」との談話を発表。梶山弘志経済産業相もメッセージを寄せ、高温ガス炉が産業分野の脱炭素に資する可能性を述べた上で、「カーボンニュートラルに向けた取組が進展することを期待」としている。
30 Jul 2021
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関西電力の美浜3号機(PWR、82.6万kW)が7月27日の17時、原子力規制委員会による最終検査を終了し、2011年5月の定期検査入りからおよそ10年ぶりに本格運転に復帰した。国内初の40年超運転となる。同機は6月23日に原子炉を起動し、29日に定期検査の最終段階となる調整運転として発電を再開していた。美浜3号機の本格運転再開を受け、関西電力の森本孝社長はコメントを発表。立地地域への感謝の意を表するとともに、「40年を超えて原子力発電所を最大限活用していくことは、電力需給の安定化やゼロカーボンの推進の観点から非常に有意義」と強調。同機で2004年に発生した死傷事故の反省と教訓を深く心にとどめ、安全性をたゆまず向上させていく強い意志と覚悟のもと、安全・安定運転の実績を積み重ねていく決意を述べた。美浜3号機は、テロなどに備えた「特定重大事故等対処施設」が未整備のため、同施設の設置期限となる10月25日までに停止する。
28 Jul 2021
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原子力委員会定例会の模様原子力委員会は7月27日の定例会で2020年度版の原子力白書を決定、発表した。今回は、3月に福島第一原子力発電所事故発生から10年を迎えたのをとらえ、特集として、10年を経た「福島の今」、事故の検証と教訓、福島の復興・再生について整理。これを踏まえ、原子力委員会として、「すべての原子力関係者が忘れてはならないこと」、「すべての原子力関係者が協働して取り組まなければならないこと」を述べている。白書の冒頭で、上坂充委員長は、「福島の着実な復興と再生、様々な改善に真摯に取り組むことは、わが国の原子力利用にとって必須であるとともに、世界に誇ることのできる活力ある日本を再生していくために必要不可欠な要素」と、今回特集の意義を強調。白書は今後、閣議配布となり諸々の政策立案に供されるものとなるが、定例会での決定に際し、上坂委員長は、「わかりやすくまとまっている」と、所感を述べた上で、9月に開催予定のIAEA総会他、OECD/NEAなどの国際機関に紹介する考えとともに、人材育成の観点から大学の講義で活用されることにも期待を示した。原子力委員会がまとめた福島第一原子力発電所事故に関する見解(原子力白書より引用)福島第一原子力発電所事故発生から10年を過ぎ、白書では、「10年以上の長期にわたって住民や地域社会にここまで大きな被害をもたらすことを誰が予想していただろうか」と自省。福島が直面している課題の一つとして、「風評」と「風化」をあげ、原子力関係者に対し、「二度と事故を起こさないために、原子力災害に関する記憶と教訓を忘れないこと」、「事故によって生じた風評が固定化され、福島の人たちを苦しめている」と、改めて強調。風評問題が復興・再生の壁となっていることを指摘し、「専門的な取組だけでなく、福島を知ること、行ってみること、食べてみることといったシンプルな取組を続けることも重要」などと、各人による地道な努力の必要性を述べている。白書では随所にコラムを設けており、世界的な新型コロナウイルスの拡大を踏まえた経済回復や環境保全における原子力の役割に関し、OECD/NEA、世界原子力協会(WNA)が2020年に発表した政策文書について取り上げている。
28 Jul 2021
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日本原子力産業協会は7月27日に理事長会見を開き、その中で新井史朗理事長は先般示された次期エネルギー基本計画の素案に対するコメントを述べた。総合資源エネルギー調査会の基本政策分科会は21日に、昨秋の菅首相による「2050年カーボンニュートラル社会の実現」表明など、最近のエネルギー・環境を巡る動きを受けたこれまでの議論を踏まえ、エネルギー基本計画の素案を提示。「2050年カーボンニュートラル」実現に向けた課題と対応として、原子力については、「国民からの信頼確保に努め、安全性の確保を大前提に、必要な規模を持続的に活用していく」とされた。これに関し、新井理事長は、「原子力を活用する方針が示されたものと認識する。原子力が価値を最大限発揮し、『2050年カーボンニュートラル』の実現に貢献できるよう精一杯取り組んでいきたい」と強調。また、エネルギー基本計画の素案では、2030年における電力需給の見通しとして、電源構成などの暫定値も示しており、総発電電力量9,300~9,400億kWh程度のうち、原子力の占める割合は現行の2030年エネルギーミックス(2015年策定の長期エネルギー需給見通し)と同水準とされた。新井理事長は、「この政策目標の達成に向けて新規制基準に合格したプラントの再稼働、長期サイクル運転による設備利用率の向上に努めていく」としたほか、今後も原子力産業界が原子燃料サイクルの推進、高レベル放射性廃棄物の最終処分などの諸課題に対し着実に取り組んでいく重要性を強調。原子力の電源構成比率「20~22%程度」の達成見込みについて問われたのに対し、省エネの深掘りなどにより総発電電力量の見通しが現行の2030年エネルギーミックスで示す10,650億kWh程度を下回っていることも踏まえ、「既に再稼働しているプラントに加えて、現在新規制基準適合性に係る審査が申請されている、および原子炉設置変更許可に至っているプラントも含めた27基で十分達成できるのでは」とした。また、新井理事長は、国内初の40年超運転となる関西電力美浜3号機の営業運転再開に関し、関係者の努力や地元の方々の理解に対する敬意・謝意を改めて述べた上で、「わが国の原子力産業界にとって大変意義深いこと」と強調し、今後も長期運転に向けた動きが進むことを期待(5月18日理事長メッセージ 参照)。関西電力では、同機に続いて30日にも大飯3号機が営業運転に復帰予定だが、両機合わせて関西圏の夏の電力安定供給を増強するものと歓迎した。美浜3号機は、6月23日に原子炉起動後、同29日に調整運転として発電を開始して、原子力規制委員会による最終検査を終了し7月27日17時に本格運転に入っている。
28 Jul 2021
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日本原子力文化財団は7月17日、京都市内で、「おはよう関西」(NHK)などのテレビ番組で活躍する気象予報士の塩見泰子氏と地球環境産業技術研究機構システム研究グループリーダーの秋元圭吾氏を招き、地球温暖化問題について考えるセミナーを開催。近畿圏在住の一般市民120名(オンライン含め)が参加した。塩見氏折しもセミナー当日は「近畿・東海地方が梅雨明け」との報道。季節はいよいよ夏本番を迎えるが、流行を先取りする店舗ショーウィンドウにはもう初秋を思わすアイテムがちらほら出始めるところ、塩見氏は、毎日の天気解説以外にも、「次の冬に向けて、セーターをどれだけ作れば在庫を抱えずに済むか」といったアパレル業界からの相談にも応じていることなど、気象予報士の仕事の幅広さをアピール。防災士、健康気象アドバイザーの資格も有する同氏は、「命を守る情報をしっかり届ける」との使命を強調し、「人の心に残る気象情報を」、「楽しくわかりやすく伝える」を大事にしたい思いから、京都大学大学院の認知神経科学研究室で「記憶に残る情報の伝え方」の研究にも取り組んでいるという。近畿地方は全国的にみて暑さの厳しい地域といえる(上)、京都の夏は過去に比べ夜間も気温が下がらなくなってきた(赤線は誤差補正後、いずれも塩見氏発表資料より引用)地域の気象情報を伝える立場から感じる地球温暖化の兆しとして、塩見氏は、「ただ暑くなるだけではなく、空気が温かくなると含まれる水蒸気の量が多くなり、短時間にザァーッと降る、いわゆるゲリラ豪雨も増えている」と説明。気象データとして、地域別の年間猛暑日(最高気温が35℃を超える日)日数ランキング、京都の夏の気候を例に1880年以降、特に最低気温が上昇傾向にあることを図示した。最近、静岡県内で土石流による甚大な被害が発生しているが、同氏は、こうした災害の教訓を踏まえ、平時にハザードマップで自分の住む場所に潜むリスクを予め押さえ、それぞれの「マイ避難計画」の中で、「豪雨で家の周りの側溝があふれたら〇〇へ逃げる」といった危機的状況を見極め行動を起こすシグナル「避難スイッチ」を決めておく必要性を訴えかけた。セミナーには地元の高校生たちも参加。塩見氏は、「『どんなことが地球に対してできるか』を考えてもらえたら」と語りかけ、続く秋元氏とのトークセッション「2050年のカーボンニュートラルに向けて 温室効果ガスの排出を減らすにはどうする?」に移った。秋元氏総合資源エネルギー調査会の委員として「2050年カーボンニュートラル」実現のためのシナリオ分析をまとめた秋元氏は、20世紀後半からの世界のエネルギー消費量増大と、それに伴うCO2排出量増大の関係を示し、「『電力の消費なくして世界の経済成長はない』のが、今、われわれが置かれている状況。電力消費を伸ばしながらいかに脱炭素電源を使っていくかが非常に重要」と強調。塩見氏が「私もエコな生活を心がけていますが、『電気を作る側がどうするのか』が大きなポイントとなってきますね」と返すと、秋元氏は、まず省エネの重要性を述べた上で、カーボンニュートラルを図るエネルギー供給のオプションとして、原子力、再生可能エネルギー、火力+CCS(CO2回収・貯留)の3つをあげた。電力の需給バランス維持のイメージ(秋元氏発表資料より引用)さらに、「太陽光や風力で電力需要を100%賄う未来はあるのでしょうか?」と塩見氏が尋ねたのに対し、秋元氏は、土砂崩れによる太陽光パネルの損壊、観光地の景観に影響を及ぼすことなど、平地の少ない日本において再生可能エネルギーの急拡大で生じた課題を例示。加えて、「電気は基本的に貯めることができない」と述べ、天候に左右される再生可能エネルギーの大量導入に伴い、常に需要と供給のバランスを保ち続ける難しさ・現場の努力を強調した。福島第一原子力発電所事故発生の直後に福井テレビに入社し原子力関連の取材も経験したという塩見氏に対し、秋元氏は、重大事故に備えた電源や原子炉冷却手段の多重化・多様化など、事故の教訓を通じた安全対策について説明するとともに、立地地域への感謝の必要性にも言及。まとめとして、「どんな電源にもメリット・デメリットがある」と、エネルギーのあり方に「唯一の正解はない」ことを強調し、多様なリスクを総合的に把握しバランスあるエネルギー対策をとる重要性を説いた。
27 Jul 2021
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次期エネルギー基本計画の素案が7月21日、総合資源エネルギー調査会の基本政策分科会(分科会長=白石隆・熊本県立大学理事長)で示された。今夏、現行計画の策定から3年となることから、昨秋より見直しに向け検討を行ってきたもの。〈配布資料は こちら〉分科会会合の冒頭、梶山弘志経済産業相は、「『2050年カーボンニュートラル』に加え、2030年度に温室効果ガスを2013年度から46%削減する新たな目標を踏まえ、温室効果ガス排出の8割以上を占めるエネルギー分野の取組は極めて重要」と述べた上で、素案をもとに議論を深めるよう求めた。新たなエネルギー基本計画は、「気候変動問題への対応」と「日本のエネルギー需給構造の抱える課題の克服」を視点に、主として(1)福島第一原子力発電所事故後10年の歩み、(2)「2050年カーボンニュートラル」実現に向けた課題と対応、(3)2050年を見据えた2030年に向けた政策対応――から構成。各論に先立ち、2021年3月に東日本大震災と福島第一原子力発電所事故から10年を迎えたのに際し、「事故の経験、反省と教訓を肝に銘じて、エネルギー政策の再出発を図っていくことが今回のエネルギー基本計画の見直しの原点」と改めて明記された。昨秋、菅首相が表明した「2050年カーボンニュートラル社会の実現」に向けては、再生可能エネルギーや原子力などの実用段階にある脱炭素電源の活用、火力発電のイノベーション(水素・アンモニア発電、CO2貯蔵・再利用など)の追求、産業・民生・運輸部門の「脱炭素化された電力による電化」を図っていくとした。原子力については、現行計画(2050年シナリオの設計)の記載を踏襲し、再生可能エネルギーの拡大を図る中、可能な限り依存度を低減するとし、リプレース・新増設については記載せず、「必要な規模を持続的に活用していく」としている。原子力人材・技術・産業基盤の強化、安全性・経済性・機動性に優れた炉の追求、バックエンド問題の解決に向けた技術開発も引き続き進めていく。現行のエネルギー基本計画が策定された2018年以降の情勢変化として、「脱炭素化に向けた世界的潮流」に加え、新型コロナウイルス感染症の急拡大による生活の変化、米中対立による国際的な安全保障の緊張感の高まり、自然災害の多発やサイバー攻撃など、エネルギーの安定供給を脅かすリスクをあげ、「こうした国内外の動向を踏まえながら進めていくことが時代的な要請となっている」と明記。次期基本計画素案が示す2030年度の電源構成見通し(右は現行のエネミックス、資源エネルギー庁発表資料より引用)2030年に向けた政策対応としては、「S+3E」(安全性、エネルギーの安定供給、経済効率性の向上、環境への適合)の実現のため、最大限取り組むことを基本方針に掲げ、需要サイドの徹底した省エネを始め、各エネルギー源や資源・燃料の安定的確保の取組について記載。原子力については、安全最優先での再稼働、使用済燃料対策、核燃料サイクルの推進、高レベル放射性廃棄物の最終処分地選定に向けた調査の実施、長期運転に係る諸課題への取組、消費地域も含めた国民理解促進などの「対策を将来へ先送りせず、着実に進める取組」とともに、国民・立地地域・国際社会との信頼関係構築、研究開発の推進について述べている。また、「需給両面における様々な課題の克服を野心的に想定した場合」として、2030年度のエネルギー需給見通しを図示。総発電電力量は現行の2030年エネルギーミックスの約1兆650億kWhから約13%減の約9,300億kWhと見込まれた。電源構成では、再生可能エネルギーが36~38%(2030年エネルギーミックスで22~24%)、水素・アンモニアが1%(同0%)、原子力が20~22%(同・同じ)、LNGが20%(同27%)、石炭が19%(同26%)、石油が2%(同3%)となっている。今回のエネルギー基本計画の素案では、「国民各層とのコミュニケーションの充実」の項目の中で、エネルギー教育に関して具体的な記述がなされている。最近日本原子力学会より中学校教科書のエネルギーに関する記述で調査報告が出されたところだが、素案では、「エネルギー選択は、理科、社会、家庭科、技術科といった様々な教科にまたがる上、『正解』がない課題でもあり、子供たちが自らの考えを深め、『じぶんごと』として向き合うことができるテーマ」と、重要性を強調。その上で、エネルギー教育に関する授業展開例や副教材、電力バランスについて考えるゲーム・コンテンツの作成、全国各地でエネルギー教育に取り組む教員の支援などを例示している。基本政策分科会では、エネルギー基本計画の取りまとめに向け、今回会合での議論も踏まえ、引き続き審議を行う。
21 Jul 2021
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量子科学技術研究開発機構(QST)は7月15日、小型化・高性能化した次世代の重粒子線がん治療装置「量子メス」に関する研究成果を紹介し将来構想について考えるシンポジウムを都内ホール(オンライン参加含む)で開催した。重粒子線がん治療装置は、QSTで1994年に「HIMAC」(千葉市・放射線医学研究所の医用専用加速器)が臨床試験を開始して以来、兵庫、佐賀など、国内各地域に順次開設され、2021年2月には山形東日本重粒子センターが全国7か所目の施設として稼働した。「『がん死ゼロ健康長寿社会』の実現を目指して」と題する今回シンポジウムの開会に際し挨拶に立った平野俊夫理事長は、「人生100年時代。100歳まで元気に暮らすことが当たり前の時代を迎える」として、高いQOL(生活の質)を維持したがん治療を実現する「量子メス」の開発意義を強調。さらに、2016年度の放射線医学総合研究所と日本原子力研究開発機構の量子ビーム・核融合部門との統合によるQST発足時の初心に立ち返り、改めて各部門が取り組む超伝導やレーザー加速などの「技術を統合する強み」を活かすことに意欲を示した。2016年に行われた「量子メス」開発協力協定の調印式(左より、三菱電機・柵山社長、日立・中西会長、QST・平野理事長、東芝・綱川社長、住友重機・別川社長〈いずれも肩書は当時〉、帝国ホテルにて)「量子メス」の開発協力に関しては、2016年12月に締結されたQST、住友重機械工業、東芝、日立製作所、三菱電機による協定がこのほど期間満了を迎え、今後は社会実装に向けた新たな研究開発段階へと移行する。シンポジウムでは、このうち住友重機から岡村哲也副社長、東芝から綱川智社長、日立から菊池秀一・ヘルスケア事業部長がビデオメッセージを寄せた。それぞれ、「一流商品とサービスで社会に貢献」、「すべての人が健康で質の高い生活を送れる世界の実現」、「新しい価値を創出するデジタルイノベーション」の理念のもと、より小型化した装置の国内外普及とともに、各社の技術力向上につながった5年間の協力成果を語り、今後のさらなる低コスト化、世界標準化に期待した。世界最高の集光強度を誇るレーザー装置「J-KAREN」(QST発表資料より引用)重粒子線治療は「装置が巨大で高額」なのが課題だが、小型化に向けた技術開発の成果について、QST量子メス研究プロジェクトマネージャーの白井敏之氏らが発表。同氏は、「HIMAC」(第1世代装置、120×65m)と対比し、「プラントではなく治療室の中に置くことができる医療機器」を目指して、6分の1規模の第4世代装置(45×34m)、40分の1規模の第5世代装置(10×20m)と、2段階の開発戦略を図ったとしている。超伝導技術とマルチイオン照射(正常組織の近傍には副作用が少ない粒子線を照射するなど、がんの状態・領域に応じビーム種を最適化)を応用する第4世代装置については、2022年度の建設開始、2026年度の治療開始を目途とするロードマップを示し、今後の実証機器製作・臨床試験に向けても「メーカーの協力が欠かせない」と強調。また、同サブマネージャー・近藤公伯氏は、第5世代以降の装置開発に関し、QST関西光科学研究所にある世界トップクラスの極短パルス超高強度レーザー「J-KAREN」を用いた研究成果を披露した。パネル討論の模様(左より、門村氏、大野氏、宮崎氏、眞島氏、佐野氏、インターネット中継)この他、パネル討論(モデレーター=門村幸夜・科学技術・学術政策研究所客員研究官)が行われ、大野達也氏(群馬大学重粒子線医学センター腫瘍放射線学教授)、宮崎勝氏(国際医療福祉大学副学長)、眞島喜幸氏(NPO法人パンキャンジャパン理事長)、佐野雄二氏(科学技術振興機構未来社会創造事業プログラムマネージャー)が登壇。難治がんに対する重粒子線治療の臨床研究に関わってきた経験から宮崎氏は、医療従事者への啓蒙を図るべく、「治療のエビデンス発信」の重要性を繰り返し強調。妹がすい臓がんと診断されたことを機にがん患者・家族の支援活動を行っている眞島氏は、治療法を選択する患者の立場から、保険適用の必要性を指摘したほか、タレントの西郷輝彦さんが前立腺がんの最先端治療のためオーストラリアに渡った報道を例に、「ジャーナルに載ることも有効」などと、メディアの果たす役割にも言及。重粒子線治療の普及に向け、大野氏、佐野氏は、それぞれ、放射線治療・高等教育、内閣府の革新的研究開発プログラムに関わる立場から人材育成の重要性を述べた。討論を受け、群馬大学名誉教授でQST量子生命・医学部門長の中野隆史氏がコメントに立ち、医療関係者の間でも重粒子線治療が十分理解されていない現状から専門の学会を最近立ち上げたことに触れ、「治療した患者さんと一緒に啓蒙活動ができれば」などと述べた。
20 Jul 2021
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【国内】▽2日 東京電力が核物質防護に関する独立検証委員会を設置▽2日 「日本量子医科学会」が設立記念シンポ、がん治療から宇宙進出まで展望▽4日 2020年度エネルギー白書が閣議決定、「2050年カーボンニュートラル」など取り上げ▽7日 福島第一処理水の取扱いに関する政府WGが宮城県で開催、村井知事他が意見陳述▽7日 原子力学会が福島第一処理水の取扱いで見解、12日には風評被害対策などを考えるウェブセミナー開催▽8日 東芝ESS製、ITERトロイダル磁場コイル(高さ16.5m、総重量300トン)の初号機が完成▽10日 電力会社原子力本部長らが核物質防護事案を巡り、業界大の取組を規制委に報告▽16日 四国電力が伊方3号機を10月12日に原子炉起動すると発表、2019年に定検入りし司法判断で運転停止中▽18日 経産省が新たな「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」を策定▽21日 原子力立地地域の将来像を考える「共創会議」が福井県で初会合、自治体・国・電力が参画▽22日 原子力機構のバックエンド対策でIAEAによる国際レビュー結果が公表、79施設の取組を評価▽23日 規制委が中国電力島根2号機で新規制基準適合性に係る審査書案を了承、日本原燃六ヶ所低レベル放射性廃棄物埋設センター増設の同案件も▽25日 福島第一処理水の取扱いに関する政府WGが茨城県で開催、大井川知事他が意見陳述▽25日 小惑星「リュウグウ」の試料分析開始で高エネ研他が合同会見、J-PARCなどの施設活用▽29日 関西電力美浜3号機が10年ぶりに発電再開、国内初の40年超運転 【海外】▽ 1日 米TVA、ブラウンズフェリー発電所の2回目の運転期間延長に向けパブコメ募集▽2日 米テラパワー社、ワイオミング州におけるナトリウム冷却高速炉の実証炉建設協力で州知事らと合意▽4日 中国の国家発展改革委、中国核工業集団公司のSMR「玲龍一号」実証炉建設計画を承認▽7日 英国で約40年稼働した改良型ガス冷却炉、ダンジネスB原子力発電所が永久閉鎖▽8日 ロシアがシベリア化学コンビナートで鉛冷却高速実証炉「BREST-300」を着工 ▽8日 韓国原研とサムスン重工、海上浮揚式原子力発電所の共同開発で協力協定締結▽9日 カナダのオイルサンド業界、生産時のCO2排出量実質ゼロ化に向けSMRの活用を検討▽9日 IAEA、原子力技術で地球温暖化の影響を緩和する新たな戦略構想を開始▽11日 米国防総省、USNC社の協力を受け、月まで航行する原子力推進システムを開発へ▽11日 カナダの原子力NPO団体、原子力が水素製造支援で果たす役割を調査▽14日 米規制委、セントラス社が計画するHALEU燃料製造で最大20%のウラン濃縮を許可▽16日 中国当局、米国メディアによる「放射能漏れの発生疑惑」報道を受け、台山1号機で小規模な燃料破損の発生を認める▽18日 中国の国家原子能機構、高レベル廃棄物の地層処分に向け甘粛省で地下研究所が着工したと発表▽21日 米デューク・エナジー社がオコニー原子力発電所で2度目の運転期間延長を申請▽22日 米USNC社、自社開発SMRの燃料試験にオランダのペッテン炉を活用すると発表▽22日 ルーマニア議会、チェルナボーダ3、4号機の完成に向け米国との協定を批准▽25日 中国の紅沿河5号機が初併入▽25日 米オクロ社、超小型高速炉「オーロラ」に使用する先進的原子炉燃料の商業化でエネ省基金から100万ドル獲得▽23日 英国で稼働するAGRのデコミもNDAが引き受け 英仏が合意▽28日 米イリノイ大、USNC社製「マイクロ・モジュラー・リアクター」の建設に向け規制委に意向表明▽28日 インドでロシア製のクダンクラム5号機が着工 ▽30日 エジプトの原子力発電庁、ロシア製のエルダバ発電所の建設許可を申請 ▽30日 米貿易開発庁、ポーランドの原子力導入計画支援で同国企業に補助金を交付すると発表 ☆過去の運転実績
16 Jul 2021
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