京都フュージョニアリングは3月12日、筑波大学とプラズマ加熱に関する特別共同研究契約を締結したと発表した。核融合エネルギーの早期実現を目指すもの。〈発表資料は こちら〉同社は、京都大学発のベンチャー企業で、核融合反応を起こすために必要なプラズマ加熱システム「ジャイロトロン」の開発・販売を主力事業の一つとしている。核融合発電試験プラント「UNITY」の建設を目指し、昨秋には、京都府久御山町に自社研究開発施設「京都リサーチセンター」を開設。海外との連携意欲も旺盛で、北米企業・研究機関との受注契約や協力覚書締結に続き、2月には、英国原子力公社(UKAEA)とトカマク型炉のブランケット設計に係る技術開発に共同で取り組むべく包括協定を締結している。核融合反応でカギとなるプラズマ閉じ込め方式は、ITER(国際熱核融合実験炉)計画で採用されるトカマク型の他、ヘリカル型、ミラー型、レーザー方式があり、今回、同社が特別共同研究契約を締結した筑波大は、その中で、ミラー型の世界最大級となるプラズマ閉じ込め装置「GAMMA-10」を保有。「GAMMA-10」では、核融合反応に不可欠な超高温プラズマの持続方法などを検証することができ、プラズマ加熱に関する様々な試験を行う。今後、両者は、低周波ジャイロトロンにおける連続動作の実証や高出力化の開発などを通じ、プラズマ加熱に関する技術成熟度の向上を目指す。なお、昨今、政府による「フュージョンエネルギー・イノベーション戦略」(2023年4月統合イノベーション戦略推進会議決定)を受け、国内民間企業による核融合エネルギー実用化に向けた海外投資の動きも顕著だ。3月7日には、伊藤忠商事が、米国スタートアップ企業のブルー・レーザー・フュージョン(BLF)社と資本・業務提携を締結したと発表している。カリフォルニア州に本社を置くBLF社は、2014年にノーベル物理学賞を受賞した中村修二氏が共同創業者として2022年に設立され、レーザー方式による核融合商用化を目指している。
12 Mar 2024
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福島第一原子力発電所事故から13年に当たり、3月11日、原子力規制委員会の山中伸介委員長が原子力規制庁職員らに訓示を行った。山中委員長はまず、元旦に発生した能登半島地震を振り返り、「多くの方々が犠牲となり、いまだに避難生活を余儀なくされている」と、被災者への哀悼および見舞いの意を述べた上で、強い揺れに見舞われた石川県志賀町に立地する北陸電力志賀原子力発電所について、「安全性が確保された状態が続いているが、現地検査官は引き続き、その状態が維持されていることを確認して欲しい」と指示。さらに、「自然災害は避けることはできない。しかし、どのような自然災害に対しても、福島第一原子力発電所のような事故を二度と起こしてはならない」と、あらためて事故の反省・教訓を忘れぬよう訓示した。一方で、「日々の業務を進めていく中で、熱い気持ちが冷めていくことはないだろうか」と、事故後13年が経過し、継続的改善の姿勢が緩むことを危惧。山中委員長は、大阪大学で教鞭を執っていた経験などを踏まえ、「学びとは真理(まこと)を胸に刻むこと。教えとは希望を人に語ること」というフランス詩人のルイ・アラゴンによる名言を紹介し、「教えることで学ぶ。教えてみて、初めて自身の能力・技量を自ら測り、自身の無知を知り、明日への学びにつながっていく」と、知識・経験の伝授を通じて「原子力規制委員会全体の活力」向上に向け相乗効果が図られるよう期待した。原子力規制委員会は2012年に発足し、現在、当初の委員らはすべて交替。3代目委員長として指揮を執る山中委員長は「原子力に100%の安全はない」と、現状に慢心せず科学技術的視点に立脚した判断を行う同委の行動理念をあらためて強調。29年前の阪神淡路大震災による被災経験も振り返り、原子力災害からの復興が長期化していることを懸念しながら、「10年後の自分自身について考えて欲しい。最上のものは過去ではなく未来にある」とも述べ、変化を恐れず職務に当たるよう訓示した。
11 Mar 2024
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消費者庁は3月7日、東日本大震災後の農林水産物に対する消費者意識の実態調査結果を発表した。調査は2013年2月の初回以降、ほぼ年1回行われている。17回目となる今回は、被災地域(岩手、宮城、福島、茨城の各県)および被災県産農林水産物の主要な仕向け先(埼玉、千葉、東京、神奈川、愛知、大阪、兵庫の各都府県)に居住する20~60代の男女約5,000名を対象として、2024年1月~2月にインターネットを通じて実施。その結果、普段の買物で産地を気にする理由として「放射性物質の含まれていない食品を買いたいから」と回答した人の割合は9.3%となり、前回の10.5%を下回り、これまでで最小となった。同様に、放射性物質を理由に購入をためらう産地として「福島県」、「被災地を中心とした東北」、「東北全域」、「北関東」と回答した人の割合も減少傾向を示し、それぞれ、4.9%、3.4%、1.3%、1.1%と、いずれもこれまでの調査で最小を記録。「食品中の放射性物質の検査が行われていることを知らない」と回答した人の割合は61.5%で、2020年度調査で急増後、最近4年間は横ばい傾向にある。また、風評を防止するために行うべきこと(複数回答可)としては、「それぞれの食品の安全性に関する情報提供」をあげた人が45.9%で最も多く、これに次いで、「食品に含まれる放射性物質に関する科学的な説明」が30.6%、「それぞれの食品の産地や産品の魅力に関する情報提供」が29.7%、「海外と比較し厳しい安全対策を実施している旨の内外への情報提供」が26.7%となった。一方で、「何もやっても安心できるとは思わない」との回答割合は18.7%を占め、前回調査の14.8%から3.9ポイント増加。消費者庁では、食品安全委員会や厚生労働省とともに、生産者・流通関係者・消費者団体を招いた食品リスクコミュニケーションに係るシンポジウムを全国都市部で継続開催し、理解・対話活動に努めているが、「風評の固定化」に係る懸念も浮き彫りとなっている。今回の調査結果を踏まえ、消費者庁では、引き続き関係府省庁や地方自治体とも連携し、意見交換会の開催、多言語によるパンフレット活用などを通じ情報発信に取り組んでいくとしている。
08 Mar 2024
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電力広域的運営推進機関(OCCTO)に設置された有識者検討会では、2040・2050年を時間軸とした電力需給シナリオについて、昨秋より、多様性、客観性、事後検証性、発展性をポイントに、専門的知見を有する「技術検討会社」として、電力中央研究所、地球環境産業技術研究機構(RITE)、デロイトトーマツコンサルティング合同会社の3社からヒアリングを行い、2024年度末までの取りまとめを目指し検討を進めている。同検討会は3月5日、4回目の会合を開催した。〈配布資料は こちら〉今回会合では、産業構造変化に伴う電力需要見通しについて、事務局が1~2月に実施した作業会で業界団体から寄せられた意見を踏まえ、データセンター、半導体、自動車産業、鉄鋼産業、化学産業、自家発関連、熱需要の各要素に係る電力需要の分析結果を整理。その中で、通信ネットワークを支える重要なインフラ設備となるデータセンターに関しては、大手通信会社3社の2022年における電力需要が86億kWh程度(日本の電力需要全体の1%弱)にも上っている現状が示された。特に、リモートワーク・ワーケーションが急速に普及し始めた2020年以降、高速通信を可能とする「5G設備」の本格的な設置準備が供用空白エリアを埋めるべく進んだこともあり、昨今、データセンターに係る電力需要の増加傾向が顕著となっている。さらに、「データ量は指数関数的に増加しており、2017~22年で年間平均成長率は30%」、「情報処理システムに係る需要設備であることから、常時、電力使用の変動が小幅で一定。そのため増加する電力需要に対応し、供給力のベースアップが必要」などと指摘した。これを受け、電中研社会経済研究所の間瀬貴之氏らが、産業構造変化を踏まえた2050年度までの電力需要想定について発表。データセンターにおける電力需要増については、決定要因となるパラメーターとして、「床面積」と「平均電力密度」(電力需要/床面積)に着目し、2030年代前半までの増加分について、電力需要増に関する昨秋の電気新聞報道(500億kWh)、OCCTO供給計画(300億kWh)、技術革新・省エネにより需要増の要因は鈍化または同程度、の3ケースを前提としたそれぞれ、「High」、「Mid」、「Low」のシナリオを提示。その結果、2050年度のデータセンターの電力需要を430億~2,110億kWhと想定し、「データ利用量が増加していくことは確度が高い」とする一方で、基地局の立地や技術開発の動向などから「将来が読みづらい」と、今後の検討に向け、不確実性を十分に認識しておく必要性を強調した。この他、RITEシステム研究グループリーダーの秋元圭吾氏が独自の温暖化対策評価モデル「DNE21+」による分析結果を紹介し、データセンターの電力需要に関しては、半導体需要増のシナリオモデルを高位・中位・低位のケースで想定・分析。2050年時点で、およそ3倍もの開きがあることを図示した上で、「価格弾力性を考慮する」必要性などを指摘した。デロイトトーマツコンサルティングの濱﨑博氏らは、日本を地域別人口や工業製品出荷額に応じ按分した電力需要の分析モデルを紹介。2050年のデータセンターの消費電力増については、科学技術振興機構のデータをもとに960億kWhと想定した上、将来的に「立地場所と地域的な電源配置の計画を合わせて検討していくことが重要」などと指摘した。今回、それぞれの分析結果により想定幅が見られたことなどを踏まえ、OCCTOでは、引き続き「技術検討会社」とさらにコミュニケーションを深めていくとしている。
07 Mar 2024
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原子力発電環境整備機構(NUMO)は3月1日、「私たちの未来のための提言コンテスト」の受賞作品を発表した。NUMOでは、高レベル放射性廃棄物の地層処分を進めるに当たり、将来的に世論形成の中核となる次世代層に関心を持ってもらうため、学生を対象に、処分事業の理解促進につながる方策をテーマに「提言」を募集している。5回目となる今回は、2023年9月~24年1月の募集で計198編の「提言」が寄せられた。「高専4年生以上・大学生・大学院生」と「中学生・高校生・高専3年生以下」の2部門で審査が行われ、「高専4年生以上・大学生・大学院生」の部門では、最優秀賞として、東海大学大学院工学系研究科の地井桐理子さんによる「地層処分が抱えるコミュニケーション的課題と、当事者意識を生むためのきっかけづくりの提案」が選ばれた。地井さんは、処分地選定における「NIMBY」(Not In My Backyard、必要なのはわかるが自分の家の裏庭には作らないで欲しい)問題の背景に、「コミュニケーション方法が影響している」ことに着目。社会科学分野の考え方から、「最初から地層処分の受入れを国民に投げかけている現状が問題」と指摘した上で、「まずは議論を喚起することによって、人々は当事者意識を持つのでは」と考察。その「きっかけづくり」として、手軽に見られる1分以内のYou Tubeのショート動画を利用した情報提供を提案した。地井さんが作成した動画では、ボール状の愛らしいキャラクターが日本のエネルギーや原子力発電の使用済み燃料などに関する問題を提起し解説。実際、地層処分についてほとんど知識のない大学生・社会人に動画を視聴してもらい、アンケートをとったところ、認知度の向上が見られたことから、「短い・早い・手軽」な情報提供手段として、ショート動画の利用が期待できるとしている。「中学生・高校生・高専3年生以下」の部門では、最優秀賞として、島根大学教育学部附属義務教育学校9年(中学3年)の生徒6名による「高レベル放射性廃棄物の地層処分を目指して」が選ばれた。生徒らは、原子力発電に焦点を当てた探求の中で、地元に立地する島根原子力発電所で保管される使用済み燃料の行く末に着目。高レベル放射性廃棄物の地層処分に関して、「まず問題の背景を自分たちで調べる」ため、校内の生徒や家族、教職員、教育実習生らへの認知度調査、理科・社会科の教科書における記述調査の他、県外高校生との意見交換も実施。福井県の高校生との意見交換からは、「高レベル放射性廃棄物の問題は、日本全体の課題として、すべての地域の同世代が認識を広げ解決を目指す必要があると実感した」という。これらの活動を踏まえ、生徒らは資源エネルギー庁の職員と島根県知事から地層処分に関する認知度向上に向け、各々話を聞いた上で、「同世代同士で考えを共有する」ため、授業の場で実験を通じて科学的に理解し話し合うこと、環境に関する全国イベントへの参加などを提案した。
06 Mar 2024
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第6次エネルギー基本計画の策定(2021年10月閣議決定)から間もなく2年半となり、法令に定める見直しの時期を迎えつつある中、原子力委員会前委員長の岡芳明氏を含む9名の有識者らが「第7次エネルギー基本計画」の検討に向けて、2月24日に報告書「エネルギードミナンス」を発表した。これまでも政府審議会などで意見を述べてきたキヤノングローバル戦略研究所研究主幹の杉山大志氏が全体を取りまとめている。同報告書では、「強く豊かな日本を造るために、豊富、安価、安定なエネルギーを供給し、エネルギーに関する優勢(ドミナンス)を築く」という概念から、「電気料金は東日本大震災前の水準を数値目標とする」など、計11項目の提言を発表。エネルギー需給に関しては、「原子力を最大限活用する(全電源に占める比率50%を長期的目標)」、「化石燃料の安定利用をCO2規制で阻害しない」こと、さらに、再生可能エネルギーの導入や省エネに係るコスト低減や規制制度とともに、EV推進に伴う日本の自動車産業振興への影響にも留意。国際公約の関連では、「パリ協定を代替するエネルギードミナンス協定を構築する」ことにも言及している。現行のエネルギー政策については、「極端なCO2排出削減目標に束縛され、かつイデオロギー的に技術選択が太陽光・風力・電気自動車などに偏狭に縛られているがゆえに、コストが高く、持続不可能に陥っている」と指摘。その中で、太陽光発電に関しては、天候に左右されるデメリットを「間欠的」と懸念したほか、昨今の自然災害多発に鑑み「破損しても発電し続ける特徴から、感電による二次災害が発生する恐れがある」と危惧し、大量導入を停止する必要性を述べている。原子力については、「発電量当たりの人命リスクが最も低く安全な電源」と評価した上で、安価で安定な電力の安定供給に向けて、早期の再稼働、運転期間延長、更新投資、新増設が不可欠と強調。その一方で、安全規制と防災に関し「リスク・ベネフィット」の考え方がないバランス感の欠如から、「リスクゼロ」を追い求める姿勢を危惧。さらに、「原子力を利用しないことによるエネルギー安全保障上のリスク、経済上の不利益も大きい」ことを指摘し、今後のエネルギー基本計画改定の中で、さらに議論を深めていく必要性を示唆している。福島第一原子力発電所事故から間もなく13年。報告書では、昨今の原子力発電を巡る状況に関して、BWRプラント停止の長期化、電気料金高騰による国民生活への悪影響などを踏まえ、「個別の審査だけではなく、中長期的な課題を含め検討すべき時期にある」とも述べている。
05 Mar 2024
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大阪大学大学院工学系研究科に、研究者が中立的立場で福島第一原子力発電所事故の調査に取り組む「1F-2050」チームが設置されている。事故の進展過程を解明するとともに、行政機関や他大学とも連携し、中長期的には廃炉対策・福島復興に資することを目指す部門横断的な総勢20名程度のグループだ。チーム名は、エネルギー需給の視点で「2050年カーボンニュートラル」への貢献を最終目標としていることに由来。次世代革新炉の開発に向けた原子力安全に係わるフィードバックも視野に入れている。同チーム代表の村田勲教授らが、2月27日の原子力委員会定例会合で、活動状況について説明した。〈阪大発表資料は こちら〉同氏は、「純粋なアカデミア」として活動するチームの意義を述べる一方で、原子力規制委員会が設置する事故分析検討会への参加経緯も踏まえ、「あまりにも存在するデータが多過ぎる」などと、事故原因の解明に向け、現地調査の困難さ、技術的論点の山積する現状をあらためて指摘。テーマを絞って分析していく必要性を強調した上で、今後「多くの専門家の参加が不可欠」との問題意識を示した。同チームでは、まず現状把握として、1号機の原子炉格納容器(PCV)内の状況調査に着目。1号機については、東京電力において、水中ROV(潜水機能付きボート型ロボット)によるPCV内部調査がこれまでに実施されており、2024年2月末からはPCV全体の状況を把握すべく、小型ドローンやヘビ型ロボットの導入が行われている。東京電力によると、1号機では昨春、ペデスタル(原子炉圧力容器下部の土台)の内壁で、コンクリートが溶け落ち配筋が露出し、ガレキ・塊状の堆積物が確認されている状況。今回の原子力委員会会合で、阪大の大石佑治准教授が同機ペデスタル周辺のコンクリート破損要因に関し、機械的破損、水との反応、溶融の3つのシナリオによる調査・分析結果を紹介。模擬コンクリートによる物性試験を、ホームセンターや阪大研究施設から購入・サンプリングした材料で実施したところ、溶融温度がコンクリートの種類によって異なることなどから、「実際とできるだけ同じものを用いなければならない」必要性が判明したという。現在は福島県産の川砂を用いた加熱試験も進めており、今後、爆裂試験、高圧試験、組成・粘性評価など、さらに専門的分析を進めていく考えだ。「1F-2050」チームからの説明を受け、原子力委員会の上坂充委員長は、工学系の研究に関ってきた経験から、事故発生時における海水注入に伴う塩分の影響にも言及した上で、TMI事故など、海外のデータも含め、さらに多くの情報を収集し詳細な分析が進むよう期待した。
04 Mar 2024
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東北電力は2月27日、女川原子力発電所2号機(BWR、82.5万kW)における使用済み燃料乾式貯蔵施設の設置について、宮城県ならびに女川町・石巻市に対し、地元との安全協定に基づき、事前協議を申し入れるとともに、翌28日には、原子力規制委員会への原子炉設置変更許可申請を行った。〈東北電力発表資料は こちら〉女川2号機については、丁度4年前の2020年2月、新規制基準適合性審査に係る原子炉設置変更が許可された後、現在、2024年9月の再稼働に向け、安全対策工事が進められている。同機の使用済み燃料プールは、再稼働から4年程度で貯蔵容量の上限に達する見通しで、使用済み燃料を発電所外に搬出するまでの間、敷地内で一時的に貯蔵する施設として、今般、乾式貯蔵施設を2棟設置することとした。乾式貯蔵施設は、使用済み燃料プール(PWRでは燃料ピットとも呼ばれる)で十分に冷却された使用済み燃料を、堅牢な金属製乾式貯蔵容器に収納し、空気の自然対流により冷却する。原子力発電所構内における同貯蔵方式については、日本原子力発電・東海第二で運用されているほか、中部電力・浜岡、四国電力・伊方、九州電力・玄海の各発電所でも規制委員会による審査対応など、設置に向けた準備が進められている。最近では、関西電力が2月8日、美浜、高浜、大飯の各発電所における設置計画を発表し、福井県および各立地町に対し事前了解願を提出した。乾式貯蔵容器は、地震や竜巻などの自然現象で貯蔵建屋に損傷が生じた場合にも、安全機能を維持できる設計。実際、東日本大震災時にも、福島第一原子力発電所に設置された同貯蔵容器の頑健性が保たれた。東北電力では、2026年5月にも乾式貯蔵施設の工事に着手し、2棟それぞれ、2028年3月、2032年6月の運用を目指しており、今後、規制委の審査に対する適切な対応、地域から理解を得られるようわかりやすい丁寧な説明に努めていくとしている。
28 Feb 2024
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クリアランス制度の普及に力を入れる福井県で、高校生が「クリアランス金属」を活用した防犯灯をデザイン。このほど、完成した防犯灯を披露するとともに、地元住民を対象に実施したクリアランス金属の理解活動について、同県の杉本達治知事に報告した。今回完成した防犯灯は、廃止措置が進む日本原子力発電・東海原子力発電所(GCR)に設置されていた燃料取替機由来のクリアランス金属を使用。下から見ると六角形になっており、福井県の県花である水仙をモチーフとしている。手掛けたのは、福井南高等学校・浅井ゼミ(浅井佑記範教諭)のゼミ生9名。同ゼミでは、ゼミ生がリーダーシップを取り、原子力や地層処分問題などの社会課題に取り組んでおり、2021年以降毎年「高校生の原子力に関する意識調査」を実施していることでも有名だ。最寄駅から学校までの通学路が暗く、生徒が田んぼに落ちてしまう事故が絶えないこと、そして県の事業として掲げられたクリアランス金属のリサイクルが進まないことから、防犯灯としての活用を思いついたという。防犯灯は学校周辺の通学路上や公民館に設置するだけでなく、嶺北地方の各自治体にも配布する。クリアランス金属は放射性物質の放射能濃度が低く、人への健康影響がほとんどない。ゼミ生たちは防犯灯の設置にあたって、地域住民を対象に説明会を開くなど、クリアランス金属への理解を求める活動も行った。同ゼミはこうした地道な活動が評価され、アジア鋳物会議や日本原子力学会などの場で数々の賞を受賞している。クリアランス金属の活用についても、原子力について学んでいく過程で知ったというゼミ生たちは、「社会にもっと原子力やクリアランス制度が浸透するような活動を行っていきたい」(西田杏乃さん)と、杉本知事に抱負を語った。ゼミ生たちからの報告に終始ニコニコと耳を傾けていた杉本知事は、「原子力にいろいろな課題があることを認識した上で、クリアランス金属を防犯灯のように身近なところで活用しようというアイデアが素晴らしい。田んぼに落ちてしまうのがきっかけといったところを楽しく拝聴したが、皆さんは同時に大きな社会課題に取り組んでいる」とゼミ生たちを称賛。そして、「多くの国民が原子力発電の大切さをわかっているが、そこから出る廃棄物は敬遠されており、安全であるにもかかわらず使われない事態が続いている」と憂慮し、「県ではクリアランス金属を資源として産業化する日本初のリサイクルビジネスに取り組もうとしており、いずれこの防犯灯も福井県の名産品にしたい」との強い意欲を示した。また杉本知事は福井県に立地する原子力発電所について、「発電するだけでなくCO2排出量削減などの副次的効果も大きい。安価な電力供給が可能で、社会が発展していく礎にもなる。さらに言うならば、原子力なしでは日本の電力需要を賄えない」と指摘。「(原子力のように)なくてはならないものを忌避しつつも、安いからと言って利用するという状況に矛盾を感じる。危ないというならば何が危ないのか、いかにしてそれを安全にしていくのか、と考えることが人類の叡智ではないか」との認識を示した。そして同ゼミがまとめた原子力に関する意識調査(上述)にも触れ「県議会でも話題になり私も拝読したが、県内でも原子力発電所が立地する嶺南と、立地しない嶺北とでは意識に大きな差があることが分かった。嶺北は東京とほとんど意識に差がないようだ。県内でももっと早い段階から(エネルギー教育を)進めていけないか、教育機関や教育委員会なども含めて検討していきたい」と述べた。
28 Feb 2024
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筑波大学はこのほど、治療法が確立できていない難治性の悪性脳腫瘍である膠芽腫を対象に、加速器による「ホウ素中性子捕捉療法」(BNCT)を適用した治験を開始すると発表した。〈筑波大発表資料は こちら〉膠芽腫は、脳腫瘍の中でも最も悪性とされており、頭痛やめまいなどの主訴を示さない乳幼児にも発生するほか、働き盛りの世代ではストレスに起因する自律神経失調症とも症状が混同され、診断が難しく進行が極めて速いことで知られている。また、浸潤性(正常組織との境界が不明瞭で手術で患部を完全に切除できない)や、術後の社会復帰に対する懸念もあり、治療が困難な悪性新生物(がん)の一つだ。BNCTは、放射線治療の一種で、「がんを細胞レベルでピンポイントに破壊する」もの。がん細胞だけに集積する性質のホウ素薬剤を投与、患部にエネルギーを調整した中性子を照射し、中性子とホウ素が核反応し発生したアルファ線とリチウムががん細胞を破壊するというメカニズムだ。粒子線治療でも治療が困難な、正常組織に浸み込んだがんに対する新たな治療法として注目されている。これまで、原子炉を利用した実証もなされてきたが、加速器を利用した中性子システムも京都大学と住友重機械工業の共同により開発が進められている。筑波大学はこれまでも陽子線治療で実績をあげており、新たな治療システムについても、近隣に立地する高エネルギー加速器研究機構との協働で要素技術実証と臨床試験の相乗効果も図れる。同学が2月26日に発表したところによると、今回の加速器によるBNCT治験は初発膠芽腫の患者を対象とした世界初のもの。これまで5年生存率が10%程度と極めて低く、手術と放射線・化学療法を組み合わせても多くが再発し治療が困難であったが、すべてを取りきれない難しい部位に悪性腫瘍がある患者を対象にBNCTの安全性・忍容性を検証することで、高い有効性が期待される、としている。今回の治験開始に際し、プロジェクトリーダーの同学陽子線治療センター部長の櫻井英幸氏は、「決して治すのが容易ではないような、難治性がんへの挑戦だ」と、BNCT治療法への期待を述べた。
27 Feb 2024
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大林組は2月22日、ドローンおよび自律4足歩行ロボット「Spot」を用いた放射線計測システムを開発したと発表した。原子力災害被災地の復興にも貢献する技術で、福島県浜通りの飯舘村に活動拠点を置く菊池製作所他との共同によるもの。〈大林組発表資料は こちら〉除去土壌の中間貯蔵施設における放射線量の計測は、モニタリングポストによる定点観測や歩行調査などの手法が採用されており、広大な敷地に対し、面的に計測を行う技術が確立されていないことから、大林組では、被ばく低減とともに、人手不足に対応する省力化の必要性にも着目。現地(大熊3工区土壌貯蔵施設)での実証試験を通じ、「局所的に放射線量の高い箇所が発生していないか」など、放射線量の計測を高度化・省力化させる技術を実現したもの。同社は、これまでもフレコン(除染廃棄物を保管した袋)の放射能濃度測定で、車両積載のまま運用可能な測定ゲートの開発を、放射線測定機器メーカーのキャンベラジャパンと手がけた経験を有している。実証試験を行った中間貯蔵施設は、除染作業で発生した土壌を覆土。「地表面に局所的に放射線量が高い箇所が発生していないか」観測する調査を、鉛の遮蔽体が装着された検出器を搭載するドローンおよび「Spot」で行った。ドローンは広大な面積を迅速に計測。一方、自律4足歩行ロボット「Spot」はより詳細に異常箇所を特定でき、ドローンの飛行できない建屋内にも立ち入り計測することも可能だ。現地では、1メガベクレルの線源を地表面に設置。ドローンおよび「Spot」を直上に走行させたところ、6か所のピークで線源を特定し、十分に小さな放射線量でも検出できることが実証された。今回の計測技術開発を受け、大林組では、除去土壌の中間貯蔵施設や減容・再生利用だけでなく、原子力発電所の廃止措置における建屋周辺および内部のモニタリングや、放射性廃棄物の地下埋設後の点検作業にも有用、と期待を寄せている。実証試験では、狭あいエリアを詳細に検査する有効性も確認。1時間当たり約4,500㎡の速度で計測したほか、通常の人による歩行調査(約1,100㎡/人・時間)の約4倍の効率性を実現した。さらに、日常業務として、広範囲の計測にドローンを使用する場合、1時間当たり約40,000㎡(東京ドームの約8割の面積に相当)の計測も可能となると見込まれ、今後は他分野への波及効果も期待できる。
26 Feb 2024
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京都大学経済研究所先端政策分析研究センター(CAPS)は2月17日、18日の2日間、シンポジウム「東日本大震災における原発事故による福島の損害賠償と復興~これまでの歩みとこれから~」を京都大学・吉田キャンパスで開催した(共催:京都大学社会科学統合研究教育ユニット、公益財団法人 KIER経済研究財団)。CAPSは、行政機関等と連携して政策研究を進める組織で、研究成果の社会発信の一環として、シンポジウムを開催している。今回は、会場およびオンラインのハイブリッド開催で、両日合わせて200名超が参加した。17日は、「福島の原子力損害賠償」をテーマに講演とパネル討論が行われた。最初にCAPSの山下恭範特定准教授が、福島の損害賠償と復興について概況を説明。その後、松浦重和氏(文部科学省研究開発局前原子力損害賠償対策室室長代理)が、原子力損害賠償紛争審査会(審査会)による中間指針の策定とその改訂等について、策定作業に携わった立場から基調講演を行った。松浦氏は、福島第一原子力発電所の事故による賠償すべき損害が、中間指針で類型化して示されたことで、被害者の立証の負担が軽減されたほか、賠償金の支払いが迅速化したと説明。また、事故にともなう7件の集団訴訟の確定判決を踏まえ、審査会が2022年12月に「中間指針第五次追補」を決定したが、その後、集団訴訟においてもこの追補を踏まえて和解する例が出ていることなどを報告した。賠償請求に関して和解仲介を担っている原子力損害賠償紛争解決(原賠ADR)センターについては、人手不足等の課題は残るものの、「訴訟によらない救済の受け皿として、非常に大きな役割を担っている」と指摘した。続いて、審査会で会長代理等を10年以上にわたり務めた大塚直氏(早稲田大学法学部教授)が、福島における原子力損害賠償の意義と課題について、法的な観点から講演。審査会の指針は、事故による被害の状況を踏まえた考慮の結果、①原状回復の理念を一部取り入れたこと、②不安に対する精神損害を一部認めたこと、③間接損害の要件を緩和したこと、④環境損害を正面から認めたこと──等において、不法行為法の判例を踏み越えていると指摘。自ら素案の検討に当たった「中間指針第五次追補」については、「従来の指針との一貫性を維持しつつも、新たな類型化が取り込まれている」と説明した。一方で、高齢者のような、生活の再構築が困難な被災者に対する賠償等、未だに解決されていない問題が多数あることを課題として挙げた。民法や環境法を専門とする大坂恵里氏(東洋大学法学部法律学科教授)は、福島第一原子力発電所事故による被害と賠償の実態について講演。災害弱者や農業従事者等が抱える多様な問題について言及し、中間指針や原賠ADRセンターの総括基準の損害項目は、こうした幅広い被害について「相当程度対応している」と指摘。特に中間指針については、東京電力の自主賠償を強く促す効果があったとの考えを示した。一方、被申立人である東京電力が多数の賠償対応を経験しノウハウを積み上げているのに対し、原賠ADRセンターに持ち込まれる案件では、近年、申立人である被災者側の弁護士代理率が極端に低下していることを紹介。法律に詳しくない被害者への法的支援が不十分である状況を問題視した。北郷太郎氏(OECD/NEA原子力法委員会副議長、IAEA国際原子力賠償専門家グループ委員、第3回原子力損害補完補償条約(CSC)締約国等会議議長)は、「コロンビア・レポート」や「フォーラム・レポート」等のアメリカにおける原子力損害賠償制度の検討から始まる、原子力損害賠償制度の国際的な歴史と日本の原賠法立案までの経緯やその後の制度改正の歴史を紹介。さらに、福島第一原子力発電所事故の賠償を、国際社会がどのように受け止め、反応しているかを解説した。北郷氏は、事故の賠償には課題も多いが、国際的にはその枠組み及び実務について高い評価を受けていることを指摘した上で、特に日本の賠償実務(クレーム・ハンドリング)や事故後の試行錯誤の結果は、今後の国際的な制度改善のための貴重なノウハウであり、国際的に発信するべきであると強調した。17日のシンポジウム後半では、それまでの講演を受け、「福島の原子力損害賠償の現状と課題、今後の展望について」と題したパネル討論が行われ、山下氏がファシリテーターを務めた。冒頭、鎌田薫氏(早稲田大学前総長・文部科学省原子力損害賠償紛争審査会前会長)は、原子力損害賠償制度専門部会の部会長代理として事故後の原賠法の見直しをめぐる議論に参加した経験を踏まえつつ、制度の課題等を総括した。その上で、損害賠償は、元来事故によって失われた利益を元の水準に戻すことが主たる役割であるが、人と人との繋がりや生業などの原状回復は不可能であると指摘。福島が魅力ある地域として、再生し、発展していくためには、新たな産業や文化、社会環境を創造していくことが不可欠であり、そのためにも、「損害賠償制度と法政策が相互に補完しながら効果を最大化していく」ことが重要と指摘した。その後、①福島の損害賠償の現況と今後の課題、②賠償制度が持続可能な形で維持していくために必要なこと、③損害賠償と復興──の3点について登壇者が議論。最後は鎌田氏が「福島における復興政策と損害賠償の調和を1つのモデルケースとして確立していってほしい」と締めくくった。「福島の復興や街づくり」がテーマとなった18日は、内閣府福島原子力事故処理調整総括官の新居泰人氏(元・福島相双復興推進機構専務)が、復興の経緯や復興を支援する政府の取組みについて紹介。広野町夢大使を務める小沢晴司氏(宮城大学教授、福島大学客員教授、元・環境省福島環境再生本部長)からは環境除染の取組について、福島国際研究教育機構理事の木村直人氏からは新たに立ち上げ中の研究機関、福島国際研究教育機構(F-REI)を活用した地域復興の取組について、講演が行われた。また、高橋大就氏(一般社団法人NoMAラボ代表理事、一般社団法人東の食の会専務理事、福島浜通り地域代表)は、福島の高付加価値な食品を活かした地域振興の取組を紹介した。パネル討論では、長谷山美紀氏(北海道大学副学長・大学院情報科学研究院長)が、AI研究者の視点でみた地域振興の在り方等について講演。続いて、復興や新たな地域の在り方を目指した地域振興について議論された。
26 Feb 2024
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日本原子力産業協会の新井史朗理事長は2月22日の記者会見で、福島第一原子力発電所事故から間もなく13年を迎えるのに際し所感を述べ、また、電力システム改革の検証に関し意見を提出したことを紹介した。福島第一原子力発電所事故から3月で13年を迎えるのに際し、新井理事長は、あらためて被災した方々への見舞いの言葉とともに、復興に携わる方々の尽力に対し謝意を表した上で、県内6町村に設定された「特定復興再生拠点区域」における避難指示の全解除、新たに新設された「特定帰還居住区域」に係る大熊町、双葉町、浪江町、富岡町の申請・認定など、復興に向けた最近の動きに言及。また、福島県産食品に対する輸入規制が縮小し、2021年度は過去最高、2022年度も過去2番目の輸出量を記録したことなどを紹介。2023年8月に開始した福島第一原子力発電所のALPS処理水海洋放出については、「廃炉の貫徹に向けた重要なステップ」との認識をあらためて示す一方、これに伴う近隣諸国による日本産水産物の禁輸が改善されない状況に関し遺憾の意を述べた。さらに、2023年1月、年度後半に予定されていた福島第一2号機における燃料デブリの試験的採取の開始時期が延期されたことに関し、新井理事長は、「今後も安全最優先に一歩一歩進めてもらいたい」と強調。原子力産業界として、「東京電力が進める廃炉の取組をしっかりと支援していくとともに、福島県産品の消費拡大に貢献していく」との姿勢を示した。また、新井理事長は、現在、総合資源エネルギー調査会の電力・ガス基本政策小委員会で進められている電力システム改革の検証に対し、このほど意見を提出したことを紹介。原子力の最大限活用が可能な電力システムを構築する必要があるとの考えに基づき、「現在の電力システムで、2030年のエネルギーミックスを達成できるのか、また、長期脱炭素電源オークションについて、ファイナンスの観点や投資回収の予見性確保の観点から、適切な制度となっているか」について、検証を求めたものと、説明した。
22 Feb 2024
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総合資源エネルギー調査会の原子力小委員会(委員長=山口彰・原子力安全研究協会理事)が2月20日に開かれ、デロイトトーマツ合同会社よりヒアリングを受け、原子力事業の資金面での課題などについて議論した。〈配布資料は こちら〉はじめに、資源エネルギー庁が直近の原子力動向を報告。東北電力女川2号機の再稼働予定が安全対策工事完了時期の見直しにより2024年9月となることを紹介した。また、元旦に発生した能登半島地震に関しては、北陸電力志賀原子力発電所の安全機能に異常はなく、「今回の地震を通じて得られた教訓等を踏まえながら、原子力防災体制の充実・強化を図っていく」とした。同調査会電力・ガス基本政策小委員会において進められている電力システム改革の検証については、1月に「長期脱炭素電源オークション」の初回応札が開始されたところだが、バックエンド事業の遅延など、原子力発電固有のリスクに係わる指摘事項を整理し、議論に先鞭をつけた。デロイトトーマツは、「長期脱炭素電源オークション」で、既設原子力発電所の安全対策投資が次回応札より対象となる見込みを踏まえ、投資回収・ファイナンスにおける課題を提起。当該制度について「容量市場と比較して、大幅に予見可能性の向上に寄与するもの」と評価する一方で、運転終了後の廃炉期間に生じる費用に関して、「事前に総額を見積もることができず、運転期間中の回収が困難となるおそれがある」などと、原子力発電固有の不確実性を懸念。官民の役割分担や民間資金活用の可能性他、ファイナンス面の課題にも言及した上、次期エネルギー基本計画において、長期的な原子力産業の戦略について明確化する必要性などを指摘した。これに対し、委員からは、「長期的な安全性、安定供給、経済効率性、環境適用に関連するリスクを抽出して、海外の取組も参考にしつつ、今後改善策を検討していく必要があると思う」とする意見、事故に備えた財務基盤の検討など、原子力に特化したリスクに係わる指摘もあり、今後さらに議論を深めていく必要性が示唆された。専門委員として出席した日本原子力産業協会の新井史朗理事長は、「事業者が投資意欲を持てるような、事業者に適切なファイナンスがつくような、事業環境整備が必要だ」と指摘した。〈発言内容は こちら〉なお、今回の会合をもって退任することとなった山口委員長は、閉会に際し、主に安全性向上の議論をリードしてきた経験を振り返りながら、「まだ道半ばと思う。これまでの議論をしっかり活かしてもらいたい」と、挨拶を述べた。
21 Feb 2024
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電気事業連合会は2月16日、新たなプルトニウム利用計画を策定し発表した。2024~26年度の3年間における電力11社のプルトニウム利用量を取りまとめ示したもの。このほど、かねてより準備が進められていた四国電力と九州電力が英国に保有するプルトニウム1.7トンと、東北、東京、中部、北陸、日本原子力発電の各電力(いずれもMOX燃料装荷は未実施)がフランスに保有する同量のプルトニウムを交換する枠組みについて、会社間の契約が正式に締結されたことから、今回のプルトニウム利用計画では、この交換分の利用を一部織り込んでいる。電事連の池辺和弘会長は、同日の定例記者会見で、「2030年度までに少なくとも12基の原子炉でMOX燃料を装荷・利用する」という従前からの方針をあらためて強調。使用済燃料を再処理して、プルトニウムを回収し加工したMOX燃料を軽水炉で再び利用することで、資源の有効利用のみならず、「利用目的のないプルトニウムは持たない」という国の政策にも対応する。九州電力と四国電力はフランスに保有しているプルトニウムを使い切っており、玄海3号機は今月にMOX燃料の使用を停止し、伊方3号機でも今後はMOX燃料の使用を一時停止する予定だったが、今回のプルトニウム交換の枠組みによりMOX燃料を活用していく予定。また、九州電力がフランスに保有する01.トンも、プルトニウム利用促進のため、自社のMOX燃料加工に利用し、東京電力と中部電力が代替譲渡することで合意。当該分は電源開発に譲渡されることとなる。今回、発表されたプルトニウム利用計画で、電力11社のプルトニウム所有量は2024年度で計40.1トン。2025年度以降は、六ヶ所再処理工場・MOX燃料加工工場の操業も想定し、2026年度のプルトニウム所有量は41.4トンと見込まれている。なお、プルトニウム保有量の減少に向けた事業者間の連携・協力に関しては、原子力委員会が策定した「わが国におけるプルトニウム利用の基本的考え方」(2018年7月)の中でも指摘されている。
20 Feb 2024
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柏崎刈羽原子力発電所に関する新潟県主催の県民説明会が2月18日、長岡市を拠点に開催され、原子力規制委員会が12月27日に判断、決定した追加検査の結果、および東京電力の原子炉設置者としての適格性判断について、原子力規制庁が説明。長岡市内の本会場(市立劇場)、および県内の他市町村に設けられたサテライト会場(10数か所)、オンラインによる視聴も含め、計115名が参加した。開会に際して、県防災局長の原直人氏は、柏崎刈羽原子力発電所で2020年以降に発生したIDカード不正使用など、一連の核物質防護不適切事案を振り返った上で、今回、追加検査に携わった原子力規制庁職員らを招き、適格性判断と合わせ説明を求めるに至った経緯を述べ、参加者に対し「忌憚のない質問・意見」を要望。原子力規制庁からは検査監督総括課長の武山松次氏らが出席した。原子力規制庁は、まず、2021年の核燃料物質移動禁止命令以降、2年8か月にわたって行った追加検査の詳細を説明。検査結果を取りまとめた上、12月末に柏崎刈羽原子力発電所の検査対応区分を引き上げ((「第4区分」(安全活動に長期間にわたるまたは重大な劣化がある)を、「第1区分」(自律的な改善ができる)に変更))、命令解除としたが、今後も引き続き、基本検査を通じて改善状況を監視していくことを強調した。一方、適格性判断については、現地調査、社長との意見交換、保安規定変更などを総合的に勘案し、2017年12月に示した「問題なし」との結論((柏崎刈羽6・7号機について、東京電力に対し新規制基準適合性に係る原子炉設置変更許可を発出した上で、福島第一原子力発電所事故の当事者としての適格性判断を実施し、「原子炉を設置し、その運転を適格に遂行するに足りる技術的能力がないとする理由はない」と結論づけた))を変更する必要はない、との判断に至った経緯を説明した。これに対し、県民からは、柏崎刈羽原子力発電所で最近発生した資料の無断持ち出し・散逸に鑑み、東京電力による改善活動の破綻を非難する意見、福島第一原子力発電所のALPS処理水海洋放出に関連し、同社の情報発信の姿勢について再確認を求める声もあがった。また、元旦に発生した能登半島地震の関連では、日本海側の活断層に係る専門家の調査に言及し「自然の力には太刀打ちできない」とする不安や、災害発生時の避難対策に関し「何も決まっていないのでは」などと、今後の再稼働を見込んだ慎重な意見も出され、原子力規制庁は、「設置変更許可時には、当時の知見で最善を尽くした」と説明した上で、今後も新知見の収集・活用に努めていくと回答した。今回の説明会では、この他、「東京電力の取組を高評価し過ぎてはいないか」、「見えていないところもあるのでは」といった規制委員会の公正さや検査の盲点に関する疑義や、「そもそもウラン238の半減期は45億年で地球の歴史に相当」とする科学技術の限界への危惧など、不安の声が大勢を占めた。県では、取り上げきれなかった質問に対し、ホームページを通じて回答を示す考えだ。
19 Feb 2024
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量子科学技術研究開発機構(QST)は2月14日、乳幼児を含む幅広い年齢層に適用可能なポータブルタイプの甲状腺スペクトロメータ「I-Beetle」の製品化を発表した。原子力災害発生時の放射線防護措置として、公衆の甲状腺被ばく線量モニタリングの測定精度・実効性向上のため、放射線測定機器で実績のあるクリアパルス社と共同で開発したもので、既に1月から千代田テクノルより販売が開始されている。〈QST発表資料は こちら〉甲状腺被ばく線量モニタリングは、放射性ヨウ素が甲状腺に集積することで、内部被ばくが懸念される場合に実施され、その健康影響は、特に、若年層で高くなることが知られている。これに対応すべく、原子力規制委員会では、原子力防災対策指針に基づき、緊急防護措置となる安定ヨウ素剤の服用に係るガイドラインを策定し、随時の見直しや対応訓練を行い、立地自治体でも事前の配布や住民への説明を実施しているが、優先すべき対象者の選別や副作用など、課題も多い。まずは、発災元の施設周辺住民の甲状腺被ばく線量を早急に把握することを念頭に、QST放射線医学研究所では、2017年度よりポータブル甲状腺スペクトロメータの試作機開発に着手し試作機を製作。2020年度からは、その実用性検証とともに、可搬性や被検者の不安解消も図るべく、小型軽量化に取り組んできた、これらの成果を基礎に、QSTは2022~23年度、社会実装を目指し、クリアパルス社との共同プロジェクトとして、さらに改良を進めた上で、製品版の販売保守に関わる契約を千代田テクノルと締結。2024年1月に同社より「I-Beetle」の販売が開始された。「I-Beetle」は、乳幼児を含む広範な年齢の被検者に対し測定時の体動による影響を受けにくく、高感度かつ高精度の甲状腺被ばく線量モニタリングが実現できるほか、測定時間の短縮、ファントム(マネキンの一種)を用いることで年齢や体格による補正なども可能だ。今回、QSTとともに「I-Beetle」の共同開発に当たったクリアパルス社は、東京都内でも荒川区と並び中小メーカー、いわゆる「町工場」の集積する大田区に拠点を置き、これまでも放射線測定機器類で多くの製造・販売実績を有し、近年ではドローン開発にも参入している。
16 Feb 2024
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総合資源エネルギー調査会の地層処分技術ワーキングループ(委員長=德永朋祥・東京大学大学院新領域創成科学研究科教授)の会合が2月13日に行われ、原子力発電環境整備機構(NUMO)が、北海道の寿都町・神恵内村における高レベル放射性廃棄物の処分地選定に向けた文献調査の報告書案について説明。両町村ともに、文献調査に続く概要調査の候補地となることが示された。〈配布資料は こちら〉文献調査は、最終処分法で定められる処分地選定に向けた3段階の調査(文献調査:2年程度、概要調査:4年程度、精密調査:14年程度)の最初のプロセスとして行うもので、地質図や鉱物資源図など、地域固有の文献・データをもとにした机上での調査となる。次段階の概要調査に進む場合には、北海道知事および両町村長の同意が必要だ。NUMOは、2020年10月に寿都町・神恵内村からの応募を受け、同年11月に文献調査を開始。2021年4月以降は、住民との「対話の場」を設け情報提供に努めてきた。一方で、両町村以外に文献調査を受入れる自治体が現れないことから、政府は2023年4月に最終処分基本方針の改定を閣議決定し、候補地を募るべく国の関与を強化している。今回のWG会合では、冒頭、資源エネルギー庁電力・ガス事業部長の久米孝氏が挨拶に立ち、両町村による地層処分事業への理解、文献調査の受入れに対し、あらためて謝意を表明。その上で、「全国初の調査であり、今後、別の地域で調査が行われる際の参考事例ともなりうる」として、今後のプロセスを丁寧に進めていく考えを述べた。両町村における文献調査の報告書案については、NUMO技術部長の兵藤英明氏が、同WGの上層となる特定放射性廃棄物小委員会が昨秋取りまとめた「文献調査段階の評価の考え方」に基づく評価および検討プロセスの全体像を説明。技術的観点から、地震・活断層・火山などの地質特性、鉱物・地熱資源の存否や、経済社会的観点からの各評価結果、概要調査を実施する場合の論点を整理。神恵内村に隣接する積丹町には、第四紀火山の積丹岳(約250~240万年前に活動)が存在し、その山頂15km圏内(境界は明確ではないが、処分地選定の適性を色分けした科学的特性マップで「好ましくない範囲」とされる)に村の陸域大部分が入ることから、「火道・火口等に関する情報を拡充し、活動中心を再度検討する必要がある」としている。これらの技術的検討結果を踏まえ、寿都町は町全域を、神恵内村は南端部(陸域3~4平方km)を概要調査地区の候補としてあげた。報告書案に対し、同WGでは、成案取りまとめに向けて、今後、数回にわたり会合を行い、技術的立場から引き続き検討を行っていく。なお、北海道の鈴木直道知事は、今回の文献調査報告案公表に関し、概要調査への移行には「反対の意見を述べる」との意向を表明した上で、「説明会を通じて、こうした北海道の状況を広く全国に知ってもらい、最終処分事業の理解促進が進むことを期待している」とのコメントを発表した。
15 Feb 2024
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日本原子力産業協会はこのほど、駐日英国大使館が主宰する「日英サプライチェーン・パートナーシップ・プロジェクト」の一環として開催されたオンライン企業説明会の運営支援を行った。説明会は、1月24日、30日、2月7日の計3回にわたり行われ、日英合わせて16社の企業がそれぞれの事業について紹介。両国から計148名の関係者が傍聴参加した。「日英サプライチェーン・パートナーシップ・プロジェクト」は、2023年に駐日英国大使館および関係者により立ち上げられ、日英の原子力分野で活躍する企業が有する知見・技術を学び合うことにより、将来的に両国企業のビジネスパートナーシップの発展に寄与することを目指すもの。日本としては、英国から、廃止措置・廃棄物管理や、小型モジュール炉(SMR)などの先進原子力技術について、学ぶべき知見・技術も数多い。昨秋に英国ビジネス・通商省および駐日英国大使館により開催された「日英原子力産業フォーラム」では、ジュリア・ロングボトム駐日英国大使も、日本で進められる高温ガス炉開発や福島第一原子力発電所廃炉における日英協力を例に、「日英企業間のパートナーシップをさらに深めていきたい」と期待を寄せている。今回の説明会で、福島第一原子力発電所廃炉の関連では、英国から、2022年に東京電力と「廃炉事業のプロジェクトマネジメント強化の協業契約」を締結したJacobs社が参加。同社の担当者は、英国セラフィールド廃止措置の経験を活かした専門的知識・エンジニアリングサービスなどの強みをアピール。原子力産業にとどまらず、航空・宇宙、自動車、情報通信ネットワーク、防衛など、「それぞれの分野で長く続くソリューションを顧客に提供する」という使命を強調し、日本でのビジネス拡大に向けて、東京本社を最近開設したことなどを紹介した。また、日本のサプライチェーンとして、岡野バルブ製造が参加。国内のBWRバルブで80%のシェアを占める同社の担当者は、アジア、アフリカ、南米など、途上国を含む海外への供給実績をアピール。自社施設での材料開発・設計、販売、納品、メンテナンスや、国際規格への適合を通じた厳しい品質管理を特長としてあげたほか、高温ガス炉向けの遮断弁開発の取組なども紹介した上で、「100年の実績を持つ専門メーカーとして、英国の企業にも満足してもらえる高品質の製品を提供できる」と強調した。原産協会では、今回のオンライン企業説明会を通じた意見交換を踏まえ、今後も、英国大使館および産業界の関係者と協力し、世界の原子力市場へのソリューション輸出、技術的・商業的パートナーシップの発展をさらに支援していくこととしている。
13 Feb 2024
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関西電力は2月8日、美浜発電所、高浜発電所、大飯発電所における使用済燃料の乾式貯蔵施設設置計画について、福井県、美浜町、高浜町、おおい町に対し、安全協定に基づく事前了解願を提出した。〈関電発表資料は こちら〉同社は2023年10月、「使用済燃料対策ロードマップ」を策定し、福井県・同県議会に対し、「発電所からの将来の搬出に備え、構内に乾式貯蔵設備の設置を検討する」と説明している。乾式貯蔵は、燃料ピット(BWRプラントでは燃料プールと呼称)で十分に冷却された使用済燃料を輸送・貯蔵兼用キャスクと呼ばれる容器に収納・密封し貯蔵する方式で、東日本大震災時も、福島第一原子力発電所に設置された同貯蔵方式の頑健性が保たれた。原子力発電所構内の乾式貯蔵施設の設置については、日本原子力発電東海第二でも運用されているほか、現在、中部電力浜岡、四国電力伊方、九州電力玄海に関しても、原子力規制委員会による審査や、設計・工事認可の申請準備などが進められている。関西電力の発表によると、美浜、高浜、大飯に、それぞれ最大、約100トン、約350トン、約250トンの貯蔵容量を確保することとしており、2030年頃までに全サイトの整備を完了する計画だ。関西電力は1月19日、電気事業者各社が経済産業相との意見交換を行う協議会の中で、使用済燃料対策推進計画の改訂を発表しており、引き続き「福井県外における中間貯蔵について、理解活動、可能性調査等を計画的に進め、2030年頃に2,000トン規模で操業開始する」方針を示している。同日に電気事業連合会が取りまとめ発表したデータによると、同社の原子力発電所における使用済燃料貯蔵量は5年後、管理容量に対し、美浜で90%、高浜で100%(4年程度で達する見込み)、大飯で98%と試算されている。
09 Feb 2024
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日本原子力研究開発機構は2月7日、高速実験炉「常陽」(茨城県大洗町、ナトリウム冷却型、熱出力100MW)について、医療用ラジオアイソトープ(RI)の製造実証のため、原子炉設置変更許可を原子力規制委員会に申請した。高速中性子を利用し、がん治療薬として期待されるアクチニウム225の製造を目指す。〈原子力機構発表資料は こちら〉「常陽」は、高速増殖炉の基礎・基盤の実証、燃料・材料の照射試験、将来炉のための革新技術検証を使命に、1977年に初臨界を達成後、約71,000時間の運転実績を積んできた。実験装置のトラブルのため、2007年5月の定期検査入り以降、運転を停止中。東日本大震災を挟み、2017年に新規制基準適合性の審査が規制委に申請され、6年余りの審査期間を経て、2023年7月に同審査に係る原子炉設置変更許可に至った。運転再開後の「常陽」の役割は、高速炉開発に向け、政府による「戦略ロードマップ」(2018年12月決定、2022年12月改訂)などを踏まえ、実証炉設計のための要素技術絞り込み・重点化に資するとともに、希少な医療用RIの大量製造で、先進的ながん治療に貢献することも期待されている。実際、原子力委員会では、2022年に「医療用等RI製造・利用推進アクションプラン」を策定しており、その中で、医療用RIの一つであるアクチニウム225大量製造の研究開発強化を図るべく、「常陽」を活用し2026年度までの製造実証を目指すとされている。核医学を中心としたRI関連分野を「わが国の強み」とするねらいだ。アクチニウム225を用いた治療は、病巣の内部からアルファ線を当てるもので、治療効果が高いほか、遮蔽が不要なため病室の入退室制限を緩和できるメリットもある。一方、短寿命(半減期10日)でもあり、世界的に供給が不足している。高エネルギーによる中性子照射場がないことから、加速器による製造が世界の趨勢となっており、米国、ドイツ、ロシアのみがアクチニウム225を供給できるという現状だ。特に、米国ではエネルギー省(DOE)の強力なサポート体制のもと、大規模サイクロトロン(100MeV)による製造・供給も行われている。こうした状況から、原子炉を利用した「常陽」によるアクチニウム225の大量製造には国内外から期待が寄せられるが、安定供給・製薬化に当たっては、医療ニーズに十分対応できる燃料確保、メーカーとの連携、量産体制の確立が課題だ。「常陽」の運転再開は、新規制基準対応工事を経て、2026年度半ばの予定。
08 Feb 2024
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原子力規制委員会は2月7日の定例会合で、元旦に発生した能登半島地震後の北陸電力志賀原子力発電所に係る現状を踏まえ、今後の対応に向けて、主にモニタリング技術の向上について議論した。同委では、年明け最初となる1月10日の定例会合で、地震発生以降の北陸電力他、東京電力や関西電力などから得た情報収集に基づく対応状況の時系列を整理。北陸電力によると、現在、停止中の志賀原子力発電所で観測された地震動の加速度応答スペクトルは、一部の周期帯において、設計上考慮している加速度をわずかに上回っていることが確認されており、規制委では、引き続き技術的情報の収集・整理に努め、必要に応じて今後の新規制基準適合性審査に反映していくとしている。2月7日の会合では、主に、放射線モニタリング体制の機動力強化に関して、委員間で意見が交わされた。地震発生により、志賀原子力発電所周辺のモニタリングポスト116局のうち、主に発電所北側15km以遠の18局でデータ収集が一時期欠測(昨日時点ですべて復旧済み)。原子力規制庁では、石川県とも情報共有を図り航空機モニタリングの準備を行ってきた。こうした状況を踏まえ、原子力規制庁放射線防護グループ監視情報課長の今井俊博氏は、放射線モニタリングにおける通信の信頼性向上、技術の多様化に向けた検討状況を説明。同氏はまず、「安全を確保した上でのモニタリングを考えるべき」と強調した上で、今回の地震で「通信による不具合が欠測の主たる原因」と推察されたことから、京都大学との協力により、低消費電力でも広域の無線通信が可能な「LPWA」規格を使用した測定器の開発に取り組んでいるとした。今後もNTTとも協力し実用化を目指していくとしている。さらに、日本原子力研究開発機構とも協力し、発災時、早急に対応可能な機動性の高いドローン「VTOL機」の開発・導入も検討しているとした。「VTOL機」の機動イメージとして、同氏は、昭和40年代の特撮「帰ってきたウルトラマン」に登場する円盤型戦闘機「マットアロー2号」を例にあげ、浮上・水平移動の柔軟さをアピールした。これを受け、伴信彦委員は、「確かに面白いが、複雑な地形でも適用できるのか」などと、懸念を示した上で、民間事業者との連携も通じ、さらに機動性を高めていく必要性を強調。杉山智之委員は、電源喪失に係るリスクから、「共有要因に伴う機能喪失対策は原子力分野の基本。総倒れにならない工夫が必要だ」と指摘。また、情報発信の関連で、石渡明委員は、「少し対応が鈍いのでは」とホームページ上での視認性向上を要望。新しい技術的情報の収集・検討についても早急な具体化を求めた。
07 Feb 2024
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文部科学省では、「GX実現に向けた基本方針」(2023年2月閣議決定)などを踏まえ、有識者らによる原子力科学技術委員会及び同作業部会で、今後の技術基盤維持・人材育成の方向性について検討を進めている。これに関連し、1月23日の原子力委員会会合で、文科省研究開発局原子力課長の奥篤史氏が、2023年8月24日に開催した「集まれ高校生!原子力オープンキャンパス」の結果を報告した。近畿大学原子力研究所との共催による高校生を対象とした原子炉研修としては初めてとなるもので、大学、企業、研究機関など、計21社・機関の協力のもと、30名の生徒らが参加。同学が所有する教育訓練炉「UTR-KINKI」を使用し、「中性子ラジオグラフィ実験」、「放射化と半減期測定実験」などを実施し、実際の原子炉に触れる機会を提供した。原子炉実験と合わせ、企業・研究機関ブースも設けられ、生徒らとの質疑応答を通じ、原子力分野への興味・理解を深める場となったという。参加者へのアンケートによると、参加動機は「面白そうだったから」が36%、興味深かった内容としては「近畿大学の原子炉を直接見ることができた」が33%で、最も多かった。「実際に原子炉に触れるのは始めての体験だった」、「主体的に将来原子力に進みたい」といった前向きな声もあり、文科省では来年度も継続して開催する意向だ。委員からは、大学・大学院における原子力関係学科・専攻の減少傾向に対する懸念とともに、初等中等教育段階からの実地研修の意義を評価し、人文社会科学系との連携講座開設や「原子力人材育成ネットワーク」とのつながりに期待を寄せる声もあった。文科省では、原子力オープンキャンパスの報告と合わせ、今後の原子力科学技術に関する当面の検討課題について、2025年6月頃の中間取りまとめを目指す方針を示した。
06 Feb 2024
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原子力発電環境整備機構(NUMO)は2月5日、料理教室を全国展開する「ABCクッキングスタジオ」とタイアップし、地層処分事業の理解に向けて、SDGs目標12「つくる責任、つかう責任」を切り口とした動画シリーズを公開した。〈NUMO資料は こちら〉動画では、「世界で生産されている食料の約3分の1が毎年捨てられている」と、食品ロスの問題から導入。流通業界における食品リサイクルの取組「サーキュラーエコノミー」に触れた上で、原子力発電とも対比し、「生活に身近な食品と電気は同じ」と、エネルギー利用における廃棄物・リサイクルの課題を提起し考えさせる。初回公開の動画ではまず、出来上がりの断面が地層をイメージする「かぶのミルフィーユキーマカレー」のレシピを紹介し関心を喚起している。動画シリーズは、次回以降、高レベル放射性廃棄物に関し、地層処分が選ばれた理由・仕組みについても、紹介していく予定だ。「ABCクッキングスタジオ」は、これまでも、復興庁の企画により、福島県産食材の魅力を全国に発信するオンライン料理ワークショップを開催するなど、被災地の地域振興に向けた取組にも協力してきた。
05 Feb 2024
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