9月1日の「防災の日」をとらえ、復興庁は8月29日、報告書「東日本大震災 復興政策10年間の振り返り」を公表した。昨秋からの有識者による議論も踏まえ、2011年3月の東日本大震災発災から「第1期復興・創生期間」((2011年7月に政府が決定した「東日本大震災からの復興の基本方針」に基づき設定された「集中復興期間」(2011~15年度)に続く「復興・創生期間」(2016~20年度)を指す。現在「第2期復興・創生期間」(2021~25年度)にある。))が終了した2021年3月末までの概ね10年間について、復興に係る国の制度・組織や取組の変遷、施策の趣旨や経緯、その評価・課題を取りまとめたもの。同書では冒頭、発災からの10年間を振り返り、被災地の復興は着実に進展し、地震・津波被災地域では、住まいの再建やインフラ整備が概ね完了したと概括。一方で、引き続き、被災者の心のケアや水産加工業の売上げ回復などの課題が残されており、中長期的な対応が必要な原子力災害被災地域では、本格的な復興・再生に取り組んでいる状況との認識を示している。特に、原子力災害からの復興については、「わが国が経験したことのない試練であり、政府としても多くの課題に直面しながら、どのように復興を進めていくのかが模索され、現在においても中長期の課題となっている」と強調。東日本大震災以降も日本は多くの災害に見舞われてきたが、南海トラフ地震など、将来、予想される大規模災害を見据え、「東日本大震災で行われた数々の政策や取組が必ず参照される」と、同書をもとに復興に備えておくよう促している。福島第一原子力発電所事故に関しては、「原子力災害固有の対応」として章立て。事故の概要、避難指示の経緯と帰還・移住の促進・生活再建、除染、放射線の不安対応、食品の安全性確保、風評払拭、産業創生などの取組について整理している。帰還困難区域では今なお避難指示が継続しており、被災地の住民意向調査から、「避難指示解除が遅れると居住率・帰還率が下がる傾向にある」などと指摘。その上で、「復興のステージが進むにつれて生じる新たな課題や多様なニーズにきめ細かく対応しつつ、本格的な復興・再生に向けた取組を行う必要がある」と述べている。具体的には、地震・津波被災地域と共通する事項の他、それぞれの地域の実情や特殊性を踏まえながら、廃炉・汚染水・処理水対策福島県内で発生した除去土壌に係る中間貯蔵施設の整備・管理運営、30年以内の県外最終処分避難指示が解除された地域における生活環境の整備特定復興再生拠点区域外の避難指示解除「福島イノベーションコースト構想」の推進「福島国際研究教育機構」の整備――などの取組を今後も進めていくとしている。
04 Sep 2023
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2024年度の政府概算要求が8月31日までに出揃った。文部科学省では、原子力分野の取組として、対前年度比28%増の1,883億円を計上。2月に閣議決定された「GX(グリーントランスフォーメーション)実現に向けた基本方針」などを踏まえ、「原子力分野における革新的な技術開発によるカーボンニュートラルへの貢献」として、同2.6倍となる276億円を要求した。高温工学試験研究炉「HTTR」を活用した高温ガス炉の安全性実証や水素製造に必要な技術開発、高速炉技術開発の基盤となる実験炉「常陽」運転再開に向けた取組を推進するとともに、革新炉開発に資するシミュレーションシステムの開発などを進める。また、核融合研究開発の推進では、同37.3%増の292億円を計上。ITER計画などの国際枠組みによる技術開発に加え、競争的資金「ムーンショット型研究開発制度」を活用し「ゲームチェンジャーとなりうる小型化・高度化等を始めとする独創的な振興技術の支援を強化する」ため、新規に20億円を要求。この他、3GeV高輝度放射光施設「Nano Terasu」の2024年度の運用開始に向け38億円、大型放射光施設「SPring-8」の高度化で3億円がそれぞれ新規に計上されている。経済産業省では、エネルギー対策特別会計で対前年度比11%増の7,820億円を計上。最重要課題とされる「福島復興のさらなる加速」では、廃炉・汚染水・処理水対策事業費176億円など、対前年度比21%増の910億円の要求額となっている。原子力規制委員会では、対前年度比25%増の730億円を計上。高経年化対策に係る審査・検査体制などの強化に向け、安全規制管理官(課長レベル)1名設置の機構要求の他、計66名の定員要求も盛り込まれている。
01 Sep 2023
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「Japan-IAEA 原子力エネルギーマネジメントスクール(NEMS) 2023」が8月22日~9月8日の日程で、東京大学本郷キャンパス(一部の講義とテクニカルツアーを福島・茨城県で実施)で開催されている。原子力発電の導入を検討する各国および日本の原子力政策・規制組織の若手担当者、技術者・研究者が対象。NEMSは、世界各国で原子力エネルギー計画の策定・管理をリードする人材の育成を目指し、エネルギー戦略、核不拡散、国際法、経済・環境問題など、幅広い課題について学ぶ機会を提供し、マネジメントに必要な基礎能力を養うことを目的に、2010年にイタリアで始まった。日本での開催(2012年初開催、2014年より日本主催・IAEA共催)は今回で11回目。東京大学大学院工学系研究科の他、日本原子力研究開発機構、日本原子力産業協会、原子力国際協力センターなどで運営する産学官プラットフォーム「原子力人材育成ネットワーク」により実施され、国内行政機関、電力・メーカーからも講師を招く。今回の研修生は、海外13か国(ブルガリア、チェコ、エストニア、ガーナ、インドネシア、ヨルダン、カザフスタン、メキシコ、フィリピン、ポーランド、サウジアラビア、スロバキア、ベトナム)から18名、日本からは11名、計29名が参加した。今回のNEMSは4年ぶりの全面的な対面開催となり、8月22日に行われた開講式で、組織委員長の東京大学大学院工学系研究科准教授・出町和之氏は、会期を通じ対面・現地で講義、グループワーク、施設見学に臨む各国研修生らを大いに歓迎。続いて挨拶に立ったIAEA企画・経済調査官のアンリ・パイエール氏は、気候変動対策における原子力発電の重要性を述べた上、研修を通じ将来に向け専門的なネットワーク構築が図られることに期待を寄せた。また、NEMS前組織委員長の上坂充原子力委員会委員長は、「国際的な討論は極めて重要」と、原子力政策の立案において他国の状況も理解する必要性を強調するとともに、研修生らに対し、カリキュラムの一環となる福島訪問に関して「ALPS処理水対応も含め、福島第一原子力発電所廃炉の現状をよく見て理解して欲しい」と述べた。研修生らは、8月25日まで東大で講義とグループワークに臨んだ後、28日~9月1日には茨城・福島県に移動。原子力機構の高温工学試験研究炉「HTTR」、福島第一・第二原子力発電所、水素エネルギー研究フィールドなどを見学。4日には東京へ戻り、最終テストが実施され、8日に閉幕となる運びだ。
01 Sep 2023
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核軍縮に問題意識を持つ長崎の学生たちによるミッション「ナガサキ・ユース代表団」(第11期生)の活動報告会が8月28日、長崎大学で行われた。「ナガサキ・ユース代表団」は、長崎県、長崎市、長崎大学で構成される「核兵器廃絶長崎連絡協議会」が主催する人材育成の取組。毎年、長崎県内の若者(一定の英語力を有する18~25歳を目安)から募る同代表団は、2013年の第1期生以来、これまで計78名(延べ94名)にのぼり、国際会議などへの参加を通じ、核軍縮・不拡散外交について最前線で学び、世界各地の人々とのネットワークを広げてきた。その「卒業生」には、現在も教育やマスコミの分野で平和や核軍縮の活動に関わる人も多い。今回、活動報告を行った「ナガサキ・ユース代表団」は、2022年12月に任命された長崎大学、活水女子大学に在籍する学生ら7名(うち、オンライン参加と欠席による書面提出が各1名)。同代表団は、7月31日~8月11日にウィーンで開催されたNPT(核兵器不拡散条約)再検討会議((条約の目的の実現および条約の規定の遵守を確保することを目的として5年に1度開催される国際会議で、次回は2026年に開催予定))の準備委員会を訪れ、各国の若者らが集う「ユースフォーラム」に参加したほか、書道をテーマとしたサイドイベントを開催。サイドイベントは、「平和に対する考えは多様で混在し、また、対立している。書道は数字と違って答えがなく、筆跡によって、人となりが現れる日本伝統の芸術。平和にも答えがなく、各人の経験によって形づけられる」との考えから企画された。この他、広島と長崎での関係者との対談や施設訪問、長崎県内を中心とする中学校での「平和のためにできること」をテーマとした出前講座を実施。ウィーンでは各国大使らとの対談も行っており、報告会でまとめの挨拶に立った有吉葉奈子さん(長崎大薬学部)は、「伝えることの難しさを感じた」と、所感を述べた。被爆者の平均年齢は85歳に達したといわれる。今回の報告会で「被爆者の生の声を聞くことが難しくなっている」という学生もいた。被爆者の高齢化が進む中、長崎県の大石賢吾知事は、8月22日の定例記者会見で、「『ナガサキ・ユース代表団』を始めとする若者たちの活躍が今後ますます重要になってくる」と、強調している。
30 Aug 2023
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青森県・宮下知事©青森県核燃料サイクル政策について青森県と関係閣僚らが意見交換を行う「核燃料サイクル協議会」が8月29日、総理官邸でおよそ3年ぶりに開かれた。6月に就任した青森県・宮下宗一郎知事の要請により開催されたもの。〈資源エネルギー庁発表資料は こちら〉同協議会は、1997年以来、核燃料サイクル政策の節目をとらえ、これまで12回行われてきた。8月25日には日本原燃の六ヶ所ウラン濃縮工場が約6年ぶりに生産運転を再開。28日にはリサイクル燃料貯蔵のむつ中間貯蔵施設に係る保安規定変更が原子力規制委員会により認可されるなど、核燃料サイクル事業の進展がみられた。両施設とも、新規制基準への適合性に関し、それぞれ2017年、2020年に審査に合格(設置変更許可)している。今回の協議会には、宮下知事の他、松野博一官房長官、高市早苗・内閣府科学技術担当相、西村明宏・同原子力防災担当相、永岡桂子文部科学相、西村康稔経済産業相、電気事業連合会の池辺和弘会長らが出席した。宮下知事は、関係閣僚および電事連に対し、原子力・核燃料サイクル政策の推進原子力施設の安全性確保高レベル放射性廃棄物等の最終処分と搬出期限の遵守地域振興と立地地域との共生原子力防災対策使用済燃料対策――について、確認・要請。これに対し、政府側は、核燃料サイクルについて、「エネルギー基本計画の通り、わが国の基本的方針として引き続き堅持していく」との方針のもと、六ヶ所再処理工場やMOX燃料加工工場のしゅん工目標達成と操業に向けた準備を官民一体で進めていくと回答。歴代の青森県知事と約束してきた「青森県を最終処分地にしない」ことも引き続き遵守するとした。また、使用済燃料対策については、むつ中間貯蔵施設の事業開始に向け「地域をあげて協力してもらいたい」と要請。地域振興と立地地域との共生に向けては、方策を検討する会議体を早期に設置するとした。資源エネルギー庁では、福井県と、立地地域の将来像について検討する共創会議を2021年に立ち上げており、これを参考に会議体の具体化を図っていくものとみられる。
29 Aug 2023
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運開当時の高浜1号機(手前、原産新聞1974年11月21日号より)関西電力の高浜発電所1号機(PWR、82.6万kW)が8月28日、原子力規制委員会による最終検査を終了し、およそ12年半ぶりに営業運転を再開した。国内の40年超運転としては同社・美浜3号機(新規制基準施行後、2021年7月に営業運転再開)に続き2基目。新規制基準をクリアし再稼働したプラントとしては11基目となる。〈関西電力発表資料は こちら〉同機は、1974年11月14日に、国内では8基目、関西電力では美浜1・2号機に続く3基目の原子力発電プラントとして運転を開始。現在、運転開始からの年数は国内最長だ。丁度1年後の1975年11月14日には高浜2号機が、1976年12月1日には美浜3号機が運転を開始した。高浜1号機は、2011年1月に定期検査に伴い停止した後、東日本大震災を経て、2015年3月に同2号機、美浜3号機とともに新規制基準適合性に係る審査が開始。2016年4月に2号機と合わせて原子炉設置変更許可(審査合格)となり、2021年4月までに再稼働への地元からの「理解表明」を得た。同年6月9日、高浜1・2号機は、新規制基準で要求されるテロなどに備えた「特定重大事故等対処施設」(特重施設)の設置期限(プラント本体の設計・工事計画認可から5年)を満了。1号機については、2023年7月14日に特重施設が運用を開始し、同28日に原子炉起動、8月2日に発電再開となった。高浜1号機と同様に40年超運転となる同2号機は、9月中旬に原子炉起動、同下旬に発電再開、10月中旬に営業運転再開となる見通しだ。
29 Aug 2023
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8月24日に福島第一原子力発電所で発生するALPS処理水の海洋放出が開始された。〈既報〉西村康稔経済産業大臣は25日、IAEAのラファエル・グロッシー事務局長とオンライン会談。廃炉が完遂するまで日本政府として責任をもって取り組んでいく考えを述べた上、引き続き長期にわたるIAEAによる安全性確保への協力を要請。また、林芳正外務大臣も同日、グロッシー事務局長と会談し、ALPS処理水の安全性確認に係る日本・IAEA間の協力・連携関係を対外的に示す文書を早期作成・公表することで一致した。ALPS処理水の安全性に関しては、IAEAが7月に「海洋放出は関連する国際安全基準に合致しており、人および環境に対し、無視できるほどの放射線影響」とする包括報告書を日本政府に提出している。ヨークベニマル各店舗に掲示されているポップには、関係省庁と並び弊紙記事へのリンクもまた、西村経産相は8月24日に放出後の東京電力、環境省、水産庁による海水や魚のトリチウム濃度の分析結果の公表とともに、地元水産業の風評影響に備えた対応や漁業者らの生業の継続支援に取り組むとの談話を発表。28日には、太田房江副大臣とともに、福島県を訪問し、東日本大震災被災地の水産物「三陸・常磐もの」の魅力発信・消費拡大に向けた取組の一環として、県内の流通・小売事業者との意見交換・試食イベントを福島市内のスーパー「ヨークベニマル南福島店」で行ったほか、復興再生に関する地元関係者との協議会に出席。「ヨークベニマル」では、ALPS処理水の安全性を科学的根拠に基づき説明すべく、「連携しながら県産品の魅力発信に力を入れていきたい。安全性を確認しデータを公表することが一番の風評対策になる」と強調。海洋放出後に福島県相馬市で水揚げされたヒラメやホッキ貝の刺し身を試食するなどした。東京電力は、24日のALPS処理水の海洋放出開始後に、発電所から3km以内の10地点で海水試料を採取。すべての地点でトリチウム濃度は検出下限値(10ベクレル/リットル程度)未満であることが確認された。なお、海水による希釈後のトリチウム濃度は1,500ベクレル/リットル未満とされている。東京電力は、海洋放出の状況を知りたいというニーズに応え、ALPS処理水に関するポータルサイトを刷新。経産省も、福島第一原子力発電所近傍における海水中のトリチウム濃度の分析結果について、「異常なし」は青丸表示、「放出停止判断レベルを超える」ときは警告表示と、一目でわかるウェブサイトを公開した。
28 Aug 2023
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科学未来館コミュニケーターの青木皓子さん©科学未来館関東大震災から間もなく100年。「もしも明日大きな地震が発生したら、どんなことが起きて、私たちはどう行動すればいいのだろう」、日本科学未来館科学コミュニケーターの青木皓子さんは、ブログ(前編、後編)を通じ問いかけている。青木さんが訪れた震災伝承施設©科学未来館2011年3月11日に発生した東日本大震災を例に、青木さんは、「普段の生活では意識することが難しい過去の災害を振り返り、未来を考える」ための震災伝承施設として、「いわき震災伝承みらい館」(いわき市)、「東京電力廃炉資料館」(富岡町)、「とみおかアーカイブ・ミュージアム」(富岡町)、「東日本大震災・原子力災害伝承館」(双葉町)、「震災遺構 浪江町請戸小学校」(浪江町)、「原子力災害考証館 furusato」(いわき市)を訪れた。実際に行ってみることで、「震災がもたらした被害とそこから得られる教訓を学ぶだけでなく、被害の様相や伝承すべきことが、地域や人によって実に多様であるという気付きがあった」という。2日間の福島県への旅で、青木さんが最初に訪れたのは「いわき震災伝承みらい館」。いわき市は、東日本大震災(本震発生)から丁度1月後の4月11日、再び震度6弱の「福島県浜通り大地震」に見舞われた。同館では、地盤がずれ落ち出現した大きな地層の剥ぎ取り標本などを展示。「災害は誰にでも起こり得るもの。展示を見て、いい意味で『怖い思い』をしてもらうことで、家族と話をしてもらうきっかけとなれば」と、箱崎智之副館長の言葉だ。青木さんは、「本震の後の混乱が続く中で発生した地震が、震災後の復旧活動に与える影響はとても大きかったと感じ、いわき市の被災体験を知ることが自分にとって一つの教訓となった」と、また、津波被害に見舞われた中学校の黒板の卒業式寄書きなど、発災当時の実物展示を見て「当たり前にそこにあった日常を感じる」と、語っている。東京電力廃炉資料館©東京電力続いて訪れたのは「東京電力廃炉資料館」。福島第一原子力発電所事故からおよそ7年半後の2018年11月にオープンした同施設は、福島第二原子力発電所のPR施設だった「エネルギー館」の建物および既存の展示機材を流用し、映像やジオラマを通じて、事故の反省と教訓を伝承するとともに、廃炉の取組全容と進捗状況をわかりやすく説明している。見学は案内ガイド付きのツアー形式が原則だ。事故当時の状況について解説を受けた青木さんは、「事実を科学的にとらえ、分析した結果を伝えていくことの重要性を感じる」と、話している。また、同じ富岡町にある「とみおかアーカイブ・ミュージアム」では、住民の避難誘導に当たっていた最中に津波に巻き込まれたパトカーなど、実際に被災した現物資料が数多く展示されており、「思わず言葉を失ってしまう瞬間もあった」という。「複合災害を地域の歴史に位置づける。」を目標とする同館では、避難生活の長期化に係る資料も多数。「震災遺産」とされる展示を見て、青木さんは、「町の歴史・文化の一部として東日本大震災が語られている」などと、来館の感想を述べている。2日目は、まず「東日本大震災・原子力災害伝承館」を訪問。同館の位置する双葉町は、2020年3月に大熊町、富岡町とともに、帰還困難区域では初となる避難指示の一部解除がなされ、これに伴いJR常磐線が全線復旧。その半年後にオープンした同館は、原子力災害に焦点を当てており、展示エリアに常駐するアテンダントスタッフとの対話も通じ、福島第一原子力発電所事故について理解を深められる点が特徴だ。様々な場所で震災を経験した「語り部」による講話も行われており、青木さんは、「経験を共有することで、自分の中に新たなとらえ方が生まれる感覚とその重要性を感じた」と話している。いわき湯本の旅館一室に開設された「原子力災害考証館 furusato」、公害病のアーカイブ施設も参考としている©科学未来館続いて訪れた「震災遺構 浪江町請戸小学校」は、津波の脅威を真正面から扱うことで防災意識の向上を促す。壁や床の崩れ落ちた校舎内を目の当たりに、青木さんは、「より現実のものとして、自分に訴えかけてくる感覚を得た」と話している。温泉旅館の一室を用いた民間施設「原子力災害考証館 furusato」は、個人の経験に着目。行方不明者の捜索を避難指示により断念せざるを得なかった被災者による展示品などを見て、「震災や原発事故で生活が変わった人はたくさんいるが、公的資料館では、一人一人の物語をすべて扱うことはできない」と、社会教育施設に係る課題を投げかけている。青木さんは、一連の震災伝承施設の訪問を通じ、「自分の防災意識を見直すことにつながり、未来を考える時間となるのでは」と述べている。日本科学未来館の科学コミュニケーターは、科学技術に関心を持つ一般の人から募る任期制職員で、展示フロアでの対話・実演、イベントの企画・制作、ブログを通じた科学情報の発信などを行う。
25 Aug 2023
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東京電力は8月24日13時過ぎ、福島第一原子力発電所で発生するALPS処理水の海洋放出を開始した。〈東京電力発表資料は こちら〉同社では、22日に行われた福島第一原子力発電所の廃炉・汚染水対策に関する関係閣僚会議が示したALPS処理水の海洋放出の開始時期に係る判断を受け、準備に着手。風評影響を最大限抑制すべく「海洋放出の実施に当たっては、周辺環境に与える影響等を確認しつつ、慎重に少量での放出から開始」とする政府の基本方針に従い、当面の間、第1段階「希釈後のALPS処理水のトリチウム濃度を確認」、第2段階「設備の健全性および運用手順を確認するための放出」の2段階に分けた放出を計画。初回放出の第1段階として、同日、ALPS処理水が想定通り希釈されていることを確認するため、ごく少量のALPS処理水(約1㎥)を海水(約1,200㎥)で希釈し、放水立坑に貯留した後、放水立坑の水を採取しトリチウム濃度を測定。その結果、24日までに分析値が1,500ベクレル/リットル(国の規制基準の40分の1)を下回っていることが確認され、今朝の気象・海象を踏まえ第2段階に移行した。2023年度の計画では、約7,800㎥ずつ計4回の放出が行われ、トリチウム総量は約5兆ベクレル(事故前の放出管理値は年間22兆ベクレル)となる。初回放出分は1日当たり約460㎥、約17日間で実施する見通しだ。東京電力では、データ公開に努めるべく、ALPS処理水の海洋放出における各設備での状況を1つにとりまとめたポータルサイト「ALPS処理水 海洋放出の状況」を開設した。なお、同社では23日、ALPS処理水の海洋放出開始に関する社内体制の強化に向け、関係部署を横断的に統括する体制を整備すべく、社長直轄の「ALPS処理水統合対策プロジェクトチーム」、および「ALPS処理水影響対策チーム」を設置。小早川智明社長は、これまでより頻度を上げて現場に足を運び、状況を確認することとしている。今般のALPS処理水の海洋放出開始について、原産協会の新井史朗理事長は、「福島第一原子力発電所の廃炉の大きな一歩となる」とのメッセージを発表した。
24 Aug 2023
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福島第一原子力発電所の廃炉・汚染水対策に関する関係閣僚会議が8月22日に開かれ、ALPS処理水処分に向けた安全確保や風評対策に係る政府全体の取組について確認を行った上、海洋放出の開始時期は「気象・海象条件に支障がなければ8月24日を見込む」ことを決定した。〈配布資料は こちら〉会議に出席した岸田文雄首相は、「福島の復興を実現するために、ALPS処理水処分は決して先送りできない課題」と、あらためて強調。ALPS処理水の海洋放出に係る日本やIAEAの科学的根拠に基づいた取組に対しては「国際社会の正確な理解が確実に広がりつつある」と評価。また、一部にみられる輸入規制の動きに対しては、引き続き早期撤廃を求めるとともに、水産物の国内消費の拡大、国内生産の維持、新たな輸出先開拓などの対策を講じていくとした。同会議では、ALPS処理水処分に伴う風評対策を中心とした政府全体の行動計画を改定。岸田首相は、「廃炉およびALPS処理水の放出を安全に完遂すること、処理水の処分に伴う風評影響や生業継続に対する不安に対処すべく、たとえ今後数十年の長期にわたろうとも、処分が完了するまで政府として責任をもって取り組んでいく」と強調した。ALPS処理水の安全性に関しては、7月4日にIAEAが「海洋放出は関連する国際安全基準に合致しており、人および環境に対し、無視できるほどの放射線影響」とする包括報告書を日本政府に提出。同7日には、ALPS処理水希釈放出設備に関する使用前検査の終了証が原子力規制委員会より東京電力に交付された。岸田首相は8月20日、福島第一原子力発電所を視察し、安全性確保の取組状況を確認。21日には、全国漁業協同組合連合会の坂本雅信会長らと官邸内で会談し、同氏より「漁業者の生業継続に寄り添った政府の姿勢と対応について、われわれの理解は進んでいる」との声を聴いたとしている。東京電力は、ALPS処理水の海洋放出の開始時期に係る政府の判断を受け、「規制委員会の認可を得た実施計画に基づき、今後、最大限の緊張感をもって、放出開始に向けた準備を速やかに進めていく」とするコメントを発表。海洋放出の始動段階における対応に遺漏がないよう、経営陣が現場情報を適時に把握した上で、廃炉、賠償、風評対策に関わる様々な部署を横断的に統括する社長直轄プロジェクトチームを立ち上げるなど、体制強化を図るとしている。合わせて、初回放出の第1段階の準備作業開始を発表。ごく少量のALPS処理水を海水で希釈し、貯留水が入っていない放水立坑に流し込み、トリチウム濃度を分析。ALPS処理水が想定通り希釈されていることを確認した上で、第2段階として海洋放出を開始する。2023年度計画の海洋放出で、年度末までにタンク約10基分が減る見通し。また、IAEAはコメントを発表し、7月に公表した包括報告書の結論をあらためて示すとともに、ALPS処理水の海洋放出開始後も引き続き情報提供を図っていくなどとしている。
22 Aug 2023
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日本総合研究所は8月10日、国内の中学生、高校生、大学生計1,000人を対象として、2022年11~12月に実施したサステナビリティなどに関する意識調査の結果を発表した。毎年8月12日に行われる「国際青少年デー」に合わせて発表したもの。調査はウェブアンケートで行われ、中学生300人(男子150人、女子150人)、高校生300人(同)、大学生400人(男子200人、女子200人)から有効回答を得た。同研究所では2020年にも同様の調査を行っている。今回の調査結果によると、国内や海外の環境問題や社会課題に「関心がある」という人は全体の43.5%で、前回調査と大きな変化はないが、関心の内容については変化がみられた。前回調査では、コロナ感染拡大期と調査時期が重なったこともあり、「気候変動・温暖化」、続いて「医療・健康・感染症対策」への関心が高く、今回調査では、「人権(ハラスメント・いじめ・虐待・不登校・人種差別等)」への関心が最も高かった。「最も関心のある環境問題や社会課題」として、「気候変動・温暖化」と回答した割合は、大学生男子で4.0%、同女子7.5%、高校生男子4.7%、同女子5.3%、中学生男子12.7%、同女子8.7%。「エネルギー問題(化石燃料等の枯渇、その他)」と回答した割合は、大学生男子6.5%、同女子2.5%、高校生男子2.7%、同女子4.0%、中学生男子4.0%、同女子3.3%だった。女子では、「ジェンダー平等、ダイバーシティ、LGBTQへの配慮」をあげる割合が、同世代の男子と比べ格段に高かった。また、環境問題や社会課題の役に立ちたいか尋ねたところ、「そう思う」という人は52.0%と、約半数に上ったのに対し、日頃、社会貢献活動などをしている人は21.3%にとどまり、若者の「社会課題の解決意欲と行動とのギャップ」が浮き彫りとなった。この傾向は、前回調査でも同様にみられている。SDGsの認知に関しては、前回調査と比較し、「よく知っている」、「多少は知っている」と回答した割合は全体の44.2%から73.4%に大きく上昇。高校生・大学生では8割以上が「知っている」と回答していた。最も関心のあるSDGsの17目標としては、全世代で「目標1 貧困をなくそう」、「目標3 すべての人に健康と福祉を」をあげた人が多かった。「目標7 エネルギーをみんなにそしてクリーンに」と回答した割合は、大学生男子5.5%、同女子2.5%、高校生男子3.3%、同女子2.7%、中学生男子7.3%、同女子3.3%。「目標13 気候変動に具体的な対策を」と回答した割合は、大学生男子7.0%、同女子6.0%、高校生男子5.3%、同女子5.3%、中学生男子14.0%、同女子9.3%だった。同世代で女子の回答割合が格段に高かったのは、「目標5 ジェンダー平等を実現しよう」(大学生・中学生)、「目標6 安全な水とトイレを世界中に」(中学生)だった。SDGsに対する考えに関しては、全体の60.3%が「世界で達成するべき重要な目標」と思っているものの、「目標としている2030年に達成できそう」と考える人は全体の15.9%にとどまっていた。この他、同調査では、企業の政策提言、経営戦略、人材育成に資するべく、金融・経済教育、キャリア意識・結婚観に関しても調査・分析を行っている。
21 Aug 2023
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三陸・常磐地域(青森、岩手、宮城、福島、茨城、千葉)の水産業支援に向け産品の消費拡大を図る「三陸・常磐ものウィークス」が、7月15日~9月30日の日程で実施されている。昨年末、経済産業省が復興庁・農林水産省と協力し立ち上げた官民連携の枠組み「魅力発見!三陸・常磐ものネットワーク」(全国約1,000の企業・自治体・政府関係機関等が参加)によるもので、2023年2~3月に続く第2弾。同ネットワークでは、期間中、参加企業らの社内食堂のメニュー提供、弁当購入、キッチンカー巡回などを通じた地域産水産物「三陸・常磐もの」の積極的な消費を支援している。同ネットワークが参加企業らの会議・懇談会向けに紹介している「三陸・常磐もの」を使用した弁当は、一般の人も購入が可能。例えば、野村哲郎農水相が執務室で賞味した「福島産ホッキ貝入りほっき飯御膳」は、東京23区内を配達エリアとするデリバリー「すし割烹 赤酢と鮨」が販売しておりウェブサイト上でも購入できる。「やみつきカレーうどん(鹿島灘しらす入り)と岩手県産本わらび餅」などを提供するデリバリー「Haco chef」は、全国に個別配送が可能で、在宅でのオンライン親睦会にも利用できる。幹事が各地の参加者から好みの店・メニューを集約・一括注文し、指定時間に個別に配達する新しいタイプのデリバリーだ。都内の石油会社では、7月に渋谷区内のエスニック料理「TOMBOY」との協力でキッチンカーを出店(社内・近隣ビル向け)し、「常磐ものパッタイ」、「伊達鶏のグリーンカレー」などを提供。同社のキッチンカー出店は5、6月に続き3回目となる。「TOMBOY」では、港区赤坂、渋谷区道玄坂の各店舗で、9月30日まで「常磐ものグルメフェア」を開催している。「下町上野ふるさと盆踊り大会」で楽しめる福島の美味(東京電力発表資料より引用)東京下町の意気込みも注目される。葛飾区に店舗を置く「SOMY’S DELI」では、宮城県金華サバなどの「三陸・常磐もの」を使用した10種類の弁当を用意しており、いずれもコンパクトな容器に簡素な盛付けでアウトドア用にもうってつけ。東京23区内への配達の他、店舗での購入も可能。また、上野松坂屋では、8月22日まで、地下の食品売り場イベントスペースで「ふくしまフェア」を開催中。福島県産の野菜・果物、米、地酒の他、ご当地グルメ「なみえ焼そば」などを販売。これに合わせ、18~20日には、JR御徒町駅南口駅前広場で「下町上野ふるさと盆踊り大会」が予定されており、出来立ての福島の美味・お酒を楽しめる屋台群「『おいしいふくしま』てんこ盛り!」も出店される。
18 Aug 2023
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原子力発電環境整備機構(NUMO)は8月15日、長期にわたる地層処分事業への関心喚起を図るため、若い世代に向けたウェブCM「平成から令和へ『地層処分篇』・『NUMOの技術力篇』」(各篇30秒と60秒の2バージョン)を公開した。今回、NUMOが制作したウェブCMは、とある高校の教室が舞台。2000年(平成12年)10月18日から、2020年(令和2年)10月18日へと「20年後にタイムスリップ」する。授業が始まる前の生徒たちの雑談風景に出てくるメディアは、手帳に貼られたプリクラからスマートフォンの画像に、MDプレーヤーからワイヤレスイヤホンへと替わる。こうした「平成から令和へ」の移り変わりを演出し若い世代の関心を引き付けているのも見どころ。撮影風景・出演者のコメントも合わせて公開されており、その中で、2000、2020年と、2つの世代の女子生徒を演じた感想をモデルの新沼凛空さん(15歳)は、「リラックスした状態で撮影に臨めた」などと話している。CMの最初の場面「2000年10月」はNUMOが発足し、高レベル放射性廃棄物の最終処分に向け取組が具体化し始めた頃だ。「平成の先生」を演じた「てぃ先生」(現役保育士)は、「原子力発電、エネルギー政策、高度経済成長」と板書し、「みんなの暮らしが大きく変わった」と生徒たちに語りかける。続く場面「2020年10月」は、処分地選定に向けた文献調査に関し北海道寿都町・神恵内村が応募・受諾。処分地選定のプロセスが動き出した頃だ。「令和の先生」を演じたモデルの越智ゆらのさんは、「原子力発電で使い終えた燃料のうち、再利用できない約5%が高レベル放射性廃棄物となる」と説明。そこで、モデルの来栖あに華さん(14歳)演じる生徒が、地層処分について調べたレポートを示し、「次の世代のために、いま考える。」と、NUMOからのメッセージを送る。来栖さんは、「地層処分はまだ日本で知られていない。このCMをきっかけにどんどん広まって欲しい」と話している。NUMOがCMを制作するのは、2010年度以来。東日本大震災以前は、女優の鈴木杏さん他を起用したテレビCMが放映されていた。NUMOでは、地層処分事業の理解に向け動画を通じた情報発信を強化している。今回のウェブCMで先生役を演じた越智さんも出演するマイナビニュースとのタイアップ番組「竹山家のお茶の間で団らん 家族旅行」シリーズでは、日本原燃の六ヶ所原子燃料サイクル施設とともに、地元のグルメ・観光スポットを紹介している。
17 Aug 2023
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ファシリテーターの土屋氏(左)と議論に参加する学生たち福島第一原子力発電所の廃炉で発生する放射性廃棄物の取扱い、エンドステート(最終的な状態)について考える日本原子力学会主催のシンポジウムが8月12日、東京大学・本郷キャンパスで開催された。同学会の福島第一原子力発電所廃炉検討委員会では、廃棄物検討分科会を設置して専門的議論を行ってきた。同分科会は、2020年に取りまとめた中間報告の中で、「通常の原子力発電所とは異なり、物量・放射能濃度・物理化学的な性状の範囲が広く、多種多様である」ことから、放射性廃棄物の低減に向けた取組の早期実施、エンドステートに係る議論の必要性などを提言している。同中間報告では、福島第一原子力発電所廃炉のエンドステートに関し、「福島復興の将来像をどう考えるのか」という課題との関連性や、ステークホルダー間での話し合いの重要性も指摘しており、今回のシンポジウムでは、学会の専門家だけでなく、工学系の学生、報道関係者を交えてパネルディスカッションを行った。議論に先立ち、原子力学会の新堀雄一会長(東北大学大学院工学系研究科教授)が福島第一原子力発電所で発生する廃棄物の課題について講演。燃料デブリ取り出しに入る現段階において、物量の再見積もり、クリアランスレベル・再利用、サイト修復など、エンドステートを見据えた廃棄物管理シナリオを検討しておく必要性を述べた。報道関係者も登壇し学生たちと対話パネルディスカッションは、土屋智子氏(複合リスク学際研究・協働ネットワーク理事)がファシリテーターを務め、学生パネリストとして、北海道大学大学院エネルギー環境システム専攻の鎌田勇希さん、東海大学大学院工学系研究科の地井桐理子さん、福井大学工学部の川瀬里緒さん、福島高専機械システム工学科の高橋那南さんが登壇。報道関係からは、日本経済新聞編集委員の安藤淳氏、毎日新聞週刊エコノミスト編集部の荒木涼子氏、読売新聞科学部の服部牧夫氏、共同通信科学部の広江滋規氏、朝日新聞科学みらい部の福地慶太郎氏が登壇。いわき市出身で「震災発生時、幼稚園生で何が起きたのかわからなかった」という高橋さんは、現在、ロボット研究に取り組んでおり、「将来は廃炉に貢献したい」と話した。高レベル放射性廃棄物処分に係る技術・安全評価や社会受容について研究しているという鎌田さん、地井さんは、福島第一原子力発電所の廃炉に関し、それぞれ「40年後、本当に終わるのか」、「専門家と国民とのコミュニケーションが大事」と発言。これに対し、原子力関係を取材してきた記者として広江氏は、学会の活動がメディアで十分取り上げられていない現状に触れた上で、「『サイトの部分利用ができるのは何十年後』とか、具体的に示すべき」と、ステークホルダーの関与に向け、時間軸を明示する必要性を指摘。荒木氏は、ALPS処理水の理解を図るデジタルサイネージ広告を例に、「考えるきっかけ」を与え「わかりやすい言葉」で語る重要性を強調した。福島の復興に関し、地元勤務の経験を持つ福地氏、服部氏は、ふたば未来学園(広野町)を拠点に世代・地域・立場を超えて語り合う「1F地域塾」、現地を見て学んでもらうスタディツアー「ホープツーリズム」をそれぞれ紹介。福島第一原子力発電所事故をきっかけに原子力・放射線に関心を持ったという川瀬さんは、自身が在学する福井県、出身の岐阜県に立地する原子力施設が電力消費地に知られていないことをあげ、「まずは自分事として考えることが重要」と主張した。安藤氏は、長期にわたる廃炉プロセスの理解に関し、「情報を中立的に出して、シナリオを一緒に考え、『自分が意思決定に関わった』と一人一人が思えば納得感につながる」と強調。土屋氏は、「廃炉にかかわらず原子力では信頼を壊さぬよう色々な事業を進めてもらいたい」と述べ、議論を締めくくった。
16 Aug 2023
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©Kaminoseki Town山口県の村岡嗣政知事は8月9日の記者会見で、同県上関町における使用済燃料中間貯蔵施設の建設に向けた調査・検討に関し質疑に応じた。同調査・検討は、中国電力が8月2日、2023年2月に上関町からの検討要請を受けた「まちづくりのための財源確保につながる新たな地域振興策」として回答したもので、町内の同社所有地内において、中間貯蔵施設の立地可能性を調査し、具体的な計画の検討に必要なデータを取得するもの。中国電力による提案では、半年ほどかけて文献調査、ボーリング調査などを行う予定。村岡知事は8月8日、上関町の西哲夫町長と本件に関し県庁内で会談を行い、町の人口減少・高齢化や厳しい財政事情を背景に「町議会を開き判断したい」との報告を受けたとしている。会見を行う山口県・村岡知事©Yamaguchi Prefecture9日の会見で、知事は、「状況の推移を見守っていきたい」と強調。立地可能性調査を検討する現段階で、県としての意見を控える姿勢を示した上で、「仮にステップが進んでいけば、最も重要な関心事項となる安全確保についてはしっかり見ていく」と述べ、今後の進展により、周辺市町の関係や国との交付金手続きなど、広域的・総合的立場から県が判断に関わる可能性を示唆した。また、村岡知事は、中間貯蔵施設の必要性を認識する一方、核燃料サイクル事業の停滞を憂慮。原子力政策に関し、「最終処分に至るまで国がしっかり対応すべき」と強調した。中国電力では、中間貯蔵施設の検討に当たり、単独での建設・運営が難しいことから、関西電力との共同開発を前提に進めていく考えで、具体的な計画は今後、調査・検討結果を踏まえて策定する予定。〈中国電力発表は こちら 、関西電力発表は こちら〉なお、同社は1996年に山口県や上関町に対し原子力発電所の建設を申入れた後、2009年に原子炉設置許可(ABWR×2基)を国に申請。海域の埋立て工事に着手したが、2011年の福島第一原子力発電所事故により中断となっている。2012年以降、3度にわたり工事完了時期の延長を県に申請しているが、建設は進展していない。
10 Aug 2023
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文部科学省は8月8日、大型放射光施設「SPring-8」(理化学研究所運営、兵庫県佐用町)の高度化に関する報告書を取りまとめ発表した。老朽化対策や技術革新の進展などに対応し、施設の高度化を推進すべく、山本左近・文部科学大臣政務官を座長とし関係部局の行政官で構成されるタスクフォースで5月より検討を行ってきたもの。「SPring-8」は、光速近くまで加速した電子の進行方向を曲げたときに発生する極めて明るい光「放射光」を用いて、物質の原子・分子レベルの構造や機能を解析する世界最高性能の研究基盤施設で、1997年に供用を開始し、生命科学、環境・エネルギー、新材料開発など、様々な分野で革新的な研究開発に貢献している。報告書では、次世代半導体の量産やGX(グリーントランスフォーメーション)社会の実現など、国内外で大型放射光施設の利用が大きな契機を迎える2030年から先の社会・産業を見据え、「今、『SPring-8』を高度化した『SPring-8-Ⅱ』は待ったなしのタイミング」と強調。運転開始から25年が経過し、運転・保守に係るコストの年々増加している一方、欧米・中国など、海外における大型放射光施設の躍進から、「このまま陳腐化すると、わが国の研究者は海外施設に頼らざるを得ず、施設利用に際し他国に研究内容を開示する結果になる」と、「SPring-8」の将来を懸念。その上で、「放射光の輝度を約100倍に向上させ、高精細なデータが短時間で取得可能にすることが必須」と、アップグレードの必要性を指摘し、2024年度から所要の取組を進めるべきと述べている。さらに、「SPring-8」の高度化が5年、10年遅れた場合の逸失コストを、それぞれ74億円、211億円と試算。技術伝承・人材育成の観点からも高度化を先送りすることは大きな損失となるとしている。「SPring-8」の整備・共用について、文科省は例年、約100億円の予算を計上。安定的な運転の確保、利用環境の充実化に努めてきた。「SPring-8」の総累計利用者数は約30万人、同施設を利用した研究論文は累計で約2万件に上り、小惑星探査機「はやぶさ」が採取した試料の解析もその一つだ。また、共用ビームラインにおける全実施課題で産業利用の割合は約2割を占めている。「SPring-8」を利用した製品開発の例としては、GX社会実現のもと、さらなる普及が見込まれる燃料電池車から、コンタクトレンズに至るまで大小多岐にわたり、特に身近なものではヘアケア製品が注目される。古代からの整髪剤、既婚女性の風習だったお歯黒の原料として知られる米のとぎ汁が含む糖質「イノシトール」の予防美髪効果を放射光分析で解明し開発した量販品シャンプーのほか、植物性オイルの毛髪浸透をミクロレベルで可視化した研究成果を応用した美容室専売品もある。
09 Aug 2023
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東京電力の核セキュリティの取組を第三者の視点で確認する専門家評価委員会が8月7日、3回目となる評価報告書をまとめ、同社に提出した。同委員会は、柏崎刈羽原子力発電所で発生した核物質防護に係る不適切事案に対し、東京電力による改善措置活動を確認することを目的として2021年12月に設置され、これまで、2022年7月、2023年1月と、2回にわたり評価報告書をまとめている。前回報告の2023年1月以降の取組を評価対象とした今回の評価報告書では、セキュリティ部門と他の部門との人事交流等の継続的な促進セーフティ上、セキュリティ上の不適合事案「ゼロ」に向けた意識改革立入制限区域の変更の有効性と丁寧な説明廃炉(福島第一・第二)に伴う核セキュリティ教育のさらなる徹底不要警報(気象条件や鳥・小動物に起因する誤報)対策のさらなる改善広報における丁寧な説明とメディアとの信頼関係の醸成――の6項目を提言。評価報告書は8月7日、板橋功委員長(公共政策調査会研究センター長)より、東京電力・小早川智明社長に手渡された。板橋委員長は「核セキュリティのパフォーマンスは着実に向上しつつある」と評価。一方で、提言(2)に関し、「核セキュリティ上・セーフティ上の不適合事案が相次ぐことによって、折角のパフォーマンス向上も陰に隠れてしまう」と危惧。さらに、提言(6)に関し、「すべてをオープンにできないのはもちろんだが、説明できる部分についてはできるだけ丁寧に説明して欲しい」と述べ、核セキュリティの特性を考慮したメディアとの信頼関係構築の必要性を指摘した。小早川社長は、「委員会からの提言を踏まえた取組を進めた結果、核セキュリティのレベルは一定程度向上している。今後も報告書の内容をしっかりと確認し継続して改善に努めていく」と述べた。
08 Aug 2023
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東北大学と米国ミシガン大学が共催する原子力発電所の廃止措置に関するオンラインワークショップが8月4日(日本時間)に開催された。元米国原子力規制委員会(NRC)委員長のクリスティン・スビニッキ氏をモデレーターに迎え、両国の行政機関、規制機関、産業界の実務レベルによるパネルディスカッションを通じ、今後、国内で本格化する通常炉の廃止措置が安全・円滑に進捗するための方策を見出すのがねらい。開会に際し、東北大大学院工学研究科の渡邉豊教授は、「米国では既に10基を超える発電炉の廃炉が完了している。その成功事例とともに失敗の経験も学ぶ機会としたい」と、今回WSの意義を述べたほか、両国の学生参加者らに対し「20年後には社会を牽引するリーダーとなる」と、将来の活躍に期待を寄せた。また、ミシガン大原子核工学・放射線科学科のトッド・アレン教授は、原子力発電の有する「クリーンエネルギー」としての価値をあらためて強調。原子力発電所の廃止措置に関し、「成功裏での完遂は社会の信頼を得る上で欠かすことができず、将来のプラント設計に資するとともに、若手が活躍する場の選択肢ともなる」と述べた。両国の廃止措置の現状については、米国電力研究所(EPRI)と電気事業連合会がそれぞれ説明。EPRIからは現在、米国で進行中の12の廃止措置プロジェクトについて、電事連からは中部電力浜岡1・2号機を例に低レベル放射性廃棄物処分の課題やクリアランス((放射能濃度が基準値以下であることが確認されたものを再利用または一般の産業廃棄物として処分できる制度))対象物の再利用に係る取組などが紹介された。パネルディスカッションでは、原子力発電分野で40年以上の経験を有する専門家としてディアブロキャニオン発電所のアル・ベイツ氏が登壇。同氏は、「廃炉は極めて長期にわたるプロジェクト」と強調し、早い段階でのリスク認識、規制側とのパートナーシップ構築を図る必要性を指摘した。スビニッキ氏が日本の廃炉に係るスケジュール感について尋ねたのに対し、原子力規制庁で放射性廃棄物のリスク評価研究に従事する大塚楓氏は、日本では廃止措置の経験が少ないほか、福島第一原子力発電所事故の経験から慎重な判断が求められ、審査に時間を要している現状を説明。また、資源エネルギー庁の安良岡悟氏は、クリアランス制度の必要性に関し、日本の廃棄物処分に係る土地制約や地元理解の難しさにも言及した上で、今後も廃炉に資する知見を謙虚に蓄積していく姿勢を示した。この他、廃炉技術の研究開発、国際機関との連携、アカデミアの考え方と産業界のニーズとのギャップ、若手へのインセンティブ喚起などをめぐり意見が交わされた。
07 Aug 2023
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日本原子力研究開発機構は8月2日、ナトリウム冷却高速炉の安全性を評価し設計最適化を図る新しいシミュレーション手法を開発したと発表した。同機構が開発を進めている革新的な原子炉の実用化を支援する統合システム「ARKADIA」(Advanced Reactor Knowledge and AI-aided Design Integration Approach through the whole plant lifecycle)の一環となるもの。今回、ナトリウム漏えいを想定したシミュレーションを行い、安全性確保と格納容器の小型化を両立する最適な設計条件を見つけることに成功した。〈原子力機構 こちら〉原子力機構高速炉サイクル研究開発センターが開発した新しいシミュレーション手法は、原子炉容器の内部から、冷却系配管、格納容器に至る広い領域で、相互の影響を自動的に考慮できるのがポイント。それにより、無限の組合せが考えられる設計条件から、安全性と経済性の両者を高い水準で満たす最適な設計を選び出し、開発リソースの最小化を図る。「ARKADIA」で機器設計の最適化を目指すナトリウム冷却高速炉は、受動的安全性(自然に止まる・冷える・確実に閉じ込める)、高レベル放射性廃棄物の減容化・有害度低減、多様な熱利用の利点から将来の実用化が期待されているが、化学的に活性な金属ナトリウムの取扱いが一つの課題だ。同研究開発センターでは、新しいシミュレーション手法の有効性を確認するため、「原子炉の配管を流れる液体ナトリウムが漏えいし、燃焼したことで、広い範囲で圧力が上昇する」という事故を想定。配管からのナトリウム漏えい量、格納容器の内部圧力を評価し、高い安全性を保ちつつ格納容器の大きさを半分に小型化できる最適な設計条件を発見した。格納容器の小型化は、経済性の向上、耐震性の向上、建設工程の短縮、メンテナンスの簡素化など、多くの利点につながる。同日、記者発表を行った高速炉サイクル研究開発センター高速炉解析評価技術開発部の内堀昭寛氏は、原子炉の設計プロセスを変革する「ARKADIA」の今後の展開に向け、「先ずはターゲットとしているのは高速炉だが、炉型にかかわらず応用できるようさらに開発を進めていきたい」と、抱負を述べた。
04 Aug 2023
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欧州連合(EU)は8月3日、福島第一原子力発電所事故以降、日本産食品に課してきた輸入規制を撤廃した。7月13日にベルギー・ブリュッセルで行われた日EU定期首脳協議において公表され、関係規則が発効したもの。〈既報〉また、ノルウェーとアイスランドも8月3日、同様に、関係規則に係る国内手続きが完了し、日本産食品に対する輸入規制を撤廃した。両国とも漁業が盛んで捕鯨国でもあることから、こうした国々の動きは、被災地復興を後押しするとともに、韓国、中国、台湾、香港などで依然として、継続している日本産食品輸入規制の緩和・撤廃や、日本の水産業に対する海外からの理解につながることが期待される。これで、55か国・地域で行われてきた日本産食品の輸入規制は、9か国・地域に減少した。松野博一官房長官は8月3日午前の記者会見で、欧州諸国による規制撤廃の動きを歓迎する一方、「一部の国・地域において規制が維持されていることは残念」とした上で、「政府として、日本産食品については、厳格な安全対策を講じ、『科学的見地からすべて安全性を確保している』ことを引き続き丁寧に説明していく」と述べた。原産協会の新井史朗理事長は、7月27日の記者会見で、EUの規制撤廃について「福島の復興を後押しするものであり、大いに歓迎する」とした上で、ALPS処理水((多核種除去設備(ALPS)等により、トリチウム以外の放射性物質について安全に関する規制基準値を下回るまで浄化した水。海水と混合し、トリチウム濃度を1,500ベクレル/リットル(告示濃度限度の40分の1)未満に希釈した上で放水する))の海洋放出を理由とした中国や香港における放射性物質検査強化の動きに関し「環境や人に影響しない科学的根拠に基づく放出であることを、粘り強く国際社会に訴えていく」必要性を強調している。
03 Aug 2023
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関西電力の高浜発電所1号機(PWR、82.6万kW)が8月2日15時、およそ12年半ぶりに発電を再開した。国内の40年超運転としては同社・美浜3号機(新規制基準施行後、2021年6月に原子炉起動、同7月に営業運転再開)に続き2基目。新規制基準をクリアし再稼働したプラントとしては11基目となる。高浜1号機は、日本が高度経済成長期の真っ只中にあった1969年に建設が開始され、1974年11月14日に、国内では8基目、関西電力では美浜1・2号機に続く3基目の原子力発電プラントとしてデビュー。出力82.6万kWは、当時、国内最大級だった。1年後の1975年11月14日には高浜2号機(PWR、82.6万kW)が運転を開始。高浜1・2号機は、その後、同社で、美浜3号機、大飯1・2号機へと続く大型プラントの先駆けとなった。高浜1号機は2011年1月に定期検査に伴い停止した後、東日本大震災を経て、2015年3月に同2号機、美浜3号機とともに新規制基準適合性に係る審査が開始。2号機とともに、2016年4月に原子炉設置変更許可となり、2021年4月までに再稼働に対する地元の「理解表明」を得た。一方で、高浜1・2号機は、新規制基準で要求されるテロなどに備えた「特定重大事故等対処施設」(特重施設)の設置期限(プラント本体の設計・工事計画認可から5年)を2021年6月9日に満了。整備期間を経て、1号機については、2023年7月14日に特重施設が運用を開始し、同28日に原子炉起動となった。今後、定期検査の最終段階となる国の総合負荷性能検査を経て、8月28日に営業運転に復帰する見通しだ。原産協会の新井史朗理事長は、コメントを発表し、関西電力のこれまでの再稼働実績にも言及した上で、「安全・安定運転の積み重ねが、地元を始め、国民の皆様の原子力への信頼を深めてもらうためにとても大切」と強調。今後、高浜2号機やこの他のBWRプラントの再稼働に向けても、引き続き安全最優先で作業が進められることを期待した。
02 Aug 2023
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筑波大学の研究グループは7月24日、降雨による空間線量率の変動を推定するモデルを開発したと発表した。福島県内2地域での土壌水分量と空間線量率の観測結果から比較・評価を行い得られたもので、原子力災害被災地の環境回復を正確に定量化する指標となり得る研究成果だ。〈筑波大発表資料は こちら〉同研究では、福島第一原子力発電所事故以降、物理的減衰や除染により福島県の森林の空間線量率が順調に減少してきたものの、降雨後の低下や乾燥時の上昇など、一時的な変化もみられていることに着目。降雨後の空間線量率の低下は、土壌水分量が増え遮蔽効果が高まることによると予想されており、土壌水分量の変化と空間線量率の関係を調べるため、現地で観測を行った。観測は、空間線量率が5.0マイクロSv/時を超える浪江町の森林(2021年)と、除染が実施され空間線量率が1.0マイクロSv/時の川内村の森林(2019年)で実施。気象庁の降雨量データをもとに算出した「実効雨量」を用いて降雨による影響について評価・分析を行った結果、浪江町では土壌水分の増加とともに空間線量率が減少しており、その変化を降雨量から説明できた。また、空間線量率の低い地域である川内村についても、「実効雨量」から土壌水分の推定が可能だったが、はっ水性(水をはじく性質)を考慮する必要性が示された。研究グループでは、今後の展開に向け、地表面における放射性セシウムの存在量や、はっ水性の評価とともに、日射量や気温の季節差を踏まえ、年間を通した観測も必要となるとしている。今回の研究をリードした筑波大放射線・アイソトープ地球システム研究センター・恩田裕一教授は、これまでも、他大学・研究機関との連携により、福島の環境回復に関し、科学的視点からチョルノービリと比較した評価・分析などを行ってきた。
01 Aug 2023
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内閣府原子力委員会は7月27日、2022年度版原子力白書を取りまとめた。 今回の白書では、「原子力に関する研究開発・イノベーションの動向」を特集。その中で、安全性向上と脱炭素推進を兼ね備えた革新炉の開発水素発生を抑制する事故耐性燃料の開発原子炉の長期利用に向けた経年劣化評価手法の開発高線量を克服する廃炉に向けた技術開発核変換による使用済燃料の有害度低減への挑戦経済・社会活動を支える放射線による内部透視技術開発原子力利用に関する社会科学の側面からの研究――の7つのトピックを取り上げ、国内外における研究開発の動向、課題、将来展望について紹介している。革新炉開発では、小型軽水炉、高温ガス炉、ナトリウム冷却型高速炉を取り上げ、炉型ごとの安全性向上技術について紹介。例えば、米国で開発が進められる小型軽水炉「VOYGR」では、自然災害や航空機衝突など、外部ハザードへの耐性を強化するため、プラントを半地下に設置し、原子炉と格納容器から構成されるモジュールを大きな地下プール内に設置。万一事故が起きても、プール内の水で炉心が冷却され、水が蒸発しても空冷で「自然に冷える」設計となっている。高温ガス炉、ナトリウム冷却型高速炉についても、外部からの電源や動力が無くなるような非常時に、炉心や格納容器を冷却できる受動的安全機能の開発がそれぞれ進められている。さらに、炉型を問わず、特に、地震の多い日本に設置する原子炉に必要な安全性向上対策として、3次元免震装置を紹介。これまでの水平方向の揺れに加え、上下方向の揺れを減衰する技術を組み合わせた構造で、設置・メンテナンスが容易となる。一方で、万一、事故が施設内で収束しなかった場合の影響緩和に資する技術開発に加え、緊急時対応の検討も合わせて進めるよう指摘している。2023年2月に原子力委員会がおよそ5年半ぶりに改定した「原子力利用に関する基本的考え方」では、国が研究開発を支援するに当たり、将来の実用化を見据えること、技術の客観的評価の重要性などがあげられた。今回、原子力白書の特集に関しては、原子力委員会メッセージ「研究開発に当たって求められる態度」として、研究のための研究とならないよう、技術のメリットを強調するだけでなく、社会実装に向けて、科学的・工学的な課題を含めた技術の客観的な検証を進めていくべき社会実装の早期実現のため、放射性廃棄物対策、事業段階でのサプライチェーン、規制対応、経済性など、事業全体のライフサイクルに対する影響を早い段階から議論の俎上に載せるべき効果的・効率的な研究開発を促進するため、事業を担う産業界の主体性を活かす産学連携や国際連携を積極的に進めることが必要――と強調している。
31 Jul 2023
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原産協会の新井史朗理事長は7月27日、記者会見を行い、福島第一原子力発電所で発生するALPS処理水((多核種除去設備(ALPS)等により、トリチウム以外の放射性物質について安全に関する規制基準値を下回るまで浄化した水。海水と混合し、トリチウム濃度を1,500ベクレル/リットル(告示濃度限度の40分の1)未満に希釈した上で放水する))の海洋放出に関して、粘り強く国際社会へ訴えていく考えを明らかにした。新井理事長は、IAEAが4日に公表したALPS処理水の安全性レビューに関する包括報告書の示す「海洋放出へのアプローチ、並びに東京電力、規制委員会、日本政府による活動は国際的な安全基準に合致している」、「計画されている海洋放出が人および環境に与える放射線の影響は無視できる水準である」との結論について、「グローバルスタンダードな評価として、わが国にとって大変心強いものだ」と強調。一方で、放出完了までに長い期間を要することから、「的確な運転操作の継続と設備の劣化などへの対応も必要」として、高い透明性の確保に加え、中長期的な課題に対する検証、国内外にある様々な不安や懸念に向かい合い続けることの重要性をあらためて述べた。中国における海洋放出を理由とした日本からの輸入水産物の放射性物質検査を強化する動きに関し、「運転中プラントからの放出と同様、環境や人に影響しない科学的根拠に基づく放出であることを、粘り強く国際社会に訴えていかねばならない」と強調。ウェブサイトを通じた情報発信や、中国、韓国、台湾の原子力産業団体で構成する「東アジア原子力フォーラム」を通じた対話など、原産協会によるこれまでの取組に言及し、今後も「原子力産業界をあげて、廃炉と復興の両立を支援していく」との姿勢を示した。海洋放出への社会の理解について問われた新井理事長は、廃炉と復興の両立と、再稼働した原子力発電所の地道な安全・安定運転が信頼回復の一歩と述べた。風評被害対策に関しては、電気事業連合会による全国大の水産加工品消費・売上げ振興策に言及した。この他、高温ガス炉実証炉の基本設計を担う中核企業として資源エネルギー庁より25日に三菱重工業が選定されたことについて、高温熱を用いた水素製造の可能性や立地の課題に関し質疑応答がなされた。〈理事長メッセージは こちら〉なお、三菱重工は、2030年代の運転開始を目指す高温ガス炉実証炉の建設に向け、研究開発および設計、建設までを一括して取りまとめていく。同社は、日本原子力研究開発機構の高温工学試験研究炉「HTTR」による水素製造の実証試験を進めており、今回の中核企業への選定を受け、「これまでの高温ガス炉開発における当社の豊富な実績や研究開発への積極的な取組、高い技術力などが評価された」と、コメントしている。
28 Jul 2023
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