核融合エネルギーの実用化に取り組む京都大学発のベンチャー企業「京都フュージョニアリング」は5月17日、総額約100億円の資金調達に成功したことを発表した。電力、商社、金融など、各界から、計17社が引き受けたもの。〈京都フュージョニアリング発表資料は こちら〉エネルギー問題と地球環境問題を同時に解決する次世代エネルギーとして核融合の研究開発に取り組む同社では、「ITER計画に加え、近年では諸外国で民間投資が増加したことにより、フュージョン(核融合)スタートアップによる研究開発も加速し、フュージョンエネルギーの早期実現と産業化に向けた動きが活発化している」と、核融合エネルギーの実用化を巡る国際競争の激化を認識。今回の資金調達によって獲得した資金と投資家の持つ知見を活用して、主力製品である核融合周辺装置やプラントの研究開発を加速させ、「米国・英国を拠点とした事業拡大をさらに強化し、世界におけるいち早いフュージョンエネルギーの実現と産業化に向けて邁進する」と、意気込みを見せている。出資企業の関西電力グループ合同会社「K4 Ventures」は「フュージョンエネルギーにかかる新しい知見の獲得や実用化の可能性検討に取り組み、ゼロカーボン社会の実現に貢献していく」と、電源開発株式会社は「発電事業、水素製造事業においても新たな価値をもたらす」と、それぞれ展望、期待。また、三菱商事は「フュージョンエネルギーを活かしたカーボンニュートラル新産業の創出に取り組み、脱炭素化および日本を含む世界各国でのエネルギーの安定供給に貢献する」としている。原研時代の小西哲之氏(原産新聞1999年8月12日号〈発刊2000号〉より)政府の統合イノベーション戦略推進会議では4月に、産業界からの参画も得た議論を踏まえ、「フュージョンエネルギー・イノベーション戦略」を策定。核融合エネルギーを新たな産業と捉え実用化に向け加速化を図っていく方針が示された。同会議には、有識者として「京都フュージョニアリング」取締役の小西哲之氏も参画。同氏は、日本原子力研究所(日本原子力研究開発機構の前身)でトリチウム工学研究に取り組んだ経験を有しており、1999年に、原子力産業新聞が創刊した「昭和31年」の生まれに因んだ発刊2000号特集インタビューで、核融合の将来に向け、「21世紀のエネルギーを考えると、核融合を筆頭として地球再生可能エネルギーを使っていくべきだ。あと30年で実証したい」と、熱く語っていた。
18 May 2023
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原子力規制委員会は5月17日の定例会合で、核物質防護に係る不適切事案のため東京電力柏崎刈羽原子力発電所に対し実施している追加検査を、引き続き行う対応方針を了承した。柏崎刈羽原子力発電所では、2020年9月に発電所社員が他社員のIDカードを無断で持ち出し中央制御室まで不正に入域する事案が発生。この他にも、核物質防護設備の機能の一部喪失事案が発覚したことから、規制委員会は、「組織的な管理機能が低下」、「核物質防護上、重大な事態になり得る状況」と指摘し、2021年3月、同所に対する原子力規制検査の対応区分を「第4区分」(事業者が行う安全活動に長期間にわたる、または重大な劣化がある状態)に変更。約2,000人・時間を目安として追加検査を行うことを決定し、東京電力に対し同年4月、対応区分が「第1区分」(事業者の自律的な改善が見込める状態)に改善するまで、事実上、運転が不可能となる是正措置命令を発出した。17日の会合では、原子力規制庁が2021年4月~23年4月に実施した追加検査の報告書について説明。検査時間は3,475人・時間に達したとしている。そのうち、2021年秋の東京電力による改善措置報告後に行われた「フェーズⅡ」では、「強固な核物質防護の実現」、「自律的に改善する仕組みの定着」、「改善措置を一過性のものとしない仕組みの構築」の3つの確認方針で検査。これに基づく27項目からなる確認視点のうち、4項目が未だ「是正が図られていない」との判断に至り、原子力規制検査の対応区分を「第4区分」のまま、「フェーズⅢ」として追加検査を継続するとしている。今回の報告書では、「是正が図られていない」と判断された確認視点の一つ「自然環境に適合した設備が設置され不要警報が減少しているか」に関し、荒天時の体制構築や不要警報の低減目標を踏まえた具体的対応について、引き続き確認の必要があると指摘。自然ハザードに関する審査を担当する石渡明委員は、日本海側の厳しい気象条件にも言及しながら、「長期的に改善している傾向がはっきりと見える。『あと一息』という感じではないか」と、東京電力の取組に一定の評価を示した。山中伸介委員長は、今後、追加検査の進捗について引き続き報告を受けるとともに、東京電力社長との対話の場を設定し、今回の報告書で指摘された課題への対応状況について意見交換を行う考えを示した。なお、規制委員会による対応方針を受け、東京電力は、検査で指摘事項のあった4項目について「しっかりと是正を図っていく」とのコメントを発表した。
17 May 2023
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日立製作所は5月16日、台湾・台北栄民総医院に納入した重粒子線がん治療システムが15日から治療を開始したと発表した。台湾では初めての重粒子線がん治療システム稼働となる。また、陽子線がん治療システムでこれまで多くの海外納入実績を積んできた日立にとっても、今回の重粒子線がん治療システムは、初めての海外での治療開始となった。〈日立発表資料は こちら〉日立の発表によると、同システムは、台北栄民総医院の新しい重粒子線がん治療センターに設置され、水平・垂直方向からの照射が可能な治療室を2室完備。呼吸に伴う臓器の動きを捉える動体追跡技術と、腫瘍の形状に合わせて重粒子線を照射できるスキャニング照射技術を搭載している。納入先の台北栄民総医院は、台湾有数の医学センターとして世界でも高い知名度を有している。台湾のメディアによると、同地域内で、2020年にがんを発症した患者は前年比725人増の121,979人、前年より1秒縮まった4分19秒に1人のペースでがんに罹患している計算だという。今回の重粒子線がん治療システムの稼働開始により、訪日して治療を受けるより費用が安くあがり言葉の壁もなくなるといった期待の声も上がっている。昨今、国内メーカーによる重粒子線がん治療システムの海外展開が顕著となっており、4月末には、東芝エネルギーシステムズが韓国・延世大学校医療院に納入した装置が治療を開始した。
16 May 2023
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福島県の内堀雅雄知事は5月15日の定例記者会見で、19~21日に開催されるG7広島サミットを前に、「復興の歩みを進める本県への理解を深めてもらう貴重な機会」ととらえ、県の復興状況の積極的な発信に意欲を示した。内堀知事によると、G7広島サミットでは、各国から来日する要人の食事に福島県産の食材を活用するほか、報道関係者の取材拠点となる国際メディアセンターにおいても、県産の酒・食品の展示コーナーが設けられる予定。知事は、既に終了した関係閣僚会合、「G7札幌気候・エネルギー・環境大臣会合」(4月15~16日)、「G7長野県軽井沢外務大臣会合」(4月16~18日)と同様、政府とも連携しながら、同センターでパネル展示を行い福島県の復興状況の発信に努めると述べた。また、福島第一原子力発電所のALPS処理水((トリチウム以外の核種について環境放出の規制基準を満たす水))に係る国際理解に関し、5月12日の日韓外交レベルでの議論で「韓国専門家視察団の4日間の日本訪問」が合意されたことについて、内堀知事は、「国においては、こういった視察の場を活用し、科学的な事実に基づく正確な情報発信を行うとともに、引き続きIAEAなどと連携し、国内外の理解醸成に向け責任を持って取り組んで欲しい」と強調。韓国専門家視察団の5月中来日は、7日の岸田文雄首相と尹錫悦(ユン・ソンニョル)韓国大統領との会談で合意されたもの。今回の視察団来日に際し、知事は県として具体的な対応予定はないとしたが、韓国側の「『汚染水』を『処理水』に改める」といった呼称を巡る動きに関して、「本質的な問題に係る重要な部分だと考える」との認識を示した。さらに、県内の除染により発生した除去土壌の再生利用に関する視察で来日したIAEA専門家チームが12日、国民の信頼醸成を今後の課題にあげたことについて、知事は、「科学的な安全論と社会的な安心感はイコールではなく、別の側面がある」として、リスクコミュニケーションの重要性を改めて述べた。
15 May 2023
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戸田建設は5月11日、建物の解体時、水素を利用し環境負荷の低減を図る「マスカットH工法」を、放射線施設の解体工事に適用したと発表した。〈戸田建設発表資料は こちら〉同工法は、現在、東京都中央区内で計画する新社屋「TODA BUILDING」(地上28階・約165m、2024年9月しゅん工予定)開発プロジェクトに伴う解体工事で適用実績のある「マスカット工法」を改良したもの。コンクリート構造物の解体作業時における現場周辺の環境振動への配慮に加え、水素のみを可燃性ガスに使用することでCO2を発生せず、建設業界における温室効果ガス排出量低減にもつながるのが特長だ。切り出された遮蔽鋼板、従来工法では150mm厚の切断が限界だった(戸田建設発表資料より引用)戸田建設では、新たな「マスカットH工法」を解体工事に適用し、厚さ1m以上の鉄筋コンクリート部材の切断など、実績を積み重ねてきたが、このほど、病院併設の放射線施設に初めて適用。これまで、放射線施設の解体工事では、遮蔽鋼板やコンクリートで堅牢な躯体が構築されているため、騒音、振動、粉塵の発生の他、一般的な建設現場で使用するガス切断設備では極厚の複数鋼板を一度に切断できず、プロパンガスなどの使用によるCO2排出の課題があった。同社では、今回、新工法を適用した施設の詳細は明らかにしていないが、「周辺に人通りの多い商業施設や閑静な住宅地がある」としており、近隣環境への影響低減に十分な効果が得られたという。「マスカットH工法」は、振動による落盤事故リスク、粉塵発生に伴う排気設備設置に制約のあるトンネル工事にも適用され、作業工程の短縮にもつながっており、同社では、今後も困難な解体作業を抱えている様々な現場に積極的に適用し、建設工事における水素エネルギーの利用拡大、脱炭素社会の実現に貢献したいとしている。
12 May 2023
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原子力規制委員会の山中伸介委員長は5月10日夕刻の定例記者会見で、同日会合の議題となり了承された運転開始から60年目以降の原子力発電所に課する「追加点検」の考え方に関し、「今後の専門的な議論に向けて大筋が固まった」と述べ、技術的論点は概ねクリアされたとの認識を示した。〈規制委発表資料は こちら〉現在、国会で「原子力発電の運転期間に関する規律の整備」、「高経年化した原子炉に対する規制の厳格化」などを盛り込んだ原子力関連の法案が審議中となっている。原子力事業者が予見しがたい事由による停止期間に限り現行規定で最長60年の運転期間から除外する(電気事業法)とともに、運転開始から30年を超えて運転しようとする場合、10年以内ごとに設備劣化に関する技術的評価、および劣化を管理する計画の認可を受けることを義務付ける(原子炉等規制法)というもの。60年超の運転も認め得ることとなる。規制委員会では、こうした運転期間見直しの動きを踏まえ、昨秋より高経年化した原子力発電所の安全規制に関する検討を進め、随時、専門チームでの検討状況について報告を受けてきた。10日の定例会合では、現行の運転開始40年目で課する「特別点検」と同じ項目で、60年目以降の運転に係る認可の際、「追加点検」の実施を求めることを原則とする考え方を了承。山中委員長は会見で、「今後は規則・ガイド類をまとめていく必要がある」として、関連法案成立後、膨大な作業を要する見通しを示した。同委では高経年化した原子力発電所の安全規制に関するわかりやすい資料作りに取り組んでいるが、山中委員長は、「『劣化が進んでいくとはどういうことなのか。それに対しどういう規制を行っていくのか』を、国民に理解してもらうよう今後も改善を図っていく」と改めて強調。また、人工知能を使ったチャットサービス「ChatGPT」の活用について問われたのに対し、同氏は「職員の間で色々と勉強している段階だと思う」と応え、現時点では導入に向けた具体的検討はなされていないとした。
11 May 2023
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IAEA・カルーソ氏原子力規制委員会は5月10日の定例会合で、2023年1月に行われた福島第一原子力発電所のALPS処理水(トリチウム以外の核種について環境放出の規制基準を満たす水)取扱いに関するIAEA規制レビュー(ミッション団長=グスタボ・カルーソIAEA原子力安全・核セキュリティ局調整官)の報告書について原子力規制庁より説明を受けた。〈規制委発表資料 こちら〉同報告書は、ALPS処理水の海洋放出に関し、2021年7月に日本政府がIAEAによる支援を要請し署名した付託事項に基づき行われたレビューのうち、規制面でのレビューについて取りまとめたもの。1月のIAEAによる規制レビューは2022年3月に続き2回目となり、規制委員会へのヒアリングや現地視察を終了後、団長のカルーソ氏は、「前回のミッションで出たほとんどの問題について考慮されていることを確認できた」と、日本の規制当局の取組を評価した上で、3か月以内にも報告書を公表するとしていた。今回、IAEAが公表した報告書では、政府の役割と責任、主要概念と安全目的、認可プロセスなど、規制に係る5つの技術的事項に関するレビューについて記載。進捗報告書との位置付けで、結論には言及しておらず、「ALPS処理水の海洋放出開始まで、および放出開始後において、国際安全基準に照らし規制プロセスとその活動を引き続き監視する」としている。IAEAはレビュー全側面にわたる包括的報告書を年央にも公表することとしているが、原子力規制庁担当者によると、これに向けたミッションが5月末にも来日する予定。日本政府は海洋放出開始時期を春から夏頃と見込んでいる。トンネル掘進完了後の放水トンネルの様子©東京電力この他、10日の定例会合では、東京電力が昨秋に申請した福島第一原子力発電所廃炉に関する実施計画の変更認可が決定された。ALPS処理水の海洋放出に当たり、トリチウム以外に測定・評価を行う対象核種として29核種を選定し放出基準を満足することを確認するとしたもの。ALPS処理水の希釈放出設備の設置工事は、4月26日に全長約1,031mの放水トンネルの掘進が完了している。
10 May 2023
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西村康稔経済産業相は5月9日の閣議後記者会見で、7、8日に行われた日韓首脳会談など、直近の外交を巡り質疑に応じた。韓国・ソウルを訪問した岸田文雄首相は、尹錫悦(ユン・ソンニョル)韓国大統領と会談。福島第一原子力発電所で発生しタンクに貯蔵されているALPS処理水((トリチウム以外の核種について環境放出の規制基準を満たす水))の取扱いに関し、韓国国内の理解を深める観点から同国専門家からなる現地視察団の5月中の受入れが合意された。〈外務省発表資料は こちら〉これについて、西村経産相はまず、「タンクがもう一杯になる状況を含め、ALPS処理水の海洋放出が必要であり、また、それに当たってはIAEAのレビューを受けながら、安全を確保し放出設備の工事を進めている」と強調。各国・地域への説明に努めている姿勢を改めて示し、韓国からの視察団来日に際しても、「日韓双方がIAEAの取組を共通の前提に調整している」とした上で、「現場の状況を見てもらいながら丁寧に説明する。視察を通じ韓国内でALPS処理水の海洋放出について安全性の理解が深まるよう期待したい」と述べた。IAEAによるALPS処理水の安全性レビューについては、直近5月4日の規制レビューに関するものを含め、これまでに5件の報告書が公表されており、本年前半にも包括的報告書が公表される見込み。また、依然と予断を許さぬロシアによるウクライナの原子力発電所に対する武力攻撃に関して、西村経産相は、戦争犠牲者の人道的な扱いを求めたジュネーブ諸条約の観点からも「断じて容認できるものではない」と強調。経産省として、ウクライナの原子力施設の安全確保に向けた支援を図る200万ユーロのIAEA拠出、「G7札幌 気候・エネルギー・環境大臣会合」(4月15、16日)における原子力安全・核セキュリティの重要性を強調するコミュニケの採択を行ったことを改めて説明。さらに、大型連休を挟んだ4月29日~5月8日の欧州8か国訪問に言及し、その中で、チェコ、ポーランド、ルーマニアの関係閣僚に対し「価値観を共有する同志国とのサプライチェーン強化を働きかけた」などと述べた。今回の欧州訪問で、西村経産相は、フランスのA.パニエ=リュナシェ・エネルギー移行相と会談を行い、日仏の原子力協力深化に向け、既存原子炉の長期運転、福島第一原子力発電所の廃炉、新興国への支援、次世代革新炉開発などに係る研究開発に焦点を当てた共同声明に署名。また、チェコでも産業貿易相と会談し、原子力協力の強化に向けた協力覚書に署名を行っている。「G7札幌 気候・エネルギー・環境大臣会合」のコミュニケを踏まえ、「価値観を共有する同志国」および「原子力の使用を選択する国」として、協力の重要性を認識した上、小型モジュール炉(SMR)開発などの協力を盛り込んでいる。
09 May 2023
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日本科学技術ジャーナリスト会議(JASTJ)は4月20日、科学技術に関する優れた報道や啓発活動などを顕彰する「科学ジャーナリスト賞」の2023年度受賞作品を発表した。JASTJは、ジャーナリスト、企業・研究機関の広報担当者らで構成される科学技術ジャーナリズムの向上・発展を目指し活動する団体で、講演会や見学会の開催などを通じ会員の資質・見識の向上や相互間の親睦を図っている。2023年度の「科学ジャーナリスト賞」では、最も名誉な大賞の該当作品はなかったが、「気候変動など、人類が直面する地球環境の課題を考える」継続的な取組として、福井県年縞博物館(福井県若狭町)の常設展示に特別賞が贈られた。この常設展示は、立命館大学との協力により、三方五湖の一つ「水月湖」の湖底で堆積する地層が年ごとに積み重なって描く縞模様「年縞」を用いて、考古学における遺物の年代測定を精緻化する研究成果を展示している「世界唯一」のもの。遺物の年代測定は、これに含まれる放射性炭素14の残存量による方法があるが、生物では年代によってその量が変動しており、遺骸からでは正確な年代が測定できない。「水月湖」では好条件が幾つも重なり、世界に類を見ないほどの年月にわたり「年縞」が形成され続け、その規模は約45m・7万年分にも及ぶ。例えば、「年縞」の13,927層目から出土した葉は13,927年前のものとなり、同じ葉を放射性炭素14の残存量で調べた年代との差が補正される。つまり、「年縞」が過去約7万年の地球の歴史をたどる「ものさし」となるのだ。この「年縞」は年代決定の世界標準尺度に採用されている。同博物館には、原子力・放射線を用いた測定技術が気候変動に関する研究に応用されている実例をとらえ、原子力協力の多国間枠組み「アジア原子力協力フォーラム」(FNCA)の気候変動科学プロジェクトの専門家が2019年に視察に訪れている。
08 May 2023
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福島県飯舘村に設定されていた避難指示の一部が、5月1日午前10時をもって解除された。帰還困難区域のうち、避難指示を先行して解除し居住を可能とすることにより復興・再生の推進を図る「特定復興再生拠点区域」(復興拠点)として設定された約186haの地域と、それ以外の一部地域が該当。復興拠点として、県内6町村・計約2,800 haの地域が国により認定されていたが、今回、そのすべてで避難指示が解除となった(富岡町の一部を除く)。飯舘村で避難指示が解除された長泥地区では、除染に伴い発生する除去土壌の減容・再生利用に向けた実証事業が行われている。村内の仮置場などに保管されている除去土壌を再生資源化し農地を造成する取組で、これまでに、カブ、キュウリ、ズッキーニ、レタスなどの食用作物や花き類を栽培。収穫した食用作物は、十分な生育状況とともに、放射性セシウム濃度が基準値を大きく下回っていることが確認されている。飯舘村の避難指示解除は4月25日、政府の原子力災害対策本部で決定された。福島県の内堀雅雄知事は、5月1日午後の定例記者会見で、「帰還困難区域全体の復興・再生に向けた大きな前進となる」と、その意義を改めて強調。今後、復興拠点以外の帰還困難区域の避難指示解除に向けても、「各自治体で帰還意向の調査が進められている。除染の範囲、帰還しない住民の家屋をどうするかなど、課題を解決しながら、国・県・市町村が一体となって方向性をしっかりと整備していく」と述べ、県として全力で取り組んでいく考えを示した。また、折しも大相撲五月場所の番付発表となった同日、福島県出身の若元春関の新関脇昇進について所感を問われたのに対し、内堀知事は、「一番一番ベストを尽くして活躍する姿は、復興・創生に向かって歩みを進めるわれわれ福島県民を大いに勇気づけている」と喜びをあらわにした。「大波三兄弟」力士として知られる若元春関は、一月場所の小結昇進後、2場所連続勝越しの好成績をあげている。
02 May 2023
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瑞宝重光章を受章する池田氏(2015年、全原協総会にて)政府は4月29日、春の叙勲受章者を発表した。原子力規制庁の初代長官を務めた池田克彦氏が瑞宝重光章を受章する。同氏は、2012年9月に発足した原子力規制委員会の事務方トップとして2015年7月まで在任。福島第一原子力発電所事故後の原子力規制行政の建て直しに尽力した。池田氏は、同職就任以前、警察官僚として警察庁警備局長、警視総監などを歴任。警備部門の経験が豊富で、1995年の「地下鉄サリン事件」以降、有毒ガス発生事案に注目が集まった時期、NBC(核、生物、化学)テロ対策訓練で指揮を執ったこともある。現在は、日本道路交通情報センター理事長。同氏は雑学本の著者としても知られている。
01 May 2023
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関西電力は4月25日、原子力規制委員会に、高浜発電所3・4号機(PWR、各87.0万kW)の40年超運転に係る認可申請を行った。それぞれ2025年1月、6月に運転開始から40年を迎える。同社では、これに続く20年間の運転期間延長の認可申請に必要な特別点検を昨秋に実施。原子炉容器、コンクリート構造物などの劣化事象に関し「運転開始35年以降に採取したデータを確認・評価した結果、異常は認められなかった」としている。〈関西電力発表資料は こちら〉関西電力では4月、既に再稼働している高浜3・4号機、美浜3号機、大飯3・4号機がそろって月間を通じて稼働した。美浜3号機に続く40年超運転となる高浜1・2号機は、それぞれ6月、7月に発電を再開する見通し。今夏は、同社の現役原子力発電プラント全7基のフル稼働が実現しそうだ。国内原子力発電プラントの40年超運転に係る認可申請は、既に原子炉設置変更許可が得られている高浜1・2号機、美浜3号機、日本原子力発電東海第二の他、現在、審査中の九州電力川内1・2号機、今回の高浜3・4号機で計8基となった。いずれも60年間の運転を目指している。なお、三菱重工業は4月26日、高浜3・4号機向けに、PWRで用いられる取替用の蒸気発生器6基を受注したと発表した。両プラントが3基ずつ有する蒸気発生器すべてを取り替える計画だ。〈三菱重工発表資料は こちら〉
01 May 2023
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「脱炭素社会の実現に向けた電気供給体制の確立を図るための電気事業法等の一部を改正する法律案」が4月27日、衆議院本会議で賛成多数により可決された。同法案は、3月30日に衆院本会議で審議入りし、経済産業委員会に付託。計6回の会合、および環境委員会と原子力問題調査特別委員会との連合審査会が行われた。〈既報〉原子力関連では、高経年化した原子炉に対する規制の厳格化に関し原子力規制委員会が答弁に立つなど、運転期間の見直しが焦点となったほか、次世代革新炉の開発・建設や海外展開の観点から、日本企業の技術基盤強化や人材確保に関しても活発な議論がなされている。30日の本会議で、西村康稔経済産業相による法案趣旨説明の後、質問に立った浅野哲議員(国民民主党)は、日本原子力産業協会による「原子力発電に係る産業動向調査2022(2021年度調査)」を引用し、「現場作業者の60%が運転停止期間の長期化によって技術の維持・伝承ができないと感じており、そのうち84%がOJT機会の喪失をその理由としてあげている。国内企業では原子力事業から撤退する企業も生じており状況は深刻」と、産業基盤の維持・強化に係る危機感を強調。これに対し、西村経産相は、3月6日に設立された原子力関連企業を支援する枠組み「原子力サプライチェーンプラットフォーム」(NSCP)を通じた取組に言及しながら答弁。「研究開発や技能実習、技術・技能の承継などをサポートする支援メニューを全国400社の原子力関連企業に展開している。今後ともサプライチェーンの維持・強化に向けた支援をしっかりと進めていく」と説明。また、4月26日の経済産業委員会では、「G7においても、米国、カナダ、英国、フランスといった国々と、サプライチェーンの維持・確保、人材育成などについても連携していく」などと述べ、同15、16日に行われた「G7札幌 気候・エネルギー・環境大臣会合」の成果を強調した。エネルギー政策に係る重要法案として、参議院では、4月28日に、「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律案」が修正議決された。今後は「脱炭素社会の実現に向けた電気供給体制の確立を図るための電気事業法等の一部を改正する法律案」の審議に焦点が移りそうだ。
28 Apr 2023
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26日の経済産業委員会で答弁に立つ岸田首相衆議院で審議中の「脱炭素社会の実現に向けた電気供給体制の確立を図るための電気事業法等の一部を改正する法律案」が4月26日、付託された経済産業委員会(竹内譲委員長〈公明党〉)で、賛成多数により可決された。同法案に対しては、自由民主党など、4派が共同で修正案を提出。原子力基本法に新たに規定された「国の責務」のうち、国民の信頼確保・理解獲得に関して、立地地域だけでなく「電力の大消費地である都市の住民」が追加されたほか、原子炉等規制法関連で、施行後5年以内に審査の効率化や審査体制の充実を含む「安全確保のための規制のあり方」について政府が検討を行うこととされ、原案と合わせて可決された。同法案は、脱炭素電源の利用促進を図りつつ電気の安定供給を確保するための制度整備に向け、2月に閣議決定された「GX(グリーントランスフォーメーション)実現に向けた基本方針」に基づき、「地域と共生した再生可能エネルギーの最大限の導入促進」、「安全確保を大前提とした原子力の活用」を柱に、関連法を改正するもの。3月30日の衆議院での審議入りに際し、岸田文雄首相は、本会議で「国民生活や産業の基盤となるエネルギーの安定供給と、気候変動問題への対応を両立すべく、脱炭素電源である再エネ、原子力を含めたあらゆる選択肢を確保する」と、その趣旨を強調している。山口氏経済産業委員会では、同法案に関し、計6回の会合、および環境委員会と原子力問題調査特別委員会との連合審査会を行った。4月14日には、参考人として、山口彰氏(原子力安全研究協会理事)、満田夏花氏(国際環境NGO FoE Japan 事務局長)、山内弘隆氏(一橋大学名誉教授)、大島堅一氏(龍谷大学政策学部教授)を招き質疑応答。山口氏は、今回の法案に関し、「安全最優先」の原子力利用脱炭素社会の実現に貢献する基本的政策持続的なエネルギー確立の実現電気事業の安定性と予見性の確保――の方向性が示されたと強調した。その上で、世界の一次エネルギー源の変遷について、海外の有識者によるデータから、19世紀半ば以降、最大のシェアが、1880年に石炭が木材(薪)に、1960年に石油が石炭に取って代わったことを示し、「1970年まで人類は、時代ごとに、潤沢で、低廉で、安定なエネルギーを探し求め、それぞれが新しい主役を担ってきた」と説明。一方で、現在の世界のエネルギーミックスに関しては、化石エネルギー(石油、石炭、LNG)が84%、脱炭素エネルギー(水力、再生可能エネルギー、原子力)が16%で、「日本もほぼ同じ」と説いた上で、「これを逆転させるよう、しっかりとした目標を掲げるべき」、「GX実現のポイントは、省エネ、再エネ、原子力の3つ」と主張した。福島の被災者支援に取り組む満田氏は、原子力事故が及ぼす影響の他、損害賠償や廃炉に要する費用の国民負担なども懸念し、福島で国会主催の公聴会を開催することを切望。環境経済学の立場から、大島氏は、「原子力発電に係る国費投入額や事故対策費用で合計約33兆円が投じられる」との試算を示すなどした上で、原子力を主力電源として位置付けることに否定的な考えを主張した。山内氏総合資源エネルギー調査会の電力・ガス需給・制度設計に関する小委員会で委員長を務める山内氏は、公益経済学の立場から、インフラ事業を市場原理に委ねる限界やリスクに言及。今回法案の柱の一つ「地域と共生した再エネの最大限の導入促進」に関連し、成田空港の敷地を活用した太陽光発電所の設置構想を披露。地元企業とも連携し、空港施設への電力供給の他、水素を製造して航空機燃料のクリーン化も図るもので、脱炭素社会実現に向けて「エネルギー分野だけでは達成できない」、「国有資産にはまだ活用の余地がある」と強調した。今回の法改正案で、原子力発電の運転期間に係る規定は、原子炉等規制法から電気事業法に移管。「最長で60年」との現行の枠組みを維持した上で、原子力事業者が予見しがたい事由による停止期間に限り、60年の運転期間のカウントから除外される。國場幸之助委員(自民党)は、「『運転期間制度を見直しても安全性は必ず優先される』ことをどのように担保するのか」と質問。これに対し、山口氏は、今回の法案で、高経年化した原子炉に対する規制の厳格化、事業者の責務の明確化が記載されたことを述べるとともに、米国における多くの長期運転実績、関西電力美浜3号機の40年超運転入りに言及し、「技術的観点からしっかりとしたリスク評価・安全管理ができている」と応えた。原子力の特殊管製造に関わった経験も踏まえ意見を述べる大島委員続く21、26日の同委員会会合には、経済産業省、原子力規制委員会の他、文部科学省の担当審議官も出席。原子力開発の技術基盤・人材確保に関連した質疑応答も行われた。21日の会合では、大島敦委員(立憲民主党)が、今後の高速炉開発に向け「もんじゅ」事故の教訓を踏まえる必要性とともに、鋼管メーカーの勤務経験から、「工場を一度閉めてしまうと製品は二度と作れなくなる」と述べ、サプライチェーンの維持や技術継承の課題を指摘。26日の会合では、鈴木義弘委員(国民民主党)が、日本で初めて原子力発電に成功した動力試験炉「JPDR」の廃止措置完遂を視察した経験に触れ、廃炉に伴う放射性廃棄物の処分、クリアランス制度((放射能濃度が基準値以下であることが確認されたものを再利用または一般の産業廃棄物として処分できる制度))による再利用について、国が着実に道筋をつけていくよう求めた。※写真は、いずれもオンライン中継より撮影。
26 Apr 2023
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経済産業省はこのほど、福島第一原子力発電所で発生するALPS処理水((トリチウム以外の核種について環境放出の規制基準を満たす水))の風評影響について、農林水産業(生産者)、食品製造・卸売・小売業者など(生産者以外)を対象に実施したアンケート調査の結果を発表した。復興相をヘッドとする原子力災害に伴う風評対策に関するタスクフォース会合で4月13日に報告されたもの。調査は、福島県およびその近隣道県に所在する事業者を対象として2022年11~12月に実施。生産者以外については、同道県産農林水産物の主要出荷先となる都府県(東京、神奈川、愛知、大阪など)所在の事業者も含んでおり、合計で約3,000件の回答(同一事業者が複数業種で回答したものも含む)を得た。調査結果は、生産者、生産者以外でそれぞれ整理。政府によるALPS処理水の処分方針決定後の販売動向について、生産者では約45%、生産者以外では約40%が「何らかの注視すべき動きがある」と、先行きを懸念していることがわかった。その中で、生産者については、販売価格低下、販売量減少、販売条件の悪化、販売先による取引停止、クレームの増加、問合せの増加の各項目について回答を分析。いずれの項目とも、業種別で、水産業者が最も高い比率で「販売先の動向として注視すべき動きがある」ものとしてあげていた。項目別で、全業種ともに最も比率の高かった販売価格低下をあげた事業者は、水産業者で55.1%、米農家で22.9%、野菜農家で19.8%、畜産業者で17.5%、果樹農家で17.1%だった。また、生産者以外については、販売量減少、客数の減少、他地域産品への変更要請・取引停止、問合せの増加、販売価格低下、販売条件の悪化(陳列方法など)、クレームの増加の各項目について回答を分析。「販売先の動向として注視すべき動きがある」ものとしては、食品関連業種で販売量減少をあげた比率が高く、食品製造業で29.6%、食品卸売業で29.4%、食品小売業で23.2%だった。同じく、販売価格低下については、食品製造業で12.9%、食品卸売業で19.7%、食品小売業で10.3%だった。外食業・宿泊業では、客数の減少をあげた比率が15.8%で最も高かった。一方で、自由記述の回答や個別ヒアリングの範囲からは、生産者、生産者以外のいずれとも、現時点では、取引停止などの具体的な影響が発生していることは確認されておらず、「将来的な影響の発生を懸念している事業者がほとんど」と考察している。なお、経産省では4月24日、小売関係の業界5団体(日本チェーンストア協会、全国スーパーマーケット協会、日本スーパーマーケット協会、日本ボランタリーチェーン協会、オール日本スーパーマーケット協会)と、「ALPS処理水の処分に係る風評対策・流通対策連絡会」を開催。太田房江副大臣より、先の調査で「効果的だと思う取組」として回答割合の高かったモニタリングデータの発信、リーフレット、Q&A集の作成とともに、今後、現場での取組状況を視察してもらう勉強会を企画していることなどが説明された。
25 Apr 2023
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「第56回原産年次大会」では2日目の4月19日、セッション4「原子力の最大限活用とその進化―2050年を見据えて」が行われた。黒﨑健氏(京都大学複合原子力科学研究所所長・教授)をモデレーターに、パネリストとして、神﨑寛氏(三菱重工業原子力セグメント原子力技術部部長)、姉川尚史氏(東京電力ホールディングフェロー)、大島宏之氏(日本原子力研究開発機構理事)、ミカル・ボー氏(英国 CORE POWER社創設者、会長兼CEO)、曽根理嗣氏(宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所准教授)が登壇。セッション開始に際し、黒﨑氏は、「原子力は発電分野にとどまらず、様々な社会・経済活動と脱炭素化に貢献できる技術だ。2050年の姿を見据え、原子力のポテンシャルや多様な利用形態に焦点を当て、原子力利用の幅を広げ深化させていくための示唆を得たい」とねらいを述べた。同セッションには原子力分野に関心を持つ学生ら約50人も訪れ聴講。総合資源エネルギー調査会の革新炉ワーキンググループで座長を務めている黒﨑氏は、「革新炉開発をきっかけに原子力イノベーションを実現していきたい」と強調するとともに、「原子力の新しい価値の創造」、「最先端分野・異分野との融合」、「人を呼び込む・若者にとって魅力ある原子力」をキーワードに掲げ、口火を切った。日本における革新炉開発の取組については、神﨑氏が三菱重工の取り組む革新軽水炉「SRZ-1200」(電気出力120万kW、2030年代半ばの実用化が目標)のコンセプトを中心に説明。同氏は、「SRZ-1200」の他、小型軽水炉(電気出力30万kW)、高温ガス炉、高速炉、マイクロ炉(離島・へき地・災害地用の電源に利用できるポータブル炉)からなる同社の「革新炉ラインナップ」を披露した上で、参集した学生たちに対し「色々な技術、オポチュニティがある。是非挑戦し社会に貢献して欲しい」と呼びかけた。また、研究開発の立場から、大島氏は、社会実装に向けた次世代革新炉に求められる要件として、「一層の安全性向上」を前提に、「安定供給」(大規模で安定な脱炭素電源、革新的安全性向上、サプライチェーンの維持・強化や技術自給)、「資源循環性」(廃棄物問題の解決、資源の有効利用)、「柔軟性」(再エネを支える出力可変性、水素・熱利用、立地の柔軟性、医療用RI製造)を提示した上で、原子力機構が取り組む高温ガス炉、高速炉に係る技術開発について紹介。高速炉については、廃棄物減容・有害度低減の他、他産業からの廃熱も組み合わせ再生可能エネルギーと共存する新たなエネルギー供給システムの可能性を展望。「様々なチャレンジがある。われわれと一緒に開発を進めていければ」と、意欲ある学生たちの参入に期待を寄せた。他分野と連携した原子力開発・利用の可能性に関しては、姉川氏、ボー氏、曽根氏が発表。姉川氏は、造船関連企業も参画した「産業競争力懇談会」が検討を進めている浮体式原子力発電について紹介。海外の石油掘削などで実用化されている海上浮揚型プラントの技術を原子力発電にも応用するもので、沖合に係留することにより、津波の被害を避ける、海水を利用した除熱ができる、事故時の住民避難が不要となるといったメリットを持つとしている。同氏は、将来的に地震リスクの高い東南アジア諸国への導入も展望し、今後の基本設計・具体化に向けて、技術継承も合わせ原子力発電所の建設経験を持つ技術者OBと学生との共同作業を提案した。さらに、海上輸送の生産性向上に向けて新たな原子力技術開発に取り組むボー氏は、世界の船舶約10万隻のうち、主に大型船7,300隻が海上燃料の50%超を消費し、CO2や大気汚染物質を排出している現状を示し、船舶の動力源としてクリーンな燃料供給が可能な浮体式原子力発電を導入する意義を強調。その市場規模は6兆ドルにも上ると見込んだ。技術的な実現性として、同氏は、最長30年間の燃料交換不要、組立ラインでの製作可能性などから検討を行った結果、最適な炉型とされた「溶融塩高速炉」(MCFR)の米国アイダホ国立研究所での実証を2026年頃に目指しているとした。また、JAXAで宇宙用蓄電池の研究開発に従事してきた曽根氏はまず、小惑星探査機「はやぶさ」のカプセル回収の経験を披露。「惑星間往復航行が今の日本で可能な技術となった」とした上で、今後、さらに木星以遠への到達を目指す「深宇宙探査船団構想」の課題として、太陽光利用の限界をあげた。同氏は、宇宙の原子力電源として、崩壊熱利用と連鎖核分裂利用の2つをあげ、それぞれ探査機、拠点開発での適用を見込むとともに、ラジオアイソトープの利用が小電力稼働の探査機の設計に革命を起こす可能性に強く期待。原子力産業界への理解・協力を求めた。「宇宙の電池屋」を自称する曽根氏は、現在も深宇宙探査を展望し、セイル(帆)膜面上に搭載した薄膜太陽光電池で推進する「ソーラー電力セイル探査機システム」の開発に取り組んでいる。同氏は、かつて電池研究への志を周囲に否定された経験を振り返りながら、学生たちに対し「自分の目指すところに逆風が吹いていると思ったら、それはむしろチャンスだと思って欲しい」とエールを送った。
24 Apr 2023
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「第56回原産年次大会」2日目のセッション3「福島復興の今と未来」では、東京電力から廃炉状況の説明を受けたのち、福島県双葉郡大熊町にスポットを当て、震災から12年が経過した現状と今後の取り組みについて、大熊町長の吉田淳氏と大熊町商工会会長蜂須賀禮子氏が講演。モデレーターに長崎大学原爆後障害医療研究所教授の高村昇氏を迎え、ディスカッションがおこなわれた。最初に高村氏が「福島復興のこれまでとこれから」について、チェルノブイリ事故と福島第一事故の比較、福島復興、長崎大学による復興支援の取り組みなどを紹介。311事故当時、長崎大学でチェルノブイリ対象の甲状腺がんの診断支援などをおこなっていた高村氏は、事故の一週間後に福島へ入り、事故における危機管理として放射線被ばくと健康への影響などを説明するクライシスコミュニケーションをいわき市から始めたという。長崎大学の福島復興支援事業として翌年には川内村に復興推進拠点を設け、長崎大学の保健師が常駐して、帰還した住民を訪問、あるいは、小さなグループでのリスクコミュニケーションを実施した。現在、川内村では約8割の住民が帰還している。その一方で、事故前には人口約1万人いた大熊町に、現在帰還しているのは10%に満たないなど、12年が経つと復興のフェーズが自治体ごとに異なる現状が顕著に浮き彫りになることを高村氏は指摘。「震災から12年が経過した。今回は大熊町の今について皆さんと思いを共有する機会としたい」と、大熊町町長の吉田淳氏の講演につないだ。吉田氏は、震災から12年が経ち、ようやく復興のスタートを切ることができたと感謝の意を表し「大熊町の復興状況について」と題して、復興の進捗と取り組みを紹介した。大熊町の居住制限区域、避難指示解除準備区域は、2019年4月に避難指示が解除された。帰還困難区域の中の特定復興再生拠点区域(復興拠点)においては2022年6月30日に避難指示が解除された。大熊町で最初の復興拠点となった大川原地区の取り組みについて、令和元年5月に大熊町役場新庁舎が業務を開始し、帰還者のための災害公営住宅や新たな転入者を受け入れる再生賃貸住宅も同年に入居が始まったことを報告。令和3年に宿泊温浴施設「ほっと大熊」、交流施設「linkる大熊」、商業施設「おおくまーと」をオープン。医療・福祉施設診も整備した。認定こども園と義務教育学校が一体となる学校教育施設「学び舎 ゆめの森」では、この4月10日に入園式、入学式、始業式、これらを一つにまとめた始まりの式をおこなった。吉田氏は、学校の再開で、帰還する家族、移住してくる家族が増えることに期待を寄せた。蜂須賀氏は「復興のひかり」をテーマに、東日本大震災から今日に至るまで国内外からの支援に感謝の意を表し、今の思いを語った。かつて蜂須賀氏は大熊町で小さなフラワーショップを営んでいた。地元の中学校の卒業式に花を納め、ほっと一息をつこうとする矢先に大きな地震がおきた。全町避難という命令が出され生活が一変した。震災当時を振り返り、12年が経つ今も「心の安心、心の復興を感じられない」と打ち明ける。今も蜂須賀氏は避難者として、大熊町から60km離れた郡山市で生活し、週に3回ほど大熊町の商工会館に通っているという。大熊町商工会には現在260名ほどの会員がいるが、町内の小さな事業者の廃業は続く。早く帰還できなかったこと、帰還して事業を再開してもきてくれるお客様が戻らないことなど、事業継続の難しさを語った。震災当時、50年間は住めないと言われていた大熊町も、今や12年目にして復興拠点地域には役場新庁舎、復興住宅、集合店舗、交流施設ができ、年間1万人以上の利用者がある。蜂須賀氏は、福島民友に掲載された写真付きの記事を示し、家業を引き継いだり新しい事業を起こしたりと懸命に取り組む大熊町商工会青年部の部員たちの話をした。その中で、ある部員が「福島原子力発電所ができること、働くことを自分たちの親は誇りにしていた。今度は、事故が起きた発電所の廃炉作業に自分たちが参加して、廃炉にしたことを子どもや孫たちに自慢をしたい」と語ったという。「変えられるものが二つある。それは自分と未来だ」という福島の偉人、野口英世の言葉を引用し、「12年間かすかな光の中で歩み、未来に向かう若者が前に進もうとしている。未曾有の事故を起こした発電所の廃炉作業において、科学的根拠に基づき、IAEAなどによる安全性の検証、第三者機関による監視を徹底し、地元住民にクリアな情報を伝えていただかないと自分たちにも若者たちにも未来はない」と、蜂須賀氏の思いがこもる言葉で講演を終えた。その後、高村氏の進行で大熊町の将来について意見交換がおこなわれた。吉田氏は、「大熊町の復興は前町長の渡辺利綱氏の強い思い入れと多くの人の支えがあってこそ。教育や起業する人を応援することが恩返しであると考え、大熊インキュベーションセンターは、家賃や光熱費を安くして若い世代が活用しやすくした」と述べた。蜂須賀氏も、商工会には大熊インキュベーションセンターを利用する若者たちと検討している創業塾を開く計画があるとし、「大熊町で生まれ育った人たちと新しい人たち、新しい風、新しい考え方が加わり、一歩進んだ大熊町になる」と続けた。「医療体制についても浜通りの復興において重要なキーワードになる」と高村氏。これに対し、吉田氏も自身が富岡町に新しくできた医療センターで治療を受けた経験を踏まえ、大熊町にも日常的に救急医療に対応できる医療機関の必要性に同意した。医療と並んで地域の復興に欠かせないものに教育がある。今年の4月に大熊町で教育活動が再開したことについて、「0歳から100歳まで、皆が一緒に学べる場にしたい」と吉田氏は語る。「施設が贅沢ではないかと言われることもあるが、元々は、幼稚園が2つ、小学校が2つ、中学校が1つ、保育所が1つ、児童館があったものを1つにまとめた施設。だからこそユニークな建物になる」と、他にはない施設の魅力をアピールする。蜂須賀氏も「大熊町の『学び舎 ゆめの森』に行かなければ『この授業を受けられないんだ』『こんなに楽しいんだ』」と、通いたい気持ちを持ってもらえるような学校になるよう、地域住民で見守っていきたいとエールを送る。意見交換の締めくくりとして、吉田氏は「大熊町の復興は他の地域に比べると遅れている。約11,500人がいた人口は今なお1,000人弱にとどまる。それでも、大熊町には伸びしろがある。まずは人口を増やす。住む場所を増やす。工業団地も整備を進める。遅れを取り戻すべく、期待と支援をお願いしたい」と語った。蜂須賀氏は「大熊町は夢を描ける街。良い方向に変わっていく大熊町を一緒に見守っていただきたい」とのメッセージを参加者に訴えた。
21 Apr 2023
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西村康稔経済産業相は4月20日、IAEAのラファエル・グロッシー事務局長とオンライン会談を行った。福島第一原子力発電所で発生するALPS処理水((トリチウム以外の核種について環境放出の規制基準を満たす水))の取扱い、ウクライナ情勢が主な内容。両者による会談は初めてのこと。〈資源エネルギー庁発表資料は こちら〉西村経産相からは、ALPS処理水の安全性に関するレビューに係る諸活動への謝意とともに、引き続き日本政府として、IAEAによる厳格なレビューにしっかり対応していくことが述べられた。さらに、IAEAによる継続的な情報発信を改めて要請するとともに、科学的根拠に基づく透明性ある情報発信の重要性を確認。加えて、先般、「G7札幌 気候・エネルギー・環境大臣会合」(4月15、16日)が採択したコミュニケの中で、「ALPS処理水に関するIAEAによる独立したレビューを支持する」との記述が盛り込まれたことに言及した。ALPS処理水の安全性レビューで、IAEAは年内にも包括的報告書を公表することとなっている。また、ロシアからの侵攻を受けているウクライナの原子力施設の安全確保に関しては、グロッシー事務局長が「最前線で指揮を執っている」との現状。経産省として、IAEAに対し200万ユーロの拠出(2022年度補正予算で2.7億円計上)を行ったことを明らかにした。同拠出金事業は、IAEAによるウクライナ・ザポリージャ原子力発電所の安全確保・回復に向けた調査団派遣などの取組を踏まえ、日本の民間企業が有する技術や知見を活用し支援を図るもの。今後の具体的な支援内容に関し、資源エネルギー庁原子力政策課では、「まずは現地のニーズを丁寧に把握することが必要」などと説明している。
21 Apr 2023
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原子力規制委員会は4月19日、高経年化した原子力発電所の安全規制に関する検討状況と、その全体像についてわかりやすく説明するための資料をWEBサイトで公開した。現在、原子力発電の運転期間に関する規律の整備を含む「脱炭素社会の実現に向けた電気供給体制の確立を図るための電気事業法等の一部を改正する法律案」が国会で審議中となっている。同法案では、「運転期間は最長で60年に制限する」という現行の枠組みは維持した上で、原子力事業者が予見しがたい事由による停止期間に限り、60年の運転期間のカウントから除外することを規定。これにより、現行法上の上限である60年を超えての運転も可能となる。今回、規制委員会が公開した資料では、同法案中、原子炉等規制法改正案に関する部分を説明。運転期間に関する規定が電気事業法に移管される一方、「原子力事業者に対して、運転開始から30年を超えて運転しようとする場合、10年以内ごとに、設備の劣化に関する技術的な評価を行い、その劣化を管理するための計画を定め、規制委員会の認可を受けることを義務付ける」新たな制度を規定している。資料の概ね前半は、新規制基準、バックフィット制度((既に許認可を受けた施設が新知見に基づく規制要求に適合することを確認する))、物理的な経年劣化事象(低サイクル疲労、中性子照射脆化他)など、安全規制のあらまし・課題について説明。後半では、新たな制度で事業者に策定を義務付ける「長期施設管理計画」に定める内容、認可の基準などについて説明。さらに、現在、高経年化に関する規制委の検討チームで技術的議論が進められている非物理的な劣化、いわゆる「設計の古さ」については、「スペアパーツが入手できなくなったり、メーカーの技術サポートが受けられなくなること」を例示した。運転開始後60年以降の評価については、これまでの制度の運用や経年劣化に関する科学的知見から「科学的根拠をもとに厳格な審査ができる」とした上で、海外における運転開始から50年を超えた原子炉の一覧を示し、「60年超の劣化に関する科学的知見の蓄積が進んでいく」と述べている。同資料は、原子力規制庁制作による要約版との位置付け。4月18日の規制委定例会合で、資料のまとめに当たっている同庁長官官房総務課長の黒川陽一郎氏が内容を説明。これに対し、検討チームを主導する杉山智之委員は、「まだ世間の疑問に対して応えきれていない」と述べ、Q&A集、技術資料集の追加など、さらなる充実化を求めた。資料は今後、ブラッシュアップされていく見通し。
20 Apr 2023
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4月18日に開幕した「原産年次大会」のセッション2では、欧米の原子力団体から登壇者を迎え、「再評価される原子力:原子力産業活性化と世界的課題への貢献」と題し、パネル討論が実施された。登壇者は世界原子力協会(WNA)、欧州原子力産業協会(nucleareurope)、英国原子力産業協会(NIA) 、米原子力エネルギー協会(NEI)、カナダ原子力協会(CNA)の5団体から。そして日本原子力産業協会の新井史朗理事長がモデレーターを務めた。16日にG7気候・エネルギー・環境相会合で採択されたコミュニケには、原子力に前向きな文言が並び、原子力には世界的に追い風が吹いている。では現実に既存炉の長期運転や新規炉の建設を進めるために、産業界がなすべきこと、あるいは政府が支援すべきことは何だろうか。この問いに対しパネリストからは、「エネルギー技術は全て同じ土俵に立つべきであり、政策面で再エネのみを優遇しないことが重要」(イヴ・デバゼイユnucleareurope事務局長)、「英国では政府が原子力を強く推進しており、規制面でも資金調達面でも様々なスキームを整備している。産業界もそれに応え、プロジェクトを予定通りに進行させることが大事」(トム・グレイトレックスNIA理事長)、「産業界として引き続き高いパフォーマンスでプラントの運転を継続すること。原子力需要に応えるサプライチェーンの整備。そして人材育成を通じた労働力の確保が必須」(キャロル・ベリガンNEIエグゼクティブディレクター)などが指摘された。各国ごとに違いはあるものの、実際に必要とされる規模の原子力発電プラントを稼働させることができるかどうかがカギになるとの考えが示された形だ。また、実際にプラントの改修や建設プロジェクトが実行されているカナダやイギリスからは、「サプライチェーンが大幅に強化された」(ジョージ・クリスティディスCNA副理事長)、強化されたサプライチェーンを維持するために、「後続のプロジェクトが確保されなければならない」(グレイトレックス氏)との認識が示された。一方で人材不足が世界共通の課題となっており、「理工系の人材がなかなか集まらない。小中学校などにも働きかけて、授業の中で原子力を取り上げてもらい、学生たちが原子力を選択肢に考えるよう働きかけている」(ベリガン氏)、「欧州はエンジニア人材が多いが、なかなか原子力産業には集まらない。原子力の魅力をアピールしていきたい」(デバゼイユ氏)、「プラントが完成した時に、人材が揃っている必要があり、業界として必要な人材を集めるために魅力を訴える必要を感じている」(ジョナサン・コブWNAシニアコミュニケーションマネージャー)、「英国では”Just Transition”といって人材の公正な移行を推奨している。例えば石油ガス産業にいる人たちを、希望に応じてクリーンエネ産業へ挑戦させるような取り組みをしている。また多様な人材を集めるために若い人たちには原子力の魅力を単に提示するだけでなく、その目的や使命を伝え、夢のあるメッセージを伝えることが大切だと思う」(グレイトレックス氏)等の意見が出た。そして原子力に対する国民の理解促進へ向けた具体的方策については、「恋愛と同じで理由なしで原子力を好きになってもらいたい。理解させるのではなく好きになってもらうのだ。原子力関係者は理系が多いのでなんでも技術的に説明しようとするが、世間の多くはそうではない。原子力を説明し理解させるのではなく、原子力に何ができるか、原子力によって世界がどうなるのかということを伝えるべきだ」(コブ氏)、「エネルギー危機が起こり、ウクライナ戦争が起こり、気候変動も考慮すると、あまり選択肢はないことに国民は気づき始めている。だがいざ原子力を導入する段になって、導入までのリードタイムが15〜20年という状態では政策的に有効にならない。だが短期導入が可能なSMRであれば、国民の期待にも応えることができる」(デバゼイユ氏)、「説明すべきことはするが詳細すぎないこと。えてして守りに入り説明が難解になってしまうが、それは人々と原子力業界の乖離を生んでしまう」(グレイトレックス氏)、「人類の存続をかけた問題に原子力が貢献できるんだと伝えることが大事。加えて多様なメッセンジャーがいることがポイント。原子力業界人からだけではなく、若い人たちや、他業界の人たちが原子力のメリットについて語ることが大切だ」(ベリガン氏)、「メッセージを伝える人の多様性が大事。メッセンジャーになってもいいという人を増やす。カナダでは実際にそれが効果的だった」(クリスティディス氏)といった数多くの興味深い意見があった。モデレーターを務めた新井理事長は「今後も6機関が課題を共有し、他機関のベストプラクティスを導入していきたい」と、今後の協力関係構築に、強い意欲を示した。
20 Apr 2023
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「第56回原産年次大会」が4月18日、19日の2日間、東京国際フォーラム(東京・千代田区)で開催された。国内外より630名が参集し、「エネルギー・セキュリティの確保と原子力の最大限活用-原子力利用の深化にむけて」をテーマに議論した。セッション1は「揺れ動く国際情勢と各国のエネルギー情勢」というテーマの下、ストラテジック・アソシエイツ・ジャパン社の市川眞一代表取締役がモデレーターを務め、世界の国際的な専門家4人から講演を伺った。市川氏によると、欧州ではリーマンショック後の通貨危機を経て経済が低迷、これにともない「2030年までに温室効果ガスを1990年比40%削減」という目標は労せず達成できる状況だった。しかし、2019年にEC委員長に就任したU.フォンデアライエン氏が削減目標を55%に引き上げたことから、域内の排出量取引制度(EU-ETS)ではCO2価格が高騰。欧州企業の事業所ではコストが上がるなど大変な状況に追い込まれたが、重要なポイントは欧州の人々がこれを投資ととらえたこと。全体的な生産コストを下げることができれば欧州企業の競争力が高まり、国際競争に生き残ることができる。これに続いて米国企業も速いスピードで欧州に追いつこうとしており、日本はすでに取り残されようとしている状況だ。講演後の全体的感想として市川氏は、地球温暖化の抑止に向けて我々は非常に長期の取り組みを求められてきたが、エネルギーの安全保障は今や経済の安全保障にバージョンアップしていると指摘。原子力は、そうした中でどのように経済を維持していくか考える際のキーポイントになる。原子力への支持を国民から幅広く得るには、政府や産業界が絶え間なく説明することが重要だと締めくくった。♢ ♢貞森氏国際エネルギー機関(IEA)の貞森恵祐エネルギー市場・安全保障局長はセッションの基調講演として、「エネルギーシステムの脱炭素化における原子力の役割」について発表した。貞森氏の発言要旨CO2排出量を2050年までに実質ゼロ化するIEAの「NZE」シナリオでは、原子力発電の設備容量が2050年までに倍増する見通し。しかし、間欠性のある再生可能エネルギーを補うため、各国の原子力産業界は新たな原子炉の建設プロジェクトを日程通り、予算の範囲内で進めねばならない。また、先進経済諸国のプロジェクトでは、現在進行中のプロジェクトのほぼ半分までコストをカットする必要がある。NZEシナリオを実現する道筋のなかでは、世界では原子力の設備投資を今後10年間で3倍に拡大しなければならないが、先進経済諸国における既存の設備容量は急速に低下していく可能性がある。2019年以降、世界では5,000万kW分の既存炉で運転期間の延長が認められたが、これらは一層安価で確実なクリーンエネルギーへの移行に大きく貢献できる。 原子力の設備容量が低いケースでは、CO2排出量を実質ゼロ化するのは一層難しくなる。新規炉の建設件数の増強や既存炉の運転期間延長に失敗した場合、消費者が追加で負担する金額は年間200億ドルを越える見通し。サプライチェーンには重圧がかかり、原子力で100万kW分の設備不足を補うためにその他の電源で350万kWの追加設備が必要になる。ただし、原子力は無炭素な電力と熱、水素を生産可能という利点があり、その役割の拡大にともないNZEシナリオよりもコストが低下すれば、市場では一層高いシェアを得ることが可能になる。結論として言えることは以下のとおり。原子力が受け入れられている国では、クリーンエネルギーへの迅速かつ確実な移行に原子力が重要な役割を担う。原子力の発電量が少なければ、その移行は一層難しくなりコストもかかる。原子力への投資を速やかに強化し、既存炉の運転期間も延長する必要がある。原子力産業界は新たな建設プロジェクトを日程通り、予算の範囲内で収めなくてならない。電力市場の設計は、低炭素で出力調整が可能な電源の価値を反映した構造にする必要がある。各国政府は原子力の安全規制を効率的かつ効果的に推進するとともに、放射性廃棄物問題に解決策を見出し、新規炉の建設に向けた財政支援の仕組みを創出すべきである。CO2排出量の実質ゼロ化を達成するには多くの分野で技術革新が必要となるが、小型モジュール炉(SMR)は有望な技術と言える。出力変動しやすい再エネの割合が高い将来の電力システムでは、火力発電所が発電量の季節変動の大部分を柔軟にカバーするようになる。原子力など低炭素な電源を複数備えた電源ミックスでは、供給量の季節変動を抑えるのに有効であり、電力供給保証の強化に役立つ。♢ ♢チョン氏韓国・慶熙大学原子力工学部のチョン・ボムジン教授は、「韓国原子力産業の課題と可能性」と題して講演した。チョン氏の発言要旨韓国では天然資源が不足しているため、エネルギーの95%を輸入に依存。これは国全体の輸入額の25%に相当し、年間のエネルギー輸入額である約1,000億ドルの7割以上が石油に費やされている。原子力については2023年現在で25基の商業炉が稼働しており、建設中は3基。ムン・ジェイン(文在寅)前政権時代に2つの新サイトで各2基の建設計画が中止されたが、新ハヌル3、4号機は建設計画が再開される予定である。発電コストはMWhあたり約60ドルで、石炭火力の約80ドルやLNG火力の約120ドルと比べて非常に割安。その後、石炭とLNGのコストが2倍以上に高騰しており、再エネは設置に適した場所が少ないため資源不足となっている。ムン前大統領は2017年6月、古里1号機の永久閉鎖式で脱原子力を突然宣言した。原子力と石炭の割合を縮小する一方、再エネとLNGを拡大すると表明。これに対して、一部の勇敢な専門家や大学教授らが抗議したため、公開討論の後に新古里5、6号機の建設計画が再開されたものの、韓国電力公社は赤字に転落、原子力サプライチェーンもダメージを受けた。一方、出力調整不能で間欠性があるという再エネの欠点が改めて認識された。現在は原子力推進派のユン・ソンニョル(尹錫悦)大統領が勝利し、産業界では原子力発電所の輸出に対する期待が高まっている。クリーンエネルギーとして原子力を肯定する意見も増えており、国民の70%が原子力の継続に支持を表明している。ユン大統領は大型炉とSMRの建設で韓国の競争力を高めるなど、クリーンエネルギー技術立国の上位に入ることを約束。原子力をベースロード電源としつつ、再エネも拡大して調和を図る方針である。CO2排出量を2050年までに実質ゼロ化する計画に関しては、再エネを原子力に置き換えなければ不可能である。原子力に対しては依然として反対意見も強く、使用済燃料の処分など課題も多いが、韓国では気候変動への対応やエネルギー・セキュリティ強化の観点から、原子力のシェアを30%台に拡大することが見込まれる。また、海外では既存の原子炉の建て替え需要や、持続可能な経済発展を目指す国があるなど、輸出の機会やSMRの開発・導入機会の拡大が期待できると考えている。♢ ♢ヘイキンヘイモ氏フィンランド経済雇用省原子力・燃料局のL.ヘイキンヘイモ次長は、「フィンランドのエネルギーシステムの一翼を担う原子力」と題して講演した。ヘイキンヘイモ氏の発言要旨フィンランドでは、社会全体と産業界の電化が進みエネルギーの自給自足が重要視されるにつれ、原子力は信頼性の高い重要な無炭素電源の一つと認識されている。2022年にロシアからのエネルギー供給が段階的に縮小したことから、エネルギーの供給保証は以前にもまして重要になってきた。フィンランドの電力消費量は2022年に860億kWhであり、このうち87%が再生可能エネルギーなどの無炭素電力。2022年5月にロシアからの電力輸入(全体の約10%)が停止されたが、2023年には出力172万kWのオルキルオト3号機が運転を開始した。総電力消費量に占める原子力の割合は2022年実績で約30%であり、多数の風力発電所が建設段階や計画段階にある。ロシアから輸入している一次エネルギーの割合は2021年に消費量全体の34%だったが、2022年5月にロシアのガス企業はフィンランドに対する天然ガスの供給を停止。フィンランド企業はその年の夏、石炭と石油の調達先をロシア以外の国に切り替えた。原子力に関しても、フォータム社がロビーサ発電所(ロシア型PWR×2基)用燃料の調達先を多様化する準備を進めている。フィンランドでは原子力に対する国民の支持率が1990年代末頃に反対派を上回り、過去数年間は急激に上昇。2022年時点で賛成派は過去最高の60%に達している。ただし、原子力の利用には特別な危険がともなうとの認識があるため、社会全体にとって原子力が良い影響をもたらすことが大前提となる。近年は新たな技術として、SMRの導入に向けた動きが活発化。SMRの特徴を踏まえた規制や新しいビジネス・モデル、SMRから出る放射性廃棄物の管理等で関係者が連携を強めている。放射性廃棄物の管理に関しては、フィンランドは世界に先駆けてポシバ社が、2016年12月からオルキルオトで使用済燃料の深地層処分場建設を進めている。操業開始は2024年末となる見通しだが、政府が操業許可を発給するには規制当局から肯定的な評価を得ることが必要、2024年~2025年頃の許可発給に向けて準備を進めている。処分場の操業期間は建設期間も含めて100年間を見込んでおり、埋設を終えて処分場を閉鎖するのは2120年頃になると予測している。。♢ ♢ベルグロフ氏スウェーデン原子力産業協会のC.ベルグロフ事務局長は、同国の新政権がもたらした「スウェーデンの新しいエネルギー政策の展望と原子力新規建設の見通し」について紹介した。ベルグロフ氏の発言要旨スウェーデンではこれまで原子力があらゆる側面で無視されてきたが、昨年秋に発足した新政権に反対派政党は含まれておらず、40年ぶりという純粋な原子力推進政権となった。原子力の制限政策を撤廃するなどエネルギー政策の歴史的転換点を迎えつつあり、原子力を巡る状況は大きく改善されている。最盛期に国内では12基の商業炉が稼働していたが、政治介入によりこれまでに6基が閉鎖された。エネルギー問題は昨年、政治的議論の主要項目だったが、国民は今や高い電気料金と原子力の容量不足の間に相関関係があることに気づいている。過去数十年の間にスウェーデンでは原子力の段階的廃止か現状維持かという議論があり、1980年の国民投票とその後の議会審議で、スウェーデンは2010年までに原子力から段階的に撤退することを決定した。しかし、2010年に近づくなかで代替電源が見つからず、この期限を撤廃。2016年のエネルギー政策協議では、2040年までに再エネ100%のエネルギー供給システムに移行することで合意しており、新規の原子炉を建設することは難しくなった。それが過去3年ほどの間に、政策転換の切っ掛けとなる出来事がいくつか発生。2020年に産業界の22部門が脱炭素化計画を発表し、化石燃料を使わずに鉄鋼や水素を製造することを目指したが、多くの場合安価な電力の不足がボトルネックとなっていた。2021年には、国内送電網が不安定になりつつあることが判明。これを安定化するには追加の送電設備と電力が必要だったが、原子炉6基のうち3基までが定検により稼働できない状態だった。2022年になるとロシアによるウクライナへの軍事侵攻が始まり、スウェーデンの電気料金は高騰。国民は原子力発電所の稼働率と電気料金が深く関わっていることを悟り、初めて電力不足のリスクを経験した。こうした背景から、新規の原子炉建設を支持する国民の割合は2022年11月に過去最高水準の59%をマーク。原子炉を段階的に廃止すべきだとする国民の割合は、過去最低の8%に低下した。政権3党と閣外協力を約束した1党は昨年10月、南部のティード城における政策協議の一項目として新たな原子力政策で合意。この「ティード合意」では、目標を「100%再エネ」から「100%非化石燃料」に変更したほか、同時に稼働が許される原子炉数と立地に関する制限を撤廃するとした。また、新規建設も含めた対策に4,000億クローナ(約5兆2,000億円)の信用保証を提供、政治的理由による原子炉の段階的廃止は補償の対象とすることに決定。さらに、閉鎖したリングハルス1、2号機の再稼働に向けて調査を行うこと、SMRなど新たな原子炉の導入に向けて法・規制を修正すること、新規原子炉の建設準備を始めるよう要請するとしている。
19 Apr 2023
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日本原子力産業協会は4月18日、欧州原子力産業協会(nucleareurope)と今後の関係強化をめざした協力覚書(MOU)を締結した。今回のMOUは、昨今のエネルギー・セキュリティや気候変動への対応など、原子力を取り巻く状況変化をふまえ、2012年4月に両者が締結したMOUを具体化したもの。両者が合意した協力分野は、以下の6つを柱としている。エネルギー・セキュリティと気候変動問題の解決に貢献する原子力発電への支持拡大に向け、各国政府や国際機関への働きかけ、原子力のさまざまな用途への活用に関する理解促進活動クリーンな原子力発電の加速度的な技術革新と産業界の国際的な活動への支援、小型モジュール炉や先進型炉等の技術開発や導入に向けた投資を促進するビジネス環境に関する情報の共有若手に焦点を当てた各種イニシアチブなどの国際的な業界レベルの交流活動を通じた人材育成の促進サプライチェーン支援に関連する情報の共有と参入機会の促進燃料サイクルのバックエンド分野における情報の共有と参入機会の促進相互利益となる業務や主催イベントへの参画今回のMOU締結についてY. デバゼイユnucleareurope事務局長は、2012年から続く当協会との協力活動への高い評価と感謝を表明。同氏は、「原子力なしでは脱炭素社会の達成は不可能である」という強い共通認識を示したうえで、原子力産業界の共通の課題にお互いが補完的役割をもって取り組むことに期待を寄せた。また日本原子力産業協会の新井史朗理事長は、nucleareuropeとの連携強化を通じて、「原子力産業の基盤強化とともに、エネルギー・セキュリティと気候変動問題の解決に貢献する原子力発電の推進や原子力イノベーションの促進等を進めていく」との強い意気込みを語った。欧州原子力産業協会は、ブリュッセルに拠点を置く欧州原子力産業の業界団体で、欧州15か国の原子力協会と6法人の会員から構成。EU機関やその他の主要な利害関係者とのエネルギーに関する議論において、欧州の原子力産業の声を代弁する役割を果たしている。欧州原子力産業協会は、2022年6月に名称をForatomからnucleareuropeへと改称している。
19 Apr 2023
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「第56回原産年次大会」が4月18日、東京国際フォーラム(東京・千代田区)で開幕した。国内外より630名が参集し(オンライン参加を含む)、19日までの2日間、「エネルギー・セキュリティの確保と原子力の最大限活用-原子力利用の深化にむけて」を基調テーマに議論する。開会セッションの冒頭、今井敬会長が所信表明を行い、最近の日本における政府方針・法案決定の動きに関し「原子力利用の価値を明確にした」として、「わが国の原子力政策は大きく前進しようとしている」との認識を示した。その上で、「原子力に関連する大きな方向性が示された中、安全性を大前提に今後、一つ一つの取組が具体的かつ着実に進展することを強く期待している」と述べ、政府において着実な事業環境の整備がなされることを切望した。また、海外の動向に関し、2年目に突入したロシアによるウクライナ侵攻が世界のエネルギー・セキュリティに及ぼす影響を懸念する一方で、欧米における原子力開発促進の動きに加え、「脱原発を目指していた国々においても原子力へ回帰する動きが出てきている」ことに言及。こうした原子力をめぐる足下の世界情勢について、初日セッション1「揺れ動く国際情勢と各国のエネルギー情勢」での議論に期待を寄せた。さらに、4月15、16日に行われた「G7札幌 気候・エネルギー・環境大臣会合」で世界の原子力産業団体がG7のリーダーに対し共同ステートメントを発出したことを紹介。これを踏まえ、同セッション2「再評価される原子力-原子力産業活性化と世界的課題への貢献」でも活発な議論が展開されるよう期待した。2日目は、セッション3「福島復興の未来」、セッション4「原子力の最大限活用とその進化-2050年を見据えて」が予定されている。続いて来賓挨拶に立った経済産業省の保坂伸・資源エネルギー庁長官はまず、「食糧の安全保障と並んで、エネルギー・セキュリティは常に人類が直面してきた課題だった」と強調。世界のエネルギー情勢をめぐっては、昨今生じた世界的な資源価格の高騰、ロシアのウクライナ侵攻などから、「歴史的転換点に来ている」との現状認識を示した上で、「『脱炭素社会の実現とエネルギー・セキュリティの両立』という地球規模の課題解決に向けて、再び原子力が注目を集めている」とした。エネルギー政策を進める上で、「福島第一原子力発電所事故の反省と教訓を一時も忘れることなく、安全性を最優先に」と、原子力災害の経験が原点にあることを改めて強調。一方で、「わが国の原子力産業は今や大きな危機に直面している。原子力産業を盛り上げていくことの重要性は今や世界的な共通認識となっている」などと述べ、先般、設立された「原子力サプライチェーンプラットフォーム」を通じ、原子力のサプライチェーン、技術基盤・人材確保の維持・強化に努めていく考えを述べた。IAEAのラファエル・グロッシー事務局長からはビデオメッセージが寄せられ、その中で、同氏は、原産年次大会の開催について「1968年の初開催以来、その時々、また、将来に向けた原子力の重要なテーマを語る場となってきた」と強調。ウクライナ情勢に関しては、最近の同国訪問に触れ、「『戦争下での原子力安全とセキュリティへの脅威』という前例のない、しかもあってはならない状況を打開しようと努力を続けている」と、依然として予断を許さぬ状況にあるとした。一方で、気候変動対策の観点も含め原子力利用に対する各国の関心の高まりを、「世界的に数十年ぶりの高い水準」と強調。大規模な原子力発電導入に向けた課題として、法整備、資金調達の環境整備、サプライチェーン強化をあげた上で、IAEAが2022年7月に新たなイニシアチブ「Nuclear Harmonization Standard Initiative」(NHSI)を開始したことを紹介。NHSIでは、小型モジュール炉(SMR)を始めとする先進的原子炉の設計標準化や関係する規制活動の調和を促し、加盟各国がその開発・建設を安全・確実に進めていくことを目指している。また、福島第一原子力発電所で発生するALPS処理水((トリチウム以外の核種について環境放出の規制基準を満たす水))の取扱いについては、IAEAのタスクフォースが安全性レビューに関する包括的報告書を年内に公表するとした。グロッシー事務局長は、原子力の人材確保に関して、「次世代のプロを着実に育てていく必要がある」と強調。ジェンダーバランスの是正も図るべく、既存の「マリー・キュリープログラム」に加え、新たな「リーゼ・マイトナープログラム」の立ち上げを紹介し、日本に対し理解・協力を求めた。開会セッションでは、ジャーナリストで国家基本問題研究所理事長の櫻井よしこ氏が「原子力発電を日本の元気の基にしよう」と題して特別講演。同氏は、「『CO2を削減しながら新しい産業を起こしていく』という、ともすれば矛盾する、相対立する目的に向かって、カギとなるのは原子力発電の幅広い活用だ」、「日本では福島の事故以来、原子力発電の安全性は飛躍的に高まっている。安全性を高めた原発建設への関心は世界的に高まっており、ここにわが国も積極的に参加していかねばならない」と強調。さらに、昨春の首都圏を中心とした電力需給ひっ迫の経験などを踏まえ、再生可能エネルギーについて、天候による変動から過度に依存するリスク、コスト、立地上の制約を指摘し、「エネルギー政策は国の根幹であり、現実を見据え、国益を考えて進めねばならない」と述べた。櫻井氏は、各国の比較から、日本は、太陽光発電の国土面積当たりの設備容量では世界トップレベルにあるにもかかわらず、発電と熱供給を合わせたCO2排出係数(発電量換算で1kWh当たりのCO2排出量)では「成績が良くない」ことを例示。火力発電が再エネのバックアップとなっていることを一因にあげ、安定電源となる原子力を主力電源の一つに位置付けるべきと主張した。また、福島第一原子力発電所事故以降、多くの施設を取材した経験から、櫻井氏は、原子力の安全対策に係る努力を国民に周知する重要性を述べる一方、再稼働に向けた審査の長期化に鑑み、原子力規制に係る根本的改善の必要性を指摘。同氏は、東日本大震災発生時、福島第二原子力発電所では現場のチームワークにより重大事故が阻止された事実にも言及し、「日本の原子力技術は非常に優れている。現場の人たちの努力を形にすることは国の責任だ」と訴えた。
18 Apr 2023
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日本原子力産業協会は4月16日、札幌市内で「国際原子力フォーラム」を開催した。G7気候・エネルギー・環境相会合に併せて開催したもので、各国の原子力産業団体と連名で、エネルギー分野のG7リーダーに対し共同ステートメントを発表。気候変動の緩和およびエネルギー・セキュリティの強化へ向け、原子力発電の積極活用を強く訴えた。参加した産業団体は、日本原子力産業協会の他、米原子力エネルギー協会(NEI)、世界原子力協会(WNA)、カナダ原子力協会(CNA)、英原子力産業協会(NIA)、欧州原子力産業協会(nucleareurope)の6団体。共同ステートメントは、「安全性を大前提に、原子力利用拡大へ向けた産業界としての決意と各国政府への要望をとりまとめた」(新井史朗・原産協会理事長)もので、以下の9点を柱としている。既存炉の最大限活用新規炉導入の加速原子燃料分野のロシア依存低減原子力分野への資金調達スキームの整備規制基準の標準化および効率化革新炉開発への支援原子力への社会的理解の促進最終処分場立地に向けた良好事例の共有原子力の新規導入国や導入検討国への支援このうち原子燃料調達におけるロシア依存の低減に関しては、同日発表されたG7札幌コミュニケでも大きく取り上げられた。それを象徴するかのように、国際原子力フォーラムには、G7のうち原子力利用国である5か国のエネルギー大臣が全員出席しただけでなく、同フォーラムの場で、採掘から燃料加工、輸送に至るまでのフロントエンド分野の協力で5か国が合意に達したことを明らかにした。これにより5か国間で国際的な燃料サプライチェーンを構築し、同分野でのロシア依存を低減し、原子力発電を最大限に活用することを目指すという。加えて各大臣から、原子力発電の推進に関し、「脱炭素社会の実現とエネルギー安全保障の両立という地球規模の課題解決に向けて、今ほど原子力に注目が集まっている時はない」(西村康稔経済産業相)、「民生用原子力分野で規制当局間のワーキンググループを作りたい」(A.パニエ=リュナシェ仏エネルギー移行相)、「SMRなど進捗著しい分野においても、許認可のペースがスピード感を失わないようにしたい」(J.ウィルキンソン加天然資源相)、「世界中の国が同じ方向を向いており、原子力拡大を通しエネルギー・セキュリティを強化するため、これまでにないほどのチャンスが訪れている」(G.シャップス英エネルギー安全保障・ネットゼロ相)等の前向きな発言があった。米エネルギー省のJ.グランホルム長官は、「G7のうち少なくとも5か国が同じ目的意識を共有している」とした上で、現在を「新しい原子力の夜明け」と形容。今後、①規制体系の協力、②資金調達面の協力を進めると同時に、すぐにでも原子力導入が必要な途上国向けに「これまで蓄積してきた我々の知見を提供するべき」だと強調した。そして「(今回提起された)産業界の提言全てに同意する」とし、「“G5”で原子力分野の協力ができることが楽しみだ」と構想実現に向けて強い意欲を示した。
18 Apr 2023
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