文部科学省の原子力研究開発・基盤・人材作業部会(主査=寺井隆幸・東京大学名誉教授)は12月13日、中間まとめ「わが国の試験研究炉を取り巻く現状・課題と今後の取組の方向性について」を概ね了承した。同作業部会では、わが国の原子力人材育成・研究開発を支える観点から、国内試験研究炉の重要性を取り上げ、日本原子力研究開発機構より、「もんじゅ」サイトにおける新たな試験研究炉の設計活動、廃止が決定した材料試験炉「JMTR」についてヒアリングを行うなど、検討を進めてきた。中間まとめでは、国内試験研究炉の多くが廃止措置に移行してきた背景要因として、建設から長期を経た施設の老朽化・高経年化所期の目的を(一定程度あるいはすべて)達成したこと新しい炉に機能を集約した結果としての合理化新規制基準への適合に必要な対策工事に係るコスト等を勘案したときの費用対効果――を列挙。東日本大震災以降の運転再開の動きに触れつつも、「わが国の原子力産業や関連の学術研究を支える基盤の脆弱化とともに、人材や技術の継承が大きな危機に直面している」と、警鐘を鳴らしている。「もんじゅ」サイトに計画される新たな試験研究炉のイメージ(文科省発表資料より引用)その上で、これまで試験研究炉に係る多くの知見・技術を蓄積してきた原子力機構の役割に改めて期待。現在、「もんじゅ」サイトに設置する新たな試験研究炉の概念設計・運営に向け、中核的機関として、原子力機構(試験研究炉の設計・設置・運転)、京都大学(幅広い利用運営)、福井大学(地元関係機関との連携構築)が選定され、原子力機構を中心に、利用ニーズを有する大学、産業界、地元企業などからなるコンソーシアム委員会を組織し検討が進められている。これに関し、今回の中間まとめでは、「2026年の京都大学試験研究炉『KUR』の運転停止・廃止措置移行後、研究開発・人材育成基盤となることへの期待は高く、さらに立地地域との共創により、長期的な利用基盤形成を図っていくことで、新たな試験研究炉が新しい社会的価値を発現するモデルとなる」と評価。今後、建設予定地の確定に向けた地質調査など、必要な取組を着実に進めていくよう求めている。新たな試験研究炉については、中性子ビーム利用を主目的とした汎用性の高い中出力炉(熱出力10MW未満程度)に絞り込んだ上で、年度内の詳細設計段階への移行を目指しており、既設の研究炉「JRR-3」や大強度陽子加速器施設「J-PARC」との相乗効果も期待されている。
16 Dec 2022
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資源エネルギー庁は、福島第一原子力発電所で発生するALPS処理水((トリチウム以外の核種について環境放出の規制基準を満たす水))について、「多くの方々に知っていただく・考えていただく」きっかけとなるよう、テレビCM、新聞広告などを通じた全国規模での広報を強化している。テレビCMについては、12月13日より30秒/15秒の実写篇を放映開始(2週間程度を予定)。現在、アニメーション篇も制作中だ。新聞広告も同日、全国紙5紙、各県紙・ブロック紙(朝刊)に掲載された。また、都心部を中心とする屋外・交通広告(電車内ビジョンなど)も19日頃から行う予定。2021年4月の政府による「ALPS処理水の処分に関する基本方針」決定を受け、風評影響を最大限抑制するための国民・国際社会の理解醸成に向け、関係省庁では情報発信やIAEAによる国際的レビューに努めている。資源エネルギー庁では12月1日、ALPS処理水について科学的根拠に基づいた情報をわかりやすくまとめたウェッブサイトを新設。「みんなで知ろう。考えよう。ALPS処理水のこと」との共通メッセージとともに、情報発信・関心喚起に取り組んでおり、ウェッブ広告(12月13日から1か月程度公開)の中で西村康稔経済産業相は「是非ご覧下さい」と語りかける。ALPS処理水は来春頃に海洋放出を開始することを目途に準備が進められている。
14 Dec 2022
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福島大・川﨑教授は著書の中で、福島復興に関し国民全体での総合的検証の必要性を述べている(福島大発表資料より引用)福島第一原子力発電所事故から10余年が経過。福島大学共生システム理工学類の川﨑興太教授は、12月7日に行われた同学・三浦浩喜学長による定例記者会見の中で、「国民全体での福島復興に関する総合的な検証が必要」と指摘している。〈福島大発表資料は こちら〉同氏は、2018年に学際的研究会「福島長期復興政策研究会」を設立。2021年までに、事故発生から10年間における福島の復興および関連政策の検証、および今後の調査・研究の一環として、福島県内の12市町村(田村市、南相馬市、川俣町、広野町、楢葉町、富岡町、川内村、大熊町、双葉町、浪江町、葛尾村、飯舘村)の首長を対象にヒアリングを実施し、復興に向けた課題を抽出。同調査・研究の成果は今秋、「福島復興の到達点―原子力災害からの復興に関する10年後の記録―」(東信堂)として出版された。会見で川﨑教授は、その内容について紹介。「福島復興10年間の到達点」に関し、避難指示は2020年3月までに帰還困難区域を除きすべて解除されたものの、多くの住民は避難し続けており、自治体は存続の危機に陥っている除染が完了しても、放射能汚染問題がすべて解消したわけではない福島の基幹産業である農林水産業は、それぞれ文脈は異なるものの、いずれも苦境に立たされ続けているそもそも事故が収束していない県や自治体は新たな復興計画を策定し、未来を切り拓こうとしているが、解決すべき課題が山積している――との段階にあると指摘している。さらに、同氏は、福島第一原子力発電所事故やその後の復興について、「日本全体、世界全体の問題であるにもかかわらず、いつのまにか福島に閉じられたローカルな問題に矮小化されている」と懸念。総合的な検証の必要性を示し、その視点として、事故発生の原因究明と責任所在の解明被害実態の包括的・総体的な把握と追求被災者の生活再建と被災地の復興・再生に関する実態に即した課題の抽出事故の再発防止策と再発した場合の被害最小化策の合理性――を提示。「福島の問題を考えることは、本質的には国民一人一人の暮らしのあり方そのものを見つめ直すことでもある」との考えから、検証は、福島の住民、県・市町村、国、東京電力だけでなく、国民全体で行うべきと提言している。
12 Dec 2022
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日本原子力産業協会(JAIF)と韓国原子力産業協会(KAIF)との共催による「日韓原子力専門家会合」が12月6日、都内で開催された。対面での開催は3年ぶりとなる。同会合は、JAIFとKAIFとの協力覚書に基づき、原子力開発・利用に関する情報・意見交換を行うことにより、日韓両国の原子力産業界レベルでの協力を促進し、原子力関連産業の一層の発展を目的として、1979年以来、開催されているもの。2017年以降は、開始当初の名称「日韓原子力産業セミナー」を改称し、現在に至っている。韓国側からは、KAIFの他、韓国電力公社(KEPCO)、韓国水力・原子力(KHNP)、韓国原子力環境公団(KORAD)などから15名が来日し出席した。今回会合では、福島第一原子力発電所の廃炉・汚染水対策、韓国におけるエネルギー政策に関する特別セッションが設けられ、それぞれ、日本側から東京電力、韓国側から慶熙(キョンヒ)大学校が発表。また、両国において関心の高い原子力発電所の廃止措置、放射性廃棄物の処理・処分など、バックエンド対策をテーマに議論がなされた。これらを踏まえたQ&Aセッションでは、韓国側、日本側からの質問に対し、それぞれJAIFの新井史朗理事長、KAIFのカン・ジョヨル常勤副会長が回答。韓国側から寄せられた原子力産業に係る国内市場や国際展開のリサーチに関する質問に対し、新井理事長は、JAIFが毎年、会員企業などを対象に実施している「原子力発電に係る産業動向調査」を紹介。一方、日本側からUAEバラカ1~4号機プロジェクトの成功要因に関連して韓国の原子力人材確保・育成について問われたのに対し、カン常勤副会長は、これまでの韓国における原子力開発の歴史を振り返りながら、「教育は人材育成の重要な要素」と強調。大学の原子力関連学科の充実化とともに、企業においても早い段階から海外への派遣を通じ教育・訓練に努めているなどと説明した。韓国一行は、会合終了後、福島へ移動し、福島第一・第二原子力発電所や日本原子力研究開発機構の楢葉遠隔技術開発センターなどを訪れた。
09 Dec 2022
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総合資源エネルギー調査会の原子力小委員会(委員長=山口彰・原子力安全研究協会理事)は12月8日、「今後の原子力政策の方向性と実現に向けた行動指針」(案)を取りまとめた。前回11月28日の会合で、「アクションプラン」として提示され、委員らの意見を踏まえ修文を図ったもの。「開発・利用に当たって『安全性が最優先』であるとの共通原則の再認識」を筆頭とする基本原則のもと、再稼働への関係者の総力結集運転期間の延長など、既設原子力発電所の最大限活用新たな安全メカニズムを組み込んだ次世代革新炉の開発・建設再処理・廃炉・最終処分のプロセス加速化サプライチェーンの維持・強化国際的な共通課題の解決への貢献――が柱。今回の行動指針案については、近く同調査会の基本政策分科会に報告され、政府「GX(グリーントランスフォーメーション)実行会議」で年末までに具体論の取りまとめが求められている「原子力政策の今後の進め方」に資する運び。〈配布資料は こちら〉 前回の同小委員会会合では、運転期間の取扱いに関する仕組みの整備として、「一定の運転期間の上限は設けつつ、追加的な延長の余地は勘案」するという選択肢で概ね委員間のコンセンサスを得ていた。つまり、現行の「40年+20年」をベースに、東日本大震災発生後の (1)法制度の変更 (2)行政命令・勧告・行政指導等(事業者の不適切な行為によるものを除く) (3)裁判所による仮処分命令等、その他事業者が予見しがたい事由――に伴って生じた運転停止期間はカウントに含めない(いわゆる「時計を止めておく」)ことが、今回、同行動指針案に盛り込まれた。次世代革新炉の開発・建設については、同小委員下のワーキンググループにおける議論も踏まえ、「まずは廃止措置決定炉の建て替えを対象に、バックエンド問題の進展を踏まえつつ具体化」と明記。これに関し、小野透委員(日本経済団体連合会資源・エネルギー対策委員会企画部会長代行)は、原子力産業の競争力維持の観点から「革新炉開発は重要。検討を加速して欲しい」と要望。遠藤典子委員(慶應義塾大学グローバルリサーチインスティテュート特任教授)は、昨秋策定のエネルギー基本計画との整合性に関して、現状での「2030年における総発電電力量に占める原子力の割合20~22%」の目標達成に危惧を示し、早急な検討が図られるよう訴えた。専門委員として出席した原産協会の新井史朗理事長は、サプライチェーンの維持・強化に関し、「原子力発電プラントの建設はおよそ9割を国内で調達しており、技術は国内に集積している。原子力の持続的活用の観点から、高品質の機器製造・工事保守の供給は必須であり、エネルギー自給率が重要であることと同様、これらが国内で一貫して行われることが重要」と強調。さらに、海外プロジェクトへの参画に向け、「わが国の高い原子力技術を世界に示す場であり、世界の原子力安全と温暖化防止に貢献する機会」ととらえ、積極的に取り組んでいく姿勢を示した。〈発言内容は こちら〉この他、委員からは、MOX燃料再処理も含めたバックエンド対策の強化、電力消費地域も交えた双方向コミュニケーションの必要性などに関し意見が出された。
08 Dec 2022
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三菱総合研究所は12月2日、福島県の復興状況や放射線の健康影響に対する意識や関心・理解などに着目したアンケート調査の結果を発表した。同社では2017年以降、東京都民を対象として継続的に調査を実施してきたが、第5回目となる今回、2025年に大阪で開催予定の万博において、「東日本大震災からの復興を成し遂げつつある姿を世界に発信する」ことも重要視されていることから、調査対象に大阪府民を加えている。調査は、2022年6月に、東京都と大阪府の20~69歳の男女、各都府1,000名に対しインターネットを通じて実施。「震災・復興を語り継ぐことの大切さ」を提言している。調査結果では、東京都民を対象とした「原発事故から11年が経過し、自身の震災に対する意識や関心が薄れていると思うか」との問いに対し、「そう思う」と「ややそう思う」との回答が初回調査から引き続き半数を超えていたことから、「東京都民における震災への意識・関心は薄れつつあることが浮き彫りになった」と分析。その上で、「震災から得た重要な教訓を語り継いでいくという観点では、15年、20年という節目のタイミングでの情報発信やイベントなど通じて、人々の意識・関心を再び喚起する機会を効果的に設けていくことも重要」と述べている。また、大阪・関西万博における東日本大震災からの復興アピールに、「期待している」または「やや期待している」との回答割合は、東京が36.8%に対し大阪が42.8%と、6ポイントほどの開きがあり、年齢別には、東京、大阪ともに60歳代以上の期待が特に大きく30歳代以下と大きな差があった。この理由として、「1970年万博当時の盛り上がりなどの記憶を持つ世代の期待が大きくなっている」と推察。今後に向け「1970年の万博後に生まれた若い世代の期待度を高めることが強く望まれる」と提言している。福島県の復興に関する意識については、東京と大阪でそれほど大きな違いはなかった。今回の調査では、震災・復興を語り継いでいくための参考として、「阪神・淡路大震災」と「東日本大震災」の日本における過去10年間のインターネット検索状況を比較。震災発生の周年期など、節目節目でのアクセス数が高まることなどから、「阪神・淡路大震災から30年となる2025年に開催される大阪・関西万博では、震災・復興についての積極的な情報発信の取組が強く期待される」と述べている。
05 Dec 2022
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原子力業界の若手を対象とした世界最大規模の国際会議「IYNC(国際青年原子力会議)2022」(主催=日本原子力学会若手連絡会)が11月27日、福島県郡山市内のホテルで開幕した。12月2日まで、世界各国から概ね39歳以下の若手原子力関係者ら約350名(オンライン参加も含む)が参集し、コミュニケーション・人材戦略、イノベーションなどをテーマに話し合うほか、少人数でのワークショップではロールプレイングやカードゲーム体験を通じ参加者同士の交流も深める。「IYNC」は、原子力平和利用の促進や世代・国境を超えた知識継承を目的に、2000年以来隔年で開催。30か国から300名以上が参加しており、英語での発表経験や人的ネットワーク構築の機会ともなっている。今回、当初はロシア・ソチでの開催が予定されていたが、昨今の情勢を踏まえ、急遽、日本で初開催されることとなった。福島第一・第二原子力発電所の見学や、廃炉・汚染水対策について考える福島特別セッションも設定。原子力発電所の高経年化対策や長寿命運転などの機運を背景に、ベテラン技術者と若手との世代間ネットワークの強化も視点となっている。11月28日のキーノートセッションで講演を行った原産協会の新井史朗理事長は、「IYNC2022」がテーマとして掲げる「You are the Core」を改めて強調し、「これから10年、20年、それ以降の世界の原子力利用を盛り立てていって欲しい」と、将来の原子力産業における若手の活躍に期待。また、日本の原子力政策の動きを紹介した上で、「原子力の価値を生かすために必要なアクション」として、早期再稼働、運転期間の延長、新増設・リプレース、研究・開発をあげた。そのアクションを着実に進めていくため、原子力産業界がクリアすべき課題として、予見性の確保、「ものづくり基盤」とサプライチェーンの強化、海外における原子力発電に対する価値の見直しに加え、若い年代層とのコミュニケーションの必要性に言及。「若手の方々や、今後の原子力技術・産業の担い手となる学生など、若い層へ原子力の価値の浸透を図ることが重要だと考える。学生には、原子力産業が有望な職業であることを確信してもらい、原子力を将来の職業として考えてもらえるよう訴えたい」と述べた。
30 Nov 2022
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総合資源エネルギー調査会の原子力小委員会(委員長=山口彰・原子力安全研究協会理事)は11月28日、「今後の原子力政策の方向性と実現に向けたアクションプラン」について議論した。〈配布資料は こちら〉同日の会合で、資源エネルギー庁は、8月に行った中間論点整理などを踏まえ、立地地域との共生、国民各層とのコミュニケーションの深化、再処理のプロセス加速化に関し、これまでの議論の状況と対応の方向性を整理。合わせて、原子力利用政策の観点からの運転期間のあり方として、前回11月8日の会合で示した現行の原子炉等規制法の規定を維持特段の上限規制を設けない一定の運転期間上限は設けつつ、追加的な延長の余地を勘案――の3案について、委員からの意見を踏まえた検討の視点として、科学技術的観点(安全規制)からの整合性福島第一原子力発電所事故の反省・教訓を踏まえた運転期間制限の趣旨国民・立地地域の理解確保エネルギー安定供給の選択肢確保次世代革新炉の開発・建設との関係事業者やステークホルダーにとっての予見性――を提示。これらの視点による評価から、将来の見直しを前提として、3案のうち「一定の運転期間上限は設けつつ、追加的な延長の余地を勘案」をベースとする方向性を示した。この運転期間の取扱いに関する仕組みの整備については、「今後の原子力政策の方向性と実現に向けたアクションプラン」の案文に盛り込まれ、現行通り、運転期間は40年、延長を認める運転期間は20年を目安とし、いわゆる「時計を止める」制度設計として、東日本大震災発生後の法制度の変更行政命令・勧告・行政指導等(事業者の不適切行為によるものを除く)裁判所による仮処分命令等、その他事業者が予見しがたい事由――に伴って生じた運転停止期間については、カウントに含めないこととされた。実際、2013年の新規制基準施行直後に審査が申請され未だ再稼働していないプラント、司法判断を含む事由によりおよそ2年にわたり停止したプラントもある。*今回の同小委員会で、専門委員の原産協会・新井史朗理事長は書面で意見を表明しました。
29 Nov 2022
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「福島第一原子力発電所事故後10年の規制活動」について話し合う原子力規制委員会とOECD/NEAによるシンポジウムが11月28日、都内ホテルで開幕した。国内外の政府・規制当局、電力事業者、大学・学会、地方自治体などから約200名が参集。29日までの2日間、原子力規制を巡り、自然災害への対応、信頼構築・透明性確保、ジェンダーバランスなど、今後取り組むべき課題について議論する。開会に際し基調講演を行った規制委員会の山中伸介委員長は、2012年の発足から9月で10年を迎えた同委のこれまでの活動を振り返り、「信頼回復のための10年だったといっても過言ではない」と強調。規制の継続的改善に関し、2016年のIAEA総合規制評価サービス(IRRS)受入れを踏まえ自身が主導した新検査制度の導入を例示しながら、「ゴールなどない」と述べ、今後も怠りなく取り組んでいく姿勢を示した。また、OECD/NEAのウィリアム・マグウッド事務局長は、福島第一原子力発電所事故後の世界における原子力規制の改善に関し、「既に延べ何百万時間にも及ぶ様々な努力が注がれ、本当に時代が転換した」と振り返った。同事故から得た自然ハザードに備えレジリエンスを図る教訓を、「『起こらない』と思ったことが来週にも起きるかもしれない。想定しておくことが大事なのだ」と強調。さらに、「人間が最後の深層防護」とも述べ、規制に係るヒューマンリソースやステークホルダー関与の重要性も訴えかけた。今回のシンポジウムには、日本の他、カナダ、フィンランド、フランス、ドイツ、韓国、スペイン、スウェーデン、スイス、英国、米国の規制機関が参集。マグウッド事務局長は、「原子力規制で一番変革したのは、世界中の規制者が連携するようになったことだ」と述べ、2日間の議論が有意義なものとなるよう期待した。
28 Nov 2022
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関西電力は11月25日、高浜発電所3・4号機(PWR、各87.0万kW)について、運転開始から60年までの運転期間延長を行う方針を決定した。同社では、申請に必要となる特別点検の結果などを含めた劣化状況評価を実施しており、60年までの運転を想定しても問題がないことを確認済み。今後、準備が整い次第、原子力規制委員会に対し申請を行う。〈関西電力発表資料は こちら〉高浜発電所3・4号機は、それぞれ1985年1月、同年6月に運転を開始。両機とも、2016年に新規制基準をクリアし再稼働(原子炉起動)。2025年中に原子炉等規制法に定める40年の運転期限を迎える。今回の決定に際し、関西電力は、「引き続き、原子力発電所の安全性・信頼性の向上に努め、地元を始めとする皆様の理解を得ながら、原子力発電を重要な電源として活用していく」とコメントしている。国内原子力発電プラントの40年超運転に係る認可申請は、既に原子炉設置変更許可が得られている関西電力高浜1・2号機、同美浜3号機(2021年夏に再稼働)、日本原子力発電東海第二と、10月に申請が行われた九州電力川内1・2号機とを合わせ計8基となる。
28 Nov 2022
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原産協会は11月25日、「原子力発電に係る産業動向調査2022報告書(2021年度対象調査)」を発表した。1959年以来、わが国における原子力産業、特に原子力発電に係る産業の全体像を把握し、会員企業・組織や関連省庁への情報提供および同協会の事業活動に活かすことを目的として実施しているもの。今回の報告書は、2021年度を対象とした電気事業者、重電機器メーカー、燃料メーカー、商社、建設業、サービス業など、243社からの回答による調査結果。それによると、電気事業者の原子力関係支出高は1兆7,646億円で対前年度比16%減。うち、「機器・設備投資費」、「土地・建物・構築物」、「運転維持・保守・修繕費」が、前回の調査と比べ大きく減少。新規制基準対応支出額は3,521億円で全体の約20%を占めていた。また、鉱工業他の原子力関係売上高は1兆8,020億円で同0.7%減。納入先別にみると、「電気事業者向け」が1兆2,681億円で同7%減となった一方、「鉱工業等向け」は4,259億円で同19%増となった。さらに、産業構造区分別にみると、「プラント既設」関連が9,846億円で同11%減となった。原子力発電に係る産業の景況感に関しては、現在を「悪い」とする回答が前回から8ポイント減の68%となり、1年後を「良くなる」とする回答も5年ぶりに「悪くなる」との回答を上回ったことから、若干の改善傾向がみられている。一方で、原子力発電所の長期停止に伴う影響について尋ねたところ(複数回答可)、「技術力の維持・継承」をあげた割合は60%で、近年で最も高くなった。さらに、「技術力の維持・継承」への影響としては、「OJT機会の減少」との回答が格段に最も多く、「調達先の消失によるモノ・役務の入手が困難」となる企業も近年増加傾向がみられている。また、他社の撤退の影響を受ける、若しくは受ける恐れのある分野としては、「技術者・作業者」との回答が引き続き最も多く、人材への懸念が高まっているものとみられる。今回の調査では、原子力人材の採用状況や革新炉への関心についても尋ねた。採用状況については、「十分に採用できている」が28%、「必要な人数より2~3割足りない」が46%、「必要な人数の半分以下しか採用できていない」が14%と、多くの企業で思うように採用できていない実情が明らかとなった。また、新型炉・革新炉事業への関心については、「関心がある」との回答が、国内向け、海外向けでそれぞれ69%、52%を占めていた。原子力発電に係る産業を維持する上での課題について尋ねたところ(複数回答可)、「政府による一貫した原子力政策の推進」が83%で最も多く、「原子力発電所の早期再稼働と安定的な運転」が67%で、これに次いでおり、いずれの回答割合とも近年で最も高くなっていた。原産協会の新井史朗理事長は、11月25日の記者会見で、今回の調査結果について説明。景況感に若干の改善がみられた一方で、「新規制基準対応のための安全対策工事がピークを越えた電気事業者が出てきたことや、化石燃料高騰などにより電気事業者がコスト削減に努めているとみられ、原子力関係売上高は減少している」と述べ、現状は依然として厳しい市場環境にあるとの認識を示した。
25 Nov 2022
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日本原子力産業協会は11月21日、国内の会員企業と海外企業とのビジネスマッチングを支援するウェブサイト「Nuclear Industrial Directory of Japan」(旧:バイヤーズガイド)を開設した。原産協会では日本の原子力産業振興のため、協会会員企業の原子力ビジネス情報を英文で紹介する紙媒体のバイヤーズガイドを2011年に発刊し、2年毎に版を重ねてきた。協会ではバイヤーズガイドを世界原子力展示会(WNE、パリ)をはじめとする国際展示会等で広く配布し、会員企業の海外向けビジネス交流を支援してきた。今般、紙媒体からウェブサイトへ移行したのは、「閲覧者の利便性と掲載情報の更新頻度を高める」(原産協会国際部小林課長)のが目的。経済産業省資源エネルギー庁が進める「革新サプライヤチャレンジ」((経済産業省が地方局とのネットワークも活かし、プラントメーカーとの連携を通じた研究開発や、海外セミナーへの参画等、海外市場獲得の支援を通じ、原子力事業者の製造機会を創出する支援ツール 第6回 総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 原子力小委員会 革新炉ワーキンググループの資料3を参照))の一翼を担うものとして、海外の革新炉プロジェクトへの機器/部材供給に向けた取り組みを後押しする。ウェブサイトでは、各社の製品やサービスを紹介するだけではなく、海外企業が調達ニーズを投稿し、双方向でやり取りが可能な掲示板(Bulletin Board)機能を盛り込んでいる。
25 Nov 2022
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自由民主党の電力安定供給推進議員連盟(会長=細田博之氏〈衆議院議長〉)は11月24日、「我が国のエネルギー安全保障の確保・GX(グリーントランスフォーメーション)推進に向けた提言」を発表した。提言では、昨今のウクライナ情勢伴う化石燃料価格の高騰などに鑑み、「電力の安定供給における危機はさらに顕在化している」と危惧。電力供給危機といえる現下の状況を踏まえるとともに、「2050年カーボンニュートラル」の実現も標榜し、持続的な原子力発電の活用を図るべく、「原子力発電の最大限の活用」および「安全性を高めた新型炉のリプレース・新増設」を、国のエネルギー政策の基本方針として明確に位置付ける国が前面に立って、設置変更許可を受けた既設炉の再稼働を迅速に進める安全性の確保を大前提に、現在最長60年とされている既設炉の運転期間の延長を行う再処理や廃炉、最終処分など、バックエンド対策の加速に向けた取組を早急に具体化していく原子力発電所に対する武力攻撃等を想定し、必要な措置を講じる――よう求めている。政府の「GX実行会議」における岸田文雄首相の指示を受け、西村康稔経済産業相は8月に示した「日本のエネルギー安定供給の再構築」の中で、原子力政策に関し、再稼働に向けた総力の結集、安全性の確保を大前提とした運転期間の延長、既設原子力発電所の最大限の活用、新たな安全メカニズムを組み込んだ次世代革新炉の開発・建設など、今後の政治判断を必要とする項目を提示。現在、総合資源エネルギー調査会で議論を進めている。今回の提言は、その年末までの具体論取りまとめに向け発表されたもの。同議連の塩谷立幹事長(衆院議員)らは24日、西村経産相を訪れ提言書を手渡した。
25 Nov 2022
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資源エネルギー庁は11月22日、2021年度のエネルギー需給実績(速報)を発表した。それによると、最終エネルギー消費は12,330PJ(ペタ〈10の15乗〉ジュール)で対前年度比2.0%増。部門別にみると、家庭部門は新型コロナ感染の落ち着きによる在宅時間減の影響から同6.5%減、企業部門は前年度の需要減からの回復影響から4.5%増などとなった。一次エネルギー国内供給は18,575PJで対前年度比3.4%増。そのうち、化石燃料は同1.4%増で8年ぶりに増加し、再生可能エネルギーは9年連続で増加した。化石燃料は、石炭が同6.8%増、石油が同2.9%増、天然ガス・都市ガスが同6.4%減。非化石燃料は、原子力が同82.6%増、太陽光が同10.3%増。非化石燃料のシェア増加により、化石燃料のシェアは83.2%と、東日本大震災以降で最小となった。発電電力量は1兆327億kWhで対前年度比3.2%増。そのうち、非化石電源の割合は27.1%で同3.5ポイント増となった。発電電力量の構成は、再生可能エネルギーが20.3%で同0.5ポイント増、原子力が6.9%で同3.0ポイント増、火力(バイオマスを除く)が72.9%で同3.5ポイント減などとなっている。エネルギー起源CO2排出量は9.8億トンで、対前年度比1.2%増と、コロナ禍からの需要回復影響などにより8年ぶりに増加に転じた。
22 Nov 2022
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原子力規制委員会の山中伸介委員長は11月21日、日本記者クラブで記者会見を行い、9月に2012年の発足から10年を迎えた同委のこれまでの取組と今後のあり方について述べた。山中委員長はまず、2011年に発生した福島第一原子力発電所事故に関し、「長年、原子力に携わってきたものとして、『痛恨の極み』であり、『なぜあのような事故を防ぐことができなかったのか』という大いなる後悔と反省の気持ちを今も持ち続けている」と述べ、これを原点に原子力規制のさらなる改善に向けて「変化を恐れず」に取り組んでいく考えを強調。続けて、新規制基準の策定・適合性審査、新検査制度の運用開始、福島第一原子力発電所事故の調査・分析など、10年間の取組について説明。福島第一原子力発電所の廃炉については、これまでの緊急措置的な対応から今後の10年に向け、「放射性物質で汚染された様々な物質の分析・分類・保管を着実にかつ安全に、社会的影響にも十分配慮して進めていく必要がある」と述べた。原子力発電所の運転期間延長に関して、山中委員長は、規制委員会が2020年7月に示した「運転期間のあり方は、原子力利用に関する政策判断にほかならず、当委員会が意見を述べるべき事柄ではない」との見解を改めて明言。これを前提に規制側として、「必要な安全規制を継続して実施できるようにする」ための制度設計に向けて準備を進めているとし、現在、検討中の新たな安全規制制度案について説明した。現行の高経年化技術評価制度と運転期間延長認可制度を統合するもので、規制委員会が運転開始から10年以内ごとに事業者に対し策定を義務付ける「長期施設管理計画」を審査し認可されたプラントが運転を継続できるよう法整備を図る。運転期間延長に関する記者からの質問に対し、山中委員長は、「高経年化した原子炉の規制に抜けがあってはならない」と、独立した立場から厳正に審査を行う考えを繰り返し強調。海外の原子力発電所の実績にも鑑み長期運転に係るデータの信頼性について指摘されたのに対し、「各国で様々な取組があるが、われわれ独自の安全規制を図っていきたい」と応えた。
22 Nov 2022
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福島第一原子力発電所で発生するALPS処理水((トリチウム以外の核種について環境放出の規制基準を満たす水))の安全性レビューに関し来日していたIAEAのミッションが11月18日、5日間の日程を終了した。ALPS処理水の放出前・中・後にわたり継続的に実施されるIAEAによる安全性レビューは、2月に続き2回目となる。〈資源エネルギー庁発表資料は こちら〉今回は、IAEA原子力安全・核セキュリティ局調整官のグスタボ・カルーソ氏を筆頭に7名のIAEA職員と、9名の国際専門家(アルゼンチン、中国、韓国、フランス、マーシャル諸島、ロシア、英国、米国、ベトナム)が来日。一行は、経済産業省、東京電力との会合で、前回レビュー後、4月に取りまとめた報告書で技術的事項として示されている横断的な要求事項と勧告事項ALPS処理水/放出水の性状放出管理のシステムとプロセスに関する安全性放射線環境影響評価放出に関する規制管理と認可ALPS処理水と環境モニタリング利害関係者の関与職業的な放射線防護――についてレビュー。特に、東京電力が11月14日に原子力規制委員会に提出した放出を管理するための組織体制の明確化、処理水中の測定対象核種の改善などを含む実施計画の変更認可申請書について、IAEAの安全基準に基づいて専門的な議論を行った。16日には、福島第一原子力発電所を訪問。希釈放出設備の工事進捗状況などを視察し同社と意見交換を行った。会見を行うIAEA・カルーソ氏(インターネット中継)18日にフォーリン・プレスセンターで記者会見を行ったカルーソ氏は、「われわれが作成するレポートはすべて一般に公開される。科学的な評価を行うことで、日本だけでなく、IAEAメンバー各国にとっても安心感を与えるものとなる」と、IAEAが堅持する厳しい国際基準と高い透明性を確保する姿勢を強調。来春に予定されるALPS処理水の放出を前に包括的な報告書を公表する考えを述べた。
21 Nov 2022
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原子力発電環境整備機構(NUMO)とマイナビニュースによるタイアップ番組の第2弾が11月16日より公開されている。地層処分事業への関心喚起を図る取組の一つで、マイナビニュースがTwitterで不定期的に配信している番組「竹山家のお茶の間で団らん」の1コマ。〈NUMO発表資料は こちら〉「竹山家のお茶の間で団らん」は、タレントのカンニング竹山さん、篠田麻里子さん、越智ゆらのさんが竹山家のそれぞれ父、母、娘を演じ、様々なジャンルの最新情報をゲストを交えたトークを通じ「ゆるく楽しく」紹介する。今夏公開された同タイアップ番組の第1弾は、北海道幌延町への「夫婦二人旅」で、そこでは、地層処分技術に関する研究開発を行う日本原子力研究開発機構の幌延深地層研究センターが紹介された。今回の第2弾では、高レベル放射性廃棄物の処分地選定に向けた文献調査が行われている北海道神恵内村を家族3人で訪れる。3人は村役場で高橋昌幸村長に話を聞く。高橋村長は、文献調査に応募した2020年当時、抗議の手紙が殺到したことを振り返った上で、現在、NUMOとともに行っている住民との対話活動について説明し、「きちんと理解してもらう」重要性を強調する。神恵内村郷土料理の桜鱒カレー、身がしっくりしながらほろほろ感も(マイナビニュースTwitterより引用)この他、ウニの養殖場での殻割り体験・試食、海を眺望するワーケーション(観光地でテレワークを活用し働きながら休暇をとる過ごし方)施設の訪問など、地元のグルメや注目スポットを紹介。カンニング竹山さんが「夕日がきれいに見える」と絶賛する民宿「きのえ荘」では、郷土料理の桜鱒カレーを楽しむ。高レベル放射性廃棄物の処分地選定に向けた文献調査は、神恵内村の他、北海道寿都町で進められている。桜鱒カレーを開発した「いちき商店」の岡田順司さんは、番組の中で、過疎化が急速に進む神恵内村の将来を案じるとともに、「地層処分事業を理解している人が非常に少ない。もっと日本国民一人一人がしっかり考えて欲しい」と語る。桜鱒カレー(缶詰)は、道の駅「オスコイ!かもえない」で購入できる。
21 Nov 2022
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全国各地の魚介料理が堪能できる「ジャパン フィッシャーマンズ フェスティバル 2022 ~全国魚市場&魚河岸まつり~」(主催=SAKANA & JAPAN PROJECT ジャパン フィッシャーマンズ フェスティバル実行委員会)が日比谷公園(東京都千代田区)で開催されている。会期は11月17~20日(雨天決行・荒天中止)。感染症防止対策を徹底し、出店数は前回の3倍となる約70ブースに拡大。入場無料で、会場内の混雑状況により入場制限が行われる場合がある。同フェスティバルでは、今回も東日本大震災からの復興応援を目的として、「常磐もの」と呼ばれる福島県産の海産物を味わえる「発見!ふくしまお魚まつり」(主催=発見!ふくしまお魚まつり実行委員会)を併催。全5種類の「ふくしまご当地海鮮丼」、小名浜サンマの塩焼き、直径1.5mの巨大鍋で150人前を一気に調理する「常磐ものイカスミパエリア」の他、「福島牛ステーキのウニとイクラのせ」、「常磐煮干し極上中華そば」など、肉・麺とのコラボメニューも味わえる。また、新酒鑑評会で金賞受賞数日本一を9回連続で獲得した福島の地酒で出店した福島県酒造協同組合は「福島の魚介との相性は抜群」と絶賛。ブースでは、大吟醸、純米、それぞれ3種類の飲み比べができる。折しも絶好の晴天に恵まれた会期初日の17日、人気のブースには開場から30分足らずでおよそ40分待ちの長蛇の列ができるほどの盛況ぶりだった。絶好の秋晴れのもと、テープカットに臨む経産省・復興庁の政務ら(中央に秋葉復興相、左端は「発見!ふくしま」公式アンバサダーの箭内夢菜さん)同日午前に行われたテープカットに際し、同フェスティバル実行委員長の近藤豊和氏(産業経済新聞社上席執行役員)は、「四方を海に囲まれ水産資源に恵まれた日本。もっともっとお魚を食べよう」と、日本の水産業振興に向けエール。また、秋葉賢也復興大臣は、「福島の復興なくして東北の復興なし。東北の復興なくして日本の再生なし。今回のイベントを通して福島県の漁獲水揚量・販売額がさらに拡大することを心より期待する」と述べた。
17 Nov 2022
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議事を進める白石分科会長(インターネット中継)総合資源エネルギー調査会の基本政策分科会(分科会長=白石隆・熊本県立大学理事長)は11月15日、原子力政策について議論した。〈配布資料は こちら〉8月の「GX(グリーントランスフォーメーション)実行会議」で西村康稔経済産業相が報告した「日本のエネルギーの安定供給の再構築」を受け、同分科会は9月にエネルギー供給体制の見直しに向け検討を開始。15日の会合では、資源エネルギー庁が同調査会下の原子力小委員会における検討状況を、再稼働への関係者の総力結集運転期間延長など、既設原子力発電所の最大限活用次世代革新炉の開発・建設再処理・廃炉・最終処分のプロセス加速化国際連携の推進――の論点ごとに整理し説明。これに対し、日本原子力研究開発機構理事の大島宏之氏、大学院大学至善館の枝廣淳子氏、朝日新聞論説委員の五郎丸健一氏、原子力資料情報室事務局長の松久保肇氏(原子力小委員会委員)よりヒアリングを行った。大島氏は、原子力機構が取り組む高温ガス炉、高速炉の研究開発状況を紹介。バックエンド対策、非エネルギー分野における展望、人材育成・技術継承の課題にも触れ、次世代革新炉の実用化に向けて、計画の具体化、安全規制・基準の構築、事業の予見性確保、国の支援施策の重要性を訴えた。エネルギー政策の検討に関し討論型世論調査(2012年)や2050年を見据えたエネルギー情勢懇談会(2017~18年)に参画した経緯を持つ枝廣氏は、まず「福島原発事故がなかったかのようにエネルギー政策を考えてはならない」と強調。立地地域での対話活動の経験にも触れ、一方的な情報提供ではなく平時から双方向コミュニケーションに努める必要性を訴えた。運転期間延長や次世代革新炉の開発・建設の動きに関連し、五郎丸氏は、現行のエネルギー基本計画が掲げる「可能な限り原発依存度を低減」との整合性を問い、「『つまみ食い』的に方針を転換するのではなく、基本計画の見直しも合わせて議論すべき」と主張。高レベル放射性廃棄物最終処分や核燃料サイクルの事業停滞を憂慮するとともに、再稼働に係る地元同意の範囲や避難計画・体制の実効性を「不十分」などと指摘した上で、「結論ありき、スケジュールありき」の拙速な議論に危惧を示した。ヒアリングを受け、委員の杉本達治氏(福井県知事)は、「立地地域としては安全が最優先」と述べ、事業者が安全対策に十分な投資を図れる制度設計を合わせて検討していくべきと要望。また、これまでも原子力技術開発の必要性を訴え続けてきた隅修三氏(東京海上日動火災保険相談役)は、再生可能エネルギーが持つポテンシャルの限界から、「2050年カーボンニュートラル」の実現に向け、「もう時間がない」と述べ、原子力機構が示した次世代革新炉開発に係る技術ロードマップの前倒しなどを求めた。原子力小委員会の委員長を務める山口彰氏(原子力安全研究協会理事)は、今後の議論に向け、「様々な問題が絡み合った連立方程式を解くようなもの。原子力ワンイシューの中で二者択一的に対立するのではなく、様々な論点を合わせて解を求めていくべき」と述べた。
16 Nov 2022
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COP27で挨拶に立つグテーレス国連事務総長©国連広報センター11月15日に世界の人口は80億人に達する見通し。国連が今夏公表した「世界人口推計2022年版」によるもの。世界の国別人口は、現在首位の中国を2023年にもインドが抜くと予測されている。折しもCOP27(エジプト・シャルム・エル・シェイク)会期中となったが、アントニオ・グテーレス国連事務総長は、7日の開会挨拶で、「80億人目の赤ちゃん」の誕生を前に、「この節目は、この気候変動会議とは何であるかを大局的に見るきっかけとなる」と議論に先鞭。さらに、「時は刻一刻と過ぎている。われわれは生死をかけた闘いの中にいる。そしてわれわれは敗北しつつある。温室効果ガスの排出量は増え続けている。われわれの地球は、気候変動地獄へと向かう高速道路をアクセルを踏んだまま走っているのだ」と危惧。昨今のウクライナ情勢に伴う化石燃料への依存がもたらすリスクも憂慮し、世界全体での「2050年カーボンニュートラル」実現の必要性を強調した〈既報〉。世界のエネルギー情勢に関し、IEA(国際エネルギー機関)のファティ・ビロル事務局長は、9月に行われた日本エネルギー経済研究所主催のシンポジウムで、「世界で電気にアクセスできない人々の数は年々減少してきたが、今年は2,000万人増える」との悲観的な見通しを示している。
15 Nov 2022
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資源エネルギー庁は11月7日、ウェブ上の情報サイト「スペシャルコンテンツ」を、「エネこれ」と命名しリニューアルするとともに、エネルギーについてわかりやすく学べる特設サイト「みんなで考えよう、エネルギーのこれから。」を新設した。〈資源エネルギー庁発表資料は こちら〉「スペシャルコンテンツ」は、エネルギー広報の取組として、2017年6月にスタート。以降、同サイトを通じ、カーボンニュートラル、福島の復興、核燃料サイクル、最終処分などをテーマに、有識者のインタビューも交え定期的に情報を発信し、6月末時点での記事数は約310本に上り、そのうち、原子力関連の記事は約60本となっている。リニューアルに合わせ「エネこれ」では、新着記事として、「エネルギー政策を考えるための、4つの理想」を掲載した。そこでは、エネルギーを考えるカギとなる4つの「理想」として、絶対に安全なものを使いたいいつでもどこでも安定して使えるようにして欲しい値上がりすると生活が苦しい。安いものがいい地球のため、環境にやさしいものを選びたい--を提示。エネルギーに係るそれぞれの「理想」に関し、福島第一原子力発電所事故の経験、世界情勢の影響による供給リスク、価格高騰の現状、大気汚染物質の排出や放射性廃棄物について考える必要性などをあげ、「4つをまとめて叶えられるような夢のエネルギーは見つかっていない」と説明。その上で、4つの理想の頭文字をとった「S+3E」(安全性、安定供給、経済性、環境への適合)を基本的視点として、エネルギー政策について考えさせている。一方、新設サイト「みんなで考えよう、エネルギーのこれから。」では、動画コンテンツも用いて、エネルギーに関する疑問に応え、エネルギー政策の基本となる考え方などをわかりやすく説明。多くの人たちがエネルギーについて考えるきっかけとなるサイトを目指す。1日に政府が決定した今冬の電力需給対策で「安定供給に最低限必要な予備率3%を確保できる見通し」が示されたものの、1月の東北・東京エリアでは厳寒時の需要に対する予備率が4.1%に留まるなど、依然として厳しい見通しだ。同サイトがまず掲載した動画コンテンツでは、「朝、いつもの電車が止まるかもしれない」、「来月、電気代がものすごく高くなるかもしれない」といった電力需給ひっ迫により引き起こされる影響を述べた上で、太陽光、水力、火力、原子力他の発電所イラストが並ぶところに「万能ではないから、エネルギーをひとつには選べない。」とのテロップを掲げ問題提起。これを踏まえ、エネルギーに関する、「電気代やガス代、ガソリン代はどうして高くなっているの?」、「全部、太陽光や風力で発電したらどうなるの?」、「原子力発電所の安全性は大丈夫?」といった疑問に対し、これまで「スペシャルコンテンツ」で紹介してきた記事に誘導し応えている。
11 Nov 2022
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総合資源エネルギー調査会の原子力小委員会(委員長=山口彰・原子力安全研究協会理事)は11月8日、主に原子力発電所の運転期間のあり方を中心に議論した。〈配布資料は こちら〉8日の同小委員会会合で、資源エネルギー庁は、いずれも原子炉等規制法に基づく安全性の確認を大前提に、今後の運転期間のあり方について、現行の原子炉等規制法にある上限規定(最大60年)を維持特段の上限規制を設けない(ベースとなる運転期間を設定した上で追加延長には上限を設けない、など)一定の運転期間上限は設けつつ、現行の上限規定に対し追加的な延長の余地は勘案(新たな規制対応に伴う運転停止期間を算入しないいわゆる「時計を止める」、など)――の選択肢を提示し、委員らに意見を求めた。運転期間の延長を含む既存プラントの最大限活用については、「原子力政策の今後の進め方」((8月24日のGX実行会議で経済産業相が提出した「日本のエネルギーの安定供給の再構築」に記載))の中で課題の一つにあがったことから、同小委員会では今秋より検討に着手。一方、原子力規制委員会は、10月15日の定例会合で資源エネルギー庁よりヒアリングを行い、「運転期間に係る方針は利用政策側の法体系の中で検討される。規制側としては、高経年化した原子炉の安全確認のための規制について明確化する」ことを確認。これに基づき、同委は、11月2日の定例会合で、現行の運転期間延長認可と高経年化技術評価の2者を統合する新たな制度案を提示し検討を開始した。新たな制度案は、運転開始から30年以降、10年を超えない期間ごとに、安全上重要な機器の劣化状況を把握し経年劣化に関する技術評価を行うとともに、その評価結果に基づく施設の劣化を管理する「長期施設管理計画」を策定するよう事業者に対し義務付けるというもの。運転期間の上限については言及していないものの、規制委の山中伸介委員長は「現行制度よりはるかに厳しい規制となる」と述べている〈既報〉。8日の原子力小委員会会合で、杉本達治委員(福井県知事)は、昨夏に国内初の40年超運転を開始した関西電力美浜3号機を例に、長期運転に向けた取組を充実化していく必要性を述べた上で、運転期間延長に関し、利用側と規制側との整合性ある制度設計を求めるとともに、「古くなれば安全性が損なわれる可能性も高まる。住民の安全・安心を最優先に国が運転期間に責任を持つべき」と訴えかけた。また、技術的観点から、竹下健二委員長代理(東京工業大学名誉教授)は、「基本的に運転期間は、中性子照射脆化やコンクリート劣化などを含め、炉の安全性が科学的に確認できる場合は60年を超えて運転を認めるのが合理的」と説明。専門委員として出席した原産協会の新井史朗理事長は、「エネルギー安定供給と国際的公約である2030年46%削減((2021年4月に菅首相が表明した2030年度に温室効果ガスを2013年度から46%削減するという目標))、2050年カーボンニュートラルの達成に向けて、既存炉の早期再稼働の実現とともに、運転期間延長を含む原子力の最大限活用が不可欠」と述べた。〈発言内容は こちら〉同小委員会では今回、資源エネルギー庁が提示した運転期間のあり方に関する3つの選択肢に対し、特段の採否表明は求めていないが、委員からは、この他に、経済に及ぼす影響、政策上の整理を行う必要性、技術基準の明確化、バックエンド対策、司法判断に伴って生じた運転停止期間の除外の是非に関し意見があった。
09 Nov 2022
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原産協会の新井史朗理事長は11月4日、記者会見を行い、原子力産業界における人材確保支援と理解促進を目的として関西原子力懇談会との共催で毎年実施している「原子力産業セミナー2024」の開催結果(速報)を発表した。同セミナーは、主に2024年卒の大学生・大学院生・高専生が対象。今回、10月15日に東京で、同29日に大阪で開催された。両会場を合わせた学生参加者数は計473人(前年比24%増)で、2012年度以降、最高の参加者数となったほか、前々回の開催より採り入れたオンライン参加も各々31名に上っており、「対面・オンラインのハイブリッド方式をとる本セミナーの価値が高まっている」と分析している。出展企業・機関数は両会場を合わせ76社で、前年度より11社増加。新井理事長は「コロナ前の状況に戻りつつある」と述べ、また、会場で学生らと交わした話を振り返り「原子力の仕事したいという強い意志を持って来場している学生や、福島の復興に貢献したいという思いを持つ学生もいた」と語った。今後の原子力人材確保に向け、新井理事長は、「原子力産業は原子力工学だけでなく、電気、化学、土木、建築など、様々な分野の人材が必要。文系も含めてできるだけ多くの学生にアピールできるよう努力している。また、様々な業界が集う就活イベントに出展するなどして、原子力専攻以外の学生にも知ってもらえるよう努力している」と強調。近年の文系学生の来場者増加傾向にも好ましい見方を示した。また、新井理事長は、10月26日に原産協会が米原子力エネルギー協会(NEI)と発表した「未来の原子力に向けた日米産業界共同声明」について紹介。カーボンニュートラル社会の実現とエネルギー安全保障の持続的確保を念頭に、日米両国の原子力産業界がサプライチェーンを強靭化し世界で安全性の高い原子力の利用を促進することを目指すもので、第三国への原子力導入支援も視野に入れている。新井理事長は、「経験豊かな両国の原子力産業が、カーボンニュートラル、エネルギー安全保障といった地球規模の課題において、さらに協力を深めていくことを確認できたことの意味は大きい」と強調した。先般、原子力規制委員会が原子力発電所の60年超運転の可能性を見据え高経年化プラントの安全規制で新たな制度案を示したことについて、新井理事長は「科学的にも技術的にも合理的」と述べた上で、「事業者にとって選択肢が増えることになる」と評価した。
07 Nov 2022
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政府は11月3日、秋の叙勲受章者を発表。量子科学技術研究開発機構(QST)理事長の平野俊夫氏が瑞宝大綬章を受章することとなった。平野氏は、大阪大学学長、内閣府総合科学技術・イノベーション会議議員などを歴任。2016年に放射線医学総合研究所と、日本原子力研究開発機構の量子ビーム・核融合部門の統合により発足したQSTの初代理事長に就任し、現在に至っている。両法人統合のシナジー効果の一つとして、原子力機構の核融合部門が蓄積してきた超電導技術の応用によるがん治療装置の小型化・低コスト化が期待されており、同氏は就任以来、「がん死ゼロ健康長寿社会の実現」を目指し、既存病院建屋にも設置可能な次世代がん治療装置「量子メス」の実用化に向け精力的に取り組んでいる。今回の受章に際し、平野氏は、「この受章を励みとし、平和で心豊かな人類社会の発展に貢献できるよう、微力ながら尽力していく」とのコメントを発表した。同氏は、QST発足時の記者会見で「多様な学問領域を統合するワクワク感に溢れている」と期待を寄せたほか、以降も随所で「夢は実現するためにある」と熱く語る非常にエネルギッシュな人柄である。また、長く取り組んできた免疫物質「インターロイキン6」の研究は、関節リウマチや新型コロナなどの治療薬開発の基盤となっており、2021年にはノーベル生理学・医学賞の有力候補として評された。
04 Nov 2022
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