日本エネルギー経済研究所(IEEJ)は10月27日、オンラインシンポジウムを開催。参加者約500名を集め、国際エネルギー機関(IEA)のファティ・ビロル事務局長らによる世界のエネルギー需給の長期的動向を予測・分析した年次報告書「World Energy Outlook 2021」(WEO-2021)に関する講演を受け意見交換が行われた。IEAが10月13日に公表したWEO-2021について、IEEJの寺澤達也理事長は、「世界がカーボンニュートラルに取り組む中、エネルギー情勢を巡る様々な課題を考察する上で非常に重要なレポートだ」と高く評価。さらに、同氏はシンポジウムが折しもCOP26(10月31日~11月12日、英国グラスゴー)開催の時宜にかなったことを歓迎し、世界のエネルギー・環境を巡る課題が理解されるとともに、日本のカーボンニュートラルに向けた道筋への示唆となるよう活発な議論を期待した。講演に入り、ビロル事務局長はまず、昨今の原油価格の高騰に関し「年末にかけて市場動向を注視していく必要がある」と述べ、IEAとして引き続き加盟国との協調を図っていく考えを示した。各国が取り組むカーボンニュートラルに関しては、日本に対し「このターゲットの達成には特別な道筋で努力する必要がある」として、エネルギー利用の効率向上とともにイノベーションを追求し続ける重要性を強調。原子力については「重要な柱であるべき」とした上で、再稼働とともに新増設も視野に入れる必要性を示唆した。また、ビロル事務局長は、IEAが5月に公表したCO2排出量実質ゼロに関する特別報告書に言及。その客観性を「科学者からのメッセージ」と尊重し、同報告書が示した複数シナリオに触れ、「既に各国が公表している公約がすべて実行されても、世界の平均気温上昇は許容範囲をはるかに超す2.1℃に達する」と警鐘を鳴らした。IEAの各シナリオによる2050年までのCO2排出量(IEA発表資料より引用)WEO-2021のベースとなったこれらのシナリオに関しては、IEAエネルギー供給・投資見通し部門長のティム・グールド氏が、2050年までのCO2排出削減量が大きい順に、「実質ゼロ化シナリオ」(NZE:Net Zero by 2050)、「発表誓約シナリオ」(APS:Announced Pledges)、「公表政策シナリオ」(STEPS:Stated Policies)の分析結果を披露。2030年までに世界で石炭火力3.5億kWの建設・計画が続くとするAPSに関し、2050年のCO2排出量がNZEと比べて20ギガトン(2017年の世界のCO2排出量約6割に相当)を超す開きがあることなどを図示し、対策の不十分さを指摘。「クリーンエネルギーへの投資を現状の3倍以上に増やす必要がある」と強調する同氏は、温室効果ガス削減に向けたコスト効率の高い追加的対策として、風力・太陽光発電導入の増強、運輸・家庭部門のエネルギー効率改善とともに、メタン削減にも取り組む必要性を説いた。日本のエネルギー政策について助言を求められたグールド氏は、「各国が持つバックグラウンドは異なり標準的な道筋はない」とした上で、気候変動対策における日本のリーダーシップ発揮に期待し「再生可能エネルギーのポテンシャルは大きい。革新的原子力技術も重要な候補」などと述べた。この他、質疑応答の中で、同氏は、蓄電池について、太陽光の使えない夜間の電力応需に活用が見込める地域としてインドを例示。デジタル技術の活用については、電力需要管理における有用性を期待する一方、サイバーセキュリティの課題を指摘。参加者とは化石燃料の市場リスク、水素・アンモニアの燃料活用、森林によるCO2吸収の可能性に関する意見交換もなされた。グールド氏は、一つの技術に固執する考え方を危惧し、「次世代に向け持続可能なエネルギーシステムを構築するには、複数の技術を組み合わせなければならない」と強調した。
04 Nov 2021
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新しい地層処分展示車「ジオ・ラボ号」(NUMO発表資料より引用)原子力発電環境整備機構(NUMO)は10月29日、全国各地を巡り高レベル放射性廃棄物の最終処分に関する理解を深めてもらう地層処分展示車「ジオ・ラボ号」(全長約9.6m、全幅約2.5m〈通常時〉~約5.0m〈展開時〉、高さ約3.6m、重さ約13トン)を新たに完成し11月より出展を開始すると発表した。〈NUMO発表資料は こちら〉理解促進に貢献した「ジオ・ミライ号」(NUMO発表資料より引用)NUMOではこれまで、地層処分事業への理解促進に向けた取組として、地層処分模型展示車「ジオ・ミライ号」を、次世代層の来場が期待できる科学館、商業施設、公園他に出展し、3D映像の上映や実験などを通じた情報提供活動を実施。年間の巡回30~40箇所、来場者20,000~25,000人を目標とし、親子連れの関心を引くようロボットの「ペッパー」も活用するなど、工夫してきた。地層をイメージしたデザインの「ジオ・ラボ号」内部、間接照明と調光機能を活用することで没入感を演出(NUMO発表資料より引用)このほど新たに完成した「ジオ・ラボ号」は、「最終処分場とはどういうものか、その長期的な安全性が、展示をご覧になった方に直感的に伝わること」を展示コンセプトとし、(1)廃棄体を埋設する地下300m以深は暮らしから十分に離れた場所にある、(2)深い地層では物質が長い間とどまる特性がある、(3)高い技術力で構築された施設を作り処分される――ことを、98インチの大型ディスプレイで映すデジタル映像や壁面展示を通じて体感してもらう。感染症の拡大防止に配慮し、各種展示はタッチレス方式を採用。NUMOでは、「ジオ・ラボ号」の出展予定について、随時ホームページで告知することとしている。
01 Nov 2021
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上智大学は10月20日、国連副事務総長のアミーナ・モハメッド氏によるオンライン講演会を開催した。2030年までに世界が目指す「持続可能な開発目標」(SDGs)を主導するモハメッド氏は、講演の中で、今必要な行動として、(1)新型コロナのパンデミックを終わらせる、(2)貧困をなくす、(3)不平等を取り除く、(4)カーボンニュートラル社会を実現する、(5)SDGsに向けて新たなパートナーシップを構築し誰一人取り残さないようにする――ことをあげた。気候変動の問題に関しては、10月31日から英国グラスゴーで開催されるCOP26に向けて、「地球の温度上昇を産業革命前と比べて1.5℃未満に抑える」ことを確認・強化しなければならないとした上で、低炭素技術を開発・実行するとともに、異常気象に対する強靭性を高めていく必要性を指摘。ナイジェリアの環境大臣として環境保全政策をリードした経験を持つ同氏は、日本に対し、「気候変動や災害リスク低減の分野でイノベーションを主導していることは重要」、また、「『核兵器を決して使ってはならない』と世界に訴えてきた日本を誇りに感じて欲しい」などと述べた。海外の学生たちも交え意見交換(インターネット中継)「国連の活動には若い人たちの関わりが重要」と話すモハメッド氏は、海外の学生も交え意見交換。マレーシアの学生が「インターネットに接続するにも木に登って機材を設置しなければならない」と、途上国の農村部におけるオンライン教育の現状について述べたのに対し、モハメッド氏はまず、「世界では今、教育の質が危機に瀕している。未来に備えしっかりした教育制度が必要」と強調。世界的な新型コロナ拡大の中、オンラインを通じた教育やビジネスの普及を評価する一方で、「世界の皆がつながることが重要だが、第一に電気を利用できない人たちもいる」と、電力インフラの課題を指摘し、SDGsの「誰一人取り残さない」精神のもと、全ての人々がエネルギーにアクセスできることの重要性を訴えた。また、2050年までのカーボンニュートラルに関して、石炭のフェードアウトや、トランジション(脱炭素社会実現のための移行期)を早めていく必要性にも言及。この他、日本、スペイン、コロンビア、リベリアの学生から、環境活動家への迫害、政治への軍事介入、人口・高齢化問題、児童労働などに関する意見・質問もあがった。こうしたグローバルな課題に対する関心の高まりを歓迎し、モハメッド氏は、「是非声を上げて欲しい。情熱、理想、創造力、決意、不屈の精神があればSDGsを実現できる」と、エールを送った。
29 Oct 2021
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原子力用ドローン「ELIOS 2 RAD」(ブルーイノベーション発表資料より引用)インフラ設備点検、災害対策、物流などのソリューション事業を展開するベンチャー企業のブルーイノベーションは10月26日、原子力発電所用に放射線の検知・計測や漏えい位置の特定ができる屋内点検用球体ドローン「ELIOS 2 RAD」(エリオス・ツー・ラド)の販売を開始したと発表した。〈ブルーイノベーション発表資料は こちら〉放射線センサーを搭載したこの「ELIOS 2 RAD」は、下水管やトンネルなど、作業員が立ち入ることが困難な場所の点検で実績のある球体ドローン「ELIOS 2」をベースに、原子力発電所の施設内点検に特化して新たに開発されたもの。放射線の検知・計測の他、飛行経路を3D点群マップで可視化し放射線の漏えい個所を特定するとともに、動画撮影により現場の状態をリアルタイムで把握することができる。「ELIOS 2」シリーズは、カーボン製の保護フレームが球状に本体を囲んでおり、回転翼による施設内の損傷を防ぎ、狭あい箇所での使用時にも人の安全を守る構造。原子力発電所への「ELIOS 2 RAD」導入の利点として、同社では、通常点検時における作業員の被ばく低減の他、事故発生時にはがれきが散乱したエリアで自走式ロボットに替わり狭あい空間を自在に飛行できることをあげ、放射線の漏えい位置と線量を正確に把握し、速やかな補修計画の策定・実行が可能となるとしている。「ELIOS 2」シリーズは、スイスのフライアビリティ社が開発したドローンシステムで、ブルーイノベーションは日本においてその独占販売契約を締結しており、工場、発電所、下水道などを中心に150か所以上の屋内施設での導入実績を有している。ブルーイノベーション社長の熊田貴之氏は、「ELIOS 2 RAD」の販売開始に際し、福島第一原子力発電所事故発生時のがれきが散乱した中での懸命な収拾作業を振り返った上で、同社のソリューション事業を通じ「原子力発電所に携わる方々の安全が確保され、緊急時に即応した点検フローの確立に貢献したい」と述べている。
28 Oct 2021
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政府は10月26日、2021年度の文化功労者計21名の選定を発表。素粒子物理学での功労者として、高エネルギー加速器研究機構(KEK)名誉教授で岩手県立大学学長の鈴木厚人氏が選ばれた。鈴木氏は、東京大学宇宙線研究所の「大型水チェレンコフ宇宙素粒子観測装置」(スーパーカミオカンデ)によるニュートリノ(宇宙から飛来する、物質を形づくる分子や原子よりも小さい最小単位の粒子)の観測で素粒子物理学の発展に多大に貢献。2006~15年には高エネルギー加速器研究機構機構長を務めた。在任中、中性子産業利用の機運の高まった2008年には、大強度陽子加速器研究施設「J-PARC」の物質・生命科学実験施設(MLF)の供用開始に際し地元茨城県他と中性子利用促進に関する協定を締結したほか、次世代線形加速器「国際リニアコライダ―」(ILC)計画の実現に向け産学連携で取り組む「先端加速器科学技術推進協議会」の立上げにも関わるなど、素粒子物理学を通じた産業・地域振興にも尽力した。 文化功労者には、この他、先般、気候変動に関する研究でノーベル物理学賞を受賞したプリンストン大学客員研究員、海洋研究開発機構フェローの眞鍋淑郎氏(文化勲章受章も決定)、俳優・歌手の加山雄三氏、劇作家・演出家の唐十郎氏、「機動戦士ガンダム」シリーズで知られるアニメ映画監督・原作者の富野由悠季氏らが選ばれている。
26 Oct 2021
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原子力産業の人材確保支援、理解促進・情報提供を目的とする学生向けの合同企業説明会「原子力産業セミナー2023」が10月23日、都立産業貿易センター(東京・港区)で開催され、企業・機関37ブースが出展し、164名の学生らが訪れた。主に2023年卒業予定の大学生・大学院生・高専生が対象。会場内では新型コロナウイルス感染症に対する万全の体制を整えるとともに、ウェブ方式も併用し、38名の学生がオンラインで参加した。同セミナーは、原産協会と関西原子力懇談会が毎年、東京と大阪で開催しているもので、16回目となる今回、日揮ホールディングスとスギノマシンの2社が初出展。4月に米国ニュースケール社の小型モジュール炉(SMR)開発への参画を発表した日揮ホールディングスは、原子力以外にも、太陽光、洋上風力、バイオマス、水素・燃料アンモニアの他、使用済食用油を用いた航空燃料や水素製造に関わるセラミックスの開発など、エネルギー分野の幅広い展開をアピールした。海外のEPC(設計・調達・建設)事業を担う日揮グローバルの原子力エネルギー部長・木村靖治氏は、「グリーンエネルギー・ビジネスに貢献できる人材を育成したい」と、採用への意気込みを示した。同社は将来的に核融合エネルギーや途上国を含めた海外進出に注力するとしており、ブースを訪れた学生からは、「日本が米国で原子力開発?」との驚きの声が聞かれたほか、多くの女子学生がSMRについて質問する姿も見られた。原子力発電所のメンテナンスや廃炉の技術で重電会社の事業を支えるスギノマシンは、高速水噴射エネルギーを利用し様々な材質を切断する「ウォータージェットカッター」で知られている。プラント機器事業本部の犬島旭氏は、「水をコアとする技術が強み。専門性の高い学生に来てもらい、一緒に原子力事業を伸ばしていきたい」と強調。自動車・航空機、精密機器、建築材料、食品・薬品など、多方面にわたる同社の加工・洗浄技術の応用についても積極的にアピールし、学生らの関心を集めていた。行政機関からは原子力規制庁が出展。ブースでの説明には多くの学生が詰めかけ立ち見が出るほどにもなった。人材育成担当者は「立地地域の学生も多い」と、地元目線での原子力安全確保につながることへの期待をにじませた。また、セミナーに初回から出展している原子力発電環境整備機構(NUMO)では、ブースを訪れる学生の傾向に関し、「地質学系の学生が割と多い。これまでのセミナーではみられなかった」などと話している。「原子力産業セミナー2023」は、東京に続いて10月30日には大阪でも開催され、企業・機関28ブースが出展する予定。
25 Oct 2021
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福島大学は10月11、12日、国際シンポジウム「原発事故から10年後の福島の“森・川・海”と“食” ~復興に向けて残された課題~」を福島市内で開催(オンライン併用)。国内外専門家による口頭・ポスター発表に続き、12日には市民向けのセッションが行われ、学長の三浦浩喜氏は、開会挨拶の中で、2013年に設置された同学環境放射能研究所の「地域とともに歩む」強み・責務を改めて強調し、「福島の復興に向けた科学的知見や思いを皆様と共有したい」と先鞭を付けた。森林の放射能汚染に関して、国立環境研究所福島地域協働研究拠点グループ長の林誠二氏は、宅地や農地と異なる環境修復の実態を説き、再生に向けたポイントとして、(1)森林生態系モデルの開発と活用、(2)地元が主導する地域資源としての活用、(3)将来の災害に対する備えとしての森林管理――をあげ、アカデミアによる積極的な参画の必要性を強調。河川における放射性物質の動態については、福島大環境放射能研究所特任助教の五十嵐康記氏が、阿武隈川での調査から、近年の水害や農作業による季節影響、中流部と上流部の濃度形成の違いなどを例示した。また、福島大環境放射能研究所准教授の和田敏裕氏は、「海と川の魚は語る」と題し、水産物の放射能汚染の推移・分析結果から漁業復興に向けた課題を示唆。海産魚種の放射性セシウム濃度については、事故後の指数関数的な減少傾向を図示し、その要因として、(1)物理的な減衰、(2)浸透圧調節に伴うセシウムの能動的な排出、(3)底生生態系(エサ)におけるセシウム濃度の低下、(4)成長に伴うセシウム濃度の希釈、(5)魚類の世代交代、(6)魚類の季節的な移動――をあげた。一方で、淡水魚については、一部の水系で出荷制限が続いており、「事故による影響は内水面(河川・湖沼域)では長引いている」と指摘。同氏は、内水面魚種の放射性セシウム濃度が「特に2017年以降で低下が鈍っている」要因の解明に向け実施した赤宇木川(浪江町)のイワナ、ヤマメの分析結果から、エサとなる陸生昆虫からの放射性物質の取り込みが継続していることを示し、「除染の困難な森林生態系とのつながりが主要因」と述べた。環境放射能に関する発表を受け、福島第一原子力発電所事故の発生直後から被災地支援に取り組んでいる長崎大学原爆後障害医療研究所教授の高村昇氏は、福島県の県民健康調査結果などから、「放射線に対する不安を持つ人は発災当初から減ってはきたものの、まだ一定数残っている」と、メンタルケアの課題を指摘。東日本大震災・原子力災害伝承館館長の立場から若者への啓発に努める同氏は、放射線に関する知識の普及とともに、「段々と事故を知らない世代も増えてくる」と、事故の記憶・教訓を次世代に伝えていくことの重要性を強調。さらに、浜通り地域8町村の今後の帰還者予測を示し、「事故後10年が経ち、自治体レベルで見て復興のフェーズが大きく異なっている。それぞれの地域に合った復興支援が求められており、住民と専門家が一体となった取組が必要となる」と訴えかけた。総合討論では、市民・オンライン参加者も交え、福島第一原子力発電所のALPS(多核種除去設備)処理水取扱いに伴うトリチウムの影響、山菜類の安全性、福島産食品の流通回復に関する質疑応答が交わされたほか、今回シンポジウムのテーマに関連し「永遠に『復興』を言い続けるのか。復興のイメージとはどういうものか」という問いかけもあった。これに対し、「今回シンポの登壇者では一番若手。バブル景気を知らない」という五十嵐氏は、「今、日本全体をみても人口が毎年30万人ずつ減っており、これは福島市の人口に相当する。復興は、『元へ戻す』というより、『新しい概念を創っていく』ことではないか」と、今後もさらに議論を深めていく必要性を示唆した。
22 Oct 2021
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第6次エネルギー基本計画が10月22日、閣議決定された。3年ぶりの改定。〈資源エネルギー庁発表資料は こちら〉同計画策定に向けては、総合資源エネルギー調査会で昨秋より議論が本格化し、新型コロナの影響、昨冬の寒波到来時の電力需給やLNG市場、菅義偉首相(当時)による「2050年カーボンニュートラル」実現宣言への対応などが視座となり、ワーキンググループやシンクタンクによる電源別の発電コストに関する精査、2050年を見据えた複数シナリオ分析も行われた。8月4日の同調査委員会基本政策分科会で案文が確定。その後、9月3日~10月4日にパブリックコメントに付され、資源エネルギー庁によると期間中に寄せられた意見は約6,400件に上った。新たなエネルギー基本計画は、引き続き「S+3E」(安全性、安定供給、経済効率性、環境への適合)に重点を置いており、「2050年カーボンニュートラル」の実現に向けては、経済産業省が6月にイノベーション創出を加速化すべく14の産業分野のロードマップとして策定した「グリーン成長戦略」も盛り込まれた。同基本計画の関連資料「2030年におけるエネルギー需給の見通し」で、電源構成(発電電力量に占める割合)は、石油2%、石炭19%、LNG20%、原子力20~22%、再生可能エネルギー36~38%、水素・アンモニア1%となっている。エネルギー基本計画の閣議決定を受け、萩生田光一経産相は談話を発表。その中で、「福島復興を着実に進めていくこと、いかなる事情よりも安全性を最優先とすることは、エネルギー政策を進める上で大前提」との認識を改めて示した上で、「基本計画に基づき、関係省庁と連携しながら、全力をあげてエネルギー政策に取り組んでいく」としている。電気事業連合会の池辺和弘会長は、「2050年カーボンニュートラルを目指し、今後あらゆる可能性を排除せずに脱炭素のための施策を展開するという、わが国の強い決意が示されており、大変意義がある」とのコメントを発表。再生可能エネルギーの主力電源化、原子燃料サイクルを含む原子力発電の安全を大前提とした最大限の活用、高効率化や低・炭素化された火力発電の継続活用など、バランスの取れたエネルギーミックスの実現とともに、昨今の化石燃料価格高騰に伴う電力供給・価格への影響にも鑑み、国に対し、科学的根拠に基づいた現実的な政策立案を求めている。また、原産協会の新井史朗理事長は、理事長メッセージを発表。「2050年カーボンニュートラル」を実現するため、同基本計画が、原子力について「必要な規模を持続的に活用していく」としたことに関し、「エネルギーシステムの脱炭素化における原子力の貢献に対する期待が示された」、「原子力産業界としては、その責任をしっかりと受け止めなければならない」としている。
22 Oct 2021
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原子力委員会は10月19日の定例会で、次期エネルギー基本計画(案)に対する見解をまとめた。新たなエネルギー基本計画は、10月末から始まるCOP26までの閣議決定を目指し、9月3日~10月4日に実施されたパブリックコメントへの検討、与党調整が図られているところだ。原子力委員会では、総合資源エネルギー調査会での議論が概ね集約した8月10日の定例会で、経済産業省から同計画の検討状況について説明を受けている。同委員会が今回取りまとめた見解は、次期エネルギー基本計画(案)について、特に原子力利用の観点から意見を示したもの。原子力委員会は7月にまとめた原子力白書で、「福島第一原子力発電所事故から10年を迎えて」との特集を組み、その中で、福島の復興・再生は原子力政策の再出発の起点と、改めて位置付けた。今回の見解では、基本計画(案)の第1章に「福島復興はエネルギー政策を進める上での原点」と明記され、今後の福島復興への取組が記載されたことを評価。その上で、「すべての原子力関係者は、原子力利用を進めていく上での原点が何であるかを片時も忘れてはならない」と述べている。また、「2050年カーボンニュートラル」の実現に関しては、同計画(案)で、原子力について「国民からの信頼確保に努め、安全性の確保を大前提に、必要な規模を持続的に活用する」と明記されていることから、「原子力発電の長期的な役割を明らかにしている」ものと評価。一方で、「長期的な役割」を果たすために必要な対策については、「必ずしも明確になっていない」と指摘し、次々期のエネルギー基本計画策定までに検討し取りまとめるべきとしている。見解では、こうした総論のもと、各論として、原子力に対する社会的信頼の再構築、核セキュリティ確保、原子力発電の長期運転に向けた検討、バックエンド問題への対応、核燃料サイクルの推進、国際貢献、新技術開発と人材育成などの諸課題に関し、原子力委員会としての意見を述べている。
19 Oct 2021
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原子力規制委員会は10月15日、電力会社の原子力部門責任者を招き、シビアアクシデント対応能力の向上に向けた教育・訓練の取組について聴取し意見交換を行った。現在5基のプラントが再稼働している関西電力からは、原子力事業本部長の松村孝夫氏が出席。同氏は、シビアアクシデント対応能力向上のポイントとして、(1)いざというとき実際に対応できる、(2)災害が起きたときに誰でも対応できる、(3)指揮者がリーダーシップを発揮できる――ことをあげ、法定の訓練以外に同社が工夫した自主的訓練を数多く実施しスキルアップに努めているとした。その中で、関西電力グループの原子力安全システム研究所(INSS)がメンタル面でのスキル向上のため開発した「たいかん(体感、体幹)訓練」について紹介。人文系の専門家による助言も受け緊急時のリーダーシップを高めることを目的とした「間違った情報も輻輳する状況を設定し、いかにパニックに陥らないか」を学ばせる訓練プログラムで、2016年度以降、発電所当直の責任者らを対象に年4回程度実施しているという。中部電力原子力本部長の伊原一郎氏も、技術力以外のリーダーシップやコミュニケーション能力「ノンテクニカルスキル」強化の取組について説明。訓練実施中の「状況に関わる情報をメモしているか」、「落ち着いた態度で発話しているか」、「他者の発言を遮らずに傾聴しているか」などを指標とした行動観察シートによる評価・分析などを示した。規制委員会からは、事業者・発電所間を通じた良好事例共有の重要性が述べられるとともに、判断プロセスの理解やコミュニケーション能力の向上に関し、訓練におけるロールプレイの有効性が、「立場が変われば見えるものも変わってくる」などと示唆された。川内1・2号機の特重施設説明(九州電力発表資料より引用)この他、九州電力原子力発電本部長の豊嶋直幸氏が、原子力発電プラントについて定期検査終了後6か月以内の実施が求められている「安全性向上評価」を巡る課題や、テロなどに備えた「特定重大事故等対処施設」(特重施設)に関する情報公開について説明。九州電力では川内原子力発電所1・2号機で特重施設が運用を開始している。特重施設の詳細については、セキュリティ上、規制委員会の公開会合でも一般向けの資料中にマスキングが施されるなど、明らかにされていないが、地元やマスコミから情報公開を求める意見が寄せられていることから、同社では、原子力規制庁との調整を踏まえ、開示可能な情報を整理した概念図を作成し対外説明を行ってきた。このほど、従前の概念図に加え設置目的・経緯、運用・訓練の概要などを付記し、より内容を充実した資料を作成し提示。規制委員会では今後も、特重施設に関する情報公開のあり方について、セキュリティと透明性のバランスにも留意し議論していく。
18 Oct 2021
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九州電力は10月14日、川内原子力発電所1・2号機の40年を超す運転に係る特別点検を実施することを発表した。〈九州電力発表資料は こちら〉川内1・2号機は、それぞれ2024年7月、2025年11月に法令で定める40年の運転期間を満了する。両機の特別点検は、1回に限り最長20年まで可能な運転期間延長の認可申請のため実施するもので、取替えの難しい原子炉などの機器類を対象として、運転開始35年以降に採取したデータの確認・評価を行う。原子力規制委員会への運転期間延長の認可申請は運転期間満了の1年前までに実施することとされており、これを見据え九州電力では、特別点検を川内1号機では2021年10月18日(17日に定期検査入り)から、同2号機では2022年2月下旬から開始し、点検結果を踏まえ認可申請について判断するとしている。両機は、2013年の新規制基準施行以降、2014年に先陣を切りともに審査をクリアし、2015年に再稼働を果たした。2020年12月までにテロなどに備えた「特定重大事故等対処施設」の整備を完了。いずれも月ごとの設備利用率が108%(定格熱出力一定運転の効果で100%を超える)近くまで達することもあり、良好な稼働状況を見せている。運転期間の延長認可については、関西電力の美浜3号機、同高浜1、2号機、日本原子力発電の東海第二の計4基が審査をクリアしており、2021年7月には美浜3号機が国内初の40年超運転として本格運転に入っている。
15 Oct 2021
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上坂原子力委員長(左)とグロッシーIAEA事務局長(外務省ホームページより引用)原子力委員会の上坂充委員長は10月12日の定例会で、第65回IAEA総会(9月20~24日)出席に伴うウィーン出張報告を行った。今回のIAEA総会では、日本政府代表としての出席。一般討論演説は、井上信治・内閣府科学技術政策担当大臣(当時)のビデオ録画映写となった。〈原子力委員会発表資料は こちら〉上坂委員長は会期中、政府代表として、IAEAのR.M.グロッシー事務局長、フランス原子力・代替エネルギー庁(CEA)のフランソワ・ジャック長官、米国国家核安全保障庁(NNSA)のジル・フルービー長官とそれぞれ会談。グロッシー事務局長とは、IAEAとの関係強化に向けた具体的方策、福島第一原子力発電所の廃炉やALPS処理水(トリチウム以外の放射性物質が規制基準値を下回るまで多核種除去設備等で浄化処理した水)の取扱いに係る協力について意見交換。フランス、米国の各長官とは、それぞれ高速炉開発、核不拡散・核セキュリティ分野での協力関係をさらに拡大していくことで一致。また、原子力委員長として、IAEAの幹部9名、OECD/NEAのW.マグウッド事務局長ら、計11名との個別会談を行った。その中で、ALPS処理水の安全性レビューで9月初旬に来日したリディ・エヴラールIAEA事務次長(原子力安全・核セキュリティ局担務)とは、対外的な情報発信のあり方について意見交換。ミハイル・チュダコフIAEA事務次長(原子力エネルギー局担務)との会談では、「JAPAN-IAEA エネルギーマネジメントスクール」(今年は9月27日~10月15日にオンライン開催)について説明し、若い世代への原子力分野に関する教育・啓発の重要性などを確認した。この他、内閣府主催の医療用ラジオアイソトープに関するサイドイベントに登壇。アルファ線放出核種薬剤の製造・供給に係る国際機関・各国の取組や放射線治療の途上国展開に関して議論がなされた。定例会で上坂委員長は、今回の出張を振り返り「タイトなスケジュールだった」と所感を述べた上で、福島第一原子力発電所の廃炉・汚染水対策に関しては、「日本が責任を持って実施し、IAEAと国際専門家グループにチェックしてもらう。このプロセスが国際社会における受容性を確保する上で非常に重要だと改めて認識した」と強調。また、小型モジュール炉(SMR)を始めとする革新炉の国際連携に関し、IAEA、フランス、米国との会談を通じ「ものづくりの観点から日本との技術協力への期待を実感した」とした。
14 Oct 2021
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自由民主党は10月12日、来る31日の総選挙を前に政権公約を発表した。新型コロナ対策を筆頭に、新しい資本主義、地方活性化、農林水産業、経済安全保障、外交・安全保障、教育、憲法改正の8つを柱に据え、政策の方向性を示している。これらを要約した「令和3年政策パンフレット」によると、エネルギー・環境保全の関連では、省エネルギー、安全が確認された原子力発電所の再稼働、自動車の電動化推進、蓄電池、水素、小型モジュール炉(SMR)の地下立地、カーボンリサイクル技術など、クリーンエネルギーへの投資を積極的に後押しするほか、核融合開発も推進し「次世代の安定供給電源の柱」として実用化を目指すとしている。電力分野の環境保全では初期型太陽光パネルやリチウムイオン電池のリサイクル技術の研究開発に、非侵襲医療技術では痛みや被ばくがなく着衣で測定可能な「マイクロ波マンモグラフィ」の早期普及などにも取り組む。原子力災害からの復興では、「2020年代をかけて帰還希望者が全員帰還できるよう全力で取り組む」とした。福島第一原子力発電所のALPS処理水(トリチウム以外の放射性物質が規制基準値を下回るまで多核種除去設備等で浄化処理した水)の取扱いについては、漁業関係者らへの丁寧な説明など、必要な取組を行いつつ、徹底した安全対策や情報発信による理解醸成と漁業者への支援、需要変動に備えた基金の設置を通じ、風評被害対策に取り組むほか、農林水産物への輸入制限措置を行っている国・地域に対して制限解除の働きかけを行う外交を強化する。岸田文雄首相(自民党総裁)は、8日の国会所信表明演説で、「2050年カーボンニュートラル」の実現に向け、地球温暖化対策を成長につなげる「クリーンエネルギー戦略」を策定すると表明。衆議院の解散を14日に控え、本会議での質疑が11、12日の衆議院に続き、12、13日には参議院で行われた。12日には世耕弘成議員(自民党)のエネルギー政策に関する質問に対し、岸田首相は「温暖化対策の観点のみならず、安定的で安価なエネルギー供給を確保することが重要。徹底した省エネと再エネの最大限の導入に加えて、原子力の安全最優先での活用や水素の社会実装など、あらゆる選択肢を追求していく。原子力については、SMRを始めさらなる安全性向上につながる技術開発など、今後を見据えた取組が重要」と述べた。また、13日には山口那津男議員(公明党)の防災・減災・復興に関する質問への答弁の中で、浜通り地域に2024年度の本格開所が計画されている「国際教育研究拠点」の整備に関し、「創造的復興を図る」ものとして政府一体で取り組むことを強調した。
13 Oct 2021
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【国内】▽6日 福島第一処理水の安全性レビューに向け、日本政府の招きでIAEA幹部が来日(~9日)▽7日 政府の原子力防災会議が島根地域の緊急時対応を了承▽10日 「電気事業低炭素社会協議会」(電力65社加盟)、2020年度でCO2排出量が6年連続の減少と発表▽13日 規制委が福島第一の固体廃棄物管理で問題点整理、実施計画外の仮設集積場所で保管の容量増加・期間長期化▽13日 東芝ESS、福島第一3号機使用済燃料取り出しで電工会「電機工業技術功労者表彰」最優秀賞受賞▽15日 規制委、中国電力島根2号機の新規制基準適合性で原子炉設置変更許可を発出▽15日 東京電力、福島第一の燃料デブリ取り出し用デジタル技術開発に向け英国に社員を派遣▽20日 四国電力、2019年12月以来の運転再開に向け伊方3号機の燃料装荷を完了▽21日 農水省、EUによる日本産食品の輸入規制が10月10日より大幅緩和されると発表▽22日 東京電力、柏崎刈羽原子力発電所の核物質防護事案で改善措置報告書をまとめる▽22日 農水省、米国による日本産食品の輸入規制が撤廃されたと発表▽27日 三菱重工、IAEAが提唱した世界の原子力関連企業13社による「The Group of Vienna」への参画を発表▽27日 東京電力、福島第一の多核種除去設備(ALPS)で排気フィルタ76箇所中32箇所に損傷確認との点検結果をまとめ対策実施へ▽29日 規制委、廃炉に伴う炉内構造物などの処分基準(LI中深度処分)をまとめる 【海外】▽1日 WNAの運転実績報告書:2020年に世界全体の原子力総発電量は低下するも電力を安定供給▽4日 米国で頓挫したAP1000建設計画用の機器、ウクライナで建設が停止しているフメルニツキ4号機に活用する可能性浮上▽6日 フィンランドで稼働するロビーサ発電所、2回目の運転期間延長に向け環境影響評価を実施▽7日 3月に着工したトルコのアックユ3号機、圧力容器の製造作業が進展▽ 13日 米イリノイ州議会で州内のバイロンとドレスデン原子力発電所の存続に向けた法案が成立▽ 13日 中国山東省の石島湾で建設中の高温ガス実証炉HTR-PM、初めて臨界条件を達成▽ 13日 米規制委、テキサスにおける使用済燃料の中間貯蔵施設計画に建設・操業許可発給▽ 16日 IAEAの年次予測報告書: 2050年までに高ケースで世界の原子力発電設備容量が倍増▽ 16日 チェコ議会で新規原子炉の建設を支援する枠組み設置法案が成立▽ 20日 第65回IAEA総会が開幕、井上科学技術大臣が一般討論演説▽ 23日 米ニュースケール社、ポーランドでの同社製SMRの建設に向け同国の銅採掘企業らと協力覚書 ▽ 23日 ポーランドでの米GEH社製SMRの建設に向け、関係する4社が覚書▽ 23日 米会計監査院、使用済燃料の最終処分を実現するため議会に打開策を要請▽ 23日 チェコのスコダ社、ハンガリー・パクシュⅡ期工事の建設準備作業を国営電気事業者から受注▽ 25日 英国の分析企業、「脱炭素化に向けた水素製造に原子力が必要」と指摘▽ 28日 米イリノイ州の法整備にともない、エクセロン社が州内のバイロン、ドレスデン両原子力発電所に3億ドル投資▽ 28日 米議員、放射性廃棄物に対する資源保護回復法の適用など、最終処分場の立地促進で原子力法の改正に向けた法案提出▽ 29日 米規制委、セントルーシー1、2号機の2回目の運転期間延長申請書を受理、認可されれば各累計運転期間は80年に▽ 29日 カナダのテレストリアル社、IMSR用の燃料確保で仏オラノ社と協力▽ 30日 ハンガリー規制当局、パクシュⅡ期工事の建設許可発給に遅れ 【国内の原子力発電運転実績】・過去のデータは こちら
12 Oct 2021
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衆院にて所信表明を行う岸田首相(インターネット中継)岸田文雄首相は10月8日、衆参両議院で所信表明演説を行った。岸田首相は、4日の内閣発足に際し基本方針に掲げた、新型コロナウイルス対策、新しい資本主義の実現、国民を守り抜く外交・安全保障を軸に施策に取り組む決意を表明。新しい資本主義の実現に向けて示された「成長と分配の好循環」に関しては、「科学技術立国の実現」を成長戦略の第1の柱にあげた上で、「科学技術分野の人材育成を促進する」として、学部や修士・博士課程の再編や、世界最高水準の研究大学設立に係る財政措置を図るとともに、デジタル、グリーン、人工知能、量子、バイオ、宇宙など、先端科学技術の研究開発に大胆な投資を行うとした。「2050年カーボンニュートラル」の実現に向けては、地球温暖化対策を成長につなげる「クリーンエネルギー戦略」を策定し実行する考えを表明。また、地方活性化にも関連し、「東日本大震災からの復興なくして日本の再生なし」と改めて強調した上で、被災者の支援、産業・生業の再生、福島の復興・再生に全力で取り組むとした。核軍縮・不拡散に関しては、「被爆地広島出身の総理大臣として、私が目指すのは核兵器のない世界」、「唯一の戦争被爆国としての責務」として、自身が立ち上げた賢人会議も活用し取り組んでいく決意を述べた。
08 Oct 2021
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技術イノベーションによる気候変動対策について話し合う国際会合ICEF(アイセフ:Innovation for Cool Earth Forum、運営委員長=田中伸男・元IEA事務局長)の年次総会が10月6、7日、オンラインで開催された。安倍晋三元首相の提唱で立ち上がり2014年から続くICEFは今回、87か国・地域、2,000人以上の有識者らが参集し、「2050年までのカーボンニュートラルの道筋」をテーマに議論。特定技術分野として、デジタル技術、エネルギーシステム統合、原子力、食料システムなどに関する議論を深め、ステートメントを発表。原子力については、小型モジュール炉(SMR)の将来性が記載された。三菱重工の原子力技術開発ロードマップ(三菱重工発表資料より引用)7日に行われた原子力に関する技術セッションでは、米国マサチューセッツ工科大学教授のリチャード・レスター氏が「気候変動は世界が直面している最大の課題の一つ」と先鞭を付け、次世代炉技術の展望と課題について議論。三菱重工業から原子力技術部長の神﨑寛氏が「2050年カーボンニュートラル」の達成に向け取り組む開発計画を披露し、短期的には既設プラントの再稼働、革新的な次世代軽水炉の開発の推進に取り組み、その先の将来を見据え、小型軽水炉(30万kW以下)、高温ガス炉、高速炉、マイクロ炉(コンテナに収納可能)の開発・実用化に、長期的には核融合炉の実用化にも挑戦するという展望が示された。同氏は、革新炉による産業界の脱炭素化への貢献として、コークスの一部を高温ガス炉で製造した水素で代替しCO2を低減する「水素還元製鉄」の有望性を強調。日本原子力研究開発機構高温ガス炉研究開発センターのミャグマラジャブ・オドツェツェグ氏は、同機構の高温工学試験研究炉「HTTR」を用いた水素製造技術「ISプロセス」について説明した。米国からは国立原子炉イノベーションセンター(NRIC)センター長のアシュレイ・ファイナン氏が「2025年までに少なくとも2基の革新炉を実証し2030年までの商業化を目指す」というビジョンを掲げ、その実現に向けて、コスト削減や安全性実証の他、「いかにして人々を巻き込んでいくか」と、ステークホルダーの関与に係る課題を提起。今回若手として登壇したミシガン大学のアディティ・ヴァルマ氏は、各国の原子炉設計手法のパラダイムに関する分析結果から、革新炉の発展・普及には技術者も社会と双方向に対話を行う必要があるとした。前回のICEFで女性の視点から原子力の必要性を主張した元欧州議会メンバーのエイヤ-リイタ・コーホラ氏も、社会受容に関し、「特に若い人たちの関与は重要」と強調した上で、「原子力技術について語る際、『臨界に達する』といったわかりにくい専門用語が障害となることもある」などと述べた。今回ICEFに参画した若者たち、「気候変動の影響を受けるのはわれわれの世代」という声も(インターネット中継)今回のICEFでは、脱炭素社会に向けた行動イノベーションに関する独立したセッションを初めて設け、価格規制やナッジ(人の感情に働きかけて“何となく”行動を促す手法)などを受けた個人の行動変容による温室効果ガス削減効果についても意見が交わされた。また、全セッションを通じ、「2050年の社会で中心的な役割を果たす」として招かれた各国・地域の若手登壇者らも、積極的に議論に参画。会合における議論の成果は、10月31日より英国グラスゴーで開催されるCOP26の場でも紹介される運び。今回のICEFをイメージしたインフォグラフィックス(ICEFホームページより引用)閉会に際し、運営委員長の田中氏は、「女性、若者、イノベーションの3つが世界をカーボンニュートラルに向けて動かす」という今回のICEFをイメージしたインフォグラフィックスを示しながら、「近々、ユースミーティングを開きたい」と、若い世代のさらなる参画に期待を寄せた。
08 Oct 2021
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原子力委員会は10月5日の定例会で、海外電力調査会(海電調)より世界の小型モジュール炉(SMR)の開発状況について説明を受けた。〈海電調発表資料は こちら〉海電調からは上席研究員の黒田雄二氏らが出席。同氏は、SMRを「電気出力が概ね30万kW以下の小型でパッケージ(モジュール)で製造される新型原子炉」と定義し、IAEAの資料をもとに各国の開発状況を整理し説明。それによると、世界で開発されているSMRは73基で、特に積極的な米国とロシアの2国で全体の約半分を占めているという。ロシアでは、2020年5月に世界で唯一実用化したSMRとしてKLT-40S(3.5万kW)2基を搭載した世界初の海上浮揚式原子力発電所(FNPP)「アカデミック・ロノモソフ」が運転を開始しており、陸上用のSMRも2024年の着工が予定されている。また、中国では、2021年7月にACP100「玲龍1号」(12.5万kW)が着工し、9月には高温ガス炉実証炉HTR-PM(21万kW)が臨界を達成。米国、英国、カナダで開発中のSMRは完成時期が2025年以降であることから、黒田氏は、世界のSMR開発状況の大勢を「ロシアと中国が西側先進国に先行している」と概観した。また、同氏は、OECD/NEAによる報告書などから、世界のSMR規模が2035年までに最大約2,000万kWに達するとして、(1)エネルギーシステムの脱炭素化、(2)変動型再生可能エネルギーの導入補完、(3)新しい分野や地域への活用促進――での貢献を期待。一方で、世界的展開に向けて、(1)経験が限られた技術のため実現性が不確実、(2)実証プロジェクトは有用だが商業化にはさらなる最適化が必要、(3)サプライチェーンの構築とHALEU(ウラン235濃縮度5~20%の燃料)の定常的な供給にリスクが伴う、(4)規制当局による円滑な安全性の審査・承認や世界的な規制体制の調和が重要、(5)SMR利用への社会的受容性(PA)の獲得が必要――との課題を指摘した。佐野利男委員がSMR開発を巡る海外市場動向について尋ねたのに対し、黒田氏は2029年の運転開始を目指す米国ニュースケール社のプロジェクトを例に、日揮とIHIによる出資に触れながらも「韓国斗山重工業も参画している」と、日本企業の置かれた厳しい競争環境を、また、「100万kWのプラント1基と10万kWのプラントを10基作るのを比較しても、大型炉のスケールメリットを覆すほどの経済性達成はまだ難しい」と、商業化の困難さを強調。さらに、日本のSMR開発に関し、「昨今メディア上でSMRが注目され過ぎている」とも危惧し、既存炉の再稼働や運転期間延長にまず取り組む必要性を示唆した。
06 Oct 2021
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就任会見を行う萩生田経産相(インターネット中継)岸田内閣が10月4日に発足し、経済産業相に第4次安倍内閣(第2次改造)と菅内閣で2年間文部科学相を務めた衆議院議員の萩生田光一氏が就任。萩生田大臣は5日、記者会見に臨み、「人材を育成し技術を身に付けてもらうことが産業の発展につながる。イノベーションなくして新しい産業は起こらない」と、文教・科学技術行政と経済産業行政の接点を強調。教育現場のICT(情報通信技術)環境整備を図る「GIGA(Global and Innovation Gateway for All)スクール構想」推進の実績などを踏まえ、「産業界で人的投資やイノベーションが拡がる環境作りにシームレスに取り組んでいきたい」と抱負を述べた。コロナ禍の日本経済再興に向けて、萩生田大臣は、グリーン、レジリエンス、デジタルなど、成長が見込まれる分野での人的投資・イノベーション推進の可能性や、岸田内閣のもと、新たに設けられた経済安全保障担当大臣との連携にも触れ、「今までの既成概念に囚われない新しい経済を実現してきたい」と強調。また、「福島の復興は経産省の最重要課題」との認識を改めて示し、福島第一原子力発電所事故に伴う廃炉・汚染水・処理水対策、帰還困難区域の避難指示解除に向けた取組に力を注いでいくとした。エネルギー政策に関しては、「S+3E」(安全性、安定供給、経済効率性、環境適合性)追求を大前提に掲げ、「2050年カーボンニュートラル」実現、2030年度の温室効果ガス46%削減に向けて「日本の総力を挙げ取り組んでいくことが必要」とした上で、徹底した省エネルギー、再生可能エネルギーの最大限導入、安全最優先での原子力発電所再稼働を進めていくと述べた。核燃料サイクルについては、高レベル放射性廃棄物の減容化・有害度低減、資源の有効利用などの観点から、「これまでの政府方針に沿ってしっかりと取り組んでいく」とした。また、福島第一原子力発電所の処理水取扱いに際し地元が抱く東京電力の対応への不安に関して、「不信感が拭えていないのが事実」と懸念し、「われわれが福島の皆様にしっかりと向き合い技術面も含め理解を深めてもらえるよう努力する」と、原子力政策において国が前面に立ち地域の理解醸成を図っていく必要性を強調。新たなエネルギー基本計画策定については、総合資源エネルギー調査会が取りまとめた素案へのパブリックコメントが4日に終了したところだが、萩生田大臣は、COP26(10月31日~11月12日、英国グラスゴー)開催までの閣議決定を目指すとしたほか、「2030年までには10年を切っている」との現状を認識し、早期に計画実行を図っていく考えを示した。
05 Oct 2021
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東京電力は10月2日より、首都圏を対象に福島県産品の美味しさや魅力を伝える「発見!ふくしま」キャンペーンを実施する。〈東京電力発表資料は こちら〉「ふくしま!海と大地の収穫祭」と銘打ち、前回に続いて新型コロナまん延による影響にも配慮し、12月17日までの期間、首都圏や福島県内の小売店における県産品の販売促進イベント、飲食店とコラボしたグルメフェアなどを展開。収穫時期を迎える農産物の他、水産物の販売促進にも積極的に取り組み、事故の当事者として風評被害の最大限抑制、払拭に努める。東京電力では4月に、福島第一原子力発電所の処理水取扱いに係る政府の基本方針決定を踏まえた対応の中で、風評被害対策として、福島県産魚介類「常磐もの」の販路開拓を強化・拡充していくとしている。今回のキャンペーンでは、「常磐もの」料理20,000食を提供し美味しさ・魅力を伝える「お魚フェスティバル」を、11月19~21日に東京・日比谷公園で開催する予定(新型コロナ感染拡大の状況により開催方法に変更が生じる場合あり)。この他、キャンペーン期間中を通じ、飲食店や百貨店・スーパーと連携し、福島県産食材を使用したメニューを提供するキッチンカーの出店(首都圏各地)、福島県産米、福島牛、「常磐もの」の販売促進を行うほか、11月からはオンラインストア「ふくしま市場」の割引キャンペーン、首都圏の飲食店と連携したグルメフェアなども予定されている。
01 Oct 2021
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弘前大学は9月30日、バーチャルリアリティ(VR)技術を利用した放射線測定トレーニングシステム「ナップ:RIサーベイ」を開発したと発表した。〈弘前大発表資料は こちら〉学習者がVR画像上に表示される被検者に対し実際の放射線計測器を模擬使用して汚染箇所を特定する学習ツールで、放射線源を用いずに、器材の使用方法の体得から、複数の汚染箇所や立位での計測も実習できる。昨今の感染症拡大により対面での放射線測定実習が困難になっていることから、弘前大学では、VR上で実際に学習者が動作を伴って学べるツールの制作を構想。「ナップ」と呼ばれる体の動きをデータ化しVR上で可視化し共有する技術を利用し、今回のシステムが開発された。同学では、「目に見えない放射線を可視化したステージからステップアップしていく流れが組み込まれており、初学者は直感的に測るべき対象を意識することができる」と、高い学習効果を期待している。イマクリエイトが提案する「ナップ」の概念、VR空間に「入る」ことで「時間や言語、場所を問わない職業訓練」が可能に(弘前大発表資料より引用)開発に際しては、弘前大学大学院保健学研究科と、「ナップ」を用いたVR技術の応用を手掛けるイマクリエイト(株)とが協力。「ナップ」のメリットについて、「VR上に可視化された動きに自分の体をなぞるように動かすだけで誰もが正しく体を動かせるようになる」と、医療、伝統芸能など、様々な分野での可能性を述べている。物体の透過や速度調整など、現実にはあり得ない状況を模擬する機能で技術習得をサポートでき、実際、同社では、熟練者の動作を手本としスローモーションで練習できるけん玉のトレーニングシステムも開発している。
30 Sep 2021
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三菱重工業は9月27日、IAEAと世界の原子力関連企業で構成される対話のプラットフォーム「The Group of Vienna」への参画を発表した。R.M.グロッシーIAEA事務局長の提唱により設立された気候変動への対応や持続可能な開発に原子力技術が果たす役割について議論する枠組みで、IAEA他、同社を含め世界各国の主要な原子力関連企業13社により構成。これを通じ、クリーンエネルギーへの転換における原子力の有用性を発信するほか、放射線技術の医療や食料生産への活用といった原子力平和利用の促進などを議題に、IAEAと各企業トップによる会議を毎年開催する。「The Group of Vienna」は、IAEA年次総会(9月20~24日)に合わせウィーンで開かれた発足会議で、「人々の健康と福祉を向上させるため、原子力の貢献を拡大するというIAEAの使命をサポートする」との共同声明を採択し、グループ設立と活動目的、構成企業を発表。三菱重工業は、「The Group of Vienna」の一員として、IAEAおよびメンバー企業とともに、グループの目的達成に向けた活動を推進するとしている。〈三菱重工業発表資料は こちら〉「The Group of Vienna」のメンバーは、IAEA、中国核工業集団(中国)、フランス電力(フランス)、ブラジル国営原子力発電公社(ブラジル)、カザトムプロム(カザフスタン)、三菱重工業(日本)、アルゼンチン原子力発電公社(アルゼンチン)、ニュースケール・パワー社(米国)、ロールス・ロイスSMR社(英国)、ロスアトム(ロシア)、SNCラヴァリン・グループ(カナダ)、テオリスーデン・ボイマ社(フィンランド)、ウレンコ社(英国)、ウェスチングハウス社(米国)。
29 Sep 2021
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原産協会の新井史朗理事長は9月24日、理事長会見を行い、記者団からの質疑に応じた。新井理事長はまず、最近発表の理事長メッセージ「島根原子力発電所2号機の原子炉設置変更許可決定に寄せて」、「第6次エネルギー基本計画(案)に対するパブリックコメントにあたって」に関し説明。中国電力島根2号機については、9月15日に約8年の審査期間を経て新規制基準適合性に係る原子炉設置変更許可に至ったが、同機による地域への電力供給とCO2排出量削減の見込みに触れ、「早期再稼働の実現を期待する」と述べた。また、現在、資源エネルギー庁が新たなエネルギー基本計画(案)を示し実施しているパブリックコメントに当たり、(1)原子力を最大限活用していくべき、(2)新増設・リプレースがエネルギー政策に明確に位置付けられるべき、(3)電力自由化の中で経営の予見性が必要であり英国・米国に見られるような制度を参考に導入が検討されるべき、(4)産業・業務・家庭・運輸部門に原子炉熱による脱炭素技術の記載がない――との意見提出を行ったことを説明。原子燃料サイクルに関しては、別途理事長メッセージ「原子力の持続的活用と原子燃料サイクルの意義について」を発信しており、新井理事長は、「エネルギーセキュリティ確保、資源の有効利用、放射性廃棄物の減容化・有害度低減の観点から、わが国の重要な政策と位置付けられている」と、その意義を改めて強調した。続いて新井理事長は、原産協会の第65回IAEA総会(9月20~24日)出席について説明。原産協会は、これまでIAEA総会の場で、IAEA幹部や加盟各国出席者との意見交換、展示会への出展を行ってきた。今回は、国内14機関・企業の協力を得て、「2050年カーボンニュートラル」を見据えた原子力イノベーション、福島復興における10年間の歩みをテーマとした日本ブースを設け、国内外から多くの関係者が来訪。新井理事長は、「重要な役割を果たした。今後もこのような機会をとらえ福島の復興や廃炉の取組について発信していきたい」と述べた。記者からは、エネルギー基本計画改定の関連でプルサーマルの見通し、高温ガス炉や核融合の展望の他、東京電力の柏崎刈羽原子力発電所における核物質防護事案への対応などに関し質疑があった。
27 Sep 2021
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政井マヤさん(檀上左端)司会による「対話フォーラム」の模様、画面には学生参加の京都府立大院・浅野育美さん(右)と新潟大・遠藤瞭さん(フォーラム事務局提供)東日本大震災・福島第一原子力発電所事故発生から丁度10年半となる9月11日、今後の福島の復興・再生に向けた取組について考える環境省主催の「対話フォーラム」がオンラインで開催された。除染に伴い発生する土壌の減容・再生利用の必要性・安全性に関し全国レベルでの理解醸成を目指すもので、5月の開催に続き2回目となる。フリーアナウンサーの政井マヤさん(司会)、小泉進次郎環境相、タレントの岡田結実さん、長崎大学原爆後障害医療研究所の高村昇教授、東京大学大学院情報学環総合防災研究センターの関谷直也准教授が登壇。フォーラムにはおよそ400名のオンライン参加者が集まり、寄せられた意見・質問をもとに意見交換を行った。除去土壌再生実証事業により造成された飯舘村の農地ではホウレンソウも栽培(環境省発表動画より引用)福島県内で除染に伴い発生する放射性物質を含む土壌や廃棄物は、中間貯蔵施設で安全に集中的に管理・保管し、貯蔵開始後、30年以内(2045年3月まで)に県外で最終処分を完了することが法律で定められており、最終処分量を低減するため、除去土壌の減容・再生利用に係る技術開発が進められている。例えば、飯舘村の長泥地区では、再生資材を利用して農用地を造成する実証事業が2018年度より行われており、2020年度には食用作物も栽培された。県内には仮置きされている除去土壌が今なお残っており、環境省では2021年度末までの中間貯蔵施設への概ね搬入完了を目指している(帰還困難区域のものを除く)。中間貯蔵施設を立地する大熊町の吉田淳町長、双葉町の伊澤史朗町長は、フォーラムにビデオメッセージを寄せ、それぞれ震災前の町の活況ぶりを振り返りながら、施設の受入れは非常に苦渋の判断だったことを訴えかけた。小泉環境相、大熊町産のイチゴジャムを手に(フォーラム事務局提供)除去土壌の再生利用について、小泉環境相は、大臣室の鉢植えなどを例にあげ、まず国が率先して取り組む必要性を繰り返し強調。県外での再生利用実証に強い意欲を示し、「『福島県だけの問題』と考えられていることを変えねばならない」と、若い世代を含め多くの人たちの理解が進むよう今後もフォーラムを継続的に開催する考えを述べた。高村氏、除去土壌の安全性について説明(オンライン中継)参加者からの「再生土が利用された場所は安全なのか?」との質問に対し、環境省の「除去土壌等の減容・再生利用技術開発戦略検討会」の委員を務める高村教授は、(1)施工中の追加被ばく線量が1mSv/年を超えないよう放射能濃度を設定、(2)再生利用可能濃度は8,000ベクレル/kgを原則とし用途ごとに設定、(3)覆土による遮蔽や飛散・流出の防止――といった適切な管理により作業者・利用者の健康が守られていることを説明。また、X線検査や航空機旅行などに伴う身の回りの放射線被ばく線量の比較を図示し、「放射線は音も臭いもないが測ることができる。得られたデータをいかにわかりやすく比較するか」と、放射線を身近なものとしてとらえてもらう必要性を述べた。岡田さん、登壇後に再生土栽培の花束をもらったとツイート(フォーラム事務局提供)今回のフォーラムは当初、関西在住の学生たちも集め大阪開催を予定していたが、感染症対策のためオンライン開催となり、岡田さんは大阪府出身の若手タレントとして登壇。除去土壌の問題について岡田さんは、開会時の挨拶で、「同じ日本で起きていることなのに、まったく他人事のように思っていた」と話していたが、各登壇者の話を終始熱心に聞き、「知ろうとすることは誰かを大切に想うことだと実感した」と、感想を述べた。関谷氏、除染に関する認知度を示し「理解した上で議論することが大前提」と(オンライン中継)参加者からは、除去土壌関連の他、放射性廃棄物処分問題、クリアランス制度との相違、福島第一原子力発電所の処理水による風評被害、原子力教育の実情など、幅広く疑問が寄せられ、「正しい情報をどのように得ればよいのか?」との問いに対し、原子力災害における心理的・社会的影響について研究する関谷准教授は、「事実を正確に知ってもらう、きちんとした判断ができるリテラシーを養うことが極めて重要」と強調した。
24 Sep 2021
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東京電力は9月22日、柏崎刈羽原子力発電所におけるIDカード不正使用や核物質防護設備機能の一部喪失の事案に対する根本原因分析、改善措置活動の計画を取りまとめ、第三者による独立検証委員会からの検証報告書と合わせ、原子力規制委員会に提出した。〈東京電力発表資料は こちら〉同日夕刻、小林喜光会長、小早川智明社長らが東京本社で記者会見を行い、小林会長は、「今回の検証で明らかになった弱みを自ら評価し、改善を繰り返していくことが原子力部門、発電所にとって重要」として経営幹部の人事措置を行うとともに、「現場を重視した再発防止策の実施とさらなる改革推進」に向け、原子力部門の本社機能の新潟移転、核物質防護や原子力安全で豊富な経験を有するOBや他社人材の幹部への積極登用などを図っていくと発表。また、小早川社長は、一連の事案に対する陳謝、経営トップとしての責任を果たす重要性を述べた上で、「本社社員の執務場所を発電所の近傍に置くことで発電所運営をより密接にサポートできるようになる。地域の皆様の声に随時触れ、その声を発電所の安全最優先の運営に活かす体制を作る」と、スピード感を持って柏崎刈羽原子力発電所のパフォーマンス向上を図っていく考えを示した。柏崎刈羽原子力発電所の核物質防護に係る不適切事案の概要(資源エネルギー庁発表資料より引用)改善措置計画は、「リスク認識の弱さ」、「現場実態の把握の弱さ」、「組織として是正する力の弱さ」を一連の事案の根本原因と分析した上で、核物質防護に関するガバナンスの再構築、核物質防護教育の強化、警備業務の抜き打ち訓練、他電力との相互レビューなどを盛り込んでいる。梶山弘志経済産業相は23日の閣議後記者会見で、「第三者委員会や他の電力会社の評価・指導も得ながら、報告書に盛り込んだ対策を徹底的に遂行していくことが重要。東京電力には、原子力規制委員会による検査に誠実に対応し、強い危機感と緊張感を持って核物質防護体制の再構築にしっかりと取り組んでもらいたい」と強調。柏崎刈羽原子力発電所の再稼働に関しては、「まだ口にする段階ではない。東京電力のこれからの努力次第だと思う」とした。
24 Sep 2021
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