原産協会は1月19日、日本工業倶楽部(東京・千代田区)で「原産シンポジウム」を開催。今回は、福島県立医科大学放射線健康管理学講座主任教授の坪倉正治氏が「放射線の健康影響の基礎知識と原発事故後の健康課題」と題して講演を行うセミナー形式となり、会員企業・組織から約60名が参集した。坪倉氏は、もともと東京で血液内科医として医療に従事していたが、東日本大震災後は、福島県の相馬中央病院と南相馬市立総合病院を往復しながら、通常の診療に加え、ホールボディカウンターを用いた内部被ばく検査や住民への放射線影響に関する説明会など、被災地支援に取り組んできた。講演の中で、同氏は、発災後のおよそ12年間を振り返り、「どのような健康課題に住民は直面してきたか」を時系列的に整理。特に、避難後、施設に入所していた高齢者の死亡リスクが急増したことに関し、南相馬市内5施設の集計から「避難後3か月間以内で、実に25%の方々が亡くなった。これはすさまじい数だ」と指摘。仮設住宅への移住に伴うメンタル面・地域コミュニティの問題を始め、生活習慣病の増加、かかりつけ医との疎遠・がん検診の希薄化などを要因に掲げ、医療従事者の立場から「避難中に亡くなられる災害関連死を忘れてはならない」と強調した。発災から数年以降に関しては、介護サービスに係る地域間格差の他、偏見・デマの影響など、社会環境の変化に伴う要因にも言及。総じて、「健康問題を個人の意思や行動の帰結として捉えるのではなく、社会や周辺環境によって規定されている、と考えることが重要」と訴えかけた。さらに、福島第一原子力発電所事故に伴う放射線被ばくによる健康影響については、「リスク的にはゼロとはいえないが、健康問題をトータルでみた場合、中心となる放射線被ばくよりも、周辺の影響の方が爆発的に大きい」と強調。これまでにみられた被災地住民の健康状態悪化・回復のジグザグ傾向に関し、「半年から1年のタームで様々な環境変化が繰り返されてきた」ことを要因としてあげた上で、現状の行政支援システムから、避難指示解除以降の「戻りたくても戻れない人へのケア」の手薄さに懸念を示した。坪倉氏は、放射線の健康影響の基礎知識や福島県民の健康調査についても概説。同氏は、地元の学校に赴き生徒・教員に対し放射線に関する講義を行うなど、次世代層への普及・啓発に努めているが、「最近では震災を知らない子供たちが増えてきた。まず『なぜ学ぶのか』から説明しないといけない」と、課題をあげた上で、環境省が開設し若手中心で放射線の正確な情報発信に取り組む「ぐぐるプロジェクト」を課題解決に向けた一例として紹介した。福島第一原子力発電所事故による放射線影響の評価について、坪倉氏は、UNSCEAR(原子放射線の影響に関する国連科学委員会)の2020年報告書(2021年3月公表)を紹介。同報告書の主な結論として、「放射線被ばくが直接原因となるような将来的な健康影響はみられそうにない」ことなどをあげた。UNSCEARは科学的・中立的な立場から放射線の人・環境への影響調査・評価などを行う国際機関で、昨夏、2020年報告書の日本政府への手交のため来日した同組織のギリアン・ハース前議長は、取りまとめに当たった者として、「この報告書がもたらす主たる結論は堅固なもので、見通しうる将来に向け大きく変わるものではない」と、普遍性を強調している。
25 Jan 2023
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会見を行うIAEA・カルーソ氏(フォーリン・プレスセンターホームページより引用)福島第一原子力発電所のALPS処理水((トリチウム以外の核種について環境放出の規制基準を満たす水))の取扱いに関する国際原子力機関(IAEA)の規制レビューチームがこのほど来日。2022年3月に続き2回目となる規制レビューを完了し、20日、IAEA原子力安全・核セキュリティ局調整官のグスタボ・カルーソ氏は、記者会見を行い、「前回のミッションで出たほとんどの問題について考慮されていることを確認できた」として、原子力規制委員会の審査や認可プロセスの妥当性を首肯した。1月16日からの日程を終了し、フォーリン・プレスセンターで記者会見に臨んだカルーソ氏は、規制委員会へのヒアリングや現地調査の結果を踏まえ「国際的な安全基準に合致した形での放出に関する規制のコミットメントの現れだ」と評価。日本政府の関係閣僚会議は1月13日に、「海洋放出設備工事の完了、工事後の規制委員会による使用前検査やIAEAの包括的報告書等を経て、具体的な海洋放出の時期は本年春から夏頃を見込む」としている。同氏は、海外メディア・在日大使館関係者からの質問に対し、国際安全基準の厳格さ・透明性を強調。「これから放出が行われるまでの検査活動にさらに注目していく」と述べ、今回のミッションに関する報告書を3か月以内に、本年半ばを目途にIAEAとしての包括的な報告書を公表することを表明した。ALPS処理水に関する理解醸成として、資源エネルギー庁では最近、国内向けのテレビCM放映・新聞広告掲載の他、韓国政府向けのテレビ会議説明会を実施。東京電力では、海外向けの処理水ポータルサイト(中国語・韓国語版)のリニューアルを昨年末に行っている。〈東京電力発表資料は こちら〉
23 Jan 2023
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包括的核実験禁止条約機関(CTBTO)のロバート・フロイド準備委員会事務局長は1月19日、日本記者クラブで会見を行った。包括的核実験禁止条約(CTBT)は、すべての核兵器の実験的爆発または他の核爆発を禁止する核軍縮・核不拡散を進める上で、極めて重要な条約とされ、日本は1997年に批准し、2022年3月時点の批准国は172か国となっているものの、同条約の発効に必要な特定の44か国のうち、批准しているのは36か国にとどまっている。就任後、初の来日となり岸田文雄首相他との会談に臨んだフロイド事務局長は会見で、CTBTフレンズ((CTBT発効促進の機運を維持・強化する観点で2022年に日豪間で立ち上げられた非核兵器国によるグループ))を通じたCTBT未批准国への働きかけなど、これまでの日本政府による同条約発効の早期化に向けた取組を高く評価。「日本は核の攻撃を受けた唯一の国として、将来世代が核実験の脅威によって被害を被らないようにすること、核実験によって世界の安全保障が損なわれないようにすることに強いコミットを発揮している」と強調。条約の遵守状況の検証体制として維持・運営している国内10か所の監視施設および実験施設など、日本の技術面における貢献にも言及した。フロイド事務局長は、「核実験は1945年からCTBT署名開放の1996年までの間に2,000回を超えて行われたが、署名開放以降は12回以下にとどまっている」などと、CTBTの成果を示唆。最近1年間の批准国として、ガンビア、ツバル、ドミニカ、東ティモール、赤道ギニア、サントメ・プリンシペの6か国をあげた。一方で、昨今のウクライナ情勢にも鑑み「本当に不安をあおり立てる1年だった」と振り返り、「われわれは決して油断してはならない」と、核実験をなくす努力を怠らないことを改めて強調。北朝鮮の核開発問題に関して問われたのに対し、「2018年4月に北朝鮮は一時的に核実験を中止すると約束した。是非その約束を長期化して欲しい」として、同国によるCTBTへの署名がなされることを切望した。
20 Jan 2023
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財務省は1月19日、2022年の貿易統計(速報)を発表した。輸出額は98兆1,860億円で対前年比18.2%増、輸入額は118兆1,573億円で同39.2%増。その結果、貿易収支がマイナス19兆9,713億円(対前年比およそ10倍)と、過去最大の赤字額となったことに関し、松野博一官房長官は、同日の記者会見で、鉱物性燃料(石炭、石油、LNGなど)の輸入額増による主要因に言及した上で、「輸出を通じた成長は企業にとっても日本経済にとっても引き続き重要であり、しっかり支援していく」と述べ、所要の予算措置を図るとともに今後の動向を注視していく姿勢を示した。鉱物性燃料輸入額は、対前年比96.8%増の33兆4,755億円に上り、他の品目を大きく凌駕。中でも石炭は同178.1%増の顕著な上昇となっている。〈財務省発表資料は こちら〉2022年は、2月にロシアによるウクライナ侵攻が起こって以降、世界的なエネルギー供給危機となり、日本もエネルギー価格の高騰に見舞われた。政府の「GX(グリーントランスフォーメーション)実行会議」が昨夏に示した「日本のエネルギーの安定供給の再構築」によると、今夏・来冬以降に目指す原子力発電プラント17基の稼働により、約1.6兆円の国富流出が回避できると試算されている。
19 Jan 2023
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資源エネルギー庁は、アンケート形式のウェブコンテンツ「もしエネルギーがこうなったら模試」(もし模試)を1月30日まで公開している。「東大クイズ王」としてテレビ番組に出演している伊沢拓司さんらが中心となって運営されるメディア「Quiz Knock」(クイズノック)とのコラボレーション。「もし模試」では、日本のエネルギーにまつわる様々な「もしもの可能性」をテーマに7問を「出題」。「受験者」は、「もし1週間エネルギー(電気、ガス、石油など)が使えなくなったとしたら、何が一番困るだろう?」、「もし日本のエネルギーを自分たちで供給するとしたら、どんな方法があるだろう?」、「もしあなたがカーボンニュートラルを推進する立場にあるとしたら、まずどんなことから取りかかる?」などの問いに対し、与えられた選択肢の中から自身の考えに最も近いものを回答。回答後は、「受験者」の回答傾向と各選択肢に関する解説を見ることができる。同コンテンツは1月13日から公開されているが、例えば、「もし日本社会が再生可能エネルギーだけをつかうようになったら、どんなことが起きるのだろう?」との問いに対しては、「温室効果ガス削減に寄与するが、安定供給と経済効率性が悪くなる」との回答が71.0%で最も多かった(1月18日16時時点)。これに対し、解説では、「完璧なエネルギーがない中で、再生可能エネルギー比率を上げながら、『安全性』、『安定供給』、『経済効率性』、『環境適合』の4つのバランスを見ながら多様なエネルギー源を組み合わせる必要がある」と、エネルギー需給における「S+3E」の重要性を説いている。「もし模試」では、大学生・大学院生の「受験者」に対し、抽選でJERA姉崎発電所の見学と伊沢拓司さんとともに未来のエネルギー問題を考えるワークショップへの招待も予定している。
18 Jan 2023
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原子力産業新聞が電力各社から入手したデータによると、2022年の国内原子力発電所の設備利用率は18.7%(対前年比3.4ポイント減)となった。年内、新規制基準をクリアし新たに再稼働したプラントはなく、現存の計36基のうち10基・995.6万kWが稼働。いずれもPWRである。2022年は四国電力伊方3号機と九州電力川内1号機が年間を通じて稼働。川内1号機の設備利用率は106.8%に達した。近年、テロなどに備えた「特定重大事故等対処施設」(特重施設)の整備に伴い停止しているプラントもあるが、2021年に国内初の40年超運転に入った関西電力美浜3号機は、2022年7月に同施設の運用を開始し、9月に本格運転に復帰。この他、関西電力大飯3、4号機、九州電力玄海3号機も12月までに特重施設の運用を開始し発電を再開している。現在、特重施設の設置工事を含む定期検査により停止している玄海4号機は、2023年2月に発電を再開する予定。新規制基準適合性審査に係る設置変更許可に至ったものの再稼働していないプラントは7基、同審査中のプラントは10基となっている。美浜3号機に続く40年超運転が見込まれる関西電力高浜1、2号機は、それぞれ2023年6、7月に本格運転に復帰する見通し。2021年9月に設置変更許可に至った中国電力島根2号機については、2022年6月に島根県知事が再稼働に関し同意を表明している。*各原子力発電プラントの2022年運転実績(2022年12月分を併記)は こちら をご覧下さい。
17 Jan 2023
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西村康稔経済産業相は1月5~9日、米国を訪問。日本がG7議長国を務める年の幕開けに際し、「様々な通商・国際経済アジェンダについて、日本が議論をリードしていく必要がある」との考えのもと、ジェニファー・グランホルム・エネルギー省(DOE)長官ら、米国政府関係者と会談を行った。〈資源エネルギー庁発表資料は こちら〉西村経産相は1月9日、グランホルムDOE長官と会談し、世界のエネルギー安全保障を取り巻く状況を踏まえ、昨夏に立上げが合意された原子力協力を始めとする「日米クリーンエネルギー・エネルギーセキュリティ・イニシアティブ」(CEESI)の強化について議論し共同声明を発表。DOEは、先般、日本政府が取りまとめた「今後の原子力政策の方向性と行動指針案」の重要性に留意。経産省とDOEは、小型モジュール炉(SMR)を含む次世代革新炉の開発・建設など、原子力協力の機会をそれぞれの国内および第三国において開拓する意向を示した。また、既設炉を最大限活用するとともに、同志国の間でのウラン燃料を含む原子力燃料および原子力部品の強靭なサプライチェーン構築に向けて取り組むとした。外交筋の報道によると13日に予定される日米首脳会談で、こうしたエネルギー協力に係る方向性が確認される見通しだ。
12 Jan 2023
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日本エネルギー経済研究所は12月27日、2023年度のエネルギー展望を発表した。それによると、一次エネルギー国内供給は、2022年度に対前年度比0.7%の微減となるが、人の移動の増加に伴う輸送量回復に加え、鉄鋼や自動車の増産により2023年度には同0.9%増と、2年ぶりに増加に転じる見通し。また、エネルギー起源CO2排出量は、2022年度に9.75億トンと、2年ぶりに減少。2023年度には原子力の増加などにより、9.62億トンと、さらに減少するものの、2013年度比22.1%減で、「2030年度に温室効果ガスを2013年度から46%削減」(2021年4月に菅首相が表明)の目標には程遠く、「削減の進捗は遅れたまま」と懸念している。原子力発電については、新規制基準適合性審査などの進捗を踏まえ、再稼働が進むと想定。2022年度はテロなどに備えた「特定重大事故等対処施設」(特重施設)の完成の遅れで3基の停止が長引き、計10基が平均8か月稼働して、発電電力量は対前年度比20.2%減の541億kWhに後退するも、2023年度は新たに5基が順次再稼働し、計15基が平均10か月稼働することで発電電力量は対前年度比85.1%増、1,002億kWhの大台に回復するとの見通し。政府は2022年8月に「GX(グリーントランスフォーメーション)実行会議」で示した「日本のエネルギーの安定供給の再構築」の中で、今夏以降、7基の新たな再稼働を目指す方針を打ち出している。今回のエネルギー展望では、特重施設完成の前倒しなどにより原子力発電所の再稼働がより進むシナリオも想定し、化石燃料輸入額やCO2排出量の削減につながる試算結果を示した上で、「個々のプラントに応じた適切な審査を通じた再稼働の円滑化がわが国の3E(安定供給、環境への適合、経済効率性)に資する」と述べている。
10 Jan 2023
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「原子力新年の集い」(原産協会主催)が1月6日、東京プリンスホテル(東京・港区)で開催され、会員企業・組織、国会議員、駐日大使館関係者ら、約500名が参集し、新しい年の幕開けを祝し親睦を深めた。年頭挨拶に立った原産協会の今井敬会長は、昨今の化石資源への投資低迷や新型コロナによる経済停滞からの回復に伴うエネルギー需給のひっ迫・価格高騰に加え、2022年2月からのウクライナ情勢がこの傾向にさらに拍車をかけたとして、「安定したエネルギー供給が各国の喫緊の課題となっている」と強調。「カーボンニュートラル」達成のためにも、「原子力を積極活用すべきであることは、国際的にはもやは論を俟たない段階にあり、これはわが国も同様」と述べた。2022年の国内における原子力政策の動きに関しては、「『GX実行会議』において、政府が主導となり、ようやく新たな一歩を踏み出せた」と高く評価。「今後、法制化などの国による環境整備が行われることを強く期待する」とした。また、今春開始予定の福島第一原子力発電所のALPS処理水((トリチウム以外の核種について環境放出の規制基準を満たす水))の海洋放出に関しては、関係者に対し「確実な工事の遂行と、引き続きの理解活動の推進」を要望。しゅん工時期が延期となった六ヶ所再処理工場については、「確実なしゅん工に向け、関係者の総力を結集して対応してもらいたい」と期待を寄せた。続いて来賓挨拶に立った中谷真一・経済産業副大臣は、「わが国には原子力に関して世界に誇る優れた技術・人材、強固なサプライチェーンが存在するが、福島第一原子力発電所事故以降、具体的な建設が進まなかったこともあり、こうした強みが失われつつある」と憂慮。官民連携による海外プロジェクト参画の構想にも言及した上で、特に将来の人材育成について、政府として支援を図る考えを示すとともに、原子力産業界に対してもより注力するよう求めた。電気事業連合会の池辺和弘会長は、2023年初頭に際し、「日本のエネルギーを安定的に供給するシステムを再構築し実行に移す年になる」と展望。事業者として、「わが国のエネルギー安定供給と『2050年カーボンニュートラル』実現のため、様々な課題に挑戦し、社会の発展と変革に貢献していく」と抱負を述べた。一同は、島田太郎副会長(東芝社長)の音頭で祝杯を上げた。
06 Jan 2023
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日本原燃の増田尚宏社長は、年頭挨拶(1月4日)の中で、再処理、廃棄物管理、MOX燃料加工など、各事業について「今年最大」の目標を掲げるとともに、その達成への意欲を示し、「当社は、わが国のエネルギーの将来を担う極めて重要な存在」と、核燃料サイクル事業に対する使命感を改めて強調した。核燃料サイクル事業の要となる六ヶ所再処理工場については、2022年12月26日に、しゅん工時期を「2022年度上期」から「2024年度上期のできるだけ早期」に変更しており、増田社長は、「新しいしゅん工時期を達成するためには、設計・工事計画認可(設工認)の審査、検査が全体工程を握っている」として、しゅん工時期のさらなる前倒しを目指し協力会社とも一体となって全力で取り組んでいく決意を新たにした。六ヶ所再処理工場のしゅん工に向けて、日本原燃は2020年7月に原子力規制委員会より新規制基準適合性審査に係る事業変更許可を取得。これに続く第1回設工認が2022年12月21日に認可され、26日には第2回設工認審査を申請した。しゅん工への大詰めを迎え、引き続き規制委員会とのコミュニケーション、関係部署間の情報共有・連携を図り効率的な審査対応を行っていく。審査期間は全体で1年程度、認可後に実施する使用前事業者検査などの期間は4~7か月程度と見込んでいる。
06 Jan 2023
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韓国のNGO団体「The Fact and Science」が12月13日、福島第一原子力発電所を訪れ、廃炉作業の進捗やALPS処理水((トリチウム以外の核種について環境放出の規制基準を満たす水))の放出に向けた準備状況などを視察した。〈東京電力の資料は こちら〉同団体は、「事実と科学に基づく合理的な問題解決を通じた先進的な社会構築」を目指し、2018年に韓国内で設立されたネットワーク。前政権の脱原子力政策に対し、新聞広告、署名活動、セミナー開催、SNSなどを通じ、原子力や放射能に関する正しい情報発信を求めてきた。韓国の前政権による「福島第一原子力発電所の敷地に保管された汚染処理水は放出してはならない危険物質」という主張は、まだ多くの韓国人の脳裏に強く残っている。そのため、処理水がどのように管理されているか直接確認し、正確な情報を韓国政府、国会議員、韓国国民に伝えることを目的に、同団体ディレクターのパク・ギチョル氏(元韓国水力・原子力会社〈KHNP〉副社長)ら7名が福島第一原子力発電所を訪れた。一行は、1~4号機全景の他、原子炉建屋内の冷却に伴い発生する汚染水を浄化処理する多核種除去設備(ALPS)、ALPS処理水の海洋放出に係る設備の建設現場、測定・確認用タンクエリア、環境モニタリングの一環として行う海洋生物飼育試験の施設などを視察。視察後、「ALPS処理水の海洋放出については、まずは地元の方々の理解を得なければならない。大変なことだが、信頼を得られるよう願っている」とコメント。同NGOでは、今回の福島第一原子力発電所訪問に関する出版物を検討中とのこと。現場を訪れた所感として、「数千人もの人員が復旧のために黙々と働く姿はとても感動的だった」と述べた。ALPSで取り除くことのできないトリチウムに関し、韓国他、多くの国の原子力施設で排出されている事実に触れた上で、「韓国では海洋放出に反対する人々がまだ大勢いる。福島第一原子力発電所に対する歪んだ情報を正し、事実と科学に基づき原子力発電と放射能に対する誤解と恐怖を払拭していきたい」と意気込みを語った。
26 Dec 2022
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政府の「GX(グリーン・トランスフォーメーション)実行会議」(議長=岸田文雄首相)が12月22日に開かれ、「GX実現に向けた基本方針 ~今後10年を見据えたロードマップ~」を取りまとめた。「2050年カーボンニュートラル」の目標達成に向け、エネルギー、全産業、経済社会の大変革を実行すべく、7月より検討を行ってきたもの。岸田首相は、8月に行われた同会議で、「再生可能エネルギーや原子力はGXを進める上で不可欠な脱炭素エネルギー」との考えのもと、あらゆる方策について年末までに具体的結論を出せるよう検討の加速化を指示していた。今回決定された基本方針の中で、原子力については、「エネルギー安全保障に寄与し脱炭素効果の高い電源」とされ、最大限活用することを明記。「2030年度電源構成に占める原子力比率20~22%の確実な達成」に向け、安全最優先で再稼働を進める。次世代革新炉の開発・建設については、廃止を決定した炉の建て替えを対象に具体化を進めていき、その他については、今後の状況を踏まえて検討していくとしている。運転期間の延長については、従来の「40年+20年」の原則を維持した上で、「一定の停止期間(新規制基準への対応など)に限り追加的な延長を認める」とされた。原子力政策の関連で、岸田首相は、高レベル放射性廃棄物の処分地選定に関して、「文献調査の実施地域の拡大を目指す」と発言。翌23日には最終処分関係閣僚会議が開催され、同会議議長の松野博一官房長官は、関係閣僚が連携し具体的な対応方針を取りまとめるよう指示した。西村康稔経済産業相は、22日の「GX実行会議」終了後、臨時記者会見を行い、「国民から幅広く意見を求め、丁寧な説明に継続して取り組んでいく」と述べ、パブリックコメントを早急に実施し、GX実現に向けた関連法案を年明けの通常国会に提出することを明言した。今回の基本方針決定を受け、電気事業連合会の池辺和弘会長は、コメントを発表。「再生可能エネルギーや安全を大前提とした原子力発電の最大限活用、火力発電の脱炭素化、電化の推進など、安定供給確保とカーボンニュートラルの実現に向け、あらゆる対策を講じていく」としている。
23 Dec 2022
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原子力規制委員会は12月21日の定例会合で、高経年化した原子力発電プラントに関する新たな安全規制の仕組みを取りまとめた。資源エネルギー庁による運転期間の見直しに係る検討を受け、現行の「40年+20年」の上限を超えて運転する可能性を見据え、今後必要となる安全規制の整備について定例会合の場で集中議論を行ってきたもの。〈規制委発表資料は こちら〉新たな安全規制の仕組みは、現行の高経年化技術評価と運転期間延長認可の両制度を統合するもので、運転開始後30年を超えて運転しようとする場合、先々10年以内ごとに、施設の劣化を管理するための「長期施設管理計画」(仮称)の策定を事業者に義務付け、規制委員会が認可。同計画に従って講ずべき措置の実施状況は規制検査の対象とする。今後、パブリックコメントに付すとともに、26日を皮切りに事業者との意見交換を実施した上で正式決定し、原子炉等規制法改正案が年明けの通常国会に提出となる運び。運転期間の見直しについては、16日に行われた総合資源エネルギー調査会において、「現行制度と同様に、運転期間は40年、延長を認める期間は20年との制限を設けた上で、新規制基準適合性審査に伴う停止期間などを除外し、追加的な延長を認める」との考え方が示されている。また、同定例会合では、IAEAの国際核物質防護サービス(IPPAS)ミッションの2024年半ば頃の受入れをIAEAに対し正式要請することが了承された。IPPASは、IAEA加盟国からの要請に基づき、核セキュリティに関する視察・ヒアリングを実施し助言などを行うもので、日本では2015、18年の受入れ実績がある。山中伸介委員長は就任から1か月後の10月26日、今後の重点的取組の一つとして、国際機関による外部評価を掲げている。
21 Dec 2022
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文部科学省の原子力損害賠償紛争審査会(会長=内田貴・東京大学名誉教授)は12月20日、福島第一・第二原子力発電所事故による原子力損害の範囲の判定に関する「中間指針第5次追補」を決定した。事故に伴う損害賠償請求の7つの集団訴訟について、賠償額に係る部分の判決が確定したことを踏まえ、9年ぶりに見直しを行ったもの。避難に伴う精神的損害賠償に関し、新たな事由の損害を認め、損害の範囲や賠償額の目安が示されている。同審査会は、原子力損害賠償法に基づき、事故の当事者による自主的な解決を促進し被災者への賠償を円滑に進めるべく、発災から1か月後の2011年4月に設置された。以降、原子力損害に該当する蓋然性の高いものから順次、損害項目や範囲などに関する指針を策定しており、2011年8月には、その全体像を示す「中間指針」を策定。その後、2013年12月までに、自主的避難、政府による避難区域見直し、農林漁業・食品産業の風評被害、避難指示の長期化を主な事由に、それぞれ同指針第1~4次追補を策定してきた。精神的損害、つまり「長年住み慣れた住居および地域が見通しのつかない長期間にわたって帰還不能となり、そこでの生活の断念を余儀なくされた精神的苦痛等」に対する賠償に関しては、2013年12月の同指針第4次追補で賠償の考え方が示されたが、今回の第5次追補では、対象として「過酷避難状況による精神的損害」を新たに類型化。例えば、事故発生時に福島第一原子力発電所から半径20km圏内に居住し避難を余儀なくされた住民について、「放射線に対する情報が不足する中で、被ばくの不安と今後の展開に関する見通しも示されない不安を抱きつつ、着の身着のまま取るものも取り敢えずの過酷な状況の中で避難を強いられたことによる精神的苦痛」は賠償すべき損害と認められるとし、従前の指針で示された賠償額に対し一人当たり30万円を加算。また、精神的損害の増額事由として、要介護者・障がい者やその介護を行った者、妊娠中や乳幼児の世話を行った者など、通常の避難者と比べて精神的苦痛が大きいと認められる場合は、増額することとし目安となる金額を示した。今回の決定を受け、永岡桂子文科相は20日夕刻、東京電力の小早川智明社長に対し、今後の対応について要請を行う。
20 Dec 2022
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総合資源エネルギー調査会の基本政策分科会(分科会長=白石隆・熊本県立大学理事長)は12月16日、「エネルギーの安定供給の確保」に向けて具体策を取りまとめた。今夏、政府の「GX(グリーントランスフォーメーション)実行会議」より、年末までに具体的結論を示すよう求められていたもの。〈配布資料は こちら〉冒頭、挨拶に立った西村康稔経済産業相は、昨今のウクライナ情勢に伴う欧米諸国におけるエネルギー政策転換の動きにも言及しながら、「安定的で安価なエネルギー供給の確保は、国民生活・社会経済活動の根幹に関わるわが国の最優先課題」と強調。「強靭なエネルギー需給構造」への転換を加速すべく、需要サイドの徹底した省エネとともに、供給サイドでは、再生可能エネルギーや原子力など、脱炭素効果の高い電源を最大限活用していく考えを述べた。 原子力政策については、同調査会の原子力小委員会が8日、審査対応などで停止した期間を除外する(いわゆる「時計を止める」)ことによる運転期間の延長、廃止が決まった炉の建て替えを前提とする次世代革新炉の開発・建設などを柱とした「今後の原子力政策の方向性の実現に向けた行動指針」を大筋で了承している。同小委員会の委員長を務める山口彰氏(原子力安全研究協会理事)は、16日の分科会で、これまでの議論を振り返り「長期的な視点をもって『エネルギー確保の将来見通しを立てる』という視点を入れ込んで欲しい」と要望。最終処分に関しては、処分地選定に向けて文献調査が進められる寿都町・神恵内村に対し感謝の意を表する必要性を述べた上で、「全国民が自分の問題として考える」ようさらなる取組の強化を求めた。立地地域として、杉本達治委員(福井県知事)は、エネルギー基本計画の見直しに言及するとともに、原子力政策に関し「国民にわかりやすい説明」を要望。この他、委員からは、再生可能エネルギーの開発に伴う環境保全対策や、省エネ・需要サイドの対応として、リモートワークの浸透や少子高齢化など、国民生活の変化を踏まえた省庁横断的な議論の必要性を求める意見も出された。「エネルギーの安定供給の確保」に向けた具体策は近く「GX実行会議」に報告される運び。これまでの議論に関し、電気事業連合会の池辺和弘会長は、16日の定例記者会見で、「今回示された方向性は非常に大きな一歩」との認識を示した上で、2023年に向けて、「日本のエネルギーを安定的に供給するシステムを『再構築し、実行に移す年』になる」と抱負を述べた。
19 Dec 2022
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文部科学省の原子力研究開発・基盤・人材作業部会(主査=寺井隆幸・東京大学名誉教授)は12月13日、中間まとめ「わが国の試験研究炉を取り巻く現状・課題と今後の取組の方向性について」を概ね了承した。同作業部会では、わが国の原子力人材育成・研究開発を支える観点から、国内試験研究炉の重要性を取り上げ、日本原子力研究開発機構より、「もんじゅ」サイトにおける新たな試験研究炉の設計活動、廃止が決定した材料試験炉「JMTR」についてヒアリングを行うなど、検討を進めてきた。中間まとめでは、国内試験研究炉の多くが廃止措置に移行してきた背景要因として、建設から長期を経た施設の老朽化・高経年化所期の目的を(一定程度あるいはすべて)達成したこと新しい炉に機能を集約した結果としての合理化新規制基準への適合に必要な対策工事に係るコスト等を勘案したときの費用対効果――を列挙。東日本大震災以降の運転再開の動きに触れつつも、「わが国の原子力産業や関連の学術研究を支える基盤の脆弱化とともに、人材や技術の継承が大きな危機に直面している」と、警鐘を鳴らしている。「もんじゅ」サイトに計画される新たな試験研究炉のイメージ(文科省発表資料より引用)その上で、これまで試験研究炉に係る多くの知見・技術を蓄積してきた原子力機構の役割に改めて期待。現在、「もんじゅ」サイトに設置する新たな試験研究炉の概念設計・運営に向け、中核的機関として、原子力機構(試験研究炉の設計・設置・運転)、京都大学(幅広い利用運営)、福井大学(地元関係機関との連携構築)が選定され、原子力機構を中心に、利用ニーズを有する大学、産業界、地元企業などからなるコンソーシアム委員会を組織し検討が進められている。これに関し、今回の中間まとめでは、「2026年の京都大学試験研究炉『KUR』の運転停止・廃止措置移行後、研究開発・人材育成基盤となることへの期待は高く、さらに立地地域との共創により、長期的な利用基盤形成を図っていくことで、新たな試験研究炉が新しい社会的価値を発現するモデルとなる」と評価。今後、建設予定地の確定に向けた地質調査など、必要な取組を着実に進めていくよう求めている。新たな試験研究炉については、中性子ビーム利用を主目的とした汎用性の高い中出力炉(熱出力10MW未満程度)に絞り込んだ上で、年度内の詳細設計段階への移行を目指しており、既設の研究炉「JRR-3」や大強度陽子加速器施設「J-PARC」との相乗効果も期待されている。
16 Dec 2022
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資源エネルギー庁は、福島第一原子力発電所で発生するALPS処理水((トリチウム以外の核種について環境放出の規制基準を満たす水))について、「多くの方々に知っていただく・考えていただく」きっかけとなるよう、テレビCM、新聞広告などを通じた全国規模での広報を強化している。テレビCMについては、12月13日より30秒/15秒の実写篇を放映開始(2週間程度を予定)。現在、アニメーション篇も制作中だ。新聞広告も同日、全国紙5紙、各県紙・ブロック紙(朝刊)に掲載された。また、都心部を中心とする屋外・交通広告(電車内ビジョンなど)も19日頃から行う予定。2021年4月の政府による「ALPS処理水の処分に関する基本方針」決定を受け、風評影響を最大限抑制するための国民・国際社会の理解醸成に向け、関係省庁では情報発信やIAEAによる国際的レビューに努めている。資源エネルギー庁では12月1日、ALPS処理水について科学的根拠に基づいた情報をわかりやすくまとめたウェッブサイトを新設。「みんなで知ろう。考えよう。ALPS処理水のこと」との共通メッセージとともに、情報発信・関心喚起に取り組んでおり、ウェッブ広告(12月13日から1か月程度公開)の中で西村康稔経済産業相は「是非ご覧下さい」と語りかける。ALPS処理水は来春頃に海洋放出を開始することを目途に準備が進められている。
14 Dec 2022
2690
福島大・川﨑教授は著書の中で、福島復興に関し国民全体での総合的検証の必要性を述べている(福島大発表資料より引用)福島第一原子力発電所事故から10余年が経過。福島大学共生システム理工学類の川﨑興太教授は、12月7日に行われた同学・三浦浩喜学長による定例記者会見の中で、「国民全体での福島復興に関する総合的な検証が必要」と指摘している。〈福島大発表資料は こちら〉同氏は、2018年に学際的研究会「福島長期復興政策研究会」を設立。2021年までに、事故発生から10年間における福島の復興および関連政策の検証、および今後の調査・研究の一環として、福島県内の12市町村(田村市、南相馬市、川俣町、広野町、楢葉町、富岡町、川内村、大熊町、双葉町、浪江町、葛尾村、飯舘村)の首長を対象にヒアリングを実施し、復興に向けた課題を抽出。同調査・研究の成果は今秋、「福島復興の到達点―原子力災害からの復興に関する10年後の記録―」(東信堂)として出版された。会見で川﨑教授は、その内容について紹介。「福島復興10年間の到達点」に関し、避難指示は2020年3月までに帰還困難区域を除きすべて解除されたものの、多くの住民は避難し続けており、自治体は存続の危機に陥っている除染が完了しても、放射能汚染問題がすべて解消したわけではない福島の基幹産業である農林水産業は、それぞれ文脈は異なるものの、いずれも苦境に立たされ続けているそもそも事故が収束していない県や自治体は新たな復興計画を策定し、未来を切り拓こうとしているが、解決すべき課題が山積している――との段階にあると指摘している。さらに、同氏は、福島第一原子力発電所事故やその後の復興について、「日本全体、世界全体の問題であるにもかかわらず、いつのまにか福島に閉じられたローカルな問題に矮小化されている」と懸念。総合的な検証の必要性を示し、その視点として、事故発生の原因究明と責任所在の解明被害実態の包括的・総体的な把握と追求被災者の生活再建と被災地の復興・再生に関する実態に即した課題の抽出事故の再発防止策と再発した場合の被害最小化策の合理性――を提示。「福島の問題を考えることは、本質的には国民一人一人の暮らしのあり方そのものを見つめ直すことでもある」との考えから、検証は、福島の住民、県・市町村、国、東京電力だけでなく、国民全体で行うべきと提言している。
12 Dec 2022
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日本原子力産業協会(JAIF)と韓国原子力産業協会(KAIF)との共催による「日韓原子力専門家会合」が12月6日、都内で開催された。対面での開催は3年ぶりとなる。同会合は、JAIFとKAIFとの協力覚書に基づき、原子力開発・利用に関する情報・意見交換を行うことにより、日韓両国の原子力産業界レベルでの協力を促進し、原子力関連産業の一層の発展を目的として、1979年以来、開催されているもの。2017年以降は、開始当初の名称「日韓原子力産業セミナー」を改称し、現在に至っている。韓国側からは、KAIFの他、韓国電力公社(KEPCO)、韓国水力・原子力(KHNP)、韓国原子力環境公団(KORAD)などから15名が来日し出席した。今回会合では、福島第一原子力発電所の廃炉・汚染水対策、韓国におけるエネルギー政策に関する特別セッションが設けられ、それぞれ、日本側から東京電力、韓国側から慶熙(キョンヒ)大学校が発表。また、両国において関心の高い原子力発電所の廃止措置、放射性廃棄物の処理・処分など、バックエンド対策をテーマに議論がなされた。これらを踏まえたQ&Aセッションでは、韓国側、日本側からの質問に対し、それぞれJAIFの新井史朗理事長、KAIFのカン・ジョヨル常勤副会長が回答。韓国側から寄せられた原子力産業に係る国内市場や国際展開のリサーチに関する質問に対し、新井理事長は、JAIFが毎年、会員企業などを対象に実施している「原子力発電に係る産業動向調査」を紹介。一方、日本側からUAEバラカ1~4号機プロジェクトの成功要因に関連して韓国の原子力人材確保・育成について問われたのに対し、カン常勤副会長は、これまでの韓国における原子力開発の歴史を振り返りながら、「教育は人材育成の重要な要素」と強調。大学の原子力関連学科の充実化とともに、企業においても早い段階から海外への派遣を通じ教育・訓練に努めているなどと説明した。韓国一行は、会合終了後、福島へ移動し、福島第一・第二原子力発電所や日本原子力研究開発機構の楢葉遠隔技術開発センターなどを訪れた。
09 Dec 2022
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総合資源エネルギー調査会の原子力小委員会(委員長=山口彰・原子力安全研究協会理事)は12月8日、「今後の原子力政策の方向性と実現に向けた行動指針」(案)を取りまとめた。前回11月28日の会合で、「アクションプラン」として提示され、委員らの意見を踏まえ修文を図ったもの。「開発・利用に当たって『安全性が最優先』であるとの共通原則の再認識」を筆頭とする基本原則のもと、再稼働への関係者の総力結集運転期間の延長など、既設原子力発電所の最大限活用新たな安全メカニズムを組み込んだ次世代革新炉の開発・建設再処理・廃炉・最終処分のプロセス加速化サプライチェーンの維持・強化国際的な共通課題の解決への貢献――が柱。今回の行動指針案については、近く同調査会の基本政策分科会に報告され、政府「GX(グリーントランスフォーメーション)実行会議」で年末までに具体論の取りまとめが求められている「原子力政策の今後の進め方」に資する運び。〈配布資料は こちら〉 前回の同小委員会会合では、運転期間の取扱いに関する仕組みの整備として、「一定の運転期間の上限は設けつつ、追加的な延長の余地は勘案」するという選択肢で概ね委員間のコンセンサスを得ていた。つまり、現行の「40年+20年」をベースに、東日本大震災発生後の (1)法制度の変更 (2)行政命令・勧告・行政指導等(事業者の不適切な行為によるものを除く) (3)裁判所による仮処分命令等、その他事業者が予見しがたい事由――に伴って生じた運転停止期間はカウントに含めない(いわゆる「時計を止めておく」)ことが、今回、同行動指針案に盛り込まれた。次世代革新炉の開発・建設については、同小委員下のワーキンググループにおける議論も踏まえ、「まずは廃止措置決定炉の建て替えを対象に、バックエンド問題の進展を踏まえつつ具体化」と明記。これに関し、小野透委員(日本経済団体連合会資源・エネルギー対策委員会企画部会長代行)は、原子力産業の競争力維持の観点から「革新炉開発は重要。検討を加速して欲しい」と要望。遠藤典子委員(慶應義塾大学グローバルリサーチインスティテュート特任教授)は、昨秋策定のエネルギー基本計画との整合性に関して、現状での「2030年における総発電電力量に占める原子力の割合20~22%」の目標達成に危惧を示し、早急な検討が図られるよう訴えた。専門委員として出席した原産協会の新井史朗理事長は、サプライチェーンの維持・強化に関し、「原子力発電プラントの建設はおよそ9割を国内で調達しており、技術は国内に集積している。原子力の持続的活用の観点から、高品質の機器製造・工事保守の供給は必須であり、エネルギー自給率が重要であることと同様、これらが国内で一貫して行われることが重要」と強調。さらに、海外プロジェクトへの参画に向け、「わが国の高い原子力技術を世界に示す場であり、世界の原子力安全と温暖化防止に貢献する機会」ととらえ、積極的に取り組んでいく姿勢を示した。〈発言内容は こちら〉この他、委員からは、MOX燃料再処理も含めたバックエンド対策の強化、電力消費地域も交えた双方向コミュニケーションの必要性などに関し意見が出された。
08 Dec 2022
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三菱総合研究所は12月2日、福島県の復興状況や放射線の健康影響に対する意識や関心・理解などに着目したアンケート調査の結果を発表した。同社では2017年以降、東京都民を対象として継続的に調査を実施してきたが、第5回目となる今回、2025年に大阪で開催予定の万博において、「東日本大震災からの復興を成し遂げつつある姿を世界に発信する」ことも重要視されていることから、調査対象に大阪府民を加えている。調査は、2022年6月に、東京都と大阪府の20~69歳の男女、各都府1,000名に対しインターネットを通じて実施。「震災・復興を語り継ぐことの大切さ」を提言している。調査結果では、東京都民を対象とした「原発事故から11年が経過し、自身の震災に対する意識や関心が薄れていると思うか」との問いに対し、「そう思う」と「ややそう思う」との回答が初回調査から引き続き半数を超えていたことから、「東京都民における震災への意識・関心は薄れつつあることが浮き彫りになった」と分析。その上で、「震災から得た重要な教訓を語り継いでいくという観点では、15年、20年という節目のタイミングでの情報発信やイベントなど通じて、人々の意識・関心を再び喚起する機会を効果的に設けていくことも重要」と述べている。また、大阪・関西万博における東日本大震災からの復興アピールに、「期待している」または「やや期待している」との回答割合は、東京が36.8%に対し大阪が42.8%と、6ポイントほどの開きがあり、年齢別には、東京、大阪ともに60歳代以上の期待が特に大きく30歳代以下と大きな差があった。この理由として、「1970年万博当時の盛り上がりなどの記憶を持つ世代の期待が大きくなっている」と推察。今後に向け「1970年の万博後に生まれた若い世代の期待度を高めることが強く望まれる」と提言している。福島県の復興に関する意識については、東京と大阪でそれほど大きな違いはなかった。今回の調査では、震災・復興を語り継いでいくための参考として、「阪神・淡路大震災」と「東日本大震災」の日本における過去10年間のインターネット検索状況を比較。震災発生の周年期など、節目節目でのアクセス数が高まることなどから、「阪神・淡路大震災から30年となる2025年に開催される大阪・関西万博では、震災・復興についての積極的な情報発信の取組が強く期待される」と述べている。
05 Dec 2022
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原子力業界の若手を対象とした世界最大規模の国際会議「IYNC(国際青年原子力会議)2022」(主催=日本原子力学会若手連絡会)が11月27日、福島県郡山市内のホテルで開幕した。12月2日まで、世界各国から概ね39歳以下の若手原子力関係者ら約350名(オンライン参加も含む)が参集し、コミュニケーション・人材戦略、イノベーションなどをテーマに話し合うほか、少人数でのワークショップではロールプレイングやカードゲーム体験を通じ参加者同士の交流も深める。「IYNC」は、原子力平和利用の促進や世代・国境を超えた知識継承を目的に、2000年以来隔年で開催。30か国から300名以上が参加しており、英語での発表経験や人的ネットワーク構築の機会ともなっている。今回、当初はロシア・ソチでの開催が予定されていたが、昨今の情勢を踏まえ、急遽、日本で初開催されることとなった。福島第一・第二原子力発電所の見学や、廃炉・汚染水対策について考える福島特別セッションも設定。原子力発電所の高経年化対策や長寿命運転などの機運を背景に、ベテラン技術者と若手との世代間ネットワークの強化も視点となっている。11月28日のキーノートセッションで講演を行った原産協会の新井史朗理事長は、「IYNC2022」がテーマとして掲げる「You are the Core」を改めて強調し、「これから10年、20年、それ以降の世界の原子力利用を盛り立てていって欲しい」と、将来の原子力産業における若手の活躍に期待。また、日本の原子力政策の動きを紹介した上で、「原子力の価値を生かすために必要なアクション」として、早期再稼働、運転期間の延長、新増設・リプレース、研究・開発をあげた。そのアクションを着実に進めていくため、原子力産業界がクリアすべき課題として、予見性の確保、「ものづくり基盤」とサプライチェーンの強化、海外における原子力発電に対する価値の見直しに加え、若い年代層とのコミュニケーションの必要性に言及。「若手の方々や、今後の原子力技術・産業の担い手となる学生など、若い層へ原子力の価値の浸透を図ることが重要だと考える。学生には、原子力産業が有望な職業であることを確信してもらい、原子力を将来の職業として考えてもらえるよう訴えたい」と述べた。
30 Nov 2022
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総合資源エネルギー調査会の原子力小委員会(委員長=山口彰・原子力安全研究協会理事)は11月28日、「今後の原子力政策の方向性と実現に向けたアクションプラン」について議論した。〈配布資料は こちら〉同日の会合で、資源エネルギー庁は、8月に行った中間論点整理などを踏まえ、立地地域との共生、国民各層とのコミュニケーションの深化、再処理のプロセス加速化に関し、これまでの議論の状況と対応の方向性を整理。合わせて、原子力利用政策の観点からの運転期間のあり方として、前回11月8日の会合で示した現行の原子炉等規制法の規定を維持特段の上限規制を設けない一定の運転期間上限は設けつつ、追加的な延長の余地を勘案――の3案について、委員からの意見を踏まえた検討の視点として、科学技術的観点(安全規制)からの整合性福島第一原子力発電所事故の反省・教訓を踏まえた運転期間制限の趣旨国民・立地地域の理解確保エネルギー安定供給の選択肢確保次世代革新炉の開発・建設との関係事業者やステークホルダーにとっての予見性――を提示。これらの視点による評価から、将来の見直しを前提として、3案のうち「一定の運転期間上限は設けつつ、追加的な延長の余地を勘案」をベースとする方向性を示した。この運転期間の取扱いに関する仕組みの整備については、「今後の原子力政策の方向性と実現に向けたアクションプラン」の案文に盛り込まれ、現行通り、運転期間は40年、延長を認める運転期間は20年を目安とし、いわゆる「時計を止める」制度設計として、東日本大震災発生後の法制度の変更行政命令・勧告・行政指導等(事業者の不適切行為によるものを除く)裁判所による仮処分命令等、その他事業者が予見しがたい事由――に伴って生じた運転停止期間については、カウントに含めないこととされた。実際、2013年の新規制基準施行直後に審査が申請され未だ再稼働していないプラント、司法判断を含む事由によりおよそ2年にわたり停止したプラントもある。*今回の同小委員会で、専門委員の原産協会・新井史朗理事長は書面で意見を表明しました。
29 Nov 2022
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「福島第一原子力発電所事故後10年の規制活動」について話し合う原子力規制委員会とOECD/NEAによるシンポジウムが11月28日、都内ホテルで開幕した。国内外の政府・規制当局、電力事業者、大学・学会、地方自治体などから約200名が参集。29日までの2日間、原子力規制を巡り、自然災害への対応、信頼構築・透明性確保、ジェンダーバランスなど、今後取り組むべき課題について議論する。開会に際し基調講演を行った規制委員会の山中伸介委員長は、2012年の発足から9月で10年を迎えた同委のこれまでの活動を振り返り、「信頼回復のための10年だったといっても過言ではない」と強調。規制の継続的改善に関し、2016年のIAEA総合規制評価サービス(IRRS)受入れを踏まえ自身が主導した新検査制度の導入を例示しながら、「ゴールなどない」と述べ、今後も怠りなく取り組んでいく姿勢を示した。また、OECD/NEAのウィリアム・マグウッド事務局長は、福島第一原子力発電所事故後の世界における原子力規制の改善に関し、「既に延べ何百万時間にも及ぶ様々な努力が注がれ、本当に時代が転換した」と振り返った。同事故から得た自然ハザードに備えレジリエンスを図る教訓を、「『起こらない』と思ったことが来週にも起きるかもしれない。想定しておくことが大事なのだ」と強調。さらに、「人間が最後の深層防護」とも述べ、規制に係るヒューマンリソースやステークホルダー関与の重要性も訴えかけた。今回のシンポジウムには、日本の他、カナダ、フィンランド、フランス、ドイツ、韓国、スペイン、スウェーデン、スイス、英国、米国の規制機関が参集。マグウッド事務局長は、「原子力規制で一番変革したのは、世界中の規制者が連携するようになったことだ」と述べ、2日間の議論が有意義なものとなるよう期待した。
28 Nov 2022
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