ポーランドの鉱業大手KGHM銅採掘会社(KGHM社)は4月14日、米ニュースケール・パワー社製小型モジュール炉(SMR)の国内建設に向け、この計画に対する「原則決定(decision-in-principle=DIP)」の発給を気候環境省に申請した。「DIP」の発給は、その投資計画がポーランド社会全体の利益につながるとともに、国家政策にも則していると政府が確認し、正式承認したことを意味している。事業者がそれ以降、立地点の決定や建設許可など様々な行政承認を申請していく上で必要な大枠の手続きとなる。この前日には、ポーランド国営エネルギー・グループ(PGE)の原子力事業会社であるPEJ社(=Polskie Elektrownie Jądrowe)も、北部ポモージェ県における同国初の大型原子炉建設に向けて「DIP」の発給を気候環境省に申請した。政府が株式の約4割を保有するKGHM社は、ポーランド南西部にある欧州最大規模の銅鉱床で採掘を行っており、持続可能な開発というコンセプトに沿った活動も展開中。2050年までに同社が排出するCO2の実質ゼロ化を目指しており、事業に必要な電力や熱エネルギーの約半分を2030年までに自社で賄うため、SMRや再生可能エネルギー源の設置プロジェクトを進めている。ニュースケール社が開発した「ニュースケール・パワー・モジュール(NPM)」はPWRタイプの一体型SMRで、電気出力が5万kW~7.7万kWのモジュールを最大12基連結することで出力の調整が可能である。米国の原子力規制委員会(NRC)は2020年9月、モジュール1基の出力が5万kWの「NPM」に対し、SMRとしては初めて「標準設計承認(SDA)」を発給。ニュースケール社は7.7万kW版のモジュールについても、2023年1月にSDAを申請している。2022年2月にKGHM社は、7.7万kW版の「NPM」を複数基備えた発電設備「VOYGR」の建設に向けて、ニュースケール社と先行作業契約を締結した。早ければ2029年にも同プラントを完成させる計画で、2022年7月には5万kW版の「NPM」について、国家原子力機関(PAA)に事前の安全評価を要請。これは原子力法に規定された予備的な許認可手続きの一つであり、PAA長官は約9か月かけて見解を取りまとめる。政府の出資企業が国のクリーンエネルギーへの移行に参画することは、J.サシン副首相兼国有資産相も奨励しており、「原子力は安全でクリーンかつ安価なエネルギー源であり、ポーランドのさらなる発展に寄与する」と明言。国内企業がポーランドのエネルギー供給保証に関われば、より効率的に国を強化できると指摘した。KGHM社のT.ズジコット社長はSMRを建設する理由として、「当社は国内最大規模の企業であると同時に、最大のエネルギー消費企業でもある」と説明。同社は最重要プロジェクトと位置付けるSMRの建設を通じて、今後の企業運営を安定化する方針であり、原子力も含めた同社のクリーンエネルギーへの移行は、ポーランド全体のエネルギー・ミックスの重要な柱になるとしている。(参照資料:KGHM社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの4月18日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
26 Apr 2023
2290
ポーランド国営エネルギー・グループ(PGE)の原子力事業会社であるPEJ社(=Polskie Elektrownie Jądrowe)は4月13日、北部ポモージェ県内における同国初の大型原子炉建設に向けて、「原則決定(decision-in-principle=DIP)」の発給を気候環境省に申請した。また、同国内で小型モジュール炉(SMR)の建設を計画しているオーレン・シントス・グリーン・エナジー(OSGE)社は、4月17日に建設候補の7地点を公表している。PEJ社の「AP1000」建設計画気候環境省による「DIP」の発給は、その投資計画がポーランド社会全体の利益につながるとともに、国家政策にも則していると正式に確認したことを意味している。建設サイトとなるポモージェ県ルビアトボ-コパリノ地区の承認やその後の建設許可など、PEJ社が今後様々な行政承認を申請していく上で必要な手続きの大枠としての承認となる。このためPEJ社は今回、原子力施設と関係インフラの開発と実行に関する改正特別原子力法が発効するのに合わせて、このDIP発給の申請書を提出したもの。ポーランド政府は現在、改訂版の「原子力開発計画(PPEJ)」に基づいて、2043年までに国内複数のサイトで100万kW級の原子炉を最大6基、合計600万~900万kW建設することを計画中。2022年11月には最初の3基、計375万kW分に採用する設計として、ウェスチングハウス(WH)社製の第3世代+(プラス)PWR設計である「AP1000」を選定した。2026年にも初号機の建設工事を開始し、2033年の完成を目指している。PEJ社によると「DIP」の申請書には、設置される設備の最大容量や稼働期間、採用設計の詳細など、プロジェクトの諸条件を記した文書が含まれる。また、ポーランドの電力確保に原子炉建設が必須である理由など、プロジェクトとしての正当性を示すことが不可欠の要素。この申請はさらに、2021年2月に決定した「2040年までのエネルギー政策」など、政府の戦略文書との整合性も要求される。OSGE社の「BWRX-300」建設計画一方のOSGE社は、ポーランド最大の化学素材メーカーであるシントス社のグループ企業シントス・グリーン・エナジー(SGE)社と、同国最大手の石油精製企業であるPKNオーレン社が50%ずつ出資する合弁事業体(JV)である。SMRのなかでもGE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社製「BWRX-300」の建設に絞り込んでおり、2030年の初号機完成を目指している。同社は17日にPKNオーレン社の本部で記者会見を開き、数十の候補地点の中から最も有望な7地点を選定したと発表。具体的には首都ワルシャワ、オストロウェンカ(Ostrołęka)、 ブウォツワベク(Włocławek)、スタビ・モノフスキエ(Stawy Monowskie)、ドンブローヴァ・グルニチャ(Dąbrowa Górnicza)、ノバ・フタ(Nowa Huta)それぞれの近郊地点、およびタルノブジェク(Tarnobrzeg)の特別経済区である。今後は、これらの地点でさらなる地質調査を実施し潜在的な可能性を確認、それぞれの地域コミュニティとは予備的な協議を開始する。これらを終えた後、2年ほどかけて最初のSMRの建設可能性を徹底的に分析し、合意が得られた場合にのみプロジェクトの実施判断を下す方針である。OSGE社によると、SMRへの投資はクリーンエネルギーへの移行を効率的かつ早いペースで進めることができる。最先端の技術を採用しているため最大限の安全性が保証されており、世界では数多くのSMRが都市部やその周辺での建設が計画されている。同社は一例として、カナダのオンタリオ・パワー・ジェネレーション社が、オンタリオ州内のダーリントン原子力発電所内で「BWRX-300」の建設を計画している事実に言及。同発電所は、同州有数の商業都市で14万人の人口を抱えるオシャワから5kmの地点にある。なお、OSGE社が建設する「BWRX-300」の最初の複数基に対しては、米国政府の融資機関である米輸出入銀行(US EXIM)が最大30億ドル、国際開発金融公社(DFC)が最大10億ドルの財政支援提供の意思を表明した。17日に拘束力のない声明文である意向表明書(a letter of interest)に署名したもので、既定の輸出取引で申請書が提出された場合に、財政支援を行う用意があることを示している。OSGE社によると、ポーランド国内の主要な3銀行も同様に資金提供を表明している。(参照資料:PEJ社の発表資料、OSGE社の発表資料①、②、US EXIMの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの4月17日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
25 Apr 2023
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韓国の現代エンジニアリング社とSKエコプラント社は4月20日、モジュール式マイクロ原子炉(MMR)を用いたクリーン水素の製造ハブ建設に向けて、米国のMMR開発企業ウルトラ・セーフ・ニュークリア社(USNC)を交えた3社で研究開発を行うための協力覚書を締結した。現代社とSK社による「マイクロ原子炉の水素製造ハブ(Hydrogen Micro Hub)」は、MMRが生産する電力と高温の蒸気を固体酸化物形電解セル(SOEC)プロセスと組み合わせ、水の電気分解によりピンク水素((「パープル水素」あるいは「イエロー水素」とも呼称され、原子力発電の電力で水を電気分解して製造された水素を指す。製造工程でCO2を排出しない。))を製造する施設。3社は、SKグループの建設子会社であるSKエコプラント社の本部が置かれているソウル特別市内の「鐘路区」で同ハブの建設を目指しており、今回の合意の下、5年計画でMMRとSOEC統合プラントの商業化を目指した研究開発を共同で実施。価格面の競争力を持った水素製造システムの設置に向けた研究を行うとともに、将来的に水素の製造・供給事業を確立できるよう検証していく。3社の役割分担として、現代エンジニアリング社がMMRのBOP(主機以外の周辺機器)開発とEPC(設計・調達・建設)業務を担う一方、USNC社はMMRの設計と製造、および供給に責任を持つ。SKエコプラント社は、固体酸化物型燃料電池を製造・販売している米ブルーム・エナジー社のSOEC施設を使って、原子力による水素製造システムを確立するほか、関係機器も調達する。第4世代の原子炉であるUSNC社のMMRは、電気出力0.5~1万kWで熱出力は1.5万kW。シリコン・カーバイドで層状に被覆されたウラン粒子を燃料に用いる、小型のモジュール式HTGRである。同炉については、同社とカナダのオンタリオ・パワー・ジェネレーション社の合弁事業体であるグローバル・ファースト・パワー(GFP)社が2019年3月、カナダ原子力研究所(CNL)のチョークリバー・サイトでの初号機建設を念頭に、同国の原子力安全委員会(CNSC)に「サイト準備許可(LTPS)」を申請した。現代エンジニアリング社とUSNC社は、今回の研究開発にこのMMRを活用していく方針。商業用PWRとの比較でMMRは一層高温の蒸気を生産できるため、USNC社はこの高温を活用すれば、少ないエネルギーで水素の製造効率を最大に拡大できるとしている。SKプラント社は、同社とブルーム・エナジー社の合弁事業体であるブルームSK燃料電池社が慶尚北道の亀尾市に設置した130kW規模のSOEC施設を、今回の研究開発に利用する計画である。同施設を使った水素の製造試験はすでに成功しており、韓国政府が主導するグリーン水素((太陽光発電や風力・水力など、再生可能エネルギーの電力で水を電気分解して得られた水素のこと。一方、化石燃料等のCO2を排出する方法で生成された水素ガスは「グレー水素」などと呼称される。))の製造実証プロジェクトにも参加する予定。同社はグリーン水素からアンモニアやメタノールを製造するプロジェクトも推進中であるため、これに「マイクロ原子炉の水素製造ハブ」によるピンク水素を加えることで、無炭素な水素の製造モデルを多様化していく考えである。現代エンジニアリング社のホン・ヒョンソンCEOは今回の3社合意について、「環境に優しく経済的な水素の製造・供給事業を目指しており、これ以外にも当社はプラスチック廃棄物のリサイクルや太陽光、洋上風力などの事業も進めている」と説明。これらを通じて、世界規模のエコ・エネルギー企業として躍進していきたいと述べた。(参照資料:SKエコプラント社(韓国語)、USNC社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの4月21日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
24 Apr 2023
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カナダのニューブランズウィック(NB)州とサスカチュワン(SK)州の両政府は4月17日、両州で第4世代小型モジュール炉(SMR)の建設を念頭に置いた協力の強化で合意し、了解覚書を締結した。この覚書は、両州およびオンタリオ州がカナダ国内におけるSMRの開発と建設に向けて、2019年12月に交わした「協力覚書」に基づくもの。同覚書には2021年4月にアルバータ州も参加し、2022年3月には4州で「SMR開発・建設の共同戦略計画」を策定している。今回の覚書により、双方の州営電力であるNBパワー社とサスクパワー社は、SMRの建設計画や関係するサプライチェーンと雇用環境の構築、規制等に関する知見や経験を共有する。具体的には、NB州が州内の複数地点で建設を計画している米ARCクリーン・テクノロジー社製の第4世代SMR「ARC-100」(電気出力10万kW)を、SK州にも建設する方向での協力になる。SK州はすでに2022年6月、2030年代半ばまでに州内で建設する最初のSMRとして、GE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社製の「BWRX-300」(電気出力30万kW)を選定した。同炉については、オンタリオ州営電力のオンタリオ・パワー・ジェネレーション社がそれよりも先に2021年12月、州内のダーリントン原子力発電所内で、早ければ2028年初頭までに完成させるSMRとして選定。SK州は、オンタリオ州の方針に追随すれば初号機建設にともなうリスクが回避されるなど、カナダ全体で多数のSMRを建設していく上で多くの利点があると説明していた。一方のNB州では、2018年にNBパワー社が同社のポイントルプロー発電所内で、第4世代のSMR実証炉を2種類建設するというプロジェクトを開始。第4世代のSMR開発は同州の「気候変動アクション計画」に盛り込まれており、同州が2035年までにCO2排出量の実質ゼロ化を目指す上で重要な部分を担う。第4世代のナトリウム冷却高速炉技術に基づく「ARC-100」はこの2種類の1つであり、2029年の運転開始が見込まれている。同州ではまた、北部ベルドゥーンの港湾管理局が2022年11月、北部地域の経済成長に向けて開発中の「グリーン・エネルギー・ハブ特別区」における活動の一環として、「ARC-100」の導入を目指すと発表していた。NB州は今回、SMR開発は両州のみならず世界中で、安全かつ信頼性の高い無炭素エネルギーを提供できると指摘。その中でも、第4世代の先進的なSMRは電力のみならず高温熱を生産できるため、様々な産業プロセスの脱炭素化やクリーンな水素の製造には理想的だと述べた。NB州のM.ホランド天然資源・エネルギー開発相も、「原子力発電所の運転では40年の経験があるので、クリーンエネルギーや再生可能エネルギーの開発でNB州はカナダのみならず世界中で主導的役割を担っていく」と明言。原子力は今後、低炭素な社会に移行する際の重要電源になると指摘している。SK州のD.モーガン・サスクパワー社担当相は、「SMR関連で両州はここ数年間に強力な協力関係を築いており、今後は国内外のSMR事業で互いに利益を得ていきたい」と表明。SMR技術の活用で脱炭素化が加速されると述べた。なお、「ARC-100」については、アルバータ州政府も今年3月、州内での建設と商業化に向けてARCクリーン・テクノロジー社と協力する考えを発表している。(参照資料:NB州政府、SK州政府、ARCクリーン・テクノロジー社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの4月18日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
21 Apr 2023
2057
フィンランド南西部のオルキルオト原子力発電所で4月16日、欧州最大級の出力となる3号機(OL3)(欧州加圧水型炉=EPR、グロス出力172万kW)が試運転を完了、本格的に発電を開始した。同国で新規の原子炉が本格稼働するのは、同2号機が1982年に営業運転を開始して以来約40年ぶりのこと。試運転段階で実施した約3,300項目の試験の結果分析が終わり次第、事業者のティオリスーデン・ボイマ社(TVO)はOL3の営業運転開始を宣言する。最初の定期検査は2024年3月を予定。TVOによると、フィンランドがエネルギー危機への厳しい対応を迫られている最中に、同機によるクリーンな国産エネルギーが追加されることになる。OL3の投入でオルキルオト発電所は今後、同国における総発電電力量の約30%をカバー。OL3は少なくとも60年間の運転が見込まれている。TVOのJ.タンフア社長兼CEOは、「OL3により電力価格が安定するだけでなく、フィンランドのクリーンエネルギーへの移行でも重要な役割を果たす」と指摘。同国が電化を進めていくなかで、環境にやさしいOL3の電力はクリーンエネルギーへの移行の切り札になると述べた。TVOによれば、同機が本格稼働したことでフィンランドは電力の自給がほぼ可能になる。「2035年までにCO2排出量を実質ゼロ化する」との目標を盛り込んだ同国の改正・気候変動法に沿って、CO2ゼロの社会の確立を加速する。OL3の建設プロジェクトが開始された時点で、フィンランドでは原子力を支持する国民の割合が約60%とすでに圧倒的だったが、近年の支持率は過去最高レベルの83%に達している。OL3の建設工事は2005年8月、世界で初めて仏アレバ社(現・フラマトム社)製のEPR設計を採用し、同社と独シーメンス社の企業連合が開始した。初号機であるが故に、規制関係文書の確認作業や土木工事等に想定外の時間を費やした。当初の2009年完成予定のスケジュールはこれまでに幾度となく延期されており、建設コストもターンキー契約による固定価格の約30億ユーロ(約4,400億円)が倍以上に増大した。TVOと前述の企業連合は2018年3月、工事の遅れにともなう損害の賠償について包括的な和解契約を締結。企業連合側が分割払いで総額4億5,000万ユーロ(約664億円)をTVOに支払うほか、OL3の完成に必要な人的、技術的資源も提供することになったその後同機は、約17年間に及んだ建設工事を経て、2021年12月に初めて臨界条件を達成。翌2022年3月には、欧州初のEPRとして試験送電を開始した。この時、営業運転の開始時期は同年7月に予定されていたが、その後冷却系で追加の点検作業が必要になったほか、10月にはタービン系給水ポンプの羽根車で数センチ程度のクラックの存在が判明。新たに設計した羽根車への交換等でさらに時間がかかっていた。EPRに関しては、OL3に続いてフランスのフラマンビル原子力発電所でも2007年12月、同設計を採用した3号機(EPR、165万kW)が本格着工した。現在のスケジュールでは、2024年第1四半期の燃料装荷と試運転開始を目指して作業が進められている。中国でも、広東省の台山原子力発電所1、2号機(各EPR、175万kW)は先行していた欧州の2基の作業経験を生かし、世界初のEPRとして2018年12月と2019年9月にそれぞれ営業運転を開始している。また、英国では南西部のサマセット州でヒンクリーポイントC原子力発電所1、2号機(各UK-EPR、172万kW)が、それぞれ2018年12月と2019年12月から建設中。南東部のサフォーク州でも、サイズウェルC原子力発電所として167万kWのUK-EPRを2基建設する計画が進められており、2022年7月にビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)は同計画に「開発合意書(DCO)」を発給している。(参照資料:TVOの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの4月17日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
20 Apr 2023
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ドイツに最後まで残されていたイザール原子力発電所2号機(PWR、148.5万kW)、ネッカー原子力発電所2号機(PWR、140万kW)、およびエムスラント原子力発電所(PWR、140.6万kW)の3基が、現地時間の4月15日深夜にすべて永久閉鎖された。これにより、ドイツは2011年3月時点で保有していた商業炉17基を全廃し、脱原子力を完了した。ただし、他国向けの原子燃料加工サービスなどは国内で継続する。不足する電力を補うため、2011年当時に約17%だった再生可能エネルギーの発電量は2022年に全体の約50%に拡大したが、再エネだけに適用されている固定価格買取制度等の優遇措置により電気料金は高騰している。また、ロシアによるウクライナ軍事侵攻でノルドストリーム1を経由した天然ガスの供給量が大きく減少したこともあり、ドイツでは石炭火力の発電量が激増、今や発電量全体の三分の一を石炭火力が占めている。フランスの原子力発電所がトラブルやメンテナンス等で予定通り稼働しなかったことから、昨年はフランスからの電力輸入量が一時的に激減したものの、ドイツは今後も引き続き原子力発電によるフランスの電力輸入を見込んでいる。また、欧州の濃縮企業ユレンコ社がドイツのグロナウに置いている濃縮工場も、欧州の他の国にある原子炉向けに操業を継続するなど、ドイツの脱原子力は、EU域内の分業体制の一部を担っているといえる。イザール2号機とエムスラント発電所では今後、それぞれを保有するプロイセンエレクトラ社とRWE社が立地州の州政府から廃止措置許可を取得し次第、燃料集合体の取り出しなど廃止措置の準備作業を開始する。EnBW社はすでにネッカー2号機の廃止措置に必要な許可をすべて取得しており、3社はそれぞれ10年~15年かけて、原子炉を解体していく方針である。2011年の福島第一原子力発電所事故を受けて、当時のA.メルケル政権は同年6月、2022年末までに17基すべての原子炉を廃止するための原子力法修正案を閣議決定、同法案は翌7月に議会で可決した。2021年末までに14基が閉鎖され、今回閉鎖された3基も2022年末までに閉鎖予定だったが、政府はエネルギー供給リスクが増大する今回の冬季を乗り切るため、これら3基の運転期間を3か月半に限り延長していた。プロイセンエレクトラ社によると、1988年に送電開始したイザール2号機は年平均で約120億kWhを発電。同機だけでバイエルン州における電力消費量の約12%を賄っており、同州の約350万世帯に年中無休で約35年にわたって、信頼性の高い無炭素電力を供給した。EnBW社のネッカー2号機は1989年に送電を開始して以来、年間約110億kWhの電力を供給。34年間の総発電量は3,750億kWhにのぼり、バーデン・ビュルテンベルク州における総電力需要の約六分の一、居住世帯の電力需要の三分の二までを賄った。また、炉内の既存燃料で2023年に同機が発電した電力量は19億kWh以上にのぼっている。1988年にニーダーザクセン州で送電開始したRWE社のエムスラント原子力発電所は、35年間の稼働期間中に3,900億kWh以上を発電した。これは、ベルリンにおける近年の電力需要の約31年分に相当する。WNNの報道によると、スイス原子力フォーラムのH.U.ビグラー理事長がドイツの脱原子力完了について、「国際的なエネルギー・気候危機の真っ最中に、政府決定により原子力技術を放棄することは遺憾だ」と表明。「昨年は原子力の段階的廃止と天然ガスによる発電量の不足が、気候に悪影響を及ぼす石炭火力で補われたが、これは欧州全体の気候保全にとって好ましいことではない」と指摘している。ドイツでは昨年8月、公共放送ARDの委託で調査機関のドイチュラントトレンド(DeutschlandTrend)が原子力に対する同国民の意識調査を実施。この時点で、41%が最近のエネルギー情勢から「3基の運転期間の3か月間延長」を支持。同じく41%が「3基の長期的活用が有益」と回答した。(参照資料:プロイセンエレクトラ社、 EnBW社、RWE社、の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの4月14日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
17 Apr 2023
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米国南東部に位置する7州の「水素製造拠点(ハブ)連合」は4月11日、エネルギー省(DOE)の「地域のクリーン水素製造ハブ(H2Hub)」プログラムに、7日までに正式な申請書を提出していたことを明らかにした。同プログラムは、DOEが全米6~10カ所にクリーンな水素の製造ハブを設置するために進めているもので、各地域における水素の製造業者と消費者、接続インフラを結ぶネットワークの基盤構築を目指し、莫大な量のクリーン・エネルギーを貯蔵・配送できる水素の利用加速がねらい。同プログラムはまた、クリーン・エネルギー開発への投資やそれにともなう高レベルな雇用の創出、エネルギーの供給保証強化を通して、全米のコミュニティが恩恵を被る。DOEは今秋にも、申請者の中から連邦政府予算の交付対象者を選定し、同プログラムの拠点とする考えだ。 「南東部州水素製造ハブ連合」の7州は、アラバマ州、ジョージア州、ノースカロライナ州、サウスカロライナ州、テネシー州、ケンタッキー州、およびミシシッピー州。同連合には、これらの州を中心に原子力発電所を運転中のサザン社、デューク・エナジー社、ドミニオン社、テネシー峡谷開発公社(TVA)のほか、ルイビル・ガス&エレクトリック社、ケンタッキー・ユーティリティーズ社、および非営利研究機関のバッテル研究所が所属している。J.バイデン政権は、2035年までに発電部門を100%脱炭素化し、2050年までにCO2排出量の実質ゼロ化を達成する方針。これに向けた戦略として、DOEは産業部門の革新的な技術を用いた水素の製造や精製、配送・貯蔵と最終消費を推進中だ。2021年の「インフラ投資雇用法」に基づいて、クリーンな水素の製造ハブ計画に拠出される80億ドルのうち、70億ドルを「H2Hub」プログラムに投じている。DOEは2022年11月、同プログラムへの応募を検討している各州の水素製造団体に「概念文書」の提出を求めており、「南東部州水素製造ハブ連合」を含む79の団体がこれに応じた。同年12月にDOEは、そのうち33団体に対し、2023年4月7日までに最終申請書を提出するよう通知。これに含まれていた同連合が今回、「H2Hub」プログラムに正式に応募したもので、7州の地域コミュニティや輸送部門、発電部門の消費者が、脱炭素化に向けてクリーンな水素による持続可能なエコシステムを構築する計画である。同連合の応募については、7州のうち5州で選出された超党派の上院議員9名が強い支持を表明しており、今年2月にはDOEのJ.グランホルム長官に、連名で書簡を送付。「南東部州水素製造ハブ連合」の所属州では、輸送や物流、エネルギー、製造、研究に関する主要インフラが集中しており、DOEが同連合を連邦政府予算の交付先に選定すれば、同連合の成長を長期的に支援していくと約束している。(参照資料:サザン社、デューク・エナジー社、TVA、DOEの発表資料、上院議員連名書簡、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの4月13日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
14 Apr 2023
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インド政府で原子力や科学技術を担当するJ.シン閣外専管大臣は4月9日、2047年までに同国の総発電電力量に占める原子力の割合が9%近くまで増大するとの見通しを明らかにした。インドは2070年までにCO2排出量を実質ゼロ化するという目標を掲げているが、原子力を目標達成の一助とする方針である。これは同相がムンバイで、バーバ原子力研究センター(BARC)および原子力省(DAE)の研究主幹グループと検討会議を行った後に公表した。同相はまた、5日に議会下院で、国内の原子炉22基が2021年から2022年の間に総発電量の3.15%に相当する471億kWhを発電したと書面で表明。同相によると、DAEは現在678万kWの原子力発電設備容量を、2031年までに約3倍の2,248万kWに増強する目標を設定しており、米国やフランスなどと肩を並べる原子力大国となることを目指している。このため、政府は建設中の原子炉(このうちカクラパー3号機は2021年に送電開始)に加えて、さらに10基の建設計画を2017年5月に原則承認。これら10基はすでに、行政上の承認と財政的な認可を受けている。具体的には、南西部カルナタカ州のカイガ原子力発電所5、6号機、北部ハリヤナ州のゴラクプール3、4号機、中央部マディヤ・プラデシュ州のチャッカ1、2号機、および北部ラジャスタン州のマビ・バンスワラ1~4号機で、これらはすべて出力70万kWの国産加圧重水炉(PHWR)となる予定である。このように急速な原子力発電開発の進展は、N.モディ首相の肝入り。新規の10基は首相の指示で承認されたもので、原子力法の修正によりインド原子力発電公社(NPCIL)はその他の政府系企業と合弁でこれらの建設が可能になった。モディ政権の特徴の一つとして、国内の様々な分野で原子力利用が幅広く進められており、農産物や果物の保存、ガンその他の疾病治療に最新の原子力技術を応用するなど、インドは原子力の平和利用拡大に大きく貢献している。インドで稼働中の原子炉は大部分が低出力の国産PHWRで、最大のものはカクラパー3号機の70万kW。タミル・ナドゥ州でロシア企業が建設したクダンクラム原子力発電所の2基(各PWR、100万kW)は、同国で唯一の大型軽水炉である。前述の新規の10基は本格的な原子力国産化イニシアチブの一部であり、重要なプロジェクトと位置付けられている。その他、インドは、米国やフランスなどからの大型原子炉の導入をめざし、交渉を進めている模様である。(参照資料:インド政府の発表資料①、②、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの4月11日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
13 Apr 2023
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英国と韓国の両政府は4月10日、共同宣言を発表した。同宣言の中で両国は、原子力や再生可能エネルギーなどクリーン・エネルギーの開発加速やエネルギー供給の確保に向け、これまで以上に緊密に協力していく姿勢を示した。韓国側はこれにより、英国の新規原子力発電所建設プロジェクトに韓国企業が参加できる可能性が高まったと指摘。洋上風力発電や水素製造等、その他のクリーン・エネルギー分野でも協力していくとしている。今回の共同宣言は、英国・エネルギー安全保障・ネットゼロ省(DESNZ)のG.シャップス大臣が、札幌で開催される「G7気候・エネルギー・環境大臣会合」に向かう途中、訪韓したことにともなうもの。同相はソウルで韓国・産業通商資源部(MOTIE)のイ・チャンヤン長官と、クリーン・エネルギー関係の様々な協力について協議した。シャップス大臣は、「石炭や天然ガスに依存した発電がもはや経済的に成立しないという転換点に我々は近づいている」と指摘。その上で、韓国に対し英国への投資を呼びかけた。イ長官は、「韓国では電力の安定供給を確保しながらCO2の排出量を実質ゼロ化するため、エネルギーの移行に向けた政策を幅広く推進中だ」と表明。達成可能なレベルまで再エネの拡大を適切に進めつつ、CO2を排出しない原子力の利用を継続していくと述べた。共同宣言に盛り込まれた主な協力項目は以下の通り。原子力発電所の建設計画を加速する。堅固で回復力の強い原子力サプライチェーンの構築計画を進め、小型モジュール炉(SMR)など最新の先進的原子力技術の開発経験を共有する。CO2の排出量が多い未対策の石炭火力発電所からの脱却と、再生可能エネルギーの拡大を積極的に進める。英政府は先月末、クリーン・エネルギーによる長期的なエネルギーの供給保証と自給の強化に向けた新たな投資対策「Powering Up Britain」を公表。その中で、昨年4月の「エネルギー供給保証戦略」に盛り込んだ「大英原子力(Great British Nuclear=GBN)」の設置計画を具体化していた。GBNは明確な費用対効果が見込まれることを確認しながら、原子力発電所開発プロセスの各段階で事業者に支援を提供する機関。DESNZによると、今回の韓国との協力強化は「Powering Up Britain」を補完する役割を担っており、GBNがグリーン技術の開発にもたらす数十億ポンドの投資金を通じて、国際的なエネルギー取引で利益を上げ、英国経済の活性化や雇用の創出、エネルギーの供給保証と自給につなげていく考えだ。一方のMOTIEは、韓国側の強みとして原子力発電所の設計や建設、主要機器の製造に秀でていると表明。英国側の強みが原子力施設の廃止措置や原子燃料の製造にあることから、両国間の協力強化を通じて双方がともに利益を得られると強調している。参照資料:DESNZ、MOTIEの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの4月11日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
12 Apr 2023
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インドネシアの原子力規制庁(BAPETEN)は3月29日、米国のデベロッパーThorCon社が開発したトリウム溶融塩炉「TMSR-500」(電気出力25万kWのモジュール×2基)の設置に向けた認可手続きの実施準備として、原子力安全と核セキュリティ、および保障措置(3S)に関する関係者との事前協議を開始した。これは同日、BAPETENがThorCon社のインドネシア子会社であるThorConパワー・インドネシア社と交わした実施合意書に基づくもの。同協議では12か月かけて、原子力発電所の規制当局や事業者、原子力産業界等の関係者が正式な手続きの開始準備を整える。また、「TMSR-500」の建設マスター・プランを審査するとともに、関係各位の役割と責任の所在、採用設計の準備状況評価、建設スケジュール、申請用の技術文書や行政文書の書式と範囲、適用される法令と規制等を記した「ロードマップ」も作成する。インドネシア初となる「TMSR-500」の実証炉はスマトラ島の東方沖、バンカ島とビリトゥン島の間に位置するケラサ(Kelasa)島に2029年までに設置する予定で、ThorCon社は事前協議の終了後、認可申請を行う計画である。ThorCon社はまた、将来的にインドネシアで「TMSR-500」の製造・組立ラインを設置したいと考えており、インドネシアの複数の大学に溶融塩炉技術に関するプログラムの設置を働き掛けている。このような活動を通じて、同社はインドネシア経済に新たな産業を生み出し、同国がクリーン電力に移行するのを支援していく考えだ。「TMSR-500」は浮揚式発電所としてバージ(はしけ)に搭載される原子炉で、設置点の浅瀬まで曳航されて送電網に接続。近隣地域の電力需要を満たすことになる。「TMSR-500」の建設実現に向け、ThorCon社は2022年1月にスペインのエンジニアリング企業「Empresarios Agrupados Internacional (EAI)」を設計エンジニアリング担当に指名している。今回の発表によると、BAPETENは前日の28日、首都ジャカルタで原子力発電所の建設認可手続きに関する委員会を開催した。海洋・投資問題調整省やエネルギー・鉱物資源省といった関係省庁、国家エネルギー委員会、国立研究革新庁(BRIN)などのほか、2019年に「TMSR-500」の研究開発・建設に関する契約をThorCon社と交わした国有の艦船建造企業PT PALインドネシア社、ThorConパワー・インドネシア社、フランスの検査認証企業ビューロー・ベリタス社等の代表者が出席した。委員会の出席者はまず、再生可能エネルギーや原子力など新たな無炭素エネルギー源の研究開発を促進して、CO2排出量の実質ゼロ化に移行していくという同国の方針を確認。インドネシア政府は国内エネルギー・ミックスの信頼性を維持するため、原子力で2035年までに800万kW、2060年までに3,500万kWの発電設備導入を目指している。このため、BAPETENは委員会で発電所の管理を担うすべての関係者に「TMSR-500」建設に向けた初期情報を提供。関係省庁や国有企業、民間部門、学術界、一般国民が緊密に連携し合うことによってのみ、クリーンエネルギーへの移行が成し遂げられると説明した。同委の終了時には、出席者が事前協議の実施条件や責任範囲を示した文書に調印したほか、ThorCon社が「TMSR-500」の実行可能性調査や日程に関する文書を提示した。インドネシアでは電力需給のひっ迫等を理由に、1980年代に原子力発電の導入が検討されたが、建設予定地における火山の噴火や地震の可能性、福島第一原子力発電所事故などが影響し、100万kW級大型炉の導入計画は進展していない。一方、初期投資の小ささや電力網への影響軽減等の観点から、中小型炉への関心は維持されており、インドネシア原子力庁(BATAN)は2018年3月、大型炉導入の前段階として小型高温ガス炉(HTGR)を商業用に導入するため、熱出力1万kWの実証試験炉の詳細工学設計を開始している。(参照資料:BAPETENの発表資料①(インドネシア語)、②、ThorCon社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの4月5日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
11 Apr 2023
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米テラパワー社製のナトリウム冷却高速炉「Natrium」(電気出力34.5万kW~50万kW)の初号機建設をワイオミング州で計画中の電気事業者パシフィコープ社は3月31日、2033年までにさらに2基を建設する方針であることを明らかにした。追加の2基はユタ州で建設する方向だが、候補地を最終決定する前に地元のコミュニティ等と十分協議を重ねる考えだ。パシフィコープ社はワイオミング州など西部6州に電力供給しており、同日公表した「2023年統合資源計画(IRP)」に2基の追加建設を盛り込んだもの。同社はCO2を実質的に排出しないエネルギー・システムへの移行を目指しており、風力や太陽光の発電所を大規模に建設する一方、原子力については合計3基の「Natrium」で150万kWの設備容量を自社設備に加える計画である。「Natrium」はGE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社の小型モジュール式高速炉「PRISM」の技術に基づき、テラパワー社がGEH社と共同開発している原子炉。電気出力は34.5万kWだが、テラパワー社が開発した100万kWh規模の溶融塩エネルギー貯蔵システムと組み合わせることにより、ピーク時には出力を50万kWまで拡大し5.5時間以上稼働することができる。テラパワー社によると、急速に普及している再生可能エネルギーの間欠性を同炉で補えば、送電網に接続する発電技術としては理想的なものになる。パシフィコープ社はこの「Natrium」の実証炉と溶融塩のエネルギー貯蔵システムを組み合わせて、2030年までにワイオミング州南西部ケンメラー(Kemmerer)にある同社の閉鎖予定の石炭火力発電所に建設する予定。昨年秋には、パシフィコープ社とテラパワー社は「Natrium」を追加で最大5基建設することを念頭に、共同調査を実施すると表明していた。今回追加で2基、100万kW分の建設が決まったのに続き、両社は2035年までに同炉をさらに追加で建設する可能性を共同で模索していく考えだ。この「Natrium」炉とエネルギー貯蔵システム、2つの施設の建設については、米エネルギー省(DOE)が2020年10月、「先進的原子炉設計の実証プログラム(ARDP)」の支援対象に選定した。同プログラムにより、「Natrium」の実証炉や商業炉はこの10年間で本格的に稼働できる見通しとなった。テラパワー社とパシフィコープ社は「Natrium」を市場に投入し、エネルギーの安定供給に寄与したいとしている。テラパワー社のC.レベスク社長兼CEOは、「脱炭素化に資する設備の建設を進める事業者にとって、CO2を排出せず出力調整が可能な『Natrium』と大規模エネルギー貯蔵システムは非常に有効だ」と指摘。これらの施設建設を通じて、高レベルの雇用と数十年間利用可能な発電設備を地元コミュニティに提供できるよう、パシフィコープ社と協力していきたいと述べた。(参照資料:テラパワー社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの4月5日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
10 Apr 2023
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韓国の産業通商資源部(MOTIE)は3月29日、前政権が白紙撤回した新ハヌル(新蔚珍)3、4号機(各PWR、140万kW)の建設に向けて、韓国水力・原子力会社(KHNP)が今後10年間の関係業務で約2兆9,000億ウォン(約2,900億円)の契約を斗山エナビリティ社と締結したと発表した。具体的には、設計・製造に長期間を要する原子炉や蒸気発生器、タービン発電機などの製造・供給契約が正式に結ばれたもの。3、4号機はそれぞれ2032年と2033年の完成を目指しており、今年の上半期に環境影響評価を完了後、MOTIEでは早ければ7月にも電源開発事業の実施計画として承認する予定である。これにともないKHNP社は同日、両機の環境影響について再検討した評価書案の公聴会を開催した。斗山エナビリティ社はすでに今年2月までに、450億ウォン(約45億円)規模の業務を下請け企業に予備的に発注。KHNP社から今回受注した契約を通じて、今年中にさらに約2,100億ウォン(約209億円)の業務を追加発注するとしている。2022年5月に発足したユン・ソンニョル(尹錫悦)政権下のMOTIEは、脱原子力政策の影響で経営難に陥った原子力産業界の中小企業に対し、昨年だけで4,000億ウォン(約400億円)規模の緊急金融支援を提供した。4月以降はさらに、2,000億ウォン(約200億円)規模の低金利「特別金融プログラム」を施行する計画。このように円滑な融資を企業側に提供することで、MOTIEは韓国の原子力サプライチェーン再建に万全を期す考えである。このプログラムについては、すでにMOTIEと国策銀行の韓国産業銀行、KHNP社、および斗山エナビリティ社が共同業務協約を締結しており、同行の金利優遇策、およびKHNP社と斗山社の資金貯蓄に基づき、3~5%台の低金利融資を提供。一次分として500億ウォン(約50億円)規模の融資を開始したのに続き、8月には二次分としてさらに1,500億ウォン(約150億円)規模の融資を行い、中小企業の経営難克服支援に総力を傾けるとしている。輸出拡大に向け「ツー・トラック戦略」を推進なお、MOTIEは同日、韓国企業による原子力発電所の輸出拡大を目指し、国営企業と中小の機器製造企業が共同で輸出を行う現行の方式と、単独輸出が可能な中小企業を100社育成するという「ツー・トラック戦略」を推進していくと発表した。2027年までに現行方式で合計5兆ウォン(約5,000億円)規模の輸出契約受注を目指す一方、輸出の意思と潜在能力を持つ中小企業を選定し、輸出の前段階で最大5年間サポートするという特別プログラムを新設する。このような計画を「原子力発電所の機器・資材輸出の活性化案」に取りまとめ、第4次原子力発電所輸出戦略推進委員会で明らかにしたもの。MOTIEによると、世界では近年原子力発電所の新規建設と既存炉の運転期間延長等により、機器・資材の需要が増加している。しかし、主要な供給国は過去に建設計画が停止したこと等が影響し、これらの製造能力が低下。これにより、グローバルな原子力サプライチェーンに韓国企業が参入する機会が拓かれている。韓国企業の原子力機器・資材輸出は、過去5年間(2017年~2021年)に143件、5.3億ドルに留まっており、その前の5年間(2012年~2016年)との比較では、件数で43%、契約額では12.4%減少した。このうち、中小企業の単独輸出は全体の9%(件数)であり、ほとんどは国営企業が受注したプロジェクトの下請け輸出だった。韓国政府としては、このような現状を打開する方針であり、新規原子炉の建設プロジェクトや既存炉の改修工事、および原子燃料工場の建設など、事業規模が大きくて機器・資材メーカーが数多く参加できる大型事業に集中する。また、付加価値の高い単品の機器・資材やメンテナンスサービス、小型モジュール炉(SMR)などにも、輸出分野を多様化していくとしている。(参照資料:MOTIEの発表資料①、②、KHNP社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの3月29日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
06 Apr 2023
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カナダ連邦政府は3月28日に2023年度(2023年4月~2024年3月)の政府予算を公表、同国がエネルギー供給を確保しつつクリーンなエネルギー技術に移行する上で原子力は欠かせないとの認識から、これを強力に支援していく姿勢を明確に打ち出している。カナダ原子力協会(CNA)の分析によると、原子力はクリーン・エネルギーに対する投資税額控除(ITC)の対象に加えられただけでなく、その他の優遇税制にも幅広く組み込まれており、クリーン・エネルギー技術の分野で一層公平な事業機会を与えられるとともに、CO2を排出しないその他の電源とも対等に競合できるようになる。同予算はまた、それ以前に公表された一連の共同声明で、世界的なエネルギーの移行に原子力が重要な役割を果たすと認められたことを反映している。カナダのJ.トルドー首相と米国のJ.バイデン大統領は3月24日の共同声明で、従来の大型原子炉や先進的原子炉も含めたクリーン・エネルギー、および北米の関係サプライチェーンについて協力を加速する必要性があると指摘。これにともない、カナダの天然資源省と米エネルギー省(DOE)は同月27日、協力の範囲や調整が必要な分野の詳細を明らかにしていた。カナダの2023年度予算はこれらの声明内容を実行に移す具体策を示したもので、両国間の協力を強化することで競争のパラダイムから離れ、互恵的な北米の統合原子力エコシステムを構築することを目指している。CNAのJ.ゴーマン理事長兼CEOは、「今回の予算で原子力に対する連邦政府のアプローチが大幅に変化した」と指摘。「原子力はもはや検討事項ではなくなり、カナダが低炭素なエネルギー・システムに移行するのに必要かつ基本的なエネルギーと認識されている」と述べた。同予算では具体的に、クリーン電力への投資に対し税額が15%控除されるというITCが新たに導入され、小型モジュール炉(SMR)や大型原子炉の建設、既存炉の改修プロジェクトなど、あらゆる規模の原子力発電計画に適用が可能。官民を問わずすべての事業者が利用できるとしており、州を跨いだ送電網の機器にも適用される。このITCは、2022年度予算でC.フリーランド副首相兼蔵相が導入した「クリーン・エネルギー技術に対するITC」とは別枠になる。クリーン・エネルギー技術のITCは昨年秋の経済声明で詳細が公表されており、SMRなど無炭素な発電技術への投資に対し最大30%の税額が控除される仕組みである。今回の予算ではまた、クリーン・エネルギー技術の機器製造に対し設備投資の税額30%を控除するというITCも盛り込まれた。同ITCでは、原子力機器や原子燃料の処理・リサイクル機器の製造が対象となる予定である。CNAによるとこれらのほかに、原子力発電の支援で導入された措置としては以下のものが含まれる。無炭素なエネルギー技術の機器製造業者に対する軽減税率を、原子力発電部門にも拡大適用する。機器製造のITCと同様に、原子力機器や原子燃料の処理機器等が対象に加えられた。カナダ・インフラ銀行に追加で200億カナダドル(約1兆9,600億円)を供与し、同行を通じてクリーン電力分野に最大100億加ドル(約9,800億円)、グリーン・インフラ分野に100億加ドルを投資、無炭素エネルギーへの移行加速に活用する。規制審査や承認手続きの簡素化に向けて、関係予算を13億加ドル(約1,300億円)増強する。対象機関はカナダ原子力安全委員会(CNSC)や環境影響評価庁など。クリーン・エネルギー経済への移行に民間投資を呼び込むため、政府の投資や企業の利益を管理している「開発投資公社」と、公務員の年金管理を担当する国営企業「公務員年金投資委員会」の間で連携協力する。10年以上の期間に「戦略的イノベーション基金」に5億加ドル(約490億円)を供与する。同基金ではこれまで、モルテックス社やウェスチングハウス(WH)社、テレストリアル・エナジー社のSMRプロジェクトに対する支援が提供された。(参照資料:CNA、カナダ連邦政府の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの3月30日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
05 Apr 2023
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米国のA.W.ボーグル原子力発電所3号機(PWR、110万kW)が4月1日、送電網に接続され、送電を開始した。同機は米国で約30年ぶりに完成した新規炉で、ウェスチングハウス(WH)社製の第3世代+(プラス)炉「AP1000」としては国内初号機となる。同機は3月6日に初臨界を達成しており、送電網への初併入は起動試験の一部である。今後はフル出力まで様々な出力レベルで試験を実施。起動試験で信頼性が確認できれば、5月~6月に供用を開始する。同機を所有するジョージア・パワー社のK.グリーン会長兼社長兼CEOは、「新しい原子炉が今後60年~80年間、クリーンな電力を顧客に提供する記念すべき局面に、会社の新たなトップとして立ち会えたことを名誉に思う」と表明。同CEOは、自身がジョージア・パワー社の親会社であるサザン社のエンジニアだった当時、原子力発電所の建設がジョージア州にとって長期的に重要と確信して、ボーグル1、2号機の運転に携わっていた経験を回顧。「3号機の商業運転開始が近づくなか、この増設計画とボーグル発電所に関わるすべての専門家たちは、ジョージア州がクリーン・エネルギーによる未来を築くのに貢献できることを誇りに思うだろう」と述べた。なお、3号機から8か月遅れで本格着工した4号機では、燃料の装荷に先立つ最後の重要試験である温態機能試験が先月から始まっており、供用開始は今年の第4四半期後半~2024年第1四半期の終わり頃になる見通しである。温態機能試験では4台の冷却材ポンプが放出する熱を使って、同機の機器・システムで通常運転時に設計通りの温度や圧力が得られるか確認。その後はメイン・タービンの回転を通常運転時の速度に上げ、安定性等を確認する。同試験ではまた、運転員が運転手順の確認等を行うことになる。 ボーグル3、4号機は2013 年3月と11月にそれぞれ着工されており、サザン社最大の子会社であるジョージア・パワー社が同プロジェクトに45.7%出資。このほか、オーグルソープ電力とジョージア電力公社(MEAG)、およびダルトン市営電力がそれぞれ、30%と22.7%、および1.6%出資している。同様にAP1000設計を採用したサウスカロライナ州のV.C.サマー2、3号機増設計画は、2017年3月のWH社の倒産申請を受けて中止となったが、ボーグル3、4号機増設計画では、WH社の当時の親会社である東芝が同年12月に保証金の残額を一括で早期弁済。サザン社のもう一つの子会社であるサザン・ニュークリア社が全体的なプロジェクト管理を引き継いで、建設工事を継続している。ボーグル3、4号機の運転も同社が担当する予定である(参照資料:ジョージア・パワー社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの4月3日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
04 Apr 2023
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エジプトの原子力・放射線規制機関(ENRRA)は3月29日、原子力発電庁(NPPA)が同国初の原子力発電所として建設中のエルダバ発電所(120万kWのロシア型PWR:VVER-1200×4基)について、3号機の建設許可を発給した。これにともない、NPPAは今年の第2四半期中に3号機のコンクリート打設実施に向けて、準備作業を開始する。同発電所では現在、建設工事を請け負ったロシア国営の原子力総合企業ロスアトム社が傘下のアトムストロイエクスポルト(ASE)社を通じて、第3世代+(プラス)の原子炉となる4基のうち1、2号機を、それぞれ2022年7月と11月に着工。NPPAは同型設計の3、4号機の建設許可を2021年12月末に申請しており、ENRRAは申請書の審査と並行して今月11日から17日にかけては建設サイトを視察した。ENRRAは自らの規制要件や国際的な安全要件の順守状況など、3号機の建設準備ができているか包括的に点検した結果、ENRRAは建設工事が環境に悪影響を及ぼさないこと等を確認。ENNRA理事会のS.シャバーン会長が建設許可発給の判断を下している。エルダバ発電所の建設サイトは首都カイロの北西300km、地中海沿岸のエルダバ市域に位置しており、エジプトとロシアの両国政府は2015年11月に同発電所の建設に関する政府間協力協定(IGA)を締結。翌2016年5月にロシア政府は、最大250億ドルの低金利融資(年3%)をエジプトに提供するという大統領令を公布した。2017年12月には、エジプト政府とロスアトム社がエルダバで4基のVVER-1200 を建設するパッケージ契約の最終文書に調印。この契約に基づき、ロシア側は発電所を建設するだけでなく、発電所が稼働する60年間に必要な原子燃料をすべて供給する。また、使用済燃料の貯蔵施設や貯蔵キャスクをエジプト側に提供するほか、運転開始後最初の10年間は人材育成や発電所の運転・保守にも協力する。なお、エジプト初の商業炉となる1号機については2028年の営業運転開始が見込まれており、3月21日にロシアのサンクトペテルブルク港からコア・キャッチャーの主要機器3点が到着した。コア・キャッチャーは、先進的な技術を採用したVVER-1200の受動的安全系の中でも重要設備の一つ。ASE社で同プロジェクトを担当するG.ソスニン副総裁は、「これらの機器を通じて、世界で最も安全な原子力発電所を確実に建設する」と強調した。また、大型重量機器がサイトに運び込まれたのは初のこととなるため、NPPAで発電所の運転・保守を担当予定のM.ラマダン副長官は、「コア・キャッチャーは長納期品としても最初のものであり、建設プロジェクトは大きな節目を迎えた」と指摘している。(参照資料:NPPAの発表資料①、②、ロスアトム社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの3月31日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
03 Apr 2023
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英政府は3月30日、クリーン・エネルギーによる長期的なエネルギー供給保証と自給の強化に向けた新たな投資政策「Powering Up Britain」を公表した。原子力と再生可能エネルギーへの莫大な投資を通じて、エネルギー源の多様化と脱炭素化、および国産化を進めていく方針だ。この政策は、これまでビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)が担ってきたエネルギー政策を引き継ぎ、今年2月に新たに発足したエネルギー安全保障・ネットゼロ省(DESNZ)が取りまとめた。DESNZのG.シャップス大臣によると、①クリーンで廉価な国産電力の発電量を拡大し、国内にグリーン・エネルギー産業を根付かせる。②エネルギーの供給保証と自給を強化するだけでなく、各家庭が支払う電気代を長期的に削減、③英国が世界に先駆けてCO2排出量の実質ゼロ化をリードすることが狙い。この政策の背景として、DESNZはロシアの違法なウクライナ侵攻にともない世界のエネルギー市場が壊滅的な影響を受けたと説明。エネルギー卸売価格や電気代の高騰を受けて、英政府はこの冬季のエネルギー料金を約半分肩代わりする措置を取っている。英国のエネルギー・システムは過去数十年にわたり、高価な輸入化石燃料に依存してきたが、今後はクリーンで一層安価なエネルギー源に大幅にシフト。今回の政策によって、国内では2030年までにクリーン・エネルギー関係の雇用約50万人分を創出するほか、英国がクリーン・エネルギー産業戦略で優位に立つことで世界中にその専門的知見を輸出する考えだ。この政策を実行に移す12の具体的手段として、DESNZはCO2の回収・有効利用・貯留(CCUS)プロジェクトの実施を挙げたほか、「ネットゼロ水素製造基金」の2.4億ポンド(約395億円)を通じてCO2を排出しない水素製造の新規プロジェクトを支援する。また、電気自動車(EV)の充電器設置地点や関係インフラの拡充に3.8億ポンド(約625億円)を投資。建物等の暖房用としては化石燃料への依存を減らし、ヒート・ポンプの利用を拡大するため関係基金から3,000万ポンド(約49億円)を拠出するとした。マンチェスターでの「大英原子力」設置が具体化原子力については、英政府が将来のエネルギー・システムにおける重要なベースロード電源と位置付けていることから、大規模な開発プログラムを策定して世界的な競争力を確保する方針である。英政府はすでに昨年11月、サフォーク州で計画されているサイズウェルC(SZC)原子力発電所(167万kWの欧州加圧水型炉:EPR×2基)建設プロジェクトに、6億7,900万ポンド(約1,119億円)の直接投資を行うと発表。これに続く新たな原子力発電所の建設計画にも、英政府は産業界や投資家の迅速な取り組みを強力に支援する。具体的には、昨年4月の「エネルギー供給保証戦略」で約束していた新たな政府機関「大英原子力(Great British Nuclear=GBN)」を、イングランド北西部のマンチェスターに設置する。2050年までに最大2,400万kWの設備容量を原子力で確保、現行の原子力発電シェア15%をそれまでに25%に引き上げられるよう新設計画を牽引していく。GBNとしての最初の優先事業は英国にとって最適の小型モジュール炉(SMR)を選定することで、第一段階として4月から関係市場でコンペを開始し、夏からの第二段階で候補リストの絞り込み評価を実施、秋には炉型を最終決定する計画だ。英政府はその後、選定したSMR技術の開発に共同出資する方針で、事業者が資金調達や建設サイトの選定を適切に進めるための協力を提供。次の議会期間中に、2件のSMR建設計画で最終投資決定(FID)が下されるよう促していく。また、BEISが昨年5月に立ち上げた1億2,000万ポンド(約198億円)の補助金交付制度「未来の原子力実現基金(Future Nuclear Enabling Fund=FNEF)」を通じて、新規の原子力発電所建設を阻む課題の解決等に資金提供するとしている。GBNの暫定会長としては、昨年5月から首相やエネルギー相の原子力産業アドバイザーを務めていたS.ボウエン氏を起用。暫定CEOには、原子力施設の廃止措置専門企業マグノックス社のG.パリージョーンズCEOを充てることになった。(参照資料:英政府の発表資料①、②、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの3月30日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
31 Mar 2023
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カナダ中西部アルバータ州の外国投資誘致機関であるインベスト・アルバータ社(IAC)は3月23日、米ARCクリーン・テクノロジー社のカナダ法人(ARCカナダ社)と了解覚書を締結、同州内でARC社製の第4世代小型モジュール炉(SMR)「ARC-100」の建設と商業化に向けて協力することになった。「ARC-100」はナトリウム冷却・プール型の高速中性子炉で、電気出力は10万kW。同炉の技術は、米エネルギー省(DOE)傘下のアルゴンヌ国立研究所で30年以上運転された「実験増殖炉II(EBR-II)」で確認済みのものである。アルバータ州は天然資源豊富なカナダの中でも特に、石油や天然ガスの資源に恵まれており、州内には重工業やエネルギー企業の本社が多数置かれている。今後はSMRが生み出す無炭素な電力や熱を活用して、水素製造や医療用放射性同位体の生産、オイルサンドからの燃料抽出、化学製品の製造、鉱山業、海水脱塩といった産業の脱炭素化を推進。低炭素社会への移行に際しても、エネルギー生産州としての立場を維持していく方針だ。ARCカナダ社によると、「ARC-100」の小規模な設計や熱電併給可能という柔軟性、化石燃料に対するコスト面の競争力の高さは、同州にとって理想的な無炭素エネルギー源となる。そのためIACは、今回の覚書を通じて州内複数地点での「ARC-100」建設に向けた支援を行うとしており、間欠性のある再エネをSMRで補うことで同州の脱炭素化戦略を進める。一方のARCカナダ社は、IACによる支援の下で同州の関係者や産業界との連携を深め、複数の「ARC-100」の製造・建設と運転に不可欠のサプライチェーンを構築し、関連サービスを提供していく考えだ。アルバータ州は2021年4月、カナダ国内のオンタリオ州とニューブランズウィック(NB)州およびサスカチュワン州の3州が2019年12月に締結した「多目的SMR開発・建設のための協力覚書」に参加。2022年3月には、これら4州でSMRの開発と建設に向けた共同戦略計画を策定している。アルバータ州ではまた、テレストリアル・エナジー社が開発した小型モジュール式・一体型溶融塩炉(IMSR)の建設を念頭に、IACが2022年8月に同社と覚書を締結。今年1月には、米X-エナジー社の小型ペブルベッド型高温ガス炉「Xe-100」の州内建設を通じて同州経済活性化の可能性を探るため、IACが同社のカナダ法人と了解覚書を締結している。ARC社の社名は元々、アドバンスド・リアクター・コンセプツ社だったが、その後はARCニュークリア社、ARCクリーン・エナジー社と変更していき、現在はARCクリーン・テクノロジー社と呼称している。ARC社は2018年7月、カナダ東部NB州の州営電力であるNBパワー社と協力合意しており、同社が州内で運転するポイントルプロー原子力発電所内で、2029年までに「ARC-100」を完成させる計画だ。これにともない、同社はNB州セントジョンに初のカナダ事務所を設置している。同州ではまた、北部ベルドゥーンの港湾管理局が2022年11月にARCカナダ社の提案を受け入れ、「ARC-100」の建設に向けて米国のプロジェクト開発企業と協力することになった。(参照資料:ARCクリーン・テクノロジー社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの3月24日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
29 Mar 2023
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ロシアの原子力総合企業ロスアトム社の発表によると、同社の傘下企業がベラルーシで建設しているベラルシアン原子力発電所2号機(120万kW級ロシア型PWR:VVER-1200)が3月25日、初めて最小制御可能出力(MCP)レベルに到達した。MCPレベルとは、原子炉が核分裂連鎖反応を安定した状態で維持する臨界条件に十分な1%未満の出力を指す。同国のA.ルカシェンコ大統領は今月6日にベラルシアン原子力発電所を視察した際、同機を4月にも国内送電網に接続する方針を表明。同日の国営ベルタ通信は、エネルギー省のV.カランケビッチ大臣が今年10月に同機の商業運転を開始すると述べたことを伝えている。同機は今後、起動試験の最終段階に移行し、設計性能や物理的諸特性を確認、安全系や制御システム全体の信頼性もチェックする。これらの結果を規制当局に報告し、起動許可を取得した後は出力を徐々に上昇させていき、40%レベルで試験的に送電網に接続。4月から9月までの試運転期間中に、定格まで出力を上げていく計画である。旧ソ連邦に属していたベラルーシはウクライナと国境を接しており、1986年のチョルノービリ原子力発電所事故では甚大な放射線被害を被った。しかし、エネルギー資源が乏しく1次エネルギーの8割を輸入に依存していることから、同国は1990年代後半に原子力の導入に関する実行可能性調査を実施していた。同国初となるベラルシアン原子力発電所については、福島第一原子力発電所事故直後の2011年3月15日、ルカシェンコ政権がロシアと政府間協定を締結、これに基づいて建設することになった。総工費の90%をカバーする100億ドルの低金利融資など、ロシア政府の全面的な支援を受けて2013年11月に1号機(VVER-1200)がベラルーシのフロドナ州オストロベツで本格着工した後、翌2014年4月には2号機の建設工事を開始した。 1、2号機はともに、第3世代+(プラス)のVVER-1200 の最新モデル「AES-2006」を採用しており、ロスアトム社は同設計が国際原子力機関(IAEA)の求める安全要件や国際基準を満たしていると強調。動的と静的の2種類の安全系を備えており、コンクリート製の二重格納容器や、設計基準外事象の発生時に放射性物質の漏洩を防ぐコア・キャッチャーも装備している1号機はすでに2020年11月に国内送電網に初めて接続され、2021年6月に同国初の商業炉として営業運転を開始した。ルカシェンコ大統領によると、同機はこれまでに125億kWh以上発電するなど順調に稼働しており、電力供給の大部分をロシアからの輸入天然ガスに依存する同国で、30億m3以上の天然ガス利用を削減。同国が節約した天然ガスの輸入経費は、4億ドル以上にのぼっている。(参照資料:ロスアトム社、ベラルシアン原子力発電所の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの3月27日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
28 Mar 2023
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カナダ、米国およびポーランドで、GE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社製の小型モジュール炉(SMR)「BWRX-300」の建設を計画している各事業者は3月23日、GEH社が世界中で同炉の建設プロジェクトを円滑に進められるよう、チームを組んで「BWRX-300」の標準設計開発に協力することで合意した。これら4者の協力合意は同日、関係3か国の政府代表が参加した米ワシントンDCでのイベントで明らかにされた。カナダのオンタリオ・パワー・ジェネレーション(OPG)社は、ダーリントン原子力発電所で2028年末までに「BWRX-300」初号機を完成させることを計画中。2022年10月にカナダ原子力安全委員会(CNSC)に建設許可申請を行うとともに、サイトの準備作業も実施している。米国のテネシー峡谷開発公社(TVA)は、テネシー州クリンチリバー・サイトで「BWRX-300」を建設する可能性に基づき、2022年8月に予備的な許認可手続きを開始した。ポーランドのシントス・グリーン・エネルギー(SGE)社は同国のPKNオーレン社との合弁企業により、2033年以降の完成を念頭に「BWRX-300」初号機の建設サイトの選定作業を始めている。「BWRX-300」の原子炉容器や炉内構造物など、主要機器の標準設計開発や詳細設計にかかる約4億ドルと見積もられる費用の一部をこれら3事業者が負担。カナダや米国、ポーランドも含め、様々な法制が敷かれている複数の国で、「BWRX-300」の許認可手続きや建設工事が可能になるよう、標準設計開発のための「設計センター作業グループ」を共同で設置する方針である。GEH社のJ.ワイルマン社長兼CEOは、「今回の協力体制によってチームのメンバーそれぞれに利益がもたらされるだけでなく、エネルギーの供給保証や脱炭素化を推進するその他の国においてもSMRが果たす役割の有効性が実証される」と指摘。GEH社はSMRの開発と製造にかかるコストの管理に体系的に取り組んでいることから、この協力を通じて「BWRX-300」のコスト面の競争力も強化されるとしている。「BWRX-300」は出力30万kWの次世代原子炉で、2014年に米国の原子力規制委員会(NRC)から設計認証(DC)を取得したGEH社の第3世代+(プラス)型炉「ESBWR(高経済性・単純化BWR)」の技術や機器を最大限に活用している。カナダではすでに今月15日、「BWRX-300」はCNSCが提供している任意の予備的設計評価サービス「ベンダー設計審査(VDR)」の主要部分をクリア。VDRは対象設計がカナダの規制要件に適合しているか、正式な許認可手続きに先立ち評価するもので、GEH社はこの直後の同月21日、「BWRX-300」の原子炉圧力容器(RPV)のエンジニアリング契約を、BWXテクノロジーズ(BWXT)社のカナダ支社に発注した。ポーランドでは、SGE社とPKNオーレン社の合弁企業であるオーレン・シントス・グリーン・エナジー(OSGE)社が2022年7月、「BWRX-300」に対する国家原子力機関(PAA)の包括的な評価見解を求めて、GEH社の技術文書に基づいてまとめた文書を提出している。GEH社はこのほか、同炉を英国の包括的設計審査(GDA)にかけるため、昨年12月に申請書をビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)に提出した。同国の原子力規制局(ONR)と環境庁(EA)は約5年をかけて、対象設計が安全・セキュリティ面と環境影響面で英国の基準を満たしているか評価中である。(参照資料:GE社、OPG社、TVAの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの3月24日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
27 Mar 2023
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米国のBWXテクノロジーズ(BWXT)社は3月21日、GE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社製の小型モジュール炉(SMR)「BWRX-300」について、原子炉圧力容器(RPV)のエンジニアリング契約を受注した。実際の契約業務はカナダ・オンタリオ州にあるBWXT社のカナダ支社が実施予定で、具体的にはRPVのエンジニアリング解析や設計支援、製造および資機材調達の準備など。これは2021年10月、GEH社とBWXTカナダ社が「BWRX-300」の商業化促進に関する協力で合意したことに基づいている。BWXT社のJ.マッコーリー商業活動担当社長は、「『BWRX-300』用RPVのように複雑な機器のエンジニアリング・プロジェクトは当社の得意とするところだ」とコメント。原子力機器の設計・製造で同社が保有する優れたエンジニアリング能力により、北米でのSMR建設に向けた最初の設計契約の一つを効率的に実行していくと述べた。GEH社によると、「BWRX-300」は電気出力30万kWの軽水炉型SMRで、2014年に米原子力規制委員会(NRC)から設計認証(DC)を取得した第3世代+(プラス)の同社製原子炉「ESBWR(高経済性・単純化BWR)」の技術や機器を最大限に活用している。同炉では受動的安全システムが様々な形で組み込まれており、設計を大幅に簡素化したことで、単位出力当たりの資本コストはその他のSMRと比べて大幅に削減されている。 「BWRX-300」はまた、今月15日にカナダ原子力安全委員会(CNSC)が提供している任意の設計評価サービス「ベンダー設計審査(VDR)」の主要段階をクリア。実際の建設に向けて、GEH社は指摘された事項を同炉にフィードバックする方針だ。「BWRX-300」の初号機としては、カナダのオンタリオ・パワー・ジェネレーション(OPG)社がダーリントン原子力発電所内での建設を計画中で、2022年10月に建設許可申請書をCNSCに提出。2028年第4四半期の完成を目指して準備作業を進めており、今年1月に同社はGEH社に加えて、カナダで加圧重水炉(CANDU)事業を手掛けるSNC-ラバリン社、および建設大手のエーコン(Aecon)グループと6年契約でチームを組む協定を締結している。カナダではこのほか、中西部サスカチュワン州のサスクパワー社が州内で「BWRX-300」を建設すると発表、米国ではテネシー峡谷開発公社(TVA)がテネシー州での建設可能性に基づき、予備的な許認可手続きを開始した。また、エストニアのフェルミ・エネルギア社とポーランドのオーレン・シントス・グリーン・エナジー社も、「BWRX-300」の建設を計画している。(参照資料:BWXT社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの3月22日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
24 Mar 2023
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米ジョージア・パワー社は3月20日、ジョージア州のA.W.ボーグル原子力発電所で建設中の4号機(PWR、110万kW)で、温態機能試験を開始したと発表した。燃料の装荷に先立ち、同試験では4台の冷却材ポンプが放出する熱を使って、原子炉システムで通常運転時の温度や圧力が得られるか確認。これらの定常化後は、メイン・タービンについても通常速度で安定的に回転すること等を確認する。同発電所では今月6日、4号機と同型で同じく2013年から建設中の3号機(PWR、110万kW)が米国で約30年ぶりの新規炉として、また同国初のウェスチングハウス(WH)社製AP1000として臨界条件を達成。同機の運転開始は5月か6月になる見通しである一方、4号機については今年の第4四半期後半~2024年第1四半期の終わり頃になるとしている。(参照資料:ジョージア・パワー社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの3月21日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
24 Mar 2023
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英国のロールス・ロイスSMR社は3月21日、フィンランドとスウェーデンで同社製小型モジュール炉(SMR)の建設機会を共同で模索していくため、フィンランドの国有エネルギー企業フォータム社と協力覚書を締結した。同社はまた、ロシアと戦争中のウクライナで住宅や電力設備を再建する動きがあることから、将来的な戦後の復興支援として同国でSMRを建設することを念頭に、20日付でウクライナの民生用原子力発電公社であるエネルゴアトム社とも協力覚書を交わしている。フォータム社は、フィンランド国内でロビーサ原子力発電所を所有・運転する大手エネルギー企業。2022年11月からは、同国とスウェーデンの両国で大型炉やSMRなど原子炉の新設に向けた2年計画の実行可能性調査(FS)を開始した。原子炉の新設を可能にするための必須条件を、これら2か国で技術面や商業面、社会面から特定する方針。同社の戦略的優先事項として、北欧諸国に原子力で信頼性の高いクリーン・エネルギーをもたらし、産業界の脱炭素化を促すとしている。同社がロールス・ロイスSMR社と結んだ協力覚書はこのFSの一部であり、フォータム社は新しいパートナーシップやビジネスモデルに関する調査も実施する。ただし、フォータム社はロールス・ロイスSMR社のほかに、独自のSMRを開発中のフランス電力(EDF)やスウェーデンのプロジェクト開発企業であるシャーンフル・ネキスト(Kärnfull Next)社、およびフィンランド・ヘルシンキ市営のエネルギー企業であるヘレン社ともSMR建設に向けた協力覚書を締結済み。フォータム社としての最終的な投資判断は、後の段階で下すとしている。ロールス・ロイスSMR社は、英ロールス・ロイス社が80%出資する子会社として2021年11月に設立された。同社製SMRは既存のPWR技術を活用した出力47万kWのモジュール式SMRで、少なくとも60年間稼働することができる。同炉はベースロード用電源としての役割を果たすほか、間欠性のある再生可能エネルギーを補うことで、再エネ電源の設置容量拡大を支援。英国では2030年代初頭にも、SMR発電所を送電網に接続することを目指している。ロールス・ロイスSMR社とエネルゴアトム社の協力覚書 ©Energoatomエネルゴアトム社と結んだ協力覚書では、ロールス・ロイスSMR社はSMRの建設を通じて、ウクライナの100万戸以上の世帯に十分な無炭素電力を60年以上にわたり供給し、エネルギーの自給と供給保証の再構築を支援すると表明。同社のT.サムソン社長兼CEOは、「英国の原子力技術でウクライナの速やかな再建を後押ししていきたい」と述べた。これに対してエネルゴアトム社のP.コティン総裁は、「ウクライナは引き続きエネルギーの自給に向けた努力を続けていくが、先進的な原子炉技術が無ければ難しい」と指摘。「今回の協力覚書を通じて、ウクライナは戦後のエネルギー・インフラを高品質なものに作り替え、有望なSMR技術を導入した最初の国の一つになる」と表明している。(参照資料:ロールス・ロイスSMR社、フォータム社、エネルゴアトム社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの3月21日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
23 Mar 2023
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米国政府で海外援助を担当する貿易開発庁(USTDA)は3月20日、インドネシアで米国製小型モジュール炉(SMR)の建設を支援するため、同国の国有電力会社であるインドネシア・パワー社に技術支援金を提供すると発表した。インドネシアがクリーン・エネルギー経済に移行する際の一助となるよう、インドネシア・パワー社は西カリマンタン州で建設する同国初のSMRとして、米ニュースケール・パワー社の「ニュースケール・パワー・モジュール(NPM)」を選定。同社はUSTDAの支援金を使って、ニュースケール社に出資するEPC(設計・調達・建設)サービス企業の米フルアー社や日揮とともに、ニュースケール社が提案する出力46.2万kWのSMR発電設備「VOYGR-6」(出力7.7万kWのNPM×6基)の建設について、技術面や経済面の実行可能性を評価する。具体的な作業としては、詳細なサイト選定計画の策定や送電網に接続するシステムとSMR発電所の設計、環境や社会に対する影響の予備的評価、リスク評価、コスト見積もり、規制体制の見直し等を実施する。USTDAの今回の決定は、バリ島で開催されていた「インド太平洋ビジネス対話」にともない発表された。インドネシアが現在、エネルギー供給を確保しつつ温室効果ガスの排出量を抑える目的でSMRの建設を検討していることから、米国は同国の原子力によるクリーン・エネルギー・プログラムの策定をサポートするため、同国と戦略的パートナーシップを締結している。両国政府が交わしたこのような合意覚書や支援金の交付決定は、G7諸国が発展途上国のインフラ・プロジェクトに資金提供するため設置した「グローバル・インフラと投資のためのパートナーシップ(PGⅡ)」の成果。この合意により、昨年11月に米国や日本がクリーン・エネルギーへの移行に向けたインドネシアの取り組みを支援するため、同国で立ち上げた、「公正なエネルギー移行パートナーシップ(インドネシアJETP)」の目標達成を目指すことになる。米国政府はまた、国務省(DOS)が2021年4月に開始した「SMR技術の責任ある利用のための基盤(FIRST)」プログラムの下、両国間のこれまでの連携協力に基づきインドネシアで新規電源を建設するための支援金として、米国側から新たに100万ドルを交付すると決定。SMR分野の人材育成や許認可、規制関係の支援を提供することになる。これらを通じて、米国はASEAN諸国における安全・確実かつ先進的な原子炉の建設でインドネシアの主導的立場が強化されるよう協力し、2060年までに同国が目指しているCO2排出量の実質ゼロ化をサポートしていく考えだ。インドネシア・パワー社のE.N.プトラ社長は、「長い年月を経て我が国は今こそCO2を排出しないエネルギーで自給自足を達成する」と表明。「SMR建設に向けたUSTDAの技術支援協力を通じて、当社は国立研究革新庁(BRIN)や経済担当調整省、ニュースケール社とともに原子力発電による新たな時代への扉を開けた」と述べた。USTDAのE.T.エボン長官は、「クリーン・エネルギーへの移行に際しインドネシアは米国との協力を強く望み、目標達成の手段として米国の画期的な技術を選択した」と指摘。インドネシアで最も意欲的かつ注目すべきインフラの建設プロジェクトを進めるため、USTDAは唯一無二の役割を果たしていくと表明している。インドネシアでは電力需給のひっ迫等を理由に、1980年代に原子力発電の導入が検討されたが、建設予定地における火山の噴火や地震の可能性、福島第一原子力発電所事故などが影響し、100万kW級大型炉の導入計画はこれまで進展していない。一方、初期投資の小ささや電力網への影響軽減等の観点から、中小型炉への関心は維持されており、インドネシア原子力庁(BATAN)は2018年3月、大型炉導入の前段階として小型高温ガス炉(HTGR)を商業用に導入するため、熱出力1万kWの実証試験炉の詳細工学設計を開始している。(参照資料:USTDA、在インドネシア米国大使館の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの3月20日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
22 Mar 2023
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台湾電力は3月14日、台北に近い國聖原子力発電所2号機(BWR、103.4万kW)を永久閉鎖した。同機は40年の運転期間を満了した。翌15日から同機は廃止措置期間に入っており、行政院の原子能委員会(AEC)は閉鎖後も同機が安全要件を満たしているか引き続き監督する。台湾電力の廃止措置計画では、25年間以内に廃止措置を完了する予定である。AECによると、國聖発電所の使用済燃料貯蔵プールはほぼ満杯であるため使用済燃料を直ちに取り出すことができない。AECは同様の状況にある原子炉の国際的な管理方法を参照して、対応する方針だという。台湾では2016年に民進党の蔡英文総統が就任し、脱原子力に向けたエネルギー政策を立案。立法院は翌2017年1月、「非核家園(原子力発電のないふるさと)」を2025年までに実現するという方針を電気事業法改正案に盛り込み可決したが、2018年11月の公民投票により「2025年まで」という期限は条文から削除されている。 非核家園を目指す方針はその後も維持されており、台湾電力は2018年12月に台湾の商業炉として初めて、金山1号機(BWR、66.6万kW)を閉鎖したほか、翌2019年7月には同2号機(BWR、66.6万kW)を閉鎖。國聖1号機(BWR、102.7万kW)については、40年の運転認可が満了する約半年前の2021年7月に閉鎖している。台湾電力は、國聖2号機の閉鎖にともなう電力不足への懸念に対し、電源開発と送電網の整備に関する長期計画で対応中だと説明。原子力以外の発電設備の年次メンテナンス期間や発電スケジュールを事前に調整し、3月末までに石炭や天然ガスなどの火力で中型と大型のユニットを複数、保守点検から復帰させる。4月にはさらに複数基が再稼働するため、これらの総設備容量は國聖2号機の出力を上回るとした。また、天然ガス火力はCO2の排出量が少ないことから設備の新設を積極的に推進しており、現在5カ所のプロジェクトを同時並行的に進めている。送電網の整備も引き続き強化中で、台湾電力は過去5年間に合計1,000億元(約1兆6,900億円)以上を送電網の改善に投資した。これにより、自然災害や故障等による配電事故や停電件数も、2015年の約15,000件が2022年には約5割減少し、約8,000件になったと強調している。國聖2号機の閉鎖により、台湾で稼働可能な商業炉は馬鞍山原子力発電所の2基(各PWR、約100万kW)のみとなった。建設中だった龍門原子力発電所については、反原子力運動の高まりを受けて国民党の馬英九・前政権が2015年7月、ほぼ完成していた1号機(ABWR、135万kW)を密閉管理としたほか、2号機(ABWR、135万kW)の建設工事を2014年4月に凍結している。(参照資料:原子能委員会、台湾電力の発表資料(中国語)、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの3月14日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
20 Mar 2023
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