ノルウェー南部のハルデン自治体と新興エネルギー企業のノルスク・シャーナクラフト(Norsk Kjernekraft)社、およびエストフォル・エネルギー(Østfold Energi)社は11月10日、かつて研究炉が稼働していたハルデンで小型モジュール炉(SMR)建設の実現可能性を探るため、共同でハルデン・シャーナクラフト社(Halden Kjernekraft AS)を設立した。同社の調査結果に基づき、後の段階で建設の是非を決定する方針だ。3者の発表によると、オスロ特別市や近隣のアーケシュフース県、ハルデンなど18の自治体を含むエストフォル県では目下、160億kWhの電力不足に陥っているという。国内送電網を所有・運営する国営企業のスタットネット社は、この地域で新たな発電・送電容量を追加しない限りこの需要を満たせる設備はなく、現行計画のままでは2035年までこうした設備の追加は望めないと警告している。ハルデンでは1950年代から2018年6月まで、60年以上にわたりエネルギー技術研究所(IFE)がハルデン研究炉(BWR、最大熱出力2.5万kW)を運転。この実績に基づいて同自治体は前日の9日、SMRの立地調査を行なう新会社の設立構想を決定した。同自治体は、「エストフォル県における電力不足の解消策としてSMRを加えるべきか、あらゆる可能性を模索すべき時が来た」と表明している。新たに設立されたハルデン・シャーナクラフト社にはハルデン自治体が20%出資するほか、ノルスク・シャーナクラフト社とエストフォル・エネルギー社がそれぞれ40%ずつ出資。ノルスク・シャーナクラフト社は近年、同国初の商業用原子力発電所となるSMRの建設計画を独自に進めており、この計画についてフィンランドのティオリスーデン・ボイマ社(TVO)のコンサルティング子会社から支援を得るため、今年6月にこの子会社と基本合意書を交わした。ノルスク社はすでにノルウェー国内で複数の立地候補地を特定しており、これらの自治体と結んだ協定に基づき、今月2日には候補地の一つで調査プログラムの実施を石油・エネルギー省に申請している。ノルスク・シャーナクラフト社のJ.ヘストハンマルCEOは、「ハルデンでは原子炉が長期間稼働していたため、適切な判断を下すだけの専門的知見があり住民も抵抗がない」と指摘。長期的な雇用の創出も見込まれることから、原子力が同自治体の電力需要に貢献するか徹底的に調査することは、意義があると述べた。エストフォル・エネルギー社は、エストフォル県の全自治体、および同県が所在するヴィーケン地方の議会が共同保有するエネルギー企業で、ハルデン自治体も7.67%出資している。水力を中心に太陽光や風力など、様々な再生可能エネルギーで電力を供給中だが、同社のM.バットネ取締役は「原子力は再エネの代替エネルギーというより、再エネを長期的に補完していくエネルギーになり得る」と強調。「最新の原子力発電所は、敷地面積が小さく運転時間が長いなど有利な点も多いが、十分な解決策を要する課題も多いため、今回の調査も含めて様々な議論を行うべきだ」としている。(参照資料:ハルデン自治体、ノルスク・シャーナクラフト社、エストフォル・エネルギー社の発表資料(すべてノルウェー語)、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月10日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
15 Nov 2023
1831
オランダのULCエナジー社が同国内で進めている英ロールス・ロイスSMR社製小型モジュール炉(SMR)の建設計画に、同国の建設企業BAMインフラ・ネーデルランド社が加わった。3社はそのための基本合意書に11月7日付で調印しており、ロールス・ロイスSMR社のSMRを標準設計としてオランダで複数基建設し同国のクリーン・エネルギーへの移行を促すなど、長期的に協力していくことを確認した。原子力プロジェクトの開発企業であるULCエナジー社は、2022年8月にオランダ国内でロールス・ロイスSMR社の技術を使用する独占契約を同社と締結。実証済みの技術に基づく最新鋭のモジュール式原子炉の建設を通じて、信頼性の高い安価なエネルギー供給システムを構築することになる。ロールス・ロイスSMR社は、英ロールス・ロイス社が80%出資する子会社として2021年11月に設立された。同社によると、同社製SMRは既存のPWR技術を活用した出力47万kWのモジュール式SMRで、少なくとも60年間稼働が可能。ベースロード用電源としての役割を果たすほか、不安定な再生可能エネルギーを補い、再エネ電源の設置容量拡大にも貢献できるという。2022年4月からは、英原子力規制庁(ONR)と環境庁(EA)が同炉について「包括的設計審査(GDA)」を開始している。また、英政府のビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)(当時)は2021年11月、民間部門で行われている投資支援のため、同社に2億1,000万ポンド(約391 億円)を提供すると約束。ロールス・ロイスSMR社はすでに英国内の建設候補地として、閉鎖済みの原子力発電所サイトなど4地点を選定しており、2030年代初頭にもSMR発電所を送電網に接続することを目指している。国外ではポーランドやウクライナ、スウェーデン、フィンランド等での建設に向けて、協力覚書を結んでいる。BAMインフラ・ネーデルランド社は、欧州の建設大手であるロイヤルBAMグループの傘下企業で、オランダでは150年以上にわたり様々なインフラ設備を建設してきた。ロールス・ロイスSMR社のSMRは、1基でオランダ国内の140万世帯に十分なクリーン・エネルギーを供給できるほか、工場で製造したモジュールを現地で組み立てることで従来の大型炉と比べて工期が短くなり、世界中で幅広く利用が可能と高く評価している。BAMインフラ・ネーデルランド社のS.デンブランケン商業事業開発理事は今回、「戦略的パートナーとなったロールス・ロイスSMR社、ULCエナジー社とともにクリーン・エネルギーへの移行に向けた長期計画を作成する」と表明。「SMRという強力な解決策を通じて、迅速かつリスクを最小限に抑えながらオランダにイノベーションをもたらし、一層持続可能な国にしたい」と抱負を述べた。ロールス・ロイスSMR社サプライチェーン・グループのR.エベレット・グループリーダーは、「ロイヤルBAMグループとは英国子会社のBAMナットル社を通じてすでに協力関係にあるので、今回の合意に基づいて事業機会を模索していく」と表明している。(参照資料:ロールス・ロイスSMR社、BAMインフラ・ネーデルランド社(オランダ語)、ULCエナジー社(オランダ語)の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月8日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
14 Nov 2023
2029
ベルギー原子力研究センター(SCK CEN)、イタリアの経済開発省・新技術・エネルギー・持続可能経済開発局(ENEA)とアンサルド・ヌクレアーレ社、ルーマニアの国営原子力技術会社(RATEN)、および米国のウェスチングハウス(WH)社の5者は11月8日、鉛冷却高速炉方式の小型モジュール炉(SMR-LFR)建設を加速することで、了解覚書を締結した。液体重金属の技術蓄積がある5者が協力し、ベルギー北部のモルにあるSCK CENでSMR-LFRの商業用実証炉を建設。同炉の技術やエンジニアリング面の可能性を実証し、クリーン・エネルギーへの世界的な移行に際し、持続可能なエネルギー源である原子力を主力に位置付けていく考えだ。欧州原子力共同体(ユーラトム)のLFR研究開発プロジェクトでは、ENEAとアンサルド社が主導的役割を担っており、両者はユーラトムのLFR開発ロードマップに明記されたLFR実証炉「ALFRED」(電気出力12万kW)の建設をルーマニア南部のピテシュチ(Pitești)で実現するため、2013年にRATENと「FALCON(Fostering ALfred CONstruction)企業連合」結成の協力覚書を締結していた。今回覚書を結んだ5者は、SMR開発の次の段階の作業として、同計画で過去10年間に行われた設計・建設経験を活用し、商業用SMR建設の経済的、技術的実行可能性等を探る方針だ。覚書への署名はベルギーの首都ブリュッセルで行われ、同国のA.デクロー首相とルーマニアのK.ヨハニス大統領が同席した。また、在ベルギーのイタリア大使館と米国大使館からも代表者が出席している。ベルギー政府は2022年5月、SCK CENに革新的なSMRの研究を委託しており、研究予算として同センターに1億ユーロ(約160億円)を拠出すると表明。 SCK CENは、この研究を切っ掛けに鉛冷却高速炉SMRの実現に向けたパートナーの選定作業を始め、様々な企業が過去数年間に実施した鉛冷却炉関係の技術開発成果に基づいて、今回の5者が決定したという。受動的安全系が組み込まれた鉛冷却高速炉SMRは非常に高い安全性を備えており、原子燃料サイクルにおいては一層効率的な燃料の活用と長寿命放射性廃棄物の削減が可能である。協力覚書を締結した5者は、この有望な技術をコスト面の競争力を持ったエネルギー源として完成させ、それが商業規模で建設されるよう各メンバーが強みを発揮し補完し合う考えだ。 具体的なアプローチとしてSCK CENは、WH社が開発中のLFRを出発点に設定。将来のエネルギー・ミックスに、低炭素で持続可能かつ競争力のある鉛冷却高速炉SMRの電力と熱、水素製造等を提供するため、5者はあらゆる要件を満たせるよう協力する。鉛を冷却材として使用する原子力技術は、ENEAやRATEN、SCK CENなど同技術のパイオニアにとって未知の領域ではないという。これらの機関のノウハウで商業用SMR-LFRの技術を実証した後は、市場投入までの期間を最短にできるよう、WH社とアンサルド社の設計や許認可手続き、建設等での経験を活用。最終的な商業化を目指して盤石な基盤を固め、世界展開を図るという。(参照資料:SCK CEN、RATEN、アンサルド社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月9日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
13 Nov 2023
2074
米国のユタ州公営共同事業体(UAMPS)とニュースケール・パワー社は11月8日、エネルギー省(DOE)のアイダホ国立研究所(INL)でニュースケール社製小型モジュール炉(SMR)の初号機建設を目指した「無炭素電力プロジェクト(CFPP)」を打ち切ると発表した。UAMPSの100%子会社であるCFPP社が進める同プロジェクトでは、電気出力7.7万kWの「ニュースケール・パワー・モジュール(NPM)」を6基備えた発電設備「VOYGR-6」(46.2万kW)で、最初のモジュールを2029年までに完成させることを計画。これに向けて、CFPP社は今年の7月末、建設・運転一括認可(COL)申請の最初の部分となる「限定工事認可(LWA)」を米原子力規制委員会(NRC)に申請しており、2024年1月にはCOL申請の残りの部分を提出するとしていた。今回の発表で両社は、プロジェクトの継続に十分な資金が得られる可能性が低いことが判明したと述べており、協議の結果、最も賢明な判断としてプロジェクトを打ち切ることで合意したと説明している。ニュースケール社は2020年9月、出力5万kWの「NPM」について、SMRとしては初となる「標準設計承認(SDA)」をNRCから取得しており、2023年1月には「設計認証(DC)」を取得した。同じ月に同社は、出力7.7万kWの「NPM」を6基備えた設備についてもSDAを申請したが、NRCは同社に補足資料の追加提出を要求。今年3月から補足資料を必要としない部分について安全関係の審査を開始したものの、同申請を正式に受理したのは7月末のことである。SDA審査はA~Dまで4フェーズで構成されているが、現時点ではニュースケール社からの資料提出待ちの部分が多く、最初のフェーズAも完了していない。UAMPSは、米国西部7州の電気事業者約50社で構成される公共電力コンソーシアム。域内の高経年化した化石燃料発電所を原子力等のクリーン・エネルギーで段階的にリプレースし、クリーンな大気を維持するという独自の「CFPP」を2015年から推進していた。2016年2月にDOEから、INLにおけるSMR建設を許可されており、2020年10月には、NPMを複数基備えた発電設備の建設・実証を支援する複数年の補助金として13億5,500万ドルを獲得している。CFPP社の「VOYGR-6」の建設については、ニュースケール社が2022年12月に最初の長納期品(LLM)製造を韓国の斗山エナビリティ社に発注。原子炉圧力容器(RPV)の上部モジュールを構成する大型鍛造品や蒸気発生器の配管等を調達するとしていた。ニュースケール社のJ.ホプキンズ社長兼CEOは今回、「過去10年以上にわたるCFPPのお陰で、当社の技術は商業炉の建設段階まで到達した。今後は国内外のその他の顧客とともに当社の技術を市場に届け、米国における原子力製造基盤の成長や雇用の創出に貢献したい」と述べた。UAMPSのM.ベイカーCEOは、「当社も含めた関係各位のCFPPに対するこれまでの努力を思うと、この決定は非常に残念だが、CFPPで我々は多くの貴重な教訓を学んでおり、UAMPS会員の将来のエネルギー需要を満たすため、今後の作業を進めていく」としている。米国内ではこのほか、ウィスコンシン州のデーリィランド電力協同組合が2022年2月、供給区内でニュースケール社製SMRの建設可能性を探るため、了解覚書を締結した。国外では、ポーランドの鉱業大手のKGHMポーランド銅採掘会社が2022年2月、「VOYGR」設備の国内建設に向けてニュースケール社と先行作業契約を交わしている。また、ルーマニアでは同年5月、南部のドイチェシュティで「VOYGR-6」を建設するため、国営原子力発電会社とニュースケール社、および建設サイトのオーナーが了解覚書を結んだ。(参照資料:ニュースケール社、UAMPSの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月9日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
10 Nov 2023
13016
欧州連合(EU)の執行機関である欧州委員会(EC)のK.シムソン・エネルギー問題担当委員は11月7日、EU域内で小型モジュール炉(SMR)の建設を加速し、熟練の労働力を含めた堅固なSMRサプライチェーンを確立するため、「欧州SMR産業アライアンス(European Industrial Alliance on SMRs)」を設置すると発表した。これはEU域内の原子力産業界や研究機関、原子力規制当局等の要請に基づくもので、エネルギー・ミックスにSMRを加えると決めた加盟国が今後10年以内にSMRを自国で建設し、それぞれの脱炭素化目標達成に活用できるよう、ECは2024年初頭のSMR産業アライアンス設置を目指すとのこと。シムソン委員のこの発表は、ECがスロバキアの首都ブラチスラバで開催した「欧州原子力フォーラム(ENEF)」の冒頭演説で明らかになった。同委員はその前日、「欧州におけるSMR協力」の関係イベントでも同様の発言をしており、「欧州が原子力の技術面や産業面でリーダーシップを維持することは重要であり、ECにはSMR産業アライアンスの設置を進める準備ができている」と表明していた。同委員によると、SMR産業アライアンス設置の背景には、EUが2050年までのCO2排出量実質ゼロ化に向け、次の10年間に野心的な削減目標を達成するには、再生可能エネルギー等のあらゆる低炭素電源が必要になる。域内では脱炭素化のみならず電力供給の確保など、多くの課題の解決に原子力の果たす役割が改めて注目されており、いくつかの加盟国は従来の大型炉開発の先にあるSMR技術に強い関心を抱いている。こうした状況から、同委員は「SMR技術を完成させる上でEUが主導的な役割を果たせると確信しているが、それには遅くとも10年以内に最初のSMRを欧州の送電網に接続することを目標に定めねばならない」と指摘した。また、欧州原子力産業協会(nucleareurope)はSMRについて、CO2を多く排出する産業部門の脱炭素化に有効なほか、雇用を生み出すとともに、EU経済の成長にも資するなど、数多くの恩恵をEU域内にもたらすと強調している。同協会のY.デバゼイユ事務局長は、「資金調達や安全な設計、建設と運転といった条件の特定などSMRアライアンス設置の前提基盤は、その前身としてECが設置した『欧州SMRプレ・パートナーシップ』が築いたものだ」と指摘。「ECがこのような重要技術の将来的な活用に全面的な支援を表明したことは非常に喜ばしい」と述べた。EU域内でSMRの安全で効率的、かつ確実な開発を促すため、同アライアンスは以下の4分野に集中的に取り組む。エネルギー多消費産業が必要とするエネルギー需要量とSMRが提供できる解決策について、市場が積極的に取り組むことを奨励する。SMR開発を財政面で支えるため、開発リスクとリターンをシェアするコスト分担型の協力や個々の開発プロジェクトへの資金援助等を検討する。EUサプライチェーンにおけるSMRの活用レベルを高め、熟練労働力の確保に向けた教育・訓練が強化されるよう、原子力産業界の中で十分な体制を整える。SMR関係の技術革新と研究開発を支援するため、関係プログラムの推進に必要な資源を特定する。(参照資料:EC、欧州原子力産業協会の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月7日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
09 Nov 2023
1701
スウェーデン国営のバッテンフォール社は11月1日、ヴェーロー半島にあるリングハルス原子力発電所(PWR×2基、各約120万kW)の西側に小型モジュール炉(SMR)を少なくとも2基建設するため、詳細計画の策定申請書を地元ヴァールベリ市に提出すると発表した。同社はすでに同半島で約1km2の土地を確保済みだが、9月からは建設準備に向けて追加分の土地購入手続きを開始。建設の最終投資判断(FID)は、必要な許認可をすべて取得した後に下す予定で、初号機の運転開始は2030年代初頭を目指している。今回の申請書では、現時点の計画として「運転エリア」に原子炉建屋や補助建屋を建設するほか、「諸活動エリア」で作業工場や貯蔵所、事務スペース、食堂などを設置する青写真を提示。今後はリングハルス発電所の既存インフラを、新規SMRとどの程度共有できるか調査していく。スウェーデンでは2022年9月の総選挙で中道右派連合の新政権が発足し、同年10月のティード城における政策協議で、環境法に記されている原子力発電関係の禁止事項(新たなサイトでの原子炉建設禁止、同時に運転できる原子炉の基数は10基まで、閉鎖済み原子炉の再稼働禁止)を撤廃すると決定。2040年までにエネルギー供給システムを100%非化石燃料に変更するため、2026年までに合計4,000億クローナ(約5兆5,000億円)の投資を行い、原子炉の建設環境を整えるとした。今年1月には、U.クリステション首相が環境法の改正を提案しており、政府は9月末に同法の改正法案を議会に提出、2024年1月初頭にも同法案が成立・発効することを目指している。バッテンフォール社は2022年6月から、リングハルス発電所でSMR建設に向けた諸条件の予備調査を始めており、急速な増加が見込まれる電力需要を非化石燃料電源で賄えるか調査中。リングハルス発電所では2020年末までに1、2号機が永久閉鎖されたことから、従来の大型炉やSMRであっても、既存の環境法の規定範囲内でリプレース用原子炉としての建設が可能である。また、送電インフラが整っており新設炉との接続が容易であるなど、同社は複数の理由から建設に適していると判断、この予備調査は年末までに完了する見通しだ。同社はこのほか、今春から環境影響声明書(EIS)の作成に向けて地盤調査などのフィールドワークを開始。夏以降は、原子炉ベンダーへの要求事項に関する作業も開始したことを明らかにしている。なお、政府の気候・ビジネス省は11月2日、エネルギー供給システムの100%非化石燃料化に向けて、原子炉建設に関する許認可手続きの迅速化と簡素化に向けた分析調査を開始した。大型炉やSMRの建設加速の条件整備には、規制の枠組みや申請審査等の効率化が欠かせないとの判断によるもの。これにより、安全保障の基本要件でもある盤石なエネルギー供給システムを確保するとしている。(参照資料:バッテンフォール社の発表資料(スウェーデン語)①、②、スウェーデン政府の発表資料(スウェーデン語)、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月6日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
08 Nov 2023
1694
ノルウェーの新興エネルギー企業であるノルスク・シャーナクラフト社(Norsk Kjernekraft AS)は11月2日、国内で複数の小型モジュール炉(SMR)を備えた発電所の建設を石油・エネルギー省(OED)に提案した。最初の正式手続きとして、立地候補地の一つで調査プログラムを申請したもので、商業炉を持たないノルウェーでOEDがこのプログラムを承認すれば、同社は環境面や技術面、経済面、および安全面の影響評価を開始することができる。今回の調査プログラムは、同国西部ノルウェー海側のアウレ(Aure)自治体とハイム(Heim)自治体の境界に位置する共同工業地帯でのSMR建設に向けたもの。今年4月に、同社がこれらの両自治体、および北極圏のナルビク(Narvik)自治体と同プログラムの実施協定を締結したのにともなう措置で、6月には同社は、バレンツ海に面したヴァ―ドー(Vardø)自治体とも同様の協定を締結している。これら地区の適切なエリアでSMRを建設すれば、地区内のCO2排出量が削減されるだけでなくグリーン産業が新たに根付くと同社は指摘した。また、複数のSMRを備えた発電所により同社は年間約125億kWhを発電し、ノルウェーの総発電量は約8%増加すると予測。ノルウェーのクリーン・エネルギーへの移行にも大きく貢献すると強調している。ノルスク・シャーナクラフト社は、2022年7月に同国の民間投資会社のMベスト・グループが設立した企業。核物理学や核化学、石油産業等についての専門社員で構成されおり、ノルウェー国民や産業界がクリーンで価格も手ごろなエネルギーを確実に得られるようにすることを企業戦略としている。現段階では電力多消費産業との協力によりSMRの立地サイトを選定中で、その後は国の原子力規制や国際的な基準に則り許認可手続き等の実施準備を進めていく。同社はすでに今年3月、英国のロールス・ロイスSMR社と了解覚書を締結しており、将来的に同社製SMRの建設プロジェクトを立ち上げる可能性について協力することになった。ノルスク社はこの建設計画について透明性を持って進めると明言しており、許認可手続き等には地元住民を交える方針。環境等の影響評価でSMR発電所の影響が許容範囲内と判明すれば、ノルウェーの法規に則って許認可手続きを開始するが、同社は建設の最終投資判断を下す前には、それ以外にも様々な重要手続きを踏まねばならないと説明している。同社のJ.ヘストハンマルCEOは、「どれだけ迅速に許認可手続きを進められるかにもよるが、アウレとハイムでは自治体も住民も受入れを表明しており、当社は今後10年以内にSMR発電所の運転が可能だ」と指摘。「ノルウェーでは現在エネルギー消費量の約半分を化石燃料に依存しているが、メンテナンスを適切に行なえば100年利用できるという原子力発電所によって、電化が大幅に進むだけでなくCO2の排出量も抑えられる」と強調している。(参照資料:ノルウェー・シャーナクラフト社の発表資料(ノルウェー語)①、②、③、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月3日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
07 Nov 2023
1812
フランス国営のフランス電力(EDF)が約8割出資するフラマトム社と、カザフスタンの国営原子力企業であるカザトムプロム社は11月1日、原子燃料サイクル関係の協力を拡大することで合意した。同分野における専門家の教育・訓練に関しても、有望な共同プロジェクトをさらに模索し、相互に利益が得られるよう協力関係を築いていく考えだ。この合意文書への調印は、カザフのK.-J.トカエフ大統領の招きによりフランスのE.マクロン大統領が主要企業の代表者らとともにカザフを公式訪問し、首都アスタナで「仏-カザフ・ビジネス・フォーラム」への参加に合わせて行われた。フランス代表団には、O.ベシュト外務大臣付 貿易・誘致・在外フランス人担当大臣と、R.レスキュール経済・財務・産業及びデジタル主権大臣付 産業担当大臣も含まれている。両国はすでに長期にわたり戦略的協力関係にあり、2021年11月に東カザフスタン州のオスケメンでカザトムプロム社が操業開始した同国初の燃料集合体(FA)製造工場「ウルバ-FA」には、フラマトム社が「AFA 3G型燃料集合体」の製造ライセンスや主要な製造機器、技術情報、関連人材等を提供した。同工場は、カザトムプロム社傘下のウルバ冶金工場(UMP)が51%出資しているほか、中国広核集団有限公司(CGN)傘下の中広核鈾業発展有限公司(CGNPC URC)が49%出資しており、実質的に中国の原子力発電所専用のFA製造施設である。カザフはウラン生産量で世界第一位であり、欧州で必要とされるウランの4分の1以上を供給。フランスには原油も輸出しているため、両国間の協力の中でもエネルギー分野を特に重視している。原子力はフランスのエネルギー部門の主力産業であることから、カザフ政府は両国の協力拡大の意義は非常に大きいと考えている。フラマトム社のB.フォンタナCEOは、「今回カザトムプロム社との協力強化で合意したことは、これまでに行われたプロジェクト協力で両社間に確かな信頼関係が築かれたことの証左だ」とコメント。カザトムプロム社のM.ユスポフCEOは、「カザフの原子燃料サイクル関係プロジェクトでは、フラマトム社は戦略的に最も重要なパートナーの一つ」と強調した。なお、マクロン大統領率いるフランス代表団は、同じ時期に近隣のウズベキスタンも訪問。両国の大統領は共同声明の中で、グリーン・エネルギーや先進技術、戦略的鉱物資源などの分野で持続的な開発協力を行うとしている。(参照資料:フラマトム社、カザトムプロム社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月3日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
06 Nov 2023
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米国で先進的な小型モジュール炉(SMR)や燃料を開発中のX-エナジー社は10月31日、ニューヨーク証券取引所への上場に向けて、2022年12月に特別買収目的企業(SPAC)((特別買収目的企業(SPAC)は未公開会社の買収を目的として設立される法人。))のアレス・アクイジション社(Ares Acquisition Corporation=AAC) と結んだ合併契約を解除すると発表した。同契約の締結以降、合併手続きを進めるなかで、X-エナジー社には多くの投資家から強い関心が寄せられていた。しかし、課題の多い金融市場環境や同業者の取引実績、上場企業であることのメリットやデメリットなどを考慮した結果、現時点ではこの手続きを進めないことが最良の道と判断し、両者は合併契約解消に合意した。X-エナジー社は、熱電併給可能な第4世代の非軽水炉型・小型高温ガス炉(HTGR)となる「Xe-100」(電気出力8万kW)を開発中。ベースロード用電源としての役割に加えて、水素製造や海水脱塩など幅広い用途に利用可能なことから、米エネルギー省(DOE)は2020年10月、「先進的原子炉設計の実証プログラム(ARDP)」の支援対象企業の一つに同社を選定した。X-エナジー社は2022年8月に「Xe-100」の基本設計を完了しており、同じ月に大手化学メーカーであるダウ(Dow)社がメキシコ湾岸の自社施設の一つで同炉を4基建設するため、X-エナジー社と基本合意書を締結。その後2026年の実証炉着工に向けて、「共同開発合意書(JDA)」を交わしている。また、今年7月には、北西部ワシントン州の電気事業者であるエナジー・ノースウエスト社が、コロンビア原子力発電所の隣接区域で「Xe-100」を最大12基建設することを計画。2030年までに最初のモジュールを運転開始するため、X-エナジー社とのJDAに調印した。X-エナジー社のJ.C.セルCEOによると、基本設計が完了した「Xe-100」は現在「最終設計の準備状況審査」の段階にあり、米エネルギー省(DOE)と国防総省(DOD)の両方から、同技術による可搬式マイクロ原子炉の商業化に向けた支援を得ることになった。同CEOは、「当社独自のクリーン・エネルギー技術や競争上の優位性、戦略を実行して、顧客とステークホルダーの利益に貢献したい」と抱負を述べた。合併契約の実際の打ち切りに当たり、AAC社は定款に明記された期限内での解除は難しいと判断している。同定款の規定に沿ってこの期限を調整するほか、発行済みのX-エナジー社株を11月7日頃までに一株当たり0.0001ドルですべて買い戻す方針。ニューヨーク証券取引所に対しては、同社株の上場廃止申請書を米証券取引委員会に提出するよう要請する考えだ。(参照資料:X-エナジー社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月31日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
02 Nov 2023
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チェコの国営電力(CEZ社)は10月31日、ドコバニ原子力発電所(ロシア型PWR×4基、各51万kW)で建設するⅡ期工事の最初の1基となる5号機について、100%子会社のドコバニⅡ原子力発電会社(EDU Ⅱ社)が大手ベンダー3社から入札の最終文書を受領したと発表した。2022年3月に始まったこの入札には、EDU Ⅱ社の安全・セキュリティ面の資格審査を通過した米ウェスチングハウス(WH)社とフランス電力(EDF)、および韓国水力・原子力会社(KHNP)が参加。3社は同年11月末に最初の入札文書を提出しており、ドコバニ6号機とテメリン原子力発電所(ロシア型PWR×2基、各108.6万kW)の3、4号機についても、法的拘束力を持たない意向表明として増設を提案している。これらの原子炉に採用する炉型として、WH社は中国と米国ですでに商業炉が稼働している120万kW級PWRの「AP1000」を提案。EDFは、中国で稼働実績があり欧州でも建設中の「欧州加圧水型炉(EPR)」について、出力を120万kW級に縮小した「EPR1200」を建設するとした。また、CEZ社のウェブサイトによると、KHNP社はアラブ首長国連邦(UAE)に輸出実績のある140万kW級PWR「APR1400」の出力縮小版、「APR1000」を提案したと見られている。EDU Ⅱ社は今後、国際原子力機関(IAEA)の勧告事項に基づき設定した評価モデルで、各社の提案を技術面や商業面から評価し、報告書を産業貿易省に提出する。チェコ政府としてこれらのうち1社を最終決定した後は2024年中に契約を締結。2036年に試運転の準備が整うよう、建設プロジェクトの計画文書を作成する計画だ。同社は増設計画におけるその他の関係業務も進めており、2019年9月に環境省が増設計画の包括的環境影響評価(EIA)に好意的な評価を下した後、2020年3月にⅡ期工事の立地許可を原子力安全庁(SUJB)に申請した。5、6号機は既存の4基の隣接区域に建設されることになっており、SUJBは翌2021年3月に同許可を発給している。WH社の発表によると、米国政府は同社とベクテル社の企業連合がこの増設計画を落札できるよう、全面的にサポートする方針である。チェコ駐在のB.サベト米国大使は「エネルギーの戦略的供給保障面から見て、米国の技術は地球温暖化に対抗可能な、信頼できるクリーン・エネルギー源を提供するだけでなく、チェコの原子力サプライチェーンで数千人規模の雇用を創出する可能性がある」と指摘、米国とチェコの双方にメリットがあるとした。WH社はまた、チェコの原子力産業界とは約30年前から協力関係にある点を強調。ロシア型PWR(VVER)用の原子燃料を製造できる西側諸国で唯一のサプライヤーとして、VVERが稼働するドコバニとテメリンの両発電所に2024年から原子燃料の供給を開始するとしている。EDFは今回、「子会社であるフラマトム社のノウハウと工業技術力により、原子炉系統の機器や計装制御(I&C)系を提供できる」と表明。タービン系統に関しては、低速タービン「アラベル」の開発企業である仏アルストム社を米GE社が2015年に買収したことから、EDFと長年パートナー関係にあるGEスチーム・パワー社が同タービン付きのものを供給する。また、2022年6月にプラハに設置したEDFの原子力支部を拡張し、チェコのサプライヤー企業約300社との長期的な協力に向けた調整活動を行うほか、EDFが後援する「チェコ・フランス原子力アカデミー」が10月に正式開校したことから、チェコにおける原子力人材の育成を支援するとしている。(参照資料:CEZ社の発表資料①、②、WH社、EDFの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月31日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
01 Nov 2023
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OECD/NEA(経済協力開発機構/原子力機関)は10月26日、小型モジュール炉(SMR)や先進的原子炉が排出する放射性廃棄物の管理戦略を統合するため、新たに開始する共同プロジェクト「Joint Project on Waste Integration for Small and Advanced Reactor Designs (WISARD)」で、米国電力研究所(EPRI)と協力することを発表した。NEAのW.マグウッド事務局長とEPRIのN.ウィルムシャースト上席副理事長が合意したのにともない、EPRIは「WISARD」への最初の資金拠出者になると同時に、SMRや先進的原子炉の持続的な活用に関するNEAの継続的な取り組みも支援。同プロジェクトでは、原子力発電のライフサイクルにおけるすべての分野から専門家を集め、SMRや先進的原子炉などの革新的な発電システムが、同じく革新的な廃棄物管理ソリューションをどのような形で必要とするかを検討していく。NEAは今年から2024年にかけて、同プロジェクトのカバー範囲を決定した後、2024年第3四半期にもプロジェクトを正式に始動。2027年まで3年間継続する計画だ。NEAの説明によると「WISARD」は、持続可能な原子力発電システムになり得るSMRと先進的原子炉、およびそれらで使用する革新的な原子燃料への、世界的な関心の高まりから発足したプロジェクト。「WISARD」の作業プログラムでは具体的に、原子炉の設計や燃料製造等のフロントエンドがバックエンド戦略に及ぼす影響などを探る。原子炉開発の初期段階から持続可能な廃棄物管理戦略を統合するというもので、SMR等の使用済み燃料や放射性廃棄物に特有の特性に焦点を当てて、前例のない国際的な知識基盤を構築する。その後は同基盤の知見に基づき、次世代の使用済み燃料や放射性廃棄物に対する現在の管理ソリューションの適合性を評価する方針で、 これらの廃棄物に関し、①長期的な処分、②輸送、③処理とリサイクルおよび再処理、④中間貯蔵――の主要トピックに焦点を当てていく。原子炉の設計等がバックエンドに与える影響を評価することにより、将来的な課題を早期に特定し、原子炉ベンダーや発電事業者、政府機関に、不要なコストをかけずに効率的かつ持続可能な方法で解決策を提供できるとNEAは説明。EPRIは科学者やエンジニア、政府、学術界との協力により、原子炉の設計から閉鎖に至るまで技術革新を推進してきたことから、その広範な経験が「WISARD」に活かされると考えられている。EPRI はまた、エネルギー部門の広範なニーズを特定することでエネルギーの未来図を描くことを目指している。NEA は次世代原子炉の持続可能性支援に向けて、今後も国際的な規模で追加の協力参加者を募ると表明している。(参照資料:OECD/NEAの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月27日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
31 Oct 2023
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米国で先進的原子炉と燃料の技術を開発中のX-エナジー社は10月25日、同社製の先進的マイクロ原子炉の商業化に向けた支援を得るため、米エネルギー省(DOE)と協力協定を締結した。同社はすでに、開発中の小型高温ガス炉「Xe-100」(電気出力8万kW)の初号機建設や、同炉で使用するHALEU燃料(U235の濃縮度が5~20%の低濃縮ウラン)の商業規模の製造施設建設に向けて、DOEの様々なプログラムから支援を受けている。DOEの原子力局と結んだ今回の協定では、同社製のマイクロ原子炉を備えた運搬可能なプラントで、0.3万kW~0.5万kWの電力を火力発電との競合価格で発電することを目指し、2024年末までの期間にDOEから総額250万ドルの支援を受けるとしている。「Xe-100」に対しては、DOEはこれまでにエネルギー高等研究計画局(ARPA-E)の「知的原子力資産による発電管理(GEMINA)プログラム」の下で、2020年5月に600万ドルの補助金交付対象に選定した。GEMINAでは次世代原子力発電所の運用・保守(O&M)コストを10分の1に削減し、経済性や柔軟性、効率性を高めることを目指しており、X-エナジー社は発電プラントにおける自動化技術やロボット、遠隔メンテナンスなど、先進的技術の活用に取り組んでいる。X-エナジー社はまた、2020年10月にDOEの「先進的原子炉実証プログラム(ARDP)」における初回補助金の交付対象の一つとして選定され、「Xe-100」の実証炉建設に向けた7年間の補助金として総額12億ドルが交付されることになった。その一部は、同炉で使用する3重被覆層・粒子燃料(TRISO燃料)の商業規模の製造施設を、テネシー州オークリッジで建設する計画にも利用される。同社はさらに、DOEの「新型原子炉概念の開発支援計画(ARC)」の下で、2022年8月に「Xe-100」の基本設計を完了している。X-エナジー社製のマイクロ高温ガス炉については、国防総省(DOD)の戦略的能力室(SCO)が2020年3月、遠隔地における軍事作戦用・可搬式マイクロ原子炉の設計・建設・実証を目的とした「プロジェクトPele」の候補炉型の一つとして選定。同プロジェクトでは最終的に、BWXテクノロジーズ(BWXT)社の先進的HTGRで原型炉を建設することになったが、DODは今年9月、候補設計段階にX-エナジー社と結んだ契約の範囲を拡大し、同社製のマイクロ高温ガス炉を民生用にも商業利用できるよう原型炉の設計を進めると発表。既存契約の範囲内で1,749万ドルをX-エナジー社に交付すると表明していた。X-エナジー社は現在、DOEとDODの両方と結んだ補助金契約に基づき、市場で商業的に活用可能な原子炉の開発を同時並行的に進めている。同社の主任エンジニアは「2つの省からサポートを受けて、軍事用と民生用両方のニーズに合わせた設計を低コストで提供していく」とコメント。「プロジェクトPeleにより、送電網が届かない地域でディーゼル発電を代替し、災害時の救助にも使える無炭素電源の建設にまた一歩近づける」と表明している。(参照資料:X-エナジー社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月26日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
30 Oct 2023
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国際エネルギー機関(IEA)は10月24日、世界のエネルギー部門の長期動向を予測・分析した年次報告書「世界エネルギー見通し(WEO)」の2023年版を公表した。2030年までに世界では電気自動車(EV)の台数が現在の約10倍に増加し、電源ミックスにおける再生可能エネルギーの発電シェアは2022年の約30%から50%近くに上昇するものの、世界の平均気温の上昇を産業革命以前との比較で1.5℃以下に抑えるには、一層強力な政策が必要だとIEAは警告。WEOで設定した3通りの予測シナリオでは、いずれの場合も低炭素電源による発電量が増加する見通しで、原子力については各国の現行エネルギー政策下で、世界全体の原子力発電設備容量が2050年に6億2,000万kWまで拡大する可能性があると指摘している。WEO 2023によると、世界ではエネルギー供給システムが2030年までに大変革を遂げ、太陽光や風力、EV、ヒートポンプ等のクリーン・エネルギーが工場での生産や家電、暖房にいたるまで拡大。各国政府のエネルギー政策や地球温暖化対策をさらに本格的かつスケジュール通りに進めた場合、クリーン・エネルギーへの移行は一層速やかに進展する。また、世界中でクリーン・エネルギー技術が急速に進展しており、これが各国経済の構造変化と組み合わさったため、この10年間に石炭や石油、天然ガス等の化石燃料が需要のピークを迎えることになったが、これは現行のエネルギー政策に基づくWEOのシナリオで初めて起こったこと。世界のエネルギー供給における化石燃料のシェアは過去数十年間に約80%だったが、この数値は2030年までに73%に低下。世界のエネルギー部門におけるCO2排出量も2025年までにピークに達することになる。IEAのF.ビロル事務局長は「クリーン・エネルギーへの移行は世界中で進展中だが、進展速度が問題」と指摘。早ければ早いほど良いのは当然のこととして、同事務局長はこの移行により、「新たな産業の機会と雇用、より優れたエネルギー供給保障、クリーンな大気、誰もがアクセスできるエネルギー源、そしてすべての人にとって一層快適な気候など、計り知れない恩恵が提供される」と指摘。「今日のエネルギー市場で進行している緊張や不安定性を考慮すると、石油とガスが世界の将来的なエネルギーや気候にとって安全または確実な選択肢であるという主張は、根拠が弱い」と強調している。世界の電力供給IEAによると、近年の世界的なエネルギー危機への対応としては、発電部門でクリーン・エネルギーへの移行が特に加速されており、また、供給保障への取り組みが一層強化される形になっている。中国や欧州連合(EU)、インド、日本、米国といったエネルギーの大規模市場では、再生可能エネルギーが拡大する動きが高まっているが、日本や韓国、米国など多数の国が既存の原子炉の運転期間延長を支援するなど、原子力に対する見通しも改善される傾向にある。また、カナダや中国、英国、米国、および複数のEU加盟国では、原子炉新設への支援も行われている。このように低炭素電源全体の発電量は、「現状政策シナリオ(STEPS)=各国政府が実際に実施中、あるいは発表した政策のみを考慮したシナリオ」で、2022年から2050年までの期間に4倍に拡大するほか、「発表誓約シナリオ(APS)=各国政府の誓約目標が期限内に完全に達成されることを想定したシナリオ」で、2050年までに現状レベルの5.5倍に、「持続可能な発展シナリオ(NZE)=2050年までにCO2排出量を実質ゼロ化するというシナリオ」では、7倍に増大するとIEAは予測。発電シェアも2022年に39%だったものが「STEPS」で2050年までに約80%、「APS」で90%以上に増加するほか、「NZE」では100%近くになるとしている原子力についてIEAは、低炭素電力の発電量では水力に次いで世界で2番目の規模だと説明。先進諸国においては最大の発電量となっており、福島第一原子力発電所事故後の約10年間に停滞していた開発政策は、原子力回帰の方向に状況が変化しつつある。世界全体で2022年に4億1,700万kWだった原子力の設備容量が、2050年には「STEPS」で6億2,000万kWに拡大すると予測しており、この拡大には、主に中国その他の新興市場や、発展途上国における開発が貢献するとの見方を示した。一方、先進諸国では既存炉の運転期間延長政策が広く普及すると見ており、新規の建設プロジェクトは閉鎖される原子炉の容量を補う程度は確保される。3つすべてのシナリオで、先進的原子炉設計も含めた大型炉の建設が主流となるが、小型モジュール炉(SMR)への関心も、原子力利用の長期的な可能性を増大させている。原子力推進国における運転期間延長や新規建設により、世界の原子力設備は「APS」で2050年までに7億7,000万kWに、「NZE」では9億kWを超えるとIEAは指摘している。日本と韓国における主要エネルギーの傾向WEO 2023ではこのほか、地域別の考察で日本と韓国を一項目にまとめて取り上げている。日本のGX政策および韓国の長期電力需給基本計画に基づき、両国では「STEPS」シナリオで現在約65%の石炭と天然ガスのシェアが今後数十年間に急速に低下すると予測。一方、太陽光や風力、原子力のシェアは大幅に拡大し、低炭素電源全体のシェアは現在の30%から、2050年までに約85%に達する見通しだ。IEAによると、両国はともにクリーン・エネルギーへの確実な移行に向けて、電源ミックスや具体的な道筋を定めなくてはならない。発電部門で両国は太陽光への投資を進めているものの、現時点で石炭や天然ガスといった化石燃料に発電量の三分の二を依存。発電部門の脱炭素化には、原子力や洋上風力といった電源が大きく貢献する可能性があり、IEAのシナリオでは、これらの果たす役割が急速に増大する見通し。「STEPS」と「APS」ではいずれも、2050年までに総発電量に対する原子力のシェアが75%拡大すると予測している。(参照資料:IEAの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月24日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
27 Oct 2023
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米エネルギー省(DOE)は10月23日、国内でマイクロ原子炉を開発中のウェスチングハウス(WH)社、ウルトラ・セーフ・ニュークリア社(USNC)、およびスタートアップ企業のラディアント(Radiant)社と、総額390万ドルの基本設計・実験機設計(FEEED)契約を締結した。この契約金は、DOE傘下のアイダホ国立研究所(INL)内にある国立原子炉イノベーション・センター(NRIC)が提供するもので、NRICのFEEEDプロセスに沿って、WH社のマイクロ原子炉である「eVinci」、USNC社の「Pylon」、ラディアント社の「Kaleidos」の商業化を促進。具体的にはNRICの新しい「マイクロ原子炉実験機の実証用(Demonstration of Microreactor Experiments=DOME)テストベッド」を使って、3社の設計作業や機器の製造、燃料を装荷した実験機の建設と試験に際し、支援を提供する。NRICは、INLで30年以上運転された「実験増殖炉II(EBR-II)」の格納ドームを利用してDOMEテストベッドを建設中。DOEは早ければ2026年にもDOMEテストベッドでマイクロ原子炉の実験機試験を開始する計画で、3社が試験にかける経費を削減してプロジェクト全体のリスクを軽減するなど、これらの開発が一層迅速に進むよう促す方針だ。DOEのK.ハフ原子力担当次官補は、「今回のFEEED契約により、3社のマイクロ原子炉はさらに一歩、実現に近づいた」と指摘。「これらの原子炉は、クリーン・エネルギーへの移行を目指す様々なコミュニティに複数の選択肢を提供することになる」と述べた。WH社の「eVinci」はヒートパイプ冷却式の原子炉で、電気出力は0.2万kW~0.5万kW。DOEは2020年12月、官民のコスト分担方式で進めている「先進的原子炉実証プログラム(ARDP)」の支援対象に選定しており、7年間に総額930万ドル(このうち740万ドルをDOEが負担)を投じて、2024年までに実証炉を建設する計画である。今回のFEEED契約による資金で、WH社はINLにおける5分の1サイズの実験機建設計画を策定。最終設計の決定や許認可手続きに役立てたいとしている。USNC社の「Pylon」は、第4世代の小型高温ガス炉(HTGR)として同社が開発中の「マイクロ・モジュラー・リアクター(MMR)」(電気出力0.5万kW~1万kW、熱出力1.5万kW)の技術に基づいている。MMRよりさらに小型で、送電網が届かない地域や宇宙への輸送が容易。「Pylon」1基あたりの電気出力は0.15万kW~0.5万kWだが、複数基連結することで出力を増強することが可能である。ラディアント社の「Kaleidos」は、電気出力が最大0.1万kW、熱出力は0.19万kWの小型HTGR。遠隔地域のディーゼル発電機を代替するほか、軍事基地や病院、データセンターその他の戦略的インフラ施設に確実にエネルギーを供給。陸上や海上の輸送のみならず空輸が可能であり、立地点では一晩で設置することができる。同社のD.バーナウアーCEOは今回の契約締結について、「2026年に『Kaleidos』で試験を行い、2028年に最初の商業炉を建設するという当社のスケジュールが保たれる」と強調。V.バッギオCOO(最高執行責任者)も、「DOMEテストベッドでの試験では『Kaleidos』の安全性やその他の性能に関する重要データが得られるので、そうしたデータやその分析結果を原子力規制委員(NRC)に提出することで、商業化に向けた許認可手続きが前進する」と指摘した。(参照資料:DOE、WH社、ラディアント社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月24日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
25 Oct 2023
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カナダのブルース・パワー社は10月20日、オンタリオ州のブルース原子力発電所で検討している最大480万kWの増設計画について、周辺住民や環境等に対する潜在的な影響の評価(IA)プロセスを開始し、将来的にサイト準備許可(LTPS)を申請する方針を、カナダ原子力安全委員会(CNSC)と連邦政府のカナダ環境影響評価庁(IAAC)に書簡で正式に伝えた。オンタリオ州政府は今年7月、州経済の成長に必要な電力を長期的に確保する構想「Powering Ontario’s Growth」を公表。経済成長のほかに、地球温暖化の影響緩和や州内の電化にも資するクリーンで安価な電力の増産に向けて、ブルース・パワー社および同州の独立系統運用者(IESO)と協力し、この増設計画について開発前段階の準備作業を開始すると発表していた。その後、ブルース・パワー社は今月17日から、この増設に向けて関連企業から「関心表明(EOI)」の募集を開始。参加を希望する原子力サプライヤーから書面で申し込みを受け付け、炉型を含むそれぞれの提案の技術的側面を評価する考えだ。ブルース・パワー社は今回、この増設計画を「ブルースC発電所」と呼称。世界でも最大規模であるブルース原子力発電所のA発電所(CANDU炉×4基、各83万kW)とB発電所(CANDU炉×4基、各約90万kW)に続くものと説明している。同発電所では1990年代末にA発電所の4基で大掛かりなバックフィット工事を実施しており、2000年代にこれらが順次再稼働したことで、同州が2014年に達成した石炭火力発電所の全廃に大きく貢献した。ブルース・パワー社によると、1977年以来の稼働実績を有する同発電所ではすでに環境影響評価が実施されており、人や生態系に不当なリスクが及ばないことは、規制当局による数次の評価作業と各種の許認可により実証済み。また、送電設備や増設に十分な932ヘクタールのスペースがあることに加えて、熟練の労働力や周辺コミュニティの強力な支持にも支えられている。開発前段階の準備作業では、ブルース・パワー社はIAプロセスの実施に向けた初期段階の活動として、地元の住民や先住民のコミュニティとの意見交換を開始する。これらのコミュニティが増設計画に抱いている懸念事項にきめ細かく対応し、同計画が提供するメリット等を説明する。同社はこうした交流のフィードバックを取りまとめて、2024年初頭にIAACとCNSCに提出予定の「計画の当初説明書(IPD)」に反映させるほか、IAプロセスにも取り入れて環境影響声明書(IS)を作成する方針だ。ブルース・パワー社で運転サービスを担当するJ.スコンガック上級副社長は、「地元住民と早い段階からコンタクトし、IAプロセスを前向きかつ透明性のあるやり方で進めていく」と表明。「カナダは今、重要な岐路に差し掛かっているが、クリーン・エネルギー供給オプションを長期に確保するための投資を通じて、地球温暖化の影響を緩和し経済成長を促す」としている。(参照資料:ブルース・パワー社の発表資料①、②、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月23日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
24 Oct 2023
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米航空宇宙局(NASA)は10月17日、米国でモジュール式マイクロ原子炉(MMR)を開発中のウルトラ・セーフ・ニュークリア社(USNC)と、地球と月の間の宇宙領域(シスルナ空間)の探査で用いる核熱推進(NTP)エンジンの開発契約を締結した。契約総額は500万ドルで、同契約により、NTPエンジンの開発は実機の開発段階に移行する。深宇宙探査用のNTP開発を進めるNASAは2021年7月、米エネルギー省(DOE)と共同で発出した「有望な原子炉技術の提案募集(REF)」で、USNC社の子会社であるウルトラ・セーフ・ニュークリア・テクノロジーズ(USNC-Tech)社を含めた3社を選定。3社それぞれと約500万ドル相当の契約を締結して、将来の深宇宙探査で必要となる性能条件を満たした設計を特定するための戦略を立てるほか、このミッションに利用可能な原子炉の概念設計を契約期間中に完成させると表明していた。USNC社のMMRは第4世代の小型モジュール式高温ガス炉(HTGR)で、電気出力0.5~1万kWで熱出力は1.5万kW。ウラン酸化物の核に、黒鉛やセラミックスを3重に被覆したウラン粒子燃料(TRISO燃料)を用いる。同社は2022年8月、このTRISO燃料による「完全なセラミック・マイクロカプセル化(FCM)燃料」のパイロット製造施設(PFM)をテネシー州のオークリッジにオープン。今年6月には、PFMで製造した燃料をNASAの「宇宙探査用原子力推進(SNP)プログラム」用に納入している。この納入実績に基づく今回の契約で、USNC社はNTPエンジン向けに独自開発した同燃料の燃料集合体を製造し、初期段階の試験を実施する。その際、原子炉を組み込んだエンジン・システムの最終試験をDOEサイトで行う前提条件として、NTPエンジンの安全系も製造し試験を行う予定。同社はまた、パートナー企業であるブルーオリジン社との協力を通じて、シスルナ空間での短期ミッションに的を絞って合理化したNTPエンジンの設計を完成させる計画だ。同社によると、このような活動を通じてNTPエンジンの長期的な活用に向けた準備が大きく前進。また、NASAが国防総省(DOD)・国防高等計画推進局(DARPA)の「迅速な月地球間活動のための実証ロケット(DRACO)プログラム」に協力して築いた基盤も活用するとしている。USNC社のV.パテル核熱推進プログラム・マネージャーは、「DRACOプログラムの実証を終えた後、来年はより高いパフォーマンスの達成に向けてNTPエンジンの運用ミッションの準備を整える」と表明。ただし、「宇宙空間で実際に貨物を移動させるという大型ミッションの準備を行うには、まだまだNTPエンジンの大規模開発が必要だ」と指摘している。MMRについては、カナダのオンタリオ・パワー・ジェネレーション(OPG)社とUSNC社の合弁事業体であるグローバル・ファースト・パワー(GFP)社が2019年3月、カナダ原子力研究所(CNL)チョークリバー・サイトでの初号機建設を念頭に、カナダ原子力安全委員会(CNSC)に「サイト準備許可(LTPS)」を申請した。米国ではイリノイ大学が2021年6月、学内で将来的にMMRを建設するため、米原子力規制委員会(NRC)に「意向表明書(LOI)」を提出している。(参照資料:USNC社の発表資料①、②、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月20日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
23 Oct 2023
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米エネルギー省(DOE)は10月13日、「地域のクリーン水素製造ハブ(Regional Clean Hydrogen Hubs: H2Hub)」プログラムで全米から7地域の水素製造ハブを選定し、それぞれに約10億ドルずつ合計70億ドルの支援金を提供すると発表した。クリーン・エネルギーの製造関係では最大規模となるこの投資を通じて、DOEは原子力等のクリーン電力で製造した水素経済の確立に向け、官民全体で総額500億ドル規模の投資を促す方針。同プログラムで選定した7地域の水素製造ハブでは、高サラリーの雇用が数千人規模で生み出されるほか、米国全体のエネルギー供給保障の強化や地球温暖化への対応にも貢献すると強調している。米国のJ.バイデン政権は2035年までに発電部門を100%脱炭素化し、2050年までにCO2排出量を実質ゼロ化することを目標に掲げている。産業部門の革新的な技術を用いたクリーンな水素の製造は、これに向けた戦略の一つであり、2021年11月に成立した「超党派のインフラ投資・雇用法」に基づくもの。水素の製造ハブ用に拠出される80億ドルのうち、70億ドルがDOEの「H2Hubプログラム」に充当されており、DOEは2022年11月に同プログラムへの応募を全米の水素製造団体に呼び掛けた際、国内の6~8か所にクリーンな水素の製造ハブを設置し、各地域における水素の製造者と消費者、接続インフラを結ぶ全国ネットワークの基盤を構築すると表明していた。今回DOEが決定した7地域の水素製造ハブは、イリノイ州とインディアナ州およびミシガン州をカバーする「中西部水素ハブ(MachH2)」や、ミネソタ州とノースダコタ州およびサウスダコタ州の「ハートランド水素ハブ(HH2H)」、ペンシルベニア州とデラウェア州およびニュージャージー州の「中部大西洋岸水素ハブ(MACH2)」、など。これらにより、DOEは低コストでクリーンな水素の製造施設が商業規模で設置されるよう促し、7ハブ全体で年間約300万トンのクリーン水素を製造するとともに、毎年2,500万トンのCO2排出を抑制する。これは550万台のガソリン車の年間排出量に相当する。中西部の「MachH2」には、米国最大の無炭素電力の発電企業であるコンステレーション・エナジー社をはじめ、水素バリューチェーンの各段階に係わる官民の70社以上が参加。同社はDOEから提供される支援金を用いて、イリノイ州の「ラサール・クリーン・エナジー・センター」にラサール原子力発電所(BWR×2基、各117万kW)のクリーン電力を活用した世界規模のクリーン水素製造施設を建設する。同施設の建設に必要な約9億ドルの一部をカバーできる見通しで、完成すれば年間33,450トンのクリーン水素を製造可能だと強調している。コンステレーション・エナジー社はすでに今年3月、ニューヨーク州で保有するナインマイルポイント原子力発電所(BWR×2基、60万kW級と130万kW級)で、米国で初となる水素製造の実証を開始。1時間あたり1,250kWの電気から、一日当たり560kgの水素を製造している。ラサール水素製造施設では、この実証製造で得られた知見を生かす方針である。また、「HH2H」には、電力・ガス会社を傘下に置く持株会社のエクセル・エナジー社が参加しており、DOEの発表同日、「既存の原子力発電所や太陽光、風力発電設備を活用してクリーン水素を製造する」と表明。同社はミネソタ州で、モンティセロ原子力発電所(BWR、60万kW)とプレーリーアイランド原子力発電所(PWR×2基、各55万kW)を所有・運転中で、交渉次第ではDOEの支援金の大半を受け取れるとの見通しを示した。このほか、中部大西洋岸地域の「MACH2」も、再生可能エネルギーや原子力の電力を活用して製造したクリーン水素で、同地域の脱炭素化を加速する考えを表明している。(参照資料:DOE、コンステレーション・エナジー社、エクセル・エナジー社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月17日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
20 Oct 2023
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米ウェスチングハウス(WH)社は10月19日、ブルガリア北部のコズロドイ原子力発電所(100万kW級ロシア型PWR=VVER-1000×2基)で予定されているAP1000の建設プロジェクトおよび地域全体におけるその他のプロジェクトを支援するため、ブルガリアの主要サプライヤーと技術協力に関する覚書を締結した。サプライヤーには、OSKAR-EL、Glavbolgarstroy、ENPRO Consult、EnergoService、EQE Bulgaria等が含まれている。ブルガリアは、安全性が懸念されていた同発電所1~4号機(各44万kWの旧式のVVER)を2006年までにすべて閉鎖。現在は同5、6号機の2基だけで総発電量の約35%を賄っており、新たな原子炉の建設については、1980年代から検討されていた。2021年1月に同国政府が「ベレネ発電所用に購入済みだったVVER機器(ロシア型PWR)を利用して、コズロドイ7号機を建設するのが経済的で合理的」と表明したが、同国議会で今年実施された票決において、WH社製AP1000の導入に向けて、米国政府と政府間協力協定(IGA)の締結を交渉する方針が確定。今年3月2日には、WH社とコズロドイ原子力発電所増設会社(KNPP-NB社)が協力覚書を締結した。今回の覚書では、計装制御(I&C)システム、放射線監視システムなどの主要コンポーネントの製造や、エンジニアリング、コンサルティング、建設サービスを、ローカリゼーションの一環としてブルガリア企業に委託することを視野に入れている。WH社のD.ダーラム社長は、「AP1000プロジェクトの成功には、豊富な経験を持つブルガリアの原子力サプライチェーンからのサポートが不可欠。」とコメントしている。AP1000は、唯一稼働している第3世代+(プラス)原子炉であり、米国内では、7月31日にジョージア州のA.W.ボーグル原子力発電所において、AP1000を採用した3号機が営業運転を開始。翌月には同型の4号機も燃料装荷を完了し、2024 年3月に営業運転を開始する予定だ。中国では4基の中国版AP1000が稼働中。また、2022年11月にはポーランド政府が同国初の原子炉建設計画にAP1000を採用した。そのほか、中・東欧、英国、北米の複数地点で導入が検討されている。
20 Oct 2023
1721
カナダのブルース・パワー社は10月17日、オンタリオ州のブルース原子力発電所(CANDU炉×8基、各80万kW級)で検討している計480万kWの原子炉増設に向けて、関連企業から「関心表明(EOI)」の募集を開始したことを明らかにした。EOIは、同増設計画への参加に関心を持つ原子力サプライヤーから、書面で申し込みを受ける。ブルース・パワー社は各炉型の技術的側面を評価するとともに、地元自治体への経済波及効果も考慮する。オンタリオ州政府は今年7月、ブルース・パワー社の既存サイトで約30年ぶりに大型炉を増設するため、同社と開発前段階の準備作業を開始すると発表していた。今後ブルース・パワー社は、連邦政府の規制に基づき増設計画が及ぼす可能性がある様々な影響を、市民も交えて評価する。この影響評価(IA)手続きを正式に開始するため、今後数か月以内に「計画の当初説明書」をカナダ環境評価局に提出する計画だ。同社はまた、IA手続きを進めるにあたり、ブルース発電所の所有者であるオンタリオ・パワー・ジェネレーション(OPG)社や同州の独立系統運用者(IESO)、地元の先住民が保有する企業などと協力。OPG社とIESOはEOIで得られた情報を基に、オンタリオ州における原子力発電の将来的な実行可能性調査を行う。同社はさらに、クリーン・エネルギー技術の事業展開機会を分析評価するため、独立の非営利組織である原子力技術革新協会(NII)や米電力研究所(EPRI)とも協働することを予定している。EPRIのN.ウィルムシャースト上席副理事長は、「カナダの脱炭素化を支援する一環として、ブルース・パワー社の評価作業にも協力したい」と表明。「先進的原子力技術を採用することはCO2排出量の削減に有効であり、カナダ国民や世界中の人々にとって重要なエネルギーを生み出すことになる」と述べた。ブルース・パワー社のM.レンチェック社長兼CEOは、オンタリオ州が2013年に州内の石炭火力発電所を全廃したことから、「世界で最もクリーンな送電網を持つ地域」と評価。同州では引き続き、電化と経済成長への需要が高まっていることから、「この優位な立場を維持していくためにも、当社は数十年にわたる原子力発電所の運転経験や、十分整備されたサイトと熟練の労働力、設備拡大に十分なスペース、周辺コミュニティの強力な支持といった好条件に支えられて、原子力設備の増設を進めていく」としている。(参照資料:ブルース・パワー社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月18日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
19 Oct 2023
1714
カナダの連邦政府と北東部に位置するノバスコシア(NS)州およびニューブランズウィック(NB)州の両政府は10月16日、これら2州の石炭火力発電所を2030年までに段階的に廃止しクリーンで安価な電源に移行するため、小型モジュール炉(SMR)等の活用を含めた政策を共同で進めていくとの声明を発表した。カナダの送電網の脱炭素化は、経済面や環境面におけるカナダの基本目標であることから、連邦政府と2州は石炭火力の廃止に加えて2035年までに両州の発電部門から排出されるCO2を実質ゼロ化、2050年までには両州の産業全体からの排出量も実質ゼロとする方針だ。連邦政府はこれら2州のクリーン・エネルギーへの移行に合計で約2,000万カナダドル(約22億円)を支援する。内訳として、NB州がポイントルプロー原子力発電所内で計画している米ARCクリーン・テクノロジー(ARC)社製SMR「ARC-100」(電気出力10万kW~15万kW)の建設について、連邦政府は支援金として700万加ドル(約7億7,000万円)を提供すると表明。「ARC-100」については、NB州北部のベルドゥーン港湾管理局(BPA)もグリーン・エネルギー・ハブとなることを目指して導入を計画しているため、連邦政府はサイトの準備調査費用として約100万加ドル(約1億1,000万円)を提供する。これら3者の共同声明は同日、連邦政府のエネルギー・天然資源相、公共安全・民主主義制度・州政府間関係相、住宅問題・インフラ・コミュニティ相のほか、NB州とNS州から両州の首相(知事)と天然資源関係の大臣を交えた協議の後に公表された。3者の合意事項として、共同政策は二重(ツートラック)のアプローチで進めることになっており、まず2030年までの石炭火力廃止に向けて投資が必要な項目を特定。具体的には、NB州におけるSMRの建設やベルドゥーン石炭火力発電所のバイオマス発電への転換、NB州営電力が所有するマクタクアック水力発電所の運転期間延長、風力発電と太陽光発電設備の増設、NB州のポイントルプローからソールズベリおよびNS州のオンスローまでを結ぶ送電線の敷設などが挙げられた。もう一方のアプローチとして、3者は2035年までに発電分野からのCO2排出量を実質ゼロ化する協力のなかで、特に重要となる分野を確認。NB州におけるSMR建設計画とNS州の海上風力発電計画を引き続き進めるほか、両州で再生可能エネルギー源と蓄電池の統合、スマートグリッドの管理ツールや水素にも対応する複数燃料混合発電機の開発などを実施する。また、連邦政府はカナダ・インフラ銀行の活用のほかに、クリーン・エネルギー源の開発や電化の促進に特化した複数の税額控除プログラム等を通して、財政支援を実施する。3 者はさらに、2州の周辺に位置するケベック州やニューファンドランド・ラブラドール州、プリンスエドワード・アイランド州と送電網を結ぶことや、エネルギーを融通し合うための機会も模索。これに向けて、連邦政府と各州間のエネルギー協力イニシアチブである「地域エネルギー・資源テーブル(Regional Energy and Resources Tables)」を引き続き活用していく考えだ。NB州のB.ヒッグス首相は今回、「脱炭素化等の目標を達成するには、連邦政府から多額の資金援助が無ければ不可能」と強調した。公共安全省のD.ルブラン大臣は、「NB州とNS州に周囲の2州を加えた大西洋岸の4州にとって、クリーン・エネルギーは莫大な経済的利益をもたらす可能性がある」と指摘。連邦政府はこれらの州との協力を継続し、一層クリーンで強靭な送電網を築く意向を示した。(参照資料:カナダ政府の発表資料①、②、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月17日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
18 Oct 2023
2180
米国のウラン濃縮サービス企業であるセントラス・エナジー社(旧・USEC)は10月11日、多くの先進的原子炉で利用が見込まれているHALEU燃料((U235の濃縮度が5~20%の低濃縮ウラン))を実証製造するため、HALEU製造用カスケードでウランの濃縮役務を開始した。同カスケードは、オハイオ州パイクトンにあるセントラス社の「米国遠心分離プラント(ACP)」内にあり、米国の技術による最新の濃縮設備。米原子力規制委員会(NRC)の認可を受けたHALEU燃料製造設備としては唯一のもので、今月後半にも製品としてのHALEU燃料が製造される見通しだ。このカスケードでは現在、新型遠心分離機「AC100M」が16台連結されており、年間約900kgのHALEU燃料の製造が可能である。追加の予算が確保できれば、同社は半年後にも2つ目のカスケードを設置し、その後は2か月毎に後続のカスケードを追加。予算の確保から42か月後には、120台の「AC100M」で年間約6,000kg(6トン)のHALEU燃料製造を目指す方針だ。 ACPではこれまで、ウラン235で最大10%までの濃縮しか許されていなかったが、NRCはセントラス社による濃縮認可の修正申請を受けて、2021年6月にこの濃度を最大20%までとすることを承認した。同社は2019年に米エネルギー省(DOE)と結んだ契約に基づいて「AC100M」を開発しており、DOEは2022年11月、米国におけるHALEU燃料の製造能力実証に向けて、セントラス社の子会社であるアメリカン・セントリフュージ・オペレーティング(ACO)社に、費用折半方式の補助金約1億5,000万ドルを交付していた。DOEの説明では、HALEU燃料は先進的原子炉の設計を一層小型化するとともに、運転サイクルを長期化し運転効率を上げるのにも役立つ。DOEが進めている「先進的原子炉設計の実証プログラム(ARDP)」では、支援対象に選定された10の先進的原子炉のうち、9炉型のベンダーが「HALEU燃料を利用する」と表明。DOEはこのため、HALEU燃料を国内で商業的に調達できるようサプライチェーンを構築するとしている。セントラス社はDOEの補助金により、カスケードの建設をスケジュールどおり予算内で進め、HALEU燃料の実証製造も約2か月前倒しで開始できたと説明。また、カスケードの追加設置では、オハイオ州内で数百人の作業員が動員され、全国的には間接雇用も含めた数千人規模の雇用が創出される。ACPには数千台の「AC100M」を設置可能なスペースが残っているため、今後数十年にわたってウラン濃縮の需要に応えられると強調している。DOEのD.ターク・エネルギー次官補は同カスケードの操業開始について、「真の官民連携モデルでの成果であり、米国企業の手で米国初のHALEU燃料が製造される」と指摘。先進的原子炉に必要な燃料が提供されるだけでなく、米国の燃料供給保障にもつながっていくと述べた。セントラス社のD.ポネマン社長兼CEOは、「今後この実証カスケードに遠心分離機を順次追加していき、米国は再び世界の原子力分野でリーダーとなる」と強調している(参照資料:セントラス社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月12日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
17 Oct 2023
4077
英国政府所有の大型鋳鍛造品メーカーであるシェフィールド・フォージマスターズ社は10月12日、米X-エナジー社が英国内で計画している第4世代の小型モジュール炉(SMR)「Xe-100」の建設に協力するため、同社および英国における同社の開発パートナー企業であるキャベンディッシュ・ニュークリア社と協力覚書を締結した。X-エナジー社の「Xe-100」は小型のペブルベッド式高温ガス炉(HTGR)で、電気出力は8万kW。産業用の高温熱や蒸気、電力を生産できることから、同社は英国内で「Xe-100」の建設機会を探り、最大40基の建設を目指している。今回の覚書では、シェフィールド社が原子力関係の鋳鍛造品製造で数十年にわたり蓄積してきたノウハウを活用し、SMRの主要機器を製造する。シェフィールド社も、同覚書を英国のSMRサプライチェーン構築に向けた足掛かりとしたい考えだ。米国ではエネルギー省(DOE)が2020年10月、「先進的原子炉設計の実証プログラム(ARDP)」における7年間の支援対象企業の一つとしてX-エナジー社を選定。同社は2022年8月に「Xe-100」の基本設計を完了しており、ワシントン州の2つの公益電気事業者(グラント郡PUDとエナジー・ノースウエスト社)が、「Xe-100」をエナジー・ノースウエスト社が所有するコロンビア原子力発電所サイト内で建設することを計画している。2027年以降に初号機を建設すると見られていることから、英国での建設はそれ以降になる見通しである。英国では、脱炭素化に有効な無炭素エネルギー源として、政府が原子力に注目しており、2030年代初頭の実証を目指して建設する先進的モジュール式原子炉(AMR)として、2021年12月にHTGRを選択した。政府はまた、2022年4月に新しい「エネルギー供給保障戦略」を発表。原子力開発における方向性として100万kWの大型炉のほかにSMR、およびHTGRなどのAMRを開発する方針を示している。英国ではまた、今年7月に原子力発電所新設の牽引役として発足したばかりの政府機関「大英原子力(Great British Nuclear=GBN)」が、革新的なSMR技術の開発を促して英国のエネルギー供給保障を強化するため、支援対象の選定コンペを開始。今月2日に発表された最終候補の6社にX-エナジー社は含まれなかったが、英政府は選考に漏れたSMRについても、別ルートでの市場化に向けた協議を今秋から開始すると約束していた。シェフィールド社はすでに、同様の覚書を米GE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社や英ロールス・ロイスSMR社などと締結済み。米ニュースケール・パワー社とは、同社製SMRのベッセル・ヘッドを共同で実証鍛造する計画を2016年に発表している。シェフィールド社のD.アシュモア戦略・クリーン・エネルギー事業開発部長は、今回の覚書について「SMRの商業化に向けて、当社がこれまでに交わしてきた数多くのSMR開発企業との協力覚書の中で最新のものだ」と説明。同覚書に基づき、今後は「Xe-100」の一層明確なコスト見積もりと建設計画の策定に向けて、同炉に必要な鋳鍛造品を詳細に検討するとした。X-エナジー社のC.タンスリー副社長は、「『Xe-100』の建設に際し、契約総額の約8割を英国企業に発注するなど、英国サプライチェーンの最大限の活用を目指す」と表明。シェフィールド社との覚書はこれに向けた重要な一歩であり、40基の「Xe-100」建設は英国産業界の脱炭素化を促進するだけでなく、英国全土の企業に莫大なチャンスをもたらすと強調している。(参照資料:シェフィールド・フォージマスターズ社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月13日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
16 Oct 2023
1713
英国で2年前に設立された先進的原子炉技術の開発企業であるニュークレオ(Newcleo)社は10月9日、開発中の小型鉛冷却高速炉(LFR)の商業化に向けて、イタリアの機器製造企業であるトスト・グループ(Tosto Group)と協力・投資協定を締結した。ニュークレオ社の現時点の計画では、2026年にLFRの電熱加熱式プロトタイプ装置を、2030年には実証炉「LFR-AS-30」(電気出力3万kW)を完成させた後、2032年までに商業炉の「LFR-AS-200」(電気出力20万kW)と、海上でも使用可能な「LFR-TL-30」(電気出力3万kW)それぞれの初号機を建設。原子力・石油・ガスなどのエネルギー部門や、化学製品部門で大型機器の製造を手掛けてきたトスト・グループと協力していく考えだ。今回結ばれた協定は、LFRの研究・設計から実証、商業化まですべての段階をカバー。ニュークレオ社によると、同グループの中でも主要企業であるイタリアのウォルター・トスト(Walter Tosto)社と、その傘下企業であるベッレーリ・エナジーCPE(Belleli Energy CPE)社は、長納期の産業用機器の製造・供給実績があり、これらの企業が持つ製造ノウハウや幅広い実績、臨海地帯の製造プラント等をニュークレオ社の設計・エンジニアリング能力と統合、小型LFRの建設に活かすとしている。ニュークレオ社のS.ブオノ会長兼CEOは、「LFRの建設では非常に意欲的なスケジュールを設定しているので、トスト・グループとの協力を通じてその基盤を固めたい」と表明。トスト・グループのL.トスト常務は、「ニュークレオ社は第4世代の原子炉技術開発リーダーなので、持続可能なエネルギーの開発や技術革新で協力し合い、当社が積極的な投資を通じて事業の拡大を目指している原子力部門に貢献したい」との抱負を述べた。なお、ニュークレオ社はトスト・グループとの今回の協力に先立つ2022年3月、イタリア経済開発省の新技術・エネルギー・持続可能経済開発局(ENEA)とも協定を締結。同年から7年以内に、原子燃料や放射性物質を使わないプロトタイプのLFR装置を原子力推進国で建設することを計画中だ。また、同年6月には、LFRに装荷するウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)の製造工場建設に向け、英仏の両国でサイトを確保するため、仏オラノ社に実行可能性調査を依頼している。(参照資料:ニュークレオ社の発表資料①、②、ウォルター・トスト社(イタリア語)の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月11日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
13 Oct 2023
2396
イタリアの電力会社で、フランス電力(EDF)のイタリア子会社でもあるエジソン社は10月4日、今後の同社の新しい展望として、2030年から2040年までの間に出力34万kWの小型モジュール炉(SMR)プラントを国内で2つ、建設することに意欲を表明した。ただし、イタリアは1990年に脱原子力を完了しており、原子力の復活に向けた国内条件が整えばとの条件付きだ。親会社のEDFは仏原子力・代替エネルギー庁(CEA)などと協力して、欧州主導のSMR「NUWARD」(出力17万kWの小型PWR×2基)を開発中。エジソン社は「2040年までに自社電源の9割を脱炭素化する」ことを目指している。エジソン社は2023年から2030年までに100億ユーロ(約1兆5,800億円)を投資し、2022年の減価償却・控除前利益(EBITDA)である11億ユーロ(約1,740億円)を、2030年末までに20億~22億ユーロ(約3,170億~3,490億円)に倍増する方針。しかし、これには過去3年間の平均でEBITDAの35%を占めていた「CO2をほとんど出さない発電」を70%に拡大するなど、電源ミックスの大幅な変更が必要。同社はこれまで力を入れていた再生可能エネルギーに加えて、CO2回収・貯留(CCS)や(条件が整えば)新世代の原子力を導入したいとしている。原子力に関して同社は、欧州連合(EU)がCO2排出量の実質ゼロ化を達成する上で重要な役割を担うと評価。また、電力供給システムの安定化能力だけでなく、再生可能エネルギーの間欠性も補えることから、「CO2の排出量や設置面積が最も少ない電源の一つであり、合理的な発電が可能である」とした。さらに、新しい原子力技術のSMRなら熱電併給にも活用できるため、エネルギーを多量に消費する地区のニーズにも高い柔軟性を持って対応可能だと指摘している。イタリアではチョルノービリ原子力発電所事故後の1987年、国民投票で既存原子炉4基の閉鎖と新規建設の凍結を決定。1990年に脱原子力を完了したが、2009年になるとEU内で3番目に高い電気料金や世界最大の化石燃料輸入率に対処するため、原子力復活法案が議会で可決している。しかし、2011年の福島第一原子力発電所事故を受けて、同じ年の世論調査では国民の9割以上が脱原子力を支持。当時のS.ベルルスコーニ首相は、政権期間内に原子力復活への道を拓くという公約の実行を断念した。近年は世界規模のエネルギー危機にともない、イタリアのエネルギー情勢も急激に変化。議会下院は今年5月、脱炭素化に向けた努力の一環として、イタリアの電源ミックスに原子力を加えるよう政府に促す動議を可決。9月に環境・エネルギー保障省が開催した「持続可能な原子力発電に向けた国家政策(PNNS)会議」の第一回会合では、近い将来にイタリアで原子力発電を復活させる可能性が議論されている。(参照資料:エジソン社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月6日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
12 Oct 2023
1833