米エネルギー省(DOE)は7月7日、先進的原子炉など新しい原子力発電所の建設コスト削減を図るため、GE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社と協力すると発表した。同社の率いるチームに580万ドルの支援金を提供し、建設コストの10%以上の削減を目指して3つの建設要素技術を実証していく。DOEのK.ハフ原子力担当次官補代行は、「原子力発電所の建設にかかるコストの超過とスケジュールの遅延という課題は、過去数十年にわたって新規の原子力発電所建設計画を悩ませてきた。しかし、進んだ建設要素技術を駆使することによって先進的原子炉の建設コストを引き下げ、作業をスピードアップすることは可能だ」と指摘。先進的原子炉の実用化は地球温暖化を防止する重要ステップでもあり、J.バイデン大統領が目指す「2050年までにCO2排出量を実質ゼロ化」を達成するのに必要であると強調した。今回の取り組みは、DOEが2019年に傘下のアイダホ国立研究所内に設置した「国立原子炉技術革新センター(NRIC)」の予算と管理の下で実行される。NRICの目標は先進的原子炉の設計を実証し建設を促進することであるため、この取組はNRICの「先進的建設要素技術(ACT)構想」の一部ということになる。ACTは2段階で構成されており、第1段階では先進的な建設要素技術の開発と小規模での実証に向けた準備を実施する。この作業が無事に完了しその後の予算が確保できれば、第2段階として支援金の提供から3年以内に技術の実証を行う計画である。GEH社のプロジェクト・チームには、カンザス州の大手エンジニアリング企業Black & Veatch社と米国電力研究所(EPRI)、テネシー峡谷開発公社(TVA)、インディアナ州のパデュー大学、ノースカロライナ大学が参加。また、英国のCaunton Engineering社と、「スチール鋼レンガ・システム」を開発したスコットランドのModular Walling Systems 社、および英国政府が産業界との協力により2012年に設置した「先進的原子力機器製造研究センター(NAMRC)」が加わっている。同チームは今後、DOEらとともに以下の3つの技術を実証し活用していく。これらは他の産業部門で開発されたもので、有望ではあるが原子力発電所の建設という観点で試験が行われたことはない。①トンネル掘削業界が開発した「立坑建設工法」を使って、原子力発電所の工期を1年以上短縮。②スチール鋼とコンクリートの複合構造物を使ったモジュール式の建設システム「スチール鋼レンガ・システム」を用い、現地で必要とされる労働力を大幅に削減。③高度な監視システムとデジタルツイン技術(物理世界の出来事をデジタル上に再現する技術)を統合し、原子力発電所構造物の3-Dレプリカを作成。DOEはこれらの技術を様々な先進的原子炉設計に適用し、早期に市場に送り出せるよう経済性の改善を図る。GEH社側は、「DOEやNRICと協力して革新的な建設要素技術を使ったコストの削減方法を評価していきたい」とコメント。「今回のDOEの支援金は小型モジュール炉(SMR)の商業化で非常にプラスとなるほか、その他の先進的原子炉の実現に向けて道を拓くことになる」と述べた。(参照資料:DOE、NRICの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月8日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
09 Jul 2021
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BWRX-300の断面図©GE Power米国のGE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社は7月6日、BWRタイプの同社製小型モジュール炉(SMR)「BWRX-300」の商業化を促進し、カナダやその他の国々で建設していくため、原子燃料メーカーのグローバル・ニュークリア・フュエル・アメリカズ(GNF-A)社、およびカナダの大手ウラン生産企業のカメコ社と協力覚書を締結した。カナダで稼働中の商業炉は19基すべてがカナダ型加圧重水炉(CANDU)だが、GEH社でカナダのSMRを担当するリーダーは「CANDU炉もBWRも燃料ペレットに二酸化ウラン、被覆管に類似の素材を使うなど燃料のタイプは非常に似ている」と説明。今回の協力で、設計と製造で似た側面をもつ2種類の燃料の製造企業同士でも相乗的な利益があり、カナダの燃料サプライチェーンでは性能が向上すると期待している。カメコ社側も「世界中がCO2排出量の実質ゼロ化に向けて突き進むなかで、原子力の果たす役割は非常に大きく、様々なSMRや先進的原子炉技術が浮上する原動力になっている」と表明。「カメコ社としては、このような革新的な原子炉に燃料供給する主力企業となる覚悟であり、GEH社やGNF社とともに新たなSMR設計にビジネスチャンスを見出していきたい」と述べた。GEH社によると、「BWRX-300」は電気出力30万kWのSMRで、2014年に米原子力規制委員会(NRC)から設計認証(DC)を取得した第3世代+(プラス)の同社製設計「ESBWR(高経済性・単純化BWR)」がベース。自然循環技術や受動的安全システムなど、画期的な技術を採用しているほか、設計の大胆な簡素化により単位出力あたりの資本コストはその他のSMRと比べて大幅に削減された。 また、原子燃料にはGNF社製の高性能燃料集合体「GNF2」のように、すでに承認された設計を採用。機器類も技術的に実証済みのものを組み込んでおり、GEH社は「SMRの中でもBWRX-300はコスト面の競争力が最も高くリスクは最低レベルとなり、市場に出るSMRとしては世界最初のものになるはずだ」と強調している。米国では、本格的な認証手続きの一つである設計認証(DC)審査を「BWRX-300」で実施するのに先立ち、NRCが2020年12月から先行安全審査を開始。カナダでもすでに2020年1月から、カナダ原子力安全委員会(CNSC)が許認可申請前のベンダー設計審査を実施中である。カナダ国内ではこれまでに、オンタリオ州営電力(OPG)社が2020年11月、ダーリントン原子力発電所の敷地内でSMRの建設に向けた活動を開始すると発表。国外では、バルト三国のエストニアや東欧のポーランド、チェコが同設計を国内で建設することに関心を表明しており、可能性調査の実施に向けた覚書がこれらの国の関係者とGEH社の間で結ばれている。GEH社がビジネスアドバイザーのPwCカナダ社に委託して実施した同設計の経済性調査によると、初号機をカナダのオンタリオ州で建設した場合、BWRX-300の建設と運転はカナダの国内総生産(GDP)に約23億カナダドル(約2,024億円)貢献する見通し。稼働する全期間を通じて、19億ドル(約1,672億円)の労働所得を提供するとともに7億5,000万加ドル(約660億円)以上の税収をカナダ連邦政府や州政府、地元自治体にもたらす。また、後続のSMRを同州その他で建設すれば、GDPに対する一基あたりの貢献額は11億加ドル(約968億円)となるほか、税収については3億加ドル(約264億円)になるとしている。(参照資料:GEH社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月7日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
08 Jul 2021
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米国政府で非軍事の海外援助を担当する貿易開発庁(USTDA)は6月30日、ポーランドの民生用原子力発電導入計画を支援するため、同国の国営原子力発電会社(PEJ)に基本設計(FEED)調査用の補助金を提供すると発表した。具体的な金額は公表していないが、ポーランドが計画する「2043年までに2サイトで6基(合計出力600万kW以上)の原子炉を建設」を実現するため、この補助金で米国籍のウェスチングハウス(WH)社とパートナー企業のベクテル社がFEED調査を実施する。その結果から、最も先進的かつ競争力のある原子炉技術をポーランド政府に提案し、その意思決定を支援することになる。この協力は、両国が2020年10月に締結した「(ポーランドの)民生用原子力発電プログラムに関する政府間協力協定(IGA)」に基づいている。同協定が今年2月に発効したことから、米国はポーランドが石炭火力から脱却し、長期的なエネルギー供給が可能になるよう協力。USTDAはポーランドが必要とする民生用原子力発電の需要を、米国の技術で対応したいと述べた。米国の政府全体がポーランドのプログラムを幅広く支持していることを示すため、今回の補助金の調達には国務省(DOS)のヨーロッパ・ユーラシア局とエネルギー省(DOE)が関与。この補助金に加えて、WH社とベクテル社も調査の完了に必要な追加資金を提供することになる。WH社の同日付発表によると、FEED調査はポーランドの計画を前進させる重要な一歩であり、両国のIGAを実行に移す主要要素でもある。PEJ社はポーランドの原子力発電所の建設と運転を担当する予定で、国立裁判所に登録されていた企業名が今年6月、これまでの「PGE EJ1社」から変更されたばかり。WH社は同社に対し、最初の原子力発電所のレイアウトプランや許認可手続の実施管理、開発スケジュール、起動までに要する経費の見積額等を提示。ポーランド政府はこれらの情報を審査した上で、原子力発電プログラムにおける最良のパートナーを決定する考えだ。今回の決定についてPEJ社は、「グローバルに活躍する米国の主要な原子力企業が、我が国の重要な調査の実施と資金負担を約束してくれたことは有り難い」と表明。ポーランドのプログラムを前進させる新たな推進力が得られるよう、作業を前倒しで進めたいと述べた。一方、米国のDOEは、「ポーランドのプログラムが同国の国家経済や安全保障に資することを理解した上で、これを成功に導いていく」と表明。「この建設計画は両国の戦略的連携関係を強化するとともに、ポーランドが原子力で信頼性の高いクリーンで安全なエネルギーを得るという目標を達成する一助になる。また、米国政府は世界中の民生用原子力産業と協働し、国内の原子炉ベンダーをサポートする方針。地球温暖化の防止に向けたポーランドと米国の共同取組を後押しすることにもなる」と述べた。(参照資料:USTDA、WH社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月1日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
07 Jul 2021
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台湾電力は7月1日、新北市で40年間稼働した國聖(第二)原子力発電所1号機(BWR、102.7万kW)を永久閉鎖した。運転認可は今年の12月27日まで有効だが、使用済燃料の貯蔵プールがほぼ満杯で 同機の炉心から取り出すことが出来ない。そのため、同社は関係規則に則り、同機の安全系機器で保守点検作業を実施することで維持する方針だ。これらの保守点検作業は、運転認可の有効期限である6か月以内に完了することになっている。台湾電力の発表によると、國聖1号機の閉鎖にともない、同社は火力発電所に派遣していた複数の保守点検チームを呼び戻しており、住民への安定的な電力供給を継続するため、デマンドレスポンス(電力需給のバランスをとるために、需要側の電力を制御調整すること)等の補助的サービスを今後も促進する。同社はまた、バックエンド問題には中央政府と地方政府、および地元住民が協力して対処していかねばならないと指摘。國聖1号機の使用済燃料は最終的に、発電所の敷地内外で乾式貯蔵する計画である。同機を閉鎖した後、台湾電力では夏場にピークを迎える電力需要に、主に以下の3方策で対応する。(1)同社の石炭火力発電所である協和4号機、林口3号機、興達2号機が保守点検作業を終えて電力供給を再開したほか、7月上旬以降は大林6号機などもこれに加わる予定。(2)民間企業の新しい電源が次々と稼働を開始しており、嘉恵電力の新設発電所や台湾糖業公司の太陽光発電所などが送電網に接続された。台湾電力としても、7月中旬から下旬にかけて洋上風力発電ファームで発電の開始を目指す。(3)補助的サービスを改善するため、周波数調整や需給バランシング等のデマンドレスポンスに加えて、民間セクターとの連携や長期的に継続しているエネルギー貯蔵施設の開発など、新たなエネルギーや資源開発への投資を継続する。台湾電力はまた、関係規則に従って、3年前に國聖1号機の廃止措置計画を原子能委員会に提出した。同委がこれを2020年10月に承認したことから、台湾電力は廃止措置の環境影響評価書をとりまとめているところ。同委がこの評価書を審査し、無事に廃止措置許可を発給すれば、台湾電力は運転認可の満了とともに同機の廃炉作業を正式に開始する。台湾では、民進党の蔡英文氏が2016年の総統選挙に勝利し、就任後まもなく脱原子力に向けたエネルギー政策を立案。立法院は2017年1月、「非核家園(原子力発電のないふるさと)」を2025年までに実現することを盛り込んだ電気事業法改正案を可決した。その後の2018年11月、全国規模で行われた公民投票により、「2025年までにすべての原子力発電所の運転を停止する」との条文は削除された。しかし、行政院長は「2025年という期限は削除されたが、非核家園を目指すという目標は変わっていない」とコメント。翌月には台湾の商業炉として初めて、金山(第一)原子力発電所1号機(BWR、66.6万kW)で40年間の運転認可が満了し、永久閉鎖されたほか、同2号機(BWR、66.6万kW)も2019年7月に同様に閉鎖されている。(参照資料:台湾電力の発表資料①、②(中国語)、台湾原子能委員会の発表資料(中国語)、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月1日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
06 Jul 2021
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エジプトで原子力発電の導入計画を担当する原子力発電庁(NPPA)は6月30日、同国初の原子力発電設備となるエルダバ発電所の1、2号機(VVER-1200、出力各120万kW)について、建設許可をエジプト原子力・放射線規制機関(ENRRA)に申請した。これは、同発電所の建設工事を請け負ったロシア国営の原子力総合企業ロスアトム社が7月1日付けで発表したもの。VVER-1200は第3世代+(プラス)の120万kW級ロシア型PWRで、ロスアトム社は地中海沿岸のエルダバ発電所建設サイトで、これを4基建設する計画。1号機の建設許可が下り次第、本格的な工事を開始する。電力・再生可能エネルギー省傘下のNPPAは、完成した4基すべてを所有・運転・管理することになっており、1号機に関しては2026年の完成を目指している。 建設サイトのエルダバ市は、カイロに次ぐエジプト第2の都市アレキサンドリアから西に170kmのマトルーフ行政区域内にある。同サイトが、原子力発電所の建設に関する国内基準と国際的な基準を満たしているかに関しては、NPPAがすでに2019年3月、4基分すべての「サイト許可」をENRRAから取得した。建設許可申請はこれに続く手続きで、ENRRAはユニット毎に建設許可を発給する。NPPAのA.エル・ワキル長官は1、2号機の建設許可申請について、「NPPAとロスアトム社のエンジニアリング部門であるASE社が実施した広範囲な共同作業の賜物であり、国内外の関係要件を満たした最高水準の申請書になった」と強調した。ASE社のG.ソスニン副総裁も、「ロシアとエジプトの両チームは、エンジニアリング・資材調達・建設(EPC)契約における技術要件やサイト条件との適合性を考慮した上で、このように複雑な職務を完了させた」と述べた。エルダバ発電所で採用するVVER-1200の「AES-2006」モデルについてロスアトム社は、ロシアの最新技術によるVVER設計であり、ロシア国内ではすでにレニングラード原子力発電所とノボボロネジ原子力発電所のⅡ期工事で各2基が稼働中だと説明。国外でもベラルーシ初の商業炉として、ベラルシアン1号機が2020年11月から送電を開始している。同発電所の建設計画でエジプトとロシアが交わした一連の契約によると、ロシア側は原子力発電所を建設するのみならず、発電所の全運転期間中に必要な原子燃料をすべて供給する。エジプト側の関係人材についても教育訓練の手配を約束。運転開始後最初の10年間は発電所の運転・保守(O&M)を支援するほか、使用済燃料の貯蔵施設もエジプト国内で建設する予定である。(参照資料:ロスアトム社、NPPAの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月1日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
05 Jul 2021
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米イリノイ州のイリノイ大学アーバナ・シャンペーン校(UIUC)は6月28日、ウルトラ・セーフ・ニュークリア社(USNC)が開発中の第4世代の小型高温ガス炉「マイクロ・モジュラー・リアクター(MMR)」を将来学内で建設するため、原子力規制委員会(NRC)に「意向表明書(LOI)」を提出した。UIUCはクリーンエネルギーの研究に加えて、人材育成用の研究・試験炉施設としても「MMRエネルギーシステム」を活用する。今回のLOI提出は、UIUCが今後MMRの建設許可をNRCから取得し、最終的に運転許可を得るための最初の正式手続きとなる。MMRは熱出力1.5万kW、電気出力0.5万kWの小型高温ガス炉だが、「MMRエネルギーシステム」は1~10万kWの熱や電気を生産する1基以上の「MMR標準型マイクロ・リアクター」と熱貯蔵ユニット、および熱を電気に転換する非原子力プラントを統合した「無炭素の発電所」となる。標準型マイクロ・リアクターは650度Cの高温熱を供給することが可能で、カナダにおけるUSNC社のパートナー企業グローバル・ファースト・パワー社は2019年3月、同炉の初号機をカナダ原子力研究所のチョークリバー・サイトで建設するため、「サイト準備許可(LTPS)」をカナダ原子力安全委員会に申請した。UIUCとUSNC社の今回の共同発表によると、USNC社は今後UIUC内のグレインジャー工科大学、および同大の原子力・プラズマ・放射線工学科と協力して、学内での「MMRエネルギーシステム」建設計画を推進する。MMRを備えた新しい研究・試験炉施設は、UNICのスタッフや学生に様々な研究の機会を提供。例として、計算科学の一分野であるマルチフィジックスにおける検証、原子炉のプロトタイプ試験、計装・制御(I&C)系、小規模送電網、サイバーセキュリティ、輸送とエネルギー貯蔵のための水素製造、およびその他のエネルギー集約型高価値生産品などを挙げている。UIUCはまた、キャンパス近郊で保有するアボット石炭火力発電所を、部分的に「MMRエネルギーシステム」と統合する計画。既存の化石燃料発電設備における脱炭素化の加速を目的としたもので、「学内のCO2排出量を同量吸収させることで実質ゼロ化する構想」の一環として、学内建築物に対する熱電供給の無炭素化を実証していく。UIUCはさらに、学内中心部でかつてGA社製の小型研究用原子炉「TRIGA」を保有していたことから、クリーンエネルギー研究の目標達成のほかに、「MMRエネルギーシステム」を次世代の原子力科学者やエンジニア、原子炉運転員など、原子力関係の人材育成に活用する。「TRIGA」は38年間稼働した後、1998年に閉鎖されており、UIUCは「クリーンエネルギー関係で新たな人材を教育訓練するには次世代のエネルギー研究施設が非常に重要だ」と強調している。(参照資料:USNC社、UIUCの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月29日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
01 Jul 2021
2217
インドの南端、タミルナドゥ州にあるクダンクラム原子力発電所で、6月29日から5号機(100万kW級のロシア型PWR:「VVER-1000」、出力105万kW)の建設工事が正式に始まった。同機の原子炉建屋の基盤部に最初のコンクリートが打設されたもので、インド原子力発電公社(NPCIL)は約66か月後の完成を予定している。NPCILの発表によると、この日現地では、同発電所のⅢ期工事にあたる5、6号機の起工式が行われた。新型コロナウイルスによる感染拡大防止の観点から、インド原子力委員会の委員長を兼ねるK.N.ヴィアス原子力相がテレビ会議を通じて5号機の着工を宣言。NPCILのS.K.シャルマ会長や、同発電所の建設工事を請け負ったロシア国営原子力総合企業ロスアトム社のA.リハチョフ総裁などが参加した。インドで稼働する商業炉は、出力が最大でも70万kWという国産加圧重水炉(PHWR)が中心で、クダンクラム原子力発電所Ⅰ期工事の1、2号機(VVER-1000、出力各100万kW)はインドで初めて建設された大型の軽水炉である。これらはそれぞれ2014年12月と2017年3月から営業運転を続けており、後続のⅡ期工事である3、4号機(VVER-1000、出力各100万kW)は2017年の6月と10月から建設工事中。現在の進捗率は約50%となっている。5、6号機の増設計画については、2017年6月にインドとロシア両国の政府が一般枠組協定(GFA)と政府間信用議定書に調印、同年8月には主要機器の調達が開始された。6基すべてが完成すれば、同発電所はベースロード電源として約600万kWのクリーン電力をインド全土に供給することになる。また、インド原子力省(DAE)とロスアトム社は2018年10月、インドの新規立地点で新たにVVERを6基建設する計画を公表している。ロスアトム社のリハチョフ総裁は5号機の着工に際し、「クダンクラム発電所の建設プロジェクトはインドとロシアの長年にわたる緊密な協力関係のシンボルだ」とコメント。その上で、「我々はここで歩みを止めるつもりはないし、両国の合意文書にも記したように、インドのパートナーとともに第3世代+(プラス)の最新鋭VVERを新規立地点でシリーズ建設していく」と述べた。ロスアトム社によると、原子炉設備やタービン建屋など、クダンクラム5号機で最優先に設置する機器類は、すでにロシアの関連企業が製造を開始。今後2年間の作業に関わる詳細な設計書類は完成済みだとしている。(参照資料:NPCIL、ロスアトム社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月29日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
30 Jun 2021
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英国政府とフランス電力(EDF)は6月23日、英国内の改良型ガス冷却炉(AGR)の閉鎖について、燃料取り出し後の廃止措置(デコミ)作業を英原子力廃止措置機関(NDA)が担当することで合意した。対象となるのは、EDFが所有する英国内すべてのAGRで、7サイト14基。うちダンジネスB発電所(61.5万kW×2基)は今月初めに閉鎖されたばかりだが、そのほかも今後10年以内に閉鎖予定だ。EDFは2009年にブリティッシュ・エナジー社を買収し、英国での原子力発電事業に乗り出した。もちろん発電所の運転からデコミまですべての責任をEDFが負うことになっており、デコミの原資は原子力債務基金(NLF)から拠出されることになっていた。しかし今回の合意により、EDFは閉鎖したAGRからの燃料取り出し作業までを実施し、サイト単位で規制当局からの承認を受けた後、サイトの所有権をNDAへ移管。NDA傘下のマグノックス社が速やかにデコミ作業を開始することになった。2006年に設立されたNDAは、AGRの先行炉型である旧式のガス冷却炉(GCR、通称マグノックス炉。全基が閉鎖済み)を所有しており、マグノックス社がすでにデコミ作業に着手している。これらマグノックス炉のデコミで培ったノウハウをAGRにも活用することで、「シナジー効果は10億ポンド規模」(A.M.トレベリアン・エネルギー担当大臣)だという。また今回英政府とEDFは、燃料取り出し作業のパフォーマンスに応じ、最大1億ポンドのボーナス支払い/最大1億ポンドのペナルティ徴収を実施することでも合意した。「作業の効率化、迅速化のみならず、リスクを両者がシェアする」(トレベリアン大臣)ことでEDFへのインセンティブとし、EDFからNDAへの所有権移管の効率化をねらう。ヒンクリーポイントB発電所 ©️EDF燃料取り出しに当たりEDFは、引き続きNLFから資金拠出を受ける。EDFによると燃料取り出しに要する期間は1サイトあたり3.5年~5年と見込んでおり、ハンターストンB発電所が一番手で2022年1月に取り出し作業を開始する。以降、ヒンクリーポイントB発電所が2022年半ば、ダンジネスB発電所が2022年後半、ヘイシャムA発電所とハートルプール発電所が2024年3月、トーネス発電所とヘイシャムB発電所が2030年頃に燃料取り出し作業を開始する予定だ。なお今回の合意はあくまでもAGRが対象であり、同じくEDFが所有し2035年まで運転継続予定のサイズウェルB発電所(PWR、125万kW)や、現在EDFが建設中のヒンクリーポイントC発電所(EPR、172万kW×2基)は対象外。いずれもEDFの責任でデコミを実施する。英国の2020年の原子力発電電力量は456億6,800万kWh(ネット値)。総発電電力量に占める原子力シェアは14.5%だった。英政府は、AGRが全基閉鎖されても、再生可能エネルギーの設備容量が2010年から10年間で4倍以上に拡大しているとして、英国の電力供給に影響はないとの考えだ。しかし現在の議会会期中に、先進炉の検討などと並行して、少なくとも1件の大型原子力発電所新設計画への投資を最終判断する予定となっている。
30 Jun 2021
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米国の先進的原子炉開発企業オクロ社(Oklo Inc.)は6月25日、同社製の超小型高速炉「オーロラ」に使用する先進的原子炉燃料の製造技術とリサイクル技術の商業化で、エネルギー省(DOE)の技術商業化基金(TCF)から支援を受けることになったと発表した。DOEおよび傘下のアルゴンヌ国立研究所と合計200万ドルのコスト分担型官民連携プロジェクトを実施するというもので、オクロ社側はこのうち少なくとも50%(100万ドル)をマッチングファンドで提供。電解精製技術を使って放射性廃棄物を転換し先進的原子炉燃料を製造するほか、使用済燃料をリサイクルする技術の商業化を進めていく。これらを通じて放射性廃棄物の量を削減し、先進的原子炉の燃料コスト削減を目指す考えだ。電気出力0.15万kWの「オーロラ」では、HALEU燃料(U235の濃縮度が5~20%の低濃縮ウラン)を燃料として使用する一方、原子炉の冷却に水を使わない設計。同社によれば、「オーロラ」は少なくとも20年間、燃料交換なしで熱電併給を続けることができる。オクロ社はすでに2020年3月、子会社のオクロ・パワー社を通じて、先進的な超小型高速炉としては初の建設・運転一括認可(COL)を原子力規制委員会(NRC)に申請。2020年代初頭から半ばにかけて、DOE傘下のアイダホ国立研究所敷地内で「オーロラ」の着工を目指している。同社に資金を提供するTCFは、有望なエネルギー技術の開発を促進するため、DOEの技術移転局(OTT)が「2005年エネルギー政策法」の下で立ち上げた基金。DOE傘下の国立研究所と民間企業が提携し、エネルギー技術の商業化に向けた取り組みを実施。その際、民間企業側には50%のマッチングファンド提供が義務付けられている。DOEは6月24日、TCFによる2021会計年度の支援対象を公表しており、クリーンエネルギー技術や先進的な製造技術、次世代の材料物質開発など、合計68プロジェクトを選定している。これらにはTCFの連邦政府予算から約3,000万ドル、民間部門の基金から約3,500万ドルを充当し、革新的技術を用いた解決策を採用していく。新たな事業や雇用を創出する一助とするほか、米国の経済的競争力を増強し、J.バイデン大統領が目標とする「2050年までにCO2排出量の実質ゼロ化」を達成する。この発表の中でDOEは、連邦政府予算の中からアルゴンヌ国立研究所に415万ドルを充てると説明。国内8州のパートナー企業と費用を分担し、エネルギー貯蔵に向けた材料物質の加工やCO2の合成による高効率の化学品(オレフィンなど)製造、先端材料を使った高速炉用燃料の製造などを実施すると述べた。オクロ社のC.コクラン最高執行責任者(COO)は、「先進的燃料技術の商業化を通じて、クリーンなパワーを迅速かつコスト効率も高い方法で市場に届けたい」と表明。手持ちの燃料のエネルギー密度が代替燃料より数百万倍高ければ、電解精製技術を用いた最も低価格な方法でクリーンパワーを生み出すことができると述べた。また、「使用済燃料にはクリーンパワーを世界中にもたらすための、極めて大きなエネルギーを秘めている」と強調した。(参照資料:オクロ社、DOEの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月28日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
29 Jun 2021
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中国核能行業協会(CNEA)は6月25日、遼寧省の紅沿河(ホンヤンフ)原子力発電所で建設されている5号機(PWR、111.9万kW)が同日の午前12時半頃、国内送電網に初めて接続されたと発表した。中国では先月、江蘇省の田湾原子力発電所6号機(PWR、111.8万kW)が初併入したことから、紅沿河5号機はこれに続いて中国51基目の商業炉となる予定。同機の事業者で中国広核集団有限公司(CGN)傘下の遼寧紅沿河核電有限公司(LHNPC)は今後、同機が商業運転の開始条件をクリアできるよう、出力上昇試験等の様々な試験を実施する。初併入プロセスの中で同機の機器パラメーターは正常値を示しており、安定した状態で制御されている。このことから、同機は年内にも営業運転を開始すると見られている同機と現在建設中の6号機の建設計画は、紅沿河原子力発電所のⅡ期工事に相当する。中国・東北地方の振興を支援する重大施策の一つであり、福島第一原子力発電所の事故後に初めて、国務院が2015年に承認した。これを受けて、LHNPCは5、6号機をそれぞれ2015年3月と7月に本格着工。LHNPCにはCGNと国家電力投資集団公司が45%ずつ、大連建設投資集団公司が残りの10%を出資している。I期工事の1~4号機(各111.9万kWのPWR)が第2世代改良型の「CPR1000」設計を採用したのに対し、5、6号機では第3世代の技術特性を有するという「ACPR1000」を採用。これらはともに、仏国のPWR技術をベースにCGNが開発したもので、福島第一原子力発電所事故の教訓をフィードバックしている。具体的には、緊急時冷却システムなどに3つの受動的システムを取り入れたほか、11項目の技術改善を実施するなど、安全レベルはさらに向上したとCGNは説明している。CNEAによると、今年は中国共産党の創立100周年であるとともに「第14次5か年規画」の最初の年度であることから、紅沿河発電所プロジェクトにおいてはⅡ期工事の原子炉の試運転にも注目されていることから、LHNPCはクオリティの高い試運転を実現する方針である。(参照資料:中国核能行業協会(CNEA)(中国語)の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月25日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
28 Jun 2021
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ルーマニアの議会上院は6月22日、建設工事が中断されているチェルナボーダ原子力発電所3、4号機(各70.6万kWのカナダ型加圧重水炉)を完成させる協力プロジェクトも含め、同国が米国と2020年10月に仮調印した民生用原子力分野における政府間協力協定を批准した。これで上下両院の承認が得られたことになり、同協定は今後、K.ヨハニス大統領が署名した後、官報に掲載される。欧州委員会(EC)もすでにこの協定を承認していることから、国営原子力発電会社(SNN)は両機でそれぞれ、2030年と3031年の送電開始を目指す。同協定の批准は、ルーマニアがエネルギー戦略に盛り込んだ「原子力発電プロジェクトの実施と継続」における包括的枠組みとなる。また、同国の「エネルギーと気候変動に関する統合国家計画案(PNIESC)」でも、脱炭素化の目標達成とエネルギーの供給保証を進め、クリーンエネルギー社会に円滑に移行するための中心的項目となる。同協定では具体的な協力事項として、3、4号機完成プロジェクトのほかに1996年から稼働している同発電所1号機(70.6万kWのカナダ型加圧重水炉)の改修工事実施、およびルーマニアの民生用原子力発電部門の拡充と近代化も明記されている。SNNによると、これらの協力プロジェクトにより、ルーマニアでは2031年以降、CO2の排出量が1/2になる見通し。ルーマニアは現在、唯一の原子力発電設備である同発電所1、2号機で年間1,000万トンのCO2を抑制しているが、3、4号機の完成によってこの排出抑制量が年間2,000万トンになる。これらのプロジェクトはまた、国内サプライチェーンの発展に寄与するとSNNは指摘。新たに最大9,000名分の雇用が創出され、原子力産業界では研究開発と技術革新が促進される。これにともない、マクロ経済の飛躍的な成長効果が期待されるだけでなく、高い技術力を持った専門家が育成されるとしている。SNNのC.ギタCEOは、「原子力発電所の運転事業者としては、プロジェクトを遂行する上で『時間』が非常に重要だ。2030年と2031年に3、4号機で首尾よく送電開始できたら、ルーマニアはエネルギーの移行や持続可能な価格のエネルギー消費に向けて、自国の資源に多額の資本を投下している国々と連携していく」とした。同CEOはまた、「様々な国際研究の結果から、ルーマニアは既存の原子力発電所で運転期間を延長した場合の電気代がすべての電源の中で最も低価格になると考えている。また、新規の原子力発電所建設プロジェクトにもコスト面の競争力があるため、米国と協力して進める原子力プロジェクトには、このような競争力、およびCO2排出量の実質ゼロ化の達成という2重の利点がある」と強調している。(参照資料:SNN、ルーマニア議会の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月24日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
25 Jun 2021
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米国のウルトラ・セーフ・ニュークリア社(USNC)は6月22日、同社製の小型モジュール炉(SMR)で使用する「完全なセラミック・マイクロカプセル化(FCM)燃料」の性能や安全性を分析するため、オランダのペッテンにある高中性子束炉(HFR)を活用すると発表した。USNC社が開発したSMRは第4世代の小型高温ガス炉「マイクロ・モジュラー・リアクター(MMR)」で、熱出力1.5万kW、電気出力は0.5万kW。カナダのプロジェクト開発企業でUSNC社と長年協力関係にあるグローバル・ファースト・パワー(GFP)社は2019年3月、このSMRをカナダで建設するため、同国の原子力安全委員会(CNSC)に「サイト準備許可(LTPS)」を申請。CNSCは同年7月から、SMR開発計画の許認可手続きとしては現時点で唯一のものであるこの申請を審査中である。ペッテン炉を保有しているのは、オランダの原子力研究機関の「原子力研究コンサルタント・グループ(NRG)」。1955年から原子力産業界に支援を提供し続けており、原子燃料の試験では50年以上の実績がある。NRGはペッテン炉を使って原子燃料と材料物質の照射試験や照射後試験を行っているほか、原子炉と原子力関係機器で高品質の挙動シミュレーションを実施。重篤な病気の診断や治療など、医療用放射性同位体の新たな活用方法も開発している。USNC社は今回、NRGとの協力により、ペッテン炉でFCM燃料の挙動に関する照射試験の実施を計画し、MMRの耐用年数である20年の間に燃料の十分な安全性が確保されることを実証する。ペッテン炉に付属するホット・セル研究施設も活用し、照射前と照射後の2段階で広範な試験を行う。FCM燃料は事故耐性燃料の一つで、ウラン酸化物の核を黒鉛やセラミックスで3重に被覆した粒子型燃料(TRISO)の次世代版。USNC社は、従来型のTRISO燃料用として約50年前に開発された黒鉛マトリックスを炭化ケイ素(SiC)マトリックスに置き換え、高い放射線や高温に対する耐性を飛躍的に向上させている。同社によれば、SiCマトリックスは高密度な気密バリアーの役割を果たし、MMRの運転時にTRISO燃料が破損した場合でも核分裂生成物の流出を防ぐ。また、FCM燃料の高い熱伝導率は燃料ペレットの温度を均一にするため、原子炉のピーク温度を下げることができる。このように、従来の原子燃料とは異なり、FCM燃料では通常運転時や破損時も含め、様々な温度の中で核分裂生成物を確実に閉じ込めることが可能だとしている。USNC社のF.ベネリCEOは、「NRGにFCM燃料の性能認定をしてもらえば、MMRで無炭素電力を生産するという当社ビジョンを実現する重要な一歩になる」と指摘。「NRGの優れた技術能力と信頼性の高い試験によって、当社が社内で実施した性能評価が全面的に確認される」との期待を表明した。(参照資料:USNC社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月23日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
24 Jun 2021
2444
米国のデューク・エナジー社は6月21日、サウスカロライナ州で保有・運転しているオコニー原子力発電所の3基(PWR、出力各約90万kW)について、2度目の運転期間延長を原子力規制委員会(NRC)に申請したと発表した。これら3基は1973年(1、2号機)と1974年(3号機)に送電開始しており、2013年と2014年に当初の運転期間である40年に加えて、20年間の運転継続を許された。現在の運転認可は2033年と2034年まで有効で、デューク・エナジー社は2回目の運転期間延長により、これら3基をそれぞれ80年間運転する計画。2053年と2054年まで南北両方のカロライナ州で、顧客に無炭素な電力を供給したいとしている。NRCは現在、同社の申請文書に漏れなどの不備がないか点検中。受理できると判定した場合は、付属の行政判事組織である原子力安全許認可会議(ASLB)に公聴会の開催要請を発出することになる。デューク・エナジー社によると、同社最大の原子力発電設備であるオコニー発電所の運転期間再延長は、CO2排出量の削減で同社が設定した意欲的な目標を達成するための重要な最初の一歩。原子力がなければこの目標の達成は難しいと同社は考えており、2019年にはオコニーも含め国内6サイトで運転する全11基の商業炉で、2度目の運転期間延長を申請する考えを明らかにしていた。同社のこれらの原子力発電所は2020年、石炭や石油で発電した場合との比較で約5,000万トンのCO2排出抑制に貢献しており、その発電量は同社が無炭素電源で発電した電力量の83%を占めている。同社はまた、再生可能エネルギーの供給大手でもあり、2025年までに1,600万kW分の設備容量を再エネで新たに確保する方針。それ以外にも、先進的原子力技術や大規模送電網の機能向上、蓄電池の活用で投資を行うなど、CO2を出さない発電技術の模索を続けている。こうした背景から、同社は2030年までに同社の発電事業にともなうCO2排出量を少なくとも50%削減し、2050年までには実質ゼロ化を目指すとの目標を設定。これらの達成に向けて、保有する原子力発電所の運転を今後も継続するとしている。同社のK.ヘンダーソン原子力部門責任者(CNO)は、「CO2を排出しない様々な電源で一層多くの電力を生み出すことは、当社の顧客にとっても重要なことだ」と指摘。その上で、「原子力はその中でも実証済みの技術であり、南北のカロライナ州で数10年にわたって安全かつクリーンな電力を提供している」と述べた。同CNOはまた、「これらの顧客コミュニティにおける経済成長の原動力として、原子力発電所は高サラリーの雇用創出や多額の税収など、様々な恩恵をもたらしている」と強調した。米国では約100基の商業炉のうち、90基以上がこれまでにNRCから初回の(20年間の)運転期間延長を認められた。このうち、ターキーポイント3、4号機とピーチボトム2、3号機、およびサリー1、2号機に関しては、NRCがすでに2回目の運転期間延長を承認、それぞれ80年間の稼働を許可している。NRCはさらに、ポイントビーチ1、2号機とノースアナ1、2号機についても同様の申請を審査中である。(参照資料:デューク・エナジー社、NRCの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月22日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
23 Jun 2021
2163
中国の国家原子能機構(CAEA)は6月18日、北西部の甘粛省酒泉市北山で高レベル放射性廃棄物(HLW)の地層処分に向けた研究開発を実施するため、地下研究所の建設を開始したと発表した。世界中の原子力産業界の課題であるHLWの処分問題を克服するのが目的で、包括的な機能を有する世界最大規模の地下研究所を建設しフィールド試験の実施基盤を構築。深地層の最終処分場建設に必要な科学研究を行うことでHLWの長期的に安全な処分を早期に実現し、原子力産業界の健全かつ持続的な開発に資する方針である。中国では軽水炉から発生する使用済燃料については再処理を行い、高レベルの廃液をガラス固化した後、深地層に処分することになっている。1985年に現在の中国核工業集団公司(CNNC)は「HLW地層処分研究発展計画」を策定しており、中国の地層処分場建設計画はこれに基づいて進められている。甘粛省の北山は処分場建設候補地の一つに選定されている。2006年に関係省庁は「HLW地層処分研究開発計画のガイドライン」を共同で作成しており、その中で「処分場の建設サイト選定」と「地下研究所における科学研究」、および「処分場の建設と操業」という3段階の研究開発戦略を明記。甘粛省北山における地下研究所建設プロジェクトは2016年3月、中国の「国家経済社会開発第13次5か年規画」における100の主要プロジェクトの一つに指定された。また、同施設を建設・保有する機関として北京地質学研究院が設置されている。CAEAがこの建設プロジェクトを承認したのは2019年のことだが、北京地質学研究院が2020年6月に作成した同プロジェクトの環境影響(評価)報告書によると、ゴビ砂漠の地下に建設される地下研究所は螺旋状のスロープと3本の垂直坑、全長13.39kmの地下トンネルを備えることになる。受け入れ可能な廃棄物の容量は51万4,250立方メートルで、地下280メートルと560メートル2つのレベルで実験が行える構造。建設期間は84か月(7年間)で施設としての耐用年数は50年、総工費は27億2,313万元(約465億円)となる予定である。CAEAは現在、HLWを長期的に管理する科学研究モデルの開発に取り組んでいるが、地下研究所の研究開発等に基づいてHLWを地層処分する革新的なシステムを確立し、国内外の研究者と交流。HLWの地層処分という世界レベルの課題の克服に、中国の知恵と解決策が寄与することを目指すとしている。(参照資料:国家原子能機構(中国語)の発表資料、北山プロジェクトの環境影響報告書(中国語)、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月21日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
22 Jun 2021
4158
米国防総省(DOD)の国防高等計画推進局(DARPA)は今年4月、「地球と月の間を一層機敏に行き来するための実証ロケット(DRACO)」プログラムで、宇宙用原子力推進(NTP)システムの開発を担当する企業2社と契約を締結したが、このほどこれら2社に重要な支援を提供する企業として、ウルトラ・セーフ・ニュークリア社(USNC)の技術部門(USNC-Tech)を選定した。これは、USNC社が11日付で明らかにしたもので、DRACOプログラム・第一段階の18か月間に、2種類の開発作業(トラック)のうち「トラックA」の主契約者(契約額2,200万ドル)となったジェネラル・アトミクス(GA)社がNTPシステムで使用する原子炉の予備設計を実施する。また、「トラックB」の主契約者(契約額250万ドル)であるブルーオリジン社(=アマゾン社の創業者J.ベゾス氏が創設した宇宙ベンチャー企業)は、その運用システムとなる宇宙船の概念設計と実証を担当。DARPAはDRACOプログラムで、2025年にもNTPシステムの本格的な実証を地球の低軌道上で行うとしており、USNC社は「これら2つのトラック両方に参加する唯一の企業になった」と強調している。USNC社は現在、熱出力1.5万kW、電気出力0.5万kWの第4世代の小型高温ガス炉「マイクロ・モジュラー・リアクター(MMR)」を開発中。カナダのエネルギー関係プロジェクト開発企業のグローバル・ファースト・パワー(GFP)社は2019年3月、このMMRをカナダのチョークリバー・サイトで建設するため、「サイト準備許可(LTPS)」をSMRとしては初めて、カナダ原子力安全委員会(CNSC)に申請した。USNC社は今回、DODのNTPシステムのような高性能システムの開発に向けて、設計・分析能力を提供することになった。USNC社の発表によると、月面探査などの宇宙開発に世界中の関心が高まるなか、地球から月までの宇宙空間における各国の宇宙開発機関や企業の活動は、次第に活発化している。この空間で米国の政府や企業が確実に動けるようにするには、DODが開発を進めなくてはならず、DODはDRACOプログラムで既存の推進システムをしのぐ全く新しい推進システムを開発する。NTPシステムの持つ高い推力重量比と推進効率は、DODが総合戦略で基本原則とする「機敏な対応能力」をもたらすと期待されている。また、米国の宇宙飛行士を再び月に送ることができる商業規模の能力として、NTPシステムを配備するとしている。同社はさらに、全米3つ(科学、技術、医学)のアカデミーが実施した宇宙用NTPシステムの調査結果が示しているように、DRACOプログラムの技術的な成果の一部は、米航空宇宙局(NASA)が初の火星有人探査を目指して開発中のNTPシステムにも貢献すると指摘。DRACOプログラムではHALEU燃料(U235の濃縮度が5~20%の低濃縮ウラン)が必要になるため、DODはこのような重要技術の成熟や、NTPシステムの活用に直接関わる供給チェーン、人材の確保等を支援していく考えである。(参照資料:USNC社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月18日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
21 Jun 2021
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カナダのオイルサンドの90%を生産する同国の大手生産企業5社は6月9日、生産時に発生するCO2を2050年までに実質ゼロにすることを目指し、小型モジュール炉(SMR)の活用・検討を含めた戦略構想を実行に移すと発表した。この構想を団結して進める枠組みとして、アルバータ州を本拠地とするCanadian Natural Resources社とCenovus Energy社、Imperial社、MEG Energy社、およびSuncor Energy社の5社は企業連合を形成。カナダがパリ協定で誓約した「2050年までのCO2実質ゼロ化」等も達成できるよう、連邦政府やアルバータ州政府とも協力していく考えである。同構想は、これら2つの政府がCO2排出量の削減に向けた計画やインフラの支援で重要プログラムを発表したのに続いて公表されており、両者がそれぞれの構想と地球温暖化の防止目標を達成するには、産業界と政府の協力が重要との認識を強調している。今回の構想はCO2の回収・利用・貯留(CCUS)を基本の方策としているが、これら5社は、地球温暖化の防止で「現実的かつ有効な」方策実現への堅い決意を表明。オイルサンド業界が排出する温室効果ガスが非常に多いことから、今後30年以上にわたりオイルサンドの生産関連でカナダのGDPに対して3兆カナダドル(約267兆円)の貢献をしつつ、CO2の削減で直ちに利用可能な方策を模索していく。5社はまた、この構想によってクリーンエネルギー部門の技術開発を促進し、関係雇用を創出すると指摘。その他の複数の部門にも利益をもたらすとともに、カナダ国民の生活の質向上に資するよう支援する。オイルサンド業界でCO2の排出量と吸収量を同レベルにすることを促すだけでなく、それによって各社の株主たちにも長期的利益を配分できるよう投資を行う。今回の発表によると、CO2排出量を削減する方策はただ一つではないため、参加企業は複数方策の並行的実施を構想に盛り込んでいる。その一つは、SMRや次世代のCO2回収技術、大気中からCO2を直接回収してCO2の量を減らす技術など、潜在的な可能性がある新技術について評価を行い、試験的な運用や適用を加速することである。また、アルバータ州で建設が計画されているインフラ道路を、州内のオイルサンド施設から近隣のCO2貯留ハブにつなぐことも検討する。さらに、このインフラ道路と並行して、CCUSやクリーン水素、エネルギー生産・使用の効率化、燃料転換など、新旧様々なCO2削減技術をオイルサンドの生産施設に設置することを挙げている。カナダでは2019年12月、オンタリオ州とニューブランズウィック州、およびサスカチュワン州の3州が、国内での多目的SMRの開発・建設に向けて協力覚書を締結。アルバータ州は今年4月に、この覚書に加わったことを明らかにしている。(参照資料:加オイルサンド企業連合の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月11日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
18 Jun 2021
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米国のニュース専門チャンネルCNNが15日「中国・広東省の台山原子力発電所(175万kWの欧州加圧水型炉:EPR×2基)で放射能漏れの発生疑惑」と報道した件で、中国生態環境部(省)(MEE)は16日、傘下の国家核安全局(NNSA)の担当者がこの疑惑を否定したと発表した。同発電所1号機で小規模な燃料破損が発生したが、これは原子力発電所における「一般的事象」であると説明。同機は2018年の運開以降順調に稼働しており、周辺環境にも異常はないと強調している。この発表はNNSA担当者への質疑応答という形式で行われ、同担当者はまず質問に対し、1号機の一次冷却材の中で特定の放射能の量が増加したことを認めた上で、「通常運転の範疇である」と明言。燃料の製造や輸送、装荷時の不可避な要因により、発電所の運転中に燃料棒がわずかに損傷することがあり、1号機では6万本以上の燃料棒のうち、5本前後の被覆部に損傷が生じたことが推定されている。これは燃料棒全体の0.01%未満であり、燃料集合体で最大規模の損傷が生じる(設計時の)推定確率の0.25%よりはるかに低い。世界では多くの原子力発電所で、燃料棒で小規模破損が発生した後も運転を続けているとした。担当者はまた、CNNの「放射能漏れ報道」について、「一次系における放射能レベルの上昇は放射能の漏えい事故とは全く異なる」と指摘。一次系は格納容器の内側にあり、物理的バリアとして原子炉冷却システムの圧力バウンダリと格納容器の気密性が保たれている限り、放射能が外部環境に漏洩することはない。これら2つのバリアは今のところ健全で、台山発電所周辺のモニタリングでも、バックグラウンドレベルに異常はなく、漏えいは発生していないと述べた。さらに、「台山発電所の運転を継続するため、NNSAが発電所外部で検出する放射線許容限度の引き上げを承認した」とCNNが報じたことについて、NNSA担当者は「事実ではない」と否定した。NNSAは確かに、冷却材中の特定の希ガスについて許容限度引き上げを検討・承認したが、これはサイト外の放射線検出量とは無関係だと強調した。NNSAの今後の対応に関して担当者は、「1号機の一次系の放射能レベルを引き続き注意深く監視し、発電所と周辺環境のモニタリングを強化。同機での指導と監督も強化して放射能レベルを厳密に監視する措置を講じる」と述べた。同時に、国際原子力機関(IAEA)や同機の供給者であるフランスの規制当局とも、緊密な連絡体制を維持していくとしている。台山発電所の2基は仏フラマトム社製の最新型PWRである「EPR」を採用し、2009年11月と2010年4月に相次いで本格着工した。中仏最大のエネルギー協力プロジェクトとなった同建設計画は、台山原子力発電合弁会社(TNPJVC)が担当。同社に対しては、中国広核集団有限公司(CGN)と広東省の電力会社が合計70%出資しているほか、フランス電力(EDF)が残りの30%を出資している。EPRを世界で初めて採用したのは、2005年にフィンランドで着工したオルキルオト3号機であり、2007年にはフランスでも、初のEPRとしてフラマンビル3号機が着工した。しかし、これらでは様々なトラブルにより完成が遅れており、台山1号機はこうした経験も踏まえて、2018年12月に世界初のEPRとして営業運転を開始。同2号機も2019年9月に営業運転を開始した。このほか英国では、EDFエナジー社がヒンクリーポイントC原子力発電所の2基にEPRを採用し、2018年12月から建設工事を実施中である。 加藤官房長官、中国側に透明性ある説明を期待加藤官房長官(政府インターネットTVより引用)加藤勝信官房長官は17日の記者会見で台山原子力発電所での放射能漏れに関する報道に言及。関係省庁を通じフラマトム社に対し事実関係の確認を行っているとの状況を説明した上で、「今後の推移について中国側が透明性をもってタイムリーに国際社会に説明することを期待する」と述べた。原子力規制委員会の更田豊志委員長は16日の定例記者会見で、「日中韓3国の規制当局によるチャンネルを通じ中国に対し情報共有を求めているが今のところ回答はない」としている。また、技術的観点から、「PWRの燃料破損は国内でも幾つか事例がある。燃料破損のメカニズムが前例のないものならば、技術評価検討会での議論の対象となりうる」と述べ、国際機関などによる調査を通じた詳細解明を待つ考えを示した。(参照資料:中国生態環境部(中国語)の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月16日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
17 Jun 2021
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米国のセントラス・エナジー社(旧・米国濃縮会社(USEC))は6月14日、HALEU燃料(U235の濃縮度が5~20%の低濃縮ウラン)の製造に向けて、同社が昨年提出していたウラン濃縮許可の「修正申請」を原子力規制委員会(NRC)が承認したと発表した。セントラス社はこれまで、オハイオ州パイクトンの「米国遠心分離プラント(ACP)」でウラン235を最大10%まで濃縮することを許されていた。今回の承認により、同社が現在ACPのサイト内で建設しているHALEU燃料製造実証施設は米国で唯一、U235を最大20%まで濃縮できる施設になる。セントラス社は2019年11月にエネルギー省(DOE)と結んだ契約に基づき、独自に開発した新型遠心分離機「AC100M」16台によるカスケードをACPサイト内で建設中。この施設でHALEU燃料の製造実証を行うことになった。この計画では2022年半ばまでの3年間に1億1,500万ドルを投入することになっており、セントラス社はすでに今年3月、すべての「AC100M」の組立を終えカスケード内への設置に向けた最終準備を行うと発表。2022年初頭にも同施設でHALEU燃料の製造を開始するとしている。同社の説明によると、HALEU燃料のU235最大濃縮度20%は、核兵器の開発や海軍の船舶推進用に使用するには、はるかに低いレベルである。それでもHALEUは、米国その他の国で稼働する既存の原子力発電所にとって次世代の先進的原子燃料となるほか、小型モジュール炉(SMR)等の開発中の次世代原子炉で使用することで高い性能を発揮することが出来る。すなわち、単位体積あたりの電力量(電力密度)や原子炉性能の向上が期待できるほか、燃料交換停止の頻度を削減。放射性廃棄物の排出量が少なくなり、核拡散の抵抗性が高いという利点がある。また、DOEの「先進的原子炉設計の実証プログラム(ARDP)」で支援対象に選定された10の先進的原子炉設計のうち、9設計のベンダーが「HALEU系の燃料が必要になる」と表明。その多くは19.75%レベルの濃縮度となる見通しだが、今のところHALEU燃料を国内で商業的に入手することは困難である。DOEの原子燃料作業部会(NFWG)が最近取りまとめた報告書によると、HALEU燃料は米国が先進的原子力技術の開発で世界のリーダー的立場を再構築する重要ステップとなる。このことは、原子力の推進事業を展開する約100社のコンソーシアム「米国原子力インフラ評議会(NIC)」が2020年4月に実施した調査の結果からも裏付けられており、先進的原子炉を開発している米国企業の多くが「HALEU燃料の入手可能性」を最も気がかりな課題の1つに挙げていた。(参照資料:セントラス社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月15日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
16 Jun 2021
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韓国原子力研究院(KAERI)とサムスン重工業は6月8日、溶融塩炉(MSR)技術をベースとする小型モジュール炉(SMR)を搭載した海上浮揚式原子力発電所や原子力船を共同で開発するため、協力協定を締結した。MSRは重大事故の発生リスクが少ないとされており、両者はこれを海上での利用を想定して設計し、要素技術や熱交換器などの関連機器も開発。また、このようなこのSMR利用の発電所のビジネス・モデルを構築するとともに、性能検証や経済性評価に向けた共同研究も実施する計画だ。両者の発表によると、無炭素エネルギー源の一つであるMSRは気候変動問題への利用が大いに期待される。近年、海上輸送部門におけるCO2排出の国際的な規制が強化されていることから、MSRでCO2を排出しない原子力船等を開発することとした。燃料の交換サイクルは船舶本体の寿命とほぼ同じ20年ほどであるため、MSRを一旦搭載した後は燃料を交換する必要がなく、サイズが比較的小さいことも舶用炉利用に向くとされる。また、KAERIの説明では、MSR内部で異常信号が発生した場合、液体燃料の溶融塩が凝固するよう設計されているため、重大事故の発生を抑えることができる。このような安全性の高さに加えて、電力と水素を効率よく同時生産できる利点があり、MSRは次世代のグリーン水素の製造など様々な分野で活用が可能である。協力協定への調印式には、KAERIの朴院長とサムスン重工業の鄭社長をはじめ、両機関の主な関係者が出席。共同研究を通じて、相互の戦略的協力関係を築くことで合意した。KAERIはこれまでに、海水脱塩と熱電併給が可能なモジュラー式PWR「SMART」(電気出力10万kW)を開発し、サウジアラビア等の中東諸国に提案するなど、SMRの開発実績を保有している。KAERIの朴院長は、「海上輸送船用に開発したMSRは国際物流のゲームチェンジャーになり得る次世代技術だ」と指摘した。サムスン重工業の鄭社長も、「気候変動問題に効率的に対応できるMSR技術は当社のビジョンとも合致する」と表明。同社は現在、船舶用の低炭素な推進力としてアンモニア燃料や水素燃料の開発にも取り組んでおり、MSRがこのような新しい成長事業の原動力になるよう、その研究開発にさらに力を入れていくと述べた。海上浮揚式原子力発電所に搭載するSMRついては、ロシアの原子力総合企業ロスアトム社による開発が最も進んでいる。出力3.5万kWの小型炉「KLT-40S」を2基装備した「アカデミック・ロモノソフ号」は2020年5月、極東チュクチ自治区内の湾岸都市ペベクで営業運転を開始している。(参照資料:KAERIとサムスン重工業(韓国語)の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月11日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
15 Jun 2021
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カナダで、原子力を用いた水素製造の実行可能性調査が行われることになった。これはオンタリオ州を拠点とするNPO団体「原子力イノベーション協会(NII)」が、ブルース・パワー(BP)社、グリーンフィールド・グローバル社の支援の下、同国の設計・エンジニアリング企業であるアルカディス(Arcadis)社を中心に進めるもので、石油経済から脱却し、環境に優しい代替エネルギーである水素を基盤にした社会の実現に向けて、CO2を排出しない原子力発電の技術面の実行可能性と投資対効果を評価する。水素はCO2排出量の実質ゼロ化を目指すうえで重要な役割を担う。このためNIIは2020年8月、水素や小型モジュール炉(SMR)、核融合等の将来像を研究する目的で、シンクタンク「次世代原子力のためのブルース・パワー・センター」をオンタリオ州ブルース郡に設置。同シンクタンクでこれまで実施してきたオンタリオ州内における水素製造の可能性とその活用に関する研究を、今後も継続的に実施していく。水素は様々な用途に使えるクリーンエネルギーとして、今後ますます重要になるとみられており、今回の取り組みで水素技術の経済性を実証し、技術面の実行可能性を評価。これらを通じて、急速に進む水素経済への移行準備を整える考えだ。この調査はまた、水素製造が地元社会にもたらす恩恵等を探るため過去に実施した調査プロジェクトに基づき進められる。具体的な恩恵としてNIIは、新たな輸出の機会や地元ベンダー間の取引、高サラリーの雇用の創出などを挙げた。このような調査は、地元の自治体や連邦政府がそれぞれの水素戦略を実行する際も大いに役立つはずだと強調している。NIIによると、BP社を始め沢山の原子力関係企業が所在するオンタリオ州ブルース郡は、エネルギー関係の専門的知見や天然資源、地理的位置などの点から、水素経済を進展させるのに有利な状況にあるという。このため今回の調査は、「官民が協力しCO2排出量実質ゼロを目指すエリア」という同郡の評判をさらに高めることになる。NIIシンクタンクのD.キャンベル所長は、「(2014年に州内の石炭火力発電所の全廃に成功した)オンタリオ州が、地元経済の脱炭素化を一層進展させる上で必要なクリーン水素を、原子力でどのように供給していくか今回の調査プロジェクトで解き明かすことになる」と指摘した。また、ブルース郡で8基を運転するBP社のM.レンチェック社長兼CEOは、「オンタリオ州は原子力を用いることで、エネルギー分野の大規模な脱炭素化に成功した」と強調。その上で、「さらなる技術革新に向けて新たな投資を呼び込み、水素の製造・利用によってオンタリオ州経済の他部門でも脱炭素化を進めるうえで、脱炭素化された電力システムの持つ優位性を活用できる」と指摘している。(参照資料:NIIの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月11日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
14 Jun 2021
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国際原子力機関(IAEA)は6月9日、原子力科学・技術の有効活用によって地球温暖化など世界規模の難題の克服を目指す戦略構想「Nuclear Saves Partnership」を立ち上げ、関係企業や組織に幅広く参加を呼びかけた。これにはすでに、米国の原子力エネルギー協会(NEI)とウェスチングハウス(WH)社が参加の意思を表明。同構想を通じて、原子力発電と再生可能エネルギーを統合したエネルギーシステムの開発や、気候変動対応型(=CO2排出量が少なく干ばつや豪雨等への適応力が高い)農業の促進に資金を提供する考えを明らかにしている。この構想は同日、将来のエネルギー政策や地球温暖化の防止策を協議するため、NEIが原子力産業界のリーダーらを招集して開催したオンライン・イベントで発表された。IAEAのR.グロッシー事務局長は同構想について、「世界中の数多くの人々に一層の健康と繁栄をもたらす原子力科学・技術の平和利用を、IAEAが加盟173か国でさらに促進できるよう、関係企業から資金面の支援をお願いする機会になる」と説明した。同事務局長の発表文によるとIAEAはこれまで、放射線治療装置を持たないコミュニティに装置を提供したり、干ばつに強い農作物への品種改良に原子力技術の活用を促すなどしてきた。今現在は、世界で最も大きな課題となっているマイクロ・プラスチックによる海洋汚染や、頻発する人畜共通感染症の大流行にも精力的に取り組んでいるとした。その上で同事務局長は、「マイクロ・プラスチックの追跡や人畜共通感染症の流行を未然に検知する方法として原子力技術を活用することは、従来の原子力発電所や小型モジュール炉(SMR)の利用とはかけ離れているかもしれない。しかし、原子力科学・技術の恩恵を、特に貧しい国のコミュニティに対して一層普及させることは、原子力への信頼を築くことにつながる」と述べた。また、そのような信頼は、地球温暖化の影響緩和で原子力が潜在能力を発揮する際の必須条件でもあると指摘している。一方、WH社はこの構想に参加した最初の原子力企業になったことについて、「地球温暖化の防止に向けて戦うという当社の方針を行動で示す機会になるともに、IAEAとの連携を強化する重要なステップになった」とコメント。温暖化の防止で世界中が協力していくなか、同社は将来の官民連携モデルとして役立ちたいと述べた。WH社はまた、「原子力はCO2を排出しない世界最大の電源であるため、脱炭素化の達成期限を守り地球温暖化の影響緩和する上で非常に重要だ」と指摘。原子力を定格に近い出力で稼働すれば、太陽光や風力など間欠性のある電源の空白を確実に埋めることができると強調した。同構想ではさらに、WH社その他の民間企業が提供する資金によって、IAEAは今後、原子力の平和利用を一層加速できると明言。具体的には、がんの診断・治療や人畜共通感染症の予防と抑制、地球温暖化への適応と影響の緩和、クリーンエネルギーへの移行などがこれに含まれるとしている。(参照資料:IAEA、WH社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月10日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
11 Jun 2021
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ダンジネスB原子力発電所©EDF Energy英国で稼働中の商業炉全15基を保有するEDFエナジー社は6月7日、南東部のケント州で40年近く稼働していたダンジネスB原子力発電所(61.5万kWの改良型ガス冷却炉:AGR×2基)を永久閉鎖し、直ちに燃料の抜き取り作業を開始すると発表した。2018年9月以降、同社はダンジネスB発電所の停止期間を延長し、他の6サイト・12基のAGRには見られない同発電所に特有の重要な技術的課題の解決に取り組んできた。同社はすでにその多くを克服したが、新たな分析作業を詳細に実施したところ、同発電所では燃料集合体のパーツを含む主要機器のいくつかでさらなるリスクが認められ、同社はこれら2基の再稼働を断念。永久閉鎖を決めたとしている。 英国の商業炉には明確な運転期限が定められておらず、事業者は保有する原子力発電所で定期検査や10年に1度の大規模な「定期安全審査(PSR)」など、安全上の義務事項を履行。それらの結果に基づき、見直した当該炉のセーフティケース(安全性保証文書)の内容を規制当局が支持・承認すれば、無期限に運転継続することも可能である。ダンジネスB発電所では1、2号機がそれぞれ1983年と1985年に送電を開始しており、これらの炉で当初予定されていた運転期間は2008年に満了した。そのため、当時同発電所を運転していたブリティッシュ・エナジー(BE)社は運転期間満了の3年前、これらを2018年まで10年間延長すると決定、同発電所で設備改修等を行っている。また、2009年にBE社を買収したEDFエナジー社も延長した運転期間の満了3年前(2015年)に、同発電所の運転を2028年までさらに10年間継続する方針を決定していた。しかし、大規模な投資によって主蒸気配管など配管関係の腐食問題が解決した一方、ボイラーの材料物質を両炉で詳細に分析した結果、取り換えできない機器の劣化が予想より早く進行していることが判明。EDFエナジー社の幹部会や上級取締役会、株主総会等の協議を受けて、同発電所を永久閉鎖することになった。同社によれば、ダンジネスB原子力発電所を含む国内7サイトのAGR発電所は、過去40年にわたり総発電量の約20%を供給してきた。ダンジネス発電所も2016年に過去最高の、約200万戸の電力需要量を供給。これまで英国内で約5,000万トンのCO2の排出を抑えるとともに、ケント州経済に対しては10億ポンド(約1,545億円)以上貢献した。 同発電所の閉鎖に関して、英国原子力産業協会(NIA)のT.グレイトレックス理事長は「英国では3年以内に原子力発電所が半減する可能性があり、新しい原子力発電設備に緊急投資が必要なことが浮き彫りになった」と述べた。「このように堅実な電源がリプレースされなければ、英国はガス火力に頼らざるを得ない」と警告しており、その場合、CO2の排出量が増加するとともに電気代も高騰、英国がCO2排出量の実質ゼロ化という目標を達成する日は一層遠くなる。「そうならないためにも、再生可能エネルギーと原子力に投資する道を選択し、環境重視の経済復興を果たすべきだ」と強調している。(参照資料:EDFエナジー社、NIAの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月8日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
10 Jun 2021
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ロシア国営の原子力総合企業ロスアトム社は6月8日、シベリア西部のトムスク州セベルスクにある「シベリア化学コンビナート(SCC)」で、鉛冷却高速炉(LFR)のパイロット実証炉「BREST-300」(電気出力30万kW)の建設工事を開始したと発表した。このプロジェクトでは「BREST-300」のほかに、同炉で使用するウラン・プルトニウム混合窒化物(MNUP)燃料の製造施設、および同炉から出る使用済燃料専用の再処理モジュールを建設。これら3施設は、「パイロット実証エネルギー複合施設(PDEC)」を構成することになる。「BREST-300」の建設許可は今年2月、ロスアトム社傘下の燃料製造企業TVEL社の子会社であるSCCに対し、連邦環境・技術・原子力監督庁(ROSTECHNADZOR)が発給した。ロスアトム社はすでにMNUP燃料製造施設を建設中であるため、これを2023年までに完成させた後、翌2024年までに再処理モジュールを完成。「BREST-300」については、2026年に運転を開始するとしている。PDECは、ロスアトム社が進めている戦略的プロジェクト「ブレークスルー(PRORYV)」の主要施設となる予定である。同プロジェクトでロシアは、国内原子力産業において(天然ウランなど)資源の有効活用を図るとともに、蓄積されていく使用済燃料や放射性廃棄物を処分するため、原子燃料サイクルの確立を目指している。必然的に、ロスアトム社は熱中性子炉のみならず高速炉の開発も進めることとなり、経験豊富なナトリウム冷却高速炉(SFR)に加えてLFRも開発するなど、高速炉の実現に向けて最善の策を探る方針である。「BREST-300」の着工記念式には、ロスアトム社のA.リハチョフ総裁のほか、トムスク州のS.ジバーチキン知事、クルチャトフ研究所のM.コワルチュク総裁などが参加。国際原子力機関(IAEA)のR.グロッシー事務局長、および経済協力開発機構・原子力機関(OECD/NEA)のW.マグウッド事務局長からは、着工を祝してビデオメッセージが送られた。リハチョフ総裁は、「再処理を持続的に行うことで原子力産業の資源基盤は実質的に無尽蔵となり、将来世代の人々は使用済燃料の処分という問題からも開放される」と指摘。また、「このプロジェクトが成功すれば、ロシアはエネルギー資源の効率的な活用や環境への影響、利用のし易さといった観点から、持続可能な開発原則を全面的に満たした原子力技術を世界で初めて得ることになる」と述べた。TVEL社のN.ニキペロワ総裁はブレークスルー・プロジェクトについて、「革新的技術を用いた原子炉の開発に留まらず、新世代の原子燃料サイクル技術を導入することになる」と説明。具体的には、濃度の濃いMNUP燃料を開発することによって、LFRを一層効率的に運転できることなどを挙げた。同総裁は「このような技術を組み合わせれば、原子力は将来的に廃棄物を出さない事実上の再生可能エネルギーになる」と明言。「BREST-300」の使用済燃料は同一敷地内の再処理モジュールで再処理され、回収したウランとプルトニウムはMNUP燃料製造施設で新燃料に再加工される。このことから、PDECは次第に、外部からの資源供給を必要としない実質的な自動システムになっていくとしている。(参照資料:ロスアトム社とTVEL社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月8日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
09 Jun 2021
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米国のテネシー峡谷開発公社(TVA)は6月1日、保有するブラウンズフェリー原子力発電所(BFN)(約116万kWのBWR×3基)の2回目の運転期間延長に向けて、延長した場合の潜在的環境影響への取り組みを示す「環境影響声明書・補足文書(SEIS)」を準備するとの意向を表明した。また同日から、この意向通知書(NOI)に対する一般からの意見募集も開始しており、TVAは「運転期間の延長に向けた活動を行わない(=運転延長はしない)」との選択肢もSEISの提案に含めたことを明らかにしている。TVAは現在、米国内の2州で3サイト・7基の商業炉を保有・運転中。アラバマ州にあるこのBFNの3基に対しては、すでに2006年に原子力規制委員会(NRC)が初回の運転期間延長を許可。現在、1~3号機の運転期間はそれぞれ60年間に延長され、認可が満了するのは2033年と2034年、および2036年となっている。これら3基は通常、ほぼ定格出力で稼働しているため、TVAは将来的にもベースロード電源としてBFNが必要であると指摘。このことはTVAの2019年の統合資源計画(IRP)にも明記しており、これに基づき安定した電力供給やTVAが必要とする設備容量を維持する方針である。TVAはまた、電力の供給エリアにおいては今後も、クリーンで信頼性が高く価格の安価な電力を十分供給する必要があると指摘。地元の電力会社と協力して顧客に安定的にサービスを提供していくには、運転認可を更新するなど既存の発電資産を最大限に活用すべきであり、BFNの無炭素電力によってTVAは、「2050年までにCO2排出量が実質ゼロの発電システムを構築する」という目標の達成も可能だと述べた。これらのことからTVAは今回、SEISで次の4つの選択肢を提案。すなわち、①(運転期間延長などの)活動は一切行わない、②BFNで2回目の運転期間延長を行う、③既存のその他の発電設備を活用する、④既存の発電設備を活用するとともに新規の発電設備を建設する――である。TVAはまた、その他の選択肢として⑤BFNの発電容量をすべて再生可能エネルギーでリプレースする、⑥BFNの発電容量をすべて電力の購入で代替する――も検討したが、現時点では2つとも廃案にしたと説明している。TVAはこれらの様々な選択肢について評価を行う考えで、そのため6月1日から7月1日までの期間、ネット等を通じてコメントを受け付ける。(参照資料:TVAの発表資料①、②、原産新聞・海外ニュース、ほか)
08 Jun 2021
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