エネルギー省(DOE)は5月13日、先進的原子炉の原子燃料や資機材、計測機器等の開発で重要な役割を担う「多目的試験炉(VTR)」の建設に向けて、環境影響声明書(EIS)の最終版(FEIS)を発表した。その中でDOEは、VTRを建設・運転するのに最も好ましいサイトとして、傘下のアイダホ国立研究所(INL)を特定。VTRの支援施設として可能な限りINLの既存設備を活用する方針だが、VTRで使用する燃料の製造サイトについては今のところ判断を下していない。DOEは今後も技術評価を継続し、燃料製造の好ましいサイト・オプションを特定するとしている。VTRはナトリウム冷却式の高速スペクトル中性子照射試験炉(熱出力30万kW)で、革新的な原子力技術の研究開発および実証を飛躍的に加速すると期待されている。DOEは米国が2050年までにCO2排出量の実質ゼロ化を達成する上でも、VTRは大きく貢献すると指摘。VTRの建設に関する最終決定は今年の後半に下す予定で、建設が決まった場合は議会が予算措置を講じるのを待って、2023年にも最終設計と建設工事を開始、2026年末までにVTRの運転を本格的に始める計画だ。DOEの発表によると、米国では過去30年近く高速炉タイプの中性子源や高速中性子の照射試験を行える施設が存在せず、そうした能力を有するロシアや中国、インドに遅れをとってきた。DOEの原子力局は高速スペクトル試験炉の必要性を指摘する複数の報告書を受け、2018年に「VTRプログラム」を設置。同年9月に成立した「2017年原子力技術革新法(NEICA2017)」でもVTRの必要性が強調されており、DOEは同法の指示に従って2019年2月にVTRの建設プロジェクトを発表している。翌2020年9月には、DOEはVTR建設に向けた次のステップとして「重要決定(CD)1」を承認した。研究インフラの設計・建設における意思決定プロセスでは、CD-1で施設の概念設計やコストの見積が認められており、環境影響調査の実施もこの中に含まれている。その後のCD-2で詳細設計、CD-3で建設開始、CD-4でVTRは運転開始に至る見通しである。EISは国家環境政策法(NEPA)に準じて作成されるもので、DOEはVTRの建設と運転、および燃料の製造が周辺のコミュニティや環境に及ぼす潜在的な影響を分析した。可能性がある3つの選択肢は、①「VTRと燃料製造施設をアイダホ州のINLに設置」、②「VTRのみをテネシー州のオークリッジ国立研究所(ORNL)に設置」、および③「燃料製造施設のみをサウスカロライナ州のサバンナリバー・サイト(SRS)に設置」。これらについて、VTRで行われる試料の照射後試験や、中間貯蔵と最終処分の実施に先立つ使用済燃料の調整と貯蔵、VTR燃料の原料調達と燃料ピンの製造および燃料集合体の組立、などの項目で影響評価を行った。DOEは2020年12月にEISの案文を公表しており、その後は案文に対するコメントを募集。インターネットを通じて公開ヒアリングを2回実施したほか、州政府や連邦政府の機関、および先住民を含む一般国民からも意見を聴取し、最終版を作成したとしている。(参照資料:DOEの発表資料①、②、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの5月16日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
18 May 2022
2611
英国のビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)は5月13日、原子力産業界における競争を促し英国全土で関係投資が行われるよう、新規の原子力発電所開発プロジェクトを支援する1億2,000万ポンド(約192億円)の補助金交付制度として、「未来原子力実現基金(Future Nuclear Enabling Fund=FNEF)」を立ち上げたと発表した。今年の後半にも補助金の交付を始めたいとしており、関係企業に対しては交付先を決める際に実施する入札への登録を済ませるよう依頼しているほか、新たな原子力発電所の開発プロジェクトに関する情報も募集。今回のFNEFへの応募を考えていない企業にも、自社の経験に基づく知見をFNEFの制度設計に反映するため提供することを希望している。7月から8月にかけて入札書を受領した後、英国政府は入札者の適格性試験を実施する予定で、その次の段階ではさらに詳細な評価作業も実施。交付条件等で双方が折り合えば、12月からFNEFの補助金を交付するとしている。FNEFの設置は、BEISが今年4月に発表した英国の新しい「エネルギー供給戦略」の中で約束していたもので、2030年までに新しい原子炉8基の建設承認を済ませるという英国政府の意欲的な計画を実現するため、原子力市場への新たな参入希望者を奨励するとともに、新しい原子力技術の開発加速で投資を促す。このため、小型モジュール炉(SMR)を含む新規の原子力建設プロジェクトに補助金を交付する際は、的を絞った上でプロジェクト同士が競合することの利点を発揮するよう入札を設定し、その実現に向けて民間投資を呼び込む方針である。BEISは、原子力発電が英国エネルギーミックスの重要部分を担うと考えており、世界の天然ガス市場における英国の依存度を下げるとともにエネルギーの自給を改善すると指摘。英国民も原子力によって高いエネルギー料金を払わずに済むことから、将来のクリーンエネルギー技術の一つとして原子力への投資を促進する。FNEFはそれを支援するための制度であり、英国のあらゆる地域で新規建設の機会を提供し雇用を創出、国内の原子力サプライチェーンではこれにより、レジリエンス(供給力の一時的な低下等からの回復力)の強化と、関係機器の製造能力増強が図られる。BEISは今回、FNEFと同様に設置すると約束している新しい政府組織「大英原子力推進機関(Great British Nuclear=GBN)」の立ち上げ計画を練るため、産業アドバイザーとしてバブコック・インターナショナル・グループで原子力担当CEOを務めていたS.ボウウェン氏を起用すると発表した。GBNは一年に1基という早いペースの新規原子力発電所開発プロセスを支援するための組織で、「エネルギー供給戦略」に明記された目標「2050年までに原子力で最大2,400万kWの発電設備」の実現に向けて活動する。GBNを通じて英国政府は2023年から、最も有望な原子力新設プロジェクトをさらに選定する作業や事業者との交渉を開始する方針。ウェールズのアングルシー島にあるウィルファ・サイトへの支援も含め、英国政府はFNEFを通じた支援を出来るだけ早急に可能にしたいとしている。(参照資料:英国政府の発表資料①、②、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの5月13日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
17 May 2022
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米メリーランド州で次世代の原子力技術を開発しているX-エナジー社と、原子力発電所のあらゆる側面でサービスを提供している英国のキャベンディッシュ・ニュークリア社は5月11日、英国内でX-エナジー社製の高温ガス炉(HTGR)を建設するため、協力覚書を締結したと発表した。X-エナジー社は現在、小型のペブルベッド式HTGR「Xe-100」を開発中。電気出力8万kWのHTGRを4基連結することで、出力を32万kWまで拡大できる。X-エナジー社はこのようなHTGR設計を通じて、電力や産業用の熱生産、大規模な水素製造等で脱炭素化を促進するなど、世界中で高まりつつあるクリーン・エネルギーの需要に応えられると考えている。米国内では2027年以降に初号機を建設する計画で、英国での建設はそれ以降になるとしている。英国ではビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)が2021年12月、2030年代初頭の実証を目指して建設する先進的モジュール式原子炉(AMR)技術として、高温ガス炉(HTGR)を選択した。柔軟性の高い活用が可能な原子炉開発予算3億8,500万ポンド(約605億円)のうち、1億7,000万ポンド(約267億円)を「AMRの研究開発・実証プログラム」に投じ、HTGRの初号機を建設する考えだ。BEISはまた、今年4月に新しい「エネルギー供給保証戦略」を発表しており、この中で原子力開発における3つの方向性として、100万kW級の大型炉のほかに小型モジュール炉(SMR)、およびHTGRなどのAMR(*)を開発する方針を示している。米英の2社による今回の共同発表によると、HTGRの開発と建設に関する両社の協力は、「これら3つの方向性すべてに貢献する」というキャベンディッシュ・ニュークリア社の方針を支えるとともに、英国のエネルギー供給保証を一層確実なものとし、2050年までに英国がCO2排出量の実質ゼロ化を達成する一助になる。両社はまた、英国の原子力サプライチェーンにも、新たなビジネスの機会が相当量創出されると強調している。キャベンディッシュ・ニュークリア社は「世界をリードする米国の原子炉技術と、当社のプロジェクト統合能力や機器の製造・モジュール化技術、運転保守(O&M)能力などを組み合わせることで、双方の豊富な経験と幅広い専門的知見が一つにまとまり、英国でHTGRを開発・建設するための絶好の機会が生み出される」と表明した。「Xe-100」に関連する動きとしては、米エネルギー省(DOE)は2020年10月、「先進的原子炉設計の実証プログラム(ARDP)」における7年間の支援対象企業の一つとしてX-エナジー社を選定。米国内では、ワシントン州の2つの公益電気事業者(グラント郡PUDとエナジー・ノースウエスト社)が、「Xe-100」をエナジー・ノースウエスト社保有のコロンビア原子力発電所と同じサイト内で建設することを計画している。同設計についてはまた、カナダ原子力安全委員会(CNSC)が2020年8月から予備的設計評価(ベンダー設計審査)を実施中。建設・運転許可の取得に向けた正式な申請手続に先立ち、同設計がカナダの規制要件を満たしているか、X-エナジー社の要請に基づいて評価している。さらに、ヨルダンが2030年までに「Xe-100」を国内で4基建設することを希望しており、X-エナジー社とヨルダン原子力委員会は2019年11月、基本合意書を交わしている。【注*】BEISは既存世代の原子力発電所の後に出現する新しい原子炉技術の説明としては、一般的に理解されている「SMR」という表現では意味が狭すぎると考えており、①水で冷却する方式の第3世代SMR:既存の原子力発電所と似たタイプの技術で出力が小さい、②新たな冷却システムや燃料を使う第4世代以降の新型モジュール式原子炉:産業プロセス熱などの新機能を提供できる――などの2グループに分類している。(参照資料:X-エナジー社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの5月11日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
13 May 2022
3056
米ワイオミング州の州政府は5月4日、西側に隣接するアイダホ州の国立研究所(INL)と先進的原子力技術等の研究開発や実証・建設で協力するため、INLの管理・運営を担当しているバッテル・エナジー・アライアンス(BEA)社と了解覚書を締結した。ワイオミング州では2021年6月、ビル・ゲイツ氏が会長を務める原子力開発ベンチャー企業のテラパワー社が、GE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社と共同開発しているナトリウム冷却高速炉「ナトリウム(Natrium)」の実証炉建設について、同州のM.ゴードン知事、および同州を含む西部6州に電力供給しているパシフィコープ社の3者が協力することで合意。同年11月には、テラパワー社は実証炉の建設に適したサイトとして、同州南西部のケンメラー(Kemmerer)市にある(閉鎖予定の)石炭火力発電所を選定している。こうした背景から、ワイオミング州は今回の覚書を通じて、原子力を含む先進的エネルギー技術の開発でINLの見識や能力、戦略等を活用。将来的に堅固で持続可能な州経済の基盤を実現するとともに、先進的なエネルギー技術で同州と米国がリーダー的地位を確立できるよう努めていく。具体的な協力分野としては、先進的原子炉技術とその活用、全般的な原子燃料サイクル、原子力関係機器の製造、水素の製造・輸送・消費とその産業利用、原子炉を組み込んだ先進的な無炭素エネルギーの生産と活用、およびその他の先進的エネルギーシステムを挙げている。また、州内のウラン産業を含む原子力産業に従事する従業員の教育・訓練についても、協力を促進していく方針だ。5年間有効な今回の覚書について、ワイオミング州政府は「米国の国策産業ではINLが長年にわたりリーダー的役割を果たしてきた一方、当州には米国全土に安価で確実なエネルギーを提供可能なインフラや専門技術、天然資源がある」と指摘。世界市場が低炭素なエネルギーに向けて移行していくなか、覚書の締結はワイオミング州が引き続き、そのための解決策を提供していくことを示しているとした。同州のゴードン知事は、「『ナトリウム計画』の誘致は大きなキッカケとなったが、私の目標は州内のウラン資源や労働力、技術力を活かして原子力産業を根付かせることだ」と表明。今回の覚書によって、この目標の達成が促進されると述べた。ワイオミング・エネルギー機関(WEA)のG.ミュレル事務局長も、「今後数年間で両者の連携関係が正式に形作られる」と指摘。「INLの専門的知見は、ワイオミング州が進める『あらゆるエネルギーを活用する戦略』において重要な役割を果たすだろう」としている。(参照資料:ワイオミング州の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの5月9日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
12 May 2022
2517
バッテンフォール社とWH社の幹部による燃料供給契約 ©Westinghouseスウェーデンのバッテンフォール社は5月5日、国内の2サイト・5基の商業炉で2024年以降に使用する燃料を確保するため、米ウェスチングハウス(WH)社および仏フラマトム社の2社と、長期の燃料供給契約を新たに締結したと発表した。同社は2016年12月、保有するリングハルス(100万kW級のPWR×2基)とフォルスマルク(100万kW級のBWR×3基)の両原子力発電所用に、WH社とアレバ社(当時)に加えて、ロシアのTVEL社からも2018年から2025年までの期間、3社の合計で約12億クローナ(約156億円)の燃料供給を受ける契約を締結していた。しかし、2月24日にロシアがウクライナに軍事侵攻したのを受け、同社は即日、「新たな方針が決まるまでロシアからの燃料供給を停止する」と発表。その際、新しい供給契約についても「ロシアと結ぶ予定はない」と明言しており、ロシアによる軍事侵攻と欧州における深刻な安全保障状況を深く憂慮していた。バッテンフォール社は今回、「信頼出来る2社との協力を継続出来ることに非常に満足している」と表明。同社は関係資機材の調達について、個別の企業や国家に依存しない戦略を堅持しており、原子力発電所の燃料は異なる国の複数サプライヤーから調達している。商業炉毎に有資格のサプライヤーを少なくとも2社確保する方針で、サプライヤーの評価と決定については技術面と商業面における同社の基準、および持続可能なサプライチェーンという観点から判断を下している。バッテンフォール社はまた、欧州原子力共同体(ユーラトム)の供給局(ESA)、および国際原子力機関(IAEA)の規制や指針に沿って燃料関係の取引を行っており、米仏の2社については、「ともに当社の燃料供給規約に適合している」と強調した。なお、WH社は同じく5月5日、同社のスウェーデン支社が同国中部のバステラスにある最新鋭の燃料製造施設で、バッテンフォール社向けの燃料を引き続き製造・納入することになったと発表した。「スウェーデンの燃料供給保証に今後も貢献できることを嬉しく思う」とした上で、同社が燃料製造の分野で有する広範な知見と革新的な技術により、安全で信頼性の高い無炭素なエネルギーをスウェーデンにもたらしたいとしている。(参照資料:バッテンフォール社の発表資料①、②、③、WH社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、ほか)
11 May 2022
2550
ベルギーの大手エンジニアリング・コンサルティング企業であるトラクテベル社は5月6日、フランス電力(EDF)が原子力・代替エネルギー庁(CEA)などと協力して開発している小型モジュール炉(SMR)「NUWARD」の建設を支援するため、概念設計調査を実施すると発表した。2030年からEDFが「NUWARD」実証プラントの建設に取り掛かる計画であるため、トラクテベル社は今回、フランス中部のトゥールにあるEDFのエンジニアリング・センター(CNEPE)と契約を締結。SMR関係のエンジニアリング・サービスを提供して欧州初のSMR建設をサポートするほか、EDFらが「NUWARD」等の建設を通じて目指している「2050年までのCO2排出量の実質ゼロ化」や、安全で安価な電力供給にも貢献したいとしている。トラクテベル社はこれまでに、ベルギーで稼働する原子炉7基中6基の建設でアーキテクト・エンジニアを務めたほか、世界中の多様な原子力開発プロジェクトにおいてもエンジニアリング企業として活動。2020年12月にはSMRに関する同社の将来展望を公表し、SMR事業をエネルギー問題の総合的解決策として重点的に推進していく方針を表明している。一方のEDFは2019年9月、CEAおよび戦略的下請け企業である政府系造船企業のネイバル・グループ、小型炉専門開発企業のテクニカトム(TechnicAtome)社とともに、フランスで50年以上の経験が蓄積された最高レベルのPWR技術に基づく「NUWARD」を発表した。出力17万kWの小型PWR×2基で構成される「NUWARD」プラントの合計出力は34万kWで、高圧の送電網が届かない遠隔地域の需要に応えるほか、間欠性のある再生可能エネルギー源を補完。EDFが主導するNUWARD企業連合にはフラマトム社も加わっており、2020年代後半にも競争力を備えたソリューションとして「NUWARD」を世界市場に送り出す方針である。トラクテベル社が今回、EDFと締結した契約は今年の10月まで有効で、同社のエンジニアはすでに複数の設計オプションに関して技術面や経済面の調査を実施した。またこの契約に基づき、取水口やサービス・システム等の補助的周辺機器やタービン系の一部、およびこれらのシステムを格納する建屋の3Dモデリング等について概念設計調査を実施する。さらに、入手したデータが複数のパートナー企業間で明確かつ適時に共有されるよう、同社の専門家がパートナー企業間の連絡管理も行う方針。同社はこのほか、予備的な土木調査やコスト評価についても責任を負うことになっており、「NUWARD」プロジェクトに参加するその他のパートナー企業と連携して、サイトのレイアウト設計図も作成する考えだ。なお同プロジェクトでは、概念設計段階に続いて2023年から基本設計段階に入るため、トラクテベル社はこの段階でもEDFをサポートできるよう方策を手配中。その中でも特に、システム調査や土木・レイアウト設計に関する調査、および電気関係や許認可関係の調査を行いたいとしている。(参照資料:トラクテベル社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの5月9日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
10 May 2022
3351
中国広核集団有限公司(CGN)は5月2日、遼寧省の紅沿河(ホンヤンフ)原子力発電所で建設していた6号機(PWR、111.9万kW)を同日の午後、初めて国内送電網に接続したと発表した。接続プロセスの中で、6号機のパラメーターはすべて正常かつ安定しており、良好な状態。建設工事は最終負荷試験の段階に入り、168時間の試運転など各種の起動試験を経て、今年の後半にも営業運転を開始する見通しである。同発電所では、同型の5号機が2021年7月末、同国内51基目の商業炉として営業運転を開始した。同年12月、山東省では華能山東石島湾原子力発電所(ペブルベッド型モジュール式高温ガス炉の実証炉、21.1万kW)が送電開始し、今年3月には福建省の福清原子力発電所6号機(「華龍一号」、115万kW)が営業運転を開始。紅沿河6号機はこれらに次いで、中国で54基目の商業炉になると見られている。紅沿河5、6号機は同発電所のⅡ期工事に相当し、第3世代炉に分類される「ACPR1000」設計を採用。同設計は1~4号機で採用された第2世代改良型の「CPR1000」と同様、フランスのPWR技術をベースにCGNが開発したものである。Ⅱ期工事の建設は中国・東北地方の振興を支援する重大施策の一つに位置付けられており、同地方のエネルギー構造の合理化を目指すとともに環境汚染対策の一つにもなっている。紅沿河Ⅱ期工事はまた、2011年3月の福島第一原子力発電所事故以降、CGNが国家発展改革委員会から2015年3月に初めて承認を受けた新規の原子炉建設計画。同発電所の建設と運営・管理は、CGN傘下の遼寧紅沿河核電公司(LHNPC)が担当しており、CGNと国家電力投資集団公司が45%ずつ出資。残りの10%は大連建設集団公司が出資している。LHNPC は2015年3月に5号機を着工したのに続き、同年7月に6号機の建設工事を本格的に開始。今年の3月25日から28日にかけて、LHNPCは生態環境省・国家核安全局(NNSA)による監督の下、6号機に157体の燃料集合体を装荷、4月21日には同炉で初めて臨界条件を達成していた。(参照資料:CGN、LHNPCの発表資料(中国語)、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの5月4日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
09 May 2022
2913
フィンランドのフェンノボイマ社は5月2日、中西部のピュハヨキで進めていたハンヒキビ原子力発電所1号機(120万kW級ロシア型PWR)の建設計画で、ロシアのRAOSプロジェクト社と結んでいたEPC(設計・調達・建設)契約を解除すると発表した。理由として同社は、ロシアの原子力総合企業ロスアトム社傘下の総合建設請負業者であるRAOSプロジェクト社の作業が非常に遅く、プロジェクトの実施能力が欠如していると指摘。ここ数年は作業の遅れが拡大してきており、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻はプロジェクトのリスクをさらに高めている。RAOSプロジェクト社には、このようなリスクの影響を緩和する能力はないとフェンノボイマ社は強調している。今回の決定にともない、同社とRAOSプロジェクト社の協力関係は直ちに打ち切られ、ハンヒキビ1号機について進められてきた設計作業や許認可の取得手続き、およびサイトでの作業もすべて終了する。ハンヒキビ1号機の建設計画については2013年2月、大型炉設計を採用した場合の直接交渉権が東芝に与えられている。しかし、ロスアトム社の国際事業部門であるルスアトム・オーバーシーズ社が、フィンランドに設立する子会社を通じてフェンノボイマ社株の34%引き受けを約束したことから、フェンノボイマ社は2013年12月に最終的にルスアトム・オーバーシーズ社と原子炉供給契約を締結。2015年6月には発電所の建設許可申請書を雇用経済省に提出しており、2016年1月にピュハヨキのサイトで基礎掘削を実施した。また、建設許可の取得に先立ち2020年6月からは管理棟の建設工事も始まっていたが、今年の3月末、電力を多く消費する企業約60社で構成されるボイマ・オサケイティエ・グループを通じて、フェンノボイマ社に一部出資しているヘルシンキ郡のバンター市はプロジェクトからの撤退を表明。同市は「ロシアの軍事侵攻によりプロジェクトの実施は不透明になった」と指摘しており、「ロシアと長い国境を接するフィンランドの安全保障、フィンランド政府の声明や政府と欧州連合によるロシアへの制裁表明などを照らし合わせると、建設許可を取得するのはもはや不可能だ」と述べた。このほか、フィンランド南西部のトゥルク市も同様に撤退を検討中であると伝えられていた。今回の決定について、フェンノボイマ社のJ.シュペヒトCEOは、「当社の従業員や建設サイトのピュハヨキ地域、およびサプライチェーン企業への影響が大きいので、その対応でこれらの代表者らと緊密に連携していくほか、建設サイトの温存にも注力していく」と述べた。また、同社取締役会のE.ハルマラ会長は、「EPC契約の解除を決めるのは簡単なことではなかった」と説明。「複雑な要素が多数関係する大型プロジェクトということで徹底的に検討した末の判断であり、マイナスの影響を全面的に受け入れて、その緩和に全力を尽くすのみだ」としている。一方、EPC契約を打ち切られたロスアトム社は同日、「極めて残念な決定であり、その理由も全く理解しがたい」とコメント。その上で「フェンノボイマ社の執行部が、同社株を34%も保有する当社のプロジェクト関係者と詳細な協議も行わずに打ち切りを決定したという事実を明確にしておきたい」と述べた。また、「建設プロジェクトは順調に進展していたし、当社との提携関係も良好だった」と指摘。ロスアトム社によると、RAOSプロジェクト社は建設許可の取得に必要な文書の準備など、すべての義務事項を細心の注意を払って履行。そのお蔭でフェンノボイマ社は、すでに98%以上の重要文書をフィンランド放射線・原子力安全庁(STUK)に提出済みであり、5月までの2か月間ですべての文書の提出を終える予定だった。ロスアトム社としては、国際協力活動のなかで義務事項を無条件に履行するという原則を厳格に全うしつつ、適切な法令や契約に従って自らの権益を守りたいとしている。(参照資料:フェンノボイマ社、ロスアトム社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの5月3日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
06 May 2022
2721
フィンランド南西部のオルキルオト原子力発電所で、3号機(OL3)(出力172万kWの欧州加圧水型炉=EPR)を建設中のティオリスーデン・ボイマ社(TVO)は4月29日、同炉で7月末に予定されていた営業運転の開始スケジュールが9月に延期になったと発表した。これは、建設工事を請け負っている仏アレバ社および独シーメンス社の企業連合からTVOに伝えられたもので、理由はOL3の冷却系で3週間程度の機器点検・修理が必要になったためと説明している。2005年に着工したOL3は、約17年間に及んだ建設工事を経て2021年12月に臨界条件を達成し、今年3月には欧州初のフラマトム社製EPRとして送電を開始した。その際、約4か月の試運転期間に出力を定格まで徐々に上げていくとしていたが、試運転段階のこれまでの経験に基づき、さらなる試験と分析に必要な時間を追加で確保したとしている。TVOの発表によると、OL3では試運転プログラムに沿って4月26日に計画停止する際、核分裂の連鎖反応を制御しているホウ素の注入ポンプが不意に作動した。緊急停止信号の誤作動によるものと見られているが、同炉は現在安全な状態にあるほか周辺住民や環境への影響もなく、TVOはこの現象の発生原因を詳しく調査中。自動信号システムのエラーを修理することになるが、営業運転開始スケジュールの延期とは無関係だと強調している。OL3は世界で初めてEPR設計を採用して着工した原子炉で、運転の開始は当初、2009年に予定されていた。しかし、技術的な課題が次々と浮上したためこのスケジュールに大幅な遅れが生じ、コストもターンキー契約による固定価格の約30億ユーロ(約4,100億円)が倍以上に拡大した。2007年にはフランスで、同じくEPRを採用したフラマンビル原子力発電所3号機(FL3)(165万kW)が着工されたが、FL3でもOL3と同様、様々なトラブルにより建設工事が遅延。FL3では現在、2023年の第2四半期に燃料の初装荷が予定されている。一方、中国・広東省で2009年11月と2010年4月に着工した台山原子力発電所1、2号機(各175万kW)では、これらの先行計画における作業経験が生かされ、世界初のEPRとしてそれぞれ2018年12月と2019年9月に営業運転を開始した。また、英国・南西部サマセット州では、同じくEPRを採用したヒンクリーポイントC原子力発電所1、2号機(各172万kWのEPR)が、それぞれ2018年12月と2019年12月から建設中。同国ではさらに南東部のサフォーク州でも、サイズウェルC原子力発電所として160万~170万kWのEPRを2基建設する計画について協議が行われている。(参照資料:TVOの発表資料①、②、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの4月29日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
02 May 2022
2019
中国の国務院は李克強首相が議長を務める4月20日の常務委員会で、浙江省の三門原子力発電所と山東省の海陽原子力発電所、および広東省で計画されている陸豊原子力発電所で、新たに大型炉を合計6基建設する計画を承認した。常務委員会は議論の中で、エネルギーは社会経済的な発展を支える基盤であると指摘。その発展に必要な条件が十分整った中で、エネルギー開発プロジェクトを先々まで計画・準備し、前に進めることが重要だとしている。三門と海陽の両サイトでは2018年から2019年にかけて、ウェスチングハウス(WH)社製の120万kW級AP1000が2基ずつ営業運転を開始。WH社は4月26日付けの発表の中で、「当社製AP1000の建設が中国で新たに4基決まったことを歓迎する」とコメントした。これにより、世界のAP1000は米国で建設中のものを含め合計10基になるとした上で、「現在中国で稼働するAP1000は最も進んだ実証済みの技術を採用しており、稼働率その他の性能指標で記録的な高実績を蓄積。米国と中国は、安全でクリーンかつ信頼性の高いベースロード用電源であるAP1000技術の実証で、それぞれがリーダー的役割を果たしている」と述べた。同社はまた、「既存のAP1000のこのように素晴らしい実績を最大限に活用することにより、新しい4基の建設プロジェクトがコストと工期の両面で魅力的なものになることを期待する」と表明。今後建設されるAP1000の建設コストと工期については、マサチューセッツ工科大学が近年の報告書で、どちらも圧縮可能と結論付けている点に言及した。一方、中国広核集団有限公司(CGN)が建設を計画中の陸豊原子力発電所に関しては、深圳の証券取引所が4月21日付の公告で「国務院が陸豊5、6号機の建設を承認した」と発表している。同発電所では今のところ、1~4号機は建設されていないが、公告は5、6号機について「120万kW級の『華龍一号』設計を採用する」と明記。国家核安全局(NNSA)が建設許可を発給し次第、着工が可能だとしている。今回の発表の中で国務院は、「安全性の確保と厳しい監督管理を前提に、適切なペースで原子力発電開発を進めていく方針であり、長年にわたる準備活動と包括的な評価結果に基づいて今回、国家計画で特定されていた3地点での新規建設を許可した」と説明。李克強首相は「原子力発電では絶対的な安全確保を保証しなければならず、それには効果的な規制が必要だ」と述べた。なお、国務院の3月24日の発表によると、国家発展改革委員会の能源局が同月22日、第14次5か年計画(2021年~2025年)に基づく近代的なエネルギーシステムの計画について発表した。その中で、中国は2025年までに非化石燃料によるエネルギー消費量を約20%まで上げていくほか、発電量については約39%にすると明記。原子力に関しては、安全性の確保に留意しつつ沿岸部の建設計画を着実に進めていき、現在約5,000万kWの原子力設備容量は2025年までに7,000万kWに達する見通しを示している。(参照資料:中国国務院①、②とWH社、および深圳証券取引所(中国語)の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの4月21日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
28 Apr 2022
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韓国の斗山エナビリティ社(=Doosan Enerbility、今年3月に「斗山重工業」から社名変更)は4月25日、米ニュースケール・パワー社が開発した小型モジュール炉(SMR)「ニュースケール・パワー・モジュール(NPM)」の最初の発電所を建設するため、主要機器の製造を本格的に開始する契約を同社と締結した。早ければ今年中にもNPMの原子炉圧力容器の鍛造材生産を始め、2023年の後半から本格的な機器製造を開始する。出力7.7万kWのモジュールを6基備えたNPM発電所「VOYGR-6」は、ユタ州公営共同電力事業体(UAMPS)が米アイダホ国立研究所の敷地内で建設を計画中。最初のモジュールを2029年までに完成させるため、2024年の前半に建設・運転一括認可(COL)を原子力規制委員会(NRC)に申請し、2026年前半に認可を受けて建設工事を始めたいとしている。ニュースケール社が開発した(1モジュール当たりの出力が5万kWの)NPMは、今のところ米国で唯一NRCから標準設計承認(SDA)を取得したSMR。同社は出力7.7万kW版のモジュールについても、SDAを2022年第4四半期に申請する予定である。斗山エナビリティ社は2019年からニュースケール社に対する金融投資企業に加わっており、4,400万ドルの株式投資を現金で実施した。2021年7月にはこれに加えて新たな株式投資を行うと発表、その他の韓国投資家グループとともに同社が行った投資の総額は1億380万ドルにのぼっている。これらを通じて、斗山エナビリティ社は数兆ウォン(1兆ウォン=約1,000億円)規模の機器や資材を供給する権利をニュースケール社から取得。2019年には同社から「SMRの製造可能性調査」を請け負っており、2021年1月にこのタスクを完了した。その結果に基づき斗山エナビリティ社は現在、建設スケジュールの遅延リスクを軽減するとともに確実なコスト設定が可能になるよう、NPM機器のプロトタイプを開発中である。斗山エナビリティ社の朴会長兼CEOは、「ニュースケール社との戦略的協力関係は継続的に強化してきており、今やSMRを製造する万全な準備が整った」と表明。市場ではSMRの需要が一層高まりつつあることから、同社の下請企業にも参加のチャンスがあるとしている。ニュースケール社のJ.ホプキンズ会長兼CEOは、「当社が最初のSMRを市場に出す最有力候補であることを世界中に示すことができた」と指摘。斗山エナビリティ社に対しては、「世界レベルの製造能力によって当社製SMRの商業化に大いに貢献して欲しい」と述べた。なお、今回の発表によると、ニュースケール社は斗山エナビリティ社以外にも、多くのパートナー企業と機器発注の調整を行うなど、サプライチェーンの確保準備中。米国を含む北米のみならず、欧州やアジアの顧客にもSMRを確実に販売していくため、国内外の複数のサプライヤーと契約締結に向けた協議を進めているとしている。(参照資料:斗山エナビリティ社、ニュースケール社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの4月25日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
27 Apr 2022
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韓国水力・原子力会社(KHNP)は4月22日、ポーランドが進めている大型原子力発電所の導入計画に対し、韓国製の140万kW級改良型PWR「APR1400」を6基(合計840万kW)建設する事業提案書を提出し、受注に向けた本格的な活動を開始したと発表した。ポーランドでは2021年2月、内閣が「2040年に向けたポーランドのエネルギー政策」を正式決定しており、改訂版の「ポーランドの原子力開発計画」では、2043年までに約100万kWの原子炉を6基、合計600万~900万kW建設することを計画。出力100万~150万kWの初号機を2033年までに運転開始した後、2年おきに残りの5基を完成させていくとしている。また、同国の国営エネルギー・グループ(PGE)が設立した原子力事業会社のPEJ社(=Polskie Elektrownie Jądrowe)は昨年12月、同国初の原子力発電所サイトとして、バルト海に面した北部ポモージェ県内のルビアトボ-コパリノ地区を選定。今年3月末には、同地区の環境影響評価(EIA)報告書を環境保護総局(GDOS)に提出したポーランドのこのような計画について、米国のウェスチングハウス(WH)社とフランス電力(EDF)はすでに個別に参加の意思を表明している。WH社は、米国とポーランド両国の政府が締結した「(ポーランドの)民生用原子力発電プログラムに関する政府間協力協定(IGA)」の2021年3月の発効、および米貿易開発庁(USTDA)による支援などを背景に、ポーランドへの技術移転も含めた包括的投資構想を策定中である。一方、EDFは2021年10月、ポーランド政府に対し、2~3サイトで4~6基(660万~990万kW)のフラマトム社製・欧州加圧水型炉(EPR)の建設を提案している。KHNP社の今回の発表によると、同社のナム・ヨシク副社長兼成長事業本部長率いる代表団が現地時間の21日、ポーランドで原子力発電所の導入事業に携わる気候環境省を訪問。同省のA.ギブルジェ-ツェトヴェルティンスキ次官、およびP.ナイムスキ戦略エネルギー・インフラ特任長官と会談した。その際、韓国・産業通商資源部(MOTIE)のムン・スンウク長官からの書簡を手渡しており、代表団はポーランドの原子力発電開発計画に沿って、2033年までに初号機が運転開始できるよう競争力のある価格で建設を進めると提案。「APR1400」に関しては、欧州の電力企業15社が定めた安全基準「欧州電気事業者要件(EUR)」や米原子力規制委員会(NRC)の安全要件など、国際的に最も厳しい安全基準を満たしていると説明した。代表団はまた、KHNP社が優れた事業管理能力や独自の優れた技術を保有していると強調。ポーランドのプロジェクト受注に向けた資金調達面も含め、韓国政府が同社を全面的に支援していることを伝えた。同社はこのほか、ポーランドでこれまでに開催した「韓国とポーランドの原子力発電フォーラム」や、両国企業間の「B2Bビジネス会合」、「APR会議2019」の模様を紹介。その際、ポーランド企業と結んだ多数の了解覚書を通じて協力関係をすでに構築済みであり、KHNP社はそれらを基盤にポーランド企業と協力して同国の原子力開発計画を進めていくと強調している。(参照資料:KHNP社(韓国語)、ポーランド気候環境省(ポーランド語)の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの4月25日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
26 Apr 2022
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米国のニュースケール・パワー社は4月22日、同社製の小型モジュール炉(SMR)「ニュースケール・パワー・モジュール(NPM)」を商業化する準備として、米国原子炉鍛造企業連合(RFC)と協力協定を締結したと発表した。世界中の顧客にSMRを提供していくに当たり、同社は国内の堅固な原子炉機器鍛造サプライチェーンを活用する方針である。このため同社は、鍛造品の溶接カ所削減や化学組成の調整、および合理的な製造に適した形状など、製造可能性を見直すための協力をRFCと実施。これにより、同社は国内サプライチェーンの製造能力を増強するほか、米国全体の製造業が雇用を維持・拡大していけるよう協力活動を進める方針である。ニュースケール社のNPMはPWRタイプの一体型SMRで、電気出力が5万kW~7.7万kWのモジュールを最大12基連結することで出力の調整が可能。米国の原子力規制委員会(NRC)は2020年9月、モジュール1基の出力が5万kWの「NPM」に対し、SMRとしては初めて「標準設計承認(SDA)」を発給した。出力7.7万kW版のモジュールについても、ニュースケール社はSDAを2022年の第4四半期に申請する計画である。最初のNPMの建設計画は、ユタ州公営共同事業体(UAMPS)がアイダホ国立研究所(INL)内で進めており、2023年の第2四半期までにNRCにCOLを申請し、2025年の後半までにこれを取得。2029年までに最初のモジュールの運転開始を目指している。ニュースケール社が1モジュール当たりの出力を7.7万kWに増強したのを受けUAMPSは2021年6月、建設するモジュール数を当初予定していた12モジュールから6モジュールに変更している。今回の発表によると、両者の協力は米エネルギー省(DOE)がクリーンエネルギー関係のサプライチェーン強化のため、今年2月に公表した「クリーンエネルギー社会への確実な移行に向けたサプライチェーンの確保戦略(America’s Strategy to Secure the Supply Chain for a Robust Clean Energy Transition)」に沿った内容となる。このため、連邦政府や関係する州政府からは、補助金が交付される見通しである。RFCは、北米フォージマスターズ(NAF)社とスコット・フォージ社、およびATIフォージド・プロダクツ社の3社で構成される企業連合。原子力グレードの鍛造品製造で高度な技術力を備えた3社が組み合わさることで、1ピースの重さが160トン以上という大型の合金やステンレス鋼の自由鍛造、継ぎ目のない圧延リングの製造、形状が特殊な鍛造品の製造などが可能になる。3社はこれまでに、NPMで使用する大型鍛造品の製造フィージビリティや設計の微調整関係で、ニュースケール社に協力した実績があると説明している。また、NAF社は近年、ペンシルベニア州にある「先進的原子力機器製造センター(CANM)」と協力関係にあり、SMRや先進的原子炉の原子炉容器や格納容器に使われるオーステナイト系ステンレス鋼について、研究プロジェクトを実施中。これにはペンシルベニア州政府が補助金を一部交付する予定で、NAF社は同社に出資しているスコット・フォージ社やその他の企業とともに、金属の溶解と鍛造、熱処理、鍛造品の粗削りや機械試験、非破壊検査などを実施する計画である。(参照資料:ニュースケール社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの4月22日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
25 Apr 2022
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国際エネルギー機関(IEA)は4月20日、加盟国であるベルギーのエネルギー政策を2016年以降、改めて詳細にレビューした報告書を公表した。IEAは、ベルギーでは化石燃料の輸入量を抑えるため、洋上風力その他のクリーンエネルギー設備を着実に拡大していると指摘。現行政策どおり2025年までに大部分の原子力発電所を廃止した後は、エネルギー供給保証上の懸念とCO2排出量の増加が見込まれるため、クリーンエネルギーへの移行をさらに大規模に進めるべきだと提言している。報告書によると、前回のエネルギー政策レビュー後、ベルギーは洋上風力発電開発の主要事業者となり、その設備容量は世界第6位に上昇、同国の狭小な領海内で大きな成果を上げている。同国は国際協力にも尽力しており、オランダのフローニンゲン天然ガス田における採掘が停止に向かうなか、天然ガスの供給量を十分に確保するため、オランダやドイツ、フランスなどと協調体制を取っている。しかしIEAによると、ベルギーは依然として化石燃料に依存。2020年実績で総エネルギー需要の46%を石油、27%を天然ガスで賄うなど、CO2排出量は微減に留まっている。ベルギー政府の「エネルギーと地球温暖化に関する長期戦略」では、パリ協定や欧州連合による設定目標の達成に向けた道筋に従うことになっているが、ベルギーでは国家目標として「2050年までにCO2排出量を実質ゼロ化する」ことを明記していない。こうしたことから、IEA報告書は「長期戦略を改訂し、2050年までに気候中立の達成を目指すと明確に誓約すべきだ」と勧告。F.ビロル事務局長も、「ベルギーはクリーンエネルギーへの移行でリーダーシップを発揮してきたが、今後数年の間に国内のエネルギーシステムをクリーンで確実かつ廉価なエネルギー源にシフトし、CO2排出量の大幅削減に力を入れるという断固たる決意が必要だ」と強調している。原子力に関しては、ベルギーではチョルノービリ原子力発電所事故後の2003年、緑の党を含む連立政権が「2025年までに脱原子力を達成する」と決定。既存の原子炉7基の運転期間も原則40年に制限されたが、伝統的に総発電量の約5割を賄ってきた原子力に代わる電源が確保できず、ベルギー政府と原子力発電事業者のENGIEエレクトラベル社は2015年11月、運転開始後40年が経過した古い3基を2025年まで10年継続運転することで合意した。その後2020年10月に発足した連立政権は、2021年12月の政権内協議により「2025年までに7基すべてを閉鎖する」ことで、改めて原則的に合意。しかし今年3月には、「7基のうち最も新しい2基(合計約200万kW)については運転期間を10年間延長し、脱原子力の達成時期を10年繰り延べて2035年とする」方針を公表した。同国のこうした動きについて、IEAは「2025年までに大部分の原子力発電所を閉鎖してしまえば、ベルギーでは天然ガス火力の利用が拡大し、CO2の排出量も増加する可能性がある」と指摘、電力の安定供給上も大きな懸念が生じるとした。ベルギー政府もロシアによるウクライナへの軍事侵攻などを考慮し、200万kW分の原子力発電設備(チアンジュ3号機とドール4号機)で運転期間の10年延長を決定したものの、規制面や技術面のこれまでの経験上、延長準備には少なくとも4~5年が必要。IEAによると、ベルギー政府は2025年の冬までにこれらの準備を整えることはできず、うまくいけば2026年に準備が整うと予想している。これらを踏まえた上で、IEAはベルギーへの勧告事項として以下を挙げている。・原子力発電設備200万kW分の運転期間の延長準備を、タイムリーかつ費用効率の高い方法で完了するため、迅速な対応を取る。・原子炉の廃止措置や放射性廃棄物管理用の基金を必要な時期に利用できるよう、これらの管理や投資に関する政策の改革を確実に実施する。・高レベル放射性廃棄物(HLW)について、国としての長期的な管理戦略を確定し、処分サイトの特定や予備調査の実施など、節目となる事項の実施計画を立てる。・原子力関係の残りの活動期間を長期的に見通せるよう、原子力部門の国家計画を策定する。HLWの長期管理や原子炉の廃止措置など重要分野については、国家機関と国際機関の協力を促していく。(参照資料:IEAの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの4月21日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
22 Apr 2022
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米エネルギー省(DOE)は4月19日、既存の原子力発電所が早期閉鎖に追い込まれるのを防止するために設置した総額60億ドルの「民生用原子力発電クレジット(CNC)プログラム」で、初回分の申請書を受け付けると発表した。CNCプログラムでは、有資格と認定された商業炉に対しDOEが認定日から4年にわたり、一定の発電量に対して一定の適用価格で「クレジット」を付与。クレジットの総量に応じて支援金を支払うと見られており、DOEはプログラム基金に残金がある限り、2031年9月末までクレジットを付与していく考えだ。今回発表した申請ガイダンスで、DOEは経済的事情により早期閉鎖の可能性がある原子力発電所の所有者や運転事業者にプログラムへの申請方法を示している。有資格と認定されるには、経済的理由により早期閉鎖のリスクにさらされていること、当該炉の閉鎖が大気汚染物質とCO2の排出量増加につながること等を実証しなければならない。また、当該炉が安全に運転継続できることを原子力規制委員会(NRC)が保証し、DOE長官がこれを確認する必要がある。DOEはプログラムの手続きを迅速に進めるため、これらの認定に応募するための申請書と、クレジットの付与を求める「封かん入札」の申請書を一つにまとめて提出するよう指示している。初回の申請書締切日は5月19日で、DOEは初回に限り「早期閉鎖の方針をすでに公表済みの商業炉」を優先的に認定する。これは一般市民からの意見に促された措置であり、2023会計年度の第1四半期に予定されている2回目以降、このような優遇措置はなくなるとしている。CNCプログラムの実施は、昨年11月にJ.バイデン政権が承認した「超党派のインフラ投資法」で約束されていたもの。バイデン大統領は「2035年までに電力部門を100%カーボンフリーとし、2050年までに米国経済全体のCO2排出量を実質ゼロ化する」を目標に定めており、既存の原子力発電設備はその達成に極めて重要な役割を担うと考えている。DOEの説明によれば、国内電力市場の自由化およびその他の経済的ファクターにより、米国では2013年以降すでに12基の商業炉が早期閉鎖されている。これにともない、これらが立地していた地域では代替電源によりCO2の排出量が増大し大気の質も低下。地元コミュニティに財政的な貢献をしてきた高サラリーの雇用が、数千人規模で失われた。CNCプログラムでDOEはこのような課題に公平に取り組むことを目指しており、既存の原子力発電所の早期閉鎖を防ぐことでクリーンエネルギー関係の雇用を維持し、低炭素電力の供給量を確保する。全米のコミュニティが今後も持続可能なエネルギー・インフラから恩恵を受け続けられるよう、バイデン大統領のクリーンエネルギー政策の目標達成を促していく。DOEは60億ドル相当の戦略的投資計画となるCNCプログラムの開始に先立ち、今年2月に実施の意向を示した文書(NOI)と関連情報の提供を依頼する文書(RFI)を一般市民や関係者に発出している。RFIでDOEは、プログラムの仕組みや適用を受けるための認定プロセス、適格性の判断基準、クレジットの入札募集とその割り当て方法等について、120件以上のコメントを受領。同プログラムの策定に一般市民が幅広く参加したことについて、DOEは謝意を表明している。今回の募集に際しDOEのJ.グランホルム長官は、「米国における無炭素電力の半分以上は原子力によるものであり、バイデン政権はクリーンエネルギー政策の目標達成のため、既存の原子力発電所を最大限に活用する方針である」と表明。「目標の達成に利用できるツールはすべて活用しており、原子力発電所の運転継続を優先するのもその一環だ」と説明している。(参照資料:DOEの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの4月20日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
21 Apr 2022
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中国核工業集団公司(CNNC)は4月19日、パキスタンのカラチ原子力発電所で建設していた3号機(K-3)(PWR、110万kW)が同国への引き渡しに先立つ「受け入れ試験」に合格し、18日に仮検収書の調印式が行われたと発表した。3月初旬から試運転中だった同炉は、これをもって正式に営業運転を開始する。同炉は、中国が知的財産権を保有する第3世代の100万kW級PWR設計「華龍一号」を採用しており、2021年5月に営業運転を開始した同型設計のカラチ2号機に次いで、中国国外で2基目の「華龍一号」となった。中国では、CNNCが「華龍一号」の実証炉プロジェクトとして2015年に着工した福清原子力発電所5、6号機(各115万kW)のうち、5号機が2021年1月に世界初の「華龍一号」として営業運転を開始。同6号機も今年初頭に国内送電網に接続されたことから、CNNCは世界で稼働する「華龍一号」は合計4基になったと強調している。パキスタンではこのほか、CNNCが建設したチャシュマ原子力発電所1~4号機(各30万kWのPWR)が2000年以降稼働中。中国の対パキスタン協力について、CNNCは「カラチでの『華龍一号』建設プロジェクトは中国のパキスタンへの包括的な戦略協力を一層深めるものであり、両国の連携関係は新たな時代に入った」とした。「CO2排出量のピークアウトと実質ゼロ化を目指して、低炭素な電源の開発にともに取り組むだけでなく、原子力で共通の未来を分かち合うコミュニティの構築に向けた具体的な動きとなる。また、中国が推進する広域経済圏構想『一帯一路』を一層推し進めることになる」と強調した。K-3は2016年5月に本格着工し、2021年秋には予定を前倒しして温態機能試験を完了。今年2月に初めて臨界条件を達成した後、3月4日に国内送電網に接続され、様々な出力レベルで性能試験等が行われていた。仮検収書の調印式は、中国の首都北京とパキスタン南部のアラビア海に面したカラチ市の2か所で同時開催され、パキスタン原子力委員会のA.ラザ委員長やCNNCの顧軍・総経理を始めとする幹部が双方から多数出席している。なお、カラチ2、3号機に続く「華龍一号」としては、チャシュマ5号機をパキスタンで建設する計画がある。また、それ以外の海外案件として、アルゼンチンのアトーチャ原子力発電所3号機に同設計を採用することが決定。CNNCは今年2月、そのためのEPC(設計・調達・建設)契約をアルゼンチン国営原子力発電会社(NA-SA)と締結している。このほか、英国の原子力規制庁(ONR)が今年2月に、「華龍一号」の英国版(UK HPR1000)について実施していた包括的設計審査(GDA)を完了。ONRが「設計承認確認書(DAC)」を、環境庁(EA)が「設計承認声明書(SoDAC)」を関係企業に発給した。「UK HPR1000」は、中国広核集団有限公司(CGN)とEDFエナジー社が英国エセックス州で共同で進める予定の、ブラッドウェルB原子力発電所建設計画に採用が決まっている。(参照資料:CNNCの発表資料①(英語版)、②(中国語版)、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの4月19日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
20 Apr 2022
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カナダで原子力等インフラ関係のプロジェクト管理を遂行しているSNC-ラバリン・グループは4月13日、傘下のCANDUエナジー社を通じて、英モルテックス・エナジー社のカナダ法人と戦略的連携関係を結んだと発表した。カナダ東部のニューブランズウィック(NB)州では、州政府が2018年以降、州営電力会社が運転するポイントルプロー原子力発電所の敷地内で、モルテックス社製の第4世代小型モジュール炉(SMR)「燃料ピン型溶融塩炉(Stable Salt Reactor-Wasteburner: SSR-W)」(電気出力30万kW)」の初号機を、2030年代半ばまでに建設する計画を進めている。SNC-ラバリン社はこの計画の許認可手続きや建設工事でモルテックス社に協力するだけでなく、カナダ全体の次世代SMRの開発と建設をさらに促進していく方針である。カナダでは現在、カナダ原子力公社(AECL)が中心となって開発したカナダ型加圧重水炉(CANDU炉)が19基稼働しており、2011年10月に同公社で組織改革が行われた際、そのCANDU炉事業はCANDUエナジー社に売却されている。その親会社であるSNC-ラバリン社のJ.セントジュリアン社長は、「CO2排出量の実質ゼロ化に向けた世界の動きのなかで原子力は重要な部分を担っており、原子力に関する世界中の専門的知見や数100件もの特許の活用で60年以上の経験を持つ当社は、SMR開発のあらゆる段階でベンダーに協力できる」と指摘した。同社長はまた、「当社が設計する原子炉技術はカナダ原子力安全委員会(CNSC)の3段階の「ベンダー設計審査(予備的設計評価サービス)」をすべてクリアし、実際の許可も受けた唯一の技術だ」と強調。このような背景から同社は、SMRの開発企業が設計を完成させるための支援や、カナダ国内で許認可手続き進める際の助言を提供できるとした。同社はまた、モルテックス社はSNC-ラバリン社が保有する世界的規模の専門家ネットワークを活用可能だと指摘。これらの専門家は、設計・エンジニアリングや規制・許認可問題のみならず、コストの試算やサプライヤーの資格認定と管理、品質保証、建設・運転計画の立案など、様々な分野に習熟している。これらを通じてSNC-ラバリン社は、モルテックス社が新たな顧客を呼び込めるよう緊密に連携し、モルテックス社の事業目的達成を支えていく考えだ。なお、両社の連携協力に対し、NB州政府のM.ホーランド天然資源・エネルギー開発相はサポートの提供を約束している。同相は、「この協力はNB州のエネルギー部門で質の高い雇用を生み出し、その長期的な成長に貢献する。また、モルテックス社とNB州がともに、次世代の原子力技術を発展させるリーダー的役割を担うことになる」と述べた。また、ポイントルプロー発電所以外の商業炉がすべて立地するオンタリオ州のT.スミス・エネルギー相も、「当州でエネルギー産業と原子力関係の優秀な労働力、および強力なサプライチェーンを築いたSNC-ラバリン社が、モルテックス社と新たに協力するのは願ってもないことだ」とコメント。「SMR開発に関してカナダは今や世界の注目を集めており、今回の協力によってSMR開発の世界的ハブとしてのカナダの名声や、クリーンエネルギー開発における優位性が高まる」と強調している。(参照資料:SNC-ラバリン社、モルテックス・エナジー社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、ほか)
19 Apr 2022
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チェコの国営電力(CEZ)会社は4月12日、保有するテメリン原子力発電所(100万kW級のロシア型PWR=VVER-1000×2基)の燃料調達先について入札を実施した結果、米ウェスチングハウス(WH)社と仏フラマトム社の2社を最終的に選定したと発表した。現在の調達先であるロシアのTVEL社との契約が2023年末に満了するのに先立ち、CEZ社は2020年4月に新たな調達先の選定で入札を開始。これに参加したTVEL社、WH社、およびフラマトム社の3社のうち、調達先を多様化する観点から米仏の2社を選んだもので、両社は2024年から約15年にわたってテメリン発電所に燃料集合体を供給する。CEZ社は総額で数10億コルナ(10億コルナ=約56億円)というこの契約で、「将来的に燃料供給が途絶するリスクを最小限に抑えることができる」と強調している。WH社は様々な原子炉設計に対応した燃料を製造中で、VVERが稼働するテメリン原子力発電所用としては、CEZ社と1993年に締結した契約に基づく最初の燃料集合体が、2000年7月にテメリン1号機に試験装荷された。同社はその後、ウクライナのVVER-1000向けに製造した「堅固なWH社製燃料集合体(RWFA)」をテメリン発電所用に改造。スペーサー格子の数を削減するなどしており、2016年2月にはRWFAの「先行試験用燃料集合体(LTA)」を6体納入する契約をCEZ社と締結した。CEZ社は2019年4月、約3年に及んだ燃料の許認可手続きを終え、テメリン1号機でLTAの試験を実施すると発表している。今回の入札結果について、CEZ社は両社がともに世界の原子力産業界のリーダー企業であるとした上で、「スウェーデンに燃料製造工場を持つWH社は、すでにテメリン発電所に燃料集合体を供給した実績があるほか、世界中の原子力発電所用に主要機器を製造。原子力分野で60年以上にわたって設計・建設・維持管理等のサービスで経験を重ねている」と指摘した。また、フラマトム社に関しては「欧州連合(EU)唯一の燃料製造企業として、西欧諸国の原子力発電所の大部分に燃料を供給している」と説明。原子力発電所の設計や機器の製造と設置、原子燃料の製造、および計装・制御(I&C)系の供給等で60年以上の実績があると強調している。なお、ロイター通信によると、チェコのP.フィアラ首相は4月9日、与党の党大会で「ロシアからの輸入化石燃料に依存し続けることは、我が国の安全保障上、最大リスクの一つだ」と発言。「チェコのエネルギー部門は、今後5年以内に『ロシアの引き綱』を完全に断ち切ることを目標にすべきだ」と述べたことが伝えられている。(参照資料:CEZ社、WH社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの4月13日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
18 Apr 2022
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米国防総省(DOD)の戦略的能力室(SCO)は4月13日、軍事作戦用の可搬式マイクロ原子炉を設計・建設・実証するための「プロジェクトPele」が進展し、少なくとも3年間フル出力で稼働可能なマイクロ原子炉の原型炉(電気出力0.1万~0.5万kW)を、エネルギー省(DOE)傘下のアイダホ国立研究所(INL)内で建設すると発表した。SCOが同日、原型炉建設の最終意思決定となる「決定記録書(ROD)」を発行したもので、これは米国の環境アセスメント制度における最終段階のアクション。国家環境政策法(NEPA)の下で、これまで行われていた(原型炉の建設・運転にともなう)環境影響の評価プロセスが完了したことを示している。SCOは2021年3月、原型炉に採用する候補設計として、対象をBWXテクノロジーズ(BWXT)社の先進的高温ガス炉と、X-エナジー社の小型ペブルベッド式高温ガス炉に絞り込んだ。これらはともにSCOの技術要件を満たしているが、SCOは今春の終わり頃までに最終的な採用設計を一つだけ選定する方針である。発表によると、この原型炉は固有の安全性を有する第4世代の原子炉として、米国内で初めて建設されるもの。世界初の第4世代炉としては、中国・山東省の石島湾で建設されていた「ペブルベッド式モジュール高温ガス炉(HTR-PM)」の実証炉(電気出力約10万kWのモジュール×2基)が2021年9月、初めて臨界条件を達成している。また、DODの作戦活動では、年間約300億kWhの電力と一日当たり1,000万ガロン(約37,850m3)以上の燃料を必要とするが、今後この量は一層拡大していく見通しである。このような需要に応えるため、SCOは小型で安全かつ輸送も可能な原子炉でクリーンエネルギーを確保。遠隔地や厳しい環境の場所においても、長期にわたって作戦活動を維持・拡大する考えだ。「プロジェクトPele」ではSCOが2020年3月、NEPAに基づき原型炉建設の環境影響評価を実施すると発表。これと同時に同炉の採用設計を選定するため、プロジェクトの技術要件を満たした設計について、2年計画の設計コンペを開始した。SCOはまた、同時期の連邦官報で、検討中のマイクロ原子炉はHALEU燃料(U-235の濃縮度が5~20%の低濃縮ウラン)の三重被覆層・燃料粒子「TRISO」を用いた、先進的なマイクロ・ガス冷却炉(AGR)になると発表していた。今回のROD発行について、SCOは「候補企業2社の契約チームによる不断の努力や、水質汚染防止法等に基づいて建設計画の審査・承認を行う米陸軍工兵隊(Corps)、およびDOEの専門家による技術支援チームの功により、確実に固有の安全性を備えた可搬式マイクロ原子炉を安全に建設・実証できる」と表明。「先進的原子炉設計は、DODや米国の商業部門にとって戦略的に大きな変革をもたらす可能性があるものの、導入に際してはさらに実際の運転条件下で実証する必要がある」と指摘している。(参照資料:DODの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの4月14日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
15 Apr 2022
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エストニアで小型モジュール炉(SMR)の導入を計画している新興エネルギー企業、フェルミ・エネルギア社は4月12日、効率的な建設プログラムを策定するため、カナダでエネルギー関係のソリューション・サービスを提供しているローレンティス・エナジー・パートナーズ社と協力契約を締結した。ローレンティス社はカナダのオンタリオ州営電力(OPG)会社の100%子会社であり、OPG社はカナダで稼働する商業炉19基のうち18基を保有している。原子力やエンジニアリングに関する親会社の豊富な経験を背景に、ローレンティス社のJ.バンウォート副社長は、「エストニアが自信をもってSMRを国内のエネルギーミックスに加えられるよう、今回の契約で様々な協力をフェルミ社に提供する。具体的には、SMR建設の許認可手続きや資金調達を円滑に進めるための建設プログラム策定に加え、実行可能性調査の実施や計画立案、建設・運転関係のサービスなどだ」としている。エストニアは消費電力の大部分をオイルシェールや近隣諸国からの輸入電力で賄っているため、フェルミ社は信頼性の高いクリーン電力を天候に左右されずに安定供給できるよう、2019年以降、SMRの国内建設に向けた可能性を検討中。2035年までに1基以上のSMR建設を目指しており、これまでにすでに、米国のGE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社が開発しているSMR「BWRX-300」や、英国ロールス・ロイス社製SMRの国内での建設可能性を探るため、協力覚書を両者と締結している。また、英国のモルテックス・エナジー社、カナダのテレストリアル・エナジー社、米国のニュースケール・パワー社、ウルトラ・セーフ・ニュークリア(USNC)社が開発中のSMRについても、フェルミ社は導入可能性を調査中と伝えられている。 OPG社が2021年12月、カナダのダーリントン原子力発電所で建設するSMRとしてGEH社製「BWRX-300」を選定したことについて、フェルミ社のK.カレメッツCEOは、「OPG社は原子力発電事業の世界的リーダー企業の一つであり、同社が進める「BWRX-300」プロジェクトは世界をリードするSMR建設計画になるだろう」と指摘した。その上で、「ローレンティス社との緊密な協力を通じて当社はSMRの建設プログラムを策定し、複数のSMR建設に向けた許認可手続きや資金調達の基盤を形成。ひいては、エストニアとその他のバルト三国における低価格なエネルギーの自給や脱炭素化の達成につなげたい」と述べた。また、「原子力がクリーンな低炭素電源であることは、欧州連合(EU)がEUタクソノミーの投資基準に一定条件下で原子力を加えたことからも明らかだ」と強調している。(参照資料:ローレンティス・エナジー・パートナーズ社、フェルミ・エネルギア社(エストニア語)の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの4月13日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
14 Apr 2022
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米メリーランド州のX-エナジー社は4月6日、商業規模の3重被覆層・燃料粒子(TRISO燃料)製造施設「TRISO-X(TF3)」の建設に向けて、特殊な核物質の取り扱いに関する許可(SNM)申請書を米原子力規制委員会(NRC)に提出した。TRISO燃料は、U235の濃縮度が5~20%の低濃縮ウラン(HALEU燃料)を黒鉛やセラミックスで3重に被覆した粒子型の燃料。X-エナジー社が開発している小型のペブルベッド式高温ガス炉「Xe-100」で使用予定であるほか、その他のデベロッパーが開発中の小型モジュール炉(SMR)や先進的原子炉設計の多くで、HALEU燃料が使用される見通しである。ただし、製造施設を建設するには連邦規則10CFR70に基づき、カテゴリーⅡの「特殊核物質所有認可」を取得する必要がある。NRCは今後、同カテゴリーでは初となったX-エナジー社の申請書を24~36か月かけて審査する。X-エナジー社はこれに先立つ4月4日、商業規模のTRISO燃料製造施設「TRISO-X(TF3)」を、テネシー州オークリッジの「ホライズンセンター産業パーク」内で建設すると発表した。同社はすでにオークリッジで、TRISO-Xのパイロット製造ラインとTRISO-X研究開発センターを保有。今年中にも同社の100%子会社で、TF3の建設と操業を担当するTRISO-X社がサイトの準備を開始し、その他の許認可を取得。早ければ2025年にもTF3の操業を開始する方針である。初期段階の生産量は、「Xe-100」12基分の燃料に相当する年間8トン(ウラン換算。以下同)だが、2030年代初頭までに16 トン/年の生産を目指す考えである。X-エナジー社はTF3開発でこれまでに約7,500万ドルを投じており、オークリッジで400人以上の雇用創出が見込まれる同建設計画では、今後3億ドル近い投資を呼び込む計画である。また、米エネルギー省(DOE)は2020年10月、「先進的原子炉設計の実証プログラム(ARDP)」における7年間の支援対象企業の一つとして同社を選定。2021年11月には米国議会が同プログラムの下、「Xe-100」の実証炉建設に約11億ドルを交付すると決定しており、この支援金はTF3の建設にも活用される。「Xe-100」は電気出力7.5万kWのSMRで、これを4基連結することで出力を30万kWまで拡大することが可能。X-エナジー社は同設計により、世界中で高まっているクリーン・エネルギーの需要に応えられると考えている。同設計については、カナダ原子力安全委員会(CNSC)が2020年8月から予備的設計評価(ベンダー設計審査)を開始。建設・運転許可の取得に向けた正式な申請手続に先立ち、同設計がカナダの規制要件を満たしているか、X-エナジー社の要請に基づいて評価中である。また、ヨルダンが2030年までに「Xe-100」を国内で4基建設することを希望。X-エナジー社とヨルダン原子力委員会は2019年11月、基本合意書を交わしている。米国内では、ワシントン州の2つの公益電気事業者(グラント郡PUDとエナジー・ノースウエスト社)が、「Xe-100」をエナジー・ノースウエスト社保有のコロンビア原子力発電所と同じサイト内で建設することを計画。両社とX-エナジー社は2021年4月、「3社間エネルギー・パートナーシップ」を構築するための覚書を締結した。TRISO-X社のP.パッパノ社長はTF3の建設サイト決定について、「TRISO燃料の技術は過去60年にわたって開発・改良されてきたものであり、TF3の建設はこのように画期的な燃料技術を市場にもたらすことになる」と表明。TRISO-X社が創設されて以降、同社の技術に対する内外の関心が高まりつつあり、軍事用マイクロ原子炉の開発を進めている国防総省(DOD)や、深宇宙探査用核熱推進(NTP)技術の開発を進めているアメリカ航空宇宙局(NASA)も、すでに同社の顧客だと強調している。(参照資料:X-エナジー社の発表資料①、②、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの4月6日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
11 Apr 2022
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©BEIS英ビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)は4月6日、クリーンかつ安価な国産エネルギーの開発を大幅に加速し、英国のエネルギー自給を長期的に改善するという新しい「エネルギー供給保障戦略」を公表した。 その中で原子力は中心的役割を担っており、これまでのように原子炉を10年に1基ではなく「年に1基」という早いペースで建設していき、2050年までに最大8基を稼働可能にすると表明している。同国のB.ジョンソン首相は、エネルギー価格の世界的な高騰や国際エネルギー市場における激しい価格変動を背景に、この「大胆な」戦略を通じて英国のエネルギー供給保障を一層強化する方針。2030年までに英国の供給電力の95%までを低炭素化するため、原子力や風力、太陽光、クリーン水素等のクリーンエネルギー設備を迅速かつ意欲的に建設、短期的には国産石油や天然ガスの増産も支援していく考えだ。同戦略では原子力を、国内総電力量の約15%を安定的に供給する必要不可欠な電源であるとともに、間欠性の高い再生可能エネルギー源を補う存在と位置付け、同じ広さの太陽光発電設備の100倍以上の電力をもたらす、英国のエネルギーの根幹をなす低炭素電源であるとした。島国の英国でベースロード用の電源を十分に確保するには、原子力を活用する以外に方法はないとも指摘しており、英国は原子力で再び世界をリードしていくと明言。小型モジュール炉(SMR)も含めて、2050年までに現在の約3倍にあたる最大2,400万kWの発電容量を安全でクリーンな原子力発電で確保し、国内電力需要の最大25%までを賄う計画である。このための方策として、同戦略はまず、英国を原子力投資に最適な国の一つにすると表明。具体的に、上記の開発目標や2030年までに最大8基建設する方針に言及したほか、現行議会の期間中にSMRも含めて1プロジェクトの原子力発電所建設計画、次期議会ではさらに2プロジェクトで最終投資判断(FID)が下されるよう進めていくとした。また、新規の原子力発電所建設プロジェクトの進め方を大幅に変更する方針で、今月中に1億2,000万ポンド(約194億円)の予算で「将来の原子力開発を可能にするための基金(Future Nuclear Enabling Fund)」を設置。開発プロセスの全段階で支援を提供する新しい政府機関として、年内にも「大英原子力(Great British Nuclear)」を立ち上げ、新設プロジェクトの投資準備や建設期間中の支援が可能になるよう、同機関に十分な予算措置を講じる。これにともない、英国政府は2023年にも、新たな支援対象プロジェクトの選定作業を開始すると表明。可能な限り迅速に政府支援を提供できるよう、有望なプロジェクトの事業者と交渉に入りたいとしている。さらに、英国内では現在、新規の原子炉建設が可能なサイトが8か所あるが、今回の意欲的な計画を円滑に進めるため、長期間を見渡した包括的な立地戦略を策定する。このほか、SMRや先進的モジュール式原子炉(AMR)など先進的な原子力技術の開発を加速するため、諸外国と協力していく。ジョンソン首相は今回の戦略について、「新たな原子力設備から洋上風力に至るまで、今後10年の間にクリーンで安価な国産エネルギーの設備を拡大、価格変動の激しい輸入エネルギーへの依存を減らして、一層安価な国産エネルギーを享受する」と説明。BEISも、「新型コロナウイルスによる世界的感染の拡大後、エネルギー需要の急増で価格が世界的に上昇したことや、ロシアがウクライナに軍事侵攻したこと等により、今回の戦略を策定するに至ったが、この戦略は英国が高価格の化石燃料による発電を止め、長期的なエネルギー供給保障の確保で多様な国産エネルギーを推進する上で中心的役割を果たす」と強調している。(参照資料:BEISの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの4月7日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
08 Apr 2022
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ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が続くなか、欧州と米国の両原子力学会(ENSとANS)は4月4日、原子力部門で働く世界中の労働者を代表し、同国の原子力関係施設に対する軍事攻撃や偽情報を非難するとの共同声明を発表した。両学会はこの軍事侵攻にともない、ウクライナの原子力関係施設が戦闘行為や不安を煽るよう誇張された情報に晒されていることを深く憂慮すると言明。両学会に所属する原子力部門の科学者やエンジニア、専門家らの抗議メッセージとして以下の事項を表明している。・ウクライナ国民が必要とする電力を安全に発電するため、同国の原子力発電所職員が専門的な能力をもって献身的に働いていることを(我々は)認識している。・(我々は)ロシア軍が3月3日にザポリージャ原子力発電所を攻撃したことを強く非難する。これは戦争犠牲者の人道的な扱いを求めたジュネーブ諸条約の第1追加議定書56条に違反しており、原子力発電所やダム、堤防などの民生用インフラを攻撃から防護することもこれに含まれる。・いかなる原子力関係施設に対しても、これ以上の攻撃を停止するよう要求する。ウクライナの原子力関係施設やその職員、および駐留しているIAEA職員の安全を脅かすような軍事行動は、意図的なものであってもなくてもすべて非難する。・ウクライナの原子力関係施設で安全な運転を継続的に確保するため、IAEAが進めている枠組の設置作業を支援する。このような重要タスクの遂行においては、作業員が不当な圧力を受けないようにすることが大切である。・「ウクライナが民生用原子力プログラムで核兵器を開発している」、などという根拠に乏しい主張は受け付けないし、この件およびその他の核不拡散問題については、IAEAの関係当局による解決を支援していく。・IAEAがウクライナの原子力関係施設に設置したモニタリング機器への妨害行為は、いかなるものであっても非難する。・原子力関係施設の安全状況について流布された偽情報や、危険な放射性物質の流出リスクに関する偽情報は糾弾していく。両学会によると原子力発電は過去数10年にわたって、危険な汚染物質を排出する化石燃料の使用を抑制してきた。これにより、世界では過去半世紀の間に180万人以上の人々が早世を免れ、大国同士が資源を巡って争うリスクが軽減された。また、この10年間では、「CO2を排出しない原子力は、地球温暖化に対処可能な主要ツール」との認識が世界中で高まっており、原子力発電所の職員は持続可能なエネルギーの開発で自らが担う役割に誇りを持っている。両学会は、このような原子力発電の安全性を脅かし放射線への社会不安を煽る行為は、この戦争に関わるすべての人々に不利益をもたらすだけと指摘。また、原子力発電所をリスクにさらす無責任な戦法は、平和的で持続可能な開発、および地球温暖化の回避という人類共通の課題への対処方策を減ずることになると強調している。(参照資料:ENSの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの4月5日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
06 Apr 2022
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ポーランド初の原子力発電所建設計画を進めているPEJ(=Polskie Elektrownie Jądrowe)社は3月30日、この発電所(合計出力375万kW)が建設される同国北部ポモージェ県内での環境影響評価(EIA)報告書を、29日付で環境保護総局(GDOS)に提出したと発表した。これと同時に、PEJ社は同県近隣のロシアとの国境付近におけるEIA実施に向けた文書も提出。これにより、建設計画では「環境条件に関する意思決定」の発給に向けた許認可手続きが再開されるとしている。ポーランドでは1980年代に40万kW級のロシア型PWR(VVER)をポモージェ県内のジャルノビエツ地区で建設する計画が進展したが、ウクライナのチョルノービリ原子力発電所事故の発生を受けて、同計画は1990年代に頓挫した。政府はその後、エネルギー源の多様化と温室効果ガスの排出量削減を図るには原子力の導入が不可欠と判断、2009年に改めて原子力開発ロードマップを策定している。ポーランド政府がさらに2021年2月に決定した「2040年までのエネルギー政策」によると、同国では2043年までに複数のサイトで最大6基の原子炉(600万~900万kW)を稼働させるとしており、初号機については2033年までに運転を開始させる方針。採用設計としては、確証済みの技術を採用した安全な第3世代+(プラス)の大型PWRを検討中である。PEJ社は、国営エネルギー・グループ(PGE)が原子力発電所の建設・運営のために2010年1月に設立した事業会社で、2021年6月に社名を当初のPGE EJ1社から改名。同年12月には、同社はポーランド初の原子力発電所建設に適した地点として、バルト海に面したポモージェ県内のルビアトボ-コパリノ地区を選定していた。今回の環境影響評価の一環として、PEJ社は同県内ホチェボの地方自治体内に位置するルビアトボ-コパリノ地区のほか、クロコバとグニエビノの両自治体が管轄するジャルノビエツ地区の2地点で、原子力発電所の建設と運転が及ぼす影響等を分析。両地区はともに、2014年時点ですでに建設候補地区として名前が挙がっており、PEJ社は今回、原子力発電所の海水冷却や冷却塔の使用等の技術的サブ・オプションの比較などを含む分析を行った。同社のEIA最終報告書は、GDOSが2016年に定めた要項に沿って、これらの候補地区や技術面のサブ・オプションを評価しているほか、発電所に付随するインフラも検討対象にしている。作成にあたっては、米国とポーランドが2020年10月に締結した政府間協力協定に基づき、米国の環境事業会社であるジェイコブス社が技術アドバイザーを務めた。なおPEJ社によると、同報告書の内容は環境保全や住民参加に関係する法律が定めた原則に則り、いずれ開示されるとしている。(参照資料:PEJ社(ポーランド語)の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの3月31日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
05 Apr 2022
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