スウェーデンのバッテンフォール社は1月5日、南西部のヨーテボリ近郊に立地するリングハルス原子力発電所で45年近く稼働した1号機(90万kW級BWR)を、予定通り昨年12月31日付けで永久閉鎖したと発表した。同炉の閉鎖は2015年の株主総会で決定していたもので、同決定に従って2号機(90万kW級PWR)がすでに2019年末で閉鎖済み。同炉では今後廃止措置を行うことになっており、バッテンフォール社は近々、燃料の抜き取りと廃止措置の準備を開始する。本格的な解体作業は2022年後半に始まる予定で、2030年代まで続く見通しである。これら2基を当初予定の2025年より5年近く前倒しで閉鎖したことについて、バッテンフォール社のA.ボルグCEOは「経済性の観点から決めた正しい判断であり、将来使用する発電システムで旧式の技術を使うべきではない」とコメントした。その一方で同社は昨年11月、近隣のエストニアで新興エネルギー企業が進めている小型モジュール炉(SMR)導入計画に対し、協力を強化していくと決定。世界ではSMRへの期待がますます高まりつつあるとの認識の下、ボルグCEOは「SMRなどの新しい原子炉が建設されていくのを無視することはできないが、いかなるタイプの発電技術であれ、市場の関心を引くようなコスト面の競争力を持たなくてはならない」と強調した。リングハルス1号機は、2号機より約8か月遅れの1976年1月に営業運転を開始した。当初の出力は73万kWだったが、数年にわたる改善工事の結果、出力は最終的に90万kW台まで増強された。バッテンフォール社は2015年当時、2号機とともに同炉で2017年以降に改善・最新化作業を開始し2025年まで運転を継続する方針だったが、電力価格が低迷していたのに加えて、2014年に発足した政権の脱原子力政策により議会が原子力税の引き上げを決定。原子力発電所の採算性が悪化したことから、同社はスウェーデン国内で最も古いリングハルス1、2号機への投資プロジェクトを停止、早期閉鎖することに決めた。発表によると、1号機は2019年に過去最高の67億3,642万kWhを発電。運転開始以降の累計では、閉鎖されるまでに2,200億kWhの無炭素電力を供給し続けた。同量の電力を石炭火力や石油火力で発電した場合と比べると、CO2にして約2億トンの排出を抑えた計算になるとしている。なお、同社は1980年代に運転開始した同3、4号機(各110万kW級PWR)については、予定通り少なくとも60年間稼働させると述べた。これら2基では、約9億クローナ(約113億円)の投資を通じて独立の炉心冷却系が装備されており、天候に左右される再生可能エネルギー源の発電量を補いつつ、2基だけで国内の総発電量の約12%を賄っていると指摘した。(参照資料:バッテンフォール社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの2020年12月31日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
06 Jan 2021
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ロシア国営の原子力総合企業ロスアトム社は12月24日、極東連邦管区のサハ自治共和国内で2028年までにロシア初の陸上設置式・小型モジュール炉(SMR)の完成に向け、同SMRが発電する電力の料金について23日に同国政府と合意に達したと発表した。サハ共和国の北部、ウスチ・ヤンスク地区のウスチ・クイガ村でSMRを建設する計画は今のところ、両者が2019年9月に締結した意向協定の枠組内で進められている。今回の合意により、同共和国政府はロスアトム社の容量4万~5万kWのSMRからの電力購入と、SMR建設用地の確保支援を約束。モジュール方式のロスアトム社製SMRは工期が短く経済的で、高い安全性を維持しつつ少なくとも60年間稼働することから、ウスチ・ヤンスク地区では発電コストが約半分に削減されると同社は強調している。2020年初頭までにウスチ・ヤンスク地区では両者の意向協定の下で現地調査が完了し、現在は準備作業が行われている。ロスアトム社が建設するのは、同社傘下のOKBMアフリカントフ社が原子力砕氷船用に開発した「RITM-200」設計をベースとする(5万kW程度の)低出力SMR発電所。「RITM-200」は熱出力17.5万kWのコンパクトな軽水炉でこれまでに6基建設されたが、このうち2基は今年10月に正式就航した最新式の原子力砕氷船「アルクティカ」に搭載されている。ロスアトム社はまた、海上浮揚式原子力発電所用のSMRついても開発を進めている。出力3.5万kWの小型炉「KLT-40S」を2基装備した「アカデミック・ロモノソフ号」は、今年5月に極東チュクチ自治区内の湾岸都市ペベクで商業運転を開始した。こうした背景から、ロスアトム社のA.リハチョフ総裁は「新たな世代の陸上設置式SMR原子力発電所を、ロシア国内で初めて建設する重要な一歩が本日刻まれた」と表明。「この建設プロジェクトを実行に移すことで、世界のSMR市場におけるロシアの主導的立場はますます強化される」と述べた。また、「アカデミック・ロモノソフ号」が極東地域で商業運転を開始した事実に触れ、「北極圏の条件下で様々な試験をクリアした「RITM-200」を諸外国のパートナーに提案することは非常に重要だ」と説明。「このように近代的な技術は、現在ロシアのみが保有しており、ロシア国内のみならず世界中で低出力の原子力発電所がもたらす明るい未来が約束された」と強調した。同社はさらに、ウスチ・ヤンスク地区でサハ共和国初の原子力発電所が建設された場合、老朽化した石炭火力発電所やディーゼル発電所が閉鎖されるため、同地区のCO2排出量を年間1万トン削減できるとした。サハ共和国内の金山開発計画にもクリーンエネルギーを安定的に供給することが可能になり、発電所の建設期間だけで最大で800人分の雇用を創出。遠隔地域の住民と地下資源開発業者の両方に対し、信頼性の高い熱電供給を約束するとしている。(参照資料:ロスアトム社(ロシア語)の発表資料、原産新聞・海外ニュース、ほか)
25 Dec 2020
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米エネルギー省(DOE)は12月22日、「先進的原子炉設計の実証プログラム(ARDP)」で2030年代半ばの商業化をめざすカテゴリーの支援対象として、ジェネラル・アトミックス(GA)社などが開発中の比較的初期段階の原子炉設計3件を選定したと発表した。ARDPはDOEが今年5月、原子力局(NE)を担当局として開始したもので、米国原子力産業界における先進的原子炉設計の実証を政府がコスト分担方式で支援する官民の連携プログラム。設計の成熟度に応じて、以下の3つの支援ルートが設定されている。①「先進的原子炉の実証」ルート:5~7年以内に2つの先進的原子炉設計が確実に稼働開始できるよう支援、②「将来的な実証に向けたリスク削減」ルート:2030年~2032年の商業化達成を目標に、5つの設計について技術面や運転面の課題を解決、③「2020年度予算支援の先進的原子炉概念(ARC 20)」ルート:2030年代半ばの商業化を目指して様々な革新的原子炉の概念設計開発を支援――である。①についてDOEは今年10月、テラパワー社の「ナトリウム冷却高速炉」と、X-エナジー社の小型ペブルベッド式高温ガス炉「Xe-100」を選定。②に関しては今月16日に、ウェスチングハウス(WH)社の極小原子炉「eVinci」やBWXTアドバンスド・テクノロジーズ社の「BWXT先進的原子炉」など、5つの先進的原子炉設計を支援対象に決定した。今回の支援は③の「ARC 20」に分類される設計が対象で、DOEは開発を進める3社に対し2020会計年度予算から2,000万ドルを支給。分担金の少なくとも20%は産業界側がマッチング・ファンド等で賄うものの、DOEが今後4年以上の期間に「ARC 20」で拠出する総額は5,600万ドル以上にのぼるとしている。対象に選定された3設計のプログラム概要は以下のとおり。アドバンスド・リアクター・コンセプツ(ARC)社が開発している「固有の安全性を備えた先進的SMR」、約3年半の投資期間の総額3,440万ドル(うちDOE負担分2,750万ドル):電気出力10万kWの予備概念設計に基づいて、免震機能を備えた先進的なナトリウム冷却SMRの概念設計を開発する。GA社による「高速モジュール式原子炉(FMR)」、約3年間の投資額3,110万ドル(うちDOE負担分2,480万ドル):重要な数値指標である燃料や安全性および運転性能等を確認しつつ、電気出力5万kWのFMRの概念設計を開発する。マサチューセッツ工科大学(MIT)の「横置き式コンパクト高温ガス炉(HTGR)」、約3年間の投資額490万ドル(うちDOE負担分390万ドル):モジュール方式を採用した統合型HTGR(MIGHTR)の商業化を支援するため、予備概念段階の設計を概念設計に進展させる。今回の決定についてDOEのD.ブルイエット長官は、「安全で建設コストも手頃な商業炉の市場で、建設と運転を短・中期的に可能にするという意味でAEDPの果たす役割は重要だ」とコメント。「ARDPが支援するこれら3設計のプログラムは、米国が世界でも高いレベルの競争力を獲得していく道を拓くだろう」と述べた。ARDPの設定期間を越える資金提供に関しては、将来的な追加予算措置やARDPの下で開発が順調に進展すること、DOEによる継続予算申請の承認などが条件になる。(参照資料:DOEの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの12月23日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
24 Dec 2020
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チェコの産業貿易省(MIT)は12月21日、原子力発電所から出る使用済燃料や高レベル放射性廃棄物(HLW)を安全かつ長期的に隔離する「深地層最終処分場(DGR)」の建設候補地が最終的に4地点まで絞り込まれ、同日中にチェコ政府が承認したと発表した。放射性廃棄物処分庁(SURAO)の専門家パネルが過去数年間の研究・探査作業の結果、環境への影響が少なく技術的にも実行可能性が高い地点として、チェコ中心部のフラーデックとホルカ、南西部のブレゾビー・ポトック、およびテメリン原子力発電所に近いジュナークの4地点を政府に勧告していたもの。政府がこれを受け入れたことから、SURAOは今後もこれらの地点でさらなる研究・探査作業を継続する。政府は2030年を目処に建設サイトと予備サイトを1か所ずつ決定、2065年からの操業開始を目指すとしている。チェコ政府はまた、同日に「放射性廃棄物最終処分場の手続法案」について概要を承認した。MITは来年にも、同法案を提案することになる。この法案は、DGR建設の準備作業に関する規則の制定と、選定プロセス全般を通じた協議の透明性や効率性の強化を目的としたもので、以前から候補地の代表者や議員等から法制化が要請されていた。チェコでは1992年からSURAOがDGRサイトの選定作業を開始しており、第1段階として2002年までチェコ全土で「地質の評価作業」を実施した。第2段階で試験孔の掘削を除いた地質調査で「候補地の絞り込み」を行うのに対し、最終段階の第3段階では実際に試掘孔を掘削、「サイトの特性調査」を実施する計画である。チェコ政府が2014年10月に行った発表によると、地質調査所が複数の地質条件に基づき1990年代初頭に提案した27地点のうち、7地点がこの時点で候補に残っており、初期段階の地質調査の実施を受け入れていた。DGRは総面積29.5ヘクタールの地上エリアと地下500メートルの処分エリアで構成され、地上には廃棄物を取り扱うサービス建屋や輸送用の鉄道から分岐線を建設。処分エリアでは換気シャフトやトンネル、廃棄物の封入容器を設置する処分室などが整備されることになっている。同国のK.ハブリーチェク副首相兼MIT大臣は今回の発表について、「選定プロセス全体が非常にセンシティブなものであり、国民から多数の質問が寄せられることは十分承知している」と表明。「このため、MITとしては4つの候補地すべてと直接コンタクトを取っている。できる限り透明性を図ることで相互の信頼を確立したい」と述べた。SURAOのJ.プラハス長官も「我が国は今や、(処分場建設計画が順調に進展する)スウェーデンやカナダ、スイスなどと肩を並べる段階に到達した」とコメント。今後もオープンで透明性のある対話を心がけるとした上で、関係自治体には特別作業グループの設置を提案すると表明。「同グループを通じて、DGR地上エリアの設置場所や最終形態、進行中の作業情報を定期的に伝達する方法等に関しても協議に参加してほしい」としている。(参照資料:チェコ政府の発表資料(チェコ語)、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの12月22日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
23 Dec 2020
2636
フィンランド西部のピュハヨキで、ハンヒキビ原子力発電所1号機(120万kWのロシア型PWR)の建設工事を請け負ったロシアの原子力総合企業ロスアトム社は12月21日、同計画の建設許可申請審査に必要な設計書類の一部を顧客のフェンノボイマ社に手渡したと発表した。フェンノボイマ社は2015年6月に同計画の建設許可を経済雇用省に申請しており、現在はこの申請書をフィンランド放射線・原子力安全庁(STUK)が審査中。今回の書類は、同審査で主要な部分を構成する予備的安全解析報告書(PSAR)をフェンノボイマ社が作成する際、基盤の書類として使われる。フェンノボイマ社は、審査用の書類をSTUKに提出する前に毎回、同社の専門家による「独自のレビュー」をそれらの書類について行っている。同社がこのような手順を踏むのは、建設許可段階でSTUKが他の国よりも詳細な書類を要求しているためで、これによりその後の建設段階で作業が遅れるのを防ぐことができるとしている。特にPSARは建設計画の安全性全般に関して詳細に記述した書類で、発電所のサイト選定や基本設計、技術的な問題点の解決策、安全対策などを網羅。フェンノボイマ社はPSARの作成に向けた基本設計レビューを2019年の夏に開始しており、これまでにロスアトム社傘下のサプライヤーであるRAOSプロジェクト社とともに安全性に関わる数多くの課題を解決してきた。第2段階まで続く同レビューを通じて残りの課題を解決し、着工後に設計変更するリスクを最小限に抑える方針である。PSARを構成する15書類のうち、フェンノボイマ社はすでに5書類をレビューしてSTUKに提出済み。同社が今回RAOS社から受け取った文書は、発電所やシステムの概念設計と機能設計、発電所の3Dモデルなどで、これらは基本設計レビューの第1段階に使用される。同社は年末までにPSARの作成に必要な書類をあと2種類RAOS社から受け取る予定だが、PSARが最終的に完成するのは2021年の春になる見込みである。なお、同発電所建設サイトでは今年の夏、建設許可の取得に先立ちフェンノボイマ社が管理棟の建設工事を開始した。建設に入る前段階の準備作業で従業員数が急増したことや、事務スペースの確保が必要になったことによるもので、建設工事はフィンランドのレヒト・グループが担当。同棟が完成するのは2022年の初頭、ハンヒキビ1号機が営業運転を開始するのは2028年になると見られている。 (参照資料:ロスアトム社とフェンノボイマ社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの12月21日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
22 Dec 2020
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カナダ連邦政府の天然資源省は12月18日、カナダ国民に信頼性の高い電力を供給する可能性を持つとともに、2050年までに同国がCO2排出量の実質ゼロ化に移行する一助にもなる小型モジュール炉(SMR)の開発に向け、国家行動計画を公表した。カナダ国内で様々なSMR技術の開発と建設を支援し、2020年代後半にも最初のSMRで運転を開始するため、連邦政府と各州の州政府および地方自治体、先住民、労組、電気事業者、産業界、イノベーター、学界、市民社会など、100以上の関係組織が一丸となって「チーム・カナダ」を結成。諸外国との連携によりSMRの輸出機会を探るほか、その国際標準化にも影響を与えてカナダ国内における将来的な投資を促進する考えである。カナダ政府は2018年11月にSMRの開発ロードマップを発表しており、今回の行動計画では同ロードマップが確認した53の勧告項目への対応が記されている。全カナダ的アプローチを通じて、安全かつ責任ある形でSMRの開発と建設を進めるため、カナダ政府は国民と環境を防護する規制上や政策上、法制上の枠組を確保。技術革新を加速していくほか、先住民を含むカナダの全国民との有意義な関わり合いを継続するとしている。同行動計画によると、SMRはクリーンで安全かつ価格も適正なエネルギー源となる可能性が有り、低炭素で盤石な未来社会への道を拓くとともに、カナダの全国民がその利益を享受することができる。また、従来型よりも小型でシンプル、コストもかからない原子力発電の必要性を、世界中の市場が示唆している。国際的な専門家の間でも、2030年から2050年までの間にCO2排出量を削減するという連邦政府や州政府の目標を達成し、地球温暖化に対処するには、あらゆる低炭素発電技術とともに新たな原子力発電技術が必要と言われている。このような背景からカナダ政府は、カナダのみならず世界全体が低炭素な将来に向かう上で、原子力の中でも特にSMRのような発電所が重要な役割を担うと認識。カナダにおいてSMRは、沢山の雇用や知的財産権、サプライチェーンを支える一方、世界市場では2040年までに1,500億ドル以上の規模に成長することが見込まれる。これに加えてSMRは、カナダが初期開発国としてSMR国際基準を設定するなどの戦略的影響力を発揮し、開発政策面においても世界のリーダー的立場を確保することに貢献。最終的には、SMRによって地域開発の機会が拓かれ、北部コミュニティや先住民と主なエネルギー問題への取組で建設的な協議を行うことにも繋がるとしている。これらを実現するため、カナダ政府は今回の行動計画で以下の活動を実施する。すなわち、関係組織それぞれの管轄や権限の範囲内で一致団結し、様々なSMR設計の開発と建設を支援。2020年代後半までに最初のSMRで運転を開始する。諸外国のパートナーとも連携してSMRの輸出機会を捉えるため、関係組織を「チーム・カナダ」として統合する。SMRをその他のクリーンエネルギー源や貯蔵技術、アプリなどと統合し、カナダが低炭素な未来社会に向けて移行するのを加速する。放射性廃棄物の排出量を最小限に抑えるとともに、再利用する可能性も追求。放射性廃棄物を安全かつ長期的に管理するためのカナダの慣行を補完する。原子力産業界に女性や少数民族、若者などを積極的に登用して多様化を進めるほか、先住民や遠隔地域、北部コミュニティなどと長期的に経済連携する機会を模索する。SMRの研究開発やエンジニアリング、製造と建設に関する学界の広範な能力を活用する。(参照資料:カナダ連邦政府の発表資料、原産新聞・海外ニュース、ほか)
21 Dec 2020
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フィンランドのティオリスーデン・ボイマ社(TVO)は12月16日、オルキルオト原子力発電所で2005年から建設中の3号機(OL3)(172万kWのPWR)を完成させるため、同日に開催した臨時株主総会ですべての株主が4億ユーロ(約506億円)の追加融資を行うことに合意したと発表した。同社のJ.タンフアCEOによると、株主らはOL3の完成に向けて最大の努力を払う方針であり、取締役会が提案した無担保の劣後融資協定(返済順位の低い融資取り決め)に一様に署名。同炉が運転開始すればフィンランドの電力需要の約14%を満たせるため、すでに約17%を賄っている同発電所の1、2号機と合わせて、長期にわたり同国に無炭素な電力を供給し続けられると述べた。株主が新たな融資を承認したことで、TVOは同建設プロジェクトが必要とする資金化可能資産と自己資本比率を十分に維持できることになった。同社はこれまでに株主から承認した劣後融資をすべて実施済みであり、建設工事を請け負った仏アレバ社はOL3を完成させる財政的解決策を引き続き模索中。プロジェクトの完了時期については、アレバ社と独シーメンス社による企業連合とTVOが協議を続ける考えである。OL3は世界で初めて欧州加圧水型炉(EPR)を採用して着工したが、フィンランド規制当局による関係文書の認証作業や下請業者による土木工事に想定外の時間がかかり、当初予定されていた2009年の完成スケジュールは大幅に遅延。フィンランド政府が同炉に運転認可を発給したのは2019年3月のことである。これにともない、建設コストもTVOが同企業連合とターンキー契約を結んだ際の固定価格30億ユーロ(約3,798億円)を大幅に超過。TVOは2018年3月、完成までに要する総投資額を約55億ユーロ(約6,963億円)と見積もったが、その際に同企業連合と結んだ包括的な和解契約により、超過コストの一部および損害賠償金など合計4億5,000万ユーロ(約569億7,000万円)を同企業連合からTVOに支払うことが決定している。TVOは今年4月、燃料の装荷許可申請書をフィンランド放射線・原子力安全庁(STUK)に提出しており、6月には装荷できると見込んでいた。しかし、建設中の各種試験の進行が遅く、プロジェクトの遅延にともなうメンテナンス作業量が増加したこと等により、今年8月時点のスケジュールで装荷の実施は2021年3月以降に延期。送電網への接続は同年10月に、営業運転の開始は2022年2月ずれ込む見通しである。(参照資料:TVOの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの12月17日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
18 Dec 2020
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米エネルギー省(DOE)は12月16日、今年5月に設置した「先進的原子炉設計の実証プログラム(ARDP)」における支援対象として、新たにウェスチングハウス(WH)社など5社の設計を選定したと発表した。これらの企業には、2020会計年度予算から差し当たり合計3,000万ドルを提供。分担金全体の少なくとも20%を産業界側がマッチング・ファンドで賄う一方、DOE側が今後7年間に拠出する総額は、これら5件で6億ドルを超える見通しである。ARDPは、国内原子力産業界による先進的原子炉設計の実証を、政府がコスト分担方式で支援する官民連携プログラム。DOEの原子力局が担当しており、支援ルートは設計の成熟度に応じて以下に示すような3方式がある。すなわち、①「先進的原子炉の実証」ルート:5~7年の間に2つの先進的原子炉が確実に稼働できるよう支援、②「将来的な実証に向けたリスク削減」ルート:商業化の達成目標時期を①より約5年延長し、5件の支援対象設計について技術面や運転面の課題を解決、③「先進的原子炉概念2020(ARC20)」ルート:2030年代半ばの商業化を目標に様々な革新的設計の開発を支援――である。①についてはDOEがすでに今年10月、テラパワー社が開発している「ナトリウム冷却高速炉」と、X-エナジー社の小型ペブルベッド式高温ガス炉「Xe-100」を選定。今後7年間で運転開始を実現するため、2020会計年度から8,000万ドルずつ交付することが決まっている。今回、支援対象に決まったのは②ルートに区分されるもので、DOEは今後10~14年間に許認可手続きと建設工事を実施する可能性がある設計について技術的なリスクを削減し、安全かつ適正コストの原子炉開発を支援する。5件の対象技術や投資額、またDOE負担額等の概要は以下のとおり。ケイロス・パワー社による「ヘルメス規模縮小版試験炉」、7年間の投資額6億2,900万ドル(うちDOE負担分3億300万ドル):ヘルメスは、商業規模の「フッ化物塩冷却高温炉(FHR)」開発につなげるためにケイロス社が設計、建設、操業を計画している設計。燃料として、3重被覆層・燃料粒子「TRISO」をペブルベッド方式で使用する。WH社の極小原子炉「eVinci」、7年間の投資額930万ドル(うちDOE負担分740万ドル):2024年までに実証炉開発することが目標で、原子炉の冷却に使われる伝熱管の製造能力を改善するとともに、経済的に実行可能な燃料交換プロセスなどを開発する。BWXTアドバンスド・テクノロジーズ社の「BWXT先進的原子炉(BANR)」、7年間の投資額1億660万ドル(うちDOE負担分8,530万ドル):輸送が可能な極小原子炉となる予定で、炉心に一層多くのウランを装荷するためTRISO燃料を使用。また、炭化ケイ素製マトリックスを利用できるよう炉心設計を改善する。ホルテック・ガバメント・サービシズ社の「SMR-160」設計、7年間の投資額1億4,750万ドル(うちDOE負担分1億1,600万ドル):軽水炉方式となる同設計の開発を加速するため、初期段階の設計・エンジニアリングや許認可手続き関係の作業を支援する。サザン・カンパニー・サービシズ社の「溶融塩実験炉(MCRE)」、7年間の投資額1億1,300万ドル(うちDOE負担分9,040万ドル):世界初の高速スペクトル型溶融塩原子炉として、設計と建設および運転を目指す。このほか、開発の初期段階にある設計を支援する③ルートについて、DOEは今月末にも支援対象を公表するとしている。(参照資料:米エネ省の発表資料、原産新聞・海外ニュース、ほか)
17 Dec 2020
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米国の原子力技術・エンジニアリング企業であるケイロス・パワー社は12月11日、開発中の「フッ化物塩冷却高温炉(FHR)」(電気出力14万kW)の試験炉を、テネシー州にあるエネルギー省(DOE)の「東部テネシー技術パーク(ETTP)」内で建設する方針を明らかにした。ケイロス社のFHR (KP-FHR)は、コンバインドサイクル発電とコスト面で競合可能な無炭素電源となるよう、同社が商業化を目指している先進的原子炉。同社は2018年11月から原子力規制委員会(NRC)と許認可申請前の相互交流活動を展開しており、2030年までに実証炉を米国内で建設する計画である。同社が目標としているのは、先進的技術によってクリーンエネルギー社会への移行を促し、環境を保全しつつ人々の生活の質を劇的に向上させること。KP-FHRの強固な安全性と適正な価格を通じて、この目標を達成できるとしている。ケイロス社はKP-FHRの冷却に低圧の液体フッ化物塩を用いており、燃料には3重被覆層・燃料粒子「TRISO」を使用する。固有の安全性を保持したまま、大容量の電力と高温のプロセス熱を生成できると言われており、2002年にDOE傘下のオークリッジ国立研究所(ORNL)がFHRの概念を提案した後、これを元にMITやUCバークレーなどが個別の要素技術の研究を進めていた。また、建設サイトとなるETTPでは、DOEが40年にわたって軍事用と民生用のウラン濃縮複合施設を操業していた。1987年に永久閉鎖した後は、DOEの環境管理局(EM)が同サイトを民間企業保有の多目的産業パークとするため浄化作業を継続中。EMは今年に入り、同サイトで主要部分の浄化作業が完了したことを明らかにした。一方、ケイロス社は同サイトの「K-33ガス拡散法ウラン濃縮プラント」が立地していた跡地を取得するため、管理会社と了解覚書を締結、現在はこの土地の評価作業が行われている。ケイロス社の創業者の1人であるM.ローファーCEOは、「ETTPで様々なインフラ設備を利用できるほか、主要な協力者が近隣のORNLに存在するため、当社の技術を実証するには最適のロケーションだ」と指摘した。オークリッジ市のW.グーチ市長も、「当市は原子力技術革新では由緒ある歴史を持つ土地柄。今後も近代的原子力技術への転換を推し進めるにあたり、ケイロス社は当市が技術革新の中心地であることを実証する重要な部分を担うだろう」と述べた。(参照資料:ケイロス・パワー社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの12月11日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
16 Dec 2020
2630
英国のビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)は12月14日に新しいエネルギー白書を公表し、この中でイングランド地方南東部のサフォーク州でサイズウェルC原子力発電所を建設する計画について、事業者のEDFエナジー社と交渉に入ることを確認した。同社は現在、南西部サマセット州でヒンクリーポイントC原子力発電所(170万kW級の欧州加圧水型炉: EPR×2基)を建設中である。政府は現在の選出議員による議会会期中に、少なくとも1件の原子力発電所新設計画への投資を可能にするオプションを検討しており、サイズウェルC計画が進展した場合、建設と運転の両期間中に国内で数千人規模の雇用が創出されると政府は予想。交渉次第では、EDFエナジー社がプロジェクト実施の最終判断を下す前に、投じた金額に見合う価値のある取引として同社と政府の合意が成立する可能性もある。ただし、こうした結論に到達するまでには、建設計画の徹底した精査が行われるほか、法制面や規制面および国家安全保障面で政府の厳格な要件を満たす必要がある。エネルギー白書は具体的に、規制資産ベース(RAB)モデルも含めて、新規の原子力発電所建設計画に資金調達が可能な複数のオプションを引き続き検討すると明記した。これによって、民間部門の投資を促進し消費者の負担も長期的に軽くする可能性を探るが、資金調達の規模によっては建設期間中に政府が財政支援する可能性も検討する。ただしその折には、建設計画に消費者や納税者の支払いに見合う確固たる価値が見いだせなければならない。政府のこのような方針について、EDFエナジー社は同日コメントを発表した。同社の英国法人のS.ロッシCEOは、「ヒンクリーポイントC発電所やサイズウェルC発電所、および再生可能エネルギーへの投資を通じて、英国全土に雇用を創出しつつ、政府の目指す脱炭素化を支援していく」と表明。「そのためには今こそ行動を起こすべき時であり、原子力発電所新設計画への資金調達問題も含めて、エネルギー問題や地球温暖化防止政策の実施に向け政府に協力していきたい」と述べた。同社で原子力開発を担当するH.カドゥ-ハドソン取締役も、「CO2排出量の実質ゼロ化に向け、大型原子力発電所の果たす極めて重要な役割が改めて認識された」と指摘。「サイズウェルC計画を進めるという政府の判断は、(排出量の実質ゼロ化に向け)B.ジョンソン首相が先ごろ公表した『緑の産業革命に向けた10ポイント計画』における重要施策を英国民のために実施し、数千人規模の雇用や実習制度の創出を約束する。国内の原子力サプライチェーンに属する数千の企業に対しても、大規模な支援を提供する」と強調した。同取締役はまた、建設プロジェクトに適切に資金調達するモデルについても、政府と協議を始めたいと表明。サイズウェルC発電所はヒンクリーポイントC発電所と同型の原子炉を同数備えた発電所となる計画で、これにより建設コストや資金調達コストについては大幅な減少が予想されている。これらの点から同取締役は、「(両者の協議においては)費用対効果が見込めるとともに、消費者の負担も軽くなる資金調達策に必ず辿り着ける」との期待を示した。今回の政府発表についてはさらに、英国原子力産業協会(NIA)のT.グレイトレックス理事長が歓迎の意を表明した。同理事長によると、英国では今後、化石燃料発電のみならず輸送部門ではディーゼルを、暖房部門ではガスを使うことも停止していくため、大型炉や小型炉、先進的原子炉に限らず無炭素な発電技術で現在の4倍の設備容量が必要になる。このため同理事長は、政府がその他の原子力開発事業者についても(「先進的原子力基金」の創設に最大3億8,500万ポンドを投じて)協働していくと約束した点を高く評価。ウィルヴァ・ニューウィッド原子力発電所建設計画やブラッドウェルB発電所計画、ムーアサイド発電所計画で確保されたサイトのすべてが、大規模原子炉の建設に適していると強調した。(参照資料:英国政府、EDFエナジー社、NIAの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの12月14日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
15 Dec 2020
2905
ベルギーの大手エンジニアリング企業であるトラクテベル社は12月11日、小型モジュール炉(SMR)に対する同社のビジョンを記した白書「2.0バージョンに進展する原子力技術」を公表した。その中で同社の将来展望として、SMR事業をエネルギー問題の統合的解決策として重点的に推進していく方針を表明している。同社は、ベルギーで稼働する原子炉7基中6基の建設でアーキテクト・エンジニアを務めたほか、世界中の複雑な原子力開発プロジェクトにおいてもエンジニアリング企業として活動。半世紀以上にわたって原子力に関する経験を蓄積してきた。同社によると、SMRは単なる原子力製品ではなく、21世紀の重要なエネルギー問題に懸命な解決策をもたらす「ビジネス・モデル」である。エネルギーの生産・貯蔵から輸送まで、分野横断的な事業を幅広く手がける中心的企業として、トラクテベル社はSMRによるソリューションの提案を推し進める考えである。同社はまず、コストの超過やスケジュールの遅延といった大型原子炉の新設にともなう課題によって、原子力産業界がダメージを負ってきたと指摘。その結果、民間部門からの投資が減少し、自国内で原子力を長期的に開発していこうとする国でのみ建設プロジェクトが維持されてきた。同様の現象は航空業界でも見られており、今や規模の小さい柔軟性のある航空機利用が新たなスタンダードになってきている。原子力産業界でも、シンプルで規格化した小型のモジュール式原子炉を新たな「標準」として定義しつつあるが、革新的な設計を普及させるには許認可の枠組などが必要になってくる。同社はこのため、通常よりも一層拍車をかけてSMRを量産し、そこから経済的恩恵を得るというビジョンがSMR産業界には必要だと説明。それに不可欠な事項として、SMRが第3世代炉の新規建設プロジェクトから教訓を学んでおり、予算内でスケジュール通りに完成させることができると投資家に証明しなければならないとした。また、現実問題として、需要に応じて出力調整する能力と、既存の産業ハブに隣接する地点でプラントの立地が可能という2重の基準を経済的に満たせる無炭素発電技術はほとんどない。これらのことからトラクテベル社は、電力や水素、蒸気など複数のエネルギーを統合したエコ・システムの中心にSMRを置くというビジョンを描いている。同社によれば、米国やカナダ、仏国、英国、フィンランド、エストニア、ポーランド、チェコ、およびその他の東欧諸国は、すでにSMRを活用して将来を築くという方針を明確に表明済み。SMRには無炭素社会への移行を可能にする能力が複数あり、それらは具体的に、①再生可能エネルギーの間欠性を補い、その普及を助ける出力調整能力と100万kWh規模のエネルギー貯蔵能力、②市場の需要に応じた発電所規模や運転時の温度の高さなどにより、地域熱供給や海水脱塩など幅広い分野の適用が可能--などである。トラクテベル社は、現実社会の産業プロジェクトを通じてSMRのこのような価値を実証し、今後活用される複雑なエネルギー・システムの全側面を経験した企業として、建設プロジェクトの機会を世界中で模索していく。その一環として同社はすでに今年1月、エストニアのエネルギー企業が同国内で計画しているSMR建設に協力するため、フィンランドのフォータム社とともに協力覚書を締結している。(参照資料:トラクテベル社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの12月11日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
14 Dec 2020
3191
米国で約30年ぶりの原子炉新設計画を進めているジョージア・パワー社は12月9日、A.W.ボーグル原子力発電所で完成間近の3号機(PWR、110万kW)サイトに初装荷燃料が到着したと発表した。同発電所3、4号機は、ウェスチングハウス(WH)社製の第3世代設計AP1000を国内で初めて採用し、それぞれ2013年3月と11月に建設工事が本格的に始まった。3号機では今年10月に冷態機能試験が完了し、建設進捗率は12月現在で約96%に到達。ジョージア・パワー社は現在、3号機の温態機能試験を来年1月に開始する準備を進めており、燃料の初装荷は同試験が完了した後の2021年4月を予定している。しかし、同社の親会社であるサザン社は、新型コロナウイルスによる感染の影響や一部作業の遅れにより、燃料装荷は来年夏ごろになるとの見方を別途表明したと伝えられている。ジョージア・パワー社は今のところ、両炉をそれぞれ2021年11月と2022年11月までに完成させる考えだが、ひとたび運転が始まれば、両炉は60年から80年の間、クリーンで安価な電力を50万戸以上の世帯や企業に安全に供給し続ける。また、サザン社が掲げている「2050年までにCO2排出量の実質ゼロ化」という目標の達成にも大いに貢献するとしている。今回到着した燃料は、長さ14フィート(約4m)の燃料集合体が157体で、運転開始後は、燃料交換時に約3分の1ずつ新しいものと交換することになる。ジョージア・パワー社の発表によると、今年は3、4号機の建設サイトで以下の作業を完了している。・3号機の常温状態試験で冷却系の溶接部や接合部、配管等が設計通り機能するか、また高圧システムで漏れが生じないかを確認した。・3号機で緊急事象の発生を想定した対応訓練を実施し、近隣住民の健康と安全を効率的かつ効果的に確保する能力を実証した。*・原子力規制委員会(NRC)が3、4号機の運転員および上級運転員となる62名に免許を交付した。・3号機の格納容器で構造性能確認試験と全体漏えい試験を実施し、同容器が設計要件を満たしていることを確認した。・3号機の格納容器と遮へい建屋の上部に水タンク用のモジュール(CB-20)を設置し、緊急時に原子炉を冷却するための水75万ガロンの注入性能を確保した。・3号機の原子炉容器上部に一体型ヘッドパッケージ(IHP)を設置し、運転員が同容器内の核反応を監視・制御できるようにした。・3号機の原子炉容器の蓋を開けた状態で、主要な安全系から同容器に水を流す試験を実施し、流路がふさがれたり狭まったりしていないか、およびシステムの構成要素が設計どおり機能するか確認した。・ポーラー・クレーンを設置して両炉の格納容器内部への大型機器吊り上げ・設置作業を完了した。このほか同社によると、今年初頭に世界原子力発電事業者協会(WANO)が建設サイトを訪問し、両炉の起動前審査を実施。2基のAP1000原子炉で安全な運転が可能か、準備状況を評価している。(参照資料:ジョージア・パワー社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの12月10日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
11 Dec 2020
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国際エネルギー機関(IEA)と経済協力開発機構・原子力機関(OECD/NEA)は12月9日、2020年版の「発電コスト予測(Projected Costs of Generating Electricity)」を発表し、低炭素電源の発電コストが次第に低下しており、従来の化石燃料発電を下回りつつあるとの分析結果を明らかにした。この報告書は、発電所の「耐用期間中の均等化発電コスト(LCOE)」について両機関が5年ごとに共同で取りまとめているもので、今回の報告書で9版目となる。化石燃料や原子力のほかに、風力や太陽光、水力、バイオ燃料といった様々な再生可能エネルギーなど、24か国から提供された243の発電所データを個別プラントベースで分析している。最新版の判明事項として両機関は、国毎、地域毎に条件は異なるものの、低炭素電源が全般的にコスト面の競争力を増してきており、再生可能エネルギーについては近年、発電コストが引き続き低下中だと指摘。風力と太陽光のコストは今や、多くの国で化石燃料発電と競合できるレベルに到達したほか、原子力発電のコストもまた、近い将来さらに低下していくことが予想されるとした。その理由として、複数のOECD加盟国で開発初号機の建設プロジェクトから改善を重ね、コストの削減が進展。新規の原子力発電所は出力制御が可能な低炭素電源の中でも、発電コストが2025年には最も低いレベルになるとした。また、既存の原子力発電所で「運転期間を40年以上に延長して継続すること(long-term operation: LTO)」は、低炭素電源の中では費用対効果が最も高い電源となる。コスト比較という点では水力も同様の貢献が可能だが、それぞれの国の自然環境に大きく左右されるとの見方を示している。結論として両機関は、国や地域毎に重要条件は必然的に異なるものの、低炭素電源の競争力が増してきたという事実が今回の報告書の洞察と指摘。低炭素電源には、風力や太陽光など出力が変動しやすい再生可能エネルギーのほかに、LTOを含む原子力や水力など柔軟性の高い電源が含まれるが、CO2価格が1トン当たり30米ドルと安価であっても高効率化していない石炭火力に競争力はない。一方、ガス火力はガスの価格が非常に低いので、北米などいくつかの特異な市場においては特に、競争力を維持することが可能。CO2の回収・有効利用・貯留(CCUS)が競争力を得るには、現在の市場の多くでCO2価格がこれまで以上に高くなければならないと述べた。原子力発電の見通し今回の報告書によると、一般的な原子力発電所における設計上の運転期間は40年であるが、これは圧力容器など取り換えの難しい主要機器で十分余裕を持った設計上の耐用年数に基づいている。しかし現在、設計機能を安全に果たす上では、その多くの機器の耐用年数が40年以上となっている。米国ではすでに、約100基の原子炉のうち90%について、運転開始当初の運転期間である40年が60年に延長された。また、いくつかのプラントでは80年まで延長されており、技術面でLTOに大きな障害がないことが確認されている。IEAの既刊の報告書では、世界の気温上昇を50%の確率で2℃未満に留める「持続可能な開発シナリオ(SDS)」の場合、2015年のパリ協定における目標を達成するには、原子力発電設備の新規建設と既存炉で運転期間を40年以上に延長することが不可欠だと明記している。今回の報告書では、こういった既存炉の運転期間延長をしないのであれば2021年以降に最大で2,000万kWの追加設備が原子力で必要になると指摘。これに加えて、脱炭素化も進めるとなると課題の解決はますます難しくなり一層の経費がかさむが、いくつかの国では原子力や水力のように出力制御が可能な一方、莫大な資本を必要とする低炭素電源の価値が電力市場で適正に評価されていない。政治的判断によって早期閉鎖されるプラントもあることを考えると、既存炉のLTOこそ、低炭素な電源に対する投資のなかでも高い競争力を持ち続けるとしている。(参照資料:IEAとOECD/NEAの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの12月9日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
10 Dec 2020
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英国のビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)は12月2日、商業的に利用が可能な世界でも初のプロトタイプ核融合発電所を国内で建設するため、受け入れ地域やコミュニティを募集すると発表した。2024年までに概念設計を完成させた後、2040年までに同発電所の送電網への接続を目指して詳細設計と建設を進める。その間、高度なスキルを要する雇用も英国全土で創出し、諸外国への輸出も視野に入れた全く新しい産業を作り上げる方針である。この計画は、BEISが昨年10月に公表した「球状トカマク核融合設計プログラム(STEP)」の枠組で行われる。同プログラムでは、地球温暖化防止に向けた世界的取組の一環として、英国政府が革新的技術の開発に大規模投資を行うことになっており、2億2,200万ポンド(約309億円)をかけて核融合エネルギーの実現を目指す。STEPにおける具体的な核融合研究は、英国原子力公社(UKAEA)が英国政府に代わって実施することになる。STEPへの投資は今年11月、英国内の温室効果ガス排出量を実質ゼロとするため、B.ジョンソン首相が公表した10項目の重要施策「緑の産業革命に向けた10ポイント計画」にも明記された。英国政府はSTEPの設計活動開始に必要な2億2,200万ポンドに加えて、1億8,400万ポンド(約256億円)を2025年までの期間に投資。オックスフォードシャーにあるUKAEAのカラム科学センターに、新たな核融合関係施設とインフラ、および実習制度を設置する計画で、核融合と革新的技術開発の中心的存在である同センターに一層の支援を提供する考えだ。BEISは核融合について、太陽と同じくクリーンで低炭素な電力を無尽蔵に供給できるエネルギー源と認識しており、英国はその商業化を成し遂げる最初の国になろうとしている。BEISのA.シャルマ大臣は、「何世代にもわたって利用可能という驚くべきエネルギー源に資本投下することで、英国を核融合開発の先駆者にしたい」と抱負を述べた。今回の核融合発電所の受け入れ募集で、関心を持つ自治体は2021年3月末までに候補地となるための申請書を提出するが、その際、受け入れに適した土地条件や送電網との接続、水の供給など、社会面や商業面および技術的側面からも条件を満たしていると実証しなければならない。BEISによればサイトに決定した場合、その自治体では発電所の建設中から運転中に至るまで、地元のサプライチェーンで数千人規模の雇用創出が約束される。また、英国政府が進める「緑の産業革命」の中心地となって、関係企業を引き寄せるほか、核融合と関連産業の世界的拠点にもなるとしている。UKAEAのI.チャップマンCEOはSTEPについて、「研究開発を製品として完成させ、核融合が単なる『見果てぬ夢』ではなく、その商業開発を英国が主導しパイオニアになることを実証するためのものだ」と説明。「この意欲的な目標を達成するため、UKAEAは今後数年にわたって英国の科学エンジニアリング産業界と協力し、プログラムの技術的発展に向けた投資と支援を提供する。このような内外のパートナーとの連携を通じて、英国は革新的な核融合技術を市場に出すことが出来るだろう」と述べた。(参照資料:BEISとUKAEAの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月30日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
09 Dec 2020
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英国のロールス・ロイス社は12月7日、同社の民生用原子力発電所用の計装制御(I&C)系事業を仏国のフラマトム社に売却する合意文書に調印したと発表した。この合意に含まれるのは、仏国のグルノーブルとチェコのプラハ、および中国の北京と深セン(センは土へんに川)におけるI&C系事業の全活動と担当チームで、対象となる従業員の総数は550名。同事業による2019年の収益は9,400万ユーロ(約118億4,500万円)にのぼっている。英国内の民生用原子力事業や小型モジュール炉(SMR)の開発事業は、今回の売買の対象外。英国内の雇用に影響が及ぶことは全くなく、同社は今後も引き続き英国で低炭素な電力の供給に尽力すると強調している。発表によると、この合意は今年8月に同社が公表した事業のさらなる簡素化戦略の一環であり、その他事業の売却益も含め、少なくとも20億ポンド(約2,778億円)以上を捻出する方針。新型コロナウイルス感染の世界的広がりにより、同社の民間航空部門はかつてない規模の打撃を被っており、同部門の再建と財政立て直しが同社にとって最大の急務となっている。今回の合意はまた、通例通り規制上の承認等を得る必要があるため、売却手続きが完了するのは2021年の半ば頃を予定。それまでは両社の事業はともに独立性を保ち、通常の経営が行われる。一方のフラマトム社は、この合意を通じてエンジニアリング関係の専門的知見を深め、I&Cシステムの製造能力を拡充する戦略である。同社の発表によると、原子力発電所の中枢神経であるI&C系は原子炉制御をつかさどっており、同社はロールス・ロイス社の製品や技術を取り入れて、原子力発電所の重要な安全機能をすべて統合。ロールス・ロイス社の技術はすでに世界中で稼働する150の原子力発電所に採用されているが、フラマトム社としては顧客の中でも特に、仏国の原子力発電所に優れた製品を提供していく考えである。なお、中国関係観測者によると、中国はこれまでに導入、あるいは独自開発した原子力発電所に諸外国メーカーのI&C系技術を採用。中国国内の関連企業を通じて、I&C系技術を吸収し国産化を進めてきた。フラマトム社は中国の原子力開発利用黎明期から協力関係にあったことから、中国は同社からもI&C系のノウハウを吸収し、世界のI&C系技術開発で先頭に立つ戦略とみられる。(参照資料:ロールス・ロイス社、フラマトム社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの12月7日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
08 Dec 2020
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米国のGE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社は11月30日、米原子力規制委員会(NRC)が同社製小型モジュール炉(SMR)の「BWRX-300」について実施している先行安全審査で、最初の許認可トピカル・レポート(LTR)に対する最終安全評価報告書(FSER)が発行されたと発表した。米国で開発中のSMRについては、今のところニュースケール・パワー社製のSMRについてのみ、設計の本格的な許認可プロセス「設計認証(DC)審査」が行われている。GEH社は未だ、同審査をBWRX-300で申請していないが、LTRは多くの許認可申請に共通する安全審査事項をまとめた技術文書であり、顧客となる電気事業者が後日、当該設計を選定して予備的安全解析書(PSAR)を作成・提出する際の基礎的文書になる。BWRX-300の先行安全審査でGEH社は、設計の飛躍的な簡素化を実現した原理について2019年12月に最初のLTRをNRCに提出した。今年初頭に後続のLTRを2件提出した後は、4件目のLTRを今年9月に提出。2件目と3件目については、今後数か月以内に審査が完了すると同社は予想している。BWRX-300では、すでに2014年にDCを取得した同社製「ESBWR(高経済性・単純化BWR)」から多くの技術を流用しているため、GEH社は今回のLTRによってBWRX-300の商業化に向けて審査がさらに進展すると強調。2020年代後半にも最初のBWRX-300の運転を開始するため、今後も集中的に作業を進めていく考えである。GEH社によるとBWRX-300は出力30万kWの軽水冷却式SMRで、ESBWRにも採用した受動的安全系を装備。自然循環技術等により冷却水を制御する仕組みで、設計を簡素化したことでMWあたりの資本コストはその他の軽水冷却式SMRや大型原子炉と比較して大幅に低下した。また、すでに認可が得られた燃料設計や技術的に実証済みの機器、サプライチェーンなどを活用しているため、BWRX-300はGE社が1955年に原子炉を商品化して以降、最もシンプルで革新的な技術を用いたコスト面の競争力も備えた設計になる。同設計については、これまでにバルト三国のエストニアやポーランドのエネルギー企業、チェコの国営電力会社などが、それぞれの国内で建設の可能性を探ると表明。いずれもCO2排出量の実質ゼロ化やエネルギーの自給等で新世代のSMR技術に期待を抱いており、BWRX-300のほか複数のSMR設計について同様の活動を行っている。 (参照資料:GEH社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、ほか)
07 Dec 2020
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スウェーデンの電力大手バッテンフォール社は11月30日、エストニアの新興エネルギー企業「フェルミ・エネルギア社」が国内で進めている小型モジュール炉(SMR)導入計画への協力強化に向け、同社と基本合意書を交わしたと発表した。バッテンフォール社は過去数年間にわたり、SMR建設に向けたフェルミ社の実行可能性調査に参加してきた。近年世界では、ますますSMRへの期待が高まりつつあることから、バッテンフォール社は欧州でSMR建設イニシアチブを成功させたいとするフェルミ社への協力を今後さらに強化。具体的には、原子力発電所の建設や資金調達、発電所スタッフとSMR運転員の教育訓練を含む人的資源開発、サプライチェーン開発などで同社の経験を提供。個別の作業分野で一層調査を掘り下げていき、フェルミ社がSMR建設計画を申請しエストニア議会がこれを「原則決定」するまで支援を続ける考えである。バッテンフォール社はこの協力を通じて、SMR技術の成熟度や1基以上のSMRをエストニア国内で建設する可能性などを検証。同社以外にも、このイニシアチブには複数の欧州企業が参加しているため、「参加企業すべてが実用的なSMR技術についての洞察を深め、それぞれにとって貴重な経験となるようにしたい」と述べた。バッテンフォール社によると、発電をオイル・シェールなどの化石燃料に依存するエストニアは、EU加盟国のなかでもkWh当たりのCO2排出量が最も多い。これに対してスウェーデンは、水力と原子力、および風力と太陽光を組み合わせた電力供給により、化石燃料による発電はほとんどゼロ。世界の中で排出量が最も低い国の一つであり、こうした事実がエストニアに協力する最大の背景になっていると説明した。一方のフェルミ社は、第4世代炉の導入を目的に、エストニア原子力産業界でSMR開発/建設を支持する専門家らが立ち上げた企業。2030年代初頭にも、欧州連合(EU)域内で初のSMR建設を国内で目指している。EUとしては、2025年末までに同国を含むバルト三国およびポーランドを旧ソ連の統合電力システムから切り離し、欧州24か国が共同管理する「大陸欧州送電網」に統合する方針。しかし、これらの地域がロシアからの電力輸入を停止する期限が迫っているため、フェルミ社はSMRの形で原子力発電を国内に導入し、EUが掲げる「2050年までにCO2排出量の実質ゼロ化」の目標達成に貢献したいとしている。フェルミ社のK.カレメッツCEOは、「SMRの高度な安全性とシンプルな設計、資本コストの低さは、エストニアにおける原子力導入を現実的なオプションにした」と指摘。このことは同国政府も認識しており、原子力の導入影響を評価するため、すでに国家作業グループの設置を決めた。同グループは年内にも初会合を開催して、来る2年間に行う作業の計画を作成。諸外国の専門家の支援も得ながら、エストニアの確実なエネルギー供給保証にとり原子力発電の導入が適切であるか分析する。同社はまた、これまでに実施した調査結果に基づき、エストニア国内の2つの自治体とSMRの受け入れ条件に関する協議を正式に開始した。首尾よく進展すれば、自治体は政府の正式な選定プロセスの下で「国家指定国土形成計画(NDSP)」に組み込まれ、適切なサイトの選定に向けて戦略的環境影響声明書(EIS)などが作成される。エストニアのSMR導入計画には、すでにフィンランドの国営電気事業者フォータム社やベルギーの大手エンジニアリング・コンサルティング企業トラクテベル・エンジー社が協力中。このほかフェルミ社は、米国のGE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社や英国のモルテックス・エナジー社などとも協力覚書を締結しており、それぞれが開発したSMRの建設可能性を探るとしている。(参照資料:バッテンフォール社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月30日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
03 Dec 2020
2090
インド原子力規制委員会(AERB)は11月27日、インド北部ハリヤナ州のゴラクプールで、1、2号機(各70万kWの国産加圧重水炉)を建設するためのコンクリート打設実施を認めたと発表した。この許可は、同月18日付けで発給済みとなっている。ゴラクプールはハリヤナ州では初の原子力発電所立地点で、インド原子力発電公社(NPCIL)は最終的に、70万kWの加圧重水炉(PHWR)を4基建設する計画。インド内閣はこれらも含め、4サイトで合計10基の70万kW級国産PHWRを新たに建設することを2017年5月に決定した。NPCILがゴラクプールで2014年1月に起工式を開催した後、AERBは2015年7月に4基分の立地許可を発給。2018年1月には最初の2基(1、2号機)について掘削工事の実施を許可しており、NPCILは同年3月から掘削工事を開始していた。発表によると、デリー首都圏から北西170kmのゴラクプールは地質が柔らかい沖積土であるため、NPCILは地質工学的調査や地震関係の調査を詳細に実施した。地盤の改良工事が完了した後は、気象学的なパラメーターを収集・記録中。ゴラクプール1、2号機はまた、今年7月に初めて臨界に達したカクラパー3号機(70万kWのPHWR)と同様の設計になるとしている。一方のAERBは、複数階層で構成される安全関係の委員会を通じて、建設計画が安全規定要件に適合しているか審査した。特に土木建築工事や1、2号機の安全性関係の設計、およびレイアウトの変更などに集中したと説明している。なお、AERBは同日、70万kW級国産PHWRの新規建設で閣議決定した4サイトのうち、インド南西部の既存のカイガ原子力発電所について、5、6号機(各70万kWのPHWR)の立地許可を11月18日付けで発給したと発表した。同発電所では出力22万kWのPHERが4基稼働中だが、5、6号機の設計とレイアウトはゴラクプール1、2号機と同じものになる。この安全審査でAERBは、通常運転時や事故発生時に放射性物質が放出される可能性を集中的に評価したほか、サイト特有の人的要因や自然発生的な外部要因の影響を評価。これらはすべて許容可能であり、AERBの他の安全規定要件もすべて満たされているとしている。(参照資料:AERBの発表資料①、②、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月27日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
02 Dec 2020
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中国核工業集団公司(CNNC)は11月27日、世界で初めて国産第3世代炉「華龍一号」を採用した福清原子力発電所5号機(115万kWのPWR)を同日未明に送電網に接続し、初めて送電したと発表した。これにより、CNNCは「諸外国による原子炉技術(市場)の独占状態を打ち崩し、中国は正式に原子力技術先進国の仲間入りを果たした」と表明。原子力大国から原子力強国への飛躍を実現する重要な節目になったとし、同炉の輸出促進で習近平国家主席が提唱するシルクロード経済圏構想「一帯一路」が一層強化されると強調している。「華龍一号」はCNNCと中国広核集団有限公司(CGN)双方の第3世代PWR設計「ACP1000」と「ACPR1000+」を一本化して開発され、主要技術と機器の知的財産権は中国が保有。CNNCの発表によると、同設計では炉心の出力密度を下げて安全性の改善を図っているほか、設計上の運転期間は60年を想定している。輸出用主力設計としての海外への売り込みも積極的で、CNNCとCGNは2016年1月22日、「華龍一号」の国際展開を促進するため、登記資本金5億元(約78億円)の合弁事業体「華龍国際核電技術有限公司」を設立した。「華龍一号」の実証炉プロジェクトと位置付けられた福建省の福清5、6号機建設工事は、2015年5月と12月にそれぞれ始めており、5号機では今年3月に温態機能試験が完了。9月初旬に177体の燃料が装荷された後、10月下旬には初めて臨界条件を達成していた。中国国内では今年8月、田湾5号機(111.8万kWの「ACP1000」)が送電開始したことから、福清5号機はこれに次いで年内にも中国49基目の商業炉となる見通しである。福清5、6号機に続く「華龍一号」採用炉としては、中国国内でさらに5基(防城港3、4号機、漳州1、2号機、太平嶺1号機)、およびパキスタンのカラチ原子力発電所2、3号機が建設中である。作業においては安全性や品質ともに厳しい管理下に置かれているとCNNCは強調。2015年と2016年に本格着工したパキスタンの2基は、それぞれ2021年と2022年に営業運転を開始するとみられている。また、英国でもブラッドウェルB原子力発電所建設プロジェクトへの採用が決まっており、同設計の英国版「UK HPR1000」を原子力規制庁(ONR)が2017年1月から包括的に審査中。2021年後半にも、設計承認確認書(DAC)が発給されると見られている。(参照資料:CNNCの発表資料(英語版)と(中国語版)、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月27日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
01 Dec 2020
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英国政府の財務省は11月25日、「国家インフラ戦略-より公平、迅速かつ環境に優しく」を公表し、英国が国家としてレベルアップを図るとともに連合王国としての結束を強め、2050年までにCO2排出量実質ゼロに移行するためのインフラ計画を明らかにした。この中で原子力発電については、「実証済みの技術を用いた費用対効果の高い電源であり、再生可能エネルギーの補完も可能な信頼性の高い低炭素電源」と説明。今月18日に公表した「緑の産業革命に向けた10ポイント計画」にも明記したように、英国政府は今後、大型原子炉建設や先進的原子力研究開発への投資に最大で5億2,500万ポンド(約728億円)投入すると約束している。発電部門のインフラ戦略財務省は、英国全体のCO2排出量のうち発電部門の排出シェアが過去10年間に27%から12%まで減少したことに触れ、主な成功要因は再生エネ源の拡大と石炭火力発電所の削減だったと指摘。民間部門による投資が再生エネの発電コストを大幅に低下させる一方、数多くの補助金制度や市場改革が再生エネへの投資を着実に増加させたとした。2014年以降、30%だった石炭火力への依存度も1%以下に下がっており、英国は2050年までに石炭火力発電所の全廃を目指す方針である。英国政府はまた、脱炭素化を進めるにあたり、これまで通り電力の安定供給を最優先事項としており、この世代初の原子力発電所となるヒンクリーポイントC発電所(172万kWのPWR×2基)を建設中。今世紀後半に運転が開始されれば、低炭素で信頼性の高い電力を年間約600万戸の世帯に供給するのとほぼ同量、発電することになる。財務省によれば、2050年までにCO2排出量の実質ゼロ化を達成するには、発電システムを事実上「CO2フリー」なものとし、輸送部門の電化等にともなう追加の電力需要に対処しなければならない。このために必要となる電力量の大部分を低コストな再生エネで供給することになるが、その間欠性を補うには一層信頼性の高い電源として、原子力や二酸化炭素の回収・貯蔵(CCS)、水素燃焼等の機能を持つ発電所が将来的に必要。このため英国政府としては、民間部門の資本投資が確実に継続されるよう保証するとしている。原子力発電今回の戦略の中で、財務省はこれまで長い間、原子力が発電部門で重要な役割を果たしてきたと明言。一定期間内や予算内での建設が可能なら、原子力は今後も同様の役割を果たし続けるし、ヒンクリーポイントC原子力発電所では、パンデミックの最中も新たな作業環境の下で建設工事が続けられている。英国政府としては、電力消費者や納税者にとって明らかに費用対効果が高く、関係する承認すべてが得られることを条件に、大規模な原子力プロジェクトを進めていく。「10ポイント計画」では今後、大型原子炉や先進的原子力研究開発に大規模な投資を行うが、このうち最大3億8,500万ポンド(約534億円)は、小型モジュール炉(SMR)や先進的モジュール炉(AMR)の開発に向けた「先進的原子力基金」に投入することになる。英国政府はまた、新規原子力発電所建設プロジェクトに対する資金調達で、「規制資産ベース(RAB)モデル」の実行可能性調査の結果を昨年、パブリック・コメントに付した。現在はコメントへの対応を取りまとめているところで、近いうちに報告書として公表する予定。RABモデルの検討と同様、英国政府は引き続き建設期間中に英国政府が財政支援する可能性を検討していくが、ここでも明確な費用対効果の高さが条件になるとしている。(参照資料:英財務省の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月26日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
30 Nov 2020
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トルコでアックユ原子力発電所(120万kWのロシア型PWR=VVER×4基)の建設工事を請け負っているロシア国営の原子力総合企業ロスアトム社は11月18日、トルコの規制当局が13日付で同社のトルコ子会社であるアックユ原子力発電会社(ANPP)に3号機の建設許可を発給したと発表した。ANPP社は2019年3月、原子力規制庁(NDK)に同許可の申請書を提出していた。発給が決定したことで、同炉では原子炉建屋など安全性に関わる部分の作業も含め、関係施設すべての建設工事が可能になった。これまでANPP社は、今年7月に取得した部分的建設許可(LWP)の下、原子炉建屋やタービン建屋のベースマット下部に敷くコンクリート・パッドの作業等を実施。NDKは3号機の建設許可審査を進めるなかで、質問その他の追加要請を同社に行ったが、同社はこれに応えつつ膨大な量の準備作業を行っていた。トルコ初の原子力発電プラントとなる同発電所では、第3世代+(プラス)のVVERを4基建設する計画。現在、1、2号機の本格的な建設工事が、それぞれ2018年4月と2020年4月から行われている。1号機については今年10月、4台の蒸気発生器が現地に到着したのに続き、今月10日には、ロシアのアトムエネルゴマシ(AEM)社(AEMテクノロジー社のボルゴドンスク支部)が約3年かけて製造した原子炉圧力容器(RPV)が到着した。2号機については、今年6月に原子炉建屋のベースマットが完成したほか、8月にはコア・キャッチャーが到着している。これまでに、1~3号機すべてで環境影響評価報告書の承認や発電許可、建設許可といった主要認可が発給され、4号機についてもANPP社が今年5月に建設許可申請書をNDKに提出した。トルコ・エネルギー・天然資源省(ETKB)のF.ドンメズ大臣は、トルコが建国100周年を迎える2023年に1号機が運転開始することを希望しており、2号機に関しても同年中に起動させたい考えである。(参照資料:ロスアトム社の発表資料①、②、原産新聞・海外ニュース、ほか)
27 Nov 2020
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インド駐在の米国大使館は11月24日に米印両国の共同声明を発表し、両国がインドの「世界原子力パートナーシップ・センター(GCNEP)」について10年前に締結した協力覚書を、10年間延長することで合意したことを明らかにした。同覚書の延長は、10月27日にインドのニューデリーで第3回米印外務・防衛担当閣僚会議(米印2プラス2)が開催された際に決定した。この協議にはインドのS.ジャイシャンカル外相、米国のM.ポンペオ国務長官が両国の国防大臣とともに出席。協議のなかで両国は、「原子力の平和利用分野に関する協力のための米合衆国政府とインド政府との協定」が2008年10月に正式発効し、これに基づいて米国籍のウェスチングハウス(WH)社がインド東海岸のアンドラ・プラデシュ州コバダで同社製AP1000を6基建設することなったという事実に触れた。このことから両国政府は、WH社とインド原子力発電公社(NPCIL)との間で技術的な商業提案に向けた協議の進展を期待すると述べた。GCNEPはインド原子力省(DAE)の後援により、2010年9月にインド北部のハリヤナ州に設置された原子力研究開発のための組織。正式に発足したのは2017年のことだが、GCNEPは原子力施設と放射性物質の効率的な監視や、核拡散抵抗性の高い先進的原子炉開発などのほかに、原子力・放射線利用分野の安全性向上に向けたマンパワー訓練などを目的としており、これらの分野毎に教育・訓練学校を5校備えている。今回の共同声明では、放射線源のセキュリティも含めた原子力安全確保の重要性に鑑み、両国は引き続き原子力安全セキュリティの問題に取り組むと表明。世界の原子力安全体制を一層強化し、包括的かつ持続可能なものにしていくと明記した。両国政府はまた、民生用原子力安全確保の分野で米印が連携強化する重要性を認識しており、両国国民および世界中の人々の利益を守る上で、米印の民生用原子力・放射線関係協力が大いに貢献していると改めて確認。こうした背景から、GCNEPにおける米印協力を10年間延長することになったと説明している。今後の協力については、これまでの協力実績に基づき両国は以下の点に力を入れると表明した。すなわち、・原子力安全セキュリティと原子力科学技術の研究開発促進に資する協力イニシアチブを、GCNEPの教育・訓練学校で推進する。・次世代技術など様々な先進的プロジェクトの協力を通じて、原子力・放射線セキュリティに関する相互理解を深め、その結果を国際的な場で分かち合う。・様々な見解を包括的に取り入れられるよう、両国の政府機関のみならず原子力・放射線セキュリティに関わるその他機関とも幅広く連携する。(参照資料:米国大使館とGCNEPの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの8月27日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
26 Nov 2020
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南アフリカ共和国の国家エネルギー規制局(NERSA)は11月23日、原子力で将来的に250万kWの新規発電設備を建設するという計画について、ステークホルダーや一般国民の同意を得るため、コメント募集を開始した。書面によるコメントの受付は2021年2月5日までとなっている。この計画は、2019年10月の官報で公表された改定版の「2030年までの統合資源計画(IRP 2019)」に明記されている。南ア国内では今後、2,400万kW以上の石炭火力発電所が廃止されていくことから、2030年以降はクリーン・エネルギー源である原子力の新規設備をベースロード用電源として活用し、エネルギーの需給バランス維持と供給保証体制の改善を目指す。南ア唯一の原子力発電設備であるクバーグ発電所(97万kWのPWR×2基)では、2024年に1号機が40年の運転期間を満了するが、「IRP 2019」によれば、これら2基はその後も運転期間を延長して稼働させる。その上で、2030年以降の新規原子力設備の商業運転開始に備え、ロードマップの作成といった準備作業を直ちに開始する必要があると指摘。その折は複数の発電所を一度に建設するのではなく、モジュール方式で少しずつ無理のないペースで進めなければならないとしている。このため、鉱物資源・エネルギー相は今年8月、「2006年電力規制法」に基づいて新規原子力発電設備の建設実施を決め、NERSAに準備作業の開始を提案した。同相は同時に、建設プログラムの作成は鉱物資源・エネルギー省、その他の国家機関が担当すること、設備の調達プロセスについても、公正かつ透明性があり競争面とコスト面の効果もある入札手続を踏むことなどを提案している。この計画の実施についてはNERSAも同法の規定によりレビューすることになっており、コメントを収集した後は、ステークホルダーが意見表明できるよう、オンラインで公聴会を開催。最終決定となる前にこの計画が「2004年国家エネルギー規制法」その他の法規に適合しているか、NERSAとしての判断を下す。NERSAはまた、「2006年電力規制法」に掲げられた目標についても、確実な達成を追求する方針。それらは、効率的で効果的かつ持続可能な電力供給インフラを南アで適切に開発・運営する、電力のエンドユーザーや消費者によるエネルギー源の選択を可能にするため、電源間の競争を促進する、などとなっている。(参照資料:NERSAの発表資料①、②、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月24日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
25 Nov 2020
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ハンガリーでエネルギー関係プロジェクトの規制を担当する「エネルギー・公益企業規制庁(MEKH)」は11月20日、パクシュ原子力発電所II期工事(120万kWのPWR×2基)の建設計画を電力法に基づいて審査した結果、建設工事の実施を承認すると発表した。MEKHは主に、同計画が国内の送電システムに及ぼす影響について、パクシュII開発会社が今年10月に提出した申請書を審査していた。今回、電力供給網のセキュリティ面に問題が生じることはないと判断し、電力法の義務事項に照らし合わせた発電実施許可を19日付で発給したもの。同建設計画の安全面については、国家原子力庁(HAEA)が今年7月からパクシュII開発会社の建設許可申請書を審査中であり、2021年7月頃に最終判断を下すと見られている。 同計画についてパクシュII開発会社側は、「建設前サイト準備許可」が取得できれば2021年から地盤の準備工事を始められると予想。早ければ同年9月に主要建屋の建設許可を取得して、本格的な工事を開始する方針である。パクシュ原子力発電所では現在、I期工事の4基(各50万kWのロシア型PWR=VVER)が同国における総発電量の50%を賄っている。1980年代に運転開始したこれらの公式運転期間は30年であるため、運転期間を20年延長する手続きが4基すべてについて完了している。II期工事の2基は、最終的にI期工事の4基を代替することになっており、ハンガリー政府は2014年1月、ロシアと結んだ政府間合意に基づき、この増設計画をロシア政府の低金利融資で実施すると表明。両炉の設計には、第3世代+(プラス)の120万kW級VVERが採用されることになった。しかし同計画については、欧州委員会(EC)が欧州連合(EU)域内の競争法における国家補助規則との適合性などを審査したため、プロジェクトの実施は当初計画から少なくとも3年以上遅延している。2017年3月までにこれらすべてについて承認裁定が下されたことから、HAEAは同月、パクシュII開発会社に対してサイト許可を発給、同社は2019年6月から付属施設の建設といった準備作業を開始している。パクシュII開発会社によると、今回取得した発電実施許可は2基の本格着工に向けた重要ステップであり、これまでにHAEAから取得済みのサイト許可や環境許可、建設のための補助施設の建設許可と併せて、発電所建設に必要な要件になると説明している。(参照資料:パクシュII開発会社とMEKH(ハンガリー語)の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月23日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
24 Nov 2020
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