米国のニュース専門チャンネルCNNが15日「中国・広東省の台山原子力発電所(175万kWの欧州加圧水型炉:EPR×2基)で放射能漏れの発生疑惑」と報道した件で、中国生態環境部(省)(MEE)は16日、傘下の国家核安全局(NNSA)の担当者がこの疑惑を否定したと発表した。同発電所1号機で小規模な燃料破損が発生したが、これは原子力発電所における「一般的事象」であると説明。同機は2018年の運開以降順調に稼働しており、周辺環境にも異常はないと強調している。この発表はNNSA担当者への質疑応答という形式で行われ、同担当者はまず質問に対し、1号機の一次冷却材の中で特定の放射能の量が増加したことを認めた上で、「通常運転の範疇である」と明言。燃料の製造や輸送、装荷時の不可避な要因により、発電所の運転中に燃料棒がわずかに損傷することがあり、1号機では6万本以上の燃料棒のうち、5本前後の被覆部に損傷が生じたことが推定されている。これは燃料棒全体の0.01%未満であり、燃料集合体で最大規模の損傷が生じる(設計時の)推定確率の0.25%よりはるかに低い。世界では多くの原子力発電所で、燃料棒で小規模破損が発生した後も運転を続けているとした。担当者はまた、CNNの「放射能漏れ報道」について、「一次系における放射能レベルの上昇は放射能の漏えい事故とは全く異なる」と指摘。一次系は格納容器の内側にあり、物理的バリアとして原子炉冷却システムの圧力バウンダリと格納容器の気密性が保たれている限り、放射能が外部環境に漏洩することはない。これら2つのバリアは今のところ健全で、台山発電所周辺のモニタリングでも、バックグラウンドレベルに異常はなく、漏えいは発生していないと述べた。さらに、「台山発電所の運転を継続するため、NNSAが発電所外部で検出する放射線許容限度の引き上げを承認した」とCNNが報じたことについて、NNSA担当者は「事実ではない」と否定した。NNSAは確かに、冷却材中の特定の希ガスについて許容限度引き上げを検討・承認したが、これはサイト外の放射線検出量とは無関係だと強調した。NNSAの今後の対応に関して担当者は、「1号機の一次系の放射能レベルを引き続き注意深く監視し、発電所と周辺環境のモニタリングを強化。同機での指導と監督も強化して放射能レベルを厳密に監視する措置を講じる」と述べた。同時に、国際原子力機関(IAEA)や同機の供給者であるフランスの規制当局とも、緊密な連絡体制を維持していくとしている。台山発電所の2基は仏フラマトム社製の最新型PWRである「EPR」を採用し、2009年11月と2010年4月に相次いで本格着工した。中仏最大のエネルギー協力プロジェクトとなった同建設計画は、台山原子力発電合弁会社(TNPJVC)が担当。同社に対しては、中国広核集団有限公司(CGN)と広東省の電力会社が合計70%出資しているほか、フランス電力(EDF)が残りの30%を出資している。EPRを世界で初めて採用したのは、2005年にフィンランドで着工したオルキルオト3号機であり、2007年にはフランスでも、初のEPRとしてフラマンビル3号機が着工した。しかし、これらでは様々なトラブルにより完成が遅れており、台山1号機はこうした経験も踏まえて、2018年12月に世界初のEPRとして営業運転を開始。同2号機も2019年9月に営業運転を開始した。このほか英国では、EDFエナジー社がヒンクリーポイントC原子力発電所の2基にEPRを採用し、2018年12月から建設工事を実施中である。 加藤官房長官、中国側に透明性ある説明を期待加藤官房長官(政府インターネットTVより引用)加藤勝信官房長官は17日の記者会見で台山原子力発電所での放射能漏れに関する報道に言及。関係省庁を通じフラマトム社に対し事実関係の確認を行っているとの状況を説明した上で、「今後の推移について中国側が透明性をもってタイムリーに国際社会に説明することを期待する」と述べた。原子力規制委員会の更田豊志委員長は16日の定例記者会見で、「日中韓3国の規制当局によるチャンネルを通じ中国に対し情報共有を求めているが今のところ回答はない」としている。また、技術的観点から、「PWRの燃料破損は国内でも幾つか事例がある。燃料破損のメカニズムが前例のないものならば、技術評価検討会での議論の対象となりうる」と述べ、国際機関などによる調査を通じた詳細解明を待つ考えを示した。(参照資料:中国生態環境部(中国語)の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月16日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
17 Jun 2021
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米国のセントラス・エナジー社(旧・米国濃縮会社(USEC))は6月14日、HALEU燃料(U235の濃縮度が5~20%の低濃縮ウラン)の製造に向けて、同社が昨年提出していたウラン濃縮許可の「修正申請」を原子力規制委員会(NRC)が承認したと発表した。セントラス社はこれまで、オハイオ州パイクトンの「米国遠心分離プラント(ACP)」でウラン235を最大10%まで濃縮することを許されていた。今回の承認により、同社が現在ACPのサイト内で建設しているHALEU燃料製造実証施設は米国で唯一、U235を最大20%まで濃縮できる施設になる。セントラス社は2019年11月にエネルギー省(DOE)と結んだ契約に基づき、独自に開発した新型遠心分離機「AC100M」16台によるカスケードをACPサイト内で建設中。この施設でHALEU燃料の製造実証を行うことになった。この計画では2022年半ばまでの3年間に1億1,500万ドルを投入することになっており、セントラス社はすでに今年3月、すべての「AC100M」の組立を終えカスケード内への設置に向けた最終準備を行うと発表。2022年初頭にも同施設でHALEU燃料の製造を開始するとしている。同社の説明によると、HALEU燃料のU235最大濃縮度20%は、核兵器の開発や海軍の船舶推進用に使用するには、はるかに低いレベルである。それでもHALEUは、米国その他の国で稼働する既存の原子力発電所にとって次世代の先進的原子燃料となるほか、小型モジュール炉(SMR)等の開発中の次世代原子炉で使用することで高い性能を発揮することが出来る。すなわち、単位体積あたりの電力量(電力密度)や原子炉性能の向上が期待できるほか、燃料交換停止の頻度を削減。放射性廃棄物の排出量が少なくなり、核拡散の抵抗性が高いという利点がある。また、DOEの「先進的原子炉設計の実証プログラム(ARDP)」で支援対象に選定された10の先進的原子炉設計のうち、9設計のベンダーが「HALEU系の燃料が必要になる」と表明。その多くは19.75%レベルの濃縮度となる見通しだが、今のところHALEU燃料を国内で商業的に入手することは困難である。DOEの原子燃料作業部会(NFWG)が最近取りまとめた報告書によると、HALEU燃料は米国が先進的原子力技術の開発で世界のリーダー的立場を再構築する重要ステップとなる。このことは、原子力の推進事業を展開する約100社のコンソーシアム「米国原子力インフラ評議会(NIC)」が2020年4月に実施した調査の結果からも裏付けられており、先進的原子炉を開発している米国企業の多くが「HALEU燃料の入手可能性」を最も気がかりな課題の1つに挙げていた。(参照資料:セントラス社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月15日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
16 Jun 2021
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韓国原子力研究院(KAERI)とサムスン重工業は6月8日、溶融塩炉(MSR)技術をベースとする小型モジュール炉(SMR)を搭載した海上浮揚式原子力発電所や原子力船を共同で開発するため、協力協定を締結した。MSRは重大事故の発生リスクが少ないとされており、両者はこれを海上での利用を想定して設計し、要素技術や熱交換器などの関連機器も開発。また、このようなこのSMR利用の発電所のビジネス・モデルを構築するとともに、性能検証や経済性評価に向けた共同研究も実施する計画だ。両者の発表によると、無炭素エネルギー源の一つであるMSRは気候変動問題への利用が大いに期待される。近年、海上輸送部門におけるCO2排出の国際的な規制が強化されていることから、MSRでCO2を排出しない原子力船等を開発することとした。燃料の交換サイクルは船舶本体の寿命とほぼ同じ20年ほどであるため、MSRを一旦搭載した後は燃料を交換する必要がなく、サイズが比較的小さいことも舶用炉利用に向くとされる。また、KAERIの説明では、MSR内部で異常信号が発生した場合、液体燃料の溶融塩が凝固するよう設計されているため、重大事故の発生を抑えることができる。このような安全性の高さに加えて、電力と水素を効率よく同時生産できる利点があり、MSRは次世代のグリーン水素の製造など様々な分野で活用が可能である。協力協定への調印式には、KAERIの朴院長とサムスン重工業の鄭社長をはじめ、両機関の主な関係者が出席。共同研究を通じて、相互の戦略的協力関係を築くことで合意した。KAERIはこれまでに、海水脱塩と熱電併給が可能なモジュラー式PWR「SMART」(電気出力10万kW)を開発し、サウジアラビア等の中東諸国に提案するなど、SMRの開発実績を保有している。KAERIの朴院長は、「海上輸送船用に開発したMSRは国際物流のゲームチェンジャーになり得る次世代技術だ」と指摘した。サムスン重工業の鄭社長も、「気候変動問題に効率的に対応できるMSR技術は当社のビジョンとも合致する」と表明。同社は現在、船舶用の低炭素な推進力としてアンモニア燃料や水素燃料の開発にも取り組んでおり、MSRがこのような新しい成長事業の原動力になるよう、その研究開発にさらに力を入れていくと述べた。海上浮揚式原子力発電所に搭載するSMRついては、ロシアの原子力総合企業ロスアトム社による開発が最も進んでいる。出力3.5万kWの小型炉「KLT-40S」を2基装備した「アカデミック・ロモノソフ号」は2020年5月、極東チュクチ自治区内の湾岸都市ペベクで営業運転を開始している。(参照資料:KAERIとサムスン重工業(韓国語)の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月11日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
15 Jun 2021
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カナダで、原子力を用いた水素製造の実行可能性調査が行われることになった。これはオンタリオ州を拠点とするNPO団体「原子力イノベーション協会(NII)」が、ブルース・パワー(BP)社、グリーンフィールド・グローバル社の支援の下、同国の設計・エンジニアリング企業であるアルカディス(Arcadis)社を中心に進めるもので、石油経済から脱却し、環境に優しい代替エネルギーである水素を基盤にした社会の実現に向けて、CO2を排出しない原子力発電の技術面の実行可能性と投資対効果を評価する。水素はCO2排出量の実質ゼロ化を目指すうえで重要な役割を担う。このためNIIは2020年8月、水素や小型モジュール炉(SMR)、核融合等の将来像を研究する目的で、シンクタンク「次世代原子力のためのブルース・パワー・センター」をオンタリオ州ブルース郡に設置。同シンクタンクでこれまで実施してきたオンタリオ州内における水素製造の可能性とその活用に関する研究を、今後も継続的に実施していく。水素は様々な用途に使えるクリーンエネルギーとして、今後ますます重要になるとみられており、今回の取り組みで水素技術の経済性を実証し、技術面の実行可能性を評価。これらを通じて、急速に進む水素経済への移行準備を整える考えだ。この調査はまた、水素製造が地元社会にもたらす恩恵等を探るため過去に実施した調査プロジェクトに基づき進められる。具体的な恩恵としてNIIは、新たな輸出の機会や地元ベンダー間の取引、高サラリーの雇用の創出などを挙げた。このような調査は、地元の自治体や連邦政府がそれぞれの水素戦略を実行する際も大いに役立つはずだと強調している。NIIによると、BP社を始め沢山の原子力関係企業が所在するオンタリオ州ブルース郡は、エネルギー関係の専門的知見や天然資源、地理的位置などの点から、水素経済を進展させるのに有利な状況にあるという。このため今回の調査は、「官民が協力しCO2排出量実質ゼロを目指すエリア」という同郡の評判をさらに高めることになる。NIIシンクタンクのD.キャンベル所長は、「(2014年に州内の石炭火力発電所の全廃に成功した)オンタリオ州が、地元経済の脱炭素化を一層進展させる上で必要なクリーン水素を、原子力でどのように供給していくか今回の調査プロジェクトで解き明かすことになる」と指摘した。また、ブルース郡で8基を運転するBP社のM.レンチェック社長兼CEOは、「オンタリオ州は原子力を用いることで、エネルギー分野の大規模な脱炭素化に成功した」と強調。その上で、「さらなる技術革新に向けて新たな投資を呼び込み、水素の製造・利用によってオンタリオ州経済の他部門でも脱炭素化を進めるうえで、脱炭素化された電力システムの持つ優位性を活用できる」と指摘している。(参照資料:NIIの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月11日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
14 Jun 2021
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国際原子力機関(IAEA)は6月9日、原子力科学・技術の有効活用によって地球温暖化など世界規模の難題の克服を目指す戦略構想「Nuclear Saves Partnership」を立ち上げ、関係企業や組織に幅広く参加を呼びかけた。これにはすでに、米国の原子力エネルギー協会(NEI)とウェスチングハウス(WH)社が参加の意思を表明。同構想を通じて、原子力発電と再生可能エネルギーを統合したエネルギーシステムの開発や、気候変動対応型(=CO2排出量が少なく干ばつや豪雨等への適応力が高い)農業の促進に資金を提供する考えを明らかにしている。この構想は同日、将来のエネルギー政策や地球温暖化の防止策を協議するため、NEIが原子力産業界のリーダーらを招集して開催したオンライン・イベントで発表された。IAEAのR.グロッシー事務局長は同構想について、「世界中の数多くの人々に一層の健康と繁栄をもたらす原子力科学・技術の平和利用を、IAEAが加盟173か国でさらに促進できるよう、関係企業から資金面の支援をお願いする機会になる」と説明した。同事務局長の発表文によるとIAEAはこれまで、放射線治療装置を持たないコミュニティに装置を提供したり、干ばつに強い農作物への品種改良に原子力技術の活用を促すなどしてきた。今現在は、世界で最も大きな課題となっているマイクロ・プラスチックによる海洋汚染や、頻発する人畜共通感染症の大流行にも精力的に取り組んでいるとした。その上で同事務局長は、「マイクロ・プラスチックの追跡や人畜共通感染症の流行を未然に検知する方法として原子力技術を活用することは、従来の原子力発電所や小型モジュール炉(SMR)の利用とはかけ離れているかもしれない。しかし、原子力科学・技術の恩恵を、特に貧しい国のコミュニティに対して一層普及させることは、原子力への信頼を築くことにつながる」と述べた。また、そのような信頼は、地球温暖化の影響緩和で原子力が潜在能力を発揮する際の必須条件でもあると指摘している。一方、WH社はこの構想に参加した最初の原子力企業になったことについて、「地球温暖化の防止に向けて戦うという当社の方針を行動で示す機会になるともに、IAEAとの連携を強化する重要なステップになった」とコメント。温暖化の防止で世界中が協力していくなか、同社は将来の官民連携モデルとして役立ちたいと述べた。WH社はまた、「原子力はCO2を排出しない世界最大の電源であるため、脱炭素化の達成期限を守り地球温暖化の影響緩和する上で非常に重要だ」と指摘。原子力を定格に近い出力で稼働すれば、太陽光や風力など間欠性のある電源の空白を確実に埋めることができると強調した。同構想ではさらに、WH社その他の民間企業が提供する資金によって、IAEAは今後、原子力の平和利用を一層加速できると明言。具体的には、がんの診断・治療や人畜共通感染症の予防と抑制、地球温暖化への適応と影響の緩和、クリーンエネルギーへの移行などがこれに含まれるとしている。(参照資料:IAEA、WH社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月10日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
11 Jun 2021
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ダンジネスB原子力発電所©EDF Energy英国で稼働中の商業炉全15基を保有するEDFエナジー社は6月7日、南東部のケント州で40年近く稼働していたダンジネスB原子力発電所(61.5万kWの改良型ガス冷却炉:AGR×2基)を永久閉鎖し、直ちに燃料の抜き取り作業を開始すると発表した。2018年9月以降、同社はダンジネスB発電所の停止期間を延長し、他の6サイト・12基のAGRには見られない同発電所に特有の重要な技術的課題の解決に取り組んできた。同社はすでにその多くを克服したが、新たな分析作業を詳細に実施したところ、同発電所では燃料集合体のパーツを含む主要機器のいくつかでさらなるリスクが認められ、同社はこれら2基の再稼働を断念。永久閉鎖を決めたとしている。 英国の商業炉には明確な運転期限が定められておらず、事業者は保有する原子力発電所で定期検査や10年に1度の大規模な「定期安全審査(PSR)」など、安全上の義務事項を履行。それらの結果に基づき、見直した当該炉のセーフティケース(安全性保証文書)の内容を規制当局が支持・承認すれば、無期限に運転継続することも可能である。ダンジネスB発電所では1、2号機がそれぞれ1983年と1985年に送電を開始しており、これらの炉で当初予定されていた運転期間は2008年に満了した。そのため、当時同発電所を運転していたブリティッシュ・エナジー(BE)社は運転期間満了の3年前、これらを2018年まで10年間延長すると決定、同発電所で設備改修等を行っている。また、2009年にBE社を買収したEDFエナジー社も延長した運転期間の満了3年前(2015年)に、同発電所の運転を2028年までさらに10年間継続する方針を決定していた。しかし、大規模な投資によって主蒸気配管など配管関係の腐食問題が解決した一方、ボイラーの材料物質を両炉で詳細に分析した結果、取り換えできない機器の劣化が予想より早く進行していることが判明。EDFエナジー社の幹部会や上級取締役会、株主総会等の協議を受けて、同発電所を永久閉鎖することになった。同社によれば、ダンジネスB原子力発電所を含む国内7サイトのAGR発電所は、過去40年にわたり総発電量の約20%を供給してきた。ダンジネス発電所も2016年に過去最高の、約200万戸の電力需要量を供給。これまで英国内で約5,000万トンのCO2の排出を抑えるとともに、ケント州経済に対しては10億ポンド(約1,545億円)以上貢献した。 同発電所の閉鎖に関して、英国原子力産業協会(NIA)のT.グレイトレックス理事長は「英国では3年以内に原子力発電所が半減する可能性があり、新しい原子力発電設備に緊急投資が必要なことが浮き彫りになった」と述べた。「このように堅実な電源がリプレースされなければ、英国はガス火力に頼らざるを得ない」と警告しており、その場合、CO2の排出量が増加するとともに電気代も高騰、英国がCO2排出量の実質ゼロ化という目標を達成する日は一層遠くなる。「そうならないためにも、再生可能エネルギーと原子力に投資する道を選択し、環境重視の経済復興を果たすべきだ」と強調している。(参照資料:EDFエナジー社、NIAの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月8日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
10 Jun 2021
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ロシア国営の原子力総合企業ロスアトム社は6月8日、シベリア西部のトムスク州セベルスクにある「シベリア化学コンビナート(SCC)」で、鉛冷却高速炉(LFR)のパイロット実証炉「BREST-300」(電気出力30万kW)の建設工事を開始したと発表した。このプロジェクトでは「BREST-300」のほかに、同炉で使用するウラン・プルトニウム混合窒化物(MNUP)燃料の製造施設、および同炉から出る使用済燃料専用の再処理モジュールを建設。これら3施設は、「パイロット実証エネルギー複合施設(PDEC)」を構成することになる。「BREST-300」の建設許可は今年2月、ロスアトム社傘下の燃料製造企業TVEL社の子会社であるSCCに対し、連邦環境・技術・原子力監督庁(ROSTECHNADZOR)が発給した。ロスアトム社はすでにMNUP燃料製造施設を建設中であるため、これを2023年までに完成させた後、翌2024年までに再処理モジュールを完成。「BREST-300」については、2026年に運転を開始するとしている。PDECは、ロスアトム社が進めている戦略的プロジェクト「ブレークスルー(PRORYV)」の主要施設となる予定である。同プロジェクトでロシアは、国内原子力産業において(天然ウランなど)資源の有効活用を図るとともに、蓄積されていく使用済燃料や放射性廃棄物を処分するため、原子燃料サイクルの確立を目指している。必然的に、ロスアトム社は熱中性子炉のみならず高速炉の開発も進めることとなり、経験豊富なナトリウム冷却高速炉(SFR)に加えてLFRも開発するなど、高速炉の実現に向けて最善の策を探る方針である。「BREST-300」の着工記念式には、ロスアトム社のA.リハチョフ総裁のほか、トムスク州のS.ジバーチキン知事、クルチャトフ研究所のM.コワルチュク総裁などが参加。国際原子力機関(IAEA)のR.グロッシー事務局長、および経済協力開発機構・原子力機関(OECD/NEA)のW.マグウッド事務局長からは、着工を祝してビデオメッセージが送られた。リハチョフ総裁は、「再処理を持続的に行うことで原子力産業の資源基盤は実質的に無尽蔵となり、将来世代の人々は使用済燃料の処分という問題からも開放される」と指摘。また、「このプロジェクトが成功すれば、ロシアはエネルギー資源の効率的な活用や環境への影響、利用のし易さといった観点から、持続可能な開発原則を全面的に満たした原子力技術を世界で初めて得ることになる」と述べた。TVEL社のN.ニキペロワ総裁はブレークスルー・プロジェクトについて、「革新的技術を用いた原子炉の開発に留まらず、新世代の原子燃料サイクル技術を導入することになる」と説明。具体的には、濃度の濃いMNUP燃料を開発することによって、LFRを一層効率的に運転できることなどを挙げた。同総裁は「このような技術を組み合わせれば、原子力は将来的に廃棄物を出さない事実上の再生可能エネルギーになる」と明言。「BREST-300」の使用済燃料は同一敷地内の再処理モジュールで再処理され、回収したウランとプルトニウムはMNUP燃料製造施設で新燃料に再加工される。このことから、PDECは次第に、外部からの資源供給を必要としない実質的な自動システムになっていくとしている。(参照資料:ロスアトム社とTVEL社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月8日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
09 Jun 2021
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米国のテネシー峡谷開発公社(TVA)は6月1日、保有するブラウンズフェリー原子力発電所(BFN)(約116万kWのBWR×3基)の2回目の運転期間延長に向けて、延長した場合の潜在的環境影響への取り組みを示す「環境影響声明書・補足文書(SEIS)」を準備するとの意向を表明した。また同日から、この意向通知書(NOI)に対する一般からの意見募集も開始しており、TVAは「運転期間の延長に向けた活動を行わない(=運転延長はしない)」との選択肢もSEISの提案に含めたことを明らかにしている。TVAは現在、米国内の2州で3サイト・7基の商業炉を保有・運転中。アラバマ州にあるこのBFNの3基に対しては、すでに2006年に原子力規制委員会(NRC)が初回の運転期間延長を許可。現在、1~3号機の運転期間はそれぞれ60年間に延長され、認可が満了するのは2033年と2034年、および2036年となっている。これら3基は通常、ほぼ定格出力で稼働しているため、TVAは将来的にもベースロード電源としてBFNが必要であると指摘。このことはTVAの2019年の統合資源計画(IRP)にも明記しており、これに基づき安定した電力供給やTVAが必要とする設備容量を維持する方針である。TVAはまた、電力の供給エリアにおいては今後も、クリーンで信頼性が高く価格の安価な電力を十分供給する必要があると指摘。地元の電力会社と協力して顧客に安定的にサービスを提供していくには、運転認可を更新するなど既存の発電資産を最大限に活用すべきであり、BFNの無炭素電力によってTVAは、「2050年までにCO2排出量が実質ゼロの発電システムを構築する」という目標の達成も可能だと述べた。これらのことからTVAは今回、SEISで次の4つの選択肢を提案。すなわち、①(運転期間延長などの)活動は一切行わない、②BFNで2回目の運転期間延長を行う、③既存のその他の発電設備を活用する、④既存の発電設備を活用するとともに新規の発電設備を建設する――である。TVAはまた、その他の選択肢として⑤BFNの発電容量をすべて再生可能エネルギーでリプレースする、⑥BFNの発電容量をすべて電力の購入で代替する――も検討したが、現時点では2つとも廃案にしたと説明している。TVAはこれらの様々な選択肢について評価を行う考えで、そのため6月1日から7月1日までの期間、ネット等を通じてコメントを受け付ける。(参照資料:TVAの発表資料①、②、原産新聞・海外ニュース、ほか)
08 Jun 2021
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中国核工業集団公司(CNNC)は6月4日、同国の国家発展改革委員会が海南省昌江における多目的小型モジュール炉(SMR)「玲龍一号」の実証炉建設計画を承認したと発表した。CNNCは当初、仏国のPWR技術をベースに開発した10万kW級の第3世代炉「ACP100」の実証炉を、福建省莆田市で2基建設することを計画。同設計は2016年4月、国際原子力機関(IAEA)の「包括的原子炉安全レビュー(GRSR)」をパスしている。しかしCNNCはその後、60万kW級の国産PWRが稼働する昌江原子力発電所に同設計の建設サイトを変更。炉型名も「玲龍一号」に変えた上で2019年7月、実証炉の建設プロジェクトに着手すると発表していた。今回、国家発展改革委員会が承認したのは出力が各12.5万kWの実証炉建設で、CNNCの100%子会社である海南核電公司が建設プロジェクトを担当する。着工や竣工のスケジュールは明らかにされていないが、米国の業界紙は、2017年の国際原子力機関(IAEA)の会合で中国の代表者が「2022年以前に1号機を着工する」と発言したことを伝えている。CNNCの発表によると、SMR実証炉の建設は中国の原子力発電所の開発レベルと中国独自のイノベーションを促進する重要案件であるだけでなく、環境にやさしいエネルギーの供給を保証するものとなる。CNNCは今後も原子力発電所の安全性や品質向上を重視するとしており、原子炉建設現場ではプロジェクト・マネジメントを強化するだけでなく、立地点の地域振興にも留意するとしている。CNNCはこのほか、5月11日から江蘇省の田湾原子力発電所で試運転中だった6号機(PWR、111.8万kW)が6月2日の夜遅く、営業運転を開始したことを発表。同炉は中国で50基目の商業炉であり、同国の原子力発電設備容量は4,800万kWを超えた。田湾発電所では現在、ロシア製の100万kW級PWR(VVER-1000)を採用した1号機~4号機がすでに稼働中。6号機については、2020年9月に営業運転を開始した5号機とともにCNNC製の100万kW級PWRを採用している。(参照資料:CNNC(中国語)の発表資料、原産新聞・海外ニュース、ほか)
07 Jun 2021
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米マイクロソフト社の創業者ビル・ゲイツ氏が会長を務める原子力開発ベンチャー企業のテラパワー社は6月2日、ナトリウム冷却高速炉「ナトリウム(Natrium)」の実証炉をワイオミング州内で建設することで同州のM.ゴードン知事、および同州を含む西部6州に電力を供給するパシフィコープ社と合意。同日、3者の連名で、建設計画を進めていく考えを表明した。立地点としては現在、同州内で閉鎖予定の複数の石炭火力発電所を評価しているところで、年内にも最終決定する方針。3者は十分な発電機能を持つ実証炉を建設し、設計の有効性や建設手法、運転性能を確認する。さらに次の段階においては、プロジェクトとしてのさらなる評価やそれを踏まえての教育・広報活動を実施し、州政府や連邦政府から許可の取得を目指すとしている。「ナトリウム」は電気出力34.5万kWの原子炉で、小型モジュール式高速炉「PRISM」を開発したGE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社とテラパワー社が共同で開発している。これに溶融塩を使ったエネルギー貯蔵システムを組み合わせることで、同炉による発電所は必要に応じて出力を50万kWまで拡張したまま5.5時間以上稼働し続けることができる。両社はこのエネルギー貯蔵システムについても2020年8月から共同開発を進めており、2020年代後半に実質的な利用開始を目指している。これら2つの施設の建設については、米エネルギー省(DOE)が2020年10月、「先進的原子炉設計の実証プログラム(ARDP)」における支援対象に選定した。2020会計年度予算から初回の交付金8,000万ドルをテラパワー社に提供することが決定し、DOEとテラパワー社はこれに基づき今年5月に協力協定を結んでいる。テラパワー社の今回の発表によると、ワイオミング州のプロジェクトにおいても、「ナトリウム」の実証炉とエネルギー貯蔵システムの両方を建設する。これらを再生可能エネルギー源と統合すれば、発電システムを一層迅速に、かつコスト面の効果も高い方法で脱炭素化することが可能。また、簡素化した主要機器を別々の構造物に納めるという画期的な設計により、少ないコストと短い建設期間で安全で信頼性の高い電力を供給できる。テラパワー社のC.レベスク社長兼CEOは、「この先進的原子力技術によって、この先何年も高サラリーの雇用やクリーンエネルギーをパシフィコープ社とともに提供し、将来のエネルギー供給網を構築したい」とコメント。脱炭素化に向けたCO2の削減目標を達成しつつ、信頼性の高い安定した送電網を築くという電気事業者の課題を「ナトリウム」は解決できるとの認識を示した。ワイオミング州のゴードン知事も、「このように革新的な施設を建設する場所として当州は最適だ」と強調。「私はこれまで、『利用し得るすべての資源を活用する』という電気事業者の包括的エネルギー政策を支持してきたが、当州は今後も将来のエネルギーのために道を拓き、先進的エネルギー技術を商業化に導く場所であり続ける」と抱負を述べた。なお、「ナトリウム」による発電と貯蔵システムの開発チームには、GEH社とパシフィコープ社のほかにエンジニアリング企業のベクテル社や電気事業者のエナジー・ノースウエスト社、デューク・エナジー社などが参加。これに加えて、大学や国立研究所、その他企業など約12のパートナーが協力中である。(参照資料:テラパワー社、ワイオミング州知事の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月3日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
04 Jun 2021
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米国のJ.バイデン政権は5月28日、今年10月から始まる新しい(2022)会計年度の予算編成方針を示した「予算教書」を公表し、議会に提出した。エネルギー省(DOE)予算としては合計約462億ドルを計上しており、同政権が新型コロナウイルスによる感染の爆発とその後の経済復興に向けた対応を進めるなか、2050年までに米国が確実にCO2排出量の実質ゼロ化を達成できるよう、クリーンエネルギーによる経済基盤の構築に主眼を置いている。DOEのJ.グランホルム長官は「今回の予算要求は、100%クリーンエネルギーによる経済への移行で米国が主導権を握ることを目指している」と指摘。米国は、「地球温暖化防止と高サラリーの雇用創出に重要なエネルギー技術の研究開発と実証で、世界を牽引する」と強調した。DOE予算のなかでも、地球温暖化防止に資する原子力エネルギー局(NE)の予算額は過去最高の18億5,000万ドルを計上。DOEによれば、米国の原子力発電所は国内の総発電量の5分の1、無炭素電力については半分以上を賄うなど、クリーンエネルギーを主流とする米国の将来の重要部分を担っている。このためバイデン政権は、NEが実施する既存の原子力技術と先進的原子炉技術の支援で、前年度の予算額から23%増の金額を計上した。このうち10億ドル以上が原子力技術の研究開発および実証プログラム(RD &D)のための予算で、この中から2億4,500万ドルを投じて6年以内に2つの先進的原子炉技術の実証を支援する。官民のコスト分担により先進的な小型モジュール炉(SMR)を開発するほか、既存の商業炉で材料物質の経年劣化や安全裕度、計装・制御(I&C)系等に関する研究を実施し、運転期間の延長や経済的競争力の強化を図る。その他の先進的な原子炉技術に関する研究も進め、高温熱と電力を併給する際の経済性や安全性を向上させるとしている。NE予算ではまた、「多目的試験炉(VTR)」の開発プロジェクトに前年度予算の3倍以上の1億4,500万ドルを要求した。VTRは、先進的な原子炉設計で使用される革新的な原子燃料や資機材、計測器等の開発で重要な役割を担う「ナトリウム冷却式の高速スペクトル中性子照射試験炉」である。DOEはVTRを傘下のアイダホ国立研究所に建設し、2026年初頭の運転開始を目指している。当面の活動としては予備設計や燃料の設計、建設プロジェクトのリスク低減等に注力するとしている。なお、DOEは使用済燃料や高レベル放射性廃棄物の集中中間貯施設の建設を地元の合意を前提とした方針で進めている。このため、「放射性廃棄物基金」の中から750万ドルを活用して同基金を管理するほか、一時期、使用済燃料の最終処分場建設予定地となっていた、ネバダ州ユッカマウンテン・サイトの安全を確認する活動に充てる方針である。(参照資料:DOEの発表資料①、②、ホワイトハウスの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月2日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
03 Jun 2021
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スウェーデンの電力大手バッテンフォール社は5月31日、エストニアで小型モジュール炉(SMR)の導入を計画している新興エネルギー企業「フェルミ・エネルギア社」に出資すると発表した。昨年11月、両社がSMRの導入協力を強化するために交わした基本合意書に基づき、バッテンフォール社はフェルミ社株の約6%を保有する株主として、100万ユーロ(約1億3,400万円)の着手金を同社に投資する。フェルミ社はエストニアで2035年までに1基以上のSMR建設を目指しており、バッテンフォール社はフェルミ社がこの計画について作成した事業モデルと、2026年に計画している政府への「原則決定(DIP)」申請には実現の見込みがあると認識。この投資によって、両社の連携を一層強化・拡大していく考えだ。バッテンフォール社はすでに、過去数年にわたりエストニアでのSMR建設に向けたフェルミ社の実行可能性調査に参加している。昨年11月の基本合意書調印以降は、SMR建設の原価計算や施工能力、資金調達構造、サプライチェーンに加えて、SMRの運転とメンテナンスに必要な人材の確保計画についても調査中。今後も、これらの分野で蓄積したノウハウで、フェルミ社の実行可能性調査に一層貢献するとしている。バッテンフォール社の発表によると、エストニアのkWhあたりの平均CO2排出量はEU諸国の中で最も多く、政府は関係する省庁の高級官僚をメンバーに「原子力に関する国家作業グループ」の設置を決めた。同グループでは、エストニアにおけるエネルギー供給保証の確保で原子力発電に適性があるか、国外の専門家も交えて分析・評価する方針である。フェルミ社のK.カレメッツCEOはバッテンフォール社の今回の決定について、「エストニア経済で真の脱炭素化を達成するには、CO2を出さずに信頼性の高い廉価な電力を供給する原子力が不可欠だ」と指摘。導入するSMRとしては、米国、カナダ、英国で開発中の設計が適しているとした上で、「バッテンフォール社は複数の原子力発電所で優れた安全運転の経験を蓄積しており、当社がSMRの導入で連携すべき適切なパートナーであることが分かる」と強調した。同CEOはまた、「バッテンフォール社の投資によって、当社は関係チームを拡大するとともに必要な能力を強化できる」と指摘。「原子力発電に関する情報を今後も継続的に国民に伝え、政府が知識データベースに基づいて原子力の導入判断を下せるよう、研究や訓練プログラムを進めていく」と述べた。同CEOによればフェルミ社は今後数年間にわたって、バッテンフォール社とともにSMRの活用に関する調査を複数実施し、バッテンフォール社の原子力発電所や訓練プログラムを視察するとしている。なお、エストニアのSMR導入計画には、すでにフィンランドの国営電気事業者フォータム社やベルギーの大手エンジニアリング・コンサルティング企業トラクテベル・エンジー社が協力中。フェルミ社は米国のGE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社や、英国のモルテックス・エナジー社などとも協力覚書を締結しており、それぞれが開発したSMRの建設可能性を探るとしている。(参照資料:バッテンフォール社(英語)、フェルミ・エネルギア社(エストニア語)の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月1日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
02 Jun 2021
1971
国際エネルギー機関(IEA)は5月26日、スペインのエネルギー政策についてレビューした最新報告書を公表した。同国は2050年までにCO2排出量の実質ゼロ化を目指して取り組みを進めているが、再生可能エネルギーとエネルギーの効率化によって低炭素なエネルギーへの移行を成功させるには、確固たる国家政策や適切な公的融資、および民間投資を促す奨励策などが必要だとIEAは指摘。2035年までに全廃を予定している原子力発電所に関しても、IEAはCO2ゼロ化の達成における有用性を認めるべきだとスペイン政府に提言している。IEAは加盟国のエネルギー政策を定期的にレビューしており、スペインの政策について詳細レビューを行ったのは2015年以来のこと。それ以降同国では、電気料金やガス代に対するタリフ負債(再エネの発電電力を市場価格以上の値段で買い取ることで生じた赤字)という長期的な課題を克服、すべての石炭鉱山を閉鎖して地球温暖化の防止を優先事項とするなど、欧州連合(EU)が目指す目標との協調政策を進めている。IEAの報告書によると、スペインはCO2排出量の実質ゼロ化に向けて総発電量の100%、およびエネルギー全体の97%までを再エネで賄う方針。このため同国のエネルギー政策は、再エネ源の大規模開発やエネルギーの効率化、消費エネルギーの電力化、再エネによる水素製造などが中心となっている。その結果、電力部門における再エネのシェアは大きく上昇した。ただし、エネルギー全体では、未だに化石燃料に大きく依存しており、輸送部門や建築部門等では特に、脱炭素化に向けた政府目標の達成や再エネのシェア拡大という点で解決すべき課題が残っているとIEAは指摘している。一方、スペインの原子力政策に関してIEAは、1980年代に同国で7基の商業炉が営業運転を開始したものの、建設中の5基の作業が1983年に中断あるいは凍結され、1994年にはすべて建設中止となった事実に言及した。これに関してスペイン政府は2020年、欧州委員会に対して「エネルギーと地球温暖化に関する国家計画(NECP)」を提出しており、その中でこれらの商業炉を2027年から2035年にかけて、順序正しく閉鎖していくと表明。現行の原子力発電設備710万kWを2030年までに300万kWに、2035年には0とする計画を明らかにした。IEAの見解では、スペインは発電ミックスにおける再エネのシェアを称賛すべきレベルに拡大させたが、今後、低炭素な発電ミックスにスムーズに移行していくには注意深い配慮が必要である。段階的廃止を予定している石炭火力と原子力のうち、石炭火力の発電シェアは2019年には5%程度で2020年はさらに低くなったが、重要な低炭素電源である原子力の発電シェアは2019年に22%だった。これらが一旦、市場から姿を消すことになれば、これまで電力の約3分の1を供給してきた天然ガス発電で補完することになり、IEAでは様々な再エネに大きく依存する発電システムの中で、天然ガスも同時に消え去ることがないようスペイン政府が特別に注意を払わねばならないと指摘している。石炭火力と原子力の段階的廃止にともなう消費者のコスト負担についても、政府が慎重に評価を行うべきだとしている。これらを踏まえた上で、IEAはスペイン政府の原子力政策に対する勧告として以下の事項を表明した。原子力発電所の財政状況を注意深く監視して、電力の供給保証を著しく損なうような、突然の永久閉鎖とならないように十分配慮する放射性廃棄物の集中貯蔵や深地層処分などのバックエンド戦略をタイムリーに進め、原子力発電所の廃止措置や放射性廃棄物の管理にかかるコストの上昇抑制には十分配慮する。原子力に関する専門的知見を効果的に維持・継承するためのプロジェクトを、既存の技術インフラや熟練作業員、放射性廃棄物管理公社(ENRESA)等を活用して立ち上げる。2050年までにCO2排出量を実質ゼロ化するという長期目標の達成に向け、技術オプションの多様化や非発電分野への適用という観点から原子力の有用性の有無を適切に確認する。(参照資料:IEAの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの5月27日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
01 Jun 2021
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米エネルギー省(DOE)と仏エコロジー移行省の両大臣は5月28日、共同声明を発表。地球温暖化の防止に向けた共通の目的や解決策を共有し、パリ協定に明記された野心的な目標を達成するため、先進的原子力技術の利用も含めて協力する方針を明らかにした。地球温暖化にともなう近年の深刻な影響を早急に緩和するため、両省は最先端の科学技術や研究を活用。画期的な技術革新やエネルギー技術の利用を通して、一層安全でクリーンなエネルギーにより繁栄した未来を実現するための政策を進める。仏エコロジー省のB.ポンピリ大臣 ©Ambassade de France au JaponDOEのJ.グランホルム長官と仏エコロジー省のB.ポンピリ大臣によると、両国は今回、2050年までにCO2排出量を実質ゼロ化するという共通目標の下で団結。そのためには、CO2を排出しない既存の技術すべてを活用する必要がある。また同時にCO2を排出しない新しいエネルギー源やシステムの研究開発や建設を加速する。こうしたエネルギーシステムの効率性・信頼性を確保しながら、再生可能エネルギーと原子力発電を統合することは、低炭素なエネルギー源への移行を加速する上で非常に重要である。また、CO2を出さない様々な電源やシステムに対しては、有利な融資条件等を幅広く提供する必要があるとした。こうした観点から両国は、CO2排出量の実質ゼロ化に向け、既存の「エネルギーの移行」、および新しい技術の開発で協力していくことを約束した。脱炭素化に貢献する革新的な発電システムとしては、小型モジュール炉(SMR)やマイクロ原子炉など先進的な原子力技術が含まれるが、これらのシステムによって再生可能エネルギー源のさらなる拡大や、地方の電化率の向上を図り、輸送部門の脱炭素化を促す水素製造などを促進。さらには、水不足の地域に対する飲料水の提供支援や、様々な産業の排出量クリーン化に向けて原子力を活用していく。両国はまた、地球温暖化がもたらした脅威を、エネルギー部門の再活性化やクリーン産業・技術のブレイクスルーとして活用すると表明した。米仏の関係省庁や産業界は、先進的原子力技術や長期のエネルギー貯蔵、先進的な輸送部門、スマート・エネルギー・システム、二酸化炭素回収・利用・貯留(CCUS)といった革新的な脱炭素化エネルギー技術を複数の部門で開発中だ。これらはすべて、CO2を排出しないエネルギーの生産に大きく貢献するだけでなく、クリーンエネルギーへの移行にともない、高サラリーかつ長期雇用が保証されるとしている。今回の協力について、仏エコロジー省のB.ポンピリ大臣は「パリ協定の意欲的な目標の達成など、地球温暖化に効果的に取り組むには、世界の主要な経済大国が力を合わせて解決のための技術力を統合しなければならない」と述べた。DOEのグランホルム長官も、「世界で技術革新を牽引している米仏は、2050年までのCO2排出量実質ゼロ化に向けて、不可逆的な道筋を付けるための活動を強化する」と表明。原子力や再生可能エネルギー、CCUSなどのあらゆる無炭素技術を活用する方針を強調した。(参照資料:DOEの発表資料、原産新聞・海外ニュース、ほか)
31 May 2021
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米国のニュースケール・パワー社は5月26日、同社の小型モジュール炉(SMR)事業に日本のIHIの出資参加が決まったとする発表に加え、北西部ワシントン州で同社製SMRを建設した場合の性能を評価するため、同州グラント郡の公営電気事業者「グラントPUD」と協力覚書を交わしたと発表した。同社が開発したPWRタイプの一体型SMR「ニュースケール・パワー・モジュール(NPM)」は、西部6州の電気事業者48社で構成されるユタ州公営共同電力事業体(UAMPS)が、初号機をアイダホ国立研究所(INL)内で建設することを計画。UAMPSは2023年の第2四半期までに建設・運転一括認可(COL)を申請し、2025年の後半までにこれを取得、その後、直ちに建設工事を開始する方針である。 米原子力規制委員会(NRC)はすでに2020年9月、モジュール1基あたりの電気出力が5万kWのNPMについて、SMR設計としては初めて「標準設計承認(SDA)」を発給した。工場内での製造・組立を基本とする同設計では、最大12基のモジュール接続で出力を拡大することができ、現時点では米国におけるSMR商業化レースの先頭を走っている。ニュースケール社はまた、7.7万kW版の「NuScale NPM-20」についても、SDAを2022年第4四半期に申請する予定である。この「NuScale NPM-20」の出力は、4基接続するオプションの場合30.8万kW、6基で46.2万kW、12基で92.4万kWとなる。今回の覚書でニュースケール社とグラントPUDは、ワシントン州の中心部でNPMが信頼性の高い廉価な低炭素エネルギーの供給ソリューションとなり得るか、その適性の評価作業を協力して進めていく。ニュースケール社によれば覚書の締結は、「革新的な技術を採用したSMRでクリーンエネルギーを地域コミュニティに供給する」という需要の高まりを反映したもの。予定通りに建設されれば、グラント郡の顧客の電力需要に応えるとともに、適正価格による同設計の商業化に向けて、ニュースケール社が希望した通りのスケジュールを厳守することができる。グラントPUDは郡庁所在地のエフラタを本拠地としており、水力発電所など合計約210万kWの再生可能エネルギー源で、無炭素な電力を米国の太平洋岸北西部地域や、グラント郡内の発展著しい産業部門を含む約4万の小売顧客に供給中だ。グラントPUDのK.ノルトCEOは、「原子炉の安全性や革新的技術に対するニュースケール社の真剣な取り組みは当社の価値観とも一致する」と指摘。「太平洋岸北西部地域におけるカーボンフリーな社会実現のため、原子力に重要な役割を持たせるべく協力して取り組みたい」と抱負を述べた。ニュースケール社のSMR設計についてはこのほか、カナダのブルース・パワー社が2018年11月、カナダ市場への導入を目指してニュースケール社と協力覚書を締結。さらに、ヨルダン、ルーマニア、チェコ、ウクライナの国営電気事業者や原子力委員会が同社製SMRの導入を検討中で、実行可能性調査の実施に向けた覚書を締結済みである。(参照資料:ニュースケール社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの5月27日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
28 May 2021
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英国ロンドンに拠点を置くモルテックス・エナジー社は5月25日、同社製の小型モジュール炉(SMR)が、カナダ原子力安全委員会(CNSC)の「許認可申請前設計審査(ベンダー設計審査:VDR)」の第1段階を完了したと発表した。モルテックス社は原子炉の開発企業で、現在出力30万kWの「燃料ピン型溶融塩炉(Stable Salt Reactor-Wasteburner: SSR-W)」を開発中。カナダ東部のニューブランズウィック(NB)州政府は2018年7月、同設計の商業規模の実証炉を2030年までに、州内のポイントルプロー原子力発電所敷地内で建設する計画を公表している。VDR第1段階の完了は、この計画の実行に向けた大きな一歩になったとモルテックス社のR.オサリバン北米担当CEOは表明。「当社の技術が適切な方向に進んでいることの証であり、現在の顧客のみならず将来の顧客からも、当社の先進的原子炉設計に一層の信頼を置いてもらうことができる」とした。NB州のM.ホーランド天然資源・エネルギー相も、「重要な節目をクリアしたモルテックス社が残りのVDR審査を着実にクリアすることを期待する」と述べた。VDRは、当該設計を採用した建設・運転許可の取得で事業者が正式な申請手続きを開始するのに先立ち、その設計がカナダの規制要件を満たしているか、メーカー側の要請に基づいてCNSCが実施する全3段階の評価審査。法的に有効な設計認証や関係認可が得られるわけではないが、カナダの規制要件に対する一般的な初期フィードバックが得られるほか、技術面の潜在的な課題を設計の早い段階で特定し解決策を探ることができる。モルテックス社によると、同社のSSR-Wは既存炉の使用済燃料を燃料として使用することができる。同社はこれにより、NB州やカナダ全体、世界においても放射性廃棄物の量を低減することが可能であり、将来的に使用済燃料を処分する際も、コスト面の削減効果が大きくて環境にも優しく、社会的受容が可能な解決策の一つになるとした。同設計はまた、日中の電力需要がピークになる時間帯に、出力を2倍、3倍に増強することが可能だとしている。2017年11月に開始したVDR第1段階の審査結果として、CSNCは「カナダの規制要件の意図を良く理解した設計であり、これらの要件を満たす確かな見込みがある」と結論付けた。ただし今後、追加の改善を要する点として、「モルテックス社の現行の管理システムでは、今後の設計活動を組織的にサポートできない」と指摘。また、同設計で使用する構造物・系統・機器(SSCs)の安全性の重要度区分が品質保証プログラムとリンクしておらず、VDRの第2段階では、これらを含む複数の課題が改善されたことを明示する必要があるとしている。(参照資料:モルテックス社、CNSCの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの5月26日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
27 May 2021
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国際原子力機関(IAEA)は5月20日、原子力と再生可能エネルギーを統合したハイブリッド・エネルギー・システム(HES)について技術面の評価や合理化を行うため、新たな「協働研究プロジェクト(CRP)」を来年1月から3年計画で開始すると発表した。原子力と再エネは現時点で利用可能な低炭素エネルギー源としては最も重要であるものの、統合した際の相乗効果は未だ十分に活用されておらず、得られる利益や課題に関する調査がようやく始まったところである。IAEAのCRPは、IAEAが公募したテーマに加盟国の研究機関が参加し、情報交換を行ったり協調体制を取り、それぞれの研究を進めるという活動。今回のCRPでは、原子力と再エネのHESについて、設計やシステム合理化のためのモデリングやシミュレーション、分析の方法に関する加盟国の既知知識を一層向上させ、同HESの商業化に向けてデータベースの構築や分析活動を支援する。IAEAはこれまでも、加盟国の原子力発電所で十分な性能や安全性、信頼性が確保出来るよう、様々な支援を提供してきたが、今回は加盟国の幅広い部門で脱炭素化が持続的に進むことを目的に、非発電分野への原子力の適用方策を探る。また、十分な情報を獲得しながら、エネルギーや地球温暖化、経済の最適化などに関する政策決定が行われることを目指すとしている。発表によると、原子力や石炭、LNG、水力などの発電システムは一般的に「出力調整可能な」エネルギー源と捉えられており、電力需要の変化に応じて出力を調整できる。これとは対照的に、風力や太陽光などの再エネはその日の天候や時間帯で出力が変動し易く、加盟各国が持続可能なエネルギー・システムに移行するには、低炭素な発電オプションを合理的に統合するための分析が必要である。原子力と再エネによるHESでは、それぞれの長所を活用できるようお互いのシステムを連結。双方の運転モードによって、廉価で信頼性の高い電力を送電網に持続的に供給するとともに、その他のエネルギー消費部門に対しても低炭素なエネルギーを供給することになる。IAEAはまた、原子力と再エネのHESが未だ新しいものである点を考慮すると、技術面のすべての制約やエネルギー・システムとしての代表的な性能指数を明らかにする必要があると指摘。これらを適切に特定することで同システムの役割を評価することが出来、現在のみならず将来のエネルギー・システムとして稼働させることが可能になるとした。今回のCRPでIAEAは具体的に、以下の項目について調査する方針。すなわち、原子力と再エネのシステムを結合することで既存の原子炉に及ぶ影響の分析状況、今後建設される先進的原子炉や革新的技術を採用した原子炉への影響、そして必要に応じて、エネルギー貯蔵やCO2の補足など、関係するその他の技術に対する配慮、などである。このCRPで判明した事項は加盟国の間で共有される予定で、共有の場としては、IAEAの訓練ワークショップやケース・スタディへの参加、エンジニアや科学者としての学位取得を目指す女性や新人の訓練研究の場などが考えられる。IAEAはCRPの研究合同会議・初会合を、2022年3月に開催する予定である。(参照資料:IAEAの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの5月21日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
26 May 2021
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英国イングランドのサフォーク州でサイズウェルC(SZC)原子力発電所の建設を計画しているEDFエナジー社は5月24日、完成した同発電所の熱を利用して大気中からCO2を直接捕捉するという「直接空気回収(DAC)」システムの開発計画に、英国政府から25万ポンド(約3,850万円)の補助金が提供されることになったと発表した。EDFエナジー社は同発電所で、160万~170万kWの「欧州加圧水型炉(EPR)」を2基建設することを予定しており、現在、同社が申請した建設計画の「開発合意書(DCO)」を計画審査庁が審査中。同社によれば、SZC原子力発電所からの低炭素な熱を活用したDACシステムでは、コストの大幅な削減が可能になるだけでなく、規模を拡大したDACシステムならCO2の捕捉で一層大きな効果が期待できる。また、同発電所の「カーボン・ネガティブ化(=CO2排出量が森林保護や植林などによる吸収量より少なくなる)」にも貢献できるとしている。EDFエナジー社はサイズウェルC発電所の建設に向けて、200社余りの関係企業や労組による企業連合を創設。DACプロジェクトで同企業連合に協力しているノッティンガム大学とストラタ・テクノロジー社、アトキンズ社、および斗山バブコック社は、すでにDACシステムのパイロット計画に向けて設計調査を実施中である。英国政府からの補助金は、「2050年までに英国内の温室効果ガス(GHG)排出量の実質ゼロ化」を目指して、ビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)が設置した総額10億ポンド(約1,540億円)の基金「CO2排出量の実質ゼロ化に向けた技術革新ポートフォリオ(NZIP)」から提供される。B.ジョンソン首相は2020年11月、「緑の産業革命に向けた10ポイント計画」の重要項目の一つとして、DAC技術で大気中のCO2を直接回収し地中に貯蔵するという施策を挙げており、この基金もその際に設置方針が明らかにされていた。サイズウェルC企業連合はNZIPの「温室効果ガスの削減(GGR)技術コンペ」で、SZC発電所にDACシステムを設置するというパイロット計画を申請していた。EDFエナジー社によると、同企業連合が提案したシステムは電力をほとんど必要としない一方、幅広い温度の熱を利用できるため非常に効率的。また、原子力は低炭素な熱を生産する最も廉価な方法であり、DACのような新技術ではコストを大幅に下げることが可能だとしている。また、実証用のDACシステムだけで年間100トンのCO2を捕捉できるほか、SZC発電所の熱を利用した大規模なDACシステムでは、将来的に発電所としての能力に全く影響を及ぼすことなく年間150万トンのCO2を捕捉することが可能になる。これは、英国内の鉄道網が年間に排出するCO2以上の量になると強調している。EDFエナジー社はまた、建設期間中のCO2排出量も抑制できるよう水素の製造計画も同発電所で進めている。この水素は地元の輸送用だけでなく、産業用としても活用できるとしている。今回の補助金獲得について、ノッティンガム大学の代表者は、「CO2を捕捉する革新的な材料物質の研究や、DAC技術と産業用の両方に対する捕捉技術の適用で当大学は国際的に高い評価を得ている」と表明。その上で、「2030年までに全く新しいDAC技術を市場に送り出せるよう産業界のパートナーたちと協力していきたい」と述べた。斗山バブコック社の担当者は、「このような技術革新プロジェクトの参加企業に選定されたことは非常に喜ばしい」とコメント。同社の専門的知見をDACプロジェクトに提供することでパートナー企業と協力し、英国におけるエネルギーの移行で原子力が果たす重要な役割を支援したいと表明した。(参照資料:EDFエナジー社、英BEISの発表資料、原産新聞・海外ニュース、ほか)
25 May 2021
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米エネルギー省(DOE)は5月19日、次世代の先進的原子炉から排出される使用済燃料を10分の1に削減することを目指した新たなプログラムに、最大で4,000万ドルを拠出すると発表した。省内のエネルギー高等研究計画局(ARPA-E)が立ち上げた「放射性廃棄物と先進的原子炉における処分システムの合理化(ONWARDS)」プログラムに対するもので、ここでは放射性廃棄物の量を減らすことによって土地や大気を清浄に保ち、信頼性の高いクリーンエネルギー供給源である原子力の活用を一層拡大する方針。先進的原子炉の研究開発が実際の建設に移行しつつあることから、核燃料サイクルの廃棄物の発生を抑える全く新しい方法を開発・適用し、処分オプションが限られるために引き起こされた現在の様々な課題に取り組むことになる。ARPA-Eは2009年にDOE内で新設された部局で、開発リスクが高すぎてDOEの他の部局や産業界で対応困難な革新的エネルギー技術の開発を専門的に支援。基礎研究よりも応用研究を対象としており、リスクが高くても大きな成果が期待できる技術に対し、通常50万ドルから1,000万ドルほど、最長3年間の資金助成を行っている。DOEのJ.グランホルム長官は、「米国における無炭素エネルギーの半分以上を原子力が供給しているため、(ONWARDSで実施する)画期的な研究を通じて原子力の持つ潜在能力を生かしたい」とコメント。その上で、「米国は技術革新を牽引する世界のリーダーであり、電力を供給しながら環境も防護するという次世代原子力技術への投資を誇りに思う」と述べた。DOEの発表によると、原子力は米国で最も信頼できるエネルギー源の一つであり、2020年には国内最大のクリーンエネルギー源として無炭素電力の52%を供給。発電量全体でも約5分の1を賄っているが、年間約2,000トン排出する使用済燃料については処分するか、安全に保管する必要があるとした。ONWARDSプログラムでARPA-Eは具体的に、革新的技術を用いた先進的原子炉を特定した上で、その使用済燃料とその他の放射性廃棄物を管理・浄化・処分する方策を改善するため、画期的な技術を開発する。これにより、建設される原子力発電所の数も将来的に拡大し、温室効果ガスの排出抑制目標も達成できるとした。使用済燃料等の発生量削減によって効果が期待できる主な技術分野として、ARPA-Eは原子燃料の利用プロセスを挙げた。廃棄物の発生量を大幅に抑えることで、本来備わっている核拡散抵抗性を増強、資源の有効活用と先進的原子炉の商業化を促進する。また、保障措置分野でセンサー技術やデータ融合技術などが改善され、核物質を正確かつタイムリーに計量することができるとしている。(参照資料:DOEの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの5月20日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
24 May 2021
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米国のシアトルを本拠地とするウルトラ・セーフ・ニュークリア社(USNC)は5月20日、同社製小型モジュール炉(SMR)をカナダで建設する計画について、カナダ原子力安全委員会(CNSC)が進めている「サイト準備許可(LTPS)」の審査がいよいよ、技術審査段階に移行すると発表した。LTPSの審査申請書は2019年3月、カナダのプロジェクト開発企業で、USNC社と長年協力関係にあるグローバル・ファースト・パワー(GFP)社がCNSCに提出した。GFP社とUSNC社のカナダ子会社「USNCパワー社」は、カナダ・オンタリオ州のオンタリオ・パワー・ジェネレーション(OPG)社とともにこのSMRプロジェクトを推進するため、2020年6月に合弁事業パートナーシップを構築。LTPSの申請は、カナダにおけるSMR開発プロジェクトの許認可手続きとしては最初、現時点では唯一のもので、CNSCは2019年7月から同プロジェクトの環境影響評価を開始していた。この審査が今回、環境影響声明書(EIS)案の技術審査に入ることになり、USNC社製SMRをGFP社がカナダ原子力研究所(CNL)のチョークリバー・サイトで建設・所有・運転するというこのプロジェクトは大きく進展。USNC社は2026年までに、熱出力1.5万kW、電気出力0.5万kWの第4世代の小型高温ガス炉「マイクロ・モジュラー・リアクター(MMR)」を完成させる計画である。また、将来的に、送電網が来ていない遠隔地で商業用のMMRを設置し、クリーンエネルギーを供給する事業モデルを確立。さらに、同設計を通じて、カナダが地球温暖化の防止に向けたCO2排出量の抑制目標を達成できるよう、支援するとしている。USNC社の発表によると今回のLTPS審査の進展は、過去4年以上にわたってCNSCの「許認可申請前設計審査(ベンダー設計審査=VDR)」を同設計で受けていたことが有利に働いた。VDR審査は現在も継続中で、この審査の進展状況からは同設計は、正式な許認可審査においても設計上、安全上の要件を確実に満たすことができるとした。また、VDR審査では原子炉だけでなく、同炉で使用する「完全なセラミック・マイクロカプセル化(FCM)燃料」も審査の対象。FCMは事故耐性燃料の一つで、USNC社が独自に製造技術を開発・保有しており、CNLが先頃、その製造法の確かさを確認している。USNC社のF.ベネリCEOは今回、「当社の革新的な原子炉設計とその進んだ安全性が証明された」と表明。近い将来、複数のMMRを統合したエネルギー供給システムを完成させられるよう努力を重ね、信頼性の高い安全な無炭素エネルギーの商業化を実証したいと述べた。(参照資料:USNC、CNSCの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの5月20日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
21 May 2021
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ロシア国営の原子力総合企業ロスアトム社は5月19日、中国核工業集団公司(CNNC)から建設工事を請け負った江蘇省の田湾原子力発電所7、8号機(各120万kWのロシア型PWR:VVER-1200)と、遼寧省の徐大堡原子力発電所3、4号機(各VVER-1200)について、起工式を執り行ったと発表した。この起工式には、ロシアのV.プーチン大統領と中国の習近平国家主席がテレビ会議を通じて参加。ロシア大統領府の発表によると、両首脳はともに田湾7号機と徐大堡3号機における最初のコンクリート打設作業を見守ったとされているが、両炉で本格的なコンクリート打設が正式に行われるのは、もう少し後になると見られている。田湾発電所では現在、100万kW級VVERの1~4号機がすでに営業運転中。ロスアトム社のA.リハチョフ総裁は、これらの原子炉はこれまでに2,700億kWhを発電しており、中国のエネルギー供給保証に大きく貢献していると述べた。一方、5、6号機については、CNNCが仏国のPWR技術をベースに開発した第3世代の100万kW級PWR「ACP1000」を採用。5号機が2020年9月に営業運転を開始したほか、6号機も今月11日に初めて送電網に接続された。後続の田湾7、8号機、および新規サイトである徐大堡発電所(※1、2号機は未着工)の3、4号機については、事業者のCNNCとロスアトム社が2018年6月、第3世代+(プラス)の120万kW級VVERを採用して建設することで合意し、4基分の枠組み契約を締結している。両者はこのうち、田湾7、8号機の建設計画について一括請負契約を2019年3月に交わしており、ロスアトム社はこの契約に基づき、同年7月から両炉の長納期品の製造を開始。2026年~2027年にこれらの起動を目指すとしている。両者はまた、徐大堡3、4号機建設計画についても2019年6月に一括請負契約を締結。田湾7、8号機の一括請負契約と同じく原子炉系統設備と主要機器、および原子燃料を供給する方針で、2027年~2028年に起動する予定である。ロスアトム社によれば、第3世代の120万kW級VVERはそれまでのVVERと比較して出力を20%増強しており、運転に必要な人員の数を30~40%削減できる。運転期間もこれまでの倍の60年に延びており、さらに20年間延長することも可能である。このようなVVERはすでに、ロシアとベラルーシで合計5基が運転中のほか、フィンランドやハンガリー、バングラデシュ、トルコなどの12か国で、35基の建設計画が様々な段階に進展していると強調した。なお、徐大堡発電所では、2016年に1、2号機の土木契約が結ばれた際、採用設計は100万kW級のウェスチングハウス社製「AP1000」とされていた。両炉はその後、同設計をベースとする中国型「AP1000」の標準設計「CAP1000」になると判明したものの、今のところ着工に至っていない。(参照資料:ロスアトム社(英語)とロシア大統領府(ロシア語)、CNNC(中国語)の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの5月19日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
20 May 2021
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フィンランドでオルキルオト原子力発電所3号機(通称OL3=PWR、172万kW)を建設中のティオリスーデン・ボイマ社(TVO)は5月17日、工事を請け負った仏アレバ社および独シーメンス社の企業連合と、建設プロジェクトを完了する際の条件事項について両者が合意したと発表した。OL3では今年3月に燃料の初装荷が行われており、同炉を初めて送電網につなぐスケジュールは今のところ今年の10月、定常的な発電(営業運転)を開始するのは2022年2月となっている。仮に、同企業連合が2022 年2月末までにOL3を完成できなければ、追加の補償金をTVOに支払うことで今回双方が合意。この合意文書への最終的な調印は、今月末に行われる予定である。OL3の建設工事は2005年8月、世界で初めてアレバ社(現・フラマトム社)製の欧州加圧水型炉(EPR)設計を採用して始まったが、初号機であるが故に規制関係文書の確認作業や土木工事等に想定外の時間を費やした。完成は当初2009年に予定されていたが、このスケジュールはこれまでに幾度となく延期されており、TVOと同企業連合は2018年3月、工事の遅れにともなう損害の賠償について包括的な和解契約を締結。企業連合側が分割払いで総額4億5,000万ユーロ(約599億円)をTVOに支払うほか、OL3の完成に必要な人的、技術的資源も提供することになった。 TVOの発表によると、同社は企業連合に所属するアレバNP社とアレバGmbH社、および独シーメンス社のほかに、アレバ・グループの親会社であるアレバSA社を加えたサプライヤーと、昨年の夏から建設プロジェクトの完了条件に関する交渉を続けていた。この建設プロジェクトは、約32億ユーロ(約4,265億円)という固定価格のターンキー契約で開始されたが、アレバ社側は今回OL3の完成に必要な資金を確保するため、財政上の解決策も準備していた。この交渉で、両者が合意に達した主な原則と条件事項は以下のとおり。2018年に和解契約を締結した際、アレバ社が設置した専用の「信託」に企業連合側から新たに約6億ユーロ(約799億円)を補充し、OL3の完成費用に宛てる。(補充はすでに今年1月から開始。)2021年7月以降2022年2月末までの期間は、双方がそれぞれの経費を自ら負担する。2022年2月末までにOL3を完成できなかった場合、企業連合側は実際の完成日に応じて遅れにともなう追加の補償金をTVOに支払う。TVOのJ.タンフアCEOは「今回の合意によって、2022年の営業運転開始に先立ち前提条件が設定された。今年10月の送電網接続を目指して、当社は意を決してプロジェクトを進めていく」と表明。OL3が稼働を開始すれば、国内で必要とする電力の約15%を賄えるほか、地球温暖化の防止でフィンランドが講じる措置としては最大のものになると指摘した。 (参照資料:TVOの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの5月18日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
19 May 2021
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英国で小型モジュール炉(SMR)開発の官民企業連合を率いるロールス・ロイス社は5月17日、開発の第一段階が終了した現時点での最新設計を公開。出力を44万kWから47万kWに増強したことを明らかにした。同企業連合は2030年代初頭の初号機完成を皮切りに、2035年までに最大10基のSMR建設を目指している。折しも、英国では先週11日、ビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)が包括的設計審査(GDA)の対象として、SMRを含む「先進的原子力技術」まで範囲を広げると表明。このため同企業連合は、今年の後半にも最新設計のSMRでGDAの開始に漕ぎつけたいとしている。ロールス・ロイス社の「英国SMR開発企業連合」には、仏国の国際エンジニアリング企業のアシステム社や米国のジェイコブス社、英国の大手建設エンジニアリング企業であるアトキンズ社、BAMナットル社、レイン・オルーク社などが参加。このほか、英国の国立原子力研究所(NNL)、および英国政府が原子力産業界との協力で2012年に設置した先進的原子力機器製造研究センター(N-AMRC)も加わっている。今回の発表によると、第一段階の作業で同企業連合は発電所としての設計を調整・改善しており、200以上の重要項目について設計上の改良を図った。具体的には、機器類の配置見直し等で、追加のコストをかけずに出力を47万kWまでに拡大させた。また新たな設計では、美的なカットを施した屋根で発電所を覆い、周囲の景観とマッチする盛り土が発電所を取り囲んでいる。さらに、床面のレイアウトで一層の合理化を図ったことから、基礎伏図はさらにコンパクトになったとしている。今後もこの開発プログラムを継続するにあたり、英国SMRの開発チームは「共同作業を実施する企業連合」から「独立した法人」に移行する方針である。一群のSMR発電所を、再生可能エネルギーと並んで、英国における低炭素エネルギーの拠点とするほか、これらが世界の低炭素化に資するよう輸出の機会を模索していく考えである。同企業連合のT.サムソンCEOは、「地球温暖化の防止や経済の再生、およびエネルギー供給保証で原子力は中心的役割を果たす」と断言。そのためにも、「原子力は今後も廉価で信頼性が高く、投資の対象に適した存在である必要があり、発電所の製造方法も洋上風力の1MWh当たり約50ポンド(約7,700円)という価格と同程度でなくてはならない」と指摘した。同CEOはまた、「世界の脱炭素化に向けて主要な役割を担うことができ、最終商品とほとんど同じレベルの製品を開発チームがすでに設計済みだ」と指摘。今秋にも同企業連合の設計をGDA申請することを強調した。ロールス・ロイス社の発表によれば、SMRの開発プログラムにより英国内だけでも以下が見込まれている。2050年までに4万人分の雇用創出520億ポンド(約8兆円)の経済的利益発電所を構成する機器の80%は英国内で調達発電所の輸出で新たに2,500億ポンド(約38兆6,600億円)の貿易利益を目指す(エストニアとトルコ、およびチェコとはすでに、輸出に向けた覚書を締結済み)初号機の建設コスト約22億ポンド(約3,400億円)は、5基が完成するまでに18億ポンド(約2,800億円)まで低減可能1基あたり、少なくとも60年稼働(参照資料:ロールス・ロイス社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの5月17日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
18 May 2021
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中国核能行業協会(CNEA)は5月12日、江蘇省の田湾原子力発電所で中国核工業集団公司(CNNC)が建設中の6号機(111.8万kWのPWR)が11日の夜、初めて送電網に接続されたと発表した。同炉は中国で50基目の商業炉となる予定で、これにより同国の原子力発電設備容量は4862.1万kW(グロス)に拡大する。CNEAによると、同炉の計器類は設計要件をすべて満たしていることを示しており、営業運転の開始に向けて同炉は正式に起動段階に入った。今後は様々な過渡試験や負荷試験を実施し、要件を満たしていればフルパワーの実証運転を実施。年末までに同炉は営業運転に移行すると見られている。田湾発電所では、100万kW級のロシア型PWR(VVER)を採用したI、II期工事の1~4号機がすでに営業運転中。これに続くIII期工事の5、6号機では、CNNCが仏国のPWR技術をベースに開発した第3世代の100万kW級PWR設計「ACP1000」を採用して、それぞれ2015年12月と2016年9月に本格着工。このうち5号機は2020年9月に営業運転を開始している。また、Ⅳ期工事の7、8号機では第3世代+(プラス)の120万kW級VVERの採用が決まっており、CNNCはロシアの原子力総合企業ロスアトム社と2018年6月に枠組み協定を締結。2019年3月には、両炉の建設に関する一括請負契約を交わした。同契約に基づいて、ロスアトム社はすでに2019年7月から両炉の長納期品の製造を開始したほか、2020年1月には、これらを2026年と2027年に営業運転入りさせるため、着工時期を早める方針を明らかにしている。田湾原子力発電所のプロジェクト企業は江蘇核電有限公司で、CNNC傘下の核能電力股分有限公司と中国電力投資公司、および江蘇省国信資産集団管理有限公司がそれぞれ、50%、30%、20%出資している。(参照資料:中国核能行業協会(CNEA)の発表資料(中国語)、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの5月12日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
17 May 2021
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