パロベルデ原子力発電所©Arizona Public Service米エネルギー省(DOE)は10月7日、商業炉のエネルギーを使ってクリーンな水素を製造するというアリゾナ州の技術実証プロジェクトに対し、2,000万ドルの連邦予算を付与すると発表した。同プロジェクトは、水素を適正なコストで製造・輸送・貯留・活用できることを証明するため、DOEのエネルギー効率・再生可能エネルギー局(EERE)、水素・燃料電池技術室(HFTO)が複数の産業部門で進めている「H2@Scaleプログラム」の下で進められる。PNWハイドロジェン(PNW Hydrogen LLC)社が中心となり、アリゾナ州フェニックスにあるパロベルデ原子力発電所(約140万kWのPWR×3基)を使って実施。無炭素な電力の材料としてクリーン水素を役立てるとともに、原子力発電所で電力以外の重要な経済産物を生み出せることを実証するのが目的である。同プロジェクトはまた、DOEが今年6月に立ち上げた「エネルギー・アースショット構想」の最初のプログラムである「水素ショット」の目標達成にも貢献すると期待されている。「アースショット」とは、地球環境問題の解決に向けて意欲的かつ画期的な目標を達成することを意味しており、同構想を通じてDOEは、10年以内に価格の手頃な信頼性の高いクリーンエネルギーを豊富に生み出し、技術的ブレークスルーを加速させる計画。「水素ショットで」は、再生可能エネルギーからクリーン水素を製造するコストを10年以内に80%削減し、1kg当たり現時点の5ドルから1ドルまで引き下げることを目指している。今回のプロジェクトでPNWハイドロジェン社は、DOE傘下のアイダホ国立研究所や国立エネルギー技術研究所、国立再生可能エネルギー研究所などと協力。また、米国電力研究所(EPRI)、アリゾナ州立大学、カリフォルニア大学アーバイン校、Xcelエナジー社、ドイツのシーメンス社、スウェーデンの炭素繊維メーカーのOxEon社とも連携する。同社はDOEのHFTOから1,200万ドルを受け取るほか、原子力局(NE)からは800万ドルを受領。パロベルデ発電所に貯蔵する6トンの水素は、電力需要のピーク時には約20万kWhの発電に使われるが、化学物質やその他の燃料製造にも活用される見通しである。このプロジェクトを通じて、同社は原子力技術とクリーン水素製造技術の統合や、水素の製造規模を将来的に拡大していくための情報を得る考えである。クリーン水素の製造技術開発についてDOEのD.トゥルク副長官は、「今後CO2排出量の実質ゼロ化を達成し、地球温暖化に対抗する道筋の重要な一部分になる」と説明。その上で、「原子力を使った水素製造は、価格が手ごろなクリーン水素を製造して水素ショットの目標を達成し、CO2のない未来に移行するための様々な革新的技術に対し、DOEが約束した財政支援の好例になる」と指摘した。米国ではこのほか、ニューヨーク州のナインマイルポイント原子力発電所(60万kW級のBWRと130万kW級のBWR各1基)で、H2@Scaleプログラムの下で水素製造の可能性実証プロジェクトが進展中である。(参照資料:DOEの発表資料①、②、③、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月8日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
12 Oct 2021
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©BEIS英国のビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)は10月7日、英国が発電部門で全面的な脱炭素化を達成する目標スケジュールを15年前倒しし、2035年とするプランを発表した。スケジュールを早めたことで、英国は今後、化石燃料や卸売価格が不安定な国外エネルギーに左右されない国産エネルギー技術で確実な発電部門を構築するとしている。英国では今月31日から11月12日にかけて、国連気候変動枠組条約・締約国会議(COP26)が北部スコットランドのグラスゴーで開催される。同会議で英国のCO2排出量実質ゼロ化戦略を披露するのに先立ち、英国政府は原子力や洋上風力など、価格が手ごろで確実に供給できる国産のグリーン電力により化石燃料への依存を軽減、脱炭素化社会へ移行するための一助とする方針を固めたもの。英国のB.ジョンソン首相が2020年11月に公表した「緑の産業革命に向けた10ポイント計画」と、BEISが2020年12月に公表した新しい「エネルギー白書」では、英国政府が2050年までに国内の発電システムからの温室効果ガス(GHG)排出量を実質ゼロ化する方針が明記されている。今回、BEISのK.クワルテング大臣がジョンソン首相に確認した方針では、前倒しされた意欲的な目標の実現に向けて、英国政府は洋上風力や太陽光、水素によるエネルギー供給から、原子力、陸上風力、CO2の回収・貯留(CCS)に至るまで、新しい世代の発電設備の建設努力を一層強化、英国内で生産したクリーンな電力を英国民のために活用していく考えだ。 BEISによると、近年乱高下している天然ガス価格は、英国がエネルギーの供給保証やさらなる自給に向けて体制を強化し、家計の中でエネルギー料金を長期的に抑えるためにも、そのような電力が必要であることを裏付けている。天然ガスを使った発電は、英国が今後も安定した電力供給システムを維持する上で重要な役割を果たすが、クリーンエネルギー技術の開発は将来的に天然ガス火力発電の利用頻度を抑えることにもなると述べた。さらに、クリーン電力の供給システムを信頼性の高いものにするには、風力や太陽光などの再生可能エネルギーを、原子力やその他の柔軟性の高いクリーン発電技術で補完する必要があるとBEISは指摘。原子力のような電源は、風力や太陽光の発電量が少ない折にも電力を供給し、需要を満足させることができる。英国政府はCOP26でホストを務める前に、CO2排出量を実質ゼロ化する一層詳細かつ広範なプランをさらに策定するとしている。今回のプランについてBEISのクワルテング大臣は、「このようなグリーン発電技術は英国内の多種多様な天然資源の活用につながることから、英国全土の新しい産業分野で数千人規模の雇用を創出できる」と指摘。また、「世界中が脱炭素化社会への移行を成功させるには、英国企業の企業家精神や類まれな能力、技術革新が必要になる」と強調している。なお、BEISの発表によると、英国では1990年から2019年までの間、GDPが76.4%上昇した一方でCO2排出量を44%削減することに成功。2000年以降、G20諸国のなかでは英国の脱炭素化が最も速く進んでいるとした。また、2019年に英国では、発電部門からの温室効果ガスの排出量が2018年レベルから12%、1990年レベルからは71%低下した。2020年には総発電量における低炭素電力の割合が59.3%に上昇しており、再エネによる発電量は過去最高の43.1%を記録。送電網に接続された再エネの設備容量も、2009年時点の800万kWが2021年6月末には500%増加し、4,800万kWになったとしている。(参照資料:BEISの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月8日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
11 Oct 2021
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10月7日付けのスペイン政府官報によると、同国北東部のタラゴナで稼働するアスコ原子力発電所1号機(PWR、103.2万kW)と2号機(PWR、102.7万kW)の運転期間がそれぞれ9年と10年延長され、1号機は2030年10月まで、2号機は2031年10月まで運転を継続することになった。両炉はそれぞれ1983年6月と1985年9月に送電開始しており、ともに2011年の秋を起点として10年間の運転期間延長が許可された。これらの期間が満了し、今回再び延長されたことから、両炉が運転開始して以降の運転期間はそれぞれ47年間と46年間になる見通しである。スペインでは、TMIとチェルノブイリ両発電所の事故発生を受けて脱原子力政策が進められており、1988年にトリリョ原子力発電所(PWR、106.6万kW)が運転を開始して以降、新規の建設は行われていない。脱原子力の達成時期については明確に定めておらず、スペイン議会は2011年2月、CO2排出量を抑制するため、原子力発電所に課していた最大40年という運転期間制限を正式に撤廃。商業炉の運転期間は、規制当局などの助言に従い、様々な条件を勘案して政府が決定していくことになった。国内の電力需要の増加に対しては、政府は既存の発電所の出力増強や運転期間の延長で対応。2009年時点ですでに、サンタ・マリアデガローニャ原子力発電所(BWR、46.6万kW)の運転期間を4年延長することを許可しており、(同炉はすでに閉鎖済みだが)スペインで初めて40年以上の運転が許可された商業炉となった。今回の官報によると、スペイン政府が2020年1月に作成した「2021年~2030年までの統合国家エネルギー・気候変動対策プラン(INECP)」では、国内のエネルギーミックスに対する原子力の貢献が確認され、原子力発電所は2027年~2035年の期間に順次閉鎖する方針である。これにともない、アスコ原子力発電所を所有するAsociación Nuclear Ascó-Vandellós II(ANAV)社(※2号機についてはイベルドローラ社が15%出資)は2020年3月、環境移行・人口問題省に対して1、2号機の運転期間をそれぞれ9年と10年延長することを要請。この要請書は数日後にスペイン原子力安全委員会(CSN)に送られ、両炉の安全面と放射線防護面について審査が行われた。2021年7月末にCSNは、これらの運転期間延長を認める報告書を作成しており、環境移行・人口問題省が今回、CSNの見解に沿って延長を決定したもの。スペインではこのほか、政府がアルマラス原子力発電所について、1号機は2027年11月まで合計46年間、2号機は2028年10月末まで45年間の運転継続を許可している。また、バンデリョスⅡ原子力発電所は2030年7月まで43年間、コフレンテス原子力発電所は2030年11月まで46年間運転できる見通し。最も新しいトリリョ原子力発電所の運転認可は、今のところ2024年11月まで36年間有効となっている。(参照資料:スペイン政府官報①、②(スペイン語)、原産新聞・海外ニュース、ほか)
08 Oct 2021
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レビン下院議員 ©M. Levinマーキー上院議員 ©E. Markey米国議会のM.レビン下院議員は9月28日、E.マーキー上院議員との協力により、使用済燃料と高レベル放射性廃棄物を長期間貯蔵する最終処分場の立地点選定作業を促進するため、「放射性廃棄物タスクフォース法案(H.R.5401)」を下院に提出した。同法案が下院で通過した後、上院ではマーキー議員が提出する同様の法案について審議が行われる模様。この法案は、連邦政府の有識者特別(ブルーリボン)委員会が2012年に勧告した「地元の合意に基づいて有効な立地点選定プロセス」を進められるよう、現行の原子力法改正に向けて調査のためのタスクフォースを設置するという内容。1954年に制定された同法によると、放射性物質は関連する環境法(「水質浄化法」と「資源保護回復法」)の適用を免れており、この事実は処分場の立地候補地域が懸念する材料の一つになっている。ともに民主党所属の両議員は、「このような逃げ道を取り除くことで、最終処分場の立地点選定作業は大幅に進展する」と指摘。周辺環境や近隣住民の健康と福祉を防護する連邦政府の基準が、放射性廃棄物に対しても適用されることになり、これらの廃棄物をどこに、どのように貯蔵するか、州政府レベルで意思決定する際も役に立つ。同タスクフォースはまた、「合意ベースの立地点選定作業」が具体的にどのようなものか、明確に説明する責任を負うとしている。使用済燃料の深地層最終処分場に関しては、9月23日に政府の会計監査院(GAO)が管理政策の行き詰まりを打開するよう議会に勧告する報告書を公表。両議員による今回の法案提出は、この勧告に応えた形となるが、GAOは報告書の中で、最終処分場としての調査活動をユッカマウンテンのみに限定した1982年の放射性廃棄物政策法(NWPA)の改正等を提言していた。この点に関してマーキー議員は、「放射性廃棄物の深地層処分となれば、政治ではなく地質学に基づいた判断が必要だ」と強調。「科学団体からは何年にもわたって、ユッカマウンテン計画への懸念や抵抗が示されており、同地が廃棄物処分に適しているという考えは妄想に過ぎない」と述べた。同議員によれば、地元の合意に基づいた立地プロセスこそ、放射性廃棄物の長期的な貯蔵に向けた実用的かつ現実に即した解決策となる。またレビン議員は、各原子力発電所で実際に使われている使用済燃料の貯蔵システムについて、「原子炉が永久停止したサイトでは特にそうだが、半永久的に持続可能な設備ではない」と指摘した。このシステムはまた、納税者が放射性廃棄物基金に処分費用を払い込む代わりに、連邦政府が1998年1月から廃棄物の引き取りを開始すると約束したNWPAにも違反している。同議員は、「連邦政府がこの責任を果たせなかったことは明確であり、今こそ変えるべき時だ」と言明している。(参照資料:レビン、マーキー両議員の発表資料、原産新聞・海外ニュース、ほか)
07 Oct 2021
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米イリノイ州で、州内の原子力発電所に経済的支援を提供する法案が成立したのを受け、同国最大の原子力発電事業者であるエクセロン・ジェネレーション社は9月28日、州内2つの原子力発電所の運転長期化に向けて、今後5年間に約650人分の雇用を創出し、合計3億ドル以上の投資を行う計画を明らかにした。同州では、電力市場の自由化にともない経営の悪化したバイロンとドレスデンの両原子力発電所を、事業者のエクセロン社が今年9月と11月にそれぞれ早期閉鎖する予定だった。しかし、州議会では9月13日、「CO2の影響緩和クレジット」を通じて原子力発電所に補助金を交付するという法案が成立。同州のJ.B.プリツカー知事は、9月15日付けでこの法案に署名した。これにより、バイロン原子力発電所(120万kW級のPWR×2基)では、永久閉鎖に向けて燃料の取り出し判断を下す最終締め切り日に、一転してこれまで通り安全かつ信頼性の高い運転を継続することが可能になった。州知事による法案への署名後、エクセロン社は同発電所1号機で直ちに燃料の交換作業を開始。同社によれば、イリノイ州が地球温暖化の防止目標や経済目標を達成する上で、今回の法案は非常に大きな影響を及ぼす。州内2つの原子力発電所を維持することで、同州で生産されるクリーンエネルギーの3分の2を失わずに済むほか、CO2排出量が70%増加するのを回避できる。また、間接雇用も含めて2万8千人分の雇用が守られ、顧客が年間に支払うエネルギー料金では、4億8千万ドル分の価格上昇が避けられるとしている。バイロン原子力発電所に関して、エクセロン社は今後5年間で約1億4千万ドルの投資を計画中である。具体的にはプラントの主発電機で分解整備を行うほか、大型変圧器の取り替えを実施。ファイバー光学制御システムでは機能の改善を行い、様々な種類のバルブやモーター、配管等を取り替える。これらの作業の多くは来年の燃料交換停止時に始める予定で、イリノイ州全土から1,500人以上の電気技師や配管工、溶接工、大工らがバイロン発電所に集結することになる。同社はまた、ドレスデン原子力発電所(91.2万kWのBWR×2基)でも今後5年間に約1億7千万ドルの投資を行う。2号機の燃料交換は11月に実施するとしており、そのための停止期間中に、給水熱交換容器6台の機能向上と主発電機の大規模改修、電気機器の分解整備、循環冷却水配管の取り替え、核計装回路機器の改修を予定している。エクセロン社のD.ローデス原子力部門責任者(CNO) は「画期的な法案が発効したことから、当社は保有する原子力発電所を年中無休で稼働させるため、これらのすべてで早急な燃料交換と新たな従業員の配置を進めている」と表明。「1千万以上の顧客や世帯に低炭素なベースロード電力を供給するこれらの発電所は、クリーンエネルギーの供給という点で重要であり、イリノイ州のGDPに毎年16億ドル以上貢献する巨大な経済原動力でもある」と強調した。(参照資料:エクセロン社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月1日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
06 Oct 2021
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ハンガリーでパクシュ原子力発電所II期工事(120万kWのロシア型PWR=VVER×2基)の建設許可申請を審査している国家原子力庁(HAEA)は9月30日、建設許可の発給までには今しばらく時間が必要だと発表した。II期工事の建設プロジェクトは稼働中のI期工事(50万kWのVVER×4基)と同様、ロシア国営の原子力総合企業であるロスアトム社が請け負っており、建設許可申請書はハンガリーのプロジェクト企業であるパクシュII開発会社が2020年6月にHAEAに提出。HAEAはこの申請書を9月末まで15か月にわたり審査していた。HAEAの今回の説明によると、同申請書は多くの点で非常に綿密にまとめられているが、すべての安全要件が完全に満たされていると確認するには、いくつかの点でさらなる分析・評価を実施する必要がある。国際原子力機関(IAEA)の専門家チームがHAEAに提示した勧告事項も考慮しなければならず、HAEAは国内外の専門家の支援を得ながら審査を継続すると表明。パクシュⅡ開発会社に対しては、追加資料の提出を命じたことを明らかにした。ハンガリーでは、原子力発電所のように複雑かつ多くの専門分野が関係する施設については、必要な許可の発給や建設工事の監督に複数の政府当局が関わってくる。ハンガリーのエネルギー・公益企業規制庁(MEKH)は2020年11月、今回の建設プロジェクトが電力供給網のセキュリティ面で悪影響を及ぼす可能性は低いと判断し、電力法の義務事項に照らし合わせた発電実施許可を発給。HAEAも2017年3月に同プロジェクトのサイト許可を発給したほか、今年8月には、パクシュII開発会社が作成したⅡ期工事の核物質防護計画を承認している。建設許可の発給が遅れることで、II期工事の5、6号機は完成までにさらなる遅れが生じる見通しである。この増設計画の実施について、総工費の約8割に相当する最大100億ユーロ(約1兆2,889億円)をロシアからの低金利融資で賄うとハンガリー政府が発表したのは2014年1月のこと。残り2割はハンガリー政府が調達するとしており、両国の担当企業は同年12月、これら2基をそれぞれ2023年と2025年に完成させることを目指して、EPC(設計・調達・建設)契約を含む主要な3契約に調印した。しかし、欧州連合(EU)の執行機関である欧州委員会(EC)は2015年11月、これらの契約が公的調達に関するEU指令に準拠しているか、また、EU域内の競争法の国家補助規則に適合しているかについても調査を開始すると表明した。その結果としてECは2016年11月、公的調達に関しては違反行為がなかったと認めた一方、翌2017年4月に同計画への投資には国家補助が含まれると裁定。国内のエネルギー市場で、競争原理に過度の歪みを生じさせないよう政府が対策を取ることを条件に、投資を承認すると発表した。両炉の完成時期については、ハンガリー外務貿易省のP.シーヤールトー大臣がメディアに対して「2028年から2029年にかけて両炉とも運転可能になる」と表明している。このような遅れにともない、ハンガリーがロシアからの低金利融資に返済を開始する時期については、両国政府が交渉した結果、今年4月に融資協定を一部改訂することで合意。2026年3月からとされていたハンガリーの返済は、両炉が運転開始した後の2031年からに修正されている。(参照資料:HAEAの発表資料(ハンガリー語)、パクシュII開発会社の発表資料(ハンガリー語)、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月1日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
05 Oct 2021
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カナダのオンタリオ州を本拠地とするテレストリアル・エナジー社は9月29日、第4世代設計として開発中の小型モジュール式・一体型溶融塩炉「IMSR」について、使用する燃料を確保するため、仏オラノ社の米国法人と包括的な協力契約を締結した。この契約の下で、オラノ社は濃縮ウランやIMSR用に燃料を転換するサービスをテレストリアル社に提供する。燃料の製造のみならず輸送やパッケージングなど広範に作業を請け負う予定で、IMSR用の燃料を商業規模で本格製造するための分析調査も実施。カナダや米国、英国、日本など、将来の主要なIMSR販売市場においても商業製造した燃料を適用する考えである。今回の契約は、テレストリアル社が進める「複数ルートの燃料調達戦略」に基づいており、幅広い燃料サービスを通じて次世代原子炉の商業化を支援するというオラノ社の方針も反映。独占契約ではないので、双方がともに同種の契約をその他の企業と結ぶことが可能である。テレストリアル社の米国法人(TEUSA社)はすでに2020年11月、IMSRに使用する溶融塩燃料の詳細な試験を実施するため、米エネルギー省(DOE)傘下のアルゴンヌ国立研究所と協力すると発表。今年8月には、IMSR用濃縮ウラン燃料の商業規模での確保に向けて、同社は英国スプリングフィールドにある国立原子力研究所(NNL)、および同地で原子燃料製造施設を操業する米ウェスチングハウス(WH)社とも協力契約を締結した。テレストリアル社のIMSRは熱出力が40万kW、電気出力は19万kWで、電力のほかに熱エネルギーを供給可能。使用する溶融塩燃料は、これまで数10年以上にわたり軽水炉に装荷されてきた標準タイプの低濃縮ウラン(U-235の濃縮度が5%以下)を溶融フッ化物塩と混合して製造する。同社の説明では、先進的原子炉設計の多くがHALEU燃料(U-235の濃縮度が5~20%の低濃縮ウラン)を使用するのに対し、IMSRは第4世代設計の中でも唯一、標準濃縮度のウランを使用することができる。同社はまた、9月14日に電気出力39万kWの改良型発電所設計となる「IMSR400」を発表した。電気事業者の要請により、原子炉と発電機を2基ずつツインユニットで設置しており、発電所としての出力を拡大。コスト面の競争力も改善しており、同設計はカナダのオンタリオ・パワー・ジェネレーション(OPG)社がダーリントン原子力発電所内で建設を検討している3種類の小型モジュール炉(SMR)候補設計の一つとなっている。テレストリアル社のS.アイリッシュCEOは、「燃料の購入にともない電気事業者が必要とするサービスは多岐にわたるため、今回の契約は燃料の輸送やパッケージング等の分野を幅広くカバーする包括的なものになった」と説明。このようなサービスは、IMSR初号機を早ければ2028年に稼働させる上で必要だとしている。(参照資料:テレストリアル社の発表資料①、②、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの9月30日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
04 Oct 2021
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米原子力規制委員会(NRC)は9月29日、フロリダ州のセントルーシー原子力発電所1、2号機(各PWR、約88万kW)について、2回目の運転期間延長申請書を受理し、本格的な技術審査を開始すると発表した。この申請書は事業者のフロリダ・パワー&ライト(FPL)社が8月に提出していたもので、NRCはそれ以降、申請内容に不備がないか点検していた。セントルーシー1、2号機はそれぞれ1976年と1983年に送電開始しており、運転開始時に認められていた40年の運転期間が満了する前に、NRCはFPL社の初回の申請に基づき、両炉でそれぞれ20年間追加で2036年3月と2043年4月まで運転することを許可した。2回目の申請に基づき、さらに20年ずつ期間の延長を許可した場合、これらの原子炉はそれぞれ80年間、2056年3月と2063年4月まで稼働することができる。審査の開始にともない、NRC付属の行政判事組織である原子力安全許認可会議(ASLB)が公聴会を開催するが、NRCはこの公聴会への参加を希望する市民向けに同日、案内情報を連邦官報に掲載した。運転期間の延長により個人的利益に影響が及ぶ可能性がある市民等は、11月29日までに公聴会への介入請願書を提出しなければならないとしている。 (参照資料:NRCの発表資料、原産新聞・海外ニュース、ほか)
01 Oct 2021
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チェコの原子力機器サプライヤーでもあるスコダ社は9月23日、ハンガリー国営の電気事業者MVMグループに所属するエンジニアリング・コンサルティング企業のMVM ERBE社から、パクシュ原子力発電所Ⅱ期工事(120万kWのロシア型PWR=VVER×2基)の建設準備作業を受注したと発表した。建設プロジェクトの一部となる枠組み契約をMVM社と締結したもので、スコダ社は同発電所I期工事の4基(各50万kWのVVER)すべてで原子炉圧力容器を製造した経験から、Ⅱ期工事についてもプロジェクトの評価作業を実施するほか、一次系機器などのエンジニアリング作業を支援。今後もⅡ期工事の準備作業や建設工事には一層積極的に関わっていく方針であり、すでに参加が決まっている欧州の大手企業やErőterva社などのハンガリー企業とともに、今回、建設プロジェクトの国際チームに加わったと表明している。Ⅱ期工事で建設する5、6号機は、最終的にI期工事の1~4号機を代替することになっており、ハンガリーは2014年1月にロシアと結んだ政府間協定に基づき、この増設計画をロシア政府の低金利融資で実施すると発表。同年12月には、両国の担当機関が両炉のEPC(設計・調達・建設)契約を含む3つの関連契約を締結した。ハンガリー側で建設工事を担当するMVMグループのパクシュⅡ開発会社は、2020年6月に同プロジェクトの建設許可をハンガリー国家原子力庁(HAEA)に申請した。同年11月にハンガリーの公益企業規制庁(MEKH)は、同プロジェクトが電力供給網のセキュリティ面で悪影響を及ぼす可能性は低いと判断、電力法の義務事項に照らし合わせた発電実施許可を発給した。プロジェクトの安全面に関する審査結果は、今年の秋にHAEAが建設許可発給の可否という形で発表する見通しである。スコダ社は今回の発表の中で、「スロバキアやウクライナなどと並んで、ハンガリーは当社の最も重要な国外市場の一つだ」と表明している。パクシュ発電所I期工事については、機器の製造のみならずメンテナンスや改修作業にも深く関与しており、2019年に同社は他のチェコ企業とともに総額10億コルナ(約51億円)の改修契約を獲得、これら4基に設置されていた1980年代のアナログ式制御システムをすべて、デジタル式に取り換えた。今年4月には、2~4号機の原子炉圧力容器について、供用期間中検査業務を落札している。なお、今月24日付のロシア国営タス通信によると、ハンガリー外務貿易省のP.シーヤールトー大臣は23日、パクシュⅡ期工事の2基について「2028年から2029年にかけて、両炉とも運転可能になる」との見通しを示している。(参照資料:スコダ社の発表資料(チェコ語)、パクシュⅡ開発会社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、ほか)
30 Sep 2021
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英オックスフォード大学の教授や経済学者が中心となって設立したエネルギー関係の分析・コンサルティング企業、オーロラ・エナジー・リサーチ社は9月25日、「CO2排出量を実質ゼロ化する経済における水素製造の脱炭素化」と題する分析調査報告書を公表した。英国が地球温暖化の防止目標を達成し、2050年までにCO2排出量を実質ゼロ化した低炭素なエネルギー社会に移行するには、再生可能エネルギー(再エネ)と原子力の両方を活用して製造した水素が一助になると指摘。これにより英国は、移行にともなう使用燃料源の中で化石燃料への依存度を軽減できると分析している。オーロラ社が作成した報告書は、英国政府が8月に「水素戦略」を発表したのに続くもの。同戦略では原子力を利用したクリーン水素の製造に様々なオプションが存在するとした一方、コスト面や競争力の関係で原子力がもたらす貢献を数値モデル化していなかった。今回の報告書は、ウラン濃縮役務の供給大手であるURENCO社の委託を受けてオーロラ社が作成しており、必要なデータは、英国のシンクタンクであるルシード・カタリスト社と国際原子力機関(IAEA)、およびフランス電力(EDF)が追加提供した。分析調査の実施背景としてオーロラ社は、「将来の水素製造部門に関して、これまでに行われた調査の多くが再エネや化石燃料の発電電力を用いて、水電解で水素製造することに重点を置いていた」と述べた。原子力は近年、建設費が高騰し新設プロジェクトが保留となったことなどから、水素エネルギー社会に加えようという議論はあまり行われなかった。しかし、今回の報告書でオーロラ社は、「低炭素な電解水素を供給するビジネス・モデルや新しい原子力技術に対する政策的支援によって、これらのコストをどのようにして削減できるか、また、再エネと原子力を活用した水素製造がどのような恩恵をもたらすか分析調査した」と説明している。その結果、判明した主な事項として、オーロラ社は以下の点を指摘した。すなわち、化石燃料への依存度を軽減し脱炭素化を迅速に進めるには、再エネと原子力の両方が発電と水素製造のために必要。これにより、2050年までの累積CO2排出量は8,000万トン削減することができる。「CO2排出量の実質ゼロ化」に必要とされる水素量を化石燃料抜きで確保するには、再エネと原子力で製造した電解水素が不可欠。輸送や産業部門ではベースロード水素を高い割合で必要とするため、原子力で製造した大量の水素を除外した場合、すべての想定シナリオで、2050年までに35%以上を化石燃料で製造した低炭素水素に依存することになる。再エネと並んで、水素製造用の電解槽を敷地内に備えた大容量の原子力発電所では、システム全体の経費を2050年までに6~7%、すなわち400億~600億ポンド(6兆400億~9兆600億円)削減できるため経済効率が高い。電解槽の併設により、原子力発電所では一層柔軟性の高い発電が可能になり、変動し易い再エネの発電量にも対応することができる。水素製造も行うという原子力発電の新しいビジネス・モデルによって、原子力はコスト面の競争力が高く、CO2を排出せずに電力と水素の製造が可能なエネルギー源となる。これに加えて、小型モジュール炉(SMR)や第4世代の先進的原子炉を活用した場合、脱炭素化が加速されるとともに化石燃料の使用量削減が可能になる。(参照資料:オーロラ・エナジー・リサーチ社の発表資料①、②、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの9月27日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
29 Sep 2021
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米国政府の会計監査院(GAO)は9月23日、国内の商業炉から出る使用済燃料の最終処分政策に関する報告書を作成し、議会の関係委員会等に提出した。ネバダ州ユッカマウンテンにおける最終処分場建設計画の、2010年に頓挫して以降の行き詰まりを打開するため、最終処分場の立地点特定に向けた新たな取り組みや統合的な管理戦略の策定で議会に早急の措置を取るよう訴えている。GAOは連邦議会の要請に基づき、政府機関の財務検査や政策プログラムの評価を通じて予算の執行状況を監査する機関。今回の報告書の中でGAOは、国内33州の原子力発電所75か所(閉鎖済みのものを含む)で約8万6千トンの使用済燃料が貯蔵されている現状に触れ、この量は今後も年間約2千トンずつ増加していくと指摘した。オバマ政権がユッカマウンテン計画を停止した後、この問題への取り組みは政治的に行き詰っており、放射性廃棄物政策法(NWPA)に明記された「1998年までに使用済燃料の引き取りを開始し処分する」という義務をエネルギー省(DOE)が履行できていないことから、連邦政府は2020年9月、原子力発電所の事業者に使用済燃料の保管にともなう賠償経費として約90億ドルを支払っている。GAOの説明によると、米国の商業炉から出た使用済燃料は現在、暫定措置の下で管理されており、発電所毎に管理方法が異なるため、最終処分の今後の判断やコストにも影響が及ぶ。今回の報告書を作成するため、GAOがインタビューした専門家のほとんど全員が「解決策を見つけ出し、その計画コストを下げるには統合的な戦略を取ることが重要だ」と回答。しかしながら、議会による確固たる決断抜きでは、担当部局であるDOEが関係戦略を本格的に策定し実行することは出来ないとGAOは強調した。DOEは2017年初頭、政府の有識者特別(ブルーリボン)委員会が2012年に提示した勧告に従い、地元の同意に基づく処分場立地プロセスの案文を作成したものの、新たに発足したトランプ政権が優先項目を変更したため、このプロセスは最終決定がなされていない。1987年の修正により現行のNWPAは、最終処分場としての調査活動をユッカマウンテンのみに限定しているが、議会がこれをさらに修正し、ユッカマウンテンやそれ以外のサイトで使用済燃料の貯蔵や処分が可能になるよう最終決定すれば、DOEは地元の合意を得て使用済燃料の集中中間貯蔵施設や深地層最終処分場の立地プロセスを進めることができるとGAOは指摘した。このような背景から、GAOは今回、以下の4項目について審議・決定するよう議会に要請している、すなわち、(1)現行NWPAを修正し、地元の合意に基づいて中間貯蔵施設や最終処分場の立地と建設を進められる新たなプロセスを承認する。(2)政治的理由によって、使用済燃料を長期に管理するプログラムの優先項目や主導体制が変更されないよう、独立の立場の審議会といった監督メカニズムを創設する。(3)最終処分場の建設・操業用に設置された「放射性廃棄物基金」の仕組みを再構築し、最終処分場開発プログラムの全体的なライフサイクル・コストを同基金で支払えるようにする。(4)修正版のNWPAに沿って、DOEが統合的な放射性廃棄物管理戦略を策定・実行できるようにする。GAOによると、DOEはこれらの勧告に同意した。使用済燃料の管理処分で解決策を見出すには、計画的かつ統合的な判断と政策立案が必要であり、成功に至るという保証もないが、カナダやフィンランド、スウェーデンなどでは同様の行き詰まりに直面したあと、順調に管理処分プログラムを進めている。これらの国の経験や専門家の勧告を生かせば、先に進んでいくための有用な教訓が得られるとGAOは強調している。(参照資料:GAOの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの9月27日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
28 Sep 2021
2850
米国のGE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社は9月23日、同社製小型モジュール炉(SMR)、「BWRX-300」のポーランドでのシリーズ建設に備え、同炉に必要なウラン燃料のサプライチェーンをカナダで構築する可能性評価を実施すると発表した。具体的にGEH社は、カナダの大手ウラン生産企業であるカメコ社、カナダでBWRX-300の建設を推進している子会社「GEH SMRテクノロジーズ・カナダ社」、およびポーランド最大の化学素材メーカーであるシントス社のグループ企業「シントス・グリーン・エナジー(SGE)」の4社で協力覚書を締結。米GE社が日立製作所との合弁で運営している原子燃料製造企業、グローバル・ニュークリア・フュエル(GNF)社が開発した高性能燃料集合体「GNF2」を活用するなどして、低リスク・低コストのBWRX-300を最速でSMR市場に投入する考えだ。出力30万kWの水冷却型自然循環SMRであるBWRX-300の設計は、2014年に米原子力規制委員会(NRC)の設計認証を受けたGEH社の第3世代+(プラス)設計「ESBWR(革新型単純化BWR)」がベース。受動的安全システムを備えており、GEH社によれば設計を飛躍的に簡素化したことで、BWRX-300のMW当たりの建設コストは、その他の水冷却型SMRや既存の大型炉設計と比較して大幅に削減される。また、同炉にはESBWRの設計認証における基礎的部分を利用、技術的に実証済みの機器も組み込んだという。GEH社はすでに2019年10月、ポーランドでBWRX-300を建設する可能性を探るため、シントス社グループのSGE社と協力覚書を締結。翌2020年8月には、この建設計画の実施に向けて戦略的パートナーシップ協定を結んだ。GEH社はまた、BWRX-300の商業化を促進しカナダやその他の国で同設計を建設していくため、カメコ社およびGNF社の米国法人と今年7月に協力覚書を交わしている。一方のシントス社は今年8月、BWRX-300あるいは他の米国製SMRをポーランド国内で4基~6基(出力が各30万kW程度)建設するため、国内のエネルギー企業であるZE PAK社と共同で投資を行うと発表。建設予定地としては、ZE PAK社がポーランド中央部のポントヌフで操業する石炭火力発電所を挙げた。また、グループ企業のSGE社は2020年10月、BWRX-300技術を用いたプラントの建設・運営プロジェクトについて、ポーランドの原子力規制機関と協議を開始している。今回の協力覚書に関してGEH社は、「カメコ社やSGE社と協力してポーランドに無炭素なエネルギー源をもたらす一方、カナダではウラン供給関連の雇用を創出したい」と述べた。カメコ社側は、「世界中の国家や企業がCO2排出量の実質ゼロ化を達成する際、原子力は重要な役割を果たす」と指摘。その上で、「SGE社がSMRで模索している脱炭素化事業に、BWRX-300は革新的な技術で解決策をもたらす優れた実例になる」と強調した。SGE社も今回の覚書に加えて、「カナダで構築されつつあるBWRX-300の製造・輸出能力を補うべく、ポーランド国内でもサプライチェーン構築に向けてGEH社と一層緊密に連携していく」と表明している。(参照資料:GEH社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの9月23日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
27 Sep 2021
4429
米国のニュースケール・パワー社は9月23日、同社製小型モジュール炉(SMR)をポーランドで建設し商業化への道を模索するため、同国鉱業大手のKGHMポーランド銅採掘(KGHM)会社、およびコンサルティング企業のPielaビジネス・エンジニアリング(PBE)社と協力覚書を締結した。KGHM社はポーランド南西部にある欧州最大規模の銅鉱床で採掘を行っているほか、モリブデンやパラジウム、ニッケルなどの金属も生産している。これらの事業に必要な電力や熱エネルギーは石炭火力発電所から得ているが、2030年末までに必要なエネルギーの約半分を自社製で賄う方針。これには、再生可能エネルギー源やSMRが生産するクリーンエネルギーが含まれる。太陽光や海上風力による発電システムの設置プロジェクトはすでに進行中で、今回はこのエネルギーミックスにSMRを加えることになったもの。もう一方のPBE社は、主にポーランドのエネルギー部門や化学部門の企業に対して、運営・戦略や規制、エンジニアリング関係の助言を提供している。政府が進める地球温暖化対応やエネルギーの移行計画にも関与しており、政府機関や金融機関、規制当局などに関連するサービスを提供中。2009年以降は、ポーランドの原子力発電導入プログラムにも同社の専門家が携わっている。ニュースケール社の発表によると、KGHM社とPBE社は今回の覚書でニュースケール社の支援を受け、同社製SMRの導入計画および高経年化した既存の石炭火力発電所を別用途に活用できるか検証する。具体的には、SMR建設計画の技術面や経済面に加えて、法制面、規制面、財政面などを詳細に分析するとしている。ニュースケール社が開発したSMRはPWRタイプの一体型SMR「ニュースケール・パワー・モジュール(NPM)」で、電気出力5万kW~7.7万kWのモジュールを最大12基まで連結して出力規模を決められる。米国の原子力規制委員会(NRC)は2020年9月にモジュール1基あたりの出力が5万kWのNPMに対し、SMRとしては初めて「標準設計承認(SDA)」を発給。同社は出力7.7万kW版モジュールの「NuScale NPM-20」についても、SDAを2022年第4四半期に申請する予定である。KGHM社がポーランドで建設するSMRは「NuScale NPM-20」と見られており、同社は差し当たりモジュールを4基連結する計画。オプションで12基連結した場合の出力は、100万kW近くに拡大する。同社のM.クルジンスキー社長は、「地球温暖化を食い止めるには断固たる行動が必要だ」と指摘。その上で、「2030年までにSMRを建設するという計画は、エネルギー移行計画の一部であるとともに当社の堅い決意でもある。当社は早ければ2029年にも最初のSMRの運転を開始して、ポーランドにおけるSMR建設のパイオニアになる方針だ」と述べた。同社長によると、SMRは同社が環境に配慮して事業を行う一助となるだけでなく、事業運営費を大幅に削減できる。同社はポーランドがグリーンなエネルギーに移行できるよう、SMRでエネルギーを商業的に生産し、一般家庭の電気代の削減にも貢献する。PBE社の創設者であるP.ピエラ氏は、「ポーランドおよび化石燃料に依存するその他のEU諸国がエネルギーの移行を進める上で、モジュール式のエネルギー源はとりわけ重要な役割を担う」と指摘。「汎欧州グリーン・ディールを成功させる上でも、共通の利益を生む重要なエネルギー技術だ」と強調した。なお、ニュースケール社は同じ日、米オクラホマ州を本拠地とする石油・天然ガスの供給企業Getkaグループ、およびポーランドで電力やガスなど複数のエネルギーを供給するUNIMOT社とも、同様にポーランドでの同社製SMRの建設に向けてこれら3社が協力するための覚書を締結している。(参照資料:ニュースケール社、KGHM社(ポーランド語)の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの9月23日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
24 Sep 2021
3475
チェコの産業貿易省は9月16日、新規原子炉の建設を支援する枠組の設置法案について議会下院が前日の15日に表決を行い、100対8の賛成多数で可決したと発表した。この「低炭素エネルギーへの移行法案」は、新規の原子炉やその他の無炭素電源の建設に投資を行う刺激策が市場に無いという現状を踏まえ、同省の関係議員が2020年に超党派法案として議会に提出した。完成した発電所の発電電力を政府の保証価格で買い取るメカニズムが盛り込まれており、現状の市場不備を補うとともに、ドコバニ原子力発電所(51万kWのPWR×4基)でⅡ期工事を建設する前提条件の1つでもある。同法はM.ゼマン大統領が署名した後、2022年1月1日に発効する見通しで、産業貿易省は同法を通じて低炭素な電力やエネルギーの安定供給を確保し、エネルギーの自給を図る方針である。K.ハブリーチェク副首相兼産業貿易大臣は今回、「この法律によってチェコのエネルギー供給保証と脱炭素化、無炭素電力の比率向上に向けたプロセスが強化され、原子力でコスト面の効率性の高い電力を生産する基盤が築かれる」とコメントした。同省の説明によると、このメカニズムは再生可能エネルギーの支援策と類似のもので、同省あるいは政府所有の機関が発電所に投資した者と協議の上で電力の買い取り上限価格を設定。購入した電力は卸売市場に転売されるが、これらの価格差は消費者の電気代を通じて調整される。政府と投資家との電力売買契約は30年間有効で、満了後は延長することも可能である。こうした内容は、経済協力開発機構(OECD)や国際原子力機関(IAEA)の勧告に基づいているため、同省は欧州連合(EU)の執行機関である欧州委員会(EC)にも、このメカニズムがEU域内の市場規則に適合することを説明中である。チェコの国営電力(CEZ)は、2015年5月の「国家エネルギー戦略」とこれをフォローする「原子力発電に関する国家アクション計画」に基づき、ドコバニ原子力発電所で出力が最大120万kWの原子炉を2基増設することを計画。産業貿易省は増設初号機(5号機)を通じて、増加する国内電力需要の約10%を賄う方針である。この計画を支援する政府の財政モデルでは、建設コストの約70%を無利子・返済条件付きの財政支援で賄い、残りと追加コストをCEZ社が支払うとしている。CEZグループのドコバニⅡ原子力発電会社は2020年3月、プラント供給企業の選定や建設工事の実施に先立つ重要な準備手続として、同計画の立地許可を申請した。原子力安全庁(SUJB)は今年3月に同許可を発給しており、産業貿易省は入札の事前資格審査に向けて、供給企業の絞り込み作業を実施中。プロジェクトに関心表明した5社のうち、これまでに中国広核集団有限公司(CGN)とロシア国営の原子力総合企業ロスアトム社が候補から除外された。現在は、韓国水力・原子力会社(KHNP)とフランス電力(EDF)、米国のウェスチングハウス(WH)社を対象に審査中と見られている。(参照資料:チェコ議会の発表資料(チェコ語)①、②、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの9月17日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
22 Sep 2021
2570
IAEAの第65回通常総会が9月20~24日の日程で、ウィーンにおいて開催されている。ビデオ録画で演説する井上科学技術相開幕初日の20日、前回に引き続き日本からは井上信治・内閣府科学技術政策担当大臣がビデオ録画により一般討論演説を行った。冒頭、井上大臣は、新型コロナウイルス感染症への対応という挑戦も続く中、専門性を活かした取組を促進しているIAEAのR.M.グロッシー事務局長のリーダーシップに敬意を表した上で、IAEAが行う感染症対策事業に対する日本の支援にも言及。東日本大震災による事故発生から10年の節目を経過した福島第一原子力発電所の廃炉に関し、今後、ALPS処理水(トリチウム以外の核種について環境放出の規制基準を満たす水)の安全性や規制面、海面モニタリングについてIAEAによるレビューが行われることに触れた上で、日本として、国際社会に対し科学的根拠に基づき透明性を持って同発電所の状況を継続的に説明し、各レビューの実施に向けてIAEAと協力していくと強調した。展示会・日本ブースを訪れた上坂原子力委員長(左から2人目)また、IAEA総会との併催で展示会も行われている。前回は新型コロナウイルスの影響で中止されたため、2年ぶりの開催となった。日本ブースでは、「2050年カーボンニュートラル」を見据えた原子力イノベーションと、福島復興における10年間の歩みを主なテーマに、「NEXIP(Nuclear Energy × Innovation Promotion)イニシアチブ」に基づく官民の取組や、ALPS処理水に関するQ&Aなどをパネルで紹介。展示会初日には、IAEA総会出席のためウィーンを訪問中の上坂充原子力委員長、更田豊志原子力規制委員長、OECD/NEAのW.マグウッド事務局長ら、国内外関係者がブースを訪れた。今回、日本政府代表として総会に出席した上坂委員長は20日、内閣府主催のサイドイベント「アルファ線薬剤の開発とアイソトープの供給」に登壇したほか、グロッシー事務局長、フランス原子力・代替エネルギー庁(CEA)のフランソワ・ジャック長官と会談を行った。その中で、グロッシー事務局長は、「日本とIAEAとの間には取り組むべき多くの重要な問題やプロジェクトがある。ともに未来志向で協力していきたい」と強調。上坂委員長からは、IAEAによる福島第一原子力発電所の廃炉に向けた協力に対する謝意の他、北朝鮮・イランの核不拡散問題に関する取組への支持などが示された。
21 Sep 2021
3360
国際原子力機関(IAEA)は9月16日、世界中で利用されている原子炉の長期的な傾向を地域ごとに分析した最新の年次報告書、「2050年までのエネルギー、電力、原子力発電予測」の第41版を発表した。この中でIAEAは、10年前の福島第一原子力発電所事故以降初めて、今後数十年間に世界で予想される原子力設備容量の伸びを前年版から上方修正したと表明。地球温暖化防止の観点から世界中が脱化石燃料の方向に進んでおり、多くの国が信頼性の高いクリーンエネルギーの生産加速という観点から原子力の重要性を認識、その導入を検討中だと指摘している。IAEAは、野心的だが妥当かつ技術的に実現可能な政策シナリオ「高ケース」で、世界の原子力発電設備容量は2020年末時点の3億9,260万kWから、2050年には7億9,200万kWに倍増すると予測。前年版の予測では高ケースで7億1,500万kWとしていたが、今回この数値を約10%上方修正した。ただし、この予測を実現するには、原子力発電技術の技術革新を加速するなどの重要施策を実行に移す必要がある。市場政策や利用技術、リソース等の傾向が現状のまま続く「低ケース」の場合、原子力発電設備は2050年まで現在の数値とほぼ同レベルの3億9,400万kWに留まるとしている。IAEAのR.M.グロッシー事務局長は、「低炭素なエネルギー生産で原子力が果たす必要不可欠な役割が明確に示された」とコメント。「CO2排出量の実質ゼロ化という点で、非常に重要な電源である原子力への注目が高まったのは明るい兆候だ」と述べた。今回の年次報告書によると、2020年の末時点で世界では442基、3億9,260万kWの原子炉が稼働中で、52基、5,440万kWの原子炉が建設中だった。この年に5基、552万1,000kWの原子炉が新たに送電網に接続された一方、閉鎖された原子炉は6基、516万5,000kW。このほか4基、447万3,000kWの原子炉建設が新たに始まっている。IAEAは世界の総発電量は今後30年間で2倍に増加すると予測しているが、世界中の原子炉は2020年に2兆5,530億kWh(約4%減)を発電し、総発電量の10.2%を供給。高ケース予測では、2050年までに原子力発電シェアは前年版予測の11%から約12%に増加するものの、これを達成するには政府や産業界、国際機関等の協調行動により、相当量拡大させる必要があるとした。低ケースではこの数値は6%に低下するが、この場合石炭火力の発電シェアは1980年以降ほとんど変化せず、2020年実績の最大シェアである約37%をそのまま維持するとしている。また、原子力による水素製造や、先進的原子炉あるいは小型炉などの新しい低炭素な発電技術は、CO2排出量の実質ゼロ化を達成する上で非常に重要だとIAEAは指摘。原子力は電力需要の増加や大気の質の改善、エネルギーの供給保証等に解決策をもたらすものであり、原子力技術の活用を拡大する技術革新が進行中だと述べた。さらに、経年劣化の管理プログラムなど、長期運転に向けた作業が行われている原子炉の基数はますます増加している。世界の原子炉の約三分の二で運転開始後30年以上が経過しており、一部の原子力発電所では運転期間を60年から80年に拡大する動きもみられるが、長期的には閉鎖される原子炉の容量を相当量の新たな原子炉で補わねばならない。現在のエネルギーミックスで原子力が果たしている役割を維持するにも、新たな原子炉が数多く必要となるが、経年化した原子炉の更新については特に、欧州や北米で不確定要素が残されているとIAEAは指摘している。(参照資料:IAEAの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの9月16日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
21 Sep 2021
3765
米原子力規制委員会(NRC)は9月13日、中間貯蔵パートナーズ(ISP:Interim Storage Partners)社がテキサス州アンドリュース郡で計画している使用済燃料の集中中間貯蔵施設(CISF)に対し、建設・操業許可を発給した。連邦政府の原子力法に基づくこの認可により、ISP社は差し当たり最大5,000トンの使用済燃料と231.3トンのGTCC廃棄物(クラスCを超える低レベル放射性廃棄物)を、CISFで40年間貯蔵できる。同社はまた、今後20年間にCISFを5,000トンずつ7段階で拡張するプロジェクトを実施し、最終的に最大4万トンの使用済燃料を貯蔵する計画。その際は、NRCが各段階で改めて安全面と環境影響面の審査を行い、今回の建設・操業許可に修正を加えることになる。ISP社は、米国の放射性廃棄物処理・処分専門業者であるウェイスト・コントロール・スペシャリスツ(WCS)社と、仏国オラノ社の米国法人が2018年3月に立ち上げた合弁事業体(JV)。同JVに対しては、日立造船のグループ企業で、使用済燃料の保管・輸送機器の設計や輸送業務等を専門とする米国のNACインターナショナル社が乾式貯蔵関係の技術支援を行っている。米エネルギー省(DOE)が2010年に、ネバダ州ユッカマウンテンにおける使用済燃料最終処分場の建設計画を中止した後、WCS社は2016年4月、テキサス州の認可を受けて操業している「低レベル放射性廃棄物処分場」の隣接区域で、CISFを建設・操業するための認可をNRCに申請。その後、オラノ社とのJV設立を経て、同JVが2018年6月に修正版の申請書を提出していた。この申請について、NRCスタッフは貯蔵施設の技術的な安全・セキュリティと環境影響を評価するとともに、付属の行政判事組織である原子力安全許認可会議(ASLB)が複数の関係訴訟で下した裁決についても審査を実施。同申請について、今年7月に「環境影響声明書(EIS)」の最終版を発行したほか、技術審査の結果を取りまとめた「安全性評価報告書(SER)」の最終版を、今回の建設・操業許可と併せて発行する。なお、NRCが使用済燃料の集中中間貯蔵施設に対して建設・操業許可を発給したのは、今回が2回目。初回は2006年、プライベート・フュエル・ストーレッジ(PFS)社がユタ州で進めていた建設計画について発給したが、建設サイト周辺で必要となる認可を先住民族の土地所有権などが絡む問題で内務省が発給しなかったため、同社は2012年12月にこの計画を断念している。NRCはこのほか、ホルテック・インターナショナル社がニューメキシコ州リー郡で進めている同様の計画に関しても、2018年から申請書の審査を実施中。2020年3月には同計画のEIS案文をパブリック・コメントに付しており、建設・操業認可発給の可否については2022年1月に判断するとしている。(参照資料:NRC、ISP社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの9月14日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
16 Sep 2021
2499
中国核工業集団公司(CNNC)は9 月13日、山東省栄成の石島湾で建設中の「ペブルベッド型モジュール式(PM)高温ガス炉の実証炉(HTR-PM)」(電気出力21.1万kW)」で、2基設置されているモジュールユニットの片方が12日の朝に初めて臨界条件を達成したと発表した。 CNNCは、年内にも同機を国内送電網に接続する方針を表明。様々な利点を持つ高温ガス炉は、中国のCO2排出量を頭打ちにし(排出ピークアウト)実質ゼロ化(カーボンニュートラル)するという目標を達成する重要な道だと指摘している。同機の建設プロジェクトは、月面探査計画などとともに中国における16の主要な科学技術関係の国家プロジェクトの1つに指定されており、これによって高品質な原子力産業の開発を進め、国家の科学技術革新を促進していく考えである。第4世代の先進的原子炉システムに分類されるHTRは固有の安全性を有するほか、高い発電効率と環境への適応能力を備えている。熱電併給や高温熱の供給が可能で商業的に幅広い用途に利用できることから、CNNCはHTRが中国のエネルギー供給を保証するだけでなく、供給構造の合理化にも貢献するとしている。中国が開発したHTR-PM設計は、1つの発電機を電気出力がそれぞれ約10万kWのモジュールユニット2基で共有するというもので、建設工事は2012年12月に始まった。燃料には、黒鉛粉末を混合した燃料粒子を球状に圧縮成型し、炭化ケイ素(セラミック)をコーティングしたものを使用する。同機の建設プロジェクトでは今年3月までに冷態機能試験と温態機能試験が完了し、8月には国家核安全局(NNSA)が運転許可を発給、これにともない同機では燃料が装荷されていた。HTR-PMでの臨界条件達成は、建設プロジェクトを主導する「華能山東石島湾核電有限公司(SHSNPC)」の関係者が多数見守るなかで行われ、SHSNPC に47.5%出資する華能集団公司や32.5%出資する(CNNC傘下の)中国核工業建設公司、20%出資中の清華大学から関係幹部が参加。同条件を達成した後は、これらの参加者による現地シンポジウムも開催された。華能集団公司の発表によると、同プロジェクトでは今後、炉心と制御棒の性能を確認し原子力機器監視システムの有効性を確認するため、ゼロ出力で物理試験を実施する。また、送電網への接続に向けて、起動時や試運転時の各種試験により設計通りであることを確認する作業も継続する。HTR-PMでは使用した実証工学機器の国産化率が93.4%に達しており、革新的技術を用いた機器は600点以上にのぼる。これには、ヘリカルコイル貫流蒸気発生器(OTSG)や高出力・高温熱の電磁軸受け構造を備えた主ヘリウム・ファンが含まれるとしている。(参照資料:CNNC、華能集団公司の発表資料(中国語)、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの9月13日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
15 Sep 2021
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米イリノイ州の議会上院は9月13日、州内の原子力発電所に経済的支援を提供する包括的クリーンエネルギー法案(SB 2408)を37対17で可決した。これにより、同法案は州議会の上下両院で承認されたことになり、早期閉鎖が予定されていたバイロン(120万kW級のPWR×2基)とドレスデン(91.2万kWのBWR×2基)2つの原子力発電所の運転継続が可能になった。同法案はまた、州内2つの石炭火力発電所によるCO2排出量を抑制することから、2050年までに同州で使用する電力を100%クリーンエネルギー化する道を拓くことになる。同法案は今後、イリノイ州のJ.B.プリツカー知事の署名により、正式に成立する。イリノイ州では、米国最大手の原子力事業者であるエクセロン社がこれら2つの原子力発電所を運転しているが、電力市場の自由化にともないこれらの採算が悪化。数億ドル規模の赤字に陥ったことから、同社は2020年8月、「今後も州政府の政策立案者と協議を続けるものの、これらの発電所は2021年9月と11月に早期閉鎖する」と発表した。同社の働きかけを受けたイリノイ州議会では、今年2月にN.ハリス上院議員が原子力支援プログラムを盛り込んだ包括的エネルギー法案を議会に提出し、様々な審議を経て9月9日に州議会の下院が83対33で同法案を可決。その後上院では、下院で修正された事項等について9月13日に票決が行われた。この日は、エクセロン社がバイロン発電所の運転継続で燃料交換を行うか、永久閉鎖して燃料を抜き抜くか判断しなければならない最終締め切り日だったが、同社はその前日、「この法案が州議会で可決成立し、州知事が署名した場合に備えて、両発電所では燃料交換のための準備を進めている」と表明。同社のC.クレイン社長兼CEOはその中で、「当社の経営再建に向けて、またクリーンエネルギーへの投資で地球温暖化に対処するため、州知事や州議会議員、労組のリーダーらが法案の成立に向けて尽力してくれたことに感謝する」と述べた。同CEOは、このような活動を通じて世界的レベルの原子力発電所を運転する従業員の雇用が確保され、環境上の恩恵が公平に与えられるとした。同社の説明では、今回の法案を通じて原子力発電所にはクレジット毎に配電電力の割合に基づいて補助金が毎年支払われる。これによって、この地域のエネルギー市場で見られる構造上の問題が緩和され、風力や太陽光と同様、原子力にもクリーンエネルギーとしての貢献に補償を提供。イリノイ州が2050年までにCO2排出量の実質ゼロ化を達成する重要な一助になる。同法案はまた、経済問題のためにバイロンとドレスデンの両発電所と同様、早期閉鎖のリスクにさらされているブレードウッド原子力発電所(120万kW級PWR×2基)にも存続の機会がもたらされる。さらに、ラサール原子力発電所(117万kWのBWR×2基)についても、「CO2の影響緩和クレジット・プログラム」が施行される5年間は、運転の継続が可能になる。今回の法案が州議会で可決されたことについて、J.B.プリツカー州知事は9月13日、「消費者および地球温暖化防止ファーストの法案であり、100%クリーンエネルギーで賄う将来に向けて意欲的な基準が設定された」と指摘。「イリノイ州民も地球環境も、これ以上待つことはできないので、歴史的方策となる今回の法案には出来るだけ早急に署名したい」と述べている。(参照資料:イリノイ州議会、エクセロン社、イリノイ州知事の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの9月13日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
14 Sep 2021
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トルコで同国初の原子力発電所建設を請け負っているロシア国営の原子力総合企業ロスアトム社は9月7日、アックユ原子力発電所3号機(120万kWのロシア型PWR=VVER)の原子炉圧力容器を製造する重要部分の作業が始まったと発表した。同機では今年3月に原子炉建屋部分のコンクリート打設が行われており、建設サイトでは2018年4月と2020年4月にそれぞれ着工した1、2号機とともに3基分の作業が同時に進行中。同発電所では第3世代+(プラス)の120万kW級VVERを4基設置するため、4号機についても本格着工に向けて基礎ピットの建設など準備工事が進んでいる。ロスアトム社のエンジニアリング部門、アトムエネルゴマシ社に所属するAEMテクノロジー社が今回発表したリリースによると、3号機では圧力容器の底部を複数段階に分けて製造する作業が始まった。この作業には、継ぎ目のない長さ6m、外径2.5m、重さ96トンという円筒状の鍛造品を使用。同社のボルゴドンスク工場では酸素ガス切断機を使って厚さ30cmの同鍛造品を切断したが、手持ち式の改良型カッターノズルを活用したことで、通常8時間かかる作業は4倍速の2時間に短縮された。加工済みの鍛造品はその後、620℃の高温で5時間かけて焼きなましを行うため、加熱炉に送られた。加熱後は圧力容器底部の形に型打ちするため、プレス部門で作業を行う計画である。ICS第二層の設置©Rosatomなお、アトムエネルゴマシ社が他の日に公表したリリースでは、1号機用に製造した炉内構造物が4月末に建設サイトに向けて出荷された。これには長さ11mの炉心バッフルや保護管などが含まれており、総重量は210トンを超えている。また、ロスアトム社の今月9日付けの発表によると、建設サイトでは2号機の格納容器の内側に、鋼製支持構造物(ICS)の第二層が設置された。ICSは鉄筋や部品類をはめ込み、鋼製ライナーを溶接した円筒状の構造物で、安全系などの機器類を防護するとともに配管貫通部を補強するなどの役割を担っている。アックユ原子力発電所建設計画では、原子力分野で初めて「建設・所有・運転(BOO)」によるプロジェクト運営方式を採用しており、約200億ドルといわれる総工費はロシア側がすべて負担。発電所の完成後、トルコ電力卸売会社(TETAS)が発電電力を15年間にわたり購入して返済することになる。トルコ側は、建国100周年を迎える2023年に1号機の運転開始を目指しているほか、4基すべてが完成した後は、同発電所で国内電力需要の約10%を賄う方針である。(参照資料:アトムエネルゴマシ社の発表資料①、②、ロスアトム社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの9月8日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
13 Sep 2021
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フィンランドの経済雇用省は9月6日、国内で稼働するロビーサ原子力発電所1、2号機(各ロシア型PWR=VVER、53.1万kW)の運転を2050年頃まで、それぞれ約70年間継続した場合と、現行の運転認可が満了する2027年と2030年に永久閉鎖した場合の環境影響評価(EIA)報告書を事業者のフォータム社から受領した。この報告書でフォータム社は、これら2つの選択肢が及ぼす影響、特に周辺住民の生活条件や福祉、健康に関する影響や、地下水や漁業、景観など周辺環境に対する影響を評価した。また、運転期間の延長や廃止措置にともない排出される低・中レベル放射性廃棄物(LILW)についても、最終処分場の操業期間に影響が及ぶため、その影響評価結果を盛り込んでいる。同省は今後、この報告書に関する関係省庁や機関からの意見を9月20日から11月18日まで募集し、一般市民や地元コミュニティを交えた公開ヒアリングを10月7日に地元ロビーサで開催する。経済雇用省としての結論は来年1月に公表される。1977年と1980年に送電開始したロビーサ1、2号機はともにVVERであるため、公式の運転認可期間は30年である。ただし、計測制御(I&C)系には西欧企業製のデジタル式システムを採用するなど、改良が加えられている。フィンランド政府は、1号機が運転開始して30年が経過した2007年7月、フィンランド放射線・原子力安全庁(STUK)の助言を受けて、両機の運転期間をそれぞれ2027年と2030年まで20年間延長することを承認。その際は、延長期間中にそれぞれ2回、大掛かりな安全評価を実施するようフォータム社に義務付けている。フォータム社の今回の発表によると、同発電所は2020年にPWRとしては世界最高レベルの平均設備利用率87.7%を記録しており、年間発電量はフィンランドの総発電量の約10%に相当する78億kWhだった。このように同発電所はフィンランドの重要電源の一つであることから、フォータム社は過去5年にわたって同発電所で約4億5,000万ユーロ(約586億円)の投資を実施してきた。2020年8月からは、両機それぞれでさらに最大20年運転期間を延長し、1号機で73年間、2号機で70年間運転するか否かでEIAを実施するため、経済雇用省に申請書を提出し手続きを開始していた。同社のこのプログラムに関し、経済雇用省は同年11月に声明文を発表しており、同発電所の経年劣化管理について一層詳細な評価を行うことと、地球温暖化に対しても配慮することをフォータム社に要請。同省はまた、放射性廃棄物関係の事故が発生するのを防止し、その影響を緩和することについても評価の実施を求めた。フィンランドでは現時点で、運転期間の延長や廃止措置により、新たに発生する放射性廃棄物や使用済燃料の貯蔵容量が不足しているため、容量確保に関するスケジュールや処分の代替オプションについても、関係情報をEIAに含めて欲しいと要請していた。(参照資料:フィンランド経済雇用省、フォータム社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの9月6日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
09 Sep 2021
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ウクライナの原子力発電公社であるエネルゴアトム社は9月4日、ウェスチングハウス(WH)社が米サウスカロライナ州の倉庫で保管しているAP1000設計用の機器・設備を、フメルニツキ原子力発電所4号機(K4)に利用する計画があることを明らかにした。同州では2017年7月、州営電力のサンティ・クーパー社とスキャナ社が共同出資するV.C.サマー原子力発電所2、3号機(各PWR、110万kW)建設計画が、WH社の倒産申請にともない頓挫した。同計画では2013年3月に2号機を本格着工した後、一部の機器・設備がすでに製造、設置済みとなっており、サンティ・クーパー社とWH社は2020年8月、これらの機器・設備の所有権について最終合意に達している。エネルゴアトム社は今回の発表で、「同計画の機器を流用する」と明確に述べていないが、サンティ・クーパー社とWH社の合意文書では機器・設備の売却方針が明記されていることから、K4用に活用される可能性が高いと見られている。エネルゴアトム社の幹部一行は8月末に米ワシントンD.C.を訪れ、WH製AP1000をウクライナで複数建設していくための独占契約をWH社と締結した。同社はその際、建設進捗率が28%で停止しているK4にもAP1000を採用して完成させる方針を示しており、米国訪問中に一行はサウスカロライナ州のWH社倉庫も視察した。エネルゴアトム社のP.コティン総裁代理はその際、「AP1000用に製造された主要な機器・設備を点検させてもらったが、これらはいつでも出荷できる状態だ」と指摘。重要機器の多くは保管に窒素が使われるなど状態が非常に良好で、原子力系については一式完全に揃っていることを確認したと述べた。同総裁代理によると、これらの機器・設備を使えばK4の建設工期を大幅に短縮することが可能である。同機にAP1000を採用する計画については来週以降、エネルゴアトム社の幹部がウクライナの首都キエフで、WH社の代表と引き続き協議を行うとしている。なお、サンティ・クーパー社とWH社の最終合意では、サマー2、3号機の非原子力関係機器はすべてサンティ・クーパー社が所有し、売却についても同社が責任を持つことになった。一方、原子力関係機器については、すでに設置済みだったものの90%をサンティ社の所有とし、残り10%をWH社の所有とした。これらは主に2号機用で、アキュムレータ・タンクや加圧器、原子炉圧力容器、蒸気発生器、タービン発電機などである。未設置の主要な原子力関係機器については、両社が折半して所有する取り決めである。これには3号機用のアキュムレータ・タンク、制御棒駆動機構、燃料取り扱い装置、静的残留熱除去・熱交換器、原子炉圧力容器、蒸気発生器、計測制御(I&C)系、タービン発電機などが含まれる。WH社は原子力関係機器すべてについて、最大で5年にわたりマーケティングを実施する責任を負っている。(参照資料:エネルゴアトム社、サンティ・クーパー社の発表資料①、②、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの9月7日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
08 Sep 2021
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世界原子力協会(WNA)は9月1日、世界中で稼働する商業炉の2020年の運転実績について取りまとめた報告書「World Nuclear Association Performance Report 2021」を公表した。新型コロナウイルスによる感染の世界的拡大(パンデミック)で全体的な電力需要が低下したことが大きく影響し、原子力の総発電量は2019年実績の2兆6,570億kWhから2兆5,530億kWhに減少。ただし、発電シェアが拡大した再生可能エネルギーの間欠性を補うため、負荷追従運転で電力を安定的に供給する機会が増加したと指摘している。WNAのS.ビルバオ・イ・レオン事務局長は、「2020年は世界中の原子力発電所が信頼性の高い電力を供給しながら変動する需要に柔軟に対応しており、強靭な供給性能を示した」とコメント。「世界の電力需要は今後急速に回復する見通しだが、これにともない温室効果ガスの排出量も元通りになるリスクが存在することは現実だ」としている。報告書によると、2020年末現在、世界では運転可能な商業炉が441基存在し、総設備容量の3億9,200万kWは過去3年間ほとんど変化していない。新たな運転開始により追加された設備容量も、永久閉鎖された原子炉のそれとほぼ同レベルだった。同事務局長は過去数年間に永久閉鎖された原子炉の閉鎖理由について、「半数以上は技術的な制限によるものではなく、原子力からの段階的撤退という政治的理由、あるいはCO2を排出しない原子力の価値を適切に評価しない市場の欠陥によるものだ」と指摘。これは、わずかでも無駄にできない低炭素な電源が世界中で失われていることを意味するとした。しかしその一方で、今年はすでに明るい兆候が原子力に見受けられ、4基の原子炉が新たに送電網に接続された。また、7基の建設工事が新たにスタートしたが、永久閉鎖された原子炉は今のところ2基に留まっている。同事務局長によると、「原子力発電が今後一層迅速に運転復帰することは重要であり、それによって化石燃料の発電量を代替、温室効果ガスが急速に増加するのを防がねばならない。」そのためには、既存の原子力発電所を最大限に生かし運転期間も可能な限り延長、新規の原子炉の建設ペースや規模も拡大する必要があるとしている。今回の報告書の主な判明事項は以下の通り。2020年に新たに5基の原子炉が運転を開始したが、増加した設備容量552.1万kWは永久閉鎖された6基分の516.5万kWで相殺された。2020年に送電網に接続された原子炉の平均建設期間は84か月で、2019年の117か月から減少した。いくつかの原子炉では、電力需要の低下にともない発電量が減少しており、2020年は世界平均の設備利用率も前年実績の83.1%から低下。80.3%になったが、それでも原子力は過去20年間の良好な運転実績を維持している。世界中の原子炉の3分の2近くで、80%以上という高水準の設備利用率をマークした。設備利用率が40%未満の原子炉の数も近年は上昇傾向にあるものの、基数は依然として小さい。運転実績に原子炉の経年数が関係する傾向は見られず、過去5年間に設備利用率が低下した原子炉でも、経年数にともなう全体的な変化は特に見られなかった。近年に合計80年の運転継続を許された原子炉のうちいくつかでは、一貫して経年数とは無関係の素晴らしい運転実績を残している。(参照資料:WNAの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの9月2日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
06 Sep 2021
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シントス社のソウォヴォフ氏©M.Solowowポーランドの大手化学素材メーカーのシントス社(Synthos SA)は8月31日、国内のエネルギー企業ZE PAK社と共同で、米国で開発された最も近代的で安全な小型モジュール炉(SMR)をポーランド国内で建設する計画に投資を行うと発表した。この共同プロジェクトのために、両社は今後合弁事業を立ち上げて原子力関係の活動を実施。ZE PAK社がポーランド中央部のポントヌフで操業する石炭火力発電所に、GE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社製のSMR「BWRX-300」、あるいは他の有望な米国製SMRを4基~6基(出力各30万kW程度)建設する方針である。シントス社はすでに2019年10月、ポーランドに「BWRX-300」を導入する可能性を探るため、GEH社と協力覚書を結んでいる。一方のZE PAK社は昨年、2030年までに石炭火力発電から撤退する方針を表明したが、これはパリ協定で設定された脱炭素化目標の達成に向け、ポーランドにおける最も意欲的で明確な対応策を示したもの。同社とシントス社が共同でSMRに投資し、ポーランドが「汚れたエネルギーからクリーンなエネルギー」に転換するのを支援していきたいとしている。シントス社とZE PAK社はそれぞれ、M.ソウォヴォフ氏とS.ソロルツ氏が所有する企業。両者はともに、ポーランドで最も富裕な実業家と言われている。シントス社のソウォヴォフ氏は今回、「脱炭素化を大規模に進めるには地球環境に配慮するだけでなく、経済的な要件を満たしつつコスト面の効率化を図ることが求められており、その解決策が原子力であることは明白だ」と強調。同氏によると、「欧州の工場」と言われるポーランドではCO2を排出しない安定したエネルギー供給源が必要で、「これまで通りの速いペースで一層豊かな社会の構築を目指し、さらなる外国投資を呼び込むには、価格の魅力的なエネルギーを活用しなくてはならない」としている。ZE PAK社のソロルツ氏も、「社会や国家の発展には安価でクリーンなエネルギーが欠かせないが、原子力はクリーンなだけでなく環境にも優しい」と指摘。同社はポーランドで最初の石炭火力発電所を運転してきたものの、現時点では石炭火力からの撤退する途中であるとした。その上で、「原子力や再生可能エネルギーは当社が投資する最も重要なエネルギー源であり、原子力への投資はポーランドの事業所や一般世帯にクリーンで安価なエネルギーを提供するとてつもなく大きな好機になる」との認識を示した。SMRを建設予定のポントヌフは、ポーランド政府が進める原子力発電プログラムにおいても発電所立地候補地点の一つだが、ZE PAK社の幹部は「SMRの建設計画は政府の進める大型原子力発電所の建設計画と競合するものではなく、むしろこれを補完する位置づけだ」と説明。原子力は化石燃料による発電から徐々に取って替わっていき、近い将来は石炭火力の閉鎖と電力需要の増加にともなう国内電力システムの容量不足を補うとしている。なお、シントス社のキャピタル・グループに所属するシントス・グリーン・エナジー(SGE)社は昨年11月、米国のウルトラ・セーフ・ニュークリア社(USNC)が開発したSMR「マイクロ・モジュラー・リアクター(MMR)」を使って、ポーランドにエネルギー供給システムを構築すると発表。実行可能性調査の実施を含む協力協定をUSNC社と結んでいる。(参照資料:シントス社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの9月1日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
02 Sep 2021
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